【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  令和4年4月1日以降に65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間 ●当コースの受付期間は変更となりました  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 【《》内は生産性要件(※2)を満たす場合】 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件(※2)を満たす場合には対象労働者1人につき60万円  (中小企業事業主以外は48万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b) 作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d) 職域の拡大、(e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f) 賃金体系の見直し、(g) 勤務時間制度の弾力化のいずれか 生産性要件(※2)の詳細については、以下をご覧ください。 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと 助成額 @B支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E 1人につき月額4万5千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること 助成額 支給対象費用の3/4 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること助成額支給対象費用の2/3(特例3/4) ※各助成金制度の要件等について、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 ※お問合せや申請は、当機構の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.91 65歳までの雇用・処遇制度を刷新 多様な働き方で75歳まで活躍できる 富士電機株式会社人事・総務室人事部長 若林正倫さん わかばやし・まさひと 1990(平成2)年に富士電機株式会社に入社。人事部人事課長、富士電機マニュファクチャリングタイランド社(タイ)管理部長、産業インフラ事業本部人事部長、パワエレシステム事業本部人事部長などを経て、2020年より現職。  日本を代表する重電機メーカーとして、2023年に創立100周年を迎える富士電機株式会社。高齢者雇用先進企業としても知られており、いち早く65歳雇用に取り組むとともに、2020(令和2)年からは「75歳雇用」を掲げ、高齢者の活躍推進に取り組んでいます。今回は、同社人事・総務室人事部長の若林正倫さんにご登場いただき、同社の高齢者雇用の取組みについて、お話をうかがいました。 タスクレベルに応じた処遇の見直しで高齢社員の働く意欲が向上 ―貴社では、20年以上前から、一般社員向け、幹部社員向けの2種類の高齢者雇用制度を整備して65歳までの雇用に取り組まれてきました。2020(令和2)年に、これらの高齢者雇用制度の見直しを行ったそうですね。 若林 当社では、2000(平成12)年に一般社員向けの「選択定年延長制度」と幹部社員向けの「再雇用制度」を導入し、2006年に選択定年延長制度の見直しを行いました。  選択定年延長制度導入当初は、55歳時に60歳・65歳の二択で定年を選択する制度でしたが、2006年からは定年を60〜65歳の各年齢で選択できるようにするとともに、55歳時に制度説明、57歳時に定年年齢を選択、59歳時に最終確認という3段階方式とし、社員個々の事情を反映しやすい制度としました。  また、幹部社員向けの再雇用制度については、定年60歳を原則とし、定年前の「役割グレード」に基づいて再雇用を行う仕組みで、2000年以来制度を運用してきました。定年前の役割グレードは1〜10のグレードに分かれており、再雇用でA・B・Cの3コースに分かれます。Aコースはライン職にとどまり62歳まで定年延長され、処遇は以前のグレードの報酬が100%保障されます。Bコースはグレード3〜10の人が対象、Cコースはグレード1・2の人が対象で、それぞれ、業務・役割に応じて処遇の見直しを行うというものでした。なお、Aコースの社員は、62歳を上限年齢とし、その後は再雇用となってBコースに移ります。Bコースの社員は、老齢厚生年金の支給開始年齢になると自動的にCコースに移るという仕組みでした。  このようにかねてから一般社員向け、幹部社員向けの二つの制度で高齢者雇用に取り組んできたのですが、2020年に制度の見直しを行ったのです。 ―見直しを行った理由とは何でしょうか。 若林 幹部社員を対象とした再雇用制度では、本人の意欲と能力に関係なく60歳時点のグレードで一律的にコースが決定し、しかも報酬が下がることが課題となっていました。また、制度が年金支給年齢とも連動しており、一定の年齢になるとコース変更で処遇が低くなることも意欲の減退につながっていました。高齢社員のなかには高いパフォーマンスを期待できる人材も当然いるわけですが、モチベーションダウンの可能性がある制度設計となっていたのです。実際に私も「処遇が一律に下がることで意欲がなくなる」という声を多く聞きました。そこで、高いパフォーマンスを発揮する人には、60歳以降も仕事の価値や難易度に応じて処遇にメリハリをつける必要性があったのです。  2020年に新たに導入した幹部社員向けの再雇用制度「シニアタスク制度」は、従来と同様、ライン職継続者は62歳まで定年延長することに変更はありません。変わるのはそれ以外の人材で、タスクレベルの重さをT〜Wの4段階に設定し、1年ごとにタスクと成果に応じて処遇の見直しを行います。例えば、レベルTは「本部長・事業部長の指示に基づき業務を遂行」、Wは「課長の指示に基づき業務を遂行」のように基本定義を定めるとともに、業務に立脚した41の細かい定義を作成し、この定義に照らして一人ひとりのタスクレベルを決定します。給与はレベルTがライン部長、Uは課長、Vは係長、Wは一般社員と同じになるように設計しています。賞与については、以前はあまり差がありませんでしたが、成果・評価に応じて20%前後の幅を設け、同じタスクレベルでも差がつく仕組みとしました。また、タスクレベルは年に1回見直しを行い、担当業務の重みが増したと判断すればレベルを引き上げるなど、メリハリのある運用としています。 ―シニアタスク制度を導入してからの部門や社員の反応はいかがですか。 若林 変わりましたね。例えば一律の待遇の場合、研究開発部門のように価値の高い業務に従事している人のなかには「会社にとどまることはない」と考える人もいましたが、相応の待遇で報いることもできるようになりました。現場サイドからも新制度を歓迎する前向きな声が聞かれます。もともと年金の支給開始年齢が延びるにしたがい雇用延長を希望する人も増える傾向にありましたが、シニアタスク制度の導入以降、対象者の9割以上が再雇用を希望し、2023年度は94.8%の幹部社員が再雇用を希望しています。 ―9割以上の幹部社員がリタイアすることなく働きたいと希望するのは、すばらしいですね。 若林 他社では55歳で役職定年になるところもありますが、当社では62歳まで継続できますし、年齢を問わず能力のある人にはがんばってもらいたいという文化もあります。もちろん他社のように社員層の若返りをしたくても人材面などの事情からできない、ということもあるのですが。 75歳まで雇用するためのガイドラインを制定統一ルールのもと高齢人材の活躍を目ざす ―シニアタスク制度の導入と同時に、75歳までの雇用を見据えた「65歳以降雇用ガイドライン」を制定されたそうですね。 若林 制度上は一般社員・幹部社員のいずれも雇用の上限年齢を65歳としていましたが、実は部門ごとの判断で65歳以降も働いている社員が、2019年時点で261人いました。ただ、統一の雇用ルールを定めておらず、処遇にもばらつきがありました。  そこで、65歳以降の健康維持なども取り入れた全社共通のガイドラインを策定したのです。適用対象者は一般社員・幹部社員問わず、知力・体力に問題なく、気力十分で、豊富なスキル・経験を有し、会社として高いアウトプットが期待できることを条件に雇用を継続します。直接雇用を原則とし、業務委託契約などは行いません。処遇については仕事の内容、難易度、スキル、影響範囲などの視点から五つのランクを設定し、賞与は成果に応じて3段階で支給します。どのランクに入るかは基本的に各部門に決めてもらいます。 部門や職種によって異なる多様なニーズ多様な働き方に対応可能な仕組みを整備 ―「75歳雇用」を掲げた制度の検討にあたり、社内の反応はどうでしたか。 若林 各部門の課長で構成する検討プロジェクトを組織し、社内のヒアリングを実施しました。ライン長からは「後進指導や技術支援の役割として期待している」という声もあれば、「研究スピードが早い分野では経験を活かせる領域が少ないのではないか」といった声も聞かれました。一方、当事者である高齢社員からは「健康なうちは年齢に関係なく働きたい」という声もあれば、「65歳の節目で引退したい」、「細かい解析などは視力の面から困難」など、部門や職種によって実に多様なニーズがあることがわかりました。したがって一律的な運用ではなく、ガイドラインに幅を持たせているのが特徴です。  働き方については、短日勤務や短時間勤務も可能で、週3日勤務、1日4〜6時間勤務の人もいます。あるいは発電部門では工事の期間に限定し、1年に1〜3カ月だけスポット的に勤務するといったケースもあり、65歳以降の人材については約7割がこうした多様な働き方で業務にあたっています。賃金についても、月給制だけではなく、時給、日給での支払いを可能とし、基本的に上司が承認すればニーズに応じた働き方を選択できるようになっています。 ―それぞれの働く価値観や事情に対応した柔軟な働き方ですね。職種や年齢の違いはありますか。 若林 2022年10月時点で、500人強の65歳を超えた人材が働いています。職種別にみると、製造職やエンジニアリング職といった、もともと高齢社員が多かった部門に加え、ガイドラインを設けたことで高齢社員を活用する部門や拠点が大きく広がりました。年齢別にみると66〜70歳までが約400人で、71歳以降は徐々に減りますが、75歳の人材が15人働いています。健康管理に関しては就業可否判断基準などを設けていますが、加齢とともに体力の低下や病気のリスクが高まるため、70歳の節目で改めて自身の健康について確認するようお願いしています。 ―最後に70歳超雇用を目ざす企業へのアドバイスをお願いします。 若林 今後社員に占めるシニア層のウエイトが高まることがシミュレーションでもわかっていました。そうなったときにシニア層をいかに活性化するかという、全体の人材戦略を描きながら制度改定に取り組んできました。おそらくそうした認識は他社も同じではないでしょうか。  また、年齢によって能力が決まるわけではありません。そうであるなら自社に適した施策にできるだけ早く着手し、課題解決に向けて取り組むことが、会社や社員にとっても大事なことだと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2022 December No.517 特集 6 いまだからこそ「学び直す」 7 総論 いま「学び直し」が必要な理由とは トレノケート株式会社 国家資格キャリアコンサルタント 田中 淳子 11 解説@ 企業に求められる「学び直し」と中高年人財のキャリア形成支援の取組み 株式会社ターンアラウンド研究所 共同代表 主席研究員 小寺昇二 15 解説A 従業員の「学び直し」を支援する 特定社会保険労務士 坂本 直紀 19 事例@ 双日プロフェッショナルシェア株式会社(東京都千代田区) 社員が自由で多様な働き方を自ら選択 学び直しや副業などによるキャリア自律を支援 23 事例A ライフシフト大学(株式会社ライフシフト)(東京都港区) 80歳現役時代の活躍を目ざし 新しい人生の手段を講じるための学び直し 1 リーダーズトーク No.91 富士電機株式会社 人事・総務室 人事部長 若林正倫さん 65歳までの雇用・処遇制度を刷新 多様な働き方で75歳まで活躍できる 27 日本史にみる長寿食 vol.349 やっぱり鯛ですよ 永山久夫 28 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 《最終回》 高齢社員が介護を理由に「辞めたい」といっています 34 江戸から東京へ 第121回 義経とイルカたち 源義経 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第126回 島根県 社会福祉法人静和会 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第77回 オークマプラス株式会社 パート従業員 小須賀ミイ子さん(71歳) 42 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 【第5回】 退職金制度の見直しを検討しよう! 森中謙介 46 知っておきたい労働法Q&A 《第55回》 自動車通勤の年齢制限、飲食方法に起因した懲戒処分の可否 家永 勲 50 新連載 活き活き働くための高齢者の健康ライフ 【第1回】 あなたはポックリ型? それともジックリ型? 坂根直樹 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第30回 「終身雇用」 吉岡利之 54 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.322 厳選した竹と「火入れ」でよく釣れて丈夫な竿をつくる 和竿師 早坂良行さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第66回] 写真の内容を記憶する 篠原菊紀 【P6】 特集 いまだからこそ「学び直す」  いま、「学び直し」への注目が高まっています。  変化の激しい現代社会。高齢社員はもちろん、若手もミドル世代の社員も、会社の戦力として活躍していくためには、常に知識や技術のアップデートを図り、変化に対応していくことが求められます。  そこで重要になるのが「学び直し」です。学び直しを効果的に進めるためには、企業だけでもなく、労働者だけでもなく、双方が一体となって主体的に取り組むことが欠かせません。今回は取組みを進めていくうえでのポイントについて解説します。  学び直しは、社員のキャリア形成とも大きく関係してきます。生涯現役≠見すえた社員のキャリア形成に、ぜひお役立てください。 【P7-10】 総論 いま「学び直し」が必要な理由とは トレノケート株式会社国家資格キャリアコンサルタント 田中(たなか)淳子(じゅんこ) はじめに  2020(令和2)年以降、コロナ禍で多くの企業、労働者が緊急対応を余儀なくされました。例えば、短期間でテレワークに移行せざるを得なくなり、その就業形態にだれもが慣れなければなりませんでした。社内だけでなく、商談など顧客との接点もオンラインとなるとITリテラシーを高めるだけでなく、コミュニケーションスキルもリニューアルしなければならなかったのです。  DX(Digital Transformation)の流れも加速しています。  業界、業態を問わず、DXあるいは、その手前のステップとしてのデジタル化を推し進めていくなかで、今後数年で、自分たちの"仕事"のあり方が相当変化する、あるいは現在進行形で、仕事が少しずつ変化していることをひしひしと実感している、という人が増えたことでしょう。経営層が「これから仕事は大きく変化する。会社も社員も変わらなければ生き残れない」と考えているという段階は過ぎ、すでに労働者一人ひとりが「いまのままでよいわけはないな」と感じ始めています。  ここ数年の間に私たちを取り巻く環境は、じわじわとではあるものの、大きく変化を遂げるであろうと多くの人が想像しているのです。 行政も掲げ始めた「学び直し」  そんななかで、2022年3月、経済産業省が、「DXリテラシー標準ver.1.0※1」、5月には同じく経済産業省が「未来人材ビジョン※2」、6月になると厚生労働省が、「職場における学び・学び直し促進ガイドライン※3」(以下、「学び・学び直しガイドライン」)を発表しました。  どれを読んでも、「社会が急速に変化していき、その変化に堪えうる人でないとこの流れを乗り切れない」ことを示しています。この三つの資料を無理やり要約すると以下のようにいえます。  「今後仕事は大きく変化する。DXは労働者一人ひとりに直結するものである。これからは変化に対応する力を持つことが重要になる。変化に対応するためには、職場のOJTだけではカバーしきれず、OFF−JTや自己啓発などにより能力のアップデートを図らなければならない。労働者一人ひとりが自律的、自発的に学ぶ必要性は高く、それを企業など組織は支援する必要がある」 世代による「キャリア意識」の違い  私は企業の人材育成支援にたずさわっています。特に2022年は、多くの企業から「キャリア研修」のご依頼をいただきました。前述の通り、「社会が変化しているなかで、自社の業務も変化しなければ生き残れない。従業員には、その変化に堪えうるだけでなく、自ら変化をつくり出そうとする人材でいてほしい。会社の指示に従って学ぶだけではなく、自ら学び、成長し続ける人であってほしい。今後起こりうる変化に備えて、必要な知識やスキルを学ぶためにも、まずは自分のキャリアの在り方を考えてほしい」というニーズに基づくものです。  「学び・学び直しガイドライン」のなかには、こういう記載があります。  「労働者のキャリアの多様化も進んでくる。能力・スキルを身に付けるために必要な学び・学び直しの内容も個々に異なるものとなりうることから、労働者の学び・学び直しにおいては、自律的・主体的な取組が益々重要となる。」(同・3頁)  「キャリアの棚卸しを行い、自社における自身のあるべき姿・ありたい姿をイメージして今までのキャリアを振り返り、経験から得たことや活かせる能力・強みなどを整理し、それを踏まえて労働者自身が今後どのようなキャリアを歩みたいか、そのためにどのような方向で何を学ぶべきかを考えることが必要である。」(同・10頁)  学ぶこと、学び直すことと自身のキャリア形成はセットで重要だというわけです。特に、ミドルやシニアの場合、これまでの職業経験が長いことから、「これまでのキャリアをどう活かすかという観点がより重要になってくるため、キャリアの棚卸しの効果が一層期待できる。」(同・10〜11頁)とも述べられており、こういうキャリア研修の必要性も高まっているのだろうということがわかります。  さて、この20代から60代までのキャリア研修で出会った方たちについて、感じたことを率直にお伝えしたいと思います。20−30代は、学生時代から「キャリア」について学んできていますし、失われた30年※4のなかで成長してきたこともあって、「会社依存」の気持ちはほとんど見受けられません。転職の意思の有無は個々に異なるでしょうが、ただ、「いつまでも同じ会社にいられるとも、自分の力が通用するとも思えない。そもそも50年以上も働くことになる現代において、どのように能力開発をすればよいのだろうか」と常に模索しているという印象でした。  一方、40−50代以上のミドル・シニア層になってくると、少し会話の内容が変化してきます。  「会社の仕事は少しずつ変化しているという実感はある。だから、『いまの自分の持つ能力だけで今後も大丈夫か?』といえば、それは不安だ。5年後、10年後までいまのままでよいわけはないだろう、ということは何となくわかる。しかし、何をすればよいかわからない」  こう話すミドル・シニア層が、それでは、これまでまったく学ばなかったのか?といえばそうではありません。それは、彼らの発言からもよくわかります。  「これまで、会社がやるといった業務、仕事に合わせて、勉強してきた。会社の指示に合わせて、担当する業務に沿って懸命に勉強してきた。それで評価もされてきた。今後はそうならないかもしれないといわれれば、たしかにそうだろう。会社だってどういう方向に進むか、これを学べばよい、と明示できないことも想像はできる。しかし、では、いま、何を学べばよいかを考えると、皆目見当がつかない」  つまり、「会社の業務」に特化した学びはしてきたが、それが他社でも通用するかと問われればそうではない可能性がある。でも、他社でも通用するような、あるいは、これから起こるであろう変化に堪えうるために、「何をどう学ぶか、どこから着手すればよいかわからない」と途方に暮れる人が多いのです。 ミドル・シニアが苦手な「WILL, CAN, MUST」の明確化  だからこそ、一人ひとりが自分のキャリアを明確にする必要が出てくるのです。何をどう学ぶか以前に、「自分はどうありたいのか、何がしたいのか」(WILL)、「いま、何ができるのか、得意なのか」(CAN)、「何が期待されているのか」(MUST)といった、キャリアでいう「WILL,CAN, MUST」を明確にすることです。しかし、ミドル・シニア層はこれが苦手です。  「WILL(ありたい姿、やりたいこと)は何ですか?」と問うと、何分も黙り込んでしまう人、口にしたものが、「自分のWILL」ではなく、「会社のWILL」である人など、「自分自身のWILL」が明確に言語化できない人も大勢います。  「学び・学び直しガイドライン」にも、このような記載があります。  「労働者本人のやりたいこと・ありたい姿(WILL)、できること・得意なこと(CAN)、やるべきこと・周囲からの期待(MUST)の三者が重なり合う状態が、理想的な状態とされる。この3点がどのような状態にあるのか、そのバランス等を確認・改善するために、キャリアの棚卸しを行うことが望ましい。」(「学び・学び直しガイドライン」10頁)  今後、変化の波に乗れるような人材であろうとしたとき、自分が何を学ぶか、何を学び直さなければならないかを考える以前に、「そもそも、自分はどういうキャリアを歩んでいきたいのか」、を考え、言語化することが必要です。  ミドルやシニアになると、なんとなく、「このままで逃げ切ろう」と考える人もいるかもしれません。しかし、いま、45歳だとすれば70歳まで四半世紀、55歳だとしても15年はあります。いまの能力のまま、最後まで走り切ることがむずかしいことは、コロナ禍以降の2年だけでも実感したはずです。  