【表紙2】 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム WEB配信のご案内 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  昨年10月に東京で開催された高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)、10月〜12月に東京・福岡で開催された生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムの模様をオンデマンド配信します。  改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月に施行され、「70歳までの就業機会の確保」が努力義務となりました。このため、本年度は企業において高年齢者の戦力化を図るために関心の高い「健康管理・安全衛生」、「自律的キャリア形成」、「シニア活用戦略」、「生涯キャリア形成」をテーマとして開催しましたシンポジウムの模様を、お手元の端末(パソコン、スマートフォン等)でいつでもご覧いただけます。  学識経験者による講演、高年齢者が活躍するための先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなどにより、高年齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について考えるヒントがふんだんに詰まった最新イベントの様子を、ぜひご覧ください。  各回のプログラムの詳細については、当機構ホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/index.html 視聴方法 当機構ホームページ(トップページ)から機構について広報活動(メルマガ・啓発誌・各種資料等)YouTube動画(JEED CHANNEL)「イベント」からご視聴ください。 または jeed チャンネル 検索 https://youtube.com/@jeedchannel2135 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 写真のキャプション 上:高年齢者活躍企業コンテスト表彰式の様子 下:シンポジウムの様子 【P1-4】 Leaders Talk No.92 管理者の「対等性」と「平等性」が職場のコミュニケーションを活性化する 一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事 大野萌子さん おおの・もえこ 公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。職場におけるメンタルヘルスやコミュニケーションを専門に、官公庁をはじめ企業、大学などで講演・研修を行っている。主な著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)、『好かれる人の神対応 嫌われる人の塩対応』(幻冬舎)など。  社員の能力を活かし、仕事を円滑に進めていくためには、職場におけるコミュニケーションや良好な人間関係が不可欠です。一方、近年はハラスメント防止への意識が高まり、コミュニケーションを図ろうにも「うっかり発した言葉がハラスメントになるかも」と悩む管理職も多いようです。今回は、職場におけるコミュニケーションのポイントについて、一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子さんにうかがいます。 コロナ禍で変化した職場の人間関係 直接の対話がトラブルの未然防止につながる―大野さんは、企業でのカウンセリングや、働きやすい職場づくりのためのコミュニケーションのあり方などの研修を幅広く手がけています。一般的に、かつてと比べていまの職場は、人間関係が希薄になったといわれていますが、どのように見ていますか。 大野 いまの職場は私語をひかえたり、あるいはプライベートにかかわる話題は避けようとする傾向があります。また、「電話は相手の時間を奪うのでは」と気にし過ぎて、オフィスにいてもチャットなど文字ベースのやりとりをする人も増えています。しかし、文字だけだと細かいニュアンスが伝わらないものです。真意が伝わらないまま一方的に解釈してしまい、相手に不信感や猜疑心(さいぎしん)を抱き、行き違いによるトラブルが発生することもあります。  人はわからないことに対しては想像力を働かせて補完する傾向があり、しかも悪い想像をすることの方が多く、「自分は相手に嫌われているのではないか」とマイナスにとらえてしまいます。それが積もり積もってしまうと、些細なことでも大きなトラブルに発展することがあります。こうしたトラブルを防止するには、少しでも相手と直接語り合うことが大切です。在宅勤務であれば、画面越しでもよいですし、電話をかけるなど、直接やりとりすることが、コミュニケーションの一番のポイントだと思います。 ―だれもがいいたいことをいえるような雰囲気も大事になりますね。 大野 もちろん組織なので指示命令系統で動くのは当然ですが、相互交流も重要です。近年は、部下の意見に耳を傾ける「傾聴」が注目を集めていますが、聞き過ぎてもよくありません。「この仕事はやりたくないんだね、だったらやらなくてもいいよ」というように、傾聴を誤解している上司もいるようです。傾聴は、部下の意見に迎合するのが目的ではなく、意見をきちんと受けとめるという姿勢が重要です。 ―コミュニケーション不全がハラスメントを生んでしまうこともあるのでしょうか。 大野 近年は多くの企業でハラスメント研修が行われています。でも、「〇〇をしてはいけない」、あるいは「こんな裁判例があります」といわれ、研修を受ければ受けるほど、「加害者になったら怖い」という気持ちが募り、管理職が指示や指導をする際に、あまりものをいわなくなって困っているという相談もあります。しかし、ハラスメントを恐れてコミュニケーションを控えてしまうと、部下との距離が開きすぎてしまい、冗談や軽口をいい合える関係が築けず、逆にハラスメントの土壌を生んでしまいます。そうならないためにも、コミュニケーションのあり方を学ぶ機会を設けることが重要でしょう。何十年も社会人をやっていれば「コミュニケーション力は身についていてあたり前」と思われがちですが、実はそうでもありません。  例えば、職場における上司と部下のコミュニケーションの問題で、上司は「いわなくてもわかるだろう」と思い、曖昧な指示をするも、部下が指示の内容を理解できていない、というケースがあります。かつては新卒から定年まで一つの会社でずっと働く終身雇用が一般的で、会社の風土に合わせたコミュニケーションが自然と身についていたものですが、現在の職場は、女性や中途採用社員も多く、外国人や派遣社員がいたりと、働く人が多様化し、さまざまな価値観を持った人たちが働いています。「いわなくてもわかる」は通じないし、指示・命令は具体的に簡潔な言葉で伝えることが重要です。 人材の多様化、変化する人間関係のなかでは対等・平等な態度をとる管理職が求められる ―現場のリーダーや管理職がハラスメントの防止やコミュニケーションにおいて心がけるポイントとは何でしょうか。 大野 いまの時代の管理職に求められているのは「対等性」と「平等性」です。  対等性といっても、組織における上下関係を否定するわけではありません。ただし、昔ながらの威厳を持った態度で部下に何でもいってよいわけではありません。威圧的な態度で命令したり、「お前」呼ばわりすると、反発を招いたり、ハラスメントに発展しかねません。部下に対する言動などに注意し、対等に接する姿勢を持つことが非常に大切です。  平等性を考える際にわかりやすいのは、年下の部下への「タメ口」です。20代の部下に「これをやっといて」といい、年上の部下には「これをお願いします」と指示を出せば、周囲の人たちは決してよい印象を持たないでしょう。同じ職場で働いている人であれば、分けへだてなく平等に接することが重要です。  ハラスメントに関して「ちゃんづけ≠ナ呼ぶのは問題ですか」という質問を受けることがあります。なかには「ちゃんづけ≠ヘセクハラです」と書いている書籍もありますが、私はそうは思いません。部署やグループ全員が、お互いをちゃんづけ≠ナ呼んでいれば、平等性が担保されているのでまったく問題はありません。一部の人をちゃんづけ≠ナ呼び、ほかの人をさんづけ≠ナ呼んでいると、ちゃんづけ≠ウれている人はバカにされていると思うかもしれないし、逆にさんづけ≠フ人は疎外感を感じる場合もあります。だれに対しても平等に接することが、職場の和を保つうえでも非常に重要です。 ―役職定年や定年後再雇用によって、上司と部下の関係が逆転する場合の接し方にも共通しますね。 大野 その通りです。職場のリーダーである上司がひいきをしたり、特別扱いをすると、周りは敏感に感じ取り、職場の雰囲気も悪くなります。管理職研修などを行っていると、「平等に接すること」にピンとこない人がいます。一番わかりやすいのは言葉遣いでしょう。職場ではタメ口ではなく、だれに対してもていねい語を使うことです。年齢や性別で君≠竍さん=Aちゃん≠つけるのではなく、すべてさん≠ナ呼び方を統一するなど、だれに対してもその人を尊重する姿勢を大事にしてほしいと思います。 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」にならい柔軟な姿勢で周囲とのコミュニケーションを ―再雇用になり役職も降りて賃金も下がり、モチベーションが上がらない人もいます。職場の上司や同僚、あるいは高齢社員自身が心がけるべき点とは何でしょうか。 大野 再雇用された人のなかには、残り数年の勤務を生活のために渋々乗り切ろうとする人もいるかもしれませんが、つちかった経験やスキルを活かし、後輩を育てることにやりがいを感じて前向きな意識を持つ人も多いと思います。それなのに、現場の管理職や同僚が「再雇用で職場に残っているだけだから仕事を頼まない」というような遠慮をすることは、逆に本人の能力を見下していると思われかねません。人は求められるとうれしいし、それが承認欲求の充足にもつながります。遠慮をせずに仕事を頼んだり、意見を聞いたり、相談するなど、引き続き活躍してもらおうという意識が、年下の上司や同僚には必要でしょう。  一方、高齢社員に目を向けると、過去の業績やプライドから、年下上司からの指示を素直に聞けなかったり、若手社員の意見に思わず反発してしまう人もいるでしょう。ですが、過去の業績やプライドにこだわっているのは自分だけで、周囲の人たちはそれほど意識をしていないものです。人と人との関係は合わせ鏡のようで、自分が変わることによって周りの態度も明らかに変わります。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざがありますが、高齢社員が余裕を持って自分から柔軟な姿勢を見せれば、相手も話しかけたり、相談しやすくなるものです。  また、働き続けていくには職場に精神的な居場所があるかないかが大きいと思います。賃金などの労働条件以上に、心理的に安全に働けることは重要です。働いている時間は寝ている時間を除いて1日の大半を占めるので、職場が苦痛を感じる場になると本当に不幸です。仕事にやりがいを感じたり、職場の仲間とちょっとした会話を楽しめるようになると、職場を自分の居場所のように感じられるようになるはずです。 ―若い世代との相互交流など、職場のコミュニケーションを活性化するために企業として支援できることは何でしょうか。 大野 コロナ禍では、飲み会や社員旅行をするのはむずかしいと思いますが、社員同士で気楽に話せるコミュニケーションの場を設けてみてはいかがでしょうか。日々の生活や仕事において、スマートフォンをはじめとするIT機器を使うことが必須となっていますが、それが苦手な高齢社員もいます。例えば、若手社員を講師にした社内サークルや勉強会の場を会社が用意すれば、互いにコミュニケーションを深められますし、スキルも向上し、一石二鳥の効果も期待できます。あるいはランチミーティングを奨励し、ランチ代は会社が出すなど、コミュニケーションのきっかけづくりを会社がサポートすることも非常に大切だと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ名執一雄(なとり・かずお) 2023 January No.518 特集 6 70歳雇用実践企業に聞く! 7 新春座談会 70歳雇用実践企業に聞く! 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一氏 株式会社京葉銀行 執行役員 人事部 部長 渡辺聡子氏 TIS株式会社 人事本部 人事部 人材戦略部 上級主任 社会保険労務士 森田喜子氏 トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 喜多智弥氏 16 解説 70歳雇用の現状と導入するうえでの留意点 人事労務コンサルタント・社会保険労務士 二宮 孝 1 リーダーズトーク No.92 一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事 大野萌子さん 管理者の「対等性」と「平等性」が職場のコミュニケーションを活性化する 20 江戸から東京へ 第122回 「改革」は「勇気」の別名 上杉鷹山 作家 童門冬二 22 高齢者の職場探訪 北から、南から 第127回 岡山県 株式会社英田エンジニアリング 26 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第78回 株式会社日本工研社 従業員 遠藤由次さん(73歳) 28 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 【最終回】常に状況を確認しながら制度の見直しを! 森中謙介 32 知っておきたい労働法Q&A《第56回》 定年後の継続雇用の拒否、休日の移動をともなう出張と労働時間 家永 勲 36 活き活き働くための高齢者の健康ライフ 【第2回】コロナが重症化する人は? 坂根直樹 38 いまさら聞けない人事用語辞典 第31回 「年功序列」 吉岡利之 40 新春特別企画@ 「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」基調講演から 人生100年時代のスマイルワークデザイン 〜高齢者が快適に働くことができる職場づくり〜 神代雅晴 42 新春特別企画A 「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」トークセッション 高齢社員がいきいき働ける職場とは 48 特別寄稿 中高年(40〜59歳)非正社員のキャリア設計と企業の人事管理 玉川大学 経営学部 教授大木栄一 52 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 54 BOOKS 56 ニュース ファイル 59 日本史にみる長寿食 vol.350 セリを味わい春を待つ 永山久夫 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.323 独自の「書体」を身につけ満足される作品をつくる 江戸提灯職人 瀧澤光雄さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第67回]漢字で脳トレ 篠原菊紀 【P6】 特集 70歳雇用 実践企業に聞く!  70歳までの就業確保措置が企業の努力義務となり、およそ2年が経過しました。みなさんの会社では70歳まで働ける制度を導入していますか?  今回は、「70歳雇用」に改めて焦点をあて、すでに70歳まで働ける制度を整えている企業の人事担当者のみなさんにお集まりいただき、新春座談会を開催。70歳雇用制度を導入・運用していくうえでの工夫や生じた課題、悩みなどについてお話をうかがいました。  いまの時代ならではの興味深い話題も満載です。70歳雇用制度導入に関する留意点をまとめた解説とあわせて、ぜひご一読ください。 【P7-15】 新春座談会 70歳雇用実践企業に聞く!  2021(令和3)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。すでに70歳まで働ける環境を整えている企業もありますが、まだまだ様子を見ているという企業も少なくないようです。そこで今回は、座長に本誌編集アドバイザーの玉川大学教授・大木栄一氏を迎え、70歳雇用を実践している企業の人事担当者による座談会を開催。“70歳雇用”のポイントについて、お話をうかがいました。 ●玉川大学経営学部 教授 大木(おおき)栄一(えいいち)氏 ●株式会社京葉銀行 執行役員 人事部 部長 渡辺(わたなべ)聡子(さとこ)氏 ●TIS株式会社 人事本部 人事部 人材戦略部 上級主任 社会保険労務士 森田(もりた)喜子(よしこ)氏 ●トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 喜多(きた)智弥(ともや)氏 株式会社京葉銀行 ◎業種 銀行業 ◎従業員数 2250人(2022年10月1日現在) 60歳以上:249人 (内訳)60〜64歳:155人 65〜69歳:93人 70歳以上:1人 ◎高齢者雇用制度  定年60歳、希望者全員65歳まで雇用、基準該当者を70歳まで再雇用 ◎役職定年制度 55歳 TIS株式会社 ◎業種 情報通信業 ◎従業員数 5,853人(2022年4月1日現在) 60歳以上:166人 (内訳)60〜64歳:157人 65〜69歳:9人 ◎高齢者雇用制度  定年65歳(60・63・65歳の選択定年制)、基準該当者を70歳まで再雇用 ◎役職定年制度  60歳 ※組織長のポジションオフ(役職者は継続する) トラスコ中山株式会社 ◎業種 プロツール(工業用副資材)の卸売および自社ブランド「TRUSCO」の企画開発 ◎従業員数 1,632人(2021年12月末現在) 60歳以上:598人 (社員147人、パート451人) (内訳)60〜64歳:(社員109人、パート210人) 65〜69歳:(契約社員36人、パート163人) 70歳以上:(パート80人) ◎高齢者雇用制度  定年65歳、基準該当者を70歳まで再雇用。70歳以降はパートタイマーとして75歳まで勤務可能 ◎役職定年制度 62歳 はじめに 大木 2021(令和3)年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。人手不足の影響などもあり、高齢者活用への社会的ニーズは確実に高まってきていますが、これまで雇用を義務づけられていた65歳を超えて、70歳まで活躍できる仕組みづくりとなると、具体的にどんなことに取り組めばよいかお悩みの、『エルダー』読者も多いと思います。  そこで今回は、すでに70歳まで働ける制度・仕組みを整備している企業の人事ご担当者のみなさんにお集まりいただきました。70歳雇用の取組みポイントについて、いろいろお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。 豊富な経験を活かしてもらいたいとシニアスタッフ行員制度を導入 大木 まず、みなさんの会社が70歳雇用を導入された経緯について教えてください。株式会社京葉銀行(以下、「京葉銀行」)ではどんな経緯で70歳雇用を導入されたのですか。 渡辺 当社の場合は、多くの社員から「65歳以降も働きたい」という思いが多数寄せられていたことが背景にあります。  もともと当社では1993(平成5)年に導入した「スタッフ行員制度」によって、60歳以降の定年後再雇用制度を設けていました。その後、希望者全員65歳までの雇用が義務化された2013年の法改正に合わせて65歳までの再雇用制度を導入しました。ただ、それ以降、65歳になった高齢社員から「もう少しがんばりたい」という声が聞こえてくるほか、高齢社員の所属部署からも「まだまだ活躍してもらいたい」という声が少しずつ大きくなってきたこともあり、要請のあった部署は65歳以降も個別に雇用延長をしていたのです。  しかし、部署の要請に応じる形ですと、同じ年齢でも雇用される方とされない方がでてきます。部署の間でも不公平感があり、基準が明確ではなかった部分もあったので、改めて制度化をすることとなり、2018年に70歳までの再雇用制度である「シニアスタッフ行員制度」を導入しました。 大木 現場からの「高齢社員の知識や経験を活かして働いてもらいたい」という思いが、導入の背景にあるのですね。65歳以降も雇用を継続するにあたり、新たに条件などは設けているのですか。 渡辺 業務評価や健康状態など、いくつかの条件を設けていますが、決して高いハードルではありません。希望すればほとんどの方がクリアできる基準となっています。 IT業界で創業50年、他社よりも早く訪れた高齢者雇用時代に対応 大木 TIS株式会社(以下、「TIS」)は、IT産業という比較的新しい産業です。一口に「高齢者雇用」といっても、ほかの産業とは異なる、独自の背景がありそうですね。 森田 そうですね。当社の取組みの背景として大きかったと思うのは、IT産業自体が活発である一方で、人手が足りていないという事情があります。新しい技術やサービスが展開されていますが、人材の確保がむずかしいという課題にぶつかってしまうのです。その課題を解決するための方法の一つが、雇用延長による高齢社員の活用でした。  当社は2018年まで60歳定年後65歳までの再雇用制度として「シニア社員制度」を運用してきましたが、2019年に定年を延長し、60・63・65歳で定年を選択できる選択定年制を、さらに2020年に65歳定年後70歳までの再雇用制度である「エルダー社員制度」を導入しました。  65歳までの再雇用制度である「シニア社員制度」では、定年後再雇用により処遇の引き下げを行い、職務も処遇に見合ったものに変更していました。そのため、処遇が下がることによるモチベーション低下とともに、高齢社員の活躍の場が制約されるという課題が生じていました。そこで、ライフプランにあわせて定年年齢を選択でき、処遇を下げることなく、モチベーションおよび職責を維持したまま定年を迎えてもらうことを大切にして、定年延長を行ったという背景があります。 大木 IT企業は一般的に「若い会社」というイメージがあります。年齢の高い人材はまだまだ少ないような印象もあるのですが、実態はどうなのですか。 森田 当社は2023年に創業52年を迎えます。現時点で60歳を超える人材は決して多いわけではありませんが、IT業界のなかでは比較的長い歴史があるので、60歳、65歳を超える社員は今後も増えていくと予想しています。 経営トップの思いを背景に、年齢に関係なく全社員が安心して働ける制度を整備 大木 トラスコ中山株式会社(以下、「トラスコ中山」)の場合はいかがですか。 喜多 当社では、経営トップの「企業には社員が安心して、安定して働ける職場を提供する義務がある」という思いが浸透しています。男性も女性も若手もベテランも、安心して安定して働ける場所を提供しようと、早くから社員の安心感とモチベーションを向上させる施策に取り組んできました。  その施策の一環として、高齢社員も長く戦力として活躍してもらい、業績拡大の原動力になってほしいという思いから、2012年に63歳定年制、2015年に65歳定年制を導入し、希望者全員70歳までの再雇用制度も整えました。同時に、70歳以降75歳までパート社員として働ける制度を導入しています。 大木 御社の場合は全国にたくさんの拠点がありますよね。65 歳定年まで異動の可能性もあるのですか。 喜多 当社は、機械工具など主に工場で使われる副資材の専門商社です。お客さまに速やかに製品をお届けするため、94カ所に拠点があり、転勤や部署間の異動が多いのは事実です。そのため制度上は、65歳まで異動の可能性があるのですが、実際の運用では、60歳を超えての異動はほとんどありません。単身赴任していた社員などの場合は、50代後半からは家族と過ごせるような運用を行っています。 導入にあたっては役割の明確化と納得できる報酬制度が重要 大木 さて、ここまでは70歳雇用制度の導入の背景・経緯についてうかがいました。一方で、人事制度を大きく見直すとなると、さまざまな苦労がつきものです。特に定年後再雇用では、TISの森田さんのお話にもあったように、処遇の低下によるモチベーションダウンも、高齢者雇用の課題といわれています。制度を見直すうえで、苦労・工夫したことや、モチベーション問題への対策について教えてください。 