【表紙2】 助成金のごあんない 〜65歳超雇用推進助成金〜 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて5万円から160万円 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは (a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b) 作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d) 職域の拡大、(e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f) 賃金体系の見直し、(g) 勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)とは、『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)』が要件です。 (企業の場合)  生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 65歳超雇用推進助成金に係る動画はこちら→ 〜障害者雇用助成金〜 障害者作業施設設置等助成金  障害の特性による就労上の課題を克服・軽減する作業施設等の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の2/3 (例)障害者用トイレの設置、拡大読書器の購入、就業場所に手すりを設置 等 障害者福祉施設設置等助成金  障害の特性による課題に応じた福利厚生施設の設置・整備を行う場合に費用の一部を助成します。 助成額 支給対象費用の1/3 (例)休憩室・食堂等の施設、施設に附帯する玄関、トイレ等の附帯施設・付属設備の設置・整備 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @職場介助者の配置または委嘱 A職場介助者の配置または委嘱の継続 B手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱 C障害者相談窓口担当者の配置 D職場復帰支援 E職場支援員の配置または委嘱 助成額 @B 支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 1人につき月額4万5千円 外 E 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 @訪問型職場適応援助者 A企業在籍型職場適応援助者 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に費用の一部を助成します。 @住宅の賃借 A指導員の配置 B住宅手当の支払 C通勤用バスの購入 D通勤用バス運転従事者の委嘱 E通勤援助者の委嘱 F駐車場の賃借 G通勤用自動車の購入 助成額 支給対象費用の3/4 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。※事前相談が必要です。 助成額 支給対象費用の2/3(特例3/4) 障害者雇用助成金に係る動画はこちら→  お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.74 自分にとって幸せな人生のゴールを目ざし現役時代から越境活動≠ノよる自走準備を 一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 金沢春康さん かなざわ・はるやす 1981(昭和56)年、株式会社三越(現・三越伊勢丹)に入社。人事労務部門、eビジネス部門、新規事業開発部門、サービス営業部門の責任者を経て、2009(平成21)年より株式会社サトー(現・サトーホールディングス)経営企画本部人事部長を務める。2018年に一般社団法人100年ライフデザイン・ラボを設立し代表理事に就任。本誌編集アドバイザーでもある。  高齢者雇用の先進企業で人事部門の責任者を務める傍(かたわ)ら、越境活動≠通して活躍の場を広げ、2018(平成30)年にシニアが働き活躍することを支援する「一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ」を設立した、金沢春康さん。今春には、定年を前に会社を退職し、同法人の取組みを本格化させています。そこで今回は、その取組み内容とともに、越境活動や人生100年時代の企業・人事部の役割などについてお話をうかがいました。 働き方の本質は「セルフコントロール」主体的に長く働き続けるために退職を決意 ―企業で人事部門の責任者を務める傍ら、2018(平成30)年に「一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ」を設立されたきっかけと、活動内容を教えてください。 金沢 51歳のときに、28年勤務した百貨店から自動認識システムの開発・製造会社の人事部門に転職しました。その会社はすでに定年を65歳に引き上げており、私は人事の責任者としてシニア層活性化の施策に取り組むことになりました。その一方で、私は59歳まで、自分自身のキャリアについてはあまり深く考えていませんでした。そろそろ自分のキャリアを考えなければと思い、毎年社員を派遣していた新規事業のビジネスモデルを考える「KSPイノベーションスクール」に、自費で私も通うことにしました。このスクールで私のビジネスモデルの企画が最優秀賞をいただいたことが、100年ライフデザイン・ラボ(以下、「ラボ」)設立のきっかけです。  人生を季節に例えると、春の就学期から夏の就職期を経て実りの秋となり、引退の冬が訪れます。いままでは60歳前後が引退の節目でしたが、人生を100年で考えると、実りの秋が50歳前後から70歳以上まで伸びることになります。この長い期間を、これまでの就業経験を活かして社会に貢献し、充実した実りの秋にしようというのが、ラボの基本コンセプトです。  具体的には、副業や起業を希望する人たちのビジネスナレッジに、提案ノウハウをアドオンして、各界のリーダーの行動変容パートナーに育成します。さらにラボのクライアントのネットワークとのマッチングを通じてビジネスに結びつけることです。シニアの就業のプラットフォームとして、みんなが働いて食べていけるようにしたいと考えています。  2018年に社団法人を設立し、その後、ビジネスモデルの策定などの準備を進め、実は2020(令和2)年にスタートする計画だったのですが、コロナ禍の影響で1年間延期し、2021年から本格的にスタートしました。もともとは、本業の会社の仕事を行いながらラボもやるつもりでしたが、63歳となった今年、会社を退職しました。 ―定年まで後2年を残し、なぜ退職しようと思われたのですか。 金沢 理由は二つあります。今般のコロナ禍で50〜60代の方も亡くなっています。人生は1回しかなく、人間はいつか必ず亡くなりますが、それが2週間後かもしれません。私自身が死を身近に感じたことが一つです。  もう一つは、自分にとっての本質を見据えて生きていくべきだと思ったことです。コロナ禍でテレワークなど働き方も大きく変わり、働き方のさまざまな方法論が飛び交っていますが、実は働き方の本質とは、セルフコントロール、つまり主体的に動いて仕事をすることだということを、コロナ禍によって突きつけられました。個々の社員にかぎらず、上司、経営者もそうですし、会社も同じです。これまでは全員が出社し、集うことによる一体感が会社のために働くことの重要な要素になっていましたが、今後は会社が目ざすビジョンやなすべきミッションなど、本質的なものに賛同できるかどうかが常に問われると思います。もちろん会社のビジョンやミッションには共感していました。でもサラリーマン生活の最後にさしかかり、自分がやりたいことは何かを考えたとき、やはり別にあるなと。もっと長く働き続けるには、切り替えてラボにシフトしたほうがよいと決断しました。 さまざまなチャレンジを経て自走ペダル≠ナ世界を広げる ―ラボの設立だけではなく、金沢さんはさまざまな活動にチャレンジされていますね。 金沢 59歳からいろいろなところに越境しました。演劇ワークショップに参加して芝居に挑戦したり、NPO法人が主宰する養護施設で学習支援をしたりと、関心があるものに積極的に参加しました。そのきっかけとなったのは、障がいのあるお子さんがいる社員の声です。会社が特例子会社をつくるにあたり「お子さんが関連会社で働いたら安心ではないですか」と聞くと、「親なき後を考えて、子どもには依存できる場所をたくさんつくってあげたい。自分と同じ会社だと潰れたら一家が困窮してしまう。お世話になるところは多いほうがよい」といわれたのです。よく考えたら私自身の依存先は、いまの会社一つではないかと。そんなことを考えていろいろなところに顔を出すようにしたのです。  もちろんやってみて自分に向かないものはやめていますが、いまも続けているものもあります。自分のモチベーションエンジンとなる「活動領域」と「関心」で分析してみると「有給ワーク」、「ギフトワーク」、「学習ワーク」の三つに分類することができました。私はこれを自走ペダル≠ニ呼んでいます。  有給ワークは、本業や副業を含めた自分の価値(有用性)が認められる形で社会とつながるもの。ギフトワークは対価を求めるのではなく、人とのつながり(仲間)が得られるもので、養護施設での学習支援や演劇などはここに入ります。学習ワークとは、「最終学歴よりも最新学習歴の更新」と位置づけています。日本では最終学歴が問われますが、20代で卒業した学歴ではなく、いくつになっても常に新しい学びを取り入れる。パソコンのOSをバージョンアップするように、学習歴を更新し続けることが大事です。私も最初はビジネスモデルづくりから始め、大学で社会デザインを学んだりAI講座を受講したり、去年からはラボの活動のヒントになる本質行動学のような新しい学びにも取り組んでいます。 ―会社の枠を超えた自走ペダルによる越境活動≠ナ何が得られるのでしょうか。 金沢 何より自分の活躍の場が増えます。会社では「できてあたり前」と思っていることが、世の中では意外と役に立つということがたくさんあることがよくわかります。例えば経理・財務に関すること、組織の組み立て方など、外の目から指摘されて自分の有用性に気づくことが多いのです。私自身もいまの居場所から越境したことで、自分を客観的に見ることができましたし、すごく大事なことだと実感しました。 ―仕事に追われてそんな余裕がないという企業もあるかと思います。 金沢 逆にそうした余裕を社員に持たせないと、本当に幅広い人材は育たないと思います。中高年世代にかぎらず、若い社員も含めて企業内に留まらず、社会に染み出していくような複眼的な視点を持つように仕向ける。社員を仕事に埋没させて余裕を持たせられないと会社自体が今後は成長できなくなると思います。越境の機会を積極的に奨励してほしいと思います。 働く人の多様なニーズが尊重される時代人事部員の越境活動にも期待 ―70歳までの雇用を考えたとき、シニア層が活き活きと活躍できるようにするには企業としてどんな取組みが必要でしょうか。 金沢 自分で走る、自走ペダルのスイッチをオンにさせることです。そのためにはどんな仕事をするのかではなく、「自分が死んだときにどうありたいのか」というゴールから、いまの年齢まで逆算し、自分の人生について考えさせることが絶対に必要です。ゴールを達成する方法論として何がベストかを考えさせる。会社でどんな仕事をするのかも大事ですが、いまの会社も70歳までしかいられません。死ぬまでの補助線を自分でどう引くのかを考えてもらうことが自走ペダルの一番の原点です。  本人自身がそのことに気がつかないのに、会社が「これをやりませんか」と提案しても結局押しつけでしかありません。自分はこんな幸せな人生を送りたいという明確なゴールがイメージできたときに、その方法論としてゴールまでの過程に会社が残るのであれば、「何をやりたいのですか? 会社にはこういう制度や働き方がありますよ」と提示できれば、本人も真剣になって考えるはずです。 ―コロナ禍のなかで、企業の人事部にはコロナ関連施策をはじめ、働き方改革やダイバーシティ経営など、さまざまな課題への対応が求められています。人事部で働く読者の方へのアドバイスをお願いします。 金沢 いまはある意味で人事部受難の時代といえます。昔は就業規則やルールに則って「あなただけ特別扱いはできません」と突っぱねていればよかったのですが、いまは社員の個別の事情に配慮した取組みが求められています。多様なニーズを受けとめる経営が社会に評価される時代になり、上からのプレッシャーも強い。そうした個別事情と経営の間の板挟みになりながら課題を解決していかなければならず、辛い状況にあります。  しかし、一方で会社が変わらなければ生き残っていけないことも事実です。悲壮感を漂わせるのではなく、いまの時代の変化をおもしろがる余裕を持ちつつ、志を持って立ち向かう。その結果、刀折れ矢尽きても拾ってくれる人や会社はたくさんあります。そのためにも人事部員も越境し、自らほかの草鞋(わらじ)を履きながら働くぐらいの度量とパワーを発揮することを期待しています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 July 特集 6 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 7 総論 70歳就業に向けて ―高齢者雇用の現状と展望― 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 12 解説1 高年齢者雇用安定法の改正で何が変わったの? 2 高齢社員に高いモチベーションで働いてもらうにはどうすればいい? 3社会・時代の変化に対応してもらうためにはどうすればいい? 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 4 高齢社員に健康・安全に仕事をしてもらうために 福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口善之 5 70歳雇用の実現へ『70歳雇用推進マニュアル』のご紹介 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 リーダーズトーク No.74 一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ 代表理事 金沢春康さん 自分にとって幸せな人生のゴールを目ざし現役時代から越境活動≠ノよる自走準備を 31 日本史にみる長寿食 vol.333 モロヘイヤは女王の美容食、王様の長寿食 永山久夫 32 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 《第3回》伸和ピアノ株式会社 38 江戸から東京へ 第104回 「八犬伝」の共同作業 馬琴と嫁のみち 作家 童門冬二 40 高齢者の職場探訪 北から、南から 第109回 新潟県 学校法人金鵄有明学園 44 高齢社員のための安全職場づくり 〔第7回〕 職場の熱中症災害 高木元也 48 知っておきたい労働法Q&A 《第38回》 定年後再雇用の労働条件の提示内容、居眠りする労働者への対応 家永 勲 52 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例 【第2回】 NPO法人カローレ 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第14回 「目標管理制度」 吉岡利之 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 短期連載 コロナ禍で変わる職場と働き方 【第3回(最終回)】 職場の感染防止対策 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第49回] 不可能図形 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します ◎本号では、「読者アンケート」を同封してお届けしています。本誌に対するご意見をアンケート用紙にご記入のうえ、当機構までお寄せください。当機構ホームページからの回答も可能です。より一層の誌面の充実に向け、みなさまからのご意見をお待ちしています。 【P6】 特集 新任人事担当者のための 高齢者雇用入門  高年齢者雇用安定法が改正(以下、「改正高齢法」)され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。70歳就業を実現していくためには、定年延長や定年廃止、継続雇用制度といった高齢者雇用制度の整備はもちろんのこと、高齢者が長く活き活きと働き続けられるよう、柔軟な勤務制度や、健康・安全に配慮した職場環境の整備なども、これまで以上に求められることになります。  そこで本特集では、「高齢者雇用入門」と題し、高齢者雇用と70歳就業の実現のポイントについて、新任人事担当者の方にも理解してもらえるよう、テーマごとに解説しています。  改正高齢法への対応と高齢者雇用の推進に向け、ぜひお役立てください。 【P7-11】 総論 70歳就業に向けて ―高齢者雇用の現状と展望― 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 はじめに〜高齢者雇用は新たな時代に  2021(令和3)年に入り、高齢者雇用を取り巻く環境は大きく変化しました。2020年に改正された高年齢者雇用安定法(以下、「改正高齢法」)が今年4月に施行され、企業にはこれまでの65歳までの高年齢者雇用確保措置(定年廃止、65歳までの定年引上げ、65歳までの継続雇用制度)の義務化に加え、70歳までの就業機会を確保する措置(以下、「高年齢者就業確保措置」)を講じる努力義務が新設されました(詳しくは12頁「解説1」を参照)。  平成期に行われた高齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)改正による希望者全員の65歳までの雇用確保措置の義務化のもと、65歳までの高齢者雇用の環境整備と高齢社員の戦力化が進められています。2020年時点では、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99・9%(厚生労働省「高年齢者の雇用状況」)に達しています※。  「実質65歳定年制」ともいわれている高齢者雇用の状況のもと、企業は70歳までの就業機会をどのように受けとめ、どう対応していけばよいのでしょうか。総論ではこの点を考えてみたいと思います。 2 高齢者雇用を取り巻く状況を確認する  まず、高齢者雇用を取り巻く状況を確認していきたいと思います。その代表的な変化は次の3点です。  第一は少子高齢化のさらなる進展です。右肩上がりを続けてきたわが国の人口は、2008(平成20)年をピークに減少傾向にあります(図表1)。わが国の人口の推移の内訳を詳しくみると、@高齢化率(65歳以上人口割合)の拡大、A将来の働き手をになう14歳以下人口の減少という特徴がみられます。これらは少子高齢化が進んでいることを表す指標であり、労働力人口の減少を意味しています。「少子高齢化」が叫ばれて久しいですが、今後、少子高齢化の影響がより顕著になることが予想されます。現在のコロナ禍で深刻な状況が続いていた人手不足(とりわけ若年者)が緩和されているようですが、図表に示されているように、わが国の経済の活力を今後とも維持・向上していくには、人口が減少しているなかで労働力人口をいかに確保するかが大きな政策課題となっています。  第二は高齢労働者数の見通しです。図表2に示されているように、2018年時点で約5人に1人(20・7%)が60歳以上となり、会社において60歳以上の社員(以下、「高齢社員」)は「大きな社員グループ」になっています。こうした労働力人口の高齢化は今後もますます進むことが予想され(2040年には60歳以上は約30%〔29・6%〕)、高齢者雇用が経営課題になりつつあります。  第三は年金支給開始年齢の引上げです。1994年に公的年金制度が改正され、老齢厚生年金の定額部分(1階部分)が2001年度から2012年度にかけて60歳から65歳に段階的に引き上げられました。さらに2000年の改正で老齢厚生年金の報酬比例部分(2階部分)が2013年度から2025年度にかけて60歳から65歳へと段階的に引き上げられ、2025年度から公的年金の支給開始年齢は65歳となります。こうした一連の年金支給開始年齢の引上げは一般的となっている60歳定年において定年到達後から年金支給開始までの空白期間が生じることになり、その対策として年金の不支給期間と雇用確保による収入の維持期間を接続させるための法改正などがとられ、その一環として高齢法は改正されてきました。  2016年3月に成立した雇用保険法等の一部を改正する法律(2017年1月施行)では、これまで雇用保険の適用対象ではなかった65歳以上の高齢者が新たに雇用される場合に雇用保険の適用の対象となり、65歳以降も雇用できる(働くことができる)環境が整備されました。