【表紙2】 10月は「高年齢者就業支援月間」です 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 (高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)  高年齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式をはじめ、コンテスト入賞企業等による事例発表、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和4年10月5日(水)13:00〜16:00 受付開始12:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口徒歩5分 定員 会場:100名 ライブ配信:500名(事前申込制・先着順) 参加費 無料 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 プログラム 13:00〜13:10 主催者挨拶 13:10〜13:40 高年齢者活躍企業コンテスト表彰式 厚生労働大臣表彰および独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 13:40〜14:15 基調講演 テーマ 「人生100 年時代のスマイルワークデザイン〜高齢者が快適に働くことができる職場づくり〜」 神代 雅晴氏 産業医科大学名誉教授 14:15〜14:30 (休憩) 14:30〜16:00 事例発表………………コンテスト受賞企業等3社程度 トークセッション テーマ「高齢社員がいきいき働ける職場とは」  パネリスト…………コンテスト受賞企業等3社程度  コーディネーター…浅野 浩美氏 事業創造大学院大学 事業創造研究科教授 参加申込方法 フォーラムのお申込みは、以下の専用URLからお願いいたします。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/moushikomi.html 本フォーラムは新型コロナウイルス感染症対策を講じて開催いたします。 ご来場にあたり、ご理解・ご協力をお願いいたします。 参加申込締切 〈会場参加〉 令和4年10月3日(月)14:00 〈ライブ視聴〉 令和4年10月5日(水)15:00 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043−297−9527 FAX:043−297−9550 写真のキャプション 神代 雅晴氏 【P1-3】 Leaders Talk リーダーズトーク No.88 65歳定年制と70歳までの再雇用制度でベテラン層の活性化と活躍を促進 住友電設株式会社 取締役 常務執行役員 島田哲成さん しまだ・てつなり 1985(昭和60)年に住友電気工業株式会社に入社。同社伊丹製作所長、人材開発部長などを経て、2015(平成27)年10月に住友電設株式会社総務部長に就任。2016年より執行役員人事部長、2019(令和元)年より取締役常務執行役員を務める。  電気工事や情報通信工事、空調工事など、総合設備工事事業を全国で展開している住友電設株式会社。同社では、2021(令和3)年4月より、65歳定年制および70歳までの再雇用制度を導入しました。少子高齢化による人材不足が社会問題となるなか、高齢人材は貴重な戦力です。今回は、同社取締役常務執行役員の島田哲成さんに、高齢者を戦力化するための仕組みづくりについて、お話をうかがいました。 現場の施工力に直結するベテラン社員に「働きがいを持って仕事をしてもらう」ために ―2021(令和3)年4月より従来の60歳定年制と65歳までの再雇用制度を見直し、65歳定年制と70歳までの再雇用制度を導入されました。制度改定の背景とねらいについて教えてください。 島田 当社は2020年度から2024年度までの中期経営計画「VISION24」を策定し、そのなかで重点施策4項目を掲げています。「安全・品質、コンプライアンス」、「人材の確保・育成と働き方改革」、「顧客満足度向上の追求」、「未来を見据えた企業価値の向上」の四つです。二つめの「人材の確保・育成」については、建設業全体で人材不足が大きな問題になっていますが、当社も人材の確保は大きな経営課題であると認識しています。そこで電気設備工事を中心とする事業を展開している当社にとって、施工力に直結するベテラン社員である施工管理技術者の力をもっと引き出すことが解決策の一つではないかと考えたのです。そのため働きがいを持って仕事をしてもらおうと、定年を60歳から65歳まで延長し、かつ70歳まで就業できる仕組みを導入しました。 ―従来の再雇用制度では、どんな問題点や課題があったのでしょうか。 島田 従来は「シニアエキスパート社員」という名称で、1年ごとの契約更新による65歳までの再雇用制度でした。賃金は60歳到達時点の7割の水準に設定し、仕事の内容も現役社員のサポート役など責任の度合いを多少下げていましたが、賃金が3割下がることでモチベーションダウンがみられました。シニアエキスパート社員のなかには「給与が下がったのにどうして同じような仕事を担当させるのか」という声もありました。  そうであれば、むしろ能力や経験もあるベテラン層が力を発揮するために、賃金を下げずに65歳まで現役社員でいてもらう。業種の特性からいっても、どんな物件を、どのぐらいの期間経験したのかが重要ですし、主要な資格も取得しているベテラン層の技能や知恵が大事になります。それも65歳定年制導入の理由です。 ―「65歳まで現役社員」ということですが、65歳定年制になっても60歳以降の処遇は変わらないのでしょうか。 島田 人事・賃金制度や福利厚生なども含めて変わらずに65歳まで継続します。賃金は60歳時点の100%というだけではなく、昇給・昇進もあります。昇給額は人によって異なりますが、65歳まで定期昇給がある仕組みです。賞与もこれまでは月例給と連動して70%だったものが100%になります。  一方で、ラインの部長職は60歳で外れるという役職定年を設けています。これは若手社員の活性化に配慮したものです。ただし、部署や専門性、地域性などの事情によって適任者が限定される場合は60歳以降も役職を継続します。その場合は、事前に合理的理由があるかどうかを経営会議で確認し、かつ後任を指名したうえで、育成を含めたバトンタッチの時期も確認しています。 増加する人件費はそれに見合った成果・貢献があれば問題ない ―65歳定年とはいえ、従来と変わらぬ昇給制度を65歳まで継続することになれば、当然人件費が増えることになります。 島田 当社の社員の大半が、電気設備工事などを管理する「現場代理人」と呼ばれる責任者の仕事をしています。当社にとって最大の資源は人であり、人の能力を発揮させることが一番大事であることを経営陣も理解しています。定年が65歳に延びることで人件費はかかりますが、それに見合った力を高齢社員が発揮し、会社に貢献してくれるのであればよいと、経営トップも理解してくれました。また、当社は受注する工事現場単位で採算を計算するので、人件費が増えても回収できるかどうかをわかりやすく示すことができた点も理解につながっています。 ―65歳定年制になってからの社員の反応はいかがですか。 島田 モチベーション低下の原因とされていた賃金3割削減が、10割に戻ったことでモチベーションが上がったという声がよく聞かれます。ライン長も年上の社員に仕事をお願いする際、以前は給与が下がったことで遠慮が働いていたようですが、いまは業務上の指示を出しやすくなっている側面もあると思います。  最近は、資格と経験を持つ50代のキャリア採用も行っていますが、応募者が増えつつあります。以前は52〜53歳で入社しても定年までわずかしかありませんでしたが、現在は65歳まで処遇は変わらず働けるうえに、希望すればさらにプラス5年働くこともできます。キャリア採用の応募者にとっても、当社を選ぶ理由の一つになっているのではないでしょうか。 ―65歳定年制と同時にスタートした、65歳以降の再雇用制度について教えてください。 島田 基本的には、従来のシニアエキスパート社員制度を、65〜70歳にスライドしたものです。65歳以降の処遇については、それまでの職階ごとに65歳時点の55〜80%水準を設定し、さらに個々人の役割・責任のレベルを4段階のいずれかに格づけします。「一律何割」と下げるのではなく、役割・責任に応じて異なり、平均値は現役世代の70%程度になります。1年ごとに契約更新し、契約更新の際に役割の変更がなければ給与の見直しはありません。例えば、本人から責任を軽くしてほしいという申し出があれば、それに応じて格づけを見直し、給与も変わるという柔軟な仕組みにしています。  また、再雇用者の要件を設定しています。改正高年齢者雇用安定法の要件に適合させるには、再雇用基準を明確にして社員に公開する必要があります。具体的には健康であることが再雇用の大前提ですが、大きなポイントは「過去3年間の能力行動評価の平均が、規定に定める具体的評価を超えている者」とし、評価結果を真ん中よりやや上のレベルに設定しています。一方でこの評価基準に達しない場合でも、どうしても事業部門で必要だということであれば「会社が認めた者」として再雇用できるようにしています。 高齢社員に能力を活かし活躍してもらうには会社としての期待をしっかりと伝えること ―現在はどのくらいの人が再雇用されていますか。 島田 もちろん65歳まで働いたから十分だという人もいます。実際は希望した人の半分以上が再雇用されています。現在、30人ほど65歳以上の再雇用者が勤務しています。 ―高齢社員の役割の一つとして「技能伝承」も期待されています。どのような取組みを行っていますか。 島田 新入社員は入社後最初の5〜6年は先輩のもとで仕事を覚えながら働き、その後、小さな物件の現場代理人となり、経験を重ねて40歳前後で受注金額の大きい大規模な工事を担当するようになります。技能伝承という点では現場単位でベテラン層と若手層を組み合わせて配置し、OJTで育成することを現場の責任者のタスクとしています。ただ、技能のノウハウは暗黙知の部分も多いですし、わかりやすく説明するのはむずかしい。いま、いかに暗黙知を形式知化、見える化することができるのか、各部門で一生懸命に取り組んでいるところです。 ―65歳以降も働くとなると、特に建設業では労働災害防止の取組みも重要です。また人によっては介護など家庭の事情でフルタイム勤務がむずかしい人もいるかと思います。 島田 建設現場の作業員が高齢化すると労災リスクは高くなります。ただ当社の社員は現場代理人という技術者なので直接作業するわけではありません。むしろ管理者として高齢の作業員がいる現場を担当する場合は、転倒防止や転落、腰痛防止の基準などのルールを遵守させて管理することを徹底しています。  家庭の事情などでフルタイム勤務がむずかしい場合は、安全管理の教育担当や内勤業務など、後方支援業務を担当することもできます。例えば週3日勤務など、職場のニーズとすり合わせながら個別に対応しています。 ―今後65歳定年制や70歳雇用を目ざす企業にアドバイスをお願いします。 島田 制度を変える際は、「いままで以上にがんばってほしい」といった、会社としての期待を全員にしっかりと伝えることが大事だと思います。また、65歳以降については再雇用基準を設けましたが、「どうしてあの人が雇用されて自分は雇用されないのか」と思われないよう、基準に対する納得性を得ることが大切です。そのためには日ごろから上司と部下のコミュニケーションが大事です。60歳以降の再雇用時は1年契約の更新時に人事部門が一人ひとりと面談をしていましたが、65歳定年制になると所属部門の役割が重要になります。本人の働きぶりに目を配りながら65歳以降についても一人ひとりのケアが大切であることを事業部門に意識させるのも、人事部門の重要な役割だと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 September 特集 6 活かしてますか?高齢社員の能力・経験 7 総論 高齢社員の持つ能力を使って後輩を支援する 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 11 企業事例@ ねじ回しの基礎からものづくりの心構えまで若手に伝承し、技術力を伸ばす役割をになう 株式会社光真製作所(滋賀県草津市) 15 企業事例A ベンチャー企業で活躍する81歳エンジニア製品開発から新人育成まで幅広く活躍 株式会社Photosynth(東京都港区) 19 企業事例B 技術や経験豊かな高齢社員が障害のある人や若手社員をサポート 協伸静塗株式会社(富山県高岡市) 1 リーダーズトーク No.88 住友電設株式会社 取締役 常務執行役員 島田哲成さん 65歳定年制と70歳までの再雇用制度でベテラン層の活性化と活躍を促進 23 日本史にみる長寿食 vol.347 タマネギで涙ポロポロがいいんです 永山久夫 24 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 《第3回》 どうすれば高齢社員が安全に働ける職場になるの? 30 江戸から東京へ 第118回 萩の人気塾長 久保五郎左衛門 作家 童門冬二 32 高齢者の職場探訪 北から、南から 第123回 奈良県 近畿編針株式会社 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第76回 株式会社人形町今半 飲食部ご予約センター 相澤竹夫さん(69歳) 38 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 【第2回】 高齢社員がモチベーション高く 働ける制度を整えよう! 森中謙介 42 知っておきたい労働法Q&A《第52回》 執行役員の処遇、シフト削減と違法性 家永 勲 46 病気とともに働く 最終回 株式会社愛知銀行 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第28回 「労働組合」 吉岡利之 50 特別寄稿 労働力のミドルエイジ化とその活力 独立行政法人労働政策研究・研修機構 主任研究員 池田心豪 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 「生涯現役促進地域連携事業」より地域発の取組みから学ぶシニア就業 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第63回]色読みゲーム 篠原菊紀 ※連載「技を支える」は休載します 【P6】 特集 活かしてますか? 高齢社員の能力・経験  高齢社員には長年の職業生活のなかでつちかってきた、豊富な知識・技術・経験があります。みなさんの会社では、そんな高齢社員の能力・経験をどのような形で活かしていますか? 若手・中堅世代と同じように、現場の最前線で活躍してもらうといった活用方法もありますが、経験の浅い社員の育成や技能の伝承、現場管理職の補佐などを担当することで貢献してもらうのも一つの方法です。  そこで今回は、後進の育成や現場のサポートなどで、高齢社員が活躍している企業の事例をご紹介します。 【P7-10】 総論 高齢社員の持つ能力を使って後輩を支援する 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 はじめに  高齢社員は、長い職業生活のなかでさまざまなことを経験し、知識も積み重ねてきています。そういった知識・経験を活かして、業務遂行をになうことは必要ですが、高齢社員に求められる役割はそれだけではありません。課題解決に悩んでいる後輩の相談に乗り、対話を重ねることで、絡みあった糸をほぐすように解決策を見出す支援をすることも大切な役割です。  高齢社員は経験豊富ですが、それが現在も役に立つかどうかについて遠慮があります。「若手の相談に乗るのはいいけれど、20年前、30年前に経験したことをもとに助言をしても大丈夫だろうか」というためらいがあります。それを払拭するのは人事担当者の役割です。その人が経験してきたことを整理し、「この部分は、いまでも十分に通用性があります」とか「この部分は、時代の変化とともに重要性が下がってきていますから、あまり強調しない方がよいでしょう」といった評価を知らせておくと、高齢社員は安心して自分の経験を後輩に伝えられるようになります。  本稿では、高齢社員による後輩への支援を「教育訓練」と「課題解決」の二つの分野に分けて検討します。 教えない教育  精密小型モーターを製造しているA社は、教育訓練の方針として「教えない教育」を掲げています。教育とは、教え育むことですから、言葉の意味からすると矛盾しています。この方針の意味は、「最初からすべてを教えない。まずは自分で考えさせる」というものです。現場で作業していると、いろいろなことが起こります。マニュアルは整備されていますが、マニュアルに書かれていないことも起こります。そのようなときに、先輩社員が指導することになりますが、いきなり解決策を示すのではなく、「君ならどう考える?」という質問を発します。自分の頭で状況を分析し、解決策を考えさせるのです。そこで、正しい解決策にたどり着くこともあれば、間違ってしまうこともあります。でも、それでよいのです。まずは自分で考えることをA社は大切にしています。  このような指導において力を発揮するのが高齢社員です。これまでの経験から、後輩がなぜつまずいているのかを予測することができます。自分も通ってきた道だから、後輩の思考の誤りに気づくことができます。状況が切迫していれば、ただちに解決策を示すことが求められますが、そうでなければ少し時間をかけて考えさせるという判断をします。場面に応じて即座に判断ができるのも、経験があるからこそ可能になります。  教えない教育を実行するには、指導する側に忍耐が求められます。後輩がもたもたしているのを見ると、ついつい手を出したくなります。でも、そこでぐっとこらえて待つのです。後輩が堂々巡りに陥って正しい道筋を見出せない場合、的確な質問をすることで迷路から助け出すことも必要です。「この点をこういう角度から見るとどうなるかな」とか「先日こんなことがあったよね。それとの関係で考えてみるとよいのではないかな」といった質問をすることで、後輩の視点を変えてやります。すると、解決の方向がみえてくるのです。 広い視野で後輩に質問する  化学メーカーB社の中央制御室で働く方が次のような話をしてくれました。  「後輩がオペレーターとして機器の操作をしているときに、後ろに立って状況を見ています。すると、いくつかの計器が通常とは異なる値を示すことがあります。コンピュータ制御ですから、ある一定の値を超えると警報が鳴って異常を知らせてくれます。でも、そのときは、警報が発せられるほどの異常値ではなかったので警報は鳴りませんでした。  私は、長年の経験から何らかの異常が起こりかけているのがわかりました。危険な状態であればすぐに手を出しますが、そのときは切迫した状況にはならないことが予測できたので、後輩に質問することにしました。『これら三つの計器の値を見て、何か思うことはないかな?』。後輩は一生懸命考えていましたが、『わかりません』という答えが返ってきました。さらに別の質問をして対話しているうちに、警報が鳴り始めました。後輩は、ただちに異常対処の手順にしたがって、正常な状態に復帰させました。  一連の対応が終わったとき、なぜ私が質問したのかを後輩に説明しました。私が三つの計器の値を見て何か起こっていることを予測したのはなぜかという点について、そのときの私の思考経路を解説しました。後輩は、それを熱心に聴いてくれました。その後輩は、『目の前の値だけに注目するのではなく、常に全体を視野に入れて機器を操作することの重要性がわかりました』といってくれました」  広い視野でものごとをみることが大切だという点はみんなわかっています。しかし、W言うは易く行うは難しWで、対応しなければならない事柄が一気に押し寄せてくると、視野が狭くなってしまいます。そのようなとき、経験を積んだ高齢社員が緊急度を判断し、「ここは時間をかけても大丈夫だから、しっかり考えよう」といって後輩を落ち着かせ、もっとも望ましい対応策に導いていきます。高齢社員だからこそできる指導方法だといえます。 失敗してもいいんだ  最近の傾向として、「仕事をするうえで失敗したくない」と考える人が増えているようです。失敗したくないので、マニュアルを求めてくるという話をよく聞きます。だれしも失敗はしたくありません。失敗すると時間もコストもかかり、仲間に迷惑をかけてしまいます。不注意で失敗するのは論外ですが、必要な失敗はあるはずです。できるかどうかわからないことに挑戦しなければ新しいものは生まれません。元気がなくなっている日本経済を活性化するには、怖いけれども挑戦することの意義を問い直す必要があると思います。  高齢社員は、たくさんの失敗を経験しています。大きな失敗もあれば、ささいな失敗もあります。それらを乗り越えてきた経験は貴重です。失敗をおそれる人に共通してみられるのは、「批判されたくない」という気持ちです。「あいつはダメなヤツだ」という評価を受けたくないという側面もあります。低い評価をされると、その後の昇進に悪影響を与えるからです。  失敗をどうとらえるかは、組織風土も深く関係します。失敗をおそれずに挑戦することを高く評価する会社かそうでないかによって、会社のなかでの失敗の位置づけが変わります。ただ、社長は「挑戦して失敗してもいいんだ」といっているのに、挑戦する人が増えない会社もあります。その理由は、中間管理職の行動にあります。一定の組織を任されている部課長クラスの人たちには、業務を効率的に進めていくことが求められています。失敗には時間とコストがかかるため、業務効率にとってはマイナスです。挑戦することの重要性はわかるけれども、管理職として高く評価されたいと考えると、成功することがある程度わかっている案件への挑戦は認めるけれど、成否がわからないような案件への挑戦には及び腰になります。 高齢社員の二つの役割  この場面での高齢社員の役割は、管理職に対するものと一般社員に対するものの二種類になります。