【表紙2】 10月は「高年齢者就業支援月間」です 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、本年度も開催します。  本年度は、令和3年4月からの改正高年齢者雇用安定法施行により、70歳までの就業確保措置を講じることが「努力義務」になったことにともない、高年齢者雇用安定法改正をテーマとして、10月〜11月にかけて全国5都市(東京・宮崎・岩手・岐阜・大阪)で開催します。  内容は、学識経験者による講演をはじめ、高齢社員の戦力化に取り組んでいる企業や継続雇用・定年延長を行った企業の事例発表、学識経験者をコーディネーターとしたパネルディスカッションが中心です。  高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思いますので、ぜひご参加ください。 開催スケジュールは、以下の通りです(主な内容は、56、57ページをご覧ください)。 なお、ご不明な点は、当機構 雇用推進・研究部 研究開発課までお問い合わせください。 参加無料 岐阜 日時 令和3年11月18日(木) 13:30〜16:30 場所 長良川国際会議場 岐阜市長良福光2695-2 詳細 今号の57ページをご覧ください 大阪 日時 令和3年11月26日(金) 13:00〜16:00 場所 ヴィアーレ大阪 4階 ヴィアーレホール 大阪市中央区安土町3-1-3 詳細 今号の57ページをご覧ください お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、開催日などに変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 ※シンポジウムについては、開催当日のライブ配信のほか、後日YouTubeにおいてオンデマンド配信を行います。当機構ホームページでお知らせしますので、ご確認ください。 写真のキャプション ▲昨年度の様子 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.77 だれもがフリーランスになり得る時代社外活動を通じた事前準備を プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉さん ひらた・まり 慶應義塾大学在学中より企業広報業務にたずさわり、同大学大学院経営管理研究科などを経て、同大学ビジネス・スクールで広報・国際連携業務に従事。現在はフリーランスの立場から、広報・出版領域で活躍している。2017(平成29)年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会を設立。  今年3月に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されました。また、4月には高年齢者雇用安定法の改正により、企業と業務委託契約を結んで、「フリーランス」として働く選択肢も用意されるなど、フリーランスとしての働き方に注目が集まっています。今回は、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんに、生涯現役時代におけるフリーランスの在り方についてお話をうかがいました。 だれもが自律的なキャリアを築ける環境を実現するための支援活動を展開 ―「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」は、どのような経緯で設立されたのでしょうか。 平田 フリーランスの人たちの悩みや課題の解決を目的に、2017(平成29)年1月に設立しました。もともと私自身がフリーランスで広報の仕事を10年以上続けてきました。その間に出産をし、子どもを保育園に入れる「保活」を2回経験していますが、会社員と違い、フリーランスには出産手当金や育児休業給付金も出ませんし、保活も不利でした。出産・保活だけではなく、休業しても労災給付や傷病手当金が出ないなど社会保障の面で会社員との差も大きいのが実態です。当時の私は自ら進んでフリーランスを選んでいるし、自己責任だからと、特に不満も感じませんでしたが、その後、保活を終えた2015年ごろから「一億総活躍社会」や「働き方改革」が叫ばれるようになり、子育て中の人やシニアも含めて多くの人が細く長く働いていくことが大事だといわれ、フリーランスの働き方について考えるようになりました。  私自身、その当時から人生100年時代は65歳以上になるとだれもがフリーランスになり得る時代がくるだろうと予想していましたし、それに備えるには当事者自らが声を上げる必要があります。政府もフリーランスに関する研究会を立ち上げましたが、悩みや課題について当事者の声が届けられていないという問題意識もあり、周りのフリーランス仲間と話し合って窓口をつくろうと考えたのです。おかげさまで設立発表会を多くのメディアに取り上げていただき、設立1週間以内に1500人以上の会員登録がありました。 ―どのような活動を展開されているのでしょうか。 平田 私たちは「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンを掲げています。みんながフリーランスになるべきとか、フリーランスを増やしたいと思っているわけではありません。協会の名称に「プロフェッショナル&パラレルキャリア」とあるように、会社員を含めてだれもが自律的にキャリアをつくっていくための環境を整えたいという思いがあります。具体的には、働き方の選択肢を増やしていくこと、保険や福利厚生などのベネフィットプランを提供すること、実態調査などを行っています。政府に政策提言を行い、制度設計に協力し、その制度をフリーランスの人たちに伝えていくというサイクルを回していくことも私たちの役割です。 フリーランスの格差解消に向けたセーフティネットの実現を ―高年齢者雇用安定法の改正により、高年齢者就業確保措置としてフリーランスも選択肢の一つになりました。フリーランスの健全な育成を推進していくための課題とは何でしょうか。 平田 業務委託契約にともなう契約トラブルなどの解消と、社会保障の二つの課題があると考えています。  契約関係については2021(令和3)年3月、私たちも作成に協力した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公表されました。これまで仕事の契約では口約束が横行し、報酬金額は振り込まれるまでわからないといったトラブルも発生していました。ガイドラインでは、契約条件を事前に書面で交付しないのは独占禁止法上も不適切であることが明記されるなど、ある程度クリアになりました。また、個人事業主なのか労働者なのかという「労働者性」が認められる要件について、細かい事例を含めて示されました。実は改正高年齢者雇用安定法の施行に際して、これまでと同じ業務を依頼するときに、「何が違えば業務委託になるのかわからない」、「『偽装フリーランス』として訴えられるのではないか」と不安を感じている企業が結構ありました。ガイドラインはその違いについて詳しく説明されており、企業側だけではなく、フリーランスにとっても有効な防具になります。  また、一番の課題は社会保障です。休暇制度がないので病気やけがで仕事を休業すると収入がストップします。会社員には健康保険から傷病手当金が出ますが、フリーランスの多くが入っている国民健康保険には傷病手当金がありません。失業給付がある雇用保険にもフリーランスは加入できませんが、育児休業給付金や介護休業給付金なども雇用保険が財源になっており、フリーランスは受給できません。公的年金もフリーランスは一階部分の国民年金だけです。しかし、介護や出産・育児、健康リスクなどは働き方を問わずだれもが抱えているライフリスクです。仕事が得られるか、儲かるかといったビジネスリスクはある意味で自己責任の部分もありますが、ライフリスクは自己責任ではすみませんし、こうした格差は解消していくべきだと思います。 ―60歳あるいは65歳まで雇用されていた人がフリーランスとして働くことを考える場合、どんな点に留意すべきでしょうか。 平田 始める前の準備として一つ目は情報収集です。税金や社会保障は会社員と異なり、確定申告にともなう税務・法務の知識も必要です。二つ目は働き方の違いです。会社員は会社に求められている役割・業務をしっかりこなすことが大事ですが、フリーランスは経験・知識を武器に自ら積極的に仕事を取りにいかないといけません。しかし、50〜60代まで一つの会社で過ごし転職経験のない人は、履歴書を書いたことがありませんし、「私はこういうことができます」というプレゼンテーションさえやったことがない人が多くいます。何より大事なことは、これまでのキャリアを棚卸しして、自分の価値を言語化することです。また取引先によって組織のカルチャーは異なるので、会社ごとに違う不文律など空気を読みながら柔軟に対応する能力も大切です。そのためには慣れも必要です。私たちは予行演習として早めに副業やボランティアなどで社外活動することをおすすめしています。三つ目は「何のために働くのか」という心構えです。お金だけのためのセカンドキャリアの継続は厳しいといえるでしょう。「社会との接点を持ちたい」など、どういう自分になりたいのかをイメージし、その自覚と覚悟を持つことが必要です。  終身雇用が減った韓国では、早期退職者が増えたとき、一時期コンビニエンスストアよりも焼き鳥の屋台が増えたことがあったそうです。しかし、増えると過当競争になりますし、結局ほとんどが廃業したと聞いています。長く会社員としてやってきた人が、いきなり事業者として独り立ちしてもうまくいきません。そうならないためにも、会社員時代に事前の準備をしておくことが大事です。 社員への副業解禁は本人だけではなく企業にとっても大きなメリットになる ―反対に、企業がそれまで雇用してきた従業員をフリーランスとして活用し、活性化を図っていくためには何が必要でしょうか。 平田 フリーランスになる前の準備や助走期間が必要ですが、社員の副業を解禁するなどして、会社の外で活躍する機会をつくれるような支援が重要です。それによって給与とセーフティネットが保障された状態で、リスクなく自分の市場価値を試し、経験を積むことができます。企業にとっても、社外の活動を通じて視野や人脈が広がり、イノベーションの種を持ってきてくれる可能性もあります。役職定年などでモチベーションが下がる50代から副業を始めた人が、活き活きと働くようになり、それが自信となって「本業もがんばろう」というケースも多くあります。自分の価値を再確認でき、後輩世代にもよい影響があるでしょう。大手企業のなかには50代以上に限定し、副業を解禁しているところもあります。 ―シニア人材が長く元気で働き続けるための課題・展望についてお聞かせください。 平田 政府がフリーランスの拡大や支援、副業解禁、70歳就業確保などの政策を推進している背景には、高齢者が自立し、できるだけ自助でがんばってほしいという思いが強くあるのでしょう。しかし、企業だけでは、そのすべてを支えることはできませんし、永遠に自助で生き続けられるわけでもありません。人生100年時代といわれても、いつかは仕事の引き際や引退の時期が訪れます。そうした際のセーフティネットは絶対に必要です。  一方で、個人の側も自分で引き際を決められるのが理想ですが、これは意外とむずかしいものです。もちろん、体力や情報感度、判断力などいろいろな部分で衰えを感じる時期がくれば、どこかで自分の引き際を決めないといけません。そこに気づかずにいると、いつの間にか仕事は減っていくでしょうし、新しいやり方に対応できなくなれば、厄介(やっかい)者扱いされかねません。それはそれで悲しいことです。自分でしっかりと引き際を見極めて、そのためのマネープランなどの備えをしておくことは、フリーランスを問わずとても大事なことだと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 October 特集 6 70歳就業時代の最新事例が集結! 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜 7 審査委員長からのメッセージ 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 8 最優秀賞 株式会社 ササキ(山梨県韮崎市) 12 優秀賞 株式会社 アールビーサポート(三重県津市) イオン九州 株式会社(福岡県福岡市) 20 特別賞 株式会社 壮健(岐阜県各務原市) 前原製粉 株式会社(兵庫県姫路市) 株式会社 美装管理(大分県別府市) 32 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業(事例)一覧 1 リーダーズトーク No.77 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉さん だれもがフリーランスになり得る時代 社外活動を通じた事前準備を 34 江戸から東京へ 第107回 ユニークな家長 頼又十郎 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第112回 福井県 益茂証券株式会社 40 高齢社員のための安全職場づくり 〔第10回〕 切創災害の防止 高木元也 44 知っておきたい労働法Q&A《第41回》 定年後再雇用における職務内容変更の限度、退職の意思表示の種類と取扱い 家永 勲 48 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例 【第5回】 認定特定非営利活動法人 経営支援NPOクラブ 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第17回 「時間外労働」 吉岡利之 52 特別寄稿 70歳就業時代、組織における シニア社員の役割創造とは? 株式会社ライフワークス コンサルティング事業 統括ゼネラルマネージャー 兼 シニアコンサルタント 野村圭司 56 お知らせ シンポジウムのご案内 58 日本史にみる長寿食 vol.336 強精食材だったギンナン 永山久夫 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 【第3回】 大橋運輸株式会社(愛知県瀬戸市) 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第52回] ツリー算 篠原菊紀 【P6】 特集 70歳就業時代の最新事例が集結! 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」※を毎年開催しています。 本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 改正高年齢者雇用安定法により70歳までの就業機会確保が努力義務となった令和3年度は、厚生労働大臣表彰6編、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞6編をはじめとする、全19編の受賞が決まりました。 本誌では、10月号と11月号の2回に分けて、コンテストの表彰事例を特集します。 今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業事例をご紹介します。 ※2020年までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 【P7】 審査委員長からのメッセージ 生涯現役を目ざせる職場環境を整備しだれもが活き活きと働ける職場の創出を評価 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村 博之  令和3年度高年齢者活躍企業コンテストの審査が終了しました。審査委員を代表し、応募いただいたすべての企業・団体関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から101編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は、最優秀賞1編、優秀賞2編、特別賞3編、また、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は13編が入賞を果たしました。  最優秀賞の株式会社ササキは、産業機器分野を中心とした「モノづくり」を行っています。そのカギを握るのが熟練技能者の技能。  特に高齢者を若手への技能継承の役割をになう重要な存在と位置づけ、その技能を評価する仕組みを構築しています。一方、マネジメント経験を持つ高齢人材を外部から積極採用し、大手・異職種の経営ノウハウを蓄積することで競争力の向上につなげており、内外の高齢人材を有効活用していることなどが高く評価されました。  優秀賞の株式会社アールビーサポートは、よりよい介護サービスを提供するため、年齢で仕事や賃金を差別しない制度づくりに取り組むとともに、手厚い福利厚生制度を導入。安心して長く働ける職場環境を実現することで、職員のモチベーションとともに生産性向上につなげていることなどが評価のポイントとなりました。  同じく優秀賞のイオン九州株式会社は、合併企業の人事制度も参考にしながら年齢や雇用区分に関係なく、70歳までの雇用制度を導入。自らのライフスタイルに合わせた働き方の実現のため、各種人事制度を整備するとともに、外部セミナーなどによる自己啓発を支援していることなどが評価されました。  特別賞の株式会社壮健は、人事・賃金制度の策定による職員のモチベーション向上をはじめ、作業マニュアルの策定による業務の効率化などに、経営者と現場スタッフが一体となり、ベストなサービスの提供を目ざしています。  同じく特別賞の前原製粉株式会社は、希望者全員年齢の上限なく働き続けることができるほか、80歳の高齢者を採用するなど、地域の高齢人材を戦力として活用しています。細やかな各種人事制度も受賞の決め手となりました。  同じく特別賞の株式会社美装管理では、社員の半数以上を占める60歳以上の社員が主力として活躍。マニュアル化できない高齢社員が持つ経験やノウハウを、ペア就労により、若手へ継承しています。  高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、高齢者の活躍の場をいかに広げていくかが問われています。最優秀賞を受賞した株式会社ササキのように、異業種からの高齢人材の登用もこれからの有効な取組みの一つといえるでしょう。また、今年の審査ではモノづくり産業の取組みが目立ちました。日本の競争力を維持・向上していくためにも、モノづくりは大事にしていきたい分野です。日本のモノづくりを支えてきた高齢人材の活用はもちろんのこと、高齢者自身にも、生涯現役のマインドで、自分自身の活躍の場を広げていってほしいものです。 【P8-11】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 「KAIZEN」活動を展開しだれもが活躍できる職場環境を実現 株式会社 ササキ (山梨県韮崎(にらさき)市) 企業プロフィール 株式会社 ササキ (山梨県韮崎市) 創業 1995(平成7)年 業種 電気機械器具製造業(ワイヤーハーネス製造・加工) 従業員数 222人 (内訳)60〜64歳 4人(1.8%) 65〜69歳 1人(0.4%) 70歳以上 1人(0.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後は、運用により一定条件のもと年齢上限なく雇用。現在の最高年齢者は73歳 T 本事例のポイント  株式会社ササキは、1995(平成7)年に、山梨県韮崎市にワイヤーハーネスの製造・販売を目的に設立。産業機器分野(半導体製造装置)を中心に、航空・宇宙・防衛分野、自動車R&D(研究開発)分野、理学機器分野などの新たな分野にも事業を展開している。  毎日の仕事のなかで感じる素朴な疑問を改善につなげていく「KAIZEN」制度が創業以来の文化として深く根づいており、高齢従業員からも長年の経験を活かした作業方法見直しの提案が提出されるなど、高齢従業員が活き活き働ける職場づくりに取り組んできた。 POINT 1 高齢者(中途採用を含む)、障害者、女性の積極的な活用に取り組んでいる。 2 希望者全員70歳まで嘱託従業員として継続雇用。71歳以降は運用で、一定条件のもと年齢の上限なく雇用延長。高齢従業員の働きやすい職場を目ざして、所定労働日数や所定労働時間を柔軟化している。 3 ベテラン従業員を「ものづくりマイスター」として登録し、技能継承できる場をサポートしている。 4 長年にわたり製造工程を担当してきた高齢従業員を「範師(はん)し」に任命し、その経験や技術を若手従業員などに引き継いでいる。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1995年に有限会社ササキとしてスタート。その5年後に株式会社ササキに改組すると同時に韮崎工場を新設するなど、産業機器分野である半導体製造装置に使用されるワイヤーハーネスの製造を中心に業容を拡大してきた。現在では宮城県にも工場を構えている。創業27年と、会社としての歴史は比較的浅いこともあり、40代以下の従業員が9割以上を占めているほか、従業員の半数以上を女性従業員が占めており、女性が活躍しているのも特徴だ。  主力製品である「ワイヤーハーネス」は、チューブなどでまとめられた複数の「電線」と「コネクタ部分」とで構成され、電力供給や情報伝達、制御といった、製品を構成する機器同士をつなぐ重要な役割を持つ。  同社の優れた技術を支えてきたのは豊かな経験を誇るベテラン従業員であるという考えのもと、厚生労働省の若年技能者人材育成支援等事業「ものづくりマイスター制度」にベテラン従業員を登録するなど、次世代へ技術継承できる場をサポートし続けている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の主力製品である「ワイヤーハーネス」は、素材が柔らかいため作業により形状が変わることがあり、構造も複雑なことから、全自動での製造はむずかしく、最終的には必ず「人の手」によって完成させる製品である。会社発展のカギを握るのは熟練技術者の技能であり、若い世代への技能継承は、会社全体の割合としては数少ない高齢従業員に託されている。長年にわたり製造工程を担当し、多くの経験・技術を持つ高齢従業員の功績をたたえるとともに、その技術・技能の継承のために、同社は2017年7月より新たに「範師」という役職を設定した。  他方、会社の急成長にともない、管理職育成が間に合わなかったことから、大企業で定年を迎えた人や、早期退職したマネジメント能力を有する高齢者の中途採用を積極的に行ってきた。その結果、現在では部長以上の管理職の過半数が転職組となり、大企業や異業種での経験とノウハウが社内で発揮されている。  業務改善については、創業以来の文化として根づいている「KAIZEN」に全社をあげて取り組んでおり、高齢従業員が自ら発案し改善につながった例も多い。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年の引上げと再雇用  2005年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。