【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%、ただし中小企業事業主以外は45% (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサル タントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 支給額支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るため、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 支給額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと F障害者が行う業務の介助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @B支給対象費用の3/4 A支給対象費用の2/3 C1人につき月額1万円 外 D配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E1人につき月額4万5千円 外 F1人につき月額13万3千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 支給額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 支給対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること H障害者の通勤の援助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 支給額 @〜G支給対象費用の3/4 H1人につき月額7万4千円 外 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。※事前相談が必要です。 支給対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること支給額支給対象費用の2/3(特例3/4) ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.99 退職金を自ら守る金融リテラシー教育機会など企業の支援も重要 玉川大学 経営学部 教授 石田万由里さん いしだ・まゆり 明治大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。専門は財務会計(制度会計、国際会計)とし、おもな研究テーマは、金融商品の会計的特性(負債と資本の区分問題)など。2016年より玉川大学経営学部国際経営学科准教授、2021年より現職。おもな著書は『27業種別 簿記・会計の処理と表示』、『ビジネスセンスが身につく会計学』、『ビジネスセンスが身につく簿記』(中央経済社、すべて分担執筆)など。  70歳までの就業機会の確保の努力義務化により、労働者の就業期間が延伸傾向にあるなか、企業にとって避けては通れないのが、賃金をはじめとする人件費の問題です。なかでも退職金制度は高齢者雇用とも密接にかかわっています。そこで今回は、退職金制度に詳しい玉川大学教授の石田万由里さんにご登場いただき、高齢者雇用と退職金制度の関係、そして人件費をコストではなく投資と考える人的資本経営について、お話をうかがいました。 隠れ債務*竭閧背景に大きく変化した退職金制度 ―退職金制度はこの20年間に大きく変化しています。特に退職年金については、従来の確定給付企業年金(DB)※1から確定拠出年金※2(企業型DC)に移行する企業が増えています。その背景について教えてください。 石田 そもそも退職一時金は、退職する人が発生すれば給与と同じように費用として計上されます。しかしある年度にたくさんの従業員が退職すると、費用が膨らみ、売上げから費用を引いた利益が減少し、業績が悪化すると先の見通しがつかなくなります。企業会計においては、会社にお金を貸している債権者、投資している株主などの利害関係者に対する説明責任がありますが、会社が将来退職する従業員のために積み立てている退職給付が、十分かどうかがわからないという問題が生じていたのです。そこで、隠れ債務≠ニ呼ばれる不足分を投資家に明らかにするため、国際会計基準の導入が求められるようになりました。日本でも1998(平成10)年6月公表の「退職給付に係る会計基準」(企業会計審議会)で、企業が将来、従業員に支払わなければならない退職給付債務を貸借対照表上に計上することが求められるようになりました。その結果、以前の会計情報では見えなかった将来出ていく退職年金支払に対する責任準備金の積立不足が明らかになりました。2001年3月期決算の主要上場企業の積立不足は、連結ベースで9兆7800億円の巨額におよぶと報道されました。  退職金の隠れ債務によって財務状態が悪化すれば、株価や社債の発行など経営にも悪影響をおよぼします。そこで、積立不足を解消するために、特別損失を計上したり、積立不足が発生しにくい退職年金制度を導入するようになりました。その一つが確定拠出年金(企業型DC)への移行です。DCは毎月企業が支給する掛金を従業員の自己責任で運用する年金ですが、確定給付企業年金(DB)と違い、企業に運用責任がないので積立不足を心配する必要がありません。そのためDBからDCにシフトする企業が増えていったのです。 ―70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、定年延長をはじめ労働者の就業期間も延びています。退職金制度との関係ではどのような影響をおよぼすのでしょうか。 石田 例えば雇用期間が延長されても、企業が支払う退職金が変わらなければ、支払いが先延ばしになるだけであり、毎年支払うキャッシュアウトフローが逆に抑えられるというメリットもあります。ただし、定年延長をした場合、退職金を計算する際に必要となる生存率や死亡率をはじめ、退職率や割引率、期待運用収益率など細かい指標をすべて見直さないといけません。退職率にしても雇用期間が延びることによって過去の退職率のデータも使えなくなります。割引率、期待運用収益率などを計算し、出てきた新しい数値をベースに将来の負債や費用がどれぐらい発生するのか、あらためて計算する必要があります。大企業にはこうしたことを担当する人事労務担当者が配置されていると思いますが、中小企業の場合は、そうした担当者を配置することはむずかしいのではないでしょうか。 ―例えば定年を60歳から65歳に延長した場合、退職金はどのように算定するのですか。 石田 60歳定年の場合、一般的な計算は月給×在籍年数×係数を計算し、次に係長になったら係長の月給×在籍年数×係数を計算するといった具合に、全部足し合わせて役職が変わるごとに積み立てていくことになります。一般的に、定年が60歳でその後は再雇用などの嘱託社員であれば、退職金の積立は発生しませんし、それで終わりとなります。しかし、定年が65歳になると、60歳前と同じように月給×在籍年数×係数を計算し、積み上げていくことになります。  ただし、高齢従業員が増えるということは、退職金の債務も増えますし、リスクも高まります。例えば会社がお金を借りたいとき、負債が増えると財務的には見かけ上悪くなります。また、融資を受ける際に「財務制限条項」をつける場合があります。これは、お金を借りている間に売上げが低下したり、負債比率が一定の割合に達したら契約不履行とみなされ、すぐにすべての融資額の返済を迫られるというものですが、財務制限条項がついた借入れをしている場合、定年年齢が延びることで資金調達リスクが高まる要因にもなります。 労働者に求められる金融リテラシー会社は教育の機会の提供を ―DBからDCへの移行はまさに財務リスクを回避するためということですね。そうなると労働者自ら退職年金を守るために運用することが求められます。 石田 自己責任で運用することになりますが、以前のように自分の資産を会社や他人に預けておけば大丈夫という時代ではありません。自分の資産の運用状況をしっかりとウォッチし、自分で守ることが大事だと思います。かつての終身雇用があたり前、個人の成果があまり問われることなく、全員が等しく給与が上がり、手厚い退職金をもらえる≠ニいう時代からいまは大きく変化しています。日本では人前でお金の話をするのは品がよろしくないという風潮がありますが、お金や資産は自分自身で守らないとだれも守ってくれません。そのためには金融リテラシーを持つことが重要です。2010年に日本航空(JAL)が倒産しましたが、まさか倒産するとはだれも想像していませんでした。個人株主が多く、株価がどんどん下がり、100円を割っても、絶対に倒産しないと信じていた株主も多かったのです。しかし常識的には株価がそこまで下がったら回復の見込みはなく、債務不履行になるのはもはや時間の問題でした。信じたい気持ちはわかりますが、ビジネスとはそういうものではありません。 ―DCなど自ら運用する場合に留意すべき点とは何でしょう。また会社としては従業員にどのような支援が必要でしょうか。 石田 自ら選んだ金融商品の運用を委託している運用委託機関からの情報をチェックすることが大切です。契約の内容や運用の仕組みが変わったときや、運用状況などに関するいろいろなお知らせが半年ないし1年ごとに定期的に届きますが、あまり見ていないという方も多いのではないでしょうか。保有している金融商品の中身についてどういうものを組み合わせているのかは、見てもわからないかもしれませんが、知ろうとすることが重要なのです。わからなければ問合せをすれば懇切丁寧に教えてくれます。聞くことによって知識も深まっていきます。  会社としては教育の場を設けることも必要です。セミナーの開催や社内報などで金融商品の豆知識などの情報を載せてもよいでしょう。従業員の退職金の資産運用に関して会社が勉強会を開催するなど、一緒になって支援していくことで従業員の将来への不安が軽減し、ひいては仕事に対するモチベーションを高めることにもつながると思います。  結局、従業員の不安は将来が見えないことからくるものも大きいのです。会社の業績はどうなるのか、つぶれる心配はないのかという不安のほか、老後の生活に関する不安もあります。そうした不安を取り除くためにも、投資についての教育の機会を提供することは中小企業にもできることです。逆に「会社は企業年金をこういうところに委託し、こんな運用をしている」など、情報をオープンにすることで会社に対する信頼も得られると思います。 「人」は「コスト」ではなく「資産」人に投資し、人を活かす経営を ―人はコストではなく、資本や資産であるとする「人的資本経営」が叫ばれています。これまで人件費はコストと意識されてきましたが、企業会計の観点では人的資本経営をどのようにとらえるべきでしょうか。 石田 会計学における資本は、利益を生み出す元手(資金)であり、その元手をいかに活用し、利益を増やしていくかが求められます。財務諸表には貸借対照表や損益計算書がありますが、人件費は損益計算書上の費用に含まれるのではなく、人は会社の資産や資本であり、そこから利益を生み出すのだから貸借対照表に載せるべきというのが人的資本の基本的な考え方です。よく例に出されるのがサッカー選手の移籍です。選手の獲得に必要な契約金や年俸は費用ではなく資産であり、資産である選手が活躍すればチームが優勝し、利益をもたらします。 ―企業にとって人への投資が重要ということですね。 石田 そうですね。資産には備品や機械装置もあります。その機械を維持するためのメンテナンス代は費用になりますが、例えば商品を1時間に100個つくる機械を200個つくれるように改良すれば、資産金額が増加します。人材も資産だと考えると、従業員の能力を向上させ、イノベーションを生み出すための教育費や研修費は、収益的支出ではなく、資本的支出として考えることもできるわけです。人に投資し、人を活かす経営は、今後ますます重要になるのではないでしょうか。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、” 年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2023 August No.525 特集 6 どっちがいいの? 「定年延長」と「再雇用」 7 総論 「定年」の意味を考える 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)主任研究員 藤本 真 11 解説 「定年延長」か「再雇用」か、意思決定するために 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 HR第3部 シニアマネージャー 三島寛之 15 事例@ 株式会社シロ(東京都港区) 年齢に制限されず自分の人生を描くため定年退職制度を撤廃するとともにシニア採用を推進 19 事例A 株式会社ジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市) 70歳までの再雇用制度を大幅に刷新 定年後の人生をよりポジティブに 1 リーダーズトーク No.99 玉川大学 経営学部 教授 石田万由里さん 退職金を自ら守る金融リテラシー教育機会など企業の支援も重要 23 日本史にみる長寿食 vol.357 モモは仙人の食べもの 永山久夫 24 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする?Season2 《第5回》高齢社員の意欲を高める研修をしたい! 30 江戸から東京へ 第129回 社会からの退去続きに敢然と 真木嶋昭光(一) 作家 童門冬二 32 高齢者の職場探訪 北から、南から 第134回 福岡県 社会福祉法人桜花会 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第84回 日本マクドナルド株式会社 マクドナルド熊本下通店 クルー 本田民子さん(90歳) 38 シニア社員のための 「ジョブ型」賃金制度のつくり方 【第4回】 役割給のモデル例と定年後再雇用賃金の設定基準 菊谷寛之 42 知っておきたい労働法Q&A《第63回》 熊本総合運輸事件最高裁判決、役職定年制 家永 勲 46 スタートアップ×シニア人材奮闘記 【第3 回】 シニア人材との一体感でアドバイス以上の成果を獲得 熊谷悠哉 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第37回 「人的資本」 吉岡利之 50 特別寄稿 60歳代後半層の活用と人事管理の整備 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 54 お知らせ 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 地域ワークショップのご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 心に残る“あの作品”の高齢者 【第3回】 映画『八月の鯨』(1987年) 『RBG 最強の85才』(2018年) 読売新聞編集委員 猪熊律子 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.330 長年つちかった経験とスキルで24時間操業を支える 配電・制御装置整備士 田村 等さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第74回] 文字や記号を記憶する 篠原菊紀 【P6】 特集 どっちがいいの? 「定年延長」と「再雇用」  高年齢者雇用安定法では、65歳までの高年齢者雇用確保措置、70歳までの就業確保措置について、「定年制の廃止」、「定年の引上げ」、「継続雇用(再雇用)制度の導入」の選択肢が示されています※。では、「定年廃止・引上げ」と「継続雇用(再雇用)」の違いとは何でしょうか。事業者にとってどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。  そこで今回は「定年延長(廃止)」と「再雇用」に焦点をあて、それぞれの特徴について解説するとともに、年齢を区切って働くことの意味について考えていきます。 ※ 就業確保措置には、「業務委託契約」、「社会貢献事業への従事」も含まれる 【P7-10】 総論 「定年」の意味を考える 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)主任研究員 藤本(ふじもと)真(まこと) 1 はじめに  2022(令和4)年に実施された厚生労働省「就労条件総合調査」によると、常用雇用者30人以上の企業で定年制を定めている企業は94.4%であり、日本企業で働く人々にとって「定年」は、働くことにかかわるごく一般的な決まりごととして存在し、とらえられています。しかし、国際的に見ると日本におけるような定年の位置づけは、決して一般的とはいえません。  ここでは、加齢と就業継続・引退との関係についての世界各地におけるルールや、日本の企業や労働者にとって定年がはたしている機能を見ていくことで、日本における定年の特徴を明らかにしていき、さらには定年やそれに類似した再雇用年齢の上限といった形で、労働にかかわるさまざまな状況が変更される年齢や、仕事から引退する年齢をルール化することの意義や課題を考えていきたいと思います。 2 定年の位置づけ〜世界各地における多様性〜  労働者が一定の年齢=定年に達したときに、労働契約を終了する制度が定年制です。労働契約を終了することで、労働者がいままで働いていた企業などから退出することや、あるいは職業生活から引退することを意図した制度といえます。日本では以前55歳定年制が慣行として広がっていましたが、1970年代半ばから定年延長政策が進められ、多くの企業もこうした流れに対応して次第に60歳定年制が主流になっていきました。1994(平成6)年の高年齢者雇用安定法の改正により、60歳が「法定定年」となり、以降は60歳未満を定年とした定年制は無効とされています。  日本のように法定定年を決めて運用する国や地域は、アジアに多く見られます。そしてこれらの国や地域では、近年、かつての日本と同様に法定定年の年齢を引き上げる動きが見られます。韓国では55歳が法定定年でしたが、2013年4月に、「雇用上の年齢差別禁止および高齢者雇用促進に関する法律」の改正案が成立し、公共機関や地方の公社・公団、従業員300人以上の企業では2016年1月から、従業員300人未満の企業や政府・地方自治体は2017年1月から、60歳定年制を実施することが義務づけられました。また台湾では、2008年に労働基準法のなかの定年退職に関する規定が改正され、改正後は退職を強制できる年齢が65歳に引き上げられています。シンガポール、マレーシアでも、法定定年の年齢を引き上げる法改正が行われました。  一方、ヨーロッパ諸国の多くでは、定年は、年金の受給と関連づけられて正当かどうかが判断され、運用されています。例えばドイツでは、「労働者が年金を受給できる年齢に達した際、雇用関係が自動的に終了する」ことを定めた労使の合意が合法とされ、現在は公的年金の支給開始年齢である65歳が定年として定着しています。ただ、支給開始年齢は2012年から2029年にかけて67歳に引き上げられることとなっており、それに合わせて今後定年年齢を引き上げていく企業などが増えることが予想されています。  またフランスでは、労働者が70歳に達した場合に、使用者は労働者本人の意思に関係なく退職を強制することができますが、70歳未満の労働者については、原則として年金の満額支給開始年齢(現在は67歳)に達した労働者が承諾した場合にのみ、退職を推奨することが認められています。定年を公的年金の支給開始年齢と関連づけて規定したり、運用したりしているヨーロッパの国々としては、そのほかにオランダ、スイス、イタリアなどがあります。  定年制のように年齢と就業継続・引退とを結びつけるルールを、年齢差別として排除している国・地域もあります。よく知られているように、アメリカでは定年制度を設けること自体が禁止されています。1967年に制定された「雇用における年齢差別禁止法」は、雇用のすべての面における年齢を理由とする事業主の差別行為を禁止し、1986年には法律の対象となる雇用者の上限年齢に関する規制が撤廃されました。イギリスではかつて法定定年の年齢が65歳と定められていましたが、2011年10月に廃止されています。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった国々も、すべての年齢での定年制度を禁じています。 3 定年が持つ「機能」  ヨーロッパ諸国の年金と連動した定年制の運用に比べ、日本をはじめとする国・地域におけるような、法定定年のもとで運用される定年制は、加齢に基づき労働にかかわるさまざまな状況を変えるという機能がより強く表れるととらえることができます。特に日本では2006年以降、年金支給開始年齢までの雇用確保措置が企業に義務づけられ、定年制は勤務してきた企業などからの退出・引退につながる制度というよりも、賃金や役職など働く高齢者の処遇を変える契機としての機能をより強く発揮するものとなっています。  2022年の厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」※1によると、過去1年間に60歳定年を迎えた約38万人のうち87.1%が引き続き雇用されています。一方で、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が2019年に実施したアンケート調査によると、60歳定年制の企業では、定年後継続雇用している高齢者の仕事が、「定年前(60歳頃)と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」という回答が46.1%でもっとも多くなっています(図表1)。また、60歳定年制の企業のうち、定年後継続雇用している高齢者を正社員で雇用している企業は32.4%にとどまるのに対し、嘱託・契約社員で雇用している企業は73.8%に達しています。これらのデータは、日本企業において定年の持つ機能が変わってきていることをはっきりと示しています。  もっとも定年にともない行われるのが、従業員の退職から従業員の仕事や処遇の見直しに変わりはしたものの、定年が企業などにおける人事の調整や刷新につながるという点は、雇用確保措置の義務化を挟んでも変わっていないと見るべきかもしれません。日本の労働法学界における主流の見解も、この調整・刷新機能に定年制が正当化される根拠を見出しています。  日本において定年制が人事の調整・刷新機能をになっている理由として、一つには、欧米のように、明確に規定された仕事・役割を基に従業員を評価し、雇用機会や処遇を都度調整するということが行われてこなかった点をあげることができます。判例によって構築された、整理解雇や就業条件の不利益変更を容易に認めない法規範の体系もこうした調整をむずかしくし、労働契約の終了が正当化される定年制の調整・刷新機能への依存度を高めたといえるでしょう。  もう一つの理由としては、大企業を中心に維持されている年功的な賃金体系をあげることができます。20〜24歳の一般労働者の所定内給与額の平均を100として各年齢層の所定内給与の平均を指数化すると、2010年代よりも加齢とともに賃金が上がる傾向は弱くなってはいるものの、2020年代になってもその傾向は維持されています(図表2)。こうした賃金慣行が続いていることも、各企業における定年制を通じた人事の調整・刷新の必要性を高めると考えられます。  OECD(経済協力開発機構)は、2018年に発表した"Working Better with Age:Japan"という日本の高齢者雇用に関する報告書のなかで、「厳しい解雇規制と年功的賃金慣行のもとでの定年制と雇用確保措置は、企業に労働力調整の手段を提供している」と指摘しています。