2020年にオンライン会議が導入され、各社で広まったなかで、2022年になっても、「画面共有はどうやるの?」と聴いているシニアがいたら、周囲は助けてはくれるでしょうけれど、「いい加減に学んで覚えようよ」と、思うはずです。  いつまでも覚えないというのは、年齢による記憶力の問題があるとしても、真剣に覚えようとしていないという態度の表れにも感じられます。若い方たちも仕事を持っているのですから、覚えればすむようなことを聞いて何度も時間を取らせるのは酷というものです。  これからもさまざまな変化が職場には起こります。そこから逃げていてもどうにもなりません。新しいことを学び、時間はかかってもそれに慣れ親しみ、その新しい知識やスキルを使って変化していく仕事に余裕をもって対応できるようになれば、自分だって楽しいはずです。 社員のキャリアと会社の方向性のすり合わせを  経営者や人事など組織を運営する立場の方にもできることはたくさんあります。  「隗(かい)より始めよ※5」です。  経営者自身が新しいことを学び、あるいは、学び直しをしている姿勢を示す。そのことを社員にも伝える。社内報などで、経営者が学んだことを語っている姿を配信するだけでもインパクトがあります。  社員のキャリア支援強化のため人事や人材育成担当に、積極的にキャリアコンサルタントの資格を取得させ、キャリア開発支援室のような場を立ち上げることも大事です。  キャリアを考える際の伴走者として社内にキャリアコンサルタントがいるとわかれば、社員はいつでも気軽に自分のキャリアについて話し、考えを整理することもできるようになります。  経営者は、個々がキャリアを自分で考えることの大切さ、個々が考えたキャリアと会社が目ざす方向性をすり合わせていくことの重要性を理解して、時間的、経済的な支援をすることも求められます。  2022年9月に発表された厚生労働省「令和4年版労働経済の分析」(労働経済白書)では、「労働者が自己啓発を行う上で感じている課題(正社員)」に以下があげられています(図表1)。 ・仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない ・家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない ・費用がかかりすぎる ・自分の目指すべきキャリアがわからない ・どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない  これらは、社内で気軽に対話の相手になってくれるキャリアコンサルタントがいることでカバーできることもありますし、時間的、経済的支援を組織として行うことで解消するものもあります。  実際、図表2のように、支援を行うほうが自己啓発が促進されるというデータがあります。  時間とお金の問題がネックであれば、そして、社員の学び直しが企業にとっても喫緊の課題であれば、早急に支援体制を整える必要があります。  以前、ある企業の部長がこう話していました。「人は、自分がやりたいことをやるときにもっともモチベーションが上がるし、実力も発揮できる。そのために必要な能力開発にも労を惜しまないはず。だから、まず、自分がやりたいことを明確にするところから始めることが大事。会社がキャリア支援をすることには、そういうねらいがあるのです」  これは若手だけでなく、ミドルやシニアにも通じる話といえるでしょう。 ※1 経済産業省「DXリテラシー標準ver.1.0」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/DX_Literacy_standard_ver1.pdf ※2 経済産業省「未来人材ビジョン」https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf ※3 厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/ 000957888.pdf ※4 失われた30年……30年間の経済低迷を表す言葉。日本においては平成時代があたるとされる ※5 隗より始めよ……「何かを始めるには、自ら率先してやらなければならない」の意 図表1 労働者が自己啓発を行う上で感じている課題(正社員) 仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない 男性46.5% 女性40.2% 家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない 男性14.1% 女性33.1% 休暇取得・定時退社・早退・短時間勤務の選択等が会社の都合でできない 男性7.7% 女性5.6% 適当な教育訓練機関が見つからない 男性13.4% 女性13.8% 費用がかかりすぎる 男性24.0% 女性22.4% コース等の情報が得にくい 男性10.3% 女性11.0% コース受講や資格取得の効果が定かでない 男性9.7% 女性8.8% 自己啓発の結果が社内で評価されない 男性15.5% 女性13.3% どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない 男性16.5% 女性21.7% 自分の目指すべきキャリアがわからない 男性12.1% 女性20.4% その他の問題 男性5.1% 女性4.5% 特に問題はない 男性20.7% 女性14.4% 出典:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」 図表2 事業所における各種支援の実施状況別労働者の自己啓発を実施した割合(正社員) 出典:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」 受講料などの金銭的援助 支援なし31.0% 支援あり45.7% 社内での自主的な勉強会等に対する援助 支援なし38.2% 支援あり49.1% 教育訓練休暇 (有給、無給の両方を含む)の付与 支援なし42.3% 支援あり41.5% 就業時間の配慮 支援なし39.8% 支援あり45.8% 教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供 支援なし32.6% 支援あり49.8% その他の支援 支援なし41.6% 支援あり46.6% 出典:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」 【P11-14】 解説1 企業に求められる「学び直し」と中高年人財のキャリア形成支援の取組み 株式会社ターンアラウンド研究所共同代表主席研究員 小寺こてら)昇二(しょうじ) 学び直しの必要性  中高年の学び直しに関しては、ミドル層とシニア層は、企業における状況が大きく異なるため、共通のことと、分けて考えるべきことを書き分けていくことにします。 ■ミドル層の企業内での状況 @これまでのミドル層  ミドル層というのは、通常はある程度の経験を積み、肩書きもついて「会社の中堅=働き盛り」としてバリバリ仕事をしていく時期です。20代を経て、脂の乗った状態で思う存分仕事に専念する、もっとも忙しい時期であるともいえるでしょう。  しかしながら、この時期を「順風満帆(じゅんぷうまんぱん)、右肩上がりにスキルもアップして処遇もどんどんよくなる……」といった、一様なイメージでとらえるわけにはいきません。なぜなら、これまでの会社のあり方では、このミドル層の時期に「幹部層への昇進・昇格」について大概の決着がついてしまうという、出世競争の分水嶺(ぶんすいれい)の時期だからです。  また、ミドル層のキャリアは、これまではローテーションや地位、報酬といった処遇によって「自然に」形成されていくという考え方でした。目先の仕事をこなし、昇進・昇格を目ざすためにスキルを磨くといったことはあったとしても、自分自身の「キャリア」を固めていく、あるいはキャリアを変えていくといった、「キャリア」に関する意識は転職希望者を除いては薄かったといわざるを得ません。 Aこれからのミドル層  しかし、「人生100年時代」を迎える変化の時代においては、キャリア形成についてミドル層の社員も意識を変えていかなければいけないでしょう。年功序列、終身雇用慣行といった昭和の日本企業の躍進を支えた企業内の形が、時代とともに変化してきており、今後この傾向はさらに拍車をかけていくからです。  このことは、ヤング→ミドル→シニアという、業務の経験年数に応じた発展段階のイメージや、それに合わせた企業内の人財育成、登用のイメージが変化していくことを意味します。分水嶺を勝ち抜き、会社の幹部層への道が見えてきたようなミドル層でさえ、同時にスタートして社長就任が「ゴール」であるような、「マラソンのようなサラリーマンのキャリア」に代わって、企業の幹部登用についても社外からの登用も増えてくるでしょうし、そもそも転職というもの自体が特別なことではなくなってしまうことでしょう。  労働移動が進んでいく時代は、どのような会社の状況、自分の処遇の変化にも対応できるように、シニアだけでなくミドルも、そしてもっというと、だれもが常に学び続ける姿勢が求められるようになるのです。 ■シニア層の企業内での状況 @これまでのシニア層  これまでは、ミドル層が会社の出世競争の分水嶺であるとすれば、シニア層は、その決着がすでについてしまい、一部の幹部層以外は、専門職などで会社や職場で居場所を確保していく人と、会社にぶら下がるような形で定年を迎える人に分かれるというのが一般的な有り様でした。  それは、社内に波風を立てずに新陳代謝を進めていく非常に賢い合理的な姿であったともいえましょうし、「失われた30年」といわれようとも、何とか企業収益を確保してきて、そうした余裕が企業側にもあったことを示しています。  その結果として「働かない中高年社員問題」が話題となり、また少子高齢化の進展にともなって、「このままでは済まない」、「変えなければいけない」といった気運が、もちろん企業ごとに濃淡はあるのでしょうが、いま、出現し始めているのではないでしょうか。  役職定年制というものが広く普及する現在の日本企業では、肩書きだけで仕事をすることが許されない状況に置かれているシニア層自身も、「人生100年時代」のかけ声に動かされるように、徐々に変わっていく、まさにいまの状況はそうした過渡期に差しかかっているといってよいでしょう。 Aこれからのシニア層  これからのシニア層に対して企業は、これまで以上に「人的資本」という考え方で向き合う必要があります。  少子高齢化の進展で、過去のさまざまな経験を持つ正に貴重な「人的資本」であるシニア層を有効活用することが、企業にとっても、社会にとっても非常に重要なことだからです。  それも、単に過去の成功体験やスキルをそのまま活用するということではなく、「学び直し」により、「VUCA(ブーカ)の時代」※1といわれるような変化の激しい時代にも適応したスキルを身につけることによって会社に貢献すること、そしてそれはもちろん人生100年時代を生き抜く本人のキャリア形成にもつながります。  学び直しに取り組みミドル・シニア層を活性化することは、企業にとっても、ミドル・シニア層にとってもメリットのある「一挙両得」のものであるはずなのです。 これまで「学び直し」が進んでこなかった理由とブレークスルーの方法 ■企業主導の学び直しが根づかなかった基本構造  学び直しが企業にとっても社会全体にとっても重要であることは、少子高齢化の時代には自明のことであるにもかかわらず、「学び直し」は、まだまだ端緒(たんしょ)についた段階といわざるを得ないでしょう。学び直しというものが本来的には、社員一人ひとりが主体的に考えるべきものであるのに、実際に「行動」を起こしているシニアは、まだ少数派が現状です。「定年直前・直後に慌てて、次のことを考える」といった人々の方が多いように思われます。  ではなぜ、いまのミドル・シニア層が主体的に学び直しに取り組んでいないのでしょうか。  現在のミドル・シニア層の多くは、バブル崩壊の前の時代を知っている世代、すなわち企業と社員がともに手をたずさえて成長の階段を駆け上がっていく喜びを知っている世代です。  「会社」というものが生活のなかで大きな位置を占め、ともすると「会社についていけば何とかなる」という期待がまだ心に刻印されている世代だと思います。  しかしこれからは、「キャリア形成」をこれまでの「企業が主語」のみで考えるのではなく、「社員自らが主体的にキャリアを考え、キャリア形成を図る」ことで、自分の能力、可能性に向き合い、仕事や会社に改めて向き合わなくてはなりません。これを実現するため、今後は「社員」と「会社」が協力して、学び直しに取り組んでいくべきではないでしょうか。 ■企業、社員双方の意識改革の必要性 @社員の意識改革  前述のように、企業が学び直しを推進しても、学ぶ当事者は社員なのですから、社員自らがその気にならなければ何も始まりません。そもそも、会社に長年ぶら下がってきた社員が、意識を変え、多大な努力をしていくことは、そう簡単なことではありません。  企業も支援しつつ、社員自らが「定年後のキャリア」あるいは「転職」といったことまで視野に入れ、社員が「意識的に」キャリア形成に向けて取り組んでいく、そうした仕組みが重要なのです。 A企業の意識改革  学び直しについて、企業が考えなければならないことは、以下の通りです。 ・社員の学び直しは、「会社の利益につながるもの」であり、少子高齢化時代の現在、貴重な「人的資本」であるミドル・シニア層の学び直しについても同様である。 ・しかしながら、社員の自発的な学び直しの多くは、企業がコストをかけ、具体的な取組みを提示する努力をしないと始まらない。 ・学び直しをはじめ、ミドル・シニア層の「キャリア形成」を企業が親身になって支援することによって、ミドル・シニア層の会社へのエンゲージメントは向上し、職場の雰囲気も改善、若い人たちのエンゲージメントも向上する。 ・企業の支援による学び直しによって、他社への転職が増えたとしても、そういうよい会社であれば、逆に、他社から同じく優秀な人財を採用できることになる。 企業支援こそが学び直し進展のポイント ■企業支援の考え方  そもそも日本企業が社員の人財育成にかける費用が、ほかの先進国に比べて相対的に低いことが話題になっています。スキルアップをOJT中心に行ってきたため、いまとは違う業務、領域のスキルについて学ぶ機会が乏しく、そのことがイノベーションの後れの原因の一つにもなってきました。  これからは、OJTや個々の社員の努力に依存しすぎず、学び直しを含めた研修などにもお金を振り向けていく必要があるでしょう。社員を「人的資本」ととらえ直し、人財育成をコストではなく、「投資」とみなすことです。  また、そうした業務時間中の支援だけではなく、時間外の「自己啓発」とくくられる範囲においても、社員一人ひとりの「キャリア形成」への支援を企業が積極的に行っていく必要があるのです(図表)。 ■具体的なキャリア形成、学び直しの方法  企業による支援が契機となって、社員がキャリア形成や学び直しに目覚め、具体的な企業の支援によって学び直しがさらに進んでいく、というプロセスについて、順を追ってより具体的に見ていきましょう。なお、筆者は、「学び直し」ということについては、一般的に認識されている「スキル」(技術、ノウハウなど)だけではなく、「コンピテンシー」(行動特性)も重要と考えています。例えば、「イニシアティブ」という行動特性は、その人の能力に大きな影響を与えるものであると同時に、学ぶことによって強化されるものだからです(以下のプロセスは主にスキルが中心です)。 @ミドル・シニア層の意識改革をうながし、「キャリアの棚卸」の手法を学ぶ研修などの実施 Aキャリアの棚卸、キャリア形成支援を人事面談のなかに組み込む(「1on1ミーティング」などの一環) B社員自らが、キャリア形成、学び直しを主体的に実行していく支援制度の創設  支援策の具体例としては、 ・社外カウンセラーの導入によるキャリアカウンセリング受講制度の創設 ・SNS、プロボノ※2、地域活動、ボランティア活動、社外勉強会などによって社外との交流を深めている好事例の紹介、費用の一部支援 ・社会人大学院、通信講座の受講に関する費用補助、時間確保などの支援やインターネット上の無料講座(MOOC※3)などの紹介 ・資格取得ほか、自己啓発学習への補助 ・副業従事の奨励、時間確保などの支援 などがあります。 おわりに  ミドル・シニア層のキャリア形成に関する企業による取組みは、まさにこれからスタートするという局面です。  「ミドル・シニア層の学び直し、キャリア形成を企業が支援することによって、ミドル・シニア層が活性化し、それによって職場も活性化し、社員の会社へのエンゲージメントが高まる」、「ミドル・シニアがキャリアに関する意識を変え、主体的に学び直しを行うことは十分可能」といったことに対して懐疑的な方々も多いように思います。  「そもそも、ミドル・シニアなんて、扱いがむずかしくて、学び直しなんて『夢のまた夢』、無理なことにお金をかけても意味がない」と感じる方々の気持ちも、よく理解できます。  ただ、筆者は、「ミドル・シニア層のキャリア形成、学び直しは十分可能である」と考えます。  なぜなら、筆者自身が、45歳というミドル世代の真っ只中で最初の転職を経験し、計10回の転職の過程で、さまざまなことを経験しスキルを身につけていき、その成果として公募で「大学教授」になることもでき、いまは人財育成や経営改革・イノベーションを支援する経営コンサルティングを行っているからです。ビジネスライフにおける成功・失敗といったことはさておき、ミドル・シニア時期の20年以上の間学び続け、行きつ戻りつしながらもキャリア形成を果たしてきました。  筆者が特別な才能を持っていたわけではありませんし、45歳までは目先の業務に忙殺されていて真剣にキャリア形成について考えていたわけではない、平凡なビジネスパーソンだったと思います。  そんな筆者でも、ミドル・シニアの時代、常に「学び続けて」来られたのですし、いまも学ぶことを止めていないつもりです。40代半ばの意識改革があって、いまの自分があるのだと痛感します。  本稿を読んでいただいたビジネスパーソン、企業経営者、人材育成担当者の方々には声を大にして再び強調したいと思います。  「人はみんな、学ばなければならないと気づけば、自然と学び続けるようになるのだ」と。  筆者の言葉が信じられない方々に対しては、日本中どこにでも飛んでいって筆者の具体的な経験をお話ししたいと思います。  社員一人ひとりが、自分のビジネスパーソンとしての価値、可能性に気づき、行動を起こして自らの価値を上げ、そのことによって会社が栄え、日本全体が栄える、そんな未来になることを期待してやみません。 ※1 VUCAの時代……Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を組み合わせたもので、「将来の予測が困難で不確実性の高い時代」をあらわす言葉 ※2 プロボノ……職業上持っている知識やスキルを活かして行うボランティア活動のこと ※3 MOOC……Massive Open Online Course の略で、オンラインを通じて教育機関が提供する講座を受講できる仕組みのこと 図表 キャリア・能力の向上において今後企業で強化すべき三つの項目 スキルアップ コンピテンシー向上 キャリアカウンセリングの実施 ※筆者作成 【P15-18】 解説2 従業員の「学び直し」を支援する 特定社会保険労務士 坂本(さかもと)直紀(なおき) はじめに  厚生労働省は、2019(令和元)年〜2020年に「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会」を開催し、2020年10月に報告書を取りまとめました。同報告書では、Society 5.0※1の実現に向け、第4次産業革命(IoT、センシング、ビッグデータ、AI、ロボット等)にともなう技術革新の進展などに対応した、デジタル技術を利活用可能な人材育成の重要性とともに、「労働者は、自身の職業能力開発の必要性を継続的に意識しながら、時代のニーズに即したリスキリングやスキルアップを図っていく必要がある」と述べています。  2022年10月の臨時国会で、岸田文雄首相は所信表明演説において、次のように述べています。  「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、来年6月までに取りまとめます。特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、『5年間で1兆円』のパッケージに拡充します。」  このように政府も学び直しに注力していく方針であり、学び直しの気運が高まっています。  そこで本稿では、従業員の「学び直し」を企業が支援するうえで有効な取組みを導入するための実務上のポイントを解説するとともに、国における支援策をご紹介します。 実務上のポイント@ 学び直しのための休暇制度  自社の従業員が積極的に学び直しを進めるうえでは、会社の休暇を利用して、学び直しを自主的に行ってもらうことが有効です。  休暇には、年次有給休暇などの「法定の休暇」と会社が独自に付与する「法定外の特別休暇」があります。  年次有給休暇は、原則として、労働基準法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、付与日数のうち年5日の時季指定義務※2が定められています。したがって、まずは、この時季指定義務を遵守する必要があります。  そのうえで、年次有給休暇は、勤続年数が長い社員には法定において最大で年20日が付与されます。高齢従業員のなかには、年20日の有給休暇が付与されていても珍しくありません。  こうしたことから、学び直しの実効性を高めるうえでは、年次有給休暇の取得をうながしていくことが有効です。  また、法定外の特別休暇の活用を推奨し、学び直しの機会を増やしてもよいでしょう。  この法定外の特別休暇ですが、年次有給休暇と異なり、会社側で基本的に自由に設計できる性格を有しているため、「学び直しを目的とした制度」とすることもできます。  ここで、事例を二つご紹介します※3。 ●事例1 従業員の資格取得を後押しする休暇[高齢者施設の開業・運営コンサルティング業]  会社が定める資格の取得に向けた準備を目的として、年間に有給で最大10日間取得できる特別休暇制度を設けています。1年目に不合格となり、2年目以降に再チャレンジする場合でも特別休暇が取得できます。  また、試験に合格して資格を取得した従業員には、報奨金を支給しています。  休暇を取得するタイミングとしては、試験直前期が多い状況です。 ●事例2 自己啓発休暇[製本業]  「仕事の質をあげるために、研修や学習の機会がほしい」という社員の声を反映したものです。休暇取得日数の制限は、自己啓発内容に応じて社内で調整することとしています。  この制度は、「人間的能力を高め、創造力や実行力を養うことを目的とした投資の休暇制度」と位置づけています。  取得例としては、就業後に大学院で経済動向をふまえた労働環境と社会制度の研究をしていた従業員が、自己啓発休暇を取得し、アメリカ、ドイツ、フランスへ労働および社会制度を研究しに行くケースがありました。 実務上のポイントA 時間外労働の抑制  時間外労働を削減することにより、就業時間後に学び直しの時間を確保することができます。また、過重労働の抑制やワーク・ライフ・バランスの推進にもつながります。  時間外労働を削減するために、具体的には、次の内容を進めることが有効です。 @トップの方針  トップが、時間外労働削減を経営方針に掲げ、社員に周知徹底することが有効です。  トップが会社の方針として、遅くまで残っていることを明確に否定し、所定労働時間内に業務を完遂する社員を評価する旨を伝えます。  また、方針には、「早く帰宅し、家族との団らんや学び直しなどの時間にあててください」とし、学び直しについても触れるとよいでしょう。 A人事部  時間外労働に関して現状把握をします。具体的には、全従業員の労働時間数をエクセルなどのソフトで集計し、現在どこに問題が生じているのか詳細に分析することが有効です。図表1・2は、問題部署および問題社員の把握例です。  問題部署については、時間外労働が多い部署に焦点をあてて、いかにその部署に内在している問題点を顕在化して時間外労働を削減するかが重要です。  また、個人レベルまで落として、時間外労働削減を図る必要があります。「特定の社員に仕事が集中していないか」などの確認を行い、必要に応じて是正を図ります。実際には、意外な社員が長時間労働しているなど、人事部の担当者が驚くこともありました。ぜひ、みなさんの会社でも実施してみてください。 B職場  トップによる時間外労働削減の方針に基づき、実際に時間外労働削減に取り組むのは、各職場になります。  次に示すのは、各職場での時間外労働の削減事例※4です。ほかの業種でも応用できると思いますので、参考にしてください。 ●事例1〔食料品製造業〕  従業員は、残業を行う場合に、毎日事前に「時間外労働申請書」を管理職に提出。管理職は、残業内容を確認し、残業をしてでも実施する必要のある業務であるかどうかを判断して、不要と判断すれば、翌日に回すよう指導します。  この申請フォームには、「残業申請理由」、「残業予定時間」、「残業内容」などを記入します。管理職は、申請書があがってきた機会をとらえて、部下の業務の内容や進捗状況を把握し、コミュニケーションを図るようにしています。 ●事例2〔飲食業(ファミリーレストラン)〕  店長業務のように正社員しかできない業務を絞り込むとともに、パート・アルバイトに可能なかぎり広い業務をになわせるようにしています。  そのうえで、パート・アルバイトの能力向上意欲を高める仕組みを取り入れています。  具体的には、パート・アルバイトがになう作業をリストアップし、作業ごとの習熟度をチェックリストにしています。作業ができるようになれば、教育する者がチェックします。  また、パート・アルバイトからの業務改善の提案制度を設けています。提案例としては、店舗の在庫管理では、資材の置き方を工夫して、一目で在庫数がわかるようにしています。内容によっては、会社全体で採用されて業務マニュアルに組み入れられる場合もあります。  このような業務改善で、作業がスムーズに進められたり、ミスが減り、探し物や片づけ、作業のやり直しなどの余計な手間を削減し、労働時間削減につながっています。 実務上のポイントB 経済的な支援  社員の学び直しを促進するうえでは、必要に応じて経済的な支援を行うことが有効です。  「Society 5.0時代を切り拓く人材の育成−企業と働き手の成長に向けてー」(一般社団法人日本経済団体連合会)によると、「会社が承認した研修等」を対象に経済的支援を実施している企業(55.2%、202社)のうち、65.8%が、現在の職務に直接関係しないものも対象とするなど、将来を見据えた自己啓発を支援しているという調査結果が出ています。  また、実施されている支援例としては、大規模公開オンライン講座(MOOC)の提供、資格試験などの受験料補助、社外研修や通信教育の受講費補助、書籍購入費の補助などがあげられています。 ■国における支援策「人材開発支援助成金」  国においては、人材開発に関する助成金として「人材開発支援助成金」制度を設けています。  この制度は、事業主が労働者に対して訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成するものです。最近では、人材開発支援助成金を利用しやすくするため、要件の変更や提出書類の見直しが行われています。前述の岸田首相の表明もあり、今後もさまざまな動きがあると思われます。  必要に応じて、こうした制度の活用を検討されてもよいでしょう。概要は次の通りです。詳細については、厚生労働省のホームページ※5にてご確認ください。 ※なお、助成金の制度内容については、変更される可能性がありますのでご確認ください。 (1)人への投資促進コース(2022年4月1日新設)  次の五つの訓練が設けられています。 @高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練  高度デジタル人材の育成のための訓練や、大学院での訓練を行う事業主に対して助成します。 A情報技術分野(IT分野)認定実習併用職業訓練  IT分野未経験者の即戦力化のための訓練を実施する事業主に対して助成します。 B定額制訓練  サブスクリプション型の研修サービスによる訓練に対して助成します。 C自発的職業能力開発訓練  労働者が自発的に受講した訓練費用を負担する事業主に対して助成します。 D長期教育訓練休暇等制度  働きながら訓練を受講するための休暇制度や短時間勤務等制度を導入する事業主に対して助成します。  図表3は、IT分野未経験者にIT関連の訓練を行った場合の助成例です。 (2)特定訓練コース  労働生産性の向上に資する訓練、若年者に対する訓練など、効果が高い10時間以上の特定の訓練や、OJTとOFF−JTを効果的に組み合わせた訓練として認定を受けた場合に助成するコースです。活用事例は図表4の通りです。 (3)一般訓練コース  職務に関連した知識・技能を習得させるための20時間以上のOFF−JT訓練を行った場合(特定訓練コースに該当するもの以外)に支給される助成コースです。活用事例は図表5の通りです。 (4)教育訓練休暇等付与コース  3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を導入し、適用した事業主に助成(制度導入に対して30万円支給)するコースです。 (5)特別育成訓練コース  正社員経験の少ないパートなどの有期契約労働者等の正社員転換または処遇改善を目的として、事業主が、有期契約労働者に対し、計画に沿って訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成するコースです。 ■教育訓練給付制度  従業員が厚生労働大臣指定の教育訓練を修了した際、教育訓練受講に支払った費用の一部を従業員に支給する制度も設けられています。 ※1 Society 5.0……仮想空間と現実を融合したシステムにより経済発展と社会課題の解決を図る新たな未来社会のこと ※2 時季指定義務……年次有給休暇の日数のうち年5日について、使用者が時季を指定して取得させること。5日以上取得ずみの労働者に対しては、使用者による時季指定は不 ※3 厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト 特別な休暇制度導入事例」https://work-holiday.mhlw.go.jp/ ※4 厚生労働省「時間外労働削減の好事例集」https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/120703_01.html ※5 人材開発支援助成金https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html 図表1 ある会社の部署ごとの1カ月の時間外・休日労働(例) 合計 時間外 休日 営業第1課 営業第2課 生産管理課 開発課 知的財産課 設計課 営業企画課 経理課 マーケティング室 デザイン課 総務課 ※筆者作成 図表2 ある会社の社員の1カ月の時間外・休日労働(例) 合計 時間外 休日 社員A (営業第1課) 社員B (営業第2課) 社員C (営業第1課) 社員D (営業第1課) 社員E (生産管理課) 社員F (営業第2課) 社員G (営業第1課) 社員H (開発課) 社員I (知的財産課) 社員J (生産管理課) ※筆者作成 図表3 「人材開発支援助成金 人への投資促進コース〈長期教育訓練休暇等制度〉」の助成例 株式会社A社(情報・通信技術業) 課題 IT未経験の従業員にも、ITの内容を覚えてもらい、即戦力として働いてほしい 訓練 ●訓練コース プログラミング(1名) ●訓練内容/スマート端末上の開発に必要なプログラミング言語の習得など、OJTで実際に発注を受けたシステムの構築。  OFF-JT時間:800時間 OJT時間:200時間  訓練経費:70万円 ●ITSSレベル2に相当する資格試験の受験  訓練経費:5万円 助成内容(中小企業の場合)・成果 ●助成率・額  経費助成:60% 賃金助成:1時間あたり760円  OJT実施助成:200,000円 ●助成額(上記の訓練内容の場合の例)  経費助成:450,000円(資格試験料を含む)  賃金助成:608,000円  OJT実施助成:200,000円 ●成果  IT未経験者にも、基本的な言語の習得や、実際に顧客から発注を受けたシステムの構築を、自社の従業員から丁寧にレクチャー。未経験者から一人前のSEに成長させることができた。高額で手が出せない資格も、助成金があることで、取得させることができた。 ※厚生労働省「デジタル分野などの社員教育に人材開発支援助成金をご活用ください」 図表4 「人材開発支援助成金 特定訓練コース」の助成例 株式会社B社(電気工事業) 課題 新卒者は資格を有していないため、資格取得のための知識・技能を習得させる必要があった。ベテラン社員の退職により有資格者が少なくなり、即戦力が必要となった。 訓練 ●受講コース:第二種電気工事士研修 ●訓練目標:第二種電気工事士資格取得  外部訓練機関の受講料:36,000円  OFF-JT訓練時間:18時間 助成内容・成果 ●助成率・額  経費助成:45%  賃金助成:1時間あたり760円 ●助成額(上記の訓練内容の場合の例)  経費助成:16,200円  賃金助成:13,600円 ●成果  電気工事の仕事には、電気工事士の資格が必要となるため、講習を受講させることで即戦力となる人材の育成に役立った。 ※厚生労働省「人材開発支援助成金 (特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」より筆者作成 図表5 「人材開発支援助成金 一般訓練コース」の助成例 株式会社C社(福祉業) 課題 介護職員の離職を防止するため、段階ごとのスキルアップのための教育訓練を行う必要があった。人材不足や早期離職を防止するための人材育成を図り、人材確保につなげていく必要があった。 訓練 ●受講コース:介護福祉士実務者研修 ●訓練目標:介護福祉士国家資格の受験  外部訓練機関の受講料:97,200円  OFF-JT訓練時間:45.5時間 助成内容・成果 ●助成率・額  経費助成:30%  賃金助成:1時間あたり380円 ●助成額(上記の訓練内容の場合の例)  経費助成:29,100円  賃金助成:17,200円 ●成果  訓練受講の支援を積極的に行うことで職員が資格を取得しやすくなり、それにともなって会社への愛着心も芽生えた。定着率が高くなり離職を防ぐことにつながった。 ※厚生労働省「人材開発支援助成金 (特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」より筆者作成 【P19-22】 事例1 社員が自由で多様な働き方を自ら選択 学び直しや副業などによるキャリア自律を支援 双日(そうじつ)プロフェッショナルシェア株式会社(東京都千代田区) 総合商社・双日から生まれた多様性を活かすための「SPS」  2021(令和3)年3月に設立された「双日プロフェッショナルシェア株式会社」(以下、「SPS」)。大手総合商社「双日株式会社」(以下、「双日」)の子会社で、双日の「中期経営計画2023」で掲げた「事業や人材を創造し続ける総合商社」を実現する人事施策として、双日本社からの転籍者を受け入れ、柔軟な働き方を双日社員に提供するために設立された。  双日の「中期経営計画2023」では、「多様性と自律性を備える『個』の集団」を目ざす姿に掲げ、そのための人材戦略として、@多様性を「活かす」仕組み、A挑戦を「促す」仕組み、B成長を「実感できる」仕組み――の三つの人材育成基本方針を実現する柱を策定。SPSの設立は、その具体的な取組みの一つである。  今回お話をうかがったSPSの丸山(まるやま)優敏(まさとし)取締役は、「多様性と自律性を備える『個』の集団として、変化を機会に変える人材を創造し続けることが、双日の強みであり、双日らしさを形づくる重要な要素です。多様な価値観やキャリア志向を持った人材、女性の積極活用も含め、多様な人材が増えてきました。そのような人材が、高いモチベーションを維持し、働き続けられる環境を整えることで、いままでの事業領域にとらわれない、新たな事業機会の創出に結びつけたいと考えています」と双日の基本的な考え方を説明する。  この多様性を活かす施策として、双日本社での業務を続けながら、多様な働き方ができるSPSを設立したという。  同時に、双日の退職者同士や双日役職員との人的ネットワークを活用し、ビジネスネットワークを構築するプラットフォームとして「双日アルムナイ」という仕組みもつくった。双日と、そこで働いていた仲間を結ぶ、ゆるやかな双日グループを形成するという発想だ。さまざまなイベントなどを通して、双日アルムナイに登録した人材間の交流を深め、新たなビジネスを生み出す場として期待されている。 週3日相当の勤務+多様な選択肢 自由度の高い働き方で仕事満足度を高める  SPSの事業内容の柱は、@双日本社業務の受託・出向者派遣、Aグループ外企業とのジョブマッチング支援、Bキャリアコンサルティング・リカレント教育支援――の三つだ。  SPS設立は、個人の働き方や価値観が多様化し、キャリアに対する考え方も大きく変化している現状をふまえ、双日本社ではなかなか実現できない、より自由度の高い働き方を、別会社をつくることで実現しようという試みだ。多様な働き方を通じて、自律的なキャリア構築を支援するためのプラットフォームの役割をになっている。より自由度が高く、自律的な働き方によって、社員の満足度を高めるとともに、自律的なキャリア意識を持った社員を育み、組織の成長や企業価値の向上に結びつけたい考えだ。  SPSの社員は双日本社からの転籍となるが、双日本社での勤務を継続しつつ、他社、他分野での副業などによるキャリアの幅出しとともに、学び直しを会社が支援することで、新領域にチャレンジする起業家精神を育てたいとしている。多様な働き方ができることで、変化していく個々人のキャリアに沿った、例えば介護や起業したいといったニーズにも応えられる仕事環境が提供できる。  SPSではメインの仕事として、転籍前に双日本社で所属していた部署の業務を出向という形で週3日程度続ける(図表)。週20時間以上の勤務を確保することで、社会保険適用を維持することを考えた設計となっている。働き方でいうと、3日間フルで出社して働くケースもあれば、フルリモートでの勤務も可能。多様な働き方に対応しているのが特徴で、3日間相当の勤務を5日間で行い、その分、一日の勤務時間を調整するという働き方も可能だ。週の残りの日を、双日のグループ企業や地方の中小企業などでの副業や、学び直し、起業や家業、家族の介護などにも、自由に使うことができる。  また、双日本社以外で働くことで、双日でつちかってきたスキル・経験を広く社会に還元することもできる。社名にもなっている「シェア」は、つちかってきたスキルを社会と「分かち合う(シェア)」という発想からきている。  働き方については、出向日数に応じて業務を切り出し、転籍前の役割・スキルに基づいた業務内容を明確にするジョブ型の働き方となる。仕事のベースとして、もともと所属していた部署に出向し、そこでジョブディスクリプション※を作成する。どのような仕事をするかを明確にして、SPSでも内容をチェックし、本人と働く部署との間でもしっかり確認・同意を取っている。 働く本人がキャリアプランを 明確に描けていることが重要に  SPSへの転籍は、本人の希望による手あげ式で、かつ所属部署が同意した社員というのが大前提となる。対象者は35〜55歳の双日の総合職としている。  SPSへの転籍にあたっては、「自律的なキャリア構築への意欲があることを要件としています。勤務日設定の自由度が高いということは、副業を行う場合は、外部からの仕事を請け負うことになり、成果も出していかなければなりません。学び直しなどを含め、SPSとしてもサポートを行いますが、自分の将来のキャリアプランを自らが描ける人でないと、SPSで働くのはむずかしいと考えています。また、きちんとジョブ型雇用のメリットとデメリットを理解していることも必要です。双日での勤務を通じて、外部企業に対し貢献できる能力、経験、スキルがつちかわれていることが前提であり、心身の健康面において、業務遂行に問題がないことも大切です」(丸山取締役)  実際の転籍実績は、スタートの昨年度と今年度の2年間で7人という実績だが、立ち上げ時の目標として20人程度を想定している。「スタートしたばかりの制度なので、『様子見』というところでしょうか。まだ、SPSという会社を認知してもらえていないところもあると思います。興味があって、手をあげたいと考えている人でも、家族の反対で決断しかねている社員もいるかもしれません。やはり、双日本社から離れるのには、抵抗がある社員もいるでしょう」(丸山取締役)と分析している。  ベースとなる双日本社への出向以外の仕事が、きちんと確保できているのかも気になるところだ。  「SPSに転籍した社員のなかには、起業して、自分の会社を立ち上げている社員もいます。双日時代の人脈を通じて、地方の企業で、社長補佐として経営コンサルタントを行っている社員や、中小企業診断士の資格を活用して、地方企業の人事制度づくりや助成金申請を含めた経営補佐をしている社員もいます。また、人事での経験を活かして、大学の非常勤講師としてキャリアに関する講座を請け負っている社員もいます。商社の日ごろの仕事のなかで、おつきあいのある企業から、いろいろな話が集まりますので、外部からの仕事のニーズはあると考えています」(丸山取締役)  一方、双日本社での仕事とのかかわり方はどうなるのだろうか。  「3年間は双日での仕事を保証しています。3年という区切りで、その後も双日の仕事を続けていくかどうか、出向先と本人が面談をして決めるイメージです。3年経たずとも、例えば自分が立ち上げた事業や副業が忙しくなり出向先の仕事のボリュームを調整する社員も出てくると思います。また当然ながら、出向先においても求められる成果を出す必要があります」(丸山取締役) キャリア自律をうながすことは企業・個人双方にメリットがある  リカレント教育支援が手厚いのもSPSの特徴で、会社が取得を認める資格であれば最大100万円、それ以外の個人で選択する資格に関しても最大20万円の補助を行っている。補助については、申請内容を見て、その資格を使って今後どのように自身のキャリアに役立てていくのか、申請の内容を確認してから補助の可否を判断しているという。  それでは、SPSが考えるリカレント教育とはどのようなものなのだろうか。まったく違う仕事にジョブチェンジするようなことが想定されているのかたずねたところ、「やはり、いままでつちかってきたスキルをコアとする考え方が基本です。これまで自分がやってきた業務のスキルをベースに、さらに専門的な知識を身につけるために、本制度を利用する社員が多い」(丸山取締役)としている。  ただ、SPSに移籍するには、それなりの時間とタイミングが重要だと考えているために、転籍対象の上限年齢を55歳に設定している。これは、「60代になってから考えるのではなく、50代のうちからさまざまな選択肢を考えるほうがよいと思います。そこでその前のタイミングの55歳を目途に、自身の60歳以降の働き方をどうするのかを考えるタイミングとしています」(丸山取締役)  自律的キャリア形成やそのための学び直しを進めるポイントについては、「これまでは、どの企業でも基本はメンバーシップ型で、社員は会社から与えられた業務に対し成果を出すことで会社に貢献し、それに対して評価され、給料をもらっていると考えてきました。それがあたり前だと思っていた人たちに、いきなり『自律的キャリアを考えなさい』というのは、なかなかむずかしい。だから、自律的キャリア形成やそのための学び直しの制度を導入する場合は、かなりていねいに行っていかなければいけないと考えています。そのためには社員個人個人が、自分の専門性や強みに気づけるように、経験やスキルの棚卸しによる『自己理解』を、時間をかけてきちんと行うことが大切と考えます」(丸山取締役)とアドバイスする。  社員のキャリア自律をうながすことで生まれる、独立や転職を招くリスクも気になるところだ。「多様な価値観を持つ社員が増えてきており、世の中の流れとして、人材の流動化は、今後も進んでいくと想定しています。だからこそ、企業はより魅力的な組織づくりが必要であり、社外に出ていろいろな経験をした社員と双日グループが、双日アルムナイなどを通じてゆるやかな関係を築ける仕組みづくりを行っています」(丸山取締役) 人生100年時代に向け 細く長く働くための仕掛けが必要  定年年齢を双日と同じ60歳ではなく、70歳と10歳も延長していることもSPSの特徴の一つだ。シニア社員にとってのSPSの意味合いについて、「人生100年時代といわれており、細く長くという働き方も選択肢になると考えています。勤務日数や勤務時間の自由度が高く、体力や気力に応じた働き方ができるのは、シニア社員にとって大きなメリットです。