【表紙2】 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム WEB配信のご案内 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  10〜11月に全国5都市(岩手・東京・岐阜・大阪・宮崎)で開催したフォーラムおよびシンポジウムの動画配信を開始いたしました(フォーラムでは、高年齢者活躍企業コンテストの表彰式を行い、第二部としてシンポジウム(東京)を開催しました)。  令和3年4月に施行の改正高年齢者雇用安定法により「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となったことから、「高年齢者雇用安定法改正」をテーマとして開催しましたシンポジウムの模様を、お手元のパソコンやスマートフォンからお申込み不要にてすぐにご覧いただけます。  法改正の概要や学識経験者の講演、高年齢者が活躍するための先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなど、今後の高年齢者の活躍促進について考えるヒントがふんだんに詰まった最新イベントの様子をぜひご覧ください。  各開催地のプログラムの詳細については、当機構ホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/symposium.html 視聴方法 当機構ホームページ(トップページ)から 機構について → 広報活動(メルマガ・啓発誌・各種資料等) → YouTube動画(JEED CHANNEL) → 「イベント」の欄からご視聴ください。 または jeed チャンネル 検索 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 写真のキャプション 上:高年齢者活躍企業コンテスト表彰式の様子 下:シンポジウムの様子 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.80 高齢者と若者の補完関係が職場のエイジズムを予防する 実践女子大学 人間社会学部 人間社会学科 教授 原田謙さん はらだ・けん 1974(昭和49)年生まれ。2008年に実践女子大学に着任し、2018年より現職。専門は都市社会学、社会老年学、社会調査法。著書に『社会的ネットワークと幸福感 計量社会学でみる人間関係』、『「幸福な老い」と世代間関係 職場と地域におけるエイジズム調査分析』(ともに勁草書房)など。  年齢にもとづく差別・偏見を意味する言葉、「エイジズム」。生涯現役時代を迎え、職場で働く高齢者の比率が高まるなか、高齢者と若者がよい関係を築き、だれもが活き活き働ける職場環境づくりを推進するうえでも、「エイジズム」は、今後注目すべきテーマといえます。今回は職場のエイジズムについて調査・分析を行っている原田謙さんに、職場におけるエイジズムや高齢者と若者の世代間関係のあり方についてお話をうかがいました。 高齢者がマジョリティになりつつあるいまエイジズムが高齢者の社会参画を阻害する ―原田さんの著書『「幸福な老い」と世代間関係』では、エイジズムを切り口に高齢者と若者の関係を分析されています。エイジズムという言葉の意味と社会に与える影響について教えてください。 原田 エイジズムとは「年齢にもとづく偏見・差別」のことです。レイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)と並んで第三のイズム≠ニいわれています。  エイジズムという考えの歴史は古く、アメリカの老年学者のロバート・バトラーが1969(昭和44)年に初めて紹介しましたが、当時は「高齢者に対するかたよった見方や差別」と定義されていました。しかし当時は日本も高齢化率は低く、1970年に7%超の「高齢化社会」になり、1994年に14%超の「高齢社会」、そしていまは20%超の「超高齢社会」になり、高齢者は少数派から多数派になりつつあります。逆に高齢者の若者に対するエイジズム、つまり高齢就業者が若者をどうみているのかという研究も少しずつ出始めています。  また、社会老年学では「サクセスフル・エイジング」、つまり幸福な老いの条件とは何かが探求されてきましたが、幸福な老いとは心身機能が高く維持され、生活への積極的な関与がある状態とされています。それに対しバトラーはエイジズムが高齢者の社会への関与の阻害要因になっていると唱えています。つまり、高齢者といえば介護や社会的コストがかかるという「依存」の存在ではなく、「プロダクティブ・エイジング」(高齢者の生産性)という新しい発想を提起しました。この提起は50年を経た現代でも色あせていませんし、ますます重要になっています。 ―原田さんは、日本の若者が高齢者をどうみているのかについて、エイジズムの観点から調査・分析をされていますね。 原田 高齢者が就業を継続していくうえでエイジズムが阻害要因になっているのではないかという仮説のもとで調べようとしたのが最初です。しかしどういう物差しを使って高齢者に対する感情や態度について測定すればよいのか、非常にむずかしい。そこで海外の研究を参考に「誹謗(ひぼう)」、「回避」、「嫌悪・差別」の三つの側面から調査しました。ステレオタイプのかたよった見方である「誹謗」は「古くからの友人でかたまって、新しい友人をつくることはしない」、高齢者を「回避」しようとしている感情は「高齢者と長い時間を過ごしたくない」、「嫌悪・差別」は「高齢者には地域のスポーツ施設を使ってほしくない」といったかなり強い表現など、三つについて計14項目で測定しました。 ―興味深いですね。分析の結果、得られた知見とはどういうものでしょうか。 原田 海外の研究者のなかには「日本人は敬老の精神があるからエイジズムが低いだろう」という意見もありますが、それほど単純なものではありません。例えば、祖父母との同居経験の有無にエイジズムとの関連はみられず、高齢者と日常的に接触していればエイジズムが低くなるものではない、という結果が得られました。  一方、生活満足度が低い人、老後の不安感が高い人ほど高齢者に対する偏見・差別が強い傾向にあることがわかりました。自分が置かれている生活環境に対する不満やフラストレーションが自分と無関係な高齢者に向けられる。海外の研究でも若者の失業率が高いと、「高齢者は就業面でも過剰に保護されている」という批判が起きるなど、世代間対立を生むとされていますが、日本でも若者の不満とエイジズムに関連があり、世代間対立が生まれる可能性があるのです。  もう一つは高齢者に関する知識とエイジズムとの関連です。例えば「高齢者の大多数は認知症になる」といったように、高齢者に関するネガティブな知識ばかりをもっている人が多い。国際比較研究でも、日本の若者は海外と比べて加齢に関する事実を知らないという結果が出ています。知らないと高齢者に対する偏見・差別が生まれます。年を取るということが実際にどういうことなのかという情報提供など、特に教育にたずさわる人たちが高齢者の正しい知識を教えていく必要があることを示唆しています。 教えてくれる高齢者に感謝≠フフィードバックを ―若者の老後についての不安解消と、高齢者に対する知識をもつことが重要ということですね。逆に、高齢者の若者に対する偏見・差別もみられるのでしょうか。 原田 生活満足度の低い人の不満が若者に向けられることはありません。ただ新たな発見として、自分がもつ経験や知識を若者に伝えたいという「世代継承性」の強い人ほど、若者に対するかたよった見方をしている傾向があることがわかりました。経験や知識を伝えたいが「最近の若者は粘りが足りない」といったステレオタイプ的な見方をしてしまうのです。地域や職場でも若者との接触を回避することはなく、自分の技能を伝えたいが、つい余計な一言をいってしまう。これは、結果的に世代継承を阻害してしまう可能性があります。  また、この関連では、高齢者が若者に何かを教えても、感謝の言葉などポジティブなフィードバックがなければ不満を覚えるという社会心理学分野での実験結果もあります。これは地域社会や職場でも同じでしょう。若者は教えてくれる高齢者に、一言でも感謝のフィードバックをすることが大事でしょう。 ―職場において、高齢者と若者がよい関係を築き就業に対する満足度を高めるために、企業にはどういう取組みが必要でしょうか。 原田 中高年就業者を対象にした職場環境とメンタルヘルスの調査では、職場でエイジズムを経験している人ほど仕事の満足度が低く、さらにメンタルヘルスの状態も悪くなるという結果が出ています。逆に上司や同僚のサポートを得て、職場の若い人に自分の経験や知識を伝えることができている人のほうが、仕事の満足度が高いのです。  また、日本では60歳以降の継続雇用などで、いままでやってきた仕事と違う「初歩的な業務」をまかせることも多いのですが、その結果「自尊感情」を傷つけられることになります。自分の役割として何かを伝えられていれば、自尊感情が高まりますが、そうでないと仕事の満足度が低くなり、結果として健康が悪化することにもつながる。そうした知見が職場とエイジズムの研究でみえてきました。 ―60歳以降も意欲的に働いてもらうには重要なポイントですね。 原田 そうですね。また、職場のエイジズムを低減するには若者と高齢者がお互いの得意な分野で補完し合うのも有効です。例えば、若者はITスキルに長けていますが、高齢者がもつ技能や営業スキルを若者に伝えるだけではなく、可能であれば若者がもつスキルを教えてもらう。お互いが補完し合う関係になれば、高齢者が若者を回避することもなくなります。お互いの長所を活かした補完的な関係性を職場に取り入れてほしいと思います。 年齢で区別をせず、若者から高齢者まで世代間の重なり合いをつくることが重要 ―エイジズムをなくし、高齢者が活き活きと暮らせる社会にしていくための取組みとは何でしょうか。 原田 生涯現役時代を迎え、若いころに学校で学び、社会人になって60歳で定年し、引退して地域で暮らすという、これまでの「教育」・「仕事」・「引退」という枠組みが消えつつあります。定年退職のように制度的な年齢による「隔離」が一定の社会的意義をもったことも事実ですが、逆に年齢による区別がエイジズムの観点ではマイナスになることも多かったと思います。年齢の壁をすぐにこわすことはできないにしても、人生100年時代を考えると、例えば大学での学び直しなど、年齢の壁を越えたニーズも高まりつつあります。また、70歳まで就業する時代になると「職場で年齢を基準にしない」ことが今後重要になっていきます。さらに地域には子ども会、老人会や児童館、高齢者集会所などの施設があります。年齢で分離するのではなく、職場も含めて地域でも若い人や高齢者など世代間の重なり合いをつくり出していくことが重要ではないでしょうか。 ―働く個人の生き方が問われてくるように思います。 原田 私の知り合いに、定年前にNPO法人に出向した人がいますが、同じ職場でずっと働くのではなく、自分のスキルを活かしながらNPOという中間的領域で活動するのも多様な働き方の選択肢といえます。バリバリ働いてきた人が定年後にいきなり地域に戻って活動をするのはなかなかたいへんです。自分ができることは何か、楽しいと思うことは何か、家族との関係を含めて個々人が常に自己点検しながら、幸福を高める働き方を再設計していくことが必要になると思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 January 特集 6 シニアのキャリア・チェンジ 7 特別インタビュー@ 生涯現役時代のキャリア・チェンジ 一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会 理事長 高平ゆかり氏 11 特別インタビューA 「東京セカンドキャリア塾」・「東京キャリア・トライアル65」受託事業者に聞くシニアのセカンドキャリア支援とその現状 アデコ株式会社 15 事例@ 株式会社パソナグループ(本社 東京都千代田区) 他社を定年退職したシニア人材「エルダーシャイン」が経験・スキルを活かし活躍中 18 事例A 国立研究開発法人国立成育医療研究センター 「もみじの家」(東京都世田谷区)ハウスマネージャー 内多勝康さん NHKアナウンサーから福祉の世界へ転身 たどり着いたのは「自分が落ち着ける居場所」 21 事例B ブックストア「Readin’ Writin’」店主(東京都台東区) 落合 博さん 新聞記者からのキャリア・チェンジで書店を開業 こだわりの詰まったお店で“自分が読みたい本”を並べる 新春特別企画 24 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム −東京会場開催レポート− 25 講演 高年齢者の就業機会確保に向けて 〜高年齢者雇用安定法改正のねらいと意義を中心に〜 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課長 野ア伸一 27 基調講演高年齢者雇用が企業を強くする 〜生涯現役社会を目指して〜 法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 30 トークセッション 高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜 1 リーダーズトーク No.80 実践女子大学 人間社会学部 人間社会学科 教授 原田 謙さん 高齢者と若者の補完関係が職場のエイジズムを予防する 35 日本史にみる長寿食 vol.339 「七草がゆ」でインフルエンザを防ぐ 永山久夫 36 江戸から東京へ 第110回 許される失敗と許されぬ失敗 細井平洲 作家 童門冬二 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第115回 岐阜県 社会福祉法人新生会 42 新連載 シニアのキャリアを理解する 【第1回】シニアの働く現状は? 浅野浩美 46 知っておきたい労働法Q&A 《第44回》 直接雇用以外の安全配慮義務、職務等級制度における降格措置 家永 勲 50 退職者への作法 【第2回】在職中の貸し借りは 退職時までに清算しておく 川越雄一 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第20回 「ワークシェアリング」 吉岡利之 54 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 【最終回】第一生命保険株式会社(東京都千代田区) 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第55回]後ろから読む 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は 休載します 【P6】 特集 シニアのキャリア・チェンジ  いま、時代は生涯現役時代。高年齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用義務化、70歳までの就業機会確保の努力義務化が進み、雇用期間の延伸が進む一方で、長年従事してきた仕事に一区切りをつけ、まったく異なるジャンルにチャレンジするシニアも少なくありません。また、2021(令和3)年施行の改正法では、他企業への再就職や社会貢献事業に従事できる制度が就業確保措置として示されるなど、シニア期における「キャリア・チェンジ」は、これからの時代に必要な選択肢の一つといえるでしょう。  そこで今回は、生涯現役時代における「キャリア・チェンジ」をテーマに、その意味や実態について解説するとともに、実際にキャリア・チェンジをして活躍している方々を紹介します。 【P7-10】 特別インタビュー@ 生涯現役時代のキャリア・チェンジ 一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会 理事長 高平ゆかり氏  高年齢者雇用安定法の改正により70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となる一方で、それまで勤めた会社を離れて、新しい仕事にチャレンジするシニアは少なくありません。今回は、シニアのセカンドキャリアにくわしい高平ゆかり氏に、生涯現役時代に求められるシニアのキャリア・チェンジの意義などとともに、シニア人材を送り出す・受け入れる企業に求められる取組みなどについて、お話をうかがいました。 生涯現役時代に求められるのは自律的なキャリア・デザイン ―将来的な労働力人口の減少を背景に、生涯現役時代、エイジレス時代といわれるなか、シニアのキャリアの位置づけが変化しています。現在のシニアのキャリアそのものについて、どのように考えていますか。 高平 60歳定年以降のシニア社員のキャリアは、公的年金受給までの追加的な就業期間として、ある意味福祉雇用的に同じ会社で職業寿命の余生を過ごすような状態だったと思います。これからは、健康寿命も延び、個人のライフステージによってキャリアのありようが大きく変わります。個人の置かれた境遇や個人の価値観によって多様化が進み、個人差も広がると思います。昭和の時代のような画一的なサラリーマン像ではなくなって、いろいろな形に広がっていくだろうと思います。  再雇用のシニア社員のキャリアは、会社の人事管理のなかで決まってきました。しかしながら、これからは働く個人が自らの意思で自律的なキャリア観をもって晩年の職業人生をデザインすることが求められてきます。  自分の人生そのものをデザインするようなキャリアオーナーシップをもたず会社依存体質のままでは、長きにわたる職業人生をまっとうするのが困難になってくるでしょう。  世の中の変化への対応力強化のためにもキャリア・チェンジは不可避な時代だと思います。 ―職業人生の長期化や社会環境の大きな変化に直面するシニア社員は、自律的なキャリア・デザインを求められ、主体的なキャリア・チェンジを迫られているということですね。では、キャリア・チェンジがなぜ必要なのか、その意義はなんでしょうか。 高平 これからの時代、職業寿命を延ばすためには、おのずとキャリア・チェンジは避けられないのではないでしょうか。加齢とともに心身の変化を受け入れながら働き続けるためには、働き方そのものも段階をふみながら変えていかなければなりません。また、働き方を変えることで続けられない職種や仕事がありますので、そこで何らかのチェンジが必要になります。  働き方の調整と仕事内容がうまくリンクすればよいのですが、そう都合のよい形にならない場合には、仕事内容か働き方の条件のどちらかを選択しながら、晩年のキャリア形成につなげていくことが現実的になると思われます。つまり、晩年のキャリア形成の通過点であるわけです。したがって、キャリア・チェンジはごくあたり前のことであるともいえます。  また、高齢期になれば、働く目的や就労動機も現役時代とは変容していきます。このため、キャリア・チェンジは職業生活と密接不可分の関係であり、雇用環境の変化への対応と職業寿命を延ばすためという意義があると思います。  キャリア・チェンジについては、現役時代にも社内の異動や転勤、出向などで一定の経験をしている方も少なくないと思います。問題はそれらをどのように受けとめ、新しい職業経験として職務拡大・充実につなげていくかです。晩年のキャリアの充実のためには、職業能力のアップデート※とキャリア・チェンジを恐れない気持ちも必要ではないでしょうか。 キャリア・チェンジの成功のため意識的な経験の蓄積を ―自律的にキャリアを考え、キャリア・チェンジに備えるには、どのように、いつから取り組めばよいのでしょうか。 高平 少なくとも40代ごろから、大まかでよいので、人生設計を考えておくことが大事です。経済的なプランも含めた人生の設計図をつくり、各年齢に達したときや、キャリアの節目に見直しや修正をほどこす。その都度点検しながら、軌道修正を行って自分の職業人生を客観的に俯瞰してみることが参考になると思います。人生設計というと大げさに感じるかもしれませんが、小さな目標やゴールを設定して楽しむくらいの感覚でもよいと思います。それで見直す作業が続けられたら理想的でしょう。  キャリアの不確実性はますます高まっています。自己のキャリアをいかに防衛するかという視座をもちながら、自分がどうありたいか、中長期のビジョンを考え日々を過ごせば、いざというときに慌てないですむのではないでしょうか。あわせて、折々に「学び」を職業生活に組み入れると将来のキャリア・チェンジに役立つと思います。特に利害関係のない学びを通じた社外人脈は貴重な個人財産になるでしょう。 ―キャリア・チェンジをうまく進めるためには、どんなことが必要でしょうか。新しい仕事自体は改めて学ぶとしても、キャリアを展開するための土台となるコアが重要だと思いますが、いかがでしょうか。 高平 どのような仕事でも、職業能力の基礎的な部分は共通だと思います。仕事の進め方や情報処理の扱い、キャッチアップの仕方などはもちろんのこと、人との関係性の構築も大きな要素の一つです。このような持ち運びができるポータブルなスキル部分と環境変化への適応力、それに人間的な魅力も重なれば、キャリア・チェンジは怖くないのではないでしょうか。  職業能力のコアは、職業キャリアの節目に起こる転勤や異動、出向などがきっかけとなって、蓄積され、形づくられるものです。  環境が変わり、さまざまな課題に取り組まざるを得なくなったとき、その失敗も成功も自分の力に変えることができるかどうかが重要です。  つまり、苦労を成長の糧にできるマインドをもつこと。このようなコアのある人材ならば、職種が変わろうと業界が変わろうと、あまり関係ないと思います。  成長する力をつけるコツはすごくシンプルで、“逃げないこと”です。何か困難に遭遇したときに、逃げずに何とかやり抜くことを重ねていくと、自然に身につく力です。最近では、「レジリエンス」と表現されることが多いですね。  困難な仕事をやり切って、そのときのトラブル対応が失敗しても成功しても、そのような経験を客観的・意識的に自分のなかに定着させることが、キャリア・チェンジへの不安の壁を低くしてくれると思います。  また、先ほども少し触れましたが、社外に学びの場を求めるいわゆる「サードプレイス(居場所)」をもつことも有益だと思います。  サードプレイスは探すものではなく、自らつくっていくものです。よく定年後の居場所探しが話題になることがありますが、心地よいサードプレイスは、やはり一定の時間経過やそれまでの交流などを通じてできる関係なので、一朝一夕にはつくれません。  このようなサードプレイスで得られた人的交流や社外人脈、新鮮な学びがキャリア・チェンジをきっと後押ししてくれると思います。  本来の職業能力を磨きながら、レジリエンスを鍛え、サードプレイスをもつことで、キャリア・チェンジにともなう不安やリスクも軽減できるのではないかと思います。 シニアのキャリア・チェンジにおいて企業に求められる対応とは ―企業の立場からみた、シニア社員のキャリア・チェンジについてお聞きします。高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が努力義務化されました。また、ほかの企業や社会貢献事業を行うNPOなどを含めた幅広い形での就業機会の選択肢が示されました。実務的に企業として、高齢者雇用の取組みのなかに、どのようにキャリア・チェンジを位置づけていけばよいのでしょうか。 高平 いま多くの企業は、そこに悩んでいると思います。法改正に対応していくことは当然として、キャリア・チェンジに関していえば、企業は自社社員の自律的キャリア観や仕事への自走力をつけるために、少なくともいわれた通りにだけ動くイエスマン社員を評価するような風土は一掃した方がよいと思います。  また、前例主義やことなかれ主義も、社員の自律性を塞(ふさ)ぎかねません。要は、メンバーシップ型の昭和モードの名残りを変革するべきです。また、再雇用制度の人事的枠組みとして、シニア社員へ向き合うのではなく、その先を視野に入れた社員育成、人材活用がなされれば、社会の公器としての大きな役割を果たすことにもつながるのではないでしょうか。  