【表紙2】 「ガイドライン」のラインナップが増えました 産業別 高齢者雇用推進事業のご案内 高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。そこで当機構では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。そしてこれまでに、92業種の高齢者雇用推進ガイドラインが完成しています。2021年度は、以下の3つのガイドラインを作成しました。いずれも、当機構のホームページで全文を公開中です。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 1 公益社団法人 日本メディカル給食協会 患者等給食業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍で安全・安心な食事の提供を〜 2 全国油脂事業協同組合連合会 廃食用油リサイクル業における高齢者活躍に向けたガイドライン 3 公益社団法人 全国保育サービス協会 保育サービス業 高齢者の活躍に向けたガイドライン シニア人材の強みを保育施設の運営に生かす 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.83 70歳までの再雇用制度を整備し年齢を問わない実力主義人事を徹底 TIS株式会社 執行役員 人事本部本部長 高柳京子さん たかやなぎ・きょうこ 1988(昭和63)年、東海銀行の情報子会社(現・TIS株式会社)に入社。金融、カード、公共などのシステム開発を経て人事部に異動。2019年4月より執行役員、2022年4月に執行役員 人事本部本部長に就任。  創業50年以上の歴史を持つ総合IT企業・TIS株式会社は、社員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、働きやすさ≠ニともに働きがい≠重視した各種施策の整備に注力しています。同社では2019(令和元)年に65歳定年制を、2020年には70歳までの再雇用制度を導入しました。  今回は、同社執行役員 人事本部本部長の高柳京子さんに、同社の高齢者雇用対策とそのねらいについてうかがいます。 旧制度で生じていた課題をふまえ処遇ダウンのない65歳定年制を導入 ―貴社では2019(令和元)年に定年を65歳に延長されたのに続き、2020年には70歳までの再雇用制度を導入されました。そこに至る経緯を教えてください。 高柳 当社の高齢者雇用制度は、2018(平成30)年までは定年60歳、その後は1年契約で65歳まで再雇用する制度でした。その制度の見直しの経緯をお話しする前提として、まず当社の職種についてご説明します。  社員の多くは社内で「プロフェッショナル職(プロ職)」と呼ぶSE、コンサルティング、企画などの専門職です。そのなかから高度専門職として社内の委員会で認定された人が、「ハイエンドプロフェッショナル職(H職)」に位置づけられます。また、プロ職やH職から組織長のポストに任命された人が「マネジメント職(M職)」です。これら3職種のほかに、バックオフィス業務をになう「事務職」がいます。  組織上・業務上の必要性や各人の実力評価に応じて、プロ職、H職、M職の間の職種変更は、双方向に随時行われています。例えば、H職に認定された後に認定解除となりプロ職に戻るとか、組織長のポストから外れてH職に任命されるといった変更もあります。  以前の60歳定年制の時代には、プロ職は、55歳以降は原則として「専任職」に変更となり、職責や処遇を引き下げていました。そして定年後は「シニア社員」の呼称で、最長65歳まで有期契約で継続雇用していました。シニア社員は、定年時に専任職または事務職であれば「シニア職」と呼ばれ(一定の要件のもとでプロ職のまま定年を迎える場合もシニア職として再雇用)、定年時にH職やM職であった人は「シニアプロ職」と呼ばれました。  しかしこの再雇用制度には問題がありました。再雇用時に報酬を引き下げて固定基本給とするほか、目標管理を通じた実績評価を報酬に反映させていませんでした。報酬を引き下げる以上、職務もそれに見合ったものとする必要があり、活躍の場が制約されて、シニアの能力が十分に発揮できないという不具合が生じていたのです。これは、本人にとっても会社にとっても好ましい状態ではありませんでした。定年後再雇用を希望する社員数は5割を大きく下回り、シニア社員のモチベーションも低下していました。また、プロ職が55歳で専任職に移行するルールは、元来、年齢にとらわれない実力主義の人材活用や報酬決定を目ざす当社の人事方針にそぐわない運用であり、見直す必要がありました。 ―それらの課題を解決するために、2019年に65歳への定年延長を行ったのですね。 高柳 その通りです。再雇用時に処遇をリセットする仕組みを改め、65歳まで一貫した制度としました。プロ職が55歳で専任職に移行するルールも廃止しました。ただし、M職については、ポストの世代交代をうながすために、60歳で降職する役職定年を設けました。  そして、65歳定年制のもとでも、本人の希望で定年年齢を60歳・63歳・65歳から選べるようにしました。退職給付はDC(確定拠出年金)または前払退職金の選択制で60歳までに拠出が終わっていますから、60歳以降であれば退職年齢の違いによる不利はありません。  また、これからの生涯現役時代、定年前に転職や独立をして、70歳、80歳まで働き続ける人が増えます。そこで、48〜62歳の社員を対象に、社外転身を応援する目的でセカンドキャリア支援制度を設け、転進支援金やキャリア支援サービスの提供、転身のための休暇付与などにより外部でのキャリア構築も選択可能としています。 年齢を問わず貢献と報酬が均衡する処遇高齢者雇用がコスト増にならない実力主義 ―再雇用を定年延長に切り換えることや、専任職を廃止することで、人件費が増えるという懸念はありませんでしたか。 高柳 一般に、高齢者雇用がコスト負担増を招くといわれるのは、高齢者の職務内容や貢献よりも賃金が高い、という認識または実態があるからです。両者のバランスがとれていれば、会社は貢献に見合った報酬を支払っているだけのことで、コスト増にはならないはずです。  当社では、全社員が雇用期間の全体を通じて、貢献と報酬のバランスがとれるような処遇制度を導入してきました。プロ職では、G1〜G4のグレードがあり、最上位のG4からH職への認定やM職への任命が行われる仕組みですが、グレードは年功的に上がるわけではなく、実力評価に応じて上がることもあれば下がることもあります。65歳への定年延長では、60歳時点でG2であれば、G2の処遇のまま定年延長になります。60歳を超えたからといって、G2の実力がすぐに低下することはないからです。もちろん、その後の実力評価次第で、グレードのアップダウンはそれまでと同じように行われます。  実は、定年延長と同時期に、高齢者だけでなく全社員について、グレードがダウンする降格の運用基準を見直しました。それまでは2年連続で最低評価だった場合に降格を実施していたものを、単年度の評価で降格を行うよう、実力主義をさらに徹底させたのです。年齢にかかわらず、どの社員についても、これまで以上に貢献と報酬のバランスがとれる形となったので、定年延長にともなう雇用期間の延長、そして高齢社員の増加によって、人件費負担が過度になるという懸念はありませんでした。 ―そして65歳定年延長を行った翌年の2020年には、70歳までの再雇用制度を導入されました。新たな就業確保措置が盛り込まれた法改正への対応が理由でしょうか。 高柳 検討を始めた当時、65歳超の就業を盛り込んだ法改正への動きがあり、意識していたのは事実です。しかし、当社にとってより切実だった問題は、ハイパフォーマーの高齢人材に65歳の定年が近づきつつあることでした。会社の成長のため、このような優秀な人材には、定年後も引き続き働いてほしいと思いました。そこで、中高年層の活躍による企業体力の強化とさらなる成長、年齢にかかわらず実力主義を貫ける制度のもとで意欲的に能力を発揮できる環境の構築、この2点を掲げて、再雇用制度を設計しました。 高齢ハイパフォーマーの活躍継続を目ざし70歳までの再雇用制度を導入 ―再雇用の基準や、再雇用後の処遇について教えてください。 高柳 再雇用の基準は、@本人が希望していること、A組織の推薦があること、B直近の実力評価の成績が一定以上であること、の3点です。再雇用は1年間の有期雇用となり、契約更新の都度、この3要件を確認します。  処遇は、定年前の職種・グレードを継続し、基本給は正社員と同様に、評価による昇降給を行い、各種手当や賞与も正社員と同じ条件で支給します。勤務日数の短縮など、特別な勤務形態は設けません。つまり、雇用形態が1年ごとの有期雇用となる点を除けば、正社員と異なるところはありません。  以前の65歳までの再雇用制度では、再雇用者をシニア社員と呼んでいましたが、今回の70歳までの制度では、再雇用者を「エルダー社員」と呼ぶことにしました。高齢者の活躍事例が多く紹介されている月刊誌『エルダー』を意識して命名したという背景もあります(笑)。  シニア社員時代の再雇用率は5割を切っていましたが、エルダー社員制度では65歳以降も再雇用を希望する社員が5割を超えるようになりました。毎年実施している働きがい調査でも、50歳以上のスコアが大きく上昇し、この間の一連の制度変更は、社員にポジティブにとらえられています。 ―優秀な高齢人材を引き留めたいというのが今回の再雇用制度導入の大きな動機とのことですが、高齢者の活躍ぶりの一端を教えてください。 高柳 プロジェクトのマネジメントですばらしいパフォーマンスをあげている人材、若手を育てた経験が豊富な人材、業務品質を向上させるのに力を発揮している人材など、多くの高齢人材が活躍しています。海外を飛び回り、グローバル企業をはじめ多彩なお客さまから次々と仕事を受注する営業社員もいます。いずれも一朝一夕では身につかないスキルや人脈を十二分に活かした仕事ぶりで尊敬を集めています。 ―その方々のように、高齢になっても活躍できる人材になれるよう、若手のうちから計画的に育てることも必要ですね。 高柳 多様な人材が活躍できる企業になることを目ざして、教育にはかなり力を入れています。多くの施策がありますが、特に象徴的な取組みは、月に1日を教育に充てており、これを部門目標として課していることです。IT業界は変化のスピードが速いので、目先の仕事に追われているだけでは生き残れません。常に自分をアップデートしていけるよう、人材への投資を続けることは、私たちにとって最優先の経営戦略なのです。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 April No.509 特集 6 高年齢者雇用安定法改正から1年をふり返る 7 総論 改正高年齢者雇用安定法の概要と今後の対応 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課 11 65歳超雇用推進プランナーに聞く@ 長く働ける環境を整え“人が集まる会社”へ 当機構東京支部 65歳超雇用推進プランナー 渡辺栄英 13 65歳超雇用推進プランナーに聞くA 高齢社員と企業がともに成長し貢献しあう関係の構築を支援 当機構京都支部 65歳超雇用推進プランナー 松尾安藏 15 寄稿 労働ジャーナリストから見た改正高齢法の現状と課題 労働ジャーナリスト 溝上憲文 19 企業事例@ コマニー株式会社(石川県小松市) 潜在的にあった「65歳を超えて働く意欲」が雇用の上限年齢廃止で表面化 23 企業事例A 株式会社百五銀行(三重県津市) 70歳雇用の環境整備で、従業員の満足度が増しエンゲージメントの向上にもつながる 27 企業事例B 社会医療法人財団 董仙会(石川県七尾市) 全職員の賃金体系などを見直し上限年齢なく正職員として働ける制度を導入 31 『70歳雇用推進事例集2022』のご紹介 32 「70歳雇用事例サイト」のご案内 1 リーダーズトーク No.83 TIS株式会社 執行役員 人事本部本部長 高柳京子さん 70歳までの再雇用制度を整備し年齢を問わない実力主義人事を徹底 33 日本史にみる長寿食 vol.342 豚肉が支える生涯現役パワー 永山久夫 34 江戸から東京へ 第113回 縁切り寺縁起 千姫と天秀尼 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第118回 三重県 株式会社プラトンホテル 40 シニアのキャリアを理解する 【第4回】 生涯発達の理論からみたシニア 浅野浩美 44 知っておきたい労働法Q&A《第47回》 再雇用と就業規則の最低基準効、業務委託の解除と解雇 家永 勲 48 【新連載】病気とともに働く 第1回 二九精密機械工業株式会社 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第23回 「サクセッションプラン」 吉岡利之 52 労務資料 第16回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.318 隣り合う畳縁の模様をぴたりと合わせる高度な技畳工 松本芳光さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第58回]足し算ピラミッド 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」は休載します 【P6】 特集 高年齢者雇用安定法改正から1年をふり返る  70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする、改正高年齢者雇用安定法の施行から1年が経過しました。定年廃止や定年年齢・再雇用年齢の延長などのほか、業務委託や社会貢献事業への従事が選択肢として示されるなど、まさに生涯現役時代における新しい高齢者雇用のあり方を示すものです。  そこで今回は、改正法の概要について改めて解説するとともに、企業の受けとめ方や生じている課題、改正法に対応した企業の事例をご紹介します。 【P7-10】 総論 改正高年齢者雇用安定法の概要と今後の対応 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課 1 改正の背景  わが国では少子高齢化が急速に進展しており、2065年には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると見込まれています※1。  一方で、高齢者像は変化してきており、身体機能の水準の向上が確認されています※2。また、2016(平成28)年においては、男性の健康寿命が72.14歳、女性が74.79歳に上り、いずれも健康寿命の延伸が見られます※3。さらに就業意欲も高く、収入をともなう就業希望年齢として、全体では約2割が「働けるうちはいつまでも」と回答しており、約4割が65歳を超えて就業することを希望しています※4。  少子高齢化が急速に進行し、人口が減少するなかで、経済社会の活力を維持するためにも、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮し、活躍できる環境の整備を図っていくことが求められます。  そこで、高齢者の活躍の場を整備するため、2020(令和2)年に、70歳までの就業機会を確保する措置(以下、「就業確保措置」)を講ずることを事業主の努力義務とする法改正が行われ、2021年4月に施行されました。 2 改正高年齢者雇用安定法の概要  高年齢者雇用安定法においては、今般の改正法が施行される前から、事業主は定年を定める場合は60歳を下回ることができないとされており、そのうえで、65歳までの高齢者の雇用機会を確保するための措置(以下、「雇用確保措置」)として、@65歳までの定年の引上げ、A65歳までの継続雇用制度の導入、B定年制の廃止のいずれかの措置を講ずることが義務づけられています。  なお、雇用確保措置の取組み状況については、2020年6月1日現在の高年齢者雇用状況の集計結果によると、31人以上の規模の企業のうち99.9%と、ほとんどの企業において雇用確保措置が実施されています。  改正高年齢者雇用安定法では、この65歳までの雇用確保措置に加えて、65歳から70歳までの就業確保措置を講ずることが事業主の努力義務とされました。  具体的な就業確保措置の内容としては、従来の雇用確保措置と同様の、 @70歳までの定年の引上げ A70歳までの継続雇用制度の導入 B定年制の廃止  といった雇用による措置に加えて、 C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入  といった雇用によらない措置が新設されました。C、Dの措置を合わせて「創業支援等措置」といいます(詳細な内容は4へ)。  なお、Aの継続雇用制度の導入については、65歳以上の高齢者が対象の場合、自社または特殊関係事業主(いわゆるグループ会社)に加えて、特殊関係事業主以外の他社での継続雇用も可能です。特殊関係事業主またはそれ以外の他社で継続雇用制度を導入する場合は、自社と特殊関係事業主等との間で、特殊関係事業主等が高齢者を継続して雇用することを約する契約を締結する必要があります。また、契約は書面により締結することが望ましいです。 3 就業確保措置を講ずるにあたっての留意点等  この改正高年齢者雇用安定法の具体的な手続きや留意点等については、指針など※5※6で定められています。その概要や考え方については下記の通りとなっています。 (1)対象者基準について  70歳までの就業確保措置については、努力義務ですので、措置の対象となる高齢者について、基準を設けて限定することが可能となっています(@70歳までの定年の引上げ、B定年制の廃止を除く)。ただし、基準の策定にあたっては、次の事項に留意する必要があります。 ・対象者基準の内容は、原則として労使に委ねられるものですが、事業主と過半数労働組合等※7との間で十分に協議したうえで、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいこと。 ・労使間での十分な協議のうえで設けられた基準であっても、事業主が恣意的(しいてき)に一部の高齢者を排除しようとするなど、法の趣旨や、ほかの労働関係法令・公序良俗に反するものは認められないこと。また、基準は具体的・客観的であることが望ましいこと。 (2)労使で協議すべき事項  就業確保措置の五つの措置(2の@〜D)のうち、いずれの措置を講ずるかについては、労使間で十分に協議を行い、高齢者のニーズに応じた措置を講じていただくことが望ましいです。  なお、五つの措置のうちいずれか一つの措置により70歳までの就業機会を確保するほか、複数の措置により70歳までの就業機会を確保することも可能となっています。この場合、個々の高齢者にいずれの措置を適用するかについては、その高齢者の希望を聴取し、これを十分に尊重して決定する必要があります。 (3)安全衛生について  高齢者が従前と異なる業務等に従事する場合には、新しく従事する業務等に関して研修、教育、訓練等を行うことが望ましいです。特に雇用による措置の対象となる高齢者が従前と異なる業務等に従事する場合には、安全または衛生のための教育は必ず行わなければなりません(創業支援等措置を講ずる場合にも、安全または衛生のための教育を行うことが望ましいです)。  また、高齢者が安全に働ける環境づくりのため、就業確保措置により働く高齢者について、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を参考に、職場環境の改善や健康や体力の状況把握とそれに応じた対応など、就業上の災害防止対策に積極的に取り組むことが望ましいです。 (4)その他について  継続雇用制度、創業支援等措置を実施する場合に、 ・心身の故障のため業務に耐えられないと認められること ・勤務(業務)状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責(業務)を果たし得ないことなど、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合や、創業支援等措置の計画(詳細は左記4へ)に定める契約解除事由または契約を更新しない事由に該当する場合には、契約を継続しないことが認められます。  また、シルバー人材センターへの登録や、再就職・社会貢献活動をあっせんする機関への登録などは、高齢者の就業先が定まらないため、就業確保措置とは認められません。 4 創業支援等措置について  2のC継続的に業務委託契約を締結する制度や2のD継続的に社会貢献事業に従事できる制度による就業機会の確保については、「創業支援等措置」といいます。そのうち、継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入については、 a 事業主が自ら実施する社会貢献事業 b 事業主が委託、出資(資金提供)等を行う団体等が実施する社会貢献事業 がありますが、いずれも有償の(業務に従事することにより、高齢者に金銭が支払われる)ものが対象となります。  bの場合には、事業主と社会貢献事業を実施する団体等との間で、当該団体等が高齢者に対して社会貢献事業に従事する機会を提供することを約する契約を締結する必要があります。また、契約は書面により締結することが望ましいです。なお、この社会貢献事業とは不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業であり、特定または少数の者の利益に資することを目的とした事業は該当しません。  創業支援等措置は、雇用による措置(2の@〜B)と異なり、労働関係法令が適用されません。このため、創業支援等措置を講ずる場合は、次の(1)〜(3)の手続きを行う必要があります。  なお、創業支援等措置において労働者性が認められる働き方である場合は、創業支援等措置ではなく、雇用による措置として実施する必要があります。 (1)創業支援等措置の実施に関する計画の作成  創業支援等措置の導入にあたっては、業務の内容や高齢者に支払う金銭等に関する事項を記載した計画を作成する必要があります(図表)。  なお、委託する業務等については、さまざまな業務内容などが想定されることから、計画における支払われる金銭や契約頻度などについては、幅を持たせた記載でも差しつかえありません。ただし、高齢者との個別の契約においては、当該計画に基づき、詳細な内容を記載する必要があります。また、これらの項目を作成するにあたっては、3の冒頭で言及した指針に留意事項を示しており、厚生労働省のホームページに指針やパンフレットなどを掲載していますので、ご参照ください。 (2) (1)の計画について過半数労働組合等の同意を得る  (1)により作成された計画について、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。このとき、過半数労働組合等に対して、次の3点を十分に説明する必要があります。 a 創業支援等措置は労働関係法令が適用されない働き方であること b そのためにこの計画を定めること c 創業支援等措置を選択する理由  なお、創業支援等措置と雇用の措置(2の@〜B)の両方を講ずる場合は、雇用の措置により努力義務を達成したことになるため、創業支援等措置に関して過半数労働組合等の同意を必ずしも得る必要はありませんが、改正高年齢者雇用安定法の趣旨をふまえ、創業支援等措置の計画について同意を得ることが望ましいです。 (3)(2)の同意が得られた計画を周知する  (2)において過半数労働組合等の同意を得たうえで、計画の内容については見えやすい場所への掲示や労働者への交付、常時確認できる媒体での電子上の記録などの方法により、労働者に対して十分に周知する必要があります。  (1)〜(3)を経て、制度を導入した後は当該計画に沿って、個々の高齢者と業務委託契約または社会貢献事業に従事する契約を締結する必要があります。また、個々の高齢者と契約を締結する際は、 ・契約は書面により締結する ・上記の計画を記載した書面を交付すること ・(2)のa〜cの事項をていねいに説明し、納得を得る努力をすること が求められます。 5 高齢者雇用対策の今後  生産年齢人口が減少するなかで、日本の社会を支えていくには、これまでの生産年齢人口のみを対象とする考えを超えて、高齢者に活躍していただくための場をつくっていくことが不可欠です。  今回の改正で努力義務として加わった、70歳までの就業確保措置には、雇用以外の対応や、自社以外での就業継続など、より幅広い対応が含まれています。雇用以外の対応では、労働関係法令が直接は適用されませんが、労働関係法令の考え方をふまえた適切な配慮をしていただく必要があります。高齢者の働き方についての多様なニーズにていねいに応え、ダイバーシティを実現していくことは、高齢者だけではなく、すべての従業員の働き方改革にも寄与することが期待されます。  また、今後、特に地方において人口減少が激しくなると見込まれていますが、企業内での雇用に加えて、社会貢献事業に従事できる制度などの多様な選択肢が設けられた就業確保措置が広がり、さまざまな地域の活動場面において高齢者の活躍の場をつくっていくことは、地域社会の活性化にも資するものと考えられます。  