高齢者の職場探訪 北から、南から 第158回 富山県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 人を大切にする雇用環境で、だれもが誇りを持って長く働ける職場を目ざす 企業プロフィール 福祉コミュニティあいの風(富山県高岡(たかおか)市) 創業 2007(平成19)年 ▲業種 社会保険・介護事業 ▲職員数 341人(うち正規職員数240人) (60歳以上男女内訳) 男性(4人)、女性(65人) (年齢内訳) 60〜64歳 27人(7.9%) 65〜69歳 16人(4.7%) 70歳以上 26人(7.6%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。以降は、個別に面談のうえ、正規職員(定年前と同じ勤務・待遇)のほか、パートタイム職員として短日・短時間勤務など柔軟な働き方を選ぶことが可能。現在の最高年齢者は80歳  富山県は、東西約90km、南北約76km、富山市を中心に半径50kmというまとまりのよい地形が特徴です。また、JEED富山支部のある高岡市は400年続く銅器、漆器などの伝統工芸を受け継ぐ町として、その技術が若い職人に受け継がれています。  JEED富山支部高齢・障害者業務課の中山(なかやま)雅矢(まさや)課長は、富山県内の高齢者雇用の状況について次のように話します。  「少子化の影響もあり、新規採用がうまくいかないといった声はよく聞かれます。そのなかで、事業の継続・発展に向けて、高齢者雇用が必要であることは理解されているものの、どう進めてよいか悩まれている事業所が多いようです。また、定年後の高齢者を継続して雇用している事業所がほとんどですが、制度化には至っておらず運用で行っている事業所も多い状況です。  高齢者雇用の相談・援助、提案では、就業規則上での制度化・明文化をすすめ、そのメリットなどをていねいに説明し、あわせて65歳超雇用推進助成金などの利用促進に努めています」  同支部で活動する赤川(あかがわ)美和子(みわこ)プランナーは、特定社会保険労務士の資格を有し、人事労務管理、賃金・退職金管理、年金・ライフプランを得意分野に活躍しており、専門的知見を活かした助言や具体的な提案活動で企業と信頼関係を築いています。今回は、赤川プランナーの案内で、「福祉コミュニティあいの風」を訪問しました。 社会福祉法人、株式会社、協同組合が連携 多様な介護サービスや人材育成を手がける  福祉コミュニティあいの風は、多様な介護サービス事業や介護資格スクールなどを柔軟に運営できるよう、社会福祉法人、株式会社、協同組合という事業体の異なる計5法人が連携して事業に取り組んでいるグループの総称です。  高齢者介護のにない手として2007(平成19)年に設立され、現在、富山県内に9カ所の拠点を構え、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護、訪問看護などの多様なサービスを展開し、地域の介護ニーズに応えています。理念に『ご利用者さま、ご家族さまの最高のパートナーとして存在したい』を掲げ、「社会から必要とされる組織、職員が誇りを持って働ける組織を目ざして、その土台となる職場環境づくりを大事にしています」と、堀(ほり)悟史(さとし)常務取締役は話します。  介護業界における人材確保は、全国的に厳しい状況にありますが、あいの風では毎年新規学卒者を採用し、現在、20代から80代まで、多世代の職員約340人がグループ各所で活躍しています。 生活スタイルに合った働き方の実現に注力 高齢職員と子育て中の職員が支え合う  あいの風の職員は約9割が介護職で、男女比では女性が8割近くを占めています。子育てや家族の介護をしながら働いている人もいることから、独自の育児・介護短時間勤務制度を導入しているほか、パートタイム職員については、年齢にかかわらずそれぞれの希望を聞いて勤務時間などを決めています。  「長く働いてほしいので、一人ひとりの生活スタイルに合った働き方が実現できるように努めています」(堀常務取締役)  特別養護老人ホームやグループホームでは夜間勤務があり、子育て世代には負担になりますが、複数の高齢職員が夜勤専門を希望し、その負担をカバーするなど、幅広い世代がいることで、フォローしあう職場風土が自然とできているそうです。