また、定年後は希望者全員を70歳まで嘱託従業員として継続雇用する制度を導入。71歳以降は、運用により会社が必要と認めた者について、継続して雇用している。制度の改正は中高年齢層の中途採用獲得につながり、過去3年間に55歳以上の人材を8人採用している。 ▼多様な勤務形態  65歳以上の嘱託従業員については、一般従業員と同様のフルタイム勤務と、所定労働日数または所定労働時間が少ない勤務の2種類を設定し、本人の希望に合わせて選択できるようにしている。2種類の勤務形態を導入したことで、無理なく自分の生活に合わせた勤務ができるようになった。なお、73歳の最高齢従業員(範師)はフルタイム勤務で、その熱心な勤務態度は若手従業員のよい手本となっている。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫 ▼範師の役職を設定  元製造部門長の嘱託従業員に、経験と技術を後進に引き継ぐ役目をになってもらうため、2017年より「範師」の役職を創出した。範師は製造技術職として勤務を続けるなかで、新人など後輩の技術指導を行う。また、外国人研修員や工場見学者などへの対応も担当しており、まさに会社の顔として活躍している。範師のデスクは工場内でだれもが必ず通る場所に設置され、入社したての従業員が孤立することのない環境づくりのサポートにも一役買っている。また、範師は従業員の小さな変化にいち早く気づき、積極的な声がけをするなど、コミュニケーションを通じた従業員サポートの要となっている。  さらに、技術者の従業員が専門的知識や技術を活かし、技術者としてのキャリアに専念できるポジションとして2018年より専門職「マエストロ(巨匠)」、「マイスター(匠)」、「スペシャリスト(職人)」、「アーティザン(熟練工)」を設定した。 ▼ものづくりマイスター制度の推進  厚生労働省の若年技能者人材育成支援等事業「ものづくりマイスター」に役員をはじめ5人の高齢従業員が認定されており、新人教育などを通じて、積極的に若年技能者の育成と技能継承に取り組んでいる。また、OFF−JTの一環として、技能検定の1回目の受検費用を年齢制限なく会社が全額負担している。 ▼各種資格取得を奨励  各種資格の取得については、社内休憩室(食堂ホール)の壁に合格証書などを当該従業員の顔写真とあわせて掲示しており、若手従業員のモチベーションアップにつなげている。また、従業員が所持する資格を、玄関の掲示板にも顔写真つきのピラミッド図で掲示し、全従業員と来客者にアピールしている。資格などの見える化は、モチベーションの向上はもとより、適材適所の配置や生産性アップにもつながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善 ▼作業効率を意識した作業机と引き出しの配置  腰痛予防と引き出し内収納物の見える化、工数削減のため、作業机と引き出しの配置に工夫を凝らしている。表示物は、文字を拡大したり、色分けしたものを自分で用意して表示したりすることで作業しやすい環境に改善した。また、作業動線やレイアウトを変更し、振り向く・立ち上がるといった動作の改善や、棚がテーブル代わりになるなど、あらゆる箇所を改善している。 ▼LED照明の導入とエアコンの入れ替え  高齢化による視力の低下を補うため、2015年に工場の照明を白熱灯からLED照明に切り替えた。また、2016年には天井埋め込み型のエアコンに替えたことで、エアコンの風が棚などで遮(さえぎ)られなくなり、快適な職場環境が実現した。 ▼アシストスーツの導入  身体的に負荷のかかる作業が多い職場のため、腰痛防止や高齢従業員の労働災害防止のために「アシストスーツ」を導入した。実作業でアシストスーツを装着しており、重量物作業時の腰痛予防と腰や腕にかかる負荷が軽減され、作業時間短縮にもつながっている。 A健康管理 ▼人間ドック制度の導入  従来は年1回の定期健康診断が就業規則によって実施されていたが、2019(令和元)年に就業規則を改定、従来の診断項目より多い人間ドック制度を導入した。 ▼ラジオ体操の実施  1日を気持ちよくスタートさせるため、朝礼時に「ラジオ体操」を行っている。「ラジオ体操」で体を目覚めさせた後は「社是・社訓・6S【整理・整頓・清掃・清潔・躾・安全(safety)】」を元気に唱和。さらに、会社の目標や取り組むべきテーマをまとめたクレドカードを作成しており、各部署で朝礼時に読み合わせを実施している。全従業員が参加することで同じ目的意識・一体感を持って業務に臨めると、従業員には好評である。 B安全衛生  社内に設置されているCSR「多様性チーム」のメンバーが、当機構主催の高年齢者雇用促進セミナーに参加した経験を活かし、安全衛生委員会と共同でエイジフレンドリーの取組みを開始した。「安全巡視チェック表」に転倒などによるリスク項目を追加するなど、高齢従業員が安心して働ける職場環境づくりを目ざしている。 (4)そのほかの取組み  自身の体調や子育て・介護などの事情により毎日の出社がむずかしい従業員や、起業ニーズのある従業員からの要望に応える形で、10年以上前から従業員の多様な働き方の支援に取り組んでいる。現在までに会社から独立し、業務請負に転換した者が4人おり、独立時の煩雑な諸手続きをサポートするために解説書を作成するなど、会社が独立に向けた支援を行っている。 (5)高齢従業員の声  最高齢従業員の石川長子(ひさこ)さん(73歳)は、2017年7月に範師に就任。豊かな経験と技術を次の世代に引き継ぐ役目をになっている。「範師」および「ものづくりマイスター」として、新人従業員への技術指導や製造補助用具製造にたずさわる石川さんは「『後輩のために』を一番大切に考えています。私の指導で試験に受かってくれることが何より嬉しいですね」と笑顔で語る。  創業当初より製造部門のスペシャリストとして勤務してきた平澤宮子さん(62歳)は、製品製作に20年以上従事。「昔ほど細かい作業は得意ではなくなりましたが、若い従業員たちが協力的で、職場の雰囲気もよいので、長く仕事を続けられています。新しい製法を覚えて製品が完成するのが楽しいですよ」と話す。その背中を次代をになう若手従業員が追いかけている。 (6)今後の課題  韮崎市では農業のにない手の高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加が問題となっていることに鑑み、高齢従業員や障害のある従業員などの将来の就業の場として、身体に負担の少ないIT農業分野への進出を検討している。一方、他企業を退職した知識・経験豊かな高齢者を引き続き積極的に採用し、組織として未成熟な部分を補うとともに、若手・中堅従業員の育成を予定している。また、新工場のバリアフリー化を視野に置いて、高齢従業員が安全で安心して働ける職場環境の構築はもちろん、山梨県の「やまなし心のバリアフリー宣言事業所」に登録し、全従業員に多様な特性を持った人(高齢者・障害者・妊婦など)との接し方を指導し、共生社会の取組みにも努めていく。膨大な課題を一つひとつクリアしていくために、全社をあげての新たな挑戦が続く。 写真のキャプション 会社外観 国家認定資格所持者の写真をピラミッド図にして社内に掲示 朝礼で実施しているラジオ体操の様子 若手の指導にあたる最高齢従業員の石川長子さん(左) 【P12-15】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 手厚い福利厚生のサポートで生涯現役を叶えるための職場環境を構築 株式会社 アールビーサポート (三重県津市) 企業プロフィール 株式会社 アールビーサポート (三重県津市) 創業 1999(平成11)年 業種 社会保険・社会福祉・介護事業(介護サービス) 職員数 144人 (内訳) 60〜64歳 13人(9.0%) 65〜69歳 6人(4.2%) 70歳以上 8人(5.6%) 定年・継続雇用制度 定年66歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後は一定の条件のもと年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は73歳 T 本事例のポイント  株式会社アールビーサポートが所属する府洲(ふしゅう)グループは、1997年(平成9)に三重県津市に介護老人保健施設を開設するとともに、通所リハビリテーションを開所した。2年後の1999年には株式会社アールビーサポートを設立し、老人介護サービスの提供を通じて地域に貢献してきた。2000年の介護保険制度施行にともない、在宅における通所・訪問・配食事業や入所事業を展開。以後、高齢人口の増加と多岐にわたるニーズに対応するため、各サービス事業を拡大してきた。  少子高齢化による労働力人口の減少と介護業界における慢性的な人材不足や、健康寿命が延びたことを背景に、健康かつスキルを有する高齢職員は十分な戦力となると判断し、長期的に勤務を継続できるよう、よりよい職場環境づくりに力を注いでいる。 POINT 1 就業規則により66歳を定年とし、希望者全員を70歳まで継続雇用できる制度を整えた。また、70歳を超えても本人が希望し、会社が必要と認めた場合は年齢の上限なく継続雇用できるよう制度の改定を実施した。 2 「自分の歳は自分で決めるべき」という方針のもと、優秀な職員には年齢にかかわらず働いてもらえるよう、年齢で仕事や賃金を差別しない制度づくりに取り組んでいる。 3 だれもが安心して働ける職場を実現するため福利厚生の充実を図ってきた。また、コロナ禍にあっても処遇が下がらないことで信頼関係が生まれ、生産性の向上につながっている。 4 職員の高齢化を見越した最新の介護機器の導入など、職員の負担を軽減し生産性を上げるための投資を積極的に行っている。 U 企業の沿革・事業内容  同社が所属する府洲グループは、五つの法人(医療法人府洲会、社会福祉法人いろどり福祉会、株式会社アールビーサポート、株式会社食彩浪漫、株式会社府洲ホールディングス)からなっている。1997年、三重県津市に医療法人府洲会「介護老人保健施設ロマン」が開設され、以降、高齢者人口の増加にともない多様化するニーズに対応するため、介護保険制度内のサービス提供にとどまらず、給食・配食サービスや買い物代行サービスなど事業を拡大し、社会貢献を図っている。株式会社アールビーサポートは1999年に設立され、介護付き有料老人ホーム「昭和ろまん」と、サービス付き高齢者向け住宅「安濃津ろまん」を運営している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社における職員数は男性37人に対し、女性が107人と圧倒的に多い。全職員144人のうち高齢職員は27人(約19%)で、最高年齢者は73歳である。創業してから比較的年数が短いため、高齢職員の人数は多くはない。  介護業界では慢性的に人手不足となっているが、同社は求人活動に工夫を凝らして人材を募集してきた。例えば、求人媒体に「定年年齢66歳、継続雇用年齢上限なし」という文言を大きくうたい、ホームページのデザインも一新。スタッフの動画や、募集職種・各種手当を一覧にするなど、求人ページを大きく改善した。これが功を奏したのか、2020(令和2)年は1年間で面接者数199人のうち60歳以上が39人、採用者数58人のうち60歳以上が13人という成果をあげた。人手不足という状況にあっても優秀な人材には年齢にかかわらず長く働いてもらうことが重要と考えている同社では、魅力ある職場と感じられるよう福利厚生面を充実させている。「自分の歳は自分で決めるべき」という理事長の理念が、年齢にかかわらず働ける制度や環境の整備につながり、相乗効果で優秀な人材の確保を可能にしている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制と継続雇用制度  同社の所属する府洲グループでは、全法人共通の定年・継続雇用制度と就業規則を導入している。2015年、2017年の2度にわたり制度を改定し、高齢職員の雇用制度を拡大。現在は定年66歳、希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入している。正規職員については、定年後は「嘱託職員」という区分になるが、勤務日数や勤務時間などで本人が希望すれば、パート職員となることもできる。 ▼賃金制度と評価制度  以前は、60歳に到達した後は賃金を一定割合減額し、昇給も停止していたが、60歳に到達した高齢職員のなかには、モチベーションの低下がみられ、退職者も出た。そのため、2017年の制度改定を機に、60歳時点での賃金引下げと昇給停止を廃止し、定年まで昇給することとした。  評価制度については、従来は上司や施設管理者が評価していたが、同部署の複数のスタッフで評価しあう「全方位評価方式」を導入。自己評価を含む全方位評価を第1段階、第2段階で管理職による評価、第3段階で理事長による評価と、3段階の評価を行うよう改めた。 ▼多様な勤務形態の整備  正規職員が規定の労働時間・日数での勤務がむずかしくなった場合に備えて、正規職員の身分のまま短日勤務・短時間勤務ができる「短時間正職員制度」、「週休3日正職員制度」を整備、人材の流出抑制を図っている。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 ▼高齢職員の活用方針  同社では、高齢職員のための仕事の創設や、高齢になったことによる配置転換はほとんどない。もちろん、加齢による身体の衰えには配慮して、例えば体重の重い入居者の介護は担当しないようにしたり夜勤をなくしたりという調整は行っているが、基本的にはこれまでの仕事を変わらず第一線で続けてもらう方針である。 ▼能力開発  新規採用者は、年齢や前職での経験などにかかわらず、1カ月間OJTで教育することで、しっかりと長く働けるように育成している。 ▼資格取得の支援  専門性の高いヘルパーと同等のスキルを習得し、質の高いサービスを提供できるように、クリーンスタッフに、介護資格の取得と介護士業務へのステップアップを推奨した。これにより、4人が「介護職員初任者研修」を修了。うち1人はホームヘルパーに転属し、仕事に対する意欲が向上した。 ▼IT機器の導入  電子カルテ化のためのタブレットなどのITツールの導入にともない、若手職員が中心となって勉強会を開催。一緒に学んだ高齢職員の最新機器を使える能力が向上した。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境の改善 @アシストスーツの導入  移乗介護などの介助時に職員の身体への負担を軽減するため、アシストスーツ20台を各部署に配備した。 A入浴設備  車いすのまま入浴できる「リフトライナー」と、寝たきりの方が横になったまま入浴できる「ストレッチャー」を導入。入居者だけでなく高齢職員の身体的負担が軽減できている。 Bそのほかの最新機器の導入  新たに業務用ロボット型自動掃除機を導入し、高齢職員の負担が大きく軽減した。 ▼健康管理 @医療費補助制度  定期的に病院を受診する職員のために、受診に要した費用と薬代の自己負担分のうち、2割を会社が負担する「医療費補助制度」を導入した。これは、職員本人だけでなく、健康保険上の扶養家族も対象としている。 A傷病見舞金の支給  業務の内外を問わず、けがや病気により一定期間の休業を要した場合に、傷病見舞金を支給している。 B健康診断  健康診断の対象者について法令では「正社員の週所定労働時間の3/4以上」とされているが、同社では「1/2以上の者」を対象としている。また、過去の経験から「初期発見が早ければ助かる命もある」という観点に立ち、項目に「胃部X線検査」を追加した。 ▼安全衛生  給食・配食サービスでは自動車の運転が必要であるため、安全運転管理者による安全運転講習会を定期的に開催。啓発動画の鑑賞や事故事例の検討、最新の道路交通法の周知などをすることで事故防止に取り組んでいる。また、ドライブレコーダーによる安全運転チェックを実施し、合格点に満たない者には、啓発動画を見せ、レポートを提出させるなど、安全・安心の職場の創出のために徹底した対策がとられている。 ▼福利厚生  職員休憩室と事務所に給茶機を設置。設置代やお茶代はすべて事業所が負担している。また、栄養士がバランスを考え、利用者に提供している給食と同様の食事を「職員給食」として低額で提供している。高血圧や心疾患のある高齢職員の健康増進のために、減塩食や低カロリー食などの“療養食”の提供も行っている。  また、職員同士のコミュニケーションを深める観点から、春の施設別親睦食事会、年末の感謝祭(忘年会)を開催、全員が参加している※。  そのほか、同社ならではの福利厚生としては、身体のメカニズムの知識に精通したリハビリスタッフが、業務終了後に希望職員を対象に無償でマッサージを施術。希望する高齢職員も多く、腰痛防止に役立つと職員から歓迎されている。 (4)高齢職員の活躍  ヘルパーの清水照江さん(63歳)は、早番業務担当者の指導役をになっている。早番業務は、介助内容が多いものの人員が少ない大変な仕事であるが、自身の経験談を交えての指導は若い職員から好評で、「事業所の母」として慕われている。  クリーンスタッフの高井裕子(ひろこ)さん(72歳)は、チームリーダーとして、新人職員の指導教育や部署間連絡係をになう。年齢を感じさせないリーダーシップを発揮し、高井さんを中心にチームがまとまっている。 (5)今後の課題  職員の働きやすい職場づくりに積極的に取り組んでいる同社だが、今後も、たとえコストがかかる物品であっても、人手が少なくすむのであれば、結果的に人件費というランニングコストを抑えることができるという考え方のもとに、思い切った規程改訂、IT化など、時代の変革に柔軟に対応していく方針だ。2021年には、高齢職員の業務負担を軽減できるアイテムとして、実用的介護補助ロボットの導入を予定しており、よりいっそうのサービスの充実を図る。また、上限年齢なく勤続できる仕組みのさらなる充実に向けて、定年制の廃止も視野に入れているという。時代をしっかりとらえ、職員総力でより高い目標に向かっていく。 ※ 現在は、コロナウイルス感染症の感染拡大により、食事会などは一時休止中 写真のキャプション サービス付き高齢者向け住宅「安濃津ろまん」 業務用ロボット型自動掃除機(左)、身体への負担を大幅に軽減できるアシストスーツ(右) 清水照江さん(左)と高井裕子さん(右) 【P16-19】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 全従業員がスキルを十分に発揮してより長く活躍できる職場づくりを推進 イオン九州 株式会社 (福岡県福岡市) 企業プロフィール イオン九州 株式会社 (福岡県福岡市) 創業 1972(昭和47)年 業種 卸売・小売業(各種商品小売業) 従業員数 28,600人 (内訳) 60〜64歳 4,777人(16.7%) 65〜69歳 3,969人(13.9%) 70歳以上 475人(1.7%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。就業規則等により一定条件のもと、70歳まで再雇用。特定の職種にかぎり、雇用延長あり T 本事例のポイント  イオン九州株式会社の前身は1954(昭和29)年創業の株式会社福岡大丸である。1972年に株式会社福岡大丸とジャスコ株式会社が業務提携契約をし、福岡ジャスコ株式会社が設立された。九州を中心に業容を拡大するなかで「九州でナンバーワンの信頼される企業」を標榜し、地域に愛される存在を目ざし地域貢献に力を入れている。イオン九州は過去に合併をくり返してきた会社であり、そのたびに人事制度を見直してきた経緯があるが、近年では合併の際にお互いの制度のよい部分を導入。新たな制度構築を契機に、従業員が長く勤務できる環境を整え、生涯現役で活躍できる場を提供するという目標を共有している。 POINT1 1 企業合併を重ねるごとに、従業員の年齢構成が高齢化し、新規採用だけではカバーできなくなるなかで、合併先企業の人事制度のよい部分も参考にしながら、年齢や雇用区分に関係なく70歳まで働くことができる人事制度を導入した。 2 定年以降、希望するエリアで働くことができるほか、短縮勤務の選択も可能になるなど生活を優先した働き方を推進している。 3 年齢や雇用区分に関係なく従業員が能力を十分発揮できるよう、ライフプランセミナーや自己啓発への補助、技術向上のためのセミナーの実施など、多岐にわたってサポートしている。 4 健康経営への取組みは「生涯現役社会」構築の一助になるものであり、全社をあげて積極的に取り組んでいる。店長や総務課長が率先して従業員の健康管理を実施している。 U 企業の沿革・事業内容  1954年に株式会社福岡大丸の創業者である阿河(あが)勝(まさる)氏が創立した。1972年に福岡ジャスコ株式会社が設立され、1974年には福岡ジャスコ1号店としてジャスコ佐世保店が開店した。1989(平成元)年に九州ジャスコへ商号変更。以降、佐賀ジャスコ、大分ジャスコ、大分ウエルマート、旭ジャスコ、株式会社ホームワイドを吸収合併し、2003年に現在のイオン九州株式会社へ商号変更を行った。さらに2007年に株式会社マイカル九州と合併、2015年にはダイエー店舗のイオンストア九州の事業運営に乗り出し、2020(令和2)年9月1日、イオンストア九州、マックスバリュ九州との3社合併を果たした。同社の歴史はまさに合併の歴史であり、激動の時代を生き抜いて、来年には創業50周年を迎える。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社は過去に合併をくり返した背景があり、従業員の年齢構成比が高年齢にかたよるという特徴が見られた。このままでは、毎年新入社員を採用しても定年退職する人数をカバーできず、業務が拡大できない危機につながることから、60歳の定年後も雇用を継続する方法を模索。2006年に定年で60歳を超えた従業員については1年更新で契約し、65歳まで継続勤務する定年を超えた者の継続雇用制度を導入した。さらに2008年には、定年年齢を65歳に延長、2018年には70歳まで勤務できる定年後再雇用(嘱託職員)制度を導入することとなった。  同社ではそれまで別企業との合併で人事制度を見直す際、自社の制度にあわせることが多かったが、同年のマックスバリュ九州との合併時には、「時間給定年70歳」や「定年後再雇用の嘱託職員制度」といったそれぞれのよい制度を全体の制度として採り入れた。  会社としては、全従業員が持っているスキルを十分に発揮でき、より長く活躍できるような場を提供する必要があり、経験豊富な高齢従業員の継続雇用を可能とする制度への改善につながった。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年前の登用制度  年1回行われる登用試験(筆記・面接)により昇給、昇格していく。登用試験を重視する社風はジャスコ時代からのものであり、合併した企業の従業員にも公平にチャンスを与える主旨で、賃金制度に年功序列的な要素は少ない。試験はだれでも受験可能で、年度初めに資格ごとに課題図書と試験範囲が公表される。筆記試験と面接試験を受けて合格すれば、給料にも反映される。 ▼公平な新たな評価の仕組み  評価は年2回実施し、上司と部下で目標を設定。