2017年3月の働き方改革実現会議で発表された「働き方改革実行計画」における、生涯現役社会を実現するための雇用継続の延長や定年引上げに向けた環境を整えることの提言などを経て、2019年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」で「70歳までの就業機会の確保」法制化の方向が示されました。  こうした70歳就業に向けた環境条件が整えられるなか、2020年3月に高齢法が改正され、新たに「高年齢者就業確保措置」が企業の努力義務として規定化され、2021年4月に施行されました。 3 これまでの高齢者雇用の人事管理の状況  これまでの高齢法が求める65歳までの雇用確保措置のもと、多くの企業では「60歳定年後に再雇用し、65歳まで非正社員(有期契約社員)として雇用する」継続雇用制度がとられていました。そして、そのもとでの高齢社員の人事管理には以下のような特徴がみられていました。 @現役社員時代と同じ分野の仕事に従事するが、職責や期待する成果は低くする。 Aフルタイム勤務を原則とするが、転勤、残業を行わないなど、働く場所、働く時間といった働き方を現役社員と比べて制限(制約化)する。 B賃金は定年直前の一律を下げた水準(あるいは全員一律同一水準)とし、評価を行わず働きぶりを賃金に反映しない。  本来、企業は仕事の成果を上げることを社員に期待して働きぶりを評価し、その結果を賃金に反映しています。しかし、高齢社員の人事管理の状況を鑑みると企業は仕事に高齢社員を配置しても、その成果を期待していないことを意味します。こうした高齢社員の人事管理は「福祉的雇用」と呼ばれています。  このような福祉的雇用のもと高齢社員は仕事に従事していたので、労働意欲は高まらない状況にありました(詳しくは16頁「解説2」を参照)。また、これまで社員全体に占める高齢社員の割合が低かったため、経営課題にもなっていませんでした。  しかしながら、先に紹介したように人口減少にともない労働力人口が減少するなか、大きな社員集団化した高齢社員の人事管理が経営課題となった企業は「福祉的雇用」を見直し、「戦略的活用」への転換を図りました。それに合わせて人事管理では、仕事の成果を上げることを期待して、なかでも問題となっている評価制度、賃金制度の見直しが進められました。 4 高齢者雇用の展望〜70歳就業に向けて (1)60代前半層〜「実質65歳定年制」から「65歳定年制」へ  このように「福祉的雇用」から「戦略的活用」への転換の対応が進められつつあるなか、改正高齢法の施行により、高齢者雇用は70歳就業に向けて新たな時代に入りました。こうした変化に対して、これからの高齢者雇用をどのように考えればよいのでしょうか。その際には60代前半層と改正高齢法で新たに設けられた就業確保措置にかかわる60代後半層に分けて考えてみることが必要になります。  60代前半層は改正高齢法を始めとして平成期に行われた一連の高齢法改正によって、先に紹介したようにほとんどの企業で65歳までの雇用確保措置が実施されており、希望者全員が65歳まで働くことができる「実質65歳定年制」の状況にあります。さらに、福祉的雇用からの転換が図られつつある戦略的活用が今後、加速することが求められます。  他方、年金支給開始年齢の引上げの移行措置が2025年度にかけて行われ、65歳となります。これに合わせて65歳定年制を導入する動きがみられており、今後、定年を延長する企業が増えることが予想されます。「実質65歳定年制」から「65歳定年制」への対応が60代前半層の今後の課題の一つになり、高齢社員の戦力的活用をすでに進めている企業にとっては、賃金の問題がありますが、解説2で説明しているように人材活用の考え方に基づいて対応していくことが必要になります。  さらに、それ以上に大きな問題として、キャリアがあります。正社員としてのキャリアが長くなるので、これまでの一般的だった管理職として定年を迎える「あがるキャリア」を維持することは組織の新陳代謝(世代交代など)の促進など組織運営上の観点からむずかしくなり、役職定年制により50代で役職を降りて一般社員などで定年を迎える「くだるキャリア」が今後、一般的になっていくと思われます。そこで、問題になるのは、役職定年制は能力や成果にかかわらずある年齢に到達すると一律に役職を離れることです。もちろん、能力や成果を基準とするよりも年齢を基準とする方が客観的な側面を持ちますが、人材活用の観点からみた場合、合理的な基準とはいえないのではないでしょうか。 (2)60代後半層〜福祉的雇用ではなく戦力的活用が出発点  60代後半層については、大きな社員集団化している高齢社員の現状をふまえると、65歳までの雇用確保措置が取り組まれた当初、多くの企業で行われていた福祉的雇用という人事管理は現実的ではありません。60代前半層のそれと同じように60代後半層も引き続き戦略的活用という人事管理が求められます。  こうした基本的な考えにあわせて人材活用の考え方と雇用制度がとられ、個別の人事管理が展開されます。雇用制度について、改正高齢法で新設された「70歳までの就業機会確保措置」には、従来の継続雇用制度以外にも「他の企業(子会社・関連会社以外)への再就職」、「個人とのフリーランス契約への資金提供」、「個人の起業支援」、「社会貢献活動への資金提供」といった多様な制度があるので、そのなかから企業が置かれている経営環境をふまえて制度を定めていくことが求められます。これまでの企業の高齢者雇用施策(雇用制度と人事管理)とそこから蓄積された経験・ノウハウを考えると、60代後半の雇用制度は多くの企業が選択するであろう「再雇用制度」が一般的ではないでしょうか。  ただし、60代前半に比べて年齢が上がることによる高齢社員の個人差、特に健康面の個人差が大きくなること、また、年金の受給開始にともなう高齢社員個人の働くニーズも多様化していきます。  そのため、人事管理については戦略的活用のもと働きぶりを評価し、賃金に反映することは継続しつつ、例えば、担当する仕事内容の職責や期待する成果を軽減したり、場合によっては異なる分野の仕事に配置したり、働き方にかかわる勤務形態にフルタイム勤務だけではなく、短日・短時間勤務などの多様な勤務形態を選択できるようにするなど、多様化する高齢社員のニーズに配慮した人事管理の個別分野を整備することが求められます。 ※ さらに、継続雇用制度導入企業では、希望者全員を対象とする65歳以上の継続雇用制度を導入している割合は74.5%と高い水準にあります。年齢にかかわりなく、60歳以降も引き続き同じ企業で働き続けることのできる環境が整いつつあるといえます 図表1 日本の人口の推移 2018年 12,644万人 生産年齢人口(15〜64歳)割合 59.7% 高齢化率(65歳以上人口割合) 28.1% 合計特殊出生率 1.43 2025年 11,913万人 65歳以上人口 3,716万人 15〜64歳人口 6,875万人 4歳以下人口 1,321万人 2055年 8,808万人 65歳以上人口 3,381万人 15〜64歳人口 4,529万人 14歳以下人口 898万人 2065年 生産年齢人口割合 51.4% 高齢化率 38.4% 合計特殊出生率 1.44 出典:2018年までの人口は総務省「人口推計」(各年10月1日現在)、高齢化率および生産年齢人口割合は、2018年は総務省「人口推計」、それ以外は総務省「国勢調査」、2017年までの合計特殊出生率は厚生労働省「人口動態統計」、2019年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」 図表2 労働力の推移 1990年(平成2年) 6,384万人 65歳以上 360万人 (5.6) 60〜64歳 372万人 (5.8) 372万人 (5.8) 15〜29歳 1,475万人 (23.1) 2000年(平成12年) 6,766万人 65歳以上 494万人 (7.3) 60〜64歳 426万人 (6.3) 30〜59歳 4,260万人 (63.0) 15〜29歳 1,588万人 (23.5) 2018年(平成30年) 6,830万人 65歳以上 875万人 (12.8) 60〜64歳 539万人 (7.9) 30〜59歳 4,275万人 (62.6) 15〜29歳 1,140万人 (16.7) 2025年(令和7年) 6,673万人 65歳以上 874万人 (13.1) 60〜64歳 574万人 (8.6) 30〜59歳 4,166万人 (62.4) 15〜29歳 1,060万人 (15.9) 2040年(令和22年) 6,195万人 65歳以上 1,174万人 (19.0) 60〜64歳 656万人 (10.6) 30〜59歳 3,417万人 (55.2) 15〜29歳 893万人 (14.4) 資料:1990、2000、2018年は総務省統計局「労働力調査」、2025年、2040年は(独)労働政策研究・研修機構「平成30年労働力需給の推計」。 (注)1.( )内は構成比 2.表章単位未満の位で四捨五入してあるため、各年齢区分の合計と年齢計とは必ずしも一致しない。 3.2018年の数値については、算出の基礎となるベンチマーク人口を、2010年国勢調査結果を基準とする推計人口から2015年国勢調査結果を基準とする推計人口に切り替えたものである。 4.2025年、2040年の推計値は、経済成長と労働参加が適切に進むケース(「未来投資戦略」を踏まえた高成長が実現し、かつ労働市場の参加が進むケース)。 5.当該推計値は、「労働力調査」の2017年までの実績値を踏まえて推計している。 出典:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書 資料編」 【P12-15】 解説1 高年齢者雇用安定法の改正で何が変わったの? 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 はじめに〜高年齢者雇用安定法の改正の背景を確認する  高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)が2020(令和2)年に改正(今年4月1日より施行)されるなど、近年、雇用・労働に関する法律が相次いで改正されています。読者のみなさんは、どの法律がどう変わり、それが私たちの働き方にどのような影響を与えるのかを理解するのにたいへんかと思います。高齢者雇用を学んでいくうえで、今回、改正された高齢法(以下、「改正高齢法」)のポイントを紹介していきたいと思います。  まず高齢法が改正に至った背景から確認していきたいと思います。わが国では少子高齢化が急速に進み、2008(平成20)年の1億2808万人をピークに人口は減少に転じ、労働力人口の減少と高齢化も進んでいます。こうした少子高齢化社会のなかで、わが国の経済の活力を維持するためには働き手を増やすことがわが国の重要な政策課題の一つになっています。さらに、個々の労働者の特性やニーズが多様化しているなか、将来も安心して暮らすために長く働きたいと考える労働者も増えており、高齢期になっても能力や経験を活かして活躍できる環境の整備がいっそう求められています。こうした背景のもと、高齢法は改正されました。 2 改正高齢法のポイント〜「雇用」と「就業」の違い〜  改正高齢法のポイントは事業主(以下、「企業」)が高齢者の多様な特性やニーズをふまえ、70歳まで就業機会を確保(「高年齢者就業確保措置」といいます)できるよう、旧高齢法の規定(以下、「高年齢者雇用確保措置」)に加え、企業に多様な選択肢が可能になる制度を整える努力義務を設けている点です(図表1)。  旧高齢法の規定は次の通りです。第一に企業が定年を定める場合は60歳以上としなければならないこと、第二にそのうえで65歳までの雇用機会を確保するために企業は、図表2に示す三つの制度のいずれかを「高年齢者雇用確保措置」(以下、「雇用確保措置」)として設けることが義務づけられていることです。つまり、企業は65歳まで自社あるいは自社のグループ企業で「雇用」する場を設けなければならないのです。  改正高齢法では、先述の雇用確保措置に加えて70歳までの就業機会を確保するため、企業に対して図表3に示す五つの制度のいずれかを「高年齢者就業確保措置」(以下、「就業確保措置」)として講じる努力義務が新たに設けられました。  旧高齢法と比べた改正高齢法の主な特徴は、次の2点です。  第一は、「自社グループ外での継続雇用が可能になった」ことです。図表2のBの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入について、雇用確保措置では65歳までの継続雇用は自社と特殊関係事業主(自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等)のみでしたが、就業確保措置では65歳以上70歳未満の高齢者に対して継続雇用制度に加えて、「他の事業主」が追加されました(図表4)。すなわち、自社の高齢者が継続雇用制度で働く場が自社や自社グループにとどまらず他社に拡大された点です。  第二は「雇用によらない働き方が可能になった」ことです。就業確保措置の図表3の@〜Bの制度は、これまでの自社あるいは他社で「雇用される働き方」(以下、「雇用措置」)なのに対し、CとDの制度は「雇用によらない働き方」で「創業支援等措置」と呼ばれます。Cは会社から独立して起業した者やフリーランスになった者と業務委託契約を結んで仕事に従事してもらう方法、Dは企業が行う社会貢献活動に自社の高齢者を従事させる方法です。働く人たちの多様なニーズに応えた働き方が誕生していますが、高齢者でも同様のニーズが高まることも考えられ、今回の改正で創業支援等措置が設けられました。この創業支援等措置を導入する場合、企業は過半数労働組合等※1の同意を得て導入することが求められます。  このように65歳以降は自社(自社グループ)での「雇用」に限定せず、他社での雇用やフリーランスとしての業務委託などの働く場の選択肢が示されていることから「就業」と呼ばれています。 3 高年齢者就業確保措置を講じる際の留意点  企業が就業確保措置を講じる際の留意点として、改正高齢法は次の3点をあげています。  第一は「対象者の基準」です。改正高齢法は先に紹介したように65歳までの雇用確保に加えて「70歳までの就業機会確保」を努力義務として企業に求めています。そのため65歳以上の者に対しては基準を設けて対象者を限定することが可能です。ただし、対象者基準を設ける場合は企業と過半数労働組合等の間で十分に協議したうえで、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいとされています。また、その基準は改正高齢法の趣旨やほかの労働関係法令、公序良俗に反したものは認められません。  第二は「労使間の十分な協議の必要性」です。改正高齢法が示した五つの措置のうち、一つだけ選んで措置を講じる方法もあれば、複数の措置を選んで70歳までの就業機会確保を実現することも可能です。措置を講じる際には労使間の十分な協議が必要です。さらに、複数の措置を用意する場合、高齢者にどの措置を適用するかは当該高齢者の希望をよく聞き、尊重してから決定することが求められます。なお、企業が五つの措置のうち創業支援等措置のみを講じる場合は過半数労働組合等の同意が必要となり、創業支援等措置と雇用の措置の両方を講じる場合、ならびに対象者基準を設ける場合の基準の内容について、過半数労働組合等との同意を得ることが望ましいとされています。  第三にそのほかの留意点として、高齢者が定年前と異なる業務に就く場合は、研修、教育、訓練などを行うことが望ましく、特に安全または衛生のための教育は必ず行わなければなりません。また、高齢者の健康および安全の確保のため、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を参考に労働災害防止対策に積極的に取り組むことが求められます。  なお、継続雇用制度、創業支援等措置を実施する場合、就業規則や創業支援等措置の計画に記載があれば、当該高齢者が心身の故障のために業務に耐えられないと認められるとき、あるいは勤務・業務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないときは、契約を継続しないことが認められます※2。 4 おわりに〜従業員の多様性に対応した働く環境の整備  少子高齢化社会が進むなかで経済社会の活力を維持していくために長年つちかってきた高齢者の能力や経験を活かして活躍できる環境の整備がいっそう求められています。新高齢法の定める五つの就業確保措置は努力義務ではあるものの、前向きに取り組まねばならない内容です。  高齢者のなかには年齢とともに体力が低下する者、フルタイム勤務ではなくパートタイム勤務を希望する者など、さまざまな面で高齢者の多様性があらわれています。こうした高齢者の「多様性」は、高齢者だけにみられる事象ではなく、育児、介護、病気治療などと仕事の両立を図りながら仕事する者など、60歳以前の正社員(以下、「現役社員」)にも「多様性」があり、企業はこうした多様な現役社員が安心して働くことができるようにさまざまな支援をしています。高齢期になっても安心して働く環境が整備されると、これから高齢者になる現役社員にとってもさらに安心して仕事に専念できることにつながります。  改正高齢法の大きな特徴は、従来は認めていなかった雇用によらない働き方を企業が提供するよう求めている点です。特に就業確保措置の社会貢献活動による高齢者活用は、これまでは試みがほとんどないため、実施に向けての制度設計はなかなかたいへんであるだけではなく、先に紹介したように働く側が不利にならない制度設計が求められます。  企業と高齢者を企業の社会貢献活動に結びつけることができれば、地域社会における自社の評価を高めることにもつながります。その活動に従事する高齢者は生きがいとしての働く場を得ることができ、ひいては地域社会も豊かになります。高齢者も従業員の一集団であり、彼ら(彼女ら)の多様性に対応した働く環境の整備が求められます。 ※1 過半数労働組合等…… 労働者の過半数を代表する労働組合がある場合には労働組合を、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者をそれぞれさす ※2 高齢者のシルバー人材センター、再就職・社会貢献事業をあっせんする機関等への「登録」では高齢者の就業先は定まらないため、就業確保措置として認められません 図表1 旧高齢法と改正高齢法の比較 旧高齢法 改正高齢法 高年齢者雇用確保措置(65歳までの雇用確保措置) ○(義務) ○(義務) 高年齢者就業確保措置(70歳までの就業確保措置) × ○(努力義務) ※筆者作成 図表2 高年齢者雇用確保措置 @65歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (特殊関係事業主〔子会社・関連会社等〕によるものを含む) 注:「特殊関係事業主」とは自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等を示す 図表3 高年齢者就業確保措置 @70歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等をする団体が行う社会貢献事業 図表4 働く場の比較 旧高齢法 改正高齢法 雇用措置(雇用される働き方) 創業支援措置(雇用によらない働き方) 自社(特殊関係事業主を含む) 他事業主(他社) 起業、フリーランス、社会貢献活動等 ※筆者作成 【P16-19】 解説2 高齢社員に高いモチベーションで働いてもらうにはどうすればいい? 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 どうしても不満が残る再雇用後の処遇  定年を迎えた会社で、引き続き再雇用されて働き続ける。これは、多くの職場でみられる光景です。再雇用制度は高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)が定める雇用確保措置における継続雇用制度の一形態であり、マンガに登場する企業がとる「60歳定年+65歳までの再雇用」は多くの企業がとる平均的な雇用制度です。以下では「60歳定年+65歳までの再雇用」の雇用制度を前提に説明を続けていきます。  多くの企業では、定年を迎える社員に対して定年前に研修・セミナーや人事部の面接などを実施して、再雇用制度や待遇などの説明が行われています。  しかし、実際に再雇用者として働いているなかで、再雇用後に担当する仕事の内容は定年前とほとんど変わらないにもかかわらず、マンガに登場する再雇用者のように賃金が下がることに不満を持ってしまいます。その理由として、定年前と再雇用における働く制約度の違いがあげられていますが、果たしてそれだけの理由で、再雇用者が不満を持つほど給料は下がるのでしょうか。 2 正社員と高齢社員に対する人材活用の考え方の違い  同じ仕事を担当しても、正社員、再雇用者の雇用区分ごとに企業の人材活用の基本方針が異なり、それにあわせて社員に期待する役割、処遇も異なることがその背景にあります。