【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%、ただし中小企業事業主以外は45% (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 支給額支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るため、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 支給額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと F障害者が行う業務の介助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @B支給対象費用の3/4 A支給対象費用の2/3 C1人につき月額1万円 外 D配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E1人につき月額4万5千円 外 F1人につき月額13万3千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 支給額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること H障害者の通勤の援助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @〜G支給対象費用の3/4 H1人につき月額7万4千円 外 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 支給対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること支給額支給対象費用の2/3(特例3/4) ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.98 シニアの健康長寿を支える社会参加 学びを通じて地域とつながる活動を推進 公益財団法人長野県長寿社会開発センター理事長 内山二郎さん うちやま・じろう 大学卒業後、マグロ船乗り、港湾労働者、映画助監督、テレビディレクターなどを経てフリージャーナリストに。アジア、アフリカ、北欧、東欧、オーストラリアなどを取材。1983(昭和58)年に病気療養のため帰郷、長野県を拠点に活動を始める。国際理解、地域づくり、障害者福祉、高齢者問題などにかかわる。2013(平成25)年より現職。  健康長寿国である日本のなかでも、トップクラスの平均寿命・健康寿命を誇る長野県。同時に高齢者の有業率でも全国1位※となっており、高齢者が活躍している地域ともいえます。今回は、公益財団法人長野県長寿社会開発センター理事長の内山二郎さんにご登場いただき、長野県における健康長寿の秘訣や、同センターが取り組んでいるシニアの社会参加と地域活性化について、お話をうかがいました。 ※総務省統計局「平成29年就業構造基本調査」 戦後から取り組んできた健康・栄養指導で全国トップクラスの平均・健康寿命 ―長野県は平均寿命、健康寿命ともに全国トップクラスにあります。健康長寿を長年維持してきた要因とは何でしょうか。 内山 2020(令和2)年の統計によると、長野県の男性の平均寿命は82.68歳で全国2位、女性は88.23歳で全国4位※1です。健康寿命では男性が81.1歳で全国2位、女性が85.2歳で全国1位※2となっています。この要因についてよく聞かれるのですが、統計分析では、@高い就業意欲や積極的な社会活動への参加による生きがいを持った暮らし、A健康に対する意識の高さと健康づくり活動の成果、B高い公衆衛生水準および周産期医療※3の充実――の三つが指摘されています。特にAの健康づくりに関しては、行政と地域の健康ボランティアが連携し、戦後間もないころからの長い活動の歴史があるのです。  長野県では、「保健補導員」という住民の方が、保健師や医師と一緒に地域で健康指導や食事の栄養指導を行う活動を、昭和20年代から行っています。この保健補導員制度は長野県が最初といわれています。また、地域の「食生活改善推進員」が行政と一緒に食生活改善運動を展開し、これらの取組みの積重ねが、長野県の健康長寿を実現したといわれています。  なかでも、特筆すべき取組みが、佐久(さく)総合病院(佐久市)による農村医療への取組みです。若月(わかつき)俊一(としかず)という医師が「病院は病気になった人を待つ場所ではない。医療者自ら地域に出て行くべきだ」と提唱し、昭和30年代から出張診療や健康・食事指導が始まり、その際に医師や保健師、看護師が役者になって、演劇を通じて看護や食事のあり方を教える活動を行いました。こうした長年の伝統が地域住民に浸透し、健康に対する意識を引き上げたのです。 ―就業意欲の面でいうと、長野県は高齢者の有業率も全国1位となっています。 内山 いろいろな要因が考えられますが、元々生まれ故郷が農業や林業を行っていたという背景があります。都市部の会社員と比べ、長野県の場合は定年退職後、家業の農業や林業を引き継いで仕事をする人が多いからだと思います。退職後は、子どものころからときどき手伝っていた家業を行うのが普通の光景なのです。 ―長野県長寿社会開発センターでは、長野県シニア大学(以下、「シニア大学」)の運営などさまざまな活動を展開されていますね。 内山 変遷を説明すると、「シニア大学」は1978(昭和53)年に開設された「長野県老人大学」にさかのぼります。1989(平成元)年に長野県長寿社会開発センターが設立され、そこに老人大学の運営が移管、2008年に名称が「シニア大学」に変わりました。シニア大学は、シニア世代の多様な生き方、価値観を大切にしながら自ら地域的課題に気づき、学習を通して社会参加へのきっかけをつかみ、地域とかかわる人材を育むことを目ざしています。2013年には長野県長寿社会開発センターの改革が行われ、シニア大学が従来から掲げてきた目的である「生きがいづくり」、「健康づくり」、「仲間づくり」に、新たに「社会参加の推進」が加わりました。健康寿命が延び、教育・仕事・引退の人生の3ステージから、現役時代につちかってきた経験や知識を活かした「人生二毛作社会」の実現を重要課題に掲げるとともに、シニアのニーズを把握し、社会参加の活動とマッチングさせる機能として「シニア活動推進コーディネーター(以下、「コーディネーター」)」をセンター内に配置し、シニア大学の企画・運営を行う社会活動推進員と連携してシニアが主体的に社会参加活動や地域づくりに参画できる支援体制づくりに取り組んでいます。  コーディネーターは、本部および県内各支部に計11人が在籍。現場に足を運んで地域のニーズを発見し、さまざまな団体や機関を結びつけ、シニアの居場所と出番をつくり出し、地域の課題を解決するのが役割です。当センターが発行している事例集『信州版人生二モウサク劇場』もその成果の一つです。各地域で自然発生的にできたシニアのグループの活動を見える化≠オようという事例集です。現在、第三版ですが、コーディネーターの視点で「趣味・特技を活かす」、「キャリアを活かす」、「学びを活かす」などの五つに分類し、活動事例を紹介しています※4。インターネットでダウンロードもできますし、全国の自治体からも問合せがきています。 「シニア大学」で、社会参加や地域づくりをうながすためのさまざまな支援を実施 ―学びの場であるシニア大学では、どんな方たちが、どのようなことを学んでいるのですか。 内山 シニア大学は地域とかかわる人材を目ざす「一般コース」(2年制)と、地域の課題解決に取り組むスキルを学び、豊かな発想力と行動力で地域づくりにかかわることができる「シニア地域プロデューサー」を養成する「専門コース」(1年制)があります。一般コースは県内各地に10学部あり、教養講座、趣味・健康・交流講座に加えて社会参加をうながす地域づくり講座があります。1年次は年間60時間の授業のうち、地域づくり講座に12時間、2年次は24時間をあて、関心のある事柄ごとにチームを組んで、テーマの決定、活動計画づくり、実践、発表を行い、卒業後の活動につなげます。学生数は最盛期で1学年1000人以上おり、コロナ禍で減少したものの回復を見せ、今年は550人まで増えました。入学対象者は50歳以上ですが、平均年齢は約70歳。元会社員の方や主婦もいれば、農業を行っている人や現役議員、元村長、中学卒から大学院卒まで、多様な人たちが学んでいます。  一般コースは地域づくりや社会参加のきっかけづくりの場ですが、専門コースはこれまでつちかった経験などをベースに、地域課題を解決する活動者とプロデューサーを養成する目的で2017年度に開設されたコースです。ライフデザイン、コミュニティデザイン、ビジネスデザインの三つのコースがあり、定員は全部で30人。入学にあたっては履歴書と実現したいテーマに関するレポートを提出してもらい、面接も実施します。1年間学び、卒業時には修了証書に加え、「シニア地域プロデューサー」の称号がついた名刺を100枚差しあげます。現在は6期生が学んでいますが、これまで約120人が卒業しています。 人生100年時代、60歳からの40年をどう生きるか″lえる場を提供する ―卒業生はどんな活動をしているのですか。 内山 過去の卒業生を含めたコーディネーターの情報交換会を、年に数回実施しています。例えば現役時代につちかった水力発電の経験を活かしたいと専門コースに入った方が、地域におけるエネルギー問題に取り組むべく、OBとの情報交換を通じて活動の幅を広げています。あるいはサツマイモを特産品にしたいという目標を持っていた集落営農組合員の1期生が専門コースで学んで計画を立て、最近、北アルプス山麓のスイーツブランドとして取り上げられた事例もあります。また、荒廃地を活用して近年ブームになっている黒ニンニクを栽培している人もいます。  ユニークな活動では、1期生が立ち上げた「ゆる〜いおっさんの会」が県内でどんどん広がっています。立ち上げたのは現役の銀行員の方。定年退職が近くなるなかで「退職後はどうなるのだろう」という不安に駆られたのがきっかけとのことです。まだ何をするかが決まっていないが不安を抱いている60代半ばから70代前半ぐらいの男性が集まり、先輩の話やいろいろな活動について話を聞くなど、交流の場となっています。この交流を入口にさまざまな活動につなげていくのが目的です。都市部にかぎらず、長野県でも外で人と接することが少ない高齢者の孤独・孤立の問題を抱えています。会は長野市に始まり、佐久市にもでき、白馬(はくば)村の準備会には40人以上が集まりました。参加者にどこに惹かれたのかと聞くと「ゆる〜いつながりがいい」といっています。 ―あらためて長寿社会開発センターの意義とは何でしょう。また、地域を支える企業への要望がありますか。 内山 人生60年時代から80年、そしていまは100年時代になっています。60歳から100歳までの40年間をどう生きるかが問われています。その生き方は多様であってよいし、「生きた」という充足感を持ってまっとうするのが理想です。だれもがそうした願いを持っていても、どう具体化すればよいのかわからない人たちも多い。私たちの活動は「こうしなさい」、「社会に貢献をしなさい」ということではありません。気づきと学びの場を通じて、自分の人生をふり返り、どう生きていくのかを考える機会を提供していくことにあります。  企業の方々には仕事だけではなく、社員が現役時代から人生100年を見すえたライフプランを考える機会を提供するなど後押しをしていただきたいと思います。同時に地域で暮らしている人たちが何を求めているのか、地域の課題に敏感になってもらい、できれば私たちと一緒に支えていただければと思います。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※1 厚生労働省「令和2年都道府県別生命表の概況」 ※2 公益社団法人国民健康保険中央会「平均自立期間・平均余命都道府県一覧(令和2年統計情報分)」 ※3 周産期医療……妊娠22週から出生後7日未満までの期間をさす「周産期」を含む前後の期間における医療体制のこと ※4 https://nicesenior.or.jp/publish/jireishu/ 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬稔(ふるせ・みのる) 2023 July No.524 特集 6 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 7 総論 高齢者雇用の現状と課題 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 12 解説 1.高齢社員のモチベーションの維持・向上と賃金・評価制度 2.70歳まで働くための多様な勤務制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 3.生涯現役で働くための健康と安全の確保 ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 高木元也 4.高齢者雇用と助成金 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者助成部 高齢者雇用促進等のためのその他の助成金 編集部 1 リーダーズトーク No.98 公益財団法人長野県長寿社会開発センター 理事長 内山二郎さん シニアの健康長寿を支える社会参加 学びを通じて地域とつながる活動を推進 28 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする?Season2 《第4回》人手不足が続き、10年後が不安です! 34 江戸から東京へ 第128回 自他ともにチエを認める 松平信綱 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第133回 高知県 株式会社フタガミ 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第83回 株式会社クリエすずき建設 総務部スタッフ 星野孝治さん(73歳) 42 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 【第3回】役割給の導入と定年後再雇用制度の再設計 菊谷寛之 46 知っておきたい労働法Q&A《第62回》 シフト制労働者の雇用管理、高年齢者雇用状況等について 家永 勲 50 スタートアップ×シニア人材奮闘記 【第2回】 シニア人材との契約のポイントと求める役割とは 熊谷悠哉 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第36回 「2025年問題」 吉岡利之 54 心に残る“あの作品”の高齢者 【第2回】 映画『マイ・インターン』(2015年) 社会保険労務士 丸山美幸 55 日本史にみる長寿食 vol.356 スイカは捨てるところがない 永山久夫 56 読者アンケートにご協力のお願い 57 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.329 塗り・乾燥・研ぎをくり返し生み出される「漆黒」の美 漆工芸 山口敦雄さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第73回]仲間はずれ漢字探し 篠原菊紀 【P6】 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門  改正高年齢者雇用安定法の施行から2年が経過し、70歳就業の実現に向け、高齢者雇用の取組みを本格化する企業も多いのではないでしょうか。  本特集では、「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」と題し、改正法の概要とともに、改正の背景やねらい、高齢者雇用の現状・課題について、新任人事担当者の方にもわかりやすくテーマごとに解説しています。また、高齢社員にモチベーション高く、戦力として活躍してもらうためのポイントなどもあわせてご紹介しています。高齢者が活き活きと働ける職場の実現に向け、ぜひお役立てください。 【P7-11】 総論 高齢者雇用の現状と課題 田口和雄 高千穂大学 経営学部 教授 1 はじめに〜70歳就業時代の令和期  現在、65歳まで働くことが一般的となりました。これは政府が平成期に進めた高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正によって、希望すれば少なくとも65歳まで働くことができる環境――実質65歳定年制の雇用制度が整備されたことによるものです。ただし単なる65歳定年制ではなく、「実質」65歳定年制なのは「60歳未満の定年禁止」(高齢法第8条)に加えて、2004(平成16)年の高齢法改正で設けられた65歳までの高年齢者雇用確保措置によって、60歳定年と65歳までの継続雇用(その多くは勤務延長ではなく再雇用)を組み合わせた雇用制度が多くの企業で整備されたことによるものです。  令和期に入ると、2020(令和2)年に高齢法が改正(2021年4月施行)され、70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務が企業に課せられ、高齢者雇用は70歳就業時代に向かうことになりました。労働力人口の減少と少子高齢化社会のなか、経済の活力を維持するには、働き手を増やすことがわが国の重要な政策課題の一つになっていること、個々の労働者の特性やニーズが多様化しているなか、経済上の理由から長く働きたい高齢労働者も増えており、高齢期になっても能力や経験を活かして活躍できる環境の整備がいっそう求められていることなどがその背景にあります。冒頭のマンガのなかで賀東(がとう)さんが勤める会社の雇用制度が「 60歳定年制」、「希望者全員の65歳までの再雇用制度」、「基準該当者の70歳までの再雇用制度」、そして「運用による70歳を超えての再雇用制度」としているのは、こうした経営環境の変化のもと、一連の高齢法改正に対応したことによるものです。  この春に人事部に着任した賀東さんのよう に、新任の人事担当者のみなさんは現在の高齢者雇用を理解するのがたいへんかと思います。そこで、総論では高齢者雇用に影響を与える現行の高齢法の概要をふり返るとともに、2020年に改正された高齢者雇用における現状を政府統計により確認し、70歳就業時代に向けた課題を述べていきたいと思います。 2 改正高年齢者雇用安定法の概要  2020年に改正された高齢法(以下、「新高齢法」)のポイントは、それまでの高齢法(以下、「旧高齢法」)の規定(「高年齢者雇用確保措置」)に加え、事業主(以下、「企業」)が高齢者の多様な特性や就労ニーズをふまえ、70歳までの高齢者の就業機会を確保(「高年齢者就業確保措置」)できるよう、多様な選択肢を制度として設ける努力義務が企業に課せられている点です(図表1)。  旧高齢法の規定である65歳までの高年齢者雇用確保措置(以下、「雇用確保措置」)等は次の通りです。第一に、企業が定年を定める場合は60歳以上としなければならないこと、第二にそのうえで65歳までの雇用機会を確保するため、企業に対して図表2の上段に示す三つの制度のいずれかを雇用確保措置として講じる義務が設けられていることです。つまり、企業は65歳まで自社あるいは自社のグループ企業で「雇用」する義務が課せられていました。  新高齢法では、右記の雇用確保措置に加えて70歳までの就業機会を確保するため、企業に対して図表2の下段に示す五つの制度のいずれかを「高年齢者就業確保措置」(以下、「就業確保措置」)として講じる努力義務が新たに設けられました。  旧高齢法と比べた新高齢法のおもな特徴は次の2点です。第一は、「自社グループ外での継続雇用が可能になった」ことです。Bの継続雇用制度(再雇用制度、もしくは勤務延長制度)の導入について、雇用確保措置では60歳以上65歳未満は自社と特殊関係事業主(自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等)のみとしていましたが、就業確保措置では65歳以上70歳未満の高齢者に対してそれらに加えて、「他の事業主」が追加されました。すなわち、自社の高齢社員が継続雇用制度で働く場が自社や自社グループにとどまらず他社にまで拡大されたのです。  第二は「雇用によらない働き方」が対象になったことです。就業確保措置の@〜Bの制度は、これまでの自社あるいは他社で「雇用される働き方」(以下、「雇用措置」)なのに対し、CとDの制度は「雇用によらない働き方」で「創業支援等措置」といいます。Cは会社から独立して起業した者やフリーランスになった者と業務委託契約を結んで仕事に従事してもらう方法、Dは企業が行う社会貢献活動に自社で働いていた高齢社員が従事する方法です。働く人たちの多様な特性やニーズに応えた働き方として、今回の改正で創業支援等措置が設けられました。この創業支援等措置を導入する場合、企業は過半数労働組合等※1の同意を得て導入することが求められます。  