【表紙2】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストでは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするために、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌54〜55頁をご覧ください。 応募締切日 令和3年3月31日(水) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65頁をご覧ください 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.69 定年後はおもしろいから働く≠重視好きなことにチャレンジし、楽しく生きよう エッセイスト 岸本裕紀子さん きしもと・ゆきこ 1953(昭和28)年、東京都生まれ。エッセイスト。慶應義塾大学法学部卒業後、集英社『non-no』編集部に勤務。その後渡米し、ニューヨーク大学行政大学院修士課程を修了。帰国後に文筆活動を開始し、女性の人生をテーマに多くのエッセイや社会評論を執筆。著書に『定年女子〜60歳を過ぎて働くということ』(集英社)※1など。  厚生労働省が発表した「令和元年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は女性が87・45歳、男性が81・41歳でいずれも過去最高を更新しました。特に女性は二人に一人が90歳まで生きる時代を迎え、「定年」はもはや通過点となったようです。今回は、定年後も働き続ける女性たちを丹念に取材した書籍『定年女子』の著者で、エッセイストの岸本裕紀子さんに、定年後の女性の生き方や働き方などについてお話をうかがいました。 いま置かれている状況をチャンスととらえ仕事がおもしろいから働くという女性が多い ―テレビドラマ化もされた著書『定年女子〜これからの仕事、生活、やりたいこと』に続いて、定年後も働き続ける女性を取材した『定年女子〜60歳を過ぎて働くということ』を出版されました。執筆の動機は何だったのでしょうか。 岸本 最初の本は私自身が定年とされる年齢にさしかかり、元職場の同僚や同級生たちは定年になったらどうするのだろうか、さびしいのか、それとも解放されたと感じているのか、という素朴な疑問から取材をスタートしました。ちょうど定年後再雇用制度が始まったころです。調べてみると定年を迎える女性は年間10万人もいる※2。都市部だけではなく、むしろ地方に多いということも驚きでした。  私の世代は男女雇用機会均等法もなければ、産前産後休業はあっても育児休業はありませんし、女性活躍≠フ後押しもありませんでした。そのなかで女性たちは働き続けるために切り捨ててきたものも多かったと思いますが、一生懸命に働き、実績を残しながらがんばってきた。そのことを知ってほしいという思いも執筆の動機です。それから5年ほどの間に、高齢者を取り巻く状況や働く環境も大きく変化しました。政府も高齢者が仕事をすることを奨励し、60代の人が働くことも普通になりました。いま、私の世代がちょうど再雇用が終わる年齢にさしかかり、あらためて働き続ける女性に焦点をあてて書こうと思ったのが2冊目の本です。 ―定年後も活き活きと働くたくさんの女性が描かれていますが、どんなところに働く目的や、働きがい≠感じているのでしょうか。 岸本 働く目的は、もちろん生活のためというのが一番です。そのほかに仕事が好きだから、ほかにやることがないからと理由はさまざまですが、現場が好きだからという人が多かったですね。管理職になって人をまとめたいというのではなく、現場の仕事で直接いろいろなものに触れたい、またそれが楽しいという人が多い。おそらく、現役時代の一番忙しかった時期は子育てもたいへんですし、家のこともいろいろやらなければいけなかったので、定年後は悠々自適の暮らしを夢見ていた人もいるかもしれません。でも、目の前のことを一生懸命にやっていくうちに50歳を過ぎると、仕事をしているほうが自分らしくいられると感じているようです。  60歳以降も働く女性を取材して感じたのは、いま置かれている状況をチャンスととらえ、おもしろいと思っていることです。最初の就職先は自分の人生設計、例えば結婚して子どもを持つかもしれないので安定的な雇用や収入がほしいなど、長期的な視点でそれが叶うような仕事を選んだ人もいると思います。しかし、第2ステージの60歳以降の仕事選びは、長期的展望はいらなくなる。以前からやりたかった仕事であるとか、あるいは若い人たちと接し、「いろいろなことを教えてもらうことが楽しい」とか、仕事自体がおもしろいから働くという考え方に大きく変わるのです。男性は過去のキャリアにこだわって仕事を選ぼうとする人もいますが、そういう女性はほとんどいませんでした。  例えば、割と堅い会社に勤めていた女性は、定年後に自分が好きだった作家の文学館に受付のアルバイトとして入ったのですが、作家に関する知識がとても豊富なので、いろいろな企画を提案し、実際に新聞を発行するなどして貢献しています。あるいは販売職として若い人と一緒に仕事をしている女性は、若い人が苦手とするお客さまへの接し方が得意で、みんなに感謝されている。それが地位や役職に結びついているわけではありませんが、周囲に感謝され、喜ばれることがうれしいのです。男性は管理職だった期間が長く、現場の仕事から離れている人も多いですが、女性は管理職比率が低かったこともあり、現場で仕事をしてきた人も多い。再雇用になっても現場のサポートに回り、何が足りないのかよくわかっているので、若い人から頼られている人が多かったですね。 働く意欲がある人をきちんと評価しモチベーションを持てるようにしてほしい ―男性も含めて、豊富な経験を持ち、まだまだ元気なシニア層を企業が活用していくためには何が大切だと思いますか。 岸本 最初の本のために取材したときは希望者全員の再雇用制度が始まったばかりで、企業側も正直どう扱ったらよいのかわからず、再雇用先の部署も適当にふり分けるなど、しぶしぶ雇うという感じでした。それから数年経つころには再雇用の人数も増え、徐々に積極的に活用していこうという考え方に変わりつつあります。ではどうすればよいのかを考えるときに大切なのは、働くモチベーションです。特に男性は以前の仕事に非常にこだわり、プライドも高く、会社への愛も強い。そういう人たちに、あってもなくてもよいような仕事を与え、適当な部署に配置するだけではモチベーションが下がります。そうではなく、働く意欲がある人はきちんと評価し、多少差をつけた処遇をする。個人の能力や経験を考慮し、この人にはこういう仕事をやってほしいと、相応の仕事と処遇を提示するなど、働くモチベーションを持てるようにしてほしいと思います。 ―一つのアイデアとして、社内公募などの旗が立つ(求人がある)ことが大事だと著書のなかで指摘されていますね。 岸本 例えば、「うちの部署で○○の仕事をする再雇用の人がほしい」という旗を立てさせる社内公募的方法もよいと思います。それを見て、もし自分が定年後にその仕事をしたかったら手をあげて応募する仕組みです。そのうえで面接し、採用を決定する。札幌の支店で経理の経験がある人を募集すると、これまで東京の本社で勤務してきたが、定年後は実家のある北海道に帰って暮らしたいという人が応募するかもしれません。いまはインターネットを活用すれば全国各地の支店で募集し、アクセスすることもできますし、シニア向けの再雇用型社内公募制度があってもよいのではないかと思います。 おもしろそうだと思ったらやってみて引き出し≠多く持つことが重要 ―2021(令和3)年4月より、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となります。シニアの働き方は今後どのように変化していくと思われますか。 岸本 同じ会社で定年まで働き続ける人が今後は少なくなるのではないかと想像しています。いまの40歳ぐらいの人は、転職を2〜3回しているのがあたり前のような感じで、最初から一つの会社でずっと働いている人が少なくなっています。そうなると新卒で入社し、定年を迎える同期が少なくなるだけではなく、入社の時期もバラバラ、退職の時期もバラバラになっていくのではないでしょうか。現在、企業は毎年何十人、何百人の同期の60歳をどうしようかと悩んでいますが、もしかしたら自分に合った仕事があれば58歳で辞めるかもしれないし、あるいは再雇用の途中で辞める人もいるかもしれません。この年齢はちょうど老親の介護の時期と重なることもあり、介護と仕事の両立のために別の仕事に就くとか、あるいはさまざまな仕事や働き方にチャレンジできるチャンスがあれば、自分の意思でやってみたいと思う人も出てくるでしょう。  以前は55歳を過ぎると仕事がないといわれましたが、いまはそんなことはありません。定年まで同じ会社で働くという意識が薄れてくると、同じ会社に65歳までいるから70歳まで雇いなさいといっても、実態は政府が思い描いているようにはならないかもしれません。 ―同じ会社で働き続けるだけではなく、仕事の選択肢も増え、働き方も多様になってくるということですね。最後に充実したシニアライフを送るためのアドバイスをお願いします。 岸本 これは楽しそう、おもしろそうだと思ったらとにかくやってみることです。そして、誘われたら断らないこと。友人からの旅の誘いなど、おつきあいはなるべく断らずに、仕事だけではなく、趣味も含めて自分が興味を持つことにチャレンジし、数多くの引き出しを持つことです。年を重ねると突然できなくなることがどうしても出てきます。本の取材を通じて、女性は「幕の内弁当」だなとつくづく感じました。食べ歩きも好きだし、おしゃれも好きです。どんなに忙しくても、好きなことや趣味は捨てない。さらに子育てや家事もメインでやって、仕事もやるという幕の内弁当的なイメージです。それだけあるとたとえ仕事が一つなくなっても気持ち的にはそれほどダメージがなくてすみます。男性が気の毒なのは企業戦士といわれ、すべてを犠牲にして仕事一途にがんばってきたのに、仕事がなくなるとどうしてよいのかわからなくなってしまう人がいることです。そうならないために、興味があることや好きなことを貪欲にやってみるとよいのでは、と思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※1 本書は、本誌2020年4月号「Books」(56頁)でご紹介しました ※2 「平成24年版 働く女性の実情」(厚生労働省)より 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2021 February ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高年齢者雇用安定法が改正 −70歳までの就業機会確保に向けて− 7 概要 2021年4月施行 改正高年齢者雇用安定法の概要 厚生労働省 職業安定局 高年齢者雇用対策課 12 解説@ 70歳までの雇用延長のポイント 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介 16 解説A 70歳就業に向けたキャリア支援のポイント 株式会社パソナ キャリア支援事業本部 プロジェクト戦略部 キャリアデザインチーム 山下弘晃 20 企業事例@ 株式会社東陽テクニカ 再雇用の上限年齢を70歳に延長するとともに60〜65歳には等級・評価を導入し意欲向上を図る 24 企業事例A 株式会社カインズ 地域採用する各部門の専任担当者は貴重な存在 70歳まで働ける再雇用制度で雇用を確保 28 65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーによる相談・援助 1 リーダーズトーク No.69 エッセイスト 岸本裕紀子さん 定年後はおもしろいから働く≠重視 好きなことにチャレンジし、楽しく生きよう 29 日本史にみる長寿食 vol.328 春を先取りするナバナ 永山久夫 30 江戸から東京へ 第99回 蟄居は隠居だと思え 佐久間象山 作家 童門冬二 32 高齢者の職場探訪 北から、南から 第104回 群馬県 高崎第一交通株式会社 36 高齢社員のための安全職場づくり 〔第2回〕 エイジフレンドリーガイドライン―高齢者一人ひとりの健康や体力の状況の把握とそれに応じた対策― 高木元也 40 知っておきたい労働法Q&A 《第33回》 労働者に対する損害賠償請求、ノー残業デー導入時の留意点 家永勲 44 高齢社員の心理学 ―加齢で“こころ”はどう変わるのか― 【第3回】 ミスを防ぎ、新しいスキルを身につけるには 増本康平 46 いまさら聞けない人事用語辞典 第9回 「限定社員」 吉岡利之 48 特別企画 《鼎談》 先進企業における高齢者雇用のトレンドと今後 54 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト募集案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 レーダーチャートで自社の人事管理の課題を把握 雇用力評価ツールのご案内 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第44回]あみだくじ計算 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 高年齢者雇用 安定法が改正 ―70歳までの就業機会確保に向けて―  2021(令和3)年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保(高年齢者就業確保措置)が企業の努力義務となります。今回の法改正のポイントは、定年延長や継続雇用制度などの自社での雇用延長だけではなく、他社への再就職や、フリーランスとしての就業、社会貢献活動といった選択肢も示されたことです。こうした状況に企業としてどう対応していくべきか、お悩みの読者も少なくないのではないでしょうか。  そこで今回は、改正法の概要とともに、70歳まで働ける仕組みを整えるための準備について解説するほか、改正法の施行に先駆けて70歳就業に取り組んでいる企業事例を紹介します。高齢者がより長く、活き活き働ける職場環境の実現に向け、参考にしていただければ幸いです。 【P7-11】 概要 2021年4月施行 改正高年齢者雇用安定法の概要 厚生労働省 職業安定局 高年齢者雇用対策課 1 改正の背景  70歳までの就業機会を確保するための措置を講ずることを事業主の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が2020(令和2)年3月に成立・公布され、2021年4月1日から施行されます。ここでは、その概要などをご紹介します。  わが国は、少子高齢化が急速に進行しており(図表1)、2015(平成27)年から2040年までの25年間においては、15〜59歳の者が約1693万人減少するのに対し、60歳以上の高年齢者が約477万人増加し、2・4人に1人が60歳以上の高年齢者になると見込まれています※1。  一方で、高年齢者の身体機能については、2018年は男女とも65歳以上のいずれの年齢階級においても、20年前の5歳下の年齢階級の水準を超える水準となっているほか、歩行速度の向上も見られ、高年齢者の若返りが確認されています※2。こうしたこともあり、2016年においては、男性の健康寿命が72・14歳、女性が74・79歳に上り、いずれも健康寿命の延伸が見られます※3。  また、収入をともなう就業希望年齢として、全体では約2割が「働けるうちはいつまでも」と回答しており、約4割が65歳を超えて就業することを希望しています※4(図表2)。  少子高齢化が急速に進行し、人口が減少するなかで、経済社会の活力を維持するためにも、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図っていくことが重要であり、高年齢者の活躍の場を整備するため、高年齢者雇用安定法(「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号))が改正されました。 2 現行の高年齢者雇用安定法について  高年齢者雇用安定法においては、定年を定める場合は60歳を下回ることができないとされており、そのうえで、65歳までの雇用確保措置を講じなければならないとされています。このため、65歳未満の定年の定めをしている事業主には、 @65歳までの定年年齢の引上げ A65歳までの継続雇用制度の導入 B定年制の廃止  のうち、いずれかの措置を講じていただくこととなります。  なお、2019年6月1日現在の高年齢者雇用状況の集計結果によると、31人以上の規模の企業のうち99・8%の企業において雇用確保措置が実施されています。 3 改正高年齢者雇用安定法について  改正高年齢者雇用安定法では、前述した65歳までの雇用確保措置義務に加えて、65歳から70歳までの就業確保措置を講ずることが事業主の努力義務とされました。  この努力義務の対象となる事業主は、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主、70歳以上まで引き続き雇用する制度を除いた継続雇用制度を導入している事業主になります。  具体的な就業確保措置の内容としては、従来の雇用確保措置と同様に、 @70歳までの定年年齢の引上げ A70歳までの継続雇用制度の導入 B定年制の廃止  といった雇用による措置に加えて、 C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで社会貢献事業に継続的に従事できる制度の導入  といった雇用によらない措置が新設されました。C、Dの措置を合わせて「創業支援等措置」といいます(詳細は5へ)。  なお、Aの継続雇用制度の導入については、自社または特殊関係事業主に加えて、特殊関係事業主以外の他社での継続雇用も可能となります(現行の65歳までの雇用確保措置においては、自社または特殊関係事業主のみ)。特殊関係事業主またはそれ以外の他社で継続雇用制度を導入する場合は、自社と特殊関係事業主等との間で、特殊関係事業主等が高年齢者を継続して雇用することを約する契約を締結する必要があります(契約は書面により締結することが望ましいです)。 4 就業確保措置を講じるにあたっての留意点等  この改正高年齢者雇用安定法の施行に向けて、具体的な手続きや留意点等が指針等※5、※6で定められました。その概要や考え方については以下の通りとなっています。 (1)対象者基準について  70歳までの就業確保措置については、努力義務ですので、措置の対象となる高年齢者について、基準を設けて限定することが可能となっています(@70歳までの定年年齢の引上げ、B定年制の廃止を除く)。ただし、基準の策定にあたっては、次の事項に留意する必要があります。 ●対象者基準の内容は、原則として労使に委ねられるものですが、事業主と過半数労働組合等※7との間で十分に協議したうえで、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいこと ●労使間での十分な協議のうえで設けられた基準であっても、事業主が恣意的(しいてき)に高年齢者を排除しようとするなど、法の趣旨や、ほかの労働関係法令・公序良俗に反するものは認められないこと  このため、例えば次のような基準については、不適切であると考えられます。 ●「会社が必要と認めた者に限る」、「上司の推薦がある者に限る」  ⇒基準がないことと等しく、改正法の趣旨に反するおそれがあります。 ●「男性(女性)に限る」  ⇒男女差別に該当するおそれがあります。 ●「組合活動に従事していない者に限る」  ⇒不当労働行為に該当するおそれがあります。  なお、対象者基準については、次の点に留意して策定されたものが望ましいと考えられます。 ●意欲、能力等をできるかぎり具体的に測るものであること  ⇒労働者自ら基準に適合するか否かを、一定程度予見でき、到達していない労働者に対して能力開発等をうながすことができるような具体性を有するものであること。 ●必要とされる能力等が客観的に示されており、該当するか否か可能性を予見することができるものであること  ⇒事業主や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。  対象者基準の策定にあたっては、これらをふまえ、労使で十分に協議することが望ましいです。 (2)労使で協議すべき事項  就業確保措置の五つの措置(3の@〜D)のうち、いずれの措置を講ずるかについては、労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講ずることが望ましいです。  なお、五つの措置のうちいずれか一つの措置により70歳までの就業機会を確保するほか、複数の措置により70歳までの就業機会を確保することも可能となっています。この場合、個々の高年齢者にいずれの措置を適用するかについては、その高年齢者の希望を聴取し、これを十分に尊重して決定するよう留意してください。 (3)安全衛生について  高年齢者が従前と異なる業務に従事する場合には、新しく従事する業務に関して研修、教育、訓練等を行うことが望ましいです。特に雇用による措置を講ずる場合には、安全または衛生のための教育は必ず行わなければなりません(創業支援等措置を講ずる場合にも安全または衛生のための教育を行うことが望ましいです)。  また、高年齢者が安全に働ける環境づくりのため、就業確保措置により働く高年齢者について、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(厚生労働省)を参考に、職場環境の改善や健康や体力の状況把握とそれに応じた対応など、就業上の災害防止対策に積極的に取り組むことが望ましいです。 (4)その他  継続雇用制度、創業支援等措置を実施する場合に、次の事項等を就業規則や創業支援等措置の計画(詳細は5へ)に記載した場合には、契約を継続しないことが認められます。 ●心身の故障のため業務に耐えられないと認められること ●勤務(業務)状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責(業務)を果たし得ないこと  また、シルバー人材センターへの登録や、再就職・社会貢献活動をあっせんする機関への登録などは、高年齢者の就業先が定まらないため、就業確保措置とは認められません。 5 創業支援等措置について  3のC70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度やD70歳まで社会貢献事業に継続的に従事できる制度による就業機会の確保については、「創業支援等措置」といい、社会貢献事業に継続的に従事できる制度の導入については、 a 事業主が自ら実施する社会貢献事業 b 事業主が委託、出資(資金提供)等を行う団体等が実施する社会貢献事業 があり、いずれも従事者に対する有償のものが対象となります。  bの場合には、事業主と社会貢献事業を実施する団体等との間で、当該団体等が高年齢者に対して社会貢献事業に従事する機会を提供することを約する契約を締結する必要があります(契約は書面により締結することが望ましいです)。  なお、この社会貢献事業とは不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業であり、例えば、次のような事業などは、ここでいう社会貢献事業には該当しません。 ●特定の宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成することを目的とする事業 ●特定の公職の候補者や公職にある者、政党を推薦・支持・反対することを目的とする事業  また、ここでいう「出資等」については、寄付等を含む出資または事務スペースの提供など、当該社会貢献事業の円滑な実施に必要な援助を行っている必要があります。さらに、ここでいう「団体」とは公益社団法人に限定されず、委託、出資等を受けていて社会貢献事業を実施していればどんな団体も含まれるものとなります。  創業支援等措置は、雇用による措置(3の@〜B)と異なり、労働関係法令が適用されません。このため、創業支援等措置を講じる場合は、次の(1)〜(3)の手続きを行う必要があります。  なお、創業支援等措置において労働者性が認められる働き方である場合は、創業支援等措置ではなく、雇用による措置として実施する必要があります。 (1)創業支援等措置の実施に関する計画の作成  創業支援等措置の導入にあたっては、次のaからlまでの事項を記載した計画を作成する必要があります。 a 高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由 b 高年齢者が従事する業務の内容に関する事項 c 高年齢者に支払う金銭に関する事項 d 契約を締結する頻度に関する事項 e 契約に係る納品に関する事項 f 契約の変更に関する事項 g 契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む) h 諸経費の取扱いに関する事項 i 安全及び衛生に関する事項 j 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 k 社会貢献事業を実施する法人その他の団体に関する事項 l aからkのほか、創業支援等措置の対象となる労働者全てに適用される定めをする場合においては、これに関する事項  なお、委託する業務等については、さまざまな業務内容等が想定されることから、計画における支払われる金銭や契約頻度等については、幅を持たせた記載でも差しつかえありません。