【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超継続雇用促進コース  令和4年4月1日以降に65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間 ●当コースの受付期間は変更となりました 定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円  (中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)の詳細については、以下をご覧ください。 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html 障害者雇用助成金 障害者作業施設設置等助成金  障害を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと 助成額 @B支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E 1人につき月額4万5千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること 助成額 支給対象費用の3/4 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること 助成額 支給対象費用の2/3(特例3/4) ※各助成金制度の要件等について、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 ※お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.84 ミドルの主体的な学び≠うながし「終身キャリア自律支援」への転換を 株式会社FeelWorks代表取締役 青山学院大学兼任講師 前川孝雄さん まえかわ・たかお 株式会社リクルートで『リクナビ』、『就職ジャーナル』などの編集長を務めた後、2008(平成20)年に独立し、企業向けの人材育成・組織開発・研修などを行う株式会社FeelWorks を設立。「上司力R研修」、「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。主な著書に『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(PHP 研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)など。  70歳までの就業機会確保が、昨年4月より企業の努力義務となりました。高齢者が70歳、あるいは70歳を超えて働くためには就業制度・職場環境の整備も重要ですが、あわせて求められているのが、ミドル世代が高齢になっても戦力として活躍し続けるための仕組みづくりです。今回は、ミドル世代のキャリアに詳しい前川孝雄さんに、生涯現役時代を見すえたミドル世代の活躍支援について、お話をうかがいました。 残業抑制、生産性向上、部下の育成 etc.多重苦に立つミドル世代管理職 ―前川さんは、新刊『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)をはじめ、ミドル・管理職に向けた書籍の出版や研修事業を営まれています。ポスト高齢者世代である40〜50代は、どんな不安や悩みを抱えているのでしょうか。 前川 私が代表を務める株式会社FeelWorksでは、2008(平成20)年の創業以来、40〜50代を対象に大手企業400社以上で「上司力R研修」を実施してきました。この世代は管理職層と重なりますが、いま、非常に大きな悩みを抱えていると感じています。働き方改革によって、残業の抑制など仕事の効率化が求められる一方で生産性の向上も要求され、ゆっくり部下を育てる時間がなく、マネジメントで苦労している人が多いのです。また、パワハラ防止法も施行され、強く指導し過ぎるとパワーハラスメントになりかねないので、研修で「部下一人ひとりに寄り添いながら育て活かしましょう」というと、「自分はそんな育てられ方をされていない」と、戸惑いを感じる人も少なくありません。さらにコロナ禍でリモートワークが増えたことでコミュニケーションの総量が減り、「どうやってマネジメントするのか」とプレッシャーを感じている人も多くいます。  加えて、ミドル世代自身のキャリアのあり方も問われています。改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、働く期間がさらに延びました。いまのミドル世代は、平成の30年間にわたり低迷した日本経済のあおりを受け、期待したポジションや給与を得ることができた人が少ないのが現実です。  一方で、若い世代のキャリア意識は高くなっています。私は青山学院大学でキャリア教育を11年間行っていますが、いまの学生は「会社に依存せずに自分のキャリアをつくっていきたい」という意識がすごく強い。多くの企業で1on1やコーチングなどを通じて、部下のキャリア面談を重視する施策が行われていますが、当の上司自身が自分のキャリアを考える余裕すらないし、考えていない人も多い。キャリア意識の高い若手とのギャップも含め、いろいろなものが降りかかってきて、まさに多重苦という状況に立たされています。 ―働く環境や価値観が大きく変化する転換期に立たされているミドル世代に、企業側はどう対応しようとしているのでしょうか。 前川 ビジネス環境が変わり、旧来のアナログのスキルからデジタル時代に対応したスキルが求められるようになり、若い人材を入れてビジネスモデルなど事業構造を変えたいという本音もあると思います。ただし少子高齢化で優秀な若手をそれほど採用できないし、どこの企業も欲しがるAIやDX※1に対応できる研究者や技術者は労働市場にほんの少ししかいません。そうしたなかでミドル世代に対して自分でキャリアを考えて、学び直しによってスキルを磨き、即戦力として活躍してほしいという流れに変わりつつあります。  ただ、これまでは年功序列、終身雇用という暗黙の了解のもと、会社都合で働いてきたわけです。企業の後押しが絶対に必要です。これからはミドル世代が自分でキャリアを考えてリスキリングできるように支援していかないといけません。すでに企業のなかには出向や社外の副業経験などを、昇進の要素とするところも出てきています。 副業・越境で自分を知ることが学び≠ノなる自発的な学びを支援する仕掛けづくりを ―著書では副業など社外での活動も学び≠ノつながるといっていますね。 前川 単に学校に通って勉強するだけではなく、いままで当然だと思っていた世界から一歩ふみ出して、違う世界の価値観に触れることで刺激を受けることも大きな学びだと考えています。特に大企業で働いている人は大企業村≠ナ仕事が完結することが多く、社外やグループ外のことをあまり知りません。ミドル世代の読者から寄せられる意見でもっとも多いのは「やりたいことがわからない」、「何が得意なのかわからない」というものです。やはり同質的な集団のなかにいると、同じようなスキルを持つ人も多く、自分の価値になかなか気づけません。特に自分の評価については、上司の人事評価だけが自分の能力だと思い込んでおり、会社の看板を外したときに自分が何の価値を提供できるのかわからないのです。新しい世界を知る、つまり「越境」することをくり返して、多様性のなかに身を置くことで本当の自分の持ち味を知るきっかけになる。それが学びです。副業もそうですが、社員が自発的に学ぶことを支援する仕掛けをつくるなど、企業にはそうした機会を積極的に提供してほしいと思います。 ―そのようなミドル世代が、60歳、65歳を超えて働き続けるために、どのような準備や心構えが必要でしょうか。 前川 50歳前後の人は、課長であれば「部長、もしくは役員になれるかもしれない」と会社のなかでの職位と、それに応じて給与が上がっていくことが、モチベーションや自分のプライドと密接につながっています。ただし、50代半ばになると、役員になれる人はほんの一握りです。取締役になっても任期があり契約社員のような場合もありますし、結果を出せなければ降格し、ただの人になってしまう。65歳で退職したとしても人生は長く、健康寿命が80歳まで延びるとしてもあと、15年もあります。そう考えると大事なことは、まず自分のプライドの物差しを変える。「部長になりたい」、「年収1500万円あれば」という考え方をいったんリセットし、本当の意味で自分が喜びを感じられる働きがいを重視することです。  社会やだれかのために貢献することで得られる喜びもあります。人間は社会的動物ですし、人との接点で自分の存在意義が感じられないとすぐに孤立し絶望しかねません。従来のプライドやモチベーションを支えていた社名や肩書きなどの、自分のなかの古いルールから脱皮し、喜びと働きがいを第一に考えてほしいと思います。 終身雇用にこだわらない若手世代も増加一つの会社に依存しないキャリア自律を ―著書のなかで「終身キャリア自律支援」を提唱されています。その考え方についてお聞かせください。 前川 日本の企業経営においては、「雇用を守ることが大切」という考え方が根強いのですが、産業構造や働く人たちのキャリアの見直しも迫られるなか、私は「雇用を守ること」を絶対的美徳にしないほうがよいと考えています。雇用を守ることは終身雇用でリタイア後の年金生活まで保護し続けることですが、年金への不満や不安の声も聞こえてきます。しかも雇用が守られるのは正社員にかぎられていますし、いまや雇用労働者の4割は非正規雇用です。また雇用が重視されてきた結果、実質的な仕事がない社内失業者である「雇用保蔵者」は400万人を超えるとの推計※2もあります。いまの時代にマッチしたスキルを身につけられず、働きがいや成長も期待できず、組織内に留め置かれた状態にある人も多いのです。  終身雇用を信じていない若い世代も多く、会社がどうなるかわからないので自分の力で生きていけるようにスキルを身につけ、キャリアを積みたいという人が増えています。私は企業が本当に人を大切にしたいのであれば、終身雇用ではなく、会社を離れても通用する人材に育て上げることが重要だと考えます。会社経営が揺らいだり、どんな状況になっても、社員が生きられるようにするのです。それが「終身キャリア自律支援」です。社員一人ひとりが生涯にわたってキャリア自律できるように育成・支援し、一定の知識とスキルを身につけたプロフェッショナルとして育て上げる仕組みを整備する必要があります。改正高年齢者雇用安定法には選択肢に業務委託契約による就業も入っていますが、自社以外からも仕事を受注できる専門性やスキルを身につけるには、早い時期から1社に依存しないキャリア自律の意識を持たせ、自発的なスキル形成をうながす支援が必要です。 ―デジタル化の進展や働く価値観の変化など、この激動の時代に社員の働きがいを高めていくにはどうすればよいでしょうか。 前川 従来のような会社の指示・命令による配置や仕事の与え方など強権的な人事は通用しないことを認識すべきでしょう。社員を会社の歯車としてヒト・モノ・カネと同列に扱うのではなく、本人の意思と思いを尊重し、それをいかに活かしていくかを考える経営を目ざすべきです。いわば、最近のキーワードである「人的資本経営」です。ミドルやシニアのキャリアについては家庭の事情などさまざまな考え方があり、会社の方向性と完全に合致しないかもしれませんが、一致する範囲でお互いが納得できる役割を一緒に見いだしていくのです。こうした対等な関係づくりが働きがいを高めることにつながります。個々の意思を尊重し、成長できる環境が人材を集め、魅力的な機会を提供し続けられることが企業の成長にもつながるのではないでしょうか。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※1 DX……デジタルトランスフォーメーション。IT 技術の活用により人々の生活をよりよいものに変革させるという概念 ※2 リクルートワークス研究所『2025年ー働くを再発明する時代がやってくる』(2015年) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 May 特集 6 生涯現役時代の安心・安全な職場とは? 7 総論 70歳まで働くための職場づくり 千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学 講師 能川和浩 11 解説@ 高齢者が安全に働ける職場環境改善と作業環境管理 中央労働災害防止協会 安全衛生マネジメントシステム審査センター 所長 斉藤信吾 15 解説A 生涯現役で働くための従業員の健康づくり 産業医科大学 産業生態科学研究所 作業関連疾患予防学 非常勤助教 岩崎明夫 19 解説B 生涯現役時代の治療と仕事の両立支援 産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター 立石清一郎 23 事例@ 株式会社日向屋(宮崎県東臼杵郡) 従業員の安全・健康管理は生産性向上につながる 27 事例A 大和ライフネクスト株式会社(東京都港区) 健診結果のフォローの徹底をはじめ 緻密なアプローチにより健康で長く働ける職場に 31 事例B 株式会社松下産業(東京都文京区) ヒューマンリソースセンターを中心に治療と仕事の両立を手厚くサポート 1 リーダーズトーク No.84 株式会社FeelWorks 代表取締役 青山学院大学兼任講師 前川孝雄さん ミドルの主体的な“学び”をうながし「終身キャリア自律支援」への転換を 35 日本史にみる長寿食 vol.343 味噌汁は「幸せのスープ」 永山久夫 36 江戸から東京へ 第114回 続・鎌倉娘の気負い 巴と静 作家 童門冬二 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第119回 滋賀県 株式会社湯元舘 42 シニアのキャリアを理解する 【第5回】シニア期に向けてのキャリアをどうとらえるか 浅野浩美 46 知っておきたい労働法Q&A《第48回》 定年後再雇用者の労働条件変更と自由な意思、メンタルヘルス不調者と配置転換 家永 勲 50 病気とともに働く 第2回 生活協同組合コープみらい 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第24回 「福利厚生」 吉岡利之 54 生産性向上支援訓練のご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.319 日本舞踊などの出演者に舞台に映える化粧を施す 顔師 宮田 肇さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第59回]漢字の画数 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」は休載します 【P6】 特集 生涯現役時代の安心・安全な職場とは?  70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、65歳、70歳を超えて働くことがあたり前の時代を迎えています。まさに「生涯現役時代」です。  生涯現役で働ける職場を実現するうえで欠かせない要素が、働く人の「安心」と「安全」です。加齢による身体機能の低下、疾病リスクの上昇が指摘されるなかで、高齢従業員が安心・安全に働き続けるためには、労働災害防止のための取組みはもちろんのこと、高齢従業員自身の健康増進を図るための取組みや、病気を患っても治療しながら働き続けることができる環境の整備が欠かせません。  本特集では、高齢従業員が安心・安全に、生涯現役で働くための環境・制度づくりについて解説します。 【P7-10】 総論 70歳まで働くための職場づくり 千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学 講師 能川(のがわ)和浩(かずひろ) 1 はじめに  高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するための努力義務が事業者に求められています。実際、2020(令和2)年の就業者全体のうち60歳以上の占める割合は21.5%※となっており、高齢労働者の数は年々増え続けています。この状況のなかで、特に課題となっているのが労働災害の発生です。「労働者死傷病報告」(厚生労働省)によると、2020年の労働災害による休業4日以上の死傷者のうち、60歳以上の労働者の占める割合は26.6%に及んでいます。労働災害のなかで、もっとも発生件数が多いのが「転倒災害」です。2020年、転倒災害の発生件数は約3万件と全体の4分の1を占めており、そのうち骨折などにより約6割が休業1カ月以上となっています。労働災害による急な休職は、本人にとっても事業者にとっても大きな痛手となります。本稿では、70歳まで働くための安心・安全な職場づくりについて解説します。 2 安心・安全な職場づくりに必要な予防の考え方  みなさんは、ご自身の血圧や血糖値を把握されているでしょうか? 例えば、血圧180/120mmHgという数値はどうでしょうか? 高いでしょうか? 多くの場合、このくらいの血圧値では自覚症状もなく、普通に日常生活を送ることができます。しかし、この数値が続く場合は高血圧と診断され、医師からは投薬治療などが推奨される状況です。それは、いままでの研究で、高血圧が脳血管疾患や心血管疾患を引き起こすリスクであることがわかっているからです。そして、自覚症状がなかったとしてもしっかり治療を行っておくことで、そのリスクを低下させることができることもわかっています。安心・安全な職場づくりにおいても、労働災害の発生を「予防」するために、作業環境や作業手順の改善を適宜行い、危険性・有害性の高い課題については災害が起こる前に対策を実施し、リスクを少しでも低下させることが重要です。 3 身体機能・認知機能の変化  高齢労働者の労働災害の発生を防ぐために、発生の要因となる身体機能や認知機能の変化について知ることが必要です。なお、機能の変化については、個人差が大きいことも重要なポイントです。 @視覚機能の変化  高齢者が日常的に感じる視覚に関する問題として、以前と比較して「暗い場所で物が見えにくい」、「物がぼやけて見える」、「細かい文字が見えにくい」などがよくあげられます。これは、暗いところにおいても瞳孔が開かなくなり光量を得られないことや、ピント調節をになう水晶体の濁り、ピント調節機能の低下などが原因です。この加齢による機能低下は回復が見込めないため、視覚環境を調整することにより対応することが必要です。 (対策例)明るさを確保するために、照明の増設、屋根の採光増設、照度の強い懐中電灯の採用を行う。また、室内や通路の照度の変化を少なくする。 A聴覚機能の低下  聴覚機能は、加齢とともに高音域から聞きとりにくくなる傾向がみられ、特に2000Hz以上の高い音が聞き取りにくくなります。また、さまざまな音が入り混じることで、重要な警告音が聞こえなくなります。作業においては、聞き返す煩(わずら)わしさなどからコミュニケーション不全が起こり、作業ミスや事故の要因となり得ます。聴覚機能の低下は、聴覚に関与する細胞数の減少・機能低下などが原因とされ、視覚機能と同様に機能回復がむずかしい症状です。よって、職場での聴覚環境の整備と、個人の対策として補聴器の導入も検討されます。 (対策例)高音域が苦手なのでやや低めの音程の警報音(アラーム)の導入、背景騒音を減らす、警告をパトランプなど視覚に訴えるものに代える。 B認知機能の変化  高齢者の認知機能の特徴としては、「新たな知識を得る」、「急な変化に柔軟に対応する」といった流動性知能の低下が目立ちます。その一方で、「結晶性知能」と呼ばれるものについては若年者よりも優れているといわれています。これは、物事への理解や判断力、トラブルへの対応力など経験に基づいた知恵のことであり、経験に基づいた能力は、生涯にわたり発揮されるようです。 C骨粗しょう症  加齢にともないさまざまな疾病のリスクが上がりますが、そのなかでも骨粗しょう症は、転倒災害などで骨折を引き起こすリスクとなります。骨粗しょう症は現在約1300万人の患者がいると推定され、その8割を女性が占めているとされています。骨粗しょう症が進むと、運動器障害による移動能力の低下(ロコモティブシンドローム)や骨折、体の虚弱化により生活の質の低下が起こるため、高齢になっても働き続けるためには、栄養指導や薬物療法などでその進行を抑えることが重要です。また、職場においては転倒災害を防ぐための環境改善が求められます。 4 「エイジフレンドリーガイドライン」に則った安心・安全な職場づくり  2020年3月、厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を策定しました。このガイドラインは、主に事業者と労働者に求められる取組みを具体的に示したもので、安心・安全な職場づくりの指標となるものです。事業者に求められる事項は左記になります。 ■安全衛生管理体制の確立等 (1)安全衛生管理体制の確立等 ・経営トップ自らが安全衛生方針を表明し、担当する組織や担当者を指定するとともに、高齢労働者の身体機能の低下などによる労働災害についてリスクアセスメントを実施する (2)職場環境の改善 ・照度の確保、段差の解消、身体機能の低下を補う設備・装置の導入などのハード面の対策 ・勤務形態などの工夫、ゆとりのある作業スピードなど、作業管理におけるソフト面の対策 (3)高年齢労働者の健康や体力の状況の把握 ・健康診断や体力チェックにより、当該高齢労働者の健康や体力の状況を客観的に把握する (4)高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応 ・健康診断や体力チェックにより把握した個々の高齢労働者の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の点で適合する業務をマッチングするとともに、身体機能の維持向上に取り組む(体力の維持、生活習慣の改善を含む) (5)安全衛生教育 ・十分な教育を実施するとともに、経験のない業種や業務に従事する者には特にていねいな教育訓練を実施する  まず、安心・安全な職場づくりを推進していくという経営トップによる意志表明が重要です。高齢労働者の労働災害防止対策を担当する組織づくりを行い、安全衛生部門、人事管理部門、産業保健スタッフ(いなければ地域産業保健センターなどの外部機関など)、が連携して対策を推進していきます。次に、労働災害の発生リスクについて、災害事例やヒヤリハット事例から危険源の洗い出しを行い、当該リスクの高さを考慮して高齢者労働災害防止対策の優先順位の検討を行います。  リスクの洗い出しと職場環境の改善(ハード面・ソフト面)については、中央労働災害防止協会(以下、「中災防」)が作成した「エイジアクション100」の活用をおすすめします。「エイジアクション100」はその名の通り、高齢労働者の安全と健康確保のための100の取組みが記載されています。作業環境管理、作業管理、健康管理、エイジマネジメントの視点から、職場で取り組むべき項目をチェックし、対策ができていない項目については、優先度が高く対策可能な箇所から職場改善の取組みを行います。なお「エイジアクション100」については、無料でダウンロードすることができますので、ぜひチェックしてみてください。  (https://www.jisha.or.jp/age-friendly/ageaction100.html) 5 「エイジアクション100」を用いた取組み  「エイジアクション100」で取り上げられている労働災害の項目は「転倒防止」、「墜落・転落防止」、「腰痛予防」、「はさまれ・巻き込まれ防止」、「交通労働災害防止」、「熱中症予防」です。これらは高齢労働者の身体機能・認知機能の特徴を意識して選定されています。ただし、すべての業種において、すべてのチェック項目について対策がなされなければならないということではなく、業種ごとに最優先で取り組むべき事項について提案されています(図表1)。  