【表紙】 令和7年11月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第11号通巻552号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 2025 11 特集 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 リーダーズトーク 企業の成長に不可欠なジェンダー格差の解消 各種人事制度を見直し、公正な評価の導入を 聖心女子大学 現代教養学部人間関係学科 教授 大槻奈巳 【表紙裏】 助成金のご案内 65歳超雇用推進助成金のご案内 高齢者助成金の説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること A定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて160万円まで支給。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 ●支給対象経費(注2)の60%(中小企業事業主以外は45%) (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき30万円(中小企業事業主以外は23万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※)とは、55歳以上の高齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 障害者雇用納付金関係助成金 障害者雇用納付金関係助成金の説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金 雇入れ、雇用の継続に必要な障害特性による就労上の課題(加齢に伴う課題を含む)を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレや手すりを設置または整備 A拡大読書器を購入 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者雇用相談援助助成金 対象障害者の雇入れ及び雇用継続を図るための一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を実施する事業者(※)に支給します。※事前に労働局の認定が必要です。 助成対象となる措置 @利用事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合 A@を行った後に利用事業主が対象障害者を雇い入れ、かつ6か月以上の雇用継続をした場合 助成額 @60万円ほか A1人7万5千円ほか 障害者介助等助成金 適切な雇用管理のために必要な介助等の措置や、加齢に伴う課題の解消のために必要な介助等の各種措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @職場復帰支援 A中途障害者等や中高年齢等障害者の技能習得支援 B職場介助者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) C手話通訳・要約筆記等担当者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) D職場支援員の配置または委嘱(中高年齢等措置あり) E健康相談医の委嘱 F職業生活相談支援専門員の配置または委嘱 G職業能力開発向上支援専門員の配置または委嘱 H介助者等の資質向上措置 I重度障害者の業務遂行のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 助成額 @月4万5千円ほか ABCEFGH支給対象費用の3/4ほか D月3万円ほか I支給対象費用の4/5ほか 重度障害者等通勤対策助成金 障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @住宅の賃借 A住宅手当の支払い B駐車場の賃借 C通勤用自動車の購入 D重度障害者の通勤援助のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託(ほかにも対象となる措置がありますのでHPでご確認ください) 助成額 @〜C支給対象費用の3/4 D支給対象費用の4/5ほか 職場適応援助者助成金 職場への適応を容易にするために職場適応援助者による支援を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援 A企業在籍型職場適応援助者による支援(@Aとも中高年齢等措置あり) 助成額 @1日3万6千円までほか A月9万円ほか ほかにも助成金がありますので、ホームページでご確認ください e-Gov電子申請を利用して申請できるようになりました 24時間365日いつでも手続きできます! ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ、東京・大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.126 企業の成長に不可欠なジェンダー格差の解消 各種人事制度を見直し、公正な評価の導入を 聖心女子大学 現代教養学部人間関係学科 教授 大槻奈巳さん おおつき・なみ 専門は労働とジェンダー、女性のキャリア形成。文部科学省・女性の多様なチャレンジに寄り添う学びと社会参画支援に関する有識者会議座長をはじめ、行政や自治体の有識者会議委員を歴任。  ダイバーシティの推進により、高齢者だけではなく、女性や障害者を含め、さまざまな人材の活用が進んでいる一方で、職場には依然としてジェンダー格差があるといわれています。人生100年時代を迎え、生涯現役で働くことが求められるなかで、職場のジェンダー格差はキャリア形成にも大きな影響を与えます。今回は、労働とジェンダーを専門とする聖心女子大学の大槻奈巳教授に、職場におけるジェンダー格差がキャリア形成に与える影響について、お話をうかがいました。 国際的に低い日本のジェンダー指数 正社員としての働き方がその要因に ―大槻さんは、長年にわたってジェンダーの研究をされていますが、もともと民間企業に就職し、結婚後にアメリカで社会学を学ぶなど、ユニークなキャリアを歩まれているそうですね。 大槻 私が若いころは大学でジェンダーを学ぶ時代ではありませんでした。ジェンダーの視点から行われていた講義はあったと思いますが、ジェンダーへの関心が薄い時代です。大学卒業後は一般企業に就職し、その後、結婚相手がアメリカに赴任し、仕事を辞めてアメリカで5年間暮らしました。アメリカ滞在中は専業主婦のかたわらボランティアなどをしましたが、「この先自分はどうなるのか」という漠然とした不安感はありました。