ただし、高年齢者との個別の契約においては、当該計画に基づき、詳細な内容を記載する必要があります。  また、これらの事項を作成するにあたっては、4の冒頭で言及した指針に留意事項を示しています。例えば、 ●bの業務の内容については、高年齢者のニーズをふまえるとともに、高年齢者の知識・経験・能力等を考慮したうえで決定し、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押しつけにならないようにする必要があること ●cの高年齢者に支払う金銭については、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮することが必要であること。また、支払期日や支払方法についても記載し、不当な減額や支払を遅延してはいけないこと ●dの契約の頻度については個々の高年齢者の希望をふまえつつ、個々の業務の内容・難易度や業務量等を考慮し、できるだけ過大または過小にならないよう適切な業務量や頻度による契約を締結する必要があること などに留意する必要があります。このほかの項目についての留意事項については、厚生労働省のホームページに指針やパンフレット等を掲載していますので、ご参照ください※8。 (2) (1)の計画について過半数労働組合等の同意を得る  (1)により作成された計画について、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。このとき、過半数労働組合等に対して、次の3点を十分に説明する必要があります。 a 創業支援等措置は労働関係法令が適用されない働き方であること b そのためにこの計画を定めること c 創業支援等措置を選択する理由  なお、創業支援等措置と雇用の措置(3の@〜B)の両方を講ずる場合は、雇用の措置により努力義務を達成したことになるため、創業支援等措置に関して過半数労働組合等の同意を必ずしも得る必要はありませんが、改正高年齢者雇用安定法の趣旨をふまえ、創業支援等措置の計画について同意を得ることが望ましいです。 (3) (2)の同意が得られた計画を周知する  (2)において過半数労働組合等の同意を得たうえで、次のいずれかの方法により、労働者に周知する必要があります。 a 常時当該事業所の見やすい場所に掲示するか、または備えつける b 書面を労働者に交付する c 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、当該事業所に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する(例:電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにするなど)  (1)〜(3)を経て、制度を導入した後は当該計画に沿って、個々の高年齢者と業務委託契約等または社会貢献事業に従事する契約を締結する必要があります。また、個々の高年齢者と契約を締結する際は、 ●契約は書面により締結すること ●上記の計画を記載した書面を交付すること ●(2)におけるaからcまでの事項をていねいに説明し、納得を得る努力をすること が求められます。 6 おわりに  本改正の施行日は2021年4月1日となります。いま、人生100年時代を迎えるなか、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮し、活躍できる環境を整備することが求められています。就業確保措置の導入にあたっては、労使双方が十分に話し合い、双方が納得した措置が講じられることが望ましいと考えています。 ※1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計:出生中位・死亡中位推計)」 ※2 文部科学省「平成30年度体力・運動能力調査」 ※3 厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「簡易生命表」、「人口動態統計」、厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室「国民生活基礎調査」、総務省統計局「人口推計」より算出 ※4 内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」 ※5 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第180号) ※6 高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(令和2年厚生労働省告示第351号) ※7 過半数労働組合等……労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者 ※8 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html 図表1 日本の人口の推移 ●日本の人口は近年減少局面を迎えている。2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されているため、今後も、高年齢者が働くことができる環境を整備することが重要。 実績値(国勢調査など) 平成29年推計値(日本の将来推計人口) 2018年 人口 12,644万人 生産年齢人口(15〜64歳)割合 59.7% 高齢化率(65歳以上人口割合) 28.1% 合計特殊出生率 1.43 2025年 人口 11,913万人 65歳以上人口 3,716万人 15〜64歳人口 6,875万人 14歳以下人口 1,321万人 2065年 人口 8,808万人 65歳以上人口 3,381万人 15〜64歳人口 4,529万人 14歳以下人口 898万人 生産年齢人口割合 51.4% 高齢化率 38.4% 合計特殊出生率 1.44 出典:2018年までの人口は総務省「人口推計」(各年10月1日現在)、高齢化率および生産年齢人口割合は、2018年は総務省「人口推計」、それ以外は総務省「国勢調査」、2017年までの合計特殊出生率は厚生労働省「人口動態統計」、2019年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」 図表2 高年齢者の就労意向と就労希望年齢 ●収入をともなう就業希望年齢として、全体では約2割が「働けるうちはいつまでも」と回答しており、約4割が65歳を超えて就業することを希望している。 全体 65歳くらいまで 25.6% 70歳くらいまで 21.7% 75歳くらいまで 11.9% 80歳くらいまで 4.8% 働けるうちはいつまでも 20.6% 仕事をしたいとは思わない 13.6% 不明・無回答 1.9% 男性 65歳くらいまで 25.5% 70歳くらいまで 26.8% 75歳くらいまで 13.0% 80歳くらいまで 6.3% 働けるうちはいつまでも 19.6% 仕事をしたいとは思わない 7.7% 不明・無回答 1.1% 女性 65歳くらいまで 25.6% 70歳くらいまで 16.8% 75歳くらいまで 10.8% 80歳くらいまで 3.4% 働けるうちはいつまでも 21.5% 仕事をしたいとは思わない 19.1% 不明・無回答 2.8% 出典:内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」 (注) 60歳以上の男女を対象とした調査(n=1,755) 【P12-15】 解説 1 70歳までの雇用延長のポイント 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介 高年齢者雇用安定法改正で急速に高まる雇用延長の機運  組織の高年齢化によるシニア層の急増と就業希望年齢の上昇、また昨今の慢性的な人手不足などを背景として、高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)が改正され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となるなど、企業の雇用延長の取組みに対する機運は急速に高まっています。  しかしながら、多くの企業で雇用延長の取組みがスムーズに進んでいるかといえば、そうではありません。企業の人事担当者を訪問すると、「経営トップから雇用延長を検討するようにいわれているが、何から手をつけてよいかわからない」という声をよく耳にします。  実際に取組みを開始してみるとわかることですが、検討すべき事項は想像以上に多岐にわたります。例えば定年延長にあたり、「65歳まで一気に定年を引き上げるのか、段階的に引き上げるのか、どちらが適しているか」という選択肢一つをとってみても、検討すべきテーマは多く、議論も単純にはいきません。  定年延長にともなう総額人件費増への対応に加え、シニア層の増加とさらなる高年齢化にともなって必然的に懸念される、仕事の生産性低下を抑制するための環境整備も重要な観点になります。  特に高年齢化の進度が急激な企業のなかでは、将来視点で見た場合、組織内でシニア層が従事できる仕事が減少していく可能性(にもかかわらず雇用は維持しなければならない状態)を深刻視する向きもあります。  また、いわゆる「同一労働同一賃金」、「無期転換」といった、関連する法律と自社の人事制度を整合させることも必要になってきます。  以上のような、「経営上のリスク側面」の検討に直面した場合、解決に向けた具体的な方針が定まらず、シニア活用の議論が初期段階でストップしてしまう、ということがままあります。  このような状況のなか、各企業においてはより本質的な議論が望まれるところですが、雇用延長を適切なタイミングで実施していくために必要なポイントは次の通りであると、筆者はとらえています。それは、「シニア層を取り巻く自社の経営環境をより深いレベルで分析したうえで、中長期的なシニア層の活用方針を経営層で共有すること」。これが、きわめて重要なスタートラインになります。  しかしながら、大半の企業ではまともな現状分析が行われていないのが実情ですし、適切な手法を知る機会も乏しいようです。  そこで本稿では、各企業が雇用延長およびシニア活用を適切なタイミングで行うために必要な、「現状分析」を起点とした各種のプロセスについて解説します。 「人員分析」、「賃金・人件費分析」、「シニアの環境分析」の手法  あらためて、深いレベルの現状分析結果を ベースに議論を進めることで、自社におけるシニア活用の「必要度合い(どの程度積極的に活用していくべきか)」を明確に見出すことができるはずです。そうすれば、シニア活用の手段としての「雇用延長の必然性(いますぐに実施すべきなのか、将来に向けた準備を整える段階なのかなど)」についても、自ずと方向性が統一されていくものと考えます。  さて、具体的な現状分析については、次の手順で進めていただくことを提案します。 (1)人員分析  人員分析の手法とは、簡単にいえば、中長期的での組織人員構成(年齢分布)を予測する過程で、シニア活用の方向性を検討することです。  将来的にシニア層のボリュームがどう変化するか、そのことにより組織でどんな問題が起こりうるのかを推察するなかで、課題抽出を行います。  例えば、一般的に多いといわれる企業の人員構成として、「30代半ばから後半の層が少なく、40代半ばから50代前半の層が多い」、という類型があげられます。筆者はこの類型(中間層の凹み)を「中抜け型組織」と定義しています。中抜け型組織は、現状だけ見ればベテラン層が厚く安定的な組織構成であるという評価もできますが、本質的には5年、10 年先に形成される大量のシニア層をどう処遇していくか、ということが重要な課題になります。  この点、中間層が少ないことをふまえて、将来的なシニア層の役割を「現役の継続」と設定するか、逆に「役割の縮小・変更=権限委譲、後進育成の強化」ととらえ直すかによって、雇用延長のスタンスも変わってくるものと考えます。  前者の場合、中間層の育成が間に合わない可能性が高く、その分シニア層の意欲を維持しながら現役期間を延長するためには、早期に定年延長を行うという手段も十分候補に入ってきます。  後者の場合、シニア層には早い段階から役割変更に対する意識改革を行ってもらう必要があるため、現役続行を前提とした定年延長を急ぐよりは、継続雇用制度の枠内で働き方・処遇の見直しを行うという選択にも説得力が出ます。  このように、組織の人員構成に関する現状と将来に対する分析をふまえたうえで、雇用延長の方針と具体的な人事制度の設計に反映させていくことが、企業の実態に即したシニア活用を行うための、一つ目の重要なポイントになります。 (2)賃金・人件費分析  「賃金・人件費分析」の基本的な考え方としては、組織全体の高年齢化にともなう総額人件費の上昇を抑制しつつ、シニア層の個別賃金の最適化を図るために、統計データあるいは内部調査(シニア層へのヒアリング)を活用しながら課題を正しく認識し、目標設定を行うことにあります。  @まず、総額人件費の分析について、前述の人員分析とセットで行うことをおすすめします。具体的には、5年、10年先の人員構成予測に合わせて、一定の条件下における総額人件費の増減をシミュレーションします。  A次に、個別賃金について、「賃金水準に対する自社のシニア層の納得感」、「賃金水準の対外的な競争力・魅力度」という二つの視点から検証と目標設定を行ってください。  例えば多くの企業において、60歳定年後の継続雇用時の賃金水準は定年前より下がることが一般的ですが、今後定年延長も視野に入れてシニア活用を積極的に推進していく方針であれば、他社水準よりも魅力的な賃金設定を検討すべきですし、役割の縮小・変更を前提とするのであれば、他社と見劣りしない最低限の水準に留める、という選択肢も十分方針になりえます。なお、統計資料としては、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」が比較材料として有用です。 (3)シニアの環境分析  前述の人員分析および賃金・人件費分析を通じて導いた雇用延長・シニア活用の方向性(理想型)との対比で、現実の組織がどのような状態であるかを分析する手法(理想と現実のギャップはどの程度あるか、ギャップを埋めるための重点課題は何か)が、「シニアの環境分析」です。  具体的な分析の進め方は、大きくソフト面とハード面に分けて行います。 @ソフト面の分析:仕事に関するシニア層の満足度を調査する(以下、調査項目例)  ・仕事のやりがいはあるか  ・働き方に対する不満はないか  ・職場の人間関係に対する不満はないか  ・金銭面、健康面での不安はないか など Aハード面の分析:社内の仕組みに関するシニア層の満足度を調査する(以下、調査項目例)  ・人事制度に対する満足度はどうか  ・職場環境に対する満足度はどうか  ・能力開発の機会は十分か  ・定年延長に対する希望 など  具体的な調査の進め方としては、シンプルですが、シニア層あるいはシニア層を抱える管理職者層に対する社内アンケート調査(記名または匿名)および個別面談による聞き取りを中心に実施していく方法が最適です。 雇用延長にともなう望ましい人事制度設計の進め方  ここからは、雇用延長に際しての人事制度設計に関する基本的な考え方について解説します。もとより、各企業がどのようなプロセスかつタイミングで雇用延長を行うべきかについては、前述の「現状分析」の結果に基づくシニア層の活用方針により異なりますが、人事制度の設計上、共通して重要な論点が存在します。それは、「シニア層の職務ないし役割」を軸にした制度設計を行うことです。 (1)継続雇用制度の運用にともなう人事制度設計  一般的に、高齢法が定める「継続雇用制度」(一年単位の契約更新による有期雇用)を採用してシニア層の処遇を決定している企業では、年収水準を定年前より3〜4割程度減少させる例が多くあります。にもかかわらず、職務内容は定年前と同一であることが大半であり、シニア層が不満を抱える原因になっています。  この点、シニア活用を促進していく観点からは、シニア層が定年後に実際にになう職務や役割に応じた人事制度(特に賃金制度)を採用することが適しているといえます。シニア層をこれまでより積極的に活用していく方針であれば、定年後も現役に近い働きを続けてもらう以上、賃金水準はある程度高めに設定するべきですし、逆もまたしかりです。シニア層の能力や意欲に応じて、会社と本人が協議のうえで職務や働き方を設定できる仕組みを構築できれば、柔軟な運用が可能になります。筆者はこの方法を「コース別継続雇用制度」と定義し、推奨しています。  また、この方法は、「同一労働同一賃金」への法対応も兼ねています(詳細は後述)。 (2)定年延長にともなう人事制度設計  定年延長を行う場合も、「シニア層の職務ないし役割」をベースとする継続雇用制度の考え方と基本的には同様ですが、正社員としての身分(無期雇用)が延長されることになるため、既存の人事制度との連続性をより強く意識することが重要です。筆者は定年前と同じ人事制度を定年延長後も活用する類型を「連続型」、異なる人事制度を適用する類型を「非連続型」と定義しています。  特に、シニア層の役割を「現役続行」ととらえ、定年前の人事制度をそのまま連続していく場合には、大半の企業で総額人件費の上昇をともなう可能性がありますし、そのなかにおいて、さらなる高齢化にともなう健康面や身体機能の低下などのリスクを抱えることにもなります。このように、継続雇用制度の場合と比べ、検討すべき事項は増える傾向にあることを念頭に置き、計画的な準備を行っていくことが求められます。 適切な法対応の進め方〜同一労働同一賃金、無期転換ルール〜  最後に、雇用延長にともなう人事制度設計において解決すべき二つの法対応上の問題点について、基本的な解説を行います。 (1)同一労働同一賃金  先述の通り、企業が一般的に採用している継続雇用制度の体系は有期雇用かつ、定年前と同一労働であるにもかかわらず賃金水準を大幅に下げていることから、同一労働同一賃金の観点で問題になりえます。この点を各社とも強く認識すべきです。  もっとも、国が提示する「同一労働同一賃金ガイドライン」や、2018(平成30)年6月1日の「長澤運輸事件最高裁判決」※で提示された判例の枠組みのなかにおいて、定年後の継続雇用者としての性質から、一定の賃金減額は「不合理な労働条件の相違」ではないと判断されている(労働契約法第20条の定める「その他の事情」として考慮される)点についても十分理解をしておく必要があります。  今後、企業に求められる対応方針としては、ハードルは高いものの、シニア層の「職務ないし役割」に応じて賃金設計を行い、「同一労働同一賃金」を厳密に運用していくことが望ましいといえます。あるいは定年延長を行う(無期雇用を延長する)ことも選択肢になるでしょう。 (2)無期転換ルール  いわゆる「無期転換ルール(有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約〈無期労働契約〉に転換できるルール)」に関連して、60歳以上の継続雇用者(有期雇用)が継続雇用後に5年を経過した場合、本人から希望があれば再度無期雇用に転換をしなければいけないのか(経営上のリスクではないか)、という質問がよくなされます。この点については、あまり知られていませんが、有期雇用特別措置法の定める、「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例(第二種計画認定・変更申請)」という制度を利用することにより、無期転換申込権が発生しません。  ただし、同法の特例の適用を受けるためには、本社・本店を管轄する都道府県労働局に対して計画書を作成し、認定申請を行う必要があることに留意してください。  そのほかに、自社で再雇用する場合だけではなく、高齢法に規定する「特殊関係事業主(いわゆるグループ会社)」に定年後継続雇用される場合も対象に含まれることと、逆にそれ以外のケースでは特例の対象とならない(例えば60歳以上で、有期雇用で新規に採用した社員については、通常の無期転換ルールが採用される)ことにも注意が必要です。 もりなか・けんすけ  株式会社新経営サービス人事戦略研究所マネージングコンサルタント。中堅・中小企業への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に活躍。各社ごとの実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。著書に、『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規)、『社員300名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社)、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版)、『社内評価の強化書』(三笠書房)などがある。 ※ 長澤運輸事件…… 定年後再雇用された嘱託社員の待遇格差について争われた裁判。詳細は『エルダー』2018年8月号「知っておきたい労働法Q&A」(家永勲)をご参照ください 【P16-19】 解説 2 70歳就業に向けたキャリア支援のポイント 株式会社パソナ キャリア支援事業本部 プロジェクト戦略部 キャリアデザインチーム 山下弘晃 はじめに  前職でアメリカに駐在していたとき、当時の米国人上司が「日本は定年で仕事を辞めなければいけないという信じられない国だ」と話していました。一方で「多くの社員が終身雇用となっており、20代で入社してから約40年間、クビになることなく会社の期待に応え続けている。企業も長きにわたり、社員から見て魅力的で働きがいのある仕事を提供し続けている。これはすごいことだと思う」とも話していました。  その上司はよく日本からの出張者や駐在員の愚痴を聞いていたので、ジョークでいっていたと思いますが、「70歳就業」という話を聞くと、つい思い出してしまう昔話の一つです。  本稿では、70歳までの就業機会確保に向け、企業としてどのようなキャリア支援が重要になっていくのか考えていきたいと思います。 これまでのキャリア支援  2020(令和2)年はコロナ禍による在宅勤務/テレワークの広がりも大きな要因の一つとなり、ジョブ型※1雇用制度の導入に向けてさまざまな検討の動きが広がっています。ただ、多くの企業はまだ従来のメンバーシップ型※2であり、ジョブ型に移行した企業においても、結果としてメンバーシップ型にかなり寄ったW日本独自のジョブ型Wになっていると感じています。企業内で行われるキャリア支援も、このような雇用状況をベースに、定年退職や再雇用をゴールとした時間軸で考え、在籍期間においてベストパフォーマンスを発揮してほしい、というのが本音なのではないでしょうか。  キャリア支援施策のなかで、多くの企業が行っているのがキャリア研修です(図表1)。「過去をふり返り、自分自身を見つめ直し、将来をイメージする」ことは、長く働いていくなかでは必要なことです。しかし、企業や社員を取り巻く環境が大きく変わってきているうえ、同世代の社員間でも多様性が広がっていることから、「研修での気づきが浅く、その効果に持続性がない」という声を多く耳にするようになってきました(図表1内「ミドル・シニア社員の現状について」)。  厚生労働省が進める「セルフ・キャリアドック」※3の環境を整えている企業では、社内メンターやカウンセラーの制度を導入することで、より個に寄り添ったキャリア支援を行うケースも増えてきました。ただ、改正高年齢者雇用安定法で新たに追加される四つの項目(@他企業への再就職実現、Aフリーランス選択者への業務委託、B起業した人への業務委託、C社会貢献活動への参加)に見られるように、メンターやカウンセラーにとってあまり経験のない領域も含まれるようになっています。  同じ企業で長く働いていれば、その間に企業そのものも大きく変化し、社員にも社外に転職できるような意識と変化対応力を身につけることが求められます。企業が行うキャリア支援には、そのような対応力を支援することが必要になると思っています。 これからのキャリア支援  これまでもそうでしたが、やはり社員のキャリア自律度を高め「働き手自らが今後のキャリアについて主体的に考え、行動する」文化・風土をつくっていかなければなりません。  職場では活き活きと、モチベーション高く働き、知識や経験を発揮しつつ、後進の育成も行う。そして定年ないし別の機会に、自身にとってベストのタイミングで社内の他部署や社外に進み、本当にやりたいことを、周りからも感謝されながら働ける。そんなキャリアをサポートできるような環境が求められています。  では、社員がなぜ、なかなかキャリア自律度を上げられないのか、二つの要因について考えてみたいと思います。 ■自分に自信がない  例えば一度も転職経験のない50代の場合、すでに入社して30年が経っています。この間、社会も技術も大きく変化しました。大学で学んだ専門性を活かし、若手として活躍したころの業務を現在もなお担当している50代は少ないのではないでしょうか。