【表紙2】 助成金のごあんない 〜65歳超雇用推進助成金〜 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて5万円から160万円 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《 》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円  (中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)とは、『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)』が要件です。 (企業の場合)  生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 65歳超雇用推進助成金に係る 動画はこちら 〜障害者雇用助成金〜 障害者作業施設設置等助成金  障害の特性による就労上の課題を克服・軽減する作業施設等の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の2/3 (例)障害者用トイレの設置、拡大読書器の購入、就業場所に手摺を設置 等 障害者福祉施設設置等助成金  障害の特性による課題に応じた福利厚生施設の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の1/3 (例)休憩室・食堂等の施設、施設に附帯する玄関、トイレ等の附帯施設・付属設備の設置・整備 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @職場介助者の配置または委嘱 A職場介助者の配置または委嘱の継続 B手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 C障害者相談窓口担当者の配置 D職場復帰支援 E職場支援員の配置または委嘱 助成額 @B 支給対象費用の3/4 A  支給対象費用の2/3 C  1人につき月額1万円 外 D  1人につき月額4万5千円 外 E  配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @住宅の賃借 A指導員の配置 B住宅手当の支払 C通勤用バスの購入 D通勤用バス運転従事者の委嘱 E通勤援助者の委嘱 F駐車場の賃借 G通勤用自動車の購入 助成額 支給対象費用の3/4 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 @訪問型職場適応援助者 A企業在籍型職場適応援助者 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 障害者雇用の助成金に係る 動画はこちら  お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.73 高齢者には働くことで積極的に社会参加し地域活性化の中心的存在になってほしい 城西大学経営学部 教授 塚本成美さん つかもと・なるみ 1960(昭和35)年静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。専攻は経営社会学、人事労務論、経営組織論など。2010(平成22)年より現職。近年は主に高齢者就業や社会的包摂(ほうせつ)、シルバー人材センターについて多くの研究を発表している。  改正高年齢者雇用安定法の施行により、2021(令和3)年4月から、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。70歳就業時代を迎え、今後、高齢者就業の場をどう確保していくのかが喫緊の課題となりつつあります。今回は、高齢社会問題やシルバー人材センターについて研究している城西大学経営学部教授の塚本成美さんに、シルバー人材センターの現状や高齢者就業の社会的意義などについてお話をうかがいました。 高齢者の積極的な社会参加をうながすのがシルバー人材センターの役割 ―70歳までの就業機会の確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が、今年4月1日に施行されました。改正法の意義と制度の課題についてどのように考えていますか。 塚本 働くことは社会とつながることであり、政策として70歳まで働くことが保障されることは、働きたい人たちにとってはよいことだと思います。一方で50代以降の世代のなかには、そんな年齢まで働かないといけないのか、と否定的にとらえる人もいるなど、二つの側面があります。制度ができても、高齢者が安い労働力として扱われないかという懸念もあります。定年後の再雇用では、仕事は同じなのに給与が下がるという話を聞きますし、65歳を過ぎてさらに下がることがないように、運用も含めて整備していく必要があると思います。  また、就業機会の確保という点では、今回の法改正で業務委託契約や社会貢献事業への従事も選択肢に入りましたが、最低賃金の規制もないので、その点にも留意する必要があります。シルバー人材センターも「請負」が中心ですが、もっとも弱いのは労働災害などの補償の部分です。シルバー人材センターは、事故の補償について「シルバー保険」という独自の保険を持っていますが、高齢者はケガや病気など健康を損ねやすい面があるので、一定の保護策を講じる必要があるのではないでしょうか。 ―高齢者の就業を取り巻く環境は大きく変化していますが、そのなかでシルバー人材センターが果たしてきた役割と意義についてお聞かせください。 塚本 シルバー人材センターは、1974(昭和49)年に設立された「東京都高齢者事業団」が源流です。たんなる就業斡旋(あっせん)組織ではなく、高齢者の積極的社会参加を目ざす「生きがい就業」と、地域の活性化を目ざす団体です。創設を主導した大河内一男※先生が書かれた本のなかで、私が感激したのは「高齢者に自主・自立の気概を持たせることが福祉の本当の意味だ」という言葉です。そのためにも収入は大事であり、経済的自立は人間にとって柱となる重要な要素であるといっています。高齢者自らが主体となって仕事をつくり出して社会に貢献し、地域を活性化していく。そうした誇り高い仕事をすることがシルバー人材センターの役割であると位置づけています。  1975年に東京都江戸川区に最初の高齢者事業団がつくられ、1980年にはシルバー人材センターに移行、1986年の高年齢者雇用安定法で法的に位置づけられ、市区町村単位の設立が可能になってから、シルバー人材センター(以下、「センター」)は急速に拡大しました。現在では、全国に1335団体、71万5558人の会員がいます(2020年3月末時点)。センターごとにさまざまな活動をしていますが、最近は空き家の管理や子どもの見守り、昨年はマスクの製作なども行っています。  65歳を過ぎると、これまでの人生をふり返ることが多くなります。高齢者にインタビューすると、「社会への恩返し」という言葉がよく出てきます。日本人特有の思いかもしれませんが、その気持ちは大事にしたい。もちろん企業で働くことを通じて社会に貢献することも重要ですが、雇われて働くと組織の利益が優先されることも多く、貢献がなかなかみえにくいこともあります。また、組織労働者として働く高齢者が増えるにしたがい、地域とのつながりが弱くなり、敬老精神が薄くなってきているような気もします。例えば、子どもの見守りをしているセンターの会員さんが休んだりすると、子どもから「おじいちゃん昨日はどうしたの? 大丈夫?」と声をかけられる。その言葉だけで生きがいにつながるということもあります。 地域の課題を住民自ら掘り起こすことが新しい関係づくりにもつながる ―センターの仕事といえば、草刈りなど肉体作業のイメージがあります。 塚本 たしかに、ホワイトカラー出身者に見合う経理や法務などの事務系の仕事があまりないのは事実です。請負なのでそうした業務を雇用関係のない人に任せられない、あるいは高齢者より若い人にお願いしたいという企業の事情もあります。各センターも仕事の開拓に一生懸命に取り組んでいますが、除草作業などはだれかがやらないといけない大事な仕事だと思います。除草や清掃は仕事として軽くみられやすいですが、公園など公共空間は清潔で安全に保つ必要があり、汚いと子ども連れの家族なども訪れなくなりますし、交流も生まれません。行政がやると税金投入で高くつきますが、センターがやることで税金の支出も抑えられます。また個人宅の樹木の剪定(せんてい)や除草も専門の植木職人や業者に頼むと高くつきます。支払い能力がない家庭もありますし、放っておくと草木が生え放題になりますが、センターに頼むと安くすむ。そうした地域住民の支払い能力や税金支出を考えるとセンターの意義は大きいと思います。 ―地域社会のインフラを守る重要な役割をになっているのですね。 塚本 私はセンターの役割について、それぞれの地域の課題を住民自ら掘り起こし、事業化する「生活環境整備事業」と呼んでいます。一つは地域の住環境をよくすること、もう一つが子どもの見守りや、子どもを預かる育児支援などの社会サービスです。例えば、マンションに住む共働き世帯の育児支援サービスを実施しているセンターなどもあります。託児所の補助をやっている会員も多く、若い夫婦にとっても自分の親だと気兼ねすることもあるので頼みやすいというメリットもあります。血縁ではなくセンターが第三者的な立場でサービスをになうことで、地域の新しい関係づくりにもつながると思います。 ―70歳就業時代になると、センターの役割にも変化が求められてくるのでしょうか。 塚本 おおむね60歳から会員になれますが、現在の平均年齢は74歳で、75歳以上の後期高齢者が約4割を占めています。70歳就業時代になると、その前にセンターに入ろうという人は少ないと思いますし、今後のセンターの役割は70歳過ぎの人が80歳を超えても働き続けることができる組織にしていく必要があります。そのためには組織変革が必要ですが、変わってはいけない部分と変わらなければいけない部分を選り分けることから始めないといけません。大河内先生は、「センターとは、どういう地域をつくりたいのかを高齢者である会員が主体となって考え、実行していく運動体である」といっていますが、これは変わってはいけない理念であり、原点です。一方、変わらなければいけないのは会員の高齢化に合わせた就業環境の整備です。理念に賛同し、子どもや孫と同世代の人たちとともに自分の住んでいる地域の将来を考え、地域をつくっていく。そういう使命感を持った70歳を過ぎた高齢者が地域づくりのにない手の中心となって就業環境を整えていく必要があります。 高齢者には地域の30年、50年先を見すえて中継ぎとしての役割を果たしてほしい ―企業を退職した高齢者が、就業を通して社会や地域と結びついていくために必要な仕組みや課題とは何でしょうか。 塚本 企業で働いている間は、住居を移動することもあるため、必ずしも生まれ育ったところにずっと住んでいるわけではありません。そうした人たちに対して、退職してからでもよいですが、できれば退職する前に退職後の生活や地域を知る場を設けてはどうでしょうか。大企業では退職後の過ごし方などについての研修を実施しているところもありますが、ほとんどの企業にはそうした場がありません。自治体と連携して、定年を迎える50代後半以降の人たちを対象にした研修会、あるいは講演会などのイベントを開くのもよいかもしれません。 ―生涯現役時代に向けて、社会や地域のにない手として有意義な人生を送っていくためのアドバイスをお願いします。 塚本 長年企業で働いてきて、退職後に住まいのある地域に溶け込んでいくのはなかなかむずかしいものです。何をすればよいのかわからない場合は、とりあえずセンターの会員になれば仕事を紹介してもらえます。最初は除草作業かもしれませんが、作業をきっかけにコミュニケーションを取りやすくなり、知らない人との出会いの場も生まれ、地域での居場所もつくれます。仕事は目的ではなく、あくまで地域の人たちの集団に入っていくための手段と考えてはどうでしょう。そのうえで私の一番の願いは、自分たちが暮らす地域の将来について考えていただきたいということです。地域でよりよい関係性を築いていくには、いまの状態だけでなく、その地域の30年、50年先の将来のビジョンのようなものを考えていただきたい。自分は年寄りだから将来のことは子どもたちに任せるというのではなく、いわば歴史の結節点をになう中継ぎとしての役割を果たしていただければと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 June 特集 6 コロナ禍や自然災害に立ち向かう働く高齢者の底力 7 総論 企業を支える力を持つシニアの強み トレノケート株式会社 田中淳子 11 企業事例@ 有限会社ダイケイ コロナ禍で感染予防対策に追われる職員を高齢職員が下支え 15 企業事例A 株式会社コッコファーム 熊本地震を乗り越え、地域のため、お客さまのためにベテランと若手が一丸となって全力で取り組む 19 企業事例B 株式会社カザケン 建設会社社員として西日本豪雨からの復旧に尽力 モットーは「目配り、気配り、心配り」 23 企業事例C キャピタルホテル1000株式会社 東日本大震災大津波の被害に遭い閉館 再建を果たしたホテルで高齢従業員が温かくもてなす 1 リーダーズトーク No.73 城西大学経営学部 教授 塚本成美さん 高齢者には働くことで積極的に社会参加し地域活性化の中心的存在になってほしい 27 日本史にみる長寿食 vol.332 ラッキョウで免疫力強化 永山久夫 28 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 《第2回》株式会社大津屋[後編] 34 江戸から東京へ 第103回 生涯青春で生きる 尾高惇忠 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪北から、南から 第108回 神奈川県 社会福祉法人 翔の会 40 高齢社員のための安全職場づくり 〔第6回〕 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その3― 高木元也 44 知っておきたい労働法Q&A 《第37回》 定年後再雇用の労働条件、競業避止義務と引き抜き行為 家永勲 48 新連載 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例 【第1回】 NPO法人イー・エルダー 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第13回 「健康経営」 吉岡利之 54 『70歳雇用推進マニュアル』のご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 短期連載 コロナ禍で変わる職場と働き方 【第2回】 在宅ワークとメンタルヘルス 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第48回] 数字のルール問題 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 コロナ禍や自然災害に立ち向かう 働く高齢者の底力  高齢者が長年にわたる職業生活のなかでつちかってきた知識や技術は、日常の業務において役立っているのはもちろんですが、“いざ”というときに発揮される高齢者の力は、とても頼りになるものです。  新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、私たちの仕事や働き方に大きな変化をもたらしました。また、毎年のように発生する自然災害は、全国各地で人々の暮らしや企業経営に大きな影響を及ぼしています。  本特集では、こうした非常時に活躍した高齢者をご紹介するとともに、高齢者が持つ人材としての“強み”について改めて整理してみたいと思います。 【P7-11】 総論 企業を支える力を持つシニアの強み トレノケート株式会社 田中淳子 はじめに  私は企業向けの人材開発のお手伝いをしています。主に研修コンテンツを開発したり、講師として研修を担当したりするなかで、ここ数年は、50歳以上のシニア層を対象としたクラスを持つことも増えてきました。仕事上の経験に加え、私自身もあと1年ちょっとで定年を迎えることもあり、シニアの生き方や働き方には強い関心を持っています。  2021(令和3)年4月以降、企業には70歳までの就業機会確保が努力義務として法律で定められました。実際、周囲には60歳、70歳を超えた方が大勢元気に働いています。そういう方たちを見ていると、シニアはまだまだ活躍できるし、そのために、新しいことを学び、やったことのないことに挑戦し、より成長できる存在だということを実感します。  「働かないおじさん」問題※といった言葉で、シニアが揶揄(やゆ)されるのはとても残念なことです。シニアには強みがたくさんあり、もし、活躍できていないとしたら、そういう場を与えていないか、活躍しても適切に評価しない、処遇していないという面もあるのかもしれません。  では、シニアの強みとは何でしょう? 長年の仕事のなかでつちかってきたシニア人材の持つ特徴・強み 〈知識と経験と知恵〉  最近のシニアはよく学んでいます。オンライン化が進むことで、学習機会もよりいっそう得やすくなりました。私も休日を使ってセミナーに参加すると、顔ぶれには、ミドル以上が多く、新しいことを学び、自分の知識や能力がさびつかないように努力している人が増えているように感じます。  「古い知識で語る」と批判されることもあるシニアですが、すべての人がそうではないはずです。知識を学び直すという努力に加え、数十年働いてきたなかで身につけた知恵があります。最新知識・技術の習得スピードや仕事の対応における瞬発力という点では若手に敵(かな)わないまでも、その知恵を持ってして、問題解決ができたり、創意工夫が生まれたりもするはずです。  若手が少ない経験から考えて解決できそうもない問題について、シニアが「それなら、こういうやり方がある」と自分の経験から解決策を提案する場面は、職場のそこここであふれているのではないでしょうか?  ある企業の例です。オフィスで若手技術者数人が右往左往していました。ある課題を技術的に解決できず困り果て、集まって話し合っていたそうです。その話を通りがかりに耳にしたシニア技術者が、「それって、○○をチェックしてみたらいいんじゃないの?」と一言。若手が○○をチェックすると、解決策が見えてきたといいます。若手技術者も、「いわれてみれば」という視点だったそうですが、ぱっと思いつくのが経験豊富なシニアの強みです。ベテランの頭のなかには、知識が関連し合って収まっているようなもので、一つのことを聞くと、あれもこれもと一瞬で多方向に想像ができ、解決策のポイントが見つかりやすいのでしょう。 〈人脈〉  経験が長い分、幅広く人脈を築いているのもシニアの特徴です。「困ったことがあった」、「だれかに相談したい」と若手にいわれると、「あ、それなら、□□さんが知っているかも」、「そのことなら、××さんに聞いてみるとよい」と社内外のつてを紹介してくれ、若手につなぐといった行動もとりやすくなります。  ただ、人脈があることを自分からいう機会もないので、シニアに相談されないケースも多いのではないかと想像します。若手は、人脈を探したい場合は、自分でがんばってつてをたどるのももちろんよいのですが(いまは、SNSなどで人と人とがつながりやすい時代ではあります)、一度、シニアに「こういうことに詳しい人を知らないか」とか具体的に「△△さんを知りませんか?」と相談してみるのもおすすめです。案外、「若いころ、一緒に仕事をしたことがある」といったことでつながっていたりするものです。 〈胆力(たんりょく)〉  胆力があることもシニアの強みです。  いまのシニアは、働き方改革という言葉もなければ、ハラスメントという考え方もない時代から働いています。長時間労働もあたり前だったり、上司や顧客からの厳しい注文にも耐えてきたという経験があったりして(これが、よいことだとはもちろん思いませんが)、「たいていのことは乗り越えてきた」という自負があります。そのため、トラブルや何かたいへんなことが起こったときでも、落ち着いて堂々としていられます。  トラブルが起こったとき、さまざまな荒波を乗り越えてきたシニアであれば、「こういうときは、まずこれをして、あれをして、さらにこの人と話して、こうすればよいだろう」と道筋が見えるはず。  ある企業で聞いた話です。  クライアントからのクレームに若いリーダーたちが初期対応でミスをし、火に油を注ぐ結果になったことがありました。その際、「そういうときは、私にいってよ」とシニアが登場。彼がクライアントに出向き、話を聞き、クレームのもとになった出来事を整理し、解決してきました。さらには、新しい案件を持ち帰ってきて、「これ、注文受けた」といって若手にバトンを渡したというのです。  この問題解決を図ったシニアと直接話をする機会があったので、このときの話を詳しく聞いてみました。  すると、彼はこういいました。  「若い人たちが、なんだか大騒ぎしているんだけど、聞けば“大した”クレームじゃない。もっとすごい問題が起こったのかと思ったけど、自分の経験してきたなかでは、目をつぶってでも解決できそうなレベルのものだった。若い人にやり方を教えて、後方支援することも考えたけど、まずは素早く解決することかなと思い、自分が直接クライアントと話した。先方のおっしゃっていることは、単純な話で、特に感情部分をていねいに聞きとり、詫びる点は詫び、こちらができる対応を提示。ゆっくりじっくり話していたら、『ま、お互いさまな部分はありましたね』といわれて、最後は笑ってくださった。若い人たちはこういうとき、事実関係とか論理で話そうとしたみたいだけど、怒っている人は理屈じゃないから、感情面を聞きとることが大事なんだよね」  彼はどう対応したかを、その後若手にも伝授し、できるだけ若手が自分たちで解決できるよう支援しているらしいのですが、「俺、トラブルになると燃えるから、いつでも声をかけてね」と伝えてあるそうです。これも長年の経験でつちかった知恵と胆力の賜物(たまもの)でしょう。 〈世代継承と後進指導〉  シニアが取り組むべき発達課題(それぞれの年代で発達上課題となるもの)には、「世代継承」があります。まだまだ現役時代が続くとはいえ、若い世代と比べれば、少しずつ引退のゴールテープが間近に見え始めているシニア。自分の知識や経験、知恵、人脈など自分が持っているものを後進に伝えたいという意欲はあるものです。若いときは自分が学んだことを後輩に教えるのはもったいないという気持ちを持ったことがあるシニアでも、現役時代が残り少なくなってくると、とにかく、できるだけ次世代に伝承しておこうという気持ちが強くなるようです。自分が働いた足跡を残したい、大げさにいえば、生きた証を実感したいといった気持ちもあるように思います。  長年働いてきたシニアは、まだまだ仕事をアナログ(手作業など)で行っていた時代を経験し、それが徐々に自動化、オンライン化、IT化へと進んできた過程を経験しています。  