そんなとき、知合いからコミュニティカレッジの存在を聞き、社会学の講座を受講したのですが、私が日ごろから考えていることや不満に思っていることをうまく説明してくれたのです。  それから社会学に興味を持ち、州立大学で学ぶために英語の勉強を始めて進学しました。約2年後に夫の帰国にあわせて日本に帰りますが、もう少し社会学を勉強したいと思い、大学院に進学しました。 ―現在、日本は「ジェンダーギャップ指数2025」で148カ国中118位と低迷しています。その背景には何があるのでしょうか。 大槻 日本では正社員の働き方の拘束性が強いことがあげられます。長期雇用慣行のなかで残業時間も長く、転居をともなう転勤もあります。仕事以外のインフォーマルな場面でもなんらかの形で貢献が求められる場面があり、それができないと標準とは見なされず評価が低くなる傾向があります。例えば、育児休業や短時間勤務は女性が利用するケースは多いですが、標準から外れているために低評価になってしまうこともあります。  また、以前のような露骨な男女差別はなくなってきましたが、いまでも男女において職場での期待や求められているものが異なることは少なくありません。仕事の割りふりでは、男性はキャリアの階段につながる仕事を与えられるのに対し、女性はやりがいはあっても知識やスキルがつきにくい仕事を与えられる傾向があります。例えば、男性の正社員であれば、将来管理職になっていくことが期待されますが、女性は「いつまで勤められるのか」という扱いになり、上司からの声かけのあり方も違うことなどが指摘されています。 ―例えば伝統のある会社の人事部などの場合、人事制度企画や労使交渉対応の労政担当が男性で、採用や福利厚生の担当が女性というイメージはありますね。 大槻 そうですね。女性は中核の仕事になかなか就けないというのがいまも続いていると思います。よく「女性の視点を入れて仕事をしてください」といういい方をします。そのこと自体は重要ですが、「男性の視点を入れて仕事をしてください」とはいいません。男性が中核で女性が周辺だからではないでしょうか。やはりジェンダー規範や男性の無意識の偏見があるのではないでしょうか。 ―女性の管理職比率もそれほど伸びていませんが、やはりいまおっしゃったことと関係があるのでしょうか。 大槻 女性の管理職の増加に向けて、これまでは「家事・育児といった家庭内の責任を負っているからむずかしい」という「家族重視モデル」をもとに、対策が実施されてきました。ですが私は、職場そのものに女性が仕事を続けていけない、あるいは管理職を志向しなくなる要因がある「職場重視モデル」から研究を続けてきました。  私が参加した国立女性教育会館のプロジェクトで若年層の管理職志向の調査を行いました。入社1年目から5年目までの追跡調査ですが、入社1年目の管理職志向のある男性は約95%、女性は約68%。5年目になると男性約84%、女性が約44%と、女性の下落率が20ポイント以上となります。  その原因についてもう少し詳しく分析すると、男性の場合、「将来のキャリアにつながる仕事をしている」人は管理職志向にプラスの影響があり、女性の場合は「専門能力を高めたい」、「仕事満足度がある」人が管理職志向にプラスの影響がありました。一方で、「主に女性が担当する仕事についている」人はマイナスの影響があることも判明しました。  つまり、管理職になりたい、なりたくないという志向は、になっている仕事や求められる期待が影響しているのです。企業全体や職場のあり方が大きくかかわっています。 就いている仕事や職場環境が女性の管理職志向に大きく影響 ―ジェンダー格差を解消し、生涯現役を見すえた女性のキャリア形成支援のために、企業が取り組むべきことは何でしょうか。 大槻 いまは多様な人材が活躍できることが重視され、多様な人材が活躍できない制度の見直しが求められています。これまでは基幹的業務の仕事には拘束性の強い制約のない社員を配置してきたわけですが、女性のように制約のある社員も基幹的業務に配置できるよう見直していく必要があります。  基本的には、@人材育成における公正性を担保する、A自律的なキャリア形成が可能な仕組みをつくる、Bスキル形成そのものを評価する仕組みをつくる、C無意識のジェンダーバイアスを解消することがあげられます。  具体的には、正社員のなかで分かれている雇用管理区分を一つにすること、そして会社指示の転居をともなう転勤を廃止することなどが必要だと思います。また、短時間勤務を利用すると評価が下がる企業もありますが、そういった評価の仕組みを変えていくことが必要です。社員が自分でキャリアを考えるキャリアオーナーシップを発揮させるには、社内公募制度の活性化など、自分で仕事を選択できる仕組みを増やすことも大切です。  また、よかれと思って行うことが差別となる好意的差別(例えば、子育て中の女性の仕事を勝手に軽くする)に注意することも重要です。 ―共働き世帯が増えるなかで、転居をともなう転勤を嫌がる人も増えています。転勤を廃止することは現実的に可能でしょうか。 大槻 ここ数年、転勤に関する調査を実施していますが、国内で転居をともなう転勤の可能性がある総合職を対象とした調査では、一度も転勤していない男性は4割強、女性は5.5割もいます。その一方で転勤のない地域限定総合職の人は給与が2割減になったり、課長までしか昇進できないという制約もあります。転居をともなう転勤の対象者であっても、一度も転勤していない男女が半分もいるのに、そうした人事制度があることが、はたして公正なのかという問題もあります。  また、調査対象の総合職の3分の2が「転勤したくない」と回答し、そのうち85%が家族の負担が大きいことを理由にあげています。転勤は仕事の能力を向上させるという意見もありますが、転勤経験者で「職業能力が上がった」という人は半分しかいませんでした。  そうであれば従来の全国転勤ありの総合職と転勤のない一般職の雇用管理区分を廃止すること、そして会社指示による転勤ではなく、本人の意志で転勤するかどうかを考えられる仕組みにしたほうがよいのではないでしょうか。  同時に、転勤することと昇進・昇格を紐(ひも)づけている制度や慣行も廃止するべきだと思います。実際にある金融系の企業では、総合職と一般職という雇用管理区分を撤廃し、社員自ら全国型かエリア型かを選択しますが、評価と給与・昇進などの処遇は同一とする制度に変えました。やはり企業自身も変わらざるを得なくなってきています。 キャリアオーナーシップを発揮できる各種制度の整備が求められる ―働く女性自身がミドル・シニア期のキャリアを形成していくうえでの視点、必要な取組みとは何でしょうか。 大槻 まず、自分の志向そのものが、仕事のあり方に影響を受けていることを自覚することがとても大切です。そして、いまの常識を問い直すこと。