体力や気力があるうちは、いろいろな仕事を組み合わせて働くことで、収入面もカバーできます。一時的に収入が下がったとしても、70歳まで働くことで、生涯年収で考えれば、60歳定年を上回ることもあります。細く長く働く選択肢があることを、社内でも伝えていきたい」(丸山取締役)と話す。  SPSや双日アルムナイなどで形づくる、双日のゆるやかなグループ連携が、具体的にどのように双日に役立つのだろうか。「いままでは、会社に入って、そのまま定年までをまっとうするという考え方が一般的でした。しかし最近は、自分の成長につながる、成長機会があるのかどうかに価値を置く人が多くなっていると感じています。転職に抵抗がなくなるなど、価値観が大きく変わってきています。このような変化に対応するうえでは、会社に残りつつも、外部で挑戦できるという選択肢を示す仕組みをつくることには大きな意味があると思います。  双日は現中期経営計画において、『事業と人材を創造し続ける総合商社』を掲げています。双日を離れることがあったとしても縁が切れるということではなく、双日のDNAを持った人材が世の中に出て、『共創』と『共有』という形でゆるやかに広がるようなイメージです」(丸山取締役)  実際に、SPSや双日アルムナイなどの新しい取組みが、双日の活性化につながっているという実感は得られているのだろうか。  「双日の管理職研修など、いろいろな場面で『SPS』を取り上げてもらうようになり、社内での知名度も徐々に上がってきており、SPSを活用しようという話も出るようになりました。SPSの機能が少しずつ認知されてきており、双日の組織活性化ということでは、これから目に見えてくるのだろうと思います。社員の受けとめ方も、変わりつつあります。相談件数も増えてきています」(丸山取締役)と、効果を感じつつあるところのようだ。  最後に丸山取締役はSPSについて、「双日社員の能力やプロフェッショナルスキルを広く社会とシェアをすることは、社会にとってもメリットがあり、双日にとっても双日以外の仕事でつちかった経験などを双日に還元してもらうことで『社会に還元する価値』と『双日が得る価値』の二つの価値の実現につながります。当然、本人にとっても、自分が目ざす働き方・生き方を実現できるという大きなメリットがあるという、Win−Winの形を目ざしていきたい」と力強く語ってくれた。 ※ ジョブディスクリプション……職務記述書。社員の職務を明確にするため、職務内容を記述した文書のこと 図表 双日社員とSPS社員との主な相違点 項目 双日 双日プロフェッショナルシェア(SPS) 業務内容 ・社内所属組織の業務 ・主要業務:所属部署からの提供ジョブ ・その他業務:社内外での受託業務(個人受託も可) 勤務体系 ・フルタイム勤務、フレックス就業 ・副業・兼業原則禁止、出社中心 ・週3日相当の勤務をベースに個別設定、フレックス就業 ・副業・兼業可能、フルリモート勤務可能 定年/再雇用 ・60歳(再雇用で65歳まで延長あり) ・70歳 報酬 ・人事制度に基づく給与・賞与 ・個人の能力と業務内容に応じて個別に設定 リカレント教育支援 ・教育訓練給付における支給対象の資格は、取得費用の20%を補助(最大10万円) @会社が取得を認める資格:取得費用の80%補助(最大100万円) A上記以外の個人で選択する資格:取得費用の50%補助(最大20万円) 【P23-26】 事例2 80歳現役時代の活躍を目ざし新しい人生の手段を講じるための学び直し ライフシフト大学(株式会社ライフシフト)(東京都港区) 人生100年・80歳現役時代を生き抜くための学び直しの場  ライフシフト大学は「人生100年・仕事人生80年時代を生き抜くための学び直しの場」として、ミドル・シニア層のキャリア再設計に専門特化した教育機関である。多摩大学大学院教授およびライフシフト大学の運営会社である株式会社ライフシフトCEOで、『40代からのライフシフト実践ハンドブック』(東洋経済新報社)の著者である徳岡(とくおか)晃一郎(こういちろう)理事長の構想から、2019(令和元)年10月に開校した。開校から3年が経ち6期が終了。受講生延べ100人が卒業した。  藤田(ふじた)英樹(ひでき)学長は、同校のコンセプトについて次のように話す。  「日本は世界に先駆けた長寿国で、健康寿命が伸び、仕事をする年齢は80歳までが視野に入ってきています。『人生100年、80歳現役』がわれわれのコンセプトです。これまでのように、60歳定年の時代から、希望者全員65 歳までの雇用へ、そして2021年の改正高年齢者雇用安定法の施行により、70歳までの就業確保が企業の努力義務となり、今後は80歳ごろまで元気で、仕事ができるという人生を、われわれは求めていかなくてはならず、必然的になっていくと考えています。仕事をせずとも元気で活き活きと生活できるならよいのですが、現実的には定年後、家にいて不健康な生活をしてしまう人は少なくありません。仕事でも趣味でも、新しい手段を持って、残りの人生を過ごしてほしいと願い、そのためのお手伝いをわれわれはしたい。これが当校の根底にある想いです」  ライフシフト大学では、年に2回、4月と9月に新期生が入学する。卒業までの期間は通常5カ月間(120時間程度)である。校舎は社会人の学びの場としてアクセスがよい品川駅直結のビルに設置し、開校当時からオフラインとオンラインの両立で開講していたが、現在は新型コロナウイルス感染予防の観点から全面的にオンライン講座に切り替えている。開講日は土曜日だ。  受講生は1期あたり10〜20人。男女比は7:3で、平均年齢は49.8歳、年齢分布は33〜65歳と幅広いが、40〜50代がボリュームゾーンとなっている。受講生が所属する企業は、メーカー、商社、金融、物流、外資系などさまざまな分野にわたり、会社での役割は人事担当者がやや多く、総務マネージャーやグループ統括といった管理職層もいる。そのほかに、海外の赴任先から受講している人もいる。  修了要件は、必修科目69時間、選択科目54時間の合計123時間以上の修得である。多摩大学大学院の単科を1講座受講できるコースを毎期5人ほどが受講し、大学キャンパスでの学びをモチベーションアップにつなげている。  ライフシフト大学で学び直しをすることになった動機について受講生にアンケートを取ると、30代は「生涯にわたり豊かな生活を送るため」、「営業職における自分の弱い部分であるマーケティングについて学びたい」、「リーダーシップを学びたい」と実学的・実践的な学びを求める人がいる一方、40代は「終身雇用モデルを漠然と期待して働いてきたが、ここにきて学び直す機会を得ようと思った」、「将来に漠然とした不安を感じている。具体的な人生設計を立てるための術を得たい」と将来の不安を理由にあげる人が目立つ。  50代では「これからの人生を見つめ直す機会にしたい」、「残りの50年で何をしよう、何ができるか、何がしたいのか。準備をしたい」と人生の棚卸しをして今後について考えたい人、「新たな機会、気づき、価値観を得たい」と視座(視点より空間的に高いところから見る)・視野を広げたいという人も少なくない。あるいは「会社に尽くしてきたが、自分自身のキャリアは二の次になっていた」と仕事人生を顧(かえり)みたことがきっかけとなって学び直しを決めた人もいる。60代からは「新たな知識と経験を積み重ねたい」、「若い人たちに刺激を受けたい」という声があるそうだ。 アセスメントで「変身資産」を洗い出し潜在能力を引き出す科目を選択  入学後5日間で受講する「基礎コース」では、自分の市場価値や強み、新しいステージへ移行するための原動力となる「変身資産」(後述)を洗い出すことにより、自分の進みたい道とのギャップを把握したうえで、長期のライフシフトビジョンを策定し、大まかな方向づけを行う。「基礎コース」を終えると、「専門コース」での科目群の学びが待っている。「専門コース」は、大きく三つの専門分野からなっている。 「知の再武装分野」……いま勤めている組織で長く活躍する「社内活躍」、「社内成長」を想定した科目群で構成している。マーケティングやコーチングなどを学ぶ。 「市場価値向上分野」……定年を待たずに社外への転身などに挑戦し、80歳現役を目ざして活躍するための「社外活躍」を想定した科目群で構成している。問題解決、クリティカルシンキング(批判的思考)、コミュニケーション、対人関係などを学ぶ。 「ライフデザイン分野」……人生100年を見すえた、仕事だけではない安心した人生設計を支援する科目群で構成している。ポジティブ心理学、マネープラン、マインドフルネスなどを学ぶ。  三つの専門プロフェッショナルコースと同時に受講する「教養コース」では、オンライン学習を主体に長期のキャリア形成のための足元を固めていく。  「そもそも『ライフシフト』とは、リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏が著した『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)に由来します。同書では、三つの生産性資産が必要だと提唱しています。一つ目は生産性向上資産=スキル(生産性が上がる)、二つ目は活力資産=健康、気力、三つ目は変身資産です。ライフシフト大学では三つ目の変身資産を大きく取り上げています。  『変身資産』とは、キャリアアップに必要なマインド、仲間、評判、知恵、健康の五つの要素(図表)です。できるかぎりバランスよくこれらの能力を伸ばすことで、80歳まで現役で働く力を蓄えます」(藤田学長)  受講生は自分の「変身資産」の状態を、カリキュラムの基礎コースの初めにライフシフトアセスメントを実施してチェックし、現状を見える化する。50項目の質問に答え、点数を入力すると五角形のレーダーチャートができあがる。どの要素が足りないかを自覚でき、講師やほかの受講生とも見せ合って共有し、必要な強化策を伝授し合う。  5カ月後のカリキュラムの最終講義でもう一度同じアセスメントを実施すると、受講生は自身の変化に気づくそうだ。  「仲間同士が切磋琢磨することで、意識・マインドが変化し、いままで一つだった視点が複数になり、視座が広がって高まります。講義のなかで自身の潜在的な能力を発見し、それを表に出して記述したり、話したり、見せたりして隠れていた能力に光を当てて、自分を変えていくのです」(藤田学長) 中小企業が実際に抱える事業課題をグループワークでテーマ演習し企業に提言  同校の特徴であるグループワークのポイントは、自分の言葉で語り、言語化により定着させることと、仲間同士が互いに刺激し合うことにある。  グループワークでは、受講生がグループを編成し、講師が出したテーマ、問いかけた内容について議論し、互いの意見、思いを披露してグループ内で共有したり、まとめたりしていく。特に、複数の中小企業の実際の事業課題をあげ、それぞれの会社の諸問題にグループワークで取り組み、解決提案するというテーマ演習は、非常に具体的かつ実践的だ。  受講生たちとまったくかかわりのない他業界の企業の課題解決に、約1カ月半をかけて5〜10人のグループでディスカッションをくり返し、最後の講義で行う提言には対象企業の経営陣を招いて発表される。これまで非常に内容がよい提言が出てきていることや、即日にその提言を実施したという企業もあることで、受講生たちは手応えを感じているという。このグループ演習の約1カ月半の間、ともに学ぶなかで、同期同士のつながりもできていくそうだ。  卒業後は同期だけでなく、先輩や後輩との縦のつながりが構築できる「LSUアラムナイ」という同窓会に参加できる。会では自主的な読書会、勉強会を実施して学びと人間関係を継続。これは互いの顔がわかる少人数制をとっている同校のメリットだという。  同校の卒業生からは、以下のような声が届いているという。  「100歳人生・80歳現役を生きることが現実となってきたいま、同校で学んだという非日常(通常の生活範囲ではないこと)は、固定概念にとらわれていた私に、新しい人生をスタートさせるきっかけをくれました。最高の場所でした」(50代男性・金融機関)  「所属する業界は大変革期に突入し、会社も私も大きな変化を迎えています。やや保守的な私でしたが『変化はチャンス』と、いまの環境を前向きにとらえられるようになり成長できていると実感しています。学び直し、学びを継続する喜びを得たことは、今後の人生における新たな楽しみというプレゼントになりました」(40代女性・外資系メーカー) 企業内リカレント教育プログラムを開始「高齢社員の活躍促進」の講義を実施  2021年10月からは「企業内ライフシフト大学」をスタートした。社会人を対象にした個人向けプログラムでつちかったノウハウを、企業向けにアレンジして提供するリカレント教育プログラムである。個人向けでは5カ月間かけて学ぶ科目を3カ月間に凝縮して、社員のキャリア自律に向けた意識改革をうながす。社外に通用する社会人基礎力のアップスキリングはもちろん、業種や企業ごとに異なるニーズを吟味し、企業向けにカスタマイズする特別カリキュラムを提供する。企業は体系的で実践的なキャリア教育を実施することができ、リカレント教育として活用できる。  企業向けにカスタマイズした特別カリキュラムのなかには、高齢者雇用に積極的な企業からの要請を受け、社内で引続き活躍してもらうための「高齢社員の活躍促進」をテーマに講義を行った例もある。講義の内容は、役職定年後から60歳、65歳の定年まで、あるいは再雇用の70歳まで高齢社員にモチベーションを維持してもらうために職場が取り組むべきこと、高齢社員に期待すること、高齢社員の職場での課題などをデータで示し、問題状況の解決策を示した。  また、高齢社員の価値を見出すには、若年層と高齢社員がともに創造する環境づくりの整備が大事とし、青(若年層)と銀(高齢社員)が共存する「青銀共創」実現のために、高齢社員にいかに「いぶし銀」をつけてもらうかという講義も行っている。  「当校では、高齢社員の活躍に関連するテーマをノウハウとして持っています。一人ひとりの『実践知』として何が必要か、突破力、場づくり力をどうつけるか、企業からの要請に応じたプログラムを提供しています」(藤田学長)  聴講の対象は企業の方針により、30代の若年層から参加できるようにしている会社もある一方、40〜50代のマネージャー研修として行う会社もあるそうだ。  「『ライフシフト』といっても転職をすすめているわけではなく、自社に残って活躍していくためにも、あるいは社外に出て能力を発揮していくためにも、いまのままの力では足りないものがあることでしょう。同時に、自分自身に対する認識が大事であって、キャリアを変えていくにあたり、自分を見つめ直して、考えて、それを追求していく。あるいは追求するうえで必要な知識を学んでいくことが重要です」(藤田学長)  いまの時代、受け身のまま定年に到達してしまうことにならないよう、40〜50代から学びの場を活用するなど積極的に自らを見つめ直して、学び直し、生涯現役で働く力を蓄えていきたいものだ。 図表 80歳まで現役を叶える「変身資産」五つの要素 健康 各種指数 ストレスコントロール 睡眠 食生活 運動 知恵 教養 経験 スキル 知識 評判 発信力 共感力 独自性 仲間 親しい友人 ビジネスネットワーク ソーシャルネットワーク マインド ポジティブマインドセット 未来へのビジョン チャレンジ精神 ※資料提供:ライフシフト大学 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 349 やっぱり鯛(たい)ですよ 食文化史研究家● 永山久夫 鯛のアスタキサンチン  鯛は、赤い長寿の魚です。  鯛といったら、一般的には真鯛のことで、いまでも「海魚の殿さま」と称賛されるのも、姿、色、味の三拍子が整っているからにほかなりません。  あの美しい鮮紅色を醸し出しているのは、餌としてエビを好むからで、エビの色素物質であるアスタキサンチンが、体内で濃縮されているためです。  アスタキサンチンは、ニンジンなどの色素成分であるカロテンと同じ抗酸化成分で、体の老化を防ぐ長寿物質です。しかし、その抗老化作用は、カロテン以上であることが判明しています。  「おめでたい」にあやかって、お祝いの席に鯛は欠かせません。赤い色、姿に加えて長寿効果があるためで、七福神のえびすさまも、大きな鯛を抱えて、ニコニコしています。  鯛は高タンパク質で、代表的な白身魚。  鯛は最近では養殖物が多く、市場に出回っている真鯛の場合、80%近くが人工飼育のものだそうです。タンパク質の含有量は、あまり変わりませんが、養殖物の方が、脂質もビタミン類も多いそうです。 天下一品の鯛茶漬け  鯛には、うま味成分のイノシン酸やグルタミン酸など、各種のアミノ酸がバランスよく含まれており、血圧を安定させる働きもあります。  心臓や血管を丈夫にしたり、脳の機能向上と関係のあるタウリンも豊富です。鯛の脂質には、必須脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)も多く含まれており、記憶力アップや、血液サラサラ効果でも注目されています。  さらに、ウイルス感染を防ぐといわれるミネラルの亜鉛、それにビタミンDも含まれており、免疫力の向上にも役立ちそうです。  おいしいのが鯛茶漬け。鯛の切り身を、ひと口大のそぎ切りにして、醤油、みりん、生卵、すりゴマ少々のたれ汁にひたし、ご飯の上にのせ、熱々のだし汁、または熱湯をかけ、すりワサビを添えてかっこみ食い。いやー、とっても美味なんです。 【P28-32】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! こんなときどうする? 最終回 高齢社員が介護を理由に「辞めたい」といっています ※ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ※1 総務省「人口推計」(令和4 年10 月1 日現在〈概算値〉)より おわり 【P33】 解説 集中連載マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 最終回 高齢社員が介護を理由に「辞めたい」といっています  高齢社員は、若手や中堅世代と比べて、自身や家庭で抱える事情が多様化していくといわれています。今回のマンガでは、家族の介護に悩む高齢社員をご紹介しましたが、自身が病気を患い治療を続けながら働くケースや、家庭内における役割が変わることで、仕事に影響が出てくるケースもあるでしょう。こうしたさまざまな事情を抱える高齢社員に仕事を続けてもらうためのポイントについて、東京学芸大学の内田賢教授に解説していただきました。 内田教授に聞く高齢者雇用のポイント 高齢社員とのコミュニケーションを深め事情の把握に努めるとともに“辞めなくても働き続けることができる”仕組みの整備を  今回のテーマは「介護」ですが、高齢社員はさまざまな事情で仕事を続けることがむずかしくなることがあります。健康を害する、体力や意欲が低下するといった本人の事情もあれば、介護以外でも孫の世話や自治会などの地域活動を期待され、本人に働く意思や能力があっても仕事を断念せざるを得ないこともあるのです。  突然の退職は会社の想定を変えてしまいます。定年までに、または定年後の継続雇用の間に後継者を育ててもらう、顧客を引き継いでもらうといった計画が頓挫しかねません。退職を余儀なくされる高齢社員も無念さと申し訳なさに悩むでしょう。これでは高齢社員にも会社にも損失です。  そこで「辞めなくても働き続けることができる」方法を用意します。通院や介護と仕事を両立できるように短時間勤務や在宅勤務、休暇の有効活用、担当職務の変更で工夫します。介護休暇や介護休業をはじめ、いくつかの実例はマンガでご紹介した通りです。  問題を抱える高齢社員は「どうしたらよいか」と一人で悩み、切羽詰まってから会社に相談するのではないでしょうか。高齢社員と日常からコミュニケーションを深め、プライバシーに配慮しながらも個人的事情の把握に努めましょう。「みなさんが困ったとき、会社にはこんな制度があります」と日ごろから周知することが安心感を生みます。定期健康診断の要再検査者には必ず再検査を受けさせることも大事な取組みです。  社内規程にない運用で解決を図る場合、その前例をノウハウとしてこれからの制度整備に活かします。一方、ほかの高齢社員はもちろん、若手でも将来は起こりうることですので、職場の同僚が理解し助け合う風土づくりも進めます。  退職しても病気や介護から復帰すれば復職できる制度を持つ会社もあります。社員を大事にし、強みを持つ高齢社員にはいつまでも働いてもらいたいという会社の姿勢が表われています。 プロフィール 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P34-35】 江戸から東京へ [第121回] 義経とイルカたち 源義経 作家 童門冬二 門司(もじ)のイルカ  北九州の門司は古きよきレトロ街≠復元して、ファンやオタクを楽しませています。脇の岡に大きな石塀を据えて、この地域の歴史を絵で伝えています。壇(だん)の浦うらの合戦≠熾`かれています。その絵の下のほうで、数頭のイルカが泳いでいます。案内人に訊きました。  「イルカが何か、かかわりを?」  「ハイ、大いに」  と答えた案内人はこんな話をしてくれました。  「この辺のイルカには超能力があって、船の底に張りつくとその船は必ず沈むこと。壇の浦の合戦時、源(みなもとの)義経(よしつね)は、この伝承を大いに活用しました」  以下は案内人が演じてくれたその話です。  「おーい、イルカァ?」  と、義経が叫ぶと、  「おります」  「どこに?」  「白い旗をかかげた船の底です」  「白い旗だと?」  「ハイ、仲間もみな張りついています」  「バカ者! オレが頼んだのは赤い旗の船だ。白い旗は源氏の船だ。お前は味方の船を沈める気か?」  「そうでしたか。すぐ移動します。スミマセン」  「すぐ潮の流れが逆になる。利用して早く平家の船に追いつけ」  「そうします。だれだ? 張りつくのは白い旗の船だといったヤツは!」  イルカの群は大急ぎで潮流の変わった海で平家の船団を追いました。 合戦の始末  平家の船団のなかには安徳(あんとく)天皇がおられました。守っているのは故平(たいらの)清盛(きよもり)の妻徳子(とくこ)です。天皇の印である三種の神器も守っていました。宝剣(ほうけん)・宝鏡(ほうきょう)・宝珠(ほうじゅ)です。  味方の船がつぎつぎと沈みはじめたので、徳子は、  「天皇と神器を抱いて海に身投げしよう」  と心を決めました。天皇はまだ五歳か六歳の幼帝です。  「陛下、竜宮へ参りましょう」  と誘うと、天皇はよろこびました。  「乙姫(おとひめ)に会えるのだな? 行こう」  とびこみました。