こういう歴史をリアルタイムで経験し、知っているのはシニアの強みで、若手に「この技術の歴史的変遷」とか「いまこういう風になっているもののもともとの姿は」といったことを語れます。いまだけ理解しておけばいいと若手は思うかもしれませんが、そんなことはなくて、「かつてこういう風になっていた仕事(やり方や使われている技術や技能)が、こういう変遷を経ていまはこうなっている」ということを理解していると役立つことはたくさんあります。なにせ、いまは、かなりの仕事がブラックボックス化され、仕組みや理屈が見えなくなっているケースも多いからです。  ボタン一つで何かの結果を得られるようになっていると、その裏側で動いている仕組みや考え方を学ぶ機会がないのです。その仕組みや考え方を知っているシニアは、それらを若手に教えて、基本から理解することを手助けできます。基本がわかっていると応用にも強くなります。それは若手にとっても意味があることです。  もちろん、すでに陳腐化していて、若手に伝える必要がない知識や知恵も多少はあるでしょうが、シニアから伝えておいたほうがよいこと、伝承しないとすたれてしまうような知識、技術などもあるはずです。 従業員が活き活き働ける職場を目ざしシニアの働き方のロールモデル≠  ところで、強みがたくさんあるシニアですが、実は、一方で若手に遠慮している側面があります。  ある企業で60歳になった方を対象に人事部が面談を行いました。人事担当兼キャリアコンサルタントが、面談の最後に「会社としては、シニアの活躍をより一層推進していきたいというメッセージを出しているので、これからも活躍してくださいね」と伝えたところ、「でも、シニアが張り切っていたら、若い人たちに迷惑でしょ?」、「再雇用の立場で意見などいってよいものですか?」と自分のふるまい方について、いろいろと気にしている人が意外に多かったそうです。  「自分としてはやりたいこともまだまだあるし、それができる能力もあるとは思いますが、定年退職して再雇用の立場なのに、“現役”時代と同じようにふるまっていいのか」、「若い人たちから疎(うと)まれないか?目立たないようにしているのがシニアのふるまい方なのではないかと戸惑う」とあれこれ考えてしまうようです。  こう考えてしまうのは、彼ら自身がこれまでのシニアの処遇を見てきたからかもしれません。しかし、もう70歳まで働く時代は到来しています。これからはもっと長く働くかもしれません。60歳になっても10年15年と職業人生は続きます。  シニア人材が、やる気を持ち、どんどん新しいことに挑戦し、取り組んで、活躍できる環境を整えるのは企業側の責任でしょう。そして、そのことをシニアの耳だけではなく、心にも届くように伝え続けることも大切です。  もちろん、若い世代と異なり、シニア層には、老眼で細かい字が見えない、記憶力が低下している、同じ話を何度もしてしまう、話が長くなりがち、といったネガティブに見える側面もあることでしょう。若い世代と同じようなスピードを求められてもすぐには動けないかもしれませんし、瞬時に多くを覚えて対応するといった場面では、聞き返しなども発生するかもしれません。でも年齢の特徴をふまえたうえで仕事を進めていけばいいだけの話です。  シニアの活躍を本気で推進し、それに応じるようにシニアが活き活きと活躍していたら、そこに「シニアのロールモデル」も生まれます。いまのミドルもいずれシニアになります。若手もミドルも「シニアのロールモデル」を間違いなく見ています。  「こういうシニアになりたい」、「高齢になっても挑戦しながら、楽しそうに学び、働くシニアはいいな」と後に続く世代に思われるようにするためには、シニア個々人の努力だけでなく、企業側、マネジメント側の支援は欠かせません。  経営者も管理職も活躍してほしいというメッセージを伝え続け、シニアの活躍を有形無形で明確に支援していってください。 たなか・じゅんこ 1963年生まれ。トレノケート株式会社(旧:グローバルナレッジネットワーク株式会社)人材教育シニアコンサルタント。  1986年日本DEC入社、1996年より現職。企業の人材開発の支援を行っている。産業カウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)。著書に『はじめての後輩指導』(経団連出版)、『現場で実践!部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)などがある。 ※「働かないおじさん」問題……働いていないように見える、または働いてはいるもののあまり成果を出せない中高年人材の存在が、そのほかの従業員のモチベーションの低下などをもたらしてしまうこと 多くの人脈を若手につなぐ うーん、その件なら○○さんがご存じじゃないかな。連絡先は…… 知識や技能を伝承する 歴史やいまでも通用する知識、技能など、できるだけ多くを伝えていきたい 【P11-14】 企業事例1 有限会社ダイケイ(福井県坂井市) 送迎ドライバー 藤野(ふじの)隆文(たかふみ)さん コロナ禍で感染予防対策に追われる職員を高齢職員が下支え 希望者全員70歳まで働ける制度を整えコンテストで優秀賞を受賞  1950(昭和25)年に細幅織物(ほそはばおりもの)業※1として創業し、1988年に有限会社化したダイケイは、2009(平成21)年に介護事業に業態を変え、高齢者のデイサービス事業所「笑楽日(わらび)」を開設した。同社が立地する地域は、住民が400人にも満たない地域で、高齢化が進んでいたにもかかわらず介護施設がなく、高齢者が介護サービスを受けるためには、利用のたびに周辺の地域へ出向くか、代々暮らしてきた土地を離れなければならない状況にあった。これが施設開設のきっかけである。開設当初は大蔵(おおくら)富宏(とみひろ)代表取締役とその母、織物業時代からの職員などの少人数でスタート。2015年に施設を新設し、有料老人ホーム事業を開始した。  同社は2019(令和元)年度の高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞している。事業所が豪雪地帯の山中に位置することもあり、開設当初は若手職員の人材確保が困難で、必然的に高齢職員の活用に舵を切ったという。地元で就労を希望する高齢者は多く、年齢や雇用形態にこだわらずに人材を確保し、高齢職員が活き活き働ける職場づくりに取り組んできた。  かつての制度では定年60歳、定年以降はパートタイム職員に移行していたが、介護事業がスタートしたころには、実態として60歳を超えても正規職員として働くケースが多くなっていたことから、定年年齢を2014年に60歳から65歳に延長。同時に希望者全員を70歳まで雇用する継続雇用制度も整えた。  同社では、高齢職員を戦力として活用するため、家族の介護が必要な場合など職員の家庭の状況などに応じて、柔軟に働ける勤務体制を整え、短時間勤務などの希望も受け入れている。現在の建物を新築する際には、施設全体の設計に職員の意見を積極的に取り入れ、調理の負担を軽減するため厨房に「スチームコンベクション※2」を導入。浴室は介護職の身体的負担を軽減するため、椅子型の介護入浴用リフトを採用した。  介護業務には高齢職員にとって身体的負担が大きい作業があるため、職員をグループ分けし、高齢職員には身体負荷の高い業務を免除し、代替の作業を任せるようにしている。  現在、全職員51人のうち、60歳以上は24人(男性5人、女性19人)、そのうち70代が9人(男性1人、女性8人)。職員全体の平均年齢はおよそ50歳。職種の内訳としては、介護職が19人、理学療法士2人、作業療法士1人、看護師7人、事務2人、管理栄養士1人、調理9人、送迎ドライバー4人、環境整備1人、清掃・洗濯担当が5人である。なお、規程では定年後再雇用は70歳までと上限を設けているが、実際は希望者全員を70歳以降も雇用している状況であり、70歳以上の職員はドライバー、調理、介護スタッフと、さまざまな職種で活躍している。 予防対策を徹底し感染者ゼロ利用者数に影響はほぼなし  今般の新型コロナウイルス感染症により、全国の介護事業者が経営への影響を受けているなか、特にデイサービス(通所介護)は影響が顕著とされており、感染拡大による利用休止などの影響は今後も続くとみられ、事業所は適切な感染予防対策の構築が求められている。  一方、ダイケイがデイサービス事業と有料老人ホーム事業を展開する「笑楽日」では、一回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月ころこそ、利用者が感染リスクをおそれ通所を控える傾向が見受けられたものの、それ以降、利用者数は回復し現在に至っても特に目立った影響はない。大蔵代表取締役は同施設の状況について、次のように話す。  「施設の利用者、職員ともにこれまで感染者は出ていません。強(し)いていえば、利用者の入院先の病院で感染者が発生したことがありましたが、当該利用者がPCR検査を受けた結果、陰性でした。当施設では感染者が出ていないものの、市内の別の地域にある大規模な介護施設ではクラスターが発生し、累計で数十人に及ぶ感染者が出ました。感染自体が怖いことはもちろんですが、地方の小さな町では風評被害も非常に怖いです。施設だけでなく、働いている職員個人を守るためにも、とにかく施設内で感染者を出さないため、できることはすべて行っています」  「笑楽日」で実施した新型コロナウイルス感染予防対策を、次の通り紹介する。 ■通所者と入居者の往来を遮断  デイサービスの通所者と宿泊者が利用する建物は別であるが、それぞれの利用者のなかには従来から友人同士というケースがあり、歓談の機会として、また孤立や認知症予防にもなるとして、施設間を行き来できるように配慮していた。しかし、新型コロナウイルス感染症予防対策として施設間の行き来を禁止し、利用者間の接触機会を減らした。 ■通所者の送迎前の検温、マスク着用  通所者は送迎車に乗る前に、必ず検温を実施し、発熱がないかを確認するとともに、乗車時のマスク着用を義務づけている。 ■職員の出社前の検温  職員に出社前の検温を義務づけている。37度を超える体温が確認された場合は、会社に電話連絡を行い、責任者の指示を受ける。これまで数件、発熱した職員がいたが、いずれも休暇をとり、PCR検査を受けて陰性が確認された。 ■送迎車と施設内に液剤噴霧と光触媒施工  送迎車の車内と、デイサービス施設の共有エリアに空間除菌・抗菌・消臭ができるミストシステムを導入し、液剤を噴霧した。直接触れる手すり、蛇口、ドアノブには新型コロナウイルスに有効とされる光触媒を施工した。1回の施工で半年ほど効果が続くという。 ■各エリアに空気清浄機を設置  デイサービスのエリアに2台、有料老人ホームのエリアに1台、高性能の空気清浄機を設置した。これは、世界で展開する有名ホテルにも採用されている機種で、浮遊ウイルス、有害物質を捕集し、抑制する効果が期待できる。 ■面会の対象者、場所、時間を制限  面会は事前予約をした場合にかぎり、面会場所は玄関に限定。さらに面会時間を15分に制限した。 ■施設内外の勉強会に参加  従来から月一回ほどの頻度で研修会、勉強会を開き、認知症対応、危険予測、介助方法、口腔ケア、緊急時対応などを学んでいる。新型コロナウイルスについても勉強会を開催。外部の研修に看護主任らが出席し、受講した研修内容をもとにテーマを決め「感染対策チーム」、「スキルアップチーム」が中心となって、全職員を対象に定期的に実施することを継続している。 ■近隣施設の最新状況の把握と対応  近隣介護施設でのクラスター発生により緊張を強いられた経験をもとに、周辺施設の感染状況、対応の仕方などをしっかりと把握し、施設内での対応の参考にしている。 ■他施設を併用している利用者の通所先を一本化  他施設のデイサービスを併用している利用者は、ケアマネージャーと相談のうえ、通所先を1カ所に絞ってもらうように要請した。 ■職員から情報収集  県外由来の感染を防ぐために、県外からの来訪者などの情報を、職員を通じて収集するようにしている。特に外部とのやりとりが多いケアマネージャーは、情報に通じているとのこと。  感染予防に有効とされる対策を幅広く実施し、情報収集を怠らないことが功を奏して、感染者ゼロを継続。これが地域に住む住民の安心感につながり、利用者数が減少することなく、コロナ禍以前の業績水準を維持している。  未曾有(みぞう)の感染症予防対策のもとで働く同社の高齢職員の藤野隆文さん(70歳)に、日々行っている対策や心がけについてうかがった。 感染予防業務などで多忙な職員を高齢職員が下準備でフォロー  藤野さんは、送迎ドライバーとして利用者の送迎を担当している。仕事のモットーは「利用者さんがいまを忘れず、1日を楽しく、元気に過ごしてもらうこと」。そのために実践しているのが、利用者の健康状態の見極めだ。  「朝の送迎では、一人ひとりの状態をよく観察するようにしています。『今日は元気そうだ』、『調子がよくなさそうだ』、そういった朝一番に会ってどう感じたかを大事にしています。そうして感じたことを、事業所に到着して看護師さんに申し送りをすることによって、その日の利用者に必要なケアができるのだと思っています」(藤野さん)。  藤野さんは送迎する職務だけでなく、利用者の立場になってできることを自ら考えて行動している。同じ高齢者として気づくことも含め、日々、利用者と同じ目線で接するように心がけている。  現在のコロナ禍で仕事をするうえで心がけていることは、「施設と利用者に迷惑がかかるので、自分が感染しないように予防することが大事」と語り、「人混みに行かない」、「4人以上の会食はしない」など一般的に注意喚起されている感染リスクが高まる行動を自粛。「適宜手洗い、うがい」を励行して基本的な感染予防対策を徹底している。予防のために自家用車内にもアルコールを設置したそうだ。  「特に家族の協力は重要です。家族全員で毎朝検温を行い、体調管理に努めています。送迎ドライバーのなかには家族の1人が熱を出した際、大事をとって休暇を取った人がいました。ワクチン接種は申し込み済みです。痛くないと報道されていましたから、不安はそれほどありません。インフルエンザのワクチンを受ける気持ちで行きます。とにかく自分の身は自分で守るしかありません」(藤野さん)。  大蔵代表取締役は、コロナ禍における高齢職員の存在について、「新型コロナウイルス感染予防のため、事務職や介護職は細々(こまごま)としたことに時間を取られています。そんななか、藤野さんをはじめとした高齢職員の方々が降雪の備えをしてくれたり、年中行事の準備といったことを率先して進めてくれたりするので助かっています」と感謝を口にする。  同地は豪雪地帯のため冬は雪の対策が欠かせない。昔から「雪囲い」といってトタンを使って家屋や建物、エアコンの室外機などを風雪から保護することを行ってきたが、これはコツがいる作業であり、高齢者の経験がものをいう仕事である。  同様に、樹木にも雪囲いをして雪が積もって枝が折れないようにもする。最近では若手職員が高齢職員のまねをして雪囲いを行い、コツを習得するようになったそうだ。若手職員に強いることなく、自主性に任せて技術の伝達が行われていることは注目すべき点だ。職場という場所で、厳しい冬を越すために不可欠な地域伝統の作業が伝承されている。それは高齢職員の技術はもちろん、姿勢と知恵が、現在もそしてこれからも、必要とされていることにほかならない。  「私たちは第一線で働いているわけではないので、事業所の下支えを行うなどドライバー以外の仕事も積極的に行うようにしています。年末は餅つきの手伝いをしたり、先日は花見の会場の準備をしました。花見では楽器ができる職員が演奏をするなどして会を盛り上げます」(藤野さん)。  介護施設および老人ホームでは、コミュニケーションを活発にし、身体を動かすという視点で、健康維持やストレス解消になる年中行事やレクリエーションは欠かせない。コロナ禍においても行事を実施するために、感染予防をしっかりしながらフォローする役割をになっているのが藤野さんら高齢職員である。ほかにも、施設内に設けた畑で野菜を植え、育てることも買って出ている。畑に実った収穫物を害獣から守るためのネットも高齢職員が率先して設置しているという。 高齢職員と利用者が一緒に楽しめる場を創出していく  元気な施設利用者は、高齢職員が行う畑や行事の準備を手伝うこともあり、認知症、孤立の予防にも一役買っているようだ。  「高齢職員は利用者と年齢が近く、親しみやすいのではないでしょうか。コロナ禍でも行える、高齢職員と利用者が同時に楽しめて生きがいになる活動を考えていきたいですね」(大蔵代表取締役)。  今後は雪囲いの作業のほか、郷土の保存食「かきもち」をつくるなど、地域のお年寄りが昔から行ってきた手仕事をレクリエーションとして取り入れ、高齢職員の活躍の場を拡げていきたいと考えているという。  そのほか、施設内に託児所を設置することなども検討している。人材確保の観点で、未就学児を子育て中の看護、介護職の獲得に有利であることはもちろんだが、施設利用者と高齢職員が子どもと触れ合う場所になることも期待している。  同社はこれまで行ってきた感染予防対策を継続していく一方、コロナ禍においても高齢職員の活躍の場を創出するための工夫を凝らしていく。これと同時に、利用者の機能回復が望めるような施策を進められるように努めていきたいという。 写真のキャプション 送迎ドライバーを務める藤野隆文さん 【P15-18】 企業事例2 株式会社コッコファーム(熊本県菊池市) ●物産館 藤坂伸子さん、物産館 竹本雅俊さん、販売促進 部署長 前田さちよさん● 熊本地震を乗り越え、地域のため、お客さまのためにベテランと若手が一丸となって全力で取り組む 高品質でおいしい卵が大人気地域とお客さまを大事にする養鶏会社  熊本県菊池市で養鶏を中心にした生産・加工・販売を行う株式会社コッコファームは、1969(昭和44)年に創業。全国的に卵を産む鶏の90%以上が輸入鶏のなか、希少価値が高いといわれる純国産鶏「もみじ」を約8万羽養鶏している。鶏舎環境や餌にもこだわった高品質な卵は、多くのファンを持つ。また、一次産業である農業(養鶏業)から、二次、三次産業である加工、販売まで業容を拡大。いわゆる六次産業化企業として、地域や顧客との信頼関係を重視した経営を推進している。2010(平成22)年にオープンした「たまご庵」は、物産館やレストランなどを備え、直営農場より毎日運ばれる「コッコファームのたまご」に加え、地元生産者による新鮮な野菜や加工品も販売している。  従業員は131人、平均年齢は44・7歳。定年年齢は65歳で、定年後は、本人と会社の話合いにより最長70歳まで継続雇用する。長く勤める人も多く、60歳以上は37人。ベテランの知恵と経験を活かし、さまざまな職種で活躍している。 仕事にやりがいを持ち、お客さまの笑顔のためにがんばるベテランたち  従業員のなかで勤続年数がもっとも長い藤坂伸子さんは、68歳。勤続33年の大ベテランだ。「入社したときは若々しい30代でした」と笑う。元気の秘訣は、やりがいのある仕事をしていること。「チャレンジしたいことがあれば、上司も話を聞いてくれるし、実際にそれをやらせてもらえる会社です」と話す。現在所属する物産館は、接客好きの藤坂さんにうってつけの部署だ。いまもフルタイム勤務を続けており、冗談で「止まると死ぬ」といわれるほど回遊魚のように動き回っている。「お客さまの笑顔が一番ですね。お客さまとの会話で学べることもありますし、お客さまにご提案できることもあります。コロナ禍になる前は、試食を提供して商品の説明をしたり、お野菜の調理の仕方などをお話しし、会話が弾みました」と藤坂さんはいう。藤坂さんに会いに来店する人も多く、「来たよ!」と声をかけてくれるという。  同じく物産館で働く竹本雅俊さんは67歳。大型スーパーで21年のキャリアを積んだ後、同社に入社して19年になる。以前は、物産館の店長を務めていた。「売り場が専門なので、経験を活かせると考えて入社しました。物産館では、新しく入社してくる人も他部署から異動してくる人も、物を売る経験がない人が多いんです。仕入れの仕方や売り場のつくり方などを知らないとお店の運営はできませんので、できるだけ私が教えて、一人ひとりが成長できるようにしています」と竹本さんは語る。知識・経験が豊富なだけでなく、話しやすい雰囲気を持つ竹本さんは、みんなの相談役。職場で困ったことがあると、従業員たちはまず竹本さんに相談するという。若手と接するうえで意識しているのは、「一人ひとり違う」ということ。「仕事のでき具合や考え方は、一人ひとり違います。それを察知して、どう伝えたらよいかと考えるためにも、普段からみんなと会話するようにしています。若い人と話すことで、われわれも活性化します」と話す竹本さん。仲間が頼りにするのも納得だ。  販売促進 部署長で、広報も担当する前田さちよさんは61歳。藤坂さんに次いで社歴が長く、今年で29年目。「私が入社したころは女性がなかなか活躍できない時代でしたが、この会社ではいまの会長の考えで企画、広報などいろいろ経験させていただきました。昔ながらの会社ですが、女性も平等に評価され認めてもらえるので、やりがいがあります」という。たまご庵の立ち上げにも全面的にかかわり、物産館の店長も務めた。いまは、「外から人を連れてくる営業がしたい」と、団体営業の企画にたずさわっている。新しいことに前向きな前田さんのモットーは、「仕事は楽しく」。「仕事が楽しくて、お客さまの笑顔があれば一番だと思っています。いまは2階にある事務所で働いていますが、仕事をしていて疲れると、1階の物産館に行ってお客さまとお話しします(笑)。お客さまは、私たちを支えてくださるありがたい存在です。だから元気なのだと思います」と笑顔を見せる。 従業員が一丸となって復旧被災の3日後には店舗をオープン  5年前の「2016(平成28)年熊本地震」では、同社も大きな被害を受けた。  熊本地震が起きたのは2016年4月。最初に14日21時26分に、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6・5、最大震度7の地震が発生。当初はこれが本震と思われたが、16日1時25分にも、マグニチュード7・3、最大震度7の地震が発生した。震度7の地震が同一地域で連続して発生するのは、観測史上初めてのことである。その後も活発な地震活動が続き、震度6弱以上の地震が計7回も発生。余震は半年で4000回を超えた。一連の地震により、多くの建物が倒壊。道路、電気、通信設備などのインフラにも甚大な被害が生じた。熊本県では、倒壊した住宅の下敷きになったり土砂崩れに巻き込まれるなどして50人が死亡。避難者は最大で18万人以上にのぼり、避難生活によるストレスや持病の悪化などによる震災関連死も200人を超える大災害となった。  同社は14日の揺れでは被害がなかったが、16日の本震では、店のガラスが割れ、柱にヒビが入り、売り場の商品は床に散乱した。固定していた冷蔵庫も動いてしまい、2階の事務所はパソコンも何もかもが床に落ちて足の踏み場もない状態に。大会議室は天井が落ちていたという。  幸いにも従業員とその家族は無事だったが、学校や公民館での避難生活を余儀なくされた人もいた。にもかかわらず、翌朝、従業員たちは会社に集まった。「みなさん、ご家庭に電気も来ていない状況で、避難所に避難したり車中泊をした人もいましたが、『どうせ家にいても片づけはできないから』と、自主的にお店に出て来てくれました。もちろん自宅もたいへんです。でも、みんなが心配したのは『会社はどうなっているだろう』ということ。