具体的には、若いころから転勤や出向で社内外での経験を積んでもらったり、ミドルシニア社員には副業やプロボノ(専門性の高いボランティア)、地域活動など、社会的な活動を通じての学びを推奨したり、シニア社員にはライフデザイン研修だけでなく、キャリア・チェンジの可能性を探るための職種転換のサポートをしたり、また、よりていねいな個別面談を通じて、ともに次のキャリアに向けて考える機会を充実させていくことが考えられます。もはや一生を一社で過ごす時代ではなくなりますから、キャリア・チェンジは変化への対応でもあり、長期化する職業人生のリスク対策でもあることを社員に明確に伝えることが大事だと思います。 ―改正法の65歳以降の就業機会の確保のなかには他社での就業も選択肢に含まれるので、企業が他社への転職を推奨するなど、間違った方向でキャリア・チェンジが使われてしまう懸念もあります。どのようにお考えでしょうか。 高平 たしかに、「キャリア・チェンジ=他社での就労」ありきで、65歳以降の就業確保措置の努力義務を考えるのはあまり望ましいことではないと思います。ですが、キャリア・チェンジすることで、その先の就業が長期に見込まれることもあります。そして、その意思決定をするべきなのは、会社側ではなく、むしろシニア社員の方だと思います。もしかしたら、そのタイミングは60歳になるかもしれませんし、それ以前かもしれません。つまり、あと20年職業寿命を延ばそうと思えば、キャリア・チェンジは不可避で、会社まかせにせず、自らのキャリアを戦略的に考えたいものです。 ―企業を変わって働くシニアも出てくるということは、新たに外からシニア社員を迎える企業もあるということです。そういう企業が、セカンドキャリアのシニア社員を迎えるにあたって、どのような取組みをすれば、より有効にシニア人材を活用することができるでしょうか。 高平 まず、受入れ体制をきちんと整備することではないでしょうか。「自分の入社を社内に知らされていなかった」といった些細な連絡ミスでも、シニア人材のなかには心理的にネガティブに受けとめてしまう人もいます。「そんなことで」と思うかもしれませんが、せっかく採用した人材です。その人に最大限に力を発揮してもらうためにも一定の受入れ体制は必須です。  例えば、従事する予定の職務内容や期待する役割、当面の目標について共有したり、権限についても具体的に初めから伝えておいた方がよいでしょう。また、今回の採用を「何のために」行い、「なぜあなたを採用したのか」などを伝えることも重要です。シニア人材にとって一番知りたいことであり、本人なりの納得性が高まれば、想定外の貢献をもたらしてくれることもあるからです。シニア人材の心理に配慮することは、シニア人材活用のポイントといえます。  もちろん、「ダメなものはダメ」と率直に伝えることも当然ながら必要です。シニア人材がよかれと思ってしたことが、周囲にとって迷惑にならないよう、お互いのコミュニケーションを欠かさないようにすることは、いうまでもありません。現役世代もシニアも苦手意識をもたずに自然体で接することが望ましいですね。 仕事の能力と並んで人間的な魅力も重要となる ―会社を変わるキャリア・チェンジで、うま く移行できるシニア社員とは、どのような方で しょうか。 高平 一言でいうと「人間的に魅力的な人」ですね。実はあまりキャリアには関係ない気がします。知識や技術をもっているに越したことはありませんが、周りの人との接し方や仕事の進め方にも人柄が滲んできます。新たな職場で受け入れられにくい人とすぐに馴染んで適応する人がいますが、うまく移行できるシニア人材とは、仕事をきちんとこなしたうえで、一緒にいて楽しく役割を認識し、縁の下の力持ち的存在になれる人です。例えば、未経験の分野であっても好奇心をもって取り組める人は、受け入れる側からすると、自分たちの仕事に関心をもってくれたと心理的に歓迎されると思います。  他方で、新たな職場にうまく移行できないシニア人材は、気持ちの切替ができず、古巣の価値観やモノの見方から離れられない人です。  私は現在、深刻な社会課題とされている中小企業の事業承継問題にシニア人材の活用を促進する活動にかかわっています。具体的には、Yamatoさわかみ事業承継機構が取り組んでいる5000社承継プロジェクトへ、企業出身者を事業承継先の後継社長や他技術専門職などとして、キャリア・チェンジする取組みです。定年前後のシニアの方々がキャリア・チェンジを考えるとき、多くの方が、次はより「社会の役に立つ仕事がしたい」とおっしゃいます。事業承継問題にかぎらず、社会貢献を兼ねたソーシャルビジネスへのキャリア・チェンジは、これからのシニア人材にとってやりがいのある魅力的な選択肢になると思います。ソーシャルビジネスにおいては、経済合理性や利益優先のビジネスではないだけに、より人間性や人柄、事業や仕事に対する貢献意欲の高い方がキャリア・チェンジに成功するのではないかと思います。 ※ 職業能力のアップデート……古くなった知識を学習棄却し新しい知識や経験を積んでいくこと 写真のキャプション 高平ゆかり氏 【P11-14】 特別インタビューA 「東京セカンドキャリア塾」・「東京キャリア・トライアル65」受託事業者に聞くシニアのセカンドキャリア支援とその現状 アデコ株式会社  東京都では、働く意欲のあるシニアの就業を支援するため、シニアの学びの場として「東京セカンドキャリア塾」、シニアと企業をマッチングする「東京キャリア・トライアル65」を実施しています。今回はこの事業を受託しているアデコ株式会社の弘中淳氏、佐藤大輔氏に、同事業の概要とともに、同事業を通してみたシニアのセカンドキャリアの現状について、お話をうかがいました。 東京都が支援するシニアのセカンドキャリア  シニアが「生涯現役」として活き活きと活躍できる社会の実現を目ざした東京都の「シニア就業応援プロジェクト」の一環として、2018(平成30)年に「東京セカンドキャリア塾」と「東京キャリア・トライアル65」がスタートしました。  東京セカンドキャリア塾(アクティブシニアコース)は、65歳以上のシニアを対象とした新しい仕事にチャレンジするための「学び直しの場」であり、東京キャリア・トライアル65は働くシニアの活躍の場を広げることを目的とした事業。3期目の2020(令和2)年には、東京セカンドキャリア塾は55歳から64歳までのシニア予備群を対象にした「プレシニアコース」も開設。さらに4期目の2021年にはプレシニア向けのオンライン講座と、シニア活用のポイントなどが学べる企業の人事担当者向けのオンライン講座も開設しています。  東京セカンドキャリア塾は就業にかぎらず、独立・起業、ボランティア・地域活動、NPO活動など、幅広い分野で活き活きと活躍するために必要な知識を学ぶ場と位置づけています。アクティブシニアコースは、65歳以上の都内在住または都内企業勤務者を対象に毎年8〜9月に塾生を募集し、10月から翌年3月までの半年間開講しており、第1期の入塾者数は115人、第2期121人、第3期104人、第4期156人となっています。塾生の年齢は65歳から70歳前後で平均年齢は約68歳。ちょうど再雇用が終わった人や主婦、第一線をリタイアしてからしばらく経つ人などさまざまです。  クラスは1クラス25人で6クラスあり、都内の大学を借りて受講場所を設定。4期目は日本大学文理学部で4クラス、国際基督教大学で2クラスの塾生が学んでいます。カリキュラムは基本講座と選択講座の計46講座を用意。東京セカンドキャリア塾と東京キャリア・トライアル65を、東京都から受託しているアデコ株式会社の東京セカンドキャリア塾事業責任者の弘中(ひろなか)淳(あつし)氏は塾の目的について次のように話します。  「65歳以上の人はまだまだ元気ですし、これから社会に貢献してもらう機会が十分にある人たちです。ただ定年でリタイアし、第一線から遠ざかっている人のなかには何をすればよいのかわからず、きっかけがない人もいます。そこで、塾で学ぶことでもう1回スイッチを入れてもらう。働くだけではなく地域貢献などのボランティアや仲間を見つけてNPOをつくるなど、そうしたことも含めてセカンドキャリアのきっかけをつくってもらうことが目的です」 豊富なカリキュラムでシニアの意識改革を図る  基本講座は「時代を知る」、「自分を知る」、「幅を広げる・強みを創る」、「やってみる」の4テーマを軸に構成。選択講座では上記のテーマごとに深掘りした講座を用意し、知識・スキルを学習します。基本講座の柱はマインドセットと活躍をうながす動機づけ。公共事業チーム企画担当シニアコンサルタントの佐藤大輔氏は、「『時代を知る』では、働き方が多様化し、週5日フルタイムで働く形だけではないこと、いまの職場ではセクハラ・パワハラが許されないことなど、働き方の変遷を学びます。『自分を知る』では自分はいったい何をしたいのか、今後の生き方をよく考えること、そして自分の能力を知ることをうながします。また、シニアになると心身の衰えも発生します。『前頭葉が萎縮して感情がコントロールできないこともありますよ』、『ジェネレーションギャップを理解し、周りの人の目線を意識しましょう。おじいさん、おばあさんの振舞いをすると若い人に受け入れられませんよ』と、ときには厳しい話もします。本人が意識変革できるようなイメージで講座を設計しています」と語ります。  選択講座ではエクセル、パワーポイントなどのパソコンスキルの修得やNPO設立実践講座、企業見学など実務を学べるプログラムも用意されています。塾生は週2〜3日キャンパスに通っており、塾生同士の交流も重視しています。クラス内やクラスを超えた交流会を月に一回程度開催し、仲間づくりをうながしています。  「塾生同士の趣味の披露会や公園の散策、卒業生を招いた座談会などを開催しています。半年間机を並べて学ぶので卒業時は仲間意識が強まり、塾生同士でNPOを立ち上げるなどのコミュニティもできています」(弘中氏) シニアの派遣就業を支援する東京キャリア・トライアル65  シニアの就業機会拡大を目的として65歳以上のシニアを企業に派遣する「東京キャリア・トライアル65」を、アデコは2018年から受託しています。  シニアは派遣先企業で働くスキルの習得を、企業はシニアを活用するノウハウを取得することを目的に、応募企業で1週間から最長2カ月間のトライアル就業をしてもらうもので、派遣期間中の人件費や交通費は東京都が負担します。そのうえで、働き手と会社が互いに合意すれば直接雇用に切り替えるという仕組みです。参加対象者は65歳以上かつ都内で就業を希望する人。東京セカンドキャリア塾の塾生にかぎらず応募することが可能です。募集期間は8月後半から翌年3月までと受講期間と重なりますが、「塾も毎日ではないので受講と並行して就業できますし、塾で学んで気持ちを高め、派遣に登録して働き出す人もいます」(弘中氏)といいます。  派遣就業までの流れとしては、希望者が登録し、カウンセリングを実施したうえで、企業とのマッチングが行われます。トライアル期間は週2〜3日勤務と、柔軟な働き方を設定。この東京キャリア・トライアル65の最大の特徴は、事務職、営業職、IT技術職など、ホワイトカラー職種に限定されていることです。  「シニアが仕事を自分で探すとなると、清掃、警備といった、いわゆるブルーカラー系の仕事が多いのが現実です。登録の際に当社のカウンセラーがこれまでの経験をふまえてできること、そしてこれからやりたいことをしっかりと聞いてマッチングします。ただ、登録する人の多くは『自分ができる範囲でやってみたいので幅広く紹介してほしい』といわれる人が多いですね。実際にやりたい仕事にこだわりがあると、ピンポイントで探すのはむずかしく、なかなか仕事が決まらないのが現実です」(弘中氏)  派遣就業先の開拓はアデコが実施しており、登録、マッチングやカウンセリングを行うほか、専業の営業担当者が企業開拓の役割をになっています。  「アデコが保有する派遣先だけではなく、いろいろな業種の企業に幅広く声をかけています。営業担当者が専用のパンフレットを持参し、シニアのポテンシャルと活用方法を企業に説明します。個人名を消した職務経歴書をみせて、みなさんが具体的に高い能力をもっていることを説明し、『年齢や印象で“ノー”といわず能力をみてください』という話の進め方をしながら開拓しています」(佐藤氏) 就業の実態からみる企業がシニアに求める役割とは  実際に派遣就業している人はどのくらいいるのでしょうか。東京キャリア・トライアル65全体(2018〜2020年)では登録者は延べ2000人、うち約半分の1000人近い人が就業しています。就業先の業態は小売、広告、IT、製造業と幅広く、中小企業が9割以上を占めています。2020年度の事業実績では、約500件の求人案件に対し、400人以上のシニアを派遣しました。  登録者の派遣先職種では、男性でもっとも多いのが営業の23.2%、次いで一般事務・OA事務の18.8%、SE・プログラマーなどIT職12.0%となっています。また、女性でもっとも多いのは一般事務・OA事務の36.5%、受付の24.5%、テレオペレーターの6.3%です(図表)。仕事の内容は、現状では定型業務が多くを占めています。  「派遣期間が長くないので、あくまで正社員のサポートという位置づけです。企業にも『定型業務を生産性の高い社員に行わせるのはもったいない。派遣就業を受け入れてもらえば、社員をよりコアな業務に充てることができます』という営業トークもしています」(佐藤氏)  派遣就業先は第1期目以降、徐々に拡大しています。「1期目に企業開拓したときは、シニアを受け入れることをためらう企業もありましたが、実際に受け入れた企業が、2期目、3期目と継続して受け入れるケースも増えています。また、中小企業のなかには若手の採用がむずかしい、あるいは幅広い経験をもつ中堅層が少ないところも多く、受け入れてもらいやすいという点もあります」(弘中氏)  派遣就業者の働き方としては、週2〜3日勤務が多く、賃金は時給1200〜1300円を設定しています。また、派遣就業後に直接雇用に結びついた人は派遣就業者の30%程度。雇用形態は正社員だけではなく、パート勤務などの契約社員も含まれ、処遇は企業ごとに異なります。なかには直接雇用後、自分がつちかってきた能力を開花させる人もいるそうです。  「長年百貨店勤務をされてきた人が、就職先でカスタマー対応の品質管理統括で仕事をしています。百貨店勤務といえば販売経験だけと思いがちですが、見方を変えれば“顧客対応のプロ”です。まったく異なる分野でも、経験を活かしてチャレンジする道もあります」(佐藤氏)  同様に前職が飲食業の衛生管理担当だった人がIT企業で直接雇用になり、飲食店向けの衛生管理のアプリ開発に従事している事例もあります。 シニアに求められるのは自分の能力を可視化すること  一方、企業にとっては派遣就業期の負担がないというメリットがあっても、登録者の半分しか派遣就業できていないという現実もあります。高齢求職者と企業にどういう課題があるのでしょうか。まず求職者の課題として佐藤氏は次のように指摘します。  「華々しい職務経歴をもっていても、能力の棚卸しができていないために実際のアウトプットがうまくできない人もいます。現役時代に意識してこなかった“自分の能力”を可視化するというシニアの側の取組みも重要です。また、見栄えがよくて若々しく振る舞える人や謙虚な姿勢を保てる人は、比較的就業先が決まりやすいといえるでしょう。受け入れる企業としては、率先して事業の中核の仕事をしてほしいというわけではありません。若い社員がいるなかで、仕事のサポーターとしてうまく振る舞ってほしいというのが企業の本音だと思います。シニアのみなさんには、『経験を活かして、いかに周りをサポートしていくかを考えてほしい』とお伝えしています。その点、セカンドキャリア塾で学んだ人のほうが決まる率は高いと思います」  東京セカンドキャリア塾の塾生には、大手企業の管理職を経験した人も少なくありません。改めてスキル・経験などの能力を可視化し、求職先の企業に伝えられること、加えて、あくまで新入社員としての謙虚さを保ち、周囲のフォロワーとして振る舞う姿勢が大事になるのです。  一方、シニアの働く場を広げていくには、企業の側の意識改革も必要になります。  「『シニアは使えない』という先入観がまだあるように思います。思っている以上にシニアのみなさんは元気ですし、間口を広げてほしいですね。例えばテレワークと同じで、当初はむずかしいと思っていても、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でテレワークが拡がったように、シニアについても労働力としてどう使いこなしていくかを考える意識の変革が求められていると思います。そのうえで、週3日勤務やそれに応じた仕事の切り出し方などを工夫すればうまくいくのではないでしょうか」(佐藤氏)  同様に弘中氏も「シニアから応募があったら『65歳以上だから切る』という時代ではありません。面接してもらえば、『こんな人がうちの会社にいたらいいな』と思う人が絶対にいるはずです。そうしたチャンスを逃すことがないように年齢に関係なく門戸を広げてほしい」と話します。  東京セカンドキャリア塾での学びやキャリア・トライアルの実践がシニアの働く意欲を高め、就業機会の拡大に向けて着実に前進しています。 図表 東京キャリア・トライアル65参加者の派遣先職種 男性(n=167) 営業 23.2% 一般事務・OA事務 18.8% SE・プログラマー等IT職 12.0% 受付 6.4% 事務的軽作業 6.4% その他 (貿易事務、人事・総務、システムエンジニア、システムコンサルタント、メカトロニクス等) 23.6% 女性(n=159) 一般事務・OA事務 36.5% 受付 24.5% テレオペレーター 6.3% 経理・財務 5.0% 営業 5.0% その他 (教育関連、Web 制作、英文事務、営業事務) 17.0% ※アデコ提供資料より作成 写真のキャプション 佐藤大輔氏(左)と弘中淳氏(右) 【P15-17】 事例@ 他社を定年退職したシニア人材「エルダーシャイン」が経験・スキルを活かし活躍中 株式会社パソナグループ(本社 東京都千代田区) シニア人材を一括採用するエルダーシャイン制度をスタート  株式会社パソナグループは、1976(昭和51)年の創業以来、「社会の問題点を解決する」という企業理念を掲げて活動してきた。現在は、人材派遣、人材紹介、海外人材サービス、福利厚生サービス、転職支援、再就職支援、地域活性化支援など、人材サービス事業を多角的に展開している。近年は地方創生事業に力を入れており、兵庫県の淡路島で、飲食店・テーマパークなどのサービス業務にも取り組んでいる。グループ社員は約2万1000人。連結子会社は62社、持分法適用会社は10社。定年は60歳、その後65歳まで再雇用している。  同社では、2019(平成31)年4月から、他社を定年退職したシニア人材を一括採用する「エルダーシャイン制度」を導入した。定年退職後にこれまでのキャリアを活かした仕事や、新たなキャリア・働き方に挑戦しようと考えている、健康で働く意欲のある人を対象とし、初年度は書類審査と面接を経て80人が入社した。そのうち8割強が男性となっている。  第2期となる2020年度はコロナ禍の影響で男性17人、女性3人の合計20人の採用にとどまった。現在は第3期の募集準備を進めているところだ。「当社はライフプロデュースを使命としています。『エルダーシャイン制度』は人生に定年はなく、生涯現役という観点から、豊富なキャリアと経験をもつシニア層の方々が、経験を活かして新しいチャレンジと志を実現するための環境を提供することを目的とした取組みです」と執行役員グループHR部長の細川明子さんは説明する。 能力を活かし活躍してもらうためさまざまなコースを用意  同制度は、コースごとに募集を行っている。パソナグループ以外の企業で参謀や顧問として働く「参謀コース」、営業にかかわる豊富な経験を活かす「営業コース」、財務・人事労務・経営企画・総務事務などの専門スキルを活かす「スペシャリストコース」、地方創生事業の地域活性コンサルタントなどとしてイベント企画や施設運営業務に従事する「地方創生コース」、独立起業に向けたプランの策定、事業・収支計画などについて専門コンサルタントから支援を受けながら起業を目ざす「起業志望コース」がある※。  もともとはこの5コースで募集を開始したエルダーシャイン制度だが、第1期の採用活動を行うなかで立ち上げられた特殊なコースが「総合コース」だ。第1期ではこの総合コースに20人が採用された。総合コース立ち上げの経緯について、HR本部担当部長で「パソナ日本創生大学院プロジェクト」を担当する岩佐実さんは次のように説明する。  「エルダーシャイン制度の採用方法は中途採用に近い形で行っており、グループ各社のそれぞれの部署や関連会社が必要な募集枠を定め採用活動を行う、というものでした。例えば経理部であれば、経理の経験がある方を募集し、経理部が面接を行うのです。ところが、実際にエルダーシャインの募集を開始すると、一人で複数の部門に応募する人がたくさんいらっしゃいました。そのため、書類選考の段階で面接選考に進める人材を絞らざるを得ない状況になりました」  しかし実際に選考を進めると、募集職種だけでみると、経験不足などにより書類選考で落とさざるを得ない人材だが、総合的なマネジメント経験が豊富であるなど、経歴・経験のいずれもすばらしく、チャレンジ意欲も旺盛な人材が多くいた。そこで、部署・関連会社からの募集ではなく、「どの分野でもチャレンジしたい方」という条件で、「総合コース」として人事部門による募集を行ったところ、30人ほどの応募があったという。 人生の新たな一歩をふみ出すためのユニークな入社前研修を実施  2019年の第1期生の入社の際には、入社前研修を行った。ビジネスマナーなどの基礎的な内容をはじめ、年齢や前職などへのこだわりをなくして活躍するためのマインドセットなどのほか、内面も外見も若々しくするための身だしなみ、歩き方、カラーコーディネーターによるネクタイの選び方の講義なども取り入れた。「いろいろな業界の人が集まって、気持ちも新たに多くの仲間と一緒に“一歩をふみ出す”ことを狙いとした取組みです」(岩佐さん)  エルダーシャインの雇用形態は契約社員で、フルタイム勤務も含めて働いた時間に応じて支給する月俸制。フルタイムでの就業をはじめ、短日・短時間勤務など、一人ひとりの希望や条件に応じた雇用契約を締結している。半年ごとに部署の上長と面談を行って契約を更新しており、同じ条件で契約更新するだけでなく、マネジメント業務をまかされるような人材の場合は、職責に応じて条件の見直しも行っている。  「エルダーシャインの統率力や危機管理能力は、業務にかぎらず職場のコミュニケーションや士気向上でも発揮されています。若手に自分の背中をみせて『みんなでやっていこうよ』とうながすようなシーンもあり、多くの若手社員がエルダーシャインから刺激を受けて、モチベーションが向上しています。私たちも異業種を経験されてきた方と一緒に仕事をすることによって、想定し得ないアイデアや意見に驚くことがあります。また、謙虚な姿勢で、前向きに自ら率先して行動しており、むしろ私たちが後をついていくようなこともあります。エルダーシャイン制度の開始にあたっては、現場から『まったく違う業界では文化が合わないのではないか』、『前職の立場をぬぐえないのではないか』という懸念の声も耳にしましたが、そういったマインドを変える意欲とチャレンジ精神がある方たちばかりなので、むしろ周りに好影響を与えてくれています。いまでは会社の大きな財産になっています」(岩佐さん) 定年後の継続雇用で職種変更継続雇用終了後に新たな世界へ飛び込む  株式会社パソナグループのHR本部グループHR部人財開発チームでワークライフファシリテーターとして活躍する岩田(いわた)義康(よしやす)さん(68歳)は、66歳のときに、エルダーシャイン1期生として採用された。もともと総合調査会社の研究開発部門でコンサルタントとして活躍し、コンサルティング事業部全体を統括する取締役として60歳の定年を迎えた。