また入社以来、いくつもの部署を渡り歩き、ふり返ってみると「自分の強みって何だろう?」と悩んでいるミドル・シニアも多いでしょう。  しかし、その長く、一貫性がないキャリアを通じて、経済産業省の提唱した「社会人基礎力」※4に磨きをかけてきた方が非常に多いはずです。特に現在の50〜60代は、日本のGDPが大きく伸びたときに現場の最前線で活躍していました。その業務を通じて得られた「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」は社内でも、業界・業種を超えても、十分に活かせる力だと思っています。  図表2は、パソナの再就職サービスを利用した「50〜65歳」の再就職先を示したものです。ご覧のように、同業界・同職種に転職している方は10%前後に過ぎず、多くの方はこれまでとは違った領域で活躍しています。  同じ会社のなかで、同じ知識や経験値の方と過ごすだけでは、残念ながらこの社会人基礎力を自身だけで認識することはむずかしく、「自分に自信がない」と思っている方が非常に多いと感じています。アセスメントツールの活用や、社外カウンセラーとの壁打ち※5の機会を通じ、自身の力を再認識することは、キャリア支援の第一歩として重要です。 ■社外を知らない  長い間、同じ会社で働き、また特に転職などを考える機会がなかった方は、社外の労働市場についてほとんど情報を持っていません。世の中には本当にさまざまな種類の仕事があるにもかかわらず、現在の業務に関連する仕事や、生活のなかで見えている仕事しか考えられない方が多いのも事実です。また、悪い話のほうが耳に届く傾向があることから、「転職すると給料が下がる」、「Aさん、転職して2カ月で辞めたみたい」、「他社は文化・風土が全然違う」などと社外を否定的に考え、興味を持たなくなってしまう方も多いと思います。  だれでも遅くとも定年のとき、もしくは再雇用を終えたときには社外に出ることになります。最近の調査によると、ローンの完済年齢の平均は73歳という結果が出ていました。また健康寿命も伸びていることから、70歳まで、あるいはそれ以降も働きたい、社会とかかわっていきたいという方は増えています。そうであれば、社外の情報を早いタイミングで把握し、社内にいるときから準備することも大切です。  最近は兼業・副業を認める企業も増えてきました。一方、アンケートの結果を見ると、給与補填(ほてん)のような目的の方が多く、また労働時間管理などの問題があるため、人事部門からは兼業・副業導入がむずかしいとの声もよく聞きます。この兼業・副業をキャリア施策の一つと位置づけることで、導入のハードルを少し下げることが可能だと思っています。  現在、就職を目ざす学生のほぼ全員がインターンによる就業体験を行っています。養う家族や社会的責任もさらに大きなミドル・シニアならばなおさら、次の世界に進むにあたり、リスクを減らすための「お試しの機会」が必要です。キャリア研修やメンター制度は、社員からすると受け身の施策です。自律度を高めていくには、小さなステップでもかまわないので、自らの意思で動く能動的な施策が有効です。もし兼業・副業制度の導入がむずかしいのであれば、キャリア研修のなかに「社外体験」を取り入れるのも一案です。  先の見えない時代に長く働くことはたいへんなことですが、特にミドル・シニアは長い経験のなかでつちかったすばらしい財産を持っています。まず、自信を持っていただき、そして、社外も知ることで自身の偏差値を理解し、強みをさらに伸ばし、弱みを補う。もしくは、弱みをカバーするテクニックを身につけることで、長いライフ・キャリアの土台をさらに強固なものにしていく。70歳就業の時代には、そんなキャリア支援が求められています。 キャリア支援のプラットフォーム  「うちの社員はキャリア自律していない」という声を聞くことがあります。詳しく聞いてみると、会社として提供しているのはキャリア研修のみというケースが多いようです。ミドル・シニアのように社会経験の長い方に「キャリア自律してください」とメッセージを出すだけでは、ときに逆効果になってしまうこともあります。  まずは、会社としてキャリアを考える風土を意識してつくり、高めていくことが重要だと感じています。経営陣からの社員目線でのメッセージや、定期的なイベント、社員の主体性を活かす制度や施策などを展開し、文化と風土を醸成することが必要です。  人事部の担当者には、いままでにはなかった知識や経験が求められます。社外との交流や、社外労働市場に対する理解をいままで以上に深めていくことで、より現場のニーズに応えられるキャリア支援の実現が可能になると思います。  さらに、社員と日々接している上司に対する支援・育成も重要になっています。役職定年制度を導入する企業も増え、上司が年上の部下とコミュニケーションを取る機会が増えています。ときには上司として厳しいことを伝えることも重要なポイントですが、それができないばかりに、会社も個人も不幸な結果になっているケースも見受けられます。社員だけではなく、マネジメントをめぐるキャリア教育、コミュニケーション教育もさらに重要になってきています。  よって、図表3に示すように、キャリア支援のプラットフォームを構築するためには、社員・人事・上司それぞれに、新たな自覚と役割が求められます。 おわりに  2020年はコロナ禍というまったく想定外のことが起こり、企業にも、個人にも、大きなインパクトがありました。会社に属して働いている以上仕方がありませんが、会社の業績で人生が想定外に激変し、不幸になることは避けたいと強く感じています。「ウィズコロナ」、「アフターコロナ」はキャリアを考えるよい機会であり、キャリア支援施策を充実させるベストなタイミングかもしれません。 ※1 ジョブ型……職務内容を明確に定義し、「仕事」に「人」をあてはめる雇用の形。欧米を中心に多くの国で採用されており、職務、労働時間、勤務地が原則限定される ※2 メンバーシップ型……「人」に対して「仕事」をあてはめる雇用の形。仕事内容や勤務地を限定せず、ジョブローテーションをくり返しながら長期的に人材を育成する ※3 セルフ・キャリアドック……企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に社員の支援を実施し、社員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」 ※4 社会人基礎力……「 前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の三つの能力から構成される「職場や地域社会で多様な人々と仕事していくために必要な基礎的な力」として、2006年に経済産業省が提唱したもの ※5 壁打ち…カウンセリング手法の一つ。悩みや思いを口に出してぶつけること 図表1 ミドル・シニア社員に対するキャリア支援の現状 キャリア研修の実施 している (63%) していない (37%) 研修受講者対象年齢 40歳未満 5件 40〜45歳 6件 45〜50歳 16件 50〜55歳 37件 55〜60歳 27件 60歳以上 研修実施内容 退職後のセカンドライフ支援 57件 再就職・セカンドキャリア支援 41件 幹部向け教育・研修 21件 その他 12件 大手149社人事責任者のアンケート(2018年)結果 (情報提供:日本CHO協会) ミドル・シニア社員の現状について ポジティブ(14%) 専門性も、モチベーションも高く業務に取り組んでいる ネガティブ(86%) ●専門性はあるがモチベーションが低く、停滞している ●モチベーションはあるが専門性が低く、停滞している ●技術的にも、マインド的にも停滞しており、組織に良い影響を与えない ●個人差が多く、何ともいえない キャリア自律 図表2 シニアのキャリアチェンジ 年齢とともに、異業界異職種へのキャリアチェンジが増加 50歳 同業種同職種 16% 同業種異職種 16% 異業種同職種 24% 異業種異職種 45% 51歳 同業種同職種 16% 同業種異職種 18% 異業種同職種 20% 異業種異職種 45% 52歳 同業種同職種 16% 同業種異職種 11% 異業種同職種 24% 異業種異職種 50% 53歳 同業種同職種 15% 同業種異職種 14% 異業種同職種 22% 異業種異職種 49% 54歳 同業種同職種 14% 同業種異職種 16% 異業種同職種 20% 異業種異職種 49% 55歳 同業種同職種 10% 同業種異職種 14% 異業種同職種 19% 異業種異職種 57% 56歳 同業種同職種 12% 同業種異職種 15% 異業種同職種 18% 異業種異職種 55% 57歳 同業種同職種 9% 同業種異職種 13% 異業種同職種 19% 異業種異職種 59% 58歳 同業種同職種 10% 同業種異職種 14% 異業種同職種 18% 異業種異職種 57% 59歳 同業種同職種 9% 同業種異職種 17% 異業種同職種 15% 異業種異職種 60% 60歳 同業種同職種 6% 同業種異職種 10% 異業種同職種 13% 異業種異職種 71% 61歳 同業種同職種 4% 同業種異職種 6% 異業種同職種 16% 異業種異職種 75% 62歳 同業種同職種 7% 同業種異職種 14% 異業種同職種 16% 異業種異職種 63% 63歳 同業種同職種 5% 同業種異職種 15% 異業種同職種 9% 異業種異職種 71% 64歳 同業種同職種 4% 同業種異職種 18% 異業種同職種 14% 異業種異職種 63% 65歳 同業種異職種 12% 異業種同職種 24% 異業種異職種 65% 期間:直近3年間(※活動終了日が2017年9月〜2020年8月の方)エリア:首都圏(一都三県) 図表3 キャリア形成プラットフォームの構築 職場、上長によるキャリア支援 個々の社員に寄り添ったキャリア支援 社外にも強い、プラットフォームの要 上司 社員 人事 キャリア自律 キャリアコンサルタント ※筆者作成 【P20-23】 企業事例 1 株式会社東陽テクニカ(東京都中央区) 再雇用の上限年齢を70歳に延長するとともに60〜65歳には等級・評価を導入し意欲向上を図る 日本の産業界に貢献してきた計測のリーディングカンパニー  あらゆる産業分野や研究分野の発展に欠かせない計測技術。株式会社東陽テクニカは、その計測機器の専門商社として1953(昭和28)年に設立された。以来、業界のリーディングカンパニーとして常に最先端のトレンドを探求し、さまざまな分野のメーカーや研究機関などに計測機器・技術を紹介・提供することで、日本の産業界の発展に貢献してきた。また、最高水準の計測機器の輸入販売を行うなかでつちかったノウハウを活かし、独自の計測技術を搭載した自社製品の開発にも力を入れている。つまり同社は、商社でもあり、メーカーでもあるのだ。  現在の事業分野は、情報通信、自動車・輸送機器、環境エネルギー、EМC(電磁環境両立性)、海洋開発、ソフトウェア開発、ライフサイエンスなど多岐にわたる。「はかる°Z術で未来を創る」のスローガンのもと、5G(第5世代移動通信システム)の普及や自動運転車開発なども支える最新ソリューションを提供している。  また、国内のみならず、研究開発投資が拡大する北米と中国を中心に、グローバルマーケットへもビジネスを拡大。自社でつちかった技術に裏打ちされた計測ソリューションを海外でも展開すべく、自社開発製品の販売を進めるとともに、海外の主要計測機器メーカーとのパートナーシップも拡充している。  社員数は492人で、平均年齢は41・3歳(2020年9月30日現在)。人員構成は、ピラミッド型というよりも釣り鐘型に近い。新卒採用の人数がかぎられる一方、離職率が低いため、徐々に平均年齢が上がってきている。  定年年齢は60歳。現行の制度では、60歳以降は「嘱託」として1年毎の契約更新で最長65歳まで再雇用する。定年を迎える社員の人数は年によってばらつきがあるが、最近では年5〜6人で、現在の60歳以上の社員数は約55人である。 人財の活用、社員の生活の安定、就労意欲向上に向け、二つの制度を創設  同社は2020(令和2)年10月、70歳までの就業を確保し、高齢者の就労意欲向上と生活の安定を図ることを目的として、「シニアマイスター制度」と「マイスター制度」の二つの雇用制度を創設し、2021年4月1日より運用を開始すると公表した。  「シニアマイスター制度」は65〜70歳が対象。定年年齢はこれまでと同じ60歳だが、定年後再雇用の上限年齢を5歳引き上げ、希望者全員を70歳まで雇用することにした。65歳以上の社員を「シニアマイスター」と位置づけ、経験と能力を活かしてもらうとともに、社員の生活の安定を図る。  「マイスター制度」は60〜65歳が対象。従来の定年後再雇用制度は、再雇用後の年収が一律に定年時年収の6〜7割となるうえ、その後は評価制度の適用がなく、本人の努力が報酬に反映されない仕組みだった。この点を見直し、就労意欲の向上につなげていくことにした。具体的には、当該社員を「マイスター」と呼び、再雇用時に等級の再格づけを行うとともに、評価に基づく報酬体系に改める(図表)。 経営トップの決断により他社に先駆けて70歳までの雇用を実現  同社が今回、再雇用年齢の上限を70歳に引き上げることにしたのは、2019年の春に、経営トップから指示があったことがきっかけだ。背景には、やはり、高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正がある。2021年4月から、事業主に対して、70歳までの就業確保措置を講じるよう努力義務が課されたことが契機となり、改正法の施行に合わせて再雇用の上限年齢を引き上げることにした。人財総務部の菅原英明部長は当時の経緯について、「当社は、社員が安心して仕事に専念できる環境を整え、長く働いてもらう方針です。今回の改正法では、70歳までの就業機会を『努力義務』としていますが、いずれは義務化の方向に進むと考え、再雇用期間を最長65歳から70歳に延長することを決断しました」と説明する。  また、同社は高い専門性を必要とする仕事が多く、知識と経験を身につけたベテランに長く働いてもらうことは、会社にとっても大きなメリットだ。  「製品の開発や研究を行う際は、いろいろなデータを計測する必要があります。当社が扱っているのはその計測機器です。そうした計測機器はマーケットが大きくないため、大きなメーカーはあまり扱っていません。欧米を中心に、それぞれの専門の用途に応じた計測器をつくる小さなメーカーが数多くあり、100社以上の代理店になっています。これらのメーカーは、大学の研究室などが立ち上げた会社も多く、高い専門性を持っています。当社から、各メーカーに技術者を派遣してトレーニングを受けさせ、専門的な知識を蓄えることを続けてきました。そうした技術・ノウハウを持つ人は、一朝一夕に育てることはできません」(菅原部長)  制度設計にあたっては、人事だけでなく、経理、総務などを含めた部署横断のプロジェクトを組んで検討を行った。  実は同社では、これまでも、「もうしばらくこの人に働いてもらいたい」という人については、65歳以降も雇用するケースがあったという。技術系や法務などの専門的な職種では、代わりの人財を確保することが容易ではないためだ。その経験があったので、70歳まで雇用することについて不安視する声はなかった。  プロジェクト内で検討が必要だったのは、同時に見直した60〜65歳の処遇のあり方である。現在の制度は、定年時に一律に報酬が減額され、その後も評価制度の対象外であるため、「再雇用後は、のんびりやればいい」という意識を助長しかねない。そこで、意欲の出る報酬体系を検討し、具体的な制度をつくり上げた。 等級の再格づけと評価による処遇を行う「マイスター制度」(60〜65歳)  まず、60〜65歳が対象の「マイスター制度」について説明しよう。  基本的には、「通常の正社員と同じ仕組みを取り入れることで意欲を高める」というコンセプトとなっている。60歳で定年になり、その後は1年毎の契約で再雇用されるのはこれまでと同じだが、新制度では、再雇用時にその人を再評価し、その人に見合う等級に再格づけする。旧制度では一律に定年時の6〜7割に減額された再雇用後の毎月の給与は、新制度では等級に応じた報酬額となる。  ここで用いる等級は、その人の職務遂行能力に応じた能力等級で、正社員と同じ枠組みだ。ただし、60歳でラインの管理職からは外れる。正社員の等級制度は、ラインマネジャーがМ1〜М5の5等級、担当課長など組織を持たない管理職層がS1〜S4の4等級、非管理職がE1〜E6の6等級に分かれる。ラインマネジャーだった人は、ライン以外の管理職、または非管理職に移ることになる。  賞与は、正社員と同じように目標を立て、達成度を評価して支給額に反映する仕組みになっている。評価の仕方も正社員と同じで、目標達成度を基本に10段階程度の絶対評価≠ナ評点をつける。なお、賞与額には、個人の評価だけでなく、所属する部門の評価も反映される。  等級の再評価にあたっては、正社員と同じ能力等級を用いている。再雇用後も同じ等級だった場合、報酬額は旧制度より上がるので、今回の制度改定によって人件費は増加すると想定される。しかし同社は、その点をまったく問題視していないという。「試算はしましたが、今回の制度改定により、一生懸命働いてくれる人が増えることが期待できます。従来は、嘱託になった人の代わりに中途採用や外注を行っていましたが、そうしたコストが抑えられると考えています。多い年には30人程度を中途採用しますが、それを2〜3人でも抑えられれば、増加コストの回収は可能と考えています」と菅原部長は語る。同社が必要とする専門性を有しており、同社の理念や文化も熟知し、社内外の人間関係もできている人が、長く、やる気をもって働いてくれることは、会社にとっても大きなメリットがあるのだ。  労働時間はフルタイム勤務が基本で、仕事の内容は原則として、定年までと同じ職場で働いてもらうことを想定している。ただし、その部署の部門長から「この人は別の仕事のほうが向いている」あるいは「同じ仕事の継続がむずかしい」といった申請がある場合は、経営層が判断を行うという。 希望者全員を70歳まで雇用する「シニアマイスター制度」(65〜70歳)  これまで、65歳以降は、会社が必要とする人だけに残ってもらう形だったが、「シニアマイスター制度」では、希望すればだれでも65歳以降も働くことができる。  ただし、仕事の内容や労働時間は会社が提示することになる。65歳まではフルタイム勤務でそれまでの仕事を継続するのが基本だが、65歳以降は、人によってさまざまな働き方・仕事をしてもらう予定だ。取材時点では具体的な仕事の内容は未定だというが、それまで担当していた仕事にかぎらず幅を広げ、例えば、受付や設備点検などこれまで外注していた仕事を担当してもらうことも検討している。  勤務時間も、65歳以降は必ずしもフルタイム勤務とはかぎらず、週2〜3日の勤務であったり、非常勤のような形態もあり得る。そうした多様な働き方は、会社側の都合だけでなく、健康面や家族の事情などのためフルタイムで働くことがむずかしい場合も少なくない高齢者のニーズにも合っている。  また、2020年はコロナ禍の影響で、同社でも在宅勤務が浸透し、通勤の負担が減るなど高齢社員にとっても働きやすくなったという。  なお、シニアマイスターには、等級の格づけや評価は行わない。年金を満額受給する前提で報酬水準を設定する予定である。 新制度は社員に好評運用しながら必要な改善を行っていく  同社には労働組合はないため、各制度の内容は社員代表に説明し、全社員に周知した。社員側からすると、70歳までの就業の機会が得られるとともに、60〜65歳の処遇も基本的に上がる(再雇用時に著しく低い評価がなされるようなことがなければ、収入は下がることはない)ので、喜ぶ声が多いという。実際に新制度がスタートするのは今年4月からだが、これまで以上に意欲を持って働く人が増えていくことが期待できる。定年が近い人や再雇用者はもちろん、若手や中堅社員にとっても、社員を大事にする会社の姿勢を感じ、より安心感をもって働けるようになるだろう。  今後は、まずは新制度を運用しながら、制度の定着・改善に取り組んでいく予定だ。「現実に進めてみると、合わない部分が出てくるかもしれません。実際にやりながら、適宜変更していくことも必要だと思います」(菅原部長)ととらえている。 「努力義務」であるいまだからこそ70歳までの就業機会確保に取り組もう  高齢法の改正もあり、「65歳以降の就業機会の確保に取り組みたい」と考えている企業は少なくないだろう。ただ、そう思ってはいても、なかなかふみ切れない会社も多いのではないだろうか。  しかし菅原部長は、「いままでの当社のありようは、世間一般とほぼ同じでした。今回の法改正では、70歳までの就業機会確保は『努力義務』とされていますが、将来、『努力』が外れて義務化されたら、どの会社も取り組まざるを得ないわけです。それを考えたら、そのときになって急に取り組み始めるより、いまのうちから少しずつ始めて、試行錯誤しながら進められたほうが、高齢社員の働き方にもマッチする、よりよい制度ができるのではないでしょうか」という。  取材時点では、同社の新制度もまだスタート前だが、菅原部長は、「高齢社員には健康の問題が出てくるかもしれません。また、いまは新型コロナウイルス感染症の影響でストップしていますが、海外出張も行っています。そうした業務を行って問題ないかなど、運用しながら確認し、改善をしていく必要があります」と話している。  「まだ努力義務だから」といって何もしないでいると、いざ70歳までの就業機会の確保が必要となったときに慌てることにもなりかねない。「努力義務」であるいまのうちに取組みを進め、必要な改善を加えながら、よりよい形を目ざす同社の姿勢は、他社の取組みにも大いに参考になるだろう。 図表 二つの制度の概要(2021年4月導入予定) 制度名 対象年齢 概要 シニアマイスター制度 65〜70歳 ●定年後再雇用の上限年齢を65歳から引き上げ、全社員を70歳まで雇用 ●65歳以上の社員を「シニアマイスター」と位置づけ、経験と能力を活かしてもらうとともに社員の生活の安定を図る ●仕事の内容は、それまで担当していた仕事だけにかぎらず、幅広く考えていく方針 マイスター制度 60〜65歳 ●従来の定年後再雇用制度を見直し、評価に基づく報酬体系に改める ●再雇用時に等級の再格づけを行い、再雇用後は等級に応じた報酬を支給 ●目標達成度を基本とする評価を行い、賞与に反映 ●当該社員を「マイスター」と呼び、就労意欲向上を目ざす 写真のキャプション 菅原英明人財総務部長 【P24-27】 企業事例 2 株式会社カインズ(埼玉県本庄市) 地域採用する各部門の専任担当者は貴重な存在70歳まで働ける再雇用制度で雇用を確保  株式会社カインズは、2019(令和元)年に設立30年を迎えた業界最大手のホームセンターチェーン。創業以来For the Customers≠経営理念に「より良いものをより安く」を追求し、お客さま一人ひとりの自分らしい暮らしをサポートするため小売業やホームセンターの枠にとらわれない取組みを続けてきた。関東地方を中心に全国28都道府県下に225店舗を展開(2020年12月時点)。1991(平成3)年以降増収で推移し、業界一位の売上高を誇っている。  同社は1959(昭和34)年に群馬県伊勢崎市で衣類専門店として創業した「いせや」を母体とする。「いせや」は事業の多角化で1978年に栃木県でホームセンター部門1号店をオープン。1989年「いせや」から分社・独立、株式会社カインズを設立した。母体の「いせや」は1996年に設立したショッピングセンターチェーン「ベイシア」(群馬県前橋市)に引き継がれ、「カインズ」とともに、コンビニエンスストアの「セーブオン」、グループ企業としては唯一上場しており急成長を遂げる作業服チェーンの「ワークマン」など、物販チェーン6社を中心に28社で流通企業グループ「ベイシアグループ」を構成している。  ベイシアグループの強みは、「いせや」創業以来、吸収や合併を一切行わずに自社グループの力で着実に成長してきた点にある。グループ経営において、各社が創業以来の経営理念を貫き、強い一体感のもと共同で商品開発、出店、人材育成を行い、ロジスティクス、情報システムの各分野において連携して取り組んできた。2020年10月には総売上高が一兆円に到達している。 高齢社員に対して働き方の選択肢を増やす  カインズの社員数は約2万3千人。その雇用形態は「正社員」、「専任社員」、「パート社員」、「アルバイト社員」の四つに区分される。正社員が本社で採用され、本社と店舗を異動しながらキャリアを積むゼネラリストなのに対し、店舗運営の中心として活躍しているのが店舗で採用される専任社員やパート社員だ。特に専任社員は、さまざまな分野の商品を取り扱うホームセンターにあって、特定分野に特化したスペシャリストとして、店舗運営の中核をになっている。  同社では2019年に、この専任社員の定年制を改定。60歳から65歳に定年を延長した。同時に、65歳以降は70歳まで働くことができるよう1年契約の再雇用制度を整備している。さらに、パート社員については65歳まで無期雇用とし、雇い止めの不安を解消。馴れ親しんだ職場で長く安心して働ける環境を構築した。  こうした高齢者雇用制度改定の背景について、人事部の岩崎(いわざき)泰久(やすひさ)勤労厚生室長は次のように話す。  「専任社員の定年延長については、該当する大半の社員が65歳まで働くことを希望しており、店舗の運営者も高齢社員の雇用確保を希望していたという状況でした。