管理職を経験したことのある高齢社員であれば、現役の管理職の悩みに共感することができます。「実は自分も悩みながら管理職をやっていた」という話をすることによって、悩んでいるのは自分だけではないことを現役管理職は知り、少し安心できます。また、自分自身の経験だけではなく、先輩管理職のことを話せるのも高齢社員の強みです。  管理職として部下に挑戦させるかどうか悩んでいるとき、高齢社員は管理職の視野を広げてあげることができます。「目先のコストのことを考えれば、成功するかどうかわからないことに挑戦させるのはリスクが大きいと考えて躊躇するのはよくわかる。でも、その部下の成長を第一に考えれば、ここで挑戦させた方がよいのではないだろうか。その部下が成功するように、自分もできるだけ手伝うからやらせてみようよ」と背中を押すことです。管理職の大切な役割の一つに部下育成があります。少し背伸びをしなければ達成できないような課題に挑戦させることは、部下の成長をうながすうえでとても有効です。逡巡(しゅんじゅん)する管理職に寄り添い、悩みを共有して一歩踏み出す勇気を持ってもらうことが大切です。  高齢社員のもう一つの役割は、挑戦する後輩の持つ不安を払拭することです。失敗するかもしれないと思うと萎縮してしまって、本来の力を発揮できない場合があります。未知の分野に挑戦するとき、だれしも不安になります。そのとき、高齢社員の助言が効果を発揮します。  「新しい案件をまかされたとき、自分も実は怖かった。どうしてこんな役割をまかされるのだろうと管理職を恨んだこともあった。でも、いまふり返ってみると、やってよかったと思う。あの案件に挑戦していなかったら、いまの自分はないのではないかとさえ思うこともある。◯◯さんが不安な気持ちを持っているのはよくわかる。でも、この案件に挑戦することは、◯◯さんの能力向上に役立つはずだ。できるだけの支援をするからやってみようよ」  「失敗しても大丈夫」という気持ちで果敢に挑戦することがよい結果をもたらします。一歩踏み出せないでいる後輩の背中を押すことも高齢社員の大切な役割です。 若者への助言の第一歩は傾聴  映画「マイ・インターン」をご覧になったことがあるでしょうか。筆者は、高齢期の働き方を考えるうえで、多くの題材を提供してくれる映画だと思っています。  主人公のベン・ウィタッカー(ロバート・デ・ニーロ)は70歳、いわゆる悠々自適の生活をする高齢社員という設定です。何事にも積極的に取り組んでいるベンですが、3年半前に連れ合いに先立たれ、何をしても心にポッカリ空いた穴を埋めることができないでいました。そんなとき、近所のスーパーマーケットで「高齢社員インターン募集」のチラシを見つけます。女性用の衣服をインターネット経由で販売する会社が65歳以上の高齢社員をインターンとして採用するというのです。1年半前に一人の主婦(アン・ハサウェイ)が立ち上げた会社が220人を雇用する会社に成長し、社会貢献として高齢社員の雇用を考えました。彼は、さっそく応募することを決め、見事に採用されます。  筆者は、この映画から、高齢期に活躍するために必要な6項目を導き出しました。 @新しいことに挑戦し続けること A頼まれたことは何でも引き受けること B自ら仕事を見つけて動くこと C昔の話は聞かれないかぎりしないこと D自分のスタイルを大切にすること E身ぎれいにしていること  その内容については筆者のブログ※を見ていただくとして、本稿のテーマとの関係で主人公のベンがとても興味深い行動を取っている点をご紹介します。  ある若手社員が社長秘書とつき合い始めるのですが、あることがきっかけで不仲になってしまいます。そのとき、若手社員がベンに助けを求めます。ベンの助言は「大切なことは直接伝えなければダメだ。メールを何通送っても気持ちは伝わらない」というものでした。若者の多くは、メールを送っておけばいいたいことは伝わると考えていますが、メールでは不十分な場合があります。本当の気持ちを伝えるには直接会わなければならないというベンの助言を実行し、その若手社員は社長秘書と再びつき合うことができるようになりました。  もう一つ、印象深いシーンがありました。有名人の自宅に服を届けることになった若手社員が、どういう服装をしていけばよいかベンに助言を求めます。カジュアルな文化を大切にしている会社なので、ほとんどの従業員はTシャツにジーンズで働いています。「あらたまった感じで相手に好印象を与えるには、襟のついたシャツを着ていくといい」と助言します。その若手社員は、製品サンプルのなかから襟つきのシャツを選び出し、ベンに「これでいいか」とたずねます。  若者に助言する際に大切なことは、相手のいい分に耳を傾けることです。まずは何をいいたいのか、何が問題なのかをしっかり聴いて受けとめます。そのうえで、決めつけることなく一緒に考えることが大切です。ベンは、まさにそれを実行していました。  高齢社員のなかには自分の経験をもとにすぐに「こうすればいいんだ」といってしまう人がいます。それでは、若者の心に響きません。各人が抱えている悩みや課題はさまざまです。原因は一つではなく、複雑に絡みあっている場合があります。しっかり聴くことで何が本当の原因なのか、解決の障害になっていることは何かを突きとめ、それに対してどういう対処をすればよいのか、相談者と対話しながら考えていくのです。「そんなのもどかしい」と思われるかもしれませんが、ものごとの本質に自分で気づかなければ、解決の行動につながりません。 高齢社員が持っている豊富な知識・経験を活かせるかどうかは、その人がどれだけ謙虚になれるかにかかっています。過去の経験に拘泥(こうでい)することなく、時代の変化に合わせて変えるべきところは変える、捨てるべきものは捨てることによって、高齢社員の本当の価値が出てくると思います。 ※映画「マイ・インターン」に関する筆者ブログは以下のURLをご覧ください。 https://fujimuralab.com/post/233 【P11-14】 企業事例 1 ねじ回しの基礎からものづくりの心構えまで若手に伝承し、技術力を伸ばす役割をになう 株式会社光真(こうしん)製作所(滋賀県草津市) 若手から70歳以上の高齢社員まで機器組立業で多世代が活躍  株式会社光真製作所は、配線と板金仕上げ加工の会社として1981(昭和56)年に創業。高い技術力を武器に、現在は大手電機メーカーや計量器メーカーが取引先に名を連ねており、鉄道駅に設置されている自動券売機や自動改札機をはじめ、銀行のATM、食品メーカーの包装機など、さまざまな機器の組立てを行っている。海外ではフィリピンに工場を持つ。  社員数は79人。男性が43人、女性が36人で男女比はほぼ半々で、平均年齢は52歳(2022〈令和4〉年7月時点)。定年は60歳、希望者全員を70歳まで再雇用しており、70歳以降も運用により継続雇用している。現在、60〜69歳が19人、70歳以上が13人おり、32人の高齢社員が業務にあたっている。なお、最高齢者は79歳(2人在籍)となっている。  高齢社員が約4割を占めていることから、再雇用制度の見直しを進めていたが、コロナ禍にあり一時中断しているという。現在、60歳定年以降の再雇用社員は時間給で働いているが、これを固定給に変更し、より長く安心して働ける制度の構築を目ざしている。それに向けて、すでに再雇用となっている高齢社員との整合性をいかに図るかが課題となっているそうだ。 独自の技能認定制度を設け指導用のトレーニングルームを設置  同社で取り扱っている機器は多品種少量生産が基本。そのため、流れ作業のようにコンベアから流れてくるパーツや部品を担当する箇所に取りつけ、次の工程の担当に回すようなライン生産による対応がむずかしく、ほとんどの製品の組立てを社員の手作業で行っている。製品ごとに組立て方法が異なるのはもちろん、顧客が求める技術的基準を満たさなくてはならず、社員一人ひとりに高度な技術が求められ、新入社員は習得すべきことが多い。  そこで同社では、ベテラン社員による技能の継承に特に力を入れている。指導にあたるのは同社で長年活躍してきたベテラン社員たちだ。取締役製造部部長の池田(いけだ)篤史(あつし)さんは、「特に当社の製造における良し悪しの判断基準を教えてほしい」と、ベテラン社員による指導に期待を寄せている。  同社では独自の認定制度を設けており、若手社員やパート社員への指導は、日ごろから現場で行われるOJT のほか、技能認定の取得を目的とした年間の教育計画に沿って行われている。この技能認定の指導のために同社の一角に設けられたのが、「テクニカルトレーニングルーム」(通称「TTR」)だ。  TTRには、トレーニング用の器具や部品とその解説、ねじの回し方の良し悪しを示すサンプルなどを展示しているほか、失敗事例の写真に説明書きを添えて1枚ずつラミネート加工をして束ね、閲覧しやすくするなど、ていねいにつくりこまれた資料が用意してある。実物と写真を多用した資料は、まさに教材といえるもので、TTRはまるで学校の工作室のようだ。資料が充実しているだけに、「製造業で働くのが初めて」という新人にはもってこいの施設である。  ここで指導する高齢社員は、TTR専属の講師として配属されているわけではないが、日ごろの業務の合間をぬって、配線や組立て作業に長けたベテラン社員が、若手社員を相手に、少人数形式で指導している。  同社で顧問を務める池田(いけだ)正成(まさしげ)さんは、TTRを活用した高齢社員による技能継承の取組みについて、「当社が創業した40数年前は、ものづくりが盛んな時代で、企業がこぞって独自の生産方式を考えて実践していました。その時代を生きてきた高齢社員は、ものづくりについて熟知しています。経験の浅い若手に対して、『ものづくりとは何か』という心構えから指導をしてもらっています」と語る。  なお、指導役を務めるのは、同社で長年勤めてきた高齢社員だけではない。メーカー勤務の経験を持ち独自の技術を持つ人材なども、その知見を活かして指導にあたっている。 提案型の指導を行い、円滑なコミュニケーションで若手を育成  製造課に所属する土蔵(つちくら)伊左美(いさみ)さん(72歳)は勤続33年のベテラン技術者。主に制御盤の組立て作業を担当している。業務中は若手社員とのコミュニケーションを大切にしており、若手の作業や手つきに目を配り、作業が滞っていたり悩んでいたりするときは、「ほかのやり方を試してみてはどうか」、「こんなやり方もあるよ」と、アドバイスをしているそうだ。  経験の浅い社員たちの状況を把握し、さりげなく適切な助言をしてくれる土蔵さんを多くの社員が頼りにしており、作業に行き詰まると土蔵さんにアドバイスを求めにくるという。土蔵さんが日ごろから心がけているコミュニケーションが、話しかけやすい雰囲気をつくり、若手も自発的に質問するようになり、それが若手の技能向上につながっている。  土蔵さんは、質問の答えをそのまま教えることはあまりせず、ヒントを示して自分で考えるようにうながしているという。問題の解決方法を自ら考えることで、次に別の問題にぶつかったとき、応用を利かせて解決することができるようになるからだ。本人の力を伸ばすことに主眼を置いた、ていねいな指導である。若手社員が伸びていく姿を見るのは、土蔵さんにとっても大きなやりがいになっているそうだ。  土蔵さんは昨年まで週5日フルタイムで勤務していたが、昨年途中より、週の中日に休日をつくり、週4日の勤務に変更した。  「休みを増やしたいと希望を申し入れたところ、快く対応してもらえました。ほかには時短勤務で務めている高齢社員もおり、とても働きやすい会社です」(土蔵さん)  土蔵さんが教える若手社員の一人、山本陸人(りくと)さん(23歳)は入社2年目。製造課に所属し、現在は制御盤や包装機の組立て作業を担当している。製造業の仕事は初めてで、土蔵さんに図面の見方や工具の使い方など、基礎から指導を受けた。  「図面には載っていないことや、『こうした方が仕事の効率がよい』といったこと、そのための工具の持ち方などを教えてもらいました。土蔵さんは仕事以外でも人生の先輩として、会社で役立つ知識や知恵を教えてくれる頼れる存在です」(山本さん)  TTRでは、ビス締めと圧着、銘板貼りを教わったという。「ビス締めは製品や顧客によってトルク(回転方向に回す力)が異なることもあり、締め方のコツをつかむのがむずかしかったです。新しい製品を担当できるようになれば、また練習して学ばなくてはいけません」と話す山本さん。多様な顧客と品種に対応するために、ベテランの持つ知識と技術に頼る場面は少なくない。  「いまはまだできる仕事はかぎられていますが、できる仕事の幅を増やしていきたいですね。これからも、どうしたら会社のために、社会のために力になれるか、信頼されるようになるのか。土蔵さんからもっともっと学んでいきたいと思います」(山本さん) 働きやすい職場づくりに高齢社員も一役買う  池田顧問は、「製造業を営む企業として、顧客に満足してもらう製品を提供するためには、職場の環境改善が欠かせません」と話す。手作業での組立てが多い現場であるからこそ、人員構成上の割合が高い高齢社員や女性社員の体力を考慮し、作業環境の改善を図ってきた。  例えば、同社では配送を行うドライバー業務を、女性社員と60 歳以上の高齢社員が担当している。一般的に、荷物の積み下ろしは身体的な負担が高い作業だが、同社ではワゴンやラックにキャスターをつけて運搬の負担を大幅に軽減している。積荷の搬入から納品まで、最小限の負荷で、女性社員や高齢社員でも無理なく業務にあたることが可能だ。しゃがんだり、持ち上げたりする動作を必要としないため、同時に作業効率も大幅に改善したという。また、工場内で荷物を運ぶ什器の大半にもキャスターをつけており、こちらも大幅な作業負荷の軽減を実現している。  このように、多くの高齢社員が働く同社では、働きやすい環境整備にも注力している。紹介したキャスター取りつけ以外にも、次のようなさまざまな取組みを行っている。 ◆細かい文字を読むのが苦手な高齢社員に配慮し、紙ベースの作業指示書の大半を電子化。パソコンの大きな画面で文字を拡大して読めるようにした。 ◆作業中は長時間の立ち仕事となるため、足元にクッション性のあるシートを敷き、足腰の負担を軽減した。 ◆多品種を生産していることから、取り扱う部品数が多いため、部品収納ケースには品番・品名表示とともに、部品の写真を貼り、部品の選択ミスを防止している。  このように職場環境改善の取組みを充実させるため、同社では改善案を各部署から募っている。特に高い評価を得た改善案には賞金を出しており、改善に対する従業員のモチベーションも高い。採用された改善案のなかには、高齢社員が「昔行っていた方法」として意見を出したケースもあり、職場改善の場面においても高齢社員の知恵や経験が活かされている。 高齢社員のものづくりに対する熱意・姿勢が若手社員の見本に  同社には2020年に85歳で退職するまで、パート社員として意欲的に勤務していた高齢社員がいたそうだ。大手電機メーカーを定年退職し再雇用の期間満了後、もっと働きたいとハローワークに通い、同社に再就職した人材だ。週5日勤務し、精密機器である製品の検査を担当しながら、最新の技術動向に追いつこうと日々勉強していたという。自然の成り行きで若手を指導するようになり、本人も若手社員とのコミュニケーションやレクリエーションを楽しんでいたそうだ。ものづくりに対する熱意や仕事に取り組む姿勢は、土蔵さんにも通じるものであり、これが同社が理想とする高齢社員の姿だという。  「高齢社員と若手社員が現場で意見をいい合える関係になるのが理想です。みなさんが経験したことや知恵を現場で意見として出してもらい、相談しながら物ごとを進めていきたいですね」(池田部長)  また、池田顧問は、高齢社員が能動的に仕事に取り組める環境の重要性について次のように話す。  「働くことに関して希望を持っている人と、そうではない人がいます。これは考え方の違いで良い悪いの話ではありませんが、働かざるを得ない状況は多分にあるとしても、働くことに生きがいを見つけてほしい。『第二の人生をがんばりたい』という人に、働く場所を提供していくことも私たちの役割です。働くことに希望がなければ、70 歳以上になっても働き続けていくことはむずかしいのではと思います。社員と会社がお互いによかったと思える会社でありたいですね」  高齢社員が現場の主力として活躍するとともに、若手社員の成長をサポートする体制を築いている光真製作所。今後も、高齢社員がその能力を発揮できる環境の構築に努めていくそうだ。 写真のキャプション 池田正成顧問(左)、池田篤史取締役製造部部長(右) 技能認定の指導のために設けられた「テクニカルトレーニングルーム(TTR)」 若手の指導役をになっている土蔵伊左美さん 土蔵さんの指導を受けている山本陸人さん キャスターつきワゴン。完成した製品を積載し、ワゴンごと配送車に積み込む 【P15-18】 企業事例 2 ベンチャー企業で活躍する81歳エンジニア製品開発から新人育成まで幅広く活躍 株式会社Photosynth(フォトシンス)(東京都港区) 「スマートロック」の開発・販売で急成長中のベンチャー企業  IoTを活用した「スマートロック」で、企業などにセキュリティや入退室管理のサービスを提供する株式会社Photosynth(フォトシンス)は、創業9年目を迎えるベンチャー企業だ。創業メンバー6人、マンションの1室からスタートした同社の事業は大きく成長し、現在は東京本社のほかに、札幌、名古屋、大阪、福岡に支社を置き、従業員数180人の規模となった(2022〈令和4〉年6月時点)。主力製品である、既存の鍵に後づけで設置できるタイプのスマートロックは、大がかりな取付工事が不要で、IoTを活用した入室権限・入退室記録の管理の利便性とともに、その導入コストの低さも魅力となっている。企業のセキュリティ意識の高まりやテレワークの普及による不規則な入退室の増加などを追い風に、新規導入企業を着実に増やしている。  社員の平均年齢は31歳。20〜30代の社員が活躍しており、無機物から有機物を生み出す「光合成=Photosynthesis」を社名に、「未来志向」、「挑戦」、「自責」を理念に掲げている。既存の枠組みにとらわれない考え方は、人材活用にもあらわれている。若いベンチャー企業では極めてまれなケースだと思われるが、現在81歳になる高齢のエンジニア・深谷(ふかや)弘一(ひろかず)さんが、創業間もなくから参加しているのは特徴的だ。 年齢は考慮せず能力のみで 人材を採用するベンチャーらしさ  創業時の人材採用について、開発部門を管掌(かんしょう)する熊谷悠哉(ゆうや)取締役兼開発部部長は、次のように話す。  「スタートアップ企業にとって、ハードウェアをアイデアから製品化し、量産までもっていくには、越えなければならない壁がたくさんあります。では、どうすればよいかを考えたときに、そのときの私たちに必要な知見を持ったプロフェッショナルな方から学ぶことにしたのです。もちろん、自分たちだけでできるという自負もありましたが、足りないところがあることも自覚していましたから、『そこは学びながらやっていこう』と考えました。事業を軌道に乗せていくためには、技術的な課題だけではなく、企業活動を行っていくうえでの法律的な問題もあります。自分たちにコアのアイデアがあって、それを実現するために、経験のあるプロフェッショナルの知見から学び、活用していこうというスタイルで、求人を行いました」  具体的な求人にあたっては、創業メンバーにインターネット関連企業の出身者が多かったこともあり、自然な流れでインターネットで求人を行った。技術顧問的な人材を幅広く募集したところ、深谷さんからの応募があり、そのキャリアを見て業務委託契約を結んだという。あくまで求めていたプロフェッショナルとしての経験と知見で判断し、年齢ではなく、能力を適正に評価して、柔軟に対応する。その姿勢が、まさにベンチャー的といえそうだ。  深谷さんは、大学卒業後に新卒で日本電気株式会社(NEC)に入社。大型コンピュータ用のブラウン管式文字表示装置の開発・設計や、AV機器や自動車電装に使用される集積回路の回路設計などの業務に従事し、その関連業務である特許出願・技術契約や、顧客への技術サポート、販売部門への市場開拓支援なども経験しており、エンジニアとして幅広い業務に精通している。海外での勤務経験もあり、定年退職後は、NEC関連会社の技術アドバイザーを務めるかたわら、上海・香港での海外設計拠点の立ち上げ・運営や、マレーシアで若手エンジニアの育成などにも取り組んできた実績を持つ。まさに、創業間もないフォトシンスに必要な知識・経験を持つ人材だった。 出社と在宅ワークを柔軟に組み合わせ能力を存分に発揮できる仕組みを整備  契約直後は技術顧問的な立ち位置で業務にたずさわっていた深谷さんだが、徐々にその役割が変化し、会社にとって欠かせない人材になっていったと熊谷取締役は話す。  「当初は、社内にものづくりの経験者が少なかったので、技術的なアドバイスはもちろん、『そもそも、ものづくりとはどんなものか』を教える役割をになってもらいました。現在は、会社の戦力として事業に直接かかわってもらっています。深谷さんの方から、進んで新しい仕事をしてくれており、会社にとって欠かせない存在です」と、その仕事ぶりを高く評価する。  深谷さんは、業務の広がりと現在の働き方について、ものづくりの仕事の特性をふまえて説明してくれた。  「当初は、顧問的な立場で技術アドバイスを行っていました。週1回数時間出社して、担当技術者の抱える技術課題についての助言に加え、一部、設計実務のサポートを行っていました。その後、製品の開発が具体的に進み、開発が後半に向かうにしたがって、課題も多くなり、仕様書作成支援や回路設計実務サポート、設計レビュー、試作プリント配線基板の評価、電子部品の特性・信頼性評価、セットや部品の故障解析など、現役技術者の実務に相当する分野まで行うようになりました。新製品の開発は、特に後半に負荷がかかり、この時期は日数も労働時間も長くなります。製品開発が終了し量産の段階に入ると、トラブルがなければ、業務量はだいぶ減ります。  現在の通常の仕事パターンは、設計現場の技術課題や回路設計などの要請に基づいて、基本的に月1回程度の出社と在宅ワークで仕事を処理して、必要に応じて随時出社するという柔軟な働き方をしています。