【表紙2】 助成金のごあんない 〜65歳超雇用推進助成金〜 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて5万円から160万円 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円  (中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者無期雇用転換コース 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)とは、『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)』が要件です。 (企業の場合) 生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 〜障害者雇用助成金〜 障害者作業施設設置等助成金  障害の特性による就労上の課題を克服・軽減する作業施設等の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の2/3 (例)障害者用トイレの設置、拡大読書器の購入、就業場所に手摺を設置 等 障害者福祉施設設置等助成金  障害の特性による課題に応じた福利厚生施設の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の1/3 (例)休憩室・食堂等の施設、施設に附帯する玄関、トイレ等の附帯施設・付属設備の設置・整備 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @職場介助者の配置または委嘱 A職場介助者の配置または委嘱の継続 B手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 C障害者相談窓口担当者の配置 D職場復帰支援 E職場支援員の配置または委嘱 助成額 @B 支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 1人につき月額4万5千円 外 E 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @住宅の賃借 A指導員の配置 B住宅手当の支払 C通勤用バスの購入 D通勤用バス運転従事者の委嘱 E通勤援助者の委嘱 F駐車場の賃借 G通勤用自動車の購入 助成額 支給対象費用の3/4 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 @訪問型職場適応援助者 A企業在籍型職場適応援助者 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 障害者雇用の助成金に係る動画はこちら→  お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.72 年齢上限なしの雇用の継続や柔軟な働き方が社員との信頼関係を生む 株式会社ファンケル 上席執行役員・管理本部長 永坂順二さん ながさか・じゅんじ 2005(平成17)年、株式会社ファンケル入社。新物流センター設置のプロジェクトリーダー、人事部給与厚生グループマネージャー、人事部部長などを経て、2015年7月より執行役員人事部部長。2020(令和2)年6月より現職。  2020(令和2)年に創業40周年を迎えた株式会社ファンケルでは、2017(平成29)年に、定年後再雇用時に年齢の上限なく本人の希望に応じた柔軟な働き方を可能にする「アクティブシニア社員制度」を導入しました。2020年には定年を65歳へ延長するなど、意欲も能力もあるシニア層の活躍推進のため、さまざまな取組みを進めています。今回は、上席執行役員・管理本部長の永坂順二さんにお話をうかがいました。 「アクティブシニア社員制度」の新設後は70歳への延長も視野に65 歳定年制を導入 ―貴社では2017(平成29)年4月より、65歳で雇用契約が終了するそれまでの制度をあらため、年齢の上限なしに働ける「アクティブシニア社員制度」を新設しました。制度導入の背景と目的について教えてください。 永坂 これまで正社員は、60歳定年後に嘱託社員として65歳まで再雇用する制度がありました。当社は2020年で創業40周年を迎えますが、創業期は工場や配送部門を含めて女性のパート社員が多く、その後正社員となり、一生懸命にがんばってくれたおかげで業績も向上し、今日のファンケルを築き上げてきました。今後徐々に、その人たちが引退の時期にさしかかるのですが、みなさんとてもお元気です。本当に引退する人は少なく、次の仕事先を探す人が多いのが現状です。しかし、65歳からまったく違う環境でゼロから働くのはたいへんですし、なによりファンケルで何十年も働いてきた人に年齢だけで「さようなら」というのはどうなのか。当社は創業理念に「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」を掲げていますが、不≠ニは不便・不安・不満という意味です。会社が社員に不≠つくってどうするんだということです。  そこで社員にアンケート調査をすると、40代前半までの若い層は、「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が多い反面、40代後半から60代の層は「65歳で一区切りをつけたい」、「正社員としてフルで働きたくない」という人も多かったのです。世代によって働き方に対する考えにも違いがあります。一律に同じ制度にするのはむずかしいため、65歳以降は年齢上限なしに週4日や1日5時間など、勤務日数や時間については会社が本人の希望を聞いて柔軟に働くことができる「アクティブシニア社員制度」を新設したのです。また、契約社員やパート社員は65歳で契約満了となりますが、65歳以降もアクティブシニア社員として働くことができます。 ―雇用年齢の上限もなく、働き続けたい人はいわば生涯働くことができるわけですが、会社として不安はありませんか。 永坂 もちろん健康であることが第一の条件です。毎年1回、健康診断の結果や体調をみて判断します。また当社の健康支援室では5人の常勤保健師が3700人の全社員の健康状態を個別に管理しています。アクティブシニア社員についても何か問題があれば報告を受けますし、次の契約をどうするか判断できる仕組みになっています。スタート時点ではアクティブシニア社員の該当者が少なく2人でしたが、いまは14人。女性が10人、男性が4人ですが、希望した人のほぼ全員が働いています。制度スタート時の該当者は現在69歳、71歳の人も2人います。部長、課長、係長経験者もいますし、週4日勤務の人もいれば、短時間勤務の人もいますが、ほとんどがフルタイム勤務です。14人には「生涯働いてください」と声をかけ励ましています。  制度開始時「なぜいま始めたのですか」と聞かれましたが、対象者が少ないタイミングで導入したほうがよいのです。いきなり100人のシニアが一緒に働くことになれば社員も困惑するでしょうし、2人からスタートすれば5年、10年後は普通の光景になります。 ―2020(令和2)年4月には、正社員の定年を65歳に延長しましたね。 永坂 世の中全体が高齢化するなかで、国も定年延長を推奨していますし、一企業として社会のためにもそうした制度が必要だと考えました。社内的には「アクティブシニア社員制度」を導入したことでシニアが実際に働けるということを確認していますし、そうであれば65歳までしっかり働いてもらおうと定年を延長したのです。当然、その後は70歳定年も視野に入れています。アクティブシニア社員が80歳、85歳まで働いてくれればうれしいですし、そこで初めて定年を70歳にしようかという判断になると思います。 活躍する多くの先輩女性社員の存在が若い女性社員に安心感を与える ―本年4月から、70歳までの就業機会確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が施行されました。どのように対応しますか。 永坂 「アクティブシニア社員制度」があるため、なにかをしなければならないと感じることはありません。当社はシニアの方の働きやすさ≠考慮した制度にしており、60〜65歳の間は、「正社員」か「嘱託社員」を選択することができます。正社員は原則フルタイム勤務ですが、フルでは働けない、柔軟な働き方をしたいという人は嘱託社員として働くこともできます。また、65歳で嘱託社員を終了した後も働きたい人についても、当然アクティブシニア社員として働くことができます。 ―嘱託社員とアクティブシニア社員とでは処遇に違いがあるのでしょうか。 永坂 60歳以降65歳定年までの正社員はパートナー職という位置づけになり、基本給が少し下がる程度で、それ以外の処遇は福利厚生も含めて変わりません。退職金も毎年ポイントを積み上げていくので60歳時点より多くなります。嘱託社員になると、給与は数割程度下がりますが、嘱託社員とアクティブシニア社員の給与は変わりません。ただ月給制か時給制かの違いだけです。勤務日数など働き方が違うので、時間給に割り戻して支給しています。  ちなみに、当社は2006年に役割等級制度を導入しています。入社後10年程度は多少年功的な処遇ですが、その後は役割責任や役割の発揮度に基づいて評価し、役割が変われば給与のベースも変わる仕組みです。30歳で課長になる人や、35〜36歳で部長に就く人もいますし、年功序列ではありません。 ―貴社では、女性社員の比率が7割と聞いています。男性社員とのキャリア意識の違いなどはありますか。 永坂 創業当初から男女差別のない社風を築いてきましたし、毎年100人程度が出産・育児休暇を取得し、年間延べ200〜300人の短時間勤務者がいる会社です。育休後の復帰率は100%ですし、休業していたからこそ会社に戻ったらますます貢献したいという女性が多いです。「時短勤務ではなくフルで働きます。なんでもいってください」という積極的な女性もいます。また、子育ても終わり、職場でも活躍している50代の先輩女性社員もたくさんいますから、若い女性社員にとって、自分たちも将来はそうやって働けるという安心感をいだけるようです。ちなみに課長以上の女性管理職の割合は47%ですが、30代の子育て中の女性課長や短時間勤務の課長もめずらしくありません。 今後は社員の意識の変化も必要定年延長を機にセカンドキャリア研修を開始 ―年齢上限なしの「アクティブシニア社員制度」に加えて、70歳定年も視野に入れているということですが、今後の課題として考えていることはありますか。 永坂 課題としては、やはり働く人たちの意識も変えてもらわないといけませんし、本人の意識づけを含めた教育・研修のあり方を検討しています。実は昨年から、定年延長を契機に55歳以上を対象にした「セカンドキャリア研修」を始めました。これまでの自分の仕事や働き方を含めてふり返り、仕事の棚卸しをして、今後どうしていくのかを一緒になって考える研修です。 ―80歳まで働くとしたら、50歳は折り返し地点ですね。 永坂 そうです。いままで働いてきた30年と同じ年数を働くことになります。期待される役割も変わりますし、若手の育成も大切です。自分が会社にどういう貢献ができるのかを考えてもらいたい。また、われわれとしても長く働き、会社に貢献してもらうには、一つの仕事しか知らない人を雇用し続けるのは無理があると考えています。本人にとっても不幸ですし、会社にとっても不幸です。もっと若いときからキャリアプランを用意し、複数の仕事を覚えてもらうような育成の方法も検討していかなければいけないと思っています。 ―65歳定年制の導入や70歳までの雇用に二の足をふむ企業もあります。そうした企業にアドバイスはありますか。 永坂 いまの時代に「高齢者」という括(くく)りで社員を見るのはやめたほうがよいと思います。例えば、59歳と60歳で働き方が変わるかといえばなにも変わりません。また、そもそも「人はみな違ってあたり前」というのが当社のダイバーシティのスローガンですが、会社としてはその人に合った働き方をしてもらい、その人に見合った賃金を払えばよいのです。何もずっと同じ賃金を払えということではありません。何よりも雇用を継続することに意味があると思っています。いままで数十年も会社のために貢献してくれた人に、元気なうちはずっと働いてもらうことにまったく違和感はありません。若い世代も働けるうちはいつまでも働きたいといってくれていますし、そうすることで会社と社員の信頼関係にもつながっていくと考えています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 May 特集 6 歴史に学ぶ高齢者雇用 7 総論 日本の高齢者雇用政策 ―高年齢者雇用安定法を中心に 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長 濱口桂一郎 11 解説 企業の高年齢者雇用安定法への対応と実態 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 コラム 日本における定年制の始まり・定年制の歴史 16 企業事例@ 日置電機株式会社 未来を見据えて制度の見直しを重ね 70歳までの雇用制度を早期に実現 20 企業事例A 西島株式会社 人材を大切にする企業文化を受け継ぎ 創業以来、定年のない生涯雇用を実現 24 コラム 高齢者雇用・退職年齢に関する海外の動き ウイリス・タワーズワトソン/ リタイアメント部門 アジア統括リーダー Jeff Howatt リタイアメント部門 リードアソシエイト 宮下和子 1 リーダーズトーク No.72 株式会社ファンケル 上席執行役員・管理本部長 永坂順二さん 年齢上限なしの雇用の継続や柔軟な働き方が社員との信頼関係を生む 27 日本史にみる長寿食 vol.331 新茶とトッピンシャン 永山久夫 28 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 《第1回》株式会社大津屋[前編] 34 江戸から東京へ 第102回 母とパアーッと飲みたい 頼山陽 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第107回 東京都 株式会社JPF 40 高齢社員のための安全職場づくり〔第5回〕 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その2― 高木元也 44 知っておきたい労働法Q&A《第36回》 定年後再雇用の賃金一律減額、業務委託の留意点 家永 勲 48 高齢社員の心理学 ―加齢で“こころ”はどう変わるのか― 【最終回】 高齢でも働くために必要なこと 増本康平 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第12回 「昇給とベースアップ」 吉岡利之 52 特別寄稿 企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査 パーソル総合研究所 ヒューマンアセットコンサルティング部シニアマネジャー 石橋 誉 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 短期連載 コロナ禍で変わる職場と働き方 【第1回】 コロナ禍において労働者が抱えるストレス 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第47回]多いのはどっち? 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 歴史に学ぶ高齢者雇用  2021(令和3)年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行されました。70歳までの「高年齢者就業確保措置」を企業の努力義務とするもので、生涯現役社会の実現に向けた、節目となる改正といえるでしょう。  わが国の高齢者雇用の枠組みを規定する「高年齢者雇用安定法」は、社会や時代の変化をふまえ、さまざまな改正を重ねてきました。かつては一般的だった55歳定年の時代から、60歳、65歳と雇用の上限年齢が上昇し、それとともに、企業も対応を重ね、各種制度の見直しや職場づくりに取り組み、高齢者が長く働ける環境が整えられてきた歴史があります。  そこで本特集では、日本における高齢者雇用の歴史を、高年齢者雇用安定法を中心とした法政策、そして企業の対応を中心にふり返ります。法改正に合わせた取組みを展開してきた企業事例とともに、企業文化として高齢者雇用を根づかせてきた事例も紹介していますので、これからの高齢者雇用を展望するうえで参考としていただければ幸いです。 【P7-10】 総論 日本の高齢者雇用政策 ―高年齢者雇用安定法を中心に 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長 濱口桂一郎 1 60歳定年の努力義務(1986年)まで  高年齢者雇用安定法を中心に日本の高齢者雇用政策を語るといっても、なかなか一筋縄ではいきません。というのは、六法全書を見るとこの法律には「昭和46年法律第68号」という番号がついていますが、公布された1971(昭和46)年にはいまの名前ではなく、「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」だったからです。その中身は45歳以上の中高年齢者の職種別雇用率を定めるもので、定年もいわんや継続雇用も出てきませんでした。これが1976年改正で55歳以上の高年齢者雇用率になり、1986年改正で「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」という名前に変わると同時に、ようやく60歳以上定年の努力義務が規定されたのです。  もっとも、それ以前に定年にかかわる政策がなかったわけではありません。1973年の改正雇用対策法で、国が定年の引上げのために援助を行うという規定が設けられ、これを受けて高年齢者雇用開発協会((独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の前身の一つ)が定年延長アドバイザー業務を行っていました。この予算措置レベルの政策が法律上の権利義務規定に一段上がったのが1986年改正でした。労使の意見をすりあわせ、本体の努力義務に政府の要請、計画作成命令、適正実施勧告、最後は企業名の公表までくっつけて成立に至ったものです。ちなみに筆者はこの改正作業にヒラ職員としてたずさわりました。その後の政策は、一面では努力義務が法的義務に強化されるとともに、その上限年齢が65歳、70歳へと引き上げられていくというプロセスとして描くことができます。ただしもう半面では、年齢差別禁止政策の浮上、確立というプロセスもありますので、話はやや複雑になります。 2 65歳継続雇用政策の始まり  高齢者雇用政策を駆動してきたのは年金の受給開始年齢の引上げ政策であることは間違いありません。そもそも60歳定年自体、1954年の厚生年金保険法改正で受給開始年齢が55歳から60歳に段階的に引き上げられたことが原動力でした。65歳継続雇用も、1990年代から2010年代に至る厚生年金の基礎年金部分と報酬比例部分それぞれの段階的引上げに対応する形で進められてきました。  話はまず、1989(平成元)年に厚生省が基礎年金部分の受給開始年齢を65歳に引き上げるという法案を国会に出したところから始まります。雇用をどうするんだという野党の批判を受けて、労働省は急遽(きゅうきょ)翌1990年に65歳までの(個別の)再雇用義務を規定する法案を国会に出したのですが、そのときには年金の受給開始年齢引上げ部分は削除されていました。後から駆けつけた労働省がはしごを外された格好ですが、なんとか成立しました。  捲土重来(けんどちょうらい)を期して厚生・労働両省が二人三脚で行ったのが1994年改正です。厚生年金の基礎年金部分の受給開始年齢を65歳に引き上げていくとともに、65歳までの(制度としての)継続雇用制度導入の努力義務を規定し、行政措置も揃えました。さらに1986年に努力義務化された60歳以上定年を法的義務とするとともに、別途雇用保険制度のなかに高年齢者雇用継続給付を設け、定年後再雇用で大きく下がった賃金の一定部分を補填することにしました。このとき筆者は課長補佐としてたずさわりました。  ところでこの改正には、なぜ60歳は定年なのに、65歳は継続雇用なのかという素朴な疑問が生まれます。これは日本型雇用システムの本質にかかわる大きな問題です。もともと生活給に基づく年功賃金を、能力が向上しているから賃金も上がるのだ( 職能給) と説明してしまったために、いったん上がってしまった賃金を引き下げる契機がなく、60歳定年までは我慢できるけれども、その高給のまま65歳まで雇うわけにはいかないというのが企業側の本音だったからでしょう。その本音を正面から受け止めたのが高年齢者雇用継続給付であったわけです。  そもそも定年とは英語で「mandatory retirement age」(強制退職年齢)ですが、60歳定年後65歳まで継続雇用が義務づけられるならば、60歳で強制的に退職させられる人は一人もいないはずです。努力義務や適用除外があるうちは60歳での強制退職がありうるので説明がつきますが、65歳継続雇用が全面義務化されると、強制退職年齢は65歳であり、60歳は労働条件の精算年齢(それまで積み上げてきた年功をいったんなしにする年齢)に過ぎなくなります。本来定年でないものを定年と呼ぶことで、その構造を見えにくくしてきたといってもいいかもしれません。 3 65歳までの継続雇用政策と年齢差別禁止政策の交錯  その後1990年代末には中高年齢者を念頭に置いた年齢差別禁止政策が浮上し、以後21世紀の高齢者雇用政策は両者が交錯しながら進んでいきます。まず2000年の高年齢者雇用安定法改正は、65歳までの継続雇用に加えて65歳定年と定年廃止まで(高年齢者雇用確保措置)を努力義務の対象としました。一方、2001年の雇用対策法改正は、労働者の募集採用について年齢にかかわりなく均等な機会を与える努力義務を定めました。もっとも10項目にわたる広範な例外が設けられていました。  2004年の高年齢者雇用安定法改正では高年齢者雇用確保措置を義務化しましたが、経営側の反発が強く、労使協定で65歳までの継続雇用対象者を限定できることとしました。この改正では同時に、募集採用時の年齢制限についてその理由を明示する義務を定めています。  2007年の雇用対策法改正では、募集採用における年齢制限を原則禁止するところに踏み込みました。例外も極めて限定的です。とはいえ、新卒採用から定年退職まで年功昇進する日本型雇用システムにおいて、入口だけ年齢差別を禁止したところで、大勢に影響を与えるようなものではありえませんでした。  2012年の高年齢者雇用安定法改正の原動力も年金です。厚生年金保険の2階部分(報酬比例部分)についても2013年から2025年まで(女性は2018年から2030年まで)段階的に65歳に引き上げることとされていたため、その開始を目前にして改正が行われたのです。これにより労使協定による対象者限定は廃止され、(一定の子会社、関連会社への転籍を含め)65歳までの継続雇用が義務化されたのです。ということは、少なくとも2012年改正以後は「60歳定年」はいかなる意味でも年齢に基づく強制退職年齢ではありえなくなったわけです。それでも「60歳定年」と呼び続けている理由は、60歳を契機とする労働条件の精算(その時点での労働力価値への引下げ)を労働条件の不利益変更としないために、いったん雇用契約を終了するという形式が必要だからでしょう。しかし、思わぬところから伏兵があらわれました。2012年の労働契約法改正により有期契約労働者の不合理な労働条件が禁止されたことから、60歳定年後の再雇用者が60歳前と比べたその低賃金を不合理だと訴える訴訟が提起されるに至ったのです。最高裁は2018年の長澤運輸事件判決で引下げを容認しましたが、常に不合理ではないかと問われ続けることに変わりはありません。  