気づいた義経が  「掬(すく)え!」  といいましたが間に合いません。それでも神器の宝鏡はどうにか掬いましたが、宝剣は間に合いませんでした。いまでもこの近辺の海底にあるはずです。  沈んだ平家の武士たちはみな河童(かっぱ)になり、近くの川に棲家(すみか)を得ました。徳子と侍女たちは久留米(くるめ)の水天宮の巫女(みこ)になりました。  徳子の夫平清盛は先に死んで、筑後(ちくご)川の支流をもらって大河童になっていました。このことを知って徳子に、  「オレもそこへ行っていいか?」  と訊きましたが、徳子は、  「ダメ。平家をほろぼしたのはあなたですから。絶対にこないでください」  と拒みました。清盛は怒って暴れました。川に大波が立って流域に住む人々がたいへん迷惑をしたそうです。  宝剣を拾えなかった義経を兄の頼朝(よりとも)は憎みました。義経は兄が日本一の大天狗≠ニ呼ぶ後白河法皇(ごしらかわほうおう)を頼りましたが、すぐ見放されました。東国・東北・エゾ(北海道)と逃(のが)れ、大陸へ渡ってモンゴルに行き、チンギスハーンになった、という伝説があります。  同じような話が義経と同族の源(みなもとの)為朝(ためとも)にもあります。弓の名人≠ニいわれた為朝は、父為義(ためよし)とともに平家にそむいて敗れました。  捕えられて伊豆の島に流されました。が、不屈のかれはそばを流れる黒潮を利用し、  「運を天にまかせよう」  と、小舟に乗って島を脱出しました。  流れついたのが琉球(沖縄県)です。沖縄本島に運天港≠ニいう標識が立っている所があります。運を天にまかせた為朝が漂着した所≠セといわれます。  このことを利用した琉球の政治家が、  「日琉(日本と琉球)の祖は同じである」  として、  「流れついた為朝は琉球王になった」  と、歴史にしたことがあります。  源氏には敗れてもこういう話(王になる)がありますが、平家にはありません。  それだけに、  「敗れし者への同情」  が多く寄せられるのでしょう。  「平家の落人(おちうど)が、かくれ住んで子孫が地域を守ってきた」  という、悲しみからスタートした平家の落人ばなし≠ヘ、いまでも日本の各地にありますね。  それにしても壇の浦のイルカの話は傑作です。発想が面白いです。おそらくイルカに衝突されて舟を沈められた漁夫がいたのかもしれません。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第126回 島根県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳以降も適した役割で能力を発揮 ポイントスタッフとして専門職を支える 企業プロフィール 社会福祉法人静和会(せいわかい)(島根県出雲(いずも)市) 創業 1982(昭和57)年 業種 介護事業(特別養護老人ホームなど) 職員数 148人(うち正職員数78人) (60歳以上男女内訳)男性(10人)、女性(31人) (年齢内訳)60〜64歳 15人(10.1%) 65〜69歳 15人(10.1%) 70歳以上 11人(7.4%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。67歳まで希望者全員を再雇用。67歳以降、個別契約によりポイントスタッフとして働くことができる。最高年齢者は77歳  島根県は、日本海を望む中国地方北部にあり、東京からは飛行機で約1時間の距離です。縁結びの神様で有名な出雲大社や世界遺産の石見銀山(いわみぎんざん)、世界ジオパークに認定された隠岐(おき)諸島、国宝の松江城などがある日本有数の観光地です。  当機構の島根支部高齢・障害者業務課の関口勉(つとむ)課長は、県の産業について次のように説明します。「県東部には、特殊鋼や農業機械、鋳物(いもの)、西部には窯業(ようぎょう)(石州瓦(せきしゅうがわら))や水産加工などの業種が多く分布しています。2006(平成18)年以降は、島根発のプログラミング言語『Ruby(ルビー)』を中心にした産業振興施策が推進され、IT企業の誘致などが積極的に行われています。人口は全国で2番目に少なく、高齢化率は全国で第5位の高さです。現在、県内企業の約4割が人手不足を課題にあげており、事業主からの相談は、高齢者の活用に関するものが多い傾向にあります」  慢性的な人手不足に悩む企業も多く、同支部ではそうした企業に対し、社会保険労務士などの専門知識を持ち、経験豊かなプランナーが高齢者雇用に関する相談・援助活動に取り組んでいます。  同支部のプランナーの一人、佐藤良一(りょういち)さんは、社会保険労務士として活躍しながら、プランナー活動を通じて、「休み方改革」による私生活の充実と十分な休養を取得することによる生産性の向上、さらに、業務の効率化や総労働時間の削減といった、人手不足対策にとどまらない、企業の先を見すえた提案を行っています。また、当機構の就業意識向上研修※を紹介するなど、従業員教育を重視した助言を行っています。今回は佐藤プランナーの案内で、社会福祉法人静和会を訪れました。  心のこもった福祉サービスを提供して40年  社会福祉法人静和会は、特別養護老人ホーム清流園および清流園地域密着型介護老人福祉施設の運営をはじめ、通所介護(デイサービス)、訪問介護、障害者福祉サービスなどの事業を展開。理念に、「明るい元気なあいさつ」を掲げ、地域に密着した心のこもった福祉サービスを提供し、2022(令和4)年に設立40周年を迎えました。  1982(昭和57)年に開園した清流園には、介護が必要で、家族による介護がむずかしい方が入所していますが、寝たきりにならないよう、体操、レクリエーションなどの取組みを推進。また、コロナ禍で外出が制限されるなかでも感染予防対策を徹底したうえで、花植え、季節のお楽しみ会などを行い、入所者の自己実現と生きがいのある生活の支援に励んでいます。  一方で、働きやすい職場づくりに注力しており、マンツーマン指導による研修体制の強化、資格取得支援、年次有給休暇の取得促進などを実施しています。2015年には「くるみん」の認定を受けて、女性職員の育児休業取得率100%、完全職場復帰率100%のほか、出産時に父親が育児休暇を取りやすい環境整備と休暇取得の定着化にも取り組んでいます。これらの取組みにより、職員の定着率が向上し、人手不足が解消できたといいます。 1時間から働けるポイントスタッフが活躍  同法人の定年年齢は60歳、希望者全員を67歳まで再雇用し、以降は本人と話合いのうえ、個別契約でパートタイムの「ポイントスタッフ」として働くことができます。  ポイントスタッフは、身体介護以外を担当し、専門職を支えたり、入所者の暮らしのサポートやイベントを担当したり、多様な場面で活躍しています。1時間から勤務可能で、ライフステージに合わせて柔軟な働き方を選択できる仕組みです。  定年以降の職員の働き方について、清流園の中山(なかやま)昭美(あきみ)園長は、「64歳ころまでは定年前と同じ働き方をする職員が多く、以降は、短時間勤務にしたり、夜間勤務をなくすなどそれぞれ異なっていきます」と説明します。高齢職員にできるかぎり長く働いてほしいと考えていることから、個別契約の際は本人と十分に話し合い、ふさわしい役割をになってもらうことでモチベーション向上につなげるようにしています。  ポイントスタッフは、シーツ交換のみ、イベントのみの役割という人もいて、採用にあたっては仕事経験に加え、趣味などもたずねて、その人に合った役割を見出して任せています。70代の採用も珍しくありません。  「高齢者は人生経験が豊富で協調性、コミュニケーションスキルの高い方が多く、また、多趣味だったり、入所者や利用者と年齢が近かったりして、共通点を多く持っていることがメリットです。当法人では高齢職員の力が必要ですし、たいへん助かっています」(中山園長)  個別契約により高齢職員の柔軟な働き方に対応していることや、働き方の希望などを聴く工夫について、人事担当の佐々木(ささき)麻美(まみ)さんにたずねると、「日ごろからコミュニケーションをとることが、大事だと思います。話しやすい環境をつくることで『通院のために短時間勤務にしたい』、『家族の介護のための休業制度について詳しく知りたい』ということも話してもらえるようになりました」と返ってきました。  佐藤プランナーは、2016年に初めて静和会を訪れました。当時は「60代に加え、50代の比率も高く、高齢化対策が待ったなし」と感じたそうです。そこで、モチベーションを保ちながら働き続けられる環境づくりなどのアドバイスを行いました。  また、健康管理については、40歳以上の希望者全員に人間ドック費用の半額を事業者負担で行うことを提案し、静和会ではすぐにこれを実現。実際に制度を活用する職員が多く、好評を得ています。  「健康管理の強化や、私生活を大切にしながら、メリハリをつけた働き方ができる職場づくりに注力されてきたことが、定着率の向上につながったものと思います」と佐藤プランナーは静和会の取組みを評価します。  今回は、70代で入職し、仕事や趣味でつちかったスキルを発揮して活躍している2人の方にお話をうかがいました。 ヘルパーとして送迎サービスを担当  榧野(かやの)員雄(かずお)さん(75歳)は、72歳のときに入職し、勤続3年。ヘルパーとして、利用者の依頼を受けて、病院やデイサービスセンターなどへ送迎する仕事を担当しています。  「持病がある人、身体のどこかに痛みを抱えている人などもいるので、ゆっくり、安全運転を心がけ、事故防止はもちろん、お客さまに伝わる振動がなるべく小さくなるように気をつけています。車に乗ってまた外へ出ようと思っていただけるように仕事をしています」と話す榧野さん。  前職は、国宝・松江城のお堀を遊覧する「堀川めぐり」の船頭を務めていました。安全走行しながら、観光案内や唄を歌っていたそうです。「船頭も、いまの仕事も、お客さまの笑顔がやりがいになります。船頭の経験をこの仕事に活かせているとも感じます」(榧野さん)  車いすを利用している高齢の方の通院を週3回サポートしていたとき、車内で安来節(やすぎぶし)を歌ったところ、それまで硬かったその方の表情がだんだんやわらぎ、話や手拍子までしてくださるようになったとのこと。「ご家族からも喜ばれました」と榧野さんは笑顔になり、「この歳で仕事をいただいていることに感謝しています。今後も事故なく、元気にがんばります。『やるぞ!』という気持ちです」と語ってくれました。 入所者とのコミュニケーションが活力に  清流園のポイントスタッフとして働く高橋明美さん(76歳)は、2022年2月、75歳で採用されました。  理容師免許を持ち、約40年間、理髪店を経営し、60歳で引退してからは、長年の趣味の園芸などにいそしむかたわら、寄せ植え教室の講師をボランティアで行っていたそうです。再び仕事をしたいとハローワークへ。「70歳を過ぎて仕事を見つけるのはむずかしいと思っていたところ、清流園で働けることになりました。働きはじめてから、どんどん元気になっています」とにこやかに話します。  現在は3日間働いて1〜2日休むといったペースで、勤務時間は9〜12時。施設の入所者がラジオ体操後に行う運動系のレクリエーションの支援とお茶入れ、園内放送のDJを担当しています。  「園内放送は、話す内容を考え、原稿を書いてマイクの前に座ります。8人ほどで順番に行っています」(高橋さん)。高橋さんの放送回では、花を話題にすることが多く、毎回その日の花と花言葉を語り、誕生日の方へお祝いを述べて、「今日、素敵なことがありますように」といって締めくくるそうです。「最初は緊張しましたが、最近では『だいぶ上手になったね』と入所者の方にほめてもらえるようになりました。この歳でもほめてもらえるのです。みなさまにも幸せな気持ちになってもらえるよう、私もよい言葉を使うように心がけています。健康第一で、1日でも長くこの仕事を続けていたいと思っています」とすてきな笑顔で話されました。  利用者の存在や言葉が、高齢職員をより元気づけていることが2人のお話から伝わってきました。佐藤プランナーは、「すばらしい働き方です」と感嘆していました。  同法人では、デイサービスとショートステイ施設を2023年5月オープンに向けて、建設中です。これから多世代のスタッフが増えていく見込みのなか、中山園長は高齢職員に寄せる期待を次のように語りました。  「健康で、毎日明るく和気あいあいと働いていてほしいですね。当法人としても、より働きやすい職場を目ざしこれからも取り組んでいきます」 (取材・増山美智子) ※「就業意識向上研修」の詳細は、当機構ホームページをご覧くださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html 佐藤良一 プランナー(66歳) アドバイザー・プランナー歴:13年 [佐藤プランナーから] 「高齢社員の活用促進に取り組む際は、一人ひとりの経験、技能を活かし、生涯現役を目標にしていただけるような情報提供や相談・助言ができるように心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆島根支部高齢・障害者業務課の関口課長は佐藤プランナーについて、「温厚・誠実な人柄で、プランナーとして長年活躍されています。常に、研鑽を怠らず、最新の労働関係法令をわかりやすい形で事業主へ発信し続けるとともに、事業主向けの啓発セミナーでの講演も積極的に実施しています。相談・援助業務においても、事業主の立場に立って親身な助言を行っており、その姿勢はプランナーの手本になっています」と話します。 ◆島根支部高齢・障害者業務課は、JR松江駅から徒歩約20分。松江市は、島根県の県庁所在地であり、江戸時代には幕府親藩越前松平家の城下町として栄えました。なかでも「松平不昧公(ふまいこう)」の別名を持つ松平(まつだいら)治郷(はるさと)は、江戸時代の代表的な茶人の1人といわれています。 ◆同県では、4人の65歳超雇用推進プランナーが活動し、専門的な知識を活かし、高年齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2021年度は、238件の相談・助言に取り組み、55件の制度改善のための提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●島根支部高齢・障害者業務課 住所:島根県松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 電話:0852-60-1677 写真のキャプション 島根県出雲市 静和会が運営する「特別養護老人ホーム清流園」 清流園の中山昭美園長(左)と静和会の人事を担当する佐々木麻美さん ヘルパーとして送迎サービスを担当する榧野員雄さん 自宅で育てて咲いた花を清流園に飾る、ポイントスタッフの高橋明美さん 【P40-41】 第77回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  小須賀(こすが)ミイ子さん(71歳)は子育てを終えて現在の会社に入社。パート従業員として現場の第一線に立ち続けている。女性中心の職場で、働く仲間といたわり合いながらだれもが活き活きと、長く働き続けることができる職場環境の創出に力を注ぐ小須賀さんが生涯現役の秘訣を語る。 オークマプラス株式会社 パート従業員 小須賀(こすが)ミイ子さん 看護の道から専業主婦の世界に  私は福島県いわき市で生まれました。いま、テレビの大河ドラマで話題となっている源氏ゆかりの源義家の和歌で名高い勿来(なこそ)の関(せき)のすぐ近くです。上京して世田谷区内にあった看護の専門学校に入学しました。父が事故で入院したとき、お世話になった看護師さんのやさしい姿に触れたことが同じ道に進むきっかけとなりました。  2年間学んだ後、都内の病院に就職しました。当時の看護師の業務は多岐にわたり、検査の仕事なども担当しました。激務でしたが、患者さんとの日々の語らいや病気が癒(い)えて退院されていくときの笑顔に出会うたび、看護の道を選んでよかったと心から思ったものでした。  しかし、人生には転機があります。縁あって26歳で結婚、退職して専業主婦となりました。いま、私の娘は子育てをしながら働き続けており、女性が子どもを育てながら自分のやりたい仕事ができる時代をうらやましく思いますが、当時の私は家庭に入ったことに悔いはありませんでした。子どもたちとしっかり向き合う時間を重ねられたことは何物にも代えがたい大切な経験であったと思っています。PTAの役員も積極的に引き受け、そこで学ぶこともたくさんありました。  「娘はいま、とてもがんばっています」と小須賀さん。専業主婦の道に悔いはないけれど、仕事と家庭の両立に奮闘する娘さんにエールを送る声はやさしさに満ちている。 パートとして四半世紀  26歳で出産した後、一時期故郷のいわき市に戻り、5年ほど暮らしました。いわき市はとてもよいところですが、やはりこれからの生活を考えると都会に出るべきだと考え、縁あって埼玉県八潮(やしお)市に転居しました。そのころ八潮市で貨物運送事業を手がけていた大熊運輸株式会社の大熊淳社長と従弟同士であったことから、夫は大熊社長の仕事を手伝うことになりました。  大熊運輸株式会社は、一般貨物運送事業を展開する一方、会社の敷地内に作業所を新設して、荷主企業さんからセットアップ作業の請負を開始します。セットアップ作業とは、すでに包装された食品などを手際よく化粧箱に詰める作業のことで、食品などを直接梱包する「一次包装」に対し、「二次包装」といわれる作業です。請負の数が増えるにつれ人手不足となり、子育てが一段落した私に「働いてみませんか」と声がかかりました。本音をいえば夫と同じ職場は避けたかったのですが、体を動かすことは好きですから、思い切ってパートとして働くことにしました。46歳の再出発でした。  入社と同時に、チョコレートなど洋菓子のセットアップ作業やお中元・お歳暮の梱包作業現場の責任者を任されました。軽い気持ちで働き始めたにもかかわらず、気がつけば四半世紀という時が流れていました。  1日に数千個の商品を仕上げるためには、「朝の段取りが肝心だ」と小須賀さん。少し早めに出勤する習慣はいまも変わっていない。同僚たちは、小須賀さんに全幅の信頼を寄せている。 目標の先輩たちがいる喜び  私はいま、梱包事業を分社化したオークマプラス株式会社のパート従業員です。この会社で、セットアップ作業や委託梱包作業に従事するのは全員が女性パート従業員です。現在29人が一緒に働いていますが、最高齢は74歳の鳥山かつ子さん、もう一人私の上には73歳の佐々木千代さんがいます。鳥山さんは勤続23年、佐々木さんは21年とそれぞれ長く働いてこられました。66歳以上の人が私を含め6人いますが、そのうち5人が勤続20年を超えています。私が今日までがんばって働き続けてこられたのは、目標とする先輩たちの背中を追いかけてきたからです。  会社の定年は60歳、希望すれば全員が75歳まで継続雇用されます。特別な定期的面談といったものはなく、むしろ私たちの方から「そろそろ辞めた方がよいでしょうか」と社長に相談すると、「仕事していないと早くボケますよ」と引き止められます。とにかく職場の雰囲気が明るいので、一人で家にいるより、みんなと楽しく働きたいというのが本音かもしれません。もちろん、食品を扱っていますから、作業中はたいへん緊張します。とりわけ詰合せ作業では化粧箱に髪の毛一本でも落とさないためにだれもが気を引き締めています。緊張の時間と、みんなで楽しく過ごす和やかな時間があるからバランスが取れているのだと思います。  就業時間は9時30分から16時。昼休みには食堂に全員が集う。「昼休みが長いと食事の後眠くなるから45分がベスト」という説に妙に納得させられた。 いたわり合い支え合うこと  比較的年齢層の高い職場ですが、仲間のなかには30代の若い世代もいます。仲間29人の年齢はさまざまで、子育てで悩む若い人がお弁当を食べながら人生のベテランの話に耳を傾ける光景も見られます。午前中だけの勤務や午後からの出社も可能で柔軟に働くことができます。また、いまはお歳暮や来年のバレンタインのセットアップで忙しいのですが、この仕事は閑散期があり、長く休める時期もあるので、そのことを長く働ける秘訣にあげる人もいます。さらに、突発的なことが起きたときに休みやすいようにローテーションは組んでいません。だれもがさまざまな問題を抱えていますから、いたわり合い支え合うことで働きやすい雰囲気が生まれます。うちの作業は流れ作業でなく、一つひとつ作業を分けているので効率的で、その日の目標を達成するように全員が努力し、その結果得る達成感は働く喜びにつながります。  休日は人それぞれで、私は土日がお休みです。休みの日は夫や仲間たちと買い物に出かけるのが楽しみの一つです。鳥山さんは歩くことが大好きで近隣だけでなく都内まで足を延ばして散策しているので、ときどき案内してもらっています。  特別な趣味はありませんが、本を読むことは大好きです。残念ながら亡くなられましたが、瀬戸内(せとうち)寂聴(じゃくちょう)さんの大ファンです。作品はもとより、最後まで凛としていた生き方にも憧れます。私も寂聴さんのように背筋を伸ばして生きていければと思います。  生涯現役の人生もなかなか楽しいかなと思うこのごろ、明日も人よりほんの少し早く出社して、素敵な仲間たちを笑顔で迎えたいと思います。 【P42-45】 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 制度、仕組みづくり 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介  高齢社員活用施策の一環として雇用延長を行うにあたり、一般的に退職金制度の見直しは大きな課題となります。例えば60歳から65歳へ定年延長を行う場合で、退職金の計算を5年間延長すれば、退職金が大幅に増加する企業が増えるでしょう。社員にとってはメリットが大きい反面、会社側としては経営に与える影響を慎重に考える必要があります。  第5回では、定年延長のケースを中心に、定年再雇用の場合も含めて、退職金制度の見直しを行う際のポイントについて解説を行います。 第5回 退職金制度の見直しを検討しよう! 1 定年延長にともなう退職金制度の見直し方法  雇用延長にともなって人事制度(等級・評価・賃金制度)の見直しを行う際、企業によっては退職金制度の見直しが課題となります。特に、定年延長にともなって退職金の計算期間を延ばすかどうか、という点は企業側にとって非常にむずかしい問題です。  各社が採用している退職金制度の内容によっても検討すべき課題は異なります。  例えば退職一時金制度を例にとると、大半の企業では、いわゆる「最終給与比例方式」(退職金の支給額が、退職時の基本給×勤続年数に応じた支給率により決定される)が採用されています。