【表紙】 2025 10 令和7年10月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第10号通巻551号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 エルダー 特集 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜 リーダーズトーク シニア人材活用にもつながるHRテクノロジー 人事パーソンに求められる変化とは 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、山形大学 客員教授、KIパートナーズ株式会社 代表取締役社長 岩本 隆 10月は「高年齢者就業支援月間」です 【前頁】 高年齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップ  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま!改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされ、高年齢者の活躍促進に向けた対応を検討中の方々も多いのではないでしょうか。  JEED では各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報をご提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月〜11月に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ▲専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組みなど】 ▲事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ▲ディスカッション など 参加費 無料(事前のお申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください ■開催スケジュール ※  で記載されている北海道、青森、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、静岡、愛知、大阪、兵庫、奈良、和歌山、岡山、山口、福岡、長崎、鹿児島、沖縄については、ライブ配信やアーカイブ配信等の動画配信を予定しています。 ※開催日時などに変更が生じる場合があります。詳細は、各都道府県支部のホームページをご覧ください。 都道府県 開催日 場所 北海道 10月23日(木) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月16日(木) YSアリーナ八戸 岩手 10月24日(金) いわて県民情報交流センター(アイーナ) 宮城 11月18日(火) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月21日(火) 秋田県生涯学習センター 山形 10月16日(木) 山形国際交流プラザ(山形ビッグウイング) 福島 10月15日(水) ウィル福島 アクティおろしまち 茨城 10月17日(金) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月23日(木) とちぎ福祉プラザ 群馬 10月30日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月10日(金) さいたま共済会館 千葉 10月9日(木) ホテル ポートプラザちば 東京 10月21日(火) 日本橋社会教育会館 神奈川 10月27日(月) かながわ労働プラザ 新潟 10月9日(木) 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター 富山 10月20日(月) 富山県民会館 石川 10月24日(金) 石川県地場産業振興センター 福井 10月8日(水) 福井県中小企業産業大学校 山梨 11月18日(火) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月22日(水) ホテル信濃路 岐阜 10月15日(水) みんなの森 ぎふメディアコスモス みんなのホール 静岡 10月17日(金) グランシップ 愛知 10月23日(木) 岡谷鋼機名古屋公会堂 三重 10月16日(木) 津公共職業安定所 都道府県 開催日 場所 滋賀 10月9日(木) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月10日(金) 京都経済センター 大阪 10月23日(木) 大阪府社会保険労務士会館 兵庫 10月16日(木) 兵庫県中央労働センター 奈良 10月16日(木) かしはら万葉ホール 和歌山 10月24日(金) 和歌山職業能力開発促進センター 鳥取 10月29日(水) エースパック未来中心 島根 10月24日(金) 松江合同庁舎 岡山 10月24日(金) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月17日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月17日(金) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月22日(水) 徳島職業能力開発促進センター 香川 10月16日(木) 香川産業頭脳化センタービル 愛媛 10月24日(金) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月27日(月) 高知職業能力開発促進センター 福岡 11月11日(火) JR博多シティ 佐賀 10月24日(金) アバンセ 長崎 10月23日(木) 長崎県庁 熊本 10月22日(水) 熊本県庁 大分 10月7日(火) トキハ会館 宮崎 10月15日(水) 宮崎県立芸術劇場 鹿児島 10月24日(金) 鹿児島県市町村自治会館 沖縄 10月24日(金) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更があった場合は各都道府県支部のホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P1-4】 Leaders Talk No.125 シニア人材活用にもつながるHRテクノロジー 人事パーソンに求められる変化とは 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、山形大学 客員教授、KIパートナーズ株式会社 代表取締役社長 岩本 隆さん いわもと・たかし 日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社勤務などを経て、2012(平成24)年より大学教員。慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授などを経て、2023(令和5)年より現職。HRテクノロジー大賞審査委員長をはじめ、HRテクノロジー関係団体理事などを歴任。  人事業務の効率化や人材活用を支える「HRテクノロジー」。勤怠管理や人事評価を効率化するだけではなく、従業員のエンゲージメント向上やキャリア形成支援にも活用できることから、今後ますます重要になると考えられます。今回は、HRテクノロジーの第一人者として活躍する岩本隆さんに、HRテクノロジーの最新事情や展望とあわせて、シニア人材活用におけるHRテクノロジーの可能性についてお話をうかがいました。 勤怠管理からエンゲージメントの測定まで進化するHRテクノロジー ―人事管理や人事業務の効率化のための「HRテクノロジー」が注目を集めています。そもそもHRテクノロジーとはどのようなものなのでしょうか。 岩本 HRテクノロジーとは、人事の業務にテクノロジーを活用する手法であり、人事データを使った情報通信システムのことです。アメリカでは2000(平成12)年前後に「HR TECHNOLOGY」、「HR TECH」が、商標登録されています。初期のころは、勤怠管理や給与計算業務などのシステムが多かったように思います。2010年代になると、AIの進化により人事のさまざまなデータが分析できるようになり、飛躍的に発展していきますが、それでも日本ではあまり知られていませんでした。  私が慶應義塾大学のビジネススクールで経営学の研究をしていた2012年に、民間企業から資金提供を受けて、人材マネジメントの研究に着手しました。スポンサー企業から人事データを提供してもらい、統計学やAI技術を駆使し、研究を担当した学生が最終的に修士論文にまとめたのですが、これに大きな反響がありました。その後、自社の人事データを分析してほしいという依頼が殺到したのですが、私も手が回らないので民間企業による「HRテクノロジーコンソーシアム」を立ち上げました。そして2015年4月に慶應義塾大学の日吉(ひよし)キャンパスで開催したHRテクノロジーシンポジウムを契機に、HRテクノロジーという言葉が日本で広く知られるようになったのです。さらに2016年10月には、私が審査委員長を務めた「HRテクノロジー大賞」の授賞式をきっかけにメディアでも注目され、経済産業省の「働き方改革2.0」と呼ぶ生産性革命の一つにHRテクノロジーが産業政策としても取り上げられることになりました。 ―HRテクノロジーの具体的な活用例ではどのようなものがありますか。 岩本 例えば、勤怠管理のためのタイムカードをオンラインで管理したり、最近ではパソコンのオン・オフで出退勤を管理する会社もあります。また、個々の社員が持つスキルや経験、人事評価などの人事情報をデータベース化し、育成・異動・配置に活かすタレントマネジメントシステムも普及しています。  いま、世界的に流行しているHRテクノロジーの一つが、従業員エンゲージメントの測定です。「エンゲージメント」とは、職場や会社で働くことに価値を感じ、自ら貢献する意思を持って働いている状態をあらわすものですが、クラウドアプリ上で定期的にエンゲージメントを測定し、AIを使って分析するサービスがあり、エンゲージメントを高めるのに有効です。また、コロナ禍で増えた1on1ミーティングツールなども伸びています。上司が部下に対して一方的に話をするのではなく、部下がどんなことを話したいかをチェックし、ミーティング終了後に良かった点、悪かった点などのデータを集積し、改善につなげるものです。リモートワーク中のメンバーの業務の進捗状況などを把握するタスクマネジメントのツールなどもあります。大企業の人事部のなかには、従業員からのさまざまな問合せに対し、生成AIの機能を使い自動で回答するチャットボットを活用しているところもあります。 ―HRテクノロジーの進化・発達は、人事領域の業務を大きく効率化させますが、同時に人事部門の役割も変わっていくのでしょうか。 岩本 本当の意味で人に寄り添った仕事にシフトしていくのではないでしょうか。これまで自分のパソコンでエクセルなどを使って行っていた仕事は、すべてテクノロジーに置き換わります。一方で外資系企業では、「ピープルアナリティクス」という部門を立ち上げ、人事領域のデータ分析を行うデータサイエンティストを多く抱える会社も増えていますし、日本の大手IT企業では社内のエンジニアを活用しているケースもあります。そうしたなかで、人事部の役割は、“生成AIを活用して、社員一人ひとりの生産性や働き方をどう変えていくのか”という、これまで蓄積してきた人事のノウハウを活かした戦略的なものにシフトしていくのではないでしょうか。  人事部門にとどまるのではなく、各部門・ビジネス領域に入り込み、一人ひとりがどのように働き、キャリアをどのように形成していくのか。人事パーソンには、プロスポーツ選手のコーチのように人に寄り添った仕事にシフトしていくことが求められますし、逆にシフトできなければ人事パーソンとして生き残っていくのはむずかしくなると思います。 人事パーソンに求められる役割はデータを駆使し一人ひとりに寄り添うこと ―人事担当者の能力や求められる役割も変わるということですね。 岩本 大量の従業員を一人ひとり見ていくには、データの力を借りないとむずかしいでしょう。データを参考に一人ひとりを見て、データで補えないところをサポートすることになります。大学の学部に「人間科学部」というのがありますが、人事担当者は人間科学の専門家にならないといけません。データを駆使するサイエンティストとして、社員一人ひとりを観察し、サポートする能力が求められてくると思います。 ―中小企業が成長・発展していくために、HRテクノロジーを活用していくポイントとは何でしょうか。 岩本 HRテクノロジーのツールは山ほどありますが、何より大事なのは、いま、自社のビジネスがどういう状況にあり、どうしていきたいのかという中長期的な成長の方向性を明確にすることです。そのためには従業員一人ひとりが活躍できる環境をつくることが大切です。  中小企業の社長が、「うちの社員は全員まじめで指示通りに仕事をしてくれます」と話すのを耳にすることがあります。昔は下請け仕事が多く、それが機能しているうちはよいですが、大企業の下請け業務が外国に流れ、いまは減少しつつあります。取引先にいわれたことをまじめにやっているだけでは、仕事がなくなるという事態になりかねません。  そういう意味では、従業員一人ひとりが、自律的に考えて動き活躍できる環境をつくっていくことが大切です。そのために、会社としてすべきことを経営陣が議論し、明確化することが一番の肝になります。明確になれば取り組むためのテクノロジーはたくさんありますし、そのなかから最適なものを選んで活用していけばよいと思います。  私が具体的な取組みとして推したいのは、公平な人事評価の仕組みの導入と従業員エンゲージメントの測定です。  公平な人事評価の仕組みとは、業績評価と成長評価を軸に従業員の評価の納得性を高めるとともに、本人の成長をサポートするもので、人事評価のクラウドアプリに人材の成長をうながす機能や、業績評価とコンピテンシー評価のテンプレートなどが活用できるサービスもあります。  エンゲージメントの測定は、ツールごとに測る項目が異なります。従業員が会社や組織に対してどう思っているのか、周囲の人間関係、あるいは会社の福利厚生など人事諸制度についてどう思っているかを測定し、何がボトルネックになっているかを明らかにすることができます。 会社の業務に精通したシニア人材がHRテクノロジーを修得する意義 ―人手不足のなかで、多くの企業がシニア世代を戦力として活用していくことが求められています。HRテクノロジーをどのように活用すればよいでしょうか。 岩本 一つはHRテクノロジーを使ってシニア世代の持つスキルや経験を見える化することです。シニア社員が社会人としていままでつちかってきたものを棚卸しする機会を設定し、個々の経験をデータ化し、見える化すれば「この人はこんなことができるんだ」ということがわかります。「令和の時代に昭和のやり方は通用しない」という人もいるかもしれませんが、シニアの経験のなかには、令和のいまでも活かせる重要なヒントやアイデアがあるはずです。言語化するのがむずかしい職人的なスキルも、いまはVRなどの動画にすることで学習することができます。  もう一つは、シニア自身に、リスキリングによりHRテクノロジーを修得してもらうことをおすすめします。テクノロジーの進化とは、ユーザーがそのテクノロジーを使いやすくなることであり、修得のハードルが下がるということでもあります。いまや「ノーコード」で、プログラミングスキルがなくてもアプリがつくれる時代です。中小企業でも社内で数百のアプリを開発し、業務の効率化を図っている会社がありますが、シニア世代ほど会社や業務の中身に精通しているので、会社の課題をふまえたアプリ開発ができるそうです。AIなどのテクノロジーは若者の技術と思われがちですが、若い人はデジタル技術は扱えても、会社の業務に関してはシニアのほうが豊富な知識と経験を持っていますし、シニア自身がテクノロジーを修得し活用する意義は大きいと思います。 (インタビュー・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、” 年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 October No.551 特集 6 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜 7 審査委員長からのメッセージ 東京学芸大学 名誉教授 内田 賢 8 最優秀賞 グリンリーフ株式会社(群馬県利根郡昭和村) 12 優秀賞 株式会社クリーン開発(北海道千歳市) 株式会社マイネットシステム(長野県松本市) 20 特別賞 株式会社清風堂(北海道札幌市) 藤田建設工業株式会社(福島県東白川郡棚倉町) 光タクシー株式会社(静岡県浜松市) 32 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業一覧 1 リーダーズトーク No.125 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師、山形大学 客員教授、 KIパートナーズ株式会社 代表取締役社長 岩本 隆さん シニア人材活用にもつながるHRテクノロジー 人事パーソンに求められる変化とは 34 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 【第4回】 高年齢者無期雇用転換コースを活用しよう! 40 偉人たちのセカンドキャリア 第11回 難病と闘いながら俳優の道を貫いた喜劇王 榎本健一 歴史作家 河合 敦 42 高齢者の職場探訪 北から、南から 第158回 富山県 福祉コミュニティあいの風 46 新連載 ジョブ・クラフティング入門 【第1回】 ジョブ・クラフティングとは何か 岸田泰則 50 知っておきたい労働法Q&A 《第88回》 定年後再雇用時の労働条件変更、試し勤務における従業員の協力義務 家永 勲/木勝瑛 54 “学び直し”を科学する 【第5回】 資格取得のための計画的な学び方 加藤俊徳 56 ニュース ファイル 58 お知らせ 令和7年度「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」のご案内 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.356 平らな漆喰の壁から擬木・擬岩の造形まで 左官工 須森孝幸さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第100回] 名文音読“声に出して読みましょう” 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」、「いまさら聞けない人事用語辞典」、「生涯現役で働くとは」、「Books」は休載します 【P6】 特集 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。  本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。  2025(令和7)年度は、厚生労働大臣表彰6編、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞10編、特別賞10編、クリエイティブ賞1編の受賞が決まりました。  本誌では、今号と次号(11月号)の2回に分けて、コンテスト表彰企業の取組みを紹介します。  今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業の取組みを紹介します。 【P7】 審査委員長からのメッセージ 高齢者がその能力を最大限に発揮するための創意工夫に取り組む企業を表彰 東京学芸大学 名誉教授 内田(うちだ)賢(まさる)  「令和7年度高年齢者活躍企業コンテスト」の審査が終了いたしました。審査委員を代表し、応募いただきましたすべての企業・団体関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から62編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は、最優秀賞1編、優秀賞2編、特別賞3編、また、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は、優秀賞10編、特別賞10編、クリエイティブ賞1編が入賞を果たしました。  最優秀賞を受賞したグリンリーフ株式会社は、持続可能な農業を目ざし、環境保全や農家育成にも力を注いできました。従業員同士の支え合いを重視し、現場の声を反映した就業規則の作成などユニークな取組みを展開し、多様な人材の長所を活かし、だれもが活き活きと働ける職場づくりを実現したことが高く評価されました。  優秀賞を受賞した株式会社クリーン開発は、年齢上限なく働ける登録制の「元気事業部」を創設し、高齢従業員の多様な働き方を実現。人事評価制度の導入などにより処遇面の改善を進めたことに加え、各種作業環境改善にも積極的に取り組んでいます。  同じく優秀賞を受賞した株式会社マイネットシステムは、IT業界では稀(まれ)にみる定年制廃止を実現し、60歳時点での賃金一律減額を撤廃。個人の希望に応じた多様な働き方と、貢献度・能力に見合った報酬制度により、高齢社員の豊富な経験と技術力を最大限に活用しています。  特別賞を受賞した株式会社清風堂(せいふうどう)は、「高齢者が長く安全で安心して働き続けられる」を根本思想として、定年延長や継続雇用制度、勤務時間の弾力化、資格取得支援、メンター配置、機材軽量化、健康管理体制充実など、制度面と実務面から総合的に高齢者の雇用環境を整備しています。  同じく特別賞受賞の藤田(ふじた)建設工業(けんせつこうぎょう)株式会社は、高齢化が進む地域で国家資格を有する高齢従業員に活躍の場を創出してきました。高い技術を持つ「有資格者」が不可欠であることから、全従業員の資格取得を後押しし、全社をあげて行う意欲向上の取組みが評価のポイントとなりました。  同じく特別賞受賞の光(ひかり)タクシー株式会社は、70歳以上のドライバーが約4割を占めるなかで、高齢従業員が即戦力として活躍しており、同業他社に先駆け展開している病気入院保障制度や高齢者向けの採用ホームページなどのアイデアあふれる取組みが高く評価されました。  審査を終えて、受賞企業の取組みが年々高度化していることを実感しています。その背景には、働く高齢者の年齢層が60代前半から60代後半へ、そして70歳超へと上昇していることがあると思われます。どうすれば高齢者に力を十分に発揮してもらえるのかという課題に直面し、その課題を解決してきた結果が、応募企業の取組みにあらわれているのではないでしょうか。各受賞企業の取組み自体は大がかりなものではありませんが、逆にいえば、どのような企業でも取り入れやすいという側面もあるでしょう。『エルダー』の読者のみなさまには、業種を超えて、企業規模を超えて、受賞企業の取組みから虚心坦懐(きょしんたんかい)に学んでいただければ幸いです。 