【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 高年齢者の雇用の安定に資する措置を講じる事業主の方に、国の予算の範囲において、以下の助成金を支給しています。 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 多数の申請により予算の上限額に達したため、新規申請書受付を停止しました。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6 ヶ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業以外は38万円) ●生産性要件(※)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円) 生産性要件(※)とは 『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)』が生産性要件を満たしている場合となります。 生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 障害者雇用助成金 障害者作業施設設置等助成金  障害を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと 助成額 @B支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E 1人につき月額4万5千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること 助成額 支給対象費用の3/4 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること 助成額 支給対象費用の2/3(特例3/4) ※各助成金制度の要件等について、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 ※お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.78 オンリーワン≠フ強みを持つシニア人材その強みを活かすことが組織活性化につながる 一般社団法人定年後研究所 所長 キャリアコンサルタント 池口武志さん いけぐち・たけし 1963(昭和38)年生まれ。保険会社勤務を経て、2016年より人材育成支援サービスを行う株式会社星和ビジネスリンクに出向。現在、同社常務執行役員のほか、定年後研究所所長、キャリアコンサルタントとして活躍している。  改正高年齢者雇用安定法の施行により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。60歳、65歳を超えて、活き活きと働ける社会を実現するためには、企業はもちろん、シニア自身にも社会の変化への対応が求められています。今回は、一般社団法人定年後研究所所長の池口武志さんに、高齢者雇用を取り巻く現状とともに、法改正による企業、そして働くシニアへの影響などについてお話をうかがいました。 健康寿命が延び、働くシニアは増えたがモチベーションの低さを指摘する声も ―はじめに、定年後研究所について教えてください。 池口 当研究所は、2018(平成30)年2月に設立された一般社団法人で、長くなる定年後の人生を豊かにするために、定年前の50代会社員のキャリア人生の充実に資する調査・研究や、学習プログラムの監修・開発などを行っています。例えば、今年2月にリリースした学習プログラム「キャリア羅針盤」は、セルフコーチング(キャリアに関する課題に取り組みながら自ら学び、気づきを得る学習)方式で、各人がマイペースで行える完全eラーニング版で開発しました。単独、あるいはオンラインによる集合研修との組み合わせなど、幅広い使い方ができるツールとして、数多くの引合いをいただいています。 ―池口さんご自身はこれまでどのようなキャリアを歩んでこられたのですか。 池口 私は、新卒で入社した生命保険会社で、ジェネラリストとして多種の業務を経験し、長年管理職を務め、50代で関連会社に初めて出向しました。出向先の会社は経営コンサルティングや社員研修などを手がけており、ある意味それまでとは畑違いの仕事でしたから、私もマインドセットやキャリア観の見直し、学び直しを迫られてきました。当研究所はこの会社の全額出資で設立された組織です。私も中高年サラリーマンの当事者の一人として、豊かなシニア人生の創出に役立つ調査・研究や情報発信を行っていきたいと、自らも夜間の大学院で老年学を学びながら調査・研究にたずさわっています。 ―現在の高齢者雇用の現状についての考えをお聞かせください。 池口 日本の高齢者の労働力率は、欧米諸国に比べて高いといえます。2018年の65歳以上の男性の労働力率は、日本では34%ですが、米国は24%、フランスは4%です※。各国の国民性や社会保障制度などの違いも背景にあるので、単純に数字だけの比較は意味がないのですが、それでも注目すべきは、日本の高齢者の労働力率が、2000年前後からさらに上昇傾向にあることです。日本の高齢者は、いまでは「定年=引退」ではなく、「元気なうちはいつまでも働きたい」と思うようになっています。「生涯現役時代」という表現も同時期に現れ、健康寿命の延伸とも相まって、「アクティブシニア」が社会に広がってきました。  しかしその一方で、高齢者を雇用する企業の人事担当者や専門家からは、「中高年社員のモチベーションの低さ」、「周囲へのマイナス影響」、「社内需給面でのだぶつき」を指摘する声が鳴りやまず、「働かないおじさん」や「残念なシニア社員」をテーマにした書籍は一つの定番になっています。企業で雇用されるシニア人材が、働く意欲はあるはずなのに、持てる能力をフルに発揮できていないのは、労働力人口減少時代では大きな損失です。 ―そのちぐはぐさの原因は何でしょうか。 池口 65歳までの雇用確保措置が、年金支給開始年齢までのつなぎという側面が強かったために、企業側がある種の「福祉的雇用」という意識のもとで、接つぎ木のような制度をつくってしまった、ということがあるでしょう。それが従来からの年齢を軸にした人事管理と相まって、「役職定年(役割縮小で処遇ダウン)」→「60歳定年(契約社員になり給与一律ダウン)」→「65歳再雇用満了」というパターンが定着しています。65歳になって転職活動や居場所探しをしてもうまくいかず、55歳から65歳の間は、キャリアの面では「停滞の10年間」に陥(おちい)っているといわざるを得ない状況です。 「伸びしろ」の大きい貴重な人的資源であるシニア人材の活躍支援対策の検討を ―池口さんは大手企業と個人へのヒアリング調査を進めてこられましたが、今回の高年齢者雇用安定法改正に対して、大手企業はどのような受けとめ方をしていますか。 池口 全体として「様子見」の姿勢から出ていない企業が多いものの、先駆的事例として注目すべき取組みがいくつも見られたのは、調査の大きな成果でした。例えば、自社の中高年の強みである中長期のステークホルダーや重要顧客との関係を活かした役割を付与する、再雇用後も人事評価をきちんと行い、メリハリと納得感のある処遇に結びつける、若手・中堅・シニアをワンチームとしてシナジーを追求することで、イノベーションを推進する、退職者への業務委託の導入を実験的に行う、キャリア研修を30・40代から始める、などの動きが数多く見られました。 ―個人へのヒアリングではどのような発見がありましたか。 池口 現在も活躍している20人以上のシニアに話を聞いたところ、みなさん業種・職種もまったく異なる方々でしたが、ある種の共通点が見いだせました。多くの方が、キャリア心理学でいう「転機」を50代で迎え、乗り越えているということです。その転機はさまざまで、親の介護、役職定年、出向、早期退職勧奨、自身の病気などがあります。  何が転機における悩み・苦しみを乗り越える力となったのか。その共通項は、それまでのキャリア人生でつちかわれた「仕事を進める力(基本的なマネジメントスキル)」、「相手目線に立つコミュニケーション力」、「学び続けようとする前向きさ」、そして「家族の理解や仲間の応援」です。  それから、60代後半から70代にかけて、新しい会社組織で活き活きと活躍されている方にも、共通項がありました。さまざまな経験を積んで獲得した変化への対応力やレジリエンス(困難な状況からの心の回復力)の強さ、人と人とをつないで新しい付加価値をつくる共同チームの編成力、他者や社会的弱者をサポートしたいという援助志向、環境変化に合わせてスキルをアップデートさせ続ける意思や行動、そして、若い人との融合を意識した目線や姿勢の低さ――といった特徴です。希少資格や際立った専門性はなくても、十二分に会社や社会に貢献されています。 多彩な経験や人脈を活かして付加価値を創造する「リエゾンシニア」に期待 ―これまでの調査・研究から得られた知見をふまえ、企業に求められる取組みについての考えをお聞かせください。 池口 シニア人材は、これまで持っている能力がフル活用されにくかったという経緯をふまえると、これからの「伸びしろ」が大きい貴重な人的資源だといえます。改正高齢法を追い風ととらえ、その活躍支援対策を検討してほしいと思います。また、今回の改正高齢法は、一律的な70歳までの自社内雇用だけを求めているわけではないことも理解が必要です。  具体的には、第一に、自らのキャリアを会社まかせにせず、自分で考え築こうとする「キャリア自律」の風土を推進する。これがすべての前提です。そのためには、個人がキャリアを考える機会を増やすことが必要で、キャリア研修や本人・上司・人事の三者による面談を日常的に行うことです。  第二に、シニア社員の強みを活かす職務開発を、事業部門を巻き込んで推進する。福祉的雇用となっているのであれば、改めてシニアを戦力と位置づけ、経験を活かせる職務を社内・社外で開発する取組みが求められます。  第三に、人事制度や運営を、年齢軸から役割軸・能力軸へ見直す。個々の能力・意欲に基づいた役割付与と、貢献に応じた処遇を実現すれば、モチベーション改善、生産性向上につながります。  この10月に発行した「調査報告書」でも紹介しておりますが、いずれもすでに着手されている企業が数多くありました。 ―他方、シニア個人に求められることは何でしょうか。 池口 何よりも、自らのCAN・MUST・WILL(何ができるか、何が求められているか、何をしたいか)を明確にすることが出発点です。自分の知識や人脈を言語化し(CAN)、会社や社会から求められることを把握し(MUST)、そのうえで自らの意思(WILL)でキャリアを選択する自律的姿勢を持つことです。 ―キャリア設計では、自分の強みを見極めて活かす思考が求められますね。 池口 ヒアリング調査により、シニアには、その多彩な経験や人脈を背景に、「異質なものをつなぎ合わせ、新たな付加価値を創造するリエゾンの力」が、共通因子として内在していることがわかりました。「リエゾン」とはフランス語で「つながり・連携・橋渡し」のこと。当研究所では「リエゾンシニア」と名づけました。これがシニアの強みです。  シニア社員がたどってきたキャリアの軌跡はそれぞれ異なり、一人ひとりの価値観や人脈もオンリーワンのものばかりです。法や会社が定めた65歳や70歳という年齢軸のみでキャリアを考えるのではなく、個人も、自らのオンリーワンを活かした「自分だけのリエゾンシニア」をつくり上げることで、企業や社会に貢献し続けてほしいと思います。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) ※ JILPT『データブック国際労働比較2019』 【P5】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 November 特集 6 70歳就業時代の最新事例が集結! 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰受賞企業事例から〜 7 「令和3年度 高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 8 優秀賞 株式会社 ベルジョイス(岩手県盛岡市) 株式会社 ミフネ(愛知県豊田市) 大容建設 株式会社(大阪府堺市) 山産業 株式会社(山口県美祢市) 株式会社 グローバル・クリーン(宮崎県日向市) 株式会社 仲本工業(沖縄県沖縄市) 1 リーダーズトーク No.78 一般社団法人定年後研究所 所長 キャリアコンサルタント 池口武志さん “オンリーワン”の強みを持つシニア人材その強みを活かすことが組織活性化につながる 32 短期連載 マンガで見る高齢者雇用《最終回》 エルダの70歳就業企業訪問記 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬 38 江戸から東京へ 第108回 異常時には年齢を忘れる 勝と大久保 作家 童門冬二 40 高齢者の職場探訪 北から、南から 第113回 山梨県 山梨ジャパン・パトロール警備株式会社 44 高齢社員のための安全職場づくり〔第11回〕 墜落・転落災害の防止―高齢の熟練作業者の安全確保― 高木元也 48知っておきたい労働法Q&A《第42回》 個別的な定年延長の実施、労災認定基準の改定 家永 勲 52 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例【最終回】 特定非営利活動法人 日本NPOセンター 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第18回 「休日・休暇」 吉岡利之 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 日本史にみる長寿食 vol.337 サケの赤い肉が長寿を呼ぶ 永山久夫 60 次号予告・編集後記 61 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 【第4回】 株式会社浅野製版所(東京都中央区) 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第53回]立体図問題 篠原菊紀 【P6】 特集 70歳就業時代の最新事例が集結! 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」※を毎年開催しています。 当コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 「厚生労働大臣表彰」受賞企業を紹介した前号に続き、今号では、当コンテストの表彰式の模様とともに、「当機構理事長表彰優秀賞」を受賞した六社の企業事例をご紹介します。 ※2020年までは「高年齢者雇用開発コンテスト」 【P7】 令和3年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業12社を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は10月6日(水)、厚生労働省との共催で、「令和3年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。  同フォーラムは、「年齢にかかわらず活き活きと働ける社会」の実現に向けた、高齢者の雇用促進にかかる取組みの一環として開催。会場には例年、企業の人事・労務担当者らが多数参加するが、令和3年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、無観客で開催し、WEBでのライブ配信を行った。  同フォーラムは、第1部「令和3年度高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、第2部「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」(主催 当機構、後援 厚生労働省)の2部構成で、シンポジウムでは基調講演のほか、コンテスト入賞企業による事例発表、トークセッションを行った。  はじめに、坂口卓(たかし)厚生労働審議官と当機構の湯浅善樹理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰最優秀賞の株式会社ササキをはじめ、優秀賞の株式会社アールビーサポート、イオン九州株式会社、特別賞の株式会社壮健、前原製粉株式会社、株式会社美装管理の6社に、坂口厚生労働審議官よりオンラインで賞状が授与された。次に、当機構理事長表彰優秀賞の株式会社ベルジョイスをはじめとする6社に、湯浅理事長よりオンラインで賞状が授与された。  第2部のシンポジウムでは二つの基調講演を実施。はじめに厚生労働省の野ア伸一職業安定局高齢者雇用対策課長が登壇し、「高年齢者の就業機会確保に向けて」と題し、高年齢者雇用安定法改正のねらいと意義、創業支援等措置の導入などについてわかりやすく説明した。続いて、「高年齢者雇用が企業を強くする」と題し、法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科の藤村博之教授による基調講演が行われ、藤村氏は高齢者のモチベーション維持や高齢期の働き方などについてさまざまな事例を交えて紹介した。  その後の事例発表では、会場と発表企業をオンラインで結び、コンテスト入賞企業から株式会社ササキ(佐々木啓二代表取締役社長)、株式会社アールビーサポート(服部量治管理者兼事業部長)、イオン九州株式会社(工藤洋子経営監査室長(前人事教育部長))の3社が自社の取組みの内容や制度などを紹介した。  続いて行われたトークセッションでは、藤村氏がコーディネーターとなり、事例発表を行った3社が引き続きパネリストとして登場。70歳までの継続雇用制度を導入するにあたって工夫した点や、65歳以降も意欲を持って第一線で働き続けてもらうための工夫、モチベーション維持・向上に向けた取組みなどについて各パネリストが思いのこもった言葉で語った。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2022年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 挨拶に立つ当機構の湯浅善樹理事長 【P8-11】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 部門指導からIT機器による発注まで高齢従業員の持てる力を最大限に引き出す 株式会社 ベルジョイス(岩手県盛岡市) 企業プロフィール 株式会社 ベルジョイス (岩手県盛岡市) 創業 1951(昭和26)年 業種 スーパーマーケット(飲食料品小売業) 従業員数 4,628人 (内訳) 60〜64歳 643人(13.9%) 65〜69歳 418人 (9.0%) 70歳以上 267人 (5.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は正社員74歳、パート社員77歳 T 本事例のポイント  株式会社ベルジョイスは、1928(昭和3)年に岩手県盛岡市において、精肉店として一戸商店を創業したことからスタートした。1951年に株式会社に組織変更し、1958年に精肉店からスーパーマーケットに転業。その後商号を株式会社いちのへ、株式会社ジョイスへ変更しながら事業を拡大し、1994年に株式を上場した(現ジャスダック市場)。現在は北海道・北東北に展開する地域密着型のスーパーマーケットチェーン・アークスグループの一員として、北東北の中核拠点となる一方、株式会社ベルプラスと合併し、商号を株式会社ベルジョイスと変更。基本理念にも掲げている「そこになくてはならない」存在として発展を続けている。 POINT 1 各店舗において65歳を超える高齢従業員が相当数在籍しており、店舗運営に大きく貢献している。2019(平成31)年3月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。原則は定年65歳だが、本人の意思により定年年齢を選択できる選択定年制を導入した。 2 60歳以降の高齢従業員は、若手従業員への技術継承と教育係を担当。指導役としての役割と責任を明確にしてモチベーションの低下を防ぎ、意欲向上を図っている。 3 高齢従業員全員がIT機器を使用できるようシステムを簡略化した。IT機器の扱いが苦手な高齢従業員に操作に慣れるまで指導して活用できるように取り組んでいる。 4 高齢化にともなう労働災害の発生が多いことから、注意喚起を徹底。事故予防の備品を拡充し、腰痛予防の体操動画を配信するなど事故防止に努めている。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社ベルジョイスは、岩手県を中心に宮城県、青森県に展開するスーパーマーケットチェーン。株式会社ジョイス(1951年設立)と株式会社ベルプラス(2007年設立)が、2016年3月に合併し、「株式会社ベルジョイス」として新たなスタートを切り、岩手県でシェアナンバーワンに。“新鮮さ”と“安さ”、そして“安全・安心”をモットーに、食品スーパーマーケットの「ジョイス」、「ベルプラス」、「ロッキー」、食品ディスカウンティング・スーパーマーケット「ビッグハウス」、会員制ホールセールクラブ「ビッグプロ」の5ブランドを展開。岩手県に50店舗、宮城県に7店舗、青森県に1店舗の計58店舗を運営している。  基本理念にある「そこになくてはならない」存在となるために、ベテラン従業員が率先して中堅から若手従業員を指導し、相互研鑽により全員が魅力ある人材になることを目標に、日々の食生活の経済性向上に少しでも貢献できる店づくりに励んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数4628人(2021年8月末時点)のうち、60歳以上が1328人おり、全従業員の約3割を占めている。