そして、そのためには、地域に存在する多くの社会的資源との有機的な連携が不可欠であり、各企業における取組みに加え、国としても、地域のさまざまな機関のネットワークづくりを並行して進めていく必要があります。今後、各企業における取組みと地域のネットワークづくりを両輪で進めていくことで、高齢者の活躍が地域課題の解決につながる好循環を生み出せるような環境整備を進めてまいりたいと考えています。 ※1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計):出生中位・死亡中位推計」 ※2 文部科学省「平成30年度体力・運動能力調査」 ※3 厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「簡易生命表」、「人口動態統計」、厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室「国民生活基礎調査」、総務省統計局「人口推計」より算出 ※4 内閣府「令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査」 ※5 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第180号) ※6 高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(令和2年厚生労働省告示第351号) ※7 過半数労働組合等……労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者 厚生労働省ホームページ 「高年齢者雇用安定法の改正 〜70歳までの就業機会確保〜」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html 図表 創業支援等措置に係る計画の作成 創業支援等措置を講ずる場合には、下記の事項を記載した計画を作成すること a 高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由 b 高年齢者が従事する業務の内容に関する事項 c 高年齢者に支払う金銭に関する事項 d 契約を締結する頻度に関する事項 e 契約に係る納品に関する事項 f 契約の変更に関する事項 g 契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む) h 諸経費の取扱いに関する事項 i 安全及び衛生に関する事項 j 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 k 社会貢献事業を実施する団体に関する事項 l (a)〜(k)のほか、創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される事項 ※作成:厚生労働省 【P11-12】 65歳超雇用推進プランナーに聞く@ 長く働ける環境を整え人が集まる会社≠ヨ 当機構東京支部65歳超雇用推進プランナー 渡辺栄英(たかひで) アドバイザー・プランナー歴:2年。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタントの経験を活かし、企業への助言活動を行っている。 専門性の高い職種では業務委託による就業継続を模索  当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の活動を通して、年間70社ほどの経営者の方や人事・総務の責任者の方とお話をします。業種、企業規模はさまざまです。  高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正による70歳までの就業確保措置については、ほとんどの方が認識されているという状況です。ただ、受けとめ方には違いがあります。高齢者や45歳以上の社員が多い企業では自らの問題としてとらえており、大企業を中心として、継続雇用制度を70歳までに延長したり、70歳就業に向けて検討を始めたりといった事例が出てきています。  また、改正高齢法で初めて打ち出された創業支援等措置については、特に専門性の高い職種において、業務委託に関する関心が高まっているようです。70歳までの継続雇用制度と業務委託制度の二つの制度を導入し、選択制にすることを検討している企業もあります。  中小企業のなかには、65歳までの再雇用が終了したベテラン社員について、個別契約により65歳を超えても雇用している企業が少なくありません。ただ、個別契約だけで制度化されていないと、社員としては「自分も65歳を超えて雇用してもらえるのだろうか」と不安になるものです。  そこで、実態に即して65歳超の継続雇用を制度化し、就業規則に明記したほうがよいこと、また、明記する内容などについて助言しています。これらを行うことで、社員のモチベーションが変わってきます。 知識・スキル・ノウハウのある即戦力となる人材を確保できる  企業からよく聞かれることの一つに、「高齢者より若手の採用が重要」という声があります。若手を採用したい気持ちはわかりますが、社会全体の問題として人手不足が深刻化しているなか、高齢者雇用に取り組むことにより、知識・スキル・ノウハウのある即戦力となる人材を確保することができます。全体の戦力を落とさずにすむうえ、ベテランには信頼感や安心感があり、プレイヤーをはじめ、後進の指導、管理職のサポート役などいろいろな役割に対応してもらうことができます。  とはいえ、特に65歳以上になると、個人差はあるものの体力などの低下が顕著になり、とっさの身のこなしがむずかしくなるといったことから、業務によっては安全面や健康管理上の課題が大きくなります。  これには、例えば、一日中立ち仕事をするのがむずかしいということであるなら、ワークシェアリングで半日勤務や3時間勤務、週3日勤務などの短時間や短日勤務で柔軟に対応したり、ドライバー職であれば長距離から近距離の担当に変わるなど、職種によっていくつかの対応事例があります。これらについても、私たちプランナーにご相談いただければと思います。 年功的な賃金の仕組みを見直すチャンスと受けとめる  70歳までの雇用を推進する課題として、「人件費がかかるのではないか」ということもよく聞かれます。  年齢や勤続年数に応じて役職や賃金が上がっていく年功的な賃金制度の企業では、定年を延長すれば人件費がふくらんでしまいます。この場合、賃金体系を変えたり、年功ではなく、仕事の成果に応じた賃金の仕組みに変えるといった見直しが必要になります。  賃金制度の見直しは会社全体にかかわることであり、決断と手間がかかります。しかし、いまを改定のチャンスととらえて取り組んでほしいと思います。その際、「人件費はコストではなく投資である」という発想が大事になります。グローバル化、デジタル化、少子高齢化の三つをあわせ持つ現代は、IT化による生産性向上の一面がある一方で、人を雇用し、育てて、適材適所の人事を行うことがますます重要になっていると思います。  当機構には、企業からの要請に基づき、賃金制度などの改定に対し具体的な支援をプランナーが有料で行う「企画立案」という制度がありますので、活用していただければと思います。 高齢者雇用の取組みのスタートに管理職の気づきをうながす研修を実施  70歳までの就業確保措置を推進し高齢社員を活用していくうえで、企業に求められる取組みには、主に次のことがあげられます。 @高齢社員についての会社の方針・戦略を明確にする A高齢社員の評価・処遇制度を明確にする B高齢社員の仕事内容・就労条件を明確にする C高齢社員の能力開発・キャリア開発を行う D高齢社員が活躍するための推進体制・風土づくりを行う  Cについては、一例として、当機構の「就業意識向上研修」が有効です。企業における中高年社員と職場の活性化を支援するための研修で、職場管理者に対する研修と中高年社員に対する研修があります。  私も講師を務めています。例えば、社員100人ほどのある会社で、70歳就業に向けた制度改定にあたり、キーパーソンとなる管理職の方々に高齢者雇用についての意識を高めてもらう、就業意識向上研修を実施しました。グループ討議などにより、互いの見方や思っていることなどを知り、気づき、考えてもらうことを主体としたものです。高齢者雇用の取組みを成功させるためには、こうした研修の機会を持つことが重要だと考えます。 人が集まる職場へ高齢者雇用は企業からのメッセージ  高齢者雇用の推進は、「長く働いてもらいたい」という企業から社員へのメッセージです。社員のモチベーションを高めるための取組みであり、それが生産性向上にもつながりますので、早めに検討することをおすすめしています。くり返しになりますが、明確なメッセージを社員に伝え、制度として整備する。また、高齢社員の評価・処遇制度をきちんと整えることが特に重要なポイントといえるでしょう。  働き方が多様化しているいま、人事・総務の仕事はますますたいへんになっていますが、そのなかでより重要になっているのがコミュニケーションです。会社と社員の双方で十分に話し合い、互いに納得し、安心して働き続けられる職場環境を整えることが求められています。  「この会社でなら70歳まで働くことができる。期待され、スキルも磨ける」、社員がこう思える職場になれば、人材が出ていくことなく、他社等からよい人材を獲得することもできます。つまり、人が集まる会社≠ノなるのです。 ★ 65歳超雇用推進プランナーについては、下記のホームページでご紹介しています 65歳超雇用推進プランナー 検索 【P13-14】 65歳超雇用推進プランナーに聞くA 高齢社員と企業がともに成長し貢献しあう関係の構築を支援 当機構京都支部65歳超雇用推進プランナー 松尾安藏(やすぞう) アドバイザー・プランナー歴:22年。アドバイザー・プランナーとして、これまでに延べ約2000社に相談・助言を行ってきた実績を持つ。 65歳超の雇用は個別契約が主流70歳就業確保に向けた制度整備が課題  改正高年齢者雇用安定法(以下、「改正高齢法」)は、70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずべき措置を規定しています。しかし、努力義務のため、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の活動で私が訪問した京都府内の企業では、すでに就業規則を改定した、あるいは改定に向けて準備をしているというところはまだほとんどありません。きちんとした制度を整備することにより、企業と労働者の双方にメリットをもたらすことが期待できますから、それぞれの会社の実情にあわせて、検討を進めていってほしいとお話ししています。  一方で、訪問先の多くの企業では、65歳以降も雇用を継続されている人がいます。65歳までは雇用が義務づけられていますが、それ以降は、企業にとって必要な人材を個別労働契約により継続雇用しているのです。ただ、それらの企業から、今後は65歳以降の雇用について制度化することを検討していきたいという意向も聞いています。  そうした声に応えて、私たちプランナーは、各企業の状況に応じて70歳までの定年延長や継続雇用延長などの制度改定に関する専門的かつ技術的な相談・助言を行います。具体的には、訪問企業へのヒアリングに基づき、企業が抱えている課題を整理し、その取組みのヒントを見出します。企業からの要望があれば、より具体的な制度改善提案を行う「企画立案」や、働く側の意識啓発のための「就業意識向上研修」などを行っています。 65歳超の雇用を推進する三つのメリット  70歳までの就業確保措置は、65歳までの雇用確保とは検討すべき課題が異なります。60代前半は公的年金がまだ支給されません(現在は特別支給の厚生年金のみ63歳から支給)ので、労働者も65歳まではフルタイム勤務を希望し、ある程度の収入を確保しているケースが多くみられます。  一方で60代後半になると、体力面、健康面での個人差が大きくなり、それまで担当していた仕事の一部は、継続が困難になることがあります。加えて個々の事情から、フルタイム勤務を希望しない人も出てきます。企業としては、柔軟な働き方への対応や、新たな職域の開発などが課題となってきます。  しかし、70歳までの就業機会を確保するメリットは、さまざまです。  一つめは、労働力の確保です。経験豊富で自社の事情を熟知した社員をさらに活用できるメリットは大きいでしょう。私が訪問している小規模企業の多くでは、高齢社員が不可欠な存在です。76歳の現役の管理部長や、95歳まで製造現場で機械加工を担当されていた人もいました。会社としては「生涯現役で働いてもらいたい」というのが本音のようです。  二つめは、70歳までの雇用を推進するための職域開発や職場改善により、業務効率の向上が期待できることです。  三つめは、高齢社員に若手社員の相談役になってもらうことにより、若手社員の離職を防止できる効果も期待できます。若手社員が高齢社員と一緒に仕事をすることで、職場のコミュニケーションが促進されたという事例もあります。  また、特に中小企業では障害者を雇用していくために援助する人員の余裕がないという実情が見受けられます。そこで、経験豊富な高齢社員に障害者雇用の支援をになってもらうことも考えられます。 高齢社員の活用で大事なことは得意分野を有効に活かすこと  高齢社員を活用し、戦力化するためには、高齢社員に意欲を持って働いてもらえる制度を導入することが求められます。つまり、会社の期待を感じてもらえる制度にすることです。  例えば、定年を70歳に延ばすことは、「70歳まで正社員として責任を持って仕事をしてもらう」という会社の方針を社員に宣言したことになります。雇用制度は、会社として社員をどのように活用し、処遇していくのかということを示すものなのです。  また、会社と社員の信頼関係をしっかり築くことが大切です。そのためには、働きぶりを適正に評価することが必要です。人事評価は、賃金のためだけでなく、有効に人材を活用し、育成していくためのものでもあります。そして、高齢社員の個々の事情に配慮し、働きやすい勤務体系を導入することです。加えて、役割や責任を明確に伝え、目標管理制度を導入することや、安全管理と健康管理もたいへん重要です。  また、高齢社員の活用で大事なことは、得意分野を有効に活かすことでしょう。  ある工作機械メーカーで、機械加工に長けた技術者の方が、定年後は社内技術研修の専任講師として活躍されました。継続雇用を終了して退職後、その方は自ら会社を立ち上げ、引き続き、以前勤めていた会社の指導者をまかされているほか、顧客企業の技術研修の講師も引き受けています。改正高齢法に先駆けて、70歳を超えてなお、個人事業主として活躍されている事例です。長年のキャリアを存分に発揮して、長く勤務した会社や業界に貢献されています。 ミドル世代が70歳まで働くうえでいまから準備しておきたいこと  現在40〜50代のミドル世代が、70歳まで仕事を続けていくことを想定すると、あと20〜30年ほどの期間があります。ただし、高度経済成長の時代とは異なり、終身雇用という価値観は崩れてきています。ミドル世代のみなさんは、これまで懸命に企業に貢献されてきたと思いますが、「今後も、その延長線上の働き方でよいのだろうか」と考える機会が必要になってきていると思います。  また、昨今の経済環境の変化は非常に早く、企業はその変化に対応していかなければ存続できなくなります。したがって、労働者も変わっていくことが求められます。そこで、キャリアプランニングが重要になります。  企業には人材開発の視点から、キャリアプランの作成、定期的な見直し機会の提供、キャリアプラン実施のための支援、必要な研修の実施などが求められます。  今後、65歳を超えて雇用される人がさらに増えていくでしょう。それにともない、70歳までの就業機会確保に向けた制度整備の必要性はいっそう高まると思います。高齢社員をもっと有効に活用する仕組みを、それぞれの企業で検討されてみてはいかがでしょうか。  高齢社員と企業がともに成長し、貢献しあう関係を構築していくことが、結果的に制度をよりよいものにしていくと思います。 【P15-18】 寄稿 労働ジャーナリストから見た改正高齢法の現状と課題 労働ジャーナリスト 溝上憲文 はじめに  改正高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)が2021(令和3)年4月に施行されて1年を迎えます。高齢法は65歳から70歳までの就業機会の確保措置として、従来の雇用確保措置の雇用期間を延長した@70歳までの定年引き上げ、A70歳までの継続雇用制度(再雇用制度等)の導入、B定年制の廃止の三つの措置に加えて新たに三つの選択肢が用意されています。  一つは、(1)70歳までの継続雇用制度のうち自社や特殊関係事業主(子会社・関連会社など)以外にほかの事業主での継続雇用も可能になったことです。次に「創業支援等措置」として、(2)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度、(3)70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度(事業主が自ら実施する社会貢献事業と、事業主が委託、出資等=資金提供する団体が行う社会貢献事業の二つ)が設けられました。 コロナ禍で遅れた改正高齢法への対応企業の本格的な対応はこれから  しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による業績への影響などで高齢法の施行に向けた準備が遅れる企業が続出しました。例えば、ある建設関連会社の人事部長は「2019年後半から人事部内で現行の継続雇用制度を含めた人事制度改革の検討を始めていたが、2020年4月以降にオリンピック関連の受注が減少し、9月中間決算で業績が悪化して以来、検討がストップしている。コロナ禍以前は業績も好調で、まず定年を65歳に延長し、条件つきで70歳まで継続雇用しようという声もあったが、正直いっていまは固定費の削減やコロナ対策に時間を割かれ、高齢法への対応は優先順位が低いのが実状だ」と語っていました。  実際に日本経済団体連合会が2020年8〜9月に調査した70歳までの高年齢者就業確保措置の取組み状況によると、「具体的な対応を決定済」と答えた企業はわずかに9.1%。「対応について検討中」が43.3%、「まだ検討していない」が43.3%となっていました(「2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」2021年1月19日)。  企業が本格的に検討に着手したのは2021年4月以降です。経団連が2021年9〜11月に実施した同じ調査によると、「対応済」が21.5%、「対応を検討中」29.5%、「検討する予定」38.6%、「検討していない」10.4%となっています。前年に比べて対応済企業が増加し、検討中・検討予定も増えつつあります。「対応済」・「検討中」の企業の具体的な措置内容(複数回答)では定年引上げ、定年廃止は3%前後と低く、「継続雇用制度の導入(自社・グループ)」が94.3%ともっとも多くなっています(図表1)。  新たに設けられた選択肢では「継続雇用制度の導入(他社)」が11.4%、創業支援等措置の「業務委託契約を締結する制度」が18.7%。非雇用の業務委託契約を選択肢とする企業も少なくありません。社会貢献事業では「事業主自らが実施する社会貢献事業に従事できる制度」が3.6%、「事業主が委託、出資等する団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度」は4.7%と、いずれも低率にとどまっています。  また、今回の就業確保措置は継続雇用を含めて希望者全員を対象にする必要はなく、対象者を限定する基準を設けることが可能です。対象者基準を設ける企業は「継続雇用制度(自社・グループ)」で83.8%、「継続雇用制度(他社)」が66.7%、「業務委託契約を締結する制度」が84.6%。継続雇用や非雇用の業務委託であっても何らかの対象者基準を設ける企業が多くなっています(図表2)。  その背景にはさまざまな理由が考えられますが、人件費コストの増加に加えて、自社で実施している現行の65歳までの継続雇用制度(再雇用)に問題を抱えているという事情もあるようです。あるサービス業の人事部長は「コロナ禍で業績不振が続き、70歳まで継続雇用するにしても65歳以降の賃金は下げざるを得ない。一方、現役世代についてもすでに脱年功制に向けた見直しに着手しており、人件費全体の適正化に取り組んでいく予定」と話しています。 70歳就業でも課題となるモチベーションと処遇制度  また、現行の65歳までの継続雇用制度は年収が実質的に60歳時点の半分程度に一律に下がるうえ、管理職は役職を外れ、仕事の内容も現役社員のサポートなどの補助作業に従事しているのが一般的です。企業としては公的年金の支給の空白期間を埋めるための福祉的雇用”という意味合いも強かったのですが、しかしその結果、逆に継続雇用社員の働くモチベーションの低下が大きな問題になっています。そうした問題の解決を含め、さらに希望者全員の70歳までの継続雇用を実施することに大きな負担を感じている企業も少なくありません。  一般社団法人定年後研究所が大手企業26社の企業人事担当者に実施したヒアリング調査(「70歳現役時代に向けた企業と個人の確かな足音」2021年10月)によると、「まずは定年を65歳に延長することを検討しているが、他律的でぶら下がり意識が強い社員も存在しているので、現在のまま、単純に70歳まで希望者全員を雇用延長することは難しい」との声もあります。  対象者基準を設ける企業が多いなかで、希望者全員継続雇用を実施する企業もあります。大手機械メーカーの人事担当役員は「最大の理由は将来的な人手不足への備え。ただし現場のヒアリングでは、希望者全員にすれば新しい技術に追いついていけない人が発生し、現場の阻害要因になるため、働く意欲があり、スキルを活かしたい人に限定するべきとの意見もあった。そうした意見をふまえ、改めて60歳以降の再雇用制度についてシニアの活性化をうながすために処遇制度などを見直し、70歳までの一気通貫の制度にしていくことを確認。その結果、65歳で線引きするのではなく希望者全員でよいのではないかということになった」といいます。  60歳以降の継続雇用制度の生産性や社員のモチベーションが低下している企業は希望者全員の雇用に消極的になりがちであり、一方、同社のように将来に備えて高齢者を戦力化したい企業は、検証を行ったうえで処遇制度全体の見直しに着手する動きも始まっています。  実は65歳定年制や70歳までの希望者全員継続雇用を打ち出している企業の多くが導入しているのが、職務・役割給制度、いわゆるジョブ型人事制度です。日本の伝統的な職能資格制度は本人の能力など「人」を基準に給与を決定するためにどうしても年功的運用に陥りやすいといわれます。職務給は年齢や能力に関係なく本人が従事する職務やポストで給与が決まり、また職務を果たせない、あるいは職務レベルを超える働きをすれば、随時降格・昇格(職務変更)も実施され、給与も増減する仕組みです。運用しだいでは従来の固定的な年功給と違い、人件費を変動費化できるメリットもあります。  例えば70歳定年制を導入した通信系企業は、従来の職能資格制度を廃止し、ジョブ型の年俸制を導入しました。同社の人事担当執行役員は「年齢に関係なく正しく評価して登用し、給与も適切に配分する仕組みに変えたので、理屈としては年功カーブもない。役職定年も廃止し、高齢でも能力があれば役職に就く。70歳定年にしたことで他社の社長から『人件費が増えるのでは』と質問されるが、総額人件費を一定に保ち、30歳や65歳でも職務と成果に応じて支払っていればコストアップになることはない」といいます。  実は70歳就業確保措置を検討する企業のなかには、60歳以上の継続雇用者を対象にジョブ型人事制度を実験的に導入するところもあるそうです。年功的賃金カーブもなく、保有スキルと専門性を分析・評価し、市場賃金と連動した職務給制度を導入し、働く意欲や生産性などを検証したうえで現役世代への導入を図る予定です。 仕事の切り出しがむずかしい業務委託人材としての“能力”の視点も重要  ところで前出の経団連の調査では、創業支援等措置の業務委託契約による就労を検討している企業が18.7%もありました。前出の定年後研究所のヒアリング調査によると、「昨年(2020年)より、65歳以降1年更新の『業務委託方式』をJOBベースで本人とマッチングする運営として実験的にスタートしており、当該層の柔軟な働き方ニーズに応える運営にしたいと考えている。現時点では、『改正高齢法』への対応の選択肢の一つとして検討予定である」という企業(不動産業)もあります。  たしかに業務委託は個人事業主として契約し、いわゆるフリーランスになることで働き方の自由度が高まります。65歳以上になると健康や家族の事情などでフルタイム勤務がむずかしい人が発生する可能性も高くなります。同社以外にも柔軟な働き方の一つとして業務委託を検討している広告関連企業もあります。ただし同社の人事部長は委託できる人材は限定されるといいます。  