半期ごとに評価して、本人に結果をフィードバックしている。また2021年度からは降格制度を導入。評価制度上、1年目に当該職位の下位10%に入ると個人面談が行われ、2年連続で下位10%に入った場合は資格が一つ降格となる。加えてハイブリッド型(職能資格制度と職務等級制度の間)の処遇制度を導入し、同じ資格でも職位により差がつく仕組みとした。従前は店舗拡大が積極的に行われていたので、登用試験を経て全員が新しい職位に就くことができた。しかし、近年、大規模な店舗拡大が止まって店長ポストが不足。店長になった人となれなかった人が生まれた結果、実際のポストが異なりながら両者の処遇が同じになるという不公平感を是正する目的で新たな制度にした。 ▼希望するエリアでの勤務可能制度導入  2006年の65歳までの継続雇用制度導入時に、継続雇用者は希望するエリアで、継続して勤務できる制度を導入した。これにより、転勤はなく実家から勤務できるというライフスタイルを優先する働き方ができるようになった。 ▼定年後の再雇用制度  定年後も70歳まで活躍できる定年後再雇用制度は本人が申請し、会社が再雇用することを認定する制度。継続雇用を希望した人のほとんどが基準をクリアしている。嘱託社員になると、同じ部署で従前のスキルを活かして継続勤務できる。再雇用者は、自宅から通勤できる店舗へ配属される。同社では、社員、時間給制社員の区分に関係なく、教育機会を均等に与えられる。制度導入後、8割の従業員がこの働き方を選択し、定年までに得られたスキルを新たな職場で活かしている。短縮勤務も可能なため、シニアライフを楽しみながら働くことができ、健康面と金銭面の両方で好評である。 ▼パートタイマー(コミュニティ社員)の定年延長  2019年9月、パートタイマーの雇用上限は70歳で、待遇は現状のまま定年延長が可能になった。 ▼シニアアルバイト制度導入  2020年に70歳定年に達した者(嘱託社員、コミュニティ社員)を特定の職種にかぎり、勤務延長する制度を導入した。延長職種は水産、畜産、惣菜技能者、薬剤師などで、自身の健康状態を把握していることを条件に、人材の採用難部門にかぎり70歳以降の再雇用を実施するもの。  シニアアルバイト制度の導入に際し、70歳以上ということから、これまでの年齢層以上に体調の変化が懸念され、制度移行の対象者をどう判断するのかについて、労使で話し合った。どの年齢層でも病気や通院はあることなので、この年齢層のルールを改めて設定することはむずかしかったが、健診をきちんと受けて、必要な通院をしていれば自己申告でよいという結論になった。中高年齢従業員は、会社で長く働けることを理由に、この制度を前向きに受け止めている。社内では、ほかの職種でも同様の制度に対するニーズはあるが、社としては不足人材に対して高齢者だけではなく、若い人材も確保したいと考えており、いまのところほかの職種への拡大は考えていない。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫 ▼ライフプランセミナーの実施  ライフプランを作成して現在から未来を「見える化」することで、リタイア後の経済的不安を解消し、健康で生きがいのある生活を送ることができる気づきと動機づけを行うことを目的に、ライフプランセミナーを実施している。55歳以上を対象としたWebによる4時間コースで、受講者数は2018年が55人、2019年が76人だった。実施内容はセカンドライフの収入、支出や家計の見直し、退職後の手続きなど多岐にわたり、受講者からは満足の声が上がっている。 ▼自己啓発の推奨  自己啓発に関しては、受講料の半額を補助する援助金制度がある。「全従業員へのお知らせ」により自己啓発(書籍代、通信教育代など)の費用に補助が会社から出ることを周知。2019年は72人、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響で講座中止が相次ぐなか、23人が援助金を受けた。この制度は従業員のモチベーション向上に貢献している。 ▼技術向上のための各種セミナー開催  年齢、雇用区分に関係なく受講資格があり、だれでも参加できる。二日市に自社専用の教育センターが設置されて、専任の技術トレーナー(水産トレーナー、デリカトレーナー、畜トレーナー)も配置されており、現場と同じ設備環境で訓練できる。新規採用の従業員は参加必須であり、合格すると手当もつく。資格取得者は2019年度が1053人(55歳以上271人)、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響でセミナー中止が相次ぎ、514人(55歳以上162人)だった。資格としては鮮魚士(3級、2級)、ホットデリカマスター、寿司マスター、ベビーアドバイザー、パンドラマスターなど幅広く網羅している。同社の人材育成は店舗でのOJTに加えて、教育センターでのOFF−JTも行われる。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理  従業員の心身の健康のため健康相談室を設立し、保健師を駐在させて全店を管理した。重点施策として、まず健康診断受診率の向上を目ざした。また優先度の高い従業員への保健指導を強化したほか、2017年からはメンタルヘルスの取組みに着手し、ストレスチェック受診率は少しずつ上昇している。さらに禁煙を推奨し、卒煙プログラムなども導入することで喫煙率は24.1%(2017年)から19.1%(2019年)にまで減少した。 A安全衛生  産業医による事業場のチェックを実施した。これは産業医活動マニュアルに基づく活動であり、危険な場所の改善指示を行うもの。職場巡視チェック項目に基づき月1回、職場巡視を行い、安全衛生委員会で報告される。  高年齢労働者の労働災害発生率は若年労働者と比べて高く、原因の多くが転倒であることから同社では転倒防止策に注力している。予防策として、@バックルームの整理整頓、A定位置管理の実施、B階段に踏み外し防止のための蛍光テープの貼り付け、C暗いバックルームには蛍光灯を点灯、Dスイングドア(バックルームから売り場へのドア)を外開きから内開きにして衝突を防ぐことなどを重点的に実施した。 (4)高齢従業員の声  イオンモール福岡店で継続雇用2年目のAさん(男性)は、グループ企業勤務時を含め、衣料品販売を30年担当。その間、四国、大阪、岡山に転勤し、近年は福岡県内に配属されてきた。現在は食品売り場のバックヤードを担当。レジ打ち、パソコン入力、ギフト受付、商品の見切りなど初めての業務もあるなかで一つずつ精力的にこなしている。時間によって行う仕事が変わるので、スマートフォンのアラームをセットして対応。このほか、パートタイマーからの相談を聞くなど管理職のサブ的な仕事も担当している。「食品担当は初めてですが、お客さまやほかの従業員から質問を受けるため単語帳のようなものをつくって、用語などを覚えています。元気でいるかぎり働き続けたいです」と語る。 (5)今後の課題  同社は年齢や雇用区分に関係なく、従業員が在職中はその能力を十分に発揮できるようにサポートすることが働きやすい職場、ひいてはお客さまの満足へつながると確信している。従業員が自らのライフスタイルプランを十分に理解してもらうとともに、会社として生活様式に合わせて仕事ができる制度の周知を図り、途中退職することなく70歳まで元気に働くことを応援する企業風土の醸成を掲げて不断の努力が続く。 写真のキャプション イオンモール福岡伊都 転倒災害の防止啓発ポスター 吊り広告の準備作業に取り組む高齢従業員のAさん 【P20-23】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢従業員の経験と技術を継承 一人ひとりがより高いパフォーマンスを発揮 株式会社 壮健 (岐阜県各務原市) 企業プロフィール 株式会社 壮健 (岐阜県各務原市) 創業 1999(平成11)年 業種 高齢者福祉(社会福祉・介護事業) 従業員数 120人 (内訳) 60〜64歳 11人(9.2%) 65〜69歳 10人(8.3%) 70歳以上 26人(21.7%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで継続雇用。70歳超は運用により一定条件のもと年齢の上限なく雇用。現在の最高年齢者は82歳 T 本事例のポイント  株式会社壮健は、2000(平成12)年に訪問介護事業を開始した。2009年の小規模多機能型居宅介護施設「陽だまりの宿」の開設を皮切りに老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の設立など業容を拡大していった。  「年齢に関わりなく、出来る人に、出来ることを、出来るだけ長く、お願いし、利用者にベストサービスを届けること」が創業以来の会社の方針である。「若手、中堅、高齢者それぞれが、個々のスキル・能力に応じて、多種多様な介護業務のうち、より適した業務に従事し、適材適所により高いパフォーマンスを発揮することで、利用者にベストサービスを提供していく」ことを旗印に掲げて、地域に根ざした活動を展開している。 POINT 1 2020(令和2)年10月1日、それまでの希望者全員65歳までの継続雇用から希望者全員70歳までの継続雇用制度に改定した。 2 継続雇用制度の改定に先駆け、人事評価・賃金制度を1年かけて策定した。職種ごとの自己評価表は、すべて従業員がつくり上げた他社にはないオリジナルである。 3 経営者と従業員が一体となって負荷軽減に取り組んだ。会社側は、予算の可能な範囲で入浴装置や新型車いす、ロボット掃除機などの導入による負荷軽減を図り、従業員は、有スキル者の経験・ノウハウを自ら「作業マニュアル」としてとりまとめ、作業の標準化・実践力の向上を図った。 4 安全確保と事故防止のため、事故につながりやすい時間・場所・動作を明らかにした「利用者別のヒヤリハット報告書」を作成し、利用者ごと、従業員ごとのヒューマンエラーを排除する取組みを従業員が自主的に実施している。 U 企業の沿革・事業内容  1999年に法人設立後、2000年に訪問介護事業を開始し、小規模多機能型居宅介護施設、老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などを設立した。現在は岐阜県南部エリアを中心に7施設を運営している。「優れた見識と豊かな心で活力とゆとりある人間社会の構築に資する人材育成と事業の実現に貢献する」という経営理念のもと、高齢利用者約370人に対し、「『いつでも、どこでも、私らしく』その人の尊厳と利用者本位の自己決定に基づいた暮らし」の継続を支援している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の全従業員数120人のうち、60歳以上の高齢者の割合は39.2%となっている。内訳は60歳から64歳が11人(男性1人、女性10人)、65歳から69歳が10人(男性1人、女性9人)、70歳以上が26人(男性2人、女性24人)である。  かつては65歳以降の継続雇用制度の骨格づくりまではできていなかったが、従業員が高齢化したこともあり、会社側は積極的に従業員の声を取り入れるようにした。従業員サイドの視点から物事を合議体で進めるという考え方のもと、従業員の高齢化や同一労働同一賃金、改正高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の施行といった社会情勢も考慮し、まず人事評価・賃金制度の改定に着手した。会議では必ず一人1回は発言するようにという社長の働きかけもあって、従業員から次第に意見が出るようになり、1年かけて人事評価・賃金制度を作成、2020年5月から導入した。  この人事評価・賃金制度をふまえ、これまでの希望者全員65歳までとしていた再雇用年齢を2020年10月1日から70歳に引き上げた。同社は地域への貢献、地域とのつながりを大切にしており、「年齢に関わりなく、出来る人に、出来ることを、出来るだけ長く」という創業当初からの方針に沿って、今後も「世の中の動向」、「利用者・従業員のニーズ」に対し、常に高いアンテナを張りつつ事業を展開していくことを目ざしている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年延長・継続雇用制度 @人事評価・賃金制度の改定  少子高齢化や、同一労働同一賃金といった時代に合わせた制度改定を行うため、「どうすれば賃金を上げることができるか?」という観点から、従業員に対するヒアリングをくり返し実施。1年かけて人事評価・賃金制度を作成し、2020年5月に導入した。また、役割・業務が変わらない場合は、再雇用後も定年前と同じ賃金とした。これは高齢従業員のモチベーションを維持・向上させ、引き続き活躍してもらうことをねらいとしている。なお、評価に応じた賃金ランクの決定は、正規雇用やパートを含めた全従業員について、直属の上司と本人による二つの評価を経て本人と面談のうえ、最終的には取締役会で決定する仕組みとなっている。 A継続雇用制度の改定  2019年度には60歳以上が17人(28.3%)と従業員の高齢化が進み、65歳以上の従業員も10人となった。こうした実態に合った制度に変えることが求められ、改正高齢法による70歳までの就業機会確保の努力義務化を意識して、高齢者活用による職場のパフォーマンス最大化を目ざすこととした。先に見直した人事評価・賃金制度をふまえて、2020年10月、継続雇用の上限年齢を希望者全員65歳から70歳へと引き上げた。なお、定年前には面談を行うが、従業員により面談のタイミングはまちまちである。従業員が体力的に辛そうに見えれば、早めに声をかけており、これまで定年で退職した人はいない。 B短時間勤務制度等  年齢にかかわらずスキル・能力に応じて活躍してほしいとの考えから、60歳定年以降も、また継続雇用上限70歳を超えてからも原則フルタイム勤務としている。一方、家庭の事情などで本人が申し出た場合には、短時間勤務・短日勤務制度を利用することができる。「家庭が一番」、「子どもが一番」という経営トップの理念を具現化し、プライベートを安定させ、仕事に集中できる環境を整えている。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫 @高齢従業員を手本とした人材育成  81歳の従業員(訪問介護・ヘルパー職)が、業務に高い意欲と優れたパフォーマンスを示しており、「この人のようになりたい」と後輩従業員の目標となっている。また、夜間勤務に熟練した経験豊富な70代の従業員もおり、こうした一人でどのような業務も行える高齢従業員には、新人の若い従業員とペアで働いてもらうことにより、人材育成を進めている。若手・中堅や新人が経験・ノウハウを有した高齢従業員とともに実際に働き、その姿を傍(かたわ)らで見てもらい、スキル・技能をOJTなどで継承していくことは人材育成の実現につながっている。 A社内研修、外部研修によるスキル向上・実践力向上  管理者・責任者などを講師とした社内研修を毎月実施し、スキルおよび実践力の向上を図っている。社内研修用資料については手づくりで、現場で役立つことや、法的・制度的なことなどを盛り込むとともに、問題形式とすることで受講者自らが考えるように工夫しており、現場力・実践力を高めている。また、身近な講師が職場の実情に即した講義を展開することで、たいへんわかりやすい内容であると受講者から好評である。なお、直接受講した方が効果的と思われる外部組織の研修には積極的に参加させている。 B資格取得支援  資格取得に必要な費用は会社が全額負担するとともに、資格取得後は資格手当を支給するなどの待遇を改善し、有資格者として名実ともに活躍してもらっている。資格を持っていない介護従事者については、入社後に資格を取りたいという動機づけになれば、と会社がヘルパー資格などの取得費用を補助している。 C独自マニュアルやOJTによる人材育成  高齢従業員をはじめとした有スキル者の経験・ノウハウをマニュアルとして取りまとめ、標準化を図るとともに、OJTをあわせて実施して、実践力の向上を図っている。マニュアルはすべて現場の従業員が作成した同社独自のものであるが、マニュアル化により確実に技術・技能を継承できるだけでなく、施設間のサービスレベルの違いも解消でき、利用者満足度の向上につながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  浴室を改修し、入浴装置、リフトを導入して高齢従業員の負担を軽減した。また、車いすを買い換えて体力的な負担の軽減を図った。机の高さで操作できるロボット掃除機も導入している。 A安全確保・事故防止  ヒヤリハットの収集・展開により、事故防止を図っている。利用者別に「いつ、どこで、どのような、ヒヤリハットがあったのか」をグラフ化し、個々の利用者の状況に応じた注意すべきことを見える化している。 B健康管理、メンタルヘルス対策等  法律で定められた健康診断をはじめ、法定外である結核検査も実施している。メンタルヘルス研修については代表者が受講し、社内各施設で展開している。また、ハラスメントにかかわる窓口を設置しており、窓口に相談するとすぐに面談してもらえるシステムは、従業員の安心感の醸成に一役買っている。 C役割分担による円滑な業務遂行・業務効率化  高齢従業員にとって苦手意識のあるパソコンを使用する事務処理作業については、専門の事務員を雇い、配属することにより従業員が現場作業に集中できるようにしている。 (4)高齢従業員の声  「陽だまりの宿」の厨房で働く塩崎(しおさき)美佐子(みさこ)さん(73歳)はかつて縫製業を営んでいたが、12年前に採用された。1日5時間半の勤務をこなし、多いときには施設利用者18人分の調理を担当。厨房では塩崎さんを含め3人が交代で勤務している。厨房業務以外では、ホールで若い従業員と懇親会(七夕会)を開いたり、畑でのガーデニングを楽しんだりしている。塩崎さんは、「利用者から『おいしかった』といってもらえるとやりがいがあります。足腰が弱らないよう屈伸運動するなど、日ごろから健康状態に気をつけています。体力が続くかぎりは働きたいです」と明るく語った。 (5)今後の課題  新規分野を含め業務一つひとつを検証し、専門分野と非専門分野を切り分けるなど、高いスキルを持つ高齢従業員が活躍しやすい業務実施フローを構築することにより、高齢者雇用の促進と業務サービスの質を担保し、新規分野への参入も精力的に進めていく。  また、少子高齢化をふまえ高齢者の戦力化を進めるとともに、組織全体のパフォーマンスを高め、介護関係施設の拡大を視野に置いている。さらに、若手・中堅・高齢者による全世代の職員のパワーを活かして事業展開してきたノウハウを土台に、子育て世代の女性にも活躍してほしいとの思いから保育所、そして高齢社会に必要な医療法人などへの事業領域拡大を目ざしている。 写真のキャプション 事業所外観(陽だまりの宿) ロボット掃除機を操作する最高齢従業員の高橋富子さん(82歳) 塩崎さんが前職のスキルを活かして制作した、施設利用者のための間仕切りカーテン 「陽だまりの宿」の厨房で働く塩崎さん 【P24-27】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 意欲を高める職場環境や評価制度を整え長く活き活き働ける職場風土を創出 前原製粉 株式会社 (兵庫県姫路市) 企業プロフィール 前原製粉 株式会社 (兵庫県姫路市) 創業 1954(昭和29)年 業種 食料品製造業(和粉・包装餅・鏡餅製造販売) 従業員数 156人 (内訳)60〜64歳 7人(4.5%) 65〜69歳 18人(11.5%) 70歳以上 15人(9.6%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。就業規則により希望者全員を年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は81歳 T 本事例のポイント  前原製粉株式会社は明治末期に家業形態として穀粉業を開始、主に白玉粉を製造してきた。1933(昭和8)年に「赤穂義士(あこうぎし)」にちなんだ「義士印(ぎしじるし)」を商標登録、1954年には法人化され現在の社名となった。1965年から包装餅の生産も始め、着々と業容を拡大。高齢者を含めた従業員全員の幸福や成長を願い、個人を尊重した社風を目ざすという経営理念を掲げている。近年は高齢従業員を対象に長期雇用と活躍を推進しようと、短時間勤務制度や製造・検査工程における自動化、相談事に応じる「総合相談窓口」などを導入。年齢にかかわらない評価制度に基づく賃金体系も取り入れ、高い意欲を持って長く働いてもらう環境づくりに力を入れている。 POINT 1 2017(平成29)年4月、65歳定年に就業規則を改定。定年後は年齢の上限なく希望者全員を継続雇用とした。 2 2021(令和3)年1月から55歳以上を対象に短時間勤務を制度化し、柔軟な勤務体制が整備された。 3 賃金制度では能力を評価して賃金を設定。高齢従業員も毎年評価され、年1回の面談で勤怠状況や仕事での能力発揮の程度などを評価し、賃金を決定している。 4 高齢従業員のさまざまな相談ニーズに応えるため、「総合相談窓口」を設置している。相談には管理職全員と産業医、社会保険労務士があたり、高齢従業員が内容に応じて相談相手を選択できる。 5 原材料の投入について、完全に自動化ができない箇所に、バキュームリフトや自社製作の簡易的な昇降機を取りつけ、労力の軽減を図っている。 6 熱中症対策に注力し、屋外に給水機(ウォータークーラー)を設置し、また比較的室温の高い作業場に「熱中対策水」を常備している。 U 企業の沿革・事業内容  前原製粉株式会社は、明治末期に家業形態としての穀粉業から始まった。以来、主に白玉粉を製造してきたが、1933年には「赤穂義士」にちなんだ「義士印」を商標登録、1954年に法人化され現在の社名となり、穀粉を本格的に生産開始した。1965年から包装餅の生産も始め、着々と業容は拡大されてきた。  1994年、無菌化包装餅工場を建設、その後、品質マネジメントシステムのISO9001や食品安全マネジメントシステムのISO22000を認証取得している。現在の主な商品は白玉粉などの和粉、包装餅、鏡餅である。白玉粉は100年以上の歴史があり、無菌化包装餅は「杵つき」のこだわりが消費者に高く評価されている。加えて北海道産馬鈴薯澱粉(ばれいしょでんぶん)のみの「片栗粉」や国内産大豆を主体に味にこだわった「きな粉」も供給している。法人化して以来、「社員の幸福と成長 能力・人格面での成長を全員が目指し、個人が尊重される風土を作る」という経営理念に基づき、高齢者はもとより障害者の雇用にも積極的に取り組み、2019年には障害者雇用優良事業所等表彰の全国表彰式において、従業員1人が優秀勤労障害者として、当機構理事長表彰を受賞している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の従業員構成は、156人のうち60歳以上の従業員が計40人で25.6%を占める。年齢別内訳は60〜64歳が7人、65〜69歳が18人、70歳以上が15人である。  同業他社に比べ、同社の高齢従業員の定着率が高い理由は、戦力となっている高齢従業員の能力を活用する観点から、体力負担の少ない職場環境づくりが進んでいることが背景にある。  