思いは同じでした。そして、できることからやろうと、一致団結して片づけをしました」と前田さんは語る。自宅も大きな被害を受けてたいへんな状況なのに出社したというのは驚くが、「待っているお客さまがいらっしゃるじゃないですか。お客さまを大事にしたいという思いで出社しました」と藤坂さんはいう。  こうした緊急事態においてベテラン従業員がどのような役割をになったのか。竹本さんは、「みんな一緒です。若いも年寄りも関係ありません。まずは店をオープンする、そしてそれを維持することを目標に、年齢に関係なく、みんなで取り組みました」と説明する。店長経験者で年長者の竹本さんが率先して若手と一緒になって動いたのは、仲間たちにとって精神的な面でも心強かっただろう。全員のがんばりにより、本震から3日目には物産館の営業再開にこぎつけた。「ずっと動きっぱなしで、何をしたか覚えていないくらいです。本当にみんなが協力してくれました」と前田さんはいう。 地域のため、お客さまのために店舗での販売や炊出しなどを実施  「当社に何ができるか」と話し合った同社は、「地域のみなさんは食べ物に困っているだろう」と考え、出せる食品は在庫も含めすべて店頭に並べた。水道の水は濁って使えない状態だったので、知り合いの業者を通じて水を手配し、米を炊いて、自社商品であるレトルトパックの「かしわめしの素」を使ってかしわめしをつくった。物産館では、それを利益度外視の1パック100円で販売し、各地の避難所では無料で提供した。また、毎日数千個の卵をゆで、物産館でも避難所でも無料で配布した。しばらくすると、被害が比較的少なかった生産者から順に少しずつ野菜を出してくれるようになり、それらを店頭に並べることでお客さまに喜ばれた。「動き始めると、『これがあるから、こんなことができるよ』、『できることからやっていこう』と、みんなが動いてくれました。従業員はみんな元気でしたし、笑顔でした。お客さまに『お店が開いていてよかった』といっていただけたことで、疲れは感じませんでした。『きつい』とか『疲れた』という声は出ませんでした」と前田さんはふり返る。  店舗が平常に戻るには、1カ月ほどかかった。さらに、阿蘇など被害の大きかった地域の業者が商品を出せるようになるまで半年〜1年もの期間を要した。その間、同社は、生産者たちを気遣い、励まし、相談に乗った。生産者と長年かかわってきた藤坂さんが「どうですか?被害はないですか?」と電話をかけると、「心配してくれてありがとう。心強いです」と喜ばれた。親身な対応は、心のケアにもなったようだ。  避難所での炊出しは3〜4カ月続けた。ボランティアと協力し、持っていった卵でたまご丼をつくるなど、苦しい避難生活を送る人々のためにできるかぎりのことをした。なかなかできることではないが、「『コッコファームさんが来てくれた!』といっていただけて、逆にこちらが元気をもらえました」と前田さん。地域のため、お客さまのためという気持ちが力になっている。 自分自身のやりがいに加え他者のため、後進のために取り組む  困難を乗り越え、前向きに取り組んできたみなさんに、現在の仕事に対する思いについてうかがった。  「やはり働いていることで元気でいられますので、会社に望んでいただけるかぎりお仕事を続けていきたいと思っています。若いころは、どうしても自分のことばかり考えがちですが、年齢を重ねてくると、気持ちの余裕が出てきて、みんなのよき理解者でいたいと思うし、よき相談役でもいたいと思うようになりました。かといって、受け身でいるだけでなく、年齢を重ねても新しいことにチャレンジしたいという気持ちもあります。仕事を楽しみながら、どんどんいろいろなことをやっていきたいと思っています」(前田さん)  「働くことが、自分にとって一番の活力です。そのなかで、若い人とも年配の人ともコミュニケーションを取りながら、相手を成長させたり、自分もよい刺激を受けたりしていく―働くことの意義というのは、収入だけでなく、そういうところにあるのかなと思います」(竹本さん)  「私は(継続雇用期間が終了する)70歳も近いので、生産者とのパイプ役になれる人材を育てていきたいと思っています。この職場には、チャレンジ精神旺盛な人が大勢います。ただ、生産者の方は人生経験の豊富な社長さんなので、未熟なままではよいおつき合いはできません。いまの若い人のなかには、農家のことをよく知らない人もいます。そうしたむずかしさはありますが、しっかりと育てていきたいですね」(藤坂さん) コロナ禍では、感染対策を徹底し安心して来店できる店づくりに邁進  熊本地震の発生から5年。地震で大きな被害を受けた熊本城天守閣の復旧工事が今春に終了した。まさに復興のシンボルといえるが、インフラ整備など復旧・復興が進む一方、特に被害が甚大だった益城(ましき)町などでは、いまも仮設住宅で暮らす人々がいる。避難者の多くが日常を取り戻しつつあるが、被災者の生活再建はまだ道半ばだ。  そんななか今回のコロナ禍が起きた。物産館は、一時的に来店客が減ったものの、家庭で料理をする機会が増えたことで客足は戻ってきた。一方、レストランは、入店を制限しており、売上げを落としている。いずれにしても多くの人が訪れるので、対応マニュアルを作成し、感染防止に努めながら営業している。  前田さんは、「『地震があったから、コロナ禍だからダメ』という考え方はしたくないと思っています。現実は現実として受け入れ、そのなかでお客さまのために何ができるかをわれわれは考えます」と前向きだ。取材時点では熊本県内の新規感染者数は落ち着いてきているが、変異株が出現するなど、まだまだ新型コロナウイルス感染症の終息は見えない。  同社は、引き続き気を引き締め、何があっても対応できる対策づくりに努める方針だ。新型コロナウイルス感染症と地震とはまったく別物ではあるが、あの熊本地震を乗り越えてきた同社なら、ベテラン従業員と若手が力を合わせてコロナ禍も乗り切れるに違いない。 写真のキャプション 左から竹本雅俊さん、藤坂伸子さん、前田さちよさん 被災直後から従業員が一体となり、被災した地域の人たちのための取組みを行った。写真は、卵を無料配布したときの様子(写真提供:株式会社コッコファーム) 【P19-22】 企業事例3 株式会社カザケン(岡山県倉敷市) ●顧問 三宅生久(いくひさ)さん● 建設会社社員として西日本豪雨からの復旧に尽力モットーは「目配り、気配り、心配り」 西日本豪雨で本社が被災しながらも地域建設業として復旧・復興に協力  2018(平成30)年6月28日から7月8日にかけて西日本を中心に全国の広い範囲で発生した「平成30年7月豪雨(通称、西日本豪雨)」は、多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害を引き起こした。死者200人を超える甚大な被害をもたらし、「平成最悪の水害」といわれたことは記憶に新しい。なかでも被害が大きかったのが、岡山県倉敷市真備町(まびちょう)だ。同町を流れる小田川(高梁(たかはし)川水系)などが決壊、広範囲が冠水し、多くの犠牲者を出した。  その真備町に本社を構え、自社も被災しながらも、地元の建設会社としていち早く地域の復旧にあたり、人々の命と暮らしを守るために尽力したのが、株式会社カザケンである。  同社は1963(昭和38)年創業。地域密着型の総合建設業として、国・自治体の発注工事や民間の建設工事を請け負い、施工管理を行っている。施工管理というのは、現場監督の仕事をイメージするとわかりやすい。重機を動かしたり穴を掘ったりといった作業は外注し、同社は、現場で働く人の安全管理や、工事のスケジュールなどの工程管理、予算や支払いなどの原価管理などを行う。総社(そうじゃ)市にある総社支店に工務部を置き、岡山県内のほか、高知県にも支店を展開している。  従業員数は70人で、平均年齢は55歳。60歳以上の従業員は約20人である。若い社員もいるが、業界の特性として、他業種と比べると平均年齢は高い。同社は定年年齢を2年ほど前に70歳に引き上げた。定年後は、希望者を最長75歳まで再雇用する。また、会社として残ってほしい人材は、それ以降も個別に継続雇用する。 人対人のやり取りや若手の教育、非常時の対応などの役割をになう  同社で働く三宅生久さんは現在73歳。以前は全国展開する建設会社に勤め、関東から九州までさまざまな地域で道路の建設などにたずさわってきたが、両親が高齢になってきたことから、12年前に故郷である岡山県に戻り、同社に入社した。土木部で活躍し、現在は顧問を務める。「私が社会に出たころは多くの会社が55歳定年でしたが、いまは長く勤めさせていただけるようになりました。働いていると気を張っていますから、元気も出ますよ」と三宅さんは笑う。  経験を積んだ年長者は、若手の教育やフォロー、あるいは、人脈やコミュニケーション能力を活かした役割をになうことが多い。また、三宅さんは、顧問として、非常時の対応などを相談されたり任されたりすることも少なくない。「技術はどんどん進んでいて、若い人たちは最先端技術を駆使して仕事をしています。私たちはそれについていくのはむずかしいので(笑)、それよりも人対人のやり取りや、若い人の教育などを担当します。先を読んだ行動や何かあったときの対応などにも、経験を活かすことができます」と三宅さんはいう。 早期復旧・復興を目ざし休む間も惜しんで作業に邁進  同社は、西日本豪雨により、3階建ての本社の2階まで水に浸かる大きな被害を受けた。幸い、社員とその家族は全員無事だったが、自宅が浸水した人もいた。三宅さんは、「全国各地の災害のニュースを見るたびに『たいへんだろうな。かわいそうに』と思っていましたが、まさかここ岡山でこんな災害に遭うとは想像もしていませんでした。『晴れの国おかやま』ですから」とふり返る。  岡山県では、7月5日、6日と大雨が降り続き、地域によって大雨特別警報や避難勧告・避難指示が出される事態となった。同社は、雨の降り続く6日夜、国の出動要請を受けて被災地に向かい、24時間体制で河川の補修・復旧にあたった。三宅さんは、「夕方には、出動要請があるかもしれないと用意していました。夜9時30分に集まろうと決め、雨のなかを出社しましたが、そのころには、真備町の一部地域は腰くらいまで浸水していました。通行できない道を避けて私が出社したときには、すでに先発隊は現地に向かっており、私もすぐに後に続きました」と、当時の緊迫した状況を語る。  国の指示に従い、初めは、一級河川である高梁川で土嚢(どのう)を積む作業を行った。三宅さんによれば、川で一番怖いのは、川の水が増えて外側にあふれ出る「越流(えつりゅう)」。川の内側は、少々水が当たっても壊れないように頑丈につくられている。一方、外側は、わりあい簡単に土を載せたような形で、越流すると外側が削られ、弱くなったところに内側から水圧がかかって決壊する。酒津(さかづ)というところで川がカーブしており、「ここが決壊したら、倉敷市中がたいへんなことになる」と心配していたが、急に水が増えなくなった。高梁川に合流する小田川などが決壊したためだった。高梁川が増水したことで流れがせき止められ、いわゆる「バックウォーター現象」※が発生し、その結果、水位が上昇して越水(えっすい)し、堤防の外側が削られて決壊したとみられる。  日付が変わる前に、指示を受けて決壊した小田川に行くと、付近は辺り一面が濁流に飲み込まれ、手の施しようがない状態だった。「堤防から真備町を見ると、何が起きたのかと一同唖然とし、言葉を失いました。見慣れた景色が一変し、屋根しか残っていないのです」と三宅さんは話す。自衛隊やレスキュー隊による懸命な救助活動と行方不明者の捜索が行われたが、真備町だけで51人もの人が命を落としたという。  その後は、水が引くのを待ち、復旧作業が始まった。同社をはじめとする地域の建設会社も、自治体の要請を受けて全面的に協力した。  三宅さんのチームは、生活道路に堆積した土砂の撤去と道路の洗浄を担当。生活道路を通れるようにしないと被災者の生活も成り立たないので、ここが終わったら次はここ、その次は……と、休む時間も惜しんで作業を行った。  若い社員は体力があっても、このようなだれも経験したことのない状況下では、どう動けばよいか迷ったり、気配りが行き届かなかったりする面もある。普段以上に、三宅さんのような経験を積んだ人の力が活きる。「道路の洗浄が担当でしたが、道路わきの水路も土がたまって水が流れなくなっていましたので、そこも掃除しました。被災されたお年寄りなどが家から出した土砂もついでに運び、『またたまったら、来て取りますよ』と声をかけ、感謝されました。こうした非常時には、『私たちの仕事はこれだけ』というわけにはいきません。いわれたことだけをするのではなく、気がついたことを率先して行う姿勢が大事です。地元の人とよくコミュニケーションを取ることも欠かせません」と三宅さんはいう。あちこちで一気に復旧作業が行われたことで材料が不足したときも、県内外に豊富な人脈を持つ三宅さんが融通を利かせてくれるところを探すなど、力を発揮した。  三宅さんたちと別のチームは、河川の決壊箇所の仮復旧を担当し、交代で昼夜を問わず作業を行った。また、内勤者は、冷蔵庫で冷やした飲み物やタオルを定期的に各現場に配達して回った。当時は夏真っ盛り。現場周辺はすべて水に流されてコンビニエンスストアも自動販売機もなく、各自が持参した飲み物などすぐになくなってしまうので、熱中症対策の物資支援が必要だったのだ。毛布などの支援物資を提供したり、炊き出しなどもしたりして、被災した人たちのためにできるかぎりのことをした。  こうした活動が、7月下旬〜9月下旬の約2カ月続いた。たいへんだったはずだが、三宅さんは、「まずは復旧、ということを念頭に置いて取り組みました。通常の仕事でしたら、『ちょっとこの辺で休憩しよう』となるところも、そういう気持ちになりませんでした。いまは晴れていても、いつまた雨が降るかわかりません。カンカン照りのなか、外での作業はきつかったですが、気が張っていましたので、次の日にはシャキッと起きられました」という。そして、「社員全員、よくがんばりました。外勤者も内勤者も、それぞれのチームが連携して手際よくやったと思います」と仲間をねぎらう。  同社の活躍に対しては、国土交通省中国地方整備局より感謝状が贈られた。 被災者の気持ちを思いやり目配り、気配り、心配りを心がける  復旧作業をするなかで、三宅さんは多くの被災者に接した。  「『おれの家の家財道具は、水に流されてどこに行ったかわからん』と嘆くお年寄りもいました。何十年もお住まいになられたなかで揃えた道具や思い出の品がなくなってしまったのは、つらかっただろうと思います。7年前に奥さまと犬を連れて千葉から移住してきた方は、東日本大震災のとき、液状化によって家を失ったそうです。災害が少ないという理由で奥さまの出身地である岡山に来たのに、今度は水害で家を失った。『一生のうちに2回も』と泣く姿を見て、もらい泣きしました。かける言葉も見つかりませんでした。一方、パン屋を営む若い夫婦は、『何もかもダメになったけれど、ぼくらはがんばります』と話してくれました。いまでもたまに買いに行きますが、『がんばりますよ』といってくれます。いろいろな人がいますが、『自分がこんな目に遭ったら』と思うと、本当につらかっただろうと感じます。汚れたから水洗いすればよいというものではなく、何もかも使えなくなるのですから」(三宅さん)  被災者を気遣い、全力で復旧に取り組んできた三宅さんをはじめとする同社の社員のみなさんに感謝している人は多いだろう。しかし、三宅さん自身はまったく偉ぶることなく、「当然だと思っています。私自身、年を取った者は、できて当然、して当然という教育を受けてきました。経験を積むと、目配り、気配り、心配りができるようになりますから、少しは役に立っているのかなと思っています」と謙虚に語る。  この「目配り、気配り、心配り」というのは、三宅さんが普段から心がけているモットーでもある。仕事をするなかでは、「ここにこういうリスクがあるのではないか」、「こういう予想ができないか」、「こうしたら利益が増えるのでは」と、ほかの人が気づかないようなところにも目を向け、一般住民、施主、従業員、下請けなどさまざまな立場に立って目配り、気配り、心配りを大切にしている。 若手に達成感を味わってもらい自分で考えて乗り越える力を育てる  豪雨から約3年が経つが、いまもまだ河川の復旧・整備のための工事が続いている。今回の経験を活かし、国主導で災害のシミュレーションもしており、同社もそれに協力している。同社自体も、緊急用の土嚢袋、ライト、ライフジャケットなどを用意し、災害に備えている。  「インダス文明も黄河文明も、文明が発祥したのは川からです。結局、人が文明を築くうえで欠かせないのは水なのです。だからみんな、川のそばに住んで生活しますが、その『命の水』によって災害がもたらされる。そのことに人類は数千年前から悩まされてきました。自然の猛威には勝てません。そのなかでどうやって人の命を守るのか、社会を守るのかを考えていく必要があります。人がつくったものは必ず壊れます。想定した強度には耐えられるようにつくりますが、しょせんは人がつくったものです。永久はないという前提で対策を立てなければなりません」と、三宅さんは気を引き締める。  そこで大事になってくるのが、三宅さんたちの後をになう若手の成長だ。三宅さんはいつも、若い社員に対して、「会社は小さいけれど、いろいろな仕事をして、そこに足跡を残すんだぞ」と伝えている。つらいことがあっても、「私がやった」という達成感を味わってほしいという願いからだ。「私は若いころ、鈴鹿峠のバイパス工事に7年間たずさわり、開通式で涙しました。一時、スーパーゼネコンが『地図に残る仕事』というコマーシャルをしていましたが、まさにその通りです。当社は小さいですが、『私があの建物を建てた』、『あの橋をつくった』という達成感を味わうことができます。自分たちのつくったものが人々の暮らしを支え、残るわけですから、お金では得られないものがあります」と、三宅さんはこの仕事のやりがいを熱く語る。  若手を教育するうえで心がけているのは、まずは自分で考えさせることだ。「私もそうでしたが、若いころは、自分で考えて自分で悩むことが大切です。いきなり『どうすればいいですか?』と質問するのではなく、これを解決するために自分はどうしたいかと考える。『どうすればいいですか?』、『こうしなさい』だとそれで終わってしまい、自分で考えて乗り越える力が身につきません。だから、本人の動きを見て、問題を抱えているようだなと思っても、簡単には口を出さず、『悩め、悩め』といっています(笑)。自分で悩んで克服するから成長するのです。そうするなかで、旧態依然としたやり方を見直すアイデアも生まれます」という三宅さん。時間はかかるが、こうした若手の育て方をするからこそ、災害などの非常時にも自ら考えて動ける人材へと成長をうながすことができるのだろう。  「昔の人もいっていますが、企業が残さないといけないのは、お金ではなく人。人を残せば、利益もついてきます。企業が存続するためには、人を育てることが何より大事です。学校で知識を学ぶことも大事ですが、社会に出たら、それを活かして、『こうしたほうがよくなるのではないか』と自分で考える知恵を、若い人たちには現場で身につけていってほしいですね」(三宅さん) ※ バックウォーター現象……河川において下流側の水位の高低などが変化し、上流側の水位に影響を及ぼす現象。大雨などの増水により、支流の水が本流の流れにせき止められ、水位が急上昇して堤防の決壊を引き起こす 写真のキャプション 三宅生久顧問 【P23-26】 企業事例4 キャピタルホテル1000株式会社(岩手県陸前高田市) ●調理補助 松田千恵子さん● 東日本大震災大津波の被害に遭い閉館再建を果たしたホテルで高齢従業員が温かくもてなす 東日本大震災から10年甦る風景  岩手県で最も南に位置する町・陸前高田の復旧・復興のシンボルといえば「奇跡の一本松」である。白砂青松で知られる高田松原は約7万本の松を誇り、市民はもとより県内外から観光客が後を絶たない憩いの場であった。その歴史は古く約350年前に先人が植林を始めたことが書物に残っている。見事な松林は1940(昭和15)年に国の名勝に、1964年には陸中海岸国立公園(現・三陸復興国立公園)に指定された。2011(平成23)年3月11日の大津波によって7万本の松は壊滅的な打撃を受けるが、そのなかでたった一本の松が生き残った。文字通り「奇跡の一本松」と呼ばれるようになり市民の精神的支柱の役割を果たしたが、翌年5月に枯死が確認されたため、モニュメントとして保存されることになった。2019(令和元)年には「高田松原津波復興祈念公園」が開園、公園エリアには「奇跡の一本松」とともに「東日本大震災津波伝承館」が開館し、津波の記憶を風化させない取組みが進められている。  陸前高田のもう一つの復旧・復興のシンボル、市の新庁舎が2021年4月に完成した。旧庁舎は東日本大震災によって発生した大津波で全壊、2カ月後には仮設庁舎で業務が再開され、不便な状態で市民サービスを行ってきたが、大震災から10年目の節目に再建された。7階の展望ロビーからは中心市街地を一望できる。シンボルともいえる新庁舎の完成をきっかけに、陸前高田の町は少しずつ変容を遂げている。もちろん本当の意味での復旧・復興はまだまだ時間を要するが、陸前高田の町をこよなく愛する人たちが全力でかつての風景を取り戻そうとしている。  2021年3月31日時点で、陸前高田の行方不明者は202人、10年という歳月が流れてもいまなお大切な人を失った悲しみは癒えない。それでも、中心地に図書館が移設され、文化ホールも新設、さらには間もなく市立博物館が開館するなど、急ピッチで未来へ向かう町づくりが進んでいる。 ハレの日のための上質な空間キャピタルホテル1000  震災から2年後の秋、陸前高田の町を一望できる高台にキャピタルホテル1000がグランドオープンした。同ホテルはもともと高田松原にあり、震災時には7階建てのホテルの4階付近まで浸水。陸前高田の迎賓館といわれたリゾートホテルは大きな被害を受けた。その後閉館を余儀なくされたが、幾多の困難を乗り越え、新生キャピタルホテルとして現在の地で開業した。新しく出発できた背景には再開を望む多くの市民の声があった。それほどキャピタルホテル1000は、お祝いごとや結婚式、会合や宴会など、多岐にわたって市民に必要とされるホテルであった。  高台の地に再建したキャピタルホテルはコンセプトを一新し、3階建てで全室をツインルーム仕様とした。スタンダードツインルームでも20uという十分な広さで、ダークブラウンを基調とした室内は落ち着いた時間が過ごせると好評である。また、広田湾が望める大浴場、新鮮な食材が楽しめるレストランなども人気が高く、観光客はもとより地元の人からも「ハレの日のホテル」のお墨付きを得ている。  業務統括部の浅川ゆかりフロアマネージャーは「お客さまからよくいわれるのは、『従業員一人ひとりの言葉遣いがとても耳に心地よい』ということです。フロント業務の担当者だけでなく、すべての従業員がそうだといっていただけるのが何よりうれしく思います。定期的に講師を招いてマナーや話し方の講習会を全員参加で開いており、例えば私たちは『いらっしゃいませ』という言葉をほとんど使いません。『こんにちは』と声をかけた方が言葉のキャッチボールができると考えるからです。ホテルのパンフレットにも書かれている『人が人を想う気持ちを大切にできるホテルになることを誓います』という言葉を常に忘れないでいたいと思っています。