また、1994年に65歳までの継続雇用を促進するためという名目で設けられた高年齢者雇用継続給付も、2012年改正によってその創設時の存在意義が完全に消滅したはずです。にもかかわらず今日まで制度が存続し続けているのは、それが定年精算後の低賃金を補填するという社会的機能を果たしているからですが、雇用保険法上はもはや正当化しきれない状態です。ようやく2020(令和2)年雇用保険法改正により、2024年度までは現状を維持したうえで、65歳未満の継続雇用制度の経過措置が終了する2025年度から新たに60歳となる高齢者への給付率を15%から10%に縮小するとともに、激変緩和措置を講じることとされました。 4 70歳までの「就業確保措置」  2020年の高年齢者雇用安定法改正は、努力義務とはいえ年齢のターゲットを70歳に引き上げるという意味で高齢者雇用政策の一大転機であることは明らかですが、その働き方の選択肢のなかにフリーランスやボランティアまで含まれるに至ったという点でも注目に値します。改正の元になった2019年の成長戦略実行計画では次のように書かれていました。 (a)定年廃止 (b)70歳までの定年延長 (c)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む) (d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現 (e)個人とのフリーランス契約への資金提供 (f)個人の起業支援 (g)個人の社会貢献活動参加への資金提供  (a)〜(c)はこれまでの高年齢者雇用確保措置と同じですが、これを60代後半層にそのまま押しつけるのは無理だろうということで(d)以下が加えられているのです。まず(d)ですが、65歳までの(子会社・関連会社を除く)他企業への再就職援助は高年齢者雇用安定法第15条ですでに努力義務となっています。ところが、65歳から70歳までの再就職援助は「65歳以上継続雇用制度」に含まれて別の新たな努力義務がかかるという、いかにも奇妙な概念設定になっています。  とはいえ、ここまではまだ「雇用」の枠内です。(e)以下は「創業支援等措置」と呼ばれていますが、非雇用型の就業です。(g)に至っては、そもそも「就業」の名に値するのかさえ明確ではありません。法改正作業やその後の省令・指針などの制定の過程のなかでかなりその姿は明確化されましたが、逆にそれが真のフリーランスやボランティアといえるようなものになっているのかについても、やや疑問が残ります。すなわち、一方で「労働者性が認められるような働き方とならないよう留意」せよといっていながら、他方では雇用契約に匹敵するような保護が与えられるようにせよという要請になっていて、なかなか据わりの悪い建てつけになっているのです。非雇用型の高齢者就業政策としてすでにあるシルバー人材センターとの関係も曖昧ですし、現在政府全体として進められている雇用類似の働き方に対する政策との関連も明らかではありません。 5 ずっと裏道の外部労働市場政策  ここでいきなり第15条の再就職援助努力義務が出てきましたが、この規定は実は1986年改正以来存在しており、それ以前は雇用対策法に60歳未満定年事業主への再就職援助計画作成要請規定として存在していました。高年齢者雇用安定法は長らく定年と継続雇用という内部労働市場にばかり目を向ける法律として発達してきたとはいいながら、外部労働市場志向の政策も目立たない裏道としてひっそりと存在してきたのです。  2000年改正では対象が45歳以上の中高年齢者にも拡大され、職業人生後半期の一般的な努力義務として出口における一定の配慮を求める規定に一歩進んでいます。翌2001年雇用対策法改正による入口における年齢差別禁止規定と相まって、外部労働市場型の高齢者雇用政策に進化していく第一歩となり得たかもしれませんが、その後は依然として裏道であり続けました。  有期雇用の年齢を理由にした雇止めなど、これまでの枠組みでは救いきれない問題も多くあるなかで、再就職のみならずフリーランスやボランティアまで内部労働市場型の政策枠組みに無理やり押し込めるようなやり方が持続可能なのかについては、中長期的観点から再検討する必要がありそうです。 図表 高年齢者雇用安定法と関連政策 高年齢者雇用安定法 関連政策 1954年 厚生年金保険法改正 →厚生年金の受給開始年齢を55歳から60歳に段階的に引上げ 1971年 中高年齢者雇用促進特別措置法 施行 45歳以上の中高年齢者の職種別雇用率を設定 1973年 雇用対策法 改正 →国による定年の引上げに向けた支援施策を開始 1976年 55歳以上の高年齢者雇用率制度を創設 1986年 高年齢者雇用安定法に改称 60歳以上定年の努力義務化 1990年 65歳までの再雇用の努力義務化 1994年 60歳以上定年の義務化 65歳までの継続雇用制度の努力義務化 厚生年金保険法 改正 →厚生年金の基礎年金部分の受給開始年齢を段階的に引上げ  (2000年60歳→2012年65歳) 2000年 高年齢者雇用確保措置(定年廃止、65歳までの定年延長、65歳までの継続雇用制度)の努力義務化 厚生年金保険法 改正 →厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢を段階的に引上げ  (2013年60歳→2025年65歳) 2001年 雇用対策法 改正 →採用における年齢差別禁止を努力義務化 2004年 高年齢者雇用確保措置の義務化(労使協定により65歳までの継続雇用について対象者の限定が可能) 2007年 雇用対策法 改正 →採用における年齢制限を原則禁止 2012年 高年齢者雇用確保措置を義務化(労使協定による対象者の限定を廃止※2025年度までの経過措置あり) 労働契約法 改正 →有期契約労働者の不合理な労働条件の禁止 2020年 70歳までの就業機会確保を努力義務化 【P11-15】 解説 企業の高年齢者雇用安定法への対応と実態 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 1 はじめに−人事管理に大きな影響を与えた高年齢者雇用安定法の改正とは  企業の人事管理の基本的な枠組みは、労働関係の法律や政府の政策により規制されています。  例えば法律によって、採用管理では募集や労働の契約の仕方、退職管理については、定年年齢や解雇の仕方にかかわる基本ルールが決められています。特に、個々の労働者と使用者との雇用関係を規制し、労働者が働くうえでの条件の最低基準を設定している高年齢者雇用安定法による定年年齢の規制の変更は、退職管理だけでなく、人事管理のあり方に大きな影響を及ぼしています。  これまでに、企業の人事管理のあり方に大きな影響を与えた高年齢者雇用安定法の改正は二つあります。一つは、1971(昭和46)年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が1986年に抜本改正され(現在の「高年齢者雇用安定法」に改称)、60歳定年制度の努力義務化が定められたことです。この当時の定年年齢の主流は55歳であり、企業は法改正により、定年年齢の引上げを迫られるようになりました。その後、同法は1994(平成6)年に改正され、1998年から60歳定年制が義務化されました。これらの改正を「60歳への定年延長」と呼ぶこととします。  もう一つは、2000年の改正です。この改正は、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、@定年年齢の引上げ、A定年制の廃止、B継続雇用制度の、いずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)をとることが義務付けられました。さらに、2012年の改正では、希望者全員を65歳まで雇用する義務が課され、働く側が希望すれば、65歳まで雇用が維持されるようになりました。このことは実質的に65歳定年制が義務化されたことを意味しているともいえます。これらの改正を「みなし65歳への定年延長」と呼ぶこととします。  本稿では、「60歳への定年延長」および「みなし65歳への定年延長」が企業の人事管理にどのような変化をもたらしたかについて、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(旧・(独)高齢・障害者雇用支援機構および旧・(財)高年齢者雇用開発協会)の調査研究を用いて、紹介します。 2 高年齢者雇用安定法の改正と企業の人事管理の対応 (1)「60歳への定年延長」と企業の人事管理の対応(注1)  人事管理を設計するうえで最も重要な点は、社員を「どのような仕事に配置して」(「配置の管理」)、働きぶりに対応して社員に対して「どのような報酬を与えるのか」(「賃金等の報酬管理」)、配置の管理と報酬管理の基盤となっている「社員区分制度」(社員を異なる人事管理を適用する複数のグループに分ける制度)および「社員格付け制度」(社内の「偉さ」によって社員をランキングする制度)、の三つです(図表1)。  「どのような仕事に配置して」の配置の管理の面では、第一に、一定年齢(55歳など旧定年近くが多い)に達したときに役割を解く「役職定年制」あるいは管理職の役職を一定期間で改選する「役職任期制」を導入・拡充する企業が増えてきました。その理由は、役職者の在任期間が定年延長とともに延び、中堅・若手社員の昇進が遅れ、人事の停滞を招くからです。  第二に、「どこに異動させるのか」については、異動範囲が、企業内から関連会社などの企業グループ内へ広がったことです。その場合の異動の形態は社員の身分を維持したままで、他社の指揮命令のもとで、業務に従事する異動である「出向」が活用されるようになりました。出向には複数のタイプがありますが、定年延長との関係でみると、中高年ホワイトカラーを出向させる排出型出向が活発に行われるようになり、雇用を守りながら、後進に道を譲り、これまで蓄積した経験と能力を活かすためにも主要な異動政策になりました。  第三に、定年延長によって雇用期間を延ばすことを制度化する一方、主に中高年社員にできるだけ早い時期に企業から退職することをすすめる「早期退職優遇制度」を導入しました。この制度は、早期退職は自己都合退職ですが、会社都合扱いの退職金を適用し、それに加えて、退職金に特別割増をつけるという方法がとられています。  次に、報酬管理のなかでも最も重要である基本給についてみると、人件費コストを抑制するために、旧定年年齢に達した社員の定期昇給の逓減(ていげん)や停止、あるいはベア配分率の低下や停止を行うなど、ある一定年齢から基本給が減額するような仕組みを導入しました。加えて、退職金が一時金として多額の資金が一時的に流出することを避けるために、年金化して毎年一定額を積み立てるように変更しました。  さらに、配置の管理と報酬管理の基盤となっている「社員格付け制度」(主に、資格制度)を導入・整備した企業が多く見られます。他方、「社員区分制度」については、昇進やキャリアの多元化を図るために「専門職制度」の導入・再編が行われました。このことは統合化されていた社員区分を細分化する方向で再編する動きでもあり、複線型人事制度などと呼ばれ、ホワイトカラーを中心にして社員区分の再編成を進めるきっかけをつくることになりました。また、導入・再編された「専門職制度」は日本企業で多く導入されている格付け制度の一形態である「職能資格制度」を補完する制度であり、同等の能力があると評価され、同一の資格に格付けされれば、管理職であろうと専門職であろうと給与は同じになるという特徴を持っています。 (2)「みなし65歳への定年延長」と企業の人事管理の対応(注2)  定年制の導入状況を厚生労働省『平成29年就労条件総合調査』からみると、定年の定めのない企業は4・5%、一律定年制を導入する企業のうち定年年齢を60歳に定める企業は79・3%、また65歳以上とする企業は17・8%を占めています。65歳までの雇用確保は、多くの企業において、定年年齢を60歳とし、65歳までの継続雇用制度(「雇用確保措置企業」)の導入によって実現されています。継続雇用制度の場合は、雇用契約を1年ごとの更新とする非正規社員の雇用形態とするケースが多くなっています。となると、「みなし65歳への定年延長」にともなう人事管理の対応は、60歳代前半層(「高齢社員」)の人事管理の各領域において、どのような点が「現役正社員」を対象とした人事管理と連続性があるのか、あるいは、連続性がないのかをみることが必要です(図表2)。  「どのような仕事に配置して」の配置の管理の面では、定年制の状況にかかわらず、役職者を除き現職継続が原則です。さらに「どのような就業形態のもとで」の労働時間管理の面では、65歳以上の定年企業では現役正社員継続型が、他方、雇用確保措置企業では、所定内労働時間については現役正社員継続型が、残業手当がともなう所定外労働時間(残業時間)については現役正社員非継続型がとられています。このように労働給付にかかわる配置管理と労働時間管理では現役正社員と同じ、あるいはそれに近い雇用管理がとられているにもかかわらず、報酬管理では現役正社員とは異なる扱いをする傾向が強くなっています。さらに、そのなかにあって全体的にみると、65歳以上の定年企業は現役正社員制度に近く(「統合型の人事管理」)、雇用確保措置企業は現役正社員制度から遠い(「分離型の人事管理」)存在になります。  報酬管理の基盤となっている「社員区分制度」および「社員格付け制度」についてみると、定年制の状況にかかわらず、高齢社員を複数にグループ分けして管理する(「社員区分制度」を導入している)企業は少なく、特に、雇用確保措置企業ではグループ分けを行っている企業であっても現役正社員制度とは異なる基準でグループ分けを行っています。同様に、「社員格付け制度」を整備して、「仕事」や「能力」などに対応して高齢社員を複数のランクに格付けるという企業は定年制の状況にかかわらず、多くありません。  さらに、報酬管理のなかでも最も重要である基本給についてみると、第一に、社員格付け制度が導入されていないことからも明らかなように、定年制の状況にかかわらず、報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれ、特に、雇用確保措置企業で顕著にみられます。と同時に、雇用確保措置企業では現役正社員とは異なり、「仕事の難易度」や「期待する役割」に応じて基本給が決められており、「仕事の難易度」や「期待する役割」が変わらなければ、基本給が変わらない仕組みになっています。第二に、65歳以上の定年企業と雇用確保措置企業の違いが顕著にあらわれているのが、「昇格(昇進)なし」の賃金制度、賞与・一時金制度および退職金(慰労金)制度であり、その背景には、雇用確保措置企業では高齢社員の雇用形態が非正規雇用であるため、昇格(昇進)、賞与・一時金および退職金(慰労金)を支給対象者にしていないからといえます。 3 おわりに―2021年改正高年齢者雇用安定法に企業はどのように対応するのか―  2021(令和3)年改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保義務に加えて、個々の労働者の多様な特性やニーズをふまえ、65歳から70歳までの就業機会の確保のための多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの高年齢者就業確保措置を講じる努力義務が課されることになりました。具体的には、@70歳までの定年引上げ、A70歳までの継続雇用制度の導入、B定年廃止、労使で同意したうえでの雇用以外の措置(C継続的に業務委託契約する制度、D社会貢献活動に継続的に従事できる制度の導入のいずれか)があげられます。  こうした法改正のもとで、今後、どのような人事管理を展開していけばよいのでしょうか。重要な点は、どのような人事管理を展開するにしても、高齢社員に対して現役正社員と異なる人事管理を採用する場合には、企業が高齢社員の活用方針を明確にすることと、それを高齢社員と現役正社員に浸透させるための支援策を実施することが強く求められます。雇用確保措置企業に代表されるような「分離型の人事管理」の場合には、定年(多くの企業では60歳)を契機にして現役時代とは異なる仕組みのもとで評価され処遇されることになるので、高齢社員には新しい人事管理に適合するために働く意識と処遇に対する期待を転換することが求められ、転換が十分でないと労働意欲の低下につながります。そのため、「分離型の人事管理」を採用する企業は「統合型の人事管理」以上に、高齢社員に「なぜ人事管理が変化するのか」を納得してもらうための方策を強く打ち出す必要があります。このことは、65歳以降、非雇用型での活用を進める場合には特に重要になってくると考えられます。 (注1)(財)高年齢者雇用開発協会(1984)『高齢化・定年延長と人事管理に関する調査研究報告』、(財)高年齢者雇用開発協会(1985)『高齢化社会における人事管理の展望に関する調査研究報告』、(財)高年齢者雇用開発協会(1985)『高齢化・定年延長に伴う賃金・退職金調整事例』及び、(財)高年齢者雇用開発協会(1987)『高齢化に対応する人事施策に関する調査』、の調査結果に基づいてまとめられている。 (注2)(独)高齢・障害者雇用支援機構(2010)『人事制度と雇用慣行の現状と変化に関する調査研究第一次報告書−60歳代前半層の人事管理の現状と課題−(平成21年度)』及び(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化−「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より』、の調査結果に基づいてまとめられている。 ※本稿を作成するにあたり、使用した(財)高年齢者雇用開発協会の報告書については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構雇用推進・研究部の鹿生治行専門役から協力を得ました。記して謝意を表します。 図表1 60歳以上定年実施の有無別による人事管理諸施策の実施状況 (単位:%) 60歳以上の定年制 実施している 実施していない 基盤システム(社員区分制度・社員格付け制度) 専門職制度 37.0 25.6 資格制度 70.3 59.3 配置・異動 役職定年制度 34.8 13.6 早期退職優遇制度 32.8 13.6 報酬制度 年功賃金の見直し 53.8 34.8 退職金算定方式の見直し 47.7 26.6 退職金の年金化 63.2 57.2 出典:(財)高年齢者雇用開発協会(1985)『高齢化社会における人事管理の展望に関する調査研究報告』 図表2 定年制の状況別にみた高齢社員の人事管理:現役正社員の人事管理との継続度 (単位:点) 雇用確保措置企業 継続雇用66歳以上企業 65歳以上の定年企業 基盤システム 社員格付け制度 1.37 1.36 1.73 社員区分制度 1.52 1.55 1.93 配置・異動 役職の継続状況 1.72 1.82 2.39 仕事内容の継続性 3.23 3.33 3.65 就労条件(労働時間) 所定労働時間 3.66 3.59 3.75 所定外労働時間 2.38 2.67 3.40 評価 人事評価 2.15 2.33 3.03 報酬制度 基本給の決め方 2.31 2.56 3.49 昇給 1.63 1.88 2.71 賞与・一時金 2.18 2.39 3.32 昇格(昇進) 1.75 1.84 2.68 福利厚生 退職金・慰労金の決め方 1.35 1.59 3.40 ※ 表は「高齢社員に適用される人事管理」と「現役正社員に適用される人事管理」との継続度を測定している。 ※ 2.5点よりも大きい場合、「高齢社員の人事管理」が現役正社員と類似する傾向(継続性が高い)にあり、2.5点よりも小さい場合には、異なる(継続性が低い)傾向にあると判断することができる。詳しい得点の計算方式については、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化−「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より』25頁を参照。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より』 コラム 日本における定年制の始まり・定年制の歴史 大木栄一  「定年」とは、その年齢に達した従業員との雇用関係を強制的に打ち切る制度であり、アメリカやヨーロッパではほとんど見られない仕組みです。定年は、企業にとっては、一定年齢で一律に雇用関係を終了できる側面とともに、従業員にとっては、その年齢までは雇用が保障されるというプラスの側面を持っており、従業員に対して定年までの雇用の安心感を与えるメリットがあります。  では、こうした年齢を理由にして一律に従業員を退職させる定年制が日本でどのようにして生まれたのか、いまの定年制の概念がどのようにしてつくられたのかを紹介しましょう。  日本で初めて、定年制(定年年齢は55歳)を実施したのは海軍火薬製造所で、1887(明治20)年ころであるといわれています。その後、ほかの官営工場や民間企業に波及し、明治後期には、機械工業や金属工業の大企業を中心に普及の輪を広げていきました。  大正時代になると、経済活動の発展にともない、事業規模が拡大し従業員数が増加、近代的な人事労務管理制度の整備が進むにともなって、定年制が広く産業全体に普及していきました。また、このころから大企業を中心として、尋常小学校※1ないし高等小学校※2を卒業した12〜14歳くらいの若手未経験者を職工として採用し、基幹労働者として養成することが主流になり始めました。その結果、基幹労働者に対して、長期的な雇用の継続をうながす仕組み(勤続年数を反映した昇給制度・昇進制度や退職金制度など)が確立され、定年制はこうした仕組みを維持・発展させるための一つの柱として機能していきました。ちなみに、この当時の平均寿命は45歳前後で、定年年齢は50〜55歳が多かったようです。  昭和に入り、いわゆる「戦時体制」の時代になると、徴兵による労働力不足が深刻になり、定年制は一時中止されることとなりました。その後、1945(昭和20)年の終戦により、終戦直後の引揚げ者の増加によって労働力が過剰になり、企業は人員整理を余儀なくされ、戦時中に中止されていた定年制を復活したり、新たに導入した企業が多くみられます。このころの定年制は人員整理のためという意味合いが強い仕組みになりました。  東京オリンピックが開催された1964年に旧労働省が全国4000社の企業を選んで実施した「民間企業定年制調査」によると、定年制の実施率は従業員規模1000人以上の企業では、ほぼ100%に近く、このころには広く定年制が普及していることがわかります。また、同調査では、定年年齢を55歳と定める企業が約8割を占めており、定年年齢は従前とほとんど変わらない状況でした。  1970年には、総人口に占める60歳以上の人口の割合が1割を超え、今後、高齢化がますます進展することが確実に予測されるようになり、高齢者の雇用促進が大きな政策課題として登場することとなりました。それを受け、政府は法による定年年齢の規制に乗り出しました。1971年に「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」を制定し、60歳定年の促進をはかることとしました。その後、1986年に抜本改正され、60歳定年制度の努力義務化が定められました。この当時の定年年齢の主流は55歳であり、企業は法改正により、定年年齢の引上げを迫られるようになりました。その後、同法は改正され、1998(平成10)年から60歳定年制が義務化されました。さらに、2000年には、高年齢者雇用確保措置の導入が努力義務化され、2012年の改正では、希望者全員の継続雇用が義務化されました。これにより、働く側が希望すれば、65歳まで雇用が維持されるようになりました。 (このコラムは、荻原勝(1984)『定年制の歴史』日本労働協会、および(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『マンガで考える高齢者雇用改訂版』に基づいて作成したものです) ※1 尋常小学校……明治〜昭和初期ころまでの初等教育機関(現在の小学校)の名称 ※2 高等小学校……明治〜昭和初期ころまでの教育機関(現在の中学校)の名称 【P16-19】 企業事例1 日置(ひおき)電機株式会社(長野県上田市) 未来を見据えて制度の見直しを重ね70歳までの雇用制度を早期に実現 創業86年の計測器メーカー人を大事にする方針  長野県上田市に本社を構える計測器メーカー、日置電機株式会社は、開発から生産、販売までを一貫して行う自主独立の開発型企業で、高付加価値な自社開発製品のラインナップは300種類におよび、2020(令和2)年度の売上高は216・6億円、経常利益は26・4億円。グループ従業員数は980人である。  「人間性の尊重」と「社会への貢献」を企業理念とする同社の大きな特徴は、人を大事にしていること。2017(平成29)年に65歳定年制と定年後70歳までの継続雇用制度を導入したのも、この方針の表れといえる。当時、人事部でこれらの制度の策定をになった赤沼徹也氏(現・日置フォレストプラザ株式会社代表取締役社長)は、「会社にとっての一番の肝は、そこで働く社員です。日置電機は、入口の新卒採用から、継続した教育、継続雇用を経て退職に至るまで、人にかかわることに力を入れています」と語る。そんな同社の高齢者雇用関連制度の導入・改定の経緯をふり返っていこう(図表1)。 時々の状況や課題をふまえ先を見据えて制度を改定 1987年〈55歳定年から60歳定年制に〉  同社は1987(昭和62)年、それまで55歳だった定年年齢を60歳に引き上げた。前年に高年齢者雇用安定法が施行され、60歳定年が努力義務化された時期とも重なるが、定年延長を決断したのは、その必要性があったことが大きい。当時は、海外展開を進めていた同社がプラザ合意※後、内需にシフトしていこうとしていた時期。90年代にかけて会社が大きくなりつつあり、成長を支える人材を必要としていた。 2005年〈60〜65歳の継続雇用を開始〉  2005(平成17)年に、定年後65歳までの継続雇用を開始した。背景には、2004年(2006年施行)の高年齢者雇用安定法の改正がある。健康面などの条件を満たした希望者は嘱託社員として65歳まで働けるようにした。 2011年〈定年の段階的引上げを決定〉  2011年には、2013年施行の改正高年齢者雇用安定法を見据え、年金支給開始年齢に合わせて定年年齢を3年ごとに65歳まで段階的に引き上げることを決定した。2013年に61歳、2016年に62歳……と引き上げていき、2025年に65歳とする計画だった。 2012年〈48〜60歳の処遇を改善〉  実際に定年が引き上げられる前年の2012年4月、48〜60歳の賃金制度を見直した。中高年層のモチベーションの維持・向上がねらいだ。  同社の基本給は、能力給と年齢給で構成される。従前の制度では、47歳で年齢給が頭打ちとなり、さらに55歳以降は、考課によっては賃金が下がる仕組みだったが、考課次第で60歳まで昇給することも可能な制度とした。赤沼氏は、「給与ダウンは社員にとって大きな影響があります。そこをどうやってモチベーションダウンさせないようにするか、という観点で制度改定しました」と説明する。 2017年〈65歳定年を前倒し実施、70歳までの継続雇用制度も導入〉  そして、2013年に段階的な定年引上げがスタートし、2025年に65歳と引き上げていく予定だったが、2017年4月、前倒しで定年を65歳に引き上げた。  また、定年後70歳までの継続雇用制度を導入した。それ以前は、65歳以降の雇用制度はなく、会社として残ってほしい人材と個別に契約していたが、シニアスタッフ(嘱託社員)として1年契約で最長70歳まで継続雇用することを制度化した。健康や能力の基準を満たしていることが条件となるが、厳しく絞り込む意図はなく、基本的に本人の意思が尊重される。  これらの改定の背景には、少子高齢化により人材の一層の有効活用が必要になると見込まれることがある。また、現在の年齢別人員構成では50代が多く、この先、バブル期に採用した層が60代を迎える。定年到達者が少ないうちに実施したほうが混乱が少なく、課題が生じても見直す余裕があると判断したことも理由の一つである。「今後、人手不足で採用がむずかしくなることが想定されるので、そこに早く手を打ちたいという考えがありました。ベテランでも能力・意欲にあふれ、健康で働いている社員が増えているので、そのニーズにも応えられます。経営層からも、『どうせやるのであれば、対象者が少ないうちに先んじて実施し、課題をあぶり出したほうがよい』と後押しがありました」と赤沼氏はいう。  なお、65歳以降のシニアスタッフの働き方については、通常勤務のほか、短時間勤務や短日数勤務も可能な制度となっているが、最近は体力も気力もあってまだまだ働きたいという人が多く、全体の8割は通常勤務である。 2018年〈60〜65歳の処遇を改善〉  65歳への定年延長から1年が経過したばかりだったが、2018年4月に、60〜65歳の処遇を再度見直した。  2017年に定年を延長した際の処遇制度は、60歳以降、毎年10%ずつ給与を漸減させていき、65歳時には60歳時の50%程度となる仕組みだった。65歳までの5年間の平均でみると60歳時の70%程度の水準となる。  しかし、60歳以降も担当する職務や働き方が変わらないにもかかわらず給与が下がっていくことに対するモチベーションダウンが想定以上に大きく、労働組合からの要望もあり、見直しを決めた。「60歳以降も、微増ではありますが昇給も可能な仕組みに改めました。雇用形態も同じですので、60歳≠ニいう区切りはなくなりつつあります」と赤沼氏はいう。  なお、66歳以降は、職務内容に応じて4段階に分けて給与水準を再設定する。職務給に近い性格といえる。賞与は業績連動型で、個人の考課も反映する。 2020年開始、生涯現役の意欲を高める「キャリアサポートプログラム」  シニアスタッフの人数はまだ少ないが、運用するなかで、少しずつ課題がみえてきた。例えば、「まだまだ働けるのに、シニアであることを理由に『ここまででいいです』と線引きされる」という不満を持つシニアスタッフがいる。一方、逆にそれを受け入れて、「私はシニアだからこれくらいの働き方で十分」と思っている人もいる。それに対して、所属長や周りの社員からすると、「気を遣って業務分担をしなければいけない」とか「やる気がないシニアスタッフが自分のモチベーションを下げる」といった不満や、「自分がシニアになったときに何ができるか」といった不安の声があがっているという。  同社は、こうした課題を払拭しょくするには、キャリア形成が重要ととらえ、2020年4月、「キャリアサポートプログラム」を導入した(図表2)。  従来は、45歳でミドル研修を実施した後は、会社としてキャリアについて考える機会を提供していなかったが、50歳、55歳、60歳でも研修を実施し、本人のやりがいを高めていく。「いままでは、キャリアは自分で考えるものという考え方があり、会社としてはあまり手を入れていませんでした。しかし、これまで60歳もしくは65歳くらいで終わりだと思っていたところ、70歳まで働けるようになったということで、まだまだ活躍するためにどうしていけばよいか、本人の意識を持ち上げていくため、若いうちから取り組んでいきます」(赤沼氏)という。  65歳以降も、所属長のサポートを得ながら前向きにキャリアを築いていってもらう。ポイントは、本人のキャリア意識の醸成と、周囲との共有・ベクトル合わせだ。新たに設けた「キャリアジョブシート」を活用して、本人の思い描いていたことを明確にし、自分がすべきこと、期待されることを理解させるとともに、それを職場で共有し、シニアスタッフの置かれている立場を周りにも知ってもらう。社員と同じように半期ごとに目標設定も行い、考課もきちんとフィードバックする。  「ある日突然定年を迎え、そのときになって『どうしますか?』では遅いので、若いうちから自分の人生設計やキャリアを考えるきっかけをつくる必要があります。一方、会社としては、65歳以降の働き方や働く内容をしっかり見えるようにしていくこと。そうしないと、将来を見据えることができません。そして、組織としてしてほしいこと、本人のできること、やりたいことの三つの円を大きくしていき、重なる部分を広げていくことが大切です」(赤沼氏)  人事部人事サービス課長の佐藤誠氏もこれに同意し、「やはり、そのときになってから考えるのはむずかしいので、早くからキャリアについて考える機会を持たせることが重要です。この2月には経営層を対象にキャリアについて考える研修を実施し、経営職から意識を変えていく取組みを始めています」と明かす。 人件費は「投資」という考え方でやりがいを高めながら取り組んでいく  同社の高齢者雇用の取組みは、法律の後追いではなく、先を見据え、世の中に先んじて行われてきた。そして、運用のなかで課題を明らかにし、改善してきたことで、今後の労働力不足や60歳以上の社員の増加に備えができてきた。  「65歳定年導入時は、本当に65歳、70歳まで働けるのかという不安もありましたが、4年経ってみると65歳定年があたり前になり、その後の再雇用についても、戦力ダウンすることなく運用できています。やってみると、まだまだ働ける方が多く、年齢に対する思い込みがあったのかなと感じます」(赤沼氏)  世の中の先を行く取組みができたのは、人件費の面で会社の持ち出しが増える制度・施策に対しても経営トップの理解があったことが大きい。赤沼氏は、「日置電機には、人件費は『投資』という考え方があります。人を大事にしながら、戦力としてできるだけ長く健康に働いてもらえるように投資していくという考え方が経営のベースになっていますので、人事としてもやりやすく、後押ししてもらえました」という。  一方で、今後に向けて取り組むべき課題も残っていると赤沼氏は話す。  「専門職は手に職を持っていますが、ジェネラリストといわれる人たちが役職定年、もしくは再雇用の嘱託社員になった後のキャリア設計を促進していかなければなりません。また、加齢による健康リスクへの対応も必要です。そして何より、売上げを伸ばしていくことが重要です。今後、60歳に達する年齢層が増えていき、試算では2032年に人件費がピークに達します。もちろんシミュレーションはしていますが、売上げが伸びていくことが大前提ですので、いかに売上げを伸ばし、健全な財務体質を維持していくかが重要と考えています」(赤沼氏)  同社の高齢者雇用の取組みに一貫しているのは、社員のやりがいやモチベーションを高め、会社の戦力として活躍をうながしていこうという考え方だ。「キーワードは『やりがい』や『働きがい』。ただの雇用維持になっては、会社にとっても本人にとってもよくありません。仕組みは整えましたが、本当にやりがいにつながっていくかはこれからです。今後もいろいろな課題が出てくると思いますので、改善しながら運用していくことが、これからの人事の大きな仕事だと思います」(赤沼氏) ※ プラザ合意……1985年、先進5カ国(G5:アメリカ合衆国、イギリス、フランス、西ドイツ、日本)による為替レート安定のための合意 図表1 定年に関する人事制度改定の経緯 時期 概要 1987年 定年年齢を55歳から60歳に延長 2005年 定年後65歳までの継続雇用制度を開始 2011年 公的年金の支給に合わせて定年年齢を3年ごとに段階的に引上げ、最終的に65歳にすることを決定 2012年4月 48〜60歳の処遇改定 2013年4月 定年年齢を60歳から61歳に引上げ 2016年4月 定年年齢を61歳から62歳に引上げ 2017年4月 定年年齢を前倒しで65歳に引上げ定年後70歳までの継続雇用制度を開始 2018年4月 60〜65歳の処遇改定 2020年4月 キャリアサポートプログラムを導入 図表2 キャリアサポートプログラム フェーズ2 45歳 46歳 55歳 自らのキャリアを考えることの重要性を認識する 56歳 60歳 様々な選択肢を知り具体的な選択肢を考える 61歳 64歳 再雇用に向けた準備期間具体的な進路を決定 新しい分野への挑戦を支援(場づくり)+学び直し支援(リカレント教育) 社員のマインドを下支えする取り組み キャリア面談(年に2回) ミドル研修 55歳時説明会 50歳時研修 55歳時研修 60歳時研修 フェーズ1 65歳 70歳 役割発揮 働きやすさ 勤務日数を選択可能 + やりがい ステップ1 @自己申告書 A目標設定 B考課表 C求める能力の明確化 ステップ2 @ジョブ選択制度  続行orジョブリストから希望業務を選択 c 2020 HIOKI E.E. CORPORATION 写真のキャプション 赤沼徹也氏(現・日置フォレストプラザ株式会社代表取締役社長/右)と、佐藤誠人事部人事サービス課長(左) 【P20-23】 企業事例2 西島(にしじま)株式会社(愛知県豊橋市) 人材を大切にする企業文化を受け継ぎ創業以来、定年のない生涯雇用を実現 オーダーメイドの工作機械を「自社一貫生産体制」で製造  JR豊川駅から車で15分。東名高速道路の豊川ICからもほど近い郊外に立地する西島株式会社は、自動車関連や産業用部品などの専用工作機械を自社一貫生産体制でつくる国内有数のメーカーとして知られる。  創業は1924(大正13)年。初代の西島吉三郎(きちさぶろう)氏が三重県鳥羽(とば)で立ち上げた、発動機を製造する「西島鐵工所(てっこうじょ)」が始まりである。吉三郎氏は1932(昭和7)年、主に農業や土木用として、簡便に使用でき、かつ、重量の軽減や粗悪な燃料にも対応した画期的な発動機を開発。これが、国内はもとより、東南アジアなどにも多数輸出される製品となった。  その後、豊橋市に新工場を建設。そこを拠点とし、1945年に社名を「豊橋工倶西島鐵工所」に改称した。戦後も発動機の生産を行うが、次第に需要がなくなり、つちかった技術を活かして工具メーカーを目ざす。そうしたなかで工具をつくるための工作機械の製造に着目し、人を育てて一途に技術を磨き、オーダーメイドの専用工作機械を得意とするメーカーとして成長した。  1998(平成10)年に現社名となり、その後、愛知県内のすぐれたモノづくり企業として認められる「愛知ブランド企業」の認定を、この認定制度がスタートした初年度の2003年度に受けている。現在では、ほぼ100%が受注生産で、自動車をはじめとする大手メーカーのニーズに応じて、世界で唯一の専用工作機械を製造している。 創業時から定年制がなく「一生元気、一生現役」  受注生産の専用工作機械を得意とする高い技術力が同社に育まれた背景には、「定年なし、学歴関係なし、技術に限界なし」を経営方針に掲げ、年齢にかかわらず「一生元気、一生現役」を推進して、すべての社員が役割を持って、長く活躍することをうながす独自の企業風土を築いてきた歴史がある。  創業以来、定年制を設けたことがなく、西島豊代表取締役社長は、「週5日、8時から17時までの8時間勤務を基本的な条件として、会社が存続するかぎり正社員として雇用を続ける生涯雇用を行っています」と話す。ただ、それは意図して実践されていることではなく、「何もないところからモノづくりを始めた当社にとって、『人』は財産です。私で四代目になりますが、代々の代表がみな、人を育てて活かすことを大事にしてきました。その結果としての現在です」と西島社長は語る。  創業時から家族的な一体感を有する風土を育み、定年制を意識することなく歩んできた同社だが、「定年なし」を正式に表明するに至るきっかけがあったという。  バブル崩壊後の1990年代半ば、自動車業界の設備投資が落ち込んで、同社への工作機械の依頼も激減した。一方で、地元近くの渥美(あつみ)半島では特産品の電照菊(でんしょうぎく)の栽培が盛んになり、栽培農家は出荷作業に追われていた。それも高齢の農家が多く、手作業のため負担が大きかったという。そこで、出荷作業を軽減するための機械の開発が同社に打診された。同社にとって生花を扱うのは初めてで難航したが、当時60代のベテランの技術者たちが知恵と技と熱意を持って取り組み、試行錯誤の末の半年後、下葉の除去や茎の裁断、箱詰めするまでを自動化する「自動選花機」を開発した。  このことは同社を窮地から救っただけでなく、ベテラン技術者の存在の大きさをあらためて認識する機会となり、三代目の西島篤師(とくし)氏が代表取締役社長に就任した1995年、同社の「定年なし」が正式に表明されるところとなった。  2014年に四代目として経営を引き継いだ西島社長は、「礎を築いた先人のおかげで、当社はここまで強くなりました。感謝をもって、受け継がれてきた企業風土を大切にし、技術を身につけた社員が長く活躍できるようによりよい職場環境を目ざして、そのために会社は何ができるのかを常に考えています」と、現在を語る。 社員は10代から80代まで退職時期は自らが決める  社員数は135人(2021年3月1日現在)で、平均年齢は44・5歳。毎年新卒者を採用しており、人員構成のバランスはとれているという。2021年4月には5人の新入社員を迎えた。  社員の年齢層は、18歳から82歳までと幅広い。社員の家族が入社することも珍しくはなく、三世代が現役で勤めている社員もいるそうだ。  60歳以上の社員数は現在24人で、年代別には60代が11人、70代が12人、80代が1人。これまでの最高年齢社員は84歳で、取材の数カ月前に引退したという。  定年制がないため、自らが退職時期を決める「引退制」を敷いている。引退するまで正社員であり、役割を持ってもらうことにより、社員はモチベーションを維持して仕事に向き合うことができる。この「役割」が重要であると西島社長は強調して、次のように話す。  「年齢にかかわらず、自分が会社から必要とされていること、認められていることを実感できるものだからです。しかし、いい加減に決めた役割ではその思いは伝わりませんから、一人ひとりを理解して、それぞれに適した役割を伝えるように努めています」  全社員に行う年2回の人事考課は、その役割を果たせているかどうかを、人間性と技術力の両面から自己査定をふまえて評価し、賞与に反映させている。評価の基準は「半年前の自分」であるという。 20代で課長、30代で部長、40代以上は管理職を助ける役に  ベテランには、どのような役割を期待しているのか。定年や継続雇用の制度が設けられていないと聞くと管理職が増えるのではないかと想像するが、同社はその逆で、管理職には若手が就くという独自の人材配置を行っている。  「課長は20代、部長は30代。管理職を経験した後は役職を離れ技術に磨きをかけながら、若い管理職を助けてもらいます。ベテランは、最終的に『匠』となりますが、後進への技術・技能の継承も大事な役割となっています」(西島社長)  若手を管理職に登用するのは、若い時期から管理職として経営にたずさわることで、事業全般を学んでもらう意図があるという。  同社では、1人の社員が複数の業務をこなすことができる「多能工」の存在も強みであり、設計から組立まで全工程を自社で行う体制が確立されたのは、多能工化を進めたことが大きいという。  入社後の社員は、溶接や板金、機械加工、組立など多様な仕事を経験する。とはいえ、決まった人材育成の仕組みはなく、得意分野や向き不向きなどをみながら、2カ月で部門を異動する場合もあれば、一つの部門でじっくり育てる場合もあるなど、育て方は一人ひとり異なるという。  また、若手には海外も含めて外へ出て行く機会をつくり、新しいことを吸収して、必要に応じて新たなやり方を提案してほしいと求めている。  一方、必要な技術は日々進化しているため、ベテランに対しても技術を追求して深めること、また、よい点はよい意味で変化させないことへの努力を求める。ベテランの持ち味は、特化した技に加えて、目立たない部分ではあっても作業の進捗状況を左右するような判断が的確にできたり、予定外の事態発生に対する対応が迅速にできるなどマニュアル化できないことが多く、いざというときに力を発揮して周りを牽引するための人格の成長も期待している。  「一流の製品は、一流の人格から」。創業時から受け継がれているこのモットーも西島社長は大切にして、若手、ベテランのそれぞれに日々自己研鑽(けんさん)をうながしている。 働きがいを生きがいに 勤続50年・60年を表彰  安全衛生にかかわることは必要に応じて会社の判断で即実行するが、それ以外のことは現場の声を聞きながら、従来の方法にとらわれず、臨機応変に変えている。「ルール先行ではなく、よりよい職場環境づくりが大切」と西島社長は考えているからだ。  しかし、幅広い世代が働く現場では、ときにコミュニケーションがうまくいかなかったり、衝突したりすることもあり、臨機応変にやり方を変えるのは決してたやすいことではない。問題が生じたときは西島社長が間に入り、何が問題であるのかを公にして話し合い、方向性を見出していくという。それが実現できているのは、先代の姿勢にならい、西島社長が毎日ほぼすべての社員に声をかけ、信頼関係を築いているからだ。「調子はどうだ」といったあいまいな言葉をかけるのではなく、仕事内容や役割、家族のことなど短い会話ながらもその社員ならではの話をするという。  西島社長は毎日こうした会話を続けることで社員を理解することに努め、その社員に適した人材育成につなげている。また、仕事のやり方に対する意見や不満を拾いあげ、それが職場にとってプラスに働くように対応している。コロナ禍の現在は中断しているが、「25歳以下」、「65歳以上」といったグループごとに、西島社長と一杯飲みながら話すという席を設けるなどして、ざっくばらんな意見交換の機会もつくっている。  「技を磨いて長く社会で活躍し、次の世代に継承してほしい。そのためには仕事を好きになってもらい、働きがいが生きがいに結びつく、そうした職場環境をつくることが大切だと思います。生活と仕事はかけ離れたものではなく、また、人生はつながっていますから、それぞれのライフステージに応じて、社員が最大限の責任を果たせる役割を与えていく、そのことが私の仕事だと考えています」(西島社長)  こうした考え方も創業から100年近くになる同社の歴史のなかで醸成されてきたもので、西島社長は「ルールや仕組みは変えても、先人への感謝の気持ちと人を大事にする企業であることへの思いは変わりません」と切々と語る。  長い歴史のなかでは、現役のまま亡くなった社員もいる。入院や治療が必要になって「フルに働けないから迷惑をかけてしまう」といわれても、西島社長は「戻ってきてください」といい、待つという。そして、本人に働く意思があるかぎり、仕事と両立できる方法を考えていく。「当社で働き、世話になっているのですからあたり前のこと」と西島社長。同社があるのは、これまで働いてきた人たち、現在いる社員のおかげだと常に感謝を忘れない。  その思いを形にして、勤続50年、勤続60年の表彰制度を設けている。記念品として純金の「勤メダル」を贈るそうだ。表彰を受けた社員の50年倶楽部、60年倶楽部という集まりもあり、元社員も招いて食事を楽しむという。社員とは一生のつき合いを続けている。  高年齢者雇用安定法の改正によりこの4月から70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となったことについて、西島社長にたずねると、「『働けるシニアを活かす』のではなく、何歳であっても『その人の力を活かす』という気持ちが大切ではないかと思います」と返ってきた。 技術で世界に貢献するために人づくりに全力を注ぐ  今年3月に発表された「第11回日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で、西島株式会社は審査委員会特別賞を受賞した。これを受けて西島社長は、「『人』を中心に技術で世界に貢献できる企業としてモノづくり、人づくりに全力を注いできた当社にとって、たいへんうれしい受賞です。お客さま、パートナー、そして社員とその家族、当社にかかわるすべての人に寄り添う企業として、さらなる挑戦を続けます」と受賞の喜びと新たな決意を述べている。  この決意にもある通り、同社では社員の安心・安全は家族を含めてのことと考え、家族を招いて楽しい時間をともに過ごす家族会を開催したり、常に家族のことを気遣い、コロナ禍でマスクやトイレットペーパーが品薄状態になった昨年は、社員の家族の分まで会社の備蓄品を配布した。