【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.79 高齢期も元気に働き続けるために40代からの予防を心がけよう 東京慈恵会医科大学附属病院 副院長 安保雅博さん あぼ・まさひろ 東京慈恵会医科大学附属病院副院長、同大学リハビリテーション医学講座主任教授、日本リハビリテーション医学会副理事長などを務める、リハビリテーション治療のパイオニア。『家でも外でも転ばない体を2ヵ月でつくる!』(共著・すばる舎)など著書多数。治療・研究のかたわら、高齢者に「寝たきり予防法」などを伝える出前講座なども行っている。  「生涯現役時代」を迎え、就業期間の長期化が見込まれるなか、より長く活き活きと働いていくためには「健康」が第一です。しかし、加齢による身体機能の低下は避けて通れません。そこで重要になるのが、高齢期だけではなく、若いころからの健康管理です。今回は、医師であり高齢期の健康をテーマとした書籍も多数執筆している安保雅博さんに、生涯現役で働くための健康管理について、お話をうかがいました。 病気には、自ら予防することで「防げる危険因子」がある ―改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、加齢による身体機能の低下をふまえた労働安全衛生対策が職場で求められています。留意すべき疾患について教えてください。 安保 私が医師になったころのリハビリ分野では、加齢にともなう疾患としては骨関節の疾患が多かったのですが、いまでは脳卒中がもっとも多くなっています。脳卒中とは一言でいえば「脳の血管が切れたり詰まったりする病気」です。2000(平成12)年の脳卒中の発症者は約24万人でしたが、2025年には約33万人になると予測されており、2人に1人が脳卒中になるといわれています。脳卒中は脳の血管の病気ですが、実は認知症も脳血管性のものが多いのです。認知症というとアルツハイマー型認知症を想像する人も多いと思いますが、脳血管性認知症はその次に多くなっています。  病気はどれもそうですが、脳卒中にはなりやすくなる危険因子があり、「絶対に防げない危険因子」と「防げる危険因子」の二つがあります。防げない因子は年齢、性別、家族歴などです。年齢では55歳以上で10歳ごとにリスクは2倍になり、高齢になるほど脳卒中になりやすくなります。性別では女性より男性がなりやすく、家族に脳卒中の人がいるとリスクも高まります。重要なのが「防げる危険因子」です。具体的には高血圧、糖尿病、高脂血症などの成人病、肥満、喫煙、過度の飲酒などがあげられます。したがって、脳卒中にならないためには、塩分の高い食べものを控えるなど食生活に気をつけること、タバコは吸わないほうがよいし、お酒も飲み過ぎないようにすることです。自分でできることは自分で予防することが何よりも大切です。 ―高齢期も健康に働き続けるためには、若いころから気をつけて予防しないといけないということですね。 安保 その通りです。「自分はまだ若いから」と安心してはいけません。人の身体機能は30歳をピークに衰退します。徐々に筋力や骨密度が落ち、体の柔軟性がなくなり、体力は落ちていきます。日々の仕事に対する処理能力や対応能力は慣れて向上しているように見えても、実際は知的活動のスピードも落ちていきます。大事なのは「筋力、体力は落ちていく」ことを早い時期から認識することです。私は58歳ですが、何かスポーツでもやろうと思っても体が硬くてできません。ゴルフは好きなのでたまにやりますが、遠くに飛ばそうと思っても飛びませんし、高いクラブを買っても結局、飛びません。  40代、50代は仕事が忙しい時期ですが、仕事に集中する一方で、身体の衰えを自覚し、予防することを心がけてほしいというのが、私がもっとも伝えたいメッセージです。何もしないで単に適応能力だけに頼っていると徐々に体力が落ちて、ある日、パンクしてしまうことになりかねません。 ―若いころから心がける予防策とは、どのようなことでしょうか。 安保 私たちは医師なので、脳出血や脳梗塞など病名がついている患者さんの健康管理はある程度できますが、何も症状がない人は予防医学の世界になります。予防医学をうまく行うために大事なのは「検診」、「食事」、「運動」の三つしかありません。定期検診では胸部のレントゲンや胃の検査と血液採取ぐらいですが、それ以外の検診も少し心がけたほうがよいでしょう。私は43歳のとき教授になりましたが、先輩の医師から先が長いから検査をしようといわれ、胃と腸の内視鏡検査を行いました。当時の私は便通もよいし血便も出たことはなく、すごく元気だったので、そこまでやらなくてもよいのではと思っていましたが、ポリープが8個も見つかりました。  一つは1センチ台の大きさで入院して摘出しましたが、家族も驚いていました。原因として私の場合は食生活などの環境もあると思い、食生活に気をつけるようになり、その後数年間は毎年検査を受けました。やはり予防が大事なのです。女性も年を取ると圧迫骨折によって腰が曲がってくることがよくありますが、痛みが生じないこともあります。しかし放っておくとドミノ倒しのように全部骨折していくのです。そうなってからでは遅いので、その前に骨密度を検査するなど、いずれにしても40歳を過ぎたら予防的なことを心がけてほしいと思います。 40歳以降は「検診」、「食事」、「運動」で予防≠意識し生活習慣の見直しを ―予防の取組みとして、どんなことから始めるのがよいでしょうか。 安保 一番お金がかからない予防法が運動です。ウォーキングやラジオ体操がおすすめですね。年を取ると背筋の力や股の力、バランス力が弱くなるのでウォーキングは最適です。ダラダラ歩くのではなく、歩幅をいつもより3センチ程度広げ、少し手を振り気味に歩くと、普通の距離を歩いた倍以上の効果があります。基本的にはじわっと汗をかくぐらいの運動がとてもよいのです。また、年を取ると前屈みになってきますが、そうなると筋力も落ちているので方向転換ができにくくなり、転倒の原因になります。その防止のためには、体幹を鍛える運動が大事で、少し捻(ひね)りの運動を加えたラジオ体操がとてもよいのです。できれば2日に1回、週3回ぐらいやる習慣をつけたほうがよいでしょう。運動をするとインスリンが分泌されるのですが、肝臓や筋肉などへのインスリン効果を示すインスリン感受性は、運動後の24時間程度しか持たないことが動物実験でわかっています。ですから、習慣化することが大切なのです。 ―高齢者に多い労働災害が、転倒災害です。先生の近著に『家でも外でも転ばない体を2ヵ月でつくる!』(共著・すばる舎)がありますが、転倒予防について教えてください。 安保 転倒をゼロにすることは絶対に不可能です。私もたまにつまずきますし、だれもが1年に1回程度は転倒しているのではないでしょうか。年を取ると腕を骨折する人、股関節を骨折する人がいますが、腕を骨折するのは転倒してとっさに手が出るからです。バランスを崩して腰から地面に倒れ、骨がもろいと股関節を骨折します。大事なことは転倒しても「骨折しない」ことです。したがって転倒することを前提に考えた対策としては、バランス能力と筋力を鍛えることと、家の環境を安全にすることです。実は外出中より屋内での転倒が多いのです。足元が暗いとか、ちょっとした段差や障害物につまずいて転んでしまいます。フローリングで滑って転ぶこともあります。防ぐにはつまずく可能性のあるものを排除すること。スリッパは引っかかりやすいので素足のほうがよいでしょう。  高齢者が転倒しやすいのは体が棒のように硬くなり、体を捻れば転倒を防げるのに捻れなくなっているからです。バランス能力を鍛えるにはさまざまな方法があります。私の本では「片足立ち」や「つま先立ち」練習、立った姿勢で後ろを振り返る方法などを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。 障害が残っても働けるように病院と職場が連携して就労支援を ―高齢になっても働き続けるには健康が第一です。企業が取り組むべき課題は何でしょうか。 安保 高齢になっても働くことは健康維持につながりますし、国も社会経済の観点から高齢者の就労を推進しています。一方で、高齢の就業者が増えると病気やけがなどを原因とする何らかの障害のある人が増えてきます。私は脳卒中の人を診ていますが、一人ひとり後遺症が異なり、右手は使えるが左手が使えないなど、人によってできること、できないことが発生します。私たちが医師として治療しても、就労先から「これができないと困る、あれができないと困る」といわれ、就労につながらないという現実もあります。そうなると障害のある人を会社に復帰させること自体がむずかしくなります。そこで私たちが現在検討している就労支援の仕組みが、病院施設内の業務に実際に従事してもらい、その人が具体的にできる業務を明確にして、企業に橋渡しをするというものです。施設内には清掃、ベッドメイキング、配送・配達、会議室設営、簡易手作業などさまざまな業務がありますし、職業能力を向上させることも可能です。あるいは企業側のニーズを聞いて、大学病院の訓練士が現場でジョブコーチとして訓練することもできます。 ―70歳まで働くとなると、就労支援の仕組みは今後ますます必要となる重要な機能ですね。 安保 例えば企業から何らかの病気や障害のある人を紹介してもらい、私たちが評価・訓練を実施し、「こういう仕事ならできますよ」と提案し、再び就業するという循環モデルをつくることもできます。私たちと一緒に協力・連携したいという企業があれば、ぜひ声をかけていただきたい。高齢者が活き活きと働ける職場を一緒につくっていきたいと考えています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2021 December 特集 6 役職定年制のメリット・デメリット 7 総論 役職定年制の機能とキャリア・シフト・チェンジ 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 13 解説@ 役職定年制の導入・廃止と評価・処遇制度 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介 17 解説A 法律視点でみる役職定年制 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 21 事例@ 前澤工業株式会社(埼玉県川口市) 定年延長にあわせて 役職定年制の見直しを実施 25 事例A 広島電鉄株式会社(広島県広島市) 定年延長と同時に60歳役職定年制を導入 経験が活かせる場所で「シニア社員」が力を発揮 29 事例B 川崎重工業株式会社(兵庫県神戸市) 幹部職員の定年を65歳に延長 役職定年制は撤廃するも任期制は維持 33 事例C 広島市信用組合(広島県広島市) 経験豊富なベテランの意欲を維持し 能力を活用するため役職定年制を廃止 1 リーダーズトーク No.79 東京慈恵会医科大学附属病院 副院長 安保雅博さん 高齢期も元気に働き続けるために40代からの予防を心がけよう 37 日本史にみる長寿食 vol.338 そばを食べて不老長寿 永山久夫 38 江戸から東京へ 第109回 折り焚く落葉に涙 新井白石 作家 童門冬二 40 高齢者の職場探訪 北から、南から 第114回 長野県 有限会社わが家 44 高齢社員のための安全職場づくり〔最終回〕 企業の取組み事例と今後に向けて 高木元也 48 知っておきたい労働法Q&A《第43回》 降格後の地位における合理的期待、職務専念義務に違反するメール送信と懲戒 家永 勲 52 新連載 退職者への作法 【第1回】退職時の手続きはテキパキ行う 川越雄一 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第19回 「就業規則」吉岡利之 56 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 目ざせ生涯現役!健康づくり企業に注目! 【第5回】伊藤超短波株式会社(埼玉県川口市) 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第54回]虫食い計算 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 役職定年制のメリット・デメリット  高齢者雇用を考えていくうえで重要な要素の一つが「役職定年制」。その制度内容や運用方法は企業によりさまざまですが、近年、高齢人材の活用方針により、役職定年制を“導入”あるいは“改定”する企業がある一方で、“廃止”する企業もあるなど、180度異なる取組みが見られます。  今回は、この「役職定年制」のもつ意味についてあらためて考えるとともに、人材の活用方針により制度を見直す際のポイントや、実際に制度の見直しを行った企業の事例をご紹介します。「導入」と「廃止」。どちらを選択することが、読者のみなさまの会社に合っているか、考えるヒントにしてください。 【P7-12】 総論 役職定年制の機能とキャリア・シフト・チェンジ 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 @はじめに―「役職定年制」の機能とは―  「役職定年制」とは一定年齢に達したときに役割を解く制度や仕組みであり、似たような制度として、「役職の任期制」がある。この制度は管理職の役職を一定期間で改選することを前提にこの期間の業績を厳しく管理し、任期末に管理職としての適・不適を審査し、再任、昇進、降職、ほかのポストへの異動などを行う役職への就任年数を限定する制度である。  役職定年制の特徴は役職段階別に管理職がラインから外れて専門職などで処遇される制度であり、大手企業では、概ね1980年代から行われた55歳定年制から60歳定年制への移行に際して、主に組織の新陳代謝・活性化の維持(次世代育成のため)、人件費の増加の抑制などのねらいで導入されたケースと、1990年代以降に社員構成の高齢化にともなうポスト不足の解消などのねらいから導入されたケースが多いとされている。この制度が導入された社会的な背景は大きく二つある。一つは、大量雇用層の管理職登用のためのポスト用意の側面である。いざなぎ景気※時に大量採用された世代と、それに続く団塊の世代が管理職適齢期を迎えるにあたり、彼らのためにポストを用意しておかなければ企業としてもこの世代を処遇しきれなかったためである。もう一つは、当時は、概ね、処遇がポストによって決まっていた点があげられる。ポストに就かなければ処遇は上がらないため、ポストの循環をよくして次世代の人材を処遇するために役職定年制が導入されたケースが多いとされている。  別の観点から考えると、「役職定年制」・「役職の任期制」(二つの仕組みはほぼ同じような仕組みであるため以下では、「役職定年制」と略す)はキャリアの成功者であり、キャリアに強くこだわってきた部長や次・課長などの経験者を対象に強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる制度である。これまでに、企業で導入されている多くの「役職定年制」は60歳定年をベースとして、50歳代後半以降に就いていた役職を降りるような制度設計がされており、役職を降りた後の就労期間は短く設定されている。そのため、役職を降りた後のキャリアや働く意欲・会社に尽くそうとする意欲を考慮せずに、制度設計が行われている可能性が高いと考えられる。しかしながら、今後は、高年齢者雇用安定法改正にともない就業期間の長期化(70歳までの就労)が進展していくなかで、役職を降りた後の就労期間が長くなる可能性が高い。そのため、役職を降りた従業員のキャリアや働く意欲(仕事への意欲)・会社に尽くそうとする意欲に配慮した制度に再構築していく必要に迫られている。  では、実際、どのような企業で役職定年制は導入されているのか、導入されている企業ではどのように運用され、そして、どのように評価され、さらに、どのような課題があるのかについて、著者が参加した(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題―「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果―(資料シリーズ1)』を活用しながら、紹介する。それをふまえて、「役職定年制」が制度対象者の仕事への意欲・会社に尽くそうとする意欲を下げないように機能するために、今後、どのような制度設計を行っていく必要があるのかを提案する。 A役職定年制の導入状況とその仕組み (1)役職定年制の導入状況  「役職定年制」を「導入している」企業は28.1%、「導入が検討されている」企業が9.8%、「検討も導入もされていない」企業が61.4%となっている(図表1)。どのような企業が役職定年制を導入しているのかについてみると、第1に、定年制と関係が見られ、60歳時点を契機として、期待する役割が現役時代(59歳以下)と変わる「定年64歳以下、かつ継続雇用65歳まで」の企業ほど、役職定年制を「導入している」企業が多くなっている。次世代の人材育成のために「役職定年制」が導入されていると推測できる。第2に、従業員規模とも関係が見られ、従業員規模が大きい企業ほど、役職定年制が導入されている。それは従業員規模が大きい企業ほど、「定年64歳以下、かつ継続雇用65歳まで」の定年制を採用している企業が多いからである。第3に、「人材育成(キャリア開発)責任主体」の方針と関係が見られ、会社主導型のキャリア開発を採用している企業ほど、「役職定年制」を導入している企業が多くなっている。会社主導型のキャリア開発を推進していくためには、キャリアの成功者であり、キャリアに強くこだわってきた部長や次・課長などの経験者を対象に強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる役職定年制が欠かすことができない仕組みの一つであることがわかる。 (2)役職定年制の仕組み―適用対象者の対象年齢の設定方法と適用対象者の役職位―  役職定年制を導入している企業に関して、適用対象者の対象年齢の設定方法についてみると、「役職・資格等に関係なく一律に設定している」企業は71.5%、「役職・資格ごとに設定している」企業は26.8%である。なお、「役職・資格等に関係なく一律に設定している」企業の対象年齢は平均すると57.8歳になる。こうした適用対象者の対象年齢の設定方法は従業員規模と関係が見られ、従業員規模が小さい企業ほど、「役職・資格等に関係なく一律に設定している」企業が多くなっている(図表2)。  適用対象者の役職位は「役員クラス」が15.3%、「部長(事業部長を含む)クラス」が93.3%、「次長クラス」が52.0%、「課長クラス」が95.8%、「係長クラス」が43.6%、「主任クラス」が36.7%、「現場監督者クラス」が21.6%であり、「部長(事業部長を含む)クラス」と「課長クラス」が適用対象者である企業が多くなっている。ちなみに、「部長(事業部長を含む)クラス」における対象年齢は平均すると58.1歳、「課長クラス」における対象年齢は平均すると57.2歳であり、対象年齢はほぼ同じである。こうした適用対象者の役職位は従業員規模と関係が見られ、従業員規模が大きい企業ほど、「次長クラス」および「現場監督者クラス」、これに対して、従業員規模が小さい企業ほど、「役員クラス」、を役職定年制の適用対象者としている企業が多くなっている。また、「部長(事業部長を含む)クラス」および「課長クラス」に関しては、従業員規模に関係なく、適用対象者としている。 (3)役職定年制の仕組み―役職を降りた後の主な処遇・主な仕事・役割および役職を降りた者に対しての面談の有無―  役職を降りた後の主な処遇は「部長(事業部長を含む)クラス」および「課長クラス」ともに「定年まで在勤」が8割強を占めている。同様に、役職を降りた後の職場は役職に就いていた職場と「同じである」が「部長(事業部長を含む)クラス」および「課長クラス」ともに7割強を占めている。  役職を降りた後の主な仕事・役割は「部長(事業部長を含む)クラス」では、「後進への技術・技能の伝承」が47.2%で最も多く、次いで、「通常業務の遂行」(24.8%)がこれに続いている。同様に、「課長クラス」では、「後進への技術・技能の伝承」が44.5%で最も多く、次いで、「通常業務の遂行」(33.3%)がこれに続いている。役職を降りた者に対して、面談を「行っている」企業は52.2%、「行っていない」企業は44.3%であり、約4割の企業は役職を降りた者(キャリアの節目を経験した者)に対して、直接的な支援を行っていない。 B役職定年制の評価と課題 (1)役職を降りた後の「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」の変化  部長(事業部長を含む)クラスについて、役職を降りた後の「仕事に対する意欲」についてみると、意欲が「下がった」は46.9%で最も多く、「変わらない」は38.5%、「上がった」は0.4%で1%にも満たない。他方、「会社に尽くそうとする意欲」は「下がった」は41.6%、「変わらない」は43.2%、「上がった」は0.4%であり、「仕事に対する意欲」と比較すれば、「下がった」が少なくなっている(図表3)。なお、課長クラスについても部長クラスとほぼ同じ評価である。  どのような企業が役職を降りた後の「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」が変化したと考えているのかについてみると、第1に、従業員規模と関係が見られ、「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」に共通して、従業員規模が大きな企業ほど、意欲が下がったと考えている企業が多くなっている。第2に、45歳以上の管理職が「60歳以降の職業生活の設計」を自分自身でどの程度考えているのかという評価別にみると、「60歳以降の職業生活の設計」を自分自身で考えていないと評価している企業ほど、「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」に共通して、「部長(事業部長を含む)クラス」で意欲が下がったと考えている企業が多くなっている。つまり、「60歳以降の職業生活の設計」を自分自身で考えている管理職ほど、強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる役職定年制の役割を理解しているため、役職を降りた後の「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」が下がらないと考えている。第3に、役職を降りた者に対する面談の実施状況別とも関係が見られ、面談を実施していない企業ほど、「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」に共通して、「部長(事業部長を含む)クラス」で意欲が下がったと考えている企業が多くなっている。役職を降りた者に対する面談を実施することにより、役職を降りた後の「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」の低下を抑えることができることがわかる。  「役職定年制」で就いていた役職を降りる経験がある50歳代の従業員を対象にしたアンケート調査の結果(詳細の分析結果については(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成30年度)』)と比較すると、経験者が役職を降りた後の「仕事に対する意欲」が「下がった」が59.2%、「変わらない」が35.4%、「上がった」が5.4%であり、6割弱の経験者が仕事に対する意欲が下がっており、会社側の考えよりも「仕事に対する意欲」が「下がった」者が多くなっている。さらに、「会社に尽くそうとする意欲」の変化からもみると、会社に尽くそうとする意欲が「下がった」が59.2%、「変わらない」が35.4%、「上がった」が5.4%であり、「仕事に対する意欲」と同様に、6割弱の経験者が会社に尽くそうとする意欲が下がっており、会社と経験者の認識の差は大きく、会社側の認識が甘いことがうかがわれる。また、経験者調査からは、就いていた役職が高い経験者ほど、あるいは、役職を降りた後の主な仕事・役割が「社員の補助・応援」を行っている経験者ほど、「会社に尽くそうとする意欲」が下がっている者が多くなっていることが明らかになっている。 (2)役職定年制の「60歳以降の職業生活(キャリア)」を考える際の役立ち度  役職定年制が「60歳以降の職業生活(キャリア)」を考えるために、「役に立っている」は55.8%、「役に立っていない」は40.6%であり、役職定年制が「60歳以降の職業生活(キャリア)」を考えるに際して、役に立っていると考えている企業が多くなっている(図表4)。どのような企業が「役職定年制が60歳以降の職業生活(キャリア)」を考える際に役に立っているのかについてみると、第1に、個人別育成計画作成への取組み状況との関係が見られ、取り組んでいる企業ほど、役職定年制が役に立っていると考えている企業が多くなっている。第2に、45歳以上の正社員に対する「60歳以降の職業生活の相談やアドバイス」の実施状況とも関係が見られ、「60歳以降の職業生活の相談やアドバイス」ができている企業ほど、役職定年制が役に立っていると考えている企業が多くなっている。役職定年制を活用して、今後の職業生活(キャリア)を考えてもらうためには、個人別育成計画作成への取組みや「60歳以降の職業生活の相談やアドバイス」の取組みをあわせて行うことにより、より一層の効果が上がることがわかる。第3に、役職を降りた者に対する面談の実施状況別とも関係が見られ、面談を実施している企業ほど、役に立っていると考えている企業が多くなっている。役職を降りた者に対する面談が今後の職業生活(キャリア)を考えてもらう機会として機能していることがうかがわれる。  経験者にとって、「役職定年制」の経験は今後(役職離脱後)の職業生活(キャリア)を考えるために、どの程度役に立ったのであろうか。先に紹介した50歳代の従業員を対象にしたアンケート調査結果によると、「役に立った」は38.0%、「役に立たなかった」は62.0%であり、否定的な回答が多く、今後のキャリアを考えるのに役立つと答えたのは、4割弱に留まっている。役職離脱は、大きな節目とは感じず、意識の切り替えのきっかけにはなっていないようであり、会社と経験者の認識の差は大きく、会社側の認識が甘いことがうかがわれる。ただし、これまでに、職業生活(キャリア)の相談やアドバイスを受けることができた経験者ほど、勤務先が職業生活(キャリア)の希望を把握していると考えている経験者ほど、役職定年制の経験が、今後(役職離脱後)の職業生活(キャリア)を考えるために、役に立ったと考える者が多くなっており、こうした点については、会社と経験者の考えは一致している。 Cおわりに―「役職定年制」の制度設計に必要なことは―  高年齢者雇用安定法改正にともない就業期間の長期化(70歳までの就労)が進展していくなかで、定年(60歳)はこれまでのように職業人生の終着点ではなく、新たな職業人生の出発点もしくは職業人生の一つの通過点へと変化しており、59歳以下の正社員(「現役正社員」)にとっては強制的にキャリアをシフト・チェンジする機会と位置づけることもできるようになってきている。高齢期に向けてのキャリア・シフト・チェンジは従業員一人の力だけではできるものではなく、会社や職場の上司からのサポートも重要であるが、最終的には、「定年制」に代表される組織として強制的にキャリアをシフト・チェンジする仕組みも重要になってくると考えられる。しかしながら、効果的に従業員のキャリアをシフト・チェンジさせるためには、定年前に「キャリアを巡って、企業と従業員のニーズを調整する仕組み」を整備することが必要不可欠であり、こうした「調整する仕組み」を整備せずに、強制的にキャリアをシフト・チェンジすると、従業員の働く意欲・会社に尽くそうとする意欲の低下を招く危険性もともなっている。同様なことは、キャリアの成功者であり、キャリアに強くこだわってきた部長や次・課長などの経験者を対象に強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる「役職定年制」にもあてはまる。  企業が「役職定年制」を用いて、効果的に従業員のキャリアをシフト・チェンジさせるためには、「キャリアを巡って、企業と従業員のニーズを調整する(「マッチング」)仕組み」を整備することが必要不可欠である。そのためには、第1に、企業は従業員の職業生活(キャリア)の希望を把握することが大切であり、把握する仕組みとして不可欠なのが自己申告制度である。「役職定年制」を効果的に運用するためには企業と従業員の「ニーズを調整する(「マッチング」)仕組み」を基盤とした自己申告制の整備・拡充が求められる。  さらに、第2に、ニーズを調整する(「マッチング」)仕組みにはニーズに適合する準備に向けた支援も含まれる。特に、企業よりも情報の非対称性が強い従業員への支援が重要になってくるので、従業員の職業生活(キャリア)の相談やアドバイスが重要になってくる。加えて、従業員が自分自身の職業生活(キャリア)について考える機会としてのキャリア開発研修が必要不可欠である。  こうした「調整する仕組み」を整備せずに、強制的にキャリアをシフト・チェンジすると、「役職定年制」の経験を大きな節目とは感じず、意識の切り替えのきっかけにならず、その結果、働く意欲・会社に尽くそうとする意欲の低下を招くことにつながると考えられる。 ※ いざなぎ景気……1965年11月〜1970年7月にかけて57カ月間続いた好景気のこと 〔参考資料〕 ●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016)  『高齢社員の人事管理と展望―生涯現役に向けた人事戦略と雇用管理の研究委員会報告書―(平成27年度)』 ●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)  『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成30年度)』) ●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)  『調整型キャリア形成の現状と課題―「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果―(資料シリーズ1)』 図表1 役職定年制の導入状況 (単位:%) 調査数 導入している 導入が検討されている 検討も導入もされていない 無回答 全体 3355 28.1 9.8 61.4 0.7 規模別 100人以下 380 20.3 9.7 68.2 1.8 101〜300人 2268 27.2 9.5 62.7 0.6 301人以上 698 35.2 11.0 53.6 0.1 定年制別 65歳以上の定年 376 19.7 9.6 69.4 1.3 定年64歳以下、かつ継続雇用66歳以上 506 24.3 10.9 64.2 0.6 定年64歳以下、かつ継続雇用65歳まで 2420 30.5 9.7 59.3 0.5 人材育成責任主体の方針別 会社主導によるキャリア開発 330 31.8 10.0 57.9 0.3 どちらかといえば会社主導のキャリア開発に近い 1724 29.9 10.2 59.2 0.7 どちらかといえば自己責任によるキャリア開発に近い 1136 25.4 9.9 64.3 0.4 自己責任によるキャリア開発 150 19.3 4.0 75.3 1.3 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題』 図表2 役職定年制の仕組み:適用対象者の対象年齢の設定方法と適用対象者の役職位(複数回答) (単位:%) 対象年齢 調査数 適用対象者の対象年齢の設定状況 適用対象の役職・資格(複数回答) 調査企業の規模別比率 平均(歳) 標準偏差 役職・資格等に関係なく一律に設定している 役職・資格ごとに設定している 無回答 役員クラス 部長(事業部長を含む)クラス 次長クラス 課長クラス 係長クラス 主任クラス 現場監督者クラス 無回答 全体 100.0 57.84 3.07 944 71.5 26.8 1.7 15.3 93.3 52.0 95.8 43.6 36.7 21.6 1.3 規模別 100人以下 8.6 59.19 3.51 77 76.6 18.2 5.2 19.5 93.5 44.2 92.2 40.3 31.2 15.6 3.9 101〜300人 66.8 57.84 3.05 616 73.1 25.3 1.6 14.6 93.2 52.6 95.8 46.6 39.0 21.3 1.1 301人以上 24.1 57.38 2.81 246 66.3 32.9 0.8 15.4 93.5 53.3 97.2 37.4 32.9 24.4 0.8 (注)役職定年制を導入している企業の回答。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題』 図表3 役職を降りた後の「仕事に対する意欲」・「会社に尽くそうとする意欲」の変化―「部長(事業部長を含む)クラス」 (単位:%) 調査数 下がった 変わらない 上がった 部長クラスは対象でない 無回答 下がった ある程度下がった ある程度上がった 上がった 仕事に対する意欲 全体 944 46.9 7.3 39.6 38.5 0.2 0.2 0.4 4.9 9.3 規模別 100人以下 77 37.7 7.8 29.9 45.5 0.0 0.0 0.0 1.3 15.6 101〜300人 616 46.3 7.0 39.3 37.7 0.2 0.3 0.5 5.2 10.4 301人以上 246 50.8 8.1 42.7 38.6 0.4 0.0 0.4 5.3 4.9 「60歳以降の職業生活の設計」への意識程度 考えている 70 40.0 10.0 30.0 42.9 0.0 0.0 0.0 2.9 14.3 ある程度考えている 508 44.5 3.9 40.6 41.5 0.4 0.4 0.8 6.5 6.7 あまり考えていない 315 51.1 8.9 42.2 33.7 0.0 0.0 0.0 3.2 12.1 考えていない 46 54.3 28.3 26.1 32.6 0.0 0.0 0.0 2.2 10.9 役職を降りた者に対する面談の実施状況別 行っている 493 45.0 5.9 39.1 43.2 0.2 0.4 0.6 5.3 5.9 行っていない 418 52.6 9.6 43.1 35.9 0.2 0.0 0.2 4.8 6.5 会社に尽くそうとする意欲 全体 944 41.6 5.8 35.8 43.2 0.2 0.2 0.4 4.9 9.9 規模別 100人以下 77 33.8 7.8 26.0 46.8 0.0 0.0 0.0 1.3 18.2 101〜300人 616 41.4 5.2 36.2 41.9 0.3 0.3 0.6 5.2 10.9 301人以上 246 44.3 6.9 37.4 45.5 0.0 0.0 0.0 5.3 4.9 「60歳以降の職業生活の設計」への意識程度 考えている 70 35.7 8.6 27.1 42.9 1.4 0.0 1.4 2.9 17.1 ある程度考えている 508 37.8 3.1 34.6 48.0 0.2 0.4 0.6 6.5 7.1 あまり考えていない 315 47.0 7.0 40.0 37.5 0.0 0.0 0.0 3.2 12.4 考えていない 46 54.3 21.7 32.6 32.6 0.0 0.0 0.0 2.2 10.9 役職を降りた者に対する面談の実施状況別 行っている 493 40.4 4.9 35.5 46.9 0.4 0.4 0.8 5.3 6.7 行っていない 418 46.2 7.4 38.8 42.3 0.0 0.0 0.0 4.8 6.7 (注)役職定年制を導入している企業の回答。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題』 図表4 役職定年制の「60歳以降の職業生活(キャリア)」を考える際の役立ち度 (単位:%) 調査数 役に立っている 役に立っていない 無回答 役に立っている ある程度役に立っている あまり役に立っていない 役に立っていない 全体 944 55.8 5.6 50.2 33.6 7.0 40.6 3.6 規模別 100人以下 77 54.6 9.1 45.5 28.6 6.5 35.1 10.4 101〜300人 616 54.9 4.9 50.0 35.2 6.7 41.9 3.2 301人以上 246 57.7 6.1 51.6 31.7 8.1 39.8 2.4 個人別育成計画作成への取り組み状況別 取り組んでいる 134 67.2 12.7 54.5 23.9 4.5 28.4 4.5 ある程度取り組んでいる 358 60.3 4.5 55.9 31.8 3.9 35.8 3.9 あまり取り組んでいない 345 50.4 3.5 47.0 38.3 8.4 46.7 2.9 取り組んでいない 102 45.1 7.8 37.3 36.3 15.7 52.0 2.9 「60歳以降の職業生活の相談やアドバイス」の実施別 できている 13 76.9 23.1 53.8 23.1 0.0 23.1 0.0 ある程度できている 161 72.0 8.7 63.4 20.5 3.1 23.6 4.3 あまりできていない 366 57.9 4.6 53.3 33.1 4.6 37.7 4.4 できていない 397 46.9 4.5 42.3 39.5 11.1 50.6 2.5 役職を降りた者に対する面談の実施状況別 行っている 493 65.1 8.3 56.8 30.0 4.5 34.5 0.4 行っていない 418 48.8 2.9 45.9 40.2 10.3 50.5 0.7 (注)役職定年制を導入している企業の回答。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題』 【P13-16】 解説1 役職定年制の導入・廃止と評価・処遇制度 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介 @はじめに  そもそも、役職定年制導入/廃止の是非については、企業ごとの組織運営の実態に応じて、短期〜中長期の人員構成の変化などもふまえてその必要性が判断されるべきものですが、いずれの場合も、役職定年にかかわる高齢社員層の評価・処遇制度をどのように整備していくか、ということは共通した実務上の課題となります。  役職定年制を新たに導入する(あるいは維持する)場合には、組織の高齢化にともなう課題(ポスト不足やポストの固定化による組織の新陳代謝の遅れなど)に一定の対応ができるというメリットがある反面、役職定年を迎えた高齢社員のモチベーションダウンや、場合によってはそれらに起因した組織全体の不活性化というデメリットへの対応が強く求められます。「70歳雇用時代」の背景も相まって、今後、役職定年後から退職までの期間はより長くなることが想定されるため、この問題(デメリット)は企業にとってより重大かつ深刻なテーマとなっていくと考えられます。  反対に、役職定年制の廃止を選択する場合には、前述の「組織の高年齢化にともなう課題」に対してより根本的かつ長期的に向き合っていく必要が生じます。とりわけ、年功序列的な人事を基本にしてきた企業にとっては、「年齢」という便利なトリガーを用いた組織の強制的な若返り策を用いることができなくなるため、今後は「年齢」に影響されない社員の活用および評価・処遇制度を整備していくことが求められてくるでしょう。  このように、「役職定年制」に関しては、「導入(維持)/廃止」のいずれを選択する場合でも、組織運営を適切に行うにあたっての実務上の課題を多く含んでいます。そのなかで本稿では、各企業があらためて「役職定年制の導入(維持)/廃止の是非」について検討するにあたり、特に役職定年制に関連する「評価・処遇制度」の構築における実務の視点から、具体的な検討事項について解説を行います。 A役職定年制の導入と評価・処遇制度  役職定年制の導入においてもっとも問題となることは、役職定年を迎えた社員をどのように活用していくかということであり、各社共通で頭を悩ませているところです。  仮に雇用契約上の定年が60歳であるとして、一般的な役職定年の年齢が課長クラスで55歳、部長クラスで57〜58歳ですから、これまでは長くても役職定年後の5年間というかぎられた期間のなかで対象者のモチベーションを下げない形で活用(積極活用というよりは限定活用)できればよかったのですが、さらなる雇用延長の流れのなかで、役職定年後の雇用期間も延びていくため、対象者のモチベーションを維持しながら長く活躍してもらうことはよりむずかしくなります。  役職定年制が形骸化している企業の特徴としては、@適切な後任者がいないため、「実質的に」役職を継続してしまっているケース、A役職定年後に一業務担当者に戻った際、対象者の持つ知識・スキルが陳腐化しており、再教育も間に合わず期待したパフォーマンスが発揮できないケースなどが典型的ですが、単純に雇用期間だけが延長されて対策が講じられなければ、さらに状態が悪化していくであろうことは容易に想像できます。そこで、これまで不十分であった、役職定年を迎えた社員の活用方法および評価・処遇制度の内容について根本的に考え直す必要があるのではないか、という議論が生じてきています。  これらの問題について検討すべき論点は多岐にわたりますが、役職定年制を成功させるために重要と思われるポイントを三つに絞って、いくつかの事例とともに解説していくこととします。 ポイント1 役職定年後の期待役割を明確化し、能力・経験を活かせる配置を行う  まずはじめに、役職定年によりマネジメント業務を外れた後、「対象社員に何をしてもらうか」、「どういう活躍を期待するのか」ということを、会社全体の方針として明確にすることが必要です。これまでは役職定年から実際の定年に至るまでの期間が短かったことから、役職定年後の社員への期待役割の設定は曖昧になっていたケースが多かったものと思われますが、今後、雇用期間が延長されていくなかでは非常に重要なポイントとなります。  役職定年後の社員の活用方法として考えられる主要な選択肢としては、 @技能伝承や後進育成の役割 Aマネジメントの補佐的役割 Bベテランプレイヤーとしての役割 の三つがあります。  なお、C雇用期間の延長に合わせて役職定年となる年齢自体を引き上げる方法、D社外での活躍を促進する方法(副業・兼業の推進)なども考えられますが、本稿では、引き続き社内で、かつマネジメントとは異なる活躍を促進するという観点を重視して、CDは検討事項から除外することとします。 @技能伝承や後進育成の役割  特に製造業などにおいて、当該企業の競争力の源泉となっている類の属人的な技術が計画的に継承されずに失われていくことが非常に大きな経営課題となっています。とりわけ中小企業においては、大半の役職者が同時に高度な技術者であることも少なくなく、役職定年後の役割として計画的な技能伝承を課すことは重要なテーマとなります。  役職定年後にどの程度技能伝承にかかわってもらうかについては対象となる技能の性質にもよるものの、当該企業にとって重要度が高い(緊急性、優先度ともに)ということであれば、技能伝承の対象者を早期に確定し、後進育成に特化した業務をフルタイムで実施してもらうことも一案です。もちろんその場合には、一業務担当者として勤務してもらう場合とは異なり、技能伝承にかかわる目標設定をはじめとした評価基準および処遇の仕組みを専用に整えていくことも必要でしょう。 Aマネジメントの補佐的役割  一プレイヤーとしてではなく、後進となる役職者の伴走役として、引き続きマネジメントの補佐的な役割をになってもらうことも重要な役割になり得ます。特に、組織構成において中間層が薄い企業(ベテラン管理職と若手・中堅中心)においては、若手の役職者を抜擢して早期に活躍できる状態にするため、役職定年者に期待したい役割の一つです。  実務上は、「マネジメント補佐」としてどこまでのことをになってもらうのかを明確にしておくことが欠かせません。ともすると、役職者よりも前に出てしまい、実質的に役職者としてふるまってしまうようなことがあれば本末転倒ですし、逆に引きすぎても役職者の早期成長を促進できないため、企業ごとにバランスをとる工夫が必要です。技能伝承の場合と同様に、「マネジメント補佐」の役割、具体的な職務や責任の範囲などについて明確にしたうえで、具体的な評価基準としても設けておくことで、役職定年者に対する意識づけを十分に行うことも必要でしょう。 Bベテランプレイヤーとしての役割  実際には@Aよりもこちらの役割をになってもらうケースの方が圧倒的に多いものと思われますが、それだけに形骸化しやすい役割設定であるともいえます。この点、対象者が専門とする業務を単に一業務担当者として遂行してもらうということにとどまらず、つちかってきた知見や経験をもとにベテランならではの役割を発揮してもらえることが理想であるため、企業運営サイドとしては、そのような取組みがなされる環境を積極的につくっていくことが課題になります。  例えば、前述の技能伝承やマネジメント補佐のような役割までいかずとも、自身の専門技術に関して社内講師を務める、業務改善のプロジェクトにたずさわるなど、全社的な取組みにかかわることで高いパフォーマンスを実現している事例もあります。  上記@〜Bの期待役割については、役職定年後に一貫して同じ役割をになってもらうケースもありますし、会社主導により、数年おきに役割を変えることで、そのときどきで最適な配置を行っている例もあります。このあたりは本人の意向に沿いつつ、会社としての計画とマッチさせることができれば理想です。 ポイント2 期待役割に沿ったメリハリのある評価・処遇を行う  次に、先ほどのポイント1でも一部触れましたが、期待役割を設定するだけではなく、実際の評価制度のなかでも当該期待役割に沿った評価基準を設け、役職定年後の処遇とも連動させていく一連の取組みが重要になります。  基本的な考え方は、役職定年後の期待役割に準じた評価基準をつくるということでよいのですが、特に重要なポイントは、できるだけ短期の目標設定を行い、達成度に応じて(ある面では役職定年以前よりも)メリハリのある処遇を行うことです。  そもそも役職定年後の業務に対して前向きにとらえることができる人は少ないでしょうし、多くの場合賃金が役職定年前と比べて減額になっていることと相まって、ビジネスマンとしての「上がり感」から仕事のパフォーマンスは下がりがちです。  そうしたなかで、自身に求められる役割を正しく認識し、役職定年後も仕事のパフォーマンスを落とさないようにするためには、目標設定や評価・処遇の仕組みを通じて常に成果を意識する機会(成果次第で処遇が上がることもあれば、下がることもある)があることが重要になると考えられます。  企業によっては、役職定年者の評価・処遇について、例えば、最高評価と最低評価で賞与の支給月数が2倍近い差になるほどの制度運営上のメリハリをつけている(現役世代よりも格差が大きい)例もありますし、昇給・賞与への反映だけではなく、出来高払いによるインセンティブ報酬のような仕組みを設けている例もあります。 ポイント3 組織インフラの整備を含め、役職定年前の段階から必要な準備を行う  最後に、ある面ではもっとも重要な取組みですが、役職定年後の社員を活用するために必要な、組織インフラの整備を含めた計画的な準備を行っておくことが求められます。  例えば、ベテランプレイヤーとしての役割を発揮してもらうにあたり、役職経験の長かった社員にとって、ブランクを埋めることはそうたやすいことではないというケースもあるでしょう。技術の進歩が目覚ましい業界であれば特に、現場で求められる知識やスキルの変化は激しく、陳腐化も早いということであれば、役職定年後にそうしたギャップを埋めるためのトレーニングの機会を与えることは最低限必要でしょうし、むしろ役職定年を迎えるもっと前の段階から、そうした教育ないし自己投資の機会を計画的に与えていかなければ遅いという判断もありうるでしょう。対象者の意識改革も重要です。役職定年後にガラッと役割意識をチェンジできる人の方がむしろ少ないと思われますし、「キャリア開発」という視点で早い段階から役職定年後を見据えた自身のキャリアについて考えさせる機会を設けておくことが重要と考えられます。  こうした組織インフラの整備も含めた、役職定年前の段階から必要な準備を行うという視点は多くの企業で欠けているといわざるを得ません。また、これらはすぐに実現することができない性質の取組みが多く、だからこそ大半の企業が役職定年後の社員の活用および評価・処遇に困っているということでもあります。