「一つは委託する仕事の切り出し方がむずかしいこと。もう一つは外注に出すほどの専門性を持つ人がそれほどいるかという問題もある。例えば人事の分野では、会社の就業規則の改定・変更などの手続きや労働基準監督署との対応をしてもらう仕事であれば、労働法制に通じた人に業務委託できるが、どうしても人数が限定されるし、当然、希望者全員というわけにはいかない」  そもそもこれまで外部でも通用する専門性を意識的に育成してこなかったのに、65歳を機に自社以外に他社でも仕事を受注し、収入を得ていくことはむずかしく、仮に業務委託契約による就労を選択肢にしたとしても、ごくかぎられた人材になりそうです。業務委託による就労を拡大していくには、少なくとも60歳以降から専門性を意識させる仕事の与え方の工夫や、兼業・副業による外部との接点を通じて自らの市場価値を高めることが必要でしょう。  前出の経団連の調査では非雇用(雇用によらない)の措置を導入しない理由についても聞いています。それによると「雇用による措置で十分だから」が58.3%と最も多いですが、「検討に当たっての情報やノウハウが不足しているため」(22.1%)、「導入手続きが煩雑であるため」(5.7%)という理由があがっています。業務委託については厚生労働省の指針にも「高年齢者と業務委託契約を締結する場合、雇用時の業務内容および働き方と同じような業務・働き方をさせてはならない」と明記され、周知のように業務委託契約であっても労働基準法上の労働者(第9条)であるかないかは、契約形態にかかわらず実態を見て判断されます。改正高齢法の施行当初、自社の社員を業務委託に切り替えても結果的に“偽装雇用”になってしまうことを懸念する企業もありました。 社会貢献活動のノウハウが不足する企業NPOや政府・自治体との連携が必要  また、社会貢献事業に従事できる制度の場合、@自社で実施する社会貢献事業とは、本業以外のSDGsなどの活動も入り、イメージとしては自社の歴史や商品の歴史を説明するセミナー、講演会の講師、植林事業など自然再生の環境プロジェクトのボランティア活動のリーダー役などがあります。A委託・出資等する団体とは、財団法人やNPO法人など、すでに企業と一定の関係を持っている団体を想定しています。  しかしこうした活動とは無縁の企業も多くあります。現在、大手企業はSDGsなどの活動に熱心ですが、実際にNPO団体に出向している人はそれほど多くありません。仮に社会貢献活動を希望する人が多くても、実際にどういう活動をになうのかについてのノウハウなどに乏しい企業が大多数です。企業1社の力で実現することはむずかしく、NPOなど地域の社会貢献団体や政府・自治体と連携した一定の受け皿を用意していく必要があるでしょう。  就業確保措置の新たな選択肢が、社員の希望する働き方として機能するには、企業自身による社員の現役時代からの育成方針の見直しと、政府・自治体の支援が不可欠だと思います。 図表1 「70歳までの高年齢者就業確保措置」に関する具体的な措置内容(複数回答/あてはまるものすべて) n=193 70歳までの定年引上げ 2.6% 定年廃止 3.6% 70歳までの継続雇用制度の導入(自社・グループ) 94.3% 70歳までの継続雇用制度の導入(他社) 11.4% 業務委託契約を締結する制度 18.7% 事業主自らが実施する社会貢献事業に従事できる制度 3.6% 事業主が委託、出資等する団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度 4.7% 出典:一般社団法人日本経済団体連合会「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 図表2 「70歳までの高年齢者就業確保措置」の措置内容ごとの対象者基準の有無 70歳までの継続雇用制度の導入(自社・グループ) あり83.8% なし16.2% 70歳までの継続雇用制度の導入(他社) あり66.7% なし33.3% 業務委託契約を締結する制度 あり84.6% なし15.4% 事業主自らが実施する社会貢献事業に従事できる制度 あり50.0% なし50.0% 事業主が委託、出資等する団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度 あり71.4% なし28.6% 出典:一般社団法人日本経済団体連合会「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」 【P19-22】 企業事例@ コマニー株式会社(石川県小松市) 潜在的にあった「65歳を超えて働く意欲」が雇用の上限年齢廃止で表面化 パーティション業界のリーディングカンパニー  コマニー株式会社は、石川県小松市発祥のパーティションメーカー。国内27拠点のネットワークを持つ、全国に2社しかない専業メーカーの一つである。業界のリーディングカンパニーとして、オフィス、工場、医療・福祉施設、学校、空港・駅など、さまざまな分野の施設にパーティションを供給している。  前身の「小松キャビネット株式会社」は、高度成長期の1961(昭和36)年にロッカーやキャビネットなどを製造・販売する会社として設立された。キャビネット類は遠方への輸送コストが高く、不利だと感じた創業者の塚本信吉氏は、自社の持つ技術、設備、販売体制を活かせる製品を模索し、「スクリーン(衝立)」にたどり着いた。設立から4年後にパーティション事業に特化。企業名と商品のイメージを統一するために1970年に「株式会社コマツパーティション工業」に社名を変更した。同社は昭和の高度成長期において企業の職場環境づくりに貢献した。  1983年に快適機能空間づくりを目的とした間仕切り販売に転換するためにCI(コーポレート・アイデンティティ)を導入し、1984年に現在の社名に変更。社名の由来は、新しいコマツパーティション=COMATSU+NEW。社員数は連結で1252人、単体で1102人(2021〈令和3〉年3月31日時点)である。 サステナビリティを推進  経営理念の「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」を信念に、かかわりを持つすべての人が幸福になる事業運営を目ざしている。  2018(平成30)年4月にSDGs宣言を出し、SDGsを実現するための「コマニーSDGs∞(メビウス)モデル」という独自の考え方を構築。「すべての人が光り輝く人生を送るために、よりよく働き、よりよく学び、よりよく生きるための持続可能な環境づくり、人づくりに貢献する」企業像を目ざし、企業価値向上を図っている。SDGsにかかわる活動の一部として、2019年、「SDGs未来都市※」に選定された小松市と「SDGs推進に関するパートナー協定」を締結。同年、子育てサポート企業として「くるみん」認定取得、同年健康経営の取組みが認められ、経済産業省と日本健康会議が共同で選定する健康経営優良法人2021に認定されている。 65歳の雇用上限を撤廃して新たなシニアの雇用制度を導入  コマニー株式会社は2021年4月より、65歳までとしていた継続雇用の上限年齢を廃止し、新たに65歳以降の働き方の制度として「シニア社員等雇用制度」を導入した。総務統括本部人事部の小坂(こさか)律子部長と銭田(ぜんた)眞一課長に同制度について話を聞いた。  雇用の上限年齢廃止に至った背景について、小坂部長は、「少子高齢化による生産年齢人口の減少、厚生年金の受給開始年齢の段階的な引上げや、高齢者が70歳まで働ける機会を確保することを企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法改正など、高齢者をとりまく社会環境は大きく変化しています。同社の経営の理念にある『全従業員の物心両面の幸福』を実現するために、社員一人ひとりの身体的・精神的・社会的なウェルビーイング(幸福・健康)が実現することを目ざすために廃止しました」と語る。また、「人生100年時代といわれるなか、年齢にとらわれずに可能なかぎり長く活躍できる環境を築くことが、社員にとってより実りあるライフプランを描けることにつながると考えました。そこで雇用の上限年齢を廃止し、65歳以降の新たな働き方の制度として『シニア社員等雇用制度』を導入しました」(小坂部長)という。  同社では、「これまでつちかった知見や経験を活かして働くこと、また後進の育成など、一人ひとりに合った65歳以降の新たな働き方の実現に向けて、健康で意欲のある高齢者が元気に活躍し続けることができる職場、環境づくりを推進するとともに、全社員がその能力を最大限に発揮し、活き活きと誇りを持って働き続けることができる企業を目ざす」としている。  「シニア社員等雇用制度」の規程は次の通りだ。 1 「シニア社員」としての継続雇用制度 ・65歳以降、本人が希望して会社が認めた場合、雇用延長とする。参考とする条件は@健康状態、A本人の技能・能力、B本人の評価 ・通常の嘱託社員(再雇用)の賃金をベースに「契約社員」として雇用する。 2 その他の形態について(業務委託契約制度) ・職制や、必要とされる資格・スキルが求められる場合、業務委託契約とすることもある。設計など個人スキルを持って、自由な働き方をベースに同社の業務をになうことができる。  「正社員は60歳を区切りとして、65歳までを嘱託社員に切り替えていました。こうした形で65歳までの雇用確保という法律に準じていたところ、2021年4月の高年齢者雇用安定法の改正で、70歳までの就業が努力義務となりました。これを機に当社で発信した『健康、能力があればいつまでも働ける会社にしよう』というトップの言葉を旗印にし、全社員の幸福を追求するという理念、また大家族主義のような会社の風土もあって、雇用の上限年齢を廃止し、65歳以降も契約社員としていつまでも働ける会社として制度化し、大々的に社内、社員に通知しました」(銭田課長)  新しい「シニア社員」としての65歳からの働き方について、小坂部長は「65歳までの仕事に引き続き取り組むことになります。ただし、体力的な面を考え、勤務時間を柔軟にするなど自分の望む勤務スタイルで仕事を続けることが可能です。短時間、短日でも働く意思があれば、ぜひ引き続き当社でスキルを発揮していただきたいと考えています。ひいては、当社の技術の伝承をはじめ、歴史やパーティションの変遷など高齢社員の実体験から出る言葉を、若手に伝えていただきたいです」と期待する。  また、業務委託契約制度について銭田課長は「以前、現場の監督をになっていた社員が独立したいといって退職したことがありました。業務委託契約制度は、彼のように専門的なスキルを持つ人材のニーズを想定しています。独立の希望を持った人の希望を叶え、なおかつ社内でスキルを活かしてもらう新しい働き方です。必ずしも勤務して働くということだけではないというところがポイントです」と、65歳以降の働き方に選択肢が増えたことを強調する。  今回、雇用の上限年齢廃止を社内に大々的に通知したとき、65歳以降も働けるという安心感を感じた社員が多くいる一方、上限年齢という節目がなくなったことで「何歳まで働けばよいのか?」と戸惑う社員もいたそうだ。 「シニア社員等雇用制度」導入により65歳を超えても働きたい社員が増加  「シニア社員等雇用制度」を導入して、およそ1年。制度化して感じ取った変化について聞いた。「シニア社員等雇用制度により、雇用の上限年齢を廃止したことで、65歳以降も働きたいと意欲を示す人が確実に増えました。本人の意思があれば、働き続けられる環境ができたと思います」(小坂部長)、「以前、65歳以降も働くことができたのは、かぎられた社員だけでした。自分から『働きたい』といえるようになったのは、大きな成果。これまで水面下にあった希望が表面化したともいえると思います」(銭田課長)と、今回の雇用の上限年齢廃止により、65歳以降も働きたい人に対して働く機会を提供できたと口を揃える。また、「制度として働けるなら」といった潜在的にあった「働く意思」の掘り起こしにつながったとみている。  1年経ったいまのところは、まだ手探りの部分が多いが、今後さまざまな事柄を明確にしていきたいという。検討している取組みの一つは、評価制度だ。65歳以降の評価制度を確立し、働きぶりを給与、賞与に反映する仕組みにする。これを高齢社員のモチベーションアップにつなげたいと考えている。  そして、60歳から勤務コースを選べる制度を導入し、多彩な働き方を提示したいとも考えている。現在は、勤務形態については個別に対応しているが、例えばAコース、Bコース、Cコースなどを設け、それぞれ、勤務内容、給与を明確に体系化し、社員はコースを選択することで「自分はこう働きたい」と意思表示ができるような仕組みを検討中だ。働き方を大きく整理して社員に示し、社員が自ら選んで働き方を決めていく。そんな社員主体のキャリア設計を可能にすることが理想だ。「週三日働ける人がいれば、フルタイムで現役同様にバリバリ働きたい人もいるかもしれません。働きたい人たちに対して、よい報酬を出せるコースがあってもよいと考えています。これもモチベーションの一つになると考えています」(銭田課長)  今後の課題について、銭田課長は労務費だと指摘する。雇用の上限年齢がなくなり、だれもが上限なく働けるようになると、65歳以上の社員が増え、会社全体の労務費が増加することは必至だ。  「現在の60歳到達者は年間10〜20人ほどで推移していますが、この先バブル期に入社したボリューム層が60歳、65歳を迎えると年間の到達者は倍以上になる予測をしています。その前に高齢社員の働き方をより明確にする必要性を感じていると同時に、新卒も採用しつつ、全体がバランスよくまとまった会社の賃金構造を考えていかなくてはならないと感じています」(銭田課長)  そして、社員の高齢化に向けた安全な職場づくりも気になるところだ。「65歳以降も同じ仕事を続けるということになりますから、体力や身体機能の低下による健康問題や、安全対策も課題です。いまは健康診断の結果を注視し、健康管理に努めるよううながしています」(銭田課長)と、会社として健康と安全に留意していると説明する。 サステナビリティの取組みで高齢社員も働きやすい職場に  ここで同社が行っている、高齢社員をはじめとする社員のための働きやすい職場環境づくりについて紹介する。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)活動を推進する同社は、高齢者や女性、障害者といった多様性のある社員一人ひとりの個性や属性の違いを尊重し、相互に緊密なコミュニケーションのもとその多様性を受け入れ、活かすことができる組織風土を醸成している。  ならびに、製造部門ではQC(クオリティ・コントロール、品質管理)のために、工場で働く社員が各部門においてチームをつくり、社員自身で生産効率を考えるという活動を盛んに行ってきた。女性活用の観点で実施してきた働きやすい職場づくりが、高齢社員の働きやすさにもつながっているという。  製造統括本部の加工二課に配属された女性社員4人が、パート社員や高齢社員がいつ就業しても、すぐ作業できるような環境づくりと、体力面の負担を減らすための取組みを行った。曲げた部材を低い位置から持ち上げる作業は腰に負担がかかり、また作業台への移動も体力を必要としていることに着眼し、解決策として作業台を加工して部材をスライドさせて移動する方法を取り入れた。  そのほか、重い工具をだれでも持ちやすい軽量のものに変更するなど、同課の取組み同様に、それぞれの課で意見を出し合って環境整備が実施されている。  社員に対するサステナビリティの取組みの一つとして、2021年7月に、小松本社の工場内に大型シーリングファン2基を導入した。夏場の工場内作業における環境改善を図るための取組みだ。  大型シーリングファンは、少ない力で広範囲に大きな風を発生させることができ、夏場は作業中の体感温度を下げ、熱中症のリスクを低減させるだけでなく、冬場の暖房対策にも効果があるなど、地球環境への配慮も同時に実現が可能になるという。現在は、他エリアの工場への導入を進めている。 バランスのとれた年齢構成が職場を活性化させる  最後に高齢者雇用について銭田課長は次のように語った。「能力は60歳、65歳でなくなるわけではありません。それまでつちかってきた経験はとても大事なものだと思います。それを活かせる場を会社が提供することで、65歳以降も自身が満足できる人生を送れることになると思います。社員一人ひとりをサポートできる会社になれたらと思います」。  続けて小坂部長は、「ベテランの方と一緒に働いていると、学ぶことが本当に多いものです。高齢社員の方々の当社で働き続けたいという思いと、私たちも彼らと働きたいという思いがあって各課のチームが成り立っています。若年層から高年齢層まで年代的なバランスもちょうどよい状況です。これからは社員一人ひとりが働き方を選択していけるような環境を整えていきたいです」と展望を語った。  同社は多様な人材が一緒に働くなかで、さまざまな価値観や考え方、発想からイノベーション(革新)が生まれることをねらっている。これからも社員が活き活きと働く職場づくりを目ざし、安心・安全で、快適な職場整備と職場風土の改革に取り組んでいく。 ※ SDGs未来都市……内閣府が推進するSDGsを原動力とした地方創生にあたり、優れたSDGsの取組みを提案する自治体を「SDGs未来都市」として選定している 写真のキャプション 総務統括本部人事部の小坂律子部長(右)、銭田眞一課長 【P23-26】 企業事例A 株式会社百五銀行(三重県津市) 70歳雇用の環境整備で、従業員の満足度が増しエンゲージメントの向上にもつながる 「フロンティア・バンキング」を掲げ、進取の精神に富んだ社風  株式会社百五銀行(三重県津市)は、三重県、愛知県を中心に143か店(2021〈令和3〉年3月31日現在)、海外にも2拠点を展開する三重県最大の金融機関で、地方銀行の厳しい環境のなかでも、店舗の効率化や既存業務の見直しなどによって、足元の業績は堅調に推移している。  人事制度でも、さまざまな施策に取り組んできた。高齢者雇用では、70歳までの就業機会確保を努力義務とする高年齢者雇用安定法の改正に合わせて、2021年4月に、65歳までの継続雇用後に、70歳まで再々雇用する制度を導入した。  いままで同行は、高年齢者雇用安定法の努力義務規定に対応する形で、高齢従業員の雇用制度を整えてきた。1985(昭和60 )年に定年年齢を現行の満60歳に延長、1992(平成4)年には定年後の継続雇用制度である「シニア行員制度」を導入した。スタート時の「シニア行員制度」では、63歳までフルタイムで、以降65歳までは短時間勤務という制度だったが、2006年の65歳までの雇用確保の義務化のタイミングで、65歳までフルタイムまたは短時間から選択できる制度に改定した。2013年には、年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げに対応して、その部分を補填する形の「シニアライフ充実手当」を創設。シニア行員のモチベーション向上のため、業績評価の導入とともに、いままでの定額の奨励金に代えて、賞与の支給を開始した。  現在、全従業員2380人(パートタイマー除く)のうち80人ほどがシニア行員。その6〜7割の人が本部で、ローンの審査業務や営業店の業務監査、営業店の事務指導などの業務に就いている。人事部人事課の生野(しょうの)哲也(てつや)さんによれば、「いままでつちかってきた自分のキャリア、経験を本部のエキスパートとして活かしてもらっている」という。残りの3〜4割のシニア行員は、現場の営業店で一般事務をになっている。グループ会社を含めると約150人がシニア行員として業務に従事している。 ゆとりのある生活再々雇用制度の働き方と処遇  今回導入した再々雇用制度は、65歳のシニア行員終了から、70歳までの雇用を確保するもの。アシストスタッフ(パートタイマー)の枠組みを活用して、パートタイマーの雇用上限を満65歳から満70歳到達月の月末まで延長するとともに、満65歳を迎えたシニア行員をアシストスタッフとして満70歳まで再々雇用する。シニア行員は月給制だが再々雇用では時給制となる。働き方は、週5日、1日7時間のフルタイムまたは勤務日時・時間を希望に応じて調整するショートタイムで、いずれも自由に選択することができる。  「非常に柔軟な制度を用意しましたが、意欲的に働きたいという人が多く、フルタイムの割合が高いですね。ショートタイムを選ぶ人は、介護やご自身の体調などの事情に合わせて選択しています」(生野さん)  制度化の前から、シニア行員のなかから、会社が引き続き残ってほしい人については、運用でパートタイマーとして継続雇用していたが、今回、正式な制度として確立された。  現在、約1000人いるパートタイマーについては、2013年の労働契約法改正に対応して、同法に基づき無期雇用となる無期雇用転換制度を導入。あわせて、このときに雇用上限年齢を65歳に定めていた。  元からパートタイマーだったアシストスタッフと、シニア行員からの再々雇用者との処遇の違いは基本的にはないが、再々雇用者の場合は業務を承認する検印権限を付与されるケースがあり、その権限に対して時給が上乗せされる。この権限給相当分は時給に換算すると約200円で、一日7時間、月20日働くとすると、3万円程度。年間では30万円強の上乗せとなる。また、アシストスタッフにも評価の仕組みが設けられており、評価は奨励金(一時金)に反映されるが、その幅は5000円〜1万円と大きなものではない。厳密な評価制度というよりも、面談によるコミュニケーション促進やモチベーション醸成がねらいだ。  現役時代からの年収の変化は、「55歳到達時の資格により異なりますが、給与の平均値として役職定年55歳の直前を100とすると、役職定年で7割程度となり、60歳定年後のシニア行員になって、6割程度になります。さらに、再々雇用でシニア行員の6〜7割になるイメージですが、再々雇用の期間は厚生年金と基礎年金に加えて企業年金を受給する想定で老後の生活費に対して、十分な収入を確保できると思います」(生野さん)としている。 ダイバーシティ経営の柱の一つとしての取組み  法律の努力義務化の段階で、先取りして制度設計を行ってきたことについて、生野さんは「国の政策に対して、前向きに取り組んでいくということと、従業員に極力配慮した人事制度を構築したいという考え方が基本的な社風になっていると思います。当行にはダイバーシティのような社会の新しい動きに柔軟に対応していく社風があります。ダイバーシティ経営に積極的に取り組むなかで、高齢者の活用と女性の活躍が二つの大きな柱になっています」と説明する。 年齢構成の比重と今後の制度整備の必要性  60歳定年を迎える前に、定年後の仕事の希望・ニーズについて、聞き取り調査を行っている。ほとんどの人が、いままでやってきた慣れている分野の仕事を希望するという。  現在の平均年齢は約40歳。「男女ともに全体的な年齢バランスはとれているが、現在50代前半の層が厚く、5年後、10年後を考えると、役職定年・定年を迎えるミドル・シニア層が大幅に増えることから、高齢従業員の雇用制度を整えることがより重要性を増していました」(生野さん)  金融業界では珍しくないが、百五銀行でも、すべての人が定年まで銀行本体で働くというイメージは持たれていない。55歳の役職定年を境にして、約半分が関連のグループ会社や外部の企業に転籍する。もっとも層が厚いいまの50代が、55歳役職定年、60歳定年を迎えたとき、転籍を簡単に増やすことができないことを考えると、銀行本体に残る高齢層が増えることが想定される。このようなことからも、高齢者雇用について、制度整備を進める必要性が高かった。 これからの10年に向けて業務権限の付与と副業制度の導入  「これから10年先を考えると、シニア行員はいまの2〜3倍となり、効率化などで銀行の総人員が減っていくなか、ミドル・シニアの占める割合が非常に高まります。高齢者雇用という社会的要請はもちろんですが、企業にとっても、高齢従業員をチームの戦力として活躍できる職場環境づくりを行っていく必要があります」(生野さん)  高齢従業員の戦力化に向けた仕掛けも、再々雇用制度には仕組んである。「今回制度化した65歳以降の再々雇用では、通常のアシストスタッフ(パートタイマー)では想定されていない業務上の権限である検印権限を持たせて、現場でのリーダー的役割を期待しています」(生野さん)という。  2021年8月には、申請により副業を認める制度を導入した。銀行が認めた場合に、個人事業主型の副業ができる制度であり、講演や翻訳など保有資格を活かした副業や趣味・特技を活かした副業を想定している。本制度の導入により、多様なキャリア選択肢のもと、従業員自らが望むキャリア形成をできる環境を整えた。 再々雇用制度の評価  再々雇用制度に対する、シニアの反応を見ると、「昨年4月に再々雇用制度を導入し、65歳を迎えた方の6〜7割が継続して働くことを希望しています。意識調査でも、大半が65歳以降も働きたいと回答しており、好印象で受けとめられていると思います」(生野さん)  シニアがアシストスタッフとして、権限を持って働くことに対する、現役世代の反応はどうだろうか。「仕事を奪われるといった感覚はないと思います。人手が足りないこともあり、業務を承認する検印権限のある人が増えることは、現場としてもウエルカムでしょう。