【P8-11】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 経験と個性を活かしだれもが主役になれる「大家族経営」の職場 グリンリーフ株式会社(群馬県利根郡(とねぐん)昭和村(しょうわむら)) 企業プロフィール グリンリーフ株式会社 (群馬県利根郡昭和村) 創業 1962(昭和37)年 業種 農業・食料品製造業 社員数 126人(2025〈令和7〉年5月30日現在) 60歳以上 17人 (内訳) 60〜64歳 5人(4.0%) 65〜69歳 5人(4.0%) 70歳以上 7人(5.6%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。定年後も本人の希望があれば、自力で出勤できるかぎり継続雇用。最高年齢者は82歳 T 本事例のポイント  グリンリーフ株式会社は、1994(平成6)年にグリンリーフ有限会社として産声を上げた。そのルーツは1962(昭和37)年に創業者が農地を買い求め農業を始めたことにさかのぼる。  創業以来、有機栽培や特別栽培の農産物の安定提供を通じて地域に貢献してきた。「感動農業」、「人づくり、土づくり」を経営理念に掲げ、「大家族経営」のビジョンのもと、社員それぞれが持つ長所を活かし、それぞれの役割を果たしていくことを目ざしてきた。  多くの企業が将来の投資として若手育成を優先し中高年齢層のキャリアサポートが後回しになる傾向があるなか、高齢社員が豊かな経験を活かして活躍できる場を構築し、社員のだれもが気持ちよく働ける職場づくりに取り組んできた。 POINT @高齢社員の豊かな経験を活かした活躍の場を構築し、だれもが活躍できる職場環境づくりを目ざしている。 A現場社員が就業規則の作成にかかわれる「就業規則作成委員会」を設置したことで現場の声が就業規則に反映され、ユニークな働き方の実現につながっている。 B「働き方ポジション選択シート」の導入によって、社員が自身の状況に応じて柔軟な働き方を選択することが実現した。選択シートは四半期ごとの面談で申告・修正できる。 C正規社員(総合職・一般職)には「成長シート」、時間給社員(限定職)には「多能工シート」と呼ばれる評価シートを活用し「できることが増えると評価が高くなる」人事評価制度の実施により、仕事に対して夢が持てるようにしている。 D「手洗いタイマー」や「アルコールセンサー」など、衛生管理の徹底をうながす設備について外国籍の社員や障害のある社員などにもわかりやすいイラストつきマニュアルを作成。だれもが視覚的に理解できるよう工夫を凝らした。 E各社員の小さな改善提案を反映する「チョコ案」制度を実施。現場社員の声を拾ったこの制度が作業負担の軽減や職場環境の改善につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  1962年に創業者が農業を始め、2年後にはこんにゃくの栽培に着手した。1994年には有限会社として法人化し、2002年に株式会社に組織変更した。創業以来、こんにゃくや漬物、有機野菜などを生産・加工・販売に至るまで一連の工程を自社で一貫して行う体制を整備、6次産業化を推進する農業生産法人として地域に貢献してきた。農産物や惣菜キット製品の開発、海外輸出、大学との共同研究など業容を拡大し、持続可能な農業を目ざし、環境保全や農家育成にも注力している。業務内容は、4部門に分類され、農場部門として本社所在地である群馬県利根郡昭和村と群馬県太田市に農場を有し、野菜の栽培を行っている。ほかに各種加工品の製造を行う製造部門と管理・運営をになう事務部門、製品の流通および販売活動を担当する販売・資材部門がある。同社では、社員が農業で働くことを通じて感動できることを目ざし、次の世代に農業の未来を託すため、さまざまな支援を通じて人材育成を推進している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全社員126人のうち、60歳以上は17人、そのうち70歳以上は7人で全体の約6%を占めている。これらの高齢社員の多くは、20年近く勤務しており、長年にわたる経験と知識を活かして同社に貢献している。高齢社員の活躍を推進する取組みを始めた背景には、社員が長く働き続けるなかで、だれもがいずれ高齢になるという現実がある。特に、65歳を迎えた段階で一律に退職となる一般的な制度では、元気で意欲のある高齢人材を失うこととなり、業務の継続に支障をきたすおそれがある。このため、労働力を安定的に確保する必要があるとの判断から65歳以降も働き続けられるように就業規則を改定し、これにより高齢社員が時間給社員(限定職)として勤務を継続できる制度が整備された。制度面からの支援を行うことで、高齢社員が安心して働き続けられる環境づくりを進めてきた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @雇用形態  社員は「正社員(総合職・一般職)」、「時間給社員(限定職)」に分かれ、正社員はフルタイム勤務が基本であり、業務状況に応じて残業が発生することもある。時間給社員(限定職)は業務範囲や勤務条件が限定された職種である。また、65歳以上の社員は原則として限定職契約に移行する。  働き方は「働き方ポジション選択シート」により、社員が自身の状況に応じて柔軟に選択できる仕組みとなっている。例えば、子育て中の社員は、時間給社員(限定職)に移行することで子どもの体調不良時に速やかに帰宅できるなど、家庭環境に配慮した働き方が実現した。子育て期間終了後に再び正社員になることも可能であり、「働き方ポジション選択シート」は四半期ごとの上長との面談において申告・修正を行う。 A就業規則の改定  就業規則の見直しと改善を目的として、「就業規則作成委員会」を設置している。この委員会は、各部署から社員1名ずつを選出し、現場の声を反映させる形で構成されている。委員会は年に1回の開催を基本とし、必要に応じて随時開催される。委員会には社会保険労務士も同席し、法的観点からの助言を受けながら、実効性のある改定案を作成する。作成された案は、社長の了承を経て正式に就業規則として改定される仕組みである。「70歳を過ぎても本人が希望し、自力で出社できる場合は勤務を継続できる」というユニークな規定は、この委員会からの提案により実現したものである。就業規則作成委員会は、現場の実情と社員の声を制度に反映させる重要な役割をになっており、柔軟で実用的な就業環境の整備に寄与している。 B評価・賃金制度  給与体系は、職種や勤務条件に応じて差を設けており、不公平感を生じさせないよう配慮されている。特に時間給社員(限定職)は、業務内容や責任範囲に応じて時給に差を設けることで、社員の納得感を得ている。評価制度は、一般職以上の社員は「成長シート」を使用し、四半期ごとに自己評価と上司評価を実施している。時間給社員(限定職)では、業務の習熟度や対応可能な作業範囲を確認するために「多能工シート」が活用されている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @資格取得支援  社員のスキル向上と業務効率化を目的とした資格取得支援制度を導入している。パソコンスキルや簿記など業務に直結する資格は、会社から取得費用の補助を受けられるほか、取得後には資格手当の支給が行われるものもあり、社員の意欲向上につながっている。また、工場内で必要なフォークリフト、クレーン、玉掛けなどの資格は、取得費用の補助に加え、勤務時間内での講習の受講・資格の取得が認められている。これにより、業務に必要な技能を効率的に習得できる環境が整備されている。これらの制度を通じて、社員の能力開発を支援し、職場全体の安全性と生産性の向上を図っている。 A業務改善への意見の吸い上げ  社員が日常業務のなかで感じる小さな改善点を提案できる仕組みとして「チョコ案」制度を導入した。これは現場での作業効率や安全性を向上させるための「ちょっとしたアイデア(=チョコっとした案)」を社員から募るものである。現場の声を反映することで、働きやすい環境づくりを推進している。実際にこの制度を通じて、昇降台やハンドリフトの導入が実現しており、作業負担の軽減や安全性の向上に寄与している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @職場改善  2024(令和6)年稼働の新工場ではバリアフリー、床の転倒防止対策、LED照明を導入し、高齢社員が働きやすい作業環境に配慮している。 A休憩時間  製造部門においては通常の昼休憩に加え、午後3時から30分間の休憩時間を設け、作業負担の軽減を図っている。また、スポットクーラーを導入し作業環境の温度管理を行っており、社員の健康と安全に配慮した取組みを進めている。一方、農場部門では、夏季の高温対策として早朝6時から作業を開始し、日中の昼休憩を長めに設定するなどの工夫がなされている。加えて、ファンつきベストの配付や、パラソルを使用し日陰を確保してから収穫作業を行うなど、現場に即した対策が実施されている。 B衛生管理  製品加工工場に入る前の手洗い時間の個人差をなくすため、タイマーを設置し、全社員が一定時間手洗いを行うよう統一している。また、アルコール消毒をしなければトイレから出られグリンリーフ株式会社ないセンサーや、消毒をしないとエアーシャワーを通過できず工場に入れない仕組みなど、衛生管理の徹底をうながす設備が導入されている。工場に入室する前には、作業着上のホコリなどを除去する粘着クリーナーの使用方法をイラストつきマニュアルで案内しており、だれもが視覚的に理解できるよう工夫されている。さらに、衛生面および社員の負担軽減の観点から、会社が一括して作業着のクリーニングを実施し管理している。 C健康管理  同社では社員の健康維持のため、毎年、全社員に対し「健康診断」、「ストレスチェック」、「インフルエンザの予防接種」を実施している。また、筋トレや健康管理、ストレス解消を目的に「トレーニングルーム」を設置、勤務時間以外ならだれでも自由に利用できる。 (4)その他の取組み  グループ会社であるビオエナジー株式会社は、グループ会社内で働く社員の子どもを対象とした企業主導型保育施設を運営している。保育所の運営により、安心して業務に専念できると子育て中の社員はもとより、一緒に働く社員からも好評である。保育所は職場に隣接しているため、社員は子どもの近くで働き、何かあると内線で確認ができ、社員は安心して働くことができる。  また、外国籍の社員のモチベーション向上のために「インドネシア」、「タイ」、「ベトナム」、「ミャンマー」、「カンボジア」の国旗を掲げており、同社のシンボルとなっている。外国籍社員のための支援課を創設し、きめ細やかな対応を行っている。 (5)高齢社員の声  Oさん(73歳・女性)は製造工場内において検品作業を担当しており、勤続20年目を迎えた。1日7時間、週5日の勤務を元気にこなしている。「勤続10年目、20年目の節目で長期勤続表彰の記念品をいただきうれしかったです。お昼休みのほかに、午後3時から30分間の休憩時間があり、とても助かっています。長く勤められた秘訣はストレスをためないことでしょうか」  Iさん(74歳・女性)は製造工場内で出荷作業や真空パック作業、漬け込み作業などを担当しており、勤続22年目となる。Oさんと同じ勤務時間・日数であり、繁忙期は残業も行う。「ほかの会社と異なり、年齢にかかわらず働き続けることができ、経済的にも助かっています。私たちのような高齢者にやさしい職場なので働きやすく、やりがいもあります。運転免許の更新ができるかぎり、働き続けたいと考えています」 (6)今後の課題  今後の日本の農業、地域の活性化のために、農家の育成を進めていくことを視野に置いている。農業を志す者を雇用し、スキル・ノウハウを与え、また、土地の購入やその融資においてバックアップを行い、独立を支えていきたいと考える。  近年の少子高齢化・人口減少による生産年齢人口の減少をふまえ、若者、高齢者、障害者、外国人という多様な人材の戦力化を進めダイバーシティ経営を実現していくなかで、すべての社員が意見を出し合い支え合っていく企業風土をこれからも目ざしていく。 写真のキャプション グリンリーフ株式会社。敷地内には社員の出身国の国旗が掲揚されている 社内に貼り出されている「チョコ案」による改善事例 検品作業を行うOさん(73歳) 真空パック作業を行うIさん(74歳) 【P12-15】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 スポット勤務可能な「元気事業部」で年齢の上限なく活躍できる環境を実現 株式会社クリーン開発(かいはつ)(北海道千歳(ちとせ)市) 企業プロフィール 株式会社クリーン開発 (北海道千歳市) 創業 1975(昭和50)年 業種 その他の事業サービス業 (建物管理等各種保守管理) 従業員数 292人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 177人 (内訳) 60〜64歳 52人(17.8%) 65〜69歳 41人(14.0%) 70歳以上 84人(28.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで嘱託社員として継続雇用。その後、希望者全員を75歳まで無期雇用のパートタイム従業員として再雇用。各々の上限年齢に達した者で希望者は元気事業部に登録することもできる。最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  株式会社クリーン開発は、1975(昭和50)年に北海道千歳市でビルメンテナンス業を主たる事業として創業。  産業廃棄物収集運搬業許可や一般廃棄物収集運搬業許可を取得し、建築物清掃業登録を完了するなど、着実に事業基盤を構築してきた。経営の根幹には地元住民および地元で働く人々にとっての「一親等」の会社でありたいという想いがある。  人手不足が深刻化するなか、高齢従業員の貢献度を再評価し、積極的な活躍をうながす方向で職場改善を進めてきた。定年年齢の段階的な引上げに加え、年齢の上限なく働ける登録制の「元気事業部」を創設し、柔軟な働き方を実現している。 POINT @定年年齢の段階的引上げ(63歳から65歳)、70歳まで嘱託社員として継続雇用、75歳までパートタイム従業員として再雇用に加え、年齢の上限なく働ける「元気事業部」を創設した。 A絶対評価による人事評価制度を導入し、従業員一人ひとりの就労意欲向上を図っている。 B全従業員を対象とした年間計画による体系的な人材育成研修を実施。特に繁忙期に備えた「安全・品質・接遇」に関する講習会は全社的な意識統一に不可欠となっている。 C情報システムの自社開発・導入により、業務負担を大幅に軽減。作業効率化と高齢従業員の働きやすさを両立した。 D温水除草やアルカリイオン電解水の採用により、環境と作業者の安全性が向上。高齢従業員も安心して働ける環境を整備している。 U 企業の沿革・事業内容  1975年に、北海道千歳市でビルメンテナンス業を柱として創業。創業と同時に産業廃棄物収集運搬業許可(北海道)および一般廃棄物収集運搬業許可(千歳市)を取得し、1982年には建築物清掃業登録を完了するなど、着実に事業基盤を構築してきた。  現在の事業内容は、ビルメンテナンス業を中心に、産業廃棄物・一般廃棄物の収集運搬業、建築物清掃業、環境整備事業、スズメバチ駆除業務など多岐にわたる。千歳市という立地を活かし、新千歳空港をはじめとする重要インフラの維持管理にもたずさわっている。  2018(平成30)年の北海道胆振東部(いぶりとうぶ)地震では、発災直後から迅速な初動対応を行い、翌日には新千歳空港の復旧作業に着手。2022(令和4)年の豪雪災害では、自社の除雪機械を投入して地域の交通維持に貢献するなど、地域のインフラを支える企業として重要な役割を果たしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  おもな事業領域であるビルメンテナンス業は、仕事内容や不規則な勤務時間などが要因となり、特に若年層へ魅力が伝わりづらいという業界の仕組みに起因する課題を抱えている。  また、千歳市は航空自衛隊や陸上自衛隊の駐屯地を擁していることから、退職自衛官が多く、地域に定住している。そこで、自衛隊退職者を安定的な労働力として確保してきたが、近年は退職者が減少し、採用が困難になってきている。  このような複合的要因により人手不足が深刻化するなか、高齢従業員の会社への貢献度を再評価し、活躍を後押しする方向で職場改善を進めることとした。  現在、60歳以上の従業員が全体の約60%を占めており、高い就労意欲と豊富な経験を活かし、事業運営の中核をになう存在となっている。  同社では、高齢従業員が心身ともに健康な状態で、意欲と能力に応じて可能なかぎり長く活躍し続けられる職場環境を整備することを経営方針の一つとして定めている。将来的には、賃金体系を含む処遇全般の改善を推進するとともに、安定的な雇用を保障するべく、可能なかぎり正社員への登用を進めている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制度と継続雇用制度の整備  従業員が年齢にかかわらず、意欲と能力に応じて長期的に就労を継続できる環境を整備するため、2024年4月に正社員の定年年齢を63歳から65歳へと引き上げた。定年後も嘱託社員として希望者全員70歳まで勤務可能とする継続雇用制度を整備している。  さらに、70歳を超えて就労を希望する者については、パートタイム従業員として75歳まで雇用を継続することができる。 A「元気事業部」の創設  継続雇用制度に加え、個々のライフステージに応じたより柔軟な働き方を実現するため、2010年より登録制の「元気事業部」を設置した。これは、各雇用形態の上限年齢に達した従業員が、曜日や時間に縛られることなく、自身の都合に合わせてスポット的に勤務できる制度である。  同事業部は、請負・委任契約ではなく、雇用関係(日々雇用)にある点が特徴で、労災保険についても適用されるため、安心して働くことができる。登録時には個々の強みや経験を申告する書式が用いられ、各人の能力を最大限に活かす業務配分が行われている。  この制度は、高齢従業員に活躍の場を提供するだけでなく、若手・中堅従業員が育児や介護などで突発的な休暇を取得する際に、その業務を補完する役割も果たしている。この相互補完の仕組みが強い誘因となり、直近2年間で11人の退職者が再入社するという結果に結びついている。 B人事評価制度の改善  同社では従業員のモチベーション向上を目的として、絶対評価による人事評価制度を導入している。上長が「顧客からの評価」および「本人の自己評価」からの申告内容を総合的に勘案して年3回実施し、経営層へ報告される。評価プロセスの透明性と従業員の目標意識向上を目的として、役職者による「取組み計画」と「結果」の全体報告会が行われている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @体系的な人材育成研修の実施  全従業員を対象に、育成のための年間計画を策定し、階層や職務に応じた研修を計画的に実施している。研修内容は、社会情勢や市場のニーズを的確にとらえた最新の情報を組み込んでいる。特に、繁忙期に備えて毎年11月に全従業員を対象として行う「安全・品質・接遇」に関する講習会は、全社的な意識統一とサービス品質の向上に不可欠なものとなっている。  研修資料には、高齢従業員も理解しやすいようマンガを活用するなどの工夫を行い、要点が頭に入りやすいよう配慮している。 A技能継承と世代間交流の促進  各事業所の主任が年1回、取締役を含めた全従業員に対して取組み計画と結果報告を実施している。現在、72歳以上の主任が3人おり、デジタルカメラやスマートフォン、パソコンを駆使して、従業員が計画に対して真摯に取り組んでいる姿を写真撮影し、レポートにまとめて発表している。  また、近隣の専門学校の学生を対象に、送迎つきの清掃アルバイトとして採用する支援プログラムを実施している。学生と経験豊富な高齢従業員が共同で作業を行う体制を構築しており、単なる経済的支援に留まらず、世代間の技術・知識の伝承と相互理解を促進している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  草刈り業務では、安全管理策を二段階で実施している。第一に、新規の業務従事者に対し、初期段階での安全講習を必須とし、作業の標準化と安全意識の涵養(かんよう)を図っている。第二に、2024年より作業単位を3人体制へと移行し、作業中の相互監視を可能とした。これにより、ヒューマンエラーに起因する事故を抑制すると同時に、夏季の熱中症など突発的な健康問題への即応性を高めている。  スズメバチ駆除業務では、従来、年間最大1300件に達する案件の全工程(顧客対応、現場作業や指示、報告書作成等)が特定の担当者に集中していた。このため、受付けから報告書作成に至るワークフローを包括的に管理する新システムを自社で開発・導入。情報伝達の迅速化と事務作業の抜本的な省力化を実現している。 A社屋・休憩環境の整備  従業員のウェルビーイング向上を目的とし、社屋の建替えを機に、休憩スペースの機能的・質的向上を図っている。冷暖房設備はもちろん、無料の飲料提供(コーヒーやお茶)、大型テレビやソファーの設置など、快適な休息環境を提供している。この休憩スペースは、業務終了後の自発的なコミュニケーションの場としても機能している。 B健康管理の充実  2024年に日本健康会議「健康経営○R(★)優良法人」の認定を受けるなど、全従業員に対し健康維持・増進への意識啓発に取り組んでいる。 C安全衛生対策  年3回事業所内の安全点検を実施し、危険箇所の早期発見と改善に努めているほか、2カ月に一度発行する社内報において、安全衛生に関する特集記事を掲載し、従業員の安全意識の維持・向上に努めている。また、日常で使用する保護具の改良に努めており、軽量型ヘルメットや最新型のスノースパイクを導入している。 D環境に配慮した技術の導入  温水除草は、高温水を散布することで雑草の根のタンパク質構造を熱変性させ、根本から枯死させる物理的防除法である。化学農薬を一切使用しないため、人体、農作物、家畜への影響がなく、周辺環境に対しても安全性がきわめて高い。  また、アルカリイオン電解水を洗浄液として導入し、洗浄後に有害な残留物を残さず、成分は水に戻るため、二度拭きが不要となり作業効率が向上している。人体と環境への負荷が低い持続可能性の高い清掃手法である。 (4)その他の取組み福利厚生の充実  組織の一体感を醸成するため、忘年会や従業員の家族も参加可能なバーベキュー大会などの社内イベントを定期的に実施し、コミュニケーションの活性化を図っている。また、プロ野球「北海道日本ハムファイターズ」の本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOの年間シートを法人契約し、希望する従業員を毎月抽選で招待することで、従業員の満足度向上に努めている。 (5)高齢従業員の声  長谷川(はせがわ)勤(つとむ)さん(72歳)は、1984年4月に入社した社歴41年の大ベテラン。週5日、1日8時間のフルタイム勤務で働いている。入社後にビルクリーニング技能士1級の資格を取得し、複数の現場の立上げを経験。現場の責任者として活躍し、現在は、各現場の見回りおよび後進の指導にあたっている。「若い人の指導を行い、成長する姿を見られるのがうれしいですね。自分自身も新しいシステムに触れるなどして、勉強の日々です。元気なうちは、働き続けたいですね」と話す。  