逆にいえば、役職定年制の運用で成否の差がもっとも出やすい部分でもあるため、あらためて重要な取組みと認識していただきたく思います。 B役職定年制の廃止と評価・処遇制度  上記のような状況をふまえると、役職定年制を導入(あるいは維持)することに対して慎重にとらえる企業も出てくるものと思われますが、一方で役職定年制を廃止することも、実際にはそうたやすいテーマではありません。  もちろん、形式上役職定年制を廃止すること自体は決してむずかしいことではないものの、以後は「年齢」を理由とした組織の強制的な若返り策を行使することはできなくなります。若手・中堅社員からはポストが空かないことに対する不満が噴出するかもしれませんし、あるいは優秀な役職者であれば60歳を超えても、65歳を超えても役職者として居続けてもらえることになりますが、全社的な観点で見たときの良し悪し、また現実的に運用可能なのかどうか、ということなどはあらためて検討される必要があるでしょう。  役職定年制を廃止するということは、ある面では、「年齢」によらない適材適所の実現に向けた組織づくりの本格的なスタートともいえますが、雇用年齢の上限が伸びていく社会のなかで、このことが単純でないことはご想像いただけるでしょう。役職定年にかかわる高齢者層の将来だけを考えればよいわけではなく、今後は若手も含めた全社的な人事のあり方を見直していくことも視野に入れなければいけません。  もちろん、そうしなければ(人事制度を変えなければ)必ずしも役職定年制を廃止してはいけないということではありませんし、廃止してたちまちに大きな問題が起きるということもないでしょう。しかしながら、実務上は単に役職定年制を廃止するということだけではなく、そのことを機会として、従来型の年齢や能力を軸とした「人基準(年功主義、能力主義)」の評価・処遇制度を抜本的に見直し、仕事そのものを軸とした「職務基準(役割型、ジョブ型)」へと見直しを図っていくことが中長期的な視点では望ましいでしょうし、そのような企業も着実に増えてきています。 【P17-20】 解説2 法律視点でみる役職定年制 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 @役職定年制の目的  役職定年制とは、従業員が一定の年齢に達したときに部長、課長などの役職を解く制度をいいます。その目的は、企業ごとに相違はありますが、例えば、組織の新陳代謝を図ることを目的にするほか、人員の増加にともなう賃金支払総額の抑制という観点もあり得ます。そのほか、経営上の事情からポスト削減と賃金支払総額の抑制を同時に行うという場合もあるでしょう。  これらの目的は、就業規則が不利益に変更されるときに必要となる合理性判断にも影響を与えます。自社が役職定年制を導入する目的を明確に設定しておくことは、役職定年制導入が可能となるか否かにとっても重要な出発点となります。 A役職定年制自体の合理性について  役職定年制を当初から導入しておくことはできるのでしょうか。労働契約法第7条は、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と定めています。したがって、役職定年制が、合理的な労働条件と認められれば、労使間の労働契約の内容とすることは可能と考えられます。  役職定年制に関する裁判例のリーディングケースとして、最高裁平成12年9月7日判決(みちのく銀行事件)があります。  この判例においては、55歳に到達した職員を役職から解き、専任職という新たに創設された職務に就くという制度に関して、「五五歳到達を理由に行員を管理職階又は監督職階から外して専任職階に発令するようにするものであるが、右変更は、これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものとは認められない。したがって、本件就業規則等変更は、職階及び役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることが相当である」と判断しています。  したがって、就業規則の不利益変更ではなく、当初から就業規則において役職定年制を導入しておく場合には、合理性が認められると考えられます。ただし、その場合でも、「賃金の減額を除けば」という留保が付されていることから、賃金の減額幅が大きい場合には、合理性が肯定されるのか問題となる余地はあるでしょう。  判例の内容からすると、裁判所においては、賃金の減額をともなわない、職階や役職制の変更については、比較的緩やかにその合理性を肯定する傾向があるといえます。 B就業規則の不利益変更による導入について  多くの企業では、設立当初から役職定年制を導入しているわけではなく、従業員の増加などにともない、ポストが埋まってしまう、年齢層が高齢化して賃金総額が上昇していくなどの経過をたどり、人事制度全体の見直しのなかで、役職定年制の導入が検討されるという過程をたどるのではないでしょうか。  したがって、役職定年制を導入するにあたっては、既存の就業規則を変更して、役職定年制を導入するという手続きが採用されることになります。労働契約法第10条が、就業規則の変更による労働契約の内容の変更について定めています。  手続的には、変更後の就業規則を労働者に周知することが必要とされます。  次に、内容に関して、@労働者の受ける不利益の程度、A労働条件の変更の必要性、B変更後の就業規則の内容の相当性、C労働組合等との交渉の状況、Dその他の就業規則の変更に係る事情に照らして、合理的なものであるときは、就業規則の変更が有効となります。  労働契約法第10条に示された要素は、かねてから最高裁の判例で示されていた内容と同一であり、「みちのく銀行事件」の判決でも、同趣旨のことが述べられているうえ、さらに、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべき」とされており、容易にその変更の合理性は肯定されないと考えられます。 C過去の裁判例について  役職定年制導入に関する裁判例の数は多くありませんが、参考になる裁判例を紹介します。  まず、リーディングケースである「みちのく銀行事件」を紹介します。  役職定年制導入の理由(目的)は、「高年層への人件費の偏在化という構造的問題があり、人員構成の高齢化に伴いこの傾向が年を追うごとに顕著となり、結果として総人件費を圧迫し、若手・中堅に対する処遇が極めてバランスを欠いたものになって」いたことがあげられており、最高裁においても高度の経営上の必要性があったことが認められています。  役職定年制の内容は、60歳定年制の事業主において、55歳以上の従業員について、専任職(「所属長が指示する特定の業務または専任的業務を遂行することを主要業務内容とする職位」)という役職を解いた状態として、管理職手当や役職手当を控除したうえで、業績給および賞与も削減するという計画でしたが、労働組合からの再提案もふまえて5年かけて徐々に減額していくという経過措置をともなったものとなりました。なお、賃金減額の程度については、従業員ごとに差異がありますが、削減率16%から最大で削減率56%となっていました。  結論としては、以上のような状況をふまえても、役職定年制の導入に合理性があるとは認められず、役職定年制の効力が否定されました。  否定的に考慮された事情としては、削減率が大きすぎるという点に加えて、55歳以上の従業員については総額10億円を超える賃金の削減が実行される一方で、それ以外の従業員に対しては賃金が増額され、人件費全体としては増額していたことがあげられます。賃金総額を削減するにあたっては、一部の属性を狙い撃ちするのではなく、各世代や属性に応分負担を求めることが重要と考えられます。  他方、賃金が減額されても、これに相応した労働量の減少が認められるのであれば、全体的な不利益は小さいことになることや、経過措置や代償措置がある場合なども不利益が緩和される要素として考慮しています(ただし、当該事件においては、事実関係に照らして不利益性の緩和には不足であるとされました)。  次に、比較的最近の事件として、熊本地裁平成26年1月24日判決(熊本信用金庫事件)があります。この事件においても、「みちのく銀行事件」のように、賃金の減額をともなう役職定年制においては、「高度の必要性に基づく合理的な内容」が必要となることを前提に、その不利益の程度などについて慎重な判断がされています。  役職定年制導入の理由(目的)は、「経済状況が継続的に悪化していく状況にあり、かつ他の信用金庫と比べて経費率が高くこれを削減する必要性があったこと、職員の賃金の減額以外に経費削減の試みを行っていたが経営状況が改善されない状況にあり、将来において破綻の危険が具体的に生じるおそれがあり、そのようなおそれが生じることを回避するため」という経営の危機回避が目的でした。  減額される賃金の程度は、55歳到達後60歳までに年10%の割合で給与額を削減するという内容であり、最大で50%の削減率に到達するという内容となっていました。  この事件においても、55歳以上の職員のみに著しい不利益を与える点が問題視されており、応分負担がなされていないことは重視されています。  みちのく銀行事件においては、労働組合の同意を得て導入した制度であり、熊本信用金庫事件においても、多くの職員が導入に同意していたという事情がありましたが、これらの事情のみでは、合理性が肯定されるには至りませんでした。  就業規則の不利益変更において、手続的な要件は近年重視される傾向がありますが、賃金などの重要な権利に影響するような就業規則の不利益変更においては手続的な要素が充実しているだけでは不足があるといえるでしょう。  役職定年制導入が肯定された裁判例を一つ紹介しておきます。津地裁平成16年10月28日判決(第三銀行事件)です。  判断の基準は、これまで紹介した二つの事例と同様に、賃金などの重要な労働条件の不利益変更をともなう場合には、高度の必要性に基づいた合理的な内容が求められるとしている点は同様です。  労働組合との労働協約をもって新人事制度の一環で55歳を基準とした役職定年制を導入し、役職定年後は専任職に就くという内容であり、これにともなう賃金減額が行われたという事案です。  役職定年制導入の理由は、組織の活性化と人材の若返りとされていましたが、その背景には、継続的な赤字決算があり、高度の経営上の必要性があったとされました。  減額される賃金の幅は、元総合職の職員であれば約5.6%〜7.9%など(元一般職の職員の場合でも最大で9.3%程度)であり、ほかの事件と比較すると、比較的減少の幅は控えめになっています。  この事件では、新人事制度の内容に役職定年制が含まれていたというものであり、同時に導入されたものとして、昇格要件の明確化、勤務地の希望考慮の重視、総合職と一般職の業務内容の区別の明確化、早期退職制度と転職支援制度の導入など、賃金減額に対応するような労働条件の改善も行われていることも重要です。  なお、手続的な要素についても、団体交渉を重ね、最終的には従業員の4分の3を占める労働組合が容認しているという点も考慮されています。 D役職定年制導入にあたっての留意点  裁判例をふまえて、役職定年制の導入にあたって考慮されてきた要素を整理すると、図表のような点があげられます。なかでも、結論をもっとも左右する重要な要素は、賃金減額の程度と応分負担がなされているか(55歳以上の労働者以外にも負担が求められているか)という点でしょう。賃金減額幅の程度については、裁判例を参考に検討した値であり、ほかの要素との関係で結論は左右される点には留意してください。  また、不利益の程度とのバランスのとり方としては、職務内容の変化も重要です。ただし、職務内容の変化については、役職が変わってもこれまでの働き方と変わらないという状況も十分に想定できるところであり、職務内容に関して役職を解く前後の内容を書面化して示すようにするなど、変化を明確にしておくことも重要です。例えば、部署を変えることも一つの選択肢でしょうし、または、労働時間(または労働日数)自体を削減する、時間外労働を原則禁止するなどの方法で総労働時間を減らすといった工夫も考えられるところです。  第三銀行事件において有効とされた背景にもみられる通り、役職定年制だけを導入するのではなく、全体的な人事制度改革の一部として位置づけ、各世代への応分負担を求めつつ、メリットとデメリットのバランスが確保された内容として調整していくことが、役職定年制導入時の法的な課題といえるでしょう。 図表 役職定年制導入にあたり考慮すべき要素 考慮される事情 不利な事情 有利な事情 高度の必要性 経営危機などがともなわない人件費の削減であること 経営危機など解雇回避のために受忍すべき状況にあること 賃金の減額幅 最低でも20%を超えるなど大きいこと 最大で10%程度であるなど小さいこと 賃金以外の労働条件の改善の有無 労働条件の改善がともなわないこと 昇格要件の明確化や早期化、業績に連動する給与の割合増加、勤務地に関する希望の考慮など労働条件の改善をともなうこと 不利益を受ける対象者 変更当時の55歳以上の労働者などに負担が大きいこと 役職定年制対象者のみではなく、労働者全体に負担を分散させていること 職務内容の変化 変化がなく、業務負担や責任の軽減がともなわないこと 業務の負担、責任の軽減があり、その内容が明確であること 経過措置の有無・程度 経過措置がない、または、不利益を緩和する措置の導入が短期間であること 長期にわたって徐々に不利益の程度を拡大するなど、労働者に準備期間があること 選択肢の提示 役職定年制以外の選択肢がないこと 複線型のコース採用(その選択)や早期退職制度の導入などの選択肢を増やすこと 手続的要素 労働者の理解が得られていないこと 多数の労働者が加入する労働組合や多数労働者の理解を得られていることまたはそのための交渉を継続してきたこと ※著者作成 【P21-24】 事例1 定年延長にあわせて役職定年制の見直しを実施 前澤工業株式会社(埼玉県川口市) 創業80年を超える「水と環境」の専業メーカー  前澤工業株式会社は1937(昭和12)年7月に創業した上下水道用機器・水処理装置の製造・販売および施工をはじめとした「水と環境」の分野において事業を展開する専業メーカー。1947年9月に株式会社に改組し現在に至っている。  同社の主力事業は、上下水道における水処理施設、汚泥処理施設や中継施設の機械設備の設計・製作・据付工事を行う「環境プラント事業」、上下水道施設や配管用の鋳鉄製バルブ・ゲートの製造・販売を行う「バルブ事業」の公共事業関連における2分野に加え、民間工場の排水処理などのプランニングとソリューションを行う「産業向け水処理事業」、循環型社会構築に貢献するエネルギーシステムの提案・設計施工を行う「バイオマス事業」の合わせて4分野の事業を展開している。  事業拠点については、国内に営業拠点12カ所、生産拠点1カ所、配送センター1カ所があり、海外にはタイに1拠点がある。同社の従業員数は711人(2021〈令和3〉年5月末現在)、60歳以上の従業員数は117人となっている。 会社のさらなる成長・人材確保に向け65歳定年(継続雇用70歳)制を導入  同社は従来60歳定年制であったが、2018(平成30)年6月に65歳定年制を導入し、あわせて継続雇用の上限年齢を70歳に引き上げた。会社のさらなる成長に資する人材の確保と、社員の生活基盤の安定を図るとともに、長年つちかってきた経験と高いスキル・専門性を持ったシニア層のさらなる活躍を目的としたものである。  従来の継続雇用制度では、高齢社員の雇用形態は嘱託社員であり、継続雇用の上限年齢は65歳で、1年ごとの契約更新が行われていた。65歳以降については、高齢社員と会社のニーズが一致した場合にかぎり雇用契約を締結する形としていた。継続雇用の勤務形態はフルタイム勤務、あるいは短時間・短日のパートタイム勤務の選択が可能で、処遇制度については、勤務形態に応じた基本給が支給され、原則昇給はないが、功労金制度があり、継続雇用の終了時に支給していた。人事評価は契約更新のタイミングで行われ、担当業務の成果および業務行動について、評価により功労金のポイントが決定された。  65歳への定年延長は、旧制度下で嘱託社員となっていた再雇用者にも適用され、雇用形態は嘱託社員から正社員へと変更。処遇制度も見直され、60歳以降の賃金は一定率減額されるものの、59歳以下の正社員と同じ資格等級が適用されるほか、年2回の業績評価が行われ、評価に応じて賞与を支給する仕組みとしている。  65歳定年制導入への検討をはじめたのは2017年からで、労働組合も交えて制度の内容に関する協議が行われた。社員のとらえ方は年代によってまちまちで、定年延長により60歳以降は一律でフルタイム勤務となるため、経済的に安定すると喜ぶ意見もあれば、特に50代以降の社員の場合は、60歳以降のライフプランを自分で考えている人も多く、反対の声もあったという。  そこで、定年延長については、一律に65歳に引き上げるのではなく、60歳・63歳・65歳から選択できる選択定年制を採用。このように60歳(旧定年年齢)に近い50代社員の60歳以降のライフプランへの影響を軽減するように配慮した。一定の基準を満たせば、選択後の変更も可能としている。  制度導入後は、9割を超える人が65歳定年を選択しており、60歳・63歳を選択する人は数人にとどまっている。ただし、60歳・63歳を選択する人がいる以上、一律に65歳定年とすることはせず、当面は選択定年制を継続する。  このように65歳まで安定した雇用が確保できる環境が整備されたことにより、高齢社員のモチベーションが向上し、いままで通り戦力として活躍してもらうことはもちろん、長年つちかってきた経験やノウハウを次世代に伝えることにつながっている。 管理職は一律60歳で役職を離れ「シニアリーダー」に職位変更  65歳定年制の導入と同時に、役職定年制の見直しも行った。従来は58歳で役職定年としていたが、定年延長後は60歳で役職を降り、それまでの職域にかかわる仕事を継続する「シニアリーダー」の職位に就く。なお、「シニアリーダー」は59歳時点で課長職以上の者が任命されるが、上級管理職にあたる部長・次長経験者の一部については「シニアマネージャー」に任命され、後任の部長の補佐をになう。いずれも配置転換は59歳以下の正社員と同じように業務上の必要性に応じて行われる。  「シニアリーダー」制度導入の経緯について、上席執行役員管理本部長兼人事部長の菊地和信氏は次のように説明する。  「58歳の役職定年を廃止するにしても、経営の要となる後継者を育てるためには、若手に役割をバトンタッチする役職の入れ替わりは必要だと考えていました。とはいうものの、加齢による衰えは個人差があり、やる気がある管理職が突如として役職から降りることになると、本人のモチベーション低下という点以外にも、立場上、部下ならびに職場への影響も少なくありません。そこで役職者は一律に60歳で役職を降り、『シニアリーダー』として同じ職域にかかわる仕事をすることで若手を支え、若手育成の機会にすることにしました」  「シニアリーダー」に期待する役割は二つある。  一つめは管理職層での経験を活かし、所属長を補佐し、健全な組織運営に貢献し、自部署の目標達成・活性化に貢献すること。  二つめは、長年の勤務でつちかわれた知識・技術・技能・ノウハウ・人脈を活かし担当者として業績向上に貢献し、後進の育成・指導を行うことである。  どちらの役割に比重を置くかは、各部署や、それぞれのシニアリーダーの特性によるところが大きいという。例えば、営業部門では一担当者として業績の向上に貢献することを求められる傾向があり、他方、マネージャー経験を期待され、所属長を補佐する業務が主になるシニアリーダーもおり、役割は各職場の方針にまかされている。  従来の継続雇用制度のもとでは、「嘱託社員では立場的にやる気がでない」という意見が聞かれたが、シニアリーダー制度の導入後は、60歳以降も正社員のまま「シニアリーダー」として一目置かれることで、高齢社員のモチベーション向上に一定の効果があった。  各職場においても、所属長が業績向上の面で牽引していたり、部署を兼務したりすることが多いため、マネージャー業務を補佐する「シニアリーダー」は心強い存在となっている。 60歳直前に希望の部署に異動し「シニアリーダー」として活躍  松本公寿(きみとし)さん(62歳)は、バルブ事業部の部長であったが、現在は、環境ソリューション事業部のシニアリーダーとして本社に勤務している。所属するO&M技術課は、上下水道における水処理施設の運転監視や維持管理を行う部署である。関東地区を中心に6カ所ある水処理施設のうち5カ所に同課員が常駐し、人々の生活に欠かせない水を、安全・安心な品質に処理して必要量を送ったり、生活排水を浄化したりしている。同時に水処理機械が持つ機能を十分に発揮できるように管理し、不具合が生じた際には修理を実施している。  松本さんは主に課長を補佐する役割をになっている。担当しているマネジメント業務は多岐にわたり、例えば、各施設からの進捗状況の報告を受け、質問などをして状況を確認。問題があれば解決に導く。また、毎週行っているWebミーティングでは司会を務めている。大規模な施設では複数の事業者が運用にかかわっており、その窓口を担当することもある。さらに、予算の管理、報告書のチェック、作成などさまざまな業務を行っている。  また、一技術者としての役割もになっており、同社が常駐せず維持管理をまかされている水処理施設の年次点検や、点検の計画とその実行などの業務も行う。教育係も務め、若手や新人にはOJTで作業を通じて指導し、知識・技術などの伝達に努めている。  松本さんは59歳までバルブ事業部の部長を務めており、60歳を前に環境ソリューション事業部への異動を願い出た。「かつて水処理の仕事をしていて、これが自分に合っていると感じていました。60歳で後輩に役職を譲ることになりますから、役職を解かれて、一担当者として働くのであれば、最終的にやりたいこと、いままでやりたかったことを選択しようと思い、異動を希望しました。浄化技術にはいろいろな手法があり、さまざまな技術を試して不純物質を排除する仕事にはやりがいを感じています。大学時代に化学を専攻していたこともあり、行政からの相談事に対して実験によって応えることは楽しいですね」と充実した表情で語る。  「シニアリーダー」への就任にあたっては、「当初は『役職でもなく、一体どんなものだろう』ととらえどころのなさを感じました。実際、シニアリーダーとして、技術者として、持てる力のすべてが求められるので、以前のような継続雇用制度の嘱託社員より、よい制度だと思います。裁量をもち自由にやらせてもらって、関係者からは信頼も得られる、やりがいのある仕事です。部長会議のような会議には出なくていいので、その点も気が楽ですね(笑)。今後も現状のまま働き続けていきたいです。ただ、現場では力仕事もあり、この先衰えも出てくると思いますので、その点は若い世代とカバーし合いつつ、持ちつ持たれつでやっていきたい」と、シニアリーダーとしての充実ぶりを語った。 60歳超の社員の戦力化に向け新研修制度や健康経営の取組みを開始  菊地管理本部長は、今後の課題について次のように指摘する。  「近い将来、60歳から65歳の層が増えることになります。管理職の経験者が増えると、いまはうまく運営できている『シニアリーダー制度』についても、さまざまな考え方をする人が出てくる可能性があります。そこで、あらかじめ自身のキャリアプランを考えてもらうために、54歳の社員を対象にした『キャリアデザイン研修』を実施しています。年1回、外部講師を招き自らの働き方の棚卸を行い、自分の特性を知ることで、自らのキャリアプランに活かしてほしいと考えています」  従来の定年60歳・継続雇用65歳の制度下でも、50歳の社員を対象に、お金や健康について考える「ライフプラン研修」を実施していたが、その内容を65歳定年制導入にあわせて変更するとともに、キャリアプランを考えるプログラムを追加した。  また、もう一つの課題として、健康づくりをあげている。同社は以前から、健康診断で人間ドックを受診した場合の助成金支給(3万円を上限に半額助成)、産業医の面談、製造部門では保健師の講演などを実施しているほか、社員の健康に配慮して、社内の自動販売機に特定保健用食品を設置している。  「高齢社員は、体力、健康、視力など加齢にともなう衰えに個人差があると感じています。そこで社員の健康維持・向上を会社でフォローしていこうと、健康経営の取組みをスタートさせました。当社の社員は血糖値と、飲酒率が高めという診断結果が出ています。