渡辺 70歳への雇用延長にあたっては、まずは「どんな役割を果たしてほしいのか」を明確にすることと、その定義づけを行いました。定義した役割とは、@経験を活かして、ほかの社員のお手本となること、Aそれぞれが得た知識や技能などを伝承する役割をになってもらうこと、B金融の専門家として第一線で活躍し続けてもらうこと、の3点です。  このときの役割定義や職務の難易度に応じた賃金の設定には苦労しました。当社の場合、65歳以降の賃金は時給となるのですが、会社が重要視している負荷が高い仕事、例えばお客さまへ直接営業を行うような最前線で働いてもらう仕事と、定型的な業務を行う仕事とでは時給は異なります。ただ、時給を設定するにあたって「どこが妥当なのか」というところがなかなか見出せず苦労しました。  また、定年後再雇用で処遇が下がると、モチベーションの低下はどうしても避けられません。当社の場合、65歳以降は賞与はなくなるのですが、賞与に代わる仕組みとして、成果に応じて報酬を支給する「メリット配分」という仕組みを取り入れています。  また、技能伝承をになっている高齢社員の表彰制度や、ほかの社員の模範となる高齢社員を行内向けメディアで紹介するといった取組みも行っていますが、まだまだ発展途上といったところです。 年齢に関係ない実力主義の制度を貫きモチベーションの維持と向上を図る 森田 従来の再雇用制度では誕生月を基準に1年ごとの雇用契約を結んでいたため、毎月のように再雇用契約の更新業務が発生していました。これを再雇用制度改正時に年度ごとの雇用契約に変更することで業務を効率化するとともに、年度の最中に再雇用が終了するということがなくなり、各部門でも人員計画が立てやすくなるように工夫しました。  当社の65歳以降の再雇用制度は、雇用形態が変更となる以外は原則的に何も変わらず、同じ役割、同じ処遇で、賞与も支給しています。年齢にかかわらず実力主義を貫ける再雇用制度であることが、モチベーションの維持・向上につながっています。定年前後で処遇を変更することなく、全世代を通じて実力に応じた処遇とすることで、パフォーマンス、能力に見合った仕組みとなっています。当社の場合は、2019年に65歳に定年を延長し、2020年に70歳までの再雇用制度を導入したため、2018年以前に再雇用となった社員の場合は、一定数の社員が定年を2回迎えています。そうした方からは、「以前の再雇用制度と比べると、がんばれば正社員と同じように報酬に反映されるので、とても前向きに仕事に取り組める」という声が届いています。  また、当社では「わくわくスクール」を開講しています。これは、社員が講師となって得意な分野を教え合うという学びの場となっているのですが、高齢社員にはここで次世代の育成面で活躍していただきたいと考えています。 全社で360度評価を導入 プライドに訴えやる気を引き出す 喜多 当社の場合、もともと希望者全員70歳まで再雇用としていましたが、2020年から再雇用の基準を設けています。それ以前は、役職定年の62歳以降(監督職の一般従業員は58歳以降)は、指導役として後進の育成をになってもらうため、「コーチ」という呼称を導入していたのですが、「コーチ」と呼ばれることで本人の仕事に対する意識が一歩引いてしまう、といった課題が生じていました。また、時を同じくして、経営陣からは「だれでも働き続けることができる、という状況でよいのか」、「再雇用の条件を設けた方がよいのでは」という意見もあり、「コーチ」の呼称を廃止するとともに、再雇用に一定の条件を設けることとしたのです。  また、モチベーションの面でいうと、当社では高齢社員を含む全社員を対象とした360度評価※を取り入れています。もちろん、評価と処遇は連動していますので、再雇用社員であっても、高い評価を得れば処遇も上がります。これはモチベーション向上の一助になっていると思います。  360度評価は周囲の同僚、つまり若手社員からも評価をされますから、高齢社員からするとそれこそ「負けたくない」という気持ちもあるのかもしれませんね。長く仕事を続けてこられただけにプライドもありますから、よい仕事を“褒める”ことも重要だと思います。「さすがですね」、「いつもありがとうございます」の一言を、意気に感じてくれる方も多いように思います。そういった意味でも、プライドに訴えかける360度評価は、モチベーションの維持・向上につながっているのではないでしょうか。 大木 お話をうかがっていると、「褒める」というのが重要なキーワードになっていますね。しかし、公平で多面的に評価するということは、社員個々人の様子をつぶさに見ていなくてはならない面もあり、たいへんなところもあるかと思います。若手から高齢社員まで“その人に合った褒め方”が必要になりますよね。 喜多 そうですね。褒めるよりも、厳しく指導した方がより意欲的になる社員もいます。人それぞれを見ながらのマネジメントが求められる時代だと思います。 大木 個別にしっかり見ていると、自然と信頼関係が生まれますが、そうではないとなんとなく関係性が希薄になってしまいます。高齢社員も含めて多くの人が「見てくれているかどうか」というのは、これからの時代の大きなキーワードですね。 実情に合わせたタイミングでキャリア研修や能力開発を実施 大木 今後、働く期間がより長くなっていくということは、年齢や勤続年数などに応じた能力開発も重要な要素となってきます。高齢期を見すえた能力開発についてはどのような取組みを行っていますか。 渡辺 定年前に自分のキャリアを考える研修を、30歳・40歳・50歳の節目で行っています。特に50歳の研修では、定年を迎えたその後の働き方も視野に入れ、「自分はいま、何をやっておくべきか」を考える研修を行っています。一方で、若手社員にはいろいろな研修を用意しているのですが、60歳以降になると、どうしても研修がかぎられてしまう部分があるので、当社としても課題と認識しています。  また最近は、2023年に当社が80周年を迎えるということで「バリューアップ80」という名称の、自分の価値を高めていくことを目的とした取組みを新たに始め、全社員に呼びかけているところです。@自己啓発・リスキリング(資格取得など)、A健康増進(運動促進や禁煙など)、BSDGs(ボランティアなど)の3分野に分け、そこに65歳以上の社員にも必ずエントリーするよう呼びかけています。現在のところ、ほぼ全員が取組みを宣言してくれているので、あとは具体的にどんな取組みを実行しているのかを確認していきます。 森田 当社でも年齢の区切りごとに研修を実施しています。実力主義の人事制度ですので、毎年昇給するものではなく、若いときにはあまり差がつきませんが、年齢を重ねるごとにパフォーマンスに応じて処遇にかなり差が出てきます。  そこでキャリア研修を実施して自己理解を深め、将来の環境変化を考えながらどのようなキャリアを形成していくのかに目を向けてもらっています。全社員に対してキャリアプランシートとキャリア面談を実施していますので、なかには「今年で定年だけどやらなくちゃいけないの?」とご相談いただくことはありますが、高齢社員にも例外なくキャリアプランを立ててもらっています。 大木 IT人材となると、特に常に新しい知識・技術の修得が求められると思うのですが、中・高齢社員の知識・技術のアップデートというのはどのようにされているのですか。 森田 たしかに技術の入れ替わりはとても激しい状況ですので、「自分から新しい技術を学ぶ」というところが社内風土のベースにあると思います。本人が自発的に学んでいる一面もありますし、一方で会社として受けてほしい講習などもあるので、一人当たり年間10万円ほどの教育予算を確保して、部門ごとに育成計画を立てて、知識・技術のアップデートを行っています。  もちろん、技術だけではなく、コミュニケーションが得意な方などもいるので、例えばお客さまの課題をヒアリングして、開発の具体的なプロジェクトへの橋渡し役として貢献している高齢社員もいます。最新の技術を追いかけるだけではなく、いろいろな分野、活躍の場があると考えています。 喜多 当社の研修制度は若手社員を対象としたものが中心で、30代以降はマネジメント研修を年1回行う程度です。社内研修が少ない分、人事から「こういう外部研修があります」などの案内を行っていますが、受講は本人次第というのが現状です。  ただ、2022年は「資産形成について」というテーマで動画配信を行っています。新入社員も含め30代ぐらいでこれからお金がかかっていく世代から、セカンドキャリアを見すえた60代まで、全世代を対象としたものです。  マネーリテラシーは興味のある人であれば自分で勉強して貯蓄や投資を行いますが、そうでない場合は日々の生活にお金を使うだけになってしまうこともありますので、生活の安定について考えるきっかけになればと思い開催したものです。まだ始めたばかりの取組みなので、今後はもっと充実させようと考えています。 高齢者雇用とDXへの対応 重要なのは個々の能力を活かせる場所 大木 能力開発という面でいうと、DXへの対応があらゆる産業で求められていますね。一方でDXは高齢社員が苦手とする分野という印象もあります。 喜多 自社の研修だけで育成することがむずかしいのは、やはりIT人材です。社内での育成だけでは、社会の変化の速度に追いつけません。いまはまだそこまで影響は出ていませんが、今後は中途採用などでIT人材を採用していかないと、世の中から取り残されるという危機感を持っています。  当社はローテーションでさまざまな部署に配属されますが、分母が多いのはやはり営業職です。営業職を中心に仕事をしてきた高齢社員の場合、ITスキルの修得はやはりハードルが高いでしょう。 渡辺 銀行はまさにDXが進んでいて、システムでできるのであれば、人間がやらなくてもよい、という形に変化してきていますね。 大木 学生の就職活動を見ていても、最近は銀行の事務的な仕事の求人が少ないのです。そもそも店舗の窓口にあまり人がいないですよね。銀行に入って一般業務・窓口を担当したいという学生にとっては競争が厳しいようです。 渡辺 そうですね。いまは窓口での事務的な仕事は少なくなっており、求められるスキルは、お客さまの資産運用相談業務など、コンサルティングの仕事が多くなっています。 大木 そうするとますますコミュニケーションの力が重要になりますね。そういうところにこそ、高齢社員の持つ経験が活きてくるのかもしれません。結局機械ができないこととは、人と人とのコミュニケーションということですね。 森田 当社では、定年延長した際に、いままでターゲットにしていなかった50歳以降のキャリア採用についての応募が多くなり、実際に50代以降の人材を採用しています。最近の例では、64歳の方がキャリア入社されました。システムエンジニアではない方でも、顧客目線で事業企画をになう高齢の方を新たに採用するという実績も増えています。 喜多 高齢社員のITスキルの面でTISの森田さんにお聞きしたいのですが、高齢者のIT人材の場合、スキルに差は出ないのでしょうか。 森田 個人差はやはり大きいと思います。当社は実力主義を掲げていますので、ハイパフォーマー人材は実力主義人事を歓迎していると思いますが、パフォーマンスが低下してくれば処遇も下がるという厳しい制度であるのはたしかだと思います。 喜多 より長い期間活躍してほしいと思う一方で、高齢社員にもがんばって成果を出してもらわないといけない。すごくむずかしいところですよね。 森田 年齢に配慮して処遇も役割も下げることでモチベーションが低下したという反省のうえに立った実力主義ですので、研修などではその厳しさについてもお伝えするようにしています。 大木 TISのような専門人材のなかでは決してハイパフォーマーではなくても、京葉銀行やトラスコ中山に転籍したら活躍できるという可能性はありませんか。 渡辺 それはあるかもしれませんね。当社は若いIT人材はなかなか採用できないので、早期退職をされたIT人材などをターゲットに採用活動をしています。今年度になってからは、60歳を過ぎた人材も採用しています。 大木 場によって優秀さは変わりますし、特にIT人材は差が大きいので、持っている能力が別の場に行けばすごく役に立つ可能性もあります。人材の流動化が活発になり、高齢社員の活躍の場が広がっていくとよいですね。 高齢社員の仕事ぶりは若手社員にも好影響を与える 大木 みなさんの職場では多くの高齢社員が活躍されていると思いますが、高齢社員が若手社員に与えている影響などについて教えてください。 渡辺 高齢者雇用を推進することで、「長く安心して働ける会社なんだ」というメッセージが、若手社員にも確実に届いています。また、若手社員が高齢社員に同行してお客さま訪問を行うことで、お客さまとのコミュニケーションのとり方を学ぶことができます。そのような場面で、若手社員が得ているものは多いと思います。また、高齢社員は直属の上司とは立場が異なりますので、人生の先輩として相談役にもなってくれています。そういったよい影響を感じています。 森田 当社では毎年働きがい調査を全社員に実施しているのですが、年代別に見てみると、定年延長を行った前後で、50代以上の「働きがい」が大幅に上がり、モチベーションが向上したことが大きな影響として表れました。「実力主義を貫く」というメッセージを発信したうえでの定年延長でしたので、60歳未満の社員のモチベーションが向上したのはよかったと思います。 喜多 渡辺さんのお話にもありましたが、長く働くことの大切さや、そういう取組みに注力している会社であるということを、若いうちから理解できるというのはとてもポジティブに作用していると思います。 高齢社員を含む多様な人材が活躍できる環境・制度づくりに向けて 大木 少し視点を変えて質問をしたいと思います。高齢社員を含む多様な人材活用、そして多様な働き方が求められる時代となりました。こうした状況のなかで人事部に求められる役割・課題とはどのようなものでしょうか。 渡辺 必ずしも高齢社員にかぎったことではないのですが、仕事が評価されている高齢社員がいる一方で、そうでない社員も少なからずいらっしゃいます。そういった社員を会社としてどう指導していくのか。その社員に仕事をどう気持ちよくやってもらい、役に立ってもらうのかがこれからの課題だと思っています。 森田 高齢社員を含む多様な社員が活躍するための、働く環境・制度の整備・運用がとてもむずかしいと感じています。公平性を持った制度・運用になるよう、人事として気をつけて、多様な人材をどうやって評価し、働いてもらう環境を提供するかが今後の課題と感じています。 喜多 当社の再雇用制度は、もともと希望すればだれでも雇用を継続できる仕組みでしたが、2020年に再雇用の基準を設けることにしました。そこで人事からは、全社員に対して、雇用延長するタイミングではテストや人事考課チェックをすることを伝えています。そうすることによって、特に中堅から50歳ぐらいの社員が、自身の定年が見えてきたときに、「だれでも70歳まで働けるんだな」ではなく、「準備をしておかないと働き続けることができない」と思ってもらえることには大きな意味があると思います。その結果、日々の業務にもプラスになりましたし、再雇用に向けてがんばろうと働いている社員を見ていてそれは感じます。  「だれでも無条件で再雇用するわけではない」と開示して全社員に理解してもらうことも、人事の大切な役割だと思います。 貢献意欲が高まるような形の施策を一緒に組み込んでいくことが重要 大木 それでは最後に、これから70歳雇用に取り組む企業へのアドバイスをお願いします。 渡辺 どこの会社でも同じだと思いますが、社員のなかには、期待値に沿った働きをしてくれる社員もいれば、そうではない社員もいます。特に高齢社員の場合は現役世代のときよりもモチベーションに差が出てきてしまうことが、当社でも課題となりました。一度下がったモチベーションを上げるのはなかなかむずかしいので、早い段階からモチベーションを維持・向上できる仕組みが必要だと思います。最終的には一人ひとりの社員が「周囲から認められている」、「会社に貢献できている」ということを実感できる評価の仕組みが重要だと思います。  これから70歳雇用に取り組まれる場合、定年延長とするのか、再雇用なのか、どんな仕組みにするかはそれぞれの企業が置かれている状況によって変わってくると思います。しかしいずれの場合でも、貢献意欲が高まるような形の施策を一緒に組み込んでいくことが必要だと思います。 森田 当社では一定の再雇用条件を設けていますが、条件には合致しなかったけれどもご本人も働きたい、部署からも継続して働いてもらいたいという声をいただくことがあります。ここにまだ対応しきれず、制度として用意がないのが課題ではあります。  一方で、全世代を通じて実力主義を推進してきたので、定年前後にスポットをあてて処遇を変える必要がないところが、当社の取組みの特徴です。一貫性のある制度で運用・再雇用を導入した一つの事例として、参考にしていただければと思います。 喜多 先ほどもお話ししましたが、「若手の指導役をになってもらう」というねらいから、58歳時から「コーチ」という呼称を用いる仕組みがあったのですが、実際に「コーチ」になった人の話を聞くと「一線を退いた」と受けとめてしまい、仕事に対する意識が一歩下がってしまう、という問題が生じました。これを受けて「コーチ」の仕組みは廃止しましたが、「高齢社員を特別扱いしない」というのは、高齢者活用を考えるうえで大事なポイントではないかと感じています。  また、役割を明確にして「あなたにはこういうことを求める」ということを、若手社員に行う以上にはっきりと示してあげるのも大きなポイントだと思います。 高齢者雇用は早い段階から会社と本人が意思疎通を図っておくことが運用の秘訣 大木 みなさんのお話をお聞きして、70歳雇用を成功させるためのポイントが見えてきました。  まず仕事や役割を明確化して、社員側と企業側双方が共通の理解を持つこと。そして、それぞれの社員とコミュニケーションを取り、その人の個性や強みをしっかりと把握しておくこと。そのうえで、本人と人事部、職場の管理職の三者がお互いにコミュニケーションを図り、現在の状況について把握すること、が重要になるということですね。  そして何より、この三つの対応は60歳が目前になったから急にやろうとしてもできることではなく、早い段階から人生の後半を見すえた形で、企業と本人がうまくソフトランディングできるような形で話し合っておくとよいということだと思います。  実際に70歳雇用に取り組まれているみなさんのご苦労や課題などをおうかがいすることができ、多くの読者の参考になったと思います。本日はありがとうございました。 ※ 360度評価……上司や同僚、部下などさまざまな立場の人が評価を行う仕組み 写真のキャプション 座長を務めた大木栄一教授 株式会社京葉銀行 執行役員 人事部 部長 渡辺聡子氏 TIS株式会社 人事本部 人事部 人材戦略部 上級主任 社会保険労務士 森田喜子氏 トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 喜多智弥氏 座談会の様子 【P16-19】 解説 70歳雇用の現状と導入するうえでの留意点 人事労務コンサルタント・社会保険労務士 二宮(にのみや)孝(たかし) 1 はじめに  2022(令和4)年9月、総務省が高齢者についての調査※を発表しました。これによると、日本の人口(2022年9月15日現在推計)は、前年と比べて82万人減少しているにもかかわらず、65歳以上の高齢者は3627万人と、前年と比べて6万人ほど増えています。総人口に占める割合も29.1%と、前年より0.3%増えてきています。一方、2021年の65歳以上の働く高齢者は前年と比較して6万人増えて909万人となり、18年連続しての増加で過去最多になりました。 2 70歳雇用に向けての現状  改正高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)が2021年4月に施行され、創業支援等措置を含め70歳までの就業機会の確保が努力義務化されました。  これに関連して、厚生労働省の「令和3年高年齢者雇用状況等報告」によると70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は、中小企業(21〜300人)では26.2%、大企業(301人以上)で17.8%となっており、その内訳としては図表1の通りです。  次に「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構/2020年)では、65歳以降(60代後半層)の雇用確保措置を実施する場合に必要な取組みとして以下をあげています(図表2)。 3 70歳雇用に向けての検討事項  ※以下、雇用形態にかかわらず60歳を超えた従業員を「シニア」と称します。 (1)定年の延長  真っ先にあげられるのが定年年齢をどうするかです。先述の「高年齢者雇用状況等報告」によれば、定年の廃止や65歳を超えた定年を設定する企業はまだ少ないなか、65歳定年の企業は中小企業では21.7%、大企業では13.7%と、少しずつですが増えてきています。  これをみるに、70歳までの就業の努力義務化に対して、定年がこれまで60歳だとすれば、60歳を超えてその後の10年間は長すぎるという見方が前提にあると思われます。すなわち70歳雇用に向けて、まずは65歳定年を考えていくべきともいえるでしょう。これを進めるにあたっては、対象者の構成などをふまえ、まずは62歳とするなど段階的に実施するか、それとも一気に65歳まで延長するかどうかの判断が求められるとともに、退職金を含む賃金処遇をはじめ、60歳を過ぎてすでに継続雇用(嘱託などの再雇用契約者)となっているシニアとのバランスをどうするかなども検討課題となります。 (2)65歳からの継続雇用  仮に65歳定年を前提にすると、65歳を過ぎて70歳までは高齢法上では就業が努力義務となります。すなわち、労使協定のもとに業務委託や委任契約などを締結することも可能ですが、その多くは引き続き雇用契約とすることが想定されます。  以下、70歳までの雇用を前提にご説明します。65歳を過ぎてからは対象者について、必ずしも希望者全員とはせずに、任意の限定基準を設けることもできます。ただし、「会社が必要と認めた者」や「上司の推薦がある者」などに限定することは、恣意的に一部の高齢者の排除が可能となり、高齢法の趣旨に反するので認められません。また「意欲」や「能力」に関する基準を設けることもできますが、できるかぎり具体的に測れるものであって、求められる能力などが客観的に示され、該当の可能性を予見することができるようにしなくてはならないので注意が必要です。 (3)担当職務  見落としがちなのが、所属部門や職種、担当業務によって対応が異なってくることがないかどうかです。例えば製造業では研究職と技能職では業務内容も身体への負担も異なってきます。個人差が大きいことはもちろんですが、工場の技能職や運転にかかわる職種などでは安全や健康面での配慮がより厳格に求められることになることに留意する必要があります。 (4)働く場所  コロナ禍で定着してきた感もありますが、通勤負担のためシニアからニーズが高い働き方が在宅勤務を中心としたテレワーク(モバイルワーク)です。なかには親の介護の問題もあって「故郷に戻って働きたい」、「子どもの住居の近くで働きたい」という要望を聞くこともあります。 (5)労働時間管理  フルタイム勤務のほか、個人差も出てきますので、パートタイム勤務の選択肢を設けることも考えられます。その場合には1日あたり6時間など短時間勤務とするか、または個人の趣味趣向や健康面を考慮して週の間に中休みを設ける週休3日制とするかなどの選択肢が考えられます。  また工場勤務の場合には、3交替制やシフト勤務、深夜勤務をどうするかが課題となります。グループの円滑な運営を目ざすなかでシニアを含めてシフトを組むことのむずかしさを訴える企業もあります。 (6)人事制度 @(シニア用)等級制度  脱年功人事から職務・役割重視の人事制度(いわゆるジョブ型)へシフトさせる必要性はよくいわれるところですが、役職定年や定年後継続雇用により、勤務や役割が限定されるような場合は、シニアに適応する制度であることは間違いありません。定年後の継続雇用はもちろんのこと、定年を延長するにあたってもシニアから一歩先に導入することもできないわけではありません。 A役職任用  ライン長としての任用にあたって「役職定年制」も検討課題になるところです。  人材不足のなかで年齢によって一律にポストから除外することが必ずしも適策とはいえなくなってきている現状がうかがえます。