【表紙2】 助成金のごあんない 〜65歳超雇用推進助成金〜 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて5万円から160万円(ただし1事業主あたり(企業単位)1回限り) 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 申請の流れ @高年齢者雇用推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を整備 A転換計画の作成、機構への計画申請 B転換の実施後6ヶ月分の賃金を支給 C機構への支給申請 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは (a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b) 作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d) 職域の拡大、(e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f) 賃金体系の見直し、(g) 勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)とは、『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)』が要件です。 (企業の場合) 生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 高齢者雇用の助成金に係る動画はこちら → 〜障害者雇用助成金〜 障害者作業施設設置等助成金  障害の特性による就労上の課題を克服・軽減する作業施設等の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の2/3 (例)障害者用トイレの設置、拡大読書器の購入、就業場所に手摺を設置 等 障害者福祉施設設置等助成金  障害の特性による課題に応じた福利厚生施設の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の1/3 (例)休憩室・食堂等の施設、施設に附帯する玄関、トイレ等の附帯施設・付属設備の設置・整備 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @職場介助者の配置または委嘱 A職場介助者の配置または委嘱の継続 B手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 C障害者相談窓口担当者の配置 助成額 @B支給対象費用の3/4 A支給対象費用の2/3 C1人につき月額1万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @住宅の賃借 A指導員の配置 B住宅手当の支払 C通勤用バスの購入 D通勤用バス運転従事者の委嘱 E通勤援助者の委嘱 F駐車場の賃借 G通勤用自動車の購入 助成額 支給対象費用の3/4 障害者雇用の助成金に係る動画はこちら→  お問合わせや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.66 シニアのキャリアデザインで重要なことは“自分の居場所は自分でつくる”という意識 アテナHROD 代表 特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会 副理事長 山ア京子さん やまざき・きょうこ アテナHROD代表。外資系企業3社で人材開発に従事後、神戸大学大学院経営学研究科で博士号(経営学)取得。国内企業の人事コンサルティング、研修講師に加え、国際協力機構のプロジェクトで人材管理の教科主任としてアジア7カ国の現地経営者を指導。現在、日本人材マネジメント協会副理事長とともに、本誌編集アドバイザーを務める。  60歳を超えても働き続けることがあたり前となった現在、高齢者が積み上げてきた経験を活かすためには、企業が実施するキャリア開発支援とともに、高齢者自身による自律的なキャリアデザインも重要になってきています。今回は、外資系企業で人材開発に従事した経験を持ち、キャリア開発や組織行動論が専門の山ア京子さんに、高齢者のキャリア開発や今後の高齢者雇用の展望などについて、お話をうかがいました。 シニア人材というリソースを活かすためには管理職のマネジメント力向上が不可欠 ―シニアのキャリア開発について、まず基本的な考え方をお聞かせください。 山ア シニアにかぎらず、仕事が私たちにもたらす価値は三つあります。一つ目は金銭。二つ目は所属という価値です。組織や仕事仲間の一員であるという安心感に価値があります。三つ目は自分を認めてほしいという欲求や、生きがい・やりがいが満たされることです。  年金と雇用は、一つ目の価値をめぐる問題です。また、働くことで得られる生きがいや、自己実現という三つ目の価値を重視する意見もよく耳にします。  他方、二つ目の価値については実際に再雇用や再就職をしたシニアの方々に聞くと、「自分の居場所がなくなってしまった」という切実な声があります。いま「心理的安全性」という言葉が注目されています。これは、自分を受け入れてくれる、安心が約束された集団に帰属している状況をさします。つまり働くことを通じて、気心の知れた仲間がいると実感できることが大事なのです。  心理的安全性が確保された居場所がなくなることは、退職期を迎えたシニアに心の葛藤をもたらします。しかし、それまで勤めていた会社に、引き続きそのような居場所を保障してもらうことは期待できません。いまの企業に、福祉的雇用のコストを負担し続ける余力はないからです。だとすれば、一人ひとりが、「自分の居場所は自分でつくる」という自覚を持つ必要があります。これがシニアのキャリア開発における基本的な視点です。 ―たしかに「会社が何かしてくれるだろう」ではなく、自分で何とかしようという自覚は必要ですね。その一方で、会社が変革を求められることもあるのではないでしょうか。 山ア 現在の再雇用制度のような、定年前後で人事制度が接合しない制度設計はあらためるべきです。とくに再雇用後に人事評価の対象から外れ、一律の賃金になるような仕組みでは、ただ時間を切り売りしているのと同じで、インセンティブが働きません。  こうした制度設計の見直しとあわせて、制度の運用面でも工夫が必要です。現場では、年下の上司の下でシニアが働くのが普通ですが、この場合「年上の部下を抱える管理職」のマネジメントスキルの向上が不可欠です。最近は、そのような管理職を対象とした研修を依頼されるケースが増えてきました。 ―具体的には、どのような研修を行うのですか。 山ア 第一に、シニアの活用が経営戦略のうえで重要であることを、会社のトップから管理職に語ってもらいます。労働力人口が減少に向かうなかでシニアの活用が必要であること、シニアが積み上げてきたキャリアを企業の知的財産として活用すべきであること、その知的財産を環境の変化に合わせて柔軟に活用するため現場の管理職のマネジメントスキルが問われていることなど、シニア活用にトップが本気であることを管理職に理解してもらうことが出発点です。  第二に、管理職には部門目標達成というミッションがあり、それに向けてチームのリソースを最大限活用する必要があります。そのリソースの一つであるシニアを活用するため、シニア社員とともに、ジョブディスクリプション(担当する業務内容を明確化した職務記述書)を書き出します。  先ほど、再雇用後に人事評価の対象から外れるような制度に疑問を投げかけました。そうした制度は、年下の上司が年上の部下を評価しづらいという声が現場からあがることも一つの理由となっていますが、職務記述書があれば、そこに書かれている職務の期待値を達成できたかどうかが客観的に測定できるので、そのような心配は軽減されるはずです。  そして第三は、年上の部下に対しても遠慮することなく、あるいは逆に攻撃的になることもなく、率直に上司としての考えを伝えられるように、アサーションスキル※1を身につける研修を行います。 キャリア・シフトチェンジを成功させるには自発的に準備する姿勢を持つのがポイント ―シニア期のキャリアデザインにおいて重要なことや、準備しておくべきことについてお聞かせください。 山ア 私が副理事長を務めている日本人材マネジメント協会では、2011(平成23)年にシニア期に必要な「プラットフォーム能力」という新しい概念を提言しました。  キャリア形成において若年時代は、社会や組織のなかで仕事を進めていくために「基本型」(仕事に向かう基本姿勢や段取り、他者とのかかわり方など)を習得します。次にミドル期には、「基本型」を土台としながら自分なりの経験から学習した「自分型」が加わります。その後シニア期になると、定年や役職定年などを契機に、新たな配属先や勤務先のニーズに応じた「市場型」へと、「基本型」と「自分型」をつくり変える必要があります。それは、これまで積み上げてきた「型」を、技術や能力の労働市場における希少性や汎用性といった価値に照らして再評価するという意味を持ち、これを「市場型」へのキャリア・シフトチェンジと呼びます。  このキャリア・シフトチェンジは、長い時間をかけて築いてきた「基本型」と「自分型」を一度崩して、労働市場で通用する「市場型」に組み替える作業であるため、大きな葛藤が生じます。この葛藤を乗り超え、自分の居場所を自分でつくり出していくための基礎能力がプラットフォーム能力です。 ―それはどのような能力ですか。 山ア 大きく三つに分類しています。環境が変化した事実を受け入れ、自分の立ち位置を客観的にとらえて、自発的に環境に適応した価値をつくり出していく「わたし創造力」、新しい環境での人間関係を構築する「お仲間構築力」、だれにも頼らず一人で仕事を完結できる「おひとりさま仕事力」の三つです。それぞれについて、より具体的に全部で16の能力要素を体系化しています。  これに基づいて、中央職業能力開発協会※2にご協力いただき、プラットフォーム能力を自己評価するパッケージを開発し、シニアのキャリア・シフトチェンジのワークショップを展開しています。ワークショップでは、認定インストラクターのもとで自己診断ツールや事例検討、行動計画シートの作成などを行い、キャリア開発への自覚をうながします。 ―ワークショップに参加する機会のない人はどうすればよいでしょうか。 山ア 自分の能力を「市場型」に再構築するキャリア・シフトチェンジが必要という認識を持ち、自覚的に自ら情報を取りに行く姿勢があれば、現代はインターネットなどで多くの情報にアクセスできるインフラが整っていますから、自ら一歩ふみ出したことになります。キャリア・シフトチェンジは、他人に指示されてやるのではなく、自ら気づいて自発的に準備する姿勢を持つことが最大のポイントです。 多様な働き方が選べるようになればキャリアデザインに向けた意識も高まる ―高年齢者雇用安定法の改正により、来年4月から70歳までの就業機会の確保が事業主の努力義務となります。この施策に対するお考えをお聞かせください。 山ア これまでの日本の正社員の雇用システムは、内部労働市場※3を前提とし、職務を限定しないメンバーシップ型が主流でしたが、近年はまず職務の内容や範囲を定義し、それに人を割りあてるジョブ型への移行が関心を集めるようになりました。ジョブ型がうまく機能する条件は、職務を中心に採用・配置が行われ、外部労働市場※4での人の流動性が高まることです。  今回の法改正で導入された就業機会の確保措置は、従来の雇用確保措置の内容に加え、ほかの事業主による雇用、業務委託契約、社会貢献事業での就労という、外部労働市場の活性化をうながす施策が盛り込まれた点が評価できます。  私は、内部か外部かの二者択一ではなく、両者のハイブリッドで働き方の選択肢が増えるのはよいことだと考えます。多様な働き方を選べる条件が充実すれば、自律的なキャリアデザインに向けたシニアの意識が高まります。 ―超高齢社会の到来は、日本の雇用システムの再構築をうながしますね。 山ア 高齢化は日本だけの現象ではありません。内閣府の『平成30年版高齢社会白書』によれば、2060年には中国、シンガポール、タイ、韓国といったアジア諸国が、現在の日本の推定高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)の約30%を越してきます。これは、これからの日本の対応がアジア諸国のロールモデルになることを意味します。多様な働き方を選択できる制度設計と、シニア自身の自律的なキャリアデザインという二つの流れを軸とした日本の取組みがうまく機能することで、日本の成熟したシニアのキャリア・モデルをアジア諸国に提示できることを期待しています。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) ※1 アサーションスキル…… 相手に不快な思いをさせず、適切に自己主張するためのコミュニケーションスキルのこと ※2 中央職業能力開発協会……https://www.javada.or.jp/shift/index.html ※3 内部労働市場……企業内部の配置転換や昇進など、企業組織を単位として形成される労働市場のこと ※4 外部労働市場……内部労働市場に対して、企業横断的に労働力の需給調整が行われる通常の労働市場のこと 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 November ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテストU 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 受賞企業事例から 7 令和2年度「高年齢者雇用開発フォーラム」を開催 8 優秀賞 伸和ピアノ 株式会社(千葉県千葉市) 社会福祉法人 合掌苑(東京都町田市) 溝端紙工印刷 株式会社(和歌山県伊都郡) 株式会社 ルネックス(鳥取県倉吉市) 社会福祉法人 愛心会(愛媛県宇和島市) 1 リーダーズトーク No.66 アテナHROD 代表 特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会 副理事長 山ア京子さん シニアのキャリアデザインで重要なことは“自分の居場所は自分でつくる”という意識 28 江戸から東京へ 第96回 名二代目の会 徳川秀忠 作家 童門冬二 30 高齢社員の賃金戦略 第5回 今野浩一郎 34 高齢者の職場探訪 北から、南から 第101回 茨城県 株式会社大倉商事 38 知っておきたい労働法Q&A《第30回》 歩合給と時間外割増賃金、副業・兼業の留意点 家永 勲 42 いまさら聞けない人事用語辞典 第6回 「人事評価」 吉岡利之 44 特別寄稿1 欧米における高齢者就業とブリッジ・ジョブ 明治大学政治経済学部 教授 永野 仁 50 特別寄稿2 高齢社員に対する新型コロナ対策 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志 55 日本史にみる長寿食 vol.325 風邪が流行する前に柿を 永山久夫 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 職場でできるストレッチ体操 短期連載 《最終回》多くの人が悩む現代病「肩こり」 山ア由紀也 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第41回] ややこしい脳トレ 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテストU 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰受賞企業事例から 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で「高年齢者雇用開発コンテスト」を毎年開催しています。 本コンテストは、人事制度の改定や職場環境の改善などにより生涯現役で働ける職場を実現している事例や、高齢社員が持つ知識や技術を活かすための創意工夫に取り組んでいる事例などを募集し、優れた取組みを表彰するものです。 「厚生労働大臣表彰」受賞企業を紹介した前月号に続き、今月号では、当コンテストの表彰式を行った「高年齢者雇用開発フォーラム」の模様とともに、「当機構理事長表彰優秀賞」を受賞した五つの企業・団体の取組みをご紹介します。 【P7】 令和2年度「高年齢者雇用開発フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業28社を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は10月7日(水)、厚生労働省との共催で、「令和2年度高年齢者雇用開発フォーラム」を開催した。  同フォーラムは、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」の実現に向けた、高齢者の雇用促進にかかる取組みの一環として開催。会場には例年、企業の人事・労務担当者らが多数参加するが、令和2年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、コンテスト表彰企業のみの参加として開催した(フォーラムで実施したトークセッションなどの模様はWEBで公開中※)。  同フォーラムでは、「令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式をはじめ、令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト本審査委員会座長の藤村博之氏(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)による講評や、コンテスト入賞企業による事例発表、トークセッションが行われた。  はじめに、三原じゅん子厚生労働副大臣と当機構の和田慶宏(よしひろ)理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞の株式会社大津屋をはじめ、優秀賞のグロリア株式会社、医療法人成雅会泰平病院、特別賞の株式会社新潟アパタイト、株式会社清水製作所、英興株式会社の6社に、三原副大臣より賞状が授与された。次に、当機構理事長表彰として、優秀賞の伸和ピアノ株式会社をはじめとする4社、特別賞8社に賞状が授与された。  表彰式後に行われた講評で本審査委員会座長の藤村氏は、「働くことで社会を支えている高齢者が増えるなか、働くことを希望する高齢者が長く働くために、企業は何ができるか」との視点から、例えば最優秀賞の株式会社大津屋では、AIを導入して高齢社員の負荷を軽減する一方で、高齢社員が持つ知識や経験を活かしているといった事例を挙げ、入賞企業には工夫を凝らした多彩な取組みが見られたと語った。  その後の事例発表では、入賞企業から株式会社大津屋、グロリア株式会社、英興株式会社の3社が自社の取組みの内容や制度などを紹介した。  続いて行われたトークセッションでは、藤村氏がコーディネーターとなり、事例発表した3社の代表者がパネリストとして登壇(大津屋・小川明彦代表取締役社長、グロリア・永井實(みのる)代表取締役、英興・福原一彦業務部長)。60歳以降も意欲を持って働くために企業として工夫していることや、定年廃止などの仕組みを制度化するにあたって社内で議論したことなどをテーマに、高齢社員の持っている能力を活かす具体的な工夫や若い人たちと一体となった職場づくりなどについて各パネリストが語った。  なお、事例発表とトークセッションの詳細は、本誌2021年1月号で掲載する予定。 ※JEED チャンネル トークセッション 検索 写真のキャプション 挨拶に立つ当機構の和田慶宏理事長 表彰企業によるトークセッションが行われた 【P8-11】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢者を積極的に採用しだれもが生涯現役を目ざせる職場環境を実現 伸和ピアノ 株式会社(千葉県千葉市) 企業プロフィール 伸和ピアノ 株式会社 (千葉県千葉市) ◎創業 1970(昭和45)年 ◎業種 ピアノの買取り・販売・修繕・調律・配送業務 ◎社員数 119人  60歳以上 14人 (内訳)60〜64歳 5人(4.2%) 65〜69歳 4人(3.4%) 70歳以上 5人(4.2%) ◎定年・継続雇用制度  定年なし。現在の最高年齢者は81歳 T 本事例のポイント  伸和ピアノ株式会社は1970(昭和45)年、レコード盤を各店舗に配送するレコード配送事業で創業。その後、エレクトーンやピアノなどの大型楽器の配送へと業容を拡大させた。さらに高度経済成長の波に乗って順調な経営が続き、2010(平成22)年には本社を移転し、事業内容も創業当初の配送事業から、ピアノの修理、さらには弾かなくなったピアノの買取り・整備・輸出などへと拡大。倉庫内ピアノ移動部門を新設したことで、高齢社員を積極的に採用しており、高齢者が活き活き働ける職場の創出を通して地域社会に貢献している。 《POINT》 (1)安定して生活するには安定して働くことが重要であるという考えのもと、定年制を廃止。高齢社員のモチベーション向上につながった。 (2)社員の生活に合わせて働き続けられるように、時間有給休暇制度を導入。また、短時間勤務制度もあり、自身の都合のよい日・時間で働くことができるようにし、個別の事情に対応した働き方ができる制度を整備した。 (3)評価制度を導入しており、さらに今後に向けて、全員同額の第一基本給のほか、同一労働同一賃金を意識した形で職場ごとの特性に応じた第二基本給の導入を検討している。 (4)社員の健康や安全に配慮したさまざまな取組みを実施している。重量のあるピアノ配送は大きな事故やけがにつながりかねないことから、安全衛生に注力している。 U 企業の沿革・事業内容  伸和ピアノ株式会社は、1970年に創業。千葉県船橋市に拠点を置く楽器店にて、レコード盤を各店舗へ配送する業務を開始し、次第にエレクトーン、ピアノなどの大型楽器の配送を行うようになった。その後、配送事業からピアノの修理、弾かなくなったピアノの買取り・整備・販売事業へと軸足を移行していった。  海外展開にも力を入れており、国内で買い取ったピアノを修理し、主に中国や東南アジアへ輸出販売する事業が伸長。年間約1万8000台を輸出し、売上げの9割を占めている。日本製ピアノの需要は大きいため、しばらくは安定的な事業展開が期待できるが、飛躍的に拡大することはないとの予測から、今年から本格的に管楽器の買取り販売部門を新設した。2020(令和2)年3月には西日本エリアの拠点として関西支店を開設した。  中古であっても納入先からは、「このようなよいピアノがくるとは思わなかった」など、感謝の言葉をもらうことが多い。それが社員の励みとなっており、各社員が一層の技術向上を目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  119人の社員のうち、60歳以上は14人(全員男性)で全社員の11・8%を占める。70歳以上は5人(4・2%)となっている。新規学卒者の定期採用はなく、随時中途採用の募集を実施。ある程度専門性が必要な仕事ではあるが、採用にあたってはやる気や人柄を重視している。20〜30代を合わせると40人(33・6%)で、若い層が主力となっている一方、50代は30人(25・2%)で、今後は高齢者層の増加が予測されることから、高齢社員が長く働き続けられる職場環境の構築を進めてきた。  職種は、楽器店や個人宅へのピアノの運搬や、ピアノの査定・買取り・引取りを行う「ピアノ仕入部門」、買い取ったピアノをクリーニング・修理・塗装・調律し、新品同様に仕上げる「ピアノ工房部門」、買い取ったピアノの倉庫への積下ろしやメンテナンスを終えたピアノを輸出用コンテナへ積み込む「倉庫内ピアノ移動部門」、そして「事務部門」の4部門で構成されている。  現在、高齢社員は主に「ピアノ工房部門」でのクリーニング・修理、「倉庫内ピアノ移動部門」でのピアノの積下ろし・積込みに従事している。2016年に新設された倉庫内ピアノ移動部門は、主に倉庫内にてピアノを移動する部署で、高齢者を積極的に採用した。同社の業務は作業によっては数年の経験が必要な工程もあり、40〜50歳ぐらいまでに技術を身につけてもらい、その後の活躍につなげてもらう。