この方式では、一般的に退職金のカーブは勤続年数が長くなるごとに上昇幅が大きくなっていきますので、仮に60歳⇒65歳への定年延長によって5年間退職金の計算期間が延長される(その間に基本給が増加し、勤続年数別の支給率が増加する)ことになると、会社の想定以上に退職金の負担が増加するおそれがあります(図表1)。  もちろん、上記はかなり一般化したモデルであり、退職金制度の詳細、設計方針は各企業によってさまざまです。仮に定年延長にともなって退職金が増加したとしても、高齢社員のモチベーションアップが見込まれるため許容するなど、積極的な投資としてとらえる企業も存在するでしょう。  とはいえ、総額人件費の上昇をできるだけ抑える工夫が必要と考える企業が大半でしょうし、退職金制度の問題がネックになって定年延長の検討が進んでいないという企業も少なくありません。  また、自社の退職金制度の運用方法として企業年金制度(ここでは、確定給付企業年金=DBおよび、企業型確定拠出年金=DCを想定)を採用している企業においては、見直しにあたって法令上の制約を受けることもあるため、より注意が必要になります。 2 定年延長にともなう退職一時金制度の見直し  まず、定年延長にともなう退職一時金制度の見直し方法についてみていきます。ここでは前提として、定年年齢を60歳から65歳に延長するケースを考えます。中心となる検討ポイントは、60歳以降の部分について退職金の増額を行うかどうかであり、基本方針としては大きく以下の三つに分けられます(図表2)。 @60歳以後も退職金を増額し、65歳時点で退職金を確定する A60歳時点で退職金を確定し、60歳以後の5年間は据え置きとする B60歳以後も退職金を増額し、65歳時点で退職金を確定するが、60歳以前の退職金カーブを改定することで、定年延長前と同じ水準を維持する  @〜Bの各方式の特徴と、それぞれがどういった企業に適しているか、ということについて簡単にみていくこととします。 @60歳以後も退職金を増額し、65歳時点で退職金を確定する  60歳以後も退職金を積み増す方法になります。定年延長にともなって、高齢社員のモチベーションアップが高い確率で見込めますが、一方で総額人件費の上昇が経営を圧迫するおそれがあるため、この方法を選択する企業は相対的に少ないと思われます。  もちろん、元々の退職金水準が低いことを課題視していた、あるいは高齢社員の戦力化を実現するための短期的な投資ととらえる企業であって、コスト増加分を賄えるだけの原資を捻出できるようであれば、この方法を選択するメリットは十分にあると考えます。  @の方法による場合、退職金の算定方式についてもさまざまな設計上の工夫が考えられます。一般的な最終給与比例方式であれば、単純に旧制度の適用期間を延長するだけだと、定年延長により勤続年数別支給率が大きく引き上がり、会社が想定している以上に退職金負担が上昇する可能性があります。60歳以後も昇給を行う場合は、さらに増加します。このような事態を避けるために、既存の給与制度を含めて退職金制度を変更し、例えば「60歳以後は昇給を行わない」、「60歳以後は勤続年数別支給率をマイナス調整する」といった見直しを行うことで、定年延長による過度な退職金の上昇を抑えることも可能です。  いわゆるポイント制退職金制度(退職金の支給額が、勤続年数、等級、役職等の要素について一定期間ごとに社員に付与されたポイントの累計により決定される)の場合は、最終給与比例方式よりも柔軟な設計がしやすい側面があります。勤続年数や等級、役職など、どういった要素をポイントとして設定しているかにもよりますが、「60歳以後は勤続ポイントを付与しない」、「60歳以後は等級ポイントを70%水準にする」といった方法により、退職金の上昇幅をコントロールすることも可能です。 A60歳時点で退職金を確定し、60歳以後の5年間は据え置きとする  定年延長を行う前と同じ退職金水準を維持する方法です。残り5年間分の退職金の増加を抑制できるため、この方法を選択する企業は多いと思われます。一方で、社員側としては定年延長により退職金が増加することを当然期待するところですので、その点が高齢社員のモチベーションダウンにつながらないよう、説明方法には工夫が必要です(例えば、定年延長にともなって退職金自体は増加しないが、給与水準が増加するため生涯賃金ベースではアップするなど)。 B60歳以後も退職金を増額し、65歳時点で退職金を確定するが、一方で60歳以前の退職金カーブを改定することで、定年延長前と同じ水準を維持する  60歳以後も退職金を増額しますが、60歳以前の退職金カーブを緩やかにすることにより、定年延長後の65歳時点の退職金を定年延長前と同水準にする方法です。会社としては退職金負担の上昇を抑えることができますが、そもそもベースとなる退職金制度を大幅に見直すことになるため制度設計に多くの時間を要することや、制度導入時に一時的に退職金が減額になる社員(退職金カーブを寝かせるため、60歳時点の退職金水準は旧制度時より下がる)に対する経過措置の設定など、慎重な検討が必要な事項も多くなります。定年延長にともなって全社的な人事制度を一から見直す(退職金だけでなく給与カーブも見直す)予定があり、かつ制度設計に十分な期間を設けられる、といった企業であれば選択肢に入ってくるでしょうが、限定的であり、この方法を選択する企業は少ないでしょう。 3 定年後再雇用制度で活用できる第2退職金制度  ここまで見てきた定年延長の場合とは異なり、一般的な定年後再雇用制度(高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度)を採用している企業においても退職金制度の工夫を行っている例があります。  60歳定年の企業が定年後再雇用制度を採用している場合、厳密には60歳時点で一度退職となり、退職金も確定して支払いがスタートするため、65歳までの再雇用期間については別途退職金が増加することはありません。その点では、会社側は定年延長のケースのように退職金負担の上昇を心配する必要はありませんが、再雇用期間に関しては別途退職金制度を設けていないケースがほとんどであるため、高齢社員の再雇用期間に対する勤続モチベーションにつながっていないという見方もできます。  そこで、定年再雇用期間だけに適用される別枠の退職金制度が活用されることがあり、「第2退職金制度」などと呼ばれています。例えば図表3のような運用方法があります。  メインの退職金制度とは異なり柔軟な制度設計が可能であるため、会社側にとっては運用が行いやすい制度であるといえます。退職金の水準としても、それほど高い水準を設定する必要は必ずしもありません。  高齢社員側としても、再雇用期間に関しての人事評価がダイレクトに影響するため、再雇用期間中の評価を高めること、また再雇用期間を満了することへのモチベーションにつながる仕組みです。 4 自社における高齢社員活用方針を明確にしておくことが重要  以上、簡単ではありますが、雇用延長にともなう退職金制度の見直し方法について解説を行いました。  各社での実際の取組みにおいては、制度設計の技術的なノウハウはもちろんですが、ともすると技術論が先行してしまい、自社における高齢社員活用の方針が置き去りにされてしまう懸念もあります。  例えば定年延長を考える企業の大半は、給与水準の引き上げは行ったとしても、退職金まで引き上げる余裕のある企業は少ないのではないでしょうか。そのため、今回紹介したパターンのなかでは、60歳時点で退職金の計算は据え置きにする方法が多く選択されるものと思われます。  もちろんその方法自体は現実的な選択肢であると考えますが、あくまで自社における短期〜中長期の高齢社員活用の方針に沿った決断が求められます(高齢社員活用方針の検討方法については、2022年8月号〈本連載第1回〉を参照※)。  高齢社員のモチベーションアップを少しでも実現するために、少額でも60歳以後の退職金の積み増しを戦略的に行う企業があってもよいでしょう。さまざまなプランを検討の土台に上げて最適な方法を模索していくことが大切ですが、常に「自社における高齢社員活用の方針に立ち返る」という姿勢は崩さないようにすることが肝要です。 ※ 本連載の第1回は当機構ホームページからもご覧いただけます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202208.htm 図表1 定年延長にともなう退職一時金の増加イメージ(最終給与比例方式) 旧制度(60歳定年) 年齢 基本給 勤続年数 支給率 退職金額 55 380,000 30 19.0 7,220,000 56 385,000 31 20.5 7,892,500 57 390,000 32 22.0 8,580,000 58 395,000 33 23.5 9,282,500 59 400,000 34 25.0 10,000,000 60 405,000 35 26.5 10,732,500 61 − − − − 62 − − − − 63 − − − − 64 − − − − 65 − − − − 新制度(65歳定年) 年齢 基本給 勤続年数 支給率 退職金額 55 380,000 30 19.0 7,220,000 56 385,000 31 20.5 7,892,500 57 390,000 32 22.0 8,580,000 58 395,000 33 23.5 9,282,500 59 400,000 34 25.0 10,000,000 60 405,000 35 26.5 10,732,500 61 408,000 36 28.0 11,424,000 62 411,000 37 29.5 12,124,500 63 414,000 38 31.0 12,834,000 64 417,000 39 32.5 13,552,500 65 420,000 40 34.0 14,280,000 ※新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表2 定年延長にともなう退職一時金制度の見直し方針 1 入社 60歳 65歳 現行制度水準 2 入社 60歳 65歳 現行制度水準 据置 3 入社 60歳 65歳 現行制度水準 ※新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表3 第2退職金制度事例の概要 制度概要 ・ポイント積み上げ方式の退職金制度 ・再雇用期間中、契約更新時にポイントを算出し、退職時まで積み上げる ・ポイント単価:1万円 ・ポイント表:下記参照 ・計算式:ポイント(再雇用後の勤続年数分)×1万円 計算式 ・累計ポイント(再雇用期間の勤続年数分)×ポイント単価 計算例 ・再雇用期間(5年間)の評価ランクが「B、A、B、S、B」の場合 10p+15p+10p+20p+10p=65p ・再雇用期間(5年間)の第2退職金合計:65p×1万円=65万円 <ポイント表> 評価ランク S A B C D ポイント 20 15 10 5 0 ※新経営サービス人事戦略研究所作成資料 【P46-49】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第55回 自動車通勤の年齢制限、飲食方法に起因した懲戒処分の可否 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 自動車通勤に年齢制限を設けることはできるのでしょうか  当社では通勤の負担を減らすため、在宅勤務もしくは自動車による通勤を認めています。「自宅のネットワーク環境が在宅勤務に適さない」という理由で、65歳のある社員から自動車通勤の申出がありました。自動車通勤に一定年齢の制限を設けることはできるのでしょうか。高齢者を含む自動車通勤を許可するために必要な管理があれば、教えてください。 A  年齢により一律に通勤方法を制限することは、不合理な労働条件の変更または差別的取扱いとして許されません。個別の状況をふまえて、就労継続が可能な環境を整えることを前提に、自動車通勤による危険性と比較考量したうえで個別に許可しない方法をとることは可能と考えられます。 1 自動車通勤の制限  通勤は、労働者による労務提供の前提となる義務であり、その方法は原則として自由です。ただし、通勤手段を就業規則において定めておく場合、その内容が合理的な内容であれば、労働契約の内容となり、労働者にはそれにしたがって通勤する義務が生じます。例えば、公共交通機関を用いるように規定している場合には、それにしたがう義務があると考えられます。  今回のケースでは、ネットワーク環境が在宅勤務に適さないことを理由に、65歳の社員が自動車通勤を希望したとのことです。就業規則において、自動車通勤を認めており、これを許可するための条件について特段の制限を設けていなければ、これを許容しないということは許されないと考えられます。  ネットワーク環境が適さない状態にあるということは、会社は在宅勤務用に自宅のネットワーク環境を整備しておらず、社員が自宅に用意しているネットワーク環境を利用させていると思われます。ネットワーク環境の改善を求めることは、私的な契約関係や費用を当該社員に負担させることにつながります。たとえ、労働契約関係があるといえども、このような私的な契約関係まで変更することを求めることはできないでしょう。ネットワーク環境が不適切なままであれば、作業効率が低下し、Web会議などへの参加も困難またはスムーズなやり取りができないなどの支障が生じ、そのことが自身の人事評価に直結するおそれもある以上、ネットワーク環境が整わないまま、自動車通勤ではなく、在宅勤務を行うように命じることもできないと考えられます。  したがって、就業規則において自動車通勤を認めながら特段の制限も行っていないときは、当該社員のみ自動車通勤を拒み、労務提供の方法を在宅勤務に制限することはできないと考えられます。 2 高齢者などの自動車通勤の一律制限  一定の年齢を基準として、自動車通勤を行わせることを一律に制限することは可能でしょうか。  高齢ドライバーによる交通事故が報道される機会もあり、運転免許証の返納などの話題も広く知られるようになってきました。事故の程度が大きければ、在籍している会社も報道の対象となる可能性があります。運転免許証の返納制度を利用しているのがほとんど高齢者であることからもわかるように、加齢とともに動体視力や判断力が低下することにより、自動車事故の発生確率が上昇する関係にある以上、年齢による制限の必要性自体は肯定できそうです。  しかしながら、このことによって受ける不利益の程度が大きければ、就業規則において自動車通勤の年齢制限を設ける変更は、就業規則の不利益変更として無効になる可能性があります。  高齢者に一律の自動車通勤制限を設けることは、労働者にどのような不利益を生じさせることになるでしょうか。  例えば、公共交通機関による通勤が困難な場所に会社が所在している場合は、事実上、在宅勤務以外に選択肢がなくなるおそれがあります。在宅勤務に適した環境ではない高齢者にとっては、労務提供自体が困難になる可能性があります。  また、自動車運転の能力が一定年齢で一律に喪失すると考えられているわけではありません。免許の返納制度を見ても、人それぞれのタイミングで返納を自主的に判断するものとされ、一定年齢に到達した際の義務とはされていません。  そのため、一定の年齢のみを基準として、一律に自動車通勤を禁止することは、その不利益の程度が大きく、就業規則の変更に合理性が肯定されず、そのような変更は無効になる可能性が高いと考えます。 3 高齢者による自動車通勤に対する安全管理  高齢者による自動車事故のおそれを根拠とした自動車通勤の制限の必要性自体は肯定できるものの、年齢による一律の制限は不利益の程度が大きいと考えられます。高齢者による自動車通勤のリスクもふまえた安全管理については、許可の条件を工夫する必要があると考えられます。  抽象的な高齢者による自動車事故の危険性を根拠とする一律の年齢制限ではなく、具体的な自動車事故の危険性まで把握したうえで、個別に自動車通勤を制限することは可能と考えられます。  例えば、年齢ではなく、持病の治療などのために服用している薬とその副作用の内容などを把握して、副作用による危険運転のリスクがないことを許可の要件とする方法があります。また、高齢者となってから交通事故を起こしている場合や、視力や動体視力などの運転のために必要な基礎的な能力をテストしたうえで一定の基準に満たない場合など、自動車事故の危険性を具体的に根拠づける事情に基づいて許可要件を定めるといった方法も考えられます。これらの事情に該当する労働者(高齢者にかぎらず、雇用形態の相違も問うべきではありません)については、個別に自動車通勤の許可を出さないという制限を行うことは、年齢による一律の制限ではなく、具体的な危険性を基にしたものとして有効となる可能性があると考えられます。  ただし、自動車事故歴や薬の服用歴は、個人情報(薬の服用歴は要配慮個人情報)に該当するため、社員に対して業務上の必要性を説明して、利用目的を通知したうえで(薬の服用歴は本人の同意を得て)取得して、利用することが適切です。 Q2 飲食でデスク周りを汚してしまう社員に困っています  当社では社内での飲食を特に禁止していないのですが、ある社員の食べ方が汚く、ゴミや食べかすが常にデスク周りに散乱してしまっています。  当該社員に対してのみ、業務命令として飲食を禁止することは可能でしょうか。また、命令に従わない場合の懲戒処分は可能でしょうか。 A  当該社員の飲食により執務環境が害されることを根拠として、企業秩序の維持および施設管理権の行使として、業務命令および当該命令に違反に対する懲戒処分を行うことは可能と考えられます。  また、当該社員のみを対象とすることについては、ほかの社員との公平性の観点から問題となりえますが、デスク周りの汚損の状況をふまえたうえで、汚損などの状況が顕著であれば、企業秩序の維持および施設管理の観点から合理性があると認められ、懲戒権の濫用とはならないと考えられます。 1 業務命令および懲戒権の根拠について  業務命令および懲戒権を実行するためには、労働契約および就業規則に根拠を求めることが一般的です。しかしながら、「社内における飲食を禁止する」といった個別具体的な禁止規定を服務規律に定めていない場合も多いのではないでしょうか。  それでは、個別具体的な禁止規定がなければ、業務命令や懲戒権の行使はまったくできないのでしょうか。例えば、厚生労働省のモデル就業規則には「その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと」などの抽象的な服務規律規定が定められていますが、このような規定を根拠として、今回のような行為を業務命令や懲戒権行使の対象とすることはできないのでしょうか。  これまでの最高裁判例においても、服務規律や企業秩序の維持、会社に帰属する施設管理の権限が懲戒権の根拠となることを複数の事件で肯定しています。  例えば、「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して企業秩序遵守義務その他の義務を負う」と判示し、労働契約の付随義務としての企業秩序遵守義務を肯定している事件(最高裁昭和52年12月13日判決。富士重工業事件)や、企業の施設管理に関して「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的な規則をもって定め、又は具体的に指示、命令すること」ができ、これに違反する者がある場合には制裁として懲戒処分を行うことができる旨を判示している事件(最高裁昭和54年10月30日判決。国鉄札幌運転区事件)もあります。  したがって、これらの判例における判断を前提にすると、労働契約や就業規則に個別具体的に明記された規定がない場合であっても、企業秩序の維持や企業の施設管理に必要な範囲において、業務命令や当該命令への違反に対する懲戒権の行使が可能であると考えられます。  なお、これらの判例について、個別具体的な根拠なく業務命令や懲戒権行使の対象とされることから労働者の予測可能性を失わせ、労働者の行動を萎縮させることになるとして、批判的な見解もあります。  しかしながら、あらゆる状況を個別具体的に想定して規定しておくことが現実的には困難であることからすれば、就業規則において、少なくとも「その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと」といった抽象的であるとはいえ、企業秩序の維持が労働者の義務として設定されているのであれば、業務命令や懲戒処分の対象とすることは可能と考えられます。 2 業務命令や懲戒権の限界について  企業秩序の維持や施設管理を根拠として、業務命令および懲戒処分が可能であるとしても、どのような場合においても業務命令および懲戒処分ができることにはなりません。  まず、業務命令について、企業秩序の維持との関連性や施設管理の必要性がなければならないと考えられます。次に、懲戒処分に関しては、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。したがって、懲戒権を行使する場合においては、「客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性」が備わっていなければならず、特に社会通念上の相当性との関係から、ほかの労働者との公平性が確保されていなければならないと考えられています。  当該社員のみを対象とすることは、公平性の確保の観点から問題になります。そのほか、懲戒手続に至るまでに本人の弁明の機会を与えるべきといった手続的な相当性や懲戒処分により生じる不利益の程度と違反事由の重大性のバランスなどが考慮されて、懲戒処分の有効性が判断されることになります。 3 対処方法について  一般的に社内における飲食を禁止しているわけではない状況で、当該社員のみを業務命令の対象としたうえで、是正されない場合に懲戒処分ができるでしょうか。  重要であるのは、企業秩序維持および施設管理との関連性およびその具体的な必要性が肯定できるか、また、客観的な根拠をもってこれらを証明することが可能であるかといった点にあります。  社内における飲食を禁止していないのであれば、これが当然に企業秩序維持に支障をきたすとは考えられません。ただし、社内で飲食したことによって当該飲食を原因として施設や設備で汚損が生じ、通常以上に清掃する時間を要した、汚損によってほかの労働者の業務に支障が生じたといった事情があれば、企業秩序維持および施設管理との関連性および業務命令の必要性が認められそうです。  