また、役職定年制を採り入れるにしても、余人に代えがたい場合の例外措置をどうするかといった問題について、一方の優秀な若手の抜擢とのバランスも検討する必要が出てきます。  また、役職定年制とは切り口を変えた「役職任期制」(原則、課長職は2年間の任期として必要に応じて更新も有りとするなど)を採り入れる企業も見受けられます。期待される役割任務に対して緊張感を持って臨み、役職(ポスト)を身分化させないための方策といえます。 B評価制度  同一労働同一賃金の観点からも、シニアの評価を実施することが避けられなくなってきています。その際、これまで正社員に導入されてきた目標管理制度(MBO)※1をシニアにも実施するかどうかなども検討の余地があります。 (7)賃金制度 @基本給  60歳時点の60%などと一定の率とするのではなく、仕事基準の考え方のもとに適正な額を設定していくべきです(昇給額・率ではない、絶対額としての管理方式となります)。  定年後継続雇用への移行時に、60歳未満の正社員とは区別して賃金制度を設定している企業もあります。また仕事給としての役割給や職務給を導入している企業では、原則として全社一律に設定すべきであるといえます。 A諸手当  特に仕事に関係する手当や家族・住宅手当などの生活補填手当は、同一労働同一賃金からみた適正対応が求められます。例えば定年前の正社員に支給されている危険手当が、定年後の嘱託社員には支給されないなどの場合には、真っ先に解決すべき課題となります。 B賞与  同一労働同一賃金のガイドラインにも明記されていますが、今後は適正な対応が求められます。  @〜Bについて、シニアにとどまらず、企業によっては50歳くらいからの賃金カーブをあらためて見直すなどの必要性も出てくるところです。また、在職老齢年金※2や高年齢雇用継続給付金※3について、個々のシニアにとってはトータルの年収額にも影響してくるので、これも含めての検討が避けられなくなることもあります。 C退職金制度  退職金制度の内容をどうするのか、これまで60歳定年であった企業が60歳を超えての運用の問題になります。定年前と同じく毎年積み増していくのか、凍結するのかの選択となります。また、これにあたっては、企業年金(中退共を含む)との関連についても検討していく必要が出てきます。  なお、支払い時期について、本来支給されるのは退職時となりますが、定年延長などにあたっては、旧定年に達した際、先々退職金を支給することがない前提のもとに支払うことも例外的に認められています。 (8)そのほかの運用面 @安全、健康管理  厚生労働省から「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)が発表されています。加齢による身体機能への影響は個人差も大きく、特に現業職などでは注意が必要になってきます。  シニア雇用が進むと、成人病、がんなどへの対応もこれまで以上に求められてきます。健康診断の充実など、予防の段階からの早期発見、病気が発覚してからも勤務を続けながら治療するための支援体制、休職・復職などの人事・賃金制度の見直しなどにも関連するところです。 A福利厚生  賃金そのものにはあまり関心を持たなくなってくるシニアもなかにはいます。  このこともあって、福利厚生施策として家族の介護などのプログラムも組み入れたカフェテリアプラン※4などが有効とされています。 B教育研修  セカンドキャリア研修や最近注目されている新しい技術の習得を目ざすリスキリングなどをどのように有効に実施するかが重要です。 Cその他  再雇用時や契約更新の際の対象者との面談の機会を、いつ、どのように持つかも重要になってきます。  また、定年延長を阻む要因の一つにもなっていますが、シニア層のなかの低評価者や問題社員への対策も避けては通れません。  あわせて、いわゆる「上がり」の状態で会社にしがみつくようなシニアとなれば周囲にもよい影響は与えません。昔の部下が上司となり、異動もままならずパワハラの温床になりかねないと危惧する意見もあるようです。  人生の先達として後進の育成に積極的にあたるようにマインドを維持していく策を考えていく必要があります。 4 まとめ  高齢法を受けて、今後、高齢者の雇用が増えていくことは間違いありません。なかでも人材不足問題を恒常的に抱える業界などでは顕著になると思われます。  このような状況においてコンサルタントとしてお伝えしたいのは、まずは高齢者雇用のメリットの方に注目すべきであるということです。例えば以下があげられます。 ・長年の経験から、豊富な人脈、高度な習熟技能を持つ人が多いこと ・定年までの雇用を前提とすれば、能力、人柄や職務適性なども互いによくわかっており、愛社精神も持っているので後輩指導などに期待できること ・教育費・住宅ローン返済などから解放された人も多く、その場合は退職金や年金の受給などともあわせて生活費に必ずしも重点を置く必要がない人も多いこと  あわせて、ニューノーマル時代※5における多様な働き方からも、パートタイム労働、副業・兼業、テレワーク(夫婦二人暮らしも多く、自宅のスペースからみても比較的余裕がある)、サテライトオフィスおよびワーケーション※6、さらには業務委託やボランティアなど、むしろシニアの方が適応する施策も少なくありません。  さらに、新たなシニア制度が仕事本位の能力主義がいっそう進むきっかけになるとみています。企業ごとのシニア対応の違いが、新たな競争力の源泉にもなってくるものと期待しています。 ※1 目標管理制度……従業員が自己の目標を定め、達成に向けて努力し、成果を自ら評価することにより動機づけを図る仕組み ※2 在職老齢年金……60歳以降、働きながら受け取れる老齢厚生年金のこと ※3 高年齢雇用継続給付金……60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者(被保険者期間が5年以上)で賃金が60歳到達時の75%未満となった方を対象に、最高で賃金額の15%に相当する額を支給する制度 ※4 カフェテリアプラン……福利厚生制度の一つ。従業員がポイントの範囲内で用意された福利厚生メニューを自由に選択・組み合わせて利用できる仕組み ※5 ニューノーマル時代……新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て新たな常識が定着する時代 ※6 ワーケーション……「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。観光地・リゾート地などでテレワークを活用して働きながら休暇をとる過ごし方 図表1 70歳までの就業確保措置の実施状況 定年制の廃止 301人以上0.6% 21〜300人4.2% 定年の引上げ 301人以上0.5% 21〜300人2.0% 継続雇用制度の導入 301人以上16.6% 21〜300人20.0% 創業支援等措置の導入 301人以上0.1% 21〜300人0.1% 出典: 厚生労働省「令和3年高年齢者雇用状況等報告」より著者作成 ※総務省「統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者−『敬老の日』にちなんで−」 図表2 60代後半層の雇用確保措置を実施する場合に必要となる取組み (n=2,708) 継続雇用者の処遇改定37.0% 高年齢者の健康確保措置32.8% 全社的な賃金制度の見直し22.6% 全社的な人事制度の見直し18.7% 新たな勤務シフトの導入18.1% 設備や作業環境の整備13.1% 適職の開拓9.6% 退職金制度の見直し7.7% 教育訓練の強化・充実6.1% 新卒者や中途採用者の採用計画の見直し4.2% 出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」(2020年) 【P20-21】 江戸から東京へ [第122回] 「改革」は「勇気」の別名 上杉(うえすぎ)鷹山(ようざん) 作家 童門冬二 改革は時に必要な者をリストラする  江戸時代に大名の手本≠ニして、徳川幕府が表彰した殿様がたった一人います。米沢藩(山形県)の藩主上杉(うえすぎ)治憲(はるのり)(号は鷹山(ようざん))です。人生訓として、  「なせばなる なさねばならぬ なにごとも ならぬはひとの なさぬなりけり」  が有名です。私はこの言葉を少しヒネって、  「ものごとが成功しないのは、本人にヤル気がないからだ」  と解釈しています。鷹山が表彰されたのは、藩政改革の成功によってですが、かれは、  「改革は勇気≠フ連続だ」  といっています。  「だれもがイヤがることを押しつけるからだ」  というのがその理由です。こんな話があります。  改革でどこでも行うのがリストラ(人員整理)です。人件費削減です。鷹山も行いました。かれの整理基準は、  「新しく就職した者から」  というもので、  「古い者にはそれなりの仕事の経験があるので」  といいました。そのため、米沢城で一番の働き手≠ニして評判を高めていた、殿様付きの奥女中の娘≠ェ真っ先に対象になりました。  驚いた家老が鷹山のところに飛んできました。  「殿、とんでもないことです。あの娘を整理したら、ご自身がご不自由になりご不便で何もできませんぞ。特例にしましょう。あの娘は例外です。よろしゅうございますね?」  鷹山は首をヨコにふりました。  「よろしくない。例外は認めぬ」  「しかし殿にとってあの娘は公務執行上、(名秘書として)本当に必要では?」  「そうだ。本当に必要だからまず整理するのだ。必要でなければ整理はしない」  「?」  家老にとって解釈できない言葉でした。家老は家で一晩考えました。 鷹山の名人事  「必要だから整理する、ということは?」  その対立語として、  「必要でなければ整理しない、ということになる」  考えをさらに深めます。  「必要な人間を整理すれば、その人間の仕事は残った者にくる。残った者の仕事はよりきびしくなる。待てよ、これは?」  家老は鷹山がいつも口にしている、  「改革とは勇気の連続だ」  という言葉を思い出しました。  「必要でない者を整理しても、組織には何の影響もない。が、必要な者を整理すれば?」  頭の中がこんがらかってきました。  しかしその答えは、翌日城に行くと鷹山が出してくれました。  「家老」  「はい」  「きのう真っ先に整理した私付きの娘だが」  「はい」  「郡(こおり)奉行所(ぶぎょうしょ)勤務にしなさい」  「は? さようですか、ウヒヒヒ」  「何だ、そのいやしい笑いかたは」  「まことに花も実もあるおはからいで。郡奉行所はさぞかし大喜びでございましょう」  「そうか、それだとよいが」  いまでいえば本社の秘書一人減。そして現場の支所一人増員ということです。社長が働き者の秘書を思いきって、欲しがっていた現場の支所に割愛したのです。  鷹山は養子です。日向(ひゅうが)(宮崎県)の高鍋藩主秋月(あきづき)家の次男でした。小さい藩(三万石)で、いつも財政難で苦しんでいました。  貧しさは骨身にしみています。父も兄も財政改革で努力の連続でした。太宰治ではありませんが、時には、  「神や仏よ、貧しさは罪なりや?」  と問いかけたい気持ちさえあったでしょう。それだけに貧しい者の気持ちをよく知っていました。  鷹山は後継ぎに、  「民は殿様と家臣のために在(あ)るのではない。民のために殿様と家臣が存在するのだ」  と告げています。  伝聞ですが、このことを知ったアメリカの故ケネディ大統領が、  「私のもっとも尊敬する日本人の一人」  として、ウエスギ・ヨウザンの名をあげたことがあるそうです。ケネディの娘さんが駐日大使のときに米沢で講演し、そのことに触れて、  「父から聞いたことがあります」  と、保証していました。  おそらく内村(うちむら)鑑三(かんぞう)※1さんの『代表的日本人』※2(原作は英語)で扱われた鷹山の伝記を、大統領自身か、ブレーン(作家や評論家など)のだれかが目に留めたのだ、と私は思っています。事実とすればうれしいことです。 ※1 内村鑑三……明治〜昭和時代前期の日本のキリスト教思想家・文学者・伝道者・聖書学者 ※2 『代表的日本人』……内村鑑三による英語の著作で、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の生涯が紹介されている。明治時代、日本の精神性の深さを世界に知ってもらおうと英語で出版された 【P22-25】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第127回 岡山県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 元気に働き続けられる職場を提供し高齢化した中山間地域を活性化 企業プロフィール 株式会社英田(あいだ)エンジニアリング(岡山県美作(みまさか)市) 創業 1974(昭和49)年 業種 冷間ロール成形機・造管機、無人駐車場・駐輪場管理システムなどの企画、設計、製造、販売 従業員数 128人(うち正規従業員数105人) (60歳以上男女内訳)男性(15人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(6.0%) 65〜69歳 4人(3.0%) 70歳以上 4人(3.0%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を65歳まで、基準該当者を70歳まで再雇用。70歳以降は1年ごとの契約更新。最高年齢者は77歳  岡山県は、中国地方の東側に位置し、県北部は山地、南部は穏やかな瀬戸内海が広がります。古くから中国・四国地方の交通の要衝(ようしょう)として発展し、現在は縦横に走る高速道路網、新幹線をはじめとした鉄道、岡山桃太郎空港など、交通基盤が充実しています。  「年間を通して雨や雪が少なく、温暖かつ日照時間が長いのが特徴で、降水量1mm未満の日数が全国1位のため『晴れの国』と呼ばれています。その温暖な気候を活かして全国的に有名な清水白桃(しみずはくとう)やシャインマスカットなどの果物栽培や、米づくりが盛んな地域でもあります。産業については、水島臨海工業地帯を中心に、石油、鉄鋼、化学、輸送用機械などの割合が高く、次に運輸業、廃棄物処理業、地場産業の繊維・衣服、ゴム、窯業などの『ものづくり』を中心とした産業が発展しており、国産ジーンズ発祥の地といわれる倉敷市児島(こじま))地区も有名です」と当機構の岡山支部高齢・障害者業務課の小澤(おざわ)元子(もとこ)課長は話します。  また、2022(令和4)年に実施した「高年齢者雇用推進フォーラム」は、後日、岡山県と同支部が共催でオンデマンドによる動画配信を行うなど、関係者間のかかわりを深めました。  同支部で活躍するプランナーの一人、安藤(あんどう)鉄信(てつのぶ)さんは社会保険労務士の資格を持ち、労働基準監督署で労働相談を担当した経験を活かして、助言・相談活動を行っています。民間企業の総務部に所属していた経験もあり、中小企業の実態に即した課題に対する助言は実務的な内容で実践しやすく、事業所からの信頼を集めています。今回は安藤プランナーの案内で「株式会社英田エンジニアリング」を訪れました。 「ちょっと」を積み重ねた開発努力が実を結ぶ  株式会社英田エンジニアリングは、1974(昭和49)年に創業した産業機械メーカーです。金属成形による建築資材・自動車部品・家電部品などの製造用産業機械、無人駐車場管理システム、および金型・大型破砕機用刃物などの、企画・設計・製造・販売まで、一貫して対応可能とし、顧客のニーズに即した製品・技術の研究・開発に努めています。  また、産学官連携による共同研究・開発にも積極的に参画しており、ものづくり日本大賞、中国地方発明表彰、グッドデザイン賞など、数多くの賞を受賞した実績もあります。2021年6月には、「後付けペダル踏み間違い急発進抑制装置『アイアクセル』の開発・販売」事業が、第29回中国地域ニュービジネス大賞を受賞しました。万殿(まんどの)貴志(たかし)代表取締役社長は「『アイアクセル』はブレーキとアクセルのペダルの踏み間違いを防止するための装置で、車両に後づけで設置することができます。当社がある美作地域は、電車・バスの交通インフラが不足し、日常生活に車は欠かせません。アイアクセルは乗り慣れた車に簡単に取りつけられる汎用性と安全性、操作性が評価されました」と説明します。  同社の創業の精神は「我社は常に国際社会に通用する『ちょっと進んだモノづくり』とその改善・改良・新商品の開発に努力をし続ける。又、急激な社会と経済の変化に対応できる個人と会社をつくりいつまでも成長し続け地域社会に貢献する」というもの。朝礼や営業会議で唱和し、従業員全員がしっかりと心に刻んでいます。「ポイントはちょっと進んだ≠ニいう点です。大きく突出するのはむずかしいことですが、一日一日ちょっとずつ進んでいけば、一年後には大きな前進となり、三年後にはもっと進んでいます。大切なことは日々の努力で、これを徹底しています」(万殿社長)  人を大事にする会社として「お客様と従業員の幸福を追求するとともに、モノづくりを通じて地域・社会に貢献し続ける」を経営理念の一つに掲げ、従業員だけではなく、従業員の家族をはじめ、顧客、地域住民を大切にする経営方針を実施している同社。2021年に完成した福利厚生施設の1階には、県産木材を使用したモダンな内装の社員食堂と、イタリア製最新マシンを備えたトレーニングジム、2階は琉球畳を敷き詰め、窓に障子をしつらえた座禅堂を備えています。「これらはすべて従業員の食の健康と、心の健康、体の健康のため」と万殿社長は話します。トレーニングジムには専任のトレーナーを社員として採用し、従業員全員が個別指導を受けられるようにしています。座禅堂では月に1回、岡山市内のお寺から僧侶を迎え座禅会を開催。施設は地域の人たちも利用可能で、地域貢献・活性化にも一役買っています。  同社の事業、福利厚生などの制度、日ごろの取組みなどが評価され、2022年に「人を大切にする経営学会R」が実施している「第12回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」※の審査委員会特別賞を受賞しました。 ずっと働ける環境づくり  同社の定年年齢は60歳。定年後は希望者全員65歳まで、基準該当者を70歳まで再雇用し、さらに70歳からは一年ごとの契約となりますが、年齢の上限なく働くことができます。「定年を迎えても体が健康で引き続き工場で働けるのであれば、同じ仕事をそのまま続けてほしい」という万殿社長の考えから、定年後の賃金は時間給に移行しますが、65歳まで減額せず定年前と同じ金額を維持しています。65〜70歳はやや減額となりますが、話し合いのうえ、作業内容を軽減し身体の負担を減らしています。また、70歳まで賞与を支給するなど、定年後の活躍にも期待しており、高齢従業員のモチベーションの維持・向上に努めています。  「高齢者雇用だけではなく、障害者雇用まで見すえた新事業にも取り組まれており、『第12回日本でいちばん大切にしたい会社大賞』において審査委員会特別賞を受賞していることからもわかる通り、まさに地域を代表する企業です」と安藤プランナーは語ります。  そこで今回は、職場のムードメーカーにもなっている最高年齢者の従業員にお話を聞きました。 得意な木工で什器製作、働きやすい職場づくりに貢献  「理髪店にはもう20年行っていないですよ。何せずっと美容室に通っていますから」とはじけるような笑顔で冗談をいう植田(うえだ)得之亮(とくのすけ)さん(77歳)。周囲から「とくちゃん」と呼ばれて慕われている存在です。担当している業務は、駐車場に設置する「フラップ」と呼ばれる機械を出荷する作業です。資格を活かしてクレーンを操作し、積荷を平均で10〜20台、多い日は100台積んでいます。常に安全に気をつけて作業をしていますが、さらなる安全確保のため、自ら開発した安全装置をクレーンに設置。「これはどこで売っていますか?」と聞かれることもあるのだとか。実はこういった装置や什器を製作する仕事こそ植田さんの「本職」です。  「『こんなことで困っているのだけれど』と相談されると、その人の作業を1〜2時間かけてじっと観察し、問題点や改善点を探ります。その後打合せを行い、図面を書いてさらに擦合せをして完成させます。製作の全部を任されているので、どうつくるかを考えるのはとても面白いです。要望をあれこれといってくれる人だと特にやりがいがありますね。作業担当者の想像を超えたものができると驚かれて、喜ばれるのがうれしいです」と、とても楽しそうに語ります。  これまで植田さんが手がけた作品は、梱包材を必要な分だけきれいにカットできる「緩衝材カッター」、工具置きや引き出し式図面置きを備えた作業台など、枚挙にいとまがありません。木工の技術と仲間への思いやりを持って製作した大型什器は、工場や社屋のあちこちで活躍しています。  もともと植田さんは神戸市に住み機械技術者として働いていたそうですが、阪神淡路大震災を機に、27年前に現在の岡山県美作市に引っ越してきました。震災後1年間は木工の学校に通い、その後は自分の工房を持って木工加工と機械技師の仕事をしてきました。  60歳を過ぎて同社に入社し、現在は月20日の勤務のうち大半は自分の工房で什器を製作しています。「歳を取ってみると人の役に立ちたいと思うもので、『ありがとう』と感謝してもらえるのが何よりうれしいです。役に立ちたいという思いが満たされると、心と身体の両面で健康になれます。朝起きて行くところがある、やることがあるということは幸せですね。会社に来るのがうれしくてしかたないです。晩年がこんな楽しいとは思いませんでした」と話してくれました。 生涯現役で働ける職域を開発  同社は新しく農業分野に参入しており、農業管理のためのシステムを開発。農作業を大幅に効率化して少人数での生産を可能にし、高齢従業員の負担を軽減しています。将来的にはAIの指示通りに作業すればだれでも栽培できる農業を目ざしています。現在はニンニクと椎茸を栽培しています。  「従来のような一次産業では思うように収入が見込めないので、少しでも高い給料を支払えるよう、加工品製造、販売までの六次産業化を目ざしています。また、耕作放棄地の有効活用など地域資源を活かし、中山間地域を活性化させていきたいと思います。工場の仕事が体力的にむずかしくなっても、引き続き働きたいと考える方たちに、当社は働く場を提供し続け、最終的には定年のない会社にしたいと考えています。それが会社と従業員、互いの幸せにつながります」(万殿社長)  今回の取材で、安藤プランナーは「高齢従業員がそれぞれの能力を発揮し、楽しく働いていることを改めて感じました。現在は60歳定年ですが、今後の経営計画として定年を65歳に延長し、その後70歳までの継続雇用制度の導入を検討しています。さらに、70歳以降の高齢者の受け皿として、地域・社会の活性化を目ざして、アグリビジネスという新分野への進出も検討されています。そこで今後は、先進事例を紹介しながら就業規則などの規定の整備を支援していきたいと考えています」と話していました。  働く意欲がある高齢者が元気に働き続ける場所を提供し続け、地域活性化を目ざす同社の取組みに、今後も目が離せません。(取材・西村玲) ※ 「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞……人を大切にする経営学会Rが主催する、日本の経済に、日本の働くすべての人に、本当の活力を生み出すために「正しいことを、正しく行っている企業」を表彰する制度 安藤鉄信 プランナー(68歳) アドバイザー・プランナー歴:9年 [安藤プランナーから] 「訪問先で聞いた『健康で働く意欲があり、能力があれば年齢は関係ない』という言葉が、活動を支える原点です。近年は、相談内容が多岐にわたり複雑な事案も増えていますが、労使双方にとって有益となるアドバイスができるよう心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆岡山支部高齢・障害者業務課の小澤課長は安藤プランナーについて、「社会保険労務士として豊富な経験と知識を有し、事業所の立場に立ったていねいな助言を行い、事業主から厚い信頼を得ています。また、今年度は中高年齢従業員が200 人いる事業所で定年退職後の再雇用、キャリアプラン、ライフプランを意識させる就業意識向上研修を行うなど、たしかな実績を収めています」と話します。 ◆岡山支部高齢・障害者業務課は、JR 岡山駅からバスで約30分、岡山市立御南(みなん)中学校の横にある岡山職業能力開発促進センター(通称ポリテクセンター岡山)内にあります。周辺は住宅街で、中学校や特別支援学校が隣接しており、子どもたちの元気な声が聞こえる環境にあります。 ◆同県では9人の65歳超雇用推進プランナーと1人の高年齢者雇用アドバイザーの計10人が活動しています。2021年は562社を訪問。そのうち、12社に対してはオンライン訪問による相談・助言を実施。さらに207社に対して定年引上げや継続雇用制度の導入に関する制度改善提案を実施しました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●岡山支部高齢・障害者業務課 住所:岡山県岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 電話:086(241)0166 写真のキャプション 岡山県美作市 本社社屋 万殿貴志代表取締役社長 最新設備を取り揃えたトレーニングジム 「緩衝材カッター」の製作過程を説明する植田得之亮さん 【P26-27】 第78回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  遠藤由次さん(73歳)は、ものづくりの世界ひとすじに歩いてきた。60歳のとき、いまの会社の社長に声をかけられ、経験豊かな板金技術を活かすため入社し、第二の人生を歩み出したという。ものづくりの話になると目が輝く遠藤さんが、生涯現役で働く喜びを語る。 株式会社 日本工研社 従業員 遠藤(えんどう)由次(よしじ)さん 「金の卵」の誇りを胸に  私は福島県耶麻郡(やまぐん)塩川(しおかわ)町の生まれです。塩川は会津若松市と喜多方市の中間に位置し、その後の合併でいまは喜多方市塩川町になっています。その名の通り、町の中心を大塩川が流れる自然豊かな土地ですが、目立った産業もなく、中学校を卒業と同時に集団就職で上京することになりました。それまでも新聞配達で家計を助けていましたし、就職することは自然の成り行きでした。いわゆる日本の高度経済成長期を支えた「金の卵」として故郷を出発したのです。  就職先は、義兄に紹介された東京都文京区白山にある箔(はく)押しの会社でした。当時から文京区には伝統的な印刷所や製本所が多く、箔押しの会社もひしめき合っていました。  箔押しとは、金属板を使って熱と圧力をかけて紙に箔を転写する加工法で、表紙に箔押しで文字を入れると高級感が漂います。需要も多かったことから現場は忙しく、とにかく先輩たちの手元を見て必死で仕事を覚えました。当時の職人さんは言葉で伝えてくれるような人は皆無で、自分の目で「しっかり見て覚えろ」と怒鳴られながら箔押しの技術を身につけていきました。工場の2階に住み込みで働く日々のなかで、唯一の楽しみといえば後楽園ホールにあったローラースケート場に通うことでした。仕事場から歩いて行けるので、休みの日は足しげく通いました。東京ドームになる前の後楽園はボウリング場もあり、当時の若者の遊び場の拠点だったように思います。仕事が辛くて郷里に帰ろうと思ったこともありますが、気がつけば15年ほど勤めていました。  退社したのは遠藤さんの都合ではなく箔押しの仕事が激減して廃業を余儀なくされたからである。「時代の流れには勝てません」と、遠藤さん。ここから苦労の日々が始まる。 「ものづくり」の道を行く  次に勤めたのは板金の工場でした。板金の仕事は初めてですが、箔押しの仕事でも金属板を使って圧をかける工程があり、思いのほか早く板金技術を習得できました。ただ、残念なことに13年ほど勤めたころに経営不振となり、やむを得ず、プレスの会社に就職しました。そこはお米の自動販売機を製造していた会社で、今度こそ長く勤めたいと思っていましたが、米が輸入自由化になり景気も悪くなっていきました。プレス会社の退職を余儀なくされ途方にくれていたとき、このプレス会社の社長と「ものづくりネット板橋」で日ごろから交流があった埼玉県にある株式会社日本工研社の平山正人社長から、「経験をうちで活かしてみませんか」と声をかけていただきました。日本工研社では中途採用で高齢の従業員が多く働いていること、定年がなく健康であれば長く働けることなどを聞き、未来が少し明るくなったことをいまでも覚えています。60歳で入社し、間もなく13年が経とうとしています。まさか、60歳になってからも大好きな「ものづくり」の道を歩めるとは予想もしていませんでした。紆余曲折がありましたがいまが一番充実しています。平山社長との出会いに感謝しています。  遠藤さんは何度も「感謝」という言葉を口にした。日本はものづくりの国というが、ものづくりを進める会社は多くが小規模であり、どこも苦しい経営状況が続いている。現場で働く人たちの誇りが会社を支える。 技術を磨く喜び  日本工研社の従業員13人のうち、半数が60歳以上で、私のように中途入社の人がほとんどです。私より高齢の人もフルタイムで働いており、その姿が私のモチベーションアップにつながっています。  高齢従業員は主に板金を担当していますが、板金は設計書をもとに金属を切り出し、曲げたり、穴を開けたりして加工するものです。技術は必要ですが、同僚のなかには前職はトレーラーの運転手だったものの、畑違いの世界で学び、いまではその人にしかできない仕事をこなしている人もいます。やる気があれば技術は体得できると私は思います。  幸い私は、箔押しに始まり、板金、金属プレスと経験を積んできました。これまで積み重ねてきた経験がいまに活きています。経験を評価していただき、入社以来ずっと当社の主力商品である雨量計を担当させてもらっています。雨量計は、一定時間内の降水量を測る観測機器で、当社は下請けとして雨を受ける部分を製作しています。気象庁の雨量計は全国に2000箇所ほど設置されており、台風や水害の予測に役立っていると思うとやりがいを感じます。  雨量計のなかには、「転倒ます」と呼ばれる三角形の「ます」を取りつけたものが入っています。「ます」を取りつけるスポット溶接が私の仕事ですが、スポット、すなわち小さな点の溶接なので、作業には緊張がともないます。うまくいったときは「やった!」と思いますし、失敗したときは落ち込みます。  大切なのは、失敗したときに「なぜ失敗したのか」の答えを自分で出すこと。それが次の成功につながると私は思います。  「まずは実物を見てください」と、雨量計の一部分を工場から持ってきて、スポットを終えた部分を優しくなでながら説明してくださった。ものづくりにたずさわる人の「もの」に対する愛情を感じた。 人生に定年はない  当社には定年がありません。平山社長自身が、80歳を超えたいまも現役で、現場の第一線に立たれています。会社は戦後すぐの創業で、平山社長は3代目ですが、昔から「定年はなくてあたり前」という社風があったようです。高齢従業員のほとんどが週5日、朝8時半から夕方5時までフルタイムで働いていますが、高齢者が働きやすい職場環境も整備されています。その柔軟な勤務体制を利用しながら、自分の体力に合わせて働くことができますし、月給制なのもありがたいです。当社は、2018(平成30)年に、埼玉県の「シニア活躍推進宣言企業」に認定され、翌年には「生涯現役実践企業」に認定されました。二つの認定は、高齢者が生涯現役を目ざしていく背中を押してくれています。  余暇は、晩酌を楽しむくらいで、仕事が趣味のようなものです。健康管理も特別なことはしていませんが、なるべく歩くようにしています。元気に働けるのも家族の協力があればこそと、休日はいっしょに買い物をしたり、家の掃除をしたり、妻孝行に努めています。平山社長との縁の糸を大切に紡いで、体の続くかぎりがんばっていきたいと思います。 【P28-31】 生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント 制度、仕組みづくり 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 マネージングコンサルタント 森中謙介  高齢社員活躍支援に向けた最適な人事制度を構築するには、常に自社の置かれた現状を正しく分析し(本連載第1回で紹介した「現状分析」の手法を参照)、内外の経営環境の変化に適応するための制度見直しをタイミングよく実施することが必要です。  本連載の最終回では、運用実態をふまえて柔軟に制度を見直した2社の事例について紹介します。 最終回 常に状況を確認しながら制度の見直しを! A社の事例 定年後再雇用制度から、段階的に65歳まで延長する定年延長制度への見直し  中小建設・工事業のA社(60歳定年制、定年後は再雇用制度を採用)では近年、60歳以降の高齢社員層の離職が相次ぐようになっていました。総務人事部で退職者への個別面談を行ったところによると、再雇用後の賃金水準の低さが大きな原因となっていることが明らかになりました。さらに調査を進めると、A社の属する地域における近時の建設・工事需要の高まりから、同業他社における高齢社員層を中心とした賃上げの動きがあり、相対的に自社の賃金競争力が低下していました。  同社の定年後再雇用の賃金制度の特徴として、60歳以降、責任を軽減するとともに、65歳まで1年ごとに基本給の水準が10%ずつ低下していく(管理職と非管理職で下げ幅に違いがあり、管理職の方が下げ幅が小さい)ことがありました(図表1)。  特に非管理職層でみれば、旧制度は再雇用初年度こそ基本給の減額幅が小さいものの、65歳になる年次では定年前の50%まで低下します。  旧制度を導入した当初はそこまで課題が顕在化していませんでしたが、近年の建設・工事業における現場技術者の人出不足感が影響し、60歳以降の高齢技術者の需要が急激に高まったことを受け、A社の人事制度では賃金競争力の面で劣る状態に陥ったのです。  今後も同様の状況が続くことをたいへんに危惧したA社のトップは、早期に高齢社員層の賃金水準の見直しに着手することとしましたが、再雇用制度という位置づけのままでは定着に十分ではなく、60代だけではなく、50代半ば以後の技術者の定着もケアする必要性が高いという判断から、定年延長を行うという制度改定の決断に至りました。  A社の取組みの工夫としては、まず新定年年齢は一気に65歳まで引き上げるのではなく、63歳までとし、段階的に定年延長を行うこととしました。新定年年齢以降は、従来通り再雇用となり、残り2年間は継続雇用制度の枠内で処遇されることになります。  63歳までとした中心的な理由としては、A社の高齢社員層の離職者の中心が60代前半であったことと、定年延長にともなう総額人件費の上昇を見込んだ際、現実的に許容できる範囲が63歳までであったことがあげられます。もちろんこれは途中段階としての決定であり、将来的には65歳あるいはそれ以上への定年延長を見込んでの措置となります。  次に、賃金制度の扱いについてですが、定年延長後の新制度では、63歳までの期間は基本給の減額をなくしています(管理職、非管理職とも)。63歳以降は従来通り再雇用となるため、その時点で一定の減額がなされますが、旧制度の63歳以降の水準と比べても引上げは行われています(図表2)。  A社の定年延長にともなう人事制度改革は、同社の高齢社員層を中心に好意的に受け止められ、その後、目立った離職は抑えられています。とはいえ、これで改革が終了ということではなく、A社のトップは、内外の経営環境を注視しつつ、必要なタイミングで65歳への二段階目の定年延長も視野に入れているところです。 B社の事例 定年後再雇用制度から、65歳への定年延長と70歳までの再雇用制度への見直し  中堅製造業のB社( 60 歳定年制、定年後は継続雇用制度により希望者を65 歳まで雇用)では一般的な定年後再雇用制度を採用しており、60歳定年後は希望者が65歳まで継続雇用される仕組みです。65歳以降の雇用に関しては対象社員との個別労働契約において雇用を続けているものの、体系的な人事制度は整っていませんでした。  制度導入当初は60歳を超える高齢社員の人数も少なく、社内的に目立った問題は起きていませんでしたが、ここ数年で全社員に占める60歳以上の割合が20%を超えるなど、顕著に高年齢化が進んできていました。かといって中間層が厚いわけでもなく、また65歳以上の社員の割合が、一般的な企業と比べると多い状況でした。  そうしたなか、元々の制度の課題が徐々に顕在化するようになりました。具体的には、定年前と同じ仕事をしているにもかかわらず賃金水準は大幅に低下することと、人事評価なども実施されないため、高齢社員層のなかでもモチベーションが低い状態の社員が増えてきていたのです。  B社では今後さらに高齢化が進展していくことの危機感から、抜本的な制度見直しの必要性を感じ、65歳への定年延長のみならず、65歳から70歳までの継続雇用の仕組みについても同時に取り入れる方針を決定しました。 (1)65歳への定年延長  B社が定年延長を行うにあたって見直した制度内容は以下の通りです(図表3)。  まず、定年年齢は60歳から一気に65歳まで引き上げました。雇用体系は正規社員としての雇用(無期)が65歳まで継続されることになります。職務・職責の内容は60歳時点と同様であり、役職者は役職を基本的に継続します。ただし、1年ごとの人事評価結果をふまえ、会社都合により役職が外れる場合もあることが制度上予定されている点は現行の再雇用制度との違いです。等級は60歳時点の等級を引き継ぎ、人事評価も当該等級の基準で行われます。ただし、60歳以降は等級の変更(昇格・降格など)は原則行われない点が特徴です。  次に、給与処遇に関しては、年収水準で60歳時点の70%水準とすることを基本方針として制度設計を行いました。60歳時点より減額にはなるものの、基本給、賞与ともに現行の再雇用制度より増額となっており、諸手当に関しては60歳時点と同額の支給を継続することとし、年収水準では大幅に増額となります。 (2)65歳から70歳までの新再雇用制度  65歳以降の人事制度に関しては、基本的な考え方は現行の再雇用制度と同様であるものの、現行制度よりも処遇はアップさせることと、高齢社員層のモチベーションアップにつながる仕組みを設けること、というねらいを念頭に置いて制度設計を行いました(図表3)。  まず、雇用年齢の上限は70歳となり、再雇用後の雇用体系は嘱託社員(非正規)となります。1年単位の契約更新であり、体調面や仕事のパフォーマンスが低調な場合には、更新を行わないこともあります(現行の高年齢者雇用安定法では65歳以上の雇用は努力義務であり、希望者全員を雇用する義務まではないことを前提にしている)。  職務・職責の内容は、65歳時点から大きく変わることもありますが、変わらない場合も、業務量や責任の負担は必ず軽減することを前提に再雇用を行います。役職者は65歳を役職定年とし、特別な事情がないかぎりは役職を外れることとなります。  次に、賃金水準に関しては、65歳時点よりは減額となるものの、現行の再雇用制度よりは全体に処遇は上がる仕組みとなっています。基本給に関しては65歳時点より一定割合が減額となりますが、生活給への配慮から下限を設けることとしています。賞与ベースは定額での支給となりますが、対象社員の仕事へのモチベーションに配慮して、現行の再雇用制度では実施していなかった人事評価を実施し、賞与に反映させることとしました。諸手当に関しては65歳時点の支給項目はすべて引き継ぎますが、金額ベースで一定の減額がなされることとなります。  B社の制度見直しに関して、高齢社員層からは好意的な意見が聞かれました。定年延長を行うのに60歳以後の賃金水準が下がることについて一部否定的な意見も見られましたが、現行の再雇用制度と比べて生涯賃金ベースで増加すること、雇用の安定を最優先とし、やりがいのある組織環境整備を継続的に推進していくという会社方針を打ち出したことが、制度見直しの理解・納得度につながったものと思われます。  以上で、全6回の連載は終了となります。「生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント」と題して、企業の制度、仕組みづくりについて解説を行ってきました。改めて、高齢社員の活躍がどの程度求められるかについては、各企業の置かれた状況によってさまざまです。定年延長を含めた制度改革が急務という企業もあるでしょうが、実際にはまだまだ様子見段階というところも多いことでしょう。しかし、生涯現役時代の到来はそう遠い未来の話ではありませんし、そのときまでに適切な準備ができていなければ、高齢化する組織の活性化が非常に困難になってくることは間違いありません。  本連載は、企業が健全な危機感を持ち、企業の高齢化に対して「適切な準備」を行うためのマニュアルとして使っていただきたい、そんなことも意識して展開してきました。社内で本格的に検討を開始される際に、ぜひ本連載を第一回から見返していただければ幸いです。 図表1 A社の旧制度 役職区分 再雇用にともなう処遇減額ルール 60〜61歳 61〜62歳 62〜63歳 63〜64歳 64〜65歳 旧定年再雇用開始 再雇用 再雇用満了 管理職 基本給減額 基本給×100% 基本給×90% 基本給×90% 基本給×70% 基本給×60% 非管理職 基本給減額 基本給×90% 基本給×80% 基本給×70% 基本給×60% 基本給×50% ※ 新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表2 A社の新制度 役職区分 再雇用にともなう処遇減額ルール 60〜61歳 61〜62歳 62〜63歳 63〜64歳 64〜65歳 新定年再雇用開始 再雇用満了 管理職 基本給減額 基本給×100% 基本給×100% 基本給×100% 基本給×80% 基本給×80% 非管理職 基本給減額 基本給×100% 基本給×100% 基本給×100% 基本給×80% 基本給×80% ※ 新経営サービス人事戦略研究所作成資料 図表3 B社の制度改定 処遇区分 現行制度 新制度 定年後再雇用(60〜65歳) 定年延長(60〜65歳) 定年後再雇用(65〜70歳) 雇用体系 嘱託社員(非正規) 正社員(正規) 嘱託社員(非正規) 雇用契約 有期(60歳以降1年更新) 無期 有期(65歳以降1年更新) 雇用年齢上限 65歳 65歳 70歳 職務・職責 原則定年前と同様 旧定年前と同様 65歳時点より業務量・職責を軽減 等級 適用なし 旧定年前と同様(但し変更なし) 適用なし 役職 継続可(但し役職手当減) 旧定年前と同様(但し1年更新) 65歳時点で外れる 人事評価 なし 旧定年前と同様 あり 基本給 定年時×60%水準 旧定年時×80%水準 新定年時×70%水準(下限有り) 昇給 なし なし なし 諸手当 なし 旧定年前と同様 新定年前と同様(一部減額あり) 賞与 なし 旧定年時×70%水準 定額支給+評価加算 退職金 なし 60歳時点で確定 なし ※ 新経営サービス人事戦略研究所作成資料 【P32-35】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第56回 定年後の継続雇用の拒否、休日の移動をともなう出張と労働時間 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 勤務態度などを理由に、定年退職後の継続雇用をしない場合の留意点について知りたい  退職を迎えようとしている従業員について、横暴な態度が見えるなど周囲の従業員にも悪影響が出ています。定年退職後に継続雇用しないことも視野に入れているのですが、継続雇用をしない場合、どのような点に留意すべきでしょうか。 A  定年後の継続雇用においては、解雇に相当する事由または退職事由に該当する事情がなければ、原則として、雇止めをすることはできません。改善の機会がないことが客観的に裏づけられるような指導などを経ておかなければ、雇止めは有効にはなりがたいといえます。 1 定年後の再雇用における地位  高年齢者については、高年齢者雇用安定法により65歳までの雇用確保措置が義務づけられており@定年の延長、A継続雇用制度、B定年の廃止のいずれかの措置を取る必要があります。  これらのうち、継続雇用制度に関しては、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないことなど、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢にかかわるものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされています。ただし、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が求められることは、通常の解雇と同様です。  逆にいえば、解雇事由または退職事由に該当する程度の事情がないかぎりは、65歳までは雇用しなければならないともいえます。  とすると、ご質問にあるような事情があるとしても、解雇事由があり、それが客観的かつ合理的な理由として認められて、解雇という重大な処分が社会通念上相当と判断される必要があります。 2 継続雇用の拒否に関する裁判例  継続雇用の労働者について、労働契約を更新しないことが許容された裁判例を紹介し、どの程度の事情がなければならないのかみていきたいと思います。  紹介するのは、横浜地裁川崎支部令和3年11月30日判決です。事案の概要は、入社後1年間の有期労働契約を17回更新した後、無期転換権を行使して無期労働契約となっていたコールセンターに従事する労働者を、定年を迎えたときに継続雇用することなく、労働契約を終了したことが違法となるか争われたというものです。  会社が、継続雇用をしなかった理由は、誠実に職務を果たさなかったことや、みだりに自己の意見をもって業務上の処置をしないことといった就業規則に定められた服務規律に違反し、改善指導にもかかわらず、反省や改善が認められないことでした。  会社の対応マニュアルにおいては、「意見を尊重し誠実な対応を心がけるもの」とされており、私見を述べないこと、迷惑電話はていねいに断ること、何度もかかってくる場合には上司に対応を依頼すること、わいせつな内容に発展するおそれのある電話は、モニター依頼を発信し、転送を実施することなどが詳細に定められていましたが、当該労働者は、コールセンター業務を行うなかで、架電者に対して「お客さまも失礼でございますね、私に対して」、「あなたは失礼だ」、「ニュースをご覧になるとわかると思います。ニュースをご覧ください」、わいせつな電話を転送せずに「セクハラですね。警察にいうとあなたは捕まりますよ。こちら逆探知できるんですよ。あなたはもう犯罪者ですね」と返答するなど、不適切な言動をくり返していました。  これに対して、会社が業務指導として、架電者から罵詈雑言(ばりぞうごん)が出ても、売り言葉に買い言葉にならないように上司に転送するよう指導したり、感情が高ぶったときの対応を考えるために外部講師からの指導を企画したところその指導を拒否し、その後の業務指導に対しても「これまでの経緯を含め、インターネットにあげる。しかるべき場所で今回のやり取りを公開する」と対応するなど、誠実に指導に応えることなく推移していました。  定年が近づく時期においても、会社が業務指導を継続するために通知書を交付しようとすると、責任者の記載や押印がないことを理由に拒絶したうえで、労働組合などの団体および弁護士の同席がないかぎりは指導を受けるつもりはないとの回答に終始しました。最後に指導の面談を行った際にも、改善の指導には従わないと回答しました。  裁判所は、この労働者の架電者に対する対応について「中にはそれ1つを取り上げれば比較的些細なものとみ得る余地があるとしても、それが度々繰り返されるものであった以上、原告の電話対応の問題や不適切さを示すものにほかならず、全体を総合してみれば被告が策定したルール及び就業規則に反するといわざるを得ない」と判断して、解雇事由に該当することを肯定しました。  また、「再三にわたり被告からルール違反等を指摘され注意・指導を受けながらも、自己の対応が正当であるとの思いから、指導を受け入れて改善する意欲に乏しく、指導を受け入れずに勤務を続けていた」ことや、外部講師による指導に関して「研修内容が適切でないとするのは、原告の専ら個人的な意見であるというべきであり、自己の意見に反するからという理由で研修を受けないということは改善意思の欠如の現れとみることができる」とし、「複数回にわたり被告の指導に応ずるように命じられているのに、同様の理由であるいは些細な点を指摘しては指導を受けることを拒み続けていた」として、指導に応じる意思がないものと判断したことには理由があるとしています。  