例えば、「10年やって一人前」といわれる仕事がありますが、本当に10年やらなければ知識やスキルが身につかないのかを自ら検証する姿勢を持つことが大事です。  また、自分が「こうしたい」と思っていることについて立ちはだかる壁とは何か、持てる資源とは何かを考えて、自分の進みたい道を自ら切り拓く力を養うこと。具体的には自分の持つ知識・技能の組合せを考えること。例えば、英語力と経理など、二つ以上の得意分野をつくり、組合せによって業界でのキャリアを築いていくことが重要です。  最後に、やりがいはもちろん大切ですが、それ以上に知識・技能が得られる仕事を見つけることが、キャリアを切り拓くことにつながります。そして社内外の人的ネットワークを広げることも、キャリア形成にとってはきわめて重要です。 (インタビュー・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 November No.552 特集 6 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 7 「令和7年度 高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 8 優秀賞 グローテック 株式会社(宮城県黒川郡大衡村) 社会福祉法人 光風会(山形県酒田市) 大河津建設 株式会社(新潟県燕市) 東洋ナッツ食品 株式会社(兵庫県神戸市) 特定非営利活動法人 こぐまくらぶ(兵庫県明石市) 株式会社 大鎧設計事務所(岡山県玉野市) 合同会社 和の会(山口県宇部市) 社会福祉法人 光志福祉会(香川県丸亀市) 社会福祉法人 安岐の郷(大分県国東市) 社会福祉法人 福寿会(鹿児島県肝属郡東串良町) 1 リーダーズトーク No.126 聖心女子大学 現代教養学部人間関係学科 教授 大槻奈巳さん 企業の成長に不可欠なジェンダー格差の解消 各種人事制度を見直し、公正な評価の導入を 48 ジョブ・クラフティング入門 【第2回】 シニア社員のジョブ・クラフティングの実践 岸田泰則 52 “学び直し”を科学する 【最終回】 ちょっとした工夫で脳が活性化する方法 加藤俊徳 54 高齢者の職場探訪 北から、南から 第159回 山梨県 社会福祉法人ひかりの家 58 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第109回 菱木運送株式会社 トラックドライバー 加藤譲二さん(70歳) 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.357 お客さまの要望に応えて 綿を選び布団を仕立てる 寝具仕立工 熱方 勉さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第101回]四字熟語リング 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」、「マンガで学ぶ高齢者雇用」、「偉人たちのセカンドキャリア」、「労働法Q&A」、「いまさら聞けない人事用語辞典」、「ニュースファイル」、「Books」は休載します 【P6】 特集 高齢社員の強みや長所を活かし生涯現役で働ける職場環境を実現 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。 本コンテストは、高年齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 厚生労働大臣表彰受賞企業を紹介した前号に続き、今号ではコンテスト表彰式の模様とともに、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した10社の取組みを紹介します。 【P7】 令和7年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業27企業・団体を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)は10月3日(金)、厚生労働省との共催で、「令和7年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。同フォーラムは、「年齢にかかわらず活き活きと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会として実施し、今回で40回目の開催。企業の人事・労務担当者らが来場するとともに、令和6年度に続いてWebでライブ配信を行った。  同フォーラムでは、高齢者が活躍するために企業等が行った雇用管理や職場環境の改善などの創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、コンテスト入賞企業による事例発表、小島(こじま)明子(あきこ)氏(株式会社日本総合研究所創発戦略センタースペシャリスト)による基調講演、受賞企業を交えたトークセッションを実施した。  はじめに、福岡(ふくおか)資麿(たかまろ)厚生労働大臣(開催当時)とJEEDの輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞のグリンリーフ株式会社をはじめ、優秀賞の株式会社クリーン開発(かいはつ)、株式会社マイネットシステム、特別賞の株式会社清風堂(せいふうどう)、藤田建設(ふじたけんせつ)工業(こうぎょう)株式会社、光(ひかり)タクシー株式会社の6企業に、福岡厚生労働大臣より賞状が授与された。最優秀賞を受賞したグリンリーフの原(はら)ミツ江(え)取締役開発・品質管理部長は、「『大家族経営』をビジョンに掲げ、だれもが働ける職場として、一人ひとりが自分の持つ長所を活かし、役割を果たしていく職場づくりを目ざしてまいりました。取組みが認められたこと、そしてこのようなすばらしい賞をいただき、たいへん光栄です。今後も、だれもが働ける職場づくりに取り組んでまいります」と受賞の喜びと感謝を述べた。  次に、当機構理事長表彰として、優秀賞のグローテック株式会社、社会福祉法人光風会(こうふうかい)をはじめとする10社に輪島理事長より賞状が授与された。また、特別賞10社、クリエイティブ賞1社の企業・団体名が紹介された。  表彰式後のコンテスト上位入賞企業による事例発表では、グリンリーフ株式会社(取締役開発・品質管理部長・原ミツ江氏)、株式会社クリーン開発(総務部人事課課長・南野(みなみの)朱里(あかり)氏)、株式会社マイネットシステム(代表取締役社長・小林(こばやし)利清(としきよ)氏)が登壇。自社の取組み内容や制度、高齢社員の活躍の様子などが、各職場で撮影された映像と代表者の発表により紹介された。  休憩後に行われた小島氏による基調講演では、「シニアのキャリア意識の現状と課題」と題し、シニア雇用の現状や、シニアのキャリア意識について、年齢を経ても自己成長や自己のスキルを活かしたいという意欲が高いことなどを、データを示しながら説明。