また、施設や設備が汚損していたときは、懲戒処分の根拠とするのであれば、数日分の状況を写真撮影しておき客観的に証拠を確保しておくべきでしょう。その程度がほかの従業員との相違が明白であることも示すことが適切です。  このような状況が客観的に確認できれば、業務命令により是正する必要性が肯定されると考えられますので、業務命令を行ったうえで、当該命令違反に対する懲戒処分も有効に行うことが可能であると考えられます。  ただし、懲戒処分の種類については、違反による損害が甚大であるとまではいえないかぎりは、戒告などの軽微な懲戒処分にとどめる必要があると考えられます。 【P50-51】 新連載 活き活き働くための高齢者の健康ライフ Healthy Life for the elderly  70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、時代はまさに「生涯現役時代」を迎えようとしています。高齢者に元気に働き続けてもらうためには、何より「健康」が欠かせません。  働く高齢者の「健康」について、坂根直樹先生が解説します。 独立行政法人国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室室長 坂根直樹 第1回 あなたはポックリ型? それともジックリ型? ポックリ型とジックリ型  若いころは夏はサマースポーツ、冬はウィンタースポーツを楽しんで元気だった人も、仕事を始めてから定期的に運動することもなくなり、30歳を過ぎたころにはお腹が出てきて、40代になると高脂血症や糖尿病を指摘される。やがて血圧など心血管疾患の危険因子も少しずつ高くなり、身体のなかで動脈硬化が進み、定年後に心筋梗塞や脳梗塞などを発症し、その結果介護が必要となる人がいます(図表1)。  外来で患者さんの話をきいていると、「特に長生きはしたくない。ポックリと逝きたい」といわれる方が増えてきたような気がします。しかし、「普段の生活はどうか」とたずねてみると、ポックリではなく、だれかのお世話になるジックリ型の不健康な生活を送っている人も多いような気がします。  健康で、より長く働き続けるためにも、元気でいられる寿命である「健康寿命」を延ばすにはどうしたらよいのでしょうか。  そこで、「あなたはポックリ型? それともジックリ型?」と題して、健康寿命の基礎知識と健康寿命にかかわる生活習慣について解説していきます。 平均寿命、平均余命と健康寿命  平均寿命とは、「生まれたばかりの0歳の赤ちゃんが、あと何年生きることができるか」ということです。最新のデータ(厚生労働省「令和3年簡易生命表」)では、男性の平均寿命は81.47歳、女性は87.57歳になります(図表2)。60歳の人がその数値をみて、「81歳まで生きるのが平均」と考えるのは間違いです。60歳の平均余命をみてみましょう。60歳まで生きた男性の平均余命はあと24.02歳、女性は29.28歳になります。あたり前のことですが、長く生きれば生きるほど、寿命は長くなります。しかし、元気でいるとはかぎりません。だれかのお世話にならずに、自立して生活できるのが健康寿命なのです。これには個人差が大きいことが知られています。2019(令和元)年のデータをみると、男性の平均寿命は81.41歳、健康寿命は72.68歳。それに対して、女性の平均寿命は87.45歳、健康寿命は75.38歳。それから計算すると、男性は8.73年、女性は12.07年の間、だれかのお世話になっていることになります(図表3)。 健康寿命を延ばす健康習慣  それでは、元気度や寿命と関連する健康習慣とは何でしょうか。有名なのは「ブレスローの7つの健康習慣」です。これは1980年にアメリカのブレスロー博士がカリフォルニア州のアラメダ郡に住む約7000人を対象に生活習慣と死亡率の関係を調べた研究結果から得られています。その7つの生活習慣とは、@禁煙、A定期的な運動、B節酒または禁酒、C1日7-8時間の睡眠、D適正体重を維持、E朝食を摂る、F間食をしない、です。例えば、45歳の男性では6つ以上健康的な生活習慣をしている人の平均余命は33年だったの対して、3つ以下の人の場合の平均余命は22年と11年の開きがありました。  日本でも貝原益軒(かいばらえきけん)※は『養生訓』のなかで「腹八分目」など身体の養生だけでなく、精神の養生や居住環境などについても説いています。逆に、不健康な健康習慣と寿命について、ブラックジョーク的なものもあります。1974(昭和49)年に当時ハーバード大学の栄養学教授だったジーン・メイヤーがフロリダの新聞で発表したのが「あなたの夫を早死にさせる10か条」です(図表4)。  読者のみなさんは健康的な生活習慣をいくつしていますか? 【参考文献】 1.Breslow L, Enstrom JE. Persistence of health habits and their relationship to mortality. Prev Med. 1980;9(4):469-83. 2.坂根直樹.まるごとわかる生活習慣病、南山堂、2018 ※ 江戸時代の本草学者、儒学者 図表1 延命ではなく、健康寿命を延ばそう! 元気度 20代入社 30代結婚 肥満 運動不足 喫煙 飲酒 ストレス 40代働き盛り 50代管理職 メタボ 高血糖 高血圧 脂質異常 60代定年 70代 セカンドライフ 脳卒中 心筋梗塞 骨折 80代 90代 要介護 寝たきり 認知症 健康寿命 寿命 ※筆者作成 図表2 主な年齢の平均余命 男性 女性 0歳 81.47歳 87.57歳 40歳 42.40歳 48.24歳 50歳 32.93歳 38.61歳 60歳 24.02歳 29.28歳 70歳 15.96歳 20.31歳 80歳 9.22歳 12.12歳 90歳 4.38歳 5.74歳 厚生労働省「令和3年簡易生命表」より 図表3 平均寿命と健康寿命の関係(令和元年データ) 男性 72.68歳 81.41歳 8.73年 女性 75.38歳 87.45歳 12.07年 ※筆者作成 図表4 あなたの夫を早死にさせる10か条 1.夫を太らせなさい。 2.夫を座りっぱなしにしておきなさい。 3.夫に飽和脂肪酸をたくさん与えなさい。 4.塩分の濃い食事に慣れさせなさい。 5.コーヒーをがぶ飲みさせなさい。 6.アルコールをうんと飲ませなさい。 7.タバコを勧めなさい。 8.リラックスさせないようにしなさい。 9.夜遅くまで起こしていなさい。 10.終始がみがみいいなさい。 (Ten Quick Ways to Kill Your Husband) 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第30回 「終身雇用」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。 終身雇用は制度でなく慣行≠ナある  今回は終身雇用について取り上げます。  通常は読んで字のごとくの用語が多いですが、終身雇用については注意が必要です。終身とは本来「命を終えるまでの間」(デジタル大辞林)をさしますが、多くの企業では定年退職などにより一定年齢で雇用関係を終了させ、従業員が生涯にわたり雇用され続けることは一般的ではありません。また、終身雇用は制度≠ニして表現されることがありますが、法律上も会社の就業規則上も生涯にわたり雇用を保証するルールを設けることはありません。終身≠熈制度≠熨蛯ーさな表現で、終身雇用とは「同一企業での長期的な雇用慣行=vというのが本来意図することに近い表現といえます。  終身雇用という用語ですが、ジェームズ・アベグレンという経営学者が『日本の経営(邦訳)』のなかで「日本の経営の大きな特徴の一つとしてlife-time commitment(終身雇用)がある」と指摘したことが由来といわれています。本書ではこのほかに日本の経営の特徴として「企業内労働組合(本連載2022〈令和4〉年9月号掲載)※」と「年功序列(次回解説予定)」をあげており、これら三つの特徴はまとめて日本的経営の三種の神器と呼ばれています。 終身雇用の歴史は長くない  終身雇用の慣行の成り立ちについては諸説ありますが、太平洋戦争前後が起点になるといわれています。かつては工場の労働者を中心に賃金の高い企業に移動するなど比較的転職が多い労働環境にありました。しかし、1938(昭和13)年に戦争遂行のため国内すべての人的資源・物的資源を国家が管理・統制できる国家総動員法の成立を皮切りに、軍需産業に従事する労働者の転職が制限され、1940年には「従業者移動防止令」により労働者の転職が制限されることとなります。その一方で、労働者の意欲向上に向け、昇給や退職金、福利厚生などの充実が図られていきます。終戦後、移動の制限はなくなりますが、主に三つの要因により雇用の長期化が進んでいくことになります。  一つ目は、戦後復興期(1945年ごろ〜)労働力の供給過剰により大量解雇が発生したことに対して労働組合が雇用の安定を求めたことです。二つ目は、高度経済成長期(1955年ごろ〜)の労働力の需要ひっ迫により、社員を長期的に雇用し業務遂行能力を高め、ジョブローテーションによりさまざまな仕事を覚えさせることで、人手が不足している部分を補おうとしたことです。三つ目は、オイルショック(1973年ごろ〜)の経済悪化による大量解雇に対して、法律では解雇は認められるものの実質的には企業の解雇権を規制する解雇権濫用法理が確立していったことにあります。労働力の供給過剰・需要ひっ迫という反対の事象を経ながらも長期雇用の慣行が成立してきたところが少々興味深い点でもあります。 全労働者が終身雇用に当てはまるわけではない  とはいえ、実際には転職経験者がいるなかで終身雇用はどこまで本当なのかという素朴な疑問が出てくるかと思います。これについては『我が国の構造問題・雇用慣行等について』(2018〈平成30〉年厚生労働省職業安定局)という資料に「生え抜き社員割合の推移」というグラフがあり実態が把握できます。若年期に入社してそのまま同一企業に勤め続ける者を生え抜き社員としていますが、その割合は2016年には大卒正社員5割、高卒正社員3割程度となっています。産業別に見ると金融業・保険業が8割近くであるのに対して、医療・福祉と宿泊・飲食業は4割程度と大きな開きがあります。  また、終身雇用は日本経営の特徴といわれていることについて先述しましたが、国際比較のデータを見ると違った側面も見えてきます。『データブック国際労働比較2022』(独立行政法人労働政策研究・研修機構)の勤続年数別雇用者割合を参照すると、勤続年数10年以上の雇用者割合は日本が45.7%の一方で、イタリア50.9%・フランス44.5%・スペイン44.0%・ドイツ40.6%という数値が並んでいます。28.0%のアメリカと比較すると長期雇用の傾向が日本は強いといえますが、大陸ヨーロッパ諸国と比較すると必ずしも長期雇用は日本にかぎった特徴とまではいえなさそうです。 終身雇用の今後は不透明  終身雇用対象者の実態は半数程度としても、終身雇用への問題提起は近年多くなされています。  例えば、2019年5月、一般社団法人日本経済団体連合会の中西(なかにし)宏明(ひろあき)会長(当時)は定例記者会見で「働き手の就労期間の延長が見込まれるなかで、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えるには限界がきている」と述べ、同月にはトヨタ自動車株式会社の豊田(とよだ)章男(あきお)社長が日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、終身雇用を守るのはむずかしい局面に入ってきた」と述べて話題になりました。  また、官の側からも、終身雇用からの脱却を目ざす提言がなされています。経済産業省が産業構造の転換を見据えた人材政策についてまとめた『未来人材ビジョン』(2022年5月)では、長期雇用について、右肩上がりの経済成長のもとでの長期的な視点の人材育成・組織の一体感の醸成・企業特殊能力の蓄積への寄与はあったものの、今後は就業期間の長期化や経済成長におけるイノベーションの重要性等の観点から、働き手と組織の関係を「選び、選ばれる」関係へと変化させ、新卒一括採用だけではない多様な複線化された採用の入り口を増やしていく方向へ転換する重要性が述べられています。  しかし、労働者側の意識は異なると想定されます。パーソル総合研究所が実施した「働く10000人の就業・成長定点調査2022」では、転職意向について、2022年時点で20―24歳の回答がもっとも多く44%、もっとも少ないのが40代で21%、2017年からの毎年の推移を見ても30代が右肩上がり(2017年29%、2022年35%)の傾向がある以外は、特筆すべき傾向はない状態です。 * * * *  次回は、「年功序列」について解説します。 ※ 本連載の過去の記事は当機構ホームページでご覧いただけます。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202209.html 【P54-55】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組の普及・促進を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。多数のご応募をお待ちしています。 T 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業等が行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度  (特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度、人事評価制度の見直し C多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 D各制度の運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化 A高年齢者による技術・技能継承の仕組み B高年齢者が活躍できるような支援の仕組み(IT化へのフォロー、危険業務等からの業務転換) C高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D新職場の創設・職務の開発 E中高年齢者を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施(キャリアアップセミナーの開催) 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善  (高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※1 「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じて当機構から追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、当機構の各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、当機構のホームページ(※3)からも入手できます。 ハ.応募書類等は返却いたしません。 2.応募締切日 令和5年2月28日(火)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ提出してください。 ※2 連絡先は本誌65ページをご参照ください ※3 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)令和2年4月1日〜令和4年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120 第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和4年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和4年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和4年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入(※4)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※4 平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします W 賞(※5) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞  2編 特別賞  3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※5 上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 Y 審査結果発表等  令和5年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権等  提出された応募書類の内容に係る著作権および使用権は、厚生労働省及び当機構に帰属することとします。 [ 問合せ先 ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.go.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課  連絡先は65頁をご参照ください。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください! 「70歳雇用事例サイト」 当機構が収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(エルダー掲載記事)」、「雇用事例集」で紹介された事例を検索できます。今後も、当機構が提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 70歳雇用事例サイト 検索 【P56-57】 BOOKS 基本的な知識とそのしくみをわかりやすく解説した入門書 図解でわかる 労働法の基本としくみ 佐藤広一・太田麻衣 著/アニモ出版/1980円  「労働法」は、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法、職業安定法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、高年齢者雇用安定法など、「働く・働かせる」ための決まりやルールなどを定めた法律の総称で、労務トラブルを未然に防ぐためにも、使用者、労働者の双方が知っておかなければならない知識といえる。  しかし、漢字ばかりが並んでいて読みづらい印象があるうえ、わかりにくい表現も少なくない。本書は、それらを解きほぐし、平易な言葉と図やイラストを多用しながら説明し、理解へと導く入門書である。  本書は、労働者の募集・採用のこと、労働契約のこと、賃金支払い5原則、休日・休暇の決め方、退職をめぐる手続きのことなど、一つの項目につき見開き2ページで解説がまとめられているので、知りたいこと、興味のある項目から読み進めていくことができる。最後の13章には、発生しやすい労務トラブルとその解決方法についての解説が掲載されている。  新たに配属された人事労務担当者、部下を持つことになった新任の管理職やマネージャー、新入社員、これから社会に出ようとする学生などにおすすめしたい。 改正高齢法に沿ったさまざまな雇用スタイルとその進め方などを提示 Q&A 70歳までの就業確保制度の実務 テレワーク、フリーランス等の多様な働き方で対応 布施直春 著/中央経済社/2970円  改正高年齢者雇用安定法の施行により、2021(令和3)年4月から70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となった。就業意欲の高い高齢者を戦力化していくことは、いまや多くの企業にとって重要な経営課題といえる。  本書は、企業として遵守すべき改正法の基本的な内容から説き起こし、対応する取組みとして、さまざまな70歳までの就業確保措置の導入の仕方や、就業規則、改正法で新設された創業支援等措置と社会貢献事業の実施方法などについてQ&A方式で説明する。  第2章では、創業支援等措置(企業から高年齢者への業務委託など)をテーマに、元社員が個人事業者として働くことのメリット・デメリットや、委託・注文者(企業)と就業者(個人事業者)に適用される法律、企業の個人事業者への委託の進め方などを詳説している。  また、第5章では、高齢者の労務管理のポイントとして職業能力についての考え方や、高齢者を含む要員計画の作成手順なども説き、法令遵守と経営の視点に加え、高齢者が自分の特性に合った働き方が実現できるよう、多様な雇用スタイルとその考え方も示している。人事労務担当者の手引きとなる一冊といえるだろう。 実例をもとにしたストーリーから安全マネジメントが自然と学べる ストーリーで学ぶ安全マネジメント ある安全担当者の苦悩と成長 榎本敬二 著/海文堂出版/1650円  社内で安全管理業務を担当しながら、長年にわたり業界の垣根を越えた安全活動に尽力している著者は、多様な産業からメンバーが集まる異業種交流安全研究会の幹事として、専門家と現場をつなぐ活動をしている。  異業種交流安全研究会では、事故を防止するための技術について実例を交えて伝える書籍などを著しており、本書はそれらに続くものだが、「ひとつの物語を読むことで、安全マネジメントを身近に感じてもらえたら」という著者の思いをかたちにしたストーリー仕立てになっている。  主人公は、発電所に勤務する安田専一。運転課で技術を磨いてきたが、ある日、安全推進課に異動となる。いったい何からどう始めたらよいのか、苦悩の日々が始まる…。  安全マネジメント、レジリエンスエンジニアリング、セーフティU、コミュニケーションとチームなど、さまざまな産業における取組みや発生したトラブルからヒントを得て、そこからの学びと著者自身の経験も盛り込まれ、安全担当者・安田専一の成長ストーリーとして描かれている。安田に共感し、出来事を身近に感じながら、実務の基礎が理解できる。安全管理にたずさわる人々にとって大いに役立つことだろう。 加齢などにともなう運転技能の低下を補う運転方法がよくわかる一冊 高齢ドライバーの意識革命 安全ゆとり運転で事故防止 松浦常夫 著/福村出版/2640円  高齢ドライバーによる交通事故のニュースが目立つなか、運転免許を自主返納する高齢者が増えている。