なお、若い労働力の獲得にも積極的に取り組み、毎年、高卒の新卒採用を行い、製造現場へ配置している。現在の平均年齢は48.7歳だが、将来的には高齢化が進んでいくことが予想されている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制の改定  2017年4月に就業規則を改定し、65歳を定年とし、定年後は年齢の上限なく希望者全員を継続雇用とした。高齢化時代の到来を見すえ、将来的に定年延長は時代の要請とされることを予見して決断した。 ▼勤務時間の柔軟化  55歳以上を対象に、2021年1月に就業規則を改定して短時間勤務を制度化、短時間勤務を希望する者は労働時間を1日あたり1時間短縮している。以前からフルタイム以外の勤務を希望する従業員がおり、勤務パターンを固定化せず、本人の希望に応じて柔軟に個別対応していたものを、あらためて制度化したものである。半日勤務も可能で、勤務時間の柔軟化は従業員の定着化にも功を奏している。 ▼賃金制度  年齢に関係なく能力評価により賃金を設定しており、73歳の高齢従業員の昇給例もある。高齢従業員も毎年能力を評価されており、年1回の面談で本人に希望を聞きながら、勤怠状況や仕事での能力発揮の程度などを評価し、賃金を決定している。なお、高齢期に能力が低下した場合でも賃金を下げることはなく、配置転換などで対応している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み 高齢者雇用については年齢に関係なく、本人の意欲と基礎的な体力があり健康であれば、継続して勤務することを認めており、同様に採用においても年齢で限定することはない。経営理念として高齢者を含めた全従業員の幸福と成長や、個人が尊重される風土づくりを目ざしている。主要な労働力は製造現場のパート従業員であり、多くは子育てを終えて40歳前後で入社した女性たちである。  その後20年近く勤務している者が多く、定着率は高い。パート従業員の昇給に際し、年収が増加することで扶養家族から外れることを望まない場合は、年間の労働時間を調整することで対処している。例えば11月が繁忙期のため、その期間中に労働時間が長くなることを見越して夏に労働時間を短くするなどの工夫をしている。パート従業員のなかから契約社員に登用される場合、面接と試験などで選考している。 ▼総合相談窓口の設置  高齢従業員のさまざまな悩みや相談に応えるため、「総合相談窓口」を設置した。相談者は管理職全員と産業医、社会保険労務士であり、高齢従業員が相談したい相手を選べるようにしている。特定の管理職に相談できないことでも、別の管理職に相談できるよう柔軟性を持たせ、匿名でも相談可能としている。また、従業員には年2回社長や管理職が、パートについては年1回各部門長が面談を実施し、従業員の状況を把握するとともにさまざまな相談に乗ることができる体制が確立されている。  相談内容はさまざまで、全体では年金や社会保険、健康、仕事上の要望が多く、高齢従業員の場合は年金と収入の関係を気にかける者が多い。 ▼社内認定有資格者制度の実施  同社では業務上の必要性から社内認定資格を20年以上前から設けている。食味官能検査員、きな粉官能検査員、測定機器社内検査員など14種類あり、ISO取得の取組みをきっかけに、高齢従業員や経験者などが有する技能・技術なども参考にしつつ、独自に体系化して作成した。品質管理強化の目的から当該業務に就くには社内認定資格を持つことを条件としており、事前に社内研修で有資格者が講師となって教育している。  社外資格(公的資格)も20種類以上あり、ISO内部監査員やフォークリフト操縦などが該当し、資格保持者は一覧表にして社内に貼り出している。技能を持った高齢従業員が若手に指導する場合や社内のキャリア形成の指標として活用している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @機器の整備  原料の重量が社内製造品は30年近く前から1袋15kgを上限としているが、仕入れ品である和粉は1袋あたり20kg以上あるものがいくつかあることから、原料を投入する作業は体力的な負担が大きかった。そのため、バキュームリフトや昇降機を導入した。 A健康管理  高齢従業員向けの法定健診に、大腸がん検診を追加した。その背景には協会けんぽ加入者には従来から大腸がん検診は用意していたが、未加入者もいたためである。また、腰痛体操や検診情報など健康管理に関する情報を逐次掲示し、年4回の全員対象のミーティングや社内SNSによる健康・安全意識の啓蒙活動で健康維持を支援している。また25年前から屋内喫煙を全面禁止にするなど、健康増進にも取り組んでいる。  さらに、作業現場のなかには高温になる職場もあり、熱中症対策が必要なことから「熱中対策水」を支給している。これは水分や塩分などが補給できるパウダー状のもので、ペットボトルの水に溶かして使用する。給水器の台数も増やして、安全・安心に働ける職場環境を目ざしている。 B福利厚生  従業員の休憩室をリニューアルし、給茶機を複数台設置した。日本茶やコーヒーが冷・温から選べるほか、みそ汁も自由に飲めるようになっている。 (4)高齢従業員の声  最高年齢者のAさん(81歳・男性)は80歳で採用された。ハローワーク経由でパートに応募し、同社としては年齢的な不安があったものの、元気で意欲が高かったことから採用。現在、洗濯や清掃業務を担当している。本人はかつて自営業を営んでおり、働くことにはブランクがあったが、いまは働くことで生きがいも生まれている。「週4日程度で9時から15時までの勤務はライフサイクルに合っています」と語る。  Bさん(73歳・男性)は他社を55歳で退職後、パートで入社し、勤続18年を誇る。現在は契約社員に登用され、フルタイム勤務をこなしている。業務は餅製品をつくる前工程のもち米の浸漬から蒸す工程を担当、まじめな働きぶりは若手従業員のよき手本となっている。 (5)今後の課題 意欲と体力があれば勤務が継続できるよう、ソフトとハードの両面での総合的な環境整備に努めて、高齢従業員が長く働くことができる職場づくりを今後も進めていく。  同社の「日本一美味しい製品を作る」という確固たる理念を支えているのは、高齢従業員の豊富な経験と技能であることから、高齢従業員が十分にその能力を発揮できる職場づくりを重視しながら、総力でいっそうの高みを目ざしていく。 写真のキャプション 会社外観 原材料米を運搬する高齢従業員 自動化がむずかしい工程に導入した自社製作の簡易的な昇降機 従業員が自由にくつろげる休憩室には畳や給茶機がある 【P28-31】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 熟練職人から若手へ特殊技術を継承し生涯現役で働ける会社づくりを推進 株式会社 美装管理 (大分県別府市) 企業プロフィール 株式会社 美装管理 (大分県別府市) 創業 1974(昭和49)年 業種 ビルメンテナンス業(清掃業) 社員数 41人 (内訳) 60〜64歳 4人(9.8%) 65〜69歳 8人(19.5%) 70歳以上 9人(22.0%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。就業規則により75歳まで継続雇用、75歳以降は運用により上限なし。現在の最高年齢者は77歳 T 本事例のポイント  株式会社美装管理は1974(昭和49)年7月に大分県別府市にて創業。以来、新築住宅や中古住宅のメンテナンスを中心に事業展開してきた。別府市内の病院、ビル・マンションなどの日常清掃業務、ホテルの客室清掃、新築住宅の仕上げ清掃、アパートの退去後清掃を主業務とし、特殊技術として神社・仏閣・古民家の木部灰汁(あく)洗い清掃業務を行っている。現場で作業する社員への定期的な巡回に社長が積極的に参加して、社員との信頼関係の構築と社員の身近な悩みや要望が会社に届く環境づくりに取り組んでいる。現場の巡回を通して社員から寄せられた悩みや要望を作業改善や人事管理制度の見直しなどに反映させ、社員が安心して長く働ける環境づくりに取り組んでいる。 POINT 1 現社長が12年前に社長に就任して以来、社員が安心して長く働ける職場環境の整備を図り、人事管理制度の拡充などを積極的に推進している。 2 以前は66歳定年、70歳まで継続雇用、運用により年齢上限なく継続雇用していたが、2021(令和3)年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行にあわせて、定年年齢を70歳に引き上げた。また、継続雇用制度の上限年齢も75歳とした。 3 社員の負担を軽減するため、助成金を活用した清掃機器の購入、業務依頼元と交渉して作業環境の改善を図っている。 4 伝統手法「木部灰汁洗い」の技術を継承していくために、ペア就労で熟練職人が若手社員への技術指導を行っている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1974年に創業。病院やビル・マンションなどの日常清掃業務をはじめ、ホテルの客室清掃業務、新築住宅の仕上げ清掃業務、アパートの退去後清掃業務などを行うビルメンテナンス業を行っている。また、清掃業のなかでも特殊技術である神社・仏閣の「木部灰汁洗い」の技術を有していることが、同社の強みとなっている。この技術は熟練職人から若手へと、着実に技能継承され、高齢社員の指導的役割が社内風土として必要不可欠なものとなっている。  主なお客さまは病院や建設会社、不動産会社、ホテル・マンションの管理会社であるが、特殊技術である神社・仏閣の木部洗いは、全国から依頼が寄せられる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の社員構成は、社員数41人のうち60歳以上の高齢社員が21人(男性9人、女性12人)で、51.2%を占める。70歳以上が9人おり、最高齢は77歳である。新卒採用がむずかしい業界であり、同社の採用は中途採用が中心で、中高年齢層の中途採用も積極的に行っている。  同社で働く社員の半数以上が60歳以上であるが、仕事に対する意識が高く、責任感が強いことから、業務の依頼先からの信頼も厚く、重要な戦力として活躍している。こうした経験とノウハウを持つベテラン社員が安心して仕事に従事する職場環境を整備・拡充してきた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制と継続雇用制度の改定  2010年代半ばに社員の平均年齢が57歳となり、高齢化が顕著となってきた。従来、同社では定年66歳、70歳までの継続雇用、さらに運用で70歳を超える雇用を実施していたが、2021年4月に施行された、改正高年齢者雇用安定法による70歳までの就業確保措置に鑑み、高齢化の現状と向き合うなかで定年制、高齢者雇用制度の見直しを実施。定年年齢を70歳、継続雇用の上限年齢を75歳に改定した。  継続雇用後の処遇について、賃金は定年到達時の水準を継続し、減額は行っていない。ただし、短時間勤務を希望する場合は時間比例による見直しを行う。定年到達者が、引き続き継続雇用を希望する場合は、健康面の問題がなければ原則的に継続雇用を行っている。  なお、病院やホテルの清掃業務に主任として従事している正社員が、定年により継続雇用に切り替わった際には主任を外れ、一社員として引き続き業務を担当してもらうほか、ペア就労の教育係としての役割が任される。 ▼柔軟な勤務体制  現場作業のなかでマンションの共用部清掃などは、社員の希望に合わせて勤務時間帯を固定せず、柔軟に対応している。また、病院・ホテル清掃などの常駐業務の場合、社員の急な体調不良などの休みに対しては、代行できる社員を派遣している。高齢社員にとっての心配事の一つが、体調不良や自宅での転倒などによるけがで急に休まざるを得なくなることであるが、どの現場の業務も代行できる社員がいることで、安心して休みを取ることができる。このように働きやすい環境が整備されていることが社員の定着率を高めている。ちなみに代行社員は常駐業務のどの作業もある程度習得している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼高齢社員による伝統手法の継承(ペア就労)  同社は、伝統手法である「木部灰汁洗い」の技術を九州内で唯一保持している。日本の木造建築、特に神社・仏閣・古民家などは簡単に建て替えできるものではないことから、木を削ることなく建てた当初の風合いや木の香りまでよみがえらせる木部灰汁洗いの技術は、後世に残していくことが求められる。職人の技、匠の技の伝承には経験値も多く必要であるため、簡単にマニュアルにはできない部分もあり、経験豊かな高齢社員から若手社員への技術の継承が不可欠となっている。そのため、木部灰汁洗いの現場では、高齢社員と若手社員をペア就労させ、若手社員への技の伝承をOJTで行っている。木の色味や汚れの落とし具合などを現場で直接指導することで若手の技術も向上している。  ペア就労では、身体負荷のかかる道具の準備や、高所での作業などは若手社員が受け持ち、作業内容の指示・指導を重点的に高齢社員に担当してもらう仕組みを確立した。  ペア就労は「木部灰汁洗い」の現場だけではない。技術・経験を持つ高齢社員はさまざまな現場で活躍している。メンテナンス現場においては、お客さまとの信頼関係が大事であり、若手社員が新しく入った際にも、ベテランの社員が教育担当として一緒に働くことでお客さまが安心して清掃業務を任せられる雰囲気づくりに一役買っている。  一方、ホテルの客室業務では、高齢社員は新入社員や障害のある社員の教育係として活躍している。作業時間に制約のある現場では、現場の担当者が通常業務を行いながら、新入社員や障害のある社員にゆっくりと指導する時間が取れないため、高齢社員が教育担当として個別指導する体制を整備している。高齢社員は、通常業務のなかでマニュアルにしづらい注意点などを適宜指導し、若手社員の育成に努めている。高齢社員にとっても自分が活躍できる場があることでモチベーションの向上につながっているという。  また、高齢社員自身は、若手社員とのペア就労について、「孫と仕事をしているようだ」と、世代間のギャップを楽しみながら勤務している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生 ▼作業環境の改善  常駐業務は作業環境が現場によって異なるため、なかには負担がともなう作業がある。その一つに雑巾やモップの洗浄がある。手作業で行うと労力と時間がかかり社員の負担が大きいので、業務の依頼元と交渉して洗濯機を設置してもらったり、助成金を活用して清掃機器を購入するなどして作業負担の軽減を図っている。  負荷軽減のために導入した機器の例としては、社員の要望から、「コードレスポリシャー」、「肩かけタイプの掃除機(バッテリー式)」を導入した。コードレスとなったことから、両手が使えるようになり、転倒事故などのリスクも格段に下げることができ、安全性のアップにつながった。また、隅専用の「すみすり棒」(モップ)を使うことで、中腰での作業がなくなり、足腰などの負担軽減につながっている。作業環境の改善は、日常的に実施している巡回のなかで高齢社員などから寄せられた意見や要望をもとに、継続的に実施している。 ▼健康管理  法令に基づいて健康診断を年1回実施しているが、その際に生活習慣病予防検診として、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)検査を実施している。加齢により骨がもろくなり、転倒事故などによる骨折リスクが高くなるため、それを回避するとともに予防対策を可能にするためのものだ。また、希望者には産業医のカウンセリングも行っている。さらに、医師には相談しづらい仕事や人間関係などの悩みがあることも想定し、メンタルヘルス関連の資格を取得した総務部の社員が聞き役となる体制も整備した。 (4)そのほかの取組み  そのほかの取組みとしては、「社長・部長による定期的な現場巡回による社員のフォローアップ」があげられる。現場での作業は直行直帰が多く、会社との関係が薄くなってしまうため、定期的な現場巡回を実施している。現場巡回自体は、同業他社でも行われているが、同社の場合は、社長が積極的に参加して社員とのコミュニケーションを図っているのが特徴だ。このほか、社員の誕生日に社長の手書きのメッセージカードを添えたケーキが贈られるなど、信頼関係の構築に力を注いでいる。また、今般のコロナ禍のもと不安な日々が続くなかで、全社員に社長の手紙を添えて10kgの米が贈られた。 (5)高齢社員の声  松田明美さん(71歳)は、同業他社での勤務を経て同社へ中途入社し、今年で8年目を迎える。午前は高齢者施設、午後は病院の清掃を担当している。現場への直行直帰の業務であるため本社とのつながりが薄いものの、社長や部長が定期的に巡回してコミュニケーションをとり、フォローしているため、「安心して業務に専念できます」と笑顔で語る。 (6)今後の課題  同社では、「高齢者」というくくりではなく、「大切な働き手」であるという考えがベースにあり、より長く働ける環境を整備するため、将来的には定年制の廃止を検討している。同時に、高齢社員の場合は健康面などの不安があるため、健康診断や産業医によるカウンセリングのさらなる充実、作業負荷を軽減するための新たな機器類の導入なども視野に入れている。高齢者や障害者などすべての人がいきいき働ける会社づくりを目ざしていく。 写真のキャプション 会社外観 コードレスポリシャー(左)、肩かけタイプ掃除機(右) 病院の清掃を担当している松田明美さん 【P32-33】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業(事例)一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 山梨県 株式会社 ササキ 優秀賞 三重県 株式会社 アールビーサポート 福岡県 イオン九州 株式会社 特別賞 岐阜県 株式会社 壮健 兵庫県 前原製粉 株式会社 大分県 株式会社 美装管理 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 岩手県 株式会社 ベルジョイス 愛知県 株式会社 ミフネ 大阪府 大容建設 株式会社 山口県 山産業 株式会社 宮崎県 株式会社 グローバル・クリーン 沖縄県 株式会社 仲本工業 特別賞 青森県 株式会社 田名部組 栃木県 株式会社 グリーンデイズ 千葉県 株式会社 岩井工機 長野県 株式会社 竹内農産 愛知県 インラック 株式会社 京都府 株式会社 加悦ファーマーズライス 鳥取県 株式会社 ミテック 【P34-35】 江戸から東京へ [第107回] ユニークな家長 頼(らい)又十郎 作家 童門冬二 商人家長の願い  広島県の竹原は小京都≠ニ呼ばれる。規模の整った品格のある都市だ。江戸時代中期に「頼(らい)」という珍しい姓の商人がいた。名を又十郎という。家業は紺屋(こうや)※1だ。広島の名産品は木綿なので、染物もかなり需要があり、又十郎の店も流行(はや)った。  又十郎には宿願があった。 一.三人の息子を立派な学者にすること 二.又十郎自身は富士山の頂上まで登ること  努力の甲斐あって両方とも実現できた。長男の春水(号)は広島藩浅野家の藩儒になり、藩主と世子(次の藩主)の指導者になった。さらに、幕府の大学・昌平坂(しょうへいざか)学問所の講師も頼まれた。  次男の春風も広島藩の藩儒になったが、多趣味なので、京・大坂・江戸などの文人との交流が盛んだった。  三男の杏平もすぐれた漢学者だったが、行政能力もあるので、藩主は藩領の三次(みよし)の代官に登用した。  「三人の子を立派な学者にしたい」  という、又十郎の宿願の一つは立派に果たされた。又十郎は満足し、もう一つの宿願の富士登山を実行した。宿願は二つとも果たされた。  が、一つ難事が起こった。それは長男の春水の子・久太郎が引っ込み思案で、社会との交流をまったく嫌がったことだ。藩校へは登校拒否、友だちはまったくなし。始終家にこもって本を読んでいる。  「おじいさん、何とかしてください」  ついに母親のしず子が音をあげて、又十郎のところへ泣きこんできた。  二人とも久太郎がなぜそうなったか理由を知っていた。父親・春水のせいなのだ。余りにも忙しい。それに指導する世子が幕府の掟で、常に江戸に住むこと≠義務づけられていたので、いきおい春水も江戸に住み続け、広島にはほとんど帰ってこない。しず子と久太郎は母子家庭と同じだった。  久太郎という名は又十郎がつけた。この孫が可愛くて仕方がない。しかし春水の職責を考えると、  「もう少し家にいろ」  ともいえない。  久太郎の孤独癖はいよいよ重くなる。又十郎は考えこんだ。そして結論を出した。春風と杏平を呼んだ。  「父親の仕事が忙しすぎて、息子の久太郎がああいう具合になっている。済まぬがお前たち二人が春水の代わりを務めろ」  春風と杏平は顔を見合わせた。が二人とも兄の激務は知っている。承知した。 生かす三本の矢≠フ教え  杏平はかなりの頻度で久太郎を三次の代官所へ呼んだ。そして山・川・森などの自然に接しさせた。  「自然と話せ。自然もすべて生命を持っている。土からも水からも木からも学べ。風からも学べ。そして村人からも学べ」  と告げた。杏平自身がそういう気持ちで代官を務めていたからだ。久太郎はその云いつけに従い、どんどん変わっていった。  春風は面白い。母親のしず子にいって家のなかに座敷牢をつくらせ、このなかに久太郎を入れた。久太郎は喜んで入った。  自然と座敷牢との往復で久太郎はやがて目標を発見した。歴史への関心だ。母親に頼んで歴史の本をつぎつぎと差し入れてもらった。やがて自分でも書き始めた。  「久太郎さん、その書物は?」  しず子が訊くと、久太郎は、  「歴史です。私なりの見方です。『日本外史』と名づけました」  そう答えて、  「お母さん、ここから出してください。もっと広い所に出て、人々から学びたいのです」  といった。しず子は嬉しさに涙ぐんだ。久太郎は座敷牢から出て、社会と積極的に接した。書きかけの歴史書も完成させ、著者として自分も号をつけた。広島を含む中国地方の別名である「山陽」だ。頼山陽は歴史家だけでなく詩人でもあった。それも単に山河を詠(うた)うだけでなく、国のことを心配する憂国の詩人だった。  座敷牢を出た山陽は京都に行く。鴨川のほとりに私塾をかまえ、多くの後輩の指導にあたった。  山陽の成長のきっかけは、頼家の家長・又十郎がつくった。又十郎は、山陽の引っこみ思案の責任は自分にあると感じていた。嫁のしず子が久太郎にふり回されるのも、自分が春水を放置しているからだ、と承知していた。  しかし立派な学者になり有名になった春水に、余計なことはいいたくなかった。竹原は戦国時代、小早川隆景(たかかげ)が城をかまえ、水軍の将として活躍した所だ。隆景の父は毛利元就(もとなり)だ。隆景を含む三人の子に三本の矢≠フ教訓※2をして、死んだ長男の子の養育を命じた。  又十郎はその故事を思い出し、二人の息子に久太郎(山陽)の養育を命じたのだ。 ※1 紺屋……染め物屋 ※2 “三本の矢”の教訓……毛利元就が子の隆元、元春、隆景に授けたという教え。