このように65歳以降は自社(自社グループ)や他社での「雇用」に限定せず、フリーランスとしての業務委託などの働く場の選択肢が示されていることから「就業」としています。 3 高齢者雇用の現状  高齢者雇用の現状を、政府統計から確認してみます。図表3は2006年(2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行年)、2013年(2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行年)、2021年(2020年改正の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」の施行年)の3時点における高年齢者雇用確保措置の実施状況と高年齢者就業率を整理したものです。  高年齢者雇用確保措置を実施している企業(高年齢者雇用確保措置実施企業)の割合は右肩上がりの拡大傾向にあります(2006年:84.0%、2013年:92.8%、2021年:99.9%※2)。特に2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」を契機に、ほとんどの企業で65歳までの雇用環境が整備されました。こうした動きにあわせて希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合(2006年:33.0%、2013年:62.4%、2021年:83.5%)も右肩上がりの拡大傾向にあり、2021年では約8割の高水準にあります。なお、70歳以上まで働ける企業の割合は希望者全員が65歳以上まで働ける企業と比べ低い水準(2006年:11.6%、2013年:16.7%、2021年:35.7%)にあるものの、70歳就業時代に向けて着実にその割合は増えており、2021年では約4割に達しています。  次に高年齢者の就業率を確認すると、60歳から64歳までの「60歳代前半層」の推移は2006年(52.6%)、2013年(58.9%)、2021年(71.5%)と右肩上がりの上昇傾向にあります。そのなかでも2013年から2021年までの8年間の上がり方(58.9%→71.5%:12.6ポイントの上昇)は2006年から2013年へのそれ(52.6%→58.9%:6.3ポイントの上昇)と比べて大きく、多くの企業で一般的な定年年齢の60歳を迎えた高齢者が引き続き働いている状況にあることがわかります。60歳代後半層(65〜69歳)の3時点の就業率の推移についても、60歳代前半層と同じ傾向(@右肩上がり上昇傾向、A2006年から2013年の上がり方に比べた2013年から2021年までの上がり方が大きいこと)が確認できます。60歳代前半層の就業率が上昇しているのは年金受給開始年齢の引上げだけではなく、ライフスタイルの変化もかかわっており、60歳代後半層の就業率の推移――水準は60歳代前半層が低いものの、増加傾向にあること――が物語っています。2021年現在、65歳以上の約4人に1人(25.1%)が、70歳以上は約5.5人に1人(18.1%)が働いている状況にあります。こうしたなか、70歳就業時代に向けた高齢者雇用の対応が企業に求められています。 4 おわりに〜統合型人事管理のもとでの高齢者雇用と高齢社員の能力向上の推進  平成期を通して形成された65歳までの雇用環境によって、現在、65歳まで働くことが日常の光景となっています。さらに、先に紹介したように60歳代後半層の2人に1人が働いている状況にあり、70歳までの就業環境の整備が企業にとって喫緊の課題となっています。最後に高齢者雇用の今後のおもな課題を取り上げると、次の2点です。  一つは、定年前の正社員と一貫した人事管理のもとでの高齢者雇用を整備することです。先に紹介した平成期の高齢者雇用をふり返ると、平成期前半は、企業における高齢者雇用の基本方針は福祉的雇用がとられ、そのもとでの高齢社員の人事管理施策(処遇施策)は、定年前の正社員(以下、「現役社員」)のそれと分離して形成されました。すなわち、高齢社員全員の同一賃金あるいは一定率の減額、昇給が行われない、人事評価をしないなどです(解説1であらためて詳しく紹介します)。60歳以降も働き続ける社員が増加するにともない、高齢社員のモチベーションが低下するなどの問題が大きくなりました。この問題を是正するために、平成期後半では高齢者雇用の基本方針が見直されました。福祉的雇用から脱却して、高齢社員の活用を経営成果に貢献する戦力、つまり高齢社員の戦力化が各企業において進められました。昇給の実施、賞与の支給、人事評価の実施などです。さらに、こうした人事管理施策を一部の先進企業は現役社員の人事管理に統合して進めていますが、依然として多くの企業は人事管理施策を現役社員とは分離したままの状態で進めている状況にあり、人事管理の公平性の問題が残ります。統合した人事管理のもとで高齢者雇用の取組みを進めることが今後の課題としてあげられます。  二つめは高齢社員の学び直し、リスキリングです。令和期における高齢者雇用の基本方針は引き続き戦略的活用がとられていくことになりますが、今後は戦略的活用の「進化」が求められます。平成期では65歳までの雇用確保をおもに目ざした国の高齢者雇用政策のもと、企業がとった戦略的活用は「いまある能力をいま活用する」方針でした。60歳定年後の就労期間(その多くが再雇用として)が5年間であったため、業務ニーズにあわせて機動的に活用している現役社員と同じように職域を拡げて活用して経営成果に貢献してもらうよりも、「いまある能力をいま活用する」方針のほうが企業、高齢社員の両者にとって合理的だったからです。  しかしながら、2021年の改正高齢法施行によって60歳定年後の就労期間が10年になると、例えば、デジタル化をはじめとする技術革新の進展など経営環境は変化するので、戦力化している高齢社員の能力が陳腐化してしまい、現行の戦略的活用(「いまある能力をいま活用する」ことにより経営成果に貢献する)が機能不全に陥ってしまう可能性が高まります。そうなると、高齢社員を現役社員と同じように「業務ニーズにあわせて機動的に活用する」戦略的活用に進化させることが必要になります。そのためにも、業務スキルを向上させたり、新たなスキルを取得させたり、あるいは職域を拡げるためスキルを取得させたりするなど、現役社員と同じように高齢社員にも学び直し、リスキリングが求められます。 ※1 過半数労働組合等…労働者の過半数を代表する労働組合がある場合には労働組合を、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者をそれぞれさす ※2 2021年は51人以上の規模の集計が行われていないため、31人以上の規模企業の値 図表1 新高齢法と旧高齢法の比較 義務 努力義務 旧高齢法 高年齢者雇用確保措置 (65歳までの雇用確保措置) 新高齢法 高年齢者雇用確保措置 (65歳までの雇用確保措置) 高年齢者就業確保措置 (70歳までの就業確保措置) ※筆者作成 図表2 新高齢法の概要 制度 内容 高年齢者雇用確保措置 (義務) @65歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (特殊関係事業主〈子会社・関連会社等〉によるものを含む) 高年齢者就業確保措置 (努力義務) 雇用措置 (雇用される働き方) @70歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) 創業支援等措置 (雇用によらない働き方) C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入  a.事業主が自ら実施する社会貢献事業  b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 (注)「特殊関係事業主」とは自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等を示す出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf)をもとに筆者作成 図表3 高年齢者の雇用と就業の状況 (単位:%) 2006年 (平成18年) 2013年 (平成25年) 2021年 (令和3年) 2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行年 2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行年 2020年改正の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」の施行年 雇用状況 高年齢者雇用確保措置実施企業 84.0 92.8(92.3) (99.9) 希望者全員が65歳以上まで働ける企業 33.0 62.4(66.5) (83.5) 70歳以上まで働ける企業 11.6 16.7(18.2) (35.7) 就業率 60〜64歳 52.6 58.9 71.5 65〜69歳 34.6 38.7 50.3 65歳以上 19.4 20.1 25.1 70歳以上 13.3 13.1 18.1 (注)「雇用状況」は51人以上規模企業。( )は31人以上規模企業で各年6月1日時点の割合、2021年は「51人以上規模企業」の集計は行われていない。「就業率」は1年の平均値 出典:厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」、総務省統計局「労働力調査」をもとに筆者作成 【P12-15】 解説1 高齢社員のモチベーションの維持・向上と賃金・評価制度 田口和雄 高千穂大学 経営学部 教授 1 高齢社員のモチベーションの低下  問題と賃金・評価制度  マンガのなかの賀東さんが勤める会社のように「定年後は同じ会社で再雇用として引き続き働く」ことが、60歳定年の会社に勤めている多くの労働者の定年後のキャリア像ではないでしょうか。なぜならば、労働者にとって新たな会社で働くよりも、それまで蓄積してきたスキルや経験を活かすことができますし(もちろん、別の会社で心機一転、新たな挑戦として働くという選択肢もあります)、会社にとっても人手不足のなかで引き続き戦力として活躍してもらえる見通しが立つからです。  しかし、高齢者雇用の問題の一つに「高齢社員のモチベーションの低下問題」が指摘されています。これは一般に定年を迎え、そのまま同じ会社で再雇用に切り替わると、これまでは仕事内容が大きく変わらないのに賃金が下がることが背景にありました。賀東さんが勤める会社は、この問題に悩まされていました。そこで、高齢社員の雇用形態は再雇用のままですが、賃金・評価制度を見直したことによって、この問題を是正し高齢社員の仕事へのモチベーション(取組み意識)が高まり、職場で一緒に働く社員から頼りにされるようになりました。賀東さんが勤める会社のように、高齢社員のモチベーションを維持・向上させるために賃金・評価制度を見直す動きが増えつつあります。総論ではこの背景を解説しました。そこで、解説1では、平成期に取り組んだ企業の対応から賃金・評価制度を考えてみたいと思います。 2 平成期前半の賃金・評価制度〜働きぶりと処遇が連動しない仕組み  65歳までの雇用確保の動きは、1990(平成2)年の高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)改正がはじまりでした。この改正高齢法は、65歳までの継続雇用を推進するため、定年到達者が希望する場合の定年後の再雇用の努力義務を企業に課しました。その後も老齢厚生年金定額部分の支給開始年齢をそれまでの60歳から65歳に段階的に引き上げる1994年の公的年金制度改正に連動して、65歳雇用推進に向けた高齢法の改正が進められました。60歳定年が義務化された1994年の高齢法改正、定年の引上げなどによる高年齢者雇用確保措置の導入が努力義務化された2000年の高齢法改正です。  企業は一連の高齢法改正を受けて65歳までの雇用確保に向けた人事管理制度の整備に取り組みました。高齢社員の人事管理の基盤となる活用方針は定年まで担当していた同じ分野の業務を引き続き担当してもらうものの、定年前の正社員(以下、「現役社員」)と同じ経営成果に対する貢献度を高齢社員に求めない福祉的雇用が多くの企業でとられ、この方針に基づいて形成された賃金・評価制度は次の対応(図表1)がとられました。賃金については、一律定額の基本給と定額の賞与が支給され、昇給は行われませんでした。評価制度は整備されなかったり、整備されていても現役社員の評価制度とは別に継続雇用者(高齢社員)用の評価制度が整備されたりしていました。その結果、高齢社員の働きぶり(能力・成果)と処遇が連動しない仕組みとなりました。  これは改正高齢法において65歳までの雇用確保が努力義務であったこと、さらに継続雇用制度を導入した場合、その対象者を労使協定で限定できたことがかかわっています。その結果、継続雇用された高齢社員の人数は、従業員の労務構成において大きな集団となっている現在に比べて小さかったため、多くの企業は現役社員の人事管理と分けて高齢社員の人事管理、つまり分離型人事管理を整備しました。賀東さんが勤める会社の以前の賃金・評価制度が一律定額の賃金で、評価を行わなかったのはこのような背景があったのです。 3 平成期後半の賃金・評価制度〜働きぶりと処遇が連動する仕組みへ  平成期後半になると、65歳雇用促進に向けた動きが加速しました。2004年の高齢法改正で雇用確保措置が義務化され、さらに2012年の高齢法改正で労使協定による対象者の限定が廃止されたことにより、希望者全員が65歳まで働くことができる雇用環境が義務化されました。少子高齢化が進展し、厚生年金の受給開始年齢が引き上げられるなか、こうした一連の高齢法改正を受けて定年後も引き続き働くことを希望する高齢社員が増え、企業における社員の労務構成において大きな集団となりました。そのため、福祉的雇用の活用方針のもとで企業側が悩まされていた高齢社員のモチベーションの低下問題(定年前と同じ仕事を継続して担当しているにもかかわらず、処遇などが大きく変わることに対する不満)が全社的な経営課題となりました。先進企業はこの問題を是正するため、高齢社員が活き活きと活躍できる職場環境の整備を進めました。まず高齢社員の活用方針を、それまでの福祉的雇用から定年後も引き続き長年にわたって蓄積してきたスキルと経験を経営成果に貢献する戦力として位置づける戦力的活用に転換しました。ただし、戦略的活用は引き続き現役社員と同じ活用(業務ニーズにあわせて機動的に活用する)とするのではなく、「いまある能力をいま活用する」方針としました。この方針にあわせて、賃金・評価制度は現役社員の仕組みに近づける対応がとられました。高齢社員の働きぶりを処遇に反映させるよう、賃金制度では基本給を一律定額から定年時の職位・等級などにリンクした水準に、昇給を不支給から支給へ、賞与を定額から正社員と同じように人事評価を反映する決め方へとそれぞれ見直され、正社員と同じ評価制度を高齢社員にも用いるようになりました。賀東さんが勤める会社でも戦略的活用を積極的に推進する企業と同じ対応がとられているため、高齢社員のモチベーションの低下問題は是正され、活き活きと働くようになりました。 4 高齢社員のモチベーションの維持・向上を図る賃金・評価制度の整備へ向けて  高齢法によって、従来の自社内での雇用確保に加えて65歳以降の就業について他社での雇用確保と就業確保措置が新たに努力義務化されました。その結果、60歳(特に65歳)以降の働き方の選択肢がさらに拡がる一方、賀東さんが勤めている会社のように、60歳の定年後も再雇用などで10年近く働くことができる企業が増えていくことが期待されます。  高齢社員のモチベーションの低下問題は単に高齢社員だけの問題ではなく、一緒に職場で働いている正社員にもマイナスの影響を与えてしまうことになります。70歳就業時代の令和期において社員の労務構成において大きな集団となっている高齢社員の賃金・評価制度をどのように考えればよいのでしょうか。前述したように高齢社員の就労形態には多様な選択肢がありますが、現在70歳就業を進めている先進企業の多くが実施している自社で雇用するケースを中心に考えてみると、平成期を通して多くの企業は高齢社員の活用を経営成果に貢献する戦力、つまり戦略的活用への転換を進めてきました。令和期における高齢社員の活用は引き続き戦略的活用を推進していくことになりますが、総論で述べたように今後は戦略的活用の進化が求められます(図表2)。つまり、現役社員と同じように経営成果に貢献する役割を高齢社員にも求めることを意味します。高齢社員のモチベーションを維持・向上させるためにも、2021年4月から中小企業も含め全面適用された同一労働同一賃金もふまえ、統合型人事管理のもと人事管理の公平性の観点から現役社員と同じように働きぶりに応じた処遇――賃金・評価制度――を整備することが必要となります※1。  こうした統合型人事管理のもと現役社員と同じ賃金・評価制度を形成した事例として、A社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、継続雇用(再雇用)後もこれまで担当していた業務をフルタイム勤務で続ける場合、賃金水準は見直されるものの、正社員と同じ賃金・評価制度が適用されている点です。 ※1 具体的な手順などについてはJEEDが作成した「70歳雇用推進マニュアル」(2021年)を参照くださいhttps://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 図表1 国の高齢者雇用政策と企業の賃金・評価制度の対応 平成期 前半 後半 国の高齢者雇用政策 65歳までの雇用確保の努力義務化 65歳までの雇用確保の義務化 企業の対応 雇用の基本方針 65歳雇用の推進 65歳までの雇用制度整備 高齢社員の活用方針 福祉的雇用 戦略的活用への転換 賃金の基本方針 【基本給】一律定額 【昇給】不支給 【賞与】定額 【基本給】職位・等級などにリンク 【昇給】支給 【賞与】人事評価を反映 評価制度 未整備/整備 (継続雇用者用) 整備 (正社員準拠) ※筆者作成 図表2 70歳就業時代の人事管理の考え方 平成期(後半) 令和期 国の高齢者雇用政策 65歳までの雇用確保の義務化 70歳までの就業機会確保の努力義務化 企業の対応 雇用の基本方針 実質65歳定年制の整備 65歳までの雇用制度整備と70歳までの就業機会確保 高齢社員の活用方針 戦略的活用への転換 戦略的活用の進化 人事管理の考え方 分離型 統合型 ※筆者作成 事例1 窯業A社 再雇用後も同じ業務をフルタイムで続ける場合、正社員と同じ賃金・評価制度を適用  国内に事業拠点9カ所を展開する窯業A社は、主力として活躍しているベテラン社員が長く働き続けられる職場環境を整備するため、2018年に雇用制度を見直し「65歳定年、希望者全員70歳までの継続雇用制度、基準該当者の年齢上限なしの再雇用」としました(図表3)。再雇用後も同じ業務をフルタイム勤務で続ける場合、定年時の賃金水準は見直されるものの、賃金・評価制度は正社員と同じ制度を適用しています。なお、昇給は正社員と同じように実施されます。 図表3 改定後の賃金・評価制度の概要 人事施策 改正後の内容 雇用制度 65歳定年+70歳までの継続雇用制度(希望者全員)+上限なしの継続雇用制度(基準あり) 70歳までの継続雇用制度(希望者全員) 賃金制度 正社員と同じ制度、ただし水準は見直し 評価制度 正社員と同じ制度 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)(2022)『70歳雇用推進事例集2022』をもとに筆者作成 【P16-19】 解説2 70歳まで働くための多様な勤務制度 田口和雄 高千穂大学 経営学部 教授 1 求められる勤務制度の多様化  多くの企業が、高齢社員の継続雇用の勤務制度を、定年前の正社員(以下、「現役社員」)時代と同じフルタイム勤務としているのではないでしょうか。しかし他方では、健康問題や家庭の事情(例えば、介護など)で仕事の両立がむずかしくなり、退職するケースもみられています。賀東さんが勤務する会社は勤務制度を見直し、従来のフルタイム勤務制度に加えて新たに短日数勤務制度や短時間勤務制度を設けました。この勤務制度の見直しによって、これまでのフルタイム勤務制度のもとで退職を考えていた高齢社員は、病気の治療や家族の介護をしながら仕事を続けることが可能になりました。解説2では平成期に進められた多様な勤務制度の整備とそのもとでの高齢社員の勤務制度をふり返り、高齢者の勤務状況に関するアンケート結果の確認を通して令和期の勤務制度を考えてみたいと思います。 2 平成期の勤務制度の変化〜多様化の取組み  図表1は平成期の企業における勤務制度の変化の概要を整理したものです※1。定年前社員の勤務制度はフルタイム勤務としていますが、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少、ライフスタイルの変化による就労ニーズの多様化などを背景に勤務制度の多様化――短日数・短時間勤務制度の整備――が進められました。