チェックの結果、「×」が付された項目で、優先度が高いと判断された場合には、労働災害防止のための各種資料(中災防が提供しているパンフレット)なども利用して環境改善を実施します。実際に現場で働いている高齢労働者の声をひろい、現場の声を対策に活かすことも大切な手段になります。この職場チェックを6カ月から1年ごとに実施し、継続的に職場環境改善のPDCAサイクルを回すことで、安全で快適な職場づくりのレベルアップにつながります。  図表2に、「エイジアクション100」の「転倒防止」のカテゴリーにあるチェック番号10「通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行っている」を一例として紹介します。小さな段差や凹凸で、特に似たような色でつながっている箇所は、つまずきのリスクが高くなるため、段差が見えるように、トラテープを貼るなどして、段差が見えるように環境改善を行いました。 6 まとめ  本稿では、「エイジフレンドリーガイドライン」と「エイジアクション100」を用いた、70歳まで働くための安心・安全な職場づくりについて解説をしました。高齢労働者対策といっても、根底にある考え方については、従来の産業保健活動の考え方と変わるところはありません。高齢労働者の特徴を知ること、個人差に対してきめ細やかに配慮すること、対策を推進するチームが各々の専門性を発揮し連携することで、よりレベルの高い活動をすることができると考えています。 ※ 総務省「労働力調査」 図表1 主な業種別の最優先取組み事項 転倒予防 墜落・転落防止 腰痛予防 はさまれ・巻き込まれ防止 交通労働災害防止 熱中症予防 @製造業 ○ ○ ○ ○ A建設業 ○ ○ ○ ○ B交通運輸業 ○ ○ ○ C陸上貨物運送事業 ○ ○ ○ ○ D小売業 ○ ○ ○ E社会福祉施設 ○ ○ F飲食店 ○ Gビルメンテナンス ○ ○ H警備業 ○ ○ ○ 出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」 図表2 「通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行っている」の取組み例 段差の例 階段など 建物の出入口 通路上の段差 対策の例 トラテープなどで見える化 注意喚起を行う ※筆者作成 【P11-14】 解説1 高齢者が安全に働ける職場環境改善と作業環境管理 中央労働災害防止協会 安全衛生マネジメントシステム審査センター 所長 斉藤信吾 1 はじめに  山奥の人里離れた不便な場所に、ポツンと一軒で暮らしている方々を訪ねるテレビ番組が人気だそうです。出演者の多くがご高齢なのですが、畑を耕したり、納屋をつくったり、自宅を増改築するなど、画面のなかのみなさんが若々しくパワフルであることに毎回驚かされます。とはいえ、いつまでも若いときの身体機能を保持できる人はいませんし、老化はだれにでもやってくるのが現実です。  老化の特徴として、体温調節機能、バランス能力、筋力(特に下肢)、俊敏性、柔軟性、疲労回復力、視力、聴力、記憶力、判断力などの低下があげられます。その結果、高齢者は転倒しやすくなったり、熱中症になりやすくなったりと、若年層より被災するリスクも高くなります。2020(令和2)年の「労働者死傷病報告」(厚生労働省)によると、30〜34歳の労働災害年千人率※は女性が1.02、男性は2.05となっています。一方で65〜69歳では女性は4.04、男性は3.94ですので、高齢者と若年層の被災者を比較すると女性は4倍、男性でも約2倍も高いことがわかります。本稿では高齢者に特有の労働災害とその防止方法をハード対策(職場環境改善)とソフト対策(作業環境管理)の両面からご紹介します。 2 「転倒」予防のポイント  加齢により筋力が低下したり股関節の動きが悪くなると、足が上がりにくくなったり、バランスを崩しやすくなります。また、瞬発力や柔軟性なども衰えるため、ちょっとした段差でも転倒しやすくなります。さらに、高齢者は視力や明暗の差への対応力が低下します。映画館のように暗い部屋に入った瞬間、目の前が真っ暗になりますよね。この状態は時間が経つにつれて目が慣れてくるのですが、慣れるまでの時間が高齢者では長くかかり、その結果、倉庫やバックヤードなど暗い場所に入った後、足元がよく見えずに転倒することがあります。転倒防止のポイントは、つまずきや滑りの原因、明暗の差をなくすことです。 (1)転倒予防のためのハード対策  段差はつまずきの原因になるので、スロープを設置して段差を解消したり、段差はできるだけ小さくします。階段は傾斜をゆるやかにし、手すりや踏み面に滑り止めを設置します。滑り止めは階段にかぎらず、滑りやすい床や通路にも設置しましょう。滑り止めには床材そのものが滑りづらい製品もありますし、シールを貼るタイプや塗装タイプもあります。  倉庫などのような暗い場所は照明器具を増設し明るくすることで、外から入ってきても突然目の前が真っ暗にならないようにしましょう。転倒して骨折、入院ということになれば、別の意味で目の前が真っ暗になってしまいます。 (2)転倒予防のためのソフト対策  滑りやすい箇所で作業する高齢者には防滑(ぼうかつ)靴を履いてもらいます。ただし、防滑素材を用いた床面で防滑靴を使用すると、摩擦が大きくなりかえってつまずきの原因にもなるので注意してください。耐滑性の高い靴には「F」(friction:摩擦の略)や「耐滑」の表記が靴のベロ裏や箱にありますので、購入前に確認しましょう。また、靴底の凹凸が減ると耐滑性も低下するので定期的に確認してください。靴底を見れば交換時期が一目でわかるように工夫されている靴もあります。また、上を向いたパイプに靴を引っ掛けるタイプのシューズラックは、履き替えのたびに靴底を確認することができます(図)。  床や通路に物が置かれていると、つまずきの原因となるので5S(整理、整とん、清掃、清潔、しつけ)を励行します。床面にこぼれた水や油は滑る原因となるので、放置せずにこまめに清掃しましょう。また、どうしても解消できない段差がある場合は、周囲にトラテープを貼って注意をうながします。実際に転倒が発生した場所にポスターや安全標識を掲示して注意喚起するのもよいでしょう。社内で転倒防止のポスターを募集し、転倒しやすい場所に従業員が手書きしたポスターが貼ってある事業場におうかがいしたことがありますが、微笑ましく温かみがありとても感動しました。  高齢者は筋力や柔軟性が低下しているので、疲れるとちょっとしたことでバランスを崩して転倒する恐れがあります。長時間の立ち作業も減らすようにしましょう。 3 「腰痛」予防のポイント  高齢者は筋力が低下しているので、同じ重量の荷物を持っても若年層の労働者より腰部への負担が大きくなります。また、加齢とともに脊椎骨(せきついこつ)が変形したり、椎間板(ついかんばん)が変性することで脊椎の動きが悪くなり、腰痛の原因となる不自然な姿勢をとりがちになります。不自然な姿勢とは、前かがみ、中腰、上体そらし、上体ひねりのような腰や背中に負担がかかる姿勢をさします。ハード対策やソフト対策、あるいは両者の組み合わせによって、不自然な姿勢や重量物の上げ下げ、運搬を避けるようにします。 (1)腰痛予防のためのハード対策  高齢者が重量物を自力で持ち上げないよう、補助機器を活用します。重量物取扱いの補助機器として、ハンドリフト、バランサー、ポータブルクレーン、コンベアなどさまざまなタイプのものが各メーカーから販売されています。運搬する重量物の形状や業務の内容に合ったものを選定してください。また、作業中に不自然な姿勢にならないよう、作業台の高さや位置を高齢者に合わせて調整するとよいでしょう。  社会福祉施設における労働災害では、腰痛と転倒が大きな割合を占めています。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、「人力での抱え上げは、原則行わせない。リフトなど福祉機器の活用を促す」ことが明示されています。介護職場では老若を問わず福祉機器の利用が推奨されているのですが、人手不足もあり人力による利用者(被介護者)の抱え上げは多くの施設で行われているようです。リフト、スタンディングマシーン、電動昇降ベッドなど福祉機器の使用は、腰部への負担が大幅に軽減するので活用するようにしてください。また、これらの機器は使用についての安全教育を実施することが必要です。 (2)腰痛予防のためのソフト対策  パワーアシストスーツは重量物の持ち上げ・下げの際にかかる作業者の身体的負担を軽減する目的で開発された商品で、「パワードスーツ」、「アシストスーツ」とも呼ばれています。モーターや空気圧を動力とするタイプや、動力を用いず高反発ゴムや特殊なバネを利用するタイプもあります。形状、重量、アシスト力、サイズ、原理、価格もさまざまで、IoT機能を有している商品もあるようです。パワーアシストスーツは腰部への負担が軽減される一方で、高齢者にとっては着用すること自体が負担になることもあるので、本人の意見も尊重するようにしてください。レンタル商品もあるので、導入前に試行するのもよいでしょう。  腰部に過度な負担のかかる重量物の運搬については、例えば20sの荷物であれば5sずつ4分割にするなど、一つあたりの重量を軽減します。さらに、重量だけでなく、作業回数も減らすようにします。運搬作業も複数の高齢者で行うようにすれば、腰部への負担を低減することが可能になります。  また疲労回復のため、身体を横にして伸ばすことができる休憩場所を設置することも望まれます。休憩時間は体力の回復を期待するものですが、高齢者は体力の回復にも時間を要することに留意してください。  腰痛の発生が多い社会福祉施設では、摩擦が少なく滑りやすい素材でできたスライディングシートを、利用者の体を移動・移乗するために使用します。摩擦が少ないのであまり力を使わずに移動介助を行うことができます。 4 「熱中症」予防のポイント  消防庁の統計によると、2021年5〜9月に熱中症で救急搬送された人は全国で約4.8万人おり、そのうち56.3%が65歳以上の高齢者だったそうです。高齢者は体温の調整機能や暑さを感じる機能が低下しており、熱中症を発症しやすいことが知られています。また、体力低下、低栄養などによる虚弱状態に陥っていると、熱中症になった際の回復力が弱いため、すぐに対処しなければ重症化のリスクがあります。高齢になると暑さや喉の渇きを自覚しづらいことが増えます。そのため一般的には暑いと感じるほど高温の職場でも、暑さに気づかず熱中症になることもあります。  この2年間、新型コロナウイルス感染症対策として私たちは日常的にマスクを着用していますが、マスクを着用したまま長時間作業を続けると心肺機能への影響によって間接的に熱中症を引き起こす可能性も否定できないそうです。したがって高齢者の熱中症対策は、より積極的に実施する必要があります。 (1)熱中症予防のためのハード対策  近年は、IoT機器が熱中症対策に用いられています。心拍数や体温を計測するセンサーを内蔵したウェアラブルデバイスを作業者に装着してもらい、作業場の温湿度、作業強度などから熱中症のリスクを把握するものです。熱中症リスクが高くなった場合は、管理者や作業者本人にメッセージが届くので熱中症を予防することができます。センサーは下着に装着するものや、腕時計タイプもあります。ただし、通信環境によっては管理者にうまくメッセージが届かなかったり、そもそも感度がよくない商品もあるようです。導入前には、使用する環境や商品情報を確認してください。定期的、または適時利用することができる涼しい休憩場所の整備も必要です。 (2)熱中症予防のためのソフト対策  熱中症の発生は、当日の体調に大きく誘発されます。二日酔い、寝不足、下痢、風邪気味といった、普段ならがんばれば仕事をこなせるような体調であっても、暑熱環境下では熱中症を引き起こす要因になります。特に高齢者は糖尿病、心臓疾患、高血圧といった持病を抱えている方も少なくありません。このような疾患も、熱中症の発症に影響を与える恐れがあるといわれています。始業時のミーティングで体調確認を必ず実施し、当日の体調がすぐれない高齢者には暑熱環境下での作業は行わせないようにしましょう。また、作業中に体調の不良を感じたときには無理せず速やかに申し出るよう、日ごろから伝えておきましょう。万が一のとき、高齢者が遠慮せずに申し出ることができる職場の雰囲気づくりも重要です。  高齢者は喉の渇きを感じにくいので、喉の渇きを覚えてからではなく、定期的に水分と塩分を補給するようにします。非常に暑い場合は、20〜30分おきにコップ1〜2杯程度の補給が効果的だといわれています。また、さほど高温でなくても、高湿度や無風の条件では熱中症のリスクが高くなるので注意が必要です。実際に温度21度、湿度95%の環境で熱中症による死亡災害が発生しています。熱中症の予防は気温だけではなく、湿度や輻ふく射しゃ熱も考慮されたWBGT(暑さ指数)で行います。WBGTはISO7243として国際規格になっており、日本でも和訳され「JIS Z 8504」として規格化されています。  また、新型コロナウイルスの感染防止のため、マスクを着用しながら業務を行う場合は、強い負荷の作業は避け、こまめに水分補給を行いましょう。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、マスクを一時的に外して休憩することも必要です。  熱中症では、初期対応の遅れが死亡や重篤化につながったケースが少なくありません。体調が悪そうな高齢者を休憩室で休ませていて、気づいたら亡くなっていたという事例もあります。高齢者は体温調節機能が低下しているため、休憩していても体温調整がうまくできず容態が急変することがあります。  消防庁の発表によると2018(平成30)年以降、熱中症の救急搬送数は年々減っています。要因としてその年の気候があげられますが、それ以外にもコロナ禍による医療機関への遠慮があったと推測されています。しかし、熱中症も一命にかかわることですので、高齢者の意識がぼんやりしていたり、自力で水分を補給できないようなときは、躊躇せず救急車を呼びましょう。また、救急車を要請する体制についても確認しておきましょう。熱中症の予防方法、緊急時の救急措置、熱中症の事例などについて労働衛生教育を実施することも重要です。 5 おわりに  落語に登場するご隠居さんは博識で人生経験が豊富であり、熊さんや八っつあんのよき指南役です。退職後の高齢者がさまざまな分野で雇用され活躍しているのも、人生経験が豊富で気配りができ、マナーや常識を身につけているからでしょう。老化を避けることはできませんが、運動習慣、食生活、睡眠時間を見直すことで、健康寿命を延ばすことができるそうです。高齢者はつまずきやすいと書きましたが、生活習慣病を予防し、人生にはつまずかないようにしましょう。 ※ 年千人率……1年間の労働者1000人あたりに発生した死傷者数の割合を示すもの 図 防滑靴の靴底を確認しやすいシューズラックの例 【P15-18】 解説2 生涯現役で働くための従業員の健康づくり 産業医科大学 産業生態科学研究所 作業関連疾患予防学 非常勤助教 岩崎明夫 1 生涯現役のキーワードは「健康」と「体力」  70歳まで現役で働くことを考えるときにポイントとなるキーワードは「健康」と「体力」です。とはいえ、年齢とともに、健康面で不安なことが増えたり、体力面の低下を実感することがあります。年齢別の労働災害発生状況では、若年層と比べて高年齢層の労働災害が多く、2018(平成30)年には休業4日以上の災害は50歳以上が全体の半数を占めるようになり、なかでも60歳以上は全体の約4分の1(26%)を占めています(図表1)。特に、転倒災害、墜落・転落災害はその発生率が若年層に比べて高年齢層で高く、女性では特に高くなります。また、休業見込期間も高年齢層ほど長くなる傾向にあります。  このため、厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」では、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト(エイジアクション100)」(中央労働災害防止協会)についても触れています。健康については、そのなかに「高年齢労働者の健康管理」(図表2)があり、事業場で実施すべきこととして重視されています。  「1.健康診断」と「4.がん検診」は、年代が上がるほどその重要性も重みを増していくことから、これまで以上に健康診断やがん検診の受診結果に基づく事後の対応に力を入れる必要があります。健康診断やがん検診を未受診のまま放置することや、受けても必要な精密検査に行かないなどの受けっぱなしは避ける必要があるでしょう。  「2.メンタルヘルスケア」は、高齢労働者の特徴として、職場での役割ややりがいの変化、病気・体調の不良、睡眠の質の低下などにともなうストレスの増加やストレスへの耐性の低下を考慮する必要があります。また、「3.体力測定・運動指導」は、労働災害のなかでも高齢労働者に多く発生している転倒災害や腰痛の防止のために、体力測定を実施して体力の向上につなげることや、筋トレ・ストレッチ体操などの運動指導を行うことが対策の一つとされています。  さらに、高齢労働者に対する安全衛生教育では、加齢にともなう体力・機能の低下による労働災害の防止を目的とした内容とすることが求められます。例えば、身体機能や認知機能においては、加齢により低下が目立つ内容とそれほど低下が目立たない内容があります。機能低下が目立つ内容としては、視力・聴力の低下、明るい屋外から暗い部屋や倉庫などの場所に入ったときに早く暗さに慣れて周囲が見えるようになる「薄明順応(はくめいじゅんのう)」が遅くなること、肩関節の可動域が狭くなること、筋力の低下、記憶力や新たなことを学習する能力の低下などが、若年層と比較すると目立つようになります。一方で、年齢とともに経験や知識は積み重なり有益である面もあります。  このように、「エイジフレンドリーガイドライン」でも「健康」と「体力・機能」は生涯現役で働くための重要な要素として位置づけられています。 2 高年齢層の「健康」の特徴と対応 (1)健康診断と保健指導、受診勧奨  高齢労働者においても、労働安全衛生法に基づく健康診断を年1回は受診します。40歳以上では、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づく特定健康診査も兼ねています。肥満や体重増加による生活習慣病が増えてくることから、健康診断結果により、食事や運動などの生活習慣改善に関する特定保健指導を受けることができます。事業者は、健康保険組合や協会けんぽと連携して、事業者の健康診断を特定健康診査としてデータを連携し、高齢労働者が特定保健指導を受けやすくなるように高齢労働者への周知と配慮を行いましょう。50代、60代は自らも健康をふり返る機会が増える時期ですから、この時期に生活習慣の指導を受けて見直すことは70歳まで現役で働く基礎となります。保険者と協力して保健指導を積極的に活用しましょう。  50代、60代は生活習慣病などの主治医を持つ人が増えてくる時期です。健康診断は早期発見のスクリーニングですので、異常所見が続けば、主治医を持つことも大切です。肥満や体重増加がなくても、生活習慣病になりはじめる年代でもあることには注意を要します。このように、健康診断は受診するだけではなく、その結果に基づき、保健指導を受けて生活を改善する、医療機関を受診するなど適切に活用します。また、健康の個別性や個人差が広がる年代でもあるため、各人の状態に応じた栄養のバランスや生活習慣に留意しましょう。 (2)がん検診と精密検査受診  高齢層で重要な健康課題としては、がんがあります。実際に、年代とともにこれらの疾病の発症や死亡者数は増えていきます。がん検診は無症状のうちにがんを発見することを目的としており、労働安全衛生法の健康診断ではありませんが、健康保険組合や協会けんぽが事業者とともに予防事業としてがん検診や人間ドックを実施する場合や健康増進法に基づく住民検診として各自治体が実施する場合などがあります。高齢層ではがんの発症が増えていくことをふまえて、いずれかの機会をとらえてがん検診を受けるように周知をするとともに、禁煙などのがん予防の生活習慣の改善への取組みを進めることも大切です。  また、がん検診は無症状の時期の一次スクリーニング検査となりますので、がん検診で所見があった場合は二次検査として、本当にがんがあるかどうかについて、精密検査を受診することがもっとも大切です。多忙であったり、医療機関への受診を躊躇したりして、後日症状が出てから医療機関を受診して進行した状態が判明することもあります。がん検診においては特に所見が指摘され、精密検査の指示がある場合は、医療機関を受診することを先送りしないように、周知し受診を勧奨することが大切です。 3 「体力」は安全につながるポイント  「エイジフレンドリーガイドライン」では、転倒や腰痛などに関連する体力測定を重視しています。転倒災害は特に高齢層に多いため、転倒や腰痛予防などの一例として「転倒等リスク評価セルフチェック票」(図表3)を用いて、リスク評価として体力測定を行います。このセルフチェック票は「身体機能計測」と「身体的特性」質問票から構成されています。  「身体機能計測」では五つの体力テストを行います。「@2ステップテスト」は歩行能力・筋力のテストで、なるべく大股で2歩歩き、その歩幅を測定します。これにより、衰えると労災にもつながりやすい下肢の筋力、バランス、柔軟性を総合的にみることができます。「A座位ステッピングテスト」は俊敏性のテストで、椅子に座った状態でできるだけ素早く開閉を行い20秒間計測します。これにより、どのくらい素早く足を動かせるかという下肢の俊敏性がわかります。「Bファンクショナルリーチ」は動的バランスのテストで、立った状態で自ら手を前にどのくらい伸ばせるかをテストします。これにより、転倒リスクを評価します。「C閉眼片足立ち」は静的バランスのテストで、両手を腰にあてて両目を閉じどのくらい立っていられるかをテストします。「D開眼片足立ち」も静的バランスのテストで、両目を開けた状態でCと同様に片足立ちをします。CとDは、平衡性を知るテストとなります。この五つのテスト結果から、レーダーチャートを作成します。  「身体的特性」質問票(図表4)では九つの質問に対して「自信がない」、「あまり自信がない」、「人並み程度」、「少し自信がある」、「自信がある」などの5段階で回答する簡便なアンケートです。九つの質問には、@歩行能力・筋力、A敏捷性、B動的バランス、C静的バランス(閉眼)、D静的バランス(開眼)が含まれており、同様にレーダーチャートを作成します。  「身体機能計測」と「身体的特性」の二つを同じレーダーチャート上に記録すると、体力測定による実際の身体機能計測結果とそれに対する自分自身の自己認識の差異が見えてきます。これにより、自己認識より体力測定結果がよい場合(図表5)、逆の場合、全体的によい場合、悪い場合、項目によりばらばらな場合など、自分自身の課題やリスクがどこにあるかがわかるようになっています。この結果により、体力の維持向上に努めたり、職場の整理整頓など転倒リスクを最小化するなどの対応を検討することができます。また、体力測定の実施に際しては、事故やけがのないように注意して行ってください。 4 おわりに  生涯現役で働くための従業員の健康づくりのポイントは、「健康」と「体力・機能」です。厚生労働省による「エイジフレンドリーガイドライン」に沿って、従来の健康管理をより活用するとともに、体力測定を実施しましょう。特に現場作業がある事業場においては、体力測定によりリスク評価を行い、運動習慣の確立や転倒災害などの防止につなげたいものです。 