従業員の高齢化は以前から進んでいたが、定年年齢の60歳はまだまだ若く、働く体力も気力も衰えていないことから、従業員、そして労働組合からも定年延長について要望があった。  さらに、各店舗で長年働いている高齢従業員たちは、スキルが高く、店舗についても熟知しており、おのずと新入社員やパート従業員の教育を行っている状況だった。新入社員の指導は主に20〜30代の若手チーフが行っていたが、高齢従業員の教え方はていねいでわかりやすく、新人の指導役として適任と見受けられた。  こうした実態を受け、2019年3月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年延長・選択定年制を導入  2019年に、定年を原則65歳とする選択定年制を導入した。本人の意思で満60歳、満61歳、満62歳、満63歳、満64歳の五つの年齢から定年年齢を選択できる制度である。  正社員は60歳到達時に会社と面談を行い、定年年齢を選択する。本人が希望すれば役職を継続し、処遇についてもそのまま継続する。店舗所属のパート従業員は、各店舗の店長との面談により、定年年齢を選択。原則、従来の条件のままとする。実際のところ、大半の従業員が65歳定年を選択している。定年後は、希望者全員を年齢の上限なく再雇用し、毎年契約更新する。最高年齢者は、本社勤務の商品部商品調達責任者、ゼネラルマネージャーの74歳となっている。 ▼退職金制度を65歳支給に変更  定年制改定時に退職金制度は変更なく、60歳で退職金を支給していた状況を見直し、2022年3月から支給時期を延長し、65 歳まで積み立てる運用をスタートする予定である。企業年金もあわせて新規で導入することが決まっている。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫 ▼指導役として役割を課す  従来は現場での新人研修は店舗のチーフ、またはトレーナー制度により本社から出向いて指導してきたが、店舗の高齢従業員が中心になって新人教育を行うこととした。指導役の高齢従業員は、会社のマニュアルにプラスして自らの経験から得たポイントを若手に伝授している。高齢従業員にとって後進の指導はやりがいとなり、「若い世代との接点ができて楽しく仕事ができている」という声が聞かれている。 ▼「リリーバー制度」の導入  各店舗に教育係である高齢従業員を配置しているものの、すべての店舗に配属されているわけではないため、本社所属の高齢従業員が「リリーバー」として近隣の店舗に出向き、各担当部門で指導を行う「リリーバー制度」を新設した。水産、惣菜、チェッカー、食肉の各部門のベテラン40人が「リリーバー」として活躍している。  最近は新型コロナウイルス感染症における感染者の濃厚接触者が出勤停止になった際に、リリーバーが応援に入るなど、制度の有効性が高まっている。 ▼IT機器を扱えるよう徹底指導  システムの変更などでIT機器操作が必要になった従業員に対し、各部門トレーナーや、リリーバーが随時指導にあたっている。機器操作を苦手とする高齢従業員には、マンツーマンで時間をかけて、一緒に機器を操作しながら、くり返しわかるまで指導することで、多くの高齢従業員が使えるようになった。  3年前にタブレットを使って在庫をチェックし、その場で発注を行う仕組みを導入した。従来からパート従業員が各部門の商品発注を行っていたが、新しい発注システムを導入した際の、高齢従業員の拒否反応はたいへんなものだったそうだ。そこで全店舗で説明会を開き、マニュアルを整備したうえで、一人ひとりに時間をかけて教えたことが功を奏した。  特に店舗所属の女性の高齢従業員は、季節の天候の特徴や、学校・地域行事を熟知しているため、発注精度が高い。品切れを起こさず、発注ロスを抑えることができる高齢従業員がIT機器を操作して発注を行うことにより、効率性と生産性が格段にアップした。  今後は、給与明細、年末調整など、スマートフォンで確認できるように、近年中に電子化によるペーパーレス化を進め、経費削減につなげる予定である。 ▼年齢制限を設けない昇格制度  昇格要件は主に資格取得であり、一切年齢制限を設けていない。チーフ職の昇格要件はスーパーマーケット検定2級取得、店長マネージャー職の昇格要件は第2種衛生管理者取得となっており、年齢に関係なく、昇格を目ざせる環境である。60歳以上の店長職も多い。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼連続休暇制度の導入  2019年から従業員の働き方と休み方の改善のために、4〜9月の上期、10〜3月の下期にそれぞれ有休を含む3連休を取得する取組みを始めた。以前、現場では有休が取りづらい雰囲気があったが、この制度を取り入れてから、格段に取得しやすい環境になり、連休取得率100%を達成している。有給休暇取得により従業員がリフレッシュすることで、業務の効率化に結びついている。従業員からは「連休がもっとほしい」という声が上がり、2021年から上期、下期ともに5連休に期間を延長した。店舗で働く全員が5連休を取得できるようシフトを調整し、シフトの穴はリリーバーが応援に入ることで対応している。 ▼労働災害防止の取組み  安全衛生面では、60歳超の高齢従業員の転倒事故が多く、課題となっていたという。高齢従業員は少しの段差でつまずきやすく、転倒して打撲や捻挫を負うケースが発生していたことから、事故防止のために月1回の店長会議で危険箇所の注意喚起のための掲示をするよう求めるなどの対策を実施。しかし、注意した内容がパート従業員まで行き渡らないこともあり、裾野を広げてチーフ会議でも注意喚起するようにした。  労働災害は、特に惣菜部門の転倒と切創(せっそう)事故が目立っていた。厨房では大量の揚げ物や焼き物を調理するため床が油で滑りやすく転倒を起こしていたので、滑りにくいラバーソールのシューズを配付し、転倒防止策をとった。手の切創事故については、食品調理用の切創防止手袋の着用を義務づけ、備品として欠品しないようにして切創事故防止に努めた。  そのほか、全部門的に腰痛を訴える高齢従業員は多く、腰痛防止の体操を取り入れるために、衛生委員会が中心となって動画を配信する取組みを始めた。所要時間6〜7分の動画は、店舗に設置しているパソコンでだれでも視聴できる。さらに、腰痛ベルトを試験的に導入しており、今後効果が見られれば全店舗に拡大する予定だ。  こうした取組みの結果、2021年3〜8月の労働災害件数は前年比の半分にまで減少した。 (4)高齢従業員の声  椎野(しいの)正明(まさあき)さん(68歳)は、勤続年数48年を数える店舗管理のベテラン。商品補充、生鮮食品、惣菜、ベーカリーの最終値引き、閉店時の戸締りなどを行っている。「長い実務経験を活かせる仕事なので、無理をしなくてよいところがいいですね。品切れのない整理された売り場づくり、季節などのタイミングに合わせた商品展開を心がけ、全力で各担当者をサポートしていきたい」と意気込みを語る。  茶畑(ちゃばた)東(あずま)さん(72歳)は、18歳で入社し、54年間、同社で働いている。食肉部門に所属し、生肉の商品化、売り場づくりを担当。商品化の手順、商品陳列の技術を若手従業員へ指導している。定年後に働く心構えについて、「過去の肩書き、実績、プライドを捨てなくては後輩や若い人たちとは働けません。自分が何を持っているかより、自分が持っているものを後輩たちにどう伝えるかが大事です」と力を込める。  國分(こくぶん)禮子(れいこ)さん(71歳)は、18歳で入社し、長年同社に貢献している。惣菜部門で主に弁当、丼物づくり、商品の陳列を担当。スピーディで見た目がよい商品のつくり方や、臨機応変に手法を変えるといった、長い経験から得た手順、技術を若手従業員に伝授している。「ミスなく、時間内に目標の個数を作成し、売れ行きが好調だと達成感があります。歳を重ねるとスピードが落ちていくでしょうから、そこを意識してがんばっていきたい」と気を引き締めている。 (5)今後の課題  高齢従業員はみな、若々しく活き活きと働いているが、将来的に加齢による体力の衰えは避けられない。65歳以降については一年ごとの契約更新の際、体力検査の導入を検討している。今後の70歳定年を見据えて、高齢従業員が長く活躍できるように、一層、働きやすい環境を整備していく。 写真のキャプション 同社が展開するブランドの一つ「ビッグハウス」 茶畑東さん 椎野正明さん 國分禮子さん 【P12-15】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 多様性を受け入れ、人を大事にする経営でだれもが活き活きと長く働ける職場に 株式会社 ミフネ(愛知県豊田市) 企業プロフィール 株式会社 ミフネ (愛知県豊田市) 創業 1978(昭和53)年 業種 自動車部品製造(金属製品製造業) 社員数 188人 (内訳) 60〜64歳 3人 (1.6%) 65〜69歳 2人 (1.1%) 70歳以上 7人 (3.7%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。希望者全員年齢の上限なく再雇用(3カ月間の有期契約・更新あり)。現在の最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  株式会社ミフネは1978(昭和53)年、自動車部品を製造する個人会社「御船(みふね)鉄工」として創業。1981年に法人会社となり、1990(平成2)年に株式会社ミフネを設立。トヨタ生産方式を取り入れてその後も飛躍し、現在、豊田市内に二つの工場を構える。自動車部品を中心に手がけ、型設計・製作から配送まで自社で行う体制を整え、毎日約2000種類の製品を出荷している。  高齢者雇用に取り組むとともに、障害者、外国人も積極的に雇用し、多様な人材を活かして事業を推進する職場環境を実現している。 POINT 1 2011年、年齢にかかわらず体力が維持できて働く意欲がある人には長く働いてもらいたいとの考えのもと、それまで60歳としていた定年年齢を70歳に引き上げた。 2 2020(令和2)年には、定年後の再雇用の契約更新方法について、就業規則上明文化した。 3 再雇用では、役割や働き方について本人と会社の双方の納得性を高めるため、3カ月ごとの契約更新時に社長と直接面談し、体調や通勤、担当業務について話し合い、契約の延長や退職を決めている。 4 70歳超の社員には、バックヤードの仕事など安全性を重視した仕事を切り出して、無理なく長く働けるようにしている。 5 他社を定年退職した高齢者を積極的に採用している。また、社員全員が「チームミフネ」の一員として、経営方針や受注情報などを共有し、一人ひとりが高い意識と意欲を持つことができる職場環境づくりに努めている。 U 企業の沿革・事業内容  同社の前身である御船鉄工は、トヨタ関連企業に勤務していた梅うめ村むら敏代表取締役会長が1978年に創業した。夫婦2人で始めたが、二宮尊徳の「積小為大(せきしょういだい)」(「小さな努力を積めば、いずれ大きなものになる」という意味)を理念に掲げ、小さな改善を積み重ねるなかで技術力、生産力を高めて取引先の信頼を獲得し、事業を拡大。自動車部品プレス、溶接、金型製作を手がけて成長を続けている。常に、より効率的な生産体制の整備に励み、2018年には、株式会社ミフネとなってから2棟目となる工場を建設した。  大きな変革期を迎えているといわれる自動車業界にあって、「良質廉価な一気通貫のものづくり」を特徴とし、多品種少量生産に対応する技術力・生産力と、製造から配送まで一貫して自社で行う体制、そして多様な人材を受け入れて活かし、年間約3000種類の製品をつくり、自動車生産を通じて社会に貢献している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全社員188人のうち、60歳以上は12人(男性8人、女性4人)で、高齢社員の割合は6.4%。70歳以上は7人である。社員の平均年齢は38歳。  梅村和弘代表取締役社長は2013年に二代目の社長に就任した当時、「人を大事にする会社でありたい」と決意。「モノづくりにはチームワークが欠かせません。そのためには、社員一人ひとりを尊重することが大切です」と思いを語る。  それから8年。この間に70歳の定年を迎えた社員は2人だが、他社を定年退職した高齢者も積極的に採用している。一方、新卒者の採用にも取り組み、社員の年齢は19歳から80歳までと幅広い。新卒の障害者の採用も毎年継続しており、現在7人の障害者が働いている。また、外国人を直接雇用しているほか、技能実習生を受け入れており、国籍、年齢、障害の有無、性別などにかかわらず、それぞれの持つ能力を活かすことで企業の発展につなげていくダイバーシティ経営を推進している。  「高齢者にとって安全な仕事の仕方や障害者にとってやりやすい方法は、ほかの人にとっても同じであり、さまざまな社員が一緒に働くことで日々学びがあります」(梅村社長) W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年年齢の引上げ  2011年に、それまで60歳としていた定年年齢を70歳に引き上げた。年齢に関係なく体力が維持でき、働く意欲がある人には長く働いてもらいたいと考える一方で、少子高齢化により、定年年齢はいずれ上がっていくことを見据えて実施した。当時、50代の社員はわずかで、社員にとっては実感の持てない定年年齢の引上げだったそうだが、現在では、「安定した給与をもらいながら70歳まで働ける環境が整っていることはありがたい」という社員の声が聞かれるようになった。  また、定年を70歳としたことにより、ほかの企業を定年退職した人を採用しやすくなった。大企業に勤めていた人や、モノづくりとは異なる仕事をしていた人なども採用している。会社と社員双方の納得性を重視した雇用契約を交わすことにより、だれもが前職を引きずることなく、「チームミフネ」の一員として活躍している。 ▼再雇用制度の明文化  70歳超の高齢社員を、一定条件のもと有期契約の嘱託社員やパート社員として再雇用している。以前は定年後の再雇用について就業規則などに明文化することなく、事務的な面談のうえ、再雇用を行っていた。これを2020年に改め、定年後再雇用の契約更新方法を就業規則に明記した。なお、再雇用の上限年齢は定めていない。  また、役割や働き方については、本人と会社の双方の納得性を高めるため、契約期間を3カ月間とし、更新時に社長と直接面談し、本人の健康状態や勤務形態の希望、通勤や仕事上の問題点を話し合い、双方が納得して契約の延長や退職を決めている。契約期間を3カ月間とした理由について、梅村社長は「健康への配慮もありますが、社員は通勤に車を使用しており、朝夕のラッシュと重なります。そのため、20〜30分の運転を社員が不安に思うことがあるのではないか、家族が心配しているかもしれない、そんなことを3カ月ごとの面談で話すことにより、ふだんから話しやすくなるだろうと考えました」と話す。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼3カ月ごとの面談  契約更新時の面談は事務的なものではなく、仕事に対する思いなども含めて梅村社長が高齢社員の話を傾聴し、時には悩みに寄り添い、高齢社員の働く意欲を引き出している。希望する勤務時間などにきめ細かく対応していることも、長く働きたいという意欲につながっている。 ▼道具を工夫して仕事を継続  社員の声を聞き、道具を工夫するなどして安全の確保、生産性の向上に取り組む改善チームを設置している。高齢社員のための工夫では、例えば検査業務は視力が低下するとむずかしくなるが、一目で個数が確認でき、製品が見やすくなる箱をつくり、仕事が続けられるようになった。 ▼「チームミフネ」の一員として情報を共有  高齢社員を含めて社員全員に常に、経営方針や受注情報などを伝えることで、全員が「チームミフネ」の一員として会社経営の一端をになうという意識と、意欲を持って仕事に取り組める風土の醸成に努めている。  朝礼などには全員が参加し、品質、納期、会社の経営状態など何も隠すことなく伝えている。 ▼良好な職場の雰囲気を醸成  社員が親睦を図る機会を随時設けており、高齢社員も一緒に楽しんでいる。また、梅村社長は毎朝7時に出社して二つの工場をまわり、全社員とあいさつを交わし、時には声をかけて体調などを気遣い、話をしやすい職場づくりを進めている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼高齢になっても働ける仕事の創出  従来は、高齢になってもそれまでと同じ仕事を継続していた。しかし、加齢による身体機能の低下などから、体力や仕事能力の低下が見られることも多くなる。そこで、安全を考慮し、65歳以降はメインのラインを外れて、主に改善チームとして社内の声を聞き、道具の改善や仕事のやり方を工夫する役割をになっている。70歳を超えると主にバックヤードの仕事をにない、例えば、製品を収納する箱の整理や運搬などオフラインの仕事を切り出して、高齢社員が安全に長く働けるようにしている。 ▼個人の事情に配慮した柔軟な勤務体制  3カ月ごとの更新時の面談では、勤務日数や勤務時間短縮などの希望があれば聞き、それぞれの事情に配慮して柔軟に対応している。これにより、短時間勤務で早く帰宅することができ、農業をしたり、孫を迎えに行けるなど、仕事を続けながら自分に合った生活を楽しむことができるようになったと好評を得ている。  また、社員は60歳を迎えた時点で働き方を選ぶことができ、短時間のパート勤務に変わることも可能である。  このような柔軟な勤務体制は他社を定年退職した人たちからも喜ばれており、高齢者の採用につながっている。 (4)高齢社員の声  最高年齢社員の田井中(たいなか)政二(せいじ)さん(80歳)は、他社を定年退職後に68歳で入社し、フルタイムで週5日、製品を出荷するために収納する箱の整理・整とん、各出荷場所への運搬などの作業に従事している。「会社の発展のために自分の力が必要とされていると感じられることがやりがいになっています。必要な箱を必要なときに必要な量を供給できるよう、表示を明確にすることに気をつけています。仕事をすることが健康につながっています。ストレスチェックはいつもA評価です」と語る。  田井中さんと同じ仕事をしている佐野(さの)勇次(ゆうじ)さん(77歳)も他社を定年退職し、さらにもう1社で雇用上限年齢まで勤めた後、70歳で入社した。短時間勤務制度を利用して、9時から15時まで週5日のペースで働いている。「仕事がスムーズに流れるよう、重要な役割をになっていると感じています。作業にあたっては、工場の『5S』を心がけています」と仕事を語り、「体力の続くかぎり長く勤めたい」とこれからを語る。  畑中(はたなか)令子(れいこ)さん(72歳)は、56歳で入社して、定年後に再雇用社員となり、現在は9時から16時まで週5日、検査業務に就いている。「この工場で製造される製品が世界各地で使われていると考えると気が抜けません。チームミフネの一員であることに誇りを感じています」と語り、「若いメンバーと一緒に仕事ができて活力をもらっています。仕事ができることが喜びです」と言葉を続けた。 (5)今後の課題  自動車産業は大きな変革期にあり、梅村社長は「迅速かつ柔軟に変化できる企業体質を構築することが求められています。しかし、社員一人ひとりを大切にする姿勢を変えることなく、すべての社員がここで長く働きたいと思える会社を目ざしていきます」と語る。 写真のキャプション 会社外観 梅村和弘代表取締役社長 収納箱を整理する佐野勇次さん 完成した製品を収納する箱を運搬する田井中政二さん 検査業務に集中する畑中令子さん 【P16-19】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 「安全」と「健康」を第一に高齢社員が生涯現役で活躍し続ける職場を実現 大容(だいよう)建設 株式会社(大阪府堺市) 企業プロフィール 大容建設 株式会社 (大阪府堺市) 創業 1953(昭和28)年 業種 土木・建築工事業 (総合工事業) 社員数 26人 (内訳) 60〜64歳 1人 (3.8%) 65〜69歳 2人 (7.7%) 70歳以上 4人(15.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。その後は年齢の上限なく継続雇用。現在の最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  大容建設株式会社は、1953(昭和28)年の創業以来、「良質本位」と「堅実経営」を企業理念に掲げ、土木工事および建築工事を総合的に請け負う建設事業者として業容を拡大してきた。公共事業を中心とした社会基盤の整備にたずさわる企業の責務として、長年にわたり自己資本による安定した堅実経営を実践している。一方、社員の健康と安全を第一義に考えて、だれもが活き活きと働ける職場の構築を目ざして、環境の整備や改善を積極的に推進している。 POINT 1 定年は65歳に設定しているが、以降は年齢の上限なく継続雇用する。また、定年後の基本給は定年前の水準を維持し、個人の能力や成果に応じて加給する。 2 「健康が一番。笑顔で一年間過ごす」という方針のもと、高齢社員の健康に配慮した人員配置を実現するための受注活動を推進し、業務負担の軽減に寄与する新規事業の設置計画を進めている。 3 高齢社員が長く働けるように、高齢社員の要望・現状をていねいに聞く面談や相談の場を設けている。 4 高齢社員が若手社員の育成に注力できるよう、指導者手当を支給している。 5 高齢社員の挑戦意欲と成長意欲を喚起するため、資格取得の奨励金制度を設けた。 U 企業の沿革・事業内容  1953年創業の大容建設株式会社は、1971年に法人としてスタートを切って以来半世紀にわたり安定した経営を継続してきた。官庁系の建設工事が9割を占めており、民間工事の案件としては、私立学校やマンション、幼稚園の建設などがあげられる。  組織体制としては、土木部、建築部、営業部、経理部、総務部・安全環境部の5部門で構成される。