その一方で、「定年後の高齢労働者の雇用が質の低い不安定なものになっている」と評価し、定年制と年功賃金のさらなる見直しを実施することを提言しています。 4 労働条件の変更や引退の年齢をルール化することの意義と課題  加齢に基づき労働にかかわるさまざまな状況を変える定年制は、OECDの報告書が指摘するような労働の質の低下をもたらし、より長期にわたる労働者の活躍を阻害する可能性がたしかにあります。  定年制と同様、一定年齢後に仕事上の責任が変わる役職定年制の経験者に対し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が2018年に実施したアンケート調査※2によると、59.2%は役職を降りた後、仕事に対する意欲が低下したと答えており、なかでも役職定年後に「社員の補助・応援」の仕事に従事している役職定年経験者では、低下したという回答の割合が73.4%と高くなっています。また、役職定年経験者についての別の分析からは、役職定年にともなう周囲の態度の変化をより大きく感じると、仕事に対する意欲の低下が起こりやすくなるという知見が得られています。  一方で、定年をきっかけに自らの仕事のあり方を見直し、ライフキャリアとの両立のために仕事量を縮小することで、定年後の仕事に対する満足感が向上するといった、定年制が労働者の立場からも有意義なものとして機能することを示唆する分析結果※3もあります。  定年制や雇用確保措置における上限年齢は、労働にかかわるさまざまな状況を年齢によって変えるルールですが、これらの制度の対象となる高齢労働者は、自らの健康状態や経済状況などをふまえてこれまでの働き方を見直し、変えていくという問題に必ず直面することになります。ただ、変える時期や程度は労働者個々人の事情によりさまざまです。  少子化により、高齢者のよりいっそうの活躍が求められるようになるなかで、定年制をはじめとする労働条件の変更や引退の年齢に関するルールは、人事の調整・刷新機能以上に、労働者がこれからの働き方を考えていくうえでのガイドラインやきっかけとして機能し、一人ひとりの仕事や生活に対する意向を尊重するような形でその役割をはたすことが、今後求められていくものと考えられます。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29133.html ※2 JEED『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援−高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書−』(2018年) ※3 岸田泰則「高齢雇用者のジョブ・クラフティングの規定要因とその影響ー修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチからの探索的検討」『日本労働研究雑誌』703号(2019年) 図表1 60歳定年企業における定年後継続雇用時の仕事の内容 定年前(60歳頃)とまったく同じ仕事 36.5% 定年前(60歳頃)と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる 46.1% 定年前(60歳頃)と同じ仕事であるが、責任の重さが重くなる 0.4% 定年前(60歳頃)と一部異なる仕事 6.4% 定年前(60歳頃)とまったく異なる仕事 0.6% 出典:JILPT(2019)「高年齢者の雇用に関する調査」。60歳定年制企業4,218社の回答結果を集計 図表2 年齢階層別賃金の状況 (10人以上企業に勤務する一般労働者、所定内給与、20〜24歳の平均額=100) 2010年 2015年 2020年 20〜24歳 25〜29歳 30〜34歳 35〜39歳 40〜44歳 45〜49歳 50〜54歳 55〜59歳 ※厚生労働省『賃金構造基本統計調査』より筆者作成 【P11-14】 解説 「定年延長」か「再雇用」か、意思決定するために 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社HR第3部 シニアマネージャー 三島(みしま)寛之(ひろゆき) 1 はじめに  労働力人口の減少などを背景に、60歳超社員の活躍をうながしたいという企業が増えています。そのなかで、人事責任者からよくご相談を受けるのが、当社は「定年延長」を採用すべきか、「再雇用」を採用すべきか、という問いです。  厚生労働省の『高年齢者雇用状況等報告(2022年)』※によると、65歳定年企業は毎年着実に拡がり22.2%まで増加するなか、各社はどう意思決定すべきか悩んでいます。  本稿では、その問いに答えを出そうとする企業に向けて、参考となる視点や情報をご紹介します。 2 「定年延長」と「再雇用」の特徴  まず「定年延長」と「再雇用」の具体的な仕組みが企業によって異なることは承知のうえで、典型例を見ながらそれぞれの特徴を確認します(図表1)。  最初に定年延長の利点としては「60歳前からの継続的な貢献」を広くうながしやすい点があります。再雇用のように1年ごとに雇用契約を更新するのではなく65歳までの雇用が保証されるため、安心して働き続けられます。従来通り、フルタイムの労働時間で勤務してもらい、転勤・異動や出張、残業などを命ずることも検討しやすいでしょう。正社員として働くのであれば、従来と同様の目標や期待値をもって能力発揮することも求めやすくなります。一方で、留意すべき点もあります。原則的にはどのような社員に対しても正社員としての労働条件や期待を提示することになるため、個別かつ柔軟な条件を設定しにくいといえます。そのため、広く賃金水準を高める傾向になりやすく、人件費は高めに推移しがちです。  次に、再雇用の利点として、60歳時点であらためて雇用契約を結び直すため、「意識や役割の切り替え(心機一転)」を広くうながしやすい点があります。60歳前の職務や処遇条件を一旦リセットしたい場合に向いています。また、定年延長とは違い、労働条件や期待を個別かつ柔軟に設定しやすいため、人件費は相対的に低く推移します。一方で、定年という大きな区切りを経ることによって、貢献意欲が低下するケースがあります。再雇用を採用する企業のなかには、一律的に60歳を境に大きく年収水準を引き下げ、それによって再雇用者のモチベーションを低下させてしまっている会社がありますが、再雇用を採用する場合でも、貢献度と賃金水準のバランスを適切にとることが必要です。 3 「定年延長」か「再雇用」か、選択するための視点  あらためて「定年延長」を採用すべきか、「再雇用」を採用すべきか、その問いに答えようとするときに大事になってくるのが「@社員一人ひとりがもつ能力を最大限発揮できる職務を与え、Aその貢献度に応じて報いる」という人材マネジメントの原則に立ち戻ることです。  前述@に関連し、60歳超社員が活躍できる職務を与える余地がどの程度あるかを見きわめる必要があります。多数の社員に活躍しうる職務を与えられるのであれば「定年延長」がマッチし、想定される職務が限定的であれば「再雇用」がマッチします。  次に、前述Aに関連し、60歳超社員の貢献度に相応しい賃金水準引上げや再配分がどの程度可能かを判断する必要もあります。定年延長では60歳前と同様の貢献が期待されるため、同一労働同一賃金の観点から賃金水準を60歳前後で大きく変更しにくく、賃金水準が高止まりしがちです。そのため、賃金水準引上げや原資捻出の余地が大きければ「定年延長」がマッチし、余地が小さければ「再雇用」がマッチします。  それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。 4 「活躍する職務を与える余地の大きさ」を見きわめる  職務の付与に強い影響を及ぼすのが、要員構成です。要員構成の現状把握と将来予測をふまえ、60歳超社員の要員ニーズを見きわめることが必要です。  端的にいえば「要員の需要量>60歳未満人材の供給量」という関係が多くの職務で見込まれるのであれば、60歳前後で継続した貢献をうながす「定年延長」がマッチします。その逆の関係であれば「再雇用」がマッチします。  伝統的な日本企業では、30代前半と50代にボリュームゾーンがあり、30代半ば〜40代に大きなへこみがある「ひょうたん型」の人員構成が一般的です。「ひょうたん型」の組織は、現状だけ見ると、50代のベテラン層が厚く、安定的に事業運営しやすい特徴がありますが、5〜10年後には、主要な役職や職務をになうべき年齢層のボリュームが少なくなるため、必要な幹部人材やキープレイヤーが不足することが見込まれます。現在の50代が60歳で定年となるまでに中間層の基幹人材への育成が間に合わないようであれば、60歳超社員に引き続き最前線で働いてもらうことが必要となります。  一方、若手・中堅社員の質量が確保できており、若い世代の抜擢を含めて基幹人材層の新陳代謝をうながしたい場合、60歳超社員には、早い段階から後進育成に役割をシフトしてもらいます。この場合、特定の技術やスキルをもって高い貢献を期待できる方とそうでない方とで期待役割や賃金水準を柔軟に変えられる「再雇用」が望ましいでしょう。1年ごとの貢献度を見きわめて処遇も柔軟に変更できます。ただし、柔軟に活用することを重視する場合でも、60歳超の雇用に対する安心感を醸成したいなどの意向から、「定年延長」を採用したうえで、1社2制度(例:60歳前は職能資格制度・60歳以降は職務等級制度で正社員の人事制度を構成)などの制度上の工夫も考えられます。  前述した視点に加えて、「定年延長」か「再雇用」かの意思決定をする際には、将来を織り込むことも肝要です。  一つ目は、経営戦略や技術革新なども含めた要員ニーズの変化です。例えば、AIやRPAなどの技術の積極活用により生産性向上が実現できそうであれば、60歳超社員に対する要員ニーズは低下します。経営および関係部門とも連携しながら、自社の業態・ビジネスモデルにおける要員調達ニーズの変化を織り込む必要があります。  二つ目は、70歳までの就業確保措置の努力義務化による「人材の出口戦略(どのタイミングで、どのような形で退職・卒業することをうながすか)」の変化です。満65〜69歳まで5年分の人材を追加して雇用することになりますが、5年分の人材の職務を新たに用意するのは相当ハードルが高いです。  将来的に要員を適正化するため、技術の進展などにより労働力を代替できる可能性を視野に入れながら、新規採用を抑制する部署を定めたり、中高年齢層の人材が余剰となる場合には早期退職をうながす仕組みを導入することなども選択肢となってきます。 5 「賃金水準の引上げ・原資捻出の余地の大きさ」を見きわめる  「定年延長」の場合、60歳超社員の賃金水準引上げを検討するうえで、各社がどの程度まで引き上げているのか、世間データを参考にお示しします。  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査(図表2)によると、59歳時点の賃金水準(基本給と賞与)を10割とした場合の65歳時点の賃金水準は「10割以上」が58.3%と、全体の約6割を占めています。「9割」の8.5%、「8割」の10.4%を加えれば、「59歳時点の賃金の8割以上」という企業が77.2%を占めています。国家公務員の定年延長時の賃金が7割水準であることもふまえると、「定年延長」を採用するからには59歳到達時の7〜8割程度の水準は最低限ねらって設計したいところです。  定年延長による賃金水準の引上げを想定する場合に、企業が引上げ原資をすべて負担できればよいですが、そのような企業はごく一部です。60歳前の人事処遇制度で、企業への貢献度に比べ賃金水準が高いケースがあれば、貢献度と賃金水準を整合させるなど、あるべき姿への是正を図るとともに、原資捻出の余地がどれほどあるかを検討します。  また、原資を捻出する場合、特に若手・中堅社員からネガティブに受け取られないような配慮が必要となります。60歳超の処遇改善の原資を捻出するために、単純に若手・中堅層の年収の伸びが抑制される構造となると、定年延長をネガティブに受け取られがちです。このような懸念を払拭するため、貢献度の高い若手・中堅社員には従前以上の賃金を受け取ることが可能な仕組みづくりなどがあわせて必要となります。  60歳以降の処遇引上げの原資捻出方法として、おもに「@基本給カーブの変更」、「A諸手当の削減・廃止」、「B賞与の基礎部分の減額」、「C退職給付の改定」の四つの手段が検討できます。  原資捻出方法を見きわめるにあたっては、減額対象者に説明できる公正な減額根拠があるかどうかが肝要です。本来は支給する意義の薄れた給与・諸手当を見出し、その金額を減額・廃止するというのが理想です。例えば、50代以降の基本給カーブを逓減(ていげん)させるケースがあります。これは、従来の日本企業では年功的に昇給するケースが多く、50代の特に非管理職層の給与水準が貢献度に比べて高いことを是正したいというニーズがともなったものです。また、60歳以降の賃金水準アップが比較的近い将来でもあるため、50代以降であれば処遇改善を自分事としてとらえやすく、給与カーブを逓減させることに対する理解を得やすい事情もあります。  会社としての持出原資や捻出原資の目途が立てば「定年延長」とし、かぎられた原資しか準備できないようであれば、貢献度の特に高い層に厚く報いていくようメリハリを高める形で「再雇用」の賃金制度を改善する方向が望ましいでしょう。原資捻出があまり見込めない状況で、職務の観点から定年延長を実施されたい場合には、段階的に定年年齢を引き延ばし、原資増額の影響を抑制するといった手段なども検討できます。 6 おわりに  「再雇用」を従前から採用している企業のなかには、60歳超社員の賃金水準を大きく下げ、事務系の定型業務や製造系の軽作業をになわせるケースが見られます。しかしながら、将来的にはAIなどの技術進展もあいまって、このような定型業務・軽作業を会社が用意する余地は小さくなります。何よりも、定年を迎えるまでの長い年月をかけて熟練した人材の集大成の業務として相応しいものとはいいがたいです。  昨今賃上げの動きが強まるなか、60歳超の年代においても低い賃金水準に合わせた業務を担当させるのではなく、年齢にかかわらず貢献を引き出し、そのうえでそれにふさわしい処遇を検討すべきでしょう。「定年延長」を選択するにしても「再雇用」を選択するにしても、60歳超社員が各人の専門性と職業人生に向き合い、知的創造業務をにないながら情熱をもって働き続けられるようになることを願ってやみません。本稿がそのきっかけとして参考になれば幸いです。 ※ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29133.html 図表1 定年延長と再雇用制度の典型例 分類 定年延長 再雇用制度 定年年齢 65歳 60歳 雇用形態 正社員 嘱託社員など 雇用期間 期間の定め無し 1年更新 労働時間 フルタイム勤務で残業あり フルタイム勤務、もしくはパートタイム勤務 人事評価 60歳前までと同様 60歳前と比較し簡素化、もしくは評価しない場合あり 報酬水準 (企業によって異なるが)59歳時点の賃金の80〜100%程度 (企業によって異なるが)59歳時点の賃金から大きく減額し、60%程度 資料提供:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 図表2 59歳時点の賃金水準を10割とした場合の65歳時点の賃金水準 n=1,840 6割以下 5.4% 7割 7.6% 8割 10.4% 9割 8.5% 10割以上 58.3% 無回答 9.7% 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)『定年延長、本当のところ−調査結果を読み解く、課題と効果−』(2019年) 図表3 原資捻出方法(例) No. 手段 説明 1 基本給カーブの変更 ・60歳前の基本給カーブの上昇率を逓減させる代わりに、60歳以降の基本給水準を引き上げ ・50代の非管理職層の給与水準が貢献度と比べて高い(年功色が強い)場合に、その是正(役割給または職務給の導入)とあわせて実施するケースが多い 2 諸手当の削減・廃止 ・過去からの経緯で支給されているものの、内外の環境変化により従来の支給意義が薄れている手当を削減・廃止 ・家族手当や住宅手当など、生活関連手当を統廃合の対象とするケースが多い 3 賞与の基礎部分の減額 ・賞与(主に基礎部分)を減額 ・会社業績に応じて支給減額される可能性のある賞与ではなく、安定的に定年延長後の月給として受給できる意味で、社員側にメリットあり 4 退職給付の改定 ・給付水準の引下げ (例:基準退職金に加えて加算される長期勤続優遇の引下げ・廃止) ・年金化メリットの引下げ (例:確定給付制度にて年金受給する際の利率の引下げ) ・終身年金の縮小・廃止 (例:支給開始年齢の60歳から65歳へのくり下げ) 資料提供:三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 【P15-18】 事例1 株式会社シロ(東京都港区) 年齢に制限されず自分の人生を描くため定年退職制度を撤廃するとともにシニア採用を推進 酒かすやがごめ昆布などの自然素材を有効活用した化粧品を開発・販売  株式会社シロは、観光土産品の製造業を行う株式会社ローレルとして、1989(平成元)年に創業。2000年に今井(いまい)浩恵(ひろえ)代表取締役(現会長)が創業者から会社を引き継ぐと、生活雑貨事業へと方向転換し、化粧品雑貨のOEM事業を開始した。化粧品に関する素材の知識や製造技術を高めていくなかで、「私たちが毎日使いたいものをつくる」という想いから、2009年に自社ブランド「LAUREL(ローレル)」を立ち上げ、OEM事業から撤退。ブランド名を2015年に「shiro(シロ)」、2019年に「SHIRO」へと変更し、それにともない社名も「株式会社シロ」とした。  同社製品の購買層は20〜30代女性が中心であり、実店舗として、北海道2店舗、関東16店舗、中部2店舗、近畿6店舗、九州2店舗、ロンドン2店舗を運営している(2023〈令和5〉年7月現在)。さらにSHIROブランドを展開した食品物販事業、飲食事業、エステサロン事業、EC事業なども手がけている。  企画から開発・製造・販売まで一貫して内製する同ブランドの特徴は、本来は廃棄されるような素材を国内で見つけ出し、製品づくりに活用していること。株式会社シロホールディングスバックオフィス部門人事採用グループチーフの橘(たちばな)英里(えり)さんは、「剪定後に捨てられてしまう植物の枝葉や、食材のなかでも見た目などから食用では使うことがむずかしい部位など、その素材が一番力を発揮する処理を施し、加工して製品をつくるのが、当社のものづくりです」と話す。  SHIROの製品で使われている代表的な素材が「酒かす」と「がごめ昆布」。酒かすは日本酒の製造工程でできる副産物で、がごめ昆布の根は固くて食用にならない。どちらも栄養価が高いにもかかわらず、かつては廃棄されていた素材である。これらを活用してものづくりに活かしてきた。  2021年には、福永(ふくなが)敬弘(たかひろ)氏が代表取締役社長に就任し新体制がスタート。そして2023年4月、創業の地である北海道砂川市に新工場をベースとした複合施設「みんなの工場」が完成した。カフェやショップ、キッズスペースなどを設け、食やカルチャー、環境保全が学べる施設として地域の人たちが集う場所になっている。  同社の社員数は約400人(2023年6月時点)。経営拠点である東京オフィスに60〜70人、製造拠点である砂川工場に約50人、販売の現場である全国の店舗に約300人が在籍する。男女比率はほぼ同じで、社員構成の大半を占めるリテール職(販売担当員)に若年者が多く、平均年齢は34歳。シニア層は60〜64歳が3人、65〜69歳が1人、70歳以上が6人であり、雇用形態は全員が契約社員かアルバイトである。職種は清掃、事務、製造部門となっている。最高年齢者は砂川工場の製造部門に所属する83歳。製造業務を長くになってきた人材だが、現在は清掃業務に職種変更して会社に貢献している。 年齢にとらわれない未来の実現に向け定年退職制度を撤廃  同社は「世の中をしあわせにする」ことを企業理念に掲げ、徹底してその実践を目ざしている。「自分たちが本当に使いたいと思えるものだけをつくり、たくさんの人に届けたい」というシンプルな想いを原動力にして事業を拡大してきた。また会社の価値観として社員が共有する「人・地球・社会に対して誠実に正しいことを行うものづくり」は、組織の方針、運営においても明確な基準となって、施策導入の判断および実行にブレなく作用している。  そんな同社は、2022年11月1日に定年退職制度を撤廃した。  「定年退職制度の撤廃の根幹には、当社の人≠ノ対する想いがあります。当社では、年齢、国籍、居住地にとらわれることなく自由に自分自身の未来をデザインでき、将来を描けるような環境を整えていくべく多様性を尊重していきたいと考えています。それを表現する言葉として社内で使われているのが『誰も排除しない』というものです。何かを基準に何かを諦めてしまうこと≠ェないように環境を整えています。例えば、年齢は一つの基準になり得るものですので、年齢に制限されることなく、自分の人生が描けるように、そして、100年続く会社を目ざすにあたりシロの社員が長く活躍できる環境を整えるために、まずは定年退職制度の撤廃が検討されました」  また、部署によって経験豊富で専門性やスキルに長けた社員の必要性を感じ、シニア採用の実施を開始したという。  「定年退職制度の撤廃については、顧問の社会保険労務士にも相談し、いろいろなことを確認しました。会社の制度上、とても大きな変更となります。一度定年退職制度を撤廃した後に、また定年退職制度を設けるとなると、就業規則の不利益変更となる可能性もあるということを聞き、これは勇気がいる決断でした。それでも人材の活用方針・理念をふまえ、リスクをともなう側面はありながらも、年齢にとらわれることなく、自分の将来と人生を考えてもらうための決断をしました。会社としても大きな一歩といえると思います」  一度撤廃してしまうと定年退職制度を再度設ける際にはハードルが高くなるという点で慎重になったが、それでも再雇用制度ではなく、定年退職制度の撤廃までやり切る固い意志を持って取り組んだ同社。関連グループと経営との間で情報交換を行い制度化し、労働条件の管理をしている関係部署との連携を取り撤廃に向けて準備を進めた。定年退職制度の撤廃が発案されてから実現まで、1カ月という短期間で進めたそうだ。  そもそも同社では、以前より定年年齢を70歳と設定しており、砂川工場では70歳以上のシニアが働いているという実態もあった。同社で働くシニアはほとんどが砂川工場(現・みんなの工場)の勤務だ。住み慣れた地域、住み慣れた環境で働きたい人が多く、転職する人も少ない。1989年の創業時から勤務している人もいるという。今回の定年退職制度の撤廃は、希望すれば年齢の制限なく働けることを意味しており、社員の安心はもとより、地域の雇用安定にもつながる。  「社員の平均年齢が34歳ということもあり、定年を迎える当事者の人数がかぎられている状況でしたので、大きなトラブルなどはありませんでした。今回の定年退職制度の撤廃により、社員の選択肢が広がったと考えています。キャリアの区切りをどこにするかを自身で決められ、会社としても、社員にあわせた最適なポジションを用意していきます」 法務から清掃まで幅広くシニアを積極採用  今回の定年退職制度撤廃とほぼ同時期に開始したシニア採用は、年齢とともに積み重ねてきた知見や経験を活かし、さまざまな分野で活躍してもらうことを念頭に置いた取組みだ。  「例えば、法務・労務のような専門分野において、知見や経験を活かし、社員の変えるべき点や守るべき点などについて、意見を出してもらいたいと思っています。