「目先の損得でなく、善悪で判断して、正しいと思うことをしたい。そうしないと、しっぺ返しがくるような気がします」と、謙虚な姿勢で信念を語る西島社長。  数年前から取り組んでいる働き方改革では、「CAM」というソフトを用いて設計のプログラムを作成する仕事に女性を採用し、成功しているという。生産性が向上しているうえ、家庭との両立もしやすい時間の融通が利く作業があるため、短時間勤務の社員を増やし、働きやすく、やりがいを感じられる職場づくりをさらに進めていきたいと考えている。  3年後の2024年には創業100周年を迎え、敷地内に新工場の建設を計画しているという。事業の今後について西島社長は、「企業規模は現在が最大と考えています。これからも全社員が一丸となれるよう信頼関係を大切にしていきたいです」と話す。  人を大切する姿勢を貫いて100年。多様な人材が活躍する同社は、時代の先端を歩み続けている。 写真のキャプション 西島豊代表取締役社長 【P24-26】 コラム 高齢者雇用・退職年齢に関する海外の動き ウイリス・タワーズワトソン/リタイアメント部門 アジア統括リーダー Jeff Howatt リタイアメント部門 リードアソシエイト 宮下和子 はじめに  高齢化は日本のみならず、世界で急速に進んでいます。特に、先進国では、60歳以上の人口が20%を超えている国が多く存在します。今後数十年で高齢化はさらに加速する見通しで、人々はより高年齢まで長く働くことが求められています。日本では、法令により企業が定年の定めを60歳未満とすることができず、加えて、70歳までの就業機会確保が努力義務化されており、人々もまた、可能なかぎり高年齢まで働く傾向にあります。一方、世界をみてみると、多くの国では定年制(労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度)を導入していません。  それでは、世界の人々は、何歳ごろまで働いているのでしょうか。本稿では、世界における高齢者雇用・退職年齢について触れていきたいと思います。 世界の定年年齢  図表1の通り、ほとんどの国では定年の定めがありません。多くの国では、1980年から90年代に定年制を廃止しています。現在、定年を定めている国の多くは、アジアの国々です。また、定年を定めている国のうち、シンガポール、スウェーデン、アルゼンチンでは、定年年齢の引き上げを行っていますが、世界的にみて、定年年齢に関する動きはあまり多く見受けられません。  定年制廃止の動きは、1967年にアメリカで制定された「年齢による雇用差別禁止法(the ADEA)」を機に広まりました。欧州やカナダでは、同様の法律がアメリカより遅れて制定されることになりますが、遅れた要因は、これらの国では、元々雇用保障に関する規制が厳しかったこと、雇用面における年齢差別がアメリカほど大きな問題となっていなかったことなどがあるようです。  一方、アジアの国々では、定年制廃止に対する動きがみられませんでした。日本など一部の国では、定年年齢を引き上げる法律が制定されましたが、比較的柔軟性のあるアプローチが適用されています。また、欧米諸国では退職後が「余暇」という位置づけになっているのとは対照的に、アジア諸国では、定年退職後の雇用を文化的に受け入れる傾向があることもその要因と考えられます。 公的年金の支給開始年齢  多くの人にとって、公的年金は、仕事を引退した後の大切な収入源となります(国によって、所得代替率はさまざまです)。そのため、仕事の引退時期について考える際、公的年金の支給開始年齢は重要なポイントです。  日本の年金受給開始年齢は、段階的に現在の65歳に引き上げられてきました。他国をみても、年金支給開始年齢は引き上げる傾向にあります。図表2で太字の国は、現在年金支給開始年齢の引き上げを行っている国です。興味深い例としては、フィンランド、ギリシャ、ポルトガル、デンマーク、イタリア、スロバキアなどの国では、年金支給開始年齢を平均寿命と連動させる仕組みの導入を検討しています。  一方、公的年金の支給開始年齢は、社会や政治にとって、とてもセンシティブな問題となっています。例えば、フランスでは、新聞などで報じられていたように、政府が年金支給開始年齢の引上げを提案した際、暴動が起きました。また、香港では、公的年金の早期受取の廃止を目ざしていましたが、多くの抵抗やメディアの注目もあり、この案は取り下げられました。 実際の引退年齢  経済協力開発機構(OECD)加盟国における仕事を引退する年齢(引退年齢)の実態調査は、1970年までさかのぼることができます。図表3が示す通り、統計のある1970年以降20〜30年の間、平均引退年齢は一様に下がってきましたが、一転して、90年代中旬からアングロ・サクソン諸国で上昇し始め、西ヨーロッパでも近年上昇し始めました。しかし、若年世代にかかる経済的負担や、引退後の収入を考えると、人々はさらに高年齢になるまで長く働き続ける必要があります。日本はOECD参加国の中で、高齢者の人口指数が一番高い国です。2017年には、65歳以上の50人強を、20歳から64歳までの100人が支えている状況です。この指数は、2050年には79%まで上昇すると予想されています。日本での急速な高齢化は、生活水準の向上や、社会保障の財政維持の、大きな障壁となっています。 世界でのニーズ  今後、人々がより高年齢まで長く働き続けることが求められますが、そのためには、次の3点が重要であると考えます。 1.長く働き続けることを推奨する環境をつくること 2.高齢者に対する労働者雇用を企業に推奨すること 3.生涯のエンプロイヤビリティ(雇用され続ける能力)を支援すること  まず1点目については、過去10〜20年で改善してきています。これは主に、年金制度の改定(早期退職をうながすような給付設計の廃止、年金支給開始年齢の引上げ)によるものです。しかし、より柔軟な定年退職にかかわる環境整備が必要とされています。例えば、働きながらの年金受給を可能にする制度や、高齢者に優しい職場環境の整備などが考えられます。そのためには、社会的な視点と、会社の財政的な視点の、両方のバランスを見つけることが必要です。  2点目については、まだあまり制度が整備されていません。定年、雇用、給与を含め、年齢差別を禁止する法律が必要です(年齢ではなく能力を反映)。  3点目も同様に、まだ制度が整っていません。求職者のトレーニングや転職支援のみならず、在職者に対してのキャリアコンサルテーションや自己啓発支援など多岐にわたるプログラムが必要とされています。 各国の状況  人口や政治的背景の影響により、国によってまったく状況が異なります。図表4は、2017年におけるいくつかの国の定年、公的年金支給開始年齢、労働力率(生産年齢人口に対する労働力人口)の一覧です。  また、ここであげた国の背景および詳細は、図表5の通りです。  世界は急速に人口の高齢化が進んでおり、これに対処するために、人々はより高年齢まで長く働き続けることが求められています。法令が改定され、さまざまな制度が導入されていますが、経済や社会の仕組みを維持するために、この動きはさらに加速する必要があります。そのためには、大胆な法令の制定や改定が求められます。企業もまた、長期的なビジネスの成功のためにも、この動きに対処することが避けられないでしょう。 ※ 本記事は2019年6月に公表した「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター」掲載記事に一部加筆したものです 図表1 世界各国の定年年齢 国 なし アメリカ、イギリス、イタリア※、インド、インドネシア、ウクライナ、ウズベキスタン※、ウルグアイ、エジプト、オーストラリア、オーストリア、カタール、カナダ、ギリシャ※、クロアチア※、コロンビア、サウジアラビア、スイス、スペイン※、チェコ、チリ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、ブラジル、ベルギー、ポーランド、メキシコ、ロシア 70歳 アルゼンチン、フランス、ポルトガル 61〜69歳 オランダ(66歳)、イスラエル(67歳)、シンガポール(62歳)、スウェーデン(67歳)、フィリピン(65歳) 60歳 韓国、タイ、中国(男性)、日本、ベトナム(男性)、マレーシア 55歳 ベトナム(女性)、中国(女性) ※ 年金支給開始年齢を退職年齢とする契約は可能 出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」 図表2 世界各国の公的年金支給開始年齢 国 66歳以上 アメリカ、イスラエル(男性)、イタリア、オランダ、ギリシャ、ドイツ、フランス、ポルトガル 65歳 アルゼンチン(男性)、イギリス、オーストラリア、オーストリア(男性)、カナダ、クロアチア(男性)、シンガポール、スイス(男性)、スペイン、チリ(男性)、デンマーク、日本、ニュージーランド、フィンランド、ブラジル(男性)、ベルギー、ポーランド(男性)、メキシコ 61〜64歳 イスラエル(女性)、韓国、クロアチア(女性)、コロンビア(男性)、スイス(女性)、ノルウェー、ハンガリー、ロシア(男性) 60歳以下 UAE、アルゼンチン(女性)、インド、インドネシア、ウクライナ、ウズベキスタン、ウルグアイ、エジプト、オーストリア(女性)、カタール、コロンビア(女性)、サウジアラビア、タイ、中国、チリ(女性)、トルコ、フィリピン、ブラジル(女性)、ベトナム、ポーランド(女性)、マレーシア、ロシア(女性) 出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」 図表3 OECD諸国の実際の引退年齢 出典:OECD Database on Average Effective Retirement Age 図表4 諸外国の定年、公的年金支給開始年齢、労働力率(2017年) 国 定年 年金支給開始年齢 労働力率(2017年)55〜64歳 労働力率(2017年)65歳 アメリカ 原則禁止 67歳 64.5% 19.3% イギリス 原則禁止 65歳 66.4% 10.2% フランス 70歳 67歳 54.9% 3.1% ベルギー なし 65歳 51.3% 2.5% オランダ 年金支給開始年齢 66歳4カ月(2019年) 69.5% 7.7% シンガポール 62歳(再雇用67歳) 65歳 68.9% 27.8% 韓国 60歳 60歳 69.2% 31.5% ベトナム 男性60歳、女性55歳 男性60歳、女性55歳 12.3% 4.0% 出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」 図表5 諸外国における高齢者雇用・退職年齢の背景 国 特徴 アメリカ ●2016年に、年金支給開始年齢を、現在の67歳から69歳に引き上げる提案が出されたが、あまり支持を得なかった ●80%の企業が65歳を超えての就労を支持している一方で、フレックスタイムを適用している企業は39%、さらに、フルタイムからパートタイムに変更する選択肢を提供している企業は31%にとどまっている(2017 US Senate Report on aging workforce) イギリス ●公的年金の支給開始年齢は、現在の65歳から2020年10月までに66歳、2028年までに67歳、さらに2037年から2039年までの間に68歳まで引き上げられる予定 ●しかし、高齢の労働者のための制度設立を義務付けたり、彼らの雇用を支援するような法律は出されていない フランス ●政府は高齢者雇用を維持するための法改正を行い、早期退職制度を段階的に廃止したため、高齢者の就業率は徐々に改善している ●多くの人が、早く退職して、退職後の生活をより長く楽しみたいと考えている ベルギー ●高齢の従業員を支援するための雇用計画を作成することが義務付けられている。その雇用計画では、フレックス制度や能力開発、福利厚生制度など、さまざまな分野が含まれている オランダ ●企業が提供する退職金制度は、68歳の退職年齢を想定しているが、前倒しで減額された給付を受け取ることも可能 ●2021年以降、年金支給開始年齢は平均寿命と連動して定められる。現在の予測では、2067年に71歳まで引き上げられることが見込まれる シンガポール ●定年は1999年に60歳から62歳に引き上げられた ●日本と同様、再雇用制度があり、2012年に65歳で導入され、2017年に67歳に引き上げられた ●企業は従業員の年齢を基に給与減額をすることはできないが、再雇用の契約を交わす際、給与減額を提示することは可能 韓国 ●定年年齢は2016年に55歳から60歳に引き上げられた ●年金支給開始年齢は、2033年までに現在の60歳から65歳に段階的に引き上げられる予定 ●賃金ピーク制(Wage-peak system)の導入:定年延長による企業の負担を減らすため、60歳までの雇用保障の引き換えに、一定年齢を超えた場合に給与を減額する制度。約7割の企業が導入している ベトナム ●労働人口はきわめて若く、高齢者の雇用に関する明確な関心や慣習は根づいていない ●ただし、年金給付開始年齢は、今後段階的に引き上げる予定 出典:「ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター2019年6月号」 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 331 新茶とトッピンシャン 食文化史研究家● 永山久夫 老化や病気を防ぐカテキン  茶所では茶摘みが始まり、新茶の出回るさわやかな季節となりました。新茶は香りや味もよく、ビタミンCもたっぷり含まれています。  日差しも強くなり、肌の老化が気になる季節ですが、お茶に多い抗酸化成分のカテキンが、肌の酸化、つまり老化からガードしてくれます。  カテキンは、体内で老化や病気の原因となる酸化(細胞のサビ)を抑制する働きもあり、最近では免疫力の向上や感染症の予防でもその効果が認められています。体内に入り込んだインフルエンザウイルスの増殖もある程度防ぐ働きがあるそうです。カテキンは渋味や苦味の成分で、玉露などの高級茶よりも、普通の煎茶により多く含まれています。  カテキンに次ぐお茶の有効成分としてテアニンがあります。甘味が強く、とろりとしたうまみの成分で、ストレスを解消するリラックス効果があり、記憶力や学習能力を高める成分としても脚光を浴びています。風邪の予防や日焼けから肌を守るビタミンCもたっぷりです。 新茶とごま味噌 ずいずいずっころばし ごまみそずい 茶壷(ちゃつぼ)に追われてトッピンシャン  よく知られたわらべうたの一節です。  「茶壷」の文字があるように、江戸の将軍家へ献上する宇治茶を運ぶ「お茶壺道中」を、ユーモラスに織り込んだものといわれています。道中、一行は「下にー、下にー」と声を上げながら進みます。  沿道の民衆は、少しでも粗略な態度を見せると容赦なく罰せられますから、その通過をじっと待つほかありません。お茶壺さまが近づくと、子どもたちは戸を「トッピンシャン」と閉めて、台所から「ごま味噌」を取り出し、指先にとってなめながら息をこらしている、というのが歌の内容です。  当時、甘味のついたごま味噌は、ご飯や酒の肴の“常備食”であり、子どもたちの大好物でした。特にごま味噌おにぎりは、お年寄りから子どもまで大好きな農繁期のおやつであり、お茶を飲みながら田んぼの土手で頬ばっていたようです。 【P28-33】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 第@回 株式会社 大津屋(福井県福井市)[前編] 定年延長やコンピテンシー評価で、シニアの働く意欲が向上 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構が共催する「高年齢者雇用開発コンテスト」(33頁参照)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 70歳就業を実現している企業事例をマンガで紹介!  「70歳就業」と聞いて、みなさんはどんなことを想像しますか? 「そんな年齢まで働けるの?」、「70歳といわず80歳、90歳まで働きたい」、「人事制度の見直しが必要になる」など、読者のみなさんの立場や環境によってさまざまな受けとめ方があるでしょう。高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保が努力義務となったいま、企業としては対応していかなくてはなりません。  そこで、本企画ではすでに70歳就業を実現している企業の取組みを、マンガで紹介していきます。初回は、令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞した、株式会社大津屋の取組みを紹介します。制度の内容はもちろん、高齢者の働きぶりなどを参考に、70歳就業の実現に向けた取組みに、ぜひお役立てください。同社の取組みは、次号でも引き続きご紹介します。 <企業プロフィール> 株式会社大津屋(福井県福井市) 創業1573(天正元)年 コンビニエンスストア事業(創業時は酒造業)  定年70歳。就業規則により73歳、その後は運用により上限なしで継続雇用。現在の最高年齢者は74歳。定年制度・継続雇用制度を整備し70歳就業を実現するとともに、評価・処遇制度を見直し、高齢社員が高いモチベーションで働ける環境が整っており、令和2年度高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞しました。人材を「宝」と位置づけ、高齢者の特性を最大限に活かせる職場づくりに取り組んでいます。 キーワード解説 ◇「高年齢者就業確保措置」  2021年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。これまで企業には、「高年齢者雇用確保措置」により、従業員の65歳までの雇用が義務づけられてきましたが、「高年齢者就業確保措置」では、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入のほか、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度や社会貢献事業に従事できる制度の導入などの選択肢が示されています。 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場などで有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。受賞企業の取組み内容については、毎年、本誌10月号・11月号で掲載しています。 JEED 高年齢者活躍企業コンテスト 検索 【P34-35】 江戸から東京へ [第102回] 母とパアーッと飲みたい 頼山陽(らいさんよう) 作家 童門冬二 座敷牢を喜ぶ  江戸後期の歴史学者で漢詩人の頼山陽は、母親孝行だった。ティーンエイジャー時代にたいへんな面倒をかけたからだ。山陽は号で安芸(広島県)の竹原に生まれ、この地方を総称した山陽をペンネームにしたのだ。親がつけた名は襄のぼる、通称は久太郎(ひさたろう)といった。  父の春水(しゅんすい)は高名な漢学者で安芸藩浅野家の藩儒(藩主に仕える儒学者)だった。が、主として世子(せいし)(浅野家の次の藩主)の指導にあたっていた。  このころの大名の世子はその母親とともに、江戸居住を幕府が命じていたから、世子は江戸に住んだ。いきおい春水も江戸に住む。春水は大坂の医者で儒者の飯岡(いいおか)義斎(ぎさい)の娘静子と結婚し、男の子(山陽)が生まれたばかりだったが、単身赴任した。その後19年ほとんど江戸で暮らした。たまに広島に帰ってくるが、静子と山陽は現在の母子家庭と同じ生活状態だった。  山陽は早熟な少年で九歳のときに藩校へ入ったが、たちまち英才ぶりを発揮した。父の志は修史にあったが山陽はそれを引き継いだ。しかし父不在のせいか、精神は不安定だった。母は懸命に世話をした。山陽は19歳(満)のとき、藩命で江戸勤務になったが、たちまちノイローゼ症状が出て当惑した。叔父の春風(しゅんぷう)が帰郷の世話をし、広島に連れて帰った。が、家に座敷牢がつくられ山陽はその中に入れられた。  このとき、親身になって寄り添ったのが母の静子だ。静子は山陽の性格を、  「孤独が好きで、世間の普通の生活には向かない」とみていた。だから座敷牢に入れられて、生まれてはじめての安穏(あんのん)生活を得たらしい山陽をみて、 (久太郎は、こういう暮らしが好きなのだ) と感じた。  静子と同じ見方をしたのが、藩主の浅野重晨(しげあきら)だった。静子に使いをよこし、  「久太郎(山陽)の扱いはまことに適切である。座敷牢を仁室(じんしつ)≠ニ名づけ、久太郎に寄り添ってやれ。読書筆硯(書き物)の望みがあれば、必ずかなえるように」  と指示した。殿さまが、  「久太郎に自由な座敷牢生活を送らせよ」  と命じたのだ。よほど山陽の才幹を愛し、また高く評価したのだ。静子はこの日、大喜びで座敷牢へ酒と肴を持ち込んで、  「久太郎、お前は殿様公認の囚人(めしうど)よ。さあ、パアーッと飲みましょう!」  とはしゃいだ。山陽は無邪気な母に思わず涙した。そして、 (いつかちゃんとした場所で、この母とパアーッと飲むぞ)  と決意した。  山陽が有名な「日本外史(がいし)」の草稿を書いたのは、この座敷牢の中においてだ。筆・墨・紙・資料の準備や整理はすべて静子がした。  まめまめしく世話をしながら、静子は、  「久太郎、たのしいね、頑張ろう」  と声をかける。うなずく山陽は、  「ありがとう、母上。必ずパアーッとやるからね」  と、約束をくり返した。 飲み助婆さん  牢暮らし三年で、山陽は許された。しかし家では廃嫡(はいちゃく)された。だが山陽は、逆に元気になった。京都に行き、この都をかこむ山脈(やまなみ)や貫く鴨川の水の美しさを愛した。「山紫水明処(さんしすいめいしょ)」と名づけた私塾を、鴨川のほとりに設けたのは、文政5(1822)年のことである。山陽は41歳になっていた。それまで文筆・交友による国事奔走に走りまわっていたからだ。  ようやく静子を呼んだ。塾に近い三本木の華街で、プロの女性をまじえ、文字通りパアーッと思いきり飲んだ。静子は70歳になっていたが、元気で冗談をいっては席を湧かせた。人気者になった。  しかし凄く大盤振舞なので、店が心配した。  「先生、こちらがかなり重(かさ)みますが」  と、用を足しに厠(かわや)に向う山陽に、そっと指を丸めてみせた。山陽は笑った。  「あの婆さまはオレの母親だが、それ以上に大恩人だ。受けた恩はこんな程度では返しきれない。これからも毎晩パアーッとやるぞ」  山陽は天保3(1832)年10月16日に死ぬ。満51歳。静子は11年後に84歳で死んだが、山陽が座敷牢に入っていたときが一番幸福だった。  静子が山陽の父春水の妻になったのは20歳のときで、翌年山陽を生んだ。しかし夫は江戸勤務なり、しかも本人の希望で単身赴任。  残された静子は周囲から疑惑と猜疑の目で見られる。なかにはズケズケ訊く者もいる。  「なぜ江戸にいらっしゃらないの?」  「旦那さまと何かおありなの?」  思わず、  「私の方が訊きたいよ!」  と噛みつきたくなる。そのせいか息子の久太郎は神経を傷めた。たまに帰ってくる夫はそんな息子を見て、  「お前の育て方が悪いからだ」  と静子を責める。  「おふざけでないよ!」  と手元にある裁縫道具を投げつけたいくらいだ。その夫も70歳でとうに死んだ。情が深かったとは思えない。しかし静子は、 (悪い人ではない。世にいう学者バカ≠ネのです)  と独りで笑ったことがある。孤軍奮闘してきた自分がいとおしかった。京都で騒いだ山陽との夜が忘れられない。 (でも、どのくらいお金がかかったのかしら)  と気にはするが、すぐ、まあいいでしょうと忘れた。