一般的に建設会社の間接・直接部門の人数比は2対8となるが、同社では4対6の比率となっている。間接部門の比率が高いのは、グループ企業が受注した案件の事務業務を同社がになっているためである。ただし、施工管理者などの技術者は元請の社員であることが要件となることから、同社またはグループ企業内で該当者が不足する場合は、出向・転籍により、グループ内で人材の需給調整を行う。このように柔軟に人材を手当てできることも安定経営の要素となっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2021(令和3)年4月現在の同社の社員数は26人で、平均年齢は50歳。60歳以上は7人在籍し、60〜64歳が1人、65〜69歳が2人、70歳以上が4人となっている。最高年齢者は74歳である。同社にかぎらず、建設業界は慢性的な技術者不足の状況にあり、中途採用によって人材を調達しているのが現状であるが、資格保有者の採用はむずかしくなっている。もちろん、土木・建築学科系の新卒採用にも力を入れているが、建設業界全体の人気が低いため、採用に苦戦している。現在、20代の若手社員が3人在籍しているが、未経験の中途採用者のため、技術者として一からていねいな育成に取り組んでいる。  施工管理業務は、業務内容が多岐にわたり、監督者として一人前になるには5〜10年の時間を要することから、未経験者の早期育成も経営上の優先課題となっている。  一方、仕事の受注量およびサービスの質は、社員の技術・技能に左右されることから、同社にとって経験豊富な高齢社員は不可欠な存在で、貴重な経営資源となる。このため、同社では「安全」と「健康」を第一に、意欲ある高齢社員が生涯現役で活躍し続けることができる会社を目ざしている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年・継続雇用制度と運用状況  2020年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、65歳以降は雇用上限年齢を定めず、1年ごとに更新する継続雇用制度を導入した。定年後の社員区分は嘱託社員となる。就業規則では、定年後の雇用を継続する基準として、「継続雇用を希望し会社が承認した場合」と定めているが、これまでこの基準に満たず退職した者はおらず、定年後の再雇用の契約更新を行わなかった者もいない。同社は、社員の話をていねいに汲くみ上げ、社員が求める職場環境をつくり上げることで、事業運営を成功に導きたいと考えており、取締役自らが社員の希望や相談を受ける窓口となっている。  また、定年到達時および契約更新時には、取締役クラスが面談を実施し本人の意向を聞く機会を設けており、長く働いてもらいたいという会社の意向を伝えている。定年年齢を引き上げたことで人手不足の状況を緩和でき、高齢社員にとっても生活設計の見通しが立てやすくなったと歓迎されている。 ▼賃金制度改革  嘱託社員の基本給は定年到達時と同額としたが、これは最低水準を保障するものに過ぎないことから、個々の労働契約では、実際に個人の成績などの評価をふまえて、基本給に加算している。また、賞与は定年前の社員と同様に支給し、算定方法もまったく同じであり、企業業績と人事評価結果に基づいて決める。定期的な賞与は年2回支給するが、このほかに追加して支給することもある。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ▼人事考課制度の導入  当初、人事評価は個人目標を設定し、その達成度を主体に行っていたが、制度運用の煩雑さなどから人事考課制度に変更した。特に個人目標の設定は高齢社員の意欲向上につながらず、むしろ少々足枷(あしかせ)となっていたが、人事考課制度への変更は業務に幅をもって臨むことができることから、高齢社員のモチベーションを向上させた。現場を持つ技術者の場合には、発揮能力と執務態度の二つの視点から評価される。発揮能力とは「工程意識」、「原価意識」、「品質/環境意識」、「安全意識」の四つであり、執務態度としては主に上司との意思疎通やリスクテイク、法令順守の姿勢が評価される。 ▼指導者手当の支給  経営上の課題の一つに、若手社員の早期育成がある。現場の規模が大きいときは、先輩がいる現場に配置して経験を積ませる工夫を行うと同時に、高齢社員からの指導が円滑に進むように「指導者手当」を支給することとした。この指導者手当は、若手社員との意思疎通を図るための費用助成を目的としており、コーヒータイムなどの休憩時にかかる費用に充ててもらえるようにした。日ごろのコミュニケーション不足を補うものとして高齢社員、若手社員双方から好評の声が上がっている。 ▼公的資格の取得助成  所属部門で必要となる公的資格の取得費用は会社が負担している。また、最近新たに設けた助成制度として、所属部門の主幹業務と異なる資格を取得した際の報奨金制度がある。目的は、挑戦意欲と学習意欲の喚起にある。例えば、土木部門に在籍する社員が必要な実務経験を積み、一級建築士の資格を取得した場合には、35万円の報奨金を支給する。報奨金の対象となる資格は、現在11種類あるが、これは暫定的なものであり、今後、社員の申請をもとに増やしていく予定である。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼受注時の相談体制の整備  新規工事の入札へ参加するにあたっては、人員配置などさまざまな事項を検討するが、これは経営戦略にかかわる機密情報のため、通常は社員に開示することはない。ただし、その案件に高齢社員を配置することを予定している場合には、入札前に高齢社員に情報を開示し、意見交換を行っている。これは、高齢社員に安心・安全に働いてもらうためのもので、現場での業務はもちろん、移動距離なども高齢社員には負担要因となる。高齢社員が現場で無理をして健康を害することがないよう、事前の意見交換は不可欠である。 ▼新規事業の設置  同業他社と連携を図り、4社合同で事業組合の設立準備を進めているが、その目的は、規模の大きいPFI※事業を受注することにある。PFI事業の受託者は、公共工事を請け負って施設や設備の指定管理者となる。指定管理業務は管理業務が主となるため、施工管理業務よりも作業負荷は軽くなる。施工管理者の業務範囲は広いため、当該業務のスキルや経験を持つ高齢社員は、指定管理業務も問題なく遂行できることから、新規事業は健康で長く働ける「新職場」になることを視野に置いている。また事業組合には高齢社員を配置する予定である。 ▼健康管理  法定外検診として、会社負担で成人病検診の受診機会を設けている。そのほか65歳以上で希望する社員には、インフルエンザの予防接種時に肺炎球菌ワクチンも接種することとしている。ワクチン接種は対象者の全員が希望しており、高齢社員に安心感を与えている。また、禁煙についても全社をあげて推進している。20年前から本社ビル内を全館禁煙とし、社用車もすべて禁煙としている。 ▼福利厚生  会社慶弔見舞金規程および社友会会則を改定し、従前は嘱託社員の慶弔見舞金は正社員の半額であったものを同額とした。また、社友会は、従来は定年時に退会となっていたが、会則を改定し、定年後も継続できることとした。 (4)そのほかの取組み ▼社内交流会  社内の交流を活性化し、風通しのよい社風の実現に向け、忘年会、納会などを会社負担で実施している。また、社員旅行は数年ごとに実施し、海外も含めて検討している。 ▼社外交流  地域との関係が希薄であったことから、地域の清掃活動に参加して交流を深めている。地域への寄付活動も行うなど、積極的な社会貢献活動を行っている。 ▼バリアフリー化  高齢社員から洋式トイレ設置の要請があったため、転倒防止対策となるバリアフリー化とあわせて、今後一つずつ着手していく予定である。 (5)高齢社員の声  土木部の岡本優さん(66歳)は、嘱託社員として工事の現場代理人、監理技術者、主任技術者のいずれかを務め、安全環境管理や工程管理、品質管理、原価管理を行っている。  建築部の瀬戸忠利さん(70歳)は、嘱託社員として岡本さんと同じく施工管理の業務をになっている。土木工事などさまざまな職務に対応が可能で、社員の安心と安全を大切にする社風のなかで、豊かな経験を活かしている。高齢社員が元気に働く姿は若手社員のよい手本となっている。 (6)今後の課題  建設業の就労者は年々減少傾向にあり、特に中小建設事業者における現場監督員の不足は深刻な状態である。個々の企業単位で解決するには限界があることから、中小建設事業者同士が連携・提携することにより、個々ではかぎられた経営資源であっても、それぞれが有する技術やノウハウ、高齢社員が持つ豊富な経験を互いに補完し合うことにより、単独の企業では成し得なかった経営強化や新領域の展開など、多様なニーズへの対応が可能となる。これを実現するために事業組合の設立を進めており、事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対応していくための努力を続けていくという。 ※ PFI……Private Finance Initiative の略。公共施設などの建設・運営・維持管理などを民間の資金や経営・技術的ノウハウを活用して行う手法 写真のキャプション 会社外観 会社をあげて地域の美化活動に参加している 瀬戸忠利さん 岡本優さん 【P20-23】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 経験豊富な人材の確保と技術力や知識の伝承を目ざし定年の引上げなどを実施 山産業 株式会社(山口県美祢(みね)市) 企業プロフィール 山産業 株式会社 (山口県美祢市) 創業 1954(昭和29)年 業種 土木・建築・高速道路メンテナンス(総合工事業) 従業員数 104人 (内訳) 60〜64歳 21人(20.2%) 65〜69歳 8人 (7.7%) 70歳以上 7人 (6.7%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後は、運用により一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  山産業株式会社は、山口県美祢市において1954(昭和29)年に創業。土木建築業を主軸としながら、顧客のニーズを受け、運送事業、車両整備業、高速道路の管理・運営、住宅事業なども手がけるようになり、現在は「建設総合サービス企業」として、地域の社会インフラ整備にかかわる幅広いサービスを展開している。  同社の仕事は建設現場という体力的に負荷の高い労働環境でもあるため、従業員の意見もふまえたうえで職場環境の整備に取り組んできた。  人手不足が深刻な業界にあって高齢者雇用にも前向きで、長く働き続けられる制度・環境を整えるとともに、他社を定年退職した異業種の高齢人材も積極的に受け入れている。 POINT 1 経験豊富な人材を確保するとともに、高齢従業員がつちかってきた技術力や知識を伝承するため、2019(令和元)年10月、定年年齢を63歳から65歳に、継続雇用年齢を希望者全員65歳から70歳に引き上げた。70歳以降も、健康や意欲などに問題がなければ、運用により1年ごとの更新で上限なく再雇用している。 2 継続雇用した再雇用者の給与は、業務内容や勤務時間数を勘案して決定する。年齢や再雇用者であることを理由とする給与の減額は行わない。 3 定年年齢引上げなどとあわせて、再雇用者が希望した場合に1〜3時間の勤務時間短縮措置を講じる短時間勤務制度を導入した。 4 現場では、高齢従業員と若手従業員がペアを組んでOJTを行う。高齢従業員の張合いにもなり、若手の成長にもつながっている。 U 企業の沿革・事業内容  山口県西部のほぼ中央に位置する美祢市は、緑豊かな中山間地域にあり、日本最大級のカルスト台地「秋吉台(あきよしだい)」、日本屈指の大鍾乳洞(しょうにゅうどう)「秋芳洞(あきよしどう)」をはじめ、悠久のときの流れを感じる大自然が大きな魅力となっている。  同地で1954年に創業した山産業株式会社は、土木建築業を主軸に事業を開始し、時代とともに運送事業や車両整備業などに事業を拡大してきた。同社が目ざすのは、山正樹(まさき)代表取締役社長曰く、「建設業のコンビニエンスストア」。「当社は、総合建設業として社会インフラ整備のあらゆることにかかわって68年になります。人口が減少しても、災害があれば必ずだれかが要救助者を助けなければいけないですし、建物を建てることも車の修理も必要です。2万4000人ほどの町で、身の回りに困りごとがあれば何でも対応できる存在になりたいと考えています」と話す。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  104人の従業員のうち、60歳以上は36人。60〜64歳の正規従業員が21人(男性19人、女性2人)、定年を超えた65歳以上の非正規従業員が15人(全員男性)である。若者に敬遠されがちな業界であるため中高年齢者が多く、平均年齢は53歳。最高年齢者は現在74歳である。  従業員の職種で多いのは現場監督。同社は建設業のなかでも元請けの立場であり、建設現場を取りまとめる役割をになう。ただし、作業員もいれば運送専門の運転手もいて、さまざまな職種がある。基本的に入社後に職種を変更することはなく、多くの人が高齢になっても同じ仕事を続ける。そのなかで体力面への配慮をすることはあるが、高齢従業員向けの仕事は設けていない。  高齢者雇用に積極的に取り組む背景について、山社長は、「昔の60歳といまの60歳とではバイタリティが違います。生活スタイルも変わり、みなさん、活き活きと生活されている。建設業界が人材不足、技術者不足という大きな課題に直面しているなか、元気な方には長く活躍してもらえるよう取り組んでいます」と説明する。総務部の石田仁志(ひとし)主任も、「建設業の仕事はマニュアル化しにくく、経験が物をいう仕事ですので、長く勤めていただき、経験を積むなかでつちかった能力・技術を次の世代に伝えていってほしいと考えています」と話す。 W 改善の内容W (1)制度に関する改善 ▼定年制の改正  実際には以前から65歳を超える従業員もいたが、就業規則を見直し、2019年10月より、定年年齢を63歳から65歳に引き上げると同時に、継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げた。さらに70歳以降も、運用により1年ごとに更新し、年齢の上限なく再雇用している。  これらの変更は、従業員の幸せと会社としての人材確保、技術・知識の伝承を目的として、経営トップの発案で、従業員との話合いにより決定した。もちろん従業員も、「仕事があると生活が安定するし、張合いが持ててうれしい」という反応だった。 ▼再雇用後の賃金制度  定年を迎えて再雇用になっても、賃金の決め方や水準は基本的に変わらない。「仕事量を減らすならともかく、基本的に同じ仕事をしてもらうのがその理由」(石田主任)というシンプルな考え方だ。そのため、仕事へのモチベーションも維持しやすい。 ▼短時間勤務制度の導入  定年の引上げなどとあわせて、本人の希望に応じて1〜3時間の勤務時間短縮措置を講じる短時間勤務制度を導入した。実際には、みな、通常の従業員と同じようにフルタイムで働いているが、この制度があることで、「今後、もし事情が生じても働き続けられる」という安心感が生まれている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼研修会・講習会の実施  本人の希望がないかぎり、基本的に定年後も同じ職種を継続するので、やり慣れた仕事を続けることができるが、その場合も、新しい技術を吸収し、アップデートしていく必要がある。そのため、定期的に研修会や講習会を開催している。高齢従業員が新しいことを学ぶのに後ろ向きになるようなことはなく、若手と一緒に学び、新しい機械が入れば見て触って使い方を覚える。同社には学習する文化が根づいている。 ▼若手従業員への技術伝承  ベテランの技術や知識を若手に伝承するため、現場では、工事着手から完成までのすべての期間において、高齢従業員と若手従業員がペアを組みOJTを行っている。ペアを固定せず、その都度組合せを変えて、いろいろな人から学べるようにしている。この仕組みは、若手の技術力向上に寄与するだけでなく、教えるベテランの側にとっても張合いが持てるという。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼職場環境の整備  建設現場は身体的負担の多い職場であるため、新しい機械も積極的に導入し、年齢にかかわらず働きやすい職場環境を整備している。例えば、体力的に負担の大きい草刈り業務では、リモコンで操作できる大型草刈機を導入。足場の悪い場所や広範囲で草刈りを行う負担を軽減するとともに、作業効率や安全性を大幅に向上させた。 ▼健康管理  健康管理の面でも、高齢従業員だけのために特別なことをするのではなく、全従業員が健康に働ける状態を目ざしている。定期健康診断をしっかりと実施するほか、インフルエンザ予防接種も全従業員に全額会社負担で行っている。 (4)高齢従業員の声  こうした取組みをしてきたことで、現場監督、作業員、運転手など、職種にかかわらず、65歳を過ぎても多くの人が勤務を継続している。  運輸部の古永(ふるなが)典夫(のりお)さんは、現在73歳。地元で生まれ育ち、さまざまな職場で働いてきたというが、ほかの土木会社に勤めていたときに同級生に誘われ、1972(昭和47)年、24歳のときに同社に入社した。来年で勤続50年になる大ベテランだ。初めの二十数年は長距離輸送を担当し、その後は10tのダンプ車に乗務し、アスファルト合材や土砂などの運搬を行っている。古永さんが現場に届けた合材により、多くの道路が整備されてきた。  一つの会社で50年も勤め続けるというのはたいへんなことだが、古永さんは、「辞めたいと思ったことはないですね」という。当時の定年制によって63歳のときに定年となり、継続雇用されて10年になるが、いまも通常の従業員と同じ1日8時間のフルタイム勤務を続けている。  働く意欲を持ち続けることができた理由の一つは、「運転するのが好きだから」。そして、もう一つが「この会社が好きだから」。「私がここまで働き続けられたのは、会長の人柄と会社のおかげです。若いときは会社に迷惑をかけたこともありましたが、いろいろと助けてくれました。だから、会社のためにがんばろうと思いました。会社に感謝です」と古永さんは語る。  元気の秘訣は、好き嫌いなく何でも食べること。長距離輸送をしていたときは手積み・手降ろしの作業もあったが、現在担当しているダンプ車の場合はレバー一つで行う操作なので、体力面での問題もない。ダンプ車には一人で乗るが、仲間とともに数台で現場に向かうことも多く、そんなときは無線で連絡を取り合いながら現場に行くそうで、従業員同士の仲もよい。  新しく入ってきた人にはていねいにやり方を教えるが、「みんな、覚えが早いです。2〜3回連れて行けば、あとは自分で動いてくれます」という。古永さんは、普段から若手に「わからないことがあったら何でも聞いてください。聞くことは恥ずかしいことではないから」と伝えている。古永さんの温かな雰囲気もあり、新人が相談できずに困ることはないそうだ。「若い人と意見の違うところもあるけれど、そこは若い人に合わせないといけない面もある。注意しなければならないときはいいますが、なるべく本人のやりたいようにやってもらうほうがよいです」という考え方で見守っている。  今後については、「会社においてもらっている間は、いままで通り事故のないようにと心がけています」ということで、毎朝、今日もがんばるぞと気を引き締めて仕事に向かうそうだ。 (5)今後の課題  同社では、今後も長く働き続けられる制度・環境の整備を行っていく。将来的には、定年の廃止も視野に入れている。実際に74歳で元気に働いている従業員もいて、年齢にこだわる必要はないという考えだ。一方で、山社長は、「若い世代にも給与を反映させないといけませんので、そのバランスはこれからの課題です」と指摘する。同じ出勤日数・労働時間で給料が下がるとモチベーションに悪影響があるので、そうではなく、出勤日数を減らしてその分処遇を見直すという形はあり得るという。いずれにしても、貴重な人材に長く元気に働いてもらう方向で検討していく考えだ。  いまも取り組んでいる従業員と社長とのコミュニケーションは、今後も重視していく。「3年前に私が社長になってから、雇用継続をする際に全員にヒアリングを行っています。厳しいことをいうわけではなく、気軽に話をして、意欲があれば引き続き働いてもらいます。みんなにいっているのは、『体を壊して引退するのではなく、その後の余生も元気よく過ごしてほしい』ということです」と山社長は話す。  また、同社は、他社を定年退職した高齢者も積極的に採用するが、その面接でも、山社長が本人とよく話をし、どうすればその人が活躍できるかを考えることを大切にしている。「その人のよいところが必ずあります。例えば、営業職をしていた人が作業者を希望してきた場合、ただスコップを持って作業をしてもらうのでは、その人も面白くないだろうし、当社も面白くない。その人がやってきたことが活かせるポイントを探ります」という。  建設業界では寡黙な人が多いというが、「どうすれば話をしてくれるかと、いろいろな手を使いながら従業員と向き合っています。相思相愛になれば、仕事もうまくいきます」という山社長。経営トップが一人ひとりと信頼関係を築くために努力を惜しまないことが、同社の高齢者雇用がうまくいっている最大の理由といえるだろう。 写真のキャプション 会社外観 高齢従業員の作業負担軽減のため導入しているリモコン式大型草刈機 来年勤続50年を迎える73歳の古永典夫さん(右)と山正樹代表取締役社長(左) 【P24-27】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 多様な人材を積極的に雇用しだれもが活躍できる職場風土を構築 株式会社 グローバル・クリーン(宮崎県日向市) 企業プロフィール 株式会社 グローバル・クリーン (宮崎県日向市) 創業 2000(平成12)年 業種 ビルメンテナンス業(その他の事業サービス業) 社員数 80人 (内訳) 60〜64歳 2人 (2.5%) 65〜69歳 5人 (6.3%) 70歳以上 14人(17.5%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。