下の図表をみてください。定年前の社員(以下、「現役社員」)の雇用区分は正社員であり、管理職などの幹部社員になることを期待して長期的な観点から育成し、基幹的業務を担当し、業務ニーズに合わせて機動的に活用する人材活用の方針がとられています。長期の経営成果に貢献することを期待される役割をになうので、長期雇用型の雇用タイプになります。  一方、再雇用者の雇用区分は特定分野の定型業務をになう非正社員であり、「60歳定年+65歳までの再雇用」の雇用制度のもと、雇用される期間が正社員に比べて短いので、「いまある能力をいま活用する」人材活用の基本方針がとられ、短期の経営成果に貢献することが期待されています。そのため、再雇用者に従事してもらう仕事は、これまで蓄積してきた経験やスキルを活かす現役社員時代と同じ分野の仕事の現職継続型が合理的となります。  経営目標の実現を図る企業は、社員を効率的に活用するために複数のタイプに区分して人事管理を行います。そのため、人事管理の仕組みは複数の社員タイプごとに人材活用の基本方針に沿って考えることが必要になります。マンガに登場する再雇用者の働き方や賃金が異なるのは、こうした人材活用の考え方の違いがその背景にあります。正社員の場合、人材活用の考え方のもと会社の指示によって働く場所、働く時間、仕事内容は柔軟に変えられていますが、非正社員の再雇用者の場合、家事・育児、介護などの生活上の都合に配慮しながら仕事に従事してもらうよう、働く場所、働く時間などの働き方は制限されている(つまり、働く制約度が「高い」)のです。マンガに登場する企業のように、再雇用者の人材活用の基本方針に沿って、正社員に適用している残業や転勤を再雇用者には適用しないといった対応が多くの企業でとられているのです。 3 正社員と高齢社員に対する賃金決定の考え方の違い  これまでの説明では、なぜ賃金に違い(給料が下がるのか)がみられるのかの説明が不十分なので、次に賃金の決め方(賃金決定)の違いについて説明していきます。  賃金というと、基本給、賞与、手当などの社員に支払う個別賃金を決める仕組み(賃金制度)を思い浮かべるでしょう。賃金を決める仕組みには、このような賃金制度の制度設計の前に、賃金決定の基本方針を考えておくことが必要です。具体的には「賃金決定の決済方法」と「賃金の決定基準」です。  一般に賃金は社員の会社への貢献度(以下、「貢献度」)の対価であり、貢献度と賃金が同じ(貢献度=賃金)になるように賃金の決め方を考えます。長期雇用型の正社員の場合、長期の経営成果に貢献することが期待されていますので、長期的な視点で「貢献度=賃金」となるように考えます(これを「賃金決定の決済方法」といいます)。しかし、常に「貢献度=賃金」とする必要はありません。多くの企業でとられている年功賃金を例にすると、年功賃金の賃金カーブは年齢とともに右肩上がりの曲線を描きます。この曲線は年齢とともに蓄積された経験やスキルを発揮して貢献度を高めてきた結果(長期の経営成果への貢献)なのです。しかし、どの時点でも常に「貢献度=賃金」という訳ではありません。長期的な定着促進など人事管理的なねらいから、一般に入社後の若手時代の賃金は貢献度よりも低く(賃金<貢献度)設定され、ベテラン期に入ると賃金は貢献度より高く(賃金<貢献度)なって定年時を迎えます。つまり、総合して「貢献度=賃金」となるように設定されています。  このように長期の経営成果に貢献することが期待されているので、賃金の決定基準は「これまでの貢献度」(「過去基準」と呼びます)がとられています。  一方、短期雇用型の再雇用者の場合、短期の経営成果に貢献することが期待されているので、賃金の決定基準は「現在の貢献度」(「いま基準」と呼びます)がとられており、どの時点でも賃金カーブは同じフラットな線となります。そのため、定年時の賃金水準と再雇用時の水準に差がみられるのです。  マンガに登場する企業をはじめ多くの企業で再雇用時の賃金が低くなるのは、マンガにある働く制約度の違いだけではなく、人材活用の考え方に基づいた賃金決定の考え方の違いがあるのです。 4 70歳就業に向けて求められること  今回の改正高齢法の施行を受けて、「60歳定年+65歳再雇用」の雇用制度をとる企業が、70歳までの人事管理の仕組みをどのように考えればよいのでしょうか。  まず高齢社員の活用方針を考え、彼ら(彼女ら)に期待する役割を明確にすることです。先に説明したように賃金決定をはじめとする人事管理の仕組みは人材活用の考え方に沿って形成されています。その際に注意しなければならないことは、解説1で説明しているように今回の改正高齢法は65歳までの雇用確保措置と70歳までの就業確保措置の二つの措置から構成されているので、60代前半層と60代後半層に分けて考えることです。65歳までの雇用確保措置のもと、現在の60代前半層の高齢者雇用はこれまでの福祉的雇用から戦力的活用への転換を図る対応がとられつつあります(総論で詳しく説明しています)。  マンガに登場する五反田さんのように役職を離れ、職責は低くなったものの、経営成果に貢献する戦力として引き続き現役社員と同じ仕事を続ける現職継続型が多くの企業でとられています。それに合わせて、働き方については企業によって働く場所(転勤)、働く時間(残業)の制約はあるものの、勤務形態はフルタイム勤務を基本としています。こうした方針を60代後半層も継続するか否かを検討する必要があります。  年齢が上がることによる高齢者の個人差、特に健康面の個人差が大きくなるので、健康管理や安全管理の対策の重要性が高まりますし、年金の受給開始年齢に到達するので高齢者個人の働くニーズも多様化してきます。こうした状況をふまえつつ高齢社員の戦力的活用にあわせて働きぶり(仕事の成果)を評価して、賃金を反映する仕組みを組み込んだ60代後半層の雇用制度と人事管理の仕組みを整備することが必要になります。  なお、雇用制度については改正高齢法の就業機会確保措置には、従来の継続雇用制度以外にも他社(子会社・関連会社以外)への再就職、会社から独立して起業した者やフリーランスになった者と業務委託契約を結んで仕事に従事してもらう方法、企業が行う社会貢献活動に自社の高齢者を従事させる方法など多様な制度がありますが、現実として継続雇用制度、そのなかでも多くの企業がとっていた再雇用制度をとることが考えられます。  その場合、こうした正社員と高齢社員の賃金の決め方、そしてその背景にある人材活用の考え方の違いなどをていねいに説明することが求められます。  こうした役割の明確化と適正な評価や処遇の整備の事例としてA社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、高齢社員に求める役割を明確にして、継続雇用をしている点です。 A社の事例 定年・継続雇用年齢を引き上げ、65歳定年後も高齢社員の経験をしっかり活用  県内に71カ所の事業所を擁(よう)する小売業A社は、ベテラン社員のノウハウの継承を目的として2016年3月に「60歳定年、65歳までの継続雇用制度(再雇用制度)」の定年年齢と継続雇用の上限年齢をそれぞれ5歳引き上げました。同社は役職定年制を設けていないので、役職者は60歳以降も役職を継続しています。継続雇用については会社の要望と本人の同意が一致した場合、切り替わります。個別対応で継続雇用が実施されているので、継続雇用者に求める役割は明確になっています。給与水準はおおむね60歳時の7〜8割の水準となっています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『65歳超雇用推進事例集2019』を一部修正 図表 雇用区分別にみる人材活用の考え方 現役社員 高齢社員 雇用区分 正社員 再雇用者(非正社員) 期待役割 長期の経営成果への貢献 短期の経営成果への貢献 担当業務 基幹的業務 特定分野の定型業務 人材活用の基本方針 業務ニーズに合わせて機動的に活用する いまある能力をいま活用する 雇用タイプ 長期雇用型 短期雇用型 ※筆者作成 【P20-23】 解説3 社会・時代の変化に対応してもらうためにはどうすればいい? 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 1 管理職を降りてからも第一線で活躍することが求められる  平成期に改正された一連の高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)により、65歳までの働く環境が整備され、「実質65歳定年制」と呼ばれるまでになりました。65歳までの雇用が初めて明示されたのは、1990(平成2)年改正の高齢法でした。その改正高齢法で65歳までの再雇用の努力義務化が明示され、1994年改正の高齢法では60歳以上の定年の義務化とともに65歳までの継続雇用制度が努力義務化されました。そして、2000年改正の高齢法で現在の雇用確保措置を構成する定年廃止、65歳までの定年延長、65歳までの継続雇用制度のいずれかの措置をとることが努力義務化されました。  こうした1990年から2000年代までの継続雇用制度をとる企業の高齢者雇用の基本方針は、全社員に占める60歳以上の社員(以下、「高齢社員」)の割合が少なかったこともあり、仕事の成果を期待しない「福祉的雇用」が主流でした。しかしながら、少子高齢化の進展にともなう高齢社員の割合が拡大するなか、雇用確保措置が義務化された2012年改正の高齢法施行以降、経営に貢献する定年前並みの活躍を期待する戦略的活用への転換が進められつつあります。その結果、高齢社員は継続雇用に切り替わってからも、引き続き第一線で活躍することが求められるようになりました。  継続雇用に切り替わった高齢社員は、定年前と定年後の立場や求められる役割、仕事内容も変わるため、定年前にそのことを理解し、準備をしてもらうため、キャリア研修などを計画的に実施することが求められています。マンガに登場する再雇用者として働いている元営業部長の六甲さんは、定年前に受けたキャリア研修を通して定年後の立場や求められる役割、仕事内容が変わることを理解し、定年前の営業部長時代から60歳定年後に向けた準備をはじめ、一プレイヤーとして活躍するために必要なIT理論の本を読んで、知識・技術の習得に取り組んでいたのです。 2 これからは2回の「定年」を経験することが一般的に  しかしながら、変化が激しく、不確実性の大きい市場環境のもと、今回の高齢法改正により70歳までの就業機会の整備が進められる令和期では、60歳定年を迎えた継続雇用者を65歳までの継続雇用のもとでとられていた、これまでつちかってきた経験やスキルを活かすために現役時代と同じ分野の仕事に配置する活用方法を継続することがむずかしい状況にあります。「10年」という期間は社会をはじめ市場や技術も変化します(マンガに登場するIT企業の業界はとりわけ技術の変化が激しく、市場競争が激しい業界です)。60歳で定年を迎えた後70歳までの就業を考えると、定年前の経験やスキルだけで定年前と同じ分野の仕事を10年間続けることがむずかしく、新たな環境で活躍することが求められるようになり、必要な知識・技術などを習得することがとても重要になります。  さらにキャリア研修についても、これまでの正社員としての定年を迎え継続雇用に切り替わる際に、定年前と定年後の立場や求められる役割、仕事内容も変わることを理解し、準備をしてもらう内容だけでは不十分になりつつあります。マンガに登場する企業のIT産業は、ほかの産業(例えば、製造業など)と比べて比較的新しい産業であるので、60歳定年まで役職を続けることが可能な状況にあります。しかしながら、組織運営上の観点から大企業を中心に管理職を定年まで継続することがむずかしくなり、役職定年制を導入するようになりました。役職定年制のもとでの管理職のキャリアは図表1に示すように定年前の50代に役職を離れ、専門職、専任職あるいは一般社員等の非管理職(以下、「一般社員等」)として定年を迎えるキャリアを歩むことになります(なお、役職定年に到達しても会社の事情で引き続き役職を継続する管理職もいます)。少子高齢化が進むなか、この動きは今後ますます増えていくことが予想されます。  今回、マンガに登場するIT企業のように役職定年制を導入していない企業の社員は、「役職という階段をあがり」、「定年と一緒に役職を離れる」という「のぼるキャリア」意識のもとで職業人生を歩んできています。しかし、役職定年制導入は正社員としてのキャリア形成がこれまでの、定年まで役職を「のぼるキャリア」から定年前に役職を「くだるキャリア」に変わることを意味するので、「のぼるキャリア」意識のもとで職業人生を歩んでいる現役社員(管理職)が役職定年を迎える心構えと意識の切り替えができずに、戸惑いながら一般社員等として定年まで仕事に従事する恐れがあります。  こうした状況に対して、現在、役職定年制を導入している会社のなかには役職定年直前に管理職との個人面談などの話合いの場を設けている会社もあると思われます。その内容は一般社員等としての心構えや意識の切り替えなどではなく、会社から役職定年後の求められる役割や仕事、処遇の変更などの提示・確認といった手続きが中心になっていないでしょうか。そのため役職定年となった元管理職は現実として役職を離れたとしても雇用区分はまだ正社員であるため、一般社員等への意識の切り替えが十分にできずに管理職の意識が残ってしまい、仕事や職責の変化、新しい役割等にうまく適応できず、職場の社員との間にトラブルを引き起こしてしまう恐れがあります。  これからのキャリア研修では、正社員としての定年だけではなく、役職定年の2度の定年があり、それぞれの定年の前と後では立場や求められる役割、仕事内容が変わることを理解し、準備をしておくことがスムーズな継続雇用への接続と活躍につながります。 3 70歳まで戦力として活躍してもらうには  キャリア研修のポイントは大きく三つあります。第一はキャリア研修を通した管理職の意識転換、スキルの棚卸しと更新です。これまでの「のぼるキャリア」のもとでは、定年まで管理職の役割をになうため、管理職として必要なマネジメント能力やリーダーシップなどの習得・向上に専念し、部下に指示を出していれば問題はありませんでした。しかしながら、役職定年後は一般社員等として、定年後は継続雇用者として、上司や現役社員から指示を受けながら、しかも同じ職場で引き続き仕事に従事する場合には、それまで部下であった現役社員と一緒にライン業務に従事することになります。このように役職定年後の管理職を取り巻く状況が大きく変わってしまうことに対して戸惑いや抵抗感を抱いてしまう恐れがあります。  キャリア研修を通して、役職定年後のキャリアの確認、一般社員等としての仕事に取り組むことへの心構えや意識づけ、70歳就業を見据えて継続雇用後も新たな環境で活躍できるようライン業務の遂行に必要な知識や能力などの習得・更新などを行い、役職を降りてから一般社員等や継続雇用者として活躍してもらうための準備を段階的に実施しておくことが求められます。  第二はキャリア研修の実施時期です。役職定年の定年年齢は一般に50代半ばから始まり、キャリアは大きく変わりだします。そのため、50代になってから始めるのではなく、遅くとも会社の第一線で活躍している40代から定期的にキャリア研修を実施することが必要になります。  1回だけのキャリア研修では、役職定年後の一般社員等としての仕事に取り組むことへの心構えや意識づけ、ライン業務の遂行に必要な知識や能力などの習得・更新の準備が不十分ですので、定期的に複数回実施することが求められます。また、今後のキャリアについて考えてもらう機会にもつながります。定年後も継続して働くことが一般的になっている現在、その先にある定年後の働き方や生活を意識してもらう機会になり、定年後の継続雇用へのスムーズな接続にもつながります。  第三は、継続雇用後のキャリアサポートです。継続雇用者に対するフォローアップは現場の管理職任せにしてしまい、会社全体としてサポートする体制を整える企業が少ないです。そのため、現場の管理職の負担が大きくなります。しかも、管理職は高齢社員より年下なのでむずかしくなります。人事部を中心に会社全体として継続雇用者へのサポートを積極的に行うことが求められます。  こうしたキャリア研修の事例としてB社の取組みを紹介します。この事例の特徴は現在、実施しているキャリア研修の対象範囲を継続雇用の雇用上限年齢の70歳まで拡げた点です。 図表1 役職定年制導入による定年までのキャリアの変化 これまでのキャリア 管理職 継続雇用 これからのキャリア 管理職 一般社員等 継続雇用 役職定年 定年 ※筆者作成 B社の事例 70歳まで活躍できるよう65歳以降の継続雇用時もキャリア支援を実施  計測機器製造業のB社は、2020年4月に「キャリアサポートプログラム」を導入しました。それまでのキャリア研修は45歳に行うミドル研修だけでした。今回のプログラムは45歳のほかに、50歳、55歳、60歳に行うようにしたことに加えて、65歳以降の継続雇用においても「キャリアジョブシート」を活用して、所属長のサポートを受けながら前向きにキャリアを築いてもらう支援を行っています。 図表 キャリアサポートプログラムの概要 フェーズ2 45歳 46歳 55歳 自らのキャリアを考えることの重要性を認識する 56歳 60歳 さまざまな選択肢を知り具体的な選択肢を考える 61歳 64歳 再雇用に向けた準備期間具体的な進路を決定 新しい分野への挑戦を支援(場づくり)+学び直し支援(リカレント教育) 社員のマインドを下支えする取組み キャリア面談(年に2回) ミドル研修 50歳時研修 55歳時説明会 55歳時研修 60歳時研修 フェーズ1 65歳 70歳 役割発揮 働きやすさ 勤務日数が選択可能 + やりがい ステップ1 @自己申告書 A目標設定 B考課表 C求める能力の明確化 ステップ2 @ジョブ選択制度  続行or ジョブリストから希望業務を選択 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2021)『エルダー』2021年5月号を一部修正 【P24-27】 解説4 高齢社員に健康・安全に仕事をしてもらうために 福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口善之 1 70歳就業に向けて求められる職場での健康・安全対策  ご存知の通り、2021(令和3)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されました。この法改正の趣旨は、総人口・生産年齢人口が減少するなかで、年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう職場環境の整備を図ることにあると思います。個々の労働者の多様な特性やニーズをふまえ、70歳までの就業機会の確保について、事業主はその選択肢を増やし、整えることが法律面から求められており、その実効性を高めるためには、各職場での健康・安全に対する取組みを充実させていく必要があります。 2 健康面について―メタボリックシンドロームとがん―  まず、健康面について、中高年齢者の状況を概観します。2015(平成27)年度の特定健康診査におけるメタボリックシンドローム該当者の割合※1は、全体において14・4%(男性21・3%、女性6・2%)でした。メタボリックシンドロームの診断基準は、ウエスト周囲径が男性85・5cm、女性90cm以上で、かつ血圧・血糖・脂質の三つのうち二つ以上が基準値から外れている場合に、メタボリックシンドローム該当と診断されます。その年齢別の該当者割合をみますと(図表1)、年齢とともにその割合が高くなる傾向がみて取れます。  メタボリックシンドロームには生活習慣がかかわっていますので、特定保健指導などによって生活習慣の改善を支援していくことになります。日々の健康管理や健康診断の結果をきちんとフォローするためにも、産業医を中心とした産業保健体制を活用しましょう。産業医が専任されていない事業場では地域産業保健センターなどの外部機関を活用することを検討してみてください。また、糖尿病をはじめとする生活習慣病は、治療に要する期間が長い慢性疾患ですので、就労期間が65歳、70歳と延伸することを考えますと、メタボリックシンドロームと診断されてから対策をする(二次予防)だけでなく、若年時からのよりよい生活習慣づくりによってメタボリックシンドロームにならない対策(一次予防)をより充実させていくことも今後ますます重要になってくると考えられます。  次に、わが国における死因の第1位である「がん」の罹患(りかん)率(がんに罹(かか)る人の割合)について、公益財団法人がん研究振興財団の『がんの統計2021』から年齢階級別のデータを見てみましょう(図表2・3・4)。男女ともに、およそ2人に1人が一生のうちにがんと診断されることが分かっています。その診断される時期は部位によって異なりますが、50歳以降から増加していきます。一方で、近年では、がんと診断された場合でもその後の生存率は上昇しており、全がんの5年相対生存率(がんと診断された5年後も生存している割合)は64・1%となっています。