【表紙2】 さまざまな事業所の好事例を掲載しています! 『70歳雇用事例サイト』 https://www.elder.jeed.go.jp さまざまな条件で検索できる! 132社の事例を豊富なキーワードで簡単検索 70歳以上まで働ける企業 定年が61歳以上 or 条件を変更する イベントの案内、研究資料などの関連情報をまとめて見られます! jeed elder 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.elder.jeed.go.jpであることを確認のうえアクセスしてください 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.90 奥歯を失うと認知症・転倒リスクは約2倍健康長寿のために、働く世代の歯を守ろう 神奈川歯科大学教学部長歯学部教授(健康科学講座社会歯科学分野)山本龍生さん やまもと・たつお 岡山大学大学院歯学研究科修了後、同大学歯学部予防歯科学講座助手、米国テキサス大学生物医学研究所客員研究員、世界保健機関(WHO)インターン、神奈川歯科大学大学院歯学研究科准教授などを経て現職。歯・口の健康と認知症、全身の健康との関連を専門とする、予防歯科学、口腔衛生学、社会歯科学の第一人者。  読者のみなさまは「歯」の健康を意識していますか? 最新の研究では、歯の健康が損なわれることで、認知症や転倒のリスクが高まるほか、動脈硬化や心筋梗塞・脳梗塞など、さまざまな病気とも関係することがわかっています。今回は、歯の専門家である山本龍生教授に、歯と健康のメカニズムやメンテナンス方法についてお話をうかがいました。活き活きと働き続けるために、これからは「歯」の健康も要チェックです。 奥歯で噛めなくなる≠アとが認知症や転倒などの健康リスクを高める ―山本先生は『ボケたくなければ「奥歯」は抜くな』という本を執筆されています。認知症と奥歯には関係があるのでしょうか。 山本 認知症の判定を受けていない65歳以上の高齢者を4年間追跡調査したプロジェクト※で、私は歯の分析を担当したのですが、この調査でいろいろなことがわかってきました。「歯が20本以上ある人」、「歯が少なくて義歯を入れている人」、「歯がほとんどなくて義歯未使用の人」を調べたところ、歯が20本以上ある人に比べ、歯がほとんどなく義歯未使用の人は認知症発症リスクが1.85倍高かったのです。認知症には年齢、経済状態、生活習慣などさまざまな要因がありますが、こうした要因を取り除いても1.85倍。これらの要因を取り除かなければ4倍以上認知症になりやすいことがわかりました。それだけではありません。同じプロジェクトで過去1年間に転倒の経験がない高齢者を3年間追跡調査した結果、歯が19本以下で義歯未使用の人は、歯が20本以上ある人に比べて、1年に2回以上転倒するリスクが2.5倍高いこともわかりました。 ―衝撃的な結果ですね。歯と認知症の因果関係について教えてください。 山本 歯は親知らずがない状態で上下28本ありますが、歯が少ない人はたいてい奥歯がありません。特に奥から1本目と2本目にある奥歯を失うと噛む力が弱くなり、固い物を噛んでも砕くことができなくなります。そのため、食べられる食品に偏りが生じてしまい、生野菜などの摂取が減り、柔らかいもの、例えばパンやラーメン、カレーライスなどの炭水化物の摂取が増え、栄養素に偏りが出ます。栄養バランスの悪化は、認知症発症リスクを高める要因の一つといわれています。  また、歯がないと噛まなくなるので咀嚼(そしゃく)の回数が減ります。歯の周りや頬の筋肉にはたくさんの神経があり、それが脳とつながっています。噛むと神経を伝って脳のなかの記憶を司る「海馬(かいば)」を刺激し、海馬の神経細胞が増えていきます。逆に刺激が少ないと細胞が減ってしまうことが、動物実験で確認されています。さらに、咀嚼することで筋肉が伸び縮みするため血管の血流も活発になります。血のめぐりが悪いと酸素が運ばれずに認知領域への栄養が不足し、脳の働きが鈍るのです。  加えて、歯が少ない高齢者はあまり外出しない傾向があります。高齢者が集まる理由で多いのが食事会です。実際に私たちが調査した結果でも、歯が少なく噛めなくなったと感じている人は外出が減って、家に閉じこもりがちになり、うつなどの精神的不調に陥りやすいことがわかっています。逆によく外出し、人と会う機会が多い人は歯が多いのです。認知症は人と会わないなど社会参加が大きく影響するといわれていますが、歯が少ないことも認知症の引き金になりやすいのです。 ―転倒リスクが高まるのはなぜでしょうか。 山本 下顎は頭の骨にブランコのようにぶら下がっています。頭は重いので頭がフラフラすると体の重心も揺れますが、奥歯をしっかりと噛むことで顎と頭が固定されます。しかし奥歯を失うとしっかり噛めないので、顎と頭が固定できずフラフラしやすくなります。実際に総入れ歯の人の義歯を外し、体の重心を調べるとフラフラしています。下顎が不安定になると体の重心も不安定になり、体のバランスを崩して転倒しやすくなるのです。筋力が強い若者であればバランスを崩してもふんばれますが、高齢者は筋力が低下しているので、ふんばれずに転びやすいのです。 歯周病はさまざまな病気の引きがねにブラッシングとフッ素で歯周病とむし歯を予防 ―歯を失う原因とは何でしょうか 山本 失われた歯の8割以上は「歯周病」と「う蝕(しょく)(むし歯)」が原因です。歯周病の直接の原因は細菌のかたまりである歯垢。歯周病菌は空気が嫌いなので歯と歯茎の間の歯周ポケットに入り込んで歯垢ができます。歯周病菌は血液が大好きで、血液中の鉄分を養分にして育ち、毒素を出すことで歯茎が腫れる「歯肉炎」になります。悪化すると歯茎から膿が出て、歯を支える骨が溶け出し、しまいには歯がぐらついて抜けてしまいます。  歯周病はほかの疾患に影響することもわかっています。歯茎の腫れがひどくなると体が反応し、白血球が活性酸素を出して菌を退治しようとしますが、活性酸素が過剰になると、体をめぐっていろいろな病気を引き起こす可能性があります。脳では認知症の引きがねになり、肝臓では脂肪肝が発生しやすくなります。また、歯周病菌は血液を固める力があり、血栓の原因となり、動脈硬化によって心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。一方、糖尿病になると血管も弱くなるので、歯茎の血管も弱くなり歯周病リスクが高まることなどもわかっています。  そして、むし歯も歯を失う原因です。むし歯菌が砂糖などの糖分を利用して酸をつくり出すことで、歯の成分であるカルシウムやリンが唾液のなかに溶けて、そこに穴が空くのがむし歯です。 ―歯を失うリスクはよくわかりました。どんな予防をすればよいでしょうか。 山本 まずは、歯周病の予防です。重要なのは、とにかく歯周病菌を増やさないようにすること。歯と歯の間の歯垢を取り除くブラッシングが基本で、いまのところこれを超える予防法はありません。多くの人は歯の表面を磨きますが、そうではなく歯と歯の間に爪楊枝のように歯ブラシをあてて縦に動かすのです。また適度に歯茎に機械的な刺激を与えてください。歯茎が病気だと血が出ますが、しっかり磨くとよくなります。私たちの研究では、歯茎の細胞は、刺激することで新しい細胞に入れ替わるスピードがおよそ2倍ほど早くなることがわかりました。  次にむし歯の予防です。むし歯予防には歯磨きしかないと思っている人が多いのですが、実は、世界の多くの研究では、歯ブラシで磨いてもむし歯を予防する効果は確認されていません。ただし、フッ素入り歯磨き粉を使うことで、むし歯を予防する効果があることがわかっています。フッ素は、唾液に溶け出したカルシウムやリンなどの歯の成分をすばやく歯に戻す作用があります。したがって、むし歯を予防するにはフッ素入りの歯磨き粉を使うこと。そして特におすすめしたいのが、うがいは1回でやめること。何度もうがいをするとフッ素が流れてしまうからです。また、寝ている間に唾液の分泌が減り、口のなかは細菌が増えているので、朝起きてすぐに歯を磨くこともおすすめです。 ―ただ磨くのではなく、フッ素が有効ということですね。仕事など昼間の外出時に手軽にできる予防法はありますか。 山本 外出時に手軽にできる方法はありませんが、帰宅してから手入れをすれば大丈夫です。たいへん効果があるとされている予防法が、フッ素でうがいをすることです。これだけでフッ素入り歯磨き粉より2倍以上のむし歯予防効果があります。私も1日1回、夜寝る前にフッ素入りうがい薬を1分程度口に含んでブクブクすることを30年以上やっていますが、効果は絶大です。  歯周病予防はブラッシング、むし歯予防にはフッ素を使う。この二つで高い効果が期待できます。 歯周病は労働生産性にも影響を及ぼす定期的な歯科検診の推進を ―先生は歯の疾患が労働生産性にも影響すると指摘されていますね。歯の健康について、企業としてできる対策はありますか。 山本 最近の研究では、歯周病が進むと集中力の欠如や労働時間の損失など、生産性に影響することがわかっています。歯周病がある人とそうでない人ではプレゼンティズム(出勤しているにもかかわらず、心身の健康上の問題により仕事に対する集中力がそがれ、パフォーマンスが落ちている状態)のリスクが2.01倍高いことも判明しています。また、職種別の歯周病の発症リスクは、専門的・技術的職種を1とすると、生産工程・労務職は2.52倍、運輸・通信業従事者は2.74倍高くなります。さらに、残業時間が多い人ほどむし歯が多いという調査結果もあります。  近年は「健康経営R」を重視する企業も増えています。社員の歯の健康を守り、生産性を高めるためにも、企業は社員にぜひかかりつけの歯科を持たせ、年に1〜2回、定期的に歯のチェックに行くよううながしてほしい。また、私たちは定期健康診断に歯科検診を導入する仕組みをつくり、企業で実践していますが、評判もよく、実際に医療費も下がるという効果も出ています。できれば定期健診に歯科を入れてほしいですね。歯の本数は、60歳までは平均で20本以上ありますが、70歳を過ぎると平均で20本を下回ります。高齢になっても20本以上を維持すれば、元気に働き続けることができますし、リタイア後の認知症のリスクを下げ、人生を謳歌できる可能性が高くなります。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※ 日本福祉大学の研究者を中心とした「愛知老年学的評価研究」 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 November No.516 特集 6 多彩な取組みで70歳超雇用を実現 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 7 「令和4年度 高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 8 優秀賞 株式会社 ヴィオーラ(茨城県水戸市) 株式会社 NJS(東京都港区) 株式会社 横引シャッター(東京都足立区) 株式会社 セイセイサーバー(静岡県静岡市) 株式会社 GFM(愛知県名古屋市) 合同会社 Syuhari(愛知県豊橋市) 株式会社 伊勢福(おかげ横丁)(三重県伊勢市) 株式会社 南光(鹿児島県鹿児島市) 1 リーダーズトーク No.90 神奈川歯科大学 教学部長 歯学部教授 (健康科学講座 社会歯科学分野) 山本龍生さん 奥歯を失うと認知症・転倒リスクは約2倍 健康長寿のために、働く世代の歯を守ろう 40 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 《第5回》 高齢社員が若手の育成をしてくれません 46 江戸から東京へ 第120回 密航は愛国青年の美挙だ ペリー 作家 童門冬二 48 高齢者の職場探訪 北から、南から 第125回 鳥取県 株式会社ミテック 52 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 【第4回】 役割・職責の変更に備えてもらおう! 森中謙介 56 知っておきたい労働法Q&A 《第54回》 定年後再雇用の雇止めと労働条件、固定残業代の要件 家永 勲 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.321 40年以上の経験を活かし長持ちする「炉」をつくる 築炉工 近藤正夫さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第65回]じゃんけんトーナメント 篠原菊紀 ※連載「生涯現役で働くとは」、「日本史にみる長寿食」、「いまさら聞けない人事用語辞典」、「BOOKS」、「ニュースファイル」は休載します 【P6】 特集 多彩な取組みで70歳超雇用を実現 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。 本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫を行い取り組む企業を表彰するものです。 「厚生労働大臣表彰」受賞企業を紹介した前号に続き、今号ではコンテストの表彰式の模様とともに、「当機構理事長表彰優秀賞」を受賞した8社の取組みをご紹介します。 【P7】 令和4年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業14企業・団体を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は10月5日(水)、厚生労働省との共催で、「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。  同フォーラムは、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会として開催。会場には例年、企業の人事・労務担当者らが多数参加するが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、会場の観客を100人に限定し、令和3年度に続いて同時ライブ配信を行った。  同フォーラムでは、高齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、産業医科大学の神代(くましろ)雅晴(まさはる)名誉教授による基調講演、コンテスト入賞企業による事例発表、トークセッションを実施した。  はじめに、羽は生にゅう田だ 俊たかし厚生労働副大臣と当機構の湯ゆ浅あさ善よし樹き 理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞の株式会社恵那川上屋(えなかわかみや)をはじめ、優秀賞の株式会社トーケン、モルツウェル株式会社、特別賞の八雲製菓(やぐもせいか)株式会社、五條運輸(ごじょううんゆ)株式会社、社会福祉法人愛誠会(あいせいかい)の6企業・団体に、羽生田副大臣より賞状が授与された。最優秀賞を受賞した株式会社恵那川上屋の鎌田(かまだ)真悟(しんご)代表取締役は、これまでの同社の歩みをふり返りながら、「これからも高齢社員の持つ知識と経験を事業に活かし、多くの人を幸せにできる会社にしていきたいと思います。本日はありがとうございました」と受賞の感謝と今後の事業活動への決意を述べた。  次に、当機構理事長表彰として、優秀賞の株式会社ヴィオーラをはじめとする8社に湯浅理事長より賞状が授与された。また、特別賞の16企業・団体名が紹介された。  表彰式後の基調講演で神代氏は、「人生100年時代のスマイルワークデザイン〜高齢者が快適に働くことができる職場づくり〜」をテーマに、働くことと長くつきあえる高齢者をつくるための職場改善対策や、労働寿命と労働適応能力、労働意欲と健康寿命の関係などについてデータや事例を交えて解説した。  休憩後に行われたトークセッションでは、入賞企業から株式会社恵那川上屋(清見(きよみ)賢一(けんいち)総務人事部長)、株式会社トーケン(根上(ねがみ)健正(けんせい)代表取締役会長)、モルツウェル株式会社(野津(のつ)昭子(あきこ)専務取締役)の3社の代表者と、コーディネーターとして事業創造大学院大学事業創造研究科の浅野(あさの)浩美(ひろみ)教授が登壇。3社の代表者による自社の取組み内容と制度などの発表とトークセッションが行われた。トークセッションでは、コーディネーターである浅野氏からの、70歳超の就業機会確保に向けた取組みの苦労や、意欲を持って長く働いてもらうための工夫、高齢社員も含めた学び・学び直しなどの質問に対し、各代表者が実感のこもった言葉で具体的な取組み内容やその考え方などを語った。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2023年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 当機構の湯浅善樹理事長による挨拶 【P8-11】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢社員と障害者がペア就労で支え合いみんなの笑顔がはじける職場づくりを実現 株式会社 ヴィオーラ(茨城県水戸市) 企業プロフィール 株式会社 ヴィオーラ (茨城県水戸市) 創業 1962(昭和37)年 業種 洗濯業(貸おしぼり) 社員数 40人(2022年1月1日現在) 60歳以上 23人 (内訳)60〜64歳12人(30.0%) 65〜69歳9人(22.5%) 70歳以上2人(5.0%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後は就業規則により、一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は72歳 T 本事例のポイント  株式会社ヴィオーラは1962(昭和37)年7月に茨城県水戸市で設立。2022(令和4)年で創業60周年を迎えた。開業当初から水戸市内のレストランを中心にレンタルおしぼり事業を展開。高度成長期に外食産業市場の急成長に合わせて、事業を展開している。  1977年に有限会社ヴィオーラ社となり、1993(平成5)年に株式会社ヴィオーラに組織変更した。2010年に3代目となる現社長が就任し、「日本一社員の喜ぶおしぼり会社」を目ざすことを経営理念に掲げ、高齢者や障害のある人たちを積極的に雇用。全社一丸となってだれもが活き活き働ける職場づくりを進めている。 POINT @2022年に「定年65歳・希望者全員70歳まで雇用する再雇用制度」を導入。また、「本人が希望し、会社が業務上特に必要と認めたときは、70歳を超えて雇用期間を延長することがあること」を就業規則に定め、生涯現役の道を拓いた。 A50歳・60歳・65歳に到達するそれぞれ3カ月前に個人面談を行い、勤務形態(短日・短時間勤務など)について話し合い、本人の希望に沿った働き方ができるようにした。 B高齢社員と障害のある社員がペア就労し、障害のある若手社員とベテランの高齢社員が互いを補い合って作業の効率化を図っている。 C職場改善や安全衛生、人間力向上、新規業務の開拓などを目標に掲げ、多彩な「わくわくチーム」が精力的な活動を展開している。 Dおしぼり洗い作業の自動化やおしぼり巻き取り装置の改善、リーチリフト※の採用などによって作業の負担を軽減し、安全で安心な職場づくりを進めている。 U 企業の沿革・事業内容  1962年7月に設立された株式会社ヴィオーラは、2022年に創業60周年を迎えた。創業当時は自宅を作業所兼事務所として使用しており、手作業で仕上げたおしぼりを水戸市内の飲食店に納めていたという。競合する同業者が少なかったことや外食産業の急成長などが追い風となり取引先が順調に増え、受注も急増。事業は着実に拡大していった。2001年にはいわき営業所を開設し、レンタルマット事業や美容室・エステ向けレンタルタオル事業を開始するなかで、2008年に業務拡張のために新工場(社屋)を建設した。  一方、少子高齢化や若者のお酒離れによる飲食店の減少を危機としてとらえており、2014年には病院や介護施設などにおけるリース着・私物の洗濯など、高齢化に目を向けた洗い物専用工場を建設するなど、現社長の目は常に時代の一歩先をとらえている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数40人中、60歳以上の社員は23人で57.5%を占めている。最高年齢者は72歳である。  2006年に初めて、当機構の高年齢者雇用アドバイザー(以下、「アドバイザー」)から、高齢者雇用に関するアドバイスを受けた。当時は60歳定年制を導入していたものの最高年齢者が51歳、平均年齢が35歳前後という比較的若い年齢構成であり、会社全体が高齢化に向かっている実感はあまりなかったという。しかし、アドバイザーから「多くの障害者を雇用する貴社においては、障害者の高齢化対策は障害のない人たち以上に検討事項が多いことから、早めに対策に着手することが望ましい」と助言され、障害のある社員も含め高齢化対策を真剣に考えるようになった。そこで翌年の2007年に「希望者全員65歳までの再雇用制度」を導入した。  その後、少子高齢化・人材不足と急速に社会が変化していくなかで、同社でも若手の採用がむずかしくなり、中高年齢者の採用が急増する過程で、高齢化対策が現実的な課題となってきた。