事業を統括してきた貴重な人材だけに、会社からは継続雇用でコンサルティング事業部で引き続き活躍することを求められたが、自身の経験を活かせる役割を模索し人事部と話し合ったところ、「人事部で、人事のコンサルタントとして、会社の若いメンバーのキャリア相談に乗ったり、採用にたずさわってはどうか」と提案を受けた。これが、それまでのコンサルティング・経営管理業務から、人事部門へと大きく業務の転換をしたターニングポイントになった。  60歳を超えて人事部に配属された岩田さんは、キャリアコンサルタントの国家資格を取得し、キャリア研修の講師を務めたり、後輩の相談に乗るなかで、さらに必要な資格を取得していった。継続雇用の節目になる65歳を迎えるにあたり、退職の意思を固め、後任が決まるまで一年延長をして66歳で退職に至った。  「2020(令和2)年3月に退職することが決まったので、これからも働くなら、60歳以降取り組んできたキャリアコンサルタントの分野の仕事ができたらと考えました。そんなとき、たまたま友人から、パソナグループで定年退職した人材の募集をしていると聞いて、説明会に参加し、スペシャリストコースにあるワークライフファシリテーターの職種に応募しました。現在は、幅広い年代の社員からのキャリア関連や、病気療養後の職場復帰などについての相談業務を行っています。社内で活躍している人たちに、できるだけ長く活き活きと働いてもらえるよう支援をしていきたいですし、相談に乗ることで、みなさんのお役に立てていることを実感しています。相談業務のほかにも、新役職者研修や、50歳対象のミドル層研修といったキャリア研修の講師を務めています」(岩田さん)  岩田さんは60歳のときに仕事内容をチェンジした。新しいことに飛び込み、それによって新しい資格を取得。資格取得を通して、自分の知識が広がり、仲間ができ、ネットワークも広がったという。さらに66歳で異業界に飛び込み、いわば、60歳以降にキャリアチェンジを2回経験している。  「定年後転職する場合に、これまでキャリアを積んだ業種・業界しかないと思わず、もっと視野を広げて、自分がもっている知識や技術が活かせるなら、どんな業界でもよいのではないでしょうか。例えばパソナグループは人材サービスの会社ですが、幅広い事業を行っているため、それぞれの職場で求められる知識も役割も異なります。年齢を理由に躊躇(ちゅうちょ)することなく、チャレンジしてみてほしいですね」(岩田さん)  高齢者がつちかってきた長い経験とスキルに、新しい分野にチャレンジする気持ちをかけ合わせると、これまでとは異なる役割とやりがいを得ることができるようだ。キャリア・チェンジを経て活き活きと働く高齢者は、職場や企業にとって新鮮な戦力として影響を与えている。 ※ いずれも第2期の募集コース。第1期の名称とコースがやや異なる 写真のキャプション 執行役員グループHR部長の細川明子さん(右) HR本部担当部長の岩佐実さん(左) エルダーシャインとして活躍している岩田義康さん 【P18-20】 事例A NHKアナウンサーから福祉の世界へ転身たどり着いたのは「自分が落ち着ける居場所」 国立研究開発法人国立成育医療研究センター 「もみじの家」(東京都世田谷区)ハウスマネージャー 内多(うちだ)勝康(かつやす)さん 医療的ケア児とその家族のための短期入所施設「もみじの家」  医療の発達により、生まれつき重い病気を抱える多くの子どもたちの命が救えるようになってきた。その一方で、退院後、在宅で人工呼吸や痰の吸引などのケアを続けながら生きていく「医療的ケア児」が増えている。病児・障害児を受け入れる保育所や学校などは決して多いとはいえず、家族の負担は極めて重い。  こうした子どもたちの健やかな成長をサポートし、家族の生活を支えるために設立されたのが、国立成育医療研究センターが運営する医療型短期入所施設「もみじの家」だ。  国立成育医療研究センターは、東京都世田谷区にある小児・周産期医療をになう日本最大の医療研究センターである。その病院棟に隣接する2階建ての建物が「もみじの家」である。ここでは、自宅で医療的ケアを受けている子どもとその家族を短期間受け入れ、同世代の子どもたちと遊んだり学んだりと自宅ではなかなかできないことをして過ごすプログラムを提供するとともに、一時でもケアを引き受けることで、家族の緊張を解き、生活をサポートしている。 NHKアナウンサーから、50代で福祉施設のハウスマネージャーに  この「もみじの家」で、2016(平成28)年の開設時からハウスマネージャーを務める内多勝康さん(58歳)は、元NHKアナウンサーという異色の経歴を持つ。「首都圏ニュース845」、「生活ほっとモーニング」、「クローズアップ現代」などで活躍する姿をご記憶の方も多いだろう。  テレビ局のアナウンサーという華やかな職を52歳で離れ、福祉の現場へ−−まったくつながりがないようにみえるが、内多さん自身の認識は違う。「NHKでは、みている人に幸せになってほしい、社会をよくしたいという思いで番組をつくってきました。アナウンサーという職種でしたが、話すだけでなく、社会に問題提起すべきと思ったことを自ら提案し、取材をして、番組制作にたずさわってきました。一方、ここは、支援を必要とする人に必要なサービスをダイレクトに提供できる場所。はたからみるとまったく違う畑ですが、私のなかでは、『何のために仕事をするのか』という根っこの部分でつながっているのです」と内多さんは語る。 障害福祉の世界と運命的に出会い信頼する人のすすめで転身を決意  内多さんと障害福祉の世界とは、不思議な縁で結ばれている。  出会いはNHKの新人時代。香川県の高松放送局に赴任し、ボランティア団体主催のお祭りの司会を担当したことで接点が生まれた。実はディレクター志望だった内多さんは、何かネタがもらえないかと、その後も関係者と交流を続けるなか、障害福祉の世界に潜むさまざまな矛盾や課題を知る。それらを番組の企画として提案し、自分が発案したものが形になる喜びを得るとともに、社会の変化にかかわる手応えを得た。例えば、行政の支援で運営している「福祉タクシー」が財政難で存続が危ういと知り、その意義についてリポートしたところ、後になって、存続が決まったというニュースを耳にした。それがきっかけとなり、断続的にだが、その後も障害福祉の取材を続けるようになった。  医療的ケアが必要な子どもたちのことを知ったのは2013年、当時代行キャスターを務めていた「クローズアップ現代」の取材でのこと。新生児の救命率が向上した反面、在宅で医療的ケアを必要とする子どもが増え、地域でどう支えていけばよいかを問う番組を企画・制作し、大きな反響があった。  それから1年ほど経ったころ、番組にも協力してもらった国立成育医療研究センターが「もみじの家」を立ち上げ、外部からハウスマネージャーを募集することを知った。教えてくれたのは、福祉に関する番組制作を続けるなかで知り合った障害福祉の世界のカリスマのような人物だ。その時点で15年来のつきあいで、ときどきお酒を飲む仲だという。「その人がおもしろい人で、『内多さん、向いているんじゃない?やってみたら?』とすすめてくれたんです。普通であれば『NHKを辞めろ』とはすすめませんよね。私の考え方や性格を見抜いていたから、すすめてくれたのだと思います」と内多さんはふり返る。  当時の内多さんは、ボランティア活動をしたり、社会福祉士の資格を取得したりしていたが、転職するつもりはなく、「オフの時間や定年後に福祉にかかわれればよい」と考えていた。しかし、ハウスマネージャーに転身すれば、仕事とやりがいを一致させることができる。内多さんのなかに「チャレンジしたい」という気持ちが芽生えた。「もみじの家」の設立準備室の担当ドクターが「クローズアップ現代」の取材で窓口になってくれた人だったことにも、運命的なめぐりあわせを感じた。家のローンも終わっており、子どもの学費の見通しも立っていたので、収入面での不安もなかった。家族の反対もなく、奥さまは「いいんじゃない?」と後押ししてくれたそうだ。 前向きにチャレンジを続け自分の仕事をさらに広げていく  公募に応募して見事合格し、新たなスタートを切った内多さんだが、意外にも、最初は不安はなかったという。なぜかというと、「何をする仕事かすらわからなかったから(笑)」  ハウスマネージャーというのは、施設長(国立成育医療研究センターの病院長が兼務)のもと、安心・安全で快適な環境づくりをリーダーシップを発揮して行っていく役割。施設の運営方針を決めて事業計画を立てたり、1日に何人入所を目標とするか、施設をどう使うかといったことをその都度、関係者と話し合って決め、業者への発注や収支管理も行う。広報も担当し、啓発活動や寄付の呼びかけもしなければならない。  広報活動については取材する側として30年のキャリアがあるものの、事務の仕事は不慣れだった内多さん。徐々にこの仕事のたいへんさを、身に染みて感じることになる。「しばらく怒られる経験がなかったので、心が折れかけました」という。しかし、1年も経つと大体サイクルがわかり、パソコンのスキルも向上して、先回りして準備ができるようになった。  新しいことに取り組むのが好きな内多さんは、例えば啓発活動のイベントも、毎回、タイムリーで役立つテーマを企画する。「病院の外から私を招いてくれたということは、病院の文化と違うものを期待されているわけです。その期待に応えることを忘れてはいけないと考えています。施設長は『どんどんやれ』といってくれるので、自分の仕事を自分で広げていくことができます」と意気込みを語る。この仕事の一番のやりがいは、利用者にダイレクトに喜んでもらえること。「こういう施設を待ち望んでいた」と感謝されることも多く、「この施設をしっかりと維持していかなければ」という使命感がさらに高まる。  今後は、もみじの家のような支援の仕組みを全国に広めていくことが目標だ。取組みはすでに始めており、内多さんが中心となって、47都道府県のネットワークができつつある。2021(令和3)年度末には任意団体を立ち上げ、全国で、医療的ケア児者やその家族が安心して地域で暮らせる環境づくりを進めていく。内多さんの定年は60歳になった年の年度末。延長規定もあるが、まずは定年を一区切りとして、そこまでの2年余りで何ができるかを考えはじめている。「たいへんなこともたくさんありますが、違う人生を経験できると思うとわくわくします」と前向きだ。 自分をわかりやすく伝え 自分が落ち着ける居場所を見つける  内多さんにキャリアチェンジを成功させる秘訣をうかがうと、「秘訣はわかりませんが、結果的によかったと思うのは、自分の考えを周りの人にわかりやすく伝えてきたことです」という答えをいただいた。障害福祉に関心があり、ライフワークとして真剣に取り組んでいることが信頼できる相手に伝わっていたからこそ、内多さんはいまの仕事をすすめてもらえた。「私のことを理解してくれていなかったら、その方は、別の人にこの仕事をすすめていたかもしれません」という言葉には実感がこもっている。また、「私は支援が必要な人の役に立ちたいという気持ちでやっていますが、肩ひじを張らなくてもよいと思います。自分が落ち着ける居場所を見つけることが一番です。私も、ここにいると安らぐからここにいるのです。例えば、『この人はガーデニングが好き』と周りの人に伝わっていれば、その情報が入ってくる可能性が広がります。そうやって自分の居場所と感じるものに出会ったら、一度そこに飛び込んでみてください。やってみてうまくいかなかったら、また違う場所を見つけていけばよいのですから」とアドバイスする。  「自分の居場所」を見つけて活躍する内多さんの笑顔は、まぶしいくらいに輝いていた。 ※「もみじの家」では、みなさまのご寄付を受けつけています。詳しくは、ホームページ(https://home-from-home.jp/)をご覧ください 写真のキャプション 内多勝康さん 【P21-23】 事例B 新聞記者からのキャリア・チェンジで書店を開業こだわりの詰まったお店で自分が読みたい本≠並べる ブックストア「Readin' Writin'」(東京都台東区)店主 落合 博さん 新聞記者から書店店主へ偶然が重なり始まった第二の人生  東京都台東区の田原町駅から3分ほど歩いた路地の一角。そこが書店であることを知らなければ、通り過ぎてしまうほど周りの風景に溶け込んでいる書店がある。ドアを開けると少し奥まったカウンターで、明るい色のシャツを着た店主が笑顔で出迎えてくれた。2017(平成29)年に、大手新聞社の記者から個人経営の書店店主に転身した落合博さん(63歳)だ。  2021(令和3)年9月には、書店開業の苦労をまとめた著書『新聞記者、本屋になる』(光文社)を刊行した。毎日新聞の論説委員として社説を担当していた新聞記者が、定年を待たずに58歳で新聞社を去り、ゼロから書店経営者を目ざす話は十分ドラマチックで、その過程を書いた著書は1カ月後には2刷になるほど売れ行き好調なこともうなずける。  落合さんは開口一番「その本に大体書き尽くしていますが、みなさんが期待されるほどドラマチックな話はありません。新聞記者をやめて小さな書店の経営者になったのは、偶然に偶然が重なりあった結果にすぎないのです」と語った。  人より先に会社員生活を終え、東京の下町に書店をかまえて、一国一城の主になった落合さんは、「例えば、『昔から本の虫で、いつかは本屋をやろうと夢に描いていた』といったお話ができればよいのですが、それほどの読書家でもありませんでした。ただ、本屋を始めるときに自分の読みたい本を売ろうということだけははっきりしていました。開業して4年、そのことを大切にしながら歩いてきました」と申し訳なさそうに話す口調に人柄がうかがえる。 56歳、長男誕生が転機となり書店開業に向けた準備をスタート  山梨県甲府市出身の落合さんは、東京の大学を卒業すると読売新聞大阪本社に入社。最初の配属先は広島県の福山支局であった。このころの読売新聞は本社によって社風が違い、大阪読売には黒田清さんという名物社会部長がいて「反権力」を掲げていた。「新聞記者はあこがれの職業でしたし、黒田軍団の存在も魅力でした。ただ、いわゆる『夜討ち朝駆け』※のようなことが嫌でならず、これでは記者としては大成しそうにもありません。結局、7年勤めた読売新聞社を辞め、トライアスロンの専門誌に移りました」  自身もトライアスロンをやる落合さんには格好の職場だったが、新聞記者が恋しくなり31歳で毎日新聞社に中途入社した。バブル経済がはじける前で、新聞記者を大量採用していたなどの運もあった。地方勤務から始まり、運動部のデスクや編集委員、運動部長を歴任し、退職前は東京本社で論説委員を務めた。著書のなかの言葉を借りれば「辞めたいと思ったことはなかったものの、会社にしがみつきたいとも思わなかった」という。  転機となったのは、2014(平成26)年に長男が生まれたことだという。落合さんが56歳のときだ。「ずっと新聞社で働き、定年後も嘱託で65歳まで働いたとしたら、息子はそのとき何歳だろうかと考えました」と話す落合さん。「リスクは高いけれど、体が元気なうちに、自分で何かを始める潮時ではないか」と考え、2017年3月での退職を視野に置き、本屋開業に向けて始動した。  「『なぜ本屋なのか』と聞かれたら、初めにお話ししたように特段の理由はないのです。ただ、本に囲まれた場所で長く働いてきたことが少しは影響しているのかもしれません。何よりも本のある空間が大好きです」と落合さん。  論説委員というのは社説の執筆が主な仕事であり、第一線の記者よりも時間があることから、仕事のかたわら、「2017年、『本屋』を始めます。」と書かれた名刺をもって、小さな本屋に取材を重ねた。各地の独立系書店に足を運び、書店を始めようと思っていることを告げ、店主に話を聞くなかで、転職の背中を強く押されたという。当初は、自分の蔵書を元手に「古本屋でもやるか」と考えていたところ、リサーチのなかで知り合った福岡県の書店店主から「本屋を始めるなら、新刊のほうが店に勢いが出る」とすすめられたという。その一方で、開業セミナーや起業塾に参加するなど、さまざまな出会いのなかで落合さんは加速度的に学び続け、開業の道が開かれていった。 さまざまな出会いがキャリア・チェンジの強い味方に  よい出会いとは「人」にかぎらない。ときには物であったり、場所であったり、そこにも偶然が生み出す力がある。本屋の開業場所は、当初は住まいのある東京都の墨田区内を考えていたが、なかなかよい物件が見つからず、2016年の秋、台東区にある物件を紹介された。それは現在の物件ではなかったが、契約前に現在の店舗の前を偶然通りかかった。たまたまシャッターが半分空いていたので下からのぞいたところ、中2階の梁(はり)が見えた。もともとは材木倉庫で、かつては職人たちが中2階で寝泊まりしていたらしいが、築約60年経って駐車場や倉庫として使われていた。天井の高さも魅力的であり、ともかくも中2階に心奪われた。たまたま入った近所の喫茶店の店主から賃貸物件であると聞き、貸してもらうことにしたという。  「もし、この前を通らなかったら、もしシャッターが全部しまっていたら……とつい想像してしまいます。店の雰囲気もずいぶん違っていたことでしょう。4mの天井高をもつ本屋は珍しく、年季の入った木はそのまま使い、可動式の本棚を新しく入れました。中2階の床を畳敷きにしてほしいという注文以外は、すべて建築家におまかせしましたが、自分の心にかなった空間が実現しました。店に入ってきた途端にスマートフォンで撮影されるお客さんもいますよ。入れ物が整ったら次は、中身の充実を目ざしました。選書に関しては、大きい書店の真似はしないというのが僕の考え方の基本です。もっと簡単にいえば『自分の読みたい本を選べばよい』と思っています。店内にたくさんジェンダーの本が並んでいます。もちろん読みたい本であるけれども、もっと自分が学ぶ必要があるという自戒も込められています。記者時代に僕は、自分の視点にこだわってきました。そういう意味では、仕事に対する考え方は一貫しているかもしれません」と楽しそうに話す。 順風満帆なことばかりではない家族や周囲の人たちの協力が力に  名刺で宣言した通り、落合さんは2017年4月にブックストア「Readin’ Writin’」をオープンした。開業から4年、落合さんの書店はしっかり地域に根を張り、常連客も少しずつ増えているという。本の販売だけではなく、記者経験を活かしてライティングの個人レッスンを行ったり、読み手と書き手をつなぐイベントを定期的に開催するなどして、「Readin’ Writin’」のファンは確実に増えてきており、落合さんのセカンドキャリアは順調に前に進んでいる。  最後に、キャリア・チェンジを目ざす人たちにアドバイスをいただいた。  「一目ぼれの店舗を改装した際、本棚を可動式にしたこと、中2階に畳を敷いたことなどが、その時点ではあまり予測していなかったイベントを開催することにつながるなど、偶然が重なってのいまがあるように思います。  開業に向けてたくさんの人に話を聞きました。僕は新聞記者という仕事が長かったため、人に話を聞くことに慣れていたので、そういった意味では恵まれていたかもしれません。しかし、前職がどんな仕事であったとしても、大切なのは目標を決めたら愚直にそこへ向かっていくことだと思っています。起業セミナーなどで、プロから謙虚に学ぶことも大切だと思いますし、そういった場では実にさまざまな人たちが熱心に参加しており、刺激を受けました。  そして、キャリア・チェンジに一番必要なのは、家族の協力ではないでしょうか。僕は家族と一緒にご飯を食べたくて、夕方には店じまいしています。ここまで決して順風満帆できたわけではなく、一つひとつの課題を乗り越えてきました。  人生は何が起こるかわからないから面白いのです。僕が読みたいと思った本を嬉しそうに買っていく方に出会うたび、思い切って転身をしてよかったと心から思います。僕が新聞記者時代に知り合った方がひょっこり店をのぞいてくれることもありますし、どこで人がつながるかわからないというのも、面白いなあと思います。人とのつながりを深めるためにも、これからもイベントを開催するのはもちろん、何か新しいことを仕掛けていこうかなと考えているところです」  落合さんによれば、書店の数が減少傾向にあるなかで、個人経営の書店はむしろ増えているという。落合さんは自分の読みたい本を売るだけだと語るが、常に時代の少し先を視野に置きながら、多くの人に読んでもらいたい名著をていねいに選び抜いている。長い記者経験のなかでつちかってきた経験や人脈を活かし開業準備を行い、自分のこだわりを詰め込んだ仕事場をつくり、新しい分野で活躍する落合さん。生涯現役時代における仕事や社会とのかかわり方の理想の姿がそこにあった。 ※ 夜討ち朝駆け……新聞記者などが、予告なく深夜や早朝に取材先を訪問すること 写真のキャプション 落合博さん(Photo by chloe) 「Readin’ Writin’」店内の様子 【P24】 新春特別企画 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム −東京会場開催レポート−  当機構では、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2021(令和3)年度は、全国5会場で実施し、高年齢者雇用安定法改正の概要や学識経験者による講演、先進的な取組みを行っている企業の事例発表・トークセッションなどを行いました。  今回は、10月6日(水)に開催された東京会場(「高年齢者活躍企業フォーラム」と同時開催)の模様をご紹介します。東京会場では「令和3年度高年齢者活躍企業コンテスト」で表彰された3企業が登壇しました。ぜひご一読ください。 【P25-26】 講演 高年齢者の就業機会確保に向けて 〜高年齢者雇用安定法改正のねらいと意義を中心に〜 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課長 野ア伸一 高年齢者雇用安定法の変遷  高年齢者雇用安定法は、1986(昭和61)年に制定されました。事業主が定年を定める場合、その定年年齢は60歳未満としてはならないという努力義務が設けられ、1994(平成6)年の改正でそれが義務化されました。この内容は現在も変わっておりません。  もう一つの流れとして、60歳定年制とあわせて65歳までの継続雇用を推進する努力義務が1990年に設けられ、2000年に65歳までの雇用確保が努力義務となり、その後の法改正で、65歳までの雇用確保措置が義務化されました。  そして、新たに大きな流れとなるのが2021(令和3)年4月に施行された改正です。70歳までの就業確保措置を講ずることが努力義務として新設されました。人生100年時代を迎えるなか、働く意欲がある高年齢者の方々がその能力を十分に発揮し、継続して活躍できる環境整備を図っていくことを目的としたものです。  2020年の「高年齢者の雇用状況」(6月1日現在、31人以上規模の企業)によると、65歳までの高年齢者雇用確保措置は99.9%の企業で導入されています。また、高年齢者雇用確保措置を超えて66歳以上まで働ける制度のある企業割合は33.4%となっており、前年より約3%増加しています。  さらに、70歳以上まで働ける制度のある企業の割合も3割を超えています。これらは今回の改正高年齢者雇用安定法施行前のデータですが、企業規模を問わず、企業の取組みが自発的に進められてきていることがうかがえます。  一方、高年齢者の就業率の推移をみると、2020年現在では、60歳から64歳の就業率は7割超、65歳から69歳では約5割、70歳以上はまだ水準は低いのですが2割に近づいており、少しずつ上昇している状況にあります(図表)。  また、高齢期の身体機能は向上し、平均寿命と健康寿命も伸びてきています。そうしたなか、高年齢者の就労意向も変化し、収入をともなう就業希望年齢についてみると※1、約2割が「働けるうちはいつまででも」と回答し、約4割が65歳を超えての就業を望んでいます。あわせて約6割が、65歳を超えて、または働けるかぎり働きたいと思っているのです。 70歳までの就業確保(努力義務)とは  このように高年齢者像が変化しているなか、高年齢者の多様なニーズに応えられるさまざまな選択肢を準備する必要があるのではないか、そういった問題意識から新設されたのが、今回の法改正により努力義務とされた70歳までの就業確保措置です。