一方、「ピアノ移動部門」は専門性があまり必要でないことから、50〜60代で中途入社した社員でも活躍できる場となっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制の廃止  「安定して生活するには安定して働くことが重要であり、そのためには経済的な裏づけが必要である」という創業者の理念のもと、2016年8月に定年制廃止を就業規則に明文化した。 ●勤務制度の見直し  柔軟な勤務制度として、始業時間を8時・8時30分・9時、終業時間を17時30分・18時のいずれかから選択できるようにした。また、自身の都合のよい日・時間で働くことができる短時間勤務制度がある。さらに、時間有給休暇制度を導入したことで、定期的に通院している社員や子育て世代の社員に歓迎されている。会社として有給休暇100%取得を推進しており、有給休暇を取得しやすい環境が構築されている。 ●賃金制度  2021年4月からは賃金制度の見直しを予定している。まず、成果給を取り入れ、やる気がある者の給与を増やすこと、また、全員同額の第一基本給と、同一労働同一賃金を実現するため職場ごとの特性に応じた第二基本給を組み合わせた賃金制度を検討しており、来年の4月から新制度の具体化を目ざしている。  諸手当としては、皆勤手当、子育て支援手当、禁煙手当が全社員対象に支給される(短時間勤務の社員は勤務時間数により支給額が異なる)。さらに、ピアノ仕入部門の社員に対しては、身嗜(みだしな)み手当(散髪代など)が加わる。これは主に外回りを担当するため、担当社員、ひいては会社に対してよい印象を持ってもらうために支給されるものである。  なお、退職金制度についても見直しを進めており、加入中の中小企業退職金共済に加えて、自社での追加的な退職金を用意する方向で検討中である。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ●障害者雇用と後進の育成  2014年に、高齢社員が特別支援学校の職場体験指導を担当したことがきっかけとなり、特別支援学校を卒業して入社した社員の指導を高齢社員が担当している。現在、全社員119人のうち知的障害者5人、精神障害者1人、視覚障害者1人が、ピアノ工房部門でピアノのクリーニング・修理業務に従事している。  2019年には「千葉市就労準備支援室・ユニバーサル就労ネットワークちば」からの紹介で、他社を2年以上休職していた男性を職場体験後、社員として採用した。職場体験では最高年齢者の社員が指導を担当、本人の希望によりピアノのクリーニング業務に従事し、安定した成果を上げている。このように高齢社員が後進の育成に大きく貢献している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ●作業環境の改善  作業が快適に行えるよう、屋上の換気装置か ら常に新鮮な空気を取り入れるとともに、1年を通して工房内の温度管理を行っている。また、作業で使用する有機溶剤などによる健康被害防止のために、年2回、社内の環境測定と、特定化学物質等健診を実施し基準をクリアしている。 ●作業場の個人ブース化  ピアノ工房部門の作業スペースに個人の専用ブースを設け、必要な工具類や消耗部品を一式取り揃えている。その都度歩いて取りに行く時間的・体力的負担が軽減され、作業効率・生産性が向上した。 ●照明のLED化  ピアノ工房部門の天井照明をLEDに変更した。LED化することで、視力が低下傾向にある高齢者に働きやすい環境を整備した。高齢社員からは目の疲れが軽減しただけでなく作業効率も上がったと好評である。 ●健康管理  全社員が使用できるトレーニングルーム(冷暖房完備)を新設した。ウォーキングマシン、複合マシン、ベンチプレス、ストレッチグッズが備えられており、特にウォーキングマシンは高齢社員からの人気が高い。  また、ピアノ工房部門内の休憩室に血圧計を設置しているほか、社内共有スペースに体組成計を設置した。毎月最低1回は測定し、個人が専用ノートで数値を管理することを奨励したことで、社員一人ひとりの健康に対する意識が向上した。  さらに、年に1回実施しているストレスチェックでは、部署や性別だけでなく、年齢別の判定を注意深く確認しており、課題に応じて衛生委員会で対策を講じている。また、アンケートを実施することで具体的な内容が把握でき、職場環境の改善に役立っている。 ●安全衛生  重量(約250s)のあるピアノを扱う業務であり、ピアノが倒れることによって起こる事故やけがを未然に防止するため、労働災害防止活動に注力している。2カ月に1回、約4時間の勉強会を開催しており、実際に起こった労働災害の事例を紹介し、それを防ぐための具体的な対策を示すなど、事故防止に努めている。  そのほか、労働災害を防止するための環境整備にも努めている。例えば、作業場と階段を隔てている扉では、不用意に作業場から扉を開けると階段を昇降中の社員にぶつかってしまい、ケガをする恐れがあった。そこで、カメラを設置して防災扉の押し手側に液晶モニターを取りつけることで、作業場の中から階段の状況を確認できるようにした。なお、カメラは施設内のさまざまな場所に設置しており、録画することによって作業状況や災害リスクの低減に努めている。 (4)その他の取組み  季節(年6回)ごとに、エントランスから事務部門スペースにかけて社内を飾りつけし、職場の雰囲気を明るくしている。また、文化・芸術活動支援に力を入れており、ピアノコンサートの開催やクラシックコンサートの後援を行っている。 (5)高齢社員の声  最高年齢社員(81歳)の山内さんは60歳で入社、フルタイムの非正規社員として勤続21年を誇る。当初は本体塗装仕上げを担当していたが、本人の希望により現在はピアノの部品交換・クリーニング業務に従事し、80歳を超えた現在も前線で活躍している。「輸出用のピアノの作業では、かぎられた時間で作業する必要があるため、たいへんだがやりがいもある」と話す。 (6)今後の課題  今後、さらなる人事制度の見直しを行い、すべての社員を正社員に改め、そのうえで短時間勤務などの弾力的な雇用の実現を目ざすとともに、賃金制度の見直しも視野に置いている。また、人間ドックや脳ドックの受診など健康面への新たなサポート制度を検討しているなど、高齢社員が長く活躍できる職場環境の創出に向けて全社一丸となって邁進していく。 写真のキャプション 会社外観 ウォーキングマシンを使用して運動中の高齢社員 ピアノ工房部門の専用ブースで仕事をする最高年齢社員(81歳)の山内さん 【P12-15】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢者が活躍できる職場環境を創出し介護業界を支える人材確保を実現 社会福祉法人 合掌苑(東京都町田市) 企業プロフィール 社会福祉法人 合掌苑 (東京都町田市) ◎創業 1960(昭和35)年 ◎業種  特別養護老人ホーム、通所介護、訪問介護、有料老人ホーム、障害者支援センター ◎職員数 549人  60歳以上 184人 (内訳)60〜64歳 64人(11.7%) 65〜69歳 44人(8.0%) 70歳以上 76人(13.8%) ◎定年・継続雇用制度  定年なし。現在の最高年齢者は85歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人合掌苑は、1960(昭和35)年に創業され、1966年に社会福祉法人に改組した。創業者が東京大空襲で被災した人たちに手を差し伸べたことが創業の背景にあり、仏教の慈悲の精神に基づく「人は尊厳を持ち、権利として生きる」という経営理念を掲げて地域社会への貢献を目ざしてきた。慢性的な人手不足に悩む介護業界にあって、現在549人の職員を擁し、とりわけ高齢の就労者が高い割合を占めている。創業以来の理念のもと、「心を支える介護」を目ざし、だれもが活き活き働ける働きやすい職場環境の構築が進められている。 《POINT》 (1)介護業界全体が人手不足状態のなか、即戦力である高齢職員が安心して働き続けられるようにすることを目的に、2017(平成29)年4月に定年制を廃止した。 (2)高齢でも無理なく働けるフレキシブルな就業形態を整備、柔軟な働き方を実現するために短時間・短日勤務が可能な限定正職員制度を導入した。 (3)キャリア支援として資格取得を奨励、受験費用の補助や資格取得へ向けた一時金支給など、高齢者を含む全職員を対象としている。 (4)子育て中の女性を支援するため、子ども手当の支給をはじめ、法定を上回る産前休暇制度、子の看護休暇を整備した。 U 企業の沿革・事業内容  同法人は、1960年に「合掌苑老人ホーム」の運営管理を開始。6年後に社会福祉法人に改組した。地域に貢献する介護事業の推進を目ざすなか、現在では町田市周辺に設置された3カ所の事業部(金森事業部、輝(かがやき)の杜(もり)事業部、鶴の苑(さと)事業部)を拠点に、特別養護老人ホーム、介護つき有料老人ホーム、居宅介護支援施設、訪問介護施設、通所介護施設などを運営している。利用者はもちろん、働く人も含めたすべての人を幸せにすることこそ法人の使命という経営理念のもと、きめ細やかな介護の実現に向けて経験豊富な高齢者の雇用にも積極的に取り組んでいる。  2018年には「日本でいちばん大切にしたい会社大賞※1(人を大切にする経営学会)」の実行委員会特別賞を受賞したほか、同年に「日本経営品質賞※2(経営品質協議会)」の経営革新推進賞を受賞するなど、同法人の多彩な取組みは多方面から注目を集めている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員549人のうち、60歳以上は184人(男性19人、女性165人)で、全職員の33・5%を占める。70歳以上は76人(男性6人、女性70人)で、最高年齢者は85歳である。同法人では自宅から直接訪問介護に向かう登録ヘルパー制度を整備してきたが、もともと非正規職員である登録ヘルパーには定年制がなかったため、就業規則では60歳定年を明記しつつも、実際には65歳以降も希望により継続雇用していた。就業規則と実態の乖離(かいり)があり、65歳以降も働き続けている職員の雇用状況に合わせて、2017年に定年制と継続雇用制度を廃止。これにより50代を中心にケアマネージャーや看護師などの応募が増加し、人材確保が実現している。また、若い人材の確保にも注力しており、毎年新規採用を行っている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制の撤廃と柔軟な働き方  介護業界全体が人手不足状態のなか、高齢職員が安心して働き続けられる環境を整えることを目的に、2017年に定年制および継続雇用制度を廃止した。また、定年制廃止にあわせて、それまでの準職員と嘱託職員の位置づけを見直し、より正職員に近づけるとともに、正職員の柔軟な働き方を可能にするために短時間・短日勤務が可能な限定正職員制度を導入した。限定正職員は週32時間以上の労働時間を条件にするとともに、週末の勤務が免除される。正職員は自身のライフスタイルに合わせて限定正職員に変更したり、その後正職員に再び戻ったりすることも可能である。現在48人が限定正職員を選択しており、その3割が高齢社員である。 ●賃金制度  60歳時点の基本給が70歳まで維持され、70歳以降は働き方に応じた金額となる。体力に自信がなくなったときや、介護などで時間的な制約が出たときなど、段階的に就業形態に応じ調整する仕組みを整えている。定年制廃止と60歳以降の賃金制度の整備により、60歳前の看護師や主任ケアマネージャーなど、有資格者の採用に役立っている。 ●人事管理  かつての再雇用制度のもとで嘱託職員であった高齢職員は、定年制廃止に合わせた準職員と嘱託職員の位置づけの見直しにより正職員となったものの、賃金水準は継続雇用時と同じ60歳到達時の水準となる。理由は、高齢職員は70歳まで正職員(あるいは限定正職員)として働き続けるのは肉体的に厳しく、途中で嘱託職員に変更している者が多いという現状があるためである。しかし、今後は正職員として働き続けるケースもあり得るため、人事管理制度の環境整備が課題となっている。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 ●高齢者が活躍できる職場の創出  高齢者が無理なく働ける就業形態を整備するために、それまでの月給制から時間給制を取り入れることになった。その背景には夜勤専従制度を導入するため、月給制度の見直しが必要となったことがある。12カ月分の給与の合計額を年間勤務時間で割って時間給を算出し、日勤と夜勤専従スタッフの給与体系を明確に切り分けることにより、個人のライフスタイルに応じた勤務時間帯や勤務形態の選択を可能とした。例えば、他社を定年退職後にヘルパーとして入社した80代前半の職員は、週3日・1日30分ずつという短時間で、排泄介助などの業務を担当し、本人も活き活きと働いている。  また、資格が必要とされる介護現場で、見守りや調理など、生活の延長線上でできる資格が不要な仕事を業務として切り分け、短時間でも高齢職員にたずさわってもらうことで、専門職の助けとなっている。一方、年齢にかかわらず、入社後の資格取得の支援を行うことで、高齢職員のモチベーションアップにつながっている。 ●面談の実施  同法人の創業者が理念として掲げた「人は尊厳を持ち、権利として生きる」という精神を具現化するために、利用者の満足度はもちろん、スタッフが満足できる職場風土の構築を目ざしてきた。多様な働き方を実践する職員が各自の役割を明確に理解し、それぞれがコミュニケーションを良好に取れるよう、月に1回以上、所属長が全職員に対して面談を実施している。面談によって法人が期待している役割が明白になり、職員自身の考え方とのズレをすり合わせることができると同時に、問題点がはっきりし、解決策を見出す手立てとなっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ●夜勤の専門スタッフの採用  労働時間を短縮しつつ、高齢職員が長く勤められることを目的に、夜勤専門の夜勤専従スタッフを採用し、日勤と夜勤を分けた勤務体制を整備した。また、ワークシェアリングの考え方に基づき、1夜勤を2名で担当する仕組みになっている。ローテーションとしては月の半分を夜9時から翌朝7時まで勤務するが、担当を週の前半と後半で分けるため、まとまった休みを取ることができると、職員からは好評である。 ●安全管理と健康管理  労働災害の防止および職員の健康の維持・増進を図ることを目的とし、安全衛生に関する方針を定めている。環境整備チームを中心とした「5S活動※3」を通じて、職員が職場内における労働安全衛生上の課題と改善策を出し合い、日々安全な職場環境づくりを進めている。  また、健康診断については、実施機関が来所して行っており、勤務時間中の受診が可能となっている。  一方、介護業務では一番の課題とされる腰痛対策を重視しており、予防のために入念な体操を行っているほか、中腰姿勢の維持や重量物の持ち上げによる身体への疲労と負担を軽減させ腰痛などの疾病リスクを予防するスマートスーツ※4を購入している。 ●キャリア支援、子育て支援  介護職員初任者研修などに対する受験日の職務免除や受験費用の補助をはじめ、介護福祉士などの資格取得への一時金支給を、高齢職員にも実施している。また、子育て中の女性に対しては、法定を上回る独自の産前休暇制度や子の看護休暇取得などを推進しているほか、子ども手当の支給や保育園を補完する企業内託児室の設置などで、働く女性を支援している。 ●福利厚生 @リフレッシュ休暇制度  2013年から全職員を対象に、リフレッシュのための7日以上連続した休暇の取得を推進している。連続して休む場合は、休暇中の仕事を同僚に引き継ぐために自分の仕事を棚卸しし、整理する必要があったことから、業務の効率化という相乗効果が生まれている。また、急病などで休んだ場合も代替が可能となり、チーム力が向上した。 A4週間ローテーションの実施  リフレッシュ休暇の取得や趣味・活動・自己啓発などの予定が立てやすくなるよう、2013年から職員ごとに公休を固定化したうえで、1年を4週間ごとに分け、13パターンのローテーションを組み、固定化させた。これにより自身の予定が立てやすくなったという声があがっている。 Bコミュニケーションの向上  スタッフが気持ちよく働ける職場環境が構築されてこそ、きめ細やかな介護が実現できるという観点から、日ごろのコミュニケーションの回数を増やすことを重視している。具体例としては、誕生日には理事長から全職員に手書きの誕生日カードが送られるほか、職場の同僚に向けて感謝の気持ちを書いて送り合う「サンクスカード」の仕組みが定着している。お互いに感謝する習慣が身につくことで人間関係が熟成され、職員の定着率の向上に結びついている。 (4)高齢職員の声  勤続28年の石室(いしむろ)智代子(ちよこ)さん(73歳)は、在宅のケアマネージャーとして週4日勤務している。46歳で正職員として入社し、65歳以降は限定正職員として現在の勤務体制となった。同法人への入職前から介護職で働いており、周囲からの信頼も厚い。「ケアマネージャーの資格はここで取得させてもらいました。人に会うのが好きなこと、少しでもだれかの役に立てることが嬉しくて毎日充実しています。定年制の廃止で、意欲があればいつまでも働ける職場環境が整備されたので、『健康に気をつけて元気にがんばろうね』と仲間たちと話しています。最高齢で85歳のヘルパーさんが活躍しているので、私もまだまだ負けていられません」と力強く語る。 (5)今後の課題  検討課題の一つに、60歳以降も正職員として働き続けていくために、肉体的負担の大きい介護現場の仕事内容のさらなる見直しを考えている。具体的には専門職として行う業務と、それ以外の業務を見極め、業務担当を見直していくことである。また、人材確保のため高齢者をはじめ障害者、外国人、子育て中の女性などを積極的に採用することも視野に入れている。「関わるすべての人を幸せにすることこそ法人の使命」という理念のもと、不断の努力が続く。 ※1 日本でいちばん大切にしたい会社大賞……人を大切にし、人の幸せを実現する行動を継続して実践している会社のなかから、取組みが特に優良な企業を顕彰 ※2 日本経営品質賞……顧客の視点から経営全体を見直し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続ける「卓越した経営の仕組み」を有する企業を表彰 ※3 5S活動……職場の安全衛生活動の一つ。「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」のこと ※4 スマートスーツ……着用して作業を行うことで、介護労働などの疲労や身体負荷を軽減することができるロボット技術を応用して開発された作業用の補助装具 写真のキャプション 施設外観 コミュニケーションツールになっている「サンクスカード」 ケアマネージャーとして活躍している石室さん 【P16-19】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 生涯現役人生を推奨しだれもが活き活き働ける職場風土を実現 溝端(みぞばた)紙工印刷 株式会社(和歌山県伊都郡) 企業プロフィール 溝端紙工印刷 株式会社 (和歌山県伊都郡) ◎創業 1947(昭和22)年 ◎業種 飲食店用紙製品のデザイン・製造・販売等 ◎社員数 294人  60歳以上 59人 (内訳) 60〜64歳 35人(11.9%) 65〜69歳 13人(4.4%) 70歳以上 11人(3.7%) ◎定年・継続雇用制度  定年は60歳。その後希望者全員、年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  溝端紙工印刷株式会社が印刷事業に着手したのは1世紀以上前の1907(明治40)年のことである。1947(昭和22)年に株式会社を設立後、飲食店向けの紙製品の製造を中心に73年の歴史を重ねてきた。主な営業品目のうち、箸袋や紙おしぼり、紙ナプキンなどの国内生産量は常に業界をリードしてきた。また、北海道の間伐材を使った割箸を製造するなど、環境問題にも取り組んでいる。一方、女性の活躍支援にも注力しており、出産・育児の際には短時間勤務の選択が可能で、その後、フルタイム勤務に復帰できる環境も整えている。現在、全国に8営業所、7工場を展開し、地元出身者を中心に採用。雇用の場を創出することで地域貢献を目ざしている。 《POINT》 (1)社是に「事業は人なり」を掲げ、社員が長く働ける職場環境づくりを進めてきた。60歳定年後、希望者を年齢の上限なく雇用する制度を20年前から導入している。 (2)2016(平成28)年に新たな賃金体系を構築。定年後も同じ仕事を続ける場合は給与が下がることはなく、さらに定年前と同じ基準で評価する人事評価制度を取り入れ、現役世代と同様、昇給・賞与がある賃金制度としている。 (3)2016年の新工場開設をきっかけに、LED照明や自動ラック倉庫などを整備。高齢社員をはじめ、すべての社員が働きやすい職場環境を整備した。 (4)新卒・中途を問わず、求人の募集要項には、「60歳以降も給与・賞与は下がらず、引退年齢は自分で決められる」ことなどを明記。それが、応募者のみならず、現在働いている社員に対してのメッセージにもなっており、多くの社員が安心して働き続けられる会社であることを実感している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1907年に印刷事業を開始、1947年に株式会社を設立した。主に飲食店向けの箸袋、紙おしぼり、紙ナプキンなどの紙製品を製造・販売しており、国内トップクラスの生産量を誇る。製品の一つである紙おしぼりは、新幹線のグリーン車や旅客機の機内でも使用されている。コスト削減のため生産拠点を海外に移す企業も多いなか、国産にこだわり、自社製品には必ず「MADE IN JAPAN」と表記してきた。  全社をあげて環境に配慮した取組みに力を入れており、北海道産間伐材割箸、茶殻入り紙ナプキン、コーヒー殻リサイクルナプキン、FSCR森林認証制度で認められた木材加工製品などの製造も手がけている。東日本大震災の際には、福島の東日本工場で製造している紙おしぼりを被災地域に無償提供するなど、社会貢献活動にも注力している。  現在、全国に8営業所と7工場を展開しており、新型コロナウイルス状況下にあっても、工場は止まることなく稼働している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  294人の社員のうち、60歳以上は59人(男性39人、女性20人)で、全社員の20%を占める。70歳以上は11人(男性7人、女性4人)で、最高年齢者は75歳となっている。定年は60歳で、定年後はほぼ全員が継続雇用を希望し、嘱託社員として勤務している。  同社は20年以上前から希望者全員を年齢上限なく雇用する制度を採用しており、継続雇用を希望する社員は多くいたものの、再雇用者の給与は下がる制度となっていた。「生涯現役」という時代の流れを見すえ、2016年に高齢社員が長年つちかった能力を活かせる職場づくりに着手し、再雇用者の賃金が下がらない賃金体系の改正を行った。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●評価制度導入や賃金体系の改正など  2016年3月から新たな評価制度を導入し、定年後も同じ仕事を続ける場合は、定年前と賃金・賞与を変えないこととし、さらに定年前と同じ評価制度を適用し、昇給のある賃金体系に改正した。  改正前は60歳が近づくにつれてリタイアする風潮があったが、その背景には、定年後の継続雇用では、定年前と比べて給与が大きく下がる賃金制度であった。賃金制度改定により、1年ごとに評価を行い、その年の貢献度を反映させるため、60歳以上でも評価が高ければ給与が上がる仕組みが整備された。  なお、給与体系は等級表のようにしっかり決まったものはなく、慣例的な目安表によって決まるため、同じ役職であったとしても金額に差が出る。給与の考え方は能力・スキルよりも、むしろ仕事の内容や貢献度・期待度に重点を置いている。年に1回の人事評価では本人に目標を立てさせ、それを直属の上司が採点し、さらに役員が確認するシステムとなっている。  また、賞与は夏と冬の年2回支給されるが、人事評価制度のもと、高齢社員に対しても、60歳未満の社員と同様に評価を行い、その結果を賞与に反映している。  諸手当には扶養手当、住居手当、役職手当、時間外手当、2交代手当などがある。退職金については、定年となる60歳で支給しているが、継続雇用が終了する本当の引退の際に、もう一度少額ではあるが退職金を渡している。 ●勤務形態  60歳で定年を迎えた後の再雇用では、本人の業務負担軽減の希望や、本人および周りから見て業務遂行能力が維持されていれば、定年前と同じ業務内容を引き続き担当する。60歳になったから他部署に異動するということはなく、職種を変更することもない。外回りの業務など、体力的に厳しくなり、異動希望があった場合は個別に対応している。現在、定年後はほぼ全員が継続雇用を希望しており、賃金制度の改定で高齢社員のモチベーションもアップし、より長く働き続けることを希望する社員が増えている。  また、休日を従来の105日から120日に増やすなど、高齢社員のみならず、だれもがより働きやすい職場の創出に努め、短時間勤務・短日勤務にも対応している。高齢社員のなかには「フルタイム勤務はつらい」という人もおり、それが退職につながらないよう、短時間勤務が可能な柔軟な勤務制度を導入した。現在、高齢社員の希望者はもちろん、育児中の若手社員や介護が必要な社員にも適用している。  なお、各地の事業所では、それぞれ地元出身者を中心に採用を行っており、他社を早期退職してきた人などに中途採用の機会を提供することで、地域の雇用の受け皿として貢献している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫  新入社員には新人研修およびフォローアップ研修を実施しているが、現時点では高齢社員向けの研修制度がないため、現場では、高齢社員と若手社員が互いに仕事を教え合う形が整いつつある。すべての社員の能力を活かすために多能工化に取り組んでおり、腰痛などで通院する高齢社員を各部署内でフォローする体制が可能となっているほか、高齢社員のモチベーションの維持につながる「アドバイザー」という肩書きも用意されている。  また、勤労意欲の増進を目的とした、年4回の「優秀社員表彰制度」がある。年齢に関係なく管理職が部下を推薦する仕組みで、全社員が対象となるため、互いに切磋琢磨し合う職場風土が生まれている。  さらに、社内のコミュニケーション向上のため、社内報(年4回)を発行しており、別拠点の活動の相互理解や、新製品のアイデア募集などの役割を果たしている。社内報で募集したアイデアから、箸袋を模もしたデザインの名刺などが実現した。ほかにも、昼食は食事室で2交代でとることなど、職場内のコミュニケーションを図る機会を積極的につくっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ●作業環境の改善  職場環境の改善については、現場から積極的に声が上がる文化が醸成されており、問題が生じたら直属の上司に話が上がり、費用対効果を考え対応する体制が整備されている。例えば、「炎天下での屋外作業に対し外勤手当をつけたらどうか」、「扇風機つきの服を導入してはどうか」などの声があがっており、現段階では実現していないものの、検討事項として話し合いが行われている。  実施済みの具体的な作業環境の改善としては、2016年に開設した新工場の照明をLED化。また、工場での作業は重量がある紙製品を扱い、身体的負荷が大きいことから、1階の材料を全自動で最上階の工場へ運ぶ自動ラック倉庫を導入。高齢社員だけではなく全社員の身体的負担が軽減されている。 ●健康管理  一部の工場にはトレーニングルームがあり、高齢社員も積極的に利用するなど、健康増進に役立てている。また、年1回の健康診断に加え、印刷にたずさわった社員や希望者には会社負担で胆管がん検診を受診できるようにしている。新型コロナウイルスへの対応としては、マスクの着用のほか、換気や席の間隔を空けるなど感染防止に努めている。 ●安全衛生  安全衛生委員会で安全衛生について話し合うほか、消防訓練や救急手当講習を実施し、安全衛生に対する意識の向上を図っている。また、危険がともなう断裁作業については、両手でボタンを押さなければ稼働しない断裁機を導入したことで事故の減少につながった。 ●福利厚生  長く働ける職場環境の構築を目ざし、福利厚生面でもさまざまな取組みを行っている。例えば、「社員個々の生活の充実が、仕事をがんばるうえでの基本となる」との考えから、転勤や単身赴任については、希望者のみで対応している。また、お祝い金などによる子育て支援は、社員に大いに歓迎されているそうだ。社員間のコミュニケーション向上のため、懇親の場としてクラブ活動や旅行、誕生会などを実施している。なお、地域貢献の観点から、15年前から最寄り駅周辺の清掃活動を継続しており、地域交流の格好の機会となっている。 (4)高齢社員の声  最高年齢社員の中本吉計(よしかず)さん(75歳)は、嘱託社員としてフルタイムでデザイン・版下作成の業務をこなしている。パソコン操作など新たな仕事に真摯に向かう姿勢は若手社員のよい見本となっている。  森本雅彦さん(65歳)はパート社員として、断裁作業に従事している。日々の現場では、若手社員が8時間かけて行う作業を6時間で終わらせるなど、ベテランならではの手腕を発揮して活躍している。 (5)今後の課題  同社では、定年を引き上げることも検討したが、賃金が下がらずにいつまでも働くことができ、高齢社員のモチベーションも維持できているため、当面は現状の定年制を維持していくこととしている。一方で、「働き方改革」の観点や若年者の採用を促進するため、2020年度より年間休日を15日増やすことを決定した。これにより生産性の向上が今後の課題となるが、ていねいでミスが少ない高齢社員と、スピードが速い若手社員が協力し合い、互いの長所が活用される職場環境を推進することで生産体制を強化していく。「事業は人なり」を合言葉に全社一丸となった生涯現役人生実現のチャレンジが続く。 写真のキャプション 会社外観 一部の工場にはトレーニングルームを設置している 断裁作業を担当している高齢社員の森本さん デザイン・版下作成を担当する最高年齢社員の中本さん 【P20-23】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢社員の技術と経験を活かすために生涯現役で働ける職場環境を構築 株式会社 ルネックス(鳥取県倉吉市) 企業プロフィール 株式会社 ルネックス (鳥取県倉吉市) ◎創業 1971(昭和46)年 ◎業種 メガネ・補聴器・光学機械小売業 ◎社員数 30人  60歳以上 3人 (内訳)60〜64歳 2人(6.7%) 65〜69歳 1人(3.3%) ◎定年・継続雇用制度  定年は65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。現在の最高年齢者は67歳 T 本事例のポイント  株式会社ルネックスは、1971(昭和46)年12月創業の有限会社メガネの太田を前身とし、1981年の倉吉パープルタウンへの出店を皮切りに事業を拡大。1985年に株式会社に組織変更の後、1990(平成2)年7月に、公募によりルネックスが新たな社名となった。その後、長年つちかってきた技術を核に、地域に密着したメガネ店として、子どもからシニアまで幅広い年齢層に合ったメガネや補聴器などを提供し続けている。現在5店舗を展開しており、そのうち3店舗でコミュニティプラザを併設し、地域の文化芸術の紹介と交流の場の役割をになっている。地域貢献を目ざすコミュニティプラザ「百花堂(ひゃっかどう)」は、豊富な人脈を持つ高齢社員の活躍の場ともなっている。 《POINT》 (1)高齢社員が能力を発揮するための環境整備の実現に向け、定年65歳、希望者全員70歳まで継続雇用する制度を導入。また、多様な働き方ができるよう高齢社員を対象に短時間・短日勤務制度を就業規則に明文化した。 (2)高齢社員を活用した「研修制度」や高齢社員と若手社員の共働による「顧客カルテの見直し」、「高齢社員の技術と経験を生かしたデータ化・マニュアル化」を実施し、すべての社員の意欲向上を図っている。また、「認定眼鏡士制度」、「認定補聴器技能者」などの資格取得の費用を会社が全額負担。若手社員の人材育成とともに高齢社員のモチベーションアップを目ざしている。 (3)立ち作業における負担を軽減するため、全店舗に血圧計・体重計を備えた休憩室を設置した。また、健康診断結果を職場で管理するなどの健康対策が社員の健康意識向上につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社ルネックスは、1971年に鳥取県倉吉市にて、有限会社メガネの太田として創業。全国的にチェーン展開を行う格安メガネ店が増加するなか、地元に密着した老舗メガネ店として、メガネ・補聴器・コンタクトレンズなどの販売事業を、県内5店舗で展開している。  本業のメガネなどの販売のほか、地域貢献事業にも力を注いでおり、1984年には倉吉本店に、地域で活躍する作家の作品を展示する「コミュニティプラザ百花堂」を創設した。さらに米子本店(1991年オープン)、鳥取本店(2002年オープン)にも「百花堂」を併設し、地域の人々との交流の場となっている。百花堂は事務局を高齢社員が担当しており、高齢社員活躍の場の創出事業としても位置づけている。  さらに社会貢献の取組みとして、NPO法人を設立し、全国の同業他社に呼びかけ、不要になったメガネを回収・再生し、タイ王国へ無償提供を行っている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  現在、30人の社員のうち、60歳以上は3人(男性2人、女性1人)で、全社員の10%を占めている。男性はともに営業職で40年以上のキャリアがあり、女性は「百花堂」で短時間勤務で働いている。メガネ・補聴器の販売においては、顧客の視力・聴力などを的確に測定する専門的知識や、顧客の要望に応じたデザイン・機能のアドバイスを行うため高いコミュニケーション能力が求められる。同社の高齢社員は、それぞれがメガネ業界での経験が長く、熟練した技術を有し、知識によるお客さまへの提案力、製品の特長の理解度、測定技術、卓越したコミュニケーション能力などに優れており、欠かすことのできない戦力となっている。  特に補聴器の販売については、高齢社員と同世代のお客さまが多く、話題の共通性はもちろん、お客さまの心に寄り添った接客ができており、若手社員のよき手本となっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年延長・継続雇用制度  「60歳になっても、65歳になっても、70歳になっても、本気さえあれば現役続行ができる」という理念を掲げ、生涯現役で働ける職場の創出を目ざして、2020(令和2)年3月に就業規則を改定。定年を65歳、継続雇用年齢を70歳に引き上げた。同時に職場環境の改善を図り、多様な勤務形態実現のために短時間勤務制度の導入などを実施した。  生涯現役を目ざす方針は、高齢社員はもとより全社員のモチベーションアップにつながり、売上げ向上にも反映されている。 ●多様な勤務形態の導入  魅力ある職場づくりのためには、社員の満足度の向上と長時間労働の削減などが必要であることから、各店舗でワーク・ライフ・バランスを考慮した面談を実施し、全社員からの就労環境改善などの意見に耳を傾けてきた。意見のなかには短時間勤務や多様な勤務形態を望む声が高かったため、柔軟な働き方が選択できる雇用制度を整備。満60歳以上の社員を対象として、勤務時間は1日3時間の範囲内、所定労働日数については3分の1以内で短縮できる短時間勤務制度を導入した。 ●賃金・評価制度について  正社員の給与は勤続年数に基づく年齢給で、賞与は年2回。そのほか、役職手当などの各種手当を支給している。評価制度における評価結果は売上げを考慮したうえで、基本給に反映させている。また、定年後は、メガネ・補聴器販売におけるこれまでのキャリアを加味し、給与の引下げは行わず、定年前の基本給をベースとして支給している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ●勉強会の実施  生涯現役で働ける職場を目ざし、職場環境改善や顧客満足度向上などについて、役員も含めた全社員での勉強会を、社内・社外を合わせて年6〜8回実施している。内容は多岐にわたり、最近では、「人口減少時代を見据えたイノベーションによる意識改革」などをテーマに実施している。同社における「イノベーション」とは、ライフシーン別のメガネ提案専門店の創造であり、メガネを売る際に人の生活を「ON TIME(ビジネス、フォーマル、やや緊張感のある場など)」と「OFF TIME(プライベート、カジュアル、気楽な場など)」に分け、それぞれに合ったフレームや機能を提案することである。そのためには相手のことを深く理解できる人間力が必要であり、高齢社員の豊かな人生経験が大いに役立っている。  また、各店舗全社員を対象に、高齢社員が講師を受け持つ研修を5年前から毎月2回実施している。これまでの経験における販売・営業の手法や接遇についてロールプレイングを行うなど、若手社員への技能伝承も含めた研修となっている。研修を通じて、社員同士がコミュニケーションをとる機会が増え、信頼関係の構築につながっている。 ●資格取得に向けた取組み  メガネや補聴器の資格取得においては、通信教育で数年を要するが、通信教育の経費・講習会などにおける経費は会社の全額負担としている。現在2名の高齢社員が補聴器の資格を取得しており、今後は毎年少しずつ資格取得者を増やすことを目標としている。 ●顧客カルテの付加価値の見直し  全国展開するメガネ販売のチェーン店が増えているなか、これまでの「マイ顧客」から「生涯顧客」をつくることを目標として、高齢社員と若手社員が共働して「顧客カルテ」の付加価値の見直しに着手した。従来の顧客カルテは、顧客についての情報が少なく、十分に活用できていなかったため、新入社員でも顧客情報を把握できるよう、新たに「接客内容・顔の特徴・対応者・来客履歴・今後の提案」などの情報を加え、顧客情報の共有化を図った。これまで店舗ごとに保管していた顧客の情報を共有化することで、業務が円滑に進み、「生涯顧客」に向けた新たな顧客対応が構築されつつある。 ●データ化・マニュアル化について  高齢社員の優れた技術や豊富な経験を伝えるマニュアルなど社員が共有できるデータや資料がなかったことから、高齢社員と若手社員が共働で顧客一人ひとりに合ったサービスを提供するための顧客管理システムの開発を進めている。高齢社員が持つ技術・経験を共有化し、若手社員のアイデアも取り入れることで、顧客のリピート率などを一覧で把握できるようになった。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ●休憩室の設置  当初、休憩室は倉吉本店のみ設置していたが、接客における立ち仕事の負担を軽減させるため、全5店舗に休憩室を設置した。快適な休憩室の設置により、疲労回復はもちろん、社員同士のコミュニケーションが活発化し、それぞれの満足度の向上にも効果をもたらしている。なお、4店舗においては、社員が横になれる空間を確保しており、休憩後の作業効率アップにつながっている。また、休憩室とは別に、店舗内の顧客から見えにくい場所に休憩スペースを設置したことで、短い休息が可能になり、ストレス改善が図れると、すべての社員に好評である。 ●健康管理  各休憩室には体重計・血圧計を設置しており、休憩時に手軽に血圧を測定できるため、社員からの評判がよい。また、健康診断結果の要再検査事項については、「再検査」と「検査報告」を義務づけており、社員の健康に対する意識向上を図っている。 ●メンタルヘルス対策  店舗ごとに店長が、ワーク・ライフ・バランスを考慮した面談を毎月実施し、精神面のサポートを行っている。高齢社員は仕事への責任感が強く、家庭の事情や身体の不調時にもいい出さない傾向にあったが、毎月の面談によって仕事と生活の調和が考慮されるようになり、体調などに配慮した短時間労働にも対応しやすい職場づくりを進めることができた。 (4)その他の取組み ●地域貢献と国際貢献事業の展開  同社3店舗(倉吉本店・鳥取本店・米子本店)に併設している「コミュニティプラザ百花堂」は、地域で活躍する作家の展示などを通じ、「文化・芸術の地域への紹介の場」、「地域の方々との交流の場」として運営している。また、「NPO法人日本−タイ王国メガネボランティアグループ」を主宰し、不要になった老眼鏡の再生作業を行い、毎年約2千本をタイ王国へ無償配布している。メガネの再生作業には全社員が参加、本事業は20年継続しており、国際貢献の一翼をになっている。 (5)高齢社員の声  Aさん(62歳・男性)は、44年間勤続している生え抜きの社員。現在は補聴器部門の係長として売上げに貢献することはもちろん、人材育成にも大きな役割を果たしている。「継続雇用により安心して働き続けられる職場があることに感謝しています。自分の役割や責任の自覚をもって今後もがんばっていきたい」と語る。  Bさん(66歳・男性)は同業他社で63歳まで勤務の後、2018年に入社。「お世話になった山陰のお客さまに恩返しをしたい」と、メガネ・補聴器などの技術はもとより、接遇などの伝承者として、後輩の育成に貢献している。 (6)今後の課題  現在の「店長会議・企画会議・商品会議」のメンバーから「改善委員会」を新たに立ち上げ、委員会で出された改善提案を高齢者の活躍の場も含めた「業務改善の具体策」としてフィードバックする取組みを目下検討中である。さらに、フィードバックされた内容を見直すことで、よりよい労働環境を整備し、高齢社員の一層の活用を視野に置いている。高齢社員の技術や経験に若手社員の新しい発想を加えて、「顧客および社員の満足」と「売上げ」の両面での向上に果敢に挑戦していく。 写真のキャプション ルネックス倉吉本店 補聴器部門で活躍中の高齢社員 【P24-27】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 各人のライフスタイルと健康に即した60〜66歳までの選択定年制を構築 社会福祉法人 愛心会(愛媛県宇和島市) 企業プロフィール 社会福祉法人 愛心会 (愛媛県宇和島市) ◎創業 2005(平成17)年 ◎業種 特別養護老人ホーム・短期入所施設 ◎職員数 47人  60歳以上 18人 (内訳) 60〜64歳 6人(12.8%) 65〜69歳 6人(12.8%) 70歳以上 6人(12.8%) ◎定年・継続雇用制度  定年は66歳。60歳から66歳の間で定年年齢を選択できる。その後、法人が認めた者を70歳まで再雇用。現在の最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人愛心会は、2005(平成17)年1月に法人設立の認可を受け、2007年1月に特別養護老人ホーム「あさひ苑」の入居を開始した。同年4月からショートステイの利用をスタートし、2016年5月からは宇和島市介護予防普及啓発事業の「生き活き教室」を開設した。  「自分や家族が入居したいと思える『もう一つのわが家』」としての施設づくりを目標とし、自宅のようにくつろげる環境づくりに注力してきた。その点が評価され、「あさひ苑」は、庭園が「ランドスケープコンサルタンツ協会CLA賞最優秀賞」(2008年)、同建築が「医療福祉建築賞2008」(2009年)を受賞している。さらに2019(令和元)年には、「日本造園学会賞(事業・マネジメント部門)」を受賞しており、自然に恵まれた立地を生かし、自然と共存する施設づくりを続けている。  創業時の定年年齢は60歳であったが、2019年6月に66歳に引き上げ、同時に選択定年制を導入した。さらに、66歳以降は法人が認めた者を70 歳まで再雇用することを明文化した。創業当時から勤務する高齢職員に今後も長く働いてもらうための、柔軟な雇用制度や福利厚生の充実を図っている。 《POINT》 (1)「自分や家族が入居したいと思える『もう一つのわが家』」としての施設づくりを目標に、高齢者が長く安心して働くことができる柔軟な雇用制度や福利厚生の拡充に取り組んでいる。 (2)2019年6月、定年年齢を66歳に引き上げ、選択定年制を導入。さらに、66歳以降は法人が認めた者を70歳まで再雇用することを制度化。 (3)各ユニット(生活単位)に1台ずつ「リフト浴」を導入している。マンツーマンで対応ができ、移乗の必要がないので高齢職員も介助の負担が少ない。 (4)施設長を中心として高齢職員は若手の「応援団」となり、仕事はもちろん日常生活でも企業理念に即した行動の指針を示している。 (5)理学療法士を講師として招き、移乗行為における腰痛予防の研修を開催。 (6)行事委員会を設置し、各ユニットから1人ずつ行事委員を選出。年齢や職種を超えた交流が自然と図られ、横のつながりが構築されている。 U 企業の沿革・事業内容  2007年に開設した「特別養護老人ホームあさひ苑」は、3千坪の広大な敷地に、耐久性の高いRC造(鉄筋コンクリート造)で建てられた平屋建築で、すべての部屋から庭が臨める全室11畳ほどの広々とした個室を備えている。  キッチンやリビング・風呂を共有するユニットが八つあり、一つのユニットにつき8〜10人が個室を持って生活している。特別養護老人ホームであるあさひ苑の入居対象は要介護3〜5の高齢者。併設されている「短期入所施設あさひ苑」の入居対象は要支援1〜要介護5の高齢者となる。  2016年5月からは、宇和島市が実施している介護予防普及啓発事業「生き活き教室」を開設し、65歳以上の元気な高齢者を対象にした筋力づくりや認知症予防を行う教室を、週一回、送迎と食事つきで開催し、地域の高齢者福祉に貢献している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  47人の職員のうち、60歳以上は18人(男性3人、女性15人)で、全職員の38・3%を占める。70歳以上は6人(男性2人、女性4人)で、最高年齢者は74歳である。  「13年前の開設時から勤続する職員が年齢を重ねており、別の職場を定年退職してから当法人に再就職した職員もいます。高齢職員のみなさんに今後も長く活躍してもらいたいという思いから、定年年齢と再雇用の上限年齢を引き上げました」と亀岡(かめおか)千寿(ちず)事務長は説明する。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制  定年制の改定にあたっては、定年制の廃止も検討していたが、職員から「定年制が廃止されると何歳まで働いたらよいか目標がなくなる」と意見があり、定年年齢を66歳と決定した。  他方、介護の仕事は体力が必要なことから「60歳以降も仕事を続けたいが、体力的な面で数年先の見通しが立たない」という意見があった。そこで定年を自分で選べる仕組みを模索したところ、当機構の65歳超雇用推進プランナーが「選択定年制」を提案し、採用に至った。  定年年齢は、59歳の誕生月に60歳から66歳の間で職員自ら設定している。たとえ家庭の事情や体調不良などで決めた年齢までの勤続がむずかしくなった場合にも、申し出によって定年を半年前まで前倒しできるようにし、「いつ辞めてもきちんと定年で辞められる仕組み」をつくった。 ●継続雇用制度  創設当初は、年金受給開始年齢までを限度に再雇用する制度であったが、2007年12月からは、「65歳まで希望者全員を継続雇用」、2019年6月からは「66歳以降は法人が認めた者を70歳まで再雇用する」ものとした。  とはいえ「元気でいつまでも働いてほしい」が方針であり、実態は70歳を超えても継続雇用し、現在の最高年齢者は74歳の調理職員であることから、規定に定めた「70歳」は概(おおむね)の到達目標となっている。 ●職場環境の改善 @バリアフリー、クッション床の設置  施設全体をバリアフリーに設計し、建物の床面はクッション床を採用した。クッション床は足や腰への負担を軽減するため、広い施設内を行き来する職員にとって効果は大きい。また、入居者の転倒による骨折などが回避しやすいことから、職員の緊張感の緩和にもつながっている。 A浴室にリフト浴を設置  全ユニットに1台ずつ「リフト浴」を導入している。通常、個浴支援は3〜4名の介護職員で行うが、リフト浴はマンツーマンでも対応でき、移乗の必要がないので、心身ともに職員の負担が少なくてすむ。入居者にとっても流れ作業で入浴支援をされるよりも、入浴から居室まで1人の職員に対応してもらえる方が、より自宅での生活に近くリラックスできる。 B休暇を取得しやすい職場  月に9日ある公休に加え、毎月有給休暇を1〜2日取得することが慣習になっており、有給休暇が取得しやすい風土が醸成されている。「通院のために特別に休暇を取得する必要がなく助かる」という声もあがっている。公休と有休を上手に使い、仕事と健康づくり、プライベートを充実させている。 (2)資格取得やキャリア形成支援の取組み ●喀痰(かくたん)吸引の実習指導による介護スキルの習得  所属するベテラン看護師が喀痰吸引実習指導を行うほか、認定の取得にかかる費用の全額を補助し、研修を修了しやすい環境を整えている。