杉原(すぎはら)修(おさむ)さん(75歳)は、他社を定年退職後、2016年4月より元気事業部会員として登録(9年目)。環境整備事業の主要な現場を任されている。ほかの従業員が将来の目標として杉原さんの名前をあげるほど、明るく元気に勤務している。「自分の体力と身体を動かしていれば、若さを保てます。身体が動けば、いつまででも働きたいです」と話す。 (6)今後の課題  同社は今後、ロボティクスの導入や運転しやすい車両、ファンつきベストなどをはじめ、使いやすい道具や洗剤の導入、ユニフォームの見直しを行いながら、高齢従業員だけでなく全従業員が働きやすい環境を整備していく方針である。  また、時間の縛りなく、従業員が希望する時間帯で仕事ができるよう顧客先と調整を行うなど、より柔軟な働き方の実現を目ざしている。  経営理念である地元住民および地元で働く人々にとっての「一親等」の会社として、高齢従業員はもちろん、全世代が働きやすい職場環境の構築に向けた同社の取組みは今後も続く。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 株式会社クリーン開発 元気事業部に登録して働く高齢従業員 杉原修さん(75歳・左)、長谷川勤さん(72歳・右)。株式会社クリーン開発の創業50周年記念企画で掲げた2025年の目標を手にする2人 【P16-19】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 IT業界では稀にみる定年制廃止 多様な働き方を提供して高齢社員を戦力化 株式会社マイネットシステム(長野県松本市) 企業プロフィール 株式会社マイネットシステム (長野県松本市) 創業 2000(平成12)年 業種 情報サービス業 社員数 82人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 8人 (内訳) 60〜64歳 6人(7.3%) 65〜69歳 1人(1.2%) 70歳以上 1人(1.2%) 定年・継続雇用制度 定年なし。最高年齢者は営業職の75歳 T 本事例のポイント  株式会社マイネットシステムは、業務システム開発やシステムエンジニアリングサービスなどを手がける情報サービス企業。「お客様と共に夢への挑戦をします。信頼する会社づくりを目指します。公平・公正な職場づくりに努めます。」を企業理念に掲げ、長野県松本市を拠点に幅広く事業を展開している。同社が社員に求める人物像は、会社の業績に貢献でき、会社からの指示で動くのではなく、自分で動いて仕事を行うことのできる「自律型人材」。これは高齢社員も同様であるため、60歳以降の社員を特別視することなく、戦力として活用している。 POINT @IT業界では、ほとんど見られない定年制の廃止を実施し、社員が長期的なキャリア形成を描ける環境を整備した。 A60歳以上の社員を対象に、毎年、働き方に関する意向確認の話合いを実施。社員のライフステージに合わせた多様な働き方を提供している。 B年齢に関係なく自発的な行動をうながすため、能力・貢献に見合った報酬制度を構築し、60歳時点での賃金の一律減額は行っていない。 C目標管理シートをもとにした人事評価制度により、高齢社員のモチベーション向上と公平な処遇を実現している。 U 企業の沿革・事業内容  2000(平成12)年に有限会社マイネットシステムとして創業。2007年、株式会社への商号変更を経て、2018年には本社を長野県松本市へ移転。これまで長野市、東京都に事業所を展開している。  創業以来、長野県を中心に事業を展開しており、業務アプリケーションのみならず組込みシステム(ファームウェア)の開発にもたずさわっている。現在では首都圏にも進出し、金融システムの開発・保守業務なども手がけている。  主軸事業は「業務システム開発」、「システムエンジニアリングサービス」、「ECサイトの構築」、「戦略策定&コンサルティング」、「プロジェクトマネージメント支援」、「システム運用・保守&ヘルプデスク」である。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2020(令和2)年の社員数は42人であったが、中途採用者の増加により、2025年4月1日時点では82人に増加した。60歳以上は8人(約1割)、70歳以上は1人が在籍しており、高齢社員は営業・経営企画、開発・技術などの職種にたずさわっている。  同社の技術系高齢社員は、過去にCOBOL※1やFORTRAN※2などのプログラミング言語に精通した人材であり、技術革新により新しいシステムが開発された場合においても、これまでの技術力・専門力・経験から柔軟に対応でき、貴重な人材として活躍している。  2020年に経営危機に陥ったことを機に、現社長の発案により「社員が会社を好きになって、やりがいのある職場にする」ことを最上位目標に設定した。そこで、10年以上改定を行っていなかった就業規則を見直し、人事制度の明文化、処遇の改善、人事評価制度の構築、退職金制度の充実を図った。  制度改定にあたっては、経営陣と弁護士、公認会計士、社会保険労務士のプロジェクトチームを結成し、定年制廃止などに向けた検討を重ねた。専門家を交えることで、法的判断や収益構造との整合性、各社員の生涯設計の有効性を図ることができた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制の廃止  以前は定年60歳、その後嘱託社員として65歳まで再雇用としていたが、会社の成長の根幹は人事制度にあるとの確信から、2020年に短時間正社員制度を導入し、2023年に定年制を廃止した。  短時間正社員制度、および定年制の廃止にあたっては、社員に「会社が社員に求める能力、期待している役割」を明確に説明し、企業と社員双方にとって納得性の高い制度として導入を図った。  現在、同社では高齢社員活用方針に「人それぞれ置かれている環境・事情が全く違うため、各自の選択を尊重した柔軟な就業環境を提供する」を掲げており、高齢社員に多様な働き方が可能となるよう配慮している。  60歳を迎える時点で本人と会社の間で働き方の意思確認を行い、@「いままで通り管理職を続け今後も上位職を目ざす」、A「管理職を外れて一般職としてフルタイム勤務」、B「一般職として月の出勤を半分にする」など、希望に応じた多様な働き方の選択肢を設けている。  60歳以上の社員には、働き方に関する意向の確認を毎年行っており、「個人の希望」と「会社が求める社員に期待する役割」、「社員が持つ能力や意欲」などを話し合い、会社と個人が納得したうえで働き方を決めている。 A賃金制度の見直し  制度改定前は、人事制度が明文化されていなかったため、経営再建を契機に賃金制度の見直しを行った。そして昇給・評価制度との連動を図るため、役職・等級別の月額給与バンド(上限額から下限額まで幅をもたせた帯状の賃金構造)を設定し、公平性を確保することで社員にとっての透明性を高めた。  給与バンドは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から、長野県内の同業・同規模の統計資料を参考として賃金基準を設定。県内の同業他社より高い給与水準に設定するなど、社員の納得感やモチベーションを高めるための工夫がなされている。 B人事評価制度の導入  「60歳になってもマネジメント能力・技術力が落ちることはない」という考えから、60歳時点での一律の賃金の減額などは行っていない。一方で「高齢者だから」と特別視することもなく、60歳以降の管理職においては、能力や貢献度をきちんと評価し、それに見合った報酬を提供するため、人事評価制度の見直しを実施した。現在は、半期ごとに面談を設定して目標管理シートをもとに、目標設定と実績を本人と評価者で面談評価し、総合点数で評価レベルを決定しており、評価レベルは翌年の昇給に反映している。  ある高齢社員は、本人の希望により役職を外れて一般職に戻ったが、貢献度が高いことから、以前の支給額とほぼ変わらない状況である。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @資格取得の促進  高齢社員を含めた全社員に「基本情報処理技術者」をはじめとした資格取得手当を支給している。手当が支給される資格については、スキルシートに盛り込んでおり、社員が長期的な視点で取得計画を立てられるようにしている。 A知識習得機会の提供  エンジニアに必要なスキルは、担当する分野によって異なるが、基本的には、業務を通じて社員が自主的に知識を習得するよううながしている。会社は支援策として、社内ポータルサイトを活用した業務に直結するテーマの勉強会を開催している。ほとんどの勉強会に高齢社員が、講師または受講者として参加している。  高齢社員が講師を行うメリットとしては、講師と受講者がともに社員のため、コミュニケーションが活発になり、業務への円滑な活用にもつながっている。また、社内ポータルサイトを活用することにより、リモートワークの社員も参加しやすい環境が整備されている。 B対面コミュニケーションの強化  同社では、「楽しくなければ仕事じゃない」を信念として、人の意見を否定するのではなく、真剣に向き合う職場づくりを目ざしている。このため、社長が週1回、本社、東京事業所、長野事業所の3事業所を訪問し、社員との信頼関係の構築・成長支援をうながすための1on1ミーティングを実施している。  対面で話すことで、業務上の早期課題の発見、社員の感情や要望をくみ上げることが可能となり、モチベーションの向上にもつながっている。  また、社内での呼称については、「社長」や「課長」などの役職は用いず、すべて「○○さん」でお互いを呼び合うこととしている。このため社内の上下関係が生まれにくく、若手社員や中途入社の社員にとっても意見がいいやすく、風通しのよいざっくばらんな雰囲気でお互いの自主性を尊重しあう企業風土が育っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境・作業の改善  オフィスの快適性を向上させるため、机は幅140cm(通常は120cm)のものを、いすは腰痛予防に配慮したものを全社的に配置。職場における目の負担を軽減させるため、適切な照明設備の導入(LEDの導入)、高齢社員が参加する場合は、プロジェクターの文字を大きくするなどの配慮を行っている。 A多様な働き方の導入  短時間正社員制度、勤務時間の短縮、フレックスタイム制度、1時間単位の有給休暇の制度を導入している。高齢社員からは、孫・家族の送迎、通院などのために短時間勤務を希望する者もおり、好評である。  ある高齢社員は、孫の育児サポートのため、正社員から短時間正社員に雇用形態を変更し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら仕事を続けている。  また、リモートワークや副業を可能とするなど、多様な働き方を通じて高齢社員が安心して働ける職場環境が整備されている。現在リモートワークは約10人が活用しており、なかには大病を患った高齢社員もいるが、リモートワークの導入により通勤時の体力的な負担が軽減され、体調にあわせた働き方で勤務を継続している。 B健康管理  人間ドックを受ける社員には、55歳以降、5歳刻みで補助金を支給している。そのほか、ストレスチェックや、社員のメンタルヘルス状況の確認なども行っており、必要に応じて産業医や専門家を紹介している。 (4)高齢社員の声  営業・経営企画職として働く石井(いしい)哲也(てつや)さん(61歳)は、定年制廃止について「過去につちかった人脈を活用でき、会社の業績に長く寄与できるようになりました。また自分の持っている知識などがそのまま役立ち、会社に貢献できています」と話す。  開発・技術職として働く長村(おさむら)博(ひろし)さん(60歳)は、「やや昔のスキルでも、必要としてくれる人がおり、自分の持っているスキルがそのまま活かせていると感じています」と手ごたえを語る。 (5)今後の課題  今後は、退職金制度のさらなる充実、福利厚生制度の導入、定年制廃止にともなう役職任命制度のあり方改革、社内ベンチャー制度の創設、社員教育の充実などに取り組んでいく予定としている。  同社では、大手コンピュータ会社の特約店での勤務経験があり人脈が豊富な高齢社員、食品流通システムに精通している高齢社員などが、長年の経験を武器に顧客先の課題を掘り起こし、顧客との信頼関係の構築、顧客満足度の向上などに積極的に取り組んでいる。定年制の廃止により、社員のつちかった経験を効果的に活かせており、売上高は経営危機時の2020年と比較して、3.3倍にまで伸長した。  また、同社の取組みは地域にも大きなインパクトを与えている。2023年には長野県SDGs推進企業として登録され、持続可能な経営モデルの先駆例として認知された。IT業界ではきわめて稀な定年制廃止の実施は、地元メディアからも注目を集め大きく取り上げられた。これにより、長野県内の他企業にも高齢者活用の可能性を示すロールモデルとなっている。  高齢社員はもちろん、だれもが働きやすい職場環境を構築し、経営理念である「お客様と共に夢への挑戦をします。信頼する会社づくりを目指します。公平・公正な職場づくりに努めます。」の具現化を目ざして、同社の取組みはこれからも続いていく。 ※1 COBOL(コボル)……1960年ごろに開発された事務処理向けのプログラミング言語 ※2 FORTRAN(フォートラン)……1950年代に開発された科学技術計算向けのプログラミング言語 写真のキャプション 株式会社マイネットシステム 社内では、高齢社員を含む幅広い世代の社員が机を並べて働いている 石井哲也さん(61歳) 長村博さん(60歳) 【P20-23】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢社員が長く安全で安心して働ける職場環境を段階的に実現 株式会社清風堂(せいふうどう)(北海道札幌市) 企業プロフィール 株式会社清風堂 (北海道札幌市) 創業 1984(昭和59)年 業種 その他の事業サービス業 (ビルメンテナンス業) 社員数 450人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 307人 (内訳) 60〜64歳 51人(11.3%) 65〜69歳 88人(19.6%) 70歳以上 168人(37.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで嘱託社員として継続雇用。以降、一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は84歳 T 本事例のポイント  株式会社清風堂は、札幌市でビル・店舗・病院・オフィスなどの総合清掃管理サービスを手がける企業である。現在の社員構成は65歳以上がボリュームゾーンとなっており、全社員450人のうち約57%にあたる256人が65歳以上という、高齢化がきわめて進んだ企業である。ビルメンテナンス業界は深刻な人手不足と高齢化に直面しており、同社においても60代後半層の社員が事業の中核をになっている現状にある。  現在の最高年齢者は84歳の清掃スタッフで、80代の社員も4人在籍している。このような状況のなかで、同社は「高齢者が長く安全で安心して働き続けられるようにすること」を根本思想として掲げ、2022(令和4)年から段階的かつ総合的な制度改善を実施し、高齢社員が働きやすい環境づくりに取り組んでいる。  これらの取組みにより、高齢社員のモチベーションの向上、新規採用の増加、職場風土の改善などの成果を上げている。 POINT @2024年1月に定年を60歳から65歳に引き上げ、希望者全員を70歳まで継続雇用する制度を導入。さらに70歳以降も一定条件のもと年齢上限なく継続雇用を可能とした。 A55歳以上の社員を対象に、短時間勤務、夜間勤務除外、勤務日数調整などを可能とする「勤務時間の弾力化」制度を導入し、体力や健康状態に応じた働き方を選択できる環境を整備した。 B60歳から64歳までの期間を賞与支給および退職金計算の対象期間に算入し、定年延長にともなう処遇向上を実現。定年引上げ前に定年退職後、契約社員になっている場合は遡及(そきゅう)して適用した。 C掃除機の軽量化をはじめ、使用機材の見直しにより、高齢社員の身体的負担を大幅に軽減した。安全で疲労の少ない作業を実現し、高齢社員はもちろん、全社員が長く働くことができる作業環境および作業方法を整えた。 Dビルクリーニング技能士などの資格取得費用を全額支給し、現場にメンターを配置して業務および健康面で相談体制を強化した。これにより、社員の自律的なキャリア形成を可能とした。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社清風堂は1984(昭和59)年7月4日、北海道札幌市でビル・店舗・病院・オフィスなどの総合清掃管理サービスを主たる事業として創業した。誠実で確実な仕事により多くの顧客から信頼を得ている。  事業内容は総合清掃管理を中核とし、環境衛生管理、設備保守管理、警備・施設管理業務、竣工美装工事など建物の維持管理にかかわる幅広い分野に展開している。清掃のプロフェッショナルとして、各種施設を快適な空間にリフレッシュし、安心・安全な環境づくりをサポートしている。  創業から40年を迎え、ビルメンテナンス業界における人手不足と高齢化という業界全体の課題に直面しながらも、高齢社員の豊富な経験とノウハウを活かした競争力の維持・向上を図っている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の高齢化の現状は著しく、2025年4月1日現在で全社員450人のうち約57%にあたる256人が65歳以上となっている。年齢構成は、60〜64歳が51人(11.3%)、65〜69歳が88人(19.6%)、70歳以上が168人(37.3%)となっており、特に70歳以上の社員が全体の3分の1を超える状況にある。現在の最高年齢者は84歳の清掃スタッフで、60代後半層の社員が事業の中核をになっている状況にある。  社員の高齢化と人手不足は、ビルメンテナンス業界全体の課題となっており、どのように対応していくべきかが問われている。そんななかで、社員からは「高齢社員の経験やノウハウを活かして会社の競争力を維持・向上させたい」、「働くことにより長く健康を維持したい」といった要望が寄せられていた。  そこで同社では、社員が健康状態を考慮した働き方を選択できるようにするとともに、体調が悪くなった際に、社員相互の支援体制を強化することにより、長く働き続けることができる職場環境づくりを推進。あわせて安全衛生管理を充実させることで、安全・安心に働くことができる職場環境を目ざしていくこととし、2021年4月の改正高年齢者雇用安定法施行をふまえ、2022年4月に継続雇用制度の大幅な見直しを実施した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制度と継続雇用制度の見直し  従来の制度は60歳定年、希望者全員65歳までの継続雇用としていたが、2022年に希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入。さらに2024年1月には定年年齢を60歳から65歳に引き上げるとともに、70歳以降も社員本人の要望・適性・評価などに応じて、年齢上限なく継続雇用を可能とする仕組みとした。これらの制度改善により、社員の労働意欲の向上や仕事へのモチベーションが高まり、70代以上の清掃業務への応募が増えている。中途採用にも好影響が出ており、この数年で採用が大幅に増加した。 A賃金制度と退職金制度の見直し  2024年1月の定年年齢引上げにあわせ、賃金規程と退職金規程についても見直しを行い、60歳から64歳までの期間について賞与支給の対象とするとともに、当該期間については退職金計算の対象期間に算入した。これには高齢社員だけではなく、若手・中堅社員からも好意的な意見が多くあがった。また、この見直しにあわせて、定年引上げ前に定年退職し身分が契約社員となっている社員については、社員の雇用継続の意思を個別に確認したうえで、定年引上げ後の正社員と同様、退職金計算の対象期間に算入する措置を講じている。 B多様な勤務形態の導入  2022年4月の継続雇用制度見直しにあわせ、「勤務時間の弾力化」を制度として導入した。具体的には、55歳以上の社員を対象に、体力の低下や健康状態を考慮して勤務時間弾力化の申請を行えば、短時間勤務のほか、夜間勤務の除外、勤務日数の調整、隔日勤務が可能となる。勤務時間の弾力化を行うことで、自分の働き方を自分で選択することが可能になり、安心して長く働くことができる職場環境が実現した。 C私傷病休職制度の拡大  2024年4月に、3カ月間の休職が認められる私傷病休職の適用範囲を「正社員のみ」から「全社員」に拡大した。正社員にかぎらず全社員が私傷病による治療のために退職を余儀なくされることがなくなり、職場復帰の機会が制度上保障されることとなった。  また、年次有給休暇とは別に月1日(年12日)のライフサポート休暇(正社員のみ)を導入した。社員からは「通院や私事などによる平日の休暇がとりやすくなった」との声が聞かれ、好評を得ている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @資格取得支援制度の創設  全社員が自律的にキャリア形成を進められるよう、2020年4月、ビルクリーニング技能士、清掃作業監督者、建築物環境衛生管理技術者、建築物清掃管理評価資格といった、業務に必要となる資格の取得にかかる経費(講習費用、テキスト代、試験費用)を全額支給するとともに、講習時や試験時を出勤扱いとする制度を創設した。  この制度により、社員が自らの職業能力を向上させる意欲が高まり、資格取得にチャレンジする社員が毎年5〜10人程度出るようになった。制度を活用して有期雇用のパート社員2人がビルクリーニング技能士の資格を取得し、無期雇用に転換することになった実績もある。 Aメンターの配置  業務上の疑問や健康面の相談を気軽に行うことができるメンター(現場責任者)を7人配置し、日々、社員からの相談に応じている。社員は働き方の希望を現場のメンターに提出し、メンターとの対話により調整することで、双方のコミュニケーションが活発になった。希望を気兼ねなく相談できるようになったことで、ストレス要因の軽減にもつながっている。  メンターは月1回、集合会議による意見交換を実施しており、相談時の注意点や傾聴時のポイントなどを共有することで、相談の質の向上を図っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @清掃器具の改善  高齢社員の身体的負担の軽減を図るため、従来、5〜6kgの重量があった掃除機を2〜3kgの軽量タイプに全面的に変更した。また、床の拭き掃除に使用するモップを従来型の糸モップからフラットモップに変更するなどの改善を行っている。フラットモップに変えたことで、モップの洗濯作業がなくなり、以前は洗って絞る作業をくり返し行うことで、指の関節にダメージを負う社員がいたが、現在はそのような症状を発症するケースはなくなった。 A休憩室の設置  現場作業時の顧客先での休憩スペース確保のため、現場責任者が休憩室などの設置や使用の許可に関する交渉に努めている。休憩スペースの確保により、社員の疲労回復やプライバシー保護が図られるようになったほか、交渉の努力が社員に伝わることで、現場責任者との信頼関係が高まり、人間関係をより円滑にする効果も生まれている。 