その後は就業規則等により年齢の上限なく希望者全員を継続雇用。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイントT  株式会社グローバル・クリーンは2000(平成12)年に個人事業として創業し、2008年に法人化された。社名に「グローバル」という名を冠したのは、地元のお客さまに世界レベルの品質を届けたいという創業者の強い思いの表れだ。「人に優しく、地球に優しく。すべては『きれい』のために」を理念に掲げ、ビルメンテナンスから清掃管理、不動産部門の開拓と着実に業容を拡大している。  創業時、メンテナンス業務のお得意さまがわずか3件という厳しい船出を支えたのは、65歳以上の高齢パート社員6人、シングルマザーのパート社員1人、障害がありながら働く2人のメンバーたちだったという。2016年に経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれたが、ダイバーシティは同社の原点であり、だれもが活躍できる職場づくりを通じて、さらなる地域貢献を目ざしている。 POINT 1 定年を70歳に引き上げ、本人の希望があれば年齢の上限なく継続雇用を可能にした。また、同一労働同一賃金の考え方を取り入れ、賃金格差はない。 2 パート社員・アルバイト同士で有給休暇の取得計画を立てることを促進し、有給休暇の取得率向上を目ざしている。 3 高齢者、女性、障害者などの多様な人材を活用するために、個別研修プログラムを策定した。 4 パート社員・アルバイトのキャリアパスプランを作成して能力評価を行うことで、評価基準が明確になり、一人ひとりの活躍の場が広がった。 5 社員全員が経営指針発表会に出席し、経営方針の情報共有と意識改革を推進している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は、2000年に税田(さいた)和久(かずひさ)現社長が創業、非正規社員9人という陣容でスタートした。もともとは税田社長の父がビルメンテナンス会社を経営しており、諸事情により会社をたたむことになったことから、そこで働いていた人たちに支えられる形での出発となった。創業して2年ほど経ったころ、税田社長はアメリカとカナダへ飛び、環境配慮型のウルトラフロアケアシステムを学んだ。安心・安全で高い洗浄力を持つウルトラフロアケアシステムとの出会いは、同社のエポックとなった。ウルトラフロアケアシステムを取り入れ事業を強化することで、2008年に念願の法人化を実現。現在は独自のサービスである「クリーンコンサルR」(プロフェッショナルの清掃ノウハウや衛生管理向上支援のコンサルテーションの商標登録)を日本全国へ発信している。  創業から20年が経過し、ビルメンテナンスから始まった同社の事業は、清掃管理や不動産部門にも拡大している。  苦しい時代をともに戦い抜いてくれた社員を幸せにしたいという創業者の思いから、高齢社員や女性、障害のある人なども含めたすべての社員が活き活き働ける職場環境づくりを進めている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  業界の慢性的な人材不足の状況に対処するため、きめ細やかな研修と個々の事情に応じた働き方を可能にする環境整備を進めるなかで、2020年までに多様な人材確保を進めることにより、高齢者雇用を進めつつ、65歳以上の社員の割合を10%まで下げるという目標を立て高齢者対策を推進。現在は24%に到達している。冒頭でも紹介したように、創業当時を支えてくれたのは高齢者、シングルマザー、障害のある社員たちであったことから、法人化して業容が拡大していく過程でも、さまざまな事情により「働きづらい人たち」を積極的に雇用し、多様な人材一人ひとりが業務に対応できる個別研修プログラムを用いて人材育成を図ってきた。現在、6人の障害者が元気に働いており、そのなかの一人は入社8年目を迎え、正社員として清掃現場で働きながらシフト管理もこなしている。今後は、引きこもりで働いていない若者たちにも就労の道を拓ひらきたいと考えている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制  2011年、個人事業主時代から支えてくれたパート社員が65歳を迎えることになり、定年制の見直しを行った。当時は、定年60歳、継続雇用の上限年齢を65歳としていたが、業務にはベテランの能力・知識が必要不可欠であることから、定年年齢の引上げに着手。定年を70歳まで延長し、定年後は本人の希望があれば年齢の上限なく継続雇用するとした。 ▼キャリアパスプランの作成  同一労働同一賃金の考え方を取り入れ、パート社員・アルバイトの戦力化に注力した。年齢や勤続年数よりも具体的に何ができるかを考慮した賃金テーブルを作成し、高齢でも戦力になる仕事をすれば賃金が上がるキャリアパスプランを作成した。年齢に関係なく新人教育やシフト管理などの業務を行うことで賃金が決まるので、高齢社員のモチベーションが大きく向上した。 ▼個別研修プログラムの策定  高齢者、女性、障害者など多様な人材を積極的に活用するなかで、働きづらさを感じさせない職場づくりのために、それぞれが業務に対応できるようにするための個別研修プログラムを策定した。これにより、業務の幅が広がり、働きやすさにつながることで定着率も向上した。 ▼年次有給休暇の取得計画推進  年次有給休暇の取得率向上のため、各現場リーダーに有給休暇取得計画を立てさせることとし、パート社員・アルバイトと話し合いながら調整を行っている。現場のパートリーダーに年次有給休暇の承認権限を委譲したことで、現場に合った無理のない有給休暇取得計画を立てることが可能になり、有休取得率の向上につながった(高齢社員を含むパート・アルバイトの有休取得率は、2010年の0%から2020年には27.6%へアップした)。 ▼経営指針発表会に全社員が出席  同社では経営理念や経営方針、経営計画を盛り込んだ経営指針書を毎年作成、社員全員が経営指針発表会に出席。他部署の社員同士が顔を合わせて情報交換などを行うことで、社内全体の風通しもよくなっている。また、発表会後の懇親会はコミュニケーションを図る格好の場となっている。 ▼職務能力を体系化  社員のキャリア形成をうながすために、各職務に必要な職務能力要件を作成し、社員の職務能力を体系化した。創業間もないころは個人のスキルに頼る面が多く、現場の一部のパート社員に打合せやシフト管理を任せていたが、そのことについての評価基準がなく賃金にも反映されないという問題があった。そこで職務能力要件を体系化し、業務内容と評価基準を明確にして能力評価を行うこととした。現場でキャリアを積んだ高齢パート社員が人材育成に積極的にあたるような相乗効果も生まれた。  職務能力要件が明確になったことで、現在の自分の立ち位置と、「何ができるようになれば評価されるのか」が明確になった。同時に足りない部分も鮮明になったことから、それを補うための教育訓練計画を体系的に身につけてもらうことが可能になった。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止したが、高齢社員は年に数回のキャプテンミーティングを行い、違う現場同士のコミュニケーションを通じて事例を学び合い、育成や緊急対応といった共通の悩みについて互いの職場で活かせる情報交換を行っている。 (2)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境の改善 @ジョブローテーション制の導入  作業現場で急な欠員が出ると安定したサービス供給ができないことから、代理で入れる要員を一つの業務に最低でも2人を確保するジョブローテーション制を導入した。 A作業負荷の軽減  高齢社員や女性でも負担がかからないよう作業性と安全性を重視してオペレーションを見直し、できるかぎり立位の姿勢のまま作業できる道具を積極的に導入している。また、当初は男性と女性の職域を分けていたが、女性にも大型機材の操作研修を実施するなどして、男女間の職域の差をなくした。 ▼安全衛生  毎月定例の安全衛生会議や研修、毎週月曜日の幹部会議では、営業項目だけではなく、社員個別の体調や健康状態を把握している。仕事時の負傷などの対策として、通常の健康保険に加え、社員が少額を負担するハイパー任意保険にも加入している。仕事時以外でも病気入院や治療費の補助など手厚い制度は社員から歓迎されている。 ▼心身の健康管理  就業形態にかかわらず、パート社員も含めて毎年1回以上の健康診断を実施している。また、産業医によるストレスチェックを毎年1回行い、高度のストレスが見られる社員には個人面談を実施している。さらに、毎月1〜3人の社員について産業医による面談を随時行うといった、高ストレス者が増えることを未然に防ぐための取組みを進めている。 ▼福利厚生  毎年のレクリエーションとして、ワクワク旅行や歩こう会、玉入れ、なわとび、ミニバレー、バドミントンなどを開催している。これらを通じて社員の交流が深まるとともに、一人ひとりの心身のリフレッシュにも役立っている。 (3)高齢社員の声  久米田(くめた)博(ひろし)さん(67歳)は、12年前から短時間アルバイトとして勤務していたが、昨年7月からは契約社員としてフルタイムで働いている。午前中は食品工場、夜はスーパーでフロアの清掃を行っている。実直≠ニいう言葉が似合う久米田さんは「求人案内を見て応募し、12年前から働かせてもらっていますが、昨年、契約社員になったら社会保険が整備されていてとても嬉しかったです。70歳を超えて働いている方が14人もいることを励みにして、体力と気力が続くかぎり働かせてもらいたいです。長く勤めるコツはくよくよしないことでしょうか」と話す。  原田美紀さん(62歳)はパート社員として8年目を迎えた。ディスカウントスーパーの日常清掃を4人体制で受け持っている。「ここで働かせてもらって8年になりますが、毎日楽しくてやりがいがあります。パート社員なのでシフトで働いていますが、自分の時間を持つこともできますし、何よりも仲間とワイワイやりながら日々過ごせることに感謝しています。お客さまから『ここのトイレはいつもきれいで気持ちがよいです。ありがとう』と声をかけていただくこともあり、それが明日もまたがんばろうと思える原動力になっています」と話す。明るくて笑顔の絶えない原田さんは、現場のリーダーを務めており、チームのメンバーと活き活き働く様子が目に浮かぶ。 (4)今後の課題  業界では一部ロボット化が進んでいる作業もあるが、高齢社員の負担軽減のためにも、テクノロジーや最新機材などを積極的に取り入れていくことを視野に置いている。高齢化や障害など、人生においてだれにでも起こり得ることに協力できる会社でありたいという思いは、創業以来変わることはない。同社には「どんな人でも輝けるお掃除学校構想、ウルトラクリーンアカデミー」の設立という大きな夢がある。就労訓練施設というよりは、地域の人が気軽に立ち寄れるコミュニティ空間を目ざしているそうだ。この壮大なビジョンの実現に向かって、全社一丸となった挑戦が続く。 写真のキャプション 会社外観 税田和久社長 久米田博さん(左)と原田美紀さん(右) 【P28-31】 令和3年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 『従業員は家族』の方針のもとで、制度や環境を整備技能伝承や健康増進策も工夫 株式会社 仲本工業(沖縄県沖縄市) 企業プロフィール 株式会社 仲本工業 (沖縄県沖縄市) 創業 1966(昭和41)年 業種 総合工事業 従業員数 175人 (内訳) 60〜64歳 12人 (6.9%) 65〜69歳 8人 (4.6%) 70歳以上 1人 (0.6%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後は、運用により一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は72歳 T 本事例のポイント  株式会社仲本工業は1966(昭和41)年、沖縄県沖縄市に創業。建築・土木・鋼構造物を三本柱とする総合建設会社として人々の暮らしを支えてきた。同社の強みは、創業時からの鉄構部門の土台があること。建築工事、土木工事、鉄骨工事を一つの建設会社で取り扱っているのは県内でも珍しいという。県内全域で多くの工事実績があり、その技術力は高く評価されている。同社は2021(令和3)年に創業55周年を迎えた。  同社は、創業時から従業員を家族ととらえ、大事にしてきた。人材育成や女性の活躍推進にも積極的で、国や県などからさまざまな表彰・認証を受けている。高齢従業員の活用についても制度化する以前から取り組んでおり、活き活きと働ける環境を整えてきた。 POINT 1 創業以来、従業員を大切にする方針のもと、人材育成、ワーク・ライフ・バランス、女性の活躍などを推進しており、高齢者雇用についても、制度を整備する以前から、あたり前のこととして取り組んできた。 2 2019年8月より、定年後の継続雇用年齢上限を65歳から希望者全員70歳までに引き上げた。70歳以降も、一定条件のもとで年齢の上限なく継続雇用する。 3 ベテランと若手が組む「ペア就労」により技能を伝承。最近は、ミドル層を加えた3人組とすることで、育て合いとコミュニケーションの効果を高めている。 4 全社をあげて「7000歩運動」を行うなど、健康増進にも熱心に取り組んでいる。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社仲本工業は1966年に創業。小さな鉄工所から始まり、建築・土木・鋼構造物を三本柱とする総合建設業へと成長してきた。鉄構部門を強みに自社工場で鉄骨製作全般を担当し、大きな建造物や道路・橋の骨組み部分の工事も対応可能である。  工場設備や機械、作業内容などの改善により、高齢者も無理なく働き続けることができる職場を築いてきた。  創業時の経営理念(誠意・迅速・確実)を継承し、「技術力bP、顧客満足度bP、経営体質bP」を目標に掲げ、地域社会・地域経済の発展に貢献することを目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数はグループ連結で228人。若者に敬遠されがちな業種だが、同社では、毎年10人前後の新入社員が入社し、定着率も高い。平均年齢は約40歳である。  単体従業員175人について高齢化の状況を見ると、60〜64歳は12人、65〜69歳は8人、70歳以上は1人。最高年齢者は現在72歳である。定年は60歳で、定年以降は契約社員として再雇用される。  建設業の従来のイメージである「3K(きつい・汚い・危険)」では、少子高齢化が進むなかで学生の確保が厳しい状況にあったため、「新3K(給料が高い・休日が多い・希望がある)」の実現を進めていく必要があった。そこで、福利厚生の充実、生産性を向上させるための機能拡充を行い、業務の効率化・環境整備などを行った。また、人材の育成を重視しており、沖縄県の「人材育成認証制度」の認証を得ているほか、仕事だけでなく私生活においても充実した毎日を送ることができるよう、就業環境の整備に努め、沖縄県「ワーク・ライフ・バランス企業」にも認証されている。女性の活躍推進にも積極的で、女性活躍推進企業認定「えるぼし認定」も取得ずみである。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年後再雇用期間の改正  制度上、継続雇用は65歳を上限としていたが、助成金も活用し、従業員が安心して働くことができる職場環境づくりを整備するために、2019年8月より希望者全員を70歳まで継続雇用することを就業規則に明記した。「これまでも慣例的に65歳以上の継続雇用を行ってきたので、高齢従業員は、特に変化を感じていないかもしれません」と総務経理部の知花(ちはな)尚子(なおこ)課長代理は話す。もちろん、制度化することで、どの従業員にもルールが明確となり、安心感がより高まったはずだ。  継続雇用の延長により安定した収入を得られる期間が長くなり、安心して生活ができる。「元気なうちは働きたい」という意欲を大事にすることで本人のモチベーションアップにもつながっている。総務経理部の金城(きんじょう)明美総務課長は「若手従業員に技術を伝えていくためにも、高齢従業員のみなさんに元気に安心して働いてもらえることが大切です」と、期待を語る。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼若手従業員への技能継承  自社の鉄骨製作工場では、ベテラン従業員と若手従業員の「ペア就労」により、若手従業員のレベルアップと技術・技能継承を企図したOJT実習を実施した。師弟関係のようにペアを組み、同じ業務にたずさわることで教える側・教わる側の意識を高めた。  ペア就労は、教える側にも、「若手従業員とコミュニケーションが取れ、親密になれる」、「指導する楽しさ、若手従業員が成長する喜びを感じ、モチベーションが向上する」、「技術を引き継ぐ認識が芽生え、新たなミッションに意欲的になる」、「自らも新しい技能や技術へ挑戦しようという気概が生まれる」など、さまざまなプラスの効果がある。事業所の雰囲気も明るくなり、ペア就労を実施していない従業員間でも技能や技術を伝える行動が見られるようになった。  最近はこのペア就労を進化させて、中堅従業員を加えた3人組のグループ編成とし、育て合いと相互コミュニケーションの効果を高めている。「中堅従業員が入ることで、より円滑なコミュニケーションが図れるようになりました。ペア就労以外にも、各部門が定期的に先輩従業員による経験談の講話や技能の勉強会を行っています」と知花課長代理は話す。 ▼配置転換希望者の相談窓口の設置  配置転換を希望する高齢従業員のために、総務経理部に相談窓口を設置した。体力仕事が多いので、なかには負担の少ない作業内容への転換を希望する従業員がいるためだ。そのような場合、機械化されているラインへの配置転換や、高所作業から危険度の低い業務への変更などを検討する。年齢を重ねて体力面やメンタル面など不安が生じた際も「いつでも相談に来てください」という会社の姿勢を示すことで、安心感を与える効果は大きい。 ▼生産性向上支援訓練  ベテラン従業員を対象に当機構の「生産性向上支援訓練」を実施している。現場の問題解決や管理者の役割、若い世代との円滑なコミュニケーションについて学び、生産性の向上を図ることを目的としたものだ。効率的な働き方を学ぶだけではなく、コミュニケーションを円滑に図ることで、若年従業員を指導する楽しさ、若年従業員が成長することへの喜びを感じることができ、総じてモチベーションの向上にもつながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼週単位での作業計画表作成、作業負担軽減  週単位で作業計画表を作成して管理者が個々の業務を把握し、必要に応じて調整している。高齢従業員については、加齢にともなう体力の低下を考慮し、安全かつ身体的負担の少ない作業とすることもある。また、毎朝の朝礼時には、管理者が個々の表情や顔色、検温によって健康状態をチェックし、無理のない業務ができるようにしている。  また毎週水曜日のノー残業デーの実施などにより、ワーク・ライフ・バランスの向上も図っている。特に高齢従業員は定時内での就業ができるように業務量を調整し、余暇も楽しみながら仕事が行えるように配慮している。 ▼機械等の導入、工場の建替え、安全確保措置  自社鉄骨製作工場内へ溶接ロボットシステム・梁はりロボ(鉄筋CADシステム)を導入し、手作業による溶接作業の軽減や、夏場に作業をする従業員のために空調ファンつき作業服を配布するなど、働きやすい環境を整備してきた。工場の建替えも行っている。また、工場内の安全通路の確保や注意喚起の表示をするなど、事故防止にも努めている。 ▼独自の「傷病休暇」を導入  同社は特別休暇が充実しており、その一つに「傷病休暇」がある。通常の年次有給休暇とは別に、体調不良や病院への通院の際などに30分単位で取得できる。 ▼「7000歩運動」の実施  健康増進をうながす取組みとして、役員と従業員全員に万歩計を配付し、1日平均7000歩を目標に掲げてウォーキングを奨励している。毎日の歩数を記録してもらい、その結果を基に2カ月に一度、月例全体会議で表彰している。前回より大幅に歩数が伸びた従業員、ランダムに選んだ順位の従業員にも粗品を進呈し、楽しんで取り組めるよう工夫をしている。高齢従業員でもランクインする人がいるそうだ。結果は社内掲示とメール送信によって公表しており、従業員の健康意識を高めるだけでなく、コミュニケーションの機会にもなっている。  従業員の健康には特に気を配っており、年に1回の定期健康診断はもちろん、インフルエンザ予防接種も実施している。総務課が病院への予約を行うことで、2020年度は98%の従業員が接種した。金城総務課長は、「毎年しっかり予防接種を行っていることで、インフルエンザにかかる従業員はほとんどいません。また、健康施設とも提携していますので健康づくりはこれからも推進していきたいと思います」という。 (4)高齢従業員の声  鉄構部積算課で働く大城盛一さん(68歳)は、1969年に産業別学校を卒業し、大阪の工業所で4年間勤務した後、地元・沖縄に戻り、同社に入社した。以来、勤続48年。厳しい時代もあったが、まじめに勤め続け、会社の成長を支えてきた。現在は鉄骨工事の積算業務を担当している。「さまざまな業務にたずさわってきたので、これまでの経験が活かされるところにやりがいを感じます。」と胸を張る。  