実験に使う機材も自宅に設置してもらっているので、実験をともなう業務でも7割は在宅ワークで可能です。とはいえ、開発スケジュールの期限が迫っている繁忙期には、週3日程度出社して、約5時間勤務し、当日処理しきれなかったものは持ち帰って、在宅ワークでこなすようなこともあります」  非常に柔軟な働き方で、実験機材の貸出しなど、在宅で仕事ができるように細かな配慮がなされている。深谷さんの通勤の体力負担を軽減するために配慮されたものだ。深谷さんは「やはり年を取ると、通勤はかなり負担になります。技術能力では、現役に劣らないという自負はありますが、体力の衰えは否めません。高齢者にとって、このような柔軟な働き方は、体力や集中力の衰えを補ううえで、非常に効果があると思います」と話す。  シニアの持つ能力を効果的に活用するためには、体力などの衰えを補って、仕事に効率的に取り組めるような配慮が必要不可欠なことがうかがえる。  また、今年で3期目を迎えた新卒採用者の研修では、深谷さんが講師を務めており、ものづくりの歴史や、どんなことを考えてものづくりを行うのかなどについて、営業職を含む新人に講義を行っている。ものづくり文化を会社に定着させる役割も果たしており、会社にとってその存在は大きいと熊谷取締役は話す。  「当社は、テクノロジー企業として、創業時から技術へのこだわりを強く持っています。製品を長く使っていただくサービスを提供することがビジネスモデルなので、直接技術にかかわらない営業やカスタマーサクセスなどでも、自分たちの売っている技術を深く理解することが重要になります。技術で未来をつくっていく、世の中にない商品を生み出していくという会社のミッションを全体に浸透させるうえでも、深谷さんには重要な役割をはたしてもらっていると感じています」 信頼関係をベースに労働時間と成果を勘案した業務委託契約  深谷さんの契約形態は業務委託契約。しかし、通常の業務委託契約とは違って、成果物の価格がそのまま報酬額となるわけではない。成果物の単価に稼働時間も加味して、会社と調整して報酬額が確定する独特な方式をとっている。この稼働時間も、実際にかかった労働時間とそれぞれの課題解決、作業の程度に応じて必要だと考えられる時間を勘案して調整した時間となっている。  「簡単にいうと、成果物プラス時間で見る形になっています。単純に『この技術課題を委託していくら』というものではありません。基準となる技術課題のタイプ別単価は設定していますが、これに、実際の労働時間と技術課題に応じて調整したものを加えて勘案することで、報酬額を決定しています。ほかのエンジニア社員も裁量労働で、アウトプットを中心に評価していますから、大きく違う方法をとっているわけでもありません。深谷さんから、技術課題の業務内容と、それに応じて調整した稼働時間を申告してもらい、話し合って調整するという形です。基本的に、メンバーの一員として動いてもらっていると考えているので、相互の信頼関係がこの仕組みの大前提となっています」(熊谷取締役)  深谷さんは、稼働時間の自己申告にあたって、「自分の技術レベルと課題解決・作業などの技術難易度を勘案して自主的に調整を行います。信頼関係をもとに、体感的にも違和感のない適正な相場観で、会社も働く側も納得がいく対価とする調整ができていると思います」とつけ加える。  また、「お互いに納得できる対価とすることが、仕事の質を向上させようというモチベーションにもつながります。シニア技術者を年齢で排除したり、買いたたいたりする風潮があるなかで、労働時間のみではなく、技術力そのものを評価するフォトシンスの姿勢は、シニア技術者を有効に活用する面で大きな意義があると思います」と強調した。 上下関係のないフラットな関係が若手とのコミュニケーションを円滑にする  深谷さんが若いベンチャー企業になじんで働いている姿を見て、読者のなかには「いったいどうやってうまく溶け込めたのか」と、興味を持たれた方もいるのではないだろうか。若い世代の人たちと一緒に働くうえで心がけていることについて、深谷さんは次のように話す。  「仕事をするうえで、上下関係のないフラットな関係であることが重要でしょう。年齢でも上下を意識すれば、コミュニケーションに影響してきます。いままでの職業経験のなかでも、若い人たちと接して仕事をしたことがあって、それが楽しかったという感覚があったのです。そんなこちらの心の持ちようも、案外大きな要素かもしれません。フォトシンスで仕事をするにあたっては、自分の知識・経験が活かせるものは、可能なかぎり対応することに努めてきました。また、できるだけ提案型の対応を心がけました。1を聞いて、10をカバーするような気持ちで臨んでいます」  一方で、「技術」という共通言語があるからこそなじめたという考え方もあるが、それについて深谷さんは、「『技術』というと、姿・形が決まっているものと考えられがちですが、それこそスタートは雲をつかむような話で、いろいろと模索しながら進んでいきます。そういう意味では、エンジニアでも事務系のホワイトカラーでも、仕事に臨むうえでの考え方に大きな違いはないのではないでしょうか」と答えてくれた。  深谷さんは、NECという日本の大手電機企業で、新卒から定年まで勤め上げた古典的サラリーマンエンジニアといえるかもしれない。一方で、同じ会社のなかにあっても、さまざまな技術分野にたずさわり、ものづくりの設計から生産、設置まで一貫して経験するとともに、技術の周辺業務にも触れて、経験や知識の幅を広げてきた。深谷さんは、「仕事を長く続けるためには、楽しくなければなりません。そのためには、自分の得意な領域、興味のある分野に集中することが好ましいと思います。自分の場合は、アナログ回路設計という分野で専門知識と設計技術力の高度化に取り組み、さらに、関連する知識や経験のすそ野を広げるよう努めました。これが、チャレンジ精神を失わず、モチベーション維持につながっていると思います」と語っている。  企業内の異動であっても、それを前向きにとらえて、どう自身の技能・知見として落とし込めるかが重要だとの考え方だ。  NECを定年退職後に海外での人材育成を行ってきた深谷さんの経験からは、異文化体験と人材育成の経験の重要性も見えてくる。短くない定年後を、高齢者が元気に意欲をもって働き続けるためには、チャレンジはつきもの。チャレンジに向かっていけるバックグラウンドを形づくるための努力が、定年後の活躍のための処方箋といえるだろう。 写真のキャプション フォトシンスが開発・販売を行っているスマートロック「Akerun」。スマートフォンアプリやICカードで鍵の施錠・解錠することができる (写真提供:株式会社Photosynth) 熊谷悠哉取締役兼開発部部長 エンジニアの深谷弘一さん 【P19-22】 企業事例 3 技術や経験豊かな高齢社員が障害のある人や若手社員をサポート 協伸静塗(きょうしんせいと)株式会社(富山県高岡市) 金属の塗装加工などを行う企業で多様な人材が活躍  協伸静塗株式会社は、1980(昭和55)年の創業以来、金属製品の塗装、表面処理の技術を磨き続けて、幅広い種類の金属(アルミをはじめ、鉄、ステンレス、亜鉛、マグネシウムなど)製品の皮膜処理や塗装加工を手がける企業として発展してきた。1個から数万個の大量ロットにも、小ロット・多品種にも、短納期で柔軟に対応できる生産力を持っている。また、塗料や塗装機器、薬剤などの各メーカーとのネットワークを駆使し、塗装や金属表面処理に関するさまざまな困りごとに対応できる技術とノウハウを蓄積している。これらが強みとなり、現在は富山県内を中心とする多様な分野の企業(建材、自動車、建機、医療機器など)から信頼され、受注を得ている。  また、高岡市を流れる小矢部(おやべ)川沿いに建つ工場では、環境汚染物質を外部に漏らさない排水処理装置を完備するとともに、2006(平成18)年7月よりEU(欧州連合)で施行されている環境基準「RoHS指令※」に対応したクロムフリー対応型化学皮膜処理浸漬ラインを完備するなど、地球環境に配慮した生産体制を整えて事業を展開している。  同社は以前から、高齢者、障害者、女性など多様な人材が活躍する職場づくりに取り組んでおり、技術や経験のある高齢社員が、障害のある人や若手社員をサポートしている。  社員数は32人で、平均年齢は41.5歳(2022〈令和4〉年7月現在)。工場では、前処理(皮膜処理)から塗装、出荷までの流れを一元化し、現場の仕事は、前処理や塗装を行う「製造」(22人)、「検査」(8人)、「配送」(1人)、「管理」(1人)に大きく分かれている。  社員の年齢構成をみると、59歳以下が28人(87.5%)と多数を占め、60〜64歳が1人、65〜69歳が2人、70歳以上が1人となっている。  社員のうち1人が障害者で、塗装ラインで部品をハンガーに掛ける作業に従事し、勤続年数は16年になる。  ほかに、障害のある人が入所する就労継続支援事業所(A型・B型)の施設外就労者がおり、現在合わせて17人の障害のある人が同社の仕事に従事している。「施設外就労」とは、一般企業の業務のなかで、障害者の従事できる作業について、企業と就労継続支援事業所が請負契約を結び、同事業所の支援員と障害のある人が、企業でその業務を行うことである。  同社では、予想される将来の人材不足に備え、2013年より施設外就労の請負を開始。現在は近隣の四つの就労継続支援事業所と契約を結び、同社の業務のうち検査、梱包、部品をハンガーに吊る作業、持ち帰り内職(組立)、工場内での軽作業を、施設外就労者がになっている。  中小企業の同社は、従来から人が集まりにくく、採用活動に苦労があった。加藤一博(かずひろ)代表取締役社長は、人材不足が深刻になる将来をみすえ、「高齢者や障害のある人などさまざまな方にお手伝いしていただきたいと考え、取り組んできたことで、多様な人材が働く職場になりました」と現在の同社を説明する。 定年後の継続雇用制度を改定し、個々の事情にあわせた働き方を実現  同社の定年は60歳。2005年に希望者全員65歳まで嘱託社員として雇用する継続雇用制度を導入した。実際には、この制度導入以前から、定年後も働くことを希望し、継続して勤務する社員が多くいたという。  さらに、2014年に制度を改定し、65歳に到達した社員がその後も働くことを希望し、職務遂行能力に問題はないと会社が判断した場合、年齢の上限なく継続雇用する制度を整えた。現在の最高年齢者は72歳。かつては、79歳まで勤務した社員もいるそうだ。  継続雇用については、当初は1年ごとの更新としていたが、現在は3カ月ごととしている。また、以前はフルタイム勤務を基本としていたが、現在はそれぞれの体調やライフスタイル、職種や職務能力、および要望に合わせて処遇や勤務形態を個別に決定しており、本人の体調の変化や要望、家族の事情などに対応しやすくするため、3カ月ごとに管理職と面談し、それぞれの要望を出し、事情などを話し合い、「人に合わせた」定年後の働き方を実現している。  現在60歳以上の社員4人の勤務状況は、次の通りである。 ・60代前半のAさん(女性)  検査業務を担当。5年ほど前に経験者として入社し、フルタイムで勤務。 ・68歳のBさん(男性)  30年以上勤務している熟練者。塗装剥離という、付着した塗膜を落として治具の品質を維持する技術が必要な作業を担当し、フルタイムで勤務。 ・68歳のCさん(男性)  勤続20年超のベテラン。治具の剥離とハンガーにかかる塗料をはがすなど技術が必要な作業に従事し、フルタイムで勤務。 ・72歳のDさん(女性)  検査業務を担当して約15年。現在は家庭の事情で、月曜日から木曜日は6時間(9時〜16時)、金曜日は5時間(9時〜15時)の短時間勤務。  基本的に、高齢社員は定年前と同じ仕事を担当するが、サポート業務も担当し、つちかってきた能力、経験を伝える後継者育成や施設外就労者のサポート役を務めている。 高齢社員は「現場のサポート役」障害のある人や若手社員を見守る  4人の高齢社員は、それぞれが持つ技術や能力を発揮して、障害のある人や若手の「現場のサポート役」としても活躍している。  「幅広い年代の社員がいるなかで、高齢社員は特に、職場に安心感と安定感をもたらす存在になっています」と加藤社長は話す。  例えば、障害のある施設外就労者に対しては、仕事内容について、会社から支援員に作業の内容を伝え、施設外就労者は支援員を通じて作業の仕方を学ぶ。ここではまず、支援員への作業の伝授が重要となるが、これを高齢社員が担当している。  「4人の高齢社員は全員が適任と感じています。施設外就労者が行っている作業には、塗装する部品をハンガーに吊る作業が多く、取り扱う部品が変わるとその都度教えるのですが、高齢社員は自分でやって見せながら、ていねいな話し方で支援員に教えています。支援員の方にとってもわかりやすく、安心感もあるようです。その後の障害のある方の就労は、安全面での不備はないかなどを高齢社員が見守っており、みなさんが安心して作業をしているように見受けられます」(加藤社長)  施設外就労は、月曜日から金曜日の9時から15時まで社内で行われている。部品をハンガーに吊る作業のほかには、不良品を見分ける作業などがある。いずれも何百個、何千個と同じ部品を扱う、くり返しの作業となるが、機械化をすることができない重要な作業だ。たいていの人は、最初のうちはスムーズにできても、30分もするとスピードが落ちたり、音を上げたりするそうだ。ところが、施設外就労者たちは、早くはないものの一定のスピードで確実に作業を継続していく。これらの仕事にやりがいを感じて長く続けている人も多いという。  高齢社員が、施設外就労のサポート役として活躍している背景には、技術や能力、もともとの資質に加え、力が弱かったり、動作が緩やかになったりする障害のある人の特性を、自分が高齢になってわかるようになり、「サポートしたい気持ちが自然に出ているのかもしれません」と加藤社長は話す。  「障害のある人たちもみな一生懸命働いています。単調な仕事の連続ですが、その積み重ねが当社にとって業務を安定的に進めていくための大きな力になっています。大事な委託先であり、みなさんが大事な人材です」  この就労を支える高齢社員は、いまや同社にとって「なくてはならない存在」だが、そのサポート力は若手の育成にも貢献している。  若手社員と高齢社員が仕事において話す機会は決して多くはないとのことだが、「こういうやり方もあるよ」と高齢社員がさり気なく伝えたり、休憩時間のちょっとした会話に若手を気遣う様子が垣間見えるそうだ。  また、高齢社員は自分たちで工夫して道具などをつくり使用していることも多く、その姿勢や技術が作業効率を高めており、若手の手本になっているという。  「高齢社員は、業務に直接関係はないが幅広いスキルや資格を持っていたりと、知識や技術、経験にすばらしいものがあります。その技術や資格に若手が関心を持ち、『将来こういう人になりたい』、という存在になっています」と加藤社長は目を細める。  ベテランの力や経験は、例えば機材の不具合にいち早く気づくなど、ふとした瞬間に発揮されており、マニュアルにはないようなさまざまな面で若手に大きな影響を与えているという。 みんなが働きやすい職場環境や制度整備に取り組む  多様な人材が働く職場づくりに取り組みはじめてから、同社では以前にも増して、「だれにとっても働きやすく、健康や安全に配慮した作業環境づくり」に努めるようになった。  高齢社員や障害のある人にとって、いまの業務内容が本人の負担になっていないか。そうした視点から、就労継続支援事業所の支援員に障害のある人の声を聞いてもらうことがある。高齢社員については、3カ月ごとに行う面談のなかで個別にヒアリングを行っている。  安全面では、重量物の運搬や取扱いを高齢社員にはなるべく免除し、やむを得ない場合は必ず2人以上で運ぶことを徹底。健康面では、熱中症などの身体負荷を低減するため、工場自体の設計が換気・排熱構造に優れていることに加え、強力な排気能力を持つ有圧換気扇を新設するとともに、各作業場には、スポットクーラーや扇風機を増設している。  このほか、吊り台車の脚部の改良(塗装前製品の吊り台車の脚部にすねをぶつけたり、転倒してしまうことがあったことから、台車上部に斜交(はすか)い※を入れて強度を確保し、ぶつけやすい脚部を切断)や、高圧洗浄機の移動を楽にする工夫(高圧洗浄機はキャスターつきだが約70kgと重く、移動に苦労していたが、5p程度の床の段差をスロープにした)などを行っている。  こうした取組みの結果、主に次のような効果が実感されている。 ◆社員それぞれの生活スタイルに対応できるような、柔軟な働き方ができる仕組みを整備することで、健康であれば働き続けられる職場になった。 ◆高齢者や障害者が働きやすいということは、ほかの社員にとっても働きやすく安全な職場である。小さな要望を聞き、それに応えることで、みんなが働きやすい環境が整えられている。 ◆高齢者、障害者、外国人(技能実習生)が同じ職場で、同じように作業することで、より活気のある職場となった。また、ベテランの目、経験からくる「勘」や「ひらめき」が、現場の効率化、若手の育成、障害のある人の見守りに寄与している。  同社の社員や施設外就労者からは、次のような声が寄せられている。  「まだ気持ちはヤングマン。健康であるかぎり頑張りたい」(高齢社員)、「できるかぎり、現場で働く若手や障害のある社員を応援していきたい」(高齢社員)、「まだまだやれるというところをみてほしい」(高齢社員)、「みなさんが優しくしてくれる」(障害のある社員)、「協伸さんの仕事が好きです。毎日来たいです」(施設外就労者)。  「当社の仕事の多くは、単調な軽作業ですが、機械にはできないもので、それを多様な人材がになっています。それらの仕事が確実に行われているからこそ、新製品の開発や新たな仕事の準備ができるわけです。人材の多様性によって、会社の土台が強固になったと実感しています。  武田信玄の言葉を借りれば、“城の石垣”と同じです。いろいろな人の力があってバランスの取れた石垣ができ、強い土台となります。高齢者も障害のある人も、すべての人が当社には大事な人材です」(加藤社長)  最後に加藤社長は、「どれだけ会社の期待に応えてくれているか、そのことを高齢社員に伝えることが重要です。そのためには、高齢社員も障害のある社員も当社にとって必要な存在であることを、経営者が常に心から感じていることが必要ではないでしょうか」と、高齢者のサポート力を活かすためのポイントを語ってくれた。 ※RoHS指令……EUで制定された電気・電子機器などの特定有害物質の使用制限に関する法律 ※斜交い……斜めに入れる補強材のこと 写真のキャプション 加藤一博代表取締役社長(写真提供:協伸静塗株式会社) 小矢部川沿いに立地する工場(写真提供:協伸静塗株式会社) 【P23】 日本史にみる長寿食 FOOD 347 タマネギで涙ポロポロがいいんです 食文化史研究家● 永山久夫 明治になり肉料理とともに普及  ああ、涙がとまりません。タマネギを切りはじめたら、涙がポロポロなのです。目を刺激する成分が、とっても多いんです。  でも、がまん、がまん。その成分こそ、元気のもとであり、美肌や長寿のもとになるからなのです。硫化アリルという揮発性の強い成分で、疲れたときなどに体を元気にする働きもあります。  古代エジプトには、ピラミッド建設に従事した労働者にニンニクとともに、タマネギが支給されたというエピソードがありますが、古くからスタミナ強化食として崇拝されていたのです。  日本にタマネギが入ってきたのは、江戸時代になってからで、長崎にもたらされています。その後、北海道で本格的なタマネギ栽培が開始されるのは、肉を用いた西洋料理が普及する明治時代になってから。カレーライスの流行とともに家庭の食卓にも登場するようになりました。  辛さのなかに、かすかな甘味もあり、カレーなどの肉料理によく使用されてきました。体力の低下や疲労回復などの特効薬というと、何といっても、豚肉などに多いビタミンB1ですが、その体内利用効率を高めてくれるのが、タマネギの硫化アリルなのです。  タマネギには、ケルセチンという抗酸化成分も多く、血液サラサラ作用で注目されています。 元気の出るタマネギの食べ方  早く元気を取り戻したい、脳を活性化させてもの忘れを防ぎたいと思うときには、カツオ節や海苔、豚肉などビタミンB1の多いものとタマネギの取り合わせがベストです。  硫化アリルを上手に摂るには、生食が一番ですが、薄切りにして、水にさらす場合でも、2〜3分で引き上げないと、硫化アリルは水に溶け出してしまいます。  水を切って、小鉢に盛り、カツオ節をまぶし、醤油をかけて食べますが、コツはすり胡麻をひとつまみふりかけること。味にコクが出るだけではなく、頭が軽くなって、体中から元気がわいてくることでしょう。胡麻にも疲労回復をサポートする、ビタミンB1が含まれているからなのです。 【P24-29】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 第3回 どうすれば高齢社員が安全に働ける職場になるの? ※ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです 転倒防止の取組み例 つづく ※「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」(厚生労働省):事業者と労働者に求められる取組みを具体的に示している https://www.mhlw.go.jp/content/000691521.pdf 「エイジアクション100」(中央労働災害防止協会):高齢労働者の安全と健康確保のための100の取組みをチェックリストにまとめた、職場の課題を把握できるツール https://www.jisha.or.jp/research/pdf/202103_01.pdf 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! こんなときどうする? 第3回 どうすれば高齢社員が安全に働ける職場になるの?  けがこそしなかったものの、職場でちょっとつまずいてしまったり、何かにぶつかってしまったりという経験に、心当たりのある人は少なくないのではないでしょうか。