そこで、2021年より定年年齢や継続雇用年齢の引上げの検討を開始。2022年3月に、65歳定年、希望者全員70歳まで再雇用、その後も就業規則により一定条件のもと年齢上限なく再雇用する制度を導入した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制度・継続雇用制度  2007年に60歳定年後の再雇用制度である「希望者全員65歳までの再雇用制度」を導入。その後高齢化が急速に進んだこともあり、2022年に定年・再雇用制度の見直しを行い、「定年65歳・希望者全員70歳までの再雇用制度」を導入するとともに、就業規則に「本人が希望し、会社が業務上特に必要と認めたときは、70歳を超えて雇用期間を延長することがある」と明記。一定条件のもと、年齢上限なく働ける仕組みとした。 (2)高齢社員の意欲・能力向上のための取組み ▼「わくわくチーム」の活動  同社における高齢者雇用対策をはじめとした、働きやすい職場づくりの中心的な役割を果たしているのが「わくわくチーム」の存在である。職場改善や安全衛生、人間力向上、新規業務の開拓など、役割に応じて全5チームにわかれており、それぞれのチームが精力的に活動を展開している。月1〜2日を「わくわくデー」とし、日常業務とまったく異なるメンバーで異なるテーマに取り組む。メンバーは各セクションから選ばれた社員、パートタイマー、チャレンジャー(障害のある社員)で構成され、ほぼ全員が参加。二つのチームに所属している人もいる。  具体的には、@工場内および周辺の3S活動※1を推進する「3Sりんごの木チーム」、A健康で活き活き働ける職場づくりを進める「健康一番チーム」、B社会貢献活動に取り組む「クレド※2委員会チーム」、C高齢社員を中心とした安全衛生に取り組む「安全衛生委員会チーム」、D女性が活き活きと輝きながら健康に笑顔で働ける職場環境づくりの先頭に立つ「happinessなでしこチーム」がある。  わくわくチームの活動では、年齢や立場に関係なく、自由に意見をぶつけ合うことができるので、組織間の壁がなくなり、コミュニケーションの向上に大きな役割を果たしている。 ▼社長通信  2016年から6年間、ほぼ毎週、社長から社員へのメッセージとして『社長通信』を発行している。3分で読み切ることができるコンパクトな内容で会社の方針などを伝えている。 ▼資格取得と各種研修  同社はもともと仕事に必要な資格取得の推進に注力してきたが、2022年度より、仕事に直結しない資格であったとしても、社員が希望すればその取得を支援している。これまで、溶接や介護ヘルパー、収納アドバイザーなどの資格を取得した社員もおり、社員のモチベーションアップにつながっている。また、外部から講師を招き、財務管理や生産性向上、安全衛生などをテーマにした研修会を適宜実施。社員の学ぶことへの意欲を後押ししている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境の改善 @作業の見える化  同社では多くの病院や施設の品物を洗濯しているが、施設ごとにたたみ方や納品の方法が異なる。特に、新規の顧客の作業方法は、必要に応じてその都度担当責任者に確認しないと作業ができないため、仕事が停滞しがちであった。そこで確認事項の多い作業は、図やイラストを入れて、顧客名・納品日・洗濯物の進捗状況(洗濯・たたみ・作業完了)がひと目でわかる「タスカル(助かる)カード」を作成し、職場に掲示している。 A作業の自動化  前述のわくわくチームの一つである「安全衛生委員会チーム」の提案で、おしぼりやタオルなどの仕分け場所への供給自動化を実現した。これまでは回収したタオルが入った約20sのコンテナを手作業で仕分け場所に搬入していたが、コンベアにセットするだけで仕分け場所へ自動搬入されるようになり、担当者の負荷が削減された。また、おしぼりケースを運搬する際、高齢社員には利用がむずかしかったカウンター式のフォークリフトから、リーチリフトへ変えたことで乗り降りがスムーズになり、安全確保と業務効率向上につながった。 ▼健康管理  2021年に血圧計・体重計・体脂肪計を各事業所に設置し、社員の日ごろの健康管理を図っている。また、おしぼりやタオルは重量物であるため、運搬などの作業にはどうしても腰に負荷がかかりやすいことから、腰痛防止のため、月1回、業務終了後に講師を招いてストレッチヨガを実施している。2018年から始めた取組みだが、最近は腰痛による長期休暇をとる社員が激減した。自由参加ではあるが、社員同士の格好のコミュニケーションの場ともなっている。また、毎月月末には健康に関する情報を掲載する壁新聞「毎日いきいき通信」を発行し、社員の健康意識の啓発を図っている。 ▼福利厚生  コロナ禍以前は、社内レクリエーションを活発に行っており、社員とその家族を招いた運動会や、3年に一度の社員旅行、納涼祭、誕生会などを開催。これらの行事を通じて互いの距離が近くなり、風通しのよい職場環境づくりへとつながっていた。  また、福利厚生のテーマの一つに「女性が喜ぶ職場づくり」があり、そこで活躍しているのがわくわくチームの「happ inessなでしこチーム」を中心にしたプロジェクトである。部門を越えた女性スタッフが集まり、女性が喜ぶ職場づくりを検討。「バースデー休暇」やユニークな「親孝行休暇」など、社員が休みやすい環境づくりを実現している。 (4)そのほかの取組み  同社では、就労継続支援A型事業所を設立し、同施設で働く障害者を「チャレンジャー」と呼び、日々の業務にあたらせている。働くことでチャレンジャーの能力を引き出し、働きやすい仕組みづくりを展開していくなかで、グループの就労継続支援A型事業所を含め、現在は40人を超えるチャレンジャーが笑顔で働いている。 (5)高齢社員の声  樫村(かしむら)久理子(くりこ)さん(70歳)は1989年に入社。勤続33年を誇る大ベテランだ。入社当時から柔軟な働き方をしており、働き始めた当初は午前中だけ勤務していたが、現在は週3日、9時〜16時の勤務を行っている。経験豊富なスタッフとして、おしぼりを巻く仕事のほかに洗い場での指示なども担当している。「気がついたら30年以上、ここで働かせてもらっています。現在の社長が働きやすい職場づくりに力を入れてくれるおかげで、社内の雰囲気もよく、毎日楽しく働いています」と笑顔がこぼれる。  樫村さんと同期入社の近藤(こんどう)雪江(ゆきえ)さん(68歳)は、入社以来おしぼりを巻く仕事一筋で、週3日、9時〜16時の勤務を行っている。「立ち仕事ですが、作業の自動化も進んでおり、以前に比べると体の負担はずいぶん軽減されました。長く働いてこられたのは、例えば、けがや病気などで休みがちになったとしても、現場に戻ってきたときの周囲の温かさがあるからだと思います。もちろん、仕事そのものが楽しいというのが一番です」と笑顔で話す。「家にいるより、ここへ来れば若い人とも話ができるし、元気がもらえるから、健康に気をつけて長く働き続けたい」と続けてくれた。 (6)今後の課題  これからも、70歳を超えても健康で働き続けられるように、お互いを思いやる人間関係づくり、環境・機械・設備の改善に注力するとともに、社員一人ひとりが健康の維持・増進のために努力することが重要であることを、ていねいにアナウンスしていく方針だ。  また、健康維持の大切さを若いときに気づくことが重要であると考え、スマートフォンの健康アプリを活用して、日々のウォーキングを推奨し、健康の維持や筋力低下の防止を目ざすほか、「健康一番チーム」や「安全衛生委員会チーム」などのわくわくチームが中心となって高齢社員の健康を守り、安心・安全に生涯現役を目ざす取組みをさらに推進していくという。 ※ リーチリフト……立って運転をするフォークリフトの一種。車高の高いフォークリフトと比べ、乗り降りをする際の負担が少ない ※1 3S活動……整理、整とん、清掃からなる安全を意識した活動 ※2 クレド……ラテン語で志・信条・約束 写真のキャプション 会社外観 藤本昌宏代表取締役 搬入用のコンベアを設置し高齢社員の負担を軽減 各事業所内に血圧計を設置している 【P12-15】 令和4年 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 人事制度を刷新し高齢社員が活き活き働ける職場環境を整備 株式会社 NJS(エヌジェイエス)(東京都港区) 企業プロフィール 株式会社 NJS (東京都港区) 創業 1951(昭和26)年 業種 建設コンサルタント(上下水道等のインフラ施設・設計に関するコンサルティング) 社員数 772人(2022年4月1日現在) 60歳以上 124人 (内訳)60〜64歳39人(5.1%) 65〜69歳52人(6.7%) 70歳以上33人(4.3%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。運用により、一定の条件を満たした場合、70歳以降も契約社員として再雇用。現在の最高年齢者は78歳 T 本事例のポイント  1951(昭和26)年創業の株式会社NJS(創業時の社名は「日本上下水道設計株式会社」)は、創業以来、上下水道の普及と技術者の育成に取り組んできた。社会のグローバル化・デジタル化の進展のなかで業容を拡大し、現在は、上下水道等のインフラに関するコンサルティング、調査・設計・施工管理・経営コンサルティング、環境計画、防災減災対策、上下水道等の事業運営に関するサポート業務、住民サービス・財務会計処理・総合施設管理、海外コンサルティング事業など、幅広い事業を展開。70歳定年の実現、創造性と生産性の向上、人材育成の基盤強化を3本柱に、全社一丸となって「ワーク・ライフ・イノベーション(仕事と人生の充実)」の実現を目ざしている。 POINT @「70歳定年を社員に確約し、意欲を持って働いてもらうことで企業の競争力を高め、さらに事業を成長させる」という経営トップの強い意志のもと、2019(平成31)年に70歳定年制を導入した。 A70歳定年制を導入するにあたり、現役世代も含めたキャリアパス・等級の見直しを行ったうえで、シニア等級を設定し、技術・能力・パフォーマンスに応じた複線型のキャリアルートを整備。70歳定年後も、契約社員として個々のニーズに応じた働き方が可能な仕組みを導入した。 B定年延長と同時に、評価制度、退職金制度、人材育成、生産性向上策を合わせた人事制度改革を行い、ワーク・ライフ・イノベーションの実現を目ざしている。 Cシニア社員に対しても評価制度を実施し、モチベーションアップを図っている。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社NJSは、日本で最初の「水と環境」のコンサルタントとして、1951年に日本上下水道設計株式会社として設立。戦後まもない時期に、近代的な上下水道の普及と技術者の育成を目ざし、事業を展開してきた。創業以来70年を超えて、水と環境の技術を通じて、地域・社会への貢献を続けている。  グローバル化・デジタル化の進展を背景に、上下水道等インフラ事業は新しい時代を迎えている。サステナブルな社会の創造に向けて、ライフサイクルを通じた管理の効率化、民間のノウハウの活用のほか、災害対策や環境保全の強化、さらなるグローバル化・デジタル化への対応など、社会インフラに対するさまざまなニーズが高まるなかで、全社一丸となって事業に取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数772人中、60歳以上の社員は124人で16.1%を占めている。70歳以上は33人(4.3%)で、最高年齢者は78歳である。  建設コンサルタント業界は慢性的な人材不足に直面しており、人材の確保・流出防止は同社にとっても大きな課題となっていた。また、海外では、80歳のコンサルタントが現役で活躍している例などもあったことから、2018年に高齢人材の活用に向けた検討を開始した。  当初は、65歳定年および70歳までの再雇用制度を導入する方向で検討していたが、経営トップから「会社の競争力は“人”である。ダイバーシティ推進のため、女性や障害者、外国人と同様に、高齢人材の活用を積極的に行いたい。そのためにも70歳定年を実現したい」という強い意向が示され、70歳定年を前提とした人事制度改革への取組みがスタートした。  以前から65歳以降も契約社員として働ける仕組みはあったが、定年延長後は「70歳まで働ける」ことを知り、応募をしてくる人もいるという。実際に、自治体OBの技術職や、民間企業での定年・再雇用を経て、同社に入社したコンサルタントもいる。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年延長  2019年4月、それまでの60歳定年・65歳までの再雇用制度を改定し、70歳定年制を導入した。  「70歳定年制の実現」は、「ワーク・ライフ・イノベーション」の実現を目ざす人事制度改革の一つに位置づけられ、「創造性と生産性の向上」、「人材育成の基盤強化」を合わせた3本柱で改革を実行。この人事制度改革により、長く働ける環境が整い、熟練者のスキル・知識を活用した技能継承を行う体制が整備された。  また、旧制度下(定年60歳、再雇用65歳まで)で再雇用となっていた60〜65歳未満の契約社員については、定年延長にともない正社員に戻している。  なお、70歳定年以降については、働く意欲・能力があり、健康状態が良好な場合は、1年ごとに契約を更新する契約社員として、年齢の上限なく再雇用している。 ▼複線型キャリアの導入  人事制度改革以前の同社のキャリアパスは、全社員が単線型であったが、まず60歳未満の社員のキャリアパスを複線型に変更。「マネジメント(M職)」、「エキスパート(E職)」、「プロフェッショナル(C職)」、「アソシエイト(A職)」の4職群を設けた。M・E・C職が総合職で、A職は一般職となる。総合職で入社する技術者(C職)は、勤務成績や会社指定の資格取得の有無などで昇進(C1→C2→C3)し、管理職昇進のタイミングで「エキスパート(E1)」、その次の段階で「エキスパート」(E2→E3)と「マネジメント」(M1→M2)に分かれる。エキスパートとマネジメントは役割の違いであり上下の差はない。  60歳以降は「シニア社員」に位置づけられ、「シニア等級」に再格づけを行う。例えば、60歳到達までのE3クラスに相当すると判断されれば、新しく「S−E3」という等級に格づけされる。なお、65歳到達時に面談を行い、仕事内容の見直しと再々格づけを行い、原則として1等級ダウンし、業務負荷を軽減するルールとしているが、現場からの要望などをふまえ、等級を維持する場合もある。  処遇については、60歳でシニア等級へ移行する際に、60歳到達時点と同等の等級へ移行した場合は基本給に大きな変更はない。シニア社員には賞与は支給されず、シンプルな賃金制度となっている。 ▼柔軟な働き方の推進  65歳以降については、体力などの問題からフルタイム勤務がむずかしくなるケースもある。その際は本人からの申し出により、フレキシブルな勤務が可能な契約社員に切り替える。これは1年ごとに契約を見直し、社員の要望に合った働き方ができる仕組みとなっている。  また、フレックスタイム制度(コアタイム10時〜15時30分)や、週2回を上限とした在宅勤務制度も導入しており、コロナ禍ではこれらの制度を拡充し、業務を継続できる環境を整備した。緊急事態宣言中は、在宅勤務の上限を撤廃し、全国で50%を超える在宅勤務率を実現している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ▼評価制度の構築  60歳でシニア社員に移行後も、60歳未満の社員と同様に評価を行う。評価は事業年度(1〜12月)に合わせて年1回行い、7月に中間評価と面談を実施する。評価制度というと、指標に対する達成度を評価する目標管理制度が一般的だが、同社の場合は顧客が自治体であり、入札による受注を基本とするため、個人別に受注や売上げ目標を管理することがむずかしく、定量的な評価ができない側面がある。そこで同社では、「役割行動評価」を導入し、現場にヒアリングをしたうえで、技術者として求められる役割定義書・評価を作成し、職種別に評価に値する行動を明示。この評価制度がシニア社員にも適用され、前年よりも評価がよければ昇給につながる仕組みとなっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境への配慮  同社は顧客が自治体であり、浄水場や下水処理場の耐震診断や現場確認など外勤業務もあるが、危険をともなう作業はそれほど多くない。外勤の際は土木・建築・機械・電機など、それぞれの担当者と複数で出向くことになるので、シニア社員が単独で外勤業務をすることはないという。また、施工管理業務では、年齢にかかわらず必ずペアで行動するので、緊急時の対応も可能となっている。 ▼健康管理・安全衛生  2018年に健康宣言を発表して健康経営の強化に取り組んでおり、2021・2022年に「健康経営優良法人※(大規模法人部門)」に認定されている。具体的には、産業医・社内保健師による面談や、健康診断のオプション検査の無料化、専門家によるカウンセリングなどを実施している。  社内保健師は、当初は週2日勤務で、社員からの相談やメンタル不調者への対応を行っていたが、2022(令和4)年8月からは平日は毎日勤務とし、全国にいる社員のフォローを行っている。  また、2021年よりオンライン健康改善プログラムを導入し、希望者全員にスマートウォッチと体組成計を配付し、アプリでの体重や歩数などの記録を推奨することで、社員の健康意識の向上や健康管理に寄与している。 ▼福利厚生  同一労働同一賃金の面からも、社員・契約社員の福利厚生は同等である。また、慶弔規程や休職・休業そのほかの制度についても、シニア等級への移行が行われる60歳以前・以後で同一となっている。 (4)そのほかの取組み  コンサルタントは所轄管庁の指針に変更があれば、その都度学習が必要であり、会社としても勉強会や社内説明会を実施し、社員の知識・技術をアップデートしている。そのため社員は若いころから学び直しの習慣があり、その重要性を社員も理解している。若手社員の育成システムも構築されており、経験豊かなシニア社員が、技術士試験に必要な口頭試験の練習相手をになうこともある。 (5)高齢社員の声  入社47年の大ベテラン、村むら山やま清きよしさん(70歳)は、設計における不具合発生防止のためのレビューを行う品質管理業務や、ISOのマネジメントシステム運用に関する後任育成業務、トラブルが発生した際の対応業務など、その経験を活かし幅広い業務を担当。「在社47年の経験を活かせる業務が担当でき、やりがいを感じています。70歳以降も働き続けることができるので、安心して働くことができます」と話す。 (6)今後の課題  制度施行から2年が経過し、新制度下で70歳定年を迎えた社員はまだいないが、最近では働き方の意向や健康状態における個人差が顕著になっている。65歳を過ぎると体力の低下や、仕事の範囲や責任に対しての考え方、働き方の希望も変化し、従来通りフルタイムで働くことがむずかしいシニア社員もいるため、シニア社員に一律的な働き方を求めるのではなく、個人の希望に沿えるようフレキシブルな制度への見直しを進めていく。  そのため、「ジョブ型人事制度」や「選択的週休3日制」などを、まずシニア社員に適用することを検討していくという。 ※ 健康経営優良法人……地域の健康課題に即した取組みや日本健康会議が進める健康増進の取組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度 図表 複線型等級制度 60歳到達まで 等級 E3 M2 E2 M1 E1 C3/A3 C2/A2 C1/A1 等級リセット 60歳以降 シニア等級 S-E3 S-M2 S-E2 S-M1 S-E1 S-C3/A3 S-C2/A2 S-C1/A1 資料提供:株式会社NJS 写真のキャプション 人事総務部の米塚(よねづか)寛樹(ひろき)さん(左)と市原(いちはら)麻里絵(まりえ)さん(右) 希望者全員に配付された健康管理のためのスマートウォッチ(左上)と体組成計(下)。スマートフォンのアプリで管理することができる 品質監理部 村山清さん 経験を活かして現役世代の業務レビューや指導で活躍している(右が村山さん) 【P16-19】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 生涯現役で働ける職場環境を創出し社員の意欲向上と業務の好循環を実現 株式会社 横引(よこびき)シャッター(東京都足立区) 企業プロフィール 株式会社 横引シャッター (東京都足立区) 創業 1986(昭和61)年 業種 製造業(シャッター等の設計・製造・施工及び販売) 社員数 33人(2022年10月1日現在) 60歳以上 17人 (内訳)60〜64歳5人(15.2%) 65〜69歳2人(6.1%) 70歳以上10人(30.3%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。運用により希望者全員を年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  株式会社横引シャッターは、1986(昭和61)年に東京都足立区綾瀬で創業。以来、各種シャッターの設計・製造・施工・販売までをトータルで請け負っている。