ほかにも製造機械の整備(自社工場のメンテナンス)、資材の発注(製造管理)、清掃業務などのポジションを用意しています。自社で製造から販売まで一貫して行っていますから、シニアに活躍してもらえるポジションがいろいろとあります。まずは現在募集している職種で、シニア採用の実績を残していきたいです」  本人が力を発揮でき、やりがいが感じられるかを精査しつつ、体力などを鑑(かんが)みて、活躍してもらうポジションを双方合意のうえ決め、シニア採用の枠を広げていくという。  採用したシニアは、個別面談を通して、働き方を相談しながら決めていく。雇用形態はパート・アルバイト、契約社員、無期社員(正社員)から選択でき、体力的にフルタイム勤務がむずかしい人には、時短勤務制度を積極的に活用してもらう方針だ。  同社の時短勤務制度は、月あたり110〜150時間から選択することができ、育児と介護を理由に活用されるケースがほとんどとなっている。兼業野球選手として二足のわらじを履く社員に対して、例外的に、事情を考慮して適用しており、取得理由についても柔軟に対応している。 社員のキャリア形成を支援する「ジョブチャレンジ制度」  また、社員の新しい才能の開花や挑戦を支援するための仕組みとして、「ジョブチャレンジ制度」がある。これは、年齢、職種を限定せず社員全員が規定内で自由に応募することができる、自己申告制の社内異動制度。年2回定期的に実施しており、「これまで経験してきたことを次は違う領域で発揮したい」、「経験してきたからこそ、このグループでこんな視点が活かせるのではないか」といった個人の希望と主体性が尊重され、社員の主体的なキャリア開発につながる仕組みとなっている。また、「この職種で、この店舗で働きたい」など、細かい部分まで社員は申請することができる。毎回10人前後の応募があり、実際に異動が実現するのは3〜4人だという。  「社員のキャリア形成を支援すると同時に、グループに新しい視点が加わることで、組織が活性化されるというメリットもあります。異動が決まった際には面談で会社側が期待する役割をしっかり伝えています。一定の評価があっての異動になるので、本人の自信にもつながっています」  一度希望が通らなくても何度もチャレンジが可能。定年退職制度が撤廃されたことから、60歳超の社員がジョブチャレンジ制度を活用し、社内で第二のキャリア人生を開拓することも可能になったといえるだろう。  評価制度については、同社の「年齢にとらわれない」という考え方もあり、シニアを対象とした評価基準などは設けていない。年齢に関係なく、全員が一社員として同じ基準で評価される。経営が評価者となって実施する絶対評価制により(販売担当のリテール職は除く)、一人ひとりの成長や業績を個別に判断して評価を決め、賞与と処遇に反映してきた。2023年度からは、半年単位で指標を決めて達成度を把握する評価制度がスタートし、モチベーションやスキルアップに導くためのよりよい制度構築を図っている。リテール職については「スペシャリスト制度※1」、「キャリア制度※2」により活躍をうながしている。 人事制度や製品にも企業理念があらわれる  「世の中をしあわせにする」というシロの理念に基づいて人事施策を検討した先に、「社員が自身の人生を考えるとき、年齢の制限があってはならず、できるかぎり自由であるべき」との考えが生まれ、定年退職制度の撤廃に至った同社。  引き続きブランドの考え方を尊重しつつ、シニア採用の募集を広める働きかけをどうするかが今後の課題になる。橘さんは最後に次のように述べた。  「当社の事業や取組みのすべては、『世の中をしあわせにする』という企業の理念に集約されていて、製品のみならず社内制度にもあらわれています。ブランドの想いを知って賛同してもらえる人が増えるとよいと思っています」  今後年齢を重ねてシニアになっていく社員、シニア採用で入社する社員を想定し、長期にわたって働くうえで負担にならない制度を検討していく方針だ。  シニア層は概して、社会貢献をやりがいとして働く人が多い。これは同社の企業理念と合致し、親和性が高いと想像できる。今後シニア採用から多くの人材が定年にとらわれることなく活躍の場を得て、同社の事業と相乗効果を生むことを期待したい。 ※1 スペシャリスト制度……接客やタッチアップにおいて高いスキル・実力のあるスタッフを認定する制度 ※2 キャリア制度……接客や店舗運営、スタッフ間のコミュニケーションに対して年に一度実施する人事考課制度 写真のキャプション バックオフィス部門人事採用グループチーフ橘英里さん SHIRO表参道本店の内観 【P19-22】 事例2 株式会社ジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市) 70歳までの再雇用制度を大幅に刷新定年後の人生をよりポジティブに 定年後の社員の不安や現場の声をふまえて「ジャパネットらしい」制度をつくりたい  長崎県佐世保市に本社のある株式会社ジャパネットホールディングスは、通販大手である株式会社ジャパネットたかたをはじめとしたグループ企業を傘下とする持株会社で、グループ全体の人事、経営、広報などの戦略全般とバックオフィス業務を支えている。  同社では2023(令和5)年4月、それまで実施していた定年後再雇用制度を刷新し70歳※まで働くことができる「セカンドライフサポート制度」を導入。社員が定年退職後に仕事以外の時間を充実させ、ゆるやかに次のステップに進むことができるよう施策を整備してきた。  今回は、同社における再雇用制度の課題や「セカンドライフサポート制度」の具体的な取組みについて、人事本部労務戦略部の植村(うえむら)葉月(はづき)シニアリーダーにお話をうかがった。  同社における従来の再雇用制度は、60歳定年後、65歳まで働き続けることができるという一般的な制度であり、定年後の給与に不安を抱えるなど、長く働き続けたい気持ちをもつ社員や、まだ現役で仕事をしたいという意欲をもった社員の想いに応えられる内容ではなかったと植村さんはふり返る。  「例えば、給与との兼ねあいで『生活のやりくりにたいへんな不安を覚える』といった声が、実際に再雇用制度で働く人たちから多く出ていました。また、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が努力義務化されたという流れもありました。そのころから、『ジャパネットとしてやるべきことは何なのか?』といった課題について、社長をはじめ経営層・人事で話しあいを続けてきたのです。  当社は人生の働く場所の選択肢としてジャパネットを選んでくださった方、ジャパネットだからこそ働き続けているという、想いを持った社員が非常に多い会社です。そうした想いに応えるためにも、『定年後の自分の人生を豊かにできるような内容にしたい』という方向で制度を検討してきました」  こうした課題や現場の実際の声、そして世の中の流れを読み取りながらふみ切ったのが、今回の制度刷新だ。  「セカンドライフサポート制度」は、その名の通り、再雇用期間を含む定年後の人生を充実したものにすることが大きな目的となっている。そこで柱のひとつとして掲げているのが、「週休数を段階的に増やしながらも、急な収入減に陥らない給与設計」だ。図表1にある通り、60歳定年後の再雇用では、65歳までは公休数を週休3日、65歳以降は週休4日へと切り替える。例えば、60歳から65歳までの場合、定年前と比較して勤務日数は8割程度となるが、給与・手当は平均支給額の9割を担保できる仕組みとなっている。  また、正社員では認められていないが、再雇用の社員を対象に、今後のキャリア形成や成長を目的とした副業も可能となっている。ジャパネットでの仕事だけではなく、セカンドライフを充実させるため、副業を含むさまざまな選択肢を自ら考え、切り拓いてもらうための制度といえる。こうした取組みを、「セカンドライフサポート制度」という名前に集約して2023年4月に発表した背景について植村さんは次のように話す。  「制度としては、検討を始めた3年前から少しずつ取り入れていたのですが、社内に浸透していなかったことに加え、近年、実際に定年を迎える人数も増えてきていることもあり、『このような制度がある』ということを若手社員や中途入社の社員にもきちんと知ってもらおうという意図から、ふさわしい名前をつけて発表することになったのです」 制度の底流に流れる「アットホームでストイック」な社風  同社の労働環境について植村さんは「『アットホームでストイック』をテーマに、楽しく温かく従業員を迎え入れつつも、仕事はきちんと生産性を上げて、つねに成長を求めていくという社風があります」と話す。そのため再雇用制度だけではなく働き方改革にも力を入れており、ノー残業デーの徹底や、最大16連休取得できる「スーパーリフレッシュ休暇」の導入など、しっかりと休みを取ってプライベートを充実させつつ、仕事ではその分成果を上げられるようにという体制を整えてきた。  「こうした社風を考えたときに、再雇用制度についてもただ60歳の定年後もそれまでの仕事を続けるというよりは、自分自身の人生に向きあうことや、仕事とプライベートのメリハリをつけながら楽しく仕事をしてほしいという想いが、今回の制度刷新の根底にあります」  これまで一般的な制度であった再雇用制度に、ジャパネットらしさを足してビルドアップしていった結果が今回の制度刷新へとつながっているのだ。  では、再雇用による雇用延長ではなく、定年引上げ、定年制廃止などの議論はなされなかったのだろうか。  これについて植村さんは、「もちろん定年を引き上げるか、再雇用とするかについての議論はこれまで行ってきましたが、結局、定年を引き上げることも、廃止することも、再雇用とすることも、ジャパネットで働き続けるということに何も変わりはありません。重要なのは『社員が長く働き続けられるためにはどのような制度がベストか』ということ。この議論の結果、再雇用制度を採用することになりました」とその経緯を語っている。 再雇用後は一般社員と同じ役割契約は1年単位で更新となる  再雇用後は、一社員として働くことが前提であり、マネジメントに就いていた社員もそこから降りて一般社員としての役割をになうことになる。ただし、長年勤めあげた結果としてのスキルはもちろん考慮したうえでのことだ。基本的には定年前と同じ部署に配属されることが多いが、定年を迎える前に自分の今後のキャリアについて申告するタイミングがあり、もし他部署で自分の人生を変えたいという希望があれば、人事部によるヒアリングのうえ、適性に応じて配置転換を行うこともあるという。  こうした制度に着地したことについて植村さんは、「再雇用後の働き方について、実際に不安の声があったというのはありますが、一方で、現在再雇用の対象となるメンバーのなかには当社を創業当時のころから支えてきてくれた社員もいたというのは大きかったと思います。そういう方々が不安を感じることのないよう、自分の人生を考えて活き活きと働き続けてほしいという願いが込められています。当社を支えてくれた社員を何とかしてあげたいというのが、経営層と人事の共通の想いだったと思います」と語る。  2023年4月から実施された今回の制度は、対象の社員からいくつもの感謝の言葉が寄せられ、好評である(図表2)。 副業のチェック項目は健康面と守秘義務を中心に  セカンドライフサポート制度のもう一つの柱として、副業を可能としたことがあげられるが、現時点で制度を活用し、実際に副業を行っている再雇用の社員もいるという。  副業を行うには社内のシステム上にある申請書に、副業する会社名や業務内容、勤務時間、勤務日数などを記入して提出し、人事の許可が下りれば副業が可能となる。  「申請書を見て人事がチェックするのは、まず健康第一ということ。オーバーワークになってしまっては意味がありませんので、体力や時間的に勤務形態に無理がないかどうかをチェックします。また、二つの会社で働くことになるので守秘義務に関する同意書を書いてもらいます」と植村さん。基本的にセカンドライフの充実が目的であるので、厳しいチェックとはならないようだ。  再雇用者にかぎっての制度ではあるが、副業についても好評で、報酬が目的というよりは自分の新しい趣味や可能性、新しいスキルを磨くという理由から、今後も申請者が増えていくと植村さんは見込んでいる。  給与は副業をしなくても生活できる程度に設定しているので、副業についてはセカンドライフを充実させる側面が大きいが、新しい再雇用制度の導入にあたり、なかには不安を抱く対象者もいたという。そこで、再雇用制度改正にともなって始めたのが、定年を迎える1年前に必ず行う個人ごとの説明会だ。「あなたは1年後このような待遇になります」、「副業はこういう条件でOKになります」ということを伝え、理解してもらう場である。  「説明会で一番最初にお伝えすることは『いままで長らく勤めてくださってありがとうございました』という感謝の気持ちです。そのうえで、働き方や業務内容がどう変わるのか、それから収入面、最後に副業の話という順番でご説明します。説明会を始めてからは、自分の行き先が見えない状態で定年を迎えてしまうということがなくなり、しっかりと説明をしてくれてありがたいという声もあります」と植村さんは手応えを感じている。 今回の制度刷新が完成形ではないブラッシュアップし進化させ続ける  2023年7月1日時点での60歳〜70歳までの人数は図表3の通り。今後の課題について植村さんは、「今回の制度は定年を迎えた社員の方々のセカンドライフを自分自身で切り拓いていく、キャリア自律をうながすための制度でもあるのですが、一方で定年後再雇用になって突然『キャリア自律を』といわれても戸惑う社員もいます。そうした社員に対するサポートや教育がなかなかできていないのが課題です。今後はその点をしっかりと取り組んでいきたいと思います」と語る。  副業ができるようになっても、何をしてよいかわからない社員もいるため、いままではそういった社員に個別にアドバイスをしてはいたものの、これを体系立てて情報発信したり、サポートや教育の場を創出することが植村さんたちのこれからの課題となる。今後も会社としてどのような人事制度・教育制度にしていくかについてはさらに制度改革を進めていくという。  「まだまだ完成形ではないのでブラッシュアップが必要だと考えています。実際に定年に直面している人たちにとっていかに使いやすいものになっているかということと、時代も変わってきますので、現在は70歳までの就業確保が努力義務ですが、これが75歳、80歳になったときにもしっかり対応できるような柔軟な制度にしていきたいと考えています。『ここまでできたから完成』ではなく、時代と社員と会社の考え方にマッチしたものへと常に進化させ続けていきたいです」と、制度の未来を見すえている。 ※ 70歳の誕生日を迎えた後、4月1日もしくは10月1日のいずれか早いほうまでが適用 図表1 セカンドライフサポート制度の休日数と給与 定年60歳 65歳 70歳 正社員 嘱託社員 休日数 週休2日 週休3日 週休4日 給与 100% 正社員平均の90% 正社員平均の70% ※65歳の切り替え日は誕生日の前日以降、最初の9月末または3月末のうちに先に到来する日 資料提供:株式会社ジャパネットホールディングス 図表2 再雇用された社員の声 会社が正社員だけではなく、嘱託社員についても制度を検討し、改善をしていることが嬉しいです。 副業ができるようになったので、シルバー人材センターの登録なども考えてみたいです。 あらためてセカンドライフサポート制度のよさを実感しています。 こんなによい制度があるならば、がんばって70歳まで働きたいと思います。 資料提供:株式会社ジャパネットホールディングス 図表3 60歳〜70歳までの従業員の就業区分 年齢 雇用形態 60〜64歳 55人 嘱託社員 9人 契約社員 17人 パート社員 29人 65〜70歳 18人 嘱託社員 1人 契約社員 8人 パート社員 9人 嘱託=再雇用 資料提供:株式会社ジャパネットホールディングス 写真のキャプション 人事本部労務戦略部シニアリーダー植村葉月さん 【P23】 日本史にみる長寿食 FOOD 357 モモは仙人の食べもの 食文化史研究家● 永山久夫 モモを食べて若返った男  「桃栗(ももくり)三年、柿(かき)八年」とは、昔からよく知られたことわざです。モモの生育はとても早く、芽が出てから三年もすれば実をつけるという意味で、中国には、「頭が白くなっても、桃の種は蒔(ま)け」ということわざがあるそうです。  モモは、古くから不老長寿をもたらす、仙人の食べる「霊果」と考えられていました。平安時代の『医心方(いしんぼう)』という医学書に、「桃を食するとお通じがよくなり、顔色もさえて、精気が盛んになる」とあり、次のような中国の仙人のエピソードを紹介しています。  「ある男が、霊気ただよう高い山に入っていきました。モモの木があり、見たこともないような、大きなモモがたくさん実をつけていたので食べたところ、急に息が楽になり、体も軽やかになって、楽しくて仕方がありません。谷川に映った顔を見ると、血色もよくなりニコニコしています。男は、山がすっかり気に入り、その後もずっと山中で暮らし、300歳になったときに、村に戻ってきましたが、体中つやつやとしていて、気力はまるで壮年のときのようでした」  これは、モモに含まれている不思議な長寿作用のことを伝えたエピソードです。  日本の『古事記』にも、モモの実の霊力を伝える不思議な神話が記されています。イザナギノミコトが死霊に追われたとき、モモの実を投げつけて救われたと、モモに潜むふしぎなパワーが述べられています。 ペクチンでお通じをよくする  モモの栄養の特徴といえば、水分を除くと、果糖、ブドウ糖などの糖分が多く、脳の働きをよくするうえで役に立ちます。ほのかな酸味は、クエン酸やリンゴ酸などで、血行をうながし、疲れを除くなどの作用があります。注目されるのは、水溶性植物繊維のペクチンを豊富に含むことで、お通じをよくして血圧の安定に役立つ効果が期待されています。  また、モモの種子の核は「桃仁(とうにん)」と呼ばれていますが、血行を促進したり、お通じをよくするなどの効果があるといわれています。中国では、薬といっしょに煎じたり、スープに入れて用いたりしているそうです。 【P24-29】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season 2 第5回 高齢社員の意欲を高める研修をしたい! ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです 図表1 高齢社員のモチベーションの維持・向上のポイント @役割や能力に見合った賃金制度を導入する 業務や役割に応じた等級を設けるなど、仕事の内容や難易度、責任の重さなどに応じた賃金制度を設計する A働きぶりを評価する 再雇用の社員に対しても目標を設定し、達成度を評価するなどの人事考課を行い、その評価を処遇に反映させる B多様な働き方を提供する 短日・短時間勤務や在宅勤務など、多様で柔軟な働き方ができる制度を導入する ※編集部作成 図表2 就業意識向上研修コース別概要 中高年齢従業員研修 生涯現役ライフプラン研修(基礎編) 「生きがいある高齢期」を送るために必要な、経済面、身体面、仕事面の取組みについて理解をはかり、改善行動を喚起する。 生涯現役エキスパート研修(展開編) 仕事生活チェックリストを使った気づきと指導により、生涯現役を目ざして、中年期からの仕事能力の形成を働きかける。 職場管理者研修 生涯現役職場管理者研修(基礎編) 高齢社員を職場戦力として活用するために必要とされる、基礎的な管理スキルを理解する。 生涯現役マネジメント研修(展開編) 高齢社員を職場戦力として活用するために必要なマネジメントの方法について理解を図り、改善行動を喚起する。 図表3 就業意識向上研修の実施概要 研修時間 4時間以上15時間以下 受講者数 5人以上20人程度 講師 高年齢者雇用アドバイザーおよび70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー等」) 研修カリキュラム 受講者の状況等を勘案し、プランナー等が相談のうえ作成 図表4 就業意識向上研修にかかる経費(例) 就業意識向上研修の内容 最高限度額 うち事業主負担額(2分の1) 半日コース(4時間) 60,000円 30,000 円 1日コース(8時間) 120,000円 60,000円 2日間コース(14時間) 210,000円 105,000円 図表5 就業意識向上研修の利用方法と手続き 事業主 JEED プランナー等 @就業意識向上研修の依頼 A確認書の取り交わし D負担分支払い C就業意識向上研修の実施 B選任・依頼 E支払い ※1 「エルダー」2023年7月号「マンガで学ぶ高齢者雇用」(28ページ)をご参照ください https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202307.html ※2 「エルダー」2022年8月号「マンガで学ぶ高齢者雇用」(27ページ)をご参照ください https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/202208.html ※3 https://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html ※4 都道府県支部の連絡先は65ページをご参照ください 【P29】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season 2 第5回 高齢社員の意欲を高める研修をしたい!  定年後、再雇用で働く高齢社員は、賃金一律低下などを背景に働く意欲が低下してしまうことがあります。加えて、会社が自分に何を期待しているのかがわからなかったり、会社も具体的な目標を高齢社員に伝えていなかったりすると、高齢社員も何をモチベーションに働けばよいかを見失ってしまいます。70歳就業時代を迎えたいま、高齢社員に戦力として働き続けてもらうためには、賃金制度の見直しや、期待や役割を明確に伝えることとともに、研修などを通じて自身の強みを効果的に活かせる分野を理解し、環境変化のなかでも実力を発揮できるスキルを身につけてもらうことが重要です。 内田教授に聞く 高齢者雇用のポイント 高齢社員の意欲低下には会社が期待する役割・目標を明確に自身の強みの理解と環境変化への技法を学べる研修が効果的  定年後に再雇用で働く高齢社員が「再雇用になって給料が下がったからやる気が出ない」、「これからは面倒なことをやらずにのんびり仕事をしたい」といったら、一緒に働く同僚はどう思うでしょうか。職場のチームワークが失われるでしょう。もちろん多くの高齢社員はそのようなことを考えず仕事をしっかりやってくれますが、どこかで意欲の低下が見られるのではないでしょうか。一律に賃金を下げず、高齢社員の働きぶりを評価して処遇に反映させるのはもちろんのこと、会社からのさまざまな働きかけや取組みが高齢社員の意欲を高めます。  高齢社員の意欲低下の背景には、これから自分が会社で何をすればよいのか、そもそも会社は自分に何を期待しているのかがわからないということもあるようです。会社が高齢社員に技能伝承や後進育成を期待している場合、その役割を直接、具体的に伝えているでしょうか。漠然とではなく、だれを対象に、どんな技能や技術を、どのような方法で、何を用いて、どのレベルまで伝承し育成するか、かつ、それをいつまでに達成するかなど会社の考えを伝えれば、高齢社員にとっては目ざすものがはっきりします。  ところで自分の強みが何かを見失っている高齢者もいれば、強みを自覚していてもそのまま通用すると思い込んでいる高齢者もいます。いつまでも職場で頼りにされる戦力であり続けるため高齢者になる前から研修を行います。例えば、自身のキャリアをふり返って強みは何か、それが効果的に活かせる分野はどこかを理解し、環境変化のなかでも実力を発揮できるようにIT機器操作や若手とのコミュニケーション技法を学びます。