特に同じ店舗で長く働いてきた人は、『この先もこの店で働き続けたい』と考えるようです。社員や店舗の希望を汲み取っての制度改定でしたから、対応としては定年の契約形態を変更するだけで、非常にスムーズに導入ができました。再雇用制度については、65歳以降も8時間のフルタイムで働きたいという高齢社員が多く、こうした就労意識の高い高齢社員たちのニーズに応えることができたと思います。当社には短時間パート社員(1日4時間〜、週5日勤務)、長時間パート社員(1日6時間〜、週5日勤務)のような短時間勤務の働き方があり、これと合わせて、高齢社員の働き方の選択肢が広がったのはよかったと思います。定年を65歳まで延長したことで、長く働き続けることができる安心感を感じてもらえています」  他方、正社員の定年は60歳、再雇用は70歳までで契約は1年毎の更新だ。これはベイシアグループの企業間で足並みを揃えているもので、現時点では定年延長の予定はないという。 独自の雇用形態区分「専任社員」を定年延長  店舗で直接採用を行う「専任社員」はカインズ独自の雇用区分である。正社員の場合は本部で採用され、ジョブ・ローテーション・システム(配転教育)によって、数年ごとに職種や店舗を変えながら幅広い経験を積んでいく。店舗で採用される専任社員は、原則として職種替えや異動はなく、各店舗の建築資材コーナー、農業資材コーナー、サイクルコーナーといった売り場での接客がメインとなっており、各部門の専任担当者として売り場に立つ。  専任社員を各店舗で地域採用することについて岩崎室長は「ホームセンターは地域に根ざした事業を展開しています。例えば、園芸や農業資材は地域によって扱う農産物が異なるために、使用する農薬や肥料も異なります。そうした地域に根づいた知識と経験を持つ『地域生活のプロ』を、その地域内から採用することは理にかなっているのです」と説明する。  専任社員にはキャリアを通してつちかってきた知識を存分に発揮し、買い物客に最適な提案をしてもらうことを期待しているため、専門知識を持つ人材を採用することになり、結果的に中途採用が多くなる。専任社員の前職は、競輪の選手や兼業農家、趣味でガーデニングやDIY※を極めた人などがおり、多くの人が自分の好きなことにたずさわりながら自分の経験を活かすことができる環境に惹かれて応募してくるという。  正社員の平均年齢が35歳であるのに対し、専任社員は50〜55歳と年齢は高めだ。もっとも、特定分野の専門知識を持つ人材を募集することは容易ではなく、専任社員に対する定年引上げはこうした人材の確保が目的だった側面が大きかったという。  スタッフの大半を専任社員、パート社員で占めている店舗が多く、好きなことを仕事にし、経験を活かせるというやりがいを感じている専任社員たちの高いモチベーションは、店舗の士気向上や売り場の雰囲気づくりを盛り上げている。 各部門の専任担当者として社員教育もになう  専任社員の業務は、買い物客の相談を受けることから、問題を解決する具体的な提案、実際の見積りや業者の手配まで、専門家としての対応がメインだ。専任者として担当する各コーナーと求めるスキルは次の通りだ。 ◎リフォームコーナー  リフォームセンター、増改築センターにて接客、売場管理。リフォーム相談や見積り、業者手配等を行う。  〈必要スキル〉住宅設備販売または施工、内装業、建築業での経験 ◎建築資材コーナー  建築資材・木材などの接客、売場管理。  〈必要スキル〉建築会社、木材会社勤務、大工などの経験 ◎ハウス・カーポートコーナー  ハウス・カーポート、外構工事などの接客、売場管理。  〈必要スキル〉物置、門扉、カーポートの販売・施工経験、エクステリアプランナーの資格など ◎農業資材コーナー  農業資材、ガーデン資材などの接客、売場管理。  〈必要スキル〉農業機械、肥料・薬品メーカー、農機具販売、営農指導などの経験 ◎サイクルコーナー  自転車の販売接客、組立整備、売場管理。  〈必要スキル〉自転車安全整備士の資格、自転車販売・修理などの経験 ◎電動工具コーナー  電動工具、関連部品・パーツなどの接客、売場管理。  〈必要スキル〉DIYアドバイザーの資格、電動工具販売、修理などの経験 ◎園芸コーナー  グリーン・ガーデニング用品・園芸資材などの接客、売場管理。  〈必要スキル〉園芸に関する専門的な知識・経験・資格など。園芸農家、種苗会社、園芸用品会社などの勤務経験 ◎商品管理コーナー  荷受、検品、売場への商品の品出し。  〈必要スキル〉荷受、検品の経験、フォークリフト運転免許  売場管理では、品出し・商品整理、季節やイベントなどに合わせた売場づくり、受注伝票や仕入れ伝票などの管理を行っている。  専門知識のほかに、長年売場でつちかった「勘所(かんどころ)」もベテランならではの持ち味として重宝されている。専任社員のなかには若い世代の人材もいるため、高齢のベテラン社員が若手の専任社員に対し、勘所を伝えることは重要な任務になっている。例えば園芸は季節によって扱う商品が違うことから、季節の移り変わりにおける商材の出し方のタイミングといった、いわゆるプロの目から見た「売れる商品」の展開や、地域情報を盛り込んだ提案などは、後進育成の重要なポイントである。若手の専任社員にかぎらず、同部門の正社員やパート社員、アルバイト社員への専門知識に関する教育・指導という社員教育も任せることができる存在が高齢の専任社員なのである。 定年延長とあわせて昇給機会を延長  旧制度下における専任社員は、人事考課による昇給が行われるのは60歳までとされていたが、定年延長とあわせて65歳まで昇給可能な制度へと改定した。社員としてのモラルを維持し、モチベーションを保って働き続けてもらうには、努力に応じて昇給する可能性を広げるとともに、前もってそれを示すことが有効である。岩崎室長は「昇給機会が伸びることでモチベーションが上がったと考えています」と実感を口にする。  そのほか、専任社員を対象にした人事考課以外の昇給制度も設けている。入社1年経過後、毎年3月に行われる「技能判定」に合格した場合に昇給できるというもので、無級から技能3級に昇級すれば、日給に千円、2級になればさらに2千円、1級に昇級すればさらに3千円がプラスされる。入社時の日給は店舗により異なり、技能級の上限は職種によって異なる。年齢に関係なく経験を活かした努力に応じて昇給が可能な仕組みの導入により、社員のモチベーション向上につなげている。 ホームセンターは高齢者が活躍できる職場  専任社員にかぎらず、高齢のパート社員やアルバイト社員も活き活きと働き、活躍しているカインズ。約2万3千人いる全社員のうち、約2千人が60歳以上の高齢社員だという。「ホームセンターは取り扱う種類が多いので、自身の趣味や主婦の経験など、長年の人生で学んだことを接客に活かせます。ホームセンターのお客さまは若年層から高齢層までと客層が幅広く、高齢社員には特に高齢のお客さまの対応を安心して任せられます。このように私たちが高齢社員へ抱く期待も、活き活きと働きやすい環境の一つではないでしょうか」と、岩崎室長は分析する。  とある店舗の園芸売り場には、60歳を過ぎてから採用され、80歳を超えたいまも精力的に活躍するアルバイト社員がいるそうだ。  なお、専任社員、パート社員とも充実した教育研修制度を用意しており、さまざまな研修会や勉強会に参加することができる。商品知識はもちろん、生活全般の幅広い知識が身につくと好評だ。また、業務に必要な資格取得への支援も後押ししている。  もちろん高齢社員の身体的負荷を軽減するための配慮も怠っていない。ホームセンターは資材など重い商材を扱うことがあり、その移動には想像以上に体力を要する。そこで高齢者に負担がかからないように、業務内容を細分化することで、高齢者が行う業務領域を限定し、高齢者でも問題なく対応できる身体負荷の少ない業務を任せるほか、労働時間の面でも残業が発生しないよう配慮しているという。  再雇用であれば1年に1回行う契約更新の際に、体力面などを考慮しながら契約内容を見直し、場合によっては勤務時間を短くするなど柔軟に対応しているとのことだ。  「実際のところ、当社は社長以下、スタッフをみんな『メンバー』と呼んでいて、分けへだてなく働いており、年齢で区別することはありません」と、岩崎室長は話す。  社名であるカインズの由来は「親切」という意味の「kindness(カインドネス)」。お客さまに対してだけでなく、ともに働くメンバー全員に対しても、親切心を持って接することが社風として根づいており、互いを思いやる気持ちが世代を超えて強固な一体感を生み、カインズの大きな原動力となっている。  最後に岩崎室長は「年齢が高い社員はそれぞれ接客が好きな人、商品の品出しやレジが得意な人など、活躍するフィールドが異なると思います。得手不得手は若い人より顕著なので、本人のニーズと会社のニーズが合致するところで活躍する場をつくることが、高齢社員に活躍してもらうためには大事だと思います」と締めくくった。 ※ DIY……「Do It Yourself」の略語。自分自身で何かをつくったり修理したりすること 写真のキャプション 人事部の岩崎泰久勤労厚生室長 【P28】 65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザー 貴社の高齢者の戦力化をお手伝いします!  昨今、少子高齢化が急速に進展し、人口が減少するなかで、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高齢者が活躍できる環境整備を図ることが必要とされています。  当機構ではこの課題に対応するために、65歳超雇用推進プランナーと高年齢者雇用アドバイザーが事業主のみなさまに対して、下記のような相談・援助を行っています。全国にある都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照)が窓口になっていますので、ぜひご利用ください。 65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーとは? 高齢者の雇用に関する専門的知識や経験などを持っている専門家です ●企業の人事労務管理等の諸問題の解決に取り組んだことのある人事労務管理担当者 ●経営コンサルタント ●社会保険労務士 ●中小企業診断士 ●学識経験者 など こんなお悩みはありませんか? ◆高齢社員の経験が活かしきれていない ◆高齢社員の定着率が上がらない ◆定年間際の高齢社員のモチベーションが低い ◆将来の労働力不足に備えたいが方法が分からない ◆高齢社員の仕事に合った賃金制度にしたいが方法が分からない サービス内容のご紹介 無料 相談・助言サービス 高齢者の活用に必要な環境の整備に関する、専門的かつ技術的な相談・助言を行っています ●人事管理制度の整備に関すること ●賃金、退職金制度の整備に関すること ●職場改善、職域開発に関すること ●健康管理に関すること など 無料 提案サービス 将来に向けた高齢者戦力化のための、定年引上げや継続雇用延長等の制度改定に関する具体的な提案を行っています ●課題の洗い出し ●具体的な課題解決策の提案 ●制度整備に必要な規則例等の提供 など 無料 その他のサービス 雇用力評価ツールによる課題などの見える化  簡単なチェック内容に回答いただくだけで、高齢者を活用するうえでの課題を見いだし、解決策についてアドバイスします。 他社の取組みにおける好事例の提供  貴社の参考となる事例を提供します。 有料 企画立案等サービス 専門性を活かして人事・労務管理上の諸問題について具体的な解決案を作成し、高齢者の雇用・活用等を図るための条件整備をお手伝いします  中高齢従業員の就業意識の向上等を支援するために、貴社の要望に合った研修プランをご提案し、研修を行います(経費の2分の1を当機構が負担します) 【P29】 日本史にみる長寿食 FOOD 328 春を先取りするナバナ 食文化史研究家● 永山久夫 春を呼ぶ味わい  北風が吹き荒れる冬から、花咲く春へ。季節の変わり目になると、とかく体調を崩しがちです。風邪をひくなど、思わぬ流行病(はやりやまい)にかかったりもします。それらの病気を予防するために、また、季節を先取りする意味でも日本人は、春に先駆けて芽を出したり、花をつけたりする若菜や野菜を食べて、体調を整えてきました。春夏秋冬と移り変わる四季のなかで暮らしてきた、日本人の生活の知恵といってもよいでしょう。  その一つが、寒気がゆるみ始めると、スーパーの野菜売り場に並ぶナバナ。「菜の花」のことで、その若い蕾(つぼみ)を中心に摘んだものです。  ナバナは、いかにも季節感を大切にする日本人らしい呼び方ですが、ほろ苦さのなかにかすかな甘みもあって、春先の若野菜らしい独特のおいしさが楽しめます。 ビタミンCがたっぷり  ナバナで驚くのは、ビタミンCの多さです。冬採れホウレンソウの2倍以上も含まれています。  ビタミンCというと、お肌のしみ防止や、風邪からガンまで予防するビタミンとして知られていますが、ウイルスなどに対する免疫力を強化する働きでも注目を集めています。  ストレスに弱い方は、ビタミンCが不足しているかもしれません。ストレスを跳ね返すホルモンの生成には、ビタミンCが欠かせないからです。  もう一つは、ビタミンCが不足すると老化が早まるといわれており、こちらも注目すべきでしょう。  春から増える紫外線や、活性酸素の害から健康をガードするカロテンもたっぷりです。さらに若返り作用のビタミンEや骨を丈夫にするビタミンK、脳の老化を防ぐ葉酸も豊富に含まれています。カルシウムも多く、100g中に160mgも含まれており、ビタミンKとともに骨を丈夫にするうえで役立っています。おひたしやごま和え、からし和え、それに一夜漬けなどにして、春の到来を味わいましょう。 ※ 「Books」(57頁)に、永山久夫氏と三浦理代氏が監修した『からだによく効く食材&食べあわせ手帖 改訂版』を紹介しています 【P30-31】 江戸から東京へ [第99回] 蟄居(ちっきょ)は隠居だと思え 佐久間象山 作家 童門冬二 しょうざん≠ゥぞうざん≠ゥ 江戸時代に「蟄居」という刑罰があった。一室に閉じ込められ外部との交流を一切絶つ。なかには「米塩(食事)も絶つ」というのがあって、早くいえば餓死させてしまえ、という厳しいものだ。  幕末にこの蟄居を命じられた学者武士がいる。信州松代(まつしろ)藩(長野市松代)の佐久間象山だ。名は「啓(ひらき)」で、「象山」は号である。何と読むのか、つまりしょうざん≠ゥぞうざん≠ゥで長く揉めた。ただ象山の生家の近くに「象山(ぞうざん)」と呼ばれる低い山があるので、現在は一般的にはしょうざん=A地元や歴史オタクはぞうざん≠ニいうことで落ち着いている。  子どものときから天才で、漢学・科学に異常な才能を示し、電気製品、ガラス製品をつくり、馬鈴薯栽培、養豚の指導までしている。そして、人生観が際立っている。 ・二十歳のときに「藩」の規模で諸事を考えた ・三十歳のときに「日本」的規模で考えた ・四十歳過ぎには「世界」的規模で考えた  と、加齢によって地方・国家・国際と視野を広げていったというのだ。いまでいうグローカリズム(グローバルとローカルの合成語)だ。蟄居処分になったのは、  「弟子の吉田松陰にアメリカへの密航をそそのかした」  との罪からだが、象山はあまり凹まなかった。  「俗事を離れて、本当にやりたいことができる。食うに困らない隠居のようなものだ」  とうそぶいた。負け惜しみでなく、本気でこの刑を前向きにエンジョイした。「本当にやりたいこと」というのは、騒がしくなった日本の国際問題の解決に、「真の国防論」をまとめて、幕府・諸藩・国民の目を覚まさせるということである。根は愛国者なのだ。  象山はいつも  「おれは日本のナポレオンだ」  と豪語していた。それだけでなく、  「だからおれの子をたくさん増やせば、日本は優秀な民族国家になる」  と唱え、賛同する女性を求めている。  吉田松陰にアメリカ密航をすすめたのも、日本に開港を迫るペリーを憎み、しきりに  「アメリカを打ち払え!」  と叫ぶ松陰を次のように諭(さと)したためだ。 ・外国と争うにはその国のことをよく知らなければダメだ ・その国のことを知るためには、その国のことを書いた書物を読み、実際に自分の目でたしかめなければならない ・そのためには何よりもその国の文字・言語をマスターする必要がある  「吉田君、いまの君にその力があるのか?」  と問い、  「なければ実際にアメリカに行ってこい」  と告げたのだ。このころは日本はまだ鎖国していたので、密航は大罪であり扇動者(せんどうしゃ)※も同じ罪になる。松陰は国元で牢に入れられた。 ペリーもおじぎした  蟄居を隠居と同じだと象山がいうのには、それなりの理由があった。まず蟄居場所が牢ではない。親しい知人が  「自由に使ってくれ」  と、別荘を提供してくれた。藩も寛大で訪問者の出入りを黙認した。文通もかなり寛大だった。象山は好条件を活用した。自分の考える国防論を幕府の改造論を含めてまとめた「省けん録(せいけんろく)」だ。  反省する、という意味だが、反省などまったくしていない。  「俺は正しい、幕府は間違っている」  という論旨で一貫している。  象山の著書のなかで最もすぐれたものとして、研究者の評価は高い。  象山が蟄居したのは安政元(1854)年のことで、解放されたのは文久2(1862)年である。8年の幽囚生活だった。しかし果たして幽囚生活といえるのかどうか。  象山は世間一般の基準からすれば奇人≠フ類に入るだろう。それを保護するのは保護者自身も覚悟している。そうさせる何かが象山にはあった。私はそれを象山の「国を思う誠心」だと思っている。  ペリーが日本にやって来たとき、松代藩は警護を命ぜられた。象山は参謀を命ぜられた。ペリーは浦賀に上陸した。音楽隊を先頭に、  「これを見よ」  とばかりにペリー隊は堂々と行進してきた。が、松代藩兵の前で停止した。ペリーが一人の武士に向かって深く頭を下げた。相手は象山だった。象山の顔は異様で日本人離れしている。耳がないように見える。  ペリーはビクともせずに自分を凝視する象山を、  (さぞかし日本の高官だろう)  と思ったという。  このときの象山は、  「松代藩は、アメリカ軍の乱暴から日本を守るのではなく、日本人の乱暴からアメリカ軍を守れ」  と命ぜられて、カンカンに腹を立てていた。 ※ 扇動者……そそのかして、人にある行動をとらせるようにしむける者 【P32-35】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第104回 群馬県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 手厚い健康支援や柔軟な勤務形態により80歳まで働き続けられる環境を整える 企業プロフィール 高崎第一交通株式会社(群馬県高崎市) ▲創業 1963(昭和38)年 ▲業種 道路旅客運送業 ▲従業員数 65人 (60歳以上男女内訳) 男性(41人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(10.8%) 65〜69歳 14人(21.5%) 70歳以上 21人(32.3%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで1年毎の更新で再雇用。以降、運用で基準該当者は80歳まで再雇用  群馬県は西側と北側には山々が連なり、南東部には関東平野が開ける内陸県です。約3分の2を丘陵(きゅうりょう)山岳地帯が占め、2千m級の山や尾瀬などの湿原、多くの湖沼(こしょう)、吾妻峡(あがつまきょう)をはじめとする渓谷や利根川の清流など変化に富む美しい自然に恵まれています。  豊富な水や土地を活かして多彩な農畜産物が生産され、全国有数の生産量と産品が新鮮なうちに届けられる地理的条件であることから、首都圏の台所ともいわれています。一方、内陸で地盤が強く、自然災害が比較的少ないため、工場や物流拠点をはじめとする多様な産業施設の立地に有利な条件を備えており、自動車産業や伝統工芸品などさまざまな産業が発達しています。  2019(令和元)年度「高年齢者の雇用の現況」(群馬労働局)によると、群馬県における66歳以上が働ける制度のある企業は30・2%、また、70歳以上が働ける制度のある企業は28・6%となっています。  当機構の群馬支部高齢・障害者業務課の倉澤信人課長は、「着実に拡大してきているものの、残念ながら全国平均を下回っている状況です。当課では、群馬労働局およびハローワークと連携して、県内企業に対して働きかけを行い、高齢者の雇用継続や活用についての助言などを行うとともに、65歳以上への定年年齢の引上げや、継続雇用年齢の延長についての提案を積極的に実施しています」と、高齢者雇用に取り組む企業をサポートする取組みについて話します。  今回は、同支部で活躍するプランナー・横沢(よこさわ)松男さんの案内で、「高崎第一交通株式会社」を訪ねました。 希望者全員70歳までの再雇用を制度化  高崎第一交通は、1963(昭和38)年に群馬県高崎市で創業したタクシー会社で、2000(平成12)年に業界最大手の第一交通産業グループの一員となり、現在に至っています。高崎市や前橋市などからなる群馬県の中(ちゅう)・西毛(せいもう)地区を営業区域として、お客さま第一のサービスに徹し、地域に密着した営業を展開しています。サービスには、病院などへ通う高齢者の送迎や、第一交通産業グループが全国で取り組んでいる、妊娠中や子育て中の女性を対象にした「ママサポートタクシー」(事前登録制)、塾・保育園などへ送迎する「子どもサポートタクシー」などさまざまなものがあり、サポートタクシーの導入にあたっては、乗務員がそれぞれの研修を受講して実施しています。  高崎第一交通の従業員数は、現在65人。このうち、60歳以上が42人と約65%を占めています。少子高齢化、人口減少の影響を受けて若手の採用がむずかしく、従業員の高齢化が進んでいます。  同社では将来を見すえて、高齢になっても安心して働き続けることができる職場環境づくりに早い時期から取り組み、まずは従業員の健康維持のためのサポートに注力しています。2008(平成20)年には、定年年齢を60歳から65歳へ引き上げるとともに、希望者全員70歳まで嘱託社員として再雇用する制度を整備。71歳以降は、運用により基準該当者を75歳まで再雇用し、無理なく仕事が続けられるように夜勤のない働き方が選べる勤務形態の改革も進めました。  また、乗務員に必要な教習や免許取得について、会社の全額負担で受講でき、取得できる年齢を定年年齢に合わせて65歳へ引き上げました。  これらの取組みが評価されて、2017年度「高年齢者雇用開発コンテスト(54頁参照)」で当機構理事長表彰特別賞を受賞しました。  それからまだ3年ほどですが、同社の取組みはさらに進んでいます。定年65歳、希望者全員を70歳まで再雇用する制度に変わりはありませんが、新たに71歳以降について、健康状態などを本人と会社の間で確認したうえ、運用により、1年契約で80歳まで再雇用することとしました。  同社の佐藤秀記(ひでき)所長は、「高齢者といってもいまは元気な人が多いですし、働ける人が増えています。ベテランの乗務員は、道路や道路事情を熟知し、カーナビゲーションより優れている人もいます。そこで、80歳まで勤務できる環境を整えました」と取組みを話します。  現在、従業員の最高年齢者は78歳、最年少者は24歳。いずれも乗務員として活躍中です。 選択できる勤務形態を整備  80歳まで働ける職場環境を整えるため、勤務形態の整備もさらに進めました。従来は夜勤を含む「4勤2休」と呼ばれる形態だけでしたが、現在は「日勤のみ」または、「2勤2休」(2日昼間勤務して2日休日)、あるいは「短時間勤務」(希望に対応)を選ぶこともできます。  「乗務員の健康を第一に考えています。年齢が上がると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクがどうしても高まるので、疲れをためない働き方ができるよう、また、自分に適した勤務時間が選べるようにしました」(佐藤所長)。  現在では、一般的な会社員と同様に朝から夕方まで平日のみ勤務する乗務員や、短時間で9時から15時まで勤務する乗務員がいる一方で、70歳を超えても、従来の「4勤2休」を元気にこなしている人もいるそうです。  また、各営業所の混雑時間に応じてシフトを柔軟に組み替えたり、担当する営業場所の配置換えをしたりして、希望に沿った働き方の実現に努めています。  この取組みにより、「夜勤がきつくなったから」という理由で退職する乗務員はいなくなり、「勤務時間の相談がしやすくなった」、「辞めることを考えなくてよくなった」という声が聞かれるようになり、乗務員の定着率とモチベーションが高まるという効果がみられています。  一方、乗務員の多い時間帯と少ない時間帯が生じてしまうことが課題ですが、予約のお客さまを増やすことに努めるなど工夫を凝らし、従業員の希望に応じた働き方ができる職場環境づくりに今後も注力していく方針です。 産業医の協力を得て健康をサポート  「お客さまに安心して乗車してもらうためには、従業員の健康が大切」との考えから、以前から産業医に協力をお願いし、定期健康診断の結果はもちろん、随時、手厚い健康指導やアドバイスがもらえる環境をつくり、サポートを実施しています。佐藤所長も必要に応じて個別面談をするなどして従業員を気遣い、また、血圧測定器を社内に設置し、日々の会話なども通じて健康意識の向上に励んできました。