「好きな仲間と楽しく働きたい」をモットーに、社員に寄り添う職場環境の充実に会社をあげて取り組むとともに、ものづくりの町に根を下ろした地域貢献を目ざしている。  「加齢により社員の能力が一気に下がることはない」という考えのもと、70歳定年制を定めており、定年後の再雇用でも年齢を理由に給与が下がることはない。これにより、社員の働く意欲は向上し、自身でスキルアップする方法を考え、行動できるまでになっている。 POINT @70歳定年制と、定年後の年齢上限を定めない再雇用により、社員のモチベーションアップと業績向上の好循環を図っている。定年後も給与水準を維持し、勤務形態も本人の希望に配慮した柔軟な働き方を実現している。 A「好きな仲間と楽しく働きたい」、「会社が社員に寄り添っているということを感じてほしい」という経営陣の強い思いが、作業環境の改善や健康管理、安全衛生管理、福利厚生など、取組みの随所に反映されている。 B社員の「多能工化」を推進。体調不良や家族の事情などで勤務できない場合でも、ほかの社員でカバーする社風が定着している。 C高齢社員と若手社員が2人1組で高度な技術を必要とする作業に従事。こうしたペア就労の推進により、技術継承を図っている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1986年に、グループ会社である株式会社中央シャッターのもと、東京都足立区綾瀬に創業。社名にもなっている、『上吊式(うわつりしき)横引きシャッター』を考案し特許を取得しているほか、フォールディングゲート、パイプカーテンゲート、パイプシャッター、水平引きシャッター、水平垂直引きシャッター、門扉、防火シャッター、防火防煙シャッターなど、顧客の要望をもとに、製品設計から製造・施工・販売までをトータルに行っている。たしかな技術と業績が評価され、2008(平成20)年には、足立区の「足立ブランド認定企業」に認定されている。  さらに、2015年の足立区「ワーク・ライフ・バランス認定企業」認定を皮切りに、2020(令和2)年には東京都の「女性活躍推進大賞」で特別賞を受賞するなど、働きやすい職場づくりに関するさまざまな認定・表彰を受けており、多彩な取組みが高く評価されている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数33人中、60歳以上の社員は17人で、51.5%を占めている。2022年2月までは、94歳の社員が現役で活躍していた。現在の最高年齢者は80歳で設計業務を担当。週4日勤務している。  同社が特許を持つシャッターの製造には、高い技術が求められることから、経験豊富な人材が活躍できる職場環境の創出を進めてきた。人材確保のため、年齢にこだわらない採用活動を積極的に行っており、50代の社員が9人と約3割を占め、会社の牽引役をになっている。  一方で、40代以下の社員は7人で、全体の約2割という状況のため、若手の採用が課題となっている。  また、障害者や外国籍の社員も就業しており、年齢や性別、国籍、障害の有無にかかわらず積極的に雇用することで、小規模企業ながらもダイバーシティ経営を推進している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善  以前は60歳定年、希望者全員65歳までの再雇用制度を導入しており、65歳以降も運用により希望者全員を年齢の上限なく再雇用していた。しかし、@運用では全員に雇用延長が適用されるのか不安に思う社員がいたこと、A定年到達者の技術・能力に目立った衰えが見えないこと、B特許を取得している独自型シャッターの製造・設置には熟練社員の卓越した技術が必要であること、C卓越した技術を若手へスムーズに継承すること、などを理由に、会社の未来を見すえて、2022年に定年を70歳に延長した。さらに、70歳以降についても、希望者全員、上限年齢を定めず再雇用する運用を維持している。  70歳定年を迎えた社員は、それぞれのライフスタイルにあわせて、本人が一番働きやすく、負荷がかからない勤務形態としている。勤務日は週2〜5日の選択制で、フレックスタイム制度を採用しており、出退社時間にも柔軟性を持たせている。通院や家庭の事情によって休む際は、出勤日の振替えなども可能となっている。  2022年2月まで在籍しており、当時の最高年齢者であった94歳の方は、移動式シャッターへ滑車を取りつける実務を担当していた。通勤の負担を軽減するため、雨天の日は休日にするなど、生涯現役で働き続けられる仕組みとしており、熟練の高齢社員が働く姿はほかの社員たちのよい手本となっていたそうだ。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み  同社は、年齢で給与を下げることはしていない。定年後も待遇などは一切変更せず、随時昇給も実施している。  社員の給与は職種(営業、設計、工事〈施工〉、工場〈製造〉、事務の5種類)によって、採用時点の金額が設定されており、技術の習得や経験を積むことにより随時昇給していく。昇給のタイミングは、所属長などから報告される技術の習得状況や、貢献度合いに応じて社長が判断する。賞与や退職金の支給はないが、その分を考慮した月額給与を設定しており、定年後も同様である。  同社のシャッター製造は独自開発した技術であり、同社にとって技能継承は最大の課題である。定年を迎えた社員には、雇用延長時に「若手へ技術を教えてほしい」と会社側の要望を伝えている。そのうえで技能継承が達せられた場合に昇給するシステムとなっている。以前は、「技能継承を行うと自分の存在価値がなくなるのでは」と危惧する高齢社員もいたが、昇給につながるシステムが整備されたことにより、技能継承がスムーズに行われるようになった。  また、本人の希望があれば、業務に必要なスキル習得のための研修を会社負担で受講することができるほか、高齢社員向けのパソコン教室など、社内でも教育訓練を実施している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼作業環境の改善  最高年齢94歳(当時)の社員が、着席状態でほとんどの作業ができるように、着席時の視点に合わせて機械や作業台を設置。現在の最高年齢80歳の社員も、同じように着席状態で作業を行っている。  また、設計・事務担当者などのデスクワーク業務が中心の社員については、長時間座っても負担の少ない椅子に変更した。あわせて、ゲルクッションも購入し、負担軽減に努めている。 ▼勤務形態の変更  年齢にかかわりなく働き続けられる体制を整えているが、高齢社員自身から「加齢による体力面の衰えにより、従来の働き方では継続がむずかしい」と相談された場合は、作業環境の見直しに加え、勤務日数や時間を個別に変更するなど、その都度できるかぎり継続して勤務できるように配慮している。 ▼多能工化への取組み  社員それぞれメインとなる職種があるが、4カ月に1度のペースで担当部署を入れ替え、社員の多能工化を図っている。このため、例えば営業と設計、工事と工場、事務と営業など、日常的に異なる職種の経験を積んでおり、繁忙期の人手確保や、勤務形態の見直しにより手薄になった部署への応援が可能となっている。 ▼健康管理  健康維持のために、定期的な通院が必要な社員には、病院が比較的空いている平日を活用できるよう、有給休暇の取得を推奨している。 ▼安全衛生  労働災害の防止のため、工場などにあった段差はスロープに変更、階段には色つきの手すりを設置している。また、負担軽減のため、重い物を運ぶためのフォークリフトの導入や、工場内エレベーターの設置なども行っている。そのほか、駐車スペースを改装し、社員用の駐輪場スペースを確保した。駐輪場の床は、滑り止め材を通常の1.5倍配合した素材で塗装し、より滑らないように工夫している。 ▼福利厚生  社長自らがさまざまなアイデアを出し、次のような福利厚生の充実を図っている。 ・全社員が自由に利用できる酸素カプセルの導入 ・おせち料理やお花見弁当、防災グッズなどを、社員の家族へ支給 ・全社員へのオーダースーツの支給、靴磨きサービス など  このように独自の発想で福利厚生を推進しており、「好きな仲間と楽しく働きたい」という願いの具現化に向け、会社と社員が一緒になって、よりよい職場環境の創出を目ざしている。 (4)そのほかの取組み  2020年には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、地元の足立区をはじめとする自治体や行政関連団体などに、合計2400台以上のアクリルパーテーションを寄贈。「身の丈にあった社会貢献」で各所から感謝状が授与された。  また、コロナ禍になってすぐに全社員と面談を行い、どのような勤務形態を希望するかを確認。ほとんどの高齢社員が従来通りの勤務を希望するなか、工場勤務をしていた1人の高齢社員が家族への感染の懸念から従来通りの出勤を希望しなかったため、在宅勤務の方法を模索し、自宅で作業できるようにした。その際、材料の受け取りや製品の納品、会社とのコミュニケーションのために週に一度の出勤を条件に、在宅勤務への切り替えを実現した。 (5)高齢社員の声  入社33年、78歳の熊取谷(くまとりや)明子(あきこ)さんは、営業事務を中心に、伝票管理や請求書の作成などの経理業務も担当。「社員同士が『お互いさま精神』を持って働いているので、職場の雰囲気がよいからこそ、33年間働き続けることができているのだと思います」と、長期勤務のポイントを話す。  購買部で部品・部材の発注管理業務を行う小林(こばやし)義正(よしまさ)さん(72歳)は入社21年目。「みんなで協力して製作した製品ができあがり、工場から出荷されるときが何よりうれしいですね。わが子を送り出す気持ちで、出荷しています」と、仕事のやりがいを語ってくれた。 (6)今後の課題  会社と社員がWin−Winの関係になるよう、これからも高齢社員が安心して活き活きと長く働ける職場環境の構築を継続していく方針だ。他社の好事例などを謙虚に学びながら、自社に落とし込んでいくことで生涯現役で働ける職場の実現を目ざしていくという。また、創業支援等措置の導入も検討しており、さまざまな形で高齢社員が活躍できる環境を整えていく予定だ。 写真のキャプション 会社外観 高齢社員が座りながら作業できるよう、着席時の視点に合わせて機械を設置している 全社員に支給するオーダースーツは、一人ひとりと打合せを行い、要望に応じている 熊取谷明子さん 小林義正さん 【P20-23】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 創業時から高齢者雇用が根づいた企業風土で76歳以上も安心して働ける環境づくりを推進 株式会社 セイセイサーバー(静岡県静岡市) 企業プロフィール 株式会社 セイセイサーバー (静岡県静岡市) 創業 1965(昭和40)年 業種 ビルメンテナンス業(その他の事業サービス業) 社員数 302人(2022年1月1日現在) 60歳以上 151人 (内訳)60〜64歳36人(11.9%) 65〜69歳40人(13.2%) 70歳以上75人(24.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は一定条件のもと75歳まで再雇用。その後も一定条件のもと、年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は86歳 T 本事例のポイント  株式会社セイセイサーバーは、1965(昭和40)年に静せい清せいビル管理株式会社として静岡県静岡市(旧清水市)において創業。創業者の杉山(すぎやま)正男(まさお)氏が55歳で公務員を退職後、「定年退職後もまだまだ元気に働くことができる機会をつくりたい」と10数人でスタートした会社だ。創業当時は定年55歳が一般的であったが、同社は創業と同時に65歳定年制を導入。そこには「お年寄りや障害者など、弱い立場の人たちも自分にできる仕事をしながら、社会貢献できるような仕組みのある社会を築きたい」という創業者の思いが込められている。2007(平成19)年には2代目社長で現在理事長を務める杉山(すぎやま)一成(かずなり)氏がNPO法人を立ち上げ、障害者のための就労継続支援事業所「ハートランド」を開所。清掃業を中心とした就労継続支援事業をスタートさせた。  「掃除は心である」を社訓とし、市民が明るく幸せな生活を送る一助となることを目ざしてきた同社。現在は3代目の長田(ながた)きみの氏が引き継ぎ、いまの時代感覚をとらえて「だれもが仕事を楽しめる」職場環境づくりを目ざしている。 POINT @1965年の創業時から65歳定年制を導入。2020(令和2)年に、一定条件のもと75歳までの再雇用制度、また76歳以上も会社が認めた場合、契約期間を更新する場合がある旨を就業規則(嘱託規程)に明文化した。 A新卒採用を一切行わず、他社で活躍してきた55歳以上の早期退職者や、特に65歳以上のシニア層をターゲットに積極的に採用している。 B定年退職者は、希望により「永年スタッフ」として登録できる仕組みを導入。退職して数年経過後も、会社の求人とスタッフの希望条件とをマッチングさせて、再雇用をサポートしている。 C社内報やイベントを活用し、社長をはじめ他部署社員との相互コミュニケーションを高め、高齢社員の帰属意識向上を図り、永年勤続につなげている。 U 企業の沿革・事業内容  1965年に静清ビル管理株式会社の名で創業。創業者が公務員出身であったこともあり、庁舎の清掃の仕事を中心に事業をスタートさせた。1989年4月に株式会社セイセイサーバーへと社名変更し事業を拡大。人々が生活する「建物」を「安全かつ衛生的でいつも気持ちのよい空間にすること」を基本コンセプトに、建物総合管理業、建設設計施工業を展開する。電気・空調・給排水衛生などの設備保守管理、外壁・住宅・マンション・ホテルなどの清掃管理、水質検査・空気環境測定・害虫防止・植栽・産業廃棄物収集運搬などの環境衛生管理、施設警備・駐車場警備・プール警備などの保安警備管理を行うほか、家事代行、お参り代行・整理収納・ハウスクリーニングなど一般住宅関連業務も手がけている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数302人中、60歳以上の社員は151人で50.0%を占めている。80代の社員も14人在籍しており、最高年齢者は86歳である。高齢社員の20%は10年以上の勤続者であり、こうした永年勤続者に同社の事業は支えられてきた。創業時から必然的に高齢者が働きやすい職場づくりに努めてきたことが、高齢社員の定着につながったといえる。  高齢社員が働く理由には「元気なうちは働きたい」、「仕事を通じて社会と接点を持ちたい」、「収入を得て孫にこづかいをあげたい」など能動的な動機が多い。他方、親族が遠方で暮らすなど独居の高齢社員も一定数おり、会社を緊急時の拠り所と考えている高齢社員もいるようだ。  現在、新卒採用は一切行っておらず、他社で活躍してきた早期退職者や他社からの55歳以上、特に65歳以上の人材をターゲットにして積極的に採用活動を行っている。設備業務において必要となる関連資格を保持している社員に対しては、資格手当を付与して給与面でサポート。「永年勤続者はもちろん、後継の人材にもこれからも長く勤務してもらいたいと思っています。75歳くらいでリタイアする方が多いので、安心して働けるように、社内の環境整備に取り組んできました。今後も高齢社員のモチベーションを維持するための改革を続けていきます」と長田社長は話す。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年制度と継続雇用制度の見直し  創業時から定年年齢を65歳と定めている。66歳以上については雇用形態を時間給のパートタイマー・アルバイトへ転換するなどの運用で、年齢の上限は定めず再雇用していたが、2009年に嘱託規程を新たに定め、1年ごとに雇用契約を更新する運用を試験的に導入。2020年に改正高年齢者雇用安定法が成立したのを機に、定年後の再雇用と社外の定年退職者の再雇用については75歳までを契約期間とするとともに、76歳以上についても契約を更新することがあることを就業規則(嘱託規程)に明文化した。これにより会社は人材確保が安定的になり、「雇ってもらえるかぎり働きたい」と、社員たちの安心とモチベーションアップにもつながった。 ▼賃金と人事考課制度  定年後の賃金については、原則として昇給は行わないが、社会情勢により基本給の底上げが必要と認めた際には実施。また、定年前の業務内容、役割、勤務形態に変更がなければ定年前と同額の給与を支給している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼再就労を推進する「永年スタッフ登録」  定年退職者は、定年後のライフプランと再雇用の意思確認をしたうえ、「永年スタッフ」として登録する仕組みがある。退職後数年経過した場合でも、同社の求人と、永年スタッフの希望条件をマッチングさせて再雇用をサポートするというもので、ビル設備管理、電気、エネルギー、衛生など業務関連の資格保持者には、同社から再雇用を依頼することも多い。再雇用となった場合でも、継続して勤務している社員と同様に選任手当や資格者手当を支給している。 ▼就労継続支援事業所と業務相互支援による人材育成  高齢社員の作業負担軽減のため、現場統括責任者や指導者、就労継続支援事業所「ハートランド」の指導員など、作業者ではなく、統括指導や教育がメインとなる現場での就労プランを作成し、個人面談で業務転換を打診している。 ▼若手社員と役割分担し協業  現場でのメイン作業は体力がある若手社員がにない、作業補助を高齢社員が行うペア就労で役割を分担し作業に従事している。また、高齢により車の運転ができない社員には、若手社員が現場まで送迎するといったサポートも行っている。 ▼現場改善提案制度  「現場改善提案制度」は、同社で30年以上続いている職場改善のための提案制度である。現場で働く全社員が普段から業務で悩んでいることに着目して、改善提案を行うもの。病院の設備管理を担当する高齢社員から出された「電動ベッドの電池残量チェッカーをつくってみてはどうか」といった発明に近い提案から、「若手がこうしたら働きやすい」という視点からの改善案まで、気負いなく提出されている。 ▼社内勉強会の実施  業務内容に関する社内勉強会を実施しており、高齢社員を含む熟練社員が持ち回りで講師役を務めている。また、外部から講師を招いて、顧客満足(CS)向上や清掃・ビル管理にかかわる作業・法律・制度、労務などをテーマとした勉強会も実施している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼健康経営優良法人宣言  60歳以上の社員が半数を占める同社では、社員の健康を第一に考えて、2021・2022年に「健康経営優良法人」に認定された。健康診断受診率は100%、人間ドックの受診率は70%を達成している。また、2018年からは、熱中症対策として、毎年7月に冷感マスクと塩分補給食品を全社員に配付したり、今般のコロナ禍においては消毒用アルコールと会社オリジナルのマスクを全現場に設置したりしている。 ▼法定外福利厚生制度の導入  社員が勤務外でのけがや病気により通院または入院し、欠勤しなければならない事態となった場合に、通院・入院費用および治療費の一部を負担する制度を導入している。この制度は例年10人ほどが利用しており、「本当に助かった」と感謝の声が届いている。慶弔見舞金制度では、すべての社員やその家族の結婚・出産のお祝い金と死亡弔慰金、傷病見舞金を支給して、ライフイベントをサポートしている。 ▼安否確認システムの導入  社員の安否確認のスピード化と連絡体制を強化するため、個人の携帯電話、スマートフォンなど、デジタル機器で安否確認ができる連絡網システムを導入した。 ▼コミュニケーション活性化の取組み  創刊35年の社内報『あかしや』を毎月発行している。もともとは会社から社員への情報発信型の媒体だったが、2019年より社員による社員のための媒体へ転換。本社スタッフが所属現場を訪問して取材をすることで、互いに顔見知りになり、コミュニケーションが活性化した。また、社員からの投稿や応募コーナーを設けたところ、「毎月楽しみにしている」という声が多くなった。社長が当月誕生日の社員一人ひとりに直筆のバースデーメッセージを贈るコーナーは、1年で全社員を紹介することができ、社員間でも大きな話題になるそうだ。 (4)高齢社員の声  57歳で入社した金谷(かなや)明洋(あきひろ)さん(68歳)は、冷凍機、ボイラー、運転・保守管理などの関連資格を保持し、市立病院の施設設備管理をになう。「温度管理の不調を修理した際にはお客さまから感謝され、やりがいを感じました」と話す。管理業務は労働時間が長いことから、先月から勤務日数を減らしたが、いつも笑顔で元気に職務を全まっとうしている。  水野(みずの)勝之(かつゆき)さん(80歳)はもともと自営業を営んでいたが、70歳のときに当時の顧客だった同社の現会長の紹介で入社した。清掃設備の貯水槽設備作業・点検における現場監督を担当。「高齢になって働かせてもらえるのが嬉しい。仕事が続けられるかぎり働きたい」と話す。  増田(ますだ)美知恵(みちえ)さん(72歳)は65歳で入社し、官公庁の施設の清掃を担当する。「障害のある社員とペアで仕事に就いています。