一方で、交通空白地域をはじめとして、生活のためには車の運転が必要という高齢者も少なくない。  そうした状況に対応して、都道府県警察などが高齢ドライバーにすすめている「補償運転」をご存じだろうか。加齢により心身の機能が低下して、運転技能が衰えるのを補償するような、より安全な運転方法のことだが、「補償」という表現がわかりにくいとされ、本書の著者は「安全ゆとり運転」と呼んでいる。  本書は、長年、警察庁科学警察研究所で交通安全の研究に励み、日本交通心理学会会長を務めた著者が、高齢者が安全運転を続けるための方策として、「安全ゆとり運転」の理論的背景と具体的な運転方法を説く。夜間や雨の日の運転を控える、以前よりスピードを出さない、安全に走行するルートを選ぶ、安全運転をサポートする車を運転するなど、安全ゆとり運転の20項目について、その必要性と実行するための工夫などをわかりやすく解説し、アドバイスする。運転業務に就く高齢者や車通勤の高齢社員が多い事業所の管理監督者に一読をおすすめしたい。 最後まで人生を楽しむための運動や認知症予防、食事方法を伝授 70歳すぎても歩ける体になる! 15万人診た高齢者医療の名医が教える 安保(あぼ)雅博・中山恭秀 著/大和書房/880円  要支援、要介護になる主な要因として、「骨折、脳卒中、認知症」があげられている。本書は、これらを予防するための、無理なく気軽にできる運動や、脳の認知機能のアップ、血管と血流をケアする食事の心がけなどを伝授する。  脳卒中には発症させやすい危険因子があり、それは修正できない危険因子と修正できる危険因子に分けられ、後者には高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病、心疾患、肥満、頸動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさく)、喫煙、運動不足、過度の飲酒などがあるという。修正できない危険因子はいかんともしがたいものだが、修正できる危険因子はコントロールしていきたい。有効な方法は運動で、脇汗をかく程度のウォーキングなどがよいそうだ。それにより、血流がよくなり、筋力もつき、運動量を増やせば持久力もつく。  健康のためには「1日1万歩」とよく聞くが、後の研究などにより、たとえば2000歩で寝たきりを、7000歩でがん、動脈硬化、骨折などを予防できるといわれているそうだ。歩くことは、認知症予防にも効果的だという。  こうした情報が満載で、「(それらを始めるのは)早いに越したことはなく、50代になったら開始したいところ」とは著者の言。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 2021年「雇用動向調査」結果厚生労働省  厚生労働省は、2021(令和3)年「雇用動向調査」結果を公表した。調査は、全国の主要産業における産業別などの入職者数・離職者数、入職者・離職者の性・年齢階級別、離職理由別などにみた状況を明らかにすることを目的に、上半期と下半期の年2回実施している。今回の調査結果は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所から1万5200事業所を抽出して行い、9030事業所(上半期)と8922事業所(下半期)から有効回答を得て、2回の調査結果を合算して年計としてまとめた。回答を得た事業所の入職者5万4693人(上半期と下半期の計)、離職者6万9937人(同)についても集計している。  調査結果によると、2021年1年間の入職者数は約720万人(前年約710万人)、離職者数は約717万人(同約727万人)となっている。  これを率でみると、入職率は14.0%で前年(13.9%)と比べ0.1ポイント上昇、離職率は13.9%で前年(14.2%)と比べ0.3ポイントの低下となった。その結果、入職超過率は0.1ポイントと入職超過となった。  入職率を性・年齢階級別にみると、男女ともに入職率は24歳以下がほかの年齢階級に比べて高くなっている。入職率と離職率の大小関係をみると、男女ともに24歳以下は入職率のほうが高く、25〜29歳から55〜59歳までの各年齢階級でおおむね同率、60歳以上で離職率のほうが高くなっている。 厚生労働省 「令和4年版厚生労働白書」  厚生労働省は、「令和4年版厚生労働白書」(令和3年度厚生労働行政年次報告)を公表した。  白書は2部構成で、その年ごとのテーマを設定している第1部では「社会保障を支える人材の確保」と題し、現役世代の人材不足の加速化と、今後必要となる医療・福祉分野の就業者数の見通し、人材についてのこれまでの取組み成果などを整理し、医療・福祉サービスの提供のあり方や、人材確保に関する今後の方向性などを提示している。にない手不足の克服に向けて、特に、介護や保育などの現場では、アクティブシニアや子育て経験者の活躍が期待されているとし、働く意欲のある高齢者が活躍できる環境の整備を重要視。具体的な取組みとして、地域のさまざまな機関が連携して高齢者の就業を促進する「生涯現役地域づくり環境整備事業」を2022(令和4)年度から実施していることや、全国約1300のシルバー人材センターでは地域社会や会員の希望に合った職域開拓に努めており、その一例として、会員の働きやすい環境をセンターがサポートしている酒田市シルバー人材センターの取組みを紹介している。  第2部は、「現下の政策課題への対応」と題し、雇用、年金、医療・介護など、厚生労働行政の各分野について、最近の施策の動きをまとめている。  白書は、厚生労働省のウェブサイト「統計情報・白書」のページからダウンロードできるほか、全国の政府刊行物センターなどで購入できる。 https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/index.html 厚生労働省 2022年度「地域雇用活性化推進事業」の採択地域、10地域を決定  厚生労働省は、「地域雇用活性化推進事業」(令和4年度開始分)の採択地域に、10地域を決定した。  同事業は、雇用機会が不足している地域や過疎化が進んでいる地域などが、地域の特性を活かして「魅力ある雇用」や「それをになう人材」の維持・確保を図るために創意工夫する取組みを支援するもの。地方公共団体の産業振興施策や各府省の地域再生関連施策などと連携したうえで実施する。具体的には、地域の市町村や経済団体などの関係者で構成する地域雇用創造協議会が提案した事業構想のなかから、雇用を通じた地域の活性化につながると認められるものを選抜し、その実施を、事業を提案した協議会に委託する。  事業規模(委託費上限)は、各年度4000万円。複数の市区町村で連携して実施する場合、1地域あたり2000万円/年を加算(加算上限1億円/年)。実施期間は3年度以内。  採択された地域は、次の10地域。 @北海道茅部郡(かやべぐん)鹿部町(しかべちょう) A宮城県気仙沼市 B愛知県新城(しんしろ)市 C滋賀県長浜市 D奈良県宇陀郡(うだぐん)曽爾村(そにむら) E香川県小豆郡(しょうずぐん)地域(土庄町(とのしょうちょう)および小豆島町(しょうどしまちょう)) F高知県高知市 G福岡県飯塚市 H宮崎県延岡市 I鹿児島県薩摩国(さつまのくに)地域  (阿久根市、薩摩川内(さつませんだい)市およびさつま町) 総務省 人口推計(2022年9月概算値および4月確定値)  総務省は、人口推計の2022(令和4)年の9月概算値および4月確定値を公表した。  2022年9月1日現在の総人口(概算値)は1億2475万人で、前年同月に比べ81万人(0.65%)の減少となっている。  4月1日現在の総人口(確定値)は、1億2507万1000人で、前年同月(1億2585万4000人)に比べ78万3000人(0.62%)の減少となっている。  年齢階層別(確定値)にみると、15歳未満人口と15〜64歳人口が減少している一方で、65歳以上人口は増加している。15歳未満人口は1464万9000人で、前年同月に比べ25万9000人(1.74%)の減少となっている。15〜64歳人口は7418万4000人で、前年同月に比べ62万7000人(0.84%)の減少となっている。65歳以上人口は3623万8000人で、前年同月に比べ10万3000人(0.28%)の増加となっている。  総人口に占める年齢階層別(男女別)の割合(確定値)をみると、15歳未満人口は全体の11.7%(男性12.3%、女性11.1%)、15〜64歳人口は同59.3%(男性61.8%、女性57.0%)、65歳以上人口は同29.0%(男性25.9%、女性31.9%)となっている。また、75歳以上人口(確定値)についてみると、総人口に占める割合は15.2%(男性12.3%、女性17.9%)となっており、85歳以上人口は同5.2%(男性3.4%、女性6.9%)となっている。 調査・研究 介護労働安定センター 2021年度「介護労働実態調査」結果  公益財団法人介護労働安定センターは、2021(令和3)年度「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査(労働者調査)」の結果を公表した。  事業所調査の結果から、従業員の過不足状況をみると、不足感(「大いに不足」+「不足」+「やや不足」)は63.0%となっており、前年度(60.8%)を上回る結果となっている。職種別でみると、訪問介護員の不足感が80.6%(前年度80.1%)で最も高く、次いで介護職員の不足感が64.4%(同66.2%)となっている。  65歳以上の労働者(有期職員、無期職員)が「いる」と回答した事業所は68.0%(前年72.6%)で、「いない」は30.6%(前年26.2%)となっている。また、勤務する職種別に65歳以上の労働者がいる事業所の割合をみると、「介護職員」に高齢者がいる事業所の割合が最も高く45.2%となっている。  定年制度の有無では、「定年なし」の事業所が21.3%、「60歳の定年を定めている」が34.8%、「61歳以上64歳以下の定年を定めている」が3.5%、「65歳以上の定年を定めている」が32.7%となっている。定年を迎えた職員を引き続き雇用した場合について、雇用契約で定める雇用上限年齢は、「65歳以下」の事業所は25.5%、「66〜70歳」は19.9%、「71歳以上」は5.8%、「特に定めていない」は46.0%となっている。 日本商工会議所・東京商工会議所 女性活躍推進取組事例集『Wのキセキ〜女性が輝く職場づくり〜』発行  日本商工会議所・東京商工会議所は、女性活躍推進取組事例集『Wのキセキ〜女性が輝く職場づくり〜』を発行した。  同事例集は、女性活躍推進に積極的に取り組んだ結果、新たな成長への原動力を得て、業績の向上につなげた中小企業6社を取材し、各社の取組みの「キセキ(軌跡)」をまとめたもの。取組みの背景から、具体的な内容、プロセスでぶつかった壁、得られた成果まで、実際に取り組んできた経営者と社員のインタビューをもとに紹介している。これから取り組もうとする企業が活用しやすいよう、各社の取組みのポイントを一覧化した「逆引きINDEX」や、「女性活躍推進の取組に関するお役立ち情報」も掲載している。  6社の事例には、従業員の高齢化・職人の後継者不足に危機感を抱いて、産休・テレワーク導入など働きやすい職場づくりに取り組んだ結果、「ブランド価値が高まり職人の応募者数が以前の80倍になったという老舗洋傘店の軌跡」や、「慢性的な人手不足と高齢化による改善意識の低下、技術継承の課題を抱えていた企業で独自の両立支援制度などに取り組んだ結果、優秀な人材が集まり社員が成長する組織になった軌跡」など、高齢者雇用に取り組むうえでも多くのヒントがある。  事例集は、全国の商工会議所で無料配布されているほか、日本商工会議所・東京商工会議所ホームページからダウンロードできる。 https://www.jcci.or.jp/sangyo2/20220907_Wnokiseki.pdf 【P60】 次号予告 1月号 特集 70歳雇用実践企業に聞く! リーダーズトーク 大野萌子さん(一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集では、最近話題となっている「学び直し」をテーマにお届けしました。変化の激しい現代社会において、社員に年齢に関係なく、会社の戦力として活躍してもらうためには、社員一人ひとりが時代や社会、ビジネスの変化に対応していくことが欠かせません。そこで重要になるのが「学び直し」です。  「学び直し」には、社員が自らのキャリアを切り拓いていくために、自主的に資格取得に励んだり、ビジネススクールで学ぶケースもありますが、会社として資格取得や外部機関での学習費用を補助したり、あるいは知識や技術をアップデートするための研修を主催することなども「学び直し」の一つです。  変化の激しい昨今、高齢社員や中高年社員のますますの活躍をうながすため、学び直しに取り組んでみてはいかがでしょうか。 ●本年も『エルダー』をご愛読いただきありがとうございました。2023年も、みなさまのお役に立てる情報の発信に努めてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー12月号 No.517 ●発行日−−令和4年12月1日(第44巻 第12号 通巻517号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田剛 編集人−−企画部情報公開広報課長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-925-5 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 「日本史にみる長寿食」の内容に関する訂正について 「日本史にみる長寿食」(2020年1月号、8月号、9月号)において、納豆などに含まれる成分を「ムチン」と表記しておりましたが、誤りであることが判明しました。お詫びして訂正いたします。 【P61-63】 技を支える vol.322 厳選した竹と「火入れ」でよく釣れて丈夫な竿をつくる 和竿師(わざおし) 早坂(はやさか)良行(よしゆき)さん(72歳) よく釣れて長持ちする和竿づくりは、良質な材料を見抜く力、熟練の職人技、そして自ら釣りで試し改良する探究心に支えられている 釣り人たちに人気の「汐しおよし」ブランドの和竿  和竿とは、竹を材料に用いた日本古来の釣り竿のこと。江戸時代中期に江戸で生まれた「江戸和竿」は、国の「伝統的工芸品」に認定されている。江戸和竿協同組合に加入する数少ない和竿師の一人が、「横浜竿の汐よし」の早坂良行さんだ。江戸和竿がフナやタナゴ、ハゼ、シロギスなどを得意とするのに対して、横浜竿は漁師がスズキやマダイ、マゴチなどを一本釣りするために、江戸和竿をもとにつくられたのが始まりだそうだ。  「1960年代ごろまでは、和竿づくりは、いまのIT産業に匹敵するくらいの花形産業でした」と早坂さん。しかし、その後カーボンファイバーなどの軽くて強い新素材が登場し、和竿はすっかり下火になってしまう。そのようななかで竿師となった早坂さんが手がける和竿は、カーボン竿に比べて高価であるにもかかわらず、「長く使える」、「体が疲れない」、「ばらし※が少ない」、「釣りが楽しい」など、釣り人たちの間で高い支持を得てきた。その卓越した技能が評価され、2015(平成27)年度「横浜マイスター」に選定された。 和竿の品質を左右する竹良質な材料を自ら探し歩く  横浜で育った早坂さんは、子どものころから釣りが好きで、見よう見まねで竿づくりも行っていた。大学受験に失敗して進路に迷っていたころ、竿づくりの道具を買いにたまたま入った釣具店で、竿づくりの師匠となる人物と出会い、竿師を目ざすことを決意。師匠が常務を務める釣具店に就職して竿づくりの修業に励み、26歳のときに和竿師として独立した。  早坂さんは、よく釣れて長持ちする竿づくりのために、年中自ら試作した竿を持って釣りに出かけ、釣れるかどうかを試して改良を重ね、釣り人に喜ばれる竿をつくり上げてきた。  「ここまでやってこられたのは、釣りが好きだったからこそ。自分がお客さん以上に釣りをして、答えを出してきました」  早坂さんによれば、和竿の魅力は材料である竹の性質にある。それだけに、竿づくりでもっとも重要なのは竹の選定だという。  「反発力の強いカーボンに比べて、竹は引っ張られて曲がると、その状態で留まろうとする性質があります。そのため、ばらしが少なく、釣り人の疲れも少ない。竹の質が悪いと、数回の釣りで曲がってしまったり、折れてしまうこともある。耐久性を持たせるには、できるだけ良質な竹を選ぶ必要があります。そうすれば、10年や15年も使える竿ができます」  昨今は需要の減少で竹を扱う業者が少なくなったため、早坂さん自ら各地の竹林へ足を運び、良質な材料の選定・確保に努めている。 竹をまっすぐに矯正し強度を高める「火入れ」  切り出された竹は1年以上かけて自然乾燥させた後、「火入れ」という作業を行い、まっすぐに矯正する。焦がさないように焼きを均一に入れることで、強度も高まる。  「火であぶることにより、竹に含まれる水分が沸騰すると竹は柔らかくなり、水分が抜けると再び硬くなります。柔らかくなったタイミングを見計らってまっすぐにします。どこをどう曲げれば最短の手数でまっすぐにできるかの見極めが大事ですが、長年の経験から体で覚えました」  汐よしの竿は、手元の滑り止めのために籐とうと糸を巻いて漆うるしを塗った「籐巻き」や、螺鈿(らでん)※などを取り入れた漆の「変わり塗り」などの独自の装飾も特徴の一つ。漆は何度も塗り重ねていくため、完成まで早くても1カ月半を要する。材料選びも加工も、手を抜かないことが早坂さんのこだわりだ。  希少な和竿づくりの技術普及のため、工房で竿づくり教室を開き、150人以上の卒業生を輩出してきた。現在は弟子を1人迎えて技術の継承に取り組んでいる。  「これからもいろいろな釣りを楽しみながら、1本でも多く、よい竿を提供したいと思います」 横浜竿の汐よし TEL&FAX:045(715)1291 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※ ばらし……針にかかった魚が外れて、逃げてしまうこと ※ 螺鈿……アワビや夜光貝など貝がらを用いた装飾 写真のキャプション 自ら選定した竹を自然乾燥させた後、まっすぐに矯正するための火入れを行う。柔らかくなったタイミングを見計らい、絶妙の力加減でまっすぐにしていく 和竿づくりの材料や道具も販売 独立以来愛用する50本組の柳葉きり 漆の上に細工されたカワハギの形の螺鈿(らでん) 「変わり塗り」(左)や「籐巻き」などの装飾も特徴の一つ 柳葉きりをモーターに取りつけて回転させ、竹の節をくり抜く 火入れでは「矯(た)め木(ぎ)」という道具を使って竹の曲がりを矯正する 火入れ用こんろで竹をあぶり、水分を蒸発させて徐々に柔らかくする 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は記憶問題です。「しっかりと覚えたはずなのに思い出せない」、そんな経験はだれにでもあるのではないでしょうか。覚えようと意識すると案外うまくいかないものですが、声に出しながら覚えると意外とうまくいきます。そして、“覚えた記憶を使う”ことが記憶力の強化につながります。声に出して覚え、覚えた記憶を使って質問に回答してみましょう。 第66回 写真の内容を記憶する 質問を隠して、写真を1分間見てください。 次に写真を隠して、質問に答えてください。 目標 2分 質問 @白い帽子をかぶっているのは左の人でしたか? 右の人でしたか? A飲み物を注いでいるのは左の人でしたか? 右の人でしたか? Bカップの色は何色でしたか? Cメガネをかけている人はいましたか? 覚えたらすぐに使う  2011(平成23)年の科学雑誌『サイエンス』の記事を紹介します。  短い科学論文を大学生200人に5分間読んでもらい、1週間後に、どれだけ覚えているかをテストするのですが、5分間読んだ直後に四つのグループに分け、それぞれに次の指示を10分間行ってもらいました。 @読後、何もしない。 Aその後、何度もくり返し読む。 B読後、内容をまとめるコンセプトマップをつくる。 C読後、読んだ内容に関する自由なエッセイを書く。  そして1週間後に記憶のテストを行ったところ、圧勝したのはCのグループでした。Cの行為は、読んだ内容を思い出しながら、自分がすでに持っている記憶とすり合わせて意見を組み立て、アウトプットする行為です。つまり、直後に内容を思い出しただけでなく、思い出したことに別の想起を組み合わせて「使った」ということです。「記銘⇔保持⇔想起」の神経ネットワークが強化され、「想起⇔使う」の働きで、「使ったから必要なこと」と記憶にかかわる脳の器官である「海馬」が認識し、記憶が強化されたのです。「覚えたらすぐに使う」。これが記憶強化のカギといえます。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK 出版)など著書多数。 【問題の答え】 @右の人 A左の人 B赤色 Cいない 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2022年12月1日現在 ホームページはこちら 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 ※ 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 ※2022年10月3日(月)より、上記住所へ移転 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストでは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするために、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞  2編 特別賞  3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌54〜55頁をご覧ください。 応募締切日 令和5年2月28日(火) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65頁をご覧ください。 2022 12 令和4年12月1日発行(毎月1回1日発行) 第44巻第12号通巻517号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会