これは、政府が取り組んでいる育児や介護との両立など多様化する労働者個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会の実現を目ざした働き方改革の一環として推進されている「多様な正社員制度」のなかの「短時間正社員」です※2。この短時間正社員は育児・介護などと仕事を両立したい社員、決まった日時だけ働きたい労働者、キャリアアップを目ざすパートタイム労働者など、さまざまな人材に、勤務日数や勤務時間をフルタイム勤務の正社員よりも短くしながら活躍してもらうための仕組みです。  一方、高齢社員の勤務制度は、短日数・短時間勤務中心からフルタイム勤務中心へと見直しが進みました。高齢社員の活用の基本方針が福祉的雇用から戦略的活用に転換されることにともない、高齢社員に求められる役割が正社員に近い役割(中核業務をになう役割)に変わったことによるものです。それにあわせて、解説1で紹介したように、賃金・評価制度を定年前社員の仕組みに近づける対応がとられるとともに、勤務制度も現役社員と同じフルタイム勤務とする方向で見直されました。しかし、マンガのなかで賀東さんが勤務する会社のように高齢社員の事情やニーズをふまえ、現役社員と同じように責任のある仕事を担当しながら、福祉的雇用時代の短日数勤務制度や短時間勤務制度を維持したり、あるいは再度、導入する企業がみられます。 3 高齢社員の勤務実態を確認する  高齢社員の勤務実態について、企業に対するアンケート調査結果から確認してみましょう※3。  まず高齢社員を活用している企業における65歳以上の高齢社員の勤務形態について図表2をみると、「フルタイムで働く者がほとんどである」(57.8%)が多いものの、「フルタイム以外で働く者がほとんどである」も3分の1強(35.7%)となっています。紙幅の関係で詳細な図表は掲載できませんが、この結果を業種、従業員規模の企業属性別にみると、「フルタイム」はおもにフルタイム勤務とする業務特性を持つ建設業、運輸業、人手不足が著しい小規模企業で多くなるのに対し、「フルタイム以外」は柔軟な勤務形態が可能な医療・福祉、飲食・宿泊業で、人員に余力のある大規模の企業でそれぞれ多くなっています。また、「フルタイム以外」の勤務形態は「短日数・短時間」(50.7%)が最も多く、これに「短日数」(40.1%)、「短時間」(31.4%)が続き、柔軟な勤務形態がとられていることがうかがえます。  こうしたフルタイム以外で働く65歳以上の高齢社員が多い理由は、企業側の都合(例えば、「人件費を抑えるため」(11.4%)などよりも、「高年齢者の就労ニーズ(日数・時間)の多様化のため」(63.5%)、「高年齢者の体力に配慮するため」(58.3%)といった高齢社員の要望・実情に配慮していることがうかがえます。  仮に、企業が現在雇用しているすべての従業員を65歳を超えても雇用する場合の勤務形態は「フルタイム」(55.9%)がもっとも多い回答であるものの、「短時間」も4割台の水準で多く、企業は就労ニーズにあわせて多様な勤務形態によって雇用することを考えているようです※4(図表3)。 4 多様な勤務制度の整備は高齢社員だけではなく、すべての社員を対象に  冒頭で述べましたが、戦力的活用が進むなか、高齢社員の勤務制度は現役社員と同じフルタイム勤務が多くなっていますが、その一方で加齢にともなう身体機能の変化(低下)、家族の介護や本人の病気治療などの健康問題が現役社員よりも顕著になるため、すべての高齢社員にフルタイム勤務を適用すると退職する者が出てきてしまいます。これは働き続けたい高齢社員にとっても、会社にとってもよいことではありません。マンガのなかの賀東さんが勤務する会社のように短日数勤務制度、短時間勤務制度などのフルタイム勤務以外の勤務制度を設けるなど、高齢社員の就労ニーズにあわせて選択できる多様な勤務制度の整備が求められます。  また、こうした多様な勤務制度を求める就労ニーズは高齢社員だけではありません。フルタイム勤務をしている現役社員においても育児や親の介護、本人の病気治療などの健康問題を抱えている者もいます。賀東さんが勤務する会社のように多様な勤務制度は高齢社員だけに限定せず、すべての社員に広く適用することが求められます。  こうした多様な勤務制度の事例としてB社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、多様な勤務制度を導入することがむずかしい事業特性であるものの、高齢社員の事情にあわせて短時間勤務制度を導入した点です。 ※1 平成期は、今回取り上げている勤務制度のほかに労働時間制度などを含めた働き方の柔軟化、多様化の取組みが進められた。その概要については本誌2022年7月号特集「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」の「解説3 多様で柔軟な働き方の整備」を参照 ※2 多様な正社員制度には、短時間正社員のほかに、担当する職務内容が限定されている「職務限定正社員」、転勤範囲を限定したり、転居をともなう転勤がない「勤務地限定正社員」の二つのタイプがある ※3 (独)労働政策研究・研修機構(2020)『高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』。調査結果の詳細は同報告書を参照のこと ※4 業種、従業員規模の企業属性の違いによる傾向は図表2と同じ特徴がみられる 図表1 平成期の勤務制度の変化 概要 勤務制度の多様化 現役社員 勤務制度 フルタイム勤務 → フルタイム勤務+短日数・短時間勤務(短時間正社員制度) 高齢社員 活用の基本方針 福祉的雇用 → 戦略的活用 勤務制度 短日数・短時間勤務中心 → フルタイム勤務中心 ※筆者作成 図表2 65歳以上の勤務実態 (n=4,705、単位:%) フルタイムで働く者がほとんどである 57.8 フルタイム以外で働く者がほとんどである 35.7 勤務形態(複数回答) 短日数 (40.1) 短時間 (31.4) 短日数・短時間 (50.7) その他 (6.5) 無回答 (5.2) フルタイム以外で働く者が多い理由(複数回答) 人件費を抑えるため (11.4) フルタイムでの高年齢者向け仕事の確保が難しいため (7.6) 高年齢者の体力に配慮するため (58.3) 高年齢者の就労ニーズ(日数・時間)の多様化のため (63.5) 社会保険の関係で週20時間以内に抑えたいため (11.7) 通勤費を抑えたいため (0.1) その他 (3.2) 無回答 (4.8) 無回答 6.4 (注)( )の値は「フルタイム以外で働く者がほとんどである」を100%とした場合の値(n=1,682) 出典:(独)労働政策研究・研修機構(2020)『高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』 図表3 仮に現在雇用しているすべての従業員を65歳以降も雇用する場合の勤務形態(複数回答) (n=5,891、単位:%) フルタイム 55.9 短時間(週30時間以上) 44.4 短時間(週20〜30時間未満) 49.0 短時間(週20時間未満) 40.1 その他 5.6 無回答 6.0 出典:(独)労働政策研究・研修機構(2020)『高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』 事例2 総合工事業B社 短時間勤務制度の導入  県内に3カ所の事業所を持つ総合工事業B社は、2019(令和元)年に実施した65歳定年と希望者全員の70歳までの継続雇用への制度の見直しにあわせて、継続雇用者を対象とした短時間勤務制度を導入しました。同社の勤務制度は事業特性の関係からフルタイム勤務だけでしたが、継続雇用者本人の体力低下など加齢にともなう健康状態の変化により、フルタイム勤務を続けることができなくなり、退職する継続雇用者がみられるようになりました。こうした問題を是正するために短時間勤務制度が導入され、本人の希望に応じて1〜3時間の勤務時間を短縮する措置が講じられています。実際には継続雇用者は現役社員と同じようにフルタイム勤務を続けていますが、「今後、もし事情が生じても働き続けられる、精神的にも不安がなくなる」などの意見が寄せられています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)(2023)『70歳雇用推進事例集2023』をもとに筆者作成 【P20-23】 解説3 生涯現役で働くための健康と安全の確保 ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 高木元也 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 1 はじめに  70歳まで安心・安全に働き続けるため、企業は、年々増加する高齢者の労働災害の防止対策に取り組まなければなりません。  本稿では、2020(令和2)年3月に厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン」(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン、以下、「ガイドライン」)のポイント、大手企業の高齢者の安全と健康確保策の好事例などを紹介します。 2 高齢者の労働災害発生率の高さ  高齢者の労働災害発生率(年千人率※1で示す)をみると、60代後半は、労働災害発生率がもっとも低い20代後半と比べ、男性で2.0倍、女性で4.9倍とかなり高くなっています(図表1)。おもな原因には、筋力の低下、バランス感覚の低下など、加齢にともなう心身機能の低下があげられます。 3 ガイドラインのポイントなど  ガイドラインの構成は以下の通りです。 ガイドラインの構成 第1 趣旨 第2 事業者に求められる事項  1.安全衛生管理体制の確立等  2.職場環境の改善  3.高年齢労働者の健康や体力の状況の把握  4.高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応  5.安全衛生教育 第3 労働者に求められる事項 第4 国、関係団体等による支援の活用  エイジフレンドリーな職場をつくるため、事業者に求められる事項を定め(第2)、一方、高年齢労働者には事業者への協力を求め(第3)、国などによる支援制度を紹介しています(第4)。 (1)ガイドラインのポイント  本ガイドラインのポイントは、第2の3、4にある高年齢労働者一人ひとりの健康や体力の状況を把握し、それに応じた対策を求めていることです。  高齢になるほど、心身機能の個人差が大きくなります。古いデータとなりますが、図表2は、暦年齢(実年齢)に応じた生理的年齢(個々人が持つ心身機能の程度を年齢化したもの)の幅、すなわち個人差をみたものです。例えば、実年齢65歳の人の生理的年齢の個人差は16年にも及びます。これは、実年齢65歳の人のなかには、50代の若々しい人がいる一方、心身機能の衰えで70代のようにみえる人がいることを表します。このように生理的年齢は大きな個人差があるため、事業者は職場で働く高齢者一人ひとりの健康や体力の状況を把握することが求められています。 (2)事業者に求められる事項  ガイドラインでは、事業者に対し、「経営トップは安全方針を表明し、安全衛生管理体制を整え、その上で、事業場に潜む高年齢者のリスクを洗い出し、それに対しリスク低減対策を講じる」ことを求めています。リスク低減対策には、ハード対策とソフト対策があります。 a ハード対策  ハード対策の具体例としては、 @高齢者は暗い場所で視力が著しく低下するため(低照度下視力)、職場の照度を確保する Aバランス感覚や筋力が低下し、とっさにうまく動けない高齢者は、階段から転落しやすく、段差につまずきやすいため、階段には手すりをつけ、通路や職場内の段差をなくす B滑って転倒することを防止するため、床の濡れを即座に拭き取る、滑りにくい床材(床塗装)を採用する、耐滑性にすぐれた靴を着用する C筋力の低下した高齢者は重量物を抱えると腰痛になりやすいため、持ち上げ補助機器(パワーアシストスーツなど)を装着する などがあげられます。  このような心身機能の低下を補うハード対策のほとんどは、高齢者のためだけではなく、そこで働くすべての人々にとっての安全な職場環境につながります。この点は強調すべきです。 b ソフト対策  一方、ソフト対策の具体例は次の通りです。 @勤務形態、勤務時間の工夫 ・個々人の心身機能や健康の状況を把握して、作業内容や作業時間などを調整する。短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務などの導入を検討する。加齢とともに、昼から夜(あるいはその逆)への勤務シフトの変更に体を慣らすことがむずかしく、夜勤には十分な配慮が必要となる Aゆとりのある作業スピード ・高齢者は、時間に追われる仕事は不得手でミスもしやすい。自主的に作業負荷をコントロールできるように配慮する B無理のない作業姿勢 ・加齢により筋力、関節の動き、柔軟性などが低下するため、身体を曲げ伸ばす動作、ねじれ姿勢など不自然な作業姿勢を減らす。また、バランス感覚が低下し身体の安定がとりにくくなるため、長時間の立ち作業を減らす C注意力、集中力などを必要とする作業への配慮 ・加齢により注意力や判断力が低下するため、複数の作業を同時進行させないようにする。また、とっさにうまく動けないため、素早い判断、行動を要する作業を減らす D腰への負担軽減 ・筋力の低下から腰痛を防止するため、持ち上げ重量の制限、腰痛になりにくい持ち上げ姿勢の教育、腰痛予防体操の実施など c 健康や体力の状況をふまえた対策  事業者は、健康診断、職場での体力チェックなどにより、高齢者一人ひとりの基礎疾患の有無、体力の状況を把握し、それに基づき労働時間の短縮、深夜勤務の削減、作業の配置転換などを行います。 d 高齢者の特性をふまえた安全教育  高齢者は、ほかの年代と比べ、十分な教育効果が見込めないといわれています。このため、以下の通り、高齢者向けの特別な安全教育が必要になります。 ・十分な時間をかけ、写真や図、映像などを活用する。 ・心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させる。 ・心身機能の低下を客観的に認識させる。 (3)企業の取組み事例  企業における高齢者の安全確保の取組み事例として、トヨタ自動車株式会社、JFEスチール株式会社西日本製鉄所の取組みを紹介します※2。これらの事例は若い世代も対象となっています。 事例1 トヨタ自動車  トヨタ自動車では、高齢になっても活き活きと元気に働くには、体力の維持・向上、心身の健康の増進が重要とし、そのために、若年・壮年期からの意識変革を求めています。具体的な取組みは次の通りです。 @いきいき健康プログラム  36歳以上の全従業員を対象に、4年に1度、以下の取組みを実施しています。 a 体力の見える化(体力測定) ・上腕柔軟性、座位体前屈、座位ステッピング(敏捷(びんしょう)性)、2ステップ距離測定(バランス力)など、全9種目の体力測定の実施 b 運動指導 ・社内運動トレーナーによる、加齢による腰痛、肩こりに効果的なストレッチ方法等の実技指導(1回30分〜1時間、数人〜30人)や、活動量計の貸出による従業員の活動量計測(歩数、運動時間等)と結果のアドバイス A健康チャレンジ8  八つの生活習慣「1.適正体重、2.朝食、3.飲酒、4.間食、5.喫煙、6.運動、7.睡眠、8.ストレス」を対象に、全社的に実践数の目標を設定し、職場単位の活動を推進しています。また、「健康スマホアプリ」により、歩数など活動量の見える化、各自の健康チャレンジ宣言の入力などにより、取組み意識を高め行動変容をうながしています。これらの結果、2020年末の全従業員の平均実践数は6.27(最大8)と(2020年初6.09)、目標値6.30に近づいています。 事例2 JFEスチール西日本製鉄所  JFEスチールでは、社の安全衛生方針「安全は全てに優先する」の「安全」と「体力」を結合し、高齢になっても安全で健康に働くために必要な体力を「安全体力R」とネーミングし、「安全体力R」測定ツールを開発しています。  「安全体力R」のテストは、転倒、腰痛、危険回避、ハンドリングミスの四つのリスクを八つのテストでチェックします。結果は5段階で評価し、評価4、5は「安全域」、評価3は「維持域」、評価2は「要注意域」、評価1は「危険域」とし、評価1、2の者には改善意欲を高めさせています。2014(平成26)年、40歳以上の健康診断対象者(1703人)に転倒の有無に関するアンケート調査をしたところ、転倒経験者(159人)は非経験者より転倒リスクのテスト3項目の割合が高い結果となり、このテストの有効性が認められています。また、「安全体力R」維持のため、毎日実施する二つの職場体操を開発しています※3・※4。これらの取組みの効果として、筋骨格系疾患による休業日数が減少し、転倒災害が減少しています。 4 おわりに  人生100年時代を迎え、高齢者がいつまでも活き活きと元気で健康に働くため、企業は、職場環境改善、作業内容の見直し、体力チェックなどの推進が求められており、今後、精力的に取り組むことが期待されます。 ※1 年千人率……1年間の労働者千人あたりに発生した死傷者数(休業4日以上)の割合 ※2 中央労働災害防止協会「高年齢労働者が安全・健康に働ける職場づくり〜エイジフレンドリーガイドライン活用の方法〜」 ※3 職場体操1:筋骨格系疾患対策:「アクティブ体操R」PART 1(https://www.youtube.com/watch?v=KPxt7vyQ6Zo) ※4 職場体操2:転倒予防対策「アクティブ体操R」PART 2(https://www.youtube.com/watch?v=LEr6r1Mxgu8) 図表1 年齢別・男女別労働災害発生 千人率 男性 25〜29歳 2.05 2.0倍 65〜69歳 4.06 75〜79歳 4.76 女性 25〜29歳 0.82 4.9倍 65〜69歳 4.00 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年)、総務省「労働力調査」(2018年)から作成 図表2 加齢による暦年齢と生理的年齢の個人差の拡大 生理的年齢 暦年齢 25 35 45 55 65 75 85(歳) 4年 8年 12年 14年 16年 18年 20年 出典:斎藤一、遠藤幸男:高齢者の労働能力(労働科学叢書53)、労働科学研究所、1980から作成 【P24-26】 解説4 高齢者雇用と助成金 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者助成部  「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上への定年引上げ等を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の整備を行う事業主、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換する事業主に対して、国の予算の範囲内で助成するものであり、「生涯現役社会」の構築に向けて、高年齢者の就労機会の確保および雇用の安定を図ることを目的としています。  共通の要件は、雇用保険適用事業所の事業主であること、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条、第9条第1項の規定と異なる定めをしていないこととなります。  この助成金は次のT〜Vのコースに分けられます。 T 65歳超継続雇用促進コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、次の@〜Cのいずれかを就業規則等に規定し、実施した場合に受給することができます。 @65歳以上への定年の引上げ A定年の定めの廃止 B希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入 C他社による継続雇用制度の導入 ◆支給額  実施した制度、引き上げた年数、対象被保険者数に応じて図表1・2の額を支給します。 ◆申請書受付期間  図表1・2の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに「65歳超継続雇用促進コース支給申請書」に必要な書類を添えて、申請窓口まで提出してください。 U 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、高年齢者の雇用の推進を図るために雇用管理制度(賃金制度、健康管理制度等)の整備に係る措置を実施した場合に、措置に要した費用の一部を助成します(図表3)。  なお、あらかじめ雇用管理整備計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆支給額  支給対象経費(上限50万円)に60%(中小企業以外は45%)を乗じた額を支給します。初回の支給対象経費については、当該措置の実施に50万円の費用を要したものとみなします(2回目以降は50万円を上限とする実費)。 