その結果、自ら健康に気をつけている従業員が増えたといいます。  また、65歳以上の乗務員に対して実施している運転適性をみる適齢診断について、以前は受けることを面倒がる人もいましたが、いまでは「自覚できるのでありがたい」と謙虚に受け止めて、より効果的になっているといいます。佐藤所長はこれらのほかに、コミュニケーションを大事にしているといいます。懇談会を毎月開催し、テーマを決めて、例えば接客などについて経験や考えなどを話し合っています。これは全従業員が出席できるよう、毎月2回に分けて実施しています。  また、「他愛もない話をするなかで、『最近はどうですか?』と、さりげなく仕事やご家族のことを聞いたりします」と佐藤所長。休憩中の従業員に話しかけているうちに、ほかの従業員同士の会話も増え社内の雰囲気が変わったそうです。  今回は、高齢ドライバーのお一人と同僚の方からお話を聞きました。 憧れていた職業に62歳で挑戦  清水公明(ひろあき)さん(71歳)は、高崎第一交通に入社して8年。化学薬品などを扱う商社に定年まで勤めた後、62歳まで継続雇用で勤務。その後はゆっくり過ごしていたものの、以前から憧れていたタクシードライバーになろうと決心してハローワークで相談し、「念願が叶いました」と入社の経緯を語ります。  運転することが好きな清水さんですが、タクシーの乗務員は未経験のため、研修と二種免許※の取得のため、入社後すぐに福島県郡山(こおりやま)市の自動車学校へ1週間泊まり込みで入学し、最後に試験を受けて免許を取得。その後、先輩ドライバーから指導を受けて、仕事を覚えていきました。  入社して2年ほどは夜勤も行いましたが、いまは緩やかな働き方に変えて、平日昼間のみの勤務にしています。「事故を起こさないこととお客さまに不快感を与えないことを心がけています。どのくらい続けられるかまだ考えていませんが、お客さまに満足していただけるようこれからもがんばります」と清水さん。  同僚の松村勇(いさむ)さん(55歳)に、清水さんの働きぶりについてうかがいました。  「清水さんは60代と思っていましたが、年齢を聞いて驚きました。身のこなしが若いんですよ。私は4年前に入社し、清水さんから接客など教えていただきました」  また、60代、70代の先輩たちの働きぶりについて、「夜勤をしている方や、カーナビがいらないくらい道に詳しい方がいてすごいと思います。みなさんには、新人のころ親切に教えてもらいました。身体が丈夫であれば長く働ける環境があるのは、よいことだと思います。お客さまから『ありがとう』といっていただけることが、この仕事の魅力。私もがんばります」と話してくださいました。 いつまでも勤務したいと思う会社  「清水さんは採用面接の際、『タクシーの仕事がしたい』と活き活きとした表情で話していたのが印象的です。未経験で入社して、よくがんばっています。今後タクシー業界では、70歳を超えても働く人が増えていくと思います。70歳以上でもできる仕事ですし、当社は、自分に合った働き方で続けることができます。そういうことをもっと周知していきたいと思います」(佐藤所長)  また、横沢プランナーは同社の高齢者雇用について、「他社の模範になる取組み」と評価します。  「超高齢社会におけるモデル的な取組みだと思います。いわゆる高齢者的な働き方の雇用ではなく、がんばればそれだけ報われる給与体系で、希望する働き方が選べる仕組みがあることは、いつまでもこの会社に勤務したいというモチベ―ションにつながると思います。よい取組みをされています」  新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい経営環境が続いていますが、佐藤所長は従業員のみなさんの健康を一番に気にかけており、「健康への配慮と社内コミュニケーションをこれからも大事にしていきます」と語りました。 (取材・増山美智子) ※ 二種免許……乗客を運ぶ目的で、旅客自動車を運転するときに必要な免許 横沢松男 プランナー(62歳) アドバイザー・プランナー歴:4年 [横沢プランナーから] 「プランナー活動の中心である事業所訪問にあたっては、訪問先のご担当者は緊張していることも推察されますので、まずは社歴や会社の概要について雑談をしながら、本題に入っていくように心がけています。また、訪問先企業やご担当者の立場、事情に寄り添いながら活動を進めることに努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆群馬支部高齢・障害者業務課の倉澤課長は横沢プランナーについて、「落ち着いた雰囲気と実直な人柄で、ていねいな相談助言活動を実施しています。また、豊富な知識に基づいた的確な助言に加え、提案活動にも積極的に取り組んでおり、群馬支部で最も多くの提案を実施しています」と紹介します。 ◆当課は、JR前橋大島駅から徒歩約12分、「ハローワークまえばし」の3階にあります。同じフロアには、群馬障害者職業センターがあり、連携して業務にあたっています。 ◆当課には、7人の65歳超雇用推進プランナーが在籍し、群馬県内の事業所訪問を通じて、高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度は535社にアプローチし、定年の引上げ、または継続雇用延長などの提案を177件実施しました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●群馬支部高齢・障害者業務課 住所:群馬県前橋市天川大島町130-1(ハローワーク前橋3階) 電話:027(287)1511 写真のキャプション 群馬県高崎市 本社外観 佐藤秀記所長 精悍(せいかん)な制服姿で仕事に出かける清水公明さん 【P36-39】 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第2回 エイジフレンドリーガイドライン―高齢者一人ひとりの健康や体力の状況の把握とそれに応じた対策― 1 エイジフレンドリーガイドラインのポイント  本稿では、2020(令和2)年3月、厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の健康と安全確保のためのガイドライン)」の概要を紹介します。  同ガイドラインは、エイジフレンドリー(高齢者の特性に応じた)な職場をつくるため、事業者に求められる健康と安全の確保策を示すとともに、働く高齢者(労働者)にも事業者に協力することを求め、最後に、エイジフレンドリーな職場づくりのための支援制度を示しています。  本ガイドラインのポイントは、高齢者一人ひとりの健康や体力の状況を把握し、それに応じた対策を求めていることです。これは、いままでにない新たな視点です。  この背景には、高齢になるほど、心身機能の個人差が大きくなることがあげられます。  図表1は、暦年齢(実年齢)に応じた生理的年齢(個々人が持つ心身機能の程度を年齢化したもの)の幅、すなわち個人差をみたものです。例えば、実年齢65歳の人の生理的年齢の個人差は16年にも及びます。これは、実年齢65歳の人のなかには、50代の若々しい人がいる一方、心身機能の衰えが顕著で、70代のように見える人がいることを表しています。  このため、職場で働く一人ひとりの健康や体力の状況を把握することが必要になります。  本ガイドラインでは、健康や体力の状況を把握するため、@ロコチェック、Aフレイルチェックなどが示されています。 @ロコチェック  「ロコ」とはロコモティブシンドロームの略です。ロコモティブシンドロームとは、骨、関節、筋肉等、運動器の衰えが原因で、段階的に「立つ」、「歩く」といった機能(移動機能)が低下している状態のことをいいます。  ロコモティブシンドロームに該当するかどうかは、ロコチェック(図表2)を行うことを推奨します。一つでもあてはまれば、移動機能が低下しているととらえます。 Aフレイルチェック  フレイルとは「Frailty(虚弱)」の日本語訳で、健康状態と要介護状態の中間に位置し、心身機能や認知機能の低下が見られる状態のことです(図表3)。高齢者はフレイルを意識することにより、職場の安全対策、健康づくりへのかかわりが積極的になります。  フレイル状態にあるかどうか、チェックシート(図表4)で試してみてください。脚注に判定基準が示されています(「二次予防事業対象者」とは、介護予防プログラム(運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能向上、閉じこもり予防・支援、認知症予防・支援、うつ予防・支援)対象者のこと)。 2 事業者に求められていること  本ガイドラインで事業者に求められる事項は以下の通りです。 (1)経営トップによる方針表明および体制整備を行う  事業者は、高齢者の安全と健康を確保するため、最初に、方針表明と安全衛生管理体制を構築し、担当者を決めます。 (2)事業場に潜む危険な芽を見つけ、それを摘む  安全衛生管理体制を構築したら、事業場に潜む高齢者のリスクを洗い出し、リスク低減対策を講じます。 (3)心身機能の低下を補うハード対策を行う  快適な職場環境を整備するため、心身機能の低下を補うハード対策を行います。 (4)心身機能の低下を補うソフト対策を行う  快適な作業を行うために、作業内容の見直しなどのソフト対策に力を入れます。 (5)健康や体力の状況を把握する @健康状況を把握する  事業場では次の対策が必要です。 ●心身機能の維持、健康の保持・増進のため、運動、栄養、休養に関するアドバイスを受けられる環境を整備します。 ●健康診断結果を通知し、その内容の理解促進に努めます。 ●高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病に関する知識や予防について、指導・教育を行います。 A体力の状況を把握する  一人ひとりの体力の状況を把握するため、体力チェック(図表5)などを行います(先に示したロコチェック、フレイルチェックも該当)。 (6)健康や体力の状況をふまえた対策をとる  事業者は、一人ひとりの健康や体力の状況をふまえた対策を行います。 @個々の高齢者の健康や体力の状況をふまえた措置  個々の高齢者(高齢者は個人差が大きい)の 健康や体力の状況、脳・心臓疾患などの基礎疾患をふまえ、労働時間の短縮、深夜勤務の削減、作業配置転換などを行います。この場合、産業医などの意見を聴くとともに、本人の同意を得ることが必要です。 A個々の高齢者の状況に応じた業務の提供  個々の高齢者の健康や体力の状況に応じ、以下の点を考慮し、安全と健康の両面に適合する業務をマッチングさせます。 →業種特有の労働災害、労働時間、作業内容 →業種特性をふまえた必要な心身機能(例:運輸業は運転適性) →治療と仕事の両立 →ワークシェアリングの適用 B心身両面にわたる健康保持増進措置  事業者による健康保持増進対策には、健康測定とその結果に基づく運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導などがあげられます。厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を参考にします。  また、事業者は、厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」に基づき、@衛生委員会等における調査審議、A心の健康づくり計画、B4つのメンタルヘルスケアの推進(a.セルフケア、b.ラインによるケア、c.事業場内産業保健スタッフ等によるケア、d.事業場外資源によるケア)が求められます。 (7)高齢者の特性をふまえた安全衛生教育を行う  高齢者は、ほかの年代と比べ、十分な教育効果が得られにくいといわれています。過去の研究報告をみると、例えば、高橋らは危険要因知覚教育ツールを用いた作業者教育の効果検証において、高年齢者の教育効果が十分に見受けられないことを明らかにし※1、また、筆者の研究においても、安全講習内容の理解度の調査において、高年齢者の理解度はほかと比べ高くなく、その理由として、高年齢者の多くは、長年にわたり現場で実践してきたことや学んできたことが新たな教育により間違っていると示されても、それを受け入れることが容易ではないと推察しています※2。  このため、以下の通り、高齢者向けの特別な安全衛生教育が必要になります。 ●十分な時間をかけ、写真や図、映像などを活用します。 ●未経験業務に従事する場合、ていねいに教育訓練を行います。 ●心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させます。 ●自らの心身機能の低下を客観的に認識させます。 ●わずかな段差など、周りの環境に常に注意を払わせるようにします。 3 働く高齢者に求められていること  本ガイドラインで、職場で高齢者みずからに求められていることは以下の通りです。 ●みずからの心身機能や健康状況を客観的に把握し、健康や体力の維持管理に努めます。 ●定期健康診断などを受診します。 ●体力チェックに積極的に参加します。 ●ストレッチ、軽いスクワット運動により基礎体力の維持に努め、生活習慣を改善します。 ●ラジオ体操、転倒予防体操などの職場体操に参加します。 ●適正体重の維持、栄養バランスのよい食事を摂るなど、食習慣や食行動を改善します。 ●ヘルスリテラシー(健康・医療情報を理解・活用するための能力)の向上に努めます。 4 おわりに  本稿ではエイジフレンドリーガイドラインの概要を紹介しました。特に、高齢者一人ひとりの健康や体力の状況を把握し、それに応じた対策を行うことがポイントです。  しかし、このような取組みを行っている企業は、現状ほとんど見受けられず、人生100年時代に向けた今後の課題といえます。 ※1 高橋明子,高木元也,三品誠,島崎敢,石田敏郎:建設作業者向け安全教材の開発と教育訓練効果の検証,人間工学,Vol.49,No.6,pp.262-270,2013. ※2 高木元也:中小建設業における安全教育の実態と課題−管工事業対象のアンケート調査の分析−,土木学会論文集F4(建設マネジメント)Vol.72,No.4,pp.I_11〜 I_22,2016 図表1 加齢による暦年齢と生理的年齢の個人差の拡大 縦軸 生理的年齢 横軸 暦年齢 4年 8年 12年 14年 16年 18年 20年 出典:斎藤一、遠藤幸男:高齢者の労働能力(労働科学叢書53)、労働科学研究所、1980から作成 図表2 七つのロコチェック □ 片脚立ちで靴下がはけない □ 家のなかでつまずいたりすべったりする □ 階段をあがるのに手すりが必要である □ 家のやや重い仕事が困難である □ 2s程度※の買い物をして持ち帰るのが困難である※1リットルの牛乳パック2個程度 □ 15分くらい続けて歩くことができない □ 横断歩道で青信号を渡りきれない 出典:日本整形外科学会ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコチェック」より作成 図表3 フレイルの概念図 縦軸 予備能力 横軸 加齢 健康⇔虚弱状態(フレイル)⇔要介護状態 死亡 出典:葛谷雅文「老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性」(日本老年医学会雑誌・2009年)より作成 図表4 フレイルチェックシート 質問項目 回答(該当するものに○をつけてください) 1 バスや電車で1人で外出していますか 2 日用品の買い物をしていますか 3 預貯金の出し入れをしていますか 4 友人の家を訪ねていますか 5 家族や友人の相談にのっていますか 6 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか 7 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか 8 15分くらい続けて歩いていますか 9 この1年間に転んだことがありますか 10 転倒に対する不安は大きいですか 11 6カ月間で2〜3kg以上の体重減少がありましたか 12 身長(    )cm、体重(    )kg  BMI(     )※ 13 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか 14 お茶や汁物等でむせることがありますか 15 口の渇きが気になりますか 16 週に1回以上は外出していますか 17 昨年と比べて外出の回数が減っていますか 18 周りの人から「いつも同じことを聞く」などのもの忘れがあると言われますか 19 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか 20 今日が何月何日かわからない時がありますか 21 (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない 22 (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった 23 (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる 24 (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない 25 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする ※ BMI=体重(s)÷身長(m)2が18.5未満の場合に該当とします 【二次予防事業対象者の基準】 @1から20までの項目のうち10項目以上あてはまる場合 A6から10までの項目のうち3項目以上あてはまる場合 B11および12の2項目すべてにあてはまる場合 C13から15までの3項目のうち2項目以上あてはまる場合 出典:厚生労働省「地域支援事業実施要綱」より作成 図表5 体力チェックの例 ■方法 (体力テストは下記の2つを行う) (1)平衡機能の測定(高所作業や足場の悪い場所での災害防止のため) <閉眼片足立ちテスト:スタート〜ストップまでの時間を測定する> 「測定方法」 ◎ストップウォッチで測定下さい。 [年代別標準時間] 年代 目安 10代 40〜90秒 20代 80〜90秒 30代 55〜90秒 40代 40〜55秒 年代 目安 50代 25〜40秒 60代 18〜25秒 65歳平均21秒 回数は2回とし長い方を記録する (軸足は変えても変えなくても結構です)。 ※転ばないように注意してください。 両目を閉じる 目を開けたらストップ 両手は腰にあてる 腰から手が離れたらストップ 軸足は動かさない 動いたらストップ 両足は触れない 足が着いたらストップ 下から5cm程度 (2)敏捷性の測定(危険遭遇時の災害防止のため) <ジャンプステップテスト(J.S):ジャンプ回数を測定する> 「測定方法」 @30cm角のマスを3×3個作る。 Aマスの中央に立ち、両足をそろえたまま10秒間に中央を基点に前後左右にジャンプした回数(着地で1回)を計る。 2回行って、良い方を記録します。 ※2回連続しないように注意してください。 30cm @ A B C D E F G ■判定 ●どちらかの結果が年齢(65歳)平均以下について特に就業制限にある高所作業や重量物取扱作業は控える。 ●ただし、夜間作業、長時間労働、単独作業については結果に関係なく控える。 1)閉眼片足立ちテスト結果  測定結果21秒未満とする。※65歳平均21秒 2)ジャンプステップテスト結果  各社60代の測定結果により65歳平均を求め、それ未満の回数とする。  ※公的データがないため 出典:住宅生産団体連合会・労働安全衛生総合研究所「平成18年 低層住宅建築工事 高年齢労働者のための安全ガイド」より 【P40-43】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第33回 労働者に対する損害賠償請求、ノー残業デー導入時の留意点 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 労働者に対する損害賠償請求について知りたい  労働者が、会社に対して、損害を生じさせた場合に、その損害を賠償するよう請求することはできるのでしょうか。  会社の内規を大きく逸脱して損害を与えた場合などはどのように考えられるのでしょうか。 A  損害賠償の予定は禁止されていますが、実損を請求することは可能です。ただし、損害の公平な分担の観点からかなりの割合が制限されることが多くあります。 1 労働者に対する損害賠償責任について  労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定め、損害賠償の予定を禁止しています。このような規制がなされている背景には、契約期間中の解約に対する違約金を設定することや、事業活動におけるミスなどの賠償を予定しておくことで、労働者が退職する自由を奪い、不当な足止めを行うことにつながることを回避することにあります。  一方で、実際に発生した損害についてはどうでしょうか。このような場合には、民法第715条第1項が、会社が労働者の不法行為によって他人に損害を生じさせた場合には、被害者に対して賠償する責任を負担することを定めています。この場合、使用者は労働者とともに、被害者に対する賠償責任を負担する義務を負います。  また、同条第3項では、「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」と明記しており、会社としては労働者に対して、求償権を行使することが可能とされています。これは、実際に発生した損害を事後的に請求するという状況であり、あらかじめ違約金などを定める状況とは異なります。  したがって、会社が、労働者に対して、実際に発生した損害について、被害者へ支払う義務があるときには、請求することが可能と考えられています。 2 負担割合について  実際の損害を生じさせたのが労働者であったとしても、使用者から全額の負担を求めることができるのでしょうか。  代表的な判例となっているのが、最高裁昭和51年7月8日判決(茨城石炭商事事件)です。  事案の概要としては、労働者が運転するタンクローリーが、前方注視不十分の過失により交通事故を起こし、会社が被害者に対して、休業補償としての示談金を支払い、自社のタンクローリーを修理する費用や休車期間中の損害を負担した、というものです。  判決では、@事業の性格、規模、施設の状況、A被用者の業務の内容、B労働条件、C勤務態度、D加害行為の態様、E加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、Fその他諸般の事情を考慮要素とあげたうえで、使用者が、労働者へ求償できる範囲について「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限定するという判断をしています。  使用者責任の背景にあるのは、会社は、すべてのリスクを回避できるわけではなく、そのなかで一定の危険を労働者に分担させていることから、終局的な責任は会社が負担すべきという考え(危険責任の原理)や、そのリスクを帯びた事業活動から会社が利益を確保していることからリスクの発生時には会社が負担すべき(報奨責任の原理)という考え方です。リスクの根源や利益の帰属するところが企業であることから、リスクが顕在化したときにだけ労働者へ全額負担させることが、損害の公平な分担に反するというわけです。  しかしながら、労働者の過失がある場合には、それによってリスクが顕在化している部分もあるわけですから、一切の負担を否定するというのもまた行き過ぎた考えでしょう。判例の事件では、最終的には、結論としては、4分の1(25%)を労働者の負担にするべきであるという結論となっています。  比較的多くの事件で、故意や重過失でないかぎり、労働者には4分の1程度かそれ以下といった負担割合となることが多くなっています。  一方で、くり返されるミスに対しては、全額の賠償が認められた事件もあります。タクシー運転手の職務についている労働者が、度重なる交通事故を起こしていたことから、次回の事故については全額の賠償をする旨の誓約書を提出していた事例において、事故がくり返されていたことをふまえた誓約書が提出されていたことから、誓約書提出後に生じた事故について全額の負担を認めた裁判例などもあります(大阪地裁平成23年1月28日判決、国際興業大阪事件)。  傾向としては、度重なるミスに対する責任を問う場合、行為自体に悪意がある場合、故意や重過失が認められる場合には、労働者が負担すべき割合が高くなる傾向があるといえるでしょう。 3 労働者が先に賠償した場合について  最高裁令和2年2月25日判決では、会社が被害者へ賠償した金額を労働者へ支払いを求めたのではなく、労働者が先に被害者の遺族へ賠償した後に、会社へ求償した事件について、判断されています。  事案としてはやはり交通事故であり、トラック運転中の交通事故で被害者は亡くなり、労働者がその遺族と和解して和解金を支払ったというものです。  控訴審までは、労働者から会社へ請求することを権利として認めませんでしたが、最高裁は、労働者が先に弁済した場合であっても、「損害の公平な分担という見地から相当と認められる額」について、会社へ請求することを認めました。  