「自分のいままでの経験を後輩たちに教えていきたいです。鉄骨工事もそうですが、橋梁(きょうりょう)工事にも長くたずさわってきたので、そのノウハウもどんどん教えていこうと思っています」という大城さんは、ふだんから後輩たちにていねいに教えることを心がけている。穏やかな物腰と笑顔で接してもらえるので、若手従業員も質問がしやすい。若い世代とも、同世代や先輩とも、年齢にかかわらずよく話をするそうだ。 (5)今後の展望  人材確保・育成が課題となっているなか、高齢従業員の優れた技術や豊かな経験を活かし、それらを若手・中堅従業員に伝承することにより、次世代の人材育成と企業の発展を目ざす。また、今後も、すべての従業員が笑顔で働くことができる、働きやすい、働きがいのある環境づくりを進めていくという。従業員を大切にし、人材育成にも、ワーク・ライフ・バランスにも、そして高齢者雇用にも積極的に取り組んでいる同社の方針は、これからも変わらない。 写真のキャプション 会社全景 鉄骨製作を行っている自社工場 大城盛一さん 【P32-36】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 最終回 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(はなつむぎ) (三重県津市) 「生涯現役」を目標に、処遇改善と環境整備を推進! ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります ※ Quality Controlの略。企業のサービスや製品の品質向上に関する取組みのこと おわり 【P37】 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(三重県津市) 創業2000(平成12)年 高齢者福祉事業  社会福祉法人いろどり福祉会では、定年66歳、希望者全員70歳まで、70歳以降は条件つきで年齢上限のない継続雇用制度を導入しています。定年後を含む職員全体の処遇改善に努めているほか、質の高い介護と生産性の向上を実現するため、製造業における品質管理の考え方を取り入れ、高齢職員を含む「全社的な品質管理活動」を進めているのも特徴です。これらの取組みが評価され、令和元年度高年齢者雇用開発コンテスト※で、厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞しました。 内田教授に聞く 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬の ココがポイント! 最新機器の導入で負担を軽減するとともに、高齢者だからできるていねいな仕事で職場に貢献  今年の「敬老の日」に総務省統計局が発表したわが国の65歳以上の高齢者の最新状況によれば、高齢者人口は3640万人と過去最多、総人口に占める割合は29.1%と過去最高、高齢者人口の割合は世界最高です。高齢者福祉の充実がますます求められています。そして、高齢者福祉のにない手として適役なのが高齢者です。福祉サービス利用者となる高齢者と働く高齢者は同じ時代に生きた共通意識があり、また、高齢者は長年の人生経験の深さから利用者の相談に親身になれるからです。同様の事例はファミリーレストランです。最近は高齢の顧客が多くなり、接客側にも高齢者を配置することで顧客からの評判が高まっています。現在の主要顧客が高齢者である場合、または、これから高齢者を対象にビジネスを展開する場合、経験豊かな高齢者の起用をおおいに考えるべきでしょう。  いろどり福祉会では、@定年延長と希望者全員70歳までの継続雇用により安心して働ける職場を実現し、A360度評価による処遇制度で定年後の昇給を可能にして高齢者の意欲を高め、B高齢者の研修講師への起用やQCサークル活動参加を通して若年者に高齢者の経験を伝えるなど、ユニークな取組みが見られます。  いろどり福祉会の取組みのなかで特に注目したいのは機械化です。機械化によって無理な姿勢での作業や力仕事から解放された高齢者は集中力が持続し、余裕を持って仕事ができるようになります。マンガのなかで消毒作業が紹介されています。いまでは新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため手の抜けない仕事ですが、細かいところまでの消毒は機械にはできません。注意が行き届き、ていねいな仕事をする高齢者だからこそできる仕事の一例です。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 【P38-39】 江戸から東京へ [第108回] 異常時には年齢を忘れる 勝と大久保 作家 童門冬二 異常時は年齢を忘れさせる  人が異常な事態に遭遇すると、とんでもない大役に就かされることがある。慶応四(一八六八)年四月の、勝海舟と大久保一翁(いちおう)(忠寛(ただひろ))がそうだ。幕府が消滅する前の二人は、海軍奉行や勘定奉行でまだ老中(ろうじゅう)※などの上役がいた。しかしこのとき大久保は会計総裁、勝は陸軍総裁のポスト(幕府は消滅しているから、最後の将軍徳川慶喜(よしのぶ)の私的家臣として)に任ぜられた。二人とも気骨に満ちた骨太人間だから引き受けた。何をするかといえば、江戸城の無血引き渡しである。二人は「これだけは守る」という絶対条件の死守で合意していた。その条件とは、 一.旧主徳川慶喜の安全と生家水戸徳川家へのお預け 二.旧幕臣全員の安全と就業の自由 三.江戸市民の安全と生活の自由  などの保証である。いままでの行動を理由に「報復的刑罰は絶対に行わない」ということを前提にしていた。  本来なら「老中」の仕事で、それに見合う年齢に達し、それが行える十二分な経験を必要とする。このときの大久保は五十一歳、勝は四十五歳だ。しかし二人とも年齢なんか気にしない。現在の人気タレントの名セリフのようなやっちゃえ$ク神に溢れていた。  だから、  「もしも新政府軍がこれらの条件を守らなかったら?」という最悪の場合の対応策も考えていた。 二人の分担努力  大久保は、  「江戸城を焼く」  といい、  「しかしこういう文書は残しておく」  と部下に徳川政治の民政と農政に関する記録を整理させた。これらは開城のときに民政は江藤新平(佐賀藩)、農政は西郷隆盛(薩摩藩)がすすんで引き取っていく。  勝は、  「オレは江戸の町を焼く」  といって毎日その準備をした。話を持ちかけたのは慶喜が可愛がっていた浅草寺の新門の番人辰五郎とその子分、これには、  「オレもやりてえ」  といって駿河の清水(静岡県)から、次郎長一家が上京してきた。ほかには町のヤクザや火消しも動員した。火消しは、  「火を消すあっしたち(われわれ)が、火をつけるンですかい?」  と苦笑した。  第二次大戦ならヒットラーが、  「パリは燃えているか?」  と部下司令官に訊いたように、東征軍総指揮官が参謀総長の西郷隆盛に、  「江戸は燃えているか?」  と訊くところだ。  が、江戸は燃えなかった。勝と西郷の会談(根回しは幕臣山岡鉄太郎が行った)によって、大久保と勝の提示した条件が守られたからだ。  西郷は二人の人命尊重の精神と、その実現に打ち込む死に物狂いの誠意に胸をうたれた。江戸百万人の市民はこうして救われた。実をいえば、勝は隅田川畔を中心に、  「江戸市民を無事に房総(千葉県)へ避難させてくれ」  と、おびただしい船を船頭に渡りをつけていた。  「江戸の町はどうするンです?」 と船頭が訊く。勝は、  「焼く。薩摩のイモ(薩摩軍)の焼きイモをつくる」  と答えた。船頭たちは大笑いした。こういう危機状況で、関係者にモラール(やる気)を失わせないのは、やはりユーモアだ。苦労人の勝にはそれがあった。  大久保は勝の上司である。阿部(あべ)正弘(まさひろ)という開明的な老中首座が、ペリー来日の時に海防掛(かいぼうがかり)(後の外務省)をつくった。身分にかまわず人材を集めた。大久保は集められた一人だった。阿部は集めた人材に、  「今度はおまえたちが人材を探してこい」  と命じた。大久保は探し回った。赤坂(東京都港区)でオランダ学の塾を開いている無役の旗本がいた。名は勝(かつ)麟太郎(りんたろう)。若いのに海舟と号していた。  「日本の海軍は各藩(大名家)がバラバラに持っています。ひとつにまとめなければ日本の国は守れません」  という。大久保は感心した。  家を見回すと、天井がない。畳も生活する場だけ。そういえば門もなかった。  「門や天井は?」  と訊くと、  「燃やしました」  と答えが返ってきた。  「燃やした?」  ビックリして訊き返すと、  「はい。貧しいものですから、冬の燃料にしました」  大久保は高く笑い出した。大久保はこういう人間が大好きだ。どんな窮境にいても決して落ち込まない。平然としている。  (よし、こいつを阿部様に推薦しよう)  大久保はそうする。勝海舟の立身は大久保のおかげだ。二人の共通点は、  「危機に面したときは年齢(とし)を忘れる」ということだ。 【P40-43】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第113回 山梨県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 65歳以上7割超、後期高齢者が活躍 警備業界の処遇改善策にも取り組む 企業プロフィール 山梨ジャパン・パトロール警備株式会社(山梨県甲府市) ▲創業 2005(平成17)年 ▲業種 警備事業 ▲社員数 113人(うちアルバイト7人) (60歳以上男女内訳) 男性(82人)、女性(3人) (年齢内訳) 60〜64歳 10人 (8.8%) 65〜69歳 16人(14.2%) 70歳以上 59人(52.2%) ▲定年・継続雇用制度 定年70歳。希望者全員を75歳まで再雇用。平均年齢65歳、最高年齢者は84歳が2人。  山梨県は富士山や南アルプス、八ヶ岳連峰、秩父山系など標高2000〜3000m級の山々に囲まれ、8割を山岳地が占める内陸県です。  機械・電子を中心としたものづくり産業や、水晶の採掘地であったことから宝石加工産業も盛んです。ぶどうや桃などの農産物やワインなどの県産品は「やまなしブランド」として、国内外で親しまれています。  当機構の山梨支部高齢・障害者業務課の中橋勇史課長は支部の取組みについて、「年齢にかかわりなく意欲や能力に応じて働くことのできる職場づくりを支援し、定年延長や継続雇用などの制度改善提案を行うとともに、事業所の実情や要望に応じた適切な支援を心がけています。  アドバイザーなどの連絡調整会議では、本部ゼネラルアドバイザーや他支部プランナーらを講師に招き、相談・助言のレベルアップを図っています。事業所からの問合せは、働き方改革関連法に関することや、2021(令和3)年4月施行の改正高年齢者雇用安定法に関するものが多くなっています」と説明します。  当課に所属するプランナーの一人、雨宮(あめみや)隆浩(たかひろ)さんは、特定社会保険労務士、特定行政書士としての経験と知見を活かし、人事労務管理や賃金・退職金管理といった得意分野でていねいかつ適切な助言を行っています。「健康・安全衛生管理に関する提案をすると、高齢者雇用に役立ったと喜ばれることが多いです。職場における高齢社員の加齢による変化は、高齢者本人が気づいていることが少なく、会社も厳しい目で見るようになることがあります。本人の意識啓発を含め、会社全体で高齢社員に対する対応の仕方を見直すことにより、職場での思いやりが生まれ、生産性が上がるといえると思います」と雨宮プランナーは指摘します。  今回は、雨宮プランナーの案内で「山梨ジャパン・パトロール警備株式会社」を訪れました。 交通警備に突出した実績を誇る警備会社  山梨ジャパン・パトロール警備株式会社は、2005(平成17)年11月に設立された警備会社です。山梨県内では交通警備に突出した実績を持ち、リニア中央新幹線のトンネル掘削現場、中部横断自動車道の建設現場の交通警備で車両誘導・歩行者誘導をにないました。県内で開催される花火大会、マラソン大会といった各種イベントでは会場、駐車場において誘導を行い、事故防止に努めています。  昨今の新型コロナウイルス感染症の流行で、イベントが軒並み中止となり受注がなくなったことから、売上げにも影響が出ましたが、行政が進めている土木設計業務の納期を分散させて平準化を図る分散発注に関連して、例年のイベントの時期に土木建築の警備に特化したことで、2020年度は1月から売上げが回復し、2021年7月は過去最高売上げを記録しました。  同社では、新入社員が70代ということが珍しくなく、70代以上が過半数を占め、会社の屋台骨として活躍しています。同社の古屋(ふるや)雄司(ゆうじ)代表取締役社長は、所属する警備員について次のように話します。  「全国展開の大手警備会社を除けば、警備という仕事は短期的な働き方が一般的ですが、当社は10年以上勤務するベテランが3割を超え、体力の続くかぎり働き続けてくれるようなまじめで、コツコツ働く人が多いです。誠実な対応は取引先からも評価をいただいています。70歳超えのベテラン警備員の誘導で、予想では2時間の渋滞が30分で済んだと、喜ばれたことがありました。リニア中央新幹線のような長いトンネル現場の警備は、経験に裏打ちされた無駄のない誘導がものをいいます。  現在の最高年齢者は84歳で、2人が在職しています。昨年、90歳まで働くことを目標にしていた警備員が、物忘れが多くなって、残念ながらあと2カ月というところで退職に至りました。警備業では高齢者が多いため、退職する原因は認知症の症状が多いです」 定年70歳、希望者全員を75歳まで再雇用  2017年に定年年齢を70歳に引き上げ、希望者全員を75歳まで再雇用する制度に見直しました。75歳からは1年契約の準社員に移行します。  働き方は日勤と夜勤から選べ、勤務時間、日数など、身体の調子や、収入の面など希望に合うような柔軟な働き方が可能です。  また、経験やスキルを評価するためのキャリアアップ制度を整備し、4段階のキャリアステージを設定しています(@指導教官〈全体の5%〉、A指導警備員〈交通誘導警備2級、施設誘導警備2級、雑踏警備2級の有資格者〉、B優良警備員〈勤続6年以上〉、C一般警備員)。  そのステージにより、後進を育てるための指導手当を含めた職能給を支給し、社員のモチベーション向上と定着率向上を図っています。  ベテランやスキルがある警備員は、現場監督から指名で仕事が入ることが多々あります。仕事ぶりが評価されてのことではありますが、そこには課題も生じています。工事現場が休みの日でも警備員は資材の盗難防止のために見回りを行うため、工事が終わるまで休みが取りづらいのです。そこで、代行者の育成に注力しており、この代行者の存在により、有休取得率の向上につながるよう努めています。  また、甲府市は全国でも特に暑くなる都市として知られており、真夏の炎天下の警備はたいへん厳しいものです。熱中症対策として、社員全員にファンで着衣内に風をめぐらせて涼感を得るファン付き作業服を配付しました。これは県内ではまだ少ない取組みだそうです。  雨宮プランナーは、2013年9月に初めて同社を訪問しました。警備業という業種、そして、社員の約8割が高齢社員という実態をふまえ、さらなる継続雇用制度の円滑な運用や、より意識の高い働き方を目ざしたアドバイスを行いました。  直近の訪問では、75歳への定年引上げ、もしくは廃止、そして75歳以降の基準該当者を80歳まで継続雇用する仕組みの整備を提案し、そのための周辺整備として、健康管理の充実と能力開発(就業意識向上)を提案したそうです。  一方、古屋社長からは、さらなる取組みの充実に向け、新しいシステムを導入した先進的な事例の話が聞きたいという声があがりました。「電話で行っている出退勤時間の報告を、スマートフォンを使った新しいシステムに変更したいのですが、65歳以上の警備員の36%が、スマートフォンが使えないことがわかりました。警備業界にかぎらず、新しいシステムを導入する際の高齢社員の対応で、よい取組みがあれば採用していきたいです」 一日一日、与えられた業務を全(まっと)うする  長坂(ながさか)雄氏(ゆうじ)さん(71歳)は、管制部長として事業の中枢を任されています。警備業務の開始・終了の勤怠報告にあたる上番および下番の電話応対と、翌日の現場の人員手配を行っています。手配のむずかしさは、警備員の体調や、事情を考慮しつつ、会社の利益向上に努めなくてはならない点にあります。長坂さんは管制業務※について次のように話します。「それぞれの現場がどういうものか、警備員それぞれの性格と事情がどうかをしっかり把握することが大切です。そのうえで割振りを行っていきます。人を相手にする仕事ですから、社員に気持ちよく働いてもらうためにも話にきちんと耳を傾け、相談や要請があったときにはできるかぎり対応し、内容によっては社長や専務に話を上げて相談します」  同社で勤続19年になる長坂さんにとって、長く働き続けられた理由は、働きやすい職場環境に尽きるようです。これからも元気に働けるよう、健康的な食生活に努めるとともに、軽い運動を心がけているそうです。  「今後は上番、下番の電話をコンピュータでのガイダンスに切り替えるので、新しいシステムについていきたいですね。また、これからはもっと有給休暇が取得しやすい環境をつくっていきたいです。年齢としては75歳までがんばりたいと思っています」と抱負を語ってくれました。  高遠(たかとお)雅明(まさあき)さん(84歳)は、2019年9月に入社し2年目になります。長年、会員制リゾートホテルで警備をにない、60歳以降は守衛をして16年。その後、82歳で同社に入社しました。新型コロナワクチン接種会場や、下水道工事の通行止め、片側交互通行などの交通誘導で活躍しています。  「山梨県の夏は暑いですからね。交通誘導をするのは駐車場や道路だからコンクリートは熱く、日陰がなくて立っているだけでたいへんです。スタミナがつくニンニクや餃子を食べて元気をつけます」とかくしゃくとして、よく通る声でハッキリと話す高遠さん。休み明けの出勤は身体がきついそうですが、「仕事がある日に、きっちり仕事ができることが大事」と話し、日々、真剣に業務に取り組んでいます。  仕事で心がけていることは、「無線を使うときはしっかりボタンを押してから話すことです。あたり前のことのようでも、しっかり押して話さないと最初と最後の言葉が聞きとれません。車を通すのか、止めるのか、きちんと伝えないと事故につながります。いまは警備員人口が増えているので、意識改革と教育が大切だと思います」と、基本の大切さと業界の課題について語ってくれました。  この2年の間に2回も膝(ひざ)に水が溜まって処置するなど、身体的に決して楽な仕事ではありませんが、「82歳で就職したいと電話したら採用してくれた会社です。恩返しのつもりでがんばってきました。これからも体が続くまでがんばりたい」と話してくれました。  新型コロナウイルス感染症の蔓延で、影響を強く受けたホテル、レストランといった他業界から、同社の門を叩き、警備業に転身する中堅世代や女性もいるといいます。古屋社長は「みなさん、家族を養うため、生活のため、それぞれの理由で就業しています。今後も働きたい人が、希望に合った働き方ができるように改善し、引き続き休暇が取りやすい環境づくりに力を入れていきます。また、2022年に創業20周年を迎えるにあたり、計画していた本社の新築は、コロナ禍のため頓挫していますが、今後は計画を進めていきたいです」と展望を語りました。(取材・西村玲) ※ 管制業務……取引先の希望に合わせて、現場に配置する警備員を手配する仕事 雨宮隆浩 プランナー(57歳) アドバイザー・プランナー歴:10年 [雨宮プランナーから] 「法律に基づき、企業と従業員の双方が納得し、全体として伸びていくような支援ができればと思います。そのために、企業の実態に即した、いろいろな視点(賃金、労働時間、健康・安全、能力開発、人事制度など)からのアドバイスを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆山梨支部高齢・障害者業務課の中橋課長は、「雨宮プランナーは特定社会保険労務士、特定行政書士としての経験と知見を活かし、人事労務管理や賃金・退職金管理などの得意分野でていねいかつ適切な活動を行っています。また、山梨産業保健総合支援センターの産業保健相談員や、両立支援促進員なども務め、健康・安全衛生管理においても高い専門性を発揮し、事業所から厚い信頼を得ています。さらに当支部の地域ワークショップや障害者雇用支援関連業務、県内各団体主催イベントなどにおいて講師として活躍するなど、当支部には欠かせないプランナーの一人です」と話します。 ◆山梨支部は甲府駅から車で約10 分、南甲府警察署真向いに位置する山梨職業能力開発促進センター内にあります。近隣に高等学校や小中学校が点在する住宅地域でもあります。 ◆同支部にはプランナー4人、アドバイザー1人が在籍しており、2020年度は制度改善提案を97件、相談助言訪問を264件行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●山梨支部高齢・障害者業務課 住所:山梨県甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 電話:055(242)3723 写真のキャプション 山梨県甲府市 甲府市に所在する本社社屋 古屋雄司代表取締役社長 管制部長を務める長坂雄氏さん 警備員として活躍する高遠雅明さん 【P44-47】 高齢社員のための安全職場づくり エイジフレンドリーな職場をつくる 労働安全衛生総合研究所 高木 元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説します。 第11回 墜落・転落災害の防止 ―高齢の熟練作業者の安全確保― 1 はじめに  働く高齢者に多い労働災害として、これまで、転倒、熱中症、腰痛、切創を取り上げてきましたが、その最後として、今回は墜落・転落災害を取り上げます。墜落・転落災害は死亡災害に直結しやすいものです。  また、今回は、高齢の熟練作業者を取り上げます。