V 高年齢者無期雇用転換コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を転換制度に基づき、無期雇用労働者に転換させた場合に、対象者数に応じて一定額を助成します。  なお、あらかじめ無期雇用転換計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆支給額  対象労働者1人につき48万円(中小企業以外は38万円)を支給します。 助成金の詳細について  この助成金の支給要件等の詳細は、JEEDホームページをご確認ください。  また、JEEDホームページから、各コースの申請様式や支給申請の手引きをダウンロードすることができます。その他、制度説明の動画も掲載しています。  この助成金に関するお問合せや申請は、JEEDの都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課、連絡先は本誌65頁参照)までお願いします。 https://www.jeed.go.jp JEED 高齢者雇用助成金 検索 助成金の説明動画はコチラ https://youtu.be/D1qf1Nd7InA 図表1 65歳超継続雇用促進コース 定年の引上げまたは定年の廃止、継続雇用制度の導入 措置内容 65歳への定年の引上げ 66〜69歳への定年の引上げ 5歳未満 5歳以上 70歳以上への定年の引上げ(注) 定年の定めの廃止(注) 66〜69歳への継続雇用の引上げ 70歳以上への継続雇用の引上げ(注) 対象被保険者数 1〜3人 15万円 20万円 30万円 30万円 40万円 15万円 30万円 4〜6人 20万円 25万円 50万円 50万円 80万円 25万円 50万円 7〜9人 25万円 30万円 85万円 85万円 120万円 40万円 80万円 10人以上 30万円 35万円 105万円 105万円 160万円 60万円 100万円 (注)旧定年年齢、継続雇用年齢が70歳未満の場合に支給します。 図表2 65歳超継続雇用促進コース 他社による継続雇用制度の導入(上限額) 措置内容 66〜69歳への継続雇用の引上げ 70歳以上への継続雇用の引上げ(注) 支給上限額 10万円 15万円 ※ 申請事業主が他社の就業規則等の改正に要した経費の2分の1の額と表中の支給上限額いずれか低い方の額が助成されます。対象経費については申請事業主が全額負担していることが要件となります。 (注)他の事業主における継続雇用年齢が70歳未満の場合に支給します。 図表3 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者雇用管理整備措置の種類 高年齢者に係る賃金・人事処遇制度の導入・改善 労働時間制度の導入・改善 在宅勤務制度の導入・改善 研修制度の導入・改善 専門職制度の導入・改善 健康管理制度の導入 その他の雇用管理制度の導入・改善 支給対象経費 ●高年齢者の雇用管理制度の導入等(労働協約または就業規則の作成・変更)に必要な専門家等に対する委託費、コンサルタントとの相談に要した経費 ●上記経費のほか、左欄の措置の実施にともない必要となる機器、システムおよびソフトウェア等の導入に要した経費(計画実施期間内の6カ月分を上限とする賃借料またはリース料を含む) 【P27】 高齢者雇用促進等のためのその他の助成金 編集部  当機構(JEED)の「65歳超雇用推進助成金」のほかにも、高齢者を雇用した場合の「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)、(成長分野等人材確保・育成コース)」、高年齢労働者の賃金の増額などを行い、高年齢雇用継続基本給付金の受給総額を減少させた場合の「高年齢労働者処遇改善促進助成金」があります。いずれも都道府県労働局やハローワークが支給窓口となります。 特定求職者雇用開発助成金 (特定就職困難者コース)  高齢者や障害者などの就職困難者をハローワークなどの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。この助成金の対象となる高齢者は、60歳以上の方です。  高齢者を雇い入れた場合の助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。支給額は「短時間労働者以外」(1週間の所定労働時間が30時間以上)と「短時間労働者」(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で異なり、中小企業が短時間労働者以外を雇用する場合、60万円を2期にわけて30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期に分け25万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、40万円を2期にわけ20万円ずつ(中小企業以外は30万円を2期に分けて15万円ずつ)支給されます。 特定求職者雇用開発助成金 (成長分野等人材確保・育成コース)  【成長分野】と【人材育成】の二つのメニューがあり、【成長分野】は、未経験の就職困難者を、ハローワークなどの紹介により雇い入れて、「成長分野の業務※」に従事させ、人材育成や職場定着に取り組む場合に支給されます。【人材育成】は、未経験の就職困難者を、ハローワークなどの紹介により雇い入れて、人材開発支援助成金による人材育成を行い、賃上げを行った場合に支給されます。  いずれも特定求職者雇用開発助成金のほかのコースの1・5倍の助成金が支給されます。 高年齢労働者処遇改善促進助成金  就業規則や労働協約の定めるところにより、60歳から64歳までの高年齢労働者に適用される賃金に関する規定または賃金テーブル(以下、賃金規定等)を増額改定し、高年齢雇用継続基本給付金の受給総額を減少させる事業主に対して支給されます。  支給額は、賃金規定等改定前後を比較した高年齢雇用継続基本給付金の減少額に以下の助成率を乗じた額となります。 ・2/3(中小企業以外は1/2)  (注)100円未満切り捨て  なお、支給にあたっては、算定対象労働者の1時間当たりの賃金を60歳時点の賃金と比較して75%以上に増額する措置を講じていること、増額改定後の賃金規定等を6カ月以上運用していることなど、いくつかの要件を満たしている必要があります。 ★ ★ ★  それぞれの詳細については、最寄りの労働局またはハローワークへお問い合わせください。 ※次のアとイが該当します  ア「情報処理・通信技術者」または「その他の技術の職業」(データサイエンティストにかぎる)に該当する業務  イ「研究・技術の職業」に該当する業務(脱炭素・低炭素化などに関するものにかぎる) 【P28-33】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? 第4回 人手不足が続き、10年後が不安です! Season 2 ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ※ 『エルダー』2022年8月号「マンガで学ぶ高齢者雇用」https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202208.html ※ 内閣府「令和4 年版高齢社会白書」よりhttps://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season 2 第4回 人手不足が続き、10年後が不安です!  少子高齢化などの影響により、人手不足や採用難を実感している企業は少なくないのではないでしょうか。会社の継続的な発展・成長のためにも、業務にまつわる知見やノウハウの次世代への継承は欠かせませんが、そんなときにこそ活用したいのが、高齢社員。業務に精通した高齢社員の雇用を延長することは、業務の円滑な遂行はもちろんのこと、実は人材採用の課題を解決することにもつながります。 内田教授に聞く 高齢者雇用のポイント 高齢者が長く働ける職場環境を整えることが意欲ある人材の採用を容易にする  少子高齢化が進む日本では、若手にかぎらず働き手の確保がこれからむずかしくなります。高齢者雇用に取り組むことで、企業は現在の人手不足に対処できるだけではなく、中長期にわたって安定的に人材を採用できる仕組みがつくれます。  いま働いている人たちの定年や定年後再雇用の上限年齢を延長するか廃止すれば、経験豊かなベテランをより長期にわたって活用できます。そうすることで社員の安心感は高まり、会社へのいっそうの貢献も期待できます。「新規採用がむずかしいのにベテランが来年いなくなってしまう」、「数年後の人手不足が心配」といった悩みが解消されるでしょう。とはいえ、単なる定年廃止や延長では期待した効果を十分には上げられません。マンガにあるように高齢社員の体力や五感の低下に対応した職場環境や設備の工夫、意欲を高める人事評価や処遇制度の構築、短日数・短時間勤務など高齢社員のライフスタイルに合った働き方の提供が欠かせません。  一方、定年廃止や延長は、若手・中堅社員の採用や定着に関して長期的効果も生みます。高齢者雇用に取り組む過程で高齢社員が働きやすい職場や作業環境が実現しますが、これは若手や中堅、子育て中の社員にも歓迎されます。また、勤務時間が柔軟な会社に魅力を感じる人々は若手を中心に多いのではないでしょうか。長く働ける会社は働き手を引きつけます。ある企業では定年延長によって社外から経験豊かな人材を多数獲得できました。その多くは地場で同業の60歳定年企業からの定年退職者や転職者だったそうです。  高齢社員はもちろんのこと、これから高齢期を迎える社員の意見や要望を丹念に聴き、職場環境の改善に加えて個々人の状況に即した働き方のメニューを用意する、これらの取組みによって会社の評判が高まり、少子高齢化時代でも意欲ある人材の採用を容易にします。 プロフィール 内田賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P34-35】 江戸から東京へ [第128回] 自他ともにチエを認める 松平信綱 作家 童門冬二 まわりでもホメるチエ者  「チエのある者は、そのチエを使うて鼻の頭を低くするように」  江戸時代の学者が門人の少しチエのあるヤツに注意した言葉です。チエのあるヤツの鼻の頭がドンドン高くなったからでしょうね。  しかし、まわりもそのチエを認め、本人も、「たしかにオレはチエ者だ」と認め、そのチエを大いに世の中のために役立てた人物がいます。そのため、この人はまわりから憎まれませんでした。むしろホメられました。  その人の名は松平(まつだいら)信綱(のぶつな)。若いころからチエがあり、幕府での官名が伊豆守(いずのかみ)だったので、人びとは、チエいず≠ニ呼びました。  あるとき江戸城で火災が起こり、大奥でキャーキャー騒ぎが起こりました。仕える女性たちの騒ぎです。そこへ小姓(こしょう)(秘書)の信綱がとびこみ、大声でこういいました。 「みなさん、お騒ぎにならずに。となりの部屋からまんなかのタタミを一枚ずつひっくりかえしておきました。それを辿(たど)ってください。庭へ逃げられます。くれぐれもおちついて」  侍女たちはそのとおりにし、みんな無事に助かりました。信綱のチエの評判はたいへんなものです。それにイケメンでしたから、さらに名はあがりました。  チエを重ねて大名になり、川越(かわごえ)(埼玉県)の城の城主になりました。その後、町から火が出ました。  信綱は、 「川越を不燃都市にしよう」  といって現在も残る白壁の倉をたくさんつくりました。いま、その白壁の倉には観光客がたくさん訪れています。 さらにチエを発揮  信綱はさらにチエを重ねて老中(ろうじゅう)(大臣)になりました。江戸が大火災になり、江戸城の天守閣も燃えてしまいました。老中たちはさっそく大会議です。 「なによりも天守閣の再建が急務です」  という、ある老中の提案にみな賛成です。ところが信綱は反対です。理由は、 「城の天守閣は合戦のシンボルです。いまは平和な世の中で合戦はありません。そんなシンボルより被災者の復興手当にまわしましょう」  なるほどそのとおりだ。松平殿は相変わらずチエ者だ、とみんなも賛成しました。いまも観光客が多く訪れますが、観られるのは土台の石だけで天守閣はありません。これは、 「平和な世の中に、そんなものはいらない」  といった信綱の約三百六十年前のチエによるものです。  信綱のチエはさらに江戸を防火都市にし、そのいくつかはいまも残っています。かれはまわりからチエいず≠ニいわれ、かれ自身も「オレはチエ者だ」と思いましたが、そのチエをすべて世の中のために使ったために学者からもけっして、 「鼻の頭を低くしろ」  などとはいわれませんでした。最後は、老中筆頭(いまの総理大臣)になりました。  そんなときに九州の島原・天草で農民が一揆を起こしました。原因は増税です。しかも一揆の大半はキリシタンです。  幕府はすぐに鎮圧のために九州の大名を動員し、総大将と副大将を派遣しました。総大将は一万石の小大名、副大将は三千石の中堅旗本です。信綱はすぐ意見を出しました。 「これでは鎮圧できません」 「なぜです?」 「九州の大名がいうことをききません」 「なぜいうことをきかぬのです?」 「総大将の格が低いからです。動員された大名はみな二十万石、三十万石の大名ばかりです。一万石の小名の命令はきかないでしょう。みなさん、ご自分の身で考えてはいかがですか?」  そういわれて列席者は考えました。一人ひとりが信綱のいうことに対して、  (なるほど松平殿のいうとおりだな)  と思いました、つまり、  (たしかに自分なら一万石の小名なんかの命令なんかきかないな)と感じたのです。  そこでみな、 「松平殿、たしかにおっしゃるとおりです。で、どうなさいます?」 「私が行きます。副大将ももっと格が上の旗本にして」 「え!」  みなビックリしました。このころの信綱は老中格(老中〈大臣〉と同じ扱い)になっていたからです。そんなことをしたら、現地でも、 「まさか!」  と思うでしょう。  ところが信綱は笑って、 「私がいい出したことです。戸田さん、ご同行ください」  と、十万石の石高の仲のよい大名を副大将にして、本当に九州に行ってしまいました。有言実行です。  現地では驚きました。いまの将軍(三代目家光)最大のお気に入りの側近チエいず≠フお出ましです。さすがの猛者大名たちも、もう文句はいえませんでした。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第133回 高知県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー※(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 面談を重視して適性を見極め定年後も本領発揮の活躍促進 企業プロフィール 株式会社フタガミ(高知県南国(なんこく)市) 創業 1967(昭和42)年 業種 ホームセンター・カー用品専門店・ペットショップなどの小売業、住宅建築事業、木工事業、ガーデニング事業 従業員数 601人(うち従業員数345人)※グループ従業員数 (60歳以上男女内訳)男性(50人)、女性(49人) (年齢内訳) 60〜64歳 51人(8.5%) 65〜69歳 21人(3.5%) 70歳以上 27人(4.5%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで再雇用。以降は会社が認めた場合に年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は木材加工担当の86歳  高知県は太平洋に面した細長い扇型の地形を有し、北部には四国を東西に貫く標高1000m級の四国山地がそびえます。森林面積は県の面積8割を超え、四万十(しまんと)川に代表される清流が流れる自然豊かな地域です。温暖な気候に恵まれ、全国的にみても年間日照時間が長い一方、たびたび台風の猛威にさらされる風土で、これも明るく豪快な気風として特徴づけられています。  JEEDの高知支部高齢・障害者業務課の笹島(ささじま)秀昭(ひであき)課長は、県の産業と支部の取組みについて次のように説明します。  「医療関係や社会福祉法人の事業所数が多く、実態として高齢者が現役で長く働いているものの制度化されていないケースが見受けられるため、高齢者を含めた従業員や事業所の将来のことをあわせて制度提案を行っています」  同支部で活躍するプランナーの一人、寺本(てらもと)静代(しずよ)さんは、特定社会保険労務士の資格を持ち、人事労務管理の専門家として地域の企業の成長と豊かさをサポートしています。また、ワーク・ライフバランスコンサルタントの肩書きを持ち、その見地からも従業員一人ひとりが能力を発揮できる会社づくりを提案することで、企業と従業員の双方をつなぐ架け橋となるべく働きかけを行っています。  今回は、寺本プランナーの案内で株式会社フタガミを訪れました。 「心豊かな暮らし」をプロデュース  株式会社フタガミは、1967(昭和42)年に前身の株式会社二神(ふたがみ)木工を設立し、木製建具の製作販売会社としてスタートしました。時代の移り変わりとともに業容の幅を広げ、木工、住宅建築事業を展開。さらに近年はホームセンター事業を展開し高知県内にホームセンター17店舗、カー用品専門店5店舗、ペット事業部など、人々の生活にかかわるさまざまな小売店を運営しています。  執行役員総務部部長の西森(にしもり)鉄平(てっぺい)さんは「当社は高知県の『いえとにわ』、そして心豊かな『家庭』をプロデュースしてきました。会社設立以来、ずっと変わらない思いは『高知県民になくてはならない企業になる』ことです。この思いは、これから100年企業を目ざしていくうえで、変わることはありません。そのため、人財育成には特に力を入れています。外部研修のほか、社内研修として接客研修や実践研修、商品勉強会など、年間50回にものぼる多様な研修を実施しており、そのなかには高齢従業員の豊富な知識と技術を継承すべくDIY実技研修もあります。そして、日々の業務を通して、地域に根づいたネットワークを若い世代につないでいき、幅広い年代の従業員が活躍できる職場づくりを目ざしています」と話します。 技術と組織風土の継承役こそ高齢従業員  「10・20代」、「30代」、「40代」、「50代」、「60歳以上」の各年代がほぼ均等の割合で構成され、年代バランスが抜群の同社。定年年齢は60歳、事業部や職種にかぎらず希望者全員を65歳まで再雇用し、65歳以降も業務上特に必要と認めたときは年齢の上限なく継続雇用をしています。「熟年技術者をはじめ、高齢従業員の長年つちかわれた経験やスキルはほかに代えがたい価値があります」(西森部長)と評価し、再雇用および継続雇用してきた実績が年代構成でも光ります。  「幅広い年代の従業員全員が働く意欲を維持し向上させる取組みとして、面談とコミュニケーションを重視しています。年一回実施する面談では評価シートを導入して評価を数値化しました。これは従業員のモチベーションアップにつながりました。自己採点方式のアンケートでは、仕事の適性、仕事のやりがい、あわせて職場環境についての生の声を募り、本人のキャリア形成や会社の施策に反映させています」(西森部長)  寺本プランナーは2021(令和3)年4月に初めてフタガミを訪問。「初めて訪問した際、高齢者雇用への意識が高い企業であると感じました。高齢従業員が若手従業員のお手本となり、技術継承だけでなく組織風土の継承をになっています。高齢従業員が意欲的に働く姿は、ほかの従業員に刺激を与えてモチベーションアップにつながっていると思います。また取組みをヒアリングするなかで、従業員を大切にされている企業だとも感じました。現在は定年60歳、65歳までの再雇用制度を導入されていますが、より経験豊富な高齢従業員のスキルや能力を活かしていくために、定年年齢引上げの提案をしています」(寺本プランナー)  今回は、定年後も職場で中心的な立場を任され、得意分野の仕事に打ち込む二人の高齢社員にお話を聞きました。 DIY実技研修の社内講師として熱心に指導  西岡(にしおか)幸則(ゆきのり)さん(69歳)はものづくり好きが高じて39歳のときに販売員として入社し、独学で大工の技術を身につけ、入社三年目でDIYアドバイザーの資格を取得しました。現在はDIY実技研修の講師として、検定に臨む若手従業員を指導しています。同社は一般社団法人日本DIY・ホームセンター協会が行うDIYアドバイザーの資格取得を推進し、これまでに、のべ111人が合格しています。年一回実施される試験は筆記と実技からなり、実技については86歳の高齢従業員が中心となって研修を行い、西岡さんらとともに指導してきましたが、2023年度から西岡さんにバトンタッチして世代交代となり全面的に指導を任されました。  「実技の試験は、普段機械を使うような作業でノコギリやノミを使うので、研修で学ぶ必要があります。試験を受けるからには全員一発合格を目ざして指導しています」と、西岡さんは意気込みを語ります。しかし、いままでに一人だけ初回での合格を果たせなかった若手がいたとか。「これが悔しくて悔しくて」とまるでいま起きたことのように悔しがる表情からは、心底熱心に指導していることが伝わってきました。  