今後の課題として「シニアの意欲が活かせる職場環境づくり」などをあげ、それらは「企業にとっても従業員にとっても意義のあること」と語った。  最後に行われたトークセッションでは、コーディネーターの内田(うちだ)賢(まさる)氏(東京学芸大学名誉教授)と基調講演を行った小島氏から、年齢にとらわれない働き方の再設計や、高齢者の活躍に向けた会社としての姿勢、経営層からのメッセージが従業員(おもにシニア)に理解されるよう工夫していることなどの質問が投じられ、3社の代表者が取組みの姿勢や工夫点などを、具体的かつ実感のこもった言葉で語った。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2026年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 挨拶を行うJEEDの輪島忍理事長 【P8-11】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 働きやすい制度や職場環境を整えて高齢社員の持つ技術や技能を若手社員へ継承 グローテック 株式会社(宮城県黒川郡(くろかわぐん)大衡村(おおひらむら)) 企業プロフィール グローテック 株式会社 (宮城県黒川郡大衡村) 設立 2016(平成28)年 業種 生産用機械器具製造業(産業用の自動生産設備および省力化装置等の企画・設計・組立・据付) 社員数 67人(2025〈令和7〉年9月12日現在) 60歳以上 14人 (内訳) 60〜64歳 6人(9.0%) 65〜69歳 6人(9.0%) 70歳以上 2人(3.0%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は、最長70歳までの継続雇用制度を導入。さらに、本人が希望すれば健康状態などを考慮のうえ、70歳を超えても就業可能であることを就業規則に明記。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  グローテック株式会社は、工場の自動化と省人化に貢献するFA(ファクトリーオートメーション)設備を設計・製造するスタートアップ企業として、2016(平成28)年に創業した。事業基盤を構築するには、設計、製造、管理などの各部門に高度な技術力と経験が不可欠であると考え、創業当初から他社を定年退職した経験豊富な人材を、公益財団法人産業雇用安定センターなどを通じて採用。即戦力として、また若手社員への技術・技能の継承を期待して活躍を促進し、現在も経験豊かな高齢者を積極的に採用している。  さらに、社員が安心して長く働ける環境を整えるため、2023(令和5)年に定年年齢を65歳に引き上げるとともに、最長70歳までの継続雇用制度を整備した。また、正社員やフルタイムで勤務する契約社員を対象にフレックスタイム制度を導入しているほか、本人からの希望があれば短日勤務などを可能とし、負担を軽減して勤務を継続できる環境も整備。高齢社員も存分に能力を発揮できる職場環境が会社の成長を支えている。 POINT @創業以来、豊富な知識や経験、高い技術力を持つ人材を、産業雇用安定センターなどを通じて積極的に採用している。 A2023年に定年年齢を60歳から65歳へ、定年後の継続雇用を65歳から70歳へ引き上げた。さらに、70歳を超えても就業可能であることを就業規則に明記した。 B65歳以降は、体力や健康状態を考慮して週の勤務日数を個別に選択可能としている。 C2020年に完成した新社屋に社員食堂、スポーツジムを設置。「健康経営○R(★)優良法人」の認定(主催・日本健康会議)を受けている。 U 企業の沿革・事業内容  工場の自動化と省人化に貢献するFA設備の一貫生産を主力事業に、近年は各種プラント施設におけるインフラ事業、金属研削などを行う精密加工事業も展開して成長している。創業時は社員5人での始動だったが、社名に込めた「新しい力で、新しいものづくりに挑戦・成長していく」という企業理念に賛同・共感したメンバーが次々と加わり、いまでは社員数67人に拡大。各分野のプロフェッショナルが集まり、企画、設計、加工、組立、出荷および現地での設備立ち上げまで1社で完結できる体制が整ったという。同社の手がけるFA設備は、国内はもとより海外の工場にも導入されている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  新しいものづくりに挑戦するとはいえ、その基本や根本的なものは変わらないとして、創業以来、豊富な知識や経験、高い技術力を持つ高齢者を積極的に採用して事業基盤を築いてきた。産業雇用安定センターをはじめ、ハローワーク、知人の紹介を通じて高齢者を正社員や嘱託社員として採用。さまざまな業界で技と経験をつちかってきたベテランが集まり、さらに、その能力を発揮できる環境を整えてきたことが同社の強みとなっている。  成長企業として新卒者など若手が徐々に増える一方で、70代になる社員もおり、会社の成長を支えている高齢社員がより安心・安定して働けるよう、制度や職場環境を改善する必要性を感じるようになり、改善の取組みに着手した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の引上げと継続雇用制度の改定  当初は定年年齢を60歳、定年後の継続雇用を65歳までとしていたが、即戦力として、また若手の育成をにない活躍する高齢人材が多い現状をふまえ、2023年7月に定年年齢を65歳に、継続雇用を最長70歳に引き上げた。さらに、本人が希望すれば健康状態などを考慮のうえ、70歳を超えても就業可能であることを就業規則に明記した。定年引上げ前に60歳以上で正社員として採用した社員は、引き続き正社員として雇用し、処遇を維持。また、現在65歳以上の社員のうち2人は、運用により正社員として雇用している。  嘱託社員については、本人の希望や業務内容に応じて1週間の勤務日数を個別に選択可能とし、健康面や家庭生活と仕事の両立に配慮した、働きやすい環境を整備した。65歳以上の嘱託社員6人のうち4人は、負担軽減のため週3〜4日の短日勤務を選択している。  制度改定と働きやすい環境を整えたことにより、働くことに意欲を持つ高齢社員が、より安心し、安定して勤務を続けることができるようになった。なお、定年引上げ前に55〜59歳で採用された正社員6人は、今回の制度改定により雇用形態が変わることなく65歳まで安定して勤務できることになった。  創業からの9年間で87人の社員を新規採用し、入社日時点で60歳以上であった12人のうち、11人(2025年9月12日現在)が元気に勤務している。 A賃金制度・人事評価制度の改善  2023年に職能等級および職能給制度を導入し、各人の職務遂行能力に応じて賃金を決定する仕組みに改定した。