B健康管理の強化  2024年から特定健診の費用を会社が全額負担しているほか、健康管理の1次予防、2次予防の強化を目的に、人間ドック、脳ドック、心臓ドックのうち一つを会社が費用負担する制度を創設した。1回あたり4〜5万円の費用負担を行っている。  また、インフルエンザの予防接種率を高めるため費用の全額を会社負担とし、現場の事業担当者が社員への周知と日程調整を行っている。 C安全衛生管理の充実  年1回開催している安全衛生管理研修の内容(作業方法の注意点、心と体の健康管理の方法、感染症対策など)の充実を図っている。通勤時や作業時の転倒事故に対する注意喚起を徹底することができ、社員の安全衛生管理の知識と実践の向上につながっている。 (4)その他の取組み @高齢者の積極的な採用  70代の高齢者を積極的に採用しているほか、「札幌市就業サポートセンター」で行われている各種高齢者雇用の啓発活動に積極的に協力している。70歳超の新規採用者数は2021年の23人から、2024年には51人と大幅に増加している。 Aダイバーシティと介護・仕事の両立  国籍を問わずやる気のある人材を積極的に採用する方針であり、現在は2人の外国籍社員が在籍している。また、2022年までに育児介護休業規程を整備しており、介護と仕事の両立がしやすい環境整備を行っている。  札幌市の「札幌SDGs企業登録制度」に登録し、多様な働き方の促進や環境問題を中心に取組みを行うなど地域貢献の活動も積極的に行っている。 (5)高齢社員の声  三井(みつい)勝好(かつよし)さん(74歳)は、2018(平成30)年に入社し在籍6年。おもにマンションやテナントビルの清掃を担当している。「清掃をしてキレイになっていくのがうれしいですし、それがやりがいにつながっています。身体を動かすことが健康にもつながります」と話す。  林(はやし)功修(よしのぶ)さん(75歳)は、2010年に入社して在籍15年。マンションなどの巡回清掃を担当している。「体力や年齢にあわせて、仕事量や勤務時間を調整してもらえるので助かります」と話す。 (6)今後の課題  同社の職場改善の根本思想は、「高齢者が長く安全で安心して働き続けられるようにすること」である。高齢者は労災事故が多いといわれるが、労働災害にかぎらず、自宅などふだんの生活のなかで転倒してしまうこともある。私傷病休職の適用範囲を全社員に拡大した理由は、このようなケースでも安心して休んでもらえるよう配慮した結果である。  今後は、「定年制の廃止、または継続雇用年齢の引上げ」についても検討をしていく方針。社員が安心してより長く働き続けられる制度をつねに模索し、地道な改善に努めていきたいとしている。  高齢社員が持つ豊富な経験とノウハウを最大限に活用し、安全で働きやすい職場環境の継続的な改善を通じて、同社はさらなる高齢者雇用の推進に取り組んでいく。 写真のキャプション 株式会社清風堂 軽量タイプの掃除機(上)やフラットモップ(下)を導入し負荷を軽減 三井勝好さん(74歳) 林功修さん(75歳) 【P24-27】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢従業員が自らの国家資格を活かし即戦力として活躍できる職場環境を実現 藤田(ふじた)建設工業(けんせつこうぎょう)株式会社(福島県東白川郡(ひがししらかわぐん)棚倉町(たなぐらまち)) 企業プロフィール 藤田建設工業株式会社 (福島県東白川郡棚倉町) 創業 1950(昭和25)年 業種 総合工事業 従業員数 173人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 78人 (内訳) 60〜64歳 25人(14.5%) 65〜69歳 32人(18.5%) 70歳以上 21人(12.1%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで再雇用。その後は運用により一定の条件のもと、年齢上限なく再雇用。最高年齢者は87歳 T 本事例のポイント  藤田建設工業株式会社は1950(昭和25)年に創業した。創業以来「仕事は仕事でとれ」を掲げて業容を拡大。この言葉は「良い仕事をすることが呼び水となり、次の仕事を呼んでくる」という思いが込められており、全社一丸となって地域に評価してもらえる会社づくりを目ざしてきた。  また、同社は福島県で最も多くの「福島県優良建設工事知事表彰」を受けており、技術力と施工品質が高く評価されている。雇用管理の面でも「仕事と生活の調和」推進企業など多くの認証を受けており、さらに、2020(令和2)年から4年連続で「健康経営優良法人」(中小規模法人部門)の認定を受けるなど、従業員の健康に対する意識の高さもうかがうことができる。 POINT @経験豊富な高齢従業員は、事業継続に不可欠な存在であり、就業規則を改定して、定年年齢と継続雇用の年齢上限を引き上げて、長く継続して働ける環境を整備した。 A高齢従業員は国家資格保有者が多いため、専門性を活かして活躍してもらうために定年後も資格手当を支給して、給与の底上げを図った。 B柔軟な勤務形態により高齢従業員の就業継続を支援。また、継続教育制度(CPDS)を活用し、中高年のスキル維持・向上を促進した。さらに、70歳以上の従業員の表彰制度や会長特別賞により、高齢従業員の意欲向上を図った。 CICT、DXの導入により作業効率を向上させつつ、高齢従業員の経験・技能を活かせる職場を実現した。 D健康講習、熱中症対策、感染症予防など、健康管理体制の強化に努め、健康経営優良法人の認定を受けた。 U 企業の沿革・事業内容  同社は創業75年を誇る総合工事会社である。創業以来、管路更生工事や、建設プロジェクトに関する調査・研究・企画・設計など幅広い事業を展開してきた。ISOの認証取得や働きやすい職場づくりにも注力し、地域と顧客に評価される企業を目ざしてきた。「良い仕事が次の仕事を呼ぶ」という精神を大切にし、信頼と実績を積み重ねている。雇用管理に関する認証も数多く受けており、とりわけ仕事と子育てが両立できる職場づくりに取り組み、2007(平成19)年に「仕事と生活の調和」推進企業、2008年に「子育て応援」中小企業、2016年に「働く女性応援」中小企業などの認証を県より受けている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  本店を置く福島県東白川郡棚倉町は、人口減少と高齢化が進む地域で、事業継続を推進するには若年者の採用もさることながら、高齢従業員の活躍が不可欠であった。特に国家資格を有する高齢従業員の存在は、建設業における品質確保や受注維持に重要な役割を果たしていることに鑑み、高齢従業員が長期にわたり活躍できる職場環境の整備は喫緊の課題であった。  2020年に就業規則を改定し、定年年齢と継続雇用制度の年齢上限の引上げを行い、高齢従業員が長期にわたり活躍できる職場環境の整備を進めた。現在、60歳以上の従業員数は78人、そのうち70代は19人、80代は2人で、最高年齢者の87歳の従業員はこれまでの経験を活かして経営相談や福島県内はもとより、さらに広域の情報収集において活躍している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の引上げ  2020年に60歳定年と希望者全員65歳までの継続雇用制度の年齢をそれぞれ5歳ずつ引き上げ、定年は65歳に、継続雇用は希望者全員70歳までとし、70歳以降も本人の健康状態と業務量により年齢上限なく再雇用している。同社には「高齢従業員には定年後も働けるかぎりは働き続けてほしい」という思いがある。同社の会長は、人生の目的・目標を持ち、社会に貢献することが元気で長生きする秘訣であり、「きょういく(教育≠今日、行くところ)」と「きょうよう(教養≠今日の用事)」を持つことを高齢従業員にすすめている。 A賃金制度・人事評価制度  定年後も安定した収入を確保できるように賃金制度を整備し、満60歳で肩書きは変わるものの、給与は同額を支給している。65歳で定年を迎えると、役職を外れスタッフ職となるが、基本給は定年前の約85%を維持し、引き続き月給制を採用している。70歳以降は日給制へ移行するが、国家資格手当は年齢にかかわりなく支給しており、高齢従業員の収入を安定させている。これにより高齢従業員の生活の安定を図るとともに、若手従業員が資格を取得する意欲の向上にもつながっている。  また、高齢従業員のモチベーションの維持・向上のため、定年後も評価制度を導入しており、上司による評価結果を専務(2人)と常務の3人による確認を経て社長が最終判断し、賞与に反映している。評価には査定用シートを使用しているが、高齢従業員は時短勤務や勤務日数が異なるので柔軟に対応している。 B勤務形態  定年後の再雇用に際しては「再就職希望申出書」を提出してもらい、本人の希望に沿った柔軟な働き方を可能なかぎり認めている。実際に、親の介護のために週3日勤務の選択、遠距離通勤にともなう時差出勤の選択、公的年金の受給に配慮した勤務日数の調整など、多様な働き方が実現しており、定年退職による知識や技能の流出を防ぐ効果を上げている。 C役割の明確化  定年年齢を引き上げたことによる60歳から65歳までの5年間に、役職者の役割として「後任への引継ぎ」や「後進の育成」を明確化し、技術・技能の確実な伝承を行うため役職名を変更し、後任者への確実な引継ぎを行っている。後進が育っていないからといって、役職を継続するのではなく、あえて役職名を変更することで、引き継ぐほうも引き継がれるほうもタイムリミットを把握し、確実に技術・技能を伝承できるようにしている。役職名の変更の例としては、「執行役員」⇒「ゼネラルマネージャー」、「取締役」⇒「参与」、「部長」⇒「シニアマネージャー」などがある。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @国家資格取得の支援  建設業では、高い品質を提供するために「有資格者」の存在が不可欠であり、実務経験を重ね、国家資格の取得を希望する従業員には受験費用や教材費、講習の費用を全額会社が負担して資格取得の後押しをしている。その結果、従業員の64%が有資格者となっている。継続学習制度(CPDS)も活用しており、技能の陳腐化を防ぎながら、実務に即した知識を継続的に習得できる仕組みは、特に中高年従業員にとって有効である。 A表彰制度  70歳以上の従業員を対象に、年間を通じて無事故・無違反で業務に精励した者を「優良従業員」として表彰する制度を設けている。さらに、70歳を迎えた従業員には「会長特別賞」を贈呈、これにより、高齢従業員の安全意識や法令遵守意識の向上を図るとともに、表彰を通じてモチベーションの維持・向上につなげている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @メリハリのあるICT、DX、BIM/CIM化  国土交通省が推進する「i-Construction」や「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」、「BIM/CIM(3次元データを使った設計・施工)」といった最新の技術を活用し、現場の効率化や作業の高度化に取り組んでいる。特にBIM/CIMは、設計図をデジタル化し、それをもとに施工を機械で行う情報化施工である。  しかし、現場の環境や条件は異なるため、細かな調整には熟練者の知識や経験が必要となる。施工そのものは、機械化により若手でも対応可能であるが、各工程や仕組みを理解しながら進める必要がある。このため、現場では高齢の熟練者が若手に指導を行いながら、ともに施工を進めている。  高度な技術を活用したICT化などを進める一方で、同社は働き方改革の一環として、全従業員の残業時間や年次有給休暇の取得状況を一元的に管理できる電子出退勤システムを導入した。一般的に普及しているスマートフォンのアプリによる管理方法は、高齢従業員にとっては操作のハードルが高いと判断し、だれでも簡単にカードをかざすだけで出退勤情報が記録されるシステムを採用。さらに、このカードには社是や経営方針を印字し、従業員が日々の業務のなかで自然と企業理念にふれられるよう工夫されており、企業風土の醸成にも寄与している。 A作業環境改善  高齢従業員の安全と負担軽減を目的に最新技術を積極的に導入している。作業効率や利便性、安全性の向上を目的に導入したラジコン草刈機は、斜面作業の危険を回避することで身体的負担の大幅な軽減につながった。電動バックホウ(地面を掘削するために使われる建設機械)は、振動・騒音・排気ガスを抑え、高齢従業員の疲労軽減と環境負荷低減に寄与している。 B安全衛生、健康管理  高齢従業員の健康維持と安全確保を目的に、年2回の外部講師による健康講習を実施している。腰痛や眼精疲労対策としてストレッチ指導を行い、参加者からは高評価を得ている。全従業員が民間医療保険に加入しており、病気やけがへの備えも万全である。健康診断後の二次検査も徹底し、再受診を強くうながしている。  さらに、熱中症対策として電動ファンつき作業服やWBGT値(暑さ指数)の管理を徹底し、感染症予防ではインフルエンザ予防接種を全額会社負担で実施している。 (4)その他の取組み  同社は、高齢者雇用に積極的に取り組むだけでなく、すべての従業員が働きやすい職場づくりを推進してきた。温泉施設を活用した研修では世代間交流を促進し、健康経営の推進により「健康経営優良法人」に4年連続で認定されている。  また、障害のある従業員や高齢従業員には設備改修や柔軟な勤務形態を導入し、女性には育児支援や役職登用、安全パトロールなどを実施、だれもが能力次第で活躍できる社風の構築を推進している。  さらに、地域資源を活用した事業展開により、地域経済への貢献も評価され、2018年には「地域未来牽引企業」(経済産業省)に選定された。 (5)高齢従業員の声  熊田(くまだ)秋夫(あきお)さん(73歳)は社歴16年目を迎えた。営業企画部に所属し、現在も技術者として第一線で働く。数多くの資格を活かし、電気工事、太陽光発電所の維持管理および社内作業所の仮設電気設置業務を担当、取引先からの信頼も厚い。現在は、若手の電気担当者へ技術の伝承、指導教育にも注力している。  「電気工事にたずさわり53年、入社して16年間仕事に取り組むことで、充実感、達成感などの手ごたえを感じています。まだまだ日々勉強の毎日で、スキルや知識の向上に努力し、お客さまや会社に貢献できるよう、もう少しがんばりたいと思っています」  金沢(かなざわ)真(まこと)さん(66歳)は熊田さんと同じく数多くの資格を有しており、管理部の安全を担当する技術者、技能検定の講師として活躍しながら職場の安全管理に不断の努力をはらい続けてきた。現在は、後任の指導・育成に尽力し、地元の野球チームなどの地域活動にも貢献、人脈を活かしながら積極的に活動している。  「この12年間、安全管理者として災害発生防止に努めてきました。この間、災害件数が4分の1まで減少したことをふり返ると、経営方針である『安全は会社のいのち』を全従業員へ意識づけできたのではないかと感慨深いものがあります。今後も若手の技術者を教育し、引き続き、災害防止に努めてまいります」 (6)今後の課題  同社は県内企業を代表する立場として、法令を遵守し社会的要望に応えて邁進してきた。高齢者雇用に関しても検討を重ね、できることからていねいに実施してきた姿勢はこれからも維持していきたいと考えている。  一方で、昨今新たに求められている「i-Const-ruction、建設DX、BIM/CIM」などの電子化に積極的に取り組み、業務効率化、人手不足解消につなげるとともに、これらの仕組みを利用し、高齢従業員への活用や作業負荷軽減に活かし、長く企業で活躍できる風土づくりを目ざしていく。時代の一歩先を行く同社のチャレンジは続く。 写真のキャプション 藤田建設工業株式会社 熊田秋夫さん(73歳) 金沢真さん(66歳) 【P28-31】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 働く意欲のある人に寄り添いだれもが自分らしく働ける職場環境づくりに挑戦 光(ひかり)タクシー株式会社(静岡県浜松(はままつ)市) 企業プロフィール 光タクシー株式会社 (静岡県浜松市) 創業 1951(昭和26)年 業種 道路旅客運送業(タクシー) 従業員数 111人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 90人 (内訳) 60〜64歳 18人(16.2%) 65〜69歳 27人(24.3%) 70歳以上 45人(40.5%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。一定条件のもと、年齢上限なく再雇用。最高年齢者は82歳 T 本事例のポイント  光タクシー株式会社は、1951(昭和26)年に静岡県浜松市でタクシー事業を開始した。以来、浜松市を拠点に地域の足となることで地域貢献を実現してきた。高齢者の雇用の受け皿になっているタクシー業界だが、中堅タクシー会社である同社は、大手タクシー会社で受け入れられなかった50代から60代のドライバーを採用することで、数年前から平均年齢が上昇していた。若年層の人材を採用できないことを悲観していた時代もあったが、活き活きと働く高齢従業員の姿に元気づけられ、高齢者を積極的に雇用するという方針に舵を切った。 POINT @ホームページ上に他業種の会社を定年退職した高齢者を対象とした採用ページを開設。同社で働いている高齢従業員の動画を掲載して、職場の雰囲気を具体的にイメージできるように工夫したことで応募者が増加に転じた。 A60歳以上の従業員を対象とした研修を実施することで、高齢従業員の役割意識やモチベーションの向上を図った。 B同業他社には導入例の少ない「病気入院保障制度」をはじめとする健康管理に対する取組みを積極的に推進。 U 企業の沿革・事業内容  1951年に、静岡県浜松市でタクシー事業を開始。以来、浜松市を拠点に事業を拡大し、デイサービスや、幼稚園などの送迎車の運行管理を請け負う事業、浜松市内と富士山静岡空港間を結ぶ乗合旅客事業を開始した。また、2021(令和3)年にはコロナ禍によって旅客運送の仕事が激減したため、食料品の輸送の仕事を始めるなど、つねに「次の一手」を考える事業を展開してきた。同年には「浜松市高齢者活躍宣言事業所認定」を取得、高齢従業員が働きやすい職場づくりにも取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は111人、そのうち60歳以上の従業員は90人で81%を占めている。さらに、定年年齢を70歳としているにもかかわらず、70歳以上の従業員が45人(41%)に達しており、いずれもタクシードライバーとして業務に従事している。  同社では、70歳以上でも一定の条件を満たす場合には年齢上限を設けずに再雇用を行っており、経験と地域に対する深い理解を兼ね備えた高齢ドライバーは、重要な戦力として活躍している。  また、同社のホームページでは他業種の会社の定年退職者の採用を意識した採用ページを設けており、実際に勤務している高齢従業員のインタビュー動画や職場の写真を通じて、年齢にかかわりなく働くことができる環境であることをアピールしている。  こうした取組みによって、職場の雰囲気を感じてもらうことができ、同社への応募の動機形成にも一定の効果を上げ、優れた人材の確保に一役買っている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @「積算(せきさん)歩合制」の導入  従来採用していた「累進(るいしん)歩合制」に代わって、2022年から「積算歩合制」を導入した。累進歩合制は、一定の売上げ基準を超えると歩合率が急激に上昇する仕組みで、高い売上げを達成した際には大きな報酬が得られる反面、その基準に到達するために、無理な運転を行うことがあるなど、「制度の副作用」が課題となっていた。このため、ドライバーの健康や労働環境への配慮を重視しつつ、安定した収入を確保できることをねらいとして、売上げに応じてゆるやかに支給額が上昇する積算歩合制へ制度を見直した。  この制度の見直しは、賃金に直結する制度改定であることから、従業員から納得感を得ることを重視し、浜松労働基準監督署などの外部機関とも連携しながら慎重に制度設計を進めた。その結果、「どの売上げ帯においても、従来と同等以上の支給額が確保される」点を中心に説明を行い、従業員の制度変更に対する理解と納得を得た。 A柔軟な働き方の選択  勤務時間や勤務日数を選択できる仕組みを導入しており、選択した勤務形態により、「歩合給」もしくは「固定給+歩合給」が適用される。さらに、タクシー車内の「休憩ボタン」を押すことで、好きな時間や好きな場所で休憩を取ることが可能であり、この休憩制度によって、家族との食事や通院、介護など、私生活との両立が可能になった。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @技能継承と職場定着の促進  新人ドライバーの育成において、経験豊富な高齢ドライバーを「メンター」として配置する制度を導入している。メンターには、メンタリングやカウンセリング、コーチングに関する研修を受講する機会が設けられており、その費用は全額会社が負担している。この制度により、新人の早期戦力化が図られるとともに、高齢従業員にとっても自身の経験を活かす場が提供され、働きがいの向上にも寄与している。 A無事故表彰による安全意識の向上  安全運転を重要な評価基準として位置づけ、毎年の年頭式において「無事故表彰」を実施し、表彰対象者には、無事故の累積距離に応じた「金一封」が贈呈される。売上げを重視するばかりではなく、安全運転を行う従業員の努力を正当に評価することで、従業員の安全運転に対する意識の醸成にも大きく寄与している。 B高齢者が活躍しやすい社内風土の醸成  最高年齢者である82歳のドライバーをはじめとする高齢者が第一線で活躍しており、その姿はほかの高齢従業員にとっても大きな刺激となっている。50代や60代で入社して「自分はもう年寄りだから」と自己評価が低い従業員もいるが、周囲の高齢従業員の活躍を目の当たりにすることで励まされ、働く意欲の向上につながっている。このような相互の励まし合いや競争意識が、社内全体の活力を高める要因となっており、「高齢者だから特別扱いする」という考え方が自然と排除される風土が形成されてきた。高齢者の活躍を促進するだけでなく、年齢にとらわれない公平な職場環境の構築にも寄与している。 C教育訓練制度による学びの支援  従業員の能力向上とキャリア形成を支援するため、60歳以上の従業員を対象とした「高齢者意欲能力向上研修」を実施している。外部機関による研修を全額会社負担で受講可能とすることで、高齢従業員の役割意識やモチベーションの向上を図っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @ICT導入による業務効率化  業務の効率化とサービス品質の向上を目的として、キャッシュレス決済の導入や業務のデジタル化を積極的に推進している。これらの取組みは、売上げ向上にも寄与するため、ドライバーにとっても大きな意義を持つ。交通系電子マネーやスマートフォンを用いた決済に対応することで、利用者との降車時の対応時間も短縮されるなど、ドライバーの業務負担の軽減にもつながっている。こうした利便性の向上は、顧客満足度の向上とリピーターの獲得にも寄与し、結果として売上げの増加が期待される。  