図表1 年代別の死傷災害発生状況(休業4日以上) 29歳以下 14% 30〜39歳 14% 40〜49歳 22% 50〜59歳 24% 60歳以上 26% 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年) 図表2 高年齢労働者の健康管理(「エイジアクション100」より抜粋) (1)健康診断と事後措置の確実な実施等 @健康診断の確実な実施等 A健康診断の事後措置 B保健指導、健康相談等 C精密検査や医療機関への受診の勧奨 D病気休職後の職場復帰 E体調不良時等に対応できる体制の整備 (2)メンタルヘルスケア @高年齢労働者の特性への配慮 A研修・情報提供 B相談窓口の設置 Cストレスチェック D職場復帰の支援 (3)転倒・腰痛等の予防のための体力測定・運動指導 (4)がんの教育と検診 出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」 図表3 転倒等リスク評価セルフチェック票 @2ステップテスト(歩行能力・筋力) 最大2歩幅を計測し身長で割ります あなたの結果は cm/cm(身長)= 評価表 1 2 3 4 5 結果/身長 〜1.24 1.25〜1.38 1.39〜1.46 1.47〜1.65 1.66〜 左の評価表に当てはめると→評価 A座位ステッピングテスト(敏捷性) 開閉のくり返し 20秒間で何回開閉できますか あなたの結果は 回/20秒 評価表 1 2 3 4 5 (回) 〜24 25〜28 29〜43 44〜47 48〜 左の評価表に当てはめると→評価 Bファンクショナルリーチ(動的バランス) 水平にどのくらい腕を伸ばせますか あなたの結果は cm 評価表 1 2 3 4 5 (cm) 〜19 20〜29 30〜35 36〜39 40〜 左の評価表に当てはめると→評価 C閉眼片足立ち(静的バランス) 片足をあげてから目を閉じる 目を閉じて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜7 7.1〜17 17.1〜55 55.1〜90 90.1〜 左の評価表に当てはめると→評価 D開眼片足立ち(静的バランス) 目を開いて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜15 15.1〜30 30.1〜84 84.1〜120 120.1〜 左の評価表に当てはめると→評 出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」 図表4 「身体的特性」質問票(転倒等リスク評価セルフチェック票より) 質問内容 回答No. 1.人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 C少し自信がある D自信がある 2.同年代に比べて体力に自信はありますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 Cやや自信がある D自信がある 3.突発的な事態に対する体の反応は素早い方だと思いますか @素早くないと思う Aあまり素早くない方と思う B普通 Cやや素早い方と思う D素早い方と思う 4.歩行中、小さい段差に足を引っかけたとき、すぐに次の足が出ると思いますか @自信がない Aあまり自信がない B少し自信がある Cかなり自信がある Dとても自信がある 5.片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか @できないと思う A最近やってないができないと思う B最近やってないが何回かに1回はできると思う C最近やってないができると思う Dできると思う 6.一直線に引いたラインの上を、継ぎ足歩行(後ろ足のかかとを前脚のつま先に付けるように歩く)で簡単に歩くことができると思いますか @継ぎ足歩行ができない A継ぎ足歩行はできるがラインからずれる Bゆっくりであればできる C普通にできる D簡単にできる 7.眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか @10秒以内 A20秒程度 B40秒程度 C1分程度 Dそれ以上 8.電車に乗って、つり革につかまらずどのくらい立っていられると思いますか @10秒以内 A30秒程度 B1分程度 C2分程度 D3分以上 9.眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか @15秒以内 A30秒程度 B1分程度 C1分30秒程度 D2分以上 出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」 図表5 レーダーチャートと対策の一例(転倒等リスク評価セルフチェック票より) パターン1 身体機能計測結果>質問票回答結果 @ 歩行能力・筋力 A 敏捷性 B 動的バランス C 静的バランス(閉眼) D 静的バランス(開眼) 5 4 3 2 1  あなたの身体機能(太線)は、自己認識(点線)よりも高い状態にあります。このことから、比較的自分の体力について慎重に評価する傾向にあるといえます。生活習慣や加齢により急激に能力が下がる項目もありますので、今後も過信することなく、体力の維持向上に努めましょう。  一方、太線が点線より大きくても全体的に枠が小さい場合(特に2以下)は、すでに身体機能面で転倒等のリスクが高いといえます。筋力やバランス能力の向上、整理整頓や転倒・転落しやすい箇所の削減に努めてください。  また、職場の整理整頓がなされていない場合などには転倒等リスクが高まることがありますので注意しましょう。 出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」 【P19-22】 解説3 生涯現役時代の治療と仕事の両立支援 産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター 立石清一郎 1 両立支援をめぐる現状  わが国の少子高齢化のスピードはすさまじく、2010(平成22)年にすでに人口はピークを迎え、急速な労働力人口不足が不安視されています。「日本の将来推計人口」によると、2050年には労働生産年齢人口1.4人で高齢者1人を支えなければならないと推計されています。  2016年の働き方改革実現会議において労働力人口の減少を防ぐべく、「1億総活躍社会」を目ざす取組みが提案され閣議決定されました。この動きと前後して、2016年2月に厚生労働省労働基準局、健康局、職業安定局により「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(2019年3月から「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に改称、以下、「ガイドライン」)」が発出されました。  患者さんの視点に立った場合、近年の医療の進歩は目覚ましく、全がんの相対5年生存率は66.9%となり長期生存が望め就業継続をしやすい環境となっています。しかしながら、がん治療を受ける患者さんはさまざまな就業継続に関する困難を感じてしまうようです。そこで、当事者(患者であり労働者)が治療と仕事を「両立」することができるよう、医療機関、社会、地域の関係者(ステークホルダー)が「支援」することを、「両立支援」といいます。厚生労働省が策定しているがん対策推進基本計画では、第2期(2012年)から就労がテーマとして取り上げられることになりました。四つの痛み(トータルペイン)※1のうち、経済的苦痛を解放することを目ざし両立支援のさまざまな取組みが進んでいます。 2 高齢労働者の両立支援の特徴  高齢労働者の就労上の特徴は、熟練した技術と作業を粘り強く続けることができるという長所と、加齢による身体機能の低下と病気に罹患しやすく・重症化しやすいという短所があります。本稿では特に病気という視点について理解を深めたいと思います。高年齢者雇用安定法の改正があり、就業機会の確保が65歳から70歳になりました(努力義務)。多くの病気は、年齢を重ねれば重ねるほど発症率が上昇します。5歳の就業期間の延長ですが、この期間に発生する病気はかなり多くなります。ここでは、いくつかのデータから高齢労働者の病気の特徴をみてみたいと思います。 3 患者調査の概要  2017年の「患者調査」(厚生労働省)の概況では年齢階級別にみた受療率が示されています。人口10万人あたりの外来受療率は60歳から64歳で6279人、65歳から69歳では7824人と約1.25倍になっており、入院受療率は60歳から64歳では997人、65歳から69歳では1305人と約1.31倍になっています。  一方で、受療率そのものは3年ごとの調査で特に65歳以上で顕著に低下傾向にあります(図表)。同じ年齢であっても健康状態はさまざまになってきており、個別に状況をみることも必要になっています。高齢者=持病が多いというステレオタイプの考え方も少し見直さなければならなくなってきているかもしれません。 4 がんの年齢階級別の疾病罹患率  厚生労働省の「平成30年全国がん登録 罹患数・率 報告」表3−1「年齢階級別罹患率(人口10万対、100歳以上まるめ):部位別、性別B.上皮内がんを含む」によると、がん罹患率(上皮内がんを含む、注:上皮内がんとはごく早期のがんで小さく切り取って治療が終了することがほとんどのがん)では、人口10万人あたり60歳から64歳では1154・0人ですが、65歳から69歳では1659・7人と1・5倍近く罹患しています。  なお、50歳から54歳では543・9人、55歳から59歳では780・6人であることから、いかに高齢になるとがんに罹患しやすくなるか一目瞭然であると思います。労働者には可能なかぎりがん検診を受診してもらい、早期発見・早期治療に結びつけることが重要であるかを示すデータであるといえます。  また、単純計算では65歳から69歳では50人に1人ががんに罹患していることになりますので、従業員ががんに罹患した場合の職場での対応について事前に決めておくことが必要になります。 5 新型コロナウイルス感染症の流行  新型コロナウイルス感染症の流行により、両立支援はいくつかの状況の変化が生まれました。  有利に働いている部分は、これまで多くの企業で消極的であった在宅勤務が一気に進んだことにあります。通勤ラッシュは感染のリスクが高く、抗がん剤治療中の人は通勤に困難がありました。また、大腸がんで人工肛門(ストーマ)を着用している人はトイレ利用のむずかしさなどもありました。しかしコロナ禍により在宅勤務が推進され、通勤に付随する問題で就業がむずかしい人にとっては働きやすい環境になりました。さらに、疲労感などから適宜休憩をしたい場合など、これまで、出勤が前提であったときに存在した問題が在宅勤務になったことでより柔軟な対応ができる余地が広がりました。  一方で、出勤せざるを得ない業種の労働者が、抗がん剤などを使用している場合は新型コロナウイルスに感染しやすかったり重症化しやすかったりするため、事業者が安全配慮義務違反をおそれ、主治医が「問題ない」といっているケースであっても出勤を認めないということがありました。本来であれば、医療機関の担当者と相談を行ったうえでリスク評価した結果、出勤回避の可能性を検討することが求められるはずですが、病気があると働くことができないと事業者が決めつけることが散見されています。  事業場における新型コロナウイルス感染症対策は、医療従事者以外の担当者が決めることが多くなり、そのこと自体はまったく問題ないのですが、個別の労働者の判断は医師が行うことが原則です。したがって、本人のみならず、医療機関とのていねいなコミュニケーションが必要です。「抗がん剤治療中の人は出勤できない」といった一様なルールを決めることは疾患差別であり、人によって違うということを念頭に置いたうえで、オーダーメイドの対応をすることが必要であるといえるでしょう。 6 診療報酬改定  これまで、事業者と医療機関が文書のやり取りをする場合においては、特段の決まりがなく、医療機関では事業者から両立支援にかかる情報提供依頼を受けた場合には、任意の書式で診断書を発行することが多かったと思います。2018年度から、両立支援の診療報酬として、「療養・就労両立支援指導料」が新設されました。  以前のルールは、がん患者の働き方について職場からの依頼に応じて医療機関が産業医あてに主治医の意見書(通常の診断書ではなく働き方に関連する助言が記載された文書)を作成し、産業医からの返事を医療機関が受けて治療方針を検討した場合に算定されるルールでした。この方法では、@産業医が不在(従業員50人未満)の場合診療報酬が得られない、A産業医から返事があって治療方針を検討したタイミングで診療報酬を算定しても、患者はどのような医療に対する報酬であるのかわかりにくい、といった問題がありました。  このような問題点を解決するために、2020(令和2)年度から診療報酬改訂が行われました。本人と事業者が共同で作成した勤務情報提供書をもとに、医療機関が産業医等に対し意見書を作成した段階で診療報酬として8000円(患者は3割負担の2400円)が得られるようになりました。多くの患者は高額療養費の対象となっており、自己負担がないことも比較的多く存在すると考えられます。さらに、対象疾患ががんのほか慢性肝疾患・脳卒中・指定難病が加わったこと、「産業医等」とは10人以上の企業で選任義務のある安全衛生推進者が加わったことなどから、診療報酬の間口はずいぶん広がりました。  しかしながら2018年度の155件から、2020年度の約400件(推計値)とそれほど算定件数は増えていません。この理由として、医療機関らのヒアリングでは、「勤務情報提供書を事業者が提供していない」という問題点が指摘されています。  作成は多くの場合、10分程度で終了すると考えられます。勤務情報提供書は事業者と医療機関の情報共有の第一歩です。両立支援の検討について事業情報を提供することなく医療機関に一方的に委ねている現状です。ですから、職場が勤務情報提供書を確実に提供する状況になることが期待されています。  なお、2022年からは上記疾患に加え、糖尿病、心疾患、若年性認知症の場合、医療機関で診療報酬が認められることになりました。これらの疾患を抱える労働者の支援のときには特に医療機関との連携を深めるよう工夫をしてください。 7 傷病手当金の通算化  2022年1月1日から、傷病手当金※2の不支給期間と支給期間は別でカウントされることとなり、同じ病気やけがにつき通算で1年6カ月間の支給が認められるようになりました。これは、がん患者など病状の消退をくり返す患者にとって朗報です。  これまでは、不支給期間がどれだけ長くても、初回算定から1年6カ月が経過した場合、支給されず収入が閉ざされるという問題がありました。これは、企業の休職制度とも不整合がありました。企業の休職制度は多くの場合、休んだ期間のみカウントされます。例えば、白血病などはくり返し抗がん剤を使用することが必要となります。12カ月で職場復帰した場合、20カ月で再発し休職に入ったとしても、傷病手当金は支給されないことになります。このような、長期間にわたる両立支援の場合、戦略的に休職と傷病手当金を利用することが可能となります。  また、半日勤務などで復帰した場合、給与をもらうよりも傷病手当金の方が有利であることが多く、その際本人は休職をうながされていました。こういったケースで、長期間にわたる疾患群の場合には、職場に戻れるときにはできるだけ戻るという選択をすると、休職も傷病手当金も消化せず、より長い期間両立支援の制度を受けることが可能となります。  この制度改定により、両立支援を行うときに、支援者は病気の性質についておおよそのスケジュール感をイメージしながら支援することで、より最適な両立支援につながることになります。そのときどきの症状に応じた対応という支援の方策から、長期的な職業生活全般を含めた支援のあり方を検討することが必要になったといえ、より一層医療機関との連携を深めることが、労働者一人ひとりを大事にすることにつながるようになりました。 8 おわりに  高齢者の両立支援は若年者に行うものと基本的には変わりがありません。しかしながら、病気に対して若年者より脆弱性があることは否めません。また、体力・病状・意欲など個人差が大きく、一律にこのように対応したほうがよいというマニュアルをつくることは困難です。高齢者の両立支援を上手に行うための重要な要素は、医療機関との連携です。よい関係性をつくり、働きやすい環境をつくることで、多くの高齢労働者が活躍できる環境をつくり出すことは可能です。  もちろん、高齢労働者が働きやすいということは若年者にとっても働きやすい負担の少ない環境になります。労働者の定着の点からも、無理なく安全に働くことができる環境整備が求められています。 ※1 四つの痛み(トータルペイン)……身体的苦痛、心理的苦痛、社会的(経済的)苦痛、スピリチュアルな苦痛(生きる意味や目的など) ※2 傷病手当金……病気やけがによる休業中に被保険者とその家族の生活を保持するための制度 図表 年齢階級別にみた受療率(人口10万対)の年次推移 【入院】 【外来】 注:平成23年は、宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏及び福島県を除いた数値である。 出典:厚生労働省「患者調査」(2017年) 【P23-26】 事例1 株式会社日向屋(ひゅうがや) (宮崎県東臼杵(ひがしうすき)郡) 従業員の安全・健康管理は生産性向上につながる 過疎の町で高齢女性たちと起業 高齢者が貴重な戦力として活躍  株式会社日向屋は、国産の鶏肉、豚肉を使用し、独自の製造方法と添加物を使わないオリジナルの調味料を強みにレトルト食品の企画、製造・販売を行っている食品加工メーカーである。自社ブランドである「日向屋」の販売が8割を占め、主力商品の「鶏の炭火焼き」は宮崎県内の土産店のみならず、関東圏、関西圏、九州を中心に全国展開し、海外は香港、オーストラリアに輸出を行っている。  同社は1995(平成7)年、もともと食品メーカーに勤めていた請関(うけぜき)伸(しん)代表取締役社長が35歳のときに、宮崎県東臼杵郡門川町(かどがわちょう)で創業。地元の製材所を定年退職して家庭に戻っていた女性たちに声をかけ、従業員4人でスタートしたという。当時、門川町は若年層が町から流出し、65歳以上の高齢者が人口の4分の1を超える過疎の状況であり、地域の高齢者は貴重な働き手だった。  そんななか、働きやすい職場環境であったからだろう、従業員が知人に声をかけるなどして口コミで従業員が次第に増えていった。小ロットで2〜3品目をていねいに手づくりするという、いうならば家庭料理の延長ともいえる仕事は、家庭で料理をしてきた高齢女性たちの長年の経験に裏打ちされた料理の腕や無駄のない段取りを活かせる絶好の場所だったようだ。  同社では設立当時から65歳定年としていたが、高齢従業員がより長く働き活躍できる職場を実現するため、2009年に70歳定年制を導入した。70歳以降も一定の条件を満たせば、本人の健康状態などを考慮して継続雇用とすることを就業規則に明記している。  「創業当時、地方の小さな町の労働力人口は少なく、特に食品加工業にとって高齢者は貴重な労働力でした。行政からの助成もあって、70歳定年制を導入しました。定年延長当時は、高齢従業員が10人ほどいて、仕事の後に畑仕事をする人や、ほかにも仕事を持つ人などが多く、短時間労働が基本でした」(請関社長)  同社では60歳になったときに面談を行い、本人の意思で正従業員として働き続けるか、パートタイマーに切り替えるかを選ぶことができ、正従業員は月給制、パートは時給制をとっている。2022(令和4)年度からは新たな人事考課制度を導入し、年齢にかかわらず本人の仕事に対する姿勢、意欲、がんばりに応じて評価し、賞与はポイント制を採用し、会社への貢献度を評価している。  こうした取組みが評価され、2009年に宮崎県高齢者雇用規範事業として表彰を受け、2010年には高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で厚生労働大臣表彰特別賞を受賞した。高齢者雇用の取組みが注目を浴びるようになると、自然と同社の事業にもスポットがあたるようになり、2010年には地元銀行が主催するふるさと振興助成事業「県産品・地域振興部門」に選出されている。 従業員の負担を軽減することが生産性向上にもつながる  高齢従業員が主力として活躍していることから、同社では、高齢従業員の労働災害を防止するための職場改善の取組みに注力してきた。かつては、原材料の搬入から製品の包装・搬出までの各工程の接続が悪く、運搬作業などの間接工程が多かったという。また、工程の多くが立ち作業で手先を使う細かな作業のため、疲れやすく、腰痛などの疾患に悩まされていた従業員もいたという。そこで、2007年に工場を増改築する際、床面のバリアフリー化を実施するとともに、運搬作業などの間接工程の負担を軽減するためのレイアウト変更を行った。  また、原材料の運搬について、以前は人手による運搬か既製の台車を使用していたが、台車から原材料が落ちやすく、取り扱う商品が食料品のため特に神経を使う作業となっていたという。そこでトレーの規格を統一してトレー専用の台車を製作し運搬作業の負担を軽減。さらに、作業がしやすい作業台や補助台を製作するなどして作業負担の軽減を図った。  「製造業は単純作業になるので、長時間同じ動きをすると疲労が出て、思うように作業が進まなくなります。より注意を払って作業を注視し、特に不調な原因を探ってみると、作業台の高さが合っておらず、作業効率が悪いことがわかりました。当時働いていた高齢従業員は身長が高い人から低い人までさまざまで、身長差があるにもかかわらず作業台は同じ高さでした。そこで身長に合わせて作業台の高さを調節しました。製造業を継続していくうえでは、生産性の向上の追求は欠かせません。従業員の負担を軽減することは、生産性を向上させることにもつながります」(請関社長)  このほかにも、握力が必要な主力製品の成形において、高齢従業員の体力的な負担を減らすために製造工程、包装工程の機械化を行い、作業効率の向上につなげている。 従業員同士による体調管理を徹底 健康でいることが生産性を高める  また、作業環境の改善とともに、同社では従業員の健康管理にも配慮した取組みを行っている。例えば、作業グループにおける積極的な声かけを行うことにより、従業員同士がお互いに体調を気にかけて共有するとともに、体調不良が見られた場合にはすみやかに帰宅させる体制を整備しているほか、健康状態を把握するための専任担当者の配置、業務記録・清掃状況の確認と合わせて体調の記録なども行っている。健康管理が事業に与える影響について、請関社長は、「まず顔色を見て、気分の良し悪しなどのヒアリングを行い、健康状態をチェックし、きちんと記録するようにしました。食品工場なので、異物混入を防ぐために、作業前には着衣に粘着ローラーをかけます。この際に健康チェックを行うようにし、調子が悪い人を早めに帰宅させることを徹底しました。製造業は出勤率が生産量に大きく影響しますから、少しでも欠勤を減らし、健康でいてもらうことが、生産性アップの鍵になります」と話す。  また、取締役を務めている請関社長の奥さまが、高齢従業員や女性従業員の健康面、あるいは家庭の事情に気を配り、細やかにフォローをしてきたという。 新工場設立とHACCP導入 これまで以上に安心・安全な職場環境へ  同社は、2021年6月に新工場を設立し、同年12月にHACCP(ハサップ)※1を含むJFS-B規格※2の認証を取得した。請関(うけぜき)仁(じん)専務取締役は、「この2〜3年の間、施設、設備、機器といったハード面における安全環境の改善に力を入れてきました。新工場の設立にあたっては、働く環境という面で同社の工程のなかではとりわけ厳しいとされる焼成工程の面積を広くとって、安全性の向上と従業員の負担軽減を目ざしました。焼成の工程は、肉を炭火を使って焼き上げることから、室温が高くなり、煙も大量に発生します。特に夏場は厳しい作業環境です。これを緩和するために排気システムを取り入れ、また作業がしやすいように工夫を凝らして焼成機を独自に開発しました」と話す。現場で長年働く高齢従業員からは、「前とはまるで環境が変わって、本当に働きやすくなった」と、新工場の完成から1年近くがたったいまも、喜びの声が届くという。  新工場の設立により、かつては手作業で行っていた工程を機械化することで、従業員の安全を確保すると同時に、大量生産を実現した。宮崎の名産品である「鶏の炭火焼き」は他メーカーでも手がけているが、多くが手焼きで生産している。同社は機械化を進めたことで、生産性が大きく向上したという。  そのほかにも、出荷をする工程で、二重包装する商品の外装を手作業で包装していたが、これを自動化した。