研修を修了し喀痰吸引が可能になった介護士には夜勤帯での対応を任せ、何かあれば看護師に相談できる体制を整えている。 ●腰痛予防の介護技術の習得訓練  理学療法士を講師として招き、移乗行為における腰痛予防の研修を実施している。介護職は腰痛になりやすい職種であり、腰痛がひどい場合は仕事を休まざるを得ないこともあるため、予防のための重心移動のコツは体得しておきたい重要事項だ。研修では職員同士で役割を交代して実践することで細かな所作、要領を体得。技術を習得した職員が、普段から現場で未習得の職員に教える習慣も根づいている。 ●全職員を対象とした研修の実施  「人を育てる」研修として、現場で役立つ実践的な知識を身につける内容を盛り込み、定着をうながすために同じ研修を複数回行っている。例えば、薬剤師を講師に招いた薬剤についての研修では、入居者が使用する薬について、効用はもちろん副作用まで解説してもらい、よりふみ込んだ指導内容により見識を深めている。  研修のポイントは毎回「振返り」という課題を配布し、提出を課している点。内容は研修の重要事項についてのイエス・ノー形式の設問のほか、研修を受講した感想、今後の活用、目標などとなっている。  なかには「振返り」に、日ごろの心配事や意見を記述する職員もいる。職員の率直な意見は個人の抱える問題や職場づくりのフォローにつながることから、「振返り」は研修の理解度を図るだけではなく、コミュニケーションツールの一つにもなっている。 (3)意識・風土面の改善 ●施設の目標と理念  施設の目標である「自分や家族が入居したいと思える『もう一つのわが家』」としての施設づくりを、施設長を中心に、高齢職員は若手職員の「応援団」となって実現を目ざしている。 ●施設長とのコミュニケーション  施設長は首都圏で障害者支援に14年ほど従事した経歴を持つ。ボランティアグループを主宰し、運営にたずさわるなど、豊富な経験を有し、施設開設当初からのキーパーソンである。愛心会が注力している自然と調和した環境づくりは、施設長の「福祉は環境がよい施設で行わないといけない。よい環境には癒しがあることから、入居者の気持ちも職員の気持ちも落ち着かせる」という言葉からスタートしたという。  施設長は職員から絶大な信頼を得ており、職員からの情報は施設長の耳に集約されるという。トップ自らの情報発信により、職員全員に対して説明を行い、職員の不安を取り除き、働きやすい環境を構築、維持している。 ●職場コミュニケーションの推進  介護職員は各ユニットで固定されているため、他ユニットおよび他職種の職員との交流を図るために年間行事や研修を開催している。  各ユニットから1人ずつ行事委員を選出しているが、高齢職員も委員会に参加しており、若手職員と高齢職員が一緒になって和気あいあいと行事の飾りつけを行うなど親睦を深めている。 (4)健康管理体制 ●健康診断のアフターケア  健康診断結果に基づく保健師のアフターケアは勤務時間内に受けられ、施設に在籍している看護師による健康相談なども行い、職員の健康管理意識の向上を図っている。 (5)職員の反応・声  岡本チズ子さん(72歳)は、68歳で看護師として入職した。入居者の健康管理、心身の管理、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)予防のほか、喀痰吸引の実習指導などを行っている。定年まで勤めていた病院では、すべて医師の判断に即して行動したが、いまは自分たちで判断することが多く、それがやりがいとなっているそうだ。「ほかの施設から移動してこられた床ずれがひどい入居者さんに、介護士さんたちと相談しながら改善するよう取り組んだ結果、症状の改善が見られたときは嬉しかったですね」  和田えみさん(62歳)は、介護福祉士として食事、排泄、入浴に関わる生活支援を行っている。「あさひ苑では少人数を受け持つ介護を実施するユニットケアを行っていることから、入居者と距離感が近く、仕事の段取りがしやすい点が自分に向いていると感じて、入職しました」入居者からもらう思いやりや笑顔に、驚いたり嬉しかったり、そんな心温まる出来事が仕事のモチベーションにつながっているという。 (6)今後の展望  職場のよい雰囲気づくりには、「人員配置の見極めが大切」と亀岡事務長は話す。毎年4月に人事異動を行っており、これまでも個人の能力や性格、経験などに配慮し、再配置に心を砕いてきた。愛心会は離職者が少なく定着率が高い。その要因には、こうした細やかな心配りによる人員の配置が、職場の雰囲気をよいものにし、人材の育成にもつながっているようだ。  「今後も配置は慎重に検討し、年齢を重ねてより能力を発揮でき、活き活きと働けるような職場づくりを目ざしていきたいと思います。職員が当施設で働いていることを誇りに思ってもらえたら嬉しいですね」(亀岡事務長) 写真のキャプション 「あさひ苑」全景 看護師として働く岡本チズ子さん 介護福祉士として働く和田えみさん 【P28-29】 江戸から東京へ [第96回] 名二代目の会 徳川秀忠 作家 童門冬二 二代目将軍の悩み  不肖の息子≠ニいう言葉がある。意味は、「親に似ない息子」のようだ。徳川秀忠は、家康の三男で、家康が1603(慶長8)年に取得した征夷大将軍(俗に「将軍」)≠フポストを、2年後の1605年に譲られた。世の中はあっと驚いた。特に、家康に味方し、関ケ原の合戦で手柄を立てた旧豊臣系の大名たちは呆気(あっけ)にとられた。秀忠は合戦に間に合わず天下の嘲笑(わらい)者だったからだ。しかし、その秀忠には支持者もいた。それは、今後の日本社会の行く末を先読みして、  「この国は、家康公によって平和に経営される。そのときのトップリーダーは、やはり平和向きな人物の方が相応しい」  という読みであった。事実はその通りになるが、将軍就任当時の秀忠は悩み、土井利勝という側近の宿老に相談した。利勝は、  「名二代目をお集めになり、話をお聞きになったらいかがでしょうか」  と進言した。秀忠はこれに乗り、「名二代目の会」を設けた。最初の会に秀忠は、「幽斎(ゆうさい)」の名で文化大名の名を高めていた細川藤孝の息子・忠興(ただおき)を招いた。そして、  「これこれの趣旨で、こういう会を開く。最初にあなたからいろいろお話をうかがいたい」  といった。  忠興の方は、すでに情報を得て秀忠の意図を事前にキャッチしていた。腹を据えて、  「上様(秀忠)のおたずねには、何事も隠すところなくお答えいたします」  と神妙に答えた。 二代目細川忠興の名答  秀忠は頷(うなず)き、  「最初におうかがいするが、今後人を導く立場に立つ者は、どのような心がけが必要とお思いか」  と訊いた。忠興は、  「父幽斎が申しますのには、上様のただいまのおたずねに適するような人物は、明石の浦の牡蠣殻のようになれ≠ニ教えられました」  「ほう、明石の浦の牡蠣殻に?幽斎殿のご意図はどの辺にあるのかな」  「さればでございます。明石の浦は一見穏やかに見えますが、実は大変(たいへん)に荒海でございます。したがってその波に洗われる岩にしがみついている牡蠣は、緊張のし続けでございます。しかし、波が表面の殻のとがった部分をいつの間にか削り落としてしまいますので、表面がすべすべになり、穏やかな貝殻のように見えます。が、牡蠣は大切な中身をしっかりと抱き、これを守り通しております。父の申すのはおそらく、外柔内剛※の意味かと存じます。私も、到底父にはおよびませんが、そのように在りたいと、日々願っております」  「忠興殿がそのようなご謙遜を。もう一つおたずねしたい」  「はい」  「天下の政(まつりごと)を行うには、どのような心構えが必要か、幽斎殿がお話になったことがおありか」  「ございました。父が申しますのには、天下を治めるには、四角い容器に、丸い蓋(ふた)をする心がけがよろしい≠ニ、こう申しておりました」  「ほう、四角い容器に丸い蓋を?それは、容(い)れ物と蓋がまったく合わぬな?」  「その通りでございます。四角い容器に丸い蓋をすれば、四隅がそのまま見えます」  「わしもそう思う。それで、幽斎殿のご意図は?」  「さればでございます。父が申しますのには、何ごとも政事は、ピタっと容れ物と蓋が合うような堅ぐるしいことをしてはならない。隙を見せなければならぬ。それには、四角い容器に丸い蓋をする心がけが一番よい、と申しておりました」  「なるほど、これはよいことを学んだ。忠興殿」  「はい」  「これからも、この会においでいただいて、幽斎殿の話をしばしばしていただきたい。この秀忠、今日は非常に勉強になった」  秀忠は、自分が設けた「名二代目の会」が、初回から意図通りに行われたことを喜んだ。この日、秀忠は最後に忠興にこういった。  「忠興殿」  「はい」  「貴殿は、本日この会ですべて私の問いかけに対するお答えを、父幽斎が申しておりましたがといわれたが、そうではあるまい」  「と申しますと?」  不審な顔で眉を寄せた忠興に、秀忠は笑いながらこういった。  「父幽斎が申したというのは嘘で、総て貴殿自身のお考えであろう? 如何(いかが)かな」  「はっはっはっは」  忠興は突然大声で笑い出した。そして、手を着いた。  「恐れながら、お見通しのほどこの細川忠興恐れ入りましてございます。御当代(秀忠)様は、誠の名君であらせられます」  と褒め上げた。 ※ 外柔内剛……外見は穏やかで優しそうだが、心の中は何事にも左右されない強い意志をもっていること 【P30-33】 高齢社員の賃金戦略 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野(いまの)浩一郎  高齢者雇用を推進するうえで重要な課題となるのが高齢社員の賃金制度です。豊富な知識や経験を持つ高齢社員に戦力として活躍してもらうためには、高齢社員の能力や貢献を適切に評価・処遇し、高いモチベーションを持って働いてもらうことが不可欠となります。本連載では、高齢社員戦力化のための賃金戦略について、今野浩一郎氏が解説します。 第5回 賃金を決める社員特性 1 はじめに〜高齢社員の活用戦略の二つのポイント〜  第3回で説明した「賃金の基礎」に沿って、高齢社員の賃金はどうあるべきかを考えてみます。まずは高齢社員の活用戦略を明確にする必要がありますが、それは高齢者がどのような仕事に就き、どのようなキャリアを積む社員として育成し活用するのかを、つまり高齢社員の社員特性を決めることになります。そうなると、正社員が会社の業務ニーズに合わせて、働く場所に限定なく働き、基幹的な業務に従事し、管理職などの幹部社員へのキャリアを積むという特性を持つ社員であるとすると、高齢社員は正社員と異なり、どのような特性を持つ社員なのかが問題になります。  これまでくり返し強調したように、高齢社員の活用戦略は企業によって異なりますが、高齢社員を取り巻く環境をふまえると、それには、どの企業にも共通するポイントが二つあります。第一は、福祉的雇用から脱して、高齢社員を経営に貢献する貴重な人材として位置づけることです。わが国の労働市場をみると、企業は平均すると「5人に1人は高齢社員」という現状にあります。企業にとって、これほど大きな社員集団化した高齢社員を、成果を期待することなく雇用する余裕はなく、戦力として活用する以外に選択肢はないはずです。ですから、企業には高齢社員を活用する「覚悟」が求められ、この「覚悟」が効果的な活用戦略をつくるにあたってのキモになります。高年齢者雇用安定法によって義務化されているのでやむを得ず雇用するという対応には未来はありません。これは第2回でも強調したことです。  さらに同法は、高齢社員の人事管理の基本骨格を規定し、現状をみると多くの企業は「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」という基本骨格をとっています。したがって、それを前提に活用戦略、さらには「あるべき賃金」を考える必要があります。これが第二のポイントです。  このようにいうと、これらのポイントは定年延長や定年制廃止をとる企業には関係のないことと思われるかもしれませんが、そうではありません。定年を延長しようとも、あるいは廃止しようとも、社員は高齢期のある時期に役割とキャリアを転換することが求められます。この転換後の社員がここでいう高齢社員にあたり、企業はその社員の活用戦略や「あるべき賃金」を新たにつくる必要があります。 2 「短期雇用型」の特性に合わせた「仕事原則」 ■高齢社員は「短期雇用型」社員  そこで「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」という基本骨格のもとで、企業はどのような活用戦略をとり、それによって高齢社員はどのような特性を持つ社員として雇用されるのかを考えてみます。  まずは、高齢社員は「短期雇用型」の特性を持つ社員として雇用されるという点が重要です。「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」が人事管理の基本骨格なので、雇用される期間は最大5年と短期になります。そうなると、「いまある能力を、いま活用する」が企業のとる活用戦略の基本になり、高齢社員は「いまある能力を、いま発揮して会社に貢献する」社員ということになります。「いまある能力」を活用するのですから、定年前と同じ分野の仕事で働くことが活用の基本になります。ここでは、この特性を「短期雇用型」と呼んでいます。それに対して正社員は、「長期的な観点から育成し活用する」という活用戦略のもとで「長期雇用型」社員としての特性を持ちます。  このようにいうと、高齢社員には教育は必要ないと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。職場の戦力として活躍している高齢社員に共通することの一つは、常に新しいことを学ぶ姿勢を持っていることです。したがって、ここでは新規採用された若者のように、遠い将来を見据えて基礎的なビジネススキルや専門知識を教育することはないという意味で、高齢社員を「いまある能力を、いま活用する」社員としているのです。  ですから、高齢社員といえども、いま従事している仕事に必要とされる新しい知識・スキルを習得することは必要です。このことは次のようにいうこともできます。会社にとって社員教育は、将来の成果を期待して行う人材に対する投資であり、それには、すぐ成果に現れる短期投資と成果が現れるまで長い時間が必要な長期投資があります。この観点からみると、正社員は長期投資の対象になりますが、高齢社員は雇用期間が短いので長期投資の対象にはならず、もっぱら短期投資の対象になります。 ■賃金決定の「仕事原則」  「短期雇用型」の特性は高齢社員の「あるべき賃金」を規定します。図表は「あるべき賃金」を考える枠組みです。この枠組みは本連載第3回の「賃金の基礎」のなかで説明した考え方で、仕事プロセスに対応して賃金決定要素が示されています。  例えば正社員であれば、「長期的な観点から育成し活用する」社員であるので「将来に期待して払う」、つまり将来の成果に結びつくことが期待される「能力レベル」に対して払う職能給などが合理的な賃金ということになります。しかし「いまある能力を、いま活用する」社員である高齢社員には「いま払う」が、つまり成果に直結する「『仕事の重要度』に基づいて払う」が賃金の合理的な決定方法になります。これを高齢社員の賃金を決める「仕事原則」と呼ぶことにします。  この「仕事原則」に基づくと、企業にとって重要な仕事に就く高齢社員には高い賃金、重要でない仕事に就く高齢社員には低い賃金ということになりますが、定年を契機に仕事内容が変われば賃金が変わるということも示しています。そうなると「仕事の重要度」を評価することが必要になります。そのための方法が職務評価です。職務評価にはいくつもの手法がありますが、最も代表的な手法は要素別点数法です。これは、@仕事の内容を「どの程度の専門性が必要とされるのか」、「対人関係がどの程度複雑なのか」などの要素ごとに評価し得点化する、Aこの要素ごとの得点を合計して「仕事の重要度」を表す指標とする、という手順をふむ手法です。これにはいくつものタイプがあるので、自社に合ったタイプを選択することが重要です。  なお厚生労働省は、同一労働同一賃金に対応するための「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」(平成31年3月発行)※を作成しています。要素別点数法による職務評価の方法がていねいに解説されているので、参考にしてください。 3 「制約社員」特性に合わせた「制約配慮原則」 ■「制約社員」と賃金決定の「制約配慮原則」  高齢社員には、もう一つ重要な「制約社員」という特性があります。定年前には、業務ニーズに合わせて機動的に活用するという活用戦略のもとで、転勤などによって働く場所を変える、残業や休日出勤を行うなど、会社の指示にしたがって柔軟に働いていました。しかし定年を契機に企業の活用戦略は変わり、さらに高齢社員の働くニーズに合わせて、転勤、残業・休日出勤がないなど、働く場所、働く時間、仕事内容からみて働き方が制約的になります。  連載の第2回でも紹介したこの現状は、高齢社員が働く場所などに制約なく働く「無制約社員」から、制約を持って働く「制約社員」に転換することを意味しています。このように社員特性が変われば、それに合わせて「あるべき賃金」は設計される必要があります。  この「無制約社員」であるか「制約社員」であるかは図表の「労働給付能力レベル」の違いを示しています。第3回の「賃金の基礎」で説明したように、「労働給付能力レベル」が高い「無制約社員」は、業務ニーズに合わせて労働サービスを提供できるという点で会社にとって価値の大きい社員なので、たとえ仕事が同じであっても、「労働給付能力レベル」の低い「制約社員」に比べて賃金は高く設定される必要があります。この賃金決定の原則を図表に示したように「制約配慮原則」と呼んでいます。  さらに社員にとってみると、「無制約社員」であると、会社の指示にしたがって働く場所を変えるなどによって、生活上の負担や新しい仕事に対応する負担を負うリスクが大きくなります。「無制約社員」の賃金が「制約社員」より高いのはこのリスクに対する報酬であるので、「無制約社員」が「制約社員」を上まわる賃金部分を「リスク・プレミアム手当」と呼ぶことにします。 ■「制約配慮原則」は多様な社員に適用される原則  ここで注意してほしいことは、「制約配慮原則」は高齢社員のみに適用される原則ではないことです。例えば、転勤のある(つまり「無制約社員」としての)総合職と、転勤のない(「制約社員」としての)一般職は、同じ仕事、同じ能力であれば同じ賃金とするのが基本になりますが、総合職の賃金は「リスク・プレミアム手当」分だけ一般職より高く設定されます。同様のことは、働く場所などが変わる正社員と変わらない非正社員の間でもみられます。このようにみてくると、社員の多様化が進み「制約社員」が多くなると、「制約配慮原則」が重要な賃金決定原則の一つになり、高齢社員はそのなかの一タイプということになります。  さらに、この原則にしたがって高齢社員の「あるべき賃金」を設計するにあたって問題になることは、「リスク・プレミアム手当」をどの程度の水準に設定するかです。これには会社を超えてあてはまる最善の水準などはありません。他社の状況、つまり市場相場を参考にし、自社の事情を考えて設定する必要があります。なお「制約社員」の賃金は「無制約社員」より1〜2割程度低いというのが市場相場の平均像ですが、その詳細なデータについては前述した「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」を参考にしてください。企業規模別データ、産業別データが入手できます。  今回は社員特性が定年を契機に「長期雇用型」から「短期雇用型」へ、「無制約社員型」から「制約社員型」へ転換するので、高齢社員の「あるべき賃金」はそれに合わせて「仕事原則」と「制約配慮原則」に沿って設計される必要があることを説明しました。定年を契機に賃金が変化したとき(その多くは、低下ですが)、「定年したから」では高齢社員が納得できる説明にはなりません。高齢社員を戦力化するには賃金を合理的に決定する必要があり、ここで示した二つの原則はそれを実現するための原則なのです。  それでは、この二つの原則に基づいて高齢社員の賃金を設計するにはどのような手順をふむ必要があるのか、その結果できあがる「あるべき賃金」はどのような形態になるのか。最終回である次回は、この点について解説することにします。 ※ 第1回〜第4回はホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員の賃金戦略 検索 ※ 「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」( 平成31年3月発行)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/pamphlet/guideline.html 図表 賃金決定の要素と諸原則 働く制約度が異なると賃金は異なる 制約配慮原則 同じ重要度の仕事には同じ賃金 仕事原則 仕事プロセスと賃金決定要素 仕事のプロセス 能力 能力の仕事への投入 仕事の遂行 成果 価値を決める基準 能力レベル 労働給付能力レベル 仕事の重要度 成果の大きさ ※筆者作成 【P34-37】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第101回 茨城県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 年齢で線引きせずできる作業を行う互いに協力して働きやすい職場へ 企業プロフィール 株式会社大倉商事(茨城県ひたちなか市) ▲創業 1965(昭和40)年 ▲業種 食料品の研究・開発・生産・販売・輸出入業務等 ▲社員数 199人 (60歳以上男女内訳) 男性(31人)、女性(57人) (年齢内訳)60〜64歳 24人(12.1%) 65〜69歳 25人(12.6%) 70歳以上 39人(19.6%) ▲定年・継続雇用制度  定年65歳。その後は希望者全員を1年ごとに更新して再雇用  茨城県は関東地方の北東にあり、東は太平洋に面しています。日立市を中心とした県北地区、水戸市を中心とした県央地区、鹿嶋・神栖(かみす)市を中心とした鹿行(ろっこう)地区、つくば市を中心とした県南地区、筑西(ちくせい)・古河市を中心とした県西地区の大きく5地区に分けられます。当機構の茨城支部高齢・障害者業務課の笹島秀昭課長は、それぞれの地区の特徴について次のように話します。  「県北・県央地区は日立製作所関連工場が多く、茨城港や北関東自動車道などのアクセス環境にも恵まれています。鹿行地区は鹿島港を中心に鉄鋼・化学関連企業による鹿島臨海工業地帯を形成しています。県南地区は、つくば市を中心に産業技術総合研究所・筑波大学をはじめとする国の研究・教育機関が集積し、ベンチャー企業など新事業の創設が盛んな地域です。県西地区の特徴的な産業としては結城紬(ゆうきつむぎ)があり、同地区の南部は近郊農業が盛んです。茨城県の2018(平成30)年の農業産出額は全国3位、製造品出荷額は全国第8位です」  県内の31人以上規模企業は2838社あり、2019(令和元)年「高年齢者の雇用状況」(厚生労働省)によると、66歳以降も働ける制度のある企業割合は31・4%で、全国の30・8%を若干上回っています。  こうしたなか茨城支部では、労働局およびハローワークと連携して定期的に情報交換を行い、ハローワークとの協力体制のもと、65歳超雇用推進プランナーにより、県内事業所の高齢者雇用に関する相談・助言活動に注力しています。今回は、同支部で活躍するプランナー・萩原(はぎわら)正健(まさたけ)さんの案内で、「株式会社大倉商事」を訪ねました。 「人材」は事業継続の重要な要素  株式会社大倉商事は、1965(昭和40)年に創業した、野菜加工や食料品の研究・開発・生産・販売・輸出入業務などを行う会社です。主にレストランやスーパーマーケットなどの発注先から、注文に応じて野菜をカットして届ける業務を手がけています。また、茨城県産のさつまいもを使用した「焼いも」、「芋けんぴ」などのオリジナル商品の製造・販売も行い、なかでも「常温で保存できる焼いも」が人気商品となっています。  同社の矢越(やこし)誠一総務部長は、同社の事業のあり方について、次のように話します。  「安心・安全な食材を安定的にユーザーに届けることを社是とし、目先の利益にとらわれず長期的な信頼関係の構築を念頭に、仕入先、販売先ともにwin‐winの取引きを心がけています。