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第107回 東京都 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢社員が主要業務で活躍 技能伝承やメンター役としても期待 企業プロフィール 株式会社JPF(東京都千代田区) ▲創業 1957(昭和32)年 ▲業種 公営競技の運営、開催業務受託および事業再生コンサルティング など ▲社員数 681人 (60歳以上男女内訳)男性(72人)、女性(122人) (年齢内訳) 60〜64歳85人(12.5%) 65〜69歳 87人(12.8%) 70歳以上 22人(3.2%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を65歳、基準該当者を70歳まで継続雇用。最高年齢者は電気設備保守の79歳  日本の首都でもある東京都は、関東平野の南部に位置し、東京湾に面しています。面積は全国で3番目に小さく、東京23区の「区部」と、多摩26市3町1村の「多摩地域」、伊豆諸島・小笠原諸島の「島しょ部」の3地域に大きく分けられます。関東山地に発する多摩川は東京を縦断し、下流部で南に隣接する神奈川県との県境になっています。  東京都における事業所数は約62万所、就業者数は約800万人で、それぞれ全国の11・6%、13・6%を占めています。企業数は約25万社で、全国の15・3%を占め、特に資本金10億円以上の企業数は全国の50・6%を占めています。一方、東京都では多様な中小企業が事業活動を展開しており、都内企業の98・8%が中小企業となっています※。  当機構の東京支部高齢・障害者業務課の竹中信子課長は支部の取組みについて、「大企業およびグループ企業から独立系の中小企業まで、多数の事業所の多様な要望を受けて、それぞれの事業所の事情に合った相談・援助、制度改善提案に努めています。改正高年齢者雇用安定法の施行を受けて、70歳までの就業機会の確保(努力義務)に重点を置いた活動を展開しています。また、コロナ禍におけるオンライン企業訪問に対応可能なプランナーは7割近くにおよび、われわれと連携して新たな相談・援助活動のスタイル確立にも取り組んでいます」と説明します。  同課に所属するプランナーの一人、駒場(こまば)孝文(たかぶみ)さんは中小企業診断士、社会保険労務士、特定行政書士の資格を持っています。特に中小企業診断士としての活動は長く、その経験と知見に裏打ちされた情報提供は、企業の実情に即したものであることから、多くの事業主に喜ばれています。  今回は、その駒場プランナーの案内で「株式会社JPF」を訪れました。 公営競技場の民営受託により包括運営  株式会社JPFは、1949(昭和24)年に創業し、写真判定事業をスタート。1957年に日本写真判定株式会社を設立し、1958年には東京で開催された第3回アジア競技大会の陸上競技、1964年の東京オリンピックの陸上・自転車・漕艇(そうてい)競技において写真判定を担当しました。その後、競技場内の実況放送や、地上波放送番組の制作、インターネット配信などの放送業を手がけて業容を拡大するなどし、2010(平成22)年には新規事業として富山競輪場の包括運営を受託しました。現在は全国7カ所の公営競技場において包括運営を行っています。  また、2015年に東京都知事より東京都スポーツ推進企業として認定され、「公営競技で街を元気に」、「サイクルスポーツを日本のメジャースポーツに」をスローガンに、スポーツの推進に向けた活動も展開しています。  そして2021(令和3)年4月に、株式会社JPFに社名変更しました。 最長70歳まで再雇用する制度  同社は2013年から、正社員は定年年齢を60歳とし、希望者全員を65歳まで、基準該当者を70歳まで継続雇用しています。契約社員は65歳までの雇用を原則としていますが、会社が必要と認め健康状態を含む職務遂行能力に支障がない場合は最長70歳までの雇用が可能です。  吉川(よしかわ)智之(ともゆき)常務取締役総務部長は、「高齢社員が活躍できる環境・制度の整備に努めてきました。高齢社員は元気な方が多く、現場の第一線や主要な業務に取り組んでいただいています。ほかにも、元競輪選手など自転車競技経験者には、家族で楽しめる自転車イベントや、アマチュア向け講習会の講師など、経験を活かした業務で活躍してもらっています。ただ、自身の健康や家族の事情などにより、若いときほど精力的に働くことがむずかしくなることもありますから、出勤日数を減らすなど、働き方を工夫して負担がかかりすぎないようにしています」と話します。  現在の定年・継続雇用制度を導入した経緯について聞くと、「古い規定の整備の一環としてでしたが、公営競技場を民間受託するにあたり、自治体の臨時職員が当社に転籍するようになったことも一因です。転籍者の多くは50〜60代の女性でした。主に車券の販売、受付、清掃業務など、以前の仕事のまま競技場の運営の面で活躍してもらっています」とふり返ります。  2012年7月に初めて同社を訪問した駒場プランナーは、次のように話します。  「当時から高齢社員を会社の戦力として十分に活用されていて、実態としては希望者全員を年齢の上限なく継続雇用していたため、これを制度として導入することをアドバイスしました」  さらに駒場プランナーは、高齢社員の活躍をうながすべく当機構の「雇用力評価チェック」を用いて現状分析を行い、その結果を元に「就業意識向上研修」を提案。2018年に「中高年従業員向け研修」を実施しました。30代から60代まで、幅広い年齢層の受講者が全国にある拠点から参加したそうです。受講した社員からは「就業意識が高まった」と好評で、毎年実施してほしいという意見も聞かれました。その後も定年年齢の引上げや、希望者全員66歳以上までの継続雇用の制度改善提案などを行っています。  今回は、富山事業所の総務グループの一員として主要な役割をになう高齢社員の方に、お話を聞きました。 総務の一員として、新たに労務にも挑戦  高田惠子さん(68歳)は、富山競輪場内に所在する富山事業所において、総務グループの一員として勤務しています。スタッフの労務管理や給与計算などの業務を中心に、備品の管理やスタッフの相談窓口を担当するなど幅広く仕事を任されています。  富山市が競輪場を直営していたころから、市が雇用する職員として働いており、同社が事業を受託したことにともない転籍しました。  「自治体の直接雇用のときは、勤怠管理や給与計算を担当していました。いまより人数が多く業務量が多かったこともあり、決められたことを日々こなしていくような仕事でした。いまは総務グループの一員として法改正への対応や制度の構築など、さまざまなことに取り組ませてもらっています。毎日というほど思いがけないことが起こるので、それを解決するために尽力しています。達成感や充実感を感じて働いています」と、笑顔で語ります。  労務担当として月に1回、社会保険労務士の事務所と情報交換をすることも業務の一つです。それまで労務に関する仕事の経験はなかったそうですが、「日々勉強」という前向きな姿勢で取り組んでいます。驚いたことは法律の改定が多いことだったとか。「こんなにも法律が変わるものだと、以前は思ってもいませんでした」と目を丸くしていました。  高田さんは社員の相談窓口も担当しています。  「雑談や声かけなどをして、人の話をよく聞くようにしています。おせっかいなおばさん≠ニ思われているかもしれませんね。ただ、世の中にはいろいろな考え方があって、本人が置かれている状況は人によって異なるので、相談を受ける立場として相手の話をよく聞いて、考え方を押しつけることはしないように心がけています」(高田さん)  相談窓口の担当に就く際には、実務者向けセミナーや、メンタルヘルスサポーターの講習会などを受講したそうです。窓口の相談内容は社員の健康や家族のことなどプライベートにかかわることなので、慎重に対応しているといいます。  「男女雇用機会均等法もなかった世代の私がシニアとなり、シニアとしての働き方や社会とかかわる仕事をさせてもらえること、イベントへの参加などにチャレンジさせてもらえることにやりがいを感じます」(高田さん)  富山事業所の総務部門の責任者である吉田祐介(ゆうすけ)所長は、「公営競技場はいろいろな団体が関係していて、さまざまな年代の、さまざまな雇用形態の人が働いています。総務部門からの情報の周知や調整はたいへん重要で、若手社員が行き届かないところや業務の隙間を埋めるようなサポートを高田さんがしてくれるので助かっています。社員数が増えて人間関係で問題が起こりやすい状況のなか、年長者の経験と包容力で大問題になる前に収束させ、それによってみんなが働きやすい環境をつくってくれています」と、高田さんの働きぶりに太鼓判を押します。  相談窓口では高田さんとタッグを組み、相談者の年齢や内容などに合わせて担当をふり分けているとのこと。高田さんは総務業務が長いことから社員全員からの信頼が厚く、富山事業所の「みんなの相談窓口」にもなっているのだとか。  「社員に親身になるだけではなく、会社の考え方と社員の気持ちを中立的にアドバイスすることができるので、管理部門である私も相談にのってもらっています」(吉田所長)  充実した仕事生活を送っている高田さんですが、ときには壁に直面することも。「考え込んで滅入らないように、体を動かしたりお酒をたしなんだりと息抜きをしっかりしています」と教えてくれました。  高田さんは会社の時短勤務制度を利用し、1日7時間、月20日間の勤務で、高齢になった親の世話を続けています。「これからも心身ともに健康で楽しく働き続けていきたい」と、抱負を語ってくれました。  吉川部長は、「経験豊富な高齢社員にこそ任せたい役割があります。技能伝承、若手へのビジネスモラルのレクチャー、現場社員のメンターなどです。政府の提唱する『人生100年時代構想』をふまえると、定年年齢の引上げも視野に入れて高齢者雇用について検討すべきだと考えています。駒場プランナーには、社員が高齢に到達する前に、キャリア設計をどのようにしたらよいか、本人にその意識を持ってもらうためにはどうしたらよいかを相談したいですね」と話していました。 (取材・西村玲) ※ 『東京の産業と雇用就業2020』(東京都産業労働局) 駒場孝文 プランナー(58歳) アドバイザー・プランナー歴:9年 [駒場プランナーから] 「企業の現状について、できるだけ多くの情報を提供してもらえるように、話しやすい雰囲気づくりに努めています。また、企業の担当者の興味や知識に応じて、提供する情報の内容や量をアレンジしています。そして、可能なかぎり企業の現状に即した提案やアドバイスを実施するように心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆東京支部高齢・障害者業務課の竹中課長は、「駒場プランナーは、2019年度は77件の制度改善提案を行い、当支部のプランナーのなかでべスト5に入る活躍ぶりです。また、中小企業診断士や社会保険労務士の資格を持ち、コンサルティングの経験がたいへん豊富です。人事制度・賃金制度の構築支援、人材育成・人材活用の支援にとどまらず、経営戦略の策定といった切り口からの企業へのアプローチも可能なため、その引き出しの多さと気さくな人柄が相まって、事業主から厚い信頼を得ています」と話します。 ◆東京支部は、JR総武線・東京メトロ半蔵門線錦糸町駅から徒歩約3分のハローワーク墨田5階にあります。高齢・障害者窓口サービス課、求職者支援課、生産性向上人材育成センターが同居し、相乗効果を活かしています。 ◆総勢65名のプランナーおよびアドバイザーが、相談・援助業務を担当※。2019年度は5,382社にアプローチし、1,920件の制度改善提案を行いました。※島しょ部を除く ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●東京支部高齢・障害者業務課 住所:東京都墨田区江東橋2-19-12 墨田公共職業安定所(ハローワーク墨田)5階 電話:03(5638)2794 写真のキャプション 株式会社JPF本社 東京都千代田区 吉川智之常務取締役総務部長 総務グループの一員として、みんなから頼りにされている高田惠子さん 吉田祐介所長 【P40-43】 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第5回 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その2― 1 はじめに  前回は、高齢者の労働災害として小売業の転倒災害を取り上げ、さまざまな災害事例と災害防止対策を紹介しました。今回は、第3次産業において小売業と並び転倒災害が多発している社会福祉施設を取り上げ、転倒災害事例をみていきます。 2 社会福祉施設の労働災害発生状況  社会福祉施設には、老人福祉施設、障害者支援施設、保育園などがあります。2008(平成20)年から2019(平成31・令和元)年まで、わが国の社会福祉施設の休業4日以上死傷災害発生件数の推移をみると、2019年は1万45人と2008年の4829人と比べ、108・0%増と大幅に増加しています(図表1)。この間、従事者数が2019年(常勤換算従事者数116万6919人)は2008年(同78万2681人)と比べ49・1%増になっていることも加え、労働災害が大幅増になっています。  社会福祉施設の労働災害を災害の種類別(事故の型別)にみると、転倒災害が最も多く、30%超を占めています(図表2)。  社会福祉施設のなかで多くを占める老人福祉施設では、要介護者の転倒を防止するため、要介護者の移動スペースは段差をなくすなどバリアフリー化が施され、また、床が濡れれば即座に拭き取りが行われています。それにもかかわらず、職場で転倒災害が多発しています。  老人福祉施設の従業員を対象としたアンケート調査では、社会福祉施設で転倒災害が多発していることを知らないとの回答(「あまりよく知らない」、「まったく知らない」の合計)が60%も占めています(図表3)。このことから、職場で転倒災害が多い一因として従業員の転倒災害防止意識が低いことがあげられ、それを向上させることが大きな課題といえます。  社会福祉施設の転倒災害を年齢階層別にみると、60歳以上が37%、50〜59歳が35%と、この二つを合わせて72%を占め、高齢者で多発しています(図表4)。また、休業見込期間別でみると、1月以上3月未満が50%、3月以上が12%と、この二つで60%を超えています(図表5)。このことから、転倒すると重篤な災害につながりやすいことがわかります。 3 転倒災害事例  社会福祉施設では、つまずき転倒、滑って転倒、足がもつれて転倒など、さまざまな原因で転倒災害が発生しています。それぞれの転倒災害事例をみていきましょう。 (1)つまずき転倒  つまずく物には、建物などに設置された物、床などに置いた物、段差などがあります。 ◆設置された物 【事例】3階フロアで洗濯物を干して浴室に戻る際、ベランダ前にあったホワイトボードの脚につまずき転倒した。 ◆床に置いた物 【事例】デイサービスの厨房内で、炊飯釜を持ち歩いていたところ、床にあった発泡スチロールケースにつまずき転倒した。 ◆段差 【事例】出勤時、車から降りて職場の玄関の段差につまずき、前方へ転倒した。 (2)滑って転倒  滑りによる転倒災害は、濡れた床、介助中の浴室、清掃中の浴室、駐車場などの凍結した路面などがあります。 ◆濡れた床 【事例】ホールの床が濡れていることに気づかず、トイレから出て利用者の衣類を取りに行こうとして、滑って転倒した。 ◆介助中の浴室 【事例】浴室で利用者を浴槽から引き上げるために利用者を抱え引き上げた際に左足が滑り、左半身を床に打ちつけた後、頭を打った。 ◆清掃中の浴室 【事例】浴室を清掃中、洗面台付近の床をバケツで水を流していたところ、足を滑らせて転倒した。 (3)引っかかり転倒  コード、ネットなどに引っかかって転倒しています。 ◆コード 【事例】サービスつき高齢者向け住宅で、利用者の居室の清掃中、利用者が歯みがきのため立ち上がったので、それを介助しようとしたところ、ナースコールのコードに足が引っかかり転倒した。 ◆ネット 【事例】ゴミ集積場所で、階段を上りきったところにゴミ袋を置き、ネットをかけて階段を下りようとふり向いたとき、左足がネットにひっかかり後ろに転倒。左手をコンクリートについて、手首を骨折した。 (4)階段で転倒  階段での転倒災害の事例をみると、下りるときも上がるときも発生しています。その多くはあわてています。 ◆下りるとき 【事例】夜勤明けのゴミ捨てのとき、たくさんのゴミを持ちながら、あわてて階段を下りてしまい、つまずき転倒した。 ◆上がるとき 【事例】複数のスタッフからの依頼を急いでこなそうとし、入居者の部屋へ訪室しようと、2階から3階へ階段を駆け上がっていた際、階段に足を引っかけ転倒し、踊り場の壁に右手を強打し骨折した。 (5)自転車に乗り転倒  自転車に乗っていたときの転倒災害は、歩行者をよけようとして転倒、自転車が段差に乗り上げ転倒、雨で濡れた路面に自転車が滑って転倒したものなどが見受けられます。 ◆歩行者をよけようとして 【事例】訪問介護先に自転車で移動中に歩行者をよけようとしたところ、ガソリンスタンドと歩道の間の側溝にタイヤがはまり、右側に転倒して、右大腿骨頚部を骨折した。 ◆自転車が段差に乗り上げ 【事例】訪問看護業務で移動中、自転車で車道から歩道へ上がる際、歩道の段差に乗り上げ、転倒し負傷した。 ◆自転車が濡れた路面で滑り 【事例】信号が青になり、ペダルを2〜3回漕いだところ大雨のためタイヤが滑り、左の方に倒れたため左足をついたが、支えきれず倒れ骨折した。 (6)介助中の転倒  介助時の転倒は、介助者を支えようとして転倒したり、介助者に押されて転倒したりするものが見受けられます。 ◆支えようとして 【事例】玄関で利用者を誘導中に、利用者が倒れそうになった。支えようとしたが、一緒に床に倒れた。その際、右足を痛めた。 ◆押されて 【事例】施設の玄関前で、帰りの送迎車に利用者を誘導している際に、利用者に後ろから背中を押されて、2段程の段差から転倒した。 (7)送迎車内で転倒  送迎車の中でも転倒災害が数多く起こっています。多くは、車内にある車椅子ストッパー、操作レバーなどの突起物につまずき転倒しています。 ◆車椅子ストッパー 【事例】デイサービス利用者用送迎車の到着後、車椅子昇降作業中、昇降機の後退防止用ストッパーにつまずき転倒。その際、左手を地面につき、手首にひびが入り負傷した。 ◆操作レバー 【事例】荷物を持ってリフトから降りるとき、右足がレバーに引っかかり転倒。右膝を地面につき、次に両手、特に左手を強くついた。 (8)その他  そのほかには、小走りして転倒するもの、足がもつれて転倒するものなどが数多く見受けられます。これらは、転倒の原因となる物理的な要因(段差、濡れなど)がなくても発生しています。対策は本人の転倒災害防止意識を高め、行動を変えていくことが求められます。 ◆小走りして 【事例】通所リハビリテーションフロアで、事務処理作業中、数メートル離れたところにある内線電話が鳴り、急いで電話に出ようと小走りしたところ、バランスを崩し転倒し、左足甲部をひねった。 ◆足がもつれて 【事例】食堂にて朝食介助が終わり、食器類の片づけ中、洗面所にいた利用者に手拭きペーパーを渡し、片づけのため別テーブルに向かおうと方向転換したときに、足がもつれ転倒。とっさに手をつくことができず、左肩、左背中を強打した。 ◇  ◇  ◇  次回は、転倒しやすい高齢者に対し、それを自覚させるための転倒災害防止対策を紹介します。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 社会福祉施設の休業4日以上死傷災害発生状況 2008年 4829人 2009年 5065人 2010年 5533人 2011年 6054人 2012年 6480人 2013年 6831人 2014年 7224人 2015年 7597人 2016年 8281人 2017年 8738人 2018年 9545人 2019年 10045人 出典:労働者死傷病報告を基に筆者作成 図表2 社会福祉施設の事故の型別休業4日以上死傷災害(2019年) 転倒 31.0% 腰痛 17.2% 介助等で無理な動作・体勢等により被災(腰痛を除く) 10.2% 交通事故(道路) 6.7% 墜落・転落 6.7% 激突 5.5% 激突され 3.8% 切れ、こすれ 2.6% はさまれ、巻き込まれ 2.5% その他 13.7% (注)事故の型「動作の反動・無理な動作」は発生状況をふまえ、「転倒」「腰痛」「介助等で無理な動作・体勢等により被災(腰痛を除く)」「その他」に振りわけた。 出典:厚生労働省・労働安全衛生総合研究所『小売業、飲食店、社会福祉施設の労働災害を防止しよう!労働災害を減少させた好事例の紹介』 図表3 社会福祉施設では転倒災害が多発していることを知っていましたか? n=10 よく知っている 1 ある程度知っている 2 どちらともいえない 1 あまりよく知らない 5 まったく知らない 1 出典:厚生労働省・労働安全衛生総合研究所『小売業、飲食店、社会福祉施設の労働災害を防止しよう!労働災害を減少させた好事例の紹介』 図表4 年齢別転倒災害発生状況(平成27年上半期「社会福祉施設」) 〜29歳 6% 30〜39歳 9% 40〜49歳 16% 50〜59歳 35% 60歳〜 37% 出典:厚生労働省「社会福祉・介護事業における労働災害の発生状況」 図表5 休業見込期間別転倒災害発生状況(平成27年上半期「社会福祉施設」) 2週未満 15% 2週以上1月未満 23% 1月以上3月未満 50% 3月以上 12% 出典:厚生労働省「社会福祉・介護事業における労働災害の発生状況」 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第36回 定年後再雇用の賃金一律減額、業務委託の留意点 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後再雇用の賃金制度について、何に気をつければいいのか知りたい  定年後に再雇用する従業員の賃金体系について、「同一労働同一賃金」施行の影響もあると聞きました。どのような要素に気をつければよいのでしょうか。 A  同一労働になる場合には、減額が許されない可能性が高く、職務の内容、変更の範囲などを定年前とは異なるように整理する必要があります。また、賃金体系についても、正社員とは異なる評価としておくことも検討してもよいでしょう。 1 定年後再雇用時の労働条件について  定年後に継続雇用する制度を導入し、再雇用を行う場合には、形式的には、定年により一度労働契約は終了し、新たな雇用契約を締結することになります。そのため、契約自由の原則からすると、雇用契約を締結するか否かは、使用者と労働者の意思が合致するか否かによるということになりますので、使用者が労働条件を変更して提示することも可能と考えられそうです。しかしながら、定年後の再雇用が義務化されている状況からすれば、定年後の再雇用を一切自由としてしまうと、労働条件を大きく下げることによって、実質的に雇用契約継続の可能性がなくなり、継続雇用制度が形骸化する可能性があります。  この点について厚生労働省は、合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法(以下、「高年法」)の違反にはならないとの見解を公表しています。ただし、高齢者が受け入れる余地のない労働条件を提示することは実質的には解雇に等しいと考えられ、継続雇用をしないことができるのは、就業規則の解雇事由または退職事由と同一の範囲に限定されている(「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」参照)こともふまえて、事業主から提示する労働条件は、合理的な裁量の範囲とするよう制約されています。  さらに、同指針においては、賃金・人事処遇制度の見直しとして、年齢的要素を重視する賃金・人事処遇制度から、能力、職務などの要素を重視する制度に向けた見直しに努めることや、継続雇用後の賃金については、継続雇用されている高齢者の就業の実態、生活の安定などを考慮し、適切なものとなるよう努めること、といった方針も示されています。  