現在は、段ボールを組み立てる作業の機械化も検討しているという。  「HACCP国際基準の認証取得については、工場の設計の段階から、専門のアドバイザーのサポートを受けて進めました。HACCPを導入すること自体が、従業員のみなさんに快適に働いてもらえることになると考えています」と請関専務は説明する。  なお、工程のなかには機械化のできない作業もある。その一つが検品作業だ。同社ではこの作業を最高年齢者である78歳の女性従業員が担当している。異物混入や変色、残毛、カットサイズの規格を一つひとつチェックし、正しいサイズにカットされているかの検品を行うなど、会社に大きく貢献しているそうだ。 対面からオンラインへ 営業職の身体的負担を軽減  また、営業部門での最高年齢者は大分営業所に駐在する65歳の男性従業員だ。勤続年数は10年ほどで、入社当時は各企業を訪問する「足で稼ぐ営業スタイル」で商談件数をこなしていたが、昨今はコロナ禍の影響もあり、自宅からオンラインで商談を行うケースが増えた。食品業界全体の流れで、オンラインで開催される展示会も増えているという。  同社においてはコロナ禍以前から、事業のデジタル化を図っており、取引先への納品までの管理がスムーズになるなど、営業職の負担もまた軽減されているという。会議や打合せもオンラインで実施している。対面での営業スタイルからオンラインへの移行について、前述の65歳の男性社員も初めは抵抗があったというが、これからの会社の方向性や導入のメリットをしっかりと説明したうえで、若い従業員にサポートを頼みながら対応してもらったという。  「この方は『生涯、当社で営業を続けたい』といってくれていますし、会社として、これからも、お客さまとの折衝の最前線に立ち、力を発揮してほしいと期待しています」(請関専務) 三世代が安心して働ける職場環境の実現に向けて  同社の社是は「信頼と協力」である。  「組織や集団を形成するとき、各々の身を守る手段として、自然発生的にこの『信頼と協力』が活用されてきました。強い信頼と強い協力関係を築けば、その度合いが強いほど、組織は安定し発展すると考え、基本方針としています。日向屋は強い信頼と協力によってつくられた輪のなかでこそ、自分たちの安心を得て、持てる実力を発揮し、それぞれの能力を開発できると信じています」(請関社長)  創業当時は、下請けとして製造している商品もあったが、新商品の開発に力を入れてきたこともあり、いまでは自社ブランドを事業の柱として展開。売上げも毎年増収中で、こうした成長が県に認められ、2021年度宮崎県成長期待企業に認定されている。10年前の2012年に54人だった従業員数はこの10年で大きく増加し、2022年現在、93人の従業員が就業。そのうち60歳以上は26人、70歳以上は5人、全体の約3割が60歳以上の高齢従業員である。  これまで同社では、中途採用により人材を確保してきたが、2021年度からは新卒採用もスタートさせ、高校を卒業したばかりの10代の社員が入社した。今後も事業の拡大にともない、若い世代が増えていくことが期待される。請関社長は「これにより、当社では10代から70代が一緒に働くということになります。70代の従業員にとっては孫と働くような環境です。日本人はお年寄りを敬う文化が根本にあり、また高齢者は職業倫理が高い傾向があるように思います。高齢者が上司に就いた方が、コミュニケーションが円滑になると私は感じています」と話し、多世代がともに働くことによる期待をにじませる。  請関専務は、「私たちが実践するビジョンは『安心』です。商品の安心はもちろんですが、従業員のみなさんが働く環境づくりも同じです。すべての従業員が日向屋に勤めてよかったと思い、安心して働き続けられる会社になるのが私たちの目ざす姿です。ベテラン従業員の方には、これまでのさまざまな経験を活かし、職業倫理に基づいた正しい考え方を若い世代に継承してもらいたいと思います」とこれからの展望を話す。  日向屋では、今後も幅広い年代の従業員が活躍することを期待している。そのために、労働災害防止に向けた取組みにも一層力を入れ、高齢者から若手まですべての従業員が安心・安全に働ける環境づくりを続けていくという。 ※1 HACCP(ハサップ)……Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷までの全工程のなかで、危害要因を除去または低減させるために工程を管理し製品の安全性を確保する衛生管理手法 ※2 JFS-B規格……日本で開発された食品安全規格 写真のキャプション 請関伸代表取締役社長(写真提供:株式会社日向屋) 請関仁専務取締役(写真提供:株式会社日向屋) 日向屋の全景。手前左側の大きな建物が昨年設立したばかりの新工場(写真提供:株式会社日向屋) 【P27-30】 事例2 大和(だいわ)ライフネクスト株式会社(東京都港区) 健診結果のフォローの徹底をはじめ緻密なアプローチにより健康で長く働ける職場に 従業員の約6割が60歳以上 多くがマンション管理員として活躍  大和ライフネクスト株式会社は、1976(昭和51)年に創業し、マンション、ビル・商業施設、ホテルなどの建物管理サービスを手がけてきた。同社の管理する分譲マンション数は、4386棟(27万5140戸)となっている(2021〈令和3〉年3月31日現在)。  現在ではオフィス移転サポートやコールセンター業務といった、法人向けサービスも提供しており、不動産管理業の枠にとどまらない幅広い事業を展開している。  従業員数は7888人(2022年3月1日現在)。そのうち60歳以上の高齢従業員が57.8%(4559人)を占めている。  従業員の70.9%(5596人)は、マンションの管理員やビルの警備員など同社がサービスを提供する建物に勤務する「フロントスタッフ」と呼ばれる人々である。フロントスタッフは、60歳以上が78.5%(4395人)。そのうち、約4000人がマンション管理員である。  マンション管理員は、基本的に正社員として雇用している。未経験での採用がほとんどだが、全国一律でTV会議システムを使用した入社前研修から、現地研修、フォロー研修など独自の充実した研修プログラムで人材を育成し、管理業務の品質向上を図っている。 65歳定年後、パート社員は80歳以降も現場で就労可能  同社の定年年齢は65歳。2006(平成18)年には、65歳定年後も70歳までマンション管理を行う「フロントマネージャー」として雇用を延長する制度を導入した。評価制度や表彰制度によるモチベーション向上などの取組みも定着しており、当機構の2013年度「高年齢者雇用開発コンテスト※」では、厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞している。  2019年には雇用の上限年齢をさらに引き上げて、最高85歳まで就労可能としている。  現在の制度は、正社員の定年年齢は65歳で、その後は嘱託社員として75歳まで継続雇用を行っている。嘱託社員と週所定20時間以上のパート社員の雇用上限年齢は75歳で、週所定20時間未満のパート社員の雇用上限年齢は80歳である。  さらに、健康条件などの要件を満たせば、「シニアフロントマネージャー」として登録され、85歳まで働くことができる。  シニアフロントマネージャーは、フロントマネージャーの休暇や急な体調不良での休みなどの際の代行員として、日常のマンション管理にあたる。つまり、臨時で対応してくれるシニアフロントマネージャーの存在により、マンション管理員が休暇を取得しても、管理活動が維持できる体制が構築されている。 「健康経営優良法人2022(ホワイト500)」に認定  60歳以上の従業員が約6割を占める同社には、10代から80代まで、幅広い年齢層の従業員が勤務している。その一人ひとりが安心して長く働ける健康づくりを推進していくことが、企業の成長を支える基盤であるという方針のもと、2019年に「大和ライフネクスト健康宣言」を制定した。  この宣言に基づき、同社では健康経営の取組みに注力し、2020年から毎年、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に選定されている。このほど公表された「健康経営優良法人2022」では、大規模法人部門の上位500社に付与される「ホワイト500」の冠を得た。  同社の健康経営の取組みは、@産業医・保健師と連携した健康管理体制の強化、A従業員一人ひとりが高い健康意識を持って楽しみながら取り組める施策を軸にして推進されている。  具体的には、健康診断受診率100%を目ざすとともに、健康保険組合・産業医・保健師・職場が連携を取りながら二次検査の受診勧奨、治療状況の確認、保健指導など個別の事後フォローを徹底。さらに、生活習慣病予防、健康リテラシー向上の取組みを進めている。  これらの成果の一例をあげると、健康診断の二次検査の受診率が、2018年度の27%から2019年度は73%まで向上した。コロナ禍の影響により、2020年度は定期健診の時期が大幅に遅れ、一部の対象者の集計を見送ったことから、2020年度の二次検診受診率は48.3%まで低下したが、ハイリスク者に対してのフォローは確実に実施しているという。  また、従業員の健康リテラシーの向上を目的に、毎月発行する全従業員向けの社内報や社内ポータルサイトを通じて、健康増進に有益な情報の発信を行っている。WEB環境が整っていない、あるいは、紙媒体のほうが読みやすいというシニア層へは、季節ごとの健康や安全に関する知識などを、文字の大きさにも配慮してまとめた社内報に同封して郵送するなどの工夫をこらしている。そのほか、全従業員を対象に、外部講師によるオンラインでの健康セミナーを定期的に開催し、参加を呼びかけている。 健診結果に基づく地道なフォローが病気の早期発見、治療に結びつく  健康経営の推進に取り組む人事部OS給与・福利厚生課の水澤(みずさわ)晶子(あきこ)課長は、同社の高齢従業員について「もともと一定の健康リテラシーを持っており、生活習慣もしっかりしている方が多いです。運動習慣についても、管理員という業務特性もあるかとは思いますが、男女ともに全国平均より高い結果が出ています」と紹介する。こうした特徴をふまえ、同社では「健康を保って長く活躍してもらう」という考え方のもと、高齢従業員に対しては健康の“維持”に注力した取組みを行っている。  具体的には、健康診断を通じた取組みを重視し、産業医・保健師と連携して健康管理体制を強化するなかで、健診結果に基づいて産業医や保健師が積極的に介入し、二次検査の受診勧奨、治療状況の確認など、個別の事後フォローを徹底。これらの地道な取組みが、病気の早期発見、治療に結びついてきている。  また、高齢従業員については、現場での安全衛生対策とけがをした際のケア、無理をさせない働き方の徹底にも取組みの重点を置いている。  多くの高齢従業員がになうマンション管理員の主な仕事は、マンション共用部分の清掃、館内巡回、受付、事務管理などだ。そのなかで、わずかな段差につまずいて転倒する、ふり向いたときに何かにぶつかる、ぎっくり腰になるといったことが、生じているという。そのため、ラジオ体操の実施や転倒防止対策を行いながら、一方で、病気やけがをして休職した際や、治療と就労の両立支援に尽力し、長く働き続けられる職場づくりを推進している。  「休職しても、安心して治療に専念し復帰を目ざせるよう、直属の上司と人事、産業保健スタッフが連携できる体制を構築しています。休職前には、制度説明や生活の保障の確認などを行い、本人が復職に向けた道筋をイメージしやすいように支えるなど、安心して休職できる環境が整ってきました。復職時には『この状態であればこういった勤務が可能である』という産業医の判断のもと、状況によって配置転換をするなどの調整を行い、無理のない働き方ができるようにサポートします。体系化までは至っていませんが、こうした取組みを強化するなかで、復職者数が増えてきました」(水澤課長)  メンタルヘルス以外の病気やけがによる同社の休職者は年間約200人。3年前はそのなかで50人ほどが退職していたが、復職者が徐々に増えて、現在の退職者は約30人に減っているそうだ。 マンション管理員にスマートフォンを貸与 出退勤管理から情報伝達へ用途が拡大  マンション管理員は原則一人勤務で、それぞれの勤務時間も異なるため、一斉にラジオ体操をすることができない。また、ルールを設けることもむずかしいため、一人ひとりの健康・安全への知識や関心を高めていくことと、仕組みを構築して実施できる取組みの推進に注力している。  例えば、マンション管理員にはスマートフォンを貸与している。使い方は、マンション事業部や支社の担当者が希望に応じてマンツーマンで手厚く教えたそうだ。  当初は、「出退勤管理」をスマートフォンで行うことを目的として貸与を始めたものだが、2021年度からスマートフォン向けアプリを活用して、「マンション事業部報」の発信を開始。マンション管理員に向けて、業務情報を発信するだけではなく、健康や安全に関する情報も発信し、情報の共有や業務知識のアップデートを促進している。  事業部報の発信にあたっては、マンション管理員にスマートフォンで読んでもらえるよう、再度マンツーマンでアプリの使い方を教えるなどの工夫を重ね、現在マンション管理員の約7割がスマートフォンでこの事業部報を読む状況になっている。  スマートフォンを活用した情報発信は、タイムリーな情報を迅速に届けることができ、マンション事業部報では定期的に、トラブルを回避する情報として、「靴底は減っていませんか」、「熱中症予防をしていますか」などの内容を発信。労働災害防止に向けた事例を動画で伝えることなども行っている。  マンション事業本部人材企画部の五十嵐(いがらし)真弓部長はスマートフォンを活用した事業部報の活用状況について「例えば、よく見られている動画が『転倒事例』です。アプリを使うと、どんな情報がよく読まれているかのランキングが出ます。マンション管理員は、業務知識など実用的な記事ほど関心を持っていることがわかりました」と話す。また、コロナ禍以降は、スマートフォンの新たな活用も始まっているという。  マンション管理員は、近隣の10棟〜20棟の管理員で「エリア会」をつくり、コロナ禍以前は定期的に集まり、連絡事項の共有やコミュニケーションの場としていた。横のつながりを持つことで支えあったり、だれかが具合が悪いと聞けば心配する関係が生まれ、心の健康につながったり、復職の励みになったりしていたという。しかしコロナ禍のため、管理員同士が集まる機会をつくれなくなったが、スマートフォンが役に立った。ビデオ通話機能を使って、リモートでエリア会を開く管理員たちが出てきたのである。  「そうしたつながりも、管理員が健康で働ける環境づくりに欠かせないものと考えています。この機会を利用し、“つながりを断ち切らない仕組みづくり”を検討しているところです」(五十嵐部長)  業務全般のDX化とともに、今後もスマートフォンを活用して業務改善や健康にかかわるような仕組みの構築を考えているそうだ。 健康管理システムの導入やアプリで健康を可視化する実験を開始  先述した通り、同社では雇用年齢の引上げに取り組んでおり、それにともない採用年齢も徐々に上がっているという。健康経営の推進や長く働ける環境づくりも功を奏し、同社のマンション管理員の平均年齢は2018年度の62.2歳だったのが、2021年度は63.8歳に上がった。  こうした傾向をふまえ、今後は健康経営や安全な職場づくりがますます重要になってくる。水澤課長は、「シニア層に対しては、ようやく現状が見えてきた段階です。健康維持を基本にして、現状をよくしていくことに努めていきたい」と抱負を語る。五十嵐部長も「多くの従業員に長く元気に活躍してもらえるよう、会社としてサポートできることをさらに探っていきたい」と続けた。  同社では、健康診断やストレスチェック結果、面談内容などを経年管理・一元管理する健康管理システムを導入した。現時点ではまだ試験段階で、従業員のこれからの健康保持増進につながるよう活用を進めていきたいとしている。また、従業員の身体的・精神的健康と業務におけるパフォーマンスを高めていくことを目ざし、スマートフォンのアプリを活用した実証実験も開始しているそうだ。多くの高齢従業員が働く同社の取組みは、生涯現役時代における雇用を考えるうえで今後も注目していきたい。 ※ 現在の名称は「高年齢者活躍企業コンテスト」 写真のキャプション スマートフォンアプリで発信している「マンション事業部報」(画像提供:大和ライフネクスト株式会社) マンション事業本部人材企画部の五十嵐真弓部長(写真提供:大和ライフネクスト株式会社) 【P31-34】 事例3 株式会社松下産業(東京都文京区) ヒューマンリソースセンターを中心に治療と仕事の両立を手厚くサポート 人を大切にする社風が生んだ社員に寄り添うサポート体制  株式会社松下産業は、1959(昭和34)年に東京都文京区で創業。以来、高度成長の風を受けて業容を拡大し、半世紀を超えたいま、総合建設会社として地域の街づくりに貢献している。オフィスビル、商業施設、マンションなどの大型物件をはじめ、有名建築家とのコラボレーションなど高い技術と品質を誇る。  同社は230人の社員を擁し、平均年齢は40.8歳(2022〈令和4〉年現在)で、働き盛りの世代が会社の中核をになっている。定年は60歳、定年後は希望すれば再雇用制度を利用して70歳を超えても働き続けられる環境が整備されている。現在、60歳以上の社員は24人。多くは現場監督の業務に就いており、最高年齢の72歳の社員をはじめ、活き活きと働く高齢社員は若手社員のよいお手本になっている。  同社の松下和正代表取締役社長は社風について、「創業者である私の父は、郷里からの人材を採用したことにより、家庭的な雰囲気がつくられ、たとえ病気を患っても、あるいはけがをしても、『何か担当できる仕事があるはずだ』という考え方が基本にあったように思います。建設業は『3K※』といわれ課題も多いですが、その一方で、歳を重ね現場で技術を磨いた経験を活かして、現場監督や在宅で働くことも可能な魅力ある業界です。だからこそ社員が安心して長く働ける環境づくりが大切であり、その仕組みづくりを進めてきました。そのことを評価していただき、2012(平成24)年に文京区より『ワーク・ライフ・バランス推進企業』として認定されました」と話す。  この認定が契機となり、社員一人ひとりを支援する組織として、2013年に「ヒューマンリソースセンター(以下、HRC)」を設立した。  建設会社は残業も多く、施主をはじめ専門工事業者、工事現場の近隣住民など、対人関係の問題も起きやすいことから、メンタル不調者も多かったという。メンタルヘルスの問題は部門の上司にもなかなか相談しにくいという現実もあり、すべての相談を受けとめる独立した部署をつくろうと、松下社長が自らHRCの立ち上げを発案した。 採用から退職までトータルで支援 社員の相談にワンストップ対応  それまで、現場のライン任せになっていた課題に取り組むべく、教育・研修、子育てや介護支援、健康管理、マネープランなど、採用から退職まで一元的に支援する組織が誕生した。  設立当初のメンバーは、総務系の取締役1人、技術部門の統括部長2人、管理部門の女性課長1人の陣容であった。このときの女性課長が、現在HRCの業務を一手にになっている齋藤(さいとう)朋子(ともこ)センター長だ。  「メンバー構成には社長の思い入れが強く表れています。経営層や管理職の人たちに兼務してもらったのは、部門長の意識改革を考えてのことだったと思います。開設当時は『ワーク・ライフ・バランス』の考え方は、いまほど浸透していませんでした。また、家族へのきめ細やかな対応という意味からも、女性社員活用の場にしたいという考えもあったのだと思います。私は商社などの勤務を経て、2007年に中途入社しましたが、2013年からHRCの運営にかかわり、2016年にHRCのセンター長になりました。週1回のミーティングを実施し、さまざまな情報発信をするなかで、試行錯誤しながら問題解決の糸口を見出してようやく軌道に乗り、いまに至っています」  HRCは、ワンストップで社員に関する情報を集約し、個々を多角的にサポートする。社員の採用から人材教育、配属、キャリア支援はもちろん、確定拠出年金(日本版401K)の活用を含めたマネープラン講座、ワーク・ライフ・バランス推進や社員のメンタルヘルスなど、さまざまな側面から社員をバックアップしている(図表)。その役割のイメージは、顧客の要望や質問に対して創意工夫をし、迅速に対応するホテルのコンシェルジュのような存在だ。当初の目標であるワーク・ライフ・バランスの実現を目ざしつつ、時代の流れのなかで、病気を患った社員の治療と仕事の両立支援に力を注いでいる。  HRCのスタッフは、治療をしながら働き続ける社員の問題解決のために専門家との連携を進めてきた。がんの場合は産業医の助言を受け、メンタルヘルスに精通している顧問社会保険労務士に労務管理面での見直しを含め相談している。また、退院後は産業医を通じて主治医との連携を図っているほか、産業保健師のフォローも大きな力となっている。  「当社では、社員のニーズに応じて柔軟な支援に取り組んでいます。コロナ禍で在宅勤務という働き方がすっかり定着しましたが、当社では、それ以前より社員の希望をもとに在宅勤務制度を取り入れています。大腸がんに罹患した40代の社員が末期で通勤が困難になり、治療を受けながら自宅で仕事をしたいという希望に応えて導入したものです。残念なことにその方は急逝しましたが、在宅勤務という新しい働き方をもたらしてくれました。その後、治療目的だけでなく、子どもの不登校など事情を抱えた人や、介護休暇とあわせて在宅勤務を希望した人が続きました」(齋藤センター長) 治療をしながら働き続けるために職場でできる六つの配慮  齋藤センター長には忘れられない光景がある。2013年にステージ4の脳腫瘍が見つかった社員がおり、その人は治療しながら働き続けることを強く願った。「働き方をいろいろ工夫しながら、余命宣告後3年間永らえることができました。息子さんから、『父が松下産業の社員でよかった』と告げられたとき、この仕事をやっていてよかったと心から思いました。当社では病気になった社員が、自分の病気を発信する機会があります。この社員もあるセミナーで講演する予定でしたが、叶いませんでした。本人が発信し、それを職場の仲間が『明日は我が身』と受けとめます。病気でも働ける制度はもちろん必要ですが、職場で自然に受け入れる風土こそ大切だと私は思います」と言葉に力が込もる。  同社では、がんに罹患して離職した社員はおらず、現在も6人の社員ががんの治療を行いながら家族や会社、仲間たちに支えられ勤務し続けている。  両立支援の内容を具体的に紹介する。 @まず直接、本人・家族と話す  病気や入院などの報告が入ると、センターのスタッフが自宅や病院に駆けつけ、本人や家族の要望・希望をヒアリングし、今後の業務体制などを社内で検討する。 A主治医・産業医・専門家との連携  社員が職場復帰にあたって主治医と面談するとき、産業医にも同席してもらう。産業医は産業医活動を通じて社員と顔見知りであることも安心感を与える。職場巡視などを通じて、会社の業務内容に詳しい産業医が、本人と主治医との間に立つことで、勤務形態を考えるサポートができる。また、産業医のフォロー役として産業保健師が健康指導や禁煙指導などにあたっている。さらにがん相談支援センターなどの各種専門家との連携を図る。 B治療を支える家族もサポート  社員の家族の職場訪問を受けつける「ファミリーデー」を開催し、治療を支える家族との交流を実施。家族が抱えている悩みなどにも耳を傾ける。 C社内制度・公的支援の周知・病気の理解促進  社内制度としては在宅勤務制度や柔軟な勤務体制を整備している。35歳および40歳以上の社員には人間ドックを実施しており、がんのオプション検査も会社が全額負担している。また、家族との対話から浮かび上がってきた問題として生計維持があったことから、会社としてGLTD(団体長期障害所得補償保険)に加入。休職中やリハビリ中の所得補償に取り組んでいる。病気の理解促進の面では、本人の同意を得て、社内イントラネットや社内報に闘病記を掲載している。治療と仕事の両立が可能であることが周知されるため、病気と診断されても即離職につながっていない。 