当ホテルでは、高齢の従業員の方が各部門におり、自然に接客の心を学ばせてもらっています」と話す。  同ホテルについては、本誌2015年3月号の「震災後の復旧・復興に力を尽くす高齢者」という特集で、ホテルの概要とともに最高齢の客室スタッフを取材している。あの震災から10年、今回は調理補助として早朝から勤務する松田千恵子さん(73歳)の奮闘ぶりを紹介する。 大震災で学んだことを力に  「震災のときは仕立屋さんでアイロンがけの仕事をしていました。家のことが心配になりあわてて帰ってみると、とりあえず家は無事でした。すぐに公民館へ避難し、そこからみんなで山の方に逃げることになりました。私は車で行ったので、どうしようかと迷いながら車をそこに置いていこうとしたとき、どす黒い大きな波がやってきました。あっという間に車は流され、間一髪、無我夢中でともかく上へ上へと逃げましたが、波が猛烈な速さで追いかけてきました。私の後ろにいた人、そのまた後ろにいた人が流されて、もう死んでもいいやと思ったときピタリと波が止まりました。あのときの恐怖は10年経ったいまも忘れられません」と松田さんはひとことひとこと、かみしめるように話してくれた。  結局、家は流され、跡形もなくなった。貯金をはたいて1カ月前にリフォームしたばかりで涙が出そうになったが、両隣の家ではお年寄りが亡くなったと聞き、命があるだけよかったと思った。松田さんのご主人は震災の前年に病気で他界していたが、体が不自由であったため、もし、震災に遭っていたら逃げることはむずかしかっただろうと思い、ご主人の旅立ちを受け入れることができた。そして、2人の息子さんが無事であったことが救いであった。  「せっかく助かった命だから、大事にしなければと思いました。みんな着の身着のままで、そばにいたお年寄りが寒がっていたので、私は小高い山を下りて、流されていない家に飛び込み、何でもいいですから服をゆずってくださいとお願いしてもらってきました。快くくださったその人には数年経ってからビールを持ってお礼に行きました。よく助けてくれたと思います。人の情けが身に染みて、陸前高田で暮らしてよかったと思いました」と松田さん。  市役所庁舎のあったところの仮設住宅にすぐに入って5年ほど過ごした。仮設住宅では気がついたら世話役のようなことをしていたと松田さんはふり返る。5年前に県営住宅に入ることができ、いまは上の息子さんと2人で暮らしている。市からは土地が譲渡されたが、家を建てるつもりはいまのところないという。「県営住宅で暮らして元気に働ければそれでいいと思っています。震災は辛いことも多かったけれど、仮設住宅でも多くの人に助けてもらいました。学んだことも大きいです」と屈託がない。 元気に働けることに感謝を  松田さんは中学校を卒業すると地元でも有名な文具店で店員として働きながら、定時制高校に通った。当時は文具店のような商店でも住み込みで働くことは珍しくなく、松田さんも住み込みで、店員の仕事以外に朝の炊事当番もこなしていた。定時制を卒業してからも同じ文具店で4年ほど働き、結婚を機に夫と一緒に上京した。「東京といっても都会ではなく、近くに荒川土手がある下町でした。土手を毎日のように散歩して楽しかったです。20代後半に地元へ戻ってからはいろいろな仕事を経験しました。鶏肉の加工屋さんで総菜づくりの仕事をしたことで料理のレパートリーが広がりました。クリーニング店でのアイロンがけやスーパーで清掃の仕事もしました。2013年にキャピタルホテル1000が業務を再開し、高齢でも働かせてもらえることを知り、65歳で面接を受けました。このホテルの事務で相談役のようなことをやっていた義姉からもすすめられました」  キャピタルホテル1000は観光の要として地域貢献するだけではなく、雇用の場を創出する役割も果たしていた。開業からは半年ほど遅れたが、それでも11人の応募があり全員採用された。仕事はベッドメーキング。松田さんにとっては初めての経験であったが、すぐに慣れて、どうやったらもっと早くできるか仲間たちとワイワイ話し合うのがとても楽しかったという。また、出勤は9時からだったが、みんなでその前に出社してホテルの周りの草取りをしたという。それを見て「当時の会長さんが『ありがとう』と、頭を下げてくれました。そのアットホームな雰囲気こそが、私の仕事の原動力です」とにっこり笑う。  しばらくすると人手が足りないということで調理部の仕事を手伝うことになり、以来ずっと調理補助として朝食のバイキングを担当している。朝の5時半にはホテルに着いて、6時に厨房に立つ。バイキングの料理をつくり、朝食時間が終わったら明日の仕込みに入る。これが週3回から4回のローテーションとなる。もし、連泊する人がいるならメインで同じものを出さないように気をつけるのも松田さんの仕事である。  高校生のころ、住み込みで毎日の朝食当番をした経験や、鶏肉の加工屋で総菜をつくったことが、長い年月を経ていまに活きている。人生で役に立たない経験は何一つないことを、松田さんは身をもって感じている。 高齢者が活き活き働ける職場づくりを目ざして  「朝が早いので通勤は車を使っています。73歳だから都会なら免許を返納するようにといわれるかもしれませんね。朝早いのには慣れました。たまに体がしんどいなと思うときもありますが、お客さまが笑顔で食事している姿を見ると疲れも吹き飛びます。まだまだ交通の便が悪いのに、遠方から泊まりに来てくださる方もいて、そのことがここで働くみんなの励みになっていると思います。だからできるかぎり笑顔でお客さまに接したいのです」という松田さんの言葉に浅川マネージャーが大きくうなずいた。  「松田さんをはじめ、高齢のパート社員とお客さまとのやり取りを見聞きするたび、温かさを感じます。言葉というより、すれ違うときの笑顔というか、ほんのちょっとした気遣いを学ばなくてはと思っています。当社は、一応定年はありますが、働く意欲があり健康な方ならいつまでも働いてもらえます。最高齢は74歳の方でいまは洗い場を担当しています。面白いのは、松田さんはその方とほとんど年が違わないのに『あの人が最高齢』と敬意をもって話していることです。接客業というものはやはり、一人の人間としての経験が必要なのかもしれません。当ホテルをご利用になったお客さまからメッセージカードをいただくことがありますが、『体に気をつけてください』といった優しい言葉をくださる方もいます。現在当社は、ベッドメーキングに60代後半が2人、サービス部門にも60代の方がいます。朝食担当には、松田さんともう一人60代の方がいます。当ホテルの業務をしっかり支えているのは高齢のパート社員たちといっても過言ではありません。募集のときには一応定年を明記しますが、ハローワークさんもよく理解してくださっていて、『70代の方ですけれどどうしましょうか』と声をかけてくれ、『もちろん面接させていただきます』とお答えしています。パート社員とは、1年に1回面談して今後どうするのかを個別に聞いていますが、多くの方が働き続けることを選択してくれるので頼もしいかぎりです」と松田さんに笑顔を向けた。  コロナ禍でホテルも苦境に陥り、松田さんたちも1カ月間ほど働けないことがあった。「私たちパート社員にも社員と同じように給与を保障してくれました。人を大切にする会社の気持ちに少しでも応えたいから、健康に気をつけて仲間たちと長く働かせてもらい、会社や地域に恩返しがしたいです」と力強く話す。  同ホテルにおいては、高齢従業員のさまざまな経験が、再建後のホテル業務を支えている。「復旧・復興」と、被災地から離れている人間はつい言葉に出してしまいがちだが、被災地で生きる人々にとってそれは自然な日々の連続であり、10年という歳月は通過点に過ぎないのだろう。「奇跡の一本松」、「新しい庁舎」、「キャピタルホテル1000」、復興のシンボルが、たくましく生きる人たちを励まし続ける。 写真のキャプション 2013年11月に再建されたキャピタルホテル1000 松田千恵子さん(左)と浅川ゆかりフロアマネージャー(右) 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 332 ラッキョウで免疫力強化 食文化史研究家●永山久夫 古くは薬用として珍重(ちんちょう)  炊き立てのほかほかごはんとラッキョウの甘酢漬けは、実に相性がよく、ほどよい酸味がごはんの甘さを引き立てます。その効果はカレーライスの場合にいっそう際立ちます。カレーの辛さをラッキョウ漬けがマイルドにしてくれるためです。  かんだときの音がまた絶妙で、ラッキョウはパリパリと音まで“うまい”のです。  原産地は中国といわれ、ユリ科の植物です。日本に伝えられたのはかなり古く、平安時代の事典である『和名抄(わみょうしょう)』には、「おおみら」とあります。ちなみに、ニラは「こみら」と呼ばれていました。当初は薬用として珍重されていたようで、当時の医術書である『医心方(いしんほう)』には、身体の動きを軽くし、飢えにも強くして老化を防ぎ、あるいは毛髪が伸びるなどとあります。  臭気のもとは硫化アリルで、血栓の予防や血液のサラサラ作用で知られ、若々しさを保つ成分として注目のビタミンEも含まれています。  ウイルスなどに対する免疫力を強くしたり、細胞の老化を防ぐビタミンCも豊富で、脳の老化を防ぐ葉酸も含まれています。また、水溶性の食物繊維が多く、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えて免疫力を高める効果が期待されています。 疫病を追い払う  江戸時代の『農業全書』には、「味少し辛く、さのみ臭からず、効能あり、人を補い温める」とあります。  その食べ方については、塩や味噌に漬けたり、煮たり、酢味噌をつけて食べても「味よき物なり」と述べ、さらに「ゆでて酢としょうゆに漬けたものも美味」と記されています。  江戸時代の人たちは、私たち現代人よりもはるかにラッキョウに親しんでいました。シャックリが止まらないときには、ラッキョウの酢漬けを食べるとよいという俗信もありましたし、疫病が流行したときには、戸口に束ねたラッキョウをつるしておくと、病気が入ってこないという厄払いも行われていました。  古くは「辣韮(らっきう)」の文字をあてており、これがなまって「ラッキョウ」になったようです。 【P28-32】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 第A回 株式会社 大津屋 (福井県福井市) [後編] 多様な就労形態を構築。最新機器も活用し、シニアの負担を軽減 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります 前編はホームページでご覧になれます。 エルダー2021年 5月号 マンガ 検索 【P33】 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 株式会社大津屋(福井県福井市) 創業1573(天正元)年 コンビニエンスストア事業(創業時は酒造業)  定年70歳、就業規則により73歳、その後は運用により上限なしで継続雇用。現在の最高年齢者は74歳。定年制度・継続雇用制度を整備し70歳就業を実現するとともに、評価・処遇制度を見直し、高齢社員が高いモチベーションで働ける環境が整っており、令和2年度高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞しました。人材を「宝」と位置づけ、高齢者の特性を最大限に活かせる職場づくりに取り組んでいます。 内田教授に聞く株式会社大津屋のココがポイント! シニアスタッフの強みを「より長く」、「より多く」引き出し競争力を強化  大津屋の強みはほかのコンビニチェーンにはない「地産地消」のお惣菜ですが、開発の中心となっているのはシニアスタッフです。彼らは大津屋躍進の原動力となっています。競争力強化という経営戦略から、大津屋はシニアスタッフの強みを「より長く」、「より多く」引き出そうと工夫しています。「より長く」とは、シニアスタッフが大津屋に貢献できる期間を長くすることです。そして「より多く」とは、彼らシニアスタッフの貢献度をいっそう高めることです。  定年年齢を65歳から70歳に延長することで、「より長く」が実現しています。70歳定年と73歳までの継続雇用制度を就業規則で明文化、だれでもその年齢まで働けることを保証しています。働く高齢者のなかには「自分は何歳まで働かせてもらえるのだろうか」と不安に思っている人もいます。明文化された制度は安心感を与え、働く意欲を高めます。  また、大津屋では70歳定年以降も減額のない賃金制度に加え、処遇の納得性を高めるコンピテンシー評価を取り入れてシニアスタッフのモチベーションを高め、「より多く」の貢献を引き出しています。  高齢者にはライフスタイルの変化、体力・集中力低下や新技術への対応のむずかしさがあらわれることがあります。大津屋では、高齢者との面談で個々人の事情や希望する働き方を把握しています。また、高齢者の作業負担軽減のため最新機器や設備を導入していますが、高齢者が操作方法に習熟できるよう研修にも時間をかけています。高齢者が働きやすい環境が整うことで「より多く」の貢献が引き出せます。  高齢者の多様なニーズをつかみ、きめ細かに対応して自社の強みとしている大津屋の取組みは、失敗しない高齢者活用のヒントを提供してくれます。 《プロフィール》 内田賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)ほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 【P34-35】 江戸から東京へ [第103回] 生涯青春で生きる 尾高惇忠(おだかあつただ) 作家 童門冬二 渋沢栄一を育てた漢学者  尾高(おだか)惇忠(あつただ)は、渋沢栄一の義兄にあたる。妹の千代が栄一の妻だったからだ。1830(文政13)年に生まれ、1901(明治34)年に死んだ。満71歳だった。その生き方は生涯青春≠ニいってよく、一生を通じて情熱的だった。生地は栄一と同じ深谷市(埼玉県)で生家は名主だ。漢学にくわしく栄一をはじめ多くの若者に、儒学を叩きこんだ。  幕末時には熱い攘夷(じょうい)論者で、栄一にも大きな影響を与えた。想像できないが青年栄一も激しい攘夷論者で、幕府を決起させるため高崎城(群馬県)の乗っ取りを計画している。惇忠の感化によるものだ。  それでいて徹底した親幕派で、政府軍が江戸城を占領した後は、彰義隊に入って戦った。彰義隊の隊長の一人、渋沢誠一郎は栄一のいとこで、惇忠から多大な思想的影響を受けている。彰義隊は佐賀藩の高速機関銃に敗れた。誠一郎は振武軍(しんぶぐん)≠編成して関東で戦う。惇忠は参加する。  惇忠の行動をずっとみていた栄一が、ある日声をかけた。  「お義兄(にい)さん、徳川家が70万石もらって静岡で大名になった。私が財政を担当する。米以外の農作物を振興したい。手伝ってくれませんか」  「いいよ。徳川家とお前のためなら何でもやる」  快諾して、「静岡藩勧業付属(づきぞく)」という役人になった。栄一はその能力を認められて大蔵省の幹部ポストに。次官大隈重信の懇請だった。税制改正が主務だったが、勧業も仕事だった。栄一はグループをつくって群馬県富岡に製糸工場を造り、指導をフランスの技術者ポール・ブリューナーに委嘱した。しかし日本人の所長が要る。栄一は深谷で雑貨屋をやっていた惇忠に頼んだ。  「お義兄さん、製糸工場の所長を頼みます。得意な藍(あい)の研究もできますよ」  「引き受けた。藍の研究なんかどうでもいい、お前のためなら何でもやる」  快諾。栄一の人の活用はうまい。単なる失業救済ではない。相手の持味発揮の場にするのだ。 娘の血を吸う製糸工場  が、赴任した惇忠はいきなり大きな壁にブチあたった。募集している女性工務者に一人も応募者がいないのだ。信じられないので地元の実力者の所に行って訊(き)いてみた。  事実だという。理由は?とたずねると、この答えが呆れる内容だった。  「技術者が若い日本娘の血をすすっている」  という。惇忠はビックリした。  「娘の血を?」  「そうです。ですから近隣はおろか遠方の地域にも噂が広まって、だれも応募しません。西洋の技術が習えて、いい給料がもらえるのに、惜しいことです」  「……」  実力者の話を聞いているうちに惇忠は気がついた。攘夷論者だったが、かれもインテリだ。明治になってからドッと押し寄せたヨーロッパ文明の中身のあらましは知っているし、関心もある。そのなかには食料や飲料もある。  (ブドー酒だ。娘の血なんかじゃない)  そう思った。しかしどうするか。しかしかれは障害にあたると凹(へこ)まず、逆に血を騒がせて立ち向かう青春児だ。この場合もそうだった。  「よし」  解決策を思いついた。実行のため家に戻った。娘のお勇もいた。妻をはじめ家族を全部集めた。  「みんなに相談がある」  と切り出した。家族は緊張して惇忠を凝視した。惇忠は話した。  「お勇を俺の製糸工場で働かせる。そして夜はフランス人の技術者に血を吸わせる」  みんなアッと声をあげた。しかし話が全然見えない。  「どういうことですか」  妻が訊いた。  「こういうことだ」  惇忠は真実を告げた。みんな笑い出した。妻がお勇に訊く。  「どうする」  「行きます。私の名は勇気の勇です。こういうときに勇気を出せ、とお父さんがつけてくれたのです」  お勇は勇敢だった。  「そういう迷信を砕くのに役立つのなら、やり甲斐(がい)があります」 ともいった。  こうして日本最初の官営製糸工場の、女子見習工員第一号は、所長の娘・尾高勇がなった。お勇は働き始めると友人の娘を誘った。さらに友人に友人を誘わせた。  次第に応募者が増えた。県内だけでなく、隣接する長野、さらに岐阜などの県からも女工になるために娘たちがやってきた。それも一人ではなく、フタケタの人数がグループでやってきた。  理由を知ったポールが、  「ブドー酒をやめる」  といったが惇忠はとめた。  「酒も大事な文化だ。たまには娘たちにも血を吸わせてやってくれ」  二人は大笑いした。のちに、この製糸工場が世界文化遺産になったのは有名だ。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第108回 神奈川県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70代も10代もチームで働く職場 高齢職員への配慮を職員間で確認 企業プロフィール 社会福祉法人翔の会(神奈川県茅ヶ崎市) ▲創業 1992(平成4)年 ▲業種 社会福祉事業(障害児・者支援、高齢者介護、保育等) ▲職員数 779人 (60歳以上男女内訳)男性(51人)、女性(119人) (年齢内訳)60〜64歳 43人(5.5%)       65〜69歳 51人(6.5%)       70歳以上 76人(9.8%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。65歳以降は、原則として基準該当者を嘱託職員またはパートタイム職員として継続雇用  神奈川県は、関東平野の南西部に位置しています。北は東京都に接し、東は東京湾、南は相模湾にそれぞれ面し、西は山梨、静岡の両県に隣接して、箱根や丹沢の山々が連なります。また、相模川や酒匂(さかわ)川など豊富な水資源に恵まれています。  海、山の自然の魅力とともに、古都鎌倉、小田原城、江の島、港町・横浜などの歴史文化のほか、温泉やさまざまなレジャー施設があり、全国から多くの観光客が訪れています。  2020(令和2)年9月末日の人口は921万6009人で、東京都に次いで全国2番目の多さです。2020年の就業者数は約504万2000人。多くの人が、卸売・小売業やサービス業を中心とする第3次産業で働いています。一方で、工業も盛んな県であり、全国都道府県別の製造品出荷額(2018年実績)をみると、愛知県に次ぐ第2位。横浜と川崎の沿岸部に広がる京浜工業地帯を中核として、主に輸送用機械器具、石油製品・石炭製品、食料品などの製造業があります。また、最近では環境・ライフサイエンス、IT関連などの新たな成長分野の産業や、研究所などの立地も県内各地で進んでいます。 70歳就業に向けた問合せが増加中  神奈川支部高齢・障害者業務課の石原正朗(まさろう)課長は、「今年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行され、『70歳までの就業機会の確保』に向けての継続雇用延長や定年引上げを実施するにあたってのお問合せが増えています。当課では、県内事業所の支援に向けて、ていねいな相談・助言活動を心がけています。また、事業所へ制度改善提案を行い、事業主の方がその提案を受けて見直しを進められるよう、65歳超雇用推進プランナー・アドバイザーによる相談・助言活動を実施しています」と同課の取組みを語ります。  今回は、神奈川支部で活躍するプランナー・宮田賢二さんの案内で、「社会福祉法人翔の会」を訪れました。  宮田プランナーは、社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどの資格を持ち、豊かな見識や経験を活かして多様な事業所の高齢者雇用や高齢社員にかかわる相談・助言活動に取り組んでいます。また、当機構の「高年齢者活躍企業コンテスト」(旧「高年齢者雇用開発コンテスト」)について、訪問先の事業所に対して積極的な応募勧奨を行っています。「取組みが評価され入選すれば事業所にとっても名誉となりますし、その優れた取組みを好事例としてほかの事業所に広めたいと考えています。応募を機に、当該事業所の取組みをさらに推進してもらいたいという思いもあります」と宮田プランナーは語ります。 高齢職員への配慮をマニュアル化  社会福祉法人翔の会は、1983(昭和58)年に茅ヶ崎市の自宅に暮らす障害者やその親、ボランティアなどが集まり、「むつみ会」と名づけた月に1回の昼食会が、はじめの一歩でした。それから10年後の1992年、茅ヶ崎市に障害者の住める施設を実現するために社会福祉法人翔の会を設立しました。  「誰もが地域で暮らせるために」を法人理念として、多くの人々の力で活動を広げ、現在では茅ヶ崎市、寒川町を基本的な地域エリアとして72事業(事業所数37カ所)を展開。障害者、高齢者、児童を対象に、利用者の「地域の中で暮らしたい」という願いを大切に受けとめて総合的な福祉サービスを提供しています。  各事業所の利用者は赤ちゃんから100歳を超える高齢者、障害のある人などさまざまで、「人と人との交流のなかで生まれる相互作用、地域の方々も含め、多様な人たちとともに暮らしていける社会の実現」に向けて取組みを続けています。  2021年3月末日現在の職員数は、779人(うち正職員288人)。60歳以上は170人(全体の約22%)で、19歳から78歳まで幅広い世代が働いています。人材確保の状況や職員の定着率は比較的よいとのことですが、60歳以上の人材も重要な戦力と考え、2013年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げました。  宮田プランナーはその直後に翔の会を初めて訪問しており、「当時、高齢人材のさらなる戦力化に向けて、正職員の65歳以降の再雇用要件の見える化、介助業務などの負荷軽減のための設備・機器の導入や助成金の利用などをアドバイスしました」と話します。