また、管理職にも研修機会を与えて高齢社員の強みを引き出す力をつけてもらいます。このように、若手や中堅にはない強みを持つシニアが、意欲的に仕事に向きあえる環境づくりのためにも研修は欠かせません。 プロフィール 内田賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P30-31】 江戸から東京へ [第129回] 社会からの退去続きに敢然と 真木嶋(まきしま)昭光(あきみつ)(一) 作家 童門冬二 戦国のニヒリスト  戦国時代末期に、社会からの退去続き≠ナ人生を送った男がいる。真木嶋昭光だ。かれ自身がそうしたかったわけではなく、かれの主人がそうしたからで、かれは主人にしたがったまでである。  主人は足あし利かが最後の将軍義昭(よしあき)だった。織田信長によって将軍に擁立(ようりつ)され、信長によって廃された悲劇の主人公(つまり社会からの退去続きの主人公)だった。  昭光の生年月日は不明だ。姓もよくわからない。かれが生活の拠点にしていた伏見は、いわば水の溢れる地域≠ナ京都の南方にあたり、南下してきた河川が一斉に終結する。鴨川・桂川などだ。このころはこの辺りに大きな沼があった。この沼に河川が注ぎこむ。そしてまた出て行く。行先は淀川だ。  沼のなかに島ができた。真木(まき)(槙)島はその一つだ。昭光の家は、そこから姓を取った。 「生年月日や、姓名なんかどうでもいい、この世における符牒(ふちょう)にすぎない。すべては幻だ」  と考えていたのかもしれない。  第十三代足利(あしかが)義輝(よしてる)が重臣の三好(みよし)一族や松永(まつなが)久秀(ひさひで)らによって殺された。応仁以来の下克上(げこくじょう)(下が上を越える)≠ナ、当時の風潮だ。  義輝には細川(ほそかわ)藤孝(ふじたか)という機敏な重臣がいて、これが次の将軍候補者義秋(このころ。義輝の弟)を救出した。義秋は奈良の寺にいた。二人は、 「義秋を将軍にしてくれる有力大名探しの旅」  に出た。世間から社会退去を迫られたのに、逆に復活を希(ねが)ったのだ。が、そんな希いに応ずる大名などいなかった。  わずかに尾張(愛知県)の織田信長だけが自分の野望(天下進出)のためにこれに応じた。  このころの昭光は誠実な義昭(義秋改め)の家臣だった。幕府奉公衆の一人だった。それほど義昭と昵懇(じっこん)ではない。ただ生家が代々地域の豪族で、ときの将軍に奉公衆として仕えていたにすぎない。 任侠心(にんきょうしん)でふるい立つ  ところが義昭を将軍にした信長はヘンな男だった。義昭は、 「将軍はこういう権威(ステータス)を持っている」ということを、懸命になって示そうとしているのに、信長は逆だった。 「将軍には何の権威もない。ただの木偶(でく)人形だ」  という無権威的存在であることを、これでもかこれでもか、と示し続ける。  本当のことをいうと、昭光にはそんなことはどうでもよかった。生年月日や姓名にすら関心を持たないように、かれは通常の関心事には関心を持たない。早くいえばニヒル(虚無主義。生きることに意義を認めない)なのだ。  普通なら暮らしが辛くなるのだが、かれの生家は名家で長者(ちょうじゃ)≠ニいわれている。金持ちだ。  このときになって初めて心がふるい立った。義昭をイジって(イジメて)、これでもかこれでもかと社会退去≠求める信長に猛烈な反撥心(はんぱつしん)を湧き上がらせたのである。 「信長はケシカラン、一体何のために義昭様を将軍にしたのだ?」  と、基本的なことから怒りはじめた。いわゆる任侠心≠ェ湧き、これに火がついたのだ。結果、 「オレは義昭様の家臣だ。これからは義昭様と行(こう)をともにしよう」  と決意した。ニヒルな心にムチ打って、はじめてヤル気を起こしたのである。  しかし、その最初の仕事が信長のイヤガラセによる義昭の、 「将軍職廃止、社会からの退去」  であった。  もう引き下がれない。 「いいよ、義昭様のおともをしようじゃないか」  昭光はニヤリと笑った。心はそのつもりで固めてある。何でもこいだ。義昭がいった。 「真木嶋の家を貸せ」 「どうなさいます」 「信長と一戦かまえる。城にする」 「あのボロ家を?わかりました。おともします」 「へえ、意外と忠臣だな。全然ヤル気がないと思っていたが」 「ヤル気はありませんよ。信長の奴がニクいだけです」 「オレもそうだ。よし、それでいこう」  主従の心は一致し、きずなになった。 つづく 【P32-35】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第134回 福岡 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 希望に合った働き方をともに考え65歳定年以降もいきいきと勤務 企業プロフィール 社会福祉法人桜花会(おうかかい) (福岡県福岡市) 創業 1998(平成10)年 業種 介護事業(介護老人福祉施設など) 職員数 231人 (うち正職員数192人) (60歳以上男女内訳)男性(9人)、女性(26人) (年齢内訳)60〜64歳 14人(6.1%) 65〜69歳 14人(6.1%) 70歳以上 7人(3.0%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。本人が希望し法人が認めた場合、契約職員として70歳まで再雇用する制度がある。最高年齢者は71歳  九州地方北部に位置する福岡県は、地理的、歴史的、経済的特性などから、大きく4地域(福岡・北九州・筑後(ちくご)・筑豊(ちくほう))に分けられます。「福岡地域」は県庁所在地であり、九州の管理中枢機能や第三次産業の集積が進み、西日本のリーディングゾーンとして発展。「北九州地域」は、高い工業集積・技術集積を有し、鉄鋼、化学などの基礎素材型産業に加えて、ロボットなどの加工組立型産業の集積が進んでいます。「筑後地域」は、豊かな自然と農林水産業や地場産業、商工業などの多様な産業、文化、さらに、個性ある都市群などの魅力に満ち、「筑豊地域」は、石炭産業からの転換によるベンチャー企業や研究機関の集積を図り、新たな産業創出の拠点づくりを目ざして産業基盤や生活環境の整備が進められています。  JEED福岡支部高齢・障害者業務課の林田(はやしだ)雄治(ゆうじ)課長は、次のように話します。  「県内には福岡県を発祥とする企業をはじめ、全国規模で展開する企業の支社や支店が集中しており、当課では、高齢者雇用の相談・援助業務に注力しています。事業所訪問では、つねに『事業主の立場に立った活動』を心がけ、65歳以上への定年年齢の引上げや定年廃止、70歳までの就業確保を見すえた継続雇用延長などの制度改善を提案する際も、前向きに取り組んでいただけるよう、より踏み込んだ効果的な働きかけをするように努めています。  また、労働局、ハローワーク、福岡県生涯現役チャレンジセンター、県などとの連携を密にし、県内団体が一体となった事業推進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしています」  同支部で活躍するプランナーの一人、野口(のぐち)博之(ひろゆき)さんは、社会保険労務士、行政書士、キャリアコンサルタントの資格を有し、専門知識と豊かな経験を活かして、おもに県中心部に所在する各事業所に適した高齢者雇用を支援しています。今回は、野口プランナーの案内で、「社会福祉法人桜花会」を訪れました。 働く環境を整えて質の高い介護サービスを提供  社会福祉法人桜花会は、1998(平成10)年10月に設立され、2000年3月に都市型の総合老人福祉施設「ライフケア大手門(おおてもん)」(福岡市)を開所しました。2006年と2013年には、個室対応型の特別養護老人ホーム「ライフケアしかた」(福岡市)と「ライフケア柏かし原はら」(福岡市)を開所し、現在3施設を運営しています。  運営理念に「愛の心と確かな介護技術をもって社会に奉仕する」を掲げ、入居者や家族、地域の人々と信頼関係を築きながらその実践に努めています。質の高いサービスの維持・向上を図るために、職員の育成と成長の促進、職員の生活の質向上を目ざし、毎月の内部研修の実施、資格取得支援、外部研修受講費用の負担、産業医による健康相談、上司へ相談しやすい雰囲気づくり、有給休暇が取得しやすい職場づくりなどに取り組んでいます。  職員数は、法人全体で231人。福岡市内でもトップクラスの事業規模を誇ります。現場で着実にキャリアを形成しながら、ライフイベントに合わせた働き方が可能な職場として、人手不足が深刻とされる業界にあっても、桜花会では新規学卒者を毎年採用しています。  人事を担当するライフケア大手門の堀畑(ほりはた)寛(ひろし)施設部長は、「ワークライフバランスがしっかりとれる職場であることが、当法人の採用活動で強調するキーワードのひとつです。子育て世代はもちろん、全職員がワークライフバランスを考慮した働き方ができるように努めています。入所施設は、夜勤もある交代勤務で、シフトを組むのが困難なときもありますが、つねにだれかが育児休暇や時短勤務中であることがあたり前となるように、現場の体制や職員の意識向上に努めてきました」と話します。  ワークライフバランスがとりやすいのは、「事業規模がある程度大きいからできていること」と堀畑施設部長は話しますが、日ごろから職場のコミュニケーションを重視していることに加え、年齢や勤務形態にかかわらず、全職員が年2回、直属の上司・施設長と面談をするなど、職員一人ひとりにしっかりと向き合い、意見や希望を聞く機会をつくることが土台になっているといえるでしょう。 ほかの業界の定年退職者も採用  同法人では、勤続年数の長い職員が60代になったり、年金の受給開始年齢が引き上げられたことなどを背景に、7年前、当時62歳だった定年年齢を65歳へ引き上げました。さらに、本人が希望し、法人が認めた場合は、契約職員として70歳まで再雇用することも制度化しました。また、70歳以降も、運用により働ける環境があります。  これらの改定に続いて約3年前には、ハローワークの呼びかけにより、介護とは異なる業界で定年退職となった高齢者の採用を始めました。  「それまで採用≠ニいえば、介護の専門職のみを考えていたのですが、直接介護をしない業務を担当してもらう職員として、企業などを定年退職された方を、現在までに介護の周辺業務担当として3人、清掃担当として1人採用しています。これにより、介護職員が専門的な業務に専念できる時間が長くなり、ケアの質が向上するというメリットを感じています」(堀畑施設部長)  こうした採用活動を今後も続けていきたいと考えている一方で、これからの課題について堀畑施設部長は次のように話します。  「現在の介護周辺業務は、清掃、洗濯などの仕事にかぎられているので、その職員が持つそれまでの仕事経験や知識が活かせると同時に、やりがいを感じられるよう、業務の幅を広げていければと考えています。その職員ならではの力を発揮してもらいたいですね」 人材不足に備えてロボット導入も検討  野口プランナーが桜花会を初めて訪問したのは、2022(令和4)年2月のこと。  「コロナ禍のためリモートによる面談でしたが、最初から熱心にご対応いただきました。高齢者雇用のメリットをお伝えするとともに、介護における体力的負荷を心配されていたため、ハード面として、介護ロボットなどの導入を、ソフト面として多様な勤務形態のメニューづくり(短時間勤務、若い職員が働きづらい時間帯の勤務など)などについてアドバイスを行いました」(野口プランナー)  この提案に基づき、同法人では、介護ロボットの導入に向けた検討を行っているそうです。  一方で、長く勤めている職員が定年を迎える年齢になるなか、「続けられる職員には、できるだけ長く勤めていてほしい」との思いがより強くなり、そのためにも「職員の話を聞き、その職員に合った働き方を実現することが、長く働き続けることにつながります」と話す堀畑施設部長。今回は、その考えを実践し、職員と桜花会とで話し合い、「いま、最適の働き方が実現できている」という、70代のベテラン職員にお話を聞きました。 60代後半から働き方を変える  ライフケア大手門の開所時に、介護職員初任者研修修了のヘルパーとして入職し、勤続23年になる藤松(ふじまつ)涼子(りょうこ)さん(71歳)。入職後からこれまで、特別養護老人ホームの現場で入居者の日常生活を支えています。じつは藤松さんは、堀畑施設部長と話し合い、ここ数年で働き方と役割を変えたのです。  藤松さんは、65歳定年後も働くことを希望し、それまでと同じようにシフト勤務で夜勤も行っていましたが、「67歳くらいから身体のことを考えて、夜勤を減らしてもらい、71歳からは日勤のみになりました。役割も、いまは掃除や洗濯、時間があれば入居者との会話など、後方で支援する業務に変わりました」と話します。  現在の勤務は、週5日、9時から16時までの1日6時時間勤務です。夜勤は67歳以降、月4回から3回、2回と徐々に減らしてきました。また、介護職員は担当する入居者を決めて仕事をしていますが、藤松さんは70歳から担当を外れることになりました。  「若い職員が育っていることもありますし、日勤のみになったことにより負担が軽くなりました。希望を聞いてもらい、対応していただけたことがありがたいですし、『期待されている』ことも感じており、いまも自分にできる仕事があることがうれしいです。年齢に合った働き方ができていると思います」と藤松さん。  ふり返ると、義母を介護した際に、介護の仕事をしていた同級生の姿を見て感化され、この道を志したそうです。「この仕事が好きで、天職だと思っています。入居者の方の笑顔が何よりうれしいですね。私にはとても働きやすい職場です。毎月研修があり、私もまだまだ勉強しています。仕事をしている以上はこれからも学び続けたい」と、この仕事に対する思いを話してくれました。  現在は仕事以外に、地域の民生委員の活動も行っている藤松さん。元気の秘訣は、「ウォーキング」とのこと。  「健康に恵まれていることに感謝し、元気なうちは、ここで仕事を続けていきたいと思っています」(藤松さん)  堀畑施設部長は藤松さんについて、「現場職員からの信頼も厚く、元気で体力もあります。ただ、年齢を考慮し、本人とよく話し合って無理のない働き方へと変更を行ってきました。現在は若い職員を直接指導することはないのですが、指導者をサポートする役割をになってくれています。これからも長く働いてほしいです」と期待しています。  話合いでは、藤松さんから「どう働きたいのか」を聞き、できるだけ希望にそった働き方を具体的に提案しました。どちらかが一方的に話すのではなく、すり合わせをして、互いの納得に結びつけていったとふり返ります。 働きやすい職場づくりを継続  桜花会が大事にしている職員への取組みの一つに、「年齢にかかわらず、学ぶ機会をつくること」があります。そこで野口プランナーは、今後の研修として、JEEDの「就業意識向上研修」※を提案しました。中高年の従業員や職場管理者を対象とした研修で、例えば、高齢期の仕事やライフスタイル、マネープランを考える機会をつくるなど、研修内容や時間は事業所のニーズに合わせて企画できるものです。堀畑施設部長は、ライフスタイルを考える研修はまだ行ったことがないとのことで、提案を熱心に聞いていました。  最後に、堀畑施設部長は今後の桜花会の取組みについて次のように語りました。  「社会から求められるものはより大きくなっていく一方で、働き手は減っていく現実をとらえ、ロボット導入などにも対応しつつ、何よりもまず、職員を大事にして、今後も働きやすい環境づくりに取り組んでいきます」(取材・増山美智子) ※ 今号の「マンガで学ぶ高齢者雇用」(24ページ〜)でご紹介しています 野口博之 プランナー アドバイザー・プランナー歴:9年 [野口プランナーから] 「相談・助言活動では、企業の本音が聞けるよう、まずは短時間での信頼関係の構築に努めます。その後は、組織風土や人事の方針、求めている高齢者の社員像などをイメージしながら聞き取りを行うことを心がけています。そうすることが、結果としてお役に立つご提案へとつながると思っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆福岡支部高齢・障害者業務課の林田課長は野口プランナーについて、「訪問先企業からは、穏やか、かつていねいに、また、企業担当者の話をよく聞くことに徹して相談・助言を行ってくれると評判のプランナーです。企業の多様な要望を受け、実情に合った相談・助言を行い、課題解決に向けた具体的な制度改善提案や相談・援助に取り組んでいます。当支部からのさまざまな依頼や急な企業訪問にも、つねに真摯に対応し、その姿勢は企業訪問後の記録票にもあらわれています。当支部が信頼する70歳雇用推進プランナーの一人です」と話します。 ◆福岡支部高齢・障害者業務課は、福岡市地下鉄空港線「赤坂駅」から徒歩1分。明治通りと大正通りの交差点に位置する「しんくみ赤坂ビル」6階にあります。 ◆同県では、20人の70歳雇用推進プランナー、2人の高年齢者雇用アドバイザーが活動し、2022年度は、約1,400件の県内事業所を訪問し、相談・援助、制度改善提案活動を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●福岡支部高齢・障害者業務課 住所:福岡県福岡市中央区赤坂1-10-17しんくみ赤坂ビル6 階 電話:092-718-1310 写真のキャプション 福岡県福岡市 ライフケア大手門 堀畑寛施設部長 施設の入居者と明るい表情で話をする藤松涼子さん 【P36-37】 第84回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 日本マクドナルド株式会社 マクドナルド熊本下通店 クルー 本田(ほんだ)民子(たみこ)さん  本田民子さん(90歳)は、介護職などを経て現在はマクドナルドの熊本下通店で週5日、メンテナンスクルーとしての業務を元気にこなしている。はつらつと働く姿が若い同僚を励まし、マスコミからも熱い視線を浴びる本田さんが生涯現役で働く喜びを語る。 心を込めることを忘れずに  私は熊本県熊本市に生まれ、いままでずっと熊本で暮らしてきました。今年の2月に90歳になりましたが、自分がこれまで歩いてきた道をふり返ると、さまざまなことが次々に浮かんできます。子どものときから体を動かすことが好きだったことが、90歳になったいまも現役で働いていられることにつながっているのだと思っています。  以前は病院で介護の仕事や大学のキャンパスで清掃などをしてきました。病院では看護師補助の仕事でしたが、多くの患者さんに出会い、さまざまな人生を目にすることで、まさに自分の人生の勉強になったと思っています。心がけてきたのは、一つひとつの作業に「心を込める」ということです。ポータブルトイレや車いすに乗ってもらうときでも、心を込めて笑顔を忘れずに接すれば、こちらの気持ちが届いてスムーズに仕事が進みます。病院のリネンの仕事もしたことがあります。とにかく与えられた仕事はどんなことでも、心を込めてやってきました。  二つの病院で通算14年ほど介護の仕事にたずさわり定年を迎えました。その後は大学で7年ほど清掃の仕事に従事し、67歳で二度目の定年を迎えました。ここから私の第二の人生が始まったのです。  張りのある声で滑舌もよく、記憶の糸を見事につなげながら淡々と話す本田さん。90歳で現役ということが、周囲にたくさんの希望を与えてくれるだろう。 命の大切さを胸に  いまの仕事のお話に入る前に少し戦争のことに触れておきたいと思います。終戦は12歳のとき。終戦間際にはほとんど授業はなく私たちもお茶摘みの仕事などに動員されました。作業しているときに空襲警報が出ると、思わずお茶の葉を入れていた目籠(めかご)を頭にかぶりました。目籠は粗く編んだ竹籠で、熊本の方言では「めご」と呼んでいます。竹籠では何の役にも立たず笑い話のようですが、これが戦争というものだと子ども心に思ったものです。  1945(昭和20)年になると熊本も何度か空襲を受けますが、一番大きかったのが7月1日で、熊本大空襲と呼ばれています。熊本市街地に焼夷弾(しょういだん)が落とされ、たくさんの人が亡くなったそうです。わずか12歳ながら、戦争のことはよく覚えており、二度と戦争がないことを祈るばかりです。  私は病院での勤務が長かったため、命の大切さについては人一倍身に染みています。私自身は幸い大病もせず、90歳になったいまも元気に働かせてもらっていることに感謝しています。思えば介護の仕事もいまの接客の仕事もだれかに気持ちよく過ごしてもらうためのお手伝いという点で共通しており、そのために自分ができることを一生懸命やっていきたいと思います。  本田さんは現在、お孫さんの家族と暮らしている。本田さんの仕事を知ったひ孫から「おばあちゃん、すごか」と声をかけられた。「すごか」という熊本の方言が本田さんにぴったりだ。 第二のキャリアスタート  清掃の仕事は67歳で定年を迎えましたが、まだまだ体は丈夫だし、何よりも動くことが好きだから一日も早く働きたいと次の仕事を探していました。そんなとき娘が、マクドナルドが高齢でもクルーを募集していることを新聞で知り私に教えてくれました。すぐに電話して面接してもらい、採用が決まりました。それから気がつけば23年が経ちました。  契約は1年更新で、1年が経つたびに「また1年働ける」とうれしくなります。働かせてもらえるという感謝の気持ちだけは持ち続けたいと思っています。  仕事の内容は店内全体や機器の清掃が中心です。熊本下通店はアーケードのなかにありますから、出社するとすぐ制服に着替え、アーケードの店先の清掃から始めます。着替えると気持ちがシャンとし、仕事モードのスイッチが入ります。店までは始発のバスに乗り、バス停から少し歩きますが、これも日々の元気につながっています。  店先の清掃が終わると階段やトイレ、クルーの更衣室などの掃除です。朝7時半から10時半までの3時間、週5日の勤務です。お客さまのなかには「いつもきれいにしてくれてありがとう」、「いつまでもお元気でいてください」などと親しく声をかけてくださる方もいて、そういうときは仕事を続けてきてよかったと思います。  気持ちよく働いた後に制服を脱ぐと、今度は充実感で一杯になります。「今日もよくがんばったね」と自分に声をかけ、商店街を散策してから帰路につきます。  不思議なもので、仕事の形態は違いますが介護の経験がいまに役立っています。それは患者さんやお客さまに向きあう心だと私は思っています。介護の仕事に就いたのは、「だれかの役に立ちたい」という思いからでした。自分が働くことでだれかに喜んでもらいたいという気持ちはいまも変わらず、店内をていねいに掃除するとき、お客さまの笑顔を思いながら作業しています。  清掃の経験ももちろん役に立っており、人生において無駄な経験など何一つないと私は思います。  マクドナルドでは、多様な人材が個々の能力を発揮できる職場環境の構築を進めている。とりわけシニアへのまなざしが温かく、全国で1万人を超えるシニアクルーが元気に働いている。シニアクルーの目標の先には本田さんの姿が見えているに違いない。 働き続けられる喜び  休日は水曜日と日曜日です。趣味といえば畑いじりぐらいでしょうか。いまはトマトとピーマンが育っています。  自由な時間には、かつては4人の仲良しと一緒に食事をしたりしましたが、みんな、一足先に旅立ってしまいました。寂しいですが、店に行けば孫やひ孫の世代の人たちとおしゃべりできるので本当に楽しいです。熊本下通店では15歳から90歳まで、60人のクルーが在籍しているそうですが、みんなよい人ばかりで、私は嫌な思いをしたことが一度もありません。「会社というものは、こうでなければならない」と私は思います。みんなが仲間だという意識があれば高齢者が働きやすくなり、働く人も増えるのではないでしょうか。  先日、近所の病院で血液検査をしたら、「どこも悪いところはありません」とお褒めの言葉をいただきました。これからも健康に気をつけてここで働き続け、明日も笑顔でお客さまを迎えたいと思います。 