一本の矢は容易に折れるが、三本まとめてでは折れにくいことから、一族の結束を説いた 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第112回 福井県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 二段階の継続雇用の仕組みを整えて希望者全員が70歳まで能力を発揮 企業プロフィール 益茂(ますも)証券株式会社(福井県福井市) 創業 1873年(設立1945年) 業種 金融業 社員数 39人(うち正社員数38人) (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 3人(7.7%) 65〜69歳 1人(2.6%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳まで継続雇用(1年更新)。65歳超は運用により70歳まで半年契約で継続雇用。  福井県は、「越山若水(えつざんじゃくすい)」といわれる越前の緑豊かな山々と若狭の清らかな水の流れに代表されるように自然環境に恵まれています。県中央部の山稜を境に、北部の「嶺北(れいほく)」と南部の「嶺南(れいなん)」に地域が区分され、人口や産業は主に福井市のある嶺北地域に集中し、一方の嶺南地域には関西圏に電力を供給する原子力発電所が集中しています。  基幹産業としては、繊維や眼鏡、機械などの製造業があげられ、第2次産業で働く人の割合が全国と比較して高いことが特徴です。世界や国内でのシェアがナンバーワン、あるいは上位の工業製品を製造する企業が数多くあり、特に眼鏡フレームの生産は国内シェアの9割以上を誇ります。  2023年度末には北陸新幹線が金沢から福井県内の敦賀まで延伸・開業される予定で、現在は開業に向けた準備が着々と進んでいます。  当機構の福井支部高齢・障害者業務課の安藤雅仁(まさひと)課長は、「コロナ禍の影響がありながらも、福井県の有効求人倍率は1.83倍(2021〈令和3〉年7月:受理地別)と16カ月連続で全国1位となっています。女性の有業率、夫婦の共働き率も全国1位で、女性の社会進出が盛んなほか、正規就業者の割合も全国トップクラスです。3世代同居率が高く、かつ女性の有業率も高いことから世帯収入が高い傾向があり、持家比率、平均貯蓄率も高くなっています。民間の調査会社による『都道府県別幸福度ランキング』では、福井県は4回連続で総合1位となっており、仕事(雇用)に関する指標は教育と並んで全国トップレベルとなっています」と福井県の特徴を話します。  同課では、労働局およびハローワークと連携し、より多くの県内企業の高齢者雇用の取組みを支援することに力を注ぎ、専門知識を持つプランナーやアドバイザーが活躍しています。  今回は、同課に所属する村上千夏子プランナーの案内で「益茂証券株式会社」を訪ねました。 まもなく創業150周年の老舗企業  益茂証券株式会社は、1873(明治6)年に「益茂両替店」として創業し、2021年1月に148周年を迎えた歴史ある企業です。現在の社名になってからは、76年になります。  経営理念に、社員・顧客・地域・社会・地球に対する「感動創造」を掲げ、「顔の見える証券会社」として、地域密着の対面営業に注力して発展。福井県嶺北地域に4店舗を展開しています。顧客の信頼に応えるため、社内外でさまざまな研修を行うとともに、証券アナリストとしての資格取得を社員に推奨し、支援制度を設けるなどして、挑戦しやすい環境も整えています。  人事をになう総務部の朝香俊一総務課長は、高齢者雇用について、「生涯現役時代を迎え、やりがいを求めて意欲的に働く高齢者が多い印象を持っています。仕事の現場でつちかった知識や経験は一朝一夕で取得できるものではなく、当社においても、定年後も営業活動や後進の指導にあたってもらうなど、引き続き活躍してもらいたい存在です。また、幅広い年齢層の社員がいることは、さまざまな面でプラスに働くと思っています」と語ります。  プランナー活動で2020年10月に初めて同社を訪ねた村上プランナーは、当時の印象を次のように話します。「年金支給開始年齢の引上げが始まり、それにともなう賃金設定の見直しの必要性を感じている企業は多いのですが、それは容易なことではありません。実際の取組みはまだまだこれからと思っていたところ、益茂証券ではすでに賃金制度を改定しており、驚きました」  同社の賃金制度は、かつては55歳過ぎから緩やかに賃金が下がっていく設計でしたが、2020年7月より、年齢にかかわりなく、適正な評価を重視した制度に改定しました。以前の制度に対しては「年齢が理由で賃金が下がるのは理不尽」との声が社員からあり、そのままでは職場全体の士気の低下や、社員の将来への不安につながる重要な問題ととらえ、大きな改革に臨んだといいます。 二段階の継続雇用制度を整備  村上プランナーが昨年の訪問時にもう一つ感心したのが、「継続雇用者のやる気を引き出す制度」ができていたことでした。  同社の定年は60歳、希望者全員を65歳まで嘱託社員として継続雇用する制度があります。  具体的には、定年を迎える1年前の社員から、まず継続雇用の希望と希望する職種や働き方を書面で提出してもらい、会社は希望と適性を考慮し、営業・営業事務・管理事務のなかから担当してもらう職種を検討します。そして、定年の2カ月ほど前に本人と会社とで面談し、会社から職種と仕事内容と働き方、賃金を提示。双方で合意のうえ、継続雇用後の働き方が決まります。定年後は65歳まで、毎年この面談を重ねます。  「基本給や職務給などは職種・業務内容に応じて定めており、勤務時間についても、希望があれば短時間での条件を提示するなど、柔軟な労働条件の提示に取り組んでいます」(朝香総務課長)。  継続雇用制度を導入した2013(平成25)年から現在まで、定年を迎えた社員は5人で、全員が継続雇用されているといいます。  村上プランナーは昨年、この継続雇用制度を高く評価し、「個々のライフプランに対応できる、より柔軟な定年制度」として、選択定年制や段階的定年延長の提案をしたそうです。同社ではそれを受け、より充実した継続雇用制度についてさっそく検討し、改正高年齢者雇用安定法への対応も含めて、今後65歳を迎える継続雇用者について、希望者全員70歳まで半年更新で継続雇用を可能とする新たな仕組みを構築。精査して、まもなく制度化するところです。これにより同社には、@60歳超〜、A65歳超〜の二段階の継続雇用の仕組みが整い、70歳雇用が実現されることになります。  昨年度まで総務・人事をにない、賃金制度や継続雇用制度の改定を担当した監査部の吉田純平次長は、「村上プランナーのアドバイスを受けて、70歳までの雇用を視野に入れつつ、当社の業務内容などもふまえて検討した結果、定年年齢の引き上げより、二段階のこの仕組みが当社に合っていると判断しました」とふり返ります。  二段階にしたのは、65歳を過ぎるといろいろな面で個人差が顕著になることから、半年ごとにその先の働き方を話し合う機会を持つことが最善だと考えてのことです。  今回は、継続雇用制度を選択して活躍を続けるベテラン社員の方にお話を聞きました。 部下と上司が逆転、ベテランの手本に  現在、監査部監査課に在籍する参事の築紫(ちくし)博幸(ひろゆき)さん(65歳)は、益茂証券に勤めて42年。ファイナンシャルプランナーなどの資格を持ち、入社以来、営業一筋で活躍してきました。支店長や役員を務めて定年を迎え、定年後は営業の1プレイヤーに戻って63歳まで同じ道を走り続け、2年前から監査業務に従事しています。  現在の役割は、同社を信頼し、期待を寄せる顧客に対応し、要望を聞いたり、証券の新情報を伝えたり、ときには何気ない会話をしながら、お客さまと営業担当者の間をつなぎ、円滑な取引きを支援すること。築紫さんは、毎日お客さまを訪ねてコミュニケーションを取り、信頼関係の構築に努めています。週5日フルタイム勤務で、この業務を担当してからの2年間で、築紫さん一人で約1400人ものお客さまとの面談を実施したそうです。  「ほとんどのお客さまが初対面ですので、戸惑うこともありますが、とても新鮮に感じて取り組んでいます」とにこやかに話す築紫さん。  直属の上司である監査部の吉田次長は、「築紫さんが持つ力をフルに発揮してもらえるよう、新たに創出した職務です」と築紫さんの仕事を説明します。実は、二人はかつて一緒に営業部に在籍しており、当時の吉田次長は新人で、築紫さんが上司だったそうです。「そのときに、上司とはこういう存在で、プロの仕事とはこうあるべき、というものを教わりました」と吉田次長。その後、吉田次長は管理部や監査部へと異動し、いまは監査部で築紫さんの上司です。  「上司風を吹かすとか、年上だからと偉ぶることはまったくなく、築紫さんは現在の自分の役割と業務を十分に理解し、仕事に邁進しています。私がやりにくいと感じたことは一度もありません。高齢者雇用が進み、今後はこういう年上部下、年下上司がさらに増えるでしょう。『年長でも変わらなくてはいけない』ことを実践しており、築紫さんはその面でも私や後進にたいへんよい手本になってくれています」と吉田次長は築紫さんについて語ります。  築紫さんは、「吉田次長が私の仕事ぶりをしっかり見てくれていることが、高いモチベーションの原動力となっています。自分の役割を認識し、会社からの期待も感じて仕事に臨むことができ、お客さまと会社にどれだけ貢献できるかを考えて取り組んでいます。雇用上限の70歳を目ざして働けるようにがんばりたいと思います。いままで以上にお客さまと真摯に向き合い、業務にあたっていきます」と抱負を語ってくれました。 継続雇用社員のやる気を引き出すには  二段階の継続雇用制度により高齢社員のさらなる活躍が見込まれるなか、朝香総務課長は、「現在の継続雇用制度には昇給の仕組みがないため、営業職以外でも自らがんばりたいと思える仕組みづくりが必要」と課題をあげました。  村上プランナーは、「例えば、加齢による変化をふまえた継続雇用社員のための評価制度を設ける、という方法があります。若い社員と同じ評価制度ではなく、高齢社員のよさが活かされる評価制度を設けることも一案です」と答えるとともに、今後も同社の高齢者雇用の取組みを支援したいと伝えていました。  朝香総務課長は、「スマートフォンなどの情報端末が幅広い世代に浸透し、今後はネット証券が伸びていくと考えています。一方で、『顔を見て相談したい』というお客さまは、これからも必ずいらっしゃいます。当社でそのニーズに応えていくためには、社員の質を高めることが重要です。当社の財産は人です。高齢社員には、知識や経験を活かして活躍してもらい、かつそれを後進に継承してほしい。そして、お客さまと社員を通じて、今後も感動の輪を広げていきたいと思っています」としめくくりました。(取材・増山美智子) 村上千夏子 プランナー(56歳) アドバイザー・プランナー歴:4年 [村上プランナーから] 「プランナーの事業所訪問活動では、それぞれの企業の特徴をとらえ、それを念頭に置いた対応をしています。一方的に話すのではなく、相手の方の話す速度や雰囲気に合わせるように心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆福井支部高齢・障害者業務課の安藤課長は、「村上プランナーは、当支部唯一の女性プランナーとして、2017年から活動しています。相談・助言活動で支援してきた企業が、令和元年度高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で当機構理事長表彰優秀賞を受賞しています。また、村上プランナーが相談・助言および制度改善の提案を行った企業からは、『提案を押しつけることなく、わかりやすく説明してもらった』、『知識も豊富で安心して相談できた』など、好評をいただいています」と話します。 ◆福井支部は、福井職業能力開発促進センター(ポリテクセンター福井)に事務所があります。JR王子保(おうしお)駅から徒歩18分程度です。 ◆6人の65歳超雇用推進プランナーおよび高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、精力的な活動の結果、2020年度は79件の制度改善提案と234件の相談・助言を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●福井支部高齢・障害者業務課 住所:福井県越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 電話:0778(23)1021 写真のキャプション 福井県福井市 JR福井駅近くに構える、益茂証券の本社ビル 人事を担当する総務部の朝香俊一総務課長 監査部の吉田純平次長 お客さまと面談した内容をふり返り、パソコンで記録する築紫博幸さん 【P40-43】 高齢社員のための安全職場づくり エイジフレンドリーな職場をつくる 労働安全衛生総合研究所 高木 元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第10回 切創(せっそう)災害の防止 1 はじめに  働く高齢者に多い労働災害として、今回は切創災害を取り上げます。  切創災害は、機械、電動工具、カッターナイフ、包丁などの手工具を使用するときや、金属製品を手で取り扱っているとき、誤って手指などを切るものです。さまざまな業種で発生しています。本稿では、切創災害の実態、特徴などを紹介し、どうすれば切創災害を防ぐことができるかを解説します。 2 60代以上と30代の切創災害データの比較  高齢者の特徴をみるため、60代以上と30代の労働災害を比較します。まず、休業4日以上死傷災害年千人率(労働者1000人あたり同死傷者数)を比べ、次に、切創災害の発生状況を比べてみましょう。 @年千人率  2015(平成27)〜2019(令和元)年の60代以上と30代の休業4日以上死傷災害年千人率を比べると、60代以上は30代より2倍ほど高くなっています(図表1)。かなり大きな差です。  この60代以上と30代の差は、心身機能の低下が主たる原因と考えられますが、そのほかにも、60代は定年退職後、別の会社に再就職するケースがあるように、働く場所が異なることも労働災害の原因にあげられることに留意が必要です。 A切創災害  厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」に掲載されている休業4日以上死傷災害データ(2015・2016年分、全数のおよそ4分の1抽出データとされる)を用いて、全産業を対象に、60代以上と30代の切創災害(災害分類における事故の型では、切れ・こすれ災害に区分)を比べてみます。  図表2の通り、2016年の休業4日以上死傷者数をみると、切創災害のなかでも、動力機械によるものが60代以上は30代と比べ、1.18倍と高く、特に、木材加工用機械が1.34倍、金属加工用機械が1.38倍と高くなっています。  木材加工用機械には、丸ノコ盤(携行型の電動丸ノコを含む)、カンナ盤、帯ノコ盤、チェーンソーなどがありますが、このうち、電動丸ノコ、チェーンソーの災害が多発しています。一方、金属加工用機械には、旋盤、ボール盤、研削盤(グラインダーを含む)などがあげられますが、特に、グラインダーの労働災害が数多く見受けられます。電動丸ノコ、チェーンソー、グラインダーの災害が多いのは、電動工具の反発により被災しやすいことがあげられます。  そのほか、一般動力機械(食品加工用機械等)、手工具、金属材料については、死傷者数は30代の方が多くなっています。  切創災害事例には図表3(42頁)のようなものがあります。 3 切創災害と心身機能の関係  切創災害と心身機能の関係をみると、握力の低下により電動工具、手工具、切断する材料などを握る力が弱くなり、これにより切創しやすくなります。特に、電動工具が反発した場合、反発を抑えられず、また、とっさにうまく動けず、反発した電動工具が襲ってきても身を守ることがむずかしくなります。  そのほかにも、視力の低下により、工具の刃先や切断する材料などがよく見えないこと、切断作業、研磨作業などは、身体をかがめる姿勢を長時間とり続けることもあり、柔軟性が低下している高齢者には無理な姿勢であり、被災につながりやすいといえます。 4 切創災害防止対策  それぞれの切創災害について防止対策をみていきます。 @電動丸ノコ  電動丸ノコ作業の切創災害防止対策の基本はノコ刃に手を近づけないことです。切断する材料が小さく、手が近づいてしまう場合は、電動丸ノコを使用してはいけません。  電動丸ノコ作業の労働災害の原因は、@丸ノコが突然予期せぬ方向に動く・暴れる、A材料が跳ね上がる、B回転刃に誤って手を触れる、おおむねこの三つがあげられます。  このため、図表4の通り、作業の基本にしたがい、正しく作業を行うことが求められます。 Aグラインダー  グラインダーによる切創災害では、@鋸歯(きょし)に変える、A飛散防止ガイドを外すなどのルール違反が見受けられます。グラインダーは超高速で回転しますので、鋸歯に変えるのは危険極まりないことです。このようなルール違反は絶対に禁止です(図表5)。握力が低下している高齢者は、図表6のような両手で持つことができるグラインダーの使用が望まれます。 Bチェーンソー  チェーンソー作業では、チェーンソーの突然の反発を抑えることはむずかしいことから、2019年に労働安全衛生規則が改正され、下肢切創防止用保護衣(チャップス等)の着用が義務づけられました(図表7)。 Cカッターナイフ  手工具ではカッターナイフによる切創災害が目立ちます。カッターナイフを頻繁に使用している工場や商業施設で労働災害が多発しています。休業4日以上災害も多く、決して侮ってはいけません。カッターナイフ作業の基本は図表8の通りです。  大量の段ボールの開封など、カッター定規の使用がむずかしい場合は、耐切創軍手を着用します。 D包丁  包丁による切創災害を防止するには、衛生用手袋の下に切創防止用手袋をはめ、二重の手袋を着用します。さらに、冷凍魚・鮭鱒の身卸しなど、強い力が必要な作業では、切創防止用手袋の上に金属製メッシュ手袋(図表9)を重ねて着用し、保護性能を高めます。 Eプルトップ缶開け  プルトップ缶のふたを開けるときに切創災害が多発しており、防止対策として缶開け専用のプルトップオープナー(図表10)を用います。 Fハサミ  通常のハサミでビニール袋を開封するとき、指をはさんだり、先端で指を刺したりなどの切創災害が多発しています。防止対策には、刃先を短く先端を丸めたハサミを使用します。 5 おわりに  切創災害防止の基本は、機械、電動工具、手工具などの正しい使用です。握力の低下、とっさにうまく動けないなど、心身機能が低下している高齢者は、率先してそれらを正しく使い、労働災害の防止に努め、若者の手本となることが求められます。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 休業4日以上死傷災害年千人率の30代・60代以上の比較 30代 60代以上 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 出典:中央労働災害防止協会『安全の指標』 (平成28年度版〜令和2年度版) 図表2 30代と60代以上の休業4日以上死傷者数(切創災害、2016年) 事故の型 起因物 30代 60代 年代比較 A B B/A 切創災害(切れ・こすれ) 動力機械 177 209 118% 木材加工用機械 71 95 134% 金属加工用機械 32 44 138% 一般動力機械 73 69 95% その他 1 1 100% 手工具 112 84 75% 金属材料 25 12 48% その他 65 74 114% 合計 379 379 100% 出典:厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」労働災害(死傷)データベース 図表3 切創災害事例 切創災害事例 木材加工用機械 事例1 倉庫内で、電動丸ノコを使用して、配管用塩ビパイプを切断中、塩ビパイプを押さえていた左手の親指つけ根がノコギリに触れ切創した。 事例2 電動丸ノコを使用して端材を切っていたが、端材が小さかったのでノコ刃に手があたり負傷した。 事例3 チェーンソーを使って、丸太を杭に加工切断中、チェーンソーが跳ねて左足大腿部を切った。 金属加工用機械 事例4 工場において、グラインダーで単管を切断中、グラインダーが跳ね返り、左手首に刃があたり負傷した。 事例5 左手で部材を押さえて、グラインダーで、部材の面取り作業中、誤って面取り部を通り過ごし、部材以外のところに砥石が接触し、その反動でグラインダーが跳ね返され、左手の親指つけ根を深く裂傷した。 一般動力機械 事例6 食パンをスライスしているとき、誤って右手人差し指を切創した。 事例7 寿司のカット機械を掃除するため、機械を分解中、誤って手を切った。 手工具 事例8 配送作業のためカッターでダンボールを開封中、誤って手をすべらせ左手の手のひらを切ってしまった。 事例9 包丁で人参を切っている時、手元を滑らせ左親指つけ根あたりを包丁で切傷した。 金属材料 事例10 店舗前でバイクのオイル交換中、オイル缶で右手親指を切り、傷口から菌が入り重症化した。 事例11 産廃処理場で、サッシを動かそうと右手でつかんだ際、陰にあった鋭利な鉄クズに気づかずに右手小指甲側を切った。 ※筆者作成 図表4 電動丸ノコ作業の基本 1 作業台を使い、材料を固定させる 2 軍手は、巻き込まれやすいため、はめない (専用のゴム手袋を着用する) 3 安全カバーは外さない (くさびで固定しない) 4 作業中以外は、電源を切り安定した場所に置く ※筆者作成 図表5 グラインダー作業の主たる違反行為 ルール違反1 鋸歯に変える ※グラインダーは電動ノコに比べ、回転数が格段に速く、非常に危険。 ルール違反2 飛散防止ガイドを外す 出典:住宅生産団体連合会、労働安全衛生総合研究所「ヒューマンエラー防止対策ガイドブック」 図表6 両手で持つグラインダー 図表7 チャップスの着用例 図表8 カッターナイフ作業の基本 1 鋭い刃先を保つ 力の入れ過ぎを防止する。刃先が丸くなったのを見つけたら、すぐに新しい刃と交換する。 2 厚みのある専用のカッター定規を使用する 定規が薄いと刃が乗り上げやすくなる。 3 正しい姿勢で切断する 切断する姿勢が悪いと、刃に余計な力がかかり危険である。カッターナイフの真正面から背筋を伸ばした姿勢で作業する。 4 刃の進行方向に手を置いてはいけない 特に親指が危険である。切断するものを安定させるため、親指を刃の進行方向に置きがちだが、それはとても危険である。 図表9 金属製メッシュ手袋 図表10 プルトップオープナー 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第41回 定年後再雇用における職務内容変更の限度、退職の意思表示の種類と取扱い 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後再雇用における職務内容の変更の留意点について知りたい  定年後の再雇用においては、嘱託社員として有期労働契約を締結することになっています。賃金の減額も同時期に行うことになっており、同一労働同一賃金の観点から職務の内容を限定することを考えていますが、どのような変更でも問題ないのでしょうか。 A  労働契約の内容については、一定の継続性・連続性を確保すべきと考えられるため、極端な業務内容の変更は行うべきではありません。 