そのなかにあって、『人材』は、事業継続の重要な要素と考え、社長が中心となって定期的な社内イベントを企画するなど、働きやすく、親近感のある事業所を目ざしています」  同社では萩原プランナーが訪問する前の2009年5月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、65歳以降は希望者全員を1年更新で継続雇用する制度を導入しました。もともと定年年齢以降も働き続ける社員が多かったことから、制度として整備したそうです。 できる業務は何でもやってもらう  同社の社員数は199人。うち164人が野菜加工の仕事に従事しています。平均年齢は54歳。最高年齢者は77歳の男性で、野菜を入れるカゴの洗浄作業などを担当しています。  「近年は新規学卒者やパートタイム社員も含めて若手から中堅世代の採用が細っており、高齢者は当社の業務を維持するうえで重要な戦力として期待しています。当社は、よくも悪くも体力を要する業務配置以外は特に年齢を区別しない社風が定着しています。年齢にかかわらず、できる業務は何でもやってもらう方針で、スキルマップによる担当業務の汎用化計画には、高齢者も含まれています」(矢越総務部長)  ひと口に野菜の加工といっても、いろいろな形にカットをするための機械が何種類もあり、それらの扱いや整備・計量・袋詰め・箱詰め・フォークリフトによる作業など、受注から出荷までの多様な作業について、多くのことをになえる人材になるよう、同社では社員を育成し、状況に応じて、臨機応変に業務分担をしているとのこと。長く勤務している高齢社員には多様な作業をになえる人が多く、重要な戦力となっています。同時に、若手社員のサポート役として活躍している人もいます。一方、大倉定(さだむ)代表取締役社長の発案のもと、ボーリング、旅行、夏祭り、忘年会や新年会など、年間を通じて多くの社内行事が行われています。特に、社員旅行は仕事の状況に合わせて1人でも多く参加できるように、2週連続で実施しています。また、夏祭りなどは退職した元社員の方々が孫を連れて遊びに来ることもあるそうで、同社が人を大切にする経営をされている様子がこうしたエピソードからも伝わってきます。  さらに、イベント時には業務改善に関する社内川柳を募集し、優秀な作品を表彰。社員のモチベーションの向上につながっています。毎年70〜80作品の応募があるそうです。  今回は、同社の本社第1工場で、主に野菜加工を担当する方々に話を聞きました。 戦力、プラスαのありがたい存在  菊池敬子(けいこ)さん(68歳)は、主に機械による野菜カット・計量・包装・カット野菜を総菜用にセットする袋詰めなどを担当し、週4日フルタイムで勤務しています。医療事務の仕事を経て、44歳のときに同社に入社しました。  当初から野菜加工を担当し、多くの作業の経験を積み、以前は第1工場で課長を務めていたそうです。定年と同時に役職は降りましたが、同じ職場で仕事を継続し、若いリーダーや新入社員をサポートする役割もになっています。  「定年後も同じ仕事をしているので慣れてはいますが、だからこそ気を引き締め、指示書をしっかり確認することや、けがをしないように注意をして作業しています」(菊池さん)  工場内ではいくつかのチームで作業し、先に終えたチームはまだ作業中のチームを手伝い、協力してその日の作業を終えるそうで、そうした職場のチームワークのよさにもやりがいを感じているとのこと。  「カットした野菜が総菜になり、売れ行きがよいといった評判を聞くことも嬉しいですね。定年後も同じ職場で若い人たちと一緒に働けることに感謝しています。私自身も向上心を持って元気に仕事を続けていきたいですね」(菊池さん)  本社第1工場の藤枝駿(しゅん)係長は、菊池さんについて次のように話します。  「菊池さんが課長のときに私が入社し、仕事を教わっただけではなく、悩み相談にものってもらいました。定年後に課長職を降りてからも、技術も経験も豊富な菊池さんが現場にいてくれることが頼もしいです。迷ったり分からないことがあれば、いまも菊池さんに相談しています。新入社員の教育などもサポートしてもらっています」  また、藤枝係長は同社の継続雇用制度については次のように話します。  「現職として勤務を続けて、現場の戦力として、かつ、新人や既存社員のスキルアップの支えとして活躍してもらえますので、とてもよい制度だと思います」  中村芳夫(よしお)さん(71歳)は、アパレル関係などの仕事を経て、47歳で転職して同社に入社しました。主に機械による野菜加工を担当し、定年後も同じ業務を担当。フルタイムで週5日、勤務を続けています。  「野菜は機械にかけて規格通りにカットしますが、さまざまな切り方があり、ミリ単位で指示があります。気をつけているのは、品質を保つこと。機械の刃やビスのチェック、整理整頓を心がけ、品質管理に細心の注意を払いながら、日々の仕事に臨んでいます」(中村さん)  たしかな仕事をするために、自らの健康管理にも気をつけているそうです。定年を迎えた際は迷うことなく継続雇用を希望したと中村さんは話します。  「社長のことが好きなんです。人柄が好きですし、工夫をこらした社内イベントを企画してみんなを楽しませてくれるなど、社員への思いやりを感じます。ここで継続して働くことができうれしいですし、会社のためにがんばりたいと思っています」  現在、衛生管理者の免許取得を目ざして勉強中で、来年に受験予定とのこと。矢越総務部長は、中村さんの仕事ぶりについて次のように話します。  「仕事だけでなく、社内イベントでも盛り上げてくれる社内の人気者です。若い人とも気さくにコミュニケーションを図り、職場の潤滑油の役割も、になってくれています」 75歳以上の雇用条件の検討へ  矢越総務部長は、今後の課題として継続雇用制度をあげます。  「現在は、継続雇用に対して年齢制限を設けず、本人との面談、勤務状況を勘案して1年ごとに更新しています。毎年健康診断をしていますが、高齢になるほど持病悪化などが危惧されるので、75歳以上の雇用については何らかの条件設定が必要になってくるでしょう。今後検討したいと考えているところです」  萩原プランナーは、そのための対応について、次のように話してくれました。  「参考になるのは、厚生労働省が今年3月に公表した『高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)』です。もちろん、他社の事例紹介なども含めて、今後もサポートしていきます」  大倉商事では現在、独自商品の製造・販売を強化し、商品開発や販路拡大に注力しています。年齢で線引きせず、みんなで協力することにより、すべての社員にとってやりがいにあふれる職場になっていくことに期待が集まります。 (取材・増山美智子) 萩原正健 プランナー(84歳) アドバイザー・プランナー歴:26年 [萩原プランナーから] 「事業所訪問では、訪問先の方のお話を大切に聞くことを第一に心がけています。一期一会の気持ちです。そのために、企業の実情や業界の情報、特に、地域の業界事情をできるかぎり事前に調査したうえで訪問するよう努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆茨城支部高齢・障害者業務課の笹島課長は萩原プランナーについて、「1995年より長きにわたり、社会保険労務士としての知識、経験をふまえ、きめ細かい相談・助言活動をしています。特に、地域の水産業に長くたずさわっていることから、多くの水産会社を担当してもらっています。穏やかな人柄からは想像できないのですが、ソフトテニスでは全国大会に出場するなど趣味の域を超えた活躍もしている、バイタリティーあふれるプランナーです」と紹介します。 ◆当課はJR水戸駅南口より徒歩10分ほど。茨城労働局は徒歩圏内、茨城県庁までは車で15 分ほどと、各行政機関と連携が取りやすい環境にあります。近くには水戸偕楽園があり、偕楽園下の千波(せんば)湖では白鳥や黒鳥などが見られ、市民の憩いの場となっています。 ◆当課には11人のプランナー・アドバイザーが在籍し、茨城県内の事業所訪問を通じて、高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度は716件の相談・助言活動を実施し、65歳以上への定年年齢引上げ、あるいは65歳を超えた継続雇用延長の提案を149件実施しています。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●茨城支部高齢・障害者業務課 住所:茨城県水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 電話:029(300)1215 写真のキャプション 足崎(たらざき)工場外観 茨城県ひたちなか市 矢越誠一総務部長 豊富な経験を活かし、野菜カット業務をになっている菊池敬子さん 野菜加工業務を担当する中村芳夫さんは、職場のムードメーカーでもある 【P38-41】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第30回 歩合給と時間外割増賃金、副業・兼業の留意点 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 歩合給と時間外割増賃金の関係について知りたい  成果主義賃金の一環として、成果に応じた歩合給を導入する予定です。歩合給を支給した場合の、時間外割増賃金の計算方法を教えてください。 A  通常の労働時間に対応する時間外割増賃金は、1・25倍の支給が必要となりますが、歩合給については、0・25倍の時間外割増賃金を付加する計算方法で足ります。ただし、歩合給の割増賃金計算に関する裁判例にも留意する必要があります。 1 時間外割増賃金と歩合給について  時間外労働に対する割増賃金の計算方法については、労働基準法第37条に「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と定められています。  労働基準法施行規則には、さらに詳細が定められています。同規則第19条1項4号は、一般的な基本給などで多い「月によつて定められた賃金」についてあげると、「その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額」を通常の労働時間の賃金として、これに「延長した労働時間数を乗じた金額」を支給しなければならないとしています。  計算式でいえば、「通常の労働時間の賃金」×「時間外労働時間数」×1・25となることが一般的です。  一方で、歩合給に関連する規定は、同規則第19条1項6号であり、「通常の労働時間の賃金」について、「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」とされています。  歩合給が、「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金」に該当する場合には、時間外労働の時間数に応じて歩合給自体が当然に発生するものではないことから、発生した歩合給に対する割増のみで足ります。  計算式としては、算定期間(賃金締切期間)内の「歩合給」×0・25となり、これに相当する割増賃金を支払うことで足ります。 2 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金について  歩合給と呼称している賃金がすべて「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金」に該当するとはかぎりません。  そもそもの賃金体系が出来高払制であるか否か争われる場合があります。例えば、運送業において、使用者が、ルート別に単価を設定しており、当該ルートを運行した「回数」に応じて賃金が変動するとして、出来高払制である旨主張したものの、「ルート別単価は、ルートごとの標準的な収受運賃、拘束時間、走行距離、作業内容等を勘案して決められたものであって、運転手の仕事の成果である現実の売上高や配送量あるいは運送時間によって増減するものではないことが認められる。そうすると、被告の主張する上記賃金体系は、そもそも、出来高払その他の請負制の実質を備えていないというべき」として、出来高払制としての性質が否定された裁判例があります(千葉地裁松戸支部令和元年9月13日判決)。同裁判例では、出来高払制その他の請負制においては、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないにもかかわらず(労働基準法第27条)、そのような保障はなされていなかったことも、出来高払制を否定する要素として考慮されています。  また、典型的な歩合給として評価されるような売上げや利益などの金銭的な成果に対して支払われるものではない運送業における各種手当について、「運行回数、運送距離ないし走行距離、積荷の積載量、売上げといった作業の成果とは関連していないこと」などを理由に、仕事の成果に応じて定められた賃金であるとはいえないとして、出来高払制賃金であることが否定された例もあります(東京地裁平成29年3月3日判決)。  歩合給を採用して出来高払制にするにあたっては、給与のすべてを出来高払制にすることなく労働基準法第27条が定める保障給を考慮しておくことに加えて、歩合給がいかなる指標と連動するのか、当該指標を回数ではない成果と関連させておくことも重要です。 3 歩合給に関する最高裁判例について  近年、歩合給に対する時間外割増賃金の支給に関して、最高裁で判断された事例があります(最高裁令和2年3月30日判決)。  タクシーの乗務員に対する売上高に連動する歩合給の支給に関して、当該歩合給の増加に応じて乗務員の時間外労働に対する割増賃金を控除する仕組みを採用し、時間外労働が生じた場合の歩合給額と時間外労働をせず歩合給を得た場合の計算が一致するようになっており、タクシー乗務員らが会社に対して控除された割増賃金の支払いを求めた事案です。  過去の判例において、手当の支給によりあらかじめ割増賃金を支給することについては、時間外労働との対価性が必要とされていたところ(最高裁平成30年7月19日判決)、本判例では時間外労働をしたとしても、歩合給が減少することになれば、「出来高払制の下で元来は歩合給として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするもの」と判断しています。このことは、この歩合給に対応した時間外割増賃金の計算方法が、実質的には割増賃金の減額を行っているに等しいことから、その対価性に欠けるとの観点により、割増賃金の支払いに不足があるとの判断がなされています。  歩合給を活用する場合においても、そのことをもって、時間外割増賃金の減額につながるような制度を採用することは、この最高裁判例が示した基準に抵触するおそれがあるため、制度構築にあたっては、この判例にも十分に留意する必要があります。 Q2 従業員の副業・兼業を認める際の留意点について教えてほしい  副業および兼業を希望する労働者がいるのですが、前例がなくこれまで承認したことがありません。承認するとした場合には、どのような点に留意すればよいのでしょうか。 A  働き方改革にともない、行政においても副業・兼業の普及促進が図られていますが、実現にあたって使用者が留意すべき事項は労働時間、健康管理、競業回避など多岐にわたります。特に、労働時間管理の点については、十分な理解をしておかなければ、労働基準法違反となる事態を引き起こすおそれがあります。 1 副業および兼業について  働き方改革関連法の改正においても、副業および兼業の承認などにより、新しい働き方を促進していく方針が示されています。また、厚生労働省は、2018(平成30)年には、モデル就業規則において、副業および兼業に関する規定を新設するなどの対応もしていましたが、企業においては、なかなか積極的には促進されていないというのが実情ではないかと思われます。  直近では、厚生労働省は、2020(令和2)年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を改定しました。  副業および兼業の課題の洗い出しとそれに対する対応方法などが整理されていますので、副業および兼業を承認するにあたって留意すべき事項が理解できると考えられます。 2 労働時間管理について  副業および兼業における課題の一つは、労働時間管理です。  労働時間については、原則として、1日8時間が限度であり、それを超える場合には36協定が必要となるほか、時間外割増賃金の支給義務も生じます。これが2社別々に評価されるのであれば、各社が管理する範囲は明確になるのですが、そのような制度はとられておらず、2社の労働時間を通算した場合の限度が1日8時間とされています(労働基準法第32条2項、第38条1項)。  さらに、働き方改革にともなう労働基準法の改正により、法律上の労働時間の上限規制が採用され、罰則も制定されており、長時間労働におよんだ場合には、罰則適用のおそれもあるため、労働時間管理の重要性は高まっています。  基本的には、労働者から、副業および兼業先の会社における労働時間の報告を受けないと、本業の会社は2社通算の労働時間を知ることができないため、副業および兼業先の労働時間を報告させる機会を定期的に設けておかなければなりません。  通算した労働時間を把握した際に、自らの事業場で法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があると考えられています。  このように副業および兼業先との労働時間の通算や時間外割増賃金支払当事者の確定などの課題が多いことから、ガイドラインにおいては、簡便な労働時間の管理方法の管理モデルが示されています。本業と副業の両社において、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させるかぎり、ほかの使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく労働時間管理を遵守できる方策として提示されています。前提として、労働契約を後から締結する副業先において、労働時間の設定に関して、本業の要望を受け入れてもらうことが出発点となります。割増賃金については、本業は自らの時間外労働に対する割増賃金のみを支払い、副業先は自らの事業場における労働時間のすべてに割増賃金を支給することで、具体的な時間を双方で管理することなく、割増賃金の不足が生じないようにすることが可能です。要するに、副業先においては、法定時間外労働の発生の有無にかかわらず割増賃金を支給することになりますので、労働者は法定の割増賃金以上の金額を受給することとなり、割増賃金の支給に関しては、労働基準法に違反する心配がなくなります。 3 健康に対する配慮について  労働契約法は、使用者に労働者に対する安全配慮義務を求めており、このことは、副業および兼業である場合においても、同様です。  この場合、前述の労働時間管理とも関連しますが、過労死や精神疾患に関する労災認定基準においては、過剰な時間外労働や連続勤務が重要な要素とされているところ、副業および兼業において、時間外労働が過剰か否かや連続勤務についてどのように配慮する必要があるのかが、問題となります。  基本的な対応方針としては、就業規則や労働契約において、長時間労働や連続勤務によって労務提供に支障がある場合には副業および兼業を禁止または制限できるような規定を設けておくことで、万が一の場合の過剰な時間外労働の制限が可能となるように備えておくべきとされています。  また、副業および兼業の状況について、報告を受ける機会を設け、健康上の問題が確認される場合にも、休暇の付与や産業医との面談など適切な措置を実施することも重要です。  しかしながら、前述の管理モデルを前提に運用する場合には、各社は具体的な実労働時間を把握しきることができなくなるおそれもあるため、健康管理の側面については、労働者自身に自己管理の意識を強く持ってもらうことも重要です。また、実労働時間の具体的な把握が不要な運用を採用するとしても、働きすぎにならないように時間外労働自体を抑制することなどについても労使間で協議のうえで適切な措置を講じることが重要となります。 4 その他の留意事項について  企業にとっては、秘密保持義務や競業避止義務についてもあらかじめ確認しておかなければ、労使間で紛争が生じるおそれがあります。退職後の競業避止義務は職業選択の自由の観点から制限される程度が大きいですが、副業および兼業においては、使用者に対する競業避止義務があると一般に考えられています。  したがって、副業や兼業を承認する基準として、副業や兼業を行う会社が競業企業であるか確認しておくべきでしょう。副業や兼業の許可前には、このことを面談によって把握する機会を設けておくことが必要と考えます。  また、秘密保持義務については、就業規則などに定められている企業が多いと考えられますが、副業および兼業先の企業においても遵守しなければならないことについては、改めて注意喚起をしたり、秘密保持義務および競業避止義務に関する誓約書などを改めて取得することも必要となると考えられます。  1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険などの適用がない場合がありますが、令和4年1月からは65歳以上の労働者本人の申出により、二つ以上の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が運用される予定です。社会保険については、複数の事業所でいずれも被保険者要件を満たす場合には、いずれかの事業所を管轄する年金事務所および医療保険者を選択させる必要があり、各事業主は報酬の額により按分した保険料を納付することになるため、副業の承認の際に労働者に副業先の所定労働時間や管轄の選択についても確認しておくことが必要となります。 【P42-43】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第6回 「人事評価」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者ならおさえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  第6回目に取り上げるのは「人事評価」です。おそらく、人事関連の用語のなかでもっとも浸透しているものだと思います。簡単にいうと、定められた基準に基づき、優劣を判定することです。会社が人事評価を仕組み化する場合、業務上の成果や本人の能力、仕事に取り組む姿勢、日常行動などの「評価項目」別に基準を定め、判定します。その評価の結果を昇給や賞与、昇格・昇進(俗にいう出世=jなどの処遇変更に反映させることが一般的です。  高齢者雇用においては、特に継続雇用・再雇用の場合は1年間という短期的な契約が多いため、これまでは人事評価を実施しないのが主流でした。しかし現在では、60歳以降の社員に対しても50%以上の会社が人事評価を実施または実施検討中であり、うち60%程度の会社が報酬改定に活用している状況にあります(労働政策研究・研修機構『高年齢者の雇用に関する調査』2020年)。高齢者の活躍推進にあたり、人事評価の正しい理解と運用が重要となっています。 絶対評価と相対評価  ここからは、人事評価を運用するうえでポイントとなる点について解説していきます。まず、必ず押さえておいていただきたいのが、「絶対評価」と「相対評価」の違いです。  絶対評価とは、定められた基準に対しての達成度合いで優劣を判定するものです。例えば、半年間で5千万円の売上げを達成することがAさんの目標の場合、5千万円の売上げがあれば標準、6千万円なら優秀、4千万円なら劣った評価となります。一方で相対評価とは、比較によって優劣を判定することです。先ほどの例であれば、Aさんに5千万円の売上げがあっても、Bさんが7千万円、Cさんが1億円だった場合、Aさんはもっとも劣った評価になります。  このように書くと、絶対評価で評価すべきですねといわれそうですが、そう単純な話ではありません。たしかに、評価される側(被評価者)のモチベーションや客観性といった面を考慮すると絶対評価の方がよさそうですが、処遇変更の判断に使う場合は、絶対評価だけでは運用しきれない部分が出てきます。先ほど出世≠ニ書きましたが、これが一番わかりやすいと思います。課長→部長→役員→社長になるにつれ、人数としては絞り込んでいかなければなりません。「絶対評価がよいので、社長が5名います」、という会社はありません。ここには、比較してだれがもっともふさわしいかという判断が必ず出てきます。人件費の面でも同じです。絶対評価が全社員よくても、社員を比較して優秀な順に配分しないと昇給予算に収まらない場合があります。