【表紙2】 さまざまな事業所の好事例を掲載しています! 『65歳超雇用推進事例サイト』 https://www.elder.jeed.go.jp スマートフォンからも見やすい! 114社の事例を豊富なキーワードで簡単検索 66歳以上まで働ける 企業定年が61歳以上 or 条件を変更する イベントの案内、研究資料など「65歳超雇用推進」関連情報をまとめて見られます! jeed 65歳超 事例サイト 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.elder.jeed.go.jpであることを確認のうえアクセスしてください 雇用推進・研究部 研究開発課 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.68 80歳までの定年後再雇用契約を可能にしシニア層の豊富な経験や能力を活用 株式会社ノジマ 取締役 兼 執行役 人事総務部 部長 田中義幸さん たなか・よしゆき 1977(昭和52)年生まれ。2000(平成12)年、株式会社ノジマに入社。管理本部人材開発グループリーダー、人事総務部人材採用グループ長、人事総務部総務グループ長などを経て、2019(令和元)年12月、執行役人事総務部部長に就任。2020年6月より現職。  家電量販店大手の株式会社ノジマでは、全社員を対象に定年後最長80歳まで再雇用契約が可能となる就業規則を、2020(令和2)年7月より新たに導入しました。シニア人材の活用は各企業にとって大きな課題ですが、80歳まで雇用期間を延ばすのは珍しい試みです。  そこで今回は、制度導入の背景や今後の展望などについて、同社取締役兼執行役 人事総務部 部長の田中義幸さんにお話をうかがいました。 80歳までの雇用を制度化する前から70歳以降の継続雇用の実績があった ―高年齢者雇用安定法の一部が改正され、2021年4月から70歳までの就業機会の確保措置が事業主の努力義務となります。そうしたなか、貴社では全社員を対象に、80歳まで働ける制度を導入されました。 田中 2020年7月に、この制度の導入を報道発表しました。法改正に対応した措置との受け止め方が多かったのですが、新たに取組みを始めたのではなく、これまでやってきたことを、この機会に制度として明確化したという位置づけです。 ―改正法が求めている70歳を大きく超えて、80歳と打ち出したところにインパクトがありますね。以前から70歳を過ぎても継続雇用している実績をふまえ、今回あらためて就業規則に明記し、制度化したということですか。 田中 はい。定年は10年ほど前から65歳にしていますが、本人が希望し、健康面などで問題がなければ、定年後も再雇用の形で、引き続き働いてもらっています。上限年齢は定めていませんでしたが、制度化するにあたって一応は定めておくことにしました。そこで、すでに78歳の社員が2人働いている実態があったので、「80歳まで」としたのです。法改正の内容を意識して行ったわけではありません。  その2人のうち、1人は先日誕生日を迎えたので、現在最高齢は79歳です。70歳以上は約20人、65歳以上でカウントすると50人以上の社員が勤務しています。今回の制度化で80歳という上限年齢を定めましたが、それ以降の継続雇用は、今後80歳に到達する社員が出てきた時点で、健康状態などを考慮し個別の事情に応じて柔軟に対応することになると思います。 ―定年後はどのような雇用形態になりますか。また、どのような仕事や役割をになっているのでしょうか。 田中 雇用期間は原則として1年契約となり、それを更新する形で継続雇用をしています。仕事の内容は、それまでの経験を活かせるように、基本的には定年前と変わりません。  組織の長としての役割は、みなさん50代を過ぎたころに後進に譲っている場合がほとんどで、その後は販売の専門職として働いていますから、定年への到達を契機に役職を降りるということはありません。 ―役職定年はないのですね。 田中 年齢で一律に待遇を変えるルールはありません。それでも、ある程度の年齢になると、若い人にポストを譲るケースが多いのです。長い年月を経て根づいた当社の風土のようなものです。  組織をマネジメントする役割には、「部門リーダー」、「店長」、「エリア長」、「地区長」といったポストがあります。社員は入社後、販売スタッフとして店舗の第一線に立ちます。その後、マネジメントのコースに行く人や本部スタッフとして働く人もいますが、多くは販売の専門職として、商品の部門やジャンルを異動しながらキャリアを積んでいきます。販売系専門職の役職として、「エースコンサルタント」や「プロフェッショナルコンサルタント」があり、店長より高い処遇を受けている例も数多くあります。全社員が同じ等級制度のもとで処遇されるので、例えば50代になってマネジメント系の役職を降りたからといって、それが理由で基本給や賞与がダウンすることはありません。 他社を定年退職後にノジマに入社して新たな仕事に挑戦するシニアも ―再雇用されているシニアの方の現在の仕事内容やこれまでのキャリアについて、いくつか事例を教えてください。 田中 Aさんは、最高齢の79歳の女性です。店舗のバックヤードで、商品の荷受けや仕分けを担当しています。トラックに混載されて届いた多種類の商品を、伝票を確認しながら、オーディオや理美容、携帯電話などの部門や、ジャンルごとに仕分けします。倉庫が整理されていると、接客するスタッフも仕事がしやすくなり、みんなに頼りにされています。Aさんは10数年前に入社し、ずっとこの仕事にたずさわってきました。いまは週5日、午前中3時間のパートタイムで働いています。  Bさんはオーディオや家電商品、システムキッチンなど多様な商品を販売する会社に30数年間勤めた後、64歳で当社に入社し、4年目です。前職でおつき合いのあったお客さまや、そのお子さん、お孫さんの世代までが、「Bさんから買いたい」と来店されています。このように、お客さまとの強い信頼関係を築いているシニアの販売スタッフは珍しくなく、Bさんも第一線に立つ販売のプロ、エースコンサルタントとして活躍しています。  Cさんは百貨店を65歳で定年退職し、当社に入社して2年目の方です。40数年勤めた百貨店では、家具売り場に20年、後半の20数年は販売促進にたずさわっていました。前職と当社での仕事の共通点は接客くらいで、家電商品の経験はゼロからのスタートでしたが、新しい知識を学び、とても前向きに販売の仕事に取り組んでいます。  家電メーカー出身のDさんも、前職は工場で冷蔵庫の板金・塗装・組立てなどにたずさわっていましたが、「販売の仕事は市場を見ることができて面白い」と、当社に入社して16年目になる71歳です。 ―他社で経験を積み、ある程度年齢を重ねてから入社された方が多いのですね。 田中 はい。当社に新卒で入社した社員の一期生は、まだ50代です。社員の8割以上が20代、30代で、平均年齢も30歳と若いのです。そうしたなかで、職業経験も人生経験も豊かなシニアの社員が、若い社員に交じって第一線で働いています。年配者から見れば、子どもや孫の世代が同じ職場にいるわけです。そうした若い社員たちが、少し元気がなかったり、いつもと顔色が違ったりしているようだと、「今日はどうしたの?」と声をかけて気遣うなど、いわばメンターのような役割も果たしています。若い社員たちにとっても、両親ほどの年代の人と、上司・部下という組織の序列を意識しない関係のなかでコミュニケーションを築ける機会は、なかなか得がたいものだと思います。 シニアに対する先入観を捨て一人ひとりに向き合う姿勢が大切 ―定年後再雇用では、フルタイム以外の勤務形態も選べるのですね。 田中 個別の事情に合わせて、柔軟に決めています。給与なども、定年直前の水準から一律に何パーセント下げるなどのルールは設けず、65歳からの所定の出勤日数や勤務時間数など、それぞれの働き方に応じて個別に契約しています。  当社には、定年後再雇用のスタッフにかぎらず、パート、アルバイト、契約社員、嘱託など、さまざまな雇用形態のスタッフが大勢働いています。一応、正社員とは別の区分としていますが、どこが違うかといえば、雇用期間の定めの有無だけです。賞与の算定・支給方法も福利厚生も同じで、役職への昇進についても雇用形態による区別はありません。店長が契約社員で、部下が正社員という店舗もあります。もっとも、有期契約であっても、いずれは無期転換しますし、退職金は有期契約で働いた期間も含めて計算しますから、期間の定めの有無も、それほど大きな違いではないともいえます。  社員の多様性という面では、海外展開を積極的に行っていることもあり、外国人留学生の採用も増えています。さらに、コロナ禍で職を失う人の雇用の受け皿になるよう、最近では再び中途採用に力を入れており、多様なキャリアを持った社員が今後ますます増えると思います。シニア雇用についても、こうした社員の多様性重視の一環と位置づけることができると考えます。 ―ハイテク技術を活用したデジタル家電の進化など、取り扱う商品は急速に変化しています。シニアの方は追いつくのにご苦労されているのではありませんか。 田中 その点はまったく心配していません。新しい技術が取り入れられて、これまでにない機能がつけ加わったとしても、長く家電を取り扱ってきたベースがあるかぎり、十分対応できます。現在、リモートワークが必要になり、自宅で機器やネットワークを整備するお客さまが増えていますが、シニアスタッフは「自分の出番だ」と張りきっています。お客さまも高齢化しているため、同じ世代の者として、お客さまが求めていることをよく理解できる強みもあります。  年をとると「頭が固くなり変化についていけない」、「自尊心が強くなり若い人と協調できない」などの思い込みが、シニア雇用の拡大を阻害する一つの要因ではないでしょうか。先入観にとらわれず、一人ひとりに向き合い、まずは一歩をふみ出してみることが大切だと思います。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2021 January ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」 7 総論 高齢社員のための治療と仕事の両立支援 産業医科大学 両立支援科 診療科長 立石清一郎 11 解説@ がん患者の両立支援 2人に1人が「がん」に罹患する時代 診断・治療・復職の段階に応じた対応を 独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院 治療就労両立支援センター 加藤宏一 15 解説A 脳卒中患者の両立支援 同じ病気でも異なる症状が現れる「脳卒中」 専門家のアドバイスを受け、働き方の見直しを 独立行政法人労働者健康安全機構 中国労災病院 治療就労両立支援センター 豊田章宏 19 解説B 糖尿病患者の両立支援 糖尿病≠生活習慣病 理解を深め治療継続への配慮を 独立行政法人労働者健康安全機構 中部労災病院 治療就労両立支援センター 中島英太郎 23 解説C メンタルヘルス不調者の両立支援 さまざまな変化がストレス要因になる高齢者 “いつもと違う”を見つけたら周囲から声がけを 独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院 治療就労両立支援センター 柴岡三智 27 企業事例 藤沢タクシー株式会社 31 両立支援相談窓口のご案内 1 リーダーズトーク No.68 株式会社ノジマ 取締役 兼 執行役 人事総務部 部長 田中義幸さん 80歳までの定年後再雇用契約を可能にしシニア層の豊富な経験や能力を活用 32 江戸から東京へ 第98回 改革への波乗りに成功 大田直次郎 作家 童門冬二 34 高齢者の職場探訪 北から、南から 第103回 宮城県 スモリ工業株式会社 38 新連載 高齢社員のための安全職場づくり 〔第1回〕 なぜいま、エイジフレンドリーな職場づくりが注目されているか 高木元也 42 知っておきたい労働法Q&A《第32回》 ハラスメントの処分とその公表 家永 勲 46 高齢社員の心理学 ―加齢で“こころ”はどう変わるのか― 【第2回】加齢にともない衰える記憶と維持される記憶 増本康平 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第8回 「諸手当」 吉岡利之 50 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 新潟・愛知会場開催レポート 54 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト募集案内 56 日本史にみる長寿食 vol.327 大根は台所の千両役者 永山久夫 57 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 高齢社員活用の最前線〜コンテスト表彰事例から探る〜 「令和2年度 高年齢者雇用開発フォーラム」トークセッションから 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第43回] 俳句を詠んで脳トレ 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」 60歳を超えて働くことがあたり前の時代となり、この4月からは70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となるなど、「高齢者雇用」においては、就労期間の延伸に対応していくことが求められます。その一つが、「治療と仕事の両立支援」。加齢とともに病気のリスクが高まっていくことを考えると、病気の治療と仕事を両立するための仕組みの整備が欠かせません。  そこで本稿では、特に加齢とともに発症リスクが高まる「がん」、「脳卒中」、「糖尿病」、「メンタルヘルス不調」の四つに焦点を当て、治療と仕事を両立していくためのポイントについて解説します。 【P7-10】 総論 高齢社員のための治療と仕事の両立支援 産業医科大学 両立支援科 診療科長 立石清一郎 わが国の高齢労働者を取り巻く現状  わが国の総人口は2019(令和元)年10月1日現在、1億2617万人で、65歳以上人口は、3589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28・4%となっています※1。高齢者は増加していますが、健康寿命も徐々に延伸し、ひと昔前と比較して明らかに元気な高齢者が増えてきています※2。15歳から64歳の労働生産人口が減少し、元気な高齢者が増えてくるということは、職場内にも高齢労働者がふつうにみられる社会になることを意味します。  年齢を重ねると自然と持病を持っている割合も増えてきます。65歳以上の高齢者の受療率※3は、男女を問わず、入院、外来ともにがん、心疾患、脳血管疾患が上位に位置づけられています(図表)。65歳〜69歳男性の入院総数は10万人あたり1618人に対し、75歳以上は10万人あたり4036人と倍以上の人数となっています。高齢労働者は病気という視点でみると脆弱(ぜいじゃく)性を有している可能性が高いといえます。しかしながら、その人にしかできない特別な技術を有している、粘り強く仕事を続けることができるといった強みもあるといわれています。高齢者の増加以外にも、治療技術の進歩から大病をした後の労働機能の低下があまりみられない患者が増加したことなどから、治療と仕事を両立したいと思う患者が増えてきている現状があります。 治療と仕事の両立支援を行う仕組みを構築・運用するうえでのポイント  治療と仕事の両立支援の最大の特徴は、「労働者からの申し出」を受けて配慮の内容を決めていくということです。つまり、@事業場と連携し勤務情報を収集し、A医療職(産業医・産業看護職など)に渡し、B主治医に医学的に必要な配慮の記載された意見書を作成してもらい、C事業者に配慮をお願いする、という一連の過程を労働者が自ら主体となって実施することが必要になります。左記に、労働者からの申し出を受ける際に注意すべき点を列挙します。 1 両立支援を行う目的を考えましょう  両立支援を行う目的が、事業者によっては事業場のリスク回避のために安全側に極端に寄っているため、事業者と労働者の意見が合わず対立構造になることがあります。両立支援はもともと超高齢社会に備えて、一億総活躍のかけ声のもと、働くことの困難性を感じている労働者が広く社会参画するための制度です。したがって、基本的には働く方法を検討するためのものになります。しかしながら、事業者の立場でいえば、病気のことはほとんどわからないので、どのように対応したらよいか見当がつかないことになると思います。そのために主治医から意見書をもらう枠組みになっています。主治医には、仕事の内容をしっかりと伝え、「就業継続のためのヒント」をもらうようにすると本来の目的に即した対応になります。決して、辞めさせるなどの不当な取扱いをするためのエビデンスの収集に主治医を利用しないようにしてください。 2 決めつけて押しつけがましい支援を行わないようにしましょう  「高齢者だから体力がないに決まっている」や「病気をしたから仕事をセーブしたいに決まっている」と決めつけることは望ましくありません。本人が配慮してほしいことを先に確認してから、支援を決定する必要があります。 3 労働者が申し出しやすい環境を整備しましょう  病気になった労働者は、ほかの人に迷惑をかけるのではないか、ほかの人に知られることで不利益に取り扱われるのではないか、といった自他に対する影響を心配するあまり、病気であることや配慮してほしいことを申し出しにくいことがあります。具体的な担当者を決めることや、両立支援を申し出たら配慮の内容を検討する流れがスタートするなど、両立支援の仕組みを明示することが必要です。 4 意思決定の支援を行いましょう  多くの労働者は急に大病を患(わずら)っただけでもたいへんな状況なので、職場や主治医から必要な情報を収集したり、問題点を整理したり、自分にしてほしい配慮事項を考えたり、そのときどきに応じた適切な対応を行うことは容易ではありません。したがって、そのプロセス全体を支援できるような制度設計をすることが必要になります。 5 具体的な配慮事項を検討しましょう  職場には、過去の前例や仕事の内容などによって、配慮できることとできないことがあります。その職場でできる配慮について、労働者は知らないことが多いです。そのため、労働者に仕事を与えている上司が、配慮の中身を具体的に一緒に考えることが必要です。したがって、基本的には元職に戻ることを前提にいったんは議論を行うことになります。元職で対応できない場合においては配置転換もあり得ますが、最初から配置転換ありきで議論すると論点がぼやけがちになり、職場側の一方的な配慮になるのみならず、不当な配置転換になることもあるので注意が必要です。どうしても病状がその職場で合わない場合に配置転換をすることを検討しましょう。 6 健康情報の取扱い方のルールを決めましょう  両立支援で取り扱われる健康情報は機微な情報です。したがって、不特定多数の目に触れるような取扱いは法令違反になります。健康情報の取扱いを担当する者の範囲を定めることが必要になります。一般的には、職場の医療職と衛生管理者などが該当します。就業配慮を実施する場合には、就業配慮の影響がおよぶ同僚に健康情報の一部を周知する必要があります。その際にも本人に周知することの同意をもらうことが肝要です。  これらのことを留意しながら実践できる仕組みを構築することが必要になります。 治療と仕事の両立支援を行ううえで利用できる制度  前述のような両立支援を実践するためには、職場内で利用できる制度を整理しておくことが必要になります。両立支援を実践するために有用な制度は次のようなものがあります。また、制度があっても職場の雰囲気で利用しづらくなっていることもよくあるので、制度のみならず運用面でしっかり使えるようにすることも大事です。 1 時間単位の年次有給休暇  例えば、放射線療法などは毎日治療を受けることが必要になりますが、毎回1時間程度で終了します。半日単位でしか休暇が取れない場合はその取得により、あっという間に休暇が足りなくなります。また、夕方から治療を受けることができる医療機関などもあり、早めに退社できると助かる労働者もいます。少し体調が悪いときなどの早退にも使えます。時間単位の年次有給休暇制度は、治療しながら就業するときに有用です。 2 病気休暇・病気休職(企業により名称が異なる)  多くの会社が有給休暇とは別に、病気をしたときに休むことができるよう備えている制度です。法令で定められたものではないので会社によって期間はまちまちです。労働者のなかには自分が何日休むことができるか知らない人も多いので、休暇届が出たタイミングで期間を伝えるといいでしょう。 3 時差出勤  満員電車で気分が悪くなる労働者もいますし、おなかの手術をした後はトイレの回数が頻回になります。また、休み明けはとにかく疲労しやすくなるものです。通勤による混雑の負担を避けるために時差出勤の制度は、特に都会に住む労働者にとっては有益になります。 4 短時間勤務  長期の休暇後は、多くの人が思っている以上に疲労がたまりやすいようです。特に復帰後数日は、家に帰ってすぐに倒れこむように眠る人などもいます。したがって、慣らし運転の意味で短時間勤務制度があるといいでしょう。短時間勤務制度の利用は、目的を明確にすることが重要です。場当たり的に対応し、漫然と短時間勤務が続くようなことは労使にとってあまりいい関係にならないことがあります。短時間勤務制度を利用する際には、両立支援(職場復帰)プランを作成し、計画的に段階的な職場復帰になるようにすることが一般的です。 5 在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)  新型コロナウイルス感染症により一般化した在宅勤務は、両立支援をするうえでもたいへん高い効果を示します。自宅や入院先で仕事をするケースなどが想定されます。自分のペースで仕事ができる在宅勤務は労働者にとって負担が減る一方で、労務管理がむずかしくなるという側面もあります。 押さえておきたい公的支援  また、企業以外が実施している制度を活用する方法もあります。 1 医療費軽減のための諸制度  がん治療などはとても高額になりますが、年収に応じて医療費の上限が定められています。しかしながら、手続きをしなければ初回治療時にいったん医療費の3割を支払う必要があります。最近の医療費は高額であるため数十万〜数百万円に及ぶこともあります。これを回避するために「限度額適用認定証」※4を利用すれば、初回から自己負担限度額ですみます。これらの情報を事前に知らせておくことで安心して治療に向かうことが可能になります。 2 傷病手当金の利用  病気で仕事ができない間、健康保険組合から支給を始めた日から1年半にわたり給与の3分の2程度が支払われます。傷病手当金については以下の3点に注意が必要です。 ●病気休暇中は会社から給料が出て、病気休職に入ったら健康保険組合から傷病手当金(後述)になる、といった制度の場合、労働者が知らずに傷病手当金をもらい損ねるケースもあります。 ●傷病手当金は休み始めてから4日が経過しないともらえません。病気に関することで、休まずに会社を辞めるとその後傷病手当金がもらえないことがあります。したがって、従業員が急に辞めるといっても、傷病手当金について説明することが重要です。 ●一つの疾病に対して使えるのは1回かぎりで初めて支給された日から1年半となります(社会的治癒がある場合を除く)。したがって、経過の長い疾患の場合、どのタイミングで利用するかというのはたいへん重要になります。 3 産業保健総合支援センターの活用  基本的には事業場からの相談を受けつけます。両立支援対策にくわしい産業医や保健師、社会保険労務士などの産業保健相談員や両立支援促進員が事業場からの相談に応じて対応できます。 4 がん相談支援センターの活用  基本的には患者からの相談を受けつけます。がん診療拠点病院に設置されており、当該病院以外の患者であっても相談を受けつけています。 