加齢で身体機能が低下している高齢者の場合、この“ちょっとしたつまずき”で転んで骨折をしてしまったり、若いころよりもその回復に時間がかかってしまったりすることがあります。高齢者が安全・安心に働くための職場づくりについて、東京学芸大学の内田教授に解説していただきました。 内田教授に聞く高齢者雇用のポイント 労働災害発生率が高い高齢者世代 高齢者の特性をふまえた職場環境改善の取組みを  高齢者の労働災害発生率はほかの世代より高くなっています。仕事の経験年数の短い若年者の発生率も高いのですが、長年同じ仕事に従事して経験豊かな高齢者の場合、注意していても体がついていかないなど高齢化の影響があらわれます。また、高齢期になって慣れない仕事に就けば、発生率が高まる恐れがあります。  製造業では、労働災害根絶を目ざした取組みが長年にわたってなされてきました。工場の労働災害は一歩間違えると死亡事故に直結し、甚大な被害を与えるからです。一方、福祉関係のようなサービス業は製造業に比べて労働災害防止の取組みが途上にあるようです。「工場のように大きな機械もないので死亡事故など起きるわけがない」と油断していることはないでしょうか。たとえ軽微な事故でも被害者のダメージは大きく、特に高齢者では回復までの期間も長く、職場への影響ははかりしれません。  労働災害を防ぐには、発生原因を考えて対策を取らねばなりません。高齢者の特性から考えてみましょう。体力や筋力が低下している高齢者が重量物を運ぶ最中に足もとに落とす危険性を考えて、重い物を持たせず機械で運ぶ、高齢者が歩くときは足が上がらなくなって段差につまずいて転倒しかねないので床の段差をなくして物も置かない、集中力が持続しづらいので危ない作業は長時間させない、などの対策が必要です。また、高温や多湿、騒音などの職場環境が高齢者の体調や集中力に悪影響を及ぼし、労働災害が発生することも考えられますので、職場環境の整備に努めるべきです。  職場の事情に通じていない者も起用して客観的な目で「ヒヤリハット」の事例を集めて再発防止ノウハウ蓄積と職場環境整備に努め、朝礼や研修でみんなが学ぶ風土づくりが労働災害を防ぎます。高齢者に安全な職場の実現は労働災害防止の第一歩です。 プロフィール 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P30-31】 江戸から東京へ 第118回 萩(はぎ)の人気塾長 久保五郎左衛門 作家 童門冬二 実用塾の経営者  幕末の萩(長州藩)に、人気者の私塾塾長がいた。久保(くぼ)五郎左衛門(ごろうざえもん)という長州藩士だ。禄高(ろくだか)約五十石というからそれほど貧しい武士ではない。  一族に学者が多く、かれ自身も学問が深く私塾を開いていた。しかし普通の塾(儒学を教える)ではなく、経営学を教えていた。藩庁に勤めて役立つ帳簿(バランス・シート)の記帳法や、ソロバンをはじく技術などを教える、いわば実業学校だ。  面白い人生観を持っていた。門人に、  「みんな、萩城に入って出世しろ。そして長州藩を出世させろ。徳川幕府のなかで長州藩を出世させて幕府も世界で出世させろ。出世は決して悪いことではない。だからそのために帳簿をキチンと整理し、計算をまちがえないようにシッカリ、ソロバンを習え」  といっていた。  門人たちはこの教えを守り、卒業後藩庁に入った。仕事ぶりがたしかなので重宝された。  「久保塾出身者は本当に役に立つ。しかもすぐ役に立つ」  と評判だった。  萩に住む人だけでなく多くの親が五郎左衛門の塾に子弟を入れた。そして卒業後城に勤めさせると、評判がいいのでさらに欲が出た。つまり、  「もっと出世させたい」  という上昇志向だ。塾長の五郎左衛門のところに要望がきた。端的にいえば、  「お城でもっと出世する方法を教えてほしい」  というのだ。ふつうの武士だったら、  「バカ者、そんなエゲツないことを教えられるか!」  と怒るところだが、五郎左衛門はちがう。自分が先頭に立って、出世しろといっているくらいだから、  「いい心がけだ、いくらでも教えてやる」  と逆に積極的に迎え入れた。親は喜び、  「たとえば甲重役様のお気に入るには?」  ときく。五郎左衛門は、  「明日から城に勤め、忰(せがれ)を朝早く叩き起こして甲重役の家の門前をきれいに掃除させろ。一日や二日ではダメだぞ。一カ月も二カ月も相手が気づくまで続けさせろ。必ず目にとまる」  「なるほど、ありがとうございます」  ちがう親が、  「乙重役のお目にとまるには?」  「ちょうどあの家の柿の実がなって塀を越えたところだ。道路上に出た柿には植え手の所有権はない。カゴに柿の実を集めてそのことをいってやれ。特に所有権の話をしてやれ。久保塾で教えられましたと」  「はい、必ずそうします。いや、よいチエを授かりました。先生」  「何だ?」  「あの家には柿だけでなく、栗も道路に顔を出すことがございますが」  「時期に合わせて柿と同じ手を使え」  「ありがとうございます。いやぁみなさん、まったくこの塾は役に立ちますな」  みなも一斉にうなずく。久保老人も満足だった。 吉田松陰は甥(おい)  意図的に塾名を明かさなかったが、実はこの塾にはキチンとした名がある。  「松下村(しょう塾かそんじゅく)」だ。  長州藩毛利家は関ケ原合戦のときに、藩主毛利輝元が石田三成に西軍の総大将にかつぎ出された。しかし態度があいまいだった。  徳川家康は怒り、百数十万石の領地をとりあげ、日本本州の西の果てに追った。そして、  「瀬戸内海側には城を造るな」  と命じた。  毛利家はやむを得ず日本海側の萩に築城した(実際は美しい所だが)。  萩は山から流れてくる二本の大河の間にできた洲のうえの町だ。  東側の川脇の岡が松本というところで、五郎左衛門はここに住んでいた。庭に一本のみごとな松の木が植わっている。塾はその下にあった。それで「松の下の村塾」と呼ばれていたのだ。が、間もなく騒ぎが起こる。  お気づきの通り、  「松下村塾」  は、幕末に吉田松陰が運営して、明治維新を実現した志士を多数生んだ有名な学塾だ。その学塾と塾名が同じだけだったわけではない。  久保五郎左衛門の塾が、松陰の運営した「松下村塾」そのものなのである。  「実用学塾がなぜそんな質的変更を?」  と多くの方が眉を寄せられるにちがいない。  そのいきさつを今回書かせていただくが、久保五郎左衛門は、吉田松陰の叔父であり親族の一人だ。  甥の松陰は下田港(静岡県)でアメリカへの密航を企て、その企てを大胆にも寄港していたアメリカの全権大使ペリーに訴えた。ペリーは驚いたが逆に松陰の勇気と、憂国の熱情に胸を打たれた。 (次号へつづく) 【P32-35】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第123回 奈良県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70代の営業部員が新事業を開拓 80代の総務部員は制度を整備 企業プロフィール 近畿編針(あみばり)株式会社(奈良県生駒(いこま)市) 創業 1916(大正5)年 業種 竹編針の製造 社員数 33人(うち正社員数10人) (60歳以上男女内訳) 男性(5人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 1人(3%) 65〜69歳 3人(9%) 70〜79歳 1人(3%) 80歳以上 1人(3%) 定年・継続雇用制度 定年は60歳。希望者全員を65歳まで継続雇用。最高年齢者は80歳  奈良県は、近畿地方のほぼ中央に位置する内陸県です。県の中央を東西に流れる吉野川を境に、北部は盆地、南部は吉野山地で構成されています。歴史文化を誇る同県には「法隆寺地域の仏教建造物」、「古都奈良の文化財」、「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」の三つの世界遺産をはじめ、歴史上重要な神社仏閣や史跡などの文化遺産が数多くあります。  当機構の奈良支部高齢・障害者業務課の竹内一郎課長は、県の産業について次のように説明します。「奈良県の県内総生産は約3兆8000億円(2018〈平成30〉年)です。地場産業は、靴下・ニットなどの繊維、木材、プラスチック成型、毛皮革製品、スポーツ用品などがあります。企業は全体的に人材採用に苦慮され、従業員の高齢化も進み、一段と高齢者活用の認識が高まっています。しかし、多くの企業は高齢者活用の課題として個人差≠あげています。加齢による健康面や体力面のほか、意欲などにおいて個人差がみられ、この違いを高齢者活用における特性と認めながらも、高齢者のモチベーション維持を含め、どのように改善・戦力化していけばよいかという相談が増えています」  同支部の取組みについては、「企業の立場に立ち、実情に寄り添った相談・援助ができるよう、企業診断システム『雇用力評価ツール※』の活用を積極的に進めています。ツールを通して、その企業における高齢者雇用の現状と課題を可視化し、わかりやすい診断結果の説明に努めるとともに、より具体的な改善の方向性・取り組み方などを示しながら、定年引上げなどの制度改善提案を行っています」と話します。  同支部では、社会保険労務士、中小企業診断士などの資格を保有する経験豊富なベテランプランナーたちが、知識と経験を持って相談・援助を行っています。  そんなプランナーのひとり、北場(きたば)好美(よしみ)さんは「地元地域でよい会社づくりのお手伝いをしたい」と志を立て、12年前に社会保険労務士の資格を取得。ある大学教授が執筆した中小企業経営論・地域経済論の本に感銘を受け、教授の勉強会で学びながら、常に知識と情報をアップデートして企業訪問にあたっています。今回は北場プランナーの案内で、「近畿編針株式会社」を訪れました。 持続可能な竹素材の編針を世界に広める  奈良県生駒市高山地区は、竹製品の産地として知られており、茶道具や編針といった竹製品を主要産業にして発展してきました。竹編針の製造・販売を生業とする近畿編針株式会社は、1916(大正5)年に「尾山(おやま)卯之吉(うのきち)商店」として創業した老舗企業。1954(昭和29)年5月に近畿編針工業株式会社を設立し、同年12月に現在の社名に変更しました。2016年には創業100周年を迎え、「編み物の世界を探究する」という意味を込めた自社ブランド「Seeknit(シークニット)」を立ち上げました。  尾山敬(たかし)常務取締役は「日本国内では主にインターネット販売を行っており、海外では世界18カ国の取引先に納入し、直接小売も行っています。竹の成長は非常に早く、再生力の高い循環資源です。編針のような竹製品は地球環境に負荷が少なく、海外のお客さまにはこうした理由で選んでもらっています」と話します。  同社では、かねてより働きやすい職場づくりに積極的に取り組んできました。その取組みが評価され、2019(令和元)年8月に、奈良県「社員・シャイン職場づくり推進企業」に認定され、2020年1月に、「第4回協会けんぽ職場まるごと健康チャレンジ」にて金賞を受賞しています。 経験と実力のある高齢者を採用し、業務を任せる  同社の定年年齢は60歳、希望者全員を65歳まで継続雇用し、さらに本人との話し合いのうえ、健康状態が良好で職務遂行能力に支障がない場合は、年齢の上限なく働くことが可能です。  高齢者を積極的に採用し、大きな仕事も任せている尾山(おやま)恭子(きょうこ)代表取締役は、高齢社員に対する考えを次のように話します。  「海外事業に舵を切ると決めて動き出そうとしたときに、大手機械メーカーが早期退職者を募っているという話を聞き、ベテラン人材を紹介してもらったのです。そこで採用した高齢人材の力もあり海外の市場を開拓することができました。もともと当社は社員の年齢にこだわらない社風があります。高齢社員のみなさんは仕事の質が高いのはもちろん、人間性もすばらしく、良識も経験もあって、業務を安心して任せることができます。これからも、それぞれの持ち味を活かして活躍してくれることを期待しています」  高齢社員の能力を活かし活躍をうながしている同社の取組みを高く評価する北場プランナーは、さらなる取組みの推進に向け、65歳定年・希望者全員70歳までの継続雇用制度の導入を提案しているそうです。  今回は、70代、80代にして溢れるパワーで同社を牽引する2人の方にお話をうかがいました。 アンテナを張り、自力で働き方改革を推進する  魚住(うおずみ)光正(みつまさ)さん(80歳)は、14年前の66歳のときに入社し、総務経理部に所属しています。スポーツ用品メーカーを定年後、大学の学生課に事務職として勤務、退職後、ハローワークを通して近畿編針に入社しました。仕事のモットーは「アンテナを張ってなんでもやること」。80代とは思えない情報感度の高さで、奈良県地域産業振興センターや奈良県よろず支援拠点、さらに奈良県の専門家派遣制度などと連携して会社の基盤整備を積極的に構築し、人事面の改革をどんどん進め、社員が働きやすい環境づくりに尽力してきました。その人事面の取組みを紹介します。 ・65歳超雇用推進助成金の「高年齢者無期雇用転換コース」を活用し、50歳以上の有期雇用者に対する無期転換制度を導入した。 ・勤続3年以上の社員を対象に特殊な生活習慣病などの治療費を補助する医療保険に加入。会社負担で病気を補償することで社員は安心して働けるようになった。 ・55歳以上の社員を対象に、人間ドックの費用を会社が半額補助する制度を導入した。 ・家族の介護を理由に退職した人が数人いたことをきっかけに、独自の介護休暇制度を整備。「介護をする人は今後、増えていくはずです。会社でバックアップしていきたい」(魚住さん) ・1時間から時間単位で有給休暇が取得できるように制度改定。小さな子どもがいるパートタイマーたちが、保育園や学校行事の際に活用している。 ・社員が在宅(テレワーク)で仕事ができるように就業規則を変更。ECサイトの注文管理、商品登録などを行うWEB担当者が働きやすくなった。  同社の総務・経理・労務関係の手続きなどはすべて魚住さんが行っています。「毎朝元気いっぱいに家を出るところをお隣りさんが見ていて『まだ働いている!』と驚かれます。これからも会社に必要とされるかぎりがんばります」と、力強く抱負を述べてくれました。 営業職で重ねた経験を応用力に変え新規開拓  海外営業部で活躍する溝口(みぞぐち)勇二(ゆうじ)さん(71歳)は、66歳で入社して勤続5年目。前職では国内有数の総合家電メーカーに勤務し、15年間にわたりドイツ、アメリカ、イギリスに駐在。海外営業、生産技術の分野で力を発揮してきました。再雇用で65歳まで働き、引退して半年ほどゆっくりした後、奈良県が実施しているシニア人材紹介サービスに登録。自宅から通いやすい距離にあった同社を紹介され入社しました。  「当社には長い歴史があり、地元・奈良県の商品を世界に認知してもらうために働けることも魅力でした。現在の仕事は新規取引先の開拓が中心です。入社したころは務まるか不安でしたが、商品が家電でも竹編針でも、売るための仕組みや営業の基本は同じことに気づきました。私たち高齢者は、長い職業人生のなかで積み重ねた知識や経験と、それに裏打ちされた応用力が武器なのです」  同社がドイツの展示会に初めて製品を出品した際、欧米では金属製の編針が主流で、競合メーカーが包装された商品を展示するなか、溝口さんは竹という自然素材の魅力をアピールするため、手で触れられる展示方法を考案。好評を得て欧州やほかの国々との顧客開拓につなげています。海外駐在経験が長く、現地の文化にも精通している溝口さんだからこその活躍です。  「今後も引き続き製品のイメージアップを図り、技術と素材を活かした新商品の開発で、ビジネスの幅を広げていきたい」と抱負を語ります。  北場プランナーは「4年前に初めておうかがいしたときから、魚住さんが窓口となり意見交換を行ってきました。人事管理の整備を中心に新しいチャレンジをされているという印象を受けました。ショールームを拝見した際は、センスよくコーディネートされたディスプレイを見て、てっきり若い女性が担当していると思っていましたが、溝口さんが手がけていると聞き、その高い感性にとても驚きました」と、2人の活躍ぶりに感銘を受けたときをふり返ります。  尾山代表取締役は、魚住さんや溝口さんをはじめとする高齢社員の活躍ぶりについて、「仕事に対するこだわりを持っていて、どんなことにも積極的に取り組んでいる高齢者の方が来てくれたおかげで、会社が発展してきました。やはり最終的には人柄≠ェ大事です」と話します。  また、尾山常務は「魚住さんや溝口さんの質の高い仕事ぶりを見ていると、仕事に年齢は関係ないことがわかります。もっと企業と高齢者のニーズをくみ取り、マッチングできる仕組みがあるとよいですね」と、生涯現役時代のシニア就労のあり方について意見を述べてくれました。  会社が必要とする人材を求めたところ、自然と高齢者雇用につながっていた近畿編針株式会社。この先もベテラン勢が会社の牽引役として活躍する様子が目に浮かびます。(取材・西村玲) ※雇用力評価ツール……企業が高齢者を活躍させる力(高齢者雇用力)について、先進企業と比較しながら、自社の高齢者雇用力の強みと弱みを把握し、高齢者が能力を発揮しやすい体制をつくるための手がかりを提供するツール 北場好美 プランナー(60歳) アドバイザー・プランナー歴:6年 [北場プランナーから] 「人事労務を担当する方たちは、私と同じ世代(50代後半〜60歳)の方が多い印象があります。その場合、ご自身も定年間近になっているので、高齢者雇用には問題意識が高いです。人事労務の担当者は制度改革のキーパーソンですから、お話を傾聴させていただいて、自らを受け入れてもらえるように努めるとともに、有意義な情報提供ができるように心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆奈良支部高齢・障害者業務課の竹内課長は、「北場プランナーは社会保険労務士、行政書士、健康経営エキスパートアドバイザー、ハラスメント防止コンサルタントなどの資格を持ち、人事労務管理から職場改善、健康管理まで幅広い分野に精通しています。特に『雇用力評価ツール』の活用を積極的にすすめ、活用された企業からは、『説明がわかりやすく、自社の現状や課題が理解できてよかった』との評価を数多くいただいています」と話します。 ◆同課は、初代天皇の神武天皇陵のある近鉄「畝傍御陵前(うねびごりょうまえ)」駅から徒歩で約15分です。万葉集に出てくる香久山(かぐやま)・畝傍山(うねびやま)・耳成山(みみなしやま)の大和三山に囲まれ、日本で初めての本格的な都であった藤原京の藤原宮跡や本薬師寺跡があります。 ◆同県では、5人の65 歳超雇用推進プランナーが活動し、2018年度から2021年度の4年間で、約800社を訪問、259社に定年引上げなどの制度改善提案を実施しました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●奈良支部高齢・障害者業務課 住所:奈良県橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 電話:0744(22)5232 写真のキャプション 奈良県生駒市 本社社屋 尾山敬常務取締役(左)と尾山恭子代表取締役(右) 毎日多数届くメールをチェックする魚住光正さん カタログをモニターでチェックする溝口勇二さん 【P36-37】 第76回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  相澤竹夫さん(69歳)の本職はグラフィックデザイナーで、いまもアートの世界の第一線で活躍中である。3年前に副業として、すき焼きで有名な老舗・人形町今半でオペレーターの仕事を始めた。以来、豊かな人生経験を活かし、お客さまの要望にていねいに向き合っている。常に挑戦し続ける相澤さんが生涯現役の醍醐味を語る。 株式会社人形町今半 飲食部ご予約センター 相澤(あいざわ)竹夫(たけお)さん 未知なる世界との出会い  私は茨城県坂東(ばんどう)市の出身です。絵を描くことが好きでしたから、地元の高校を卒業すると、東京のデザイン専門学校でグラフィックデザインを学びました。卒業後は数社の制作プロダクションで働きながら先輩に鍛えてもらいました。徒弟制度の名残りもあって辛いことも多かったのですが、いまとなっては厳しく教えてもらえたことに感謝しています。1988(昭和63)年に一念発起して自分の会社を設立しました。経営者の才覚はなかったものの、好況に支えられ、アパレルやファッション、音楽業界の広告をはじめ、レコードジャケットやパッケージデザイン、ブックデザイン、CDのカバーデザインなど仕事の幅はどんどん広がっていきました。著名なアーティストとの出会いも数多く、よい時代を過ごさせてもらいました。  株式会社人形町今半(いまはん)の「ご予約センター」の仕事が決まってから、ひとまず自分の会社は休眠状態ですが、アートディレクター、グラフィックデザイナーの仕事は続けています。デザイナーの仕事をまっとうしたい気持ちに迷いはなかったのですが、65歳になったとき、これまでとは違った世界にも触れてみたくなりました。  たまたま登録した派遣会社が、「東京キャリアトライアル65」の事業を受託しており、そのプログラムの一環で人材を募集していた人形町今半の「ご予約センター」を紹介されました。「東京キャリアトライアル65」とは、長く働きたいシニアを東京都がサポートするもので、65歳以上の人の就業機会拡大を目的としたものです。  人生における出会いとは不思議なもので、私が何か新しいことを始めたいと考えた時期と、「ご予約センター」の立ち上げが重なり、私は設立からかかわらせていただき、未知なる世界に一歩踏み出したのです。  1895(明治28)年、今半は東京・本所区(ほんじょく)(現在の墨田区南部)で牛鍋屋として産声を上げた。1956年には「人形町今半」が開業、「世界一のすき焼き」を目ざして上質な料理とサービスを連綿と届け続けている。 脳を活性化させる新たな挑戦  「ご予約センター」立ち上げの背景には、それまで店舗で予約を受けていた従業員の負担が大きくなってきたことがありました。また、電話がつながりにくいという苦情への対応や、何よりも、シニア世代の豊かな人生経験を活かせる職場の創出が視野にあったそうです。