仕事が続けられるかぎりがんばります」と力強く話す。  浜本(はまもと)テイ子さん(81歳)は78歳のときに入社。公共施設の清掃を担当している。「だれに見られても恥ずかしくない仕事がしたいですね。仕事があることはありがたいし、誇りに思っています」と仕事へのこだわりを語る。  大澤(おおさわ)晴美(はるみ)さん(66歳)は、子育てが一段落した42歳で同社に入社。初めて清掃の仕事に就いたという。「仕事を始めたばかりのころ、当時の社長が『いつもきれいにしてくれてありがとう!』とねぎらってくれたことが原動力になり、いまも仕事を続けています」と話す。 (5)今後の課題  高齢社員と若手社員との協業と、さらなる帰属意識の向上が今後の課題だという。  「高齢社員の方々には、ボリューム層となっている40代の社員のメンターになってもらいたいと期待しています。高齢社員は仕事に対して責任感と熱意が強い方たちが多く、そうした精神面の部分も若手には受け継いでほしいですね。逆に、高齢社員と協業ができる若手社員を育てることも必要になってきています」と総務部の西(にし)英子(えいこ)さんは話す。55歳以上を積極的に採用していることから、今後も増える高齢社員を若手が支え、相互に支え合う仕組みづくりを目ざす。  高齢社員の能力を最大限に引き出す同社の取組みと、社会インフラを支える同社の事業は、これからも社会に大きな貢献をしていくことだろう。 写真のキャプション 会社外観 長田きみの代表取締役社長 ビルの設備管理業務を行う高齢社員の様子 (前列左から)浜本テイ子さん、大澤晴美さん、(後列左から)水野勝之さん、金谷明洋さん、増田美知恵さん 【P24-27】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 社内外のコミュニケーションを活性化し年齢による分けへだてのない業務を推進 株式会社 GFM(ジーエフエム)(愛知県名古屋市) 企業プロフィール 株式会社 GFM (愛知県名古屋市) 創業 1986(昭和61)年 業種 警備保障業 社員数 481人(2022年4月1日現在) 60歳以上 349人 (内訳)60〜64歳77人(16.0%) 65〜69歳120人(24.9%) 70歳以上152人(31.6%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。定年後は、就業規則により一定条件のもと75歳まで再雇用。その後運用で一定条件のもと80歳まで再雇用。現在の最高年齢者は79歳 T 本事例のポイント  株式会社GFMは1986(昭和61)年に愛知県弥富(やとみ)市で警備業をスタート。その後、パーキングメーター等管理業務や放置車両確認事務などの事業も展開し、業容を拡大してきた。創業以来、世代間に垣根を設けず、風通しのよい職場環境づくりに注力している。社内はもちろん、社外においてもコミュニケーションの活性化に注力する姿勢は地域で高く評価され、安心して安全を任せられる会社として信頼を獲得している。警備保障の現場は、分散・局所的であるため、従事する高齢社員は孤立を感じやすいことから、会社としては年代にかかわらず相互に援助し合える風土が重要と考え、啓蒙活動を行ってきた。現場では世代による分けへだてはなく、相互に助け合う姿が随所に見られる。 POINT @警備保障業界で先駆け的に定年年齢を70歳に引き上げた。また、定年後は就業規則により一定条件のもと75歳まで、その後も運用により80歳まで再雇用する制度を導入した。 A定年後や70歳を超える継続雇用においても基本給のベースに変更はない。 B高齢社員が長く働けるように、多様な勤務形態(所定日数)を整備し、本人の希望に沿った勤務先や勤務日に調整している。 C全社員を対象とした評価制度を2018(平成30)年に導入、毎年度見直しを行いながら運用している。 D警備業務に必要な資格取得を会社が支援。社内有資格者による試験対策指導を実施し、試験の費用は会社が全額負担している。資格取得者には資格手当が付与される。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社GFMは、1986年11月に愛知県公安委員会から警備業の認定を受け、愛知県弥富市で「中部安全サービス保障株式会社」という社名で創業した。その後、業容拡大とともに資本金の増額・組織変更を行い、2021(令和3)年に現住所である名古屋市中村区に本社を移転。社名を「株式会社GFM」に変更した。現在は、警備業に加え指定管理業務、パーキングメーター管理業務、放置車両確認事務を愛知県と三重県、東京都を中心に行っている。  経営方針として、@社会システムのなかに「Social Life Doctor※」としての地位を確立する、A「お客様第一主義」を徹底し、顧客満足度100%を目指す、B地域社会に深く密着し、貢献活動を通して真の共生社会の実現を目指す、C社員の多様性を重視し、全ての社員の幸福と生活環境の向上を確保する、D社員の改革精神を醸成し、工夫と発想力のある会社として活動する、E社会情勢の変化に対して、柔軟かつ的確に対応する会社を目指すことを掲げており、社会活動を通じ、コンプライアンスを遵守し健全な社会秩序を維持するために、安全産業の一員としての役割を果たしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数481人中、60歳以上の社員は349人で72.6%を占めている。最高年齢者は79歳である。警備保障業界の特性として、40歳以上の中高年齢層の一時雇用者が社員構成の中核を占めるという傾向があり、その維持に高齢者の採用が不可欠だった側面もある。同時に、主な契約先である公的機関が、応札する企業の高齢者雇用推進状況を評価項目の一つとしていたことも要因の一つとなっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼70歳定年制の実施と再雇用  2013(平成25)年に、定年年齢を70歳まで引き上げた。同時に、就業規則により70歳以降も一定条件のもと75歳まで、運用により80歳まで再雇用する制度を導入した。その背景には中高年齢層が多いという業界特性に加え、2011年に発生した東日本大震災がある。2011年は同社が東京営業所を開設した年でもあり、仕事を求めて東京に上京してきた東北地方の方々を積極的に採用した。また、高齢者の面接で「仕事を探そうと思っても、書類段階で不採用になる」などの切実な声を聞き、70歳を定年とすることで力になりたいと考えたことも取組みを後押しした要因のひとつだ。  2016年に、健康管理の観点から雇用年齢上限を、警備業務は80歳まで、行政機関からの請負・委託事業に関する業務は75歳までとする制度改定を実施した。これは80歳を超えると急激に体調に変化が生じる社員もいるため、社員の健康管理を考慮した結果である。本人の希望・適性・評価制度の結果などを考慮して原則1年ごとの更新とし、1年間の契約のなかでも、例えば週5日勤務を4日にするなど、勤務日数を柔軟に選択できるようにすることで、高齢社員の働きやすさに配慮している。 ▼モチベーションの維持・向上を図る賃金制度  賃金に関しては、70歳定年後の再雇用においても、基本給のベースの変更は行っていない。また、定年後の再雇用でも昇給があり、資格取得者には資格手当も付与されている。賞与についても年齢での区切りはなく、賃金と同様に評価制度の結果に基づいて支払っている。これにより、高齢社員は処遇の低下を心配することなく業務に集中することができる。 ▼多様な勤務形態の導入  警備業務の特性上、時間単位の勤務時間の調整がむずかしい面があるため、基本的に日数単位で調整をしている。勤務形態(月の所定日数)を、@16〜20日・A10〜15日・B10日未満の三つに分けて、社員それぞれの働き方に対応しているほか、勤務先についても柔軟に調整している。また、配置転換については、新しい勤務先への適性を確保するために数日間の研修を行い、習熟度が足りない場合は研修期間を延長している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ▼評価制度の導入  定年後の再雇用者を含む全社員を対象とした評価制度を2018年から導入し、毎年度見直しながら運用している。評価は年2回実施し、それぞれ三次評価まである。  一次評価は、警備業務なら教育を担当する部署である教育部の者、請負・委託業務なら事業所の業務経験豊富な者および上司を中心に現場巡察を行い、現場における業務態度、マニュアルの遵守状況などを確認のうえ、職務成績の評価を行っている。  二次評価は、警備業務なら教育部の長が、請負・委託業務なら各事業所の副責任者以上の者が情意・能力評価(規律性や協調性、積極性)、勤怠の実績評価(欠勤や遅刻・早退など出勤日数の状況を点数化)を行っている。  三次評価は、一次・二次の結果を含めた総合得点をもとに、役員らによる最終的な評価となる。 ▼能力開発支援  警備業務に必要な資格取得を支援する制度を運用しており、社員のスキルアップをうながしている。また、有資格者による試験対策指導や勉強会など資格取得試験の事前対策に加え、試験費用の全額を会社が負担している。事前対策講座の開催は合格率の向上につながっており、不合格の場合でも再試験費用は全額会社負担。資格取得者には資格手当を支給している。 ▼社内外のコミュニケーションの活性化  企業文化として、世代間の垣根を設けず風通しのよいコミュニケーションづくりを目ざしている。例えば、高齢社員と若手社員のペア就労により、経験の浅い若手社員に高齢社員の視点やノウハウを伝えることが可能となっている。一方、体力を要する業務は若手社員が担当するなど、互いに不得手な部分を補い合うことができるようにしている。こうしたコミュニケーション促進の取組みは、女性や障害者も含めて展開されており、働きやすい風土を構築している。また、顧客から評価された社員に対する表彰制度を設けており、毎日行う朝礼や終礼で発表することで、社員のモチベーションアップにつなげている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼健康診断受診と産業医のサポート  年1回の健康診断受診にあたっては、会社の指定する受診機関で人間ドックの受診も可能であるため、社員はどちらのコースも選択することが可能である(ただし、人間ドックの追加費用は社員負担)。また、産業医にメンタルヘルス面も含めた健康相談ができる体制が整備されている。 ▼介護(看護)支援制度  2015年4月に育児介護休業規程を変更し、親・子・兄弟・配偶者だけでなく、孫がいる高齢社員について、年次有給休暇とは別に、孫のための介護(看護)休暇を取得できるようにした。 ▼車両運転業務従事者への適性検査の導入  業務で車両を運転する社員については、年齢を問わず、年1回、適性検査の受診を義務づけており、その検査結果に基づいて担当業務の見直しを実施している。 (4)そのほかの取組み ▼年次有給休暇の取得促進  有給休暇の取得率は85%〜90%と高い。気兼ねなく取得できるよう、特に高齢社員の体力回復や持病による通院などの必要性を鑑み、2012年より、年次有給休暇の計画的付与制度を導入している。 ▼ボランティア休暇制度  高齢社員のなかには、居住する町内会のボランティア活動などに参加しなければならない人が少なからずいることから、社員の地域貢献活動を支援するために社内規程にボランティア休暇制度を導入した。 ▼再雇用制度(カンバック制度)  高齢社員が、介護問題や自身の疾病などの事由で退職した場合に、会社で再度働くことができる制度としてカンバック制度を導入している。この制度は、高齢社員の在職中や退職後につちかってきた経験・知識・技能を活かすことを目的としている。 (5)高齢社員の声  井上(いのうえ)嘉昌(よしまさ)さん(67歳)は2019年に入社。放置車両確認事務の事務所管理運営のほか、パーキングメーター等管理業務においては入札業務にもたずさわっている。「目の回るような忙しさですが、やりがいを感じながら日々を送っています」という井上さんは、「会社のチャレンジ制度による費用負担で駐車監視員の資格試験に合格して、駐車監視員資格者証を取得しました。また、体調不良などで退職した場合でも体調が戻れば復帰できるカンバック制度もあり、社員に対する温かい思いやりは、創業者と現社長が築き上げ、つちかってくれた社風と感じています。社員に対する温かさを感じながら勤務しています」と話す。 (6)今後の課題  同社では、今後も意欲的で経験豊富なシニア人材の力を活かし、企業の成長につなげていく方針だ。高齢社員にとっての頻出の課題(自身の健康問題、介護)に直面しても、働き続けられるように制度改善を行っていくとともに、体力・体調面については、健康診断や日々の健康観察、面談での管理・支援・配慮を行い、高齢社員の声を取り入れ、時代や状況の変化に合わせて柔軟に対応していくという。 ※ Social Life Doctor……社会に対し継続的に安心・安全を提供することを目ざす専門家という意味の造語 写真のキャプション 株式会社GFM 警備業務の様子 社員のための資格取得試験に向けた有資格者による勉強会の様子 パーキングメーター管理業務はペア就労が基本 井上嘉昌さん 【P28-31】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 だれもが活力を持って働ける職場環境を構築し高齢社員の卓越した技術を次世代に継承 合同会社 Syuhari(シュハリ)(愛知県豊橋市) 企業プロフィール 合同会社 Syuhari (愛知県豊橋市) 創業 2021(令和3)年 業種 縫製製造・販売(主な営業品目:注文紳士・婦人服・ネクタイ等) 社員数 4人(2022年7月1日現在) 60歳以上 2人 (内訳)60〜64歳1人(25.0%) 65〜69歳0人(0%) 70歳以上1人(25.0%) 定年・継続雇用制度 定年なし。現在の最高年齢者は71歳 T 本事例のポイント  2020(令和2)年、愛知県豊橋市でコロナ対策のための医療用ガウンの縫製・販売を目的とする工房が立ち上げられた。当初は豊橋市民病院をはじめとする東三河の地域病院への販売を目的としていたが、コロナ禍の進行が著しく大手企業の製造に対抗できず、方針を変更し、2021年2月より「お誂(あつら)え高級紳士・婦人服」の製造・販売を開始した。2021年7月には「合同会社Syuhari」として創業し、お客さまだけの一生モノの一着をつくる「匠工房」を立ち上げ、高齢社員の匠の技術と積み重ねた経験を強みに事業を展開している。  社名のSyuhariは「守破離」を表しており、基本を「守」り習得したのちに、工夫を加え既存の形を「破」り、新たな形として独立し「離」れて自分の流派をつくる、という思いが込められている。 POINT @創業時から定年なしを掲げている。 A豊橋市の「とよはしの匠」に認定されている高齢社員の縫製技術をもとに事業を展開するとともに、仕事を通じてその技術や経験を若手社員に伝承している。 B食事休憩の終了後、午後の作業を始める前に30分間のミーティングを行い、注文服の今後の方針、つくりたい服、そのために改善すべきポイントを勉強している。 U 企業の沿革・事業内容  合同会社Syuhariは、愛知県豊橋市で2021年7月に創業した、フルオーダーメイドによる紳士服・婦人服の製造・販売事業を展開する企業である。創業の前身として立ち上げた工房では、当初はコロナ対策のための医療用ガウンの縫製・販売を行っていたが、同分野への大手企業の進出により方針を転換。社員数は少数ながら、高齢社員が持つたしかな縫製技術をもとにオーダーメイドによる紳士服・婦人服の縫製・販売に事業転換した。新規事業としてブライダル分野の開拓や、豊橋市のふるさと納税の返礼品(フルオーダースーツ)への出品などにも積極的に取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数4人中、60歳以上は2人で、最高年齢者は71歳である。高齢社員の縫製技術は高く、そのうち1人は、豊橋市の事業所に従事する卓越した技能者を表彰する「とよはしの匠」に認定されている。高齢社員の持つ縫製技術が、次世代に継承されずに失われてしまうことを危惧した創業者が、高い技術を持つ高齢人材を迎え入れ設立したのが同社である。現在は、60代・70代の2人の高齢社員に、縫製職40年の経験を持つ50代の人材、見習い中の20代の人材が加わり事業を展開している。  同社は高齢社員が持つ縫製に関する技術を核に紳士・婦人服のオーダーメイド事業を展開しているため、高齢社員により長く勤めてもらうことを強く願い、高齢社員が安心して仕事に従事する職場環境を整備・拡充するための取組みを進めている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼定年なし、柔軟な勤務体制  同社の雇用制度における主な特徴は、「定年の定めなし」と「柔軟な勤務体制」の2点である。「定年の定めなし」は、社員に高い意欲を持って働いてもらうために、創業当初から整備した。  紳士・婦人注文服の職人の世界では、「70歳でも若手」といわれるほど高齢化が進んでおり、後継者も育っていない。衣料品の製造が海外生産にシフトして国内生産が急減し、伝統的な手仕事を受け継ぐ人材が激減しているのが現状である。しかし、既製服が合わない人や、よりよい服を必要とする人はいまだ数多く存在しており、注文服を縫製する技術は世の中で必要とされている。  注文紳士・婦人服縫製は負荷の高い肉体労働ではなく、細かな手作業(針仕事)であり、高齢であっても活力を持って働ける仕事であることから、創業時から定年年齢を定めなかった。これからも高齢社員の労働意欲を高めながら、気持ちよく活躍できる場の創出を目ざしていく方針だ。  「柔軟な勤務体制」については、勤務時間は「8時30分〜17時30分」としているが、フレックスタイム勤務も可能で、所定労働時間は週20時間以上40時間以内と柔軟性を持たせている。社員の体調管理を万全とし、残業をさせないため、1日の勤務時間については3時間以上8時間以内としている。なお、1カ月の実労働時間が所定内労働時間に満たなくても賃金の減額は行わない。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼技能継承の取組み  今後も同社の事業が継続できるように、50代の社員と20代の若手社員を後継者として、2人の高齢社員が持つ縫製技術の継承を図っている。各人が持つ技能を伝えながら、種々の題材の試作を楽しんで行うことで、新しい技術や細かなポイントを伝えることができ、高齢社員のモチベーションの向上にもつながっている。これは日々の仕事を通して行われ、後継者が服飾全体の縫製指導ができるようになることを目ざしている。 ▼コミュニケーションの促進  同社では、社員同士のコミュニケーションを通して、風通しのよい職場風土づくりを進めている。例えば、昼休憩後の30分間ミーティングでは、リラックスした雰囲気で注文服の今後の方針や、雑誌を参考にデザインの最新トレンドの情報共有、試作品の創作などを行っている。各々の技術向上を図るだけではなく、技能継承のためにも、社員それぞれが持つ特に優れた技を日々のミーティングのなかで確認しながら、新たな作品づくりや、注文婦人服や海外有名ブランドのスーツの分析・改良といった、互いに切磋琢磨する活動を行っており、それがモチベーションアップにつながっている。  同社はこうした風通しのよい職場風土を定着させ、今後、社員が増加しても、この職場風土と完全フルオーダーメイドの自社製品に誇りを持って仕事に取り組んでもらいたいと考えている。  また、技能継承のための取組みとして、職場のIT化にも取り組んでいる。匠である高齢社員の高度な技術の秘訣の見える化を進めるとともに、作業手順をマニュアル化するために、匠の緻密な手作業を作業ごとに細分化して、その画像と手順をデータ化。さらにミシンを使う際の強度やスピードデータを取り込むなど、IT化により匠の技のデータ保存や解析を計画している。  なお2022年4月から、匠の作図した型紙情報のCADシステムへの保存を、若手社員を育成して内製化し、技術の継承につなげている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼転倒防止  同社は、代表社員の2階建ての実家を改修して社屋として利用しており、社員は2階の作業場で縫製作業を行っている。一軒家のため階段が狭く、特に高齢社員はケガなどのリスクが高い。そこで、廊下の両脇および手をつく箇所に手すりを、階段には滑り止めを設置するなど、つまずき・転倒の防止に努めている。 ▼照明や空調の配慮  高齢者は明るさが不足すると眼が見えにくくなるため、天井照明をLED照明に変更した。しかし細かな縫製作業では照度が不足することもあり、作業場にスタンド照明を合計6基増設し、天井照明の高さを下げる工夫を施した。  また、空調に関しては、大型エアコンの設置に加え、空気の循環のために扇風機と温風ヒーターを3台ずつ追加配備。さらに、コロナ禍に対応するため空気清浄機、加湿器を設置し、換気や湿度管理を徹底している。 ▼作業姿勢の改善  ミシン作業用の作業台を、立ち作業が負荷なくできる高さに調整し、座って作業する場合には作業する人に合わせ、見やすい高さとなる2種類のいすを各人に用意した。