就労期間を70歳までと考えますと、がんの早期発見・早期治療の取組みと、治療と仕事を両立させる支援(両立支援)を充実させていくことが大切です。そして、がんの早期発見・早期治療のためにも、総合健診、がん検診、人間ドックなどを積極的に活用することが重要となります。企業におけるがん対策については、「がん対策推進企業アクション(がん対策推進企業等連携事業)」のWebサイト※2を参考にされるとよいと思います。 3 安全面について―職場環境の改善とセルフチェック―  次に安全面についてのポイントをみていきます。労働災害の発生には、加齢にともなう諸機能の低下が影響を与えていると考えられますが、年齢と災害件数の関係について、労働安全衛生総合研究所のまとめによると(図表5)、災害件数(2006〜2010年の合計)のうち、50〜60歳にかけての件数が高くなっています。労働災害の特徴としては、全体として、転倒災害の割合が多いことが知られていますが、こういった転倒災害を防ぐためには、「転びやすさ・滑りやすさへの対策(床の素材を工夫したり、濡れた床面などをなくしたりする取組み)」、「つまずきやすさへの対策(凹凸・段差をなくしたり、通路上の異物を撤去したりする対策)」、「踏み外しへの対策(視界をよくしたり、足元の安全を確保したりする対策)」が基本であり、年齢にかかわらず、すべての人にあてはまる対策なので、だれもが安全に働くことができる職場づくりを目ざすためには確実に実施することが求められます。  加齢にともなう機能低下による要因を考えますと、@バランス能力の低下、A筋力(特に下肢)の低下、B俊敏性の低下、C視認性の低下などがあげられます。諸機能面については、まずセルフチェックを行い、気づきをうながすことが大切です。経験や勘が大切な職場も多いと思いますが、健康診断のように定期的に自身の諸機能を把握する機会をつくりましょう。こういったセルフチェックの取組みと、職場環境の改善を同時平行して実施していくことで、労働災害に対する意識が高まり、労働災害が起きにくい職場づくりにつながっていきます。  高齢労働者の安全と健康確保のための職場環境の改善に向けて役立つツールとして、中央労働災害防止協会から『エイジアクション100』(2021年改訂版)※3が公開されています。これは、各職場でどのような対策を行えばよいのか、課題を洗い出し、具体的な取組みを明示したアクション型チェックリストになっています。例えば、墜落・転倒防止対策の項をみますと(図表6)、「高所で作業させる場合には、その作業開始前に、作業床や手すり、安全帯を安全に取り付ける設備等の安全性の確認を行っている」というチェック項目があり、項目の内容が実施・実現できていれば、結果欄に“○”、実施できていない場合には“×”をつけます。さらに“×”の場合には、改善の優先度を記入する欄も設けられています。このチェックリストは2018年に初版が取りまとめられましたが、2020年に厚生労働省から公表された「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(通称、エイジフレンドリーガイドライン)」に対応する形で2021年に改訂されています。各項目についての解説や図表も充実していますので、PDCAサイクルのもとで定期的・継続的にご活用いただけたら幸いです。 ※1 厚生労働省『特定健康診査・特定保健指導・メタボリックシンドロームの状況(平成27年度)』 ※2 がん対策推進企業アクション(がん対策推進企業等連携事業)Webサイトhttps://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/index.html ※3 中央労働災害防止協会『エイジアクション100(改訂版)』https://www.jisha.or.jp/research/pdf/202103_01.pdf 図表1 特定健康診査・特定保健指導におけるメタボリックシンドローム該当者の割合(平成27年度データ、年齢階級別) 40〜44歳 男性 12.4% 女性 1.9% 全体 8.1% 45〜49歳 男性 16.8% 女性 2.8% 全体 11.0% 50〜54歳 男性 21.0% 女性 4.2% 全体 13.9% 55〜59歳 男性 24.4% 女性 6.0% 全体 16.5% 60〜64歳 男性 27.0% 女性 7.9% 全体 18.0% 65〜69歳 男性 28.6% 女性 9.7% 全体 18.6% 70〜74歳 男性 27.9% 女性 11.8% 全体 19.0% 図表2 性別・年齢階級別 がん罹患リスク 男性 女性 出典:公益財団法人がん研究振興財団『がんの統計2021』 図表3 部位別がん罹患リスク(男性) 胃がん 大腸がん 肺がん 前立腺がん 出典:公益財団法人がん研究振興財団『がんの統計2021』 図表4 部位別がん罹患リスク(女性) 胃がん 大腸がん 肺がん 乳がん 出典:公益財団法人がん研究振興財団『がんの統計2021』 図表5 年齢と労働災害の関係 出典:労働安全衛生総合研究所「年齢別に見た労働災害件数の現状」 https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2015/78-column-1.html 図表6 高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト(『エイジアクション100』より一部抜粋) 番号 チェック項目(100の「エイジアクション」) 結果 優先度 C墜落・転落防止設備の作業前確認 17 高所で作業をさせる場合には、その作業開始前に、作業床や手すり、安全帯を安全に取り付ける設備等の安全性の確認を行っている。 Dはしご・脚立の使用の回避 18 はしごや脚立の使用をできる限り避け、移動式足場や作業台等を使用させている。 Eはしご・脚立の安全使用 19 はしごや脚立を使用させる場合には、ヘルメットを着用させた上で、安全な方法で使用させている。 出典:中央労働災害防止協会『エイジアクション100(改訂版)』 【P28-30】 解説5 70歳雇用の実現へ『70歳雇用推進マニュアル』のご紹介 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 はじめに〜マニュアルの四つの特徴〜  2021(令和3)年4月1日より改正高年齢者雇用安定法(以下、「改正高齢法」)が施行されたことを受けて、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構は、これまで作成した「65歳超雇用推進マニュアル」をリニューアルし、改正高齢法の内容や70歳までの雇用推進に向けて必要な施策、人事制度改定の手順などを掲載した『70歳雇用推進マニュアル』(以下、「本マニュアル」)を作成しました。本マニュアルの特徴は次の四つです。  第一は、改正高齢法の解説です。解説1でも紹介していますが、改正高齢法のポイント、高年齢者就業確保措置を講じる際の留意点、70歳までの就業確保に実際に取り組む際の考え方を解説しています。第二は、「70歳雇用」を進めていくにあたって必要な考え方と施策の解説です。「70歳までの雇用推進」をどのように考えればよいのか、高齢者雇用で重要なポイントとなる主要な施策の賃金・評価制度の整備と安全・健康対策の基本的な考え方について解説しています。第三は、人事制度改定の具体的手順の解説です。現在、企業が導入している人事制度を「70歳までの雇用推進」に対応した人事制度に改定するために、どのような手順で進めればよいのかについて解説しています。第四は、先進企業事例や参考情報の掲載です。70歳までの雇用を進めている先進企業7社の事例概要と高齢者雇用を進めていくための参考情報が掲載されています。  さらに本マニュアルでは、所属企業や担当者によって知りたいことが異なるため、疑問や悩みに応じた対応ページを設けて、知りたい情報を見つけることができるようにしています。そのなかから、高齢者雇用の代表的な悩みとしてあげられる「高齢社員の処遇」を紹介していきたいと思います(なお、本マニュアルでは高齢社員を「60歳以上の定年を迎えた社員」としています)。 2 高齢社員の処遇について (1)制度設計の考え方  高齢社員の処遇について、その中核を構成する賃金・評価制度をどう整備するか、その制度設計の基本的な考え方を紹介していきたいと思います(本マニュアルでは、60歳定年、定年まで正規雇用をとる企業を想定しています)。  高齢社員に戦力として活躍してもらうには、高齢社員に「何を期待しているのか」、そして「働きぶりを適切に評価し賃金を支払う」ことが不可欠です※。各企業に合った最適な賃金・評価制度の整備に向けた流れとして、本マニュアルでは三つの手順を提示しています(図表1)。具体的には、高齢社員に「どのように活躍してもらうのか」を明確(「@活用方針の明確化」)にしたうえで、活用方針に対応した望ましい、A雇用制度(定年延長〔定年廃止〕、継続雇用制度)の検討を行い、B賃金・評価制度の整備を進めます。 (2)活用方針を考える  活用方針の明確化では、高齢社員に期待する「業務の内容・責任の程度」と「働き方」の二つの視点から考えます。具体的には、高齢社員に担当してもらう業務の内容と責任を「変える」のか、つまり60歳以前の正社員時代のそれよりも軽くするのか、あるいは「変えない」(引き続き60歳以前の正社員と同じそれを期待する)のかです。前者は「ムリなく活躍型」の方針、後者は「バリバリ活躍型」の方針です。さらに、働き方は、引き続き「フルタイム勤務」の働き方とするのか、「短日・短時間勤務」の柔軟な働き方とするのかです。  この「業務の内容・責任の程度」と「働き方」の二つの視点をもとに活用方針は、(a)60歳以前と同じ業務の内容・責任を担当し、フルタイム勤務の働き方をとる「バリバリ活躍型」、(b)業務の内容・責任は60歳以前よりも軽くするものの(例えば、身体的負担の大きい業務をなくす、転居の必要な転勤をともなう業務をなくす、役職から外し、社内アドバイザーや教育・研修、若手・中堅社員のサポートをしてもらう など)、働き方はフルタイム勤務とする「ムリなく活躍型(フルタイム)」と、(c)業務の内容・責任は60歳以前よりも軽くし、働き方も短日・短時間勤務とする「ムリなく活躍型(短日・短時間)」の3タイプに整理することができ、企業は三つのタイプから選択することが求められます。  第一のバリバリ活躍型の活用方針をとる場合の雇用制度は、定年延長(もしくは定年廃止)、継続雇用制度、賃金・評価制度は60歳以前と同じ制度をとることが望ましいです(図表2)。第二のムリなく活躍型(フルタイム)と第三のムリなく活躍型(短日・短時間)の活用方針をとる場合の雇用制度は継続雇用制度とし、賃金・評価制度は60歳以前と比べて不合理な待遇差が発生しないように制度を設計することが求められます。  なお、高齢社員の多様性に対応して複数のグループに分けて活躍してもらうことを考える企業は、グループごとに@〜Bの流れで賃金・評価制度を考えていくことが求められます。例えば、最初に代表的な高齢社員グループの賃金・評価制度を@〜Bの流れで考え、次に同じ流れで2番目以降の高齢社員のグループの賃金・評価制度を考えていきます。 3 先進事例の紹介  以上の流れで70歳雇用推進に取り組むのですが、どのようなタイプを採用すればいいのか悩むかと思います。本マニュアルは7事例を取り上げており、以下では2事例の概要を紹介します。 【事例1】バリバリ活躍+ムリなく活躍型(フルタイム型/短日・短時間)〜有限会社八千代運輸倉庫  一つめの事例は運輸、倉庫、自動車整備、燃料販売などの物流事業を展開している八千代運輸倉庫です。同社は2012(平成24)年にそれまでの「60歳定年+65歳までの継続雇用」から「65歳定年+70歳までの継続雇用」に見直しました。70歳雇用推進の代表的な組み合わせである「バリバリ活躍型+ムリなく活躍型(フルタイム/短日・短時間)」です。  賃金・評価制度のポイントは、現役社員と同じ人事評価シートの活用や昇給、役職登用の仕組みを整備し、継続雇用者の人事管理を実質的に現役社員と同じレベルで実施している点です。こうした制度となった背景には、ドライバーという職種の特性に加え、社長の考えとリーダーシップ、つまり経営者の積極的姿勢があります。 【事例2】バリバリ活躍型〜社会福祉法人合掌苑  二つめの事例は社会保険・社会福祉・介護事業を展開している合掌苑です。同法人は2017年にそれまでの「60歳定年+65歳までの継続雇用」から「定年廃止」に見直しました。70歳雇用推進が理想としている「バリバリ活躍型」です。  賃金・評価制度のポイントについて、以前から同法人は上限年齢到達後も慣習として希望者全員を継続雇用していました。また、賃金は定年退職時の水準を維持していたこともあり、定年廃止にともなって賃金原資が増大することもありませんでした。生涯現役で働く環境の下地が整っていたことが、スムーズな定年廃止およびそれにともなう賃金・評価制度の整備につながりました。また、同法人は継続雇用の高齢社員に対して人事評価を行っていませんでしたが、定年廃止によって行うようになりました。仕事の成果が上司に承認されることで、高齢者雇用の課題の一つである「モチベーションの低下」への対処効果が期待されています。 4 おわりに〜年代の違いに留意が必要  こうした高齢社員の活用方針は経営方針・戦略だけではなく、国の年金(受給開始年齢の段階的引き上げ)や高齢者雇用政策(旧高齢法の希望者全員を対象とする継続雇用制度の経過措置移行期間)に影響されることに加えて、年齢を重ねることにともなう高齢者それぞれの事情の多様化にも配慮が必要になります。そこで、60代前半と後半に分けて、それぞれに必要な配慮をふまえながら活用方針を考えていきます。  60代前半について、70歳雇用を考える場合、まずは65歳までの制度がしっかりしていないといけません。60歳の定年を迎えても、引き続き現役社員と同じように活躍したいと考える高齢社員は多くみられることでしょう。そこで、活用方針はバリバリ活躍型が理想ですが、むずかしい場合はムリなく活躍型(フルタイム)から入り、その後、バリバリ活躍型にしてみてはどうでしょうか。  60代後半では、高齢社員の個々の事情が多様化し、同じ働き方を続けることがむずかしくなってきます。そこで、三つのタイプを柔軟に使い分け、バリバリ活躍型でもいわゆる「短時間正社員」として活躍してもらうやり方もあります。また、複数のタイプを用意することで高齢社員の多様性に対応した仕組みをつくることも考えてみてはどうでしょうか。 ※ 改正高齢法は、これまでの社内(自社雇用)に加え、社外(就業支援等措置)で高齢社員に活躍してもらう措置が新たに設けられました。本マニュアルは、自社雇用について考えています 図表1 賃金・評価制度の整備までの流れ 経営の方針・戦略 社外 (継続雇用、創業支援等措置) 社内 (自社雇用) @活用方針の明確化 A雇用制度の検討 B賃金・評価制度の整備 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『70歳雇用推進マニュアル』 図表2 活用方針のタイプ別の人事管理制度の考え方 タイプ 業務の内容と責任の程度 考えられる雇用制度 考えられる賃金・評価制度 (a)バリバリ活躍型 60歳以前と同じ 定年延長(定年廃止)もしくは継続雇用制度 60歳以前と同じ (b)ムリなく活躍型(フルタイム) 60歳以前より軽く 〔例〕 ●身体的負担の大きい業務をなくす ●転居の必要な転勤をともなう業務をなくす ●役職から外し、社内アドバイザーや教育・研修等、若・中年者のサポートをになってもらう 継続雇用制度 60歳以前と比べて不合理な待遇差が発生しないよう、継続雇用のための制度を整備 (c)ムリなく活躍型(短日・短時間) 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『70歳雇用推進マニュアル』 『70歳雇用推進マニュアル』は、当機構ホームページよりダウンロードできます。 トップページ>高齢者雇用の支援>各種資料>70歳雇用推進マニュアル・65歳超雇用推進事例集 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 【P31】 日本史にみる長寿食 FOOD 333 モロヘイヤは女王の美容食、王様の長寿食 食文化史研究家●永山久夫 クレオパトラの美容食  エジプトの女王で絶世の美女と評判の高いクレオパトラは、自分の美しさが敵将をとりこにして、自国を守る最大の武器であることを、だれよりもよく知っていました。そこで、化粧法だけでなく、美容食も心がけて、さらに美しくなろうとする努力を惜しみませんでした。  その歴史的な美容食は、ありがたいことに日本のスーパーでも、簡単に入手できるのです。クレオパトラが、もっと美肌になろうとして食べていたという伝説の野菜こそ、「モロヘイヤ」です。  モロヘイヤは水分の少ない砂漠地帯でも元気に成長する強い生命力があり、エジプトでは歴代の王様が、長寿の秘薬として、5000年も前から独占的につくってきたと伝えられる、生で食べても美味なネバネバ野菜です。 あーうまい「叩きモロヘイヤ」  モロヘイヤのすごい点は、ビタミン類やミネラルなどの体の酸化を防ぐ不老長寿成分がずば抜けて多いこと。  万病のもとである活性酸素から健康を守り、細 胞の酸化、つまり老化を防いで、免疫力を強化す るベータカロテンの含有量が、野菜のなかでは トップクラス。  同じく風邪やガンなどの病気を予防し、ベータカロテンと同じように免疫力を高めるビタミンCもたっぷり。ビタミンCは顔のしわやくすみ、日焼けなどからお肌を守る働きもあり、紫外線の多い地域で生活する人たちにとっては欠かせません。  ビタミンEも多く、こちらは体の若さを維持するうえで役に立ち、長寿効果でよく知られています。認知症の予防効果で、このところ脚光を浴びているビタミンB群の一つである葉酸も含まれています。モロヘイヤは、今から約30年前に日本に入ってきた新顔の野菜ですが、珍しさもあってたちまち人気者になったのは、ネバネバ系の野菜だから。何しろ、日本人は歴史的にみても、とろろ汁や納豆などネバネバ食が大好きなのです。  おすすめの食べ方は「叩きモロヘイヤ」。まず、軽くゆでます。次にまな板にとって、包丁で叩きます。粘りが出たら器にとり、卵黄とカツオ節を混ぜ、醤油味にしてご飯にかけてかっ込み食い。これ以上の美味があるでしょうか。 【P32-36】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 第B回 伸和ピアノ株式会社(千葉県千葉市) 定年制を廃止! だれもが生涯現役を目ざせる職場環境を実現 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります ※ 法定労働時間の8時間を超えないよう、必要に応じて休憩時間を設定 【P37】 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 伸和ピアノ株式会社(千葉県千葉市) 創業1970(昭和45)年 中古ピアノ・管楽器の買取・修理・販売事業  2016(平成28)年に定年制を廃止。現在の最高年齢者は82歳。従業員の生活に合わせて働き続け られる時間有給休暇制度や短時間勤務制度を導入しているほか、高齢従業員にも成果に基づいた評価・処遇制度を適用していることなどが評価され、令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト※では(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞しました。高齢従業員の積極的な採用も行っており、高齢従業員が活き活き働ける職場の創出を通して地域社会に貢献しています。 内田教授に聞く 伸和ピアノ株式会社のココがポイント! 創意工夫で高齢従業員を会社の強みに  伸和ピアノは定年制を廃止しました。人件費負担を考えれば経営に大きな影響を及ぼすことは明らかで、重大な決断です。それでも定年制廃止を決めたのは、それが従業員の生活を安定させ、生きがいや働きがいを高め、彼らの持てる力をもっと引き出せると考えたからです。定年制廃止は従業員への思いや願いを込めた経営者の力強いメッセージです。伸和ピアノはこれを機に、さらに会社の競争力を高めようとさまざまな取組みを行っています。  多様な高齢従業員に対応した工夫が随所に見られます。熟練技能を持つ高齢者にはピアノ修理を任せる一方、中高年になって入社した経験の浅い従業員でもできる仕事も用意されています。それぞれ異なる家庭事情を持つ高齢従業員には、「選択できる始業終業時間」や「30分単位で取得できる有給休暇」を用意していますが、これらは子育て中の従業員にもありがたいものです。また、高齢者にありがちな体力や五感の低下にはLED照明で視力低下を補い、個人用ブース設置により作業中の移動を少なくして体力消耗を防いでいます。労災発生率も一般的に高齢者では高くなりがちですが、同社は研修を充実させてその防止に努めています。  賃金制度も際立っています。同一労働同一賃金を前提に職務特性を反映させた部分や個々人の貢献度が反映される部分を設けたほか、賞与や退職金制度も見直し、高齢期もそれまでと変わらずがんばれる仕組みです。  