1 定年後の再雇用と同一労働同一賃金について  高年齢者雇用安定法は、定年制の廃止、定年の引き上げまたは継続雇用のいずれかの措置をとることを事業者に義務づけており、ほとんどの企業は継続雇用制度を採用しています。継続雇用制度においては、定年後は1年ごとの有期労働契約とすることが多く、一般的には定年後の賃金も減額されています。  しかしながら、定年後に有期労働契約に変更する場合には、定年を迎えていない従業員(無期労働契約の正社員)との間で、同一労働同一賃金による規制が行われているため(パート有期労働法第8条および第9条)、職務内容や責任の範囲、職務内容や配置の変更の有無などについて、相違がないかぎりは、均等待遇(差別的取扱いの禁止)または均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)が求められることになります。  そのため、定年後の再雇用においては、職務内容や責任の範囲もしくは職務内容や配置の変更の範囲について、無期労働契約の正社員とは相違がないと、賃金の減額が適法とされないことがあります。多くの企業においては、定年後の再雇用においては、職務内容や責任の範囲もしくは職務内容や配置の変更の範囲があるように再雇用を行うことが増えてくるのではないかと思われます。 2 再雇用時の職務内容の変更の限界について  職務内容を大きく変動させ、これにともない賃金の減額幅を大きくしてもよいのでしょうか。定年後の再雇用のときに、職務内容を変更したことが問題となった裁判例が、名古屋高裁平成28年9月28日判決(トヨタ自動車ほか事件)です。  定年を迎える従業員が、これまで従事してきた事務職ではなく、シュレッダー機ごみ袋交換および清掃(シュレッダー作業を除く)、再生紙管理、業務用車掃除、清掃などを業務とする再雇用契約を提示されたという事案です。  裁判所は、「事業者においては、…(略)…定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない」としたうえで、「高年法の趣旨からすると、被控訴人会社は、控訴人(筆者注:定年を迎えた労働者)に対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである」などと評価し、事業者の行為を違法と判断しました。  この裁判例と類似の判断をしている事件として、福岡高裁平成29年9月7日判決(九州総菜事件)があります。この事件では、定年後再雇用者に対しては、フルタイムから短時間労働への変更を提示したうえで、月収ベースで定年前賃金の25%程度にまで減額される条件となっていました。このような変更に対して、裁判所は、「継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり、このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する」としたうえで、「例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要である」と判断しました。  これらの裁判例から共通して受け取れる点として、@賃金額の大幅な減額、A業務内容の大幅な変更は、継続雇用としては連続性・継続性を失わせることになり、違法と判断されることがあるということです。  したがって、定年後の再雇用において、正社員の職務から変更をするにあたっても、大幅な変更は許容されない点には注意が必要です。 3 職務内容などの変更における留意点  職務内容や責任の範囲、変更の範囲などを定年にともなって変更する際に、いかなる変更を行うことが適切でしょうか。  正社員に求めていた業務のうち、体力や集中力の低下にともない任せることができないような業務を除外したり、異動の可能性を視野に入れる必要がないのであれば配置の変更を行わないようにするといった対応が考えられます。これらの変更は、高齢者であることを背景とした合理的な理由による変更であったり、労働者にとって有利な変更ともなるので、法的にも裁量の範囲内として許容されやすいと考えられます。また、フルタイムから短時間労働への変更は大きな賃金減額をともなうことも多いことから許容されにくいと考えられますが、体力や身体機能の低下などが業務の質に大きく影響するような業務であれば、むしろ短時間労働であっても同種の業務を確保することが望ましいといえる場合もあると思われます。  自社の業務内容をふまえて、変更すべき職務内容や責任の範囲、変更の範囲を検討し、適切な裁量の範囲で定年後再雇用の条件を提示するように心がけてください。 Q2 労働者からの退職の意思表示がどのような取扱いになるのか知りたい  従業員から、労働環境が改善されないことを理由に、自ら退職の意思が示されました。特段の返答をしていなかったのですが、翌日以降出社してこなかったので、退職する意思が固いものとみて、特段の対応をせず、退職したものとして取り扱おうとしていたところ、本人から退職の意思を撤回する旨の連絡がありました。  すでに退職の意思を受け取っていたので、退職の意思を撤回するといわれても、復職させるつもりはありませんが、問題ないでしょうか。 A  退職の種類を見定めて対応する必要があります。撤回が可能であるか否かも退職の種類によって若干異なるため、発言内容や状況もふまえて判断しなければなりません。 1 一方的な退職または辞職の意思表示  理由はさまざまですが、労働者から使用者に対して、退職や辞職の意思が示されることがあります。相談内容のように、後日の撤回が生じたときに、これに応じなければならないか否かについて、労働者による退職の意思表示が、法的にいかなる性質を有するかによって、その取扱いが変わるため、注意が必要です。  まず、一方的な労働者による退職または辞職の意思表示というものがあります。「期間の定めがない雇用契約」について、労働者は、いつでも解約を申し入れることができ、申し入れから2週間経過することで、雇用契約を終了させることができます(民法第627条)。使用者から雇用契約を終了させる場合は、解雇権濫用法理の適用があったり(労働契約法16条)、少なくとも30日前の解雇予告が必要である(労働基準法第20条)などの各種規制がありますが、労働者からの一方的な退職の意思表示には、これらの規定は適用されません。  そして、一方的な退職の意思表示は、使用者に到達した後は、撤回ができないと解釈されています。したがって、一方的な退職の意思表示である場合には、撤回して復職を希望されたとしても、撤回に応じる義務はないといえます。  なお、以上の整理は、「期間の定めがない雇用契約」に関するものであり、「期間の定めがある雇用契約」の場合には、たとえ労働者からの退職の意思表示であっても、いつでも解約できるわけではなく、「やむを得ない事由」がある場合にのみ解除することができるものとされています。したがって、期間の定めがある雇用契約(典型的には契約社員)の場合は、一方的な意思表示で退職が確定するわけではありませんので、次にふれる合意による退職が成立していなければ、退職の効果は確定しません。 2 合意による退職について  労働者からの退職の意思表示としては、一方的な退職や辞職の意思表示ではなく、使用者の承諾を得るための退職の申し入れを行うような場合もあります。  例えば、「できれば、○月末日をもって退職したいと思っているのですが」というような相談を受けた場合、これは一方的な退職の意思表示ではなく、使用者の承諾を得て退職日を確定させたうえで退職しようという意思表示(「退職の申込」といいます)と考えられます。  したがって、このような場合には、使用者がこれを承諾したときに、合意退職が成立して、雇用契約の終了が確定することになります。  このとき、例えば、「ほかの部署との調整もあり、引継ぎに必要な期間も検討する必要があるから、返答は少し待ってくれ」などと述べて、使用者が承諾することなく、保留したままにしていた場合、合意退職は成立しません。  一方的な退職の意思表示とは異なり、使用者による承諾の返答を受けるまでの間は、労働者は退職の申込を撤回することができるとされています。例えば、大阪地裁平成9年8月29日判決(学校法人白頭学院事件)においては、「労働者による雇用契約の合意解約の申込は、これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、労働者においてこれを撤回することができると解するのが相当である」と判断されています。 3 一方的な退職の意思表示と退職の申込の区別について  退職の意思表示といっても、「こんな会社辞めてやる!」とか、「明日からもう来ません」、「もう働き続けるつもりはありません」などさまざまな表現が考えられるところです。これらが、一方的な退職の意思表示であるか、退職の申込であるのかという点は、明確に判断しづらいところがあります。  実務的に裁判所がどういった判断をしているかを見てみると、一方的な退職の意思表示は、撤回が不可能であり退職の効果が確定する労働者に不利益な判断になるため、退職が極めて重要な意思決定であることから、口頭で一方的な退職の意思表示があったものと認めるためには、慎重な検討が必要であるとされています。  例えば、東京地裁平成26年12月24日判決(日本ハウズイング事件)では、口頭で行われた退職の意思表示について、「労働契約の重要性に照らせば、単に口頭で自主退職の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに自主退職の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による自主退職の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が自主退職を前提とするかのような行動(筆者注:意思表示の翌日から出社しなかったことを指している)を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない特段の事情があれば、自主退職の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である」と判断したうえで、口頭での退職に意思を示す直前に使用者からの退職勧奨や解雇に類する話合いがあったことをふまえて、自主退職の意思表示ではないと判断されました。  このような判断の基準も示されていることから、いずれに該当するか曖昧な場合には、原則として退職の申込と判断して、承諾を要するものとすべきというのが、現在の実務的な対応が採用しているところです。  したがって、口頭で行われた退職の意思表示に対して、特段の返答をしていなかった場合には、一方的な退職の意思表示ではないと判断される可能性が残っています。しかしながら、口頭での退職の意思表示であった場合でも、何日間も出社せず、連絡も取れず、貸与品の返却や社会保険の終了に関する手続きを自ら進んで行ったなどの事情があれば、一方的な退職の意思表示と評価される余地は残っていますので、退職の意思表示をした後の言動も重要といえるでしょう。 【P48-49】 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進んでいます。一方で、60歳や65歳を一区切りとし、社会貢献、あるいは自身の趣味や特技を活かした仕事に転身を考える高齢者は少なくありません。そこで本企画では、高齢者に就労の場を提供しているNPO法人を取材し、企業への雇用≠ノこだわらない高齢者の働き方を紹介します。 第5回 認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブ(東京都千代田区) ボランティア精神で中小企業の力になる  認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブは、2002(平成14)年6月、初代理事長の大貫義昭さんが20人の仲間とともに中小企業支援を目ざして発足した。  企業を定年退職した人などが会員となり、豊富な知識・経験やボランティア精神を活かして社会に貢献すると同時に、会員の生きがい創出と自己鍛錬(たんれん)につなげていくことも目的だ。  設立当初は中小企業への支援方法について模索から始まったというが、現在は経済産業省関東経済産業局をはじめ、地方自治体や公的支援機関などから中小企業支援のための調査案件や販路開拓支援を委託されるようになった。支援実績を積み重ねながら、活動する地域は関東から全国へと拡大。2016年には、税制上の優遇措置を受けることができる認定特定非営利活動法人に認定された。  同クラブで活動を行う会員は設立当初から増え、2021(令和3)年4月末現在で227人。出身企業は130社におよび、ほぼ全業種をカバーしている。多様な部署・専門分野(人事・財務・企画・営業・購買・設計・開発・生産)の出身者が揃っていることから、多岐にわたった支援ができる組織に発展している。 「実業界の人財図書館」として若者支援も  活動は現在、中小企業支援にとどまらず、次世代育成支援、復興支援を加えた3本柱となっている。中小企業支援では、多くが公的支援機関や金融機関などから経営支援の案件を受託し、販路開拓やビジネスマッチング、展示会出展、職場改善、経営相談、海外展開など幅広い支援を行っている。2019年度の支援実績は2750件、支援企業数は1066社に上る。2020年からはコロナ禍で活動が縮小しているが、オンラインによる支援も継続している。  助川(すけがわ)英治(えいじ)理事長は、「私たちが行っている活動は、例えば販路開拓支援では、依頼先企業を訪問して課題や方針などをお聞きし、現場や工場を見学します。それをもとに、複数の会員で多角的にマッチング先などを検討し、会員の人脈、知識、経験を活用して選定していきます。さらに、マッチングに際してのプレゼンテーションなどの助言、マッチングの設定、立会いを行い、あとは要望に応じてフォローアップをします。企業支援といっても、人と人とをつなぐことが大切な役目になるので、地味で泥臭い活動を続けています」と支援活動の様子を語る。  また、「1件ごとに、多様な経験を持つメンバーで担当チームを構成し、チームワークによる複眼の視点を活かした支援活動を行います」と同クラブによる中小企業支援の特徴をあげる。  次世代育成支援は、学校や教育機関、企業、自治体、地域へ会員を講師として派遣し、講演や研修会などを通じて次世代をになう若者の育成支援を行うものだ。例えば、文部科学省が支援する「土曜学習応援団」活動、科学技術振興機構主催の「サイエンスアゴラ」での活動、小・中学生を対象にした職業の話、高校でのキャリア教育の相談・支援などを行っている。社会人には経営や職場の安全などをテーマにした講演、モチベーション研修といった事業を展開している。  多様な人材が揃い、企業や学校が必要なときに、必要に応じて支援ができるNPOとして、同クラブでは自らを「実業界の人財図書館」と名づけて、こうした支援活動にも力を入れている。  復興支援は、東日本大震災の年から主に福島県を中心に中小企業支援などを続けている。 やりがい、刺激、学び、社会貢献が魅力  同クラブの理事で事務局長の酒井(さかい)基次(もとつぐ)さんは、JA全農(全国農業協同組合連合会)のグループ会社を定年退職後、職場の先輩に誘われて会員になり6年目。食に関する知見や中小企業診断士、販売士1級などの資格を活かして、主に加工食品や農産物を扱う中小企業の販路開拓支援などを担当している。  「支援の結果に対して依頼先から喜ばれることや、いろいろな仕事の現場を訪問できることにやりがいを感じています。会員には、現役時代の取引先や競合他社にいた人もいるのですが、いまは仲間で一緒に支援活動に取り組んでいます。勉強会もあり、そうした仲間から新たな刺激を受けることもあり、それがまた楽しいんです」と酒井さんは活動の魅力を笑顔で話す。  タイムリーな支援活動を行うため、会員間で各種研究会を立ち上げ、最新の技術や情報、市場動向などを学んでおり、現在、ヘルスケア研究会(4月からグループに発展)、新素材研究会、エネルギー産業研究会、農産物・食品輸出研究会、デジタル・イノベーション支援チームなどが研究活動中だ。コロナ禍のいまはオンライン活動がほとんどだが、再び集まれるようになったら、酒井さんは若い会員を勉強会後の食事などに誘い、活動の魅力をさらに伝えていきたいという。  助川理事長は、設立20周年を迎える来年に向けて「現在、関西グループは大活躍中です。支援活動の全国展開を目ざし、会員を増やしていきたいです」と目標を語る。  入会は常時歓迎しており年齢制限はなく、支援活動は有償で、規程により活動ごとに報酬が支払われる。ただし、「小遣い程度」であることをあらかじめ伝えている。  会員がこれほど増えた理由について、「活動していると、つい夢中になってしまうんです。ほかにも仕事を持っている会員も多くいますが、定年まで勤めて、これからは社会に貢献したい、そういう気持ちの人が多いからでしょうか」と助川理事長はにこやかに話してくれた。 写真のキャプション 助川英治理事長(右)と酒井基次事務局長(左) 【P50-51】 いまさら聞けない 人事用語辞典 第17回 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第17回 「時間外労働」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は時間外労働について取り上げます。時間外労働とは、労働条件について最低限守るべき基準を設けた労働基準法(労基法)で定められた労働時間を超えて働くことをさします。働く人々にとって一度は経験したことのある、また長時間労働等で話題になりやすい身近な用語ですが、細かいルールがありわかりにくいものでもあります。関連する用語もたくさんあります。 時間外労働の種類は複数ある  ここからは文章だけだとわかりにくいので、図表を確認しながら進めていきます。文章中の@〜Dは図表に対応しています。  労働者が働く時間を労働時間といい、大きくは所定労働時間(@)と法定労働時間(A)の二つに分かれます。所定労働時間は、労働者と会社間で取り決められた労働時間で会社ごと(または職場ごと)に異なります。これに対して、法定労働時間は労働基準法で定められた労働時間で、原則週40時間、1日8時間が上限とされています(労働者10人未満の商業、接客娯楽業等は例外として週44時間、1日8時間)。会社が定める所定労働時間は、法定労働時間を超えてはならず、8時間以内で設定する必要があります。  定められた労働時間を超えた部分が時間外労働に該当しますが、労働時間別に異なる用語がつけられています。給与の計算も変わりますので、正しく押さえておく必要があります。法定労働時間から所定労働時間を引いた労働時間を法定時間内残業(B)、法定労働時間を超えた労働時間を法定時間外残業(C)といいます。また、22時から翌5時の間に働くことを深夜勤務といいますが、この場合は法定時間外残業かつ深夜勤務(D)の状態となります。なお、ここに残業とあることから、時間外労働は一般的に「残業」と呼ばれます。 時間外労働には手続きが必要  もともと労働は最低限、法定労働時間内に終わらせるべきと考えられており、これを超えて労働させるには、会社と労働者の過半数で組織する労働組合または過半数を代表する労働者代表との間で36(サブロク)協定というものを結び、所轄の労働基準監督署(労基署)に届け出る必要があります。36協定とは労働基準法第三六条に基づく「時間外・休日労働に関する協定」をさします。労働基準監督署は、労働基準法などを会社が遵守しているかを監督し、問題があれば調査・指導する機関のことです。  本連載、第11回の「働き方改革」でも触れた通り、労働者の健康管理、ワークライフバランスの促進、生産性の向上などの観点から、長時間労働の抑制が国や会社をあげての重要課題と位置づけられました。そこで、2019(平成31)年4月(中小企業は2020〈令和2〉年4月)から、原則月45時間・年360時間の時間外労働の上限規制が設けられることになりました。ただし、臨時的な特別な事情があって、会社と労働者が合意すれば年6カ月まで、時間外労働が年720時間以内などの制約のもと月45時間を超える労働が可能となりますが(特別条項)、この場合も36協定が必要となります。 給与算定には注意が必要  法定外労働時間で働いた分については、基準となる給与に一定割合を増やして支給する割増賃金が必要となります。通常よりも多くの給与を払うことで、会社側には時間外労働の抑制、労働者側にはインセンティブ機能があるといわれています。  どの程度を割増しするかは、労働基準法上定めがあります。また図表を確認していただきたいのですが、法定時間外残業(C)は基準となる給与の25%、法定時間外残業が月60時間を超える場合には50%、法定時間外残業かつ深夜勤務(D)は50%、深夜勤務が所定労働時間内の場合には25%となります。法定時間内残業(B)は会社が法定労働時間よりも有利な条件で設定した結果のものであるため、割増せずに所定労働時間を延長した分の給与を支給すれば足ります。なお、これらの割増率は最低ラインであるため、労働者のモチベーションなどを考慮し、より高い割増率で支給することも可能です。  割増率は基準となる給与に対して乗じることで計算しますが、ここでいう基準となる給与には家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。注意が必要なのは、これらの手当は家族数や交通費・距離や家賃に比例して増減する支給方法であることです。一律支給の場合には基準となる給与に含める必要があります。この点が正しく運用できていない会社が散見されますので、しばらく人事制度を見直してこなかった会社については、これを機会に細かくチェックしてみることをおすすめします。  時間外労働は、会社と労働者間の紛争にもなりやすいテーマです。時間外労働分の給与が支給されていない未払い残業代や、長時間労働による健康障害などの問題が報道でもかなりの頻度でみられます。厚生労働省や都道府県労働局などが発行している資料などで、より詳細な確認や弁護士や社会保険労務士等の専門家のアドバイスを受けて法令遵守をするとともに、そもそもの時間外労働をなくしていく全社的な取組みを行うことが重要です。 ☆  ☆  今回は「時間外労働」について解説しました。次回は「休日・休暇」について取り上げます。 図表 時間外労働の割増率[所定労働時間が午前9時から午後5時(休憩1時間)までの場合] 17:00〜18:00 ▲1時間あたりの賃金×1.00×1時間 法定時間内残業 18:00〜22:00 ▲1時間あたりの賃金×1.25×4時間 法定時間外残業 22:00〜5:00 ▲1時間あたりの賃金×1.50(1.25+0.25)×7時間 法定時間外残業+深夜勤務 9:00 実働7時間 @所定労働時間 A法定労働時間 17:00 1時間 B法定時間内残業 18:00 4時間 C法定時間外残業 25%以上 22:00 7時間 5:00 D法定時間外+深夜勤務 50%以上 割増率 出典:東京労働局「しっかりマスター労働基準法―割増賃金編」より筆者作成 【P52-55】 特別寄稿 70歳就業時代、組織におけるシニア社員の役割創造とは? 