検印できる高齢従業員が増えたからといって、若手の昇格を止めるわけではありません。高齢従業員自らがつちかってきたキャリアやノウハウをうまく若手に伝承していってもらえれば、ありがたいですね」(生野さん)という。 働き方改革と新たな業務の可能性  ミドル・シニアの比率が高まるなか、生野さんは「健康経営に積極的に取り組んでいます。その重要性は今後、ますます増えていきます」と話す。働き方改革でも、労働時間短縮に取り組んでいる。かつて21時、22時の終業は珍しくなかったのが、現在では、時間外労働時間の平均が月14時間程度と大きく改善しているという。労働時間の短縮は、高齢従業員を活用するうえでも、大きなアドバンテージとなるだろう。  高齢者雇用をめぐる、グループ会社を中心とする転籍については、先に触れたが、ほかの民間企業への転籍については、後継者や経営幹部を求めている企業に対し、希望に合致する人材が同行のシニア人材のなかにいた場合、コンサルティング事業の一環としてその人材を紹介し出向させ、双方の希望が合致した場合、出向勤務を経て、同社に転籍を行う。転籍した後は、同社の社員として同社の経営の中枢をになうこととなる。また取引先の人材ニーズに合わせて、人材紹介業者などと連携して、人材紹介を行うコンサルティング業務にも力を入れている。 ミドル・シニア層に求められる役割  この先10〜15年で、ミドル・シニアの全体に占める割合が大きく伸びるとすれば、高齢従業員の仕事の内容や配置について、従来と同じ考え方では、効果的に業務を運営することがむずかしくなることも考えられる。生野さんは、「シニアの占める割合が高くなれば、従来とは違った対応が必要になるでしょう。いままでは、希望した仕事を、そのまま続けてもらうことができたかもしれませんが、これからは、仕事の幅を広げて、大きく異動するような環境を整えなければならなくなると考えています。シニアの職務開発が課題です。稼いでくる営業業務は現役がメインの仕事で、それらのサポートと後輩指導の役割をミドル・シニアがになえればベストだと思います」という。  雇用上限年齢を70歳に引き上げたことは、従来の人事制度の枠組みにも大きな影響を与えている。55歳の役職定年から、後ろが大きく伸び、段階的に処遇が下がっていくなか、モチベーションを維持したまま、働き続けられる仕組みづくりが重要だと考えている。  企業にとって、高齢従業員が長く働くことのメリットについては、「高齢従業員の長い職務経験から得られたノウハウを活かすことができ、それが若手に伝わっていくというのが大きなメリットです。銀行業務はゼネラリスト的なスキルなので、かえってその知識や経験は色あせずに、戦力として次の若手につないでいけます。長く働けることで、自社に対する愛着が増すでしょうし、働くモチベーションにもなる。65歳以降も働ける環境を整えることで、働く人の満足度、エンゲージメントの向上にもつながります」(生野さん)と強調する。 図表 高年齢者雇用安定法と高齢者雇用制度の変遷 年 法律 百五銀行の高齢者雇用制度 1971年 中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法制定 1986年 高年齢者雇用安定法に名称変更60歳以上定年の努力義務化 1985年 定年を60歳に延長 1990年 希望者を対象に定年後の再雇用を努力義務に 1992年 シニア行員制度新設 フルタイム:63歳まで ショートタイム:65歳まで 1998年 60歳以上定年の義務化 2000年 65歳までの雇用確保を努力義務化 2006年 65歳までの雇用確保を義務化(対象者限定可能) 2006年 65歳までの継続雇用制度導入 2013年 希望者全員の65歳までの雇用を義務化 2013年 シニアライフ充実手当の導入賞与支給開始(業績評価の実施) 2021年 70歳までの就業確保の努力義務化 2021年 シニア行員再々雇用制度アシストスタッフ定年70歳 提供:百五銀行 写真のキャプション 人事部人事課 生野哲也さん 【P27-30】 企業事例B 社会医療法人財団 董仙会(石川県七尾市) 全職員の賃金体系などを見直し上限年齢なく正職員として働ける制度を導入 最先端のITを活用しながら医療・介護・福祉の事業を展開  社会医療法人財団董仙会(とうせんかい)は、「いつでも、誰でも、たやすく安心して診療を受けられる病院にする」の精神にのっとり、1934(昭和9)年に神野病院として創立した恵寿総合病院(石川県七尾市)を核として、能登地域を中心に介護老人保健施設やデイサービスセンター、小規模多機能型居宅介護事業所など多数の事業を展開する複合体グループである。  質の高いサービスの提供を目ざして常に新しいことに挑戦しており、2000(平成12)年の公的介護保険導入時には全国初となる医療・介護コールセンターとして、「けいじゅサービスセンター」を開設した。2002年には電子カルテシステムを導入し、現在では同法人すべての施設の情報が最先端のITシステムで統合されている。このことにより、すべての患者、利用者のカルテが、一人一つのIDで情報共有可能となった。  同法人で働いている職員数は医師70人、看護師400人をはじめ、1300人以上。能登地域の医療法人としては最大規模を誇る。 すべての職員の定年制を廃止60歳以降、三つの選択肢を用意  2021(令和3)年7月、人生100年時代を見すえた「人生100年プロジェクト」の一環として、すべての職員の定年制を廃止した。「人材確保といつまでも元気に働く体制をつくること」がねらいだが、定年制だけではなく、全職員を対象とする就業規則、退職金支給規程、給与規程の一体的改革として進めている。  医師や看護師などの専門職には、もともと高年齢になっても仕事を続ける人が多いが、同法人ではさらに、職員が長く活躍できるように、以前からキャリアチェンジに力を入れてきた。例えば、管理栄養士がケアマネジャーになる、助産師が医療安全管理者になるというように、働きながら職種の幅を広げ、長い職業人生を自分に適した職種、働き方で存分に力を発揮できるように後押しをしている。また、60歳以上の職員の雇用にも以前から積極的に取り組んでいる。  その結果、60歳以上の職員数が年々増えており、2019年には約140人であったが、2021年には約180人となった。  そこで、年齢の制限なく、職員がキャリアを最大限活かすことができる仕組みづくりとして、定年制の廃止を実現したのである。  定年制廃止の考えは、同法人の神野(かんの)正博(まさひろ)理事長が2017年ころから打ち出していたという。  定年制廃止に関する取組みの中心をになってきた同法人の進藤(しんどう)浩美(ひろみ)本部長は、「現在は毎年新規学卒者の採用ができていますが、生産年齢人口が大幅に減少していくなかで、いずれ人材確保が見込めないとなったとき、事業の縮小を考えなくてはいけなくなります。そうならないために、60歳を超えた方々にもなるべく長くがんばってもらおう、という考えが始まりでした」とふり返る。  「人生100年プロジェクト」と名づけた取組みは、2019年から具体的な制度設計の検討が進められた。不利益が生じないよう、1000人ほどの職員のモデルで試算を重ねるなどして作業を進めていき、ある程度内容が固まったところで役職員、労働者代表、組合への説明会を行った。何度か説明会を行いながら、ブラッシュアップして内容が定まり、2021年春から全職員への説明会を開催して7月に制度開始となった。  従来、同法人の制度では、60歳で定年退職し、以降は希望に応じて、嘱託職員として、責任や時間の度合いによって、フルタイムまたはパートタイムの働き方を選択することができた。例えば、フルタイムの嘱託職員でも「夜勤、日曜日の勤務はしない」や、パートタイムの嘱託職員の場合「1日4時間勤務にする」など、それぞれの希望や事情を考慮して働き方を決めることができる。  今回の定年制廃止は、従来のフルタイムの嘱託職員とパートタイムの嘱託職員の選択肢のほかに、「60歳以降も正職員を継続する」という選択肢を増やしたものだ。  新制度では、「60歳」を、これからの働き方を考える「キャリアポイント」と位置づけた。60歳までを「ファーストステージ」、60歳以降も正職員を継続する場合は、「セカンドステージ」と区分した。セカンドステージは、60歳までと同様に勤務するが、責任は軽減され、基本的に役職は外れる(一部例外あり)。  一方、セカンドステージの道を選ばず、60歳以降は嘱託職員として、フルタイムまたはパートタイムとして勤務を続けることも選択できる。 賃金体系・評価制度も再整備働き方の違いによって明確に分ける  定年制廃止にあわせて、賃金体系の見直しも行った。従来、定年後再雇用で嘱託職員として勤務する場合、勤務制限なしで夜勤などを行う職員も、夜勤や土・日勤務も行わないなど勤務制限をする職員も、嘱託職員として賃金体系は同じであった。また、60歳までに比べて、給与は一律にダウンしていた。  しかし、定年制を廃止して「セカンドステージ」という正職員として新たな区分をつくったため、定年後の嘱託職員とは異なる賃金体系を創設。また、60歳を超えて正職員でいることのメリットとして、セカンドステージの正職員には業務手当(責任度合により3段階設定)、正職員と同等の賞与を支給する。  人事評価制度も再整備して、正職員はファースト・セカンドともに「目標管理評価」があるが、契約・嘱託職員にはこの評価はない。「資格要件評価」は、「ファーストステージ」、「セカンドステージ」、「契約・嘱託」の3区分に分けて設定。それぞれの違いを明確にした。  そして、従来はなかった「健康評価」を新たに加えた。「ファーストステージ」と「60歳前の契約・フルタイム・パートタイム」に対しては「注意喚起のみ」だが、「セカンドステージ」と「60歳以降の嘱託・フルタイム・パートタイム」に対しては、@二次検診、特定保健指導等の完了を報告することが必要、A集中力等集団検査結果が年齢不相応の場合は個別検査を受けその結果を報告することを評価項目としている。  雇用の上限年齢は定めていないが、60歳以降は1年ごとに人事評価の結果をふまえて上長と本人とで毎年面談を行う。そのなかで翌年の勤務内容を互いに納得のうえ、現状と同じにするか、セカンドステージから嘱託へ、あるいはパートタイムへと変更するか決定する。 退職時は、60歳までの退職金にセカンドステージ功労金をプラス  退職金は、60歳までのファーストステージ退職金に加え、セカンドステージ功労金が60歳以降の勤続年数に応じて付与される。つまり、セカンドステージの正職員として長く働くほど功労金が増えて、生涯賃金が増えるという仕組みだ。  同法人では確定拠出年金制度を導入しているため、セカンドステージを選んだとしても、確定拠出年金(ファーストステージ退職金の6割程度)は60歳以降に受け取ることも可能であり、職員自ら運用することもできる。このため最近は、福利厚生の一つとして、これらの運用方法を学ぶ研修の機会を設けている。  また、定年制廃止により多くの職員に長く勤務してもらうため、「生涯賃金を増やす」という観点から、すべての職員の賃金体系の見直しを進めている。  すでに取り組んでいるのは、「初任給の引上げ」(2021年度は主に介護職を引き上げ)、「本給の見える化」、「各種手当の見直し」である。  手当については、「労働の対価」という考え方をもとにして見直しを始めた。例えば、夜勤手当や資格手当、赴任手当は増額し、労働の対価ではない住宅手当や扶養手当は廃止する方向だ。  進藤本部長は、「当法人の職場には女性職員が多く、お互いさまという思いを大切にしており、例えば、子どもがいない職員は、産休や育休を取っている職員の勤務をカバーしてくれています。しかし、その労働に対する手当はありません。こうしたことをふまえて、多様性の時代ですから、『労働の対価としての手当』という考え方に移行していきます」と各種手当を見直す理由を明かした。 セカンドステージへの移行時に「リフレッシュ30日休暇」を付与  セカンドステージを選んだ職員には、年次有給休暇とは別の特別休暇として「リフレッシュ30日休暇」(有給休暇)が付与される。  「60歳を機に一度休みたい、という思いを持った職員が多いことから設けた制度です。セカンドステージへ移行する際、連続して30日の休暇を1年以内を目処に取れるようにしています」(進藤本部長)  また、全職員を対象とした「フリープラン休暇」という制度もある。医療や介護、福祉職はまとまった休暇が取りにくいという状況から、年次有給休暇を5日間、土・日を含めると一週間の連続休暇が取れる制度である。 健康経営とDXを推進して働き方改革を促進する  職員が健康で長く働き続けることができる職場づくりに向けて、「健康経営」の取組みにも力を入れている。  経済産業省が健康経営を実践している法人などを顕彰する制度の「ホワイト500」の認定を2018年に受けており、連続して認定を更新している。「ホワイト500」は、健康経営優良法人のうち、規模の大きい企業や医療法人を対象とした大規模法人部門の上位500法人が認定される。  董仙会では例えば、看護、介護の現場における腰痛予防対策として、3年前から「ノーリフトケア(持ち上げない介護)教育」を導入している。また、最新の福祉用具や介護ロボットを計画的に導入している。  メンタルヘルス対策では、365日24時間、専用フリーダイヤルで臨床心理士や産業カウンセラーが電話やWebでカウンセリングする「恵寿こころの相談室」を委託により開設した。  2021年には、「けいじゅ健康保険組合」を設立。職員の病院受診結果・健診結果を自分のスマートフォンなどで管理し、未病・予防につなげていくためのアプリの活用を職員に促進している。  また、55歳以上の職員への取組みとして、骨密度検査の実施も開始した。  同法人には、もともと新しいことにチャレンジする風土がある。過去には、2006年に医療記録と介護記録の統合を図った医療介護統合型電子カルテの導入、2019年にAI問診システムを導入するなど果敢に最新システムを取り入れ、働き方改革につなげてきた。  「導入当初は、タブレット端末の扱いなどに慣れていない高齢職員をカバーしながら使い始めましたが、10年ほど前からは、ほとんどの職員が申し送りなどをタブレットで行っています。当初は戸惑っていた職員も、いまでは最新設備や新システムは、『より簡単になる』、『より作業がしやすくなる』ものと受けとめるようになっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)と健康経営は、根本的に生産性を上げるものであり、働き方改革につながっています」と進藤本部長。人生100年時代の働き方を構築していくため、今後もDX化を進めていく方針である。 定年制廃止以降、退職者が減少長く働ける職場づくりを続ける  さまざまな苦労があったようだが、進藤本部長は取組みのポイントを次のように語っている。  「60歳以降の正職員が増えて人件費の増額が見込まれる分、何かを減らすことを考えなくてはいけなくなります。当法人では人件費の総額を変えずに、賃金体系などを見直すことでやりくりをしました。また、若い職員は60歳まで勤め続けるという感覚が薄らいでいるという変化をふまえ、がんばった分しっかりと配分する賃金体系にすることも考慮して取り組みました」  1300人超の職員のうち、毎月1〜2人が60歳になるという。定年制廃止を開始した7月から12月までに10人が60歳のキャリアポイントを迎えた。「全員がセカンドステージを選択しました。まだ始まったばかりですが、前制度より退職者が減っています。今後も新制度の評価を行い、職員に周知しながら、また次の取組みを考えていきます」  60歳以降の職員については、「負担なく長く働き続けられる」ように、新しい仕事をつくり、キャリアチェンジの機会を増やしたいという。例えば、病棟から検査室への患者の移動を補助する人材として、「アシストクルー」(仮)という役割を考えている。看護職が専門的な業務に集中しやすいようにアシストする仕事だ。  董仙会では、全職員が元気に長く働ける職場を目ざして新たな挑戦を続けている。 写真のキャプション 進藤浩美本部長 AI問診システム。このシステムの採用により、1回あたりの問診時間が平均約6分間短縮された 【P31】 『70歳雇用推進事例集2022』のご紹介  2021(令和3)年4月1日より改正高年齢者雇用安定法(以下、「改正高齢法」)が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講じることが努力義務となりました。当機構では、これまで「65歳超雇用推進事例集」を3冊にわたり作成してきましたが、今般、法改正を受け「70歳雇用推進事例集」に名称を改め、「70歳雇用推進事例集2022」(以下、「70歳事例集」)を作成しました。  70歳事例集では、70歳までの就業機会を確保する措置のうち、@70歳以上の定年制、A70歳以上の継続雇用制度、B定年制の廃止を実施した20事例を紹介しています(雇用以外の措置である「創業支援等措置」に関する事例は未掲載)。 ・70歳事例集の特徴  70歳事例集には次の特徴があります。 (1)導入した制度、業種、地域、従業員規模などの観点から多様な事例を取り上げていること (2)興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置き、キーワードで整理をしたこと(過去3冊の「65歳超雇用推進事例集」の「事例一覧」も掲載) (3)各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況(年代別の従業員数など)を表により整理したこと (4)70歳までの就業機会確保措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを取り上げたこと  このほか、雇用制度改定の背景や、賃金・人事管理などについて詳しく取り上げているほか、高齢従業員戦力化のための工夫や、健康管理・安全衛生などの取組みについても、写真や図表を用いながら紹介しています。 70歳事例集は当機構HPより無料でダウンロードできます 【P32】 「70歳雇用事例サイト」のご案内  「70歳雇用事例サイト」(以下、「事例サイト」)は、当機構が収集した高齢者の雇用事例を、インターネット上で簡単に検索できるウェブサイトです。  掲載されている事例は122事例(令和4年2月時点)。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」や、「雇用推進事例集」で紹介された事例を事例サイトに掲載しております。  また、2021(令和3)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。そのため、70歳以上まで働ける企業≠ニして、「70歳以上継続雇用制度の有無」や「70歳以上継続雇用有りの場合の継続雇用内容」で事例を検索することができ、業種や定年年齢、従業員数や地域などによる検索も可能となっています。  このほか、事例サイトでは、当機構が開催するイベントの案内や研究資料など、高年齢者雇用に関連した情報も掲載しています。  今後も当機構が提供する企業事例情報を随時公開いたしますので、ぜひご活用ください。 事例サイトは、こちらのQRコードからご覧いただけます。 写真のキャプション フリーワード検索や条件検索などで、検索可能です 【P33】 日本史にみる長寿食 FOOD 342 豚肉が支える生涯現役パワー 食文化史研究家●永山久夫 「八十の手習い」の時代が来た  江戸時代、元気で活発なお年寄りのことを「老翁(ろうおう)なお若し」といいました。  老翁は年老いた男のことで、高齢になっても仕事をしていて、まだまだ壮年のようだという意味です。  「老人は年々老いて、年々賢し」という場合もあります。「年を取れば取るほど、いろいろなことを学習したり、経験をして、年々賢くなる」という意味であり、まことに理想的な加齢といってよいでしょう。  極めつきは次のいい伝え。このなかには、現代人にこそ必要な長生きするための知恵が伝えられています。  「八十の手習い、九十の間に合う」というもの。八十歳になってからでも、将来役に立つようなことを学習しておけば、実際に九十歳になってからでも、自分の夢を実現するうえで役に立つという内容です。  江戸時代になると、世の中は平和となり、豊かになって、夢を持つ人が増え、現在と同じような長寿社会になっていました。長生きのご隠居さんが増え、八十歳、九十歳になっても仕事を続け、夢を持つ老人がたくさんいたのです。  「恐るべし江戸のご隠居さん」ではありませんか。江戸は、実は生涯学習社会であり、生涯現役社会だったのです。 最強のメニューは豚肉のショウガ焼き  私たちも負けてはいられません。現代の日本人は世界トップクラスの長寿民族。これからは「九十の手習い、百歳の間に合う」でいきましょう。  生涯現役で仕事をこなしながら、長生きを楽しむために欠かせないのがタンパク質。若さを維持するうえで重要な栄養であり、肉類にたっぷり含まれています。そのなかでも特に積極的に摂りたいのが豚肉です。  豚肉は動物性タンパク質が多く、そのタンパク質を分解してアミノ酸に変え、筋肉や血液、免疫細胞をつくるうえで不可欠のビタミンB6も豊富に含まれています。  さらに疲労回復効果のあるビタミンB1もたっぷり。老化を促進する活性酸素を除去する働きのあるビタミンB2やビタミンEもふんだんに含まれており、超高齢化時代を乗り切り長生きするためにも理想的な食材といってよいでしょう。最強のメニューは豚肉のショウガ焼き。今夜あたりいかがでしょうか。 【P34-35】 江戸から東京へ [第113回] 縁切り寺縁起 千姫(せんひめ)と天秀尼(てんしゅうに) 作家 童門冬二 尼になった秀頼(ひでより)の娘 政略結婚は男側の事情で女性がその犠牲になることが多いが、徳川千姫はその典型だ。関ケ原合戦(一六〇〇年〈慶長五年〉)が済んでまもなく、徳川二代将軍徳川秀忠の娘・千姫は、祖父・家康の意向で、豊臣秀頼(秀吉の子。秀吉はすでに死没)の妻になった。このときまだ七歳。夫になる秀頼は十一歳である。  秀頼の母・淀殿(よどどの)は、千姫の母・お江(ごう)の姉だ。そのため、はじめのうちは可愛がられた。が、家康の天下への野望(天下の権は徳川家の世襲とする)が明らかになると、淀殿の態度が変わりさかんに千姫をイビった。当然、淀殿が支配する大坂城大奥の女性たちもイビリに参加する。  そのくせ大坂の陣(豊臣家と徳川家の大合戦)のときには、  「家康殿と秀忠殿の所に行って、淀殿と秀頼様の助命を嘆願してきなさい」  と強制された。千姫はこの指示に従った。が、祖父も父も会ってくれなかった。父に至っては、  「一度嫁に行った身だ。夫と運命をともにしろ」  と、およそ親らしくない言葉を投げつけた。大坂城に戻ってこのことを伝えると、  「この役立たず!」  とののしられた。徳川軍の砲撃が激しくなり、秀頼と淀の母子は自決を覚悟した。秀頼はやさしいので、側近の武士に、  「千姫を城の外に連れて行き、徳川勢に引き渡せ」  と命じ、自身は、  「千、さらばだ」  と自決のために櫓(やぐら)に登って行った。  城外に出た千姫は家康のはからいで江戸に戻った。やがて本多忠刻(ただとき)という大名の妻になったが、夫はまもなく死んでしまった。つくづく自分の薄幸を悲しんだ。父の非情さに怒りもした。そんなとき、あるうわさを聞いた。  「豊臣秀頼の娘が、生きのびて鎌倉の寺にいる」  というのだ。千姫の胸に火がともった。見当がついた。秀頼が側室に産ませた子だ。千姫は、  「身寄りがないのなら、私の養女にしよう」  と思い立った。とにかく会ってみようと鎌倉に行った。娘のいる寺は東慶寺(とうけいじ)だった。娘はしっかりしていた。どことなく秀頼に似ている。娘は、  「もはや自分の幸(さち)など考えず、苦しんでいる女の人の救済に生涯をささげます」  と、けなげな決意を告げた。千姫は心強く思い、  「立派です。その志で生きぬいてください」  と励ました。住持(じゅうじ)に会い、娘を養女にすることを告げた。そして、  「女人救済のために努力させてください」  と頼んだ。住持はよろこんだ。そして自分は老齢なのでいずれ娘にあとを継がせます、と約束した。二人の知恵で、秀頼の娘は「天秀尼」と命名をされた。秀の字は、娘の父秀頼を偲ぶもので、秀忠ではあるまい。  しかし世間には「秀忠の孫だ」と思わせたほうが寺の力を補うのに役に立つ。住持もそのへんは心得ていた。 縁切り寺にもなる  手続きが終わって千姫はホッとした。秀頼の妻になって以来のモヤモヤが消えたように思えた。天秀尼の云った、  「不幸な女性の救済に生涯努力します」  という言葉が力強く、不幸な思いを続けてきた千姫と同じ思いだったからだ。  その後しばらく経って、千姫は東慶寺の興味あるうわさをきいた。  「暴行、虐待など理不尽な夫の扱いに堪えかねて、家を飛び出し駆けこむと、東慶寺では絶対に迫ってきた者に引き渡さない。かくまい続ける」  千姫はニコリと微笑んだ。  (天秀さんがガンバっている)と思えたからだ。  あるときは会津の殿様の軍勢に囲まれたこともある。殿様の非行が激しくいくら諫言(かんげん)してもきかないので、その重役は城を脱し、家族を連れて高野山に逃げこんだ。殿様は軍勢を送って重役一族の引き渡しを迫った。  高野山は屈した。