【表紙2】 産業別 「ガイドライン」のラインナップが増えました 高齢者雇用推進事業のご案内  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。  そこで当機構では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。そしてこれまでに、90業種の高齢者雇用推進ガイドラインが完成しています。  2020年度は、以下の6つのガイドラインを作成しました。いずれも、当機構のホームページで全文を公開中です。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 1 一般社団法人 日本工業炉協会 工業炉製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍を企業成長に生かす〜 2 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会 情報サービス業 (情報子会社等)におけるシニア人材活用に関するガイドライン 3 一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会 ハイヤー・タクシー業高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜公共交通機関として安全・安心輸送のために〜 4 一般社団法人 マンション管理業協会 マンション管理業 高齢者活躍に向けた ガイドライン 5 全日本葬祭業協同組合連合会 葬儀業における 高齢者活用推進のためのガイドライン 〜高齢者の活用による業務スタイルの変化への対応〜 6 公益社団法人 全日本病院協会 病院における 高齢医療従事者の雇用・働き方 ハンドブック 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.71 人生100年時代。老後の生活設計に頼りになる公的年金をフル活用しよう 日本経済新聞編集委員 兼 紙面解説委員 田村正之さん たむら・まさゆき 1961(昭和36)年、香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。証券部、『日経マネー』副編集長、生活経済部次長などを経て、現職。ファイナンシャルプランナー、証券アナリスト。著書に『人生100年時代の年金戦略』、『はじめての確定拠出年金』(日本経済新聞出版)など。  私たちの老後の生活を支える重要な柱の一つに「公的年金制度」があります。現役世代が受給世代を扶養する「世代間扶養」の仕組みですが、若い世代だけでなく、中高年のなかにも、本当に将来にわたって年金をもらえるのか不安に思っている方が少なくないようです。そこで今回は、公的年金の現状と将来について、日本経済新聞編集委員 兼紙面解説委員で、ファイナンシャルプランナーでもある田村正之さんにお話をうかがいました。 公的年金は人生の三大リスクをカバーしインフレにも強い総合保険 ―若い世代には「将来、公的年金はあてにできない」と思う人が少なくないようです。また、若い世代だけでなく、2019(令和元)年にニュースになった「老後資金2000万円問題」は、中高年にも動揺を与えました。この先、公的年金は頼りになるのでしょうか。 田村 たしかにそのような不安はよく耳にします。しかし多くは、公的年金制度を正しく理解していないことから生じています。  まず、年金は「保険」であることを知っておく必要があります。長期間保険料を払っても、払った分だけもらえないという不信感をもつ人もいます。そういえるかどうかは、どういう前提で計算するかで違った結論になりますが、たとえ払った分が返ってこなかったとしても、保険とはリスクに備えてかけておくもので、貯金とは異なります。例えば住宅の火災保険を何年もかけ続けた人が、火災が起こらず保険料が無駄になったと怒ることはないでしょう。保険とは大きなリスクに襲われたときに、互いに助け合う扶助の仕組みであり、将来自分が使うために積み立てる貯蓄ではありません。  公的年金がカバーするリスクは、第一に何歳まで生きるかわからないことです。これを予測できないために、老後資金を自分でどれだけ備えたらよいかわからない。その点、公的年金は終身にわたり受給できますから、生きているうちに受給が途絶える心配がありません。第二は、病気やけがで働けなくなって収入を得られなくなるリスクです。そうしたときに公的年金加入者は障害年金を受け取ることができます。第三のリスクは、一家の大黒柱が亡くなること。そんなとき残された家族には遺族年金が出ます。  公的年金は、これら人生の三大リスクに備える総合保険ですが、もう一つ重要な点は、インフレというリスクにもある程度対応できることです。公的年金の金額は、受給開始後に物価が上がった場合、ある程度物価に連動できる仕組みになっています。こうした物価連動は、民間の保険では無理です。  公的年金でそれが可能なのは、現役世代から高齢世代に仕送りをする賦課(ふか)方式※1だからです。インフレが起きている状態では、現役世代の賃金も通常は上がっています。その分、現役世代からの保険料収入も大きくなり、給付額を増やせる仕組みです。 ―賦課方式では、少子高齢化が進み、負担する世代と受給する世代との人数バランスが崩れて、仕送りの仕組みが持ちこたえられなくなることを心配する声もあります。 田村 20〜64歳を「支える人」、65歳以上を「支えられる人」と考えると、1980(昭和55)年には支え手6・6人、2010(平成22)年には支え手2・6人で1人を支えていましたが、2040年には1・4人で1人を支えることになり※2、現役世代の負担が重くなりすぎると心配されています。  しかし、この議論で見るべきなのは、単純な年齢別の人口比ではなく、働いて保険料や税金を負担している人と、働いていない人との比です。就業者1人が支える非就業者の人数は、1980年が1・1人、2010年が1・03人、2040年を予測すると1・1人です。これは国立社会保障・人口問題研究所の資料などから私が計算した値です。昔はいまよりも引退年齢が早く、定年は55歳や60歳でした。また女性が外で働くことは一般的ではありませんでした。これからは働く高齢者や女性が増えるので、就業者数と非就業者数の比率はそれほど大きく変化しないのです。 ―高齢者や女性の就業者は増えていますが、非正規が多く、保険料収入はそれほど増えないのではありませんか。 田村 これまで相対的に賃金の低い非正規就業者が増えてきたのは事実です。しかしこれからは、労働力不足のもとで待遇の改善が進みそうですし、正社員の比率も高まる兆しが見えます。また、働き方が多様化し、短時間労働者が増えると思いますが、週20時間以上の短時間労働者を社会保険に加入させなければならない企業の規模要件を緩め、加入する労働者の月収要件を引き下げる法律改正も行われており、現役世代が減るほどには、加入者数は減らないでしょう。  さらに、2004年度から2017年度まで、毎年計画的に保険料率を引き上げたり、国民(基礎)年金の財源のうち税金でまかなう比率を3分の1から2分の1に高めたりする改正も行われました。 受給者数の増加が永遠に続くことはなく公的年金が破綻する心配はない ―他方、支出面の給付水準はどう見直されていますか。 田村 少子高齢化は以前からわかっていたことなので、収支両面からさまざまな準備が行われてきました。給付の面で重要な改正は、2004年に導入された「マクロ経済スライド」です。これは、現役世代の減少や受給者の平均寿命の伸びを反映させて、毎年の受給額を自動的に調整する仕組みです。  本来の年金額は、賃金・物価の状況に合わせて改定されます。ここからスライド調整率※3を差し引いたのが、実際の改定額になります。例えば、本来の改定率がプラス2%で、スライド調整率が0・9%であれば、実際の年金額の改定率はプラス1・1%となります。  マクロ経済スライドによる給付水準調整は、物価・賃金の伸びがマイナスの場合は、その下落分は年金額を引き下げても、それを上回る引下げは行わないこととしているため、デフレ下では給付額抑制の効果が現れません。この制度が導入された後は、消費税増税による物価上昇があった2015年度しか発動されていませんでしたが、経済が好転した2019年度と2020年度は2年連続で発動されました。この調整が続けば、賃金・物価に対して給付額の伸びが低い状況が続くので、年金財政の支出増加は抑制されます。  また、団塊世代が働き盛りのうちに少し多めの保険料をもらって積立金も大きく増やしてきているほか、受給者数の増加が永遠に続くわけでもないので、公的年金が破綻する心配はありません。 ―マクロ経済スライドで受給額が減ると、年金財政の破綻は防げても、年金生活者の生活が破綻することになりませんか。 田村 それはよくある誤解です。現役世代の平均の手取り額に対する受給額の比率、すなわち所得代替率は下がりますが、年金額はそれほど下がりません。  厚生労働省がモデル世帯としている「会社員と専業主婦」世帯の65歳時点の年金月額は2019年度で22万円です。現役世代の平均手取り賃金は35・7万円なので、所得代替率は62%です。物価上昇率年0・8%、賃金上昇率年1・6%などの厳しめの条件を入れて計算すると、2019年度時点で45歳の人の受給が始まる20年後の年金月額は21万円となります。財政検証では賃金上昇が20年続く前提なので、現役の賃金は40万円に上昇しますから、所得代替率は52%と10ポイント下がりますが、受給開始時の年金額は22万円から21万円へと、微減にとどまります※4。  この21万円は、20年後の名目金額ではありません。ここもよく誤解されるのですが、20年間の物価上昇を割り引いて現在価値に置き換えた値です。所得代替率が10ポイントも下がると、老後は貧乏な暮らしが避けられないと悲観する人もいますが、受給する年金額の購買力が大きく下がるわけではないのです。 公的年金のメリットを最大限活かしながら自己資金も準備する老後の生活設計を ―それでも、公的年金だけではかなりつつましい老後生活になります。自助努力でもう少し豊かでゆとりのあるレベルを目ざす場合のアドバイスをお願いします。 田村 まずは、終身支給の公的年金のメリットを最大限活用することを考えたいですね。定年後もなるべく長く働いて、年金の受給開始をくり下げることで、受給額は大きく増えます。年金額を増やすには、定年後も厚生年金に加入して働くことがポイントです。また、配偶者も厚生年金に加入して働くことをおすすめします。年金のモデル世帯である「会社員と専業主婦」はもはや時代遅れです。目先の手取り減にこだわらず「年収の壁」を超えて働く主婦が増えています。年金をいくら受け取れるかは、あらかじめ決まっているのではなく、自分の選択次第で大きく変わりうるのです。  そして、退職金や確定拠出年金、自分で準備する資金は、公的年金に上乗せして細く長く使っていこうとすると、長寿化の時代、途中で尽きてしまうリスクがあります。年金受給開始をくり下げて増額することで「長生きリスク」は終身給付である公的年金にまかせ、自力で準備するお金は受給開始を遅らせる期間に賄う分を目途に準備する「継投方式」を考えれば、必要額などの計画も立てやすくなるでしょう。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一撮影/中岡泰博) ※1 賦課方式……年金支給のために必要な財源を、そのときどきの保険料収入から用意する方式 ※2 日本の将来推計人口(平成29年推計)/国立社会保障・人口問題研究所より ※3 スライド調整率……公的年金全体の被保険者数の減少率(3年平均)に平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を加えた率のこと ※4 2019年財政検証結果(厚生労働省)をもとに、田村氏が独自に計算 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2021 April ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 人事労務担当者のための年金入門 7 総論 人生100年時代の「公的年金保険制度」 大妻女子大学短期大学部 教授 玉木伸介 11 解説@ 「老齢厚生年金」の仕組みを理解しよう オフィス・椿 代表 社会保険労務士 清水典子 17 解説A 制度拡充により企業の利用機会が広がる「企業型DC」と「iDeCo」 大和総研 政策調査部 佐川あぐり 21 解説B Q&Aで年金制度の疑問を解決! 株式会社田代コンサルティング 代表取締役 社会保険労務士 田代英治 1 リーダーズトーク No.71 日本経済新聞編集委員 兼 紙面解説委員 田村正之さん 人生100年時代。老後の生活設計に頼りになる公的年金をフル活用しよう 25 日本史にみる長寿食 vol.330 里山のゼンマイ・ワラビ採り 永山久夫 26 江戸から東京へ 第101回 幕末の京都老女の会 作家 童門冬二 28 高齢者の職場探訪 北から、南から 第106回 千葉県 株式会社ナリタヤ 32 高齢社員のための安全職場づくり 〔第4回〕 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その1― 高木元也 36 知っておきたい労働法Q&A 《第35回》 勉強会の労働時間の該当性、高齢者への安全配慮義務 家永 勲 40 高齢社員の心理学 ―加齢で“こころ”はどう変わるのか― 【第5回】 高齢者の意思決定の特徴 増本康平 42 いまさら聞けない人事用語辞典 第11回 「働き方改革」 吉岡利之 44 労務資料1 高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係) 52 労務資料2 第15回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.315 経験豊富な測定技能で精密測定器の品質を支える 機械検査工 山納孝雄さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第46回] 数字さがし 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」は休載します 【P6】 特集 人事労務担当者のための 年金入門  「生涯現役」、「人生100年時代」という言葉に象徴されるように、今日の日本では健康寿命の延伸により、職業人生も、そして引退後の人生も、より長く続く時代を迎えています。そうした長く続く人生を経済面から支えるのが「年金」です。  年金にも、「公的年金」といわれる国民年金・厚生年金、「私的年金」といわれる企業年金など、さまざまな制度がありますが、社会・時代の変化に合わせて年金に関する法律も改正を重ねており、引退後の個人のライフプランニングの視点から、そして企業における人事制度の視点からも、それらに対応していく必要があります。  そこで今回は「年金入門」と題し、現代社会における年金の役割や近年の年金改革、難解さもある老齢厚生年金の仕組みなどについて解説します。 【P7-10】 総論 人生100年時代の「公的年金保険制度」 大妻女子大学短期大学部 教授 玉木伸介 はじめに  『エルダー』編集部から本稿執筆のお話をいただいた際には、「人生100年時代の公的年金制度」というタイトルが前提でした。しかし、筆者からお願いして、「保険」の2文字を入れて「公的年金保険制度」としていただきました。なぜでしょうか。  答えは、単純です。公的年金は保険だからです。「被保険者」が「保険料」を払って成り立っている制度です。高齢者に給付されるお金は「保険金」なのです。  火災保険の保険金が支払われるのは、火災が起きたときです。では、公的年金保険で保険金が支払われる(給付が行われる)のは、何が起きたときでしょうか。  答えは、「長生き」です。 「保険」であることをなぜ強調するのか  公的年金が「保険」であることは、もっと強調されるべきです。なぜでしょうか。理由のうちの二つをお示ししましょう。  一つは、「積立貯蓄」であるという誤解を解くためです。毎月保険料を払うと将来給付を受けられる、という仕組みは「積立貯蓄」とよく似ています。「積立貯蓄」という理解でも、何ら実害はないように見えます。しかし、そういう理解が行き過ぎると、おかしなことになるのです。  一昔前になりますが、「払っただけもらえない年金は無意味」という俗説が、「世代会計」という計算とともに広まったことがありました。世代会計の計算では、人々を生まれた年によっていくつもの集団(世代)に分け、各世代の受け取る給付から払う保険料を差し引いて、プラスなら「得」、マイナスなら「損」と結論づけます。計算にあたっては、「平均寿命・余命まで生きる」などの仮定を置き、  「現役期の保険料合計」マイナス  「平均寿命・余命までの給付合計」 を出して、「この世代の人は『平均的には』こうなる」と示すものです。計算結果は、少子高齢化や経済成長の減速を映じて、若い世代ほどマイナスが大きくなります。このことから「若者は損をする」という主張が、あたかも客観的、定量的な裏づけがあるかのようにして広く行われました。  しかし、概(おおむ)ね半分の人は平均寿命・余命より長く(または短く)生きて、平均より多い(または少ない)給付を受けます。「平均的な人」の数値に大した意味はありません。世代会計の計算をして、「損だ、得だ」と騒いでも何にもなりません。公的年金保険という制度の持つ意味の理解が妨げられるだけです。  また、民間の保険においては、「平均的」には「保険料を払っただけの保険金は戻らない」という仕組みに、「必ず」なっています。なぜなら、保険の運営にはコストがかかるからです。多くの場合、保険料の何割かが経費になっています。その分だけ、保険金の総額は保険料の総額より、必ず少ないのです※。  それでも、筆者を含め、多くの人が自動車の任意保険、生命保険などの保険に、自発的に入ります。「安心」がほしいからです。しかし、「安心」の価値は、世代会計の計算のどこにもありません。公的年金保険が国民にとってプラスかマイナスかを判断できる方法論ではないのです。  もう一つの理由は、人々が、年金給付を自分のライフプランニングにおいて正しく位置づけられるようにするためです。一度、机に向かって、自分の人生の終わりまでの経済生活を考えてみると、自分が何歳まで生きるかわからないことがとんでもない不透明要因であることに、すぐ気づくでしょう。「いくら老後用の貯蓄をしても、想定より長生きしたら貧困に陥る」という不安に襲われます。  公的年金保険は、死ぬまで続く「終身」給付であるがゆえに、「長生きリスク保険」として機能し、「長生きしても最低限の生活の糧は確保されている」という「安心」をもたらすのです。そのうえで、私的年金などの自助努力を組み合わせたライフプランニングを考えればよいでしょう。  保険と思えば、若者にとっての公的年金保険の意味もクリアになります。ここで、公的年金保険制度がなく、十分な貯蓄のない高齢者は子に扶養されるという状況を想定しましょう。  ある一人息子と一人娘のカップルの両親(2組)が、貯蓄なしで引退します。両親がそれぞれ年300万円で生活し、老後期間が30年とすると、カップルの扶養負担は、300万円×2組×30年=1億8千万円 です。巨額です。兄弟姉妹の少なさと両親の長生きがもたらす「扶養リスク」としかいいようがありません。  他方、ある家に5人兄弟、別の家に5人姉妹がいて、ここから5組のカップルが生まれたとします。また、両親が引退後、わずか5年で亡くなるとすると、カップル一組あたりの扶養負担は、300万円×2組×5年÷5組=600万円にすぎません。  公的年金保険がないと、兄弟姉妹の数や親の寿命というコントロール不可能な要素によって、若者の経済生活が大きく左右されてしまいます。  では、公的年金保険があればどうなるでしょうか。若者は、政府に対し、兄弟姉妹の数や親の寿命とは関係なく決められた保険料を支払うと、あとは政府が親に給付をしてくれます。つまり、収入などの条件が同じなら、個々の若者の負担は同じになります。公的年金保険は、「集団としての若者」が「集団としての高齢者」を扶養する仕組みです。個々の若者の扶養負担は、「平準化」されるのです。これが、保険であることの意味です。  このように、公的年金保険は、親にとっての「長生きリスク保険」であると同時に、子にとっての「扶養リスク保険」でもあるのです(図表)。 公的年金保険の環境変化への「適合」  わが国の公的年金保険は、現役世代から徴収した保険料をその時点の高齢者への給付にあてる「賦課方式」、あるいは「仕送り方式」と呼ばれる仕組みです。現役世代の人数が多く高齢者が少なければ、現役世代の一人あたりの負担は軽くて済みます。これが、昭和の「騎馬戦型」の制度です。  しかし、少子高齢化が進むと、現役世代が減って高齢者が増えるので、「肩車型」になっていき、現役世代の一人あたりの負担が増します。公的年金保険制度を取り巻く環境は激変するのです。  こういう大きな環境変化で公的年金保険制度が破綻してしまうかといえば、そんなことにはなっていません。なぜでしょうか。  将来若者が減ることは数十年前からわかっていましたから、時間をかけつつ制度を修正してきました。1994(平成6)年と2000年の制度改正では、支給開始年齢が60歳から65歳に徐々に引き上げられることが決まり、その後、実行されています。2004年の制度改正では、保険料率を2017年まで段階的に引き上げていくこととなりました。この間、消費税増税の先送りなどはありましたが、年金保険料率の引上げは粛々と予定通り進行したのです。2004年改正では、現役世代が減ったり高齢者の寿命が延びたりしたら給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」も導入されました。  このように、少子高齢化あるいは騎馬戦型から肩車型という環境変化に対して、公的年金保険制度が「適合」したのです。 環境変化への「適合」は続く  「年金改革」という四文字熟語を目にすることがよくあります。年金制度は変わっていくのです。  このことにつき、「制度が変わっていくなんて不安だ」とお思いになりますか。それとも、「制度が変わっていくなら安心だ」とお思いになりますか。  世の中の変化は、それも深く広い変化は、決して止まりません。人生100年時代なら、20歳前後で社会に出てから約80年あります。人生の途中で何度も大きな変化を経験するのです。80年前の日本は戦争をしていました。60年前は、「三種の神器」といわれた白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機が急速に普及しつつありました。40年前、日本経済は世界最強といわれていました。女性の寿退職はごく普通でした。20年前は金融危機の只中(ただなか)です。この辺りから、生産年齢人口が減少し始め、少子高齢化という言葉が徐々に普及していきます。  このように、日本の経済も雇用のあり方も人口の動きも、数十年の期間を切り取れば大きな変化をくり返しています。過去80年にこれだけの変化があったのですから、次の80年にも同じくらい激しい変化があってもおかしくありません。  国民全体で構成する公的年金保険制度は、保険料にせよ給付にせよ、経済や雇用のあり方、人口などと整合的に設計されないといけません。制度は、社会の変化に合わせて変化する、すなわち「適合」せねばならないのです。  現実の制度においては、5年ごとに「財政検証」が行われ、必要とあらば「オプション試算」が示されて必要な「適合」が議論されるという仕組みになっているのです。 いま、行われつつある「適合」  近年の変化のうち、公的年金保険制度の変化・適合を迫るのは、どのようなものでしょうか。  そのうちの一つは、非正規・短時間労働者への適用の拡大です。平成に入ってからの「就職氷河期」以降、正規労働を求めているのに非正規労働に就かざるを得ない人が増えました。非正規の短時間労働者が、農家や自営業主などと同じように1号被保険者になる場合、将来の低年金の懸念が強まります。1号被保険者のまま老後を迎えると、被用者として生きてきたのに給付は基礎年金だけです。特に単身者の場合、生活は相当苦しくなります。貧困高齢者の集団が出現してしまいます。  こうなっては一大事なので、近年、短時間労働者に厚生年金保険など被用者保険の制度を適用する「適用拡大」に向けた努力が払われてきました。適用拡大とは、雇用主が保険料の半分を負担すること、将来の給付が基礎年金のほかに報酬比例部分が加わって増えること、などを意味します。  2020(令和2)年の年金制度改革法でも、短時間労働者を被用者保険に入れる企業規模要件を「従業員数501人以上」から2024年10月には「50人超」とすることなどが、規定されています。  もう一つの事例として、ライフプランニングの選択範囲の拡大ニーズの高まりを見てみましょう。受給開始時期の選択は、人生の後半の重要事項です。よく「支給開始年齢は65歳」といいますが、これは給付額の計算の基準点が65歳ということです。従来、60歳までの繰上げ、70歳までの繰下げが個人の選択に委ねられてきました。「支給開始は60〜70歳の範囲での自由選択制」という方がより正確です。しかし、寿命は延びているのですから、選択範囲はより上の年齢に向かって広がっていく必要があります。  今回の年金制度改革法が施行されると、繰下げの範囲が75歳までになります。70歳までの繰下げなら給付は42%増しですが、75歳までの繰下げなら84%増しになります。