熟練作業者は、現場になくてはならない存在ですが、熟練作業者であっても被災します。そのなかには、熟練作業者ならではの労働災害があります。本稿では、高齢の熟練作業者の墜落・転落災害の実態を紹介し、どうすれば墜落・転落災害を防ぐことができるかを解説します。 2 高齢の熟練作業者の安全上の課題 (1)熟練とは  「熟練」とは、経験と技能の蓄積により生み出された高度で複合的な作業能力のことをいいます。単一的な作業能力であれば、若者でも習得可能ですが、高度で複合的な能力は、例えば、それは現場で起こるさまざまな問題を臨機応変に解決する力であり、経験が足りない若者に習得できるものではありません。  今後、作業方法の高度化、ICT(情報通信技術)の活用などが進展しても、作業全体を俯瞰(ふかん)的にとらえる必要がでてきた場合や突発的にトラブルが発生した場合など、熟練作業者に頼るところは大きいでしょう。 (2)熟練作業者の安全上の課題  現場の安全確保には、熟練作業者の活躍が不可欠です。ただしその一方で、熟練作業者ならではの労働災害があることを忘れてはいけません。  それは、現場の作業を熟知しているがゆえに、また、上に立つ者の責任感の強さゆえに、現場の進捗などに支障がでると「早く支障を取り除かなければ」、「解決策がわかっている自分がやる」という気持ちが大きくなり、不安全行動止む無しとなることがあります。しかし、若いころと比べさまざまな心身機能は衰えており、それが原因で被災してしまいます。 (3)中堅と熟練作業者の比較  熟練作業者ならではの労働災害を明らかにするため、ここでは、一定の実務経験を有し、作業を主体的に進めることができる中堅作業者と熟練作業者の労働災害を比較し、両者の違いをみてみます。  厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」に掲載されている休業4日以上死傷災害データ(2015〈平成27〉・2016年分、全数のおよそ4分の1抽出データとされる)を用いて、全産業を対象に、30代と50代の墜落・転落災害を比べてみます。  30代と50代を比べる理由は、60代であれば定年・再就職のように働く場所が異なることも労働災害の原因として考慮する必要がありますが、50代であれば、心身機能の低下を主たる原因にとらえてよいのではないかと考えられるからです。  墜落・転落災害と心身機能の関係をみると、バランス感覚が低下すると墜落・転落災害は発生しやすくなります。ただ、墜落・転落しても、とっさにうまく動けるなら、例えば、バランスを崩して墜落しそうになっても、とっさに何かにつかまることができれば被災を免れますが、それができないと被災につながります。また、視力の低下も開口部など気づきの遅れにつながり、筋力や柔軟性の低下もバランスを崩すなどの原因につながります。  図表1の通り、30代と50代の休業4日以上死傷者数を2015年、2016年の2年合計で比べると、墜落・転落災害は、全体では50代が1.73倍と多く、これを起因物別にみると、トラックが2.11倍、はしご等が1.88倍、建築物・構築物は1.76倍と全体を上回ります。このうちトラック、はしご等は、トラック荷台、はしご、脚立等からの墜落・転落であり、建築物・構築物は、トラック荷受けバース、荷物返却台、コンテナーホームなど、荷さばき場所からの墜落・転落が数多く見受けられます。  これらの多くは法的に墜落防護措置を必要としない高さ2mに満たない低所からの墜落です。そこでは、作業者は墜落しないための正しい作業方法が求められます。トラック荷台であれば、あおり※1に乗らない、荷台昇降時は昇降ステップを用いる、昇降ステップがない場合は決して飛び降りない。はしごであれば、はしごは必ず固定する、はしご脚部には滑り止めを施しはしごは昇降のみでその上で作業しない、はしご昇降時は常に3点支持=i両手両足4点のうち常に3点をはしごに接触させる)を保つなどがあげられます。脚立の場合、その正しい使い方は、天板に乗らない、身を乗り出して作業しない、手に物を持って昇降しない、脚立を背にして降りない、反動をともなう作業は跨またがず片側の踏みさん※2に乗るなどがあげられます。  このような正しい作業方法の順守により墜落災害を防止しますが、実際には、正しい作業方法が守られず、トラック荷台では積み荷で埋まった荷台上で足の置き場がなく、あおりの上に乗ったり、荷台から飛び降りたり、はしごは、固定せず壁に立てかけただけで上に昇って作業したり、脚立は、踏みさん上では届かないと天板に乗って作業したりしてしまいます。  このような不安全行動は、年齢を問わず同じように行われているはずです。ただ、高齢になればよりバランスを崩しやすく、とっさにうまく動けず、墜落して被災しやすくなります。荷さばき場所からの墜落・転落も、同様の理由で高齢者の被災が多くなると考えられます。  一方、高さが2mを超える高所作業であれば、墜落防護措置がない場所では墜落制止用器具を使用しなければなりませんが、それを使用しない不安全行動により墜落することが数多く見受けられます。老朽化した屋根の踏み抜きなどは突然墜落しますが、それはバランス感覚やとっさの動きがほとんど関係しないため、トラック荷台、はしご、脚立ほど、高齢者の被災が目立たないといえるのではないでしょうか(図表1の屋根からの墜落・転落災害2年合計は30代の方が多い)。 3 高齢者の墜落・転落災害事例  60歳以上の墜落・転落災害事例を紹介します。多くは、いずれも高さ2mに満たない低所からの墜落・転落事例(図表2)です。 4 おわりに(課題解決に向けて)  高齢の熟練作業者は今後も現場の安全確保の要であり続けることはいうまでもありません。ただ、豊富な経験が危険軽視につながり、現場が思ったように進まない場合など、上に立つ者の責任感の強さも相まって、急いで解決しようと不安全行動をともなう解決策が選ばれてしまうおそれがあります。しかし、加齢にともなう心身機能の低下により、とっさにうまく動けないなど被災しやすいため、若いころよりもより慎重な行動が求められます。ただ、安全教育により行動変容を求めても、長年にわたり現場でつちかった経験が教育効果を小さくしてしまいます。  今後は、熟練作業者の一層の活躍をうながすため、教育効果の高い安全教育を実践することが重要です。それには、厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」(2020〈令和2〉年3月)に示された高年齢者向けの安全衛生教育が参考になります(図表3)。  一方で、熟練作業者の労働災害防止には、心身機能の低下を補うハード対策も重要です。例えば、脚立は天板だけでなく踏みさんに乗っても不安定です。足幅より狭い踏みさんの上に乗ると、足から踏みさんにかかる力の方向と、それに対し踏みさんから出る反力の方向がずれ、それは身体が揺れることを意味します。作業者が安全を確保するうえで、最も大事なものの一つに足元(足場、作業床)がしっかりしていることがあげられますが、脚立上は不安定で、身体を揺らしながら作業が行われています。このため、できれば脚立の使用を控え、踏みさん幅が広く、身体を支える上枠がついた天板に乗ってもよい踏み台(図)のような、より安定した姿勢が保てる用具の使用が望まれます。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 ※1 あおり……荷台の枠の部分 ※2 踏みさん……はしご・脚立などの足を掛けて踏むところ ※3 バース……倉庫や物流センターなどで、トラックの荷物を積み降ろしする場所のこと 図表1 30代と50代の休業4日以上死傷者数(墜落・転落災害、2015年、2016年) 事故の型 起因物 2015年 2016年 2年合計 30代 50代 30代 50代 30代 50代 年代比較 A B C D E=A+C F=B+D F/E 墜落・転落 トラック 152 325 152 316 304 641 211% はしご等 134 256 156 290 290 546 188% 足場 42 42 32 35 74 77 104% 階段・桟橋 120 193 132 213 252 406 161% 開口部 12 20 12 19 24 39 163% 屋根、はり、もや、けた、合掌 49 41 36 39 85 80 94% 作業床、歩み板 20 33 21 35 41 68 166% 通路 6 20 16 17 22 37 168% 建築物・構築物 42 62 37 77 79 139 176% その他 142 244 141 242 283 486 172% 合計 719 1236 735 1283 1454 2519 173% 出典:厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」労働災害(死傷)データベース 図表2 高齢者の墜落・転落災害事例 トラック荷台からの墜落 事例1 駐車場に停めていた軽トラックの荷台に横から上がろうとしたとき、足を滑らせて地面に落下し負傷した(65歳) 事例2 荷降ろしが終わり、荷台を掃除するため、荷台にかぶせていたシートをたたもうとしているときに足を踏み外し、トラック側面より地面に落ち、左手をついた際に骨折した(69歳) はしごからの墜落 事例3 構内で在庫確認のため、保管棚の上にアルミのハシゴを掛け、昇ろうと足を掛けた際、足を滑らせ2m位の高さから土間へ墜落した(67歳) 事例4 庭木の剪定中、はしごから足を滑らせ7m下に墜落して負傷した(68歳) 脚立からの墜落 事例5 脚立の天板に乗り、車の天井を洗車していたところ、足が滑り高さ約1mから地面に落下し、頭と腰と腕を地面に打ちつけた(68歳) 事例6 倉庫内で、脚立の2段目あたりに足を乗せ作業中、足を滑らせて転落し、頭を打った(69歳) トラック荷受けバース※3からの墜落 事例7 入荷バースにて、簡易ローラーを使って、荷下ろし後のパレットを構内に押し込む作業中、左足を強く踏んばった際に、足を滑らせバースから転落し手を負傷した(61歳) 事例8 冷凍倉庫の接車バース上からパイロン移動のために飛び降りた際、左足がリフト止めに引っかかり体勢を崩して墜落した。右足をひねりながら着地し右足首を骨折した(62歳) 図表3 エイジフレンドリーガイドラインに示された高年齢労働者向け安全衛生教育のポイント(一部抜粋) ・十分な時間をかけ、写真や図、映像等を活用する。 ・心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させる。 ・自らの心身機能の低下を客観的に認識させる。 ・わずかな段差等、周りの環境に常に注意を払わせるようにする。 出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」 図 上枠つき幅広天板の踏み台 作業をする場所にあわせて適切な高さのものを使用する。 上枠つき 幅広天板 【P48-51】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第42回 個別的な定年延長の実施、労災認定基準の改定 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 特定の従業員の定年を個別に延長することはできますか  定年後再雇用のほかに、会社が認めた特定の従業員について定年延長を適用する取扱いは可能でしょうか。 A  定年制がある場合でも、定年時期を超えて雇用を継続することは、使用者の判断または労使間の合意によって行うことが可能です。ただし、特定の従業員以外にも実施することで慣習化することがあるため、定年制を廃止する意図がない場合は、対象の基準を明確化しておくなどの判断は慎重に行うことが望ましいでしょう。 1 定年制とは  定年延長を検討するにあたって、そもそもの定年制の位置づけと種類などをいったん整理しておきます。  定年制とは、労働者が一定の年齢に到達することにより労働契約を終了させる制度です。就業規則または労使間の合意に基づき、労働者と使用者の労働契約の内容に組み込まれていることが通常です。  定年制の合理性に関しても議論はあるものの、過去の判例では、「停年制は、(中略)人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはでき」ないと判断されたことがあります(最高裁昭和43年12月25日判決・秋北バス事件)。また、比較的近年の裁判例では、東京地裁平成6年9月29日判決において、「使用者の側からみると、前記のとおり、一般に労働者にあっては、年齢を経るにつれ、当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減(ていげん)するにかかわらず、給与が却って逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化を図るために定年制の定めが必要であるという合理的理由が存するし、労働者の側からみても、定年制は、いわゆる終身雇用制と深い関連を有し、定年制が存するが故に、労働者は、使用者による解雇権の行使が恣意的になされる場合は、これが権利濫用に当たるものとして無効とされ、その身分的保障が図られているものということができ、また、若年労働者に雇用や昇進の機会を開くという面があり、一応の合理性があることを否定できない」と判断されており、定年制の合理性は肯定されてきました。  高年齢者等の雇用の安定に関する法律(以下、「高齢法」)においても、定年制の廃止以外にも定年延長などの制度による高齢者雇用が許容されていることからも、定年制自体は合理的で有効な制度であると考えられているといえます。ただし、高齢法第8条において、60歳を下回る定年の定めは規制されているため、定年制を定めるにあたっては60歳以上の年齢を設定する必要があり、現在では、高齢法に基づき定年廃止や65歳までの定年引上げを含む65歳までの雇用の確保が企業には義務づけられています。なお、2021(令和3)年4月1日に施行された改正高齢法により、70歳までの定年引上げなどの高年齢者就業確保措置が努力義務となっています。  法的性質の側面からは、定年制は、厳密にいうと「定年解雇制」と「定年退職制」の二種類があるともいわれており、前者の場合は、解雇権濫用(らんよう)法理の適用があると考えられています。したがって、定年解雇制の場合には、定年に達したとしても、その解雇には、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、労働契約を終了させることができません(労働契約法第16条)。また、解雇予告通知の規制も適用されることから、定年到達の1カ月前には、解雇の意思表示を行う必要があります(労働基準法第20条)。一方で、定年退職制の場合は、労使双方からの特段の意思表示などなく、定年に達したときに、労働契約が終了することになります。 2 定年制の種類ごとの延長対応方法  定年解雇制を採用している企業において、解雇の意思表示を行わないことで、定年時に労働契約が終了する効果を発生させないことが可能です。  使用者の立場からすれば、解雇権濫用により定年にともなう解雇が違法となる余地がある以上、定年のときに解雇しなければならないとすれば、違法な解雇を強制されることにもつながります。そのため、定年解雇制は定年時に労働者を解雇することを義務づけるものではなく、解雇するか否かについては、使用者側に裁量があると考えられます。  次に、定年退職制の場合は、双方の特段の意思表示がなく定年のときに労働契約が終了するため、定年解雇制とは異なります。定年制が、就業規則または合意に基づく労働契約の内容であることからすれば、双方の合意に基づき労働契約の内容を変更することは可能でしょう(労働契約法第8条)。定年制については、就業規則に定められている場合の最低基準効との関係においても、例えば60歳に到達したときには労働契約が終了するという条件について延長するということは、定年制自体を適用せずに労働契約を継続することになりますので、就業規則に定める条件よりも優遇された待遇といえるでしょう。  したがって、対象となる労働者との合意に基づき定年制の適用を行わずに、労働契約を継続することが、最低基準効に抵触するものではなく、労使間の合意にしたがえば、特定の従業員に定年制を適用せずに継続的に雇用することは可能と考えられます。 3 定年の個別の延長における留意事項  定年制が存在したとしても、解雇の意思表示を控えることや個別の合意に基づき延長することは可能と考えられますが、定年制を適用しないことが一般化しないように留意しておく必要はあります。  当初は特定の労働者にかぎろうとしていたところ、いつの間にか多数の労働者に対して定年制を適用しないことが標準的な対応となってしまった場合には、定年制を適用しないことが労使間の慣習となる可能性があります。労使慣習となると労使の双方を法的に拘束することになりますので、実質的に定年制を廃止したのと同様の状況となってしまいます。定年制を廃止する意図がない場合には、定年制を適用しない従業員についても、その基準を明確化しておくなどの工夫は設けておくべきでしょう。 Q2 労災認定基準改定の詳細について知りたい  労災認定基準が改定されたとのことですが、どのような点が変更となったのでしょうか。これから気をつけなければならないポイントがあれば教えてください。 A  時間外労働の多さが中心である点は変更がないといえますが、負荷要因の評価をより詳細に行うことが予定されており、各社における業務の特色をとらえた対策を検討する必要があります。なお、休日の確保は、多くの企業にとって共通の対策になると思われます。 1 過労死と労災認定基準について  過労死等防止対策推進法第2条では、「過労死等」の定義として、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定めています。  いまは、「過労死」という言葉はすでに定着し、企業においては、過労死を発生させてはならないということ自体は半ば常識化しつつあるといえるでしょう。  過労死については、業務に起因するような場合には、労働災害として認定されることになり、さらに、企業に安全配慮義務違反(故意または過失)が認められるようなときには、企業に対する損害賠償責任につながります。近年では、企業の役員や直属の上司個人の安全配慮義務違反も問題視されることが増えており、企業だけの責任だけではなく、役員や部下を持つ管理職などにも関心をもってもらう必要があります。  業務の過重負荷を原因とする、脳または心臓疾患による死亡や精神疾患を原因とする自殺がいわゆる「過労死」に該当しますが、厚生労働省では、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(以下、「脳及び心臓疾患の認定基準」)及び「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定め、2種類の労働災害の該当性(「業務起因性」と呼ばれます)を判断するための認定基準を用意しています。  これらの認定基準においては、最も重要な指標として「長時間労働」が考慮されてきました。2種類の労災認定基準において、業務と過労死の関連性が強いと認定することにつながる時間外労働時間数は、「過労死ライン」と呼ばれています。いわゆる過労死ラインと呼ばれる長時間労働については、単純化すると、発症直前の1カ月の時間外労働時間数が100時間を超えたときや、発症前2カ月から6カ月の1カ月あたりのそれぞれの平均時間外労働時間数について、いずれかの平均値が80時間を超過するときなどが想定されています。これらの水準は、働き方改革における時間外労働の上限規制においてもほぼ同様に設定されており、過労死防止に対して罰則をもって臨むという状況に至っているといえるでしょう。  「脳及び心臓疾患の認定基準」の見直しが行われ、厚生労働省は、2021年9月14日に新しい認定基準を公表しました。なお、「心理的負荷による精神障害の認定基準」は見直されておらず、既存の内容が維持されています。  また、参考までに、労働者災害補償保険法の改正により、複数事業労働者の複数の事業の業務を要因とする傷病等については、すでに2020年7月に考え方が示され、「複数業務要因災害」として新たな保険給付がなされることになったことにともない、変更されていますので、副業・兼業を行う場合にも労働時間の管理には留意が必要です。 2 労災認定基準改定の背景について  今回の「脳及び心臓疾患の認定基準」の見直しにあたっては、海外の研究論文などにおいて、週55時間を超えると、週35時間から40時間の場合と比べて、脳卒中と虚血性心疾患のリスクがどちらも高まることを示す十分な証拠が得られたという結論を示すものが現れており、既存の過労死ラインを見直す必要性がないかも含めて検討されたものと思われます。  結論としては、既存の労災認定基準自体はほぼ維持されており、過労死ライン自体も変更されないこととなりました。  だからといって、上記の海外の研究論文が無視されているわけではありません。意味があるのは、過労死ラインには及ばないがこれに近い水準の時間外労働が行われている場合に、「特に他の負荷要因の状況を十分に考慮すること」が求められるようになったことに表れています。  海外の研究論文が示すところの労働時間が週55時間を超える場合とは、1カ月あたりの時間外労働に引き直すと、1カ月65時間程度の時間外労働に相当することになります。1カ月あたりの時間外労働が、80時間には及ばなくとも65時間程度に及んでおり、ほかの負荷要因がある場合には、労働災害として認定される可能性は、現在よりも高まると考えられます。  負荷要因としては、不規則な勤務形態(拘束時間が長い、休日がない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、交代制や深夜勤務など)、事業場外における移動をともなう業務(出張が多い業務、海外出張など)、心理的負荷をともなう業務(心理的負荷による精神障害の認定基準における心理的負荷評価表の一覧とほぼ同様)、身体的負荷をともなう業務(重量物の運搬作業、人力での掘削作業など)、作業環境(温度環境や騒音)などが想定されています。  