重役は家族に東慶寺のことを話し高野山から逃がした。自分はいさぎよく殿様の軍勢に捕えられた。殿様は、  「家族も同罪だ。根絶やしにする」  と執拗だった。軍勢は東慶寺に迫った。  しかしいくら交渉しても寺は家族を渡さない。  「この寺に入った以上、世間とは縁が切れます」  と、住持が出てきてそう告げた。住持は天秀尼だ。  怒った殿様は将軍に訴えた。将軍は秀忠だ。側近に調査を命じた。殿様の非行が次々と明らかになった。秀忠は殿様を呼び出して告げた。  「お前の不行き届きだ。よって家を潰す」  そう云ったあとこう云った。  「あの寺の住持はオレの孫だ。意志は固い」  東慶寺は縁切り寺≠ニしても有名になった。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第118回 三重県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 定年は70歳、IT化にも工夫を凝らしだれもが働きやすい職場を目ざす 企業プロフィール 株式会社プラトンホテル(三重県四日市市) 創業 2008(平成20)年 業種 宿泊業 従業員数 67人(うち正規従業員数14人) (60歳以上男女内訳)男性(12人)、女性(9人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(10.4%) 65〜69歳 3人(4.5%) 70歳以上 11人(16.4%) 定年・継続雇用制度 定年は70歳。定年後は、運用により半年ごとの更新で嘱託従業員として継続して働くことができる  三重県は海、山、川の豊かな自然と幸に恵まれ、『日本書紀』ではよい国であるとの意味を持つ「美(うま)し国(くに)」と表現されています。潤沢な観光資源を有し、江戸時代のお伊勢参りから、現代ではF1日本グランプリなどが開催される鈴鹿サーキットなど、多彩な魅力を産業として成立させてきました。  また、岐阜県、愛知県、三重県にまたがる中京工業地帯に位置する北勢(ほくせい)地区は、四日市の石油コンビナートの化学工業をはじめ、輸送機械器具製造業のほか、近年は電子デバイス・情報通信機械関連製品など先端技術型工業の立地が新たな活力を生み出し、日本のモノづくりの一端をになう地域として発展しています。  当機構の三重支部高齢・障害者業務課の奥山香美(よしみ)課長(取材当時)は、支部の取組みについて、「三重労働局と共催で毎年10月に開催している地域ワークショップは、年度ごとに松阪、鈴鹿、四日市、津など各地区で開催し、多くの事業所のみなさまにご参加いただいています。最近の企業からの問合せは、働き方改革関連法に関することや、2021(令和3)年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法に関する内容が多くなっており、相談対応や専門家による支援を継続して行っています」と語ります。  今回は、同支部で活躍するプランナーの1人、豊田(とよだ)亘(もとむ)さんの案内で、「株式会社プラトンホテル」を訪ねました。  豊田プランナーは、特定社会保険労務士の資格と専門知識を活かして県内事業所の高齢者雇用や働き方改革などの取組みを支援し、的確でていねいな対応に多くの企業が信頼を寄せているプランナーです。 地元の人々からも親しまれるホテル  株式会社プラトンホテルは、近鉄四日市駅から徒歩約3分にある「プラトンホテル四日市」を運営しています。設立は2008(平成20)年と比較的新しい会社ですが、プラトンホテル四日市は、以前からこの地に建つ旧ホテルを同社が再構築して新たにオープンしたホテルで、旧ホテル時代からのお客さまも多数いるとのことです。  現在の客室数は143室。ほかにレストラン、宴会場、会議室、結婚式場があり、各種宴会・パーティー、ウエディングなどが行われ、三重県内外から多くのお客さまが訪れています。ここ数年では特に、三重県の風土を感じるメニューを揃えた「みえの朝ごはん」が話題を呼び、朝食を目的に県外のみならず、地元の人もわざわざ訪れるホテルとして人気が上昇。コロナ禍になり、いまはまだ以前のようなにぎわいは戻っていませんが、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を徹底し、一部業務を縮小しながらも宿泊業務などを継続しています。 スタッフの3割が60歳以上  同社は、2014年に定年を60歳から70歳へ引き上げました。正規従業員で定年年齢に達した従業員は現時点ではまだいませんが、高齢の嘱託従業員が元気に働いていることをふまえて、定年延長にふみきりました。60歳以降は、希望により負担の軽い業務に就き、嘱託従業員として勤務することも可能です。嘱託従業員は半年ごとの契約となり、上長と本人が個別面談を行ったうえで、働き方などを決めています。現在の最高年齢者は、客室の清掃を担当する83歳の女性嘱託従業員です。  同社役員秘書(管理課人事・総務・法務担当)の山中(やまなか)里紗(りさ)係長は、「従業員の約30%が60歳以上で、施設管理や客室清掃などを担当し、前職の経験やこれまでにつちかってきた知識や技術を活かして働いています。フロントには英語が得意な高齢のスタッフもいますし、調理部門も多くの高齢スタッフに支えられています」と高齢従業員の活躍ぶりを語ります。  60歳以上の採用も行っており、「面接に来られる方から、『年齢は気にしますか?』と質問されることがありますが、『当社は高齢者が多く活躍しているので、安心してください』とお話ししています」と山中係長。年齢で判断するのではなく、その人の持つ能力や得意なことを見て判断するようにしているそうです。  豊田プランナーが同社を初めて訪れたのは、2019年4月のこと。すでに定年が70歳に引き上げられていたことや働き方改革を推進していること、IT機器の使い方に不慣れな高齢従業員への対応などを見聞きして、同社の取組みを高く評価し、2019年度の当機構の高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)への応募をすすめて実現しました。  「ホテルは24時間365日稼働していますし、従業員数67人の規模で働き方改革を進めるのは容易ではないと思います。ですが、同社ではだれもが働きやすい職場づくりを目ざして、1人のスタッフが複数の業務を担当できるワークシェアリングに取り組み、休暇を取得しやすい体制づくりを行ったり、IT化の推進により業務の効率化を図ったりして改革に注力し、結果を出しています。そうしたなかで高齢者雇用も進められてきました」(豊田プランナー)  同社は、高齢者雇用だけでなく、ワークライフバランスや働き方改革にも注力しており、「三重県男女がいきいきと働いている企業」認証制度(2016年度)、「みえの働き方改革推進企業」(2021年度)などに認定されています。 工夫を凝らした指導でIT化を実現  豊田プランナーが高く評価している同社の取組みの一つが、パソコンが苦手な高齢従業員も乗り越えることができたIT化の実現です。  山中係長は、「IT化は、働き方改革の一助にもなりますので取り入れていますが、高齢のスタッフを含む従業員に適用するにはどうしたらよいのか、悩みました」と取組み当初をふり返ります。  同社におけるIT化の事例として、それまで紙で行っていた宴会予約について、パソコンで管理する新たなシステムの導入があります。パソコンに触れたことがない70歳以上のスタッフが在籍する部署であったため、相当悩んだそうですが、5年ほど前に思い切って導入しました。不慣れなスタッフには、できることから慣れてもらおうと努めたそうですが、当初はくり返し指導してもうまくいかなかったとのこと。新システムへの抵抗感もあったようでした。  しかし、「置いてきぼりのスタッフがいてはいけない」と、あきらめることなく指導を続けるなか、あるスタッフが「Enterキー」と「マウスの左」だけに熊のシールを貼り、クリックという言葉は使わず、「熊を2回押す」と書いたシンプルなマニュアルを作成。「熊のシールのおかげなのか、根気よい指導と従業員の気持ちが伝わったのか、そのころから少しずつ苦手としていたスタッフも自分からパソコンに向かうようになり、新しいことができるということへの喜びを感じているようにも見えました」と山中係長は話します。  また、従業員の出勤・退勤はICカードをかざしたうえで、出勤・退勤ボタンを切り替える必要があるものでしたが、切り替え忘れや間違いが多発。ボタンの文字が小さくて見えにくいことなどが原因でした、そこで、出勤と退勤を分けて、2台のパソコンを置いたところ、高齢従業員から好評で、間違いは減少したといいます。  一方、独学でワードもエクセルも習得したベテランスタッフもいるとのこと。今回は、そんな高齢スタッフの一人で、同僚からも尊敬されている70代後半の従業員の方にお話を聞きました。 従業員が選ぶMVP従業員の第1位に  伊藤政まさ捷かつさん(79歳)は、同社ホテルの施設管理をになう4人のスタッフのまとめ役で、主任を務めています。施設管理、駐車場管理、シフト管理、消防署などへの対応業務も行います。以前はフルタイム勤務で夜勤も担当していましたが、コロナ禍となり、従業員の健康に配慮して勤務を縮小し、現在は月20日程度、9〜13時の1日4時間勤務となっています。  「始業してまず電気、ガス、水道のメーター確認や各種設備の点検をします。使用量や音などを確認することで、異常を発見する手がかりになります。この作業に1時間半はかかるので、4時間はあっという間です」と話す伊藤さん。  伊藤さんは、プラトンホテル四日市の前ホテル時代からここで仕事をしており、現ホテルになると同時に嘱託従業員となり現在に至ります。設備関係の仕事に就いて約60年。そのうちホテルでの勤務が35年です。1級ボイラー技士、電気工事士など、必要な資格は仕事をしながら取得してきました。「法令を遵守し、毎日しっかり確認することが大事」と、日々の仕事のポイントを語ります。  山中係長は、「伊藤さんは休んだことがほとんどありません。機器・機材のちょっとした修繕など何でも引き受けてくれるのでたいへん助かっていますし、パソコンも、エクセルを使ったり、従業員向けサイトに点検の情報を配信したりといった作業もこなしています。2018年に当社初の試みとして従業員が選ぶ『MVP』従業員≠選出したのですが、こうした仕事ぶりが評価されて、伊藤さんが堂々の1位でした」と伊藤さんの活躍を話します。  伊藤さんはMVP選出を謙虚に受けとめたようで多くは語らず、「この年齢まで働かせてもらっていることに感謝しています。任されたからには責任を持って、緊張感を持続し、これからも安全で快適なホテルを支えるためにしっかりと仕事をしたいと思います」と今後の抱負を語りました。 カギはコミュニケーション  「当社では、『大切な居場所になるホテル』を方針に掲げています。お客さまはもちろん、従業員にとっても大切な居場所となるよう、もっとライフスタイルに合わせた働き方ができる会社にしたいという思いはありますが、従業員数や、24時間営業のサービス業ということもあり、むずかしい面もあります。そこで現在は、上長と従業員が1対1で話をして、今後どうしていきたいのか、どのような働き方を希望するのかを親身になって一緒に考えることからはじめています」(山中係長)  豊田プランナーは、「年齢ではなく、従業員一人ひとりとしっかりとコミュニケーションを取っていること、また、IT化でも見られたように、多世代間でもコミュニケーションを取っていることが、よりよい高齢者雇用につながっていると思います。コミュニケーションを取りながら、従業員それぞれの能力をうまく引き出し、そこからやる気が生み出されている、そんな印象も受けました」と同社の取組みを評価。従業員のライフスタイルに合わせた働き方ができる職場づくりを、今後も支えたいと話しました。(取材・増山美智子) 豊田 亘プランナー(59歳) アドバイザー・プランナー歴:10年 [豊田プランナーから] 「労働関係法の改正が相次ぐなか、それらに対応するための課題をいかに解決していくか、そのための制度導入にあたっての支援ができればと考えております。例えば、それぞれの企業にあった『人事評価』、『賃金制度』などの提案を心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆三重支部高齢・障害者業務課の奥山課長は、「豊田プランナーは、やさしく親しみ深い人柄と、ていねいかつ親身になった対応から、訪問先事業主からも信頼の厚いプランナーです。また、社会保険労務士としての幅広い知識と温かな人柄で、三重障害者職業センターで実施する障害者の就労支援者向けの研修の講師も務めており、当機構において高齢者事業にとどまらない活躍をしています」と話します。 ◆三重支部高齢・障害者業務課は、「ハローワーク津」2階に事務所を構えています(JR紀勢線、近鉄名古屋線「津」駅から、東へ徒歩約15分)。隣には三重労働局や津労働基準監督署、車で5分ほどの場所には三重県庁などの行政機関がある地域で、関係機関との連携が取りやすい立地にあります。 ◆当課には、5人の65 歳超雇用推進プランナーと3人の高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、県内事業所の高齢者雇用の取組みをサポートしています。2020年度は522件の訪問と128件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 三重支部高齢・障害者業務課 住所:三重県津市島崎町327-1(ハローワーク津2階) 電話:059(213)9255 写真のキャプション 三重県四日市市 近鉄四日市駅近くに建つプラトンホテル外観 役員秘書(管理課人事・総務・法務担当)の山中里紗係長 施設管理を担当する伊藤政捷さん 【P40-43】 シニアのキャリアを理解する 事業創造大学院大学 教授 浅野 浩美  健康寿命の延伸や、高年齢者雇用安定法の改正による70歳就業の努力義務化などにより、就業期間の長期化が進んでいます。そのなかで、シニアの活躍をうながしていくためにも「キャリア理論」への理解を深めることは欠かせません。本企画ではキャリア理論について学びながら、生涯現役時代におけるシニアのキャリア理論≠ノついて浅野浩美教授に解説していただきます(編集部)。 第4回 生涯発達の理論からみたシニア 1 はじめに  ここまで主に、キャリアの視点から理論を紹介してきましたが、より広く、生涯発達の観点から、成人期以降の発達やトランジションについてみる見方もあります。  多くの優れた研究がありますが、誌面もかぎられていますので、エリク・H・エリクソン、ダニエル・J・レビンソン、日本の岡本祐子の理論を紹介し、生涯発達の視点からシニアのキャリアについて考えてみたいと思います。 2 エリクソンの8段階モデル  アイデンティティ(自我同一性)などで有名なエリクソンは、人間のライフサイクルを8段階に区分し、それぞれの段階で心理的・社会的危機を克服することによって、次の段階へと進む動機づけが得られるとしました。  エリクソンは、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトや、人生の後半期に初めて着目したカール・G・ユングの流れを汲む精神分析学者であり、発達心理学者でもあります。  彼が示した8段階は、乳児期(Infancy)、幼児期初期(Early childhood)、遊戯期(Playage)、学童期(School age)、青年期(Adolescence)、前成人期(Young adulthood)、成人期(Adulthood)、老年期(Old age)です※1。  エリクソンは、これらのうち、基本的信頼感の獲得が課題である幼児期初期とアイデンティティの獲得が課題である青年期を重視しましたが、ここでは、もう少し上の年代について見てみましょう。  彼は、「成人期の発達課題は世代性(Generativity※2)である」としました。世代性という言葉は、エリクソンの造語ですが、単に子孫を生み育てるだけでなく、自らつくり出したものを責任を持って次の世代に伝えていくことをさします。後輩の指導、育成などもこれに含まれます。エリクソンの妻で共同研究者だったジョウン・M・エリクソンは、夫との共著※3のなかで、「この世代性という概念は、発表が迫った段階で気づいたもので、これが加わったことによって、7段階が8段階となり、モデルが完成した」と書いています。  成人期のあとの老年期の発達課題は、統合(Integrity)です。物事を一つにまとめることによって、英知を備えるというものです。その一方で、後年、エリクソンは、8段階モデルを理論化した時代をふり返り、(いわゆる長老ではなく)「年齢より相当若く見える単なる年配者」が増え「世の中の老年期に対するイメージはすっかり変化した」といっています。そして、だれもがきわめて高齢まで生きる時代が到来する時代に向け、統合の意味について考えておくべきだと指摘しています。  エリクソン自身は、「80歳になったころに老人になったことを初めて認識し始めた」といっています。また、ジョウン・M・エリクソンは、夫と話したことをもとに、彼の死後、「80代や90代はそれまでとは異なる」として、老年的超越を課題とする第9段階(80〜90歳)を付け加えています。実際に、エリクソンは90歳ころまで、研究・執筆活動を続けています。  いまの日本は、まさに、「だれもがきわめて高齢まで生きる時代」そのものであり、「年齢より相当若く見える単なる年配者」が数多くいて、より長く働くことを求められている時代だといえます。  企業においても、「年齢より相当若く見える単なる年配者」たちに、どんな役割を果たしてもらうべきか、考えるべきだということでしょう。 3 レビンソンの「人生の四季」  レビンソンは、工場労働者・会社の管理職・学者・小説家という四つの職業グループの中年男性合わせて40人のライフ・ヒストリーを分析し、その結果をもとに、人間は成人した後も変化し続け、一定の段階をふんで発達していくことを明らかにしました。  そして、人間の発達段階を「人生の四季」にたとえ、男性のライフサイクルを、プレ成人期(Era of preadulthood:0〜22歳)、成人前期(Era of early adulthood:17〜45歳)、成人中期(Era of middle adulthood:40〜65歳)、成人後期(Late adulthood:60歳以上)に分け、境目にある最初の5年間を「過渡期」(次の段階へ進む準備期間)としました(図表1)。  レビンソンは、この過渡期は、不透明で不安定な時期だが、立ち止まって自分をふり返り、次の安定期に向けた選択を行うチャンスでもあるとしています。また、40代前半に迎える人生半ばの過渡期を、特に重要な時期であるとしました。  過渡期というのは、第3回(2022年3月号38〜41頁)で扱った「転機」のようなものと考えられますが、彼によると、老年への過渡期は、老年期へ向けての生活設計を行うべき時期ということになります。レビンソンは、各発達段階の開始年齢や終了年齢には、「意外なほど個人差がなかった」といっていますが、逆にいえば、かなり違いがあることを想定していたということかもしれません。年齢は示されていますが、彼の著書※4によると、彼が重視しているのは順序であって年齢ではありません。  エリクソンとレビンソンは、同時代の研究者で、互いに影響を受け合っていますが、成人発達について、エリクソンが内面を見ているのに対し、レビンソンは生活構造の発展ととらえているという違いがあります。彼らのモデルは階段を上っていくようにも見えますが、エリクソン、レビンソンとも「ある発達段階がそれ以外の発達段階よりもレベルが高いということはない」といっています。 4 岡本のアイデンティティのラセン式発達モデル  日本の発達心理学者である岡本祐子は、中年期、定年退職期以降にも、アイデンティティが問い直されるとし、そのプロセスを明らかにしました。図表2は、彼女が提唱した、アイデンティティのラセン式発達モデルです。このモデルによると、中年期、定年退職期にもアイデンティティの確立が行われますが、そのプロセスは、同一主題を反復的にくり返し、ラセン式に発達していく、というふうになります。  岡本は、定年退職期は、人生後期の主要な転換期であるとして、これに焦点をあてた研究もしています。そして、調査結果をもとに、定年退職を第二の人生の出発点であると積極的に歓迎するタイプ、気楽になると受動的に歓迎するタイプ、一つの区切りと淡々ととらえるタイプ、人生の終わりであると悲観的にとらえるタイプなどがあることを見出し、同じように定年退職を経験しても、アイデンティティの問い直しを行う者とそうでない者がいるとしています。また、退職年齢の定められ方によってとらえ方が異なり、自分で決められる場合に比べて、自分で決められない場合の方が悲観的にとらえやすいことも報告しています。また、実際に定年退職を経験した者は、定年前の者ほどは意識していないことなどについても報告しています。  彼女がこの研究を行ったのは1980年代であり、当時は55歳定年からようやく60歳定年が一般的になりつつあった時代です。これに対して、いまや、70歳就業時代です。役職定年、就業規則でいう本当の定年、さらに、継続雇用された場合はその上限年齢というふうに複数の定年を経験することも一般的になりつつあります。シニア社員については、十把一絡げにして考えがちなところもあろうかと思います。歳もずっと上で、場合によっては管理職であったりする彼らが迷っているということ自体、若い人にとっては想像しにくいところがあるかもしれませんが、彼らにも、アイデンティティの問題があることについて、たまには思いをはせてみてはどうでしょうか。 ◇◇◇  ここまでいくつかのモデルを見てきましたが、背景も含めてくわしく見てみると、成人期のあとをさらにくわしく見ていく必要性が示唆されています。  アンドリュー・J・スコットとリンダ・グラットンは、彼らが2021(令和3)年に刊行した『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)2 ―100年時代の行動戦略』のなかで、「中年期の後半と老年期の前半が長くなったといったほうが実態に近い」と書いていますが、まさにその通りで、ここをどう過ごすか、そのためにどうすればよいかが課題になっているわけです。  今回は、ライフ全体の話を扱いました。また、シニアに関係の深い部分を中心にみてきましたが、人はいきなりシニアになるわけではありません。ミドルからシニアにかけての職業を中心としたキャリアについての研究も、数多くあります。また、キャリアについて理解するのもよいけれど、ではどうすればよいのかについても考える必要があります。当連載は残り2回となりましたが、こうしたことについても考えてみたいと思います。 【引用・参考文献】 ●Levinson,D.J.(1978). The seasons of a man's life. Random House Digital, Inc.(南博訳(1992)『ライフサイクルの心理学〈上・下〉』講談社) ●Levinson, D. J. (1986). A conception of adult development. American psychologist, 41 ( 1 ), 3. ●Erikson, E. H., & Erikson, J. M. (1998). The life cycle completed (extended version). WW Norton & Company.(村瀬孝雄・近藤邦夫訳(2002)『ライフサイクル、その完結〈増補版〉』) ●Erikson, E. H., Erikson, J. M., & Kivnick, H. Q. (1994). Vital involvement in old age. WW Norton & Company. ●岡本祐子・山本多喜司(1985)「定年退職期の自我同一性に関する研究」,『教育心理学研究』, 33 (3), 185-194. ●岡本祐子(1994)「生涯発達心理学の動向と展望 成人発達研究を中心に」,『教育心理学年報』, 33, 132-143. ●Scott, A. J., & Gratton, L. (2021). The new long life: a frame work for flourishing in a changing world. Bloomsbury Publishing.(池村千秋訳(2021)『LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略』東洋経済新報社) ※1 エリクソンは、各段階について、発達課題が達成されない場合に生じる問題点を、対立概念として示している。成人期の対立概念は「停滞(Stagnation)」、老年期の対立概念は「絶望(Despair)」である ※2 エリクソンの造語。「生殖性」と訳されることも多い ※3 Erikson, E. H., & Erikson, J. M.(1998). The life cycle completed( extended version). WW Norton & Company. ※4 Levinson,D.J.