2017年の2度目の訪問時には、正職員がより長く働くことができる職場づくり、健康管理の充実などについて助言したそうです。  翔の会では、非正規職員の高齢者雇用制度を2010年に整備し、必要に応じて見直しを行い、職員、利用者の安全に配慮して、2021年度から職務に応じた年齢制限を導入。「@利用者への直接・間接支援業務は最高年齢75歳、A利用者を乗せた送迎運転業務は最高年齢70歳、B利用者を乗せない事務運転業務は最高年齢75歳」としました。  「企業などを定年された方の採用も行っており、結果的に70歳以上の職員が徐々に増えており、現在全体の1割近くになっています。介護職では人生経験が豊かなことがプラスに働きますし、多世代の職員がいることでバランスの取れた職員の配置ができます。高齢職員には若い職員を支える役割をになってもらうこともある一方で、高齢者の特性に配慮した職場づくりが重要と考え、先の三つの分野で上限年齢を定めました。また、厚生労働省の『エイジフレンドリーガイドライン』を参考にして、昨年独自のマニュアルを作成しました」と、「ちがさきA・UN」・「特別養護老人ホームゆるり」で施設長を務める太田英次郎さんは話します。  翔の会の仕事は、各職場のチームで行うことが多いため、安全配慮について確認するとともに、高齢職員の特性を知り、高齢職員やほかの世代の職員がそれぞれ配慮すべきことをマニュアル化。高齢職員は一人で仕事を行いがちなため、事故につながらないよう注意喚起を目的として、今年度の早いうちに70歳以上と管理職を対象とした、安全配慮に関する研修を実施予定とのことです。  今回の取材では、翔の会で働く70代のお二人の働きぶりについてうかがいました。 誠実、元気な仕事ぶりが信頼感に  日高(ひだか)憲一(けんいち)さん(73歳)は、翔の会が運営する特別養護老人ホーム・保育園・児童発達支援センター・生活介護・就労支援が同居する複合施設「ちがさきA・UN」に勤務して9年。建物全体の簡単な修繕や安全確認、清掃などを担当し、1日7時間、週4日勤務しています。  太田施設長は、「朝は園児と保護者に危険がないように施設前の車の誘導をしたり、日中はちょっとした大工仕事をしてくれたりして、施設を利用する方々からも信頼されていますし、職員にとってはたいへん頼もしい存在です。高齢職員だからというより、温厚な人柄も含めて、日高さんだからなのだと思います」と話します。  日高さんは、「子どもたちや入居者の方々の安全第一を考えて仕事をしています」と、謙虚に話します。施設内を日々点検し、例えばウッドデッキに気になる部分があればすぐに修繕し、職員から靴箱を増やしたいとリクエストがあればすぐに応えてつくってしまうとのこと。前職は公務員で現在の仕事との共通点はないものの、豊富な知識や経験を活かして、日々の仕事に励んでいます。  「頼りにしてもらえることがうれしいですし、以前の週5日勤務から1日短くして、体を気遣ってもらいながら働き続けられることがありがたいです」と日高さん。建物や設備について気づいたことや修繕したことなどを書き留めて、ほかの職員にもわかるようにしているといいます。誠実な働きぶりは若い職員のお手本にもなっています。  小野キミ子さん(74歳)は52歳のときに入職。知的障害や身体障害のある人が日中の時間を過ごす複合施設「湘南鬼瓦(おにがわら)」に勤めて22年です。ホームヘルパー2級(訪問介護員養成研修2級課程修了)を有し、利用者の食事介助、トイレ介助、散歩など介護全般をにない、週3日フルタイムで働いています。以前は夫の仕事を手伝って事務をしていましたが、ボランティア活動に参加したことがきっかけで翔の会へ入職しました。  「心がけているのは、利用者さんの気持ちを大切に考え、誠実に対応すること。1日ケガなく過ごしてもらうように注意を怠らないこと、また明日も来たいと思ってもらえるよう楽しく過ごしてもらうことです」と小野さん。笑顔も素敵です。「だれかの役に立っていると実感できること」がやりがいになっていると語ります。  今後の抱負は、「いままでと同様に、自分の健康を保って利用者さんと楽しく過ごして、退職するその日まで勤め上げることです」と話してくれました。  一緒に働いている川口清美さんは、「だれに対しても対応がていねいで、職員、利用者さんから信頼され、頼りにされています。私も介護の仕方の細かいことについて教えてもらっています」と小野さんの仕事ぶりを語ります。  同施設の蔵座(ぞうざ)栄治(えいじ)施設長は、「小野さんがいるかいないかでフロアーの空気がガラッと変わるほどの存在です。自分が元気であるとともに、人を元気にする力に満ちあふれています。ふだんの心がけというか、生き方そのものが、気持ちがよい方だなと思います。否定的な発言をほとんど聞いたことがなく、どんな人をも受け入れる懐の深さを感じます」と語りました。  これからの翔の会について太田施設長は、「コロナ禍で中断していますが、翔の会には複数の施設があるので、施設間、職員間の交流を活発にして、多世代の多様な職員が相互に理解し、より楽しい施設、職場をつくっていきたいと思います」と目標を語ってくれました。  翔の会は、今年で設立29年。正職員が定年を迎え始めるこれからに向けて、宮田プランナーは定年後の職員の処遇制度の構築や、職員がより長く働くことができる職場づくりを引き続き支援していきたいと考えています。 (取材・増山美智子) 宮田賢二プランナー(72歳) アドバイザー・プランナー歴:8年 [宮田プランナーから] 「プランナー活動では、『終始誠意・最善努力でお役に立つ』をモットーとしています。訪問先の担当者から、当該事業所の高齢者雇用に関する事項を網羅的にお聞きするようにして、課題と思われる点や戦力化に向けて取り組んだ方がよいと思う方策について持てる知職・経験を活かし、実情に即したアドバイスを行うことを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆神奈川支部の石原課長は、宮田プランナーについて次のように話します。「温厚・誠実で、事業所が抱える課題解決にあたっては、長年の活動によってつちかわれたノウハウをもって、親身になって相談・助言活動にあたっています。事業所に対して真摯な姿勢で接し、常に事業所の立場に立った活動をしており、企業からの信頼も厚く、訪問した事業所から高評価をいただいています。学生時代からランニングを趣味とし、フルマラソンにも出場していることが活力の源となっているようです」 ◆神奈川支部高齢・障害者業務課は、相鉄本線の希望が丘駅(南口)より徒歩約8分。関東職業能力開発促進センター内にあります。 ◆当課には、19人の65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、2020年度は制度改善提案を414件、相談・助言を1244件行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●神奈川支部高齢・障害者業務課 住所:神奈川県横浜市旭区南希望が丘78(関東職業能力開発促進センター内) 電話:045(360)6010 写真のキャプション 神奈川県茅ヶ崎市★ 翔の会で展開する施設の一つ、保育園や特別養護老人ホームのある複合支援施設「ちがさきA・UN(あうん)」 太田英次郎さん(「ちがさきA・UN」・「特別養護老人ホームゆるり」施設長) 「ちがさきA・UN」の玄関前で、花壇の手入れをする日高憲一さん 「湘南鬼瓦」に通う利用者の介助を行う小野キミ子さん 【P40-43】 高齢社員のための安全職場づくり エイジフレンドリーな職場をつくる 労働安全衛生総合研究所 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第6回 高齢者の労働災害防止対策 −転倒災害防止その3− 1 転倒災害防止対策  転倒しやすい高齢者とは、どのような人のことをいうのでしょうか。例えば、足腰の衰えが顕著にもかかわらず、「転倒は自分には関係のないもの」という気持ちを持っている人があげられます。若いころと同じように行動して、転倒を引き起こしてしまいます。  そのような人には、転倒する危険が小さくないことを自覚させることが必要です。このため、中央労働災害防止協会では、高齢者の転倒しやすさを測る「転倒等リスク評価セルフチェック票」を作成しています。  これは、身体機能の計測により、転倒につながる足腰の衰えを客観的に評価し、一方で、転倒にかかわる質問をし、その回答をみて、自分が転倒しやすいことを自覚しているか主観的な評価を行い、これら客観的評価と主観的評価を比べることにより、転倒しやすいかを判定するものです。  つまり、身体機能が高く、かつ転倒を意識し慎重な行動に努める人は、転倒災害にあう可能性は低いととらえ、逆に、身体機能が低いにもかかわらず、転倒を意識せず無茶な行動をする人は、転倒災害にあう可能性は高いと判定します。 ■転倒等リスク評価セルフチェック  転倒等リスク評価セルフチェックの手順は次の通りです。 (1)身体機能の計測(客観評価)  客観評価として、転倒にかかわる身体機能を計測します。具体的には、図表1の通り、@2ステップテスト(評価項目:歩行能力・筋力)、A座位ステッピングテスト(同:敏捷(びんしょう)性)、Bファンクショナルリーチ(同:動的バランス)、C閉眼片足立ちテスト(同:静的バランス)、D開眼片足立ちテスト(同:静的バランス)を計測します。 (2)質問票の回答(身体的特徴:主観評価)  主観評価として、図表2の通り、身体的特徴に関する1〜9の質問を行い、それぞれ5段階で回答し、その回答結果から、評価を行います。評価項目は、身体機能の計測と同様、@歩行能力・筋力、A敏捷性、B動的バランス、C静的バランス(閉眼片足立ち)、D静的バランス(開眼片足立ち)の五つです。 (3)レーダーチャートに評価結果を記入  図表3のレーダーチャートに、図表1の身体機能計測結果(客観評価)と、図表2の質問票回答結果(主観評価)を記入し、線でつなぎます。 (4)判定  一つのレーダーチャートに記入した五つの身体機能計測結果を結んだ線の形と質問票回答結果を結んだ線の形を比べます。図表4には、レーダーチャートの典型的なパターンを二つ示しましたが、パターン2のように質問票回答結果が大きく、身体機能計測結果が小さいケースが、最も転倒が起こりやすいケースです。体力の衰えによる転倒する危険を自覚させることが求められます。 2 おわりに  今回は、転倒しやすい高齢者に対し、それを自覚させるため、高齢者の転倒しやすさを測る中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」を紹介しました。  転倒災害防止には、段差解消、滑る危険性のあるものの除去などハード対策とともに、身体機能の個人差が大きい高齢者に対し、このような高齢者が持つ身体機能、防止意識などを計測することにより、転倒しやすい人を見つけ、防止意識を向上させる対策を打つようなソフト対策も求められます。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 転倒等リスク評価セルフチェック票:身体機能の計測(客観評価) @2ステップテスト(歩行能力・筋力) 最大2歩幅を計測し身長で割ります あなたの結果は cm/cm(身長)= 評価表 1 2 3 4 5 結果/身長 〜1.24 1.25〜1.38 1.39〜1.46 1.47〜1.65 1.66〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 A座位ステッピングテスト(敏捷性) 20秒間で何回開閉できますか あなたの結果は 回/20秒 評価表 1 2 3 4 5 (回) 〜24 25〜28 29〜43 44〜47 48〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 Bファンクショナルリーチ(動的バランス) 水平にどのくらい腕を伸ばせますか あなたの結果は cm 評価表 1 2 3 4 5 (cm) 〜19 20〜29 30〜35 36〜39 40〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 C閉眼片足立ち(静的バランス) 目を閉じて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜7 7.1〜17 17.1〜55 55.1〜90 90.1〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 D開眼片足立ち(静的バランス) 目を開いて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜15 15.1〜30 30.1〜84 84.1〜120 120.1〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表2 転倒等リスク評価セルフチェック票:質問票の回答(主観評価) 質問内容 あなたの回答No.は 合算 評価 評価 1.人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか 点 下記の評価表であなたの評価は @歩行能力・筋力 2.同年代に比べて体力に自信はありますか 3.突発的な事態に対する体の反応は素早い方だと思いますか 点 A敏捷性 4.歩行中、小さい段差に足を引っかけたとき、すぐに次の足が出ると思いますか 5.片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか 点 B動的バランス 6.一直線に引いたラインの上を、継ぎ足歩行で簡単に歩くことができると思いますか 7.眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか C静的バランス  (閉眼片足立ち) 8.電車に乗って、つり革につかまらずどのくらい立っていられると思いますか 点 下記の評価表であなたの評価は D静的バランス  (開眼片足立ち) 9.眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか 合計点数 評価表 2〜3 1 4〜5 2 6〜7 3 8〜9 4 10 5 質問内容回答 No. 1.人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 C少し自信がある D自信がある 2.同年代に比べて体力に自信はありますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 Cやや自信がある D自信がある 3.突発的な事態に対する体の反応は素早い方だと思いますか @素早くないと思う Aあまり素早くない方と思う B普通 Cやや素早い方と思う D素早い方と思う 4.歩行中、小さい段差に足を引っかけたとき、すぐに次の足が出ると思いますか @自信がない Aあまり自信がない B少し自信がある Cかなり自信がある Dとても自信がある 5.片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか @できないと思う A最近やってないができないと思う B最近やってないが何回かに1回はできると思う C最近やってないができると思う Dできると思う 6.一直線に引いたラインの上を、継ぎ足歩行(後ろ足のかかとを前脚のつま先に付けるように歩く)で簡単に歩くことができると思いますか @継ぎ足歩行ができない A継ぎ足歩行はできるがラインからずれる Bゆっくりであればできる C普通にできる D簡単にできる 7.眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか @10秒以内 A20秒程度 B40秒程度 C1分程度 Dそれ以上 8.電車に乗って、つり革につかまらずどのくらい立っていられると思いますか @10秒以内 A30秒程度 B1分程度 C2分程度 D3分以上 9.眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか @15秒以内 A30秒程度 B1分程度 C1分30秒程度 D2分以上 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表3 転倒等リスク評価セルフチェック票:レーダーチャートへ記入 図表1・図表2の評価結果を転記し線で結びます (図表1の身体機能計測結果を黒字、図表2の質問票(身体的特性)は赤字で記入) @歩行能力・筋力 A敏捷性 B動的バランス C静的バランス(閉眼) D静的バランス(開眼) 5 4 3 2 1 チェック項目 1身体機能計測(黒枠)の大きさをチェック  身体機能計測結果を示しています。黒枠の大きさが大きい方が、転倒などの災害リスクが低いといえます。黒枠が小さい、特に2以下の数値がある場合は、その項目での転倒などのリスクが高く注意が必要といえます。2身体機能に対する意識(赤枠)の大きさをチェック  身体機能に対する自己認識を示しています。実際の身体機能(黒枠)と意識(赤枠)が近いほど、自らの身体能力を的確に把握しているといえます。 3黒枠と赤枠の大きさをチェック (1)「黒枠≧赤枠」の場合  それぞれの枠の大きさを比較し、黒枠が大きいもしくは同じ大きさの場合は、身体機能レベルを自分で把握しており、とっさの行動を起こした際に、身体が思いどおりに反応すると考えられます。 (2)「黒枠<赤枠」の場合  それぞれの枠の大きさを比較し、赤枠が大きい場合は、身体機能が自分で考えている以上に衰えている状態です。とっさの行動を起こした際など、身体が思いどおりに反応しない場合があります。枠の大きさの差が大きいほど、実際の身体機能と意識の差が大きいことになり、より注意が必要といえます。 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表4 転倒等リスク評価セルフチェック票:判定(モデル例) パターン1 身体機能計測結果>質問票回答結果  あなたの身体機能(太線)は、自己認識(点線)よりも高い状態にあります。このことから、比較的自分の体力について慎重に評価する傾向にあるといえます。生活習慣や加齢により急激に能力が下がる項目もありますので、今後も過信することなく、体力の維持向上に努めましょう。  一方、太線が点線より大きくても全体的に枠が小さい場合(特に2以下)は、すでに身体機能面で転倒等のリスクが高いといえます。筋力やバランス能力の向上、整理整頓や転倒・転落しやすい箇所の削減に努めてください。  また、職場の整理整頓がなされていない場合などには転倒等リスクが高まることがありますので注意しましょう。 パターン2 身体機能計測結果<質問票回答結果  あなたの身体機能(太線)は、自己認識(点線)よりも低い状態にあります。このことから、実際よりも自分の体力を高く評価している傾向にあり、自分で考えている以上にからだが反応していない場合があります。  体力の維持向上を図り、自己認識まで体力を向上させる一方、体力等の衰えによる転倒等のリスクがあることを認識してください。日頃から、急な動作を避け、足元や周辺の安全を確認しながら行動するようにしましょう。  また、枠の大きさが異なるほど、身体機能と自己認識の差が大きいことを示しており、さらに、太線が小さい場合(特に2以下)はすでに身体機能面で転倒等のリスクが高いことが考えられます。筋力やバランス能力等の向上に努めてください。 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第37回 定年後再雇用の労働条件、競業避止義務と引き抜き行為 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後再雇用する従業員の賃金と同一労働同一賃金の関係について詳しく知りたい  定年後に再雇用する従業員の賃金を減額する提案をしてもよいのでしょうか。同一労働同一賃金の観点からどの程度であれば許容されるのでしょうか。 A  賃金の減額の提案自体は、許容されるものと考えられます。減額の程度については、60%を下回らない程度にすべきと判断した裁判例があります。 1 定年後再雇用時の労働条件について  前号では、最高裁判決などをもとに、定年後再雇用における、賃金の減額に関する判断の枠組みなどをお伝えしました。今回は、具体的な判断を行った裁判例の紹介を通じて、留意点を整理してみたいと思います。  まず、前提として、定年後に再雇用を行う場合、厚生労働省は、合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法の違反にはならないとの見解を公表しています。そして、継続雇用をしないことができるのは、解雇事由または退職事由と同一の範囲に限定されています(「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」参照)。同指針では継続雇用後の賃金について、高齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努めるという方針も示されています。  この前提と同一労働同一賃金のことをふまえると、賃金減額の提案自体が禁止されているわけではありませんが、合理的な裁量の範囲の条件の内容が問題となります。 2 同一労働同一賃金に関する裁判例について  前回もご紹介した通り、定年退職後の再雇用に関して同一労働同一賃金が争われた事件として、長澤運輸事件(最高裁二小 平30・6・1判決)があります。この事件において、判決では、旧労働契約法第20条が考慮することとされている「その他の事情」として、定年後の再雇用であること≠考慮していました。  その後にあらわれた裁判例として、名古屋地裁令和2年10月28日判決があります。事案の概要は、以下の通りです。  自動車学校を経営する会社に勤めていた原告(2名)が、定年後の再雇用(以下、「嘱託社員」)中の労働条件が、業務の内容および当該業務にともなう責任の程度(以下、「職務の内容」)並びに当該職務の内容および配置の変更の範囲(以下、「職務の内容および変更範囲」)に相違がないにもかかわらず、正社員と嘱託社員の間で差異があり、基本給の差額、正社員が受給している賞与と嘱託社員が受給した一時金の差額などについて、争った事件です。なお、原告らの賃金と正社員の賃金、賞与などの総額を比較したとき、嘱託社員の賃金は正社員の45%または48・8%程度にとどまり、その額は月額約7万5000円または約7万3000円にまで下げられていました。  なお、この事件も、旧労働契約法第20条が適用された事件である点には注意が必要(現在は、パートタイム・有期雇用労働法(以下、「パート有期労働法」)が適用されることになる)ですが、同一労働同一賃金に関する最高裁判例後の裁判例として注目すべきと考えられます。  この事件においては、職務の内容および変更範囲について、正社員と嘱託社員の間には差異がないことが認定されています。この点、パート有期労働法が適用される場合には、その他の事情が考慮されない可能性があり、今後は、職務の内容および変更の範囲のいずれかに相違を持たせる必要があります。