立ち上げのときには20人ほどが採用されたと記憶しています。私も人生経験は人並みに重ねてきたつもりですが、実は電話が苦手でした。登録していた派遣会社にも「なるべく人と話さなくてよい職種を希望」と伝えていたほどです。それがどこでどう間違ったのか、「ご予約センター」の業務に就くことになったのですから、ご縁というのか、人生のおもしろさはこういうところにあるのかと思ってしまいます。  入社後3カ月間ほど研修を受けましたが、電話嫌いの私を指導してくれた上司は苦労されたことでしょう。指導のおかげで実際に現場に出てみると、思いのほか落ち着いてお客さまとお話しすることができました。ただ、緊張しながら言葉を選んでお話しするので、帰宅後は電話が鳴っても取りたくないほど疲れ果てました。それでも、経験したことのない仕事は脳を大いに刺激し、本業にも効果がありました。  電話が苦手というものの、長年、クライアントと直接仕事上の交渉をしてきたのだから、そのコミュニケーション能力は高く、むしろ電話応対は適任だった。相澤さんの謙遜がほほえましい。 一期一会の気持ちで  電話応対の仕事は数をこなすなかで失敗したり、次にはその失敗を活かすための努力をしたりと、3年経ったいまも緊張の連続です。これまではレストランの従業員の方が予約を受けていましたから、お客さまと直接接することもあり、受話器の向こうの顔が想像できる強みがありました。ただ、「ご予約センター」の私たちは、言葉だけで膨大な情報をお伝えしなければなりません。しかも情報は日々更新され、その内容も店舗ごとに違います。現在は10店舗ほどですが、名古屋の店舗についても私たちがお答えしています。名古屋の道案内などわからないことも多く、早口でいろいろお話しされますと冷や汗が流れます。  心がけているのは、お客さま一人ひとりに一期一会の気持ちを忘れないということです。仮に、一日30本の電話を受けるとすると、30人のお客さまと出会うことになります。晴れの席もあれば法事もあり、大切な接待の場合もあります。一人ひとり状況が違うことを把握し、例えば食物アレルギーなどについてはしっかり情報交換をする必要があります。短い時間でできるかぎりお客さまの気持ちに寄り添いたいといつも考えています。  例えば「お食い初め」の席を予約される方も多いのですが、若いお母さんの緊張した声と一緒に赤ちゃんの泣き声が聞こえてくると、見えないはずの二人の姿が見えてくるような気がするから不思議です。  最近では電話応対にも少しは余裕が出てきましたが、応対のプロになるのではなく、素人のままでよいと私は思っています。というのも、一生懸命な素人でありたいと思うからなのです。 生涯現役を目ざして  「ご予約センター」は10時から受付が始まりますが、私は週4日、14時半から19時半までの勤務です。スタッフは20人ほどで、私より高齢の方も数名います。一昔前であれば、電話応対の仕事は若い女性が適任と思う人もいたかもしれませんが、電話であってもそこに人形町今半の世界観を展開しなければならず、私たちのような高齢者が応対することで、お客さまに安心していただけるならこんなに嬉しいことはありません。生後3カ月の「お食い初め」のお子さまが、次は一歳で「一升餅」を背負い、その次は七五三で晴れの席をご予約いただくこともあり、お客さまと一緒に子どもたちの成長を喜び合えるこの仕事はやりがいがあります。  「ご予約センター」の仕事を始めて、私は自分自身がまだまだ成長できることを知りました。その成長が回り回ってデザイナーの部分にもはっぱをかけてくれます。スキルを上げることは高齢になるとむずかしい側面もありますが、一生成長し続けることは可能です。せっかくできたご縁を大切に、健康で楽しく働き続けるために明日も受話器を握ります。 【P38-41】 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 制度、仕組みづくり 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中 謙介  生涯現役時代を迎えたいま、シニア人材が活躍し続けるために必要な制度や仕組みづくりのポイントを解説。連載第2回は、各社ごとに設定された高齢社員に対する活用方針(第1回を参照※)に沿って、高いモチベーションで働いてもらうための評価・処遇制度の整備ポイントについて解説を行います。 第2回 高齢社員がモチベーション高く働ける制度を整えよう! 1 高齢社員の活用方針に沿った評価・処遇制度を構築する  前回みてきたように、現状分析を詳細に行ったうえで高齢社員の活用方針を検討することで、各社ごとに高齢社員に期待する活躍のイメージが具体化されていきます。これを1stステップとしておきます。  2ndステップは、実際に高齢社員の活躍をうながしていくうえで、高いモチベーションと生産性を維持できるよう、1stステップで構築した方針に沿った高齢社員へ期待する役割をふまえた適正な評価・処遇制度を構築することがポイントになります。主要な論点としては、(1)雇用形態をどうするか、(2)既存人事制度との対応関係をどうするか、という2点に分類されると筆者はとらえています(図表1)。  (1)についてはさらに、@大多数の企業が採用する「定年再雇用制度」を活用するのか(この場合、雇用形態としては非正社員であることが大半)、それともA定年延長を実施するのか(定年再雇用制度から切り替える場合は、非正社員から正社員に転換するケースが多い)、という二つのテーマに分かれ、(2)についても、@人事制度非接続型(定年前後で高齢社員に適用される人事制度を変える)による高齢社員活用と、A人事制度接続型(定年前後で高齢社員に適用される人事制度を変えない)による高齢社員活用の2種類に分かれます。  以下、定年再雇用制度の構築・運用パターンと、定年延長実施パターンに分けて、具体的な評価・処遇制度の構築方法についてみていきましょう。各社の高齢社員活用方針に沿って、最適な組合せをチョイスしていくことが望まれます。 2 定年再雇用制度の構築のポイント  一般的に、多くの企業では「定年再雇用制度(ここでは、高年齢者雇用安定法の定める『継続雇用制度』と同義とする)」が採用されています。60歳定年制を前提とする場合、定年によって、いったんそれまでの正社員としての雇用契約が終了し、新たに非正社員として再雇用(新しい労働契約)されることになるため、定年前と比べて処遇を柔軟に変更しやすい点がメリットとしてあげられています。なお、一般的に定年再雇用後は定年前と比べて本人に期待する役割(職務や職責)を変更しているケースが多く、評価・処遇制度については前述の「人事制度非接続型」の枠組みで構築する企業が比較的多いようです(もちろん、人事制度接続型で定年再雇用制度を構築することも可能です)。  そこで、ここでは人事制度非接続型の枠組みを基礎として、高齢社員の活躍を促進する定年再雇用制度を構築する際のポイントについてみておくことにしましょう。具体的には、 @高齢社員個人の能力や意欲に応じて、本人が選択できる働き方のコースを設計する Aコースごとに、高齢社員に期待する役割や評価・処遇制度の詳細を設計する の2点が重要になります。筆者はこの構成を「コース別定年再雇用制度」と呼んでいます(図表2・3)。  例えば、定年再雇用後も高いレベルでの活躍を期待する社員に対しては、「エキスパートシニア(管理職級あるいは高度専門職級としての位置づけ)」のような形で、標準的な再雇用者よりも上位のコースを設けることができます。期待役割のレベルにより賃金差をつけたり、仕事ぶりによって人事評価を適切に行うことができれば、高齢社員のモチベーションアップにつながることが期待できます。  定年後も引き続き活躍する意欲が高く、能力発揮が期待される一部の高齢社員に対しては正社員同等の役割(内容は現役時とまったく同じでなくてもよい)を継続してになってもらいたいという方針の強い企業では活用しやすい仕組みといえるでしょう。  なお、一般的な定年再雇用制度の枠組み(雇用形態は非正社員)は、いわゆる「同一労働同一賃金」法制の対象となるため、適法な運用ができているかどうかのチェックも必要になりますので、くれぐれも注意するようにしてください(厚生労働省が発表している「同一労働同一賃金ガイドライン」※の内容についても参照)。 3 定年延長時における評価・処遇制度の構築のポイント  高齢社員の活用方針として中長期視点で生涯現役を志向する企業であれば、定年前と同様の期待役割を継続する「人事制度接続型」の構成を基礎とした定年延長の仕組みが適している部分があり、近年では実際に定年延長を行う企業も増えてきています。  さて、定年延長の決定にあたって検討すべき人事制度上の主要な論点は図表4の通りです。なお、高齢社員の多様な働き方については、次回(第3回)に詳細な解説を行います。  図表4のテーマを主要論点として、実際には企業ごとの高齢社員活用方針によって対応が変わります。定年延長=人事制度接続型だけではなく、人事制度非接続型での定年延長のケースも十分にありえます(定年年齢は伸ばすが、期待役割は60歳時点で切り替え、高齢社員の意識も60歳以後の期待役割に合わせて変えていきたいと考える企業がある)。これはどちらが正解/不正解というものではなく、あくまで各企業の実態に沿っていること、高齢社員の活用方針に沿っていることが重要です(図表5)。  また、人事制度接続型による定年延長に取り組む場合で、単に60歳以後の仕組みだけを変更するのではなく、会社全体で人事制度を変更していく必要性が高い場合があります。  例えば、定年再雇用制度で60歳以後の賃金を大幅に減額していた企業が、定年延長を実施するにあたって減額していた賃金を定年前の水準に戻すことを検討するとします。このとき、賃金アップの対象となる社員数、また今後新たに60歳を迎えていく50代後半の社員数を考慮し(これまでは下がっていた賃金分が下がらなくなる対象者層)、会社が許容できる総額人件費の上昇分を超えてしまうようであれば、60歳以後の制度改定だけではなく、全社的な賃金カーブの見直しも視野に入れる必要が出てきます。  具体的には60歳以後の賃金上昇分をカバーするために、40歳以後の賃金カーブを全体的に下げるように再設計する例があります。とはいえ、中間層の賃金をたちまち引き下げるわけではなく、等級制度の再設計による社員格づけの変更をともなう賃金ダウンや、定期昇給額のダウンなど(いずれも評価の低い社員が対象になりやすい)、さまざまな制度改定を組み合わせて、かつ数年程度をかけて段階的に実施することになります。  上記の方法は、60歳以後の仕組みだけを見直す場合と比べて企業としての取組みの負担度合いは大きいものの、総額人件費の課題だけにとどまらず、雇用期間の延長をふまえて生涯賃金の再設計を行うという点で本質的な取組みでもあります。取組みにかけられる時間的余裕があり、かつ定年延長を機に抜本的な人事制度改定に取り組みたいと考える企業であれば、中長期視点で検討していただきたいテーマです。  次回は、「高齢社員の多様な働き方」についてお伝えします。 ※ 厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf 図表1 高齢社員の活用に向けた評価・処遇制度構築における主要な論点 (1)雇用形態 (2)既存人事制度との対応関係 @定年再雇用制度の活用 @人事制度非接続型 A定年延長の実施 A人事制度接続型 区分 特徴 @人事制度非接続型  (定年再雇用制度導入企業に比較的多い) ・基本的な考え方として、高齢社員に対して定年前と異なる貢献・働き方を求める ・定年前後で期待する役割や賃金、その他の労働条件を変更する ・高齢社員活用に向けて人事制度を改定する際、定年後の人事制度だけを見直すケースが多い A人事制度接続型  (定年延長実施企業に比較的多い) ・基本的な考え方として、高齢社員に対して定年前と同等の貢献・働き方を求める企業が多い ・定年前後で期待する役割や賃金、その他の労働条件を変更しない ・高齢社員活用に向けて人事制度を改定する際、全社的に人事制度を見直す場合がある ※株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表2 コース別定年再雇用制度のイメージと、定年再雇用者に求める期待役割の例 再雇用 管理者として再雇用(+高度専門職) 管理職(役職者)として残る場合は、通常フルタイム勤務よりも処遇面を高めに設定する。 フルタイム勤務で再雇用 過去の人事評価で標準以上、もしくは特別な技能や技術を持っている者が対象となる。 パート勤務で再雇用 再雇用基準はクリアしたものの、過去の人事評価が標準を下回る者については、短時間勤務で再雇用する。 ※株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表3 定年再雇用者に求める期待役割の例(人事評価基準としても活用) 6級 @課長クラスの育成を行う A部長クラスの補佐を行う B下位者に対し、実務およびマインド面を指導する C自社を取り巻く経営環境・情報に気を配り、その内容を見据えたうえで適切な指導を行う D部門レベルの改善提案を行う 5級 @非管理職の育成をする A課長クラスの補佐を行う B下位者に対し、実務およびマインド面を指導する C自社を取り巻く経営環境・情報に気を配り、その内容を見据えたうえで適切な指導を行う D課レベルの改善提案を行う 4級 @新しい案件や非定常の案件にも、専門分野を通じて、適切な判断を行い、対処する A適切に意思疎通を行い、部門に大きく貢献する B高度で幅広い専門知識と、競争力あるスキルを発揮する C他部署関係者とも積極的にやり取りし、必要な情報を収集して業務を行う D顧客のニーズ・満足を意識した提案を行い、標準以上の成果をあげる E担当業務および課メンバーの業務改善により、業務の効率化に努める 3級 @担当分野の業務をスケジュール通り一人で行う A適切に報告・連絡・相談を行うとともに、相手に対して自分の考えを上手に伝える B担当する業務のなかで発生するであろう問題について正しく予測する C顧客のニーズ・満足を意識した提案を行う D担当業務の業務改善により、業務の効率化に努める ※株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表4 定年延長の決定にあたって検討すべき人事制度上の主要な論点 ※ここでは60歳から65歳へ定年年齢を延長する設定として考える @定年延長後の期待役割と評価 ⇒定年延長により、定年前後の期待役割を変更するか否か、人事評価をどうするか A定年延長後の評価・処遇 ⇒定年延長により、人事評価の基準・評価方法を変えるか否か  定年延長により、60 歳以後の賃金を変更するか(引き上げるor引き下げる)、  60歳以前の賃金も変更するか(全社的な賃金制度改革) B定年延長後の働き方 ⇒定年延長により、高齢社員の配置・異動・労働時間をどのように設定するか ※株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表5 定年延長時の制度設計における人事制度接続型/人事制度非接続型それぞれの対応方針 テーマ 人事制度接続型 人事制度非接続型 @定年延長後の期待役割 定年前と同様の期待役割 定年前と異なる期待役割 →管理職のサポートや後進への技能伝承など、高齢社員としての知識・経験を活かせる分野が望ましい A定年延長後の評価・処遇 基本的には定年前と同様 期待役割に応じた評価・処遇を行うことが望ましい B定年延長後の働き方 基本的には定年前と同様 多様な働き方のパターンを用意できれば望ましい ※株式会社新経営サービス人事戦略研究所作成資料 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第52回 執行役員の処遇、シフト削減と違法性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年間近の執行役員に役職を降りてもらう際の留意点について知りたい  執行役員として処遇してきた従業員について、後任の育成を視野に入れるためにも、定年が近づいてきた執行役員に職を降りてもらうことを考えています。執行役員の地位にある間は、役員に近いような処遇で、労働条件としては、通常の労働者とは一線を画しているといえるような状況です。執行役員から降りてもらうとなると、処遇をかなり引き下げなければならなくなるのですが、どうすればよいでしょうか。 A  執行役員といえども労働者ではあるため、労働条件を引き下げるためには合意に基づき行うことが最適でしょう。しかしながら、執行役員の処遇が、規程などにおいて特殊に定められている状況が確保できているのであれば、執行役員の任務を解くことによって、条件を引き下げることができる場合があります。 1 執行役員の立場について  会社内においては、「取締役」といった会社法上の役員以外にも、「執行役員」として、従業員の地位を有しながらも役員に近い立場で執務する労働者がいます。  会社法においては、類似の役職として「執行役」という立場があります。こちらは、会社法において、指名委員会設置会社などに設置される役職であり、取締役に代わる立場であり、会社との契約関係は、労働契約ではなく委任契約に基づくことになります。  今回の相談において、検討しなければならないのは、従業員の立場である(労働契約を締結している)執行役員の処遇です。  基本的な考え方としては、たとえ、執行役員であり、処遇が通常の労働者とは異なるものであるとしても、あくまでも労働者であることは変わらず、労働基準法や労働契約法が適用されることには相違ありません。  そのため、従前の合意とは異なる内容を強制する形で、労働条件の不利益変更が行われる場合には、その変更が有効にはならず、労働者との合意に基づかなければならないということになります。 2 執行役員の労働条件の変更について  執行役員の地位については、管理監督者としての地位をあわせて有していることが多いほか、処遇についても一般的な労働者よりも厚遇されていることも多くあります。どちらかというと取締役などの役員と近い立場にある者として社内では扱われることもあります。  そのため、会社によっては、執行役員の処遇に関する規程を定めて、通常の労働者が適用される賃金規程とは異なる内容で整理されていることもあります。賃金規程において想定されている等級や賃金テーブルなどの範囲外で処遇することや賞与および退職金の考え方が異なる場合もあります。  このような執行役員が定年退職に至らなかった場合には、規程で定めた処遇から通常の労働者としての処遇に戻すことができるのかが問題になります。  ここで、執行役員に対する労働条件の変更が争点となった裁判例を紹介したいと思います。  事案の概要は、常務執行役員を務めていた労働者を、会社が、部長に降格をさせて、月額120万円の報酬から月給45万円程度まで減額したことの効力が争われた事案です(東京地裁令和2年8月28日判決)。  この会社では、元々部長職であった労働者を常務執行役員に任命し、報酬を43万円程度から高額の報酬へ変更して、最終的には月額120万円に及んでいました。執行役員制度については、執行役員規程を設けており、執行役員として1年間の任期をもって退任する旨定めたうえで、任期満了の都度、取締役会で議決して、再任していました。  執行役員規程のなかには、賃金に関して、「執行役員の報酬について給与規程に準じるものとし、役付執行役員の報酬については、職務の内容(遂行の困難さ、責任の重さ)並びに従業員給与の最高額及び取締役の報酬を勘案して、その都度決定する」と規定しており、通常の労働者の等級等とは異なる決定がなされていました。そして、当該執行役員規程についても、就業規則と同様に周知がされており、就業規則の一部として拘束力を有すると判断されています。  その結果、執行役員規程の位置づけとしては、「執行役員規程が執行役員の待遇について別途の規程を置いているのは、豊かな業務経験を有し、優れた経営感覚の下、高い識見をもって職務に当たることが期待されている被告の執行役員として選任された被告従業員に対し、その任期中、役付の有無に応じ、その責任等に応じた特別待遇をもって報いる趣旨のものと解せられる」として、「同規程は、執行役員から退任した従業員に対して退任後も同様の労働条件をもって保障することを含意する趣旨のものとは解せられず、あくまで執行役員在任中における特別待遇を保障する趣旨のものと解するのが相当」とされました。  その結果、執行役員としての任期を満了して再任されることなく退任した場合には、従来の職務に戻ることとなり、執行役員就任前の部長職となり、処遇もそれに則した条件となることが肯定されました。労働者からは、重要な労働条件の不利益変更に該当し、労働者の自由な意思がなければ有効に変更できないといった主張もなされていますが、執行役員規程が労働条件の内容となっており、退任時に処遇が就任前の条件に戻ることを含めて予期しておくべきと判断されており、退任時の処遇も含めた形で労働条件が形成されている点を重視しています。  執行役員については、この裁判例のように執行役員の処遇を規程として定めて、周知しておかなければ、退任時の処遇がどういった位置づけになるのか不明確になるおそれがあります。  また、今回紹介した裁判例の特徴として、@執行役員規程が周知されていたこと、A執行役員が任期制となっており退任する可能性が想定されていたこと、B執行役員の処遇の根拠が、職務の内容を考慮したものであることや、それにふさわしい人材がいかなる労働者であるのか(豊かな業務経験、優れた経営感覚、高い識見が期待される)ということが明記されていたこと、などがあげられます。  執行役員規程を設けていれば大丈夫というわけではなく、その内容も含めて自社が想定している効果を生じさせることができるか見直しておくことをおすすめします。 Q2 シフト制のパート社員の勤務日数を減らすことは法的に許されるのか  シフト制のパート社員がいるのですが、コロナ禍の影響もあり、シフトあたりの人数を減員しています。従前は、週5日の6時間勤務でシフトに入っていたパート社員もいるのですが、週3日程度に削減させようと思っています。