このように、定員を意識すべき場合は相対評価とするのが妥当ということになります。  人事評価制度導入の目的は、人材育成と処遇の決定(「査定」ともいいます)とよくいわれます。人材育成には、基準に対してできた点と改善点を明らかにして、本人と話し合うのが有効です。しかし、処遇に結びつける際には、実務上定員を意識して相対評価で決定していきます。 定量評価と定性評価  「定量評価」と「定性評価」についても、特徴を押さえてうまく使い分けることが、人事評価の運用上のポイントになります。定量評価は、判定の基準を数値化したものです。先ほど述べた目標5千万円のケースであれば、5千万円に対してどの程度超えたか、足りなかったかで評価が決まります。  一方で定性評価は、数値で判断できない貢献や、業務プロセスなどを評価するものです。例えば、AさんとBさんともに売上げ5千万円の場合は、定量評価では標準評価となりますが、商圏の難易度という定性評価も加味すると、難易度が低いAさんよりも、高いBさんの方が高評価となります。  仕事の内容によって、定量評価と定性評価の向き不向きがあります。営業職の場合は売上げや利益の数値目標の達成が主なミッションとなるため、数値による評価が容易です。一方で、人事担当や事務職にはむずかしい面があります。例えば、自社で活躍できる人材の獲得が採用上のミッションであるにもかかわらず、採用者数で評価することが前面に出ると、自社には向かない人材まで採用するという行動をとってしまい、本来の目的とのミスマッチが起きてしまいます。また、事務処理をミスなく期日通りに行う業務に従事している場合など、そもそも判定の基準を数値化しにくい仕事は実際にあります。  このような場合は、客観性のみを重視して無理に定量評価するのではなく、目ざしてほしい状態や行動を評価者と被評価者でよく話し合い、合意して、定性的に評価していくのが望ましいといえます。 人事評価はとてもむずかしい  概念的な整理よりもむずかしいのが、実際の人事評価運用です。モチベーションや処遇に影響することから、被評価者の納得度の高い人事評価が望まれますが、どんなに追求しても完成形がありません。二つの主な理由があると筆者は考えています。一つ目は、そもそも人それぞれ異なる仕事や環境、保有している能力のなかで、統一の基準での評価は困難ということです。もう一つは根本的な話になりますが、人が人を評価するのはそもそもむずかしいということです。評価が厳しい・甘いなどの評価の傾向は、人の価値観や性格の影響から免れないといわれていますし、日ごろの評価者・被評価者の関係性が良好でない場合は、評価者がどんなに客観性に配慮して評価しようとも、被評価者からすると評価者への不満が評価そのものの納得度の低さにつながっていくからです。  高齢者雇用においても同様で、元の部下がマネジメントを行っている場合などは、評価する側とされる側の立場が逆転します。その状況に高齢者側は抵抗感を持ち、評価する側はやりにくさがあるという話がよく出てきます。これについては、一人の上司が評価を決定するのではなく、複数の評価者の合議で評価を決定する、客観的判断がしやすい定量評価中心とする、評価者訓練などで評価者・被評価者の両者に定期的に意識づけをするなど、お互いが受け入れやすい状況をつくり出すことも必要となります。 ☆☆  次回は、今回出世≠ニいう言葉で表現した「昇格・昇進」について取り上げる予定です。 【P44-49】 特別寄稿1 欧米における高齢者就業とブリッジ・ジョブ  世界でも群を抜いて進んでいるとされる日本の少子高齢化ですが、世界中の先進国もまた同様の傾向にあり、さまざまな形で高齢者の就業に関する政策が講じられています。そこで本稿では、高齢者の就業について詳しい明治大学の永野仁先生に、欧米における高齢者の就業状況と、高齢者就業にまつわる欧米特有の概念「ブリッジ・ジョブ」について解説をしていただきました(編集部) 明治大学政治経済学部 教授 永野 仁(ひとし) 1 はじめに  先行きの見通せない新型コロナ禍(か)への対応で、「高齢者の就業促進どころではない」という声も耳にします。しかし、コロナの動向にかかわらず高齢化は進展し続けることを考えると、コロナ収束後の「新しい日常」においても、高齢者の就業問題に取り組んでいくことが必要です。  ところで、高齢化の進展は、程度の差はあれ、先進国共通の現象です。では、欧米では高齢者就業について、どのようなことが議論され、どのような変化や対応が生まれてきているのでしょうか。以下では、これらを整理してみます。さすがに、欧米のことなら何でもありがたがるという時代ではありませんが、異なる環境での対応を知ることは、私たちに多くのヒントを与えてくれるように思えるからです。 2 高齢化の進展と高齢者の就業  よく知られているように、日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、1990(平成2)年ころまではほかの先進諸国より低かったのですが、その後急激にその割合が高まりました。そして、2000年にはほかの先進諸国を上回るようになり、その後も高まり続けています※1。他方、ほかの先進諸国でも、実は日本ほど急激ではないものの、継続的に高齢化は進展してきています。  しかし、高齢者人口が増えたからといって、それがただちに高齢労働力の増加になるわけではありません。その両者の間には、労働力になるかどうかという決定があるからです。それを示すデータが、15歳以上人口に占める労働力人口の割合を示す「労働力率」という指標です。その労働力率を、60〜64歳と65〜69歳の男性に限定して示したものが、図表1です。性別によって労働力率の水準が異なるため、どちらかに限定したほうがその変化が見やすくなるので、ここではその水準が高い男性に限定しました。  どちらの図表も、日本が最も高くなっています。日本の高齢者の就業意欲が高いことはよく知られていますが、それが再確認できる結果です。このような国ごとの水準の違いとともに、多くの国に類似したパターンも見出せます。すなわち、1980年ころから1990年代に向かって労働力率が低下する一方、2000年ころから反転し上昇するというパターンです。  このようなパターンを示すのは、何が影響しているのでしょうか。一つは、就業側の行動に影響を与えるものですが、高齢期の生活を支える「年金」が考えられます。その金額や支給開始年齢などが高齢者の就業行動に影響を与えるという想定です。その一方で、雇う側の行動に影響を与える「定年制」があります。日本では、定年延長や定年後の継続雇用などが実施されてきたことから、想定しやすい要因だと思います。そこで次に、この期間の年金制度の変化と、定年制の変化について見ていきます。 3 年金制度の変化 (1)1990年代まで  年金は、高齢期の生活を支える柱となるものですが、それぞれの時点での社会経済的な動向にも影響を受けています。実は1970年代から1990年代にかけて、欧米諸国では、失業率、とりわけ若年者の高失業率に悩まされていました。そのため、高齢者の労働市場からの早期引退を意図した政策が展開されました。それによって労働供給量を減らし失業を減少させ、また空席となった仕事に若年者が就くことによる若年者の就業促進をねらったからです。そのため高齢者の引退促進のために、(老齢)年金の支給開始年齢を早めるなどの政策が展開されました(清家ほか 2005)。  フランスは、そのような政策を実行した代表的な国の一つです。フランスの年金の支給開始年齢は、当初65歳でした。しかし、1970年代初頭に60歳以上の失業者に所得補償をすることで、年金支給開始年齢以前に早期引退できるようにし、1983(昭和58)年には年金支給開始年齢そのものを60歳へと引き下げました。そして、失業者に対する所得補償も57歳からと、対象年齢が引き下げられ、より早い時期からの引退を可能にしました。  ドイツでは65歳が年金の支給開始年齢でしたが、1972年に、条件が整えば63歳からの減額なしの早期年金支給を始め、早期引退を可能にしました。加えて、障がいや失業などの理由があれば年金の支給条件を緩和し、より早期の引退を可能にしました。また、イギリスでは1977年に、高齢者に定額の手当を支給して彼らの早期引退をうながし、若年層への仕事の移譲を進めるという制度が導入されました。他方アメリカでも65歳支給の年金(Social Securityのこと)の62歳からの早期受給を可能にしています。  ちなみに、このような年金制度などの影響をみるために、11カ国について分析した研究では、それぞれの国で、前述のような特定の年齢で人々が引退する確率が高まり、その結果労働力率が低下する様子が示されています(Gruber and Wise 1999)。 (2)その後の欧州諸国の政策  しかし、1990年代に入ると欧米諸国では高齢化が進む一方、失業率が改善されないなかで高齢者の早期引退が進み、年金などの負担の増大が問題視されるようになり、これまでの高齢者の早期引退促進策が変更され、高齢者の就業促進が志向されるようになりました。なおこのような政策変更の背景には、年金負担の問題に加え、早期引退による労働力減少が経済成長を抑制することや、高齢者の保有する職業能力を企業が活用できなくなることによる不利益が懸念されたからといわれています(OECD2006)。  ともあれ、前述のドイツでは、早期受給を可能にしていた制度を変更し、65歳支給へ段階的に引き上げることが1990年代半ばに決定されました。また2012年には年金支給開始年齢そのものの、65歳から67歳への段階的な移行が始まりました。  フランスの労働力率の低下から増加への反転の時期は、図表1で見たように、ドイツと比べると遅くなっていました。そのフランスでは、2010年の改革で60歳からの年金支給という制度は修正され、また満額の年金支給開始年齢を2022年までに65歳から67歳へ、段階的に引き上げることになりました。イギリスでも、高齢者の雇用促進に政策が転換され、前述した制度は廃止されました。そして、年金の支給開始年齢は2046年までに68歳に段階的に引き上げることになりました。アメリカでも、65歳であった年金支給開始年齢を2003年から2027年までの間に段階的に67歳に引き上げることになっています。  このように、年金を中心にした欧米諸国における高齢者の早期引退促進策は撤廃されたといえます。 (3)国際機関の動向  次に、国際機関の動向はどのようなものかを紹介します。まず、ヨーロッパ諸国の政治・経済統合体であるEU(European Union)の動向です。EUは、その前身であるEC(European Communities)時代の1982年に、高齢者の引退についての理事会勧告を採択しています。ここでは、年金の繰上げ受給を可能にし、高齢者の早期引退をうながすことが述べられていました。しかし、前述のようなその後の各国の高齢者就業に対する方針変化と呼応するように、EUは2001年の雇用指針で、「活力ある高齢化(Active Ageing)」という目標を設定します。そこでは、税制および(失業など)各種給付制度が、高齢労働者の就労意欲を削ぐことがないようにすることが求められました。そして、翌2002年の雇用指針では、高齢者(55〜64歳)の就業率を2010年までに50%(当時38・8%)に引き上げるという目標が設定され、また年金の早期受給制度をはじめとした早期引退促進制度の廃止が求められるようになりました(厚生労働省 2007)。  他方、別の国際機関であるOECD※2は2006年に「より長く生き、より長く働く(Live Longer, Work Longer)」という報告書(OECD 2006)を発表しました。そこでも、高齢者の引退へのインセンティブ(就業へのディスインセンティブ)となっている年金の早期受給などを撤廃し、高齢者の就業促進を進めることが提言されています。  このように見ていくと、高齢層の引退促進から就業促進へという逆方向の政策を実現するために、先進諸国は強度の違いはあるものの、年金制度の変更を実施していて、国際機関はそれに対する支援や誘導をしてきたといえます。 4 定年制を巡る政策とその影響  他方、高齢者就業に関連する定年制に関する政策を紹介しましょう。 (1)ヨーロッパの動向  EUは定年制に関しても提言しています。2000年に採択された「一般雇用機会均等指令」では、宗教、信条、障がいなどさまざまな要因と並んで、年齢による雇用や職業に関する差別の禁止を加盟各国に求めています。ただし、多くの例外が認められていて、定年制は法的適合性や合理性があれば存続可能と解釈されているようです(櫻庭 2014)。なお、ここでの定年は日本のように就業規則などに明記されたものとはかぎりません。満額の年金支給開始年齢で退職することが多くなっていますが、それが慣行となっている場合もあるし、労働協約で明記されている場合もあります。  ともあれ、EUの政策は加盟国の政策の方向性を規定するなど影響をおよぼします。その関係で、いくつかの国では、定年制の変更や修正を実施してきています。例えば、イギリスです。イギリスではEUの政策を受けて、2011年に定年制を廃止しています。他方ドイツでは、年金支給開始年齢時に雇用関係を終了することを定めているのが一般的ですが、その支給開始年齢は前述したように現在移行中となっているので、変化の途上です。 (2)アメリカの定年制撤廃  このようにヨーロッパ諸国では定年制の撤廃や変更が行われてきていますが、そのはるか以前にそれを実施したのはアメリカです。  アメリカでは1967年というきわめて早い時期に、「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」が制定されています。これは、40歳から65歳に関して、年齢による雇用における差別的な扱いを禁じたものです。アメリカでは、その数年前の1964年に成立した公民権法で、人種、宗教、性、出身国、皮膚(ひふ)の色による差別を禁じているので、ADEAはそれに年齢という要因を加えたものと見ることもできます。その後この法律は、対象となる年齢の上限が、1978年に70歳に引き上げられ、1986年にはその上限年齢が撤廃されています。つまり定年制の廃止です。  なお、この法律の雇用に対する影響の分析結果を探索した川口(2003)は、高齢者の雇用率を高めたことは確認できたが、そのことが企業にどのような成果をもたらしたかは不明であるとしています。 (3)実効引退年齢の推移  これらの一連の政策展開を経て、実際に高齢者の引退行動はどう変化したのでしょうか。この点に関して、OECDは平均実効引退年齢(Average Effective Retirement Age)を推計しています。平均実効引退年齢とは40歳以上の就業者のうち調査期間に労働市場から引退した人の平均年齢です。その平均年齢の1980年からの推移を示したものが、図表2です。ここからも、政策の転換により1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、高齢者の就業行動が変化したことが確認できます。 5 ブリッジ・ジョブの展開 (1)ブリッジ・ジョブとは  このように高齢者の就業が徐々に進んできた先進諸国ですが、実際の高齢者の就業状況はどうなっているでしょうか。この点に関連して、日本ではあまり用いられていない、「ブリッジ・ジョブ」(Bridge JobやBridge Employment)という言葉が、欧米の文献にしばしば登場します。「ブリッジ・ジョブ」とは、フルタイムの「キャリア・ジョブ(当人にとって自らの職業生活で最も重要な仕事)」を経た後、労働市場から完全に引退するまでの間にたずさわる仕事のことです(Ruhm 1990)。  そのようなブリッジ・ジョブに就くのは、退職した高齢者のうちどの程度の割合でしょうか。この点に関しては、キャリア・ジョブを辞めた高齢者の65%という結果や、30%あるいは25%という結果があります。しかし、これらの研究のほとんどは、調査対象を何年かにわたって追跡する「パネル・データ」を分析したものなので、分析の対象数は数千件と決して多くありません。その結果から全体の普及度を議論するのは、あまり適切ではないでしょう。むしろこれらの割合から、ブリッジ・ジョブが例外的に発生しているのではなく、一定の広がりが見られる現象であることがわかることが重要だと思います。  では、ブリッジ・ジョブに就くのはどのような人でしょうか。少し以前の研究ですが、Ruhm(1990)は、1969年に58〜63歳であった職業経験のある約7000人を追跡した調査データを分析しています。その結果、キャリア・ジョブ退職後に多くの人がブリッジ・ジョブに就いていることや、引退はかなり柔軟で、引退状態に入った後、再就業する人も少なくないなど、高齢期の柔軟な就業の特徴を描き出しています。また、所得や年金という経済変数がブリッジ・ジョブ就業に影響をおよぼしていることも示しています。  他方、高齢者の就業が高まりだした時期のデータを分析したのが、Cahillほか(2011)です。彼らの分析では、調査期間の間に労働市場から「引退した人」は男性では56%に達していましたが、そのうち15%は調査期間内に再び働き始めていました。そこで、再就業する要因を分析しています。その要因のなかでは、確定拠出型の企業年金の人がそうなりやすいことが判明しています。年金受給金額が確定していない確定拠出型の場合は、年金収入が不安定になりそれが再就業をうながしていると、彼らは推測しています。また、Dingemansほか(2016)は、2001年時点で50歳以上であったオランダの就業者を追跡した調査データを分析しています。彼らの研究の特徴は、これまでの研究で用いられてきた人口学的・社会経済的要因(性、健康状態、金銭的要因、マクロ経済状況など)、社会学的要因(婚姻、家族関係など)に加えて、心理社会的要因(退職後の仕事に対する関与・愛着、労働市場の就業機会に対する認知など)も説明変数としている点です。 (2)ブリッジ・ジョブ研究の方向性  このようなブリッジ・ジョブの研究は進展してきていますが、今後はどのような方向に研究が展開するでしょうか。  Zhanほか(2015)は、ブリッジ・ジョブには四つの論点があるとしています。その第一は、ブリッジ・ジョブの意思決定のメカニズムの解明です。上記のいくつかは、この論点の成果といえるでしょう。第二は、キャリア開発手段としてのブリッジ・ジョブという論点です。具体的には、自らが自営業主として活躍するなどのため、あるいは次世代人材の育成へ貢献するために、必要な知識や経験を獲得する機会としてブリッジ・ジョブをとらえるということです。第三は、引退への調整過程としてのブリッジ・ジョブです。意欲や態度がキャリア・ジョブのときと比べるとどのように変化してきているのか、それと労働市場からの引退はどのような関係にあるのかなどの論点です。そして第四は、人的資源管理という観点からのブリッジ・ジョブです。これは高齢化が進展するなかでの人材確保のために、高齢層に対する処遇をどうするかという論点です。ブリッジ・ジョブの分析には、幅広い観点からの接近が可能であることがわかります。  日本では、65歳以降の高齢層の就業促進が議論になってきています。就業と引退の間を柔軟に揺れ動く高齢者の就業動向を分析するブリッジ・ジョブの考え方や分析枠組みは、これからの日本の高齢者就業を考える際に有力なヒントになるのではないでしょうか。 (付記:本稿は、永野(2019)を一般向けに書き直したものです。参考文献等を含め、詳しくは永野(2019)を参照してください) ※1 内閣府『令和元年版高齢社会白書』 ※2 OECD……経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development) 〔参考資料〕 ●Cahill, K. 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Aging Workers and Employee-Employer Relationship, Chap.12, Springer 図表1 各国の労働力率の推移(男性) 60〜64歳 65〜69歳 フランス ドイツ 日本 イギリス アメリカ 注:日本の65〜69歳は、総務省「労働力調査」のデータで一部補填 出典:OECD.Stat のデータをもとに、筆者作成 図表2 平均実効引退年齢の推移(男性) フランス ドイツ 日本 イギリス アメリカ 出典:OECD.Statのデータをもとに、筆者作成 【P50-54】 特別寄稿2 高齢社員に対する新型コロナ対策 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志  新型コロナウイルス感染症により、私たちの仕事や生活は、かつてないほどの変化が求められることになりました。特に、高齢者が感染した場合は、重症化のリスクが高まることが指摘されていることから、高齢社員が働く職場では、徹底した感染防止対策が欠かせません。そこで本稿では、亀田高志先生に、現在判明している新型コロナウイルスの実態とともに、高齢社員をはじめとした職場における感染防止対策について解説していただきました(編集部)。 1 はじめに  新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の流行拡大を受けて、各事業場では「新しい生活様式」に合わせたさまざまな対策や対応が求められています。  ウイルスに接する可能性を小さくするために時差出勤や在宅勤務を中心とするテレワーク、いわゆる三密を避けるような職場環境の整備といった感染防止対策を行う職場が増えました。その結果、これまでとは異なる業務環境に置かれ、流行の終息が見えないなかでさまざまなストレスを感じている人が多いようです。  一方、新型コロナでは高齢者に重症化のリスクがあることが明らかにされています。そこで「高齢社員への対応」を念頭に、職場で共有すべき新型コロナに関する基本的な事柄に触れたうえで、職場で実践可能な健康管理やメンタルヘルスに関する対策について解説します。 2 知っておきたい新型コロナの基礎知識  新型コロナに関して、テレビ、新聞、インターネットを介して、膨大なニュースが報じられてきました。しかし、対策を行う際に必要な基本的な事柄は強調されていません。高齢社員への対策を考える前にざっとおさらいしておきましょう。 @症状のない人からも新型コロナはうつる!  覚えておきたい新型コロナの特徴は、人体にウイルスが侵入する「感染」と、発熱や咳などを生じる「発病」がイコールではない点です。  2002(平成14)年から2003年に中国広東(かんとん)省、香港、アジアやカナダで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))や2012年にアラビア半島から発生し、2015年に韓国でも流行した中東呼吸器症候群(MERS(マーズ))も当時の新型コロナでした。ともに感染すると発病し、重症化する確率が高いことが知られていました。  ところが、2019(令和元)年より中国湖北(こほく)省武漢(ぶかん)市から流行が始まった新型コロナでは、ウイルスに感染しても発病しない人がたくさんいることがわかってきました。その数は感染が確認された人の10倍から20倍にもおよぶとする説もあります※1。  仮に東京都で本日は100人の感染者が報告された≠ニいう報道を見たら、千人から2千人が感染しているかもしれない、とイメージするとよいと思います。  医学的には感染しても症状が出ない場合を「不顕性(ふけんせい)感染」と呼び、そうした状態からほかの人にうつしてしまう人を「無症候性(むしょうこうせい)キャリア」といいます。さらに症状の有無にかかわらず新型コロナに感染した人は、ウイルスを排出することもわかってきました。  一方、全国各地でマスクの着用や手洗いが励行され、互いの距離を保つソーシャルディスタンスが保たれた結果、いまのところ季節性のインフルエンザなどの発生は低く抑えられそうです。  季節性のインフルエンザでは、発病するのと同時かそれ以降にほかの人にうつすと考えられています。日常的に罹(かか)る風邪でも同じような理解をしている人が多いと思います。しかし、新型コロナでは、これとは異なり熱や咳などをともなう発病の2日前からウイルスを排出し、特に前日の感染力が最も強いことも明らかにされてきました※2。もちろんPCR検査などで新型コロナと診断され、肺炎をともなっている場合にも患者はウイルスを排出し続けます。  つまり、読者の方もご自分が感染していることに気がついていなくとも、ほかの人にうつしてしまうかもしれないのです。あるいは元気そうに見える人からも何時、新型コロナをうつされるかもしれません。