D日ごろの情報収集とニーズの把握  社員の状況について日ごろから情報収集を行っている。年2回行っている賞与面談(個人面談)の機会を利用し、個人ニーズを把握して、一人ひとりにあった働き方を模索していく。なお、面談の相手を逆指名できるのも面談の充実につながっている。 E会社とのつながり、やりがいを感じてもらう  職場復帰する社員からの手紙やメッセージを共有することで、会社とのつながり、仕事に対するやりがいをともに感じることができるよう取り組んでいる。  以上の六つの職場支援について、松下社長は「人にかかわることをワンストップで行う部門としてHRCの存在は大きいと思います。当初は、ワーク・ライフ・バランスの実現が視野にありましたが、いまは治療と仕事の両立を図るために大いに力を発揮しています。産業医との連携もスムーズで、当社の産業医は、不明な点は『わからない』といって、専門家と連携して対応してくれています。また、四つ目にあげたGLTDは給与の約4割を保証してくれるすぐれた制度です。65歳までが対象で、保険料が月額約1500円というのもありがたいです。4割を保証されればほかの公的制度とあわせて、何とか生活の目途も立ちます。人間ドックも、毎年、産業医に相談して、効果的かつ必要最小限の検査項目を選定していますので、GLTDの保険料と合わせても一人4000円あれば手厚いサポートが可能です。トップがその気になってほかで節約すれば実現できます」と力強い。 だれもが活躍できる職場環境の構築を目ざして  同社には、『四方よし』という経営理念がある。これはお客さま、会社、社会の三者が『よし』になる近江商人がいうところの『三方よし』に、協力会社を加えた『四方よし』に進化させたものである。この『四方よし』の仕事を進めるためには、社員の幸せがベースになければならない。だからこそ、同社は職場の雰囲気向上や社員間・家族の交流を目的としたファミリーデーの実施などを通して、社員のプライベートの充実にも力を注いでいる。  同社の治療と仕事の両立のための職場支援に対する評価は年ごとに高まり、2014年に東京都「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞したほか、厚生労働省「がん対策推進企業アクション推進パートナー企業」の登録を受け、がんに関する最新情報を随時、社内に通知している。2020年には、日本対がん協会の「朝日がん大賞」を受賞した。それでも松下社長は「何も特別なことはしていません」と強調する。特別なのではなく、すべては自然体ということであり、これこそ同社に根づいている社風なのだろう。  発想が豊かで自由、かつ温かいまなざしの持ち主である松下社長とともに歩んできた齋藤センター長は、今後の展望について、「HRCを必要とされた社員の方には、その存在価値を知ってもらえたという自負がありますが、そうではない人たちにどれほどその価値を知ってもらえているか多少の不安はあります。HRCの課題を私一人でになうのではなく、次の世代につなげる組織にしたいという思いもあります。HRCのスタッフの一人は60代の男性で、その豊富な人生経験を頼りにしています。ただ、人手が足りないため、『スタッフ募集中です』とアピールさせてください」と話す。  最後に松下社長は「社員の1割を占める60歳超の社員たちは、仕事をコツコツ行ってくれており、その背中を追うことができる若い社員は幸せだと思います。年齢や性別に関係なく、あるいは闘病中の人も含めて、だれもが活き活きと活躍できる会社づくりを、これからも目ざしていきます」と語ってくれた。 ※ 3K……「きつい、汚い、危険」の頭文字から生まれた言葉 図表 ヒューマンリソースセンターの役割 ヒューマンリソースセンター 採用 子育て・介護支援 ・ファミリーデー ・中学生・高校生職場体験 ・大学生インターンシップ ・育児休業・介護休業促進施策 健康管理 ・労働時間管理 ・産業医健康相談 ・メンタルヘルス ・インフルエンザ予防接種 その他 ・福利厚生 ・人事評価・昇給昇格 ・賞与支給 ・表彰 ・勤務状況 ・配属・ローテーション 教育・研修・自己啓発 ・階層別研修 ・技術研修 ・通信教育 ・資格取得支援 ライフデザイン ・マネープランセミナー ・キャリア相談 ・確定拠出年金 資料提供:株式会社松下産業 写真のキャプション 松下和正代表取締役社長(写真提供:株式会社松下産業) ファミリーデーの様子。治療を支える家族とのコミュニケーションの機会を持つことも重要となる(写真提供:株式会社松下産業) 【P35】 日本史にみる長寿食 FOOD 343 味噌汁は「幸せのスープ」 食文化史研究家● 永山久夫 味噌汁で「幸せホルモン」  日本人の主食であるご飯に、ぴったりと寄り添っているのが味噌汁。大豆の成分を麹菌で発酵させた味噌をもとに、野菜などがたっぷり入った食べるスープです。  大豆に含まれている約35%のタンパク質は、発酵によってアミノ酸に分解されていますから、消化と吸収率のよいアンチエイジングスープといえるでしょう。老化防止にはタンパク質が欠かせません。  このすばらしいスープを食事ごとにとってきた日本人は、いまや世界のトップクラスの長寿民族。人生100年時代を支える健康上の大きな柱です。  味噌のアミノ酸のなかでも特に注目されるのが、グルタミン酸とトリプトファン。グルタミン酸は、化学調味料の原料にもなっているほどのうま味成分で、味噌汁のうまさのもとになっています。同時に、脳の老化を防ぐ働きにも役に立っています。  重要なのは必須アミノ酸のトリプトファン。「幸せホルモン」と呼ばれる脳内物質のセロトニンの原料でもあります。多幸感をもたらすのもセロトニンで、落ち込んだ心を励ますと同時に、心をおだやかにする神経伝達物質です。  ダシのよく利いた味噌汁をとると、なんとなく幸せな気分で心が満たされるのも、トリプトファン効果かもしれません。  ダシに使われているカツオ節には、和食食材のなかでもトップクラスの量のトリプトファンが含まれており、味噌汁は日本人にとって「幸せのスープ」なのです。 美肌効果と若返り作用  昔、味噌汁づくりの上手なおばあちゃんたちはよく、「実の三種は身の薬」と胸を張っていっては、ニッコリしていました。野菜、海藻、キノコ、豆腐、油揚げ、魚のつみれ、魚のあら、ときには豚肉など、昔は具だくさんの味噌汁が多かったので、幸せホルモンの原料だけではなく、ほかのアミノ酸やビタミン、ミネラル、食物繊維などもたくさん摂れ、きわめて健康効果の高い食べ物だったのです。  味噌には、美肌効果や若返りの作用で知られるビタミンB類の仲間であるナイアシンも含まれています。また、発酵食品の味噌には乳酸菌や麹菌も多く含まれ、腸の活性化にも役立っています。 【P36-37】 江戸から東京へ [第114回] 続・鎌倉娘の気負い 巴と静 作家 童門冬二 義仲への黒ユリの思い  鎌倉(というか東国)女性の気負いについては、その代表として、前々回、北条政子を紹介した。彼女は政治家だ。そこで今回は男への愛一筋に生き抜いたひたむきな鎌倉娘を二人ご紹介したい。巴(ともえ)と静(しずか)だ。  巴は木曽(きそ)義仲(よしなか)とは乳兄妹だった。父の中原(なかはら)兼遠(かねとお)は、義仲の父源義賢が、甥(おい)の源義平(源義朝の子)に敗れて孤児となった義仲を根拠地の木曾谷(きそだに)にかくまった。巴は一緒に育った。気持ちは複雑だった。  世間態(せけんてい)は兄妹だ。が内実は恋人だ(特に巴が)。この処理を巴は、  「男になろう」  という意志に定めて振り切った。特に、  「義仲のように強い男になろう」  と。義仲が得意とする武芸を片端から身につけた。剣・槍・特に弓。義仲のあらゆるものを液化して自分のなかに注ぎ込んだ。義仲と一身同体化をはかったのだ。  木曽川の岩に咲いた黒ユリのようなものだ。岩に生まれ岩に育つ。野生以外ない。しかし、そのなかで義仲への思いだけはたしかだ。それを巴は数々の平家との合戦で示す。義仲に示す。秘めた思いは義仲だけにわかればいい。その点、巴の思いはいじらしい。 静の舞と義経  そこへいくと静はまったく対照的だ。楚々(そそ)たる彼女のほうが反対に能動的なのだ。  静は舞を職業として選ぶ。つまり自分の芸を公開する職業だ。  静の舞はしかし源義経への思いである。恋情だ。  「わたしはこれほど義経様を思っている」  ということの公式表明だ。芸能人としての仕事だからもちろん有料だろう。この点、静はたくましい。  巴は義仲を液化して自分のなかに受け入れた。しかし静は逆だった。  自分を液化して義経に注入した。その様(さま)を舞に仕立て公開した。しかし私はそこに静の云いようのない悲しみを感ずる。舞でしか自分の思いを語れない立場の悲しさをである。この点は木曽の黒ユリの方が恵まれている。  しかし静の舞は、あの鉱石のような政子の心をも水のように溶かした。  (女子はこれほど男を思うのか)  と政子は驚いた。改めて自分のことを振り返った。源頼朝の存在を認識した。  それまでの政子の心は、夫(頼朝)のことを考えないではなかったが、東国武士の一人としてであった。しかしこのとき(静の舞を見て)からは、  「夫のために鎌倉殿(将軍職)と幕府を守ろう」  という気になるのだ。  政子が息子(源頼家や源実朝)たちに非情になっていく(十三人の合議制など)のも、動機はこのときからだと思う。  義仲は平家を討ち続けるが調子に乗りすぎて、ついに、「追討の院宣(いんぜん)(法皇・上皇の命令)」を出されてしまう。受けたのも実行したのは義経だ。  義仲は義経にはかなわない。巴とは琵琶湖畔で別れる。感じだが、この別れはサッパリしている。巴も、  「この人とも、ここでお別れだ」  と覚悟する。木曽の黒ユリ的感覚だ。  巴はその後、尼になったともいうし、武家の妻になったともいう。どっちにしても、サッパリと黒ユリらしい生き方をしただろう。  静は、吉野山の奥、大峰の「女人限界」の所で義経と別れた。以後の二人にはいろいろ巷説がある。  義経はモンゴルに渡ってチンギスハン(カン)、になったというのもある。英雄へのつきぬ夢物語だ。  巴がこの話を聞いたら、  「バカバカしい」  と笑うだろう。なぜなら巴の知る義経は美丈夫で、たくましいのは義仲だからだ。  それに当時の行程から考えても、大陸へは近江(滋賀県)から越前(福井県)へ抜けて日本海を渡った方が早い。  リアリストの静なら、  「バカバカしい。義経様がいらっしゃるのはわたしの胸のなかよ」  と答えるだろう。 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第119回 滋賀県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 社員はみな平等、老若男女問わず能力次第で役職に抜擢 企業プロフィール 株式会社湯元舘(ゆもとかん) (滋賀県大津市) ▲創業 1929(昭和4)年 ▲業種 旅館業 ▲社員数 250人(うち正社員数125人) (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(17人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(3.2%) 65〜69歳 6人(2.4%) 70歳以上 7人(2.8%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳、基準該当者を70歳まで継続雇用。さらに会社が認めた者は70歳以降も上限なく継続雇用  滋賀県は古くから近畿、中部、北陸の3圏域を結ぶ交通の要衝(ようしょう)として発展してきました。県の面積の約6分の1を占める国内最大の湖である琵琶湖は、豊富な水量を有しており、近畿地方の貴重な水資源となっています。当機構の滋賀支部高齢・障害者業務課の豊田芳樹(よしき)課長(取材当時)は、県の産業について次のように説明します。  「県内総生産に占める第二次産業の割合は48.9%、県内総生産に占める製造業の割合は44.6%で、ともに全国1位です(「平成30年度県民経済計算」内閣府)。主に、輸送用機械、電気機械、化学工業が盛んです。立地のよさや恵まれた自然を求めて企業が集積し、多くの生産・物流拠点を築いたことにより、全国でも有数の内陸型工業県となりました。  一方、滋賀県は観光地としての地域資源にも恵まれ、琵琶湖はもちろん、彦根城、比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)などの歴史文化的な建造物が数多く、観光産業にも力を入れています。近畿はもとより中部、北陸からも多くの旅行客が訪れています」  滋賀支部所属のプランナーや高年齢者雇用アドバイザーが事業所から受ける相談内容としては、製造業が多いことから、@技能・技術の伝承、A高齢労働者のモチベーションの維持、B健康管理などが中心となっています。  同支部は制度改善提案業務において、プランナーやアドバイザーが初回訪問時に事業主および人事労務担当者の話にしっかり耳を傾け、課題はもとより、事業所が置かれている状況をあわせて把握し、それぞれの事業所の実情に沿った内容を提案するよう取り組んでいます。  今回は、同支部で活躍するプランナー・菊次(きくつぎ)正純(まさずみ)さんの案内で「株式会社湯元舘」を訪れました。菊次プランナーは、特定社会保険労務士、中小企業診断士の資格を持ち、かつて勤務していた大手機械メーカーでの人事総務部門における豊富な経験とつちかってきた知識を活かし助言を行っています。「話をしっかり聞いてくれる」、「ていねいでわかりやすい説明をしてくれる」、「次回も菊次プランナーに訪問してほしい」と評判の高いプランナーです。事業所訪問時には人事評価・賃金制度や高年齢者の健康管理、職場環境改善などさまざまなアドバイスを行っています。 歴史ある温泉郷にある老舗旅館  湯元舘は1929(昭和4)年に創業した老舗旅館です。琵琶湖西岸に位置し、旅情ある湖畔の温泉郷として1200年の歴史を誇る滋賀県下最大の温泉地、おごと温泉において、最初の旅館として営業を開始しました。  同旅館を運営する株式会社湯元舘は、県内および京都府で、高価格帯ブランドを含むさまざまなタイプの旅館を6施設展開しています。社是に「忘己利他(もうこりた)」を掲げ、「お客さまの立場に立った良質なサービスの提供」、「社員の成長」、「正しい利益と発展により社会に貢献する」ことを理念として事業活動を行っています。同社の針谷(はりたに)亮佑(りょうすけ)代表取締役財務責任者は、「売り手よし、買い手よし、世間よしという近江商人の『三方よし』の精神は、自らの利益のみを追求するだけでなく、社会の幸せを願うものであり、これは社員に対してもあてはまると考えています。最近よく耳にするようになった『SDGs』の概念に近いとも感じますが、改めていうまでもなく、これまでずっと実践してきたのが滋賀の商売人です。当社はアルバイト社員を『パートナー社員』と呼んでおり、『アルバイト』という呼び方は一切禁止しています。社員を分けへだてることはしていません」と話し、全社員を大切にする姿勢が伝わってきました。  2022(令和4)年に創業94年目を迎え、100周年が目前に迫っている同社。2020年6月には、湖岸沿いの2000uの土地に高級旅館「松の浦別邸」をオープンしました。ペットと泊まれる宿として人気を集めており、多くの利用客が訪れています。開業以来、SNSで反響を呼び、予約が取れない部屋もあるそうです。現在、湯元舘は一部を改装工事中で、2022年7月に露天風呂つき客室を備えてリニューアルオープンする予定です。 定年年齢の引上げを役員会で検討中  同社の定年年齢は65歳。本人の希望があり基準に該当する場合は70歳まで継続雇用、さらに会社が認めた場合に年齢の上限なく継続雇用をしています。定年後は継続雇用を希望する人がほとんどです。定年後の勤務時間などについては、社員の希望を聞き個別に対応しています。定年後の働き方は二通りあり、一つは定年前と同じ仕事を続けるというもの。長年勤めた方はほかに代わりがいない役割をになっているため、同じ仕事を続けるケースが多いそうです。一方、本人が短時間・短日勤務を希望した場合は、仕事が変わることもあります。  針谷代表取締役は、「ホテル旅館業界においては、入社数年後の離職率が高く、当社も10年勤続している中間層が薄い状況です。入社したみなさんには新卒・中途、あるいは年齢を問わず、当社で長く働いてほしいと思っています。2021年に改正高年齢者雇用安定法が施行されたことをきっかけに、定年年齢引上げの議題が役員会で何度もあがっており、68歳または70歳への定年引上げを検討しています。働き続けるか否かは、本人の希望次第ですから、その都度、希望を聞き勤務形態や待遇などを対応していきます」と今後の方針を説明します。  2021年9月に、同社を初めて訪問した菊次プランナーは、「私自身も若いころに、こちらに宿泊したことがあるのです。コロナ禍においては、特に同社をはじめとする旅館・観光業は厳しい状況ではありますが、少しでもお役に立てればと思い訪問しました」と当時をふり返ります。  菊次プランナーは、次のような観点でアドバイスを行いました。  「同社では、定年後の勤務はフルタイム勤務を前提としていました。しかし、高齢社員がより働きやすく、意欲を発揮できる環境・制度にするためには、それぞれのニーズに応じた勤務形態や時間を選択できる仕組みづくりが重要となります。  また現在の実態として、70歳を超えた高齢社員が勤務し続けている状況のなかで、同社では『法律で定められたルールは最低限の水準である』という会社の方針に基づき、さらなる高齢社員の活躍推進に向け、定年後の継続雇用者の人事評価・賃金制度や高齢社員の健康管理、職場環境改善を提案しました」  こうしたなかで、同社では多くの高齢社員が活躍しています。今回は、定年後も役職を継続し、部門管理の役割をになっている菖蒲(しょうぶ)ひとみさん(66歳)にお話を聞きました。 客室部部長として定年後も活躍  菖蒲さんは、2008(平成20)年9月に52歳で入社しました。初めは料理を提供する派遣社員として勤務。その後パートナー社員、正社員へとステップアップ。そして5年前に、マネジメント能力を買われ客室部の部長職に抜擢されました。  2021年4月に65歳で定年を迎えましたが、後継者育成のため引き続き部長として働くことを請われ、さらには執行役員に就任しました。客室部は、正社員が32人、パートナー社員が15人在籍し、ほぼ20代の女性が占めています。客室部の業務管理全般から、新人研修をはじめとした社員の教育全般、ときには料理提供までこなすという菖蒲さん。  「接客は長年の経験がありますが、事務職は部長職になってからなので5年目です。パソコンを初めて使いましたし、社員教育を全社的に任されるのも初めてのことでした」  菖蒲さんの仕事のなかで、特に重要な業務がシフト管理です。館内には食事処がいくつもあり、個人の能力と休暇の取得状況に加えて、お客さまの予約変更に対応してやりくりしますが、もし当日体調不良で欠勤があればシフトを一から組み直さなくてはなりません。とても複雑で神経と労力を使い、ミスがあるとクレームにつながりかねない業務です。以前はシフトの関係で休みの日でも会社から連絡がくることがあったといいますが、現在は管理業務ができる人材も育ってきており、しっかり休めるようになったそうです。  もう一つ、菖蒲さんが担当している重要な業務が後継者の育成です。菖蒲さんの定年時は後継者が育っておらず、ひとまず部長職を3年延長してその間に育成することになりました。  「当社のサービス提供の仕方、基本的な接客方法をしっかり現場で経験し学んでもらってから役職の仕事に就いてもらいたいと考えています。他部署から異動してきた後継者候補の方には、いまは接客を担当してもらっています。現場の社員を管理するので、現場経験を積み重ねないと、パートナー社員たちにもうまくアドバイスができないはずです。現場ではいろいろなことが起こりますから。  若い社員が成長していく姿を見ることができるのもやりがいです。でも、人を育てるのは本当にむずかしいですね。自分が思ったようにはならないものです。新人研修では、お盆を両手で持つことから教えています。すべて両手を使わなくてはならず、そのような基本的なことを研修で実践的に教えています。いまは栓抜きを使ったことがない若手も多く、研修ではビールの栓を抜くことから教えます。また、魔法瓶タイプの保温ポットを知らず、『電源プラグがない』と探すので、時代の変化を感じます。毎年教えることが増えますね(笑)」  入社4年目、客室部主任の山川(やまかわ)祥(さち)さん(22歳)は、菖蒲さんが一から教えた社員の一人です。山川さんは菖蒲さんについて「現場でどんなことが起きても頼りになる、なくてはならない存在です。私が後輩のことで困っていると、いろいろと相談にのってくれて、ダメなところは指摘してくれます。日々、感謝でいっぱいです」とにこやかに語ってくれました。  山川さんは、入社1年目で最優秀新人賞を受賞しました。菖蒲さんは「山川さんは素晴らしい成長が見られた時期がありました。全員一致で新人賞が決まったときは嬉しかったですね」とふり返ります。  湯元舘で働くベテラン社員は、知識と経験が豊富で、部署の中核をになっている人ばかり。針谷代表取締役財務責任者は「今後は各部署において彼らの後継者を育成するために業務内容をマニュアル化して、次の世代に引き継いでいきたい」と今後の方針を話しました。(取材・西村玲) 菊次正純 プランナー(66歳) アドバイザー・プランナー歴:3年 [菊次プランナーから] 「少子高齢化が進み、そして激変する事業環境のなかで、日々新たな挑戦に取り組み、努力をされている企業の方に、微力ながら貢献できるよう心がけています。また、プランナーとして、事業の状況をふまえ高齢者の戦力化に向けて、よりよいアドバイスができるように、自らも研鑽を積んでいきたいと思っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆滋賀支部高齢・障害者業務課の豊田課長(取材当時)は、「菊次プランナーは特定社会保険労務士、中小企業診断士の資格を持ち、豊富な知識と経験を活かした活動を行っています。専門とする分野は人事労務管理および賃金・退職金管理です。アドバイザー・プランナーとしての経験は3年ですが、1年目から当支部所属のほかのプランナーと同様に制度改善提案業務に取り組み、3年間で61件の提案、239件の相談・助言の実績のある、とても責任感が強く頼れるプランナーです」と話します。 ◆滋賀支部はJR石山駅から徒歩約10分、京阪唐橋前駅から徒歩5分の滋賀職業能力開発促進センター内にあり、商店街や住宅地にある小高い丘の上に位置しています。 ◆同支部では65歳超雇用推進プランナー4人、高年齢者雇用アドバイザー2人(2022年1月現在)が在籍し、2020年度は制度改善提案を95件、相談・助言訪問を412件行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 滋賀支部高齢・障害者業務課 住所:滋賀県大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 電話:077(537)1214 写真のキャプション 滋賀県大津市 館内にある露天風呂「湯幻逍遥(とうげんしょうよう)」 代表取締役財務責任者の針谷亮佑さん 客室部部長の菖蒲ひとみさん(右)と客室部主任の山川祥さん 【P42-45】 シニアのキャリアを理解する 事業創造大学院大学 教授 浅野浩美  健康寿命の延伸や、高年齢者雇用安定法の改正による70歳就業の努力義務化などにより、就業期間の長期化が進んでいます。そのなかで、シニアの活躍をうながしていくためにも「キャリア理論」への理解を深めることは欠かせません。本企画ではキャリア理論について学びながら、生涯現役時代におけるシニアのキャリア理論≠ノついて浅野浩美教授に解説していただきます(編集部)。 第5回 シニア期に向けてのキャリアをどうとらえるか 1 はじめに  前回まで、主にシニア部分に焦点をあてて見てきましたが、人はいきなりシニアになるわけではありません。ミドル期を経てシニア期を迎えます。働く期間が延び、このミドルの時期は長くなってきています。  今回は、シニア期のキャリアをとらえるうえで、変化への対応という視点から、ヒントとなりそうな、いくつかの理論を紹介したいと思います。 