70代前半の生活を、貯蓄の取崩しや私的年金の給付、さらには年齢に合わせた働き方による勤労収入で支えて、75歳以降はより多くの年金給付によって、いわば長生きリスクに対する備えを厚くして生きていく、という選択肢を提供する改正です。 おわりに  公的年金保険は、日本社会全体にとっても、個々人の生活にとっても、非常に重要かつ規模の大きな制度です。老後の「安心」のための制度インフラとして、きわめて大切なものです。  国民の老後の生活の安定のためにこういう制度が用意され、かつ、強制加入です。なぜ強制するのでしょうか。理由の一つは、人間には近視眼的という「性(さが)」があることです。40歳で50年後の90歳の自分をイメージすることはなかなかできません。将来のことを思考のなかに取り入れることは、人間という生き物が得意とするところではありません。  個々の国民も日本社会全体も、公的年金保険という制度インフラを正しく理解して使いこなし、いずれ迎える老後の生活の安定の基盤を構築することが必要といえるでしょう。 ※ 長期の生命保険などで、「満期には払った以上の保険金が下りて貯蓄になる」ものがあることは事実です。こういう保険は、実は普通の(掛け捨ての)保険と積立貯蓄が合体したものです。積立の分だけ、保険料が高くなっています。保険の部分にかぎれば、「保険料を払っただけの保険金は戻らない」という仕組みは同じです 図表 集団から集団へ「仕送り」による公的年金保険 集団としての若者 一人息子 一人娘 5人兄弟の長男 … 5人兄弟の五男 5人姉妹の長女 … 5人姉妹の五女 収入に応じた保険料 政府 過去の保険料支払い実績に応じた給付 高齢者1 高齢者2 ……… 高齢者N 集団としての高齢者 ※筆者作成 【P11-16】 解説1 「老齢厚生年金」の仕組みを理解しよう オフィス・椿 代表 社会保険労務士 清水典子 1 はじめに ―老齢厚生年金とは―  日本の公的年金には、「老齢年金」、「遺族年金」、「障害年金」の三種類の保障があり、なかでも老齢年金は老後の生活保障としての大きな役割を果たしています。  会社員や公務員の方は厚生年金に加入していますので、基礎部分である「老齢基礎年金」に加えて「老齢厚生年金」を受け取ることになります。この「老齢厚生年金」の仕組みについて見ていきます。 ■老齢厚生年金の受給要件と年金額  老齢厚生年金を受け取るための条件は老齢基礎年金の受給資格があり、かつ65歳以上であることです。公的年金としては、だれでも20歳から60歳までの40年間国民年金に加入することが義務づけられています。老齢基礎年金を受け取るためには、その40年間のうち最低でも10年間保険料を納付していることが必要です(免除期間を含む)。不足する場合はカラ期間※1を見つけるなどして10年にする必要があります。厚生年金に加入している人は同時に国民年金にも加入していることになります。10年のうち1カ月でも厚生年金保険の加入期間があれば老齢厚生年金として受け取れます。10年という条件は2017(平成29)年8月から適用され、それまでは25年必要でした。  現在の制度における老齢厚生年金は60代前半の「特別支給の老齢厚生年金」(12頁参照)と「65歳からの老齢厚生年金」に分かれます(図表1)。どちらも報酬比例部分の老齢厚生年金が基本年金額となります。報酬比例の年金とは給与に比例するという意味で給与・賞与額をベースに標準報酬月額等が高いほど、また厚生年金保険の加入期間が長いほど高額になります。計算式は図表2の通りです。平均標準報酬月額※3と平均標準報酬額※4は生年月日に応じた再評価率で算出します。現在は従前額保証といってそれ以前の計算式が残っており、丈比べをして高額な方を支給するルールになっています。  経過的加算額は定額部分に相当する額から厚生年金保険の加入期間だけで受け取れる老齢基礎年金を差し引いた額で、定額部分に相当する額が老齢基礎年金を上回る場合、差額分を補う意味で支給されます。また、家族構成やそのほかの条件により加給年金が加算されます。  加給年金は家族手当のようなもので、扶養している配偶者や子どもがいると加算されます。厚生年金保険の加入期間が20年あることが条件です。どちらも有期年金で配偶者が65歳になると終了、子どもは18歳到達年度の末日までの間の子です(障害等で20歳未満まで延長あり)。老齢厚生年金の額を自分で計算することは困難ですので、毎年誕生月に日本年金機構から届く「ねんきん定期便」を参考にするとよいでしょう。また、ねんきんネット※5で見込額が算出できます。令和3年度における厚生年金の平均月額は22万496円※6です。  厚生年金の年金額は厚生年金の加入月数が影響します。ここ数年は適用拡大によりパートタイムの方も途中から厚生年金の被保険者になるケースが増えています。被保険者がいつ資格を取得し、いつ喪失したかということは、厚生年金の年金額の計算に反映されることから、適切に取得届・喪失届をすることが必要です。届出が正しく行われていないと、被保険者が不利益を被ることもあるので注意してください。 2 特別支給の老齢厚生年金  65歳から受け取る老齢厚生年金とは別に、65歳前に受け取る「特別支給の老齢厚生年金」があります。男性は1961(昭和36)年4月1日以前生まれの方、女性は1966(昭和41)年4月1日以前生まれの方が対象です(図表3)。また、対象者の生年月日により受給開始の年齢が異なり、定額部分が加算される方もいました。  定額部分は一定の額に給付乗率と厚生年金保険の加入期間(上限あり)を乗じたもので、老齢基礎年金を受給するまでの間、支給されるものです。受給の条件は、老齢基礎年金を受け取る資格があり、厚生年金保険の加入期間が1年以上であることです。受給開始年齢となる3カ月前に日本年金機構から年金請求書が届くので、添付書類等を準備して提出します。誕生日の前日から提出が可能です。  特別支給の老齢厚生年金には、繰下げ制度はありません。手続きを遅らせても、年金額そのものが増額するものではなく、また、在職老齢年金で年金が停止になった分が、退職後に請求することによりさかのぼって受給できるわけではありません。一部でも受給できる場合は請求をしておかないと、時効(5年)がありますので、受給しそびれることのないよう受給開始年齢で請求しておくのがベストです。特別支給の老齢厚生年金は65歳で終了し、引き続き65歳からの老齢厚生年金の受給が始まります。 3 繰上げ・繰下げ受給の仕組み  老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、繰り上げて受け取る(早めに受け取る)ことや繰り下げる(遅めに受け取る)ことが可能です。繰上げは60歳から可能で1カ月ごとに0・5%減額された年金額となり、その減額された年金額で生涯受給していくことになります。また、繰下げは65歳から最低1年間受給するのを待ち、66歳から70歳までの間に請求することができ、1カ月につき0・7%増額した年金額を繰下げ後から生涯受給していくことになります。月ごとの減額率・増額率に合わせた受給率は図表4の通りです。老齢基礎年金だけの人は65歳で受け取れる老齢基礎年金の見込み額に受給率表にある受給したい年齢と月齢をあてはめて計算すれば、年金額がわかります。しかし、厚生年金保険の加入期間がある人は計算がもう少し複雑になります。  特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分のみ)を受け取れる方と65歳からの老齢厚生年金だけの方の繰上げの例をみていきます。(図表5)。  年金太郎さんの場合、60歳で繰上げ(Bパターン)をすると、特別支給の老齢厚生年金は通常より3年早く受け取ることになり(0・5%×36ヵ月=18%減額)、63歳で受給する額の82%になります。一方、老齢基礎年金は5年早く受け取ることになり(0・5%×60ヵ月=30%減額)65歳で受給する額の70%になります。また、63歳で繰上げ(Cパターン)すると、特別支給の老齢厚生年金は受給開始年齢がきているので、減額されずに100%の年金額で受け取れます。一方、老齢基礎年金は2年早く受け取ることになり(0・5%×24ヵ月=12%減額)65歳で受給する額の88%になります。  年金次郎さんの場合、60歳で繰上げ(Eパターン)をすると、老齢厚生年金も老齢基礎年金も通常より5年早く受け取ることになり(0・5%×60ヵ月=30%減額)65歳で受給する額の70%になります。また、63歳で繰上げ(Fパターン)すると、老齢厚生年金も老齢基礎年金も2年早く受け取ることになり(0・5%×24ヵ月=12%減額)65歳で受給する額の88%になります。どちらの場合の繰上げも老齢基礎年金と老齢厚生年金は必ずセットで繰上げすることになっています。繰上げの有無にかかわらず、老齢厚生年金は在職老齢年金(15頁参照)の対象になりますので、厚生年金保険に加入中の方は、繰上げ請求で年金額そのものが減額され、さらに在職老齢年金で給与等が高ければ年金額が減額されますので、多くの場合メリットはないと考えられます。  図表5の年金太郎さんのように、加給年金は厚生年金を繰り上げても、65歳までは支給されません。また、障害年金に該当するようになっても障害年金を請求できない場合があります。  次に、老齢厚生年金の繰下げについてみていきます。繰下げの仕組みも繰下げの時期や生年月日により異なるため、ここでは2007(平成19)年4月以降に老齢厚生年金の受給権が発生した方で1942(昭和17 )年4月2日後に生まれた方の例をみてみます(図表6)。老齢厚生年金の繰下げと老齢基礎年金の繰下げ請求は、@同時に請求する、A別々に請求する、B片方だけを繰下げして、残りは65歳から受け取る、という三つのなかから選択することができます。また、繰下げの意思があり待機していたが、まとまった年金(現金)が必要になるなど、事情が変わった際には65歳にさかのぼって経過した分の年金をまとめて受給することも可能です。ただし過去においても、将来においても増額はありません。このように、繰下げ請求にはいくつかの選択肢があります。老齢厚生年金と合わせて加給年金が受け取れる人は老齢基礎年金だけを繰り下げる、老齢基礎年金と合わせて振替加算※7が受け取れる人は老齢厚生年金だけを繰り下げる(Bのパターン)などの組み合わせを検討してもよいでしょう。加給年金や振替加算は繰下げと同時に発生し、繰下げによる増額はないためです。  また、以下の点にもご注意ください。厚生年金基金※8がある人は、老齢厚生年金の繰下げと同時に繰り下げなければいけません。そして繰下げ待機中に、遺族年金や障害年金の受給の権利ができると増額率はその時点までで計算されます。自分が希望した通りの年齢で繰下げ請求できるとはかぎりません。また、家計全体でみるときに社会保険料(介護保険料、健康保険料等)や地方税は年金を含む年収に応じて決まるため、繰下げの効果として収入も増えますが、支出も増えることが考えられます。  人により寿命が異なるのでいつから受給するのがよいかの判断はむずかしいのですが、繰上げも繰下げもメリットとデメリットがあるので十分考慮して選択することが大切です。  繰上げは年金請求書が届くのを待たずに受給を希望するときに申請します。繰下げは65歳のときに届く年金請求書(はがき)に繰下げの意思表示をしておき、受給したいときが来た時点で申請します。事前申請等は不要です。なお、法改正により2022年4月から繰上げ受給の減額率が1カ月あたり0・5%から0・4%に、繰下げ請求の年齢は75歳まで延長され(1カ月あたりの増額率は0・7%で変わらず)最大で84%の増額率となります。 4 在職老齢年金  在職老齢年金とは、60歳から70歳までの間に働きながら(厚生年金に加入しながら)老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金も含む)を受け取る場合に、年金額と給与・賞与の合計額が一定以上になると年金の一部または全部が支給停止となる制度のことをいいます。  70歳以降も勤務を継続している場合は厚生年金の保険料は徴収されませんが、在職老齢年金の対象になります。計算方法は60代前半と後半で異なり、図表7の計算方法により老齢厚生年金が減額されます。 ■計算の手順 1 基本月額を算出する…対象となる年金額を12で割り月額を算出 2 総報酬月額相当額を算出する…その月の標準報酬月額とその月以前の1年間に受けた標準賞与額の合計を12で割り1カ月分を算出 3 1+2が28万円、または47万円を超えるか判断し、超える場合には図表7計算方法@〜Cを計算 4 老齢厚生年金月額−支給停止額=在職老齢年金(月額)  ※マイナスの場合は加給年金も含めて全額支給停止。経過的加算額のみ支給。 5 一部支給の場合で加給年金が加算される人は加給年金額(月額)を加える。  ※加給年金の額は在職老齢年金の仕組みにより減額されることはない。 ■60代前半の在職老齢年金  支給停止の対象となるのは、特別支給の老齢厚生年金です。繰上げした場合の老齢基礎年金は全額支給されます。基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円※9に達するまでは支給停止はありません。 ■60代後半以降の在職老齢年金  支給停止の対象となるのは、加給年金、経過的加算を除く老齢厚生年金です。老齢基礎年金は全額支給されます。基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円※10に達するまでは支給停止はありません。 ■共通のルール  厚生年金基金に加入している人は、厚生年金基金に加入していなかったと仮定した場合の老齢厚生年金額で計算します。  在職中は給与や賞与の額が増減すると総報酬月額相当額も変動し、支給停止額が変わります。年金額も月ごとに変動する可能性があり、改定される場合は年金額変更通知書が発行されます。  ところで、年金額が決定した後も在職中は厚生年金保険料が毎月控除されます。控除されている厚生年金保険料は厚生年金額にどのように反映されるのでしょうか。これは退職時改定といい、退職後1カ月以内に再就職しなかったことを確認後、在職中の被保険者期間等を加えて年金額が再計算される仕組みになっています。また在職中の場合も65歳時、70歳時で再計算がされます。なお、法改正により2022年4月以降65歳以上の在職老齢年金は在職定時改定により毎年再計算されます。  60歳以降も働く人にとっては、収入が増えるほど年金が減っていくことは、働くことに対するインセンティブの低下につながります。そこで、2020年の年金制度改正により2022年4月から60代前半の在職老齢年金の支給停止調整開始額(28万円)は、60代後半の在職老齢年金の支給停止調整額(47万円)に合わせ統一されます。これにより在職老齢年金による停止額を気にせずに働き続けることができる方が増えることになります。 5 おわりに  2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業確保措置が努力義務化されました。少子高齢化が急激に進展するなかで、高齢者が活躍できる環境整備が進められています。年金制度も来年からさまざまな改正が施行されます。これからは、自らの働き方やライフスタイルに合わせて、年金をいつからどのような形で受け取るのかを選択する時代になりました。従業員のみなさまが退職前から年金制度について正しい知識を得て、より豊かな人生を送れるようになることを望みます。 ※1 カラ期間…… 年金額には反映されないが、受給要件の加入期間にできる期間のこと。学生時代や海外在住していた期間など ※2 老齢厚生年金報酬比例部分の計算式……本来水準の計算式。給付乗率は昭和21年4月2日以後生まれの場合 ※3 平均標準報酬月額……加入期間の標準報酬月額の合計額を加入月数で割った額 ※4 平均標準報酬額……加入期間の標準報酬月額と標準賞与額の合計額を加入月数で割った額 ※5 ねんきんネット……ウェブサイトで自身の年金情報を確認できる、日本年金機構のサービス(https://www.nenkin.go.jp/n_net) ※6 22万496円……平均的な収入(平均標準報酬43.9万円)で40年就業した令和3年度のモデル年金。夫が厚生年金に加入して男子の平均的な賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間専業主婦であった夫婦に給付される夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額 ※7 振替加算……配偶者加給年金が終了すると、相手側に加算が振替わることから「振替加算」と呼ぶ。生年月日に応じた加算がつき昭和41年4月1日以前生まれの方が対象。厚生年金保険および共済組合等の加入期間を合わせて20年未満であることが条件 ※8 厚生年金基金……老齢厚生年金の一部を代行し、企業独自の上乗せ給付を行う公法人 ※9 28万円……支給停止調整開始額(年金がカットされるボーダーライン)で令和3年度の額 ※10 47万円……支給停止調整額(年金がカットされるボーダーライン)で令和3年度の額 図表1 老齢厚生年金の構成 60歳(受給開始年齢)から65歳 特別支給の老齢厚生年金 報酬比例部分 65歳から 老齢厚生年金 65歳まで 定額部分 65歳から 経過的加算額 老齢基礎年金 加給年金額 出典:日本年金機構『老齢年金ガイド』より一部修正して掲載 図表2 老齢厚生年金報酬比例部分の計算式※2 平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月以前の被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の被保険者期間の月数 図表3 特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢 【昭和16年(女性は昭和21年)4月2日以降に生まれた方】 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 男性の場合 昭和16年4月2日〜昭和18年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和21年4月2日〜昭和23年4月1日に生まれた方 60歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 61歳〜65歳 定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和18年4月2日〜昭和20年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和23年4月2日〜昭和25年4月1日に生まれた方 60歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 62歳〜65歳 定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和20年4月2日〜昭和22年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和25年4月2日〜昭和27年4月1日に生まれた方 60歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 63歳〜65歳 定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和22年4月2日〜昭和24年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和27年4月2日〜昭和29年4月1日に生まれた方 60歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 64歳〜65歳 定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和24年4月2日〜昭和28年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和29年4月2日〜昭和33年4月1日に生まれた方 60歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和33年4月2日〜昭和35年4月1日に生まれた方 61歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和30年4月2日〜昭和32年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和35年4月2日〜昭和37年4月1日に生まれた方 62歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和37年4月2日〜昭和39年4月1日に生まれた方 63歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日に生まれた方 女性の場合 昭和39年4月2日〜昭和41年4月1日に生まれた方 64歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 男性の場合 昭和36年4月2日以降に生まれた方 女性の場合 昭和41年4月2日以降に生まれた方 65歳以上 老齢厚生年金 65歳以上 老齢基礎年金 出典:日本年金機構『老齢年金ガイド』より一部修正して掲載 図表4 昭和16年4月2日以降に生まれた方の繰上げ・繰下げ受給の受給率(老齢基礎年金) (数字は%) 月 0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月 繰上げ受給 年齢 60歳 70 70.5 71 71.5 72 72.5 73 73.5 74 74.5 75 75.5 61歳 76 76.5 77 77.5 78 78.5 79 79.5 80 80.5 81 81.5 62歳 82 82.5 83 83.5 84 84.5 85 85.5 86 86.5 87 87.5 63歳 88 88.5 89 89.5 90 90.5 91 91.5 92 92.5 93 93.5 64歳 94 94.5 95 95.5 96 96.5 97 97.5 98 98.5 99 99.5 65歳 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 繰下げ受給 66歳 108.4 109.1 109.8 110.5 111.2 111.9 112.6 113.3 114 114.7 115.4 116.1 67歳 116.8 117.5 118.2 118.9 119.6 120.3 121 121.7 122.4 123.1 123.8 124.5 68歳 125.2 125.9 126.6 127.3 128 128.7 129.4 130.1 130.8 131.5 132.2 132.9 69歳 133.6 134.3 135 135.7 136.4 137.1 137.8 138.5 139.2 139.9 140.6 141.3 70歳 142(以降同じです) 出典:日本年金機構『老齢年金ガイド』 図表5 (特別支給の)老齢厚生年金を受給する人の繰上げの例 特別支給の老齢厚生年金を受給する人の繰上げ 年金太郎さん (昭和34年3月3日生まれ、配偶者が年下)の例 A 通常の受給 60歳 63歳〜65歳 報酬比例部分 加給年金 妻が65歳 一生涯 65歳から 老齢基礎年金 B 60歳で繰上げ 60歳 63歳 65歳 加給年金 妻が65歳 一生涯 82% 老齢厚生年金 70% 老齢基礎年金 C 63歳で繰上げ 60歳 63歳 65歳 加給年金 妻が65歳 一生涯 100% 報酬比例部分 老齢厚生年金 88% 老齢基礎年金 65歳からの老齢厚生年金を受給する人の繰上げ 年金次郎さん (昭和37年3月3日生まれ、独身)の例 D 通常の受給 60歳 63歳 65歳〜一生涯 老齢厚生年金 老齢基礎年金 E 60歳で繰上げ 60歳 63歳 65歳 一生涯 70% 老齢厚生年金 70% 老齢基礎年金 F 63歳で繰上げ 60歳 63歳 65歳 一生涯 88% 老齢厚生年金 88% 老齢基礎年金 図表6 繰下げのバリエーション @同時に請求(配偶者が5歳年下の場合) 65歳 加給年金(受け取らずに終了) 70歳 一生涯 繰下げ待機中 142% 老齢厚生年金 繰下げ待機中 142% 老齢基礎年金 A別々に請求 65歳 67歳 69歳 一生涯 133.6% 老齢厚生年金 116.8% 老齢基礎年金 B片方だけ請求(振替加算が受給できる人の場合) 65歳 69歳 一生涯 133.6% 老齢厚生年金 100% 老齢基礎年金 100% 振替加算 ※筆者作成 図表7 在職老齢年金の計算方法 ■60歳から65歳になるまでの在職老齢年金の計算方法 基本月額→加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生年金の月額 (日本年金機構と共済組合等から複数の老齢厚生年金(退職共済年金)がある場合には、すべての老齢厚生年金の額を合計したものの月額) 総報酬月額相当額→(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円以下ですか? はい 全額支給 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円以下ですか? いいえ 総報酬月額相当額が47万円以下ですか? はい 基本月額が28万円以下ですか? はい 計算方法@へ いいえ 計算方法Aへ 総報酬月額相当額が47万円以下ですか? いいえ 基本月額が28万円以下ですか? はい 計算方法Bへ いいえ 計算方法Cへ 〈計算方法〉 在職老齢年金制度による調整後の年金受給月額= 計算方法@:基本月額−(総報酬月額相当額+基本月額−28万円)÷2 計算方法A:基本月額−総報酬月額相当額÷2 計算方法B:基本月額−{(47万円+基本月額−28万円)÷2+(総報酬月額相当額−47万円)} 計算方法C:基本月額−{47万円÷2+(総報酬月額相当額−47万円)} ■65歳以降の在職老齢年金の計算方法 基本月額→加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生年金の月額 総報酬月額相当額→(その月の標準報酬月額※)+(その月以前1年間の標準賞与額※の合計)÷12 ※70歳以上の方は、厚生年金保険に加入しないため、標準報酬月額に相当する額、標準賞与額に相当する額となります。 