高齢従業員が長年にわたってつちかわれてきた熟練の技でピアノは立派に生まれ変わり、その豊富な人生経験は若手や障害のある従業員の自立をも助けています。高齢者の強みが活かされているのです。  経営者のリーダーシップのもと、ハンディと見られがちな高齢者雇用を全社的な強みに変える発想と工夫が、伸和ピアノには溢れています。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 【P38-39】 江戸から東京へ [第104回] 「八犬伝」の共同作業 馬琴(ばきん)と嫁のみち 作家 童門冬二 馬琴の失明  江戸時代の大戯作(げさく)者・滝沢(たきざわ)馬琴(ばきん)の代表作は、「南総(なんそう)里見八犬伝」だ。が、間もなく書き終えるという時期に、作者の馬琴は両眼の視力を失ってしまった。さすがに普段強気で口やかましい馬琴もこれには閉口した。いままでも眼が疲れたときは息子の宗伯(そうはく)が口述筆記をしてくれたのだが、すでに死んでしまった。代わりの者を何人か頼んでみたが、気が短くすぐ怒鳴る馬琴にはつきあいきれず、二日と持たない。  「ごめんこうむります。ほかの人に頼んでください」  と云って去ってしまう。馬琴は、  「ああ、わかったよ。代わりはいくらでもいるんだ」  と憎まれ口を叩くが、その代わりもみな逃げ出してしまった。  「お義父(とう)さん、どうしましょう」  死んだ息子の嫁のみちが不安気に訊(き)く。宗伯の子の一男二女を抱えるみちにすれば、生活の資が絶えるのが何よりも心配だ。しかし馬琴にすればそれよりも、書きかけの「八犬伝」のことが心配だ。  「おみち」  見えぬ視線を嫁に向けて馬琴は云う。  「お前が宗伯の代わりをしておくれ。もうほかにはだれもいない」  「でも」  みちはビビる。  「私はかな≠オか書けませんよ。お義父さんの小説はむずかしい漢字が多くて、とてもお役には立てません」  「字は一文字ずつ紙に書いて教えるよ。お前に断られたら、それこそ一家飢死だ」  馬琴もさすがに危機意識を感じた。考えたみちは、しばらくして、  「わかりました。お手伝いします。でもむずかしい字は教えてくださいね」  みちもそろそろ中年にさしかかっているのだ。  しかし、この稿でお伝えした かったのはみちの苦労ではない。もちろん、みちもたいへんだったろうが、それ以上に努力した馬琴の苦労も並大抵ではなかった。 一番苦労したのは馬琴  「すぐとりかかろう」  と、勇んで口述にかかった馬琴はたちまち壁にぶつかった。朗々と頭に浮かんだ文章を読み上げる馬琴のスピードは、自分のペースだ。みちにはとてもついていけない。すぐ筆をおいてポカンとしている。やがて馬琴は気づく。  「みち、何をしている?」  「速すぎてついていけません。字もわかりません」  「いまの文章はむずかしい字なんかひとつもない。そんな簡単な字も知らないのか、ちっ」  と焦立(いらだ)って舌を鳴らす。  「知りませんよ。ですからできませんってお断りしたのです。続けるのなら字を教えてください。お義父さんにイライラされると、こっちも怒りたくなりますよ」  「何もできないくせに口答えだけは一人前だ。わかった、紙と筆をよこせ」  馬琴は逸(はや)る自分を抑えて手探りで見当をつけ、みちが拡(ひろ)げた紙に一字ずつ字を書いた。  「これをずっと続けるのかと思うと、泣きたくなる」  「泣きたいのは私の方ですよ。ハイ、次は?」  うながされて馬琴は続けるが、すぐ最初の失敗をくり返していることに気づき、「紙と筆」となる。この共同作業は馬琴の方が根気が要った。何よりも気の短いかれが自分の短気を抑えるのがたいへんだった。自分との戦いだ。字を手探りで書くのも容易ではない。わずかに救われたのが、みちは一度教えられた字はそのときにマスターし、  「どう書くのですか」  とは二度と訊かなかったことだ。これは大助かりだった。  この共同作業は老人の馬琴にとっていい経験だった。高齢になって視力を失ったかれは、  (今後どうしよう)  と、絶望的になった。しかし「捨てる神あれば拾う神あり」で、身近な所に救いの神がいた。  (罵ののし)りとグチの言葉を聞きながら、口述筆記はやがて軌道に乗った。馬琴の口述に加速度が加わり、みちの筆記もスピードが増した。馬琴の方が、  「おい、みち、少し休もう」  と休みを要求するまでになった。  「休むとそれだけ晩御飯が遅くなりますよ」  「いいよ、そのくらい。しかし、みちは余程文才があるな。でなければわしのいうことを、そんなにスラスラ書けない」  「私じゃありません。グズの私にじっと我慢しながら、口述をしてくださるお義父さんの我慢強さのおかげですよ」  「そう云ってもらえるとありがたい。いや本当にここまでくるのにわしもわし自身と随分戦った。初めはお前を見かぎってやめようかと思った。でも八犬伝≠ヘどうなるか、と思うと、自分の短気をおさえこめた」  「私はそれどころではなく、お義父さんの云う通り書けなければ、明日のお米も買えないと必死でしたよ」  二人は笑い合い、八犬伝≠ヘ間もなく完成した。 【P40-43】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第109回 新潟県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 幅広い年齢層で「小さな社会」を構成 高齢職員の温もりが子どもの情緒を育む 企業プロフィール 学校法人金鵄有明(きんしありあけ)学園(新潟県新潟市) ▲創業 1957(昭和32)年 ▲業種 乳幼児の教育・保育事業 ▲職員数 240人 (うち正規職員数215人) (60歳以上男女内訳) 男性(8人)、女性(18人) (年齢内訳) 60〜64歳 14人(5.8%) 65〜69歳 8人(3.3%) 70歳以上 4人(1.7%) ▲定年・継続雇用制度 定年は65歳。運用により希望者全員を正規職員として上限なく継続雇用。最高年齢者は英語科主任の76歳。  新潟県は日本海に面し、東から南にかけて飯豊(いいで)山地(さんち)や越後山脈、飛騨山脈などの標高2000m級の山々が連なっています。山々に日本海から流れる温かく湿った空気がぶつかることにより大雨や大雪が降ることから、県全域が豪雪地帯となっています。  耕地面積は全国2位(2020〔令和2〕年)です。米の産出額は全国1位、県全体の農業算出額の約6割を占めています(全国平均は2割程度)。関連産業として米菓製造やホームセンターなど、全国的に有名な企業があります。  また、精密機械や金属プレス、刃物や食器などの高度な技術を持つオンリーワン企業も多くあります。  当機構の新潟支部高齢・障害者業務課の平澤茂紀(しげのり)課長は同支部の取組みについて、「企業にとって定年制度などの改正は、資金面を含め多くの検討・判断を行う必要があり、対応は慎重になります。そこで、プランナーらが企業訪問にあたり、まず企業の話をよく聞くことに徹し、どのようなニーズがあるのか情報を得て、提案を行っています。また提案の際は躊躇(ちゅうちょ)せずに行うよう、日ごろよりプランナーらとの認識を共有し、取り組んでいます」と語ります。  当課に所属するプランナーの一人、本間哲也さんは自身のプランナー活動について次のように話します。「どの事業所も何らかの形で65歳まで雇用する仕組みをつくっています。ですが、現在の65歳は若く元気であり、まだまだ戦力として活躍できます。高齢者だからこそ保持する経験とノウハウ、円滑な人間関係を活かし、後進を指導してもらうためにも、職場で高齢者の居心地が悪くならないように雇用延長を就業規則に盛り込むべきだと伝えています」。  今回は、本間哲也プランナーの案内で「学校法人金鵄有明学園」を取材しました。 創立64年、卒園児は1万8000人を超える学校法人  金鵄有明学園は、1957(昭和32)年に創業し、創立64年を迎えた学校法人です。「小さな胸に大きな夢を」の教育意義を掲げて、0歳児から5歳児までの乳幼児保育・教育を行っています。子どもたちが広い視野を持って世界に飛び立てるようにと、創立当初から英語教育を取り入れ、県内で初めて英語教育を行った幼稚園です。  新潟市内に、認定こども園の「あそびの森有明幼稚園」、「あそびの森金鵄幼稚園」、「あそびの森つばさ幼稚園」の3園、新発田(しばた)市に「あそびの森すみよし保育園」を運営するほか、社会福祉法人きんし有明福祉会による「あそびの森きんし保育園」(新潟市)と連携。「幼児保育の基本は遊び」という原点に戻り、保育にあたっています。  卒園児の総数は1万8611人(2021年3月末時点)にのぼり、乳幼児・児童施設の学校法人として長年地域の信頼を得ています。  鶴巻(つるまき)克恕(かつひろ)理事長は、裁判官を経て弁護士として活動し、1987年に初代理事長から学園を受け継ぎました。理事長就任後、教育系大学に学士入学して、幼稚園教諭免許、保育士資格を取得しています。「子どもと一緒にいると気持ちが若くなります。高齢職員もみんな若々しいですよ」とにこやかに話す鶴巻理事長。普段はエプロン姿で園児と触れ合っています。 70歳以上を正職員として継続雇用  同学園は2009(平成21)年から、正職員の定年年齢を65歳と定めました。とはいえ、実態としては65歳を超えても働く意欲があり、健康状態が良好であれば、正職員として上限なく継続雇用しており、実質的な定年は70歳以上となっています。  「26人いる60歳以上の高齢職員のうち、15人が正職員です。保育教諭、調理師、運転手は全員が正職員です。65歳の定年後は再雇用としての雇用ではなく、そのまま昇給がある正職員として勤務していただいています。当学園では、意欲的に働いてもらい、子どもたちにとってよい環境をつくるためにも、できるだけ正職員として勤めていただくよう勧奨しています」(鶴巻理事長)  65歳以降も原則、基本給ならびに手当ての減額はなく、昇給があり、役職も継続されます。なお、現在の最高齢の役職者は76歳の英語科主任です。  数年前には、70歳を目前にしたバスの運転手の職員が健康不安を理由に自ら申し出て退職したそうです。このように、実態として退職は本人の申し出によって決まっています。 高齢職員との触れ合いが子どもの情緒を育む  保育・教育施設は概して若い世代の女性教諭が活躍する職場とみられてきました。同学園においても男女比は1対9で女性が多く、保育・教育は有資格者の若い女性の保育教諭が中心となって担当しています。鶴巻理事長は「60歳以上の職員は全体の10%程度と必ずしも多くありません。しかし、地道に長い年月をかけて年齢に関係なく定年後も雇用を継続してきたことにより、50代の職員も多くなりました。今後も高齢化が進むと考えています。保育室は若い保育教諭が中心ですが、子どもたちはそれ以外の場所で高齢職員に親しみを持って接しています。高齢者が持つおだやかな雰囲気に『肌の温もり』を感じるような体験が子どもの情緒を育てていると実感しています。高齢者と過ごすこと自体が子どもたちにプラスになっているのです」(鶴巻理事長)  本間プランナーは、「同学園では高齢職員を含め、全職員が子どもの成長にたずさわっていると感じます。働く環境づくりにも積極的に取り組んでおられます。例えば年3回実施する研修での能力開発、35歳以上を対象にした人間ドック受診料の補助、有給休暇取得の促進、ていねいな人員の配置換え、短時間勤務の導入など、高齢職員が働きやすい取組みが制度化されています」と話していました。  同プランナーはキャリアコンサルタントの資格を活かした、人事・労務の提案に定評があります。昨今の高齢者雇用について聞くと、「どの事業所、法人におかれても高齢者の活用について意識・理解があると感じており、高齢者活用が浸透してきたように思います」と話していました。  今回は、「あそびの森有明幼稚園」で働く、2人の高齢職員の方にお話を聞きました。 「子どもとの触れ合い」が仕事のやりがい  樋口(ひぐち)雅昭(まさあき)さん(60歳)は、38歳で正職員として同学園に入職。前職は路線バスの運転手で、同学園ではスクールバスの運転手として勤務しています。あそびの森有明幼稚園に通う子どもたちの送迎をするほか、園の用務に従事しています。「切れた蛍光灯の取り替え、壊れて危ない下駄箱を直したり、ペンキを塗ったり、芝の管理をしたりと、さまざまな仕事をします。入職する前は電動工具を持ったこともありませんでしたが、先輩の運転手にいろいろと教わりました」。毎朝子どもたちに会えることが楽しみだという樋口さん。「名前を呼んであいさつしてくれるのが嬉しいですね」と仕事の喜びを話します。  樋口さんの同僚で保育教諭を務めている松田智子さんは、「樋口さんは子どもたちにとても人気があります。よくお手紙をもらっていますし、『結婚したい!』という子もいたほどです。行事でひこぼしさまやサンタクロースに変身するから、ますます人気が出るんです」と、人気ぶりを語ってくれました。  働きぶりについては、「樋口さんは運転手のなかで一番先輩ですが、ちょっとしたお願いごとも心よく引き受けてくれるので、仕事が頼みやすくて助かります」(松田さん)  樋口さんに運転手として気をつけていることを聞くと「とにかく急ブレーキを踏まないように気をつけています。『ご家庭の宝物を乗せている』と思うとやりがいを感じます」と誇らしく語りました。  大平(おおひら)百合子(ゆりこ)さん(69歳)は、長く介護の仕事を務めた後、2016年に64歳でパートタイム職員として入職しました。スクールバスに乗務し、毎朝、毎夕1コース1時間ほどの2コースを担当しています。体調管理のうえでちょうどよい勤務時間ということです。「子どもがケガをしないようにするのが第一ですから、走行中に立ち上がる子どもを座らせます。乗り物酔いをして嘔吐する子がいたら、先生に申し送りをしています」と大平さんは話します。朝一番の園児の様子を保育教諭に伝え、1日で特別なことが起きれば保護者に一報する「バスの先生」として頼れる存在です。「入園時は泣いていた子が、5月ごろには園に慣れて楽しそうにしているのを見るのは嬉しいものです。それに、卒園して小学生になった子がバスを見つけて手を振ってくれるのも嬉しい瞬間です」。  松田さんは大平さんについて「子育てや仕事などの経験に裏打ちされた心の余裕が子どもたちにも伝わるようで、みんな安心して大平先生にくっつきたがります。慣れない新卒の保育教諭がバスに乗務するときには、同乗して声かけしてくれるので、若い先生も安心するようです」と話します。  ときには保護者から思いがけない意見が出ることがありますが、動揺せず対応する姿に松田さん自身も安心感を感じたといいます。「いまは、おじいさん、おばあさんと同居していない家庭も多いので、子どもたちにとっては、樋口さんや大平さんなどの高齢職員の方と一緒に過ごす時間があることが、心の安定につながっていると思います。保護者にとっても経験豊富な方がいることは安心なようです」  鶴巻理事長は、「認定こども園は『小さな社会』ととらえ、異年齢の子どもたち、お母さん、お父さん役の女性・男性の職員、おじいさん、おばあさん役の高齢の職員と、さまざまな人たちが、子どもたちと小さな社会をつくり、子どもたちを支えるとともに、職員同士も生活共同体と考えています。職員は保育教諭の資格の有無にかかわらず、自分たちが子育てを支えているという誇りと自信を持てるよう、互いの尊厳を尊重し、学び合い、伝え合うという初代から受け継いだ大きな方針を今後も進めていきます」と締めくくりました。 (取材・西村玲) 本間哲也 プランナー(73歳) アドバイザー・プランナー歴:17年 [本間プランナーから] 「グローバル社会における取引対象の拡大は、中小企業の経営環境を大きく揺るがせ、どの事業者もゴーイングコンサーン(継続企業の前提)の実現に向けて必死に取り組んでいます。ここで重要なのはやはり『人』だと思います。『人』が礎(いしずえ)であり事業活動の原点でもあります。この観点から多様な人材の活用を提案しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆新潟支部高齢・障害者業務課の平澤課長は、「本間プランナーは今年度で活動歴17年目を迎えるベテランです。自身でマネジメント会社を経営し企業の相談に対応しています。過去に当機構において勤務経験があるため機構の相談・助言業務にも詳しく、実務と経験を兼ね備えたプランナーです」と話します。 ◆当課はJR新潟駅からバスで約10分の場所にあるオフィスビルに入居しています。旧新潟奉行所、旧新潟県庁舎跡に立地しているランドマーク的な建物です。同ビル内には新潟市中央区役所が入居し、周辺には多くの金融機関などの企業や官公庁が集っています。周辺は古くからの町割りや歴史のある建造物が多く残されており、歴史が感じられる町並です。 ◆新潟支部ではプランナー7人、アドバイザー4人で各種支援に取り組んでいます。2020年度は精力的な活動の結果、制度改善提案件数は目標(120件)を大きく上回る355件を達成し、達成率では全国1位(295.8%)となりました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●新潟支部高齢・障害者業務課 住所:新潟県新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 電話:025(226)6011 写真のキャプション 新潟県新潟市 新潟市・新発田市で四つの認定こども園を運営(写真はあそびの森有明幼稚園) 鶴巻克恕理事長 スクールバス運転手の樋口雅昭さん(右)とスクールバスに乗務する大平百合子さん 樋口さん、大平さんの頼もしさを語ってくれた松田智子さん 【P44-47】 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第7回 職場の熱中症災害 1 職場の熱中症災害発生状況  夏を迎えるにあたり、高齢者の労働災害防止対策として、今回は職場の熱中症災害を取り上げます。  夏の熱中症対策は、もう何年も前から声高に叫ばれてきました。これだけ、「水分、塩分、適度な休憩が必要」といわれ続けてきても熱中症災害は減少していません。それどころか、2018(平成30)年は、7月下旬に埼玉県熊谷市でわが国の最高気温41.1℃を記録する未曾有(みぞう)の暑さなどにより、職場の熱中症による休業4日以上死傷者数は1178人と前年比2倍超に急増しました(図表1)。その後も、2019(令和元)年は829人、2020年は959人と高止まりを続けています。  熱中症災害を男女別・年齢階層別にみると、男性の千人率(労働者1000人当たり休業4日以上死傷災害発生割合)は、20代後半の約0.02に対し60代後半は約0.05と約2.5倍となるなど、高齢の男性の発生率が高くなっています(図表2)。 2 熱中症発症メカニズム (1)熱中症とは  熱中症とは、体内の水分不足(脱水)により、@身体にたまった余分な熱を放出できずに体温が上昇することによる主要臓器の機能障害(W低温やけどWのような状態になる)、A血流が悪くなり、身体中に栄養、酸素が供給されないことによる主要臓器の機能障害など、とされています。 (2)熱を放出する身体のメカニズム  熱を放出する身体のメカニズムは、どのようになっているのでしょうか。  W炎天下にいるWW筋肉を使うWことなどにより、体内に熱が生み出され、それにより体温が上昇します。体温が上昇すると、体温調節機能が働き、たまった熱を放出して体温を下げようとします。血液は熱を吸収し、それを皮膚近くの毛細血管まで運び、そこで放出します。効果的に熱を放出するためには汗をかくことです。汗の蒸発により身体から熱を奪います(「気化熱」という)。 (3)熱中症が発症するとき  熱中症が発症するのは、たまった熱をうまく出せなくなるからです。  例えば、炎天下での重労働は、体内に非常に多くの熱が生まれるため、効率よく熱を放出しなければなりません。このため、皮膚近くの毛細血管は拡張し、そこに多くの血液が流れ込むようになります。そうなると、熱を運ぶ血液の量が減少します。一方、大量に汗をかけば、体内の水分量が減少し、血液量の減少につながります。血液はドロドロになり血流スピードも落ち、効率よく熱を放出できなくなります。  このような状態は、体温調節機能の低下につながり、体内に発生する熱の量より放出する熱の量が少なくなると、体温上昇が抑えられなくなり、主要臓器が低温やけどのような状態になってしまいます。これが熱中症です。 3 熱中症災害防止対策 (1)過去の熱中症災害を学ぶ  熱中症災害を防止するためには、単に「水分、塩分、適度な休憩をとる」に留まらず、過去に学ぶことが重要です。  参考になるのは、厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(2015年)です。そこには、2015年、職場の熱中症で亡くなった全29人のデータ分析結果が示されています。一つひとつ見ていきます。 ■WBGT値28℃超で厳戒態勢  WBGT(暑さ指数)とは、熱中症のなりやすさの目安を示したものです。体内への熱の出し入れに与える影響の大きい@気温、A湿度、B日射・輻射(ふくしゃ)熱(照り返し)を取り入れた指標です。気温1に対し、湿度7、日射・輻射熱2の割合で指標化します。