【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超継続雇用促進コース  令和4年4月1日以降に65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間 ●当コースの受付期間は変更となりました  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円  (中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b) 作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d) 職域の拡大、(e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f) 賃金体系の見直し、(g) 勤務時間制度の弾力化のいずれか生産性要件(※2)の詳細については、以下をご覧ください。 厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html 障害者雇用助成金 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと 助成額 @B支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E 1人につき月額4万5千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること 助成額 支給対象費用の3/4 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること 助成額 支給対象費用の2/3(特例3/4) ※各助成金制度の要件等について、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 ※お問合せや申請は、当機構の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.85 「介護離職」という言葉をなくし介護と仕事の両立があたり前の社会へ 一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事 株式会社ワーク&ケアバランス研究所 代表取締役 和氣美枝さん わき・みえ 1971(昭和46)年生まれ。働きながら家族の介護を行ってきた経験をふまえ、2013(平成25)年に「働く介護者おひとり様介護ミーティング」を主催。2014年にワーク&ケアバランス研究所を設立(2018年に法人化)、2016年に一般社団法人介護離職防止対策促進機構を設立し、同法人代表理事に就任。  最新の調査によると、日本では年に約7万人が、介護・看護を理由に離職しています。少子化による労働力人口の減少が加速するなか、人材確保という視点はもちろん、労働者一人ひとりが活き活きと働き続けられる環境を整える働き方改革の視点からも、介護離職防止の取組みは欠かせません。今回は、介護離職ゼロを目ざし、働く介護者の支援活動を行っている和氣美枝さんに、介護離職問題についてお話をうかがいました。 介護にかかわるリテラシーを高めれば離職以外の選択肢に気づける ―日本では、年に約7万人が介護・看護を理由に離職しています※1。働き手の減少を食い止めるため、国も企業も、介護離職の防止対策が重要な課題となっています。和氣さんは、どのような思いから、介護離職防止の活動をスタートされたのですか。 和氣 私自身が働きながら家族の介護を行い、介護者支援団体に助けられた経験があります。そんな当事者だからこそ、介護をしながら働く人を支援できることがあると考え、いまの活動を始めました。  私が32歳のとき、同居する母が病気になり、働きながら母の介護をすることになったのですが、当時の私はこれが「介護」だということに気づいていませんでした。もちろん「介護」という言葉は知っていましたが、それをわが身に結びつけて考えることができていなかったのです。母の介護が始まり、私は生活の変化についていけず、38歳のときに転職しました。その後、母は入退院を、私は転職をくり返すという状態で、何度も袋小路に追い込まれる日々でした。そして私が40歳のときに、ある介護者支援団体を通して、私と同じように家族の介護をしている人たちに出会い、悩みを共有したり、情報交換を行うなかで、自分がしてきたことが「介護」だと気づいたのです。  社会保険など社会保障の制度や仕組みがどれだけ整備されていても、それを必要とする当事者に、たしかな知識や活用の意思がなければ意味がないことを痛感しました。  知識を得ることは選択肢を増やすことにつながります。一概に「介護離職が悪い」とは思いませんが、介護保険などの社会資源を利用し、辞めずに働き続ける選択肢もあるのです。不幸なのは、その選択肢に介護者が気づけないこと。離職せずに介護と両立できる選択肢があることを知らない、または、知ろうとしても専門用語などの壁にはばまれ、自分の問題解決の選択肢から遠ざけてしまう。介護についてのリテラシーを上げることが、そのような状態から脱する突破口となります。  介護者を支援する団体は全国に数多くありますが、どの団体も、ふたこと目には「資金が足りない」と嘆き、運営者が身銭を切って補っていることは少なくありません。私は2013(平成25)年に「働く介護者おひとり様介護ミーティング」という介護者の会をつくり、「あなたの経験がだれかのためになる」をモットーに、介護者による発信・共有を目的とした、介護者を支援する活動をしてきました。しかし、運営者の身銭をあてにする団体では長続きしないと思い、ビジネスとして資金を循環させることを目ざし、「ワーク&ケアバランス研究所」を立ち上げました。 ―研究所の発足が2014年ですね。 和氣 はい。翌2015年9月、当時の安倍首相が自民党総裁選で一億総活躍社会の実現に向けた「新・3本の矢」(2016年6月に閣議決定)の政策の一つに「介護離職ゼロ」を掲げたことで、私の団体が思いがけず脚光を浴びることになりました。メディアの取材が相次ぎ、(一社)日本経済団体連合会(経団連)や日本労働組合総連合会(連合)からも声がかかりました。初めはよいPRの機会だと思っていましたが、しだいにいっぱいいっぱいになり、仲間たちと相談し、法人を設立しました。それが「一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS(カブス))」です。 必要な情報を得るためには検索すべき言葉を知ること ―KABSとワーク&ケアバランス研究所では、どのような活動をされていますか。 和氣 KABSは、関係省庁や経団連、連合などさまざまな団体と議論を重ね、「介護をしながら働くことがあたり前の社会」をつくるための政策提言、情報発信・啓発を目的としたシンポジウムや人材育成を行っています。人材育成というのは、KABSが実施する所定の研修を受講し、登録した方に、「介護離職防止対策アドバイザーR」という資格を付与する事業です。企業の人事担当者やキャリアコンサルタントを中心に、受講者は現在約300人となりました。コロナ禍になってからはオンラインで実施しているので、遠方からの参加者も増えています。  ワーク&ケアバランス研究所は、2018年に法人化し、「仕事と介護の両立」を目的とした従業員向け研修や人事向け研修、個別の介護相談を行っています。2020(令和2)年からは介護者支援サービス「ケアラーズ・コンシェル」を始めました。チャットによる個別相談、動画やテキストによる情報提供、会員同士のコミュニケーションの場となる掲示板などのコンテンツをそろえています。 ―ウェブで気軽に相談できる場所があるのは、介護者にとって心強いですね。 和氣 介護保険などの制度を解説するだけではなく、介護を行う当事者ならではの目線から、制度を上手に活用する知識やツールを提供しているのが強みです。例えば、ケアマネジャーや地域包括支援センターの専門職とコミュニケーションをとる際に、伝えるべきことや聞いて確かめておいたほうがよいことなどをまとめたシートがダウンロードできるようになっています。  現代はウェブ検索でたいていのことはわかります。それでも経験の浅い介護者が壁を前に右往左往するのは、何を検索したらよいのかがわからないからです。例えば、「地域包括支援センター」や「ケアマネジャー」は、介護をしていない人には縁遠い言葉ですが、介護者にとっては重要なキーワードです。知識が不足しているために悩む時間は、できるだけ短いほうがよいのです。 ―働きながら介護をしている人からは、どんな相談が寄せられていますか。 和氣 相談内容は多様で個別的ですが、参考になりそうな事例を二つご紹介します。  一つ目は、「親がデイサービスに行きたがらない」という相談です。デイサービスに行かなければ、家族は仕事に行けず困ってしまいます。でも、嫌がる親を施設からの迎えの車に乗せるのは家族の責任でしょうか。だとしたら、何のためにプロが迎えに来ているのでしょうか。介護施設の専門職の方から「家族でなんとかしてください」などといわれると、家族は何もいえなくなってしまいます。しかし、本人を納得させてデイサービスに送り届けることや、高齢者が行きたくなるようなサービスを施設で提供することは、プロの仕事なのです。家族は専門職の方たちをもっと頼ってよいのです。  もう一つは、「介護のために会社を休みたいけれど、自分の代わりがいないからいい出せない」という悩みです。「介護=長期の休みが必要」と思われている人もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。3日くらいの連続した休みが必要になることはありますが、長期の休みは避けることが可能です。コロナ禍では、コロナに感染した社員が出社できない状態がいまでも続いています。突然のことで代替要員はいません。それでも仕事を回すために職場では知恵を出し合い対応をしています。介護で休む場合もこれと同じように、だれかが不在となっても業務が回るように、働き方や業務の改善に取り組まなければいけません。このことに気づく経営者も増えてきましたが、まだ頭の切り換えができていない経営者も少なくありません。 「もうちょっとできるかも」は危険信号制度や専門職の人を頼ってほしい ―最近はヤングケアラーの問題が取り沙汰されていますが、他方で70歳就業時代になると、企業内にシニアケアラーが増えますね。 和氣 これからはシニアを対象に、キャリアやマネー、健康といったテーマで研修が行われる機会が増えると思いますが、そのなかにぜひ「介護」を取り上げるプログラムを入れ、知識を身につけてほしいですね。  介護をしながら働く人を支援する制度は、驚くほど認知されていません。2017年に総務省が行った家族介護者への調査では、介護休業制度※2を知っている人は3割ほどにとどまっています。制度や仕組みを知らないために、助けを求める発信ができず、「がんばれば、もうちょっとできるかも」と自分を追い込んでしまうケースがあります。「もうちょっとできるかも」という言葉が頭をよぎったら、それは危険信号です。抱え込まずに外へ悩みを発信し、周囲も理解を深めて受けとめてほしいと思います。  いまでは子育てをしながら働くのはあたり前になっていますが、私が新卒で入社した1994年には、まだ「寿退社」という言葉がありました。つまり、育児と仕事の両立が定着するのに30 年かかっているのですね。その意味では、いまは「介護をしながら働くのがあたり前」という文化創造の最中だといえます。そして、「寿退社」が死語となったように、「介護離職」という言葉がなくなるよう、取組みをいっそう強めていく必要があります。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) ※1 参考資料:厚生労働省「令和2年雇用動向調査」より ※2 介護休業制度……労働者が要介護状態の家族を介護するために休業できる制度。対象家族一人につき93日まで、最大3回まで分割して取得できる 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 June No.511 特集 6 ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは? 7 総論 ビジネスの最前線で活用したいシニア人材の魅力 株式会社クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役 原 正紀 11 解説 シニア人材の活躍に不可欠な内部労働市場のアップデート―対話型ジョブ・マッチングとは何か パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児 15 事例@ 株式会社OJTソリューションズ(愛知県名古屋市) 幅広い現場を改善するべく全国を奔走 40年つちかったトヨタ式を基に現場指導をになう 19 事例A ロボセンサー技研株式会社(静岡県浜松市) 長年磨き続けたスキルを活かして起業 新たな仲間を得て社会に役立つセンサーを開発 23 事例B 東京海上日動火災保険株式会社(東京都千代田区) 定年後再雇用のシニアの活躍の場を広げる二つの社内公募制を導入 1 リーダーズトーク No.85 一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事 株式会社ワーク&ケアバランス研究所 代表取締役 和氣美枝さん 「介護離職」という言葉をなくし介護と仕事の両立があたり前の社会へ 27 日本史にみる長寿食 vol.344 ニンニクを食べて花咲けるシニア 永山久夫 28 江戸から東京へ 第115回 鎌倉殿の取替を策す 牧の方 作家 童門冬二 30 高齢者の職場探訪 北から、南から 第120回 京都府 近畿シコー株式会社 34 シニアのキャリアを理解する 【最終回】シニア期のキャリアを納得いくものとするには 浅野浩美 38 知っておきたい労働法Q&A《第49回》 複数の再雇用制度、能力不足による解雇 家永 勲 42 病気とともに働く 第3回 三井化学株式会社 44 いまさら聞けない人事用語辞典 第25回 「ダイバーシティ」 吉岡利之 46 特別寄稿 多様な働き方に対応する年金制度へ 2022年4月以降の年金制度改正のポイント 株式会社田代コンサルティング 社会保険労務士 田代 英治 52 TOPIC 2021年 全国非営利団体のシニア人材へのニーズ調査 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 厚生労働省の高齢者雇用対策新事業がスタート 「生涯現役地域づくり環境整備事業」で目ざすもの 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第60回]ナンバープレース問題 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは?  読者のみなさんの会社では、高齢の方はどんな役割をになっているでしょうか。  高齢社員活用の方法として、後進の育成や若手・中堅社員のサポートなどの役割を付与して、会社の未来を見すえた縁の下の力持ちとしてその能力をふるってもらうことも一つの方法ですが、長年の職業経験のなかでつちかってきた知識や技術・経験は、ビジネスの最前線に立っても、若手・中堅社員にはまだまだ負けるものではありません。  今回は、ビジネスの最前線で輝く高齢者の強みや魅力について改めて解説するとともに、その強みを活かすためのマネジメントのポイントや、高齢者が会社の戦力として活躍している企業の事例をお届けします。 【P7-10】 総論 ビジネスの最前線で活用したいシニア人材の魅力 株式会社クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役 原 正紀(まさのり) なぜシニア人材の活用か  65歳以上の人口比率が30%近い世界一の超高齢社会である日本では、シニアの活用が社会的命題となっています。その理由として、まずは生産年齢人口減少による、人材不足への対応があげられます。平成時代に低迷した企業の業績と生産性の向上も求められ、そのなかで進められる定年年齢の引上げや定年制の廃止などの法改正、年金、医療保険などの社会システム維持、さらに技術・技能の伝承という個別企業のサスティナビリティへの対応問題もあります。  高齢者を活かすポイントとしては、よく聞くようになったキャリア自律化や、年齢軸にとらわれない人事管理の講策、そして個人と組織の関係が「保証と拘束」から「自律と選択」へと進化する必要があります。職務の明確化と公平な査定の実現、柔軟で多様な働き方と能力開発支援などが重要なキーワードとなっています。  企業の対応以上に重要なのが、シニア自身の意識と行動の変革です。技術や時代の変化に対応した職務能力を習得し、自らの手を動かして仕事をこなすことも含め、報酬に見合う価値貢献をすることです。自らの仕事人生へのオーナー意識、役割の認識、規律を持った職務従事、知識を出し惜しみせず、デジタルツールを学び、自分のことは自分でする努力などが不可欠となります。 シニア人材を活用する方法  シニア人材の活用において、これまでの日本企業の主要な手法であった、新卒などの若手社員を雇用して組織になじませながら育てていくという、長期雇用の手法だけでなく、内部活用と外部活用の二つの形態でのシニア活用を組み合わせることが大事です(図表1)。  外部活用には、企業が固定費でのコスト負担を流動費化させることができ、シニアの経験・知識・人脈などをテンポラリーに活かせるという経営上のメリットがあります。加えてシニア自身が健康や生活環境の変化、さらに人生に対する考え方の変化により、多様で柔軟な働き方を望むようになっていることにも合致する手法です。  企業がシニア人材を活用するときにも、経験や知識の蓄積を活かす高度スキルに基づく仕事と、逆にあまり負担のないワークスキルに基づく仕事という、対比的な二つのパターンがあると考えられます(図表2)。  もちろん中小企業などでは、それまで行っていた仕事を、本人が可能な範囲で年齢に関係なく継続して行ってもらうという、ミドルスキルの仕事も多いですが、新たに雇用するような場合では、先述の二つのパターンでの活用が多くなっています。  企業がシニア人材を活用するときに持つべき視点としても、強みを発揮して長く継続して働いてもらうためには、個人視点と組織視点の二つがあげられます(図表3)。  シニアが活躍することで、組織全体への知見の広がりや、多様な視点や判断力が根づくことにより、組織のレベルアップが期待できます。そのためにはシニア個人にしっかり活躍してもらえるようにする部分的視点と、活躍が定着して組織に好影響が波及するような全体的視点が必要です。 シニア人材の魅力とは  これまで多くの企業でシニアなどの人材活用のアドバイスをしてきましたが、企業が期待するシニア人材の魅力には、いくつかの共通項があります。「経験・能力の重み」としては、専門性の高さ、確実な職務遂行力、組織の管理マネジメント力、課題の設定・解決力、幅広いネットワーク(人脈)、後進への指導育成力などがあげられます。  シニアを受け入れてよかったというケースでは、「安定した人間性」として、人間力の高さや働くことへのマインドセット、人としての成熟度、経験と実績からの社会的信用、蓄積された経験知、醸(かも)し出る安定感、リーダーシップや主体性などがよく聞かれます。  「現場などでの実践力の高さ」については、長年の現場感覚や勘、経験からの行動の意味・結果についての熟知、失敗経験などからのリスクへの対応力があり、「若手とは違うコストパフォーマンス」として、雇用形態が多様であり固定費でない活用が可能、若手には不可欠な教育・マネジメントコストがあまりかからないこと、それらの結果としてコストパフォーマンスの高い戦力であるということもあげられます。  さらにシニア人材には「+ アルファ」が期待できます。単に専門性を発揮して仕事をすることに加えて、各種経験からの知恵を周りに伝授できる、生き字引的な知識量があり周囲の疑問に答えられる、後進への人材育成力、リーダーシップや豊富な社外でのネットワークなどがあげられます(図表4)。 シニア人材が組織にもたらす価値と方向性  シニア人材が組織に提供できる価値として、「視座」、「胆力」、「関係力」、「知識・技能」とまとめることができます。  役職・立場から得た多様な経験からの経営的視点・事業視点という「視座」、身につけた仕事への向き合い方や判断基準を行動によって示す「胆力」、これまでつちかってきた人脈などを活かし販路開拓や専門家の紹介などを行う「関係力」、長年つちかってきた専門性を現場で活かす「知識・技能」の4点が重要です。  高年齢者雇用安定法の改正により、70歳就業への努力義務化が制定されました。雇用確保措置として、70歳までの定年引上げ、70歳までの継続雇用制度の導入、定年制の廃止という従来の三つの措置に加えて、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入という措置が加えられたのです。つまり、雇用ではない形態でも一定の就業が継続されるという選択肢が追加されたということになります。  そのような環境下で企業から見た自社のシニア人材活用の方向性として、経営の状況に合わせていくつかのパターンに分けた流れが進んでいます。できるだけ長くしっかり戦力として働いてもらう、本人の要望と会社の都合でほどよいタイミングまで働いてもらう、多様な選択肢を用意して社外での望む道を進んでもらう、という三つのパターンです。  シニア個人から見た進路のポイントとしては、会社に残るか出るかということです。それを個人が意思を持って決めてほしいというスタンスの会社も増えています。それが「キャリア自律化」を促進する流れであり、その意味ではジョブ型などの働き方も増えてくると考えられます。 内部人材としてのシニア活用のポイント  先に述べたようにシニア人材の活用について、雇用契約で社内人材として活躍してもらう内部活用と、業務委託や準委任などの外部人材として活躍してもらう外部活用があります。それぞれの活用ポイントについて説明します。  パーソル総合研究所の調査によると、シニア人材活用への課題感として、モチベーションの低さ、パフォーマンスの低さ、マネジメントの困難さ、報酬・処遇の適正化等が上位にあげられています(図表5)。  役割や業務内容がはっきりしていなかったり、会社から期待されていることが明確でないとモチベーションが低くなります。周囲からも「何をしているかわからない」とネガティブにとらえられることも散見され、役職者は肩書きが外れたり、これまでの部下が上司になることもあるので、役割などについてコミュニケーションをしっかりとることが大切です。  処遇への対応として、継続雇用制度活用での再雇用が非正規雇用の場合、「同一労働同一賃金」などの処遇面での法的な留意が必要となります。定年前と同様の業務を担当するケースについては、企業としてどのような賃金設定を行うかを検討しておくことが重要です。 外部人材としてのシニア活用のポイント  企業が外部人材を活用することはシニア活用という価値にとどまらず、人口減少下で必要な人的リソースや知的資産を確保する重要な手段です。加えて人件費を変動費にして経営環境変化に対応できること、専門性の活用で従業員の業務量・負担を軽減できること、企業変革のオープンイノベーションを推進できること、ハイコストとならず専門性の高い人材が活用できることなどがあげられます。  外部人材をマネジメントするうえでの留意点としては、まずは支援要望を明確にすることが必要で、依頼内容(解決すべき課題、必要な支援内容)が明確であれば、支援を行うシニア人材側も解決に向けた実践力を発揮しやすくなります。  外部シニア人材とのコミュニケーションでは、パートナーとして胸襟を開くことが大事です。外部人材に会社の弱みをさらけ出すことに抵抗感を示す経営者は少なくないですが、会社の実態や課題を伝えることで効果的な支援を引き出すことができます。同時に依存しすぎないことも大事です。外部人材はあくまでも支援者であることから、すべてを委ねるのではなく、会社は当事者としての自覚と変革の意識を持とうとすることが必要です。  依頼の際には人材育成も含めた支援を要望するのがよいでしょう。多くの企業では人材育成の悩みや課題を抱えており、実務に関する支援に加えて社内人材への教育も含めた要望をすることで、社内へのノウハウ蓄積が可能となります。そして感謝と称賛を忘れないこと。周囲からの感謝や承認はモチベーション向上につながる最大の要因であり、シニアにとって報酬以上の価値となり良好な関係を築くことにもなります。  シニアの力といっても多様なものがあり、内部人材と外部人材、自社シニア人材の活用とシニア人材の新規採用、高度スキルの活用とワークスキルの活用といった観点から考えると、多くの企業ではまだまだ活用の余地が大きいことがおわかりいただけると思います。 