2023年9月には、メーター連動式のクレジット決済端末を導入し、手入力による金額ミスや決済トラブルを防止した。スマートフォンを用いた決済も、従来の「お客さまが読み取る方式」から「ドライバーが読み取る方式」へ変更し、操作に不慣れな顧客への対応負担を軽減している。導入にあたっては、複数の端末を事前に用意し、ドライバーが実際に使用感を体験したうえで、最も使いやすい機種を選定するとともに、画像を多用したオリジナルマニュアルを作成して高齢ドライバーへも配慮している。  当初、ICT導入は、高齢ドライバーにとっては高いハードルになると想定していたが、売上げ向上(=収入のアップ)につながるという明確なメリットがあることから、多くの高齢ドライバーが前向きに学び、積極的に取り組んでいる。 A健康管理  従業員の健康と生活の安定を支える福利厚生の一環として、2022年より「病気入院保障制度」を導入している。対象は、正規および一定の労働時間を超えるパート従業員であり、入院時に発生する医療費の自己負担分および食事代などが補償される。加入対象者に上限年齢が設けられていないことに加えて、入社から1年が経過した従業員については、既往症による入院も補償対象となるため、就労継続への支えとなっている。毎年数名の従業員が病気により入院している現状を見てきた社長の「従業員の助けになれば」という思いが、形となって導入された。この制度は、同業他社ではあまり例がなく、同社の特徴的な取組みである。  また、そのほかの健康管理の取組みとして、有給休暇取得の奨励(取得率95%)、年に一度の面談による働き方の選択、インフルエンザ予防接種の費用を補助する制度など、高齢従業員の健康に配慮している。 (4)その他の取組み  地域の脱炭素化と環境負荷の軽減を目的として、EV(電気自動車)タクシーを導入した。EVは排出ガスがなく、静音性に優れているため、乗客にとって快適な乗車環境を提供できるほか、ドライバーにとっても長時間の運転による疲労軽減につながっている。  また、EVは給油所まで出向く必要がなく、営業所で充電が可能なため、運転業務の負担軽減にも寄与しており、高齢のドライバーにかぎらず、すべての従業員にとっての働きやすい環境づくりに貢献している。 (5)高齢従業員の声  Fさん(67歳)は新人の教育も担当している。  「毎日、いろいろなお客さまからお話をうかがえてたいへん勉強になります。一期一会(いちごいちえ)の心を大切に乗務させてもらっています。新人教育の仕事ではその人ごとに運転技術や地理の習熟度、社会経験、性格が異なるので、どのような伝え方をすればよいのか試行錯誤の連続です。新人ドライバーが気軽に話や質問ができるようにフレンドリーな対応を心がけています。また、教育期間中は理解したと思っていたことが、いざ一人で現場に出てみると抜け落ちてしまっていることも多々あるので、教育期間終了後もコミュニケーションをとるようにして、教育したことの再確認を行っています。教育担当者である自分が与えるだけではなく、新人ドライバーそれぞれの人生経験、職業経験から来る知識や、新人ならではの視点を知ることができてとても楽しいです」  坪井(つぼい)勇(いさむ)さん(82歳)は前職でもタクシー会社に勤務しており、光タクシーには77歳のときに入社した。  「タクシーは、自分が動いた分、考えた分だけ売上げが生まれ、また、その売上げが給与に反映される仕事なので、自分の性分に合っている仕事だと思います。以前の会社で車いすに乗ったまま乗降ができるタクシーの乗務経験があり、また、障害のあるお客さまに対応するためのタクシードライバーの研修を修了していたので、パート乗務員として入社したにもかかわらず障害のあるお客さまが利用するタクシーの担当にしてもらいました。ここでの仕事が人生最後の仕事になると気を引き締めて、事故を起こさないよう、しっかりとやり遂げたいと思っています」 (6)今後の課題  営業車の駐車場の路面に凸凹が生じているので、ドライバーの転倒災害を防止するために整地をし、支柱が多い古いタイプの駐車場の屋根を支柱が少ないタイプに入れ替えて、駐車時の支柱への接触事故の防止へつなげていきたいと考えている。  一方で、労働契約書などの電子化に向けた検討を進めている。高齢で電子的なものが苦手な人には、タブレットなどを使ってていねいにレクチャーを行い、デジタル機器に対する苦手意識を払拭してもらう方針だ。デジタル機器に対する苦手意識の克服を足がかりにして、地域の足として貢献し、地域とともに歩む同社ならではの未来図に向かって、全社一丸となったチャレンジが始まる。 写真のキャプション 光タクシー株式会社の本社全景 定年後の高齢者向けの採用情報の発信を強化 画像を多用したオリジナルのマニュアルを作成 高齢従業員の坪井勇さん(82歳) 【P32-33】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 群馬県 グリンリーフ株式会社 優秀賞 北海道 株式会社クリーン開発(かいはつ) 長野県 株式会社 マイネットシステム 特別賞 北海道 株式会社清風堂(せいふうどう) 福島県 藤田(ふじた)建設工業(けんせつこうぎょう)株式会社 静岡県 光(ひかり)タクシー株式会社 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 宮城県 グローテック株式会社 山形県 社会福祉法人光風会(こうふうかい) 新潟県 大河津(おおこうづ)建設(けんせつ)株式会社 兵庫県 東洋(とうよう)ナッツ食品(しょくひん)株式会社 兵庫県 特定非営利活動法人こぐまくらぶ 岡山県 株式会社大鎧(たいがい)設計(せっけい)事務所(じむしょ) 山口県 合同会社和(なごみ)の会(かい) 香川県 社会福祉法人光志(こうし)福祉会(ふくしかい) 大分県社会福祉法人安岐(あき)の郷(さと) 鹿児島県 社会福祉法人福寿会(ふくじゅかい) 特別賞 秋田県 秋田(あきた)ファイブワン工業(こうぎょう)株式会社 茨城県 海老根(えびね)建設(けんせつ)株式会社 神奈川県 株式会社カナコー 長野県 株式会社小宮山(こみやま)土木(どぼく) 愛知県 有限会社サロンドかづみ 大阪府 株式会社斉藤(さいとう)鐵工所(てっこうじょ) 和歌山県 株式会社丸和(まるわ)食品(しょくひん) 島根県 社会福祉法人みずうみ 徳島県 医療法人 メディカルケア徳島(とくしま)ロイヤル病院 愛媛県 辻(つじ)水産(すいさん)株式会社 クリエイティブ賞 京都府 こと京都(きょうと)株式会社 【P34-38】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 第4回 高年齢者無期雇用転換コースを活用しよう! 〈前回までのあらすじ〉 株式会社ジード製作所では、エルダのすすめで65歳超雇用推進助成金の「65歳超継続雇用促進コース」、「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」を活用し、高齢者雇用の取組みを進めていた。 雇用形態 短時間正社員 労働契約 期間の定めのない労働契約 労働時間 フルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い 賃金などの待遇 同種のフルタイム正社員と同一の時間賃率、賞与・退職金等の算定方法 社会保険 適用 「高年齢者無期雇用転換コース」の対象となる労働者、ならない労働者 対象となる労働者 (いずれにも該当する者) ・50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者 ・転換日における通算の雇用期間が6カ月以上5 年以内 ・無期雇用転換後に65歳以上まで雇用される見込みがあること ・無期雇用労働者に転換した日から支給申請日の前日までにおいて、申請事業主の事業所の雇用保険被保険者であること 対象とならない労働者 ・無期雇用の転換日において64歳以上の者 ・派遣労働者 ・有期労働契約が通算5年を超え、労働者からの申込みにより無期雇用労働者に転換した者(労働契約法第18条) ・転換日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において無期雇用労働者として雇用されていた者 ・無期雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期契約労働者 高年齢者無期雇用転換コースの支給額 対象労働者一人につき30万円 (中小企業事業主以外は23万円) ※支給申請年度(4月〜3月)1適用事業所あたり10人まで(無期雇用へ転換した日を基準とする) 申請期間(例)賃金締切日は月末で翌月20日払いの場合 令和7年10月1日 計画申請期間注1 (6カ月前〜3カ月前) 令和8年1月1日 計画認定 令和8年4月1日 令和8年5月1日 計画実施期間 転換日注2 5月1日 賃金算定期間 (6カ月分注3) 令和8年10月31日 令和8年11月21日1月 賃金支払日 11月20日 支給申請期間 (2カ月以内) 令和9年1月20日 注1 計画書提出日の前日において、高年齢者雇用管理に関する措置(※2)を実施している必要があること 注2 支給申請年度(4月~3月)毎の上限人数は転換日を基準として計算する 注3 勤務した日数が11日未満の月は除く ※1 フルタイム正社員…企業が定める正規の勤務時間(一般的には1週間で40時間〈1日8時間、週5日勤務〉)で働き、雇用期間の定めのない「無期労働契約」を企業と結んだ労働者 ※2 高年齢者雇用管理に関する措置は、高齢者以外(55歳未満)にも適用される場合は助成金支給対象外となります ※3 JEEDホームページからもダウンロードできます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/book_mukiR6/#page=1 JEED各都道府県支部については、65ページをご覧ください。 東京・大阪支部は、高齢・障害者窓口サービス課となります つづく(11月号は休載します) ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ★ 前回(2025年9月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202509/index.html#page=26 【P39】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 解説 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 第4回 高年齢者無期雇用転換コースを活用しよう!  高齢者雇用を推進していくうえでは、就業規則の見直しおよび賃金制度や労働条件の見直し、安全・健康管理をはじめとした職場環境の改善等の検討は欠かせません。  特に就業規則の改正には、企業の実情に合わせた制度設計やコンプライアンスの観点から社会保険労務士などの専門的な支援が必要とされますが、そのための経費も発生します。決して小さくはないその負担を軽減できるのが、「65歳超雇用推進助成金」です。今回は、そのなかの「高年齢者無期雇用転換コース」についてご紹介します。 Check1 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上で定年年齢未満の有期雇用労働者を、無期雇用転換制度に基づき無期雇用労働者に転換させた事業主に対して、一定額を助成します。 【支給額】  対象労働者1人につき30 万円(中小企業事業主以外は23万円)  ※支給申請年度(4月から翌3月)につき、1適用事業所あたり10人まで 【対象となる労働者】 @有期契約労働者として支給対象事業主に雇用される期間が、転換日において通算して6カ月以上5年以内で、50歳以上かつ定年年齢未満であり、無期雇用転換後に65歳(同種の業務に従事する期間の定めのない労働契約を締結する労働者に適用される定年年齢が、65歳を超える場合においては当該年齢)以上まで雇用される見込みがあること A転換日において64歳以上でないこと B派遣労働者でないこと C有期労働契約が繰り返し更新され通算5年を超え、労働契約法第18条に基づき、労働者からの申込みにより無期雇用労働者に転換したものでないこと D転換日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において無期雇用労働者として雇用されたことがない者であること E転換日から支給申請日の前日において、当該事業主の雇用保険被保険者であること お問合せ JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課) ※各支部の問合せ先は65ページをご参照ください。 ★本連載第2回31ページ4コマ目において、人力課長が就業規則の改定に対して、社員の過半数代表者からの同意と発言していますが、法律上は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないこととされています。 【P40-41】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 第11回 難病と闘いながら俳優の道を貫いた喜劇王 榎本(えのもと)健一(けんいち) 病気による右足つま先の切断から義足で舞台に復帰  エノケンこと榎本健一は、浅草の劇場で喜劇俳優として人気を博し、松竹に属して一座を立ち上げ、映画界にも進出、その後は東宝へ移って喜劇王と呼ばれました。  しかし戦後、エノケン一座は解散します。大勢の座員を経済的に面倒を見れなかったのに加え、左足に強い痛みを感じるようになったからです。病名は特発性脱疽(だっそ)。手足の血管が細くなり血液がとどかず壊疽(えそ)する原因不明の難病です。1952(昭和27)年10月、今度は右足が激しく痛むようになります。ちょうど巡業中で、広島公演はどうにか終えますが、次の岩国では激痛で靴も履けず、公演をとりやめました。  鎮痛薬も睡眠薬も効かず、一睡もできない状態が続きます。担当医師から「右足を膝下から切断しなくてはならない」と宣告されました。エノケンは飛び上がらんばかりに驚きました。そんなことをしたら役者生命が終わるからです。そこでこれを拒否し、ほかの病院で診察してもらうと「つま先の壊疽部分を切り落とせば何とかなる」といわれました。足ごと切るよりはましと考え、思い切って手術を受けました。歩きづらいので指だけの義足を探しますがありません。そこでエノケンは自分でゴムの足形をつくってはめこみ、懸命に訓練して駆け足ができるまでになったのです。驚くべき役者魂です。そして、1955年には舞台に復帰したのです。 息子との別れ だれも笑わない公演  しかし1957年7月、エノケンに大きな不幸が襲います。息子の^一(えいいち)が26歳で結核のために亡くなったのです。危篤になったとき電話で妻から知らせを受けますが、テレビ中継が入る公演をしていたので「舞台に穴を開けるわけにはいかない」と帰りませんでした。公演後、急いで家に戻ると、^一はぐったりしていました。エノケンは励ましてやりたい一心で、「ばかやろう、だらしねえぞ。しっかりしろ」と叱咤してしまいました。  すると、^一はぽろっと涙を流したのです。これまで十分がんばってきたのは親のエノケンが一番よくわかっていました。にもかかわらず、そんな言葉を吐いた自分に、エノケンは生涯悔やみ続けたといいます。  翌月、稽古中に妻の電話でエノケンは息子の死を知ります。それでも宝塚の公演を休みませんでした。客を笑わそうと、いつにも増して滑稽な演技をしますが、だれも笑いません。なぜなら客は皆、エノケンが息子を失ったことを知っていたからです。  「僕の今日までの舞台の中で、この時の舞台ほど辛かったことはない。伜(せがれ)が死んで、悲しい最中、面白い芝居を見せて観客に笑ってもらわなければならない。それも僕の芝居で、『アッハッハ』と笑ってくれたら、僕も喜劇俳優として気も休まるのに、お客は僕に同情して、一生懸命芝居をやればやるほど場内がシーンとなるのだから、なんともいいようのない、辛い気持ちだった」(榎本健一著『榎本健一―喜劇こそわが命』日本図書センター)  そう回想しています。  息子を失って悲しいのは、エノケンの妻で^一の母である喜世子(きよこ)も同じでした。彼女は女優でしたが、同時にずっとエノケンを支えてきました。が、息子を失ったあと、喜世子はエノケンに離婚を申し入れたのです。芸に命をかけて家庭をかえりみず、浴びるほど酒を飲んで愛人を持ち、金銭感覚のない借金まみれのエノケンに愛想をつかしていたのです。けれどエノケンは、離婚に同意しませんでした。ただ、それ以後は、すっかり夫婦関係は冷め切りました。  1962年、脱疽が再発します。足指の切断から十年後のことです。激痛のため眠れませんでしたが、入院すれば足を切断しなくてはならないので、病院には行きませんでした。このため、東大病院にかつぎ込まれたときは、ひどく悪化していました。エノケンは膝から下にしてほしいと頼みますが、結局、右足は大腿部から切断せざるをえませんでした。舞台俳優にとって、死刑宣告に等しいものです。  退院して自宅に戻ったとき息子はおらず、広い屋敷には、よそよそしい妻とお手伝いさんだけ。この現実に耐え切れなくなって、エノケンは首に電気コードを巻きつけようとしますが、片足なのでバランスをくずして倒れ、音を聞きつけた妻に見つかって、自殺は未遂になりました。 右足を失ったあとも失われなかった舞台への情熱  しばらく放心の日々が続きますが、やがて「右足がなくても芝居はできる」と思い始めたのです。そして義足をつけて歩行訓練に励み、舞台でも座れるようバネで膝を曲げられる義足をつくりました。そして驚くべきことに、右足を失ってからわずか8カ月後(1963年5月)、エノケンは新宿コマ劇場の舞台に立ったのです。  ただ、義足で舞台に立つのは並大抵のことではありません。切断部がこすれて出血し、血で切断部の包帯にこびりつき、はがすとき激痛がはしりました。  1967年、妻の喜世子との協議離婚が成立します。エノケンはすでに還暦を過ぎ、62歳になっていました。ところがこの年、エノケンは戸塚(とつか)よしえと再婚しました。財産はすべて喜世子に渡し、風呂敷包み一つでよしえのところへ行ったそうです。  エノケンの最後の芝居は、1969年の帝国劇場の『最後の伝令』の演出でした。  車椅子のエノケンは、役者たちに厳しい演技指導を行いました。  「『最後の伝令』の幕切れ、戦場で瀕死の重傷を負ったトムが死んでいく場面の稽古で、車椅子から立ち上がった榎本健一は、自ら90度の角度で倒れて見せ、トム役の財津(ざいつ)一郎(いちろう)に手本をしめしました。固い稽古場の床に仰むけに倒れたエノケンは、義足のため立ちあがることができず、倒れたままのかたちで、目をうるませながら、『ここまで演らなきゃ駄目なんだ』と叫び、『喜劇を演ろうと思うな』」(矢野誠一著『エノケン・ロッパの時代』岩波新書)と怒鳴ったといいます。  翌年の元旦、体調不良と黄疸(おうだん)が激しいので家人が心配し「カメラを買いに行こう」とだまして日本大学駿河台病院に連れて行き、エノケンを強制入院させました。すでに末期の肝硬変でした。それから一週間後に容態が急変します。  「おーい。船が出るぞ。ドラだ。ドラが鳴っているよ」  というのが、エノケンの最後の言葉でした。享年65歳でした。  戦前は喜劇王とよばれたエノケン、戦後は不幸続きの人生でしたが、どんな苦難にあっても決してへこたれず、最後の最後まで俳優の道を捨てなかったその生き方は、敬服に値します。 【P42-45】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第158回 富山県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 人を大切にする雇用環境で、だれもが誇りを持って長く働ける職場を目ざす 企業プロフィール 福祉コミュニティあいの風(富山県高岡(たかおか)市) 創業 2007(平成19)年 ▲業種 社会保険・介護事業 ▲職員数 341人(うち正規職員数240人) (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(65人) (年齢内訳) 60〜64歳 27人(7.9%) 65〜69歳 16人(4.7%) 70歳以上 26人(7.6%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。以降は、個別に面談のうえ、正規職員(定年前と同じ勤務・待遇)のほか、パートタイム職員として短日・短時間勤務など柔軟な働き方を選ぶことが可能。現在の最高年齢者は80歳  富山県は、東西約90km、南北約76km、富山市を中心に半径50kmというまとまりのよい地形が特徴です。また、JEED富山支部のある高岡市は400年続く銅器、漆器などの伝統工芸を受け継ぐ町として、その技術が若い職人に受け継がれています。  JEED富山支部高齢・障害者業務課の中山(なかやま)雅矢(まさや)課長は、富山県内の高齢者雇用の状況について次のように話します。  「少子化の影響もあり、新規採用がうまくいかないといった声はよく聞かれます。そのなかで、事業の継続・発展に向けて、高齢者雇用が必要であることは理解されているものの、どう進めてよいか悩まれている事業所が多いようです。また、定年後の高齢者を継続して雇用している事業所がほとんどですが、制度化には至っておらず運用で行っている事業所も多い状況です。  高齢者雇用の相談・援助、提案では、就業規則上での制度化・明文化をすすめ、そのメリットなどをていねいに説明し、あわせて65歳超雇用推進助成金などの利用促進に努めています」  同支部で活動する赤川(あかがわ)美和子(みわこ)プランナーは、特定社会保険労務士の資格を有し、人事労務管理、賃金・退職金管理、年金・ライフプランを得意分野に活躍しており、専門的知見を活かした助言や具体的な提案活動で企業と信頼関係を築いています。今回は、赤川プランナーの案内で、「福祉コミュニティあいの風」を訪問しました。 社会福祉法人、株式会社、協同組合が連携 多様な介護サービスや人材育成を手がける  福祉コミュニティあいの風は、多様な介護サービス事業や介護資格スクールなどを柔軟に運営できるよう、社会福祉法人、株式会社、協同組合という事業体の異なる計5法人が連携して事業に取り組んでいるグループの総称です。  高齢者介護のにない手として2007(平成19)年に設立され、現在、富山県内に9カ所の拠点を構え、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護、訪問看護などの多様なサービスを展開し、地域の介護ニーズに応えています。理念に『ご利用者さま、ご家族さまの最高のパートナーとして存在したい』を掲げ、「社会から必要とされる組織、職員が誇りを持って働ける組織を目ざして、その土台となる職場環境づくりを大事にしています」と、堀(ほり)悟史(さとし)常務取締役は話します。  介護業界における人材確保は、全国的に厳しい状況にありますが、あいの風では毎年新規学卒者を採用し、現在、20代から80代まで、多世代の職員約340人がグループ各所で活躍しています。 生活スタイルに合った働き方の実現に注力 高齢職員と子育て中の職員が支え合う  あいの風の職員は約9割が介護職で、男女比では女性が8割近くを占めています。