イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  ひらがなだけの音読は、頭の中で単語の区切りをつけながら読む必要があるため、前頭前野(ぜんとうぜんや)のワーキングメモリ(作業記憶)を盛んに使います。スムーズで滑らかに読めるようになるまでくり返しましょう。また、音読は「舌」の訓練にもなります。舌の圧力、運動能力が認知症のスクリーニングテスト(MMSE:Mini(ミニ)-Mental(メンタル) State(ステート) Examination(エグザミネーション))の成績と関連することが報告されています。 第100回 名文音読“声に出して読みましょう” ひらがなで句読点(くとうてん)をなくした文章を、頭の中で漢字や句読点を加えながら音読してみましょう。 ※むずかしい場合は、下の原文を音読しましょう。 あるひのことでございますおしゃかさまはごくらくのはすいけのふちをひとりでぶらぶらおあるきになっていらっしゃいましたいけのなかにさいているはすのはなはみんなたまのようにまっしろでそのまんなかにあるきんいろのずいからはなんともいえないよいにおいがたえまなくあたりへあふれております  或(ある)日の事でございます。御釈迦様(おしゃかさま)は極楽の蓮池(はすいけ)のふちを、独(ひと)りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色(きんいろ)の蕊(ずい)からは、何とも云(い)えない好(よ)い匂(におい)が、絶間なくあたりへ溢(あふ)れております。 (芥川龍之介「蜘蛛の糸」(新潮文庫)より) 音読が脳にもたらす効果  音読は、「読む・話す・聞く」という複数の行動を同時に行うことで、脳の広い領域を刺激し、言語力や認知機能を高める効果があります。これらの言語活動は、脳内の「言語中枢(ちゅうすう)」によってつかさどられており、おもに三つの部位に分かれています。  「運動性言語中枢」は前頭葉(ぜんとうよう)に位置し、話すことをにないます。「感覚性言語中枢」は側頭葉(そくとうよう)にあり、言葉の意味を理解する役割を持ちます。「視覚性言語中枢」は後頭葉(こうとうよう)にあり、文字や絵などの視覚情報をもとに言語化する働きをになっています。音読はこの三つの言語中枢すべてを同時に刺激できる、非常に効果的なトレーニング法です。  つまり、音読することは、目で文章を読み(視覚性)、内容を理解し(感覚性)、声に出して話し(運動性)、さらにその音を自分の耳で聞くという、一連の高度な処理が自然に行われており、このような複合的な刺激は、脳を広範囲に活性化させ、記憶力や注意力、語彙力の向上にもつながります。  読者のみなさんにも、音読をおすすめします。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【一言】  読書の秋、意識的に「声に出して読む」習慣を取り入れてみませんか。毎日5〜10分の音読から始めてみましょう。