それぞれの事情を抱える幅広い年代の職員が柔軟に働けるよう、きめ細かにシフト調整に努めており、人材がどうしても不足してしまうようなときは、正規職員が協力してカバーしているとのこと。  企画人事を担当する岩城(いわじょう)佳代子(かよこ)さんは、「子育てが一段落した人が、短時間のパートタイム職員から正規職員になって、次の子育て世代の負担を軽減するという支え合いもみられます」と話す。 定年後は希望する働き方を選択 評価制度があり、がんばれば昇給も  あいの風では、60歳以上の高齢職員は全体の約2割を占めています。定年年齢は65歳。継続雇用制度などはなく、定年後も働くことを希望した場合、個別に面談をして、引き続きフルタイム勤務の正規職員か、短日・短時間勤務など柔軟な働き方ができるパートタイム職員を選択できます。65歳超は原則1年契約で、特段の事情がなければ契約を更新します。職務を変更せず、定年前と同じ働き方を選んだ場合、賃金・賞与は定年前と同様です。また、パートタイムでも月20時間以上勤務する職員は、正規職員と同様に年2回の評価(評価シートと上司による評価)を行い、賃金・賞与に反映されます。年齢にかかわりなく、評価結果によって昇給することもあります。  また、相談窓口(社内連絡ツール)を設けており、実名・匿名問わず、働き方や、病気の治療と仕事の両立、職場で起きたことなど、だれもがなんでも相談できる体制を整え、堀常務取締役と岩城さんがていねいに対応しています。  赤川プランナーは2024(令和6)年11月に初めてあいの風を訪問しました。高齢者雇用の取組みや高齢職員の働きぶりを聞き、「先駆的な取組みをされていることを知りました。再訪問を了承していただいたため、一カ月後に2回目の訪問をして、提案と情報提供を行いました」と話します。  そして、あいの風の定年後の働き方について、制度化することにより、今後65歳を迎える職員が安心して働くことができモチベーションが上がると思われること、活き活きと働く高齢職員が若手職員によい影響を与え、法人の発展につながることが期待できること、「エイジアクション100※1」を活用した作業環境の見直し、「エイジフレンドリー補助金※2」の活用など、さまざまな情報を提供しました。  岩城さんは、「専門家の方のお話を聞ける機会はなかなかありませんし、自分たちの取組み内容を聞いてくださって、よい評価をしていただけたりアドバイスをいただけたりして、とてもありがたく感じています」と赤川プランナーとの出会いを語り、堀常務取締役は「今後の取組みや考え方の参考になります」と提案などを真摯に受けとめていました。  今回は定年退職から約1年後に働き方を変えて再就職した方と、60歳を過ぎてから勤め15年になる方の、お2人からお話をうかがいました。 軽やかに再就職の道を踏み出し仕事も趣味も充実の日々  片山(かたやま)四支子(よしこ)さん(69歳)は、ドライバーなどの仕事を経て、46歳から病院で働きながら看護学校に通い、53歳で看護師資格を取得。病院勤務を続けていましたが、病気で休職し、復帰後は夜勤のない職場を求めて、57歳であいの風に入職しました。看護師としてあいの風の施設を利用する高齢者の健康管理をになって活躍し、65歳で定年を迎えました。当時、「ここまで働いてきたので、ひと区切り」との思いとやりたいことに挑戦したい気持ちから退職を選択。念願の書道教室に通い始めて定年後の生活をスタートさせました。  それから1年が経ったころ、たまたま同グループの介護施設「高岡あいの風」を訪れたときに、「また働いてくれませんか」と以前の同僚から声をかけられたことがきっかけで、66歳で高岡あいの風に再就職しました。それから今年で3年になります。  「必要としてもらえるなら、だれかの力になれるならまた働いてみたい、という気持ちになりました。ただ、気負わずにいこうと思いましたし、職場からも『何日くらい勤務できますか』と気軽に希望を聞いていただけて、おかげで再就職の道は思いのほか軽やかに踏み出すことができました」(片山さん)  働き方は、週1日から始めて徐々に増やし、現在は午前のみ週3〜4日勤務して、高岡あいの風のグループホームに入居する方々の医療的ケアをにない、介護スタッフと連携して入居者の健康管理を行っています。  職場で片山さんが大切にしていることは、自分から率先して「思いやり」の行動をすること。