子育てや家族の介護をしながら働いている人もいることから、独自の育児・介護短時間勤務制度を導入しているほか、パートタイム職員については、年齢にかかわらずそれぞれの希望を聞いて勤務時間などを決めています。  「長く働いてほしいので、一人ひとりの生活スタイルに合った働き方が実現できるように努めています」(堀常務取締役)  特別養護老人ホームやグループホームでは夜間勤務があり、子育て世代には負担になりますが、複数の高齢職員が夜勤専門を希望し、その負担をカバーするなど、幅広い世代がいることで、フォローしあう職場風土が自然とできているそうです。それぞれの事情を抱える幅広い年代の職員が柔軟に働けるよう、きめ細かにシフト調整に努めており、人材がどうしても不足してしまうようなときは、正規職員が協力してカバーしているとのこと。  企画人事を担当する岩城(いわじょう)佳代子(かよこ)さんは、「子育てが一段落した人が、短時間のパートタイム職員から正規職員になって、次の子育て世代の負担を軽減するという支え合いもみられます」と話す。 定年後は希望する働き方を選択 評価制度があり、がんばれば昇給も  あいの風では、60歳以上の高齢職員は全体の約2割を占めています。定年年齢は65歳。継続雇用制度などはなく、定年後も働くことを希望した場合、個別に面談をして、引き続きフルタイム勤務の正規職員か、短日・短時間勤務など柔軟な働き方ができるパートタイム職員を選択できます。65歳超は原則1年契約で、特段の事情がなければ契約を更新します。職務を変更せず、定年前と同じ働き方を選んだ場合、賃金・賞与は定年前と同様です。また、パートタイムでも月20時間以上勤務する職員は、正規職員と同様に年2回の評価(評価シートと上司による評価)を行い、賃金・賞与に反映されます。年齢にかかわりなく、評価結果によって昇給することもあります。  また、相談窓口(社内連絡ツール)を設けており、実名・匿名問わず、働き方や、病気の治療と仕事の両立、職場で起きたことなど、だれもがなんでも相談できる体制を整え、堀常務取締役と岩城さんがていねいに対応しています。  赤川プランナーは2024(令和6)年11月に初めてあいの風を訪問しました。高齢者雇用の取組みや高齢職員の働きぶりを聞き、「先駆的な取組みをされていることを知りました。再訪問を了承していただいたため、一カ月後に2回目の訪問をして、提案と情報提供を行いました」と話します。  そして、あいの風の定年後の働き方について、制度化することにより、今後65歳を迎える職員が安心して働くことができモチベーションが上がると思われること、活き活きと働く高齢職員が若手職員によい影響を与え、法人の発展につながることが期待できること、「エイジアクション100※1」を活用した作業環境の見直し、「エイジフレンドリー補助金※2」の活用など、さまざまな情報を提供しました。  岩城さんは、「専門家の方のお話を聞ける機会はなかなかありませんし、自分たちの取組み内容を聞いてくださって、よい評価をしていただけたりアドバイスをいただけたりして、とてもありがたく感じています」と赤川プランナーとの出会いを語り、堀常務取締役は「今後の取組みや考え方の参考になります」と提案などを真摯に受けとめていました。  今回は定年退職から約1年後に働き方を変えて再就職した方と、60歳を過ぎてから勤め15年になる方の、お2人からお話をうかがいました。 軽やかに再就職の道を踏み出し仕事も趣味も充実の日々  片山(かたやま)四支子(よしこ)さん(69歳)は、ドライバーなどの仕事を経て、46歳から病院で働きながら看護学校に通い、53歳で看護師資格を取得。病院勤務を続けていましたが、病気で休職し、復帰後は夜勤のない職場を求めて、57歳であいの風に入職しました。看護師としてあいの風の施設を利用する高齢者の健康管理をになって活躍し、65歳で定年を迎えました。当時、「ここまで働いてきたので、ひと区切り」との思いとやりたいことに挑戦したい気持ちから退職を選択。念願の書道教室に通い始めて定年後の生活をスタートさせました。  それから1年が経ったころ、たまたま同グループの介護施設「高岡あいの風」を訪れたときに、「また働いてくれませんか」と以前の同僚から声をかけられたことがきっかけで、66歳で高岡あいの風に再就職しました。それから今年で3年になります。  「必要としてもらえるなら、だれかの力になれるならまた働いてみたい、という気持ちになりました。ただ、気負わずにいこうと思いましたし、職場からも『何日くらい勤務できますか』と気軽に希望を聞いていただけて、おかげで再就職の道は思いのほか軽やかに踏み出すことができました」(片山さん)  働き方は、週1日から始めて徐々に増やし、現在は午前のみ週3〜4日勤務して、高岡あいの風のグループホームに入居する方々の医療的ケアをにない、介護スタッフと連携して入居者の健康管理を行っています。  職場で片山さんが大切にしていることは、自分から率先して「思いやり」の行動をすること。自らの役割は、「経験で得た知識を伝えて、若い人たちにがんばってもらえる環境を、さりげなくつくること」と話します。そして、「75歳までは!」働き続けたいという目標を語り、「その先はまた考えます」と笑顔で話してくれました。  「ケアホーム国くに吉よしあいの風」で調理と介護補助を担当する鳥内(とりうち)栄子(えいこ)さん(77歳)は、介護職以外の仕事先を定年まで勤めた後、61歳のときにあいの風に入職。「以前から料理をすることが好きで、娘の友人から声をかけていただきました」と入職のきっかけを話します。それから16年、鳥内さんはケアホームに入居する一人ひとりに合わせた、きざみ食などの調理と利用者の様子を見守る役割をにない元気に勤務を続けています。大切にしていることは、「利用者さまとのコミュニケーションと自分の体調管理です。利用者さまの元気な顔を見ると、自分もがんばろうと思います」と鳥内さん。そして、「これからも元気に、この仕事を続けていきたい」と語ってくれました。 辞めたいと思う人がいない職場 長く働いていたいと思う職場づくり  これからの職場づくりについて堀常務取締役は、「たいへんなこともありますが、誠実に取り組んでいる職員の様子にふれて胸を打たれることがあります。これから目ざしたいのは、“辞めたいと思う人がいない職場づくり”です。そのためにも、一人ひとりの職員に対して今後もきめ細かな対応を続けていきます」と話します。  岩城さんは、「長く働きたいと思える職場の土台づくりに向けてまだまだやれることはあると思います。選ばれる職場、入った人が『よかった』と思える職場を目ざしてがんばります」と人事担当としての思いを言葉にしました。  赤川プランナーは今回の訪問を通して、「さまざまなお話をうかがって、人を大切にすることを中心にして事業を運営されていることが、あらためて伝わってきました。はつらつと働く高齢職員のみなさんの姿が印象的です」と語り、今後も支援をしていくと表明し、さっそく高齢者雇用に関する給付金・助成金の説明をしていました。  2年後には設立20周年を迎える福祉コミュニティあいの風。今後も多くの世代の職員が各職場で活き活きと働いていくことでしょう。 (取材・増山美智子) ※1 エイジアクション100……高年齢労働者の安全と健康を確保するための職場改善ツール ※2 エイジフレンドリー補助金……2025(令和7)年度の申請受付期間は2025年10月31日まで。詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09940.htlm 赤川美和子プランナー アドバイザー・プランナー歴:2年6カ月 [赤川プランナーから] 「相手の話をよく聞くこと、よいところを見つけることを心がけ、70歳までの就業確保措置については押しつけるのではなく、企業に合った提案をすることで少しでも役に立てるよう、できるかぎり多くの情報提供をすることに努めています。活動歴がまだ短いため、模索しながら活動しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆富山支部高齢・障害者業務課の中山課長は赤川プランナーの活躍について次のように話します。「これまでつちかってきた豊富な知識や経験を武器に、企業に寄り添いながら、なるべく専門用語を使わずにわかりやすい資料、言葉で事業主と接することを心がけて、県内全域で活躍しています」 ◆富山支部高齢・障害者業務課は、JR高岡駅でバスに乗り換え、富大高岡キャンパスバス停から徒歩約2分、富山職業能力開発促進センター内にあります。施設周辺は、二上山(ふたがみやま)や富山大学高岡キャンパスなど静かで風光明媚な環境にあります。 ◆同県では、5人のプランナー、1人の高年齢者雇用アドバイザーが活動しており、2024(令和6)年度は222件の相談・援助活動、70件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●富山支部高齢・障害者業務課 住所:富山県高岡市八ヶ55 富山職業能力開発促進センター内 電話:0766-26-1881 写真のキャプション 富山県高岡市 福祉コミュニティあいの風 堀悟史常務取締役(看護師・介護支援専門員) 企画人事担当の岩城佳代子さん 高岡あいの風グループホームにて入居者の方とおだやかに話をしながら健康状態をチェックする片山四支子さん 【P46-49】 新連載 ジョブ・クラフティング JOB CRAFTING 入門 釧路公立大学 准教授 岸田(きしだ)泰則(やすのり)  働く人が、自ら仕事に対する認知や行動を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと変える手法「ジョブ・クラフティング」。役職定年や定年後再雇用により、それまでの業務や役割が変更となり、モチベーションの低下が懸念されるシニア世代のパフォーマンスの向上に向け、ジョブ・クラフティングは効果的といわれています。本企画では、ジョブ・クラフティングの基礎知識について、釧路公立大学の岸田泰則准教授に解説していただきます。 第1回 1 はじめに  みなさんは「この仕事、もう少し自分らしくできないかな」と思ったことはありませんか。ちょっとした工夫で仕事の景色が変わり、昨日まで退屈だった作業をやりがいあるものに変えることができます。こうした「仕事を自分に合わせてつくり直す工夫」のことを、いま「ジョブ・クラフティング」と呼び、注目が集まっています。本稿では、ジョブ・クラフティングの意味や方法、効果などをわかりやすく紹介します。 2 ジョブ・クラフティングの定義  ジョブ・クラフティングとは、「働く人一人ひとりが、仕事や人間関係に主体的に変化を加え、自分にとってよりよい仕事経験に変えるプロセス」(高尾、2024)★1です。この概念は、Wrzesniewski & Dutton(2001)★2が提唱したもので、従業員を受け身で仕事を遂行する存在ではなく、自ら仕事を形づくる能動的な存在としてとらえる点に特徴があります。  ジョブ・クラフティングは、「業務クラフティング」、「関係性クラフティング」、「認知的クラフティング」と大きく三つの形態に分類されます。 ・業務クラフティング……仕事の内容ややり方を工夫することです。例として、エンジニアがプロジェクトのために同僚に技術を教えるといった行動があげられます。 ・関係性クラフティング……仕事における人間関係の質や範囲を工夫することです。美容師が客との会話を通じて信頼関係を築くことなどが該当します。 ・認知的クラフティング……自分の仕事のとらえ方や意味づけを変えることです。例えば、病院の清掃員が「自分は医療行為を支えている」と認識するようなことなどです(Wrzesniewski & Dutton,2001)。 3 ジョブ・クラフティングの具体例  ジョブ・クラフティングは決して理論上の概念だけではなく、実際の職場で広く見られる行動です。例えば、テーマパークの清掃スタッフは、「きつい・きたない」といった2K職場と呼ばれる仕事を、「お客さまを保護する」、「快適な空間をつくる」という誇りある仕事へと意味づけています。こうした認知的クラフティングにより、スタッフは笑顔で業務に取り組み、結果的に顧客満足度の向上にもつながっています。  また、新幹線の清掃を担当する株式会社JR東日本テクノハートTESSEIのスタッフは、清掃を単なる作業としてではなく「お客さまの旅を盛り上げる劇場のキャスト」ととらえています。この事例は、仕事の意味づけを変えることで新たな誇りを得た典型的なジョブ・クラフティングの実例です。 4 ジョブ・クラフティングの効果  ジョブ・クラフティングは、従業員の心理的・身体的健康や組織成果に多大な影響を及ぼすことが、研究を通じて明らかになっています。具体的には以下のような効果が報告されています。  第1に、エンゲイジメントの向上に寄与します。ジョブ・クラフティングにより、仕事に没頭し、活き活きと働く状態を高めることができます。  第2に、パフォーマンスの向上につながります。従業員が主体的に工夫することで、組織全体のパフォーマンスも向上する可能性があります。  第3に、ウェルビーイングを上昇させることができます。ジョブ・クラフティングにより、ストレスが軽減され、活力や幸福感が増すことが報告されています。図表に示すように、多くの研究でジョブ・クラフティング介入プログラムにより参加者のエンゲイジメントや職務満足度が高まることが示されています。 5 ジョブ・クラフティングが注目される背景  ジョブ・クラフティングが近年特に注目を集めているのは、次に説明する社会的・組織的背景があるためです。  第1に、組織と個人の関係性が変化していることがあげられます。従来のように組織がキャリアを一方的に設計する時代は終わり、個人が自律的にキャリアを形成する必要性が高まっています(高尾、2023)★3。そのなかで、自ら仕事を再設計するジョブ・クラフティングは重要な意味を持ちます。ジョブ・クラフティングは、自分のキャリアを主体的に築く有効な手段となるのです。  第2に、「VUCA(ブーカ)※」などと巷(ちまた)ではいわれていますが、変化の激しい時代に対応する必要があります。市場の変化が激しいなかで、トップダウンの指示だけでは十分な対応ができません。現場で働く従業員が柔軟に職務を見直すことが必要とされています。ジョブ・クラフティングは、現場発の柔軟な対応を可能にする手法として注目されています。  第3に、経営・人事課題への解決策としての期待です。日本企業の従業員のエンゲイジメントは、国際比較調査においてもつねに最低レベルに位置しています。エンゲイジメントは「仕事に対するポジティブで充実した心理状態」を意味しています。日本企業の従業員は海外と比べ、仕事にポジティブな心理状態にはなく熱意が不足していることを多くの調査は示唆しています。そのため、多くの企業でエンゲイジメントの向上が経営・人事課題として取り上げられています。近年、その解決策として、ジョブ・クラフティングの実践を試みる企業が増えてきました。  あるいは、健康経営といった課題にもジョブ・クラフティングは有効なアプローチとして期待されています。なぜならば、ジョブ・クラフティングの実践により仕事と自分のミスフィット感を軽減できたり、仕事に意義を見つけることができるようになり、それがメンタルヘルスの維持・向上につながるからです。 6 ジョブ・クラフティングは巷にあふれている  ジョブ・クラフティングの考え方は、じつは私たちの日常の働き方や意識のなかにすでに広く浸透しています。一田(いちだ)(2015)★4がジョブ・クラフティングという言葉を使わずに、ジョブ・クラフティングの核心を突いた説明をしていますので、紹介します。「いまの仕事には、きっともうひとつの方法がある」という発想は、まさにジョブ・クラフティングそのものです。与えられた仕事をそのまま受け取るのではなく、自分なりの工夫を加えることで、同じ仕事がまったく異なる意味や魅力を帯びることがあります。  ここで重要なのは、どのような仕事にも「A面」と「B面」があるという点です。A面とは自分が本当にやりたいこと、B面とはできれば避けたいと思うことです(一田、2015)。多くの人はB面の存在に目を奪われがちですが、ジョブ・クラフティングを通じて、B面の仕事をA面に近づける工夫を行うことが可能です。例えば、単調に思える事務作業でも、顧客にとっての利便性を意識したり、同僚との連携の場として活用したりすることで、新たな意味づけが可能になります。  さらに、「『いい仕事』の定義を自分で決めてよい」(一田、2015)という視点は大きな転換点になります。従来は「上司や会社が評価する基準」が仕事の良し悪しを規定していました。しかし、自分自身が「このやり方は自分らしい」、「この工夫は価値がある」と実感できれば、それがその人にとっての「いい仕事」となります。この主体的な解釈が、働きがいの源泉となり、長期的なモチベーションを支えるのです。  また、「やりたいのにブレーキを踏んでいるのは自分自身」(一田、2015)という言葉は、ジョブ・クラフティングに取り組むうえでの心理的障壁を端的に表しています。自分にしかできない工夫や、自分らしい働き方を形にすることは、往々にして周囲との摩擦や評価への不安をともないます。しかし、勇気を持って一歩踏み出すことで、仕事は「他人事(ひとごと)」から「我が事」へと転換し、働く意味が大きく変わっていきます。 7 シニア社員とジョブ・クラフティング  筆者が特に関心を持つのは、シニア社員におけるジョブ・クラフティングの重要性です。シニア社員は豊富な経験や知識を持ちながらも、加齢にともなう身体的制約や組織内での役割縮小に直面することがあります。こうした状況において、ジョブ・クラフティングはキャリアを持続的に発展させる有効な手段となります。  例えば、シニア社員が自身の専門知識を若手に伝授することは、単なる業務遂行を超えた「教育者」としての役割を見出すことにつながります。また、社外のネットワークを活用して新たな活動を始めることで、セカンド・キャリアを形成することも可能です。こうした取組みは、サステナブル・キャリア(持続可能なキャリア)の実現にもつながっていきます。  ジョブ・クラフティングの実践は、定年後の活躍にも大きく貢献します。仕事に自ら工夫を加え、役割を再定義する経験を積むことは、定年後の転身や再雇用の場面で、新しい職場環境にスムーズに適応する力につながります。  さらに重要なのは、ジョブ・クラフティングが「働く意味づけ」を変える点です。定年後には役職や肩書きが外れることで、自己の存在価値を見失うシニアも少なくありません。しかし、現役時代から「自分なりの仕事の意味」を見出してきた人は、再雇用後や転職先でも「ここでも自分らしい役割をつくり出せる」と前向きに適応できます。  このように、ジョブ・クラフティングは単なる現役時代の工夫にとどまらず、セカンド・キャリアを活き活きと過ごすための基盤となるのです。 8 おわりに  ジョブ・クラフティングは、個人の自発的な工夫だけでなく、組織が支援することでより大きな効果を発揮します。近年では、ジョブ・クラフティングをうながす研修やワークショップが企業などで導入され、一定の成果が報告されています。また、デジタル化の進展によりリモートワークや副業が広がるなかで、働き手が自ら仕事の枠組みを再設計する必要性はいっそう高まっています。  ジョブ・クラフティングは、働く人が主体的に仕事を再構築し、よりよい働き方を実現するための営みです。その実践は、個人の幸福感や健康を高めると同時に、組織のパフォーマンス向上や持続的な成長にもつながります。  そして何よりも、ジョブ・クラフティングは自分の経験や強みを再確認する貴重な機会となります。特にシニア社員にとっては、これまでの知識や人脈を活かしながら「いまの自分だからできる工夫」を見つけることが、これからのキャリアを前向きに築く礎となります。企業にとっても、シニア社員が活き活きと働き続けられる環境を整えることは、人材不足を補うだけでなく、多世代が学び合う豊かな組織文化の醸成につながります。  ここまでお読みくださったみなさんも、ぜひ日々の仕事をふり返り、「小さな工夫」を一つ探してみてください。その一歩が、自分らしい働き方を形づくる第一歩になるはずです。ジョブ・クラフティングは、現場からの自発的な工夫を尊重し、多様な働き方を支える基盤として、今後ますます重要性を増していくでしょう。 【参考文献】 ★1 高尾義明(2024)『50代の幸せな働き方―働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』ダイヤモンド社 ★2 Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26(2), 179-201. ★3 高尾義明(2023)「ジョブ・クラフティングとは」『看護管理』, 376, 1052-1055. ★4 一田憲子(2015)『「私らしく」働くこと―自分らしく生きる「仕事のカタチ」のつくり方』マイナビ ※VUCA……「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉。未来の予測がむずかしく、不確実な状態であること 図表 ジョブ・クラフティングの効果 いきいき活力 ジョブ・クラフティング 健康 パフォーマンス ストレス 社員の力も健康もアップ 出典:島津明人・櫻谷あすか(2019).『ジョブ・クラフティング介入プログラム』.p.7.スライド4を筆者が加筆修正 【P50-53】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第88回 定年後再雇用時の労働条件変更、試し勤務における従業員の協力義務 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲/弁護士 木勝瑛 Q1 定年後再雇用契約時に就労条件を変更したうえで、賃金を減額することに問題はないのでしょうか?  定年後再雇用の契約について、業務の内容や責任の程度を変更したうえで、それをふまえて賃金を減額する内容で定年後の労働条件を提示しました。労働者から、納得ができないという意見が出されたのですが、納得できるまで条件を引き上げる必要があるのでしょうか。 A  使用者には、同一労働同一賃金の規定に違反しないような合理的な裁量の範囲であれば、労働条件が下がるような提示が許されないわけではありません。ただし、大幅な引下げに対しては、引き下げることを正当化できる合理的な理由が求められる場合があります。 1 定年後再雇用時の労働条件について  定年後に継続雇用する制度を導入し、再雇用を行う場合、厚生労働省は、「合理的な裁量の範囲」の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法の違反にはならないとの見解を公表しています。ただし、継続雇用をしないことができるのは、解雇事由または退職事由と同一の範囲に限定されていることに留意する必要もあります(「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」参照)。  同指針においては、継続雇用後の賃金については、継続雇用されている高齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努めること、といった方針も示されています。労働条件変更の提案自体が禁止されているわけではありませんが、継続雇用対象者に対して、合理的な裁量の範囲としてどの程度の提示が許容されるのかは悩ましい問題です。 