図表1 シニア人材の内部活用と外部活用 内部活用 内部人材(社員)として新規雇用、再雇用、雇用延長など 外部活用 外部人材として個人事業主や兼業・副業での契約 など ※筆者作成 図表2 シニア人材活用における二つのスキル 高度スキルの活用 知識・技術の活用と伝承、営業スキルと人脈、経営・マネジメント力などの専門性の発揮や、仕事の習熟、技術・ノウハウ・判断力などの経験の活用 など ワークスキルの活用 ルーチンワークや定型業務、管理や一般事務、現業での作業や接客サービス、サポートや補佐的な仕事を切り出して任せる など ※筆者作成 図表3 シニア人材が強みを発揮する二つの視点 シニア人材 個人視点 シニア人材個人のパフォーマンス発揮の視点として、本人の保有する能力・経験を十分に活用させること 組織視点 シニア人材を受け入れる組織の視点として、組織内の各世代がバランスよく働ける組織をつくること ※筆者作成 図表4 シニアを雇用することで感じているメリット (n=167・複数回答) 業務に関する豊富な知識や経験がある 78.4% 人手不足を解消できる 76.6% 他の社員にスキルを継承できる 54.5% 人件費などのコストを抑えられる 47.3% 仕事に生かせる人的ネットワークがある 35.9% 出典:アデコ株式会社「働くシニアの意識とシニアの雇用に関する調査」(2019年) 図表5 シニア人材への課題感 n=800 シニア社員本人の働くモチベーションの低さ 現在も将来も、課題としては認識していない 16.0% 5〜10年後に、課題になってくる 10.9% 1〜5年後に、課題になってくる 28.3% 現在、すでに課題になっている 44.9% シニア社員のパフォーマンスの低さ 現在も将来も、課題としては認識していない 18.6% 5〜10年後に、課題になってくる 8.9% 1〜5年後に、課題になってくる 29.6% 現在、すでに課題になっている 42.9% シニア社員に対する現場のマネジメントの困難さ 現在も将来も、課題としては認識していない 17.9% 5〜10年後に、課題になってくる 10.8% 1〜5年後に、課題になってくる 30.0% 現在、すでに課題になっている 41.4% シニア社員の報酬・処遇の適正化 現在も将来も、課題としては認識していない 17.0% 5〜10年後に、課題になってくる 9.1% 1〜5年後に、課題になってくる 33.1% 現在、すでに課題になっている 40.8% シニア社員に対する健康上の配慮 現在も将来も、課題としては認識していない 15.9% 5〜10年後に、課題になってくる 12.3% 1〜5年後に、課題になってくる 33.4% 現在、すでに課題になっている 38.5% シニア社員のための職務の準備・拡大(職域開発・多様化) 現在も将来も、課題としては認識していない 17.1% 5〜10年後に、課題になってくる 11.3% 1〜5年後に、課題になってくる 33.4% 現在、すでに課題になっている 38.3% シニア社員の能力・スキル不足 現在も将来も、課題としては認識していない 22.5% 5〜10年後に、課題になってくる 12.0% 1〜5年後に、課題になってくる 29.4% 現在、すでに課題になっている 36.1% シニア社員に対する給与原資の確保 現在も将来も、課題としては認識していない 20.3% 5〜10年後に、課題になってくる 12.0% 1〜5年後に、課題になってくる 32.1% 現在、すでに課題になっている 35.6% 70歳までの就労機会確保努力義務への対応 現在も将来も、課題としては認識していない 16.6% 5〜10年後に、課題になってくる 15.6% 1〜5年後に、課題になってくる 36.8% 現在、すでに課題になっている 31.0% 出典:株式会社パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」(2020年) 【P11-14】 解説 シニア人材の活躍に不可欠な内部労働市場のアップデート −対話型ジョブ・マッチングとは何か パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林 祐児(ゆうじ) 「対症療法」が続く中高年不活性化問題  いま、中高年の不活性化に多くの日本企業が苦慮しています。背景には、組織の高齢化、ビジネスの高速化などの要因がありますが、やはり重要なのが人材マネジメントの観点です。問題の構造全体について詳しくは、筆者の近著『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)を参照いただくとして、本稿では、「企業がシニア活用を考えるときのエッセンス」をお伝えします。  もともと日本の伝統的な人材マネジメントの骨子、例えば職能主義的な資格等級も、長期雇用慣行も、年功的賃金カーブも、「蓄積」のロジックを強く帯び、組織の高齢化に対応しにくいという欠点があります。だからこそ、いまから半世紀前にも「職務給」などのいまでいうジョブ型の人材マネジメントが模索され、90年代の成果主義ブーム以降は、脱年功主義や賃金カーブのフラット化も続いています。しかしいずれも環境変化に耐えるだけの改革にまで結実することはありませんでした。この歴史認識が高齢人材マネジメント変革の出発点です。  しかしいま、筆者が企業から受ける相談は、「不活性化したミドル・シニア層のモチベーションをなんとかしたい」、「70歳まで抱え続けられない」といった、「いま在籍するミドル・シニア層をどうにかしたい」という視点のものが目立ちます。高齢化が進み続けるこの社会では、たとえいまの年齢構成の歪みを乗り越えても、構造的にシニア問題が再生産され続けます。「解雇がむずかしい」といわれながら何度もくり返される日本企業の早期退職募集ブームは、抜本的処方箋を欠いた「対症療法」の波にほかなりません。 「変化適応力」の低下がシニア活躍の最大ハードル  現在、シニアに対する人事施策として、「職域開発」や「リスキル」、「キャリア自律推進」などが盛んに行われていますが、それらの施策に共通するハードルが中高年人材の「変わらなさ」です。もうあの人は学ばない、マインドが変わらない、居場所を用意できない…、シニアの課題はこのようにして代謝促進以外の選択肢を失います。年をとると生活も安定し、若いころのようには思い切った変化を起こすことができなくなる。一般論としてはその通りですが、重要なのは、その「変わらなさ」には企業の人材マネジメントもまた影響を及ぼしているということです。  パーソル総合研究所では、そうした「変化に応じて自ら変わる力」を、〈変化適応力〉として定量的に測定しました。〈変化適応力〉を正確にいうならば、仕事や組織・ビジネスに変化が起きたとしても自分は適応していけるとする自己効力感(self-efficacy)です。こうした自己効力感が人の行動や感情に与える影響を広く提起したのは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラです。中高年も、変化への自己効力感が欠如すると、適応行動や、学び直しへの意思を持つことがむずかしくなります。  こうした概念を精査する際には、ほかの概念との比較が重要です。われわれが比較したのは、「社内活躍」への自己効力感。いまいる会社や組織のなかで、「中心的な役割をになえるだろう」、「昇進できるだろう」といった社内地位に関するポジティブな見込みです。つまり、いまいる組織に対して「内向き」の効力感と、組織の外も含んだ「外向き」の効力感である〈変化適応力〉を比較検証してみたということです。  そうすると、性別や年齢、企業属性などの影響を取り除いても、〈変化適応力〉のほうがパフォーマンスや学習行動などと強いプラスの関係が見られました。さらに、図表1に示したように〈変化適応力〉のパフォーマンスへの影響は、加齢にともなって強くなる様子が見られましたが、「社内活躍」への見込みは逆にパフォーマンスへの影響が弱くなっていました。 どんなマネジメントが〈変化適応力〉を上げるのか  われわれの研究では、この〈変化適応力〉を「促進」する心理と、逆に「抑制」する心理もそれぞれ明らかになっています。促進心理の一つ目は、自分なりの目標を見つけて進んでいく「目標達成の志向性」。二つ目の促進心理は、トライ・アンド・エラーをくり返していく「新しいことへの挑戦や学びへの意欲」。三つ目は、自分自身の興味関心の範囲を決めつけないという「興味の柔軟性」です。  逆に、変化適応力とマイナスの関係にあった心理には、いまのままの延長上のキャリアでよいという「現状維持志向」や、時代への「取り残され感」、「経験・能力への不安」などがあります。こうした背景心理と企業の人材マネジメントの関係を詳細に分析すると、以下のようなことが発見できました。誌面の関係で要点だけ紹介しましょう。 @社内の職務ポジションがオープンになっていること、組織目標と個人目標が関連づけられていること、公募型異動を経験していることが「目標達成志向」とプラスの関係にある。 Aシニアへの教育研修の支援の手厚さは、促進心理全般にプラスの関係にある。  まず、これらの要素が、〈変化適応力〉にポジティブに関与する要素でした。中高年向けの教育訓練はどの企業も手薄ですが、やはりきちんと効果を発揮しているようです。逆に、ネガティブに影響していたのは以下のような要素です。 B専門性の尊重は、「現状維持志向」を助長している。 C終身雇用的人事管理は、「興味の柔軟性」を抑制している。  これらもおもしろい結果です。90年代ごろから専門性の高い職群を「エキスパート職群」や「専門職群」などと分ける複線型の人事制度を多くの企業が取り入れました。しかし、専門性を尊重しすぎると従業員に「いまのままでよい」と思わせる側面もあるということです。また、安定雇用は人から興味の広がりを奪うような影響も見て取れます。これらは人材マネジメントにおいて「いいとこ取り」ができないことを端的に示しています。  「変わらない」という中高年最大の問題の背景に、〈変化適応力〉やそこに影響する心理があり、それらに組織の人材マネジメントのあり方が作用していることを見てきました。逆にいえば中高年の「変わらなさ」は、組織マネジメントのあり方によって「変えられる」ということです。 対話型ジョブ・マッチングシステムの要点とは  では、シニア問題を構造的に解決したい企業は、どのような方向に舵を切るべきなのでしょうか。筆者がこれから必要だと考えているのは、従業員との「対話」をベースにした社内のジョブ・マッチング機能の拡充です。短く「対話型ジョブ・マッチングシステム」と呼んでいます。従業員とのキャリアについての対話と思考の機会を増やし、社内公募や社内留職などを通じてキャリア志向性と具体的ポジションをマッチングさせていくシステムです(図表2)。  こうしたシステムの各要素は特に大手企業であれば多くの企業に存在します。しかし、全体が有機的に機能している企業は少数です。筆者は、こうしたシステムを機能させるポイントは、@対話の機会拡充、A事業部の巻き込み、Bグランド・デザインの描出だと考えています。  まず、多くの企業は社内公募などのマッチング機能が形骸化してしまっています。その主な要因は、そもそも手をあげてまで主体的にキャリアを築こうとする従業員マインドへの仕掛けが不十分であることです。一般的なキャリアの言説では、「Will(やりたいこと)」、「Can(できること)」、「Must(すべきこと)」を重ね合わせることがしばしば語られますが、実際ほとんどのケースで問題になるのは従業員の「そもそものWillのなさ」。優秀で意識の高い従業員はどの会社にも少数いますが、それ以外の多くの従業員は「やりたいこと」のような主体的な意思を持ちません。  この問題への処方箋こそが、@の「対話」です。先ほどの分析では〈変化適応力〉が高い人の特徴は、他者とのキャリアについての「対話」の経験が豊かであることもわかりました。さらに、「だれと話すのか」、「どのように相談するのか」も検証したところ、「上司」や「仕事関連の友人・知人」、「キャリア・コンサルタント」との対話、キャリアについて自己開示しながら「客観的な意見をもらう」経験が、変化適応力と紐(ひも)づいていました。  「公募に人が集まらない」と嘆(なげ)く企業の多くはこうしたキャリア的観点の対話を現場にまかせきりですが、現場の上司は目の前の目標達成に追われ、キャリアの話などは後回し。特にその傾向は、ミドル・シニアといった中高年の部下に対して顕著です。社内外のカウンセリング機能やその他研修機会などを会社側が提供しなければ、何も先には進みません。  次に、A「事業部サイドの巻き込み」が必要です。具体的なポストを公募するためには仕事の切り出しと役割の明確化、そして処遇の透明性を高くすることが必要で、それら諸条件を具体的に記述する必要があります。事業部サイドが職務情報の整備や公募として切り出せるだけの情報の公開、そこに応募するための経験やスキル要件を明らかにする、「キャリアパスの見える化」が必要になります。「現場から公募がでない」、「求める条件が曖昧」な状況では、いくら制度があってもそれは有名無実化します。  三つ目は、B「全体のグランド・デザインを描くこと」です。企業内でこうした仕掛けを整備するためには、事業部との交渉や経営陣とのすり合わせが必須になります。「研修の企画・調整」を行っているような教育担当部署だけでは完結しません。実際に業務を切り出して公募をかけたり、上司面談を行うのは、現場の事業部ですし、経営陣は従業員のキャリア開発への関心が薄いこともしばしばあります。  そうした社内議論のときにこそ、各制度を個別に調整するのではなく、「なんのために行うのか」という人材マネジメントの「グランド・デザイン=全体の青写真」が必要になります。 企業はどう動いているのか  「対話型ジョブ・マッチング」は筆者の造語ですが、すでに先進的な企業では同根の発想で施策が進められています。  例えば、ソニーグループはもともと社内公募の伝統が長く、社内兼務、社内FAのマッチング制度もありますが、さらに数年前からは「Sony Career Link」という社内マッチング・プラットフォームを整備しています。経歴を登録しておくと、必要としている部署からスカウトされる仕組みです。また、キャリア研修やその後のメンタリングなどの「対話」の仕掛けを厚く整備していることも特徴的です。  また、住友林業株式会社は2017(平成29)年から定年後再雇用の希望者が事業部の公募職種を探して応募する「かいかつWeb」という仕組みを整備しています。2018年には、再雇用期間を満了した66歳以上の社員と、年齢にかかわらず離職した元社員を対象に、人材と社内部署をマッチングさせる「シニア人財バンクセンター」制度を開始しています。シニアに特化したタイプの社内マッチング・システムの例として注目しています。 30年続ける「外部労働市場頼み」をやめよう  ミドル・シニアの問題解決は、解雇規制とセットで語られがちです。中高年に対して代謝を促進し外部労働市場を志向する「40歳定年制」のような声はバブル崩壊後、しばしば唱えられます。しかし、それは中高年のマネジメント問題を組織代謝という一要素の話に矮小化しています。  変革するべきは、「外に出られない」中高年を再生産し続けている内部労働市場=社内の労働環境のあり方です。キャリアについて考えさせず、対話の場を節約し、企業主導で配転させ続けながら、同年代による昇進レースを10年以上続けることで、従業員の〈変化適応力〉は低下します。対話をベースにしたマッチング・システムは、「企業主導」の人材配置から「個人主導」のキャリアへの単純な移行ではありません。先ほど述べた通り、「個人主導」にすらできない、「そもそものWillのなさ」が根本問題だからです。  シニア課題をきっかけとして企業の人事管理のあり方を変えていく、本稿がそのためのヒントに少しでもなれば幸いです。 図表1 個人パフォーマンスに与える影響度合い パフォーマンスに対する影響度 (標準化偏回帰係数) 変化適応力の影響 社内活躍見込みの影響 20代 (n=1,000) 30代 (n=1,000) 60代 (n=1,171) 50代 (n=1,829) 40代 (n=1,000) 出典:株式会社パーソル総合研究所 「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年) 図表2 対話型ジョブ・マッチングシステムの構築 外部労働市場 外部市場 グループ会社 雇用の境界 転職 カムバック採用 社外副業 出向 事業部 募集 応募 公募型異動 社内公募システム 応募 社内副業 募集 留職 副業・留職マッチング 学び直し支援 異動 再雇用後配置転換 参照 タレント・マネジメント・システム キャリアについての「対話機会」 (研修・カウンセリング) 出典:株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年) 【P15-18】 事例1 株式会社OJTソリューションズ(愛知県名古屋市) 幅広い現場を改善するべく全国を奔走 40年つちかったトヨタ式を基に現場指導をになう 介護、銀行など非製造業にも顧客現場の生産性向上と人材育成に寄与  株式会社OJTソリューションズは、トヨタ自動車株式会社(以下、「トヨタ」)とリクルートの共同出資により2002(平成14)年4月に設立されたコンサルティング会社である。トヨタ式をベースにした生産性向上の現場指導および人材育成を事業としており、トヨタに長年勤務した経験を持ち、いわゆるトヨタの“カイゼン”ノウハウを持つ多くのベテラン社員が現場改善を指導する“トレーナー”として活躍している。企業理念に「わたしたちはモノづくり現場で培った改善と人材育成のノウハウをベースに、顧客のモノづくり力と人材育成・活用力を高め、日本の産業基盤の再構築に貢献する」を掲げている。  北海道から沖縄県まで全国に顧客を持ち、その数は587社、件数は1753件(2022年1月時点)を数える。食料品製造、機械製造を中心に製造業が8割を占めるが、医療、介護、銀行など非製造業の事業者も顧客に連なる。企画部の岡内(おかうち)彩(あや)次長は「顧客の大半はトヨタとかかわりがない企業で、業種を問わず日本の産業基盤の再構築に貢献できるところが当社の理念です」と力を込める。コロナ禍以前は、全体の1割ほどは中国を中心に、タイ、マレーシア、ベトナム、北米などで海外展開をしてきた。 トヨタでつちかったWカイゼンWノウハウを武器に  同社の従業員数は113人(2022年1月時点)、事業の柱をになうトレーナーは75人で、全員トヨタ出身者だ。単にトヨタ出身者というだけでなく、採用は100〜300人ほどの部門を束ねたマネジメント能力がある工長以上に限定。300人規模の顧客企業において人材の育成をになうことができ、新工場の立上げといった難易度が高いテーマにも対応できる人材を採用している。「トレーナーとして採用している工長、課長経験者は、長年車をつくるだけでなく、人材育成もしてきた人たちです。トヨタではこの立場の人は『おやじ』と呼ばれることもあります。一般的なコンサルタントのイメージとは異なるので、あえてトレーナーと呼んでいます」と森戸(もりと)正和(まさかず)専務取締役は説明する。  トレーナーが同社に入社する典型的なケースは、50代後半でトヨタから出向し、60歳の定年後にそのまま同社に入社するというもの。トヨタ時代の縦のつながりで元上司が後輩を誘い、活き活きと活躍する元上司の姿を見て入社に至るケースも少なくない。  「大部分のトレーナーはトヨタでしか働いたことがなく、これまで『トヨタの看板』で仕事をしてきた社員ばかりです。そのなかで、『自分が身につけてきた知識や技能で外の世界で勝負できるのか』と、疑問を持ち、『トヨタの外で力を試したい、チャレンジしたい』という思いから入社する人が多いです。ほかにも、『さまざまな業種を見てみたい』という人、『トヨタ生産方式や“カイゼン”という車づくりのノウハウが、まったく異なる業種・業界で本当に役に立つのか試してみたい』という声もあります。経済的な報酬のみを求めて働き続ける人はほとんどいないと思います」(森戸専務)  同社に入社することで得られるものについて聞くと、「トヨタで40年間つちかったノウハウや原理・原則を顧客の事業に活かせるという点で、トヨタ時代と連続性があります。一方で、トヨタを退社するので、60歳でも初心にかえって仕事に取り組めるという点が非連続性であり、これもメリットだと考えます。トヨタに残っていれば大ベテランですが、当社に入れば新人、若手として扱われる。この連続性と非連続性が魅力となり、入社するポイントの一つになっているのではないでしょうか」と説明する。  在籍しているトレーナーの平均年齢は65歳。最高年齢は73歳だ。概ね58〜62歳は「若手」と呼ばれ、その後は「中堅」、70歳前後でようやく「ベテラン」と呼ばれるようになる。トヨタ時代の上司が同社においてもベテラントレーナーとして、かつての後輩・部下の指導にあたるということもよくある話だ。「かつては10年ほど在籍して67〜68歳で退社するケースが多かったのですが、近年は退社する年齢が上がって70歳超まで伸びました。この先何歳まで伸びるかにも注目しています」と岡内次長は話す。 トヨタ式の人づくり・現場づくりで顧客の課題を根本から改善する  OJTソリューションズが提供するサービスは大きく分けて2種類ある。一つは「ソリューション」といい、顧客の要望に合わせてフルカスタマイズして課題解決を行うもの。例えば「納期を短縮したい」、「品質向上を図りたい」という企業の要望に合わせて最適な提案を行う。もう一つは「改善眼」といい、顧客の課題に合わせて既定のプログラムのなかから最適なサービスを提案するものだ。  「ソリューション」は、トレーナーが主に二人一組になり専属で現場指導にあたる。ほぼ毎週訪問するという手厚さも魅力だ。指導の単位は半年だがリピートすることが多く、1年半ほど続くケースが多い。一方、「改善眼」は一人のトレーナーが3〜4社を掛け持ちする。契約は1年単位だが、こちらはトレーナーの訪問は月1回で、トレーナー不在時は顧客企業の自主活動が要となる。  具体的な現場指導の一つとして、まず基準づくりから始めることがある。基準とは、物の大きさ、数など、その範囲内なら正常、超えたら異常というもの。基準を「1時間に1個つくる」にすると、「2時間に1個」しかつくれていなければ異常ということになる。顧客の現場では基準がないことが多いが、あったとしても、トヨタのようには「人」の流れや「物」の流れが見えないことがほとんどだという。  問題の多くは、現場に「物」が雑然と置かれていることに起因する。まずはいらない物を捨てたうえで(整理)、いる物の置き場・置く数などを決めていく(整頓)。整理をすると物が減ってスペースができ、例えば、スーパーのバックヤードでカニ歩きをしないと通れなかった、といったような状況が改善される。さらに、整頓をする際に台車や人が通るところを決めると、人とモノが明確に分かれ、目に見えて状況が改善していく。「常に台車が通るのを気にして仕事をしていたのが気にならなくなって、ラクになった」と顧客は喜ぶそうだ。現場にスペースができるので不要な気遣いなく仕事ができるようになり、必要な物だけあるので物を探さなくてよくなる。スムーズに作業ができるようになることで、安全・品質・生産性など、幅広い点が改善される。  一度「基準」の必要性を示したうえで、同様にほかの基準もつくっていくうちに、物や人が流れるようになっていき、現場が改善されていく。それにともない顧客の現場も人も見違えるように変わる。この一連の流れを経験したトレーナーは、達成感・充足感から、この仕事に「ハマる」そうだ。その様子を森戸専務は、「無類のやりがいを得て、さらに顧客の要望に応えているうちに、いつの間にか70歳を超えており、そのまま働き続ける人がほとんどです」と笑顔で話す。  「多くのトレーナーが、当初は『70歳までを目処に働きたい』と口にしますが、お客さまから『来年もよろしく』といわれて、その次の年も続けていくのです。『自分は求められている』という実感が原動力になっているのでしょう。また、『年寄り扱いしない』ことも重要です」と、トレーナーが70歳を超えても活躍している秘訣を語る。 トヨタと研修での学びを活かし準備を怠らない姿勢で現場に挑む  現場指導のベースになるのはトヨタ式の普遍的な原理・原則であるが、顧客に合わせて「翻訳」をする必要がある。同社のトレーナーが、各業界の顧客に合わせて応用するスキルも、トヨタ時代に養われたものだ。  「トヨタは教育に力を入れている会社であり、技能系人材については、入社後およそ5年、7年、10年、15年の昇格前のタイミングで教育の場を設けています。講師は現場の管理監督者が務め、例えば、組立て工程の組長が講師を務める場合、塗装、溶接、機械などさまざまな領域から集められた後輩たちを指導することになります。組立て工程の組長は、組立て工程以外の専門性は低いので、専門性以外の観点から彼らに教えられることは何かから考えなくてはなりません。テーマが『問題解決』であれば、問題が発生している場所に行き、発生しているときと発生していないときの違いに目をつけて、なぜその場所で問題が起こっているのかということを、何度も検討して真の原因を見つけます。真の原因に対して適切な処置を施せば、二度と同じ問題は起こりません。このような考え方の型≠ェ、どこの職務でも通じるということを、当社のトレーナーは経験しているので、当社に来てから、別の業種に応用することができるのです」(森戸専務)  もちろん、入社してすぐにトレーナーとして活躍できるわけではない。  「トレーナーには、トヨタ時代に行っていたマネジメント業務はないので、顧客指導に専念できます。しかしながら、これまで車づくり一筋の方たちですから、『サービスを売る』という経験はありません。新しい仕事に就くことは新鮮である一方、学ばなくてはならないことも多くあります。新人研修では身なりの整え方から、顧客に対する言葉づかいまで指導し、入社後4カ月間は指導役のアドバイザーがつき、OJTで指導を行います」(岡内次長)  独り立ちした後も、期初・期中・期末に面談を実施し、課題の設定、仕事のふり返りを行うほか、各種勉強会などを通して継続的な学びの支援を行っている。  森戸専務はトレーナーの日々の努力について次のように評価する。  「トレーナーはお客さまから理想の上司”として尊敬されている人物も多く、その一挙手一投足が注目されているということを知っています。いろいろと質問もされますから、トレーナーは情報収集や自己研さんを怠らず、トレーナー同士で相互アドバイスを行ったりして、準備をして現場に挑んでいます。」 全国を飛び回るトレーナーを各種制度で強力にバックアップ  ここで、OJTソリューションズが高齢であるトレーナーの活躍を後押しするために取り入れている制度を紹介する。 ■在宅勤務制度 名古屋を拠点に全国に出向き、しかも1カ月の半分程度は出張先に滞在することになるトレーナーの仕事は、高齢でなくても身体に負担がかかる。そこで、2002年の創業直後から事務的な仕事については在宅で行うことができるよう、在宅勤務制度を導入している。トヨタ出身者のため、トヨタ本社がある豊田市に自宅を持つトレーナーが多く、通勤に1時間強かかることから、移動の負担の軽減につながっている。 ■インターバル休暇 顧客の契約は半年もしくは1年単位だが、繁忙時は矢継ぎ早に仕事が続くということもある。そこで年次有給休暇以外に、リフレッシュを目的としたインターバル休暇制度を導入している。1年に2回、5日連続で取得できる休暇で、インターバル休暇と年次有給休暇の取得率はほぼ100%である。 ■フレキシブル勤務制度 進捗がスムーズで、早めに仕事を切り上げられるとき、あるいは介護などのためにフルタイムで働けないときに、就業日数をフレキシブルに変更できる制度を導入している。 ■スキルドパートナー制度 70歳を超えると毎週の出張が体力的に厳しいという人が出てくる。こうした局面を迎えたトレーナーに活用されている制度で、例えば月1回のみの指導などスポットで働き続けることが可能になる。雇用形態は時間給のパートタイマーに切り替わる。 昔からの安心感と新しい刺激がベテランの活躍を促進する  縦のつながりが深いトヨタでは、先輩は後輩の「めんどう」をよくみるといい、『めんどう見』というハンドブックを配付するほど大切にしている考え方だ。OJTソリューションズでもそれは引き継がれている。  「例えば、同じ工場で働いていた後輩のことは、特に気にかかるものです。声かけをして、相談に乗り、困ったことがあればフォローします。後輩は先輩に面倒をみてもらえることで安心します。一方で会社が変わると、新しい人間関係のなかで交流するという新しい刺激もあります。引退して家に閉じこもり、出会いもない生活になると、身体は衰えて元気がなくなってしまうこともあるでしょうし、かといって刺激ばかりでは疲れるものです。安心感と刺激という二つの要素が、定年後も力を発揮するために大切なのではないでしょうか」(森戸専務)  同社に存在する安心と刺激はトレーナーの持てる力を引き出し、全国の企業現場の改善に貢献している。定年後もビジネスの第一線で活躍してもらうために、「安心」と「刺激」という二つの要素を取り入れるのも一つの方法かもしれない。 写真のキャプション 岡内彩企画部次長 森戸正和専務取締役 【P19-22】 事例2 ロボセンサー技研株式会社(静岡県浜松市) 長年磨き続けたスキルを活かして起業 新たな仲間を得て社会に役立つセンサーを開発 独自開発した高性能センサーの応用製品の研究・開発に取り組む  ロボセンサー技研株式会社は、2016(平成28)年8月、代表取締役の大村昌良(まさよし)さん(62歳)が静岡県浜松市で創業した。たった1人でスタートしたベンチャー企業の同社だが、2022(令和4)年3月現在の従業員数は12人(うち正規社員は5人)となり、本社に加え、東京支店も開設。国内で取引先を増やしつつ、さらに世界へと羽ばたく準備を着々と進めている。  同社は、動きや振動を検出する「ロボセンサーR」を独自開発し、産業・ロボット分野や医療・介護・福祉分野などに活用できる応用製品の研究・開発、普及に取り組んでいる。  ロボセンサーRは、振動などの力が加わると電圧を発生するフィルム状の「高分子圧電材料(ピエゾ素子)」を、髪の毛より細い導線に巻きつけ、ワイヤー状のセンサーとして形成したもの。特許取得の「独自のシールド構造」によりノイズを除去し、従来のセンサーより高感度を実現した。設置する対象物の形状や大きさにかかわらず、0.1ヘルツ〜3メガヘルツの広帯域でこれまで感知できなかった微細な振動を感知できることも特徴だ。  そうした構造や性能でありながら、直径わずか0.5ミリの極細・軽量を実現。細いうえ柔軟なため、曲げたり、巻きつけたりするなど任意の形状に変形できるほか、自己発電性でセンサー信号を自ら発生することから電源が不要といった利点もある。  同社はこのセンサーを応用して、「人々の暮らしを支え、豊かな社会に貢献する」ことをミッションに掲げている。 微細な振動を検知し機械や設備の予知保全に活躍  同社を訪ねると、大村社長がロボセンサーRの機能を目の前で見せてくれた。センサーを近くにあったハンディタイプの扇風機に巻くと、扇風機の羽の振動を感知し、計測されたデータがパソコン画面に波形として示された。扇風機のスイッチが強と弱のときでは、波形がまったく違うことがひと目でわかる。  次に、センサーの上に携帯電話を置いて着信音を鳴らすと、メロディの強弱を感知して、やはりその細かい波形がパソコン画面に示された。  ロボセンサーRは、「感知した振動や触覚をデータ化し、共有できるようにした装置です」と大村社長は説明する。  わかりやすい実験をしていただいたが、たいへん高性能であり、丈夫で耐水性や耐油性にもすぐれ、かつ、現有設備に後から容易に取りつけが可能だという。すでに産業分野での応用開発が進んでおり、主に、工場ラインなどの不具合の監視装置として用いられている。  「わずかな異音や微細な振動を感知できるため、工場での機械や設備の予知保全用センサーとしての活用が拡大しています」(大村社長)  社長自らが設置を行っており、最近は大規模プラントのベルトコンベアに設置したそうだ。ベルトコンベアの保守には経験のある人材によるパトロールなどが必要だが、このセンサーはその作業を大いに助け、また、異常を早く把握できるため、想定外の操業停止や機器の重大な損傷を防止することができ、稼働率向上やコスト面で大きなメリットが得られるという。 100社以上に履歴書を送るも再就職の道は厳しく、起業を決意  独自開発したセンサーの販売先企業数は、2019年は17社だったが、2020年には79社、2021年には158社に増加。取引先は大手企業がほとんどだ。売上げは、2019年から2020年の1年間で9.5倍に大幅増。センサーにかかわるコンサルタント事業、システム開発などでも引き合いが多くなった。  いまでこそ多方面から注目を集めるが、ここに至るまでには多くの苦労と努力があったという。  大村社長は、広島大学大学院工学研究科を修了後、富士通株式会社、ヤマハ株式会社にて半導体やセンサーの技術開発に従事。30年以上の経験を積み、50代前半で早期退職した。その後は別会社に再就職するも業績不振により2015年に退職を余儀なくされる。以降、技術開発のノウハウが活かせる仕事を探して100社以上に履歴書を送ったが、再就職の道は険しいものだった。  「一度、最終面接まで通った会社もありましたが、2人のうち1人が採用され、私は年齢で断られました」と大村社長。ロボセンサー技研を起業したのは、「ほかに選択肢がなかったから」と話すが、「起業して、好きな開発の仕事を続けよう」と一念発起。家族の支えと自分の楽観的な性格が背中を押してくれたという。  センサー開発の取組みは、ロボット関連の展示会を見学した際、「触覚センサーはまだ進んでいない」と感じたことがきっかけになった。ただ、半導体素子は開発費がふくらむため手を出せないと判断し、圧電素子(ピエゾ素子)を使った繊維のようなセンサーの開発を決意。試行錯誤の末、独自センサー開発に至るも、ノイズ面などの課題があったため、さらに進化させる努力を重ねて現在のセンサーを開発した。 ビジネスコンテストなどに挑戦学びながら人とのつながりをつくる  起業から現在まで、大村社長は技術者としての知識や経験に加え、会社員時代にプロジェクトマネージャーを務めたことや、転職をして中小企業での仕事も経験し、製品開発から販路開拓、外部研究機関との連携など、これまでのさまざまな経験が活かされていると語る。  また、起業の準備として、商工会議所や信用金庫の創業スクールで経営に関する知識を学んだ。さらに、資金調達の目的もあり、ビジネスコンテストやアクセラレーションプログラム※に積極的にチャレンジした。自分が一番年上であることが多かったが、臆せず参加したそうだ。すると、出展したイベントがきっかけとなって顧客ができたり、よい人材との出会いに恵まれたりした。  努力が実り始めたのは、2017年に入ったあたりからだという。静岡銀行の「第5回しずぎん起業家大賞」を受賞。続いて、浜松信用金庫の「第4回はましんチャレンジゲート(創業部門)」のビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞。同社の技術が広く知られるようになった。  そうしたなかで、ヤマハ時代の元同僚がサポートしてくれたり、同社の技術に共感して「一緒に仕事がしたい」という人たちが集まってきた。大村社長は、向学心が旺盛で、新たに学ぶことをいとわず、また、さまざまな機会をとらえて人とのつながりをつくってきた。そうした一つひとつが結実したのだ。  さらに2019年10月には、技術やアイデアを大手企業に売り込む、大企業とスタートアップ企業の協業促進イベント「イノベーションリーダーズサミット」で注目され、取引先が急増した。 70代でも能力があれば働ける大事なのは、仕事への向き合い方  2019年に、宮本了(りょう)営業本部長(72歳、執行役員)と営業技術担当の宮崎なおと東京支店長(67歳)が入社した。その後、坂本典正(のりまさ)製造部長(68歳、執行役員)、林正之(まさゆき)技術開発部長(62歳)が加わり、現在センサー事業は、大村社長をはじめこのメンバーが中心となって推進している。  正社員の平均年齢は63.5歳。ミドル、シニアの採用を積極的に行っているわけではなく、若い人からの問合せや応募もあるものの、起業から間もないベンチャー企業で若手を採用するハードルはたいへん高いという。  坂本製造部長は大村社長が以前に勤めていた企業で知り合った縁のある関係だが、ほかの社員は同社の求人に応募し入社した。それぞれ大手メーカーやソフトウェアハウスに長年勤務した経歴を持つ。そうした経験に加え、入社への思いなどを聞いて大村社長は採用を決めた。  「給料は安くてもおもしろい仕事がしたい、そういう人たちが入ってくれています」(大村社長)  大村社長より年上の社員も多いが、顧問のような存在として迎えたわけではなく、常に「一緒にやろう」という熱い気持ちを伝えており、そうした熱意と自らに向けられる大村社長からの期待が、社員一人ひとりの原動力になっているようだ。  定年は70歳。その後は、1年単位で80歳まで継続雇用する制度を整えているが、大村社長は年齢で区切ることに疑問を感じているという。  「一緒に仕事をしているメンバーは、仕事経験が豊富で、多くの知識や技術を有しています。突発的なことに対応できる柔軟性もあります。そして、好奇心や向学心もあります。それらを日本の産業のために活かそう、そういう気持ちでこの事業に取り組んでいると思います。60代でも70代でも、能力があれば働けます。ベンチャーキャピタルはシニアだけの会社に冷たいのですが、年齢で区切らず、仕事を見てほしいですね。何歳であっても、仕事への向き合い方が大事なのだと思います」  同社で最年長の宮本営業本部長は、センサー事業で世界へ進出する計画を立てており、海外進出のために必要なことを常に学び続けているそうだ。  同社は2021年、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催する「アクセラレーションプログラム」全6コースに参加するスタートアップ109社に選定された。参加企業は、アクセラレーターの実施するプログラムに参加し、事業構想策定、プロモーション活動にかかわる支援などを受け、海外投資家等に対する「DEMO(デモ) DAY(デイ)」を通じて海外市場展開、ネットワークの構築などを目ざすことができる。  大村社長と宮本営業本部長は全20回の同プログラムを受講し、審査の結果、最終10社まで残り、2022年3月16日、都内で開催された「DEMO DAY」に参加してプレゼンテーションを行い、その内容はジェトロが開設する海外投資家・企業等へ向けたサイトにアップされた。世界へ出ていく扉が大きく開かれた。 リハビリ用ロボットなど医療・介護・福祉分野での応用に期待  同社の挑戦は、世界展開だけではない。センサー開発の原点は、福祉分野にあった。  大村社長のお子さんには障害があり、筋力が弱く、手足にリンパ液がたまるため、乳児のときは大村さん自身がマッサージをすることもあった。毎日何回も行う家族の負担は大きく、マッサージをする指の動きを感知できるセンサーが開発できれば、リハビリ用ロボットに応用できると考えた。また、障害のある子どもたちが機能回復訓練を行う様子を見て、「何か力になれないか」と研究に打ち込んだ。これらの開発にはさらに高度な研究が必要だが、極細センサーを糸のように扱い、格子状に縫い込んだ「見守りシーツ」がすでに製品化を実現している。シーツの下に敷くことで、お年寄りや赤ちゃんがベッドを離れたりするとセンサーでわかるものだ。寝ている人の心拍や呼吸を感知することも可能だ。介護施設などで夜間に職員の仕事を軽減することができると評価を得て採用実績もあるが、まだコスト面が課題である。  そこで、活用が拡大している産業分野で売上げを伸ばしてセンサーの量産化を図り、コストの課題を克服していきたいと考えている。  また、指先にセンサーを装着して、作業者の指から触覚データを計測して共有することで、その触覚をどこにいても再現することができるセンサーの開発も進めている。センサーを織り込んだ布で、人の手のような高感度の触覚感度を再現できれば、リハビリを助ける機器などにも活用できるだろう。  注目を集める同社のセンサー開発の背景には、豊富な経験や積み上げてきた技術力を武器に集まってきたシニアたちがいる。そしてシニアの起業には、旺盛な好奇心と向学心が大切だと教えてくれる。 ※ アクセラレーションプログラム……大手企業や自治体が、新興企業や起業家などに出資や支援を行うことで、事業の発展を促進・成長させていくためのプログラム 写真のキャプション 直径0.5ミリのロボセンサーR。巻きつけたり、曲げたりすることも可能。長さは数キロまで伸ばせる 大村昌良代表取締役 2022年3月16日、ジェトロ主催「スタートアップシティ・アクセラレーションプログラム」の最終選抜10社が参加する「DEMO DAY」で発表する大村社長 【P23-26】 事例3 東京海上日動火災保険株式会社(東京都千代田区) 定年後再雇用のシニアの活躍の場を広げる二つの社内公募制を導入 創業から1世紀以上の歴史を持つ業界最大手の損害保険会社  日本最大手の損害保険会社である東京海上日動火災保険株式会社は、創業から1世紀以上の歴史を持ち、抜群の知名度を誇る。大学生の就職先人気ランキング上位の常連としても有名であり、自由闊達(じゆうかったつ)な社風が特徴だ。CSR(企業の社会的責任)活動にも早くから地道に取り組んでおり、1999(平成11)年から継続しているマングローブの植林や、2009年から保険約款などの紙資料をWEBに切り替えるGreenGiftプロジェクトを展開するなど、息の長い環境保護活動を進めている。代表的な取扱い損害保険の種類は、一般的になじみのある個人向けの自動車保険、火災・地震保険や傷害保険とともに、法人向けの賠償責任保険、貨物・運送保険、火災保険など多岐にわたる。  人事労務施策でも、さまざまな取組みを展開しているが、なかでも2021(令和3)年からスタートさせた、定年を迎えるシニアを対象とする、高度な専門性を求められるポストの公募制度「シニア戦略ジョブ」制度は、大きな注目を集めている。この公募制度を中心に同社の定年後のシニアの再雇用制度について紹介する。 バブル期入社組の定年を控え再雇用制度の整備・活用を検討  同社の従業員数は、シニア社員とパートタイマーを除く正社員が1万6208人(2022年3月末時点)。定年後再雇用のシニア社員は約850人(2022年4月時点)となっている。現役世代の年齢構成をみると、多くの大企業と同様に、バブル期の大量採用世代が50代となって大きなボリュームを占めており、3〜4年後にはこの世代が定年を迎え始めるため、定年後再雇用制度の整備と活用のあり方の検討が喫緊の課題となっている。  定年年齢は60歳で、再雇用の上限は制度上65歳となっており、現在の再雇用制度は、@通常の再雇用制度、A「シニアお役に立ちたい」、B「シニア戦略ジョブ」−−の三つ。70歳までの就業確保の努力義務化については、部分的に個別対応として取り組み始めたところだ。65歳以降では、体力面や気力面も含めて、個人差が大きく、年齢的にも介護など個別の事情があるため、これに応じた柔軟な働き方を組み込んだ制度の構築を検討しているという。  通常の再雇用制度では、定年を迎える3年前から定年後の再雇用について、定期的にアンケート形式で、どのような立場、どのような働き方で、いままでの勤務経験を活かしていきたいかを確認している。その結果をふまえて、人事でそれに合致するポストを検討して配置を行い、1年更新の雇用契約となる。必ずしも、定年時の職場と同じ職場で再雇用になるとはかぎらず、異動する場合もある。これは、定年以前は全国転勤が前提なので、住居は東京にあるが、定年のタイミングで地方勤務というケースも少なくないからだ。このようなケースでは、できるだけ自宅から通えるところに異動して、再雇用となる。専門性やノウハウを発揮するために、引き続き同じ部署に勤務するというケースもあるが、定年後の単身赴任は稀で、自宅からの通勤を希望することが多いという。 再雇用者を対象とする社内公募制「シニアお役に立ちたい」制度  通常の再雇用制度に加え、2016年に始めたのが、社内公募制の再雇用制度「シニアお役に立ちたい」。もともと、この「シニアお役に立ちたい」には、原型となる現役社員向けの制度があった。同社は、働く地域が限定的な「エリアコース社員」と全国転勤をする「グローバルコース社員」の、大きく二つの社員区分で構成されている。本来は転居を前提としないエリアコース社員を対象に、採用難などさまざまな事情で人員が不足している地方部署の仕事について、社内公募で手をあげてもらう仕組みが、従来から運用されていた「お役に立ちたい」と呼ぶ制度で、これのシニア版というイメージでつくったのが「シニアお役に立ちたい」制度だ。  この「シニアお役に立ちたい」のねらいは三つ。シニアは「自身のキャリアを活かして会社や組織の役に立ちたい」、「つちかった経験・知識を後輩に還元して育成したい」という思いを持っている人が多い。そんなシニアに活躍のフィールドを提供するということが1点目。また、同社は全国に拠点を展開しているため、なかには若年者の採用など人員確保が困難な拠点も存在する。2点目は、そのような人員確保に苦労している拠点の安定運営に貢献してもらうこと。3点目は、経験豊富なシニア社員と、現場の現役社員たちが連携し、知識経験・ノウハウを共有することで組織の力を高めていくことだ。  社内イントラネットに、どの地方拠点で、どのような部署でどんな役割をになってもらうか、ポストを具体的に開示して、公募にかける。それを見たシニアが、そのポストだったらチャレンジしてみたいと希望して応募。その後人事での選考を経て合否判定を出すというのが、制度のおおまかな流れだ。「シニアお役に立ちたい」の仕事の内容は、専門性が高いというよりは、ややゼネラリスト寄りだが、高い経験値が求められるようなものが多い。例えば損害保険サービス。保険金支払いの部門であれば、自動車の事故などで、お客さまと折衝して事案を解決していくようなポストや、保険ビジネスの根幹ともいえる代理店の経営支援、特に新規の代理店のサポート業務などが典型的となる。  通常の再雇用制度と「シニアお役に立ちたい」制度の違いは何か。あえて地方勤務を公募する理由は何なのか。人事企画部人事開発室の井上健太郎課長代理は、次のように説明する。  「ポストとして、特に重い役割や非常に高い専門性をお願いするわけではありませんが、通常のシニア社員と比較して一定の職務手当を支給しています。あわせて、シニアのつちかってきた経験やノウハウをより発揮することができるようなフィールドの提供がインセンティブになるような制度設計となっています」  つまり「職場で強く求められて、シニアが持てる力を発揮して職場に貢献する。地方拠点の人員不足という問題解決とともに、シニアの働きがいのある第二のキャリアを実現することがねらい」だと強調し、その延長線上に「最終的には、組織全体の活性化を図りたいとも考えています」(井上課長代理)という。  同制度を利用して活躍するシニアがいる一方で、思うようには応募者が伸びず、利用者の拡大が大きな課題となっている。その原因について、「定年年齢を過ぎてから、見ず知らずの土地に転居することはハードルが高かった。それぞれ、介護など個別の事情を抱えているケースも少なくありませんでした」(井上課長代理)と分析する。 専門性の高いシニア人材を公募「シニア戦略ジョブ」制度  このような状況をふまえて、2021年度から新たにスタートさせたのが「シニア戦略ジョブ」制度だ。「シニアお役に立ちたい」制度を基に、ネックになっていた転居をともなわずに、通勤できる首都圏エリアのポストを提示して、社内公募する制度を立ち上げた。  「シニア戦略ジョブ」制度の大きなポイントは、首都圏のポスト公募であることに加えて、より高度な専門性や知識・経験、役割が求められるポストであり、処遇面でも、それに応じた手当を支給すること。また、通常の再雇用制度と「シニアお役に立ちたい」制度が時間給なのに対して、「シニア戦略ジョブ」制度では、月給制を採用している。  「社内だけではなく、社外も含めて考えた場合、シニアがいままで蓄積してきたノウハウ、経験・知見を、引き続き当社で活かしてもらうためには、シニアにとって魅力ある制度設計にしなければならないと考えました」(井上課長代理)  スタートした2021年度は、首都圏の各部署から、一定の専門性が求められるとともに、役割が大きく、難易度が高い23のポストで公募を行った。2022年度では、これを47ポストに拡大した。  この「シニア戦略ジョブ」制度を活用した仕事の、具体的な例を紹介しよう。現在、社歴のほとんどを損害サービスの支払い部門で過ごし、そこで高度な顧客対応スキルを磨いてきたシニアがチャレンジしているのは、税理士などの士業を顧客とする特殊かつニッチな新しい保険領域。所属長は、「つちかってきた経験に裏打ちされた、寄り添うようなていねいな顧客対応が、新たな分野でも活かされている。自動車事故での対応など、一般の顧客に保険のプロとして対応するのとは違い、専門的な案件について、その道のプロを顧客として対応する業務は、だれもができるような領域ではない」と、その仕事ぶりを高く評価しているという。  この「シニア戦略ジョブ」制度は、「シニアにも一定のチャレンジを求めていて、シニアの新しい知識や体験から貪欲に吸収して成長している姿は、受け入れる側にとっても大きな刺激となって、職場を引き上げていってくれる力を持っていると感じる」という声も聞かれ、「受入れ職場には、よい意味での波及効果が生まれています。これが、この制度のねらいの一つでもあります」(井上課長代理)という。  定年後をどのように会社がサポートしてくれるのかは、現役世代も関心が高い。シニア人材の活用について、マイナスメッセージを現役世代に伝えることになっては、組織全体の士気が下がってしまうことにもなりかねない。  「雇用の流動性が高まって転職があたり前になるなか、その市場のなかで、東京海上日動で勤務することの動機づけは重要で、ベテランになっても安心して働ける会社にしていくことは、シニアやミドルだけでなく、もっと若い層にとっても非常に大切だと思います。そのため、処遇のあり方の検討など、制度をよりよくしていく方向で、さまざまな検討を行っていきます」(井上課長代理)  一方で、同制度の利用実績もまた伸び悩み、大きな課題となっているそうだ。  「まだまだ、手をあげるシニアが増えないのが悩みです。会社としては、シニアの活躍できるフィールドをきちんと用意したいと考えて取り組んでいるので、利用を拡大することが課題です」(井上課長代理)  その対応策について、井上課長代理は、「提示するポストの幅や数だけでは効果が限定的だとすれば、やはり、処遇の問題にも触れる必要があります。また、外部の労働市場と比較して、魅力的な制度を整備するためには、処遇面とともに、シニアのマインドの扱いが重要な鍵かもしれません。定年を過ぎても会社に貢献したいというシニアのマインドを、どのように会社の制度のなかに落とし込んで実現させていけるか、検討を深めなければならないと考えています」と話す。 研修と学び直しの機会を提供ミドルのマインドセットをうながす  シニアに定年後も活躍してもらうためには、気持ちの切り替えなどシニア自身の意識改革も必要になる。同社が、意識改革に向けた取組みとしてミドル層に提供しているのが、「キャリアデザイン50研修」と「東京海上日動版ライフシフト大学」。どのように自分のキャリアを描いていけばよいのかということを、個人任せにするのではなく、会社からもしっかりと情報を提供していくことが重要であるという考えのもと、行っている取組みだ。  「キャリアデザイン50研修」は50〜57歳の希望者を対象として、人生100年時代のなかで、今後、どのように自分のキャリアを自ら開発していくのかを考える、マインドセットのための研修。受講希望者が多く、抽選になる場合もあるほどだという。  もう一つが、去年から始めた企業内カレッジ「東京海上日動版ライフシフト大学」で、自発的な学び直しに向けた意識改革を目ざして、ロジカル思考やコーチング、コミュニケーションスキルなどの研修を行うもの。民間の研修会社が実施しているプログラムを、同社の社員向けにアレンジしている。東京海上日動版ライフシフト大学のコンセプトは、「ミドル層の社員一人ひとりが学び直しを通じて自分自身を内省し、自律的キャリア開発のためのマインドを養うとともに具体的アクションにつなげ、変化対応力を備える」ことで、ミドル層の活躍支援を強調。