ただし、この裁判例では、定年時に主任職を解くという特徴があり、責任の範囲に変更があったともいえそうですが、役職手当の不支給により労働条件に反映されているとしており、その他の職務の内容および変更範囲に相違がなかったことを前提に判断したという点があります。  この裁判例で注目しておきたい点は、定年制のとらえ方です。裁判例では、「定年制は、使用者が、その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら、人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに、賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ、定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し、使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして、このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものであるということができる」としており、定年後の再雇用として考慮されるその他の事情≠具体的に表現しているものといえます。  この部分を見ると、定年後の再雇用であることから、賃金の相違に対して合理性を肯定しやすいようにも見えますが、裁判例の結論としては、基本給と賞与に関して、正社員の60%を下回る部分に対して、旧労働契約法第20条に違反するものであり、正社員と嘱託社員との差額を損害と認定し、さかのぼって支払うことを命じています。  定年後再雇用者に関して、上記の通り長期雇用を前提としていないこと、および老齢厚生年金の受給などにより賃金が補填されうることや退職金が支給済みであることなどを考慮しても、「とりわけ原告らの職務内容及び変更範囲に変更がないにもかかわらず、原告らの嘱託職員時の基本給が、それ自体賃金センサス上の平均賃金に満たない正職員定年退職時の賃金の基本給を大きく下回ることや、その結果、若年正職員の基本給も下回ることを正当化するには足りない」と述べて、旧労働契約法第20条違反と評価しました。  この事件では、正社員の賃金が賃金センサスを下回っていたことに加えて、若年正職員(嘱託社員と比較すれば、知識、経験が劣る教育・指導の対象者)よりも低額に抑えられてしまっていたことが影響していると考えられます。  さらに、賞与が基本給と連動する内容であり、正社員の基本給の60%相当額を基準とした差額が損害として認定されています。  前号で紹介した賞与支給に関するメトロコマース事件および大阪医科薬科大学事件(いずれも最高裁令和2年10月13日判決)が、賞与の支給が業績に連動させていないことを考慮して合理性を認めたことと逆に、基本給との連動に重点を置いて判断しており、賞与だからといって必ずしも緩やかな審査となるわけではないと考えられます。  この裁判例が示した60%という基準で統一されるとはかぎりませんが、定年後再雇用において賃金を減額するにあたって、60%を下回るような条件を提示することは、高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針における「合理的な裁量の範囲」を超えるという評価にはつながりやすいと考えられます。 Q2 競業避止義務と引き抜き行為を防止するための留意点について知りたい  就業規則に、在籍中および退職後の競業避止義務を定めています。在籍中の従業員が、独立を画策して、顧客名簿の持ち出しと当社の従業員を勧誘しているようなのですが、どのように対応すべきでしょうか。 A  競業避止義務の設定については、ケースバイケースで判断が分かれることも多く、必ずしも、有効に機能するとはかぎりません。しかしながら、在籍中に営業秘密の持ち出しや積極的な勧誘行為が認められる場合には、解雇処分が有効となることがあります。 1 競業避止義務について  多くの就業規則において、「在籍中および退職後においても、当社と競業する企業に就職し、または自ら会社と競業する事業を行ってはならない」といった規定を定め、競業避止義務を従業員に負担させています。  入社時や退職時の誓約書を取得する際にも、これらと類似する内容を定めて、労働者に競業避止義務を負担させることも多いでしょう。  一方で、これらの規定に対して、裁判所は有効性を厳しく評価しており、必ずしも有効に機能するとはかぎりません。その背景には、競業避止義務を負担させることは、労働により得た知識や経験を活かすこと自体を制限するもので、労働者の職業選択の自由を大きく制約するという評価があります。  例えば、東京地裁平成20年11月18日判決では、「一般に、従業員が退職後に同種業務に就くことを禁止することは、退職した従業員は、在職中に得た知識・経験等を生かして新たな職に就いて生活していかざるを得ないのが通常であるから、職業選択の自由に対して大きな制約となり、退職後の生活を脅かすことにもなりかねない。したがって、形式的に競業禁止特約を結んだからといって、当然にその文言どおりの効力が認められるものではない。競業禁止によって守られる利益の性質や特約を締結した従業員の地位、代償措置の有無等を考慮し、禁止行為の範囲や禁止期間が適切に限定されているかを考慮した上で、競業避止義務が認められるか否かが決せられるというべきである」と判断し、文言通りに効力を認めないことを端的に示しています。  このような観点から、競業避止義務に関しては、@企業が守るべき利益の具体化(営業秘密やそれにともなうノウハウなど)、A従業員の地位が高いか、B禁止行為の範囲が具体的か、広範すぎないか、C競業避止義務の期間が長期すぎないか(1年から長くとも2年程度)、D代償措置が取られているか(退職金の割増支給、補償金の支払いなど)の要素を加味して、有効性を判断する傾向にあります。  特に@については、「競業禁止によって守られる利益が、営業秘密であることにあるのであれば、営業秘密はそれ自体保護に値するから、その他の要素に関しては比較的緩やかに解し得るといえる」としており、営業秘密にかかわる場合には、競業避止義務の範囲が広がることも肯定しています。  今回の質問においても、顧客名簿の持ち出しについては、顧客名簿の管理について、パスワードの設定、閲覧者の制限および守秘事項であることの明記などの要素を充足していれば、営業秘密として認められる余地はありえます。 2 競業避止義務と解雇について  近時の裁判例において、競業避止義務違反、とりわけ従業員の勧誘行為を含む行為に対して、解雇処分を行った事例があります(大阪地裁令和2年8月6日判決)。  事案の概要としては、本部長であったX1と店長であったX2が、従業員に対し自身らが勧誘を受けている競業企業にともに移籍することを勧誘し、その際に、給与条件などを書面で提示し、条件が合わない場合には条件をよくするといった交渉も交えて、企業にとって要職を占めている従業員を多数勧誘したというものです。  このような事案においては、勧誘した者は、各自が自発的に退職するに至ったにすぎないという主張をすることが多く、この裁判例でも同様の主張がされています。  ところが、勧誘対象者を食事に誘っていたことや会社が事情を聴取した際には異なる説明(勧誘を行ったことを認める内容)をしていたこと、資料を示して労働条件を引き上げる旨の提案などを行っていたことなどをふまえて、引き抜き行為があったと認定するに至っています。  事後的に裁判例を見れば、引き抜き行為があったことは明らかかもしれませんが、実際には、水面下で秘密裏に行われることも多く、明らかにならない事実もたくさんあります。この裁判例では、社内の内部通報で引き抜き行為が発覚しており、勧誘を快く思わなかった労働者がいたものと思われます。社内で内部通報があったときには、どのような提案があったのか、客観的な資料を提示されなかったか、ほかに同様の勧誘を受けた者がいないかなどを早急に調査して、被害が拡大しないように対応する必要があります。  裁判所の判断としては、@本部長および店長という重要な地位にあること、A多数の従業員に対して転職の勧誘をくり返したこと、B労働条件の上乗せ、支度金の提示を行っていること、C店舗探しを在籍中に行っていたことなどを考慮し、「単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、社会的相当性を欠く態様で行われたものであり、他方、原告X1及び原告X2がまもなく退職を予定していたことも考慮」して、解雇の有効性を認めました。  ここで重要であったのは、単なる競業行為ではなく、従業員の引き抜き行為まで発覚し、その態様も多数に対する勧誘が行われるなど、その悪質性を立証することに成功したことです。  就業規則において真に禁止するに値するのは、営業秘密にかかわる持ち出しを行う態様での競業行為や、悪質な従業員引き抜き行為をともなう場合です。  また、これらの状況を把握するための窓口として、内部通報(または外部通報)窓口を設置しておくことにより、事態の早期発覚をうながしておく準備を整えておくことも重要です。ハラスメントの内部通報窓口の設置とあわせて、このような違法となりうる行為に関する内部通報窓口の設置を行うことも検討に値します。 【P48-51】 新連載 生涯現役で働きたい人のためのNPO法人活動事例  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進んでいます。一方で、60歳や65歳を一区切りとし、社会貢献、あるいは自身の趣味や特技を活かした仕事に転身を考える高齢者は少なくありません。そこで本企画では、高齢者に就労の場を提供しているNPO法人を取材し、企業への雇用≠ノこだわらない高齢者の働き方を紹介します。 第1回 NPO法人イー・エルダー(東京都豊島区) 雇用創出、GDPに寄与する事業型NPOの先達となる  NPO法人イー・エルダーは、IT企業を退職したOBエンジニアが中心となって創設し、2000(平成12)年12月に認証されたNPO(特定非営利活動法人)。企業でつちかった知識・技術・経験を有効活用し、ITを中心とした非営利事業を展開して、社会に貢献する高齢者の働き方を実践している。  ひと口に「NPO」といっても、活動分野やその範囲、規模、取り組み方などの違いにより、さまざまな姿がある。イー・エルダーは、設立時から「事業型NPO」を標榜(ひょうぼう)し、社会性と事業性を両立させていることが大きな特徴である。  日本で「NPO」というと、ボランティア活動をイメージして、無償で働く場であると考えている人が多いかもしれない。しかし、イー・エルダーの鈴木政孝理事長は、次のように話す。  「米国ではNPOがGDPや雇用を生み出し、経済社会にも貢献しています。NPO法人といっても、きちんと事業計画を立て、有料・有償の事業を行い、収益をあげて報酬を分配し、そして運転資金を確保することが大切と考えます。  イー・エルダーは設立時から『事業型NPO』を掲げ、行政、企業と対等の『第3のセクター』として自立し、雇用創出、GDPに寄与する非営利組織確立の流れをつくる先頭に立ちたいとの思いを持って活動を続けています」  また、高齢者が働く場を設けることについて、「長い年月にわたってつちかってきたITの知識や技術、経験、そして意欲といった知的社会資産を持っている高齢者の力を、社会に活かさない手はありません。役立てる仕組みをつくり、事業を開拓して積極的に活用することで、定年後も社会を支える側に立つ気概で、社会に貢献することができる。そうしたことを理念に掲げています」と説明する。  2021(令和3)年4月現在のイー・エルダーの会員数は30人。平均年齢は73・4歳。最高年齢者は89歳の会員で、同法人のホームページ制作などを担当している。  鈴木理事長は、1940(昭和15)年生まれの81歳。日本IBM株式会社(以下、「IBM」)で人事、営業、広報、社会貢献などのマネージメントを歴任して2002年に退社。退社前の2000年にイー・エルダーの創設に参画し、理事長に就任し現在に至っている。  中古パソコン再生寄贈事業に取り組む  設立から20年強の実績を持つイー・エルダーのメイン事業は、中古パソコンを再生して寄贈する活動である。この事業は、鈴木理事長がIBMの社会貢献担当部長を務めていたときの経験が起点となっている。  当時、まだたいへん高価だったパソコンを寄贈してほしいという要望が多数の団体からIBMに寄せられていた。また、IT業界ではそのころ「2000年問題※」が話題となり、2000年問題に対応していないパソコンが大量に廃棄されようとしていた。このことから鈴木理事長は、廃棄されるパソコンを再生し、活かすことに着目。そこに、知恵も人脈も経験も豊富なOBの力を活かす仕組みを構築することを考えて、格好の人材が揃っているイー・エルダーで「中古パソコン再生寄贈事業」をスタートしたのである。  この事業は、IBMをはじめとした複数の企業から資金的・技術的協力を受け、廃棄処分されるパソコンを無償で提供してもらい、同時に、再生のために必要な経費を負担してもらう。当初は、再生のための作業をいくつかの障害者が働く団体や企業に委託し、イー・エルダーの会員の指導のもとで、修理や清掃、ソフトの入れ替えなどを行い、必要な経費を支払い、再生されたパソコンを、社会福祉団体や教育機関などに寄贈した。企業が負担する再生のための経費から再生する団体に支払う経費を除いたものが自分たちの活動の対価として、イー・エルダーの収入になる。  この事業によって、パソコン(資源)の有効活用と障害者の就業機会をつくることに貢献することができる。鈴木理事長は事業開始にあたり、自らがつちかってきた人脈から、「一社一社に足を運んで、この事業の意義を説明して理解を得ることに努め、共鳴していただける企業とおつき合いしてきました。そして、名だたる企業に協力していただくことができました」と20年前をふり返った。  再生したパソコンの寄贈台数は、事業を開始した2001(平成13)年は483団体に1025台を、2002年には731団体に2011台を、2003年には808団体に3050台を贈り、最盛期の2006年には738団体に3105台を寄贈した。2011年6月から2012年12月までの1年6カ月間は、東日本大震災で被災した非営利団体や障害者の方々などへの支援として贈った。  ここ数年は企業からの中古パソコンの調達がむずかしくなり、残念ながらこの事業は現在縮小しているが、再生パソコンの需要は根強く、規模は小さくなったものの、再生のための作業を専門企業に委託して、事業を継続している。2020年までの全実績をみると、5640団体に1万9701台を贈っている。 IT関連の講座や研修の講師として活躍  イー・エルダーで取り組んでいるもう一つの中核的な事業が、「eネット安心講座」である。  同講座は、小中高校生がインターネット被害に遭うことを防止するためのプログラムで、学校の教員、児童・生徒、保護者を対象にして、一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)が『eネットキャラバン』として、全国規模で実施している出前講座。  イー・エルダーでは2009年11月から、FMMCからの依頼を受け、認定講師を派遣している。講習の時間は45〜90分。「子どもたちをインターネットの加害者にも被害者にもさせない」ことを目的として、インターネットの安心・安全な使い方、インターネットの特徴・マナー・ルール、危険回避のために実施すべきことなどを伝えていく。  認定講師となれるのはFMMCで実施する養成講座を修了した者であり、イー・エルダーには26人の認定講師がいる。認定講師として活躍している専務理事の寺島春夫さん(73歳)は、「子どもたちに接するときも、教えるとか説得するという感じではなく、一人ひとりが納得感を得られるような講座を心がけています。簡単にインターネットに接続してさまざまな情報を得たり、ゲーム機などの接続機器が多様化して子どもでもインターネットに気軽に接続することができる時代に、こうして子どもたちに大切なメッセージを伝えられることにやりがいを感じて取り組んでいます」と認定講師としての責任とこの仕事の意義を語ってくれた。  イー・エルダーがFMMCより依頼を受け、実施した「eネット安心講座」の講座回数と受講者数の実績は、2010年は48回・3500人、2011年は104回・1万4830人、2012年は311回・5万5320人と増え続けてきたが、ここ数年は減少傾向にあり、さらにコロナ禍の影響を受けて、2020年は37回・6160人にとどまった。しかし、2010年からの10年間の実績は、2261回の講座を行い、受講者数は39万4711人にのぼっている。  研修事業ではこのほか、次の養成講座とパソコン活用講座を実施している。 @シニア情報生活アドバイザー養成講座  中高年齢期の生活に密着した、情報技術(パソコンやネットワーク)の楽しい活用方法を教えることができる人を養成する講座 Aパソコン活用講座  インターネットの利用、ブログの作成、セキュリティー対策、デジタル画像処理など、高齢者向けのパソコン活用講座  イー・エルダーではこのほか、Webアクセシビリティ化支援事業にも力を入れている。Webアクセシビリティとは、障害者にも高齢者にもWebページの情報を入手しやすくなるように工夫の施されたWebページの制作を目ざす活動のこと。イー・エルダーでは2007年から3年間、Webアクセシビリティの啓発と普及の推進に努めてきて、現在はその成果をふまえて、NPO法人ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)の活動に参加し、NPOをはじめ、行政や企業へのWebアクセシビリティ化の普及・啓発を推進。また、企業のウェブサイトの診断・制作・評価などの作業を在宅の障害者に委託することで、障害者の就業に結びつける就業支援を目的に活動を継続している。  ほかにも、IT知識などを活かして、企業、 団体などへの社会貢献プログラムの企画提案と 運営をになうなどの事業も展開している。 オンラインで経営会議を開催新規事業の開発にも取り組む  コロナ禍により、思うように事業を展開することができない日々だが、イー・エルダーではガバナンスを最重視して、経営委員会を毎月開催し、経営方針・施策を策定。目標を数値化して事業を推進している。また、事業リーダー、支部長、理事で構成する業務連絡会を四半期ごとに開催し、事業の立案・進展・問題・改善策の検討を行い、PDCAを確実に推進している。  2020年3月には事務所をJR池袋駅から徒歩10分ほどのシェアオフィスに移転した。事務所を借りているとはいえ、以前より会議はすべてオンラインで行っており、メンバーが一堂に集まることはなく、コロナ禍以前からテレワークに対応していたのはさすがである。  「イー・エルダーの経営委員会は役職、年齢、会員の新旧、職務に関係なく、だれもが対等です。みなさん事業に対する意識が高いので、議論しているうちに熱くなり、ときにぶつかることもありますが、最後は手をあげた人の思いを尊重して任せることにしています。会員のみなさんは人がいいというか、真面目です。『私は○○社の部長だった』などと自慢したり、偉ぶったりする人は歓迎されません」と鈴木理事長。熱い議論も楽しんでいるようで笑顔を覗かせた。  寺島専務理事は、「鈴木理事長のリーダーシップが素晴らしいので議論がまとまるのです。鈴木理事長は信念をもってこの事業に取り組んでいると思います。企業や行政と対等な立場であることを大事にして、責任をもって事業型NPOを実践しています。会員として、意気に感じています」と鈴木理事長に敬意を表した。  鈴木理事長と寺島専務理事は、若いときに顔をあわせたことがあったという。その後、接点はなかったそうだが、寺島専務理事が60歳で定年退職後、福祉関係のボランティア活動などをしていたとき、たまたま受講したNPOに関する講演で講師を務めていたのが鈴木理事長で、奇跡的な再会を果たした。その講演を聴き、鈴木理事長の志やイー・エルダーの理念に賛同した寺島専務理事は、2011年にイー・エルダーの一員となり、活躍している。鈴木理事長からの信頼も厚く、本取材でご対応いただいた際も、よき仲間である様子が伝わってきた。働くということは、仕事そのものをすることの達成感だけでなく、仲間ができるとか、仕事先で出会う人に感銘や刺激を受けるといった交流があることも大きな価値なのだとあらためて実感する。  イー・エルダーの20年強の歩みをふり返って鈴木理事長は、「人が好きなので、人脈を頼って多くの人に助けていただいてきた20年です」とやわらかな表情で語る。  中古パソコンを再生して必要とされている団体などに寄贈するといった実績に加え、事業型NPO法人の先駆けとして、イー・エルダーはNPOの立ち上げを目ざす多くの人たちのモデルとしても社会に貢献している。  「現在の課題は、寄贈するための中古パソコンの調達と新規事業の開発です」と鈴木理事長。いまでは「事業型NPO」の老舗であり、これからも多くの人の手本であるイー・エルダーだが、今後の新たな展開も注目される。 ※ 2000年問題……2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた問題 NPO法人イー・エルダーhttp://www.e-elder.jp/public/ ■ミッション(理念)  知的社会資産(IT知識・経験・技術、意欲)を持つ高齢者が、「社会を支える側」に立つ気概で、非営利団体の活動の活性化、高齢者や障害者などの社会参加や就業支援に役立つ「ITを中心とした非営利事業」を行う ■ビジョン(目標)  日本のNPOが、欧米の第三セクター同様、企業・行政と対等、雇用創出、GDPに寄与する非営利組織確立の社会の流れを創る先達となる ■経営方針 @ガバナンスを重視。理事は理念の厳守、業務の遂行・監視、担当職務の成果に責任。理事長の実績評価 A社会性と事業性の両立する「事業型NPO」の実績を示す B非営利団体、および高齢者・障害者などを対象としてICTにかかわる営利事業を行う Cマーケティング志向とプロフェッショナル意識を重視する D独創的なサービスを顧客(企業や団体等)に企画・提案する。同時に、顧客の満足度向上とサービスの充実を図るため、全国の他組織との協働を積極的に推進し、信認の精神で実施する Eサービスは有料で提供し、会員は役務と成果に応じた報酬を得る 写真のキャプション 鈴木政孝理事長(左)と寺島春夫専務理事(右) 【P52-53】 いまさら聞けない 人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー執行役員・ディレクター 吉岡利之 第13回 「健康経営」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は「健康経営」について取り上げます。文字をみただけでは、これが人事用語なのか疑問を持たれるかもしれませんが、従業員の働きやすさや人材の活躍にもかかわり、人事担当者にはぜひ知っていただきたい用語です。 健康経営とはなにか  まずは、健康経営の定義から確認したいと思います。健康経営の推進役である経済産業省ヘルスケア産業課の『健康経営の推進について』(2020(令和2)年)という資料には「健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と記載されています。