2 サビカス〜キャリア・アダプタビリティ  第2回(本誌2022年2月号)のスーパーのところで「キャリア・アダプタビリティ」という概念を紹介しましたが、これを中核的概念の一つとし、さまざまなキャリア理論を統合して、「キャリア構築理論(Career Construction Theory)」を組み立てたのが、マーク・L・サビカスです。  キャリア構築理論は、「職業パーソナリティ(vocational personality)」、「キャリア・アダプタビリティ(career adaptability)」、「ライフテーマ(life theme)」という三つの主要概念から成り立っています。  一つ目の「職業パーソナリティ」は、どんな職業が自分に合っているのか(What)に関係する概念です。  二つ目の「キャリア・アダプタビリティ」は、自分のなかで起こることだけでなく、外で起こるさまざまなできごとにも目を向けたもので、どのようにして絶えず変化する社会環境に適応していくのか(How)にかかわる概念です。サビカスは、キャリア・アダプタビリティに対して、段階的に、関心(concern)、統制(control)、好奇心(curiosity)、自信(confidence)という四つの次元があるとしています(図表1)。自分のキャリアに関心を持ち、コントロールすることができ、探求する好奇心を持ち、自信を持つということです。  四つの次元は、それぞれ、それに関連する「態度と信念」(Attitudes and Beliefs)、「能力」(Competencies)で構成されます。サビカスはこれらの頭文字を取ってキャリア構築のABCと呼び、このABCが、個人が発達課題や転機(トランジション)に対処する際に役に立つとしています。  三つ目の「ライフテーマ」は、個人にとって「重要なこと」であり、なぜその職業を選んだのか、なぜ働くのか(Why)にかかわる概念です。  サビカスは、人は「キャリアストーリー」(発達課題や職業上の転機〈トランジション〉が語られたもの)を語ることを通じて、その人にとっての働く意味を再構成するとしました。キャリアストーリーで語られることは、個人的な考えを含んだ物語的真実(narrative truth)ですが、これがあることによって、個人は変化に柔軟に適応しながら、未来に向けて、一貫性、連続性を持ったキャリアの物語を構築していくことができるとしました。  サビカスの理論は、特にシニアを念頭に置いたものではありませんが、変化に対応するなかで、人生の目的・意味をどうとらえるかを重視するものです。シニアになる前から続くキャリアについて一連のストーリーとして解釈することは、シニア期のキャリアをとらえるうえで大いに役に立つものではないかと思います。 3 ハンセン〜多元性と包含性  「統合的ライフ・プランニング(ILP:Integrative Life Planning)」を提唱したサニー・S・ハンセンについても、紹介したいと思います。統合的ライフ・プランニングとは、人生やキャリア設計にあたって、仕事に関することだけでなく、より全体的なアプローチをすべきであるという考えです。その背景には多くの領域で早いスピードで変化が生じ、これに社会が追いついていないということがあります。  この理論では、@ Labor(労働)、A Learning(学習)、B Leisure(余暇)、C Love(愛)を人生の四つの要素(「人生の四つのL」)であるとし、この四つが統合されること、すなわち、「働き、学び、余暇を楽しみ、愛することを大事にする」ことによって、人は意味のある人生を送ることができるとしています。  彼女は、人生における六つの重要課題として、以下のことをあげています。 @グローバルな視点でキャリア選択を行う A多様な役割を組み合わせ、意味のある人生とする B家族と仕事のつながりを意識し、男女の役割を見直す C多様性を活かす D仕事に精神的な意味を見出す E個人の転機(transition)と組織の変革にうまく対処する  ハンセンの理論は、男性中心、仕事中心的発想で、精神性について考えなかった従来のキャリア理論からみると新鮮なものでした。女性や民族、LGBTQだけでなく、シニアにも目を向けており、Cの多様性には、高齢労働者も含まれています。  彼女は、著書※1のなかで、多様性に関して、「現在、特に差別をされているのが高齢労働者である」と書いています。米国には、年齢差別禁止法があっても、不当に解雇されて裁判に訴え、勝訴した話や、再訓練する価値のない人間とみなされ、機会を与えられない、などといった例があること、その一方で、高齢労働者が有益であることを認識している会社が出てきたこと、などが記載されています。  米国には年齢差別禁止法はあるものの、解雇規制が緩やかです。それに対して、日本には定年制があるものの、事実上定年年齢やさらにそのうえの65歳までの雇用が確保されています。法制度は異なりますが、共通する問題があることについては、考えさせられるところです。 4 イバラ〜暫定自己(可能な自己を探る)  サビカス、ハンセンでもみたように、世の中の変化が激しくなるなかで、それにどう適応していくのかは、年齢を問わず、キャリアについて考えるうえで大きな課題となっています。働く期間が延びたことから、これにも対応していくことが必要となりました。  このような状況下では、これまでよりも長い視点でキャリアについて考え、常にキャリアを変化させ続けることが求められそうです。また、ときにはキャリアを大きく変化させるようなことが必要になってくることもあるでしょう。  こうした視点でキャリアの問題について探究している研究者のひとりに、組織行動学者のハーミニア・イバラがいます。  彼女は、その著書※2で、「なりたい自分」に向けて、「可能な自己を探り、それを試し、大きな変化のための土台をつくる、そのうえで、また、可能な自己を探る、というサイクルを回し続けることが必要だ」といっています(図表2)。  「可能な自己を探る」というのは、どうなりたいか自分に問いかけたり、可能性のあることをリストアップしたりするようなことです。彼女は、別の論文※3で「暫定自己(Provisional Selves)」という言葉を使っています。「可能性のある自己のなかから、仮の暫定自己を選び出し、それを試しながら、大きな変化のための土台をしっかりつくっていく、これをくり返すことによって、新たなアイデンティティを獲得することができる」というのです。彼女は、「アイデンティティは不変のものでなく、多くの可能な自己からなるものだ」、「キャリアを変えることは、アイデンティティを変えることだが、別のものに取り替えてしまうものではなく、再構築するものだ」ともいっています。また、再構築にあたっては、「小さな規模で試し、新しいネットワークをつくって仲間を見つけ、自分のストーリーをつくり直すのがよい」としています。さらに、問いかけ続けること、取り組み続けることの重要性についても指摘しています。  キャリアについて考える際は、「これまで」をふり返ったうえで、自分が積み重ねてきたものをどう意味づけするかを考えることが多いように思われますが、「可能な自己を探る」というのは、「これから」を考えることといえます。また、続けることの重要性は、より長い期間、キャリアについて考えることともつながります。  先にあげたイバラの書籍では、主にミドルのキャリア・チェンジが扱われており、特にシニアのキャリアについて検討しているというわけではありません。しかし、世の中の変化が激しくなるなかで、今後、これまでよりもずっと長い期間、ミドル期以降も「これから」を考え続けていくことを考えると、大いに考えさせられるものがあります。 5 クランボルツ〜計画された偶発性  誌面の関係もあり、ここではあまり多くの理論を取り上げることはできませんが、ジョン・D・クランボルツにも触れておきたいと思います。  クランボルツは、1999年に、「計画された偶発性(プランドハプンスタンス理論〈Planned Happenstance Theory〉)※4」を提唱しました。「予期せぬ出来事がキャリアの機会に結びつく」という理論です。彼は、予期せぬ出来事によってキャリアが決定されるが、偶発的な出来事を自らの主体性や努力によってキャリアを最大限に活用していくことを強調しています。クランボルツは、「『偶然の出来事』を『計画された偶発性』とするためには、@好奇心、A持続性、B柔軟性、C楽観性、D冒険心の五つのスキルが必要である」としています。すなわち、「好奇心を持って努力し続け、フレキシブルに考えたり行動したりし、物事を楽観的にとらえ、ときにはリスクを取って行動することが必要だ」というのです。  この背景には、変化のスピードが速まり、将来起こることが見通せなくなってきたということがあります。  ヒトは学習し、行動を変化させることができる存在です。従来の行動を変化させたり、新しい行動を獲得したりすることによって、変化し続ける環境に対応することができるという考え方は、変化の激しい現代においてキャリアの問題に直面している人々に勇気を与えるものだといえるでしょう。 ◇  ◇  ◇  ここまでいろいろ見てきましたが、連載も残すところあと1回となりました。  シニア期になってもキャリアは発達するということ、変化に対応し続けなければいけないことはわかりました。さらに、キャリアをとらえるための考え方などについても学びました。  では、これをふまえて実際にどうすればよいのでしょうか。最終回ではそれを考えたいと思います。 【引用・参考文献】 ●Hansen,L,S.(1997). Intergrative Life Planning:Critical Tasks for Career Development and Changing Life Patterns, Wiley. (サニー・S・ハンセン著、平木典子、今野能志、平和俊、横山哲夫監訳、乙須敏紀訳(2013)『キャリア開発と統合的ライフ・プランニング−不確実な今を生きる六つの重要課題』福村出版) ●Ibarra, H.(1999). Provisional selves:Experimenting with image and identity in professional adaptation. Administrative science quarterly, 44(4), 764-791. ●Ibarra, H. (2003). Working identity: Unconventional strategies for reinventing your career. Harvard Business Press. ●Krumboltz J.D. & Levin Al S.(2004). Luck is no accident:making the most of happenstance in your life and career. Impact Publishers(J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン著、花田光世、大木紀子、宮地夕紀子訳(2005)『その幸運は偶然ではないんです!:夢の仕事をつかむ心の練習問題』ダイヤモンド社) ●Savickas M. L. (2011). Career Counseling, American Psychological Association(マーク・L・サビカス著、日本キャリア開発研究センター監訳 乙須敏紀訳(2015)『サビカス キャリア・カウンセリング理論:〈自己構成〉によるライフデザインアプローチ』福村出版) ● Savickas, M. L.(2013). Career construction theory and practice. In Brown,S.D. & Lent,R.W. (Eds.), Career Developmentand Counseling:Putting Theory and Research to Work, NJ:John Wiley & Sons. 147-183. ※1 Hansen, L, S.(1997) ※2 Ibarra, H.(2003) ※3 Ibarra, H.(1999) ※4 商標登録の関係で、クランボルツは、「Planned happenstance」ではなく、「Luck is no accident theory」と呼んでいた 図表1 キャリア・アダプタビリティ アダプタビリティ次元 態度と信念 能力 対処行動 キャリア問題 関心 計画的 計画能力 認識、関与、準備 無関心 統制 決断的 意思決定能力 主張、秩序、意思 不決断 好奇心 探求的 探索能力 試行、リスクテーキング、調査 非現実性 自信 効力感 問題解決能力 持続、努力、勤勉 抑制 出典:Savickas, M. L.(2013). Career construction theory and practice. In Brown,S.D. & Lent,R.W.(Eds.),Career Development and Counseling: Putting Theory and Research to Work, NJ:John Wiley & Sons. p.158. 図表2 アイデンティティの変遷 アイデンティティの実践 可能な自己を探る どうなりたいか自分に問いかける、可能性をリストアップする など アイデンティティの過渡期 可能性のあるアイデンティティをためす など 大きな変化のための土台づくり 成果:なりたい自分になる 出典:Ibarra, H.(2003). Working Identity.Garvard Business Review Press. Kindle版〔Kindleの位置 No.2428〕 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第48回 定年後再雇用者の労働条件変更と自由な意思、メンタルヘルス不調者と配置転換 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 1年ごとに契約を更新している再雇用者の労働条件を変更する際の留意点について知りたい  定年後再雇用している労働者の労働条件について、更新の際に変更することを提案しました。該当者からは、労働条件の変更に応じた者もいましたが、一部の労働者が納得しなかったことから、再雇用の合意に至らなかったものとして、契約を終了することになりました。何か問題があるでしょうか。 A  条件変更にあたって、具体的な説明などを行っていない場合には、違法な雇止めになる可能性がありますので、説明などはていねいに行っておくべきです。説明の前提として、変更後の労働条件は早期に明示したうえで、説明に臨むことが適切でしょう。 1 定年後の再雇用について  定年後の再雇用制度については、高年齢者雇用安定法に基づき65歳までの継続雇用などが求められています。  ところで、再雇用を開始するときには、使用者からの労働条件の変更がまったく許容されていないわけではなく、合理的な裁量の範囲内で、定年前までの労働条件から変更した内容で提示することは可能と考えられています。ただし、職務の内容や範囲などが定年前と同一になっている場合には、同一労働同一賃金の問題が生じることがあることには注意が必要です。  今回、取り上げたいテーマは、再雇用の開始時点ではなく、「再雇用後に更新するときの労働条件の変更について」です。再雇用後の更新時にも、労働条件の変更を行うことは不可能ではありませんが、多くの企業においては、定年から再雇用への切り替えの際に条件を引き下げていることが多く、さらなる条件変更が許容されるのか問題となります。 2 裁判例の紹介  定年後の労働条件変更が争点になった裁判例を紹介します(東京地裁令和3年7月29日判決)。  事案の概要は、以下の通りです。課長を務めていた労働者が60歳で定年退職となりましたが、使用者では65歳までの継続雇用制度が用意されていました。当該労働者は、役職および賃金額の変更がない状態で、定年退職後の再雇用として1年間の有期雇用契約を締結した後、さらに1年間更新されました。しかしながら、更新後の契約期間中に、当該労働者の部署が廃止され、その影響で役職も解かれることとなり、部下を管理指導する業務や稟議書の決裁などの業務はなくなりました。  部署が廃止され、役職を解かれた影響をふまえて、3回目の更新に向けて使用者と当該労働者の間では協議が重ねられましたが、使用者からは、賃金を35%程度減額した内容で提示され、次回更新における判断基準なども詳細に定められた内容で締結予定の雇用契約書が提示されました。  当該労働者からは、賃金の減額理由や更新基準に関する具体的な考え方などの説明を求めるメールが送られたうえで、使用者との面談のなかでも不服が示されましたが、使用者との面談は計2回各30分程度におよび、役職が解かれていることにともない一般職と同程度の賃金水準となっていることなどを明確に説明し、面談後、労働者からは変更後の条件の雇用契約書に署名押印したうえで、提出されました。  なお、当該労働者は、次回の更新時に提示された雇用契約書を減額前の賃金額に訂正して提出し、使用者から訂正前の内容で再提出するよううながされていました。  裁判所としては、高年齢者雇用安定法における継続雇用制度の趣旨について、労働者との合意により労働条件を変更することを許容していないと解することはできないとしたうえで、65歳まで同一条件で雇用を継続することまで義務づけていると解することはできない、と判断し、労働条件の変更を許容しました。したがって、再雇用するタイミングのみではなく、再雇用後の更新時点においても、労働条件を維持しなければならないというわけではないと考えることができるでしょう。  さらに、当該労働者からは、賃金という重要な労働条件の不利益な変更であるとして、その変更は自由な意思によらなければ、定年後の再雇用において労働条件を変更することはできないと主張されていましたが、裁判所は、仮に、自由な意思によるものか問題になるとしても、労働条件の変更に至る面談などの経緯をふまえて、自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると評価しています。  結論としては、労働条件の変更が有効と判断されていますが、その説明の過程については、参考になる点が多いと思われます。裁判例が重視した事情として、@労働条件の変更について、面談前や面談を通じて更新後の条件を明記した雇用契約書を示すなど明確にされていたこと、A@で示された労働条件を検討する時間が十分に確保されていたこと、B労働条件変更にあたっては、複数名の上長から2回の面談がそれぞれ30分程度行われ、賃金減額の理由などが説明されていたこと、などがあげられます。  本裁判例は、役職を解くこととあわせて行われる賃金の減額については比較的許容されやすいということ、労働条件を変更する場合には早期に提示しておき検討の時間を十分に確保することや口頭での説明や質疑応答の機会を確保することが重要であることを示していると考えられます。  なお、賃金などの重要な労働条件の変更にあたって、労働者の自由な意思によらなければ、たとえ書面により承諾の意思を示していたとしても、有効ではないという主張をされることが増えているように思われます。一般論として、労働条件変更にあたって、労働者の自由な意思によって承諾を得るよう努めることは重要と考えられます。ただし、法的な意味で自由な意思がなければ変更ができないとされる状況とは、基本的には、存続中の労働契約を有効期間の途中で条件変更する場合にあてはまるものであり、契約の更新時などに要求される水準(合理的な裁量の範囲の提示であれば許容される)とは若干異なるものと思われます。 Q2 メンタルヘルス不調者の職場復帰にあたり、配置転換を考えていますが、注意すべきことがあれば知りたい  メンタルヘルス不調をきたして、休職中の従業員がいます。復職のめどが立ってきたのですが、長期間の休職であったことから、休職前の職種には人員を補充ずみであり、元の職種に戻すことができません。また、医師の診断書によっても、当初は短時間勤務が望ましいとされるなど、一定の制限が必要になることからも元の職種に戻すことがむずかしくなっています。配置転換を行ったうえで、雇用を継続しようと思っているのですが、問題があるでしょうか。 A  復職時の主治医の意見をふまえることが重要であり、配置転換の必要性も高度に求められるため、慎重に検討する必要があります。また、十分な判断材料を得ることなく配置転換を命じると、安全配慮義務違反を問われて、損害賠償責任を負担することもあります。 1 配置転換に関する判断基準  使用者において、複数の事業場が存在したり、部署が複数存在する場合は、転勤や配置転換を命じる根拠として労働契約または就業規則があれば、労働者との労働契約において職種や職場の限定がなされていないかぎり、使用者は労働者に対して、配転命令を行うことができると考えられています。  しかしながら、使用者による配転命令について、最高裁判例により一定の制限がなされており、@業務上の必要性が存しない場合またはA業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるときもしくはB労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどには、当該転勤命令は権利の濫用にあたる(最高裁判所昭和61年7月14日判決、東亜ペイント事件)と考えられています。  今回の質問からすれば、復職後の雇用を維持するためには、配置転換が必要であると考えられ、配転命令が退職意思をうながすためなどの隠れた動機・目的がないとすれば、労働者にとって、通常甘受すべき不利益といえるかどうかが問題となると考えられます。  この点については、かつては、使用者の裁量の余地は大きく、通常甘受すべき不利益を著しく超えると認められることは限定的でしたが、労働契約法第3条3項において、「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めるなど、ワーク・ライフ・バランスの維持を意図した条文が定められており、労働者の地位を保護するために引用されることも増えているように思われます。 2 休職からの復職時の配転命令の留意点  配置転換が有効に行えるとしても、安全配慮義務の観点からその行使を控えるべき場合もあります。厚生労働省が、精神障害に関する労災認定の基準として公表している「心理的負荷による精神障害の認定基準について」では、配置転換が心理的負荷の要因となることが示されており、その心理的負荷の程度は「中」程度とされています。これは、単独では精神障害を発症させることにつながるほどではありませんが、複数の要因が重なったときには精神障害との関連性が肯定されることがあるというものです。また、「過去に経験した業務と全く異なる質の業務に従事することとなったため、配置転換後の業務に対応するのに多大な労力を費やした場合」は、「強」程度とされているため、このような場合には、単独で精神障害の発症との関連性が肯定されることもあり得ます。  さらに、同認定基準においては、「ストレス―脆弱性理論」という考え方が前提とされています。これは、環境などが与えるストレス要因と個体側の反応性、脆弱性の関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方です。着目しておく必要があるのは、個体側の要因を考慮するという点であり、個体側が脆弱(弱っている)状況にあるときは、精神的破綻が生じやすいということに留意して判断する必要があります。 3 裁判例の紹介  東京地裁平成27年7月15日判決は、精神疾患を発症して休職した労働者に対する復職直後の配置転換命令の有効性等が争点となった事案です。  配置転換命令の有効性については、東亜ペイント事件の基準を引用しつつも、「転勤は、職務内容・職場環境・通勤手段等に関する大きな環境変化を当然に伴うものであり、精神疾患を有する者にはこれらの環境変化がその病状の増悪を誘因するおそれがある」として、慎重な判断が必要であることを示しました。