疑心暗鬼になる必要はありませんが、「症状のない人からも新型コロナはうつる」ということを職場内で共有しておくことが大切です。 A新型コロナの症状は重いことが多い  これまで、新型コロナ対策に関するウェブセミナーや執筆、出版※3を行い、新聞などの取材や職場の対策などに関するご相談も受けてきました。そのなかで感染して発病し、PCR検査を経て新型コロナと診断され、自宅やホテルでの療養や入院を経験した方々のお話をうかがう機会がありました。  巷では「コロナ風邪」と呼んで軽症であると強調し、全国で毎日、数百人以上の感染者数の報告があっても経済活動優先という向きが少なくありません。けれども、新型コロナは風邪どころか、季節性のインフルエンザよりかなり症状が重い∴象があります。  持病もなく、健康体を誇っていた人でも発熱などといった症状が出て、肺炎の進行とともに血液中の酸素濃度が下がって酸素吸入を要し、さらには重症化して人工呼吸器を装着しなければ生命を維持できない事例も少なくありません。  回復しても、息苦しさや頭痛、全身の痛み、味やにおいがわからないなどの後遺症が残る人がかなりいます。60歳ないし65歳以上の高齢者では重症化しやすく、ベッド上で安静を保つ期間が長期化します。そうすると全身の筋肉が衰え、体重も減ってしまい、日常的な動作すらむずかしくなるケースも多いのです。日常生活や職業生活に復帰するために、リハビリテーションでたいへんな思いをしている人もいます。  「ステイホーム」のかけ声で自粛することに飽きた≠ニか、我慢(がまん)してきたから旅行ぐらいしてもよいだろう≠ニ口にする前に、家族などの大切な人のために、なるべく感染しないように自衛し続けることが重要であると思います。 B新型コロナの検査はなかなかむずかしい  新型コロナと診断するには、有名になったPCR検査が必須です。ところが、新型コロナ感染症の患者さんを確実に判定する能力は7割程度しかありません。見方を変えると、3割の人は正しく判定できないのです。これを専門的には「感度(かんど)」といいますが、その限界以外でも、検査のタイミングが重要になってきます。  例えば、無症状や軽症の経過では7日から10日でほかの人への感染力が小さくなると考えられています※4。疑わしくても、タイミングが遅すぎると正しく診断できないこともあります。3月以降に感染者数が急増し緊急事態宣言が発出されたころは、PCR検査を管理する保健所などがひっ迫し、発熱が続いてもなかなかPCR検査を実施してもらえない人が多数出てしまいました。  各方面の努力によって、PCR検査の能力は拡充され、夏以降は病院やクリニックの医師の判断でPCR検査を受けやすくはなっています。しかし、この秋冬には再び新型コロナの流行が拡大して、症状があるのにPCR検査を受けられない人が増えるかもしれません。  季節性のインフルエンザではクリニックや病院の外来での迅速検査でA型、B型の判定を簡便に受けることができます。同じように新型コロナでも抗原検査※5という方法が使えるようになってきました。ただし、この抗原検査でも感度はPCR検査と同等かそれに若干劣るレベルです※6。  新型コロナに感染すると、これに対する抗体と呼ばれるたんぱく質をつくり、ウイルスを排除します。新型コロナの場合にはこの抗体は数カ月で消えてしまう可能性がありますが、血液検査でこの有無を調べることができます。  一方、PCR検査や抗原検査で調べるのは、その検査を行った時点での感染の有無にすぎず、鼻の奥や喉、唾液から検体を採取した際の感染を調べているにすぎません。「陰性=感染が確認されなかった」としても、翌日から数日後、次の週以降も感染していない保証はありません。また、抗体検査も、比較的最近に感染したことを意味しているにすぎず、抗体があるから二度と感染しないという根拠もいまのところありません。 C新型コロナのワクチンも特効薬も先のこと  本稿執筆時点(9月中旬)で新型コロナウイルス感染症の患者数は世界で約3千万人、死亡した人は約93万人に及び、国内でも患者数約7万6千人、死者1400人を超えています。甚大な影響を与えている新型コロナに対して、重症化の防止に役立つワクチンの開発が進んでいます。また、即効性のある特効薬にも期待が集まっています。ワクチンに関して日本政府が欧米製薬企業と供給の契約を結んだという報道もあり、そのうち打てるだろうと楽観的に見ている人もいるでしょう。  しかしながら、ワクチン開発では接種後に新型コロナに罹りにくく、重症者も減り、死亡する確率も小さくなった効果が証明されなければなりません。また、健常な人に打つのですから、重大な副作用が1万人に1件しかなくても許容できません。日本で仮に5千万人がワクチンを接種した後に5千人もの人に被害が出るなら、そのワクチンを使用できないからです。マスメディアの報道はその意図から楽観的になりがちですが、接種後の長期間の効果と安全性の確認を経て、量産して流通させ、国民全体が医療機関で接種してもらえるのは、早くとも2021年後半から末以降と考えています。 3 新型コロナ対策の実践  以上の事柄を各職場で経営者や責任者、担当者からすべての社員にぜひ、共有してください。  そのうえで対策を行う目的を  「社員の感染と重症化を防ぐこと」  であると明示し、周知していただきたいと思います。  さらにだれもが感染する可能性があること≠常識として、「患者となった人も受け入れ、支援すること」を発信し、そのうえで「新型コロナによる事業への影響を最小化する方針」を改めて示すのがよいと思います。 @社員の感染のリスクを最小化すること  新型コロナに罹った人の多くはどこでだれからウイルスをもらったか、覚えがない≠ニいいます。症状がない人や発病する前でもうつしてしまうのですから、致し方ないことでしょう。  ワクチンも特効薬も使うことができないのですから、感染する可能性を徹底して小さくすることに努めるのが最良の手段です。例えば、満員電車やバスに乗らなくても済むように時差通勤を継続し、在宅を中心とするテレワークを進めることも可能です。営業などの訪問もウェブ会議システムに切り替えて、出社人数を制限して、互いの距離を保ちながら、業務を行うことができるように日々調整することもできます。  通勤や移動の際のみならず、職場内でもマスク着用を欠かさず、換気を励行し、徹底して手洗いを継続することが大切です。閉鎖空間で雑談しながら昼食を摂ることも避けましょう。終業後に飲み会に出かける機会もできるだけ少なくしていく必要があります。  特に医師の目から見て、職場内での手洗いはいい加減な人が多いです。目に見えないウイルスを除去するには石鹸を用いて洗い流すまで30秒程度かかるものです。そうした意識と習慣を徹底することも重要です。  喫煙の際にも互いの感染を起こす可能性があり、換気や距離を保ち、あるいは前後の手洗いまで、十分な対応を社員に求めることが大切です。健康管理面から、禁煙をすすめることが肝要であるのはいうまでもありません。 A「症状が出たら自宅待機」というルール徹底  経営者、責任者・担当者が恐れる事態は職場での集団感染(クラスター)の発生でしょう。  2月に厚生労働省より、新型コロナの受診や相談の目安は、「37・5度の発熱が4日以上続いたら帰国者・接触者相談センターに……」と示されたことが影響し、発熱が断続的であったり、明らかではない人がそれを申告せず出社したり、後にクリニックなどにかかってもPCR検査が実施されず、PCR検査を受けてもその結果を待っている間は自宅待機さえしない、といったケースが少なくありません。  これらはすべて職場内での新型コロナの感染源となる可能性があります。新型コロナの集団感染を職場で起こさないためには、マスクの着用や距離を保つこと、定期的な換気などを行うだけでなく、何らかの症状があった場合に自宅待機を気安く申し出ることができるルールを決めて、徹底することが最も重要です。もしも、症状が出て新型コロナと判明した社員への誹謗中傷が予想される職場風土であれば、症状を隠して出勤する社員を止めることができません。  新型コロナの特徴から、うつす人もうつされた人もともに罪はありません。発熱などの症状があれば当然辛い状態ですから、それを責めてはならないと、読者の方々はいわれなくともおわかりであろうと思います。  これを機に、病気による休業・有給休暇の取扱いを労使で話し合い、弁護士や社会保険労務士とも相談のうえ、ルールを整備してください。 Bかかりつけ医をつくることを奨励する  高齢になるほど、肥満や高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が増加することが、厚生労働省による一般定期健康診断の集計結果から明らかにされています。加齢現象と解釈できる面もありますが、これらは新型コロナの重症化のリスクと関連する可能性が専門家によって指摘されています。  第二波と呼ばれる流行の拡大は9月後半になっても明らかに収まった≠ニはいいがたい状況です。気温が下がり、空気が乾燥していく秋冬に再び流行が拡大していくことが懸念されます。高齢社員に症状が出ても保健所などの窓口に相談したくても電話がつながらないといった状況が再燃する恐れがあります。  これらの事態を避けるには、高齢社員に対して、内科を専門にする「かかりつけ医」を持っているかをたずねて、そうでなければ、かかりつけ医を持つように指導してください。かかりつけ医に生活習慣病などに対して経過観察や必要な治療を行ってもらい、重症化のリスクを軽減しておくよう努めるのです。万が一、発熱などの症状が出た際には、落ち着いてかかりつけ医に電話で相談する流れを徹底しましょう。  そして新型コロナと同時期に流行が懸念されるのは季節性のインフルエンザです。症状だけでは新型コロナとの区別がつきづらいことから、インフルエンザへの予防接種を奨励してください。かかりつけ医がワクチンを手配し、接種してくれると思います。65歳以上や65歳未満でも持病がある場合の優先的な予防接種が、厚生労働省や各自治体で計画されています。  なお、かかりつけ医は、8月末に厚生労働省が公表した「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」のなかでも、その体制整備が強調されています。 C高齢社員ごとのリスク評価を行う  長年の生活習慣の積み重ねや加齢現象によって、高齢になるとがんや脳卒中、心臓病などの病気を持ちながら働く人が増えてきます。感染した場合の重症化やその後の後遺症のリスクを最小化するには、個々の高齢社員の状態を評価し、特に流行が拡大する時期には、その結果に応じた働き方を柔軟に進めていくことが必要です。ハイリスクであれば、流行拡大時期には在宅勤務中心に切り替え、あるいは時差出勤を活用し、可能なかぎり出張を控えるのです。その際には、本人の同意を前提として、かかりつけ医やがんなどを治療し経過観察を受ける主治医、あるいは産業医や保健師、看護師に相談ができるのであれば、高齢社員ごとのリスク評価を実施してもらいましょう。  一方、その結果に応じて高齢社員に「不利益な取扱いを行わない」ことを経営者、責任者、担当者として徹底することは、個人情報保護法や厚生労働省が進める健康情報管理を遵守することにも通じます。  なお、医師などの専門家の間では新型コロナへの感染を恐れるあまり持病が悪化したり、それでも医療につながらなかったりするケースが懸念されています。こうした「受診控え」をしないように、特に高齢社員に徹底していただきたいと思います。 D高齢社員も含むメンタルヘルス対策の充実  新型コロナの流行にともない、コロナ禍(か)≠ニ呼ばれるストレスを助長する環境に多くの働く人が曝さらされています。具体的には、図表1のような状況が該当します。  現実的には重症化した職場の仲間や家族の死亡といった厳しい現実に直面してしまうケースもあります。大切な人との死別は強烈なストレス要因となり得ます。  これらを解消する絶対確実な処方箋はありませんが、経営者、責任者、担当者として、図表2の事項をできるだけ実践することは、高齢社員を含む働く人には有益であろうと思います。 ※1 Seroprevalence of SARS-CoV-2-Specific Antibodies Among Adults in Los Angeles County, California, on April 10-11, 2020 Neeraj Sood, PhD; Paul Simon, MD; Peggy Ebner, BA; et al., JAMA. 2020;323(23):2425-2427. doi:10.1001/jama.2020.8279(JAMA Network, Research Letter, May 18, 2020) https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766367 など ※2 Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19 Nature>nature medicine>brief communications https://www.nature.com/articles/s41591-020-0869-5 ※3 今月号の「Books」(56頁)で亀田先生の『図解 新型コロナウイルス メンタルヘルス対策』をご紹介しています ※4 厚生労働省『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第3版(9月4日)』1. 病原体・疫学 2. 伝播様式【潜伏期・感染可能期間】 ※5 抗原検査……その時点の感染の有無を調べる、ウイルス特有のたんぱく質(抗原)を検知する検査方法。過去の感染歴を確認する、抗原を除去する免疫反応でつくられた「抗体」を検出する「抗体検査」もある ※6 厚生労働省『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第3版(9月4日)』3. 症例定義・診断・届出 2. 病原体診断 2. 抗原検査 図表1 新型コロナによるストレス要因 ◎在宅勤務のような新しい働き方に適応し難い ◎目を背けてきた個人的な問題に直面する ◎将来的な雇用や所得等の社会経済面の不安 ◎自由に楽しめてきた娯楽などを奪われた感覚 ◎上司・部下や同僚との関係性の予想外の変化 ◎新型コロナの終息が見えないことへの不安 ◎自身や家族の感染という漠然とした不安 ◎感染した場合の誹謗中傷を受ける恐れ ※筆者作成 図表2 新型コロナによるストレス軽減のための処方箋 @雇用や処遇を可能なかぎり維持すると明言する A専門家などとともに不安や困りごとの相談にのる B困難な事態も学びの機会ととらえるよう努める ※筆者作成 【P55】 日本史にみる長寿食 FOOD 325 風邪が流行する前に柿を 食文化史研究家●永山久夫 柿は木になる“サプリメント”  秋になって柿が実る季節になると、病人は元気になって、山盛りごはんを平らげて、次の日にはもう畑に出かけていく。昔は、そのようにいわれました。次のようなことわざもあります。  「柿が赤くなると、医者は青くなる」  昔の人たちは、なかなかうまいことをいいます。 経験の知恵で、山が色づくころになって、柿を食べる時期になると、気候もよく病人が少なくなってしまうから、村の病院は困ってしまうようなことがあったのかもしれません。  寒くなると、万病のもとといわれる風邪やインフルエンザが流行します。「風邪の予防にはビタミンC」は、いまや常識です。そのビタミンCが甘柿にはたっぷり。100g中に70mgも含まれていて、大きめの柿を1個食べると、1日の所要量が十分とれます。  のどの炎症を防ぐカロテンも多く、ビタミンCと同じように免疫力を高めるポリフェノールのタンニンも多い。つまり、柿は免疫力を強化する、木になる“サプリメント”のような食物なのです。 食物繊維もたっぷり  昔は多くの家の庭先に、甘柿と渋柿が植えられていたものです。冬に流行する風邪やインフルエンザなどを予防するために甘柿から食べはじめ、あらかたなくなるころに、山からモズがやってきます。そして、柿の木のこずえでけたたましく鳴き声を上げ、村人に冬の近いことを告げます。  そして、霜の季節になると、渋柿も赤くやわらかくなり、甘い熟し柿となります。渋柿のほとんどは熟す前に皮をむき、日あたりのよい軒下などにつるして、干し柿にしたものです。  柿の皮は、平(ひら)ざるなどに広げて天日干しにし、カラカラになるまで乾燥させてスナック風に食べてもおいしく、餅に搗つきこんでも甘味が強く人気がありました。  干し柿にすると、生柿にくらべ食物繊維が10倍近く増えます。善玉菌を増やして、腸内の環境をよくするのが食物繊維。免疫細胞の70%は腸内に集積されており、したがって腸内環境を整えることは、インフルエンザなどに対する免疫力アップの近道といってよいでしょう。 【P56-57】 BOOKS 適切な雇用管理を実現するために必要不可欠な情報を網羅 日本の労働経済事情 2020年版 人事・労務担当者が知っておきたい基礎知識 一般社団法人日本経済団体連合会 著/経団連出版/1000円+税  経団連が毎年、新任の人事・労務担当者向けに制作している、定評あるテキストの最新版。適切な雇用管理を実現するために必要不可欠な情報や、主要な労働法制の概要とその改正動向、労働市場の現状などについて、図表を豊富に用いてわかりやすく解説している。2020年版には、働き方改革関連法の内容をはじめ、労働関係法令の改正内容のほか、雇用調整助成金や企業の事業継続計画(BCP)対応などの新型コロナウイルス感染症に関するトピックスが盛り込まれた。もちろん2021年4月に施行される、改正高年齢者雇用安定法も取り上げている。  本書全体は「労働市場の動向・雇用情勢・労働時間と賃金の概況」、「人事・労務管理」、「労使関係」など、七つの章から構成されており、全体のほぼ半分を占める「労働法制」は、労働基準法や労働契約法、労働者派遣法など、主要な労働関係法令の概要と、改正がある場合はそのポイントが的確にまとめられている。新任担当者がアウトラインを把握しやすいことに加え、ある程度の経験を積んだ担当者にとっても、実務に必要な知識を補強することができると思われる。執筆は経団連の各部門が分担しており、内容も折り紙つきだ。 コロナ不安への対処や、ダメージから立ち直るための回復力を強くする方策を示す 図解 新型コロナウイルスメンタルヘルス対策 亀田高志 著/エクスナレッジ/1400円+税  一体いつ収まるのだろう。ワクチンの開発は? 仕事は続けられるだろうか? 新型コロナウイルスがもたらす、先の見通せない不安が募るなか、感染拡大を防ぐための対策によって生活や仕事の変化を余儀なくされ、だれもが少なからずストレスを感じる毎日が続いている。  本書は、そうした不安やストレスから自分と家族、同僚や職場を守る方法を教えてくれる、コロナとメンタルヘルスに特化した対策マニュアルだ。著者の亀田氏は、医師で労働衛生コンサルタント。職場の健康管理と危機管理を専門として、働く人のメンタルヘルス相談や研修、講演などで幅広く活躍し、本号でも執筆していただいている(50〜54頁)。  本書では、働く人やその家族を対象に、コロナ禍で直面する不安や困りごと、心身の不調への対処と予防について、「テレワークに慣れずイライラする」、「在宅勤務で日頃から反応が悪い部下にキレてしまう」など、最近ありがちな52の例を挙げ、Q&A方式によって対処の道筋を示すとともに、ダメージからしなやかに立ち直るための「レジリエンス」という考え方を紹介している。人事担当者やビジネスパーソンにおすすめの、いますぐ役立つ一冊である。 歴史を検証し、今後の雇用のあり方を考える 「日本型経営」の雇用システムから日本が見える 中込(なかごめ)賢次(けんじ) 著/日本生産性本部生産性労働情報センター/1300円+税  グローバル化、デジタル化、人口減少社会への対応、そして働き方改革が求められるなか、コロナ禍において多くの企業でテレワークが進み、これをきっかけにオフィスを縮小したり、移転したりといったニュースも目立つ。この先、働き方や雇用のあり方がどのように変わるのか、興味がある人も少なくないだろう。  本書は、見直しの必要性が指摘され続けながらも連綿と続く、「日本型経営」の雇用システムについて歴史をひも解き、これまでの見直しや改革を時系列で検証。そのうえで、長く続いている理由を探りながら、日本の社会・文化に適した雇用や働き方、職場のあり方について、今後の方向性を考察する内容となっている。  本書によれば、「日本型経営」とは、一般的には戦後の高度経済成長を支えた日本独特の雇用システムのことで、欧米には見られない「終身雇用」、「年功序列型賃金体系」、「企業内労働組合」があり、加えて「新卒一括採用制度」も大きな特徴の一つという。原点は、江戸時代の経営思想にあるそうだ。現在の制度や雇用慣行がなぜそうなっているのか、長期的な観点から見直すことで見えてくるものがある。自社の雇用のあり方を考える際の参考にもなる良書だ。 「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズのエッセンス 経営者のノート 会社の「あり方」と「やり方」を定める100の指針 坂本光司(こうじ) 著/あさ出版/1400円+税  コロナ禍がもたらした日常の急激な変化に直面し、これからの経営、さらには生き方や働き方に不安を感じている人も少なくないのではないか。そうした人に一読をおすすめしたいのが「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの著者・坂本光司氏が手がけた本書である。  坂本氏は、人を大切にする経営を実践している現場に自ら足を運ぶことをライフワークとしており、数多くの経営者やリーダーたちとの面談を重ねてきた。その際に耳にした、心に響く言葉を一冊にまとめたのが本書。「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズのエッセンスといっても過言ではないだろう。  坂本氏が選んだ100の言葉には、より深い理解が得られるように、平易な解説が組み合わされて見開き2ページにまとめられている。少しずつ読み進めることもできるし、気になる言葉をピックアップして、朝礼などの機会に紹介してもよいだろう。もともと約10年前に発刊した書籍の改訂版として企画されたものだが、坂本氏の考え方を反映するために、全面的に書き直されたという。人を大切にする経営に関心がある人はもとより、前を向く力を得たい人にとっても参考になる好著と思われる。 中高年社員の戦力化を考える際のヒントも満載 50代 後悔しない働き方 ―「勝ち逃げできない世代」の新常識― 大塚 寿(ひさし) 著/青春出版社/950円+税  著者はかつて企業に勤務していた当時から、社内外の企業経営者や管理職にアドバイスを求める機会をつくっていた。営業コンサルタントとして独立後もそのインタビューを継続して、これまでに約1万人から話を聴いたという。本書は、そうしたリアルな声や情報をもとに書かれた、定年退職後に後悔しないための指南書であり、50代から考えておきたいこと、準備しておきたいことなどが綴られている。  1万人にインタビューをしたなかで、すでに定年退職している人から多く聞こえてきたのが、「50代を後悔している」という声だったという。どんな後悔なのか。1章は「50代を後悔している12の理由」と題して、後悔の内容を12に分け、それぞれに解説を加えて紹介している。「守備範囲が狭すぎた」、「モチベーションがどうしても湧かなくなってしまった」、「定年後の人生設計をしておくべきだった」などである。これを受けて2章は「12の後悔を防げる4つの心構え」、3章は「50代で始めておくべき9つのウォームアップ」といった構成となっている。  中高年社員の戦力化やキャリアづくりに理解を深めたい企業の経営者、人事担当者にとってもヒントが得られる一冊といえるだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 2020.11 行政・関係団体 厚生労働省 「令和元年度雇用均等基本調査」  厚生労働省は、「令和元年度雇用均等基本調査」の結果を公表した。「雇用均等基本調査」は、男女の均等な取扱いや仕事と家庭の両立などに関する雇用管理の実態把握を目的に実施しており、2019(令和元)年度は、全国の企業と事業所を対象に、管理職に占める女性割合や、介護休業制度の利用状況などについて、昨年10月1日現在の状況をまとめた。  主な内容は次の通り。 【企業調査】 ○女性管理職を有する企業割合を役職別にみると、部長相当職ありの企業は11・0%(前年度10・7%)、課長相当職は18・4%(同19・0%)、係長相当職は19・5%(同21・7%)。 ○管理職に占める女性の割合は、課長相当職以上で11・9%(前年度11・8%)。