したがって、再雇用時の条件の提示に関しては、合理的な裁量の範囲であれば、可能といえますが、その範囲については、指針において示された考慮事項のほか、後述の同一労働同一賃金の要素も加味して検討する必要があります。 2 同一労働同一賃金との関係について  再雇用時の条件提示の問題以外にも、定年後の継続雇用を実施する場合、再雇用した高齢者は有期雇用労働者となることが一般的です。そのため、正社員との間で同一労働同一賃金の問題が生じます。  定年後の再雇用に関して同一労働同一賃金が争われた事件として、長澤運輸事件(最高裁二小 平30・6・1判決)があります。この事件において、判決では、旧労働契約法第20条が考慮することを認めている「その他の事情」として、定年後の再雇用であること≠ノついて、再雇用後の賃金減額に関する合理性を肯定する方向で考慮していました。  なお、この事件は、旧労働契約法第20条が適用された事件であるところ、現在においては、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違に関しては、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パート有期法」)第8条および第9条が適用されることになります(中小企業でも、2021(令和3)年4月1日から適用されます)。よって、この事件を参照する場合は、以下の点に留意しておく必要があります。  まず、「同一労働」と評価されるか否かが非常に重要です。この事件では、実は、同一労働か否かの判断にあたって@業務の内容、A当該業務にともなう責任の程度、B配置の変更の範囲については、無期雇用労働者と有期雇用労働者の間に「相違はない」と判断されています。ところが、現行法でこの事件と同様に「相違はない」と判断された場合、労働条件に差異を設けること自体を不利益取扱いとして禁止する「均等待遇」を定めた同法第9条が適用される可能性があります。そうなった場合には、同法第9条が「その他の事情」を考慮要素として掲げていないことから、長澤運輸事件のように定年後の再雇用であること≠ェ賃金減額の合理性を肯定する事情として考慮される余地がなくなる可能性があります。  したがって、定年後の再雇用において賃金の減額を一定程度行うにあたっては、少なくとも職務の内容(業務の内容、責任の程度)および職務の内容または配置の変更の範囲(変更の範囲)のいずれかについて、再雇用時点において整理しておくことがきわめて重要といえます。定年後の再雇用において従前の役割をそのまま維持すると、正社員との間での「均等待遇」が必要となり、少しの賃金の減額自体も許容されないことになってしまいそうです。具体的な業務の内容が変更することができない場合であっても、少なくとも、責任の程度や配置変更の範囲などについては、定年後再雇用者について役職を見直すことや異動に関する規定を適用しない旨を再雇用時の労働条件として雇用契約書に明示するといった対応はしておくべきでしょう。  さらに、賞与や退職金の支給に関しても、メトロコマース事件および大阪医科薬科大学事件(いずれも最高裁令和2年10月13日判決)において、有期雇用労働者に関して、これらの不支給が不合理といえるか否か判断が下されています。  定年後の再雇用において、退職金は支給済みであり追加で支給することは多くないと思われますので、主として問題となるのは賞与の支給であると考えられます。これらの事件においても、職務の内容やその変更の範囲などが判断要素となった点は共通していますが、賞与や退職金に関しては、その支給基準と賃金体系の相違(正社員は職能給制度であるが、有期雇用が時給制度であること)なども強調されています。また、これらの支給が業績と連動させていなかったことなども考慮しており、仮に、賞与に関して業績連動の要素がある場合には、有期雇用の労働者であっても業績に対する貢献があることは否定しがたいときには、賞与を一切支給しないという労働条件は不合理とされる可能性が残っています。賞与の支給に関して、正社員との差異を設けるような場合には、賃金体系に相違を持たせて、職能給の延長線上にならないような注意が必要であるほか、賞与支給の考慮要素に業績連動が含まれている場合には、一切支給を行わないことは不合理と判断される可能性がありますので、注意が必要です。  なお、パート有期法14条1項・2項は、事業主が講ずる措置について、有期雇用労働者に対して説明する義務を定めているため、なぜ再雇用後に賃金が減額されるのか、賞与や退職金の支給対象にならないのかについても、合理的に説明できるように準備しておく必要があります。 Q2 高齢社員の雇用終了後、業務委託契約を結ぶ際の留意点について知りたい  今後、65歳で継続雇用を終えて退職した後の従業員においても、まだまだ働ける者が出てくる予定です。雇用終了後は、業務委託の形で柔軟な働き方を認めていこうと思っていますが、留意すべき点はありますか。 A  継続雇用後であっても業務委託として認められるために、その実態が労働者として評価されないように留意する必要があります。  直接の指揮命令を避けることや費用負担などの合意の内容などをふまえて契約形態を検討しましょう。 1 創業支援等措置と業務委託について  高年法が改正されたことにともない、継続雇用後においても、就業機会の確保について努力義務が定められることになりました。  これまでの高年法との相違点としては、対象年齢が70歳までに延長されたことが特徴としてあげられますが、それ以外にも、「雇用」にかぎらず、さまざまな働き方による「就業機会」の確保という整理がなされた点も特徴としてあげることができます。  制度の詳細については、ここでは子細には触れませんが、継続雇用を終えて退職した労働者との間で、業務委託契約を締結して、仕事をしてもらうことも就業機会の確保のラインナップに入っているため、今後、このような対応をする企業も増加してくるかもしれません。  これまでの雇用関係による継続雇用とは異なり、業務委託とする場合には、会社は直接の指揮命令を行う立場ではなくなります。抽象的にいえば、元社員の独立性を維持したうえで、その判断に裁量を認めることが求められます。業務委託において委託する業務の内容が、在籍当時とほとんど相違ないようなことが想定されますが、そのような業務委託の形態は必ずしも適切とはいえないでしょう。  業務委託関係となった社員が、これまでの雇用と異ならないし、給料も支払ってもらえるという認識のままでは、後日トラブルになるおそれがありますので、業務委託の関係に切り替わることは明確に説明しておくべきでしょう。そのためにも、業務委託契約締結時には、書面により締結することとしたうえで、就業条件について、業務内容、支払う金銭の額および支払い時期に関する事項、契約締結の頻度や受発注の方法、納品または役務提供の方法に関する事項、契約変更の方法、契約終了の事由(解除、解約または契約期間)などを定めておくことが重要でしょう。  これらの契約内容にとって重要な要素として掲げた内容は、改正された高年法において、創業支援等措置を導入するための実施計画において定めることとされています。また、当該実施計画を契約締結する労働者へ書面にて交付するなど周知することも求められていることからも、これらの内容を契約上でも明確にしておかなければ、業務委託による創業支援等措置の実施と当事者の認識が齟齬してしまう恐れがあります。 2 業務委託と労働者性について  過去の連載においても、業務委託と労働者性について触れたことがあります(2019年7月号)。重複する部分もありますが、継続雇用後の業務委託においても、同様の点に留意しておく必要がありますので、改めて紹介します。  労働者性の判断にあたっては、「使用従属性」と呼ばれる観点が重視されています。過去の厚生労働省の解釈などにおいて、使用従属性の判断については、@仕事の諾否の自由の有無、A指揮命令権の有無、B時間や場所の拘束性の有無、C代替性の有無、D報酬の労務対償性の有無(労働時間の対価であるか否か)などがあるか否かという観点が掲げられています。  次に、労働者性を補強する要素の有無として、E事業者性の有無(用具の負担関係、報酬の額)、F専属性の有無、Gその他(採用選考過程の雇用類似性の有無、福利厚生の適用関係、就業規則の適用の有無)などが考慮されています。実際、裁判例においても、これらの要素をふまえて総合考慮の結果として、直接雇用の労働者との比較なども参照しながら、業務委託と評価できるか、労働者性を帯びているかを判断しています。  定年後の業務委託においては、自社以外においても役務を提供することが想定されていることは少ないと思われることから、専属性を否定できる状況になるとはかぎらないでしょう。できれば、専属性の要素を弱めるためには、雇用とは異なることから、副業や兼業を認めたうえで、実際に複数の会社に対する役務提供を行うような実態が確保できるとよいと考えられます。  また、機械や器具などの負担に関しても、これまで会社が用意してきたにもかかわらず、突如として自己負担を求めるようにスムーズに移行できるとはかぎらないようにも思われます。  こうした点を考慮すれば、判断要素のなかでも、指示などに対する諾否の自由を確保しておくためにも、就業する日時などについて裁量の余地をしっかりと確保しておくこと(上記@)が特に重要と思われます。具体的には、月間の就業回数などを決める際に何日役務提供するかという点について元社員の意思を尊重するといった方法を採用することになるでしょう。  さらに、業務遂行上の指揮監督においても具体的かつ詳細なものとしないこと(上記A)も重要となります。たとえ、役務の提供場所が退職前の職場と同様であったとしても、直接指揮命令をして業務にあたらせることはできず、仮に、業務遂行が適切に行われなかった際には、懲戒処分や厳重注意などではなく業務委託契約の解除に向けた催告として実施するといった対応が必要になるでしょう。  以上のような形で業務委託としての取扱いを実施できていなかった場合には、たとえ創業支援等措置としての業務委託契約締結といえども、労働者性を肯定され、時間外割増賃金や有休取得の権利があるほか、労働時間管理の対象ともなるため、労働基準法違反を発生させるおそれがあり、留意が必要です。  業務委託としての性質の維持がむずかしそうな場合には、業務委託の形式ではなく、労働基準法を遵守することを前提に雇用契約のまま関係を維持するという選択をとることも検討に値するでしょう。その場合には、65歳を超えて有期雇用契約を締結することが考えられるため、定年後再雇用者についての無期転換権の適用除外とする場合には、第二種計画認定の手続きを適切に実施するための検討などの準備が必要になってくると思われます。 【P48-49】 高齢社員の心理学 ―加齢でこころ≠ヘどう変わるのか― 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 准教授 増本康平 最終回 高齢でも働くために必要なこと  高年齢者雇用安定法の改正により就業期間の延伸が見込まれるなかで、高齢者が活き活きと働ける環境を整えていくためには、これまで以上に高齢者に対する理解を深めることが欠かせません。そこで本稿では、高齢者の内面、こころ≠ノ焦点を当て、その変化や特性を解説します(編集部)。 高齢者の9割超が「働きたい」  「宝くじがあたったら仕事を辞める」というのは宝くじを買ったときに多くの人が思うことですが、働かなくてよいお金があれば本当に仕事を辞めるかというと、そうではないようです。  2020(令和2)年度の『高齢社会白書』によると、経済的な暮らし向きに心配がないと感じる60歳以上は74・1%となっています。一方で、図表にあるように何歳ごろまで収入をともなう仕事をしたいかという問いに対しては、約90%の人が高齢期でも働きたいと回答しています。ほかの調査でも職業、年齢、文化の違いを超えて、最大95%の人が、経済的な理由がなくても仕事を続けると答えています。 高齢社員のモチベーション  働く理由は、人生を通して変わります。お金がなければ生きてはいけませんが、子どもの教育費や住宅ローンなどの支出がなくなると、働く理由として金銭的理由は小さくなります。逆に仕事の内容や役割に意味を見出すことが、高齢期でも仕事に従事する大きなモチベーションとなってきます。  これまでの研究は、高齢社員のモチベーションを高めるためにいくつかの方法を提案しています。例えば、高齢社員が下の世代のメンターとして、経験に基づいた知識の共有を行ったり相談にのるといったことです。これは経験が乏しい若い社員にとって有益であると同時に、高齢社員にとってはこれまでの仕事をふり返り、その成果を次の世代に引き継ぐことができ、自分の仕事の意味を見出すことにもつながります。  また、高齢社員の多くは「実際の年齢より自分は若い」と思う傾向があり、この傾向は最大で20歳あるといわれています。加えて、自分が若いと思っている社員の仕事のパフォーマンスはそうでない社員よりも高いことが示されています。そのため、若い世代だけでなく「まだまだがんばれる!」と思っている高齢社員にも成長する機会を確保することは、社員のモチベーションだけでなく、企業の生産性の向上にもつながると考えられます。また、成長する意欲の高い高齢社員の存在は、若い世代の社員への刺激にもなるでしょう。 歳をとっても働くためには何が必要なのか?  65歳を過ぎて働くために必要なことをたずねた「60代の雇用・生活調査」((独)労働政策研究・研修機構/2020年)では、「健康・体力」が必要だという回答が82・0%と最も多く、「仕事への意欲」が58・9%、「仕事の専門知識・技能があること」が46・2%、「協調性(年下の管理監督者の下でも働けることなど)」が34・9%、「専門性よりは色々な仕事ができる能力や幅広い経験」が21・4%となっています。  年齢とともにさまざまな機能が衰えてくるのは仕方がないことですが、仕事が可能なだけの健康・体力づくりは日々心がける必要があります。また、コロナ禍が高齢社員の労働環境にどのような影響を与えるのかも気になるところです。高齢者のコロナ罹患のリスクの高さを考えると、高齢社員は在宅で仕事をするために、例えばパソコンのスキルを身につける必要があります。自分は高齢だから新しいスキルを身につけられなくても仕方ない、ということでは今後の変化に対応していくことができません。スキルの獲得に関する記憶機能は高齢でも保たれていますが、高齢になってゼロから新しいスキルを獲得するのは時間と労力を要します。そのため、常にスキルを更新し続けることが高齢になって環境の変化に適応するうえで重要であることを、コロナ禍は教えてくれている気がします。 連載の最後に  この連載の第1回で「高齢者に新しいことなんて身につけられるはずがない」といった、年齢を理由にした根拠のない思い込みや偏見であるエイジズム(年齢差別)についてお話ししました。職場でのエイジズムとしては、年齢を理由にした仕事の変更や退職の勧告があります。また、どちらかといえばこれまで高齢社員を守ってきた年功序列もエイジズムと解釈されることがあります。人種差別、性差別といった差別撤廃の動きが加速していますが、世界的に社員の高齢化が進むなか、エイジズムも例外ではありません。そのため、年齢に関係なく仕事ができるかどうかが、今後はより重視されるようになるでしょう。  また、仕事ができることが重視されるようになると、認知機能の検査によって高齢社員の仕事の適性を測ろうとする試みがでてくるかもしれません。たしかに、認知機能検査は認知症やその予備軍にみられる認知機能低下を判定することができます。しかしながら、仕事のパフォーマンスを決定する能力を測ることはできません。なぜなら、高齢社員の仕事のパフォーマンスを決定するのは、経験によってつちかった知識とスキル、対人ストレスや仕事の変化への適応力だからです。  人生100年時代といわれ、だれもが高齢になるまで生きることが考えられるいま、老いによる心理的な機能の変化について適切な知識を持つことは、企業にとっても、社員にとっても非常に重要なことだと思います。この連載が少しでも、老いに対する偏見や思い込みの払拭につながっていたら幸いです。 【参考文献】 Baltes, B., Rudolph, C. W., & Zacher, H. (Eds.). (2019).Work across the lifespan. Academic Press. Cubrich, M., & Petruzzelli, A. (2020). Advancing our und erstanding of successful aging at work: A socioemotion al selectivity theory perspective. Industrial and Organiza tional Psychology, 13(3), 369-373. Kooij, D. T. (2020). The impact of the Covid-19 pandem ic on older workers: The role of self-regulation and orga nizations. Work, Aging and Retirement, 6(4), 233-237. 図表 あなたは、何歳ごろまで収入をともなう仕事をしたいですか 全体 65歳くらいまで 25.6% 70歳くらいまで 21.7% 75歳くらいまで 11.9% 80歳くらいまで 4.8% 働けるうちはいつまでも 20.6% 仕事をしたいと思わない 13.6% 不明・無回答 1.9% 70歳・75歳・80歳くらいまでと働けるうちはいつまでもの合計 59.0% 収入のある仕事をしている者 65歳くらいまで 11.6% 70歳くらいまで 23.4% 75歳くらいまで 19.3% 80歳くらいまで 7.6% 働けるうちはいつまでも 36.7% 仕事をしたいと思わない 0.8% 不明・無回答 0.9% 70歳・75歳・80歳くらいまでと働けるうちはいつまでもの合計 87.0% ※調査対象は、全国の60歳以上の男女 出典:内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」(令和元年度) 【P50-51】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第12回 「昇給とベースアップ」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「昇給とベースアップ」について取り上げます。4月分から給与が上がる会社が多く、マスメディアなどでも特徴的な業界や会社の動向が伝えられるなど、人事的には春の季語≠ニいってもよいくらいの用語といえます。 昇給とベースアップの違い  給与を上げることを一般的に「賃上げ」と呼びます。これは、給与に該当する呼び名である賃金を上げること≠ノ由来しています。この賃上げですが、大きく「昇給」と「ベースアップ」に分類されます。この二つの用語は混同して使われることがありますが、目的も方法も異なるものですので、違いを明確にしながら解説したいと思います。 @昇給  「昇給」は、定められた条件に該当する場合に給与が上がることをさします。「定期昇給」という形で耳にすることが多いかもしれません。略して「定昇(ていしょう)」と呼び、この場合は毎年給与が上がることをさします。昇給の方法や実施期間・時期などは会社が自由に定められます。多くの会社が新事業年度を4月に開始する関係で4月給与分から昇給を実施していますが、10月に実施している会社や、数年に一度しか実施しない会社もあります。  昇給の代表的な方法について取り上げます。かつては、年齢に応じた生活の支援や長期勤続に対する動機づけを目的に、年齢や勤続年数が1年上がるごとに給与を上げる「年齢給」や「勤続給」による昇給を実施している会社が主流でした。この場合は、同じ年齢・勤続年数であれば、同額の昇給をすることになります。しかし、これらの方法を採用することは、給与の年功的な上昇につながることになります。そこで、年功を薄めようとする会社は個々人の能力の伸びに応じて昇給額を設定する「能力給」による昇給や評価結果によって基本給を増減させる方法に切り替えています。この場合、同じ年齢・勤続年数であっても、能力や評価によって昇給が高い人と低い人にばらつくことになります。優秀な人材の意欲の向上を主な目的とした昇給といえます。 Aベースアップ  「ベースアップ」は、社員の給与水準全体を一律に引き上げることをさします。略して「ベア」と呼びます。このベアとは何かを理解するために図表を見てください。現水準(@)があります。例えば、2000円ベースアップといった場合には、人事制度上で給与支給額を定めている「給与テーブル」全体に2000円加算します。そして、社員全員の実際の支給額も2000円増額します。このことにより、制度上も支給額も2000円底上げされた新水準(A)ができあがります。ベアの特徴として大きいのは、翌年以降に賃上げがある場合でも、底上げされた新水準から上がることになるため、効果が永続する点にあります。昇給が現水準(@)のライン上でA地点からB地点に移動するものであることに対して、ベア後の昇給は新水準(A)のC地点からD地点への移動となります。  ベアの目的は、かつては物価の上昇に対応するためのものでした。ところが、1990年代以降のバブル経済の崩壊にともない、物価が上がらない状況が続きました。日本経済団体連合会(経団連)が毎年発表している「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」によると、昇給・ベアをともに実施している会社は2013(平成25)年までは10%未満でした。しかし、安倍前内閣で成長戦略の一環として賃上げが位置づけられ、なかでも給与水準全体の引き上げにつながるベアの実施が大企業を中心に強く要請されるようになりました。要請を反映し、2014年には昇給・ベアをともに実施している会社は50%を超え、その状況がしばらく続くことになります。また政府の要請によらずとも、人手不足を背景とした人材の獲得策としてベアを実施し、給与を引き上げている会社もあります。このように、ベアは本来の物価連動とは異なる次元で実施されているのが近年の特徴ともいえます。 昇給とベースアップに関する動向  ここからは、直近の動向について触れていきます。先述の経団連の調査によると、2019年の賃上げ率は月例給与全体で2・31%、内訳は昇給1・94%、ベア0・37%でした。また昇給・ベアともに実施している会社は62・0%にのぼります。2014〜2018年も同じような傾向にあります。しかしながら、2020年は全体的に抑制された結果となりました。賃上げ率は月例給与全体で2・00%、内訳は昇給1・83%、ベア0・17%、また昇給・ベアともに実施している会社は39・2%にとどまっています。これは新型コロナウイルス感染症流行拡大による、経済状況を反映した結果といわれています。本稿執筆時点では、2021(令和3)年の賃上げについては、従業員の代表である労働組合と経営側が交渉している春闘の結果が出そろっていないのですが、2020年同様に厳しい状況が想定されています。自動車業界では一部メーカーの組合からのベア要求が見送られ、電機業界では要求金額を昨年より引き下げ、景気低迷が直撃している業界ではベア要求よりも雇用維持を優先しています。人件費負担が将来的にも続くベアは、景気の動向を受けやすい傾向にあるといえるでしょう。 ☆  ☆  今回は「昇給とベースアップ」について解説しました。次回は「健康経営」について取り上げる予定です。 図表 昇給とベースアップ A B C D 定期昇給 ベースアップ (ベースアップ後の) 定期昇給 (ベースアップなしの場合の)定期昇給 N年度 (N+1)年度 (N+2)年度 新水準(A) 現水準(@) 【P52-55】 特別寄稿 2021.5 企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査 パーソル総合研究所 ヒューマンアセットコンサルティング部 シニアマネジャー 石橋 誉(ほまれ)  改正高年齢者雇用安定法の施行により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。