湿度の割合が高いのは、湿度が高いと汗が蒸発しにくく、熱の放出能力が減少し、熱中症になりやすくなるからです。  2015年、職場において熱中症で亡くなった29人のうち28人の職場では、WBGT値は未計測でしたが、その周辺ではWBGT値が28℃を超えていました。環境省データではWBGT値が28℃を超えると熱中症が急増し(図表3)、厳戒態勢をとらなければなりません。  WBGT値の測定器は、インターネットなどで手軽に購入できます。それを使って、始業前、職場のWBGT値を測定し、熱中症災害の危険度を確認することが求められます。 ■暑熱順化が必要  亡くなった29人のうち26人の職場は、計画的な熱への順化(暑熱順化)期間が設けられていませんでした。  暑い環境下で作業を始め3〜4日が経過すると、汗をかくのに必要な自律神経の反応が早くなり、体温上昇を抑えることがうまくなります。さらに、3〜4週間経過すると、汗をかく際、無駄な塩分を出さないようになります。しかし、急に暑くなると、これらがうまく働かないため、暑さに徐々に慣らしていく必要があります。  事業者は、週間天気予報などを基に、今後の職場の気温上昇を予測し、作業者を熱に順化させるため、作業時間を短縮する、休憩回数を増やす、休憩場所を充実させるなどの対策を行います。盆休みなどの長期休暇や冷夏の期間が続くと、暑熱順化した身体は元に戻ってしまうことも忘れてはいけません。 ■定期的に水分、塩分をとる  亡くなった29人のうち17人は、定期的に水分、塩分をとっていませんでした。  のどの渇きを訴えにくい高齢者は、のどが渇いていなくてもこまめな水分、塩分補給は必須です。厚生労働省は、非常に過酷な暑さのときは、20〜30分ごとに、カップ1〜2杯程度の水分摂取を推奨しています。これを1日単位にすると、8時間労働で30分ごとにカップ1杯(200cc)として、1日16回、3l超の大量な水分摂取が必要になります。昼食時に食事で約1lの水分が摂取できるといわれていますが、それを除いても、2lもの大量の水分を摂取しなければなりません。 ■健康診断結果により基礎疾患の確認  亡くなった29人のうち半数近くの13人は、糖尿病、心疾患など、熱中症発症に影響を与えるおそれのある基礎疾患を有していました(図表4)が、事業者はそのことを把握していませんでした。  事業者は、作業者の健康診断結果を参考に(本人同意の下)、熱中症災害防止に努める必要があります。 ■休憩させる場合、回復状況を確認  亡くなった29人のうち8人は、いったん、職場で休憩するも容態が急変し、あわてて救急搬送されましたが手遅れでした。これは体温調節力の低下により、熱を放出するメカニズムが働かなくなり、休憩するも効果がなく容態が悪化したものです。  事業者は、熱中症の疑いのある作業者を休憩させる場合、休憩後しばらくして、症状がよくなったか確認しなければなりません。環境省の熱中症応急処置フロー(図表5)の「チェック4」にあるように、症状がよくなったか、必ず確認します。 (2)ファン付き作業服、ウェアラブルデバイスの使用  夏場の作業では、通気性のよい服装の着用が推奨されます。着用すれば、快適に作業でき、作業性の向上にもつながります。図6のようなファン付き作業服も市販されています。  熱中症の初期症状を把握するため、脈拍数、体温などが計測できるウェアラブルデバイス(図7)などのIoT機器の利用が推奨されています。ただ、熱中症の発症を正確につかむためには、深部体温(身体の内部の温度)の計測が必要となるため、現状のIoT機器は、あくまでも初期症状(熱中症の疑いがあるかどうか)を見つけるために活用しましょう。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 職場における熱中症による死傷者数の推移 2011年 死亡者数 18人 死傷者数 422人 2012年 死亡者数 21人 死傷者数 440人 2013年 死亡者数 30人 死傷者数 530人 2014年 死亡者数 12人 死傷者数 423人 2015年 死亡者数 29人 死傷者数 464人 2016年 死亡者数 12人 死傷者数 462人 2017年 死亡者数 14人 死傷者数 544人 2018年 死亡者数 28人 死傷者数 1178人 2019年 死亡者数 25人 死傷者数 829人 2020年 死亡者数 22人 死傷者数 959人 出典:厚生労働省「令和2年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」 図表2 職場における熱中症の年齢別・男女別 千人率(平成30年) 出典:労働者死傷病報告、死亡災害報告及び都道府県労働局からの報告による平成30年中に発生した災害で、休業4日以上及び死亡のもの、総務省統計局「労働力調査」(2018年)を基に筆者作成 図表3 暑さ指数と熱中症患者発生率との関係 熱中症患者発生率(/日/100万人) 東京23区 横浜 名古屋 大阪 福岡 日最高暑さ指数(WBGT) WBGTが28℃を超えると熱中症患者発生率が急増 出典:環境省「熱中症予防情報サイト」 図表4 熱中症発症に影響のある基礎疾患 @糖尿病 A高血圧症 B心疾患 C腎不全 D精神・神経関係の疾患 E広範囲の皮膚疾患など ※筆者作成 図表5 熱中症の対処方法 チェック1 熱中症を疑う症状がありますか? (めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・不快感・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温) はい チェック2 呼びかけに応えますか? いいえ 救急車を呼ぶ 涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす はい 涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす チェック3 水分を自力で摂取できますか? いいえ はい 水分・塩分を補給する チェック4 症状がよくなりましたか? いいえ 医療機関へ はい そのまま安静にして十分に休息をとり、回復したら帰宅しましょう 出典:環境省『熱中症環境保健マニュアル2018』 図6 小型ファンで外気を取り入れることができる作業服 図7 スマートフォンで体調管理ができるウェアラブルデバイス 【P48-51】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第38回 定年後再雇用の労働条件の提示内容、居眠りする労働者への対応 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後再雇用の労働条件の提示内容の留意点について知りたい  定年後に再雇用する従業員の労働条件とは、どのような条件であれば提案することが許容されるのでしょうか。気をつけるべきポイントはどのような点でしょうか。 A  一般的には、合理的な裁量があるとされていますが、業務内容の大幅な変更を行う場合には、本人の同意を得るべきです。なお、変更の程度が大きく、従前の雇用との連続性が維持できていない場合には、不法行為が成立し、損害賠償責任を負うこともあります。 1 定年後再雇用時の労働条件について  定年後再雇用における、労働条件の提示に関して、賃金額が主たる要素にはなると思いますが、それ以外の要素や過去の裁判例などもふまえて、提示の際に留意すべき点をお伝えしようと思います。  まず、前提として、定年後に継続雇用する制度を導入し、再雇用を行う場合、厚生労働省は、合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、「高年齢者等の雇用等の安定等に関する法律」(以下、「高年法」)の違反にはならないとの見解を公表していますが、具体的にはどのような場合に、この裁量を逸脱したと評価されるのでしょうか。 2 再雇用時の業務内容の変更に関する裁判例について  定年年齢を満60歳と定める企業において、定年を迎える従業員に対し、60歳から61歳までの職務として、それまで従事してきた業務内容とは異なる業務を提示したことが問題となった事案があります(名古屋高裁平成28年9月28日判決)。  当該裁判例では、定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があることを前提としつつ、「提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準」である場合や、「社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示する」といった場合には、実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないものとして、高年法の趣旨に明らかに反するものという判断基準を示しました。  給与水準に関しては、一定程度維持されていたことから、違法とまでは評価されませんでしたが、提示された業務内容は、「シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃(シュレッダー作業は除く)、再生紙管理、業務用車掃除、清掃(フロアー内窓際棚、ロッカー等)、その他…会社や上司の指示する業務」というものであり、元々従事していた事務職とは大きく異なる内容であり、当該従業員は、不満を露わにしていました。  そこで、裁判所は、「高年法の趣旨からすると…(中略)…60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもない」としつつも、「両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべき」と判断しました。  結論としても、「従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど、清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難い」ことなどを理由に、不法行為と評価されました。  したがって、提示内容が合理的な裁量を逸脱していた(高年法の趣旨に反していた)ことから、違法な不法行為と評価された結果、1年間の継続雇用がなされていたのであれば得られたであろう年収相当額が損害として認められました。 3 再雇用時の賃金減額と不法行為について  前号では、賃金減額と同一労働同一賃金に関して論じましたが、過去には、提示内容の不合理さから、不法行為と判断された事例もあります(福岡高裁平成29年9月7日判決)。  フルタイムでの再雇用を希望していた従業員に対して、会社から再雇用時に提案された内容は、短時間労働者としたうえで、時給を定年退職前よりも減額するという内容で、賃金の水準が定年退職前の25パーセント相当額にまで減少するという内容でした。  この裁判例では、継続雇用制度の趣旨と裁量の範囲について、「定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当」としたうえで、さらに「有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されない」という前提を示しました。  そして、「月収ベースで比較すると、本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1カ月の就労日数を16日とした場合)となり、定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で、本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない」と判断し、合理的な裁量の範囲とはいえないと判断されています。  なお、会社からは、労働者の兼業が可能であることから、兼業により従業員は収入を増加させることができたと主張し、賃金減額の合理性を示そうとしましたが、「労働者の希望がないのに兼業可能を理由に勤務日・勤務時間を減らし、その結果賃金収入を減少させることは不当というべき」として、兼業可能であることを理由とした合理性の確保に対しても否定的な見解を示しています。  慰謝料の額は100万円と判断されていますが、慰謝料額が抑えられた背景には、店舗数の減少、過剰な人員の確保による業務負荷の軽減が見込まれることなどの一定の理由があったことが考慮された結果であり、そのような事情すらなかった場合には慰謝料が高額化する可能性もあるでしょう。 Q2 就業時間中に居眠りする従業員がおり困っています  高齢社員を採用しましたが、就業時間中の居眠りがあるとの苦情が周囲の従業員から寄せられている者がいます。とはいえ、居眠りの具体的な時間を把握するために監視するわけにもいかず、どのような対応をとることができるのでしょうか。居眠りの時間が特定できれば、賃金の支払いを行う必要はないのでしょうか。 A  居眠りを行うことは労務提供がなされていないことになることから、賃金の控除や懲戒処分の対象となりえます。ただし、賃金の控除については時間数の特定が必要であり、現実的には実施しがたいことが多いでしょう。 1 職務専念義務について  労働者は、使用者に対して「債務の本旨に従った」(民法第493条)労務を提供する義務を負担しており、このことは「職務専念義務」または「誠実労働義務」などと呼ばれています。  使用者は、労働者からの債務の本旨に従った労務提供を受けた対価として、賃金の支払義務が生じます。したがって、労働者が、「債務の本旨に従った」労務提供を行っていない場合には、使用者に、賃金支払義務が生じることはないと考えられます。  「債務の本旨」については、個別の労働契約の内容や実際に従事する業務の内容にしたがって判断されるものと考えられていますので、その具体的な中身は、実際に従事してもらう業務内容に応じて異なります。  例えば、ホテルの従業員に関して、「リボン闘争」と呼ばれる、労働組合の要求を貫徹するためのメッセージを記載したリボンを着用して執務する行為について、顧客に見える位置に職務と関係性の低いメッセージを記載しているリボンを着用することが、債務の本旨に従った労務の提供とは認められず、使用者による賃金の支払い拒否が正当化された事例もあります(大成観光事件、最高裁昭和57年4月13日判決)。一方で、深夜の警備業などで仮眠をとることがあらかじめ想定されつつも、即時対応義務を課されているような場合には、仮眠時間も含めて労働時間として評価されることになります。判例では、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである」と評価したうえで、仮眠室における待機と警報や電話等に対して、ただちに相当の対応をすることが義務付けられていることを理由に、労働時間に該当すると判断したものがあります(最高裁平成14年2月28日判決、大星ビル管理事件)。 2 労働時間中の居眠りについて  素直に理解すれば、一般的には、労働時間中については、休憩時間を除き、労務提供を行う義務を労働者が負担しており、当然ながら居眠りによって労務提供が途絶えてしまえば、債務の本旨に従った労務提供があるとはいえないでしょう。  しかしながら、そもそもの労働契約において定められた業務については、業務の効率が落ちておらず、指示された内容が忠実に実施されており、特段の業務支障が出ていないような特殊な場合(先ほどあげた深夜の警備業務で即時応答が実現できている場合など)には、債務の本旨に従った労務の提供が維持されていると評価される可能性がまったくないわけではありません。  そのほかの留意事項としては、債務の本旨に従った労務提供が実現できていない原因が、使用者の安全配慮義務違反などが原因であり、使用者側の責に帰すべき事由が認められてしまうと、労務提供が十分に行えない原因が労働者にはないため、使用者が賃金の支払義務を免れることにはなりません。例えば、労働時間の管理が十分に行われておらず、連日深夜におよぶ残業が継続している状況において、十分な休息や休憩を取らせることなく、労働時間中に居眠りが生じたとしても、これを労働者の責任として、賃金を控除することは許されません。むしろ、この状況を放置することは、会社や役員の損害賠償責任を生じさせかねない状況であることから、是正すべきは使用者側の労働環境ということになります。  したがって、居眠りをしているとしても、一律に賃金控除が可能であるとはかぎらず、ケースバイケースで判断する必要性はあります。賃金控除を行う前提として、使用者の責に帰すべき事由と評価されるような状況にないか、または、労働契約の内容として居眠りが生じたとしても業務効率に変化がないような特殊な事情がないかについては、確認しておく必要があると考えられます。 3 具体的な賃金控除の方法について  現実に居眠り時間を賃金から控除するためには、労働時間のうち、居眠りをしている時間を具体的に把握する必要があります。また、当該居眠り時間が休憩時間中ではないことも明確にしておく必要があります。そのため、賃金控除を実際に行おうとする場合には、1カ月の業務中に何分間居眠りしていたのかを把握しておかなければならないということになります。  しかしながら、労働時間中の居眠り時間を把握するために監視するわけにもいかず(監視のために1名を割けば、居眠り以上に業務効率が下がってしまいかねません)、現実的には居眠りの時間数を把握することには困難がともないます。居眠りしている事実自体は把握していても、どれだけの時間居眠りしていたかについては把握していないことが通常でしょう。  また、居眠り時間を把握できたとしてもせいぜい1カ月に数分程度にとどまるようであれば、たとえ賃金控除を行ったとしても反省をうながすほどに大きな金額になるとは考えがたく、居眠りをしている従業員に対する制裁としては不十分になるおそれがあります。 4 居眠り時間に対するそのほかの制裁について  賃金控除のみでは不十分な制裁となる場合には、懲戒処分や普通解雇を実行することも視野に入れる必要があると考えられます。  過去の裁判例では、居眠りや勤務態度が不良であったこと、注意指導に対して改善が見られなかったことなどを理由に行われた普通解雇について、有効と判断した事例があります(東京地裁平成24年2月27日判決)。  同裁判例では、居眠りの証拠関係についても争われていますが、上司からの居眠りに対する注意のメール(「以前からの会議中の居眠りに加えて最近はデスクでの居眠りを見かけるので、健康管理に留意されたい」といった内容)が記録として残っていたことが重視されています。  このような注意喚起は、使用者の責に帰すべき事由ではなく、労働者の健康管理上の課題があったこと(私生活において睡眠時間の不足や生活リズムの乱れなど)がうかがわれることを示しており、賃金控除を実施するにあたっても重要であるうえ、懲戒処分の根拠としても機能しています。  このようなメールにかぎらず、居眠りに関する記録(例えば、周囲の従業員からの申告状況、健康診断や健康管理に関する面談などから把握できた内容など)を残しておくことは、懲戒処分の実行にあたっても重要といえるでしょう。  そのほか、居眠りが頻回に行われていることは、それが使用者の責に帰すべき事由によるものでないかぎり、人事考課上の不利益な評価事由とすることも可能と考えられます。 【P52-53】 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進んでいます。一方で、60歳や65歳を一区切りとし、社会貢献、あるいは自身の趣味や特技を活かした仕事に転身を考える高齢者は少なくありません。そこで本企画では、高齢者に就労の場を提供しているNPO法人を取材し、企業への雇用≠ノこだわらない高齢者の働き方を紹介します。 第2回 NPO法人カローレ(埼玉県鶴ヶ島市) 子どもたちや保護者に向けた事業を展開し地域の高齢者がにない手として活躍  「NPO法人カローレ」(埼玉県鶴ヶ島市)は、学童保育事業をはじめ、地域のニーズに応えるさまざまな子育て支援事業を手がけている。「カローレ」は、イタリア語で「ぬくもり」を意味する。  同法人の浅見(あさみ)要(かなめ)理事長は、「安全・安心の切れ目のない子育て支援を目ざして、地域の0歳から18歳未満の子どもたちとその保護者に向けた幅広い子育て支援事業を展開する事業型NPO法人です」とカローレを語る。  現在、学童保育事業(13施設)、児童館事業(3施設)、保育園事業(2施設)、つどいの広場事業、学習支援事業、送迎支援事業、子ども食堂事業、学生食堂事業、相談支援事業(障害児・障害者)などを展開している。  職員数は、2021(令和3)年4月1日現在で161人。60歳以上の職員は46人で、うち15人は70歳以上である。多くの高齢者がそれぞれの経験を活かして活躍しており、高齢者が長く安心して働くことができる雇用制度や職場づくりに取り組んでいることが評価され、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞している(本誌2018年11月号掲載)。  定年は70歳。定年後は、本人が希望し、健康・体力に問題がなく、意欲があり無断欠勤がないことを条件に年齢の上限なく再雇用している。