講師の仕事以外に、店舗の什器、防災教室で使う模型などの制作も西岡さんが担当し、「使い勝手がよい」と評判です。制作のモットーは「期待以上のもの、自分がつくりたいものをつくる」とのこと。これが仕事を楽しむポイントになっているようです。  商品管理課課長の武田(たけだ)順一(じゅんいち)さんは、「西岡さんは教え方がていねいです。事前の準備もしっかりしていて指導が的確。だから合格率が非常に高いのだと思います。きちんとした性格から什器の作品の仕上がりはきれいですばらしく、取引先からは『こんな人材がほしい』とうらやましがられ、私の妻はすっかりファンになってしまい、よく制作を依頼しています」と絶賛していました。  西岡さんに職場の働きやすさについて聞くと、「出社時間を早められるので、朝早く出社して作業の時間に充てています。年齢を重ねてもプレッシャーがかからない仕事をさせてもらえ、ストレスなく働けるところもよいですね。また教え子が各店舗にいて、立ち寄った際には、会話ができるのもうれしいですね」と答えてくれました。 県全域で防災活動を展開し、啓蒙活動に邁進  ホームセンター部販売促進課に所属する楠瀬(くすのせ)淳司(じゅんじ)さん(63歳)は防災士の資格を持ち、フタガミ防災アドバイザーとして県内の小中学校・高校の防災教室や企業・団体・地域の自主防災会の講師を務めています。高知県は南海トラフ地震が危惧されている地域。巨大地震の防災対策強化が喫緊の課題となっています。楠瀬さんはDIYの知識を活用して模型や教材を企画し、理解しやすい防災教室を目ざしてきました。「人の命にかかわることですので、小学生でもわかりやすいように教材をつくってきました。『防災教室ができてよかった』、『ありがとう』という言葉が直に聞けることが何よりうれしいです」とやりがいを語ります。  わかりやすい実演があり、災害の擬似体験ができるプログラムは評判を呼び、2005(平成17)年に店舗のイベントとして始まった防災教室の実施回数は、この18年で800回を超えました。「防災といえば楠瀬」と社内に浸透し、店舗スタッフにも協力者が増えました。防災の知識が買われ、防災関連の商品について品質などの意見を求められ、売り場に反映されることもあります。活動は社外にも知られ、同社は県内11市町村と防災対策活動への協力協定を結ぶまでに。「防災教室は社会貢献の一環として高知県民のために行っていることです。また企業理念に基づいたものですから」とサラリと述べる楠瀬さんですが、後進としてともに防災教室でアドバイザーを務める岡林(おかばやし)哲史(てつし)さんは「楠瀬さんはとにかく熱意がすごい人です」と評します。「セミナーのマニュアルを一から開拓して『高知の防災教室はフタガミに相談したらいい』といってもらえるまでになりました。つねに防災対策について勉強していて、新しい知識を身につけています。人あたりがよく気兼ねなく相談できる雰囲気があって、知識だけでなく応用力が必要な仕事の相談やアドバイスがもらえて、楠瀬さんがいてくれるだけで本当に助かっています」と話す語気にも力がこもります。  楠瀬さんに働きやすい点について聞くと「指示されたままに動く仕事だったら自分には合っていなかったでしょう。気質に合わせて伸び伸びと仕事ができるのがよかったと思います。これからも防災を広げるために『新化』していきます」と答え、さらに気持ちを引き締めていました。  寺本プランナーは取材を終え、次のように述べました。「高齢従業員がそれぞれの能力・技術・アイデアを大いに発揮し楽しく働いていることをあらためて感じました。今後、先進事例を紹介しながら制度改善の支援をしていければと考えています」  西森部長は「高知県は他県と比較しても超″w社会に直面しています。20年後に65歳以上が約半数を占めるといわれており、シニア世代の雇用創出は事業存続にもかかわってくるでしょう。そうした課題に対し、当社においてもシニア世代の給与体系や評価制度など新たなルールづくりのほか、社内の設備改善が今後の課題にもなってくると思います」と述べ、将来の高齢者雇用の方向性を示唆しました。(取材・西村玲) ※「65歳超雇用推進プランナー」の名称が、2023年4月から「70歳雇用推進プランナー」に変わりました 寺本静代 プランナー アドバイザー・プランナー歴:13年 [寺本プランナーから] 「訪問前には事前に企業の情報を収集して、訪問時には企業にお話ししていただきやすい雰囲気をつくることを心がけています。また、企業の貴重な時間をいただいているので、つねに訪問企業の役に立つ情報を提供できるように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆高知支部高齢・障害者業務課の笹島課長は寺本プランナーについて「『一人ひとりがその人らしく働く職場環境を目ざす』をモットーに、特定社会保険労務士として地域に密着して幅広く活躍されています。JEEDの活動においては訪問事業所の状況を的確に把握したうえで、高齢者も含めた働く人々が安心して長く働くための条件整備や、高齢者のモチベーションの維持や役割発揮といったポイントからの助言が多く、事業所から厚い信頼を得ています」と話します。 ◆高知支部高齢・障害者業務課は、JR高知駅からとさでん交通桟橋線の桟橋通四丁目駅で下車し徒歩3分の場所にあります。観光名所である、はりまや橋へのアクセスも便利なところに立地しています。 ◆同県では、5人の70歳雇用推進プランナーが在籍しています。2022年度は制度改善提案70 件を実施しました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●高知支部高齢・障害者業務課 住所:高知県高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 電話:088-837-1160 写真のキャプション 高知県南国市 本社社屋 西森鉄平執行役員総務部部長 社内研修でDIY 資格試験対策の実技指導をする西岡幸則さん(右) 自社制作の防災模型を扱う楠瀬淳司さん(左)と後進の岡林哲史さん(右) 【P40-41】 第83回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは 株式会社 クリエすずき建設 総務部スタッフ 星野(ほしの)孝治(こうじ)さん  星野孝治さん(73歳)は、外資系企業でガソリンスタンド施設の管理や営業職などに従事してきた。現在は、地元の会社に勤めながらさまざまなボランティア活動に参加するなど、多忙な日々を送る。「シニアががんばることで周囲を元気にしたい」と願う星野さんが、生涯現役で働き続ける極意を語る。 与えられた場所で全力を尽くす  私は埼玉県川口市の生まれです。地元の高校を卒業後、建築関係の大学に進み、外資系の石油元売り会社に就職しました。入社後、ガソリンスタンド施設の現場管理部門に配属されました。それから約10年後、本社勤務となり、プラントや企画の仕事を担当し、営業部門にも約10年かかわりました。そして、再び施設の現場管理の仕事に戻り、50歳になったとき早期退職しました。  営業の仕事は以前から興味があったので、配属されたときはうれしかったです。ガソリンスタンドの営業は販売店に経営のカウンセリングなどをするのがおもな業務であり、さまざまな出会いのなかで学ぶことも多く、充実した日々でした。50歳で早期退職を選んだのは、仕事そのものへの不満ではなく、当時、石油会社の合併が急速に進むなか、会社の将来の姿が見えたような気がして迷うことなく選択しました。退職後はしばらく知人の仕事を手伝っていましたが、前職の会社が施設部門をアウトソーシング(外部委託)することになり、その外部委託された外資系会社から声がかかり、社員に採用されました。結局、石油会社にいたときと同じ業務を行うことになるのですから人生のめぐりあわせとはおもしろいものです。  その会社の規定では、60歳になると給料が大幅に減額されるため、話し合って個人事業主として契約更改をしました。以後は、個人事業主として68歳まで働きました。  星野さんは背も高く、筋肉質で精悍(せいかん)な雰囲気にあふれている。これまでの歩みを語る口調は淡々としつつも、強い意志で自らの運命を切り開いてきたことが想像できる。 人生は出会いの連続  68歳で自由な時間を手に入れて、しばらくはその状態を堪能していましたが、体を動かすことが大好きな私は、ずっと家にいることがだんだん苦痛になってきました。とりあえず民間の派遣会社に登録してみたものの、仕事を紹介してくれる方は、年齢を考慮してか「エクセルが使えることが前提ですから、星野さんにはむずかしいかもしれませんね」と頭から決めつけます。外資系の施設管理部門でしたから、いち早くパソコンの技術は身につけていましたが、人は年齢だけでこういう見方をするのだと愕然(がくぜん)としました。  次のステップアップを思い悩んでいたとき、偶然、地元千葉県にある柏(かしわ)市生涯現役促進協議会のことを知り、思い切って窓口を訪ねました。2019(令和元)年6月のことでした。そのとき、窓口の担当者の方が「年齢に関係なく働ける企業がありますよ」と声をかけてくださったのです。目の前がパッと明るくなりました。そして、2カ月後には、現在の勤務先であるクリエすずき建設と出会いました。住まいづくり事業や暮らしサポート事業を展開する住宅建設の会社で、スタッフは8人。若い世代が活き活き働いていますが、70歳前後の従業員も3人いる高齢者が働きやすい職場です。私は週2日、9時から15時までの勤務ですが、就業日は毎月20日に翌月の就業希望日を出してフレキシブルに対応してもらえるため、計画的に予定が立てられます。私のおもな仕事は事務一般で、データ入力やSNSを使っての情報提供などです。朝礼では、その日の仕事の目標などをそれぞれが発表することもあり、温かい雰囲気のなかにも緊張感があって、みんなでステップアップを目ざせることに感謝しています。  多様な働き方ができる会社を選んだのには、訳がある。星野さんのやり残したことの一つに地域貢献があった。就業日ではない日をボランティア活動にあてられると知った星野さん。大車輪の活躍が始まる。 地域に恩返しを  埼玉県川口市で生まれた私は、27歳で結婚と同時に、草加(そうか)市に転居しました。その3年後、千葉県柏市に移り、いまに至っています。柏市は第二の故郷ですが、ずっと仕事に忙殺されて地域と向き合ってこなかったことを申し訳なく思っていました。母が介護施設でお世話になったこともあり、自由な時間ができたら地域に恩返ししたいと思い続けてきました。  2019年6月に柏市生涯現役促進協議会の窓口を訪ねた際、仕事の話と同時に福祉関係のボランティア活動をやってみたいと相談しました。すると「福祉の仕事セミナー」を紹介され、セミナーに参加、翌7月に福祉関連事業所「花いちりん」に加入し、5月から11月の間、週1回高齢者宅の雑草駆除などのお手伝いをすることになりました。クリエすずき建設での就業日以外に活動ができるので、ありがたいと思っています。  2019年は忙しい年になりました。災害救援ボランティアのリーダー認定証とあわせて上級救命技能認定証を取得、柏市の訪問型生活支援サポーターの認定証も取得しました。折しも同年9月には、台風15号が房総半島に甚大な被害をもたらしました。私も民家の土砂除去に駆けつけましたが、なかなか作業が進まない様子を目のあたりにして、小型車両系建設機械運転の特別教育を受け、修了しました。さらに、被災地に駆けつける人たちを適切に人員配置できるよう災害ボランティアコーディネーターと、2021年には、柏市社会福祉協議会「さわやかサービス」の協力会員に登録、私にできることがあれば積極的にお手伝いさせてもらおうと思っています。 人生を楽しむ達人を目ざして  趣味の旅行に加え、昔から松任谷(まつとうや由実(ゆみ)さんと桑田(くわた)佳祐(けいすけ)さんの大ファンで、チケットの入手に苦労しながら、いまもコンサートを観にいっています。コロナ禍の影響で音楽活動が自粛になったときは、アーティストも私たちファンもつらかったです。また落語も大好きで、お目当ての立川(たてかわ)志輔(しのすけ)さんの落語会は欠かしていません。好きなものがあると人生が二倍楽しくなるような気がします。  余暇を安心して楽しめるのは、やはり働く場所がちゃんとあるからであって、働き続けるためには心身ともに健康でありたいと、毎日1万歩以上をウォーキングし、週に2、3度はスポーツジムに通い筋トレで汗を流しています。仕事だけに追われていた日々と比べると、いまは一番充実した日々を過ごしているような気がします。そのことへの感謝を忘れず、若い人が「年をとるのも悪くはないな」と感じてもらえるような元気なシニアでいたいとひそかに心に誓っています。クリエすずき建設の理念でもある「楽しく人生をデザイン」することを目ざしながら、生涯現役の道をしっかり歩いていこうと思います。 【P42-45】 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 株式会社プライムコンサルタント 代表 菊谷(きくや)寛之(ひろゆき)  従来型のヒト基準の日本的人事制度が制度疲労を起こし、年齢や性別を問わず人材が活躍できるシンプルな雇用・人事・賃金制度に対するニーズが高まっています。今回は、正社員の年功的な賃金カーブを合理的に修正する役割給のコンセプトと、定年後再雇用にジョブ型賃金を導入する道筋を紹介します。 第3回 役割給の導入と定年後再雇用制度の再設計 1 日本ではジョブ型賃金はそのままでは使えない  ジョブ型賃金の本家であるアメリカでは、図表1のイメージのような範囲給(レンジ給)と呼ばれる賃金管理手法が普及しています。これは、会社が定めた賃金水準の「ポリシーライン」を中心に、職務のグレードごとに賃金の上限・下限のバンドを設定します。その幅(レンジ)のなかで個別の賃金を決め、図の右側のような昇給率のガイドラインを用いて毎年の昇給を行います。レンジはポリシーラインに対する最高額〜最低額の比率(%)で表し、その仕事に十分習熟するまでの所要年数を想定して設定します。  一般的には、仕事の個人差が少なく昇進機会の多い下位等級のブルーカラーや販売・サービス職などは時給制を適用し、グレードごとに単一金額を適用するシングルレートや、レンジ幅の小さい職務給(ペイ・フォー・ジョブ)を使います。評価は仕事のでき具合を○×式で簡単にチェックしたり、そもそも評価を省く会社も少なくありません。賃金は上位グレードの仕事に変わらないかぎり早く頭打ちになり、仕事がなくなったり、職務不適格と判断した場合は契約解除となります。  他方、昇進機会の少ない上位等級のホワイトカラー専門職や管理職・経営職などは、専門性や実力、業績・貢献度などの個人差を重視して賃金のレンジ幅を大きくとる年俸制の成果給(ペイ・フォー・パフォーマンス)が普及しています。評価は目標管理(MBO)に基づく業績評価や、リーダーシップやコンピテンシーなどの行動評価を実施し、昇降給を含めた弾力的な賃金待遇を行います。昇給ゼロやマイナス昇給は辞職をうながすニュアンスも含まれます。  職務給はそれなりによく考えられた合理的な賃金制度ですが、担当する仕事が直接賃金に紐づく職務給・成果給のままでは、柔軟な職務の割当や配置・異動を行う日本的な人材マネジメントにはなじみません。  日本では、職種を限定した特定のワーカーや専門職、管理職のキャリア採用はともかく、新卒採用から始まって、定年まで無限定の成長・活躍を期待する一般の正社員には、会社の裁量権の範囲内で職務内容や配置を柔軟に決めるメンバーシップ型の人事慣行が標準となっています。ここにジョブ型の職務を限定した労働契約や賃金を入れてしまうと、採用時点から柔軟な職務配置が制約され、その後の異動・転勤もむずかしくなります。  仮にジョブ型賃金で合意したとしても、仕事が変わらなければ大きな昇給は望めず、仕事が変われば変わったで、都度賃金が上がったり下がったりという影響を受けます。正社員とはいえ、身分が不安定で安心して仕事に専念できず、帰属意識も保てません。  会社も職務内容が変わる都度職務記述書を変更し、新たなグレードや賃金待遇を社員と合意する必要があり、職務の変更や異動・転勤はハードルの高いものになります。  そもそも日本では、年功や生活を考慮して賃金を支給している会社が大多数を占め、職務グレードに対応する市場賃金を客観的に把握しにくいのが現状です。仮に把握できても、職務給の導入は人件費の増大を招きがちです。  なぜなら、これまで若年層や独身者、女性などは年功的な賃金相場のもとで比較的賃金を低く設定されてきました。職務給を実施するとグレードの高い社員は賃金を上げねばなりませんが、「わが社は職務給だから」と気前よく賃金を上げられるのは、経営に余裕のある企業にかぎられます。  他方では、賃金の高い中高年層や世帯主層のなかにも、職務グレードの低い社員がいますし、「わが社は職務給だから」と他社よりも賃金を下げて社員は納得するでしょうか。実際は不利益変更に抵触するリスクがあるダイレクトな賃金の切り下げはむずかしく、当面は賃金の高止まりを招く結果になるのです※。  この連載では、このような職務給の短所を解消し、正社員の育成や人事配置に柔軟に対応できる職能給の長所を組み合わせた混合型の賃金処遇システムとして「役割給」を中心に説明していきます。  具体的な解説は次回にゆずりますが、組織のなかで人が役割を与えられ、キャリア・能力を伸ばし、成果責任を引き受けて実力を発揮するという、能力と仕事の相互関係、キャリアと役割の相互関係に着目して、実際の貢献に応じて賃金待遇を決めます。  仕事基準の職務給・成果給と人基準の職能給 の双方のよさを組み合わせた役割給は、メンバーシップ型/ジョブ型を問わず複合的な雇用形態にも容易に対応でき、習熟度や貢献度の異なる社員をフレキシブルに処遇できる利点があります。 2 高年齢者雇用確保措置における賃金待遇の実情と課題  図表2は、前回も触れた日本の60歳定年企業の典型的な年功賃金カーブと、65歳までの平均的な高齢者待遇の実情を図式化したものです。  山なりの右肩上がりのグラフは、新卒で入社し定年まで勤めあげる標準的な(Bモデル)正社員の基本給カーブを表しています。  日本の年功賃金カーブは長年の間、徐々に傾きが抑制され、現在では図のように55歳前後から昇給・昇格を停止する企業が大半となっています。それでも賃金カーブが寝ている中小企業は別として、ある年齢より後はオーバー・コスト(後述)になるため、企業の多くは60歳定年制を堅持しつつ、定年後は有期雇用として賃金待遇を70〜80%程度に切り下げる定年後再雇用制度によって高齢者を雇用してきました。  その場合、定年前と同じ仕事、同じ働き方をさせつつ慣習的に定年前賃金の60%に切り下げたり、仕事の内容にかかわらず一律25万円と決めたり、仕事や貢献度の違いが反映されない固定的な賃金待遇を実施する企業も少なくありません。  定年後の収入減は、在職老齢年金や雇用保険の高年齢者雇用継続給付などで補われてきましたが、団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年4月には、これらの公的給付が廃止・縮小されます。人手不足のもとで、高齢者の一層の人材活用を図りたい企業としては、公的給付の低下による高齢者の収入減を無視できません。  また2020(令和2)年4月からパートタイム・有期雇用労働法が施行され、定年後の有期雇用を理由に低処遇とすることは、違法な労働条件の相違として、無効とされる可能性があります。いずれにせよ60歳以降の賃金待遇の見直しは避けられません。 3 なぜ定年延長はむずかしいのか  図表3は、高齢者の生産性を上回る人件費が発生する従来型の年功賃金カーブ(A)と、高齢者を含めて常に人件費と生産性を均衡させようとする仕事基準・短期決済の役割給(B)とを対比したものです。  年功賃金とは、簡単にいえば高齢者に貢献以上の賃金を支給することで、若年・中堅層に「自分たちも先輩を見習って仕事をすれば先輩のように昇給できるはず」と期待を持たせ、賃金以上の貢献を長期間引き出す仕組みです。  ただし左側(A)の図のように、ある限界年齢以降は、中高年層の生産性よりも人件費が高くなる賃金のオーバー・コスト(斜線部分)が急に膨らみ、人件費全体の費用対効果が著しく低下します。その防壁として、一定年齢以上は雇わない強固な一律退職ルールが不可欠になるわけです。  このような典型的な60歳定年の会社が無理やり定年延長を行えば、図(A)の斜線部のように定年延長分だけ人件費のオーバー・コストが大幅に増加することが明らかです。  加えて、定年を延長し、力のある高齢者が重要なポストを占有し続ければ、若手社員は昇進・昇格が遅れ、先輩の賃金にますます追いつきにくくなります。賃金の抑制や人事の停滞は若年・中堅層の不満・離職に直結する恐れが大です。  60歳定年制は、年功的な人件費の増大に歯止めをかけ、高齢者の代わりに伸びしろのある若年・中堅層を育成・登用し、組織の新陳代謝をうながす雇用・人事秩序そのものといってよく、特に賃金カーブが立っている大企業が定年を廃止したり、定年延長にふみ切ることは容易ではありません。  しかし、定年後再雇用の賃金を機械的に下げるやり方では、高齢者が活き活きと働き続けられる環境とは程遠いものがあります。パートタイム・有期雇用労働法に示された均衡待遇・均等待遇の原則に照らしても、賃金を下げる以上雇う側も高齢者の仕事の質を落とさざるを得ません。