47〜56歳の管理職を対象とし、「自らの発意で学び直し、変化対応力を身につけることを選択する人」が応募要件となっている。参加費用は自己負担。取組み初年度は、オンラインで1回3時間の講義を全8回実施、14人が参加した。今後も、テーマを見直しながら継続して実施する考えで、プログラムの実施だけでなく、受講者同士のネットワークを通じた相互研鑽の継続、さらに学びを深めるための学習機会の提供など、多彩な学び直し機会の構築を目ざすとしている。  最後に井上課長代理は、「当社でも、シニアの活躍の場を広げるべく、いろいろなことを試しながら取り組んでいますが、まだまだ課題もたくさんあります。同じような悩みをお持ちの企業も少なくないのではないでしょうか。一緒にチャレンジしていきましょう」と締めくくった。 写真のキャプション 人事企画部人事開発室の井上健太郎課長代理 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 344 ニンニクを食べて花咲けるシニア 食文化史研究家● 永山久夫 ニンニクで養う「健康力」と「長寿力」  巷(ちまた)では「終活」が話題になっていますが、それ以前に大切なのは「老活」。人生の後半戦を現役力と知恵で楽しむ。定年になっても、再チャレンジはあたり前。自分の得意分野を活かして、新しいビジネスを立ち上げることも可能性大です。  そして、大成功して、宇宙旅行に出かける。そこまでいかなくても、都心に高層マンションを購入して、満月の夜には高級ワインを楽しむ。日本のシニアには、そのくらいの実力があるはずです。  その実力をフルに発揮して、成功人生を楽しむために必要となるのが「健康力」と「長寿力」。その両方の達成に役立つのが、ニンニクなのです。  強烈な臭いと辛味の、あのニンニクが「花咲けるシニア」の登場にたいへんな効果があります。そこで、まず重要になってくるのが、ウイルス感染など疫病にかからないための免疫力を強化することです。 男性ホルモンも強化する  日本人が古くから疫病予防のために食べてきたのがニンニクで、『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』という書物に「疫病、伝染病などが流行のとき、各家では、ニンニクを門のうえにかけて、これを防ぐ」とあり、ニンニクを味噌に漬けておいて食べるとよいともあります。  スタミナ強化や病気予防などのために、古くから重用されてきたニンニク独特の強力な臭いはアリシンという成分で、ニンニクの多彩なパワーのおおもと。  ニンニクは、ウイルスや細菌などに対する免疫をパワーアップさせる食べ物のナンバーワンと評価されており、これもアリシンの作用をいったものです。  アリシンは、疲れを取る働きのビタミンB1と結合してアリチアミンに変化し、その効果を高めて吸収をスムーズにしますから、疲労の回復に役立つだけではなく、イライラを鎮め、精神の安定にも寄与します。  男性ホルモンのテストステロンは元気シニアには欠かせませんが、ニンニクのアリシンには、そのホルモンを増やす働きがあるのです。さあ、ニンニクを食べて、残りの人生に花を咲かせましょう。ただし効果が大きいため、食べ過ぎは禁物。ほんのひとかけらで十分です。 【P28-29】 江戸から東京へ [第115回] 鎌倉殿の取替を策す 牧(まき)の方(かた) 作家 童門冬二 絹ごしトーフの策謀  女性が政治に関心を持ち、意見をいったり直接参加するのは、鎌倉時代にもあった。ここで紹介するのは、それが元となって大きな政争事件に発展したことだ。牧の方の乱≠セ。  牧の方は平(たいらの)頼盛(よりもり)に仕える牧(まきの)宗親(むねちか)の娘だった。当時大番役(武士に課された御所の守衛役)を務めていた北条時政(義時や政子の父)の後妻になった。このころは平家全盛の時代だから、時政も平家にあらざれば人にあらず≠フ風潮にしたがっていたのだろう。  それにぼく(童門)の考えでは、人間もトーフにたとえれば、絹ごし≠ニ木綿ごし≠ェある。絹ごしはやわらかく風情があり、木綿ごしは固く身が引きしまっている。  好みは人によるが時政は絹ごしのたおやかさに魅せられた。いわゆる京女≠フ風情にである。この妻にメロメロになった。  牧の方はいつもシトやかに夫にしたがうというタイプの絹ごしではない。男が支配している政治社会にも常に関心を持ち、特に人事に異常な興味があった。  ときの流れは源頼朝一族が平家をほろぼし、鎌倉殿(征夷大将軍)≠焉A頼朝・頼家の代を経て三代目の実朝(さねとも)になっていた。絹ごしの大好きな青年で、くらしも公家風を好み、和歌・蹴鞠(けまり)※などで送っていた。  牧の方も夫の時政が頼朝を初代の鎌倉殿に仕立てるうえでたいへんな功績を立てたので、元老的存在となり、重鎮的立場で相応の権威を持っていた。  権威大好きの牧の方は大きな不満を持っていた。それは実朝のあり様だ。  (これでいいのかしら?)  最初の疑問だ。それが、  (これでいいのならほかの人間でもつとまる)  に変わった。さらに、  (ウチの娘婿・平賀(ひらが)朝雅(ともまさ)〈当時京都守護職〉の方がマシだ)  に変わった。そしてついに、  「朝雅でなければダメだ」  に発展した。  この策謀への仲間づくりをはじめた。まず夫の時政。コロリとしたがった。実朝に不満を持った有力御家人も意外にも多い。グループは、  「実朝を殺して朝雅に替えよう」  と決議した。 質実剛健な木綿ごしトーフ  ところが政子の妹が実朝の乳母だったので、このことが耳に入りすぐ報告した。政子は激怒した。弟の義時に、  「牧の方一族を排除しましょう」  「父上は?」  「父上もヘチマもない。これは鎌倉殿へのムホン(謀反)です」  「わかった」  義時も近ごろの牧の方一族のふるまいにはマユをひそめている。本当は牧の方の狙いは、  「幕府から北条一族を除去し、自分の一族で支配する」  ということだったが、マゴマゴしているうちに先手をうたれて、政子・義時の軍勢に攻められて敗れてしまった。  時政も牧の方も殺されはしなかったが、時政の領地である伊豆北条の地に軟禁された。北条の地で時政は、  「いい年(六十七歳)をして絹ごし≠フいいなりになるからだ」  と笑われた。二度と復権の機会はこなかった。  (時政といっしょに吹き飛ばされたヘチマは、その後女性の入浴用具として社会への復帰に成功した)  この事件には牧の方の大きな見落としがある。それも二つある。 ・一つは当時の人々には、まだ貴種尊重≠フ気風が残っていたことだ。尊い人の血流を重んじる≠ニいう習慣だ。頼朝や実朝にはそれがあった(清和天皇以来の血脈)。牧の方や平賀にはそれがなかった。 ・もう一つは、政子の絶対的な絹ごし′凾「である。  東国武士の気風を、  「質実剛健」  ととらえ、それを、  「鎌倉殿に範を示してもらう」  という希(こいねが)いをも政子には、  「絹ごしは東国の武士を軟弱にする」  と思えた。政子はときに夫の頼朝にさえ、そういう不満を感じた。青年期まで京都育ちの頼朝は、時折嫌いな絹ごし≠チラリチラリと見せたからだ。そのたびに政子は、  (ひっぱたいてやろうかな)  と思った。政子の木綿ごし≠フニガリは本当に固かった。 ※ 蹴鞠……平安時代に、貴族の間で流行した屋外遊戯。シカ皮製の鞠を交互に蹴り上げ、地に落とさないようにして蹴り続け、蹴った回数を競う 【P30-33】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第120回 京都府 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳までの継続雇用制度を整えて技術を継承する環境が充実 企業プロフィール 近畿シコー株式会社(京都府久世郡(くせぐん)久御山町(くみやまちょう)) ▲創業 1949(昭和24)年 ▲業種 製造業 ▲社員数 84人(うち正社員数66人) (60歳以上男女内訳) 男性(13人)、女性(6人) (年齢内訳) 60〜64歳 9人(10.7%) 65〜69歳 7人(8.3%) 70歳以上 3人(3.6%) ▲定年・継続雇用制度 定年は60歳。定年後は、会社と本人の希望により、個別労働契約の合意のもと70歳まで継続雇用  京都府は、面積が約4612km2と47都道府県中31番目の大きさですが、世界文化遺産に認められた「古都京都の文化財」が多数点在するほか、ユネスコ無形文化遺産に登録された「京都祇園(ぎおん)祭の山鉾(やまほこ)行事」など、都がおかれた千年の歴史とそのなかで育まれてきた多彩な文化や芸術などが国内外に広く知られ、世界に誇る都市として発展しています。  西陣織、京友禅(きょうゆうぜん)、京焼(きょうやき)・清水焼(きよみずやき)など多くの伝統工業がいまも息づき、また、さまざまな分野ですぐれた技術が継承されており、ものづくりの企業が多いことも特徴で、総生産額でみた京都府の産業のトップは製造業となっています。主に、飲料・たばこ・飼料、食料品、輸送用機械器具、電気機械器具、電子部品などの製造が盛んです。また、日本有数のハイテク企業やベンチャー企業が集積していることも特徴とされています。 就業意識向上研修の開催を促進  京都府内の事業所の高齢者雇用の取組みを支援している当機構の京都支部高齢・障害者業務課の奥(おく)博史(ひろし)課長は、現在注力している取組みについて次のように話します。  「改正高年齢者雇用安定法に基づく制度改正のみを行えば、生産性が上がり事業がうまくいくかといえば、そうではありません。高齢社員をはじめ、働く側の意識向上が大事になります。人生100年時代を迎えるにあたり、50代で自分の健康、役割の変化への対応、人生設計を見直すことは必須と考えています。そのために、当機構の就業意識向上研修※の招致に力を入れています。研修で自分の人生の棚卸しをして、よりよい人生設計の見直しをしていただければ幸いです」  今回は、同支部で活躍するプランナーの一人、小林新治(しんじ)さんの案内で、「近畿シコー株式会社」を訪れました。  小林プランナーは、特定社会保険労務士の資格を持ち、プランナー活動においては長年勤めた銀行での経験や専門知識を活かして、各企業の状況に応じた相談・助言に取り組んでいます。 多業種に製品を提供、包装資材の総合メーカー  近畿シコー株式会社は、紙器を製造販売する会社として1949(昭和24)年に「近畿紙工」の社名で創業。包装資材の可能性を探るなか、5年後には箱の内容物が見えるプラスチック透明蓋を真空成形で製造し、紙とプラスチックを用いた画期的なパッケージとして注目されました。1979年には、社名を現在の近畿シコーに変更。包装資材の総合メーカーとして、お客さまのニーズにあった製品づくりに専念し、社是である「常に改善への努力」を経営理念として実践。デザイン性、機能性にすぐれたプラスチック容器やトレイなどを開発・製造・販売しています。手がけているのは、暮らしを便利にする日用品、食品のパッケージから、家電、産業資材まで多業種にわたります。スーパーマーケットやドラッグストアには、同社の製品を用いた商品がたくさん並んでいます。  また、環境保全への取組みが求められるなか、同社でも環境負荷軽減に向けた取組みに力を入れ、2004(平成16)年に環境マネジメントシステムの「KES環境マネジメントシステムスタンダードステップ2」の認証を取得。省エネルギー、産廃品の排出制御、社内のペーパーレス化などを推進し、目標を上回る成果をあげているといいます。さらに今後に向けて、植物から生まれて土に還る植物系生分解性プラスチックを素材とする製品開発に注力するなど、環境に配慮した製品づくりにも積極的に取り組むこととしています。 若手とベテランが補完し合う関係  同社を2019(令和元)年5月に初めて訪問した小林プランナーは、少子高齢化が進むなか、経験豊富な高齢社員を活用することが、経営面からも必要となることを説明し、高齢者雇用について幅広く意見交換をしました。  そして、「高齢社員が持つ強みの活用と働きやすい職場の実現を提案し、70歳までの継続雇用制度の整備をおすすめしました。ベテラン社員の知識を若手社員に継承することや、多能工化によりできる仕事の種類・範囲を広げておくこともアドバイスしました」と小林プランナー。  この提案をふまえて2021年7月、同社は従来の65歳までの継続雇用制度の年齢を引き上げ、個別の労働契約の合意のもと、70歳まで継続雇用する制度へと改めました。定年は60歳。65歳までの継続雇用は5年契約で、65歳以降は1年ごとの契約としています。  勤務時間の短縮などを希望する場合は、会社と働き方の話合いの場を設けているほか、継続雇用後も仕事ぶりを評価する制度があり、大きな差が生まれることはないそうですが、評価結果を賃金に反映しています。  70歳超についての制度はありませんが、会社が必要と認め、本人も働くことを希望する場合は継続して雇用しています。現在、70歳を超えた方は3人勤務しています。  総務課の藤田弥(わたる)次長は、70歳までの継続雇用を導入した同社の高齢者雇用の考え方について、次のように話します。  「15歳から64歳の生産年齢人口が減少する一方で、65歳以上の人口は今後も増加することが顕著であるなか、65歳以上で働く意欲のある方に雇用、就業機会をいかに確保するかが重要だと考えています。当社ではいま、技術の継承に力を入れています。今年度は3人の新規学卒者が入社しました。ベテラン社員には、65歳を超えても能力を十分に発揮して、若い社員の手本として活躍してほしいと考えています」  同社では、多品種一品物の受注生産が中心で、経験の浅い社員では対処できない仕事があり、そうした場合は、要所に配置しているベテラン社員が経験を活かし、試行錯誤をしながら若い社員を指導して仕事を進めています。現場では、「日ごろから、同じ工程にいる若い社員が力仕事をにない、ベテランにはなるべく頭を使う仕事を中心に従事してもらう風土が定着しています」と藤田次長。ベテランと若手が、うまく補完しあう関係ができているのです。  ベテラン社員に対して若い社員からは、「熱心にわかりやすく指導していただき、とても頼りになります。相談ごとに対しても自分の経験に基づいてアドバイスしていただき、尊敬しています」などの声があがっています。  今回は、若手にとって「憧れの存在」である西村雅之さん(65歳)にお話を聞きました。 必要とされている実感が力に  西村さんは、48歳で入社して、勤続年数は17年。以前の勤め先でも同じ仕事をしており、包装資材の仕事歴は40年になります。60歳の定年まで技術課の課長を務め、現在も技術課に在籍し、フルタイムで週5日勤務しています。  「仕事は、包装設計にともなう一連の業務です。お客さまとの製品化の打合せから、図面作成、試作、仕上げへの詰め、CADによる図面化、製造発注までを担当します」と西村さん。  例えば、ある新商品の容器をつくる仕事の場合、お客さまからのオーダーを元にイメージ図を描き、営業や製造の担当者とも連携しながら製品化を進めていきます。  「形のないところからつくっていくので、発想力が必要です。そういったものづくり≠おもしろいと感じられることが大事だと思います。私はこの仕事が好きで、おかげさまで楽しく続けられています」と笑顔で話します。  西村さんは、年間60点もの製品を生み出しています。苦労はしても、手がけたものが製品化され、店頭に並んだときの喜びが次のエネルギーになっているそうです。また、西村さんの仕事に対する姿勢を、会社が尊重してくれていることも感じており、「自分が会社から必要とされている」と実感できることが、常に仕事の原動力になっていると語ってくれました。  藤田次長は、「後進の育成もしっかり行ってくれて、『西村さんのようになりたい』と若手社員からいわれています。これからも長く働き続けてほしいです」と話します。  技術課の中村太一さん(24歳)は、「西村さんは、社内外から信頼されており、製品に対する発想力にはいつも感動しています。トラブルや困ったときの対応力もすごいと思います」と敬意を表します。継続雇用制度が70歳まで引き上げられたことについては、「上司に長く勤務してもらえる環境となり、仕事の継承がこれまで以上に充実したものになると思います」と話してくれました。 働きやすい職場の実現が不可欠  同社では「社員は家族」との考え方から、各種制度を整備するとともに、有給休暇などの取得を促進。現在はコロナ禍で休止中ですが、社員旅行や忘年会なども社員みんなで楽しむ会社です。  「社長を中心に、だれもが働きやすい環境づくりを推進し、育児休業なども取得しやすい職場になってきました」と藤田次長。  小林プランナーは、同社のこうした取組みについて次のように語ります。  「休暇を取得したり、短時間勤務や残業免除を選択したりするなど、働く時間に制約があることを前提とした人材の活用が、多くの企業で今後はさらに増えていきます。企業が安定的に収益を上げていくためには、年齢にかかわらず、働きやすい職場の実現が不可欠です。同社では、育児休業や有給休暇が取りやすい職場づくりを進めており、すでに働きやすい環境が整っており、70歳雇用がそこにかみ合って実現されたのだと思います。そして、それらにより、生産性の向上や技術の継承に効果が出てきていると思います」  同社は、2020年1月に丹波工場の旧工場などを解体し、生産現場に配慮した新工場を建設しました。同時に、現工場の設備を新工場に移設し、さらに増設も行い、今後の生産体制を整えています。また、環境負荷軽減に向けた取組みも引き続き推進しています。  「今後は、より多様な商品形態に対応する必要があると考えています。高齢社員には、豊富な経験と技術を存分に活かしてもらい、後進の育成と環境面に配慮した社会貢献にさらに取り組んでいくことを期待しています。技術の継承をしっかり行うことで、事業の継続を目ざしていきます」(藤田次長)  社是の「常に改善への努力」を実践している同社では、高齢者雇用の取組みも現状で完了とは考えていないようです。ゆくゆくは、定年年齢の引上げと賃金制度の再構築を行うべく、中長期的な計画の課題にあげています。(取材・増山美智子) ※ 就業意識向上研修の詳細は、当機構ホームページをご覧くださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html 小林新治 プランナー(65) アドバイザー・プランナー歴:15年 [小林プランナーから] 「『人に喜ばれること』を信念とし、高齢者雇用に関する提案だけでなく、常にその企業の労務管理全般の課題について、少しでも解決のお役に立てるなら、という思いで活動しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆京都支部高齢・障害者業務課の奥課長は、「小林プランナーは、2007 年から15 年間活躍しています。前職は銀行員ということもあり、訪問企業から多くの情報を得るために、社長をはじめ、経営層へのアプローチが多いことが特徴です。高齢者雇用の推進はもとより、定年前と後の賃金カーブ、同一労働同一賃金の奨励など、幅広く企業経営に長けたプランナーの一人です」と話します。 ◆京都支部高齢・障害者業務課は、長岡京市の京都職業能力開発促進センター内にあります。周辺には竹林があり、「京たけのこ」の産地としても有名です。アクセスは、阪急電鉄「長岡天神」駅東口下車、南へ600m、徒歩約8分。または、JR「長岡京」駅西口下車、西へ1200m、徒歩約15分。車では、長岡京インターから1.5Km、約5分です。 ◆同課には、9人の65歳超雇用推進プランナーが在籍し、2021年度は611件の相談・助言と、172件の制度改善提案(2022年3月末現在)を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 京都支部高齢・障害者業務課 住所:京都府長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 電話:075(951)7481 写真のキャプション 京都府久世郡久御山町 本社と二つの工場を持つ近畿シコー株式会社(写真は本社) 総務課 藤田弥次長 CADソフトを利用して製品図面を作成する西村雅之さん 【P34-37】 シニアのキャリアを理解する 事業創造大学院大学 教授 浅野 浩美  健康寿命の延伸や、高年齢者雇用安定法の改正による70歳就業の努力義務化などにより、就業期間の長期化が進んでいます。そのなかで、シニアの活躍をうながしていくためにも「キャリア理論」への理解を深めることは欠かせません。本企画ではキャリア理論について学びながら、生涯現役時代におけるシニアのキャリア理論≠ノついて浅野浩美教授が解説。今回で最終回となります(編集部)。 最終回 シニア期のキャリアを納得いくものとするには 1 はじめに  ここまで、シニア期に焦点をあてつつ、キャリア理論を紹介してきました。  何歳からシニアというのかについて、はっきりさせないまま、連載を進めてきましたが、改めて感じるのは、「シニア」といわれる年齢は、時代によってかなり違い、また、ミドルの後期のような人からかなり年齢が上の人まで、年齢幅が広く、しかも多様であるということです。  生きていればだれもが、いずれその多様なシニアの一人になるわけですが、どうすればシニア期のキャリアを納得いくものとすることができるのでしょうか。  納得いくキャリアを歩むためには、それに見合うものも必要です。最終回の今回は、シニアの能力と、シニアの学びについて考えたうえで、シニア期のキャリアのために、企業側、働く側は何ができるのかについて考え、連載を終えたいと思います。 2 シニアと能力  アメリカの心理学者であるレイモンド・B・キャッテルは、ヒトの知能は大きく、流動性知能(Fluid intelligence)と結晶性知能(Cryst allized intelligence)に分類されるとしました。流動性知能というのは、記憶・計算・図形・推理などに関する問題によって測定することができる知能。一方、結晶性知能というのは、言語理解・一般的知識などに関する問題によって測定することができる知能です。  この二つの種類の知能については、たくさんの研究がなされています。そして、流動性知能は加齢にともなって低下していく一方、結晶性知能は、成人に達した後も上昇し、長く維持されることが確認されています。  アラン・S・カウフマンは、WAIS(ウェイス)−R(アール)※1という成人知能検査の結果を用いて、動作的IQは、30歳以降低下し続けるのに対し、言語的IQは、その後も長く維持され、そののち緩やかに低下することを明らかにしています。動作的IQは、処理速度などで測定できる知能、言語的IQは、言葉理解力などで測定できる知能です。さらに、カウフマンは、知能が教育年数によって影響を受けることから、教育レベルを調整した分析(各年齢層における学歴別の人数割合を合わせた分析)を行い、言語的IQは、むしろミドル期、シニア期にあたる年齢層の者の方が高いことや、その後の低下幅が小さいことを明らかにしました(図表1・2)。  新たなものを生み出す創造性についてはどうでしょうか。イノベーション理論を提唱したヨーゼフ・A・シュンペーターは、「『新しい知』は『既存の知と、別の既存の知の新しい組み合わせ』によって生み出される」と述べています。創造性に関しても、多くの研究がなされており、たくさん知っていればよい、といったものではありませんが、多くのことを知っていることは、創造性を発揮するうえで、プラスになる可能性があります。  シニアの創造性については、別の研究もあります。アメリカの心理学者であるディーン・K・サイモントンは、クラシックの作曲家の作品を分析し、シニア期にも創造性のピークがあると主張しました。そして、これは、死を意識するようになることによるものではないかと考え、ヨーロッパでは白鳥は死ぬときに美しい声で鳴くといわれていることから、これを「スワンソング現象」と名づけました。  「シニアになっても、言語理解力などは長く維持されるし、創造性を発揮できる可能性がある」といわれても、「本当かな?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。  図表1・2をよく見ると、年齢別の学歴割合をコントロールしている方に比べ、コントロールしていない方では、言語的IQも年齢とともに低下しています。また、サイモントンは作曲家を研究対象としていますが、作曲家の方は、すぐれた曲をつくるために努力し続けている、ちょっと特別な人たちのように思われます。  かつてに比べ、教育水準が上がってきていることを考えると、今後、より長く能力が維持されることが期待できそうですが、世の中の変化の速度は増しています。変化に対応するために努力し続けることも求められそうです。 3 シニアと学び  シニアにかぎらず、社会人の学び直しが必要だといわれるようになってから、かなりの年月になります。  「年齢と学び」については、いくつもの調査結果があります。厚生労働省の能力開発基本調査を見ると、Off−JT、自己啓発とも、過去一年にこれを受講したり、実施した労働者の割合は、年齢とともに低下しています(図表3)。  高齢労働者の訓練などへの参加率が低い理由について、マテオ・ピッキオというイタリアの経済学者は、経済的な理由、態度的な理由、制度的な理由があると指摘しています※2。  経済的な理由というのは、学んでもそれを活用できる期間が短いということです。シニアにとっても、企業にとっても、学んだことによるコスト(時間、費用、労力など)を回収できない可能性が高い、ということです。さらに、高齢労働者と若年労働者が職業に関する訓練を一緒に受けた場合、高齢労働者は若年労働者に比べて、時間もかかり、成績もいまひとつ、といった調査結果もあります※3。労働者から見ると、学んだことによって収入が上がることが期待しづらいということもあります。  態度的な理由というのは、いわゆるバイアス※4のことです。「シニアはパソコンが苦手」、「シニアは新しいことを学びたがらない」などと年齢によって決めつけてしまうことのほか、「先輩にいまからこれを学んでもらうのは申し訳ない」などと気を遣ってしまうようなこともこれにあたります。