この法改正では、多様な選択肢を法制度上で整えています。  まず、@70歳までの定年引上げ、A定年制の廃止、B70歳までの継続雇用制度の導入。この三つは、雇用関係のなかで70歳までの就業確保をしていただくものです。加えて、雇用によらない措置を新たに設けました。それが、C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、D70歳まで継続的に社会貢献事業に従事する制度の導入です。CとDは、雇用関係ではないなかで70歳までの就業機会を確保していただくもので、「創業支援等措置」と呼んでいます。  なお、B70歳までの継続雇用制度は、65歳以降70歳未満までは特殊関係事業主※2に加えて、他社で継続雇用を行うことも可能です。また、Dの社会貢献事業に継続的に従事できる制度の導入は、(a)事業主が自ら実施する社会貢献事業と、(b)事業主が委託・出資などをする団体が行う社会貢献事業があり、この(a)、(b)いずれかに従事できる制度を導入していただくものです。いずれの場合も、有償のもの※3にかぎるとされています。  社会貢献事業とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業で、事業の内容等を勘案して個別に判断されますが、広く公益に資する事業であれば認められることとなります。自社以外の団体が行う社会貢献事業に従事する契約を結ぶことも対象としており、その場合、自社から団体に対して事業の運営に対する出資(寄付などを含む)や事務スペースの提供など、社会貢献活動の実施に必要な援助を行っていることが求められます。  今回の改正法のポイントは、66歳から70歳までの就業確保措置には、雇用以外の対応も含まれることと、自社以外での就業の継続も含まれることです。留意事項として、CとDの創業支援等措置は雇用によらない措置ですので、労働関係法令の適用がありません。しかし、労働関係法令の考え方に照らし、必要な配慮をしていただくことが必要となります。 高年齢者が地域社会を支える存在に  日本は人口が減少し、生産年齢人口の割合も下がっており、地方や小さい町ほどその減り方は激しくなっています。地域の活力や文化の維持を考えると、企業内での雇用にとどまらず、地域の活動に高年齢者が活躍する環境を構築していくことが、地方創生の観点からもたいへん重要ではないかと考えます。  現時点での企業の対応は、雇用による措置が中心ですが、並行して創業支援等措置、特に、社会貢献事業における活用が普及していけば、より多様な形態での就業・社会参加が可能になり、地域社会の持続力の下支えともなります。そのためには、企業だけでなく、地域に存在する多くの社会資源との有機的な連携が不可欠です。そして、企業や地域における多様な実践の蓄積が、よりよい制度や社会づくりの基盤となると考えます。70歳までの就業確保措置は努力義務ですが、事業主のみなさまの取組みの蓄積が、より求められる領域ではないかと思います。引き続き、創意工夫のある取組みの展開をお願いいたします。 ※1 内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」(注)60歳以上の男女を対象とした調査 ※2 特殊関係事業主……元の事業主のグループ会社のこと ※3 業務に従事することにより、高年齢者に金銭が支払われるもの 図表 就業率の推移 ○60〜64歳層で、雇用確保措置の導入が義務付けられた改正高齢法施行(2006年4月1日)後、就業率が上昇。 ○65〜69歳層は、近年は上昇傾向にある。 高年齢者雇用確保措置義務化(対象者の限定可) 高年齢者雇用確保措置義務化(原則希望者全員) 60〜64歳 71.0% 65〜69歳 49.6% 70歳以上 17.7% ※シンポジウム資料より作成 【P27-28】 基調講演 高年齢者雇用が企業を強くする 〜生涯現役社会を目指して〜 法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 高齢期に第一線で活躍するためには本人の意識と企業の施策の両立が大事  日本は世界一の高齢社会になり、全人口に占める高齢者の割合がほぼ3割まで上がってきています。このような社会の活力を維持するには、何歳になっても働き続けて、社会を支える側に居続ける人が多くなることが求められます。  高齢期になっても社会の第一線で活躍し続けてもらうためには、本人の高い意識とともに、企業としても、その方々のモチベーションを高めていく施策が重要です。ただ、高齢化しているのは従業員だけではなく、お客さまも高齢化しています。高齢期の人たちが抱えているさまざまな問題は、20代にはなかなか理解できませんので、高齢者の気持ちがわかる高齢社員は貴重な戦力になるのです。  本日はこうしたことをふまえて、高齢者を「くれない族」にしない、ならないために必要なことを考えていきたいと思います。高齢期になって、「会社は自分にふさわしい仕事を用意してくれない」、「職場の仲間は自分のたいへんさをわかってくれない」、このように自分の状態がよくないことをほかの人のせいにしてしまう。そういう人を、「くれない族」と私は表現しています。そうならないための秘訣をお話しします。 20代からの積重ねが高齢になってからの活躍につながる  2021(令和3)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業確保措置が事業主の努力義務として新設されました。法律が改正されるのは社会が変わってきているからで、企業もその変化に対応していくことが求められます。  また、高齢者が増えていく状況をどのように解決していくのか。うまくいく方法を私たちが生み出していくと、ほかの国の手本になることができます。そういう意味でも、非常にチャレンジングなテーマであると思います。  「高齢者雇用のあり方を考える」というと、とかく50代後半から60代が話題になりますが、実は20代のときの働き方とも関連があります。というのも、第一線で活躍されている多くの60代の方にインタビューをすると、ほとんどの方が50代でよい仕事をされています。50代でよい仕事をされた方々は、40代のときに輝いていました。30代、20代もそうです。要するに、20歳前後で働き始めてからの集大成が60代なのです。  つまり、高齢者雇用は、企業で働く若者から中堅、そして高齢層のすべてを含めた働き方を考えることにつながっていくものだと受けとめていただければと思います。 日本の高齢化の現状を七つの特徴からみる  日本の高齢化には七つの特徴があります。  一つめは「高い労働力率」。他国に比べて60代以降も働いている人の割合が高く、特に、男性は60代後半でも約半数が働いています。  二つめは、「高齢化のスピードが速い」こと。65歳以上人口の割合が7%から14%になるのに要した「倍化年数」をみると、フランスは126年かけてゆっくり高齢化していきました。ヨーロッパのなかで比較的速いドイツでも40年です。一方、日本はわずか24年(1970年→1994年)でした。しかし、日本より速い国があります。シンガポールは17年、韓国は18年、それから中国はまだ14%に達していませんので正確な年数ではありませんが23年ないし24年くらいだろうといわれています。  国際連合が65歳以上を高齢者と定義したのは、1956年のことです。当時の65歳は、おそらく老人といっても違和感がなかったのでしょう。しかし、この65年間に医療が発達するなどして、個人差はありますが、現在の65歳に老人というとムッとされる方が多いのではないかと思います。ですから基準を変えて、70歳以上、もしくは75歳以上を高齢者と定義すると、いろいろ違った状況が見えてくるかもしれません。  三つめの特徴は、「社会を支える側の人はあまり減っていない」ということ。私たちの社会は、働いて社会を支えている人と、その人たちによって支えられている人に分けられます。支える側にいる人の割合が変わらなければ、社会の活力は維持できるはずです。  65歳以上の人を何人の現役世代で支えているかというと、1950年には12人で1人を支えていました。2020年は、2人で1人。将来的には1.3人で1人という、たいへんな社会が来ると予測されています※1。  しかし、総人口に占める就業者の割合は、50%前後で推移しており、むしろ最近は徐々に上がってきています。社会を支える側にいる人が半分を超えているのです。この割合をいかに維持していくのかがたいへん重要であると思います。  また、興味深いデータがあります。65歳以上の有業率と後期高齢者医療費の関係をみてみると、65歳を超えて働いている人が多い都道府県では、県民1人あたりの後期高齢者の医療費が少ないのです※2。つまり、働き続けることで健康を維持することができ、医療費の増大をある程度抑える効果があるということです。  四つめの特徴は、「高い労働意欲」です。2014年の内閣府の調査によると、60歳以上で働き続けている人に「何歳まで収入のある仕事をしたいか」と聞くと、70歳かそれ以上と答えた人が約8割となっています。  五つめの特徴は、「仕事のための能力開発に対して、50代を超えると消極的になる」ということです。50代前半・後半で、職業訓練や自己啓発をした人は、男女ともに50%以下で、このままではまずいと思います。60歳、65歳、そして70歳を超えて働き続けるためには、企業が「雇いたい」と思うような能力を持っていなければなりません。しかし、50代になると、企業も本人も教育訓練に費用を出そうとしなくなるのです。そのため継続的な能力開発が、喫緊の課題であると考えています。  六つめの特徴は、「労働力人口の減少」です。2017年の実績から、さまざまな策を講じたとしても、2040年には506万人が減少する見込みです。一方で、AIが人の労働を代替するという話がありますが、どれくらいのスピードで、どれくらいの量を代替してくれるのか、現状ではまだ不透明です。しかし、労働力人口の減少は確実に起こることです。  最後の七つめの特徴は、「高齢者雇用は若者の雇用を奪うのではないかという議論があること」です。  これまでの研究成果では、両方の可能性が指摘されています。例えば、単純な要員管理をしている職場で、20人が働く生産ラインがあり、1人が定年を迎えたとします。この人が継続雇用でその後も働き続けると、ポストが空かないので若者は入れません。しかし、技術や能力を重視しているような職場であれば、過去の商品を使用している取引先を高齢者がサポートし、若者は最新の技術を組み込んだ商品に対応することで、両者は競合せず補完関係にあるといえます。日本の将来を考えると、補完し合う場面を多くしていく必要があるように思います。  少子化によって労働力人口が減少していくなかで日本の経済力を維持するには、高齢者にできるだけ長く働いてもらう必要があります。そこで重要になるのが、継続的な能力開発です。20歳前後で職業人生を開始し、10年ほどで得意分野を確立して、65歳から70歳ごろまで働き続けるとすると、50歳時点で一度、能力の棚卸しをするのがよいと思います。50歳ごろになると、小さな字が見えにくくなってきて、「自分も年かな」と自覚します。そんなときに棚卸しを行い、60歳以降の生き方を考えてもらうのです(図表1)。 ポイントは継続的な能力開発「くれない族」防止10箇条とは  最後に、「くれない族」防止10箇条をお伝えします。10の項目を、人事部、社員本人、両者が共通して取り組む活動の三つに分けています(図表2)。  この10項目を実施すると、「くれない族」にしない、させない、ならない、が実現できると思います。  参考として、2015年制作のアメリカ映画『マイ・インターン』を紹介したいと思います。悠々自適の生活をしているものの、虚しさを感じている70歳の男性が、シニア・インターン制度によって新人として働き始めるというストーリーです。  先ほどの10箇条のうち、社員が取り組む六つの活動を意識しながら観てください。すでにご覧になった方もこの六つの活動を意識してもう一度ご覧になると、高齢期にどのような働き方をして、どのような行動を取ることがよいのか、多くのヒントが得られると思います。 ※1 内閣府「平成28年高齢社会白書」より ※2 厚生労働省「平成29年度後期高齢者医療事業状況報告」より 図表1 職業人生45年を乗り切る能力開発 継続的なキャリア開発(売れる能力を維持すること)が大切 20歳頃 職業人生のスタート 30歳頃 得意分野の確立 昇進・昇格 管理的職務 キャリアチェンジ 50歳 能力の棚卸し 60歳 現在の定年年齢 65〜70歳 賃労働からの引退 〈必要な支援〉 1 企業による教育訓練の継続 企業は、50歳を過ぎた従業員への訓練に消極的になる。それでは65歳まで第一線で活躍することは難しい。企業の訓練意欲を高める方策が必要。 2 従業員本人のキャリア開発意欲の維持 キャリア開発とは「売れる能力を維持すること」。 従業員が「売れる能力」を予測しながら、自らの能力開発に励むインセンティブを用意する必要がある。 ※シンポジウム資料より作成 図表2 「くれない族」防止10箇条 A 人事部が取り組む活動 ・議論の場をつくる ・50歳到達時の振り返り研修 ・能力のアップデートを促す仕組み B 社員が取り組む活動 ・新しいことに挑戦し続ける ・頼まれたことは何でも引き受ける ・自ら仕事をみつけて動く ・昔の話は聞かれないかぎりしない ・自分のスタイルを大切にする ・身ぎれいにしている C 両者共通の取組み課題 ・決めつけず、個々人に注目する ※筆者作成 【P30-34】 トークセッション「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」トークセッションから 高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜 企業プロフィール 株式会社 ササキ 〈山梨県韮崎市〉 ◎創業 1995(平成7)年 ◎業種 電気機械器具製造業(ワイヤーハーネス製造・加工) ◎従業員数 222人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は65歳。希望者全員70歳まで嘱託従業員として継続雇用。その後は、運用により一定条件のもと年齢上限なく雇用。熟練したベテラン従業員を「範師」の役職に位置づけるほか、「ものづくりマイスター」として登録し、社内で活躍する仕組みを明確にしている。 株式会社 アールビーサポート 〈三重県津市〉 ◎創業 1999(平成11)年 ◎業種 社会保険・社会福祉・介護事業(介護サービス) ◎従業員数 144人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は66歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後、一定の条件のもと年齢上限なく継続雇用。「全方位評価方式」による人事考課を実施し、給与に反映する。60歳以上のスタッフも対象となり、昇給もする。 イオン九州 株式会社 〈福岡県福岡市〉 ◎創業 1972(昭和47)年 ◎業種 卸売・小売業(各種商品小売業) ◎従業員数 2万8,600人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は65歳。一定条件のもと、70歳まで再雇用。特定職種にかぎり、雇用延長あり。定年以降、希望するエリアで働くことができるほか、短縮勤務の選択も可能になるなど生活を優先した働き方が可能。年齢や雇用区分に関係なく対象となる。新人からベテランまで教育制度がある。 ※3社のさらに詳しい取組み内容は、本誌2021年10月号「特集」をご覧ください エルダー2021年10月号 検索 コーディネーター 藤村博之氏 法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 パネリスト 佐々木啓二氏 株式会社ササキ 代表取締役 服部量治氏 株式会社アールビーサポート 管理者兼事業部長 工藤洋子氏 イオン九州株式会社 経営監査室長(前人事教育部長) 定年延長や70歳までの継続雇用制度導入時の工夫、その後の効果について 藤村 はじめに、定年延長や70歳までの継続雇用制度を導入するにあたって工夫した点と、その取組みにより得た効果について、お聞きしたいと思います。定年制度にはその裏側に雇用保障があり、例えば、60歳定年であれば、企業は少なくとも60歳までは雇用を守るということになります。ですから、定年の延長について、多くの企業は慎重になるわけです。しかし、みなさんの会社では、65歳定年、あるいはそれ以上の設定をされています。まずこの点について、「株式会社ササキ」の佐々木さんからお願いします。 佐々木 弊社では、2005(平成17)年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、定年後は希望者全員を70歳まで嘱託従業員として継続雇用する制度を導入しました。以降は運用ですが、一定条件のもと年齢上限なく継続雇用をしています。  弊社はものづくりの企業ですので、そのための技能、技術と姿勢を熟練者から若い世代に伝承していくことと、高齢になってもモチベーションを高くもっていてもらいたいこと、そして、あなたの力が必要だということを「見える化」しようと考え、取り組んだことが、定年延長でした。  また、マネジメントの側面から、他社でつちかわれた能力や豊かな経験をもつ高齢人材が、弊社に転職できる仕組みがあることも大事だと考えました。そのことが、若い世代の育成にも役立つとの思いもありました。55歳以上の採用は、過去3年間で10人となっています。 藤村 ありがとうございます。年齢ではなく、能力に注目して制度改善を行われたように見受けられました。続きまして、「株式会社アールビーサポート」の服部さん、お願いします。 服部 弊社は定年が66歳で、希望者全員70歳まで継続雇用し、その後は会社が必要と認めた場合、年齢上限なく継続して雇用しています。制度導入のきっかけは、やはりマンパワーの確保です。高齢であってもそれまでと変わらない仕事ができる人もいますので、能力があるのに一律に定められた年齢をもって、雇用が止められるという制度に対し、撤廃するべきだという考えも持っていました。  雇用年齢の上限をなくした制度を導入して大きく変わったことは、短時間勤務への変更のように、細く長く働き続けられる選択があることで、結果的にマンパワーを損なうことなく、サービス提供が維持できるようになった、ということです。ただ、業務に支障がないかぎり、継続雇用年齢の上限なしとうたってはいるのですが、この点にむずかしさがありますので、雇用契約を結ぶ際、客観的評価に基づく継続更新のための明確な判断基準を設けています。 藤村 ありがとうございます。「株式会社アールビーサポート」では、働きぶりを評価する人事評価制度を導入されており、評価結果を昇給や賞与に反映されていますよね。よい仕組みを整えられていると思います。では、「イオン九州株式会社」の工藤さん、お願いします。 工藤 弊社では合併をくり返してきた経緯から、年功序列的な制度は極めて少なく、定年については、2008年に60歳から65歳に引き上げました。これにともない、処遇制度は65歳まで昇給する仕組みとしています。2018年度には、定年後、一定条件のもと70歳まで雇用する嘱託社員制度を導入しました。ただ、65歳になった従業員からは、「少しゆっくりしたい」との声が多く聞かれたこともあり、この嘱託社員制度では、短時間勤務を選ぶことができるなど、自分の体力やライフスタイルにあわせて、柔軟に働ける制度となっています。現在8割の従業員がこの制度を選んでおり、「まだ働きたいけれど、いままでみたいにはがんばれない」という従業員が働ける制度になったと思います。また、勤務を続けてほしいという会社の思いと、ゆっくり働きたいという従業員の働くモチベーションが、うまく合致したのではないかと考えています。 藤村 ありがとうございます。従業員のニーズに沿った制度を会社が整え、それに従業員が働きで応える。そういう関係が重要だと思います。 意欲的に働き続けてもらうために期待、評価、能力開発を制度化する 藤村 続いて、65歳以降も意欲をもって、第一線で働き続けてもらうための工夫、期待する役割、モチベーション維持・向上に向けた取組みについて、佐々木さんからお願いします。 佐々木 年齢を重ねても、いままでと同じ、もしくは違う働き方であったとしても、そこで働ける場が用意されていることを、「見える化」することが、大事なのかなと思います。具体的には、就業規則を変える、運用のルールを明文化して社内で展開する、といったことです。従業員に対して「力を貸してほしい」という思いを、わかるように伝える。そういう文化や社内の雰囲気をつくっていくということも大事にしています。  それから、だれもが同じものがつくれる環境を整えることが企業にとって大事だといわれますが、経験や勘、コツといったところが加わることによって、さらに強くなれることを私たちは理解しています。したがって、そういった熟練の技能・技術をいかに若手に伝承してもらうか。その仕組みをつくることがポイントになると思います。  また、長く安全に働いてもらう工夫の一つとして、マッスルスーツの導入、エイジフレンドリーの取組みなども取り入れています。こうしたことは、他社の好事例に学び、よいと思うことは積極的に実践しています。 藤村 ありがとうございます。佐々木さんのところでは、若い従業員が先輩たちの姿を見て目標にするなど、先輩の存在が大きいと思うのですが、いかがでしょうか。 佐々木 おっしゃる通り、非常に重要な存在だと思います。資格取得やキャリアを積む仕組みがモチベーションの向上につながるとともに、専門的知識や技能を活かしていくキャリア制度があることによって、「あの先輩のもつ技術まで到達したい」といった目標が生まれ、それによって会社に貢献していきたいと思うようになるのだと思います。 藤村 ありがとうございます。続いて服部さん、お願いします。 服部 弊社では、高齢であってもしっかりと給料がもらえる制度としています。全員一律ではなく、客観的評価にともなって、支給額がロジカルに変動するという性質をもたせて行っているものです。弊社の取組みの大きな特徴かと思います。  これにより、年齢にかかわらず、努力やがんばりによって、その評価・報酬を高めることができ、モチベーションアップにつながったり、健康を維持していこうという気持の向上につながったりしていると思います。  また、長く働き続けてもらうために、アシストスーツ、自動掃除機、ボックスシーツなど、昔はなかったようなアイテムを積極的に取り入れることで、低下する高齢者の体力をサポートしています。健康管理面に関する福利厚生として、病院を受診したときの医療費補助制度があり、スタッフからたいへん好評を得ています。 藤村 ありがとうございます。がんばったらきちんと見返りがあるというのは、やはり大事なことですね。続きまして工藤さん、モチベーションの維持・向上に向けた取組みをお聞かせください。 工藤 弊社では、「教育は最大の福祉」という考え方のもと、新人からベテランまで、すべての従業員が知識・技術を学べる仕組みを設けています。第一線で働き続けてもらうための工夫ともいえるかもしれません。例えば、弊社では66歳の方が新人として入社することもあるのですが、教育・訓練の機会を常につくり、きちんと訓練をするとしっかりした技術が身につきます。これにより、年齢にかかわりなく活躍できる環境ができていると思います。  また、弊社においても長く働いている従業員がお手本になっており、その姿を次の世代が見て、「自分たちも健康に気をつけてがんばろう」、「勉強して技術を上げよう」というモチベーションにつながっている、そのような効果が出てきていると考えています。 藤村 ありがとうございます。 70歳までの就業機会の確保に向けて大事な視点や考え方とは? 藤村 今回の法改正により、70歳までの就業機会の確保が事業主の努力義務とされました。