そのため、定年を境に仕事の意欲が明らかに低下し、なかには不満を抱えた高齢者を抱え込む結果になってしまいます。 4 正社員に役割給を導入、定年後はジョブ型の継続雇用賃金を適用  年齢・性別を問わず人材が活躍できるシンプルな雇用・人事を実現するシナリオのなかで最大の決め手は、正社員に役割給を導入して、常に働く人の貢献と会社が払う賃金のバランスをとり、緩やかな仕事基準の賃金待遇に移行することです。これにより、従来の属人的な年功賃金カーブを、図表3右側(B)の貢献度を表す曲線(点線)にフィットする賃金カーブへと修正する道が開けます。  このような仕組みであれば、人は働けるかぎり貢献し、働きに応じた賃金待遇を受けることができ、定年制もやがては意味を失います。欧米の職務給などはこうした実態に近いといわれています。  図表4は、ひとまず現実的な60 歳定年制のもとで正社員に役割給を導入し、メンバーシップ型の柔軟な職務・配置を維持しつつ、組織における役割と実際の貢献度の評価に基づくメリハリの利いた賃金待遇を実施するイメージを示しました。  左の扇状の山なりに昇給する5本の太い実線は、定年までの正社員の役割給の展開を示し、3本目の実線の新標準Bモデルを中心に、グレーの実線のように役割と貢献度の違いに応じて役割給が徐々に分岐・分散していく様子を表します。この例では、若手〜中堅層の賃金を意図的に引き上げ、その分、年功的に高くなりすぎている中高年層の賃金カーブを徐々に抑制しています。  正社員については、組織における社員個々の成果責任を確認し、目標設定や業績評価、行動評価を通してその貢献度を客観的に評価するノウハウが、すでにかなりの企業で運用されています。  定年後再雇用者には、正社員の役割給のテーブルを準用し、短期決済型の職務限定の有期雇用にあわせたジョブ型賃金を適用します。1年ごとの労働契約書により、職務内容と働き方に応じた再雇用賃金を確認し、契約更改の都度再雇用賃金を見直していきます。  次回は、役割給のモデル事例と賃金換算表方式によるジョブ型の定年後再雇用賃金の設定方法など、より実務的な解説を進めていきます。 ※ これまで日本では、パートタイマーのほか、建設・輸送・海運などの一部の技能職種、医師やパイロット、高度IT技術者などの高度専門職など、大多数の正社員の賃金待遇とは切り離して職務を限定できる分野に職務給が導入されるにとどまってい 図表1 職務給の設計イメージ 職務給 職務のグレード 職務記述書2−3 職務記述書2−2 職務記述書2−1 職務評価 ポリシーライン+10%〜20% ミッドポイント±10% 1 2 3 4 5 昇格 6 7 8 ミッドポイント±20% 習熟昇給 レンジ給の設定例 最低額 第1四分位数 中位額 第3四分位数 最高額 昇給ガイドラインの設定例 賃金の位置 評価別の昇給率 S A B C D 4/4 5% 3% 1% 0% 0% 3/4 7% 4% 2% 0% 0% 2/4 8% 5% 3% 1% 0% 1/4 9% 6% 4% 2% 0% (注)標準的なB評価の場合、賃金の位置が下方4分の1の従業員は4%、下方4分2の従業員は3%、上方4分の3の従業員は2%、上方4分の4は1%の昇給率となる c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表2 典型的な年功賃金と高齢者待遇の実情 (金額) 60歳 65歳 (年齢) 年功賃金=高年齢者に貢献以上の賃金を支給することで、若年・中堅層から賃金以上の貢献を長期間引き出す仕組み → 定年後は正社員の賃金待遇と切り離す 正社員≠継続雇用(1社2制度) 正社員の基本給カーブ(標準Bモデル) 継続雇用賃金は定年到達時賃金の70〜80%程度 高年齢雇用継続給付 無年金期間の減収 仕事や貢献度の違いが配慮されない固定支給 同一労働同一賃金に抵触する可能性 定年 定年再雇用 ・「先輩のように昇給できる」という期待感 ・ある限界年齢より後はオーバー・コスト ・賃金カーブが寝ている中小企業以外は、定年制による継続雇用賃金の大幅な引き下げが必要 →定年後再雇用制度を導入 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表3 年功賃金カーブの現状と役割・貢献度に応じた賃金カーブへの修 ●現状…高齢者の生産性<人件費 (A)人基準・長期決済の年功給 定年 貢献 賃金 すでにあるオーバー・コスト 定年延長で増えるオーバー・コスト ・最後は貢献以上の賃金を支給する仕組みなので、一定年齢後は高賃金を強制的に修正・終了しないと制度がもたない ・機械的な昇給抑制はモラールダウンを招く ・定年制を維持し、定年後の処遇の切り下げが必要(質の高い仕事はさせられない) ◎あるべき姿…高齢者の生産性≧人件費 (B)仕事基準・短期決済の役割給 定年 貢献 賃金 ・常に貢献と賃金のバランスをとる仕組みにしておけば、定年後の賃金を特別扱いする必要はない ・仕事の質を下げる必要はない ・働けるかぎり貢献でき、定年制は意味を失う(エイジ・フリー) c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表4 役割給による正社員の賃金カーブ修正と定年再雇用のイメージ(60歳定年) (金額) 60歳 65歳 70歳 (年齢) 旧カーブよりも早く昇給し、早く頭打ちになり、総面積(生涯賃金)は変わらない 役割と貢献度により賃金カーブが分岐 旧標準Bモデル 最高Sモデル 上位Aモデル 新標準Bモデル 下位Cモデル 低位Dモデル 元の再雇用賃金 定年 短期決済型賃金(有期雇用契約) 待遇改善 同一労働同一賃金に抵触しない設定 雇用確保措置 (定年再雇用) 就業確保措置 正社員と継続雇用に同一の役割給体系を適用 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第62回 シフト制労働者の雇用管理、高年齢者雇用状況等について 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 シフト制で働いている労働者の雇用管理の留意点について教えてほしい  シフト制で働いている労働者に関して、繁閑に合わせて自由に労働日数を変動させているのですが、問題はありますか? A  労働契約の内容を正確に把握しておかなければ、たとえシフト制であっても労働日数を変動させることが違法になることがあります。 1 シフト制労働者の雇用管理  厚生労働省は、2022(令和4)年1月7日付で「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下、「ガイドライン」)を公表しました。  コロナ禍においては、例えば、シフト制の労働者の労働日数を削減することで実質的な休業にもかかわらず、休業手当が支給されないといったトラブルも生じており、裁判で争われるということも生じていました。  ここでいう「シフト制」とは、一定期間ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態を意味しており、あらかじめ労働日数や労働時間数が決まっており、勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する交替制勤務は除かれています。  ポイントは、「具体的な労働日や労働時間数が決まっていない」ということで区別されているということです。労働契約において、具体的な労働日数や労働時間が決まっている場合(例えば、労働条件通知書や労働契約書において、1カ月あたり●日、1日あたり8時間という内容が定まっている)場合は、ガイドラインにおける「シフト制労働者」に含まれていません。シフトを提示されるまでは労働日数や労働時間数が定まっていない労働者を対象としたガイドラインとなっています。 2 シフト制労働者との労働契約  労働基準法が定める明示事項のうち、「始業及び終業の時刻」、「休日」に関する事項は、シフト制労働者の場合には具体的な記載をすることができません。  とはいえ、可能なかぎり労使間の認識を明確にしておくために、ガイドラインでは、単に「シフトによる」と記載するだけでは足りないとされています。このような記載はガイドラインが公表される以前は多くみられた記載ですので、注意が必要です。今後は、原則的な始業および終業時刻を記載したうえで、契約締結と同時に定める一定期間分のシフト表などをあわせて労働者に交付することが必要とされています。  次に、「休日」については、具体的な曜日などが定まっていない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明示しなければなりません。週に1日ではなく4週に4日以上の休日とするような変形休日制を採用する場合には就業規則などに定めることも必要になります。  以上のほか、紛争予防のために望ましい取組みとして、シフト作成に関するルール(労働者の意見聴取を行う、シフト表の通知期限や方法など)を定めておくことや、シフト変更に関するルール(シフト期間開始後の変更期限や手続など)を定めておくことなどがあげられています。そのほか、労働日や労働時間についても、契約上、具体化することができないとしても、基本的な考え方を労使間で合意しておくといった方法があげられています。  シフト表などによる労働日と休日の決定において、重要な点として、シフト決定前とシフト決定後の変更は、その法的性質が大きく異なるということです。シフト決定前は、白紙の状態に指定することで労働日と労働時間が具体化されるという性質であるため、使用者の裁量が大きいといえますが、一度決定した労働日や労働時間は労働契約の内容となっているため、これを自由に変更することができるとはいえません。そこには、一定の制約がなされるべきということになります。 3 シフト制労働者に対する指示の変更に関する裁判例  シフト制の労働者について、シフトの削減ではなく、自宅待機命令から出勤命令に変更した事例において、当該変更が違法であるとして争われた事例があります(大阪地裁令和4年6月23日判決)。  当該裁判例における使用者は、毎月25日までに、各従業員に対して勤務指定表と題する文書を示して、翌月各日の勤務の有無および種類を通知することが就業規則に定められており、業務上の必要性により指定した勤務日や種類を変更するときは、「勤務変更通知書」を交付して変更する運用が採用していました。  使用者は、事業における業務量が減少したことから、実際に勤務する人員数を減少させ、自宅待機させる労働者を設けるようになり、勤務指定表において自宅待機日を指定するようになっていました。当該自宅待機日において、知識向上および業務改善のために配付した資料に自ら記入して次回出勤日に必ず提出することとされていたところ、これを提出しなかった労働者に対して、自宅待機として指定していた労働日を出勤するように変更する内容の勤務変更通知書を交付しました。この勤務変更が、違法なものであるとして、損害賠償請求がなされました。  自宅待機から出勤を命じることは、勤務場所や勤務内容の変更という要素を含んでいるところ、当該裁判例では、東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)の示した基準を参考にしつつ、@業務上の必要性、A不利益の程度、B従業員間の負担又は相違の有無、程度及び合理性といった考慮要素をもって判断するという規範を示しました。  これらに照らしたところ、「労働者が、労働契約上、自宅待機を命じられる権利を有していたものではないこと、課題提出者にも自宅待機が命じられることがあったことおよび課題の分量や所要時間が乏しいものであったことなどを考慮すると、本件運用が従業員間に一定の業務上の負担の相違を生じさせるものであったとしても、その相違の程度が著しいとはいえず、従業員間の公平性を害するものということはできない」として、課題を提出していなかった自宅待機予定の労働者に出勤を命じたことは、裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用するものではなく、違法ではないと結論づけました。  この裁判例において参考になるのは、自宅待機状態(シフト上の休日)から出社を命じることについて、就業場所の変更をともなうことを考慮して、一度指定したシフトを変更するときの判断基準について、東亜ペイント事件の規範に準じた内容が用いられたという点です。東亜ペイント事件は、配置転換命令の有効性を判断するという事案のリーディングケースですが、業務内容や場所を変更する命令についても応用的に利用されました。特徴的なのは、B従業員間の負担または相違の有無、程度および合理性という要素があげられている点です。シフト制労働者が多数いる状況のなか、だれに対して業務内容や場所を変更するかどうかを決めるためには、このような要素、いい換えれば人選の合理性が問われるということが示されたともいえるでしょう。紹介した裁判例では、自宅待機中に行うよう求められていた課題などに取り組まない社員(自宅待機中に知識向上や業務改善に取り組まない人員)を優先的に出社させることが、人選の合理性があると肯定されています。  シフト決定前と決定後における法的な性質の違いと、シフト決定後における変更命令において考慮すべき事項に留意しながら、シフト制労働者を適切に雇用管理していきましょう。 Q2 現在の日本における高齢者雇用の状況について教えてほしい  高年齢者雇用安定法が2021(令和3)年に施行されて、 70歳までの就業確保措置などが加わりましたが、これらの導入状況はどうなっているのでしょうか。 A  引き続き、65歳までの継続雇用制度を導入している企業が多い状況ですが、就業確保措置を導入している企業も現れてきています。 1 高齢者雇用の今後について  高年齢者(55歳以上の者)の雇用に関して、高年齢者雇用安定法は、その継続的な雇用または就業機会の確保を目ざして、改正が重ねられています。  直近では2021年4月1日から、70歳までの定年の引上げ、定年の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入、業務委託契約を締結できる制度の導入および社会貢献事業に従事できる制度の導入のいずれかの方法で70歳までの就業機会を確保することが努力義務として施行されました。なお、法的な義務は、65歳までの定年の引上げ、定年制の廃止、65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を導入することとされています。  これにより、70歳までの「就業機会の確保」として、必ずしも雇用に限定しない方法で高年齢者が事業や社会貢献活動にかかわることが求められるようになっていますが、これまでの高年齢者雇用安定法においても努力義務として定めた後に、法的な義務とする改正が行われてきたこともあり、現状は、就業機会の確保の準備期間ともいうべき状況にあると考えられます。 2 2022年の就業機会確保措置等の導入状況  2022年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果が公表されています。  65歳までの雇用確保措置については、中小企業および大企業ともに99.9%が実施ずみとされており、ほぼすべての事業主が実施しています。また、これらのうち、70.6%が継続雇用制度の導入となっていますが、割合としては減少しており、定年の引上げにより対応している企業が若干増加しています。近年では60歳であってもまだまだ働けるという方が増えているようにも思われ、定年の引上げはその状況を反映しているようにも思われます。また、継続雇用制度を導入する場合は、定年後には有期雇用契約とすることにともない、賃金を減額するにあたっては、同一労働同一賃金の観点からも業務内容、就業場所の変更の範囲、責任の範囲などについて、相違を設けることを意識せざるを得なくなりますが、現実的には相違を設けることがむずかしい場合もあり、継続雇用よりも定年の引上げの方が企業の実情にあうという場面が増えているのかもしれません。  一方で70歳までの就業機会確保措置については、実施ずみの企業は27.9%であり、2021年と比較し2.3%増加していますが、65歳までの継続雇用が99.9%であることと比較すると、まだまだこれからという状況になっています。その多くは、70歳までの継続雇用制度の導入となっており、業務委託契約を締結できる制度の導入および社会貢献事業に従事できる制度(「創業支援等措置」)を導入しているのは、0.1%にとどまっています。  創業支援等措置については、社会貢献事業を行っているのはおおむね大企業に多く、そのような制度を準備できる企業がそもそも限定的であると考えられるため、現実的には業務委託契約を締結できる制度の導入が選択肢になると考えられます。一方で、法的な観点からすれば、雇用契約から業務委託契約に切り替える点については、その実践方法が確立しておらず、実施した企業がそのリスクを背負うということになりかねず、現実的な選択肢になっていないようにも思われます。  実務的には、雇用ではなく業務委託契約で従事している方について、労働基準法が適用されないように構築することは、容易ではありません。なぜなら、労働者としての性質を有しているか否かについては、1985(昭和60)年に作成された「労働基準法研究会報告」(2021年に公表された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」においてもこの報告が引用されています)や37号告示と呼ばれる「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」などを参照しながら検討するのですが、これらの文書に掲げられた考慮要素については、総合考慮を前提としている一方で、各考慮要素の重みやバランスは専門家の感覚に委ねられている部分もあり、ケースバイケースの判断が必要になることが通常となっているからです。  裁判例の蓄積があるといえども、同様の業種であっても、業務委託と認められた会社もあれば、そうではない会社もあります。高年齢者の就業機会を確保しようと検討するにあたって、このような法的に安定しない業務委託契約の導入に踏み切ることはむずかしい側面があります。  雇用契約と業務委託契約の区別をより明確にすることができれば、業務委託契約を締結できる制度の導入という形で70歳までの就業機会確保が実現していくのではないかと思われます。 3 定年到達者の動向  定年到達した者のうち、87.1%が継続雇用、12.7%が継続雇用を希望しなかった、わずか0.2%が継続雇用を希望したが継続雇用されなかったという分類となっています。統計からは、高年齢者の継続雇用を行わないことがきわめて少数です。  高年齢者の継続雇用について、拒絶することを検討される企業からの相談などを受けることがありますが、解雇に相当するほどの事情がなければ、継続雇用を拒絶することはできず、31人以上規模の企業における60歳以上の常用労働者数は、2022年6月1日現在約441.7万人に達しており、その人数は年々増加し続けているため、定年後の労働者も活躍してもらえるような環境整備や制度の準備という課題は重要性を増しています。自社にとって、貴重な人材のモチベーションを維持しながら活かし続ける方法を模索していくことが必要な時代となっているように思われます。 【P50-51】 スタートアップ×シニア人材奮闘記 株式会社Photosynth(フォトシンス)取締役 熊谷(くまがい)悠哉(ゆうや)  起業したばかりのスタートアップ企業においては、はじめてのことばかりで経営や事業にはうまくいかないことや課題にぶつかることが数多くあります。そこで、「スタートアップ企業にこそ、経験豊富で実務のノウハウを持ったシニア人材が必要」という声もあり、実際に、その経験を活かしてスタートアップ企業で働く高齢者も増加しています。  このコーナーでは、スタートアップ企業に必要なシニア人材をどう見出し、活用し、活躍に結びつけていくかについて、実際にスタートアップ時にシニア人材を採用し、現在も活躍中である、株式会社Photosynthの熊谷悠哉取締役に、当時をふり返りながらシニア人材活用のポイントについて語っていただきます。 第2回 シニア人材との契約のポイントと求める役割とは 専門家としての評価を十分に加味 信頼関係を大切にした契約形態  前回、シニア人材である深谷(ふかや)弘一(ひろかず)さんとの出会いのお話をしましたが、今回は具体的な契約や深谷さんが果たしている役割などをお話しします。  当社は同世代のメンバーがメインとなって立ち上げた会社だったので、当然創業した自分たちですべての業務をやりきるんだという考えが大前提としてありました。  ですので深谷さんには当初、週1回数時間出社して、担当技術者の具体的な課題に助言してもらうことをメインの業務としてお願いしました。  こうした技術顧問やアドバイザー契約では、ある目的があってノウハウを教えていただいたりアドバイスをいただいたりして、それが解決すると当然満期を迎え、技術顧問としての役割は終わりになるのが普通です。しかし、当社では製品開発が前進していき業務が増えるにしたがって、深谷さんにアドバイスを求める課題が多くなり、アドバイスだけでなく実際の開発や設計にかかわる実務を担当していただくなど、依頼する業務内容や報酬体系が変化していきました。  