そして健康経営の推進のための具体的な取組みを投資ととらえ、その投資が従業員の活力向上や生産性の向上につながり、業績や企業価値の向上が期待されるとあります。従業員の健康維持・向上を支援する取組みが企業の成長をうながし、結果として経済成長にもつながるという理念のもと、官民あげての推進事業となり、「健康経営ブーム」と呼ばれる現象もありました。  次に、健康経営を推進する背景についてみていきたいと思います。本連載で何度か触れている「少子高齢化」と「働き方」にも大きくかかわっています。少子高齢化による経済的な影響の大きなものは労働力人口の減少です。若年人口の増大期には高齢者は一定年齢で引退し、若年層を労働者として取り入れればこと足りました。労働力人口の減少が止められない現在では、若年労働者のみに焦点をあてるのではなく、年齢に関係なく就業できる環境を整備したほうが、企業としても社会としても効果的な状況になっています。また働き方については、長時間労働や職場内でのハラスメントの発生などにより従業員が肉体的・精神的な健康を損ない、業務効率の低下、休職や退職となる事例が後を絶ちません。度重なると業務の生産性や人件費コストといった経営的な指標に直接的な悪影響を及ぼすことになります。これらの課題の有効な解決策の一つが、従業員の健康の維持・向上からもたらされる従業員一人ひとりの活躍と、結果としての生産性の向上ととらえられていることが健康経営の推進の背景にあるといえます。 健康経営の推進・取組み状況  さて、先ほど官民あげての推進事業と書きましたが、各々の取組み状況についてみていきましょう。 @行政としての取組み  優良な健康経営に取り組んでいる法人を表彰することで事例をつくり、健康経営に取り組みやすい環境を整えることに力を入れています。もっとも有名なのは「健康経営優良法人認定制度」でしょう。大規模法人と中小規模法人別に定められている認定要件を満たした企業に対して、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人として認定しています。なかでも、上位500位に入る法人を大規模法人部門は「ホワイト500」、中小規模法人部門は「ブライト500」として認定しています。健康経営優良法人に認定されると、認定法人名が公表され、認定された証であるロゴを使用して広報活動ができるなど、法人側にもメリットがあります。  また、東京証券取引所の上場企業のなかから、健康経営に優れた企業を選定した「健康経営銘柄」という認定もあります。これは長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家に対して、魅力のある企業として紹介することで健康経営の取組みを促進することを目的としています。認定状況は、2021年の大規模法人は1801法人、中小規模法人は7934法人、健康経営銘柄は29業種48法人となっています。 A企業としての取組み  企業としての取組み状況については、まだ十分ではない状況です。少しさかのぼりますが、東京商工会議所が2019(平成31)年に発表した「健康経営に関する実態調査 調査結果」によると、健康経営の内容を知っている企業が29・0%、現在実践している企業が20・8%といった状況です。ただし、いずれは実践したいという回答が54・3%あり、健康経営の実践課題の回答のトップが、どのようなことをしたらよいかわからない45・5%というところをみると、必要性は理解しているが具体策がわからない層が一定数いると想定されます。一般的にも、健康診断の受診率向上や禁煙の推進くらいしか思いつかないという声も聞こえてきます。  これに対して参考になるのが、一つは健康経営優良法人の認定要件です。実際にご参照いただくとわかりますが、「経営理念(経営者の自覚)」、「組織体制」、「制度・施策実行」、「評価・改善」、「法令遵守・リスクマネジメント(自主申告)」という五つの大項目で区分されており、そのなかで評価項目としてどのようなテーマに取り組むべきかにブレイクダウンされています。自社の取組みの実態把握のためのチェックリストとして活用することができます。より具体的な取組み事例については、『健康経営ハンドブック2018』(経済産業省・東京商工会議所)や、『健康経営優良法人取り組み事例集』(経済産業省・2020年)あたりが、企業名や取組み内容、効果とともに写真も掲載されており、わかりやすいと思います。また、地域ごとに行われている健康経営へのインセンティブや、認定・登録・表彰制度についても記載があります。これらの認定や表彰などを目標におくことも、自社内の健康経営への取組みを実際に促進するために有効と考えられます。  高齢者雇用の観点からも、健康経営は重要な取組みです。特に、本年(2021年)4月1日からの「改正高年齢者雇用安定法」施行により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。個人差はありますが、60歳を超えて体力・気力が維持できない、または健康状態の悪化により就業に支障をきたすケースは少なくありません。中長期的な視野に立って健康経営を推進し、年齢に関係なく活躍できる支援をすることが、雇用延長制度を成功させるポイントになると考えられます。  今回は「健康経営」について解説しました。次回は「目標管理制度」について取り上げる予定です。 【P54-55】 『70歳雇用推進マニュアル』のご案内 〜改正高齢法や雇用施策の考え方、人事制度改定の手順などを解説〜  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法(以下、「改正法」)が施行されました。これにより、70歳までの就業機会を確保する措置を講じることが各企業の努力義務となりました。  当機構では、改正法をふまえ「65歳超雇用推進マニュアル」の内容をバージョンアップし、『70歳雇用推進マニュアル』を発行しました。  このマニュアルでは、改正法の内容、70歳までの雇用推進に向けて必要な施策、人事制度改定の手順などのほか、70歳までの就業機会確保措置を講じる企業にとって関心事項になる「賃金・評価制度」、「安全・健康対策」などについて、東京学芸大学教育学部の内田賢(まさる)教授と高千穂大学経営学部の田口和雄教授による詳しい解説を掲載しています。  さらに、企業が自社の高齢者雇用の状況をチェックできる「雇用力評価ツール※」、「賃金用語早わかり」、「パートタイム・有期雇用労働法コラム」など盛りだくさんな内容です。 『70歳雇用推進マニュアル』のポイント (1)改正法をわかりやすく解説(第2章)  改正法では、70歳までの就業機会を確保するための措置(以下、「高年齢者就業確保措置」)を講じることが企業の努力義務となりましたが、自社グループ外での継続雇用が可能になったことや、雇用によらない措置(創業支援等措置)が新設されるなど注目ポイントがたくさんあります。  第2章では、改正法のポイント、高年齢者就業確保措置を講じる際の留意点、70歳までの就業確保に実際に取り組む際の考え方などを解説しています。 (2)「70歳雇用」を進めていくにあたって必要な考え方と施策を解説(第3章)  日本では、将来は労働力不足がさらに深刻になると予想され、いまのうちから70歳までの雇用推進を見すえて取り組むことが大切です。  年齢を重ねるほど社員各々の事情は多様性を増し、比例して採るべき方針・施策も多様になっていきます。第3章では、70歳までの雇用推進に向けて必要な考え方と施策を、次の四つのポイントに分けて解説しています。 @トップ自ら高齢者雇用の意義を理解し主導する A高齢者を知る B高齢者が活き活き働ける仕組みをつくる C社員全体の意識啓発をする  また、「賃金・評価制度の整備」の項では、高齢者の能力をどう活かすかにより、「バリバリ活躍型」、「ムリなく活躍型」に分け、会社がどのような制度設計をするとよいか、三つのタイプと考え方を示し、先進事例を紹介しています。  「安全・健康対策」の項では、厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)の流れに沿って、高齢者の多様性や負担のかからない職場環境などの観点から安全・健康対策について解説しています。 (3)人事制度改定の具体的手順を解説(第4章)  定年延長や継続雇用延長など、具体的な人事制度改定に取り組むにあたり、どのように実現まで漕ぎつけるか、 @現状把握 A制度の検討・設計 B実施 C見直し・修正 の四段階で手順を整理し、それぞれ留意すべき点をまとめています。先進企業の取組み事例も掲載しています。 (4)豊富な参考情報を掲載(第5章)  当機構や関係機関が発行した、高齢者雇用に関する資料や公的支援の情報を整理しています。 ※ 本誌2021年2月号、61〜63頁でご案内しています 『70歳雇用推進マニュアル』は、当機構のホームページよりダウンロードできます。 トップページ>高齢者雇用の支援>各種資料>70歳雇用推進マニュアル・65歳超雇用推進事例集 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 「70歳までの就業機会を確保する措置」が努力義務に 第1章 高齢者雇用の現状  高齢者雇用の“いま”について、統計データを交え解説。 第2章 改正高年齢者雇用安定法の解説  2021(令和3)年4月1日から施行の改正法をわかりやすく解説。 何を考え、やるべきか 第3章 70歳までの雇用推進に向けて必要な施策  「70歳雇用」を進めていくにあたって必要な考え方と施策を解説。 POINT ▲トップ自ら高齢者雇用の意義を理解し主導する ▲高齢者を知る ▲高齢者が活き活き働ける仕組みをつくる ▲社員全体の意識啓発をする 先進企業の事例を紹介 具体的な手順は 第4章 改正法にともなう人事制度改定の流れ  高齢者雇用施策を実行するにあたり、取り組むべき事項と流れを整理。 1現状把握 3実施 2制度検討・設計 4見直し・修正 情報収集・現状把握のお供に 第5章 参考資料 ●「雇用力評価ツール」で自社の現状をチェック ●改正高齢法のQ&Aを抜粋 ●公的支援や参考資料の情報を満載 2021.4〜 「70歳までの就業機会を確保する措置」の努力義務が追加 義務 @65歳までの定年の引上げ A65歳までの継続雇用制度の導入 B定年制の廃止 + 努力義務 @70歳までの定年の引上げ A70歳までの継続雇用制度の導入 B定年制の廃止 C創業支援等措置(雇用以外の措置) 【P56-57】 これから求められる、よりよい高齢者就業のあり方を示す 日本の高齢者就業 人材の定着と移動の実証分析 永野仁(ひとし)著/中央経済社/5280円  「改正高年齢者雇用安定法」の施行にともなって働く高齢者の増加が見込まれるなか、本書は直近30〜40年間における高齢者就業促進政策を分析し、高齢者がより良好に働ける条件や環境形成のための課題や提言が盛り込まれている。  第1部は高齢者就業に影響を与える年金制度や、定年制をめぐる1970年代以降の政策の推移と効果について、かつて早期引退促進策が推進された欧州や米国との比較を交えて紹介している。本誌2020(令和2)年11月号に掲載された特別寄稿「欧米における高齢者就業とブリッジ・ジョブ」を含む内容となっている。第2、3部では、2000年代初頭における定年前後の就業や離職に関する状況、出向を受け入れる企業側の実態を明らかにしている。そのうえで、60代前半層を「継続雇用」、「出向・あっせん」、「転職」と移動経路別に分け、仕事満足度の向上に必要な具体策を示している。  継続雇用の質的改善や廃止を念頭にした定年制変更など、高齢者が輝く社会の実現に向けた四つの提言が明快だ。いずれも豊富な先行研究や文献、政府統計などに基づくもので、高齢者就業の全体像と今後の歩むべき道筋を客観的にとらえることができる一冊といえる。 70歳まで元気に働くために、いますぐ始めたい簡単トレーニングを紹介 家でも外でも転ばない体を2ヵ月でつくる! 安保(あぼ)雅博(まさひろ)、中山恭秀(やすひで)著/すばる舎/1320円  生涯現役で活き活き働くためには、転ばない体をつくることが重要だ。しかし、わずかな段差や障害物につまずいたり、つるつるした床で滑って転ぶなど、高齢者の転倒は多く、転倒によって骨折や寝たきりになるケースもある。  本書は、転倒予防が大切な理由やなぜ転ぶのか、どうしたら転ばないのかをテーマに、「今すぐできる転倒予防」と、2ヵ月で転ばない体になるための多数の「簡単トレーニング」を平易な文章とイラストで紹介している。  転倒の主な原因は、バランス能力の低下にあるという。そこで、「かかと上げバランス」、「裸足でクッションの上に立つ」といったバランス強化トレーニングや、「段差で足上げ」、「座って腕を振る」などの筋肉強化トレーニングをすすめている。家でも外でも、その気になればすぐに始められる内容で、重要なのは定期的に行うことと継続することだという。さらに、「転倒を避ける生活環境づくり」にも言及している。  著者は、リハビリテーション医療の第一線で活躍する医師と理学療法士の2人。同じ著者陣による姉妹書『何歳からでも丸まった背中が2ヵ月で伸びる!』とともにおすすめしたい好著である。目ざせ、元気高齢者! コロナ禍で注目されるBCPやBCMに関する実務担当者向け入門書 見るみるBCP・事業継続マネジメント・ISO22301 イラストとワークブックで事業継続計画の策定、運用、復旧、改善の要点を理解 深田博史、寺田和正著/日本規格協会/1100円  BCP(事業継続計画)とは、大規模災害やパンデミックなどの緊急事態に企業が遭遇し、業務や活動の中断、阻害が生じても、かぎられた経営資源を優先度の高い活動へ効果的に投入し、活動を定めたレベルまで回復させ、業績を継続するための「計画」のことをいう。頻発する自然災害やコロナ禍を念頭において、既存のBCPの見直しを図ったり、新たに策定したりする企業が増えている。  本書は、ISOやJISをテーマにした「見るみるISO・JISシリーズ」の5作目で、BCP、BCM(事業継続マネジメント)、事業継続マネジメントシステムの国際規格であるISO22301をテーマとした入門書である。まずBCPやBCMの基本事項を説明したうえで、BCPの「策定、展開」、「実技、点検、改善」、「発動、復旧」と「ISO22301を使って継続的改善」の四つのステップに分けて解説。資料編には、七つの参考事例を掲載している。全体的に簡潔な解説でポイントがつかみやすく、イラストが豊富に使用されているので楽しく読み進めながら、理解していくことができる。現場の実務担当者が社内勉強会などでも活用できる内容である。 「笑えて、ためになる」健康論、生き方論 笑って生きれば、笑って死ねる 医学博士にして落語家が語る薬を10錠のむ≠謔闌く、健康寿命をのばす話 立川(たてかわ)らく朝(ちょう)著/三笠書房/770円  昔から「笑いは百薬(ひゃくやく)の長(ちょう)」などといわれ、近年ではさまざまな研究や実験により、笑いがもたらす健康効果が明らかになっている。  本書においても「笑いは長生きをもたらす」、「笑うと血糖値も下がる」、「笑いが死亡原因の6割の病気を防ぐ」など、笑いの効果とその理由や研究報告が満載だ。さらに、「笑いは心を明るくポジティブにしてくれる」、「お金もかからず副作用もない」、だから「人生、笑わない手はない」とテンポよく話が展開していく。  著者は、医学博士であると同時に、真しん打うちの落語家でもある。「笑って健康、笑って長生き」をモットーに、健康教育と落語をミックスした「健康落語」という新ジャンルを開拓し、「笑えて、ためになる」話を日本全国に広めてきた。  本書では、なかなか笑えないという人に向けて、「笑うための処しょ方ほう箋せん」も紹介。笑いが笑いを連れてくるので、「よく笑う人のところへ行く」のも一つの手だという。また、自分専用の健康基準によって、どんな状態でも健康な自分を発見することができるという健康論、生き方論にも引き込まれる。残念ながら、著者は5月に急逝したが、本人の落語を聞いているような感覚で読める文章も魅力的な一冊だ。 労働災害防止対策を一歩進めるための考え方を提示 ヒューマンエラー防止の心理学 重森(しげもり)雅嘉(まさよし)著/日科技連出版社/2860円  労働災害による死傷者数に占める60歳以上の労働者の割合が増加傾向にある。このため、厚生労働省では2020(令和2)年に「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)を策定し、対策の強化に乗り出しているところだ。  こうした状況のなか、本書は、ヒューマンエラーによって生じる事故を中心に、心理学や認知科学の視点からそのメカニズムと対策を解説した書籍として刊行されたもの。産業安全を専門とする研究者の視点から労働災害の防止につながる成果がまとめられている。  例えば、第3章「ヒューマンエラーのメカニズムを考える」では、事故の原因となるヒューマンエラーについて、人の記憶や注意のメカニズムをもとに解説。また、第4章「ヒューマンエラーの防ぎ方を見直す」では、指差呼称(しさこしょう)や危険予知トレーニング(KYT)など、さまざまな産業現場で用いられているヒューマンエラー防止対策のメカニズムやその有効性、欠点などが検証されている。  実用書のスタンスとは異なるが、高齢労働者向けの安全衛生対策強化のためのヒントを得たい担当者には、一読の価値があるだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュースファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和元年「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の結果を公表  厚生労働省は、2019(令和元)年「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の結果を公表した。今回の調査は5人以上の常用労働者を雇用する約1万7000事業所と、そこで働く労働者約3万7000人を対象として2019年10月1日現在の状況について実施した(前回は2014年に実施)。  事業所調査の結果によると、3年前と比べて正社員以外の労働者比率が「上昇した」事業所は16・2%、「低下した」事業所は14・6%。正社員以外の労働者比率が上昇した事業所について、比率が上昇した就業形態(複数回答)は、「パートタイム労働者」が63・0%、次いで「嘱託社員(再雇用者)」が22・8%となっている。正社員以外の労働者を活用する理由(複数回答)をみると、「正社員を確保できないため」とする事業所割合が38・1%(前回27・2%)と最も高く、次いで、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」が31・7%(前回32・9%)、「賃金の節約のため」が31・1%(前回38・6%)となっている。  個人調査の結果から、現在の就業形態を選んだ理由(複数回答3つまで)を就業形態別にみると、「嘱託社員(再雇用者)」では、「専門的な資格・技能を活かせるから」が45・6%と最も高く、次いで「家計の補助、学費等を得たいから」が24・6%、「より収入の多い仕事に従事したかったから」が16・2%と続いている。 厚生労働省 令和2年度「地域発!いいもの」選定  厚生労働省は、2020(令和2)年度の「地域発!いいもの」を選定した。同事業は、「技能振興」や「技能者育成(人材育成)」などに役立つ特色ある取組みを選定し周知することで、地域における技能振興などの気運を高め、地域の活性化を図ることを目的として、2016年度から毎年1回実施している。  今回は、次の7都道県の企業・団体・学校の取組みが選ばれた。( )内は応募企業・団体名。 @北海道「地域のブランド旭川家具を支える取組」(旭川家具工業協同組合) A福島県「伝統技術『からむし織』伝承と後継者育成」(株式会社奥会津昭和村振興公社) B栃木県「『拓陽(たくよう)キスミル』で地域を活性化〜届け私たちの思い10,000人の後輩へ〜」(県立那須拓陽高等学校食品化学同好会) C東京都「ものづくり教育・学習フォーラム」(大田区教育委員会) D新潟県「『テクノ小千谷(おぢや)名匠塾』地域の企業全体で取り組む技術者養成制度」(小千谷鉄工電子協同組合) E石川県「学校で学んだ技術を生かした地域貢献『実高ものつくり隊』」(県立大聖寺実業高等学校) F熊本県「伝統建築専攻科伝統建築の技を受け継ぐ人材を育てる」(県立球磨(くま)工業高等学校)  取組み内容は、技能検定制度等に関するポータルサイト「技のとびら」で公表されている。また、PDF版の冊子『地域発!いいもの事例集』も同サイトに掲載されている。 厚生労働省 「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公表  厚生労働省は、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公表した。テレワークの推進を図るためのガイドラインであることを明確に示す観点から、従来のガイドライン(2018(平成30)年2月)をタイトルも含めて改定したものである。  新ガイドラインは、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するため、テレワークの導入および実施に当たり、労務管理を中心に、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取組みなどを明らかにしている。  主な内容としては、テレワークの導入に際して、その対象者の選定にあたっては、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないよう留意すること、また、労務管理上の留意点として、テレワークにおける人事評価制度、労働時間の柔軟な取扱い、労働時間管理の工夫、長時間労働対策、安全衛生の確保、テレワークにおける労働災害の補償、ハラスメントへの対応、セキュリティへの対応など、幅広い事がらについて考え方や手法などを示している。  さらに、労働者にテレワークを実施させる事業者が安全衛生上留意すべき事項を確認するためのチェックリスト、自宅などにおいてテレワークを行う際の作業環境について、テレワークを行う労働者本人が確認するためのチェックリストを付している。 国土交通省 2020年度「テレワーク人口実態調査」結果を公表  国土交通省は、2020年度「テレワーク人口実態調査」結果を公表した。同省では、テレワーク関係府省と連携してテレワークの普及促進に取り組むなか、本調査を毎年実施している。  2020年度調査は同年11〜12月、約4万人の就業者を対象としてWeb調査で実施した。  調査結果によると、雇用型就業者のうちテレワーク制度などに基づくテレワーカーの割合は、緊急事態宣言中に増加し、昨年度の9・8%から倍増の19・7%となっている。  雇用型テレワーカーのうち、約6割が緊急事態宣言の発令された4月以降に開始した。また、約64%がテレワークに満足し、約82%がテレワークの継続意向を示した。  