この判決の補足意見においても、会社側においては、保険制度を利用するか否かの選択肢があることや、それに対して保険制度を利用せずにいたことの負担を労働者へ転嫁することが妥当でないことなど、危険責任や報奨責任の考え方がいまもなお通用していることを示す内容も述べられており、使用者の責任の範囲をかなり広くとらえているように思われます。  会社が先に支払ったか、労働者が先に支払ったかということによって、労働者が負担すべき割合が変わるということは結論としても妥当ではありませんので、当然の結論といえるかと思います。実際の割合は、控訴審へ差し戻しされた結果を待つ必要がありますが、補足意見の内容をふまえると、会社の負担割合はかなり大きくなる可能性があると考えられます。 Q2 ノー残業デーを徹底する際の留意点があれば教えてほしい  時間外労働を減少させることを目的にノー残業デーを設定しているのですが、依然として残業を継続する者がいます。これらの残業に対しては、どのように対応すればよいのでしょうか。残業している者からは、「業務が残っているため残業せざるを得ない」という言い分が出ており、対応に苦慮しています。 A  ノー残業デーについては、残業禁止を明確に命じるとともに、残業せざるを得ない環境も同時に解消する必要があります。 1 労働時間について  労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」(最高裁平成12年3月9日判決、三菱重工長崎造船所事件)と定義されており、労働時間であるか否かについては、使用者と労働者の契約や就業規則などの主観的な関係で定めるのではなく、労働実態をふまえて客観的に定まるものとされています。  このことからいえるのは、指揮命令下にあるか否かという実態に即して、労働時間管理を行わなければならず、ノー残業デーを徹底するにあたっても、その観点から取り組んでいかなければならないということです。  労働実態に変更がないような場合には、たとえノー残業デーを周知していたとしても、それだけでは時間外労働が発生してしまう余地があり、残業をなくすことを実現することがむずかしいでしょう。 2 時間外労働について  時間外労働の典型的な状況は、使用者が明示的に時間外労働を命じた場合です。この場合には双方の認識が合致しているはずであるため、労働時間管理に問題は生じないはずです。例えば、残業について事前許可制を採用しており、労働者の事前申請に対して、使用者において、申請を許可しているような場合には、双方ともに残業することを認識しています。  一方、ノー残業デーを周知しているにもかかわらず、労働者が残業を行っているような状況は、使用者の明示的な命令はなく(むしろ残業をしないよう周知している)、労働者としては業務を遂行しており、使用者の指示と労働者の行動がちぐはぐになっている状況です。ちぐはぐな状況であったとしても、労働時間は客観的に判断するということになるため、たとえ使用者の指示や認識が残業を命じていないとしても残業が労働時間となってしまう場合があります。  明示の時間外労働の命令がない場合の考え方としては、労働者の業務遂行が、@使用者の黙示の指示によって求められている、A残業をしなければ制裁があるなど事実上残業を強制されている場合などには、労働時間として認められると考えられています。  まず、@使用者の黙示の指示とは、いわゆる時間外労働を使用者が黙認し続けるような状況などが典型的です。指示に反する業務遂行に対して改善を求めて注意や指導などを行うことなく、残業を見逃しておくという場合には、黙示の指示があったものとして、労働時間として認められてしまうことにつながります。ノー残業デーを周知しつつも、残業している者がいる状況を黙認し、残業している事実自体を受け入れてしまっているような状態では、時間外労働であることは否定できないと考えられます。  次に、A事実上の強制については、時間外労働を行ってでも業務を遂行しておかなければ、人事考課上の不利益や懲戒処分その他の制裁が行われる余地がある場合には、事実上の強制があるものとして、労働時間に該当することにもつながります。業務量が過剰であり、時間外に実施しておかなければ業務遂行に支障が出る、顧客との間で債務不履行が生じることが必定であるなどの状況も労働時間性を肯定する要素になりえます。  これらの@やAの要素から時間外労働が認められた裁判例もあります。例えば、大阪地裁平成15年4月25日判決(医療法人徳洲会事件)においては、タイムカードの打刻以降に行った業務が、時間外労働となるか否かについて、レセプトの作成やそれに関連する業務が毎月10日を期限とされていたことなどから、遅滞させることが許されず、これらを処理することが当然容認されていたものとして、黙示の業務命令に基づく時間外労働であると評価されています。  したがって、@やAの要素を排除しておくことが、ノー残業デーの徹底に取り組むにあたって重要といえます。 3 残業の明示的な禁止について  過去の裁判例において、時間外労働における労働について、労働者側からは黙示の指示や事実上の強制が主張される一方で、使用者側から明示的に残業を禁止しており、労働時間と認めない旨反論した事件があります(東京高裁平成17年3月30日判決、神代学園ミューズ音楽院事件)。  当該裁判例においては、「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない」と述べたうえで、「残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、この命令を徹底していた」ことなどをふまえて、明示的な残業禁止命令に反する時間外又は深夜にわたる業務については、労働時間と評価することができないと結論付けています。なお、労働者からは、残業しないで仕事をこなすことが不可能である旨主張されていましたが、役職者に引き継ぐことが命令されていることをふまえて、事実上の強制の要素についても否定しています。  このような裁判例も参考にすると、ノー残業デーを明示的な「命令」として周知しておくことが重要です。ただ推奨しているだけの状態では、黙示の命令を上回る明示の命令としては位置づけることができないおそれがあります。ノー残業デーの周知や推奨によって実現が叶わない場合には、残業している労働者に対して、残業を禁止する旨注意したうえで、それでも改善しない場合には禁止を命じることが必要でしょう。  また、事実上の強制の要素を排除するためには、残業をしている時間帯に行っている業務の内容を把握し、その必要性や重要性を吟味することが重要です。この裁判例でも残業禁止の命令自体が真意に基づくものではない、つまりは形式的なものであって、時間外労働であったことを否定するものではないと反論されており、形式的に命令を行うだけでは、残業禁止を徹底することが叶わない可能性があります。  紹介した裁判例においては役職者が引き継ぐことで、役職者以外の残業をなくすようにしていますが、このような方法は、残業時間中に行っている業務を把握し、その必要性を吟味する方法としても評価できるでしょう。 【P44-45】 高齢社員の心理学 ―加齢で“こころ”はどう変わるのか― 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 増本康平 第3回 ミスを防ぎ、新しいスキルを身につけるには  高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。今回は、高齢者と新しいスキルの習得の関係について解説します(編集部)。 記憶に頼る方法では物忘れは防げない  「人の名前を忘れる」、「ものを置いた場所を忘れる」、「漢字が思い出せない」、高齢者の多くが訴える日常生活の物忘れです。しかし、これらは高齢者だけの問題なのでしょうか? 大学生に高齢者の記憶愁訴※1のリストを見せ、そのリストにある物忘れをこの1週間で経験した人に手を挙げさせると、上の写真のように約9割の学生が手を挙げます。記憶力がもっとも高い20歳前後の大学生でさえ、日々の生活のなかで頻繁に物忘れをするのですから、記憶に頼って覚えようと努力するだけでは物忘れを防ぐことはできません。ではどうすればよいのでしょうか? 逆説的ですが、覚えなければ忘れることもありません。そのため物忘れやし忘れを防ぐもっともよい方法は、「覚えていなくても、思い出せなくても対処できるように工夫すること」です。 認知機能の役割が変わってきている  歳をとると身体機能が衰えるので、若いときのように速く歩いたり、走ったりすることができなくなります。そして、身体機能の衰えは、公共交通機関がなかった昔なら、移動の制限に直結していました。しかし、交通機関が発展した現代では、身体機能が衰えた高齢者でも新幹線や飛行機を使うことで、東京から大阪、日本からアメリカといった長距離を、身体能力をはるかに超えた速さで、若年者と同じスピードで移動することができます。  認知機能はどうでしょうか。覚えられる量、記憶の正確性、情報を処理するスピードは若いときと比べて低下します。一方で、そのような機能低下を補ってくれる道具はたくさんあります。例えば、予定を忘れないように手帳を使用している人は多いでしょう。私たちが行った研究でも、日常生活の物忘れは、記憶検査の得点で説明できず、手帳やメモを使用しているかどうかで説明できるという結果が示されています。現在はインターネットも普及し、だれでも大量の情報にアクセスできるようになっただけでなく、スマートフォンやタブレットの登場で、外出先でもそれらの情報にアクセスすることが可能になりました。その結果、人の記憶をはるかに超えた桁違いの量の情報をいつでも扱うことができるようになったのです。  このような道具を使いこなすことは、認知機能の衰えをカバーするだけでなく、若年者と同じ情報量を扱うことを可能とするため、高齢となっても社会で活躍するうえで、強力な武器になります。  一方で、そのような道具に頼っていたら、認知機能がどんどん低下していくと心配される方がいらっしゃいます。しかし「道具に頼ると認知機能を使用しない」というのは誤解です。まず、道具を使用するには、その使用方法を覚える必要があります。また、インターネットやパソコン、タブレットが普及するまでは、私たちは情報そのものを記憶する必要がありました。現在は、情報そのものではなく、大事な情報をパソコンのどこに保存したか、どのサイトに行けば必要な情報が手に入るか、どのサイトの情報が信頼に足るのか、などを覚える必要があります。このように私たちの頭で処理すべき情報は、この20年で急速に変わってきているのです。 新しいことを身につけるにはどうすればよいのか  道具の使い方のようなスキルの獲得は、脳のなかでも加齢の影響を受けにくい大脳基底核という領域が関連しています。そのため、若いときよりも時間はかかりますが、歳をとってからでも新しいスキルを獲得することができます。  一方で、便利な道具があることがわかっていても、その使い方をわざわざ覚える気にならないこともあります。スキルの獲得を妨げるのは「歳だから無理」という偏見による、新しいスキルや知識を身につけることに対する意欲の低下です。図表は縦軸に記憶成績を、横軸に覚え方を表しています。「書いて覚える」、「読んで覚える」、「意味で覚える」の順に記憶成績が高まっていますが、最も記憶成績が高いのは「自己と関連づけて覚えた」場合です。脳は自分に関係がないと認識した情報を蓄えようとはしません。自分と関係づける最も効率的で労力を必要としない方法は、覚えたい対象に興味や関心を持つことです。人は自分にとって大切だと認識した情報や興味がある情報は、そうでない情報よりもずっと楽に覚えることができます。  そうはいっても、高齢になると新しい知識やスキルの獲得に苦労することも事実です。スキルの獲得には、すでに獲得しているスキルと関連するスキルの方が身につけやすい、という特徴があります。そのため、雇用側からすると高齢社員に与える仕事内容を考える際は、その社員がこれまでに獲得したスキルと関連させることも重要です。社員側からすれば将来的にどのような仕事をするかを見据えて、スキルを積み上げていく必要があります。そして興味があり情熱を傾けられる仕事であるほど、効率的に知識やスキルは蓄積していきます。 【参考文献】増本康平(2018)『老いと記憶〜加齢で得るもの、失うもの』中央公論新社 ※1 記憶愁訴…自分の記憶力の低下について自覚すること ※2 R ogers, T. B., Kuiper, N. A., & Kirker, W. S(.1977). Self-reference and the encoding of personal information. Journal of personality and socialpsychology, 35(9), 677-688. 図表 自分と関係する情報は記憶されやすい 記憶成績 覚え方 書く 読む 意味 自己 出典:Rogers et al.,(1977)※2を元に筆者作成 写真のキャプション 約9割の学生が、高齢者と同じような物忘れを経験している 【P46-47】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第9回 「限定社員」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、人材確保に対する施策の一つとして注目されている「限定社員」について解説します。安倍内閣以来、政府により推進されてきた「働き方改革」のなかでも取り上げられており、一度は聞いたことがある言葉だと思います。 限定社員の分類は三つ  「限定社員」という用語は、『勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて』(厚生労働省)というパンフレットで、以下のようにわかりやすく分類されています。 @勤務地限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転居をともなう転勤がなかったり、あるいは転勤が一切ない正社員 A職務限定正社員:担当する職務内容や仕事の範囲がほかの業務と明確に区別され、限定されている正社員 B勤務時間限定正社員:所定労働時間がフルタイムでない、あるいは残業が免除されている正社員  要は、勤務地・職務・勤務時間のいずれか(またはセットで)を限定して働くことを想定した社員をさしています。さて、ここで着目していただきたいのは「正社員」としている点です。パートタイマーなどのいわゆる非正規社員の場合は@ABのいずれか(またはすべて)を限定する運用をしているケースがほとんどです。そのため、広い意味では非正規社員も限定社員に該当します。しかし、一般的にはいずれも限定されていないのが正社員の典型的な働き方としたうえで、正社員の働き方に柔軟性を持たせる「多様な正社員」の普及・拡大を推進するのが限定社員という位置づけになります。  Aについてはわかりにくいため補足します。限定のない正社員がある職務に従事したのちに、異動してまったく異なる職務に従事する可能性があるのに対して、定められた以外の職務従事を求められることがない正社員をさします。特定業務のスペシャリストや、医療福祉業・運輸業などで資格が必要とされる職務などが例として挙げられます。 限定社員導入が有効な場合  では、具体的に限定社員はどのようなケースに活用できるかについてみていきましょう。  一つは、子育てや介護などの家庭事情への対応があります。これらの事情を抱えたままの家族帯同での転勤や単身赴任はむずかしい場合、転勤をきっかけとした離職を防ぐ施策として、勤務地限定は有効です。また、介護は平日の昼間に医療施設に連れていくなどの対応が必要なものもあり、フルタイム就労が困難な場合もあります。この場合は、業務負担の軽減を図るために、勤務地・職務・勤務時間のいずれの限定も有効となります。  もう一つは人材の取込みです。かつては、正社員なら辞令による転勤はあたり前というイメージがありましたが、特に若い世代を中心に転勤を望まないという意識が高まっています。例えば、「2019年度新入社員の会社生活調査」(産業能率大学総合研究所)を見ると「一度も転勤せずに同じ場所で働きたい」が36・4%に達しています。これは、全国転勤しか選択肢がない場合には、採用のターゲット層が狭まることを意味しています。また、非正規社員で優秀な人材が正社員転換を望んでも、「フルタイム就業で転勤あり」がハードルになります。そもそもフルタイムがむずかしいのでパートタイマーという働き方を選んでいるケースが多いからです。この場合、勤務地や時間を限定すると正社員転換がスムーズになります。  「限定社員」は、高齢者雇用にも有効です。定年後再雇用の場合は、勤務地や職務・時間を限定して処遇を見直すという運用をとっている企業も多く、これとは別に本人の希望や事情に沿った多様な働き方を提示することで、社内には従来なかった経験やスキルを持ったシニア人材を採用できる可能性が高まります。 限定社員の普及には課題も多い  このようにさまざまな効果が期待できそうな限定社員ですが、「令和元年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によると、令和元年度の時点で制度ありの企業が28・2%と導入が大きく進んでいるとはいいがたい状況にあります。また、同調査の利用者割合を見ると、もっとも多く利用されている勤務地限定正社員で10%程度と低い水準にとどまります(図表)。  導入が進まないのは、人員配置の課題が大きいためと想定されます。例えば、複数部署や拠点を有する会社で、勤務地限定や職務限定が利用されすぎると、欠員が出た場合の補充やローテーションがやりにくくなります。また、管理職層や経営層になるにあたり、異動を通した幅広い視野や経験が必要な場合もあり、限定社員に対してはこのような機会を付与することができなくなります。また、利用率が低いのは処遇の課題が大きいと考えられます。限定されただけ業務や精神的な負担が減るとみなし、その分の処遇を引き下げるというのが一般的な運用です。昇格に上限を設ける、給与や賞与を一定程度引き下げるといった格差です。完全に同一処遇にすると限定のない社員から、格差をつけすぎると限定社員から不公平感を持たれるというジレンマがあります。  人員配置と処遇の課題が一体であり、人員配置のポリシーを明確にしないと、限定社員の導入をどこまで推進するかが見えてこないというのが実際のところといえます。 ☆  ☆  今回は「限定社員」について解説しました。次回は「賞与」について取り上げる予定です。 図表 多様な正社員制度の利用者割合 (%) 男女計 女性 男性 常用労働者計 利用者 女性常用労働者計 利用者 男性常用労働者計 利用者 短時間正社員制度 平成30年度 100.0 2.6(100.0) 100.0 5.0(86.3) 100.0 0.6(13.7) 令和元年度 100.0 2.2(100.0) 100.0 3.8(80.7) 100.0 0.8(19.3) 勤務地限定正社員制度 平成30年度 100.0 10.4(100.0) 100.0 12.2(51.0) 100.0 9.0(49.0) 令和元年度 100.0 9.6(100.0) 100.0 11.8(55.4) 100.0 7.8(44.6) 職種・職務限定正社員制度 平成30年度 100.0 8.5(100.0) 100.0 10.0(48.9) 100.0 7.4(51.1) 令和元年度 100.0 9.3(100.0) 100.0 11.0(53.4) 100.0 7.9(46.6) 注1:多様な正社員制度がある事業所の常用労働者を100として集計した 注2:「利用者」は、平成30年10月1日から令和元年9月30日までの間に制度を利用した者をいう 出典:厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」 【P48-53】 特別企画 鼎談 先進企業における高齢者雇用のトレンドと今後 東京学芸大学 教育学部 教授 内田賢(まさる) 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部研究開発課 及川つかさ・上地(うえち)琳子(りんこ)  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構では、高齢者が活き活き働ける創意工夫を行った企業を表彰する「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年実施しています。今回は、過去のコンテスト表彰企業の事例を掲載した『競争力を高めるための高齢者雇用』の発刊を記念し、編さん者である内田賢教授(東京学芸大学)に「企業の競争力を高めるための高齢者雇用」についてうかがいました。 及川 本日は、内田先生が編さんされた『競争力を高めるための高齢者雇用』(以下、『黒本』。詳細は53頁参照)の発刊を記念し、タイトルにもなっている、企業の競争力を高めるための高齢者雇用≠ノついて教えていただきます。 内田 よろしくお願いします。 及川 黒本では、当機構が毎年実施している高年齢者活躍企業コンテスト(以下、「コンテスト」。詳細は54・55頁参照)にて表彰された企業の取組みを紹介していただきました。競争力を高める≠ニいう言葉にはどういった思いがあるのですか。 内田 コンテストの表彰企業は、高齢社員がこれまでつちかってきた職業能力と経験を引き出して自社の競争力や企業価値を高めています。ですから、黒本の標題を競争力を高めるための高齢者雇用≠ニし、他社が参考となる取組みを厳選して紹介しています。 及川 本日の鼎談(ていだん)では、この黒本をもとに競争力を高める高齢者雇用≠ノついて、最近のトレンドや今後の動きを先生におうかがいします。 最近の高齢者雇用の傾向について―いま、在籍する社員に長く活躍してもらう― 及川 最初に、コンテスト担当の上地から、コンテスト表彰企業の取組みを分野別に整理したデータを紹介します。 上地 図表1は、直近5年間(2015〔平成27〕〜2019〔令和元〕年)の表彰企業(厚生労働大臣表彰・機構理事長表彰)を対象に、分野別の取組み状況(11項目)を集計したものです。  全体的には、定年延長や継続雇用延長を進める「定年・継続雇用」と、勤務時間を工夫する「勤務時間・日数」分野の取組みが突出しています。一方、60歳以上の高齢者を積極的に雇用する「新規採用」、キャリア研修の実施などの「意識啓発」分野の取組み割合は低いです。さらに、直近の傾向として、2019年度には継続的に改善活動を進める体制を整える「職場の風土づくり」が高くなっています。私見ではありますが、表彰企業は何か一つの取組みに特化するのではなく、満遍(まんべん)なく進めているように感じます(詳細は51頁参照)。 及川 図表1をご覧になった感想はいかがでしょうか。 内田 「新規採用」や「意識啓発」に取り組む企業は少ないですね。特に「新規採用」が少ないのは、長く社員に活躍してほしい企業が多いためでしょう。また「意識啓発」が少ないという結果は、定年などを機に役割を大きく変える企業が少数派であることを示しています。 上地 後者が少ないのは、表彰企業の多くが中小企業であることと関係がありそうです。 内田 そうですね。大企業では、多くの場合、定年を機に期待役割を大きく変えます。中小企業では、高齢期もプレイヤーとしてがんばってほしいという企業が主流です。表彰企業では、特に現役社員のときから会社でがんばってくれている人に、高齢期も同じような役割で長く働いてもらう≠アとを、意識した活用をするという特徴があります。 及川 では、表彰企業は何に力を入れているのでしょう。 内田 「健康管理・安全衛生」分野の取組みが目を引きます。「作業施設等の改善」分野と重なりますが、長い活躍を求めるため、高齢社員の身体的負担の軽減に取り組む企業が多いです。 上地 介護業界では、施設利用者を介護するときにロボットを使う企業や、無理な作業姿勢にならないように清掃機械を導入した企業などが表彰されていました。 内田 そうですね。健康管理に着目すると、休憩室に血圧計を設置したり、産業医との面談機会を増やしたり、人間ドックなど健康診断にかかる費用を助成するなど、身体的・精神的な健康維持への支援も充実しています。身体的負担の軽減にかぎらず、社員の健康増進に投資する企業も多いです。 及川 そのほかに、注目する取組みはありますか。 内田 企業と高齢社員のニーズをマッチさせる企業が多いですね。 及川 「勤務時間・日数」の調整などでしょうか。 内田 そうです。健康上の理由から、定年前のようにフルタイムで働けない人もいます。そういった場合、通院が必要となる社員の事情も考慮し、休暇取得に配慮する企業もあります。また、趣味など健康以外の理由で、定年前とは異なる勤務日数を希望する人もいますね。高齢社員の活躍を望む企業では、多様なニーズを満たす選択肢を用意しています。 上地 近年、「評価・処遇」分野も増えています。こちらも高齢社員のニーズと関係があるのでしょうか。 内田 はい。2004年改正の高年齢者雇用安定法の施行当時は、高齢社員を人事評価の対象とする企業は少なかったと記憶しています。当時は、高齢社員には、定年前と同じ活躍を求めていなかったからです。この結果、定年を機に賃金水準を下げる企業も多かったわけです。でも、「定年前と同じようにがんばってほしい」と企業が望むなら、高齢社員は働きに見合った処遇を望むでしょう。