みなさんの会社は、すでに実行されていますが、これから取り組もうと考えている企業に対して、アドバイスをいただきたく思います。佐々木さんからお願いします。 佐々木 視点は二つあると思います。一つめは、経営にたずさわる人たちの考え方です。弊社ではいま、多様性への取組みを強化していますが、特に、高齢者が働きやすい職場環境をつくることは、経営者の役目であると考えています。経営者がまず、こうした認識をもつことが大切ではないかと思います。  二つめは、高齢の方が働いているのがあたり前、という社風や雰囲気をつくっていくこと。これは経営者だけではできませんので、社内の仲間を巻き込みながら、どういう仕組みをつくっていけばよいのかを考え、進めていくことだと思います。 藤村 ありがとうございます。では服部さん、お願いします。 服部 40年後には、労働力人口が40%減少するといわれている通り、働き手は確実に減少します。長く勤続してくれるスタッフは、たいへん貴重な存在になります。  実際、定年年齢や継続雇用年齢を引き上げて数年が経ちますが、それによって事業運営に支障をきたしたことはありません。むしろ、高齢従業員のモチベーションアップにつながったこと、これから高齢となるスタッフたちにとって長期勤続できるという安心感といったものが出てきたように感じられ、退職者が減って人員確保につながっています。取り組んだほうがよい、というよりは、取り組まない手はないと思います。  高齢従業員の立場からみても、この先、年金受給年齢の引上げ、介護保険料や医療費自己負担額の増額など、働かなければならない状況に世の中が向かいつつありますので、長く勤められる制度はやはりつくっておいたほうがよいと考えています。 藤村 ありがとうございます。高齢者の活躍推進については、中小企業での取組みが目立つなか、「イオン九州株式会社」は規模の大きな会社ですが、70歳、あるいはその先も働ける制度を整備しています。工藤さん、これから仕組みをつくろうと考えている企業にアドバイスをお願いします。 工藤 だれもが突然老いるわけでも、65歳になった瞬間に能力がダウンするわけでもなく、老化はだんだん進むものです。先行して取り組んだ企業として、今後この取組みを進めていく企業さまにお願いしたいのは、働くことを希望する高齢者の選択肢の幅を増やすこと。それから、いろいろな働き方ができるということを周知することです。とはいえ、長くだらだらと働けるということではなく、いくつになっても、いつでも勉強ができる環境を整えることが、制度導入と並んで必要なことかと思います。  弊社の環境を例にあげると、レジもどんどん進化し、私などもそのたびにつらいのですが、何回も学び、新しい機種についていける環境をつくっています。いくつになっても勉強するということが、会社の風土として必要なのかなと思います。  また、小売業において、高齢の方たちにがんばっていただくための何かヒントがあるとすれば、小売業というのはある意味人生の縮図ですので、18歳で入社したら、18歳の人たちが必要なもの、結婚したらそのときに必要なもの、子どもが生まれたら子育てに必要なもの、と社員自身の人生が、そのままお客さまのライフスタイルと合致しています。ですから、高齢の従業員が多数いることは、市場が高齢化していくなかで、企業にとって大きなプラスになると思っています。「高齢だからできることがかぎられるのではないか」という発想ではなく、高齢化が進む日本市場をとらえる戦力になる、そうとらえることが重要ではないかと思います。 藤村 ありがとうございます。みなさんのお話を聞いて、年齢は一つの指標であって、すべてではないということ、企業が必要とする能力をもっていて、本人がなお新しいことを学ぼうとする意欲があり、働き続けたいと前向きに取り組んでいるのなら、何歳まででも働いてもらってかまわない、そういう姿勢や社風で取り組んでこられたのだなと感じました。  工藤さんがお話しされたように、いきなり老いるわけではないですし、いま20代の人もいずれ60代になる。そうなったとき、先輩たちのように第一線で働き続けていくためには、自覚が必要であると同時に、企業の側もいろいろな機会を用意して、学び続けてもらう環境をつくることが必要なのだと思います。  高齢期になっても、第一線で働き続けていくために、もっとも必要とされる能力というのは、変化に対応する力だと思います。技術が進歩する、使う道具が変わる、まさに変化です。その変化に、いかにうまく対応していくか。それは、学び続けること。自分自身がどういう役割を企業のなかで果たしていくことができるのか、常に問いながら、自分から積極的に取り組んでいく。そういったことが、70歳現役・生涯現役を目ざすうえで必要なのだろうと思います。 写真のキャプション 株式会社ササキ・佐々木啓二代表取締役(左)、株式会社アールビーサポート・服部量治管理者兼事業部長(右上)、イオン九州株式会社・工藤洋子経営監査室長(右下) コーディネーターを務めた藤村博之教授 【P35】 日本史にみる長寿食 FOOD 339 「七草(ななくさ)がゆ」でインフルエンザを防ぐ 食文化史研究家●永山久夫 「唐土(とうど)の鳥」が疫病を運んでくる  インフルエンザなどの厄介者を追い払ったり、予防することを昔は「厄払い」、「厄除け」といって、普段から用心していました。  厄除けは、病気から身をガードして寿命を延ばすための日本人の古くからの知恵で、年中行事のなかにも組み込まれています。  そのよい例が、お正月の「七草がゆ」です。1月7日の朝の行事で、春の七草をまな板の上で叩きながら、「唐土の鳥が、日本の土地に、渡らぬ先に、ストトン、トントン」などと唱えます。  「唐土の鳥」というのは、中国大陸方面からの渡り鳥のことで、この季節になると、悪性の風邪が流行することが多かったために、人びとは渡り鳥がインフルエンザなどの疫病を運んでくると恐れ、用心していました。  今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、海外でコウモリに寄生していたウイルスから始まったとも伝えられていますが、昔の日本人は直感的に海外から運ばれてくると用心し、その予防を行事化していたのです。  すばらしい知恵ではありませんか。  「唐土の鳥」が飛来してくる前に、熱々のおかゆを食べて体温を上げて抵抗力を高め、七草の若葉に多いビタミンC やカロテンを摂り、免疫力をパワーアップして、感染に備えていたのです。 「七草」の機能性成分  若草に豊富なカロテンは、一部が体内でビタミンAになり、喉などの粘膜を整え、体内へのウイルスや細菌などの侵入を防いでくれます。  七草がゆは、「ファイトケミカルおかゆ」と呼んでもよいでしょう。ファイトケミカルというのは、植物が持つ機能性成分のことで、野菜や果物などが有害なものから自分を守るためにつくり出す薬効成分で、色や香り、辛味、苦味といった化学物質のことです。  その成分は野菜などの種類によっても違いがありますが、「セリ、ナズナ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)」の七草にはいずれもビタミンや薬効成分が豊富に含まれています。 【P36-37】 江戸から東京へ [第110回] 許される失敗と許されぬ失敗 細井平洲 作家 童門冬二 古木の枝を折って杖に  細井平洲(へいしゅう)は身体が弱く、若いときから病気がちだった。しかし高齢になっても、出羽(山形県)米沢藩主上杉治憲(はるのり)(号鷹山(ようざん))・尾張(愛知県)藩主徳川宗睦(むねちか)・紀州(和歌山県)藩主徳川治貞(はるさだ)らの、学問と藩政改革の指導を続けていた。いまでいう生涯現役≠フ学者だった。平洲自身も、  「仕事が何よりの薬だ」  と云っていた。江戸に住んでいたので旅も多い。なじみの宿もできた。尾張へ行くときは湯治を兼ねて箱根の温泉宿の世話になった。平洲と懇意だった当主は隠居し、樹木の世話に没頭したので息子があとを継いでいた。平洲が泊まると親父同様にサービスした。  このときは冬の最中(さなか)で箱根には雪が降り、山々は冠雪した。翌朝、高齢の癖で早朝に起きた平洲は散歩に出た。あたり一面、白い雪景色でそれほど深い積雪ではないが、歩行は気をつけないと転倒する。平洲は、  (杖がほしいな)  と思った。庭に出て物色した。隅にカシの古木があった。程よい枝が一本幹から伸びている。  (あの枝がよい杖になる)  そう思った平洲は、その木に近寄って手をのばし、目標の枝をピシリと折った。途端母屋の方でアッという悲鳴をきいた(ような気がした)。平洲はふりかえった。だれもいない。  (気のせいか)  平洲は折った枝をビュッビュッとふってみた。長さもちょうどよい。  (よい杖になる)  その通りだった。枝はよい杖になった。平洲は、その杖を使いながら山道の散歩を十分に堪能した。 古木には因縁があった  宿に戻ると従業員たちが、お帰りなさいと迎えたが、雰囲気がおかしい。みなの表情が固い。  「何かあったのか?」  と訊(き)いた。みな顔を見合わせた。が、返事はしない。嫌な予感がして平洲は番頭の前に立った。  「番頭さん、何があった?」  番頭は云い澱(よど)んだ。しかしみんなに目でうながされて、しかたなく口を開いた。手で、  「その杖です」  と平洲が持っている杖を示した。  「この杖がどうした? 朝、私が庭の隅で折った。古木だから構わなかろうと」  「それがそうじゃないンです」  番頭は首をふった。そして心を決して説明を始めた。 ・庭のカシの古木は亡くなった先代が苗木を植えたときから大事にしていて、死ぬまで手入れをしていたこと ・その気持ちは現在(いま)の主人にも引き継がれ、従業員全員に、気を遣うように云われていたこと  「それを私が無神経に折ってしまった、ということか?」  事情がわかって平洲は話を先回りした。番頭はうなずき、いまの主人がショックの余り寝込んでしまった、と告げた。平洲は驚いた。しかしすぐ世の中にはそういうこともあるのだ、と理解した。平洲は云った。  「知らないとはいえ、それは悪いことをした。ご主人に謝ってこよう」  番頭の、そこまでなさらなくとも、私が余計なことを云った、と叱られます、という訴えもふり切って平洲は主人の部屋に行った。  病気ではないから主人も掛布団をたたんで背を凭(もた)せていた。平洲が入ってきたのでビックリした。  「先生!」  と目を剥(む)いた。平洲は主人に心から謝罪した。平洲は誠実だったので謝罪は心からのものだった。主人も間の悪そうな応接をしながらも、まだ枝を折られたショックから抜けきれていなかった。  平洲は主人の落胆を重く受けとめた。 平洲の誠実さ  「『論語』のなかで、孔子は『過ってこれを改むるに、憚(はばか)ることなかれ』と告げている」  名古屋に着いて尾張藩の藩校明倫堂(めいりんどう)(平洲が命名した)の講堂に集まった多数の藩士と町人(藩は市民や農民にも平洲の講話をオープンにしていた)を前にして、平洲は語り始めた。  「この言葉は、過ちを改めることよりも、過ちに気づくことを孔子は重くみている。それと同時に、私は孔子ははっきり云わないが、いくら気づき、また改めようと、それによって許される過ちと、絶対に許されない過ちとがあるように思える」  聴衆の間に戸惑いの小波(さざなみ)が起った。かまわずに平洲は続けた。  「実は名古屋に来る途中、私は箱根の馴染みの宿に泊まって、こういう過ちをおかしてしまった」  と、箱根の宿の庭でカシの古木の枝を折り、杖にして宿の主人はじめ使用人をひどく悲しませたことを告白した。そして、  「私のこの過ちは、どんなに私が悔い、二度とおかさないと改めても、絶対に許されるものではありません。私は死ぬまで悔い続けるのです」  と云いきった。本心だった。 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第115回 岐阜県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 定年後は希望する勤務形態で「適性と強み」を活かして働く 企業プロフィール 社会福祉法人新生会(岐阜県揖斐(いび)郡) ▲創業 1976(昭和51)年 ▲業種  社会福祉・介護事業・医療福祉専門学校 ▲職員数 620人(うち正規職員数319人) (60歳以上男女内訳) 男性(42人)、女性(98人) (年齢内訳) 60〜64歳 41人(6.6%) 65〜69歳 44人(7.1%) 70歳以上 55人(8.9%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。65歳まで希望者全員を再雇用。66歳以降は法人が認めた場合上限なく再雇用。最高年齢者は82歳。  岐阜県では、一年を通じて地域の自然条件に応じたさまざまな農産物の生産が行われています。岐阜県南西部の平地では、暖かい気候を活かして稲作が盛んに行われています。山間地から高冷地にかけては、夏の涼しい気候を活かした夏秋トマト、ほうれんそう、夏大根などの野菜の栽培が盛んです。そして、山地を利用して、肉用牛、乳用牛の飼育も行われています。水産業では、鮎漁を中心とした河川での漁業や、ニジマス、アマゴなどの養殖漁業が中心になっています。  また、古くからものづくりが盛んで、製造業は岐阜県の中心的な産業となっています。全産業のうち製造業の就業者数が占める割合は25.0%で、全国順位は6位(全国割合16.0%)と高くなっています。ファッション、陶磁器、家具・木工、刃物、紙、プラスチック、食品などの特色ある地場産業があります。  当機構の岐阜支部高齢・障害者業務課の渡辺秀雄課長は支部の取組みについて、「定年延長・継続雇用などの問題を中心に、改正高年齢者雇用安定法への対応、人事評価、賃金設定、また新しい働き方の構築など、幅広く相談を受けています。特に直近では、法改正にともない、自社の『就業規則』が適合しているかどうかについての確認、およびアドバイスがほしいなどの要望を多く受けています。当県の特徴としてはベテランのプランナーが多く、一番長い方では約30年にわたって活躍しており、高齢者雇用・人事労務管理分野はもちろん、当機構の事業や岐阜県下の状況を知悉(ちしつ)された専門家による支援を展開しています」と語ります。  当課に所属するプランナーの一人、浅野りよ子さんは、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、認定ハラスメント防止コンサルタントの資格を活かし、企業に寄り添ったアドバイスと、きめ細やかな対応に定評があります。  今回は、浅野プランナーが「高齢者雇用への意識が高く、さまざまな取組みに目を見張る高齢者雇用の優秀企業」と絶賛する、「社会福祉法人新生会」を訪れました。 設立46年、高齢者福祉施設の草分け  社会福祉法人新生会は、1976(昭和51)年に設立され、同年、特別養護老人ホーム「サンビレッジ新生苑」を創立して以来、高齢者福祉施設の草分けとして施設運営と介護人材の養成をになってきました。現在、特別養護老人ホームは全国に1万施設以上ありますが、新生会の設立当時は全国に500施設あまりしかなく、同法人が県下の高齢者福祉事業を牽引してきた存在であることがわかります。一貫して社会福祉事業の本質を考え続け、職員一人ひとりとの理念の共有や、チームでの仕事の仕方を追求してきました。現在は、「サンビレッジ新生苑」をはじめ、各事業所と本部を置く「総合ケアセンターサンビレッジ」など、県下に7拠点を運営し、質の高い介護サービスを提供しています。  2017(平成29)年に岐阜県の介護人材育成事業者認定制度の最上位である「グレードT」を獲得。2020(令和2)年には、仕事と家庭の両立支援に取り組む企業として「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に認定されました。 多様な仕事を提供し、職域変更で生涯現役も可能に  同法人の定年年齢は60歳となっており、65歳まで希望者全員を再雇用しています。太田澄子名誉常務理事は「介護の仕事は体力が必要なこともありますし、60歳を一つの節目と考えて仕事をしている方もいるので、定年を60歳に決めました。定年後は常勤か非常勤か選べ、希望する勤務時間やシフト、日数で働くことができ、給与体系は以前と変わりません。ほぼ全員が再雇用で仕事を続けています」と説明します。  さらに太田名誉常務理事は、「『牛乳を飲む人より、牛乳を配達する人の方が健康になる』というように、働くと健康でいることができます。例えば介護の仕事が続けられなくなっても、庭の整備、掃除、食事の準備、洗濯など施設全体にさまざまな仕事があるので、ほかの分野の仕事に変えて働き続けることができます。縫製が得意な介護職員がランドリー部門に移り、79歳のいまも元気に働いています。草取りをになっている82歳のスタッフは、長く介護士をしていましたが退く際に『草取りならできる』と働く意欲があったことから、週1日勤務にして働き続けています。ここには1日1時間から仕事があります。みなさん、仕事の辞めどきがわからないといっています」と笑顔で 語ってくれました。  浅野プランナーは新生会の高齢者雇用の取組みについて、「年齢に関係なく公平に研修や会議を行い、高齢職員のモチベーションを向上させたり、アンケートや食事会などで高齢職員の要望や不満も把握されているなど、コミュニケーションを大切にしている点がすばらしいと思います。法人と高齢者を含む職員の関係が非常にうまくいっているので現状の問題はないようですが、職員それぞれに考え方があるでしょうから、例えば同一労働同一賃金に基づく均衡の説明や、制度の根拠資料を整備していただくと万全かとお話ししました。実際に70代や80代の方も活躍されているので、より安心して活躍してもらうために制度の見直しをおすすめしました」  今回は、アドバイザーと管理職として活躍する高齢職員2人と、同じチームで働く中堅職員2人にお話を聞きました。 中堅世代の相談相手として信頼される存在  久野(くの)美智江さん(72歳)は、勤続年数37年を数え、施設長など管理職を歴任した人望の厚い人物です。定年後も常勤職員として働いてきましたが、4年前から勤務日数を減らし、週3日、サンビレッジ新生苑でライフサポートアドバイザーとして働いています。「若い世代の仲間と働けることがやりがい」と語る久野さんは、社会福祉士と正看護師の資格を在職中に取得したといいます。「資格をもつことで、より地域の役に立てると思い、職場のサポートを受けながら勉強させてもらいました。職員のやる気を応援してくれる施設です」と感謝を口にします。介護の仕事について聞くと「医療の現場では治療をするのがあたり前ですが、ご利用者の生活の質を考えたときに医療的な治療がすべて本人のためになるとはかぎりません。あくまでご利用者の人生に寄り添い、本人の意思を確認できずとも、ご家族や多職種で方向性を導き出すことを大切にしています。介護の現場では、人生の終末期を迎えようとされる方がほとんどです。それぞれのご利用者に関して、関係するスタッフとともによい結果となったときは喜びと達成感があります」  看護師として同じ施設で働く高橋尚美さん(43歳)は、「この施設には臨終を迎える利用者が多い一方で、そうした経験が少ない病院勤務出身の看護師が多く、久野さんが人の人生や生活に寄り添うようにサポートする姿に感銘を受けました。利用者の最期の経過で『こういう場合はどうしたらよいのだろう』と迷う状況に対応し、経験しないとわからないことを教えてくれる頼りになる存在です」と話してくれました。また、利用者の家族と何を話してよいかわからず困っている若い看護士への、久野さんのアドバイスにも助けられているとのこと。  久野さんは、ボランティアで30年以上ガールスカウトの活動を続けています。そうした活動もあってコミュニケーション力に長け、よく冗談をいって場を和ませてくれるムードメーカーでもあるそうです。 管理職でも時短勤務で働き、業績に貢献  廣瀬(ひろせ)京子さん(65歳)は勤続24年目で、「サンビレッジ宮路(みやじ)」の施設長として運営管理を行っています。営業職から同施設に転職して介護職につきました。「介護は人の長い人生の最後の年月にかかわれることが醍醐味」と語り、最期によかったと思ってもらえるように努めてきたと話します。担当している新人の接遇研修については、「介護を受けていただかないと仕事をさせてもらえませんから、まずは受け入れてもらわないといけません。常に笑顔でいることを伝えています」  廣瀬さんは61 歳まで常勤で働いていましたが、孫の面倒や親の介護といった家庭の事情があり、8時30分から16時までの短時間勤務に変更しました。初めは管理職が非常勤、しかも短時間勤務でスタッフより先に帰ることに抵抗を感じていたそうですが、上長から「会社とそのように契約しているのだから、堂々と帰ればいい」と諭されて吹っ切れたそうです。「廣瀬さんが施設長を務める施設は稼働率トップです。非常勤、時短勤務でも、業績向上という期待と役割に結果で応えてくれています」(太田名誉常務理事)  廣瀬さんと同じ施設のチーフとして働く若原紀子(のりこ)さん(43歳)に聞くと、「いつも笑顔で、相談したいことがあればいつでも相談に乗ってくれます。ダメなことははっきり指摘してくれるところもあり、こちらも話しやすいので、利用者の最善がどこにあるかというところでお互い譲らず、意見を闘わせることもあります」と素敵な笑顔で話してくれました。  廣瀬さんに今後の抱負について聞くと、「これまで学ばせてもらったことや、介護の魅力、サンビレッジの考え方を、若い世代に伝えていこうといま取り組んでいて、今後も続けていきたいです。庭いじりが好きなので、いつか庭の剪定の仕事にもたずさわれたらとも思っています」  同法人の事務局をとりまとめている加野(かの)有規枝事務長は、「24時間ご利用者を支えているので、常にスタッフが必要で、短時間勤務でも職員が支え合っていくことが大切です。出産や育児のため短い時間でしか働けない職員がいる一方で、その時間に勤務できる高齢職員がおり、施設全体の業務が回っています。育児で短時間勤務だった職員は子どもが大きくなったころに働ける時間を増やし、仕事ができなくなった高齢職員の代わりをになっていく。このように回っていくイメージです」と話します。新生会では勤務体制のサイクルが世代間で非常にうまく機能していることが伝わってきました。 (取材・西村玲) 浅野りよ子 プランナー(55歳) アドバイザー・プランナー歴:9年 [浅野プランナーから] 「企業の貴重な時間をいただいて訪問しますので、ヒアリングでニーズを探り、できるだけ訪問先企業の役に立ち、喜んでいただけるような情報を提供したいと常に望んでいます。企業のさまざまな事情にあわせてご提案していますが、特に賃金など処遇の見直しやモチベーション維持などは、事業主の方々に興味深く聞いていただいています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆岐阜支部高齢・障害者業務課の渡辺課長は、「浅野プランナーは、2012(平成24)年度から約10 年にわたり当課で活躍しています。やさしい人柄と、きめ細やか、かつていねいな対応から、訪問先の事業主からも好評のプランナーです。また、その広い知見から高齢者事業のみではなく、障害者事業においても毎年講師をになっており、受講者からは『心を揺さぶられました』、『非常に勉強になりました』など好評をいただいています」と話します。 ◆岐阜支部の最寄り駅は岐阜駅で、JR・名鉄と2路線利用可能な好立地に所在しています(JR 岐阜駅、名鉄岐阜駅から徒歩12分)。JR・名鉄岐阜駅より路線バスL・33に乗車、文化センター金神社前下車、徒歩1分。 ◆同支部では、社労士など人事労務管理のエキスパート12 人が、プランナーとして活躍しています。毎年、約600 件程度の県下事業主を訪問しており、個別具体的な相談・提案を行っています。