60歳以上であっても正社員はこの制度の対象である。  2024年には人事考課制度を新たに導入し、5段階の査定を行い、その結果を昇給に反映させることとした。嘱託社員は原則として人事考課制度の対象外となるが、業務への貢献度に応じて賞与に反映させている。 Bフレックスタイム、短時間勤務制度の導入  すべての正社員とフルタイムの契約社員を対象にコアタイムのないフルフレックスタイム制度を導入している。対象社員は個別に労働時間の調整が可能となるため利用者は多く、ワーク・ライフ・バランスが向上。子育て世代の社員にも好評で、すべての世代が働きやすい職場環境の実現に大きく寄与している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @高齢社員による技術・技能継承の仕組み  高齢社員には、経験や技術を活かし、おもに新入社員への実務指導を任せている。具体的には、新卒社員に対するマンツーマンのOJTを導入し、3〜6カ月間にわたり技術や知識を教えていく。組織全体の技術力向上が図られるうえ、高齢社員は自身の知識・スキルを伝えることにやりがいを感じることができている。 AIT化・DX推進における高齢社員への配慮  工程管理や予定確認システムを導入し、細かい数字の管理負担を軽減している。  また、社員にはノートパソコンを貸与するが、見えづらいという高齢社員には大型モニターも貸与している。  システムの操作が不安な社員に対しては、周囲の若手社員がサポートしている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @社員の健康増進に向けた取組み  独立行政法人労働者健康安全機構宮城産業保健総合支援センターからの案内で、研修「高齢労働者の安全と健康の確保について」を受講するなど、高齢社員本人の意識だけではなく、企業側としてもけがなどのリスク回避や職場環境の見直しなどを行っている。  2022年に社屋を増築した際には、社員の健康増進を図るためトレーニングマシンやシミュレーションゴルフを導入したスポーツジムを併設した。昼休みや終業後に活用され、健康促進が仕事のパフォーマンス向上にも貢献している。  また、社屋周辺に飲食店や商店が少ないため、新社屋には社員食堂を設けている。健康増進に配慮して栄養バランスのとれたメニューを提供して社員から好評を得ており、ほぼ全員が利用している。また、「働き続けたい」と思ってもらえる社屋にするため設計にもこだわっており、大きな窓のある食堂はカフェのようなスペースとなっている。売店や給茶機も設置し、勤務開始前や休憩時間には世代を問わず団らんの場ともなっている。 A余暇の充実  仕事と余暇の充実を図るため、地元プロ野球チームの年間シートを契約し、社員に観戦機会を提供。年1回は会社全体観戦イベントを開催し、社員間の交流促進の場となっている。 (4)その他の取組み @中高年人材の積極的な採用  産業雇用安定センターなどからの人材紹介の受入れは、一方的に紹介を受けるだけでなく、事業運営上必要なスキルや経験を同社からオファーし、適した人を積極的に採用している。再就職援助計画の対象者の紹介も受けており、最近は50歳以降の地域の中高年者を積極的に受け入れている。 Aピークタイムを避けた出勤時間  所定の就業時間は、始業9時、終業17時30分としており、ほかの製造業の事業所の一般的な始業時刻より30分から1時間ほど遅いため、通勤時の渋滞に巻き込まれず、「時間に余裕をもって出勤できる」と社員から好評である。 Bサンクスギフトの導入  社員同士が気軽に感謝の気持ちを伝えられる環境づくりとして、「サンクスギフト」を導入している。これは、感謝の気持ちを簡単に送り合える社内SNSサービスで、感謝の気持ちが可視化され、受け取った人だけでなく周囲の社員もやりとりを共有できる。若手社員と高齢社員のやりとりもあり、世代を超えたコミュニケーションの活性化や社内全体の雰囲気向上につながっている。 (5)高齢社員の声  三品(みしな)実(みのる)さん(69歳)は、前職を定年退職した後の再就職で、産業雇用安定センターを通じて入社して7年。ものづくり一筋の職業人生でつちかった技術と経験を、機械組立チームのリーダーとして、また若手社員の育成に活かし、フルタイム勤務を続けている。現在、新卒で入社した新人の育成をになっており、「成長していく姿をみられることがうれしいです」とやりがいを語る。さらに、「新入社員が技能検定を受けられるような環境をつくっていきたい」と今後の目標を話す。  尾形(おがた)正泰(まさやす)さん(72歳)も前職を定年退職後の再就職で、67歳のときに入社。品質管理のスペシャリストとして、知識や経験を活かしてISO認証取得を主導し、品質管理責任者として業務を遂行しつつ、社内監査員の育成研修も手がける。品質管理の仕事にやりがいを感じており、「身体が続くかぎり勤務していたい」と話す。現在、週3日の勤務で負担を感じることなく継続できているという。「週の勤務日数や曜日が選択できますし、始業が9時で、一般的な会社よりゆっくり出勤できるのもよいです」と語る。 (6)今後の課題  制度改定や職場環境の改善は、働くことに意欲的な高齢社員のモチベーションをさらに高めており、種澤(たねさわ)直樹(なおき)社長は「高齢社員は、自分の持っているものを若手社員に伝えたい、なんでも聞いてほしい、という姿勢で元気に仕事をしています。そうした思いに若手社員は応えていて、お互いにサポートし合う、よい風土ができてきたと思います」と社内の雰囲気を語る。社長自らも社員を家族のように思い、気さくに接してコミュニケーションを大事にしている。  現在新たな工場の建設を計画しており、地域雇用の拡大を進めながら、地域とともにさらなる成長を目ざしている。  創業以来、労働災害ゼロを継続しており、今後も安全衛生管理に注力しつつ、すべての世代にとって働きやすく、意欲があれば何歳まででも働ける職場環境の実現に向けて、種澤社長は「人を大事にすることを基本として、時代に合った制度を順次整備し、よりよい職場づくりを推進していきます」と力強く語る。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション グローテック株式会社 明るくておしゃれな印象の社屋エントランスホール 栄養バランスのよい献立が食べられる社員食堂。社員の99%が利用する 若手社員にFA設備の組立てを指導する三品実さん(69歳)(左) 経験を活かして品質管理部門で活躍する尾形正泰さん(72歳) 【P12-15】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 定年65歳、70歳まで希望者全員再雇用により高齢職員の活躍を推進する福祉の現場 社会福祉法人 光風会(こうふうかい)(山形県酒田(さかた)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 光風会 (山形県酒田市) 創業 1980(昭和55)年 業種 社会福祉事業(高齢者福祉、障害者福祉) 職員数 283人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 82人 (内訳) 60〜64歳 38人(13.4%) 65〜69歳 26人(9.2%) 70歳以上 18人(6.