また、作業の効率を考慮して、匠の高齢社員がほかの3人に指導・監督しやすいように作業台を配置した。さらに、社員それぞれが作業しやすいよう、通路幅の調整なども行っている。 ▼通勤負荷の軽減  同社は豊橋駅から3qほど離れており、1時間に6本の市内循環バスが停まるバス停から約100mの位置にある。高齢社員の体力などをふまえて、自宅からバス停などの公共交通機関が不便な場合は、家族の自家用車での送り迎えによる通勤でも交通費を支給している。 ▼健康管理  社員に体調不良が生じた場合は有給休暇を取得して随時対応しているほか、毎朝の作業開始時に健康確認を行っている。また、インフルエンザ予防接種やコロナワクチンの接種、副反応などで不調をきたした日も、特別有給休暇として対応している。  日常の健康管理では、高齢社員にこまめな水分補給をうながすため、休憩室をより快適に過ごせるように整備するとともに、簡単な調理設備を追加した食事室も整えている。 (4)そのほかの取組み  同社では、社会・地域貢献のさまざまな活動を展開している。そのうちの一つが「縫製の普及活動」で、工房と地域の公民館を利用して、縫製に興味・関心を持っている人を対象に、服の仕立て直しや簡単な補修を学んでもらう縫製教室を開催している。講師は同社の高齢社員が担当し、機械化しにくい細やかな手縫いの技や、昔の人ならだれでも習得していた「お直し」の技術などを基礎から伝授している。  また、縫製教室など普及活動への参加者のなかから同社への就職を希望する人もいる。経営状況などから残念ながら採用には至っていないが、同社のサポーター(職人)として登録してもらい、引き続き教室に通ってもらっている。今後、同社の事業が拡大し、経営業績が安定した際には登録しているサポーターの採用を視野に入れている。 (5)高齢社員の声  同社の事業を支える兵藤(ひょうどう)義男(よしお)さん(72歳)は、高度な技能と経験を持つ文字通りの「匠」。採寸から型紙作成、仮縫い調整、中縫い調整、仕上げ確認、アイロン仕上げ、リメイクまですべての工程を熟知している。本人は「日々勉強です」と謙遜するが、ベストな状態で作業ができるよう、温度管理や照明確認、安全確保、過重労働の防止など、職場内のさまざまなところに気を配りながら、後継者の育成に努めている。 (6)今後の課題  縫製の「とよはしの匠」として顕彰された高齢社員の経験を活かし、時代に対応できる技術を磨き、誇りと目標を持って継続して働ける職場環境づくりを進めている同社。今後は、職人の育成を行って人材を増強し、「匠の技術」をさまざまな人材に継承できる体制の構築を目ざしていくという。 写真のキャプション 会社外観 立ち作業・座り作業の双方に対応可能な作業台といす。レイアウトは適宜変更するなど、作業しやすい環境を常に模索している 転倒防止のため、階段の両脇だけではなく上部にも手すりを設置 兵藤義男さん 【P32-35】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 半年ごとの面談でミッションを明確にし誇りとやりがいを持って働ける環境をつくる 株式会社 伊勢福(いせふく)(おかげ横丁)(三重県伊勢市) 企業プロフィール 株式会社 伊勢福(おかげ横丁) (三重県伊勢市) 創業 1992(平成4)年 業種 飲食サービス・小売 ほか 社員数 308人(2022年9月1日現在) 60歳以上 95人 (内訳)60〜64歳32人(10.4%) 65〜69歳28人(9.1%) 70歳以上35人(11.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。就業規則により一定の基準のもと70歳まで再雇用(半年ごとに契約更新)。70歳以降についても、就業規則により一定条件のもと、年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は85歳 T 本事例のポイント  株式会社伊勢福は、三重県の伊勢神宮・内宮前のおはらい町にある「おかげ横丁」を運営・管理している。おかげ横丁は、地元老舗企業の株式会社赤福が事業主体となり、江戸時代末期から明治時代初期の伊勢らしい町並みを再現した一角で、1993(平成5)年7月に誕生した。伊勢福は、その前年の1992年9月に設立、おかげ横丁に軒を連ねる伊勢土産、郷土料理、展示館など約50店舗を運営・管理するとともに、季節ごとに多彩なイベントを催している。江戸時代に大ブームとなったお伊勢参りの参拝客を迎えたかつての伊勢の人々にならい、「神恩感謝」を理念に掲げ、この地らしいおもてなしを提供する会社として歩み、地域とともに成長している。 POINT @おかげ横丁では、10〜80代の社員が働き、若手で構成する「おかげ横丁活性化委員会」が、活き活きした職場づくり(幸福感に満たされた職場づくり)に取り組んでいる。そこで、定年年齢の引上げなど高齢社員の働き方についても話し合われた。経営会議でも同様の協議がなされ、2019年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。 A定年以降も経験や能力を活かして働き、後進への継承も期待して、70歳までの再雇用、70歳以降の再雇用も制度化した。 B再雇用の社員の意欲や能力の維持・向上のため、半年ごとの面談、ミッション(役割)の相互理解と書面による明確化、表彰制度の充実などを図った。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社伊勢福は、「おかげ横丁」を運営・管理する会社として1992年に設立された。伊勢神宮・内宮の門前町には、「おはらい町」と呼ばれる宇治橋から五十鈴川に沿って続く通りがあり、伊勢らしい切妻(きりづま)・妻入(つまい)り様式の商家などが軒を連ね、昔から多くの参拝者を迎えてきた。しかし、1970年代半ばころから自動車での参拝客が増えたことなどにより、おはらい町は活気を失いはじめる。そこで、かつてのにぎわいを取り戻そうと、この地で創業した老舗企業の株式会社赤福が町の活性化に向けて動き出し、地元市民の協力を得て、おはらい町の約4000坪の敷地に伊勢らしい伝統的な町並みを再現したのが「おかげ横丁」である。名称の通り町の横丁にあり、自由に散策して風情や懐かしい雰囲気が味わえると評判を呼び、27店舗でスタートしてから少しずつ店舗数を増やし、56店舗(2022年10月1日現在)が営業している。伊勢福の直営店が31店舗、委託が16店舗、赤福の運営が9店舗である。  1980年代のおはらい町通りの往来者は年間約20万人であったが、おかげ横丁の誕生後は徐々に往来者が増え、常ににぎやかな通りへと復活した。2019年のおかげ横丁の年間来客数は約592万人となっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方 幅広い年齢層の社員がおかげ横丁で働いているが、他店舗のことがわからないなど横のつながりが希薄になっていたことから、働き方改革の一環として2016年に「おかげ横丁活性化委員会」を立ち上げた。活き活きした職場づくりが目的で、多様な部署から20〜30代の若手が参加する意見交換から開始。そこから、職場懇談会、情報を共有する『おかげさま新聞』の発行や、仕事と育児に関する勉強会などが始められた。  そうしたなか、社員の高齢化が進んでいたこと、30〜40代の人材が少ないこと、事業を維持するための人員確保が困難になっていることが委員会の議題にのぼり、「定年年齢を引き上げてはどうか」という意見が出ていた。同じころ、経営会議においても同様の意見が出ており、協議を重ね、定年年齢に近い社員の意見も聞きながら検討した結果、それまで60歳としていた定年年齢を65歳に引き上げることとし、2019年に制度を改定した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼高齢者雇用制度の改定  人材不足への対応と、蓄積された技術や経験を活かして長く働ける職場とするため、2019年に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。しかし、間近に定年を控えていた社員に配慮し、改定時から5年間は経過措置として60歳から64歳到達時までの年齢についても定年退職を可能としている。  定年後についても意欲のある社員が安心して働くことができるように、一定の基準のもと70歳まで再雇用し、70歳以降も本人の意向、健康状態、勤務状況などをふまえて再雇用することとした。ただ、年齢を重ねると身体の状態に変化が生じやすくなることなどから、意欲のある人が長く働ける職場を目ざして、65歳以降はそれまで1年間であった契約期間を半年間に改定し、勤務日数や勤務時間について希望を反映しやすい制度にした。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み  長い間つちかってきた知識、技術、経験などを発揮して働き、それらを後進に継承することや、日々新しいことに出会う若い社員を温かく支援してもらうことを期待して、意欲・能力アップに向けて次の取組みを実践している。 ▼面談時、ミッションを書面で伝える  再雇用になるタイミングや契約更新の面談において、話合いのうえで条件とミッション(役割)を決めている。書面で提示し、役割を理解してもらうこと、会社と本人の認識の差をなくすことに努めている。 ▼正社員以外にも永年勤続表彰制度を導入  パート・アルバイト社員も永年勤続表彰の対象とした。同社の社員が集まる社員大会の晴れ舞台で表彰を受けることで誇りを持ち、モチベーションのアップにつながっている。 ▼再雇用後の役職として「補佐」を設置  役割によっては役職も必要と考え、部門長を補佐する「補佐」を設定し、任命している。 ▼サンキューカードを導入  社員相互で感謝や応援の気持ちを伝え合う仕組みとしてサンキューカードを導入。携帯電話、スマートフォンから気軽に送ることができ、送る方も受け取る方も晴れやかな気持ちになり、やりがい向上などの効果が期待できる。 ▼新しい仕事をつくる  おかげ横丁で1日150食ほどの手打ち麺の提供を開始し、60歳超の社員が麺打ちを担当。高齢社員の力を活かす場になっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼高年齢者面談シート  半年ごとの契約更新の際の面談で健康状況を把握する。直属の上長が「高年齢者面談シート」を作成し、健康状況についても共有し、本人の希望もふまえ更新条件を決定する。 ▼5S※巡回・安全衛生パトロールで環境改善  おかげ横丁活性化委員会による5S巡回と労働安全衛生委員会による職場パトロールにより、危険箇所の抽出と安全対策の実施を徹底。階段に手すりを設置、頭をぶつけるリスクのある場所にクッション材を貼るなどの改善を行っている。 ▼照明のLED化  地下事務所への階段、廊下などを中心にLED化を推進し、照度アップで転倒防止を図っている。 (4)高齢社員の声  おかげ横丁では毎日、接客や調理、洗い場、清掃、配送、管理などさまざまな部門で高齢社員が活躍している。  古川(ふるかわ)勝治(かつじ)さん(85歳)は、7時30分から9時まで、製造場所からおかげ横丁の店舗へ団子やケーキの配送・運搬、空き箱の回収作業を行っている。2時間の休憩をはさみ、11時から15時までは郷土料理店の洗い場に立ち、食器を洗う。古川さんは63歳で入社して、約10年前からこの仕事を担当。「洗い場へ早めに行って仕事がしやすいように整えておくとみんなが喜んでくれます。いろいろ相談してくれることもありうれしいですね。一段落すると、若い人とも話ができて楽しいです。2013年の式年遷宮(しきねんせんぐう)の行事に参加したのですが、次も参加することが現在の目標です。11年後ですが、仕事もそれまで続けていられたらと思っています」と活き活きとした表情で話す。同社最年長の古川さんの働きぶりについて、岡本(おかもと)乾(けん)取締役管理本部長は、「たくさんの食器を一生懸命に洗い、運搬作業では15sほどの団子類も運んでいます。欠勤もなく、いつも元気に仕事をしています」と話す。  岡(おか)祐司(ゆうし)さん(68歳)は、料理人として50年の経験を持ち、ホテル勤務などを経て63歳で料理部の責任者として入社した。65歳の定年以降は料理長補佐となり、魚を中心とする郷土料理店で主に後進の育成、料理長の補佐として、フルタイムで活躍している。岡さんは、「この道に終わりはなく、いくつになっても学ぶことがあります」と話し、「『おいしかった』というお客さまの言葉と若い人が成長していく様子に触れられることが喜びであり、やりがいになっています」と笑顔を見せる。「長年の料理人としての技術と温厚な人柄で若い社員からの信頼も厚く、相談にのることも多いようです」(岡本管理本部長)  戸田(とだ)明子(あきこ)さん(70歳)は、勤続11年。伊勢の名産品が並ぶ店舗でフルタイムで働く。1000アイテムほどある商品の知識を頭に入れて接客を担当し、「全国からいらっしゃるお客さまと接して、いろいろなお話が聞けたり、毎年来てくださる方がいらしたり、海外からのお客さまには身振り手振りですがなんとかコミュニケーションをとって、楽しく働かせてもらっています。おいしいものばかりを取り扱っているので自信を持って接客ができますし、この年齢で雇っていただいていることに感謝しています。これからも一生懸命やっていきます」とにこやかに話す。「やさしくて、雰囲気を明るくしてくれる接客が好評です。インターンシップの学生に接客の指導をしてもらうこともあります」(岡本管理本部長)  奥出(おくで)栄司(えいし)さん(64歳)は、管理部人事総務課の主任として採用と教育係を担当している。伊勢福の設立時に入社し、9年間社員として勤務後、一度退職したが再び社員に。現在は家庭の事情でパート社員として仕事を継続している。「伊勢に来ていただいた方々へのおもてなしを使命として立ち上げた会社ですので、そうした創業の思いや理念を伝えながら、若い人たちの価値観も大切にして発展していけるようにと考えながら、日々仕事に臨んでいます。これからは、若い人を応援していきたいです。働きやすい職場であるよう、私にできることで貢献していきたいです」と意気込みを語る。 (5)今後の課題  高齢社員を含むすべての社員が今後も安心して働くことができるよう、「5Sや安全パトロールの継続と改善の徹底、治療をしながらの働き方などについても力を入れて対応策を検討し、長く安心して働ける職場環境を整えていきたいですね。仕組みだけではなく、互いの気持ちを伝え合うことを大切にして取り組みたいと思います」と岡本管理本部長は語る。そして、「創業の精神を大切にしながら、新しいものも取り入れていき、世代から世代へとつながっていくおかげ横丁を目ざすとともに、職場においても、10代から80代までの社員が誇りとやりがいを持ち、幸せを感じられる職場づくりに取り組んでいきたいです」と抱負を語ってくれた。 ※ 5S……整理、整とん、清掃、清潔、しつけによる職場環境の維持・改善活動 写真のキャプション おかげ横丁の街並み 古川勝治さん 岡祐司さん 戸田明子さん 岡本乾取締役管理本部長(左)と奥出栄司さん(右) 【P36-39】 令和4年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 社員の声を聞き70歳まで働ける制度を整備高齢社員の技と経験を後進育成に活かす 株式会社 南光(なんこう)(鹿児島県鹿児島市) 企業プロフィール 株式会社 南光 (鹿児島県鹿児島市) 創業 1971(昭和46)年 業種 金属製品製造業(建築、機械加工、装置関連品目) 社員数 232人(2022年9月1日現在) 60歳以上 36人 (内訳)60〜64歳19人(8.2%) 65〜69歳17人(7.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳までの再雇用。その後は、一定条件のもと運用により年齢の上限なく再雇用。独立し委託契約で仕事をすることもできる。最高年齢者は69歳 T 本事例のポイント  株式会社南光は、1971(昭和46)年に鹿児島県鹿児島市において有限会社南光プレス工業としてスタートした。「来る仕事は断るな」をモットーに、製造業でありながら、顧客に寄り添うサービス業の精神と多様な分野、地域からの需要に応える姿勢で成長し、1986年に現社名に変更。「南光」には、「日本の南の地から光り輝く企業となり、社会へ貢献できる企業を目ざす」の意味が込められている。  現在、鹿児島県と宮崎県に合わせて6工場を有し、金属・非鉄金属の加工をはじめ、セラミックなどの難削(なんさく)材と呼ばれる素材の加工まで対応可能な技術を強みとし、建築関連、装置関連、プラント関連、自動車関連など幅広い分野において、製品づくりを行っている。 POINT @2021(令和3)年に創業50周年を迎え、創業当初に入社した社員が60代になるなど、60歳以上の社員が全体の15%を超えていた。そこで、高齢社員の能力や経験を後進の育成に活かしてもらおうと、2021年10月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。 A定年延長と同時に、希望者全員70歳までの再雇用制度を導入した。本人の希望により、フルタイム勤務のほかに短時間勤務や時差出勤などの働き方を選択することもできる。また、65歳定年以降、独立して同社と委託契約を結び起業することも可能としており、実際に2人の元社員の高齢者が業務委託で仕事をしている。 B高齢社員は、長年つちかった技能を後進に継承する役割をにない、スキルの維持・向上に努めつつ、育成のためのコミュニケーションスキルを学び、活躍している。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社南光は、1971年に有限会社南光プレス工業として創業。板金加工からはじまり、当初より「仕事は断らない」、「当社はサービス業」の精神で新たな仕事に挑戦して顧客のニーズに応えて成長。建築、装置、プラント、自動車など幅広い分野のものづくりをになうようになった。1986年に社名を「株式会社南光」に変更し、現在に至っている。  現在、鹿児島県と宮崎県に6工場を有しており、それぞれの工場ごとに、異なる分野の新製品の製作や既成製品の改良などを手がけている。装置やプラント分野では製缶から機械加工・塗装・組立、建築金物分野では設計・製作・施工、セラミック加工分野では切削・研削、自動車関連分野では設計・製作など、それぞれの工場の持つ技術を駆使して、工場間での連携を図りながら、「ワンストップサービス製造業の九州ナンバーワン」を目ざしている。  また、「社員やその家族、取引先の幸せを作り続けること(幸福創造業)」を基本理念に掲げ、社員の成長が会社の成長につながるとの考えから、多様な人材がそれぞれの能力を発揮して活躍できる職場づくりを推進している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数232人中、60歳以上は36人で15.5%を占めている。創業50周年を迎えた2021年、社員の15%超が60歳以上という年齢構成となるなか、高齢社員には、長年ものづくりにたずさわるなかで成長し、同社の礎を築いた者が多く存在していることから、その能力や知識、経験を活かし、後進の指導、技能伝承の役割を担当してもらいたいと同社では考えていた。  総務部の黒田(くろだ)政司(まさし)課長は、「モノづくりの技能は一朝一夕に身につくものではなく、熟練工と呼ばれるまでには相当な年数が必要とされます。また、若手社員や技能習得中の社員から、『熟練の高齢社員の技術をもっと学びたい』と望む声が多かったこともあり、2021年10月、高齢社員の活躍拡大を目ざして、定年を65歳へ引き上げました」と高齢者雇用の取組みと背景を説明する。  また、65歳定年以降、希望者全員70歳までの再雇用制度を整備するとともに、高齢社員がモチベーションを落とすことなく能力を発揮できるよう賃金体系の見直しも行った。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ▼高齢者雇用制度の改定  高齢者雇用制度の改定にあたり、「年金受給年齢が上がるなどの変化に対し、どういう対策をしたらよいのか」などの社員対象アンケート調査を実施したところ、「可能であれば長く働き続けたい」という希望が多いことがわかった。そこで、定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、65歳以降は希望者全員70歳まで雇用を継続する再雇用制度を導入した。  65歳定年以降については1年ごとの更新とし、本人の希望により、定年前と同じフルタイム勤務のほか、短時間勤務(時差出勤も含む)など柔軟な働き方を選択できる労働条件を提示することにした。  これらの改定により、70歳まで希望に応じて働くことが可能となり、生涯現役でものづくりにたずさわりたい社員からは、「安心して働ける」との声が聞かれている。 ▼70歳以降について  70歳以降も、本人が働きたいと希望し、会社が提示する一定の労働条件などについて合意できる場合、運用により年齢の上限なく働くことが可能な仕組みとなっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ▼自らの技能を磨く  定年前の社員は上長と個人面談を行い、その時点でのスキルを査定し、さらなるスキルアップを目ざすこととしている。 ▼期待する役割  高齢社員の役割として、外国人技能実習生、障害のある社員や若手社員への技能伝承、一般社員の資格取得支援、目標管理(スキルアップ)支援、ペア就労(マンツーマン指導)などがある。また、高齢社員のノウハウやアドバイスをもとに作業手順書を作成している。一般的な作業マニュアルに比べ、わかりやすいと好評であるうえ、高齢社員により日々改定、改良されている。 ▼スキルの見える化  年4回、技術系社員全員に技能習得目標を設定するための面談を実施し、それぞれのスキルアップの目標達成を支援することが高齢社員の役割の一つとなっている。個人のスキルと目ざしているスキルの習得が一目でわかるように、工場内に設置してあるボードへ訓練状況などを貼り出し(スキルマップ)、個々のスキルを確認しながら任せられる仕事を判断している。また、高齢社員のスキルも把握できることから、だれに何を聞けばよいのかが即時に判断でき、伝承しやすい環境も生まれている。 ▼コミュニケーションスキルの向上  後進の育成には「伝える力」が求められることから、外部より講師を招くなどして年3回、職場コミュニケーションのスキルアップ講習を開催している。高齢社員が受講し、相手の話を聞く、受け止めるスキルをさらに伸ばしている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ▼職場の安全確保、作業環境のための取組み  精密機械を扱う細かい作業が多いことから、働きやすい環境の整備と高齢化による視力の低下などによる労働災害を防止するため、数年をかけてLED照明への切り替えを行った。 ▼社員の健康管理のための取組み  社員の体力づくり、健康への意識向上、また、ほかの事業所とのコミュニケーションを図る目的で、全社員とその家族が集まり、毎年運動会を開催。高齢社員も参加できるようにグラウンドゴルフなどの競技も用意される。現在はコロナ禍で中止となっているが、多くの社員が楽しみにしている行事となっている。 (4)高齢社員の声  生産技術部部長の猪八重(いやえ)正浩(まさひろ)さん(61歳)は、34歳で入社。工場長や総務の仕事などを経て、現在は生産性向上のための取組みを推進している。新入社員の教育研修も担当しており、「研修後、社員が各工場に戻って改善活動に励み、成果を出している姿が見られることにやりがいを感じています」と話す。また、「定年延長により、65歳まで間違いなく働けることになったことに感謝しています。長く働き続けられるよう努めていきます」と今後の抱負を語る。  品質保証部部長の遠矢(とおや)佳巳(よしみ)さん(61歳)は、43歳で入社。つちかった能力を活かして品質保証の仕事を担当し、取引先の信頼に応えている。「当社は、多種多様なものをつくっているため仕事が幅広くあり、常に刺激があることに魅力を感じています。まだ高齢者という意識はないのですが、まずは定年の65歳まではしっかり仕事をして、実績を残したいと思います」と意気込みを語る。  本社第一工場長の二宮(にのみや)義人(よしと)さん(62歳)は、勤続35年。ものづくり一筋で、主に溶接を担当してスキルを磨いている。工場長を務める第一工場では建築、自動車、船などの製品づくりを行っており、「設備投資をしてもらい、さまざまな分野の仕事ができることが魅力です。ものづくりの要は人ですから、これからも後進の育成に励みます」と目標を話す。  本社第一工場で働く石間伏(いしまぶし)清人(きよと)さん(65歳)はこのほど定年を迎え、新制度のもと雇用を継続。フルタイム勤務で主に建築金物の製造を担当している。「『引き続き働いてほしい』と会社からいってもらい、喜んで継続を決めました。ものづくりが好きなので、41年間続けていられることがうれしい」と笑顔で話す。現在、30代の社員にマンツーマンで技能を伝承する役割をになっており、「自分ができることを伝え、その後輩がまた次の人に伝えられるように、と思いながら指導にあたっています」と話す。  冨田(とみた)順一(じゅんいち)さん(66歳)は勤続40年の、身体障害のある社員だ。溶接工として技を磨いて会社に貢献し、2005年に「障害者雇用優良事業所等の表彰」で「優秀勤労障害者」として厚生労働大臣より表彰された。現在は再雇用の社員としてフルタイム勤務をしている。「溶接一筋で働いてきました。この仕事が好きですし、楽しく続けています」と自身の仕事を語り、「70歳まではがんばりたい」と張り切っている。 (5)今後の課題  人口減少と少子高齢化の進展を考えると、人材確保が課題であるという。総務部の黒田課長は、「ほかの企業を定年退職された方で働くことを希望する技術者も積極的に採用し、柔軟な雇用形態と長く働けるための職場環境の整備をさらに進めて、安定した人材確保につなげていきたいです。また、多種多様な受注ニーズに応えられるよう、全社的にさらなるスキルアップを目ざします」と今後を話す。  総務部の青木(あおき)清則(きよのり)部長は、「当社は、人が財産です。70歳まで柔軟に働ける制度を整備し、女性活躍なども推進し、だれもが長く働ける職場づくりに努めます」と目標を掲げた。  福留(ふくどめ)廣文(ひろふみ)専務取締役は、「社員アンケートでは『できるかぎり長く仕事を続けたい』という声が多くあり、高齢社員に技能伝承の役割を期待する会社の考えとマッチしました。それぞれの人生設計、考え方がありますから、その人に合った仕事の仕方ができるよう、これからも柔軟に取り組んでいきます」と今後の方向性を示した。 写真のキャプション 会社外観 若手社員への技能伝承の様子 猪八重正浩さん 遠矢佳巳さん 二宮義人さん 石間伏清人さん 冨田順一さん 【P40-44】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! こんなときどうする? 第5回 高齢者雇用高齢社員が若手の育成をしてくれません ※ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ※1 詳細は『エルダー』2022年7月号をご覧くださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202207.html つづく ★「就業意識向上研修」、「生産性向上支援訓練」の内容は当機構ホームページでご確認いただけます ※2 「就業意識向上研修」https://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html ※3 「生産性向上支援訓練」https://www.jeed.go.jp/js/jigyonushi/d-2.htm 【P45】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 第5回 高齢社員が若手の育成をしてくれません  豊富な知識や経験、高い技能を持つ高齢社員に、若手・中堅社員への「技能伝承」や「後継者育成」の役割を期待している会社も多いのではないでしょうか。ところが、いざ高齢社員にその役割をお願いしても、今回のマンガのように「人に教えることに慣れていない」などと、抵抗感を示されてしまうこともあるようです。高齢社員に技能伝承・後継者育成をになってもらう際のポイントについて、東京学芸大学の内田賢教授にうかがいました。 内田教授に聞く高齢者雇用のポイント 若手社員・中堅社員の強みを活かして行う技能伝承 指導役の高齢社員のモチベーションアップも重要なポイント  高齢社員が習得してきたノウハウは会社にとって貴重な財産です。ノウハウを持つ高齢社員が後継者に直接伝える、また、社内全体で利用可能とするためにマニュアルや動画にして「見える化」することが必要です。ところがむずかしい場合もあります。  そもそもすべての高齢社員が優れた教え手とはかぎりません。話すのが苦手な人はその強みを伝えられません。マニュアルや動画を残そうにも本人は文章を書くのが苦手で、パソコンやタブレットなどを使いこなせないこともあるでしょう。  そのような場合、後継者となる若手社員や中堅社員が高齢社員のノウハウを聞き出し、記録し、マニュ アルやテキストを編集する方法があります。その編集をしながら仕事を覚えることもできます。高齢社員には仕事の内容やそれを行う理由、「コツ」を語ってもらい、ふだんの作業を行ってもらいます。若手社員が記録係になれば、自分が知りたいことを盛り込めるだけではなく、若手社員が理解しやすいポイントを押さえたマニュアルづくりが可能です。仕事の流れや何が重要かを知る中堅社員も協力し、経験の浅い若手社員が見逃しがちなノウハウももれなく収集します。  後継者育成が重要と考える高齢社員でも、技能伝承の役割が未経験であれば不安も大きく、拒否反応を示すかもしれません。むしろ、「仕事をやってみせる」、「コツを話してもらう」など、比較的簡単にできるところからお願いし、次第に高度な部分(機材操作やパソコンでの文書作成)も担当できるよう(ただし性急さを求めず)、周囲が支援していくのがよいでしょう。  なお、高齢社員が活き活きと技能伝承や後継者育成に励める環境づくりも心がけたいものです。例えば、技能伝承に努める高齢社員には正当な評価を与えて金銭面で処遇するだけではなく、肩書きや称号も付与します。ある会社では高齢社員が自身の名前を冠した塾(例えば内田塾)の塾頭として、各地の支店を巡回して教えています。 プロフィール 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P46-47】 江戸から東京へ [第120回] 密航は愛国青年の美挙だ ペリー 作家 童門冬二 ペリーの深い関心  あまり知られていないことのようなので、吉田(よしだ)松陰(しょういん)の密航事件の事実を、幕末の青春話≠ニして、結末をつけておきたい。  最初に一番関心を持ったのは、松陰にねらいをつけられたアメリカのフィルモア大統領の特使ペリーだ。このときのペリーはアメリカの海軍中将で、アメリカの東インド艦隊の司令長官だった。  ペリーを日本に派遣した大統領の意図は、はじめから日本と交易をするためではない。ほかの列強諸国と同じように、「清(しん)(当時の中国)」と交易をするためだ。茶や生糸をねらっていた。  しかし太平洋航路は長い。途中で燃料、食料、水などが不足する。また乗組員に病人やケガ人が出る。加療のための施設が要る。  大統領が考えたのは、  「そのための中継基地が必要だ」  ということである。はじめから独立した国として考えられたワケではない。中継基地≠ニして考えられたのだ。これが日本軽視なのかどうか、当時の人々はただ、  「開国だ、開国だ!」  と騒いだから、アメリカの  「仲よくしましょう」  というだけの開国要求の真意を、日本側(幕府)がどれだけ理解していたかわからない。  日本との交易は、開国後来日駐留した初代領事ハリスの交渉で行われる。つまり交易にアメリカだけが二度手間をかけている。  これは日本側の鎖国の姿勢がそれほど固かったのだ。だから開国のキッカケがほしいペリーにとって、松陰の、  「アメリカに行きたい」  という申出は、任務遂行のうえで、大きな意味を持っていた。実行すれば大きな点数かせぎになる。 松陰の罪を軽減せよ  が、いまはまだ条約を結ぶ以前の状況だ。ペリーはアセッた。結局は、  「条約を結んだらボクのポケット・マネーで招待するからそれまで待ってほしい」  と云うにとどめるほかなかった。これはペリーの本心だ。松陰が下田奉行所に自首したためにおジャンになったが、ぼくはもしもペリーの案が実現したら、過激な攘夷論者吉田松陰が、そのまま熱い青春の血を攘夷でわかせていたかどうか疑問だ。  というのはペリーの要請で、  「吉田君の行動は愛国的行為だ。ホメ讃えられるべきだ。重い罰など与えないように」  と、通訳を通じてペリーからくどく下田奉行に伝えられていたからだ。下田奉行は黒川といって、この直後に一橋慶喜のブレーン(側用人)に登用される。開明派だ。  「吉田寅次郎(松陰の通称)は愛国者だと、ペロリ(日本でのペリーの呼び方)がホメてくれた。重く罰することは逆に国益に反する、と長州藩に厳しくそういえ」  黒川は部下にそう命じた。  「吉田寅次郎は愛国青年だ」  という評価は江戸城内でも一斉に盛り上がった。 実際に行われた刑と松陰の福堂(ふくどう)化  ところが「攘夷派」が占める一方、「幕府の禁令にそむいて、藩をつぶしかねなかった大罪人」と松陰をみる保守派役人は、  「吉田を軽い罪などとはとんでもない、重く罰せよ」  と云って、萩の牢にブチ込んだ。  松陰は、  「ペロリ大使でさえホメてくれたのに、何をするんだ!」  などと文句はいわなかった。入牢して牢の状態をこまかく観察し、有名な、  「福堂計画」を立て、実行した。  福堂というのは、  「幸福な建物」  のことだ。牢が幸福な建物であるはずがない。松陰はそれを幸福にしようというのだ。  松陰は先輩(?)の囚人たちに、  「あなたのご趣味は何ですか?」ときいて歩いた。藩の保守派と違って、牢の管理者は黒川下田奉行の達しをキチンとうけとめていた。  「吉田寅次郎は、ペロリさえ感動させたのだ。丁重に扱おう」  と、牢役人たちに合意を求めた。役人たちも賛成した。  松陰は、俳句、書、和歌、論語などの学問に造詣のある囚人に、  「それを牢で講義してください」  と頼んだ。本人たちのパフォーマンスによるストレス解消、きく側の質的向上の二つをねらった人間改革法だ。松陰自身は孟子(もうし)の教えを講義した。孟子は、  「人間は生まれつき善である」  と唱える性善説℃メだ。それと、  「困っている人をみたら、すぐ救いに行く忍びざるの心≠持っている」  と、あくまでも人間の善意を信ずる思想家だ。松陰は孟子に傾倒していた。  はじめはブツブツいっていた牢内も、松陰の誠意に負けて次第に牢は福堂化した。牢の管理者はこれをみて  「吉田さんに塾を持たせよう」と思い立った。 【P48-51】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第125回 鳥取県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢社員をOJTトレーナーに据え全社的な技術力の底上げを目ざす 企業プロフィール 株式会社ミテック(鳥取県米子市) 創業 1988(昭和63)年 業種 総合建設業(公共・民間工事の元請けおよび下請け工事の施工) 社員数 34人(うちグループ会社5人) (60歳以上男女内訳)男性(6人)、女性(0人) (年齢内訳)60〜64歳5人(14.7%) 65〜69歳1人(2.9%) 70歳以上0人(0%) 定年・継続雇用制度 定年は65歳。希望者全員を70歳まで再雇用。最高年齢者は施工管理を担当する65歳  鳥取県は、中国地方の北東部に位置し、東西にやや細長い県です。北は日本海に面し、鳥取砂丘や浦富(うらどめ)海岸に見られる風光明媚な海岸線を有し、南には中国地方の最高峰・大山(だいせん)をはじめ、中国山地の山々が連なっています。三つの河川の流域に形成された平地には、それぞれ鳥取市、倉吉市、米子市が中心都市として発展しました。  当機構の鳥取支部高齢・障害者業務課の野田昭生(あきお)課長は、「鳥取県では、多くの事業所で高齢化が進んでおり、65歳を超える従業員を雇用している事業所も少なくありませんが、その多くが『慣例で継続雇用』をしており、『雇用延長の制度を整えて対応している事業所』はまだまだ少ないのが現状です。制度導入のうえで課題になる『希望者全員対象』をクリアするため、企業がそれまで行ってきたことを評価し、引き続き活かせるよう、職場と人材がともにメリットを得るような視点からアドバイスを行っています」と話します。  また、同支部に所属するプランナーは、「65歳定年などの対応ができていない従業員31人以上の事業所」については、これまで約650社を訪問し、現在は「70歳までの継続雇用を達成していない事業所」などに範囲を拡大して、訪問活動を実施しています。  鳥取県内で活躍するプランナーの一人、景山(かげやま)浩(ひろし)さんは、中小企業診断士の資格を持ち、企業の経営課題を解決するコンサルティングの能力を活かして相談・助言活動を行っています。一般社団法人鳥取県建設業協会に長く勤めていた経験から、特に建設業界に精通したプランナーです。今回は、景山プランナーの案内で「株式会社ミテック」を訪れました。 工事管理と施工技術を両立する施工会社  株式会社ミテックは、1988(昭和63)年に地元最大手である現・美保テクノスグループの土木施工会社として、有限会社美建工業の名で発足しました(2002〈平成14〉年に現在の社名に変更)。2002年に同グループ内の舗装施工会社、2007年に給排水施工会社の2社と合併し、事業分野を拡大。連年、自治体から優良建設工事表彰を受けている同社は、「創意工夫と技術向上を常とし、信用第一の経営に徹する」を理念に掲げ、土木・舗装・設備工事の管理と、施工技術を両立させる施工会社を目ざし、顧客満足の追求と地域貢献に取り組んでいます。同社の三村(みむら)秀紀(ひでき)代表取締役社長は、「常によりよい方策と考えを持って、新しい方法、手段を見つけ出し、自らの力で技術を磨き、経済的にも社会的にもお客さまと社員が安心できる会社を貫いていきたいです」と語ります。 グループ各社に先行して定年を65歳に延長  ミテックは2016年に定年年齢を65歳に延長し、定年後は1年契約の嘱託社員として70歳まで希望者全員を再雇用する制度を整備しました。  「高齢社員には、体力面ではなく技術や技能面を重視した働き方ができるよう、役割・配置に配慮しています。また、定年前に面談を行い、希望する勤務体系と役割について話を聞き、雇用条件のすり合わせを行っています」(三村社長)  今後は、さらなる定年年齢の引上げも検討していくそうです。  熱心に高齢者雇用に取り組んでいるミテックについて、景山プランナーは「グループ各社に先行して定年延長を行うなど、高齢社員の活躍推進に向けた意欲が強い会社です」と、同社の取組みを評価します。  「工場生産と違い、すべての建設現場は天候・時間・制約において異なります。現場管理にはさまざまな経験がものをいい、責任者によって驚くほど費用に大きく差が出るのです。そのようななかで、豊富な経験とたしかな技術を持つ高齢社員は応用が利き、発注者の要望をくんで品質規格に合うものを造ることができる貴重な存在です。よって、職務配置などの変更などで起こりやすい高齢社員のモチベーション低下を防ぎ、能力を活かすことが、にない手不足解消と若手の育成につながると考えています」(三村社長) 高齢社員の能力をOJTトレーナーとして活用  景山プランナーは2016年に初めて同社を訪れました。訪問当時について、「企業として売上増加や収益性の向上を目ざしており、三村社長が『その手段として人事制度の充実、特に高齢者雇用の拡充、そして社員満足度の向上を目ざしたいので、その具体的手法を相談したい』と話されていたのが強く印象に残っています」と景山プランナーはふり返ります。  かねてから同地域の建設会社に共通する課題として、社員本人や成り行きに任せがちな人材育成・能力開発があると感じていた景山プランナーは、同社においても全社的な技術力の底上げや生産性の向上のためには、教育役のOJTトレーナーとして高齢社員の能力を活用し、活躍してもらうことが有効だと考えました。  そこで、高齢社員にOJTトレーナーとして活躍してもらうために、「生涯現役職場管理者研修」という内容で、「就業意識向上研修」※を提案。2018年11月・12月に同研修を実施し、管理職6人(うち60〜64歳が4人)が参加しました。  さらに社員の能力・職務内容を洗い出して等級をつくり、高齢社員が「何を教えるか」、「どこまで教えるか」をマニュアル化し、指導内容を明確にするための「見える化」を指南。同時に、昇給・昇格制度運用の明確化にも役立つ「職務能力評価基準書」の作成も提案し、具体的な職場改善対応につなげました。  今回は、ペア就労でともに働く、OJTトレーナーの高齢社員と若手トレーニーのお2人にお話をうかがいました。 庁舎の設備工事においてペア就労で若手を指導  設備部課長の山内(やまうち)勝治(かつじ)さん(65歳)は、工事現場監督員および主任技術者として公共工事の空調・給排水工事の施工管理を任されています。設備工事関連の国家資格を多数持ち、53歳でミテックに入社。同社に入社する以前も、設備工事の会社にて技術者として従事してきた、施工管理のプロフェッショナルです。  ここ最近は、米子市役所庁舎の空調設備の増設工事を、同社に所属する若手技術者と2人で担当しています。庁舎内での工事になるため、土日祝日の閉庁日に施工を進めなくてはならない特殊な案件です。現場および仮設事務所において常時一緒に過ごし、実務を通して現場の施工方法や進め方を指導する日々が続きます。「現場で行う作業は若手に任せて見守るだけにし、後から気になったところを教えています」と、若手の自主性を大事にした指導を行っているそうです。  山内さんは、「若手社員が日ごとに成長していく過程を見られることが、いまの仕事の魅力です」と明かし、言葉は少ないながらも若手への期待と愛情をのぞかせました。そして次のように続けます。  「施工管理の仕事は多くの人とかかわり合うので、大事なことは人づき合いだと思います。いまの現場で関係者ときちんとつき合うと、いつか別の現場で一緒になったときに、相手が大きな権限を持つ役割になっていることもあり、当社に好影響となることもあります。