労働条件通知書や契約書にはシフト制である旨のみ定めており、最低減のシフト日数などは定めていないのですが、問題ないでしょうか。 A  シフト制としての合意内容が明確かどうかによりますが、具体的なシフト日数や時間数が合意されていないのであれば、過去の実績よりも削減させることは可能と考えられます。ただし、極端な削減を行うことは違法となる場合があります。 1 パート社員とシフト制について  労働法においては、いわゆるパートタイム労働者(以下、パート社員)に関しては、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に定められています。パート社員や契約社員と正社員の同一労働同一賃金について定めているのもこの法律になります(同法第8条および第9条)。  この法律がいうところの、「短時間労働者」(パート社員)とは、「一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」をいいますので、一般的には、正社員よりも時間が少しでも短ければ短時間労働者に該当します。  シフト制が採用されており、正社員よりも労働時間が短いパート社員のときは、シフト制が採用されている場合でも短時間労働者として同法の保護を受けることができます。  労働条件において、労働時間をシフト制とする旨定めること自体は、採用時に使用者と労働者の意向が合致するかぎりは有効です。労働者としては、一定の曜日や時間をあらかじめ約束はできなくとも、一週間のうちある程度の時間を労働に費やすことができる場合には、その時間を組み合わせて働くことができる一方で、使用者としても、シフト制の労働者を多数雇用して組み合わせることによって事業を運営することが可能となります。 2 シフト制と使用者の裁量の範囲  コロナ禍において、休業などにともない労働者を完全に休ませる場合についてはともかく、営業時間を限定的に行う場合などには、シフトの削減などをともなうことが多かったと思います。シフト制の労働者の人数に比して、業務量が減少してしまった場合には、使用者としては、労働者を減員するかシフトを減少させるか、いずれかを選択する必要に迫られる場合があります。このような場合に、シフトを削減することは可能なのでしょうか。  紹介する裁判例は、介護事業と放課後等デイサービス事業を営む会社において、シフト制で採用されていた労働者からの、「これまでの実績からすれば、週3日以上、1日の労働時間は8時間がシフト制の最低条件である」として、シフトが削減された部分に相当する賃金の支払い等の求めに対して会社側が債務不存在の訴えを起こした事案です(シルバーハート事件、東京地裁令和2年11月25日判決)。  労働者と締結している雇用契約書には、始業・終業時刻および休憩時間の欄に「始業時刻午前8時00分、終業時刻午後6時30分(休憩時間60分)の内8時間」との記載のほか、「シフトによる」旨の記載がありましたが、このシフトの内容については特段の記載はなく、労働者が履歴書において週3日を希望する旨記載があった程度でした。  シフトの決定方法は、「前月の中旬頃までに各従業員が各事業所の管理者に対し、翌月の希望休日を申告し、各事業所の管理者は希望休日を考慮して作成したシフト表の案を、前月下旬頃に開催されるシフト会議に持ち寄り、話し合いを行う。各事業所の人員が適正に配置されるよう、人手が足りない事業所には他の事業所から人員の融通を行う等の調整を行った上、シフトが正式に決定」されていました。また、事業の特性として、介護事業所のシフトには、管理者、相談員、介護職、運転担当、入浴担当、アクティビティ担当などの役割があり、少なくとも1人ずつ配置する必要がありました。  このようなシフトの決定方法としては、前月中に希望を募って、必要な役割の人員をシフトに割り振って、最終的なシフトを決定するというものであり、一般的なシフト決定方法といってもよいように思います。  裁判所としては、シフト制の内容に関する合意について、「雇用契約書には、手書きの『シフトによる』という記載があるのみであり、週3日であることを窺(うかが)わせる記載はないこと」、過去の出勤状況についても「1か月の出勤回数は9回〜16回であり、…勤務開始当初の2年間においても、必ずしも週3日のシフトが組まれていたとは認められないことからすると、固定された日数のシフトが組まれていたわけではなかった」としたうえ、「他の職員との兼ね合いから、被告の1か月の勤務日数を固定することは困難である」として、週3日、1日8時間という内容で合意されていたとは認めませんでした。  しかしながら、だからといって、急激なシフトの削減が許容されるかという点は別問題であり、「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る」としたうえで、「少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり」、本件では、勤務日数を突然1日まで削減したとき以降のシフト削減が権利濫用に該当する違法なものであると判断されています。  結果として、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金として、直近3カ月間の平均賃金について、民法第536条2項に基づき、賃金を請求し得るとされました。  本件のポイントは、シフト制では、シフトの削減自体は可能であること。ただし、その程度が極端である場合には違法な権限行使として賃金相当額の請求が肯定される場合があるという点です。シフトを減少せざるを得ない理由はどういった点にあるのか説明し、期間がどの程度になるのかなどもしっかりとコミュニケーションをとったうえで、権利の濫用とならないようにシフトの削減を実施することが望ましいでしょう。 【P46-47】 病気とともに働く 最終回 株式会社愛知銀行 社内診療所を設置して健康相談を身近に両立支援も本人の意向を尊重する手助け  加齢により疾病リスクが高まる一方、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病が「長くつき合う病気」に変化しつつあり、治療をしながら働ける環境の整備も進んでいます。本連載では、治療と仕事の両立を支える企業の両立支援の取組みと支援を受けた本人の経験談を紹介します。  株式会社愛知銀行は1910(明治43)年の創業以来、「助け合いの精神」を大切にしてきた。同社はもともと社内診療所を設置するなど社員への支援制度が充実していたが、2018(平成30)年にこうした制度を「あいぎん健康宣言」として明文化し、さらに戦略的に健康管理に取り組んできた。  そこで、人事部人事グループ調査役の山田晃嗣(こうじ)さんと社内診療所スタッフを代表して保健師の伊藤里江さんなどから、同社の両立支援策と診療所の役割などのお話をうかがった。 両立支援を制度として整えるだけでなく使いやすい制度となるように工夫  家族的な社風の同社では、「両立支援」という言葉ができるよりずっと以前から職場復帰を手助けする制度が整えられていたという。「制度として整備されているだけでなく、使いやすい制度になるように工夫されていると自負しています」と山田さんは強調する。  例えば、独自の取組みとして「保存有給休暇制度」があるが、これは失効した有給休暇を最大60日積み立てられるもの。7日以上の連続使用が原則だが、同一傷病にかぎり1日からの利用も認めているため、1日〜2日だけ病院に行く、という際にも気軽に利用しやすい。また、保存有給休暇を使い切った後は欠勤扱いとなるが、そこから3カ月間は傷病が理由である場合にかぎり給与の80%を支給する「収入保障」も設けられている。さらに欠勤期間終了後に休職扱い(期間は勤続年数に応じて最長3年まで)となってからも同様に給与の80%を支給するという制度だ。  「底流にあるのは、勤めてくださっている方を大事にしていくという姿勢ですが、私はやはりご本人がどうしたいかという意思を尊重したいと考えています。治療に専念して仕事は一切中止、という意向であればそれに沿いますし、面談するなかで『会社に戻りたい』、『働いている自分が好きなんです』と、仕事が好きで戻りたいという気持ちがある方にはその気持ちを最優先にしながら制度を運用していくようにしています」と、山田さんはその思いを語る。 着実な復帰への意欲を引き出すため在宅支援にはコミュニケーションが不可欠  両立支援制度を運用していくなかで、メンタル不調に陥り、「復帰しようと思えば思うほど体が逆の動きをする」と訴える社員に寄り添い、最大で3年後という復帰までの期限を見すえながら復帰プログラムを策定し、徐々に準備をしながら職場復帰に至ったというケースもあった。このケースでは医師と診療所スタッフ、社員本人の3者で復帰に向けたプログラムを策定したのだが、その際、診療所スタッフからの助言が大きかったと山田さんは語る。「スタッフのみなさんが、ご本人の症状や状況を実によく聞き出し、それに合わせたプログラムを策定できたため、無理なくスムーズに職場復帰してもらうことができたと思っています」  こうして本人の意向を上手に引き出すとともに、在宅治療の場合には適度にコミュニケーションを取ることも大切だと山田さんはいう。特にメンタル不調の場合、身体は動けるため、ともすれば「サボっていると思われるのではないか」と考えてしまうこともあるので、頻繁に連絡すると「監視されている」と取られかねない。反対に連絡を取らないと孤独になって「自分は会社や仲間から必要とされていないのではないか」という不安感にかられてしまう。  支援を受けた前述の社員(匿名)も、「定期的に連絡を取っていまの状況を聞いてくれるだけで、会社とのつながりを持つことができ、そのおかげで治療に専念して着実に復帰しよう、と前向きになれました」と語ってくれた。 社内診療所は健康管理を意識づける手伝い役  同社の社内診療所では6人の医師が日替わりでそれぞれの専門科を担当し、保健師3人、看護師1人というスタッフが常駐している。両立支援における診療所の役割について伊藤さんにうかがった。  「まずは『休務の期間を十分に確保しておりますので、しっかり病気を治して、それからお仕事をどうされるか考えてください』、とお伝えします。そのうえで主治医から復帰か、仕事と両立かの判断があった時点で、業務を熟知している当診療所の産業医が業務に復帰してよいかどうか判断します。この二つの判断が揃った段階でやっと職場復帰となります」と伊藤さん。その後半年から1年ほどは定期的に診療所にて産業医との面談を重ねることになる。  もちろん両立支援だけではなく、仕事の合間に立ち寄って気軽に相談する社員もいれば、上長から「調子が悪いなら診療所に相談に行ったらどう?」とうながされて来所する社員も多いという。なかには「お腹が痛い」と来所した社員を触診したらよくない兆候があったため、すぐに病院での受診をすすめたところ盲腸が発見され、処置の結果、早期の職場復帰が可能となったケースもあるという。「私たちはあくまでも後方支援ですので、経営者の方々はじめ、働いているみなさんが主体となって、健康管理について常に意識していただけるよう、相談しやすい雰囲気でお手伝いできるよう心がけています」と伊藤さん。  「病気になってはじめて、制度のよさがわかったという声をよく聞きます。そして制度を利用して復帰したら、会社に恩返しをするためにもっとがんばりたい、といった声を聞くと本当に嬉しいですね」と山田さん。これからも社員を大切にする社風に根ざした使いやすい制度を整備させていく決意だ。 写真のキャプション 社内診療所のスタッフ(写真左から)渡辺保健師、福岡保健師、M嶌(はまじま)看護師、伊藤保健師 【P48-49】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第28回 「労働組合」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「労働組合」について取り上げます。知らない方はいないくらいメジャーな用語ですが、ポイントを絞って解説していきます。 労働組合は法律で定められた組織  労働組合(略称、労組)を理解するためには労働三権について触れる必要があります。労働三権とは、@労働者が労働組合を結成する権利(団結権)、A労働者が使用者(会社)と交渉する権利(団体交渉権)、B労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権〈争議権〉)という労働者の三つの権利をさしています※。この権利は日本国憲法第28条で定められ、その実現にあたり労働組合法により労働組合の役割や権利、実行する能力等(権能)が詳細に定められています。労働組合の定義は、労働組合法で「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう」と定められています。  労働組合が有する権能で一番大きなものに労働協約の締結があります。労働協約とは使用者と労働組合の間で交わされる労働条件に関する約束のことをいいます。労働協約の効力はかなり強く、労働協約に反する労働条件の提示や遂行は法的には無効となります。この労働協約を結ぶにあたり、使用者に組合員を代表して労働条件の改善に向けた要求を伝え交渉をする権利(団体交渉権)や、要求が通らない場合に組合員をまとめて抗議行動する権利(団体行動権)も認められています。団体交渉権の行使でもっとも有名なものは春闘(しゅんとう)です。多くの会社の賃上げや労働条件の改定が行われるのが4月であるため、その前の2月あたりに労働組合より改善について要求、3月中には交渉を経て妥結という一連の流れが春に行われることから春闘といわれています。また、団体行動権の行使でよく聞くものとしてスト≠ェあげられます。これは、仕事をしないで団体で抗議することが認められたストライキ権のことをさしています。なお、組合が交渉を要求した際に使用者が拒否をすることは不当労働行為として正当な理由なくできないとされています。このように労働組合の権能は大きく、労働者のだれもが有する労働三権について団体として行動することで、これらの権利を効果的・効率的に推進していくのが労働組合ということが理解できます。 労働組合にはさまざまな種類がある  大きな役割や権能を有する労働組合ですが労働者が主体的・自主的に結成するものなので、労働者が複数人集えば行政機関の届出等なしに自由に結成できるとされています。このため労働組合の有無は会社によって異なりますし、一つの会社に一つの組合という制限があるわけでもありません。かつてある航空会社が経営危機に陥った際に組合が八つ程度あり、交渉に時間がかかると話題になったことがありました(現在は四組合に再編)。  日本の場合、労働組合の結成単位のほとんどが会社単位であり、企業別組合が年功序列・終身雇用と並び日本の企業の特徴と呼ばれることもあります。しかし、欧米では産業別組合が主要であり、このほか、職種別や地域別といった組合もあり、その形態はさまざまです。例えば日本でも社外の労働者が集まって結成する組合があり、合同労組と呼ばれたりします。企業内組合では加入対象外になることが多い管理監督者やいわゆる非正規労働者、会社に労働組合がない労働者が組合員となるケースがあります。このような社外の労働組合であっても団体交渉を要求された場合には、使用者は応じる必要があるとされています。  さて、日本の労働組合の大多数を占める企業別組合ですが、活動は同一組織内だけで完結するわけではありません。これらは単位組織と呼ばれ、同じ業種の単位組織が集まってつくられた産業別組織、さらに産業別組織が集まったナショナル・センターという全国中央組織に加盟している場合もあります。ナショナル・センターは複数ありますが、最大の組織は日本労働組合総連合会(連合)です。単位組織だけではむずかしい春闘の主導や政策提言、政府への要請活動などの役割をになう団体です。 労働組合の組織率や組合員数は低下傾向  最後に労働組合の動向について触れていきたいと思います。図表を参照すると、雇用者数(労働者数)は増加傾向にある一方で、雇用者数に占める労働組合員数の割合である推定組織率は低下傾向にあることがみてとれます。最盛期には55%を超えていたという組織率が、直近の2021(令和3)年には16.9%にまで落ち込んでいます。また、図表にはありませんが同調査で2017(平成29)年では24465組合あったものが、2021年には23392組合と組合数自体も減っています。このような状況を背景に、従来は正社員中心で構成していた労働組合も加入対象の範囲を広げようとしていますが、同調査のパートタイム労働者の組織率は2017年7.9%のところ、2021年8.4%と増加しているもののなかなか加入が進んでいないのが実態です。働き方や価値観が多様化しているなかで、労働者個人が望んでいることを統一の要求として集約していくことがむずかしく、労働者として組合に加入するメリットが少ないとの意見もあり、今後の組織率の上昇は困難な課題といえそうです。  次回は、「社員教育」について取り上げます。 ※@ABは厚生労働省ホームページ「労働組合」より引用 図表 雇用者数、労働組合員数及び推定組織率の推移(単一労働組合) ピーク時(平成6年)労働組合員数12,699千人 出典:令和3年労働組合基礎調査の概況(厚生労働省) 【P50-55】 特別寄稿 労働力のミドルエイジ化とその活力 独立行政法人労働政策研究・研修機構 主任研究員 池田(いけだ)心豪(しんごう)  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)では、日本の産業構造と人口構造の変化に対応した雇用システムのあり方に関する研究をまとめた報告書『変わる雇用社会とその活力―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―』を今年3月に公表しました。  現在、少子高齢化による労働力人口の高齢化が進んでおり、働く高齢者が増加している一方で、20〜30代の若手世代が減少し、労働力人口のボリュームゾーンは、40〜50代の中年世代(ミドルエイジ)になっています。  そこで今回は、同報告書をもとに、人口構造の中心をになっているミドルエイジの活力を維持・向上していくためのポイントについて、同機構主任研究員の池田心豪氏に解説していただきました。 1 はじめに  多くの方がご存知のことと思いますが、日本社会は少子高齢化が進んでいます。そうした背景から、定年延長や再雇用を通じた高齢者の活用が、企業の人事労務管理の今日的な課題として関心を集めています。ですが、現役世代の人口構造にも変化が起きていることは、まだあまり問題になっていないように思います。  かつては20〜30代が労働力のマジョリティでしたが、今日では40〜50代がマジョリティになっています。  図表1は労働力人口の年齢構成割合の推移を示しています。日本が経済大国の地位を築いた1980年代は39歳以下がマジョリティでしたが、1990年代以降は40〜59歳が39歳以下を上回っています。特に2010年代以降は39歳以下と40〜59歳の差が広がっており、39歳以下の割合は低下しています。  今後、39歳以下が再びマジョリティになることはないでしょう。現在40代後半の団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)より人口規模の大きい世代が、その下にいないからです。  39歳以下がマジョリティだった1980年代は戦後最大の人口規模である団塊世代(1947〜1949年生まれ)が30代でした。その後、団塊世代は40代・50代・60代と年齢を重ねていきますが、1990年代は団塊ジュニア世代が20代・30代でしたので、39歳以下の人口がそれほど減りませんでした。しかし、団塊ジュニア世代が40代になった2010年代以降、40代・50代が本格的に労働力のマジョリティになったわけです。  このように労働力のマジョリティが若年層から中年層にシフトする変化を労働力のミドルエイジ化と呼ぶことにします。このミドルエイジ化は、たんに中年層が量的に増えるという問題にとどまらず、従来の人事労務管理の前提を問い直す契機にもなります。  いわゆる日本的雇用慣行は、若年層の人口規模が大きい時代につくられました。長期雇用と年功賃金は若者が賃金の上昇を目ざして勤勉に働く活力を生み出し、その活力を原動力に日本は経済成長をしました。しかし、労働力のミドルエイジ化によって従来の人事労務管理のもとで意欲をもって働く若者は減っています。そうした状況で、日本の経済社会が再び活力を取り戻すためには、発想の転換が必要です。  このような問題意識で、以下では、『労働政策研究報告書No. 221 変わる雇用社会とその活力ー産業構造と人口構造に対応した働き方の課題ー』(以下、労働政策研究・研修機構〈2022〉)をもとに、労働力がミドルエイジ化した今日の日本社会において活力を維持していくためのポイントを以下で解説します。 2 中高年期の地位・能力向上意欲  20代・30代がマジョリティであった時代の経済社会は、若者が地位と能力の向上を求める意欲を生産活動の原動力としてきました。  大企業では、新卒一括採用された若者が、長期雇用と年功的な処遇のもとで、入社年次別に昇進競争をし、その決着がつくのは中高年期という「遅い選抜」が行われてきました。また、昇進競争におけるエリートとノンエリートの区別は曖昧であり、仮に学歴が低く、ブルーカラーとして入社した場合でも、その後の長期的な努力によって管理職に昇進できる可能性がありました。反対に、高学歴でホワイトカラーとして入社した場合でも、その後の働きぶりで評価を落とせば昇進できない可能性もあります。エリートもノンエリートも横一線で上位の地位を求めて長期的に能力の向上に励む、そのような人事管理でした。  中小企業では、新卒採用は一般的でありませんが、やはり若者を採用し、大企業ほど階層化された組織ではないものの、地位と能力の向上に励む活力を企業経営に活かしてきたという点では同じでした。  しかし、年齢を重ねると地位と能力の向上意欲は低下していきます。その傾向を図表2に示します。地位向上の意欲は現状より上の役職への昇進意欲、能力向上の意欲は自己啓発実施割合としてあらわしています。  