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。70歳以降は一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は79歳 T 本事例のポイント  1981(昭和56)年に山形県酒田市で初の特別養護老人ホームを開設した社会福祉法人光風会は、現在四つの介護福祉施設を中心に、22の事業を展開している。  職員数283人のうち、60歳以上は82人で全体の29.0%を占めており、事業推進の貴重な戦力となっている。  近年、若年層の採用減少と職員の高齢化が進むなか、定年後再雇用の職員や、新たに採用したシニア職員が安心して働き続けられる職場づくりを目ざし、制度改善と職場環境整備に積極的に取り組んでいる。 POINT @定年を60歳から65歳に引き上げ、希望者全員70歳までの継続雇用制度を整備。70歳以降も、職種を限定せずに年齢の上限なく雇用する環境を整えている。 A昇給停止の年齢を55歳から60歳に延長し、65歳までは60歳到達時の給与水準を維持。また、60歳以降も人事考課制度を継続し、賞与に反映する仕組みを構築した。 B体力や生活状況に応じて夜勤免除や短時間勤務を選択可能とし、65歳定年後も本人の希望に沿った働き方を提供できるようになった。 Cベテラン高齢職員がOJTリーダーとなり、マニュアルとチェックリストによる効果的な技術継承を実施し、研修講師としても若手育成に貢献している。 D見守りセンサーやリフトチェアの導入、ノーリフトケアの推進により、身体的負担を軽減。健康診断後のフォロー体制やヒヤリハット報告制度で安全な職場環境を整備した。 企業の沿革・事業内容  社会福祉法人光風会は1980年7月に設立、翌1981年4月に酒田市内では初の特別養護老人ホーム芙蓉荘(ふようそう)を開設した。その後、1987年に酒田市内初の障害者支援施設光風園、1991(平成3)年に介護老人保健施設シェ・モワを開設するなど、地域のニーズに応えながら福祉事業を拡大してきた。  現在は、高齢者・障害者福祉に関連した22の事業を展開している。また、地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネットのメンバーとして、地域包括ケアや地域共生の推進にたずさわり、専門職による出前講座などの公益的活動や福祉避難所開設といった社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同法人では、職員数283人のうち60歳以上の職員が82人で全体の約3割を占めており、事業推進の貴重な戦力として活躍している。近年は、学卒者などの若年層の採用が減少している状況が続いているほか、職員の高齢化が進むなかで、制度の運用や職場環境の改善に取り組み、定年後の再雇用の職員はもちろん、シニア人材の採用にも取り組んでおり、高齢職員が安心して働き続けることができる職場環境を実現している。  また、高齢職員が長年の職業人生のなかでつちかってきた知識や経験の確実な伝承を行い、若手職員のレベルアップを図ることを重要な目的としている。  これらの取組みの推進にあたっては、職員の声を聞きながら段階的に制度改定を行い、運用面での柔軟性も重視している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制および継続雇用制度の改善  以前の制度では、正規職員、専任職員、パート職員いずれも定年60歳、65歳までの継続雇用だったが、2019(令和元)年に65歳定年制を導入するとともに、一部職種(業務員、グループホーム世話人)については、希望者全員70歳までの継続雇用とした。制度改定後は、職種にかかわらず65歳定年後も、運用により希望者を継続雇用していたため、実態に即して2025年に嘱託就業規則を改正し、すべての職種で希望者全員70歳まで、さらに一定条件のもと、年齢上限なく継続雇用することとした。  また、地域の高齢者を積極的に採用しており、直近3年間で17人を採用。豊富な社会経験や専門知識を活かし、利用者対応や若手職員の育成に貢献している。 A評価・賃金制度の改善  従来の60歳定年制では55歳で昇給停止となっていたが、65歳定年の導入にともない、昇給は60歳まで継続し、60歳到達時の給与額が65歳の定年まで維持される。正規職員については、60歳以降も従前の人事考課制度を適用し、賞与に反映する仕組みとしている。専任職員に対しても、目標設定や成果に基づく評価を行い、賞与に反映している。  65歳定年後は、本人の意欲や能力をふまえて嘱託職員として継続雇用し、基本給は定年前と同程度に設定し、手当や賞与は業務内容や働き方に応じて支給している。  60歳以降も評価制度が継続されることで、職員の意欲や業務の質が向上しており、65歳以降の職員の仕事に臨む姿勢は、若手職員のお手本となっている。 B多様な勤務形態・短時間勤務制度の導入  年齢を問わず、体力の低下や健康状態から夜間勤務の回数を減らしたり、夜間勤務のない働き方、あるいは早い時間帯の勤務に固定したりすることが可能となっており、ライフスタイルに合わせた働き方が選択できるようになっている。  65歳定年後の継続雇用でも、定年前と同じフルタイム勤務はもちろん、各々の希望や体力などに合わせて短日・短時間勤務(パートタイム)を選択できるようになっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @教育研修制度の充実  年齢に関係なく全職員が共通の研修に参加できる体制を整備。有資格者や経験豊富な高齢職員は、若手職員の研修講師としても活躍しており、知識や接遇の伝承役をになっている。 A資格取得支援とリスキリング  未経験で採用した高齢職員も含む介護福祉士資格取得支援制度として、就学資金の貸与制度を実施している。また、パソコン操作やZoom研修、介護支援機器の使用方法などを学ぶためのリスキリング支援にも注力しており、特にデジタル機器に不慣れな高齢職員に好評である。これらの取組みにより、高齢職員の意欲や業務改善への意識が高まり、職場全体の生産性とサービス向上につながっている。 Bキャリア教育の実施  高齢職員も含めたキャリア教育を実施し、キャリアデザインシートを活用して目標設定と面談を通じた成長支援を行っている。