【P38-41】 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 株式会社プライムコンサルタント 代表 菊谷(きくや)寛之(ひろゆき)  従来型のヒト基準の日本的人事制度が制度疲労を起こし、年齢や性別を問わず人材が活躍できるシンプルな雇用・人事・賃金制度に対するニーズが高まっています。今回は、役割・貢献度に応じた役割給の導入手順と、定年後再雇用賃金の設定基準を紹介します。 第4回 役割給のモデル例と定年後再雇用賃金の設定基準 1 役割給の導入・運用の手順  前回は、日本企業のメンバーシップ型の雇用・人事制度のもとで正社員にジョブ型賃金(職務給)を導入することの問題点を指摘し、柔軟な職務変更や人事配置にも対応できる「役割給」のコンセプトを紹介しました。  役割給の考え方を再確認すると、「役割」とは割りあてられ、引き受けた役のことです。組織上のポストや職責に配置された従業員は、割りあてられた業務活動を引き受け、付随する成果責任をにない、組織的な成果の実現に貢献することが求められます。会社は、役割の遂行度合を業績・行動面から評価し、組織活動への貢献度合いや市場価値を参照しながら、各人の賃金処遇を決めていきます。  役割給は通常、次のようなステップで導入・運用します。 @会社の事業戦略にふさわしい組織設計を行い、経営成果を最大化させるポスト・職責を編成する。 A組織の役割に求められる職責・成果責任の違いや、担当業務に求められる経験・熟練の違いに対応するキャリア段階に基づいて等級を区分する。 B役割等級ごとに範囲給(バンドともいう)の上限・下限を設定し、そのなかに各人のこれまでの基本給を位置づける。 C範囲給を貢献度に対応したいくつかの金額ゾーンに区分し、各人のゾーンの位置と貢献度の評価とを組みあわせて毎年の昇給・昇給停止・降給を実施する。 D事業戦略と経営目標に連動した業績評価と期待役割に基づく行動評価を組みあわせて貢献度の評価を進め、賃金の運用に連動させる。 E従業員の人員配置と昇降格を含めた役割等級の見直しを継続する。 F年月の経過とともに世間相場を参照して範囲給の水準を見直し、各人の役割と貢献度に応じた基本給のバランスをつくっていく。 2 役割等級の具体例  役割等級は、図表1のように企業規模によって4〜7段階に区分するのが一般的です。  はじめに課、チーム、営業所、店舗などの「業績責任単位」となる最小組織のユニットを考え、その責任者(課長や店長)を育成・登用するまでに何段階のキャリア・ステップを置くのが適当かを考えて、新卒入社から責任者までの等級を決めます。  上位等級は、その業績責任単位を統括する役職階層によって区分していきます。  左から、@は一般従業員を一般職・担当職・主任にわけ、単一組織を部長一人が統括する小企業で4等級に区分した例です。  Aは単位組織(課)が複数ある小企業で、管理職を課長・部長に分けた5等級区分の例です。  Bは実務職の最上位に店長・係長・職長などのリーダー職を置き、管理職を課長・部長に分けた6等級区分の例です。  Cは複数の事業部がある中堅企業で、部長の上に執行役員クラスの本部長/事業部長を置いた例です。  役割等級への個々の格づけは、 ア 上位等級の役職者は、ポスト・職責に必要な人材ポテンシャルの期待値に達しているかどうかを考慮して役職に登用し、対応する等級に格づけます。 イ 下位等級の非役職者は、担当業務に必要な仕事の経験・スキルやキャリア段階を判定し、期待役割に基づいて等級に格づけます。 3 役割給のバンド設定  次に役割等級ごとに世間相場や会社の目標額を考慮した賃金表の上限・下限を設定し、各人の役割に対する貢献度を反映させる賃金改定ルールを設けます。  一般的な役割給の昇給ルールは、バンドのなかをいくつかの金額ゾーンに区分し、各人のゾーンの位置と評価との組みあわせで昇給率を変えたり※1、公務員の俸給表のような段階号俸表をゾーンに分け、貢献度に応じた号俸改定を行う方式※2が知られています。  この解説では、もっともシンプルな手法として、昇給率や賃金表を用いず、基本給の上限・下限とゾーンの金額、昇給ピッチだけを決める「ゾーン型範囲給」のやり方を紹介します。  図表2の例は、部長がX等級、課長がW等級、主任V等級、担当職U等級、一般職T等級という5段階の役割等級に区分して役割給のバンドと昇給ピッチを設定した例です。  ここでは各人の貢献度をSABCD(Bが標準)の5段階で評価し、範囲給を対応する五つの「ゾーン」に分けています。各人の基本給は、原則として範囲給のゾーンのどこかに位置づけられます※3。  I等級のスタート金額は高卒初任給(通勤手当、固定時間外手当などを除く基本給部分)を想定した17万円とし、上限額を28万1000円としました。バンドのなかを、下からD、C、B、A、Sという五つのゾーンに分け、それぞれの上限額を決めています。各等級の上限・下限額と各ゾーンの金額は任意に設定できます。  この例では、仕組みをシンプルにするため、図のように等級が上がる都度ゾーン別の金額を階段状に二つずつ増やし、各等級のゾーンが重複する「2段階一致」の設定にしています。  今後は構造的な絶対的人手不足が続くことを考えると、これまでの抑制的な賃金ポリシーから脱却し、生産性の裏づけに基づく競争力のある賃金水準を設定する必要があります。  一般的には、下位等級では生活給としての必要水準や仕事の習熟を考慮した世間相場を参照し、上位等級では管理職の基本給部分(管理職手当や役職手当などを除く)の世間相場を参照し、それぞれ貢献度の違いによるメリハリの利いた賃金待遇が行える上下幅を設定します。どの等級のどのゾーンに自社の社員がいるのかについても個別にチェックし、他社と比べた採用競争力や、社員が将来に励みが持てる目標賃金を設定する必要があります。 4 役割と貢献度に応じた賃金バランスを実現する「段階接近法R」  昇給は、図表2の( )に表示したT等級1600円〜X等級4900円のように、等級別に「昇給単位」(昇給ピッチともいいます)の金額を決めておきます。昇給単位は、従業員の定着と能力開発を重視する低い等級では細かいピッチとし、賃金水準の高い上位等級はピッチを大きくして昇給額のメリハリをつけるよう工夫します。  毎年の昇給は、各等級の昇給単位に、図表3の賃金ゾーン位置と評価との組みあわせによる「昇給倍率」を掛け算して決定します。  図表3の下表でT等級の昇給単位1600円を例にとると、一番賃金の低いDゾーン(図表2の基本給19万円未満)では、S評価の5倍8000円からD評価の1倍1600円まで昇給額に差がつきます。  同じ評価で比較すると、低いゾーンでは昇給額は大きく、ゾーンが高くなるにしたがい昇給額は小さくなり、評価に対応するゾーンの上限に達したら昇給しなくなります。ゾーンより評価が低いときは昇給ゼロまたはマイナス昇給になります。  このような昇給ルールの運用を毎年続けると、徐々に各人の役割と貢献度にふさわしい基本給の水準へと段階的に接近し、いずれはその上限額に収れんします(段階接近法R)。  昇給単位は会社業績や世間の賃上げ動向を配慮して、任意に変えられます。  昇給単位の金額を小さくすると会社全体の昇給額・率が減り、逆に昇給単位の金額を大きくすると全体の昇給額・率が増えます※4。 5 均衡待遇に配慮した再雇用賃金の決め方(賃金換算表方式)  定年再雇用者については、正社員の役割給に準拠しつつ、定年後の新たな職務内容に応じた役割等級と働き方の制約に応じて、定年前の基本給に図表4の賃金支給率(%)を掛け算して再雇用賃金の基本給部分を算定します。  参考までに、定年前の基本給がW等級係長・職長クラス35万円の従業員Xさんに対して、再雇用の支給率をあてはめた計算例を下段に示しました。例えば再雇用後、V等級の類似業務に転換する場合の賃金支給率は80%で、35万円×80%=28万円が再雇用の基本給となります。  パートタイム・有期雇用労働法第8条に規定された「均衡待遇」の判断基準に沿って、定年再雇用者の賃金を減額できる理由を整理すると、@職務内容の軽減による減額、A働き方や人材活用の制約に基づく減額、Bそもそも定年まで勤務し退職後に再雇用された者であるという「その他の事情」として判示された減額に分けられます。  この賃金換算表の縦軸@は、定年後の職務内容(業務の内容および業務にともなう責任の程度)を確認したうえで、「職務変更にともなう減額率」の基準ア〜エにより、定年前の賃金に対する賃金の減額率(0%〜-20%)を判定します。  次に横軸Aは、定年後の働き方や人材活用の制約(職務内容および配置の変更の範囲など)に応じて、「賃率」を調整する判断基準を示します。  定年後も正社員のまま同じ仕事を継続し、職務内容も働き方もまったく変わらない勤務延長の賃率は100%(正社員と同一待遇)です。  定年再雇用者については、ジョブ型賃金の世間相場に準拠するという賃金待遇の方針に基づき、定年前と基本的に職務内容も働き方も変わらない場合の賃率を90%に設定しました(さまざまな事情を考慮し設定)。このあたりの判断は会社の賃金水準や、定年再雇用者の人材活用方針による裁量の範囲でしょうが、会社の賃金水準がそれほど高くない場合は、勤務延長と同じ賃率100%も検討すべきかと思います。  換算表の縦軸の減額率と横軸の賃率をあわせた再雇用の賃金支給率は最高90%〜最低60%となり、この例では、定年前の賃金35万円に対して最高31万5000円〜最低21万円という再雇用賃金となります。  次回は、正社員の役割給の賃金表を準用し、契約更改の都度、本人の役割(例えばV等級)に対する実績評価や働き方の見直しを行って、新たな再雇用賃金を提示するジョブ型賃金の運用方法について事例を交えて解説します。 ※1 「エルダー」2023年7月号(42ページ、図表1)参照 ※2 菊谷寛之『役割貢献の評価と賃金・賞与の決め方』(労働調査会)第4・5章参照 ※3 例外的に下限額に届かない場合は「E」、上限額を超えた場合は「S+」とゾーンを表記します。個々の社員が「どのゾーンにいて」、「どんな貢献度の評価をとるか」で、昇給、昇給停止、マイナス昇給を行い、この範囲給一本で基本給(役割給)を決めます。ほかの「職能給」や「年齢給」、「勤続給」などの併存型の基本給項目は使いません ※4 範囲給の上限額の設定によっても従業員の昇給率は大きく変わります。わかりやすくいえば、会社の平均基本給に比べて、標準的なB評価の上限額(図表2参照)を高めに設定すれば、全体の昇給率は増加します。逆に平均基本給にB評価の上限額を近づけると、全体の昇給率は大幅に抑制されます 図表1 役割等級のパターン 役割等級の区分と呼称を決める ・組織運営・人事配置・等級格付の基本フレーム ・評価制度、賃金制度、昇進・昇格など待遇基準の主軸 ・役割等級は身分的な呼称でなく、組織上の責任役職と等級区分を1対1で対応させる @4等級の例 (単一組織の小企業) 等級 役職 W 部長(管理職) V 主任(指導職) U 担当職 T 一般職 A5等級の例 (複数部門の小企業) 等級 役職 X 部長(経営管理職) W 課長(業務管理職) V 主任(指導職) U 担当職 T 一般職 B6等級の例 (中小企業) 等級 役職 Y 部長(経営管理職) X 課長(業務管理職) W リーダー(業務推進職) V 主任(指導職) U 担当職 T 一般職 C7等級の例 (中堅企業) 等級 役職 Z 執行役員本部長(経営管理職) Y 部長(部門管理職) X 課長(業務管理職) W リーダー(業務推進職) V 主任(指導職) U 担当職 T 一般職 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表2 等級別の範囲給(バンド)の設定例(円) ゾーン別の上限額 170,000 190,000 212,000 234,000 257,000 281,000 306,000 332,000 360,000 389,000 419,000 451,000 485,000 520,000 役割のグレード 2段階一致のバンド設定 (下位等級のA=上位等級のC) 細かな金額ステップ S A B C D (1,600) T S A B C D (2,100) U S A B C D (2,800) V S A B C D (3,700) W S A B C D (4,900) X 粗い金額ステップ (注)等級の下の( )書きは、等級別の昇給単位である。 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表3 役割給のゾーン別・評価別昇給ルール ●昇給倍率の基準(段階接近法R) 賃金↓ S評価 A評価 B評価 C評価 D評価 Sゾーン +1 0 -1 -2 -3 Aゾーン +2 +1 0 -1 -2 Bゾーン +3 +2 +1 0 -1 Cゾーン +4 +3 +2 +1 0 Dゾーン +5 +4 +3 +2 +1 (注)1.上限額(各ゾーンのちょうど境目の金額)では上位ゾーンの昇給倍率を適用する 例:Aゾーンの上限額(図表2参照)でA評価、Bゾーンの上限額(同)でB評価はそれぞれ昇給ゼロとする 2.A評価はAゾーンの上限、B評価はBゾーンの上限を超えないように昇給額を調整する ●昇給額の計算(昇給単位×昇給倍率=昇給額) T 等級の昇給単位1600円 賃金↓ S評価 A評価 B評価 C評価 D評価 Sゾーン 1,600 0 -1,600 -3,200 -4,800 Aゾーン 3,200 1,600 0 -1,600 -3,200 Bゾーン 4,800 3,200 1,600 0 -1,600 Cゾーン 6,400 4,800 3,200 1,600 0 Dゾーン 8,000 6,400 4,800 3,200 1,600 U 等級の昇給単位2100円 賃金↓ S評価 A評価 B評価 C評価 D評価 Sゾーン 2,100 0 -2,100 -4,200 -6,300 Aゾーン 4,200 2,100 0 -2,100 -4,200 Bゾーン 6,300 4,200 2,100 0 -2,100 Cゾーン 8,400 6,300 4,200 2,100 0 Dゾーン 10,500 8,400 6,300 4,200 2,100 (注)『段階接近法R』は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表4 定年再雇用の賃金換算表の例 例:定年前賃金350,000円(W等級係長・職長クラス)の場合 @職務内容の変化 A働き方や人材活用の制約(職務内容および配置の変更の範囲など) 職種転換 職務内容(業務の内容および業務にともなう責任の程度) ↓役割等級 ↓職務変更にともなう減額率 賃率→ 勤務延長(参考) 定年再雇用 まったく変わらない (100%) @再雇用という事情以外は基本的に変わらない (90%) A働き方や人材活用が若干限定される (85%) B働き方や人材活用が大きく制約される (80%) A同じ仕事を継続 ア 変わらない 等級変更なし 0% 100% 90% 85% 80% 350,000 315,000 297,500 280,000 イ 一部業務を軽減・免除するが基本は変わらない 等級変更なし -5% 95% 85% 80% 75% 332,500 297,500 280,000 262,500 B類似業務に転換・業務軽減 ウ これまでの経験・知識・能力を活用できるやや軽易な業務を担当する場合 1等級降格 -10% 80% 75% 70% 280,000 262,500 245,000 C異質な職種に転換 エ これまでのキャリアとは無関係で職務内容も異質な軽易業務に転換する場合 当該等級を適用 -20% 70% 65% 60% 245,000 227,500 210,000 (注)@の職務内容の変化に対応する「減額率」を、Aの働き方や人材活用の制約に対応した賃率と合計し、個別の賃金支給率を決定する。 (賃金支給率=減額率+賃率) c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第63回 熊本総合運輸事件最高裁判決、役職定年制 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 歩合給と固定残業代を組みあわせて支給することに問題はありますか  歩合給と固定残業代を組みあわせて支給する方法について、現在の裁判所がどのように考えているのか教えてください。 A  実質的に、時間外労働に対する割増賃金による賃金増額が生じないような支給方法は、許容されていません。 1 熊本総合運輸事件について  2023(令和5)年3月10日、最高裁で固定残業代に関する新しい判決(熊本総合運輸事件)がありました。事案の概要としては、トラック運転手として勤務していた労働者が、時間外労働、休日労働および深夜労働(以下、「時間外勤務等」)に対する割増賃金等および付加金の支払いを求めて訴えたというものです。  この事案においては、時間外勤務等に対する割増賃金の支給にあたっての計算方法が複雑になっています。支給項目は、図表1の通りであり、割増賃金の基礎単価になる「通常の労働時間の賃金」に該当するものは、@〜Bのみとしていました。そして、CおよびDが割増賃金の総額(E)となり、@〜Dの合計がF賃金総額となります。  C割増手当は、@〜Bを割増賃金の基礎単価としたうえで、現実に行った時間外労働等に対して支給が義務付けられる割増賃金を計算した結果の金額になります。一方で、D調整手当は、E割増賃金総額からC時間外手当を控除した額と一致するように、EからCを控除した金額によって計算することとされていました。そのため、F賃金総額は、時間外労働の時間数に関係なく、定額となるよう調整されていました。  なお、平均的な時間外労働は月あたり80時間弱となっていましたが、この制度のもとで、割増賃金が追加で支給されることはなかったようです。 2 控訴審における結論について  固定残業代は、時間外割増賃金の支払い方法として有効になり得るものと判断されてきました。最高裁においても、「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる」として固定残業代自体を許容しつつ、その有効となる要件として、「使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」と判断しています。  最高裁判決では、(1)時間外労働の対価であること(対価性)および(2)「通常の労働時間の賃金」と「割増賃金」を判別できること(明確区分性)のいずれもが必要とされています。  (2)については、基本給などを割増賃金計算の基礎となる「通常の労働時間の賃金」としたうえで、別途手当として「割増賃金」を支給することで充足することができそうであり、熊本総合運輸事件の控訴審でも、このことから、固定残業代が割増賃金として区別されており、判別可能であるということを前提に、労働基準法第37条に基づき支給が必要な割増賃金が支払われたものということができるという結論に至り、使用者の主張を一部認める判断をしていました。 3 最高裁の判断  本件について最高裁は、控訴審判決の結論を是認することなく、結論を覆し、固定時間外手当は割増賃金の対価として支払われたとはいえないと判断しました。  おもに問題となったのは、D調整手当は、C時間外手当の計算結果と完全に連動しており、Cが定められれば、必然的にDが確定するという関係にある点です。  このような区別について、C時間外手当とD調整手当は、区別されているものの、結局、一体として合算した金額が一つの趣旨(時間外割増賃金に対する対価の支払い)を有しているというほかないと判断されました。結局のところ、C時間外手当+D調整手当=実質的な固定残業代となっていたということです。  そして、「その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、(中略)賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金(※筆者注:Eに相当する賃金のこと)に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべき」と判断されています。  その前提として、C時間外手当およびD調整手当の合計額が、労働基準法第37条に定める割増賃金として支給されており、超過した金額が支払われることがまったくなかったことからすると、平均80時間弱という時間外労働を前提として算定される金額を上回る調整手当が支給されていることになります。そのため、実際の勤務状況に照らして想定しがたい程度の長時間の時間外労働などを見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系になっていることになり、時間外労働の多寡と直接関係なく決定されるF賃金総額を超えて労働基準法第37条の割増賃金が発生しないようにすることを目的としていると評価されました。  そのような状況に加えて、Eには、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解釈するほかないとされ、どの部分が時間外労働等に対する対価にあたるかが明確になっているといった事情もうかがわれないとして、労働基準法第37条の割増賃金にあたる部分を判別することができないことを理由に、固定時間外手当としての効力が否定されました。 4 対価性の要件とは  固定残業代の対象とする手当に、割増賃金の前払いとしての趣旨以外を含めてしまうと、時間外労働の対価である部分とほかの性質の部分が混濁してしまうことがあります。  紹介した最高裁判決には複雑なところがありますが、結局のところ、E割増賃金総額のなかに、通常の労働時間の賃金に相当する部分が含まれていることから、その部分と割増賃金に相当する部分が混濁しており、時間外労働の対価であるといい切れなくなった点が、固定残業代の効力が否定された一つの要因となっています。  なお、当該最高裁判決の補足意見においては、固定残業代制度の有用性がある側面も認めつつも、「固定残業代制度の下で、その実質においては通常の労働時間の賃金として支払われるべき金額が、名目上は時間外労働に対する対価として支払われる金額に含まれているという脱法的事態」を認めるべきではないとしており、本件のような仕組みを固定残業代へ取り入れることにはきわめて否定的な意見が出されています。 Q2 役職定年制について教えてほしい  70歳までの就業機会の確保が努力義務とされるなど、労働者の年齢が高齢化する一方で、役職が不足することになり、このままでは人件費の総額も底上げされ続けることになります。就業機会の確保をしつつ対応するための方策は何かあるのでしょうか。 A  年齢にあわせて役職を解く方法で賃金などを減額する方法は合理性が認められやすい傾向にあります。役職定年制を導入して、高齢者の稼働や責任を減らしつつ、賃金の適正化を図ることが重要と考えられます。 1 役職定年制  役職定年制とは、従業員が一定の年齢に達したときに部長、課長などの役職を解く制度をいいます。組織の新陳代謝を図り、人員の増加にともなう賃金支払総額の抑制を目ざした制度として導入されます。  役職定年制により賃金が減額される労働者がいる場合には、就業規則が不利益に変更されることになるため、その不利益変更には合理性が必要とされています。自社が役職定年制を導入する目的を明確に設定しておくことは、役職定年制導入が可能となるか否かにとって重要な出発点となります。 2 役職定年制自体の合理性について  役職定年制自体の合理性について、役職定年制に関する裁判例のリーディングケースとして、最高裁平成12年9月7日判決(みちのく銀行事件)があります。  この判例においては、55歳に到達した職員を役職から解き、専任職という新たに創設された職務に就かせるという制度に関して、「55歳到達を理由に行員を管理職階又は監督職階から外して専任職階に発令するようにするものであるが、右変更は、これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものとは認められない。