5 人材確保等支援助成金の利用  中小企業が従業員の離職防止の環境整備を行ったり、実際に就業継続を行った場合などに支給される助成金で、ハローワークが窓口になっています。 6 ハローワークの活用  事業場の規模が小さく配慮転換余地が少ないなど、どうしてもその事業場では病状がマッチせず、仕事を準備できない場合などにおいては、ハローワークを紹介し再就職支援を行うことも支援の一つの方策としてあり得ます。 ※1 内閣府『令和2年版高齢社会白書』 ※2 内閣府『令和元年版高齢社会白書』 ※3 受療率……ある特定の日に、すべての医療施設に入院あるいは通院、または往診を受けた推計患者数と人口10万人との比率 ※4 限度額適用認定証……加入している健康保険組合などに、事前に申請することで交付される 図表 65歳以上の受療率(人口10万対比) 男 女 65歳以上 65〜69歳 70〜74歳 75歳以上 65歳以上 65〜69歳 70〜74歳 75歳以上 入院 総数 2786 1618 2110 4036 2881 1102 1568 4311 悪性新生物(がん) 395 282 385 483 203 146 182 240 高血圧性疾患 11 3 4 20 24 2 4 44 心疾患(高血圧性のものを除く) 152 69 99 244 163 23 53 279 脳血管疾患 398 190 277 621 434 100 162 714 外来 総数 10327 7821 10266 12169 10872 8761 11224 11741 悪性新生物(がん) 487 345 486 590 245 247 263 236 高血圧性疾患 1373 1014 1324 1661 1682 1093 1462 2062 心疾患(高血圧性のものを除く) 384 226 323 535 280 122 183 399 脳血管疾患 266 147 223 378 215 87 144 308 脊柱障害 975 549 963 1290 961 585 1030 1114 出典:内閣府『平成29年版高齢社会白書』 【P11-14】 解説1 がん患者の両立支援 2人に1人が「がん」に罹患する時代 診断・治療・復職の段階に応じた対応を 独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院 治療就労両立支援センター 加藤宏一(こういち) @はじめに  がんの発症は年齢とともに増加し、今は2人に1人ががんになる時代となっています。40代、50代からがんの発症は多くなりますが、女性では30代から乳がんや子宮がんの発症が多くなります。就労年齢が高齢化しているなか、これからがんの治療をしながら仕事を続ける方も増えていくと思われます。2018(平成30)年の診療報酬改定では、がん患者に対し、「療養・就労両立支援指導料」が新設され、医療機関での両立支援が推進されることとなりました。しかし、「がんの治療と仕事の両立」に関しては医療機関や事業場をはじめ、社会的な理解や環境整備がまだ追いついていないのが実状と思われます。 A「治療と仕事の両立支援」の周知  がんは生じる臓器や進行度により治療経過が異なり、内視鏡治療で治る早期胃がんや悪性化することの少ない前立腺がんなどは、発症後も発症前と同じような社会生活を続けることができます。がんの治療法は年々進歩し治療経過もよくなっており、「がんは不治の病」という昔のイメージではなくなっています。  自分ががんになる確率は半々という漠然とした認識を持っている方もいらっしゃいますが、実際にがんと診断されるとすぐに仕事を辞めてしまう方も多いのです。「60歳を過ぎて仕事がつらくなってきた」、「再雇用で以前とは違う仕事になっている」などという方に、病気というイベントが加わることで「仕事は辞めよう」と決めてしまう方がいます。しかし、がんと診断されたからといって、急いで仕事を辞める必要はありません。いまは手術治療が短期化されており、抗がん剤治療や放射線治療も外来通院での治療が主体となっているため、がんの治療と仕事の両立が可能となっています。  いったん離職すると再就職の条件は厳しくなり、治療継続には医療費も負担となります。体調も回復し時間もあるのに仕事がないことにもなりかねません。がんと診断されて急いで仕事を辞めてしまうことのないように、がんになる前の段階で「治療と仕事の両立」が可能なことを知っておくよう、社会への周知も重要です。 Bがんと診断されたら  がんと診断されたら今後の経過や治療内容とともに、家族や職場への負担も心配になると思われます。一人ひとり置かれている立場や状況は異なりますが、おそらく初めての大病でもあり、何から何までどうしていいかわからなくなると思います。経過や治療内容に関しては主治医に聞くことになりますが、経済的な不安や職場への報告の仕方、仕事はどれだけ続けられるかなど、自分一人では解決できない問題も出てきます。インターネット上には体験談やさまざまな情報があふれていますが、一人ひとり進行度や状況は異なります。医学的に根拠のない民間療法に誘導される危険もあります。  抗がん剤治療も高額になりますが、病院には経済的な相談をする部署もあり、メディカルソーシャルワーカーが対応してくれることが多いと思われます。社会資源の利用では、自己負担限度額を超えて支払った医療費の払い戻しができる「高額療養費制度」※1や、「限度額適用認定証」(10頁参照)の発行などがあります。また、休業中の「傷病手当金」(10頁参照)や医療費控除のほか、障害者手帳の対象となるかの確認も必要です。仕事に関する相談ができる窓口があるか、かかっている病院に確認するとよいでしょう。  職場での対応は、すでにがんになった方が働いている場合や両立支援に取り組んでいる場合はあまり問題ないと思われます。ただ、ほとんどの職場ではどのように対応していいか、どこまで仕事を任せていいか、判断に迷うと思われます。主治医の意見書に基づき復職プランがつくられることになりますが、例えば「復職可能、ただし軽作業にかぎる」というような診断書をもらっても困るだけです。治療の状況や就業継続の可否、職場での配慮事項などを含む診断書が必要です。そのためには勤務情報を主治医、医療機関側へ報告し、仕事の内容を情報共有する必要があります。通勤形態、シフト勤務か、立ち仕事か、高所や危険な場所での作業はあるか、出張の有無、運転の有無、休憩時間、通院のための休暇は確保できるかなどに加え、収入やローン、加入している保険など確認すべき事項は多くあります。  診断書・情報提供書については厚生労働省『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』※2、また労働者健康安全機構の『治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル』※3に様式例があります(参考1・2)。また、病気のことは個人情報となりますが、職場では病気の噂が広まりやすいため、情報の取扱いには十分留意する必要があります。 Cがんの治療法  がんの治療法には大きく分けて、手術、放射線治療、薬物療法の三つがあります。  手術はがんやがんのある臓器、または浸潤※4や転移している部位も含めた切除を行います。がんの範囲が小さく内視鏡で切除可能な場合は体への負担も軽くすみます。がんの浸潤や転移が広い場合は根治手術にならないこともあります。大腸がんで直腸を温存できない場合は人工肛門となります。また、乳がんでは切除側の腕を動かしにくくなることやリンパ浮腫が生じることがあります。  放射線治療は通常、月〜金曜日の5日間照射し、土〜日曜日の2日間休むことを多くて6週間くり返します。副作用は照射部位によっても違いますが、皮膚の熱感、ヒリヒリ感などやけどのような症状が生じることがあります。また、倦怠感や脱毛、下痢などが生じることもあります。  薬物療法は細胞障害性抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の投与、内服になります。それぞれのがん、進行度により治療法(プロトコール)が決められています。薬物療法では副作用が問題となります。細胞障害性抗がん剤では、嘔気(おうき)・嘔吐、下痢、食欲低下、口内炎、全身倦怠感、手足の痺れ、脱毛、色素沈着、貧血などが主な副作用です。ホルモン剤では、更年期障害のようなホットフラッシュ、イライラ感、抑うつ感、性器出血などが副作用として生じます。分子標的薬でも皮膚症状、肝機能障害、下痢などの副作用が生じえます。  現在、薬物療法は外来で行うことが多くなっていますが、それらの副作用は自宅や職場で対処することでもあります。あらかじめどのような副作用が起きやすいか、起きたらどう対処するかを主治医に確認しておく必要があります。がんの症状より副作用に悩まされる人も多く、副作用は治療継続とともに強くなっていくこともあります。  副作用は使用する薬剤によっても変わってきます。副作用の状況を見ながら、治療期間の変更や薬剤の変更が行われます。疲れやすく集中力も低下し、以前なら意識せずにできていたことができなくなっていることもあります。体力を考慮してデスクワークに変更になっても、手の痺れでパソコン操作自体がむずかしいということもあります。  がんによる症状、治療の副作用を周囲に理解してもらえないと一人で抱え込み落ち込むことになります。治療の副作用に関しても職場に説明し、理解してもらう必要があります。この説明に関しても職場側へ医療機関から書類で情報提供してもらうとよいでしょう。 D職場での考慮事項  復職は両立支援のゴールではなく、あくまでもスタートであり、たいへんなのは復職後です。「副作用の辛さがわかってもらえない」、「以前できたことがなかなかできない」、「疲れやすい」、「イライラする」、「周囲に負担をかけている」、「大事な仕事を任せてもらえない」などさまざまな問題や葛藤が生じてきます。復職後もメンタル的に落ち込むことを想定しておく必要があります。メンタルヘルスのスクリーニングやサポートも大事です。がんの治療成績だけを気にする時代ではなくなっています。  職場でもこれからがんの治療をしながら仕事を続ける人が増えてきます。技術を持った方、ベテランの方には長く勤めてもらいたいものと思います。それぞれの職場に合った「両立支援制度」をつくっていき、従業員にも治療をしながら仕事を続けられることを周知していく時期になっていると思われます。また、一度制度をつくってしまうと変更するのがむずかしくなります。がん患者は生じる臓器や進行度により症状、治療経過が異なりますので、休暇期間や作業内容については柔軟に対応できる制度にしておくことが望まれます。  東京労災病院(以下、当院)では、復職後も最低半年から1年間は両立支援コーディネーターがサポートを続けています。自分と職場だけでうまく仕事を調整できるという方がいる一方、仕事は可能なのに職場がなかなか認めてくれない、あるいは仕事の負担が大きく疲労とストレスが増えていると相談される方がいます。転職を希望される方もいますが、がんの治療という大きなライフイベントに向き合う時期は、慣れた環境、作業内容、人間関係で仕事を続けられるほうが悩みごとを増やさずにすむと思われます。 E東京労災病院における両立支援  当院では就業中の患者に対し、疾患に関係なく支援希望をうかがい「治療と仕事の両立支援」の介入をしています。がん患者に対しては労働者健康安全機構の両立支援モデル事業の中核病院であったため、早い時期から支援していました。当院でがん患者へ支援した事例の内訳では50代・60代男性の大腸がん、40代・50代女性の乳がんが多くみられました。また、がん患者支援者全体の復職率は78・3%でした。  当院には両立支援コーディネーターが8人おり充実していますが、ほとんどの医療機関ではメディカルソーシャルワーカーや看護師が兼任しているものと思われます。「治療と仕事の両立支援」は職場の状況や家庭環境そのものに関与するため、退院支援や転院調整以上に本人や家族とかかわることになります。  また、当院では2010年から毎年、「がんの治療と就労両立支援」市民公開講座を開催しています。11回目となる2020(令和2)年は「医療機関と企業との連携」をテーマとしました。両立支援の医療機関、企業への周知とお互いの連携が患者(労働者)のためには必要です。 Fコロナ禍のなかで  コロナ禍の不況で減給や解雇の不安が急速に現実的となっていることを医療現場でも実感しています。公的な支援に頼らざるを得ない方も増えています。生活様式も大きく変化し、仕事に関してもリモートワークの導入や直接人と会うことが減り、移動や会食も少なくなりました。さらに、働き方改革による就労時間の短縮やハラスメント対策の徹底など、数年前の働き方とは大きく変わっており、柔軟に適応していく必要があります。そして2人に1人ががんになる時代、がんの治療をしながら発症前の6〜7割の仕事しかこなせなくなったとしても、周りの人がサポートする体制が望まれます。  病気は、いつだれに起きるかわかりません。「がんの治療と仕事の両立支援」は、健康経営※5の大事なテーマとも思われます。がんの治療をしながら仕事を続けられることがあたり前の社会になることが望まれます。 ※1 高額療養費制度……医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1カ月で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度。上限額は、年齢や所得に応じて定められている ※2 『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』(2020年・厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000614130.pdf ※3 『 治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル』(2020年・労働者健康安全機構) https://www.johas.go.jp/ryoritsumodel/tabid/1013/Default.aspx ※4 浸潤……がん細胞が増殖するとともに隣接する器官に広がっていくこと ※5 健康経営……従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること(「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です) 参考1 勤務情報を主治医に提供する際の様式例 参考2 治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例(診断書と兼用) 出典:厚生労働省『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』(2020年) 【P15-18】 解説2 脳卒中患者の両立支援 同じ病気でも異なる症状が現れる「脳卒中」 専門家のアドバイスを受け、働き方の見直しを 独立行政法人労働者健康安全機構 中国労災病院 治療就労両立支援センター 豊田(とよた)章宏 @就労年齢の高齢化と脳卒中  2020(令和2)年のわが国の総人口はすでに減少傾向に向かっている反面、高齢者人口だけはしばらく増加し続けることが予測されています。  脳卒中は血管年齢に左右される病気で、その発症リスクには、年齢、性別(男性が約2倍)、喫煙の有無、肥満度、血圧、降圧剤(血圧降下薬)の服用、糖尿病の7項目が重要視されています。最近では高血圧のコントロールなどによって患者数は若干減少傾向ですが、それでも日本人のおよそ4・3人に1人が一生のうちに脳卒中を発症するといわれています。  発症リスクのうち、年齢と性別は努力してどうにかなるものではありません。患者数は特に50代以降は加速度が増しますから(図表1)、就労年齢の高齢化が進む現在、脳卒中対策は健康経営や両立支援といった観点で非常に重要といえます。 A健康経営の観点から  脳卒中予防(再発予防を含めて)のためにできることは、禁煙・肥満対策・高血圧対策・糖尿病対策ということになります。  降圧剤の調整や血糖測定は医療機関に委ねますが、職場でもできることがあります。それは、職場内禁煙・体重測定・血圧測定、そして運動です。最近多くの職場で禁煙が実践されていますが、喫煙は脳卒中だけでなく、心疾患やがんでも重要なリスクです。受動喫煙を避ける意味でも重要ですので、ぜひとも推進していただきたいと思います。  体重測定と血圧測定については、例えば食堂や休憩室などに体重計や血圧計を置くことは可能ではないでしょうか。コントロールの基本は評価・測定です。毎日測る習慣がつくだけでも予防効果は大きいと思います。運動については、休憩時間に体操の場内放送や動画を映すなど、インストラクターが各部署を回って運動指導している職場も見受けられます。 B両立支援の観点から ■両立支援のための職場環境整備  脳卒中は患者数が多い疾患とはいえ、両立支援を経験したことがない職場も多いと思います。どの疾患でもそうなのですが、成功経験があると受け入れやすいものですが、未体験の場合には否定的になりがちです。がんも脳卒中も高齢化で一気に増加します。どちらも数人に1人の割合ですから、実はあなたが知らないだけで、職場には申告しないで治療している従業員もきっといると思われます。軽症の場合はそれですむかもしれませんが、通常はまとまった休みも必要になり、金銭面の心配もあります。新型コロナウイルス感染症でも同じことですが、いつ何時自分も罹(かか)るかも知れないのが実状です。そのため、まずは元気なときから「他人ごとではない、明日はわが身」と、病気になったときのことを考えておくことが大切です。そのとき、職場では一体何ができるでしょうか? そんなときに相談できる窓口と担当者は明確になっていますか? 何でも相談できる上司に恵まれている労働者ばかりではありません。いきなり人事課に行くのはもっとためらいがあるでしょう。産業医や産業保健スタッフは選任されていますか? 存在したとしても実際に相談できる状況にありますか? 罹患労働者がまず困っているのはこの相談窓口です。「うちの職場ではいえる雰囲気ではない」や「とうてい理解してもらえない」といった声はよく聞かれます。両立支援は労働者の申し出があって始まるとされています。しかし、このようなためらいや諦(あきら)めがあったのでは申し出さえもできません。  次に職場で可能な具体的な配慮について整理してみましょう。脳卒中による神経症状の主なものは、手足の運動麻痺(片麻痺、49・3%)、呂律(ろれつ)が回らない(構音障害、23・5%)、意識障害(20・1%)、言葉の理解や発語ができない(失語、17・4%)、空間の半分が認識できない(半側無視※1、14・1%)、感覚障害(7・0%)などの順に多いようです(図表2)。  これらの症状は発症から概(おおむ)ね6カ月間は回復していきますが、それを過ぎると後遺症として残ることがほとんどです。したがって重度の後遺症が残る場合には、治療とリハビリテーションのため最長半年間の入院とその後の自宅療養を経て職場復帰を考えるというパターンになります。年次有給休暇だけではカバーできませんが、御社には病気休業制度はありますか? 復職する際に利用可能な制度としては、時間単位の年次有給休暇、時差出勤、時短勤務、在宅勤務、試し出勤制度などがあるのかどうか、就業規則を確認しておく必要があります。 ■両立支援コーディネーターと支援方法  治療中であれば、両立支援の希望はむしろ医療機関で最初に聞かれる場合が多いのですが、医療機関もまた職場のことには不慣れです。ついつい「まずは病気の治療が優先でしょう。両立は治ってから考えたらどうですか」といったことになりがちです。そこで、医療側にも両立支援を普及させる目的で両立支援コーディネーターが養成され、多くの医療機関に配置されつつあります。そして支援に対する新たな診療報酬も設けられました。両立支援の流れは、コーディネーターが罹患労働者の希望、仕事内容、置かれている環境などについて、労働者自身がきちんと整理して主治医に伝えられるように支援し、医師にはそれに見合った治療計画や療養上の留意事項について考えてもらい、職場にはその情報を共有してお互いに無理のない持続可能な配慮を一緒に考えてもらうというものです。このやりとりは厚生労働省から出された『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』(13頁参照)に書かれていますし、『企業・医療機関連携マニュアル』※2には、いくつかの代表的な事例を用いて、両立支援プラン・職場復帰プランの具体例が記されています。  現在、労働者健康安全機構では、両立支援のさらなる充実に向け、両立支援コーディネーターの養成研修を行っています。2020年末までに7千人程度の受講修了者が誕生する予定ですが、まだまだ十分ではありません。これまでの受講者は医療機関、事業場、公的機関その他に所属される方が約3分の1ずつでしたので、将来的に各立場のコーディネーター同士の連携が進めば、産業保健分野と協力して両立支援の輪が広がるのではないかと期待しています。  職場で労働者からの申し出があったときは、まずその方の業務内容とご本人がどう働きたいかを一緒に確認してください。聞き慣れない病名や症状や障害もあるでしょう。どうしたらいいかわからないときは、まず先入観を捨ててください。思い込みや誤解を避けて、どんな配慮が有効かを考えるうえで一番よい方法は、ご本人と一緒に医療機関で三者面談を行うことです。それがなかなかむずかしい場合でも、労働者の同意を得たうえで、情報共有のためにコーディネーターを上手に役立ててください。コーディネーターは罹患労働者の代理人ではありませんが、本人の考えを一緒に整理して前進していくための後押しをするサポーターです。  脳卒中とは脳の血管に破綻が生じた結果、その流域の脳組織に障害が生じ症状が出ます。その血管の病態によって大きく「脳梗塞」、「脳内出血」、「くも膜下出血」に分けられますが、原因はどうあれ脳のどの部位がどれだけ損傷したかによって症状は変わってきます。診断書上は同じ脳梗塞という病名でも、人によって症状は異なるのです。したがって、病名だけでなく、本人が何に困っているのか、リハビリテーションスタッフの見解はどうかなど、総合的な情報収集が配慮を考えるうえで有効となります。後遺症の種類にもよりますが、例えば運動障害が残る場合などは、ラッシュ時の通勤を避けるための時差出勤制度が使えるのかどうか、職場内の階段や段差の状況はバリアフリーに対応できる状況かどうか、職場内の動線はどうか、トイレは障害者でも使えるタイプかなどを確認しておくべきでしょう。感覚障害が残る場合には火傷やケガへの注意だけでなく、温度や湿度といった室内環境も体調に影響する場合があります。めまいやふらつきが残る場合、高所作業などはむずかしいかも知れません。半側無視や失認※3・失行※4といった高次脳機能障害が残る場合には作業そのものが困難なこともあるでしょう。一方で「この作業に気をつければできる」とか「注意をうながせばできる」といった対処法がある場合もあります。ぜひとも両立支援コーディネーターを介してさまざまな専門職のアドバイスを聞いてみてください。  大切な従業員が病気になっても職場に戻って来ることができる、これは職場全体のモチベーションにも繋(つな)がることと思います。ある製造技術者の方は、病気になるまでは「自分の技術は見て盗め」と後輩の指導にはあまり熱心でなかったといいます。しかし、病気になって復職できたとき、元通りのパフォーマンスは出せないけれど、自分の会得した技術やコツを若いスタッフに伝授するようになったそうです。「自分の得てきたものを残したい」、「迎えてくれた会社にも恩返しをしたい」、そこにはそう思える自分がいたそうです。職場の雰囲気がよくなったことはいうまでもありません。 C両立支援と働き方改革  わが国の脳卒中後の復職率は40〜50%前後といわれてきました。働き方改革の影響もあるかも知れませんが、両立支援コーディネーターの介入を始めてから脳卒中後の復職率は70%以上にまで向上しています。