テレワークを実施してよかった点は、「通勤が不要、または、通勤の負担が軽減された」が最も多く約74%、次いで「時間の融通が利くので時間を有効に使えた」が約59%、「新型コロナウイルスに感染する可能性がある中で出勤しなくても業務を行えた」が約43%となっている。一方、悪かった点は、「仕事に支障が生じる(コミュニケーションのとりづらさや業務効率低下など)、勤務時間が長くなるなど、勤務状況が厳しくなった」が最も高く約47%、次いで「仕事をする部屋や机・椅子などの環境が十分でなく不便」が約35%となっている。  テレワーク実施により労働時間が減った人は約35%、変化しなかった人は約39%、増えた人は約26%。労働時間が減った人の減少時間は平均約80分。労働時間が増えた人の増加時間は平均約60分。 表彰 人を大切にする経営学会Rなど 第11回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞  「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行委員会・法政大学大学院中小企業研究所・人を大切にする経営学会Rが主催する第11回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞者が決定し、厚生労働大臣賞に「株式会社ファンケル」(神奈川県)が選出された。  日本でいちばん大切にしたい会社大賞は、企業が本当に大切にすべき従業員とその家族、外注先・仕入れ先、顧客、地域社会、株主の5者をはじめ、人を大切にし、人の幸せを実現する行動を継続して実践している会社のなかから、その取組みが特に優良な企業を表彰し、ほかの企業の模範となることを目的に、2010年度から実施されている。  応募資格は、過去5年以上にわたって、次の6つの条件にすべて該当していること。@希望退職者の募集など人員整理(リストラ)をしていない、A仕入先や協力企業に対し一方的なコストダウン等していない、B重大な労働災害等を発生させていない、C障害者雇用は法定雇用率以上である(常勤雇用45・5人以下の企業で障害者を雇用していない場合は、障害者就労施設等からの物品やサービス購入等、雇用に準ずる取組みがあること・本人の希望等で、障害者手帳の発行を受けていない場合は実質で判断する)、D営業利益・経常利益ともに黒字(NPO法人・社会福祉法人・教育機関等は除く)、E下請代金支払い遅延防止法など法令違反をしていない。 調査・研究 東京都健康長寿医療センター研究所など 高齢期の身体活動量の低下に関する研究成果を公表  東京都健康長寿医療センター研究所と東京都立大学の研究グループは、加齢とともに増えてくる身体能力の過大評価傾向が、外出頻度の低下といった身体活動量の低下に関連していることを明らかにした。  年齢を重ねると、自身が思っているよりも足が上がらず、障害物などにつまずきやすくなり、転倒に至る可能性が高くなる。実際にこれまでの研究から、高齢者の身体能力の過大評価が、高齢者の転倒に関連していることがわかってきたことから、同研究グループは、116人の健康上問題のない高齢者を3年間追跡調査し、どのように身体能力の過大評価が生じ、それがどのような生活要因によって引き起こされる可能性があるかを検討した。  その結果、自身の能力を過大評価していた高齢者の割合は、3年間で10・3%から22・4%に増加。要因を調べると、初回調査時の外出頻度が3年後の評価エラーに関連し、外出頻度が低い者ほど自身の能力を過大評価(または過小評価傾向が縮小)する傾向にあることなどが明らかになった。  調査結果から、加齢とともに身体能力を過大評価する高齢者が増え、この過大評価傾向には外出といった体を動かす機会の低下が関与していることがわかり、同研究グループは、「定期的に体を動かし、自身の体の状態を認識することが、自己能力認識を正確に保つために重要であるということを示している」と研究結果をまとめている。 【P60】 次号予告 7月号 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 金沢春康さん(一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊 律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集後記 ●今般のコロナ禍では、地域や業種により、さまざまな制約下での経営努力が求められており、経営層のみなさんはもちろん、人事ご担当者、そして働く労働者のみなさんの一人ひとりが、それぞれの立場に応じたご苦労を抱えていることと思います。このような非常時には、高齢者の持つ知識や経験がいつにも増して頼りになります。トラブル時の対応力や現場で役立つ実践力、かつての経験を活かしたリーダーシップなど、非常時こそ、高齢者の持っている底力が、企業やそこで働く人たちの支えになるものです。  そこで本号では、「働く高齢者の底力」をテーマに、今般のコロナ禍、そして自然災害の被害下において、ご活躍されている高齢者を紹介しました。地震や水害など、毎年のように発生している自然災害は、私たちの暮らしや仕事に大きな影響を及ぼしています。こうした自然災害が発生した際にも、高齢者の経験がさまざまな場面で発揮されているのです。高齢者の強み≠ノついて解説していただいた、田中淳子氏の総論と合わせて、ぜひご一読ください。 ●新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、4月末には3度目の緊急事態宣言が発出されるなど、終息の見えない日々が続いています。引き続き、感染防止に努めていただきますよう、よろしくお願いします。 ●今号より、新連載「生涯現役で働きたい人のためのNPO法人活動事例」がスタートしました。法改正により70歳就業が求められる時代を迎え、働く期間が延びているからこそ、企業での雇用にこだわらず、社会貢献事業に従事することを選択する高齢者も少なくありません。今後も、さまざまな事例を取り上げていく予定です。みなさまのご意見・ご感想をお待ちしています。 月刊エルダー6月号 No.499 ●発行日−−令和3年6月1日(第43巻第6号通巻499号) ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL03(3915)6401 FAX03(3918)8618 ISBN978-4-86319-858-6 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。(禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 短期連載 コロナ禍で変わる職場と働き方 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志  コロナ禍によって、在宅ワークを行う人が流行前に比べて格段に増加しました。働き方や環境面の変化が避けられませんが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による導入で、十分な準備や整備ができなかった職場も少なくありません。在宅ワークで影響を受ける働く人のメンタルヘルスに関する配慮と対策に目を向ける必要があります。 第2回 在宅ワークとメンタルヘルス 急速に進んだ在宅ワークの問題点  場所や時間にとらわれずに働く「テレワーク」には、職場から離れたサテライトオフィス勤務や移動中の列車内、カフェ、出張先や宿泊先でのモバイル勤務以外に、コロナ禍で特に注目されるようになった在宅ワークが含まれます。  新型コロナウイルス感染症の流行にともなう緊急事態宣言の発令がくり返され、行政からの要請に応じるために、本来は十分な準備とていねいな支援を前提とすべき在宅ワークが、課題の整理や改善策がなされないまま一気に進んでしまいました。  そのために、在宅ワークで働く人のメンタルヘルスに影響するさまざまな問題が生じることがあります。読者のみなさんの職場でそうした問題が発生していないか、図表1(次頁)の項目をチェックしてみてください。 在宅ワークによるメンタルヘルスへの影響  図表1のリストでチェックを入れた項目があれば、在宅ワークによる働く人へのメンタルヘルスへの影響をさらに分析するために、 ●個別の問題に限定されるのか? ●事業場全体におよぶ傾向なのか? ●新たに発生した問題なのか? ●以前から存在していた問題が顕著化、深刻化したものか? といった点について、関係部署で検討してみることをおすすめします。  マネジメントの力を疑われた管理職が自己嫌悪や課題を回避したいという気持ちを抱くようになったり、業務評価への不満から職場全体の雰囲気が悪化したりするケースもあります。  在宅ワークにともなうメンタルヘルス不調の事例としては、周囲への気遣いが過剰な人、不安感が強すぎる人などの状態が不安定になったケースや、メンタルヘルス不調の既往のある人が在宅ワークを契機として、疎外感を強め、抑うつ状態が再燃した例もあります。  在宅ワークを含むテレワークの問題に付随して、次のような要因の有無や良否が、働く人の心身の健康に影響するとも指摘されています。 @マネジメントを行う上司への支援 A在宅勤務環境の整備や経済的な面などの支援 B同僚たちによる(お互いの)支援 C仕事以外の社会的なつながりの有無 D仕事と家庭の葛藤の程度  自職場で@からBにあげた支援が不十分であるならば、事業場のトップにこれを上申することや(安全)衛生委員会で問題提起を行うこと、実施が期待されるストレスチェックの集団分析結果に基づく職場環境改善活動などの場で話し合う話題に加えることもできます。  CやDはこれまで働く人の個人的な問題として片づけられてきた面があります。しかし、職場の仲間がメンタルヘルス不調になって、勤怠が乱れたり、仕事のうえで支障を生じたりするようになれば、個人的な問題として片づけてしまうわけにはいかないでしょう。この点は健康相談として産業医などに対応を依頼し、衛生委員会でも周知することができます。 在宅ワークによるメンタルヘルス面の影響を最小化する対策  在宅ワークにおけるメンタルヘルス対策には、従来の対策を充実させることと、新しい対策を導入するという二つの側面が必須です。  従来からの対策に関しては、厚生労働省が進めてきたメンタルヘルス対策を計画的に、そして継続的に実施できていることが大切です。 三段階の予防対策 ●一次予防=不調の未然防止 ●二次予防=早期発見・早期介入 ●三次予防=不調者の職場復帰支援 四つのケアの実施 ●セルフケア(労働者自身が行う) ●ラインによるケア(管理監督者による) ●事業場内資源によるケア(産業医等) ●事業場外資源によるケア(外部精神科、メンタルヘルス相談機関など) 心の健康づくり計画の策定と実施 ●安全衛生トップの方針表明を起点に心の健康づくり計画を策定し、衛生委員会でさまざまな課題を調査審議しながら、進捗管理や評価を行うことが求められています  一方で在宅ワークなどに特化した対策を意識的に実施していくことも求められます。その具体的な事項を図表2に例示しましたので、自職場での実施の際の参考にしてください。  ところで、在宅ワークにともなうメンタルヘルスへの影響は悪い面ばかりではありません。例えば、「家族と過ごす時間が増えた」、あるいは「対人関係のストレスが減った」と喜んでいる働く人も少なくありません。  在宅ワークには通勤の負担やその時間を節約できる点、睡眠時間の確保、同居家族と過ごすことなどを含めて日々の時間の自由度が増える、あるいはワークライフバランスを保ちやすいといったさまざまなメリットもあります。  加えて、在宅ワークは中高年労働者にとって最終的な退職、さらにその後の生活に適応していく練習の機会ととらえることもできます。  そうした利点もリラックスして職場で話題にしていくことも、在宅ワークによるメンタルヘルスへの影響を小さくする効果があると思います。 【参考資料】 1.日本産業衛生学会・産業精神衛生研究会「コロナ禍の労働者に対する支援に関して産業保健職が留意すべき事項〜産業精神衛生研究会からの提言・追補版〜」 2.厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(2021年3月25日公表) 3.亀田高志『【図解】新型コロナウイルスメンタルヘルス対策』エクスナレッジ(2020年7月) 図表1 メンタルヘルスに影響しうる在宅ワークにともなう問題のチェックリスト 番号 具体的な内容例(順不同) 自職場にあてはまればチェック 1 職種や部署によって在宅ワークが認められるかどうか、という違いから感情的な不公平感を生じた。 2 在宅ワークをしている人ではなく、出勤した人に問合せへの対応などの負荷が高まった。 3 同業他社などと比べて、自職場の在宅ワーク、時差出勤などの勤務形態への不満が生じた。 4 住居や住環境、家族構成によって在宅ワークでの業務遂行に困難が生じた。 5 オンラインでの会議で情報共有や会議進行などに不都合を生じ、以前のように議論が進まない、という不満が出た。 6 オンラインの会議では前後の雑談や情報交換ができず、意思疎通が図りにくい、という意見がある。 7 画面越しでお互いの様子がわかりにくく、コミュニケーションが取りづらい、という意見が出た。 8 上司や同僚とのコミュニケーションが不十分だと感じて、自らの仕事への評価に関する不安が高まっている。 9 通勤がなくなったことで、行き帰りの気分転換ができないことによるストレスを口にしている。 10 上司とのコミュニケーション機会の減少により、担当業務の進捗が遅れ、結果として労働時間が増加した同僚がいる。 11 管理職ごとのマネジメントの能力の差が明らかになっていると感じている。 12 管理監督者にとって、部下の業務評価がしづらい、という意見が出ている。 13 部下の人たちの間で、管理職による業務評価に対する不満が高まったと感じている。 14 業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすく、仕事と生活の時間の区別が曖昧になり、長時間労働が生じている。 15 在宅ワークにともない飲酒量が増加した、あるいはそうしたことを訴える同僚がいる。 16 在宅ワークのために運動不足によって心身の不調感をより強く感じる、あるいはそうしたことを訴える同僚がいる。 17 在宅ワークのために生活習慣のリズムやメリハリがつきにくくなる傾向があると感じる。 ※参考資料1より筆者が作成 図表2 在宅ワークに特化したメンタルヘルス等対策の実施事項チェックリスト 番号 在宅ワークに特化した対策の具体例(順不同) 実施可能かをチェック 1 在宅ワークを行う従業員もメンタルヘルス対策の対象として、通常勤務とは異なる点があることを職場で共有している。 2 在宅ワークで働く環境の変化や従業員の心身の健康問題を産業医や衛生管理者などが把握する方法を検討し、実施している。 3 在宅ワークでもオンラインなどで健康相談ができる体制を産業医などと整備し、相談窓口や担当者の連絡先を周知している。 4 在宅ワークで直面した夫婦間や親子間のトラブル、介護や育児の問題も健康相談の対象に含めることとして、周知している。 5 上司などが定期的なオンライン面談や電話での対話を行うなかで、部下の健康状態の変化を意識し、確認できている。 6 新たに在宅ワークを行う場合に安全衛生面とメンタルヘルスを含む健康確保に関する事項を教育している。 7 睡眠のリズムの乱れ、運動不足、過度な飲酒がメンタルヘルスを悪化させることやそれを防止する適切な生活習慣の実践を啓発する、産業医などによる教育を、在宅ワークを行う労働者を中心に、オンライン形式などで実施している。 8 在宅ワーク中にセルフケア研修などを実施する場合には、「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(2021年1月25日付)に準じている。 9 在宅ワークを行う部下を持つ管理監督者に対して、通常のラインによるケアに関する内容に加えて、在宅ワークを行う部下とのオンラインでのコミュニケーションの留意点を含めて、教育研修を行っている。 10 在宅ワークの場合の作業環境を従業員に確認させ、問題がある場合には労使が協力して改善に取り組んでいる。改善が困難な場合には適切な作業環境や作業姿勢などが確保できるサテライトオフィスなどを用意している。 11 常時、在宅ワークを行っている従業員の健診機関を選択できるようにするなど、健康診断受診時の負担軽減に配慮している。 12 在宅ワークでも医師による面接指導をオンラインで適正に実施している。その場合には「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(2020年11月19日最終改正)を参照している。 13 メンタルヘルス不調を持ちながら在宅ワークを行う場合の支援の方法を産業医などと相談のうえ、実践している。 14 在宅ワークを行う従業員が時期を逸することなく、メールやオンラインの活用などの工夫によって、ストレスチェックや面接指導を受けることができるよう、配慮している。 15 ストレスチェック結果の集団分析は、在宅ワークが通常の勤務と異なることに留意したうえで行っている。 16 メンタルヘルス指針に基づく「心の健康づくり計画」は、在宅ワークが通常の勤務とは異なることに留意したうえで策定され、それに基づき計画的な取組みを実施している。 17 在宅ワークにおいても、定期的・日常的なオンラインミーティングの実施などを通じて、同僚とのコミュニケーション、日常的な業務相談や業務指導等を円滑に行うための取組みがなされている。 18 災害発生時や業務上の緊急事態が発生した場合の連絡体制を在宅ワークを行う従業員を含んで構築し、周知している。 ※参考資料2 「(別紙1)テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」を参考に筆者が作成 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はワーキングメモリ(作業記憶)を鍛える問題です。頭のなかでメモをつくりながら答えを模索しましょう。このとき、人間が進化していく過程で巨大化した進化の結晶、前頭前野が盛んに使われます。この機能を使ってわれわれは仕事をし、学習をし、コミュニケーションをしています。 第48回 数字のルール問題 ?に入る数字は何でしょうか。 なるべくヒントは見ないで解いてみましょう。 目標各2分 問題1 1=1 2=2 4=5 9=2 10=? ヒント@ 漢字にしましょう ヒントA 画数です 問題2 2 1 = 13 8 5 = 313 9 6 = ? ヒント@ 二つの数字の合成です ヒントA 足したり、引いたりしてみましょう ワーキングメモリをガンガン鍛えよう!  「この問題の変換ルールは何だろう」と考えているとき、脳ではワーキングメモリが盛んに使われます。ワーキングメモリは作業(ワーキング)のための記憶(メモリ)であり、脳に一時的に情報や記憶を保持して、組み合わせて答えを出す機能です。  つまり、今回の脳トレ問題を解いているとき、目の前の問題を見ながらも、頭のなかでは、いろいろなルールをあてはめ、「それだとこうなる」、「こっちだとこうなる」……などとワーキングメモリが盛んに使われるわけです。ヒントを見て、あれこれ考え直すときも同様です。  さて、今回の問題1は漢数字の画数を示しており、問題2は引き算の答えと足し算の答えを並べています。うまくルールを見つけることができたでしょうか。  歳とともに低下しやすいのと同時に鍛えれば伸びるのが、このワーキングメモリの特徴でもあります。ガンガン鍛えていきましょう。 【問題の答え】 問題1 → 2 漢数字の画数を示しています。 1は一で1画、2は二で2画、4は四で5画、9は九で2画、そして10は十で2画です。 問題2 → 315 引き算の答えと足し算の答えを並べています。 2−1=1、2+1=3、で13。8−5=3、8+5=13、で313。なので9−6=3、9+6=15で315が答えです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課  所在地等一覧 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年6月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 生産性向上人材育成支援センターでは、70歳までの就業機会の確保に向けた従業員教育を支援しています!  人手不足の深刻化や技術革新が進展するなか、中小企業等が事業展開を図るためには、従業員を育成し、企業の労働生産性を高めていくことに加えて、70歳までの就業機会の確保に向けて企業を支えるミドルシニア世代の役割の変化へ対応できる能力や技能・ノウハウを継承する能力を育成することが重要です。  生産性向上人材育成支援センターでは、生産性向上支援訓練のメニューの一つとして、中高年齢層の従業員の“生涯キャリア形成”を支援するためのミドルシニアコースを実施しています。 役割の変化に対応したコース ●中堅・ベテラン従業員のためのキャリア形成 ●後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割 ●SNSを活用した相談・助言・指導 ●フォロワーシップによる組織力の向上など 技能・ノウハウ継承に向けたコース ●クラウドを活用したノウハウの蓄積と共有 ●作業手順の作成によるノウハウの継承 ●効果的なOJTを実施するための指導法 ●ノウハウの継承のための研修講師の育成など 《ミドルシニアコースの概要》 受講対象者:45歳以上の従業員の方(所属する企業から受講指示を受けた方にかぎります) 受講料:3,300円〜6,600円(1人あたり・税込) 訓練会場:受講対象者の所属する企業の会議室等を訓練会場とすることが可能です(講師を派遣します) 訓練日数:概ね1〜5日(6〜30時間) 《訓練受講までの流れ》 課題や方策の整理 センター担当者が企業を訪問し、人材育成に関する課題や方策を整理します 訓練コースのコーディネート 相談内容をふまえて、課題やニーズに応じた訓練コースを提案します 訓練受講 所定の期日までに受講料の支払い等の手続きを行い、訓練を受講してください ※予算にかぎりがありますので、ご希望に添えない場合があります ※相談内容によっては、他の企業に所属する従業員の方と合同で訓練を受講するコースのご利用を提案させていただく場合があります 〜生産性向上支援訓練は当機構ホームページよりご確認ができます〜https://www.jeed.go.jp/js/jigyonushi/d-2.html 詳しくは各都道府県の生産性向上人材育成支援センターまでお問い合わせください 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 生産性向上支援訓練紹介ページへ 2021 6 令和3年6月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第6号通巻499号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会