したがって、本件就業規則等変更は、職階及び役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることが相当である」と判断しています。  したがって、就業規則において役職定年制を導入する場合には、合理性が認められると考えられます。ただし、その場合でも、「賃金の減額を除けば」という留保が付されていることから、賃金の減額幅が大きい場合には、合理性が否定される可能性があります。 3 役職定年制に基づく賃金減額について  近年の事例において、57歳が部長職にとっての役職定年と定められ、従業員が役職定年を迎えると、部長の役職から離脱し、以降、専任部長とされ、役職手当が支給されなくなるという制度を設けていたところ、当該役職定年が適用された労働者が、不利益変更であり無効であるとして争ったという事案があります(東京地裁令和2年8月28日判決)。労働者は、役職の有無にかかわらず、業務内容などの事情に変化がないことなどを理由として、減額前の賃金を支給するように請求していました。  裁判所は、会社が、「役職定年制度規程に基づく役職定年制度が設けられており(中略)部長職の役職は57歳が役職定年とされ、部長職にあった従業員は、役職定年による役職離脱日(役職定年に到達した直後の期末)を迎えると、部長の役職から離脱し、以降、専任部長とされるものとされている(役職離脱に伴い、役職手当の支給はなくなる。同規程8条第2文ただし書。)」ことを前提に、当該役職定年規程が、就業規則としての周知が行われていたことや、当該役職定年規程の内容や目的が「役職人事の円滑化と若手社員の登用による組織の活性化と競争力の強化を図る」としていたことに照らし、相応の合理性を認めることができるとして、役職定年制の有効性を肯定し、賃金の減額も認めました。 4 役職定年後の地位と処遇について  役職定年後の賃金減額が有効と認められやすいとしても、定年退職後に契約社員として雇用を継続する場合には、同一労働同一賃金の観点からの再検討も必要となります。  紹介した各裁判例においては、役職定年制の適用により、役職から退いた労働者は、専任職階や専任部長という地位になるとされています。これらの「専任」という言葉は、主として、一般職に急激に降格することを回避するために、技術や能力を有する労働者が、新人教育や指導に従事するといった経験を活かすことができる職種として位置づけることが想定され、またそれは理想的でもあります。  一方で、専任職階や専門職といった名称と合致しない形で、責任者としての地位の後任が育っておらず、従前の業務を継続してしまうようなことがあると、問題があります。定年を迎えるまでの間は、期間の定めのない労働者同士の同一労働同一賃金の制度がないことから、役職定年が適用される結果、賃金の減額は肯定されやすいと考えられますが、それでも、業務内容や責任の程度が同一のまま、役職定年規程を杓子定規に適用して賃金が減額されることになると、人事権としての裁量を逸脱し、違法と判断される可能性は残るでしょう。  また、定年後に契約社員となると、同一労働同一賃金の制度が適用され、正社員と比較されることになります。定年後もなお、業務の内容が同一のまま維持されるような事態に陥れば、このような場合にも、賃金の減額が違法と判断される可能性が残ります。  前記のように後任が育っていないような場合には、役職定年制によって組織の新陳代謝を図るべき状況にあるとはいえないうえ、賃金支払総額の抑制が必要な場面に至っていないともいえそうです。そのため、役職定年制を形式通りに適用することなく、適用を延長しつつ対応するといった方法も考えておく必要があるように思われます。 【P46-47】 スタートアップ×シニア人材奮闘記 株式会社Photosynth(フォトシンス)取締役 熊谷(くまがい)悠哉(ゆうや)  起業したばかりのスタートアップ企業においては、はじめてのことばかりで経営や事業にはうまくいかないことや課題にぶつかることが数多くあります。そこで、「スタートアップ企業にこそ、経験豊富で実務のノウハウを持ったシニア人材が必要」という声もあり、実際に、その経験を活かしてスタートアップ企業で働く高齢者も増加しています。  このコーナーでは、スタートアップ企業に必要なシニア人材をどう見出し、活用し、活躍に結びつけていくかについて、実際にスタートアップ時にシニア人材を採用し、現在も活躍中である、株式会社Photosynthの熊谷悠哉取締役に、当時をふり返りながらシニア人材活用のポイントについて語っていただきます。 第3回 シニア人材との一体感でアドバイス以上の成果を獲得 半年で試作品をつくりあげるも量産化には自分たちの知見だけでは限界が  前回までは、当社のスタートアップにあたってシニア人材に何を求め、どのように採用・契約したのかをお話ししてきました。今回からは製品の開発段階から安定生産に至る過程で、実際に役立ったシニア人材ならではの知見や考え方、仕事に対する姿勢がもたらした結果などについてご紹介したいと思います。  深谷(ふかや)弘一(ひろかず)さんというシニア人材と出会えたことで、量産化に向けたさまざまな課題をクリアできたのですが、もう一度当社のスタートアップ当時のことを時系列にそってふり返ってみたいと思います。  まず、「物理的な鍵ってイケてないよね」という話から、いままでにない形のスマートロックの開発が始まりました。最初のプロトタイプ(試作品)はエンジニア経験者4〜5人で開発しました。IoT製品なのでハードウェア、組み込みソフトウェア、スマートフォンアプリ、Webアプリ、クラウドインフラなど広範囲をカバーする必要がありましたが、各領域を一人または兼務で担当することで、なんとか半年ほどでつくりあげることができました。  試作品の完成をSNSや新聞に取り上げていただき資金調達が可能になったのですが、そのころには、量産品の開発には自分たちの知見では限界があるだろうということに気づき、シニア人材を求めたという経緯です。 試作品まではコンセプトファーストで量産へ向けた課題にはシニア人材を活用  試作品が完成するまでは「鍵をデジタル化する」、「スマートフォンとBluetoothで通信する」、「モーターやセンサーでロックを動かす」という要素技術にフォーカスして、機能を絞って短期間でつくりあげました。そのため消費電力や筐体(きょうたい)の小型化、耐久性や製造コストといった量産化には避けて通れない大切な要素は後回しになっていて、この欠けた要素を追求するためには「回路設計」が重要になっていました。  例えば、量産品は何カ月も電池交換せずに安定して動くというレベルが求められるので、マイクロアンペアの単位で「ごく微小な電流を短い時間だけ使う」といった回路が必要になってきます。  また、筐体が大きいとドアノブなどと干渉して設置できる場所がかぎられてしまうので、限界まで小型でスタイリッシュに、というミッションもありました。そうすると筐体に収められる基盤の形状やサイズがかぎられてきます。そこに電力効率のよい回路をどう収めるのか、といった複雑な課題がいくつも見出されてくるのです。  しかも、これらの課題解決の前に立ちはだかっていたのは、量産化までの期限が半年≠ニ決められていたことでした。  もちろん、この課題はすべてを避けて通ることはできず、全部解決しなければならないため、たった半年という短い期間のなかで、その一つひとつに対して、深谷さんと一緒に「どこに問題があるのか?」にまでさかのぼって原因を探したり、問題点がみえたときに「どうやってそこを改善していくのか?」を議論したりと、本当に一体となって粘り強くクリアしてきました。  ふり返れば、20代の若者が日々徹夜してワイワイやっている空間に、シニア人材の深谷さんが定期的に来社して、そこで違和感なく議論や作業をしながら解決策を一緒に見出していく、という不思議なひとときだったと思います。 開発者の信念に基づいたアドバイスは期待値を超える結果をもたらした  この段階で深谷さんの知見が活かされた事例としてあげられるのが、シミュレーターを活用した回路設計です。「回路のシミュレーター」とは、設計した回路に発生する電圧や波形を実験ではなくコンピュータ上で計測するツールです。現在は、開発予算や期間の削減のために使うことがあたり前になっています。当時の私も使いたいと考えていましたが、最新のソフトウェアの使い方を深谷さんから教えていただいたことが印象的でした。  これは深谷さんご自身が、もともと開発者として「無駄な試作をなるべく減らす」という信念をお持ちで、設計段階で少しでも精度を上げていくことをとても重要視されているために使われていたツールです。  これは推測ですが、海外での教育経験から、こうした技術についてもワールドワイドなトレンドに合わせてずっとキャッチアップしていたり、あるいは海外の現場で使われていたことがあった、といった知見が活かされているのかなと思います。  一般的なアドバイザーとしては「回路の設計段階ではこういうことを考慮すべき」というところまでを教えてくれるのが基本的な期待値だと思います。しかし、それ以上にシミュレーターの活用をすすめるとともに使い方も教えてくださり、そのうえ自らやって示してくれるといったところは、いわゆるアドバイザーへの期待値を超えた、深谷さんならではのスキルです。  そしてもうひとつ深谷さんが大きくかかわったのが電子部品の選定です。量産品ではすべての部品に高いQCD(クォリティ・コスト・デリバリー)が求められますので、性能はもちろん、できるだけコストが低く、安定して供給される部品が必要です。それには海外を含めたメーカーや商社に関する深谷さんの知見が大きく役立ちました。その部品の電気的な特性や、形やサイズなどについて多くのアドバイスを得て、最適な部品を調達することができました。  こうして本当にギリギリではありましたが、半年間での量産化を達成するという当社のミッションクリアに大きく貢献していただきました。 つづく 写真のキャプション 右端が最初期の筐体モック。試作をくり返し、左にいくにしたがい筐体が小さくなっていった。単3乾電池の隣が実際の製品(写真提供:株式会社Photosynth) 【P48-49】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第37回 「人的資本」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  人的資本は、2020(令和2)年9月に経済産業省が人材戦略のあり方について提言した「人材版伊藤レポート」(以下、伊藤レポート)※1を公表して以降、注目度が高まった用語です。本稿では、用語の定義や背景、取組みについて基本的な点を解説していきます。 人は資源≠ナはなく資本  人的資本とは何かですが、「人的資本可視化指針」※2という資料には「人材が、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である『資本』としての性質を有することに着目した表現である」と記載してあります。簡単にいうと、人材に投資することで人材価値を引き出し、持続的な企業の成長につなげるという考え方です。企業として組織的に行うことを人的資本経営といいます。  人的資本と似て非なる用語である人的資源(企業経営のために人や個人のスキル・能力を管理し活用していく考え方)との違いに着目するとわかりやすいと思います。大きな違いは、人的資源は人材を「管理・コスト」対象としてとらえますが、人的資本では人材を「価値創造・投資」としてとらえる点にあります。伊藤レポートでは、人材マネジメントの目的を人的資源から人的資本に変えることで、人事の位置づけが人事諸制度の運用改善から持続的な企業価値の向上へ変化することや、主導者が人事部から経営陣に変わること、雇用が終身雇用から企業・応募者間で選び選ばれる関係になるなどの人事全般の変革≠ノつながっていくことが示されています。 人的資本への転換は環境変化対応に不可欠  それでは、なぜ人的資本への転換の必要性が説かれるようになったのでしょうか。そこには近年の社会や企業を取り巻く大きな環境変化がかかわっています。伊藤レポートでは、グローバル化・デジタル化・人生100年時代(少子高齢化)、新型コロナウイルスへの対応を取り上げています。いずれの環境変化も速度が激しく、従来の常識や成功体験にとらわれていると対応しきれずに、ともすれば社会全体が淘汰されてしまうという危機感が年々強くなっています。正解が見出しにくい状況下で、危機を打破できるのは柔軟な発想でスピード感をもって変革できる人材であり、これらの力を最大限に引き出し、企業もビジネスモデルも創造的かつ柔軟に変えていかなければならないとの課題認識が人的資本への転換の必要性の背景になります。また、従来の日本企業の人事は管理の側面が強く、環境変化へ十分に対応しきれていなかった反省も背景としてあることを理解しておきたいところです。 人的資本の実践に向けて何をすべきか  定義と背景を押さえたところで、人的資本の実践に向けて何をすべきかについて見ていきたいと思います。2022年5月に公開された「人材版伊藤レポート2・0」では、図表のように八つの取組み視点とそれぞれの取組み項目が記載されています。具体的には伊藤レポート2・0を読んでいただければと思いますが、図表で概要はつかめると思います。ただし、取組み内容の策定と実践にあたりいくつかのポイントがあるためここで記載します。 ・事業内容や置かれた環境によって有効な打ち手は異なるため、チェックリスト的に取り組むものではないこと。 ・最も重要な視点は「経営戦略と人材戦略の連動」であり、ここに掲げる取組みに着手することが第一歩であること。 ・課題を特定し、優先順位をつけ、改善を重ねていく絶え間ないサイクルを中長期的な観点で実施すること。  特に、「経営戦略と人材戦略の連動」は、人的資本の趣旨に則れば、環境変化が激しいなかで企業を成長させるためには、経営戦略とそれを実現するための人材戦略を表裏一体で策定し、実行することが必要不可欠です。個別の取組み施策を考えるよりもはるかにむずかしいのですが、社内で最も時間と労力をかけて検討すべき部分となります。  取組み内容の策定と実践に並行して重要なのは、内容や結果を可視化して、投資家や社員に示すことです。社内外の目に触れることにより、より真剣に実践することが期待されます。特に、上場企業においては今後、企業を持続的に成長させていけるかどうかを投資家が判断するための重要な要素となります。そのため、2023年3月期の有価証券報告書より、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金差異のほか、人材育成方針、社内環境整備方針およびこれらに関する指標を用いた目標・実績などの項目について、人的資本の情報を記載するよう義務づけられるようになりました※3。個社別の取組み内容や状況については、今後はこの開示情報が参考になると思われます。  次回は「就業機会の確保」について解説します。 ※1 正式名称は、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書〜人材版伊藤レポート〜」 ※2 内閣官房「人的資本可視化指針」(2022年8月) ※3 開示にあたり求められる内容については、根拠法に基づく 図表 「人材版伊藤レポート2.0」の全体像 1.経営戦略と人材戦略を連動させるための取組 @CHROの設置 A全社的経営課題の抽出 BKPIの設定、背景・理由の説明 C人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上 Dサクセッションプランの具体的プログラム化 (ア)20・30代からの経営人材選抜、グローバル水準のリーダーシップ開発 (イ)候補者リストには経営者の経験を持つ者を含める E指名委員会委員長への社外取締役の登用 F役員報酬への人材に関するKPI の反映 2.「As is - To beギャップ」の定量把握のための取組 @人事情報基盤の整備 A動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定 B定量把握する項目の一覧化 3.企業文化への定着のための取組 @企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義 A社員の具体的な行動や姿勢への紐付け BCEO・CHROと社員の対話の場の設定 (出所)経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」(人材版伊藤レポート2.0)(2022年5月)を基に作成。 4.動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用 @将来の事業構想を踏まえた中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析 Aギャップを踏まえた、平時からの人材の再配置、外部からの獲得 B学生の採用・選考戦略の開示 C博士人材等の専門人材の積極的な採用 5.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組 @キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング A課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有 6.リスキル・学び直しのための取組 @組織として不足しているスキル・専門性の特定 A社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播 Bリスキルと処遇や報酬の連動 C社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等) D社内起業・出向起業等の支援 7.社員エンゲージメントを高めるための取組 @社員のエンゲージメントレベルの把握 Aエンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント B社内のできるだけ広いポジションの公募制化 C副業・兼業等の多様な働き方の推進 D健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み 8.時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組 @リモートワークを円滑化するための、業務のデジタル化の推進 出典:内閣官房(2022)「人的資本可視化指針」 【P50-53】 特別寄稿 60歳代後半層の活用と人事管理の整備 玉川大学 経営学部教授 大木栄一 1 企業外のさまざまな要因から影響を受ける人事管理  企業の人事管理は企業外のさまざまな要因から影響を受ける。特に重要な要因が三つあり、一つは、労働市場からの影響である。二つは、社外の労使関係である。毎年の春闘で決まる賃上げ率は基本給の決まり方(人件費総額)に大きな影響を与える。三つは、労働関係の法律や政府の政策であり、それによって人事管理の基本的な枠組みが規制されている。例えば、法律によって、採用管理では募集や労働の契約の仕方、労働条件では労働時間の長さや制度の仕組み、退職管理については、定年年齢や解雇の仕方にかかわる基本ルールが決められている。特に、個々の労働者と使用者との雇用関係を規制し、労働者が働くうえでの条件の最低基準を設定している高年齢者雇用安定法による定年年齢の規制の変更は、退職管理だけでなく、人事管理のあり方に大きな影響を及ぼしてきた。  2020(令和2)年の高年齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用確保義務に加えて、個々の労働者の多様な特性やニーズをふまえ、65歳から70歳までの就業機会の確保のための多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの高年齢者就業確保措置を講じる努力義務が課されることになった。具体的には、@70歳までの定年引上げ、A70歳までの継続雇用制度の導入、B定年廃止、労使で同意したうえでの雇用以外の措置(C継続的に業務委託契約する制度、D社会貢献活動に継続的に従事できる制度)の導入のいずれかがあげられる。  こうした高年齢者雇用安定法の改正および若年労働力の減少などによる労働市場の需給状況の変化により、60歳代後半層の活用(雇用)がクローズアップされてきた。ここでは、企業を対象にしたアンケート結果の分析(詳細については執筆者が参加した(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)(2023)『高齢期の人事戦略と人事管理の実態〜60歳代後半層の雇用状況と法改正への対応』※を参照)を通して、第1に、60歳代後半層の雇用状況と雇用している企業の特徴、第2に、定年制の状況に注目して、「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」に限定して、60歳代後半層を雇用しているのはどのような企業か、最後に、60歳代後半層が活躍するには、どのような人事管理が整備される必要があるのか、を紹介する。 2 60歳代後半層の雇用状況と雇用している企業の特徴  自社内で雇用する「65歳以降の社員(59歳以前に「正社員」として雇用していた者)」が在籍する(「いる」)企業は74.7%である。雇用している企業における人数の平均値は23.1人、全社員数に占める「65歳以降の社員」の割合は平均すると5.1%になる。  また、「65歳以降の社員」を雇用していない企業を含めて「65 歳以降の社員」の人数を計算(雇用していない企業の人数を「0」人として計算)すると、その平均値は17.1人になり、全社員数に占める「65歳以降の社員」の割合は平均すると3.7%になる。全社員数に占める「60歳代前半層の社員(59歳以前に「正社員」として雇用していた者)」の割合の平均値が6.3%であり、「60歳以降の社員(59歳以前に「正社員」として雇用していた者)」は全社員の約1割を占める大きな社員集団であることがわかる。  65歳以降の社員を雇用している企業の業種は「製造業」が30.5%で最も多く、ついで、「卸売業、小売業」、「サービス業」、「運輸業、郵便業」、「建設業」がこれに続いている。なお、これまでの企業を対象にしたJEEDのアンケート調査で「宿泊業、飲食サービス業」は65歳以降の社員を雇用している比率が高い傾向にあったが、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたため、比率が低くなっているかもしれないので、注意が必要である。こうした雇用をしている企業の業種について制度別にみると、「定年65歳以上」の企業で「運輸業、郵便業」および「サービス業」、他方、「定年64歳以下&継続雇用65歳以下」の企業で「製造業」および「卸売業、小売業」、が多くなっており、定年制+継続雇用の状況により雇用している企業の業種が異なっていることがわかる。他方、従業員規模別の特徴をみると、正社員数「101〜300人」が60.0%を占めている。  また、最も多い職種は「専門・技術職」が最も多く、次いで、「生産・運輸・建設等の現業職」、「事務職」、「営業・販売職」、「サービス職」の順になっている。こうした雇用をしている最も多い職種について、定年制+継続雇用の状況別にみると、「定年65歳以上」の企業で「生産・運輸・建設等の現業職」、他方、「定年64歳以下&継続雇用65歳以下」の企業で「専門・技術職」および「事務職」が多くなっており、定年制+継続雇用の状況により雇用している最も多い職種が異なっていることがわかる。 