そうでなくても、一緒に仕事をして信頼を得ていれば、次の機会があったときに、現場の準備から何からうまく進むものです」  将来を見据えた長いスパンで、若手社員にアドバイスを送っているようです。  森響(ひびき)さん(25歳)は、工事施工管理者として伸び盛りの若手社員です。これまで多くのベテラン社員からペア就労を通して仕事のやり方を学び、ペア就労の最後に山内さんと組み、工事現場の監督業務について指導を受けています。「山内さんは大規模な公共工事を専門で管理していて、手がけた案件のすべてで工事成績評定の点数が高く、優秀な成績を残されています。豊富な経験があり指示も的確なので、指導を受ける身として心強い存在です」と話します。  工事書類のつくり方がわからないときや、工事の施工方法に悩んでいるときに相談すると、わかりやすく納得できる指示をくれるそうです。「いつも助かっている」という森さんは、山内さんを含む高齢社員について、「加齢による体調変化は人それぞれなので、自分の心身に嘘をつかず、無理のないように勤めていただきたいと思います。繁忙期には補助員がつくような体制があれば、高齢社員が心身ともに健康に働き続けることができるのではないでしょうか」と話し、大先輩の体調を気遣っていました。  三村社長は、山内さんの仕事ぶりやペア就労の効果について、次のように話します。  「ちょっとしたトラブルがあっても、山内さんが経験に基づいた適切な対応をしてくれるので、若手は安心して伸び伸びと働いています。年齢が離れていることもあり師弟関係は良好です。ペア就労は高齢社員による現場管理の負担を軽減できるうえ、高齢社員の高い技術・技能を若手に伝承することができます。工事の発注者から見ても、経験と技術力に長けた高齢社員がついていることで、施工面での安心感と信頼を得られているのではないでしょうか」  最後に、今後の高齢者雇用の展望について三村社長に質問すると、「定年などにより役割を変更する際の高齢社員のモチベーションの維持と、能力の活かし方について、景山プランナーに相談していきたいと思っています。立場や役割が変わると、賃金、職務内容も変わり、モチベーションが下がる傾向があり、50代からキャリアプランを考えるよう、会社として取り組むことを考えています」とのこと。景山プランナーはこの課題に対して、ジョブ型雇用の導入を提案していました。  プランナーと信頼関係を築き、そのサポートを取組みに活かしてきた同社。高齢社員の力を信じ、大いに活用するための試みが、今後も続けられていくことでしょう。 (取材・西村玲) ※ 「就業意識向上研修」の詳細は、当機構ホームページをご覧くださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html 景山(かげやま)浩(ひろし) プランナー(63歳) アドバイザー・プランナー歴:25年 [景山プランナーから] 「高齢者の雇用が、社会的要請に応えるためだけではなく、訪問先企業にとって経営環境の変化に対応し、より有効に働くことを理解してもらうことに努めています。当地域の企業に見られる共通の課題を、高齢社員の能力活用により解決する取組みなどを助言しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆鳥取支部高齢・障害者業務課の野田課長は、「景山プランナーは、中小企業診断士として地域で活躍しており、地元ニーズを“肌感覚で把握”しています。そうした活動で得られた知識・経験・人脈を活かし、企業からのニーズに応える形で、職務能力評価制度の整備など具体的な改善指導にも積極的にかかわっています」と話します。 ◆鳥取支部高齢・障害者業務課は、鳥取市の中心から4kmほど南に位置する「鳥取新都市若葉台地区」にある鳥取職業能力開発促進センター内にあります。「若葉台地区」は生活・生産・教育などの複合的機能を備えるニュータウンで、街区全体の電線類の地中化、ボーンエルフの整備などによるゆとりと潤いのある都市景観が評価され、「平成11年度都市景観大賞(都市景観100選)」に選ばれました。鳥取駅からバスで約25分。最寄りのバス停「ポリテクセンター」から徒歩約1分です。 ◆同県では、西部地域(境港市、米子市周辺)2人、中部地区(倉吉市周辺)1人、東部地区(鳥取市周辺)2人と計5人のプランナーが活動し、それぞれの地域を中心に企業訪問・相談・指導にあたっています。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●鳥取支部高齢・障害者業務課 住所:鳥取県鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 電話:0857(52)8803 写真のキャプション 鳥取県米子市 米子市内に立地する本社 三村秀紀代表取締役社長 工事の施工管理で活躍する設備部課長の山内勝治さん ペア就労で山内さんの指導を受ける森響さん 【P52-55】 制度、仕組みづくり 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介  役職定年制度※1や定年再雇用制度によって「役割・職責」の変更を余儀なくされた高齢社員のなかには、大きくモチベーションを下げてしまい、その後も十分にパフォーマンスを発揮することができない例も少なくないようです。第4回では、役割・職責が変わった後も現役のプレイヤーとして活躍し続けてもらうために必要な、高齢社員の意識改革をうながすキャリア教育のポイントについて解説を行います。 第4回 役割・職責の変更に備えてもらおう! 1 高齢社員の活躍が、組織の新陳代謝を遅らせることもある  高齢社員の活躍を推進していくことは、ある意味では組織の新陳代謝を遅らせることにつながるという側面も有しています。  例えば、組織内のポストが空かないことで中堅・ベテラン層のモチベーションダウンを引き起こしたり、あるいは高齢社員が仕事を抱えてしまうことで適切に技能伝承が進まない、といったことは典型例です。こうした問題を放置すれば、組織全体の生産性を低下させる事態に発展するおそれもあるため、高齢社員の活躍を推進していくことのマイナス側面として対策が必要なテーマであるといえます。  以前、筆者の担当するクライアントのなかで、短期的には人材不足(特に中間層の不足)対策として高齢社員の活用を推進する必要がある一方、5年・10年単位の中長期で見ると、逆に高齢社員が増え過ぎて組織の新陳代謝に悪影響を及ぼすことが予想される、といった企業がありました。  仮にA社としますが、同社では定年延長を軸に短期的な高齢社員活用を目ざす一方で、組織の新陳代謝を図るために「役職定年制度」を導入しました。そのなかで、役割・職責が変更になる高齢社員に対しては、これまでと異なる多様な働き方の可能性を提示することで、シニア期のキャリアチェンジをうながしていくことにしました。 2 高齢社員の意識改革をうながすキャリア教育のポイント  引き続きA社の例をもとにして、高齢社員の意識改革をうながすキャリア教育のポイントについて解説をしていきます。  A社では人事制度を改定し、55歳での役職定年制度を設けました。役職定年により管理職者は例外なく役職を外れ、現役のプレイヤーに戻ることになりますが、マネージャーとしてのキャリアが長くなっていた高齢社員のなかには、プレイヤーとして現場に戻ることに対して消極的な者も少なくありませんでした。  そこでA社では、こうした役割・職責の変更をともなう高齢社員のモチベーション低下を抑制するために、役職定年となる55歳以降の社員を中心として、自身のこれまでのキャリアを見つめなおし、残りの仕事人としての人生を前向きに過ごすための機会として、「高齢社員向け マインドセット※2変革プログラム」という研修を実施することにしました(図表1)。  A社にかぎらず、役職定年あるいは定年再雇用により役割・職責が変更になった高齢社員の活躍を十分に促進できていないのが実情です。  特にマネージャーとしての経験が長かった管理職者などは、役職定年によりマネージャーからプレイヤーに戻るにあたり、深刻な「目標喪失」の状態に陥ることがあります。その結果、例えば惰性で業務を行ってしまい、成長・進化が図られず、結果的にパフォーマンスを低下させることも少なくありません。  「高齢社員向け マインドセット変革プログラム」では、こうした状況に陥っている高齢社員層に対して、 @ビジネスパーソンとしての集大成を迎えており、「つちかってきた技能を最大限に発揮するときである」というポジティブな考え方を醸成する A組織・上司の期待をもとに、自身のこれからの役割を具体的に検討することで目標を見出す B年齢を理由に自己啓発を怠るのではなく、環境変化に適応するためのスキル獲得のモチベーションを向上させる といったことを通じてマインドセットの改善を図り、組織全体の生産性を向上させることを主目的としています。  さて、A社ではこの研修の受講対象者を55歳以上の社員(役職定年者を含む、役割・職責の大幅な変更が行われた社員)とし、1チーム5〜6人程度の小チームを編成しました。研修を通じて自身のことを改めて理解することはもちろんのこと、同じ境遇である同年代の者同士が相互理解を深めることにより、研修成果を高めていくことがねらいです。  具体的な研修カリキュラムと同社で得られた成果について、いくつかポイントを確認しておくことにしましょう。 (1)自己理解(「バリュー=価値観言語化」フェーズおよび「ストレングス=強み探索」フェーズ)  このフェーズでは、現在の仕事状況にも触れつつ、自身の仕事人生をポジティブにとらえ直す(強みの再認識)ことを目的とします。  いまの評価だけにとらわれるのではなく、シニアとしての今後の働き方を考えるなかで、自身の強み、自身の仕事に対するとらえ方・価値観、自身のやる気の源泉はどういうところにあるのか、といった幅広い観点での自己理解を目ざします。  研修効果を高めるための施策として、いわゆる多面評価(360度評価ともいう)も取り入れています(図表2)。上司、部下・後輩、同僚、それぞれの視点で自身に対する評価を客観的に実施してもらうことで、1人では気づけない観点を得ることにもつながりました。 (2)期待役割明確化(「マスト=期待事項検討」フェーズ)  会社が抱える課題に対して、短期視点ではなく中長期視点で必要な事項に至るまで、できるだけ多くの観点を抽出します。  研修のなかではタブーをなくして、会社に対するネガティブな感情もできるだけ吐き出させるなかで、リアルな課題感を共有できるようにすることが大切です。いままでの仕事のやり方を変え、新たに自身に求められること、自身にできることは何かについて、じっくり時間をかけて検討します。  いま現在の会社の業績アップに向けてできることもあれば、いますぐには業績につながらないが中長期的に考えていまやっておかなければ後々問題になるであろう事項について、自身のキャリアだからこそ貢献できる事項を探す、という観点も重要になります。  そうした検討を自身で、またチームメンバー相互に話し合うなかで、高齢社員として会社に期待される役割を整理することにつながりました(図表3)。 (3)研修成果のまとめ  A社では、研修を通じて高齢社員層のモチベーション向上を実現することができました。役割・職責の急激な変更を受けて、今後のキャリアイメージが持てず「目標喪失」の状態にあった社員もいましたが、研修のなかで、 ・大切にしていきたい価値観 ・成功体験に基づく有用な強み ・上司を始めとした周囲からの期待 を深く掘り下げて検討・確認したことにより、今後の目標を具体的に見出すことにつながりました。  研修後は、高齢社員層のマインドセット変革にともなう成功例がどんどん増えてきています。例えば、技能伝承を目的とした高齢社員による社内勉強会は若手社員を中心に非常に好評であり、人材育成の活性化につながるモデルケースとなっているようです。 ※1 役職定年制度の運用に関しては『エルダー』2021年12月号特集(13頁)「役職定年のメリット・デメリット」の「解説1 役職定年制の導入・廃止と評価・処遇制度」も参考にしてくださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202112.htm ※2 マインドセット……過去の環境・体験から形成され、固定化している物事の見方・考え方 図表1 高齢社員向け マインドセット変革プログラム例 時間 実施概要 実施形式 【初日】 9:00 T.オリエンテーション @研修プログラム概要説明 Aアイスブレイク 講義 体感ワーク 9:40〜13:40 U.「バリュー:価値観言語化」フェーズ  @「自分史」ワーク  幼少期から現在に至るまでの半生をふり返り、相互につちかわれた価値観をフィードバック  A「自己概念」ワーク  「自分とは何者か?」を検討するワークを通じて価値観探索  B「重要バリュー」言語化〜業務具現化検討  @Aをふまえて価値観を言語化。その価値観に沿って今後の業務をどのように進めるべきか?を検討 グループワーク 講義 個人ワーク 13:40〜16:40 V.「ストレングス:強み探索」フェーズ  @成功体験インタビュー  半生のなかでの成功体験【時期・テーマ・成功に導いた要素(自身・他者要素)など】を思い起こし、相互伝達。その内容より、メンバーから30〜40項目の強みフィードバックを受ける  A上位者からの手紙  受講者一人ひとりの上司に、事前作成してもらっている本人の強みと感じている内容・今後の期待事項を記した手紙を配付  Bストレングス活用施策検討  @Aの強みを今後の業務で「どのように活かすか?」を検討 講義 グループワーク 手紙配付 個人ワーク 16:40 W.初日のふりかえりとまとめ ※17:00終了 グループワーク 【2日目】 9:00 X.初日レビュー 講義 9:10〜16:00 Y.「マスト:期待事項検討」フェーズ  @期待役割ブレイクダウン検討  事前に策定している期待役割発表〜解説。以下の手順で現場において、役割遂行をどのように果たすことが効果的なのか、自身の存在価値を高めるのかを対話形式で検討  1st グループ別担当決定 2nd コアチーム検討 3rd ブラッシュアップチーム検討 4th コアチーム再検討 5th 全体対話  A重要マインドセット事項の確認 ・クリティカルシンキング ・時間感覚 など 個人ワーク グループワーク 全体対話 講義 16:00 Z.クロージング 「パフォーマンス向上計画」策定 ※17:00終了 グループワーク ※ 新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表2 高齢社員用 多面評価シート例 多面評価シート(シニア社員研修用) 対象期間 令和 年 月〜 年 月 対象者 氏名 役職 所属 評価者 関係 氏名 役職 所属 <評価の留意点> @対象者本人の“気づき”につながるよう、評価者はできるだけ率直な評価内容を記入してください。 A評価者の誰がどんな評価を行ったかは、直接分からない仕組みにしています。 ■すべての項目について、選択、または記述してください。 【対象者の行動レベル】次の15項目について、対象者の行動を4段階で評価してください。 1:できていない  2:どちらかといえばできていない  3:どちらかといえばできている  4:できている No 評価の内容 点数 1 上司が不在の場合でも、業務に対する姿勢は変わらないか 2 会社や部門の方針・計画を、自らの言葉でメンバーに伝えているか 3 目標の達成に向けて、具体的な計画を立て、その段取りを指示しているか 4 困難な状況でも、目標達成にこだわり、粘り強く努力しているか 5 周囲を巻き込んで、全体を目ざす方向に動かせているか 6 クレームやトラブルに対して、責任を持って自ら解決しようとしているか 7 言葉と行動は一致しているか 8 上司・部下・同僚・関係先とのコミュニケーションに努め、情報を共有できているか 9 他部署への働きかけ、連携を図っているか 10 メンバーが自由・活発に意見や提案を出し、行動することを奨励しているか 11 メンバーが相談しやすい雰囲気をつくっているか 12 好き嫌いといった感情や感覚ではなく、事実にもとづいて人物や仕事ぶりを評価しているか 13 部下・後輩の仕事ぶりや日々の変化を理解しようとしているか 14 自己管理や感情のコントロールができているか 15 自らの能力や知織を高めるために、定期的な自己啓発を行っているか 【長所についてのコメント】本人の「長所についてのコメント」を記入してください。 【成長に向けたアドバイス】本人の「成長に向けたアドバイス」を記入してください。 ※新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表3 高齢社員用 期待役割基準例 No 期待役割項目 期待役割詳細 @ 技能伝承 暗黙知化している熟達したノウハウを可能なかぎり形式知化し、後進の能力に合わせた指導を行い、効果的に技能の伝承を図る。 A 人脈継承 過去の活動のなかでつちかってきた顧客・協力会社などの人脈を後進に継承する。 B クリティカルシンキング 現状の仕事の進め方に疑問を持ち、より効果的・効率的な方法を模索し、組織に提言する。 C フォロワーシップ発揮 上司が打ち出す方針の意図・想いを理解し、積極的に推進するとともに、方針実現に向けた意見具申を行う。 D イニシアティブ 上司からの指示を待つのではなく、能動的に自ら取り組むべき課題を見つけて業務にあたる。 ※新経営サービス人事戦略研究所作成資料 【P56-59】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第54回 定年後再雇用の雇止めと労働条件、固定残業代の要件 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 パフォーマンスの低調な定年後再雇用者との再雇用契約を打ち切ることはできるのか  定年退職後に再雇用している従業員の働きぶりが悪く、再雇用契約の更新の際に、労働条件を引き下げる提案を行い、これに応じてもらえない場合には契約を更新する意向がないことを伝えようと考えています。定年時にも労働条件はある程度引き下げましたが、その労働条件であることを加味しても、労働条件に見合うだけの働きをしていないと感じています。労働条件の引下げに応じないときに再雇用契約を更新しないことに問題はあるでしょうか。 A  定年時に労働条件を提示することとは異なり、労働契約法第 19条による保護が働くことになることに留意する必要があります。提示する労働条件が合理的な内容となっていない場合などには、従前と同様の条件で労働契約が延長されることになるため、提案内容やその説明を慎重に行う必要があります。 1 定年後再雇用と労働契約法第19条の適用関係  定年後に、期間を定めた労働契約として再雇用を締結する会社は多く、高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置として最も採用率が高い措置です。  定年後再雇用においては、1年ごとに契約を更新することや、定年時に定めた労働条件が維持されたまま65歳までの再雇用契約が締結されることが多いでしょう。  そもそも、定年後の再雇用において、労働契約法第18条が定める無期転換ルールについては、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法第6条第1項に基づく第二種計画認定を申し出て、厚生労働大臣の認定を受けることで、その適用が除外されるなど、通常の有期雇用契約とは適用関係が若干相違する場合があります。そこで、労働契約法第19条が、有期労働契約について、@無期労働契約と社会通念上同視できる場合、またはA更新されるものと期待することについて合理的理由がある場合のいずれかに該当する場合には、解雇と同様に、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上の相当性がないかぎり、契約を終了させることはできないと定めている内容が、定年後再雇用についても適用されるのか争われることがあります。もし、この規定が適用され、契約更新を拒絶できないとすれば、「従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の条件で当該申込みを承諾したものとみなす」と定められているため、労働条件の変更が叶わないということになります。  この点については、定年後再雇用者に関して、無期転換ルールの適用除外が可能であることは法律上明記されているところ、定年後再雇用の労働者について、労働契約法第19条が定める有期労働契約の更新等に対する規制を除外する旨の規定が存在しません。したがって、定年後再雇用の有期雇用労働者であっても、労働契約法第19条による保護を受けることができます。 2 裁判例の紹介  定年後に再雇用した後の労働条件の変更について、本連載の第48回(本誌2022年5月号)では、労働条件の変更が許容された裁判例を紹介しましたが、逆に、労働条件の変更を理由とする再雇用契約の拒絶が違法と判断された事例を紹介します。  広島高裁令和2年12月25日判決(Y社事件。原審は山口地裁宇部支部令和2年4月3日判決)は、定年退職を経た後に再雇用契約を締結していた労働者の労働条件の引下げとそれを拒絶した労働者への対応が問題となった事案です。  