役職別にみると、部長相当職では6・9%(同6・7%)、課長相当職では10・9%(同9・3%)、係長相当職では17・1%(同16・7%)。 【事業所調査】 ○介護休業制度の規定がある事業所の割合は、事業所規模5人以上では74・0%(2017年度70・9%)、同30人以上では89・0%(同90・9%)。 ○多様な正社員制度について、制度ごとの導入状況をみると、「勤務地限定正社員制度」が17・8%、「短時間正社員制度」が16・7%、「職種・職務限定正社員制度」が11・1%。 厚生労働省 令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況  厚生労働省は、2019(令和元)年度の個別労働紛争解決制度施行状況をまとめた。  「個別労働紛争解決制度」は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度で、総合労働相談コーナーにおける「情報提供、相談」、都道府県労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の三つの方法がある。  今回のまとめによると、全国379カ所の総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は118万8340件(前年度比6・3%増)となっている。このうち、民事上の個別労働紛争に関するものは27万9210件(同4・8%増)。民事上の個別労働紛争の相談内容の内訳は、いじめ・嫌がらせに関するものが8年連続でトップとなり8万7570件(全体の25・5%)、ほかでは、自己都合退職に関するものが4万81件(同11・7%)、解雇に関するものが3万4561件(同10・1%)などとなっている。  また、同制度にかかる都道府県労働局長による助言・指導申出件数は、9874件(前年度比0・4%増)となっている。相談内容の内訳は、いじめ・嫌がらせに関するものが7年連続トップとなり、2592件(全体の24・2%)。  紛争調整委員会によるあっせん申請件数は、5187件(前年度比0・3%減)となっている。相談内容の内訳は、いじめ・嫌がらせに関するものが6年連続トップとなり、1837件(全体の33・7%)となっている。 厚生労働省 専門実践教育訓練の指定講座を公表(2020年10月1日付指定)  厚生労働省は、教育訓練給付金の対象となる「専門実践教育訓練」の2020(令和2)年10月1日付指定講座として新たに209講座を決定し、公表した。  指定された209講座の訓練内容の内訳をみると、業務独占資格または名称独占資格の取得を訓練目標とする養成課程(介護福祉士、看護師、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士など)が131講座、専修学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラム(商業実務、衛生関係など)が32講座、専門職学位課程(教職大学院、法科大学院など)が5講座、大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程〈保健〉、正規課程〈社会科学・社会〉など)が6講座、第四次産業革命スキル習得講座(AI、データサイエンス、セキュリティなど)が35講座となっている。  なお、今回の指定により、すでに指定済みのものを合わせると、2020年10月1日時点の給付対象講座数は2500講座になる。  専門実践教育訓練給付は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%(1年間の上限40万円)が支給される。また、訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に雇用保険の被保険者として就職した場合は、教育訓練経費の20%が追加支給される(合計の支給限度額は訓練期間が3年の場合は168万円、同2年の場合は112万円、同1年の場合は56万円が上限)。 調査・研究 ダイヤ高齢社会研究財団 「介護と就労に関する調査」結果  公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団は、山梨大学の西久保浩二教授の研究室と共同で2020年3月に実施した「介護と就労に関する調査」結果を公表した。調査は全国の30〜69歳の男女(正社員および介護前は正社員)を対象にインターネットを用いて行われ、回収数は3433人。  調査結果の概要から、40代・50代の正社員に親に介護が必要かどうかを尋ねた項目をみると、40代の6・0%、50代では14・6%が「現在介護が必要」と回答した。これに「過去に介護が必要になったことがある」(介護後に亡くなった場合も含む)を加えると、40代は17・4%、50代は36・4%となっている。また、50代では19・9%が「近々介護が必要になる可能性がある」と回答し、これに「現在介護が必要」と「過去に介護が必要になったことがある」(介護後に亡くなった場合も含む)を加えると56・3%となっている。  次に、介護開始前に正社員として働き、@介護中も同じ勤務先で変わらず勤務していた人、A同じ勤務先で介護しやすい職務等に変更した人、B転職した人、C退職して介護に専念した人に、勤務先(離転職者は退職前)の介護支援制度の利用状況等について尋ねた結果をみると、共通して「有給休暇」(1日単位、半日・時間単位)が優先して利用されている実態が明らかになった。  この調査の報告書は同財団ホームページからダウンロードが可能。 https://dia.or.jp/ 介護労働安定センター 「令和元年度介護労働実態調査」結果  公益財団法人介護労働安定センターは、2019(令和元)年度に実施した「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査(労働者調査)」の結果を公表した。  調査は2019年10月に実施し、それぞれ9126事業所、2万1585人から有効回答を得た。  まず、事業所調査の結果から、従業員の過不足状況をみると、不足感(「大いに不足」+「不足」+「やや不足」)は65・3%となっており、前年度(67・2%)と比べ1・9ポイント低下。「適当」は34・4%(前年度32・4%)となっている。  賃金についてみると、月給制の者の平均所定内賃金額は、訪問介護員(いわゆるホームヘルパー)21万2281円(前年度20万6312円)、介護職員(訪問介護以外の介護保険法の指定介護事業所で働き、直接介護を行う者)21万2455円(同21万4721円)となっている。  また、介護労働者の年齢割合をみると、65歳以上の割合は12・4%で全体の1割を超え、60歳以上では22・4%と全体の2割を超えている。職種別でみると、訪問介護員は「60歳以上65歳未満」が13・3%と最も高く、次いで「55歳以上60歳未満」が12・8%、「65歳以上70歳未満」が12・0%で、平均年齢は53・7歳となっている。  次に、労働者調査の結果から、労働条件・仕事に関する悩み(複数回答)をみると、「人手が足りない」が55・7%と最も高く、「仕事内容のわりに賃金が低い」39・8%、「身体的負担が大きい」29・5%の順となっている。 発行物 JILPT 『企業における福利厚生施策の実態に関する調査 ―企業/従業員アンケート調査結果―』  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、『JILPT調査シリーズbQ03 企業における福利厚生施策の実態に関する調査―企業/従業員アンケート調査結果―』を刊行した。  この報告書は、多様化している企業の福利厚生制度の現状や従業員のニーズなどを探るために実施したアンケート調査(有効回答数:企業2809社、従業員8298人)の結果をまとめたもの。  従業員調査の結果から、勤務先での制度・施策の「ある」「ない」にかかわらず、自分にとって「特に必要性が高いと思うもの」(複数回答)を聞いた結果をみると、「人間ドック受診の補助」(21・8%)、「慶弔休暇制度」(20・0%)、「家賃補助や住宅手当の支給」(18・7%)、「病気休暇制度(有給休暇以外)」(18・5%)、「病気休職制度」(18・5%)などがあがっている。また、会社の福利厚生制度への満足度(年齢別)をみると、「20歳未満」(44・4%)と「20歳代」(33・4%)で満足度が高く、「60歳以上」(16・9%)で最も低くなっている。一方、「不満足」の割合は50歳代(27・6%)で最も高い。  このほか、大手企業を中心とするアウトソーシングの状況なども調べており、多様な制度構築などの参考資料として活用されることも期待される。  報告書は左記のURLからダウンロードが可能で、購入する際の価格は1900円(税別)。  https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/documents/203.pdf 【P60】 次号予告 12月号 特集 シニア採用で会社にイノベーションを リーダーズトーク 大塚 寿さん (有限会社エマメイコーポレーション代表取締役、ビジネスコンサルタント) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●当機構では、10月7日に「令和2年度高年齢者雇用開発フォーラム」を開催し、高年齢者雇用開発コンテスト受賞企業の表彰式のほか、受賞企業によるトークセッションなどを実施しました。毎年開催している同フォーラムですが、本年度は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策のため、一般の方のご参加は見送りとさせていただきました。替わりに、当機構ホームページにて、同フォーラムの模様を動画で公開しています。興味のあるかたはぜひご視聴ください。なお、トークセッションの模様は本誌1月号に掲載する予定です。  また、本号では先月号に続き、高年齢者雇用開発コンテスト受賞企業のなかから、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した企業の取組みを紹介しました。いずれの企業も定年延長や継続雇用制度の拡充など、長く働ける制度を整えているだけではなく、高齢社員が持つ能力を活かし、戦力として活躍してもらうためのさまざまな工夫に取り組んでいます。読者のみなさまにおかれましても、受賞企業の取組みを参考に、ぜひ高齢者雇用の充実に取り組んでいただければと思います。 ●本号では、「特別寄稿」として、二つのテーマについて、それぞれ専門家の先生による解説をご執筆していただきました。  「特別寄稿1」では、明治大学の永野仁先生に、欧米における高齢者の就業について、実際のデータなどを交えて解説していただきました。「特別寄稿2」では、産業医としてもご活躍されている亀田高志先生に、新型コロナウイルスの基礎知識と高齢社員を中心とした感染防止対策についてご執筆いただきました。いずれもいまの時代だからこそ注目されているテーマです。みなさまのご意見・ご感想のほか、今後取り扱ってほしいテーマなど、お寄せいただければ幸いです。 お詫びと訂正  『エルダー』2020年9月号にて、下記の通り誤りがございました。謹んでお詫び申し上げるとともに下記の通り訂正をさせていただきます。 訂正箇所 19頁中段6〜7行目および図表2段目 誤 1カ月の所定労働時間 正 1カ月の所定労働日数 月刊エルダー11月号 No.492 ●発行日−−令和2年11月1日(第42巻 第10号 通巻492号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.or.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-785-5 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 《短期連載》職場でできるストレッチ体操  みなさんは日ごろから運動をしていますか? 加齢による身体機能の低下はさまざまな影響をもたらし、場合によっては日常生活や仕事に影響が出てくることも考えられます。そこで本企画では、職場で気軽に、短時間でできるストレッチやトレーニングを紹介します。ぜひ職場のみなさんでチャレンジしてください。 柔道整復師/ 八王子整骨院 院長 山ア 由紀也(ゆきや) 最終回 多くの人が悩む現代病「肩こり」  肩こりはカラダが出しているストレスサイン腰痛と並び、多くの人を悩ませている「肩こり」。体をあまり動かさず、パソコンを使ったデスクワークや、スマートフォン操作に多くの時間を費やす現代人の「現代病」といっても過言ではないでしょう。肩こりに悩んでいる人のなかにも、もはやつき物≠ニして諦(あきら)めている人、なんとなく誤魔化しながら生活を送っている人も多いのではないでしょうか。むしろ肩こりを改善するために、積極的なアプローチを行っている方は少ないと思います。  しかし、肩こりはカラダがどこかにストレスを受けていることを知らせるサインでもあります。これを無視してしまうと、さらにストレスが増え、やがて重い症状や体調不良を招いてしまう可能性もあります。そうなる前に、カラダと積極的に向き合い、ストレスを減らしていくことが大切です。今回はそんな肩こりの原因と、その解消法をいくつかご紹介したいと思います。 肩こりの原因の一つ「肩甲骨(けんこうこつ)の運動不足」  肩こりの悩みを抱える多くの方に共通するのが、肩甲骨の運動不足です。肩甲骨とは、背骨の両側にある、翼のような形をした平らな骨のこと。周囲を前後左右多くの筋肉が取り囲み、その釣り合いによって背中に張りつくようにバランスを保って存在しています。さらに肩の両端の飛び出た部分は、腕や鎖骨と連結します。また胸の方にも突起があり、ここには腕や胸の筋肉が付いています。  背中側にあるために、通常はあまり意識することがない肩甲骨ですが、多くの筋に支持されており、腕や背骨、胸の筋肉に連動して動きます。このため、肩甲骨の動きが滞ると、関連する部位への負担が増え、筋バランスが崩れてしまいます。これらは全身のバランスにも影響を与えます。  一方で、崩れたカラダのバランスの変化は、左右の肩甲骨の高さや幅の違いに現れます。つまり、肩甲骨のバランスを整え、動きをスムーズにすることは、肩こりの改善だけでなく、全身を整えることにつながると考えられます。 LET‘S TRY! 次頁からストレッチを紹介! 肩甲骨運動チェック  肩甲骨は肋骨に沿った肩甲骨面の中で動きます。この面は頭の後ろで手を組み、そこからバンザイをしたときに、掌てのひらがつくる向きにあります。肩甲骨の動きを分解すると、次の6つの動きに分かれます。1つずつスムーズに動かせるかどうか確かめてみましょう。  肩甲骨は背中側にあり、筋肉で覆われているため、自分の目で確認するのはむずかしいかと思います。そこではじめは掌を肩甲骨に見立て、@からEの動きをゆっくり確認してください。それができたら肩甲骨を意識しながら、肩をゆっくり動かしてみましょう。  肩甲骨が動くと肩が普段よりも楽に大きく動きます。大切なのは動きをイメージすることです。 @肩甲骨を上に動かす:肩をすくめます(挙上) A肩甲骨を下に動かす:腕を下げて首を伸ばすような感じで行います(下制) B肩甲骨を背骨から離す:腕を体の前に伸ばし背中を丸めます(外転) C肩甲骨を背骨に寄せる:胸を張るように両肘を体の後ろに引きます(内転) D肩甲骨の下を開く:体の横に伸ばした腕を上げます(上方回旋) E肩甲骨の下を閉じる:体の横に伸ばした腕を下げます(下方回旋)  いかがでしたか? 肩甲骨の動きはわかりづらいかもしれませんが、イメージが大切です。腕を横に上下することで肩甲骨の下が開閉する、いわゆる肩甲骨が回転する動きや、肩を下げる動きは、初めて意識して行ったという方も少なくないと思います。まずは気づくこと、意識することが大切です。動きの理解が深まると、体操もより効果的に行えるようになります。 僧帽筋上部のストレッチ  肩甲骨を下に引きつける「下制」の動きに首を曲げる動きを加えたストレッチです。主に首の筋肉、なかでも「僧帽筋」という、肩から首にかけてつながる筋肉を伸ばす効果があります。「下制」が上手くできない人は、このストレッチの方がやりやすいかもしれません。 @椅子に腰かけます Aひじ掛や座面、もしくは椅子の脚を持ちます B肘を伸ばしたまま体を前傾させ、ゆっくりとうなずくように頭を下げます C首から肩にかけて伸ばされている感覚があればOKです D深く呼吸をしながら、その状態を30秒キープします Eゆっくり元に戻し、顔をゆっくり天井に向けます Fこれを3回くり返します ポイント  腕の長い人は座面の下や、椅子の足をつかんだ方がやりやすいかもしれません。肩の力を抜き、肩から首筋を伸ばすように体を前傾させましょう。 胸筋のストレッチ  肩甲骨の固まった姿勢が長く続くと、胸の筋肉も縮んで固まってしまいます。これが肩甲骨の動きを妨げ、肩こりを助長します。胸筋の下は、首から腕に伸びる血管や神経の通り道になっています。こり固まって硬くなった筋肉で血管や神経が圧迫されてしまうと、肩や腕のダルさ、ひどい場合は痺れなどの症状があらわれてくることもあります。  胸筋をしっかりストレッチすることで、筋肉は柔軟性を取り戻します。これにより、肩こりをはじめとする症状が改善する効果が期待できます。また胸筋は呼吸とも深くかかわっているため、適切にケアすることで空気の循環がよくなり、自律神経を整える効果も期待できます。 @背筋を伸ばし、壁や柱のそばにまっすぐ立ちます A片方のひじから手のひらを壁(または柱)につけます Bついている手(イラストでは右手)とは反対側に壁側の足(イラストでは右足)のつま先を向け、ついている手の反対の肩(イラストでは左肩)を後ろに引くように胸も同じ方へ向けます Cその状態で、呼吸を深く保ちながら30秒キープします Dこの動作を左右交互3回ずつ行います ポイント  胸の筋肉がしっかりと伸びていることを確認してください。上半身だけで体を捻ってしまわないように、しっかりつま先を胸筋が伸びる方へ向けてください。ひじの位置を耳、肩、へその三つの高さに分けて調整すると、さらに高いストレッチ効果が期待できます。 写真のキャプション 僧帽筋(そうぼうきん) 棘下筋(きょくかきん) 広背筋(こうはいきん) 肩甲拳筋(けんこうきょきん) 菱形筋(りょうけいきん) 肩甲骨 ひじの高さを調整してみよう へその高さ 肩の高さ 耳の高さ 参考資料 ◆永木和載・大平雄一『図解入門よくわかる首・肩関節の動きとしくみ』(秀和システム) ◆Tarzan Webサイト「肩甲骨からアプローチして、ガチガチ肩の悩みを解消!」https://tarzanweb.jp/post-189687 ◆黒木麻衣ほか「僧帽筋上部線維の筋疲労に対するストレッチ効果の検証」『第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会』https://www.jstage.jst.go.jp/article/ptkanbloc/28/0/28_0_24/_article/-char/ja/ ◆熊丸めぐみほか「呼吸補助筋の持続的筋活動が運動時の換気に及ぼす影響について」『第40回日本理学療法学術大会 抄録集』https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2004/0/2004_0_D0593/_article/-char/ja/ ◆武田尊徳ほか「肩こりに伴う上肢の痛みや痺れに対する軟部組織モビライゼーションの介入効果」『第45回日本理学療法学術大会 抄録集』https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2009/0/2009_0_C4P1149/_article/-char/ja/ ◆梅原潤「小胸筋の柔軟性と肩甲骨運動の関連」『理学療法学Supplement』https://ci.nii.ac.jp/naid/130007694164 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は切り替え力のトレーニングです。「頭ではわかっているのに、体がついていかない」ことはあるものですが、それでもゆっくりくり返せばスムーズにできるようになっていきます。歳をとってもトレーニングで改善できる感覚を体感してください。 第41回 ややこしい脳トレ 指示にしたがって、正解だと思う方を選び、行動してください。 どっちの数字? 正解だと思うほうを、テンポよく指さしてください。 @大きいのはどっち? 1+1 3−2 A大きいのはどっち? 9−4 5+2 B小さいのはどっち? 5−2 1+3 C大きいのはどっち? 3+8 6+4 D小さいのはどっち? 9−4 3+4 スムーズにできたら、質問を逆にして、@ACは小さいほうを、BDは大きいほうを指さしてください。3回、間違わずにできるようチャレンジしてみましょう。 どっちのじゃんけん? 利き手で正解だと思うほうのジャンケンを出してください。テンポよくやってみましょう。 @勝つのはどっち? パー グー A勝つのはどっち? チョキ グー B負けるのはどっち? パー チョキ C負けるのはどっち? チョキ グー D勝つのはどっち? グー パー E負けるのはどっち? グー チョキ F勝つのはどっち? パー グー G負けるのはどっち? パー チョキ H負けるのはどっち? グー チョキ I勝つのはどっち? チョキ グー スムーズに出せるようになったら、奇数問題は利き手で、偶数問題は反対の手でチャレンジしてみましょう。 意欲や認知にかかわる前頭前野を鍛えよう  不安なことも少なくないいまの時代を生き抜くためには、物事を俯瞰(ふかん)で見て、ときにはやり過ごすような柔軟な対応力が必要となってきます。しかしながら、脳の前頭前野という領域の活動が低下していると、気持ちの切り替えがうまくいかないどころか、意欲も湧いてこなくなってしまいます。  そこで、今回のような質問が途中で切り替わるといった「ややこしい脳トレ」にチャレンジしてみましょう。前頭前野が強く活性化します。そして、記憶力や集中力、判断力などのさまざまな認知機能の向上にもつながります。また、途中で切り替わる質問に素早く反応して、テンポよくリズミカルに解答することで、よりよい効果を得ることができます。ややこしい課題をこなしながら、脳をしっかりと使っていきましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年11月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 シンポジウムのご案内  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を本年度も開催します。  本年度は、高齢社員の戦力化を図るための「評価・報酬体系」、「職場環境改善」などをテーマとして、11月、12月は以下の会場で開催します。  高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思います。 カリキュラム(予定) ●高年齢者雇用安定法改正について ●学識経験者による講演 ●事例発表 など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記をご参照ください 大阪 日時 令和2年11月12日(木) 13:00〜14:45 場所 ホテルエルセラーン大阪 エルセラーンホール 福岡 日時 令和2年11月19日(木) 13:00〜14:30 場所 JR九州ホール 東京 日時 令和2年12月17日(木) 13:00〜14:40 場所 日経ホール 申込方法につきましては、当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 jeed シンポジウム 検索 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.or.jp/ 主催●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援●厚生労働省 ※新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 2020 11 令和2年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第10号通巻492号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会