このことは、近年の法改正におけるワーク・ライフ・バランスを重視する傾向をふまえたうえで、ストレス―脆弱性理論とも整合性がある判断であると考えられます。  さらに同裁判例では、「精神疾患を有する者に対する転勤命令は、主治医等の専門医の意見を踏まえた上で、当該精神疾患を増悪させるおそれが低いといえる場合のほか、増悪させないために現部署から異動させるべき必要があるとか、環境変化による増悪のおそれを踏まえてもなお異動させるべき業務上の理由があるなど、健常者の異動と比較して高い必要性が求められ、また、労働者が受ける不利益の程度を評価するにあたっても上記のおそれや意見等を踏まえて一層慎重な配慮を要するものと解すべき」といった、具体的な判断方法を示しています。  ここで触れられている内容のうち、精神疾患を有する者に対しては、「高度の」必要性が必要となること、通常甘受すべき不利益か否かについても慎重な配慮を要するという点が特徴的といえます。  具体的な判断においては、@主治医の意見を会社が聴取しておらず症状との関係で転勤を要すべき状況にあったと認められないこと、A余剰人員となるような配置転換を行う必要性に疑問があること、B通勤時間が倍以上になること、などをふまえて配置転換命令を無効と判断しました。  特に、@主治医の意見を聴取することなく配置転換命令を行った点については、安全配慮義務に違反したものと評価されており、使用者には、当該労働者に対する損害賠償責任として慰謝料30万円の支払も命じられるに至っています。  休職から復職してきた労働者に対して、配置転換を検討するにあたっては、配置転換することが当該労働者にとってむしろ望ましいといえる状況であるか検討するべきであり、主治医の意見として配置転換が必要とされているか確認するほか、本人に生じる心理的負荷の軽重を判断するために、本人が配置転換を希望しているのかヒアリングすることが重要といえるでしょう。  また、この裁判例では、主治医からの診断書に対して、ほかの医師からの意見を得ることなく使用者は判断していました。主治医の意見と使用者の意見が相違している場合には、使用者の具体的な就業環境を把握していないことが原因であることも多いです。そこで、復職希望者に、産業医や使用者が指定する医師との面談をしてもらったうえで、使用者の就業場所や環境などをふまえた復職に関する医師の意見を提示してもらう方法も検討されるべきでしょう。主治医と産業医の意見が分かれることもありますが、使用者が医師の意見を尊重することなく判断する方がリスクは高いと考えるべきです。 【P50-51】 病気とともに働く 第二回 生活協同組合コープみらい 10年以上も前から復職支援制度を運用 病気の予防にも力を入れ、要支援者ゼロを目ざす  加齢により疾病リスクが高まる一方、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病が「長くつき合う病気」に変化しつつあり、治療をしながら働ける環境の整備も進んでいます。本連載では、治療と仕事の両立を支える企業の両立支援の取組みと支援を受けた本人の経験談を紹介します。  埼玉県さいたま市に本部がある生活協同組合コープみらいは、旧ちばコープ、旧さいたまコープ、旧コープとうきょうの3生協が組織合同して誕生した日本最大級の生協である。  正規従業員数が3285人、パート・アルバイト職員は1万528人(2021〈令和3〉年3月20日現在)にのぼるという同生協では、2013(平成25)年の組織合同を機に、それまで各生協で独自に実施していた治療と仕事の両立支援策を統一し、新たな「復職支援制度」を策定。2021年度は制度対象者65人、復職支援終了者49人(退職者3人)という運用実績を残している。  そこで、この制度の中心的役割を果たしている人事部の中村(なかむら)仁(ひとし)部長、総務部労働安全衛生課担当主任の深井(ふかい)好子(よしこ)看護師、人事課の佐野(さの)行生(ゆきお)課長、企画担当の馬場(ばば)勝規(かつのり)さん、そして実際に両立支援を受けて職場復帰を果たした古矢(ふるや)博文(ひろぶみ)さんの5人に、それぞれの立場から同生協の取組みについてお話をうかがった。 自身に病気をよく知ってもらい支援体制を整える  同生協における復職支援体制は現在、人事教育担当4人、健康管理センター看護師4人、産業医として内科医3人、外科医1人、精神科医3人という人員で、それぞれが療養期から仮復職就労期まで五つのステップに分けられた期間のなかで連携し、役割を果たしている(図表)。  「制度を適用するにあたり何よりも優先するのは本人の復職に対する意思、意欲です。もちろん主治医の許可も必要となりますが、まずは本人が自分の仕事と病気にどう向き合っていくかをしっかりと聞き出したうえで、復帰支援のロードマップを策定していくという姿勢は運用開始当初からずっと変わっていません」と中村部長は強調する。  この制度における自身の役割について深井看護師は「支援対象者と医師、会社という3者を橋渡しすること」だと考えている。診断書に書かれた病名を一つとっても、支援対象者にも人事担当にもわからないことが多い。そのため、診断書の内容をわかりやすく説明し、その病気がどういうものなのかを理解できるように話す。ときには主治医にどう質問すればよいのかまでをアドバイスし、当事者間の相互理解が進むように専門職として役割を発揮してきた。  また、対象者本人が自身の病気についてよりよく知ることの重要性も訴える。「いまの時代、働き方や生き方が多様化しているので、離職後も含めて、ご自身の人生についてしっかりと考えていただき、それを理解したうえで対応する必要があります。支援制度は『会社が用意してくれるもの』ではなく、いちばん大切なのは『自分の病気について自分で語れること』なのです」と深井看護師。例えば、「私はこういう病名です。こういう治療を受けています。できること、できないことはこれです」と自分で説明できるぐらいに理解してもらう。そのうえで、できる仕事を照合していけば、より納得できる支援策を講じることができるからだ。 ステップをふみながら進める復職支援制度 復職判定会議で状態を慎重に見極める  実際に復職への面談を担当している佐野課長は、「この復職支援制度は休職期間を利用して、段階的にステップアップすることに特色があります」と語る。例えば1週目は半日から、少しずつ就労時間を増やしていって、5日間フルで働ける体力が回復したことを確認しながら地道に復職していくのだ。対象者からは担当した佐野課長に対して「安心した」、「こういう制度があってよかった」という声が届くという。  一方、自身もこの制度の対象者として復職支援を担当している馬場さんは「対象者の代弁者となることで役に立ちたい」と話す。面談の際には経験者の立場から「こういう状況でこういう治療をしているから、こういう配慮が必要ですよ」と具体的に説明することで安心感を与えていきたいと考えている。  2020年9月に直腸がんが発見された古矢さん(58歳)も支援対象者の一人だ。手術・入院と自宅療養ののち、2カ月間の復職支援を経て、翌年8月に職場復帰を果たした。両立支援担当者からの「徐々に慣らしていったほうがよい」とのアドバイスに従い、少しずつ段階をふんで、自分の体調と相談しながら職場復帰した古矢さんは、「時間はかかりましたが、身体的にはすごく楽に復帰できました。今後も大好きな現場でずっと仕事を続けていきたいです」と意気込みを語る。  職場復帰への見極めは1カ月に1度の復職判定会議で、主治医からの情報提供依頼書を元に進捗状況などを確認し、ステップアップするかどうかを審議していく。その責任者である中村部長は、「ときには重い判断をしなければならないこともありますが、支援終了者がたくさん増えると嬉しいですね」とやりがいを語る。  同生協の両立支援に関する今後の取組みについて深井看護師は、「支援以前に『とにかく病気にさせない』ことが重要だととらえ、健康診断の事後措置を徹底的に行っています。もちろん、支援制度によって復職につなげることができれば『大病を患っても職場に戻れるんだ』という希望にもなるのですが、それ以前に『病気にならない』というところにエネルギーをかけていく方が重要だと考えます」と語る。  中村部長も「たしかに、本当に嬉しいのはたまに訪れる『対象者ゼロ』という期間です。これは担当全員の実感ですので、制度適用者がゼロであり続けることが、この制度の究極の到達点ではないかと思います」と、さらに大きな目標を目ざしている。 図表 生活協同組合コープみらいの復帰支援ロードマップ 復職支援T 〔休職期間〕 第1ステップ 療養期 第2ステップ リハビリ期 第3ステップ 復職準備期 (リハビリ訓練) 第4ステップ 職場復帰の決定 復職支援U 〔仮復職就労〕 復職 第5ステップ 職場復帰 審議・判定・承認 審議・判定・承認 審議・判定・承認 審議・判定・承認 2年間 復職後1年以内の同一系統疾病・3回目以降の複数回休職は通算管理 3〜4カ月(基本) 1年(基本) (延長1年可) 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第24回 「福利厚生」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は福利厚生について取り上げます。基本中の基本用語ですが、あらためて概要や背景、実施状況などをみていきたいと思います。 福利厚生は大きく二つに分類される  福利厚生を一言でまとめたもので筆者がもっともわかりやすいと思ったのが、「企業が、労働力の確保・定着、勤労意欲・能率の向上などの効果を期待して、従業員とその家族に対して提供する各種の施策・制度」という説明です(出典『デジタル大辞泉』小学館)。福利厚生は、企業が費用を負担することを法律で義務づけられている法定福利厚生と、企業が任意で実施する法定外福利厚生に分かれます。  まずは法定福利厚生ですが、こちらは項目が決まっています。 @健康保険…傷病の治療などに対して、従業員の費用負担を軽減するための制度。 A厚生年金保険…日本国内に住んでいる満20歳以上60歳未満全員が加入する国民年金に上乗せして支給される年金。 B介護保険…高齢者の介護を社会全体で支え合うための保険。 C雇用保険…失業した際の生活を支え、再就職などに向けた支援をするための保険。 D労災保険…労働者の業務上または通勤による傷病などに対して必要な給付を行う制度。 E子ども・子育て拠出金…国や自治体が実施する子育て支援のための拠出金。  @ABは企業と従業員で折半、Cは企業と従業員で一定割合を負担、DEは企業が全額負担となっています。  次に法定外福利厚生です。こちらは企業の任意なので実施有無や内容は企業ごとに異なりますが、いくつかに区分されます。2020(令和2)年12月に一般社団法人日本経済団体連合会(以下、「経団連」)が公表した『福利厚生費調査結果報告』が従業員一人一カ月あたりの福利厚生費用平均の内訳を記載していて状況を把握しやすいため、紹介したいと思います(※カッコ内は全産業の平均。代表的なものを金額の高い順に列記)。 ・住宅関連…社宅や持ち家援助(1万1639円) ・ライフサポート…給食、財産形成、ファミリーサポート等(5505円) ・医療・健康…医療・保健施設運営、ヘルスケアサポート(3187円) ・文化・体育・レクリエーション…施設・運営、活動への補助(2069円) ・慶弔関係…慶弔金、法定超の付加給付(514円)  なお、従業員への法定外福利厚生の提供方法ですが、企業がパッケージで施策やサービスを提供する方法と、外部業者などと連携して、従業員にさまざまなメニューを提供し、従業員は一定の補助金のなかで自由に選択できるカフェテリアプランという方法に分かれます。 福利厚生の実施状況とその背景  経団連の報告書で気になるグラフがあるので紹介します(図表)。福利厚生費の推移を示したものですが、法定福利費が右肩上がりとなっています。これは急速な少子高齢化により一人あたりの健康保険や厚生年金保険などの負担が上がっていることによるものです。余談ですが、ここ何年も日本の給与額が上がっても手取りが増えないといわれています。この法定福利費の増大がその大きな要因となっています。  法定外福利費は抑制傾向であることがグラフからみて取れます。2019年度での福利厚生費に占める法定外福利費の比率は22.2%に過ぎません。報告書には先の福利厚生項目別の経年推移が載っていますが、住宅やライフサポート関連はおおよそ減少傾向にあります。一方で着目したいのが医療・健康の項目については増加傾向にある点です。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2017(平成29)年に行った『企業における福利厚生施策の実態に関する調査』でも、今後充実させたい施策については、メンタルヘルス相談や治療と仕事の両立支援、人間ドック受診の補助が上位にあげられています。本連載の健康経営の回(2021年6月号)でも触れましたが、従業員の高齢化や人手不足が進むなかで、従業員の健康の維持・向上が会社の生産性や業績に好影響を与えると企業側が判断していることがみて取れます。  この点については、高度経済成長期やいわゆるバブル経済期などを通し全国から人材を集めるにあたり、特に低賃金の若年層の給与補填的な施策や生活施設の提供などを通して、人材獲得における競争力や社員の定着力の向上のために法定外福利厚生を充実させてきました。しかしながら、1990年代後半以降の経済の悪化にともなう人員過剰感を理由に法定外福利厚生は削減の方向で見直されることとなります。  このように法定外福利厚生は経済状況や人手不足・過剰感に密接に連動しています。コンサルティングの現場で筆者が感じることとしては、近年は属人的になりがちな法定外福利厚生を削減し、仕事や成果による給与や賞与を底上げしていくケースと、法定外福利厚生を充実させ社員のモチベーション向上、採用競争力の強化をすすめるケースに分かれつつあることです。特に従来は中小企業は法定外福利厚生に力を入れていない傾向がありましたが、今後の中小企業の人手不足解消の解決策の一つになることは想像に難くありません。  次回は「ダイバーシティ」について取り上げます。 図表 福利厚生費の推移 法定福利費の対現金給与総額比率(右軸) 法定外福利費の対現金給与総額比率(右軸) 法定福利費 法定外福利費 2019年度 法定 84,392円 法定外 24,125円 出典:『福利厚生費調査結果報告』2020年12月18日・一般社団法人日本経済団体連合会 【P54-55】 生産性向上人材育成支援センターでは70歳までの就業機会の確保に向けた従業員教育を支援しています!  全国46道府県の職業能力開発促進センターおよび東京支部内の生産性向上人材育成支援センターでは、生産性向上支援訓練を実施しています。  生産性向上支援訓練とは、IoT・クラウド活用、組織マネジメント、マーケティング、データ活用など、あらゆる産業分野の生産性向上に効果的なカリキュラムにより、中小企業が生産性を向上させるために必要な知識・スキルを習得するための訓練です。中小企業が抱える課題やご要望に応じてカリキュラムをカスタマイズし、専門的知見を有する民間機関等に委託して訓練を実施します。  人手不足の深刻化や技術革新が進展するなかで、中小企業等が事業展開を図るためには、従業員を育成し、企業の労働生産性を高めていくことに加えて、企業を支えるミドルシニア世代の「役割の変化へ対応できる能力」や「技能・ノウハウを継承する能力」を育成していくことが重要となります。  生産性向上人材育成支援センターでは、2020(令和2)年度から生産性向上支援訓練の新たなメニューとして、70歳までの就業機会の確保に資する「ミドルシニアコース」を開始し、中高年齢層の従業員の生涯キャリア形成を支援しています。 ミドルシニアコースの概要 受講対象者:45歳以上の従業員の方(所属する企業から受講指示を受けた方にかぎります) 受講料:3,300円〜6,600円(1人あたり・税込) 訓練実施形式:集合形式またはオンライン(同時双方向通信)形式 訓練会場:受講対象者の所属する企業の会議室等を訓練会場とすることが可能です(講師を派遣します) 訓練日数:1〜5日程度(6〜30時間) 「役割の変化への対応」に対応したコース ・中堅・ベテラン従業員のためのキャリア形成 ・後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割 ・チーム力の強化と中堅・ベテラン従業員の役割 ・フォロワーシップによる組織力の向上 など 全8コース 「技能・ノウハウ継承」に対応したコース ・経験に基づく営業活動の見える化と継承 ・作業手順の作成によるノウハウの継承 ・効果的なOJT を実施するための指導法 ・ノウハウの継承のための研修講師の育成 など 全9コース 訓練受講までの流れ 課題や方策の整理 センター担当者が企業を訪問し、人材育成に関する課題や方策を整理します 訓練コースのコーディネート 相談内容を踏まえて、課題やニーズに応じた訓練コースを提案します 訓練受講 所定の期日までに受講料の支払い等の手続を行い、訓練を受講してください ※相談内容によっては、少人数からでも受講できるオープンコースのご利用を提案する場合があります ミドルシニアコース利用者の声 永川建設株式会社 様 「一人ひとりが自覚を持って、若手を育てるという立場を改めて理解してくれたことで、業務のなかでさまざまな変化がみられており、効果が出ていると感じています」 利用コース情報 訓練コース名:「後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割」 訓練期間:2020年12月(1日・6時間) 受講者数:6名 プロフィール 所在地:長崎県西彼杵郡 従業員数:55名 事業内容:総合建設業※記載の組織情報等は令和2年度時点のものです 訓練を利用した事業主の方の声 〜代表取締役 永川様〜 Q訓練を利用したきっかけについて、教えてください。  業務上多くの資格を取得する必要があるため、その取得のために知識を身につけることはあっても、そのほかの教育を受ける機会は少ないと感じていました。特に、後輩指導については、昔は「職人は技術を先輩から盗んで覚えるもの」といわれていましたが、現在ではその方法は通用せず、基本的なことから指導して身につけさせる必要があると感じていたことから、いまの時代に合った指導法について学ぶことができる機会を探していました。  また、ここ最近はハラスメントの防止、ということが業界内で重要視されており、そのためにはコミュニケーションが重要と考えていました。昔は現場への行き帰りや休憩時間など、仕事の話、日常の話をする機会が多かったものの、いまの若手社員とはそういった機会が減っており、会話をしないことでストレスをため込んでしまうことが心配でした。コミュニケーションを取ることは仕事の効果的な進め方や安全性にもつながるため、そういった部分も含めてコミュニケーションの重要性についても教育を行う必要があると考えていました。 Q訓練を利用した感想と、今後の抱負をお聞かせください。  今回の訓練を受講し、受講者一人ひとりがさまざまなことに気がつき、後輩指導についての認識・意識が変わったことが一番よかったと考えています。一人ひとりが自覚をもって、若手を育てるという立場を改めて理解してくれたことで、業務のなかでさまざまな変化がみられており、効果が出ていると感じています。ただ、同じ状況では甘い考えがでてきてしまい、ミスにつながったりすること、人は一度学んだだけでは忘れてしまうことから、継続的に訓練を利用したいと考えています。また、今回は中堅層以上を対象とした訓練でしたが、若手社員の育成にも力を入れたいと考えているので、今後もさまざまな訓練を利用したいと考えています。 訓練を受講した従業員の方の声 〜中島様〜 Q訓練を受講した感想と、今後の抱負をお聞かせください。  若手社員の育成が課題だと感じていました。訓練を受講して、いまの若手社員と自分が若手社員だったときでは考えが違うので、それを理解することが大切だと感じました。現在はそのようなことを意識して取り組んでおり、若手社員から相談を受けることなども増えているように感じています。今後は怒る、叱るではなく、理解させること、できたときにほめるなど、コミュニケーションをとりつつ、よい環境づくりができればよいと思っています。  部下の仕事に対する熱意が伝わってこないことに悩んでいました。今回の訓練を受講して、悪いところばかり指摘するのではなく、よい部分を認めほめることの大切さを知ることができました。また、自分の感情をコントロールすることで、部下も自分も仕事がしやすい環境をつくっていけることが可能であると気がつき、日々ガミガミ怒らないよう心がけた結果、作業場でも笑顔が見られ、笑い声がでるようになり、嬉しく思っています。 〜生産性向上支援訓練は当機構ホームページよりご確認ができます〜 https://www.jeed.go.jp/js/jigyonushi/d-2.html 詳しくは各都道府県の生産性向上人材育成支援センターまでお問い合わせください 生産性訓練紹介ページへ 【P56-57】 BOOKS 高齢者の能力を活かす定年制と賃金制度のポイントを詳述 70歳就業時代の雇用・賃金改革 ―高齢者を活かす定年制とジョブ型賃金― 笹島芳雄 著/労働法令/2200円  改正高年齢者雇用安定法の施行から1年。70歳までの就業機会の確保に向けた具体策を検討している企業も少なくないだろう。本書はそうした企業に向けて刊行された。  本書全体は、第1部「高齢者活用の時代と70歳就業法」、第2部「全社員統一型65歳定年制の推進」、第3部「ジョブ型賃金の推進・活用」の3部から構成されている。第1部は、日本における少子高齢化の現状と今後の見通し、2021(令和3)年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法の概要が紹介されている。第2部は、70歳就業時代における定年制のあり方を検討し、65歳定年制への移行を推奨。そのなかでも、高齢者を分離して取り扱わない「全社員統一型65歳定年制」が望ましいとしている。第3部は、人事管理施策のなかから賃金制度を取り上げ、高齢者を含む全従業員のやる気が出る賃金制度が求められているとし、そのためには「ジョブ型賃金システム」が望ましいということが述べられている。著者は企業の人事労務管理に精通した研究者で、賃金制度に造詣が深いことで知られている。70歳就業時代の人事労務管理のあり方や賃金制度の見直しに興味がある方に、すぐに役立つ参考書となるだろう。 平易な解説で人事管理の基本的な知識が得られる最良の入門書 1からの人的資源管理 西村孝史(たかし)、島貫(しまぬき)智行、西岡由美 編著/碩学舎(せきがくしゃ)発行/中央経済グループパブリッシング発売/2640円  人事労務担当者の守備範囲とされる分野は、人材の採用・配置から異動、育成、評価、報酬管理、さらには労働時間管理や安全衛生管理まで、実に幅が広い。こうした幅広い業務にかかわる際に必要になる、基本的な知識を身につけるために苦労している担当者も少なくないだろう。  本書は、企業の人事管理に精通した、第一線で活躍している研究者15人が全15章を分担し、人的資源管理の全体像を把握するために必要な知識をコンパクトにまとめた書籍。架空の家族が登場する「ミニケース」を導入部として各章に設け、本文では基本的な知識をわかりやすく解説し、さらに、重要な用語やトピックスなどは、コラムによってフォローしている。高齢者の雇用に関しては、第10章「退職管理・雇用調整」で取り上げ、本誌にもたびたび登場していただいている、千葉経済大学准教授の藤波(ふじなみ)美帆(みほ)氏が執筆している。  大学生向けのテキストとして企画されたものなので、平易な解説が大きな特徴といえるが、各章で紹介されている「次に読んでほしい本」で、さらに理解を深めることもできる。全体像を学びたい新入社員や、新たに人事担当者となった人が手に取っても十分に役立つ好著である。 すべてのビジネスパーソンに必要なスキルが楽しく学べる サクッとわかる ビジネス教養 マネジメント 遠藤 功 監修/新星出版社/1430円  「マネジメント」と聞くと、経営者や管理職が身につける能力と考える人が多いだろう。しかし本書では、「マネジメント」=「管理」ではなく、「仕事の成果(パフォーマンス)を最大化するために、仕事に絡むあらゆるものを『いい感じにする』こと」がマネジメントであると説明。