しかし、復職後にすぐ離職してしまうのではなく、定着できるることこそ意味があります。われわれは復職から1年間フォローしており、3カ月以内に離職した人が10%いましたが、6カ月以上勤務している人は83%で、うち1年以上継続して勤務している人が65%でした。それでは両立支援コーディネーターは魔法使いのような存在なのでしょうか。  そもそも就労年齢の脳卒中患者の50%はほぼ元通りに、日常生活が自立するまでに回復する人を含めると約70%に達するといわれています。つまり、私は両立支援コーディネーターが介入することで、受入側の理解が得られ、働き方の見直しができたことから本来働けるレベルの方が復職できたのだろうと考えています。  しかし、どうしても元の職場に戻れないケースもあります。その場合、職業リハビリテーション分野では、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業センターなどの施設があり、職業訓練などの就労支援を受けて新規就労を目ざす方法もありますし、障害者手帳が交付された場合には障害者枠での雇用という選択もあります。雇用契約が終了した場合、職場にそこまでの面倒をみる義務はないかも知れませんが、大切な仲間にそういった方法もあるということ、またハローワークや両立支援コーディネーターが相談にのることができるということをお伝えいただければと思います。男性も女性も若年者も高齢者も障害者も、すべての人がともに生活できることが「あたり前」である社会を目ざすこと、それこそがわが国の目ざす共生社会なのです。 ※1 半側無視……視力は問題ないにもかかわらず、視界の半分を認識できなくなること ※2 「企業・医療機関連携マニュアル」……https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000609405.pdf ※3 失認……目や耳など感覚器官に異常はないにもかかわらず、対象物を認知できないこと ※4 失行……手や足など運動器の異常はないにもかかわらず、動作を行う機能が低下すること 図表1 脳卒中の発症頻度 @脳血管疾患の患者数は約111.5万人(男性約55.6万人、女性約55.8万人)と推計 Aそのうち約16%(約17.8万人)が就労世代(15〜64歳) B年齢とともに患者数は急増 性別・年齢階級別 脳血管疾患患者数(推計) 出典:厚生労働省「平成29年患者調査」 図表2 脳卒中の神経症状発症頻度 片麻痺 49.3% 構音障害 23.5% 意識障害 20.1% 失語 17.4% 半側無視 14.1% 感覚障害 7.0% 頭痛 6.8% 歩行障害 4.6% 嘔気嘔吐 4.5% めまい 3.9% 運動失調 3.1% 注視麻痺 2.8% 半盲 2.3% 嚥下障害 2.2% 痙攣 0.6% 失認失行 0.6% 精神症状 0.3% 出典:中山書店『脳卒中データバンク2015』より 【P19-22】 解説3 糖尿病患者の両立支援 糖尿病≠生活習慣病 理解を深め治療継続への配慮を 独立行政法人労働者健康安全機構 中部労災病院 治療就労両立支援センター 中島英太郎 @糖尿病は本当に「生活習慣病」でしょうか?  みなさん、「糖尿病患者」と聞いてどのようなイメージをされるでしょうか。暴飲暴食したうえで運動もせずゴロゴロして太っている方を思い浮かべることが多いのではないでしょうか。そして糖尿病は「生活習慣病」と呼ばれています。でもこれは多分に誤解なのです。こういった悪い生活習慣は糖尿病を悪化させるのはたしかですが、決して生活習慣が悪いことのみに起因して糖尿病に罹(かか)ってしまうわけではありません。実は持って生まれた「体質」がとても大きく関係していることがわかってきています(2型糖尿病の場合半分くらい)。暴飲暴食して太っても、「体質」がなく糖尿病にならない方もいます。また1型糖尿病という特殊な糖尿病は、関節リウマチのような自己免疫疾患であって、発症に生活習慣はまったく関係がありません。この場合、運が悪かったとしかいいようがないのです。  糖尿病=高血糖自体は個々の労働者の業務遂行能力に直接影響を与えることは一般的にありませんが、慢性的な高血糖状態は将来深刻な糖尿病慢性合併症へ進展し、視力障害や人工透析などが業務遂行能力に悪影響をおよぼして、就業の継続や復職をむずかしくします。  また、この高血糖の代謝失調は血糖正常化した後も、長期に渡り悪影響が残ることが知られています。慢性合併症は、良好な血糖管理を維持できれば予防可能であり、より早期からの継続治療が大切です。就労糖尿病患者が真摯に治療に取り組むためには、治療と仕事との両立が円滑に行われていることも重要です。 A糖尿病患者に望ましい職場での両立支援  最近、高齢化と就業年齢の上昇にともない、糖尿病の治療を受けながら働く高齢の就労者が増えています。しかし多忙を理由に糖尿病治療を自己中断してしまい、糖尿病合併症の進行を招き、失明、人工透析、下肢切断になる方がいます。この自己中断の対策に、患者の職場側の役割が期待されています。治療チームの一員として職場の方も参加いただき、主治医とともに就労糖尿病患者を支援していく仕組みが望まれます。  われわれのアンケート調査※1によれば、糖尿病患者が仕事と治療の両立上、職場で必要と感じている支援は、@治療法、体調などに応じた柔軟な勤務体制、A治療・通院目的の休暇・休業制度、B休暇制度を利用しやすい社内風土の醸成、があげられています。  糖尿病の治療を中断させないためには、定期通院に対する配慮が極めて重要で、特に「時間単位の年次有給休暇」や「傷病休暇・病気休暇」といった休暇制度は有用と考えられます。それぞれむずかしい点があると思われますが、まず時間単位休暇の制度などから取り組んでいただければと考えます。  糖尿病のある労働者への安全配慮と継続的な治療のために、場合によっては就業上の措置や職場環境の整備・改善が必要となります。就労糖尿病患者が働きやすい職場づくりのためには、上司や同僚に正しい知識を理解してもらう必要があり、産業保健スタッフによる研修、広報、情報提供も重要です。このような健康経営的な活動は就労糖尿病患者の働く意欲を高め、ひいては労働生産性の向上につながり、企業においても人材の募集時や貴重な人材の喪失を防ぐなど大きなメリットとなるのではないでしょうか。 Bそもそも「糖尿病」とは?  WHO(世界保健機関)により、糖尿病は「インスリン分泌不全やインスリン抵抗性による、インスリンの作用不足により慢性的な高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されています。  インスリン作用とは、インスリンが体の組織で代謝調節機能を発揮することをいいます。適切なインスリンの供給と組織の必要度のバランスがとれていれば、血糖を含む代謝全体が正常に保たれますが、インスリン分泌不足、またはインスリン抵抗性増大はインスリン作用不足をきたすため、血糖値は上昇します。糖尿病には、大まかにいって自己免疫異常によりインスリン分泌不足となる1型糖尿病と、遺伝的因子や、過食・運動不足・肥満・ストレスなどの環境因子および加齢が原因の2型糖尿病があります。 C糖尿病の症状と合併症  口渇(こうかつ)、多飲、多尿、全身倦怠感、体重減少、空腹感、疲れやすさなどの症状が生じます。1型糖尿病などで急性の代謝失調状態となると意識混濁、昏睡のほか、死のリスクまであります。また長年の高血糖状態が続くと慢性合併症が併発し、その症状も出現します。  合併症には、急性のものと慢性のものがあります。急性合併症には低血糖症、異常な高血糖による昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖性昏睡)などがあり、慢性合併症には視力障害や失明、腎不全での血液透析導入、糖尿病性神経障害や足壊疽(えそ)による下肢切断などがあります。また心筋梗塞、脳梗塞など動脈硬化症の発症リスクが2〜3倍程度増加します。 D糖尿病の治療  食事療法と運動療法は、糖尿病治療の基本となります。それでも高血糖が改善されない場合は薬物療法を追加します。病態に応じて選択され、多くで併用療法も行われますが、患者の勤務に配慮した薬物選択も重要となります。  内服薬と注射薬があり、インスリン自己注射療法では、患者の状態に合わせ1日に1〜4回の自己注射を行います。血糖を下げる効果は非常に高く有用ですが、食事と運動量とのバランスが崩れると、低血糖や高血糖のリスクが生じます。一般に高齢患者さんほど低血糖リスクの低い薬剤が選択されます。 E就労上、糖尿病患者で特に注意を要する低血糖  薬物療法を行っている糖尿病患者にとって、たいへん大きな問題が薬剤性低血糖です。主にインスリン製剤の自己注射療法やスルホニル尿素薬など、インスリン分泌刺激系の内服薬を使用している場合に多く発症します。血糖値の程度によって、冷や汗、手指の震え、動悸、異常な空腹感、意識レベルの低下などの症状が出現しますが、個人差もたいへん大きいです。多くの場合は軽度であり、10〜20gの糖分摂取によりご自身のみで対応できます。  職場で特に注意を要するのは無自覚性低血糖症で、長期間の糖尿病罹病歴があり自律神経障害が進行していたり、頻回の低血糖をくり返すことにより低血糖に“慣れ”てしまったりした場合に、かなりの低い血糖値でも前駆の自覚症状が出にくくなり、突然意識を失って倒れ救急搬送が必要となることがあります。このような方はリスクをともなうため運転業務や危険作業従事は絶対に避けるべきです。治療の最適化や生活・仕事のリズムの適正化により無自覚性低血糖を未然に防ぐことが可能です。 F高齢者における低血糖症の特徴  高齢の糖尿病患者では、加齢による腎機能や肝機能の低下のため薬剤性低血糖が生じやすく、低血糖に対する気づきも鈍くなり対応が遅れがちです。周囲の目があると安心ですし、常時ブドウ糖を携行、常備しておくことが重要です。また異常を感じたときは、ただちに血糖測定が必要なため、自己血糖測定機器の携行も必要です。運転前の自己血糖測定も望まれます。 G職場もチーム医療の一員へ両立支援手帳の活用  仕事と治療の両立支援には職場のスタッフも患者の治療にチームの一員として参加してもらう職域連携(図表1)が重要と思われます。当院では新たに「就労と糖尿病治療両立支援手帳」(図表2)を作成し、医療者側から患者を通して職場にアプローチし情報共有を図り、治療成績向上や通院継続支援を行っています。手帳の交換相手は患者の上司であることが多いですが、反応としては好意的なものが想定以上に多く得られています。またこの支援活動によりHbA1c値※2や体重が有意差をもって低下し、臨床的データの改善もみられました(文献2)。  2018(平成30)年4月には、就労がん患者の主治医と産業医間で提携して治療方針の見直しを行うことに対して、新規で診療報酬上の保険点数がつきました(療養・就労両立支援指導料1000点+相談体制充実加算500点、ただし6カ月に1回)。また2020(令和2)年度より、脳卒中、肝疾患、難病などについても保険適用されました。しかしながら糖尿病患者に対する公的な仕事と治療の両立支援対策は、保険診療化を含めまだ行われていません。今後の対応が望まれます。 H糖尿病での両立支援上の障害としてのStigma(烙印)  職場との連携でしばしば障害となるのは、一般の方が糖尿病に対して「糖尿病は生活習慣病であり、本人の生活習慣の乱れの結果であり自己責任である」と思われていることです。先に述べた通り、免疫異常である1型糖尿病もひとくくりとされ、また2型糖尿病の発症には遺伝素因が大きくかかわっていることは一般には認識されていません。非専門の医療者の間でさえ同様な認識があります。  この問題はアメリカ糖尿病学会では「Stigma(スティグマ)(烙印)」として取り上げており、標準治療のガイドラインで一章を使っています。否定的な先入観あるいは偏見が職場での無理解につながり、仕事と糖尿病治療の両立支援のうえで障害となります。極端な例ではインスリン自己注射療法中の1型糖尿病患者でも、失職や昇進の遅れなどを危惧して職場の上司や同僚に隠していることがあり、低血糖時の対応の遅れを生じることもあります。このような状況では両立支援自体が困難です。支援活動と同時に啓発を行いながら、一般社会での認識を改善していくこと(患者の擁護=advocacy(アドボカシー))もたいへん重要なことと思われます。日本糖尿病学会および日本糖尿病協会もアドボカシー委員会を設立(2020年11月)したところで、今後の啓発活動が期待されます。 Iおわりに  最近、定年後再雇用の促進や定年年齢の引上げと糖尿病患者の増加が相まって、糖尿病の治療を受けながら働く方が増えています。現在、労働者健康安全機構は、医師−患者−企業連携を推進し就労患者の両立支援を行うための連携ツールとして両立支援手帳を作成し、治療就労両立支援事業を実施しています。将来の就労糖尿病患者の治療成績向上と治療継続による慢性合併症発症と進展予防に寄与できればと考えています。  高齢の糖尿病患者は、罹病歴が長く慢性合併症が進行している場合が多いこと、年齢による臓器の機能低下のため、薬剤性低血糖に対しより脆弱(ぜいじゃく)になるなど、特有の特徴があります。よりきめ細やかな配慮をしていただけましたら幸いです。また、糖尿病患者に対する支援はがんとは異なり、復職よりも治療継続に重点が置かれます。両立支援活動が広まり、こういった配慮があたり前のように行われることを期待しています。 【参考文献】 1.中島英太郎:労災疾病等13分野医学研究・開発、普及事業「勤労者の罹患率の高い疾病の治療と職業の両立支援」.就労と治療の両立・職場復帰支援(糖尿病)の研究・開発、普及プロジェクト結果:http://www.research.johas.go.jp/booklet/pdf/2nd_digest/12-2.pdf 2.中島英太郎、大森恵子、渡会敦子、ほか:労災病院での治療と就労両立支援モデル事業の取組とアウトカム、糖尿病、61:suppl 1,S377,2018 ※1 N=901、労災疾病等13分野医学研究・開発、普及事業「勤労者の罹患率の高い疾病の治療と職業の両立支援」就労と治療の両立・職場復帰支援(糖尿病)の研究・開発、普及プロジェクト、平成21−25年度(文献1) ※2 HbA1c値……糖化ヘモグロビンの割合を示す数値。血糖値が高いほどこの数値が高くなる 図表1 望ましい患者・主治医・企業の関係 患者・主治医・企業の関係(目標) 就労と治療の両立 患者 (従業員) HbA1c判定基準 健診後のフォロー 受診継続勧奨 良好な血糖管理 合併症発症進展抑制 治療中断の抑制 医療機関 (主治医) 治療反応性 自覚症状訴え 職場での問題点 治療法変更 就業制限、職場異動 企業 産業医 看護師・保健師 安全管理者 通院状況報告 血糖管理状況報告 糖尿病状況報告 糖尿病啓発 職場環境整備 ※筆者作成 図表2 就労と糖尿病治療両立支援手帳(医療機関向け) ※中部労災病院糖尿病・内分泌内科で作成 【P23-26】 解説4 メンタルヘルス不調者の両立支援 さまざまな変化がストレス要因になる高齢者 いつもと違う≠見つけたら周囲から声がけを 独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院 治療就労両立支援センター 柴岡三智(みち) @加齢による器質的・心理的変化  ここでは、加齢による脳の変化や心理的変化、気をつけるべき精神疾患とその両立支援について述べさせていただきます。  脳の重量は20代にピークを迎え、40代から減少をはじめ、60代以降には脳重量の減少速度はさらに増加するといわれており、100歳になると健常者でもピーク時の約20%減少するといわれています。しかし、脳の変化は、必ずしも認知症と結びつくわけではありません。  正常の老化では、知能は全般的に低下すると考えられます。ただし、一律に低下するわけではありません。例えば、「流動性知能」と呼ばれる情報を処理するスピードなどは、中年期以降高齢になるにともない低下してきます。一方、「結晶性知能」と呼ばれる、知識、語彙(ごい)力、一般常識など(「〇〇の作者はだれか」、「税金を払わなくてはいけないのはどうしてか」など)は一定程度維持されるようです。高齢の熟練者が、専門分野で高いパフォーマンスを発揮することは企業側でも実感できていると思います。高齢者は、経験で積み上げてきた「結晶性知能」で、「流動性知能」の低下を補ってパフォーマンスを発揮していると考えられます。  「記憶」は、加齢によりもっとも大きく変化するといわれています。未来に行うべきこと(「今日傘を持っていこう」など)を適切に思い出す「展望記憶」、体験した事柄は覚えているけれど、それがいつどこでだれから教わったかという「出典記憶」、過去に体験した事柄の順番を覚えておく「時間順序記憶」などは、老化によって影響を受けやすいといわれています。  また、高齢者は抽象的な題材に関してはスピードが保たれ、類推する能力には、長けており、論理的に考えていくよりも「印象」、「直感」によって判断することが多くなってくると考えられます。総合的な能力としての知能の変化は、複数の要因が複雑に関係し合って起こっているため、一面だけを取り出して判断するのは避けた方がよいでしょう。 A高齢者のメンタルに影響を与える要素 ■高齢者とのコミュニケーション  高齢者には、理詰めで説明するよりも、エピソードをまじえてイメージが湧くような話し方が理解されやすく、効果的であると考えられます。  高齢者のコミュニケーションは、話題の寄り道・脱線が増えてきます。本人は「言葉がのどまで出かかっているのに出てこない」などという形で体験されます。こういう場合には、周囲は話をせかすことなく、話がそれた場合に穏やかに軌道修正し、ゆっくり話を聞きましょう。こちらから話しかける場合には、いいたいことの要点をしぼり、ゆっくり話すようにしましょう。  また、次々と違う話題について話しかけないようにしましょう。一方、「高齢者だから」聞こえづらいだろう、認知機能が低下しているだろうと決めつけて、画一的な対応をすることもコミュニケーションのギャップにつながりますので、相手の状況をよく把握するようにしましょう。 ■ライフイベント  高齢者は多くの喪失体験を経験するといわれています。よくないライフイベントとは、家族や友人など重大な他者(ペットを含む)との死別、役割や収入の変化、自分や家族が健康を害することなどです。家族が健康を害することで、介護の必要が出てくるかもしれません。  よいイベントとしては、孫など家族が増える、仕事での昇進などです。歳を重ねるにつれ、高齢者にはよくないライフイベント体験が相対的に増え、それが生活環境の変化を引き起こし、心理的なストレスになることが懸念されます。 ■身体機能の変化  加齢にともない、聴力や視力などの感覚器の機能も低下してきます。高齢者では一般的に、低音よりも高音性の難聴がみられるといわれています。何度も聞き返すことを遠慮してコミュニケーションを取らなくなってしまったり、周りが話していることが聞き取りづらいと自分が悪くいわれているかもしれないと思ってしまったりすることが懸念されます。業務上の指示は、読みやすい大きさの字で書面にし、口頭で説明を加えることが望ましいと考えられます。 B高齢者の精神疾患とは  精神疾患は通常、社会的、職業的、またはほかの重要な活動における著しい苦痛または機能低下と関連するといわれています。嫌なことがあると一時的に気分が落ち込んだり、眠れなくなったり、不安になったり、やる気を失ったりすることは、だれしも経験があることだと思います。しかし、その落ち込みや不眠、不安、意欲の低下などが、普段よりも強く何日も継続し、社会生活に影響が及んだ場合は精神疾患が疑われます。  精神疾患発症の原因の一つとして、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)のバランスが悪くなることがあげられています。生まれつきの体質の「生物学的な要因」だけで決まるわけではなく、他人に褒められたときに嬉しいと感じるか、または裏があるのではと否定的に感じるかといった物事のとらえ方の特徴である「心理的要因」、また人間関係の問題や環境の変化といった「社会環境の要因」が複雑に絡んで発症するといわれています。  精神疾患の外来患者数は年々増加傾向にあります(図表1)。だれでもかかる可能性があり、治療すると回復する病気です。身体疾患と同様に、早期発見と早期治療が予後を良好にするために重要です。  高齢者で注意すべき精神疾患は、「認知症」、「うつ病」などです。脳血管障害などの身体疾患に合併するものも増加してきます。複数の疾患を合併することで、内服可能な薬が制限されることもあります。  認知症は、一度正常に達した認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をさします。感情や意欲、性格に変化をもたらすこともあります。2014(平成26)年『日本における認知症の高齢者人口の将来設計に関する研究』(厚生労働科学研究補助金厚生労働科学特別研究事業)によると、2012年は認知症患者数が462万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15・0%)でした。これは、今後増加していくと見込まれています。認知症のなかで代表的なものは、「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、「レビー小体型認知症」です。認知症の症状は徐々に進行していくと考えられます。就労可能な状態であれば、まず本人ができることを確認し、それが維持できるような環境を整えることを検討します。なるべく定常作業を行わせる、本人もメモを取るなどして忘れないように工夫を行い、主治医にはどのような配慮が必要なのかを確認しましょう。  うつ病は、@抑うつ気分と、A興味・喜びの喪失のいずれかの一つに加え、食欲低下、睡眠障害、焦燥感、疲労感などが認められる疾患です。高齢者のうつ病は、抑うつ気分よりも疲れやすさ、頭痛、肩こりなど身体の不調を訴える傾向があります。認知症との区別がむずかしい場合もあります。休業が必要な場合もありますが、軽症の場合は内服治療を行いながら仕事を続けることが可能です。一般的に高齢者は、再発のリスクが高いことから、寛解後(症状がよくなった後)も長期に内服治療が必要とされます。薬の副作用で、ふらつき、眠気などが出る場合もあります。主治医と連携し、気をつけるべき業務内容を確認しましょう。 Cメンタルヘルス不調者の両立支援  「病名が何か」(疾病性)よりも「この人が治療と仕事を両立させるにあたっての問題点は何か」、「職場では何が問題か」(事例性)ということを念頭において支援を行いましょう。高齢者とそのほかの年齢層で両立支援自体に大きな違いはありませんが、高齢者の場合、家族などの支援者が少ない、もしくは遠方にいて実際に協力してもらうのがむずかしいなどが考えられます。2018年の『労働安全衛生調査(厚生労働省)』によると、ほかの年齢層に比べ、60歳以上の方がストレスを相談できる人がいる割合が少なくなっています(図表2)。職場では、プライバシーに配慮しつつ、不調をきたす前に積極的に声をかけるようにしましょう。主治医に職場でできる具体的な支援についてアドバイスをもらったり、高齢者がアクセスしやすい相談窓口を設けたりするのもよいでしょう。服薬アドヒアランス(薬の必要性を理解して、適切に内服を行うこと)が低下することも懸念されます。同居家族がいない場合は、上司や同僚が本人の不調に一番早く気がつくことがあります。何らかの治療を受けている人がいたら、薬の飲み忘れがないか、定期的な通院を行っているか、いつもの様子と違っていないかどうか、違っていたらひとこと声かけを行うなど配慮を行いましょう。  今後、テレワークが増えていくとすると、機器に慣れることや通信トラブルに対応するスキルが必要となります。ちょっと立ち話をするといった雑談が減り、コミュニケーションが不足していくことも考えられます。自宅で適切なVDT※1作業が行われず、肩こりや眼精疲労を悪化させる可能性もあります。