シニア自身が、知らず知らずのうちに、こういったバイアスの影響を受けていることもあります。  制度的な理由というのは、シニアに合った訓練が用意されていない、シニアに合った方法で訓練がなされていない、などといったものです。  これらのうち、学んだことを活用できる時間については、職業人生が延びたことによって、大いに延びました。70歳まで働いてもらうのであれば、50代半ばからでも15年あります。若手・中堅の転職可能性などを考えると、「シニアだから学んでもらってもウチの会社で活かせる期間が短い」とは一概にいえなくなっています。  また、先ほど、一緒に訓練を受けた場合、高齢労働者は若年労働者に比べ、時間もかかり、成績もよくないなどと書きましたが、その一方で、講義に加えて、実際にやってみせる、参加させるなど複数の方法を用いたり、各人のペースで学んでもらったりするなど、やり方を工夫することによって、訓練効果を上げることができることもわかっています※5。  学ぶ側からみるとどうでしょう。本格的な学びである大学などでの学び直しについていえば、遜色ないようです。文部科学省委託調査※6によると、学び直しへの満足度は年齢が高い層ほど高くなっています。また、筆者は、社会人大学院で教員を務めていますが、年齢が上の学生の理解度が低いと感じたことはありません。 4 シニア期のキャリアのためにできること (1)企業は〜機会を提供する  少子高齢化が進むなか、シニアにも戦力となってもらうことが不可欠です。定年延長など制度面の改善も進みつつありますが、それだけでは十分ではありません。シニアには、すでにできることがたくさんありますが、より長く活躍してもらうためには、シニアにも学ぶ機会やチャレンジングな経験をする機会を与えたり、次のキャリアに向けた支援を行ったりすることが求められます。さらに、シニアが実際に活躍している様子を、将来のシニアである若手・中堅に見せることも必要でしょう。  わが国においては、年齢や勤続年数にともなって処遇が上がり、さらに、それによって生じる処遇と生産性のギャップを解消するために、役職定年や定年など年齢で一律に扱う、といった人事制度が一般的です。しかし、それではシニアの力を活用しにくいところがあります。より力を発揮できる選択肢も加えたうえで、シニアに対しどうしたいかたずねることが必要になってくると思われます。 (2)働く側は〜年齢をいい訳にしない  「そうはいっても残り時間というものもあるではないか」といわれそうですが、締切があるからこそ仕事を完成させられる、ということは、だれもが経験するところです。家族を養う必要性が小さくなることで、働き方の選択肢が広がることなども考えられます。  人生100年時代の新たな生き方を提案したリンダ・グラットン&アンドリュー・スコットは、「人生で様々な活動を経験する順序が多様化すれば、『エイジ』と『ステージ』がかならずしもイコールでなくなる」といっています。  また、第5回で取り上げたイバラは、「変化の多いいまの時代は、考えてアイデンティティを探すのでなく、まず小さくやってみることが大事だ」といっています。  日本人は、年相応を気にするところがあるようですが、年齢をいい訳にせず、まず小さなことから何か始めてみてはどうでしょうか。 5 おわりに〜若手・中堅は明日のシニア〜  日本には、4月号で取り上げたエリクソン※7がいうところの「年齢より相当若く見える単なる年配者」がたくさんいます。医療人類学者のシャロン・R・カウフマンは、ヒアリング結果をもとに、高齢者の自己概念が若いままであることを報告しています※8。見かけだけでなく、気持ちも若いのです。  ここまで、ずっとシニアを中心に話をして来ましたが、若手・中堅は「明日のシニア」です。シニア期のキャリアについて、企業も、シニアも、「明日のシニア」である若手・中堅の社員も、本気で考えてみてはどうでしょうか。 【引用・参考文献】 ●Charness, N., & Czaja, S. J. (2006). Older Worker Training:What We Know and Don't Know.# 2006-22. AARP. ●Gratton, L. & Scott, A. J. (2016). The 100-year Life:Living and working in an age of longevity. Bloomsbury Publishing. (池村千秋訳(2021)『LIFE SHIFT−100年時代の人生戦略』東洋経済新報社) ●Horn, J. L., & Cattell, R. B. (1967). Age differences in fluid and crystallized intelligence. Acta Psychologica, 26, 107-129. ●Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13 (3), 235-253. ●Kaufman, S. R. (1994). The ageless self: Sources of meaning in late life. Univ. of Wisconsin Press. ●Kubeck, J. E., Delp, N. D., Haslett, T. K., & McDaniel, M. A.(1996). Does job-related training performance decline with age?. Psychology and aging, 11 (1), 92. ●文部科学省委託調査(2016).『社会人の大学等の学び直しの実態把握に関する調査研究』 ●Picchio, M. (2015). Is training effective for older workers? Training programs that meet the learning needs of older workers can improve their employability. Iza World of Labor. ●Simonton, D. K. (1990). Creativity in the later years: Optimi stic prospects for achievement. The Gerontologist, 30(5), 626-631. ※1 WAIS-R……Revised form of the WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)のこと。1981年に開発された。対象年齢は16〜74歳。現時点でのWAISの最新版は、2008年に開発されたWAIS-Wである ※2 Picchio, M.(2015) ※3 Kubeck, J.E.S(1996) ※4 意識されているバイアスのほか、意識されていないバイアス(アンコンシャスバイアス)もある ※5 Charness, N., & Czaja, S. J.(2006) ※6 文部科学省委託調査(2016)「社会人の大学等の学び直しの実態把握に関する調査研究」。年齢計(n=7484)では「良い」(60.9%)、「まあまあ良い」(33.3%)だが、50歳以上(n=1536)では「良い」(69.6%)、「まあまあ良い」(26.4%)となっている ※7 エリクソン……アメリカの発達心理学者。詳細は2022年4月号を参照 ※8 カウフマンは、「エイジレス・セルフ(年齢を重ねない自己)」と呼んだ ★ 本連載の第1回から最終回までを、当機構ホームページでまとめてお読みいただけますhttps://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.htm 図表1 動作的IQに対する加齢の影響 動作的IQ 20-24(年齢) 教育レベル調整なし 101.1% 教育レベル調整あり 101.8% 25-34(年齢) 教育レベル調整なし 98.9% 教育レベル調整あり 98.9% 35-44(年齢) 教育レベル調整なし 93.3% 教育レベル調整あり 95.0% 45-54(年齢) 教育レベル調整なし 89.2% 教育レベル調整あり 92.4% 55-64(年齢) 教育レベル調整なし 84.2% 教育レベル調整あり 89.8% 65-69(年齢) 教育レベル調整なし 78.8% 教育レベル調整あり 82.4% 70-74(年齢) 教育レベル調整なし 75.6% 教育レベル調整あり 78.7% 出典: Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13(3), p.245 およびp.247 図表2 言語的IQに対する加齢の影響 言語的IQ 20-24(年齢) 教育レベル調整なし 95.6% 教育レベル調整あり 96.5% 25-34(年齢) 教育レベル調整なし 98.4% 教育レベル調整あり 98.4% 35-44(年齢) 教育レベル調整なし 94.5% 教育レベル調整あり 97.2% 45-54(年齢) 教育レベル調整なし 95.1% 教育レベル調整あり 99.4% 55-64(年齢) 教育レベル調整なし 92.6% 教育レベル調整あり 99.8% 65-69(年齢) 教育レベル調整なし 91.0% 教育レベル調整あり 98.6% 70-74(年齢) 教育レベル調整なし 89.5% 教育レベル調整あり 97.6% 出典:Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13(3), p.245およびp.247 図表3 年齢階級別Off-JT受講者、自己啓発実施者の割合 Off-JT 自己啓発 出典:厚生労働省「令和2 年度能力開発基本調査」 【P38-41】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第49回 複数の再雇用制度、能力不足による解雇 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後の再雇用について、賃金水準などが異なる二つの再雇用制度を用意することは可能でしょうか  定年後の再雇用者について、一定の要件を基に賃金水準をある程度維持する再雇用制度と、その要件を充足しない労働者のために賃金水準や業務内容を変更したうえで雇用を維持する再雇用制度を用意しようと考えているのですが、可能でしょうか。 A  複数の再雇用制度を用意することは可能ですが、いずれかについては高年齢者雇用安定法の継続雇用制度の要件を充足する必要があります。いずれかが要件を充足しているかぎりは、賃金水準や業務内容に差異を設けることも許容されうるでしょう。ただし、大きな変更をともなう場合には労使間の協議を経て、継続雇用制度を構築することが重要です。 1 定年後の再雇用について  定年後の再雇用制度については、高年齢者雇用安定法に基づき65歳までの継続雇用などが求められています。  継続雇用制度として許容されるためには、解雇事由または退職事由に相当する事由がある場合を除き、原則として継続雇用を行うことが求められています。  ただし、再雇用契約においては、使用者からの労働条件の変更がまったく許容されていないわけではなく、合理的な裁量の範囲内で、定年前までの労働条件から変更した内容で提示することは可能です。  今回は、定年後の再雇用において、二種類の制度を置くことによって、再雇用後の働き方や労働条件を分けることが可能であるのかという点について、裁判例の紹介とともに検討したいと思います。 2 裁判例の紹介  定年後の再雇用制度として、二種類の制度を採用し、それぞれの再雇用基準を異なる内容としたうえで、労働条件にも差異を設けたものが、高年齢者雇用安定法が求める継続雇用制度として許容されるのか判断された裁判例を紹介します(東京高裁令和元年10月24日判決)。事案の概要は、以下の通りです。  バスの運営をしていた会社が、@継匠社員制度とA再雇用社員制度という二種類の制度を用意していました。@の制度は、バスの運転士としての業務を維持したうえで、賃金の減額についてAよりも程度が小さく、勤務日数などについても変更がないというもの。Aの制度は、車両の清掃業務に担当業務が変更となり、賃金は時間給に変更され、賞与の金額も10万円に固定されるというものです。  また、@の制度に基づき継匠社員として採用されるためには、解雇事由などに該当しないことや、直近5回の昇給および昇進評価においてC評価(全体の下位10%程度)に該当しなかったことなどが要件とされており、希望者全員が継匠社員になれるという制度ではありませんでした。一方、Aの制度については、解雇事由または退職事由に該当することが明らかである場合を除き、全員が再雇用社員として有期労働契約を締結するという制度になっていました。  ある労働者が60歳で定年退職となるにあたり、継匠社員としての採用を希望しましたが、過去の5回の昇給および昇進評価においてC評価が3回以上あったことを理由に、継匠社員としての雇用契約の締結が拒絶され、再雇用社員として採用されました。  そこで、当該労働者は、継匠社員制度が、高年齢者雇用安定法が定める継続雇用制度の要件を充足しておらず、過去の昇給および昇進評価に基づき定年後の再雇用が拒絶されることが違法となると主張して、訴訟を提起しました。  裁判所は、「継続雇用制度は、現に雇用している高年齢者のうち就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する者を除く希望者全員をその定年後も引き続いて雇用することを内容とするものでなければならないものと解されるが、継匠社員制度は、継匠社員制度選択要件が定められており、現に雇用している高年齢者のうち就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する者を除く希望者全員をその定年後も引き続いて雇用することを内容とするものではなく、同項所定の継続雇用制度の内容に合致するものではない」と判断し、@継匠社員制度は、高年齢者雇用安定法の定める継続雇用制度ではないと判断しました。  一見すると、会社が高年齢者雇用安定法違反を問われるような不利な判断がなされたようにも見えますが、本件のポイントは、二種類の制度が用意されていたという点にあります。  続けて、裁判所は、A再雇用社員制度については、高年齢者雇用安定法が定める継続雇用制度にあたらないとはいえないと判断しており、これにより同法を遵守しているものと判断されています。  ただし、A再雇用社員制度が同法に定める継続雇用制度として認められたとしても、賃金の低下の程度や業務内容の大幅な変更がある点については、問題になる余地があります。これらの労働条件の変更についても、合理的な裁量として許容される範囲で提示される必要があり、裁量を逸脱すると違法と判断されることがあるからです。  この点については、この裁判例では、まず、C評価が全体の下位10%程度にすぎないことに加えて、乗務員の圧倒的多数を組合員とする労働組合との度重なる労使交渉を経て成立したものであることを重視して、賃金および業務内容の大幅な変更をともなう継続雇用制度を適法なものとして許容しています。  これまで紹介した裁判例においては、賃金や業務内容の大幅な変更をともなう場合には、実質的には「継続」した雇用ではなく、通常解雇と新規採用の複合行為というほかないと判断し、当該変更を提示することが違法とされたものがありますが(名古屋高裁平成28年9月28日判決)、今回紹介した事件のポイントは、労使交渉により、労使がともに高年齢者雇用安定法の趣旨をふまえ、二種類の定年後の再雇用制度を検討したうえで、継続雇用制度を構築したという点にあると考えられます。  高年齢者雇用制度においては、再雇用後に有期労働契約となると、正社員との同一労働同一賃金をふまえた制度設計が必要となりますが、定年後の再雇用制度を複数設けることによって、正社員と近い業務内容および賃金体系の再雇用労働者と、正社員とは異なる業務内容や賃金体系による再雇用労働者の区別を明確にすることは、同一労働同一賃金との関係においても、有意義な制度設計と考えることもできるように思われます。 Q2 勤務成績・勤務態度の悪い社員を解雇するうえでの留意点について知りたい  営業成績が芳しくなく、必要となる能力だけでなく業務に対する前向きな姿勢や向上意欲を欠く労働者がいます。会社としては、改善の機会を与えたうえで好転の見込みがなければ解雇したい意向です。改善の見込みがないと判断する基準などをどう考えればよいでしょうか。 A  一般的には、文書による指導によって改善対象を明確化し、改善見込みがないことを期間や頻度によって判断する必要があります。改善見込みがないと判断する基準について、一概にはいえませんが、厳格な注意や指導に加えて、同様の命令違反がくり返されることが必要となります。 1 解雇について  労働契約法第16条では、解雇に関して、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。@客観的に合理的な理由およびA社会通念上の相当性を欠く場合に解雇を無効とするという考え方は、「解雇権濫用法理」と呼ばれ、長く日本の労働契約における解雇に関する制限として機能しています。  まず、@客観的に合理的な理由については、解雇の理由が、主観的ではないという意味があります。さらに、この要件については、解雇事由が将来にわたって継続するものと予測されること(将来予測の原則)および最終的な手段として行使されること(最終手段の原則)の二つの要素を考慮して判断すべきという整理がされています。改善の機会を与えることや好転の見込みなどを考慮するというのはこれらの要素を充足するための準備であり、将来予測の原則や最終手段の原則を充足するかどうかを検討しなければなりません。  次に、Aの社会通念上の相当性については、本人の反省の態度、過去の勤務態度、ほかの労働者との均衡、使用者側の対応の不備の有無などのほか、違反などの反復継続性も考慮されて判断されることになります。 2 将来予測の原則の例外について  即戦力が期待されるような管理職や高度専門職として採用された場合には、将来予測の原則から求められる改善の機会などの必要性について、新卒採用と比較すると、後退すると考えられています。  例えば、会社が特定の職種の経験があり即戦力となる人材として募集し、英語力に秀でた人材を中途採用することとして、経験が必要であることを明示して募集し、中途採用された人材もこれを理解していた事例においては、雇用時に予定された能力をまったく有さず、これを改善しようともしない場合は、解雇せざるを得ないと判断された例があります(東京地裁平成14年10月22日判決、ヒロセ電機事件)。しかしながら、中途採用時の年俸が高額かつ役職を与えられた状態であった場合であっても、募集時において経験不問との記載があり、オフ・ザ・ジョブトレーニングが完備されていることなどをふまえて、一定期間稼働して求められる能力や適格性を平均的に達することが求められているものというべきと判断された例もあり(東京地裁平成12年4月26日判決、プラウドフットジャパン事件・第一審)、管理職や高度専門職として認定されるためには、募集時の要望や採用前の説明内容なども重要とされていることには注意が必要です。  とはいえ、管理職や高度専門職となることはあくまでも例外であることから、一般的には、業務改善の機会を含む将来予測の原則を充足するか否かについては慎重な判断がなされているのが実情です。 3 改善の機会の与え方や期間について  「改善の見込みがないこと」が解雇を実施するにあたって、重要であることは間違いありませんが、その判断は非常に困難です。担当している業務の内容や任されている地位などにも左右されますし、会社の状況によってあくまでもケースバイケースで判断されてしまうため、一定の基準を示すことはむずかしいです。  とはいえ、何らの指標もないままでは、実務的にどのように判断すればよいのか具体的に検討することすらできません。そこで、過去の裁判例を参考に判断の方法を検討します。  能力不足や勤務態度不良を理由とした普通解雇が有効とされた事例として、東京地裁平成26年3月14日判決(富士ゼロックス事件)があります。  中途採用で採用された労働者が、無断で3回の半休を取得したこと、机での居眠り、無断残業、通勤費用の修正、週報の提出遅れ、社用の自転車の私的利用、私用のインターネット閲覧を逐一注意され、これ以上の違反が生じた場合に重大な判断がありうる旨記載した警告書を交付され、それに対して署名押印をした後、会社の命令でほかの支店に異動させてさらに改善を求めましたが、異動後も遅刻し、ビジネスマナーが守られず、メモを取らないうえ、ミスを多発していました。再度研修を実施しましたが、改善できず、再度の警告書を交付しました。  さらに、違反事由が多岐にわたるうえ、改善の具体的な見通しがつかないことから、会社は、指示事項を文書化し、その後、当該文書に違反した場合に逐一注意し、複数の指示事項違反が生じた後に、原因と対策を検討するようにレポート作成を命じて提出させていました。結局、レポートの内容は根本的な問題点に関する考察に不足があるものでしたが、解雇の対象者からは「これ以上は教えてもらわなければわからない」などと話がされたので、具体的な訂正指示をしましたが、簡潔なレポートが提出されるに留まったため、最終的に解雇に至り、この解雇は有効と判断されました。  ポイントをまとめると、@違反事由に該当する行為が記録化され、注意した旨が残されていたこと、A支店へ異動させて環境を変えて改善の機会を再度与えていること、B警告書や指示事項を文書化するなどの方法で、改善点の特定および明確化を複数回図っていること、C労働者の自己認識を把握するためにレポートを作成させていること、などがあげられます。また、これらの状況もふまえて、業務の成果に対する人事考課においても低い評価が継続されていたという点も無視することができません。  改善のための回数や期間なども無視できませんが、やはり、違反事項と注意の記録を残すことと、フィードバックを行うことにより注意に対する自己認識を明らかにすることが必要と考えられます。今回のケースでは、レポート作成をさせたことが、改善すべき課題を明確に認識させたことにつながっており、ほかの事例でも参考になるのではないでしょうか。 【P42-43】 病気とともに働く 第三回 三井化学株式会社 さまざまな両立支援制度を拡充 制度に関するガイドブックも作成し情報発信  加齢により疾病リスクが高まる一方、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病が「長くつき合う病気」に変化しつつあり、治療をしながら働ける環境の整備も進んでいます。本連載では、治療と仕事の両立を支える企業の両立支援の取組みと支援を受けた本人の経験談を紹介します。  東京都港区に本社のある三井化学株式会社は日本有数の総合化学メーカーとして、産業のあらゆる分野で私たちの生活を支えている化学製品を日々、世に送り出している。  従業員数が1万8051人(連結2021〈令和3〉年3月31日現在)にものぼる同社では、社員の健康増進にも力を入れており、これまで「健康経営優良法人〜ホワイト500〜」(大規模法人部門)に6年連続で認定されるなど、さまざまな成果をあげてきた。  そんな同社では、仕事と治療の両立支援制度を充実させる一方、産業医を中心として、どう病気に対処してよいのかわからない社員、主治医の専門用語や意図などが理解できない社員などの相談に乗るなど、必要なアドバイスやサポートを行う活動も展開してきた。  そこで、同社の健康管理室の産業医、岡崎(おかざき)浩子(ひろこ)さんと、人事部ダイバーシティ&インクルージョングループの安井(やすい)直子(なおこ)グループリーダーに両立支援の取組みを、そして両立支援を受けている社員(匿名)にお話を聞いた。 本人が制度を理解し取り組めるようにサポート  同社における健康支援体制の特徴は、本社をはじめとした研究所、主要工場の健康管理室に専属の産業医や保健師、衛生管理者などを配置するだけでなく、その健康管理室がグループ全社員に対する支援も行うという総合的な活動にある。  同社が多くの支援策を整備するなかで、制度設計が速やかに行われ、実効性が上がっている背景には、医療者が社員として常駐していることが大きく寄与していると安井さんは語る。  「専門家の立場から人事と職場の間に入ってもらい、どの程度の負荷をかけてよいかなど、客観的な意見をいただくことができます。職場の業務や制度なども含めて理解している産業医が、本人を介して主治医・職場・人事など仕事と治療にかかわる人すべてをチームとしてまとめ、復帰までの支援をしていくのです」(安井さん)  しかし、チームとはいってもあくまでも主治医とやりとりをするのは本人に任せていると岡崎さんは強調する。産業医と主治医が直接かかわるという会社も多いが、同社では社員を通しての情報共有が基本だ。  「個人情報の保護という面もありますが、病気に罹(かか)ったのも、治療を受けるのも本人ですから、やはりきちんと病気のことを認識して、正しい理解のうえで治療を受けるべきだと思います。そのためにも必要以上に専門職間でやり取りをすることは避けています」(岡崎さん)  主治医から聞いたことを産業医に伝えるとなると、本人が病気と向き合う時間をつくり、主治医の話を理解していなかったことがわかるチャンスでもある。岡崎さんが「主治医は多分こういいたかったのではないですか?」と聞いてみると、実は違う意味で受け取っていたというケースだ。大きな病気がみつかれば、そのショックで頭が真っ白になり、主治医の言葉が頭に入ってこないこともある。そうしたときに産業医が的確なアドバイスをすることで冷静になることができるのだ。  