社員には健康で長く働いてもらいたいですから、よくない数値を低減できるように、規則正しい生活やよい睡眠の取り方など基本的な事柄ですが、個々人が健康に興味をもってもらうような呼びかけをしています。そのうえで、がんをはじめとした病気に罹患した場合の支援や、治療をしながら働けるよう、社員にとって必要なことをサポートしていきたいです」(菊地管理本部長)  最後に、高齢社員に期待することについてうかがうと、菊地管理本部長は「勉強して能力を伸ばすことに、限界はないと思っています。50歳を過ぎたあたりから『いまさら』と考えずに、あきらめないでほしいですね。これからの人生100年時代に60歳以降をどう生きるか、仕事を通じて、興味をもった分野に対して積極的にチャレンジしていってほしいですね」と話してくれた。 写真のキャプション 本社(アクアテクノセンター) 菊地和信上席執行役員管理本部長兼人事部長(左)と松本公寿シニアリーダー(右) 【P25-28】 事例2 定年延長と同時に60歳役職定年制を導入経験が活かせる場所で「シニア社員」が力を発揮 広島電鉄株式会社(広島県広島市) 広島の発展に貢献して110年  「広電(ひろでん)」の愛称で親しまれている路面電車でおなじみの広島電鉄株式会社は、1912(大正元)年に前身の会社が創業。来年2022年に110周年を迎える。  路面電車の利用者数は、1日平均約10万5000人に上る(2021〈令和3〉年3月末現在)。国内最多の路面電車事業者であるとともに、中四国地方最大のバス事業者でもあり、電車、バス、不動産の3事業を柱として、広島のまちづくりの一翼をになっている。  社員数は、1754人(2021年9月末現在)。平均年齢は47.3歳。約1200人が乗務員である。社員全体に占める乗務員の割合は3分の2に上り、輸送人員では電車がバスを上回っているが、売上げはバス事業のほうが高く、管理者を含む社員数はバスが約900人、電車が約600人とバス事業のほうが多い。また、バス運転士は中途採用が主力であり、平均年齢も高くなっている。  60歳以上の社員数は年々増加しており、現在199人(出向者を除く)。定年は65歳で、役職定年を60歳としている。現在、40代の社員が約480人、50代が約600人となっており、今後10〜20年間に多くの社員が60歳、65歳を迎えることになる。 早い段階で定年を65歳に延長再雇用は最長70歳までに  高齢者雇用については、比較的早い段階から取組みを行ってきた。資格と経験を有する運転士に長く活躍してもらうため、1991(平成3)年に60歳で定年退職した運転士を「シニア運転士」として65歳まで再雇用する制度を導入し(2001年に最長66歳までに延長)、2006年からは、この制度を拡充し、正社員の希望者全員を「シニア社員」として再雇用の対象とした。  こうしたなかで契約社員として乗務員の採用を行っていたが、当初から労働組合より契約社員の正社員化が求められており、2009年に契約社員の正社員化に取り組むとともに、賃金制度の見直しを実施。さらに、シニア社員が増えるなかで、元気なうちは長く働いてほしいとの思いと将来の労働力不足に備え、2010年1月に、正社員の定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。  当時は勤続年数に比例して賃金が上がる仕組みであったため、これをあらため、60歳以降の賃金はどの職種においても60歳到達時の8割とした。これについては、5年間の定年延長により生涯賃金が増えることとなるので、労働組合や社員から納得を得ることができた。  さらに2017年9月、多様な働き方を可能にするために、「短時間正社員制度」を導入した。育児や介護、加齢による体力の変化など、本人のライフスタイルなどに応じて正社員のまま労働時間を選択できる制度である。同時に、定年後再雇用の「シニア社員制度」について、雇用上限年齢を66歳から70歳に引き上げた。 定年延長とあわせて導入した役職定年制  2010年の65歳への定年延長にともない、60歳の役職定年制を設けた。原則として、60歳到達時、すべての役職者がそれを降りるという内容である。例えば、運行管理者は、60歳以降は再び運転業務に就く。事務職の部長や課長は、総合職の一社員となる。ただ、会社が必要と認めた者については役職を継続することとしている。  役職定年制導入のねらいについて、同社人財管理本部人事部労務課の坂谷(さかたに)直亮(なおあき)課長は、次のように話す。  「組織の新陳代謝と若い社員に対するモチベーションの喚起が目的です。65歳定年で役職をそのままにしておくと、例えば、これまで40歳で管理職に就いていたのが、5年延びて45歳となり、下の世代がつかえてモチベーション低下のリスクが生じると考えました」  役職定年後の社員に期待する役割は、「若い社員に経験を伝えること」。役職定年にあたっては、各職場の上長と面談し、以降の役割や仕事について話をすることにしている。基本的には、同じ部署で勤務を続けるため、新たな管理職の相談相手になるケースが多くみられるようだ。 ■役職定年制導入後の状況 @バス・電車の現場部門  役職定年制導入から7年目の2017年、制度の運用について一部の見直しを行った。それまで、バス、電車部門では60歳を区切りとして役職を降り、一律に運転士に戻ることとしていたが、人によっては十年単位で運転業務から離れていたため、再び運転することに不安を抱く社員もいる。そこで、そのような場合は、60歳で役職は降りるものの、乗務員の指導・教育などを担当する「助役」や「監督」として活躍してもらうこととした。  具体的には、若い運転士と一緒に乗車して指導することや、出勤した運転士の点呼をするなどの役割もある。  「早くに管理職に登用された社員は、もともとその資質があったからであり、運転士に戻るより管理的な仕事をになってもらうほうが能力を活かせると考えました。そのほうが本人にも会社にもメリットがあると判断し、見直しを図りました」(坂谷課長)  役職を降りた後に運転業務に戻ることが不安という声は、役職定年制導入当初から聞かれていた。そのような場合、当初は、職種を変えて事務職に就いてもらうなど、新しい役割をつくるといった対応をしていたが、高齢社員の増加により対応が必要な人数が増え、今後も増えることが予測されたため、制度の見直しにふみ切ったのである。見直し後は、新しい職種をつくるということはなくなり、この課題は解消された。  「とはいえ、降職後は運転業務に戻るのが基本で、人数も断然多いです。もともと運転が好きだという社員もいますし、『管理職を卒業できてよかった』という社員もいます。65歳まではフルタイムで運転業務を行い、66歳以降のシニア社員になってからは個別契約でフルタイムを続ける人、短日・短時間勤務を選択して乗務している人もいます」(坂谷課長) A事務職  役職定年後は、いわゆる一般社員に戻ることを基本としている。導入時から制度の見直しはしていないが、2021年4月に新たに導入した管理職制度を、今後は役職定年者にも適用することにしている。  この新制度は、適材適所の観点から役割の明確化を図り、マネジメントとは違うキャリアアップの道を開いたもので、ラインの管理はしないものの、部長待遇として「主幹」、課長待遇として「主査」を新設した。例えば、各部署において専門性を発揮し特定のプロジェクトリーダーを務めるといった役割である。課長から主査になったり、主査になった人がプロジェクト完了後に再び課長に戻ったりすることもあるという。  「各職場の取組み状況をみながら本人の能力を活かす役割へと、柔軟に異動する仕組みです。役職定年者にもこの制度を適用し、役職は外れますが、主査としてプロジェクトを率いてもらうなど、経験を活かしてもらう役割を考えています。実際の運用はこれからになりますが、主幹・主査の役割についてメッセージを発信しながら、進めていきたいと思います」と坂谷課長は説明する。  同社では、「やりながら改革し、よりよい形に見直していく」という進め方が多いという。役職定年についても同様である。そうしたなか、役職定年制を導入して感じたのは、役職定年者の資質、能力、経験はそれぞれ異なるので、「『一律に降職する』のはむずかしい」ということだ。そこで、個々を活かすために、これまで以上に適材適所の人事に力を入れている。 シニア世代に期待する役割とその変化  役職定年後の社員への期待は、11年前の制度導入時と現在では、少し変化した点があるという。  坂谷課長は「若い社員に経験を伝えてもらうという期待と、能力と経験を活かして長く健康に働いてもらいたいという考えがベースにあることは変わりません。ただ、IT化が進むなど働く環境の変化が激しい現場なので、何歳になっても新しいことを吸収する力というものが以前より求められていると思います」と話す。  この点について、田村智康人事部長が次のように言葉をつないだ。  「人生100年時代とされるなかで、65歳まで働くことがあたり前になってきました。そこで、65歳まで能力を発揮して仕事を続けるために何を学び、自分をどう成長させるかが大事になってきていると思います。従来の定年年齢である60歳を一区切りにするという意識ではなく、65歳までは会社のために成長するんだという気概を持ってほしいという期待が、10年前とは変わってきたところだと思います」  早くから高齢者雇用の取組みを進めてきた同社では、こうした社員の意識の変化が早くからみられるという。  制度の中身も期待する役割も少しずつ変化しながら現在に至る役職定年のメリットをたずねると、坂谷課長は次のように答えた。  「運転業務に戻った人が安全運転に努めて元気に働いています。管理職と運転業務は役割がまったく異なるので、気持ちの切り替えもしやすいようです。バス、電車の現場の仕事は職制が明確であるため、管理者が元管理者に対して気を遣うことも遠慮することもなく、それぞれの役割を認識して仕事をしています」  事務職においては、当初、降職後にモチベーションが下がるケースが一部にみられたというが、田村人事部長は「65歳定年が定着するなかで社員の意識が変わり、現在はそれぞれが自分の強みや経験を活かして力を発揮しています」と話す。 公共交通の再編と並行して多様な働き方の改革を進める  役職定年制は、現段階ではいまの内容で継続していく方向だ。制度導入時は参考になるモデルがなく、役職定年者にとっても会社にとっても戸惑うことがあったが、降職後も役割を変えて活躍しているモデルケースとなる人材も出てきており、次の世代が先輩の背中を見て将来を考えることができるようになった。  また、2017年に短時間正社員制度を導入後、乗務員のシフトが組みやすくなるというメリットがあった。子育て世代は保育園の送り迎えの時間帯の勤務がむずかしい一方で、シニア社員には早朝の勤務の希望者が多いことがわかり、それぞれの希望する時間帯を組み合わせてシフトを組むことで社員に歓迎されている。  シニア世代がさらに増えていくなか、社員の健康管理を重要視し、高齢になると健康状態の個人差が大きくなるため、健康診断のメニューを増やしたり、人間ドックの回数や産業医の面談を増やしたりして取組みを充実させている。さらに、毎日の点呼は管理者と乗務員が対面して行っているが、今後は、血圧や血中酸素濃度を測定するなど健康に対する科学的なアプローチを加え、健康リスクの低減を図っていく方法も検討している。  人財管理本部では、「多様な働き方」をスローガンに掲げ、シニアの活躍推進を含む全社員を対象にした働き方改革を進めている。働き方だけに着目した改革ではなく、広島電鉄の目標である「地域社会の発展」と並行させて、公共交通の路線再編という大規模な視点から具体的提案を行い、行政、同業他社と連携して進めているという。  「広島は路面電車に加え、主に7社のバス会社がそれぞれ路線バスを運行しているバスの街です。多くのバス路線が中心部へ乗り入れ、ラッシュ時は過密状態となっています。一方で、交通空白地域もあるといった地域課題もあります。そこで、中心部のバスの過密状態を解消し、ほかの地域にバスと人員を再編することで空白地域をなくすことができるのではないかと考えています。もちろん、お客さまの利便性や運賃を考慮しながら考えることが最重要ですが、例えば、中心部を走る基幹バスと郊外のバスを分けることができれば、過密状態がなくなると同時に、乗務員は郊外から中心部まで運転をすることがなくなり、短時間勤務をしやすくなります。バスも小型化でき、運転もしやすくなるといったメリットも想定できます」(坂谷課長)  現在、同社では、こうした路線の再編と調和する、多様な働き方の改革を考えているという。年齢にかかわりなく、また、子育てや介護をしながら無理なく働ける仕組みがそのなかでどう実現されていくのか、今後も注目したい。 写真のキャプション 人財管理本部の田村智康人事部長(右)と同部労務課の坂谷直亮課長(左) 広島電鉄本社とその前を走行する路面電車 【P29-32】 事例3 幹部職員の定年を65歳に延長 役職定年制は撤廃するも任期制は維持 川崎重工業株式会社(兵庫県神戸市) 人事処遇から年齢要素を排除した新人事制度を導入  造船、鉄道車両システム、航空機などの輸送用機器の製造をはじめ、各種産業用機械、モーターサイクル、エネルギー環境プラントと幅広い事業を展開する川崎重工業株式会社。同社は、2021(令和3)年7月に幹部職員(いわゆる管理職層)の人事制度を改定。その一環として、幹部職員の定年を60歳から65歳に引き上げ、あわせてそれまで58歳としていた役職定年制を廃止した。なお、一般従業員の定年は、2019(平成31)年4月に63歳から65歳に延長している。  役職定年制の廃止は、「人事処遇から年齢という要素を取り払い、役割・成果に応じた処遇をいっそう強める」(人事本部労政部労政企画課長・鈴木健朗(たけお)氏)という、今回の人事制度改革の核となる考え方に沿った取組みである。したがって、同社の役職定年制廃止について述べる際には、幹部職員の新しい人事制度の概要をみておく必要がある。  それまでの幹部職員の人事制度は、4区分で構成される役割グレードが、役職や報酬などの処遇を決めるプラットフォームとなっていた。役割グレードは、その名が示すように役割の大きさを等級化したものだが、区分のくくりが大きかったため、担当している職務の困難さや責任の重さが変わっても、その変化をグレード変更に反映させにくかった。報酬はグレードにリンクしており、職務価値と報酬が乖離する傾向も目立ってきた。  そこで新しい制度では、従来の役割グレードに代えて、幹部職員約4000人の職務分析・職務評価を行い、区分の刻みをより細かくした制度に置き換えた。すなわち、13等級からなる職務等級制度を導入したのである。  職務の評価方法は、@知識・経験(そのポジションが必要とする知識・経験やマネジメント・スキルの高さ)、A問題解決(そのポジションが思考すべきテーマの視点の高さや難易度)、B達成責任(意思決定のレベルや成果責任の大きさ)の三つの要素を評価基準とし、それらをさらに分解した八つの評価軸を物さしとして用いた。  ポイントは、4区分であった役割グレードを13区分に細分化して単純に昇級段階を増やしたのではないということだ。各人が現在になっている職務の価値を評価し、新たな職務等級に置き換えたのである。  そして、この職務等級が報酬(役割給)を決めるベースとなった。幹部職員の報酬は年俸制であったが、これを月俸制にあらためた。「年俸制のもとでは、職務等級が変わっても報酬の変更に反映される機会は年1回しかありませんが、月俸制であれば、よりスピーディーに職務と報酬を対応させることができるからです」(鈴木課長)  このようにして、旧制度のもとで起きていた職務と報酬との乖離の是正を図ったわけだが、乖離が大きかった人ほど、制度改定にともなう報酬額の変更も大きくなる。  「そこで一定以上の増減が発生する場合は、2021年度中は移行措置として特別の激変緩和のルールを設けました。2022年度以降についても、等級の変更により月例賃金が減額となる場合は、暫定給を設定しています」(労政企画課主事補・横田浩一氏) 一般従業員から2年遅れて幹部職員の定年を65歳に延長  この人事制度改定の一環として、幹部職員の65歳への定年延長を行った。  前述したように、一般従業員の定年はすでに65歳を実現していたが、幹部職員については60歳のままで、定年後は65歳までの再雇用を行っており、幹部職員のほとんどが、定年後再雇用制度を利用していた。そして、2021年9月末の定年退職予定者から、幹部職員も定年を65歳に延長した(定年退職日は3月末・6月末・9月末・12月末の四半期ごとに設定されており、定年に達した後、次に迎える四半期末が定年退職日となる)。  当面の間は、原則として、60歳到達時点で主として後進に知識・技術・ノウハウを指導する役割に変更し、それにともない職務等級も変更となる。13等級のうち1〜3が、60歳以降の幹部職員が格づけられる職務等級である(図表1)。  60歳到達直前での職務等級の格づけにかかわらず、60歳以降は一部の役職継続者を除きすべての幹部職員が職務等級1〜3の職務に変更となり、役割給もその等級に対応した額となる。  「報酬は、おおむね役割変更前の65%程度まで下がりますが、60代前半層の賃金としては世間相場と比べても遜色ない水準となっています」(横田氏)  「職務等級1〜3の報酬水準は、定年延長前の再雇用者の報酬水準とほぼ同じです。現役でいえば係長クラスの水準で、60代前半の賃金としては、たしかに世間水準と比べても遜色ないのですが、人事制度の本来の考え方は、処遇から年齢という要素を排除することですから、このままでよいとは考えていません。今回は、定年延長にともなう人件費負担の急増を回避する観点から、暫定措置としてこうした方法を取り入れましたが、会社の業績も勘案しながら、将来的には60歳以降も、60歳未満の社員に対する内容と変わらない一貫した職務等級の運用を行っていくつもりです」(鈴木課長)  なお、退職金はDC(確定拠出年金)・DB(確定給付年金)・一時金の3本建てで、DCとDBは今回の定年延長にかかわらず、60歳以降に引き出すことができるが、一時金は原則として65歳の定年時でないと受け取れない。  「一時金の一部は前払いとして受け取ることもできるようにしていますが、在職中の給付であるため、税法上は退職所得ではなく給与所得として扱われるという不利があるので、制度利用者は限定的です」(鈴木課長) 年齢にかかわらず能力・適性に応じた適正配置の観点から役職定年制を廃止  幹部職員の定年延長とあわせて、役職定年制を廃止した。  職務等級の役割定義を図表1に示したが、それぞれの職務等級に対応したポストの種類と職位呼称を示したのが図表2である。  ほとんどのポストが複数の職務等級に対応しているが、これは役職呼称が同じであっても(例えば組織長としての部長という呼称は同じであっても)、管理する組織のサイズや経営組織上の位置づけなどの観点から職務価値が異なり、そのために職務等級が異なることがあるからだ。  役職は組織長と専門的職務の2種類に大別され、技術者の多い同社では、幹部職員の7割が専門的職務のポストに就いている。役職定年制の対象となっていたのは、幹部職員のおよそ3割を占める組織長である。  それまで、組織長のポストにある幹部職員は、満58歳に到達した3月末または9月末に、その役職を解任する「ラインオフ制度」(いわゆる役職定年制)が設けられていた。しかし、年齢にかかわらず、能力・適性に応じた適正な配置を一層重視する観点から、58歳に到達したことを理由に一律に役職を解任する「ラインオフ制度」を廃止することとしたのである。  65歳への定年延長も、役職定年制の廃止も、その背景には、年齢によらず、能力・適性に応じた適正配置を行っていく観点とともに、少子高齢化の進行にともなう労働力人口の減少に備える観点から、シニアの活躍機会を増やすねらいのもと、実施したものである。 役職定年制廃止と同時にポスト任期制を厳格に運用し人事の滞留の防止を図る  一般に、役職定年制を設ける大きな理由の一つは、後進にポストを譲り、新陳代謝の促進を図るためだといわれている。もちろん同社でも、ポストの新陳代謝により、組織の活性を維持することが重要であると考えている。この点、役職定年制を廃止しても、人事の滞留が起きないよう、同社には以下のような制度がある。  その一つは、「ポスト任期制」である。一つのポストにとどまることができるのは最長5年。これが同社のポスト任期制のルールだ。今回の制度改定前からこのルールはあったが、役職定年制の廃止後は、より厳格にこのルールを運用していくこととしている。  もう一つは、「コンピテンシー評価に基づく行動特性区分」の導入である。新たに設けられた行動特性区分は、職務等級制度と並んで、同社の新人事制度の骨格となる制度であり、本来は冒頭の職務等級の説明とあわせて取り上げるべき内容であるが、この制度が、役職定年制を廃止してもポストの停滞を生まない仕組みとして機能する面があることに注目し、以下にその要点を説明する。 コンピテンシー評価により年齢を問わず有能な人材の登用をうながす  職務等級制度は、社員がになっている職務の価値を区分して処遇にひもづける制度であり、社員の能力のレベルを区分するものではない。したがって、職務等級制度のもとでは、例えば、ある社員が等級「7」の課長の職務をになえる能力を持っていても、実際に等級「7」の課長のポストに就かないかぎり、その等級の処遇を受けることはない。他方、職能等級制度では、課長の能力を保有していると認められれば、課長のポストに就いていなくても課長としての処遇を受けられるという違いがある。  職務等級制度における役職定年制は、所定の年齢に到達することをもって、そのポストを明け渡すルールなので、能力の高い人が次にそのポストに座る新陳代謝が行われやすい。だが、役職定年制を廃止すると、高い能力の持ち主が、その能力に相応しい高いポストに就く機会が少なくなるおそれがある。そうした弊害をなくす仕組みとして、同社がポスト任期制を運用していることは前述した通りである。  それとあわせて同社が新たに導入したのが、コンピテンシーの評価・格づけ制度としての「行動特性区分」だ。行動特性区分は、職務等級と対応関係を持ち、基本的には行動特性区分に応じて、それに見合う職務等級への配置を行うものである(図表3)。  行動特性区分は、能力や適性に応じた職務への合理的な配置を実現するとともに、幹部職員の能力向上を促進することを目的に新設された。ここでの行動特性評価は、いわゆるコンピテンシーを評価するものである。コンピテンシーとは、成果に直結する顕在化した行動であり、高い成果につながる具体的な行動特性のこと。いかに知識・経験があってもそれが具体的な行動に現れていなければ評価されない。コンピテンシーの具体的な評価方法はここでは割愛するが、「顧客志向」、「効果的なチームの構築」など9項目で行動を評価し、その測定結果をもとに各人の行動特性区分を設定し、育成・配置の重要な参考情報・判断材料として活用する。  幹部職員の配置、行動特性区分・職務等級の変更については、全社・カンパニーの経営幹部で構成する「人財マネジメント委員会」が審議・決定する仕組みとなっている。  このように、行動特性区分は、報酬などを決める直接の要素ではないが、どの職務等級の、どのポストに、もっとも相応しい能力・適性の持ち主を配置するかを判断する際の「人財プール」として機能している。この仕組みを活用することにより、幹部職員の定年延長と役職定年制廃止によるシニアの活躍機会の拡大とあわせて、有能で意欲ある若手社員を高い職務に早期に登用することを可能とする基盤を強化したのである。  「一般従業員の制度改定は、労働組合との勉強会をふまえるなど、2年間ほど時間をかけて行いましたが、幹部職員の制度改定はスピード感を重視し、企画から導入まで1年でやりとげました。