結論においても、「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」に照らして、「勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由に該当し、継続雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるというほかはない」として定年後の再雇用拒否が肯定されました。 3 定年後再雇用拒否が肯定された主な理由  紹介した裁判例においては、一つひとつの違反事由は必ずしも大きなものではなく、むしろ些細な出来事といえるようなものも含まれていました。それにもかかわらず、解雇事由に該当し、さらには、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が肯定されたのは、小さな違反であっても、指導を積み重ねていたことにあるといえます。  指導しようとしても拒絶されるということがくり返される場合でも、拒絶の理由が正当なものでなければ、改善の意思がないというマイナス評価につながります。労働組合や弁護士の同席を強く求めていましたが、指導自体を拒絶する理由にはならず、指導後に労働組合や代理人となった弁護士との協議や交渉を会社が拒絶したときにはじめて問題となるにとどまります。  会社が、改善するはずがないと決めつけてしまって指導もしていなかった場合には、指導を拒絶する態度は明らかにならず、改善の可能性があるかどうかの判断ができないまま、再雇用を拒否することになり、そのような場合は再雇用拒否が有効になるとは考えがたいところです。 Q2 休日の移動をともなう出張における労働時間の取扱いについて教えてほしい  宿泊をともなう遠方への出張(直行直帰)があったのですが、出張先に到着するまでの移動時間は、労働時間になるのでしょうか。また、出張中の移動日に休日が含まれていたのですが、休日出勤手当の支払い義務は発生するのでしょうか。 A  出張先に到着するまでの時間は、原則として労働時間にはなりません。また、休日の移動をともなう場合であっても、出張中の移動時間は、原則として労働時間に該当しません。  会社からの別段の指示として、物品の監視などが命じられていた場合には、例外的に労働時間に該当する場合があります。 1 通勤時間、出張の移動時間の労働時間該当性  判例によれば、労働基準法にいう労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当」と考えられています(最高裁平成12年3月9日判決、三菱重工長崎造船所事件)。  判例がいうところの、「指揮命令下」にある状況であれば労働時間に該当しますが、労務提供の準備に相当する通勤時間は、原則として、労働時間に該当するとは考えられていません。このことは自宅から会社に向かう出勤のときでも、会社から帰宅するための時間のいずれでも同様です。その主な理由は通勤時間中の時間は、業務遂行に従事する必要はなく、その時間を自由に利用することができることから、指揮命令下にあるとはいえないことにあります。  そして、出張に向かうために必要な時間も、就業場所に向かうために必要な時間という性質は通勤時間に類似するものと考えられています。  遠方への出張で時間を要する場合には、出張すること自体が労働時間の始まりであるかのようにも思うかもしれませんし、意識としては出発の段階から仕事のつもりで取り組むことはあるかもしれません。  しかしながら、出張の目的は、出張先において会社の業務を遂行することにあり、その移動時間まで業務遂行に充てることが必ずしも求められません。  裁判例では、基本的には出張中の移動時間について、具体的な指揮命令がないかぎりは労働時間に該当しないことを前提に、例外的に、納品物の運搬それ自体を重要な出張の目的としていた場合にかぎり、労働時間性を肯定しているものがあるにとどまります(東京地裁平成24年7月27日判決、ロア・アドバタイジング事件)。 2 出張中に行われる休日の移動と労働時間該当性  ご質問では、出張中の移動に休日が含まれており、休日労働手当(割増賃金)の支払いが必要になるか懸念されています。結論を出すためには、この移動時間が労働時間に該当するか否かが問題となります。  過去の裁判例では、移動時間中の時間利用の方法が拘束されていないかぎりは、たとえ海外出張の移動時間に休日を利用する場合であったとしても、労働時間として扱わないという傾向にあります。例えば、韓国への出張に要した移動時間について、労働協約において「所定就業時間外及び休日の乗車(船)時間は就業時間として取扱わない」旨定められていた事例において、当該規程を有効と認め、「移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実勤務にあたると解することが困難」であると判断された事例があります(東京地裁平成6年9月27日判決、横河電機事件)。前述の労働時間の定義を示した最高裁判例においては、当事者間の合意などの主観的事情により労働時間性が定まるものではないとされていることからすると、当事者間の労使協定の有無を重視するのではなく、移動時間の労働拘束性の程度が低いことが重要といえるでしょう。  行政解釈においても同趣旨が示されており、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」として、出張中の移動時間について原則として労働時間性を否定しています(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。  そのため、例外的に休日の移動時間が労働時間に該当するのは、納品物の運搬それ自体が目的である場合や物品の常時監視等別段の指示が与えられていた場合にかぎられるでしょう。 3 休日の移動などに対する実務的な対応について  休日の移動時間が労働時間に該当しないとしても、労働者の立場からすれば、あくまでも労働拘束性が低いにすぎず、完全に自由な利用であるかといわれるとそういうわけではありません。労働時間に該当しないからといって、何も支払ってはならないというわけではなく、使用者が任意に手当などを支給することは問題ありません。遠方への出張が多い業務に対応するような労働者からすれば、いかに労働拘束性が低いといえども、家族と過ごす時間や完全に自由な休日は減少しているため、ほかの労働者との不公平感を生じさせることを無視するのは、モチベーションの低下や離職の動機にもつながり得策ではありません。  多くの企業では、出張手当や日当の支給などにより出張による不利益を緩和するような措置を取っており、休日の移動についてもこれらの手当を支給する対象日としてカウントするといった配慮をすることは適切といえるでしょう。 【P36-27】 活き活き働くための高齢者の健康ライフ Healthy Life for the elderly  70歳までの就業が企業の努力義務となり、時代はまさに「生涯現役時代」を迎えようとしています。高齢者に元気に働き続けてもらうためには、何より「健康」が欠かせません。  働く高齢者の「健康」について、坂根直樹先生が解説します。 第2回 コロナが重症化する人は? コロナの名前の由来  日本を含めて全世界的に、新型コロナウイルス感染症が依然と猛威をふるっています。そもそも「コロナ」ウイルスとはどんなウイルスなのでしょうか。「コロナ」とはギリシャ語で「王冠」のこと。太陽の最外層大気も「コロナ」(光冠)と呼ばれています。1966(昭和41)年に発見されたウイルスは突起のついた形がコロナに似ていることから「コロナウイルス」と名づけられました(図表1)。普通の風邪を引き起こすウイルス(4種類)、SARSやMERS(中東呼吸器症候群)など重症肺炎の原因となるウイルス(3種類)などがあり、現在(2022年12月)までに、「COVID−19」を含めて7種類が知られています。 三密だけでなく、糖尿病三大合併症も避ける  コロナが重症化しやすい基礎疾患として糖尿病が有名です。血糖コントロールが悪くなるとウイルスに対する抵抗力が低下し、インフルエンザなどのウイルス感染症になりやすいことは以前からよく知られていました。2020(令和2)年に総理大臣官邸・厚生労働省が掲げたのが「三密」という標語です。換気の悪い密閉空間(むんむん)、多数が集まる密集場所(ぎゅうぎゅう)、間近で会話が発生をする密接場面(がやがや)の三つの密が揃う「三密」がクラスター発生のリスクが高いといわれています。ちなみに、英語圏では3Cs(Closed、Crowded、Close-contact)として普及しています。この三密、元々は仏教用語であった「三密」(身密〈行動〉、口密〈言葉〉、意密〈こころ〉)という言葉です。外来で患者さんに私は、「この三密を避けることも大切ですが、糖尿病の三大合併症(神経障害、眼、腎臓)を避けることも大切ですよ!」と伝えています。 コロナが重症化しやすいのは?  コロナの重症化と関係しているのは何でしょうか。よく知られているのは、年齢や性別です(図表2)。しかし、これらは変えることはできませんよね。しかし、減量や禁煙などのライフスタイルの改善はできそうです。また、コロナ禍では、感染を予防するために外出の自粛が呼びかけられました。しかし、外出自粛により感染症に罹患するリスクは低下するものの、体重増加や運動不足のために、抵抗力が低下し、生活習慣病になるリスクは増大してしまいます。一方、外出して社会参加すると、感染症に罹患するリスクが増大する懸念があります(図表3)。  最近、握力や歩行速度の低下がコロナの重症化と関連していることが報告されています。実際、外来で患者さんの話を聞いていると、コロナ禍で検査値が悪くなった人もいれば、よくなった人もいます。検査値が悪くなった人は、「在宅勤務で歩かなくなった」とか「ジムが閉まっていてジムに行けない」などと答えられています。その結果、家でテレビを見ながらゴロゴロしていて、生活が不規則になっているようです。  逆に、コロナ禍で検査値がよくなったというのは、隙間時間に運動をしたり、自宅でもできる運動を始めた人たちです。大掃除や断捨離に積極的に取り組んだ人も検査値が改善しています。また、在宅勤務になっても規則的な生活を継続している人は検査値が改善しています。  コロナの重症化予防のカギは運動療法や生活リズムの改善にありそうです。日ごろの運動を心がけるとともに、在宅勤務であったとしても、例えば、普段出勤するときと同じ服装に着替えたり、髪の毛をセットしたり、お化粧をするなどして、気持ちを切り替えてから仕事を始めてみましょう。会社で仕事をするのと同じように昼休みを取り、終業時間までしっかり仕事をするのです。つまり、家にいるからといってダラダラ仕事をするのではなく、生活にメリハリをつけることが大切です。  もちろん、コロナに強い身体をつくることができれば、風邪などの身近な病気を予防することにもつながります。  ここでみなさんにクイズです。「コ」、「ロ」、「ナ」という言葉を組み合わせると、ある漢字をつくることができます。そう「君」です(図表4)。ライフスタイルの改善に取り組むのは読者のみなさん、あなた自身です。テレビのニュースや新聞などで「コロナ」の文字を見かけたら、「『ゴ』『ロ』ゴロする『ナ』」と、自戒を込めて自分の生活をふり返ってみてはいかがでしょうか。 図表1 コロナウイルスのイメージ 図表2 コロナの重症化と関連するのは? 分類 危険因子 オッズ比 対策 属性 加齢 男性 1.73倍 1.51倍 修正不能 ライフスタイル 肥満 喫煙 1.89倍 1.40倍 減量 禁煙 基礎疾患 高血圧 糖尿病 心血管疾患 慢性腎疾患 脳血管疾患 慢性閉塞性肺疾患 がん 慢性肝疾患 2.42倍 2.40倍 2.87倍 2.97倍 2.47倍 2.88倍 2.60倍 1.51倍 減塩など 減量や運動など 血圧・血糖・脂質管理 血圧管理 血圧管理 禁煙など 野菜摂取など 減量など 出典:Li X, et al. PLoS One. 2021;16 (5):e0250602を基に筆者作成 図表3 外出自粛か社会参加か? 外出自粛で体重増加 外出先での感染リスク 図表4 コロナを足すと… 【P38-39】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第31回 「年功序列」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。 年功序列は傾向としては明確  今回は年功序列について取り上げます。  年功序列とは、勤続年数や年齢に応じて処遇(役職や賃金など)が上がることをさします。最初に年功序列の実態についてみていきます。  参考になるのは役職別の平均勤続年数や年齢ですが、『令和3年賃金構造基本統計調査』(厚生労働省)の第7表男女計を見ると、非役職者の平均勤続年数が10.4年に対して、係長級17.9年、課長級20.5年、部長級22.4年となっています。東京商工リサーチによる2021(令和3)年の『全国社長の年齢調査』では、社長の平均年齢は2020年で62.49歳です。もう一つ参考になるのが、勤続年数別の賃金格差です。図表を参照するとわかりやすいのですが、日本は男女ともに右肩上がりの傾向を示しています。勤続年数1〜5年の賃金を100とした場合、勤続年数30年以上で賃金は男性1.6倍、女性1.5倍に達しています。  一般的には、1990年代あたりのいわゆるバブル経済崩壊後の、個人の成果により処遇を決める成果主義への転換により、年功序列は薄まっているといわれていますが、これらの情報をみるかぎりでは年功序列の傾向はまだまだ明確といえそうです。なお、図表を再びみると、スウェーデン・イギリス以外は勤続年数により賃金が高まり、部分的には日本よりもドイツの方がその傾向が強く出ています。終身雇用と同じですが、年功序列も日本特有≠フ特徴とはいえなさそうです。 人事制度面の影響も大きい  年功序列の成り立ちとして、高度経済成長期(1955〈昭和30〉年ころ〜)の労働力不足に対して、一度採用した社員の離職を防ぐために、勤続し続けると処遇が向上するメリットを持たせる人事制度を、意図的につくったことにあるといわれています。この仕組みは江戸時代に普及した儒教の年長者を敬うという教えや、商人の家に住み込み、丁稚(でっち)(年少時代)による修業から、長い年月を経て番頭(ばんとう)(使用人の中で最高の地位)に段階をふんで上がっていく江戸から昭和まで引き継がれた雇用上の考えもあり、精神的な面でも経営者にも労働者にも受け入れやすかったという背景もあるようです。  現在の年功序列の傾向も、高度経済成長期と同様に制度が大きく影響しているといえます。第1回「人事制度(本連載2020年6月号掲載)※1」でも一部触れていますが、制度上のルール面と運用面の両方に理由があります。  ルール面では、能力の蓄積に応じた昇格と昇給の制度(職能資格制度)があることです。一般的な能力の認識と異なり、人事制度上の能力は一度蓄積したら下がらないとされています。そのため、勤続年数を重ねるほど能力は蓄積され、それにともない昇格・昇給が実施され、結果として年功的な給与分布となっていきます。2022年に労務行政研究所が発表した調査※2によると、職能資格制度の導入率は一般社員・企業規模計で52.6%に上っています。  運用面では、役職登用の運用とモデル賃金の存在が主な原因といえます。役職が高いほど平均勤続年数が長いという点は運用でなんとなく行ってしまっているケースがあります。例えば、同期のだれかが課長になるとバランスをとってほかの社員も課長にするといったものです。また、モデル賃金とは入社以来標準的なペースで昇格や昇給をした場合の給与水準を示すものですが、勤続年数または年齢別に右肩上がりのカーブを描くように作成するのが一般的です。勤続に対するモチベーション創出や年齢が上がるほど生活費が上がるという考えからこのようなつくり方をするのですが、この考え方は、年功序列的運用が前提にあるともいえます。 見直しの機運は高まっている  これまでも年功序列の見直しは議論されてきましたが、2022年はこれまで以上に見直し機運が高まっているといえます。同年10月3日に行われた第210回国会における所信表明演説で、岸田(きしだ)文雄(ふみお)内閣総理大臣が構造的な賃上げというテーマのなかで、「年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行」と述べています。  また、一般社団法人日本経済団体連合会は春闘の指針などを通して年功序列賃金の見直しにしばしば言及しています。このほか、報道などで大手企業が年功序列からの脱却を図る制度改定を進めていることが取り上げられています。政府や経営側からの発信が目立つのは、若くて優秀な社員の離職をうながしてしまう、中途採用がしにくく多様な人材が集まらない、人材の入れ替えが起きずに組織が活性化されない、などの課題の解消のためという面があります。しかし、少子高齢化を背景に企業の平均年齢が高まっているなか、高年齢層の人件費を抑えて、採用市場で取り合いになっている若手や専門性の高い人材などに人件費を振り分けて企業の成長につなげたいという意図も見えてきます。  経営者側からすると年功序列の見直しは経営をしやすくするためのメリットはあるものの、労働者側からすると勤続という要素だけでは処遇が上がりにくくなり専門性の向上や転職によるステップアップなどがこれまで以上に求められるため、評価の分かれるところです。  次回は、「正社員と非正規社員」について解説します。 ※1 本連載の過去の記事は当機構ホームページでご覧いただけます。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html ※2 一般財団法人労務行政研究所「人事制度の実施・改定動向」 図表 勤続年数別賃金格差 勤続1〜5年=100(2018年) 男 女 日本 ドイツ イタリア フランス イギリス スウェーデン 出典:『データブック国際労働比較2022』(独立行政法人労働政策研究・研修機構) 【P40-41】 新春特別企画1 「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」基調講演から 人生100年時代のスマイルワークデザイン 〜高齢者が快適に働くことができる職場づくり〜 産業医科大学名誉教授 神代(くましろ)雅晴(まさはる) 2022(令和4)年10月5日に開催された「高年齢者活躍企業フォーラム」より、産業医科大学名誉教授・神代雅晴氏による基調講演の模様をお届けします。高齢者が快適に働いていくための職場づくり・健康づくりについてお話しいただきました。 高齢者が長く働くことができる職場環境改善を  いわゆる団塊世代のすべての方が75歳以上になる「2025年問題」に続いて、その15年後には、15歳から64歳までの現役世代が極端に減少するという「2040年問題」に直面することが予測されています。こうした状況のなかで必要になるのが、「働くことができる高齢者づくり」と「労働生産性の高い高齢者づくり」を2段階の戦略で推進していくことです。  これからは、働くことと長くつきあう時代を迎えます。そこで必要になるのは、高齢者が快適かつ安全に仕事ができる環境をつくることです。高齢者が実際に直面する仕事に対し、「無理なく、無駄なく、ムラなく」対応できる仕事と環境づくりが必要になります。  職場改善の取組みでは、かつては、作業姿勢や重量物の搬送などが注目されていました。代表的なものとして、腰痛防止を含めた姿勢改善について紹介します。腰痛を引き起こす五悪姿勢(五つの不良作業姿勢)というものがあります。腰が高い、背が丸い、体の傾きが深い、腕を長く伸ばす、急に身体をねじる、といったものです。これを改善するキーポイントが、実は「腕の肘(ひじ)」なんです。肘の曲げ角度を90度から100度の範囲にすると、こういう姿勢が消えていきます。アームの法則またはエルボールールと呼ばれています。  近ごろはこれらに、転倒、墜落・転落を避けるための改善が加わっています。「令和3年労働災害発生状況」(厚生労働省)から、休業4日以上の死傷者数をみると、転倒と、墜落・転落を合わせた人数が全体の4割近くになっています。死亡者数では、墜落・転落がもっとも多く、全体の25%を占めています。労働災害発生率を男女別・年齢階級別にみると、墜落・転落は女性より男性が多く、男性の60代後半では20代の約4倍となっています。女性は転倒が非常に多く、60代後半は20代の約16倍となっています。  高齢社会において、転倒、墜落・転落の防止は非常に大きな課題となっています。すでにいろいろな対策が実施されていますが、受け身の対策にとどまらず、転倒、墜落・転落事故を起こしにくい身体づくりをする、という攻めの対策が必要不可欠だと思います。 労働適応能力を診断するWAIと労働寿命を診断するAAI  同じく高齢化が進む海外に目を向けてみると、北欧を中心としたヨーロッパの国々では、職場改善の取組みではなく、加齢により自分の労働適応能力がどれほど衰退しているのかを把握する物差しを開発する取組みが行われています。フィンランドでは1980年代に、「ワーク・アビリティ・インデックス」(WAI)という労働適応能力を診断する物差しが開発されました。現在では20数ヵ国でWAIが用いられています。  私は、日本の状況をふまえて、日本国内で企業のご協力をいただきながら、日本の労働環境とそこで働く人たちに適した労働適応能力を評価する物差しとして「アクティブ・エイジング・インデックス」(AAI)というツールを開発しました。このAAIは、四つの構成要素(社会的な対処能力、精神的許容能力と回復力、身体機能、労働意欲)からなり、WAIが労働適応能力を診断するのに対し、AAIでは労働寿命を推定するものになっています。  そして、WAIとAAIを併用して調査をしてみると、それぞれの評価が強く相関していることがわかりました。WAIで労働適応能力が低い人は、AAIによって推定された労働寿命が短く、WAIで労働適応能力が高い人は、AAIによる労働寿命が長いのです。  また、ストレスについてみると「ストレスが低い人は、労働寿命が長い」、「労働寿命が長い人は、労働適応能力が高くなってくる」という相関関係があることもわかりました。  ある企業の工場では、60代で労働寿命がガクッと落ちるというデータが得られました。そこでAAIの四つの構成要素を分析したところ、「労働意欲」が低下していることがわかったのです。では、なぜ労働意欲が下がったのか。調査をしてみると、この企業では60歳の定年後は再雇用となり、急激に給与が下がることがわかりました。これが労働意欲の低下、そして労働寿命の低下につながっていたのです。 健康だから、労働意欲が高まるのではなく労働意欲が高いから、健康をつくりあげる  さらに、労働意欲と健康の関係を調べてみたところ、「労働意欲が高いから、健康をつくりあげる」のであって、「健康だから、労働意欲が高まるのではない」ということもわかりました。つまり、先ほど紹介した、とある企業の工場の例に当てはめてみると、賃金が低下したことにより労働意欲が低下し、労働意欲が低下することで、WAIで診断する労働適応能力が低下し、さらにAAIで推定する労働寿命が低下した、ということになります。  労働寿命と健康寿命の関係については、これからの調査によって明らかになってくると思いますが、いまから約400年前、イギリスの経済学者で医師であり測量家でもあったウィリアム・ペティが「健康は労働から生まれ、満足は健康から生まれる」という言葉を残しています。つまり「労働寿命を延ばすことは、健康寿命の延伸につながる」といっているのです。  人生100年時代には、この健康寿命をいかに延ばすかが重要です。そして健康寿命を延ばすには、やはり働くことが重要であり、毎日出社をして「おはよう」、「さようなら、また明日」といい合える身体・健康をつくり、職場では作業負荷の大きい作業環境を改善していく。そして、自分の労働適応能力がどの程度あって、その能力といま与えられている仕事にミスマッチがないかを、自分自身、あるいは職場の上司が判断できるような仕組みをつくること。ミスマッチのない仕事・職場を実現できれば、年齢・性別にかかわらず、事故のリスクは低下し、企業の求める労働生産性は高くなっていきます。  ぜひこうした視点を持って、高齢者が長く働くための取組みを推進していただければと思います。 写真のキャプション 産業医科大学名誉教授の神代雅晴氏 【P42-47】 新春特別企画2 「令和4年度高年齢者活躍企業フォーラム」トークセッション 高齢社員がいきいき働ける職場とは 高年齢者活躍企業フォーラムより、「令和4年度高年齢者活躍企業コンテスト」入賞企業3社が登壇して行われたトークセッションの模様をお届けします。