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下ですか? はい 全額支給 基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下ですか? いいえ 一部または全額支給停止 在職老齢年金制度による調整後の年金受給月額=基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−47万円)÷2 【P17-20】 解説2 制度拡充により企業の利用機会が広がる「企業型DC」と「iDeCo」 大和総研 政策調査部 佐川あぐり 重要性が増す自助努力の資産形成  公的年金の給付水準の長期的な引下げが見込まれるなかでは、公的年金以外の老後の備えが重要です。政府は企業年金・個人年金を拡充し、個人の自助努力を後押しする政策を進めています。なかでも、近年、注目されているのが「確定拠出年金(DC:Defined Contribution)」です。2016(平成28)年の制度改正では、「個人型DC(iDeCo:イデコ)」への加入対象者の拡大や中小企業向け制度の整備などが行われました。さらに、2020(令和2)年に成立した改正法により、企業型DC・iDeCo双方の加入可能年齢の引上げや、企業型DC加入者のiDeCo加入要件の緩和などが行われることになりました。一部の企業年金加入者については、iDeCoの拠出限度額の見直しも実施されます。  企業や個人がDCを利用できる機会が広がり、老後に向けた自助による資産形成を実践できる環境は整備されてきています。本稿では、DCの制度概要や近年の制度改正の動向を確認します。また、企業がDCを利用するうえでカギとなる従業員への投資教育についても、考察したいと思います。 企業型DCとiDeCoの概要  DCは、加入者自身が掛金を運用し、掛金と運用収益の合計を年金資産として受け取る制度です。加入者は、提示された運用商品(定期預金、保険商品、投資信託〈以下、「投信」〉)のなかから一つ以上を選択し、掛金の配分割合を指示します。企業が掛金を拠出する「企業型DC」と、個人が任意で加入し掛金を拠出する「個人型DC」があります。  DCの最大の特徴は節税効果の高さであり、三段階で税制上のメリットがあります。第一は拠出時で、拠出した掛金は全額が所得控除の対象となります。第二は運用時で、通常の貯蓄であれば金融商品の運用益には税が課されますが、DCを通じた運用益は非課税です。第三は受給時で、年金収入は税法上雑所得とされるものの手厚い公的年金等控除の適用があります。  また、離職時や転職時に企業型DCや「確定給付型年金(DB:Defined Benefit)」とiDeCoの間での資産移管(ポータビリティ)が一部のケースを除き確保されていることも大きな特徴で、多様な働き方に対応した仕組みになっています。ただし、DCで積み上げた資産は60歳以降にならないと受け取れず、中途引出しができない点に注意が必要です。 DC制度拡充の転機となった2016年制度改正  DCは2001年に確定拠出年金法が成立したことでスタートし、2012年から企業型DCでマッチング拠出制度(従業員が事業主拠出に追加して拠出できる仕組み)が導入されるなどの制度改正がありました(図表1)。  そして2016年に、制度が大幅に拡充されました。最大の注目点は、個人型DCの加入対象者の拡大です。それ以前、個人型DCの対象者は、自営業者や企業年金のない会社員に限定されていましたが、「iDeCo:イデコ」という愛称が付され、2017年1月からは、原則としてすべての成人国民が利用できるようになりました。このインパクトは大きく、2016年末に30・6万人にとどまっていたiDeCoの加入者数は2020年末には181・7万人となり、4年間で約6倍になりました。  また、2016年には中小企業向けの制度が二つ創設されました。一つが「簡易型DC」で、導入時に必要な書類や業務報告書が簡素化された企業型DCです。もう一つが「中小事業主掛金納付制度(iDeCo+:イデコプラス)」で、iDeCoに加入する従業員の掛金に事業主が追加的に掛金を拠出できる制度です。  これらの制度改正の背景には、適格退職年金や厚生年金基金といったそれまでの代表的な企業年金制度が事実上廃止され、中小企業を中心に企業年金の導入割合が低下していたことがあります。新設された二つの制度は、通常の企業型DCやDBに比べて導入コストが低く、従業員にとっては、福利厚生が充実するというメリットがあります。人材不足に悩む企業にとっては、これら制度を利用すれば人材確保につながる効果が期待できるでしょう。  当初、対象企業の要件は従業員規模100人以下でしたが、2020年10月に300人以下へ引き上げられ、より多くの企業が利用可能となりました。  さらに、DCの運用における課題改善に向けた見直しも行われました。DCは加入者自身が運用の指示をしますが、運用の経験がない加入者が少なくなく、運用商品を選択できない(しない)加入者がいたり、そうした加入者の資金が、元本確保型の商品に多く投資されたりするという課題がありました。  DCの運用は収益が非課税で再投資による複利効果が得やすい点がメリットです。また、長期的な投資では、相場変動や景気循環の影響を平準化できるドルコスト平均法※の効果が得られるため、投信のようなリスク資産での運用が有効といえます。にもかかわらず、低利回りの元本確保型商品が多い資産構成では、将来の年金資産が十分に積み上がらない可能性が高まります。そこで、運用未指図の加入者の資産に関する運用について指定運用方法(デフォルト商品)が規定され、事業主はデフォルト商品にバランス型投信などの長期投資に適した商品を設定しやすくなりました。これは米国や英国など諸外国ではすでに取り入れられている方法で、これを機に投信での運用がこれまで以上に広がることが期待されています。 今後予定される制度改正  2020年に成立した改正法により、主に二点の制度改正が実施されます。  一点目は、企業型DCとiDeCoの加入可能年齢の引上げ(2022年5月施行)です。現行では、企業型DCの加入可能年齢の上限は65歳未満、iDeCoは60歳未満ですが、それぞれ70歳未満、65歳未満に引き上げられます。掛金を拠出できる期間が延びれば、より多くの掛金を非課税で拠出できるようになります。自助努力による年金の充実という観点から望ましく、また、高年齢者の定年延長や雇用拡大に向けた取組みとも整合的といえます。  二点目は、企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和(2022年10月施行)です。現在、企業型DCを導入する企業では、企業型DCへの事業主掛金の上限を減額することを規約で定めた場合にかぎり、従業員のiDeCo加入が認められています。これが見直され、事業主掛金の上限の減額や規約の変更がなくても、企業型DCの加入者がiDeCoに加入できるようになります。これにより、拠出枠を余らせている従業員はiDeCoに加入し、拠出できるようになります。iDeCoの掛金は所得控除の対象となりますから、利用したいという従業員のニーズは高いでしょう。企業にとっても、コストのかかる規約変更が必要なくなり、事務手続きなどの負担だけで、従業員の老後に向けた資産形成を支援できます。  また、DCには拠出できる掛金に上限があり、企業年金の有無や、加入者の属性によってその金額が異なっています。この点について、企業年金(DBや企業型DC)に加入する従業員の間の公平を図るために図表2の通り拠出限度額が見直されることになりました(施行時期は調整中)。ポイントは二つです。  一つは企業型DCとDBを併用する場合の限度額の見直しです。現行では、DBを併用時の企業型DCの限度額は、企業型DCのみの場合の限度額(月額5・5万円)の半分(同2・75万円)と一律に定められています。つまり、DBの掛金額は一律月額2・75万円と想定されてきましたが、実際の平均的な掛金額は2・75万円より小さく、多くの人々がその分の拠出枠を使えていないという問題がありました。そこで、DBごとの掛金額の実態を反映し、企業型DCの拠出限度額を5・5万円からDBごとの掛金額を控除した額とすることになりました。  もう一つが、上記の見直しにともない、DBに加入している場合のiDeCoの拠出限度額が1・2万円から2・0万円に引き上げられます(ただし企業年金の事業主掛金額と合計した拠出枠は5・5万円)。 企業のDC利用、カギは従業員への投資教育  以上述べてきたように、DC制度の拡充が進められ、企業や個人がDCを利用できる機会はいっそう広がっています。その機会を活かすうえで重要なカギとなるのが投資教育です。  企業型DCを導入する企業には、従業員に対して投資教育を行うことが義務づけられています。投資教育は、加入時教育と継続教育がありますが、特に重要なのが継続教育で、2018年5月からは努力義務化され、これまで以上に強化することが求められています。しかし、その実施方法に悩む企業は多く、ほぼすべての企業が実施している加入時教育と比べて、継続教育の実施率は低いようです。  参考としたいのが、実際に企業型DCの継続教育の強化に取り組む企業の事例です。特定非営利活動法人確定拠出年金教育協会のウェブサイトには、企業の事例やDC担当者の経験談などが掲載されています。  例えば、集合セミナーとeラーニングを併用する企業は多いですが、場所の確保や時間的なコストがかかる集合セミナーは重要な制度変更時などに実施し、常時eラーニングで自主学習できるようにするなどの工夫がみられます。また、年代や家族構成、勤続年数といった属性が多様な従業員を対象とする場合には、年代や投資の理解度別など、一定の属性で対象者を選別してセミナーを実施する例もあります。関心の低い層が多い入社1〜2年目の若い世代を対象に集中的に教育機会を提供し、実践的に運用商品を選択して掛金の配分を行わせるなどの事例もあります。その結果、無関心だった社員が自身の運用状況を確認し運用商品の入れ替えを行うなど、行動に変化がみられているようです。もっとも、企業によって事情が異なるため、好事例のすべてを取り入れることはむずかしいと思いますが、参考となる部分はあるでしょう。  一方で、iDeCoは個人が任意で加入する制度であり、iDeCoに加入する従業員に対して企業が投資教育を行う義務はありません。しかし、iDeCo+などを企業の福利厚生の一環として導入する場合は、制度利用に関する説明や投資教育などのサポートを、企業が継続的に提供していく必要があるでしょう。例えば、iDeCoの加入者は投資教育の実施を支援している企業年金連合会が提供するオンライン教材などを活用して継続教育を受けることが可能です。こうしたツールを活用し、職場という身近な環境でサポートできれば、従業員にとっても資産形成を実践しやすいでしょう。 ※ドルコスト平均法……価格変動リスクのある株式や投資信託などに一度にまとめて投資すると、タイミングによっては高値掴みしたり安値で買い損ねたりするリスクがある。ドルコスト平均法は投資機会を分散して継続的に投資することでこうしたリスクを回避でき、平均購入単価を平準化させる効果がある 図表1 DCの制度改正の経緯 年 月 主な内容 平成13(2001) 6 確定拠出年金法が成立 平成13(2001) 10 「企業型確定拠出年金制度(企業型DC)」スタート 平成14(2002) 1 「個人型確定拠出年金制度(個人型DC)」スタート 平成23(2011) 8 「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立 ・企業型DCにおけるマッチング拠出の実施【2012年1月施行】 ・企業型DCの加入可能年齢の引上げ(60歳未満⇒65歳未満)【2014年1月施行】 平成28(2016) 5 「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が成立 @企業年金の普及・拡大 ・中小企業向け制度の創設(簡易型DC 制度、中小事業主掛金納付制度)【2018年5月施行】 ・掛金の年単位化【2018年1月施行】 Aライフコースの多様化への対応 ・個人型DCの加入範囲の拡大【2017年1月施行】 ・ポータビリティの拡充【2018年5月施行】 BDCの運用の改善【2018年5月施行】 ・継続教育の努力義務化 ・運用商品提供数の抑制(提供数は35本の上限を設定) ・運用商品除外規定の整備(商品選択者の「全員の同意」から「3分の2の同意」に要件を緩和) ・運用商品の選定基準の変更(元本確保型商品を提供しないことも可能に) ・指定運用方法(デフォルト商品)に関する規定の整備 令和2(2020) 5 「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立 ・企業型DCの加入可能年齢の引上げ(65歳未満⇒70歳未満)【2022年5月施行】 ・iDeCoの加入可能年齢の引上げ(60歳未満⇒65歳未満)【2022年5月施行】 ・企業型DC加入者のiDeCo加入要件の緩和(規約の定め、事業主掛金の上限引下げ不要に)【2022年10月施行】 ・簡易型DC、iDeCo+対象企業規模要件の緩和(従業員100人以下⇒300人以下)【2020年10月施行】 出典:各種資料をもとに大和総研作成 図表2 DCの拠出限度額(月額)見直しのイメージ 第1号被保険者 iDeCo6.8万円(注1) 国民年金基金 第2号被保険者 見直しの対象 企業年金なし 企業型DCのみ実施 企業型DC+DBを実施 DBのみ実施 iDeCo2.3万円 iDeCo2.0万円 企業型DC5.5万円(注3) iDeCo1.2万円 企業型DC2.75万円(注3) DB(注2) iDeCo1.2万円 厚生年金保険 国民年金(基礎年金) 第3号被保険者 iDeCo2.3万円 iDeCo6.8万円(注1) 国民年金基金 見直し後 企業年金なし 企業年金(企業型DC・DBの両方、またはいずれか)を実施 iDeCo2.3万円 iDeCo2.0万円 企業型DC5.5万円-DBごとの掛金相当額 厚生年金保険 国民年金(基礎年金) iDeCo2.3万円 (注1)国民年金基金との合算枠。 (注2)DBには、厚生年金基金、私学共済、年払い退職給付などを含む。 (注3)マッチング拠出導入企業の企業型DC 加入者は、企業型DCの事業主掛金額を超えず、かつ、事業主掛金額との合計が月額5.5万円(DBを併設する企業の場合は2.75万円)を超えない範囲内でマッチング拠出が可能。マッチング拠出かiDeCo加入かを加入者ごとに選択可能。 出典:厚生労働省 第12回社会保障審議会企業年金・個人年金部会(2020年7月9日)資料1「より公平なDC拠出限度額の設定の検討について」より大和総研作成 【P21-24】 解説3 Q&Aで年金制度の疑問を解決! 株式会社田代コンサルティング 代表取締役 社会保険労務士 田代英治 Q1 ある従業員が定年を迎えるので嘱託社員として再雇用する予定です。この場合、どのような手続きが必要なのか教えてください。 A 社会保険の同日得喪(どうじつとくそう)の手続きが必要となります。  定年後再雇用の場合、社会保険においては、再雇用後も引き続き被保険者資格取得を満たす場合には、定年時の資格喪失と再雇用後の資格取得を同時に行う「同日得喪」の手続きが必要となります。  なお、雇用保険に関しては、定年後再雇用後も被保険者資格取得の要件を満たす場合には引き続き雇用保険被保険者となるため、資格に関する手続きは生じません。 1 社会保険の同日得喪とは (1)健康保険・厚生年金保険(以下、「社会保険」)では、事業所単位で適用事業所となり、その事業所に常時使用される人は、国籍や性別、賃金の額などに関係なく、すべて被保険者(70歳以上の人は健康保険のみ)となります。事業所が従業員を雇用した場合など新たに健康保険および厚生年金保険に加入すべき者が生じた場合に、事業主が資格取得届を提出します。 (2)定年後再雇用の場合、雇用契約はいったん終了し、新たな雇用契約を締結したものとなりますが、社会保険においては、再雇用後も引き続き被保険者資格取得の基準を満たす場合には、定年時の資格喪失と再雇用後の資格取得の手続きを同時に行うことができます。この手続きを「同日得喪」といい、60歳以上で退職した労働者が1日の空白もなく引き続き同一の事業主に再雇用された場合のみ、特例的に行うことができます。事業所の定年制の定めの有無による相違はありません。60歳以後に退職した後、継続して再雇用された場合であれば対象となります。 2 手続き内容 (1)事業主が該当者の厚生年金保険などの被保険者資格喪失届および被保険者資格取得届を同時に年金事務所へ提出することにより、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に決定することができます。  なお、その際に添付書類として、「就業規則や退職辞令の写し等の退職したことがわかる書類および継続して再雇用されたことがわかる雇用契約書」または「事業主の証明」が必要になります。また、事業主の証明は、特に様式は指定しませんが、退職された日、再雇用された日が記載されているもので、事業主印が押印されているものが必要となります。 (2)健康保険組合および厚生年金基金に加入している事業所の場合は、健康保険組合、当該基金にも同様の届出が必要です。2013(平成25)年4月から、対象を年金を受け取る権利のある者にかぎらず、「60歳以上の者」に拡大しました。  法人の役員などが対象の場合の添付書類は、「役員規定、取締役会の議事録などの役員を退任したことがわかる書類および退任後継続して嘱託社員として再雇用されたことがわかる雇用契約書」または「事業主の証明」になります。 Q2 フルタイムで働いている再雇用の高齢従業員が、家庭の事情などから短日・短時間勤務への変更を希望しています。短日・短時間勤務に変更後も、厚生年金には加入できるのですか? A 短日・短時間勤務への変更後も厚生年金に加入できるようにするためには、社会保険の被保険者資格を継続するための要件を満たす必要があります。 1 社会保険の被保険者資格  社会保険を継続するためには、図表1の被保険者資格を満たす必要があります。労働時間や労働日数により、社会保険の被保険者資格要件を満たさない可能性もあるため、注意が必要です。 ※特定適用事業所……適用事業所で使用される厚生年金保険の被保険者の総数が、直近1年のうち6カ月以上500人を超える場合に特定適用事業所に該当します。なお、2020(令和2)年5月に成立した年金制度改正法により、今後、短時間労働者を適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げることが予定されています(現行500人超→2022年10月100人超→2024年10月50人超)。 2 変更にともない必要な手続き  社会保険の被保険者資格が継続するケースでは、短時間勤務への変更により、所定労働時間ならびに賃金(固定的賃金または給与体系)の変更も生じるケースでは、社会保険上、「随時改定」の対象となりますので、注意が必要です(図表2)。  なお、厚生年金保険に加入できない場合は、資格喪失の手続きが必要となります。 Q3 業務中の事故により障害が残った従業員が定年を迎えます。当該従業員は障害補償年金を受給しているため、定年退職後に受け取れる年金には調整が入ると聞きました。どのような調整が行われるのですか? A 業務中の事故により障害補償年金(労災年金)を受給している従業員が、60歳定年で退職した場合、その従業員が障害等級1〜3級であれば「障害者特例」に該当することになり、現在段階的に支給されている65歳までの特別支給の老齢厚生年金は、報酬比例部分のみではなく定額部分も(要件に該当すれば加給年金も)支給されるようになります。 1 障害補償年金(労災年金)と障害厚生年金の支給調整  障害補償年金(労災年金)と障害厚生年金を受給することになった場合、障害補償年金の額は(0・83の調整率がかけられ)減額されますが、障害厚生年金はそのまま全額支給されることになります。この減額にあたっては、調整された障害補償年金の額と障害厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額より低くならないように考慮されています(図表3)。 2 障害補償年金受給者が60歳定年で退職した場合の年金額 (1)障害者特例による特別支給の老齢厚生年金について  障害等級1級〜3級の障害補償年金受給者が60歳〜65際未満で退職すると老齢厚生年金は、障害者特例に該当します。  障害者特例とは、60代前半に報酬比例部分相当の特別支給の老齢厚生年金が受給できる場合、以下の要件を満たしたときは、さらに定額部分(要件に該当すれば加給年金も)が受給できるものです。 ●厚生年金保険の被保険者でないこと ●障害等級1級から3級に該当する程度の障害の状態にあること  2021(令和3)年3月現在、障害者特例を受給できるのは、性別、年齢別に整理すると図表4のようになり、「障害者特例定額部分」が追加で受給できるようになります。  障害者特例の請求をすると、認められれば請求の翌月分から障害者特例を含む特別支給の老齢厚生年金を受給できます。すでに障害厚生年金等の受給権がある場合、厚生年金保険の被保険者を喪失した日に障害者特例の請求があったものとみなされます。 (2)定年退職以降の公的給付の選択肢  定年退職以降の公的給付の受給については、次のどちらかの選択となります。 @これまで通りの障害厚生年金・障害基礎年金と労災保険の障害補償年金を受給する。 A老齢厚生年金と労災保険の障害補償年金を受給する。  Aの場合は、労災保険の障害補償年金の一部減額はなくなり100%支給になります。よって障害厚生年金・障害基礎年金よりも、老齢厚生年金のほうが少なくても合計金額は、多くなる場合があります。  また、障害厚生年金・障害基礎年金は非課税ですが、障害者特例を含む特別支給の老齢厚生年金は課税対象です。両者の年金額が、さほど変わらないのであれば非課税の障害厚生年金のほうが有利かもしれません。  なお、60歳定年退職後に雇用保険の基本手当※を受給する場合は、老齢厚生年金は全額支給停止になるので注意が必要になります。一方、障害厚生年金・障害基礎年金とは支給調整がありません。よって、退職後は雇用保険の基本手当+障害厚生年金・障害基礎年金+障害補償年金を受給し、基本手当終了後、報酬比例部分の支給開始年齢到達時に、障害者特例による特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分+定額部分)+障害補償年金に選択替えを検討することが考えられます。 Q4 今般の新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務制度の導入を検討しています。在宅勤務となれば通勤手当が不支給となりますが、この場合、将来の年金支給額に影響が出ると聞きました。その理由や、そのほかの留意点などがあれば教えてください。 A 在宅勤務制度を導入した結果、通勤手当が廃止されてその分の標準報酬月額が下がると、社会保険料も下がることになります。将来の年金受給額は、現役時代に納める社会保険料の額により影響を受けますので、理論上は年金額が減少する可能性があるということです。 1 通勤手当とは  通勤手当については、労働基準法には記載がなく、会社に支払い義務もありません。会社が任意に設定できるものです。  通勤手当は原則非課税であり、国税庁によると、非課税の前提となるのは電車やバスなどの公共交通機関を利用した通勤やマイカーや自転車などで通勤しているケースです。ただし、1カ月あたりの合理的な運賃などの額が15万円を超える場合は課税対象となります。  このように通勤手当は一定額まで非課税扱いとすることが認められていますが、通勤の実態がないにもかかわらず通勤手当の名目で非課税支給を続けることは、税務上の観点で問題がないとはいえません。 2 テレワーク時代における通勤手当の扱い  新型コロナウイルスの影響によりテレワーク(在宅勤務)が急速に普及し、通勤は減少傾向にあります。そうした流れのなか、これまでのような通勤手当を廃止する会社が出てくるのは必然であり、通勤手当に代わる手当について検討している会社も多いことでしょう。  例えば、在宅勤務が増え、在宅でかかる通信費・光熱費などの負担を在宅勤務手当などによって補う方法が採られるケースもありますが、在宅勤務手当は給与所得とみなされ、課税対象となることもあるので注意が必要です。 