その一方、通勤の負担が減ることは高齢者にとってよいことでもあります。さまざまなツールを利用し、働きやすい環境を整えることが大切です。  両立支援で困ったことがある場合には、両立支援コーディネーターを活用する、産業保健総合支援センター、保健所、市町村保健センター、精神保健福祉センターなどに相談するとよいでしょう。 Dおわりに  認知機能低下や身体機能低下はだれにでも訪れることです。認知機能が低下しても、すぐに働けなくなるということではありません。「つまずきやすいものは排除する」、「作業や注意事項はわかりやすく掲示する」ことは、全員が働きやすい環境整備につながります。今後高齢者の就業が増えていくことを機に、お互いを尊重し、安全で安心できる環境とはどういったものか、検討するよい機会であるともいえます。  そして、いまはご自身が高齢者でなくても、健康に留意し、日ごろから生活習慣を整えておくようにしましょう。運動も大事ですし、趣味なども継続して、仕事や家庭以外の居場所を見つけておき、ストレス解消を上手に行いましょう。新型コロナウイルス感染症拡大にともない、外出などの気分転換がしづらい状況にあります。家のなかでできること、1人でできることなどを見つけておきましょう。社員教育に身体機能、認知機能、メンタルヘルス、ストレスコーピング※2についての知識を盛り込むことも有用と思われます。  「高齢者」という一面だけに注目して対応せず、個々の事情に配慮した支援が望まれます。 【参考文献】 『高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン』厚生労働省 『高齢者のうつの基礎知識』厚生労働省 『認知症診療医テキスト』日本精神神経学会 『よくわかる高齢者心理学』佐藤眞一/権藤恭之 ミネルヴァ書房 『両立支援コーディネーターマニュアル』労働者健康安全機構 ※1 VDT……Visual Display Terminalsの略。パソコンなどのディスプレイを持つ画面表示装置のこと ※2 ストレスコーピング……ストレスの基にうまく対処しようとすること 図表1 精神疾患を有する外来患者数の推移(年齢階級別内訳) 平成14 不詳 0.5万人 75歳〜 28.5万人 65〜74歳 32.0万人 55〜64歳 33.8万人 45〜54歳 36.8万人 35〜44歳 34.2万人 25〜34歳 34.9万人 0〜24歳 22.8万人 合計 223.9万人 平成17 不詳 0.5万人 75歳〜 40.6万人 65〜74歳 36.0万人 55〜64歳 39.7万人 45〜54歳 37.7万人 35〜44歳 46.2万人 25〜34歳 39.5万人 0〜24歳 27.2万人 合計 267.5万人 平成20 不詳 0.6万人 75歳〜 51.4万人 65〜74歳 39.9万人 55〜64歳 43.3万人 45〜54歳 41.6万人 35〜44歳 50.0万人 25〜34歳 35.8万人 0〜24歳 27.7万人 合計 290.0万人 平成23 不詳 1.0万人 75歳〜 64.2万人 65〜74歳 33.3万人 55〜64歳 37.8万人 45〜54歳 40.2万人 35〜44歳 50.4万人 25〜34歳 33.7万人 0〜24歳 27.9万人 合計 287.8万人 平成26 不詳 1.0万人 75歳〜 84.9万人 65〜74歳 47.8万人 55〜64歳 45.5万人 45〜54歳 52.4万人 35〜44歳 58.5万人 25〜34歳 36.2万人 0〜24歳 36.3万人 合計 361.1万人 平成29 不詳 0.7万人 75歳〜 93.3万人 65〜74歳 51.4万人 55〜64歳 47.7万人 45〜54歳 63.9万人 35〜44歳 58.2万人 25〜34歳 36.2万人 0〜24歳 38.5万人 合計 389.1万人 出典:厚生労働省「患者調査」より 図表2 年齢階級別 ストレスを相談できる人の有無 20歳未満 89.2% 20〜29歳 95.9% 30〜39歳 94.9% 40〜49歳 91.9% 50〜59歳 91.8% 60歳以上 86.7% 出典:厚生労働省『労働安全衛生調査(実態調査)』(2018年)よりグラフ化 【P27-30】 企業事例 藤沢タクシー株式会社(神奈川県藤沢市) 制度よりも本人との対話を重視しがん治療と仕事との両立を手厚く支援 看護の世界からタクシー会社経営へ社長自ら従業員の健康増進に取り組む  神奈川県藤沢市を地盤とする藤沢タクシー株式会社は、1940(昭和15)年に設立。お客さまから選ばれるタクシー会社を目ざし、創業以来80年にわたり、地域の発展とともにその歴史を刻んできた。  社員数は70人で、平均年齢は63歳である。定年年齢は60歳で、その後は嘱託社員として1年ごとの有期契約で再雇用する。再雇用年齢の上限はなく、旅客輸送の安全が確保できるかを気力と体力の両面から総合判断して契約更新の可否を判断する。現在、社員の60%を60歳以上が占め、最高齢者は77歳。高齢の社員が多いのは、そもそも入社時の年齢が高いという業界特性によるところが大きい。また、人の出入りが激しいタクシー業界にあって、同社は比較的定着率がよく、20年以上勤める人も少なくないことから、平均年齢が全国のタクシー乗務員の平均(60歳)を上回っている。  2001(平成13)年に同社の社長に就任した根岸茂登美(もとみ)代表取締役社長は、看護学博士でもあり、臨床の看護師や看護学校の教員として活躍していた異色の経歴を持つ。タクシー会社の経営とはかけ離れた仕事だが、意外にも、その知識や経験がいまも活かされている。  「父が体調を崩し、急遽、家業を継ぐことになりました。継いだからには看護の道は諦(あきら)めるしかないと覚悟を決め、経営の世界に飛び込みました。ところが、ふたを開けてみると、社員の健康診断の結果がひどい状態なんです。当時の産業医には、『再検査の指示をしても来ないし、薬を出しても途中で勝手にやめたりする。産業医として責任が持てない』とまでいわれました。お客さまの命をあずかる仕事ですから、健康面をきちんとしないとたいへんなことになります。看護の道を諦めるどころか、本腰を入れて取り組まなければと思いました」と根岸社長は語る。 看護の専門知識や経験に加え自身の罹患経験を活かして  社員の高齢化、高喫煙率、有所見率の上昇といった課題があるなかで健康増進に取り組み、根岸社長が会社を継いだ2年後、初めて両立支援の必要が生じた。「当時は両立支援という言葉もあまりピンときませんでしたので、あえて両立支援をしようとか、あるいは両立支援とはどういうものか調べるというより、『仕事を続けたい』という社員の気持ちに応えるため、『どうしたらいいだろうね』と本人と話をしながら、仕事の中身を見直したり、夜間の勤務を少なくしたり、治療を優先して一定期間仕事をお休みにしたりと、その時々に応じた支援を行ってきました」と根岸社長はふり返る。目の前にいる社員を支えるため、自然に、あたり前のこととして取組みをスタートさせたのである。  以来、がんと診断されて仕事と治療を両立した社員は18人に上り、そのうち7人はいまも在職している。年齢は60代が最も多く、次いで50代、70代と続く。性別は、もともと男性の多い職種だが、がんの罹患者も男性が圧倒的。がんのステージや治療法はさまざまである。  がんに罹患した社員を支援していくうえでは、根岸社長が看護の専門家であることに加え、自身ががんを経験した「がんサバイバー」であり、がん患者の気持ちや実際の悩みを理解していることも役立っている。根岸社長は、看護学校の教員をしていたときに罹患し、サバイバー歴は26年になる。  「少し大げさにいうと、がんの宣告を受けるというのは、自分の今後の生き方を考える契機になります。おかげさまで主治医にも恵まれ、周りにいた看護職も温かくサポートしてくれて、仕事を継続することができました。ですから、社員にも、本人に働き続けたい気持ちがあるならば、できるかぎりのサポートをしていきたいと考えています」 一人ひとりと向き合い一人ひとりに最適な支援を行う  長きにわたってがん治療と仕事との両立支援に取り組んできた同社だが、他社と比べて両立支援の制度が充実しているというわけではない。  「一般的な休職制度などはありますが、両立支援のためのしっかりした制度はないんです。いまも働きながら治療を続けている従業員が7人いますが、一人ひとり経過も違うし、治療方法も、抗がん剤の副作用の出方も違う。本当にケースバイケースなのです。ですから、あまり制度に縛られず、問題が出てきたら、『じゃあ、どう対応しようか』と個別に話し合って進めていく形をとっています。そこが大企業と違うところです。中小企業では目の前に社員がいて、『病院でがんだといわれた』といった話が直接耳に入ってきます。そこで規則にあてはめて対応しようとするのではなく、『どういう治療をするの?』、『いつからスタートするの?』、『主治医は何ていっているの?』、『仕事はどうしたい?』とその場でどんどん話を進めていくことができる。それが中小企業のよさだと思います」 本人に合わせた多彩なサポートを実践以前より業績が向上した人も  具体的な事例を二つ紹介しよう。1人目は20年以上勤務していたベテラン社員で、症状が出たのは69歳のとき。根岸社長とは普段から信頼関係を築いていたので、初めて下血したときは、真っ先に社長に「どうしよう」と電話がきたそうだ。検査の結果、S状結腸のステージWとわかり、肝臓にも転移が見つかった。  手術後、化学療法が始まったが、最後まで働くといい続けた。それに対して社長は「わかった。ずっと働いてほしい」と答え、サポートを続けた。働いていくなかでは、薬の副作用で脱毛があったり、指先がしびれたり、皮膚がただれたり、声が枯れたりした。そのたびに、本人が「こうなっちゃったんだけど、どうしよう?」と相談に来たので、根岸社長は、「手袋をして運転したらどうか」、「帽子をかぶっては」などとアドバイスしたり、本人の希望を受けて「治療中のために帽子をかぶります」と書いたカードを車内に掲示したり、軟膏を塗るなどの処置ができるスペースを社内に設けたりと、さまざまな支援を行った。労働時間も、半日にしたり、日勤のみにしたり、朝の出勤時間を遅らせたりと柔軟に対応した。また、「病院に行ってきたら私に経過や病状を話してね」、「心配なことがあったら何でもいって」と伝えるとともに、根岸社長のほうからも「調子はどう?」などと声をかけ、定期・不定期に面談をした。その結果、亡くなる10日前まで仕事を続けることができたそうだ。  もう1人は、治療と両立しながら働くようになって、以前よりむしろ成績が上がった事例だ。66歳のときに胃がんのステージWと診断されて入院し、「仕事を辞めたい」といってきた社員に、根岸社長は「いま判断しなくていい。まずは治療に専念して、仕事のことはもう少し経ってから一緒に考えよう」と答え、復帰をサポートした。再入院することになって「今回は無理だと思う」といってきたときも、同じように答え、復帰できる道を残した。  その人はいまも治療を継続しながら働いているが、かつての売上げを上回る回復ぶりをみせ、成績は常に上位だという。係長に昇格し、後輩指導、事故処理、VIPの送迎業務なども熱心に行っている。その人の運転するタクシーはボンネットのなかまで、いつもピカピカに磨き上げられているそうだ。 事業者による就労継続の保障や本人との対話が重要  根岸社長は、企業、人事担当者、産業保健スタッフに求められることとして、以下の諸点をあげる。 ●企業……両立支援の表明、事業者による就労継続保障 ●人事担当者……社内制度の利用、社外制度・各種助成金などの活用 ●産業保健スタッフ……対象者への直接的な支援、就労者と企業と医療機関との連携、職場のヘルスリテラシー※の向上  なかでも重要なのが、事業者による就労継続の保障である。「大事な人材ですから、『会社からクビといわれるんじゃないか』というような余計な心配はしてほしくない。そのためには、事業者が『働き続けていいんだ』、『働いてほしいと思っている』と声をかけ続けることです。症状は変わっていきますので、『今度こそクビといわれるのでは……』と心配させないために、常に本人の意思確認と就労継続の保障をしていく必要があります」と根岸社長はいう。  そんな根岸社長が日ごろから大事にしているのが、社員一人ひとりとの対話である。  「がんに罹患した場合、人によっても時期によっても悩みや不安は異なります。ある程度治療が終わっても、日常生活に復帰してからが案外たいへんで、些細(ささい)なことで『前は普通にできていたのに……』という生活のしづらさを感じます。また、ちょっと風邪をひいただけでも、『再発か』、『転移したか』とがんに結びつけて考えてしまいます。そして、通院が長く続きます。もちろん、がんの宣告を受けた際の不安も大きいですが、その後がたいへんなのです。入院中や治療中は身近に医療者がいますが、職場に戻ると、近くに日常の不安や困りごとを相談する専門家もいません。そこで大切なのが対話です。がん治療との両立支援では、いろいろと重要な意思決定をしなければならない局面が出てきます。普段から対話をしておかないと、その人の価値観やものの考え方、どうしたいと思っているかがつかめず、本人が最善の意思決定をするサポートができません。話す内容は、何でもいいと思います。普段から対話をしていると、本人も自分の思いを話しやすくなります」と、根岸社長は話す。 今後の課題として、マニュアルの作成や家族への支援を検討  今後の課題の一つは、自社独自の両立支援マニュアルの作成である。  「マニュアルに縛られるつもりはありませんが、『なんだか知らないけど、社長がまた一人でやっているよ』ということではなく、周りのスタッフを巻き込んで両立支援を進めていく必要があります。また、それを一つの機会として社員のリテラシーを向上していくためにも、当社の環境でどのように両立支援ができるかを示した独自のガイドラインをつくろうと、安全衛生委員会で検討を始めたところです」  罹患した社員の家族への支援も課題である。両立支援というのは本人だけの問題ではない。治療と仕事を両立するうえでは、それを支える家族にもさまざまな葛藤がある。社員が亡くなった場合の遺族への支援(グリーフケア)も必要ととらえている。  また、講演会などに登壇する機会も多い根岸社長は、今後も両立によるメリットを社会に伝えていく考えだ。「両立支援はお金がかかるし、会社にとってマイナス」と考えている人たちに、「パフォーマンスが下がらない事例もある。『キャンサーギフト』といってがんを経験したことで得られるものもある」と理解をうながしていく。  他社を含む中小企業全体の課題としては、@外部資源の活用、A専門職の配置、B企業と医療機関の連携、C事業者を支える―の4点をあげる。中小企業は専門スタッフがいないので、外部資源をうまく使う必要がある。そのためには情報収集が欠かせない。また、根岸社長は、「中小企業こそ、専門職の配置を検討すべきです」と説く。大きな企業ほど産業保健スタッフが充実しているが、専門職がいるといないとでは大きな違いである。事業者が社員に長く勤めてもらいたいと思っていても、専門知識がないために、社員ががんになったとき、「残念だけど、仕事どころじゃないだろう」と思ってしまいかねない。どこに気をつければ働き続けられるかを知るには、専門職の判断が必要となる。医療機関と連携をとることも必要だ。いまはそこの敷居が高いと根岸社長はいう。  これらに加え、国や自治体には、事業者への支援を期待している。「両立支援を行うには、勇気や覚悟がいる場面があります。『自分がやっていることは正しいのだろうか』と不安になることもあります。経済的なことも含め、そういう事業者に対する支援があると、自信をもって取り組むことができます」と、根岸社長。 中小企業が両立支援を行ううえでは自社の強みを活かすことが大事  すでに述べたように、根岸社長は看護の専門知識を持ち、サバイバーとしてがん患者の悩みや不安も熟知している。また、タクシー運転手は各人が単独で働くので、休んでもほかの人に迷惑をかけることがなく、柔軟な働き方を実現しやすい。さらに、一人ひとりに直接的に働きかけ、柔軟な対応をとることができるという中小企業ならではのよさもある。  これらは同社の強みだが、「どの会社にも、自社の強みがあるはずです」と根岸社長はいう。そして、「社員が働き続けてくれると、事業者もモチベーションが上がります。私は、社員が『辞めたい』といってくるとものすごく落ち込みます。それが病気のためだと、本当にショックです。年を取っても働ける会社、病気になっても働ける会社にしていくことは、事業者のモチベーション向上にもつながりますので、前向きに取り組んでいただければと思います」と、エールを送る。  同社を特別な例ととらえず、自社に合うやり方を検討し、両立支援の取組みを進化させていっていただきたい。 ※ ヘルスリテラシー……健康や医療に関する情報を入手・理解し、活用する能力 写真のキャプション 根岸茂登美代表取締役社長 【P31】 両立支援相談窓口のご案内  独立行政法人労働者健康安全機構が設置する産業保健総合支援センターは、医療機関(労災病院・がん拠点病院など)に「両立支援相談窓口」を設置し、事業者・産業保健スタッフ、疾病を抱えた労働者(患者)やその家族からの治療と仕事の両立支援に関する相談を受けつけています。  詳しくは、下記URL をご参照ください。 ※https://www.ryoritsushien.johas.go.jp/map.html @労災病院  労災病院に設置した「両立支援相談窓口」は下記の通りです。 都道府県 病院名 電話番号 開設日時 北海道 北海道中央労災病院 0126-22-1300(代) 平日13:00〜17:00 北海道 釧路労災病院 0154-22-7191(代)(内線 2113) 平日13:00〜17:00 青森 青森労災病院 0178-33-1551(代) 平日8:15〜12:15 宮城 東北労災病院 022-275-1111(代) 平日8:15〜12:15 秋田 秋田労災病院 0186-52-3131(代)(内線 2781) 平日8:15〜12:15 福島 福島労災病院 0246-26-1111(代) 平日8:15〜12:15 千葉 千葉労災病院 0436-74-1111(代) 平日13:00〜16:00 東京 東京労災病院 03-6423-2277(直通) 平日8:15〜12:00 神奈川 関東労災病院 044-434-6337(直通) 平日9:30〜17:00 神奈川 横浜労災病院 045-474-8111(代) 平日9:30〜17:00 新潟 新潟労災病院 025-543-3123(代) 平日8:15〜17:00 富山 富山労災病院 0765-22-1280(代) 平日13:00〜17:00 静岡 浜松労災病院 053-462-1211(代) 平日8:15〜12:15 愛知 中部労災病院 052-652-2976(直通) 平日13:00〜17:00 愛知 旭労災病院 0561-54-3131(代) 平日12:00〜16:00 大阪 大阪労災病院 072-257-2290(直通) 平日8:15〜12:15 兵庫 関西労災病院 06-6416-1221(代) 平日9:00〜14:00 兵庫 神戸労災病院 078-231-5901(代) 平日13:00〜17:00 和歌山 和歌山労災病院 073-451-3181(代) 平日8:15〜17:00 鳥取 山陰労災病院 0859-33-8181(代)(内線 6785) 平日13:00〜17:00 岡山 岡山労災病院 086-262-0131(代) 平日8:15〜17:00 広島 中国労災病院 0823-72-7171(代) 平日8:15〜17:00 山口 山口労災病院 0836-83-2881(代) 平日13:00〜17:00 香川 香川労災病院 0877-23-3111(代) 平日8:15〜17:00 愛媛 愛媛労災病院 0897-33-6191(代) 平日9:00〜17:00 福岡 九州労災病院 093-471-1121(代) 平日13:00〜17:00 福岡 九州労災病院門司(もじ)メディカルセンター 093-331-3461(代) 平日13:00〜17:00 長崎 長崎労災病院 0956-49-2191(代) 平日8:15〜17:00 熊本 熊本労災病院 0965-33-4151(代) 平日8:15〜17:00 A医療機関(労災病院以外)  労災病院以外の医療機関に設置した「両立支援相談窓口」は上記URL※をご参照ください。 【P32-33】 江戸から東京へ [第98回] 改革への波乗りに成功 大田直次郎 作家 童門冬二 ぶんぶぶんぶと夜も寝られず  江戸末期に、徳川幕府は大きな財政改革を行った。白河藩主・松平定信が展開した「寛政の改革」は、単に財政再建というだけではなく、  「幕臣の叩き直し(国家公務員の再教育)」  という目的も加えられていた。そのために、「学問吟味(人材登用試験)」が設けられた。これに率先受験の意思を示したのが、旗本の大田直次郎だ。大田直次郎は、別に蜀山人(しょくさんじん)、四方赤良(よものあから)、山手馬鹿人(やまてばかひと)などというペンネームで、それまで狂歌や戯作(げさく)の世界で、一、二を争う文名を馳せていた。  幕府の役人といえば、現在の国家公務員だ。  「役人がそんなことができるのか?」  と、いまなら疑問をもたれるに違いない。しかし徳川時代は、江戸城に勤務する役人の給与が安いので、自宅における「副業」を認めていたからである。大田直次郎も、心からそっちの方面で名を上げたくはなかったが、かれの所属組織は「小普請(こぶしん)」といって、「無役」なので、幕府はやむを得ずこういう状況を是認していたのである。したがって、直参(じきさん)の身でありながら文名を高める連中の多くは、「現状不満」的な気持ちをもっていた。能力を認められて、役があればそんなことはしないのだ。  大田も同じだった。しかし、第一回目の試験では直次郎は落ちた。これは幕府側でも、直次郎の文名を知っていたので、あるいは懲らしめの意味があったのかも知れない。五十歳を過ぎて、直次郎はもう一度チャレンジする。そしてこのときは合格する。  前回落第したのは、こんなことがあったからだ。それは、松平定信の展開する改革が、江戸城の武士には特に厳しく、  「いまのような堕落した生活態度を改めよ」といって、  「武士本来の原点である、文(法律)を改めて学び、武術にも精を出して励め」  と命じ、いわば、朝から晩まで、「文武」を奨励した。これを蚊の鳴き声に例えて、からかった者がいた。  世の中に蚊ほどうるさきものはなしぶんぶぶんぶと夜も寝られず  うまい牛耳(ぎゅうじ)り方だが、幕府首脳部は怒った。  犯人を挙げて懲らしめろという声が起こり、追及が激しくなった。やがて、  「そんなうまい狂歌がつくれるのは、蜀山人に違いない」  という噂が立ちはじめ、直次郎は歌のつくり手にされてしまった。しかし、史実的にはこの噂はやはり火のない所に立った煙≠セったようで、直次郎自身が必死になって否定している。 蜀山人の反撃  だから、最初のときは噂を信じた幕府上層部が懲らしめのために落第させたので、二回目のときは上層部も調べた結果、  「これは単なる噂のようだ」  と、真実を突き止め合格させたのだと思う。合格した直次郎は、すぐ才能を認められ大坂銅座の監督役人に赴任する。さらに、長崎奉行所勤務を命ぜられる。もっとかれの才能を活かそうということで、江戸城内にある「紅葉山文庫」の整理を命ぜられた。この文庫には、徳川家康以来徳川家が収集した古文書が幅広く収納されていた。現在は、政府の「公文書館」に引き継がれている。  私は公文書館に友人がいるので、文書の整理状況を訊いたこと蜀山人の反撃がある。友人は、  「われわれが模範としなければいけない見事な整理が、江戸時代に行われていますよ」  といった。  「だれですか?」  と訊くと、友人は、  「大田直次郎さん、つまり蜀山人の整理ぶりが実に見事で、いまのわれわれでもできないようなことをきちんと行っています」  と教えてくれた。  大田直次郎は、自分に被せられた誤解(「世の中に……」という狂歌の制作者)に対し、いくら自分が、  「ちがう、俺ではない」  と強調しても、多くの人は信用してくれなかった。