男性は、年齢が上がると昇進意欲・自己啓発実施割合とも低下する傾向が顕著です。女性も昇進意欲は低下傾向がみられます。ただし、自己啓発は年齢が上昇してもそれほど低下しておらず、男性と比較しても高い割合を示しています。能力の向上という意味では、45〜64歳の中高年期は男性より女性の方が意欲的であるといえます。  男性のなかにも意欲の低下が顕著な人とそれほどでもない人がいます。  図表3は、45〜64歳の昇進意欲を学歴別に示していますが、男性のなかでも学歴が低い人ほど昇進意欲は低く、係長以下の非管理職層はさらに昇進意欲が低くなります。  次に学歴別に過去1年間の自己啓発実施割合を見たいと思いますが(図表4)、ここでも学歴による差は歴然としています。近年、中高年期の学び直しやアンラーニングが話題になっていますが、「過去1年間に新たに学んだ仕事上の知識や技能がある」という割合も男性に関しては学歴が低いほど相対的に実施割合が低いという結果になっています。  若者がマジョリティであった時代の日本企業は、エリートもノンエリートも、みんなが昇進意欲をもって勤勉に働くことを企業の活力としてきました。しかし、労働力のミドルエイジ化により、そうした雰囲気はなくなり、地位・能力の向上に意欲的なエリートとそうではないノンエリートの分断が起きる可能性があります。  その傾向は、日本的雇用慣行の基幹的労働力とされてきた男性において顕著です。反対に女性は昇進意欲こそ男性より低く、年齢とともにさらに低下していきますが、能力の向上については中高年期も意欲的です。その意味で、男性より女性の方が今後の経済社会の牽引役として期待できるといえそうです。 3 地位・能力の向上より社会参加  労働力のミドルエイジ化が進む今後の日本では加齢にともない能力向上意欲などの低下傾向が見られる一方で、年齢を重ねても活力が低下しないところを起点に社会の活性化を考えた方がよいです。  では、年齢を重ねても活力が落ちていない活動とは、どのようなものでしょうか。図表5をみてみましょう。これは町内会やNPOといった団体に所属して行う社会的活動(社会団体活動)の実施割合を性・年齢別にあらわしています。男女とも45歳以降に実施割合が低下するとはいえず、どちらかといえば横ばいです。  興味深いのは、60−64歳だけでなく、50代以下でも社会団体活動実施割合は低くないことです。かつてシニアボランティアといった形で、職業生活を引退した後の活動として地域活動やボランティア活動への関心が高まったことがありました。図表5でも、男性は60−64歳の実施率が上昇しており、定年を機にこうした活動への参加が増えている様子がうかがえます。しかし50代以下も30%を超えており、どの年代も低い割合とはいえません。女性は30代から50代にかけて男性より高い割合を示していますが、男女差は大きくありません。  また、この社会団体活動は学歴差が小さいことも指摘しておきたいと思います。図表6をみましょう。学歴が「大学以上」の女性が目立って高い割合を示していますが、それ以外の女性と男性の間には大きな差はなく、男性の学歴差も大きくありません。  ここで示した社会団体活動は経済活動ではありませんが、労働力がミドルエイジ化した今後の日本社会の活性化を考えるうえでヒントになる結果ではないかと思います。 4 人に頼らないのはよいことか  ここまでの結果から、労働力がミドルエイジ化した日本社会では、地位や能力の向上を求める意欲よりも、社会参加や社会貢献が活力の源になっているということができるでしょう。  しかし、逆説的ですが、労働力のミドルエイジ化には社会参加を消極的にする面もあります。  図表7に人との付き合い方において、困ったことがあったとき人に助けを求めるか(ヘルプ型)、自分のことは自分でするか(セルフ型)の自己認識の割合を示しています。男女とも年齢が上がるとヘルプ型は低下しています。つまり、年齢を重ねると人に頼らなくなるのです。  これは自立した人間関係を築こうという、尊ぶべき自助の精神のあらわれとみることもできるでしょう。頼りない若者が頼もしい大人に成長したという評価をする人もいると思います。  しかし、図表8をみると、セルフ型は男女ともにヘルプ型より中高年期の社会団体活動実施割合が低く、社会参加や社会貢献といった面で積極的とはいえません。「困ったときはお互いさま」ということでしょうか、人に頼る意識を持っている人の方が社会参加に積極的な様子がうかがえます。  なお、労働政策研究・研修機構(2022)では、昇進意欲や自己啓発実施割合においても、セルフ型の方が高いという結果は得られていません。  こうしてみると、セルフ型は自助・自立というより、他者との交流や社会参加・社会貢献に消極的で、自己完結的な意味合いが強いようです。 5 他者との交流を活力に  「働かないおじさん」批判をはじめ、中高年に対する厳しい声をときどき耳にします。たしかに、地位や能力の向上という若者の基準でみると、中高年、特に男性は意欲の低下が明らかです。しかし、かつての団塊世代や団塊ジュニア世代のような人口規模で若年労働力を確保することはできません。労働力のミドルエイジ化が進む今後の日本では、中高年層の活力を引き出す施策を考えていくことが重要です。  そのためには、社会参加や社会貢献の観点が重要であることを、本稿でみてきた調査結果は示唆しています。また、女性は中高年期も自己啓発に意欲的ですが、そのなかでも勉強会のような他者との交流がある活動(他者交流型自己啓発)が活発であることも労働政策研究・研修機構(2022)で明らかになっています。  地位の向上を目ざす昇進競争は他者に勝とうとする意欲が活力になっています。しかし、今後は他者との交流を活力に経済社会を再編成していくことが重要だと考えられます。 図表1 労働力人口の年齢構成割合の推移 39歳以下 40−59歳 60歳以上 資料:総務省「労働力調査」2021年 図表2 性・年齢別 次の役職への昇進意欲と過去1年間の自己啓発実施割合[正規雇用] 男性 自己啓発 次の役職への昇進意欲 女性 自己啓発 次の役職への昇進意欲 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.74-77をもとに筆者作成 図表3 男女別・学歴別 次の役職への昇進意欲[45〜64歳・正規雇用] 男性 中学・高校 正規全体16.1% 係長以下14.1% 専門・短大・高専 正規全体26.7% 係長以下20.9% 大学以上 正規全体34.0% 係長以下29.3% 女性 中学・高校 正規全体6.0% 係長以下5.6% 専門・短大・高専 正規全体7.0% 係長以下5.6% 大学以上 正規全体15.0% 係長以下17.5% 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.79をもとに筆者作成 図表4 男女別・学歴別 過去1年間の自己啓発実施割合[45〜64歳・正規雇用] 男性 中学・高校 専門・短大・高専 大学以上 自己啓発あり 新たに学んだ、仕事知識技能あり 女性 中学・高校 専門・短大・高専 大学以上 自己啓発あり 新たに学んだ、仕事知識技能あり 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.81をもとに筆者作成 図表5 性・年齢別 社会団体活動実施割合[正規雇用] 男性(N=1722) 女性(N=943) 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.81をもとに筆者作成 図表6 男女・学歴別 社会団体活動実施割合[45〜64歳・正規雇用] 中学・高校 男性(N=882)37.0% 女性(N=433)34.7% 専門・短大・高専 男性(N=882)40.5% 女性(N=433)41.9% 大学以上 男性(N=882)43.7% 女性(N=433)62.5% 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.82をもとに筆者作成 図表7 性・年齢別 人との付き合い方[正規雇用] 男性 25-34歳 (N=316) ヘルプ型44.6% セルフ型55.4% 35-44歳 (N=487) ヘルプ型31.2% セルフ型68.8% 45-54歳 (N=562) ヘルプ型23.3% セルフ型76.7% 55-64歳 (N=319) ヘルプ型16.9% セルフ型83.1% 女性 25-34歳 (N=224) ヘルプ型55.8% セルフ型44.2% 35-44歳 (N=268) ヘルプ型44.0% セルフ型56.0% 45-54歳 (N=285) ヘルプ型35.4% セルフ型64.6% 55-64歳 (N=147) ヘルプ型29.9% セルフ型70.1% 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.168から引用 図表8 男女・人との付き合い方別 社会団体活動実施割合[45〜64歳・正規雇用] 男性 ヘルプ型49.2% セルフ型38.2% 女性 ヘルプ型49.3% セルフ型40.5% 資料:(独)労働政策研究・研修機構「職業と生活に関する調査」(2019年)、労働政策研究・研修機構(2022)p.175をもとに筆者作成 【P56-57】 BOOKS 実務担当者はもちろん、社内教育にも役立つ内容 新版 図解でスッキリわかる高年齢者雇用の実務ポイント 社会保険労務士法人 みらいコンサルティング編著/清文社/2420円  改正高年齢者雇用安定法の施行により、70歳までの就業機会の確保が努力義務となった。本書はこの改正法を重視して、「企業においては、高年齢者雇用をあらためて検討すべき、大きな転換点にあるといえる」と冒頭に記している。  2013(平成25)年3月発行の同名書籍の改訂版として、本書は、前回好評であったという具体的なQ&Aによる説明を含めて、70歳までの就業機会の確保や同一労働同一賃金の視点をはじめ、年金、雇用保険、健康保険など、これまでの法改正を反映し、実務知識・ポイントをわかりやすく解説した内容となっている。  第1編「60歳以降の雇用制度設計の仕方」では、継続雇用制度や人事制度、組織マネジメントのポイントと、グループ会社(特殊関係事業主)を活用した継続雇用などについて説明。また、「こんな時どうする?」と題して、多数の疑問に回答している。第2編「社員説明マニュアル」では、ライフプラン教育、継続雇用・再雇用時の手続きなどについて、図表を多用して解説。読みやすい文章も理解を深めてくれる。  高齢者雇用の全般的な最新の知識や、実務的な対応方法を得たいという人事労務の担当者はもちろん、社内教育にも役立つ内容である。 「ジョブ型」が日本の雇用制度に与える影響などを考察 ジョブ型vsメンバーシップ型 日本の雇用を展望する 慶應義塾大学産業研究所 HRM研究会 編・清家篤・濱口桂一郎・中村天江(あきえ)・植村隆生・山本紳也・八代充史(あつし)著/中央経済社/3080円  多様な働き方に向けた制度改革や、コロナ禍でテレワークが普及するなか、「ジョブ型」と呼ばれる雇用制度が注目されている。  ジョブ型は、職務内容を定めて、その職務に合う人材を雇用する制度。対して、職務内容を定めずに雇用する、日本に広く浸透している従来の制度は「メンバーシップ型」といわれる。  本書は、ジョブ型が日本の雇用にどのような影響を与えるか、また、その課題は何かについて、メンバーシップ型との対比を軸に、各界の論者が理論的な検討や分析、解説をしている。  第1章では、清家篤氏(日本私立学校振興・共済事業団前理事長、慶應義塾学事顧問)が労働経済学の視点から、「ジョブ型雇用で本当に大丈夫か」と問題提起をしつつ、高齢者雇用との関連では、高齢化の経済分析の視点から、「高齢者の就労促進という点では期待したい」と述べている。ジョブ型雇用は、すでに仕事能力を身につけている中高年には好ましい働き方となり得る、という観点からである。一方で、仕事能力をまだ十分に身につけていない若者には、ジョブ型は向いていないとしている。  全編を通して、話題の雇用制度について多くの示唆を得ることができる一冊である。 キャリアをめぐる問題の理解を深めたい人事労務担当者必携の書 キャリアコンサルタント・人事パーソンのためのキャリアコンサルティング 組織で働く人のキャリア形成を支援する 浅野浩美(ひろみ)著/労務行政/3300円  本誌2022(令和4)年1月号から6月号にかけて連載し好評を博した「シニアのキャリアを理解する」の筆者・浅野浩美氏が著書を上梓した。タイトルの通り、働く人のキャリアを支援することに正面から向き合った書籍である。  時代の変化の加速化と職業人生の長期化とがあいまって、キャリアコンサルティングの必要性が高まり、今度は企業の人事労務担当者が、キャリアコンサルタントと連携する機会が増えることは間違いないと考えられる。とはいえ、キャリアコンサルティングの役割を十分に理解していない担当者は少なくない。本書はキャリアコンサルタントを目ざす人に加え、キャリアやキャリアコンサルティングについて知りたいという人が手に取ることを想定している。このため、企業領域を意識した記述を充実させるとともに、学びやすいように、厚生労働省が示す「能力体系」に沿った形でまとめられているのが特徴のひとつ。比較的学びにくい法制度や政策部分の充実もうれしい。  購入者特典として、カバー裏のQ Rコードからウェブサイトにアクセスすると、キャリアコンサルティングに関する情報や本書の更新情報が公開されているので活用してみてほしい。 管理職も職員も変わっていく職場づくり。そのヒントを明快な表現で解説 退職者を出さない管理者が必ずやっていること 3つのポイントでわかる、できる管理者の共通点 森崎のりまさ 著/産学社/1650円  本書の著者は、介護業界で18年間勤務し、リーダー、管理者も経験。離職率が高いといわれる業界で、老人ホーム施設長として「2年間退職者ゼロ」の職場をつくりあげた。その後、教育担当などを経て起業。現在は、「職場いきいきコンサルタント」として社員研修やコーチング面談を行い、職場の環境改善に励んでいる。  著者自身、施設長時代には、立て続けに職員が退職するなど多くの挫折を経験した。くじけそうなときもあったというが、離職率の低い職場について研究を重ねるなかで、そうした職場の管理者に共通点を見出し、真似ることで「2年間退職者ゼロ」に至った。  その共通点には、三つのポイントがあるという。@管理者は特別な存在であることを自覚する、A自分から先に変わる、B相手のすべてを承認する。これらを理解し、行動すれば、「職員が変わり、退職者が減っていく」と著者。  本書では、三つのポイントに分けて、「職員とのベストな関係」、「自分の考えを押しつけない」といった管理者としてのふるまいや考え方などを明快な表現で説いている。介護業界にかぎらず、あらゆる職場の管理職やリーダーの支えとなり、心を動かしてくれる言葉があふれている。 「健康経営R」の視点から13社の取組みと考え方を紹介 こんな会社で働きたい ニューノーマル対応の健康経営企業編 クロスメディアHR総合研究所 著/クロスメディア・パブリッシング/1628円  従業員の健康管理を経営的な視点で考え、健康の保持・増進につながる取組みを戦略的に実践する「健康経営R」が注目されている。  経済産業省が東京証券取引所と共同で上場企業のなかから選定する「健康経営銘柄」は、「健康経営度調査」に回答することが求められるが、その回答法人数は年々増加。調査を開始した2014(平成26)年の493社に対し、2021(令和3)年は過去最多の2869社となっている。  本書は、「従業員の健康に配慮する会社で働きたいと望む就活生に向けて、自分に合った健康経営企業を探すためのヒントとしてまとめられた」というのも、経済産業省の「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進等事業)」のなかで、就活生1399人を対象に実施されたアンケート調査によると、43.8%の就活生が「従業員の健康や働き方に配慮している」企業に就職したいと回答。用意された回答群のなかでは、「福利厚生の充実」(44.2%)の次に高い割合であった。  こうした状況をふまえ、本書では「健康経営R」を推進する13社を取材し、担当者の声や実践内容を紹介している。これから取り組みたいと考えている企業にとっても参考になる内容だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」  厚生労働省は、「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定し、公表した。  同ガイドラインは、企業、労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化し、労働者の職業人生の長期化も進行するなかで、労働者の学び・学び直しの必要性がますます高まっているとして、労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」が重要であり、学び・学び直しにおける「労使の協働」が必要となることをふまえて策定した。  今回策定したガイドラインでは、職場における人材開発の抜本的な強化を図るため、基本的な考え方をはじめ、労使が取り組むべき事項として、学び・学び直しに関する基本認識の共有や、能力・スキル等の明確化、学び・学び直しの方向性・目標の共有、労働者の自律的・主体的な学び・学び直しの機会の確保、持続的なキャリア形成につながる学びの実践・評価、現場のリーダーの役割・企業によるリーダーへの支援とともに、公的な支援策を体系的に示している。  また、別冊では、学び・学び直しの実践に向けて、国などが講じている公的な支援策の内容とその利用方法の詳細および学び直しに取り組む7社の企業事例を紹介している。  職場における学び・学び直し促進ガイドライン、同ガイドライン別冊ともに、以下の厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることができる。 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_26443.html 厚生労働省 2021年「労働災害発生状況」  厚生労働省がまとめた2021(令和3)年の労働災害発生状況(確定値)によると、昨年1年間の労働災害による死亡者数は867人となっており、前年(802人)と比べ65人(8.1%)増加し、4年ぶりの増加となった。  死亡者数を業種別にみると、もっとも多いのは建設業の288人(全体の33.2%)、次いで、第三次産業241人(同27.8%)、製造業137人(同15.8%)、陸上貨物運送事業95人(同11.0%)の順となっている。  次に、死傷災害(死亡災害及び休業4日以上の災害)についてみると、死傷者数は14万9918人となっており、前年(13万1156人)と比べ1万8762人(14.3%)の増加となった。業種別にみると、もっとも多いのは第三次産業の8万454人(全体の53.7%)、次いで、製造業2万8605人(同19.1%)、陸上貨物運送事業1万6732人(同11.2%)、建設業1万6079人(同10.7%)の順となっている。  年齢別では、すべての年代で増加し、全死傷者数の25.7%を占める「60歳〜」では3万8574人となっており、前年(3万4928人)と比べ3646人(10.4%)の増加となった。なお、新型コロナウイルス感染症への罹患(りかん)による労働災害を除くと、「20歳〜29歳」、「50歳〜59歳」、「60歳〜」で増加した。  事故の型別に年齢別・男女別の傾向をみると、転倒は、高年齢になるほど労働災害発生率が上昇。高齢女性の転倒災害発生率は特に高くなっている。 厚生労働省 2022年度「安全衛生に係る優良事業場、団体又は功労者に対する厚生労働大臣表彰」  厚生労働省は、2022(令和4)年度の「安全衛生に係る優良事業場、団体又は功労者に対する厚生労働大臣表彰」の受賞者として、32の事業場と37人の個人を決定し、公表した。  この表彰は、災害が起こっていない期間が特に長く、職場のリスクを低減する取組みが活発に行われているなど、ほかの模範と認められる優良な事業場や団体をたたえるもの。また、長年にわたり安全衛生水準の向上・発展に多大な貢献をした功労者なども対象となっている。  賞ごとの受賞事業場・受賞者数は以下の通り。 ●優良賞(17事業場)  安全衛生に関する水準が特に優秀で、他の模範と認められる事業場 ●奨励賞(15事業場)  安全衛生に関する水準が優秀で、他の模範になると認められる事業場 ●功労賞(1人)  長年、労働安全衛生に尽くし、日本の安全衛生水準の向上・発展に多大な貢献をした個人 ●功績賞(32人)  安全衛生活動の指導的立場にあり、地域、団体、関係事業場の安全衛生水準の向上・発展に多大な貢献をした個人 ●安全衛生推進賞(4人)  長年、安全衛生関係の業務に従事し、地域、団体、関係事業場の安全衛生水準の向上・発展に多大な貢献をした個人 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26092.html 内閣府 2022年版「高齢社会白書」  内閣府は、2022(令和4)年版「高齢社会白書」を公表した。白書は、「令和3年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」、「令和4年度 高齢社会対策」の二部から構成されている。  「令和3年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」をみると、2021年10月1日現在、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.9%となっている。「第2節 高齢期の暮らしの動向」から、経済的な暮らし向きについてみると、「心配がない」(「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」の計)と感じている65歳以上の人の割合は全体で68.5%となっている。