これらの負荷要因は、これまでにも示されていた内容もありますが、今後、過労死ラインには及ばないがこれに近い水準の時間外労働が行われている場合に、「特に他の負荷要因の状況を十分に考慮すること」が明記されたことによる影響は現れてくると思われます。 3 企業において対応すべき事項について  今回の改定では、「脳及び心臓疾患の認定基準」のうち、労働時間以外の負荷要因を中心に改正されており、時間外労働を重視しすぎる傾向に変化をもたらすものと思われます。  これまで、「脳及び心臓疾患の認定基準」においては、時間外労働以外の負荷要因もあげられてはいたものの、時間外労働の時間数が最も重要な要素とされ、それ以外の要素は考慮されにくい実情があったと思われます。過労死ラインに達しないことを目安として労働時間管理を行っていた企業もないとはいえません。  企業における労務管理についても、時間外労働の上限規制をきっかけに時間外労働の抑制に取り組む企業が増えていますが、負荷要因については、労働時間の不規則性や事業場外労働の頻度、身体または心理的負荷のほか、作業環境など各社が自身の業務内容をふまえた分析および対策が必要となるでしょう。  自社の業務内容に照らして、掲げられている負荷要因について、日常的に生じているものであるか、日常的に生じるものであればそれに対する対策をどのように行うのかという点を検討してください。なお、負荷要因のいずれにとっても休日の確保の影響は大きいと思われますので、多くの会社で共通する対策になりそうです。 【P52-53】 生涯現役で働きたい人のための NPO法人活動事例  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進んでいます。一方で、60歳や65歳を一区切りとし、社会貢献、あるいは自身の趣味や特技を活かした仕事に転身を考える高齢者は少なくありません。そこで本企画では、高齢者に就労の場を提供しているNPO法人を取材し、企業への雇用≠ノこだわらない高齢者の働き方を紹介します。 最終回 特定非営利活動法人 日本NPOセンター(東京都千代田区) 再雇用制度でNPOへ出向  特定非営利活動法人日本NPOセンターは、民間非営利セクターにかかわる基盤的組織として、情報交流、人材育成、調査研究、政策提言などを通じて、日本各地のNPOの基盤強化を図るとともに、企業や行政とNPOの連携・協働を促進する活動を行っている。平たくいうと、社会課題と向き合い、解決を図るため、さまざまなNPOを支援するためのNPOである。1996(平成8)年に設立され、2021(令和3)年11月に25周年を迎える。  事務所は東京都千代田区大手町にあり、事務局スタッフは常勤・非常勤を合わせて19人。今回は、定年後の再雇用制度で企業から同センターへ出向し、その活動に企業でつちかった知識や経験を活かしている本田恭助さん(64歳)を紹介する。企業とNPOの連携の充実に貢献し、さらに、新たなことを学びながらフルタイムで勤務している。  本田さんは2017年に花王株式会社で60歳の定年を迎え、同社の再雇用制度を使ってこの日本NPOセンターに出向している。  花王では人材を「人財」と表現し、60歳定年後のシニア人財の強みを活かすための再雇用制度のなかで、社内だけでなく、NPOなどの社外組織へ出向して活躍する道を選択肢の一つとして提示している。花王が人財を出向させることでNPOなどの活動を支援するもので、本田さんの人件費は花王が負担している。  「定年2年前の再雇用希望者向けの社内説明会で、当時在籍していた部署を含む社内・社外の再雇用組織の紹介がありました。そのなかの社会貢献領域として日本NPOセンターへの出向があり、『よし、これだ!』と思ったのです。公募制ですのですぐに申請したところ私が選ばれ、日本NPOセンターによる面接を経て働くことが決まりました。花王シニア人財のNPO法人への出向第1号です」(本田さん)  多くの同僚が、社内での再雇用を希望していたなか、本田さんがNPOへの出向を望んだのは、持ち前のチャレンジ精神に加え、50代の数年間に故郷の父母の介護を通じて地域の多くの人に支えてもらい、定年後は地域社会に貢献したいとの思いがあったこと、さらに、保健師として自治体の地域保健で活躍する姉や福祉ボランティアをしている妹の姿を通してその思いを強くし、「思い切って飛びこみました」と当時をふり返る。 違いに戸惑いながらも力を発揮  本田さんは1980(昭和55)年に花王(当時・花王石鹸)に入社し、主に商品開発、広告メディア・ブランドコミュニケーション、国際事業の仕事にたずさわった。この経験と知見を活かそうと、はりきって日本NPOセンターに出向したが、実際に働き始めると、価値観や仕事のやり方などさまざまな面で企業との違いを実感し、戸惑ったという。「最初の2年は勉強期間のようなものでした。3年目からようやく事業推進メンバーの一員になれた気がします」と本田さん。自分に何ができるのかと、葛藤する日々が続いた。  そうしたなか、日本NPOセンターでは、アメリカに本部がある世界的組織「テックスープ」の日本事務局の運営を行っており、テックスープ事業(NPOなどの非営利法人がITを活用することで、活動をより効果的・効率的に進めるための環境づくりを支援する事業)の過去10年間の事業分析と利用者登録業務のサポートを本田さんが担当することに。さらに、業務分析・改善提案など、日本でのテックスープ事業の推進に貢献している。  また、同NPOの事業管理業務に月次管理の導入を提案し、花王の管理会計の専門家からレクチャーを受ける機会をつくり、体制の整備に貢献した。ほかにも、アニュアルレポートの導入を提案し、2018年度から編集・制作を担当するなど、同NPOの手がける事業や組織の基盤強化の面で、本田さんは花王での経験を活かして活躍している。 企業とNPOをつなぐ架け橋に  本田さんは、花王と同NPOをつなぐ初のシニア人財として、同じ志を持つ後輩のために、定年後のNPO出向者に向けたカリキュラムを作成するなど、出向で得た経験や課題を花王へフィードバックし、企業とNPOの連携の充実にも取り組んでいる。こうした貢献もあり、本田さんに続いて、2018年と2020年に一人ずつ、ほかのNPOに出向して活躍している。  花王の再雇用制度は65歳までのため、本田さんは2022年10月末で再雇用契約が終了する。しかしその先も、「社会課題の領域にかかわり、住みやすい社会の実現に貢献したい」と話す。その実践のため、個人の活動としてNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムに所属してボランティアで荒川の清掃をしたり、一般社団法人シニア社会学会の会員になりこれからの超高齢時代に望ましい社会の枠組みなどについて学術的に学んでいる。また、荒川の清掃をして気づいたことを、環境問題の解決に取り組んでいる花王にフィードバックするなど、出向を終えた後も社会にどう貢献できるかなどを考えているそうだ。  「会社人間だった私が、異分野のNPOに入り、四苦八苦はいまも続いていますが、新しい世界でこれまで触れることのなかった価値観を学び、恥ずかしながら60歳を過ぎて自分が成長していることを感じます」(本田さん)  高齢法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となった。その機会の一つにNPOでの就業機会も示されており、日本NPOセンターには問合せが増えているという。本田さんはいま、そうした声に応えていく仕組みづくりも進めているそうだ。 写真のキャプション 本田恭助さん 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第18回 「休日・休暇」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は休日・休暇について取り上げます。休日と休暇は、休むという行為に違いはなく、用語としても違いを意識せずに日常的に使うことも多いかと思いますが、実は労働基準法上では明確に区別して使われている用語です。前回の連載で取り上げた「時間外労働」に引き続き、労働時間に関するテーマとなりますので、前回の解説も思い起こしながら読んでいただくと、理解が深まると思います。 休日は労働の義務がない日  休日とは、労働の義務がない日のことをさします。休日のなかでも労働基準法で定められた法定休日と、法の定めではないが労働者と会社間で取り決められた法定外休日に分かれます。  法定休日は、週1日または4週間に4日以上、会社は労働者に必ず休みを与えなければならないと定められています※1。ここでいう1日とは午前0時から午後12時の24時間のことをさします。これに対して、法定外休日とは法定休日を超えて定められた休日のことで、会社が定める労働条件などを記載した就業規則や労働者と会社が労働条件について取り交わす労働契約に定めることで休日となります。例えば、本稿掲載号発行の11月には勤労感謝の日といった国民の祝日がありますが、法律上は休日に該当するため公立の教育機関や行政機関は基本的には休みとなります。このため一般的には祝日=休みと認識されていますが、会社において祝日は必ずしも休みではなく、法定外休日として定めていなければ休みにはならないというのが基本です。  さて、この内容だけだと会社は週1日の法定休日のみ付与すればよいのに、土日+祝日が休みの会社が多いのはなぜかという疑問がわくかもしれません。  これは前回解説した法定労働時間が1日8時間、1週40時間と定められていることが関係します。1日8時間労働した場合、5日で週40時間に達してしまいます。この時点で週2日休みが基本となります。1年間が365日とした場合、1年間に約52.14週あることになります。これに週2日の休みを乗じて端数を切り上げると最低で年間105日は休みが必要となります。この日数を個別に休日を指定すると管理が複雑になりますが、土日+祝日(年間16日)を休みとすれば、年間休日は基本的に120日となりますので、法律上の要件を超えることになります。このため、土日・祝日が稼ぎどきのサービス業などを除いてこのような運用をする会社が多くあるのが実際のところです。 休日の労働には注意が必要  本来、労働の義務のない日に労働させるには一定の手続きが必要です。休日労働が必要な理由や労働させることのできる法定休日の日数を明記した36協定を会社と労働者間で結び、労働基準監督署に届け出なければ、法定休日に労働させることはできません。次に法定休日に労働させた場合、その時間に応じて35%の割増賃金が必要となります。ここで複雑なのが、法定外休日は法定時間外残業扱いとなるため25%の割増となる点です。土日が休日で法定休日が日曜日の会社は、日曜日に労働すると35%の割増、法定時間をを超えて土曜日に労働すると25%の割増となります※2。  休日の代わりに別途休みを付与することで対応することも可能です。振替休日と代休です。これらはよく混同されていますが、給与の割増がかかわってくるので正しい理解が必要です。厚生労働省の解説を引用すると、振替休日は、「予め休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とする」ことをいいます。代休は、「休日労働が行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとする」ものです。大きな違いは振替休日の場合は事前に指定して休日を動かすので法定休日の振替でも35%の割増は不要、代休の場合は事前に動かすわけではないので、労働した法定休日の35%の割増は必要という点です。 休暇は労働が免除される日  さて、次に休暇についてみていきたいと思います。休暇とは、本来は労働の義務がある日ですが、一定の条件に該当する場合に免除される日のことを指します。簡単にいえば、これまで解説してきた休日以外に付与される休みのことです。こちらも法令で定められたものと定められていないものがあります。  法令で定められている休暇で代表的なものは、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される年次有給休暇です。半年以上継続して勤務し、かつ全労働日の8割以上を出勤している場合に、勤続年数に応じて休むことのできる権利のことです。「有給」の名称の通り、取得しても給与は支払われます。半年勤務で年10日の付与を最低日数として、最大6年半の勤務で年20日間の日数が付与されます。これは正社員・パート社員関係なく付与され(週の労働日数や労働時間が短い場合、付与数は減)、労働者が休暇取得を申し出た際に、会社は取得時季の変更を申し出ることはできますが、取得を拒むことはできません。また、2019(平成31)年より年次有給休暇が10日以上の労働者に対して、毎年5日間、会社が取得時季を指定することにより年次有給休暇を確実に取得させることが義務づけられました。なお、有給休暇の取得は原則1日単位ですが、労使の協定により年間5日の範囲内で時間単位での取得が可能となります。  法令で定められていない休暇については、一定時期に比較的長い休みを取る夏季休暇や年末年始休暇、お祝いごとやお悔やみごとなどがあった際の慶弔休暇、年次有給休暇以外に心身の回復などを目的に付与されるリフレッシュ休暇などがあります。会社が指定する休暇であるため、これらがない会社もありますし、誕生日休暇などさらに充実させている会社もあります。  近年は、働き方改革やワーク・ライフ・バランスの浸透により給与と同等以上に労働条件を重視する労働者が増えてきています。また、高年齢層の労働者が今後も増加していく傾向にあるなか、採用競争力や社員の定着率を高め、健康を維持して生産性高く働いてもらうために、法定以上の休日・休暇をいかに充実させるかがポイントとなってきています。  次回は「就業規則」について取り上げます。 ※1 労働基準法第35条第2項参照 ※2 労働基準法第37条第1項参照 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます エルダー 人事用語辞典 検索 【P56-57】 BOOKS “デジタル・トランスフォーメーション”時代におけるデータの有効活用方法を詳説 人事データ活用の実践ハンドブック 入江崇介(しゅうすけ)、(株)リクルートマネジメントソリューションズ 編著/中央経済社/2420円  ビジネスの世界では、テクノロジーやデータを活用することによって、組織やビジネスのあり方を変容させるデジタル・トランスフォーメーション(DX)≠ヨの関心が高まっている。人事労務管理の現場も例外ではないだろう。ところが、人事データを蓄積したものの十分に活用することができなかったり、分析の結果をうまく改善に結びつけられなかったりするケースもあるという。本書は、担当者が抱える、こうした悩みを解決するためのヒントを得ることができる、うってつけの書籍である。  基本的なスタンスとしては、人事労務担当者が直面する課題を解決するために「どのようにデータを活用できるか、何に留意すべきか」に焦点を当て、人事課題とデータ活用を結びつけるイメージを具体化する工夫が凝らされている。全体は7章から構成されており、「データを活用して採用のPDCAを回す」、「研修効果を高める」、「昇進・昇格選考を通じてより多くの活躍できる人を輩出する」などのテーマごとに、実務に役立つデータ活用方法が詳述されている。人事データを有効活用することによって、一歩先を行く人事労務管理≠目ざす担当者におすすめしたい好著である。 新たな人生の始発駅を元気に出発するためのヒントが満載 定年後の居場所 楠木(くすのき)新(あらた) 著/朝日新聞出版/935円  少し前までは、定年はゴールであり、その先は余生という感覚だったが、いつの間にか「人生100年」といわれ、余生と思っていた時間が想像以上に長くなる可能性が出てきた。どこで、どのように過ごすのがよいのだろうか。  本書は、ベストセラー『定年後』の著者が、「定年は新たな人生の始発駅」と提起し、生命保険会社を60歳で定年退職した後の自らの経験や、同世代の人々への豊富な取材をふまえ、定年後の居場所についてアドバイスをしている。再雇用に手をあげる選択もあれば、新たな扉を開く道もあるだろう。いずれにしても、「自身の主体的な意見や姿勢が大事になってくる。そう考えると、50代から『定年後』に向けて助走することが妥当に思えてくる」と著者。また、コロナ禍で体験したことや考えたことも交え、「生涯現役」、「こころの居場所」、「お金と健康」など多様な視点からリアルな定年後を示している。  第1部は、夕刊紙の連載を加筆・修正し、第2部は、居場所の探し方や「いい顔」になる方法など、人生を充実させる八つのポイントを書き下ろしている。著者の話をはじめ、著者が出会ったさまざまな分野の人々のエピソードからも、多くを学ぶことができる。 健康的に年を取りたい人の、現代版・養生(ようじょう)法 老けない人は何が違うのか 今日から始める!元気に長生きするための生活習慣 山岸(やまぎし)昌一(しょういち) 著/合同フォレスト/1650円  健康長寿を手に入れるには、いくつになっても仕事や役割を持ち、生涯現役で社会参加することが秘訣とされる。そのためには、毎日の食習慣や生活習慣を整えることも大切だろう。  本書は、老化のメカニズムや、現代の生活において健康長寿を手に入れるのに適した養生法を取り上げ、科学的根拠に基づき解説している。著者の昭和大学医学部教授の山岸氏は、AGE(エージーイー)(終末糖化産物)が体内にたまって老化や病気の原因になることに着目し、30年以上前からその研究をライフワークとしている第一人者。  著者は、AGEの正体を明らかにしながら、食べ物に含まれるAGEの摂取を抑えること、また、体内で生成されるAGEを抑え込むための知識と食習慣、生活習慣をわかりやすく紹介している。例えば、AGEをためこまないようにするには、高血糖状態を長く続かせないことが肝要。そのためには「ベジタブルファースト」が効果的で、野菜など食物繊維が多いものを先に食べ、糖質はできるだけ最後に摂るようにするとよい。そうすると血糖値の急上昇も抑えられ、脳梗塞などのリスク低減にもつながるという。本書には、このような明日からでも手軽に始められる養生法が満載されている。 多様で具体的な育成事例を収録した、後輩指導の手引き 事例で学ぶOJT ―先輩トレーナーが実践する効果的な育て方 田中淳子(じゅんこ) 著/経団連出版/1760円  本誌2021(令和3)年6月号の特集「コロナ禍や自然災害に立ち向かう働く高齢者の底力」に寄稿していただいた著者の田中氏は、数多くの企業で新入社員研修やOJT支援にたず  さわり、社員の育成の現場を長年見続けてきた。本書には、その経験を活かし、大半の企業で「仕事をするための学びを手助けする仕組み」として実施されているOJT(On the Job Training)が取り上げられている。「後輩指導を託された現場のOJTトレーナー」や「新入社員や若手社員を部下に抱えるマネージャー」、「人事部門や人材開発部門でOJT制度を運営している担当者」を念頭に、主としてOJTトレーナーがかかわる、多様で具体的な育成事例を収録しているところが特徴だといえるだろう。  OJTトレーナーには、若手社員と比較的年齢が近い先輩社員を選任する企業が少なくないが、高齢者雇用が進展するなか、これからは経験豊富な高齢社員をOJTトレーナーとして選任するケースも増えてくると思われる。OJTにまつわる多様な事例が紹介されている本書は、人事労務担当者が「先輩による後輩指導」という枠に留まらないOJTの展開を考える際にも大いに役立つと思われる。 採用〜退職の基本知識から新たな課題への対応策までわかりやすく解説 意外とわかっていない人のための人事・労務の超基本 北村庄吾 著/かんき出版/1760円  働き方改革を中心とするさまざまな法改正への対応が求められるなか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、急ピッチでテレワークを導入する企業などが増え、人事・労務担当者には新たな課題や対応すべき問題が次々と押し寄せている昨今といえるだろう。  本書は、人事・労務の担当者をはじめ、経営者、部下を抱える管理職など現場で人事労務の悩みを抱える責任者や、人事・労務について学びたい人などに向けて、社会保険労務士である著者が、基本的な知識から最近の法改正、新たな課題への対応策までわかりやすく説いている。  第1章の募集・採用から第6章の退職まで流れに沿って実務の基本を押さえつつ、テレワーク、裁量労働制、同一労働同一賃金などのテーマも盛り込んでいる。最後の第7章では多様化する雇用をテーマに、70 歳までの就業機会の確保、派遣社員、外国人雇用などについて解説。第1章から第7章まで全80項目で構成され、必要な項目から読むこともできる。随所に間違えやすいポイントや実務上のアドバイス、事例研究なども簡潔に紹介されている。  正しい知識を身につけ、新たな問題への対応力を養う一助として、頼りになる一冊である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を公表厚生労働省  厚生労働省は、2020(令和2)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の結果を公表した。この調査は、労働災害防止計画における重点施策を策定するための基礎資料を得ることなどを目的に、周期的にテーマを変えて実施しているもので、2020年は「メンタルヘルス対策」、「化学物質のばく露防止対策」、「受動喫煙防止対策」、「長時間労働者に対する取組」などについて調査が行われた。  調査結果から「高年齢労働者に対する労働災害防止対策の状況」をみると、60歳以上の高年齢労働者が働いている事業所の割合は74.6%で、このうち高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は81.4%となっている。