表彰企業では定年前と同じ活躍を求める場合も増えていますから、高齢期も働きぶりや成果を評価し、その結果を処遇に反映する企業が増えたのだと思います。 及川 「前と同じようにがんばってほしいけど、給料は下がります」では、高齢社員にかぎらず、だれでもやる気がなくなりますね。 内田 少なくとも営利企業であるため、企業としては社員に貢献してもらわないと困ります。ですから評価し、貢献に応じて処遇することが大事になります。 上地 図表1を見ると、高齢社員に教育訓練をする「能力開発」の割合も高くなっています。 内田 これは、いままで通りプレイヤーとしてがんばってもらうために、継続的に技能は磨いてもらいますよ、という考えが背景にあるわけです。作業現場でも機械化が進んでいます。新しい機械を使いこなせないと、仕事にならないという状況もあるでしょう。 過去との比較から―多様化と制度化― 及川 内田先生には、長くコンテストにたずさわっていただいています。企業の取組みで、以前と変わったこと、変わらないことがあれば、教えてください。 内田 高齢者雇用の取組み分野と解決の考え方は、昔と大きく変わりません。例えば、「作業施設等の改善」を例にしましょう。重いものを軽くするとか、作業しやすいように台の位置を調整するといった、高齢社員の作業負担を軽減し、保有能力の発揮を阻害する要因を取り除こうとする考え方は変わりません。解決方法は、20年前から頻繁に紹介されていました。 上地 たしかに、過去の事例でもよく紹介されていましたね。 内田 ただし、ある産業で着目された取組みが、時間を経てほかの産業でも取り入れられています。例えば、一体感を醸成する目的で社内報をつくる取組みです。これは、昔はビルメンテナンス業で紹介されていました。最近では、社会福祉法人で頻繁に紹介されています。成功事例が産業の壁を越えて波及しています。 及川 では、以前と比べて、何が変わったのでしょうか。 内田 一つは、選択肢の多様化でしょう。企業が個人の状況に合わせて、きめ細かなサービスを提供していることです。原因は、対象の年齢層が上がったことです。10〜20年前に、企業が想定していた高齢社員は60歳前後でした。 及川 いまは65歳以上も対象ですね。しかし、年齢層が変わるとなぜ選択肢を多様化させるのでしょう。 内田 60歳前後と65歳以上では年齢が若干変わるだけだと思うかもしれません。しかし、身体的機能の低下や環境の個人差は大きくなります。加齢にともない、身体的な機能は徐々に低下しますよね。60歳前後は、その身体的な機能の低下に個人差が出始める初期です。 上地 初期だとまだ個人差は少なそうですね。 内田 65歳以上になると、身体的機能の個人差も、本人を取り巻く状況の個人差も大きくなります。そのため、多くの高齢社員のニーズを満たすために個々の状況にあった支援メニューを提供するようになっています。  もう一つの変化は、制度化です。昔は、働きやすい環境を整える場合も、経営者や管理職の裁量で個別に対応するケースも多かったわけです。最近の特徴は、経営者や人事部が継続的な改善を進める「実施体制」を整え、同時に個別対応ではなく、人事制度を整えています。 及川 何がきっかけなのでしょうか。 内田 高齢社員数の増加です。少子高齢化と2012年改正の高年齢者雇用安定法の影響があるでしょう。 上地 人数が増えると、運用重視から制度化に切り替わるのですか。 内田 小さな会社では経営者も社員も、それぞれの事情をわかっていることが多いでしょう。ですから高齢社員の雇用が柔軟に個別対応されても、周りの社員からの納得も得られやすいと思われます。しかし、規模が大きくなればルールを定めて明示する制度化の方が公平性を保てます。 及川 ほかにも、制度化を進める積極的な利点はありますか。 内田 社員が安心感を得られることです。例えば、就業規則上は66歳までの雇用としていますが、運用上75歳を超えても働ける慣行があったとしましょう。66歳以降の雇用継続は社長の判断で決まる場合、66歳以上の社員は来年も働けるか不安になります。しかし、就業規則上に上限年齢と雇用される条件を明記すれば、その条件を満たせば来年も働けるとわかり、社員は安心して働けるようにもなります。 及川 公平性や社員の安心感が高まる利点があるのですね。 将来の話―AIやICTの活用― 及川 これまでは、コンテスト表彰企業の現状と過去をみてきました。最後は、将来です。今後は、どのような取組みが増えますか。 内田 図表1にある、取組みの少ない分野が増えるでしょう。 上地 「新規採用」と「意識啓発」ですね。 内田 そうですね。例えば、「新規採用」です。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法では、努力義務ですが、65歳以降は自社やグループ会社以外で雇用する措置も継続雇用に含まれます。社外から人材を採用するケースも増えますから、高齢社員の定着支援も徐々に注目されるでしょう。 及川 一方、すでに多くの蓄積がある分野では、どのような変化があるのでしょうか。 内田 「作業施設等の改善」では、AIやICTを使った取組みが増えると思います。最近の事例でも、人による見回りの代わりに、AIのセンサーを設置した事例もありました。社員の負担が減り、高齢社員が働きやすくなります。AIやICTの活用が進むと、高齢社員が活躍しやすい環境が整うことが予想されます。 上地 AIやICTの進化により、高齢社員にかぎらず、人間に求められる役割は的確な判断や指示になってきますね。 内田 そうなれば、高齢社員の経験や知識が、企業の競争力の源泉となることでしょう。 及川 最後の質問です。今後、「競争力を高めるための高齢者雇用」に取り組む際、どのように考えることが大事ですか。 内田 今回、いろいろな事例をみて思ったことは、高齢者雇用のきっかけは人手不足など、当初は必要に迫られて始めた企業もありました。しかし、高齢社員へのさまざまな取組みにより、高齢社員にかぎらず社員全員に恩恵がありました。AIの導入企業では、社員全員の負担が軽くなる効果がありました。また、勤務時間を調整できる仕組みがあれば、高齢社員にかぎらず、子育て中の現役社員も働きやすくなります。きっかけは高齢者雇用でもほかの社員も働きやすくなる効果があります。このような企業は、優秀な社員が集まり、かつ労働意欲が高まるため、企業の競争力はさらに高まるでしょう。 及川 高齢社員のための高齢者雇用ではなく、会社が成長するための高齢者雇用と考えることが大事ということですね。では、最後に読者のみなさまに一言いただけますか。 内田 黒本では、高齢社員への支援策を掲載していますが、すべての社員にとって会社を魅力あるものにするヒントが多く詰まっています。チェックリストとしても使えますので、ぜひお役立てください。 上地 支援策を実施する背景や効果など、さらに詳しく知りたい方は、当機構が運営する「65歳超雇用推進事例サイト」※をご覧いただくと、一層理解が深まると思います。 及川 本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。 ※jeed 65 歳超 サイト 検索 図表1 分野別の取組み状況 定年・継続雇用 100.0% 勤務時間・日数 92.1% 評価・処遇 73.0% 新規採用 11.1% 職場の風土づくり 54.0% 技能伝承 39.7% 新職場・職務の創出 61.9% 作業施設等の改善 63.5% 健康管理・安全衛生 79.4% 意識啓発 19.0% 能力開発 77.8% 出典:『エルダー』10、11月号(2015〜2019年)より、上地作成 コンテスト表彰企業の取組み(データから)  「高年齢者活躍企業コンテスト」直近5年間(2015〜2019年)に表彰された63事例の取組み状況についてみてみましょう。48頁で述べた傾向に加え、年度ごとにみると次のような特徴がみえてきます。  まず、「定年・継続雇用」について、すべての企業が取り組んでいますが、これはコンテストの特性上、定年・継続雇用制度について何らかの取組みを行っていることが応募の前提となっていることが要因です。  また、取組み企業の割合が年々増加傾向にある項目としては、「勤務時間・日数(2015年度:83.3%→2019年度:100.0%)」、「健康管理・安全衛生(同:58.3% →同:100.0%)」、「評価・処遇(同:66.7%→同:84.6%)」、が代表的です。前者二つは、高齢社員が元気に働き続けるためには無理のない勤務時間の設定と無理をさせないための体調管理が必要になることから、必然的なものといえるかもしれません。また、日々の働きぶりを評価し、結果を処遇に反映することで、モチベーションの向上を図る企業も増えてきています。  一方で、「新規採用」、「意識啓発」は約10%〜20%に留まっています。「新規採用」は、高齢者の豊富な経験などを即戦力に見込んで、他社を定年退職した人材を積極的に採用した取組みをカウントしています。また「意識啓発」は、キャリア研修などをさしていますが、年齢が上がるにつれ職場での役割が徐々に、あるいは急激に変わった場合の意識転換や意識づけを目的とした支援策です。これらは、現在でこそ取り組む企業は少ないものの、これからますます高齢化や人口減少が進むなかで、高齢者の一層の戦力化が期待されることを考えると、将来的には非常に重要な役割をになうことになるだろうと思われます(上地琳子)。 図表2 年度ごとの傾向 定年・継続雇用 2015年度 100% 2016年度 100% 2017年度 100% 2018年度 100% 2019年度 100% 勤務時間・日数 2015年度 83.3% 2016年度 78.6% 2017年度 100% 2018年度 100% 2019年度 100% 評価・処遇 2015年度 66.7% 2016年度 64.3% 2017年度 75.0% 2018年度 75.0% 2019年度 84.6% 新規採用 2015年度 8.3% 2016年度 14.3% 2017年度 16.7% 2018年度 8.3% 2019年度 7.7% 職場の風土づくり 2015年度 33.3% 2016年度 50.0% 2017年度 33.3% 2018年度 50.0% 2019年度 100% 技能伝承 2015年度 41.7% 2016年度 28.6% 2017年度 41.7% 2018年度 33.3% 2019年度 53.8% 新職場・職務の創出 2015年度 66.7% 2016年度 57.1% 2017年度 83.3% 2018年度 58.3% 2019年度 46.2% 作業施設等の改善 2015年度 58.3% 2016年度 85.7% 2017年度 58.3% 2018年度 50.0% 2019年度 61.5% 健康管理・安全衛生 2015年度 58.3% 2016年度 71.4% 2017年度 75.0% 2018年度 91.7% 2019年度 100% 意識啓発 2015年度 16.7% 2016年度 21.4% 2017年度 8.3% 2018年度 25.0% 2019年度 23.1% 能力開発 2015年度 75.0% 2016年度 64.3% 2017年度 75.0% 2018年度 91.7% 2019年度 84.6% 出典:『エルダー』10、11月号(2015〜2019年)より、上地作成 生涯現役社会の実現に向けた 競争力を高めるための高齢者雇用 ―パフォーマンス向上のためのポイント集― すぐ実行できる 「こんな方法があったのか!」 目からウロコのヒント満載  2021年4月から70歳までの雇用・就業機会の確保が企業の努力義務となります。年齢とともに衰えてくるものをカバーし、企業も65歳超の高齢者もWin-Winで働くための人事施策を考えることも必要でしょう。「65歳を超えて70歳まで働く!!」……、いや「70歳まで働ける??」の声も聞こえてきそうです。でも、この本を読めばその不安も払拭されることでしょう。  今回、当機構は内田教授に編さんいただき、高齢者雇用に関する取組み事例を数多く紹介した情報提供誌を発刊しました。本誌は「人事管理」、「職場の風土づくり」、「技能伝承」、「新職場・職務の創出」、「作業施設等の改善」、「健康管理・安全衛生」、「能力開発」の七つの章から構成され、各章ごとに取組み方や得られる効果を内田教授がコンパクトに解説。実際に取り組んだ企業の事例を箇条書きにまとめ、わかりやすく紹介しています。掲載している先進事例は、比較的簡単ですぐに実行できるものが多く、貴社の課題解決に役立ちます。 (雇用推進・研究部研究開発課 菅(すが)弥寿子(やすこ)、及川つかさ) jeed 競争力 検索 高年齢者活躍企業コンテストとは  当機構では厚生労働省と共催で、高齢者雇用について企業などが行った創意工夫の取組み事例を全国から募集する「高年齢者活躍企業コンテスト」を実施しています。  1986(昭和61)年から実施している当コンテストは、高年齢者雇用安定法の改正や当時の高齢者雇用上の課題に応じて、いままでに「職務再設計コンテスト」、「職場改善コンテスト」、「高年齢者雇用開発コンテスト」と名称を変え、通算36 回目となる2021(令和3)年度は、「高年齢者活躍企業コンテスト」として現在応募企業を募集中です。 コンテスト応募についての詳細は54・55頁をご覧ください。 写真のキャプション 内田賢氏(東京学芸大学 教育学部 教授) 「高齢社員の経験や知識が企業の競争力の源泉になる」と話す 【P54-55】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテスト※は、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 ※ 令和3年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正にともない、高年齢者が一層活躍できるよう70歳までの就業確保が努力義務化されたことから、名称を変更しました(旧:高年齢者雇用開発コンテスト)。 T 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度の導入 A賃金制度、人事評価制度の見直し B多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 C創業支援等措置(65歳以上における業務委託・社会貢献)の導入※ D各制度の導入までのプロセス・運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高齢従業員のモチベーション向上に向けた取組みや高齢従業員の役割等の明確化 A高齢従業員による技術・技能継承の仕組み B高齢従業員が活躍できるような支援の仕組み(IT化へのフォロー、危険業務等からの業務転換) C高齢従業員が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D新職場の創設・職務の開発 E中高齢従業員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施 等 高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組み(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※ 「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」又は「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会 貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類など イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラストなど、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。 ロ.応募様式は、各都道府県支部高齢・障害者業務課にて、紙媒体または電子媒体により配布します。また、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html)からも入手できます。 ハ.応募書類などは返却いたしません。 2.応募締切日 令和3年3月31日(水)当日消印有効 3.応募先 当機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課へ提出してください。 V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)平成30年4月1日〜令和2年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和2年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和2年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和2年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入(※)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、次の「X 審査」を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査 学識経験者などから構成される審査委員会を設置し、審査します。 Y 審査結果発表など  令和3年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関などへ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権など  提出された応募書類の内容にかかわる著作権および使用権は、厚生労働省および当機構に帰属することとします。 [ お問合せ先 みなさまからのご応募をお待ちしています ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.or.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 連絡先は65頁をご参照ください。 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください!  当機構の「65歳超雇用推進事例サイト」では、「65歳超雇用推進事例集」の掲載事例、「コンテスト上位入賞企業の事例」を検索・閲覧できます。  このほか、「過去の入賞事例のパンフレット」をホームページに掲載しています(平成23年〜29年度分)。  「jeed 表彰事例 資料」でご検索ください。 jeed 65歳超 サイト 検索 【P56-57】 BOOKS ジェンダー・ダイバーシティをめぐる現状と課題を整理 シリーズ ダイバーシティ経営 女性のキャリア支援 佐藤博樹(ひろき)、武石(たけいし)恵美子責任編集/武石恵美子、高崎美佐(みさ) 著/中央経済社/2500円+税  本誌2020(令和2)年12月号のこのコーナーで紹介した「シリーズ ダイバーシティ経営」の第2弾は、ダイバーシティ経営の枠組みのなかで女性のキャリア形成を取り上げている。  周知の通り、政府の女性活躍推進政策のもとで、女性の力を発揮してもらえるような人事施策を進めている企業が増えている。本書は、このような現状をふまえながら、ジェンダー・ダイバーシティを起点に、ダイバーシティ経営の現状と課題を明らかにすることを刊行の目的に掲げている。  具体的には、「女性は本当に能力を発揮して働くことが可能になっているのか」、「なぜ女性のキャリア支援は重要なのか」、「女性のキャリアの展開はどこを目ざすのか」といった観点に立ち、企業の人事労務担当者や実務家に向けて、検討に必要な材料を提示。各章では「働く女性の現状と政策」、「採用と就職」、「初期キャリアにおける人材育成」、「出産・育児期のキャリア形成」、「女性の昇進」、「女性一般職のキャリア形成」を取り上げている。  日本のジェンダー格差は、先進国のなかで最も大きいという。世界標準に近づくための取組みを進める際に役立つ良書である。 活き活きとした職場づくりに有益なヒントが満載 職場のポジティブメンタルヘルス3 働き方改革に活かす17のヒント 島津(しまず)明人(あきひと) 編著/誠信(せいしん)書房/1900円+税  「ポジティブメンタルヘルス」とは、働く人の心身の健康度を高め、生産性の向上につなげることを目ざす心理学的な概念。従来型のメンタルヘルスとは異なり、個人の自己肯定感を重視している点が特徴とされる。働き方改革にともない、こうした考え方が注目されてきている。  本書は、東京大学大学院精神保健学分野と日本生産性本部が連携して設立した「健康いきいき職場づくりフォーラム」の活動の一環として、ポジティブメンタルヘルスに関わる理論と実践を広く知らせるために刊行するシリーズの第3弾。働く人の健康を研究している各分野の専門家が研究成果とその実践を紹介している。  第T部「組織マネジメントの支援」では、組織をマネジメントするうえで必要なポジティブメンタルヘルスにかかわる理論や研究成果を、続く第U部「セルフマネジメントの支援」では、従業員が自らの仕事をマネジメントするうえで必要な知識を紹介。そして第V部「実践! 休み方改革」では、健康で活き活きと働くために重要なオフの時間の過ごし方を取り上げている。高齢労働者の就労意識も含め、活き活きとした職場づくりに関心がある人事労務担当者にとって有益なヒントが満載。 「ヘルスリテラシー」を身につけて健康寿命を延ばそう 健康・医療情報の見極め方・向き合い方 健康・医療に関わる賢い選択のために知っておきたいコツ教えます 大野智(さとし) 著/大修館書店/1600円+税  テレビやインターネットではあらゆる健康情報がはん濫しており、なかには科学的根拠のないものやデマも飛び交っている。健康寿命を延ばして生涯現役を実践するには、本当に役立つ情報を見極める目を養うことが重要だ。  健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価して活用するための能力を「ヘルスリテラシー」と言う。本書は、ヘルスリテラシーを身につけて、生活の質の維持・向上を図ることを目的に、正確な健康・医療情報の見極め方、入手方法、情報を入手した後の意思決定のコツやポイントをわかりやすくまとめている。  たとえば、「科学的事実を伝える情報でも、提示のされ方によって、人は心理効果やそのときの感情から情報をゆがんだかたちで認知してしまう」ことがある。情報に接する際は、人はだまされやすいことを自覚することが必要だ。また、「正確な情報を入手した後は、どう決断して行動するかが重要」になる。ある人に効く治療が自分にも効くとは限らないため、判断に迷うことがある。その際の意思決定のコツを、医療現場で実践されている方法を参考にして解説している。身近な健康情報にも、病気になったときの深刻な場面にも役立つ一冊だ。 テレワークを適切に運用するための最新情報と先進事例を紹介 中堅・中小企業のための テレワーク成功の秘訣 一般社団法人日本テレワーク協会監修/日経BP日本経済新聞出版本部/1800円+税  新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、多くの企業にテレワークが急速に浸透した。テレワークを始めると、満員電車に乗ることも会社へ出勤する必要もなく、体力や時間を節約できるなどのメリットがある反面、セキュリティ対策の不安や「オン・オフ」の切替えがむずかしいといったデメリットもあげられている。新しい生活様式を実践するためにテレワークは不可欠とされるので、環境の整備や課題を整理して適切な運用方法を構築したい。  本書は、その際に参考になる一冊である。とくに中堅・中小企業を対象にした内容で、課題や不安を解消してテレワークを定着させ、生産性を上げるためのノウハウを提示している。  コロナ禍におけるテレワークの現状から、見えてきた課題、テレワーク導入のステップ(導入済み企業はおさらいが可能)、人事部門・労務部門のテレワーク推進ステップ、テレワークのツールやセキュリティ対策の考え方、課題解消のためのポイントなど情報満載だ。  テレワークを成功させた企業や自治体の取組み事例もあり、テレワーク導入後の人事評価の方法や社内コミュニケーションのとり方の実際なども紹介されている。 身近な食べものの特色を把握して、食べることで健康増進! からだによく効く 食材&食べあわせ手帖 改訂版 三浦理代(まさよ)、永山久夫監修/池田書店/1200円+税  生涯現役で行動する身体をつくるには、健康や若々しさの保持に貢献してくれる食材を選んで食べたいもの。疲労をやわらげたり、骨を丈夫にしてくれたりする食事のメニューや食材のよさを逃さない調理方法も知っておきたい。  そんな食生活の実践をサポートしてくれるのが本書だ。野菜・肉・魚・穀物などの食材について、食材の持つ主な栄養素とその効果、調理のコツなどを食材ごとに写真と簡潔な文章で説明し、栄養素の効果がより期待できる複数の食材の食べあわせの例も紹介している。女子栄養大学名誉教授・三浦理代氏と本誌「日本史にみる長寿食」(29頁)の連載でおなじみの食文化史研究家・永山久夫氏が監修し、栄養素の知識から、「免疫力を増強させる食材」、「疲労をやわらげる食材」、「筋肉や骨の衰えを防ぐ食材」など毎日の献立づくりにも役立つ情報がまとめられている。