〜「シニア人材役割創造モデル£イ査」で明らかになった、再雇用シニア社員の活躍プロセスと上司の果たす役割・行動について〜 株式会社ライフワークス コンサルティング事業統括ゼネラルマネージャー 兼 シニアコンサルタント 野村 圭司 70歳就業法における期待と不安  高年齢者雇用安定法の改正で、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました(通称「70歳就業法」2021〈令和3〉年4月施行)。2013(平成25)年改正では60〜64歳の就業率が高まった(2013年58.9%→2017年66.2%※1)ことをふまえると、今後は65歳以降の就業率上昇も予想されます。政府は高齢就業者数の伸びには高齢者のスキルアップ、健康維持の促進、就業しやすい環境整備を進める必要があるとしています※2。これはわが国の高齢者の高い就業希望率※3もふまえると望ましい状況であるといえます。  一方、受け皿となる企業側の状況を見ると、65歳までの雇用確保措置は99.9%が実施済み※4でありつつも、多くの企業でシニア社員増加が見込まれ※5※6、課題が顕在化しています※7。具体的には「処遇の低下・役割の変化等によるモチベーション低下」、「自社において活用する職務・ポストが不足」などがあげられる※8一方、シニア社員は職務のやりがいを求めている傾向がみられ※9※10、企業と個人の間のギャップを埋めることが大きな課題といえるでしょう。  70歳就業法への企業対応に関する調査※11によると、定年後再雇用が「すでに実施」、「検討中」と合わせて86.1%を占め最も有力な選択肢となっており、働く個人に対する調査※12では、65歳以降の希望する働き方として「現役時代と同じ会社で正規以外の雇用形態で働く(42.4%)」が第一位と示されています。つまり、「定年後再雇用」が現時点で最も現実的な就業継続のモデルと考えられます。しかしながら上述の課題を持ち越しては、組織の生産性と個人のキャリアの停滞が一層拡大してしまうでしょう。 シニア社員活躍の新しいパラダイム役割創造  私はさまざまな企業に対するキャリア自律支援に関するコンサルティングを行っています。シニア社員活性化に関するご支援を通して、「会社がポスト・職務を提供する」ことから「経験豊かなシニア社員自らが役割をつくり、価値発揮の方法を提案する」というパラダイムに転換する役割創造≠ニいうコンセプトを考えるに至り、多くの企業から共感を得たことから、概念に留めず実現プロセスを明らかにすべく法政大学大学院の協力を得て共同調査※13を行いました。  シニア社員の職場での役割創造プロセスと上司の行動が与える影響のメカニズムを解明することを目的とし、協力を得た14社(製造業・サービス業・情報通信業・金融業・インフラなどいずれも大手)の人事部から「職場の中で役割創造している」として人選されたシニア社員21人(再雇用者・役職定年者)とその上司18人に対してインタビュー※14を実施しました。 調査結果で明らかになった再雇用シニア社員の役割創造プロセスと上司の働き  調査では、再雇用者の活躍プロセスと効果的な上司のかかわりが明らかになりました(図表1)。  まずは、再雇用者が定年を迎えてから活躍するまでの四つの段階を解説します。 【第1段階 ニュートラルゾーン】  定年の節目(ニュートラルゾーン)で再雇用者にさまざまな葛藤が表出します。もっと仕事ができるはずなのにできないもどかしさや周囲に対する遠慮の気持ちなどです。一方、仕事や時間に量的な余裕ができ違ったことにも挑戦してみようというポジティブな心理も見られました。そして再雇用者は契約社員となるため、日本型雇用でいう「メンバーシップ」から外れることになります。そのことを定年後に後から気づくということを吐露した方もいました。こうした複雑な思いと同時に、「自分は非常に恵まれている」といわれる方も多く、会社にふみとどまりたい気持ちも聞かれました。その背景には、社外に出ても現職ほどの処遇を得られるかわからないということなどがあります。ニュートラルゾーンはキャリア心理学のトランジション理論で説明できます。トランジションは「節目」、「過渡期」ともいわれ、「何かが終わるとき→ニュートラルゾーン→何かが始まるとき」の3段階があります。ニュートラルゾーン状態から逃げずに自分自身と徹底的に向き合うことで、新たな始まりの準備になるといわれています。インタビュー対象者も複雑な思いを持ちつつ、自身と向き合って新たな準備をしたという実態が確認されました。 【第2段階 現状を受け入れ仕事の棚卸を行う】  現状を受け入れ仕事の棚卸をするステップです。複雑な思いを抱きながらも、仕事をしていくなかで徐々に現状を受け入れていきます。ポイントは二つあり、一つ目は「仕事の棚卸」です。現役時代の経験や専門知識をどのようにいまの職場で応用できるかを考えることが重要となります。二つ目は「上司とのコミュニケーションによる期待役割の認識」です。上司と公式・非公式での対話を重ね、何を期待されているのかということを自分なりに解釈していきます。再雇用者は遠慮がちな上司の言葉から自分に期待されている役割を推察するのです。こうしたことは、現状を受け入れていく大切なプロセスとなります。活躍している再雇用者は対話を通じて上司と方向性が合っており、いまの環境で自分が受け入れられているという認識を持っていました。上司からも当該再雇用者が周りの同僚から慕われており、再雇用者がいることで助かっているという言葉が聞かれました。こうした環境がベースにあって再雇用者自身も現状を受け入れ、仕事の棚卸が促進されるのです。 【第3段階 自己調整する動き】  その後は「自己調整する動き」という段階へ移行します。立場の変化が仕事内容や発言、対人関係を自ら調整させていくことを意味します。自己調整には三つあり、一つ目は会議での発言やメール文章の書き方を変えるといった、発信の仕方を工夫する「コミュニケーション量と質の調整」です。二つ目は「仕事量の調整」を行うことで、できることをすべてやるのではなく、周囲に配慮して仕事を調整することがあげられます。三つ目は「人間関係の調整」です。公の食事会には参加するがそれ以外の飲み会には参加しないなど、同僚との人間関係に少し距離を保つようになります。こうした動きはネガティブなものではなく、周囲との調和を図るための戦略であり、自己調整により「自らを受け入れてくれる環境」が生まれ、再雇用者のモチベーションの安定となって最終段階である「現役世代に貢献する動き」に至ります。 【第4段階 現役世代に貢献する動き】  最終的に再雇用者は現役世代ではできない仕事に着手します。つまり、現役世代には事業における中核の仕事があり、そうではない仕事を再雇用者自身が見つけていくということです。営業経験がある再雇用者は、短期に成果が出る仕事は現役世代に任せ、成果を出すには長期的な時間が必要で、短期的な評価に結びつきにくい仕事をあえて行うことや、役職経験者で人の成長に関心の高い方がキャリアアドバイザーとして従業員のキャリア支援に従事する例などが確認できました。再雇用者は「緊急度は低いが重要度は高い領域の仕事」に意図的に取り組むことで、現役世代に貢献している実感を得られるのです。  次に上司の働きが与える影響を解説します。まず「仕事の棚卸」段階での有効な行動は、対話を通して再雇用者(部下)の経験や専門知識を理解し、自部署のなかで仕事を切り出しマッチングすることです。すり合わせで仕事が明確になると、再雇用者にとっては期待役割を受け取りやすく棚卸行動が促進されます。続いて、「自己調整する動き」段階では仕事を指示・依頼する際にネガティブにとられないよう、「あなただからできる仕事です」というように、期待を伝えることが有効です。その方ならではの特性を活かした仕事を依頼することで自己調整する動きが促進され、再雇用者が「現役世代ではできない仕事を見つけて取り組む」契機にもなります。最後に「再雇用者を受け入れる環境づくり」です。再雇用者に対して自由裁量の高い仕事を付与し、あわせて周囲に再雇用者の役割を伝える対応が重要です。こうした上司の働きかけで再雇用者は自分が職場に受け入れられていると感じ、意欲の向上のみならず、「継続的な学びに自ら取り組むこと」や「自ら手を動かす抵抗感の払拭(ふっしょく)」にもつながるのです。 シニアの役割創造を再現する方向性と方策  最後に「再雇用者の役割創造プロセス」をふまえて、役割創造を再現する方向性と方策について提案します。まずは、「シニア社員」へのアプローチ3ステップ(図表2)です。  STEP1は「内省機会を通じたキャリア資産の再構築」です。定年・再雇用を受け入れるための「マインドセット」と「仕事の棚卸」を行います。具体的にはキャリア研修やキャリアコンサルティングを通じて再雇用で働くことの意味づけを行うことで、「メンバーシップから外れる」転機への対応を支援します。STEP2は「現役世代に貢献する領域への挑戦」です。STEP1で言語化したことを職場ニーズと擦り合わせ、自己調整する動きを促進します。具体的には上司との面談で貢献の方向性を協力して探っていきます。この対話を通して、シニア社員自身が「職場から頼られる存在になること」への自覚が期待できます。  こうしたステップを経て、最終的に「シニア社員個々人が自ら役割を創造する」STEP3に到達します。複数の職場での「現役世代に貢献する動き」を事例共有することで、シニア社員に対して「自分ならどんな役割をつくれるか」のヒントを提供できます。合わせて、シニア社員からアイデアを発現するための「役割創造したシニア社員を承認する制度」、「シニア社員向けの公募制度」も有効です。このような役割創造プロセスを再現するための段階を設定することで、段階毎の目標と打ち手を具体化することができます。  次に、「上司と人事」の対応方向性と打ち手について説明します。役割創造のステップを支援・促進するという観点で整理しています(図表3)。  上司が行うことは、「シニア社員の自己調整の動きを促進する」ことです。対応は二つあります。一つ目はシニア社員との関係構築です。面談を通してシニア社員の内的キャリアに耳を傾け、シニア社員の働きがいや強みと「職場の課題」が交わる領域で貢献できる方向性を示します。合意後はシニア社員に一定の裁量を渡すことで、職場に受け入れられたというポジティブな感情をもつことにつながります。二つ目は職場内での相互信頼の醸成です。合意した役割を上司が職場内に周知することで、メンバーがシニア社員の存在を認識し、かかわり方を理解することになります。あわせて、シニア社員の役割遂行に対するメンバーへの協力要請も重要です。そのうえで、シニア社員の役割発揮やメンバーの支援行動を認知・称賛することで風土が醸成されます。  次に、人事が行うべきは「シニア社員が現役世代に貢献する動きを支援する」ことで、対応は三つあります。一つ目は、シニア社員の再雇用に対する意思決定プロセスをつくることです。再雇用の手続きが定年直前になると再雇用は「定年の自動延長」という意識となり、再雇用後の就業イメージや働くことの意味づけができないシニア社員を増やすリスクをともないます。よって十分な期間をとって再雇用に関する理解を持ち、定年後のキャリアを自律的に考え、意思を持った選択となるようなキャリアコンサルティングの実施が効果的です。二つ目は、上司とシニア社員の面談を支援する取組みです。年下となる上司が先輩世代の部下と効果的に面談できるポイントをガイドブックなどにまとめ配布することなどがあげられます。三つ目は、シニア社員個々の強みや状況を把握することです。合理的個別配慮ができる仕組みづくりや草の根的に役割創造しているシニア社員を発見し、新たな職域としての横展開を目ざします。企業内でキャリアコンサルタントを養成・配置(これもシニアの職域になる)し、個々人にアプローチすることが有効です。 おわりに  以上が、本調査の内容と提案となります。70歳就業時代において、シニアの活躍は企業のみならず、社会における重要なテーマとなります。定年後の再雇用シニア社員の活躍には、「上司との相互作用により自己調整が促進され、現役世代に貢献する役割をになう」ということが今回明らかになりました。このプロセスを再現していくことで、組織におけるシニア社員の活躍が広がっていくことに寄与できればと考える次第です。 ※1 総務省「労働力調査」(2018) ※2 内閣府「日本経済2018-2019〜景気回復の持続性と今後の課題」(2019) ※3 内閣府「令和2年版高齢社会白書」(2020)では、働いている60歳以上の人の9割近くが70歳以上まで働きたいと考えていると報告している ※4 厚生労働省「令和2年高年齢者の雇用状況集計結果」(2021) ※5 HR総研「シニア活躍支援に関するアンケート調査結果」(2021)では、10年後には半数の企業で「50代以上の社員数の割合30%以上」という結果 ※6 日本経済団体連合会「中高齢従業員の活躍推進に関するアンケート調査結果」(2015)では「40代〜50代層の割合が高い企業が大半を占める」としている ※7 パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」(2020)では、シニア人材について、すでに課題感を持っている企業の割合は49.9%。また、今後、5年以内に課題になると回答した企業の割合は75.8%。従業員規模が大きくなるほど課題感が強くなるとしている ※8 日本経済団体連合会「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」(2016) ※9 リクルートワークス研究所「シニア就業意識調査2006」(2006)では、高齢者は「過去の経験や知識」を活かし、評価・承認をされながら働く傾向があり、50代後半で重視し、60代前半でも重視するもの「能力を生かせること・自分のやり方で取り組めること・快適な環境で仕事をすること」と明らかにしている ※10 一般財団法人 企業活力研究所「これからのシニア人材の活躍支援の在り方に関する調査研究報告書」(2020)では意欲的に働き続けられる要因としては、「やりたい仕事ができている」ことや「成長を続けられること」、「達成感」など、職務そのもののやりがいが強く影響していた。50代までに獲得したスキルを現在の仕事でも活かせている60代人材の方が現在意欲的に働いている傾向があるとしている ※11 パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」(2020) ※12 日本労働組合総連合会「高齢者雇用に関する調査」(2020) ※13 共同調査者:岸田 泰則氏・谷口 ちさ氏・北川 佳寿美氏 ※14 調査期間:2019年2月〜9月 図表1 再雇用者が活躍する四つのプロセス ニュートラルゾーン 定年 定年後の違和感 処遇低下への違和感 現役世代への批判的な見方 上司のやりづらさへの気づき 周囲に対する遠慮の気持ち 仕事や時間の量的な余裕 現役でないことに気づく 会社に踏みとどまりたい まだまだできるという思い 多少なりとも満足してるという思い 外に出ても通用しないという認識 現状を受け入れる 現状を受け入れるための諦め 責任の軽減への相反する感情 仕事の棚卸し 現役時代の経験や専門知識の振り返り 経験からくる今の仕事への自負 上司からの期待に対する自分なりの解釈 上司の行動1 仕事のマッチングや職務の切り出し 上司の行動3 再雇用者だからこそできる仕事のアサイン 自己調整する動き 遠慮に由来する発言量の調整 自分の立場にあわせた仕事量の調整 対人関係を狭めていく動き 現役世代に貢献する動き 継続的な学び プレーヤーとして動く 現役世代ではできない仕事を見つけて取り組む 現役世代に貢献している実感 上司の行動2 再雇用者に裁量を与えるマネジメント 自らを受け入れてくれる環境 上司と方向が合っている関係性 裁量や自由度がある仕事への従事 Copyrightc 株式会社ライフワークス・法政大学大学院 岸田・ 谷口・北川・野村 図表2 再雇用者の職場における役割創造に向けて(シニア社員) STEP1 内省機会を通じたキャリア資産の再構築 ▲再雇用へのマインドセット・再雇用で働くことの意味づけ ▲仕事の棚卸による強みや内的キャリアの言語化 実施手段 ●キャリアワークショップ ●キャリアコンサルティング STEP2 現役世代に貢献する領域への挑戦 ▲STEP1で意味づけ、言語化されたことと職場のニーズとの擦り合わせ ▲頼られる存在であることの自覚 実施手段 ●上司との面談 ●職域の方向性を踏まえた事前準備 STEP3 シニア社員個々人が自らの役割を創造する ▲役割創造の事例にふれることによる自己にできることの検討 ▲シニア社員ならではのアイデアの発現 実施手段 ●役割創造したシニア社員を承認 ●公募制によるアイデアの収集 上司 促進・支援する取組 人事 図表3 再雇用者の職場における役割創造に向けて(上司・人事) STEP1 内省機会を通じたキャリア資産の再構築 STEP2 現役世代に貢献する領域への挑戦 STEP3 シニア社員個々人が自らの役割を創造する 上司 ▲シニア社員の自己調整の動きを促進 1 シニア社員との関係構築 ●内的キャリアへのアプローチ ●職場での役割方向性を提示 ●裁量を与えるマネジメント 2 シニア社員を取り巻く環境での相互信頼の醸成 ●役割を職場内に周知 ●自らが動くことができるリソースの手配 ●好事例を認知 面談…経験、強み、仕事価値観を把握する、職場での役割方向性を相互に握る日常的な関心・関与…日頃の仕事ぶりを承認し、周囲へ発信する 人事 ▲現役世代に貢献する動きを支援 1 再雇用選択の意思決定プロセスの設定と機会の提供 ●キャリアコンサルティングの活用  再雇用後の働き方を自ら選択していく機会を提供する仕組み 2 上司−シニア社員の面談支援 ●面談支援ツール作成・配布(ガイドブック)  上司の面談スキル向上、職務の切り出し方の支援 3 職域方向性の提示 ●社内キャリアコンサルタントの養成・配置  組織内で個を支援する仕組みと職域開発との連動 図表2・3:Copyrightc 株式会社ライフワークス・法政大学大学院 岸田・ 谷口・北川・野村 【P56-57】 10月は「高年齢者就業支援月間」 参加無料 令和3年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  令和3年4月に施行の改正高年齢者雇用安定法により「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となりました。  このため、本年度のシンポジウムは「高年齢者雇用安定法改正」をテーマに、全国5都市(岩手・東京(第二部)・岐阜・大阪・宮崎)の会場で開催します。今号では、岐阜・大阪の2会場のご案内をします(東京・宮崎・岩手の申込み締切については、開催日の2〜3日前を予定しています)。  本シンポジウムでは、高年齢者雇用安定法改正の概要、学識経験者の講演、高年齢者を活用するため先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなどにより、今後の高年齢者の活躍促進について、みなさまとともに考えていきます。  なお参加費は全会場、無料となっています(事前申込みが必要です)。  みなさまのご参加を、心からお待ちしています。 東京 日時 令和3年10月6日(水) 13:00〜16:25 Webによるライブ配信にて実施 ※東京開催のシンポジウムでは、第一部として、高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)を開催します。 ※東京開催については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、無観客で開催します。 宮崎 日時 令和3年10月14日(木) 13:30 〜16:35 場所 宮崎市民文化ホール 宮崎市花山手東3-25-3 岩手 日時 令和3年10月28日(木) 13:00〜16:00 場所 いわて県民情報交流センター(アイーナ) 盛岡市盛岡駅西通1-7-1 東京・宮崎・岩手申込み方法 特設サイト(https://moushikomi.jeed.go.jp)へアクセスし、各会場の専用フォームからお申込みください。 jeed 申込み 検索 岐阜 日時 令和3年11月18日(木) 13:30〜16:30 場所 長良川国際会議場 岐阜市長良福光2695-2 参加方法 @会場参加(120人)(事前申込制・先着順) Aライブ視聴 《プログラム》 改正高年齢者雇用安定法の概要について(岐阜労働局) 講演 「三世代同居の大家族のような会社運営ができる人材管理を考える」 〜岐阜県下における労働管理の課題解決のために〜 65歳超雇用推進プランナー 吉村庸輔 氏 事例発表 セントラル建設株式会社/西濃運輸株式会社 パネルディスカッション・質疑応答 「高齢者の意欲・能力を活かした職場環境の実現に向けて」 コーディネーター:内田 賢 氏(東京学芸大学 教育学部 教授) パネリスト:事例発表企業2社 65歳超雇用推進プランナー:吉村庸輔 氏・浅野りよ子 氏 申込み方法 特設サイト(https://moushikomi.jeed.go.jp/gifu/)へアクセスし、専用フォームからお申込みください。 大阪 日時 令和3年11月26日(金) 13:00〜16:00 場所 ヴィアーレ大阪4階 ヴィアーレホール 大阪市中央区安土町3-1-3 参加方法 @会場参加(100人)(事前申込制・先着順) Aライブ視聴 《プログラム》 改正高齢法施行後の高齢者雇用の現況説明(大阪労働局) 講演 「70歳までの就業確保実現のための人材活用戦略」 〜高齢者戦力化へ向けた賃金制度と評価制度の構築〜 65歳超雇用推進プランナー 杉原 彰 氏 事例発表 株式会社りそなホールディングス/間口ロジスティクス株式会社 パネルディスカッション・質疑応答 「高齢者の意欲・能力を活かした職場環境の実現に向けて」 コーディネーター:藤村博之氏(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授) パネリスト:事例発表企業2社 65歳超雇用推進プランナー:杉原 彰 氏 申込み方法 特設サイト(https://moushikomi.jeed.go.jp/osaka/)へアクセスし、専用フォームからお申込みください。 お問合せ先 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 ※新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、開催日などに変更が生じる場合があります。  当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 【P58】 日本史にみる長寿食 FOOD 336 強精食材だったギンナン 食文化史研究家● 永山久夫 加藤清正(きよまさ)とギンナン  ギンナンは、いうまでもなくイチョウの木の実で、日本にはかなり古い時代に中国から伝わったようです。イチョウは各地に巨木や老樹があり、街路樹や公園、校庭などの木としても親しまれています。現存する城にも多く、これも籠城した場合の備えで、いざとなったら非常食とし、薬用にするためでした。なかでも有名なのが熊本城で、築城した智将の加藤清正(1562−1611)が自らの手で植えたと伝えられるイチョウの老樹があります。このため熊本城は「銀杏(ぎんなん)城」と呼ばれます。  