3 通勤手当の減額による年金への影響  今後は、勤務形態を原則テレワークとする会社が増えていく可能性もあります。最近は、固定的なオフィス出勤の必要がなくなったことで、いわゆる通勤手当のあり方を見直す動きも出ています。  厚生年金は加入期間の月例給与(通勤手当含む)と賞与を合計した平均額から決定されるため、通勤手当の減額によって、標準報酬月額が減少し、厚生年金保険から支給される年金額が減ってしまう可能性があります。  標準報酬月額は、報酬月額(基本給の他各種手当を加えた1カ月の総支給額)の範囲(レンジ)に応じて1等級から32等級まであります。各等級の金額幅は、数千円から3万円ほどです。  仮に通勤手当が廃止されたとしても、そもそもの額が少なかったり、在宅勤務手当など別の形で手当を受けたりしていれば、等級に変化が生じない可能性もあります。また、昇給などによって給与が増加した場合は等級が上がりますから、通勤手当の廃止の影響などによる現在の標準報酬月額については考えすぎる必要はないといえるかもしれません。 ※ 雇用保険の基本手当……求職者の失業中の安定を図りつつ、求職活動を容易にすることを目的とし、被保険者であった人が離職した場合において、働く意思と能力を有し、求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない場合に支給されるもの 図表1 被保険者資格要件 (1)適用事業所に常時使用される70歳未満(健康保険は75歳未満) (2)同じ事業所で同様の業務に従事する一般社員の所定労働時間および所定労働日数を基準に判断し、次の(ア)および(イ)を満たす場合は被保険者となる。  (ア)労働時間:1週の所定労働時間が一般社員の4分の3以上  (イ)労働日数:1月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上 (3)上記(2)が一般社員の4分の3未満であっても、以下の要件を満たす場合  ・厚生年金保険の被保険者数が501人以上の法人(※特定適用事業所)、または500人以下で社会保険に加入することについて労使合意がなされている法人で働いていること  ・週の所定労働時間が20時間以上あること  ・雇用期間が1年以上見込まれること  ・賃金の月額が8.8万円以上あること  ・学生でないこと 出典:筆者作成 図表2 「随時改定」の対象 (1)昇給や降給などの固定的賃金の変動または賃金(給与)体系の変更 (2)変動月以後継続する3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上 (3)変動月から3カ月の報酬の平均月額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある 出典:筆者作成 図表3 労災年金と厚生年金等の調整率 労災年金 社会保険の種類 併給される年金給付 障害補償年金 障害年金 厚生年金及び国民年金 障害厚生年金及び障害基礎年金 0.73 厚生年金 障害厚生年金 0.83 国民年金 障害基礎年金 0.88 出典:筆者作成 図表4 障害者特例を受給できる対象者 男S30.4.2〜S32.4.1 62歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 女S35.4.2〜S37.4.1 62歳〜65歳 障害者特例定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男S32.4.2〜S34.4.1 63歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 女S37.4.2〜S39.4.1 63歳〜65歳 障害者特例定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 男S34.4.2〜S36.4.1 64歳〜65歳 報酬比例部分 65歳以上 老齢厚生年金 女S39.4.2〜S41.4.1 64歳〜65歳 障害者特例定額部分 65歳以上 老齢基礎年金 出典:筆者作成 【P25】 日本史にみる長寿食 FOOD 330 里山のゼンマイ・ワラビ採り 食文化史研究家●永山久夫 「土手食い」の知恵  昔は春になると「土手食い」という習慣があり、親が子どもたちを連れて土手や近くの里山に出かけ、食用になる野草や山菜の見分け方を伝授してくれたものです。なかには毒草や口にすると腹をこわす草などもあり、それらの見分け方を覚える野外教室のようでした。  昔は凶作や飢饉(ききん)が多く、備蓄した食料がなくなると、最悪の場合は野草や山菜などでしのがなくてはなりません。子どもでも、しっかりとした救荒食(きゅうこうしょく)(凶作時の非常食)の知識がないと、生き残るのがむずかしい時代だったのです。  戦後になり生活が安定してからも、春山に入っての山菜採りは子どもたちの間でも人気がありました。なかでも人気のあったのは、ゼンマイやワラビなどで、走り回りながら採取したものです。 春に一年分を保存  ゼンマイやワラビは、春の山でたくさん採取して茹(ゆ)で上げ、むしろの上に広げて天日干しにし、乾燥品にして一年分を保存します。干しワラビは祝いごとの料理や、来客時のご馳走に用いられました。  「ゼンマイ」という奇妙な名前の由来が面白い。渦を巻いた穂先が、昔の小銭に似ているところから「銭巻(ぜにまき)」と呼ばれ、その呼び名がなまって「ゼンマイ」になったという説があるのです。  野山に生えていますが、特に水気の多い所を好み、渓流や水路のそばなどに生えています。新芽はきれいに渦を巻き、表面は綿毛でおおわれていますが、成長すると綿毛はなくなります。 免疫力の強化作用  干しゼンマイにしたものは食物繊維が多く、100g中に約34gも含まれています。全体の約3分の1が食物繊維です。お通じをスムーズにして肥満を防ぎ、腸に元気をつけるうえで役に立ちます。  体の免疫力の約7割は腸にあり、ウイルスや細菌などの病原菌に対する免疫力を強くするうえで効果的。女性の美肌と若返りにも役立つナイアシン、それに脳の若返りにも効果的な葉酸、骨を丈夫にするビタミンK、老化を防ぐビタミンEも含まれています。 【P26-27】 江戸から東京へ [第101回] 幕末の京都老女の会 作家 童門冬二 メンバーは3人  この会のメンバーは3人だ。大田垣蓮月(れんげつ)・松尾多勢子(たせこ)・野村望東尼(もとに)である。年齢は蓮月が慶応3(1867)年現在、76歳(以下、年齢はすべて満年齢)、多勢子56歳、望東尼61歳だ。  生活は蓮月尼が焼き物をつくり、主に急須を焼いた。蓮月尼はきびしょ≠ニ呼んでいる。焼く前に自作の和歌を書きこんだ。これが彼女のCI※1となり、市場ではいつも完売になった。父母は定かではない。いや定かなのだが蓮月が話さない。だから多勢子と望東尼も訊かない。大田垣というのは蓮月の養父(やしないおや)の姓だ。寺侍だった。蓮月は結婚を二度した。二度とも夫が早死にした。「もう懲り懲りだ」と思った蓮月はその後は独身を通した。が、美人なのでいい寄る男が多かった。それを避けるため蓮月はよく引越しをした。50数回に及んだという。屋越(やごし)の蓮月さん≠ニあだ名された。  年齢を重ねても言い寄る男が絶えなかったので、蓮月は釘抜きで歯を全部抜いてしまった。そういう凄(すさ)まじい根性を持っていた。和歌の面では御所のお公家さんの指導を受けた。評価はかなり高かった。それを急須に書き込むのは、  「焼き物は生活用具で使う物です。使うときに私の歌で心が慰められれば、こんな嬉しいことはない」  といっていた。下賀茂の神光院の境内に住んでいた。  望東尼は九州の福岡藩士の妻だ。やはり二度結婚している。歌人大隈(おおくま)言道(ことみち)に和歌を学んだ。勤王心が強く、追われる志士をかくまった。そのなかに高杉晋作がいて望東尼はよく面倒をみた。藩が保守化し望東尼は孤島の姫島(ひめしま)に流された。これを知った晋作が救助隊を組織し、救い出して長州で世話をした。晋作は西行法師にちなんで東行(とうぎょう)と号していた。望東という法名はその東行を生涯慕うという意味があるという。晋作の臨終にも立ち会っている。晋作は死ぬときに遺言がわりに歌を詠んだ。  「面白きこともなき世を面白く…」  といって絶句した。望東尼がすぐ、  「住みなすものは心なりけり」  と続けた。晋作は  「面白いのう」  といって息絶えた。望東尼さんには申し訳ないが、私には面白くもなんともない。晋作も同じだったろう。かれの遺詠は途中でチョン切れたままの方が、晋作らしい余波を残したと思う。「婆様、余計なことをしてくれた」というのが、私の正直な気持ちだ。  望東尼は、晋作が死ぬと京都に出た。京都で望東尼は蓮月を訪ねた。その印象を、  「75歳だそうだが50代にしかみえない」  と宇野千代さんに会ったような感想を語っている。化粧水を使わない蓮月の肌の美しさに驚嘆したのだ。 隠居後は王事を  松尾多勢子は信州(長野県)伊那谷で、豪農の家に生まれ、豪農の家に嫁いだ女性で、50歳までに、妻と女親の責務を全部果たした。家業でよく夫を補佐し、子どもを一人前に育てた。  「多勢子さんを見習え」  といわれながら、若いうちに嫁いだ女性の仕事を完投した。  50歳を過ぎて隠居できるようになったとき、  「やりたいことがある」  といった。  「何です?」  と子どもたちが訊くと  「王事に励みたい」  と答えた。娘のころから平田学(勤王学)を学んでいたので、  「皇室のために働きたい」  というのだ。家族は応援した。京都まで送った。きっかけがあって多勢子は岩倉具視(ともみ)の別邸に入った。具視が世間で悪くいわれて(和宮降嫁の首謀者)いるのに、実際は「天皇思いの忠臣」であることを知った。以後具視のために尽くし、「岩倉家の家宰」、「勤王婆さん」、「歌詠み婆さん」などと呼ばれた。努力心旺盛で、実現された明治維新を、必ずしも民が望んだものを実現した政治とは思わなかった。  そこでよく蓮月尼を訪ねた。蓮月尼のところには若い手伝人がいた。法衣商の息子で富岡鉄斎といった。攘夷(じょうい)※2熱にかぶれていたので、蓮月尼からはよく  「身近なところで、自分のできることでだれかさんを喜ばせなさい。あなたは絵の才能があるじゃありませんか」  と助言されていた。  3人が集まっても、別にテーマを設けて  「どうしよう」  などとむずかしい話をするわけではない。会って顔を見合えばそれでいいのだ。  和歌といままでの暮らしなどが普通の経験としてある。が、思い出話をするのでなく、  「これからだれかさんのために、何をしようか」  ということを、お互いのなかから探り合おうという会い方だった。気障(きざ)ないい方をすれば「人間同士の(それも女性の)相乗効果」あるいは「人間同士のフィード・バック(互いに出力と入力になって自分を高める)」ということだった。しかし露骨にそんな言葉を使うわけではなく、そのへんは蓮月尼が年長者としてイニシアチブを執った。  「私は井戸水ですよ」  と告げていた。世の中が熱いときは冷たく、冷たいときは温かく対応する、恒温≠保つのが井戸水なのだ。明治になってからも参加者はこのことを忘れなかった。望東尼は62歳で幕末に死ぬが、多勢子83歳、蓮月尼は84歳まで長生きする。 ※1 CI……コーポレート・アイデンティティ。企業文化を構築し特性や独自性が統一されたイメージやデザイン。また、わかりやすいメッセージで発信し社会と共有することで存在価値を高めようとするビジネス手法。一目見ただけでその企業と認識できるもの ※2 攘夷……外国人を追い払って通交しないこと。幕末の外国人排斥運動 【P28-31】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第106回 千葉県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳を過ぎても働ける規則を整え70歳以上の社員100人が活躍中 企業プロフィール 株式会社ナリタヤ(千葉県印旛(いんば)郡栄町) ▲創業 1979(昭和54)年 ▲業種 飲食料品小売業 ▲社員数 1167人 (60歳以上男女内訳) 男性(82人)、女性(303人) (年齢内訳) 60〜64歳 104人(8.8%) 65〜69歳 181人(15.5%) 70歳以上 100人(8.6%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで1年更新で継続雇用。以降、基準該当者を年齢上限なく継続雇用 各地域に多様な産業が息づく  千葉県は、太平洋に面した房総半島を擁し、長く変化に富んだ海岸線や漁場に恵まれています。多種多様な漁業が行われ、スズキ類やイセエビが水揚げされるなど魚介類が豊富です。また、冬は暖かく夏は涼しい温暖な気候を活かして、全国有数の農業県でもあり、落花生やネギ、梨、米などが生産されています。  商工業は、石油化学工業などの大規模な工場が集積する「京葉臨海地域」や、アジア有数のコンベンション施設とされる幕張メッセをはじめ、オフィス、商業・アミューズメント施設など複合的な機能を備える「幕張新都心」、ものづくり中小企業やベンチャー企業、大学などが集まる「東葛(とうかつ)地域」、成田国際空港のある「成田周辺地域」、先端技術産業分野の研究施設などが集積する「かずさ地域」、先端技術産業とスポーツ・レジャー産業が多い「長生(ちょうせい)・山武(さんぶ)・夷隅(いすみ)地域」、観光・リゾート地として名高い「安房(あわ)周辺地域」など、地域ごとに多様な特色を有し、商業・工業ともに全国トップクラスとなるバランスの取れた活動が行われています。県内の人口は約628万人です。  当機構の千葉支部高齢・障害者業務課の羽島(はじま)一人(かずひと)元課長は、「高齢者雇用制度の改善や、当機構の企業診断システムに関する問合せを中心に、最近では本年4月施行の改正高齢法についての問合せが多くなっています」と、話します。  今回は、千葉支部で活躍するプランナー・新井將平(しょうへい)さんの案内で、「株式会社ナリタヤ」を訪れました。 13店舗を展開するスーパーマーケット  株式会社ナリタヤは、1977(昭和52)年に開店した「一平食堂」を原点として、1979年に千葉県印旛(いんば)郡栄町安食(あじき)にて食料品店として創業しました。「お客様の代わりに仕入れる」を信念とし、「食」を通じて地域から支持される店舗づくりを行い、現在では千葉県内に13店舗を展開する、地域の中堅食品スーパーマーケットチェーンとして発展しています。  社是に「すべてを大切に。」を掲げ、「お客様はもちろんのこと、仕入先様、従業員、地域、ナリタヤと関わるすべてを大切にし、愛されるナリタヤでありたい」として、地元生産者との関係を大切にしています。「千葉」の「千産千消」の推進をはじめ、有機食品などの仕入れに注力するとともに、食育活動の実施や健康セミナーの開催などを通じて地域貢献にも取り組んでいます。  一方、社内では実力に応じた人事評価制度や、ライフスタイルに合わせて安心して働くことができる福利厚生制度を構築し、社員がやりがいを持って働ける環境づくりを大切にしています。 70歳以降の働きぶりの評価制度を導入  同社では、60歳を過ぎても以前と変わらずに能力を発揮している社員が多くいたことから、2018(平成30)年7月、定年を60歳から65歳に引き上げました。同時に、65歳以降について、希望者全員を70歳まで1年更新で再雇用する継続雇用制度を導入。さらに、70歳以降は、6カ月ごとに業務遂行能力を確認し、特に変化がなければ年齢にかかわりなく再雇用することとしました。  70歳以降を対象にした業務遂行能力の確認は、体力や接客態度など約20項目の客観的基準により、各店舗の店長が行います。  こうした制度改善により、長年勤務している高齢社員をあらためて貴重な戦力としてとらえ、長く働ける環境の整備につながり、現在60歳以上の社員は385人、このうち70歳以上が100人となっています。また、高齢社員の意欲や能力、技術をより活かすため、次のような取組みも行っています。 ●勤務時間は可能なかぎり希望に応ずる  パート・アルバイトの場合、フルタイム、早朝のみ、午前のみ、午後のみなど、勤務時間は各店舗・各部門の状況に応じて、可能なかぎりそれぞれの希望に対応しています。 ●早朝シニア制度  6時から9時まで開店準備を担当する早朝シフトを8店舗に導入。早朝の勤務を希望する高齢のパート・アルバイト社員が働いています。  総務人事部の山本佐江子人事マネージャーは、「早朝は子育て世代にとって出勤しにくい時間帯ですが、高齢社員のなかには朝のみ働きたい≠ニいう希望者もいて、うまくシフトが組めていますし、早朝のチームを組んで責任を持って働いてくれています」と話します。 ●ナイト・マネージャー(夜間管理者)  18時から22時ごろまでの勤務で、店長から引継ぎをして、店舗閉店後の残務処理、保安管理業務を担当します。40代、50代のナイト・マネージャーもいますが、定年を迎えた男性社員やほかの企業を定年退職後に採用された社員も就いています。 ●マイスター・バッチを支給  優れた能力を持つレジ部門のパート・アルバイト社員に自信と誇りを持って働いてもらうため、社内認定の「マイスター・バッチ」を支給。多くの高齢パート社員がバッチを取得しています。 「高年齢者雇用開発コンテスト」に応募  新井プランナーは、同社のこれらの取組みを高く評価し、当機構の「令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト」※への応募を同社にすすめ、応募書類の作成などを支援しました。  山本マネージャーは、「応募書類作成の際、新井プランナーに当社の取組みの優れた点についてご意見をいただいたことがありがたく、機構理事長表彰・特別賞をいただいたことも光栄でした。また、ほかの多くの企業の取組みを知る機会となり、たいへん勉強になりました。これから取り入れていきたいと思った取組みもあります」とコンテストへの応募体験を語ってくれました。 やりがいのある仕事に幸せを感じて  今回は、65歳を超えて活き活きと働いているナリタヤ本店勤務のお2人にお話を聞きました。  鈴木尚子(なおこ)さん(68歳)は、パート社員としてナリタヤに入社して17年。本店の青果部門で13時から17時まで、月15日程度の勤務を入社以来続けています。年間を通じて何百種類もの野菜・果物を扱っており、鈴木さんはその日の仕入れ状況に応じて、野菜を選別して袋詰めや品出し、トレイなどの資材発注を行っています。  「地場産の野菜など、よい商品をお客さまにお届けし、喜んでいただけることにやりがいを感じています。新種の野菜が入ってきたときなどはまだまだ勉強する必要がありますし、道の駅などで野菜の並べ方などを見て学ぶこともあります」と前向きに仕事に取り組んでいる鈴木さん。山本マネージャーは、「仕事中は集中していて頼もしく、作業を離れると元気でほがらかな雰囲気です」と鈴木さんの働きぶりと人柄を語ります。  「これからも笑顔と感謝と努力を忘れず、元気に、役に立てるように仕事を続けていきたいと思います」(鈴木さん)  上田真理子さん(65歳)は、パート社員として本店の精肉部門に入社して、勤続27年。初めは4時間勤務でしたが、現在は7時から16時までのフルタイム勤務で、月20日ほど働いています。山本マネージャーは、「27年間精肉部門に勤めてスライサーが自在に扱える、貴重かつ頼りになる存在」と上田さんを紹介します。  上田さんは入社直後からスライサーの技術を習得し、腕を磨いてきました。「豚肉や牛肉をさまざまな形にスライスして、商品にしていくのが主な仕事です」(上田さん)  40代半ばに独学で調理師免許を取得した努力家で、「会社に相談したら、書類作成などの応援をしてもらえて励みになりました」と、当時をふり返ります。現在同社には資格取得支援制度がありますが、上田さんは先駆け的な存在でした。10年前には海外研修のメンバーに選ばれ、アメリカのスーパーマーケットを視察した経験もあります。この研修は、正社員でもなかなか選ばれないそうです。最近は若手に技術指導をする役割もになっています。  「ナリタヤのお肉はおいしくて、家族にも胸を張ってすすめられます。よい商品を扱える仕事ができて幸せです」(上田さん) 千葉県ナンバーワンの優良企業へ  鈴木さん、上田さんともに、「職場は働きやすく、ナリタヤの社員であることを誇りに思っている」とも話していました。  同社のパート社員は、働いている人が知人に声をかけ、応募して入社するケースが多いそうです。また、パート社員の定着率がよいことからも、同社の職場環境のよさがうかがえます。  新井プランナーは、同社の取組みへの評価と期待を次のように話してくれました。  「商品がよいから評判がよい、評判がよいからナリタヤで働きたい。このように、うまく回っている印象を受けます。働きぶりを評価する基準が明確かつ公明であることや、正社員・パート社員それぞれが役割を認識し、それを互いに納得し、助け合って働ける環境もできているようです。今後は、健康面からの長く働ける環境づくりをより大事にして、現在の経営路線と高齢者雇用の取組みを続けていけば、さらによい結果が出てくるでしょう。地元生産者や住民との関係性を高め、輪を広げることによる着実な商圏拡大を期待しています」  山本マネージャーは、「当社は創業時から、千葉県でナンバーワンの優良企業になることを目ざしています。これからも働きやすい職場環境づくりを心がけ、目標に向かって邁進します」と語りました。 (取材・増山美智子) ※ 令和3年度から、「高年齢者活躍企業コンテスト」に名称変更 新井將平 プランナー(77歳) アドバイザー・プランナー歴:15年 [新井プランナーから] 「プランナーとしての事業所訪問活動では、訪問する企業の立場に立って、最善となる施策をアドバイスするよう心がけています。そのためには、それぞれの業界における地位や立場、企業の体力、経営方針をお聞きし、確認するとともに、客観的な雇用環境の変化を理解していただくように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆千葉支部の羽島一人元課長は、新井プランナーの活躍について次のように話します。「中小企業診断士としての経験を活かし、職域・職務開発、人事労務管理などを専門分野として、プランナー活動には2006年から取り組んでいます。2019年度には51件の企業にアプローチし、19件の高齢者雇用にかかわる制度改善などを精力的に提案しました。65歳超雇用推進プランナー業務のほかに、当機構の障害者雇用や職業能力開発支援に関する業務にも積極的に協力しています」 ◆千葉支部高齢・障害者業務課は、JR千葉駅から徒歩14分、または、JR千葉みなと駅から徒歩6分。千葉市美浜区幸町の千葉ガーデンタウンのエリアにある「ハローワーク千葉」の5階にあります。 ◆当課には、15人の65歳超雇用推進プランナーが在籍し、2019年度は842件にアプローチし、369件に対して制度改善の提案をしました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●千葉支部高齢・障害者業務課 住所:千葉県千葉市美浜区幸町1-1-3(ハローワーク千葉5階) 電話:043(204)2901 写真のキャプション 千葉県印旛郡 千葉県内に13店舗を展開するスーパーマーケット「ナリタヤ」の店舗 総務人事部 山本佐江子人事マネージャー 店舗に果物を並べる青果部門の鈴木尚子さん 精肉部門ですぐれた技術を発揮している上田真理子さん 【P32-35】 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第4回 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その1― 1 はじめに  これまで、第2回、第3回では、2020(令和2)年3月に厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン」の概要を紹介してきましたが、今回からは、職場における高齢者の労働災害の実態と効果的な対策を詳しくみていきます。  まず今回は、発生が最も多い転倒災害を取り上げ、転倒災害の発生状況、転倒災害の特徴などを紹介するとともに、軽作業での転倒災害が目立つ、小売業におけるさまざまな転倒災害の事例、転倒災害の原因と対策などを紹介します。 2 転倒災害の発生状況  全産業において、災害の種類別(災害分類上、事故の型別という)に休業4日以上死傷災害をみると、転倒災害が23・9%と最も多くを占めています(図表1)。 3 転倒災害の特徴  転倒災害には、以下に示す4つの特徴があります。 特徴1 高齢者は転倒災害リスクが高い  高齢者ほど転倒災害のリスクが増加し、55歳以上では55歳未満と比較しリスクが約3倍に増加します(厚生労働省リーフレットより)。 特徴2 50代・60代の女性の発生率が高い  転倒災害の男女別年齢別の発生割合をみると、50代・60代の女性の発生割合が高くなっています(図表2)。 特徴3 休業1カ月以上が約6割を占める  転倒災害による休業期間は約6割が1カ月以上となっています(図表3)。 特徴4 雪国で数多く発生  雪の多い地域では、雪・凍結などに起因した転倒災害が多発しています。 4 小売業の転倒災害 ■転倒災害発生状況  高齢の女性の転倒災害が数多く見受けられますが、その代表的な職場の一つに小売業があげられます。  小売業の労働災害発生状況を災害の種類別(事故の型別)にみると、全産業同様、転倒災害が34・4%と最も多く占めています(図表4) ■高齢女性の転倒災害事例  小売業にはさまざまな業態がありますが、なかでも、総合スーパーマーケット、食品スーパーマーケットにおける高齢の女性パートタイマーの転倒災害が目立ちます。  