2 労働条件の提示に関する裁判例について  学究社事件(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決)においては、継続雇用に関する条件の提示の仕方、それに対する返答などから、継続雇用が成立しているのか、成立しているとしていかなる労働条件となるのか、それが同一労働同一賃金に反するものではないか(合理的な裁量の範囲内であるか)などが争われました。  労働者からは、定年前の賃金と継続雇用後の賃金の差額の支払いを求め、理由としては、継続雇用の契約を締結したものの、その賃金について定年前と同額で合意したと主張しており、使用者は、勤務形態を変形労働時間制から時間単位の勤務とし、賃金の計算方法を時給に変更(変更後は定年前の30%から40%が目安)したうえで提示しており、当該条件にしたがうべきと反論していました。  使用者からは、書面を用いて継続雇用後の労働条件を説明したものの、労働者はこれに応じるとは回答せず、再雇用契約書には署名押印をしていませんでしたが、定年退職後も使用者から指定される時間に勤務する状況が続いていました。  原告は、変更の合意がないかぎりは従前の労働契約が継続しているという趣旨の主張をしていましたが、裁判所は、「原告と被告との間の再雇用契約は、それまでの雇用関係を消滅させ、退職の手続をとった上で、新たな雇用契約を締結するという性質のものである以上、その契約内容は双方の合意によって定められるもの」として、定年退職前の労働契約は終了していることを前提とした判断をしています。  また、提示した労働条件が同一労働同一賃金について定めた規定(当時の労働契約法20条)に違反するものではないかという点については、業務の内容や責任の程度に関連して、「定年前は専任講師であったのに対し、定年後の再雇用においては時間講師であり…勤務内容についてみても、再雇用契約に基づく時間講師としての勤務は、原則として授業のみを担当するものであり、例外的に上司の指示がある場合に父母面談や入試応援などを含む生徒・保護者への対応を行い、担当した授業のコマ数ないし実施した内容により、事務給(時給換算)が支給されるもので…再雇用契約締結後は、時間講師として、被告が採用する変形労働時間制の適用はなく、原則は、被告から割り当てられた授業のみを担当するもの」と判断し、業務の内容および責任の程度に差があることを認め、「定年退職後の再雇用契約と定年退職前の契約の相違は、労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して不合理であるとはいえず、労働契約法20条に違反するとは認められない」と結論づけました。  変形労働時間制の適用を受けなくなることが考慮されていることは、特徴の一つであり、労働時間制度の変更が業務内容や責任の程度の差異として評価されることは参考になります。  九州惣菜事件(福岡高裁平成29年9月7日判決)においても、継続雇用時の労働条件の提示が合理的な裁量の範囲内であるかが争点とされました。  この事案では、「有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても、再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に、有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されない」ことを前提として、「フルタイムを希望したのも、長時間労働することが目的ではなく主に一定額以上の賃金を確保するためであると解される。…本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1カ月の就労日数を16日とした場合)となり、定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で、本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である」としており、労働者の意に沿わない条件の提示に対して厳しい判断がなされています。  正当化する合理的な理由を判断するにあたって、「担当業務の量が本件提案において大幅に減ったとまではそもそもいえないこと…定年退職を機にその担当業務を本件提案の内容に限定するのが必然であったとまではいえないこと」を考慮して、「本件提案によった場合の労働時間の減少…が真にやむを得ないものであったと認めることはできない。そうすると、月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない」と結論づけました。  賃金など労働条件の引下げについては、同一労働同一賃金による規制もふまえて、業務の内容や責任の程度の変更を意識しつつ、定年前と比較した労働条件の不利益な変更に見合うだけの合理的な理由が求められることに注意が必要です。 Q2 休職していた従業員が、復職に向けた試し勤務を拒否しています  精神疾患で長期休職していた従業員が復職を希望しています。会社としては就業規則の規定にしたがって従業員に試し勤務を指示したところ、従業員が試し勤務を拒否しています。拒否は許されるのでしょうか。 A  従業員は、復職の可否の判断に際して会社に協力する義務を負います。そのため、試し勤務を命じる必要性・合理性があり、従業員において試し勤務を拒否すべき合理的な理由がない場合には、従業員は試し勤務命令を拒否できないと考えられます。 1 試し勤務について  近年、メンタルヘルスの不調によって休職する労働者が増加しているとされています。実際、厚生労働省の「労働安全衛生調査」によれば、過去1年間でメンタルヘルスの不調で休職した労働者がいる事業所の割合は、2022(令和4)年の10.6%から、2023年は13.5%へと上昇しています。  メンタルヘルスの不調による休職は、ほかの疾病に比して、復職の可否の判断、すなわちメンタルヘルス不調が回復しているかどうかの判断がむずかしいとされています。そこで、会社においては、試し勤務(「試し出勤」、「リハビリ勤務」、「トライアル勤務」などと呼ばれることもあります)の制度が用いられることがあります。  試し勤務中の賃金請求権の有無については、試し勤務の実態に応じて判断されることになります。すなわち、試し勤務中は、読書や身の回りの整頓のみを行わせるなどして、会社の業務に従事させないようにした場合には、賃金請求権は発生しないとされています。他方で、試し勤務中に会社の業務を命じて遂行させた場合には、仮に休職期間中は無給とする旨を就業規則で定めていた場合でも、賃金請求権は発生すると考えられています。指揮命令下における業務遂行の有無によって判断が分かれることになります。 2 そもそも休職とは  休職とは、労働者を就労させることが不適切な場合に労働契約関係を存続させつつ就労を免除または禁止することをいうとされています。このうち、労働者が就労不能となってもただちに解雇せずに一定期間の欠勤を認めるものを傷病休職といいます。メンタルヘルス不調での休職もこれにあたります。  休職の趣旨は、解雇の猶予にあるといわれることもあります。労働契約は、労働者が使用者に対して労務を提供する義務を負い、他方で使用者が労働者に対して賃金を支払う義務を負う、いわゆる双務契約と呼ばれる契約類型になります。そのため、労働者が心身の不調をきたしてしまった結果、労務提供をできない状態というのは、法的には、労働者に債務不履行(契約違反)がある状態となり、契約の解消事由(解雇事由)を構成することになります。もっとも、ただちに債務不履行に基づく労働契約の解消を行うのではなく、労働者を一定期間休ませることにより心身の不調の回復の機会を設けるということです。  そのため、通常、休職期間は永久に続くものではなく、就業規則上、在籍期間や疾病の種類に応じて一定の期間に限定されています。そして、就業規則においては、休職期間満了時に復職できない場合には自然退職となる旨の規定が置かれていることが一般的です。そのため、メンタルヘルス不調による休職の場合、休職期間満了時までにメンタルヘルスの不調が回復しない場合には、自然退職として処理することが検討されることになります。 3 復職判断の基準について  休職期間の満了が近づいたり、従業員から復職の申出があれば、会社は復職の可否を判断することとなります。復職の可否は会社が判断する事項であるところ、各会社の規定や運用にもよりますが、一般的には、主治医との面談、産業医の診察結果、試し出勤の結果などを考慮して判断することになります。  復職の可否は、疾病が「治癒」しているか否かによって判断されることになります。治癒とは、従前の職務を通常程度に行える健康状態に復したことをいうのが原則ですが、それに至っていない場合でも、相当期間内に傷病が治癒することが見込まれ、かつ、当人に適切でより軽易な作業が現に存在する場合には、使用者は傷病が治癒するまでの間、労働者をその業務に配置するべき信義側上の義務を負い、このような配慮をせずに労働者を解雇または退職とした場合には、解雇または退職が無効と判断される可能性があります。  そのため、会社としては、従業員が従前の職務を通常行える程度の健康状態に回復していない場合であっても、従業員に治癒の可能性がある場合には、従事させることが可能な軽易な業務がないかといった点に関して、慎重に検討する必要があります。 4 従業員における会社の復職判断への協力義務  上述の通り、会社としては、@従前の職務を通常程度に行える健康状態に復したかといった点だけでなく、A復していないとして、相当期間内に傷病が治癒する見込みがあるか、B見込みがあるとして当人に適切な軽易な業務がないかといった点までも判断する必要があります。そのためには、会社は、従業員の状態を正確に把握することが必要です。それでは、従業員には協力義務はあるのでしょうか。  日本硝子産業事件(静岡地裁令和6年10月31日判決)は、「復職の要件である治癒とは、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味し、それに達しない場合には、ほぼ平癒したとしても治癒には該当しない。もっとも、当初、軽作業に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる場合には、使用者に、そのような配慮を行うことが義務付けられる場合もあるというべきである」としたうえで、「治癒の認定手続きが就業規則に定められていなくても、治癒の主張をする労働者には、会社による治癒の認定ができるように協力する義務があると解すべきである」として、労働者における会社の復職の可否の判断についての協力義務があることを判示しています。  また、同裁判例は、従業員が試し勤務を拒否したことについて、「長期間にわたって休職したことが認められ、試し勤務を命じる必要性や合理性はあったものと認められる。被告の(試し勤務の給料を…最低賃金…とする)提案は、暫定的なものであったことなどからすると、会社の提案を理由に、甲による試し勤務の拒否を正当化することはできない。甲は、正当な理由なく、会社による治癒の認定ができるように協力する義務を怠ったものであるから、休職から復職させなかったことについて、被告の債務不履行又は不法行為が成立するとはいえない」と判示しています。  したがって、試し勤務を命じる必要性・合理性があり、従業員において試し勤務を拒否すべき合理的な理由がない場合には、従業員は試し勤務命令を拒否できないと考えるべきでしょう。 【P54-55】 “学び直し”を科学する  定年退職後を見すえて、あるいは「生涯現役」に向けて、さまざまな資格の取得にチャレンジするミドル・シニアの方々が増えています。“学び直し”について、科学的な見地から解説する本連載の5回目は、「資格取得のための計画的な学び方」をテーマに、1万人の脳を診断した脳内科医・医学博士の加藤俊徳先生に、「大人脳」の特徴を活かした試験合格法などについて、解説していただきます。 第5回 資格取得のための計画的な学び方 株式会社脳の学校 代表/加藤プラチナクリニック 院長 加藤(かとう)俊徳(としのり) 「資格取得」で新しい学び 認知症予防にも効果  ミドル・シニアの方々が資格取得を目ざし、新しい学びを始めるということは、脳にとっても大きなプラスになります。例えば語学。新しい言葉は左脳を刺激し、認知症の予防にもとても効果的です。さらに、学びによって人間関係が広がるということも、たいへん重要だと私は思っています。ミドル・シニアにとって「孤立しない」ということは、きわめて大切なポイントになるのです。  私自身も50代から、それまでは行ったことがなかった国際学会に参加するようになり、大きな衝撃を受けました。例えば最近では、睡眠、アルツハイマー病、ADHD(注意欠如・多動症)に関する三つの国際学会に行っていますが、各学会とも集まる人や組織、それぞれに目的としていることが異なるので、目ざす思想やアプローチも大きく違っています。そこに大きな発見があり、ものすごくおもしろいのです。年を重ねれば重ねるほど、新しい学び、新しい人間関係から刺激を受けるべきだと思いますし、そうすることで人生の価値も高まっていくのだと思います。 「運動系脳番地」で脳を活性化 明確な「行動計画」がポイント  前回※でも説明しましたが、脳には、機能ごとに分類した八つの脳番地があります。資格取得のための勉強を始めようとするのなら、まずは「運動系脳番地」を意識するのが効果的です。運動系脳番地は、手・足・口など、体を動かすこと全般にかかわる部分で、ほかの脳番地を発火させるトリガー(引き金)的な機能があります。脳の中で長期記憶をになう海馬ともつながりやすいため、記憶向上のためには、運動系脳番地は欠かせません。  運動系脳番地は、運動をすることで機能しますが、それ以外でも「行動計画」を立てることで活性化するという特徴があります。運動系脳番地は、「運動企画」という分野が大きな領域を占めており、この領域はスケジュールを組んだり、計画を立てたりすることで働くのです。  また脳は、時間軸がはっきりしていると働きやすくなります。逆に、スケジュールがざっくりであればあるほど、脳は動き出しません。資格試験合格を目ざす場合は、自分の「持ち時間」を明確にするところから始めるのが効果的で、試験日が決まっている場合はまず、勉強にどのくらい時間が使えるのか把握しましょう。例えば、土日が休みの会社員だと、「平日の勉強時間×日数+土日の勉強時間×日数=総勉強可能時間」といった具合です。 計画は100日単位 モチベーション維持に有効  「持ち時間」が明確になったら次は、具体的なスケジュールの作成です。試験日まで半年から1年ほどある場合などは特に、その間のモチベーション維持が課題になると思います。計画倒れにならないよう、モチベーションを維持しつつ、脳が働きやすいようにするためには、「100日単位」のスケジュールがおすすめです。  「100」という数字は具体的にイメージがしやすく、脳にも馴染みがあるというのがポイントです。不思議なことに、これが例えば「120」になると、「20」が余計な要素になり、脳へのアクセスが悪くなるのです。  試験まで1年であれば、65日+100日+100日+100日で考えるようにします。大まかな1年の流れを紹介すると、次の通りです。 ▽勉強スタート時→模擬テスト実施で試験の出題形式と自分の現在の理解度を把握 ▽最初の65日→脳のベースアップ、勉強内容との親密度アップ ▽1回目の100日→テキストの全範囲履修 ▽2回目の100日→模擬テスト、スコアを基にしたカテゴリー学習を実施 ▽最後の100日→模擬テスト、「あいまい」「できない」を得点に結びつける学習を実施 週末2時間勉強するより毎日10分・12日間  勉強を始めるにあたっては、まず脳の「準備運動」で脳のベースアップを図ることが重要です。具体的には、「睡眠」、「運動」、「規則正しい生活」を心がけることが、脳の基礎体力強化につながります。そしてもう一つ大切なのが、これから行う勉強に対して、わくわくした気持ちで向き合えるようにすることです。例えば関連する分野の人がしていることを見る、著作を読むなどして、勉強内容との親密度を高めていきましょう。  実際にテキストで勉強を進めるときは、最初のページから始める必要はありません。参考書をパラパラとめくって、興味が持てるところから始めましょう。勉強内容との親密度が高まっていれば、何かしら興味の持てる内容があるはず。そこからスタートし、興味の幅を広げていくようにするのが効果的です。  勉強で課題になることの一つが、時間の確保ですが、週末に2時間勉強するよりも、10分の勉強を12日間続ける方が望ましいといえます。さらに勉強するなら朝がおすすめです。朝に情報や知識を取り入れることで、脳が活性化し、日中や夕方以降まで学習力が高まります。 「なぜできたのか」の分析を計画には「ごほうび」も  試験範囲を一通り履修した後は模擬試験で、「確実にできる」、「できる」、「あいまい」、「できない」と、テーマごとにスコアをつけていきます。そのうえで最初にすべきなのが、「なぜできないか」ではなく、「なぜできたのか」の分析です。なぜできたのか、自分なりに分析する練習を重ねると、なぜできないかも分析できるようになります。それによって最終的に、「あいまい」、「できない」を「できる」に近づければ、合格も近づくでしょう。  計画を完遂するためには、やはり日々を楽しく過ごすことも重要です。長期目標には、ごほうびも重要なので「ここまでやったら旅行する」とか「旅行先で学ぶ」など、楽しく学べるよう、脳が喜ぶ「ごほうび」を計画に盛り込んでみましょう。 (取材・文 沼野容子) ※ 本連載の第4回(2025年9月号)は、当機構(JEED)ホームページからもお読みいただけます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202509/index.html#page=48 【P56-57】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「令和6年度雇用均等基本調査」結果を公表  厚生労働省は、「令和6年度雇用均等基本調査」の結果の概要を公表した。「雇用均等基本調査」は、男女の均等な取扱いや仕事と家庭の両立などに関する雇用管理の実態把握を目的としており、2024(令和6)年度は、全国の企業と事業所の管理職等に占める女性割合や、育児休業制度、多様な正社員制度の実施状況などについて、昨年10月1日現在の状況を調査してまとめている。 【企業調査】 ◇係長相当職以上の女性管理職等を有する企業の役職別の割合は、部長相当職ありの企業は14.6%(前年度12.1%)、課長相当職ありの企業は22.5%(同21.5%)、係長相当職ありの企業は24.8%(同23.9%)。 ◇管理職等に占める女性の割合は、部長相当職では8.7%(前年度7.9%)、課長相当職では12.3%(同12.0%)、係長相当職では21.1%(同19.5%)。 【事業所調査】 ◇多様な正社員制度の実施状況は、「勤務できる(制度が就業規則等で明文化されている)」が24.3%(前年度23.5%)。制度ごとの状況(複数回答)は、「短時間正社員」15.9%(同17.0%)、「勤務地限定正社員」16.0%(同14.6%)、「職種・職務限定正社員」が13.4%(同12.1%)。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r06.html 厚生労働省 「令和6年簡易生命表の概況」を公表  厚生労働省は、「令和6年簡易生命表の概況」を公表した。この概況は、2024(令和6)年1年間の死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標によって表したもの。0歳の平均余命である「平均寿命」は、すべての年齢の死亡状況を集約したもので、保健福祉水準を総合的に示す指標となっている。  平均寿命は男が81.09年、女が87.13年で、前年と比べて男は横ばい、女は0.01年下回っている。前年との差を死因別にみると、男は心疾患(高血圧性を除く)、自殺など、女は心疾患(同)、新型コロナウイルス感染症などの死亡率の変化が平均寿命を延ばす方向に働いている一方で、老衰などの死亡率の変化が平均寿命を縮めている。  男女それぞれ10万人の出生に対して65歳の生存数は、男8万9644人、女9万4364人となっている。これは65歳まで生存する者の割合が男は89.6%、女は94.4%であることを示している。同様に、75歳まで生存する者の割合は男75.3%、女87.9%、90歳まで生存する者の割合は男25.8%、女50.2%となっている。  生命表上で、出生者のうちちょうど半数が生存 すると期待される「寿命中位数」は、男83.89年、女90.04年となっており、男は2.79年、女は2.91年平均寿命を上回っている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/ 厚生労働省 「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」を公表  厚生労働省は、「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」をまとめた。  調査は、労働災害防止計画における重点施策を策定するための基礎資料を得ることなどを目的に、事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動とそこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態について、常用労働者10人以上の民営事業所約1万4000事業所とそこで働く労働者および受け入れた派遣労働者約1万8000人を対象に実施した。  事業所調査の「高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組状況」をみると、60歳以上の労働者が従事している事業所のうち、エイジフレンドリーガイドライン(「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」)を知っている事業所の割合は21.6%(前年度23.1%)。うち、高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は18.1%(同19.3%)となっている。  このうち、高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組内容(複数回答)をみると、「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(高齢者一般に見られる持久性、筋力の低下等を考慮した高年齢労働者向けの作業内容の見直し)」が62.9%(同56.5%)と最も多く、次いで「個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(健康診断や体力チェックの結果に基づく運動指導や栄養指導、保健指導などの実施など)」が47.8%(同45.9%)となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r06-46-50b.html 厚生労働省 「働き方改革」新PR動画「くらし、はたらき、もっとススメ!」を公開  厚生労働省は、長時間労働の解消などによる労働環境の改善へ向けて、「働き方改革」に焦点をあてた新PR動画「くらし、はたらき、もっとススメ」を、建設業・ドライバー・医師の働き方改革総合サイト「はたらきかたススメ」で公開している。  