あの神秘的な深い緑色をしたギンナンは、たくさん食べると鼻血が出るほどの強精食材ですが、主成分は40%近く含まれている炭水化物。量的には多くはありませんが、タンパク質や脂質もあります。  体の酸化、つまり老化を促進させ、ガン細胞の発生や動脈硬化などの原因となる活性酸素の消去に大きな力を発揮するといわれる三大抗酸化ビタミンのビタミンC、E、それにカロテンも豊富です。  そのほかには、疲労回復や頭の回転をよくするというビタミンB1や脳の血行を促進する葉酸、骨を丈夫にするというビタミンK、それに美肌や若返りに役立つ成分であるナイアシンが含まれています。 新婚さんにギンナンの贈物  イチョウの木は生命力がきわめて強く、落雷や戦火、火事などにあって黒焦げになっても、生き延びている老木がよくあります。  そのような強靭な木から生まれたギンナンですから、粒は小さいけれども、食べれば精がつきます。鎮咳(ちんがい)や去痰(きょたん)などの作用もあるといわれ、昔は国民病とも呼ばれた肺結核の治療にもよく用いられました。  また、流行性の風邪が蔓延すると、ギンナンが疫病除けになるといわれ、みんなでよく食べたものです。新婚の夫婦がギンナンを食べる習慣があったのも、子づくり能力を高めるからと伝えられ、土地によっては友人たちが夫婦にギンナンをプレゼントしていたそうです。殻に割れ目をつけ、塩いりするのがベストですが、割れ目をつけてから封筒に入れ、電子レンジで数分温めれば手軽に食べられます。 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況  厚生労働省は、2020(令和2)年度のハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などを取りまとめて公表した。  それによると、ハローワークにおける障害者の新規求職申込件数は21万1926件で、前年度(22万3229件)と比べ5.1%減となり、1999年度以来、21年ぶりに減少した。また、就職件数は8万9840件で、前年度(10万3163件)と比べ12.9%減となり、2008年度以来、12年ぶりに減少した。  就職率(就職件数/新規求職申込件数)は42.4%で、対前年度差3.8ポイント減となっている。  新型コロナウイルス感染症の影響もあり、求人数をみると「製造業」は1万5024人で前年度(2万2875人)と比べ34.3%減、「宿泊業、飲食サービス業」は8630人で前年度(1万4466人)と比べ40.3%減、「卸売業、小売業」は2万6609人で前年度(3万7794人)と比べ29.6%減となるなど障害者が比較的応募しやすい業種の求人数が減少していること、また、求職者の就職活動が抑制されたことが、就職件数の減少につながったとしている。  また、ハローワークに届け出のあった障害者の解雇者数は2191人で、前年度(2074人)と比べ5.6%増加した。解雇者数を理由別にみると、「事業縮小」が1172人、次いで、「事業廃止」が853人となっている。 総務省 「通信利用動向調査」の結果を公表  総務省は、2020(令和2)年「通信利用動向調査」の結果を公表した。  それによると、テレワークを導入した企業割合は47.5%で、前年調査(20.2%)から20%以上上昇した。導入目的は、「非常時(感染症の流行など)の事業継続」の割合が68.3%(前年調査26.0%)で最も高く、次いで、「勤務者の移動時間の短縮・混雑回避」が43 .1%(同46.8%)、「業務の効率性(生産性)の向上」が29.7%(同68.3%)となっている。  次に、インターネットの利用状況(個人)をみると、利用者の割合は13歳から59歳の各年齢層で9割を超え、60〜69歳においても82.7%となっている。また、年齢階層別インターネット利用機器の状況(個人)から、60〜69歳についてみると、「スマートフォン」の利用割合が最も高く64.4%、次いで、「パソコン」が50.0%、「タブレット型端末」が18.5%となっている。  インターネット利用上の不安(個人)については、利用者の74.2%が「インターネット利用に何らかの不安を感じる」と回答している。年代別では、40代以上の年齢層で不安を感じる割合が高くなっており、60〜69歳では84.0%となっている。また、不安の具体的な内容(複数回答)をみると、「個人情報やインターネット利用情報の漏えい」が最も高く91.6%(前年調査88.4%)、次いで、「コンピュータウイルスへの感染」が63.4%(同62.6%)、「架空請求やインターネットを利用した詐欺」が52.9%(同51.9%)などとなっている。 発行物 JILPT 『70歳就業時代の展望と課題―企業の継続雇用体制と個人のキャリアに関する実証分析―』  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、労働政策研究報告書bQ11『70歳就業時代の展望と課題―企業の継続雇用体制と個人のキャリアに関する実証分析―』を刊行した。  同報告書は、70歳までの就業機会の確保が求められるなかで、企業はどのような人事管理施策を行い、それが個人の働き方にどう影響しているかに注目したもの。65歳以降の雇用・就業の現状と課題を明らかにし、それら課題に対して、企業側・労働者側の視点からアプローチし、70歳までの就業機会の確保を制度的に促進した場合の影響などを考察している。  事実発見として、主に次の点をあげている。 ・2013年施行の改正高年齢者雇用安定法の影響を受けた企業では、2012年からの7年間で60〜64歳の常用労働者数、比率ともに増加。 ・定年延長採用企業は、継続雇用採用企業よりも、60代前半の平均賃金が12.8%高い。また、高年齢者の賃金引き下げに批判的であり、全体としての賃金・評価制度に基づく賃金決定を志向する傾向がある。 ・60歳前後で仕事内容に変化が生じた人は、変わらない人よりも、仕事に対する満足度が高い、など。  報告書は左記のWebサイトからダウンロードが可能。購入する際の価格は1100円(税込)。  https://www.jil.go.jp/institute/reports/2021/documents/0211.pdf 【P60】 次号予告 11月号 特集 70歳就業時代の最新事例が集結! 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰受賞企業事例から〜 リーダーズトーク 池口武志さん(一般社団法人定年後研究所 所長) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●9月17日(金)、厚生労働省と当機構が主催する「令和3年度高年齢者活躍企業コンテスト」の受賞企業が発表されました。本誌では、10・11月号の2回に分けて、受賞企業の取組みをご紹介します。今号では、厚生労働大臣表彰を受賞した6社の取組みをご紹介します。  今年の4月に、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。他社への再就職や、業務委託契約など、自社での雇用にかぎらない選択肢が示され、高齢者の活躍推進に向けた取組みは、今後ますます活性化していくことが期待されます。  今回のコンテストでは、自社で雇用する高齢者の活躍推進に向けた取組みはもちろん、外部から高齢者を採用し、他業種のノウハウを蓄積し自社の競争力の向上を図っている取組みなど、高齢者が活躍するためのフィールドを広げている企業などが表彰されています。これらの最新の取組み事例を参考に、ぜひ自社の高齢者活躍推進の取組みの充実につなげていただければ幸いです。 ●10月は高年齢者就業支援月間です。「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」が、10月6日の東京会場を皮切りに全国5都市で開催されるほか、10月から12月にかけて「地域ワークショップ」が全国43会場で開催されます。シンポジウムはWeb配信も予定中です。みなさまのご参加・ご視聴をお待ちしています。 公式ツイッターを始めました! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー10月号 No.503 ●発行日―令和3年10月1日(第43巻 第10号 通巻503号) ●発行―独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人―企画部長 奥村英輝 編集人―企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-862-3 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 第3回 大橋運輸株式会社(愛知県瀬戸市) 「治療より予防」をモットーに食育に注力、健康意識の向上を目ざす  生涯現役時代を迎え、企業には社員が安心して長く働ける制度・環境の整備が求められていますが、生涯現役の視点で考えると、「社員の健康をつくる」ことは大切な要素です。  そこで本企画では、社員の健康づくりに取り組む先進企業の事例をご紹介します。 社員のモチベーション向上のため他社にはないユニークな取組みが満載  1954(昭和29)年創業の大橋運輸株式会社は、東海圏を中心に自動車部品の輸送などの運輸業を柱に、個人向けサービスとして、引越しなどの身近な暮らしのサービスを展開している。近年は、地域の顕著な高齢化とともに、遺品整理・生前整理サービスの需要が高まりつつあるが、同社は、同事業のパイオニアとして東海地区シェアナンバーワンに成長しつつある。愛知県が2018(平成30)年から行っている「第一回あいちサービス大賞」※においては、先進的なサービスを提供している事業者として最優秀賞である知事賞を受賞した。  企業理念に「仕事を通じてお客様や地域に貢献する」を掲げており、毎年市内の小学校で交通安全教室を実施しているほか、警察署と連携してお年寄りをねらった特殊詐欺を防止する啓蒙チラシの配布や、自治体と協力して地域の清掃活動を行うなど、社会貢献に努めている。  同社では、社員がモチベーションを高く保ち、意欲的に仕事に取り組んでもらうために、社員の要望をもとに福利厚生を充実させるとともに、ほかの会社にはないユニークな施策を次々と打ち出して、社員満足度の向上に取り組んできた。その取組みの一つが社員の健康増進活動である。禁煙サポート活動、「8020運動(80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目ざす取組み)」、社内イベントの開催、定期健診の受診促進などを実施している。こうした活動が認められ、経済産業省の健康経営優良法人(中小規模法人部門)に5年連続で認定。  今回は同社が取り組む健康増進活動のなかでももっとも注力している「食育」を中心に、鍋嶋(なべしま)洋行(ひろゆき)代表取締役社長と、管理栄養士として勤務する太(たい)美善(みそん)さんに話を聞いた。 社員にさまざまな食材を提供し栄養に関する興味と知識を高める  同社の事業においては、ドライバーを務める社員の健康は何よりも大切である。健康な身体で長く働き続けられることは社員にとっての財産と考え、健康の土台となる食事を大切にする習慣を社員に根づかせようと取り組んできた。その一環が、生産農家と直接契約して行う社員への食材配付と、管理栄養士による食育情報の提供だ。リンゴ、ミカン、トウモロコシ、ブルーベリーなど、季節の野菜や果物を年4回ほど、社員全員に配付している。配付時には、「ブルーベリーは目によい」、「豚肉やとうもろこしには疲労回復効果がある」といった、食材の情報と調理法を添えて提供している。こうすることですべての社員に栄養の情報を提供でき、家族にも喜ばれている。  生産農家から直送される野菜は新鮮で質もよいが、「食」への興味をさらにうながすため、ウナギやA5ランクの和牛などの高級食材を提供することも。高級食材の場合は抽選での配付となることもあるが、野菜や果物と同様、配付時には食材説明書を添えている。  食材の提供を始めたきっかけについて鍋嶋社 長は、「若い社員に、もっと身体によいものを食べてほしいと考えたことが始まりです。手当てとして支給すると、食事以外の用途に使われてしまう可能性もあるので、食材を直接渡すことにしました。旬の野菜や果物を味わうことで四季の移り変わりを感じ、とりわけ旬の時期ならではの高い栄養素を身体に取り込むことで、社員の健康な身体づくりとその意識向上に役立てたいです」と話す。また、免疫力向上が期待できる乳酸菌飲料の配付を週2回行っているほか、最近では朝食を食べる習慣がない若手社員を対象に、バナナとゆで卵の提供も始めた。  運送事業者としては珍しい管理栄養士の採用は2018年から開始した。初代の管理栄養士は週3回の勤務だったが、三代目の太さんは常勤。2021(令和3)年には新たに新卒の管理栄養士も加わり、2人体制がスタートしている。管理栄養士の役割は、健康診断結果を受けての食事指導や、健康意識向上のための社員との面談。SNSや社内報などを活用して健康情報の発信なども行っている。太さんは「配信した情報を見た社員から、『糖質と糖類の違いって何?』という質問があったりと、栄養に関する意識の高まりを感じます。希望者には栄養相談を行っており、食生活が乱れがちな一人暮らしの社員に一週間分の食事を教えてもらい、食事指導をするなどしています。今後は社員一人ひとりに的確なアドバイスができるような仕組みをつくっていきたいです」と抱負を語る。太さんは社内だけでなく、大橋運輸が開催する地域セミナーの講師、健康相談も担当しており、地域の人々の健康維持、増進にも取り組んでいる。 健康づくりを促進するさまざまな施策を導入  食育のほかにも、同社ではさまざまな取組みを行っている。健康的な食事には健康な歯が重要という視点から、定期的に無料の歯科検診を行う「8020運動」もその一つ。提携する歯科医院で検診するだけではなく、その後の治療までサポートしてもらえることもあり好評だ。11月8日の「いい歯の日」には、歯周病対策キットを社員全員に配付している。  運動を習慣化するための取組みとしては、社内にジムを設置し、休憩時間や就業後に自由に利用できるようにしているほか、運動機会を増やすため、近隣にあるスポーツクラブと契約し社員は無料で利用することが可能だ。社内ジムの隣には「酸素ルーム(高気圧O2カプセル)」を設置。酸素ルームはトップアスリートが利用することでも知られており、疲労回復や睡眠不足の解消に効果があるとされ、休憩時間や就業後に利用することによって心身ともにリフレッシュし、集中力アップや生産性の向上につなげている。  また、月に1回、外部の講師を招いてバランスボール講習会を行っている。ボールの上でバランスを取りながら身体を動かす運動は、姿勢矯正、腰痛予防、筋力アップ、ダイエット効果が期待できる。こちらは勤務時間内に行っており、普段は運動する時間が取れない子育て中の女性社員などから好評を博しているそうだ。勤務時間内に行う運動としては、太極拳の講座も開催しており、こちらも女性社員からの人気が高いという。  2021年度からは、「趣味で心から健康になろう」と掲げ、「趣味応援企画」がスタート。社員が自由に「挑戦してみたいこと」を宣言し会社が認定することで、活動費として3万円を支給する。現在、「娘と自転車でサイクリング」、「ドローンで家族の絆を深める」など3人の趣味が認定を受けているそうだ。 10年かけて予算を徐々に増額  こうした健康対策について、同社では年間一人あたり10万円を計上。決して安くはない金額だ。  「ドライバーの健康は安全運転に直結するので、運輸業における経営という視点で見れば重要な課題です。人材確保、人材育成の面でも健康対策は重要と考え、少しずつ予算を割くようにしてきたところ、10年間で予算が10倍に増えました。社員の働きがいや離職率の低下、採用力向上などにつながっていると思います。社員本人だけでなくその家族からも歓迎され、経営によい影響を与えることが実感できたからこそ、少しずつ予算を増やしてきました」(鍋嶋社長)。  同社では、今後も社員一人ひとりに健康情報を届け、現役世代はもちろん、定年後も健康に過ごせるよう、「治療より予防」に重点を置き、長い目で社員の健康づくりに取り組んでいくという。ユニークな施策を続ける同社の取組みにこれからも注目だ。 ※ あいちサービス大賞……先進的なサービスを提供している事業者を対象に、優秀な成功事例を選考・表彰する制度 写真のキャプション 管理栄養士の太美善さん 鍋嶋洋行代表取締役社長 食材説明書が添えられ配付されたうなぎ SNSを活用し健康情報を毎週配信 バランスボール講習会の様子 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  ワーキングメモリ(作業記憶)は、記憶や情報を一時的に保持しながら、何らかの知的な作業を行う力です。年齢を重ねるとともに衰えやすい力ですが、鍛えれば伸びる力でもあります。極力メモを使わず、がっちり鍛えましょう。 第52回 ツリー算 目標2分 隣同士の数字を足していくと、一番下の数字は何になるでしょうか?できるだけ暗算で挑戦してみましょう。 【例】 1 2 5 1 2 5 3 7 10 問題 2 4 8 3 1 6 前向きにとらえる  今回は、脳にしっかりメモをしながら、順に考えていく力が要求される脳トレ問題です。脳にメモをして、そこで何かをすることは、面倒であり、ストレスになります。そして、私たちは歳をとるほどに、そういった頭の使い方を避けるようになりがちです。  ストレスを感じるとコルチゾールという脳内物質が増加し、脳細胞同士のつながりを悪くしたり、ときには脳細胞を殺したりすることもあります。  しかし、負荷がかかっている状態をストレスと思うのではなく、「脳が鍛えられている」と前向きに捉えることができれば、コルチゾールの分泌は収まり、トレーニング効果だけが残ります。  くり返し脳にメモをしていくことが大事になっていきます。あきらめず、順序よく考えてみましょう。  こういったことこそが脳トレです。脳の力を高めるチャンスと考え、前向きにとらえていきましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 2 4 8 3 1 6 6 7 11 12 11 4 18 23 15 41 38 26 79 64 143 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年10月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  当機構では各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●改正高年齢者雇用安定法【70歳までの就業機会の確保など】 ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和3年9月15日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月22日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月20日(水) デーリー東北ホール 宮城 11月19日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月26日(火) 秋田市文化会館 山形 10月26日(火) 山形国際交流プラザ 福島 10月21日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 12月13日(月) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月26日(火) とちぎ男女共同参画センター 群馬 10月21日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月15日(金) 埼玉教育会館 千葉 10月22日(金) ペリエホール 東京 10月19日(火) 東京ウイメンズプラザ 神奈川 11月26日(金) 関東職業能力開発促進センター 新潟 10月21日(木) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター 富山 10月26日(火) 富山県民共生センター 石川 10月21日(木) 石川県地場産業振興センター 福井 10月13日(水) 福井県中小企業産業大学校 山梨 10月27日(水) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月13日(水) ホテル信濃路 静岡 10月13日(水) 静岡職業能力開発促進センター 愛知 10月29日(金) 名古屋市公会堂 三重 10月26日(火) 三重県勤労者福祉会館 都道府県 開催日 場所 滋賀 10月22日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月15日(金) 京都労働局 兵庫 10月21日(木) 神戸市教育会館 奈良 10月26日(火) ホテル・リガーレ春日野 和歌山 10月22日(金) 県民交流プラザ和歌山ビッグ愛 鳥取 10月28日(木) 倉吉未来中心 セミナールーム1 島根 10月20日(水) 松江合同庁舎 岡山 10月15日(金) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月26日(火) 広島職業能力開発促進センター 山口 11月10日(水) 山口県健康づくりセンター 徳島 10月28日(木) 徳島県JA会館すだちホール 香川 10月18日(月) サンメッセ香川 サンメッセホール 愛媛 10月8日(金) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月26日(火) 高知職業能力開発促進センター 福岡 11月17日(水) JR博多シティコミュニケーションスペース 佐賀 10月27日(水) 佐賀市文化会館イベントホール 長崎 10月28日(木) 長崎県庁大会議室 熊本 11月17日(水) 熊本市国際交流会館 大分 10月18日(月) トキハ会館 鹿児島 10月26日(火) 鹿児島サンロイヤルホテル 沖縄 10月28日(木) 沖縄県立博物館講座室 各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問合せください。 ※上記日程は予定であり、新型コロナウイルス感染症の拡大等にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。変更のある都道府県については、決定次第ホームページでお知らせします。 ※青森、栃木、千葉、山梨、静岡、奈良、福岡、長崎、熊本、沖縄については、ライブ配信やオンデマンド配信等の動画配信を予定しています。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 2021 10 令和3年10月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第10号通巻503号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会