現在の深谷さんの契約形態は業務委託契約ですが、「この技術課題を解決したらいくら」という成果がそのまま報酬額に直結するのではありません。業務の専門性などに応じて単価を協議して決め、各業務の稼働時間に応じて報酬額を決めています。専門性の高い業務は高い報酬を設定しています。その際、気をつけていることは、専門家としての評価を十分に加味した単価になるよう設定することです。よくOBを再雇用した際に、報酬をすごく安く抑えるといった話を聞きますが、当社ではそういうことはしたくなかったので、最初に互いによく話し合ったうえで時間単価を決め、働いた時間分だけ報酬を支払うというシステムとしたのです。互いの信頼関係に基づいたうえで、働いた時間を毎月確認しながら契約を継続していきました。 シニア人材側が自分自身の契約形態を決めることも大切  こうして長くいまの関係が続いているのは深谷さん側から「仕事がありますか?」、「これをやりましょう」など、積極的な提案があることが大きいと思います。短期間の目的を達成し、そこで終わりではなく、その後、いかに次の課題を一緒に見つけて一緒にチームとしてやっていくのかが重要です。しかしこれは、とてもむずかしいことでもあると思います。その意味で深谷さんはとてもアグレッシブです。契約したときが73歳、現在82歳なので、ちょっと規格外すぎると驚いています。  一方で、つねにアグレッシブにチームへの貢献を提案する深谷さんに対して、会社として必ずしもすべてに応えられていないのかもしれないという点が、課題だと感じてもいます。「深谷さんの持っているポテンシャルをつねに活かしきれているのか?」と自問しながら、次に何に挑戦するのかを、探求し続けたいと思います。  もちろん、逆にアドバイスだけ、ノウハウだけを伝えていただいて契約満了という形もあります。実際、別の方で製造業の経験者を紹介していただいたときはそういう形になりました。その方には、当社の新製品の製造委託先を検討する際に、海外にある一部の部品の製造委託先を調査し、その工場を監査するといった業務をお願いしました。このときはその業務が終了するとともに契約も満了となりました。  こうして、ある期間で問題を解決したら契約を満了して次の人材を探すといったスタイルでの契約形態もありだと思います。 長年の経験から生み出される言葉は企業文化の醸成に大きな影響を及ぼす  もう一つ、深谷さんの役割として大きいのは、ものづくりの現場を熟知されているので、その経験から生み出される言葉にすごく重みがあるということです。私もメーカー出身ではあるのですが、「ものづくりのすべてを理解しているか?」と問われると手探りのところもありました。  創業時はものづくりのバックグラウンドがないメンバーも多かったので、そういったメンバーに投げかける言葉には大きな影響力があり、ものづくりに関する文化醸成にはかなり寄与していただきました。  ソフトウェアのエンジニアでも、ものづくりの分野に興味があります。そこでときには深谷さんを講師として、回路設計に関する勉強会を開いたりもしました。 同じ志、同じ目標を持ったメンバーとしてともに歩む  そしてもう一つ、長い期間一緒に仕事をさせていただけた背景には、当社のフラットな社風があると思います。そもそも年齢を気にしない雰囲気で提案しやすい、何でもいえる社風だったので、深谷さんも「これをやってみませんか」といい出しやすかったのではないかと思います。  とはいえ「何でも屋さん」的にはお願いしたくないですし、年齢も考慮して、業務内容は絞っています。基本は回路設計と回路の製造に関するところをやっていただいて、数年前からは実際の試作品の評価をする、あるいは量産品のなかでお客さま先で故障してしまった製品の故障原因を調べるなど、そういったところも実際に手を動かしてやっていただいています。これらはエンジニアの通常の仕事なのですが、そこは本当に同じ目線でやっていただいています。  そういう意味で、深谷さんも私たちと同じ志、同じ目標を持つ創業メンバーの一人なのだと実感しています。 つづく 写真のキャプション 深谷さんを講師とした回路設計勉強会(写真提供:株式会社Photosynth) 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第36回 「2025年問題」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。 2025年は今後想定される問題の一つの起点  2025年問題とは、団塊の世代(1947〜1949年生)の層が75歳以上となることによって引き起こされる問題のことをさします。この問題を理解するためには、まずは日本の人口の変化について押さえることが重要です。  図表のグラフでは、吹き出しで団塊の世代≠ニして示されている部分が2020年においてもっとも長い棒グラフになっています。これは第一次ベビーブーム(新生児の出生が一時的に急増する)期に生まれた世代で、日本の年齢別人口においてもっとも層の厚い世代といわれています。  一般的には65歳以上を高齢者として、65〜74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としていますが、隣りの2025年に目を向けると、団塊の世代の推移を示す矢印が後期高齢者の層に移動し、全員が後期高齢者になることが示されています。総人口のうちの比率でみると後期高齢者が18%、前期高齢者が12%、高齢者合計で30%に到達すると推計されています。さらに図表の右側を見ていくと2040年には後期高齢者は人口・比率ともにさらに増え、2065年には人口は減るものの比率は26%(高齢者全体では39%)と上昇を続けています。  なお、総人口については、2020(令和2)年の1億2615万人から、2065年には8808万人と、30%以上減少すると推計されています。今後は、総人口が急激に減少していくなかで、高齢者(特に後期高齢者)の比率が高まっていく社会になっていきます。2025年≠ヘあくまで問題の一つの起点であり、継続していくものととらえる必要があります。 「2025年問題」で指摘される主要な問題点  後期高齢者が増え続けることによる、人事にかかわる主要な問題点について見ていきます。 @いっそうの人手不足  図表を再び参照すると、現在の日本の労働力の中心である20〜64歳の層は2020年と比較して、2040年には1395万人、2065年には2749万人減少し、総人口の50%を割り込む推計になっています。現在でも「正社員が不足している」と答える企業は66.5%(東京商工リサーチ「2023年企業の『人手不足』に関するアンケート調査」)に上っており、人手不足により事業継続が困難になると倒産に至ることもありますが(人手不足倒産)、2022年度では140件といわれています(帝国データバンク「全国企業倒産集計2022年」)。今後、景気の大幅な減退や産業構造の変革がないかぎり、この人手不足感はよりいっそう高まるといわれています。 A医療費・介護費用の増大  「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省 平成30年5月21日)の社会保障給付費の高齢者にかかわる部分を抜粋すると、2018年は介護10.7兆円、医療39.2兆円、年金56.7兆円が、2025年※1には介護15兆円程度、医療48兆円程度、年金60兆円程度、2040年※1には介護25兆円程度、医療70兆円程度、年金73兆円程度とかなりの増加が推計されています。これは、公的介護保険制度の適用対象は原則65歳以上、医療費の自己負担割合が6歳以上70歳未満は3割負担のところ、70〜74歳は原則2割負担、75歳以上は原則1割負担、年金給付年齢は原則65歳からと高齢者の増加にともない負担増大が確実に見込まれる制度になっていることが理由です。 「2025年問題」への対応  これらの問題への政府の対応として、問題点@では、高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用確保措置の義務化が2025年に完全実施※2、70歳までの就業確保措置の努力義務化が2021年より実施されています。また、健康経営Rの推進や残業時間の規制が強化されるなど、健康を維持しながら働ける環境を整備し、高齢者の労働力を取り込もうとしています。  「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命が、男性72.68歳、女性75.38歳(厚生労働省「健康日本21(第二次)推進専門委員会」(令和元年))とされるなか、65歳以上を高齢者として定義することや、75歳以上を働けない層とする前提が現状とあっていないという議論もあり、今後は働ける能力に応じた就業や負担の環境整備がいっそう進むことが想定されます。  また問題点Aでは、後期高齢者の増加が見込まれるなかで、75歳以上の自己負担割合の見直しが進められ、2021年の健康保険法等の一部改正により、2022年10月より一定以上の所得がある者については、自己負担割合が2割に変更されました(現役並み所得者は3割負担)。また、令和6年に予定されている介護保険制度の見直しについては、65歳以上の介護保険料や介護サービスを受けた場合の自己負担を所得に応じた負担に見直すことなどについて、2022年に本格議論がされました(現在も検討中)。  次回は、「人的資本」について解説します。 ※1 将来見通しについては、現状投影と計画ベースで数値が異なるため、○○程度とした ※2 2025年3月31日の経過措置終了にともなうもの 表 人口ピラミッドの変化(20〜64歳区分を含む) 2020年(実績) 総人口 1億2,615万人 団塊世代(1947〜49年生まれ) 団塊ジュニア世代(1971〜74年まれ) 〜19歳 2,074万人(16%) 20〜64歳 6,938万人(55%) 65〜74歳 1,742万人(14%) 75歳〜 1,860万人(15%) 2025年(推計) 総人口 1億2,254万人 〜19歳 1,943万人(16%) 20〜64歳 6,635万人(54%) 65〜74歳 1,497万人(12%) 75歳〜 2,180万人(18%) 2040年(推計) 総人口 1億1,092万人 〜19歳 1,629万人(15%) 20〜64歳 5,543万人(50%) 65〜74歳 1,681万人(15%) 75歳〜 2,239万人(20%) 2065年(推計) 総人口 8,808万人 〜19歳 1,237万人(14%) 20〜64歳 4,189万人(48%) 65〜74歳 1,133万人(13%) 75歳〜 2,248万人(26%) 出典:実績値(2020年)は総務省統計局「国勢調査」、推計値(2025年、2040年、2065年)は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)により厚生労働省政策統括官付政策統括室において作成 ※ 2020年の実績値は、図に掲載している推計値の後に公表されたものであることに留意が必要である 【P54】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品≠フ高齢者」を綴ります 第2回 映画『マイ・インターン』 (2015年) 社会保険労務士 丸山(まるやま)美幸(みゆき)  ニューヨーク郊外に住む70歳のベン・ウィテカーは、長年連れ添った妻と死別し、隠居生活の時間を持て余していました。そんなある日、スーパーでシニアインターンの求人募集広告を目にします。場所は、かつて自分が勤めあげた電話帳工場で、いまはファッション通販サイトの運営会社『アバウト・ザ・フィット』。応募は履歴書ではなく、自己PR動画投稿。ベンは慣れないデジタル機器で動画を作成し、若い重役の面接もクリア。見事シニアインターンに採用され、アバウト・ザ・フィットの創業者で、40歳年下の女性社長ジュールズ・オースティンの元に配属されます。  ところがジュールズは「あなたに任せる仕事がない、必要なときはメールで指示する」とベンにいったきり梨の礫(つぶて)。数日後の朝、出社前にベンは「行動あるのみ」と意を決したようにつぶやき、行動します。郵便物や宅配荷物をカートで運ぶ女性社員を手伝ったり、同僚のヤングインターンに消費行動分析を教えたり、恋愛問題の相談に応じるなど、彼の経験がなせる行動の数々。それを見かけたジュールズは、「私のインターンは忙しそう」とつぶやくと、会社のナンバー2のキャメロンが「ベンはみんなに親切で人気があるんだ」と教えます。ベンは職場の若い人たちの信頼を得て、会社に溶け込んでいくのでした。  ジュールズが気がかりにしていた物置エリアの山を、ベンは朝7時に出社して片づけます。キャメロンが社内放送でベンを呼び、ジュールズは大喜びで自ら感謝の言葉をベンに述べます。いっせいに拍手が沸き起こり、ベンはジュールズと会社中の信頼を得たのでした。この後もベンの言動や活躍から人柄を信頼したジュールズは、夫との問題や株主から要請されたCEO選任などの大問題を相談するほど、ベンに大きな信頼を寄せるようになります。  シニアが前向きに仕事をしている特徴を健康社会学者の河合(かわい)薫(かおる)氏は、「適応の視点では半径3メートルの環境に溶け込もうとしているか否か、健康社会学の視点では人格的成長を維持・強化できたか否か。人格的成長は自分の可能性を信じる志向、危機や不安に遭遇したときこそ高められるポジティブ思考の一つ。この人格的成長こそが50歳以降の人生の鍵といっても過言ではない」と説いています。ベンのシニアインターンとしての姿勢は、これに合致しているのではないでしょうか。ベンのように多くの信頼を得られるのはとても素敵です。  余談ですが、ベンを演じたロバート・デ・ニーロ氏は、79歳で7人目の子どもを授かったことを今年の5月に明かしました。こちらも素敵な話題ですが、ベンの働き方を見習うことはできても、デ・ニーロ氏の生き方を見習うのはむずかしそうです。 『マイ・インターン』デジタル配信中ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込) 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント c2015 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved 【P55】 日本史にみる長寿食 FOOD 356 スイカは捨てるところがない 食文化史研究家● 永山久夫 「西瓜」から「水瓜」へ  アフリカ原産のスイカが、シルクロードを経て中国に伝わり、日本で栽培され始めたのは戦国時代後期から江戸時代初期とみられ、西方から伝来したので「西瓜(せいか)」となったようです。  その後、スイカがかなり普及していたことは、江戸時代の『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』に、次のように記されていることからもわかります。  まず、「水瓜(すいか)」と書き、「すなわち西瓜のことである。俗に瓜のうちでは水分が多いところから、このように水瓜と名づける」とあります。なにしろ、スイカの約90%は、水なのです。  江戸時代のスイカの利用法については、「全体で捨てるところは、一つもない。皮および白肉は煮て食べたり、あるいは、香の物にしたりする。紅肉は生食する。種子は、よく炒って食べる。それで、もっぱら賞されているのである」と記されています。  スイカは捨てるところが一つもない、利用価値のきわめて高い瓜だったのです。いまでもスイカの皮は、煮たり、ぬか漬けにする場合が少なくありませんが、これらは江戸時代伝来の台所の知恵といってよいでしょう。 リコピンの効果  『本朝食鑑』は、スイカの効果にも触れています。「渇きをとめて、暑気を消し、酒の深酔いを解して、よく小水を利す」とあります。スイカの利尿作用は現在でも知られており、その成分はシトルリンという物質で、スイカには同じような働きをするカリウムというミネラルも含まれています。  また、スイカには体を冷やして、余分な熱をとり、疲労した筋肉を早く回復させる働きもあるので、夏バテの改善やのどの渇きをいやすのにも最適です。  スイカ特有の赤い色素は、リコピンという抗酸化成分で、体細胞の酸化、つまり、老化を防ぐうえで役に立つと同時に、ガン予防効果の高いことで知られています。  同じような働きをするカロテンも多く、免疫力を高めるビタミンC も含まれており、夏の強い紫外線のダメージを予防するためにも、効果的で、とってもおいしいフルーツなのです。 【P56】 読者アンケートにご協力をお願いします! いつも本誌をご愛読いただき、ありがとうございます。 『エルダー』では、よりよい誌面をつくるため、読者アンケートを実施しています。 ぜひみなさまの声をお聞かせください。 お待ちしています! 回答方法 今号に同封した「読者アンケート」用紙にご記入のうえ、Faxにてお寄せください。 Fax番号はこちら → 043-213-6556 Webでの回答も可能です。 コードはこちら ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://krs.bz/jeed/m/elder_enqueteであることをご確認のうえアクセスしてください 令和4年度のアンケート結果の一部より ご回答者の立場 人事総務部門責任者・担当者 60.1% 経営者・取締役(役員含) 28.6% その他(一般社員など) 3.8% その他の管理監督者(工場長、支店長、管理職など) 7.0% 無回答 0.5% 『エルダー』は参考になっていますか? 非常に参考になる 37.0% 参考になる 56.4% あまり参考にならない 2.9% 無回答 3.7% 参考になったコーナーとその理由 特集 高齢者雇用の現状と、これから求められる対応について学ぶことができるので参考になる。 知っておきたい労働法Q&A 実際に自社でも起こりうる事例とともに、その対応などが詳細に記載されている。 リーダーズトーク 他社事例から制度を検討する具体的なイメージにつなげている。 高齢者の職場探訪 北から、南から 各地で働く高齢社員の生の声が聞けてよい。 マンガで学ぶ高齢者雇用教えてエルダ先生! マンガだと内容が理解しやすい。 〈お問合せ先〉企画部情報公開広報課 TEL:043-213-6200 【P57】 BOOKS 自分らしい仕事と生活を実践していくためのヒントを紹介 しなやかな心とキャリアの育み方 人生にSense of Wonderを 中条(ちゅうじょう)薫(かおる) 著/クロスメディア・パブリッシング/1738円  「ワーク・ライフ・インテグレーション」という言葉をご存じだろうか。ワークとライフを分けて、その調和を図っていく「ワーク・ライフ・バランス」とは異なり、ワークもライフも人生の重要な構成要素として統合してとらえ、両方を豊かにすることによって人生全体の充実を図る考え方をさす言葉。コロナ禍の影響もあり、リモートワークが増えて働き方の多様化が加速して進んでいるいま、新しい働き方の概念として注目を集めている。  本書は、シリコンバレーでワーク・ライフ・インテグレーションに触れ、育児をしながらの海外赴任や管理職など多様な経験を重ねてきた女性の著者が、仕事も家庭も自分らしいインテグレーション(統合、融合)を実践していくための考え方と行動のヒントを紹介する。  著者の中条氏は、しなやかに活躍するためのキャリアデザインやリーダーシップの研修・コーチングなどを行っており、経験と神経心理学に基づく研修は、ポジティブな気持ちを引き起こすと定評があるそうだ。本書にも、しなやかな活躍に向けて、背中を押してくれる言葉が散りばめられている。女性活躍をはじめ、男女ともに生き方の参考になる。 「心理的安全性」を高め、だれもが恐れず意欲的に働ける職場へ 4段階で実現する心理的安全性 ティモシー・R・クラーク 著、長谷川圭 訳/日経BP/1980円  「いい年をしてこんなことを聞いたら、ばかにされるのではないか」、「現状がよいとは思わないが、ベテランに意見をいうのが怖い」。従業員がこのように感じている職場は、心理的安全性が低下しているのかもしれない。これでは、やる気も生産性も低下してしまうだろう。  「心理的安全性」は、チームの生産性を高める重要な概念として米グーグルが2015(平成27)年に研究成果を発表して以降、世界の企業がこれを高めることに関心を寄せている。  本書は、心理的安全性を、恥ずかしい思いや疎外感、罰などを恐れることなく、(1)仲間として認められ、(2)安全に学べ、(3)安全に貢献し、(4)現状打破に安全に挑戦できる、と感じられる4段階の状態があると整理。心理的安全性の高さは、「尊重」と「許可」の度合いによって決まり、4つの段階を経て発展するとして、それぞれについて解説している。組織が「尊重」と「許可」を多く与えれば与えるほど、メンバーはより強く心理的安全性を感じ、それを反映した行動をとるようになるという。  