環境変化が加速化するなか、はじめから完璧さを求めるよりも、会社の目ざす姿にアジャストさせるように、制度のつくり込みを続けていきます」(鈴木課長) 図表1 13区分の職務等級制度 職務等級 役割定義 13 12 会社の経営に大きな影響を与える役割 ●ディビジョン長/本部長 ●役割の大きな統括部長/特に役割の大きな部長 ●特に役割の大きなプロジェクトの統括職 ●フェローに準ずる特別な高度専門職 11 10 会社の経営に影響を与える役割 ●総括部長/役割の大きな部長 ●役割の大きなプロジェクトの統括職 ●全社レベルの特別な高度専門職 9 8 カンパニー・ディビジョン・本部等の各部門の運営に大きな影響を与える役割 ●部長/役割の大きな課長 ●一般プロジェクトの統括職 ●部門レベルの特別な高度専門職 7 6 カンパニー・ディビジョン・本部等の各部門の運営に影響を与える役割 ●(部長) ●課長/各職制の担当リーダー ●各プロジェクトの担当リーダー ●部門レベルの高度専門職 5 4 3 2 1 カンパニー・ディビジョン・本部等の各部門の運営を支える役割 ●(課長/各職制の担当リーダー) ●各職制の主要スタッフ ●各プロジェクトの主要スタッフ 注)職務等級1〜3について 60歳到達後に主として後進に知識・技術・ノウハウを指導する役割に変更される者に対して格付ける等級とする 図表2 職務等級と役職の対応関係 職務等級 原則的な使用呼称(人事管理上の職位呼称) 対外的な場面での使用呼称(名刺への記載等) 組織長 専門的職務 12〜13 10〜11 8〜9 4〜7 各役職名 特別主席(○○担当) 担当部長 特別主席(○○担当) 担当部長 基幹職 担当部長/担当課長/主席(○○担当) 基幹職 担当課長 1〜3 − 基幹職 担当課長 図表1、2共に 資料提供:川崎重工業株式会社 図表3 行動特性区分と職務等級の対応関係 (例:N4) 能力区分 N5 N4 N3 N2 N1 職務等級 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 基本 例えば、N4の場合、職務等級10あるいは11の職務への配置を基本としますが、これ以外(例:職務等級12や9など)の職務への配置となることもあり得ます 資料提供:川崎重工業株式会社 【P33-36】 事例4 経験豊富なベテランの意欲を維持し能力を活用するため役職定年制を廃止 広島市信用組合(広島県広島市) 本来業務に特化する独自の戦略で好業績を続けるトップランナー  広島市信用組合は、1952(昭和27)年に創業。「地元のお金は地元で活かす」をモットーに、県内に35店舗を展開し、「シシンヨー」の愛称で親しまれている。  職員数は434人(2021〈令和3〉年3月末現在、役員を含む)。男女比は男性52%、女性48%で、ほぼ半々。年齢別にみると、20代44%、30代16%、40代13%、50代14%、60代10%となっており、若い職員が多い。  金融機関の業務は多岐にわたるが、同組合の特徴は、投資信託や生命保険などの金融商品の販売を一切行わず、本来業務である預金と融資に特化した経営に徹していること。金融商品の販売手数料などの収益に頼ることなく、中小零細企業をはじめとする顧客の資金ニーズに積極的に応えることで、地域経済の発展に大きく貢献してきた。  16年前から同組合を率いてきた山本明弘理事長は、「『金融機関は、雨で傘がほしいときには貸そうとしない。天気で傘がいらんときに貸したがる』といわれますが、リスクを取らない金融機関は信頼されません。私はよく、『融資はロマンだ』といいます。当組合は、地元の中小零細企業に頼りにされていて、利益の出ていないスタートアップ企業であっても、経営者の人間性や事業の社会貢献性などを見て積極的に融資します。そういう企業を支援し、成長させていくことが、メガバンクや地銀にはできないわれわれの使命だと思っています」と語る。  こうした独自の経営を貫いてきた結果、2021年3月末現在で、預金残高は7446億円、貸出金残高は6478億円で、預貸率は87%に達している。実質業務純益は101億円で過去最高を更新、19期連続の増益となり、不良債権比率も極めて低い水準で推移している。日本格付研究所(JCR)の格づけは「A」で、見通しは「ポジティブ」。ちなみに、全国に145ある信用組合のうちJCRの格づけを取得しているのは同組合のみであり、「A・ポジティブ」という格づけは、信用金庫と合わせたランキングでもトップ3に入るという。 職員にも「現場主義」で向き合い働き方・処遇を改善  この好業績を支えているのが、徹底した「現場主義」だ。「フットワーク」、「フェイス・トゥー・フェイス」を大事にして職員が常日ごろから顧客を訪問し、ニーズや困りごとを聴き、関係を構築している。この「現場主義」はトップが自ら率先して実践している。  「私の車にはお客さまへの手土産用の饅頭が常に15箱積んであり、私自身がお客さまのところをふらっと訪れます。現場をみると、社長の人間性や事務所の整理整頓状況、工場のラインの稼働状況、職員の顔色など、決算書ではわからないことがみえてきます」(山本理事長)  これにより、融資の可否を3日以内にスピード決裁することが可能となり、ほかの金融機関との差別化につながっている。  この「現場主義」の考え方は、働き方改革にも通じるという。山本理事長は、現場目線で顧客と向き合うのと同じように、職員にも目を向け、職員がやる気をもって働ける環境を整えることに注力してきた。  「私は、とにかくお客さまに寄り添った経営を心がけています。そのお客さまに対応してくれるのは職員ですから、働き方改革や待遇の改善を行い、職員が喜びをもって働けるようにと取り組んできました」(山本理事長)  例えば、労働時間の面では、一般の職員は8時10分以降にならないと出社できないこととしたうえで、17時40分の定時退社を基本とする時間管理を徹底。働き過ぎの防止とワーク・ライフ・バランスの推進につなげている。  処遇の改善も継続的に行っており、9年前には18万3000円だった大卒初任給は、いまでは、県内のほかの金融機関の水準を大きく上回る22万5000円にまでアップしている。また、食事手当、資格手当などの各種手当を退職金のベースとなる基本給に振り替えてきた結果、各人の定年退職金は500万円以上増加している。 ベテランの力を活用するため役職定年制を廃止  こうした働き方改革・処遇改善の一環として、2014(平成26)年3月に役職定年制を廃止した。それ以前は、部長は58歳、副部長は57歳、支店長・課長は56歳、支店長代理・課長代理・係長は55歳で役職定年となり、部長や副部長だった人は主任調査役、支店長・課長だった人は役職から離れ調査役などとなる仕組みだったが、定年(当時は60歳)まで役職を継続できるようにした。  その理由について山本理事長は、「部長や支店長をになってきたベテランには、若い人にはない泥臭さがあり、やる気や根性も違います。50代で役職を外すのは、あまりにもったいない。そういう人たちのやる気を喚起することが大事です」と説明する。  ベテランのになう役割としては、「彼らには、人材育成をしてもらいたい」(山本理事長)という点をあげる。スキルや経験を活かして自ら活躍するだけでなく、後進を育てる役割も期待しているのである。そうであれば、役職を解いたうえで教育係にしてもよさそうだが、「やはり、審査部長、管理部長、人事部長など現場のトップの役職にいると、『がんばらなければ』という気持ちになります。この先、役員になれるかもしれないという期待ももてるでしょう。本人たちのやる気を維持するには、早く役職を解くべきではありません」(山本理事長)と判断した。  同組合が役職定年制を導入したのは、1990年4月。当時は、組織の新陳代謝をうながす目的で導入したが、役職定年になると、どうしてもモチベーションの低下が避けられなかった。役職定年の廃止により、定年までやりがいをもって働き続けられるようになった。  同組合のように役職定年を廃止する組織がある一方、役職定年を導入する企業もある。役職定年を新たに導入する企業には、「組織を若返らせたい」といったねらいがあるが、その点について山本理事長は、「若手にベテランと同じだけのノウハウがあるかというと、私にはそう言い切ることはできません。彼らも、実力がないのに支店長などになることは望んではいないでしょう。『実力がないと支店長などになってもダメ』ということは、理解しています。もう少し勉強してから偉くなりたいというのが本音ではないでしょうか」ととらえている。  一方で、役職者への若手や女性の登用も進めており、係長や課長代理に積極的に就かせている。他社の場合、課長代理などライン長ではないポストは極力なくそうとする企業も多いが、同組合は、「コストはかかるが、ある程度は、課長や課長代理が増えてもよい」という方針を採っている。そのため、若手にも昇進のチャンスは多い。ちなみに、男性の66.9%、女性の52.6%が係長以上である。  また、年功序列的に昇進させていくことはなく、優秀な人は30歳で支店長にすることもある。こうした運用を行っているので、優秀な若手層が「上が詰まっているから昇進できない」と不満を抱くことはない。  なお、優秀な若手を支店長など上位の役職に抜てきする場合は、それまでその役職を務めていたベテランを外す必要が生じることがある。そのようなときには、降格させるのではなく、本部の審査部などで、それまでに身につけたノウハウを活用してもらうようにしている。 いち早く定年を65歳に引き上げ役職も65歳まで継続可能に  役職定年制を廃止した3年後の2017年4月には、職員の定年を60歳から65歳に引き上げ、定年後継続雇用の嘱託職員の上限年齢もそれまでの65歳から70歳に引き上げた。それまでは、60歳定年後、希望者全員が62歳まで、労使協定で定めた基準を満たす職員については65歳まで嘱託職員として継続雇用することとしていた。実際には、ほぼ希望者全員が65歳まで継続雇用されていたが、仕事内容や役職も変わり、賃金も大幅に下がるので、モチベーションの低下がみられたという。  とはいえ、前述のように、同組合には若い職員も多く、高齢化が進んでいたわけではない。世の中でも、まだまだ65歳定年の企業は多数派ではなく、定年延長の機運が高まっていたとはいえない時代だった。にもかかわらず、他社に先駆けて定年延長をした理由は二つある。一つは、「高齢者の知識、ノウハウを活用したい」というねらい。「やはり35年、40年と経験を積んできた職員は違います。仕事の痛い、かゆいがわかっています」と山本理事長はいう。  もう一つは、「今後の人口減少、若者の減少への対応」だ。預金と融資に特化した独自の経営戦略、その結果としての好業績、あるいは働き方改革や待遇改善などにより、現状では、学生の就職人気企業ランキングで上位に位置しているが、中長期的には、「これからの採用は、いままでどおりにはいかなくなる」ととらえている。  ちなみに、この定年年齢の引上げは、職員の要望を受けて行ったものではなく、山本理事長が経営者として発案した。当然、人件費は増加することとなるが、業績が好調で財務体質も健全だったため、問題にはならなかった。  定年が延長されたことで、60歳以降も、原則として59歳時点に担当していた役職、業務を継続することとなった。前述のように、ベテランの力を高く評価し、引き続き活躍を期待しているため、60歳で役職を外すという発想にはならなかった。  その結果、いまでは、30代の支店長もいれば、60代の支店長や部長もいる状態となっている。山本理事長は、「ベテランと若手をミックスしてやっていくことが大事と考えていますが、それがいま、うまくかみ合っています」と評価している。 これからも職員を大事にしてやりがいをもって働ける環境を築く  コロナ禍となり、金融機関にとっては融資の判断がよりむずかしい時代になったといえる。しかし、山本理事長は、「いまは、大きなビジネスチャンスです。ほかの金融機関が躊躇してリスクテイクしないいまだからこそ、逃げてはいけないと考えています。これからの時代は、金融機関再編などいろいろなことがいわれています。アフター・コロナは、成長していく企業と脱落していく企業に分かれることも予想されますが、金融機関も同様に、成長していく金融機関と脱落していく金融機関に分かれるでしょう。金融機関も、今後はお客さまの厳しい目で評価されるようになります。しかし、そのなかでシシンヨーは必ず生き残っていきます」と話す。  同組合は、今年度上期の決算でも過去最高益を更新し、来年3月の年度末決算にも過去最高益を見込んでいる。山本理事長は、「職員を大事にし、やるべきことをやってきたことで好循環が生まれ、過去最高益につながったととらえています」とこれまでの活動を評価する。  そして、今後も、職員がやりがいを持って働ける環境を整えていく方針がブレることはない。  「私の頭には、とにかく職員を大事にすることがあります。職員は財産です。『現場主義』で職員が困っていないかをみていき、職員を大事にしていく。それが当組合の業績一つひとつに反映されていきます。職員を大事にし、職員がモチベーションをもって働ける環境を用意すれば、必ず業績は上がります。大事なのは、役員が先頭に立っているか、現場を知っているか、パフォーマンスではなく現場で求められていることを徹底しているかです。きれいごとではなく、お客さまのため、職員のために取り組んでいけば、組織がおかしくなるわけがありません。また、3年、5年、10年したら、うちは一気に変わってくると思います。60代の職員も増えていきますし、その一方で若い職員にもチャンスを与えていく必要があります。そうやって、自分たちが思い切り働ける職場をつくり、みんなががんばってくれるシシンヨーになっていければと考えています。そうすれば、シシンヨーは必ず伸びていきます」と語る山本理事長の口調は力強い。  他社の真似をするのではなく、自分たちが正しいと思ったやり方を信念をもって貫く、同組合の挑戦から目が離せない。 写真のキャプション 本社外観 山本明弘理事長 【P37】 日本史にみる長寿食 FOOD 338 そばを食べて不老長寿 食文化史研究家● 永山久夫 そば好きは長生き  今年の新そばは、香りも強くのど越しもさわやかです。割り箸をパチンと割って、新そばを手繰(たぐ)ると、秋の深まりを感じます。  「そば好きは長生き」ということわざがありますが、たしかに、そばには不老長寿の成分が豊富です。いかにもうまそうに、ニコニコしながらそばをかっこよく手繰っているのは、若い人よりも、年齢を刻んだご年輩の方が多いです。  そばには血管の老化を防ぐというルチンが多く含まれていて、一食ごとに血管を若返らせているのかもしれません。  ルチンには毛細血管を強化する作用があり、血液もサラサラになって、血流もよくなる働きをするといわれています。抗酸化成分のルチンには血圧の安定効果があることがわかっていますが、人間の記憶力をアップするという脳とのかかわり合いでも注目されています。 そば湯も頂戴(ちょうだい)しましょう  ルチンの作用は、ビタミンCと一緒に摂ると強くなりますから、薬味として添えるネギやオオバ、ミツバ、大根おろしなどは、残さずに食べるとよいでしょう。  ところがルチンは水溶性のために、そばを茹(ゆ)でる湯のなかにどんどん溶け込んでしまいます。そば粉にはビタミンB1やB2などのB類が含まれているのですが、こちらも水溶性です。したがって、そば湯はルチンやビタミンB類の貴重な供給源になります。そばを食べ終わったら、そば湯をご馳走になりましょう。  そばにはタンパク質が多く、白米のほぼ2倍で、穀類のなかではトップクラスです。そのうえ、食物繊維も多く、万病のもとといわれるお通じのとどこおりを防ぎます。昔は、定期的にそばを食べて、体内を清める「清めのそば」の習慣があり、毎月末に「晦日(みそか)そば」と呼んで、家族そろって頂戴し、1カ月の無事を神に感謝しました。  1年の終わりに食べるのが「年越しそば」で、この習慣はいまでも続いています。  江戸時代の『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』にも、そばの健康効果について、「よく胃腸の残りかす、とどこおりを下す」とあり、平安時代の『医心方(いしんほう)』にも、「五臓の汚れたかすを清めて、洗い流す」とあります。免疫力の70%は腸にあり、ウイルスに負けない体力を維持するためにも役に立ちそうです。 【P38-39】 江戸から東京へ [第109回] 折り焚く落葉に涙 新井白石 作家 童門冬二 江戸城の鬼が川に落ちた犬に  新井(あらい)白石(はくせき)は江戸時代中期の学者だ。クールな合理性と鋭い思考力で、いまでも高く評価されている。特に静かな目で分析する歴史眼は現在でも評判が高い。  その才智を見込まれて、六代将軍徳川家宣(いえのぶ)の就任前からブレーンになった。家宣就任後はほとんど老中(閣僚)と同等の力を持ち、腕を振るった。国民が信用する貨幣の発行や汚吏(おり)※の追放など、勇気をもって実行したので、現在の史書にも正徳(しょうとく)の治(ち)〈正徳はこのころの元号〉≠ニして記録されている。  しかし家宣が死んで八代将軍に紀州藩主徳川吉宗が就任したころには、ガラリと扱いが変わった。白石は辞表を出した。自分から身を引くという意思表示だ。が、担当役人は、  「上様(将軍)が罷免(ひめん)(クビ)にした扱いにします」と告げた。それまで江戸城の鬼≠ニまでアダ名された白石への報復だ。  「白石がクビになった」という噂が広まると、白石は俗にいう川に落ちた犬≠ノなった。「川に落ちた犬には礫(つぶて)(石)をぶつけろ」という言葉通り、石の礫が四方から飛んできた。陰湿なイジメも始まった。  住んでいる家・土地も管理する役所(勘定奉行所)から「至急お返し願いたい」と云ってきた。幕府の書庫から借りていた図書も、「いついつまでにお返しください。図書も備品ですので」と云われた。  白石は情けなくなった。  (人の心はこうも変わるものなのか)  と嘆いた。新しく住む家を探しながら白石は、毎日庭を掃いて過ごした。丁度季節なので、庭は落葉で一杯だった。それを集めて焚木(たきぎ)で焼いた。焚木は垣根の柴の古枝を使った。  白石に幕府からの貸与品(家・土地・図書・什器等の備品)の返還を求めるためにやって来るのは、大岡(おおおか)忠相(ただすけ)という武士だ。先日まで伊勢の山田奉行だったが、吉宗に信頼されて新しく江戸町奉行になった。  白石の所に来るのは吉宗から、  「町奉行は人情の機微を知らなくてはつとまらぬ。それにはイヤな思いも味わうことが必要だ。学者の新井白石から貸与品を取り上げてこい」と命ぜられたからだ。 鬼の目にも涙  しかし大岡は昔から白石を尊敬していた。特に江戸城から悪や汚れを追い払う白石の勇気には、遠い伊勢から拍手を送っていた。だから尊敬する白石に、備品返納を迫ることもイヤな仕事ではなかった。というより一度も催促なんかしなかったからだ。逆に、  「必要ならいつまでもお使いになって結構ですよ。帳簿の方は何とかしますから」  と云った。大岡にすれば、白石が庭の落葉を集め、それを燃やしながらいろいろな経験談を話してくれるのを聞くのが、得がたい楽しみだったからである。  そして大岡はそれをひとり占めにしなかった。必ず吉宗に報告した。吉宗もまた大岡の話を楽しみにした。ヤキモキしたのは、幕府の財産の管理責任を負う勘定奉行所の役人だけだった。あるとき大岡は、  「上様」と吉宗に云った。  「何だ?」  「新井先生を顧問になさったらいかがですか?」  「そうするつもりで持ちかけたが断られた。忠臣は二君に仕えずとな」  「それは残念でした。しかし惜しいですね」  「惜しい。しかしかれの心は固い。わしには仕えないよ」  白石は大岡にこんな話をしたことがある。落葉のことだ。  「大岡さん、この落葉は親孝行なンですよ」  「落葉が親孝行?」  「そうです。これらの落葉は今年生まれて今年散ったものです。つまり寿命は今年一年でした」  「はい」  話がみえないので、ただうなずいた。  「しかし葉は親の幹の下に集まり、やがては朽ちて親を包む土の中に自分の身も溶とかしこみます」  「はい」  「そして親を養う肥料(こやし)になるのです。そう考えると落葉たちの孝心がいじらしくて…」。そのときの白石は涙ぐんでいた。大岡は胸を熱くした。  (こんな人物を鬼と呼ぶ奴の気が知れない)  と思った。しかしこの話をしたとき、吉宗は「鬼の目に涙か」とつぶやいてかすかに笑った。大岡はその姿をみて(この将軍にも非情な所がある。気をつけないと)と緊張した。  吉宗は複雑な人間だった。ブレーンにした学者は室(むろ)鳩巣(きゅうそ)うだった。推薦者は白石だ。学者としては白石の方がはるかに力がある。しかし行政の実務については鳩巣はいろいろな案を出した。吉宗はそれを自分の改革(享保の改革)に活用した。そのくせ自分が関心のある課題については、密かに白石の意見を求めた。その橋渡しをするのは大岡だった。白石は日蔭の学者ではなくなった。かれの学問的業績のかなりの部分は、吉宗の庇護によって成し遂げられる。川に落ちた犬は再び光を帯びて輝いた。実力がそうさせたのだ。しかし大岡は、吉宗の支持は自分が話した白石の落葉の親孝行≠フせいだと思っている。 ※ 汚吏……悪いことをする役人 【P40-44】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第114回 長野県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 長所を活かした役割をまかせ公平な評価制度でやる気をアップ 企業プロフィール 有限会社わが家(長野県上伊那(かみいな)郡宮田村) 創業 2004(平成16)年 業種  社会福祉・介護事業 社員数 48人(うち正規従業員数19人) (60歳以上男女内訳) 男性(1人)、女性(15人) (年齢内訳) 60〜64歳 1人(2.1%) 65〜69歳 11人(22.9%) 70歳以上 4人(8.3%) 定年・継続雇用制度 定年は70歳。定年後は個別契約により運用で、パート社員として継続雇用が可能。最高年齢者は82歳。  長野県は本州の中央部に位置し、全国で4番目の面積を有し、八つの県と隣り合っています。面積の約8割を森林が占め、標高3000m級の飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈の山々に囲まれており、それらは総称で日本アルプスと呼ばれています。  県内産業は、りんご、ぶどう、レタスをはじめとした農業が盛んで、農業就業人口は全国第3位(「平成27年農林業センサス累年統計」より)。工業は、諏訪(すわ)地域を中心に精密機械や電子産業が盛んで、現在も岡谷(おかや)市、諏訪市、茅野(ちの)市などに電気機械、一般機械などの先端技術による産業が集積しています。  当機構の長野支部高齢・障害者業務課の菊池和(わたる)課長は長野県について、次の特徴もあげました。「平均寿命、健康寿命が男女ともに全国上位であること、県内の65歳以上の有業率は2012年の27.8%から2017(平成29)年には30.4%と上昇し、全国第1位(「平成29年就業構造基本調査」より)となっています」  同課では、労働局およびハローワークと連携し、県内企業への高齢者雇用の相談や助言活動に力を入れ、訪問活動では専門知識を持つプランナーによるきめ細かい支援を行っています。  同課に所属するプランナーの一人、渡部(わたべ)信一さんは、社会保険労務士であり、企業が使用している情報システムについて信頼性や安全性、効率性などの観点から点検・評価をするシステム監査技術者の資格をもち、人事労務の相談・助言とともに情報システムのセキュリティやテレワークについての相談に対応しています。  今回は、その渡部プランナーの案内で「有限会社わが家」を訪ねました。 70歳の定年後も無理なく働ける職場  「この村の福祉のよろずやでありたい」。こうした理念を掲げて、有限会社わが家は2004(平成16)年1月、長野県南部にある人口約9000人の宮田村に誕生しました。そして、創業から17年、乳幼児から高齢者までが自宅にいるように過ごせる場所を目ざして開所した「宅幼老所わが家」から始めた事業は、人々との触れ合い、支え合いを通じて、現在では介護保険事業(通所介護・訪問介護)、高齢者の緊急時短期宿泊事業、障害者支援事業、託児事業へと拡大。2013年には、商店街の中心に介護施設と有料老人ホーム、直営の飲食店、外部テナントが同居する「オヒサマの森」をオープンしました。代表取締役社長の大石ひとみさんは、同社の事業と雇用について「乳幼児、高齢者、障害者、妊婦などさまざまな人が集い、同じ空間で快適に過ごす小さなコミュニティを築くことを目ざしています。利用する人も、理念に賛同して働く人も、何歳でもかまわないと思っています」と話します。  こうした考えのもと、創業時は60歳としていた定年年齢をその後65歳に引き上げ、さらに2008年に70歳へと引き上げました。早い時期に定年70歳としたのは、「知識や経験豊かな社員が継続して働ける環境を整えるためと、田舎なのでもともと元気で仕事をしている高齢者が多く、スタッフを募集すると60歳以上の応募が多いのです。65歳ではすぐに定年となってしまうので、間口を広げて70歳に引き上げました」と大石社長は説明します。  また、定年後も本人が希望する場合は「パート社員」として、個別の労働契約により年齢にかかわらず働くことができます。契約は1年ごとに交わし、勤務日数や時間を話し合い、柔軟に対応しています。