コーディネーターに事業創造大学院大学の浅野浩美教授を迎え、高齢社員が生涯現役で活躍できる職場づくりについて、各社にお話をうかがいました。 コーディネーター 事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授 浅野(あさの)浩美(ひろみ)氏 パネリスト 株式会社恵那川上屋(えなかわかみや) 総務人事部長 清見(きよみ)賢一(けんいち)氏 株式会社トーケン 代表取締役会長 根上(ねがみ)健正(けんせい)氏 モルツウェル株式会社 専務取締役 野津(のつ)昭子(あきこ)氏 企業プロフィール モルツウェル株式会社 〈島根県松江市〉 ◎創業 1996(平成8)年 ◎業種 小売業(高齢者向け食品製造販売) ◎従業員数 147人(2022年5月31日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 定年は65歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後は運用により年齢上限なく再雇用。独自に開発した「人事評価システム」、「成長シート」により人事評価を実施。業績に応じて賞与に連動する仕組みを、定年後の嘱託社員(作業職以外)にも適用。 株式会社トーケン 〈石川県金沢市〉 ◎創業 1970(昭和45)年 ◎業種 総合建設業(建設総合サービス業) ◎従業員数 84人(2022年4月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 定年は65歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後は運用により年齢上限なく再雇用。他社を退職した高度な技術を持つ高齢者を積極的に採用する「技師長制度」、社員や協力会社から技術者などを推薦・紹介してもらう「リファラル採用制度」がある。 株式会社恵那川上屋 〈岐阜県恵那市〉 ◎創業 1964(昭和39)年 ◎業種 食材栽培、菓子製造、菓子販売 ◎従業員数 318人(2022年6月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 定年は65歳。希望者全員70歳まで再雇用。その後は一定条件のもと、年齢上限なく再雇用。正社員に新たな職能等級制度、評価制度、賃金制度を導入。高齢者が多いパート社員は、役割遂行レベルに応じて3クラスに分け、戦力化と定着化を図っている。 3社のさらに詳しい取組み内容は、本誌2022年10月号「特集」※をご覧ください ※当機構ホームページでご覧になれます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202210.html エルダー2022年10月号 検索 株式会社恵那川上屋 制度・環境・風土の視点で取組みを推進 浅野 はじめに、3社の高齢者活躍推進の取組みをお聞きしたいと思います。株式会社恵那川上屋の清見さんからお願いします※。 清見 当社は、地元の栗を使った「栗きんとん」をはじめとしたお菓子を製造・販売しています。栗の栽培から生産・販売・運送までの業務を行うなか、多様な人材が働けるフィールドがあります。また、女性社員が多く、女性が働きやすい職場環境であることは、高齢社員にとっても働きやすい職場になっているのではないかと思います。  高齢者雇用については、「制度・環境・風土」の三つの側面から取り組んでいます。制度面では、職能等級制度を整備し高齢社員にも適用するとともに、仕事のがんばりを認めて処遇に反映する仕組みをつくりました。環境面では、負担を軽減するためのオートメーション化を進めているほか、体力を回復させる目的で、昼休憩のほかに、午前・午後に各10分ほど、有給で休憩時間を設けています。風土面では、若手社員と高齢社員の連携や、全社員がコミュニケーションをとれる場を設けることに努めています。例えば、全社員が集まる場として「経営計画発表会」を年1回開催しているほか、取引先や生産者のみなさんなど、地域の方も引き込んで開催する「感謝祭」を春と秋に開催しています。  まだまだ発展途上のところもありますので、改善を重ねながら、これからも社員が満足する会社づくりを進めていきたいと思っています。 株式会社トーケン シニア人材を採用し会社の戦力に 浅野 続いて株式会社トーケンの根上さん、お願いします。 根上 当社は建設総合サービス業として、民間の建築工事などを主体とする地域ゼネコンです。また、高齢者介護施設紹介センター、環境緑化事業なども手がけており、幅広く事業を運営しています。  当社では、65歳定年後、希望者全員70歳まで働ける制度を整備しています。シニア社員は、会社が発展していくための大切な役割を果たしています。例えば「技師長・顧問制度」は、大手ゼネコンなどを定年退職後、まだまだ働く意欲のある高齢技術者に当社に入社してもらい、技師長や顧問として活躍してもらう制度です。この制度により、当社の技術力は格段に向上し、大型工事の受注にも結びついています。  また、当社の女性社員20人のうち、10人が管理職を務めており、経験豊富な高齢の女性管理職が模範となり、女性活躍のための意識改革に取り組んでいます。2012(平成24)年に設立した高齢者介護施設紹介センター、2021(令和3)年から取り組んでいる障害者就労支援事業でも、60代の女性社員が中心となり、地域共生社会の実現に向けて努力しています。  一方、若手を対象にした社内研修会「トーケンアカデミー」では、技師長制度で入社したシニア社員を中心とする講師陣が新入社員教育を行っています。また、当社独自の研修会「胎動塾(たいどうじゅく)」では、指名された社員が与えられたテーマについて勉強し全社員の前で発表をするのですが、シニア社員の発表は、若手社員にノウハウと経験を伝えるよい機会となっています。 モルツウェル株式会社 それぞれの人材が持つ強みを活かして 浅野 それではモルツウェル株式会社の野津さん、お願いします。 野津 当社では、365日、朝昼晩、栄養管理された食事を製造し、全国の高齢者施設へお届けするほか、高齢者宅への配食サービス、買い物支援サービスなどを展開しています。  高齢者雇用の取組みのきっかけとなったのは、事業が順調に成長する一方で、若手を育てる人材がいないという問題が起こったことです。課題解決をともに実践してくれる人材として、2017年に大手企業で管理職を務めた50代後半の人材を採用し、人事評価制度を含め全社的な業務改善を行いました。2022年にも60代の管理職経験者を採用して、若手人材の育成や組織構築を行っています。  高齢者雇用制度としては、65歳定年後の再雇用では年齢上限を設けておらず、現在の最高年齢者は82歳です。  高齢者活躍推進の取組みとしては、当社では毎年全社の方針発表会を行い、その方針を基に社員一人ひとりが目標管理シートを作成し、それに基づいて人事評価を行っており、高齢社員にもこれを適用しています。意欲・能力の維持・向上の面では、問題解決のための「改善報告制度」を設け、高齢社員からも多くの改善提案が寄せられており、「私なんて」から「私だってやれる」ことを増やす機会となっています。  こうした取組みもあり、継続して業績はアップしており、一人あたりの付加価値額が25%、平均賃金は4.25%向上しました。  高齢だから、男性だから、女性だから、障害があるからできないという偏見をなくし、それぞれの強みを活かして弱みを消し、違いを活かして強くなれるように、「期待し、機会をつくって、甘えではなくて鍛える」というやり方が循環する職場づくりをしていきたいと考えています。 70歳を超えて働くための仕組みづくりとは 浅野 2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法で、70歳までの就業確保措置を講じることが企業の努力義務となりました。前向きに考えながらも、導入には苦労が多そうで気がかりだという企業も多いと思います。導入に至るまでどのようなご苦労があったのか、清見さんから教えていただけますでしょうか。 清見 当社は地方にあり、高齢化とともに労働力不足も進んでいます。そうしたなかで、縁あって入社し、がんばっている仲間が、いきいきと働き続けられる環境をつくるためには何をすべきか。そういった視点から制度の見直し・導入などを行ってきました。特別なことをしているという感覚はありませんでした。 浅野 ありがとうございます。では、根上さんの会社はいかがでしょうか。 根上 人口減少にともなう市場規模の縮小は建設業とも密接にかかわっており、地域ゼネコンがいかにして生き残っていくのか、たいへんな危機感のなかで、制度の改善・導入に取り組んできました。  まず、技術力や管理力を向上させ、小さいながらもストロングな企業体質に変身させたいと考えるなかで、「技術は個人が持っている」というあたり前のことに気づきました。そこで、大手ゼネコンを定年退職者された方で「まだまだ働きたい」という方がおり、力を借りようと思ったのが、「技師長制度」の始まりです。  採用にあたっては、個々の事情にあわせて働き方などに配慮し、役割としては、若手社員の育成と指導に努めてほしいと伝えています。 浅野 ありがとうございます。会社の課題を解決するために、スキルを持ち経験豊富な高齢者の活用を始めたということですね。 高齢社員のモチベーションの維持・向上のために必要なこと 浅野 続いて、高齢社員にやる気を持って長く働いてもらうためにはどうしたらよいのか。みなさんの会社では、何か仕掛けがあるような気がします。清見さんからお願いします。 清見 正社員について「職能等級制度」、「評価制度」、「賃金制度」の見直しを行うと同時に、高齢者が多いパート社員に関しても、がんばりを認める「評価制度」をつくりました。もちろん、制度はつくって終わりではないので、社員に対してこれらの制度の目的や運用についてわかりやすく伝えることにも注力しています。  また、毎年全社員が参加して開催されている経営計画発表会において、勤続表彰を行うなど、みんなの前で認められるという場などをたくさんつくるようにしています。 浅野 年齢を重ねても、ほめられるとうれしいものですよね。ありがとうございます。野津さん、いかがでしょうか。 野津 当社も、「人事評価システム」、「成長シート」による人事評価を実施し、給与、賞与に連動する仕組みを、定年後の嘱託社員(作業職以外)にも適用しています。また、全社員を対象とした「改善報告制度」を運用し、了承された改善提案には報奨金を支給しています。やはり制度運用が大事なので、社員が制度や仕組みについて理解を深めるための時間や機会をつくることに力を入れています。 浅野 ありがとうございます。「モチベーションを上げましょう」というだけでなく、そのための仕組みをつくる、さらに、理解のための時間もつくるということも大事ですね。 変化の激しい時代における高齢社員の「学び」とは 浅野 続いて、高齢社員の「学び」についてうかがいます。根上さん、いかがでしょうか。 根上 「技師長制度」が定着するなかで、社員の自ら学ぼうとする姿勢が重要であることを感じました。そこで、社員の意識改革が必要と感じ、社員が講師となる「胎動塾」という勉強会を始めました。ともに働く社員が発表することで、社員同士が刺激を受けて、会社全体に意識改革の機運が高まり、シニア社員も「自分だけ置いていかれるわけにはいかない」と、苦手としていた建設DXを学び始めるなど、いま、会社全体で学ぶことへの姿勢が高まってきています。 浅野 ありがとうございます。定年退職された専門性の高い技師長や顧問の方だけではなく、社員のみなさんが講師になっているんですね。次に、野津さん、お願いします。 野津 当社では年数回、食品衛生の知識や作業手順に関するテストを実施しています。その問題を入社3年目の社員が作成しており、自分たちで学ぶ仕組みをつくっていくという環境づくりに取り組んでいます。また、社員に参加してもらう安全衛生会議では、社員が主体となってテーマやスローガンを決めており、社員一人ひとりが自ら考えていくための環境を整えることに努めています。 浅野 ありがとうございます。テストの問題から社員につくってもらうというのは、よいアイデアですね。 より長い期間働くうえでの高齢社員の業務や役割 浅野 高齢社員に長く働いてもらうなかで業務や役割を見直すこともあると思いますが、どうすればうまくいくのでしょうか。根上さん、お願いします。 根上 シニア社員には、つちかってきた技術力やノウハウ、社会経験を若手にしっかり教えてほしいという役割を伝えています。  また、女性のシニア社員が高齢者介護施設紹介事業を担当していますが、従来の業務とは異なるものの、一から学び、社会貢献につながるという思いから、いまでは第一人者のように成長し活躍しています。シニア社員がやる気になってくれたら、まだまだ会社の成長につながると思っています。 浅野 ありがとうございます。高齢者介護施設紹介事業や障害者就労支援事業といった新規事業で、その経験がない高齢社員がチャレンジしていることもすばらしいと思います。次に、清見さん、いかがでしょうか。 清見 業務の見直しという点では、設備や機械を導入し、省人化・効率化を図り、生産性を高める取組みを行っていくことが、高齢社員の働きやすさにもつながってきていると思います。  また、当社には「前に推し進める」という意味の「フィードフォワード」という考え方があります。当社の場合、若年者も多く働いており、若手・中堅社員にはさまざまなことに取り組んでもらいたいと考えています。当社の鎌田代表取締役は「20歳の人が60歳の人生経験と仕事の経験をふまえた意見をもらえれば、40年分先に行く」と話しているのですが、高齢社員には、豊富な知識や経験を若手に伝えていく役割があると思っています。 浅野 ありがとうございます。「フィードバック」ではなく「フィードフォワード」、そして、「40年分先に行く」という発想は、逆に高齢社員の側にとっても、可能性が広まるということもあるのではないかと思いながら聞きました。それでは、野津さん、お願いします。 野津 私は、組合せが大事ではないかと思っています。例えば、魚を並べて焼くという工程の場合、魚を何百匹も運び、並べることは高齢社員にはたいへんな作業です。一方、同じ工程にいる障害のある社員は、機械操作や計算は苦手ですが、運んだり並べたりするのは得意。両者がペア就労し、苦手なことを互いにフォローし合うことで業務がスムーズに進みます。こうした組合せを工夫することが、チームで成果をあげることにつながっていくのだと思います。 浅野 ありがとうございます。組合せやチームで考えるということが大切なんですね。その一方で、高齢社員に、より長い期間、力を発揮してもらうために、工夫をされていることはありますか。 清見 身体的な能力の低下への対応として、当社では、人の目で行っていたことを機械で行うようにしました。また、高齢の就農者の方々が、高い所に手を伸ばすのではなく、低い位置で無理なく作業できる方法で栽培を行っているのを拝見して、そうした考え方を製造や販売の現場でも取り入れていくことを心がけています。 野津 高齢者施設の入居者の方々の食事は、食材の大きさや味つけなど、一人ひとり異なり、何百種類も組合せがあって覚えるのがたいへんです。そこで、その情報をデータ化して、だれでもたずさわれる業務にしようとシステム開発を進めています。 変化に対応し続けていくための経営者・人事に求められる取組みとは 浅野 みなさんの会社は、高齢社員の方に力を発揮してもらいつつ、いろいろな変化があるなかで成長されています。変化に対応し続けていくために、また、社員が知恵を出し合うために、日ごろからどんなことを考えていらっしゃるのか、野津さんからお聞かせください。 野津 当社では、「1人あたり付加価値額」というものを毎月算出し、全社員で共有しています。“1人が稼ぐ力”を示す指標です。これを見える化し公開することで、「自分の行動で会社がよくなっている」、「会社に貢献できている」ことを実感することができます。年齢を問わず、そうした機会を持つことがよいのではないかと思います。 浅野 ありがとうございます。1人あたりの生産性をみんなが意識しているという取組みをされているのですね。根上さんお願いします。 根上 会社を経営していると、毎日のようにいろいろなことが起こります。そこで必要なのは、絶え間ない改革とノウハウを蓄積する努力を続けることを挑戦ととらえ、日々続けていくことです。また「自分たちは地域に生かされている」ということを忘れず、「地域の役に立ちたい」、「必要とされたい」という思いと、人を大切にするという志のもと、すべての社員の個性が活かされ、持続的成長につながることが、当社のダイバーシティ経営であると考えています。 浅野 ありがとうございます。地域を大切にして、さらに、若手や高齢者にかぎらず、全員の力で乗り切り、成長して来られたのだなと思いながら、お話を聞かせていただきました。それでは最後に清見さんお願いします。 清見 制度や仕組み、環境づくりだけではなく、その運用やマインド面も必要なことと考え、取り組んでいます。例えば「ありが10(ありがとう)キャンペーン」という取組みがあるのですが、社員が閲覧できるグループウェアに社員同士で感謝したことを投稿して、みんなでよい気分になろうといった、心に訴えかけるような取組みを行っています。  「そんなことをやっても響かないだろう」と思う方もいらっしゃると思います。人の心を動かすのは簡単ではないので、手を替え品を替え、あきらめずにやっていくことが大事だと、そういう姿勢で取り組んでいます。 浅野 ありがとうございます。「手を替え品を替え」ということに共感いたしました。  最後にこれからの抱負を一言ずつお話しいただきたいと思います。 野津 当社のある島根県は高齢化率が高いのですが、地域のみなさんの協力により当社は成長してきました。少子高齢社会を悲観するのではなく、未来に向けたよい取組みを島根からどんどん発信していきたいと思います。これからもがんばります。 根上 私たちは地域に生かされてきました。だからこそ、地域の役に立てる企業となるために、将来的には建設を中心とした生活総合サービス業を目ざし、地域共生社会の実現に貢献していきたいと思っています。 清見 これからも高齢社会は進展していくなか、ご縁があって当社に入社した仲間や、これから仲間になる人たちが、どうやったら100%、120%の力を出していけるかを考えながら、前向きに、建設的に、これからも取組みを進めていきたいと思います。 浅野 本日お話をうかがって、みなさんが働いている方々の言葉をよく聞き、一緒に考えながら取組みを進めていらっしゃることがよくわかりました。本日はどうもありがとうございました。 ※トークセッションを円滑に進めるために、パネリストの方々を「さん」づけとしています 写真のキャプション 事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授の浅野浩美氏 株式会社恵那川上屋 総務人事部長の清見賢一氏 株式会社トーケン 代表取締役会長の根上健正氏 モルツウェル株式会社 専務取締役の野津昭子氏 【P48-51】 特別寄稿 中高年(40〜59歳)非正社員のキャリア設計と企業の人事管理 玉川大学経営学部教授 大木栄一 1 企業経営に必要不可欠な中高年(40〜59歳)非正社員  1980年代後半以降、非正社員の数と比率が着実に増えてきている。総務省「就業構造基本調査」によれば、全雇用者に占める「正規の職員・従業員」(以下、「正社員」)の割合は、1987(昭和62)年には74.9%、1997(平成9)年には70.1%、2002年には7割を割り63.1%、2007年には6割を割り59.9%、2017年には58.3%になり、一貫して正社員が減少し、これと対照的に非正社員が増加している。  このことは、企業にとっては、非正社員なくしては企業経営が成り立たないことを示している。特に、正社員に近い働き方をしていると考えられる「勤務年数が長く、かつ、労働時間が長い非正社員」の動向は、人手不足時代を企業が乗り切るために必要不可欠な存在である。しかしながら、こうした正社員に近い働き方をしていると考えられる非正社員のなかで、社会的な経験が豊富な40歳以上59歳以下の非正社員で、かつ、勤務年数・労働時間が長く、勤務先での呼称が非正社員(以下、「中高年非正社員」)が高齢期に向けてどのような意識を持っているのか、さらに、どのような職業生活設計を持っているのかを明らかにした調査研究は多くない。  高齢者雇用の課題を検討するにあたっては、従来、定年制が適用される正社員を前提として論じられることが多かった。一方、非正社員は高齢期に至るまでのキャリアの推移が正社員に比べて多様であり、仕事と生活との関係、社会保険加入状況などにも個人差が大きい。非正社員の場合、定年による大きな労働条件の変更など年齢によるギャップを経験することが少ない。正社員に比べて年齢による働き方の変化が緩やかななかで、長く働き続けるために求められていることは何か、非正規雇用で働く者の意識やニーズを明らかにすることも重要であろう。  さらに、近年の働き方改革で問われるようになった「同一労働同一賃金(「正社員と非正社員の間の不合理な格差の解消」)」に代表されるような「正社員と非正社員の処遇均衡・処遇均等」の問題がある。このことは異なる働き方をする労働者間の均衡・均等に配慮した雇用管理や報酬管理を構築することに迫られていることでもある。では、正社員に近い働き方をしていると考えられる「中高年非正社員」からみて、企業が「中高年非正社員」に対してどのような人事管理を行っているのか。  こうした点について、ここでは、40〜59歳の民間企業に勤務し、職場で非正社員という呼称で呼ばれている者で、かつ、「現在の勤務先での勤務年数が5年以上で、かつ、週20時間以上働いている者」を対象にしたアンケート結果の分析(詳細については執筆者が参加した(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2021)『非正社員の人事管理とキャリア〜中高年(40〜59歳)非正社員WEB調査』を参照)を通して、第一に「中高年非正社員」が高齢期に向けて、どのような意識と職業生活設計を持っているのか、第二に企業が「中高年非正社員」に対してどのような人事管理を行っているのか、を紹介する。 2 中高年非正社員の高齢期に向けた意識と職業生活設計  「中高年非正社員」の高齢期に向けた意識と職業生活設計に影響を及ぼすと推測される「現在の勤務先における非正社員の活用方針・活用戦略」をどのように評価しているのかについてみると、「会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている」は6割弱が評価している。しかしながら、これ以外について、勤務先における非正社員の活用方針・活用戦略を評価していない者が多く見られる。特に、評価が厳しい活用方針・活用戦略は、「非正社員の処遇を考えるとき、正社員とのバランスを意識して決める方針を持っている」、「今後、会社は非正社員がどの程度増えるのか、見込みを立てている」、「非正社員の雇用に取り組むための体制(担当者の選任、相談窓口の設置等)を設けている」、「経営者や管理者は正社員に対して、非正社員の活用の大切さを働きかけている」、「非正社員に期待する成果・業績について、明確な方針を持っている」、「上司との面談等によって、非正社員と緊密なコミュニケーションを図る工夫をしている」の六つで評価が低くなっている。  現在の勤務先での就労希望年齢は、「60歳ぐらいまで」が17.1%、「65歳ぐらいまで」が22.7%、「70歳ぐらいまで」が5.5%、「働ける限り年齢に関係なく」が23.9%、「わからない」が30.7%である。こうした現在の勤務先での就労希望年齢は、勤務年数・平均的な労働時間にかかわらずほぼ同じであるが、従事する仕事で、就労希望年齢は異なる。  高齢期(おおむね60歳以降)に働く場合、最もよいと思う働き方は「就業時間や日数を減らして働く」が4割強で最も多く、次いで、「現在と同程度の就業時間や日数で働く」、「わからない」、「必要がなければ働かない」、がこれに続いている。従事している仕事別にみると、サービスの仕事に従事している者および保安の仕事に従事している者で「就業時間や日数を減らして働く」、事務的な仕事に従事している者で「現在と同程度の就業時間や日数で働く」、運搬・清掃・包装等の仕事に従事している者で「必要がなければ働かない」、を指摘する者が多くなっている。  高齢期に働く場合に、重視したい条件は、「通勤に便利なこと」が7割弱で最も多く、次いで、「休みが取りやすいこと」、「都合のよい時間や曜日に働けること」、「ストレスが少ないこと」、「これまでに経験のある仕事内容であること」、「身体的負担が少ないこと」、「慣れた職場環境であること」、「賃金に納得できること」、「手当やボーナスが充実していること」がこれに続いている。