就業期間の延伸により、シニア人材に対するマネジメントは今後ますます重要になるといえそうです。そこで本稿では、パーソル総合研究所が行った「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」を元に、企業におけるシニア人材マネジメントの実態や課題について、同研究所の石橋誉氏に解説していただきました。(編集部) 1 はじめに  パーソル総合研究所では、シニア人材に関する課題感や施策の実態を明らかにするために企業規模100名以上の人事戦略・企画、人事管理の動向を把握している者(経営層・経営企画・人事・総務など)約800名を対象に、調査・分析を実施しました。 2 70歳就労機会確保の実態  70歳雇用確保の施策としては「定年後再雇用」の割合が「実施している」と「検討している」を合わせると86・1%を占め、再雇用制度が最も有力な選択肢です。一方で、「定年制度の廃止」は「実施している」と「検討している」を合わせても30%台に留まっています。また「NPO活動へのサポート(社会貢献活動支援)や起業支援」は「実施している」と「検討している」を合わせても20%台となっています。これをみるかぎりは再雇用制度以外の雇用措置施策については多くの企業で具体化が進んでいないことがうかがえます。 3 シニア人材における活躍・課題の状況  上位は「高い専門性の発揮」、「取引先や人脈の伝承」、「後進の育成」となっています。これらの項目はベテラン社員に期待される内容であり、ねらいに沿った活躍ができているようにみえます。一方その割合でみると、「高い専門性の発揮」35・5%、「取引先や人脈の伝承」31・1%、「後進の育成」30・9%と半数に満たない割合であり、半数以上が期待に沿った活躍ができていない状況です。なかでも、「自律的なキャリア構築」、「新たな仕事に対するチャレンジ」は下位であり、期待に応えているとする割合も2割を下回っています。70歳就労時代においては、異なる仕事での活躍、多様なキャリア選択を行っていくことが求められますが、キャリア自律や多様な仕事での活躍という観点で大きな課題があるといえます。  実際に課題を持つ企業は49・9%となっており、5年以内に課題になると回答した企業も合わせると割合は75・8%となっています。規模別にみると大きくなるほど課題感が強くなり、業種別にみると、「金融・サービス」、「情報通信」、「製造・建設」の課題感が強くなっています。  具体的な課題の状況をみると、課題の上位は「モチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」、「マネジメントの困難さ」となっています(図表1)。  5〜10年後の課題の上位は、「70歳までの就労機会確保義務への対応」、「社員の健康上の配慮」、「能力・スキル不足」、「給与原資の確保」、「職務の準備拡大」となっています。これは45歳以上の高齢者偏重組織となっている企業が84%を占めるなかで、5〜10年後においては60代社員の増加が予想されることから職域確保、健康問題がクローズアップされるととらえていることが考えられます。 4 シニア人材に対する施策実施状況  施策を実施しているとする企業の割合は62・9%となっています(図表2)。実施率は企業規模が大きいほど高く、1万人以上の企業における施策の実施状況は78・0%です。また、業種別にみると「金融・サービス」、「情報通信」、「製造・建設」での実施率が高くなっています。  具体的な施策としては、「ポストオフ・役職定年制度」が38・1%でトップとなっています(図表3)。これは、組織の高年齢化にともなう人件費の増加や管理職の世代交代が優先的に行われているためと考えられます。  対象年齢別に見た実施施策の状況をみると、45歳以降のスキルアップ研修の実施割合は大きく下がります。キャリアプランニング研修の実施タイミングは50歳、ポストオフ・役職定年は55歳になっています(図表4)。  役職定年後、再雇用後にモチベーション、パフォーマンスの低下が生じることを考えると、55歳以降のタイミングにおける「キャリアカウンセリング・キャリアコンサルティング施策」の実施、新たな職務に適応するためのスキル教育などの多様な活躍に向けた施策の実施が望まれるといえます。 5 シニア人材施策の位置づけと人事部の課題  年代・対象別に人材開発予算配分をみるとシニア人材への予算配分は6・3%となっています(図表5)。今回の回答企業においては、84%の企業が45歳以上に人員が偏在した状態ですが、予算は要員数のボリュームに見合った配分がなされていません。  原因は、シニア人材に対する課題認識の低さです。人事課題の優先度をみていきますと課題感の上位は「メンタルヘルス対策」、「優秀人材の採用」、「長時間労働の是正」であり、シニア人材の活用・活性化は中位です。また、キャリア自律の推進や学び直し支援といったシニア人材の活躍に関連するテーマはさらに低い位置づけです。  調査分析では、人事施策の導入は「効果の得られやすさ」との相関がありました。ポストオフなどの人件費抑制効果がすぐ見込めるものは導入が進むものの、キャリア自律や学び直しなどの効果がすぐに見込めないものは、なかなか導入が進まない傾向にあることがうかがえます。  シニア施策の推進体制をみていきますと、シニアに特化した組織・担当者配置は19・6%であり、組織体制の充実度合いは、従業員規模別に差があることがわかります(図表6)。  シニア施策の実施に向けたハードルをみていきますと「経営層からの承認」、「予算の捻出」、「人事部門の企画構想力の不足」が上位です(図表7)。施策推進を行うには、経営層の理解や承認を得るため、施策目的、費用対効果を明確にすることが必要となりますが、人事部においては企画構想力を持った人材が不足していることもあり、施策実施が抑制されている可能性があります。 6 おわりにシニア課題の解決に向けて  調査では、企業の半数がシニア人材のモチベーションやパフォーマンスに課題感を持っているものの、施策実施トップはポストオフという現状が明らかとなりました。また45歳以上に人材が偏重している企業が多い一方で、人材開発費はシニア人材にはわずか6・3%しか配分されておらず、シニア人材の戦力化という観点では、能力開発・キャリア開発の観点で施策実施に課題があることが明らかになりました。  なお調査結果からの分析では、シニア人材の活躍において、@社内の職務ポジションが可視化されたうえで、適材適所に向けた施策が充実していること、A専門性を重視し、育成体制が充実していること、Bダイバーシティが重視され、個が尊重されていることが明らかになりました(図表8)。  シニア人材の活躍をうながす人事制度という観点での分析では、「職務」の市場相場を反映させた等級・処遇制度がシニアの活躍をうながすという結果も出ました。  今後、シニア人材の活躍に向けては、職務を軸にした人材マネジメントを推し進めるとともに、課題の大きさ、実施効果を明らかにしたうえで経営層の理解をうながし、施策を充実させていくことが必要であると考えられます。 図表1 シニア人材に対する具体的な課題感 n=800 シニア社員本人の働くモチベーションの低さ 現在も将来も、課題としては認識していない 16.0% 5〜10年後に、課題になってくる 10.9% 1〜5年後に、課題になってくる 28.3% 現在、すでに課題になっている 44.9% シニア社員のパフォーマンスの低さ 現在も将来も、課題としては認識していない 18.6% 5〜10年後に、課題になってくる 8.9% 1〜5年後に、課題になってくる 29.6% 現在、すでに課題になっている 42.9% シニア社員に対する現場のマネジメントの困難さ 現在も将来も、課題としては認識していない 17.9% 5〜10年後に、課題になってくる 10.8% 1〜5年後に、課題になってくる 30.0% 現在、すでに課題になっている 41.4% シニア社員の報酬・処遇の適正化 現在も将来も、課題としては認識していない 17.0% 5〜10年後に、課題になってくる 9.1% 1〜5年後に、課題になってくる 33.1% 現在、すでに課題になっている 40.8% シニア社員に対する健康上の配慮 現在も将来も、課題としては認識していない 15.9% 5〜10年後に、課題になってくる 12.3% 1〜5年後に、課題になってくる 33.4% 現在、すでに課題になっている 38.5% シニア社員のための職務の準備・拡大(職域開発・多様化) 現在も将来も、課題としては認識していない 17.1% 5〜10年後に、課題になってくる 11.3% 1〜5年後に、課題になってくる 33.4% 現在、すでに課題になっている 38.3% シニア社員の能力・スキル不足 現在も将来も、課題としては認識していない 22.5% 5〜10年後に、課題になってくる 12.0% 1〜5年後に、課題になってくる 29.4% 現在、すでに課題になっている 36.1% シニア社員に対する給与原資の確保 現在も将来も、課題としては認識していない 20.3% 5〜10年後に、課題になってくる 12.0% 1〜5年後に、課題になってくる 32.1% 現在、すでに課題になっている 35.6% 70歳までの就労機会確保努力義務への対応 現在も将来も、課題としては認識していない 16.6% 5〜10年後に、課題になってくる 15.6% 1〜5年後に、課題になってくる 36.8% 現在、すでに課題になっている 31.0% 図表2 シニア人材に対して施策を実施している割合 (%) n=800 n 施策は実施しておらず、検討もしていない 施策は実施していないが、検討している 施策を実施しているが、成果が得られていない 施策を実施しており、一定の成果が得られている 施策実施率(計) 全体 (800) 14.3 22.9 35.4 27.5 62.9 従業員規模(全正社員) 100〜500人 (333) 18.6 28.5 28.8 24.0 52.9 500〜1000人 (129) 14.7 21.7 37.2 26.4 63.6 1000〜1万人 (215) 11.2 19.5 39.5 29.8 69.3 1万人以上 (123) 7.3 14.6 43.9 34.1 78.0 業種 製造・建設 (289) 11.8 23.9 37.7 26.6 64.4 卸・小売 (82) 15.9 30.5 29.3 24.4 53.7 情報通信 (49) 4.1 28.6 32.7 34.7 67.3 金融・サービス (186) 13.4 14.0 39.2 33.3 72.6 医療/教育・福祉 (74) 24.3 28.4 25.7 21.6 47.3 その他 (120) 18.3 23.3 35.0 23.3 58.3 図表3 シニア人材に対する各施策の実施割合 ポストオフ・役職定年制度 実施しておらず、検討もしていない 33.1% 実施していないが、検討している 28.8% 実施している 38.1% 健康支援 実施しておらず、検討もしていない 33.0% 実施していないが、検討している 30.5% 実施している 36.5% スキルアップ研修 実施しておらず、検討もしていない 39.9% 実施していないが、検討している 29.5% 実施している 30.6% キャリアプランニング研修 実施しておらず、検討もしていない 44.3% 実施していないが、検討している 25.6% 実施している 30.1% 出向・転籍施策 実施しておらず、検討もしていない 46.9% 実施していないが、検討している 24.4% 実施している 28.8% 社内公募・異動施策 実施しておらず、検討もしていない 49.4% 実施していないが、検討している 26.1% 実施している 24.5% シニア社員と上司との1on1 実施しておらず、検討もしていない 48.9% 実施していないが、検討している 27.0% 実施している 24.1% キャリアカウンセリング/キャリアコンサルティング施策 実施しておらず、検討もしていない 47.8% 実施していないが、検討している 30.0% 実施している 22.3% マネープランニング研修/相談 実施しておらず、検討もしていない 48.6% 実施していないが、検討している 29.4% 実施している 22.0% スキルアップ/リカレント教育に対する支援金の支給 実施しておらず、検討もしていない 51.5% 実施していないが、検討している 28.3% 実施している 20.3% キャリア開発シートの運用 実施しておらず、検討もしていない 52.0% 実施していないが、検討している 28.9% 実施している 19.1% 「年上の部下」を持つ管理職向けのマネジメント研修 実施しておらず、検討もしていない 56.1% 実施していないが、検討している 28.8% 実施している 15.1% アセスメントの実施 実施しておらず、検討もしていない 54.1% 実施していないが、検討している 30.8% 実施している 15.1% 社外転身支援 実施しておらず、検討もしていない 59.9% 実施していないが、検討している 26.0% 実施している 14.1% シニア社員に対するメンターの配置 実施しておらず、検討もしていない 59.3% 実施していないが、検討している 28.1% 実施している 12.6% 社会貢献活動の支援 実施しておらず、検討もしていない 59.1% 実施していないが、検討している 28.3% 実施している 12.6% 図表4 シニア人材向け施策の実施対象年齢 スキルアップ研修 キャリアプランニング研修 ポストオフ・役職定年制度 キャリアカウンセリング/キャリアコンサルティング施策 図表5 対象別の人材施策の予算配分 n=800 新卒入社者 34.5% 中途入社者 20.2% 管理職 17.1% 幹部候補層 11.9% シニア人材 6.3% その他 10.0% 図表6 人事組織体制の実態 人事組織体制の実態(%) 人事組織実態 人事管掌役員の配置 53.1 人事関連の戦略・企画組織の設置 45.0 人材開発・教育研修組織の設置 42.1 事業部人事(HRBP)の設置 20.3 キャリア支援体制 キャリア開発・自律支援組織の設置/担当者の配置 25.9 キャリアカウンセラーコンサルタントの配置(社内/専任) 7.4 キャリアカウンセラーコンサルタントの配置(社内/兼任) 10.4 キャリアカウンセラーコンサルタントの配置(社外/業務委託) 6.6 特定課題推進 ダイバーシティ&インクルージョン推進組織/担当者の配置 18.8 シニア社員の課題対応組織/担当者の配置 19.6 いずれも存在しない 24.0 n=800 100〜500人(333) 34.8 30.3 25.2 12.0 13.2 3.3 6.3 3.0 7.2 11.4 39.3 500〜1000人(129) 49.6 36.4 35.7 15.5 23.3 5.4 7.8 1.6 6.2 11.6 22.5 1000〜1万人(215) 67.4 58.6 60.5 23.7 34.9 7.9 12.1 9.8 28.4 25.1 11.6 1万人以上(123) 81.3 69.9 62.6 41.5 47.2 19.5 21.1 16.3 46.3 40.7 5.7 図表7 シニア人材向け施策実施のハードル(障壁) シニア人材向け施策実施のハードル(障壁)(%) n=800 経営層からの承認 37.1 予算の捻出 34.5 人事部門の企画構想力の不足 23.8 人事部門の人員不足 20.8 人事部門のリーダーシップの不足 20.0 人事部担当者のシニア社員に対するスキル/知見の不足 19.4 労働組合からの承認 16.1 施策実施により生じる現場とのハレーションへの対応 15.0 人事部内の連携の弱さ 9.3 その他 1.0 図表8 シニアの活躍と組織の特徴 組織の特徴 標準化偏回帰係数(影響の大きさ) 社内労働市場の透明化 ポジションのオープンさ *** .117 異動・転勤の多さ ** .097 専門性の重視と育成体制 専門性重視 *** .163 育成の手厚さ ** .090 個の尊重 ダイバーシティ&インクルージョンの浸透 *** .206 シニア人材活躍 ■重回帰分析 統制変数|設立年数・上場・業種・人員構成 調整済R2 乗値: .229 サンプル数:n=800 ***:1%水準で有意 **:5%水準で有意 【P56-57】 BOOKS 新聞や雑誌の過去記事を見直すことによって、物事の本質を見極める力をつける 逆・タイムマシン経営論 近過去(きんかこ)の歴史に学ぶ経営知(けいえいち) 楠木(くすのき) 建(けん)、杉浦 泰(ゆたか) 著/ 日経BP/ 2420円  「タイムマシン経営」とは、すでに「未来」を実現していると思われる国や地域(米国のシリコンバレーなど)に着目し、そこで萌芽(ほうが)している技術や経営手法を先取りして成果を手にしようとする手法。一方、本書が掲げている「逆・タイムマシン経営論」は、この論理を反転し、過去の出来事を見直すことではじめて見えてくる視点や知見を取り入れる発想である。必要となる素材は新聞や雑誌の記事だけで、それをしばらくの間寝かせて読む、「たいしたコストはかからない」取組みだという。  本書にはその実践が、具体的な事例と考察とともにまとめられている。例えば、1980年代後半に空前のブームとなった「SIS」(戦略情報システム)や、2004(平成16)年前後に小泉元首相が試乗して話題となった「セグウェイ」(電動スクーター)のその後など、そして、近年の話題でもある「サブスクリプション」(定額制)にも目が向けられている。  多忙な日々を送るビジネスパーソンは、とかく目の前の話題にとらわれがちなところがある。物事の本質を見極め、戦略思考と経営センスに磨きをかけたい経営者や人事労務担当者に、ぜひ手に取っていただきたい好著である。 心・技・機能の三つの視点から、トレーニング方法や最新技術を紹介 安全運転寿命を延ばすレッスン 最愛カーライフをいつまでも! 松田(まつだ) 秀士(ひでし) 著/ 小学館/ 1540円  人にはそれぞれ運転可能な年齢「運転寿命」があると考えられるが、それは延ばすことができるという。本書は、心・技・機能の三つの視点から運転寿命を延ばし、安全運転を続けるためのトレーニング方法などを紹介している。  著者の松田氏は、66歳にしてプロのレーシングドライバーであり、自動車評論家としても活動。かつ、僧侶でもあり、「死ぬ瞬間まで元気でクルマを安全に楽しめる自分」であることを目ざす「お浄土(じょうど)までぶっ飛ばせ!」をスローガンとしたスローエイジングを提唱している。  本書では、著者が実践している眼の養生術(ようじょうじゅつ)や愛用の眼鏡、サプリ、体幹トレーニングや危険予知トレーニングなどの方法を写真とともに紹介。また、運転しながら健康になるために毎日できることや「事故を起こさない運転」の極意を説いている。さらに、加齢による衰えなどを助けてくれる「先進運転支援システム」、「衝突被害軽減ブレーキ」、「高度駐車支援」などの最新安全技術をわかりやすく解説。気軽に読み進められる内容だが、どの章にも人生を楽しむために大切な運転に対する著者の愛情が感じられ、生涯現役を目ざす際のガイドにもなる。長く運転を続けたい人におすすめしたい。 働く人が知っておきたい法律ガイド 働く人を守る! 職場六法 岩出(いわで) 誠(まこと) 著/ 講談社/ 1540円  実現不可能な業務を上司に強要されたらどう対応すべきか。時差通勤を希望したいが会社は認めてくれるだろうか。長時間労働、ハラスメント、雇止め、労災に直面したら……。  本書は、職場で生じる労働にまつわる疑問を取り上げて、解決する糸口となるよう「あなたを守ってくれる法律」を、わかりやすい文章とイラストで解説。トラブルや悩みに関連する、実際の事件の裁判例も多数紹介している。例えば、定年後の再雇用では、「まったく違う職種への再雇用は違法」とする裁判例などを紹介している。ほかにも、アルバイトやパートタイマーの権利、コロナ禍を理由とする雇止め、コロナ禍における派遣社員のテレワークの扱いなども取り上げている。  著者は、弁護士として40年以上にわたり、数多くの労働問題を扱い、多くの労働者の声にも耳を傾けてきた労働関連事案のエキスパート。その経験をふまえて、働く人が不利にならないように知っておくべき法律を取り上げている。「こんなときどうする?」、「弁護士からひと言」などのコラムも充実しており、困ったときの相談窓口や相談方法も紹介している。人事労務担当者が基礎知識を復習するときも役立つだろう。 シルバー人材センターの仕事が張り合いに。明るい「ひとり老後」を伝える 74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる ミツコ 著/ すばる舎/ 1430円  老後の生活に「不安がない」といえる人は少ないだろう。「自分の明るい老後が想像できる」という人も多くはないかもしれない。しかし、本書を読むと、そんな気分が雲ひとつない青空のように清々(すがすが)しいものに変わっていく。  牧師のミツコさんは、同じく牧師の夫と教会を運営しながら、娘4人を育てた。夫を見送った後は単身で公営住宅に移り住み、暮らしは年金の7万円でやりくり。ひと月の家計の内訳も明かしている。  ただ、教会への献金分は、シルバー人材センターの仕事で補う。主任牧師を辞めた後、地元のシルバー人材センターに入会し、1日2時間・週3日働いて、月2〜3万円を得ている。さまざまな仕事のなかから子育て中の共働き家庭の掃除や夕飯をつくる仕事を引き受け、「サポートしてくれて、ありがとう」という言葉や、通っているうちに仲よくなったお子さんたちからもらった手紙が宝物だという。  仕事が日々の張り合いになり、体を動かして働くと若さも元気も保てるので、「とてもありがたく思う」と実感しているミツコさん。感謝と清貧とともにある、ミツコさんの明るい生涯現役の毎日が美しく、輝いている。 「微笑みを以って正義を行う」名君を描く 小説 秋月鶴山 上杉鷹山がもっとも尊敬した兄 童門(どうもん)冬二(ふゆじ) 著/ PHP研究所/ 1760円  本誌の長期連載「江戸から東京へ」で、歴史に学ぶ高齢者の生き方・働き方を綴っている童門冬二氏の最新作。  本書は、江戸時代の日向国(ひゅうがのくに)(宮崎県)にあった高鍋(たかなべ)藩七代藩主・秋月(あきづき)種茂(たねしげ)(鶴山(かくざん))の存在と事績を描いた歴史小説。同時に、もう一つの側面として、「日本の小説ジャンルにあまり例をみない、『自治体小説』として読んでいただきたい」と著者はあとがきに記している。  かつて東京都庁に勤めていた著者が歴史小説の題材に選んでいるのは、「愛民」の姿勢で地域活性化に努力した人物だという。その代表にあげられるのが上杉鷹山(ようざん)だ。  本書の主人公秋月種茂は、鷹山の実兄であり、人を大事にして「下意上達(かいじょうたつ)」の組織をつくり、世界初とされる児童手当の支給や理想的な藩校の創設などを実践し、「私の知識と才覚は到底兄に及ぶものではない」と鷹山に言わしめた名君であるという。この小説では種茂を中心にして、補佐層の学者役人、現場など各職層の「果たすべき責務」についてもスポットをあてている。  「微笑みを以って正義を行う」。著者がこのように評する種茂の姿勢や行動に心を動かされ、時代を超えて会いに行きたくなる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「専門実践教育訓練」の2021年4月1日付の指定講座厚生労働省  厚生労働省は、教育訓練給付金の対象となる「専門実践教育訓練」の2021(令和3)年4月1日付指定講座として249講座を決定した。  