若手、子育て世代からシニアまで、だれもが意欲を持って働き、能力を発揮できる職場づくりに取り組むうえでも役立つ一冊である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 パンフレット「令和5年度雇用・労働分野の助成金のご案内」を公開  厚生労働省は、雇用の安定、職場環境の改善、従業員の能力向上、退職金制度の確立などに向けた助成金の案内と助成金のおもな問合せ先を掲載した事業主向けのパンフレット「令和5年度雇用・労働分野の助成金のご案内」の詳細版と簡略版をそれぞれ公開した。「雇用関係」、「労働条件等関係」の2項目に分け、各助成金を紹介している。 T 雇用関係助成金のご案内(雇用維持関係の助成金/在籍型出向支援関係の助成金/再就職支援関係の助成金/転職・再就職拡大支援関係の助成金/雇入れ関係の助成金/雇用環境の整備関係等の助成金/仕事と家庭の両立支援関係等の助成金/人材開発関係の助成金) U 労働条件等関係助成金のご案内(生産性向上等を通じた最低賃金の引上げ支援関係の助成金/労働時間等の設定改善の支援関係の助成金/受動喫煙防止対策の支援関係の助成金/産業保健活動の支援関係の助成金/安全な機械を導入するための補助金/高齢者の安全衛生確保対策の支援関係の補助金/フィットテスト(呼吸用保護具)実施のための補助金/退職金制度の確立等の支援関係の助成) ◆簡略版  https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000758206.pdf ◆詳細版  https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000763045.pdf 厚生労働省 労働者協同組合の設立状況  厚生労働省は2023(令和5)年4月3日、労働者協同組合の設立状況を公表した。2023年4月1日時点で、1都1道1府15県で計34法人が設立されており、新規設立が25法人、企業組合からの組織変更が8法人、NPO法人からの組織変更が1法人となっている(厚生労働省において把握しているものにかぎる)。  設立された労働者協同組合では、荒廃山林を整備したキャンプ場の経営、葬祭業、成年後見支援、家事代行、給食づくり、高齢者介護などさまざまな事業が行われている。  労働者協同組合は、労働者協同組合法に基づいて設立された法人で、労働者が組合員として出資し、その意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織。労働者協同組合法は、一部を除き、2022年10月1日に施行された。少子高齢化が進むなか、人口が減少する地域において、介護、障害者福祉、子育て支援、地域づくりなどの多様なニーズに対応することが期待されている。  厚生労働省では、特設サイト「知りたい! 労働者協同組合法」を開設し、労働者協同組合の好事例、労働者協同組合法の概要説明、設立の流れなどを案内している。 ◆労働者協同組合の設立状況  https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001079767.pdf ◆「知りたい!労働者協同組合法」  https://www.roukyouhou.mhlw.go.jp/ 厚生労働省 「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージを更新  厚生労働省は、2022(令和4)年10月28日に策定した「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージを更新した。  本パッケージにより、意欲と能力に応じた「多様な働き方」を可能とし、「賃金上昇」の好循環を実現していくため、これまでの「賃上げ支援」に加えて、「人材の育成・活性化を通じた賃上げ促進」、「賃金上昇を伴う円滑な労働移動の支援」、「雇用セーフティネットの再整備」の一体的、継続的な取組みを推進していく。  事業内容は、次の4分野で計画されている。 @「労働者の賃上げ支援」…最低賃金の引上げと履行確保、業務改善助成金の拡充、働き方改革推進支援助成金など A「人材の育成・活性化」…人材開発支援助成金の助成率引上げ等の見直し、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース・事業再構築支援コース)の創設など B「賃金上昇を伴う労働移動の円滑化」…職業情報提供サイト(日本版O −NET)の整備、労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)の見直しなど C「多様な選択を支える環境整備・雇用セーフティネットの再整備」…次なる雇用情勢の悪化に備えた雇用保険財政の早期再建など ◆「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージ  https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001086448.pdf 総務省 人口推計(2022(令和4)年10月1日現在)  総務省は、2022年10月1日現在の人口推計を公表した。生産年齢人口である15〜64歳は前年(7450万4000人)と比べ29万6000人減少の7420万8000人。全体に占める割合は59.4%で、過去最低の前年と同率となっている。総人口は1億2494万7000人。前年(1億2550万2000人)と比べ55万6000人減少している。  総人口に占める年齢別人口の割合をみると、15歳未満は11.6%、15〜64歳は59.4%、65歳以上は29.0%、65歳以上のうち75歳以上は15.5%。前年に比べると、15歳未満は0.2ポイント低下。65歳以上人口と75歳以上人口がそれぞれ0.1ポイント、0.6ポイント上昇した。  また、総人口に占める年齢別人口割合の推移をみると、15歳未満は、1975年(24.3%)以降一貫して低下を続け、2022年(11.6%)は過去最低。15〜64歳は、1982年(67.5%)以降上昇していたが、1992年(69.8%)にピークとなり、その後は低下を続け、過去最低となった前年と同率となっている。一方、65歳以上人口および75歳以上人口は、1950年(それぞれ4.9%、1.3%)以降一貫して上昇が続いており、過去最高となった。  人口の年齢構造を各国と比べると、調査年次に相違はあるものの、15歳未満人口割合は最も低く、65歳以上人口割合はもっとも高くなっており、人口の高齢化の程度を示す「老年化指数」が200を超える唯一の国となっている。 国土交通省 2022(令和4)年度のテレワーク人口実態調査結果  国土交通省は、2022年度「テレワーク人口実態調査」の結果を公表した。調査結果によると、雇用型テレワーカーの割合は、前年度調査に比べて0.9ポイント減少し、26.1%となっている。勤務地域別でみると、首都圏は2.3ポイント減少したものの、前年度と同様の4割の水準を維持している。一方で、地方都市圏は0.3ポイント増加したものの17.5%にとどまり、依然として首都圏との差は大きい。  雇用型テレワーカーのうち、テレワークの継続意向がある人の割合は、約87%と高水準で、継続意向がある理由としては、「時間の有効活用」がもっとも多く約40%、次いで「通勤の負担軽減」が約33%となっている。現状の実施頻度の平均は週1.8日だったが、希望は週2.9日となっている。  勤務先の企業規模(従業員数)別にテレワーカーの割合を見ると、企業規模が大きいほどその割合が高く、企業規模が小さいほど低い傾向がみられる。一方で、企業規模「20〜99人」以上の各企業規模帯で前年度より減少したものの、企業規模「1〜19人」では前年度と比べてわずかに増加した。  職種別では、テレワーカー割合の高い6職種(管理職、研究職、専門・技術職〈技術職〉、専門・技術職〈それ以外の専門・技術職〉、事務職、営業)では、テレワーカー割合は前年度から微減したものの、4割台を維持している。 ◆調査結果(概要)  https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001598357.pdf 調査・研究 リクルート 「兼業・副業に関する動向調査2022」データ集を公開  株式会社リクルートは、兼業・副業に関する動向について、働く個人および企業人事担当者を対象に実施した調査データ集を公表した。兼業・副業の実施状況や企業の制度の状況など、調査結果を約60ページにわたって収録している。  人事担当者調査の結果をみると、従業員の兼業・副業を認める人事制度があると回答した割合は、51.8%(前年調査50.5%)。兼業・副業人材の受入れ目的は、「人手不足を解消するため」がもっとも多く54.8%、「社内人材にはない知識やスキルを持った人材を確保するため」が47.6%、「イノベーションの創発や新事業開発につなげるため」が36.1%。一方で、兼業・副業人材の受入れによって得られた効果は、「人手不足を解消することができた」が47.4%、「社内人材にはない知識やスキルを持った人材を確保することができた」が46.8%、「イノベーションの創発や新事業開発につながった」が37.5%と、受入れによる効果は目的どおりとなっている。  個人調査の結果をみると、兼業・副業を実施している人の割合は、9.9%。50歳以上では、「50歳〜54歳」(7.5%)、「55歳〜59歳」(7.2%)、「60歳以上」(8.3%)となっている。 ◆データ集  https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230411_hr_03.pdf 【P60】 次号予告 8月号 特集 どっちがいいの? 「定年延長」と「再雇用」 リーダーズトーク 石田万由里さん(玉川大学 経営学部 国際経営学科 教授) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」をお届けしました。改正高年齢者雇用安定法の施行から2年が経過し、70歳以上の定年制度や継続雇用制度を導入している企業も増えてきています。  本特集では、法改正に対応した取組みを実践していくために、高齢者雇用の現状や課題をはじめ高齢社員自身の病気の治療や家族の介護など、加齢とともにさまざまな事情を抱えながらも長く働いていくための多様な勤務制度などをわかりやすく解説し、高齢社員がモチベーション高く、戦力として活躍してもらうためのポイントについても紹介しています。  新任人事担当者のみなさんはもちろん、制度の運用を開始し、いままさに課題と直面している経営者・人事担当者の方にも、ぜひ参考にしていただき、高齢社員が生涯現役で活躍できる職場づくりの推進に努めていただければ幸いです。 ●今号では、「読者アンケート」を同封しています。本誌の内容に関する率直なご意見・ご感想のほか、「こんな記事が読みたい」、「あのテーマについて深掘りしてほしい」などのご要望もお待ちしています。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー7月号No.524 ●発行日−令和5年7月1日(第45巻 第7号 通巻524号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 飯田剛 編集人−企画部次長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-977-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.329 塗り・乾燥・研(と)ぎをくり返し生み出される「漆黒(しっこく)」の美 漆(うるし)工芸 山口(やまぐち)敦雄(あつお)さん(70歳) 「漆は温度・湿度によって乾燥具合が変化します。そのため、冬は壁を湿らせて湿度を高めるなど、経験に基づいた日々の調整が重要です」 父の記憶と道具を頼りに独学で漆塗り技術を習得  英語で「Japan」と呼ばれることがあるように、日本を代表する伝統工芸の漆器(しっき)。数ある産地のなかでも、東京でつくられる漆器は「江戸漆器」と呼ばれる。  「"雅(みやび)"な京漆器に対し、江戸漆器の特徴は"粋"です。絵を入れるにしても、松葉を一本、ポンと描くくらい。色はおもに黒で、少し朱色が入る程度の器が多いです」  そう話すのは、東京・江戸川区の漆塗り職人、山口敦雄さん。明治期に創業した山口漆芸(しつげい)の4代目にあたる。「子どものころから先代である親父の仕事を見て育ったせいか、手仕事が好きでした」という山口さんは、中学卒業後、定時制高校に通いながら家業を手伝い始めた。ところが、まだ修業半ばだった22歳のとき、父・作助(さくすけ)さんが病気で亡くなってしまう。  「それからは、記憶に残っている生前の親父の働く姿を思い起こしつつ、独学で試行錯誤を重ねながら技術を習得してきました。親父の残した工房と道具があったおかげで、今日までやってくることができました」  山口さんは現在、華道や茶道で用いられる道具を多く手がけており、家元やほかの職人から直接注文を受けることも多い。高い技術と業界への貢献が評価され、2010(平成22)年に江戸川区指定無形文化財保持者となり、2021(令和3)年には東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞を受賞している。 30以上の工程を経て生み出される漆器  山口さんによれば漆塗りには30以上の工程がある。木地(きじ)に和紙や布を張り、そのうえに砥(と)の粉(こ)※1と漆を練り合わせた下地を塗り、乾燥させ、研ぎと磨きをくり返し、塗る面を平らにする。さらにその上に漆を塗り、乾燥させ、研ぎを数回くり返すことで、「漆黒」と呼ばれる美しいツヤがあらわれる。  なかでも経験が求められるのが漆の扱いだ。  「漆は温度・湿度によって乾き具合が変わります。そのため、一年中調整が必要です。漆は一定の湿度がないと乾かないため、湿度が低いときは、噴霧器で室(むろ)※2の壁を湿らせて調整します」  特に朱色に仕上げるときは、乾燥のさせ方によって色が変化してしまうそうだ。  「朱色の漆は基本的に1〜2日かけて乾かした方がきれいな朱色になります。早く乾かすと茶色になってしまいます。その加減を経験から見きわめなければなりません」  山口さんが特にやりがいを感じるのは、依頼されて修理した漆器を、持ち主にまた喜んで使ってもらえることだという。  「親父はよく『修理ができて一人前』といっていました。古い漆器の枯れ具合にあわせて直す方が、新品よりもむずかしいからです」 美大生とのコラボでユニークな作品を生み出す  伝統的な漆器が用いられる機会が少なくなるなか、山口さんは漆を使った新製品の開発にも意欲的に取り組んできた。最近は、伝統技術の若手コーディネーターと連携し、ガラス製品に漆を塗る実験に挑んでいる。また、異業種の職人と勉強会を開き、新しい技術を取り入れることにも余念がない。  さらに、10年以上たずさわっている活動に「えどがわ伝統工芸産学公プロジェクト」がある。江戸川区の伝統工芸者と美術大学生が連携し、新しい伝統工芸製品を創造する取組みだ。山口さんはこれまで、箸置き、コースター、ランプ、イヤリングなど、多彩な作品を学生と一緒に生み出してきた。  「若い世代の自由な発想は、とても刺激になります」  山口さんは8年前に脳梗塞となり半身にまひが残った。しかし「まだ仕事がしたい」とリハビリに励み、数カ月後には仕事に復帰。周囲の仲間にも助けられながらここまで来た。現在もリハビリを続けながら、漆と向きあっている。  「これからも向上心を持ちつつ、マイペースにものづくりを楽しみたい」と仕事への意欲は尽きない。 山口漆芸 TEL:03(3689)2087 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※1 砥の粉……下地塗りに用いる粉末 ※2 室……器に塗った漆を乾燥させるための部屋 写真のキャプション 50年前につくられた花器(かき)の漆を刷毛で塗り直す。「親父に『修理ができて一人前』とよくいわれた」そう。器の“枯れ具合”に合わせて仕上げるのが腕の見せどころ 漆塗りの工程を示した見本。左から下地塗り・研ぎと漆塗り・研ぎを数回ずつくり返してツヤを出す 茶器の棗(なつめ)。貝殻で柄を表現する螺鈿(らでん)も得意とする 漆塗りの折り鶴のイヤリング。美大生とのコラボから生まれたヒット作 ひびの入った器の蓋を修理。塗りと研ぎをくり返して直していく 塗りに用いるへら。塗りやすさを考え、自分で板を削ってつくる 下地塗り。砥の粉と漆を練りあわせ、へらで塗り、乾燥後に研いで平らにする 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、見るべきものを見るために急速に眼球を動かす「サッケード」という運動を取り入れたトレーニングです。サッケードが起きると脳の注意ネットワークが活性化することがわかっており、注意力の向上にも役に立ちます。「どうも集中できないなぁ」、というときなどにチャレンジしてみましょう。 第73回 仲間はずれ漢字探し 目標 5分  各問題のたくさんの漢字のなかには、よく見ると1〜3個だけ違う漢字が混ざっています。  その仲間はずれの漢字と、隠れていた個数を答えてください。 @ 右右右右右右右右右右 右右右右右右右右右右 左右右右右右右右右右 右右右右右右右右右右 右右右右右右右左右右 解答 個 A 日日日日日日日日日日 日日日日日日日日日日 日日日日日日日日日日 日日日日月日日日日日 日日日日日日日日日日 解答 個 B 回回同回回回回回回回 回回回回回回回回回回 回回回回回回回回回回 回回回同回回回回回回 回回回回回回回回同回 解答 個 C 東東東東東東東東東東 東東東東東東東東東東 東東東東東東車東東東 東東東東東東東東東東 東東東東東東東東東東 解答 個 D 売売売売売売売売売売 売売売売売売売売売売 売売売売売売売売売売 売売売売売売売売売売 売売売買売売売売売売 解答 個 E 王王王王王王王王王王 王王王王王王王王王王 王王王玉王王王王王王 王王王王王玉王王王王 王王王王王王王王玉王 解答 個 F 雨雨雨雨雨雨雨両雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨 解答 個 G 平平平平平平平平平平 平平平平平平平平平平 平平平平平平平平平平 平平平平平平半平平平 半平平平平平平平平平 解答 個 H 木木木木木木木木木木 本木木木木木木木木木 木木木木木木木本木木 木木木木木木木木木木 木木木木木木木木木木 解答 個 I 開開開開開開開開開開 開開開開開開開開開開 開開開開開開開開開開 開開開開開開開開開開 開閉開開開開開開開開 解答 個 集中力の仕切直し  今回の脳トレでは「集中力」を鍛えます。では、集中しているときの脳は、どうなっているのでしょうか。  一つのことに集中し始めると、前頭葉の一部から強い信号が送られ、前頭葉から頭頂葉が活性化します。このとき、前頭眼野という本来は眼球の動きを制御している部位も活性化します。つまり、集中するとはしっかり対象を見ることにほかなりません。  一方で、物事に集中できないとき、余計なことに集中してしまうときは、眼球運動をしてみましょう。また、もう1人の自分が俯瞰的に眺めている、というイメージをすることもおすすめします。  物事に集中することに固執してしまい、前に進めなくなっている場合、「引いた目線」で見ることができると、スーッと気持ちが落ち着き、冷静な判断ができるようになります。  全体を見る力、余裕を持って見る力も、適切な集中力といえるのです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @左、2個 A月、1個 B同、3個 C車、1個 D買、1個 E玉、3個 F両、1個 G半、2個 H本、2個 I閉、1個 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年7月1日現在 ホームページはこちら 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2023』のご案内  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  JEEDでは、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2022」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2023』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた21事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業機会を確保する措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2023』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 2023 7 令和5年7月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第7号通巻524号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会