そのためにかれは、  「よし、それなら学問吟味に合格して噂が嘘だということを立証しよう」  と考えて、積極的に試験に応募したのだ。事情をよく知らない連中には、  「大田直次郎が、ヒラメのように生き方を変えて試験を受けている」  と批判する者もいた。しかし直次郎にすれば、そんな批判は百も承知のうえで、  「そういう批判も噂があるからだ。その根源をなくしてみせる」  と考え、合格のために夜を徹して勉強したのである。二回目の試験を受けたときは、現在なら定年間近であったが当時の役人の定年は、  「自分から申し出るか、あるいは死ぬか」  のどちらかでしかなかったので、直次郎のような生き方も可能だったのだ。汚名を雪(そそ)ぐ※ために、定年の年齢を過ぎても奮闘し努力した直次郎は、大いに評価されてよいだろう。特に、「紅葉山文庫の整理」は、あっぱれという他はない。 ※ 汚名を雪ぐ……恥や汚名を新たな名誉を得ることによって消すこと 【P34-37】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第103回 宮城県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢者が若者と隔たりなく活躍できる「エイジレス企業」 企業プロフィール スモリ工業株式会社(宮城県仙台市) ▲創業 1975(昭和50)年 ▲業種 総合住宅建設業 ▲従業員数 88人 (60歳以上男女内訳) 男性(13人)、女性(5人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(9.1%) 65〜69歳 7人(8.0%) 70歳以上 3人(3.4%) ▲定年・継続雇用制度 65歳定年。勤務状況を鑑かんがみ希望者を年齢の上限なく継続雇用  宮城県は、北は岩手県、南は福島県、西は山形県、北西に秋田県と接し、県の東側は太平洋に面しており、豊かな漁場と日本三景の一つである松島をはじめ風光明媚(めいび)な地形に恵まれています。西には蔵王・船形(ふながた)・栗駒などの山々が連なり、中央部には仙台平野が広がります。気候は比較的温暖で、降雪が少ないのが特徴です。  宮城県は江戸時代から全国屈指の米どころとして栄えてきました。県が誇る「ひとめぼれ」、「ササニシキ」についで、2018(平成30)年には新品種「だて正夢」が本格デビューしました。生産拡大に取り組み、県産米のブランド力強化を図っています。  畜産も盛んで、品質のよさで知られる「仙台牛」や「宮城野豚(ミヤギノポーク)」などを生産しています。漁業は石巻のカツオ漁、イカ漁、気仙沼および女川(おながわ)のサンマ漁が盛んで、三陸海岸のカキ、ホタテ、ホヤの養殖もよく知られています。  工業は、臨海部では石油、鉄鋼、製紙、内陸部では電子部品や自動車などの加工組立工業が集積し、豊富な県産食材を使った食料品製造業も発展を遂げてきました。  県庁所在地である仙台市の人口は県全体の45%を占め、人口集中率が非常に高くなっているのも特徴です。仙台市は近隣県からも買い物客が訪れる東北最大の商業都市で、近郊には大学、高等専門学校、専門学校といった教育機関が多く、学生を含む若年層の人口割合が国内でもトップクラスに位置するたいへん活気のある街です。  今回は、当機構の宮城支部で活躍するプランナー・鈴木大輔さんの案内で、仙台市にある「スモリ工業株式会社」を訪れました。 理想の家づくりへの探究  スモリ工業株式会社は、1969(昭和44)年から独立自営で左官業を営んでいた須森明(あきら)代表取締役社長が1975年に設立しました。当初は住宅建築元請工事を行っていましたが、1989年に住宅メーカーとして事業展開をスタート。「100年住める理想の住宅」を探究し、工法、ビス釘、パネルなどに工夫を凝らして独自のものづくりを行ってきました。防湿・断熱・耐震を兼ね備えた「銀我パネル」に代表される、コツコツと自社開発してきた技術は、特許と意匠登録を合わせると50件を超え、毎年増えているそうです。  同社は、支店や営業所を置かない方針で運営しています。お客さまへの対応が迅速にできるよう、また、家を建てるだけでなくしっかりアフターケアまで行うために、本社から90分以内を目安にした営業エリアにおいて地元密着で事業を展開していることが、同社のこだわりです。  同社が掲げる事業理念について、山本達夫社長室室長は次のように説明します。  「スモリの家の思想は、家族愛に満ちた家づくりと現場職人への感謝と敬意を現実の形にするものです。家族全員にとって終生の安らぎの場となる住宅は、資産としていつまでも美しく丈夫で長持ちし、健康と安全を実現し、さらに地球環境にまで配慮されていなければなりません。そのような住宅を建てるためには、質の高い提案に始まり、十分な量の良質な材料と職人の心のこもった仕事が欠かせません。ただ単に低コストで良質に建てるだけでなく、建てた後もその住宅に責任を持ち守り続け、『地域社会全体』からの『信用と信頼』を獲得することにより、真の繁栄を実現することがスモリの家の思想の目ざすところです」 仙台「四方(しほう)よし」企業賞優秀賞を受賞  スモリ工業の取組みには、お客さまから信用を得るためのほかにはない試みが多いのも特徴です。2001年に、地震や台風の擬似体験ができる「ハウス・スタジアム」を開設しました。2002年には業界初となる宿泊体験ができる展示場をスタートさせるなど、自社開発した技術を体感してもらうという、顧客目線で考えた営業活動を行っています。  一方で、ものづくりにかかわる人材育成にも力を入れており、2016年には廃校となった小学校を活用した「たのしいおうちづくりの学校」を開校しました。展示施設に加えて実際に施工体験ができる施設で、地域の小中学校や県内の工業系高校の生徒が訪れて家づくりを体験するほか、一般のお客さまや企業の見学、研修も受け入れています。  さらに、東北の風土に根ざした住宅設計技術の普及を目的とした宮城県建築士会主催の「大工塾」や、宮城県土木部主催の「おうちづくりの学校見学会」の会場としても利用されています。こうした活動が認められ、大工を目ざす人たちへの技術支援および住宅建設にかかわる人材の育成・就職支援に貢献したとして、スモリ工業は2017年に仙台市が表彰する仙台「四方よし」企業賞優秀賞を受賞しました。 「エイジレス」に活躍できる職場  スモリ工業の定年年齢は、65歳。2013年に60歳から65歳に定年延長しました。  「当社はもともと住宅建築企業としては中途退職者が極めて少なく、必然的に高齢者比率が高まったということで、あえて『高齢者だから』というくくりや期待は特別ありません。リタイアする時期は自らが悟って決めるといった状況です。年齢に関係なく働く気があれば働き続けることができる企業です」(山本室長)  定年後も勤務時間や給与、待遇面で大きな変更はないそうです。  鈴木プランナーは2015年11月に、初めてスモリ工業を訪れました。  「スモリ工業は大きく営業部門と工事部門に分かれますが、営業部門の社員は基本的に『エイジレス』であり、高齢者ほど独自の営業スタイルを確立し、若手社員を凌駕(りょうが)するほどの営業成績をあげています。高齢者の営業スキルは、会社にとって貴重な経営資源であり、これを次世代にぜひ伝承すべき、とアドバイスしました。また、独自に『たのしいおうちづくりの学校』という技能訓練学校を開設していますが、社員の高齢化が進み、実際に工事をになう大工・職人の数が減少していることをふまえ、この学校の講師に工事部門の高齢社員を任命することで、彼らの技能や経験が十分に活かされ、モチベーションの向上にもつながる点をお伝えしました」(鈴木プランナー)  そのほか、一般的に伝承がむずかしいとされている営業スキルについては、具体策としてマニュアル化やロールプレイングを活用したOff−JTをすすめたそうです。ロールプレイングの様子を映像で残すことにより、高齢社員が長い経験のなかでつちかったさまざまな場面における営業話法を、会社の資産として持つことが可能となるとアドバイスしました。  今回は、70歳を超えた現在も営業の最前線で活躍する高齢社員に、お話を聞きました。 お客さまに喜んでもらえる仕事は楽しい  新井山(にいやま)一雄(いちお)さん(71歳)は、45 歳で営業職として入社し、今年で勤続26年です。定年後も変わらず営業担当として週5日フルタイムで勤務し、展示場案内、訪問活動、間取りのプラン作成、資金計画、着工前の打合せを行い、引渡し後のアフターケアの問合せにも対応しています。岩手県や山形県、福島県など近隣県を訪問することもあり、自動車の年間走行距離は4万5千qにのぼるそうです。  スモリ工業に入社する以前は、大手の住宅会社で研鑽(けんさん)を積みました。しかし、全国展開する大手企業は転勤がつきもの。辞令にしたがい転勤を経験するも、「ずっと地元で働きたい」という思いを捨て切れず転職を決めたそうです。地元密着で事業を展開するスモリ工業は、新井山さんの考える働き方にぴったりと合致しました。前職時代にかかわったプロジェクトで、須森社長との接点があったことも入社を後押ししました。  「われわれの仕事はすべて、お客さまとの約束事で動いています。家にいてテレビを見ているときも、晩酌をしているときも、常に手元にメモ用紙を用意しています。なぜなら、ふとしたときにお客さまがいっていたことを思い出すことがあり、それを忘れないように書き留めるためです。お客さまの要望やお話しになったことは、忘れていたではすまされない大事なことですから」と、仕事で大切にしていることを語る新井山さん。間取りの設計から、外壁、キッチン、お風呂、照明の仕様など、営業の仕事は広い知識が必要です。  「注文住宅はお客さま一人ひとりプロジェクトが異なるもので、一つとして同じ家はありません。農地を利用した広い敷地に建てる人もいれば、道路などの規制がある土地に建てる人もいます。一生に一度の買い物ですから、お客さまも勉強されている方が多く、展示場にないものを望まれることもあります。そんなときは、いったん勉強する時間をもらい、後日対応させてもらっています。そんなふうにして毎回、新しいことを学んでいると思います。また、契約したらそれで終わりではなく、工事までの約3カ月の間、段取りを考えて、設計士、コーディネーターといった人たちとの打合せも大事な仕事です」  一昔前は、家長であるご主人に聞けば大方決まっていたことも、いまは奥さま、お子さまがそれぞれキッチンやバスルームの仕様、子ども部屋の壁や照明などを決め、祖父母の方々も要望があるので、聞く先が多くてたいへんなのだとか。  山本室長は、新井山さんの働きぶりを次のように話します。  「お客さまは何を決めるにしても迷われるので、上手に導くことも営業の仕事です。引渡し後のアフターケアについても、営業担当に直接連絡があることが多く、お客さまの窓口としての仕事は長く多岐に渡ります。こうした営業の活動量はとても重要で、当社は営業の成績がそのまま会社の業績になっています。新井山さんのような、一生懸命に仕事をし、誠実で人に信頼される営業マンは会社が求める人材そのもの。貴重な存在です」  お客さまの喜ぶ顔に生きがいを感じるという新井山さん。プライベートでは家庭菜園で収穫した野菜を近所の方たちに配って、喜んでもらっているのだとか。根っからのサービス精神はプライベートでも発揮されているようです。それでも、「仕事を辞めたらとたんに元気がなくなってしまいそうです。体力が続くかぎりこの仕事をがんばりたい」と抱負を語ってくれました。  鈴木プランナーも「エイジレスに高齢者が活躍しているスモリ工業の取組みを、多くの企業に知ってもらえるよう紹介していきたい」と今後について話してくれました。 (取材・西村玲) 鈴木大輔 プランナー(63歳) アドバイザー・プランナー歴:5年 [鈴木プランナーから] 「訪問先企業に対しては、『高齢者雇用はこうあるべきだ』と大上段から押しつけるのではなく、『いまできることは何か』その一歩をふみ出すための糸口を一緒に探すようにしています。常に相手の立場に立って考えることをモットーにしており、面談は『高齢者雇用の情報提供の機会』と思って、有意義な情報の提供に努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆同支部の薄井統括は、「鈴木プランナーは、2015年(当時は高年齢者雇用アドバイザー)から活動し、人事労務管理、賃金・退職金管理や年金ライフプランなどを得意分野としています。相談・助言活動に積極的に取り組み、社会保険労務士、中小企業診断士、行政書士としての知識・経験が豊富で、的確な助言をすることから事業所からも絶大な信頼を得ています」と話します。 ◆当課はJR仙石線多賀城駅より徒歩20分ほど。近くには、多賀城市役所、東北学院大学などがあります。また、JR 東北本線国府多賀城駅から徒歩10分の所に、歴史的にも有名で国の特別史跡に指定されている、多賀城跡があります。 ◆当課には10人の65歳超雇用推進プランナーおよび高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、宮城県内の事業所訪問を通じて、高年齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度のアプローチ企業数は約530社、制度改善提案は約130件を実施しています。 ◆相談・助言・制度改善提案は無料で実施しています。お気軽にご相談ください。 ●宮城支部高齢・障害者業務課 住所:宮城県多賀城市明月2−2−1 宮城職業能力開発促進センター内 電話:022(361)6288 写真のキャプション 宮城県仙台市 体験型住宅展示施設「ハウス・スタジアム」を併設している本社 山本達夫社長室室長 営業職で活躍する新井山一雄さん 【P38-41】 新連載 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木元也 生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理にくわしい高木元也先生の解説を連載していきます。 第1回 なぜいま、エイジフレンドリーな職場づくりが注目されているか はじめに  現在、わが国の65歳以上の人口は、全人口の3割近くにも及び、今後も増加が見込まれ、2065年には4割近くに達すると推計されています。  高齢者の増加にともない、働く高齢者も増加し、さらに、いつまでも働きたいと意欲を持つ人も増加しており、そのことが働く高齢者の増加に拍車をかけています。  働く高齢者の増加により、高齢者の労働災害も増加しています。その特徴は、簡単な作業での労働災害が目立つこと、被災すると重傷になるケースが多いことなどがあげられます。  このため、安倍政権の時代には、『骨太の方針2019(経済財政運営と改革の基本方針)』において「サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進する」が盛り込まれるなど、高齢者が安心して安全に働ける職場環境づくりや健康づくりが重要な政策課題に位置づけられました。これを受け、厚生労働省は2020(令和2)年3月に『エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の健康と安全の確保のためのガイドライン)』※1を策定し、2021年度はこの施策の普及が推進されています。  このような状況のもと、本連載は「エイジフレンドリーな職場をつくる」をテーマに、WエイジフレンドリーなW、和訳すればW高齢者の特性に応じたW職場の安全対策、健康確保策をどのように進めていけばよいかについて解説します。  第1回目の今回は、なぜいま、エイジフレンドリーな職場づくりが必要なのかについて解説します。 データでみるエイジフレンドリーな職場が必要な理由  さまざまな統計データを基に、エイジフレンドリーな職場が、いま必要な理由をみていきます。 ■さまざまな業種で高齢者が増えている  図表1に示す通り、60歳以上の雇用者数について業種別に2008年と2018年を比較すると、保健衛生業2・6倍、商業1・6倍、建設業1・3倍、製造業1・2倍と増加しています。  さまざまな業種で、高齢者に適した職場環境づくりが求められていることがわかります。 ■高齢になっても働きたいと考える人が増えている  35〜64歳の男女を対象としたアンケート調査※2によると、60歳を過ぎても働きたいと考えている人は81・8%をも占めています。さらに、65歳を過ぎても働きたいと考えている人は50・4%と半数を占めており、このようなW次の時代の高齢者Wにおいても高齢になっても働きたいと考える人が多く、長期的にみても、高齢者が快適に働き続けることができる職場環境づくりの必要性が示されています。 ■高齢者は労働災害にあいやすい  高齢者の労働災害発生率をみると、60代後半は、労働災害発生率が最も小さい20代後半と比べ、男性で2・0倍、女性で4・9倍とかなり高くなっています(図表2)。この主たる原因には、筋力の低下、バランス感覚の低下など、加齢にともなう心身機能の低下があげられます。 ■高年齢の男性は墜落・転落災害、女性は転倒災害が多い  高齢者の労働災害を災害の種類別(事故の型別)にみると、男性は、墜落・転落災害が若年者と比べ約4倍と非常に高く、一方女性は、転倒災害が同約15倍と著しく高くなっています(図表3)。  男性の墜落・転落災害は建設業に多い一方、女性の転倒災害は、スーパーマーケットなどの小売業に多く、業種特性に応じた職場づくりが必要となります。 ■再就職したばかりの高齢者の被災が目立つ  年齢階層別の労働災害発生率を雇用1年未満と1年以上で比べてみると、いずれの年齢階層でも1年未満が高く、特に、50歳以上が高くなっています(図表4)。これは、再就職先での新たな作業に慣れていなかったり、高齢者の特性に応じた安全教育が十分に行われていなかったりすることなどが原因と考えられます。 ■高齢者は休業日数が長い重篤な災害が多い  休業見込期間について、休業日数が1カ月より長い七つの階層を合計したものは、20〜29歳は約40%にとどまる一方、70歳以上は70%近くをも占めるなど、年齢が高くなるにつれ休業見込日数は長くなり(図表5)、高齢者の労働災害は重篤化する傾向にあります。軽作業でも重篤な災害につながりやすいことなどに注意が必要です。 ■治療と仕事の両立支援が重要な課題  総務省の「労働力調査」によると、わが国の就業者数は6311万人(2013年)ですが、このうち、治療しながら仕事している人は2007万人にも及び、就業者の31・8%が疾病を抱えていることになります。  抱えている疾病は、高血圧、糖尿病、アレルギー、心疾患、メンタル疾患の順に多く、高齢になると疾病を抱える人も増加し、エイジフレンドリーな職場づくりには治療と仕事の両立支援は欠かすことができません。 ■腰痛は、業務上疾病のなかで最も多く、高齢者に多い  業務上疾病とは、仕事中にかかる病気、いわゆる「職業病」のことですが、最も多いのが腰痛です。腰が痛いと訴える人は、60代、70代がかなり多くなっています(図表6)。  職場の腰痛対策には、人が持ち上げる重量の制限、機械化・ロボット化による重い物や人を持ち上げる作業の廃止、パワーアシストスーツ着用などによる負荷軽減、正しい持ち上げ方の教育、腰痛予防体操などがあげられ、このような対策の職場への導入が必要となります。 ■熱中症災害は男性の高齢者に多い  夏場の熱中症対策は、もう何年も前から声高に叫ばれてきました。これだけ、「水分、塩分、適度な休憩が必要」といわれ続けてきても、熱中症災害は減少せず、2011年〜2017年、職場の熱中症による休業4日以上死傷者数は毎年500人前後と横ばい状態でした※4。当時、「いくら対策しても、熱中症災害は減らないのでは」と弱気な声がきかれましたが、2018年は下がらないどころか、1128人と2倍超に急増しました。翌年の2019年も800人台と留まることを知らず、熱中症災害の防止は、わが国の労働災害防止対策上、重要な課題に位置づけられています。  熱中症災害の発生率は、年齢が上がるとともに男性の発生率が高くなっています※5。事業場からは、高齢者の課題として、「のどの渇きを訴えない」、「補給する水分の量が少ない」などが指摘されています。 ■脳・心臓疾患の患者は、加齢により増加し、労災認定事案の割合も少なくない  脳・心臓疾患の患者のうち、労災認定事案は40歳以上が約9割を占めています※6。比較的責任のある立場に就くことが多い50代が最も多いですが、60代、70代でも30代よりかなり多くなっています。ここでも、高齢者の働き方を改善する取組みが求められます。 ■高齢者は、働くためには仕事の専門知識よりも健康・体力を重視する  60代の働く高齢者を対象に「65歳を過ぎても勤めるために必要なこと」をきいたところ、「健康・体力」とする回答が66・8%を占め最も多く、「仕事の専門知識・技能」47・2%、「いつまでも現役で活躍するという意欲」34・6%などと比べ、一段と高い結果となっています※7。高齢者にとっては、働くために健康・体力の確保が最も大切で、それをサポートする職場での活動が必要となります。 おわりに  以上、今回はさまざまな統計データを基に、エイジフレンドリーな職場づくりの必要性をみてきました。  次回は、2020年3月に厚生労働省が公表した『エイジフレンドリーガイドライン』の概要を紹介します。そのなかで、特に、事業者に求められる新たな視点である高齢者一人ひとりの健康と体力の状態の把握と、それに応じた対策について詳しく解説します。 ※1 エイジフレンドリーガイドライン……本誌2020年7月号50〜57頁に全文を掲載しています ※2 内閣府『高齢期に向けた「備え」に関する意識調査』(2013年) ※3 千人率……年間の労働者千人当たりの労働災害発生率のこと ※4 厚生労働省「労働者死亡傷病報告」(2018)・「死亡災害報告」(2018)および都道府県労働局からの報告による2018年中に発生した災害で休業4日以上および死亡のもの、総務省「労働力調査」(2018) ※5 厚生労働省『2019年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況』 ※6 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(2019年度) ※7 独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」(2015年度) 図表1 60歳以上の雇用者数の変化(業種別、2008年と2018年比較) 保健衛生業 2008 51万人 2018 132万人 2.6倍 商業 2008 118万人 2018 183万人 1.6倍 建築業 2008 71万人 2018 95万人 1.3倍 製造業 2008 127万人 2018 147万人 1.2倍 出典:総務省「労働力調査」より 図表2 年齢別・男女別 千人率※3 男性2.0倍 25〜29歳 2.05 65〜69歳 4.06 75〜79歳 4.76 女性4.9倍 25〜29歳 0.82 65〜69歳 4.00 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年)、総務省「労働力調査」(2018年)より 図表3 年齢別・男女別 事故の型別 千人率 墜落・転落 男性 約4倍 25〜29歳 0.29 75〜79歳 1.17 転倒 女性 約15倍 25〜29歳 0.15 65〜69歳 2.33 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年) 図表4 年齢別・雇用期間別(1年以上と1年未満)千人率 1年未満 29歳以下 2.6 30〜39歳 3.7 40〜49歳 4.8 50〜59歳 7.7 60〜69歳 5.6 70歳以上 7.8 1年以上 29歳以下 1.5 30〜39歳 1.4 40〜49歳 1.7 50〜59歳 2.5 60〜69歳 3.8 70歳以上 4.3 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年)、総務省「就業構造基本調査」(2017年) 図表5 年齢別・休業見込み期間別 割合 70歳以上 60〜69歳 50〜59歳 40〜49歳 30〜39歳 20〜29歳 19歳以下 1週間未満 1週間以上 2週間以上 1カ月以上 2カ月以上 3カ月以上 6カ月以上 1年以上 3年以上 5年以上 労働者師死傷病報告(平成30年)休業4日以上 ※休業見込日数の記入のあるもの(n=126.429)のみ集計 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年) 図表6 腰が痛いと訴える人数 15〜19歳 58千人 20〜24歳 64千人 25〜29歳 104千人 30〜34歳 152千人 35〜39歳 236千人 40〜44歳 300千人 45〜49歳 329千人 50〜54歳 317千人 55〜59歳 383千人 60〜64歳 474千人 65〜69歳 656千人 70〜74歳 577千人 75〜79歳 554千人 80〜84歳 492千人 85歳以上 319千人 ※熊本県を除いたもの ※上記の人数には、入院者は含まない 出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2016年) 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第32回 ハラスメントの処分とその公表 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 休憩時間中に外部で起こしたセクシュアルハラスメントに対する処分の程度  休憩時間中に訪れた近隣の店舗で、店員に対してセクシュアルハラスメントを働いている従業員がいるとの通報を受けました。  