(1978). The seasons of a man's life. Random House Digital, Inc. 図表1 レビンソンの発達段階 〜17 (児童期と青年期) 17〜22 成人への過渡期 22〜40 成人前期 22〜28 大人の世界へ入る時期 28〜33 30歳の過渡期 33〜40 一家を構える時期 40〜45 人生半ばの過渡期 45〜60 中年期 45〜50 中年に入る時期 50〜55 50歳の過渡期 55〜60 中年の最盛期 60〜65 老年への過渡期 65〜 (老年期) 出典:Levinson, D. J.(1986). A conception of adult development. American psychologist, 41(1), 3.p.8 図表2 アイデンティティのラセン式発達モデル 出典:岡本祐子(1994)『成人期における自我同一性の発達過程とその要因に関する研究』風間書房 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A&  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第47回 再雇用と就業規則の最低基準効、業務委託の解除と解雇 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 合意した労働条件が、就業規則で定められた賃金の基準を下回っていたことが発覚しました  定年後の再雇用者の労働条件について、正社員の賃金からは引き下げた内容で合意に至りました。ところが、再雇用後の賃金について、会社が定めた就業規則の内容よりも低くなっていることに気づいたとして、差額を請求されています。請求に応じなければならないのでしょうか。 A  就業規則の適用範囲を適切に限定していない場合には、就業規則に基づく支払い義務を負うことになります。 1 就業規則の効力について  就業規則の効力については、労働基準法および労働契約法に定められています。  まず、社内における就業規則が効力を発生させる要件は、労働者の過半数代表者からの意見の聴取および就業規則の周知が必要とされています(労働基準法第90条、労働契約法第7条)。また、労働契約法第7条によれば、労働基準法が定める手続きを満たした就業規則であっても、その内容が合理的な内容でなければ、有効にはならないとされています。  労働基準法第89条においては、労働基準監督署への届出も義務づけられていますが、これは労働基準法第120条が定める罰則の前提となっている義務にとどまります。したがって、労働基準監督署への届出は、会社と労働者の間で法的拘束力を発生させる要件とは考えられていません。労働基準監督署への届出を効力発生要件としてしまうと、10人未満の労働者しかいないような届出義務を負担していない事業場において、就業規則を有効に機能させることができなくなってしまいます。  就業規則が法的な拘束力を持ったとき、労働者にはどのような影響があるのでしょうか。すべての労働条件が就業規則によって定められるとしてしまうと、労働者ごとに個別の労働条件を設定することができなくなってしまい、きわめて不便な状態になりかねません。したがって、就業規則が会社で効力を有するとしても、すべての労働条件がこれにおいて定めるわけではありませんが、就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は効力が生じないものとされています(労働契約法第12条)。  これを就業規則の最低基準効といいますが、労働契約に定めがない部分については、補充することになり、定めがある場合には労働者の立場から評価したときに就業規則よりも不利な内容については、就業規則が最低基準として内容が置き換わることになります。 2 最低基準効と留意点について  最低基準効があったとしても、会社が定めた内容なので、さほど支障がないと思われるかもしれません。とはいえ、最低基準効が生じるということの意味は、実は単純なものではありません。  問題が生じる一例として、試用期間の延長規定を設けているか否かというケースを想定してみましょう。労働契約には、試用期間を3カ月間と設定したものの、試用期間中に本採用を判断するのに必要な材料が整わなかったときに、試用期間を延長したい場合があります。この際、就業規則に試用期間の延長に関する規定を設けていなかったときに、当事者の合意で延長することができるでしょうか。  会社の意識としては、試用期間は、労働者にセカンドチャンスを与える意図を持っていることも多いですし、労働者にとっては契約終了にならないというメリットを与えているともいえそうです。しかしながら、法的な評価としては、試用期間というのは「解約留保権付の労働契約」という性質と考えられており、通常の労働契約と比較したときには不安定な法的な地位にあるという評価になります。そうすると、延長の規定が定められていない場合には、不安定な地位を延長しないという就業規則の最低基準があると解釈されて、たとえ、当事者間では延長の合意をしたとしても、試用期間の延長は、就業規則の最低基準効に反して無効とされる可能性があります。  このように、最低基準というのは一概に常識的な理解と合致するとはかぎらず、法的な評価をともなう内容であるため、会社の意図した通りの効力が整理されているとはかぎらないことには注意が必要です。 3 就業規則の適用範囲について  就業規則は、正社員(期間の定めのない労働者)、契約社員(期間の定めがある労働者)、パートタイマー(短時間労働者)、嘱託社員(再雇用の契約社員)などに分けて作成されることがあります。  このとき、就業規則は、対象とした従業員ごとに定められた内容が適用されることになります。労働契約法第18条において、5年を超えて更新された期間の定めがある労働契約を締結してきたとき、無期転換権が与えられるようになったため、これを行使されたときには、期間の定めがある労働者から期間の定めがない労働者に替わることがあります。このとき、正社員の定義と無期転換権行使後の契約社員は、区別できなくなってしまいます。  このような事態にならないように、無期転換権行使後の契約社員に適用する就業規則は、契約社員用の就業規則を引き続き適用する旨を明確にしておく必要もあります。  定年後の嘱託社員に適用される就業規則が問題となった裁判例があります(東京地裁立川支部令和2年8月13日判決)。定年後の再雇用契約の際に、使用者から就業規則を再雇用対象となる労働者に交付していたところ、当該就業規則の定める給料や手当が、再雇用に関する個別の労働契約と比べて高額であったことから、就業規則に基づく給与の計算を求めて提訴されたという事案です。  裁判所は、使用者が自ら就業規則を交付しており、就業規則の内容は合理的であることから、定年後の再雇用労働者についても就業規則が定める給料や手当に関する規定が適用され、差額を支払う義務を使用者は負担すると判断しました。使用者としては、個別の労働契約で合意していることを根拠に反論しましたが、裁判所からは、仮に合意していたとしても、その内容は再雇用者の給料に関する定めに達しない労働条件であるから無効であると結論づけています。  おそらく、この事件の使用者も給料に関する規定までも再雇用した労働者に適用することは想定していなかったでしょう。給料以外の服務規律であるとか一般的に共通する事項を適用し、給料については合意に基づいた内容を支給することを意図していたのでしょう。就業規則の最低基準効を正確に理解しておかなければ、意図せずに会社にとって不利益な労働条件が成立してしまうことがあります。同じようなことにならないような対応としては、再雇用後の労働者には就業規則の給料に関する規定が適用されない旨を明記しておく必要があります。 Q2 正社員から業務委託に切り替わった場合の契約解除について知りたい  当社は65歳定年制ですが、60歳以上の正社員のうち、希望者は正社員から業務委託契約に切り替えています。先日、ある社員が1年契約の業務委託契約を希望したため、同契約に切り替えました。しかし、その直後、業績が悪化し、契約を解除せざるを得なくなりました。対象者から実質的な解雇ではないかと主張されたのですが、違法な解雇となるのでしょうか。 A  希望者を対象とした業務委託契約への切り替えにあたって、労働契約からの変更点を十分に理解したうえで判断させなければ、労働契約が継続し、解雇として扱われることがあります。また、業務委託契約への切り替え後の取扱いが労働契約と相違ないような状態であるときも、法的には労働契約と評価され、解雇として扱われることがあります。 1 業務委託契約への切り替えについて  65歳定年以前に、正社員の希望に即して、1年契約の業務委託契約に変更する制度を採用する場合でも、このときの手続きおよび労働者の意思決定時の説明などは、慎重に対応する必要があります。  正社員の地位から業務委託契約へ切り替えるにあたっては、労働契約の合意解除と業務委託契約の締結が行われることになります。このとき、労働契約の合意解除について、意思決定において勘違いや誤解がある場合(法的には「錯誤」という)には、労働契約の合意解除の効力が否定される可能性があります。  勘違いしていなければ合意解除(業務委託への切り替え)には至っていなかったといえるほど重要な内容で、合意解除にあたって双方の合意が前提とされていた場合には、合意解除の効力が否定されることがあり得ます。  労働契約から業務委託契約への切り替えにあたっては、例えば、税務上の観点からは給与所得から事業所得へ変更となることから、業務委託への切り替え後は自らの責任で確定申告を行う必要があります。また、社会保険および雇用保険等についても対象から外れ、労災時の補償も受けることができなくなります。さらに、労働者ではなくなることから、労働基準法による保護を受けることもなくなるため、有給休暇の制度などもなくなり、労働時間の上限規制などによる保護や会社にとっては割増賃金の支払義務もなくなります。  このように、労働契約の解除については、労働者にとって不利益な要素も多く、変化も大きい内容となります。本人の希望に沿って契約を切り替えているため、誤解が生じる可能性は高くないかもしれませんが、契約切り替えにともない生じる変更点を正確に理解しないまま、業務委託契約への切り替えを進めてしまった場合、重要な情報が提供されていないといったことから紛争になるかもしれません。労働契約の合意解除が無効と判断された場合には、その後に行う業績悪化にともなう契約解除についても、業務委託ではなく、労働契約の解雇として扱われることになります。その結果、労働契約法が定める解雇権濫用法理が適用されることになり、解雇事由の存在に加えて、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性がないかぎり、契約を終了することはできなくなってしまいます。  契約切り替え時の入り口部分の対応は非常に重要ですので、ていねいに実施する必要があります。 2 業務委託契約自体が雇用契約とみなされる可能性  双方の誤解なく業務委託契約に切り替えた場合においても、労働契約を締結していたときと比較して、働き方や契約の条件などが業務委託契約への切り替え前と相違ない場合には、たとえ、契約の名目が業務委託契約であるとしても、実質的には労働契約が継続しているものと評価される可能性があります。  業務委託契約への切り替えにあたっては、以下のような要素について、労働契約との相違を説明することができるか検討しておく必要があります(本誌2019年7月号、2021年5月号参照)。すべての点について相違がなければならないわけではありませんが、相違がない要素が少ない方が望ましいと はいえます。 @仕事や業務への指示に対する諾否(だくひ)の自由があるか A業務遂行上の指揮命令がないか B勤務場所や勤務時間の拘束の程度が強くないか、合理的であるか C契約において予定された業務以外に従事する必要がないか D労務提供に代替性があるか E報酬の算定方法が結果にともなう内容であるか F欠勤時に報酬が控除されるか G機械、器具、原材料などの負担をしているか H服務規律の遵守が求められていないか I専属性が強くないか  例えば、これから紹介する裁判例(東京地裁令和2年3月25日判決)は、右記の諸要素に則した判断に基づき、業務委託契約が実質的に労働契約と判断された事例です。  この裁判例における判断の具体的な内容は、以下の通りです。まず、諾否の自由がなく、会社からの指示のもと業務を行い、進捗の確認を受けるなどの指揮監督関係が認められ、タイムカードの打刻を求められるなど、ほかの社員と同様の拘束を受けていたなど、@〜Bまでの要素が考慮されました。次に、任された業務を自由に第三者へ代替させることが困難であったこと、月額報酬が成果に連動せず固定であり毎年源泉徴収票を発行して「給料」と呼称していたことなどから、DやEの要素や労働契約との類似性が加味されています。源泉徴収票の記載などはシステムに起因して表記が変更できないこともあり得ますが、手書きで修正して直すなどの工夫が必要でしょう。さらに、利用するパソコンなども会社が準備し、交通費の支給が行われており、ほかの会社からの依頼を受けることがなく専属性が否定できないことなど、GやIの要素も考慮した結果、実質的には労働者であると判断されました。  上記の@からIの要素が常にすべて考慮されるわけではなく、事案に応じて特徴的な要素をふまえて総合的な判断がされることになりますが、労働契約からの切り替えにあたって、従前の働き方から大きく変更することなく、指示命令を継続し、専属性が維持されるといった状態には注意しなければならず、支給する対価などについても給与とは異なる体系をとるなど、労働契約との相違が明確になるよう留意しておく必要があります。  仮に、業務委託契約への切り替えが希望者の意向通りであったとしても、労働契約としての要素が強い場合には、労働契約の解雇と同視されることになり、解雇権濫用法理により労働者が保護されることになる可能性があります。 【P48-49】 新連載 病気とともに働く 第一回 二九(ふたく)精密機械工業株式会社 会社は「人」次第でよくも悪くもなる。 人を大切にする職場であれば会社も社員も長生きできる  加齢により疾病リスクが高まる一方、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病が「長くつき合う病気」に変化しつつあり、治療をしながら働ける環境の整備も進んでいます。本連載では、治療と仕事の両立を支える企業の両立支援の取組みと支援を受けた本人の経験談を紹介します。  京都市南区に本社を構える二九精密機械工業株式会社は、1917(大正6)年の創業以来100年以上の歴史を持つ。長年にわたってつちかってきた機械加工技術で実績があり、最近では特殊合金、チタンなどによる超精密・高精度加工技術で高い評価を得ている。  そして、もう一つ同社が注目を集めているのは、「取引先、従業員、協力会社の3者にとっての『安心』をものづくりの根本に据える」という二九(ふたく)良三(りょうぞう)代表取締役社長の信念が全社に浸透し、その思いを形にした制度が整備されていることだ。  そこで「病気や事故でも、治りさえすればまた就業できるのだから、辞める必要はない」といい切る二九良三社長と、65歳を超えても会社の第一線で指揮を執る大川(おおかわ)智司(さとし)専務執行役員、実際に会社の健康診断がきっかけでがんが見つかったという廣瀬(ひろせ)正典(まさのり)執行役員の3人に、それぞれの立場からお話をうかがった。 仕事をする人の代わりはいるが家族の代わりはいない  二九社長は、2009(平成21)年に就任してからずっと「仕事より家庭が一番」と謳い、従業員とその家族にとって働きやすい環境をつくってきた。  そんな同社では、2015年から健康診断の受診率を100%に高め、所見が出た場合は二次健診で診断書が出るまで追いかけるように徹底して指導をし続けている。ともすれば仕事への影響を考えて病気を隠してしまうケースもあるが、そうして手遅れにならないためだ。所見が出ても二次健診に行かない従業員のデータが会社に届き、「いつ検査に行くのですか」と本人に勧奨できる仕組みになっている。実際にこのうながしで二次健診を受け、病気の早期発見につながった好例が廣瀬さんだ。 一人で仕事を抱えるのではなく同じスキルを持った人を複数育成する  2015年にがんが見つかり、入院治療を経て職場に復帰した廣瀬さんはこう語る。  「がんという結果が出たときは、正直『もう終わった』と思いました。両親も兄も仕事が忙しくて健診に行きそびれたまま、がんで亡くなっていますので、なおさら不安でした」。しかし、そんな廣瀬さんを「いまは治療に専念しなさい」と勇気づけたのが二九社長だったという。「必ず職場に戻れる!」という言葉を聞いて廣瀬さんは治療からの復帰に希望を見出した。  それでも廣瀬さんは入院してすぐ、大きな誤算に気づく。当時生産管理部門の責任者を務めていた廣瀬さんが、ベッドから現場を管理しようとしてもまったくできなかったことだ。だれかに任せるということをせず、工場の全工程を一人で組んでいたが、入院した途端にそれが止まり、「次は何をすればよいですか?」というメールが大量に届く事態になった。これをベッドの上から次々に処理し続けたという。  「療養が2週間だけでしたから、なんとかなりましたが、これが1カ月間続いていたらどうなっていたかと、怖くなりました」と廣瀬さん。仕事に復帰してからはこの経験を活かし、情報共有のために同じ仕事を2人以上ができる環境を整え、同じスキルを持つ人を複数育成できるように、配置転換で仕事を覚えるという流れをつくった。これは現在の同社における人材育成の基本姿勢でもある。  廣瀬さんは現在、普段の生活には支障がないところまで回復している。「がんとわかったときに投げやりになっていたら、ここまではできないと思います」と、治療を後押ししてくれた会社に深く感謝している。 活き活きと働いている中高年社員は会社の強力な広告塔  「廣瀬さんは病気をしてから、少し調子が悪そうな部下に、すぐに気がついて声をかけるよい上司になりました」と語るのは大川さんだ。  「男性も女性も育児や介護という人生のステージを乗り越えきれずに、退職を余儀なくされることがあります。しかしそのとき、経営者から、『家庭が一番大切』といわれたら、『やっぱりこの会社で働き続けたい!』とモチベーションが上がります」と大川さん。ところが制度があっても、活用できないケースもあるとも指摘する。「利用してあたり前という会社と、使いづらい雰囲気の会社では大きく違います。習熟したスキルを持つ人ができるだけ働き続けられるように、という姿勢や企業文化は、特に中小企業には必要だと思います」と強調する。  病気とともに働ける会社は、高齢になっても働ける会社でもある。同社は定年後再雇用で一年ごとの更新だが、継続雇用の上限年齢はなく、定年時の退職者はほとんどいない。  「現在も常勤で75歳の方、顧問として78歳の方が活躍してくれています」という二九社長は、病気があっても、高齢者でも、働きがいのある仕事を創出することが社会貢献につながると考えている。「活き活きと働いている中高年従業員が、何よりも強力な広告塔になってくれています」と、二九社長は会心の笑顔だ。 二九精密機械工業株式会社の両立支援策 入院手術見舞金制度 会社の慶弔見舞金規定により、入院や手術の際、入院給付金を1日5千円、入院中に手術を受けたときには手術給付金として10万円の給付金を会社から支給する 現場へのヒアリングなどによる業務分担見直し 残された部下などへの細やかな業務配分や情報共有によって、特定の従業員だけに過大な負荷がかかり、業務が滞ってしまうことを防ぐ 復帰支援 体調が回復するまでの短時間勤務や、通院や治療のために休みを取りやすい雰囲気づくりを全社的に行っている メモリアル休日 年間5日間、法定の有給休暇にプラスして取得できる。誕生日や結婚記念日など個人のメモリアルデーなどにあわせて、会社に申告すれば休める制度 写真のキャプション (写真左から)大川智司専務執行役員、二九良三代表取締役社長、廣瀬正典執行役員 【P50-51】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第23回 「サクセッションプラン」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回はサクセッションプランについて取り上げます。サクセッションプランとは、一言でいうと「後継者育成に向けた計画」をさします。  企業経営の前提に、将来にわたり継続していくこと(ゴーイングコンサーン)があるように、経営者も従業員も次世代を育成し、引き継いでいく必要があります。このことをふまえるとあたり前の取組みなのですが、実態としてはなかなか実践されているとはいいがたい状況にあります。 サクセッションプランの本丸は経営者育成  後継者の育成であるかぎり、サクセッションプランの対象は経営者・従業員の双方にあてはまりますが、特に近年はコーポレートガバナンス・コード(CGC)との関係で経営者の育成をさすことが多いです。コーポレートガバナンスとは、東京証券取引所の説明によると「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場をふまえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」を意味しており、コードは「実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもの」とされています。上場企業においては、その原則を実践≠ワたは実践しない場合には説明≠キることが求められています。CGCは五つの基本原則と原則(基本原則を具体化したもの)、補充原則(原則を行動レベルまで詳細化したもの)に分かれていますが、この基本原則4の補充原則のなかで最高経営責任者(CEO)等の後継者育成について十分な時間と資源をかけて計画的に行われるようにと触れられています。  CGCは2015(平成27)年に策定され、もともと最高経営責任者などの後継者計画については記載があったのですが、十分に機能していないという指摘も多く、2018年には、より具体的な取組みをうながす内容に改訂されました。 サクセッションプランの実践状況  それでは、どのくらいの会社が本腰を入れてサクセッションプランに取り組んでいるかというと、あまり芳しくない状況といえそうです。日本の社長・CEOの指名方法としてよくいわれるのは、現社長・CEOが次の後継者を指名するというものです。現任者の意向が強く反映され、後継者としての資質がある者が本当に選ばれているかわからない、退任後も影響を及ぼしやすい院政≠敷きやすいなどの指摘が一般的にもよくみられます。これを裏づける調査結果があります。  『コーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果(2018年版)』(経済産業省委託PwCあらた有限責任監査法人調査)のなかに、次の質問と回答があります。%は最も多い回答比率をあげています。 問14:社長・CEOの再任についての決定を最も左右する主体とは 回答:社長・CEO自身(39%) 問29:次期社長・CEOの選定に関し、候補者の選出から決定までのプロセスとは 回答:現社長・CEO等が単一の候補者を選定し、取締役会で審議・決定(22%) 問30:サクセッションプランの有無とは 回答:後継者の計画が存在しない(48%) 問35:サクセッションプランを作成していない理由とは 回答:後継者については社長・CEO等の経営陣の意向が尊重されるため(56%)  本調査のごく一部の要約となりますが、これらをみるだけでもサクセッションプランの実施については消極的な姿勢がうかがえます。経営者本人に後継者育成の課題感がないと、ほかの役員や人事部門からはとてもではないが提案しにくく、導入が進まないというのが実際のところのようです。 サクセッションプランの取組み  このような状況に対し、経済産業省が2018年に改訂した『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』によると、企業の持続的な成長と中期的な企業価値の向上には、経営トップを、もっとも優れた後継者にベストなタイミングで経営トップの交代が必要であり、現行の後継者の現社長・CEOによる属人的な選定は、現在の変化の激しい経営環境のなかでは適切な後継者指名が行われないリスクが高いとして、サクセッションプランの必要性について強く説いています。  一方で、新たに後継者計画に取り組む企業にとって、最初からフルスペックで仕組みを構築することは困難として、七つのステップ(図表)を参考にできるところから一歩ずつ取り組んでいくように記載されています。また、サクセッションプランの導入における重要な取りかかりとなるのは、どのような後継者を育成していくのかという「あるべき社長・CEO像」の可視化ですが、本資料に社長・CEOに求められる資質・能力の一例が掲載されています。このほか各ステップの進め方や取組み例について具体的に記載されているため、サクセッションプランにこれから取り組もうという企業には参考になるかと思います。  