建設業、運送業では、ほかの産業よりも労働時間が長いといった実態があり、その背景には、短い工期の設定や長時間の荷待ち時間などといった、取引慣行上の問題がみられるとされている。  2024(令和6)年4月から、建設業やドライバー、医師の「働き方改革」を進めるため、時間外労働の上限規制の適用が始まっており、それから1年以上が経過したなかで、新PR動画は、さらに働き方改革を進めるため、建設業や運送業が抱える課題などについて、取引関係者をはじめ、広く国民に知ってもらうため、俳優の玉木(たまき)宏(ひろし)さんを起用し、玉木さんが改革の重要性を訴え、よりよい未来へ向けた行動をうながす内容になっている。また、「はたらきかたススメ」サイトでは、建設業、ドライバーなどの時間外労働の上限規制や、業界別の取組み、基準なども紹介している。 ◆建設業・ドライバー・医師の働き方改革総合サイト「はたらきかたススメ」(動画掲載先)  https://hatarakikatasusume.mhlw.go.jp  また、自動車運転者・建設業従事者の長時間労働改善に向けたポータルサイト等において、法制度や取引きルール、働き方改革推進のための取組みについても紹介している。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_60316.html 調査・研究 介護労働安定センター 令和6年度「介護労働実態調査」結果を公表  公益財団法人介護労働安定センターは、令和6年度「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査(労働者調査)」の結果を公表した。  事業所調査の結果から、従業員の過不足状況をみると、「大いに不足」10.0%、「不足」21.2%、「やや不足」34.0%で、これらの合計は65.2%となっており、前年度(64.7%)より0.5ポイント上昇している。職種別でみると、訪問介護員の不足感の合計が83.4%(前年度81.4%)で最も高く、次いで介護職員は69.1%(同65.9%)となっている。  労働者調査の結果から、仕事と育児・介護の両立についてみると、現在「育児をしている」19.5%、「現在、家族介護をしている」11.6%、「両方をしている」1.8%で、これらの合計は32.9%となっている。また、「ここ数年のうちに育児又は家族介護を始める可能性がある」は25.4%となっている。次に、将来、育児や家族介護に直面した場合(現在しているものは、今後も)、仕事を「続けることができると思う」31.2%、「続けられないと思う」21.4%。これを状況別にみると、仕事を「続けることができると思う」は、「現在、育児をしている」では43.4%に対し、「現在、家族介護をしている」で37.0%と相対的に低くなっている。 https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf イベント 産業雇用安定センター 「シニア人材の活躍」をテーマにオンラインフォーラムを開催  公益財団法人産業雇用安定センターは、来る2025(令和7)年10月28日、ジョブ産雇フォーラム「シニア人材の活躍〜大企業シニア層を中小企業へ〜」と題したオンラインフォーラムを開催する。  少子高齢化による生産年齢人口の減少などにより、特に中小企業を中心に人手不足感が高まっている。一方、大企業で定年や定年後再雇用期間満了を迎えるシニアの中には、就業意欲の高い人材も多く、加えて早期退職者募集も増えているなか、経験豊富なシニア人材をどのように活用していくのかが大きな課題となっている。今回のフォーラムでは、企業の競争力維持や事業継続性の観点から、中小企業においてシニア人材が活躍できる仕事の拡がりや人材活用のために取り組むべきことについて考えることになっている。 ◆日程:2025年10月28日(火)  13時30分〜15時45分(Zoomウェビナーによるライブ配信) ◆【基調講演】「中小企業における高年齢者の採用と戦力化」大木栄一氏(玉川大学教授)、【事例発表・パネルディスカッション】「シニア人材の受入と活用をどう進めるか」株式会社新日東電化、THKインテックス株式会社、太陽運輸株式会社、阿部正浩氏(コーディネーター、中央大学教授)、大木栄一氏、岡村格太郎氏(産業雇用安定センター常務理事) https://www.rodo.co.jp/seminar/otherseminar/203280/ 【P58-59】 令和7年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 昨年度(2024年度)参加者満足度88% 参加者数1200人超 参加無料 企業の経営者 人事担当者必見 さまざまな企業の取組みがわかる  改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなか、高年齢者の戦力化は喫緊の課題です。  本シンポジウムでは、企業の人事担当者など関係者のみなさまに向けて、講演、事例発表、パネルディスカッションを通じて、ミドル・シニア層の戦力化に向けた実践的な取組みや課題、今後の展望についてともに考えます。 これからのキャリア形成支援 自律的キャリアはなぜ難しい?―ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか  生産年齢人口の減少やコロナ禍以降の急速なデジタル化によって、シニア社員の戦力化や新しいスキルが求められる時代が到来しています。このような環境の変化に適応していくためには、個人の主体的なキャリア形成への支援が重要となります。本シンポジウムでは、リスキリングやキャリア支援に積極的な企業事例を通じて、ミドル・シニア社員の学ぶ意思をどう引き出すか、望ましい支援のあり方を考えます。 日時 2025(令和7)年10月16日(木)14:00〜16:45 ライブ配信 〈プログラム〉 14:00〜14:05 開会挨拶 14:05〜14:35 基調講演 「自律的キャリアはなぜ難しい?−ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか」 小林祐児 氏 株式会社パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員シンクタンク本部長 14:35〜15:35 事例発表 トヨタ自動車九州株式会社 人財開発部キャリア自律推進グループ グループ長 松岡義幸 氏 株式会社三菱UFJ銀行 人事部企画グループ次長 昇高 慶 氏 西川コミュニケーションズ株式会社 人事広報部長 神谷昌宏 氏 15:35〜15:45 休憩 15:45〜16:35 パネルディスカッション コーディネーター 小林祐児 氏 パネリスト トヨタ自動車九州株式会社 西川コミュニケーションズ株式会社 株式会社三菱UFJ銀行 16:35〜16:45 総括 小林祐児 氏 お問合せ先 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献!―シニア社員を活かす 持続可能な人材マネジメントの仕組み  生産年齢人口の減少が進むなか、企業が持続的に成長していくためにはシニア社員の意欲と能力を引き出し戦力化する人材マネジメントが不可欠です。本シンポジウムでは、企業によるシニア活躍の取組事例などを紹介し、持続可能な人材マネジメントのあり方を議論します。 日時 2025(令和7)年10月24日(金)14:00〜16:45 ライブ配信 〈プログラム〉 14:00〜14:05 開会挨拶 14:05〜14:35 基調講演 「シニア社員を活かす人材マネジメントサスティナブル・キャリアの視点から」 山ア京子 氏 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授 日本人材マネジメント協会理事長 14:35〜14:55 講演 「シニアのジョブ・クラフティング−生涯現役を支える組織のあり方」 岸田泰則 氏 釧路公立大学 准教授 14:55〜15:35 事例発表 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 中村剛雄 氏 ライオン株式会社 人材開発センター キャリア開発グループ 青木陽奈 氏 15:35〜15:45 休憩 15:45〜16:35 パネルディスカッション コーディネーター 山ア京子 氏 パネリスト 岸田泰則 氏 三菱UFJ信託銀行株式会社 ライオン株式会社 16:35〜16:45 総括 山ア京子 氏 申込方法 申込締切 ライブ視聴:各開催日 当日15時 各回先着500名 1 参加イベントを選択 手続き一覧ページから、参加を希望するイベントを選択してください。 2 申込み 「利用者登録せずに申し込む方はこちら」を選択し、利用規約に同意した上で必須事項を入力し、「確認へ進む」を選択してください。 ※入力後、受信したメールに記載されているURLをクリックすると、申請ページが表示されます。 3 申込み確認 入力内容を確認し、「申込む」を選択してください。 ※申込み後、完了メールが届きますので、ご確認ください。 4 当日 申込み完了メールに掲載されているURLから動画を視聴してください。 申込案内ページ https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html ※専用フォームからのお申込みがむずかしい場合、右記お問合せ先にご連絡ください。お電話で対応させていただきます。 ※お申込みの際に取得した個人情報は適切に管理され、JEEDが主催・共催・後援するシンポジウム・セミナー、刊行物の案内等にのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に取り扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者に提供しません。 【P60】 次号予告 11月号 特集 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰受賞企業事例から〜 リーダーズトーク 大槻奈巳さん(聖心女子大学 現代教養学部 人間関係学科 教授) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●9月12日、厚生労働省と当機構(JEED)が主催する「令和7年度高年齢者活躍企業コンテスト」の受賞企業が発表されました。本誌では、今号と次号の2回に分けて、受賞企業の取組みをご紹介します。  本年度は、厚生労働大臣表彰最優秀賞に輝いた、有機農産物などの生産に取り組むグリンリーフ株式会社をはじめ、優秀賞を受賞したビルメンテナンス業を営む株式会社クリーン開発、情報サービス業を営む株式会社マイネットシステムなど、じつに多岐にわたる分野の事業所からのご応募があり、さまざまな業種・業界において高齢者雇用の取組みが進んでいることが実感されるコンテストとなりました。  ぜひ、コンテスト受賞企業の取組みを参考に、読者のみなさまの会社・事業所におかれましても、高齢者雇用の推進に取り組んでいただければ幸いです。 ●10月は高年齢者就業支援月間です。JEEDでは、「高年齢者活躍企業フォーラム」をはじめ、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」を全国各地で開催します。オンライン配信、アーカイブ配信もありますので、みなさまのご参加・ご視聴をお待ちしております。詳しくはJEEDホームページをご確認ください。 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー10月号 No.551 ●発行日−−令和7年10月1日(第47巻 第10号 通巻551号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170‐0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.356 平らな漆喰(しっくい)の壁から擬木(ぎぼく)・擬岩(ぎがん)の造形まで 左官工 須森(すもり)孝幸(たかゆき)さん(69歳) 「住宅や商業施設から文化財まで、さまざまな現場で、モルタルから漆喰、石膏まで多様な材料を使いこなせるのが、左官の仕事の魅力です」 東京駅のドーム天井復元の技術職長を務める  写真は、2012(平成24)年に創建当時の姿に復元された東京駅丸の内駅舎のドーム天井。その漆喰による仕上げを担当したのが、左官工事全般を手がける吉村(よしむら)興業(こうぎょう)株式会社(東京都中野区)だ。  「下からだと小さく見えますが、実際はびっくりするほど大きいのです。工事は苦労しましたが、そのぶん達成感は大きかったです」  そう話すのは、技術職長として現場を取りまとめた須森孝幸さん。壁面には、落下防止のための安全対策として、モルタルをピンでコンクリートに定着させ、ネットで補強する「ピンネット工法」が用いられたが、その上に漆喰を塗るのは初めての経験で、現場での作業の段取りも大変だったという。 「全国左官技能競技大会」での優勝経験も  1957(昭和32)年創業の吉村興業は、一般的な左官工事から石膏(せっこう)装飾や擬木・擬岩などの造形まで幅広く手がけ、「全国左官技能競技大会」の優勝者を多数輩出している。代表取締役の吉村(よしむら)誠(まこと)さんは須森さんについて、「当社で一番のベテランであり、長年にわたり技術面のトップとして、若手職人の技術指導もになっています」と話す。  須森さんは山梨県出身。中学校を卒業後、親のすすめで吉村興業に入社した。  「先代の親方(吉村弘(ひろし)さん)が同じ山梨県出身で、同郷の先輩たちも働いていたので、楽しそうだなと思い、就職を決めました」  最初の仕事は、現場でモルタルなどの材料を練ること。初めのうちは重くて1人では持てなかったという。体力仕事に苦労しながらも、左官の奥深さに少しずつ魅力を感じるようになっていった。  「左官は壁塗りだけかなと思っていたんですが、親方は石をつくったり、木目(もくめ)を描くなど、いろいろな仕事をしていたので、『セメントと砂を練ったものがこんな形になるんだ』と、仕事が次第におもしろくなっていきました」  後に「現代の名工」や黄綬褒章(おうじゅほうしょう)を受賞する吉村弘さんに付いて、さまざまな現場を経験し、その仕事ぶりをまねしながら、技術を身につけていった。  須森さんが親方から仕事を任されるようになったのは30歳のころ。そのころ、親方にすすめられて全国左官技能競技大会に出場。2度目の挑戦で優勝を果たした。  「それからのほうが大変でしたね。周囲の見る目が違うので」  優勝は大きなプレッシャーをもたらしたが、その一方で技術向上への大きな励みとなった。  「左官で一番むずかしいのが、壁を平らに塗る技術です。手の感覚ですから、やはり数をこなさないと身につきません。昔は『10年はかかる』といわれたものです。自分もいまだに、まだまだだと思っています。一生勉強じゃないでしょうか」 現場に足を運び若手の技術指導に尽力  須森さんは現在も毎日のように現場に足を運び、若い職人たちに技術指導を行っている。  「なるべく自分では壁を塗らないようにしているのですが、後輩たちを見ていると、『そうじゃない』とつい手を出しちゃうんですよ(笑)」  須森さんが重視するのは基本技術の確実な習得だ。「上塗りばかりじゃなく、下塗り、中塗りがきちんとできないと、きれいな仕上がりにはなりません」と、見た目の派手さではなく、基礎の重要性を後輩たちに伝えている。  若手から求められれば、いついかなる場合も指導にあたる。しかし、技術の教え方には限界があることも認めている。  「『どうすればそんなにうまく塗れるんですか』と聞かれても、言葉で説明するのはむずかしい。上手な人をまねて、経験を積むしかありません」  これまでをふり返り、「この仕事が自分には向いていたんじゃないかと思います」と須森さん。伝統技術を次の世代に継承する使命感を胸に、今日も後輩たちと現場で汗を流す。 吉村興業株式会社 TEL:03(3990)3876 https://www.yoshimurasakan.com (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 造形用のモルタルを平らに塗り、その上に木目を描く「擬木」。コテを使って手際よく仕上げていく(63ページ左上の写真が完成した姿) 左官は材料を練るところから始まる。材料ごとに調合の基本は決まっているが、気候によって塗りやすさが変わるため、水の割合を変えることもある 顧客の依頼を受け、提供された資料をもとにカービング(彫刻)の技法で製作したサンプル。店舗の入口に飾られる予定のもの 資料を見ることもなく、あっという間に描かれた木の模様。材料を練り始めてから、この形ができあがるまで30分もかかっていない 吉村興業の倉庫には、若手職人が左官技能士の資格取得のために練習する場所が用意されている。練習の様子を見ながらアドバイスをする須森さん(左) 須森さんが手がけた蔵。漆喰で平らに塗られた壁の美しさに、技術の高さがうかがえる(写真提供:吉村興業株式会社) 須森さんがふだん使用している道具の数々。下の大小さまざまなコテは鍛冶職人の手によるもので、現在は入手困難だそうだ。上は造形用のコテ 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  ひらがなだけの音読は、頭の中で単語の区切りをつけながら読む必要があるため、前頭前野(ぜんとうぜんや)のワーキングメモリ(作業記憶)を盛んに使います。スムーズで滑らかに読めるようになるまでくり返しましょう。また、音読は「舌」の訓練にもなります。舌の圧力、運動能力が認知症のスクリーニングテスト(MMSE:Mini(ミニ)-Mental(メンタル) State(ステート) Examination(エグザミネーション))の成績と関連することが報告されています。 第100回 名文音読“声に出して読みましょう” ひらがなで句読点(くとうてん)をなくした文章を、頭の中で漢字や句読点を加えながら音読してみましょう。 ※むずかしい場合は、下の原文を音読しましょう。 あるひのことでございますおしゃかさまはごくらくのはすいけのふちをひとりでぶらぶらおあるきになっていらっしゃいましたいけのなかにさいているはすのはなはみんなたまのようにまっしろでそのまんなかにあるきんいろのずいからはなんともいえないよいにおいがたえまなくあたりへあふれております  或(ある)日の事でございます。御釈迦様(おしゃかさま)は極楽の蓮池(はすいけ)のふちを、独(ひと)りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色(きんいろ)の蕊(ずい)からは、何とも云(い)えない好(よ)い匂(におい)が、絶間なくあたりへ溢(あふ)れております。 (芥川龍之介「蜘蛛の糸」(新潮文庫)より) 音読が脳にもたらす効果  音読は、「読む・話す・聞く」という複数の行動を同時に行うことで、脳の広い領域を刺激し、言語力や認知機能を高める効果があります。これらの言語活動は、脳内の「言語中枢(ちゅうすう)」によってつかさどられており、おもに三つの部位に分かれています。  「運動性言語中枢」は前頭葉(ぜんとうよう)に位置し、話すことをにないます。「感覚性言語中枢」は側頭葉(そくとうよう)にあり、言葉の意味を理解する役割を持ちます。「視覚性言語中枢」は後頭葉(こうとうよう)にあり、文字や絵などの視覚情報をもとに言語化する働きをになっています。音読はこの三つの言語中枢すべてを同時に刺激できる、非常に効果的なトレーニング法です。  つまり、音読することは、目で文章を読み(視覚性)、内容を理解し(感覚性)、声に出して話し(運動性)、さらにその音を自分の耳で聞くという、一連の高度な処理が自然に行われており、このような複合的な刺激は、脳を広範囲に活性化させ、記憶力や注意力、語彙力の向上にもつながります。  読者のみなさんにも、音読をおすすめします。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【一言】  読書の秋、意識的に「声に出して読む」習慣を取り入れてみませんか。毎日5〜10分の音読から始めてみましょう。 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年10月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 高年齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされるなか、高年齢者の戦力化が企業において喫緊の課題となっています。  「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」では、各企業の人事担当者をはじめとする関係者のみなさまの関心が高いテーマごとに、講演や事例発表、パネルディスカッションを通じて、ミドル・シニア層の戦力化に向けた実践的な取組みや課題、今後の展望について、みなさまとともに考えます。 参加方法 ライブ配信(※事前申込制・各回先着500名) 参加費 無料 申込方法 以下のURLへアクセスし、専用フォームからお申し込みください。 https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html 2025年10月16日(木) 14:00〜16:45 これからのキャリア形成支援 自律的キャリアはなぜ難しい? ―ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか 【出演者】 小林祐児氏 株式会社パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員シンクタンク本部長 松岡義幸氏 トヨタ自動車九州株式会社 人財開発部キャリア自律推進グループ グループ長 神谷昌宏氏 西川コミュニケーションズ株式会社 人事広報部長 昇高 慶氏 株式会社三菱UFJ銀行 人事部企画グループ 次長 2025年10月24日(金) 14:00〜16:45 シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献!―シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み 【出演者】 山ア京子氏 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授 日本人材マネジメント協会理事長 岸田泰則氏 釧路公立大学 准教授 中村剛雄氏 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 青木陽奈氏 ライオン株式会社 人材開発センター キャリア開発グループ 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 後援:厚生労働省、一般社団法人日本経済団体連合会、公益財団法人産業雇用安定センター、一般財団法人ACCN、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 2025 10 令和7年10月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第10号通巻551号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会