たとえば、「仕事をする環境をいい感じにする」、「人間関係をいい感じにする」、「仕事の段取りをいい感じにする」ことであり、そのためのスキルは「年齢や役職に関係なく、すべてのビジネスパーソンにとって必要不可欠」と指摘する。  さらに、「幸せな人生を送りたければ、マネジメントを学ぼう」と呼びかけ、本書はまず、マネジメントの最小単位となる「セルフマネジメント」から解説し、「重点思考」、「整理整頓」、「ルーチン」をキーワードに、自分自身の仕事や生活を最適化するためのノウハウを紹介する。そのうえで、簡単には思い通りにならない他者で構成される集団の力を最大限に発揮し、成果を最大化させる「チームマネジメント」の取組みについて、ていねいに解説している。また、デジタル時代のマネジメントも取り上げている。  イラストや図を効果的に用いており、気軽にかつ、体系的に学べる内容となっている。 信頼される声かけの手法を100のケースで徹底レクチャー トラブル回避のために知っておきたい ハラスメント言いかえ事典 山藤(ざんとう)祐子 監修、新村(にいむら)響子 協力/朝日新聞出版/1320円  2022(令和4)年4月より、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が中小企業でも義務化されたことなどを受けて、職場におけるハラスメント対策に注目が集まっている。  ハラスメントというと、セクハラやパワハラをよく耳にしてきたが、最近ではリモートハラスメント、ジェンダーハラスメント、マリッジハラスメントなど、さまざまな内容のハラスメントが生まれている。年齢に関するエイジハラスメントと呼ばれるハラスメントもあり、「世代や年齢の違いを理由にした、差別的な言動や嫌がらせのこと。世代ごとの志向の決めつけなどもさす」と本書でも取り上げて説明している。  本書は、だれもが被害者にも加害者にもなりうるハラスメントについて、どういう言葉や言い方がハラスメントになるのか、人を不快にするのか、職場や日常生活でありがちな100のケースについて、「×アウト」、「△グレーゾーン」、「◎セーフ」の言い方を紹介するとともに、トラブル回避のためのポイントをわかりやすく解説。また、ハラスメントが起きない職場にする六つのルールなども示している。  だれもが活き活きと働くことができる職場づくりの参考書にもなる、おすすめの一冊である。 働く女性が共通して直面するキャリア形成の葛藤や問題点を示す 女性自衛官 キャリア、自分らしさと任務遂行 上野友子、武石恵美子 著/光文社新書/946円  本書は、著者の一人の上野友子氏の防衛省での事務官経験を活かし、女性の幹部自衛官、なかでも子育てをしながら働く自衛官に実施したインタビューで語られた言葉を中心にした構成となっている。客観的な記述とするため、もう一人の著者であり女性のキャリアを専門とする法政大学教授の武石恵美子氏とともに執筆された。  特別な世界にいる女性たちの姿としてではなく、民間企業と同様に、男性社会という色彩が強い組織のなかで多様な課題に直面しながら対応し生活している女性たちとして取り上げているが、あえて圧倒的に男性が多い組織に注目することで、働く女性が直面するキャリア形成の問題点を鋭くあぶり出す内容となっている。  出産、子育てをしながらぶつかる壁や支援など、キャリアを形成するうえで直面する課題や葛藤をどのようにとらえてキャリアを形成してきたのか。また、組織のなかの少数者が感じる違和感、周囲からのサポートへの感謝、仕事への強い使命感なども語られている。生(なま)の言葉には説得力があり、だれもが70歳まで働くことができる世の中が目ざされているなか、これからの女性のキャリア形成を考えるうえで、企業にとっても参考になる一冊といえるだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「専門実践教育訓練」の2022年4月1日付の指定講座  厚生労働省は、教育訓練給付金の対象となる「専門実践教育訓練」の2022(令和4)年4月1日付指定講座として、新たに175講座を決定し、公表した。  指定された175講座の訓練内容の内訳をみると、業務独占資格または名称独占資格の取得を目標とする養成課程(介護福祉士、看護師、美容師、社会福祉士、保育士、歯科衛生士など)が97講座、専門学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラム(商業実務、衛生関係、工学関係など)が37講座、専門職学位課程(ビジネス・MOT、法科大学院、教職大学院など)が7講座、大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程(保健)、正規課程(保健)など)が22講座、第四次産業革命スキル習得講座(AI、データサイエンス、セキュリティなど)が12講座となっている。  なお、今回の指定により、すでに指定済みのものを合わせると、令和4年4月1日時点の給付対象講座数は2627講座になる。  専門実践教育訓練給付は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%(1年間の上限40万円)が支給される。また、訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に雇用保険の被保険者として就職した場合は、教育訓練経費の20%(1年間の上限16万円)が追加支給される。 厚生労働省 『男女雇用機会均等法、育児・介護休業法のあらまし(令和4年2月)』を更新  厚生労働省は、育児・介護休業法の改正に対応して、パンフレット『男女雇用機会均等法、育児・介護休業法のあらまし』を更新した。  同パンフレットは、「男女雇用機会均等法の概要」、「育児・介護休業法の概要」、「妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止、ハラスメントの防止」、「紛争解決の援助等」、「産前・産後休業中、育児休業・介護休業中の経済的支援」などを掲載している。  育児・介護休業法については、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)」の創設や雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化などの法改正が行われ、2022(令和4)年4月1日から次の3段階で施行される。  2022年4月1日からは、「育児休業を取得しやすい環境整備」と「妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別の周知・意向確認措置の義務化」、「有期労働者の育休取得条件緩和」が全企業に対して課せられる。  同年10月1日からは、「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)の創設」(育休とは別に、子の出生後8週間以内に男性が4週間まで休業することが可能な制度)と「育児休業の分割取得」(分割して2回取得することが可能となる)が全企業に対して課せられる。  さらに、2023年4月1日からは、従業員数1000人超の企業は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務化される。 厚生労働省 「良い睡眠で、からだもこころも健康に。」特設Webコンテンツを公開  厚生労働省はこのほど、心身の健康と睡眠をテーマとした特設Webコンテンツ「良い睡眠で、からだもこころも健康に。」を公開した。  同省では、国民が主体的に取り組める国民健康づくり運動として「健康日本21」を推進しており、あわせて「健康づくりのための睡眠指針2014」を策定するなど、よりよい睡眠を取ることの重要性を啓発している。  この特設Webコンテンツでは、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長の栗山健一氏が、睡眠にまつわるさまざまな疑問に回答する解説記事「専門家に聞きました 今日から使える睡眠トリビア」を掲載。ここでは、「午後のパフォーマンスを上げる昼寝の方法」、「睡眠中に呼吸が止まる…睡眠時無呼吸症候群」などを取り上げている。  さらに、睡眠から社員の健康づくりや働き方の課題に取り組む企業として、就業時間内に仮眠室で30分まで仮眠が取れるという「パワーナップ制度」を導入した三菱地所株式会社と、「戦略的仮眠室」で仕事の効率化と生産性向上を目ざす株式会社ネクストビートの取組み事例を紹介。制度導入の経緯や利用状況、成果などを記事にしている。  同省では、本コンテンツを通じて、よりよい睡眠を取るための工夫について知り、一人ひとりが健康づくりに役立てていくことを目ざしている。 ●特設Webコンテンツ  (「スマート・ライフ・プロジェクト」公式サイト内)https://www.smartlife.mhlw.go.jp/minna/sleep/ 厚生労働省 「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」を実施  厚生労働省は、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月までを実施期間とした「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。  同キャンペーンでは、すべての職場において熱中症予防対策を講ずるよう広く呼びかけるとともに、期間中、事業者は@初期症状の把握から緊急時の対応までの体制整備を図ること、A暑熱順化が不足している(暑熱環境下での作業に身体の体温調節や循環の機能が慣れていないこと)と考えられる者をあらかじめ把握し、きめ細やかな対応をすること、BWBGT値(暑さ指数)を把握してそれに応じた適切な対策を講じることなど、重点的な対策の徹底を図る。  同省がまとめた2021(令和3)年の職場における熱中症による死傷者数は547人、うち死亡者数は20人となっている(いずれも2022年1月14日時点の速報値)。死傷者数を業種別にみると、建設業128件、製造業85件となっており、全体の約4割が建設業と製造業で発生している。死亡災害の発生状況をみると、建設業、商業の順に多く、「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」、「倒れているところを発見された」など、管理が適切になされておらず被災者の救急搬送が遅れた事例が含まれている。また、年齢階級別に死傷年千人率(労働者1000人あたり1年間に発生する死傷者数を示すもの)をみると、最も高い65歳以上における死傷年千人率は、最も低い25〜29歳の約3倍となっている。 経済産業省 健康経営優良法人2022  経済産業省が事務局を務める、健康・医療新産業協議会健康投資ワーキンググループ(日本健康会議健康経営500社ワーキンググループと中小1万社健康宣言ワーキンググループも合同開催)では、「健康経営優良法人認定制度」を推進している。  健康経営優良法人制度は、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから評価を受けることができる環境を整備することを目的としている。  第6回となる今回の健康経営優良法人2022では、大規模法人部門に2299法人(上位法人には「ホワイト500」の冠を付加)、中小規模法人部門に1万2255法人(上位法人には「ブライト500」の冠を付加)が認定された。前年度の健康経営優良法人2021認定数(大規模法人部門は1801法人、中小規模法人部門は7934法人)に対し、両部門ともに大幅な増加がみられた。  健康経営優良法人に認定されると、従業員や求職者、関係企業などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられるとともに、「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となるなどのインセンティブがある。 ※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標 発行物 公益財団法人生命保険文化センター 『ライフプラン情報ブック』改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、『ライフプラン情報ブック―データで考える生活設計―』(B5判、カラー60頁)を改訂した。  この冊子は、結婚、出産・育児、教育、住宅取得など、人生の局面ごとに、経済的準備にかかわるデータや情報をコンパクトかつ豊富に掲載するとともに、「万一の場合」や「老後」に関する自助努力で準備すべき金額の目安を具体的に計算して活用できるなど、高齢者の生活設計を考えるうえで参考となる情報を掲載している。  今回の改訂では、新型コロナウイルス感染症が社会に与えた影響として、「生活面の変化」、「働き方の変化」、「人々の価値観の変化」がわかるデータを新規に掲載。また、「進む日本のデジタル化」をテーマに、行政のデジタル化の一つであるマイナンバーカードについて、今後実現予定のサービスなどに関する情報も掲載している。  一冊400円(税・送料込)。申込みは、左記ホームページより。  https://www.jili.or.jp/ 【P60】 次号予告 6月号 特集 ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは? リーダーズトーク 和氣美枝さん(一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事) 〈(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子…… 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は「生涯現役時代の安心・安全な職場とは?」と題しお届けしました。70歳までの就業機会確保が努力義務となったいま、企業に求められるのは、まさに生涯現役≠ナ働ける職場づくりです。そこで本企画では、@高齢従業員が安全に働くための職場環境整備、A高齢従業員自身の健康増進、B病気になった後も働き続けるための両立支援、の三つの視点から解説および企業事例を掲載しています。高齢従業員が生涯現役で安心して安全に働ける職場≠つくることは、高齢従業員だけではなく、すべての労働者が安心・安全に働ける職場だということです。本特集はもちろん、厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」、中央労働災害防止協会「エイジアクション100」などを参考にしながら、生涯現役で働ける職場づくりに努めていただければ幸いです。 ●当機構では、中高年齢層の従業員の生涯キャリア形成を支援する「生産性向上支援訓練・ミドルシニアコース」を実施しています。役割変化への対応力や、技能・ノウハウを後進に継承するためのスキルを磨くための全17コースがあります。詳しくは本誌54・55頁をご参照ください。 ●65歳以上への定年引上げなどを行った事業者に対して助成する「令和4年度65歳超雇用推進助成金」の申請がスタートしています。同事業を活用のうえ、ぜひ高齢者雇用の推進に取り組んでいただければ幸いです。 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー5月号 No.510 ●発行日−−令和4年5月1日(第44巻 第5号 通巻510号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部情報公開広報課長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-918-7 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.319 日本舞踊などの出演者に舞台に映える化粧を施す 顔師(かおし) 宮田(みやた)肇(はじめ)さん(78歳) 「かぎられた時間のなかで、顔の特徴を瞬時に判断して舞台映えする化粧を施すことが求められます。その見極めに経験の差が現れます」 50年にわたる功績が認められ「東京マイスター」に認定  日本舞踊などの舞台の出演者に化粧を施す職人を「顔師」という。「顔師として通用する人は全国に50人もいないんじゃないですかね」と話すのは、その数少ない顔師の一人、宮田肇さん。元々、歌舞伎役者が副業として日本舞踊の出演者に化粧を施してきたが、戦後に舞踊が盛んになると、役者を辞めて化粧を専門にになう人が現れたのが顔師の始まりだという。  宮田さんは、約50年にわたって日本舞踊家の公演の顔づくりや、その指導などにもたずさわってきた。その功績が認められ、2013(平成25)年に東京都荒川区の「荒川マイスター」、2020(令和2)年には東京都の「東京マイスター」に認定されている。 約20分の間に、出演者にふさわしい化粧を施す  顔師は、公演がある会場の楽屋へ赴き、出演者に次々と化粧を施していく。多い日は20〜30人に施すこともある。一人あたりの化粧時間は20分前後。かぎられた時間のなかで、「眉つぶし(眉を平らに塗りつぶす)」、「下地(顔や首など白粉(おしろい)を塗る部分にすき油を塗り込む)」、「下塗り(白粉を塗り乾かす)」、「ぼかし(おでこや頬などにピンク白粉を塗り乾かす)」、「仕上げ(眉、目張り、口紅などを入れる)」を行う。  出演者の役柄を理解し、それに合わせた化粧を施すのはもちろんのこと、舞台の照明のあたり方にも気を配る。例えば、下からの照明がない舞台では、より白っぽく描くなどの工夫が求められる。  さらに、顔の形は千差万別のため、出演者が目の前に座ったときに、どのような化粧がよいかを瞬時に判断する必要がある。その見極めに経験の差が出るという。  「駆け出しのころは、電車に乗ると、女性の顔を見る癖がついていました。この人だったらどう描いたらよいだろう、と考えるんです。じっと見過ぎて、怪しい人に思われたこともあります(笑)」  白粉も、ただ白く塗ればよいわけではない。例えば頬のこけている人であれば、ピンクに染めて頬がふっくらして見えるようにする。  「筆使いにも経験の差が出ます。例えば眉を描くとき、上手な人は一筆で一気に描きます。その方が、立役(たちやく)(男役)の場合は勢いが出ます。経験の浅い人は微調整しながら描くので、勢いがなく、時間もかかってしまいます」 後進の技術習得のために顔師の技術本を執筆  宮田さんは1970(昭和45)年、26歳のときに顔師の第一人者である新井(あらい)文男(ふみお)氏に弟子入り。以来、平日は会社員、公演の行われる土日は顔師というW二足のわらじWの生活を、2005年に会社を定年退職するまで35 年間続けてきた。弟子入りして最初の3年くらいはお茶出しが仕事。親方にお茶を出すと「俺が飲みたいときに持ってこいよ」と叱られるような厳しい世界で修行を続けてきた。  「親方は何も教えてくれず、『見て覚えろ』というスタイル。親方の仕事を見ながらメモを取ったり写真を撮ったりしていると、『お前、そんなことをやっているから覚えられないんだ』と、メモも写真も全部捨てられ、とにかく頭のなかに叩き込まされました」  出演者に顔と名前を覚えてもらい「宮田さん、お願い」といわれるようになるまでに30年ほどかかったという。  現在は2人の弟子を指導するほか、顔師の技術をまとめた本の執筆を進めている。こうした本はこれまでなかったそうだ。  「親方の時代は年間200日くらい働いていたそうですが、僕が一人前になった時は年間45日くらい。若い世代は、覚える機会がもっと少なくなっていますので、こういう本が必要だと思っています」  「出演者に喜んでもらえる顔をつくりたい」という宮田さんは、いまも努力を欠かさない。  「仕事のない日には、紙の上に眉を描く練習をしています。自分の腕に満足することはないので、一生勉強だと思っています」 ホームページ https://kaoshimiyata.web.fc2.com/ (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「荒川マイスター」である宮田さんを紹介した荒川区役所内の展示コーナー。左はマスクに多様な隈取りを施したもの。右は実際の隈取りを写し取ったもの 羽二重の下につけ、頭を汚さないようにするための帽子は親方直伝 令和2(2020)年度東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞受賞記念の楯 かつらの下につける羽二重は役柄に応じて主に3種類あり、すべて手づくり 上は立役用(侍)、左下は立役用(若侍、坊主)、右下は女形用 化粧道具。おしろい、眉、隈取りなど、用途によって複数の刷毛や筆を使い分ける 顔師が伝統的な技術を用いて施した化粧は、汗をかいても崩れにくい 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  漢字の画数を頭のなかで数えましょう。頭のなかで数えることで、脳のメモ機能が使われます。ちょっと記憶しながら、あれこれ知的作業を加える、その記憶&作業が脳を鍛える基本です。 第59回 漢字の画数 @〜Gの漢字の画数を答えましょう。 紙に書かず、頭のなかだけで画数を数えてください。 目標 10分 @ 緑  → 画 A 黄  → 画 B 紺  → 画 C 茜  → 画 D 蕉  → 画 E 筍  → 画 F 葱  → 画 G 蕨  → 画 【問題の答え】 @ → 14画 A → 11画 B → 11画 C → 9画 D → 15画 E → 12画 F → 12画 G → 15画 前頭葉は目新しいことがないと活性化しない  年齢を重ねれば、だれにでも注意力の低下は起こることですが、これは主に前頭葉の衰えによるものです。前頭葉は生まれたときから発達しており、大人になってもゆるやかに発達していくと考えられていますが、使わなければどんどん衰えていきます。  また、前頭葉は常にフル回転しているわけではなく、どちらかというと「サボり屋」の器官です。危機を察知したときや初めての刺激に対しては全力を出しますが、慣れてしまうと働かなくなります。  そのため、前頭葉を動かすには、同じトレーニングばかりを続けても効果は期待できません。初めてのことにチャレンジして、適度な緊張感を持つことがカギとなります。  今回のような国語問題や計算問題を解いたり、クイズを解いて新しい知識を得たり、ふだん読まないジャンルの本を読んだり、知らない町を歩いてみたりといった行動が前頭葉のトレーニングになります。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2022』のご案内  2021(令和3)年4 月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  そこで当機構は、これまで作成した「65歳超雇用推進事例集」からタイトルを改め、『70歳雇用推進事例集2022』を発行しました。  本事例集では70歳までの就業機会確保措置を講じた20事例を紹介しています。 □興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 □各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 □70歳までの就業機会確保措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2022』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70 歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 2022 5 令和4年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第5号通巻510号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会