3 「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」で60歳代後半層を雇用しているのはどのような企業か  以下では、現時点で、改正高年齢者雇用安定法の条件(努力義務)を満たしていない「定年64歳以下&継続雇用65歳以下」の企業(1912社)に注目する。「定年64歳以下&継続雇用65歳以下」の企業で、自社内で雇用する「65歳以降の社員」(59歳以前に「正社員」として雇用されていた者)が在籍する(「いる」)企業は68.0%である。  60歳代後半層を雇用しているのは、どのような特徴をもった企業であるのかを明らかにするためには、以下の四つの点が重要であると考えられる。第1に、基本的なことであるが、企業の従業員(特に、正社員)がどのような仕事に多く就いているのかを表している業種とどのような仕事が多くあるのかを表している従業員規模(特に、59歳以前に「正社員」として雇用していた65歳以降の社員の雇用の有無を明らかにするので「正社員数」が望ましいと考えられる)から接近する必要がある。  第2に、「65歳以降の社員」の雇用の有無は、企業の60代前半社員(59歳以前に「正社員」として雇用されていた者)の活用方針(第一線での活躍を期待VS現役社員の支援を期待)・活用効果(職場の生産性向上の効果)に影響を受けると考えられる。その理由は、60代前半社員の活用方針が65歳以上の社員にも引き続き踏襲される可能性が高いからである。また、60代前半社員の活用の効果により、65歳以降も引き続き雇用するかどうかを考えるからである。  第3に、60代前半社員の雇用管理と報酬管理が「65歳以降の社員」の雇用の有無に影響を与えるのではないかと考えられる。雇用管理のなかでも、雇用契約の更新時に仕事内容が変わるかどうかという「配置・異動の管理」が重要である。「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」における60代前半社員の雇用契約は有期雇用が多くを占め、かつ、雇用期間は1年以下が多くを占めている。雇用契約の更新時に仕事が変わるということは、現役(59歳以下)正社員時代と比較して、会社命令で仕事内容が変わることが多くないため、多くの場合は、60代前半社員の能力や意欲と担当している仕事の間にミスマッチが起きている可能性が高いことを表している。ミスマッチが多く発生している状況下では、引き続き、65 歳以降も雇用することがむずかしいと考えられる。  後者の報酬管理のなかでは、60代前半社員のモチベーションに大きな影響を与える基本給の決め方が重要になると考えられる。基本給の決め方が59歳以下の正社員の基本給とどの程度同じであるのかによって、支給される給与額も異なってくるからである。基本給が低下することにより、60代前半社員のモチベーションが低下し、その結果、職場の生産性向上に悪影響を与えるのではないかと予想されるからである。他方、60代前半社員の基本給の金額が現役正社員時代よりも低下することは、企業の総額人件費にはプラスの効果を生み出すことになり、その結果、「65歳以降の社員」の雇用につながると考えることもできる。  第4に、現役(59歳以下)正社員の雇用管理と報酬管理が「65歳以降の社員」の雇用の有無に影響を与えるのではないかと考えられる。雇用管理のなかでも、年齢別の「配置・異動の管理」を表している要員管理が重要である。具体的には、今後の会社の成長をになうような仕事に十分な人員(30歳以上45歳未満の正社員)が配置されているかどうかということである。十分な人員が配置されていない場合には、「65歳以降の社員」で代替する方針を採用する可能性が高くなる。  後者の報酬管理のなかでは、賃金制度によって決まる現実の賃金額(基本給の金額)の構造(賃金カーブ)が重要である。これは正社員が入社から定年までの長い期間で、どの程度賃金(基本給)を支給するのかを表している。日本企業の場合には、入社から定年までの長い期間のなかで会社と正社員の間で貸し借り決済する長期決済型賃金(中堅層の賃金を低めに抑え、中高年層の賃金を高めに設定する賃金カーブ)がとられている。こうした賃金制度は長期決済が終わる定年直前の賃金が会社への貢献度を上回る水準にあるため、60代前半社員の賃金を決めるにあたって、この貢献度を上回る賃金部分を調整せざるを得ない状況にある。  以上のような整理をふまえて、「65歳以降の社員」を雇用しているのはどのような特徴をもっている企業であるかをみると(図表)、第1に、業種では「建設業」および「運輸業、郵便業」で「65 歳以降の社員」を雇用している企業が多く、これに対して、「情報通信業」で少なくなっている。なお、正社員規模と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られない。  第2に、企業の60代前半社員の活用方針と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、「(60代前半社員を)第一線での活躍を期待」している企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。このことは、現役正社員を指導する60代前半社員ではなく、特定分野の業務を独立して担当するプロとして勤勉に働く60代前半社員を65歳以降も引き続き雇用していることを表していると考えられる。同様に、60代前半社員の活用の効果と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、活用することによって、職場の生産性向上の効果があったと考えている企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。  第3に、雇用契約の更新時に仕事内容が変わるかどうかという「配置・異動の管理」と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られ、「60歳以降は、原則として変えない」企業ほど、言い換えれば、60代前半社員の能力や意欲と担当している仕事の間にミスマッチが起きていない企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。これに対して、60代前半社員の基本給の決め方(59歳以下の正社員との継続性)にかかわらず、雇用している企業の比率はほぼ同じである。59歳以下の正社員との継続性が希薄な決め方によりモチベーションが低下しても、そのことにより、60代前半社員の活用の結果に大きな影響を及ぼしてはいないと考えているからである。  第4に、現役(59歳以下)正社員の要員管理と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られる。今後の会社の成長をになうような仕事に十分な人員(30歳以上45歳未満の正社員)が配置されていない企業ほど、「65歳以降の社員」を雇用している企業が多くなっている。不足している「30歳以上45歳未満の正社員」が担当している仕事の一部を65歳以降の社員を雇用することで代替していると考えられる。  他方、「現役(59歳以下)正社員」を対象にした賃金制度によって決まる現実の賃金額(基本給の金額)の構造(賃金カーブ)と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係は見られない。定年を契機に変動する賃金(基本給)額と「65歳以降の社員」の雇用状況の間に関係がみられないのは、「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」における60代前半社員の雇用契約は有期雇用が多くを占め、かつ、雇用期間は1年以下が多いため、現役正社員の賃金制度と有期雇用労働者である60代前半社員の賃金制度とを区別しているからであると予想される。70歳までの雇用を進めていくためには、ある年齢以上(あるいはあるキャリア段階以降)の「現役(59歳以下)正社員」の賃金制度と60代前半・後半に関係なく、60歳以降の社員の賃金制度が同じような仕組み(例えば、仕事と成果で決める仕組みの導入など)にしていく必要があると考えられる。 4 60歳代後半層の活用と人事管理の整備  企業の人事管理は社員(雇用)区分制度と社員格付け制度からなる基盤システムとサブシステムから構成されている。サブシステムは大きく、職場や仕事に人材を供給するための管理機能をになう「採用」、「配置・異動」、「能力開発」および「雇用調整・退職」から構成される雇用管理、社員の働く環境を管理する機能をになう「労働時間管理」および「安全衛生管理」から構成される労働条件管理、社員に給付する報酬を管理する機能をになう「賃金管理、昇進管理、福利厚生」から構成される報酬管理、の3分野からなっている。さらに、基盤システムとサブシステムをつなぐ連結ピンの役割をになっているのが人事評価である。  60歳代後半層の雇用管理の中核をになう「配置・異動の管理」は原則として60代前半社員と同じ仕事内容で、かつ、勤務場所や職場が変わることはほとんど「ない」と考えられる。それは、「65歳以降の社員」が「生活・健康」(本人の健康や家族等の健康や介護など)と「仕事」を両立できる場所や時間で働くことを希望する社員である特徴をもっているからである。そのため、雇用管理(「配置・異動の管理」や「能力開発」)よりも「労働条件管理」のなかの「労働時間管理」や「安全衛生管理」が重要になってくると考えられる。  60歳代後半層が安心して働くことができるためには、「生活・健康」と「仕事」を両立できるような柔軟な労働時間制度(例えば、1日の勤務時間を短くする短時間勤務や1週間の勤務日数を減らす短日数勤務制度など)が導入されているかどうか重要になってくる。こうした柔軟な労働時間制度は60歳代後半層の活用課題として多く指摘されている「モチベーションの向上」にも大きく貢献すると考えられる。しかしながら、現実は厳しい状況にあり、報告書のアンケート結果から明らかなように、6割弱の企業しか「短時間・短日数勤務制度」を導入しておらず、制度として時間的な配慮をする仕組みを十分整備されているとはいえない状況にある。柔軟な労働時間制度の整備が求められる。 ※ここで取り上げた報告書の執筆に際して、JEEDの鹿生治行上席研究役から協力を得ました。記して謝意を表します。 ※https://www.jeed.go.jp/elderly/research/report/document/copy_of_seriese6.html 図表 「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」で60歳代後半層を雇用しているのはどのような企業か (単位:%) 調査数 いる いない 無回答 全体 1912 68.0 30.8 1.2 経営特性 業種別 建設業 123 90.2 8.9 0.8 製造業 643 69.7 29.5 0.8 情報通信業 118 38.1 58.5 3.4 運輸業、郵便業 178 78.7 20.8 0.6 卸売業、小売業 408 67.2 31.4 1.5 金融業、保険業、不動産業、物品賃貸業 62 61.3 38.7 0.0 宿泊業、飲食サービス業 46 58.7 41.3 0.0 サービス業 277 65.3 33.2 1.4 その他 27 51.9 48.1 0.0 規模別 100人以下 79 67.1 31.6 1.3 101〜300人 1146 66.8 32.5 0.8 301〜500人 341 71.0 28.4 0.6 501〜1000人 215 67.0 30.2 2.8 1001人以上 119 73.9 22.7 3.4 60歳前半層の活用方針・活用効果 【活用方針】第一線での活躍を期待VS現役社員の支援を期待 第一線での活躍を期待である 233 80.3 18.9 0.9 どちらかといえば第一線での活躍を期待である 629 72.2 26.6 1.3 どちらかといえば現役社員の支援を期待である 738 68.2 31.2 0.7 現役社員の支援を期待である 244 59.4 39.3 1.2 【活用の効果】職場の生産性向上の効果 効果があった 182 72.0 27.5 0.5 ある程度効果があった 1051 71.7 27.6 0.7 あまり効果がなかった 524 67.4 31.9 0.8 効果がなかった 62 56.5 43.5 0.0 60歳前半層の雇用管理と報酬管理 【配置管理】仕事内容の変更の可能性 仕事内容が変わる可能性は、全員にある 539 64.2 34.5 1.3 仕事内容が変わる可能性は、一部にある 735 71.8 27.2 1.0 60歳以降は、原則として変えない 574 72.6 26.8 0.5 基本給の決め方(59歳以下の正社員との継続性) 同じ 203 70.9 28.6 0.5 どちらかといえば同じ 197 73.6 24.9 1.5 どちらかといえば異なる 265 71.7 27.2 1.1 異なる 1175 68.5 30.5 1.0 59歳以下の正社員の配置管理と報酬管理 【要員管理】30歳以上45歳未満の正社員の過不足状況 不足している 448 73.4 25.7 0.9 やや不足している 740 66.8 31.8 1.5 適正である 626 66.8 32.4 0.8 やや過剰である 71 62.0 38.0 0.0 過剰である 7 28.6 71.4 0.0 【人件費管理】基本給の決まり方(賃金カーブ) 59歳まで上昇する 840 70.7 28.6 0.7 ある時点から横ばいになる 849 65.5 33.0 1.5 ある時点から下降する 204 66.7 33.3 0.0 (注)「定年64歳以下&継続雇用65歳以下の企業」の回答 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)(2023)『高齢期の人事戦略と人事管理の実態〜60歳代後半層の雇用状況と法改正への対応』(資料シリーズ6) 【P54-55】 10月は「高年齢者就業支援月間」 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 (高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)  高年齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式をはじめ、コンテスト入賞企業等による事例発表、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和5年10月6日(金)13:00〜16:00 受付開始12:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口徒歩5分 定員 100名(事前申込制・先着順) 会場・ライブ配信同時開催 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) プログラム 13:00〜13:10 主催者挨拶 13:10〜13:40 高年齢者活躍企業コンテスト表彰式 厚生労働大臣表彰および独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 13:40〜14:10 基調講演 テーマ「多様な人材が活躍できるダイバーシティ・マネジメント:管理職の役割が鍵」 佐藤博樹氏 東京大学名誉教授 14:10〜14:25 (休憩) 14:25〜16:00 事例発表およびトークセッション テーマ「70歳就業時代のシニア社員戦力化〜入賞企業に聞く」 コーディネーター…内田賢氏 東京学芸大学 教育学部 教授 パネリスト…………コンテスト受賞企業等3社程度 参加申込方法 フォーラムのお申込みは、以下の専用URLからお願いします。 https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html 参加申込締切 〈会場参加〉令和5年10月4日(水)14:00 〈ライブ視聴〉令和5年10月6日(金)15:00 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま!令和3年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法に基づき、高年齢者の活躍促進に向けた対応を検討中の方々も多いのではないでしょうか。  JEEDでは各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報をご提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) 専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組など】 事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ディスカッション など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和5年7月20日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月27日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月12日(木) デーリー東北新聞社 岩手 10月26日(木) いわて県民情報交流センター(アイーナ) 宮城 11月10日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月19日(木) 秋田県生涯学習センター 奈良 10月27日(金) ホテル・リガーレ春日野 山形 10月24日(火) 山形国際交流プラザ(山形ビッグウイング) 福島 10月17日(火) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月20日(金) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月24日(火) とちぎ福祉プラザ 群馬 10月31日(火) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月12日(木) さいたま共済会館 千葉 10月11日(水) ホテルポートプラザちば 東京 10月16日(月) 日本橋社会教育会館 神奈川 11月17日(金) かながわ労働プラザ 新潟 10月17日(火) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター 富山 10月27日(金) 富山県民会館 石川 10月13日(金) 金沢市異業種研修会館 福井 10月11日(水) 福井県中小企業産業大学校 山梨 10月26日(木) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月17日(火) ホテル信濃路 岐阜 10月17日(火) じゅうろくプラザ 静岡 10月19日(木) 静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」 愛知 10月24日(火) 名古屋市公会堂 三重 10月18日(水) 四日市市文化会館 都道府県 開催日 場所 滋賀 10月30日(月) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月16日(月) 京都経済センター 大阪 10月12日(木) 大阪府社会保険労務士会館 兵庫 10月26日(木) 兵庫県中央労働センター 奈良 10月27日(金) ホテル・リガーレ春日野 和歌山 10月13日(金) 和歌山職業能力開発促進センター 鳥取 10月27日(金) 倉吉未来中心 島根 10月18日(水) 松江合同庁舎 岡山 10月12日(木) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月27日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月26日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月19日(木) 徳島県JA会館 香川 10月18日(水) 香川県立文書館 愛媛 10月20日(金) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月17日(火) 高知職業能力開発促進センター 福岡 10月25日(水) JR博多シティ 佐賀 10月17日(火) 佐賀市文化会館 長崎 10月26日(木) 長崎県庁 熊本 10月25日(水) くまもと県民交流館パレア 大分 10月16日(月) トキハ会館 宮崎 10月31日(火) ニューウエルシティ宮崎 鹿児島 10月24日(火) 鹿児島サンロイヤルホテル 沖縄 10月12日(木) 沖縄県労働局 各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更があった場合は各都道府県支部のホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P56-57】 BOOKS 多様な視点とデータ、事例から、労働災害防止対策を解説 高年齢労働者のための転倒・転落事故防止マニュアル 日本転倒予防学会 監修/新興医学出版社/4840円  高齢労働者の増加にともない、60歳以上の労働災害による死傷者数が増えている。労働災害の発生原因は、転倒がもっとも多く、次いで墜落・転落となっており、年代別に比較すると、いずれも高齢になるほど増加傾向にある。また、小売業や社会福祉施設など、これまで労働災害の比較的少なかった業種や職場で件数の上昇がみられることが、最近の労働災害の特徴となっているという。  本書は、これらの状況をふまえ、超高齢社会の日本の労働現場で解決すべき喫緊の課題として、医師、研究者、弁護士、理学療法士らが多様な視点から転倒・転落事故防止について分析し、解説。労働災害の転倒の最大要因である「滑り」の防止対策をはじめ、転倒リスクを高める疾患、薬剤、身体機能、職場の環境などあらゆる角度から事故を防ぐための対応を考察するとともに、事業者や労働者の意識を高める周知啓発の手法なども含めて説明している。  業種別事故を減らすための取組み好事例として、小売・飲食業、社会福祉施設などの職場における12の取組みの工夫点と成果、ポイントも紹介している。職場の安全衛生担当者の手引書として活用することをおすすめしたい。 仕事や興味の対象をうまく使う、有効な英語学習方法を披露 定年英語 英語が話せなかったサラリーマンがなぜ定年後に同時通訳者になれたのか 田代真一郎 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/1210円  本書の著者の田代真一郎氏は、1950(昭和25)年生まれ。大学卒業後、定年まで自動車会社に勤めるサラリーマンのエンジニアだった。英語の素養があったわけではないが、60歳定年後のいま、フリーランスの通訳者、翻訳者として活躍している。同時通訳までこなすほどの実力に、リピートの仕事や指名も入るという。どうして、そのような転身を果たすことができたのか。本書には、その経緯と田代氏に英語力が身についた合理的な理由、有効な英語学習方法が綴られている。  きっかけは、50歳のとき、勤務先が海外メーカーの傘下に入り、仕事で英語を使用せざるを得ない状況に。やむなくではあったが、「仕事こそが英語を身につける最高の機会だった」と田代氏。「目の前の懸案についてどう話すのか、仕事のニーズがあるからこそ学び、学んだことをくり返し使うから力がついた」という。「それまでに得た仕事の知識や経験が役立った」、とも明かす。  50代になると、会社での役割や立場、環境に変化が訪れる人は多いだろう。