また、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成、またはこれに18歳未満の未婚者が加わった世帯)の平均所得金額(2018年の1年間の所得)は312.6万円で、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いたその他の世帯(664.5万円)の約5割となっている。  トピックスでは、「高齢者雇用の推進の取組事例」として、再雇用契約の年齢上限を80歳までとする就業規則を新たに策定した株式会社ノジマ(本社:神奈川県横浜市)、定年を70歳に引き上げるとともに、希望者全員75歳までの再雇用制度を設けた株式会社美装管理(本社:大分県別府市)を紹介している。また、デジタル技術を活用し高齢者と地域のつながりを生み出している事例なども紹介している。 ●詳細は、以下の内閣府のウェブサイトへ https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html 中央労働委員会 2021年「賃金事情等総合調査」  中央労働委員会は、「2021(令和3)年賃金事情等総合調査(確報)」の結果をまとめた。  調査は、介護事業所以外は資本金5億円以上かつ労働者1000人以上、介護事業所は運営主体が社会福祉法人である施設かつ労働者100人以上で、企業計380社(独自に選定)を対象としている(有効回答企業数は234社)。  調査結果から、隔年で実施している「退職金、年金及び定年制事情調査」の社会福祉法人(介護)を除く調査対象企業についての結果をまとめたものをみると、定年制を採用している企業は166社(集計167社の99.4%)で、そのうち定年を「60歳」としている企業は140社(定年制のある166社の84.3%)となっている。継続雇用制度を採用している企業は162社(同97.6%)で、このすべての企業で再雇用制度を採用している。  再雇用制度を採用している企業について、再雇用時と定年退職時の労働条件を比べてみると、所定労働時間が「定年退職時と同じ」企業は125社(集計160社の78.1%)、定年退職時の「50%以上80%未満」が9社(同5.6%)などとなっている。基本給の時間単価は「50%以上80%未満」が100社(同160社の62.5%)、「50%未満」が33社(同20.6%)などとなっている。  再雇用労働者の労働条件と定年年齢到達前の常用労働者の労働条件を比べると、再雇用労働者は定期昇給なしとする企業は135社(集計159社の84.9%)などとなっている。 東京都健康長寿医療センター 「健康長寿の秘訣!フレイル予防を学びましょう!」(オンライン配信)  地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターは、同センターが取り組む最新の治療法や病気の予防法、研究成果をわかりやすく、楽しく伝えるオンライン講演会を開催している。  現在、2022(令和4)年12月末までの公開予定で、「健康長寿の秘訣! フレイル予防を学びましょう!」と題して、健康で長生きするために、さまざまな観点から「フレイル予防」について学べる講演(第161回老年学・老年医学公開講座)を同センター公式You Tubeチャンネル(※)にてオンライン配信している(視聴は無料で、申込み不要)。  フレイルは、健康と要介護の中間の状態のことで、食事や運動、病気の治療などによって改善することが可能とされている。また、フレイル対策は、認知症予防にもつながるといわれている。 ●公開している講演内容 講演1「いつまでも自立した生活を送るためのフレイル予防の秘訣」 東京都健康長寿医療センター 副院長 フレイル予防センター長 荒木 厚氏 講演2「フレイルの仕組みを知って予防しよう!」 東京都健康長寿医療センター研究所 副所長 重本和宏氏 講演3「おいしく食べてフレイル予防!」 同研究所 研究員 本川佳子氏 (※)You Tubeにて動画公開中(2022年12月末まで公開予定) https://www.tmghig.jp/research/lecture/2022/0701.html 【P60】 次号予告 10月号 特集 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から リーダーズトーク 太田肇さん(同志社大学 政策学部 教授) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今月号の特集は「活かしてますか? 高齢社員の能力・経験」と題し、高齢社員のサポート能力・支援能力をテーマにお届けしました。  高齢社員には長年の職業生活のなかでつちかってきた知識や技術、経験があります。事例でご登場いただいた株式会社光真製作所は若手の指導で、株式会社フォトシンスはベンチャー企業の経験の浅い部分のサポートで、協伸静塗株式会社は障害者の就労支援などで、それぞれ、高齢者がその能力を活かして活躍しています。3社に共通するのは、短日・短時間勤務など、高齢者が働きやすい柔軟な勤務制度を整え、高齢者がその能力を発揮しやすい環境整備に努めていること。本特集を参考に、高齢社員の能力や経験を活かせる仕事・役割を付与し、高齢社員が活き活き働ける職場の創出に努めていただければ幸いです。 ●10月は「高年齢者就業支援月間」です。10月5日の高年齢者活躍企業フォーラムをはじめ、各都道府県で地域ワークショップを開催します。みなさまのご参加をお待ちしています。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー9月号 No.514 ●発行日−−令和4年9月1日(第44巻 第9号 通巻514号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部情報公開広報課長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-922-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 「生涯現役促進地域連携事業」より地域発の取組みから学ぶシニア就業 高齢者の潜在力や思いをすくい上げ郷土料理や介護補助などでの就労をサポート 生涯現役促進松山地域連携協議会(愛媛県松山市)  厚生労働省では、地域の実情に応じた高齢者の多様な就業機会を確保するための事業を募集し、その実施を委託する「生涯現役促進地域連携事業」を2016(平成28)年度より6年間にわたって推進してきた。その実施事例として、今回は愛媛県松山市の取組みを紹介する。 「無理なく役に立つ」仕事に着目  愛媛県の県庁所在地である松山市(人口約50万人)では、2016(平成28)年に高齢者の就労に関係する産官学8団体により、「生涯現役促進松山地域連携協議会」を結成。「新しいお仕事探し分野」、「介護分野」、「郷土料理・農産品分野」の3分野において、生涯現役促進地域連携事業に取り組んでいる。  同事業を始めた背景について、実施団体である公益社団法人松山市シルバー人材センター事務局長代理の柳原祐二さんは、次のように話す。  「ITの進展により、求職・求人のマッチングはとても便利になってきました。しかし、いくら求人情報が入手しやすくなっても、働かなくても生活できるような高齢者の方々が就労するようになるわけではありません。働くことへの抵抗感や足踏み感を払拭しなければ、潜在的労働力としてのシニア層の社会参加にはつながらないのではないか、とわれわれは考えていました」(柳原さん)  柳原さんが引合いに出すのが、『統計で考える働き方の未来││高齢者が働き続ける国へ』(坂本貴志著・ちくま新書)のなかで、著者が、リクルートワークス研究所による「高齢者の就労事例の研究(福島2007)」に言及している以下の部分である。  「この研究によると、高齢者が満足して働くためには、『無理なく役に立つ』ことが重要であると結論づけられている。(中略)『無理なく』というのは、いくつかの要素によって説明される。その中で重要なのが、第一に長時間労働ではないことである。そして、第二に、重い責任を負わないこと。(中略)第三に人から命令されずに働くことである」  「われわれも、シルバー人材センターで日々、高齢者の方々と接するなかで、同様のことを強く感じていましたので、そうした『無理なく役に立つ』ことのできる仕事や仕組みを用意することが、潜在的労働力を持ちながら就労に至っていない方々を就労に結びつけるキーになると考えました」(柳原さん)  このような考えのもと、松山地域連携協議会は事業構想にあたり、シルバー人材センターを訪れる相談者や、これまでかかわりのあった元経営者・役員など、さまざまな高齢者から、それまでの経験・職歴・やりたいことなどについて聞き取りを行い、本人の意向を実現する具体的な仕事や、対価を得て活動できる仕組みを検討していった。ユニークなのは、その仕組みづくりに関する現状分析や企画立案を高齢者本人に依頼し、その本人がつながりのある企業の協力を得たり、また友人・知人を誘い、仕事の具体化や組織化を進める点だ。高齢者自身が「主人公」となり、そのサポートを協議会事務局が務める形で事業化が進められた。  そのなかから生まれた代表的な取組みが、松山の郷土料理の普及に関する事業と、介護助手の育成・就労事業である。 「郷土料理」は高齢者にしかできないテーマ  「郷土料理」の普及事業は、複数の高齢者によって「まつやま郷土料理研究会」を立ち上げたことから始まった。高齢者による起業である。  松山の郷土料理に詳しい世代は、すでに80歳を超えており、その腕を発揮したり伝承したりする場がなく、そのままでは埋もれてしまう状況にあった。  きっかけとなったのは、「地域の高齢者のためになることがやりたい」という思いを持った、愛媛調理製菓専門学校の元理事長の存在だった。彼女は「松山市食生活改善推進協議会」の元会長、道後温泉の旅館協同組合関係者、調理師会関係者、大学の農学部の研究者など、さまざまな人脈を持っていた。また、事業化するうえで欠かせない販路についても、地元企業の経営者とのつながりを活かすことで開拓できたという。「高齢者の方々が持つ豊富な人脈を活かすことによって、かえって事業化がスムーズに進む面もあります」と柳原さんは指摘する。  こうしたネットワークを活かして多様な活動を展開しており、2017年度から毎年開催されている「まつやま郷土料理マイスター養成講座」では、毎年10人ほどのマイスターを認定。ここで養成されたマイスターが「松山の食文化の伝承者」となり、地域や学校などで郷土料理の講師として活躍している。また、松山市の伝統野菜である「伊予の緋ひかぶ」を使った「緋のかぶら漬け」の商品開発、郷土料理レシピ集の制作、東京での郷土料理の試食会開催など、さまざまな活動を展開。なかには、念願だった農家レストランをオープンしたマイスターも存在する。 利用者のQOL向上に貢献する「介護助手」  「介護分野」における高齢者の就労の可能性について、柳原さんは次のように話す。  「施設介護の仕事は、専門職でなければできない仕事ばかりではありません。仕事内容によっては、体力のある若者よりも人生経験のある高齢者に適した仕事はあるものです。例えば、介護度の比較的軽い入所者であれば、食堂に連れてきてから食事をして部屋に連れて帰るまでのサポートをすることは可能です。また、利用者の話し相手になれるのも同世代の高齢者ならではといえます」  こうした考えのもと、同協議会では高齢者が「無理なく役に立つ」働き方という観点から、「介護助手」という仕事を切り出すことで、介護労働力の確保につなげることを目ざし、介護助手をになう人材の確保・育成や介護施設との調整に着手。2019(令和元)年度には、元気な高齢者がケアを必要とする高齢者を支える「おたすけ隊」事業をスタートさせた。人材不足が常態化している介護施設において、介護専門職の負担軽減と入所者等のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上に貢献する事業として期待されている。  なお、この取組みにおいても高齢者の人脈が活かされている。例えば介護施設の元施設長の協力を得ることで、介護施設のニーズ把握や施設への口添えなどをスムーズに進めることができた。また、高校在学中にダンス部でチアリーダーをしていた60代の女性に、デイサービスの利用者を対象とした音楽健康指導を提案したところ、かつてのダンス部の仲間を集めて「音楽健康指導士」の育成に取り組むようになり、活躍の場を広げた例もある。 高齢者との日ごろのつながりを事業に活かす  2017年度から2021年度までの5年間で、松山地域連携協議会の事業に参加した企業・高齢者はそれぞれ1390社・5737人、雇用就業者数は825人にのぼる。その大半を占めているのは、高齢者就労相談窓口をはじめとする一般的な就労支援の分野である。この分野で特徴的なのが「高齢者対象専門相談員」の配置で、現在は「シニア相談ブース」として、松山市シルバー人材センター内の「いきいき仕事センター」内に併設し、ハローワークと連携して相談窓口業務を実施している。  「ハローワークはその性格上、一人に十分な時間をかけることがなかなかできないことがあります。そこで、ハローワークで求職に結びつくことができなかった高齢者のために相談窓口を設けました。この窓口では時間を気にせずに相談することができます」(柳原さん)  松山地域連携協議会の事業の根幹にあるのは、通常の求人・求職活動では表にあらわれにくい高齢者の潜在力や就労ニーズなどを、十分な対話を通じてすくい上げ、就労に結びつけようとする姿勢である。日ごろからさまざまな高齢者とのつながりを持っているシルバー人材センターが実施主体だからこそ、できる取組みといえるのかもしれない。  同協議会の地域連携事業は2022年度で終了するが、これまでつちかってきた事業を継続できるよう収益性確保の課題をクリアし、今後も高齢者が主体的に就労するための支援を行っていく方針だ。 写真提供:公益社団法人松山市シルバー人材センター 写真のキャプション 公益社団法人松山市シルバー人材センター事務局長代理の柳原祐二さん 東京で開催した郷土料理の試食会の様子 高校生に郷土料理のつくり方を教えるマイスター まつやま郷土料理研究会が商品化した「緋のかぶら漬け」 介護助手を養成する講習会の様子 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回の問題は、文字が意味する色と文字の色が異なる場合、文字情報を認知するのに時間がかかるというストループ課題。心理学者のストループが心理研究に開発した課題ですが、いまでは認知機能テスト、認知的トレーニングの定番となっています。 第63回 色読みゲーム 目標 90秒 青 赤 黄 緑 黄 緑 赤 青 赤 黄 緑 黒 黄 緑 赤 青 赤 黄 緑 黒 黄 緑 赤 青 赤 黄 黒 青 青 緑 赤 青 赤 黄 緑 黒 黄 青 緑 黄 青 赤 色読みゲームで、さまざまな脳部位が活性化する  今回の脳トレ問題は、前頭葉に刺激を与えるのに効果的な「色読みゲーム」です。書かれている文字を読んで声に出すのではなく、文字の色を認識して声に出すという、普段やり慣れていないルールに対応しようとすることが、前頭葉を刺激します。  このように新しいルールを処理しようとすることで鍛えられるのが、「ワーキングメモリ」です。ワーキングメモリとは、作業(ワーキング)のための記憶(メモリ)のことです。情報を整理したり、処理したりする際の「脳のメモ帳」のようなものです。  また、今回のような矛盾した情報を処理していく課題を行う際には、注意力や判断力にかかわる前頭前野背外側部や、自分を観察したり、気持ちと行動の矛盾を調整したりすることに関わる内側前頭前野が活性化することも知られています。  さらに、しっかり視線を動かして素早く発音していくことで、言語関連の脳部位も活性化するので、ぜひチャレンジしてみましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数 【アドバイス】 解答時間が目標以上かかった人、いいまちがえた回数が10回以上の人は要注意です。禁煙、運動、バランスのよい食事、生活習慣病の予防や治療、そして認知的トレーニング(脳トレ)がおすすめです。 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年9月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-330 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま!令和3年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法に基づき、高年齢者の活躍促進に向けた対応を検討中の方々も多いのではないでしょうか。  当機構では各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報をご提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) 専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組など】 事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ディスカッション など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和4年7月27日現在) ※新型コロナウイルス感染症対策を講じて開催いたします。ご来場にあたり、ご理解・ご協力をお願いいたします。 ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月14日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月18日(火) アピオあおもり 岩手 10月27日(木) いわて県民情報交流センター(アイーナ) 宮城 11月11日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月25日(火) 秋田県生涯学習センター 山形 10月20日(木) 山形国際交流プラザ(山形ビッグウィング) 福島 10月20日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月20日(木) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月26日(水) とちぎ福祉プラザ 群馬 11月8日(火) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月6日(木) 埼玉教育会館 千葉 10月14日(金) ホテルポートプラザちば 東京 10月18日(火) 東京ウィメンズプラザ 神奈川 11月18日(金) 関東職業能力開発促進センター 新潟 10月6日(木) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター 富山 10月25日(火) 富山県民共生センター サンフォルテ 石川 10月28日(金) 石川県地場産業振興センター 福井 10月12日(水) 福井県中小企業産業大学校 山梨 10月21日(金) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月20日(木) 長野職業能力開発促進センター松本訓練センター 岐阜 10月18日(火) じゅうろくプラザ 静岡 10月19日(水) 静岡県総合研修所 もくせい会館 愛知 10月24日(月) 名古屋市公会堂 都道府県 開催日 場所 三重 10月4日(火) シンフォニアテクノロジー響ホール伊勢 滋賀 10月28日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月24日(月) 京都経済センター 大阪 11月10日(木) 大阪府社会保険労務士会館 兵庫 10月18日(火) 兵庫県中央労働センター 奈良 10月26日(水) 奈良職業能力開発促進センター 和歌山 10月28日(金) 県民交流プラザ 和歌山ビッグ愛 鳥取 10月28日(金) 鳥取職業能力開発促進センター 島根 10月21日(金) 松江合同庁舎 2階講堂 岡山 10月6日(木) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月25日(火) 広島職業能力開発促進センター 山口 11月9日(水) 山口県健康づくりセンター 徳島 10月28日(金) 徳島県JA会館すだちホール 香川 10月24日(月) 香川職業能力開発促進センター 愛媛 10月7日(金) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月18日(火) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月13日(木) 佐賀市文化会館 長崎 10月27日(木) 長崎県庁 大会議室 熊本 10月17日(月) くまもと県民交流館パレア 大分 10月3日(月) トキハ会館 宮崎 10月26日(水) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月20日(木) 鹿児島サンロイヤルホテル 沖縄 10月19日(水) 沖縄労働局 大会議室 各地域のワークショップの内容は、各支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更がある場合は決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 2022 9 令和4年9月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第9号通巻514号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会