この事案の使用者は、定年後再雇用した労働者に対しては、高年齢者雇用安定法のみが適用され、労働契約法第19条は適用されないと主張しましたが、「被控訴人の定年退職後の再雇用自体ではなく、被控訴人の定年退職に伴って締結された有期労働契約である本件継続雇用契約の更新の有無及びその内容が問題となっている事案であるから、同条の適用ないし準用のある事案であることは明らか」と判断されました。要するに、定年直後に行う再雇用に関しては高年齢者雇用安定法が適用される場面となるが、その後の再雇用の更新については労働契約法第19条が適用されると判断しています。  次に、労働契約更新の期待に関して地裁の判断を維持して、「被告嘱託規定3条は、第2条に定める期間を過ぎた後も定期健康診断の結果が良好であることなどの6つの条件を備えた者については例外なく満65歳の誕生日の属する賃金締切日(属する月の賃金締切日という趣旨であると解される。)まで再雇用することが定められて」いたこと、6つの条件を満たしていたことを理由として、「原告は、平成29年3月1日以降も被告において再雇用されると期待することについて合理的理由がある」と判断し、労働契約法第19条が適用される基礎があると判断されました。そのため、雇止めの理由が客観的かつ合理的なものであり、社会通念上相当と認められなければ、従前と同一の労働条件を維持して、雇用を継続しなければならないことになります。  次に、雇止めに関する客観的かつ合理的な理由の有無および社会通念上の相当性については、使用者が、3種類の労働条件を提案(うち2つは就業日数の減少にともなう賃金減額が生じるものであり、もう1つは賃金額を維持して就労場所を変更する内容)しており、そのいずれについても拒絶されたことを合理的な理由として主張していたところ「そもそも、本件継続雇用契約の時点で原告の定年退職時の給与の6割程度の給与としているところ、本件提案は、本件継続雇用契約の更新時に上記給与の額を更に減額したり、就労場所に係る労働条件の不利益変更を伴ったりする内容のものであり、被控訴人が上記内容に合意しないことをもって上記更新を拒絶することを正当化し得るものではない」と評価され、「被控訴人がこれを拒絶することには相応の理由があり、控訴人にとっても被控訴人による拒絶を十分想定し得るものであることも併せ考慮すると、本件提案を被控訴人が受け入れなかったことをもって、控訴人による本件継続雇用の更新拒絶について客観的に合理的な理由があるとはいえない」と判断されました。  結論としては、定年後再雇用時に定めた労働条件と同一の内容で再雇用契約が成立したものとみなされて、雇止めを実施したときから判決時点までの賃金(バックペイ)とそれに対する遅延損害金の支払が命じられました。従前紹介した事案との相違点は、労働条件の変更が個別の労働者個人の問題であったか定年後再雇用者全体の問題であったか(この違いが個別の労働者にとっての従前と同一の労働条件による更新の期待に相違を生じさせた)、労働条件の変更理由に対して合理的な理由がありそのことをていねいに説明していたかという点があげられます。  60歳以降の再雇用契約の更新については、65歳までの継続雇用が義務であることと相まって、更新に対する期待可能性が肯定されやすく、労働条件の変更についても、同一労働条件が維持されることを前提に不利益な変更に対する自由な意思による同意の獲得を目ざした対応が求められるという点に留意する必要があります。 Q2 固定残業代が有効となる場合、有効とならない場合について教えてほしい  営業職を募集する際に、求人サイトには固定残業代として36時間分の外勤手当を支給する旨を明示して、採用しました。採用後も、外勤手当が固定残業代であることは定期面談の際に説明をしています。  採用後に固定残業代を超えて働くことがほとんどなかったので、残業代を支給してこなかったのですが、退職後に、固定残業代は有効ではないと主張して、在籍中の割増賃金を請求されてしまいました。  請求に応じて全額を支払わなければならないのでしょうか。 A  固定残業代が有効と判断されるか否かは、就業規則や雇用契約の規定が重要ですが、規定がない場合であっても、明確に区分することができていれば、固定残業代として有効と判断される可能性があります。ただし、36時間という時間外労働と大きな乖離がある場合には有効と判断されないおそれがあります。 1 固定残業代の法的性質  固定残業代については、正確な理解がなされていないことが多く、これが無効となってしまったときのリスクも正しく認識されていないように感じています。  よくある間違いとしては、固定残業代は、どれだけ時間外労働、休日労働、深夜労働をしたとしても、「固定額以上の金額を支払わなくてよい」と理解している例です。固定額で働かせ放題になるという賃金体系を労働基準法は許容していません。また、固定残業代が無効とされた場合には、@過去の割増賃金の既払い分への充当が否定される、A割増賃金の基礎となる賃金に固定残業代相当額が付加される、B付加金の支払を命じられる可能性がある、といったリスクがあります。  判例上、一定の要件を基にかろうじて許容されているのが固定残業代です。前払いしている割増賃金が労働基準法が定める割増賃金の最低基準額を超えているかぎりで労働基準法に違反するものではないとされています。したがって、固定額で時間外労働などをさせ続けることができるわけではなく、固定額が時間外労働などで支払うべき割増賃金を超えないかぎりで許容されるにすぎず、超過した場合には、超過部分を支払う義務は消滅しないということになります。 2 固定残業代の有効要件  固定残業代の有効要件について、最高裁平成30年7月19日判決(日本ケミカル事件)は、「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべき」という判断基準を示しました。この判断基準を示すにあたって、原審が示した割増賃金の金額を正確に把握し続ける仕組みや基本給と定額残業代の金額のバランスの適切さなどは必須ではないとも明言されています。  固定残業代の有効要件として、@基本給と残業代が明確に区分されていること(明確区分性)、A固定の手当が実質的に時間外労働の対価の趣旨で支払われていること(対価性)、B固定残業代を超える割増賃金について差額を支払う旨の合意(清算合意)が必要、という考え方があります。  これらのうち、@については、基本給と残業代が明確に区分されていなければ、どの範囲が割増賃金の前払いであるものか否か不明となるため、必須の要件として理解されています。次に、Aについては、たしかに最高裁判例が「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否か」という表現がなされていることから、対価性という要件が必要と考えられることがありますが、この内容は明確区分性の要件と重なる部分が大きく、明らかに対価性を欠く場合(割増賃金としての性質以外の対価が含まれた曖昧な手当である場合)には問題となり得るものの、そのような場合以外には要件としては機能しづらいと考えられます。最後にBの清算合意については、過去の判例(平成24年3月8日判決〈テックジャパン事件〉)の補足意見で、固定残業代では割増賃金に対する支払いが不足する場合における清算の実施を重視していたことを受けたものですが、その後の最高裁判例をみても清算合意が必須とはされていません。 3 裁判例の紹介について  このような状況のなか、就業規則や雇用契約において、「外勤手当」を固定残業代として取り扱っていたことが、固定残業代として有効であるか判断した裁判例があります(大阪地裁堺支部令和3年12月27日判決〈株式会社浜田事件〉)。  この裁判例において労働者側からは、上記の@からBが固定残業代の有効要件であると主張されましたが、裁判所は@のみが必須の要件であることを前提として、日本ケミカル事件が示した判断基準を基に固定残業代の有効性を判断しました。  その際に、求人募集において時間数(36時間分)および残業時間が36時間よりも少なくても減額することはない旨が明示されていたこと、入社面接時に説明し、入社後も年2回の定期的な面接の際において「外勤手当」は36時間分の時間外労働の割増賃金を含んでいることについてモニターに資料を示しながら説明していたこと、給与明細において外勤手当をほかの手当と区分して支給していたことなどを総合的に考慮し、就業規則の規定や雇用契約書の規定がなくとも、固定残業代が有効であると判断しました。  また、固定残業時間を超えていた月が若干あったところ、超過していた時間数に相当する割増賃金およびそれに対する付加金についてのみ支払いが命じられました。なお、固定残業時間との乖離が激しい場合には、固定残業代の有効性が否定される場合があり得ることも日本ケミカル事件では触れられているため、乖離しないように留意するか、必ず超過部分の支払いを実施するなどの対応は必要でしょう。  このように明確区分性のみに依拠(いきょ)して判断をしている事例はほかにもあり(大阪地裁令和3年1月12日判決)、近年の裁判例における一つの傾向ともいえそうです。 【P60】 次号予告 12月号 特集 いまだからこそ「学び直す リーダーズトーク 若林正倫さん(富士電機株式会社 人事・総務室 人事部 部長) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●当機構では、10月5日(水)に「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催しました。高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業の表彰式のほか、基調講演、受賞企業によるトークセッションなどを行いました。講演、トークセッションの模様は本誌1月号でご紹介する予定です。 ●今号では、前号に続き高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業のなかから、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した企業の取組みをご紹介しました。いずれの企業も70歳を超えて働ける仕組みを導入している、まさに高齢者雇用の先進企業。高齢者雇用の推進に向け、ぜひ参考にしていただければ幸いです。 ●10月から全国で「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」を開催中です。これから開催の会場もあるほか、シンポジウムはオンライン配信もありますので、興味のある方は、ぜひ当機構ホームページでご確認ください。みなさまのご参加をお待ちしています。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー11月号No.516 ●発行日−−令和4年11月1日(第44巻 第11号 通巻516号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部情報公開広報課長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-924-8 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.321 40年以上の経験を活かし長持ちする「炉(ろ)」をつくる 築炉工(ちくろこう) 近藤(こんどう)正夫(まさお)さん(68歳) 依頼の9割は修理。なかには事故によって破損した炉の修理も多くあり、原因を特定して後で改良のための報告書を作成することもある 設計から施工まで一貫してになえる希少な存在  ボイラーや焼却施設、化学工場などで金属などの加熱・溶解に用いられる「炉」。ふだん目にする機会は少ないものの、さまざまなところで人々の生活や産業を支えている。そのなくてはならない炉を、耐火・耐熱などの特殊な技術を用いて施工・修理するのが築炉工だ。創業113年の歴史を持つ有限会社近藤築炉サービスの3代目、近藤正夫さんもその一人。築炉技能士1級の国家資格を持ち、設計から施工まで一貫してになえる数少ない存在である。40年以上にわたる経験のなかでつちかわれた技術力が高く評価され、「2013(平成25)年度荒川マイスター」、「2021(令和3)年度東京都優秀技能者(東京マイスター)」にそれぞれ認定されている。 材料や工数に関する知識と現場での施工技術に優れる  近藤さんが請け負う案件の約9割を修理が占めている。炉は一定の使用期間が経つと劣化するため、修理が定期的に発生するが、故障による依頼も多いそうだ。修理の依頼を受けると、まず図面をチェックし、必要な材料を積算する。築炉に用いる耐火材には、レンガやセメント、プラスチックの粘土などさまざまなものがあり、主要材料であるレンガだけでも用途に応じて複数の種類がある。  「強度や断熱性など、それぞれの特性を理解し、最適な材料を選ぶことで、長持ちする炉をつくることができます」  設計でもっとも肝心なのが、工数※の見積り。現場はスペースにかぎりがあるため、材料や廃材の搬入・搬出を考慮しながら、必要な人数と日数を割り出していく。  施工では、レンガ積みの技能が重要になる。レンガに接着剤となるモルタルを均等につけ、すき間なく平らに積めるようになるには、やはり一定の経験が必要で、円形状にきれいに積めるようになったら一人前だそうだ。  近藤さんがこの仕事で大事にしているのは、「お客さんに喜んでもらえる築炉」。そのために、常に長持ちする築炉を心がける。  「修理のときは、真っ先に炉に入って、修理が必要になった原因を探ります。ある場所のレンガがせり出していたり、耐火材の表面の色が部分的に違ったり、レンガとほかの耐火材との相性が悪かったり。そうした原因を見きわめて、お客さまに炉を長持ちさせるための改善策を提案することもあります。また、炉の仕上がりの美しさも重要です。例えば、同心円状に積んだレンガがきれいに同心円になっているか。もし出っ張っているところがあれば、そこは火のあたりが強くなり、トラブルの原因になりかねません」  故障で緊急修理が必要なときは、現場の状況に基づいた迅速かつ的確な判断が求められる。そんなときほど、近藤さんの知識と経験が頼りにされているようだ。 新たな熱源に対応できる築炉の技術習得を目ざす  近藤さんは、10代のころから「父や職人さんたちがレンガをきれいに積み上げるのを見るのが好きだった」という。仕事を継ぐのに役立つだろうと大学で熱工学を専攻し、卒業後は耐火材メーカーに就職した。3年後に家業を継いで以来、さまざまな現場を経験し、技術の引き出しを増やしてきた。現在も、新たな領域に対応すべく貪欲に学んでいる。  「現在の熱源は石油燃料が主流ですが、今後は水素燃料やバイオ燃料が増える可能性があります。地球温暖化防止の観点からも、新たな熱源の勉強をして、今後の築炉に役立てていこうと思います」  「身につけた技術を伝えたい」と後進育成にも注力。他社の社員や海外の技術者にも指導を行っている。今後は、若い世代に興味を持ってもらうことや、自社の後継者育成を目ざしている。「ものづくりが好きな人なら、この仕事は楽しいはず」と話す近藤さん自身が、「好きこそものの上手なれ」を体現しているように感じられた。 有限会社近藤築炉サービス TEL:03(3807)0594 https://www.e-kts.co.jp/ (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※ 工数……ある作業を完了するまでに必要な人数と時間を示す指標 写真のキャプション 「美しい炉は長持ちします。ですから、レンガを整然と積むことを重視しますし、積んだレンガの表面にモルタルがついていれば、きれいにします」と、近藤さんは話す 築炉を手がけたアルミ溶解回転炉。61頁の写真はこの内部の様子 築炉に使うレンガゴテや目地ごてなどの道具類 事務所の入口は、築炉の技能を象徴するレンガ造り 40年以上の功績が認められ「東京マイスター」として東京都知事賞を受章 レンガにモルタルを均等に塗り、平らに積むことにも熟練が求められる 工房の一角。道具を使いやすいように自ら加工したり補修することも多い 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はじゃんけんトーナメント。ルールは負けるが勝ち。最弱が優勝です。メモは取らず頭のなかだけでチャレンジしてください。脳に記憶しながら考えることが脳トレの大事な要素です。 第65回 じゃんけんトーナメント 負けた方が勝ちのじゃんけんトーナメントです。 例題 優勝したのはだれでしょう? 10秒で答えてください。 Aパー Bチョキ Cグー Dチョキ 優勝 そう、優勝はAでした。では本題です。 本題 優勝したのはだれでしょう? メモを取らずに30秒で答えてください 目標 30秒 Aグー Bチョキ Cグー Dパー Eチョキ Fパー Gチョキ Hグー 優勝 脳にメモをすることが大事  今回の脳トレ問題は、負けが勝ちになる変則じゃんけんトーナメントです。脳にしっかりメモしながら、順に考えていく力が要求される問題です。このとき、「作業記憶」とも呼ばれる脳内のメモ帳のようなものであるワーキングメモリが鍛えられます。  脳にメモをして、そこで何かをするのは面倒でストレスですし、年を取るほどにこのような頭の使い方を避けるようになっていきます。しかし、だからこそ、それが脳トレです。あきらめず、順序よく考えていきましょう。くり返し脳にメモすれば解けるはずです。  また、こういった頭の働きを維持・向上させるには、有酸素運動や筋力トレーニングが役に立つことが知られています。おすすめは「さっさか歩き」と「ゆっくり歩き」を数分ずつ交互にくり返すインターバル速歩です。さっさか歩きで3歩目を大股にすると、歩幅が確保され速度も落ちにくくなります。数を管理していると脳トレにもなりますから、さっさか歩きでは3歩目に大股がおすすめです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 F 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年11月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内※ 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 ※2022年10月3日(月)より、上記住所へ移転 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、本年度も開催します。  令和3年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により、「70歳までの就業確保」が努力義務となりました。このため、本年度は、企業において高年齢者の戦力化を図るために関心の高い「健康管理」「キャリア形成」などをテーマとして、10月〜12月にかけて4回開催します。  内容は、学識経験者による講演をはじめ、高齢社員の戦力化に取り組んでいる企業や継続雇用・定年延長を行った企業の事例発表、学識経験者をコーディネーターとしたパネルディスカッションが中心です。  高年齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高年齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思いますので、ぜひご参加ください。 開催スケジュールは、以下の通りです。 なお、ご不明な点は、当機構 雇用推進・研究部 普及啓発課までお問い合わせください。 参加無料 東京 テーマ 生涯現役社会の実現に向けた自律的キャリア形成 日時 11月1日(火曜日)13:30〜16:10 場所 神田スクエアホール ライブ配信同時開催 東京 テーマ 70歳就業時代におけるシニア活用戦略 日時 11月25日(金曜日)13:30〜16:05 場所 神田スクエアホール ライブ配信同時開催 オンライン テーマ 70歳までの就業機会の確保に向けた“生涯キャリア形成” 日時 12月6日(火曜日)13:00〜15:55 場所 オンライン配信のみ お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 ほか 申込み方法 特設サイト(https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/moushikomi.html)へアクセスし、専用フォームからお申し込みください。 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、開催形式に変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 ※シンポジウムについては、開催当日のライブ配信のほか、後日YouTubeにおいてオンデマンド配信を行います。当機構ホームページでお知らせしますので、ご確認ください。 2022 11 令和4年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第11号通巻516号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会