田代氏の学習方法を参考にして、それまでにつちかった知識や経験を活かし、英語を学んでみるのもおもしろそうだ。新たな可能性が広がるかもしれない。 介護離職の課題解決に向けた道筋を多面的に検討 介護離職の構造 育児・介護休業法と両立支援ニーズ 池田心豪(しんごう) 著/独立行政法人労働政策研究・研修機構/3300円  (独)労働政策研究・研修機構のプロジェクト研究のなかから、一般でも関心が高いと思われるテーマを取り上げて刊行するシリーズの第四巻。介護離職をめぐる問題を取り上げている。  周知の通り、政府は、家族介護による離職(=介護離職)を社会保障と経済対策の双方にかかわる重要な問題と位置づけ、「介護離職ゼロ」に向けて総合的な対策に取り組んでいる。高齢者雇用の推進という観点からも、介護離職防止に資する取組みは重要だといえる。  本書は、「介護に取り組む家族が介護休業・介護休暇を取得しやすい職場環境の整備」を中心に、介護離職を取り巻く諸課題を取り上げた研究書。育児・介護休業法改正によって両立支援制度は整備されたが、労働者が必要とする両立支援策は多様で、さらなる制度の拡充が求められている。こうした前提に立ち、本書では介護離職の背景にあるさまざまな課題に目を向けつつ、多様な現実に対応するために求められる両立支援策の整備について言及している。  家族の介護は予告なく労働者に降りかかるケースが多い。労働者にとって、潜在的なリスクといえるだろう。介護離職がもたらすリスクの回避を考えたい担当者に一読をおすすめしたい。 元気な90代からわかった、人生100年時代の鍵となる暮らし方 過疎の山里にいる普通なのに普通じゃないすごい90代 池谷啓 著/すばる舎/1540円  著者は東京の都会暮らしに限界を感じ、田舎に移住した編集者・ライター。その日々の田舎暮らしのなかで、そこに暮らす人々との接点が増えていくうちにわかったことがあった。田舎ゆえの閉鎖的なところもあるが、活き活きとして、元気に暮らしている魅力的なお年寄りが多いこと。過疎高齢化で出会う方たちはお年寄りばかり、90代でもまだまだ現役で仕事をし、自立して暮らしているということ。  本書は、その90代の方たちの日々の暮らしの話や人生話を紹介している。そこからは、どこにでもいる普通のおじいちゃん、おばあちゃんに見えるが、なかなか普通ではない、すごい暮らしぶりが見えてくる。暮らし方はそれぞれであるが、みな元気である。その健康長寿の秘訣は「会話を楽しむ」、「ささいなことを苦にしない」、「人の役に立とうとする」など多くあるが、著者は「日々するべき仕事がある」と「特別な運動はしなくても、暮らしそのもの、家事のなかに動きがある」が大きなポイントだとする。  90代の方たちの暮らしからは、どんな形であれ、目的をもって日々、体を使って動くことが大切であることを教えてくれる一冊である。 科学的エビデンスをもとにした、健康長寿のための食事と生活習慣 健康寿命をのばす食べ物の科学 佐藤隆一郎 著/筑摩書房/946円  「健康寿命を少しでものばしたい」、そう願う人は多いだろう。そのために必要な取組みが国や自治体をはじめさまざまなところで行われており、生活習慣病の予防や適度な運動が欠かせないといった情報もしばしば見聞きする。  そうしたなかにあって本書は、食品生化学の第一人者である著者が、最新のデータと科学的エビデンスをもとに、健康に長生きするための食事と生活習慣のコツをわかりやすく解説。毎日なにを食べればよいのか、食生活を自己管理できる基礎となる知識が得られる内容だ。  本文には、生活習慣病が増えた理由、脂質摂取過剰の危険性、コレステロールに関する知っておきたい知識や、「畑の肉」といわれる大豆が健康寿命を延ばす食べ物として注目される化学的な根拠を明らかにする。また、筋量や筋力の維持を助けてくれる食品など、どの食べ物が健康にどう影響するのかを説き、老化を遅らせる食習慣・食品をアドバイス。登場するのは、納豆や玄米、ナッツ類といった身近な食品で、ふだんの食事にすぐにとり入れることが可能なものだ。高齢になり食が細くなってからは、機能性食品成分を含む食品やサプリメントを活用することも助けになるなどアドバイスも満載。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 2022年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を公表  厚生労働省は、2022(令和4)年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表した。  2022年における職場での熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は827人で、前年(561人)より266人増加した(47%増)。  業種別にみた死傷者数は、最も多いのは建設業の179人(全体の21.6%)、次いで、製造業145人(同17.5%)、運送業129人(同15.6%)、警備業91人(同11.0%)の順となっている。  年齢別の発生状況をみると、50歳以上が400人で、全体の48.4%となっている。月別の発生状況では、6月184人、7月291人、8月280人と、この3カ月間で9割以上を占めている。  また、熱中症による死亡者数は30人で、前年(20人)より10人増加した(50%増)。建設業において14人と最も多く発生しており、次いで警備業で6人となっている。年齢別では、50歳以上17人(全体の56.7%)、うち60歳以上10人(同33.3%)となっている。  死亡災害の被災者はすべて男性で、WBGT(暑さ指数)の把握を確認できなかった事例が25件、熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が26件、発症時・緊急時の措置の確認・周知していたことを確認できなかった事例が28件あった。 ※https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001100761.pdf 厚生労働省 「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」最新版を公開  厚生労働省は、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」の最新版(ver3.6)をダウンロードサイトに公開した。  同プログラムは、労働安全衛生法の規定により、2015(平成27)年12月から一定規模の事業場において実施が義務化されているストレスチェックについて、事業場において円滑に導入できるよう、厚生労働省が委託運営するサイトにて公開し、無料で配布しているもの。各事業場で活用するプログラムで、ストレスチェックの受検、結果出力、結果管理までを一括で実施することができる。  最新版では、設問と回答欄がセットになった「Excel版調査票」で受検し、メールで回収したExcelシートを外部データ取込みする機能を追加。回答用紙の回収作業の手間や郵送コストが不要となるなどの変更が行われた。また、機能をわかりやすくするための一部の操作ボタンの表記とレイアウトの変更なども行われている。  最新版をダウンロードしない場合、2023年11月以降、動作に不具合が生じる可能性があるとして、特に、現在、同プログラムの旧版(ver3.5以前)を使用している事業者においては、2023年10月までに、今回公開された最新版をダウンロードすることを、また、同年10月ごろにはサーバーが混み合う可能性があるため、早めにダウンロードすることを、厚生労働省は呼びかけている。  ダウンロードは、左記「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」(※)ウェブサイトへ。 ※https://stresscheck.mhlw.go.jp/ 東京都 「東京キャリア・トライアル65」働く意欲のある高齢者と参加企業を募集  東京都は、生涯現役社会の実現を目ざして、高齢者と企業のニーズのマッチングを支援する「東京キャリア・トライアル65」を実施している。その参加者として、就業意欲のある65歳以上の高齢者と高齢者雇用に関心のある企業を募集している。  「東京キャリア・トライアル65」は、就業を希望する高齢者と、受入れを希望する企業を募集し、両者のマッチングを東京都が支援する事業。参加申込みをした高齢者は、就業相談後に自らの経験やノウハウを活かせる職場で1週間〜1カ月(最大2カ月間)のトライアル就業(有給)を行う。派遣職種は、事務職、営業職、TT技術職など。派遣期間中や派遣終了後、高齢者と受入れ先企業の双方を専任のキャリアアドバイザーがフォローする。この派遣就業に要する派遣人件費・通勤交通費は、東京都が全額負担する。また、派遣から直接雇用契約への切替えが可能で、その際の紹介料も東京都が全額負担する。  前年の2022(令和4)年度の実績では、408人の高齢者が161社の企業に派遣され、派遣就業後に154人が直接雇用された。  参加者の募集期間は、2024年3月8日まで。参加は無料。詳細や申込みは、左記ウェブサイト「東京キャリア・トライアル65」(※)、または「東京シニア雇用促進・トライアル65」事務局の電話へ。 ※https://www.career-trial65.metro.tokyo.lg.jp/recruiter/ [電話]0120−536−034(フリーダイヤル) 【P59】 心に残るあの作品≠フ高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第3回 映画『八月の鯨』(1987年) 『RBG 最強の85才』(2018年) 読売新聞編集委員 猪熊(いのくま)律子(りつこ)  「心に残る〜」と聞いて、すぐに思い浮かんだ映画が二つあります。一つは、1987年のアメリカ映画『八月の鯨(原題は「The Whales of August」)』。もう一つは、2018年のアメリカ映画『RBG 最強の85才(原題は「RBG」)』。  タイプはまったく異なりますが、ともに高齢女性の生き方を描いていて、「おばあさんの世紀※」を迎える日本の将来の姿を考えるにあたっても、参考になるのではないかと思います。今回は欲張って二つの作品をご紹介したいと思います。  『八月の鯨』は、アメリカ東海岸を舞台に、鯨がくる入り江の別荘でひと夏を過ごす老姉妹の日常を描いた作品です。目が不自由で偏屈さを増す姉と、かいがいしく世話を焼きつつも将来を案ずる妹。ともに夫を亡くし、支えあって生きる姉妹の姿を、ベティ・デイヴィス、リリアン・ギッシュという2大名女優が共演して話題を呼びました。  1時間半におよぶこの映画には特段大きな事件は出てきません。一見退屈そうにも思えますが、老いや死に向きあう2人のさりげない仕草や表情が実にリアルで、他方、一日一日をていねいに、慎ましやかに生きる姿が共感を呼びます。特にリリアン・ギッシュ演じる妹が結婚記念日にドレスを着て、テーブルにキャンドルとバラを飾り、ワイングラス片手に亡き夫の写真に話しかける場面は秀逸です。  撮影当時、ベティ・デイヴィスは80歳近く、リリアン・ギッシュは90歳を超えていたといいますから、高齢になってもこんな仕事をする2人の姿に励まされる人も多いかもしれません。  一方、『RBG 最強の85才』は2020年に87歳で亡くなったリベラル派の米連邦最高裁判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(通称RBG)のドキュメンタリー映画です。1950年代にハーバード大学法科大学院に入り、その後、コロンビア大学法科大学院を優秀な成績で卒業。それでも彼女を雇う法律事務所は一つもなかったといいます。以降、「性差の壁」を解消しようと、法律の知識を駆使してアメリカ社会を変えていきました。  印象深いのは、夫と死別した女性には子どもを養育する給付金が支払われるのに、妻と死別した男性に支払われないのは不合理だと訴え、性差別は男女双方に不利益をもたらすことを社会に知らしめた点です。  「闘う判事」というと腕っ節が強そうですが、実際の彼女はとても小柄で、シャイで、ユーモアもたっぷり。若者の間でアイドル的な存在であったというのもうなずけます。年を取ると「喪(うしな)う」ものの多さに立ちすくみそうになりますが、老いにはいろいろな生き方があり、どう生きるかは自分次第よ、と励まされる気分になる映画です。 ※2045年には、日本の人口の2割を65歳以上の女性が占めると予測されていることをさした言葉 『八月の鯨』リンゼイ・アンダーソン監督.リリアン・ギッシュ,ベティ・デイヴィス出演.アライヴ・フィルム・プロダクション.1987 『RBG 最強の85才』ジュリー・コーエン,ベッツィ・ウェスト監督.ルース・ベイダー・ギンズバーグ出演.ファインフィルムズ.2018 【P60】 次号予告 9月号 特集 高齢者雇用と就業規則入門 リーダーズトーク 大橋智樹さん(宮城学院女子大学 学芸学部 心理行動科学科 教授) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は、「定年制度」と「再雇用制度」に焦点をあて、それぞれの特徴などについてお届けしました。  高年齢者雇用安定法が定める65歳までの高年齢者雇用確保措置、70歳までの就業確保措置の導入・見直しにあたり、「定年廃止・定年延長」とするか、「再雇用」とするかの検討は欠かせません。また、定年・再雇用制度を検討するうえでは、高齢社員の活用方針や賃金・評価制度の見直し、柔軟な働き方ができる勤務制度など、さまざまな要素もかかわってきます。  本企画や7月号特集「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」、連載中の「シニア社員のための『ジョブ型』賃金制度のつくり方」などを参考にしていただき、企業・労働者双方が満足できる制度の実現に努めていただければ幸いです。 ●54ページでお知らせした通り、10月6日(金)に高年齢者活躍企業フォーラムを開催します。会場参加・オンライン視聴にて、みなさまのご参加をお待ちしています。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー8月号No.525 ●発行日−−令和5年8月1日(第45巻 第8号 通巻525号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-978-1 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.330 長年つちかった経験とスキルで24時間操業を支える 配電・制御装置整備士 田村(たむら)等(ひとし)さん(64歳) 「保全で大事なことは、まず現場を見て異常に気づくこと。そして、オペレーターとのコミュニケーションから、故障の兆候をつかむことです」 電気で制御される製造ラインの設備保全・改善をになう  日本最大手の鉄鋼メーカー、日本製鉄株式会社。その首都圏における製造拠点として、世界最大級の高炉を擁するのが東日本製鉄所君津(きみつ)地区(千葉県君津市)だ。東京湾に面した東西6キロ・南北2キロの広大な敷地では、鉄が24時間体制で生み出され、多様な高機能製品に加工されている。  休みなく稼働し続ける製鉄所において、なくてはならない存在が配電・制御装置修理工である。製鉄所では、高炉をはじめ、あらゆる設備が電気によって制御されている。24時間操業に支障をきたさないよう設備を点検するとともに、故障が起きた際には速やかに修理し、また同じような故障が起きないよう改善することが任務だ。  「何十億円もするような設備なので、できるだけ長く使い続けなければなりません。それだけに、いかに古い設備に手を加えながら、最新鋭の設備と互角に戦えるようにしていくかが、われわれ整備担当者の腕の見せどころです」  そう話すのは、冷延めっき電計整備課に所属する田村等さん。薄板鋼板に亜鉛などでめっき処理をする工程(ライン)の保全を44年にわたり、になってきた。  「長年同じ職場にいると、故障が起きても話を聞けば、何となく原因はこの辺じゃないか、というのが見えてくることが多いですね。経験がものをいいますが、一方で、電気関係は日進月歩で新しい技術が出てきますので、日々のスキルアップも大切です」 新たな修理方法を実現し工期の大幅短縮に成功  田村さんは「薄板鋼板に溶融めっき塗装を施す過程において最重要設備であるインダクタ設備の保守に関し、優れた技能を有している」ことなどが評価され、「令和3年度千葉県の卓越した技能者(千葉県の名工)」に選ばれた。  溶融亜鉛めっき塗装は、約450℃の溶融亜鉛が入った炉のなかに鋼板を通過させ、表面に亜鉛を付着させる。インダクタは電流で炉を加熱するための設備で、亜鉛が溶融した状態を保つために、つねに電源が入った状態になっている。インダクタが故障して亜鉛が固まると、復旧に数カ月かかる。  君津地区では、約15〜20年の間隔でインダクタ設備の故障が起きてきた。おもな原因はインダクタのコイルの焼損だ。従来はインダクタ設備全体を取り替えていたが、その場合、中の亜鉛を取り出す必要があり、工期が11日程度かかっていた。そこで田村さんは、周囲の協力を得て、コイルのみを取り替える方法を開発。この方法では亜鉛を冷やさずにすむため、工期を2日間に短縮することができた。  さらに、コイルの焼損を防ぐため、冷却水の流量計の最新化や、コイルの温度を監視する装置の設置、さらにコイルに電流が流れていない場合の警報の二重化など、監視機能の改善を行った。これらの効果が認められ、同様の機能はほかのラインにも導入されている。 社内の技能競技大会を通じて数多くの後進を育成  「若いころは、準備がうまくできずに計画通りにいかなかったり、設備を壊したこともありました。それでも、『あきらめずにがんばれ』という先輩の言葉を糧に、ここまでがんばってきました」  そう話す田村さん自身も、後進の育成に大きな役割を果たしてきた。電気計装整備業務にたずさわる若手の技術・技能向上のために、2019(令和元)年まで全社で開催されてきた「電計技能競技大会」では、君津地区の代表選手の指導をにない、毎年君津地区の選手が3位以内に入る実績を残した。  60歳で定年退職し再雇用となってからは、若手の育成にさらに力を注いでいる。  「一人ひとり個性があって、覚えの早い人もいれば、覚えるのは遅くても一度覚えたら忘れない人もいます。固定観念にとらわれず、臨機応変にていねいに教えることを心がけています」  こうして、現場固有の技能は次の世代へ脈々と受け継がれていく。 日本製鉄株式会社東日本製鉄所君津地区 TEL:0439−50−2013 https://www.nipponsteel.com (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 若手の指導を行うのが現在の主要任務。故障の原因を調べて修理したり、プログラムの改造などのシミュレーションを通じて、基本から教えていく 鉄鉱石から鉄をつくる高炉。君津地区では高さ125mの巨大高炉が2基稼働している 制御盤の組立やプログラムの改造などの教育実習を行う電気室。電計技能競技大会の練習もここで行われた 溶融めっきライン。見えない下部に炉やインダクタがある(写真提供:日本製鉄株式会社) 「こういう場合は、回路をこう組んだ方がいい」とわかりやすくていねいにアドバイス テスター、ニッパー、検電器など、現場で常に持ち歩く道具類 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、空間的な位置関係を記憶する映像記憶の脳トレです。空間的な位置関係の記憶には、脳の右側の前頭前野と頭頂連合野が深くかかわります。私たちは、何かを覚える際に、音のくり返しで覚える音韻ループと、目に焼きつけるように覚える視空間スケッチパッドによって覚えます。今回の問題では、目に焼きつける感覚を意識すると記憶力が高まります。 第74回 文字や記号を記憶する まず、文字や記号を見て覚えてください。覚えたら、問題を隠して、それを別紙に書き出してください。位置もしっかりと覚えましょう。忘れたときは覚え直してOKです。 目標 各2分 @ え 19  ◎  ○ 86 △ ル 生活のなかに「脳トレ」を取り入れよう  認知機能の低下を防ぎ、向上させていくには、食事や運動などに加えて、脳を使って活性化させること=脳トレが大切になってきます。  脳トレは、記憶や情報を一時的に保持し、組みあわせて答えを出していく、ワーキングメモリ(作業記憶)と呼ばれる脳の使い方をすることが基本です。ちょっと記憶しながら、別のことをして、その間も記憶を保っていることが、脳を鍛えることにつながります。  今回のような脳トレを、毎日少しずつでも続けていくことで、ワーキングメモリが強化されます。  また、脳トレは、決して机の前に座ってするだけのものではありません。買い物から帰ったら、買ったものを一つずつ思い出してみる、晩ごはんを食べるときに、昨日や一昨日の晩ごはんのメニューを思い出してみるなど、私たちの生活のなかには、脳トレできることが溢れています。  ぜひ、脳を鍛えることを意識しながら生活していきましょう。 自分で問題をつくってみましょう  今回の脳トレ問題のように、まず枠をつくり、好きな場所に文字や記号を記入します。  それを覚えてから隠して、別紙に書き出しましょう。マスを増やしたり、漢字や絵なども使ったりすると、より効果的です。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年8月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 10月は「高年齢者就業支援月間」です 高齢者雇用に取り組む事業主や人事担当者のみなさまへ秋のイベントをご案内します。 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 (高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)  高年齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式をはじめ、コンテスト入賞企業等による事例発表、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和5年10月6日(金)13:00〜16:00 受付開始12:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口徒歩5分 定員 100名(事前申込制・先着順)会場・ライブ配信同時開催 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップ  JEEDでは各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報をご提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) 専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組など】 事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ディスカッション など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) ※開催日時などに変更が生じる場合は、JEEDホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 jeed 高年齢者就業支援月間 検索 2023 8 令和5年8月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第8号通巻525号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会