セクシュアルハラスメントの内容としては、店舗内でその店舗に勤める女性の店員に対して、卑猥な言動をしたり、手が触れそうなくらい近づくというような行為を行っていたようです。  職場内ではないこともあり、処分の程度を判断しづらいのですが、どのように決めればよいのでしょうか。 A  就業規則の懲戒処分の種類にしたがって判断する必要があります。解雇相当とはいい難いものの、解雇に次ぐ程度の重い処分も許される余地があります。 1 セクシュアルハラスメントについて  男女雇用機会均等法は、セクシュアルハラスメントを規制対象としており、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。  また、セクシュアルハラスメントの防止に関しては、厚生労働省によるガイドラインも定められ、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」として、対応が整理されたところです。  ガイドラインでは、ほかの事業主が雇用する労働者などからのハラスメントや顧客などからの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組みについても新たに定められましたが、今回のケースでは、行為の加害者の立場に立ったのが、対象の従業員ということになります。  事業場外での行動ということにはなりますが、休憩時間中の行為であることからすると、就業時間中の非違行為に類するものとして対処が必要になるものと考えられます。 2 処分の程度の決め方  懲戒処分の根拠となる就業規則に基づき取りうる選択肢を整理することになります。一般的には、けん責・戒告、減給、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などを定めている企業が多く、これら以外には、昇給停止、職務停止(自宅謹慎)などを定めている場合もあります。  懲戒処分については、労働契約法第15条で、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となると定めています。  処分の程度が重たくなるほど、処分理由について、合理性が厳格に求められるほか、相当性を満たすこともむずかしくなります。まずは、処分の重たさを検討のうえ、処分の程度を選択していくことになります。当然ながら、懲戒解雇がもっとも重い処分となりますが、職務停止などは給与の支給も止まることをふまえると、解雇に次ぐ程度に重く、その期間が長くなればなるほど解雇に近づくほどに重たいものとして評価されることになるといえるでしょう。したがって、一般的には重たい順から、懲戒解雇、諭旨解雇、職務停止、降格、昇給停止、減給、けん責・戒告といった考え方になるでしょう。  そして、ハラスメントの内容、頻度、被害者の数、被害者からの処罰感情などを考慮したうえで、処分を決定していくことになります。 3 処分の相当性が争点となった裁判例について  過去の裁判例において、類似の状況で地方自治体の懲戒処分の相当性が争点となった事件があります(最高裁平成30年11月6日判決)。  勤務時間中に訪れた店舗において、女性従業員に対してわいせつな行為などを行ったことを理由に、6カ月の停職処分を行ったところ、その処分の取消しを求めて訴訟が提起されました。  第一審および控訴審においては、処分が不相当に厳しいものとされた結果、取消請求が認められています。その際には、被害者と顔見知りであったこと、終始笑顔での対応がされており、渋々ながらも同意していたと認められること、当該店舗のオーナーおよび被害者が処罰を望んでいないこと、常習性があったとは認められないこと、過去の処分歴がないことなどが理由とされていました。  これに対して、最高裁は、第一審および控訴審の結論を維持せず、6カ月の停職処分を有効と判断しています。まず、店員が笑顔で対応し特段の抵抗を示さなかったとしても、それは客と店員の関係であり、トラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、これを加害者にとって有利に考慮するべきではないと判断されています。また、処罰を望んでいない点についても、事情聴取の負担や店舗の営業への悪影響などを懸念したことによるものとして、重視しない姿勢を示しています。被害者の態度や感情については、過去にも、「被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇(ちゅうちょ)したりすることが少なくないと考えられる」と判断し、加害者に有利に斟酌(しんしゃく)することを否定した判例(最高裁平成27年2月26日判決)がありますので、同様の考え方が維持されているといえるかと思われます。  特殊な事情としては、自治体による会見や報道が行われており、公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたものというべきであり、社会に与えた影響が小さくないものとされている点は、通常の企業において生じる事案とは異なる点といえるかと思われます。停職処分は免職(解雇類似)処分に次ぐ重いものであることをふまえてもなお、厳格な処分を有効と判断しており、自治体であることや報道がなされたことなど特殊な事情はありますが、処分の程度について参考になる事件であると思われます。 Q2 懲戒処分とその公表について留意点があれば教えてほしい  社内において生じたパワーハラスメントについて調査したところ、ハラスメント行為が存在し、懲戒処分を行うことが相当であるとの結論に至りました。類似の事案が生じないように再発防止策として懲戒の理由と対象者を公表する予定ですが、何か問題があるでしょうか。 A  懲戒処分の結果を公開するか否かについては、原則として、企業の裁量に委ねられていると考えられます。懲戒処分を公開するにあたっては、懲戒対象者の名誉棄損などに該当する可能性などもふまえたうえで判断する必要があります。特定されやすい事案であれば、再発防止に関しては、懲戒処分の公表以外によることも検討するべきです。 1 懲戒処分の公表について  懲戒処分は、企業秩序の維持や回復のために行われる側面があります。  企業内において、ハラスメントが行われたことが噂になっている場合に、処分結果を公表しないままでいると、結局お咎(とが)めなしだったのかなど、企業秩序が回復できないままになるおそれがあります。したがって、公表することにより、企業秩序の維持または回復に努めるほか、公表自体が再発防止に資することもあります。  就業規則に、「懲戒処分の際、被懲戒者の所属部署、役職、事案の概要、懲戒処分の対象となった行為及び懲戒処分の内容等について、社内に公表する場合がある」など公表に関して定めている企業もあります。  法律上も、公表自体を明確に禁止する規定はなく、一律で、公表自体を行ってはならないというルールにはなっていません。  しかしながら、直接的に公表を禁止する法律がないといっても、日本における名誉棄損は、たとえ、真実を公表した場合であっても成立しうるものとされていますので、名誉棄損に該当してしまうと違法と判断されるおそれがあります。  したがって、名誉棄損に該当しないように留意する必要があり、再発防止に資する要素は残しつつも、例えば、氏名などについては秘匿(ひとく)するなど、名誉棄損に該当しないような運用は必要といえるでしょう。  また、ハラスメント事案においては、被害者もいるため、懲戒事由を公表することで被害者のプライバシーへの配慮が不足しないよう配慮する必要があります。 2 懲戒処分の公表と名誉棄損について  懲戒処分を受けるということは、基本的には不名誉なことであり、公表することによって、懲戒処分の対象者の社会的評価を下げることにつながるといえます。  名誉棄損に関して、民法第723条は、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」と定め、被害者による名誉棄損の加害者に対する損害賠償請求権と名誉回復措置請求権を認めています。  日本の名誉棄損の解釈では、たとえ、真実を公開した場合であっても、それが対象者の社会的評価を下げる以上は、原則として違法とされています。違法と判断されてしまうと、損害賠償および名誉回復の責任(例えば、日刊新聞紙への謝罪広告の掲載やホームページ上への謝罪文の掲載などの方法が採用されています)を負担することとされています。  例外的に許容されるのは、公開の目的が専(もっぱ)ら公益目的であることに加えて、当該事実が真実であること、または真実であると判断するに足りる相当な理由があることが必要と考えられています。  過去の事例で、懲戒解雇の結果および当該解雇に至る経緯などを公表したところ、対象の従業員から名誉棄損に基づく請求が行われた事件があります(泉屋東京店事件・東京地裁昭和52年12月19日判決)。  その事件では、裁判所が「一般に、解雇、特に懲戒解雇の事実およびその理由が濫(みだ)りに公表されることは、その公表の範囲が本件のごとく会社という私的集団社会内に限られるとしても、被解雇者の名誉、信用を著しく低下させる虞(おそ)れがあるものである」としており、懲戒の公表による名誉棄損の可能性を示しました。  さらに、「公表する側にとつて必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用い、かつ被解雇者の名誉、信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表した場合に限られると解すべきである」と判断しています。  この裁判例では、「真実であることを前提とした必要最小限度」という厳格な基準が用いられており、公表の範囲を決めるにあたっては参考にできると思われます。  一方で、広島高裁平成13年5月23日の判決においては、降格処分を会社内で掲示した事例について、こちらでは、降格処分が真実であり、名誉を毀損する意図をもって行われたものではないこと、業務上必要な情報の共有であったことから名誉棄損とまでは認められておらず、公表自体が一律に禁止されるというわけではありません。 3 公表の際の留意点について  懲戒処分の公表にあたっては、懲戒対象者の名誉棄損に該当しないように、留意する必要があります。このことは、就業規則などにしたがって公表する場合でも同様です。  仮に、懲戒事由まで公表する場合には、当該懲戒の根拠となる事実が真実であることが必要と考えるべきでしょう。紹介した裁判例においては、いずれも事実が真実であることを前提としており、この点を欠く場合には名誉棄損に該当する可能性が高いといえます。  次に、懲戒対象者や被害者を特定できる形で行うのか否かという点です。懲戒処分が原則として不名誉なことであることからすれば、業務上の必要性がないかぎりは、氏名などについては公開をするべきではないでしょう。降格などの人事とかかわるような事項については、業務上の必要性が認められやすいといえますが、それ以外の場合には氏名の公表まで認められる範囲は広くないと考えられます。  これらの点に関して、人事院では、公務員に対する懲戒処分の公表指針を定めています。公表する際には、事案の概要、処分量定および処分年月日並びに所属、役職段階などの被処分者の属性に関する情報を、「個人が識別されない内容のものとすること」を基本として公表するものとしています。さらに、被害者またはその関係者のプライバシーなどの権利利益を侵害するおそれがある場合など、公表することが適当でないと認められる場合は、公表内容の一部または全部を公表しないことも差し支えないものとしています。  人事院の公表指針は、被懲戒者の名誉や被害者がいる場合のプライバシーなどに配慮した内容となっており、懲戒処分を公開する場合の基本的な考え方が示されているといえ、参考になるでしょう。  パワーハラスメントの事案では、加害者と被害者双方への配慮が必要となるほか、事案の内容から当事者が特定されやすいという場合もあり、氏名などを秘匿したとしても、懲戒事由を明記してしまうと個人が識別されない内容とはなりにくい場合があります。そのため、公表による抑止のみではなく、研修や教育の再徹底やトップメッセージを追加で公表するなど、そのほかの方法による再発防止を検討することも視野に入れるべきと考えられます。 【P46-47】 高齢社員の心理学 ―加齢でこころ≠ヘどう変わるのか― 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 増本康平 第2回 加齢にともない衰える記憶と維持される記憶  高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、こころ≠ノ焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。 加齢にともなう脳の変化  前回は、「老い」に対する偏見や思い込みが、記憶成績の低下やストレスの増加につながるため、仕事のやる気やパフォーマンスを高めるうえで、老いに対して適切な知識を持つことが大切であることをお話ししました。  今回は、多くの人が加齢により機能が低下すると考えている「記憶」を取り上げ、高齢期の特徴について解説します。  私たちが生まれてからこれまでに経験した出来事、獲得した知識、身につけたスキル、日常生活での習慣といったさまざまな情報はすべて脳に蓄えられています。生まれたときには400g程度だった私たちの脳は、20歳くらいで1200〜1400gと3倍になり成長のピークを迎えます。脳には千億個の神経細胞があるといわれていますが、脳のシワがある表面の大脳皮質にかぎっても、20歳以降は1日に約8万5千個、1秒に約一つの脳神経細胞が失われ、90歳のときにはピーク時に比べ10%ほどの脳神経細胞が減少します。  このような脳の変化が起きるため、加齢にともなう記憶機能の低下は個人差はありますが避けることはできません。  しかし興味深いのは、脳全体が均等に加齢の影響を受けるわけではないということです。図表の脳のイラストは、加齢の影響を受けやすい場所(色のついている箇所)を表しています。情報の入力や検索に関連する前頭前野、記憶の定着をになう海馬において脳の変化が顕著にみられますが、それ以外の箇所は高齢になっても比較的保たれます。そのため、記憶機能全般が低下し、これまでに獲得したすべての情報が失われるわけではないのです。 高齢者でも維持される記憶  知識、スキル、習慣に関する記憶は加齢の影響を受けにくいことがわかっています。例えば知識のピークは70代です。知識は脳全体のネットワークによって形成されているため、特定の脳機能の低下の影響を受けにくいのです。70代半ばから知識も徐々に失われますが、低下はなだらかです。  これまでに獲得したスキルも失われるわけではありません。スキルは長年の訓練によって形成されるもので、専門家や職人、スポーツ選手の優れたパフォーマンスもスキルの記憶を基盤としています。例えば、将棋の熟達者は盤面を少し見ただけで、状況や次の手を瞬時にある程度把握することができます。仕事においても何か問題が起きたときに、その問題の原因がどのプロセスで生じているのか、おおよその予測がすぐにできるのは、長年の訓練や経験によって形成されたスキルがあるからです。  また、規則正しい生活、お酒、たばこ、挨拶をする、運動をする、メモをとる、といった日々の生活のなかで身につけた習慣も高齢になっても維持されます。修道女を対象とした研究では、死亡後の解剖によって認知症を発症したことが判明した人でも、規則正しい生活習慣が失われていなかったため、生前は周囲が認知症であったことに気がつかなかったことを報告しています。このようなスキルや習慣と関連する大脳基底核、小脳といった脳部位は加齢の影響を受けにくく、そのため高齢になっても維持されるのです。 加齢とともに低下する記憶  エピソード記憶、ワーキングメモリと呼ばれる記憶は、加齢にともなう脳の変化が顕著にみられる前頭前野や海馬と関連しているため、高齢期になると低下します。  エピソード記憶は過去の経験(思い出)の記憶を意味します。「今日会ったあの人の名前は…?」、「昨日の晩御飯何食べたかな?」、「鍵がない! どこに置いたっけ?」。このような物忘れは、エピソード記憶のエラーの結果生じます。ただ、物忘れがあるからといってすぐに認知症を心配する必要はありません。アルツハイマー病などの認知症では初期の段階でエピソード記憶に重篤な障害がみられますが、それは健康な人が経験する物忘れとはまったく異なります。人と会ったことを思い出せない、ご飯を食べたことを思い出せない、と行動そのものを忘れてしまうのです。結果として、忘れたことを忘れるので自身の記憶障害に気づかないこともあります。  ワーキングメモリは、頭の中に複数の情報を展開し、操作するための作業スペースで、複雑な課題や思考を行う際に特に重要となる記憶です。若いときは、頭の中の作業スペースが広いので、さまざまな情報を展開し、順番を入れ替えたり、修正したりして複雑な課題をこなすことができます。しかし、作業スペースが狭くなってくると展開できる情報の量がかぎられ、必要な情報を取り出すのにも時間がかかるようになります。この結果、判断が若い人よりも遅れたり、複数のことを同時にこなすことがむずかしくなるのです。  このように加齢にともない一部の記憶機能が低下するのは事実です。しかしながら、記憶成績の低下が仕事のパフォーマンスの低下を意味するわけではありません。衰えに適応し、維持されたスキルや知識を活かすことで社会でも活躍する高齢者はたくさんいます。次回は、このような記憶を含む認知機能の低下に、どのように対応すればよいのかについてお話しします。 【参考文献】 増本康平(2018)『老いと記憶〜加齢で得るもの失うもの』中央公論新社 ※1 Buckner, R. L. (2004). Memory and executive function in aging and AD: multiple factors that cause decline and reserve factors that compensate.Neuron, 44(1), 195-208. 図表 脳の加齢変化 加齢 前頭前野 海馬 【P48-49】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第8回 「諸手当」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回取り上げるのは、最近話題になることが増えている「諸手当」についてです。手当の前に諸≠ェついているように、手当には多くの種類があります。会社勤めをしているほとんどの方の給与明細には、何かしらの手当項目があると思います。それにもかかわらず、従来それほど注目されてこなかった手当ですが、最近は「人手不足への対応」、「テレワークの拡大」、「同一労働・同一賃金への対応」という三つの観点からあらためて注目されているように感じます。 手当とは何か  手当には、「住宅手当」のように支給目的に関する用語をつけるのが一般的で、ある意味わかりやすい給与項目です。そのため、手当の項目を見るとどのような会社なのか≠ェみえてくるといっても過言ではありません。  手当とは簡単にいうと「基本給」以外に支払われる給与項目のことです。それでは、基本給とは何かという話になると、厚生労働省が毎年発表している就労条件総合調査では、「毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務にともなう要素によって算定され支給される賃金」と定義されています。基本給は労働に従事しているかぎり必ず支給されるものですが、手当は条件次第で支給されるものといえます。この条件については就業規則や給与規程などで、どのような場合にいくら支給されているかを明記しておくのが原則となります。 手当は支給目的が重要  それでは、なぜ給与は基本給だけでなく、手当を切り出しているのかについて見ていきたいと思います。図表をご覧ください。ここに記載されている項目がおおよその手当の種類となります。ここにも「勤務手当」、「生活手当」という記載がありますが、手当は支給目的が重要なため、筆者の解釈も含めてもう少し細かく分類してみたいと思います。  @職務の重さや困難さに対する報奨(役付手当、特殊作業・勤務手当)、A技能・技術習得者の確保(技能手当、技術(資格)手当)、B着実な勤務・出勤の促進(精皆勤手当、出勤手当)、C実負担の代替(通勤手当)、D生活の支援(家族手当・扶養手当・育児支援手当・住宅手当・単身赴任手当・別居手当・食事手当)、E地域の物価や事情への配慮(地域手当・勤務地手当・寒冷地手当)の六つです。  これらの手当については、法律上で支給を定められているものはありません。そのため、あえて支給している手当に会社の考えや置かれている状況が表れることになります。例えば、Aが手厚いのは特殊な技能が必要な会社、Dは社員の中長期的な勤務を望んでいる会社、Eは事業所のある地域が分散している会社などです。これらの事情がない、もしくは明確なポリシーのもと、通勤手当以外は基本給で一本化している会社もあります。  なお、実務的な背景として、基本給の高さと賞与額や退職金が直接連動している会社がその額を抑えるために、給与総額は変えずに基本給と手当を切り分けていたケースもあることは押さえておいてもよいでしょう。 手当に関する動向  手当の支給割合や支給額などは、図表で扱った就労条件総合調査(厚生労働省)のほかに、職種別民間給与実態調査(人事院)、賃金事情等総合調査(中央労働委員会)などでも大きく扱っており、かつ一般公開されているため単年度の傾向が把握できます。手当全体の増減傾向については、「就労条件総合調査」の「過去3年間の賃金制度の改定内容別企業割合」において「手当を縮減し基本給に組入れ」が平成26年調査計で4・5%、平成29年調査計で11・1%となっており、縮小傾向といえます。一方で、世間の動向には一方的に縮小とはいい切れない動きも出てきています。  