そこで、発生しているさまざまな転倒災害事例を次頁で紹介します。 5 転倒災害の原因と対策  さまざまな転倒災害の事例をみてきましたが、厚生労働省は、転倒災害防止施策として、2017(平成29)年から「STOP! 転倒災害プロジェクト」を推進しています。  その施策に基づき、転倒災害の原因と対策を紹介します。 ■転倒災害の主な原因  転倒災害の主なタイプには、「滑り」、「つまずき」、「ふみ外し(階段など)」の3つがあり、それぞれの発生原因を分析し対策を図ることが重要です。 ■転倒災害防止対策のポイント  転倒災害防止対策のポイントを以下に示します。転倒災害を防止することにより、安心して作業が行えるようになり作業効率の向上につながります。 (1)危険源の除去 ・床面の凹凸、段差の解消 ・滑りにくい床材の採用 (2)整理・整頓・清掃・清潔 ・歩行場所に物を放置しない ・床面の汚れ(水、油、粉など)を取り除く (3)転倒しにくい作業方法 ・時間に余裕を持って行動 ・滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行 ・足元が見えにくい状態で作業しない (4)その他 ・移動や作業に適した靴の着用 ・職場の危険マップの作成による危険情報の共有 ・転倒危険場所にステッカーなどで注意喚起 ■転倒災害防止のためのチェックシート  転倒災害の防止には、図表5のようなチェックシートを活用し、職場の転倒の危険などを見つけることが必要です。 ■転倒危険箇所の見える化  職場の転倒の危険をみつけたら、その場所に、ステッカーなど(図表6)※を掲示し、転倒の危険の見える化を図ることも有効です。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 ※ 厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501.html)より「転倒危険場所の見える化ステッカー」がダウンロードできます 図表1 休業4日以上労働災害の発生状況 125,611人 転倒 23.9% 墜落・転落 17.0% 動作の反動・無理な動作 14.1% はさまれ・巻き込まれ 11.6% 切れ・こすれ 6.4% 交通事故(道路) 5.9% 激突 5.2% 飛来・落下 4.8% その他 11.1% 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2019年) 図表2 転倒災害の男女別年齢別の発生割合(2016年) 縦軸% 横軸年齢 男性 女性 出典:中央労働災害防止協会『エイジアクション100』 図表3 転倒災害による休業期間の割合 休業1カ月未満(約4割) 休業1カ月以上(約6割) 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 図表4 小売業の死傷災害発生状況(事故の型別) 転倒 34.6% 動作の反動・無理な動作 14.3% 墜落・転落 11.8% 切れ・こすれ 7.3% はさまれ・巻き込まれ 6.1% 激突 4.3% その他 21.6% 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2019年) 高齢女性の転倒災害事例 事例1 段差につまずいた  事業所内にて清掃作業中、洗濯機の近くにあるマンホールの縁につまずき転倒。左足を骨折した(休業6カ月、72歳女性)。 事例2 床に置かれた荷物につまずいた  冷蔵庫から、大葉の入った箱(約25cm×35cm、重さ約200g)を持ち店内に戻る途中、床に置いてあった段ボール箱に気づかず、足を引っかけて転倒し、左手首を骨折した(休業1カ月、62歳女性)。 事例3 濡れた床で滑った  厨房内で、総菜を製造調理しているときに、厨房内を移動して、床にあった水たまりで足を滑らせ転倒し手をつき、右手首を骨折した(休業4カ月、62歳女性)。 事例4 コードにひっかかった  出勤し、2階裏入口から店内に入ろうとしたとき、電気コードに足を引っかけて転倒し、左腕と左膝を骨折した(休業3カ月、68歳女性)。 事例5 ぶつかった反動で転倒  店舗のバックヤードの通路をモップで清掃していたときに、モップが棚の角にぶつかりその反動で前向きに転倒した。その際、左肘と右膝を床で打って骨折した(休業3カ月、67歳女性)。 事例6 重い荷物でよろけた  ゴミ捨て場でゴミ出しをしているときに、台車からゴミ袋をおろした拍子によろけて転倒し、腰部と右足を負傷した(休業5カ月、69歳女性)。 事例7 足がもつれて転倒  店舗の売り場で、商品棚から商品(箱入りケーキ)1個を取り出し、カウンターで包装をしようとした。その際、自分の左足に右足が引っかかって転倒し、左足を骨折した(休業3カ月、63歳女性)。 事例8 自転車ごと倒れた  自転車置き場に自転車を止めようとしたとき、バランスを崩して左側へ転倒し、左膝を地面に激しく打ち、倒れた自転車が左足の上に乗りかかる状態になり、左膝を骨折した(休業1カ月、60歳女性)。 事例9 階段をふみ外した  出勤時、制服に着替えるため地下2階のロッカー室に向かう途中、通路の途中にある階段(数段)をふみ外し転倒。足首をねんざした(休業1カ月、60歳女性)。 図表5 転倒災害防止のためのチェックシート チェック項目 1 通路、階段、出口に物を放置していませんか □ 2 床の水たまりや氷、油、粉類などは放置せず、その都度取り除いていますか □ 3 通路や階段を安全に移動できるように十分な明るさ(照度)が確保されていますか □ 4 靴は、すべりにくくちょうど良いサイズのものを選んでいますか □ 5 転倒しやすい場所の危険マップを作成し、周知していますか 6 段差のある箇所や滑りやすい場所などに、注意を促す標識をつけていますか □ 7 ポケットに手を入れたまま歩くことを禁止していますか □ 8 ストレッチや転倒予防のための運動を取り入れていますか □ 9 転倒を予防するための教育を行っていますか □ 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 図表6 転倒危険場所の見える化ステッカー 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 【P36-39】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第35回 勉強会の労働時間の該当性、高齢者への安全配慮義務 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 勉強会や研修は労働時間として扱われるのか教えてほしい  当社では、就業時間の終了後に勉強会を開催し、安全衛生に関する知識を共有したり、業務に必要な研修などを行っています。  従業員から、勉強会に参加している時間は労働時間であるから残業代を支払うよう求められたのですが、支払う必要があるのでしょうか。 A  勉強会への参加に対する義務づけの程度に応じて、労働時間となるか否かが左右されます。人事考課上の考慮事項としていたり、不利益な懲戒処分の対象となり得る場合などには、労働時間となる可能性が高いでしょう。 1 労働時間について  以前にも、労働時間に関しては触れましたが※1、労働基準法における労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」(最高裁平成12年3月9日判決、三菱重工長崎造船所事件)と定義されています。この判例では、労働時間であるか否かを判断するにあたっては、使用者と労働者の契約や就業規則などの主観的な関係で定めるのではなく、労働実態をふまえて客観的に定まるものという趣旨も含めて、指揮命令下に置かれていたか否かを判断するものとされています。  行政解釈においても、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であるとして同様の整理がなされたうえで、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたることを前提に、以下のような類型については、労働時間に該当すると整理されています。 @使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務づけられた所定の服装への着替えなど)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃など)を事業場内において行った時間 A使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間(いわゆる「手待ち時間」) B参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間  これらのうちBが、今回の質問に最も近い内容であり、勉強会の時間は、労働時間に該当するという可能性があります。 2 重要な判断要素  研修・教育訓練の受講や業務に必要な学習などという内容からすれば、労働時間に該当するという判断になりそうですが、労働時間該当性の要素には、「参加することが業務上義務づけられている」ことや「使用者の指示により」という要素が必要です。  この点を考慮することなく、一律に就業時間外の勉強会などを労働時間とみることはできません。  「使用者の指示により」という点については、明示の指示であれば明確であり、会社の指示に基づき参加させられている場合には、労働時間に該当するといえそうです。しかしながら、現実には、「参加をうながすこと」と「指示して参加させること」は、外形的には類似する場合もあり、使用者からの意図と労働者の受け止め方が相違する可能性があります。したがって、会社から参加するよう求められたとしても、それが「指示」といえるのかという点は、必ずしも明確ではないということもありえます。  また、「参加が業務上義務づけられている」という点についても、義務づけているのか否かについては、指示による場合と同様に、受け止め方の相違も生じることがあり、必ずしも明確ではないケースもあります。  つまり、「参加することが業務上義務づけられている」ことや「使用者の指示により」という要素が非常に重要であるにもかかわらず、その判断がむずかしいのです。 3 裁判例の傾向  労働時間の定義を示した三菱重工長崎造船所事件の判決では、業務の準備行為等を行うにあたり「就業規則において」作業服および保護具等の着用が義務づけられていたこと、これを怠ると「懲戒処分」を受けたり、成績考課に反映されて「賃金の減収にもつながる」場合があったことなどを考慮して、指揮命令下にあったとして、労働時間該当性を肯定しています。  したがって、実際に個別具体的な指示があったか否かということのみならず、その指示に対して、労働者が従わなければならないか、従わなければ不利益(懲戒処分や人事考課上の不遇を受けるなど)があるかという点が重要な判断要素となっていると考えられます。  例えば、近年の裁判例でいえば、大阪地裁令和2年3月3日判決においては、就業時間外に行われていた安全衛生に関する「安全活動」と呼ばれていた時間帯と、月に1回から3回程度開催していた「勉強会」について、それぞれの労働時間性が争点となりました。  当該裁判例では、「安全活動」については、@就業規則に安全活動に関する規定は存在しないこと、A出欠が取られるものでもなく不参加の場合制裁が課されるものでもないこと、B参加によって査定などで有利になるものでもないことなどを考慮して、労働時間に該当しないと判断しています。判断要素のうち、@については、参加を義務づける規定がないことを考慮しており、Bの根拠を翻せば、人事考課上の不利益を受けるわけでもないことを考慮しているといえます。  一方で、「勉強会」については、@原告となった労働者が参加しないことが想定されていないこと、A参加することなく技術が身につかないままであれば、賃金や賞与の査定、従業員としての地位に影響することが明らかであること、B就業規則に、「会社は、従業員に対し、業務上必要な知識技能を高め、資質の向上を図るため、必要な教育訓練を行う」、「従業員は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合は、特段の事由がない限り指示された教育訓練を受講しなければならない」と規定されていることなどを考慮して、安全活動の時間とは異なり、労働時間に該当するという結論に至っています。@の要素から、任意参加ではなく対象の労働者にとって参加する以外の選択肢が与えられないという効果を生んでおり、不参加に対する制裁や不利益の存在から、@やAの要素は事実上の強制として評価される根拠となっています。さらに、補充的な要素とは考えられますが、就業規則上に、明示的に義務づける根拠となる規定が存在していること(Bの要素)も考慮されています。  同じ会社で行われた就業時間外の活動においても、その結論が分かれており、就業時間外の活動に対する判断が容易ではないことを示しているといえるでしょう。  勉強会に関するBの要素については、勉強会そのものを直接義務づける規定ではありませんが、使用者が、勉強会に参加させるための業務命令を発する根拠となる規定となっており、業務命令違反を理由とすれば懲戒処分などの実施が可能となるという労働者に対する不利益性とつながる要素になっています。類似するような抽象的な規定が定められている企業も多くあると思われますので、教育訓練に関する勉強会などの開催においては、このような規定の有無についても留意する必要があります。  仮に、同様または類似の規定を就業規則に定めている企業において、労働時間に該当しないように就業時間外の勉強会を開催するためには、勉強会への参加が命令ではないことを明確にしたうえで、または参加があくまでも任意であることを明確にしたうえで参加を募り、参加しなかった労働者への不利益措置などを実施しないといった要素に気をつけておく必要があります。 Q2 高齢労働者や業務委託契約を結んだ高齢者への安全上の配慮について知りたい  60歳や65歳を超える高齢者の雇用人数が増えているのですが、会社の安全管理などにおいて気をつけなければいけない事項はあるのでしょうか。  雇用以外の方法で就労確保する場合は、どのような配慮が必要なのでしょうか。 A  高齢者による労働災害の発生率は高く、通常の労働者以上に健康や体力への配慮を行う必要があります。  雇用以外の方法による就労確保においても、労働契約に準じた安全配慮義務を尽くすことが望ましいでしょう。 1 高齢者に対する安全配慮義務  定年後の再雇用者など高齢者の雇用者数は年を追うごとに増加している傾向にありますが、高齢者に関しては、安全配慮義務に関して、特有の視点が必要と考えられています。  厚生労働省は「労働者死傷病報告」などを基に、労働災害の発生状況の分析などの結果を公表していますが、2019(平成31/令和元)年の労働災害においては、全死傷者のうち60歳以上の死傷者数の割合が年々増加しており、その割合は26・8%に及んでいます。  なかでも、墜落・転落災害の発生率が若年層に比べて高く、転倒災害については、女性で高くかつ高齢となるほど高くなる傾向があります。継続雇用延長にあたっての企業の課題を調べた調査※2によると、継続雇用導入前の企業においては、「社員の健康管理支援」が最も割合が多く(35・1%)、継続雇用延長後の企業における課題としても、「社員の健康管理支援」は2番目に多い31・8%という結果となっています。これらの事情からしても、高齢者の労働状況に応じた健康管理を含む安全配慮義務への関心は高いといえそうです。  このような状況に鑑みて、厚生労働省は、2020年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を公表しました。  高齢者の就業における安全に対する配慮に関する留意点は、このガイドラインが参考になります。 2 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の概要  ガイドラインは、安全衛生管理体制の確立など、職場環境の改善、高齢労働者の健康や体力の状況の把握、高齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応、安全衛生教育の項目から構成されています。  安全管理体制の確立などについては、経営トップによる方針表明および体制整備をはじめとして、高齢者にとっての危険源の特定や洗い出しと防止対策の優先順位を検討することによるリスクアセスメントの実行など全社的な対応が求められています。高齢者向けの体制整備としての出発点となることから、高齢者の目線をふまえてリスクアセスメントを実行することは、非常に重要といえます。  職場環境の改善としては、共通事項として、視力・明暗の差への対応、手すりや滑りやすい場所の防滑素材の採用など転倒防止に関する施策や、短時間勤務などの工夫や作業スピードへの配慮など体力の低下などの特性へ配慮した対策が中心に掲げられています。  これらのなかでも、高齢労働者の健康や体力の状況の把握やそれに応じた対応の内容が特徴的であり、健康状況の把握として健康診断の実施から行い、体力の状況を把握するために体力チェックを継続的に行うよう努めることなどが求められています。健康や体力チェックの一例として、「フレイル」という筋力や認知機能などの心身の活力が低下して生活機能障害や要介護状態などの危険性が高くなった状態となっていないか確認する「フレイルチェック」と呼ばれる心身の健康状況を簡易に把握する方法や、厚生労働省による「転倒等リスク評価セルフチェック票」などが紹介されています。これらを利用しながら高齢労働者の健康状況および体力の状況を把握することが想定されており、参考になります。  また、これらが把握できた際には、業務の軽減の要否、作業の転換、心身両面にわたる健康保持増進措置を検討することが想定されており、周囲の労働者においても高齢労働者に対する理解を深めるための教育や研修の実施なども必要とされています。 3 雇用以外の創業支援等措置による場合  ガイドラインは、労働契約に基づく安全配慮義務の具体化ともいえるものであり、対象とされているのはあくまでも労働契約に基づき労務に従事する高齢労働者です。  しかしながら、高年齢者等の雇用の安定に関する法律が改正され、「創業支援等措置」といったほかの事業主と業務委託契約を締結することや、社会貢献事業に従事する方法で、就労確保を行うことも許容されるようになります。  これらの状況は労働契約に基づくものではないとしても、その就労においては高齢者の心身の状況への配慮が必要であることは共通しています。そのため、創業支援等措置を採用するために定める実施計画に安全衛生について記載しなければならず、厚生労働省が公表する指針(令2・10・30 厚労告351)においては、労働関係法令による保護の内容も勘案しつつ、委託業務の内容・性格に応じた適切な配慮を行うことが望ましいとされています。また、委託業務に起因する事故などにより被災したことを事業主が把握した場合には、ハローワークに報告することも望ましいとされており、労働契約法に基づく安全配慮義務や労働災害が発生した場合に準じた対応を心がける必要があるでしょう。 ※1 本誌2021年2月号(第33回 Q2 ノー残業デー導入時の留意点) ※2 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『継続雇用、本当のところ』(2018年) 【P40-41】 高齢社員の心理学 ―加齢でこころ≠ヘどう変わるのか― 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 増本康平 第5回 高齢者の意思決定の特徴  高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、こころ≠ノ焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。  仕事をマネジメントする際、社員がどの程度適切な意思決定ができるかは、その社員に任せる仕事内容を判断するうえで不可欠な情報です。また、社員にとっては自分の仕事に対する意思決定の裁量(例えば、仕事の仕方やスケジューリングなど)が大きければ仕事のやりがいにつながり、逆に小さければストレスを強く感じ精神的健康に影響します。今回は意思決定のメカニズムと加齢の関係についてお話します。 われわれの意思決定は合理的なのか?  「人生は選択の連続である(シェイクスピア『ハムレット』)」という言葉があります。何を食べるか、何を着るか、といったちょっとした選択から、どの学校を受験するか、どの会社に就職するか、だれと結婚するか、といった重大なものまで、私たちは日々、さまざまな選択を迫られます。  正しい選択肢がわかっている場合、私たちは基本的に合理的な判断が可能です。ですが、「どのプロジェクトに注力すべきか」、「顧客の満足度を高めるにはどのサービスがよいのか」といった、正解がその時点ではわからない不確実性の高い意思決定を行う際、私たちの判断には合理的な判断を阻害する、さまざまな思考の偏りがあることが明らかになっています。  例えば、「アメリカのサン・ディエゴとサン・アントニオ、どちらの人口が多いですか?」。サン・アントニオのほうが若干人口は多いのですが、多くの人が「サン・ディエゴ」と回答します。適当に答えれば半々になるはずですが、サン・ディエゴと回答する人が多いのはなぜでしょうか。人は自分が知っていることを過大に評価する傾向があり、サン・アントニオは聞いたことがないので、自分が知っているサン・ディエゴのほうが人口は多いだろう、という直感的な判断を行うからです。  次の二つの選択肢AとBを提示されたら、あなたはどちらを選びますか? A 90%の確率で10万円もらえる。 B 確実に9万円もらえる では次のCとDの場合はどうでしょうか? C 90%の確率で10万円失う。 D 確実に9万円失う。  AとBではどちらも期待値(確率×利得)は9で同じですが、多くの人は、確実に9万円をもらえるBを選択します。利益獲得の場面では、人は利益を得られなないリスクを避け、小さくても確実な利益を選択する傾向にあります。  CとDも期待値は-9でどちらも同じです。しかし、多くの人は罰金を払わなくてもすむ可能性のあるCを選択します。AとBの選択とは異なり、損失に関する選択の場合は、損失が大きくなるリスクがあっても、なるべく損失そのものを避ける選択をする傾向が人にはあります。  図表は利得と損失の心理的価値に関する有名なプロスペクト理論を示したものです。縦軸が心理的価値を、横軸は利得と損失を表しています。この図は、利得や損失が多くなれば心理的反応が強くなるだけでなく、利得よりも損失を1・5〜2・5倍ほど強く感じる非対称性があることを示しています。200万円を獲得して感じる満足よりも、200万円を損して感じる不満の方が強いのです。そのため人は損失を避ける選択(損失回避)をしがちであり、損失回避を重視した結果、チャンスを逃す選択をしてしまうこともあります。 なぜ意思決定には偏りがみられるのか?  私たちが何かを選択する際、頭の中では大きく二つの情報処理が行われます。一つは、好きか嫌いか、良いか悪いかといった感情的、直感的な情報処理、もう一つは分析的、論理的な熟考のための情報処理です。意思決定場面では、どのような選択であっても、まず直感・感情による判断が行われ、その後、その選択で適切かどうか分析的な判断が行われます。  「好き、嫌い」といった感情的判断や「損失を回避したい」という直感的判断は、論理的で客観的なものではありません。そのため、正解がわからないような意思決定の場合は、感情・直感的な判断に依存してしまい、合理的な判断ができない場面が生じます。 加齢にともなう意思決定の変化  だれしも、即決が求められ考える余裕がない状況や、選択肢が多数ある状況、いままで経験したことがない選択を行う状況では、誤った選択が多くなります。特に高齢期では、熟考のための情報処理が、加齢にともない低下する認知機能に依存しているため、それが顕著です。また、高齢者は自分が持っている知識を過大評価する傾向があるため、助言を受け入れにくくなるというデータもあります。  一方で、長い人生のさまざまな経験によってつちかわれた直感や、歳を重ねるごとに安定する感情が基盤となる直感・感情的な情報処理は、加齢の影響を受けにくく、むしろ洗練されます。そのため、一般的には複雑な選択であっても、経験をいかすことのできる判断が求められる場合、経験が少ない若年者より迅速で適切な判断が可能です。また、以前の連載でも説明しましたが、高齢者はポジティブな情報を重視する傾向があります。そのため、損失回避といったネガティブな情報を重視しすぎる結果生じる認知バイアスの影響を受けにくい、という研究もあります。  加齢が意思決定に及ぼす影響については、まだわからないことが多いのですが、経験に基づいた判断を必要とする仕事のパフォーマンスは、高齢期でも高い水準で維持されることは研究からも裏づけられています。 【参考文献】 ダニエル・カーネマン(2014)『ファスト&スロー(上・下)』早川書房 Baltes, B., Rudolph, C. W., & Zacher, H. (Eds.). (2019).Work across the lifespan. Academic Press. 図表 損失と利得の心理的価値 縦軸 心理的価値 横軸 金額 利得 損失 出典:ダニエル・カーネマン(2014)『ファスト&スロー(下)』早川書房. 