現在の最高年齢者は82歳です。 役割を明確にし、目標に向かって成長  定年後の賃金は、職務に変更がなければ減額とはならず、働きぶりによっては昇給の可能性もあります。  同社では、正社員、パート・アルバイトそれぞれにキャリアパス※1を構築し、評価を賃金に反映しています。キャリアパスは高齢社員を含む全社員に示し、自己評価を含む360度評価を行い、年2回の管理責任者との面談により課題や成長のための方針などを話し合います。また、年1回は社長と面談を行います。  専務取締役の大石泰嗣(たいじ)さんは、これらの制度について、「以前は役員が評価を行っていましたが、公平性を重視し、6年前に評価制度をあらためるとともに、キャリアパス制度を導入しました。自分の立場、役割を明確にし、目標をもって意欲的に働ける環境が構築できると考えましたが、よい仕組みができたと感じています。評価結果がよければ、何歳でも昇給します。よい仕事をする社員に対して相応の対価を支払いたいという思いと、そうすることが地域の信頼の獲得につながるとも考えました」と制度導入の意図を明かします。  毎年、社員全員が自分の目標を明確にし、その思いを漢字一文字で表して、思いを込めて書初めをし、施設内に掲示しています。  渡部プランナーは「評価制度を導入し、高齢であっても目標をもって働ける仕組みを整えていること、また、面談やコミュニケーションを重視していることが、社員の働く意欲、活力を高めていると思います。さらに、『育孫(いくまご)休暇制度』を設けていたり、社員同士の話合いのなかでゆとりをもった働き方ができている、そのような職場環境が構築されているとの印象ももちました」と同社の取組みや風土を語ります。  「育孫休暇は、孫の面倒をみる期間などに柔軟に適用できるものです。また、ふだんから社員同士が健康などを気遣い、休みが取れるようにするなど、お互いさまの気持ちで働く風土ができていると思います。若い社員もさりげなく高齢社員を気遣いますし、反対に、いまは産休を取る社員が続いていて、『それじゃ、おばぁたちの出番だね』といって高齢社員が張り切ってくれて助かっています」(大石専務)  これらは、社員の人柄によるところもありますが、キャリアパスにより社員から信頼される中間管理職が育ち、そうした管理職の日ごろのがんばりが支えになっているとも同社では考えています。 高齢者は長所だけに注目して採用  高齢で介護や福祉の仕事が未経験であっても、働く意欲のある人を採用しており、高齢者の採用にあたっては、「長所だけをみます。そこを活かし、伸ばしていける役割をもってもらいます」と大石社長。また、人生経験そのものを一つの能力ととらえており、若い社員に対して、「仕事は未経験でも人生経験は先輩」との考えを示し、高齢社員から学ぶ姿勢で向き合うことを伝えています。  最高年齢の平沢玲子さん(82歳)は、「宅幼老所わが家」で週4日、10時から14時まで利用者の食事の世話や洗濯物の収納などの仕事をしています。入社したのは2年前、80歳のときでした。以前は縫製の仕事をしていて、介護の仕事は未経験でしたが、「また外へ出て働いてみたいと思い仕事を探しているなかで、こちらで面接してもらえることになり、職場見学もして働けることになりました。うれしかったです」と満面の笑みで話す平沢さん。「年齢を感じさせず、よく気がつき適応力が高いこと」が採用の決め手だったそうです。  平沢さんは、「自分でも役に立てることがあるならと思い、入社しました。心がけているのは、利用者の方々に心地よく過ごしてもらうこと。ですが、みなさんから『元気ね』、『若いわね』といっていただき、私のほうが元気をいただいています」と明るく話してくれました。  柘植(つげ)幸子(さちこ)さん(71歳)は、製造業の会社を60歳で定年退職後、ハローワークで介護職員初任者研修を受けて修了し、わが家に入社して11年になります。入社後は訪問介護で活躍し、6年前から「宅幼老所あずま家」に勤務。70歳定年後は、パート社員として月10〜13日間、9時から15時30分まで入浴や食事の介助を行っています。  「利用者の方々からいろいろなことを教えていただける職場ですし、若い人とも話ができて刺激をもらえます。また、職場のみなさんに支えられ、母の介護をしながら働くことができました。母を亡くしてからも、『一緒にまた働こうよ』とみなさんが誘ってくださって、いまがあります。会社にもみなさんにも感謝しています。いつまでも、ここで働きたいと思っています」と笑顔で話す柘植さん。大石社長も「柘植さんは責任感の強い人です。お母さまの介護をするようになってから、勤務時間を短く調整して仕事を続けていました」と、信頼をよせています。 地域のなかで多様な働き方を発信  同社には施設の利用者のつながりなどを通じて応募してくれる人たちが多く、採用に至っているといいます。渡部プランナーは、「理念や、年齢にこだわりのない企業であることをさらにアピールした募集をすること」をアドバイスしました。また、「当機構の高年齢者活躍企業コンテストなどへの参加を通じて、社会に認識してもらうことも大切」と提案し、令和2年度のコンテスト※2に応募して当機構理事長表彰特別賞を受賞しました。  高齢社員には、「細く、長く仕事を続けてください」と大石社長は話しているそうで、今後の課題として「健康管理」をあげました。  同社が目ざしているのは、「地域密着で事業を継続し、地域のなかで雇用を生み出し、循環していくこと」と大石社長。高齢者の活力をこれからも大事にして、高齢社員の長所を活かし、個々の事情などによりそい、柔軟な働き方に対応していくと語ります。短日・短時間勤務をはじめ、宿直業務のみや、若い社員が働きづらい時間帯をカバーして朝4時間と夕方4時間で働く高齢社員もいるとのこと。多様な働き方があり雇用管理がたいへんと話しますが、「いろいろな働き方の事例を発信し、元気な高齢者の方々にこれからも柔軟に仕事を担当していただきたいと考えています」と大石社長。渡部プランナーは「小さな村の企業ですが、同社の理念や多様な働き方の事例は、全国の同様の施設のモデルになるものと思います」と話していました。(取材・増山美智子) ※1 キャリアパス……どのような経歴を経て、どのような職務に就くかといった、異動や昇進のルート ※2 令和2年度時の名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 渡部信一 プランナー(65歳) アドバイザー・プランナー歴:5年 [渡部プランナーから]  「社員が安心して働く環境をつくるためには、企業と社員が互いに尊重しあうことが重要であり、特に定年を迎える高齢者は企業との意思疎通が大切だと考えています。事業所訪問活動では、企業と高齢者のコミュニケーションを円滑にするための橋渡し役がプランナーであるということを意識し、企業担当者からお話をお聞きしています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆長野支部高齢・障害者業務課の菊池課長は、「渡部プランナーは、社会保険労務士として人事労務や賃金・退職金管理などを専門・得意分野としています。また、聞き上手であり、企業の話をしっかりとうかがい、企業と従業員の双方にメリットとなるような人事評価や能力開発などもあわせた提案を積極的に行っています」と話します。 ◆長野支部は、長野職業能力開発促進センター内に事務所があります。長野駅から北東約5km、しなの鉄道北長野駅から約1km、徒歩約10分の場所です。 ◆同課には10人の65歳超雇用推進プランナーおよび1人の高年齢者雇用アドバイザーが在籍しています。日々の精力的な取組みの結果、2019年度は280件の制度改善提案と1050件の相談・助言を行い、2020年度は134件の制度改善提案と577件の相談・助言を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●長野支部高齢・障害者業務課 住所:長野県長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 電話:026-258-6001 写真のキャプション 長野県上伊那郡宮田村 施設の一つ「オヒサマの森」。建物内に介護施設と、飲食店などの商業施設が同居している 代表取締役社長の大石ひとみさん 専務取締役の大石泰嗣さん 利用者の食事の世話をする平沢玲子さん 利用者と楽しそうにお供え餅をつくる柘植幸子さん 【P44-47】 高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 高木元也  生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理に詳しい高木元也先生が解説。今回が最終回となります。 最終回 企業の取組み事例と今後に向けて 1 はじめに  これまで1年にわたり、この連載を続けてきました。  最終回の今回は、エイジフレンドリーな職場づくりに向けた大手企業の取組み事例を紹介するとともに、これまでの連載内容をふまえ、今後、高齢者が快適に働くために、事業者がすべきことを総括します。 2 企業の取組み事例  企業における高齢者の安全確保の取組み事例として、JFEスチール株式会社西日本製鉄所、トヨタ自動車株式会社の取組みを紹介します※1。これらの事例は高齢者だけではなく、若い世代も対象としています。 ■事例1 JFEスチール株式会社西日本製鉄所  JFEスチールでは、社の安全衛生方針「安全は全てに優先する」の「安全」と「体力」を結合し、高齢になっても安全で健康に働くために必要な体力を「安全体力 R」とネーミングし、「安全体力 R」をチェックするための測定ツールを開発しています。  「安全体力 R」を把握するためのテスト(図表1)は、転倒、腰痛、危険回避、ハンドリングミスの4つのリスクを8つのテストでチェックします。テストの結果は5段階で評価し、評価4・5は「安全域」、評価3は「維持域」、評価2は「要注意域」、評価1は「危険域」と設定し、評価1・2になった「安全体力 R」の低い者には自覚をうながし、改善意欲を高めさせています。2014(平成26)年、40歳以上の健診対象者(1703人)に転倒の有無についてアンケート調査をしたところ、転倒経験者(159人)は非経験者より、転倒リスクのテスト3項目の割合が高い結果となり、このテストの有効性が認められました。また、「安全体力 R」を一定の水準に維持するため、毎日実施する2つの職場体操を作成しています。 職場体操1:筋骨格系疾患対策 「アクティブ体操」PART1】  腰痛などの筋骨格系疾患対策用の体操(10種目約5分)です。種目は、作業中に負担がかかりやすい部位を対象に構成されています※2。 【職場体操2:転倒予防対策 「アクティブ体操」PART2】  高年齢者に多い、転倒しやすい姿勢「背中が丸く骨盤が後傾し、股関節が開かず足首が固い」の改善を目的とした運動(10種目約5分)で構成されています※3。  これらの取組みの効果として、筋骨格系疾患による休業日数が減少し、転倒災害発生件数も減少傾向にあるとしています。 ■事例2 トヨタ自動車株式会社  トヨタ自動車では、高齢になっても活き活きと元気に働くには、体力の維持・向上、心身の健康の増進が大切とし、そのためには、若年・壮年期からの意識変革が重要ととらえています。具体的な取組みとして、従業員の体力の維持・向上のための「いきいき健康プログラム」、休業につながる心身の疾患を予防する「健康チャレンジ8」などを推進しています※4。 @いきいき健康プログラム  36歳以上の全従業員を対象に、4年に1度のペースで以下の取組みを実施しています。 a 体力の見える化(体力測定)  以下の全9種目(2020年10月よりGHを除く7種目に変更)の体力測定を実施しています。 @上腕柔軟性、A肩柔軟性、B座位体前屈、C握力、D足把持(そくはじ)力、E2ステップ距離測定(バランス力)、F反復立ち上がり(筋持久力)、G座位ステッピング(敏捷(びんしょう)性)、Hミネソタ(手先の器用さ) b 運動指導  社内の運動トレーナーが、トレーニング方法、身体のメンテナンス方法などについて、実技を交え指導します(1回30分〜1時間、数人〜30人)。特に、加齢による腰痛、肩こりに効果的なストレッチ方法を指導しています。また、従業員に歩数、運動時間などが記録できる活動量計を貸し出し、活動量計の結果に基づき、運動トレーナーがアドバイスを行っています。 A健康チャレンジ8  8つの生活習慣「1・適正体重、2・朝食、3・飲酒、4・間食、5・喫煙、6・運動、7・睡眠、8・ストレス」を対象に、健康的な習慣の実践数を増やす取組みを行っています。全社的に実践数の目標を設定し、職場単位の活動を推進しています。実践数の結果は、個人および職場にフィードバックし、個人、組織の取組み意識向上につなげています。  また、「健康スマホアプリ」により、歩数などの活動量の見える化、各自の健康チャレンジ宣言を入力することなどにより、取組み意識を高めて行動変容をうながしています。社内食堂のメニューも、栄養バランスを図り、カロリー表示とともに、カロリー低食(599kcal以下)、野菜たっぷり、減塩メニューなど、各種ヘルシーメニューを提供しています。そのほか、禁煙化への取組みでは、各自の禁煙宣言、ニコチンパッチなどで支援する禁煙チャレンジ活動を実施しています。  これらの取組みの結果、2020年末の全従業員の平均実践数は6.27(最大8)となり、目標値6.30に近づいています(2020年頭6.09)。 3 身体機能計測装置の活用  大手企業の取組み事例では、2社とも体力測定が行われていますが、体力テストを実施するには、実施場所を確保したり、一度に従業員を集めたりしなければならず、実施がむずかしい企業もでてきます。体力測定に替わるものとして、身体機能を簡単に計測する装置があげられます。  例えば、2020年度の厚生労働省の高年齢労働者安全衛生対策実証等事業を受けた、マイクロストーン株式会社の「THE WALKING R」は、背中と腰にモーションセンサーを身につけ10m歩行するだけで、歩き方、身体の使い方の特徴が評価できる歩行健診システムです。  足音を聞くだけでだれが来たかがわかるように、歩き方には人それぞれ個性(クセ)がありますが、強すぎるクセは転倒や腰痛・膝痛といった関節疾患につながります。  この「THE WALKING R」は、歩行の専門家である理学療法士の知見から歩き方を数値化し、その特徴から歩き方や身体の使い方を整えるための改善プログラムを提示しています。  また、歩き方がほかの転倒者とどの程度似ているかをAI分析し、転倒スコアや注意すべき転倒の種類(ふらつき、つまずき、すべり)を表示します。  高年齢労働者安全衛生対策実証等事業では、50歳以上の労働者(92人)を対象に歩行計測を行い、提示された改善プログラムに2カ月間取り組むことで、歩行時のふらつきや左右差が改善し、転倒に関連する体力指標にも改善が認められています(図表2)。 4 エイジフレンドリーな職場づくりのために  本連載では、エイジフレンドリーな職場づくりをテーマに掲げ、これまで、高齢者の労働災害発生率の高さなどエイジフレンドリーな職場づくりが必要な理由、国における高齢者の労働安全衛生行政施策として、2020年3月に厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン」の概要、高齢者に頻発している労働災害として、転倒、腰痛、切創、墜落・転落等災害の事例と、その発生原因と労働災害防止対策を示し、そして最終回の今回は、大手企業の取組み事例などを紹介してきました。  大手企業の取組み事例では、体力維持、健康づくり、職場体操などを紹介しましたが、エイジフレンドリーガイドラインが示す新たな視点高齢者一人ひとりの健康や体力の状況に応じた対策≠ノ精力的に取り組んでいる企業は、残念ながらまだ多くありません。この点は、人生100年時代に向けた今後の大きな課題です。  高齢者には、加齢により心身機能が大きく低下し、それにより被災しやすくなることを自覚してもらわなければなりません。例えば、つまずいても手をつけず、そのまま、顔、肩、腕から転倒するなど、とっさにうまく動けずに骨折などの重傷になります。高齢者に自覚をうながす取組みは職場の安全管理責任者の務めです。  また、身体機能が低下する高齢者にはパワーアシストスーツが推奨されます。作業による過度な負担は、疲労回復力が低下している高齢者には大きな課題です。また、疲労による注意力、集中力、判断力の低下はヒューマンエラー災害につながります。現在、防衛省においても、災害救助などでの自衛隊員の負担軽減を図るため、専用のパワーアシストスーツ(高機動パワードスーツ)の開発を進めるなど、働く人の負担軽減策は重要な課題となっています。  人生100年時代を迎え、高齢者がいつまでも活き活きと元気で健康に働くためには、職場環境改善、作業内容の見直し、職場体操、体力チェックなどを積極的に進める必要があります。それは、わが国の深刻な人手不足問題の解消につながるとともに、高齢者が活き活きと働く姿が社会にあふれることは、わが国に大きな活力をもたらすでしょう。 ※1 中央労働災害防止協会「高年齢労働者が安全・健康に働ける職場づくり エイジフレンドリーガイドライン活用の方法」より ※2 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=KPxt7vyQ6Zo ※3 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=LEr6r1Mxgu8 ※4 ここでご紹介している取組みはコロナ禍以前に実施していたものです ★ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 「安全体力 R」機能テスト 転倒リスクテスト(3項目) 片脚立ち上がり 体重を支える脚の筋力 5m平均台歩行 バランスを崩さず歩く能力 2 ステップテスト つまずかずに歩行する能力 腰痛リスクテスト 腰椎・股関節柔軟性 腹筋筋力 危険回避能力テスト 全身反応時間 ハンドリングテスト 手の操作範囲 把持(はじ)筋力 本誌2018年9月号より。JFEスチール西日本製鉄所の取組み 図表2 マイクロストーン社「THE WALKING R」 (転倒リスク歩行健診システム)の診断画面 資料提供:マイクロストーン株式会社 写真のキャプション 本誌2019年4月号より。トヨタ自動車「いきいき健康プログラム」のイメージ 歩行健診システム「THE WALKING R」を使用した計測の様子 写真提供:マイクロストーン株式会社 パワーアシストスーツを着用して働く高齢者の例 【P48-51】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第43回 降格後の地位における合理的期待、職務専念義務に違反するメール送信と懲戒 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年年齢を超えて採用した人材の降格、または雇用契約終了を検討するうえでの留意点について知りたい  定年年齢を超える方を雇い入れ、責任のある職務をまかせたのですが、人との距離をとることにおいて不適切な点があり、セクシャルハラスメントを行っているとの申告もされています。  そこで、一般職に降格することとしたのですが、雇用継続に関する協議において、降格の効力を認めないため、協議が整いません。このようなときに、契約期間満了時に契約を終了したいのですが、留意点を教えてください。 A  類似の裁判例をふまえると、使用者が抱かせた更新に対する期待の内容と、労働者が抱いている更新に対する期待の内容が相違する場合には、合理的な期待があるとはいえないため、雇止めによる労働契約の終了も視野に入れて協議することができるでしょう。ただし、降格が有効であるかという点には注意が必要です。 1 人事権に基づく降格処分について  多くの企業においては、懲戒処分としての降格の規定は定められていることが多いものの、人事権の行使としての降格処分が就業規則に定められていることは少ないです。一般的に、労働契約に基づき、使用者は、労働者に対する人事権を有しており、その裁量の範囲も比較的広いと考えられてはいますが、降格処分を実施しようと思ったときには、就業規則上の根拠がなければ、実施できないことがあります。  降格には、厳密にいえば、@役職の単なる低下として行われるもので、職能資格や資格等級の低下(とそれによる賃金の低下)をともなわない場合には、使用者が裁量によって決定できる範囲は広いと考えられています。  他方で、A職能資格や資格等級の低下(とそれによる賃金の低下)をともなう場合には、就業規則や労働契約上の根拠がなければ実施できないと考えられています。  労働者に与える不利益の程度の相違から生じる差異ですが、多くの企業で実施される降格は、Aの意味合いで行われることが多く、就業規則上の根拠に基づき行うことが適切でしょう。  なお、人事権の行使としての降格と対比されるのは、懲戒処分としての降格ですが、懲戒処分である以上、当然に就業規則の根拠が必要となり、懲戒権の濫用(らんよう)は許されないため、懲戒処分としての降格の実施にあたっては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法第15条)。 2 降格後の地位と雇用延長に関する協議  降格を実施した後、雇用契約を延長する場合に、当然ながら使用者は降格後の地位を前提とした雇用延長を検討することになります。一方で、労働者からは、降格処分に納得がいっておらず、降格していない地位での雇用継続を交渉してくることもあるでしょう。  双方の意思が合致して、降格後の地位で新たな労働契約が成立すればよいのですが、双方の意思が合致しない場合には、雇用延長に向けて協議を重ねることになるでしょう。  このような場合に、労働契約法第19条における、有期労働契約の更新に対する期待可能性などをどのように考えればよいのかという点は、実はむずかしい問題です。使用者としては、降格済みであり、降格前の地位における雇用を継続する意思は有していないことは明らかといえますが、降格後の地位としての労働契約は締結してもよいという場合があります。一方で、労働者としては、降格後の地位は受け入れがたく、降格の効力がない状態に戻らなければ、労働契約を継続したくないという意思がありそうです。  とすると、「労働契約を継続したい」という抽象的なレベルでは合致しているかのように見えますし、労働者も労働契約の継続を期待しているともいえそうですが、このような場合に、労働契約法第19条第2号(更新に対する合理的な期待)によって労働者が保護されることになるのか、という点が課題となります。 3 降格後の地位にある人物に対する雇止めに関する裁判例  今回の設問において参考にしたい裁判例が、東京地裁令和2年12月4日に判決された事件です。  事件の概要としては、定年を超過した年齢で、専門性のある経歴を有している人材を事務局長として雇用開始したところ、事務職員に対するセクハラおよびパワハラが発覚したうえ、業務内容においても複数の不備が生じており、事務局長としての適格性を疑わせる事情が複数存在するに至りました。  そこで、事務局長の地位から降格し、その後期間満了をもって労働契約を終了させるに至ったという事案です。  まず、降格に関する権限については、「使用者は、人事権の裁量の範囲内において、労働者を一定の役職に就けたり解いたりできることからすると、…経験を見込まれて採用されたとしても、このことをもって、直ちに、本件雇用契約において、原告を事務局長の役職から解くことはできない旨の合意をしたと認めることはできない」として、まずは、人事権の行使としての降格権限があることを肯定し、降格にともなう賃金の減額もほとんどなかったことから降格の効力を肯定しました。  一方、労働契約の更新回数が4回であり、通算約5年に至っていたことおよび事務局長としての定年が70歳(役職者のみ定年年齢が高く設定されていた)であり、残り2年間であることから、合理的な期待を有していたと解する余地はあるとされつつも、「原告の更新に対する期待とは、事務局長として本件雇用契約が更新されることであり、事務局職員の立場で本件雇用契約が更新されることは期待していないものと推察される」ことから、期待可能性があるとは認めませんでした。  ここでは、労働契約法第19条第2号が定める、更新に対する合理的な期待について、使用者が期待させている更新の内容(一般の事務職員としての更新)と労働者が期待している更新の内容(事務局長としての更新)にズレが生じていることを理由として、期待可能性を否定している点が重要です。