2020年度は相談助言訪問を580件行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●岐阜支部高齢・障害者業務課 住所:岐阜県岐阜市金町5-25 G-frontU 7階 電話:058(265)5823 写真のキャプション 岐阜県揖斐郡 総合ケアセンターサンビレッジ新生苑の中庭 太田澄子名誉常務理事(左)、加野有規枝事務長 チーフの高橋尚美さん(奥)と予定を確認する看護士の久野美智江さん 介護士の若原紀子さん(左)と打ち合わせをする廣瀬京子さん 【P42-45】 新連載 シニアのキャリアを理解する 事業創造大学院大学 教授 浅野 浩美  健康寿命の延伸や、高年齢者雇用安定法の改正による70歳就業の努力義務化などにより、就業期間の長期化が進んでいます。そのなかで、シニアの活躍をうながしていくためにも「キャリア理論」への理解を深めることは欠かせません。本企画ではキャリア理論について学びながら、生涯現役時代におけるシニアのキャリア理論≠ノついて浅野浩美教授に解説していただきます(編集部)。 第1回 シニアの働く現状は? 1 はじめに  2021(令和3)年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。企業は、70歳まで働いてもらえるよう努力をしなければいけないこととなったのです。  実際に何歳まで働くかは個人がそれぞれ決めることですが、「70歳まで働く」となると、55歳定年時代に比べ、引退年齢が15年高くなったことになります。この間、高学歴化などによって、社会に出る時期も少し遅くなっていますが、それを差し引いたとしても、職業人生は、当時からは考えられないくらい長くなりました。  現段階では、70歳までの就業機会の確保については、様子見の企業が多いようです。『労政時報』編集部が同誌の定期購読者向けサイト登録者から抽出した人事労務担当の部課長クラスを対象に、2021年5月末から6月にかけて行った調査によると、70歳までの就業機会の確保については、「制度として導入・実施」が10.7%、「試験的に導入・実施」が4.3%、1〜2年以内に導入実施予定が10.0%であるのに対し、検討中・情報収集中が60.0%となっています。その一方で、人事関連の最重要課題として「シニア社員の処遇」をあげる企業は多く、さらに、人事労務担当の部課長クラスが個人的に興味・関心をもっていることがらとしては、54.3%の者が「70歳までの就業機会の確保」をあげています。これは、このところ注目が集まっている「ジョブ型の人事制度」(56.4%)に次いで多い数字です(『労政時報』4018号(2021年7月23日))。関心は大いにあるけれども、取り組むのはこれから、といった様子が読み取れます。  高齢者雇用に関しては、さらに、2021年1月からは、一定の要件を満たす、複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者を対象とする「雇用保険マルチジョブホルダー制度」※1がスタートしました。また、まだ少し先ですが、65歳までの雇用確保措置の進展などをふまえて、2025年度から、高年齢雇用継続給付を縮小していくこととされています。  こうしたことを企業からみると、「働いてもらえる時間が長くなった」、「より本格的に働いてもらうことが期待できるようになった」、「働いてもらわなければいけない時間が長くなった」などととらえられるわけですが、いずれにしても、ここまで長く働いてもらうこととなったからには、シニアのキャリアについて理解することが必要です。  本連載では、シニアの働く現状を改めて整理したうえで、キャリアについて考える視点を与えてくれるキャリア理論の世界でシニアはどう扱われているかについて紹介します。そのうえで、シニア自身はキャリアをどうとらえているのか、また、どうしているのかについて紹介するとともに、企業はどう考え、何をすべきなのか、考えてみたいと思います。 2 働くシニア  「『70歳就業時代』が到来した」などといわれていますが、実際に、高齢者のうちどのくらいの人が働いているのか、みてみましょう。図表1は、男女別、年齢層別に、人口に占める就業者※2の割合を示したものです。男女とも、このところ、60〜74歳の各年齢層で、就業率が高まってきていることがわかります。  さらに、シニアは、長く働くことを希望しています。働いていない者を含む60歳以上の男女のうち、2割強の者が、働けるうちは「いつまでも働きたい」と回答し、「70歳くらいまで」もしくはそれ以上との回答と合計すれば、約6割が長く働きたいという意欲を持っています(図表2)。 3 ところでシニアとは  ところでシニアとは3と、ここまで、「シニア」という言葉を使ってきましたが、「シニア」というと、みなさんは、何歳くらいの人を思い浮かべるでしょうか。  シニアについて、明確な定義はありません。何歳から「シニア」と呼ぶかは、職場でのシニアなのか、地域でのシニアなのかなど、場面によって異なります。  高齢化の進展とともに、シニアといわれて思い浮かべる年齢は上がっています。また、聞かれた人の年齢が高いほど、シニアといわれて思い浮かべる年齢は高い傾向にあります。企業ではどうか、というと、私が聞いたかぎりでは、55歳が多く、50歳からと答える人もいました。その下のミドルと一緒にして、「ミドル・シニア」といういい方をすることもあります。  ちなみに、高年齢者雇用安定法では、施策などの関係から、高年齢者を「55歳以上」と定義しています。人材紹介会社など人材ビジネスの業界でも、55 歳が一つの区切りとなっていることが多いようです。世の中全体をみると、65歳以降を高齢者として扱うことが多く、それでも若すぎるといった意見もありますが、職場では、それよりもかなり若い段階から、「シニア」扱いすることが多いようです。  しかし、職場で働く人の年齢は上がってきています。国税庁の調査によると、1年を通じて企業で働いている人の平均年齢は徐々に上がり、いまや46.8歳となっています(図表3)。仮にシニアを55歳以上とすると、シニアは働き手の3割以上を占めてしまいます(図表4)。職場では、シニアを意識するようになってからがとても長く、かつ、シニアの仲間はもちろん、シニアのより先輩も非常に多い、ということがわかります。  会社によっては、50歳を超えるあたりから役職定年などもみえてきて、「シニア」扱いすることもあるようですが、そこから、「シニアだから……」ということで、十分に力を発揮してもらえなくなっては、仕事が回らなくなる可能性があります。  シニアは、働く期間だけでなく、体力的にも若くなっています。図表5は、65歳以上の男女の新体力テストのスコアを示したものですが、各年齢層とも、20年前に比べて、5歳以上若返っていることがわかります。 4 キャリア理論でみたシニア  働く人の割合が増え、より長く働くことを希望し、肉体的にも以前に比べて若々しいシニアですが、キャリア理論の世界では、シニアはどのようにとらえられているのでしょうか。  キャリアについては、たくさんの理論がありますが、大きく、個人の側からみるものと、組織の側からみるものに分けられます。個人の側からみるものは、さらに、「何を選択するか」、「どう選択するか」という選択の観点のものと、「どのようにキャリアを発達させていくのか」という発達の観点のものに分けられます。  この発達の観点の理論は、職業選択のプロセスを発達的にとらえるところから始まりました。職業的発達理論を提唱したのは、エコノミストであったエリ・ギンズバーグですが、彼は、「職業選択は、長期の発達的なプロセスであり、そのプロセスは後戻りしないものだ」としました。また、「個人の欲求と現実の折り合いをつけ、それを最適化していくものだ」としました。  そうして、空想期(11歳以下)、試行期(11歳〜17歳)、現実期(17歳〜20代初期)の各段階を経て発達していくものだと考えました。空想の段階から、興味をもち、実際に現実の世界を調べ、選択する、というわけです。  このギンズバーグの職業的発達の考えを発展させ、キャリアについて包括的な理論を打ち立てたのが、ドナルド・E・スーパーです。  とても有名な方ですし、キャリアについて学んだという人事担当者も増えてきているので、ご存じの人も多いと思います。スーパーは、キャリアを、役割と時間軸でとらえました。シニアは、どのようにとらえられているのか、気になるところです。  次回は、そこから話を進めたいと思います。 ※1 雇用保険マルチジョブホルダー制度……複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、所定労働時間等の要件を満たす場合に特例的に雇用保険の被保険者になることができる制度 ※2 就業者には、実際に仕事をした従業者のほか、休業者も含まれる 図表1-1 年齢別就業率(男性) 2020年 60〜64歳 82.6% 65〜69歳 60.0% 70〜74歳 41.3% 図表1-2 年齢別就業率(女性) 2020年 60〜64歳 59.7% 65〜69歳 39.9% 70〜74歳 24.7% ※東日本大震災の影響により2011年の数値は掲載されていません 出典:総務省「労働力調査」 図表2 何歳まで収入をともなう仕事をしたいか 全体(n=1755) 65歳くらいまで 25.6% 70歳くらいまで 21.7% 75歳くらいまで 11.9% 80歳くらいまで 4.8% 働けるうちはいつまでも 20.6% 仕事をしたいとは思わない 13.6% 不明・無回答 1.9% 出典:内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」(60歳以上の男女) 図表3 高齢者雇用を取り巻く状況(30年前から現在まで) 1990年 2000年 2010年 2020年 平均寿命 男子75.9歳 女子81.9歳 男子77.7歳 女子84.6歳 男子79.6歳 女子86.3歳 男子81.6歳 女子87.7歳 通年で働く民間給与所得者の平均年齢 41.4歳 42.9歳 44.7歳 46.8歳 定年年齢 60歳定年 (努力義務) 60歳定年(義務) 継続雇用年齢 ― 65歳までの継続雇用措置(努力義務) 65歳までの雇用確保措置(義務。ただし、選択可) 65歳までの雇用確保措置(義務。希望者全員) 70歳までの就業確保措置(努力義務) 出典:国税庁「民間給与実態調査」、総務省「労働力調査」、厚生労働省「令和2年度簡易生命表」を元に筆者作成 図表4 年齢階層別就業者割合(2020年) 15〜19歳 1.6% 20〜24歳 6.9% 25〜29歳 8.1% 30〜34歳 8.3% 35〜39歳 9.3% 40〜44歳 10.9% 45〜49歳 12.7% 50〜54歳 11.1% 55〜59歳 9.7% 60〜64歳 7.9% 65〜69歳 6.2% 70歳以上 7.4% 出典:総務省「労働力調査」 図表5 65歳以上の新体力テストスコアの推移 出典:文部科学省「平成30年度体力・運動能力調査」 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第44回 直接雇用以外の安全配慮義務、職務等級制度における降格措置 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 業務委託契約となる場合の安全配慮義務の位置づけを教えてほしい  高年齢者雇用安定法の改正への対応として、65歳以降に業務委託契約を締結して業務を継続してもらうことを検討しています。  雇用契約ではなくなるため、安全配慮義務の負担や割増賃金の負担などはなくなると考えてよいのでしょうか。 A  安全配慮義務については、業務委託契約であっても負担することがあり得るので注意が必要です。また、業務委託契約への切り替えにもかかわらず、業務内容の変更等がほとんどない場合には、雇用契約とみなされる可能性もあります。そのため、割増賃金等の雇用関係に基づく制度の適用関係に注意して、業務委託と雇用の区別をふまえた業務遂行方法を検討しておくべきです。 1 高年齢者雇用安定法の改正と就業機会の確保  過去の連載においても紹介しましたが、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が努力義務とされました。  これまでの法制度との相違点として、65歳までは、「雇用」を確保することが求められていたことと比較して、就業機会の確保においては、雇用にこだわらず業務委託契約を締結するといった方法も許容されるようになりました。そのため、今後は、65歳以降には、雇用ではなく業務委託契約を締結するような機会が生じてくることになりますが、そのような場合に、安全配慮義務を負担することがあるのか、ということも問題となります。 2 安全配慮義務に関する判例の流れ  最近は安全配慮義務という言葉自体も浸透し、同義務に違反したときには、損害賠償責任を負担することも一般的に知られています。さらに、労働契約法第5条が、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、労働契約(=雇用契約)が存在しているかぎりは、生命、身体などの安全を確保する義務を負担します。  しかしながら、労働契約法第5条は「労働契約が成立している場合」に安全配慮義務を使用者が負担することを定めているにすぎず、労働契約が存在しない場合にも、安全配慮義務が肯定されるか否かは別途の考慮が必要です。  安全配慮義務に関する最初の判例は、最高裁昭和50年2月25日判決(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)です。自衛隊をはじめとする公務員と国の関係は、労働契約に基づくものではありません。とはいえ、公務員と国の関係は、使用者と労働者に類する部分も多く、自衛隊においては訓練や整備中の事故などの危険もあることから、自衛隊員と国の間で安全配慮義務が肯定されるのかが問題となりました。  同判決においては、「国は、公務員に対し、…(略)…公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という)を負つているものと解すべき」と結論づけ、公務員に対する安全配慮義務を肯定しました。その理由として、安全配慮義務は「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間」において、信義則上負う義務として一般的に認められるべきものという理由があげられています。  ここで示されている通り、安全配慮義務は、雇用契約の関係がある当事者間にかぎらず「特別な社会的接触関係」の有無を基準として判断されることになります。  この基準が判例となったことから、公務員以外の事件である私人間の直接の雇用関係にないような関係性においても、安全配慮義務が肯定される事例があります。例えば、福岡高裁昭和51年7月14日判決(大石塗装・鹿島建設事件、最高裁昭和55年12月18日判決で維持されました)においては、直接の雇用関係にない下請契約の関係者との間での安全配慮義務について、「法形式としては請負人(下請負人)と雇傭契約を締結したにすぎず、注文者(元請負人)とは直接の雇傭契約を締結したものではないとしても、…(略)…、実質上請負人の被用者たる労働者と注文者との間に、使用者、被使用者の関係と同視できるような経済的、社会的関係が認められる場合には注文者は請負人の被用者たる労働者に対しても請負人の雇傭契約上の安全保証義務と同一内容の義務を負担するものと考えるのが相当である」と判断しています。  建設業においては、元請、下請、孫請などの関係がありつつも同一の現場で業務を遂行する関係があることから、労働安全衛生法でも特別な規定が用意されているなど、安全配慮義務が肯定されやすい傾向があります。  例えば、大阪高裁平成20年7月30日判決においては、第一審判決では被害者側が一般的には到底行わないような危険な方法で作業を実施したことをふまえて安全配慮義務自体を否定したところ、控訴審では「請負(下請)契約関係の色彩の強い契約関係であったと評価すべきであって、その契約の類型如何に関わらず両者間には実質的な使用従属関係があったというべきであるから、被控訴人は、控訴人に対し、使用者と同様の安全配慮義務を負っていたと解するのが相当である」と判断し、元請業者が安全配慮義務を負担することを肯定しました。  なお、第一審が考慮した危険な方法による作業の実施については、過失相殺において8割の減額が認められており、まったく考慮されていなかったわけではありませんが、安全配慮義務を負担するか否かとは結びつけられていません。 3 請負契約以外の裁判例における判断について  安全配慮義務を負担するのは労働契約がある場合にかぎられるわけではないという点は、業務委託契約全般にもあてはまるものです。  例えば、自治体がテニスの講習を外部に委託したところ、当該委託先において、複数名の初心者向けに行われたテニスの講習中に、誤って飛んできたボールを右眼に受けた結果、視力が著しく低下したという事故に関して、被害者から、自治体に対して、安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求が行われた事案があります(千葉地裁佐倉支部平成11年2月17日判決。なお、控訴審である東京高裁平成11年6月30日判決において結論は維持されました)。  当該裁判例においては、「被告とテニス連盟ないし原告ら講師との法律関係は、本来、本人からの独立性と裁量性を有する準委任であると解されるが、その場合でも具体的な労務の内容、指揮監督関係、専属関係の有無等を考慮し、被告と原告間に使用従属関係が認められる場合には安全配慮義務違反が問題となる余地がある」という判断基準を示しており、準委任(≒業務委託)関係においても、安全配慮義務を負担する可能性があることを肯定しています。  結論的には、指導方法を委託先に一任し、練習方法や内容に関与しないなど個別具体的な指揮監督などがないことから、関係性が雇用契約類似に至っていなかったとして、安全配慮義務を負担しないと判断しています。  ここでポイントとなっているのは、やはり雇用契約類似の指揮監督関係がなかったことです。業務委託と雇用の関係の区別に関しては、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示と呼ばれています)が参考になります。65歳以降の業務委託契約において、実質的な業務内容に変更がないような事例も想定されますが、また、業務内容に変更がないことは、雇用の継続があると評価されることを避けがたいと思われます。37号告示を参考にしつつ、定年後の高齢者と締結する契約の内容が業務委託にふさわしい内容となるように、留意する必要があるでしょう。 Q2 職務等級制度において賃金の減額(降格措置)はできるのか教えてほしい  社内の賃金制度について、自社では職能資格制度ではなく、職務等級制度に基づいて賃金を決定しています。  このたび、部署の廃止にともない、職務内容の変更をともなう異動が必要となったのですが、職務変更とあわせて賃金を減額することは可能でしょうか。 A  職務等級制度は、職務と賃金を関連づけて決定していることから、職能資格制度と比較すれば、職務変更にともなう賃金減額は認められやすいといえます。ただし、就業規則上の根拠が必要であり、人事権の濫用とならないような配慮は求められます。 1 職能資格制度と職務等級制度  職能資格制度とは、労働者の「能力」に着目して賃金制度を設計するものであり、日本では多くの企業がこちらの制度を採用しています。ここでいう「能力」とは、当該労働者という属人的な能力を意味しており、その人がその能力を発揮しているか否かという観点とは異なります。能力があっても、職務内容に変更があったがゆえに、能力を発揮できていない場合でも、賃金は変動しないという特徴があります。  このように「能力」に着目するにあたって、いくつかの原則があると整理されており、昇格・昇進原則、能力の育成と公正評価の原則、同一資格同一処遇の原則などが特徴としてみられることが多いといわれます。  降格との関係で障壁となるのが、昇格・昇進原則があることです。職能資格制度においては、原則として、人の能力は育成により成長していき、職務が変更されても能力が失われることはなく、年功とともに昇格・昇進が続いていくことが前提となっています。そのため、「降格」というのは、極めて例外的に属人的な能力が失われた場面にしか機能しないと考えられます。  そのため、就業規則上の根拠は当然必要であるうえ、降格にともなう賃金の減額などに対しても、人事権の濫用とされる範囲が広いと考えられます。  一方で、職務等級制度の場合は、労働者の「職務」に着目して賃金制度を設計するもので、「ジョブ型」などと表現されるのはこのような制度です。現に行っている「職務」の価値に応じた対価として賃金を支払うという考え方であるため、いかに能力があったとしても、それを発揮するような内容の職務を行っていないのであれば、賃金が減額されることがあり得るという前提を有しています。とはいえ、賃金の減額を引き起こす以上は就業規則上の根拠は必要と考えられていますが、人事権の濫用とされる範囲は職能資格制度と比較すれば緩やかに評価される可能性があります。 2 職務等級制度における降格が問題となった裁判例  東京地裁令和2年12月18日判決(ELCジャパン事件)においては、職務等級制度を採用している企業における異動にともなう賃金減額が問題となりました。  事案の概要としては、アメリカに本社を有する日本法人が、事業部門の廃止にともない、原告に退職勧奨を行ったところ、これを拒まれたことから、解雇するのではなく異動を命じて、アシスタントマネージャーという職務に就くことになり、賃金が減額されるに至ったというものです。  人事権の濫用に該当するか否かについては、不当な動機または目的がある場合が典型的ですが、この点は原告に対する個人的な不満があったとしても、それが事業部門の廃止につながるとは考えがたいとして否定されています。  原告に生じた不利益の程度が大きいほど、人事権の濫用とされやすいのですが、減額の程度が月額1万円程度であったこと、賞与の算定方法が変更となるが、一概に比較することはできないことなどから、大きな不利益ではないと評価されました。結果として、降格にともなう賃金の減額は法的に有効に行われたものとされました。  なお、この事件では、この降格だけではなく、その後に配置転換が実施されるに至っており、その有効性も問題となりましたが、こちらについても、賃金水準が確保されるような配置転換であること、原告の希望に見合うほかの役職が存在していなかったことなどから、これまでのキャリアとは異なるような職務内容であっても、その配置転換に不当な動機・目的は認められず、有効であると判断されています。  当該裁判例は、外資系企業であり、職務等級制度が採用されていることが明確な企業でした。このような企業においては、当初の職務の決定は企業にとっても労働者にとっても重要であるため、職務を変更すること自体の必要性が高くなければならない可能性はありますが、必要性が認められる場合には、職務内容の変更にともなう賃金の減額も許容されやすいといえるでしょう。  日本の企業においては、「ジョブ型」の賃金制度を設計している企業は多くはありませんが、同一労働同一賃金を徹底する場合、「職務」に着目した賃金制度は、同一労働である範囲での同一賃金の実現と相性がよいといえます。既存の賃金規程自体を改定することは、従業員への影響も大きくなりやすく、経過措置を定めるなど漸次的に導入するといった工夫や将来賃金への影響のシミュレーションも必要となりますが、今後の対策として選択肢に入る企業もあるでしょう。 【P50-51】 退職者への作法 社会保険労務士 川越雄一  生涯現役時代を迎え60歳、65歳を超えて働くことがあたり前となり、多くの高齢者が知識や技術、経験を活かして会社に貢献しています。とはいえ、そんな高齢者もやがて退職するときを迎えるもの。それまでの貢献に感謝を示し、気持ちよく退職をお祝いしたいところですが、ちょっとした行き違いにより“退職トラブル”が起こってしまうこともあります。本連載では、退職時の手続きやトラブル防止のポイントについて、社会保険労務士の川かわ越ごえ雄ゆう一いち氏が指南します。 