【P42-43】 いまさら聞けない 人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第11回 「働き方改革」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は「働き方改革」について取り上げます。働き方改革とは、日本人があたり前と思っていた働き方全般を見直すもので、人事領域にとどまらない幅広い内容を含んでいます。 働き方改革の背景  働き方改革は、成長戦略の一環として、安倍前内閣が強く推進していた施策の一つです。2016(平成28)年9月の「働き方改革実現会議」を皮切りに議論が重ねられ、実行に移すための通称「働き方改革関連法案」が2018年6月に成立、2019年4月1日以降、順次施行されています。この期間、働き方改革という用語はマスメディアなどを通して日々発信されていましたが、最近は落ち着きをみせつつあります。内閣が変わってトーンダウンとしたとみる向きもありますが、法律施行から2年近く経ち、具体的な実行段階に入っているからととらえた方がよさそうです。  さて、なぜ働き方改革が推進されるようになったのでしょうか。この背景には「少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少」が大きくかかわっています。本連載の第1回(2020年6月号)でも取り上げましたが、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」によると、生産活動の中心をになう15歳以上65歳未満の年齢層をさす「生産年齢人口」は1995年をピークに減少し続け、今後も減少傾向が続くと推定されています。また、労働者一人あたり、または労働1時間あたりで生み出す成果を示す「労働生産性」が日本は低いといわれています。例えば、日本の一人あたり労働生産性はOECD加盟国37か国中26位です(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」)。このような状況を打破するために、従来の働き方では就労がむずかしかった方にも生産活動に参画してもらうことで人手不足の解消につなげ、無駄や負担を軽減することで生産性を上げていくのが働き方改革の大きな目的となります。 働き方改革に関する人事面での取組み  ここからは人事面での取組みについて、「労働時間の制限」、「雇用の多様化」、「就業場所の多様化」の三つの観点で整理していきます。すでに本連載で取り上げた内容もかかわってきますが、おさらいの意味も含めて触れていきます。 @労働時間の制限  日本のこれまでの労働実態のなかで、長時間労働がかなり問題になっていました。働き過ぎによる過労死や健康への悪影響、また長時間労働をしにくい人材の就労機会の低下などです。これらの解決策として、働き方改革関連法により、企業に対して主に次のような対応が求められるようになりました。 ・時間外労働上限規制…月45時間、年360時間を原則とする。 ・年次有給休暇の取得…10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し取得時季を指定しての5日間の有給休暇付与を義務とする。  このほか、「労働時間状況の把握義務化」や、勤務終了後に一定時間以上の休息時間を設ける「勤務間インターバルの努力義務化」などがあります。これらは労働時間の制限につながるものであり、実現するには無駄を排除するための業務プロセス見直しやIT化の推進など、生産性向上に向けた対応も必要になってきます。 A雇用の多様化  働くのは65歳までという年齢や、フルタイム正社員が雇用形態の基本といったような従来の認識よりも幅広く労働者を定義し、就業機会を増やすための取組みです。本連載で解説した高齢者の「雇用延長」や「限定社員」が該当します。また「最低賃金」の引上げや、いわゆる正規社員・非正規社員の不合理な待遇差の格差の是正といった「同一労働・同一賃金」もパートタイマー従業員などの一層の参画・活躍をよりうながす意味で、この取組みに含まれます。  まだ本連載で触れていない施策としては、「副業・兼業」の推進が挙げられます。副業・兼業とは、主となる業務以外に収入を得る業務に従事することです。厚生労働省が2018年に公表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にあるように、副業・兼業の形態は、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主などさまざまです。従来は副業・兼業を禁止する会社がほとんどでしたが、副業・兼業を通した従業員のスキル習得、収入の安定、優秀な人材の確保などメリットがあることから、解禁を実施・検討している企業は増えています。労働時間管理や健康管理面、機密保持などのクリアすべき課題は多くあるのですが、一つの会社・業務にとどまらず、複数の選択肢を持つことは、人生100年時代において働く意思があるかぎり働くための一つの有効な手段になるのではないかと筆者は考えています。 B就業場所の多様化  決められた一つの事業所に出社して働くのではなく、業務内容や生活スタイルに応じて最適な場所で働くようにできるのが就業場所の多様化です。それを実現するための手段が「テレワーク」です。在宅勤務のような使われ方もしますが、一般社団法人日本テレワーク協会によると「TELE=離れた所」と「WORK=働く」を合わせた造語ですので、場所は自宅とはかぎりません。労働時間管理のむずかしさや、コミュニケーション面、情報セキュリティの観点から普及はむずかしいといわれていましたが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症対策の観点から一気に導入が進みました。  働き方改革の文脈からテレワークをみると、通勤時間が短縮され、自宅で働くことも可能になることから、子育てや介護など家庭の事情がある方の就業を可能とします。また、転勤や単身赴任など会社の人事異動が家族を巻き込み負担になることが多かったのですが、実際に赴任地に行かなくてもIT機器やノウハウを応用して業務を行うことが可能なケースが増えてきました。テレワークの普及により従業員に求める評価軸も変わってきており、管理者や評価者が本人の働いている姿を実際に見ることができないため、高い成果やアウトプットを重視するようになってきています。これは効率的に成果を出せばよいという意識の改革にもつながり、働き方改革が目ざしている生産性向上に直結する流れともいえます。 ☆☆  次回は「昇給とベースアップ」について取り上げる予定です。 【P44-51】 労務資料@ 高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係) 厚生労働省ホームページより一部抜粋(令和3年2月26日時点)  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行されました。本改正では、70歳までの就業機会を確保する「高年齢者就業確保措置」を企業の努力義務としており、定年廃止や70歳までの定年引上げ・継続雇用制度の導入のほか、「創業支援等措置」として業務委託契約や社会貢献事業に従事できる制度を整えることが求められます。これまでにない新たな取組みとなることから、厚生労働省では、ホームページにて「高年齢者雇用安定法Q&A」を公開しています。本稿ではその一部を抜粋してご紹介します。(編集部) 1 高年齢者就業確保措置 努力義務への対応として必要な内容 1 まずは67歳までの継続雇用制度を導入するなど、高年齢者就業確保措置を段階的に講ずることは可能でしょうか。  段階的に措置を講ずることも可能です。ただし、改正法で努力義務として求めているのは70歳までの就業機会を確保する制度を講じることであるため、70歳までの制度を導入することに努め続けていただくことが必要です。なお、既に67歳までの継続雇用制度を講じている場合についても同様です。 〈2略〉 3 改正法においては、高年齢者就業確保措置は努力義務(「努めなければならない」)とされていますが、事業主が措置を講ずる努力(例えば、創業支援等措置について労使で協議はしているが、同意を得られていない場合)をしていれば、実際に措置を講じることができていなくても努力義務を満たしたこととなるのでしょうか。  改正法では、高年齢者就業確保措置を講ずることによる70歳までの就業機会の確保を努力義務としているため、措置を講じていない場合は努力義務を満たしていることにはなりません。また、創業支援等措置に関しては「過半数労働組合等の同意を得た措置を講ずること」を求めているため、過半数労働組合等の同意を得られていない創業支援等措置を講じる場合も、努力義務を満たしていることにはなりませんので、継続的に協議いただく必要があります。 4 事業主が高年齢者就業確保措置を講じる場合において、就業条件など措置の内容に関して高年齢者と事業主の間で合意できず、高年齢者本人が措置を拒否した場合は努力義務を満たしていないことになるのですか。  事業主が雇用の措置を講ずる場合、改正法で努力義務として求めているのは、希望する高年齢者が70歳まで働ける制度の導入であって、事業主に対して個々の労働者の希望に合致した就業条件を提示することまでは求めていません。そのため、事業主が合理的な裁量の範囲での就業条件を提示していれば、労働者と事業主との間で就業条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が措置を拒否したとしても、努力義務を満たしていないものとはなりません。  また、事業主が創業支援等措置を講ずる場合、改正法第10条の2第1項に基づき、創業支援等措置の内容等を記載した計画について過半数労働組合等の同意を得る必要があります。そのため、事業主が過半数労働組合等の同意を得たうえで、当該計画に示した内容通りの措置を講じていれば、個々の労働者と事業主の間で就業条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が措置を拒否したとしても、努力義務を満たしていないものとはなりません。 ※3は、企業の人事制度を変更する段階において、過半数労働組合等の同意を得られない場合についてのものである一方、4は人事制度変更後に就業条件等について個々の高年齢者が拒否した場合についてのものであり、異なる場面についての質問・回答になります。 〈5略〉 6 65歳以降70歳までの就業確保措置を講じる際に、就業規則を変更する必要はあるのでしょうか。  常時10人以上の労働者を使用する使用者は、法定の事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないこととされており、また法定の事項について変更した場合についても同様とされています(労働基準法第89条)。定年の引き上げ、継続雇用制度の延長等の措置を講じる場合や、創業支援等措置に係る制度を社内で新たに設ける場合には、同条の「退職に関する事項(同条第3号)」等に該当するものとして、就業規則を作成、変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。  なお、創業支援等措置を講じる場合には、就業規則の変更とは別に、創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。この計画については、ハローワークに届け出る必要はありません。 7 事業主が自社以外の会社や団体で高年齢者の就業を確保する場合(他社での継続雇用を行う場合やNPO法人で実施する社会貢献事業に高年齢者を従事させる場合等)において、解雇等により70歳に達する前に高年齢者が就業を継続できなくなった場合、高年齢者が離職した後70歳までの期間について、定年まで雇用した事業主が自社で再雇用等を行う必要があるのでしょうか。  定年まで雇用した事業主が70歳まで自社以外の会社や団体で働ける制度を定めている場合には、当該事業主は努力義務を満たしています。そのため、この場合において、就業先である自社以外の会社や団体からの解雇等により70歳に達する前に就業を継続できなくなった高年齢者については、70歳までの残りの期間について、定年まで雇用した事業主が改めて高年齢者就業確保措置を講じる必要はありません。 〈8 9略〉 運用・その他 10 就業規則において、継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を解雇事由とは別に定めることはできますか。別に定めることが可能な場合、創業支援等措置については、どこで定めることができるのでしょうか。  高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、「措置の対象者を限定する基準」として継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を解雇事由とは別に定めることは可能です。  継続雇用しない事由を定める場合は、常時10人以上の労働者を雇用する事業主であれば、就業規則の記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなります。そのため、労働基準法第89条に定めるところにより、就業規則に定める必要があります。また、基準を設ける場合には過半数労働組合等の同意を得ることが望ましく、また、労使で協議の上設けた基準であっても、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものや公序良俗に反するものは認められません。  また、創業支援等措置における業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を定める場合には、省令第4条の5第2項第7号に定めるところにより、創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項である「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)」に盛り込む必要があります。(創業支援等措置の実施に関する計画は、事業主が雇用する労働者数にかかわらず、当該措置を講ずる全ての事業主が作成する必要があります。) 11 事業主が、雇用する高年齢者に対して高年齢者就業確保措置を利用する希望があるかどうかを聴取するのは、65歳の直前でなければならないのでしょうか。例えば、定年を60歳に定める会社が65歳まで特殊関係事業主で継続雇用を行い、65歳から70歳までNPO法人で創業支援等措置を行う場合において、高年齢者の希望を聴取すべきタイミングはいつですか。  改正法第10条の2第1項では、「その雇用する高年齢者が希望するときは」とあるため、事業主は雇用している高年齢者が65歳を迎えるまでに希望を聴取する必要がありますが、タイミングについては65歳の直前でなくても構いません。  また、ご指摘の場合については、定年まで雇用した事業主が、60歳定年前に高年齢者の希望を聴取していれば、法律上の努力義務としては特殊関係事業主で雇用された後においても希望を聴取することまでは求めていません。  ただし、改正法の趣旨を踏まえれば、可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識・経験・能力等に応じた業務内容及び就業条件とすることが必要であるため、特殊関係事業主に雇用された後に改めて高年齢者の希望を聴取し、適切な措置を講ずることが望ましいです。 12 指針において、賃金・人事処遇制度について、「支払われる金銭については、制度を利用する高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、業務内容に応じた適切なものとなるよう努めること」、「職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲及び能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること」とありますが、70歳までの就業機会を確保する上で、具体的にどのような点に留意したらよいのでしょうか。  70歳までの就業確保においては、労働者の希望に合致した労働条件までは求められていませんが、法の趣旨を踏まえた合理的な裁量の範囲内のものであることが必要と考えられます。  雇用の選択肢(定年の引き上げ・廃止、継続雇用制度)により70歳までの就業確保を行う場合には、最低賃金や短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)に基づく雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保など、労働関係法令の範囲内で賃金等を定める必要があります。  雇用によらない選択肢(創業支援等措置)により70歳までの就業確保を行う場合には、創業支援等措置の実施に関する計画に「高年齢者に支払う金銭に関する事項」を定めた上で、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。また、「高年齢者に支払う金銭に関する事項」については、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとなるよう留意する必要があります。 2 対象者基準 13 対象者を限定する基準とはどのようなものなのですか。  対象者を限定する基準の策定に当たっては、過半数労働組合等と事業主との間で十分に協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しており、その内容については、原則として労使に委ねられるものです。  ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に特定の高年齢者を措置の対象から除外しようとするなど高年齢者雇用安定法の趣旨や、他の労働関連法令に反する又は公序良俗に反するものは認められません。 【適切ではないと考えられる例】  『会社が必要と認めた者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)  『上司の推薦がある者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)  『男性(女性)に限る』(男女差別に該当)  『組合活動に従事していない者』(不当労働行為に該当)  なお、対象者を限定する基準については、以下の点に留意して策定されたものが望ましいと考えられます。 ア 意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性)  労働者自ら基準に適合するか否かを一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して能力開発等を促すことができるような具体性を有するものであること。 イ 必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性)  企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。 3 65歳以上継続雇用制度の導入 14 65歳以上継続雇用制度として、再雇用する制度を導入する場合、実際に再雇用する日について、定年退職日から1日の空白があってもいけないのでしょうか。  改正法第10条の2第1項では、「定年後又は継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後も引き続いて雇用する制度」を65歳以上継続雇用制度と定義していますが、雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日又は継続雇用の終了日の翌日から雇用する制度となっていないことをもって、直ちに不適切であるとまではいえないと考えており、定年退職日から数日程度空白がある場合でも「65歳以上継続雇用制度」として取り扱うことは差し支えありません。  ただし、定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、「65歳以上継続雇用制度」といえない場合もあります。 15 65歳以上継続雇用制度による継続雇用先として認められる他の企業とはどのような企業ですか。例えば派遣会社も認められるのですか。  改正法の趣旨が「希望する高年齢者が70歳まで働ける環境の整備」であることを踏まえれば、いわゆる常用型派遣(労働者派遣事業者が常時雇用される労働者の中から労働者派遣を行うこと)のように、雇用が確保されているものは65歳以上継続雇用制度が認められますが、いわゆる登録型派遣(派遣労働を希望する者をあらかじめ登録しておき、労働者派遣をするに際し、当該登録されている者と期間の定めのある労働契約を締結し、有期雇用派遣労働者として労働者派遣を行うこと)のように、高年齢者の継続的な雇用機会が確保されていると言えない場合には、65歳以上継続雇用制度としては認められません。  したがって、65歳以上継続雇用制度による継続雇用先としては、派遣会社であっても認められる場合があります。 16 特殊関係事業主以外の他の事業主で継続雇用を行う場合は、他の事業主との間でどのような契約を結べばよいのですか。  他の事業主により継続雇用を行う場合には、元の事業主と他の事業主との間で「65歳以上継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件とされており、他の事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の従業員を継続雇用することとなります。  事業主間の契約を締結する方式は自由ですが、紛争防止の観点から、書面によるものとすることが望ましいと考えられます。書面による場合、例えば、別添1のような契約書が考えられます。 4 創業支援等措置の導入 創業支援等措置全体について 17 創業支援等措置の契約については、1度に5年間分の契約を締結するのではなく、例えば1年分の契約を複数回繰り返し締結することにより、高年齢者の継続的な就業を確保することも可能でしょうか。その場合、どのような契約であれば「継続的に」と認められるのでしょうか。  創業支援等措置の契約期間については、省令第4条の5第2項第2号及び第4号に定めるところにより、創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項である「契約に基づいて高年齢者が従事する業務の内容」及び「契約を締結する頻度に関する事項」に盛り込む必要があります。  1回あたりの契約内容・頻度については、個々の高年齢者の希望を踏まえつつ、個々の業務の内容・難易度や業務量等を考慮し、できるだけ過大又は過小にならないよう適切な業務量や頻度による契約を締結することに留意しつつ労使で合意をしていただくこととなりますが、改正法の趣旨が「希望する高年齢者が70歳まで働ける環境の整備」であることを踏まえれば、年齢のみを理由として70歳未満で契約を結ばないような制度は適当ではないと考えられます。  したがって、「継続的に」契約を締結していると認められる条件は、 ア 70歳を下回る上限年齢が設定されていないこと、 イ 70歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、能力や健康状態など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められます。) であると考えられますが、個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります。 18 指針において、「雇用時における業務と、内容及び働き方が同様の業務を創業支援等措置と称して行わせることは、法の趣旨に反する」と記載されていますが、業務内容が雇用時と同様であることだけをもって、創業支援等措置として不適切と判断されるのでしょうか。  業務内容が雇用時と同様であることだけをもって、創業支援等措置として法律の趣旨に反するものとはなりません。ただし、業務内容が雇用時と同様で、かつ、働き方(勤務時間・頻度、責任の程度等)も雇用時と同様である場合には、雇用の選択肢(定年の引き上げ・廃止、継続雇用制度)により70歳までの就業確保を行うべきであり、雇用によらない選択肢(創業支援等措置)として行うことは法律の趣旨に反することとなります。 〈19略〉 業務委託契約について 〈20 21略〉 22 指針において、「成果物の受領に際しては、不当な修正、やり直しの要求又は受領拒否を行わないこと」と記載されていますが、合理的な理由がある正当な修正、やり直しを求めることはできますか。  高年齢者との契約で定められた成果物の基準に満たない場合に、当該基準を満たすための修正、やり直しを求めるなど、合理的な理由がある正当な修正、やり直しを求めることは可能です。 〈23略〉 社会貢献事業について 〈24略〉 25 事業主が創業支援等措置として、他の事業主や団体が実施する社会貢献事業により高年齢者の就業機会を確保する場合、事業主は当該団体との間で、どのような契約を結ぶ必要がありますか。  