「高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる」事業所の割合を規模別にみると、「1000人以上」、「500〜999人」、「300〜499人」の事業所ではいずれも9割を超えている一方で、最も割合の低い「10〜29人」では78.5%にとどまっている。  労働災害防止対策の具体的な取組み内容(複数回答)をみると、「本人の身体機能、体力等に応じ、従事する業務、就業場所等を変更」が45.7%、「作業前に体調不良等の異常がないかを確認」が38.7%、「健康診断の結果を踏まえて就業上の措置を行っている」が34.8%、「手すり、滑り止め、照明、標識等の設置、段差の解消等を実施」20.7%、などとなっている。 厚生労働省 令和2年度「能力開発基本調査」の結果を公表  厚生労働省は、2020(令和2)年度「能力開発基本調査」の結果を公表した。この調査は、企業が実施した教育訓練、キャリア形成支援などについて、常用労働者30人以上の企業、事業所およびそこで働く労働者を対象に毎年行われている。  調査結果をみると、教育訓練の実施状況では、OFF−JTを実施した事業所割合は、正社員で68.2%(前回75.1%)、正社員以外では29.0%(同39.5%)となっている。計画的なOJTを実施した事業所割合は、正社員では56.5%(前回64.3%)、正社員以外では22.3%(同26.5%)となっている。  教育訓練に支出した費用の労働者1人あたりの平均額(費用を支出している企業の平均額)をみると、OFF−JTは7000円(前回1万9000円)で前回に比べ減少、自己啓発支援は3000円(同3000円)で2018年度調査以降、横ばいで推移している。  また、技能継承の取組みを行っている事業所割合は86.3%と高く、産業別にみると、「電気・ガス・熱供給・水道業」(95.3%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(94.1%)などで9割を超えている。取組み内容の内訳では、「中途採用を増やしている」(47.9%)が最多となっており、次いで、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」(46.6%)、「新規学卒者の採用を増やしている」(31.5%)と続いている。 調査・研究 介護労働安定センター 令和2年度「介護労働実態調査」結果  公益財団法人介護労働安定センターは、2020(令和2)年度「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査(労働者調査)」の結果を公表した。  調査は2020年10月に実施され、それぞれ9244事業所、2万2154人から有効回答を得た。  事業所調査の結果から、従業員の過不足状況をみると、不足感(「大いに不足」+「不足」+「やや不足」)は60.8%となっており、前年度(65.3%)と比べて改善傾向を示している。職種別でみると、訪問介護員の不足感が80.1%(前年度81.2%)で最も高く、次いで介護職員の66・2%(同69.7%)となっている。  全従業員数(無期雇用職員と有期雇用職員の合計)に占める65歳以上の労働者の割合は12.3%で、職種別では訪問介護員が最も割合が高く、4人に1人が65歳以上となっている。次いで、看護職員の13.1%、介護職員の9.4%となっている。  定年制度の有無では、「定年制度なし」の事業所が17.7%で、「定年制度あり」の事業所が80.6%となっている。「定年制度あり」のうち定年到達後の継続雇用制度導入は、「再雇用制度」が63.7%、「勤務延長制度」が26.1%で、約8割の事業所で導入している。  なお、定年到達後の継続雇用制度導入事業所における雇用上限年齢では、いずれの制度も「年齢の定めなし」が多くを占めている。 【P59】 日本史にみる長寿食 FOOD 337 サケの赤い肉が長寿を呼ぶ 食文化史研究家 ●永山久夫 サケの神秘的なパワー  サケは「秋味(あきあじ)」とも呼ばれ、縄文時代から冬を越すための貴重な食糧資源でした。  奈良時代の地誌である各地の「風土記」にも、秋の水産物と記されており、栄養的にも重要な食べ物だったのです。  毎年、義理堅く群れをなして、母なる川をのぼるサケは、沿岸で暮らす人たちにとっては、あてにすることのできるごちそうでした。  大量にとれるため、天日干しにしたり、塩引きなどにしたりして保存します。  北国の川をさかのぼるサケには、強い生命力が宿っていると信じられ、古くから神への供え物としても重要に扱われてきました。アイヌ語では「カムイチェプ(神の魚)」と呼ぶそうですが、まさに神秘的なパワーを身につけた魚だったのです。  平安時代になると、宮中の行事食として欠かせない貴重品となり、神饌(しんせん)(神へのお供え)や祭祀料、公家の給与などにも用いられ、その一部は市場でも販売され、庶民の間でも人気がありました。 ビタミンDが免疫力強化  サケは肉質が赤く、ほかの魚とは違うところから神聖でおめでたく、不老長寿をもたらす魚とみられていました。  同時に、赤い色は悪霊や疫病などを寄せつけない「厄除けの色」であり、冬になると流行する風邪などを防ぐ色としても珍重されてきました。  サケの赤い色素はアスタキサンチンで、カロチノイド系の天然色素です。老化を防いで若さを維持する成分とされ、いま脚光を浴びています。紫外線やストレス、運動のし過ぎなどで発生する、毒性の強い活性酸素を消去する抗酸化力がきわめて強く、その働きはビタミンEの何倍もあるといわれています。  最近、抗ウイルスのビタミンとして注目されているのがサケに多いビタミンDです。骨の健康を保つためのビタミンとして知られていますが、免疫力を活発にして、ウイルス感染を予防する強い作用でも脚光を浴びているのです。この冬は食卓にサケを多く取り入れて、インフルエンザや流行性の風邪を予防しましょう。 【P60】 次号予告 12月号 特集 役職定年のメリット・デメリット リーダーズトーク 安保雅博さん(東京慈恵会医科大学附属病院 副院長) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●当機構では、10月6日に「令和3年度高年齢者活躍企業フォーラム」(同時開催:生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〈東京会場〉)を開催。高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業の表彰式のほか、受賞企業によるトークセッションなどを行いました。今年度は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策のため無観客での開催となり、代わりにライブ配信を実施しました。ご視聴いただきありがとうございました。講演、トークセッションなどの模様は、本誌1月号でご紹介する予定です。 ●今号では前号に続き、高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業のなかから、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した企業の取組みを紹介しました。いずれの企業も、定年延長や継続雇用制度により70歳までの雇用を実現しており、それぞれの業種・業態や経営方針などをふまえて、高齢者の活用戦略を定め、その戦力化に取り組んでいます。読者のみなさまにおかれましても、受賞企業の取組みを参考にしていただき、各企業に合った高齢者活用の取組みを推進していただければ幸いです。 ●「生涯現役で働きたい人のためのNPO法人活動事例」、「マンガで見る高齢者雇用」は今号で最終回となります。ご愛読いただきありがとうございました。また取材にご協力いただいたNPO・企業のみなさまにも改めてお礼申し上げます。次号より新連載もスタートしますので、ぜひお楽しみにしてください。 公式ツイッターを始めました! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー11月号 No.504 ●発行日−−令和3年11月1日(第43巻 第11号 通巻504号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) F AX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-863-0 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 〈訂正のお知らせ〉  2021年10月号「特集」(15ページ)において、「『胸部X線検査』を追加した」と記載しておりましたが、正しくは「『胃部X線検査』を追加した」となります。訂正してお詫び申し上げます。 【P60-63】 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 第4回 株式会社浅野製版所(東京都中央区) 慢性化していた長時間労働を改善し、創意工夫で健康を意識づけ  生涯現役時代を迎え、企業には社員が安心して長く働ける制度・環境の整備が求められていますが、生涯現役の視点で考えると、「社員の健康をつくる」ことは大切な要素です。  そこで本企画では、社員の健康づくりに取り組む先進企業の事例をご紹介します。 全社員面談で得られた声を働き方改革に活かす  広告製版や販促ツールのデザイン・印刷などを手がける株式会社浅野製版所(従業員42人※)は、1937(昭和12)年創業の老舗企業。社員の健康に配慮した取組みが評価され、経済産業省の「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に2017(平成29)年から5年連続で認定され、2021(令和3)年には、そのなかでも上位法人に付加される冠として新設された「ブライト500」に選ばれた。  そんな同社も、かつては過重労働で退職者が多かったという。健康への取組みを推進してきた経営企画部課長の新佐(しんさ)絵吏(えり)さんは、当時の状況について「広告業界や大手企業の下請けという特性に加えて、80年近い歴史のなかで根づいた慣習もあり、長時間労働があたり前の状況でした。ミスをすると命取りになるため、精神的な負担も大きく、現場は疲弊し、辞めていく社員が後を絶ちませんでした」とふり返る。  こうした状況を改善しようと、同社は2015年に働き方改革に取り組み始めた。当初は大手企業にならい、残業時間の削減や有給休暇の取得促進などに取り組んだものの、施策先行で取り組んだため、かぎられた人員に負担が生じ、さらに退職者が増える事態に。残された社員がこれにより疲弊するなど、目的と裏腹の結果を招くこととなった。  新たな採用がむずかしいなか、「労働力人口が減少し、このままでは会社を存続することがむずかしくなる」と懸念した同社は、働き方の抜本的な見直しに着手。業務の無駄をなくしてIT化を進め、短時間で成果を上げることが評価される制度に改めるとともに、営業と制作がより連携できる組織体制に改めた。  これらの取組みの起点となっているのが、2014年から毎年行っている「全社員面談」である。新佐さんが社員一人ひとりから話を聞くことで、社内の状況や問題がいち早くわかり、その後の迅速な対応につながっているという。 フィットネスや健康食ガチャなどユニークな活動で健康をサポート  「事業を継続していくためには、社員が健康で働き続けられることが最も大事」と考える同社が、働き方改革の次のステップとして取り組み始めたのが、社員の健康づくりのサポートだ。以下に、同社の特徴的な取組みを紹介する。 ・「ASANOフィットネス」  社員の運動不足対策として、毎週水曜日の就業時間内に15分程度の時間を取り、社員が集まって体操をする。当初は会議室などで実施していたが、コロナ禍になってからはウェブ会議システムを利用しオンラインで実施している。体操は動画を見ながら行い、その動画は社員有志によって制作されている。2回参加すると、全国の自動販売機で利用できるドリンクチケットがもらえる。在宅勤務の社員が増えるなか、運動不足の解消に加え、社員同士でコミュニケーションを取るよい機会にもなっている。 ・「あさの健康食ガチャ」  週に一度、全社員が集まる朝礼時に、ミニカフェスタイルの朝食を提供していた。しかし、コロナ禍で朝礼がオンライン化されるとともに、リスクの面から、出社した社員にパンや野菜などを提供することも困難になった。さらに、出社した社員から「あまり外出したくない」という声が上がったことから、社内に健康食品の自動販売機を置くことを検討。しかし、設置場所などの問題もあり、代わりにガチャガチャを設置して健康に配慮した間食を提供するようにした。中身はナッツ、プルーン、カカオ70%のチョコレート、ウズラの卵などで、経営企画部で購入してカプセルに詰めている。200円相当の内容を社員は100円で購入できる。ハンバーガーチェーンの優待チケットやクオカードなどの当たり≠ェ入っていることもある。毎日購入する社員もおり、評判は上々だという。 ・健康啓発ポスター  社内には、社員の健康意識を高めるためのポスターが掲示されている。スマートフォンのARアプリをポスターにかざすと、日替わりで健康に関する豆知識が表示されるほか、「当たり」が出た場合は「あさの健康食ガチャ」の食品がもらえる。このポスターやARの仕組みも社内の有志によって制作されている。ポスターと同じ仕様のカードも社員に配布されており、出社しなくても見られるようになっている。  「体操やイラストなど、社員が特技を活かして喜んで手伝ってくれますし、健康情報についても、みんなで調べて持ち寄ってくれます。こうして若手が作成したものに対して、ベテラン社員も楽しんで参加してくれます。このように、会社が一方的に発信するだけではなく、社員にもかかわってもらうことで、健康への意識はより高まると考えています」と新佐さんは話す。 ・健康食品の抽選会  毎年、新年会や新入社員歓迎会としてホテルでパーティを開催してきたが、コロナ禍で開催できなくなった。その代わりに、健康食品が当たる抽選会を始めた。同社では毎年社員に経営者のメッセージが印刷された「サンクスカード」が配布されている。各カードには異なる番号が記載されており、経営者が番号を引いて当たった社員が賞品をもらえる仕組みだ。はずれはなく、500円から4000円までのいずれかの賞品がもらえる。最も高価な賞品は産地直送野菜のセット。コロナ禍で従来の施策ができなくなるなかで、健康に絡めた施策に変更している。 業務の無駄をなくすことで健康づくりに取り組めるように  働き方改革や健康経営といった一連の取組みにより、一人あたりの月平均残業時間は2013年の37時間、2016年の27時間を経て、現在は6・5時間まで減少、45時間を超える社員は一人もいなくなった。退職者の数も、かつては少なくとも年に4〜5人いたが、この2年、長時間労働など社内の問題を理由とした退職者は出ていない。新佐さんは、「働きやすくなった」という声だけでなく、「この会社でずっと働きたい」と考えている社員が多くなったことを実感していると話す。また、健康経営で注目されるようになったことで、採用については常に紹介や問合せがある状況で、採用のコストはほとんどかからなくなったという。  大企業に比べて資源のかぎられる中小企業は、健康づくりにマンパワーやコストをかけることがむずかしい。同社が健康づくりに取り組めた理由は、その前段として「無駄をなくす」取組みをしたからだと新佐さんは語る。  「全社的に仕事の無駄をなくすことによって、健康に関する取組みを考えたり実施したりする余裕ができました。もし、過重労働の状況で働き方を変えないまま、いきなり健康づくりに取り組んでも、社員には受け入れられなかったでしょう。最近では、健康への取組みが社内に浸透したことで、社員からも健康に関する情報がいろいろと寄せられるようになりました。よさそうなアイデアであれば、とりあえずやってみるという、老舗でありながらベンチャーのような姿勢で取り組んでいます」。  コスト面でも、福利厚生の一環として取り組んでいるため、健康づくりのために新たなコストはかかっていないという。  同社は現在、社員が育児や介護が必要になっても働き続けられるよう、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化で状況や場所を問わずに働ける環境づくりを推進している。  今後の課題については「高齢化への対応です。退職者が減少したことで、社員の平均年齢は2012年当時の31歳から39歳に上がりました。なかには70歳を超える社員もいます。一人でも多くの社員がいつまでも元気で働き続けられるように、これからも新しいことにチャレンジしていきたいと思います」と語ってくれた。 ※ 2021年9月現在 写真のキャプション 経営企画部課長の新佐絵吏さん あさの健康食ガチャ ASANOフィットネスに2回参加するともらえるドリンクチケット。裏面には飲料メーカーが提供するアプリで使用できるQRコードが記載されている 有志の社員によって作成された健康啓発ポスターと使用している様子 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  私たちは何かを判断するとき、いつもの見方、考え方を使っています。いつもの出来事への対処はそれで十分で速いのですが、その見方では行きづまるとき、それまでの考え方の「フレーム」を変え、「リフレーミング」する必要があります。今日はその基礎訓練です。 第53回 立体図問題 立体図を「真上」、「正面」、「側面」の方向から見た場合、それぞれどの形になるでしょう。A〜Fのシルエットから選んでください。 目標3分 真上 正面 側面 A B C D E F 真上 正面 側面 洞察力アップのメカニズム  洞察力とは、目の前にあるものをそのまま見るだけでなく、物事を多角的な側面から見ようとする力です。この能力は、脳の頭頂連合野や側頭頭頂接合部、そして前頭前野がになっています。  例えば、優れたサッカー選手は目の前のボールを見るのと同時に、まるでスタジアムの天井に取りつけたカメラで見るかのように、ゲーム全体を俯瞰(ふかん)しているといわれます。  このような洞察力があると、自分の動きも客観的に判断でき、ものごとをスムーズに進めることができます。  この能力は、広い空間の出来事だけでなく、「目の前の積み木を真上から見たらどのような形に見えるのか」などといった問題を読み解く際にも発揮されます。  洞察力は訓練次第で発達させることができ、今回の脳トレ問題に挑戦する以外にも、毎日のトレーニングは可能です。  花を生ける際に正面からだけでなく、真上から見てもきれいに見えるように考えてみたり、散歩中に正面から来る人の職業を想像したりというように、「違う視点」を意識してみてください。 【問題の答え】 真上=C 正面=A 側面=B 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年11月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 生産性向上人材育成支援センターでは、70歳までの就業機会の確保に向けた従業員教育を支援しています!  人手不足の深刻化や技術革新が進展するなか、中小企業等が事業展開を図るためには、従業員を育成し、企業の労働生産性を高めていくことに加えて、70歳までの就業機会の確保に向けて企業を支えるミドルシニア世代の役割の変化へ対応できる能力や技能・ノウハウを継承する能力を育成することが重要です。  生産性向上人材育成支援センターでは、生産性向上支援訓練のメニューの一つとして、中高年齢層の従業員の“生涯キャリア形成”を支援するためのミドルシニアコースを実施しています。 役割の変化に対応したコース ●後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割 ●中堅・ベテラン従業員のためのキャリア形成 ●チーム力の強化と中堅・ベテラン従業員の役割 ●フォロワーシップによる組織力の向上 など 技能・ノウハウ継承に向けたコース ●効果的なOJT を実施するための指導法 ●作業手順の作成によるノウハウの継承 ●職業能力の体系化と人材育成の進め方 ●後輩に気づきを与える安全衛生活動(点検編) など 《ミドルシニアコースの概要》 受講対象者:45歳以上の従業員の方(所属する企業から受講指示を受けた方にかぎります) 受講料:3,300円〜6,600円(1人あたり・税込) 訓練会場:受講対象者の所属する企業の会議室等を訓練会場とすることが可能です(講師を派遣します) 訓練日数:概ね1〜5日(6〜30時間) 《訓練受講までの流れ》 課題や方策の整理 センター担当者が企業を訪問し、人材育成に関する課題や方策を整理します 訓練コースのコーディネート 相談内容をふまえて、課題やニーズに応じた訓練コースを提案します 訓練受講 所定の期日までに受講料の支払い等の手続きを行い、訓練を受講してください ※予算にかぎりがありますので、ご希望に添えない場合があります ※相談内容によっては、他の企業に所属する従業員の方と合同で訓練を受講するコースのご利用を提案させていただく場合があります 〜生産性向上支援訓練は当機構ホームページよりご確認ができます〜 https://www.jeed.go.jp/js/jigyonushi/d-2.html 詳しくは各都道府県の生産性向上人材育成支援センターまでお問い合わせください 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 生産性向上支援訓練紹介ページへ 2021 11 令和3年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第11号通巻504号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会