第2回 在職中の貸し借りは退職時までに清算しておく 1 はじめに  在職中の貸し借りというのは、主に未払い残業代、有給休暇、会社情報の取扱いですが、退職時までに清算しておくことが鉄則です。在職中であれば、従業員はとりあえず清算に応じてくれるからです。しかし、退職後は、労使双方に良好な関係を保持しようという意識も弱くなり、在職中のような清算がしづらくなるのです(図表)。 2 未払い残業代を清算しておく  退職した従業員から、未払い残業代を請求されるケースがあります。従業員には、退職後でも残業代を請求する権利があり、従来その時効は2年でしたが、2020(令和2)年4月発生分から3年に延長されました。 ●未払い残業代とは  いわゆる「サービス残業」ですが、厚生労働省では「賃金不払残業」といい、「所定労働時間外に労働時間の一部又は全部に対して所定の賃金又は割増賃金を払うことなく労働を行わせること」と定義されています。  労働基準法では、法定時間外労働による割増賃金の支払が定められています。賃金不払残業は、労働基準法違反であり、あってはならないものです。しかしながら、退職した従業員が未払い残業代を請求するケースは少なくありません。 ●退職前の再確認  従業員から退職後に未払い残業代を請求されることがないよう、請求対象となる期間中に未払いがなかったかを、再度客観的に確認します。  また、未払い残業代請求のリスクを回避するためにも、客観的に労働時間の把握ができるような仕組みを構築することも重要です。 3 有給休暇を清算しておく  有給休暇(年次有給休暇)というのは預り金のようなものです。ですから、退職時までには取得をうながし清算します。有給休暇の不満は、ほかの労使紛争を起こす引き金になりやすいものです。 ●未消化(未取得)の有給休暇  有給休暇は勤続年数により付与日数が決まっており、勤続6年6カ月以降は毎年20日です。従来は年間に何日取得するかは本人の自由でしたが、2019年4月から年5日の有給休暇を確実に取得させることが会社の義務となりました。それでも人によっては、周りに気兼ねして取得しなかったり、病気で休むときのためになどと、未消化の有給休暇を多く残しています。 ●想定されるトラブル  よくあるのは、退職時に残っている有給休暇をまとめて請求される場合です。在職中に取得していないのだから、それも仕方ないと割り切って取得させればよいのですが、「そんなことは認められない」と有給休暇の取得を会社が拒否した場合にトラブルは起こります。「いままで休まずにがんばってきたのに」と、有給休暇のことを引き金に在職中の不満が表面化します。 ●有給休暇はきれいサッパリ消化させる  有給休暇は「預り金」のようなものですから、 退職時までに残日数ゼロにするのが原則です。そのためには、退職2カ月前くらいまでに有給休暇の残日数を伝え、退職日までに取得をうながすようにします。仮に、退職日ギリギリまで引き継ぎが必要であれば、なおさら早めに伝えて早めに取得させ、気持ちよく引き継ぎをしてもらうほうが得策です。 4 会社情報の取扱いを清算しておく  雇用関係が長くなると、会社情報を知る機会も多く、退職時にはその取扱いを清算しておくことも必要です。一方、会社が知り得た従業員情報の取扱いにも注意を払うことが必要です。つまり、お互いさまです。 ●漏らしてほしくない会社情報  在職中であれば雇用契約の付随義務として会社情報を漏らさないという義務を負いますが、退職後はそのような義務もなくなります。そこで、退職後にそのような情報を漏らさないよう、退職時に「秘密保持誓約書」なるものの提出を求める会社もあります。しかし、そのような誓約が法的に有効となるには高いハードルがあります。多くの場合、法律で保護される情報にはあたらないからです。 ●想定されるトラブル  「この誓約書にサインして」、「何でこんなものにサインしなくてはいけないのですか?」というやり取りはよくある話です。特に会社が誓約書を取りたがるのは、同業他社に転職をしそうな人の場合です。会社の気持ちもわかりますが、誓約書にサインしないことを理由に、在職中の行いに難くせをつけて退職金を減額でもしようものなら、トラブルが泥沼化するのは必定です。 ●ルールに則り清算する  秘密保持誓約書を提出させる場合でも、法的に有効になるというより、「会社情報を外に漏らさないでくださいね」という、退職者へのお願いレベルであることを理解しておきます。また、会社情報を記録したUSBメモリなどは、すべて会社へ返還させ、保有していないことを確認させます。このようなことは、あらかじめ就業規則などでルール化・周知しておき、原則として退職者全員に対して行えば違和感がありません。 図表 在職中・退職後における貸し借りの変化 〔在職中〕問題の潜在化 ・未払い残業代 ・有給休暇取得 ・会社情報の共有、秘密保持 〔退職後〕問題の顕在化 ・未払い残業代請求 ・労使紛争の引き金 ・会社情報の漏洩など 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第20回 「ワークシェアリング」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回はワークシェアリングについて取り上げます。ワークシェアリングとは文字通り、ワーク(仕事)をシェア(分かち合う)という意味です。この用語は20年前に広まりましたが、最近はあまり耳にすることがありません。あえてこの用語を使う必要がないくらい定着したともいえます。考え方自体は現在も継続して残っていますので、本稿の連載名の通りいまさら≠ナすが、解説していきたいと思います。 ワークシェアリングにはさまざまな目的があった  ワークシェアリングの具体的な定義・目的については、2001(平成13)年に厚生労働省が発表した「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」に記載されています。ここでは、「ワークシェアリングとは、雇用機会、労働時間、賃金という三つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うこと」と定義づけられています。目的については、@雇用維持型(緊急避難型)、A雇用維持型(中高年対策型)、B雇用創出型、C多様就業対応型の四つに類型化しています。この四つは密接に関連しつつも、実現までの時間軸という観点から二つに大別できます。 短期的な課題への対応  まずは、@Aの雇用維持型ですが、これらは短期的な課題への対応が主となっています。図を見ていただきたいのですが、先の報告書が提示された2001年は、いわゆるバブル経済崩壊後の経済状況の悪化を受けて、有効求人倍率(求職者に対する求人数の割合)が0.59倍、完全失業率(15歳以上の働く意思をもった労働力人口のうち、職がなく求職活動をしている人の割合)が5.0%と雇用環境が厳しい時期でした。業務上必要な労働者よりも雇用している労働者が多いという雇用過剰感が企業から叫ばれている時期でもありました。この状況下で、喫緊に対応しなければならないとされていたのが、企業内に在籍している社員の雇用維持でした。この対策としてのワークシェアリングは、一人あたりの業務量や業務時間を減らして、現在すでに雇用されている者同士(特に正社員)で分かち合うというものでした。雇用維持による企業の財務状況の悪化を防ぐために、業務時間の短縮分の労務が提供されていなかったとして、ノーワークノーペイ分の給与の削減なども行われていました。この点を含めて、日本経営者団体連盟(使用者側)と日本労働組合総連合会(労働者側)で議論・検討し、2002年には、ワークシェアリングについては、労使で協議しながらともに推進していくことで合意し、「ワークシェアリングの取り組みに関する5原則」を発表しています。 中長期的な課題への対応  次に、中長期的な課題への対応ですが、先の四つの類型のうち、B雇用創出型、C多様就業対応型が該当します。先の雇用過剰感があった時期と同時に提唱されているのが興味深いのですが、少子高齢化にともなう生産年齢人口(満15歳以上65歳未満の人口)の減少へ対応するための方策としてワークシェアリングが位置づけられています。当時主流だったのはフルタイム・残業あり・全国転勤あり・職務の制限なしといったいわゆる正社員的な働き方でした。このような働き方が可能なのは、特に出産・子育て・体力等により時間的な制約を受けないとされる60歳以下の男性が労働者の中心であり、このままでは将来的に人手不足になることが問題視されていました。そこで、時間や労働環境の制約で従来は労働力として取り込みにくかった女性や高齢者を含めて労働者の対象を増やし、労働市場全体のなかで労働時間や業務量を分かち合うことで生産性の向上を図っていくことをワークシェアリングで実現しようとしています。その実行策として、時短や多様な働き方の推進、雇用形態にかかわらない公正な処遇の実現などが、先述の報告書や5原則にも記載されています。 現在も継続しているワークシェアリングの取組み  さて、現在に目を向けてみましょう。新型コロナウイルス感染症の影響で経済的に打撃があったといわれている2020(令和2)年時点でも、有効求人倍率1.18倍、完全失業率2.8%、2021年の正社員が不足している企業は40.7%に対して、過剰な企業は13.6%(「人手不足に対する企業の動向調査」帝国データバンク 2021年7月調査)と20年前とは雇用環境が大きく異なります。この状況を反映し、短期的な課題に分類した@A雇用維持型については現在話題にあがることはほとんどありません。一方で、中期的な課題に分類したB雇用創出型、C多様就業対応型については現在も継続しています。中長期的な課題で解説した文脈を目にしたことがあるとお気づきの方もいるかもしれませんが、本連載でも取り上げた働き方改革や高齢者の雇用義務化、同一労働・同一賃金といったように、具体的な施策として取り組まれています。道半ばの部分もありますが、子育てしながらの就労や高齢者の就労機会、フルタイム以外の働き方などはあたり前のように受けとめられる社会となっているため、20年前に課題提起されていたことが実現に向けて着々と前進しているともいえます。 ☆  ☆  今回は「ワークシェアリング」について解説しました。次回は「戦略人事」について取り上げます。 【P54-55】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテストは、高年齢者が長い職業人生のなかで培ってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。  多数のご応募をお待ちしています。 T 取組内容 働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入 B賃金制度、人事評価制度の見直し C多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 D各制度の運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組み @高齢従業員のモチベーション向上に向けた取組や高齢従業員の役割等の明確化(役割・仕事・責任の明確化) A高齢従業員による技術・技能継承の仕組み(技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、高年齢者と若年者のペア就労) B高齢従業員が活躍できるような支援の仕組み(職場のIT化へのフォロー、力仕事・危険業務からの業務転換) C高齢従業員が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D中高齢従業員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施(キャリアアップセミナーの開催) E高齢従業員による多様な従業員への支援の仕組み(外国人実習生や障害従業員等への支援・指導役、高齢従業員によるメンター制度) F新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化(健康管理体制の整備、健康管理上の工夫・配慮) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組み(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 U 応募方法 1.応募書類など イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラストなど、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください。なお、必要に応じて追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京及び大阪においては高齢・障害者業務課又は高齢・障害者窓口サービス課)にて、紙媒体または電子媒体により配布します。また、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html)からも入手できます。 ハ.応募書類などは返却いたしません。 2.応募締切日  令和4年3月31日(木)当日消印有効 3.応募先  各都道府県支部高齢・障害者業務課へ提出してください。 V 応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)平成31年4月1日〜令和3年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和3年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和3年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和3年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度を導入(※)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 各賞 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞  2編 特別賞  3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、次の「X 審査」を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査 応募のあった事例について、学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。 なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 Y 審査結果発表など 令和4年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関などへ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。 また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権など 提出された応募書類の内容にかかわる著作権および使用権は、厚生労働省および当機構に帰属することとします。 [ お問合せ先 ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.go.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課  連絡先は65頁をご参照ください。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください!  当機構の「65歳超雇用推進事例サイト」では、「65歳超雇用推進事例集」の掲載事例、「コンテスト上位入賞企業の事例」を検索・閲覧できます。  このほか、「過去の入賞事例のパンフレット」をホームページに掲載しています(平成23年〜29年度分)。  「jeed 表彰事例 資料」でご検索ください。 jeed 65歳超 事例サイト 検索 【P56-57】 BOOKS 組織自体の能力を高めるために、必要なアプローチを提示 全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発 守島(もりしま)基博(もとひろ) 著/日本経済新聞出版/1980円  情報技術の進展や環境への対応、働く人の価値観の多様化、さらに、コロナ禍となり、企業はさまざまな変化への対応を迫られている。  そのなかで日本企業が直面している人材不足は、単に労働力人口の減少のみが要因ではなく、企業の経営環境やそれに対応した経営戦略が変化し、また、冒頭にあげたような変化が関係していると本書の著者は語る。こうした変化は、求められる人材や価値ある人材像を変え、人材マネジメントの方法にも変化が求められるが、現在の人材マネジメントがそこに追いついていないことが人材不足の大きな要因だという。  本書は、この解決に向けて、組織が人材を確保し、全員に戦力として活躍してもらうための人材戦略と、そこに向けて、人材が活躍できる舞台を用意する「組織力の開発」を説いている。  組織は、それ自体が特有の能力を持ち、例えば、ダイバーシティの活用、働きがいと働きやすさを提供するなどの力を発揮する。これらを含む現在日本の企業が注目するテーマを多角的にとらえながら、組織力の開発を説くと同時に、働く人に求める「仕事自立」の考え方も示す。組織づくりに取り組む企業の経営者やリーダー、人事担当者らにおすすめしたい一冊である。 健康に関する最新用語などをわかりやすく解説した「読む」用語集 健康教育ナビゲーター 三訂版 渡邉正樹 著/大修館書店/2420円  従業員の高齢化や深刻な人手不足などを背景に、従業員の健康を重要な経営資源ととらえ、健康管理や健康増進に力を入れる「健康経営」に取り組む企業が増えている。  本書は、健康に関する多様な用語をわかりやすく解説した用語集で、初版(2002〈平成14〉年)、新版(2008年)に続く第3版。13年ぶりに改訂された本書には、社会動向などをふまえて、「新型コロナウイルス感染症」、WHOが疾病として認定した「ゲーム障害」、先端医療の「ゲノム医療」、加齢による虚弱を表す「フレイル」などの最新用語を含む、70以上の用語を取り上げ、わかりやすく解説している。  健康教育を実践するうえで知っておきたい理念や情報が満載で、学校や地域、職場での健康教育に役立つ。また、生活習慣病やストレス、感染症、ライフステージに沿った健康問題など、職場で話題になる情報も多く、企業で健康経営などにたずさわる担当者の手引きにもなる。  健康に関する映画を紹介するコラムも充実しており、本書では、統合失調症に関連して「路上のソリスト」、感染症に関連して「コンテイジョン」、LGBTQに関連して「リリーのすべて」といった作品を新たに追加し、紹介している。 稼ぐ「発想力」を鍛え、やり残しのない人生を送るために 稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論 大前研一 著/小学館(小学館新書)/880円  2021(令和3)年、70歳までの就業機会確保が努力義務化され、高齢者の労働機会が拡大された。この拡大により、高齢者が稼ぎ続ける素地が整備されたといえるだろう。  本書は、著者の『50代からの「稼ぐ力」』(2019〈平成31〉年1月)をコロナ禍の影響をふまえ再編集して、新書化したものである。  著者は、いま社会・企業で活躍しているミドル世代が、シニア世代となる時代には社会保障制度の安定性・持続可能性があやぶまれ、定年後も稼ぎ続けなければならない「定年消滅」時代が到来すると予想する。  その「定年消滅」時代を乗り越えるには、「発想力」を鍛え「稼ぐ力」を磨くことが必要だと主張する。その「発想力」はRTOCS※の手法、例えば「あなたが○○会社の社長であったら」と仮定し、自分ならどう考えるか想像し、さまざまにシミュレーションすることを積み重ねていけば鍛えられるとした。この鍛えられた「発想力」さえあればシニアでも起業は可能で、「稼ぐ力」を磨くことができるという。  終章では、シニアになっても「発想力」を発揮して、やり残しのない生きがいのある楽しい老後であるべきと結んでいる。 ※ Real Time Online Case Studyの頭文字。著者が代表を務めるビジネス・ブレークスルー(BBT)独自のケーススタディの手法 老年精神医学を専門とする精神科医が説く、老いを上手に受け入れる方法 60代から心と体がラクになる生き方 老いの不安を消し去るヒント 和田秀樹 著/朝日新聞出版(朝日新書)/825円  老いを感じ始めたとき、その先の健康や認知症、お金の心配、孤独であることなどを想像し、不安にかられる人は少なくないだろう。  著者は、老年精神医学を専門とする精神科医。「老後の不安」、「老いることへの不安」について、単なる思い込みや、高齢者の実態をよく知らない情報に起因するもので、「幻想にすぎないことが多い」とつづっている。そして、これらの「不安」の正体を明かし、「不安」との向き合い方を自らがかかわってきた人々とのエピソードなどを交えながら説いていく。  また、老いることによる体や脳、ホルモンの変化や認知症のこと、高齢者が生きづらいと感じてしまう日本社会の病理などについても言及。そうしたことに対し、著者のこれまでの経験もふまえて、「勝ち負け意識を捨てる」、「早いうちから人に教わる習慣をつけておく」といった老後の不安を消し去るヒントを紹介。世の中が決めた「高齢者像」に惑わされることなく、自分の主観を大切にしてほしいとの見解も示し、最後に「心をラクにして生きるための5つのポイント」をまとめている。  漠然と抱いていた老後の不安について、考えを整理するきっかけにもなる一冊である。 著名人、専門家などによる「人生を楽しむ」ためのヒント 人生100年時代を楽しむ生き方 『月刊シルバー人材センター』 編集室 編/労務行政/1650円  「高年齢者が働くことを通じて生きがいを得ると共に、地域社会の活性化に貢献する」ことを目的に、全国で運営されているシルバー人材センター。現在、約1300のセンターのもと、約70万人の会員が活動を行っており、その活動・運営状況の共有や会員間の情報交換・交流の役割をになっているのが『月刊シルバー人材センター』(発行:労務行政)だ。本書は、同誌の人気企画である巻頭インタビュー「これからのシルバー人材センター」、「人生100年時代の高齢者の〈生き方・支え方〉」を再編集しまとめたもの。生涯現役で活躍している文化人やアスリートをはじめ、各界の著名人、専門家など、計28人のインタビューを掲載している。  インタビューは「楽しみながら生きる」、「チャレンジして成長する」、「絆をつくり深める」、「地域社会とつながる」、「生涯現役で社会貢献する」の五つのカテゴリーに分かれて掲載されており、それぞれのインタビューからは、高齢期になっても活き活きと生き、暮らしていくための知恵や心構えのほか、人や地域、社会とのつながりのなかにこそ、人生を楽しむためのヒントが詰まっていることに気づかされる。人生100年時代の生き方を指南する一冊だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 2021年度「輝くテレワーク賞」受賞者を決定  厚生労働省は、2021(令和3)年度「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」の受賞者を決定した。  テレワークは、仕事と育児などの両立や時間の有効活用などによって、ワーク・ライフ・バランスの向上につながるとともに、企業などにとっては介護離職などによる人材の流失防止につながるなどさまざまなメリットがある働き方といわれている。  