日本の企業でもグローバル化の進展にともない、日本人以外でも優秀な社員を経営陣に抜擢する動きも増えてきています。社内の内輪の理論だけで経営者を選出していては、環境変化やグローバル化へのかじ取りがますますむずかしくなっていくのは明白です。取組みを進めるために、まずは後継者を育成し、最適な人材を選抜していくことの重要性をいかに現在の経営者に醸成していくかがポイントになりそうです。 ☆☆  次回は、「福利厚生」について取り上げます。 図表 後継者計画の策定・運用のステップ ステップ 主な内容 1 後継者計画のロードマップの立案 2 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定 3 後継者候補の選出 4 育成計画の策定・実施 5 後継者候補の評価、絞込み・入替え 6 最終候補者に対する評価と後継者の指名 7 指名後のサポート 出典:コーポレートガバナンスに関する実務指針(経済産業省) 【P52-55】 労務資料 第16回中高年者縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)の概況 厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室  厚生労働省は2005(平成17)年度から、団塊の世代を含む全国の中高年世代の男女を追跡し、その健康・就業・社会活動について意識面・事実面の変化の過程を継続的に調査しています。このほど、第16回(2020年)の結果がまとまりましたので、「就業の状況」を中心にその結果をご紹介します。  調査は、2005年10月末時点で50〜59歳だった全国の男女を対象としており、第16回調査における対象年齢は65〜74歳、調査の期日は2020年11月4日、調査対象は2万264人、回収数は1万9644人、回収率は96.9%でした。(編集部) 世帯の状況  この15年間で、「夫婦のみの世帯」の割合は増加、「三世代世帯」、「親なし子ありの世帯」の割合は減少  第1回調査(平成17年)から15年間の世帯構成の変化をみると、「夫婦のみの世帯」は、第1回21.4%から第16回45.9%と増加している。一方、「三世代世帯」は、第1回22.3%から第16回11.5%、「親なし子ありの世帯」は、第1回39.4%から第16回24.0%と減少している(図表1)。  また、第1回の世帯構成別に第16回の世帯構成をみると、「夫婦のみの世帯」に変化した割合は、「親なし子ありの世帯」が44.9%、「親あり子なしの世帯」が40.1%と高くなっている(図表2) 就業の状況 (1)就業状況の変化  この15年間で、「正規の職員・従業員」の割合は減少、「パート・アルバイト」の割合はほぼ横ばい  第1回調査から15年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回38.5%から第16回3.5%と減少している。一方、「パート・アルバイト」は、第1回16.8%から第16回15.6%と、ほぼ横ばいの状況である(図表3)。  また、第1回で「仕事をしている」者について、性別に第16回の就業状況をみると、男の「(第1回)正規の職員・従業員」では「仕事をしていない」の53.1%がもっとも高く、次いで「パート・アルバイト」の16.2%、「労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託」の11.4%となっている。女の「(第1回)パート・アルバイト」では「仕事をしていない」の60.3%がもっとも高く、次いで「パート・アルバイト」の32.4%となっている(図表4)。 (2)65歳以上の就業状況  第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者で、第16回調査時に「仕事をしている」のは、男の「65〜69歳」で6割以上、「70〜74歳」で5割以上、女の「65〜69歳」で5割以上、「70〜74歳」で4割以上となっている。  第1回調査時(50〜59歳)に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者について、性、年齢階級別に第16回調査で「仕事をしている」者の割合をみると、男の「65〜69歳」で67.4%、「70〜74歳」で52.6%、女の「65〜69歳」で53.3%、「70〜74歳」で41.2%となっており、いずれも女より男の方が高くなっている(図表5)。 日頃から頼りにしている相手  日頃から頼りにしている相手は、男女とも「同居している親族」の割合が6割以上ともっとも高い  日頃から何かと頼りにしている相手をみると、男女とも「同居している親族」が6割以上ともっとも高く、次いで「同居していない親族」、「友人」の順となっている。これを性別の割合の差でみると、「同居していない親族」、「友人」で差が大きくなっており、女の方が高くなっている(図表6)。 図表1 第1回調査から第16回調査までの世帯構成の変化 第1回 単独世帯4.8% 夫婦のみの世帯21.4 三世代世帯 三世代世帯22.3% 親と子と同居17.7% 子と孫と同居2.9% 親と子と孫と同居1.7% 親あり子なしの世帯10.6% 親なし子ありの世帯39.4% その他の世帯0.8% 不詳0.6% 第2回 単独世帯5.6% 夫婦のみの世帯24.6% 三世代世帯 三世代世帯20.9% 親と子と同居15.9% 子と孫と同居3.3% 親と子と孫と同居1.7% 親あり子なしの世帯10.5% 親なし子ありの世帯36.6% その他の世帯0.9% 不詳0.9% 第3回 単独世帯5.6% 夫婦のみの世帯26.5% 三世代世帯 三世代世帯19.6% 親と子と同居14.1% 子と孫と同居3.7% 親と子と孫と同居1.8% 親あり子なしの世帯11.0% 親なし子ありの世帯35.6% その他の世帯1.0% 不詳0.7% 第4回 単独世帯6.3% 夫婦のみの世帯28.8% 三世代世帯 三世代世帯19.0% 親と子と同居13.1% 子と孫と同居4.1% 親と子と孫と同居1.9% 親あり子なしの世帯10.7% 親なし子ありの世帯33.8% その他の世帯1.0% 不詳0.4% 第5回 単独世帯6.7% 夫婦のみの世帯29.9% 三世代世帯 三世代世帯18.6% 親と子と同居11.9% 子と孫と同居4.8% 親と子と孫と同居1.9% 親あり子なしの世帯10.4% 親なし子ありの世帯33.1% その他の世帯1.0% 不詳0.2% 第6回 単独世帯6.8% 夫婦のみの世帯30.8% 三世代世帯 三世代世帯17.9% 親と子と同居10.7% 子と孫と同居5.2% 親と子と孫と同居1.9% 親あり子なしの世帯10.6% 親なし子ありの世帯32.4% その他の世帯1.0% 不詳0.4% 第7回 単独世帯7.2% 夫婦のみの世帯32.7% 三世代世帯 三世代世帯17.0% 親と子と同居9.4% 子と孫と同居5.7% 親と子と孫と同居1.9% 親あり子なしの世帯10.2% 親なし子ありの世帯31.0% その他の世帯1.2% 不詳0.7% 第8回 単独世帯7.6% 夫婦のみの世帯34.8% 三世代世帯 三世代世帯15.9% 親と子と同居8.1% 子と孫と同居6.0% 親と子と孫と同居1.8% 親あり子なしの世帯9.9% 親なし子ありの世帯30.0% その他の世帯1.3% 不詳0.5% 第9回 単独世帯7.9% 夫婦のみの世帯37.1% 三世代世帯 三世代世帯15.3% 親と子と同居7.0% 子と孫と同居6.5% 親と子と孫と同居1.7% 親あり子なしの世帯9.2% 親なし子ありの世帯28.7% その他の世帯1.3% 不詳0.4% 第10回 単独世帯8.6% 夫婦のみの世帯37.8% 三世代世帯 三世代世帯14.7% 親と子と同居6.0% 子と孫と同居7.0% 親と子と孫と同居1.6% 親あり子なしの世帯8.9% 親なし子ありの世帯28.1% その他の世帯1.4% 不詳0.5 第11回 単独世帯8.8% 夫婦のみの世帯39.6% 三世代世帯 三世代世帯14.3% 親と子と同居5.2% 子と孫と同居7.5% 親と子と孫と同居1.6% 親あり子なしの世帯8.2% 親なし子ありの世帯27.2% その他の世帯1.6% 不詳0.2% 第12回 単独世帯9.4% 夫婦のみの世帯41.2% 三世代世帯 三世代世帯13.6% 親と子と同居4.4% 子と孫と同居7.7% 親と子と孫と同居1.5% 親あり子なしの世帯7.5% 親なし子ありの世帯26.5% その他の世帯1.5% 不詳0.3% 第13回 単独世帯9.9% 夫婦のみの世帯42.7% 三世代世帯 三世代世帯13.2% 親と子と同居3.8% 子と孫と同居8.1% 親と子と孫と同居1.3% 親あり子なしの世帯6.6% 親なし子ありの世帯25.7% その他の世帯1.7% 不詳0.2% 第14回 単独世帯10.3% 夫婦のみの世帯43.8% 三世代世帯 三世代世帯12.7% 親と子と同居3.3% 子と孫と同居8.4% 親と子と孫と同居1.1% 親あり子なしの世帯6.0% 親なし子ありの世帯25.0% その他の世帯1.9% 不詳0.3% 第15回 単独世帯11.2% 夫婦のみの世帯45.0% 三世代世帯 三世代世帯11.9% 親と子と同居2.6% 子と孫と同居8.4% 親と子と孫と同居0.9% 親あり子なしの世帯5.2% 親なし子ありの世帯24.5% その他の世帯1.9% 不詳0.3% 第16回 単独世帯11.6% 夫婦のみの世帯45.9% 三世代世帯 三世代世帯11.5% 親と子と同居2.1% 子と孫と同居8.6% 親と子と孫と同居0.8% 親あり子なしの世帯4.5% 親なし子ありの世帯24.0% その他の世帯2.1% 不詳0.3% 図表2 第1回調査の世帯構成別にみた第16回調査の世帯構成 (単位:%) 第16回の世帯構成 総数 単独世帯 夫婦のみの世帯 三世代世帯 親あり子なしの世帯 親なし子ありの世帯 その他の世帯 第1回の世帯構成 総数 (100.0)100.0 11.6 45.9 11.5 4.5 24.0 2.1 単独世帯 (4.8)100.0 71.7 11.9 3.4 2.2 6.7 3.1 夫婦のみの世帯 (21.4)100.0 8.8 75.3 5.4 1.6 7.5 1.0 三世代世帯 (22.3)100.0 4.3 30.5 28.0 8.1 27.4 1.6 親あり子なしの世帯 (10.6)100.0 21.2 40.1 7.7 17.3 7.6 6.0 親なし子ありの世帯 (39.4)100.0 7.0 44.9 7.9 1.0 38.3 0.7 その他の世帯 (0.8)100.0 21.5 21.5 3.7 0.7 1.5 51.1 注:総数には第1回および第16回の世帯構成の不詳を含む 図表3 第1回調査から第16回調査までの就業状況の変化 第1回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.5% 会社・団体等の役員4.7% 正規の職員・従業員38.5% パート・アルバイト16.8% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託3.8% 家庭での内職など、その他2.2% 仕事のかたち不詳0.2% 仕事をしていない18.3% 不詳0.0% 第2回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.1% 会社・団体等の役員4.9% 正規の職員・従業員35.8% パート・アルバイト17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託4.3% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.3% 仕事をしていない19.5% 不詳0.0% 第3回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.1% 会社・団体等の役員4.7% 正規の職員・従業員32.9% パート・アルバイト17.3% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託5.8% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.4% 仕事をしていない21.3% 不詳0.0% 第4回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.2% 会社・団体等の役員4.5% 正規の職員・従業員29.6% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.0% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.3% 仕事をしていない23.4% 不詳0.0% 第5回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.3% 会社・団体等の役員4.2% 正規の職員・従業員25.8% パート・アルバイト17.0% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.9% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.2% 仕事をしていない27.2% 不詳0.0% 第6回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.0% 会社・団体等の役員4.3% 正規の職員・従業員22.4% パート・アルバイト17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託8.3% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない30.1% 不詳0.1% 第7回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.1% 会社・団体等の役員4.1% 正規の職員・従業員18.7% パート・アルバイト17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.2% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない33.0% 不詳0.1% 第8回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.8% 会社・団体等の役員4.0% 正規の職員・従業員15.9% パート・アルバイト17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.2% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない36.0% 不詳0.4% 第9回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.6% 会社・団体等の役員3.8% 正規の職員・従業員12.9% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.1% 家庭での内職など、その他2.8% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない38.9% 不詳0.1% 第10回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.6% 会社・団体等の役員3.9% 正規の職員・従業員10.5% パート・アルバイト17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.5% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない41.2% 不詳0.2% 第11回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.3% 会社・団体等の役員3.8% 正規の職員・従業員8.0% パート・アルバイト17.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.2% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない44.0% 不詳0.2% 第12回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.1% 会社・団体等の役員3.6% 正規の職員・従業員6.5% パート・アルバイト17.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託8.8% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない46.2% 不詳0.1% 第13回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.8% 会社・団体等の役員3.5% 正規の職員・従業員5.5% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.9% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない48.7% 不詳0.1% 第14回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.5% 会社・団体等の役員3.2% 正規の職員・従業員4.6% パート・アルバイト17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.2% 家庭での内職など、その他2.7% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない50.9% 不詳0.2% 第15回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.1% 会社・団体等の役員3.2% 正規の職員・従業員4.1% パート・アルバイト17.1% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託6.2% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない53.3% 不詳0.3% 第16回 仕事をしている 自営業主、家族従業者12.9% 会社・団体等の役員3.0% 正規の職員・従業員3.5% パート・アルバイト15.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託5.3% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない57.0% 不詳0.3% 図表4 性、第1回調査の就業状況別にみた第16回調査の就業状況 (単位:%) 第16回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 仕事をしている 自営業主、家族従業者 会社・団体等の役員 正規の職員・従業員 パート・アルバイト 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 家庭での内職など、その他 仕事をしていない 性・第1回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 (100.0)100.0 42.7 12.9 3.0 3.5 15.6 5.3 2.3 57.0 仕事をしている (81.7)100.0 49.9 15.3 3.6 4.1 17.9 6.3 2.6 49.8 仕事をしていない (18.3)100.0 10.4 2.4 0.3 0.6 5.3 0.7 1.1 89.0 男 (100.0)100.0 52.9 17.5 5.2 5.6 13.2 8.9 2.4 46.9 仕事をしている (95.4)100.0 54.5 18.2 5.4 5.7 13.6 9.2 2.4 45.3 自営業主、家族従業者 (18.6)100.0 77.9 62.7 4.2 2.1 5.1 2.1 1.8 22.0 会社・団体等の役員 (8.2)100.0 63.8 10.3 32.3 4.9 8.2 5.9 2.2 36.1 正規の職員・従業員 (61.5)100.0 46.7 6.9 2.6 7.2 16.2 11.4 2.3 53.1 パート・アルバイト (2.0)100.0 44.3 7.6 0.6 1.3 23.4 7.0 4.4 55.1 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.8)100.0 54.0 8.6 0.3 5.5 17.2 18.2 3.8 45.7 家庭での内職など、その他 (1.2)100.0 46.9 9.4 4.2 2.1 15.6 3.1 12.5 53.1 仕事をしていない (4.6)100.0 18.7 3.1 1.1 3.1 6.2 2.8 2.3 80.2 女 (100.0)100.0 34.2 9.1 1.3 1.7 17.6 2.3 2.2 65.4 仕事をしている (70.3)100.0 44.7 12.0 1.7 2.3 22.8 3.1 2.7 54.9 自営業主、家族従業者 (12.9)100.0 65.8 52.0 2.3 0.5 7.4 0.7 2.7 34.0 会社・団体等の役員 (1.9)100.0 62.3 14.9 32.0 3.4 9.7 0.6 1.7 37.1 正規の職員・従業員 (19.5)100.0 39.0 2.9 0.8 5.9 21.0 5.5 2.8 60.5 パート・アルバイト (29.1)100.0 39.4 2.2 0.3 0.8 32.4 1.9 1.6 60.3 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.8)100.0 43.4 1.1 1.1 2.0 27.9 9.3 2.0 56.6 家庭での内職など、その他 (3.0)100.0 34.3 6.4 − 1.1 10.0 3.2 13.6 65.0 仕事をしていない (29.7) 100.0 9.4 2.3 0.2 0.3 5.2 0.4 0.9 90.2 注:「総数」、「男」、「女」には第1回および第16 回の仕事の有無の不詳を含み、「仕事をしている」には仕事のかたちの不詳を含む 図表5 性、年齢階級別にみた第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者の第16回調査の仕事の有無 【男】 65〜69歳 仕事をしている67.4% 仕事をしていない32.5% 不詳0.1% 70〜74歳 仕事をしている52.6% 仕事をしていない47.2% 不詳0.2% 【女】 65〜69歳 仕事をしている53.3% 仕事をしていない46.6% 不詳0.1% 70〜74歳 仕事をしている41.2% 仕事をしていない58.2% 不詳0.6% 図表6 性別にみた日頃から何かと頼りにしている相手(複数回答) 同居している親族 男67.9% 女66.3% 同居していない親族 男39.4% 女57.4% 近所の人 男15.6% 女22.3% 勤め先の同僚(元同僚を含む) 男8.5% 女6.2% 友人 男31.4% 女43.5% その他 男3.2% 女2.5% 頼る人がいない 男7.7% 女2.7% ※第16回の性別ごとの総数を100とした割合である 【P56-57】 BOOKS これからの高齢者雇用の労働条件と人事制度への対応例を示す 定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務 川嶋英明 著/日本法令/2860円  2021(令和3)年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となった。同時に、中小企業においても、同一労働同一賃金への対応が義務化された。さらに2022年4月、在職老齢年金制度が変わり、60代前半の在職老齢年金の基準額が引き上げられ、働きながら年金を受給しても年金がカットされにくい仕組みとなった。  また、60歳以降の賃金が60歳到達時の賃金より低くなった労働者に対して支給される高年齢雇用継続基本給付金は、段階的な縮小・廃止が決定されている。  本書はこれまで高年齢雇用継続給付の支給を受けることを前提に、定年後再雇用者の賃金を引き下げていた雇用慣行の見直しが迫られているとして、高齢労働者に影響の大きい法改正の内容を解説し、現行制度からどのような変更があるかが確認できる。同一労働同一賃金への対応を中心に、具体例を用いながら、定年後再雇用者の同一労働同一賃金への対応のポイントを示し、労使が納得できるこれからの定年後再雇用者の労務管理を検討。架空の会社を例に、「戦力としての雇用」などへの移行例を具体的に解説している。 