自らの役割は、「経験で得た知識を伝えて、若い人たちにがんばってもらえる環境を、さりげなくつくること」と話します。そして、「75歳までは!」働き続けたいという目標を語り、「その先はまた考えます」と笑顔で話してくれました。  「ケアホーム国くに吉よしあいの風」で調理と介護補助を担当する鳥内(とりうち)栄子(えいこ)さん(77歳)は、介護職以外の仕事先を定年まで勤めた後、61歳のときにあいの風に入職。「以前から料理をすることが好きで、娘の友人から声をかけていただきました」と入職のきっかけを話します。それから16年、鳥内さんはケアホームに入居する一人ひとりに合わせた、きざみ食などの調理と利用者の様子を見守る役割をにない元気に勤務を続けています。大切にしていることは、「利用者さまとのコミュニケーションと自分の体調管理です。利用者さまの元気な顔を見ると、自分もがんばろうと思います」と鳥内さん。そして、「これからも元気に、この仕事を続けていきたい」と語ってくれました。 辞めたいと思う人がいない職場 長く働いていたいと思う職場づくり  これからの職場づくりについて堀常務取締役は、「たいへんなこともありますが、誠実に取り組んでいる職員の様子にふれて胸を打たれることがあります。これから目ざしたいのは、“辞めたいと思う人がいない職場づくり”です。そのためにも、一人ひとりの職員に対して今後もきめ細かな対応を続けていきます」と話します。  岩城さんは、「長く働きたいと思える職場の土台づくりに向けてまだまだやれることはあると思います。選ばれる職場、入った人が『よかった』と思える職場を目ざしてがんばります」と人事担当としての思いを言葉にしました。  赤川プランナーは今回の訪問を通して、「さまざまなお話をうかがって、人を大切にすることを中心にして事業を運営されていることが、あらためて伝わってきました。はつらつと働く高齢職員のみなさんの姿が印象的です」と語り、今後も支援をしていくと表明し、さっそく高齢者雇用に関する給付金・助成金の説明をしていました。  2年後には設立20周年を迎える福祉コミュニティあいの風。今後も多くの世代の職員が各職場で活き活きと働いていくことでしょう。 (取材・増山美智子) ※1 エイジアクション100……高年齢労働者の安全と健康を確保するための職場改善ツール ※2 エイジフレンドリー補助金……2025(令和7)年度の申請受付期間は2025年10月31日まで。詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09940.htlm 赤川美和子プランナー アドバイザー・プランナー歴:2年6カ月 [赤川プランナーから] 「相手の話をよく聞くこと、よいところを見つけることを心がけ、70歳までの就業確保措置については押しつけるのではなく、企業に合った提案をすることで少しでも役に立てるよう、できるかぎり多くの情報提供をすることに努めています。活動歴がまだ短いため、模索しながら活動しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆富山支部高齢・障害者業務課の中山課長は赤川プランナーの活躍について次のように話します。「これまでつちかってきた豊富な知識や経験を武器に、企業に寄り添いながら、なるべく専門用語を使わずにわかりやすい資料、言葉で事業主と接することを心がけて、県内全域で活躍しています」 ◆富山支部高齢・障害者業務課は、JR高岡駅でバスに乗り換え、富大高岡キャンパスバス停から徒歩約2分、富山職業能力開発促進センター内にあります。施設周辺は、二上山(ふたがみやま)や富山大学高岡キャンパスなど静かで風光明媚な環境にあります。 ◆同県では、5人のプランナー、1人の高年齢者雇用アドバイザーが活動しており、2024(令和6)年度は222件の相談・援助活動、70件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●富山支部高齢・障害者業務課 住所:富山県高岡市八ヶ55 富山職業能力開発促進センター内 電話:0766-26-1881 写真のキャプション 富山県高岡市 福祉コミュニティあいの風 堀悟史常務取締役(看護師・介護支援専門員) 企画人事担当の岩城佳代子さん 高岡あいの風グループホームにて入居者の方とおだやかに話をしながら健康状態をチェックする片山四支子さん