この表彰制度はこのような観点から、テレワークの活用によって労働者のワーク・ライフ・バランスの実現に顕著な成果をあげた企業・団体・個人を表彰し、先進的な取組みを広く社会に周知することを目的として2015年度に創設された。  7回目となる2021年度の表彰は、「優秀賞」に1社、「特別奨励賞」に5社、「個人賞」に1人を決定した。 受賞者は次の通り。 ◆優秀賞  富士通株式会社 ◆特別奨励賞(五十音順)  e-Janネットワークス株式会社  第一三共株式会社  ダイドードリンコ株式会社  株式会社日本HP  株式会社WОRK SMILE LABО ◆個人賞  樋口孝幸氏(株式会社日本エイジェント) 厚生労働省 2020年「雇用動向調査」結果  厚生労働省は、2020(令和2)年「雇用動向調査」結果を公表した。調査は、全国の主要産業における産業別などの入職者数・離職者数、入職者・離職者の性・年齢階級別、離職理由別などにみた状況を明らかにすることを目的に、上半期と下半期の年2回実施している。今回の調査結果は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所から1万5184事業所を抽出して行い、9032事業所(上半期)と8841事業所(下半期)から有効回答を得て、2回の調査結果を合算して年計としてまとめた。回答を得た事業所の入職者5万2481人(上半期と下半期の計)、離職者6万3795人(前同)についても集計している。  調査結果によると、2020年1年間の入職者数は約710万人(前年約844万人)、離職者数は約727万人(同約786万人)となっている。  これを率でみると、入職率は13.9%で前年(16.7%)と比べ2.8ポイント低下、離職率は14.2%で前年(15.6%)と比べ1.4ポイントの低下となった。その結果、入職超過率はマイナス0.3ポイントと離職超過となった。離職超過となったのは9年ぶり。  入職率を性、年齢階級別にみると、男女ともに入職率は24歳以下がほかの年齢階級に比べて高くなっている。  入職率と離職率の大小関係をみると、男女ともに24歳以下は入職率のほうが高く、25〜29歳から50〜54歳までの各年齢階級でおおむね同率、55歳以上で離職率のほうが高くなっている。 調査・研究 帝国データバンク 「働き方改革の取り組みに関する企業の意識調査」結果  新型コロナウイルス感染症の感染者数が大きく減少した2021(令和3)年9月、企業に新しい働き方への対応が徐々にみられているなか、株式会社帝国データバンクは、働き方改革の取組みに関する企業の見解について調査を実施。このほど結果を発表した。  調査対象は全国2万4516社で、有効回答企業数は1万2222社(回答率49.9%)。  新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、働き方改革の取組みに変化がみられたかたずねたところ、「新型コロナ拡大をきっかけに取り組みを開始した」働き方として、「オンライン会議の導入」が49.4%と半数近くにのぼった。次いで、「オンライン商談の導入」(34.2%)、「在宅勤務の導入」(32.9%)となっている。企業からは「WEB会議による無駄な時間および経費の削減に有効であった。今後もWEB会議は一部継続する」といった声もあがっており、オンラインでの取組みを推進したことで副次的な効果も現れている。  また、「今は取り組んでいないが、今後取り組む予定」として、「ペーパーレス化の推進」(25.4%)、「インターネットによる受注・販売の強化」(20.4%)、「RPAなど業務効率化ツールの導入」(20.3%)が上位に並んだ。コロナ禍を機に働き方改革が進むなか、5社に1社以上はペーパーレス化やEC販売の強化、RPAの導入といった取組みを予定していることなどがわかった。 当機構から 「生涯現役社会の実現に向けたワークショップ」を開催  当機構では、「高年齢者就業支援月間」の10月に、各都道府県の支部が中心となって「地域ワークショップ」を開催した(一部は11月以降に開催)。  地域ワークショップは、生涯現役社会の実現に向け70歳までの就業機会の確保への理解を深めることを目的とし、高齢者雇用に関する学識経験者などによる基調講演、高齢者雇用に先進的な企業の事例発表などで構成される。今回は10月22日(金)に当機構千葉支部が主催した地域ワークショップ「70歳就業機会確保の進め方〜改正高齢法にどう取り組むか〜」の模様をレポートする。  開会のあいさつに続き、2021(令和3)年4月に施行され、70歳までの就業確保措置を講じることが努力義務となった改正高年齢者雇用安定法について、千葉労働局職業安定部職業対策課高齢者対策担当官の鹿野和幸氏が法改正の概略と留意するポイントについて解説した。続いて、事業創造大学院大学事業創造研究科の浅野浩美教授による基調講演が行われた。「70歳就業時代の高齢社員活用戦略とは」をテーマに、高齢者雇用を取り巻く雇用環境の現状を整理し、統計データから高齢者の就業意欲と、体力・スキルは充分にあることを示唆したうえで、主に60代後半に対する企業の雇用確保措置に関する意識調査の結果をもとに、活用している企業は意欲と能力があれば年齢は関係ないと答えていることなどを紹介した。その後、全国における高齢者雇用の活用企業の事例として多数の取組みを紹介。最後に、世界最高年齢の総務部員としてギネス認定された90歳女性の例を取り上げ、「パソコンのスキルを65歳を超えて習得し、いまもそのスキルを活かして仕事を続けている。高齢者だから新しいことができないことはない。企業がどう高齢社員の能力やモチベーションの維持・向上を図るか、どう健康・安全に働いてもらうか、どう多様なニーズに応えるかについて、活用事例を参考にしてほしい」と話し、基調講演を締めくくった。  休憩をはさんで行われたパネルディスカッションは、「高齢者が働きやすい職場づくりについて」というテーマのもと、パネリストとして金属機械加工業の株式会社岩井工機の岩井允まこと代表取締役社長、ピアノ・管楽器の査定・買取、修繕、販売事業の伸和ピアノ株式会社の谷治(たにじ)勇(いさむ)代表取締役、千葉労働局職業安定部職業対策課の常住(つねすみ)房夫課長、65歳超雇用推進プランナーの岩野邦久氏、コーディネーターとして浅野浩美教授が登壇した。初めに二社の概要と高齢者雇用制度について紹介が行われた後、「高齢従業員の意欲・能力の維持・向上について」の質問がパネリストに投げかけられた。工夫したこととして岩井氏は「無理のない勤務時間」をあげ、谷治氏は「特別支援学校のインターン生や新入社員の指導役に任命したことなど自社の取組み」を披露した。岩野プランナーは「ともに働く人たちとコミュニケーションをとって問題の解決を図り、安全・健康については、診断結果を活用し、健康管理に務めてほしい」と高齢従業員に向けたコメントを述べた。次に「作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生について」の質問が投げかけられ、岩井氏は、LED照明の導入と5S活動の推進など、谷治氏は机・椅子といった使用ツールの見直し、クレーンなど搬送ツールの活用などをあげた。常住氏からは「高齢従業員が指導した者が活躍することにより、企業の生産性の向上につながっている。指導した高齢従業員当人に成果を伝えることが大事になる」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。  会場では、基調講演の内容や高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業として注目されている企業による報告に耳を傾け、熱心に資料を確認する参加者の姿が目立った。70歳までの就業確保の努力義務化にどう取り組むかについてヒントを求める参加者の熱気が冷めやらぬなか、3時間にわたる地域ワークショップは幕を閉じた。 写真のキャプション 千葉県での「地域ワークショップ」の様子 【P60】 次号予告 2月号 特集1 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム −岩手会場、宮崎会場開催レポート− 特集2 多様化する退職金・企業年金制度 リーダーズトーク 島津明人さん(慶應義塾大学 総合政策学部 教授) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー (五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●新年あけましておめでとうございます。本年もみなさまのお役に立てるような情報発信に努めてまいります。引き続きご愛顧のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。 ●今月号の特集は「シニアのキャリア・チェンジ」をテーマにお届けしました。生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて働くことがあたり前になりつつあるいま、それまで勤めてきた会社を退職し、まったく異なるジャンルにチャレンジする高齢者は少なくありません。他社への再就職もあれば、経験や人脈を活かして起業したり、資格を取得して専門家の道を歩むケースなどもあり、改正高年齢者雇用安定法により、自社での雇用以外の選択肢が示されたこともあいまって、シニアのキャリア・チェンジの可能性は、今後ますます広がっていくことでしょう。  事業主のみなさまにおかれましては、キャリア・チェンジをするシニアを送り出す側、逆に受け入れる側として、シニアのキャリア・チェンジに関与していく可能性があります。本企画が、シニアのキャリア・チェンジを支援するうえでの参考になれば幸いです。 ●新連載企画「シニアのキャリアを理解する」がスタートしました。就業期間が延伸しているいま、シニア戦力化のための取組みを展開するうえでも、シニアのキャリア理論を理解することが欠かせません。みなさまのご意見・ご感想をお待ちしています。 公式ツイッターを始めました! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー1月号 No.506 ●発行日−−令和4年1月1日(第44巻 第1号 通巻506号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-865-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 目ざせ生涯現役! 健康づくり企業に注目! 最終回 第一生命保険株式会社(東京都千代田区) ポイント制度とアプリを組み合わせ、社員の健康増進をサポート  生涯現役時代を迎え、企業には社員が安心して長く働ける制度・環境の整備が求められていますが、生涯現役の視点で考えると、「社員の健康をつくる」ことは大切な要素です。  そこで本企画では、社員の健康づくりに取り組む先進企業の事例をご紹介します。 国民の健康増進に取り組み社員の健康増進にも積極的  2022(令和4)年に創業120周年を迎える、第一生命保険株式会社。「創業者の矢野(やの)恒太(つねた)が医師だったこともあり、当社には国民の健康増進に取り組んできた歴史があります」と話すのは、同社人事部健康増進室ラインマネジャーの田中耕次さん。同社は、1935(昭和10)年に、当時の日本人の死因第1位だった結核対策を目的とした財団法人保生会(ほせいかい)を設立。1950年には、保健衛生の向上に取り組む団体・個人に感謝と敬意を捧げる「保健文化賞」を創設。さらに1959年には、死因の上位を占める循環器系疾患の専門研究機関・病院である公益財団法人心臓血管研究所を設立するなど、国民の健康増進に向けた社会貢献活動を展開してきた。  同社は、株式会社化した2010(平成22)年度を「健康増進元年」と位置づけ、翌年には全社員に向けて「第一生命グループ健康宣言いきいきダイイチ110=vを発信。2013年には「第一生命グループ企業行動原則」に「健康増進」を追記するとともに、「健康増進基本方針」を新たに制定し、顧客とともに社員の健康増進への取組みも積極的に推進している。  社員の健康増進に向けた取組みは、社長が委員長を務める「グループサステナビリティ推進委員会」において検討・推進されている。また、中期経営計画に合わせて3年ごとに策定される「健康増進中期計画」では、国の定める目標(「健康日本21」)に基づいた管理指標として、疾病予防の観点から運動習慣者割合・適正体重維持者割合・喫煙率、重症化防止の観点から特定健診と特定保健指導の受診率が定められ、毎年度数値目標を立てて取組みが進められている。  こうした全社をあげての取組みが高く評価され、2013年の「第2回健康寿命をのばそう!アワード」では「厚生労働省健康局長優良賞」を受賞、2015年には「健康経営銘柄」に選定、「健康経営優良法人ホワイト500」には2017年から5年連続で認定されている。 疾病予防、重症化防止、メンタルヘルス対策の3本柱  社員の健康増進に向けた取組みの重要性について、田中さんは次のように語る。  「年齢が上がるにつれて医療費は増える傾向にあります。特に60代になると生活習慣関連疾病の医療費が非常に増えます。そうならないように、現役時代から生活習慣を改善して健康を維持し、社員の健康寿命の延伸と医療費削減につなげることが、会社・健保双方の使命と認識しています」  健康増進中期計画の柱は、疾病予防、重症化防止、メンタルヘルス対策の3本だ。  疾病予防では、がん検診受診と、運動・食生活・喫煙に対する取組みがある。前者については、肺がん・胃がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんの五つのがん検診の積極的な受診をうながしている。なかでも乳がん検診については検診車「マンモバス」が全国を回って検診を行う活動を20年以上にわたって行い、がんの早期発見に寄与している。後者については、「ヘルスケアポイント制度」とアプリを活用した意識醸成を図っている。  重症化防止については、定期健康診断を受診後、疾患が見つかった人に対して、産業医・保険医による事後措置面談や、健保組合における特定保健指導の受診をうながしている。  メンタルヘルス対策については、特にコロナ禍において重要度が増しており、コミュニケーション強化による早期解決などに力を入れている。  これら一連の活動について、データ分析を基にPDCA(Plan‐Do‐Check‐Action)を回しながら実効性を高めているのが同社の特徴といえる。 健康のための活動を社会貢献にもつなげる  社員の運動や食生活の面で意識を高めるカギとなる施策が、ヘルスケアポイントとアプリの活用だ。アプリに毎日ログインし、歩数や体重、食事などを記録することでポイントがたまる仕組みで、たまったポイントはギフトやオリジナルグッズなどに交換できる。なお、アプリは2021年10月にグループ会社が開発した「QOLism(キュオリズム)」というアプリに変更し、機能強化を図っている。  例えば、歩数は1日あたりの歩数(4000歩以上)に応じて5〜25ポイント(以下、「pt」)が付与される。体重記録は5pt/日。食事記録(2pt/回)は、食事をスマートフォンで撮影するだけでカロリーや栄養素を知ることができる。そのほか、アプリに登録された健康診断結果を確認すると100pt/年(さらにBMIが標準の場合100pt/年)、17項目のチェックで自分の健康状態や生活習慣に近いものを回答すると、五つの疾病リスク度がチェックできる「疾病リスクチェック」実施で200pt/年が付与される。  ユニークなのが、健康増進活動と社会貢献をリンクさせている点だ。以前のアプリでは、登録された歩数1万歩あたり1円に換算してQOL向上に資する取組みを行っている団体等への寄付を行ってきた。「自分のためだけに活動するよりも、人のために活動できないか」という社員の声がきっかけになったという。田中さんは、「少額ではありますが、SDGsにつながるような社会貢献と関連づけることで、取り組む意欲が一段と増すのではないかと考えています」と話す。  寄付は地域ごとに行われている。例えば本社では、今年度は小児がんの子どもとその親の支援活動を行う組織に寄付が行われた。新たなアプリでは、歩くだけでなく、あらゆる健康への取組みが社会貢献につながるように、ヘルスケアポイント等20ptにつき1円が寄付される仕組みに変更された。  一方、禁煙の取組みについては、「強制することは社風としてなじまないところがあるため、やる気のある人を支援する方針で取り組んでいます」(田中さん)。毎月2日・12日・22日を「禁煙の日」に制定し、ポスターを掲示して啓発に努めているほか、禁煙をサポートするアプリによるオンライン禁煙支援プログラムを対象者にあわせて提供している。当初は費用を全額補助していたが、禁煙への意欲をより高めるため、途中から禁煙に成功した場合のみ全額補助とし、途中で脱落した人には一部補助に改めた。また、禁煙にチャレンジする人を応援する伴走者≠登録できるようにして、成功すると伴走者≠ノもプレゼントがもらえるようにした。こうして施策の改善を図りながら、禁煙に取り組む人を積極的にサポートしている。 健康増進の取組みは、職場のコミュニケーションにもプラスに  同社では、各事業所での健康増進に向けた取組みも行われており、コロナ禍になる前は、地元のウォーキング大会などへの参加も盛んに行われていた(参加費を健保が補助)。QOLismには個人やチームで歩数を競う「ウォーキングイベント」を実施できる機能があり、事業所間での競争も行われている。また、QOLismの導入にあわせて、健保では各事業所が健康施策を実施する際の費用の一部を支援する取組みも始めた。  「本社が決めた施策に一方的に取り組んでもらうのではなく、各事業所の裁量に委ねることによって独自の取組みが生まれ、それがほかの地域にも波及することで、活動がさらに盛り上がると考えています。コロナ禍で人とのつながりが薄れがちななか、健康増進の取組みは職場でのコミュニケーションづくりにも役立っているようです」(田中さん)  各事業所における取組みを支援するため、健康増進室では、事業所ごとに健診結果のレポートを提供し、事業所における課題を把握できるようにしている。高血圧・高血糖の割合や喫煙率の高さなど、地域によって異なる特性がみられるという。  健康宣言をした2011年以降、健康への意識を高める活動を続けてきたことにより、一次健診の受診率はほぼ100%、二次健診も80%台後半に達している。また特定健診・特定保健指導の実施率もそれぞれ国の目標を上回る。  「以前は特定保健指導を受けることを嫌がる人が多くいましたが、最近はほとんどいなくなりました。健康増進の取組みが浸透した結果だと思います。今後もQOLismを通じてさらなる意識醸成を図りつつ、もう一段ステップアップし、記録された内容や健康状態をふまえて、次の行動につながるようなアドバイスができる仕組みも取り入れていきたいと考えています」(田中さん) 写真のキャプション QOLism(キュオリズム) 社会貢献を兼ねたウォーキング活動 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回の問題は、目からの情報を保持しながら逆から読むという作業をします。このとき、ワーキングメモリ(作業記憶)が使われます。ちょっと覚えながら作業する、その感覚を日常生活のなかでも見つけていくと、生活が脳トレになります。 第55回 後ろから読む 目標3分 次の文章を後ろから声に出して読んでみましょう。 その際、漢字はひらがなにして、後ろから読みます。 ※なるべくひらがなに書き直したりせず、読んでください。 1 ヒヤシンス 2 雨のち晴れ 3 紅葉狩り 4 生き馬の目を抜く 5 待てば海路の日和あり 目で読み、声に出して、五感をフル活用  「話す」、「聞く(聞いて理解する)」、「書く」、「読む」といった言語に関する力は、脳の言語中枢がつかさどっています。  脳の言語中枢には、「運動性言語中枢」、「感覚性言語中枢」、「視覚性言語中枢」という三つの部位があり、それぞれ別の場所に位置しています。  運動性言語中枢はおもに話すことをになっており、「前頭葉」に位置しています。感覚性言語中枢は「側頭葉」にあり、おもに言語を理解することをにないます。視覚性言語中枢は「後頭葉」にあり、文字や絵を見て話すことをになっています。  言語力を高めるには、これらをすべてバランスよく活性化させることが必要であり、文章を声に出して読む音読が効果的なトレーニングとなります。  音読は、目で読んで、内容を理解して、発声して、自分の耳で聞くという四つの動きが同時進行で行われており、簡単なようでいて、脳にとってはとても高度な運動です。  問題を声に出して読みながら解くことで、三つの言語中枢をそれぞれ活性化させ、より効果的に脳を鍛えましょう。 【問題の答え】 1 → スンシヤヒ 2 → れはちのめあ 3 → りがじみも 4 → くぬをめのまうきい 5 → りありよひのろいかばてま 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年1月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 生産性向上人材育成支援センターでは、70歳までの就業機会の確保に向けた従業員教育を支援しています!  人手不足の深刻化や技術革新が進展するなか、中小企業等が事業展開を図るためには、従業員を育成し、企業の労働生産性を高めていくことに加えて、70歳までの就業機会の確保に向けて企業を支えるミドルシニア世代の役割の変化へ対応できる能力や技能・ノウハウを継承する能力を育成することが重要です。  生産性向上人材育成支援センターでは、生産性向上支援訓練のメニューの一つとして、中高年齢層の従業員の“生涯キャリア形成”を支援するためのミドルシニアコースを実施しています。 役割の変化に対応したコース ●後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割 ●中堅・ベテラン従業員のためのキャリア形成 ●チーム力の強化と中堅・ベテラン従業員の役割 ●フォロワーシップによる組織力の向上 など 技能・ノウハウ継承に向けたコース ●効果的なOJT を実施するための指導法 ●作業手順の作成によるノウハウの継承 ●職業能力の体系化と人材育成の進め方 ●後輩に気づきを与える安全衛生活動(点検編) など 《ミドルシニアコースの概要》 受講対象者:45歳以上の従業員の方(所属する企業から受講指示を受けた方にかぎります) 受講料:3,300円〜6,600円(1人あたり・税込) 訓練会場:受講対象者の所属する企業の会議室等を訓練会場とすることが可能です(講師を派遣します) 訓練日数:概ね1〜5日(6〜30時間) 《訓練受講までの流れ》 課題や方策の整理 センター担当者が企業を訪問し、人材育成に関する課題や方策を整理します 訓練コースのコーディネート 相談内容をふまえて、課題やニーズに応じた訓練コースを提案します 訓練受講 所定の期日までに受講料の支払い等の手続きを行い、訓練を受講してください ※予算にかぎりがありますので、ご希望に添えない場合があります ※相談内容によっては、他の企業に所属する従業員の方と合同で訓練を受講するコースのご利用を提案させていただく場合があります 〜生産性向上支援訓練は当機構ホームページよりご確認ができます〜 https://www.jeed.go.jp/js/jigyonushi/d-2.html 詳しくは各都道府県の生産性向上人材育成支援センターまでお問い合わせください 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 生産性向上支援訓練紹介ページへ 2022 1 令和4年1月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第1号通巻506号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会