事業主が他の事業主や団体等が実施する社会貢献事業により、高年齢者の就業機会を確保する場合には、事業主と社会貢献事業を実施する事業主等との間で、「社会貢献事業を実施する事業主等が高年齢者に対して社会貢献事業に従事する機会を提供することを約する契約」を締結する必要があります。(指針第2の3(1)イ参考)  契約を締結する方式は自由ですが、紛争防止の観点から、書面によるものとすることが望ましいと考えられます。書面による場合、例えば、別添2のような契約書が考えられます。 〈26 27略〉 5 創業支援等措置の労使合意 28 事業主が創業支援等措置を講じる場合の労使合意は、事業場単位で得なければならないのですか。  過半数労働組合等との同意は、基本的には、事業所単位で行われることを想定しています。  ただし、 ○企業単位で継続雇用制度を運用している ○各事業所の過半数労働組合等のすべてが内容に同意している(又は、すべてが労使協  定の労側当事者として加わっている等)場合まで、企業単位で労使協定を結ぶことを排除する趣旨ではありません。 29 創業支援等措置の実施計画において、12項目が列挙されていますが、労使合意していれば12項目すべてを定めなくても良いのでしょうか。  創業支援等措置について過半数労働組合等の同意を得る際には、原則として、実施計画にすべての記載事項を記載していただく必要があります。  ただし、下記Jの事項は、業務委託契約を締結する措置を講ずる場合および自社が実施する社会貢献事業に従事する措置を講ずる場合には、記載する必要はありません。また、Kの事項は、措置の対象者全員に適用される定めをしない場合には、記載する必要はありません。 (参考)創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項  @高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由  A高年齢者が従事する業務の内容に関する事項  B高年齢者に支払う金銭に関する事項  C契約を締結する頻度に関する事項  D契約に係る納品に関する事項  E契約の変更に関する事項  F契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)  G諸経費の取扱いに関する事項  H安全及び衛生に関する事項  I災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項  J社会貢献事業を実施する法人その他の団体に関する事項  K創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される定めをする場合においては、これに関する事項 30 創業支援等措置の実施計画の中に、安全衛生等、災害等に関する項目がありますが、創業支援等措置において、具体的にはどのようなことを想定しているのでしょうか。  同種の業務に労働者が従事する場合における労働契約法に規定する安全配慮義務をはじめとする労働関係法令による保護の内容も勘案しつつ、創業支援等措置を講ずる事業主において、委託業務の内容・性格等に応じた適切な配慮を行うことが想定されます。 31 業務委託契約において、事前に定めた基準を満たす成果物が納品されない場合でも、契約は継続しないといけないのでしょうか。  創業支援等措置の実施に関する計画においては、「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)」を記載することとされています。計画で定めた事由に該当する場合には、契約を継続しないことができます。 32 創業支援等措置の実施に関する計画について、自社にいない労働者(出向している労働者や特殊関係事業主に継続雇用されている労働者など)にも周知する必要があるのでしょうか。  省令に規定されている方法※によって周知を行い、自社にいない労働者も計画の内容を確認できる場合には、周知を行っていることとなります。  事業所への掲示等(下記一又は三)により周知を行う場合、自社にいない労働者がより計画を確認しやすいよう、事業所への掲示等に加えて、自社にいない労働者に書面を交付することが望ましいです。 ※ 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則(抜粋) 第4条の5第3項 事業主は法第十条の二第一項ただし書の同意を得た第一項の計画を、次に掲げるいずれかの方法によって、各事業所の労働者に周知するものとする。  一 常時当該事業所の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。  二 書面を労働者に交付すること。※労働者には、出向者等の自社にいない労働者を含む  三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、当該事業所に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。 別添1 別添2 別添として創業支援等措置の実施に関する計画を添付。 【P52-55】 労務資料A 第15回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 厚生労働省 政策統括官付参事官付世帯統計室  厚生労働省は、2005(平成17)年度から、団塊の世代を含む全国の中高年世代の男女を追跡し、その健康・就業・社会活動について意識面・事実面の変化の過程を継続的に調査しています。このほど、第15回(2019年)の結果がまとまりましたので、「就業の状況」を中心にその結果を紹介します。  この第15回調査の対象者の年齢は64〜73歳(2005年10月末現在で50〜59歳の全国の男女)、調査の期日は2019年11月6日、調査対象は2万903人、回収数は1万9930人、回収率は95・3%でした。(編集部) 就業の状況 (1)就業状況の変化  この14年間で、「正規の職員・従業員」の割合は減少、「パート・アルバイト」の割合はほぼ横ばい  第1回調査から14年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回38・5%から第15回4・1%と減少している。一方、「パート・アルバイト」は、第1回16・8%から第15回16・9%と、ほぼ横ばいの状況である(図表1)。  また、第1回で「仕事をしている」者について、性別に第15回の就業状況をみると、男の「(第1回)正規の職員・従業員」では「仕事をしていない」の48・1%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の17・7%、「労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託」の13・9%となっている。女の「(第1回)パート・アルバイト」では「仕事をしていない」の56・5%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の35・3%となっている(図表2)。 (2)就業希望と求職の状況  第15回調査で「仕事をしたい」が求職活動を「何もしていない」割合は12・2%であり、何もしていない理由は「病気・けがのため」、「希望する仕事がありそうにない」の割合が高い  第15回調査で「仕事をしていない」者について、就業希望の有無をみると、「仕事をしたい」者の割合は16・3%、「仕事をしたくない」者は80・9%となっている。また、「仕事をしたい」が求職活動を「何もしていない」者の割合は12・2%となっている。これを年齢階級別にみると、「64歳」で12・5%、「65〜69歳」で13・9%、「70〜73歳」で10・8%となっている。  また、求職活動をしていない理由別にみると、「病気・けがのため」の19・3%が最も高く、次いで「希望する仕事がありそうにない」の17・4%となっている(図表3)。 これからの生活設計  65〜69歳になっても仕事をしたい者は56・4%、70歳以降でも仕事をしたい者は39・0%  第15回調査時のこれからの仕事の希望をみると、「仕事をしたい」は「65〜69歳の仕事」では56・4%、「70歳以降の仕事」では39・0%となっている。  また、「仕事をしたい」者が希望している仕事のかたちは、「65〜69歳の仕事」、「70歳以降の仕事」のいずれの年齢でも、「雇われて働く(パートタイム)」が24・9%、14・7%と最も高く、次いで「自営業主」が10・5%、9・2%となっている(図表4)。  これからの仕事について、「仕事をしたい」理由では「生活費を稼ぐため、仕事をしなければならない」と答えた者が51・2%と最も高く、次いで「条件が合う仕事があるならしたい」の19・1%となっている。「仕事をしたくない」理由では「今まで十分に働き、今後は仕事以外のことがしたい」が47・9%と最も高く、次いで「健康面や家庭の理由で働くことができない」の32・6%となっている(図表5)。 図表1 第1回調査から第15回調査までの就業状況の変化 第1回 仕事をしている 自営業主、家族従業者 15.5% 会社・団体等の役員 4.7% 正規の職員・従業員 38.5% パート・アルバイト 16.8% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 3.8% 家庭での内職など、その他 2.3% 仕事のかたち不詳 0.2% 仕事をしていない 18.3% 不詳 0.0% 第2回 自営業主、家族従業者 15.2% 会社・団体等の役員 4.9% 正規の職員・従業員 35.8% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 4.3% 家庭での内職など、その他 2.6% 仕事のかたち不詳 0.3% 仕事をしていない 19.6% 不詳 0.0% 第3回 自営業主、家族従業者 15.2% 会社・団体等の役員 4.8% 正規の職員・従業員 32.8% パート・アルバイト 17.3% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 5.8% 家庭での内職など、その他 2.4% 仕事のかたち不詳 0.4% 仕事をしていない 21.4% 不詳 0.0% 第4回 自営業主、家族従業者 15.3% 会社・団体等の役員 4.6% 正規の職員・従業員 29.5% パート・アルバイト 17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 6.9% 家庭での内職など、その他 2.3% 仕事のかたち不詳 0.3% 仕事をしていない 23.5% 不詳 0.0% 第5回 自営業主、家族従業者 15.3% 会社・団体等の役員 4.2% 正規の職員・従業員 25.7% パート・アルバイト 17.0% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.8% 家庭での内職など、その他 2.3% 仕事のかたち不詳 0.2% 仕事をしていない 27.3% 不詳 0.0% 第6回 自営業主、家族従業者 15.0% 会社・団体等の役員 4.3% 正規の職員・従業員 22.4% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 8.3% 家庭での内職など、その他 2.3% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 30.1% 不詳 0.1% 第7回 自営業主、家族従業者 15.1% 会社・団体等の役員 4.1% 正規の職員・従業員 18.7% パート・アルバイト 17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.2% 家庭での内職など、その他 2.4% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 33.1% 不詳 0.1% 第8回 自営業主、家族従業者 14.8% 会社・団体等の役員 4.0% 正規の職員・従業員 15.8% パート・アルバイト 17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.2% 家庭での内職など、その他 2.6% 仕事のかたち不詳 0.0% 仕事をしていない 36.0% 不詳 0.4% 第9回 自営業主、家族従業者 14.6% 会社・団体等の役員 3.8% 正規の職員・従業員 12.9% パート・アルバイト 17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.1% 家庭での内職など、その他 2.8% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 39.0% 不詳 0.1% 第10回 自営業主、家族従業者 14.6% 会社・団体等の役員 3.9% 正規の職員・従業員 10.4% パート・アルバイト 17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.5% 家庭での内職など、その他 2.5% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 41.3% 不詳 0.2% 第11回 自営業主、家族従業者 14.3% 会社・団体等の役員 3.7% 正規の職員・従業員 7.9% パート・アルバイト 17.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.2% 家庭での内職など、その他 2.5% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 44.2% 不詳 0.2% 第12回 自営業主、家族従業者 14.1% 会社・団体等の役員 3.6% 正規の職員・従業員 6.5% パート・アルバイト 17.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 8.8% 家庭での内職など、その他 2.5% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 46.3% 不詳 0.1% 第13回 自営業主、家族従業者 13.8% 会社・団体等の役員 3.5% 正規の職員・従業員 5.5% パート・アルバイト 17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.8% 家庭での内職など、その他 2.6% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 48.9% 不詳 0.1% 第14回 自営業主、家族従業者 13.5% 会社・団体等の役員 3.2% 正規の職員・従業員 4.6% パート・アルバイト 17.4% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.2% 家庭での内職など、その他 2.7% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 51.1% 不詳 0.2% 第15回 自営業主、家族従業者 13.1% 会社・団体等の役員 3.2% 正規の職員・従業員 4.1% パート・アルバイト 16.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 6.2% 家庭での内職など、その他 2.6% 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 53.6% 不詳 0.3% 図表2 性、第1回調査の就業状況別にみた第15回調査の就業状況 (単位:%) 第15回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 仕事をしている 自営業主、家族従業者 会社・団体等の役員 正規の職員・従業員 パート・アルバイト 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 家庭での内職など、その他 仕事をしていない 性・第1回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 (100.0)100.0 46.1 13.1 3.2 4.1 16.9 6.2 2.6 53.6 仕事をしている (81.7)100.0 54.0 15.5 3.7 4.9 19.4 7.4 2.9 45.8 仕事をしていない (18.3)100.0 11.3 2.3 0.5 0.6 6.0 0.7 1.1 88.1 男 (100.0)100.0 56.9 17.7 5.4 6.3 14.3 10.6 2.6 42.9 仕事をしている (95.3)100.0 58.8 18.4 5.6 6.5 14.6 11.0 2.7 41.1 自営業主、家族従業者 (18.7)100.0 79.8 64.5 3.8 1.8 5.0 2.4 2.3 20.1 会社・団体等の役員 (8.1)100.0 68.7 10.9 35.1 5.1 8.1 7.0 2.5 31.3 正規の職員・従業員 (61.3)100.0 51.7 6.6 2.8 8.3 17.7 13.9 2.4 48.1 パート・アルバイト (2.1)100.0 46.3 7.3 0.6 1.8 23.8 8.5 4.3 53.7 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.7)100.0 56.9 7.0 0.3 5.7 20.1 18.1 5.7 43.1 家庭での内職など、その他 (1.3)100.0 52.9 11.8 2.9 2.9 15.7 6.9 12.7 47.1 仕事をしていない (4.7)100.0 20.1 3.2 1.6 2.7 7.0 3.2 1.9 79.9 女 (100.0)100.0 37.1 9.3 1.3 2.3 19.2 2.5 2.5 62.5 仕事をしている (70.3)100.0 48.5 12.3 1.7 3.1 24.8 3.3 3.2 51.2 自営業主、家族従業者 (12.9)100.0 70.0 54.5 2.4 1.0 8.8 0.5 2.8 29.9 会社・団体等の役員 (1.9)100.0 63.0 13.0 33.7 4.3 8.7 1.1 2.2 35.9 正規の職員・従業員 (19.5)100.0 42.7 2.5 0.7 7.8 22.6 6.0 3.0 57.2 パート・アルバイト (29.0)100.0 43.2 2.1 0.1 1.2 35.3 2.1 2.3 56.5 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.8)100.0 47.9 1.4 1.1 2.2 29.9 11.1 2.2 51.5 家庭での内職など、その他 (3.1)100.0 37.5 7.2 − 1.0 11.6 2.4 15.0 62.1 仕事をしていない (29.7)100.0 10.2 2.2 0.4 0.3 5.8 0.4 1.0 89.2 注:総数には第1回及び第15回の仕事の有無・仕事のかたちの不詳を含む 図表3 年齢階級別にみた第15回調査で「仕事をしていない」者の就業希望の有無・求職活動の有無・求職活動をしていない理由 (単位:%) 総数 64歳 65〜69歳 70〜73歳 第15回の就業希望の有無・求職活動の有無・求職活動をしていない理由 総数 100.0 100.0 100.0 100.0 仕事をしたい 16.3 18.9 18.5 14.2 仕事探し・開業準備をしている 3.7 6.0 4.3 3.0 仕事を探している 3.5 5.8 4.0 2.8 開業の準備をしている 0.2 0.2 0.3 0.1 何もしていない (100.0)12.2 (100.0)12.5 (100.0)13.9 (100.0)10.8 探したが見つからなかった (10.5)1.3 (6.9)0.9 (10.4)1.5 (11.0)1.2 希望する仕事がありそうにない (17.4)2.1 (13.8)1.7 (20.0)2.8 (15.0)1.6 知識・能力に自信がない (3.6)0.4 (6.9)0.9 (4.4)0.6 (2.3)0.2 病気・けがのため (19.3)2.4 (29.3)3.7 (18.6)2.6 (19.0)2.1 高齢のため (15.4)1.9 (6.9)0.9 (8.0)1.1 (24.4)2.6 家事や育児のため (4.4)0.5 (5.2)0.6 (4.9)0.7 (3.6)0.4 家族の介護・看護のため (8.0)1.0 (10.3)1.3 (11.0)1.5 (4.6)0.5 急いで仕事に就く必要がない (12.7)1.6 (15.5)1.9 (13.6)1.9 (11.4)1.2 その他 (8.7)1.1 (5.2)0.6 (9.2)1.3 (8.6)0.9 仕事をしたくない 80.9 80.0 78.9 82.7 注:1)第15回で「仕事をしていない」者について集計 2)総数には第15回の就業希望の有無・求職活動の有無の不詳を含む 図表4 これからの仕事の希望 (単位:%) 総数 仕事をしたい 自営業主 家業の手伝い 家庭での内職など 雇われて働く フルタイム パートタイム 近所の人や会社に頼まれて 有償型の社会参加活動 その他 仕事はしたくない まだ考えていない 65〜69歳の仕事 100.0 56.4 10.5 3.7 1.4 8.8 24.9 2.8 1.7 2.5 31.3 12.3 70歳以降の仕事 100.0 39.0 9.2 3.4 1.7 2.4 14.7 3.1 2.2 2.3 44.6 16.4 注:「65〜69歳の仕事」は第15回で「64〜68歳」の者を、「70歳以降の仕事」は第15回で「64〜73歳」の者を集計 図表5 「仕事をしたい」と希望している者の「仕事をしたい」理由・「仕事はしたくない」と希望している者の「仕事をしたくない」理由 仕事をしたい理由 生活費を稼ぐため、仕事をしなければならない 51.2% 企業への貢献や生きがいのため、ぜひ仕事をしたい 11.3% 条件が合う仕事があるならしたい 19.1% その他 9.4% 不詳 9.1% 仕事をしたくない理由 自分が思っている収入が得られない 1.1% 自分の経験や知識に合う仕事がみつからない 3.6% 今まで十分に働き、今後は仕事以外のことがしたい 47.9% 健康面や家庭の理由で働くことができない 32.6% その他 13.9% 不詳 0.9% 注:仕事をしたい理由は、これからの仕事の希望で「仕事をしたい」と回答した者、仕事をしたくない理由は、「仕事はしたくない」と回答した者を集計 【P56-57】 BOOKS 「ワーク・ライフ社員」を受け入れ、それぞれの能力を活用するための方策を示す シリーズ ダイバーシティ経営 働き方改革の基本 佐藤博ひろ樹き、武石恵美子 責任編集/佐藤博樹、松浦民恵、高見(たかみ)具広(ともひろ) 著/中央経済社/2750円  本誌2020(令和2)年12月号と2021年2月号のこのコーナーで紹介した「シリーズダイバーシティ経営」の第3弾。本書は、働き方改革の基本をテーマに、多様な人材が能力を発揮するダイバーシティ経営の土台となる働き方改革や、そのにない手となる管理職の役割などを示している。  働き方改革の取組みは徐々に進展しつつあるが、長時間労働の解消のみが目的となっている内容が多く見受けられる。もちろん長時間労働の解消は大事なことだが、本書では、働き方改革で解消すべき課題は、仕事が終わらなければ残業すればよいと考える「安易な残業依存体質」であると指摘。その体質を解消し、ダイバーシティ経営や社員のワーク・ライフ・バランスを実現するための取組みにすることが求められるとして、労働時間の多様化、管理職の登用、勤務場所の柔軟化、テレワークなどについての考え方や取組みのポイントを説いている。  また、仕事以外の生活も大事にしたい「ワーク・ライフ社員」を増やしていくことにつながる「生活改革」の必要性も提示。働き方改革と生活改革の好循環の実現に向けて、個人や企業がやるべきことを考察している。 元気に働き、幸せに生きて、健康寿命を延ばすには? ハッピーエイジング リズミカルに生きると体は老いない 佐藤信紘(のぶひろ) 編著/毎日新聞出版/1650円  本書のタイトル「ハッピーエイジング」とは、「幸福寿命」を意味し、病気や障害があっても、孤独感なく、社会の支援を受けながら多様なかたちで自立し、幸せに生活できることを表しているという。本書は、順天堂大学でジェロントロジー(老年学)の講座を担当する医師や研究者らが、「健康長寿」と「幸福寿命」を実践する秘訣を、わかりやすく説いた一冊。  ハッピーエイジングの秘訣は「動き、楽しみ、人を喜ばせる」を続けること。リズミカルに生きるために、「動けるからだづくり」や「ひざ学」、転倒のリスクや予防方法、栄養改善、これからの高齢者医療などを紹介している。  働きがいを感じられる仕事を持ち、少し休みを増やしながらも社会参加を続けていくことも秘訣に含まれるようだ。仕事をすることで、社会とのネットワークを持続し、体を動かし、動くことを楽しみ、周囲の人を喜ばせる活動を続けることにより、周囲との共生が生まれ、生涯自分は現役だと感じられることも、「ハッピーエイジング」の実践であるという。  生涯現役を目ざす中高年はもとより、シニア社員の活躍推進に力を入れる経営者や人事労務担当者にとってもためになる良書である。 