まずは「人手不足への対応」についてですが、就労人口の減少もあり、特に若手の採用が困難ななかで、給与額の底上げや従業員を大切にする会社≠ニのイメージを打ち出すことを目的に、家族手当(特に子ども部分)や住宅手当の新設・拡充に取り組む会社も出てきています。  次に「テレワークの拡大」ですが、新型コロナウイルス感染症予防対策の一環で、自宅などオフィス以外の場所で勤務する、テレワークを導入している企業が2020(令和2)年に一気に増えました(東京都の「テレワーク導入実態調査結果」では、導入率57・8%)。手当に関係するのが、通勤手当の廃止(または縮小)と在宅勤務手当の導入です。勤務する場所がオフィスから自宅に変わることで、必要な実負担が自宅の光熱費やインターネット回線にシフトしていることへの対応です。  最後に「同一労働・同一賃金への対応」です。具体的な内容については、厚生労働省のガイドラインや弁護士の判例解説を参照することをおすすめしますが、雇用区分にとらわれず、手当の支給目的と対象者をあらためて検証する動きが活発になっていることについて、本稿でも触れておきたいと思います。定年後の継続再雇用についても同様で、再雇用中は手当不支給として基本給一本にまとめてしまうケースが多かったのですが、特に@職務の重さや困難さに対する報奨や、A技能・技術習得者の確保に関する手当については、説明責任やモチベーション対策、優秀なベテラン確保の観点から、再雇用者であっても支給する動きが強まってきています。 ☆  ☆  次回は柔軟な働き方の促進を目的とした「限定社員」について取り上げる予定です。 図表 諸手当の種類別支給企業割合(令和元年11月分) 複数回答(単位:%) 令和2年調査計 計 100.0 業績手当など(個人、部門・グループ、会社別) 13.9 勤務手当 役付手当など 86.9 特殊作業手当など 12.2 特殊勤務手当など 24.2 技能手当、技術(資格)手当など 50.8 精皆勤手当、出勤手当など 25.5 通勤手当など(1か月分に換算) 92.3 生活手当 家族手当、扶養手当、育児支援手当など 68.6 地域手当、勤務地手当など 12.2 住宅手当など 47.2 単身赴任手当、別居手当など 13.1 上記以外の生活手当(寒冷地手当、食事手当など) 15.3 調整手当など 31.5 上記のいずれにも該当しないもの 13.9 出典:厚生労働省「平成27年就労条件総合調査の概況」より抜粋 【P50-53】 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜高齢社員の戦力化に向けた人事管理を考える〜 新潟・愛知会場開催レポート 新型コロナウイルス感染防止対策を徹底し人数限定・短時間で開催  当機構では、高年齢者雇用に関する理解と認識を深めるイベント「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。  令和2年度は、厚生労働省のほか関係団体の協力のもと、2020年10月〜12月にかけて全国5都市(新潟、愛知、大阪、福岡、東京)の会場で開催しました。  今号では「高齢社員の戦力化に向けた人事管理を考える」をテーマとした、新潟・愛知の2会場の開催レポートをお届けします(大阪・福岡・東京会場の模様は3月号に掲載します)。各会場では、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策を講じたうえで、参加人数を限定した短時間での開催となりましたが、学識経験者による講演などを行い、今後の高齢者雇用の方向性について来場者のみなさまとともに考え、生涯現役社会の実現を目ざすイベントとなりました。 70歳まで活躍できる職場環境整備やシルバー人材センター事業を紹介  高年齢者雇用安定法の改正(2021〈令和3〉年4月1日施行)により、70歳までの就業機会の確保が努力義務化され、働く意欲のある高年齢者が活躍できる職場環境の整備が求められています。  本シンポジウムでは、この改正法について厚生労働省による詳細の説明が行われました。  また、愛知会場では、生涯現役社会を支える制度の紹介として、「公益社団法人名古屋市シルバー人材センター」業務部次長の勝見真人氏より、シルバー人材センター事業の説明が行われました。シルバー人材センターは、高齢者が会員となり、経験と能力を活かして働くことを通じて生きがいを得るとともに、地域の活性化に貢献する組織として、各センターがそれぞれ独立した運営を行っています。名古屋市シルバー人材センターには8445人(2019年度末)の会員が登録しており、平均年齢は74・3歳。地域に密着した臨時的・短期的で軽易な仕事を請負または委任で引き受けて会員に提供するほか、名古屋市シルバー人材センターが管理運営をしている「名古屋市高齢者就業支援センター」などが紹介されました。  今号ではさらに、新潟・愛知会場で行われた、東京学芸大学教育学部の内田賢(まさる)教授による基調講演と、新潟会場で行われた高齢社員の活用に積極的に取り組む企業による事例発表の模様をお伝えします。 基調講演 会社の力を引き上げるシニア活用戦略 東京学芸大学 教育学部 教授 内田賢 高齢者が活きる仕組みづくりは社員全体の満足度を高める  高齢者雇用を進めている会社を見ると、トップの意思決定が大きく影響していると感じることがよくあります。この先、自社を成長させていくためには、おそらく多様な人材が入って、刺激し合い、会社の成長に結びつくことが望ましいのだと思います。そういったなかで、会社を強くしていく。その主要戦力の一つとして、シニアにもがんばってもらう。そのために、シニアが強みを発揮できる仕組みをつくっていく。こういった意識を持ったトップが、一歩ふみ込んで、定年延長や定年廃止などに取り組んでいる事例が多くあります。  組織として、なぜシニアを活用するのかといえば、彼らが強みを持っていて、その強みを活かすことが会社の成長、活性化につながり、後に続く人たちにも刺激を与えるから、ということだと思います。その際、シニアが活きる仕組みをつくり、やりがいのある仕事、役割を提供する工夫が大事になります。  例えば、高齢になると体力的な面や仕事への向き合い方などがより多様になってきます。多様な人たちを戦力として活用するためには、多様性に対応した仕組みづくりが必要になります。また、貢献度を「見える化」することも大事なことです。頑張っても頑張らなくても同じ給与では、モチベーションに大きく影響します。  シニアが活きる仕組みづくりを進めることで、シニアはもちろん、若い人や中堅の人たちの視点でみると、自分の将来の姿と重ね合わせるので、社員・構成員全体の満足度を高めることになりますから、やってみる価値はあると思います。高齢者施策は、単に高齢者を対象にしているわけではない、そこを意識していただけたらと思います。  一方で、シニアに意識改革をうながすことも不可欠です。高齢期前の研修実施により、「気づき」の機会を与え、備えてもらう。高齢期に求められる役割に気づいてもらう。そういった準備をするツールとして、50代前後に向けた研修テキストを(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構で作成していますので、ご活用いただければと思います。 高齢者を活かして会社が強くなれる工夫を  改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業機会の確保が努力義務化され、2021年4月に施行されます。  その就業機会の選択肢には、フリーランスとして契約を結んでみるとか、社会貢献活動にシニアを活かすといったことが示されています。  会社とシニアと社会貢献活動がうまく結びつけば、さまざまな取組みができるでしょう。この改正法は、考えようによっては、会社を強くする活用がいろいろできそうです。シニアを活かして会社が成長する施策を、いまからシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。 企業事例発表 地域に根ざした企業が事例発表 長く働ける制度が社員の安心を生み出す 新潟 事例@ 原信(はらしん)ナルスオペレーションサービス株式会社 執行役員 人事教育部長 丸山将範(まさのり) 75歳まで勤務できる環境を整えシニアの新規雇用にも取り組む  本日は、グループ会社「株式会社原信」の事例を発表いたします。原信は、新潟県を中心に65店舗のスーパーマーケットを展開しています。従業員数は約9千人。年齢構成は、50代が約26%と最も多く、次いで40代が約20%、60代が約18%、70代は約1%となっています。  2018(平成30)年1月に、最長で75歳まで勤務できる制度に改定しました。既存の従業員にかぎらず、シニアの新規雇用も含めた取組みです。高齢社員の雇用区分ですが、正社員から定年後再雇用となった嘱託社員のほか、シニアパートナー社員、シニアアルバイトという区分を設けています。嘱託社員は週40時間勤務で70歳までの雇用となりますが、シニアパートナー社員は週20時間または週30時間勤務の2コースに分かれ、週20時間未満の場合はシニアアルバイトとなります。シニアパートナー・アルバイトいずれも、2年以上の勤務実績があることを条件に75歳まで働ける仕組みです。  シニア世代が意欲的に働く姿勢は、若手社員の将来の安心につながっていると考えています。現場の店長からは、「人生経験が豊富な分、相手の立場で物事を考えることができ、コミュニケーションが円滑」という声が聞かれます。シニア社員からは、「休暇が取りやすい」、「定年後も10年以上働ける」などの声が上がっています。  今後の課題は、短時間勤務のニーズへの弾力的な対応などです。また、長期的な視点から、セカンドキャリアの選択肢として、グループ会社への転籍や、環境関連のNPO団体への会員化なども考えています。 新潟 事例A 湖山(こやま)医療福祉グループ社会福祉法人苗場福祉会 事業本部 法人管理部次長 飯塚千賀子 (リモート参加) 定年後は気力、体力にあわせて個別の労働契約を結び、働ける職場  当会は、新潟県中越地方を中心に老人福祉事業を展開する社会福祉法人です。2020(令和2)年4月現在、新潟県、埼玉県、千葉県で合計22施設を運営しており、2021年には埼玉県、群馬県、新潟県に新施設を開設する予定です。  法人の未来のためには事業拡大が欠かせません。その一方で、新施設を開設するには、職員を確保する必要がありますが、どんどん人が集まる業種ではありませんし、ほかの法人や会社との差別化を図っていくためには、職員の処遇の改善が必須です。そして、入職してくれた職員に、いかに長く勤めてもらえるかが重要になります。高齢者層を前向きにとらえる意味で当会では「アクティブシニア」と呼び、雇用しています。  当会では、2018年4月に定年を65歳に引き上げました。1年前から動き始めて、対象者に面談をして意向を確認し、すでに定年後非常勤に変更している職員にも面談したうえで、希望者全員を定年前の給与に変更しました。65歳の定年後は、本人と家庭状況に合わせた条件で勤務できるように、毎年相談のうえ、雇用契約を結んでいきます。  65歳定年にしたことで、資格や経験豊富な職員の流出が防げるだけでなく、「65歳まで働くことができる」という理由で、他法人からの転職を希望する方もいます。  今回、内田先生のお話のなかで「シニアの力を戦力としてとらえる必要がある」と教えていただきました。今後5年間に最も職員数が多い60歳〜65歳の職員が順次定年を迎えますので、定年を延長すべきか、社内議論を始めていきたいと考えています。  当会にとって、今後も新規事業は必須となっていきますので、魅力ある法人を目ざして、定期的に労働条件や就業規則などの改善に努め、年齢にかかわらず働きやすい職場をつくり、よりよいサービスを提供していきたいと思います。 新潟 事例B 株式会社 植木組 執行役員 総務人事部長 松井範幸(のりゆき) 65歳への定年延長について改定作業の内容とポイント  当社は、東日本を中心に事業を展開する中堅ゼネコンで、土木部門では高速道路、ダム、橋、復興関連事業などを、建築部門では病院、銀行、工場をはじめ、高田城なども手がけています。  2020年4月に、60歳から65歳へと定年を延長しました。背景には、高齢化にともなう働き手の確保、旧再雇用制度によるモチベーション低下などがありましたが、何よりも、技術の伝承の必要性がありました。  定年延長の作業は、実態の洗い出しから始めて、賃金構成・賃金テーブルの検討、総額人件費のシミュレーション、それらをふまえた社員全体の賃金カーブの検討、定年延長者の評価制度の検討、最後に関連規定と人事システムの整備をして、改定にこぎつけた次第です。  改定のポイントとして、60歳以上は「シニア社員」として定義、評価制度は既存社員と同じ仕組みとし、成果重視にしました。賃金体系は既存社員とは異なる仕組みとしましたが、こちらも旧来の年功的処遇ではなく成果を重視した制度に改めました。賃金カーブは、基本的に50歳以降を念頭にカーブを抑制し、60歳以降の賃金水準を引き上げました。退職金の取扱いは、現行通り60歳時点で支給していますが、ここについては今後の検討課題と認識しています。  改定作業は1年という短期間のうえ、非常にきつかったのですが、トップの実施方針のもと、熱意を持って取り組みました。  定年延長の最終的なねらいは、社員一人ひとりの「自助努力」はもちろんのこと、若手とシニアがそれぞれ尊重し合い、「互助」の精神で働くことで、会社も社員もより「イキイキ」となること。そして、そのことが最終的に社風や社内文化として醸成され、活力ある会社になっていく、ということです。  今後は70歳までの継続雇用も視野に入れ、よりきめ細やかな雇用管理と、収益基盤の一層の確立、この二つが課題であると認識しています。 写真のキャプション 新潟 愛知 【P54-55】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテスト※は、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 ※ 令和3年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正にともない、高年齢者が一層活躍できるよう70歳までの就業確保が努力義務化されたことから、名称を変更しました(旧:高年齢者雇用開発コンテスト)。 T 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度の導入 A賃金制度、人事評価制度の見直し B多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 C創業支援等措置(65歳以上における業務委託・社会貢献)の導入※ D各制度の導入までのプロセス・運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高齢従業員のモチベーション向上に向けた取組みや高齢従業員の役割等の明確化 A高齢従業員による技術・技能継承の仕組み B高齢従業員が活躍できるような支援の仕組み(IT化へのフォロー、危険業務等からの業務転換) C高齢従業員が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D新職場の創設・職務の開発 E中高齢従業員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施 等 高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組み(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※ 「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業」又は「b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類など イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラストなど、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。 ロ.応募様式は、各都道府県支部高齢・障害者業務課にて、紙媒体または電子媒体により配布します。また、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html)からも入手できます。 ハ.応募書類などは返却いたしません。 2.応募締切日 令和3年3月31日(水)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課へ提出してください。 V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)平成30年4月1日〜令和2年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和2年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和2年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和2年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入(※)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、次の「X 審査」を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査 学識経験者などから構成される審査委員会を設置し、審査します。 Y 審査結果発表など  令和3年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関などへ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権など  提出された応募書類の内容にかかわる著作権および使用権は、厚生労働省および当機構に帰属することとします。 [ お問合せ先 ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.or.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課  連絡先は65頁をご参照ください。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中! ぜひご覧ください!  当機構の「65歳超雇用推進事例サイト」では、「65歳超雇用推進事例集」の掲載事例、「コンテスト上位入賞企業の事例」を検索・閲覧できます。  このほか、「過去の入賞事例のパンフレット」をホームページに掲載しています(平成23年〜29年度分)。  「jeed 表彰事例 資料」でご検索ください。 jeed 65歳超 事例サイト 検索 【P56】 日本史にみる長寿食 FOOD 327 大根は台所の千両役者 食文化史研究家● 永山久夫 餅を食べたら大根おろし  古くは大根のことを「鏡草(かがみぐさ)」とも呼びました。鏡は餅のことであり、餅の消化を助けるために、生大根が添えられるところからきています。  お正月は餅を食べる機会が多く、食卓の上には大根のなますや大根おろしが必ず用意されていたものです。  生大根は、いってみれば天然の胃腸薬みたいなもので、多彩な消化酵素が豊富に含まれています。餅やごはんの消化を助けるデンプン分解酵素のアミラーゼをはじめ、タンパク質分解酵素のプロテアーゼ、脂肪分解酵素のリパーゼなどです。  お正月は、ごちそうが次々と出され、満腹になってもさらに食べてしまうことが少なくありません。そのようなときに助けてくれたのが大根おろしであり、千切り大根のなますだったのです。  大根ほど役に立つ食材も少ないでしょう。米不足で、米の代用食としていた時代もありました。  細切りの大根を米の5倍ほど入れて炊いた水っぽいごはんで、食べてもすぐに空腹になるので困りました。 免疫力を高めるイソチオシアネート  「生でよし、すってまたよし、煮てもよし。干して、漬けても、これまたよしよし」といわれるように、昔から大根は台所の千両役者でした。大根は万能なのです。  アミラーゼなどの消化酵素と並んで注目されるのは、イソチオシアネートという大根に含まれている辛味成分。生の大根をすりおろしたり、細かく刻んだりして細胞がこわれ、空気と触れたときに発生する成分です。  イソチオシアネートには卓越した殺菌作用と抗酸化作用、つまり、体細胞を酸化させて弱らせる活性酸素を消去する力があります。アンチエイジング効果で、がんや血栓の形成などを予防し、ウイルスに対して免疫力を強化する働きがあるともいわれています。  イソチオシアネートを発生させる酵素は、大根の皮や先端部分に多く含まれており、この成分を高めるためには、皮つきのままですりおろすとよいでしょう。この成分も消化酵素も時間をおくと効果を失ってしまいますので、生で早く食べることが大切です。 【P57】 BOOKS 高齢者雇用や女性労働など、労働市場のトピックを読み解くためのテキスト 労働経済 清家(せいけ)篤(あつし)、風神(かぜかみ)佐知子(さちこ)著/東洋経済新報社/2200円+税  著者の清家氏は、労働経済学者として、長年にわたり高齢者雇用を研究対象としてきた。本誌にも、法令改正などの節目にたびたび登場しているので、ご存知の読者も多いだろう。本書は、清家氏が2002(平成14)年に上梓した書籍の改訂版で、雇用を取り巻く状況の変化を反映するために、慶應義塾大学で自らの後進を務める風神氏とともに抜本的な改訂を加えた。  入門テキストとして活用されることを想定しており、労働経済学の基本的な考え方をしっかりと身につけられるように、数式的な説明はできるだけ省き、平易な説明が心がけられているところが大きな特長といえる。  本書は2部から構成されており、第T部(基礎編)では、労働経済学の基本的な考え方を解説。第U部(応用編)では、第T部で解説した労働経済学の基本的な考え方にもとづき現実に起きている問題を多様な視点から考察している。労働市場で起きている最もホットな話題とされる高齢者雇用や女性労働に関してもそれぞれ一章が割かれており、「コラム」や脚注も充実している。企業の人事労務担当者が労働市場の現状を把握し、将来に向けた人事施策を考える際に参考になると思われる。 最新の動向をもとに、将来の事業の成功に資する方策を紹介 未来創造型人材開発 進化する育成戦略と学びのデザイン 吉田寿(ひさし)著/経団連出版/2000円+税  リンダ・グラットン氏らの著書『LIFESHIFT(ライフシフト)』によって「人生100年時代」という言葉が一躍有名になった。日本でも少子高齢化の進展と高齢者雇用の推進にともない、人生100年時代における人材マネジメントが注目されるようになった。その重要なキーワードが「リカレント教育」ではないだろうか。  本書は、このような人材マネジメントをめぐる最新の動向をふまえ、これからのグローバル競争やAI革命を勝ち抜くために欠かせない、真に価値ある人材を計画的・継続的に育成していくための方策が具体的な事例を交えて紹介されている。第1章「企業競争力の源泉としての人材と人材開発」から第15章「『学び直し』の時代へ」まで、各章とも豊富な図表を使いながらわかりやすい言葉でまとめられているので、人材マネジメントの現状と課題が容易に理解できる。各章末の「さらに学びを深めるための参考文献」は、知識の深掘りのために役立つだろう。  本書は、著者が中央大学大学院ビジネススクールで担当してきた「人材開発」の講義用テキストがベースとなっている。受講者の声に応えるようにていねいにまとめられた本書を、人材開発に悩みを抱える担当者におすすめしたい。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 2019(令和元)年「雇用動向調査」結果  厚生労働省は、2019(令和元)年「雇用動向調査」結果を公表した。