こうした重視したい条件は従事している仕事で異なっている。また、労働時間が長い者ほど、「賃金に納得できること」および「手当やボーナスが充実していること」、これに対して、短い者ほど、「通勤に便利なこと」および「都合のよい時間や曜日に働けること」を指摘する者が多くなっている。働く時間によっても(高齢期に働く場合に)、重視したい条件が異なっている。さらに、勤務先における非正社員の活用方針・活用戦略別にみると、「会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている」と考えている者ほど、高齢期に働く場合に、重視したい条件が広範囲に広がっている(図表)。  仕事や労働条件に関する満足度についてみると、「労働時間、休暇」、「仕事内容」は、「雇用の安定性」と「職場の人間関係」の四つに関しては、満足している者が多くなっている。これに対して、「賃金水準」に関しては、満足していない者が多くなっている。また、「研修、能力開発の機会」および「職場で期待されている役割、ポスト」については、「どちらとも言えない」が半数程度を占めている。勤務先における非正社員の活用方針別にみると、「会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている」と考えている者ほど、仕事や労働条件に関する満足度が広範囲に高くなっている。  勤務先の人事方針や取組みに関する評価についてみると、「女性の活用」と「高齢者の雇用」の二つは評価が高くなっている。これに対して、「人材育成方針」と「キャリア設計の相談体制」の二つは評価が低くなっている。勤務先における非正社員の活用方針別にみると、「会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている」と考えている者ほど、勤務先の人事に関する方針や取組みに関する評価が広範囲に高くなっている。  以上をまとめると、従事している仕事と現在の勤務先における非正社員の活用方針・活用戦略(「会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている」)が「中高年非正社員」の高齢期に向けた意識と職業生活設計に大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。 3 中高年非正社員からみた企業の人事管理  正社員に近い働き方をしていると考えられる「中高年非正社員」からみて、企業が「中高年非正社員」に対してどのような人事管理を行っているのかについてみると、企業は非正社員と正社員を別の制度で管理するという分離型の人事管理をとっていることがうかがわれる。そして、それがいま大きな変革を迫られている。それは非正社員の活用が拡大しているからである。量的な増加だけでなく、活用業務が補助的なものから基幹的なもの(正社員と同等の仕事をすることであり、「正社員でもまったく同じ内容の仕事をしている人がいる」が3割弱、「正社員でもほぼ同じ内容の仕事をしている人がいる」が4割強を占めている)へ拡大してきている。非正社員の戦力化や基幹労働力化の進展である。  このようにみてくると、非正社員の基幹化が量的にも質的にも進んでくると、正社員と非正社員を分けて管理する分離型の人事管理では、非正社員の勤労意欲を引き下げ、離職率を高めることにつながりかねず、人的資源の有効活用が図られるかどうか問題になってくる。現在の勤務先の給与の評価について、あなたと同じ程度の能力を持つ正社員と比較して、「高いと思う」は2割弱、「安いと思う」は8割強であり、「安いと思う」が「高いと思う」を大幅に上回っている。また、現在の勤務先の給与の評価について、実際にしている仕事の内容に比べて、「高いと思う」は2割弱、「安いと思う」は8割強であり、「安いと思う」が「高いと思う」を大幅に上回っている。非正社員と正社員の間に責任の違いや勤務時間の自由度の違い、さらに、仕事内容の違いがないのにもかかわらず、正社員と非正社員の間に賃金格差が存在する場合には、非正社員の不満が大きくなっている。加えて、賞与・一時金については、5割弱の非正社員しか支給されておらず、支給基準は、「支給金額は固定されており金額は変わらない」も4割弱を占めている。  こうしたことを考慮にいれると、第1に、非正社員に対して正社員と異なる人事管理を採用する(「分離型の人事管理」)場合には、企業が非正社員の活用方針を明確にすることと、それを非正社員と正社員に浸透させるための支援策を実施することが強く求められることである。  つまり、「分離型の人事管理」をとる企業は「統合型の人事管理」以上に、非正社員に「なぜ非正社員と正社員の人事管理は異なっているのか」を納得してもらうための方策を強く打ち出す必要がある。第2に、非正社員の活用、特に質的な基幹化の程度に合わせて「分離型」の人事管理を再編し、非正社員と正社員を同等に扱う「統合型」の人事管理への移行が必要になってくる。その場合、非正社員の処遇制度を、その基盤を形成する社員区分制度と社員格付け制度の整備から始める必要がある。仕事レベルからみて非正社員には多様な社員が含まれているからである。  しかながら、非正社員の人事管理のすべての領域で、統合型の人事管理にすることが、働き方のニーズが正社員とは異なる非正社員の活用・処遇に際して、必ずしも合理的ではないとも考えられる。特に、どのような仕事に従事してもらうのか(専門能力などを活かして正社員並に高度な仕事を担当してもらうのか、あるいは、高度な能力を必要としない定型的な業務を担当してもらうのか)と、どの程度働いてもらうのか(働く時間・日数・働く場所について、どの程度の柔軟性を持たせるのか)を重視して検討する必要がある。つまり、非正社員の活用にかかわる雇用管理(配置管理と労働時間管理)と、非正社員の労働意欲の維持・向上を図るための報酬管理との間の整合性を意識しながら人事管理の整備を進めていく必要がある。 (注)ここで取り上げた報告書の執筆に際して、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構鹿生治行上席研究役から協力を得ました。記して謝意を表します。 【参考文献】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2021)『非正社員の人事管理とキャリア〜中高年(40〜59歳)非正社員WEB調査』(資料シリーズ4) https://www.jeed.go.jp/elderly/research/report/document/seriese4.html 図表 高齢期に働く場合に、重視したい条件(複数回答) (左段:件数、右段:行%) 調査数 通勤に便利なこと これまでに経験のある仕事内容であること 慣れた職場環境であること 都合のよい時間や曜日に働けること 休みが取りやすいこと 賃金に納得できること 手当やボーナスが充実していること 親しい仲間がいること 身体的負担が少ないこと ストレスが少ないこと 福利厚生制度や施設が利用できること 地域や社会の役に立つこと 若い人たちと一緒に働けること その他 特に重視する条件はない 全体 4113 68.4 43.0 41.9 51.1 52.1 40.5 19.2 16.9 42.7 50.8 13.5 6.5 5.3 0.0 7.1 従事している仕事 管理的な仕事 42 52.4 50.0 35.7 40.5 35.7 42.9 23.8 19.0 42.9 40.5 16.7 9.5 7.1 − 14.3 専門的・技術的な仕事 254 63.0 52.8 38.6 44.9 53.1 42.9 21.7 16.1 45.3 50.4 11.8 9.1 3.9 − 3.9 事務的な仕事 1101 72.9 47.2 44.6 52.0 53.3 42.5 20.3 15.5 42.1 53.1 13.2 7.4 5.1 − 5.0 販売の仕事 815 72.1 47.1 44.9 54.5 52.4 39.6 17.4 18.5 44.2 53.4 14.7 6.0 6.4 − 3.9 サービスの仕事 613 68.2 41.8 41.4 56.6 50.9 38.3 15.3 21.2 45.7 51.2 12.7 5.5 6.5 − 6.9 保安の仕事 57 63.2 36.8 35.1 61.4 49.1 45.6 26.3 10.5 38.6 52.6 8.8 7.0 7.0 − 5.3 生産工程の仕事 476 65.8 37.0 42.9 49.6 56.3 42.2 21.6 17.4 43.9 52.9 15.1 4.6 3.8 − 9.2 輸送・機械運転の仕事 79 57.0 34.2 32.9 40.5 46.8 38.0 22.8 11.4 35.4 50.6 11.4 7.6 3.8 − 13.9 建設・採掘の仕事 20 50.0 40.0 45.0 50.0 55.0 65.0 35.0 40.0 65.0 55.0 35.0 15.0 10.0 − 5.0 運搬・清掃・包装等の仕事 274 68.2 36.9 43.4 51.5 54.0 38.7 18.6 16.8 44.2 48.5 11.7 7.3 4.7 − 8.0 その他の仕事 382 60.7 31.9 31.4 40.1 46.1 36.1 18.1 11.0 33.5 38.0 13.1 5.5 3.9 0.3 17.5 平均的な週の労働時間 20時間以上40時間未満 2325 71.3 43.5 43.8 55.4 54.1 37.2 16.0 17.8 44.8 52.2 11.7 6.4 5.8 0.0 6.2 40時間以上 1788 64.7 42.4 39.4 45.5 49.6 44.9 23.3 15.7 40.1 49.0 15.8 6.7 4.6 0.1 8.3 会社にとって、非正社員は戦力であるという方針を持っている 当てはまる 866 73.6 51.6 49.1 58.9 59.8 47.1 20.3 21.0 51.5 59.0 15.6 8.5 7.5 0.0 2.1 やや当てはまる 1595 71.8 46.9 45.3 54.0 54.5 41.5 18.0 17.6 43.9 52.2 13.2 5.9 4.9 0.1 4.3 あまり当てはまらない 882 64.7 38.0 37.6 46.6 47.5 36.4 18.7 15.6 37.6 46.6 12.6 6.5 4.9 0.0 9.6 当てはまらない 770 59.9 31.2 31.4 41.6 43.8 35.8 20.8 12.2 36.2 43.5 12.9 0.6 3.9 0.0 15.8 ※従事している仕事の中で、30件未満の仕事は分析から除外してある。 出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2021)『非正社員の人事管理とキャリア〜中高年(40〜59歳)非正社員WEB調査』(資料シリーズ4) 【P52-53】 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組の普及・促進を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。多数のご応募をお待ちしています。 T 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業等が行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度、人事評価制度の見直し C多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 D各制度の運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化 A高年齢者による技術・技能継承の仕組み B高年齢者が活躍できるような支援の仕組み( IT化へのフォロー、危険業務等からの業務転換) C 高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D新職場の創設・職務の開発 E中高年齢者を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施(キャリアアップセミナーの開催) 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※ 1「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じて当機構から追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、当機構の各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、当機構のホームページ(※3)からも入手できます。 ハ.応募書類等は返却いたしません。 2.応募締切日 令和5年2月28日(火)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ提出してください。 ホームページはこちら V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)令和2年4月1日〜令和4年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和4年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和4年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和4年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入(※4)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※4 平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 賞(※5) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 ※5 上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 Y 審査結果発表等  令和5年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権等  提出された応募書類の内容に係る著作権および使用権は、厚生労働省及び当機構に帰属することとします。 [ 問合せ先 みなさまからのご応募をお待ちしています ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 普及啓発課 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号 TEL:043-297-9527 E-Mail:tkjyoke@jeed.go.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課連絡先は65頁をご参照ください。 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください! 「70歳雇用事例サイト」 当機構が収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」、「雇用事例集」で紹介された事例を検索できます。今後も、当機構が提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 70歳雇用事例サイト 検索 【P54-55】 BOOKS 人事・労務で必要な法律知識をわかりやすく解説 2022ー2023年版 図解わかる労働基準法 荘司(しょうじ)芳樹(よしき)著/新星出版社/1650円  2022(令和4)年1月、65歳以上の兼業・副業労働者を対象として、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」がスタートした。二つの事業所での労働時間を合計して雇用保険の要件を満たす場合、本人の申出により、雇用保険に加入できる制度である。  この制度や、中小企業にもパワハラ防止措置が義務化されたこと、また、事業主の新型コロナ対策を含め、本書は、2022年4月1日時点の労働基準法の内容について、人事・労務で必要な法律知識をわかりやすく解説する。  会社をつくったら行うことから、人を雇ったときの手続き、賃金制度、福利厚生制度、退職時に必要となる手続き、労使紛争まで、読みやすい文章と図やイラストで説く。必要に応じて、手続き書式の実例とともに、人事制度のポイントなどもていねいにまとめている。  労働基準法を知らなかったために紛争に発展したり、支払わなくてもよかった割増賃金を支払うことになったりといった不要なトラブルを防ぎ、健全な労使関係が築かれることを願い、特定社会保険労務士である著者が執筆した。企業の経営者や人事・労務担当者に、ぜひ手に取ってほしい一冊である。 フレームワークを通じて、人事制度改定のための具体的な方法を提示 図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた 小林(こばやし)傑(すぐる)・山田(やまだ)博之(ひろゆき)・野崎(のざき)洸太郎(こうたろう)著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2640円  コロナ禍における働く環境の変化や働き方の多様化、人材不足への対応などから、人事制度の改定に動く企業が増えている。  本書は、経営環境の変化や、労働力人口の減少が激しくなっていくなかでは、「人事も変わる必要がある」として、「人事とは何か」から、「経営戦略や全体構造、個々の要素」までを論じ、人事制度改定全体の最適解にたどり着けるようなフレームワークの提示を目ざしてまとめられた書籍である。フレームワークとは、何かの目的を達成するための考え方の枠組み、また、その枠組みを見える化するためのツールである。本書には、人事制度改定を考える際に、戦略と関連づけながら、何から考えはじめて、人事制度の何を残し、何を変えていけばよいのか、それらを考えるうえで役立つフレームワークが示されている。  人事制度改定のプロジェクトを任されることになった担当者や、初めて人事を担当するというビギナー向けにまとめられているが、戦略的人事をつくり上げるポイントや人事制度改定の具体的な手法が学べる内容であり、人事一筋というベテラン担当者にとっても役立つ情報や発見がある一冊といえるだろう。 問題を根本から解決するためのノウハウや実例を紹介 パワハラがない職場のつくり方 小林(こばやし)秀司(ひでし)・人本社労士の会著/アニモ出版/2750円  人材や働き方の多様性が進むなか、職場で起こるハラスメントも多様化している。また、労働者の3〜4割が、パワハラを経験したと感じているという。そうしたなか、改正労働施策総合推進法により、大企業は2020(令和2)年6月から、中小企業は2022年4月から、パワハラ防止措置(相談窓口の設置、社員研修の実施、調査体制の整備など)が義務づけられた。本書は、同法についてわかりやすく説き、対策についても解説している。  一方で、労働トラブルが発生しない職場づくりのカギは「制度より風土」であると説き、パワハラを根絶させるためには、経営人事マネジメントそのものを変えなければならないという。その具体的な手法として、「人本(じんぽん)経営」(人を大切にする経営)を提唱する。企業に関係するステークホルダー(社員とその家族、社外社員とその家族、顧客、地域住民、株主)の幸せの増進・増大を目ざす経営をいい、なかでも、第一に重視すべきは社員であるとしている。本書は、人本経営を実践してパワハラが皆無となった企業の実例や、人本経営を実現するためのプロセスなどを紹介。問題を根本から解決するためのノウハウを学ぶことができる。 現代の職場に役立つビジネススキルが身につく 仕事を抱え込まず、周りに助けを求める技術「ヘルプシーキング」の教科書 仕事は自分ひとりでやらない 小田木(おだぎ)朝子(ともこ)著/フォレスト出版/1540円  子どもが発熱した、家族が倒れたなど、だれにでも予期せぬことは起こり得る。そんなとき、一人で仕事を抱え込まず、周りに助けを求める行動は、「ヘルプシーキング」と呼ばれる一つのビジネススキルであり、個人、企業、組織・チームのレベルで使えるスキルだという。  現代の職場は、子育て世代や親の介護世代、高齢者、障害者、病気治療中の人など、いろいろな状況下で働く人たちで構成されている。本書は、そのような職場などで、助け合いながら、チームで協力して成果が出せるよう、「ヘルプシーキング」の考え方やはじめ方、上手に使うためのテクニック、上手に仲間を助ける方法などについて、具体的に解説する。  「ヘルプシーキング」を取り入れることで、「チームの生産性が上がる」、「突発的なトラブルで仕事が停滞、混乱するリスクを回避できる」など多くのメリットが得られるという。  実践にあたって大事なことは、平常時から備えること。まずは、「必要な情報がオープンになっているか」、「業務ルールや進め方は適切か」などをチェックする。上手に仲間を助ける方法では、「業務量を減らしたい」とメンバーから相談を受けたときの対応の仕方などを示している。 定年後の働き方について多くの示唆を与えてくれる一冊 ほんとうの定年後 −「小さな仕事」が日本社会を救う− 坂本(さかもと)貴志(たかし)著/講談社現代新書/1012円  少子高齢化が進む日本では、労働力人口が激減して労働力不足がますます深刻になるといわれている。元気な高齢者の労働参加に対する期待は、今後あちこちで高まっていくだろう。  70歳までの就業確保措置が努力義務となり、高齢社員に戦力として長く働いてもらうための高齢者雇用に取り組む企業が増えている。そのかたちはさまざまで、40代、50代にとっては、「70歳まで働けといわれても…」と漠然とした不安を抱いている人が少なくないと思われる。  本書は、定年後の仕事や働き方の実態について、さまざまなデータをもとに明らかにしている。第1部では、「減少する退職金、増加する早期退職」などの15の事実を浮かび上がらせ、第2部では、7人の定年後の就労者の事例を通して、年を取るにつれて仕事に対する姿勢がどのように変化していくのかを紹介。第3部では、社会が定年後の仕事に対してどう向き合っていけばよいのかについて提案している。  本書にあるような、住み慣れた地域で短時間だけ働くといった「小さな仕事」が、これからは大きな意味を持ちそうだ。中高年齢者をはじめ、企業の経営者にとっても、多くの示唆を与えてくれる内容である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P56-58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「就労条件総合調査」の結果概況  厚生労働省は、2022(令和4)年「就労条件総合調査」の結果をまとめた。この調査は、常用労働者30人以上の民間企業から約6400社を対象に、労働時間制度、賃金制度などについて、2022年1月1日時点(年間については2021年ないし2020年会計年度)で行っている。  調査結果のなかから、労働時間制度についてみると、「何らかの週休2日制」を採用している企業割合は83.5%(前年83.5%)、「完全週休2日制」は48.7%(同48.4%)となっている。また、年次有給休暇の取得状況をみると、1年間の付与日数(繰越分は除く)は労働者1人平均17.6日(前年17.9日)、そのうち労働者が取得した日数は10.3日(同10.1日)。そして、取得率は58.3%となり、前年(56.6%)を1.7ポイント上回り、7年連続して上昇した。  次に、勤務間インターバル制度の導入状況をみると、「導入している」が5.8%(前年4.6%)、「導入を予定又は検討している」が12.7%(同13.8%)、「導入予定はなく、検討もしていない」が80.4%(同80.2%)。