資格取得支援やリスキリング支援とも密接にリンクしており、一人ひとりが目標を描き、その実現に必要なスキルや資格取得について上司からアドバイスを受け、ステップアップやキャリアアップに確実に結びつけている。 C技術・技能継承体制の確立  従来の指導方法である、“口頭での伝達”や“見て覚える”は、職員間で習熟度や習熟期間にばらつきが生じてしまうことから、2019年より、ベテラン高齢職員がOJTリーダーとなり、基本的な技術の習得について、マニュアルと標準的な習熟期間に基づくチェックリストを作成し、習熟度合いを確認しながら指導を行っている。  ベテラン高齢職員がOJTリーダーとして若手職員とペアを組み就労することで、確実な技術の継承と福祉職業人としての基本姿勢や心構えも学ぶことができ、若手職員のレベルに合わせたきめ細かく質の高いOJTが可能となっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @介護サポート機器の導入  ベッドに見守りセンサーを導入したことにより、利用者の状態がモニター観察で把握できるようになり、利用者の健康状態が即座にわかり迅速に対応できるようになった。 A個別浴槽とリフトチェアの導入  介護老人保健施設シェ・モワでは、個別浴槽の整備に合わせ、座って浴槽に入れるリフトチェアを導入した。その結果、入浴介助において利用者を支えたり、抱えたりといった動作がなくなり、高齢職員の腰痛防止に役立っている。 Bノーリフトケアの推進  ベッドから車いすへの相互移乗時に持ち上げない介護を徹底している。マニュアルの作成や周知のほか、実践方式での教育訓練を実施し、高齢職員は特に、体力低下に合わせた介護技術を習得できるよう訓練を行っている。 C健康管理の充実  定期健康診断で所見がある職員には産業医や看護職員による保健指導を実施し、再検査や治療の受診をフォローしている。結果報告も徹底され、健康管理への意識向上につながっている。 D安全衛生管理の強化  ヒヤリハット報告をパソコン上で随時記入し共有できる体制を整備し、危険予知訓練や5S運動と連動して労働災害の防止に努めている。報告内容は全職員で共有、対策を実施し、年間の傾向を研修で学ぶことで労働災害の減少を実現した。  また、安全標語の募集と表彰を行って、職員の安全意識を高めている。 E福利厚生の拡充  コロナ禍では職員が安心して働けるように、職員や同居家族が罹患した場合、特別有給休暇を適用できるよう就業規則を改正した。コロナウイルスやインフルエンザに感染しても有給で休めることが、職員の安心感につながっている。 (4)その他の取組み @高齢者の新規採用  地域で定年を迎えた高齢者を、職歴や業種を問わず幅広く受け入れ、直近3年間で17人を採用した。入社後は各々がこれまでの社会経験を十二分に活かして利用者や職員と接している。高齢職員の採用を増やしたことにより、もともと働いている現場スタッフにとっては、深い知見と経験から学ぶことも増え、職場で頼りにされる存在となっている。  一方、同業から転職した高齢職員もおり、長年にわたり現場でつちかった専門的な知識と実践的なスキルを活かし、後進への指導や改善提案ができる存在として活躍している。その豊かな経験は、現場力の強化やサービスの質の向上に大きく貢献している。 (5)高齢職員の声  Aさん(67歳)は、勤続38年。「65歳定年後も、健康であれば継続して働きたいと思っていました。転職をすると新たに人間関係を構築する必要もあるため、同じ職場で仕事を続けることができてありがたいです。有給休暇(2時間単位の時間休含む)が取りやすく通院などに利用しています」と話す。  Bさん(72歳)は、一度退職した後、再就職し約6年が経つ。「利用者から感謝されることや、利用者から業務を通して、逆にパワーと元気をもらっており、それがモチベーションとなっています。また、周りのスタッフから助けてもらっているため、働きやすく感謝しています」と語る。  入職13年目のCさん(66歳)は、障害者支援施設で利用者の生活支援を担当している。「仕事だけではなく、家の用事、孫の世話、趣味のテニスなど、やることがたくさんあるので、柔軟に働けるのはとてもありがたいですね」と話す。 (6)今後の課題  運営する施設では、清掃や洗濯などは業務委託しているが、年々委託費が高騰し、経常利益も減少傾向にあるため、コストに見合う成果の検証が必要になっている。今後も高齢者雇用や障害者雇用を拡大し、人員の確保の可能性を広げながら社会の要請に応えていく考えだ。  また、かぎられた人員で最良のサービスを行うために、現在、部分的に導入している見守りセンサーなどの機器整備の拡大を図り、効率的で効果的なサービスを行い、職員の身体的、精神的負担の軽減を図りながら、できるかぎり長期間働き続けられる環境整備を行っていく計画である。  創立45周年を迎え、津波や河川洪水などの災害リスクのある老朽施設の移転や建替えを進め、安心・安全・快適な環境整備とともに、サービスの質向上を重視している。職員の人材育成に力を入れ、自ら考え学び実践する力を育てており、今後も高齢職員が活躍できる職場づくりを推進していく方針である。 写真のキャプション 社会福祉法人光風会 勤続38年の高齢職員Aさん(67歳) 再就職して6年の高齢職員Bさん(72歳) 利用者の生活支援業務をになう高齢職員Cさん(66歳) 【P16-19】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 「就業しているかぎり」は賃金維持、昇給継続シニア層の登用、新規採用も積極推進 大河津(おおこうづ)建設(けんせつ)株式会社(新潟県燕(つばめ)市) 企業プロフィール 大河津建設 株式会社 (新潟県燕市) 設立 1975(昭和50)年 業種 総合建設・土木建築工事の施工・管理・請負等 社員数 30人(2025〈令和7〉年9月1日現在) 60歳以上 6人 (内訳) 60〜64歳 2人(6.7%) 65〜69歳 3人(10.0%) 70歳以上 1人(3.3%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。希望者全員を75歳まで継続雇用。75歳以降は一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  1975(昭和50)年に設立された大河津建設株式会社。「日々たゆまず努力を重ね、社会的に通用する技術を造り、さらに顧客に愛される会社を目指す」ことを経営方針に掲げ、地域の安心・安全をになっている。  おもな事業内容は河川の維持管理工事の請負だが、公共工事の現場には一定の有資格者を配置しなければならず、人材確保がむずかしいなか、経験豊富な高齢社員の活躍で活路を開いてきた。定年を70歳、継続雇用年齢を希望者全員75歳まで、一定条件のもと75歳以降も年齢上限なく継続雇用する制度にあらため、60歳を超えても給与・昇給・賞与等の処遇を変えない賃金制度を導入するなど、シニア層の登用、モチベーションアップに力を入れている。 