指定された249講座の訓練内容の内訳をみると、業務独占資格または名称独占資格の取得を訓練目標とする養成課程(介護福祉士、看護師、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士など)が141講座、専修学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラム(商業実務、衛生関係など)が81講座、専門職学位課程(教職大学院、法科大学院など)が5講座、大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程(保健)、正規課程(社会科学、社会)など)が10講座、第四次産業革命スキル習得講座(AI、データサイエンス、セキュリティなど)が12講座となっている。  なお、今回の指定により、すでに指定済みのものを合わせると、2021年4月1日時点の給付対象講座数は2528講座になる。  専門実践教育訓練給付は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%(1年間の上限40万円)が支給される。  また、訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に雇用保険の被保険者として就職した場合は、教育訓練経費の20%(1年間の上限16万円)が追加支給される。 厚生労働省 「グッドキャリア企業アワード2020」受賞企業  厚生労働省は、「グッドキャリア企業アワード2020」の受賞企業9社を決定した。  「グッドキャリア企業アワード」は、従業員の自律的なキャリア形成支援についてほかの模範となる取組みを行っている企業を表彰し、その理念や取組み内容などを広く発信することで、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的としている。2012年度から2015年度までは「キャリア支援企業表彰」として実施し、2016年度に「グッドキャリア企業アワード」に呼称を変更し、昨年度までに78社を表彰している。  今回は、全国47社から応募があり、「大賞」に4社、「イノベーション賞」に5社が選ばれた。  受賞企業は以下の通り。 ◆大賞(厚生労働大臣表彰) ・株式会社JTB(東京都品川区) ・TIS株式会社(東京都新宿区) ・万協(ばんきょう)製薬株式会社(三重県多気(たき)郡多気町) ・SWSスマイル株式会社(三重県津市) ◆イノベーション賞 (厚生労働省人材開発統括官表彰) ・株式会社三井住友銀行(東京都千代田区) ・ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社(東京都中野区) ・エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社(神奈川県川崎市) ・株式会社はたらクリエイト(長野県上田市・佐久(さく)市) ・医療法人社団恵正会(けいせいかい)(広島県広島市) 厚生労働省 「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」実施  厚生労働省は、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月までを実施期間(7月を重点取組み期間とする)とした「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。今年で5回目の取組みで、本キャンペーンでは、すべての職場において基本的な熱中症予防対策を講ずるよう呼びかける。また、熱中症の初期症状を早期に把握し、重篤化や死亡に至ることがないよう、事業者がWBGT値(暑さ指数)を把握してそれに応じた適切な対策を講じ、緊急時の対応体制の整備を図るなど、重点的な対策の徹底を図るとともに、職場においても、十分な新型コロナウイルス感染症予防対策を行いながら、熱中症予防措置を講ずる。  同省がまとめた2020(令和2)年の職場における熱中症による死傷者数は919人、死亡者数は19人となっている(いずれも2021年1月15日時点の速報値)。死傷者数を業種別にみると、建設業が201件、製造業が190件となっており、全体の4割強がこれら二つの業種で発生している。死亡災害の発生状況をみると、製造業、建設業、清掃・と畜業の順に多く、「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」、「倒れているところを発見された」など、管理が適切になされておらず、被災者の救急搬送が遅れた事例が含まれている。また、熱中症の発症と年齢との関係を年齢階級別死傷年千人率でみると、65歳以上における死傷年千人率が最も高く、最も低い25〜29歳の2倍以上となっている。 経済産業省 健康経営優良法人2021  経済産業省が事務局を務める、健康・医療新産業協議会健康投資ワーキンググループ(日本健康会議健康経営500社ワーキンググループと中小1万社健康宣言ワーキンググループも合同開催)では、「健康経営優良法人認定制度」を推進している。このほど、健康経営優良法人2021を発表し、大規模法人部門で1801法人、中小規模法人部門で7934法人を認定した。  この制度は、地域の健康課題に即した取組みや日本健康会議(国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携し行政の支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体)が進める健康増進の取組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を認定して、「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としている。  今回の健康経営優良法人2021では、大規模法人部門に1801法人(上位法人には「ホワイト500」の冠を付加)、中小規模法人部門に7934法人(上位法人には「ブライト500」の冠を付加)を認定した。健康経営優良法人に認定されると、社会的に評価を受けるとともに、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となるなどのインセンティブがある。 ※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標 静岡県 高齢者雇用に関する実態調査結果  静岡県浜松市は、2019(平成31)年2月に「70歳現役都市・浜松」を宣言し、「誰もが健康で明るく、生きがいを持って現役で活躍できる都市の実現」に向けて、就労環境整備や社会参加支援、健康増進を柱とした事業に取り組んでいる。  本調査はその一環として、浜松市内の常用雇用者数10人以上の事業所から1000事業所を無作為抽出し、2019年5月〜6月に実施した。  調査結果から、定年年齢についてみると、「60歳定年」の事業者が69・1%、次いで、「65歳以上」が27・9%となっている。  次に、継続雇用者の年齢についてみると、「65歳まで」が45・9%と最も高く、次いで「70歳以上」が36・8%となっている。  継続雇用者に対する事業者の希望についてみると、「70歳以上」の雇用を希望している事業者が41・1%と最も高く、ここに「70歳まで」の26・9%を加えると、約7割の事業者が70歳まで及び70歳以上の雇用を希望している。  高齢者雇用の課題については、「健康管理」が50・0%、「若年層が採用できず、年齢構成がいびつになる」が29・1%、「管理職社員であった者の扱いが難しい」が17・4%となっている。  事業者の課題解決に対するニーズについては、回答の多い順に「人材の紹介、就職イベント等の開催」が33・3%、「雇用体系整備にかかる人的補助(相談、雇用体系策定等)」が22・2%、「高齢者雇用に関する事例の紹介、ノウハウの提供」が19・0%となっている。 発行物 生命保険文化センター 『ライフプラン情報ブック』改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、『ライフプラン情報ブック―データで考える生活設計―』(B5判、カラー60頁)を改訂した。  この冊子は、結婚、出産・育児、教育、住宅取得など、人生の局面ごとに、経済的準備にかかわるデータや情報をコンパクトかつ豊富に掲載するとともに、「万一の場合」や「老後」に関する不足額(目安)の算出方法など、高齢者の生活設計を考えるうえで参考となる情報を掲載している。  今回の改訂では、新しい時代の働き方と「働き方改革」について新規に取り上げ、新型コロナ情勢下でのテレワークに代表される新しい時代の働き方や、2019年から順次実施されている「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を解説している。また、経済的に困窮している学生や世帯を対象とした特例措置の解説を加えるなど、掲載データを最新化して充実を図っている。  一冊400円(税・送料込)。申込みは、HPより。https://www.jili.or.jp/ 【P60】 次号予告 6月号 特集 コロナ禍や自然災害に立ち向かう 働く高齢者の底力 リーダーズトーク 塚本成美さん(城西大学経営学部教) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー (五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は、「歴史に学ぶ高齢者雇用」と題し、高年齢者雇用安定法を中心とした高齢者雇用政策の歴史、そしてこれまでの法改正に対する企業の対応などについて紹介しました。  60歳定年や、65歳までの高年齢者雇用確保措置、そして今年4月からの70歳までの高年齢者就業確保措置(努力義務)は、高年齢者雇用安定法により定められているものですが、こうした年齢による枠組みが設けられた背景には、少子高齢化や健康寿命の延伸、年金支給開始年齢の引上げ、就職における年齢差別の禁止など、さまざまな要因があります。  また、これまで行われてきた高年齢者雇用安定法の改正=就業年齢の延伸により、企業における高齢社員の評価・処遇制度の見直し、役職定年制の導入など、さまざまな変化が起こりました。  現在の高齢者雇用は、こうした社会や企業の変化の上に成り立っています。70歳までの就業機会確保の努力義務化により、これからどのような変化が起こるのか。それを考えていくうえで、本特集が参考になれば幸いです。 ●今号より二つの短期連載がスタートしました。 「マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記」は、すでに70歳就業を実現している企業の取組みをマンガで紹介します。第1・2回は、2020年の高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞した、株式会社大津屋の取組みです。評価・処遇制度の見直しや、AI・ICTを活用した業務負荷の軽減など、興味深い取組みが満載ですので、来月号とあわせてぜひご一読ください。  「コロナ禍で変わる職場と働き方」では、コロナ禍で変化する環境に対して、どのように対処していくかを産業衛生の視点から解説します。  みなさまからのご意見・ご感想をお待ちしております。 月刊エルダー5月号 No.498 ●発行日−−令和3年5月1日(第43巻 第5号 通巻498号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-857-9 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 短期連載 コロナ禍で変わる 職場と働き方 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志  「禍」とは「わざわい、災難に加えて不幸なできごと」を意味し、「コロナ禍」とは新型コロナウイルス感染症の流行拡大で生じた災難や不幸、経済的・社会的影響あるいは危機的状況をさしています。多くの職場や仕事に変化をもたらし、働く人に影響を与えていますが、課題を正しく理解し、適切に対処することは可能です。 第1回 コロナ禍において労働者が抱えるストレス コロナ禍で生じたさまざまなストレス  新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の流行拡大による、二度目の緊急事態宣言が3月に一都三県で解除されたものの、感染力の強い変異株の拡大などにより、まん延防止等重点措置が一部の地域に適用されました。  流行を抑える効果が期待される新型コロナのワクチン接種が、欧米などに続いて日本でも進んでいます。一方で新型コロナに直接的に効果のある薬剤は開発中の段階で、最終的な終息は来春以降であろうと思います。  65歳以上の高年齢は新型コロナでは重症化のリスク因子の一つですが、みなさんは不安やストレスをこれまで感じてこられたでしょうか。  厚生労働省が公表したインターネットを介した調査結果では昨年2月から9月までの期間で、回答者の5割から6割の人が何らかの不安などを感じたと回答しています。具体的な内容は大まかに図表1のように分類できます。 ストレスの影響と背景を理解する  これらの不安やストレスによって懸念されるのは、図表2にあげたような事態や影響です。  適切な措置や対応により、こうした事柄を防止し、影響を小さくしていくことが求められますが、そのために不安やストレスに対する正しい理解を職場で共有することが大切です。  新型コロナの流行やその影響で、なぜ心理的な不安を抱えやすいのかというと、現代に生きるわれわれの遺伝子や特性は危険に囲まれていた20万年前から変化していないからなのです。日本人は欧米などの人々と比べて、遺伝的に心配性の傾向があるとする説もあります。  また心と身体は実は一体であり、働き方や生活習慣、コンディションが変化すればストレスの感じ方やメンタルヘルスに影響します。  さらに人間は集団で暮らす猿の仲間ですから、孤独に生きることはきわめて不得意なのです。その証拠に、失業やそれにともなう経済的な困窮は自殺のリスクであることや、孤独に暮らす人は寿命が短くなる傾向が指摘されています。 働く人による対処と職場の対策の基本  図表3に、厚生労働省による職場のメンタルヘルス対策の根拠とされる「職業性ストレスモデル」を示し、コロナ禍の影響と対処・対策の要素を加えてみました。  この理論モデルは、職場のストレス要因によって人体には感情(心理)面、生理面、行動面の三つの反応が起き、それが高じるとメンタルヘルス不調や身体の病気(心身症)に至ると説明しています。雇用や職位といった個人的な要因や職場外のストレス要因がストレスによる反応に影響する一方、上司や同僚、家族などの支援は緩衝(かんしょう)要因と呼ばれ、その反応を和らげると考えられています。そして、このような流れに沿って職場と労働者の双方が協力してストレス対処や対策に取り組むことが大切です。  職場のストレス要因については、一例としてテレワークなどの導入を行う際に充分な準備やサポートを行うことができます。また個人的要因については、雇用の確保や共通の危機意識の醸成のために労使間の対話を行うことができます。仕事以外のストレス要因でもプライバシーに配慮しながら相談対応も可能ですし、周囲からのサポートを職場環境改善活動などの場で再認識することもできるでしょう。  産業医などにストレスやその反応に悩まされている人の相談対応を依頼し、さらに不調の疑いがある人は専門医への紹介や経過観察をお願いすることも可能です。 コロナ禍から立ち直るレジリエンス  「禍」という言葉には「災い転じて福となす」というポジティブな意味合いも含まれます。同様のベクトルでは、危機を経てもしなやかに立ち直ることを意味する「レジリエンス」が職場のメンタルヘルス分野で注目されています。  われわれは困難を経て何かを学び、未来に活かすことができる才能を持っています。この点を私は企業などへのコンサルティングや研修の場で図表4のような流れで説明してきました。  先述した厚生労働省の調査でも睡眠時間や運動量が増えたり、お酒の量が減ったりしたと回答する人が1割ほどいます。適切に対処することで不安やストレスを解消できている人が半数近くおり、家族と過ごす時間が増えた人が3割、余暇や有意義な活動が増えた人が1割います。  コロナ禍によって職場の人間関係、配偶者や家族との関係に悩む人が少なくありませんが、これらは新型コロナの流行前から隠れていた問題が顕在化したに過ぎない場合が多いのです。そうした場合に行うことができるのがオープンなコミュニケーションです。  みなさんは思ったこと、感じたことを素直に周りの人に表現できていますか? いいたいことをいえること、そうした相手が身近にいることは心身の健康に有効であろうと思います。  これを機会に「本音と建前」を打破するよう、自分の気持ちを表現し合うことは、高齢労働が進んでいく将来にも役立ちます。働く人と職場の双方の問題防止や早期発見にも有効です。心理的な安全が確保される感覚を共有できることは職場の一体感や生産性の向上とともに、自職場の心理的なレジリエンスを強化できます。 【参考資料】 ・「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査の結果概要」厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部精神・障害保健課(令和2年12月25日)  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15766.html ・「職業性ストレスモデル(職場のストレスと健康モデル)」J. J. Hurrell, M. A. McLaney、アメリカ労働安全衛生研究所、1988 ・「【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策」亀田高志著、エクスナレッジ(2020年7月) 図表1 コロナ禍による働く人の不安やストレス 不安やストレス 心理的な不安 見えないウイルスなどに対するもの感染した場合の批判や差別、保健所による調査の影響 身体的な変化 身体を動かす機会や範囲の減少 食生活の変容 睡眠や生活リズムの変化 テレワークにともなう変化 社会的な変化 家族、友人、職場などの人間関係 雇用不安や経済面のこと 親や子どもに関する心配事 行動面の変容 家族、友人などとの交流機会の減少 医療機関にかかりづらいこと レジャーや娯楽をしづらいこと 図表2 不安やストレスが引き起こす事象 ●不安などを引き金とするメンタルヘルス不調 ●ストレスにともなう身体的な病気の発生や悪化 ●特に高年齢で働く人の心身の機能低下 ●一人ひとりと職場の生産性・創造性の低下 ●パワハラやセクハラなどのリスク事象の発生 図表3 職業性ストレスモデルに基づくコロナ禍の不安やストレスへの対処・対策 職場のストレス要因 ●テレワークなど労働環境の変化 ●役割上の葛藤や不明確さ ●人間関係における問題 ●仕事の将来の不安定さ ●裁量や自由度の不足 ●重すぎる負荷や変動 ●部下や同僚への責任 ●能力の活用が不十分 ●仕事上の要求の厳しさ ●勤務体制の変化 取り得る対処・対策@ ●テレワークなどの準備とサポート ●時間管理・業務管理 ●非常時という共通認識の共有 個人的要因 年齢・性別/結婚の状況/雇用の状況/職位/タイプA性格※/自己評価 取り得る対処・対策A ●雇用の確保措置 ●労使間の対話 仕事以外のストレス要因 家庭や家族内の不安やストレス 取り得る対処・対策B ●プライバシーに配慮した個人的な相談ごとへの慎重な対応と支援 緩衝要因 周囲からのサポート 上司、同僚、家族から 取り得る対処・対策C ●職場のコミュニケーションの促進 ●ストレスチェック実施後の職場環境改善活動の活用 急性の反応 心理的なもの ●仕事への不満 ●抑うつ 生理的なもの ●身体の症状 行動面のもの ●事故 ●病気による欠勤 医師が診断しうる病気 身体の病気 (心身症) メンタルヘルス不調 取り得る対処・対策D ●産業医・保健師などによる相談対応 ●管理職と人事部門との連携 ●職場復帰支援プログラムの実践 ※ タイプA性格……アメリカでは競争を好み攻撃的な野心家のタイプですが、日本では仕事に埋没する過剰適応型と考えられ、いずれも心身の病気になりやすい、とされています。 図表4 どんな経験も学びの機会と考えることができる これまで問題のない “順風満帆の人生”でしたか? NO! ほとんどの方は失敗、苦労や苦難を思い浮かべると思います。 辛い経験は、今のあなたにまったく役に立っていないですか? NO! 同じ失敗をしないように気をつけたり、苦労を乗り越える術を覚えます。 ではもしも、役に立っているとしたら・・ ?? つまり失敗、苦労や苦難もその後、役に立つ経験となっているのです。 どんな経験も学びの機会と考えることができる? YES! 結果的に失敗、苦労や苦難から我々は何かを学んでいることに気づきます。 新型コロナによる経験も将来の役に立つ! ※筆者作成 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は注意力の問題です。まずは、@細かく数えず、直感でどちらが多いか答えましょう。それから、Aきちんと数えましょう。@で使うのが分配的注意、Aで使うのが選択的注意です。また注意の持続も必要です。 第47回 多いのはどっち? 目標 30秒 下の枠のなかにイチゴとトマトのイラストがあります。 イチゴとトマトでは、どちらが多いでしょう。 また、それぞれの数を答えましょう。 どちらが多い イチゴ 個 トマト 個 意識的に、脳によい食べ物を摂取しよう  視覚情報の入力を行う器官である「眼」は、脳活動と密接にかかわっています。  したがって、今回の脳トレ問題を解き、「眼」の機能を鍛えることが脳活動を高め、ひいては集中力や判断力、情報処理能力など、さまざまな能力を高めることにつながるといえます。加えて、「しっかり見る」ことは対象を好きになることにもつながります。  また、今回の問題で登場したイチゴとトマトに多く含まれる抗酸化物質を摂取すると、健康的な血流を保つことができ、脳の健康をも保ちます。  イチゴにはフィセチンというポリフェノールが多く含まれます。フィセチンは、記憶力を高め、アルツハイマー病の発症を予防する効果があるとされています。  トマトに含まれるリコピンは、記憶をつかさどる脳の「海馬(かいば)」の細胞死を抑制する効果があるといわれており、脳神経細胞を保護する可能性もあるといわれています。  脳の血管障害による認知症や脳神経細胞の劣化を防ぐためにも、積極的に食べましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 どちらが多い:イチゴ イチゴ:10個 トマト:8個 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進マニュアル』のご案内 改正高齢法や雇用施策の考え方、人事制度改定の手順などを解説  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることが企業等の努力義務となりました。そこで当機構では厚生労働省と連携して、70歳までの就業機会確保措置を講じるためのポイントをまとめた『70歳雇用推進マニュアル』を発行しました。 ポイント 1 改正法をわかりやすく解説 ポイント 2 「70歳雇用」を進めるための考え方や施策を解説 ポイント 3 人事制度改定の具体的手順を解説 先進企業等の事例も多数紹介しています 『70歳雇用推進マニュアル』は、当機構ホームページよりダウンロードできます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/date/manual.html 70歳雇用推進マニュアル 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9530 FAX:043-297-9550 2021 5 令和3年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第5号通巻498号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会