調査は、全国の主要産業における産業別などの入職者数・離職者数、入職者・離職者の性・年齢階級別、離職理由別などにみた状況を明らかにすることを目的に、上半期と下半期の年2回実施している。今回の調査結果は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所から1万4817事業所を抽出して行い、8666事業所(上半期)と8227事業所(下半期)から有効回答を得て、2回の調査結果を合算して年計としてまとめた。回答を得た事業所の入職者6万1163人(上半期と下半期の計)、離職者8万5065人(前同)についても集計している。  調査結果によると、2019年1年間の入職者数は約844万人(前年約767万人)、離職者数は約786万人(同約724万人)となっている。これを率でみると、入職率は16・7%で前年(15・4%)と比べ1・3ポイント上昇、離職率は15・6%で前年(14・6%)と比べ1・0ポイントの上昇となった。その結果、1・1ポイントの入職超過となり、7年連続して入職超過となった。  入職率と離職率の大小関係を性・年齢階級別にみると、男女ともに24歳以下は入職率のほうが高く、25〜29歳から55〜59歳までの各年齢階級で男性はおおむね同率、女性はやや入職率が高い、もしくはおおむね同率、60歳以上で男女ともに離職率のほうが高くなっている。 厚生労働省 「もにす認定制度」で初の認定事業主が誕生  厚生労働省は、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度「もにす認定制度」の初の事業主を認定した。  「もにす認定制度」は、障害者雇用の促進および雇用の安定に関する取組みの実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度で、2020(令和2)年4月に創設。認定されると、自社の商品・サービス・広告などに「認定マーク」を表示することができ、日本政策金融公庫の低利融資対象となるなどのメリットがある。  今回初めて認定された企業は次の3社。 ◆株式会社OKBパートナーズ(岐阜県大垣市)  特例子会社。職場実習や支援機関との連携により、個々の障害者の能力・適性を把握し、適切な担当業務のマッチングを検討。昨年度は、県内の特別支援学校5校から職場実習を計18人受け入れ、うち2人を新卒として採用。 ◆はーとふる川内(かわうち)株式会社(徳島県板野(いたの)郡)  特例子会社。障害者雇用農園を立ち上げるとともに、職域を開発。同農園で働く知的障害者のため、実地指導に加え、作業マニュアルを用いて指導・支援。本社では全業務をマニュアル化し、ミスなく成果が出せる工夫などを実施。 ◆有限会社利通(りつう)(福島県会津若松市)  法定雇用率制度において障害者の雇用義務が生じない事業所にも関わらず、高い雇用率を維持。従業員に対し障害や障害者理解促進のための講演会を開催するなど、障害区分の隔たりなく、ともに働ける環境づくりに努めている。 埼玉県 「シニア活躍推進宣言企業」を認定  埼玉県は、シニアが自らの意欲や希望に合わせて働くことができる社会を構築するため、2016(平成28)年度から「働くシニア応援プロジェクト」を推進している。企業での「働く場」の拡大やシニアの就業支援、シルバー人材センターの魅力を高めることなどを取組みの柱にしている。  具体的な推進策の一つとして、定年の延長やシニアの特性に配慮した勤務形態の導入など、シニアが活躍できる環境づくりに取り組む企業を「シニア活躍推進宣言企業」として認定しており、2020(令和2)年9月3日付で新たに38団体を認定した。すでに認定されている企業とあわせると、令和2年9月末現在の「シニア活躍推進宣言企業」の数は2452団体となっている。  この認定を受けるには、埼玉県内に事業所を有し、「定年や継続雇用の制度を見直す」、「シニアの雇用、働く場所・機会を増やす」などの7項目の認定基準のうち、三つ以上満たしている(あるいはこれから取り組む)ことが必要となる。  認定されると、シニア活躍の取組みがスムーズに実現できるようにアドバイザー(専門家)による支援や、県制度融資の優遇措置、人材確保支援、「シニア活躍推進宣言企業」認定証・ステッカーの交付などの特典を受けることができる。  同県ではさらに、「シニア活躍推進宣言企業」のうち、定年の廃止や定年の70歳以上への引き上げなどを実施している企業を「生涯現役実践企業」として認定しており、2020年9月末現在、「生涯現役実践企業」の数は394団体となっている。 当機構から 「生涯現役社会の実現に向けた地域ワークショップ」を開催  当機構では、10月の「高年齢者雇用支援月間」に、各道府県の支部が中心となって「地域ワークショップ」を開催した(一部は9月、11月に開催)。地域ワークショップは、生涯現役社会の実現に向けて、企業が高齢者雇用への理解を深めることを目的とし、高齢者雇用に関する基調講演、高齢者を戦力化し活き活き働いてもらうための情報提供、高齢者雇用に先進的な企業の事例発表などで構成される。  今号では、10月1日(木)に当機構石川支部が主催した地域ワークショップ「高齢者を活かす雇用・働き方を考える」の模様をレポートする。  同ワークショップでは、開会のあいさつ、最近の雇用情勢の説明(石川労働局職業安定部職業対策課)に引き続き、東京学芸大学教育学部の内田賢まさる教授による基調講演が行われた。講演のテーマは「高齢社員活用のための制度づくり」。内田教授は、2021年4月に施行される改正高年齢者雇用安定法によって「70歳までの就業機会確保」が企業の努力義務となることに言及。従来の「65歳までの雇用機会確保」との違いを説き、70歳までの高齢者の多様性や高齢者の「働かせ方」の多様化などにふれ、多様性に対応した処遇や勤務形態の仕組みづくり、安全衛生体制整備などを説明したうえで、「それらは、高齢者以外の社員にとっても恩恵があること」と述べて先進事例なども紹介。一方で、「高齢者の意識改革も不可欠」として、当機構が作成した高齢期の心掛けが学べる50歳代向け研修資料『12の漢字が魅せる―高齢期に輝くための心掛け―』の内容を紹介した。最後に内田教授は、法改正により「70歳までの就業機会確保」が努力義務になることで、高齢者の「働き方」、「働かせ方」が多様化することを再度強調し、対応した職場環境づくりには先進事例が参考になることなどを語り、講演を締めくくった。  休憩をはさんで行われた「事例発表・パネルディスカッション」では、はじめに澁谷(しぶや)工業株式会社人事部人事課長代理の三浦祐嗣氏、株式会社金沢環境サービス公社取締役保全部長の沖津勝一(しょういち)氏・同社保全部施設維持課の寺本梨乃氏・同社保全部施設維持課の飛鳥井(あすかい)麻結(まゆ)氏、株式会社トーケン常務取締役管理本部長兼総務部長の岡本広志(ひろし)氏・同社管理本部渉外広報課長の木下(きのした)理恵氏から、3社の高齢者雇用の取組みが発表された。  澁谷工業は2017(平成29)年7月、60歳定年後、70歳まで就業可能な雇用システムを導入(64歳まで再雇用時に設定した給与を維持。65歳以降は再設定)し、高齢社員に求める役割を明確にしたところ、高齢社員のモチベーションが向上した。  金沢環境サービス公社は、高速道路SAのトイレ清掃などに仕事熱心な高齢の清掃員が多数働いていることから、個々の都合に合わせた働き方や午前・午後30分ずつの有給休憩導入など、無理なく働き続けられる職場づくりに取り組み、高齢清掃員のさらなる定着を図っている。トーケンは、定年後も経験を活かして働きたいとの声が多く、活躍の場と働きやすい職場づくりに取り組み、個々に適した雇用形態と待遇、ICT活用、経験やノウハウを伝承する場の創設などを実施。高齢社員の活躍が技術力向上による業績向上につながっている。  引き続き行われたパネルディスカッションには、澁谷工業の三浦氏、金沢環境サービス公社の沖津氏、トーケンの岡本氏が登壇した。コーディネーターを内田教授が務め、高齢者が働きやすい職場づくりに取り組むうえで苦労したことや取組みによる意外な効果などのエピソードが披露された。  続いて、「高年齢労働者の労働災害防止対策への取組みについて」(石川労働局労働基準部健康安全課)、「金沢市の高年齢者雇用関係施策のご紹介」(金沢市経済局労働政策課)、「65歳超雇用推進助成金のご紹介」(当機構石川支部)の説明が行われた。今回は新型コロナウイルス感染予防のため参加人数を制限し、座席間の空間を確保するなどの対策を講じたうえでの開催となったが、熱心にメモを取る参加者の姿も目立ち、充実した時間のなかで幕を閉じた。 写真のキャプション 座席間隔を空けるなど、新型コロナウイルス感染防止対策を徹底したうえで開催した 【P60】 次号予告 2月号 特集 高年齢者雇用安定法が改正 ―70歳までの就業機会確保に向けて― リーダーズトーク 岸本裕紀子さん(エッセイスト) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方 Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●新年明けましておめでとうございます。昨年は、過去に例のない新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言が発出されるなど、日々の働き方や暮らし方に大きな変化が求められた1年でした。経営者のみなさま、人事ご担当者のみなさまにおかれましても、こうした状況への対応に追われる日々が続いているのではないかと思います。本誌でも、少しでもみなさまのお役に立てるような情報発信に努めてまいりますので、引き続き本年もご愛顧を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。 ●今回の特集は、「治療と仕事の両立支援」をテーマにお届けしました。高齢者が持つ知識や技術、豊富な経験といった、会社にとっての大きな財産を活用していくためには、両立支援体制の整備は不可欠です。病気に応じた対応方法については、各解説記事を参照していただければと思いますが、藤沢タクシー株式会社の企業事例からもわかるように、両立支援を進めるうえで企業に求められる最初の一歩は、コミュニケーションではないでしょうか。病気を抱えた労働者がどのようなことに困っているのか、どのような支援を求めているのか、ぜひ従業員の声に耳を傾け、医療機関とも連携を取って、治療を続けながら働ける職場の整備に努めていただければ幸いです。 ●当機構では、2020年10月7日に開催された「高年齢者雇用開発フォーラム」を皮切りに、全国5カ所で「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、全国43会場で「地域ワークショップ」を開催しました。新型コロナウイルスの感染防止対策のため、来場者数を制限するなど規模を縮小しての開催となりましたが、一部会場の講演や企業事例発表の模様を動画で公開しております。ご関心のあるかたは、ぜひ当機構ホームページをご覧ください。 月刊エルダー1月号 No.494 ●発行日−−令和3年1月1日(第43巻 第1号 通巻494号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ※令和3年4月1日から、メールアドレスはelder@jeed.go.jpに変更となります ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-787-9 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 新春特別企画 「令和2年度 高年齢者雇用開発フォーラム」トークセッションから 齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜  昨年10月7日(水)に開催された高年齢者雇用開発フォーラムより、「令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト」入賞企業3社が登壇して行われたトークセッションの模様をお届けします。コンテスト審査委員会の座長を務められた法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科の藤村博之教授をコーディネーターに迎え、高齢社員の能力・技術を活かし、長く働き続けられる職場づくりの工夫などについて、それぞれの取組みをうかがいました。 コーディネーター 藤村博之氏 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント 研究科 教授 パネリスト 小川明彦氏 株式会社大津屋 代表取締役社長 永井實(みのる)氏 グロリア株式会社 代表取締役 福原一彦氏 英興株式会社 業務部長 藤村 今年度の受賞企業には、働く意欲があり、健康であれば、70歳を超えて働ける事例が多くみられ、年齢でひとくくりにしない対応をしていることが大事な点だと思いました。特に最優秀賞を受賞した「株式会社大津屋」さんでは、AIを活用して高齢社員にかかる負荷を軽減しています。負荷がかかる部分は技術力で解決し、人にしかできない分野に高齢社員の経験、知恵を活かしていくことが、これからの高齢社会を希望のあるものにしていくのではないかと思います。  それでは、受賞された3社の主な取組み内容についてお聞きしていきたいと思います。最初に、「大津屋」の小川さんからお願いします。 小川 当社は、2019(令和元)年6月に70歳定年制を導入しました。現在は、継続雇用で定年後も働いていますので、いずれ定年制の廃止も考えています。  高齢社員の能力・技術を活かすために、半年ごとに個人面談を行い、「体力的にきつくなってきた」という場合などは、継続雇用制度では短時間勤務コースを選択することができます。また、コンピテンシー評価を活用した人事制度を導入し、人事評価を年2回行っています。しっかりした評価をすることで「自分は会社から頼りにされている」と感じてもらえるのではないかと思っています。  先ほど藤村先生からお話しいただいたAIというのは、総菜自動会計システムのことです。以前は会計係が70種類の総菜の単価を覚える必要があったのですが、このシステムは、自動的に商品を識別して重量も計り、金額を出します。たいへん好評で「これがあるから勤めていられる」という声が高齢社員から聞かれます。  大事なことは、うまくいく仕組みづくり≠考えることで、その際、ポイントになるのは、社員に寄り添う気持ちではないかと強く感じています。 藤村 ありがとうございます。続きまして、「グロリア株式会社」の永井さん、お願いします。 永井 当社は、2016年に定年制を廃止しました。人口減少と高齢化が進むなかで品質を保持するためには、経験のある社員に長く働いてもらうことが大事だと考えたからです。  そして、技能・技術の伝承に注力し、経験の浅い社員に高齢社員が指導する研修センターを設置し、活用しています。高齢社員が中心になり、作業マニュアルの作成も行いました。また、品質保持や身体的負担の軽減を図るため、作業工程の細分化を進めました。一方、LED照明などにより工場内の照度を上げたり、作業用の椅子を個々に適した種類に切り替えるなどの作業環境改善にも取り組みました。  これらの取組みにより、高齢社員が中心になって働ける環境となり、いま、高齢社員も張り切って仕事をしています。 藤村 ありがとうございます。続きまして、「英興株式会社」の福原さん、お願いします。 福原 当社は、2018年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、希望者全員70歳までの継続雇用制度としました。現在、9割以上の社員が継続雇用を選択しており、社員の満足度が向上していると理解しています。  社員の健康を守るために、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組むとともに、年2回の健康診断、保健師による高齢社員の持病管理、定期面談などを実施しています。同時に、高齢社員の技術・技能を受け継ぐことにも注力し、「自分のやり方」の加工手順を標準化して、「加工標準書」を作成しました。また、加工手順を映像化し、動画から学べる仕組みもつくりました。最も効果があったのは、高齢社員が若手社員とペアを組み、技術を伝承する取組みです。若手が頼ってくるのが楽しいようで、高齢社員のモチベーションが向上しました。  こうした取組みを実践しながら、75歳まで働ける職場づくりを目ざしたいと考えています。 意欲を持って働き続けていくためのさまざまな工夫と考え方 藤村 ありがとうございます。次に、60歳以降も意欲を持って第一線で働き続けてもらうための工夫について、それぞれお聞きしたいのですが、「大津屋」の小川さんからお願いします。 小川 若い人も高齢社員も一緒になって働く、チームワークでやる、という空気感をつくるようにしています。 藤村 ありがとうございます。続きまして、「グロリア」の永井さん、お願いします。 永井 60歳以上の社員が中心になって生産性向上について話し合い、例えば、床下配線がつまずきやすいといえば、すぐに改善して、働きやすい環境づくりに努めています。また、高齢社員が指導をした若手が上達していくことが、高齢社員の喜びにもなっていて、モチベーションを向上させているように思います。 藤村 ありがとうございます。続きまして、「英興」の福原さん、お願いします。 福原 当社では年齢を意識しておらず、給料が下がることもなく、モチベーション低下という悩みはありません。そうしたなかで40代、50代の社員が「70歳まで働ける」という安心感からモチベーションが上がってきています。 藤村 ありがとうございます。次に、定年の廃止や継続雇用制度の改定などにあたり行った議論や、取組みを進めるための工夫についてお聞かせください。 小川 制度改定は、高齢社員が安心して長く働けるという側面だけでなく、若い社員の将来の安心という側面もあり、そういう気持ちで整備を進めていきました。 永井 主力で続けてもらうためには、処遇などは現状のままで、責任を持って働いてもらうことが大事だと考え、現制度になりました。 福原 当社では、技術の継承が高齢者雇用に取り組むうえでの一番のポイントでした。 藤村 ありがとうございます。最後に、各社から一言ずついただきたいと思います。 小川 人口減少により、お客さまも採用できる人も減っていくなかで、いかに高齢社員が活躍できる会社にしていくか。すみやかに、そして、一生懸命やるべき取組みだと思っています。 永井 高齢社員が働ける環境を整えて、特別扱いにしないことが大事だと思います。高齢者も若者も、同じようにがんばってもらいたいからです。 福原 高齢者ではなく「普通の社員が70歳になった」という感覚を持つほうが、取組みはスムーズにいくように思います。 藤村 3人のお話を聞いて、年齢や制度は通過点であって、働けるうちは働き続けて社会を支える側に居続ける。こういう意識を一人でも多くの人が持つことで、日本の高齢社会は世界の手本になる可能性があると思いました。本日はありがとうございました。 ※ この「高年齢者雇用開発フォーラム」トークセッションの動画を、「JEED CHANNEL」(You Tube)にて公開しています(https://www.youtube.com/watch?v=m8h8R1HUoDs)。動画の説明欄にある、フォーラムについてのアンケートにもぜひご協力をお願いします 企業プロフィール 英興 株式会社 〈京都府京都市〉 ◎創業 1947(昭和22)年 ◎業種 石英ガラス製品加工販売等 ◎社員数 94人 ◎定年・継続雇用制度  定年は65歳。希望者全員70歳まで継続雇用、その後は健康状態と意欲により1年更新。現在の最高年齢者は76歳。 グロリア 株式会社 〈千葉県南房総市〉 ◎創業 1960(昭和35)年 ◎業種 諸官公庁および民間特需のユニフォーム ◎社員数 97人 ◎定年・継続雇用制度  定年なし。現在の最高年齢者は78歳。 株式会社 大津屋 〈福井県福井市〉 ◎創業 1963(昭和38)年 ◎業種 コンビニエンスストア ◎社員数 300人 ◎定年・継続雇用制度  定年は70歳。就業規則により73歳まで継続雇用。その後、運用により上限なし。現在の最高年齢者は76歳。 3社のさらに詳しい取組み内容は、本誌2020年10月号「特集」をご覧ください エルダー2020年10月号 検索 写真のキャプション @藤村博之氏(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授)、A小川明彦氏(株式会社大津屋 代表取締役社長)、B永井 實氏(グロリア株式会社 代表取締役)、C福原一彦氏(英興株式会社 業務部長) 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はいつもと毛色の違う脳トレです。自分で調べ、問題をつくってみましょう。  聞いたことのある俳句を10個探します。そしてまずは穴埋め問題をつくり、翌日、解いてみましょう。それから10個の句を五・七・五で刻み、組み合わせて新しい句をつくりましょう。運動しながら俳句を詠むのもおすすめです。 第43回 俳句を詠んで脳トレ チャレンジ@ 五・七・五のどれかを隠し、穴埋め問題をつくり、翌日解いてみましょう チャレンジA 10個の句を五・七・五で分解し、組み合わせて新しい句をつくってみましょう チャレンジB 運動しながら俳句を考えてみましょう 少しの工夫で、よりよい効果を  俳句を詠んでいるときの脳活動を調べると、ワーキングメモリに強く関係する「前頭前野」や、記憶、言語、微細な観察、音の解析などに関わる「側頭葉」、比喩(ひゆ)の理解や想像力にかかわる「側頭頭頂接合部」などが活性化することがわかります。  俳句はだれでも簡単にできる脳トレでもあり、少し工夫するだけでより高い効果が得られます。具体的には、まず好きな俳句集を見つけましょう。インターネットに載っている俳句や、新聞の俳句投稿欄に掲載されたものでも構いません。句集の準備ができたら、五・七・五のどれかを隠した穴埋め問題をつくり、翌日に解いてみてください。ここで、大事なのは正解を出すことではありません。間違えてもいいので、いろいろと想像を働かせて考えてみましょう。  また、俳句の五・七・五をバラバラにして、好きに組み合わせて新たな句をつくってみるのもよいですし、俳句を詠むのと運動を並行して行うと、より高い効果が得られます。  いつまでも若々しい脳をつくるため、俳句を通した脳トレに、ぜひ挑戦してみましょう。 今回のポイント  創造は無からではなく、模倣と組み合わせから生まれます。限定があってこそ生まれる創造力を楽しんでください。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年1月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています。 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストでは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするために、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内 容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌54〜55頁をご覧ください。 応募締切日 令和3年3月31日(水) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65頁をご覧ください。 2021 1 令和3年1月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第1号通巻494号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会