現在の最高年齢者は78歳。できるだけ長く働けるようにライフスタイルにあわせて、勤務日数や勤務時間、職務の変更に対応するなど柔軟な働き方が実現できる職場づくりを行っている。 地域の高校に「カローレ食堂」を開店  本取材では、2020年6月に埼玉県立鶴ヶ島清風(せいふう)高等学校内に開店した「カローレ食堂」を訪ねた。同高校から声がかかり始めたもので、「もともと学食があったのですが、5年ほど前に閉鎖されて空き店舗状態でした。当法人と同じ鶴ヶ島市にある高校ですし、生徒に温かい昼食を提供したいという思いから、地域・社会貢献として開店しました。同校生徒への食事の提供に加え、埼玉県教育委員会の許可を得て、子ども食堂の事業と連携し、子ども食堂の食事づくりもできることになりました」(浅見理事長)。  コロナ禍のため、子ども食堂は現在月1回テイクアウトのみで実施しており、そのお弁当をカローレ食堂でつくっている。カローレ食堂だけの運営では採算的に厳しいため、こうして二つの事業を組み合わせることで継続可能な事業形態を考えたのである。  これまでにカローレでは、コミュニティ・レストラン(現在休止中)や子ども食堂を展開しており、カローレ食堂にはこれらを経験している職員と栄養士の資格を持つ職員らが集結。スタッフは9人で全員女性、60代と70代である。  カローレ食堂の営業は、月曜〜金曜日(学校休業日を除く)の11時30分〜13時30分。スタッフは、9時から16時まで勤務し、食材の仕入れから調理、提供、片づけまで、1日3〜4人で担当する。9人で交替しながら、1人週4日ほどの勤務となっている。 「おいしい」のひと言がやりがいに  カローレ食堂を訪ねると、まずメニューの多さに驚いた。カレーライス、焼きそばといった定番に加え、季節感や栄養バランスを考えた日替わりのカローレ定食、カローレ丼、さらに、ラーメン店の協力を得てつくり方を学んだ「家系ラーメン」まである。唐揚げ、あげパン、フライドポテトなどのサイドメニューも充実している。  カローレの浅見喜代子事務局長は、「育ち盛りの生徒たちに、おいしくて温かい栄養のある食事をお腹いっぱい食べてほしい、そんな心意気をスタッフから感じています」と9人を誇る。  その中心である川上和江さん(73歳)は、受付業務をしていた病院を定年まで勤めた後、好きだった料理の腕に磨きをかけ、公民館などで料理教室の講師として活躍。そうしたなかでカローレと出会い、現在、カローレ食堂と子ども食堂の運営を担当。テキパキと何品も調理したり、カウンターで素早く提供したりしている。  「『おいしい』といっていただけることが何よりもやりがいになっています。ここで働いているみんなが同じ気持ちだと思います。料理をすることが好きなので、こうした場所でそれが活かせてうれしいですし、70歳を過ぎて働けることに感謝しています」と満面の笑みで話す。地域では民生委員も務めており、「私より年上の方が、私を頼りにしてくださいます。ですから、まず自分自身が元気でいよう、そんな気持ちで毎日を過ごしています」と話してくれた。  カローレ食堂は、生徒や教職員から「とてもおいしい」とまたたく間に人気食堂になった。同校の生徒と一緒にメニューづくりをしたり、カローレの栄養士が授業に協力したりという交流も生まれている。  浅見理事長は、「カローレにとっては地域貢献となり、スタッフはやりがいを感じて働いていますし、よい事業になっています。今後も学校と協力して食育活動や、NPOだからできる地域と連携した活動も行えるよう事業を広げていきたい」と語った。カローレの事業にたずさわり、経験や得意分野を活かして地域で活躍する高齢者はさらに増えていくだろう。 写真のキャプション NPO法人カローレの浅見要理事長(左)、浅見喜代子事務局長 カローレ食堂のリーダーとして活躍する川上和江さん 【P54-55】 いまさら聞けない 人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第14回 「目標管理制度」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「目標管理制度」について取り上げます。目標管理制度は約8割の企業が導入しているといわれ(「人事労務諸制度の実施状況」一般財団法人労務行政研究所 平成30年)、すでに定着している制度といえます。本稿では用語の確認から、運用上の課題やポイントなどについて解説していきます。 目標管理とPDCA  目標管理制度とは、目標を設定し、その達成に向けて実行や進捗を管理していく「マネジメント手法」のことです。アメリカの経営学者であるピーター・F・ドラッカーが1950年代に著書『現代の経営』で提唱したのが始まりといわれ、半世紀以上の長い歴史のある手法といえます。原文ではManagement by objectivesとあるため、日本でも略して「MBO」と呼ぶこともあります。日本に広まったのは1990年代といわれ、労務行政研究所の調査でも企業への導入率は1991(平成3)年には約30%だったのが、2001年には約60%へと急増しています。バブル経済崩壊の時期と重なっており、人件費の抑制を図るために硬直化した人事評価や給与・賞与にメリハリをつけるために「成果」という評価軸を取り入れ、成果を測定するためのツールとして目標管理制度が取り入れられたという背景があります(図表)。  このように目標管理制度は評価制度と密接に関連していますが、本来はマネジメントのための手法です。企業の場合は業績向上を目的に導入され、継続的な業務改善を進める「PDCA」サイクルに連動させる運用が一般的です。 PLAN(計画):組織の目標を達成するために、社員一人ひとりがになう役割や目標を設定します。 DO(実行):設定した目標の達成に向けて実行に移します。 CHECK(確認):計画通りに進んだか、目標を達成したかを確認します。 ACTION(検証):計画や実行での課題や改善点を洗い出し、次の計画に反映します。  計画から検証までのサイクルは、企業の事業年度開始から決算期までの期間に合わせて1年または半年で管理している企業が多くみられます。 目標管理の運用はむずかしい  長い年月を経て、多くの企業で運用されている目標管理制度ですが、課題があるのも事実です。ここからは筆者がコンサルティングの現場で聞くことの多い課題と改善のポイントについてみていきたいと思います。 課題@:何を目標に立てればよいかわからない  企業や所属組織の目標や一人ひとりの役割が明確でないことに起因しています。この場合は、所属組織の目標を社員が見て何をすればよいかイメージできるレベルにまで具体化し、上司が組織目標の達成に向けて必要な役割や成果の分担を行い、部下一人ひとりにしっかり伝えることが改善につながります。 課題A:社員が立てる目標のレベルが低い  企業側は業績向上のために高い目標を掲げさせようとしている一方で、人事評価に活用している点にどうしても矛盾が生じます。例えば目標の達成度を賞与支給額に直接反映するなど明確にしすぎると、達成しやすい目標を立てようという心理的なバイアスが社員にかかるのは仕方のないことです。この場合は、結果だけでなく取組み内容も含めて評価し、参考としての反映とするなど達成度の評価結果への反映度を薄めることが改善につながります。 課題B:何年も運用しているが形骸化している  二つの要因が考えられます。一つ目は現場で使っているマネジメントツールと評価に反映させている目標管理制度が分離しているケースです。この場合は、現場のツールの方が日々のマネジメント上で重要となりますので、ここからわかる取組み内容や目標の達成度を評価結果に反映できるように人事評価制度を見直すことが必要です。二つ目は計画を一生懸命立てるものの進捗の確認を行っていない、改善検証をして次の目標につなげることをしていないケースです。この場合は、上司が部下とのコミュニケーションを増やし、目標の達成を支援するように進捗確認やアドバイスをくり返していくことがポイントとなります。 高齢者雇用と目標管理制度  運用面の課題が多い目標管理制度ではありますが、高齢者雇用との親和性は高いと考えられます。特に定年後の継続再雇用における活躍を引き出すためには、本人の働き方やスキル、経験が異なるなかで、雇用契約期間中にどのような役割や成果を期待するかを個別に明確に伝えることが重要です。ここが明確でないと、周囲の期待と本人の行動にギャップが生じたり貢献意欲の低下につながったりすることもあります。また、本人の活かせそうな得意分野ややりたいことを目標に取り入れ、契約更改時の給与改定における参考とすることでモチベーションの向上にもつなげることができます。今後、高齢者の就業人口が多くなるのに際して従来通りの働きができるのかなど懸念の声も聞かれますが、従来通りだけでなく個別の役割を、企業と本人でしっかりコミュニケーションし、ていねいに設定していくという取組みが解決策の一つとなると筆者は考えています。 ☆☆  今回は「目標管理制度」について解説しました。次回は「ジョブカード」について取り上げる予定です。 図表 目標管理の評価シート展開例 期初に記入 期末に記入 目標項目(何をどうする) 達成基準(どのレベルまで) 達成方策 (いつまでに) (どのように) 達成状況 達成基準に対する結果 達成方策に対する取組み内容 本人評価 一次評価 目標@ 売上予算の達成 **円 @×月まで A月1回 B×月まで CB終了後 @売上げを向上させるための施策を企画するための情報収集をする。 ・同業他店舗をめぐり、陳列や販売促進ツール、接客などについて調査する。 ・販売業について取り上げられている雑誌や本・記事の取組み事例を調べる。 A自社商品に関する正しい知識やアピールポイントを共有するための勉強会を店舗メンバーとともに実施する。 B… C… 【売上高実績】 **円(達成率102%) 【達成方策について】 @A社・B社・C社の店舗を回り特徴やよいところ、悪いところをまとめた。雑誌や本・記事の取組み事例については、Y社の事例が掲載されており役立ちそうだったのでポイントを整理した。 A@で整理した内容も含めて、月に1回勉強会を実施し、意見交換した。また、勉強会で共有した接客に関する改善については、実行できていなければ適宜メンバーにフィードバックした。 B… C… 3 3 PLAN ・目標 ・目ざすレベル ・達成に向けたプロセス CHECK・ACTION ・取組みの振り返り ・改善事項 評価結果 出典:筆者作成 【P56-57】 BOOKS 制度をめぐる誤解を解き、望ましい人事管理のあり方を示す 同一労働同一賃金を活かす人事管理 今野(いまの)浩一郎(こういちろう)著/日本経済新聞出版/2750円  本誌2020(令和2)年7月号から12月号★まで「高齢社員の賃金戦略」を寄稿していただいた今野浩一郎氏(本誌編集アドバイザー)の新著。「働き方改革」の目玉のひとつであり、2020年10月に相次いで出された最高裁判決が注目されたこともあり、企業の人事労務担当者にとって避けて通ることができない課題とされる「同一労働同一賃金」を取り上げている。  著者は、同一労働同一賃金の法的要請が企業の人事管理に大きな影響を及ぼすとしつつ、この問題が「人事管理のあり方を決めるものではないし決めるべきものでもない」と指摘。本書のねらいは、同一労働同一賃金を活かした企業の人事管理のあり方だとしている。本書全体は8章から構成されており、「法規制の捉え方」、「制約社員と人事管理」、「総合職の制約社員化と人事管理」、「同一労働同一賃金に応える賃金」など、多様な視点からこの問題が読み解かれていることがわかるだろう。  同一労働同一賃金をめぐる誤解を解き、企業にとっても、働く人にとっても望ましい人事管理を構築してもらいたい、という著者の思いが込められた好著であり、高齢者雇用に関心を持つ本誌読者にも一読をおすすめしたい。 発想の転換により、新しい両立支援の考え方を示す シリーズ ダイバーシティ経営 仕事と介護の両立 佐藤博樹(ひろき)、武石(たけいし)恵美子責任編集 池田心豪(しんごう)著/中央経済社/2750円  本誌2020(令和2)年12月号、2021年2月号、4月号★のこのコーナーで紹介した「シリーズ ダイバーシティ経営」の第4弾は、ダイバーシティを進めるうえで喫緊の課題とされる仕事と介護の両立支援を取り上げている。  高齢化の進展にともない、要介護・要支援認定者数が増加し、介護離職をする人も増加傾向にある。そうしたなか、仕事と介護の両立支援を自社の経営課題として取り組む企業が増えている。本書は、ダイバーシティ経営の視点から柔軟な発想でこの課題を掘り下げ、新しい両立支援の考え方を説いた一冊。  「育児・介護休業法」は、育児と介護を併記しているが、本書は、「介護は育児とはかなり性質が異なる」として、その違い、介護の特徴や実態をとらえ、「多様性」を鍵にして、通常勤務で両立するための支援、介護の長期化に対応する実行性かつ柔軟性に富んだ支援のあり方などを提示。さらに、現役世代の人口減少にともない、1人で介護をになう単身介護者が増えていく今後を見すえ、多様化する両立支援のニーズへの対応として、働きながら介護することを支援するだけでなく、介護をしながら働くことを支援する「就業支援」の考え方も示している。 社会経験を持つ人材の組織再適応を進めるための取組みを提案 中途採用人材を活かすマネジメント 転職者の組織再適応を促進するために 尾形(おがた)真実哉(まみや)著/生産性出版/2200円  少子化の進展にともない、多くの企業で新規学卒者の採用が困難になりつつあることに加えて、職業人生の長期化などによって終身雇用制の形骸化が進み、中途採用者の果たす役割が相対的に重要になってきている。中途採用者をうまく組織に再適応させ、採用時に期待した通りのパフォーマンスを発揮してもらうことが、今後ますます大きな課題になるだろう。  本書は、中途採用人材を受け入れ、定着・戦力化するための取組みを明らかにするためにまとめられた。若年就業者の組織への適応問題を研究していた著者が、その調査の過程で中途採用者の再適応問題に目を向け、中途採用者に対する人事制度が整備されていない企業が珍しくない現状をふまえ、新たに調査と研究に取り組み、その成果がベースとなっている。  社会経験がある人材でも、高いパフォーマンスを発揮してもらうためには、人的ネットワークの構築や中途意識の払拭(ふっしょく)など、組織に再適応してもらうための機会の提供は欠かせないという。中途採用者の戦力化に悩みを抱えている企業のみならず、高齢者雇用の質的な充実に本腰を入れて取り組みたい企業の人事労務担当者にも参考になると思われる。  効果的なメッセージで心をつかみ、健康増進につなげるポイントを解説 実践 行動変容のためのヘルスコミュニケーション 人を動かす10原則 奥原剛(つよし)著/大修館書店/2200円  不健康な生活習慣を改めてもらうためには、社員にどのように働きかければよいのか。医療分野におけるコミュニケーション研究に取り組む著者が、人の心をつかんで動かすメッセージや図表のつくり方を指南する実用書をまとめた。  まず基礎編(第1章)で、人間の行動や習慣を容易に変えるための「興味」、「理解」、「変化」、「記憶」というプロセスを紹介。つづく原則編(第2章)では、「視覚的・具体的に伝える」、「情報量を絞る」、「メリット・デメリットで感情に訴える」など、興味をきっかけに行動変容につなげるポイント10点を列挙している。活用編(第3章)には、これらの原則を押さえて健康保険組合が「健保だより」などの内容を刷新し、社員への訴求効果を高めた事例を写真つきで示している。理解を深めるチェックシートや簡易クイズをはじめ、ユーモアあふれる文章表現が随所に盛り込まれ、最後まで飽きずに読むことができる。  高齢期まで活き活きと働くためには、若年期から社員への啓発や周知に取り組むことが肝要だ。医療機関に加えて、人事労務担当者を含む事業場内の産業保健関係者らにも有益な一冊といえる。 生涯現役で日々を楽しく、自分らしく生きるための秘訣が満載 自分をもっと大切に 91歳現役産婦人科医が「医師として」「人生の先輩として」伝えたいこと 堀口雅子著/あさ出版/1430円  著者の堀口雅子氏は、1930(昭和5)年生まれ。現在91歳の現役産婦人科医である。いまでも「月2回ほど」の診療を続けており、原稿などの執筆にもたずさわる。「産婦人科医として仕事の面でお役に立てる機会をいただけるのですから、こんなにうれしいことはありません」と生涯現役の喜びを本書につづっている。  医学部を卒業後、女性で初めて正規医員として東京大学医学部産科婦人科に入局し、虎の門病院などを経て、現在もクリニックに勤める堀口氏。「女だから」という理由で、何度も自分が望む道がはばまれそうになりながらも、「前例がないなら、開拓していく。私の人生はその連続だったように思います」と半生を振り返る。  結婚して子育てをしながら仕事を継続し、医学の知識と自らの体験をもとに、思春期特有の悩みや、妊娠や出産への不安、さらには更年期の苦しみなどを抱える女性たちに寄り添い、いまもできることを続けている。本書は、産婦人科医として、また、働く女性の先輩として、身体や心に不調を抱える現代の女性たちに伝えたいことをまとめたエッセイ集。生涯現役を実践する著者のたくましく、しなやかな生き方、考え方から多くを学べる一冊である。 ★ 本誌バックナンバーは、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー バックナンバー 検索 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 生涯現役促進地域連携事業 実施団体候補を決定  厚生労働省は、「生涯現役促進地域連携事業(2021(令和3)年度開始分)」の実施団体候補として、「地域協働コース」10団体の採択を決定した。  同事業は、地方自治体が中心となって労使関係者や金融機関等と連携する「協議会」などが提案するもの。高年齢者に対する雇用創出や情報提供などといった高年齢者の雇用に寄与する事業構想を募集し、地域の特性などをふまえた創意工夫のある事業構想を選定し、当該事業を提案した協議会などに委託して行う。「連携推進コース」と「地域協働コース」があり、2021年度開始分は、「地域協働コース」を先行して募集した。委託費は、「連携推進コース」は1カ所あたり各年度約3000万円、「地域協働コース」は1カ所あたり初年度約1500万円、2年度約1250万円、3年度約1000万円。事業実施期間は最大3年。  地域協働コースに採択された10団体は次の通り。 @取手(とりで)市生涯現役促進地域連携事業推進協議会 A小田原(おだわら)市生涯現役推進協議会 B公益社団法人新潟県シルバー人材センター連合会 Cみつけ生涯現役促進協議会 D岡山県生涯現役促進協議会 E福山市生涯現役促進地域連携協議会 F愛媛県生涯現役促進地域連携事業推進協議会 G高知県生涯現役促進地域連携協議会 H熊本県生涯現役促進地域連携協議会 I宮古島(みやこじま)市生涯現役促進協議会 厚生労働省 「第11次職業能力開発基本計画」を策定  厚生労働省は「第11次職業能力開発基本計画」を策定した。  新型コロナウイルス感染症の影響によるデジタル技術の社会実装の進展や労働市場の不確実性の高まり、人生100年時代の到来による労働者の職業人生の長期化など、労働者を取り巻く環境が大きく変化していくことが予想されるなかで、2021(令和3)年度からの5年間に関する職業能力開発施策の基本方針を示している。  職業能力開発の今後の方向性の一つとして、「全員参加型社会の実現に向けた職業能力開発の推進」をあげ、「中高年齢者の職業能力開発」について、中高年齢層の強みを発揮できるよう職業能力の蓄積を図るとともに、キャリア転換を希望する中高年齢者の職業能力開発を推進することが必要であるとして、主に次のような施策を講ずるとしている。 @高齢期を見据えた知識・経験の棚卸しや、キャリアプランの再設計を考えるキャリアコンサルティングの機会を提供。 A事業主等がその雇用する中高年齢者に対する訓練を実施した場合、訓練経費等を助成することにより、中高年齢者の更なるスキルアップを推進。 B65歳超の高齢者の継続雇用の実現に向けて、生産性向上支援訓練の一環として、中高年労働者が身につけておくべき能力の習得に資する訓練コースを提供。また、おおむね60歳以上の高齢求職者を対象にした離職者訓練プログラムの研究開発を実施し、開発したモデルカリキュラム等をもとに都道府県の委託訓練として普及を促進する。 厚生労働省 改正高年法に対応した「モデル就業規則」を公表  厚生労働省は、各事業場の実情に応じた就業規則を作成するための参考資料として、「モデル就業規則」(2021(令和3)年4月版)を公表した。  常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法第89条の規定にもとづき、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされている。また、就業規則を変更する場合も同様に、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。就業規則が大きな役割を果たしていることをふまえ、厚生労働省は、「モデル就業規則」を公表し、法改正などに対応するために、不定期に改定している。