同様の事案は例が少なく、労働契約法第19条第2号が定める合理的な期待という点に関する理解を深める内容であると考えられます。  なお、定年が近かったことを合理的な期待を有することの背景事情として重視している点は、高齢者雇用に特有の要素でもあり、本件のような事情がない場合には、十分に考慮しつつ、契約更新を検討する必要があるでしょう。 Q2 社内メールを使って、会社や上司を批判している社員の処分について知りたい  労働時間中に社内メールを用いて、会社に対する批判および上司や同僚を揶揄(やゆ)するメールを送信するなどしている者がいます。社内の秩序を乱しており、職務に専念しているとも思われないため、懲戒などの対応が必要ではないかと考えていますが、どのような処分であれば可能でしょうか。解雇することは可能でしょうか。 A  類似の事例において、口頭での厳重注意後、再度違反した際には出勤停止5日間を有効とした裁判例があるため、参考にしつつ処分を検討することが適切です。なお、解雇が有効になる余地はほとんどないでしょう。 1 職務専念義務について  ご相談に来られる企業から、「社内でメールや同僚同士のチャットを通じて、会社批判をくり返している者がおり、どうにかできないか」といった相談を受けることがあります。  労働基準法に違反しているので是正すべきだ、といった批判で実際に適法に運用できていない企業もあるなど、正直なところその批判が的確な場合もあり、そのような場合は就業環境や労働条件を適正化する方が先決であり、当該従業員を処分することが適切ではないときもあります。  他方で、批判の内容が、邪推や憶測に基づく内容である場合や、相性が悪い上司に対する人格非難であることもあります。この場合には、企業秩序を乱すおそれがあるうえ、人格非難の程度によってはパワーハラスメントの被害者となる労働者が現れるおそれすらあるといえます。  このような事態に至っては、使用者にも被害者に対する安全配慮義務があるため、このような行為を止めるためにいかなる措置を取ることができるのかを検討し、実行していく必要があります。  労働者には、労働時間中、職務に専念する義務があり、原則として使用者の指揮命令に従った労務の提供に集中する義務があります。したがって、問題があるようなメールを送信しているような場合には、就業規則を確認する必要はありますが、職務専念義務違反である以上、懲戒処分の対象とすることができることが多いでしょう。  しかしながら、悩みは懲戒処分が可能であるか否かよりも、適切な処分の程度を決定することにあります。特に、このような解雇に相当するとはいえないような場合にどのような対応を進めていくのかについては、正解がなくむずかしい問題です。 2 裁判例から見る処分の程度について  使用者を批判し、上司らを非難したり、不適切なあだ名(態度や体型や外見などを基にしたものと思われるもの)で揶揄するメールをくり返し送っていた事案で、出勤停止5日間を有効と判断した最近の裁判例(以下、「本件」)があります(東京地裁令和2年7月16日判決)。  当該裁判例では、上司らをあだ名で揶揄するメールを約1カ月間で合計11通送信し、その内容は、「経営について建設的な意見を述べたものではなく」、「一方的に批判し、揶揄する内容であ」ったことが認定されています。前述のとおり、法令違反を是正するような内容など、建設的な意見であれば、本件のような結論にはなっていないと思われますが、社内のメールを用いて、非建設的な社内批判をくり返すような状況であれば、処分の対象とすることは可能といえるでしょう。  本件では、「メールの内容、表現に加え、送信した相手の人数、頻度、期間などの事情を総合」して、「メールの送信は、…担当の業務に専念し、能率発揮に努めるべき義務」を怠っていることを指摘したうえで、社内のメールシステムを用いた点についても、「許可なく職務以外の目的で被告の施設、物品等を使用した」という就業規則に定められた懲戒事由に該当すると判断しています。  また、生じた結果についても、最大で18人の職員に送信していたことなどもふまえて、「業務とは無関係の内容の上記各メールを作成、閲読させるなどして被告の業務に与えた影響も考慮すると、上記就業規則等に定める義務違反の程度を軽視することはできない」と判断しており、義務違反の程度も重く見ています。  職務専念義務に違反するか否か判断するにあたって総合考慮された事情は、個別のケースごとに相違するため、安易に職務専念義務を怠ったと断言することはできませんが、メールの内容を十分に考慮して判断することが重要であり、その期間や頻度を把握する方向で社内調査を進めることも、的確な判断を示すためには重要と考えられます。 3 処分の相当性の確保について  出勤停止5日間という処分がどの程度の処分であるのか、ということも正確に理解しておく必要があります。  本件では、出勤停止処分が就業規則に定められた懲戒処分のなかでは3番目に重い処分とされています。そして、本件では、出勤停止期間中の賃金支払の停止、賞与算定期間からの控除、定期昇給の停止などもともなった結果、約80万円の損害を処分対象となった労働者に生じさせたとされています。  出勤停止よりも降格などの重い処分が定められていることもありますが、出勤停止という処分は、おそらく一般的にイメージされている以上に裁判所では重い処分として想定されており、有効と認められるには相当な根拠が必要とされます。  本件においても、処分が相当と判断された前提として、重要な二つの要素があります。  一つ目は、懲戒処分よりも前に、同様の行為を行ったことに対する口頭による厳重注意が行われていたという点です。また、本件では口頭による厳重注意から間をおくことなく懲戒処分の対象とされたメール送信が行われた点も労働者の悪質性を強調する出来事となっていました。  二つ目は、二度にわたって弁明の機会を与えていたという点です。弁明の機会を与えた際には、「いわれている人間の行動に問題がある」などの開き直りともいえる態度をとっており、酌量の余地がないと判断することも容易だったといえるでしょう。  懲戒処分にあたっては、事前の改善の機会を与えておくこと、事後の弁明の機会を与えることによって、有効性を維持できる可能性を高めることができますので、適切に実施しておくことが重要です。 【P52-53】 新連載 退職者への作法 社会保険労務士 川越雄一  生涯現役時代を迎え60歳、65歳を超えて働くことがあたり前となり、多くの高齢者が知識や技術、経験を活かして会社に貢献しています。とはいえ、そんな高齢者もやがて退職するときを迎えるもの。それまでの貢献に感謝を示し、気持ちよく退職をお祝いしたいところですが、ちょっとした行き違いにより“退職トラブル”が起こってしまうこともあります。本連載では、退職時の手続きやトラブル防止のポイントについて、社会保険労務士の川越(かわごえ)雄一(ゆういち)氏が指南します。 第1回 退職時の手続きはテキパキ行う 1 はじめに  退職時には、会社として社会保険(健康保険・年金)や雇用保険などの手続きが必要です。社会保険などは生活に直結しますから、退職後はどうなるかを退職日の1カ月前までには説明するとともに、退職後は間髪を入れずテキパキと喪失手続きを行うことが重要です。 2 退職後の社会保険・雇用保険はどうなるのか  在職中は、あってあたり前の社会保険などが退職後はなくなり、退職者としては不安なものです。ですから、退職後はどうなるのか(図表)を早めに説明しておきます。 ●退職後の健康保険  国民健康保険に加入する、または加入していた健康保険の任意継続被保険者となる、もしくは家族の健康保険に扶養家族として認めてもらうという三つの選択肢があります。それぞれに保険料負担額などが違いますから本人に選択してもらい、加入の手続きはいずれも退職後に本人が行います。国民健康保険は住所地の市区町村役場で退職後14日以内に、任意継続被保険者は加入していた健康保険組合もしくは協会けんぽへ20日以内に、健康保険の扶養家族は家族の勤める会社へ依頼します。 ●退職後の年金  国民年金の加入義務年齢が原則60歳までですから、退職者が60歳以上であれば、退職後に厚生年金から国民年金へ変更して加入する必要はありません。ただし、退職者の配偶者が60歳未満の場合は、配偶者自身は国民年金第3号被保険者から第1号被保険者への変更が必要になり、それにともない新たに国民年金保険料を納めることになります。この場合の手続き先は、住所地の市区町村役場です。 ●雇用保険  雇用保険の失業給付を受ける場合は、退職後に会社から交付される「離職票」を持ってハローワークへ行き「求職の申込み」をします。就職する意思など、一定の要件を満たせば失業給付を受けられますが、退職日の年齢が65歳以上の場合は一時金となります。失業給付は受給期間(退職日の翌日から1年間)中に所定日数分を受給します。しかし、しばらく休養してから就職活動をする場合は、退職日の翌日から2カ月以内にハローワークへ申請して、1年間の受給期間を2年間に延長することができます。 3 退職日を終点とし、1カ月前までには準備を始める  退職時の手続きをテキパキ行うには、退職日を手続きの起点とするのではなく、終点であるという意識で、遅くとも退職日1カ月前までには準備を始めます。「段取り八分」です。 ●健康保険証の返却を依頼しておく  健康保険証は退職日までしか使用できませんから、退職日には必ず返却してもらいます。その際には、扶養家族へ交付されたものも一緒に返却してもらう必要があるので忘れないようにします。紛失などにより返却できない場合は、喪失届に「回収不能届」を添付することが必要です。返却を受けるのは退職日ですが、事前に依頼しておくとスムーズにいきます。 ●健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票の作成  退職後に、市区町村役場で国民健康保険や国民年金(60歳未満の場合)へ加入する場合に必要な書類です。退職者本人や扶養家族だった人の氏名、生年月日、資格喪失日(退職日の翌日)などを記載し、事業主名で証明します。  書類は退職日以降に交付しますが、遅れると市区町村役場で行う国民健康保険などの加入手続きも遅くなるためクレームが発生しやすくなります。 ●雇用保険被保険者離職証明書の記載内容を確認させる  雇用保険被保険者離職証明書は失業給付を受ける際に必要な「離職票」の基になる書類で、退職時に会社が作成し、ハローワークにおいて内容を確認されたものを退職者本人へ交付します。この雇用保険被保険者離職証明書には、退職前6カ月間に支給された賃金月額や退職日、退職理由などを記載しますが、その内容に間違いがないかどうか本人に確認させます。ここでの確認が不十分だと後々もめ事になりやすくなります。 4 退職後に間髪を入れず手続きを行う  ここまで準備を進めてきたのは、退職後に間髪を入れず役所への手続きを済ませ、退職者に早く次のステージに進んでもらうためです。 ●手続き期限は厳守する  各種手続きには、それぞれ手続き期限が決められていますので、最悪でもこれを守ります。 ・雇用保険の喪失届(離職票)は退職した日の翌々日から10日以内ですが、遅れると退職者はハローワークでの手続きができず、失業給付の受給も遅れます。 ・社会保険の喪失届は退職日の翌日から5日以内ですが、遅れると、健康保険の任意継続被保険者の手続き期限を過ぎてしまいます。 ●早く次のステージに進んでもらう  在職中に多少の不満はあったとしても、退職手続きをテキパキやってもらえれば、退職者としてもストレスなく次のステップに進めるものです。逆に手続きをモタモタしていると、収まっていた不満も噴き出しやすくなります。ですから、退職後には間髪入れず手続きを行うことで、退職者と会社との関係を良好に保ち、失業給付の受給など早く次のステージに進んでもらいましょう。 図表 退職後の健康保険・年金の保険料など 在職中 健康保険 厚生年金 退職後の選択肢 負担する保険料など 国民健康保険に加入する 市区町村ごとに違いますが、基本的には世帯・加入人数・前年所得により計算されます 在職時の健康保険の任意継続被保険者となる 2年間加入できます。保険料は会社負担がありませんから退職時に負担していた額の2倍です。ただし、上限(※)があります 家族の加入する健康保険の扶養家族になる 保険料は不要ですが、扶養家族として認定を受けるには年収などの条件があります 国民年金に加入する 原則として60歳未満が加入しますが、保険料は1カ月16,610円(2021年度)です ※退職時の標準報酬月額に所定の保険料率を掛けますが、標準報酬月額は30万円が上限です。標準報酬月額というのは毎月の賃金月額とほぼ同じです 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第19回 「就業規則」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は就業規則について取り上げます。就業規則とは「労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律などについて定めた規則集」のことをいいます(厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法89条」)。使用者・労働者ともに守るべきルールが明記されたものであるため、普段意識することが少なくても、非常に重要な存在といえます。 就業規則の作成・届出が必要な対象  就業規則は、労働条件について最低限守るべき基準を定めた労働基準法により、常時10人以上の労働者を使用している事業場での作成と所轄の労働基準監督署への届出が義務づけられています。ここでいう労働者にはパートタイムやアルバイトなども含まれ、一時は10人を下回っていても通常はおおよそ10人に達する場合には作成・届出義務がある点に注意が必要です。また、勘違いされやすい点ですが、企業(団体等含む)単位でなく一定の場所において、関連する業務が行われている単位である事業場ごとに作成する必要があります。例えば、営業所や店舗を有している企業については、単位ごとで常時10人以上の労働者がいれば就業規則の作成・届出義務が生じます。これは、事業場ごとに働き方が異なるケースがあり、働きの実態に沿ったルールが必要との考えに基づくものです。  就業規則は使用者と労働者の双方が守るべきものであるため、就業規則の作成・変更は使用者主導で行うにしても、労働基準監督署に届出する前に、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する労働者代表の意見を聴かなければなりません。また、労働者がいつでも内容がわかるように各作業所の見やすい場所への掲示や備えつけ、書面の交付などによって周知することも労働基準法で定められています。なお、サーバーやWEB上にデータで就業規則を管理し、労働者が各人のパソコンを使っていつでも確認できる状態にするといった周知方法も認められています。 就業規則に記載する内容  次に、就業規則にはどのような内容を記載すればよいかをみていきましょう。事業場ごとの作成といっても、実務上は企業単位で可能な範囲は共通化して、事業場ごとに違いを持たせざるを得ない部分について、個別の内容を記載しているケースが多くみられます。では、企業が定めたルールがすべて就業規則の内容として認められるかといえばそうではありません。大前提として法律、特に労働基準法を遵守した内容でないといけません。例えば前回(11月号)で解説したように、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を必ず付与しなければならないと労働基準法上定められていますが、当社は業務過多なので休日を付与しない月があるといったような定めをして就業規則に記載したところで無効となります。逆に、週休2日や夏季休暇を付与する旨を記載するなど、法律以上に労働者に有利になる内容を記載することは問題ありません。  就業規則に記載すべき内容についても労働基準法上で定められています。必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項と、当該事業場で定めをする場合には記載しなければならない相対的必要記載事項に分かれます。これらの概要については図表をご確認ください。新たに就業規則を作成する際や自社の就業規則の内容が正しいかどうか判断に迷う場合には、モデル就業規則(2021(令和3)年4月 厚生労働省労働基準局)の活用をおすすめします。各記載事項についての文例とその解説がていねいに記載されています。また、決めごとにより内容が分かれるものについては、複数例が列記されています。例えば高齢者雇用については、[例1]定年を70歳とする例、[例2]定年を65歳とし、その後希望者を継続雇用とする例といったように複数例示されています。  就業規則にすべての内容を記載すると量が膨大になる場合や、テーマごとに分けたほうが周知や管理しやすい場合には、別の規程として切り出すことができます。賃金規程や育児・介護休業規程などが代表的ですが、名称が異なっても就業規則と同様の扱いとなります。また、パートタイムやアルバイトなど、雇用形態の違いにより労働条件が異なる場合には、それぞれの労働者が適用される就業規則を作成・届出する必要があります。 就業規則は非常に重要  冒頭で就業規則は「非常に重要な存在」と書きましたが、法律で定められているからだけではありません。一つは就業規則の記載と周知をしっかり行うことにより使用者・労働者間のトラブルの防止につながる点です。例えば、定年後再雇用では労働時間や給与水準が定年前と異なる場合がありますが、定年後再雇用規程を作成し理解を求めれば、処遇に関する認識の違いを埋めることができます。もう一つは、就業規則を見直すことで労働者の労働環境の向上につながる点です。働き方改革により労働時間の短縮や就業場所の多様化などを検討している企業が多くありますが、就業規則を変更することで実現が可能となります。  何年も就業規則を見直していないという企業もありますが、2020年6月1日より職場におけるパワーハラスメント対策が義務化され、その方針や対策について就業規則に記載するなど書面での周知の必要が生じるなど時代により求められる記載内容も変化しています。定期的に社会保険労務士などの専門家を交えながら内容を検証、更新していくことも重要な取組みです。  次回は「ワークシェアリング」について取り上げます。 図表 就業規則に記載すべき内容 絶対的必要記載事項 1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項 2 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) 相対的必要記載事項 1 退職手当に関する事項 2 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項 3 食費、作業用品などの負担に関する事項 4 安全衛生に関する事項 5 職業訓練に関する事項 6 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 7 表彰、制裁に関する事項 8 その他全労働者に適用される事項 出典:厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法89条」 【P56-57】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテストは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。  多数のご応募をお待ちしています。 T 取組内容 働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入 B賃金制度、人事評価制度の見直し C多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 D各制度の運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組み @高齢従業員のモチベーション向上に向けた取組や高齢従業員の役割等の明確化(役割・仕事・責任の明確化) A高齢従業員による技術・技能継承の仕組み(技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、高年齢者と若年者のペア就労) B高齢従業員が活躍できるような支援の仕組み(職場のIT化へのフォロー、力仕事・危険業務からの業務転換) C高齢従業員が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D中高齢従業員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施(キャリアアップセミナーの開催) E高齢従業員による多様な従業員への支援の仕組み(外国人実習生や障害従業員等への支援・指導役、高齢従業員によるメンター制度) F新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化(健康管理体制の整備、健康管理上の工夫・配慮) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組み(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 U 応募方法 1.応募書類など イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラストなど、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください。なお、必要に応じて追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京及び大阪においては高齢・障害者業務課又は高齢・障害者窓口サービス課)にて、紙媒体または電子媒体により配布します。また、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html)からも入手できます。 ハ.応募書類などは返却いたしません。 2.応募締切日 令和4年3月31日(木)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課へ提出してください。 V 応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は除きます。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)平成31年4月1日〜令和3年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」 (平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和3年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和3年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和3年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入(※)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 各賞 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、次の「X 審査」を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査 応募のあった事例について、学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 Y 審査結果発表など 令和4年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関などへ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。 