実際に支援制度を活用し、癌からの職場復帰を果たした社員からは、「健康管理室にはずいぶんと精神面で助けていただいたように思います。初めてのことですし、選択肢もいくつかあるなかで、相談するだけで、気持ちが落ち着きました」といった感謝の声が聞かれた。  こうした地道な取組みの結果、現在同社では病気の発症を理由に退職する社員がほぼゼロとなった。 ガイドブックなどを整備してより身近で使いやすいものに  同社の特別休暇制度は、もともと通常の有給休暇(翌年まで持ち越し可)に加え、使い切れず失効した有給休暇を積み立てておける制度であり、「大病で入院を要するとき」に使うことを想定していた。しかし近年、治療方法の進歩と多様化により、通院治療も増加したため、治療に必要な場合は半日単位から取得できるように改正したものだ。そのほか、通院時の移動時間を削減するためにテレワークを活用したり、病気治療に関する時短勤務も導入するなど、時代に合わせた施策を数々行ってきた同社。「制度に関してはこの先はもうこれ以上増やせるものはないのではないかと思うほどです」と安井さんは語る。しかしその一方で、これらの制度の認知度がなかなか向上しないとも感じていた。  「みなさん、当事者になってから制度に気がつくのです。ただでさえ病気で不安なときに、バタバタと情報収集するのもたいへんですし、休んで治療する以外の選択肢がないと思いこんでしまったりということもあります。そうなる前にどんな支援があるのか知っておいてほしい」と安井さん。そのために作成したのが『仕事と治療の両立支援ガイドブック』だ。  どこにどういう情報があるのか、どんな手続きが必要なのかを整理して、社内イントラネットに掲載しているが、掲載しただけでなく、「病気になる前から読んでもらうにはどうしたらよいのか」が今後の課題だ。  「特に若い世代は健康に対する意識が薄いので、入社時に説明しただけでは、ほとんど覚えていません。しかし、病気や介護はある日突然やってきます。そのとき慌てないように、ときどきパラパラっと見たり、いざとなったときに、まずそれを見れば何をすればよいのかがわかるというような内容の気軽に読めるハンドブックなどを、施策ごとにつくっていきたいですね」と、安井さんは同社の優れた支援制度のさらなる認知度向上を目ざしている。 仕事と治療の両立支援ガイドブック 〜病気になっても安心して働けるしくみ〜 1.正しい情報を集めましょう 2.出社しながら治療を続ける 3.会社を休むことになったら? 4.療養開始〜療養中 5.復職に向けて 6.参考例 7.プライバシーの配慮 8.情報開示のメリット 9.各種相談窓口 10.医療機関での両立支援 11.最後に MCI 健康管理室人事部 仕事と治療の両立に必要な情報がまとめられている。病気になったらどのような行動が必要になるのかが時系列でわかるようになっているほか、どのような制度なのかイメージしやすいように事例を多く掲載するなどの工夫がなされている 資料提供:三井化学株式会社 【P44-45】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第25回 「ダイバーシティ」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回はダイバーシティについて取り上げます。用語としては広く浸透しており企業経営に大きくかかわるものでもあります。本稿では、定義や企業経営における位置づけ、取組み状況に焦点をあてて解説していきます。 ダイバーシティは企業経営における重要戦略≠ナある  ダイバーシティとはアメリカを発祥とする用語で、日本語では「多様性」と直訳されます。企業とのかかわりを示すものとしてわかりやすいのが、日本におけるダイバーシティの普及のきっかけをつくったといわれる「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書(2002〈平成14〉年)の定義です。ここでは、「ダイバーシティとは『多様な人材を活かす戦略』である。従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」としています。  報告書でも指摘されていますが、20世紀半ばの高度経済成長期に代表されるように経営環境が安定し、経済が右肩上がりに成長していた時代には、従来の日本人・男性を主な対象とした終身雇用・年功序列を中心とした画一的な人員構成や価値・発想が日本企業の成長に有効とされていました。しかし、高度経済成長期の終焉から現在にかけては、本連載でも何度も取り上げている少子高齢化により雇用の対象を日本人・男性に絞り込むと立ち行かない、加速化する市場や生産のグローバル化に対して日本人の価値観や手法だけでは対応できない、高まる人権意識のなかで属性による処遇の差別は許されなくなっているといった課題が年を経るごとにますます大きくなっています。画一的な人員構成では解決できないこれらの課題に対し、企業の構成員を多様化し、個々人が持つさまざまな発想や能力を尊重して活かすことで、戦略的に対応していくことが企業におけるダイバーシティといえます。 多様性の対象範囲は広い  それでは「多様性」とは一般的にどのようなことが想定されているのでしょうか。いろいろな分類がありますが、ここでは「個人属性」、「価値観・働き方」の二つの切り口でみていきます。報告書で指摘されている従来の日本人・男性・画一的な価値・発想との対比でイメージするとわかりやすいと思います。 @個人属性…女性の活躍や管理職・役員登用、若年層・高年齢者を含めた年齢にとらわれない雇用と活躍、外国人人材の受入れなどがあげられます。また、障害のある人やLGBT(性的マイノリティ)に対する理解と配慮をもった職場環境の構築も重要です。 A価値観・働き方…異なる意見の受容や尊重、さまざまな経験や能力をもった人材の雇用や適材適所、仕事と生活のバランスに配慮したワークライフバランスなどがあげられます。また、ここには本人の価値観や生活状況に基づく、限定された時間や職務への従事や、副業の推進など働き方の多様化も含まれます。  これらの多様性を推進していくためには、属性別の雇用や管理職比率の目標値を設けたうえで具体的なアクションを定めたり、終身雇用・年功序列の人事制度からパフォーマンスや職務を重視した制度への転換、残業規制・有給休暇消化の推進、属性にとらわれない福利厚生の導入などルールや仕組みの面での整備が必要です。しかし、その前提となるのは多様性を認め合い受容する(インクルージョン)ことといわれています。いくら多様性を促進したとしても、互いの理解がなければ職場における対立が生まれ、企業・組織の成長どころか生産性を落とすことにつながりかねません。多様性と受容を包括して対応することが重要であることから、ダイバーシティ&インクルージョン(Dive rsity and Inclusion)とセットで呼ぶこともあります。 日本における実施状況  冒頭で述べたように用語としては浸透していますし、重要性についても理解も深まっているように思えます。しかし、現時点での実現度については一般的には疑問視されています。統計からみて取れますが、わかりやすい指標としてあげられるのが、女性の管理職・取締役比率の低さです。図表を参照すると一目瞭然ですが、欧米諸国と比較すると女性の就業比率はほぼ同等のなか、管理職比率は14.8%と顕著に低い状態にあります。取締役会における女性取締役の比率についても、トップのフランス44.6%に対して、日本は11.0%と同一の比較対象国のなかでもっとも低い位置にあります(成長戦略会議〈第10回〉配付資料 2021〈令和3〉年)。また同資料では外国人取締役の割合にも触れていますが、トップのドイツ30.0%に対して日本は4.0%とこちらも日本の低さが際立っています。このほか、国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数について日本の順位は156カ国中120位と先進国のなかで最低レベル、アジア諸国のなかで韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果と指摘されている(世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数2021」)など、国際比較するうえで日本の後れを示す統計が多々出てくるといった状況です。今後、日本企業がダイバーシティをより強く意識して推進していかなければならないのは間違いなさそうです。  次回は、「早期退職・希望退職」について取り上げます。 図表 管理職の女性割合の国際比較(2019年) 米国 就業者の女性割合 47.0% 管理職の女性割合 40.7% 英国 就業者の女性割合 47.3% 管理職の女性割合 36.8% フランス 就業者の女性割合 48.5% 管理職の女性割合 34.6% ドイツ 就業者の女性割合 46.6% 管理職の女性割合 29.4% 日本 就業者の女性割合 44.5% 管理職の女性割合 14.8% (注)日本は総務省「労働力調査(基本集計)」、諸外国はILO"ILO STAT"における「管理的職業従事者」の女性割合 (出所)内閣府『男女共同参画白書 令和2年版』(2020年7月公表)を基に作成。 出典:「成長戦略会議(第10回)配付資料」内閣官房成長戦略会議事務局 【P46-51】 特別寄稿 多様な働き方に対応する年金制度へ2022年4月以降の年金制度改正のポイント 株式会社田代コンサルティング 社会保険労務士 田代(たしろ) 英治(えいじ) はじめに  2020(令和2)年5月29日に成立した、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(同年6月5日公布)が2022年4月から施行されました。重要な改正ポイントは図表1の通りです。本稿は、年金制度改正の背景をふまえ、改正法のポイントや留意点について解説します。 T 改正の背景と目的  わが国の人口推移を基に今後の社会・経済の変化を展望すると、少子高齢化と健康寿命の延伸により、現役世代については人口の減少と社会保障費負担の増大は避けがたく、労働市場における人手不足はより進行することになります。一方、就労に対する価値観が多様化するなか、高齢者や女性の就業が進み、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれます。  今回の年金制度改正は、こうした社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給のあり方の見直しなどの措置を講じるものです。また、年代を問わずあらゆる世代が抱えていると思われる年金制度に対する漠然とした不安や誤解を解消するとともに、将来に向けた安定した年金制度を持続させることも目的の一つと考えられます。 U 改正法のポイント 1 被用者保険の適用拡大 (1)短時間労働者への適用拡大措置 @事業所における企業規模要件等の段階的引上げ  一定規模以上の企業には、アルバイト・パートタイマーなどの短時間労働者を厚生年金の適用対象とする義務があります。この企業規模要件は、改正前は従業員数500人超でしたが、2022年10月に従業員数100人超、さらに2024年10月に従業員数50人超と段階的に拡大します。  企業規模要件の「従業員数」は、適用拡大以前の被保険者人数(フルタイムの労働者と週労働時間が通常の労働者の4分の3以上の短時間労働者の合計)をさし、法人の場合は同一の法人番号を有する全事業所単位、個人事業主の場合は個々の事業所単位でカウントします。なお、従業員数は月毎にカウントし直近12カ月のうち6カ月で基準を上回ったら適用対象となり、一度適用対象となると従業員数が基準を下回っても引き続き適用される点に注意してください(ただし、被保険者の4分の3の同意で対象外となることが可能です)。 A短時間労働者を適用対象とすべき要件の一部緩和  短時間労働者の適用要件の一部が緩和されます。具体的には勤務期間は「1年以上」という要件が撤廃され、フルタイムなどで働く被保険者と同様の「2カ月超」とします。なお、現行制度の運用上、実際の勤務期間にかかわらず、基本的に下記のいずれかにあてはまれば、勤務期間を1年以上見込みと扱いますので、適用除外となるのは、契約期間が1年未満で、雇用契約書等に更新可能性の記載がなく、更新の前例もない場合にかぎられています。 (参考)勤務期間を1年以上見込みと扱うケース ・就業規則、雇用契約書等その他書面において、契約が更新される旨または更新される場合がある旨が明示されていること ・同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により1年以上雇用された実績があること  以上の要点をまとめると、図表2のように整理されます。 B短時間労働者への対応  改正前の年金制度では、配偶者の扶養に入っている方(国民年金第3号被保険者、健康保険被扶養者)が年収130万円を超えた場合は、原則的に扶養を外れ、配偶者自ら国民年金・国民健康保険に加入し、保険料を全額負担する必要がありました。  今回の改正後は、被用者保険適用基準106万円(月額8万8000円の年額換算)を超えると被用者保険に加入することになり、被保険者として保険料の負担が発生します。しかし、負担する保険料は事業主と折半することができ、将来の年金給付や健康保険の傷病手当金などの保障は手厚くなります。また、雇用契約を結んだ時点で事前に被用者保険の適用・非適用が定まり、「被扶養認定基準(130万円)の壁」のように、年末に年収を抑える調整を行う問題はなくなります。短時間労働者には、被用者保険に加入するメリットを含めていねいに説明し、理解を得ることが望まれます。 (2)そのほかの改正事項  今回の改正では、被用者保険の非適用業種の見直しも行われます。  改正前は、常時1名以上使用される者がいる法人事業所、および常時5名以上使用される者がいる法定16業種に該当する個人の事業所は、被用者保険が強制適用される一方、農林漁業、士業、宿泊業等は法定16業種に入らず、強制ではなく任意適用とされてきました。  今回の改正では、非適用業種(法定16業種以外の個人事業所は非適用)が見直され、法律・会計事務を取り扱う士業(図表3)が追加され、法定17業種になりました。  また、健康保険についても、被用者保険として厚生年金保険と一体として適用拡大され、国・自治体などで勤務する短時間労働者に公務員共済の短期給付(医療保険)が適用されます。 2 在職中の年金受給のあり方の見直し (1)在職定時改定の導入  改正前は、老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合は、退職や70歳到達により厚生年金被保険者の資格を喪失するまで、老齢厚生年金の額は改定されませんでした。しかし、高齢期の就労が拡大浸透するなか、就労を継続した効果を退職まで待たずに反映することで、年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤の充実を図ることが重要との認識に立ち、新たに在職定時改定を導入します。この制度は、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料を年金額に反映するもので、具体的な制度の仕組みは図表4、運用のイメージは図表5の通りです。 (2)65歳未満の在職老齢年金制度の見直し  在職中の60〜64歳の労働者を対象に、年金を受給しながら働き続けることを促進する改定が行われました。改正前は賃金と年金受給額との合計が月額28万円を超えると年金の一部または全額が支給停止されていましたが、改正後は年金の支給停止となる基準額が47万円に引き上げられ、65歳以降の方と同額に緩和されます。具体的には、図表6の通り、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「47万円」以下であれば年金は全額支給され、超えた場合は超えた額の1/2の年金が支給停止となります。 3 受給開始時期の選択肢の拡大  近年、わが国の健康寿命が延伸したことにより高齢者の就業期間も長くなったことから、年金の受給開始の選択肢も拡大する改定が行われました。これにより老後のライフプランの選択肢も広がることになります。  改正前は、年金の受給開始年齢は原則65歳、希望により60歳から70歳の間で受給開始時期を自由に決めることができました。改正後は、受給開始の原則65歳は変えず、受給開始年齢を60歳から75歳の間に拡大しました。これにともない、図表7のように、65歳から75歳間でくり下げた場合、1カ月につき0.7%(2022年4月1日以降70歳到達者から適用)増額された年金(最大84%増)が支給されます。一方、受給時期を65歳から60歳間でくり上げた場合、1カ月につき0.4%(2022年4月1日以降60歳到達者から適用)減額された年金(最大24%減)が支給されます。 4 確定拠出年金の加入可能要件の見直し等 (1)確定給付企業年金と確定拠出年金のアウトライン  確定給付企業年金(以下、「DB」)と確定拠出年金(以下、「DC」)は、拠出や給付の仕組みは異なりますが、公的年金の給付と相まって国民の老後の所得確保を図るという制度の目的は共通しています。DBは、あらかじめ加入者が将来受け取る年金給付の算定方法が定められ、資産は集団・加入者全体で管理され企業が運用します。DCは、あらかじめ事業主・加入者が拠出する掛金の額が定められ、資産は加入者単位で管理され個人が運用します。なお、DCは掛金を企業が負担する企業型DCと、掛金を加入者が負担する個人型DC(iDeCo)に区分されます。 (2)確定拠出年金(DC)の加入可能年齢の引上げ  企業型DCの加入者は、改正前は厚生年金被保険者のうち65歳未満の者とし、60歳以降は同一事業所に継続して使用される者に限定されていました。改正後は、こうした年齢要件や60歳以上の同一事業所勤務要件はなくなり、70歳未満の厚生年金被保険者であれば加入可能とされ、異なる事業所に転職した場合も70歳まで加入者となることができます。一方、個人型DC(iDeCo)は、改正前は国民年金被保険者(第1号・2号・3号)のうち60歳未満の者に限定されていたため、例えば、第2号被保険者である民間会社員で60歳以上の者は加入できませんでした。改正後は、60歳未満とする年齢要件がなくなり、国民年金被保険者(65歳未満)であれば加入できるようになります。また、これまで海外居住者は個人型DC(iDeCo)に加入できませんでしたが、国民年金に任意加入していれば加入できるようになります。以上の要点をまとめると、図表8のように整理されます。 (3)受給開始時期等の選択肢の拡大  改正前は、確定拠出年金(企業型DC、個人型DC)は、60歳から70歳の間で各個人において受給開始時期を選択できましたが、改正後は、公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大にあわせて、上限年齢を75歳に引き上げました。  また、確定給付企業年金(DB)については、改正前は一般的な定年年齢をふまえ60歳から65歳の間で労使合意に基づく規約において支給開始時期を設定できましたが、改正後は、企業の高齢者雇用の状況に応じたより柔軟な制度運営を可能とするため、支給開始時期の設定可能な範囲を70歳までに拡大しました(図表9)。 (4)確定拠出年金の制度・手続き上の改善 @中小企業向け制度の対象範囲の拡大  中小企業の企業年金実施率を高めるため、中小企業向けに設立手続きを簡素化した「簡易型DC」や、企業年金の実施が困難な中小企業がiDeCoに加入する従業員の掛金に追加で事業主掛金を拠出できる「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)」について、制度を実施可能な従業員規模を100人以下から300人以下に拡大しました(図表10)。 A企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)加入の要件緩和等(2022年10月)  改正前は、企業型DC加入者のうちiDeCo(月額2.0万円以内)に加入できるのは、iDeCo加入を認める労使合意に基づく規約があり、事業主掛金の上限を月額5.5万円から3.5万円に引き下げた企業の従業員に限定され、あまり活用されていない状況でした。こうした状況を打開するため、掛金の合算管理の仕組みを構築することで、規約の定めや事業主掛金の上限の引下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残余の範囲内で、iDeCo(月額2.0万円以内)に加入できるように改善を図ります。  この改正により、例えば企業型DCに加入する場合は、事業主による掛金が拠出限度額(月額5.5万円)未満の加入者は、月額2.0万円以内かつ事業主掛金とiDeCo掛金の合計が拠出限度額(月額5.5万円)を超えない範囲内で掛金の拠出が可能になります。また、その従業員があわせてDBなどにも加入する場合は、事業主掛金が月額2.75万円未満の加入者は、月額1・2万円以内かつ事業主掛金とiDeCo掛金の合計が拠出限度額(月額2.75万円)を超えない範囲内で掛金の拠出が可能になります(図表11)。 Bそのほかの改善  そのほかには、企業型DCの規約変更、企業型DCにおけるマッチング拠出とiDeCo加入の選択、DCの脱退一時金の受給などについても手続きの改善が図られます。 5 年金制度改定による企業対応  今回の改正は、アルバイト・パートタイマーなどの短時間労働者や高齢労働者、フリーランスが増加するなかで、多様な働き方にも対応できる年金制度を目ざしたものです。こうした労働者については、近年「よい人材確保のため」、「女性やシニアの有効活用」、「介護や看護、持病などの事情を理由とした貴重な戦力の離職防止」として採用する企業も多くなっています。さまざまな雇用形態を取り入れ、柔軟な働き方が可能な社内体制を構築することが企業には不可欠であり、今回の制度改定も年金制度の面からそのことを促進するものと思われます。企業においては新たに対象者となる従業員に対し、説明会の開催などを通して改正内容の周知を図り、そのうえで必要な手続きを進めていくことが求められます。  なお、今回の改正では、国民年金手帳から基礎年金通知書への切替え、短期滞在の外国人に対する脱退手当金の支給上限を3年から5年に引上げ、また年金生活者支援給付金の支給に関する法律では、新たに支給対象となりうる方が請求漏れとなるのを防ぐため、所得や世帯情報の照会の対象者が見直されます。児童扶養手当法では、児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直しが行われ、ひとり親の障害年金受給者が児童扶養手当を受給できるようになります。改正内容を把握したうえで実務作業の準備を進めてください。 図表1 年金制度改正のポイント 重要な改正法のポイント 施行期日 1.被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大 (1)短時間労働者への適用拡大措置 (2)その他の改正事項 (1)2022年10月  2024年10月 (2)2022年10月 2.在職中の年金受給の在り方の見直し 2022年4月 3.受給開始時期の選択肢の拡大 2022年4月 4.確定拠出年金の加入可能要件の見直し等 2022年4月、5月、同年10月 (注)今回の改正では、上記以外に[国民年金法、厚生年金保険法、年金生活者支援給付金の支給に関する法律、児童扶養手当法など]の改正も行われています ※筆者作成 図表2 被用者保険の適用拡大のポイント 対象 要件 改正前 2022年10月 2024年10月 @事業所 企業規模 常時500人超 常時100人超 常時50人超 A短時間労働者 労働時間 週の所定労働時間が20時間以上 (変更なし) (変更なし) 賃金 月額88,000円以上 (変更なし) (変更なし) 勤務期間 継続して1年以上使用される見込み 継続して2カ月を超えて使用される見込み 継続して2カ月を超えて使用される見込み 適用除外 学生 (変更なし) (変更なし) 図表3 適用業種に追加される「士業」 弁護士・司法書士・行政書士・土地家屋調査士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・公証人・海事代理士 図表4 在職定時改定の仕組み ○基準日(毎年9月1日)において被保険者である老齢厚生年金の受給者の年金額について、前年9月から当年8月までの被保険者期間を算入し、基準日の属する月の翌月(毎年10月)分の年金から改定されます。 ※2022年10月分については、65歳到達月から同年8月までの厚生年金に加入していた期間も含めて、年金額が改定されます。 ○対象者となるのは65歳以上70歳未満の老齢厚生年金の受給者です。 (注)65歳未満の方はくり上げ受給をされている方でも在職定時改定の対象となりません。 ※図表2〜4すべて筆者作成 図表5 在職定時改定の運用イメージ 現行 65歳 66歳 67歳 68歳 69歳 70歳 (70歳まで継続就労のケース) 老齢厚生年金 老齢基礎年金 70歳到達時(厚年喪失時)に年金額改定 退職改定による年金額増額分 見直し内容 標準報酬月額20万円で1年間就労した場合→+13,000円程度/年(+1,100円程度/月) 65歳 66歳 67歳 68歳 69歳 70歳 (70歳まで継続就労のケース) 老齢厚生年金 老齢基礎年金 在職中毎年1回の改定 在職定時改定による年金額増額分 【在職中でも毎年10月に、前年9月から当年8月までの被保険者期間が年金額に反映】 出典:厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」 図表6 65歳未満の在職老齢年金制度の見直しのポイント 改正前 改正後(2022年4月) ・総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「28万円」を超えない場合→年金額の支給停止は行われない。 ・総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「47万円」を超えない場合→年金額の支給停止は行われない。 ・「28万円」を上回る場合→年金額の全部または一部を支給停止。 〈支給停止額の計算式〉 (省略) ・「47万円」を上回る場合→年金額の全部または一部を支給停止。 〈支給停止額の計算式〉 (総報酬月額相当額+基本月額―47万円)×1/2×12 総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額)÷12 基本月額:加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生年金(退職共済年金)の月額 図表7 年金受給開始時期の選択肢の拡大 改正前 改正後(2022年4月) 受給開始年齢の範囲 60歳から70歳 60歳から75歳 60歳以上65歳未満くり上げ 0.5%/月 (最大▲30%減) 0.4%/月 (最大で▲24%減) くり下げ 65歳超70歳 0.7%/月 (最大+42%増) 0.7%/月 (最大で+42%増) 70歳超75歳 ― 0.7%/月 (最大で+84%増) 図表8 確定拠出年金の加入要件の拡大 〈企業型DC:厚生年金被保険者〉 年齢・事業所 改正前 改正後(2022年5月) 65歳以上70歳未満 ― 加入可 60歳以上65歳未満 60歳前と同一事業所勤務は加入可 (撤廃) 60歳未満 加入可 加入可 〈個人型DC(iDeCo):国民年金被保険者〉 第1号 20歳以上60歳未満の自営業等 第2号 民間会社員等の厚生年金被保険者 第3号 20歳以上60歳未満の厚生年金被保険者の被扶養配偶者 改正前 改正後 (2022年4月) 改正前 改正後 (2022年4月) 改正前 改正後 (2022年4月) 65歳未満60歳以上 ― ※任意加入者の加入可 ― 加入可 ― ※任意加入者の加入可 60歳未満20歳以上 加入可 加入可 加入可 加入可 加入可 加入可 20歳未満 ― ― 加入可 加入可 ― ― (注)任意加入者:保険料納付済期間等が480月未満の者(65歳未満) 図表9 確定拠出年金・確定給付企業年金の受給範囲の拡大 改正前 改正後 確定拠出年金 (企業型DC、個人型DC) 60歳から70歳の範囲 (2022年4月施行)60歳から75歳の範囲 確定給付企業年金(DB) 60歳から65歳の範囲で労使合意の規約 (公布日施行) 60歳から70歳の範囲で労使合意の規約 図表10 確定拠出年金に関する中小企業向け制度の対象範囲の拡大 改正前 改正後(2022年10月) 従業員規模 100人以下 300人以下 ※図表6〜10すべて筆者作成 図表11 企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)加入要件の緩和 現行 iDeCoの加入を認める労使合意に基づく規約の定め等がなければ、加入者全員がiDeCoに加入不可 (万円) 5.5 5.5(万円) 事業主掛金 事業主掛金 事業主掛金と加入者掛金の合計 選択 (万円) 5.5 iDeCo 事業主掛金 2.0万円 3.5万円 上限の引下げ 3.5 5.5(万円) 事業主掛金 事業主掛金と加入者掛金の合計 ※企業型DCと確定給付型を実施している場合は、5.5万円→2.75万円、3.5万円→1.55万円、2.0万円→1.2万円 見直し内容 規約の定め等を不要とすることで、これまで加入できなかった多くの者がiDeCoに加入可能 (万円) 5.5 3.5 2.0 iDeCo 事業主掛金 事業主掛金 3.5 5.5(万円) これまで加入できなかった多くの者が加入可能 この層については、拠出限度額に収まるようiDeCo掛金の額の調整が必要となる場合がある 出典:厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」 【P52-55】 TOPIC 2021年 全国非営利団体のシニア人材へのニーズ調査 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター  2021(令和3)年4月より改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業確保措置が企業の努力義務となりました。この法改正では自社での雇用延長などとならび、「創業支援等措置」として、業務委託や社会貢献事業への就業が選択肢として示されており、シニアの活躍の場として、社会貢献事業への就業が注目を集めています。  そんななか、認定特定非営利活動法人日本NPOセンターでは、2021年5〜6月、非営利団体(以下、「NPO」)のシニア人材の受け入れ現状と今後のニーズについて全国調査を実施しました。社会貢献事業とシニア就業の関係を示す資料として、同調査の一部を抜粋してご紹介します。 1 「現在」の法人運営や事業活動に関わる「外部組織の人材※1の受け入れ※2状況」 ●現在の「外部組織の人材」の受け入れ状況  現状、約5割の団体が、外部組織の人材を受け入れている(図表1)。法人格別にみても同様の傾向であった。ただし、公益財団法人(N=33)では「受け入れている」が約8割であった。  受け入れ先団体での立場(複数回答)は、役員、正職員が約4割、嘱託/契約職員/アルバイトは約5割、プロボノやボランティアが約3割、出向者、インターンも1割弱あり、さまざまな立場で受け入れられていることがわかった(図表2)。 ●現在、受け入れている「外部組織の人材」の出身組織  現在、受け入れている「外部組織の人材」の出身組織は、民間企業出身者が約8割、行政出身者が約4割、その他の組織出身者が約4割で、民間企業出身者の割合が高いことがわかった(図表3)。  また、これらの重なりをみると、複数の出身組織を受け入れている団体が約5割あり、多様な出身者が参加していることもわかった。  「その他の組織の内訳」:主な組織をあげると学校法人の出身者がもっとも高く36%、次に医療法人18%、消費生活協同組合5%、宗教法人3%であった。 ●現在、受け入れている「外部組織の人材」の属性  全体として「定年退職した人」の割合がもっとも多く、「転職してきた人」、「今も在籍している人」もそれぞれ受け入れられていることがわかった(図表4)。  企業出身者の属性は、定年退職した人、転職してきた人、今も在籍している人が、それぞれ約5割であった。  行政出身者の属性は、定年退職した人が約6割でもっとも多く、今も在籍している人が約3割、転職してきた人が約2割であった。  その他の組織出身者の属性は、今も在籍している人がもっとも多く約5割で、定年退職した人および転職してきた人はともに約4割であった。  各属性ともに「今も在籍している人」が一定の構成比で存在するが、専門知識を活かすボランティア(プロボノ)、さまざまな領域を支援するボランティア、嘱託/契約職員/アルバイトの立場で、ある組織に在籍しながら団体に貢献していることがうかがえる。 ●現在、受け入れている「外部組織の人材」の年齢層  幅広い年齢層が受け入れられている。  すでに60代以上のシニア人材は、多く受け入れられている。60代が最も多く約6割、次に40〜50代が約4割、70代も約3割になる(図表5)。  法人格別に見ても同様の傾向である(N数=100以下に有意差なし)。 ●現在、受け入れている「外部組織の人材」の勤務形態  約7割が、業務内容に応じた日数・時間での勤務、約4割が週5日のフルタイムで受け入れられており、さまざまな受け入れの仕方であることがわかった(図表6)。 ●現在受け入れている「外部組織の人材」の組織内での役割・業務内容  担当する個々の事業全般が約6割でもっとも高く、組織がすすめる事業に参加していることがわかる(図表7)。  また、その他の割合から各団体の課題やニーズに対応して、経験や知見を活かして、さまざまな役割や業務をになっていると思われる。 2 「今後」の「シニア人材」の受け入れ意向・要望 ●今後、自団体の活動を支える人材としての「シニア人材受け入れ意向」  「ぜひ+やや受け入れたい」が約5割、「まったく+あまり受け入れたいと思わない」が約2割であった。  また、「やや受け入れたい」が約2割、「どちらとも言えない」が約4割で、合わせて6割が「受け入れるには課題がある」と認識していると思われる(図表8)。 ●今後、シニア人材に「期待する能力・役割」  今後、シニア人材に期待する能力・役割は、現在受け入れている外部組織の人材の役割・業務内容と同様、さまざまな領域で幅広い。  そのなかで、寄付や活動資金の獲得活動が約4割、会員の拡充に向けた活動が約3割で、継続課題である支援者や資金の拡充をより一層強化したい意向がうかがえる(図表9)。 ●今後、シニア人材に求める「人物像・資質」  「人柄」、「理解」、「行動」のすべてにわたってスコアが高く、そのなかで、団体の活動に参加するための基本となる「団体のビジョンに共感する人」が約8割である。  次に「コミュニケーション能力に長けている人」が約6割で、外部組織出身かつシニアの人が、これまでの出身と異なる領域で、世代も異なる非営利団体の職員とスムーズなコミュニケーションを取り、ミッション達成に向けて活躍できるかどうか、課題を感じている団体が多いことがうかがえる(図表10)。 ※1 本稿における「外部組織の人材」とは、「民間企業」「行政」、あるいはそれ以外の「他の組織」で、「過去に働いてきた方(退職者)や転職などをされた方」で、年齢は問わない ※2 団体の職員として雇用したり、あるいは、専門知識を活かすプロボノ、外部組織からの出向者など、さまざまな形で団体を支える人材として、ともに活動したりすること。なお、団体設立時に在籍された方々ではなく、「設立後」新規に受け入れた方々のことをさす 図表1 現在の「外部組織の人材」の受け入れ状況 N=865 受け入れている 51% 受け入れていない 49% 図表2 受け入れ先での「外部組織の人材」の立場 N=440 複数回答 役員 40.0% 正職員 42.7% 嘱託/契約職員/アルバイト 48.2% 特定領域の専門知識を活かすボランティア(プロボノ) 26.1% さまざまな領域を支援するボランティア 25.9% 外部組織からの出向者 7.3% インターン 5.9% その他の立場(ポジション) 5.7% わからない・覚えていない 0.9% 図表3 受け入れている「外部組織の人材」の出身組織 (注)「現在受け入れている」N=440を100としたときの割合 民間企業 いる 85.9% いない 14.1% 行政 いる 38.0% いない 62.0% その他の組織※ いる 37.3% いない 62.7% ※「その他の組織の内訳」:主な組織をあげると学校法人の出身者が最も高く36%、次に医療法人18%、消費生活協同組合5%、宗教法人3%であった。 図表4 現在、受け入れている「外部組織の人材」の属性 「企業人材」の属性 N=378 定年退職した人 48.9% 転職してきた人 46.6% 今も在籍している人 48.9% その他 6.3% 「行政人材」の属性 N=167 定年退職した人 62.3% 転職してきた人 23.4% 今も在籍している人 32.3% その他 5.4% 民間企業や行政以外の「他の組織の人材」 N=164 定年退職した人 36.0% 転職してきた人 39.6% 今も在籍している人 50.6% その他 4.9% 図表5 現在、受け入れている「外部組織の人材」の年齢層 N=440 複数選択 10代 3.2% 20代 22.5% 30代 37.5% 40代 47.3% 50代 45.9% 60代 61.4% 70代以上 29.8% わからない 0.7% 図表6 現在、受け入れている「外部組織の人材」の勤務形態 N=440 複数選択 週5日のフルタイム勤務 44.1% 不定形の業務内容に応じた日数や時間での勤務 74.8% 上記以外の勤務形態 13.2% 図表7 現在、受け入れている「外部組織の人材」の役割・業務内容 N=440 複数選択 (経営) 経営層に対する提言・助言 30.9% 団体の中長期戦略の策定 23.2% 団体全体の組織運営の戦略策定 33.0% 団体全体の事業展開の戦略策定 36.6% (寄付/会員) 寄付や活動資金の獲得活動 18.4% 会員の拡充にむけた活動 19.1% (組織) 会計・経理業務 36.8% 法律・法務業務 11.6% 人事・人材開発業務 16.1% 総務業務 30.9% (個々の事業) 担当する個々の事業全般 64.8% (専門分野) 外国語を基盤とする業務 5.9% IT関連(パソコン、ソフト、リモートなど) 22.7% 広報戦略・企画立案など 23.2% 機関誌など発行物の企画・編集 17.5% WEBやSNSの企画、運用、分析 20.5% 上記以外の役割・業務 14.1% 図表8 今後、自団体の活動を支える人材としての「シニア人材受け入れ意向」 N=865 ぜひ受け入れたい 24.4% やや受け入れたい 23.1% どちらとも言えない 35.7% あまり受け入れたいと思わない 9.9% まったく受け入れたいと思わない 6.8% ぜひ+やや受け入れたい 47.5% まったく+あまり受け入れたいと思わない 16.7% 図表9 今後、シニア人材に「期待する能力・役割」 N=720※ 複数選択 ※「ぜひ受け入れたい」+「やや受け入れたい」+「どちらとも言えない」の回答者 ●シニア人材の方が高い ★30%以上 (経営) 経営層に対する提言・助言 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 30.9% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 19.7% 団体の中長期戦略の策定 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 23.2% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 17.8% 団体全体の組織運営の戦略策定 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 33.0% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 22.4% 団体全体の事業展開の戦略策定 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 36.6% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 26.0% (寄付/会員) ●寄付や活動資金の獲得活動 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 18.4% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 36.7%★ ●会員の拡充にむけた活動 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 19.1% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 30.6%★ (組織) 会計・経理業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 36.8% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 31.7%★ ●法律・法務業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 11.6% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 21.8% 人事・人材開発業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 16.1% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 15.7% 総務業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 30.9% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 22.8% (個々の事業) 担当する個々の事業全般 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 64.8% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 37.9%★ (専門分野) ●外国語を基盤とする業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 5.9% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 7.4% ●IT関連(パソコン、ソフト、リモートなど) 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 22.7% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 25.0% ●広報戦略・企画立案など 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 23.2% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 23.3% ●機関誌など発行物の企画・編集 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 17.5% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 18.1% ●WEBやSNSの企画、運用、分析 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 20.5% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 23.9% わからない シニア人材に「期待する役割・業務内容」 7.1% 上記以外の役割・業務 外部組織人材の「現場の役割・業務内容」 14.1% シニア人材に「期待する役割・業務内容」 8.3% 図表10 今後、シニア人材に求める「人物像・資質」 N=720※ 複数選択 ※「ぜひ受け入れたい」+「やや受け入れたい」+「どちらとも言えない」の回答者 人柄 団体のビジョンに共感する人 78.5% 課題解決のために情熱を捧げられる人 47.8% 課題を抱える人やコトに親身になって寄り添える人 51.4% 理解 全体を見渡す目を持つ人 50.8% これまでの文化・思考・行動などとの違いを理解し受け入れられる人 57.8% 行動 与えられた役割をきっちりこなせる人 50.7% 限られた資産の中で最大効率・効果を追求できる人 32.1% 課題解決や交渉ごとの調整能力に長けている人 45.8% コミュニケーション能力に長けている人 62.9% わからない 1.8% 上記以外の人物像・資質 4.4% 共感・情熱・寄り添い 鳥瞰・違い受容 コミュニケーション力 役割きっちり果たす 問題解決・調整力 【P56-57】 BOOKS 65歳以降の雇用・就業に向けた現状と課題を整理 JILPT第4期プロジェクト研究シリーズNo.1 70歳就業時代における高年齢者雇用 森山智彦(ともひこ)、労働政策研究・研修機構 編/労働政策研究・研修機構/2750円  本シリーズは、(独)労働政策研究・研修機構の第4期中期目標期間に進めてきたプロジェクト研究のなかから、一般でも特に関心が高く重要と思われるテーマを取り上げ、書籍として刊行したもの。その第一弾として、高齢者雇用をめぐる研究成果が選ばれた。  今回の研究は、60代前半の継続雇用と60代後半の雇用状況に関する統計分析を実施し、65歳以降の雇用・就業に向けた現状と課題を体系的に明らかにすることを目的としている。とりわけ「高齢者雇用の推進」という社会的要請に対応するため、企業がどのような人事施策を実施し、それが個人の働き方にどのように影響しているかに着目、その成果を収録している。  具体的には、企業側の視点(第1章〜第4章)と労働者側の視点(第5章〜第7章)の双方から高齢者の働き方の現状と課題を明らかにするよう努めている。例えば、65歳までの継続雇用体制に関する分析では、60歳前後で仕事内容や責任を見直さない継続雇用制度へ変えていくことが、65歳以降の雇用、就業機会の拡大に寄与する可能性を指摘している。定年を境とした評価・処遇制度の見直しが大切であることが裏づけられたといえるのではないだろうか。 本質的な取組みへの理解と実践に役立つ一冊 中小企業のための人事評価の教科書 制度構築から運用まで 宮川淳哉(じゅんや) 著/総合法令出版/1760円  長期化するコロナ禍やテクノロジーの進化により、テレワークが急速に普及し定着しつつある。また、人口減少下の日本ではだれもが活躍できる社会の構築が必要といわれ、これまでになかった多様な働き方が出てきている。従来の雇用のあり方、評価のあり方、マネジメントのあり方では通用せず、さまざまな問題が生じているという企業が増えているのではないか。  一方で、「人事評価や面談が『作業』になっていて、十分な効果が上がっているとはいえない」など、そもそも人事評価がうまく機能していない中小企業も少なくないようだ。  本書は、経営コンサルタントとして150社を超える企業の人事制度の構築・運用にたずさわってきた著者が、「多くの日本企業は見かけのトレンドに振り回されて、何のために人事評価を行うのかという本来の目的に真正面から取り組んでこなかった」と指摘し、コロナ前もコロナ後も変わらないとする人事評価とマネジメントの本質を説き、人事評価制度の活用法を解説。人事評価制度の基本を学びたい人から、問題の解決策を求めている人、テレワークやジョブ型雇用など最近の人事の課題への対応を考えている人まで幅広い層に役立つ内容となっている。 ダイバーシティ経営に取り組む意義を知るための最良のテキスト シリーズ ダイバーシティ経営 多様な人材のマネジメント 佐藤博樹(ひろき)、武石(たけいし)恵美子 責任編集/佐藤博樹、武石恵美子、坂爪(さかづめ)洋美(ひろみ) 著/中央経済社/2750円  発刊されるたびにこのコーナーで紹介してきた、「シリーズ ダイバーシティ経営」の第5弾は、ダイバーシティ経営全体を俯瞰(ふかん)する、いわば「総論」と位置づけられる内容。  第1章「ダイバーシティ経営とは何か」では、ダイバーシティ経営推進と企業の経営戦略との整合性の重要性を取り上げ、第2章「ダイバーシティがもたらす成果とそのメカニズム」では、ダイバーシティ経営がもたらす効果に関する先行研究を紹介。第3章「ダイバーシティ経営に適合的な人事管理システム」、第4章「ダイバーシティ経営の土台としての働き方改革と『境界管理』」、第5章「従業員の自律的なキャリア形成支援」においては、ダイバーシティ経営を定着させるために必要な人事管理システムや働き方の改革、社員のキャリアの自律に焦点をあてている。締めくくりとなる第6章「欧州企業のダイバーシティ経営」では、ダイバーシティ経営と人事管理システムの現状と課題について欧州における事例研究を通じて明らかにしている。  ダイバーシティ経営に取り組む企業の人事労務担当者にとって、全社をあげて取り組む意義を容易に理解することができる、最良のテキストだといえるだろう。 新しい働き方や労働形態への対応をわかりやすく解説 テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A ロア・ユナイテッド法律事務所 編、編集代表・岩出(いわで)誠(まこと)/民事法研究会/3520円  働き方改革が推進されるなか、柔軟な働き方として、副業や兼業を手がける人がじわじわと増えている。従業員にこれらを認めたり、あるいはフリーランスや、フリーランスのなかでもインターネットを通じて仕事を単発で請け負う「ギグワーカー」と呼ばれる人たちと取引きを始めたりした企業もあるだろう。さらに、コロナ禍でのテレワークの急速な普及も重なり、従来とは違った労務管理が必要となっている。  本書は、雇用型・自営型テレワークや副業・兼業、独立系フリーランスなどの新しい働き方、労働形態を企業が活用する観点から、最新の法令・裁判例、ガイドラインなどをふまえて、適切な労務管理を行うための実務と必要となる規定例、トラブルが発生した場合の対処法などをQ&A形式で解説。実務のニーズに応える内容であり、企業の人事・労務担当者をはじめ、弁護士、社会保険労務士など幅広い人々に役立つ一冊となっている。  テレワーク特有の勤怠管理や情報管理関係だけでなく、テレワークにおける労災の扱い、セクハラ・パワハラや、副業・兼業を認めた場合の健康管理、フリーランスと取引きを行う事業者が遵守すべきことなども取り上げている。 採用活動のツールを最大限活用するノウハウを紹介 ハローワークインターネットサービス活用バイブル 初めてでも採れる! ハローワーク版 すごい求人票 最新版 山崎広輝(ひろき)、西垣康司、土方聡子 著/文、岡部眞明(まさあき) 監修/スタンダーズ・プレス/2420円  ハローワークは、厚生労働省が全国に設置する公共職業安定所の愛称で、企業と求職者を結びつける機関である。