勤務間インターバル制度の導入予定はなく、検討もしていない企業について、その理由(複数回答)別の企業割合をみると、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が53.5%(前年57.4%)と最も多く、次いで、「当該制度を知らなかったため」が21.3%(同19.2%)となっている。 厚生労働省 2022年度「輝くテレワーク賞」受賞企業を決定  厚生労働省は、2022(令和4)年度「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」の受賞企業を決定した。昨年11月30日に東京都内で開催された「『働く、を変える』テレワークイベント」(総務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省の共催)において、表彰式が行われた。  テレワークとは、パソコンやインターネットなどの情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方をさし、育児と仕事の両立など、ワーク・ライフ・バランスの実現や向上に役立つほか、生産性の向上や雇用の創出につながるなど、高齢者雇用推進も含めて、さまざまなメリットがあるといわれ、推進されている。  この表彰制度は、テレワークの活用によってワーク・ライフ・バランスの実現を図るとともに、他社の模範となる取組みを行っている企業・団体のうち、顕著な成果をあげた企業・団体を表彰するもので、2022年度の表彰は、「優秀賞」に1社、「特別奨励賞」に4社を決定した。  受賞企業は次の通り。 【優秀賞】取組みが総合的に優れていると認められる企業・団体に対する表彰  アフラック生命保険株式会社 【特別奨励賞】取組みが優れていると認められる企業・団体に対する表彰(五十音順)  シェイプウィン株式会社  株式会社スタッフサービス・クラウドワーク  株式会社プロアス  LAPRAS株式会社 厚生労働省 「労働者協同組合法」が10月1日に施行  2022(令和4)年10月1日、新しい法人制度を定めた「労働者協同組合法」が施行された。  少子高齢化が進み、人口が減少する地域では、介護や障害者福祉、子育て支援などの幅広い分野で多様なニーズが生じ、にない手が求められている。この法律は、多様な働き方を実現しつつ、地域の課題に取り組むための選択肢の一つとして、労働者協同組合の設立や運営などについて定めたもの。  労働者協同組合とは、持続可能で活力ある地域社会づくりを目的として、労働者が組合員として出資し、話し合いながら自分たちで働く新しい法人をいい、「労働者協同組合法」が定める以下の三つの基本原理に従って設立・運営される。 @組合員が出資すること Aその事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること B組合員が組合の行う事業に従事すること  労働者協同組合は、労働者派遣事業を除くあらゆる事業が可能で、NPO法人(認証主義)や企業組合(認可主義)と異なり、行政庁による許認可等を必要とせず、法律に定めた要件を満たし、登記をすれば法人格が付与され(準則主義)、3人以上の発起人がいれば組合を設立できる。また、組合員は労働契約を締結する必要がある、出資配当はできない、都道府県知事による監督を受けることなどが特色とされている。  詳しくは、同法の説明や好事例を紹介する特設サイト「知りたい!労働者協同組合法」へ。 https://www.roukyouhou.mhlw.go.jp/ スポーツ庁 「体力・運動能力調査」結果  スポーツ庁は、2021(令和3)年度の「体力・運動能力調査」の結果をまとめた。調査は、同年5月から10月に実施し、「6〜79歳」の男女4万8384人(回収率65.2%)から回答を得た。  調査結果のなかから、高齢者(65〜79歳)における握力、上体起こし、長座体前屈、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行および新体力テストの合計点について、新体力テスト施行(1998年)以後の年次推移をみると、ほとんどの項目および合計点で、横ばい、または向上傾向を示している。  調査結果の分析では、2022年3月に第3期スポーツ基本計画が策定されたことにともない、第1期スポーツ基本計画が策定され開始された年(2012年度)から、第2期スポーツ基本計画期間が終了した年(2021年度)までの10年間の体力・運動能力、運動習慣の推移について概観している。運動習慣の年次変化についてみると、第1期と第2期のスポーツ基本計画において、成人以降では週1回以上の運動・スポーツ実施率の目標値は65%となっており、高齢者においては男女ともにすべての年代で目標値を満たしている。  男性では、「65〜69歳」で66.7%(2012年は70.3%)、「70〜74歳」で74.2%(同74.8%)、「75〜79歳」で80.0%(同72.8%)となっており、女性では、「65〜69歳」で77.4%(2012年は74.7%)、「70〜74歳」で80.0%(同74.5%)、「75〜79歳」で80.1%(同69.5%)となっており、女性はいずれの年齢層においても向上している。 調査・研究 経団連 「副業・兼業に関するアンケ―ト」調査結果  一般社団法人日本経済団体連合会は、「副業・兼業に関するアンケ―ト」の調査結果を公表した。  同調査は、経団連会員企業における副業・兼業の取組み状況やその効果などを把握するために実施されたもの。275社が回答した。  調査結果をみると、2022(令和4)年7月時点で、回答企業の70.6%が、自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」(53.1%)または「認める予定」(17.5%)と回答している。常用労働者数5000人以上規模では、「認めている」(66.7%)または「認める予定」(17.2%)の合計が83.9%となっており、常用労働者数が多い企業ほど、「認めている」または「認める予定」の回答割合が増加している。社外で副業・兼業することを認めたことによる効果についてみると、「多様な働き方へのニーズの尊重」(43.2%)が最も多く、次いで「自律的なキャリア形成」(39.0%)などとなっている。  一方、社外からの副業・兼業人材の受入れについては、回答企業の30.2%が「認めている」または「認める予定」と回答している。社外から副業・兼業人材を受け入れることの効果については、「人材の確保」(53.3%)が最も多く、次いで、「社内での新規事業創出やイノベーション促進」(42.2%)、「社外からの客観的な視点の確保」(35.6%)が上位を占め、必要な人材の確保策として、受入れを図っていることが明らかになった。 日本商工会議所・東京商工会議所 「多様な人材の活躍に関する重点要望」発表  日本商工会議所と東京商工会議所は「多様な人材の活躍に関する重点要望〜自己変革への挑戦に向けた多様な人材の活躍推進を〜」を発表した。  同要望は、「多様な人材の活躍推進」について、潜在的な労働力としての活用のみならず、だれもが働きやすい環境の整備や経営に多様な視点を取り込むことで、生産性向上や新規事業展開につながることも期待されているとして、政府が取り組むべき政策について取りまとめたもの。重点として、「外国人材の活躍推進」、「女性の活躍推進」、「高齢者の活躍推進」、「障害者雇用の促進」、「就職氷河期世代の就職支援」について要望している。  「高齢者の活躍推進」については、(1)企業と高齢者とのマッチング機能の強化・拡充(大企業等のОB人材と中小企業をマッチングする全国的な事業の創設/ハローワークの生涯現役支援窓口や産業雇用安定センター、シルバー人材センターの機能強化・拡充による、企業側の雇用ニーズ掘り起し/デジタルに不安のある高齢者向けの職業訓練の充実など)、(2)高年齢雇用継続給付の激変緩和措置にかかわる中小企業への配慮(高年齢者雇用継続給付の給付率縮小後の中小企業に対する激変緩和措置/65歳超雇用推進助成金〔65歳超継続雇用促進コース〕の着実な予算執行)、(3)改正高年齢者雇用安定法施行後の実態把握(新設された「創業支援等措置(非雇用の措置)」の導入状況や導入後の課題整理、導入促進に向けた改善策の検討)をあげている。 当機構から 「生涯現役社会の実現に向けたワークショップ」を開催  当機構では、「高年齢者就業支援月間」である10月、各都道府県の支部が中心となって「地域ワークショップ」を開催した(一部は11月に開催)。  地域ワークショップは、生涯現役社会の実現に向け70歳までの就業機会の確保への理解を深めることを目的とし、高齢者雇用に関する学識経験者などによる基調講演、高齢者雇用に先進的な企業の事例発表などで構成される。今回は10月14日(金)に当機構北海道支部と厚生労働省北海道労働局が主催した地域ワークショップ「高年齢者雇用推進セミナー〜高齢社員の活用に向けた課題と対策について〜」の模様をレポートする。  開会のあいさつに続き、北海道労働局職業安定部職業対策課高齢者対策担当官の鎌田(かまだ)博子(ひろこ)氏が、北海道における「高年齢者雇用状況等報告」と題して、2021(令和3)年6月時点の集計結果を報告。高齢の常用労働者の推移について、2009(平成21)年と比較して2倍以上に増加していることなどを報告した。「今後、70歳までの就業確保措置を実施している企業を増やしていくことが重要になってくる。意欲がある高齢者がより長く働けるよう周知啓発していく」と述べた。  続いて「企業における高齢従業員の安全衛生・健康管理について」をテーマに、千葉大学大学院医学研究院環境労働衛生学の能川(のがわ)和浩(かずひろ)准教授による基調講演が行われた。世界各国と比較しても急速に高齢化が進んでいる日本の状況にふれ、日本の定年制の歴史を紐解き、近年においては定年年齢が加速度的に延びていると指摘。さらに生産年齢人口の変化などにより、高齢労働者は今後ますます増加すると示唆した。こうした状況下で高齢者の労働災害が問題になっている点に焦点をあて、まず作業環境の面から、企業で実際に「エイジアクション100」を活用して改善に至った労働災害防止の一連の取組みをレポートした。次に身体機能の面から高齢労働者の機能の特徴と、身体機能・認知機能低下による作業の注意点をあげ、職場などでできる簡単な体操を紹介。「健康と安全は一日にしてならず。若いころから取り組むことが重要。労働の場においては加齢と健康に関する課題に合わせた産業保健活動が大切」と述べ、基調講演を締めくくった。  休憩をはさみ、65歳超雇用推進プランナーで社会保険労務士の谷口(たにぐち)拓也(たくや)氏が登壇。「70歳までの雇用推進に向けた必要な施策について」とのテーマで講演を行った。谷口プランナーは道内の企業を訪問して実際に70歳まで雇用している企業が増加傾向にあると述べた。そこで70歳までの就業確保と、さらに高齢者を戦力化するためのポイントを七つに整理して紹介し、定年延長や継続雇用延長を進める手順を説明した。「情報収集はていねいに行うに越したことはない。収集すべき項目は、高齢者雇用に関する法律や制度、国などの支援、先進企業などの事例。施策づくりは経営陣や総務人事だけでなく、各部門を巻き込んで協力を得ながら進めてほしい」と呼びかけた。  最後に木材加工業の滝澤ベニヤ株式会社の瀧澤(たきざわ)貴弘(たかひろ)代表取締役が登壇し、「アクティブシニアの活躍を推進する取り組み」と題して講演。合板・単板製造業を営む同社は、社員の高齢化を背景に、熟練職人に品質管理を依存する状況から脱却するため、高齢者の活躍を推進する取組みに着手。希望者全員を70 歳まで継続雇用する制度を導入し、シニアアドバイザー職を新設して若い世代に技術の伝承を行っている。「定年後の給与は9割を維持している。長く働ける職場づくりとしてコミュニケーションが取りやすい雰囲気づくりと、一人ひとりの可能性を伸ばすことを心がけている」と述べた。  本ワークショップでは、会場以外にもオンライン会場を設け、合わせて130人が参加。70歳までの就業機会確保にどう取り組むか、登壇者の報告に熱心に耳を傾ける参加者の熱意が冷めやらぬなか閉会を迎えた。 【P59】 日本史にみる長寿食 FOOD 350 セリを味わい春を待つ 食文化史研究家● 永山久夫 季節のもので健康管理  人間は、四季のめぐりのなかで生活している以上、それぞれ季節の変化に、うまく適応できなければ、健康を維持することはむずかしくなります。昔の日本人は、このような季節感を身につけ、体の養生をしてきました。  春、夏、秋、冬、それぞれの季節に野山や田畑が育てた食べ物を摂ることによって、四季の温度差に体をならし、無病息災を願ってきました。  春といえば「春の七草」。その筆頭がセリです。  春を迎える前に、何はおいても、セリの力をちょうだいしなさいという意味が込められているからにほかなりません。  セリは、湿地帯を好む多年草で、氷の残る冷たい水辺でも、しっかりと根を張って、身を縮めながら、春をじっと待つ辛抱強さがあります。 優しい奈良時代の健男(ますらお)  古代人にとっても、セリは健康を保つための自生する野の野菜で、『万葉集』にも次の作品が残されています。  健男(ますらお)と 思(おも)へるものを 太刀(たち)はきて かにはの田井(たい)に 芹(せり)ぞ摘(つ)みける  作品の意味は、「あなたは、太刀を腰にする勇ましい健男と思っていましたのに、かにはの里の水田で、私のために一生懸命になってセリを摘んでくださるなんて、本当に優しいお方なのですね」というものです。  また、次のような作品もあります。  あかねさす 昼(ひる)は田(た)たびて ぬばたまの 夜(よる)のいとまに 摘(つ)める芹(せり)これ  「昼間は、稲田管理のあれこれの仕事がたくさんあって、忙しいために、夜の手すきの間に摘んだセリです。どうぞ、召し上がってください」という意味で、役人をしている男の優しさを表現しており、当時の男たちは、女性に思いやりが強く、女性にとっては頼りがいがあったようです。  セリはビタミンC やビタミンE、カロテンの宝庫で、免疫力を高め、風邪やインフルエンザなどを予防し、体力強化に役に立つといわれています。味噌汁やおひたしなどにして、優しい春の香りを味わいましょう。 【P60】 次号予告 2月号 特集 技能五輪・技能グランプリを支える高齢者の底力 リーダーズトーク 森内みね子さん(公益社団法人日本看護協会 常任理事) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●新年あけましておめでとうございます。本年も、読者のみなさまのお役に立てるような情報発信に努めてまいります。引き続きご愛顧のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。 ●今号の特集は、「70歳雇用実践企業に聞く!」と題し、すでに70歳雇用を実践している企業の人事担当のみなさまにご参加いただき、座談会を開催しました。  三社それぞれ、制度や取組み内容は異なりますが、共通しているのは高齢社員に対する期待が高く、さまざまな工夫・取組みを通して、高齢社員が能力や経験を活かして活躍できる環境を整えるために尽力しているということ。高齢者雇用の推進、ひいては生涯現役社会の実現に向けて、人事をご担当しているみなさんが果たしている役割の大きさを改めて感じさせられた座談会となりました。参加していただいた渡辺様、森田様、喜多様にお礼申し上げます。  読者のみなさまからのご意見・ご感想もお待ちしています。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー1月号No.518 ●発行日−−令和5年1月1日(第45巻 第1号 通巻518号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部情報公開広報課長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-926-2 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P62-63】 技を支える vol.323 独自の「書体」を身につけ満足される作品をつくる 江戸提灯職人 瀧澤(たきざわ)光(みつお)さん 「字は、筆が自然と動くようになるまで毎日くり返し練習しました。提灯に描けるまでには10年以上かかりましたね」 提灯づくりの全工程をになえる数少ない存在  日本の伝統的照明器具の一つ、「提灯(ちょうちん)」。現在はビニール製の火袋※1に不透明水彩絵具で文字を描いた提灯が主流のなか、昔からの技術を守り続けている数少ない工房の一つが、100年以上続く「江戸提灯」の老舗、「瀧澤提灯店」である。3代目の瀧澤光雄さんは、提灯づくりの全工程をになえる職人として、2012(平成24)年度「東京マイスター知事賞」を受賞している。  伝統的な江戸提灯は、和紙の火袋に、墨による手描きで文字や家紋などを入れるのが特徴。瀧澤さんは「墨にかなうものはない」と話す。  「和紙と墨の組み合わせは長く持ちます。不透明な水彩絵の具は明かりを遮断しますが、墨は明かりが透けてきれいに見えます」  現代の提灯づくりは分業が基本。瀧澤さんの専門はできあがった火袋に文字を描くことだが、型起こしから骨組み、紙の張り替え、弓張り提灯※2づくりまで、提灯づくりの全工程をになえる、希少な存在だ。そのため、古い提灯を新品同様に復元することができる。また、提灯の仕上がりがよくないときは、自分で手直しすることもあるそうだ。 曲面のある提灯にバランスよく文字を描く  江戸提灯はできあがった提灯に文字を描くためのコツがいる。  「もっともむずかしいのが丸型提灯。提灯の上下がすぼまっていて、普通に描くと上下が小さく見えてしまいます。そうならないよう、上下を広げるように描きます」  注文が多いのは弓張り提灯。祝い事に用いたり、家に飾りたいという人が多いそうだ。一般的な提灯よりも細長い形状のものが多く、曲面がきつくなるため、難易度は高くなる。また、過去には高さ1m80cmもある提灯を手がけた経験もある。  瀧澤さんが特にこだわるのは、独自の書体を使うことだ。  「最近はパソコンの書体を写すところが増えて、自分独自の字を描く人が少なくなりました。私は職人として、自分の書体で江戸文字を描いていきたいです。」  注文を受けるときは、顧客と直接話をしながら、どんな文字を描くとよいかを考える。  「硬い印象の場合は独自の江戸文字、楷書の軟らかい印象の場合は勘亭流(かんていりゅう)の雰囲気を加えるなど、お客さんと話し合って決めます」 父である親方の厳しい指導で一通りの技術を習得  瀧澤さんがこの道に入ったのは15歳のとき。提灯づくりの技術は、父である先代親方から学んだ。  「兄が後を継ぐ予定だったのですが、修業が厳しくて途中で逃げてしまい、私が継ぐことになりました。本当は自動車の修理工になりたかったんですが、親戚が集まるなかで後を継ぐよう迫られ、やむなく承知したのです。その途端、父から『今日から親でもなければ子でもない』といわれ、厳しい修業生活が始まりました」  仕事の説明は最初の一度だけ。仕事のやり方が気に入らないと先代親方は厳しく注意してきたという。  「自分の字をつくれ」といわれたのも先代からの指導だ。  「自分の字ができれば『瀧澤の字』とひと目でわかる。そうならなければだめだといわれました」  昼間は親方の仕事を手伝い、夜は字を新聞紙に描いて練習し、朝食前に見せてダメ出しされることのくり返し。「提灯に描いてみろ」といわれるまで10年以上かかったそうだ。厳しい修業を経てきたので、仕上がりを見る目は厳しい。  「自分が以前に手がけた提灯と同じものをつくってほしいと頼まれることがあります。自分の古い作品を見て『こんな仕事をやっていたの?』と感じたときは、預かった提灯を破って新しくつくり直してしまうこともあります。『これで完成』ということは、死ぬまでないのではないでしょうか」  自分におごることなく、誠実に仕事と向き合う瀧澤さんに、真の職人魂を見た思いがした。 瀧澤提灯店 TEL&FAX:03(3982)1402 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※1 火袋……灯りを覆う部分 ※2 弓張り提灯……竹を弓のように曲げ、火袋をその上下に引っかけて張った提灯 写真のキャプション 提灯に字を入れる際は、全体のバランスをイメージし、天地のすぼまっている部分は少し広げて描くなど、平面に描く場合とは違うコツが求められる 瀧澤さんが持っているのは、祖父の代から使われているすり鉢。このなかに墨を入れ、お湯を入れてかき混ぜ、適度な濃さにして使う 100年以上続く「江戸提灯」の老舗 畳んで携帯できる「懐提灯」を復刻(左は江戸期、右は大正期につくられたもの) ちょうどよい墨の濃さを「色とツヤ」で判断する 祖父の代から伝わる紋帳を参考に、家紋を描くことも多い 提灯の骨の上で筆先が横に広がらないように、先が短くコシのある筆を用いる 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は「漢字」で脳を鍛えます。1問目は注意力を鍛える問題です。注意が散漫にならないよう集中してチャレンジしてください。2問目は語彙力を鍛える問題です。読めなかった文字はこれを機会に覚えましょう。語彙力のピークは67歳くらいといわれ、その後も伸びる人は伸びるので、しっかり鍛えましょう。 第67回 漢字で脳トレ 目標合計で3分 問題1 同じ漢字を一組、探してください。 雲霍雹零雪 霹霊露霜雫 霰靄霙雰霧 霜霎霞需靂 霪霆雷震電 問題2 @〜Kの漢字の正しい読みを下のA〜Lの中から選んでください。 Aいわし Bあゆ Cあじ Dさけ Eかつお Fさば Gかれい Hすずき Iさわら Jぶり Kきす Lにしん @鮎 A鰹 B鰯 C鯖 D鮭 E鰆 F鰈 G鰊 H鱸 I鱚 J鰤 K鯵 漢字学習は優れた脳トレ  脳の頭頂連合野の「角回」と呼ばれる部分は、後頭葉(視覚の処理をする)と側頭葉(意味の処理をする)と頭頂葉(動きの処理をする)の境目にあって、視覚、聴覚、動きを統合している場所です。  漢字は視覚情報、意味情報、動きの情報(書き順)を含むので、漢字を覚えるときには角回がよく働きます。日本人は漢字学習によってこの部分が鍛えられているので、アルファベットなどだけを使う人々より図形的な記憶に優れているとする説もあります。  漢字を覚える場合には、まず全体を「よく見る」ことが重要です。次に、手を動かして「よく書く」こと。さらに、覚えた漢字を思い出すなどして「よくイメージする」こと。これらの一連の動きによって、漢字は記憶に定着します。  したがって、漢字学習は脳のトレーニングという観点から見て、とても有効なものといえます。たくさん漢字を学習しましょう。 【問題の答え】 問題1 雲霍雹零雪 霹霊露霜雫 霰靄霙雰霧 霜霎霞需靂 霪霆雷震電 問題2 @ B A E B A C F D D E I F G G L H H I K J J K C 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年1月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内※ 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 ホームページはこちら ※2022年10月3日より、上記住所へ移転 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 令和5年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストでは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用・就業機会の確保等の環境整備に向けて具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするために、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 応募締切日 令和5年2月28日(火) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65頁をご覧ください。 2023 1 令和5年1月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第1号通巻518号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会