また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権など 提出された応募書類の内容にかかわる著作権および使用権は、厚生労働省および当機構に帰属することとします。 [ お問合せ先 ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.go.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 連絡先は65頁をご参照ください。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中! ぜひご覧ください!  当機構の「65歳超雇用推進事例サイト」では、「65歳超雇用推進事例集」の掲載事例、「コンテスト上位入賞企業の事例」を検索・閲覧できます。  このほか、「過去の入賞事例のパンフレット」をホームページに掲載しています(平成23年〜29年度分)。  「jeed 表彰事例 資料」でご検索ください。 jeed 65歳超 事例サイト 検索 【P58】 BOOKS 働き続けるメリットや老後に向けたさまざまな準備のヒントを示す 「サラリーマン女子」、定年後に備える。 お金と暮らしと働き方 大江加代著/日経BP/1540円  男女雇用機会均等法が施行されてから、35年。少子高齢化もあいまって女性の労働者が増えるなか、労働力人口総数に占める女性の割合が上昇し、2019(令和元)年は44.4%と過去最高を更新している。「定年」といえば、これまで男性のイメージであったが、昨今は男女ともに定年を迎える人が増えてきている。  また、男女そろって平均寿命が伸び、60歳女性の平均余命は29.46歳に。60歳で定年を迎えた女性の場合、計算上ではあるが、定年後の人生は約30年となる。  本書は、今後さらに多くの女性が直面するであろうこの期間を、不安なく、充実して生きるために知っておきたい情報をまとめた一冊。  「定年後」にいつから備えるか、老後の収支の「見える化」、資産形成について、定年後の医療のことなどとともに、60歳以降も働くメリットや働き方なども解説。再雇用、転職、NPOなどに参画、起業、フリーランスの働き方を例にあげ、それぞれの道に進むにあたって心がけたいこと、注意したいことなども示している。  定年を意識し始めた女性のみならず、ライフプラン相談などにのる企業の人事労務担当者にも参考になる内容といえる。 フレイル(虚弱)対策の基本と食事のとり方、毎日つくりたくなる献立を紹介 一生スタスタ歩きたいなら、たんぱく質をとりなさい フレイルを防ぐ健康長寿食&高たんぱくレシピ 飯島勝矢(かつや)(監修)・岩ア啓けい子こ(料理)/学研プラス/1540円  本書は、老年医学の専門家である飯島勝矢東京大学高齢社会総合研究機構教授の監修で、フレイル対策の基本をわかりやすく解説し、生涯元気に歩ける筋肉を保つための、健康長寿食の簡単レシピを多数紹介している料理ブック。飯島教授には、本誌「リーダーズトーク」にもご登場いただいている(2020年10月号)。  フレイルとは、心と体の活力が低下した状態のことで、「健康」と「要介護」の間に位置する状態とされている。フレイル予防には、「食事」、「運動」、「社会参加」の三本柱が重要とされるが、コロナ禍で外出を控える人が多い昨今、家にいながら実践できるフレイル対策として、本書は「食事」に注目。20代を頂点に1年で1%ずつ減っていくとされる筋肉量をキープすることがフレイル予防につながるとして、筋肉の材料となるたんぱく質を上手に摂取し、毎日おいしく食べることを目的とした献立例をたっぷり紹介している。また、噛む力を鍛える肉のレシピや、免疫力を高める働きがあるとされるDHAやEPAが豊富な魚介のレシピなども紹介。  大きな文字で、料理の写真も満載。フレイルや口の機能に着目したオーラルフレイルについて、セルフチェックができるページもある。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「地域雇用活性化推進事業(令和3年度開始分)」の採択地域に13地域を決定  厚生労働省は、「地域雇用活性化推進事業」(令和3年度開始分)の採択地域に13地域を決定した。  同事業は、雇用機会が不足している地域や過疎化が進んでいる地域などが、地域の特性を活かして「魅力ある雇用」や「それをになう人材」の維持・確保を図るために創意工夫する取組みを支援するもの。地域独自の雇用活性化の取組みを支援するため、地方公共団体の産業振興施策や各府省の地域再生関連施策などと連携したうえで実施する。具体的には、地域の市町村や経済団体などの関係者で構成する地域雇用創造協議会が提案した事業構想のなかから、雇用を通じた地域の活性化につながると認められるものをコンテスト方式で選抜し、その実施を、事業を提案した協議会に委託する。  事業規模(委託費上限)は、各年度4000万円。複数の市区町村で連携して実施する場合、1地域あたり2000万円/年を加算(加算上限1億円/年)。実施期間は3年度以内。  採択された地域は、次の13地域。2021年(令和3)年10月から事業を開始する予定。 @北海道小樽市(おたるし)  A北海道釧路(くしろ)北部地域 B山形県南陽市(なんようし)  C栃木県益子町(ましこまち) D滋賀県高島市(たかしまし)  E京都府和束町(わづかちょう) F大阪府豊中市(とよなかし)  G広島県呉市(くれし) H福岡県嘉麻市(かまし)  I佐賀県佐賀市(さがし) J佐賀県武雄市(たけおし)  K宮崎県日向市(ひゅうがし) L沖縄県宮古島市(みやこじまし) 総務省 統計からみた我が国の高齢者  総務省は、敬老の日に合わせて、「統計からみた我が国の高齢者」をまとめた。  国勢調査をもとにした人口推計によると、2021(令和3)年9月15日現在の総人口は、1億2522万人で、前年(1億2573万人)に比べ51万人減少した。一方、65歳以上の高齢者(以下、「高齢者」)人口は、3640万人で、前年(3618万人)に比べ22万人増加し、過去最多となっている。総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%となり、前年(28.8%)に比べ0.3ポイント上昇して、過去最高。年齢階級別にみると、いわゆる「団塊の世代」(1947年〜1949年生まれ)を含む70歳以上人口は2852万人(総人口の22.8%)で、前年に比べ、61万人増(0.6ポイント上昇)。75歳以上人口は1880万人(同15.0%)で、前年に比べ、9万人増(0.1ポイント上昇)、80歳以上人口は1206万人(同9.6%)で、46万人増(0.4ポイント上昇)となっている。  2020年の高齢者の就業者数は、2004年以降、17年連続で前年に比べ増加して906万人となり、過去最多。高齢者の就業率は25.0%(2019年は24.9%)となり、9年連続で前年に比べ上昇している。2020年の就業率を年齢階級別にみると、65〜69歳は9年連続で上昇して49.6%となり、70歳以上は4年連続で上昇して17.7%となっている。また、男女別にみると、男性は34.2%、女性は18.0%といずれも9年連続で前年に比べ上昇している。 イベント ダイヤ高齢社会研究財団 高齢者とICTをテーマとしたシンポジウムを開催  (公財)ダイヤ高齢社会研究財団(ダイヤ財団)は、ICTに苦手意識をもつ高齢者でも、それらを活用して家族や仲間とつながり続けることができる豊かな歳の重ね方を考えるシンポジウムを開催する。第2部では、55歳以上の中野区民に仲間づくりや地域活動のための学びを提供する「なかの生涯学習大学」、いつまでも住み続けたくなる町≠目ざす「井の頭一丁目町会」、離れて暮らす高齢の親を持つ現役会社員が、シニアを孤立させないためのオンライン活用などについて討論する。 日時 2022年1月28日(金) 18時30分〜20時30分(オンライン配信) 参加費 無料 主なプログラム 【第1部】基調講演「高齢者のICT利用の普及や効用等について」(仮)/(一社)日本老年学的評価研究機構 塩谷竜之介氏 【第2部】パネルディスカッション パネリスト:片山嗣規氏、橋本みどり氏(なかの生涯学習大学)、竹上恭子氏(東京都三鷹市井の頭一丁目町会)、濱田築氏(明治安田生命保険)(順不同)コーディネーター:澤岡詩野氏(ダイヤ財団) お申込み ダイヤ財団ホームページ(https://dia.or.jp)掲載の申込みフォームに入力。 お問合せ シンポジウム事務局(中村、佐藤) メール:sympo@dia.or.jp TEL:03-5919-3162 【P60】 次号予告 1月号 特集 シニアのキャリア・チェンジ リーダーズトーク 原田 謙さん(実践女子大学 人間社会学部 教授) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●みなさまの会社では「役職定年制」を導入していますか。役職定年制のねらいは、年齢による人材の入れ替えにより組織の新陳代謝を図ることをはじめ、総額人件費の抑制などがあげられます。一方で、役職を降りる人材のモチベーションの低下が課題になるといわれています。高年齢者雇用安定法の改正により、就業期間が65歳、70歳へと延伸していくことは、役職定年により降職した後の勤務期間が延びることを意味しており、モチベーションが低下したまま働き続けることは、高齢人材の戦力化の面でも大きな問題といえます。  今回の特集では、役職定年制にまつわる諸課題について解説をするとともに、事例では、役職定年制の導入・見直しを行った企業、その逆に廃止した企業を紹介しました。一見するとまったく逆の取組みに見えますが、いずれの企業でも、高齢社員はもちろん、若手を含むすべての人材に戦力として活躍してもらうことをねらいとした取組みであることがわかります。当企画を、制度の導入・見直しの参考としていただければ幸いです。 ●本年も『エルダー』をご愛読いただきありがとうございました。今年は改正高年齢者雇用安定法が施行されるなど、高齢者雇用にとっても大きなエポックとなる一年でした。70歳までの就業機会確保に向け、引き続きみなさまのお役に立てる情報の発信に努めてまいります。2022年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 公式ツイッターを始めました! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー12月号 No.505 ●発行日−−令和3年12月1日(第43巻 第12号 通巻505号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-864-7 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 第5回 伊藤超短波(いとうちょうたんば)株式会社(埼玉県川口市) ウォーキングシューズ購入費用補助など独自の施策で健康をサポート  生涯現役時代を迎え、企業には社員が安心して長く働ける制度・環境の整備が求められていますが、生涯現役の視点で考えると、「社員の健康をつくる」ことは大切な要素です。  そこで本企画では、社員の健康づくりに取り組む先進企業の事例をご紹介します。 オリジナルの「伊藤超体操」を制作動画サイトで社外にも公開  2020(令和2)年に日本経済新聞社が企画した、中堅・中小企業の「日本を元気にするメッセージ動画」。その150社のなかに、伊藤超短波株式会社が制作したオリジナル体操「伊藤超体操」が選ばれた。元々は、同社が肩こりや腰痛などに悩む社員のために企画したものだが、折しもコロナ禍となり、必要とする人たちに使ってもらおうと動画で公開した。体操は理学療法士の社員が考案し、音楽も音楽大学出身の社員が手がけ、3分程度で、仕事の合間に、立った状態でも座った状態でも気軽に取り組めるようになっている。同社の工場や修理部門などでこの体操が行われているという。  こうしたユニークな施策で社員の健康支援に取り組む伊藤超短波は、電波や超音波などを用いた物理療法機器のパイオニアとして、100年以上の歴史があり、現在の社員数は約350人。医療、福祉、スポーツなどの分野で用いられる業務用治療器や家庭用治療器、美容機器など、幅広い製品の製造・販売を行っている。また、1999(平成11)年からアスリートの治療やコンディショニングをサポートする「スポーツプロジェクト」にも取り組んでおり、野球やサッカー、オリンピックなどの選手たちの活躍を支えている。同社と公認スポンサー・サプライヤー契約を結ぶ競技連盟・協会やチームは、現在20団体を超える。  物理療法機器の活用を通じて「すべての人々が健康で幸せに暮らせる社会を追究する」をミッションに掲げる同社は、そのにない手である社員の健康が重要と考え、2018年より健康経営の取組みを本格化。2019年より経済産業省の「健康経営優良法人」(大規模法人部門)に3年連続で認定されている。 社員の歩数を増やすためにさまざまな支援を導入  当初、社員の健康支援に取り組むにあたり、倉橋(くらはし)司代表取締役社長は自らCHO(Chief Health Officer)に就任するとともに、全役員が参加する「健康経営会議」を発足させた。そのうえで、どのような支援が必要かを把握するため、健康に関する全社員へのアンケート調査を実施。「どのような制度を希望するか」、「どのような取組みをしたら健康になれるか」などを聞き、その内容をふまえて制度を検討していった。  アンケートの結果、課題として浮かび上がったのが、一日あたりの歩数の少なさだった。  「当社は営業職の占める割合が高いのですが、営業は車での移動が多く、歩く機会があまりありません。また、長時間の運転は腰痛にもつながります。こうした問題は、これまで本人まかせになっていましたが、会社でサポートできればと考えました」(倉橋社長)  そこで同社は、社員に歩く機会を増やしてもらうための支援策を導入した。その一つがウォーキングシューズ購入費用補助である。「新しいシューズを買うと歩きたくなる」という考えから生まれたこの制度では、シューズを購入してその領収書を提出すると、五〇〇〇円の補助を受けられる。補助の条件として、3カ月後に社内イントラネットの掲示板に購入したシューズを使用した感想を書くことを義務づけている。これは、社内にこの活動を浸透させるためである。  また、たくさん歩くには目的も必要だ。そこで、スポーツ施設や文化施設などの各種施設利用料補助制度も設けた。  しかし、当初はなかなか利用する社員が増えなかったという。制度を普及させるため、2019年に倉橋社長が1年をかけて全国の事業所を回り、健康支援のための各種制度に関する説明をし、その後に食事会を行う「CHOディナー」を開催した。  食事会の場所として、地元の野菜を使ったヘルシーな料理を提供している店を、各拠点に予約してもらうようにした。食事面でも健康意識を持ってもらおうという考えからだ。食事会では健康について語り合い、その拠点でもっとも熱く語っていた社員を拠点の推進役である「健康経営アンバサダー」にその場で任命した。  倉橋社長に同行して全国を回った広報担当の紀(きの)寛之(ひろゆき)さんは、「社長から直接話を聞くことによって、ようやく『制度を利用してもいいんだ』という意識が広がり、利用者が増えるようになりました」とふり返る。倉橋社長も、「単に『健康経営に取り組みます』とアナウンスするだけでは浸透しません。全国を回って社員と直接話をすることで、健康経営に対する会社の本気度が伝わっていったのだと思います」と話す。  支援策はウォーキングだけにとどまらない。同社には学生時代からスポーツ競技を続けている社員も多い。そのため、競技大会への参加費用に対する補助も行っている。  また、健康診断の受診支援にも力を入れている。健康診断で任意のオプション検査を受診する費用や、人間ドックへ変更するための費用(35歳以上)の補助を実施。補助を利用してオプション検査を受けたところ、重篤な疾患を見つけることができた社員も数人いるそうだ。さらに、歯科検診や禁煙外来受診の費用補助も行っている。倉橋社長は歯学博士でもあり、社内で歯と生活習慣病の関係などについて自らセミナーも行っている。  こうした制度を利用してもらうには、社員の健康意識を高めることが欠かせない。そのために、毎年社員に自身の健康目標(「チャレンジ健康自己ベスト」)を立ててもらい取組みをうながしたり、社員から健康経営にかかわる標語を募集して優秀作品を社内に掲示するなどして啓発に取り組んでいる。また、年間を通じてもっとも健康づくりに取り組んだ社員を自薦他薦で募集し、「健康グランプリ」に選定している。 健康経営の専任者を配置し社員の健康づくりを強化  健康の取組みをより計画的に進めるため、2020年には専任者を配置した。専任者であるCHO室の山田庸平(ようへい)さんは、「会社が行う健康支援の取組みについて社内に知ってもらうとともに、各健康施策の運営を行っています。社員にいかに健康のための取組みに意識を向けてもらうかが課題です」と話す。  社員のモチベーションを高めるために、CHO室が考案した取組みに、スマートフォンのアプリを利用し、期間を決めてウォーキングの歩数を競うイベントがある。個人戦とチーム戦があり、上位の個人やチームは表彰される。今年は少し趣向を変え、全社協力して世界一周と同じ距離の4万キロを歩くイベントを実施。普段の平均歩数から予想された2カ月を上回るペースで歩数が伸び、1カ月半で目標に到達した。  社員の6〜7割がアプリをインストールしており、日ごろから継続して歩いている社員は約5割にのぼる。アプリ以外の活動計で独自に計測している社員もいるため、実際にはより多くの社員が日ごろから意識して歩いているようだ。また、コロナ禍で集合するイベントの実施がままならないなか、アプリを利用したイベントには、個別に取り組めるというメリットもあった。  2021年には新たに「マルチポイントシステム」を導入した。アプリによる歩数計測など、健康にかかわる行動を取った社員に対してポイントを付与するもので、貯まったポイントは、翌年のサポート制度を利用する際に上限金額に上乗せして利用することができる。  「健康的な行動によってポイントが付加されることで、健康にさらに前向きに取り組むようになるという好循環を目ざしています」(山田さん)  さらに、社員向けに自社の家庭用治療器のレンタル制度も始めた。各拠点に複数台用意し、オフィスや自宅で使えるようにしたことで、社員から好評を得ている。  自社に適した独自の健康支援に取り組む同社。倉橋社長は現在の状況について次のように語る。  「社員の健康支援に取り組むようになったことで、会社説明会に応募してくれる学生が大幅に増加し、広報面でもプラスになっています。社内でも少しずつ浸透しているので、今後も根気よく続けていきたいと考えています。特に50代の社員には、健康寿命の延伸を意識してほしいと思います」  同社は現在60歳定年制だが、65歳まで再雇用されて勤務する人が多く、雇用延長についても検討中だ。特に匠のノウハウが求められる技術職の現場では、ベテランの果たす役割が大きいという。同社の健康づくりの取組みは、シニアの活躍においてもプラスとなるに違いない。 写真のキャプション 「伊藤超体操」の動画は同社ホームページなどで公開している CHOを兼任している倉橋司代表取締役社長 陸上競技会に参加した社員とその家族。同社では、スポーツ大会などへの参加費の費用補助も行っている 社内セミナーの様子 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  最近はキャッシュレスなので目立ちませんが、年を取ると財布が小銭でいっぱいになりがちです。計算がおっくうになるし、間違いも増えるからです。計算は大事な脳トレの機会ですから、買い物先ではできるだけ小銭の枚数を減らす工夫をしてみましょう。 第54回 虫食い計算 空欄に数字を入れて、計算式を成立させましょう。 目標 3分 問題1 35+□=68 問題2 □+42=130 問題3 □−68=22 問題4 150−□=121 問題5 13+□=52 問題6 □+22=91 問題7 □−6=82 問題8 54−□=12 足し算、引き算でも前頭葉は鍛えられる  足し算、引き算は、認知症の検査の際にも取り入れられる簡単なチェック方法です。「100引く7」、「93引く7」…と、100から7を引いていく問題などは有名なテストで、これがスムーズにできるかどうかで脳の働きをチェックすることができます。自分自身のチェックだけでなく、ご家族の病状が心配な場合にも、「100から7を引いてみて」と聞いてみてください。  計算力は、主に前頭葉がつかさどっており、前頭葉がうまく機能しないと簡単な計算に戸惑ったり、スムーズに解答できなかったりということが起こります。前頭葉は加齢とともに衰えていくので、年を取れば、計算が遅くなったり、たまに間違えたりといったことは誰にでもあります。  若いころと比べて計算力が弱くなったと落ち込む必要はありませんが、計算力は自分の力で簡単に鍛えることができるので、今回のような問題にチャレンジして、若々しい脳をつくりましょう。 【問題の答え】 問題1 → 33 問題2 → 88 問題3 → 90 問題4 → 29 問題5 → 39 問題6 → 69 問題7 → 88 問題8 → 42 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 高年齢者活躍企業フォーラム生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム WEB配信のご案内 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  10〜11月に全国5都市(岩手・東京・岐阜・大阪・宮崎)で開催したフォーラムおよびシンポジウムの動画配信を開始いたしました(フォーラムでは、高年齢者活躍企業コンテストの表彰式を行い、第二部としてシンポジウム(東京)を開催しました)。  令和3年4月に施行の改正高年齢者雇用安定法により「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となったことから、「高年齢者雇用安定法改正」をテーマとして開催しましたシンポジウムの模様を、お手元のパソコンやスマートフォンからお申込み不要にてすぐにご覧いただけます。  法改正の概要や学識経験者の講演、高年齢者が活躍するための先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなど、今後の高年齢者の活躍促進について考えるヒントがふんだんに詰まった最新イベントの様子をぜひご覧ください。  各開催地のプログラムの詳細については、当機構ホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/symposium.html 視聴方法 当機構ホームページ(トップページ)から 機構について 広報活動(メルマガ・啓発誌・各種資料等) YouTube動画(JEED CHANNEL) 「イベント」の欄からご視聴ください。 または jeed チャンネル 検索 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 写真のキャプション 上:高年齢者活躍企業コンテスト表彰式の様子 下:シンポジウムの様子 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2021年12月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストでは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするために、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内 容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は除きます。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌56〜57頁をご覧ください。 応募締切日 令和4年3月31日(木) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65 頁をご覧ください。 2021 12 令和3年12月1日発行(毎月1回1日発行) 第43巻第12号通巻505号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会