ハローワークは直接足を運んで窓口で相談するイメージが強くあるが、現在は「ハローワークインターネットサービス」を利用することで、わざわざ窓口に行かずとも、オンライン上で求職活動や採用活動を進めることができる。  本書は、ハローワークインターネットサービスの活用方法を詳解して、出版社の目標値の2倍以上も売れたという前作『初めてでも採れる!ハローワーク版 すごい求人票』(2019〈平成31〉年2月刊行)の著者が、ハローワークで採用実績を出すためのノウハウを紹介する最新版。  2021(令和3)年9月21日にサービスの拡充が図られて、著者いわく「使えるサービスに生まれ変わった」というハローワークインターネットサービスの活用方法や注意点を解説するとともに、「採用の設計図」をつくる際にアシストしてくれるという、著者の山崎広輝氏が開発したツール「ゼロ円求人シート」の使い方を伝授。また、求人票に書いてはいけないNGワードや、求職者が応募したくなる推奨ワードなども最新の実例に則して紹介している。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 労働経済動向調査の概況厚生労働省  厚生労働省はこのほど、労働経済動向調査(2022〈令和4〉年2月)の結果を公表した。  労働経済動向調査は、労働経済の変化や問題点を把握することを目的に四半期ごとに実施。今回は、2022年2月1日現在の状況について、主要産業の規模30人以上の民営事業所から5780事業所を抽出して調査を行い、このうち2768事業所から有効回答を得た(有効回答率47.9%)。  調査結果によると、労働者の過不足状況は、社員等労働者を「不足」とする事業所割合が43%、一方、「過剰」とする事業所割合が4%となっている。この結果、正社員等労働者過不足判断指数(「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値)はプラス39ポイントとなり、2011(平成23)年8月調査から43期連続の不足超過となった。これを産業別にみると、すべての業種で不足超過となっており、「医療、福祉」(プラス55ポイント)、「建設業」(同53ポイント)、「運輸業、郵便業」(同51ポイント)での不足超過幅が特に大きい。  次に、雇用調整を実施した事業所の割合(2021年10月〜12月期実績)は、前年同期と比べ7ポイント低下し27%となっている。産業別では、「情報通信業」(34%)、「製造業」(33%)、「不動産業、物品賃貸業」(33%)、「運輸業、郵便業」(32%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(32%)で高くなっている。 厚生労働省 「くるみん」認定基準の改正と新認定制度「トライくるみん」など創設  厚生労働省は、次世代育成支援対策推進法(次世代法)施行規則を改正した。「くるみん」の認定基準を引き上げるとともに、新たに「トライくるみん」を創設し、2022(令和4)年4月1日から施行した。さらに、不妊治療と仕事との両立に取り組む企業を認定する「プラス」制度を新設した。 ●「くるみん」認定基準の改正内容  男性の育児休業等取得率は、旧基準7%以上→新基準10%以上。  男性の育児休業等・育児目的休暇取得率は、旧基準15%以上→新基準20%以上。  男女の育児休業等取得率等を厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」で公表すること。 ●「プラチナくるみん」特例認定基準の改正内容  男性の育児休業等取得率は、旧基準13%以上→新基準30%以上。  男性の育児休業等・育児目的休暇取得率は、旧基準30%以上→新基準50%以上。  出産した女性労働者と出産予定だったが退職した女性労働者のうち、子の1歳時点在職者割合は、旧基準55%→新基準70%。 ●新たな認定制度「トライくるみん」を創設認定基準は、旧「くるみん」と同じ。 ●不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業の認定制度「プラス」を創設 ●改正後の「くるみん」と認定基準について  https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/000911837.pdf 厚生労働省 2021年度「『見える』安全活動コンクール」の優良事例を決定  厚生労働省は、2021(令和3)年度「『見える』安全活動コンクール」に応募のあった742事例から、優良事例として80事例を公表した。  同コンクールは、企業・事業場における安全活動の活性化を図るため、労働災害防止に向けた事業場・企業の取組み事例を募集・公開し、優良事例を選ぶもの。2021年度で11回目となる。 ●2021年度 類型別優良事例数 T.転倒災害及び腰痛を防ぐための「見える化」(16事例) U.高年齢労働者の特性等に配慮した労働災害防止の「見える化」(5事例) V.ナッジ※を活用した「見える化」(16事例) W.外国人労働者、非正規雇用労働者の労働災害を防止するための「見える化」(1事例) X.熱中症を予防するための「見える化」(5事例) Y.メンタルヘルス不調を予防するための「見える化」(2事例) Z.化学物質による危険有害性の「見える化」(4事例) [.通勤、仕事中の健康づくりや運動の「見える化」(7事例) \.その他危険有害性情報の「見える化」(24事例) ●各優良事例の詳細(「見える」安全活動コンクール特設ページ) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/concour/2021/result.html ※行動科学の知見に基づく工夫や仕組みによって、人々がより望ましい行動を自発的に選択するよう手助けする手法 厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成  厚生労働省は、関係省庁と連携し、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)の防止対策の一環として、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」やリーフレット、周知・啓発ポスターを作成した。  2019(令和元)年6月に労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となった。これをふまえ、2020年1月に策定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」では、カスタマーハラスメントに関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組みを行うことが望ましいこと、被害を防止するための取組みを行うことが有効である旨が定められている。  このほど作成されたマニュアルやリーフレットには、学識経験者等の議論や顧客と接することが多い企業へのヒアリングをふまえ、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応など、カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みなどを記載。マニュアルには、対策チェックシートも記載している。 ●マニュアル・リーフレット・ポスターは、厚生労働省ホームページからダウンロード可能 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html 中小企業基盤整備機構 中小企業のSDGs推進に関する実態調査  独立行政法人中小企業基盤整備機構はこのほど、「中小企業のSDGs推進に関する実態調査」の結果を公表した。調査は2022(令和4)年1月7〜14日、全国の中小企業など2000社を対象にウェブ上で行われた。  調査結果から、SDGsに対する認知度についてみると、「よく知っている」、「ある程度知っている」、「聞いたことはある」を含め何らかの形で認知している企業は86.0%。一方で、SDGsの内容を「十分理解している」、「やや理解している」企業の割合は38.8%にとどまっている。  SDGsにおける17のゴールのうち、自社で貢献しようとしているものは、「つくる責任つかう責任」が41.9%、「働きがいも経済成長も」(40.1%)、「すべての人に健康と福祉を」(37.2%)が比較的高い割合を示している一方で、「飢餓をゼロに」、「パートナーシップで目標を達成しよう」、「質の高い教育をみんなに」が20%未満となった。  SDGsを経営に取り入れる目的や意義については、「企業の社会的責任」が50.4%で最も高く、「企業イメージの向上」(29.7%)、「従業員のモチベーションの向上」(27.6%)、「新たな製品・サービスの開発」(26.3%)、「取引先との関係強化」(24.5%)などが続いている。  SDGsの取組みに向けた課題は、「何から取り組めばよいのか分からない」が21.0%と高く、「取り組むことによるメリットが分からない」(19.3%)、「SDGsや取組方法に関する情報が少ない」(16.4%)などとなっている。 表彰 人を大切にする経営学会Rなど 第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞  「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行委員会・法政大学大学院中小企業研究所・人を大切にする経営学会Rが主催する第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞者が決定し、厚生労働大臣賞には「株式会社障碍(しょうがい)社」(東京都)が選出された。  日本でいちばん大切にしたい会社大賞は、企業が本当に大切にすべき従業員とその家族、外注先・仕入れ先、顧客、地域社会、株主の5者をはじめ、人を大切にし、人の幸せを実現する行動を継続して実践している会社のなかから、その取組みが特に優良な企業を表彰し、ほかの企業の模範となることを目的に、2010年度から実施されている。  応募資格は、過去5年以上にわたって、次の六つの条件にすべて該当していること。@希望退職者の募集など人員整理(リストラ)をしていない、A重大な労働災害等を発生させていない、B仕入先や協力企業に対し一方的なコストダウンなどを求めていない、C障害者雇用は法定雇用率以上である(常勤雇用43.5人以下の企業で障害者を雇用していない場合は、障害者就労施設等からの物品やサービス購入等、雇用に準ずる取組みがあること・本人の希望等で、障害者手帳の発行を受けていない場合は実質で判断する)、D営業黒字で納税責任を果たしている(新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による激変は除く)、E下請代金支払遅延等防止法など法令違反をしていない。 【P60】 次号予告 7月号 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 石井直方さん(東京大学 名誉教授) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は「ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは?」と題し、ビジネス人材としての高齢者の強みや魅力について改めて解説するとともに、会社の主戦力として高齢者が活躍する企業や、社内公募制など高齢人材が能力を活かしてモチベーション高く働ける仕組みを整えている企業の事例をご紹介しました。  長年にわたる職業経験のなかでつちかってきた高齢人材の能力は、若手や中堅世代に引けを取らない、企業の大きな戦力であることは間違いありません。その能力を後進の育成などに活かしてもらうことも一つの戦略ですが、ビジネスの最前線でこそ輝く魅力をもった高齢人材も多くいます。社内公募制などを活用しながら、高齢人材がその能力を活かし活躍できる場の整備に努めていただければ幸いです。 ●4月に、年金制度が大きく変わったことをご存じですか。特別寄稿では、今回の年金制度改正の概要を解説しています。この改正は、少子高齢化による人手不足や、働き方の価値観の多様化などを背景に、厚生年金加入条件の適用拡大、65歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者の年金額の見直しを行う在職定時改定の導入、受給開始時期の選択肢の拡大など、まさに生涯現役社会に向けて持続可能な年金制度とするための改正といえます。高齢者はもちろん、すべての労働者の将来にかかわる制度改正ですので、ぜひご一読ください。 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー6月号 No.511 ●発行日−−令和4年6月1日(第44巻 第6号 通巻511号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部情報公開広報課長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-919-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】  高齢者雇用対策として、2021(令和3)年度まで6 年にわたり実施されてきた「生涯現役促進地域連携事業」に替わり、2022 年度より新たに「生涯現役地域づくり環境整備事業」が実施される。事業の概要とねらいについて解説する。 厚生労働省の高齢者雇用対策新事業がスタート 「生涯現役地域づくり環境整備事業」で目ざすもの 事業の背景と概要  「生涯現役社会」の実現に向けた、地域のプラットフォームをつくる「生涯現役促進地域連携事業」が大きく見直された。従来のように、高齢者雇用のための独立した協議会を新たに設置するのではなく、地域で活動する既存の協議会に、高齢者の雇用・就業機会を創出する機能を付加する事業設計となっている。  背景には、2021(令和3)年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法がある。70歳までの「就業確保措置」が企業の努力義務となるなど、働く意欲のある高齢者がその能力を発揮し活躍できる環境を整備する必要性が高まった。そのためには、企業内での雇用だけでなく、高齢者のニーズに応じ、地域において高齢者が活躍できる多様な就業機会を創出し、多様な働く場を整備していく取組みを促進する必要がある。そこで、地域ですでに定着している地域づくりの取組みとの連携を強化し、地域のニーズをふまえた高齢者の働く場の創出と持続可能なモデルづくりや、他地域への展開を推進する事業を実施することとなった。  事業は、@「多様な就業機会の創出、持続可能なモデルづくり等」とA「事例収集、実施状況の評価、情報交換会の開催等」の二つの委託事業で構成される。  メインの事業となる@は、地域福祉や地方創生などにおいて形成された地域づくりの既存プラットフォーム機能(協議体など)に、就労支援の機能を付加する仕組みの実証事業である。地域の高齢期の就業ニーズをきめ細やかにとらえた多様な就業機会を創出し、地域の関係機関のネットワークにより高齢者の活躍が地域課題の解決につながる好循環を生み出す取組みを展開するとともに、持続可能なモデルづくりを行う。全国から公募により6カ所程度を選定し、事業実施期間は最大3年度間である。  Aは、@の取組みをフォローし、取組み内容および効果の分析・評価を行い、多様な地域の実情に応じた効果的な手法や持続可能な取組みを取りまとめるとともに、情報交換会の開催やウェブサイトでの発信強化などを通して、他地域への普及促進を行う。 事業の目的と射程  事業の目的は三つある。一つ目は「『生涯現役社会』の構築による地域社会の持続」。高齢者をはじめとする地域住民の多様な就労ニーズに応える「生涯現役社会」を構築し、生産年齢人口の減少に直面する地域社会の持続につなげる。  二つ目は「地域福祉・地方創生等と就労支援の一体的実施にかかる課題の抽出」。すでに地域で展開されている地域福祉・地方創生・農山村等の地域活性化などの取組みと高齢者の就労支援の取組みを一体的に実施することで得られる効果や課題を抽出する。  三つ目は「他地域への普及に必要な環境整備に関する政策上の知見の収集」。民間などからの資金調達の方法や、地域福祉・地方創生と就労支援の一体的実施のために必要な環境整備について、今後の政策立案に向けた知見を収集する。  一つ目の目的はこれまでの事業と同様だが、後の二つは従来になかった目的である。  事業の目的に合わせて、事業の射程も少し変化している。第一は、支援対象者の拡張だ。55歳以上の高齢者を対象に含むことは必須だが、地域の実情に応じて高齢者以外も対象であることを明確にして事業を行うことを可能とした。  第二は、多様な就業形態の創出。就業形態の一類型として、企業による雇用を想定するだけではなく、例えばシルバー人材センターなどでの請負委託、有償・無償のボランティアなどの創出に取り組むことが望ましいとしている。  そして第三は、自治体事業等との一体的な実施である。地域において、地域福祉や地方創生など地域づくりを目ざす地方自治体の事業や、あるいは民間中心の取組みで構築された協議体などのプラットフォーム機能がすでに機能していることが前提となっている。そうした協議体などを高年齢者雇用安定法第35条第1項に定める協議会として正式に位置づけることが必要とされる。 事業の内容  それぞれの協議会には、次の事業内容を実施し、創意工夫を活かした独自性のある取組みを推進することが期待されている。 (1)多様な雇用・就業の促進  地域の既存プラットフォーム機能の基盤のうえに、高齢者等への雇用・就業支援を促進する機能を付加し、効果的な事業モデルを構築する。 (2)民間からの資金調達  事業終了後も各地域における取組みを持続させるため、民間などからの資金調達に取り組む。資金調達例として、企業から協議会への寄附、協賛企業からの会費、企業からの人材の出向などが想定されている。また、協議会活動の一環として実施する事業活動から収益を得ることも可能としている。 (3)事業プロセスの評価  事業内容の深化や取組みの拡張など、事業を実施するなかで生じる変化に関する情報や資料などを厚生労働省に提供する。 成果に連動した委託費の支払い  新事業では、二つの成果に応じて委託費の加減算を行う。一つは高齢者の雇用・就業者実績に対する成果連動で、事業第2年度以降に目標を達成できなかった場合、当年度の委託費の支払いから5〜10%を減算して支払う。もう一つは、民間資金等の調達実績に対する成果連動だ。事業第2年度以降、当年度における民間資金等の調達実績に応じて、委託費に一定額を加算して支払う。ベースとなる委託費は初年度1750万円で、第2年度、第3年度と200万円ずつ減額していくが、雇用・就業者実績で目標を達成し、かつ資金調達実績で上限(第2年度200万円、第3年度400万円)に達すれば、初年度と同じ1750万円が支払われる。  さらに、調達した資金は、地域における高齢者などの雇用・就業を促進する目的で行われる活動に充当することができる。実績を上げるほど、事業などに使える資金が増える仕組みとなっている。 事業の担当者に聞く 高齢者の多様なキャリアを支援する、持続可能な地域のプラットフォーム構築を目ざす 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課長 野ア伸一氏 ほかの政策との連携による相乗効果を期待  今年度、事業を大きく見直した背景には、二つの大きな変化があります。  一つは、高齢者雇用対策の政策的な変化です。これまでは、高年齢者雇用安定法によって企業に求める措置を公的年金支給開始年齢の動向に連動させるなど、高齢期の所得保障を主な目的に、定年の引上げや継続雇用制度の義務づけなどを行ってきました。それに対して、2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、自社による雇用継続だけでなく、多様な就業・社会参加の形態を認めることにより、所得保障の側面だけでなく、社会とのつながりや能力・意欲の発揮を意識した制度へと大きく変わりました。しかし、多様な就業・社会参加を実現するには、個々の企業の取組みには限界があり、地域のさまざまな関係者と協力して取組みの裾野を広げ、強化する必要があります。  もう一つは、地域社会の課題をふまえた他施策の変化です。いま、ほとんどの自治体が人口減少・高齢化に直面しています。そこで、地域福祉や地方創生、農山村等の地域活性化など、各省庁の垣根を越えて連携する取組みが進められています。ただ、いずれの政策も多様な就労・社会参加の機会を確保する機能が重要ですが、その機能が各地域で十分に担保されていません。一方、高齢者の就労支援は、これまで企業における雇用を中心に行ってきたため、地域とのつながりが弱い面がありました。そこで、他分野の政策と高齢者の就労支援が連携できる仕組みをつくることによって、相乗効果が期待できると考えています。 委託事業終了後に自走しやすい制度に  これまで行ってきた生涯現役促進地域連携事業は、雇用・就業者数の面で多くの団体が目標を達成するなど一定の効果が得られましたが、事業実施期間の終了にともない活動が終了したり、委託費用の漸減にともなって活動を縮小するケースがあります。その原因は、委託先がこの事業のために設立された協議会であるため、委託費がなくなると取組みが終了しやすいこと、そして、将来の自走に向けた取組みが十分に進んでいないことがあげられます。  これらの課題に対応するため、今年度は事業の費用対効果を高めるとともに、自立的な取組み継続の可能性を高める視点から、@「雇用・就業者数について一層の成果を実現する」、A「委託事業終了後の自走に向けて民間等からの資金調達のスキーム構築をうながす」、B「地域において定着している他分野の取組みとの一体的な展開をうながす」設計とし、新事業として実施することとしました。  多くの企業が、高齢社員の将来のキャリアパスをどうすればよいか、模索されていると思います。社内で検討するだけでなく、こうした地域のプラットフォームを活用し、地域のネットワークのなかで、自社における高齢者雇用をどう進めていくかを検討していただきたいですし、こうした取組みにぜひご参加いただきたいと思います。 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はナンバープレース。古典的ともいえる脳トレです。1〜9までの数字が入るタテ3×ヨコ3列のブロックが、タテ3×ヨコ3列に配置されたものが一般的ですが、入門編として1〜6までの数字が入るタテ3×ヨコ2列のブロックが、タテ2×ヨコ3列に配置されたものでチャレンジしてみましょう。最初はメモを使ってもよいですが、できれば頭だけでトライしましょう。 第60回 ナンバープレース問題 タテ・ヨコの各列、および太字で囲んだブロックには、1〜6の数字が入ります。空欄を埋めましょう。 目標12分 6  5 4 2 4    1 3    5 1 6 3 4 ※同じタテ・ヨコ・ブロックには、同じ数字は1回しか使えません。 若々しい前頭葉が、若々しい人格をつくる  前頭葉は大脳の一部で、頭の前側にあります。前頭葉のなかに「前頭前野」があり、物事を考えたり、判断したり、感情をコントロールしたりといったことをになっています。哺乳類のなかで人間が一番大きな前頭前野を持っており、これがほかの動物にはない「人間らしさ」をもたらしているといわれています。  この部分が衰えると、意欲や創造性が失われ、感情のコントロールが利かなくなり、思考の柔軟性も失われていきます。つまり、「やる気がなくて毎日ダラダラで、頑固で、すぐキレる」ようになってしまうのです。  そこで、今回のような数字を使った脳トレ問題で、脳のワーキングメモリを鍛えましょう。ワーキングメモリを鍛えると、前頭葉を中心に脳のほかの機能も活性化しますし、「海馬」との連携もくり返し行うため、記憶力強化にもつながります。  脳は使えば使うほど、脳細胞同士の連携がよくなり、老いて萎縮してしまった部分の機能をほかの部位がカバーすることで、結果的に「老いない脳」をつくれます。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 635412 214563 452631 361245 543126 126354 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年6月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2022』のご案内  2021(令和3)年4 月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  そこで当機構は、これまで作成した「65歳超雇用推進事例集」からタイトルを改め、『70歳雇用推進事例集2022』を発行しました。  本事例集では70歳までの就業機会確保措置を講じた20事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業機会確保措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2022』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 2022 6 令和4年6月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第6号通巻511号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会