対話のスキル、型、スタンスを網羅的に解説した実践書 部下が自ら成長し、チームが回り出す 1on1戦術 100社に導入してわかったマネジャーのための「対話の技術」 由井(ゆい)俊哉 著/ダイヤモンド社/1760円  1on1とは、上司と部下が1対1で定期的に行うミーティングの方法をいう。上司からの指示や指導を中心とする従来のミーティングとは異なり、対話の機会を増やして部下の成長をサポートすることなどが目的とされている。1on1はもともとアメリカのシリコンバレーで生まれたといわれており、日本では大手IT企業が導入したことで注目され、働き方の多様化などを背景に導入する企業が増えているようだ。  本書は、1on1を100社以上に導入し、組織マネジメントのあり方を改善してきた著者が、1on1を効果的に実践する方法をまとめた一冊。  正解がわからない先の見えない時代といわれるなか、さらに、コロナ禍により社内のコミュニケーションに難題を抱えている企業が多くなっているという。本書の著者は、プレッシャーが増している上司の悩みを「5つの壁」として整理し、それらの壁を突破する方法として1on1による技術を説く。読むことで、効果的な対話の技術が身につけられるという実践書であり、2社の事例紹介から具体的な施策を学ぶこともできる。部下との関係性や組織マネジメントに悩むビジネスパーソンにおすすめしたい。 超高齢社会で求められる「安全の常識」を入門解説 安全四学(よんがく) 安全・安心・ウェルビーイングな社会の実現に向けて 向殿(むかいどの)政男、北條(ほうじょう)理恵子、清水尚憲(しょうけん) 著/一般財団法人日本規格協会 発行/2420円  70歳までの就業機会確保が努力義務化され、高齢者雇用のさらなる進展が期待される。その一方、職場の安全衛生レベルの向上がこれまで以上に求められるようになるということも事実だろう。高齢者が知識と経験を活かし、年齢にかかわりなく活躍し続けるためには、安全で健康に働くための労働安全衛生管理が重要なポイントの一つになるのである。  本書は、日本における安全学の第一人者として広く知られている向殿政男氏が中心となり、日常生活における教養としても役立つように、安全学の考え方をわかりやすくまとめたもの。安全学全体を、「基礎安全学」、「社会安全学」、「経営安全学」、「構築安全学」の四つの要素に分けて解説しているところに特徴がある。まずは基礎安全学を学び、その後に他の三つの安全学を学ぶことによって、安全学に関するより深い理解が得られるように工夫されている。  人事労務担当者のなかには、安全衛生管理は安全管理者や衛生管理者に一任しているというスタンスの人も少なくないと思われるが、人事労務管理の視点から安全衛生管理のあり方を見直すことも重要。安全学を一から学びたい担当者に最適な入門書としておすすめする。 定年後のライフプランの参考本として 知らないと損する年金の真実 2022年「新年金制度」対応 大江英樹 著/ワニブックス(ワニブックスPLUS新書)/946円  インパクトのあるタイトルは、日本の公的年金に対する多くの誤解を解き、正しい知識を持って自分で考え、公的年金をうまく活用してほしい、という本書の目的を表しているようだ。  著者は本書にて、公的年金の本質を「年をとって働けなくなった時や、障害を負ってしまった時などの生活を保障する手段である保険機能」と説明する。そして、「これからの公的年金にとって大切な3つのこと」として、@より多くの人が制度に参加すること、A公平であること、B経済が成長すること、をあげている。  現在広がっている公的年金の誤解として「年金財政は赤字」、「少子化が進むので年金は崩壊する」などをあげ、それぞれの事実を検証。そのうえで、2022(令和4)年4月に施行された年金制度改正法によって変わることのうち、「被用者保険の適用拡大」、「在職中の年金受給の在り方の見直し」、「受給開始時期の選択の拡大」に注目し、改正の背景やポイントを解説。年金受給開始時期の選択肢が広がる今後、受け取り方の注意点や年金受け取り額を増やす方法などもアドバイスしている。  手軽に読める新書判で、定年後のライフプランを考える際の参考になるだろう。 生涯現役の生き方を知るために 死ぬまで、働く。 97歳・現役看護師の 「仕事がある限り働き続ける」生き方 池田きぬ 著/すばる舎/1430円  「生涯現役」。この言葉はたいへん魅力的であり、またこうありたいと思える生き方であろう。著者は80年もの職務経験のある現役の看護師。1924(大正13)年生まれ、100歳に手が届く年齢だが、生涯現役を実践している。  本書は、著者のいまの職場での働きぶりや、これまでの人生、自身の暮らし、人間関係、苦労や経験についての考えを紹介している。90歳代になっても現役で働けることについて、特別な秘訣を語っているわけではないが、「仕事があるかぎり働き続ける」ことがやりがいを生み、充実した生き方をもたらしているように映る。一方で、この生涯現役の実践には、著者の努力以外に、高齢者の特性を理解し、特性に見合う適切な職務に就かせた人事担当者の存在も忘れてはならない。  また、これまでの人生経験から得た「毎日欠かさず草むしり」、「できるだけ歩く」など自分でできることは自分でする暮らし方や、「経験を押しつけず」、「立場をわきまえる」などの人間関係を円滑にする勘所、「苦労は人間性をつくり上げる薬である」などを読者に伝えている。  そんな、著者の生き方や知恵に励まされる好著である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「特別労働相談受付日」における相談結果厚生労働省  厚生労働省は、11月の「過重労働解消キャンペーン」の一環として、2021(令和3)年11月6日に実施した特別労働相談受付日における相談結果を公表した。  それによると、合計で480件の相談が寄せられ、相談内容の内訳をみると、「長時間労働・過重労働」に関するものが56件(全体の11.7%)と最も多く、次いで、「パワハラ」48件(同10.0%)、「解雇・雇止め」47件(同9.8%)、「賃金不払残業」46件(同9.6%)、「休日・休暇」40件(同8.3%)などとなっている。相談者の割合は、「労働者」が369件(全体の76.9%)、「労働者の家族」が54件(同11.3%)など。主な事業場の業種は、「保健衛生業」57件(全体の11.9%)、「商業」50件(同10.4%)などとなっている。  同省では、労働基準関係法令上、問題があると認められる事案については、相談者の希望を確認したうえで労働基準監督署に情報提供を行い、必要な対応を行っている。労働条件に関する相談は、今後も都道府県労働局や労働基準監督署、労働条件相談ほっとラインで受けつける。 ●労働条件相談ほっとライン(相談は無料) [電話]0120−811−610 携帯電話からも利用可能 [相談対応曜日・時間] 月〜金曜 17時〜22時 土・日曜、祝日 9時〜21時 厚生労働省 令和2年 介護サービス施設・事業所調査の概況  厚生労働省は、2020(令和2)年「介護サービス施設・事業所調査」結果を公表した。  同調査は、今後の介護サービス関連施策の基礎資料を得ることを目的として、毎年10月1日現在の状況について調査を実施している。2020年は、全国の介護保険施設や居宅サービス事業所等のうち、延べ24万4825施設・事業所を対象として調査し、活動中の延べ20万9481施設・事業所について集計を行った。  調査結果によると、介護保険施設の施設数は、介護老人福祉施設が8306施設(前年比72増)、介護老人保健施設が4304施設(同33減)、介護医療院が536施設(同291増)、介護療養型医療施設が556施設(同277減)となっている。  介護サービスの事業所数は、訪問介護が3万5075事業所(前年比250増)、訪問看護ステーションが1万2393事業所(同813増)、通所介護が2万4087事業所(同52増)などとなっている。  介護職員(訪問介護員)の従事者数は、訪問介護は50万1666人で、前年(50万8256人)に比べ6590人減となっている。通所介護は22万2157人で、前年(22万1813人)に比べ344人増となっている。  介護保険施設では、介護老人福祉施設の介護職員は29万2875人で、前年(28万9271人)に比べ3604人増となり、介護老人保健施設の介護職員は12万9219人で、前年(12万8897人)に比べ322人増となっている。 内閣府 「国民生活に関する世論調査」の概要  内閣府は、「国民生活に関する世論調査」結果を公表した。  同調査は、1957(昭和32)年度から実施しており、今回で64回目。今回は2021(令和3)年9月〜10月、全国18歳以上の日本国籍を有する3000人に対して調査した(回収率63.2%)。  調査結果から、「働く目的」についてみると、全体では「お金を得るために働く」が61.1%、「生きがいをみつけるために働く」が13.9%、「社会の一員として、務めを果たすために働く」が12.1%の順となっている。これを60歳以上についてみると、60〜69歳では「お金を得るために働く」が59.3%、次いで「生きがいをみつけるために働く」が15.4%、「社会の一員として、務めを果たすために働く」が10.9%となっている。70歳以上も上位を占める項目は同じだが、「お金を得るために働く」が35.2%、「生きがいをみつけるために働く」が27.1%、「社会の一員として、務めを果たすために働く」が16.4%となっている。  次に、「収入と自由時間についての考え方」についてみると、60〜69歳では「どちらかといえば収入をもっと増やしたい」が41.0%ともっとも高く、「どちらかといえば自由時間をもっと増やしたい」36.5%、「収入をもっと増やしたい」9.9%と続いている。70歳以上も上位を占める項目は同じだが、「どちらかといえば収入をもっと増やしたい」が36.3%、次いで、「どちらかといえば自由時間をもっと増やしたい」30.3%、「収入をもっと増やしたい」が11.7%となっている。 調査・研究 日本生産性本部 新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響の継続調査  公益財団法人日本生産性本部は、「新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識に及ぼす影響の継続調査(第8回「働く人の意識調査」)」結果を公表した。今回は、オミクロン株による感染が急拡大するなかで、まん延防止等重点措置が3県で適用中、13都県で適用される直前の2022(令和4)年1月17日〜18日、20歳以上の日本の雇用者1100人を対象に行われた。  調査結果のなかから、働き方の変化についてみると、テレワークの実施率は前回調査(昨年10月実施)の22.7%から18.5%へと4.2ポイント減少し、過去最低を記録。大企業の本社機能が集中する首都圏(1都3県)のテレワーク実施率が前回調査から10.1ポイント低下した(36.9%→26.8%)のに対し、その他地域では1.3ポイントの低下(14.2%→12.9%)にとどまった。  職種別にみると、これまでテレワーク実施率の高かった「管理的な仕事」、「専門的・技術的な仕事」、「事務的な仕事」で増減状況に差が生じた。「専門的・技術的な仕事」は前回調査から微増したのに対し、「管理的な仕事」は10ポイント弱、「事務的な仕事」は10ポイント以上減少した。  また、テレワーカーのうち週3日以上テレワークを行う者は、前回調査の41.2%から53.0%に増加。在宅勤務に「満足している」、「どちらかと言えば満足している」の割合は、前回調査の66.1%から77.5%に増加し、過去最多となった。 日本産業カウンセラー協会 「働く人の電話相談室」集計結果  一般社団法人日本産業カウンセラー協会は、2021(令和3)年9月10日から12日までの3日間にわたって全国22カ所で開設した「第15回働く人の電話相談室」の集計結果を公表した。  それによると、期間中に延べ288人から、計456件の相談が寄せられた(※相談者からの主訴を最大三つまで選択する方式として集計)。  コロナ禍の影響は、職場環境を含め多岐におよんでおり、全相談件数の約3割を占めた。  相談者は、正規社員が全体の31.6%を占め、前年(23.9%)より7.7ポイント増加。男女別では、女性相談者が66.3%を占め、前年(60.9%)より5.4ポイント増加した。年代別では、50代が33.0%(前年31.2%)、40代が16.7%(同20.6%)、60代が13.5%(同17.6%)、30代が13.2%(同9.7%)の順となっている。  相談内容は、「職場の悩み」37.3%、「キャリアに関する悩み」14.9%、「家族に関する悩み」11.6%が上位を占めている。前年2番目に多かった「メンタル不調・病気の悩み」は件数、割合とも大幅に減少。一方で、テレワークに関する悩みをみると「職場の悩み」が大半を占めており、職場環境の違いにより相談内容に差異がでていると思われる。  「職場の悩み」の内訳をみると、「職場の人間関係」が47.1%を占め、前年(32.9%)より14.2ポイント増加。また、「キャリアに関する悩み」の内訳をみると、「働き方」が29.4%を占め、前年(16.0%)の2倍近い伸びを示している。 発行物 日本商工会議所・東京商工会議所 「ハラスメント対策BOOK−ハラスメントのない社会へ−」を公開  日本商工会議所ならびに東京商工会議所は、中小企業向けに職場のハラスメント対策のポイントを解説したガイドブック「ハラスメント対策BOOK−ハラスメントのない社会へ−」を公開した。  改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)により、2022(令和4)年4月から、パワーハラスメント防止措置が中小企業に対しても義務づけられる。しかしながら制度の認知度は十分でなく、多くの中小企業から戸惑いの声が同所に寄せられていた。同ガイドブックはこのことをふまえ、ハラスメントのない職場づくりに取り組む中小企業の一助となることを目的に作成された。  内容は、ハラスメントに関する近年の動向と法律の概要をはじめ、各種ハラスメントの定義、防止に向けた措置、ハラスメント発生後の対応策や公的な支援策などのほか、職場で生じやすいハラスメントの具体的事例やハラスメントかどうかの判断基準も掲載。例えば、職場におけるハラスメントの原因や背景の一つとして、「世代によりハラスメントの種類や就業環境が違っていることから、世代によってハラスメントに対するボーダーラインが異なる」ことがあげられている。「自身が受けてきた指導方法や自身の経験をもとにした言動が、ハラスメントに該当する可能性があることに留意する必要がある」などの解説もある。  同ガイドブックは、日本商工会議所および東京商工会議所のホームページからダウンロード可能。 【P60】 次号予告 5月号 特集 生涯現役時代の安心・安全な職場とは? リーダーズトーク 前川孝雄さん(株式会社FeelWorks代表取締役) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●2022(令和4)年度がスタートし、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法の施行から1年が経ちました。自社での雇用延長だけではなく、他社での就業や業務委託、社会貢献事業への就業が選択肢として示されるなど、新たな取組みが求められるなかで、取組みの方向性に悩まれる事業者も少なくないようです。  そこで、今回の特集は「高年齢者雇用安定法改正から1年をふり返る」と題し、改正高齢法の概要とともに、高齢者雇用推進の専門家でもある当機構の65歳超雇用推進プランナーと、労働ジャーナリストのそれぞれの視点で、企業における改正高齢法への対応状況や課題などについて解説していただきました。  また、高齢法改正にあわせて70 歳就業を実現した企業の事例では、改正法への対応のために行った検討やプロセスなどを紹介していますので、70歳就業の実現に向け、ぜひご参照ください。 ●当機構では、70歳以上の定年制、70歳以上の継続雇用制度、定年制廃止を実施した企業や法人の事例を集めた『70歳雇用推進事例集2022』を作成しました。業種や企業規模が異なる多種多様な20事例を掲載しています。この事例集は当機構ホームページで公開しています。70歳雇用事例サイトとあわせて、高齢者雇用の推進に、ぜひお役立てください。 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー4月号 No.509 ●発行日−−令和4年4月1日(第44巻 第4号 通巻509号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部課長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-868-5 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.318 隣り合う畳縁(たたみべり)の模様をぴたりと合わせる高度な技 畳工 松本芳光(よしみつ)さん(64歳) 「妥協せず、見えない部分まできれいに仕上げるのが職人としてのこだわり。仕上がりに納得できないと、後々まで悔いが残ります」 伝統的な製法でつくり上げた「八重畳(やえだたみ)」と「厚畳(あつじょう)」  上の写真は、古くから宮中で御神座(ごしんざ)として用いられてきた「八重畳」(上)と「厚畳」。埼玉県幸手(さって)市の畳工・松本芳光さんが、自身の腕を磨くために、伝統的な製法に則って製作した。八重畳は、一見、厚畳と同じように1枚の厚い畳のようだが、実際には土台となる厚い畳の上に7枚の畳表(たたみおもて)を重ねてつくられている。1枚のように見えるのは、8枚それぞれの縁(へり)の模様を少しずつずらし、全体で一続きの模様として見えるように製作しているためだ(63頁右下写真参照)。こうした手縫い作業の高度な技術などが評価され、松本さんは2020(令和2)年度の「卓越した技能者(現代の名工)」(厚生労働省)に選定された。 細部にまで妥協しないのが職人としてのこだわり  畳工として50年近い経験を持つ松本さんは、一般住宅の畳はもちろんのこと、寺社などで用いられる有職畳(ゆうそくだたみ)も手がける。現在では機械で製作されることが多い畳だが、有職畳のように手作業が求められる仕事も少なくない。その代表的なものが、八重畳の製作でも発揮された、畳縁の模様を合わせる技術である。  例えば、寺院の本堂の畳などは、隣り合う畳縁の紋がずれないように仕上げることが求められる。そのために、縁の位置決めの際に、縁に用いる絹製の生地に、霧吹きで水をかけて縮めたり、引っ張って伸ばしたりしながら調整を行う。また、畳に縁を縫いつける「平刺し」という作業では、縁を裏にして下紙と一緒に縫って折り返すが、縁の模様を見ながら縫うことができないため、縁を正しい位置につけるには経験と勘が求められる。  「以前、お寺に畳を納めたときに、一カ所だけ柄が合わないところがあったんです。御住職は『それほど気にならないから、構わない』といってくれたのですが、自分が納得できず、持ち帰って直して、翌朝に納めました」  こうした職人としてのこだわりは、使う材料にも表れる。仕入れている畳表は、丈が長い一番草のなかでも、さらに端が七目以上の長さがあるものを指定している。草の丈が長いほど仕上がりがきれいなためだ。  満足できる畳をつくり上げたときの達成感と、お客さまに感謝してもらえたときの喜びが、この仕事の醍醐味だという。 畳づくりの伝統を子どもたちにも伝える  代表を務める有限会社松本製作所は、松本さんが生まれた昭和33(1958)年に松本さんの父親が創業。宮内庁御用達の事業所などに畳床を納めており、大勢の畳職人が出入りしていた。  「中学生のころ、父が交通事故に遭ったんです。当時は畳床を1日100枚つくっていたので、母一人ではたいへんだということで、嫌々家業に就きました。でも、職人さんたちの仕事を見るのが好きで、次第に自分もそうなれたらいいなと思うようになりました」  先輩の職人たちが、包丁の研ぎ方から始まり、畳づくりの技を惜しみなく教えてくれたことが、この道を究めたいと思うきっかけになったという。  その恩返しの思いもあり、現在は畳マイスターや埼玉県で職業訓練指導員として、後進の指導にも積極的に取り組んでいる。また、県内の小学校を回る、畳づくりの体験教室の講師も務めており、子どもたちに平刺しを体験させている。畳のない家庭が増えているなか、伝統文化を子どもたちに伝える貴重な機会となっている。  「子どもたちは、初めは興味なさそうですが、畳ができ上がったときには『世界に一つしかないんだよ』といいながら、目をキラキラさせて喜んでいますよ」  技術を教えることだけでなく、自身の腕を磨くことにも余念がない。冒頭で紹介した厚畳と八重畳は、その上に「龍鬢(りゅうびん)」という畳表と「茵(しとね)」という座布団を置くことで御神座が完成する。その二つを仕上げるのが目下の目標だ。 有限会社松本製作所 TEL:0480(42)7287 https://tatami-m.com/ (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 畳縁を縫いつける「平刺し」。10cm以上ある長い針を2寸(約6cm)の厚さの畳に通すため、なかに鉄板の入った「手当て」をつけて手のひらで針を押す 畳製作に用いる道具の数々。使いやすさを求めて手づくりすることもある 御神座に用いる絹織物の繧繝縁(うんげんべり)は、最も格の高い畳縁 仕入れた畳表は暗所で保管。湿度にも気を配る さまざまな種類の畳表を見本として取り揃える 寺院の本堂に納品した畳。二つの畳縁の紋合わせが見事(提供:松本製作所) 八重畳の繧繝縁。八つ重ねた縁が一続きの模様に見える(提供:松本製作所) 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、記憶しながら計算する、計算しながら記憶する、記憶と作業を一体化して使う課題です。この頭の使い方をワーキングメモリ(作業記憶)といい、認知トレーニングの主役です。メモを使わず、脳のメモ帳だけで解けるまでくり返してください。 第58回 足し算ピラミッド 隣り合った数字を足した数が、その上のマスに入ります。 空欄に数字を入れましょう。 目標 5分 @  43 23 32 A  52 20 24 18 22 B  60  30 32 8 6 C 126  27 36 21  24  9 6 18 多重動作でワーキングメモリを強化する  私たちが新しくものを覚えるとき、脳内では、情報がいったん海馬に束ねられ、前頭葉と連携しながら脳のワーキングメモリとして処理されます。ワーキングメモリとは、忘れないようにいったん書き記しておくメモ帳のようなもので、「作業記憶」とも呼ばれます。その後、その記憶はワーキングメモリから海馬に保存されます。  記憶力には「脳のなかで正しくメモを取る力」が必要なため、このワーキングメモリの力を鍛えることは重要です。  また、この力は、年齢とともに低下していくので、普段から意識的に鍛える必要があります。  ワーキングメモリは、二重の動作をすることで鍛えられます。例えば、文字を読み上げながら書くこと、人と会って会話(話を聞き理解しながら言葉を発する)をすること、今回の問題のように、二つの数字の足し算に加えて、ピラミッドの完成を考えることなどがよい刺激となります。  ストレスを感じない程度に、楽しみながらワーキングメモリを鍛えることが、記憶力を高めることにつながります。 【問題の答え】 @ 77 34 43 23 11 32 A 96 44 52 20 24 28 18 2 22 6 B 131 71 60 40 31 29 32 8 23 6 C 126 63 63 36 27 36 21 15 12 24 12 9 6 6 18 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年4月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 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長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2022』のご案内  2021(令和3)年4 月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  そこで当機構は、これまで作成した「65歳超雇用推進事例集」からタイトルを改め、『70歳雇用推進事例集2022』を発行しました。  本事例集では70歳までの就業機会確保措置を講じた20事例を紹介しています。 『70歳雇用推進事例集2022』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 2022 4 令和4年4月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第4号通巻509号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会