今回の改定は、今年4月に施行された70歳までの就業機会の確保措置を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法に対応したモデル就業規則として公表したもの。  定年に関する規定に65歳以降の就業機会確保に関する規定例を追加し、次の四つの規定例を掲載している。 [例1]定年を満70 歳とする例 [例2]定年を満65歳とし、その後希望者を継続雇用する例 [例3]定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例(満65歳以降は対象者基準あり) [例4]定年を満65歳とし、その後希望者の意向を踏まえて継続雇用または業務委託契約を締結する例(ともに対象者基準あり) ◆厚生労働省「モデル就業規則(令和3年4月)」  https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf 東京都 「テレワーク・ワンストップ相談窓口」を開設  東京都は、都内企業のテレワーク導入を支援するため、新たに「テレワーク・ワンストップ相談窓口」を開設した。  テレワークの導入・運用時におけるさまざまな疑問や課題に対して、社会保険労務士やITなどの専門家がオンラインで助言するもので、相談窓口は、都内企業の経営者や人事労務担当者に加えて、従業員個人が利用することもできる。  相談対応時間や実施方法、予約方法などは次の通り。 ◆相談対応時間は、平日(国民の祝日と年末年始を除く)の9時〜17時 ◆対象者は、都内企業等の経営者、人事労務担当者、従業員個人 ◆実施方法は、Web会議ツール(事前予約制、1回1時間程度) ◆相談内容例 〈経営者・人事労務担当者〉 ・就業規則の作成について ・情報セキュリティの確保について ・他企業の取組み事例などについて など 〈従業員個人〉 ・自宅の通信環境の整備について ・テレワーク機器の選定について ・都や国のテレワーク施策について など ◆予約方法  左記の「テレワーク・ワンストップ相談窓口」のウェブサイトから予約。  https://consulting.metro.tokyo.jp/workstyle/ 調査・研究 中央労働委員会 令和2年賃金事情等総合調査(確報)  中央労働委員会は「令和2年賃金事情等総合調査」(確報)の結果をまとめた。調査は、運輸・交通関連業種以外は資本金5億円以上かつ労働者1000人以上で、企業計380社(独自に選定)を対象としている。  調査結果から、隔年で実施している「労働時間、休日・休暇調査」(令和2年の回答企業数は220社)をみると、時間外・休日労働協定で定められている延長時間数(限度)は、1日の限度では「7時間超」が最多で84社(集計139社の60.4%)、「4時間」が15社(同10・8%)、「6時間」が11社(同7.9%)。1カ月の限度では「45時間」が125社(集計168社の74.4%)、「40時間以上45時間未満」が23社(同13.7%)、「30時間以上40時間未満」10社(同6.0%)と続いている。  また、介護休業の最長(限度)期間をみると、「1年」が最多で99社(集計175社の56.6%)、次いで「1年超」が41社(同23.4%)、「通算して93日まで」が24社(同13.7%)。介護のための勤務時間の短縮について最長(限度)期間をみると、「1年超」が82社(集計164社の50.0%)、「期間の制限なし」が49社(同29.9%)、「1年」が22社(同13.4%)の順となっている。  長時間労働の削減対策の実施状況では(複数回答)、「年次有給休暇の計画的取得の取組み」が147社(集計171社の86.0%)、「労使で話し合いの場を設けている」が139社(同81.3%) 日本生産性本部 新型コロナウイルス感染症が働く人の意識に及ぼす影響の継続調査  公益財団法人日本生産性本部は、新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響の継続調査(第5回「働く人の意識調査」)結果を公表した。5回目となる今回の調査は、2021(令和3)年4月5日に政府より一部地域にまん延防止等重点措置が適用された直後の4月12日〜13日、20歳以上の日本の雇用者1100人を対象にインターネットを通じて行われた。  調査結果のなかから、働き方の変化についてみると、テレワークの実施率は今年1月調査の22.0%から19.2%へと2.8ポイント減少しており、2020年7月調査以降、雇用者に占めるテレワーカーの割合は約2割程度で推移している。自宅での勤務の満足度を質問したところ、75.7%が「満足」(「満足している」27.1%と「どちらかと言えば満足している」48.6%の合計)と回答し、1月調査の69.8%から5.9ポイント増加したが、7月調査以降の変化には統計的有意差はない。  テレワークを行ううえでの労務管理上の課題については、「仕事の成果が適切に評価されるか不安」28.9%、「仕事振り(プロセス)が適切に評価されるか不安」28.4%、「オフィスで勤務する者との評価の公平性」23.7%と、人事評価関連の項目が上位にあがっている。  コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか、の質問には、「そう思う」31.8%、「どちらかと言えばそう思う」45.0%を合わせると、テレワークを望む割合は76.8%となり、1月調査の76.4%とほとんど変わらない結果となっている。 【P60】 次号予告 8月号 特集 生涯現役時代の“学び”を考える リーダーズトーク 林望さん(作家・国文学者) 「エルダー」読者アンケートにご協力ください。 本号に同封した「読者アンケート」用紙にご記入のうえ、当機構までFAXにてお寄せください。当機構ホームページからの回答も可能です。 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://krs.bz/jeed/m/elder_enquete であることをご確認のうえ、アクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集後記 ●今号の特集は「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」をお届けしました。今年の4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。従来の65歳までの高年齢者雇用確保措置に加え、65歳を超える定年延長や継続雇用制度による自社での雇用延長のほか、他社への再就職や業務委託契約などにより就業機会を設ける「高年齢者就業確保措置」への対応が求められています。  加齢による体力の低下や家庭事情の変化など、高齢になるほど高齢者が抱える事情は多様化していくことから、70 歳までの就業機会確保を実践していくうえでは、その多様化に対応できる柔軟な人事管理制度を整えていくことが肝要です。  本特集では、この春から人事業務を担当する新任人事担当者向けに、高齢者雇用における諸課題についてまとめた構成としていますが、65歳以降の人事管理のポイントについても解説しており、ベテラン人事担当のみなさんにとっても、改正法に対応した取組みを実践していくうえで、きっと参考になるはずです。  ぜひ本特集を参考としていただき、70歳就業機会の確保の取組みを推進していただきますよう、よろしくお願いいたします。 ●今号では「読者アンケート」を同封しています。本誌の内容について、ぜひ忌憚のないご意見・ご感想をお寄せいただければと存じます。また、「こんな記事が読みたい」、「このテーマについて教えてほしい」など、これからの誌面へのご要望もお待ちしています。  アンケートは当機構ホームページからも回答できます。より一層の誌面の充実に向け、多くのみなさまからのご意見をお待ちしております。 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー7月号 No.500 ●発行日−令和3年7月1日(第43巻 第7号 通巻500号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 奥村英輝 編集人−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-859-3 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-62】 短期連載 コロナ禍で変わる職場と働き方 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志  新型コロナウイルス感染症に関する一番の心配は職場内での集団感染、いわゆる「クラスター」の発生ではないでしょうか? その影響は働く人の健康問題に留まらず、事業の一時的な停止から評判リスクまで多岐にわたります。マスク着用、お互いの距離を保つことなどは浸透していますが、働く人の心がけに頼るだけでは不十分です。 第3回(最終回) 職場の感染防止対策 新型コロナに関する基本事項の確認  冒頭に恐縮ですが、図表1の新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)に関する質問を○×で答えてみて下さい。  実はいずれも答えは×なのです。〇をつけて驚いた読者の方が少なくないかもしれません。 @について、季節性のインフルエンザと異なり、新型コロナでは症状が出る2日前から患者さんはウイルスを排出するようになります。 Aですが、症状の出ない感染者がかなりいて、感染が確認された人の3割以上、ときにその数倍を超える無症状の人がいて、ほかの人にうつしてしまう可能性もあります。 Bの新型コロナの症状は発熱が明らかなのは半数未満に留まり、当初は咳、全身倦怠感、咽頭痛なども多く、風邪症状と見分けがつきません。 Cですが、新型コロナの一番の問題は肺炎を引き起こすことです。加えてさまざまな後遺症に長期間、悩んでいる方も少なくありません。 DについてはPCR検査の感度(感染している人を正しく患者さんと判定できる確率)は7割程度(最大で9割)しかないので、陰性でも罹(かか)っていないとはいい切れないのです。  EとFでは、マスクは大きな飛沫を防ぐには有効ですが、医療用でなければ完全には防ぐことができません。飛沫の飛散は2メートルが目安ですが、マイクロ飛沫(エアロゾル)は一定の時間、空気中を漂いマスクをつけていても感染する可能性があります、Gもエアロゾルによる感染を含めて絶対に大丈夫とはいえません。  Hは感染症法による定めで、都道府県知事が行う就業制限によって働く人は一定の期間就労できません。  Iでは同居家族が感染して自宅療養している方は、感染者の自宅療養の解除日から14日間の健康観察期間(在宅)が求められます。 基本事項の浸透と労働衛生の5管理の活用  職場の感染防止対策の手始めとして図表1で示した知識を職場に浸透させましょう。職場の仲間の意識を「なぜ行うのか?」と「どのように行うのか?」という面から強化できるからです。  毎朝検温を続けて、職場の入り口で体温チェックを行うだけでは、職場内の感染リスクをゼロにはできません。自費でPCR検査を受けて陰性でも、その時点で可能性が小さいということだけで、完全に感染を否定することはできません。何らかの風邪症状があれば、速やかに自宅待機してPCR検査の結果を待たずに、それを職場に報告しなければならないのです。  インド株などの変異型は流行が続くかぎり増加し、感染力が高まっていく可能性が高いです。職場の仲間同士、取引先や顧客との接点を可能なかぎり少なくしなければ、職場内の感染のリスクを抑えることはむずかしいのです。  マスクの着用は自身が罹らないためではなく、お互いにうつさないために「ユニバーサルマスキング」の考え方を周知徹底しましょう。  明らかな飛沫感染はアクリル板である程度、防ぐことができますが、事務所などでは徹底して換気を継続することが大切です。  こうした具体策を図表2に示したように職場の健康対策の定石である「労働衛生の5管理」を軸に整理し、継続していくことができます。 特殊な状況に対する健康管理のコツ  2020(令和2)年3月にWHO(世界保健機関)が新型コロナはパンデミック(世界的な流行)であると表明して以降、図表3に示す健康管理における工夫が必要になっています。  流行の波がくり返されるなかですが、一人ひとりがかかりつけ医を持ち、持病があれば重症化の防止のためにそれを良好に管理することや、発熱などがあった場合の電話相談などの流れを主治医と確認しておくようにします。もしも発熱や風邪症状を感じたら、無理に出社せず、自宅待機とします。また就業中に不調を感じたら、速やかに申告させ、安全に帰宅してもらいます。  PCR検査の有無にかかわらず、図表3の職場復帰の条件を適用しましょう。無事に職場復帰ができた後でも日常的な健康観察、マスクの着用、他人との距離を適切に保つなどの感染予防対策を継続してもらうことが大切です。  さらにワクチンの接種が医療従事者、高齢者に続いて、働く人を含む一般接種が進んでくると思います。ワクチン接種後の数日、特に2回目の翌日は発熱や全身倦怠感等の副反応に襲われる可能性があります。週末の前の接種や特別有給休暇の制度を設けるなどして、働く人が安心して休むことができる体制を整えておきましょう。副反応が出た場合の対処をかかりつけ医などに相談しておくことも大切です。  なお、新型コロナへの対策と並行して、梅雨入りが例年より3週間も早い地域がある現状を考慮し、熱中症の注意喚起を行い、屋外作業で感染の危険が低い場合にはマスク着用を強制しないことを検討します。毎日の体調チェックやコンディションの維持、スポーツ飲料の摂取をすすめ、作業中の症状にお互いに注意しましょう。  最後に今後の見通しですが、ワクチン接種が順調に進み、変異株による流行の急激な拡大がないかぎり、来春には一定の収束が得られるのではないかと個人的に考えています。それを目処として、職場の関係者で一致協力して、この感染危機を乗り越えて参りましょう! 【参考資料】(登録等の必要がなく、日本産業衛生学会のウェブサイトよりダウンロード可能) 1.『職場における新型コロナウイルス感染症対策のための業種・業態別マニュアル』公益社団法人 日本産業衛生学会(2021年4月23日公表) 2.『職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド』第5版(修正済)一般社団法人 日本渡航医学会・公益社団法人日本産業衛生学会(作成日:2021年5月12日) 図表1 新型コロナに関する知識を問う問題 番号 質問 回答欄(〇・×を記入) @ 新型コロナの患者さんは症状が出る前にはほかの人にうつすことはない? A 新型コロナに感染すると何らかの症状が必ず出る? B 新型コロナの患者さんはほぼ発熱する? C 新型コロナは重症にならなければ症状は軽い? D 新型コロナはPCR検査を受けて陰性であれば問題ない? E 新型コロナはマスクを着けていれば感染しない? F 新型コロナはお互いの距離を保てば感染しない? G 新型コロナは屋外であれば会食しても感染しない? H 新型コロナに感染したと診断されても無症状であれば就労できる? I 同居家族が新型コロナに感染しても、自身のPCR検査が陰性であれば出勤できる? ※筆者作成 図表2 労働衛生の5管理に沿った対策例 総括管理 新型コロナウイルス対策本部の総括管理設置(安全衛生委員会の活用)、産業医・保健師・看護師などの相談相手の確保、定期的な関係者・労使間の情報交換、保健所等との連携窓口など 対策を行う(安全衛生管理)体制の整備、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任、包括的な仕組みの構築とその継続的な運営(リスクアセスメント等) 作業環境管理 職場の換気、動線の工夫(入口、出口の徹底)、距離を保つ座席と配置、トイレ・洗面所・喫煙室・食堂・休憩室の管理、職場の定期的な消毒など 労働者を取り巻く環境面への対策(作業環境測定による評価と改善) 作業管理 労働者の作業の仕方、休憩の取り方や時間管理などへの対策 時差通勤、オンライン(テレワーク)の活用、出張制限、休憩・休止の際の工夫(休憩室、更衣室の管理)、来訪者の制限、エレベーターの人数制限など 健康管理 労働者の健康状態の把握と個別の対応など(定期健康診断、ストレスチェック等の実施と事後措置) 個別の労働者の重症化リスクの評価と就業上の配慮、症状が出た場合の自宅待機とフォロー、感染後の職場復帰における就業上の配慮、ワクチン接種関連など 労働衛生教育・健康教育 労働者自身が課題を理解し、スキルを覚えて、対処できるための教育 図表1の質問項目の周知、健康管理、作業管理、作業環境管理における対策の説明と徹底、症状が出た場合とワクチン等に関する教育・情報提供 ※参考資料1を参考に筆者作成 図表3 新型コロナ対策での健康管理の工夫 一次予防 未然防止 重症化防止 ●時差出勤・テレワーク ●かかりつけ医(家庭医)を持つこと ●主治医による持病の管理 ●主治医との発症時の対応に関する電話相談 ●持病に応じた就業上の配慮の実施 二次予防 早期発見 早期介入 ●発熱や風邪症状のあるときは必ず自宅待機と報告 ●PCR検査で陽性が確認された場合も報告と対処 ●休業時のルール決め ●自宅療養やホテル療養、入院の場合の支援 ●主治医への情報提供 三次予防@ 症状後の職場復帰 PCR検査などを受けていないときの職場復帰の条件 @発症後に少なくとも8日が経過。 A解熱後に少なくとも72時間が経過。 Aの条件=症状を緩和させる薬剤を服用していない。発熱以外の症状(咳・倦怠感・呼吸苦など)も改善傾向が確実 三次予防A 感染後の職場復帰 感染が確認された場合の職場復帰の条件 @発症後(or診断確定後)に少なくとも10日が経過。 A解熱後に少なくとも72時間が経過。 Aの条件=症状を緩和させる薬剤を服用せず、発熱以外の症状(咳・倦怠感・呼吸苦など)も改善傾向が確実 ※参考資料2を参考に筆者作成 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は「錯視(さくし)」(視覚に関する錯覚)界隈では有名な「不可能図形」を使った脳トレです。一見まともですが、どこか変。どこが変なのか考えてください。そして不可能図形を再現してみましょう。「なぞ」は人の脳を活性化します。 第49回 不可能図形 今回は少し変わった趣向で脳を鍛えましょう。 さっそくですが、右のフォークを見てください。 何か変ですよね。 どこが変なのでしょう。 考えてみてください。 もう一問。 この図形もどこか変です。 どこが変なのでしょう。 不可能図形と空間認知  最初のフォークは「悪魔のフォーク」といわれています。本当は空間になるはずのところにフォークの先の丸断面を書き、それに合わせて、本当はフォークの上面にあたるところに丸断面を書くと、下半分は下半分でフォークに見え、上は上でフォークに見えます。しかし、そのような図形はありません。  次の三角形は「ペンローズの三角形」といわれています。1950年代に数学者ロジャー・ペンローズ氏が「不可能性の最も純粋な形」として考案し、一般に広めたものです。3本の四角柱がそれぞれ直角に組み合わされていながら、全体で三角形を形成しています。実際には、直角の組み合わせでは頂点を合わせることができず、ねじれますが、二次元上で書くと可能な図形に見えてしまいます。  このような図形を「不可能図形」といいますが、見ているだけで不思議で、どうなっているんだろうと考えているとき、空間認知にかかわる頭頂連合野が活性化します。  頭でわかったつもりでも、実際に書いてみると再現できず、また考える。ああ、そうかと思う。このくり返しが脳トレです。 今回のポイント  実際に「不可能図形」を書いてみましょう。そして、家族や友人の方々に説明してみましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年7月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) さまざまな事業所の好事例を掲載しています! 『65歳超雇用推進事例サイト』 https://www.elder.jeed.go.jp スマートフォンからも見やすい! 110社の事例を豊富なキーワードで簡単検索 66歳以上まで働ける企業 定年が61歳以上 or 条件を変更する イベントの案内、研究資料など「65歳超雇用推進」関連情報をまとめて見られます! jeed 65歳超 事例サイト 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.elder.jeed.go.jpであることを確認のうえアクセスしてください 雇用推進・研究部 研究開発課 2021 7 令和3年7月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第7号通巻500号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会