食材別の索引と症状別の索引があるので、事典のように活用することもできる。  免疫力アップには、「豚肉+キャベツ」の組合せがよいとのこと。豚肉は細胞をつくるたんぱく質を多く含み、キャベツは細胞を強くするビタミンCが多いからだ。本書を手元に置いておくと、自然と食生活が改善されそうである。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 職業能力開発関係厚生労働大臣表彰等を決定  厚生労働省は、令和2年度「職業能力開発関係厚生労働大臣表彰」の受賞者と「職業訓練教材コンクール」の受賞作品を決定した。  職業能力開発関係厚生労働大臣表彰は、認定職業訓練の実施状況がきわめて優良な事業所・団体、認定職業訓練の技能振興・育成に多大の貢献があった人、また、技能検定に関し永年にわたり多大の貢献があるなどの事業所・団体などに対して行われる。今年度の受賞者は、認定職業訓練関係が事業所1社、団体2団体、功労者23人、技能検定関係が事業所19社、団体13団体、功労者94人、技能振興関係が事業所8社、団体2団体となっている。  また、職業訓練教材コンクールは、職業訓練の指導にたずさわっている人が作成した教材のなかから優秀なものを選び成果を讃えるもの。今年度は、厚生労働大臣賞・特選に、星野実さん(学校法人大阪電気通信大学)・渡辺幸治さん(大阪府立北大阪高等職業技術専門校)・津嶋一之さん(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構北陸職業能力開発大学校)・齊藤総一さん(関東職業能力開発促進センター)・瀬川祐介さん(北海道職業能力開発促進センター)の「遠隔訓練も可能となる射出成形金型設計教材」が選ばれた。  このほか、厚生労働大臣賞・入選4作品、特別賞・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞5作品、特別賞・中央職業能力開発協会会長賞5作品が選ばれた。 厚生労働省 イクメン企業アワード・イクボスアワードの受賞企業・受賞者を決定  厚生労働省は、「イクメン企業アワード2020」受賞企業と「イクボスアワード2020」受賞者を決定した。これらのアワードは、育児を積極的に行う男性=「イクメン」を応援し、働きながら安心して子どもを産み育てることができる労働環境の整備を目的に企業や個人を表彰するもの。 ■イクメン企業アワード2020  男性従業員の育児と仕事の両立を推進し、業務改善を図る企業を表彰するもの。 【グランプリ】(2社)  株式会社技研製作所(高知県)  積水ハウス株式会社(大阪府) 【奨励賞】(1社)  双日株式会社(東京都) 【理解促進賞】(1社)  江崎グリコ株式会社(大阪府) 【特別賞】(2社)  日本航空株式会社(東京都)  株式会社プロトソリューション(沖縄県) ■イクボスアワード2020  部下の仕事と育児の両立を支援する管理職=「イクボス」を企業からの推薦によって募集し、表彰するもの。 【グランプリ】(2人)  社会福祉法人スプリング  大久保友紀子氏  株式会社スープストックトーキョー  西谷(にしたに)達彦氏 【特別奨励賞】(1人)  株式会社ビースタイルホールディングス  松浦修治(しゅうじ)氏 厚生労働省 就労条件総合調査の概況  厚生労働省は、2020(令和2)年「就労条件総合調査」の結果をまとめた。  この調査は、常用労働者30人以上の民営企業から約6400社を対象に、労働時間制度、賃金制度などについて、2020年1月1日時点(年間については平成31年・令和元年ないし平成30会計年度)で行っている。  調査結果のなかから、「勤務間インターバル制度」をみると、1年間を通じて実際の終業時刻から始業時刻までの間隔が11時間以上空いている労働者が「全員」の企業割合は32・4%(前年32・9%)、「ほとんど全員」の企業割合は33・7%(同35・0%)。また、「ほとんどいない」の企業割合は2・1%(同3・0%)、「全くいない」の企業割合は13・1%(同10・7%)となっている。  勤務間インターバル制度の導入状況は、「導入している」が4・2%(前年3・7%)、「導入を予定又は検討している」が15・9%(同15・3%)、「導入予定はなく、検討もしていない」が78・3%(同80・2%)となっている。  勤務間インターバル制度の導入予定はなく、検討もしていない企業について、その理由(複数回答)別の企業割合をみると、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が56・7%(前年53・0%)と最も多く、次いで、「当該制度を知らなかったため」が13・7%(同19・2%)となっている。また、「当該制度を知らなかったため」の全企業に対する企業割合は10・7%(同15・4%)となっている。 厚生労働省 2020年度「現代の名工」  厚生労働省は、その道の第一人者と目され、卓越した技能を有する現役の技能者150人を「現代の名工」として決定し、2020(令和2)年11月9日、東京都内で表彰式を行った(今年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、各部門の代表として20人の技能者を招待して実施)。  「現代の名工」の表彰制度は、極めてすぐれた技能を有し、技能を通じて労働者の福祉の増進と産業の発展に寄与し、ほかの技能者の模範と認められる現役の技能者に対して、厚生労働大臣が表彰を行うもの。1967(昭和42)年度に第1回の表彰が行われて以来、今年度が54回目となり、今回受賞の150人を含めて、これまで6646人が表彰を受けている。  今年度の主な受賞者は、婦人・子供服注文仕立職として顧客の個性や着用目的、季節などに合わせて、デザインから裁断、縫製まで一貫して制作する卓越した技能を持つ金武(かねたけ)節子(せつこ)さん(76歳)、染織職(せんしょくしょく)として、染料となる草木採取から意匠(いしょう)、染色、織り上げまで全工程を1人で作業する卓越した技能を有し、数百種類の植物による豊富な草木染経験・技能に加え、多様な織りの技能に精通して、その作品が国内外から高い評価を得ている橋千鶴子(ちずこ)さん(96歳)、宮大工として1953年から67年間、社寺建築を手がけるなかで規矩(きく)術や木割りの技能を習得し、設計から完成まですべて自分の手で仕上げ、現在は長年の棟梁(とうりょう)としての技術を伝えるべく、後進指導にも力を注いでいる佐野義光さん(87歳)らである。 経済産業省 「はばたく中小企業・小規模事業者300社」選定、300社の事例集も公表  経済産業省は、ITサービス導入や経営資源の有効活用などによる生産性向上、積極的な海外展開やインバウンド需要の取込み、多様な人材活用や円滑な事業承継など、さまざまな分野で活躍している中小企業・小規模事業者を「はばたく中小企業・小規模事業者300社」として選定した。  また、選定された300社の取組みを収録した「はばたく中小企業・小規模事業者300社2020」(個別事例集)を中小企業庁のホームページで公表している。  選定された中小企業・小規模事業者は、@生産性向上、A需要獲得、B担い手確保の三つの分野で、外部有識者による厳正な審査で選ばれた。  @生産性向上の分野は、高齢化や人手不足などの課題をITサービス導入や経営資源の有効活用などによって解決したり、生産性向上に資する取組みを行っている企業など。A需要獲得の分野は、海外展開を通じて、国内の産業基盤の発展に積極的に取り組んでいる企業や、地域資源を活かし、インバウンド需要の取込みなど、地域経済の活性化に貢献する企業など。B担い手確保の分野は、若者・女性・シニアなどの多様な人材を、工夫をこらした働き方などで活用する事業者などで、この分野では、65歳以上のシニア人材を雇用して次世代へ職人技術を継承している企業や、地域と連携した雇用の取組みで多様な人材を確保している企業、多様な人材を活用して働き方改革に積極的な企業、生涯雇用を掲げている企業など39社が選ばれている。 調査・研究 日本産業カウンセラー協会 「働く人の電話相談室」結果報告  一般社団法人日本産業カウンセラー協会は、2020(令和2)年9月10日から12日までの3日間にわたって実施した「第14回働く人の電話相談室」の集計結果をまとめた。  それによると、期間中に延べ330人から、計527件の相談が寄せられた(※相談者からの主訴を最大三つまで選択する方式として集計)。  今年は相談者に新型コロナウイルスやテレワークが仕事や心にどう影響したのか聞いたところ、新型コロナウイルスの影響面で顕著だったのは「職場の悩み」(36・6%)、「キャリアに関する悩み」(24・4%)の2点で過半数を占めた。  相談全体の悩みの分類をみると、昨年に続いて「職場の悩み」が32・3%(前年37・9%)と最も多く、次いで、「メンタル不調・病気の悩み」が17・3%(同16・6%)、「キャリアに関する悩み」が14・2%(同11・7%)、「家族に関する悩み」が13・7%(同10・2%)と続いた。  「職場の悩み」の内訳をみると、「職場の人間関係」が32・9%と、昨年に引き続き最も高い結果となっている。また、「キャリアに関する悩み」の内訳では「就職・転職・退職」が52・0%と、昨年同様最も高い結果となっている。  相談者を年代別にみると、50代が34・4%(前年33・1%)と最も多く、40代が22・7%(同21・7%)、60代が19・4%(同13・5%)、30代が10・7%(同13・6%)の順となっている。 【P60】 次号予告 3月号 特集 高齢社員の戦力化に向けた人事管理を考える ―生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム― リーダーズトーク 羽田一成さん(住友林業株式会社 理事 人事部長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●70歳までの就業機会確保(高年齢者就業確保措置)を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が、4月1日より施行されます。そこで本号の特集では、「高年齢者雇用安定法が改正―70歳までの就業機会確保に向けて―」と題し、改正法と高年齢者就業確保措置について解説しました。  今回の法改正では、他社への再就職や、フリーランス、社会貢献事業といった選択肢も示されていますが、多くの企業が優先的に検討するのが、自社での70 歳までの雇用ではないでしょうか。加齢による身体機能の低下や病気、家族の介護など、個人の事情が大きく異なる高齢者ですが、雇用期間が65歳から70歳まで延びれば、個人差がより広がることも予想されます。本特集企画を参考にしていただき、制度面はもちろん、職場環境の面でも、70歳まで働ける職場の実現に向けて取り組んでいただければ幸いです。 ●本号では、特別企画として、高齢者雇用に詳しく、長年「高年齢者活躍企業コンテスト」の審査にたずさわられている内田賢先生と、当機構担当者による鼎談「先進企業における高齢者雇用のトレンドと今後」を掲載しました。直近5年間のコンテスト受賞企業の取組みの傾向や変化を分析し、その結果をもとに、高齢者雇用について展望しています。鼎談のなかで内田先生もお話しされているように、高齢者雇用体制の整備は、すべての従業員にとって働きやすい職場づくりにつながります。同記事はもちろん、内田先生編さんの『競争力を高めるための高齢者雇用』、コンテスト受賞企業事例などを、ぜひ高齢者雇用の推進にお役立てください。  「令和3年度高年齢者活躍企業コンテスト」への応募もお待ちしております。 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー2月号 No.495 ●発行日−−令和3年2月1日(第43巻 第2号 通巻495号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ※令和3年4月1日から、メールアドレスはelder@jeed.go.jpに変更となります ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-788-6 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 レーダーチャートで自社の人事管理の課題を把握 雇用力評価ツールのご案内  当機構では、「自社が高齢社員の強みを活かした人事管理を実践しているのか」、「自社の課題はどこにあるのか」を把握するためのツールとして、「雇用力評価ツール」を開発しました。診断は当機構の専門家が無料でサポートします。ぜひご活用ください! 高年齢者雇用安定法の改正でいっそう高まる人事管理の重要度  高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正により、2021(令和3)年4月1日から、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となります。高齢者雇用を取り巻く状況は、少子高齢化による人手不足や、高齢者自身の就労意欲の高まりなどを背景に、大きく変わりました。2013(平成25)年に65歳までの雇用を義務化する「高年齢者雇用確保措置」が導入されたころは、「法律で決められているから」と必要に迫られて、賃金一律の再雇用制度を導入する企業も少なくありませんでした。しかし、近年では60歳を超えて働くことがあたり前となり、60歳以上の高齢社員を戦力化するために、賃金制度を見直したり、65歳超の定年制度を導入する企業も増えてきています。  今回の法改正では、65歳を超えて70歳まで働くための環境整備が企業に求められることになります。そこで重要となるのが、さらなる人事管理の整備です。高齢社員がモチベーション高く仕事に取り組み、戦力として活躍してもらうための人事管理が必要となります。  この人事管理を整備するにあたり、高齢社員の人事管理上の課題を把握するためのツールが「雇用力評価ツール」です。 5領域25項目の設問で高齢社員の人事管理の課題を把握  「雇用力評価ツール」では、企業のご担当者が、チェックリストの設問に回答することで、自社の雇用力(=高齢者を多く雇用し、戦力化できる経営力)を確認することができます。設問は「活用方針・活用戦略」、「評価・処遇」、「仕事内容・就労条件」、「能力開発・キャリア開発」、「推進体制・風土づくり」の5領域、全25項目あり、回答を元にレーダーチャートを作成します。ベンチマーク企業(高齢社員活用の高パフォーマンス企業)や同業他社などと比較することで、高齢者雇用における自社の強みや課題を視覚的に知ることが可能です。  加えて、当機構に所属する高齢者雇用の専門家である、65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーから、分析結果をもとに、これから取り組むべき優先事項や具体的な取組み方法などについてのアドバイスを受けることができます。  「雇用力評価ツール」による分析や専門家によるアドバイスは無料で利用可能です。高齢社員の戦力化に向け、ぜひご活用ください。 雇用力評価ツールで、こんなことがわかります!  雇用力評価ツールは、25項目の設問に回答することで、「活用方針・活用戦略」、「評価・処遇」、「仕事内容・就労条件」、「能力開発・キャリア開発」、「推進体制・風土づくり」の5領域の課題について把握することができます。設問は領域ごとに5項目あり、「あてはまる」、「ややあてはまる」、「あまりあてはまらない」、「あてはまらない」の四つの選択肢から、該当する選択肢を選ぶ選択回答方式です。レーダーチャートで自社の取組み状況や、強みや課題を視覚的に把握することができます。領域ごとのレーダーチャートのほか、5領域を総括したレーダーチャートもご確認いただけます。 貴社 ベンチマーク ベンチマーク企業 (高齢社員活用の高パフォーマンス企業)と自社の違いが一目でわかる! 5領域全体 戦略 評価・処遇 仕事内容 能力開発 体制・風土 4 3 2 1 活用方針・活用戦略  高齢者活用に向けた人事管理制度の「方針・戦略」の状況を把握します。全社的・戦略的に高齢社員の活用を考えることが戦力化へ向けた第一歩として重要です。 ■主な設問 ●会社は高齢者が今後どの程度増えるのか、見込みを立てている ●会社にとって高齢者は戦力であるという方針を持っている など 評価・処遇  高齢社員の評価・処遇制度の状況を把握します。高齢社員を戦力として活躍をうながすためにも、適切な目標設定と評価を行い、処遇に反映することが重要です。 ■主な設問 ●高齢者に対して、業務目標を設定している ●高齢者に対して、働きぶりや業績等の評価を行っている など 仕事内容・就労条件  高齢社員が働きやすい勤務制度や作業環境の整備状況などを把握します。加齢により体力が低下しても、知識や経験を活かして働ける環境整備のほか、健康支援なども重要となります。 ■主な設問 ●高齢者には60歳になる前に、仕事内容や賃金、労働時間等について説明している ●高齢者本人の希望に応じて、仕事内容や働く時間、働く場所を選べるようにしている など 能力開発・キャリア開発  高齢社員に対する職業能力開発やキャリアに関する支援状況を把握します。高齢社員に戦力として活躍してもらうためには、自己研鑽を図る働きかけや企業側の能力開発支援なども重要となります。 ■主な設問 ●高齢者のキャリアや働き方の希望を把握している ●能力向上に努めるように高齢者に働きかけている など 推進体制・風土づくり  高齢社員の上司である管理職への支援状況や、高齢社員とのコミュニケーションの状況などを把握します。経営層や人事部が管理職のマネジメントを支援し、かつ高齢社員が新たな役割で活躍できるように支援することが重要となります。 ■主な設問 ●経営者や管理者は社員に対して高齢者活用の大切さを働きかけている ●高齢者雇用に取り組むための体制(担当者の選任、表彰制度、相談窓口の設置等)を設けている など 雇用力評価ツールの利用方法 ステップ1  当機構の全国にある都道府県支部の高齢・障害者業務課(65頁参照)へお問い合わせください。 ステップ2  高齢者雇用の専門家である65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが貴社を訪問し、「雇用力評価ツール」についてご説明するほか、高齢者雇用に関する各種資料をご提供いたします。 ステップ3  「雇用力評価ツール」の設問にご回答いただきます。65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーの説明を受けながらご回答いただきます。 ステップ4  後日、65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが、貴社の回答結果をもとに作成したレーダーチャートに対する分析結果を持参いたします。あわせて、今後の取組みのポイント等課題解決のためのアドバイスを行います。 ■チャート分析・コメント 【活用方針・活用戦略】 @会社は高齢者が今後どの程度増えるのか、見込みを立てている A会社にとって高齢者は戦力であるという方針を持っている B高齢者の生活上の事情や健康に配慮することを会社の方針として 持っている C高齢者の処遇を考えるとき、60歳前の正社員、パートタイマーや契約社員等の非正社員とのバランスを意識して決める方針を持っている D高齢者に期待する成果・業績について、明確な方針を持っている ポイント対象データ 4 3.36 3 3.65 3 3.40 3 2.91 2 2.97 レーダーチャート @ A B C D 4 3 2 1 ポイントと解説 活用方針・活用戦略 ◆A重く熱く体力が求められる仕事であり、(以下省略) ■チャート分析・コメント 【評価・処遇】 E高齢者に対して、業務目標を設定している F高齢者に対して、働きぶりや業績等の評価を行っている G高齢者の賃金は、担当する仕事や職責で決めている H賞与は、評価結果を反映している I昇給は、評価結果を反映している ポイント対象データ 2 2.72 2 3.14 2 3.24 3 2.81 3 2.35 レーダーチャート E F G H I 4 3 2 1 ポイントと解説 評価・処遇 ◆E高齢者における業績目標の設定、(以下省略) 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はあみだくじを使った脳トレです。まずは指でなぞりながら計算していきましょう。次は目視のみで計算します。そして最後には個々人の結果も記憶しつつ計算していきましょう。そうすれば、一問で三度鍛えられます。 第44回 あみだくじ計算 目標 8分  4人はそれぞれ八百屋でリンゴを買い、その帰り道で何個か落としたり拾ったりしました。家に着いたときにそれぞれいくつ持っていたでしょう。  ●のなかの数字は拾った個数、■のなかの数字は落とした個数です。あみだくじを指でなぞりながら、計算していきましょう。 山田さん 1個 川島さん 8個 畑中さん 5個 内海さん 2個 @ 名前 リンゴの合計 個 A 名前 リンゴの合計 個 B 名前 リンゴの合計 個 C 名前 リンゴの合計 個 脳は若くなければダメというわけではない  脳の前頭前野には、ワーキングメモリと呼ばれる機能があります。ワーキングメモリは作業記憶ともいい、生活のなかで記憶や情報を一時的に蓄えながら、あれこれ作業する短期的な記憶力です。このワーキングメモリにかかわる詳細な記憶力と情報処理能力のピークは18 歳といわれており、年とともに衰えていきます。  しかし、買い物をするときや家計のやりくりなど、日常生活でも必要となってくる“数字を使いこなす能力”のピークは50歳ころといわれています。つまり、脳は若くなければダメというわけではなく、年齢のステージによって発揮できる能力があるのです。  計算が苦手という人も、今回のような問題を解くことで、そういった能力を伸ばしていくことができるので、諦めずに挑戦してみてください。 【問題の答え】 @山田さん 9個 A川島さん 10個 B内海さん 4個 C畑中さん 5個 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年2月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 東京開催 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 シンポジウム(オンデマンド視聴)申込受付中  昨年12月に東京で開催されたシンポジウムの模様を、オンデマンド配信します。  高齢者が活躍するための「人事管理制度」や「高齢期の賃金・評価制度」をどのようにすべきか、その効果や課題について、学識経験者の講演、企業の事例発表を通してみなさまとともに考え、生涯現役社会の実現を目ざすイベントです。  開催時の雰囲気や盛り上がりを、臨場感のある動画でご実感ください。 視聴申込方法 申込み〆切 令和3年3月22日(月) シンポジウムお申込み専用URL ※専用フォームからのお申込みがむずかしい場合、下記お問合せ先にご連絡ください。お電話で対応させていただきます。 @ 申込みフォームの表示 【お申込み専用URL】(上記)からお申し込みください。 A 申込みフォームへ入力 各項目を入力し、「個人情報の取扱いに関して同意する」にチェックを入れ、「入力内容の確認画面へ進む」ボタンを押してください。 B 入力内容の確認と送信 入力内容をご確認後、「送信する」ボタンを押してください。ご登録いただいたアドレスに申込確認メールが配信されます。 C 動画視聴 申込確認メールに掲載されているURLから、動画をご視聴ください。 (動画の視聴には、メールに記載されている視聴ID、パスワードが必要です。 ※申込みの際に取得した個人情報は適切に管理され、当機構が主催・共催・後援するシンポジウム・セミナー、刊行物の案内等にのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に取り扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者に提供しません。 プログラム 講演1 「高年齢者雇用安定法改正について」 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課 講演2 「高齢社員の戦力化に向けた賃金・評価制度」 講師 今野浩一郎氏(学習院大学 名誉教授 学習院さくらアカデミー長) パネルディスカッション 《テーマ》 「高齢社員戦力化に向けた活用戦略と賃金・評価制度」 コーディネーター:今野浩一郎氏 パネリスト:川崎重工業株式会社/太陽生命保険株式会社 申込みお問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 主催●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援●厚生労働省 2021 2 令和3年2月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第2号通巻495号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会