緊急対策として打ち出された政策の過去・現在を検証し、今後に活かす 新型コロナウイルスと労働政策の未来 濱口(はまぐち)桂一郎 著/独立行政法人労働政策研究・研修機構/1100円  新型コロナウイルス感染症が国内で確認されて1年3カ月。このウイルスは、日本の労働政策にどのような影響をもたらしているのか。  本書は、2020(令和2)年8月20日に開催された東京労働大学特別講座「新型コロナウイルスと労働政策の未来」の内容をブックレットとしてまとめたもの。著者の濱口桂一郎氏は労働政策研究・研修機構労働政策研究所所長であり、本誌2020年9月号「リーダーズトーク」に登場していただいた。  本書では、新型コロナウイルス感染症への緊急対策として打ち出された政策のうち、大きく四つ(@雇用維持、A非正規雇用、Bフリーランス、Cテレワーク)に分けた各労働政策について、歴史的経緯をふり返りつつ、その政策的意義について検討・分析を行っている。  具体的には、雇用調整助成金の要件緩和や適用拡大、新たな休業支援金の制定、アルバイト学生へのセーフティネットの構築、学校休校によってクローズアップされたフリーランスへのセーフティネット、一斉に拡大したテレワークの経緯や現在の問題点など。コロナ禍において浮き彫りになった課題にも目を向けて、労働政策の未来に活かしていく内容となっている。 2020年10月の最高裁判決に対応した最新版 同一労働同一賃金Q&A 第3版 ガイドライン・判例から読み解く 高仲(たかなか)幸雄(ゆきお) 著/経団連出版/2200円  働き方改革関連法によって「同一労働同一賃金」に関する法改正が行われ、高齢者の雇用、とりわけ定年後の再雇用者の待遇にも大きな影響がもたらされた。改正法は2020(令和2)年4月に施行され、2021年4月からは、中小企業でも対応が求められるようになった。こうしたなか、2020年10月に出された同一労働同一賃金をめぐる5件の最高裁判決が大きな注目を集めたことで、人事労務担当者のなかには、自社の賃金制度をあらためて見直した方も少なくないのではないかと思われる。  本書は2019年に同一労働同一賃金の実務解説書として発刊し、好評を博した書籍の改訂版で、前述した最高裁判決5件の内容をふまえた改定増補版ともいえるもの。「1.総論」、「2.均衡待遇・均等待遇の規制」、「3.待遇ごとの検討」、「4.待遇差の説明義務」、「5.派遣労働者の待遇」、「6.その他」からなる。Q&A部分の構成には変更はないが、解説文の随所に最高裁判決をふまえた留意点が新たに盛り込まれている。「均衡待遇・均等待遇をめぐる判例・裁判例の概要」をはじめとした、「参考資料」も充実しており、同一労働同一賃金の全体像をつかむための格好の入門書といえるだろう。 大規模調査のデータを活用し、日本人の健康状態を左右する要因を探る 日本人の健康を社会科学で考える 小塩(おしお)隆士(たかし) 著/日本経済新聞出版/2640円  日本社会の高齢化とともに、健康問題への関心が高まっている。健康問題の解明は医学の専門家によるものが多くを占めるが、本書は、教育や社会保障などの実証分析で知られる社会科学の研究者が、社会的な要因によって左右される日本人の健康の実態を明らかにするために取り組んだ研究成果をまとめたところに特徴がある。経済政策や社会政策と健康との相関関係について、多くの興味深い見解が示されている。  著者は、厚生労働省が公表している「国民生活基礎調査」や「中高年者縦断調査」などの大規模な社会調査のデータを分析に活用し、「就職氷河期世代の健康状態」、「非正規雇用の健康面からの評価」、「中高年の健康格差と学歴の違い」、「家族の介護と中高年のメンタルヘルス」などを実証的に分析している。60歳以上の高齢者の労働を健康面から取り上げる「第7章 高齢者はどこまで働けるか」では、「60歳台後半でも男性は三割、女性は二割程度就業率を引き上げる余地がある」と言及しており、健康寿命の現状をふまえれば、実感として、妥当な指摘といえるのではないか。これからの高齢者雇用のあり方を再検討する際にも役立つ、貴重な研究成果として一読をおすすめしたい。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和2年障害者雇用状況  厚生労働省は、民間企業や公的機関などにおける2020(令和2)年の障害者雇用状況をまとめた。障害者雇用促進法では、事業主に対し、常時雇用する従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを義務づけている。同法に基づき、毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用状況について、障害者の雇用義務のある事業主などに報告を求め、それを集計した。  集計結果によると、2020年6月1日現在における一般民間企業(規模45・5人以上の企業:法定雇用率2・2%)での障害者の実雇用率は2・15%(前年2・11%)で、9年連続で過去最高を更新した。また、法定雇用率を達成している企業の割合は48・6%(前年48・0%)となっている。  企業規模別にみた障害者の実雇用率は、45・5〜100人未満で1・74%(前年1・71%)、100〜300人未満で1・99%(同1・97%)、300〜500人未満で2・02%(同1・98%)、500〜1000人未満で2・15%(同2・11%)、1000人以上で2・36%(同2・31%)となっている。また、法定雇用率を達成している企業の割合(規模別)は、45・5〜100人未満が45・9%(前年45・5%)、100〜300人未満が52・4%(同52・1%)、300〜500人未満が44・1%(同43・9%)、500〜1000人未満が46・7%(同43・9%)、1000人以上が60・0%(同54・6%)となっている。 厚生労働省 「平成30年高齢期における社会保障に関する意識調査」結果  厚生労働省は、「平成30年高齢期における社会保障に関する意識調査」の結果をまとめた。同調査は、老後の生活感や社会保障に関する負担のあり方などについての意識を調査し、社会保障制度改革をはじめとした今後の厚生労働行政施策の企画・立案のための基礎資料を得ることを目的としている。今回の調査は、「平成30 年国民生活基礎調査」の対象単位区から無作為に抽出した360単位区内のすべての世帯の20歳以上の世帯員を対象に、2018(平成30)年7月に実施し、9275人の有効回答を集計した。  調査結果から、何歳まで働きたい(収入を伴う仕事をしたい)かについてみると、多い順に「65歳まで」が24・9%、「70歳まで」が19・4%、「60歳まで」が16・6%となっている。また、「生涯働きつづけたい」は7・8%となっている。年齢階級別にみると、年齢階級が上がるにつれて働きたいとする年齢が高くなっている。  老後に働く場合、どのような働き方を希望するかについては、「働く日数を減らしたり、時間を短くして働きたい」が最も多く51・8%、次いで「老後は働かずに過ごしたい」が28・0%、「現役世代と同じようにフルタイムで働きたい」が5・1%となっている。  老後の生計を支える手段として最も頼りにする(1番目に頼りにする)収入源については、「公的年金(国民年金や厚生年金など)」が最も多く58・2%、次いで「自分の就労による収入」が18・7%となっている。 調査・研究 日本経済団体連合会 「2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」  日本経済団体連合会は、「2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」を発表した。同調査は、1969(昭和44)年から毎年実施しており、今回の調査は、同会の会員企業(計1442社)の労務担当役員らを対象に2020年8月〜9月に実施。419社から回答を得た。  調査結果から、高齢者雇用に関する項目をみると、「70歳までの高年齢者就業確保措置」の取組状況は、「対応について検討中」と「まだ検討していない」が43・3%で並び、「具体的な対応を決定済」が9・1%となっている。  「70歳までの高年齢者就業確保措置」に関する対応状況(複数回答/あてはまるものすべて)について「決定済」の措置は、「継続雇用措置の導入(自社・グループ)」が最も多く90・6%、次いで「定年引上げ」が11・3%、「継続雇用制度の導入(他社)」と「業務委託契約を締結する制度」がともに7・5%となっている。また、「検討予定」の措置は、「継続雇用措置の導入(自社・グループ)」が最も多く80・4%、次いで、「定年引上げ」が38・7%、「継続雇用制度の導入(他社)」が24・4%となっている。  「70歳までの高年齢者就業確保措置」における対象者基準の設定の有無について、「継続雇用措置の導入(自社・グループ)」の項目をみると、「設定する」が47・3%、「設定しない」が4・8%、「未定」が47・9%となっている。 介護労働安定センター 「令和元年度介護労働実態調査」(特別調査)結果  介護労働安定センターが2018(平成30)年度に実施した介護労働実態調査によると、65歳以上の労働者が全体の1割を超え、60歳以上の労働者については全体の2割を超えており、約5人に1人が高齢者という状況となっていた。このことから同センターは、60歳以上の労働者の実態について、2018年度調査データの再分析を実施した。また、介護事業所における人材不足対策として期待される高齢者などの多様な人材の活躍について、ヒアリング調査を実施した。  再分析の結果から、業務上の事故やけがなどの有無を職種別(60歳以上)でみると、介護職員で「あった」が18・7%となっており、訪問介護員やそのほかの介護系職種に比べて回答割合が高くなっている。  また、ヒヤリ・ハットの経験を職種別(60歳以上)でみると、介護職員で「あった」が55・0%と、ほかの職種に比べて回答割合が高く、「なかった」を上回っている。  次に、ヒアリング調査結果から、高年齢者活用のポイントをみると、「@モチベーションを維持し、成長を支援する取組、A体力や家庭状況に配慮した仕事分担、B高年齢者の知識・経験の尊重の3点が重要であると考えられる」などの結果をまとめている。  調査結果の詳細は、左記の介護労働安定センターのホームページに掲載されている。  http://www.kaigo-center.or.jp/report/2020r02_t_chousa_02.html 発行物 日本商工会議所・東京商工会議所 ガイドブック「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」公開  日本商工会議所と東京商工会議所は、主として中小企業向けに「同一労働同一賃金」の内容をわかりやすく解説したガイドブック「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」を作成し、ホームページ上に公開した。  「同一労働同一賃金」への対応について、日本商工会議所が2020年10月に実施した調査結果で、「対応済・対応の目途が付いている」と回答した企業は52・0%にとどまっていた。また、「制度の内容がわかりづらい」との声も受けて、ガイドブックは、中小企業の「同一労働同一賃金」への対応の一助となることを目的として作成された。  ガイドブックは、3章立てで全58ページ。第T章では、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方、厚生労働省のガイドラインの内容、待遇差の説明義務などについて、図やイラストを多用してわかりやすく説明している。第U章では、ガイドラインの考え方と裁判例を示してそれらをふまえつつ、企業が対応を進めるうえでのポイントを待遇や手当ごとに整理して、ていねいに解説。また、2020年10月に示された5つの重要な最高裁判決をふまえての留意すべきポイントを参考としてまとめている。第V章では、公的な支援策を紹介している。  ガイドブックは全国の商工会議所窓口などで配布しているほか、日本商工会議所、東京商工会議所のホームページからダウンロードできる。 福山市生涯現役促進地域連携協議会 「生涯現役促進! 企業向け啓発ガイドブック」を新たに発行  福山市生涯現役促進地域連携協議会(広島県福山市)は、「生涯現役促進! 企業向け啓発ガイドブック」の新刊を発行した。  同協議会は、高齢者(55歳以上)の雇用機会を確保するため、福山市内の関係機関11団体で構成する協議会。高齢者と地元企業とのマッチング機会の場の提供や、スキル習得支援などを通して就労意欲のある高齢者が活躍できる環境整備を行い、「生涯現役のまち」を目ざしている。  ガイドブックは、2019年5月に発行された旧ガイドブックの情報を最新の内容にするとともに、シニア人材を活用する企業や社会福祉法人の取組み事例を追加した内容となっている。  シニア人材の活用事例では、定年制度を設けず技術のある高齢者を柔軟な対応で継続雇用しているアパレルメーカーや、定年を60歳から順次75歳に引き上げるとともに異業種で働いていたシニアの新規採用を積極的に行っている創業400年の和菓子製造業など、12社の取組みと取組みによる職場の変化、働くシニアへのインタビュー、さらなるシニアの活躍のために始めたことや思いなども紹介している。  このほか、シニア人材活用のメリットとポイント、シニアへのアンケート調査結果、シニア人材活用の取組み方法、公的支援サービスや助成金制度などについても掲載している。  ガイドブックは左記のホームページからダウンロードできる。 https://fukuyama-geneki.jp/ 【P60】 次号予告 5月号 特集 歴史に学ぶ高齢者雇用 リーダーズトーク 永坂順二さん(株式会社ファンケル上席執行役員 管理本部本部長) お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今回の特集は「年金」をテーマにお届けしました。国民年金、厚生年金のいわゆる「公的年金」は、保険料も受給額も法律に基づいて定められているものですが、生年月日や加入期間、支給開始年齢の繰上げ・繰下げなど、さまざまな条件で受給額が変わるその難解さに苦労している方は少なくないのではないでしょうか。一方、企業型DCやiDeCoのいわゆる「私的年金」は、老後に備えて企業や個人が独自に加入する制度ではありますが、その運用は法律に基づいており、こちらも人事・労務に関わる場合は押さえておきたい仕組みといえます。  いずれも近年の法改正で制度が変更されていることから、本特集では、各種法改正の内容とともに、老齢厚生年金の仕組みや、年金に関する労務管理上の手続きなどについて解説しました。  総論(7頁)で、玉木先生が述べられているように、公的年金は「保険」であり、仕事から離れた後の私たちの生活を経済面から支援する仕組みです。「生涯現役時代」、「人生100年時代」といわれるこれからの社会においては、その重要性はますます増していくといえるのではないでしょうか。  本特集を機に、従業員の方のライフプランニング支援などにつなげていただければ幸いです。 ●この4月より、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が施行されました。読者のみなさまにおかれましては、70歳まで働ける制度・職場づくりに努めていただきますよう、よろしくお願いいたします。当機構では、改正法の施行に合わせて、70歳までの雇用推進に向けて必要な施策や具体的手順についてまとめた『70歳雇用推進マニュアル』(裏表紙参照)を発行しました。当機構ホームページで公開しておりますので、そちらもぜひご覧ください。 『エルダー』読者のみなさまへ  2021年5月号は、大型連休の関係から、お手元に届く日程が通常よりも数日遅れることが見込まれています。ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします。ご不明の点は当機構企画部情報公開広報課(電話:043-213-6216)までおたずねください。 お詫びと訂正 『エルダー』2021年3月号にて、下記の通り誤りがありました。謹んでお詫び申し上げるとともに下記の通り訂正をさせていただきます。 訂正箇所 8頁 脚注※1 誤(令和2年6月1日時点) 正(令和元年6月1日時点) 46頁 労務資料 誤 厚生労働省 職業安定局 雇用開発部 高齢者雇用対策課 正 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課 月刊エルダー4月号 No.497 ●発行日−−令和3年4月1日(第43巻 第4号 通巻497号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ※令和3年4月1日から、上記メールアドレスに変更となりました ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-790-9 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.315 経験豊富な測定技能で精密測定器の品質を支える 機械検査工 山納(さんのう)孝雄(たかお)さん(62歳) 測定技能に加えて部品の製造ノウハウも知っていることで品質の改善や新製品開発期間の短縮などに役立つ提案ができます 測定技能を駆使して新製品の開発期間短縮に貢献  工業製品が問題なく機能するのは、製品を構成する部品一つひとつが精密な検査を経て組み立てられているからである。その検査をになう熟練の機械検査工は、ものづくりの現場になくてはならない存在といえる。精密測定機器メーカーとして知られる株式会社ミツトヨ宇都宮事業所で、40年以上にわたり品質管理に従事してきた山納孝雄さんも、その一人だ。  職場は、産業界で広く使用されているノギス※1やハイトゲージ※2を生産する測器工場。検査を通じた部品や製品の品質維持・向上はもとより、検査方法の標準化などにもたずさわってきた。特に新製品開発や製品のリニューアルでは、各部品の新たな評価のため、さまざまな測定が求められる。山納さんは各種の測定機器を駆使し、高精度の測定による正確な評価を行い、新製品の開発からリリースまでの期間短縮にも貢献。長年にわたる功績が認められ、2020(令和2)年11月、厚生労働大臣表彰の「卓越した技能者(現代の名工)」に選ばれている。 部品製造プロセスの知識を品質改善に活かす  山納さんの技能において特筆すべきは、精密な計測の技能に加えて、検査の対象となる部品や金型などの製造・加工技術についての知識が豊富なことだ。そのため、検査で品質に問題が見つかった場合には、製造工程にさかのぼって改善策を提案することができる。  「例えば、プラスチックの射出成形の場合、金型のゲート(注入口)から注入した溶融樹脂の二つの流れが合流する部分にウェルドと呼ばれる筋ができることがあります。原因は、合流部分がゲートから離れており、注入した樹脂が冷えてから合流したためです。ウェルドができて外観上不具合がある場合は、問題を指摘するだけでなく、金型のゲートの位置を変更させるなどの改善を提案します」  山納さんは入社後16年間、外注部品の受入れ検査に従事。協力会社から納品される部品の品質向上のために、協力会社とともに改善に取り組むなかで、金属加工・成形加工・射出成形・表面処理などの知識を身につけた。豊富な経験に基づく幅広い知見が、同社製品の品質向上や開発期間の短縮などに活かされている。 社内外の多くの後進に検査技能を伝承  現在、山納さんのもとには、評価を必要とする部品や金型が持ち込まれるほか、工場内のさまざまな部門から測定に関する相談が寄せられ、測定方法を教えることも多い。工場内では「測定で困ったことがあったら山納さんに聞け」が合言葉になっているようだ。  「私にとってはみな、お客さまと同じなので『忙しいからダメ』とはいいません。測定に関する知識や技能を、余すことなく多くの人に伝承したいと思っています」  後進の育成にも精力的に取り組んでいる。入社2年目の若手社員に研修を行う「ミツトヨ技能開発センター」では、機械検査作業・測定実技の指導員を14年間にわたり務めてきた。さらに、企業の計測担当者の養成をになう「ミツトヨ計測学院」の講師や、栃木県職業能力開発協会の技能検定試験の機械検査の主席検定員も務める。  「機械検査技能士の輩出にたずさわれることに喜びとやりがいを感じています。ミツトヨ計測学院の講座では、参加者のみなさんに書いていただいたアンケートを家に持ち帰り、『ためになる講座で、さっそく職場に戻り実践します』といった感想を、晩酌をしながら読むのが至福のひとときです」  山納さん自身、普通科高校出身だったこともあり、知識不足で一時は転職を考えるほど悩んだり、技能検定試験に落ちたこともある。しかし、その後心機一転して努力し、1級技能士や職業訓練指導員免許を取得した。苦労した経験のある山納さんの指導は、多くの後進にとって励みになっているのではないだろうか。 株式会社ミツトヨ宇都宮事業所 TEL:028(656)1111(代表) https://www.mitutoyo.co.jp/ (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※1 ノギス……対象物の長さや厚さなどを測定する工具 ※2 ハイトゲージ……対象物の高さを測定する工具 写真のキャプション 1/1000mm単位で計測できる「高性能高さ測定器」の測定方法を指導。「正確に測定するには、対象物に測定子をソフトにあてることがコツ」と山納さん 左:金型の品質を顕微鏡で検査する方法を指導。課内だけでなく他部門の社員に測定方法を教えることも多い/右:企業内職業訓練認定校「ミツトヨ技能開発センター」の卒業試験にあたる「技能照査試験」で寸法測定を検定(写真は2016年)(提供:株式会社ミツトヨ) 宇都宮事業所ではノギス、ハイトゲージ、三次元測定機などを生産する 技能検定の一つ、「三針法によるねじプラグゲージの有効径測定」を実演。1/1000mm単位まで正確に測定するには、対象物や工具の清掃も欠かせない 山納さんが所属する品質管理課品質管理係のみなさん。各種の測定方法に精通し、主管製品の検査を一通り経験している山納さんは、頼れる存在だ 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は注意力を鍛える課題です。特に「持続的な注意」を鍛えます。とびそうになる意識をつなぎ留めながらがんばってください。スムーズに見つけられるまで何度でもくり返しましょう。 第46回 数字さがし 目標 3分 1〜50の数字で、抜けているものが2つあります。 それは何と何でしょう。 答え 答え 記憶力や注意力を高める方法  記憶力や注意力を高めるには、まずは物事に興味を持つこと、おもしろいと思うことが大切になってきます。  今回は「探して解く脳トレ問題」ですが、ただ探すだけでは解けず、物事は覚えられません。探しながら、「あった!」、「わかった!」と思えればしめたものです。もし解けなくても答えを見て、悔しい思いをしたのならば、それはそれでよいことです。  先月号でも紹介しましたが、このような感動や悔しさの感情が加わることで、脳に大きなインパクトを与えて、記憶が残りやすくなるのです。  また、脳が情報を得ると、前頭前野にもち込まれて「好き・おもしろい」とか「嫌い・つまらない」と判断・理解されます。このとき、「好き・おもしろい」と感じれば脳の働きを高めますし、「嫌い・つまらない」と感じたら脳の働きは止まります。  「なるほど!」と思った情報は、「自分もやってみたい」という気持ちを起こさせ、自分の考えを生み出し記憶として伝えられます。この思考回路は、エンドレスに回る渦のようになっているので、くり返し考えることで新しい発想が生まれるのです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 23 46 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年4月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進マニュアル』のご案内 改正高齢法や雇用施策の考え方、人事制度改定の手順などを解説  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることが企業の努力義務となりました。そこで当機構では厚生労働省と連携して、70歳までの就業機会確保措置を講じるためのポイントをまとめた『70歳雇用推進マニュアル』を発行しました。 ポイント 1 改正法をわかりやすく解説 ポイント 2 「70歳雇用」を進めるための考え方や施策を解説 ポイント 3 人事制度改定の具体的手順を解説 先進企業の事例も多数紹介しています 『70歳雇用推進マニュアル』は、当機構ホームページよりダウンロードできます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/date/manual.html 70歳雇用推進マニュアル 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9530 FAX:043-297-9550 2021 4 令和3年4月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第4号通巻497号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会