POINT @2018(平成30)年に70歳定年制、希望者全員75歳・基準該当者を年齢上限なく雇用する継続雇用制度を導入した。 A就業しているかぎりは「給与を下げない」賃金体系とした。定年時までは役職も継続。70歳定年後も給与・賞与は従来の水準のまま、年1回の昇給も継続している。 B事務的な書類作成や業務で、現場の技術者らをバックアップする「建設ディレクター制度」を導入。負担軽減により、経験豊富なシニア社員が、専門的な仕事に集中して取り組むことができる環境づくりをしている。 C年齢を問わず、社員のスキルアップの取組みを支援。1級土木施工管理士をはじめとする業務に必要な資格取得に関しては、費用を全額会社で負担している。 U 企業の沿革・事業内容  大河津建設株式会社は1975年、新潟県長岡市に設立された。設立当時は土木工事の下請け工事が多かったが、事業を徐々に拡大。現在は燕市に本社を置き、元請会社として、信濃川の水害を防ぎ、越後平野を水害から守るために建設された大河津分水路の維持管理工事のほか、道路、農業施設といった各種のインフラ整備も行うようになっただけでなく、同じ地域で創業100年の歴史を持つ建設会社・株式会社氏田組を傘下に収めるまでとなった。事業の9割以上を国土交通省・新潟県・燕市などからの公共工事が占めている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数は、土木技術者、土木作業員、本社の事務を合わせて30人。うち60〜64歳は2人でいずれも現場作業員、65〜69歳は3人で1人が現場作業員、2人が現場監督をそれぞれ務めている。70歳以上は1人、76歳の最高年齢者で工事の管理業務などをになっている。  建設業はもともと人手不足なうえ、公共工事の受注となると1級土木施工管理士などの有資格者の確保が必須で、人材確保は大きな課題となっている。ベテランで実績のある高齢社員には、できるだけ長く勤めてもらえるよう、処遇改善を含めた環境づくりに取り組んできた。  現在働いている高齢社員の活躍推進に加え、シニア層の転職者も積極的に受け入れている。2025(令和7)年度は9月時点で、すでに65歳以上の人材1人を採用。さらに、71歳の土木施工管理の人材を採用予定で、本人が直接来社し、「働きたい」とアピールしたことがきっかけだという。資格、経験を有し、意欲のある高齢者に対しては、年齢にかかわらず門戸を開いている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @70歳へ定年年齢の引上げ  2018年、定年を60歳から70歳に引き上げた。当時は、豊富な経験と知識があるベテラン社員の多くが定年の時期を迎えつつあり、このまま60歳定年で退職されてしまうと、人手不足のため受注がむずかしくなることが懸念される状況だった。人材確保と、長年会社を支えてきた高齢社員の経験や知識を会社の今後の継続的な発展に活かすことを目的に、70歳への定年引上げに踏み切った。 A希望者全員75歳までの継続雇用制度  定年後の継続雇用については、70歳以上で本人が希望すれば、75歳まで1年更新で再雇用契約が可能になるよう就業規則に定めている。さらに75歳以降も年齢上限なく、会社が必要と認め、本人が希望すれば、1年更新で雇用を延長できることとしている。 B給与・昇給・賞与などの処遇を維持  定年や再雇用制度の変更にあわせて、処遇の改善も行った。賃金は職務や役職に応じて決定し、諸手当には工事現場に出た場合の「現場管理手当」などがあるが、70歳の定年以降も職務や役職、勤務の内容に応じて、従来通りの基本給、手当を支給し続けることとした。  昇給は年に1回、6月に行っているが、就業を継続しているかぎりは、年齢を問わず昇給を実施。処遇を充実させることで、シニア層のモチベーション維持にもつなげたい考えだ。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @建設ディレクター制度導入による負担軽減  「建設ディレクター」とは、工事施工に関するデータの整理・処理、施工関連の書類の作成、ICT業務を主として行う新たな職域。バックオフィスから建設の現場をサポートすることで、現場の負担軽減につなげられると、建設業界でも注目されており、民間資格も設けられている。  数年前から、建設ディレクター制度を導入するための取組みを始め、20〜40代のITスキルのある女性を3人採用。現在は、おもに施工関連の書類作成で、現場のサポートを行っており、「負担が減る」と、特にシニア層の社員から好評だ。  建設ディレクター制度による採用を増やすことで、人件費は増加するが、負担軽減により、ベテラン社員が専門性の高い仕事に集中することができる効果は大きい。 A資格取得の支援  社員のスキルアップやキャリアアップを目的として、「キャリアアップ支援制度」を設けている。この制度では、建設ディレクターの資格取得に向けた指導・育成も実施。高齢社員を含む現場作業者の負担軽減に資する人材の育成を目ざしている。  また、土木施工管理士、建築施工管理士など、会社業務に必要な資格取得支援も積極的に展開。年齢を問わず、チャレンジする社員には、必要な費用を全額負担している。  「会社に有益な資格はどんどん取ってほしい」と熊谷(くまがい)祐治(ゆうじ)社長。熊谷社長によれば、72歳の取締役会長も自ら率先してチャレンジを続けており、最近では「高所作業車」の資格を取得するなど多くの資格を取得しているそうだ。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @ICTや最新機器の活用  ICTや最新機器の導入により、工事現場での安全確保、省力化で、高齢社員が働きやすい環境の整備を進めている。 ・測量  専用タブレットを使用した3Dスキャナーを導入。構造物をつくる位置を特定するための測量は、従来2人1組のペアで行わなければならなかったが、3D測量により1人で行えるようになり、省力化につながった。立ち入りが困難な地域や危険箇所でのデータ取得も可能になった。 ・草刈り  河川の維持管理の作業の一つに、堤防の草刈りがある。従来は勾配がきつかったり、複雑な場所は人力で行ってきたが、2024年度に小型の機械を導入。傾斜角度が40度程度までのところは機械で除草が可能になり、危険や負担の軽減につながっている。 A健康診断などの充実  法定の一般健康診断は、健診機関に本社社屋に来てもらい、社員が受診しやすいようにしている。さらに希望者には、人間ドックの受診費用の一部を補助している。  健康維持への意識を高めるため、社員向けの講座なども実施。昨年度は、保険会社から提案を受け、「血管年齢測定会」を行っている。 B安全衛生大会の開催  年に1回、関連会社の株式会社氏田組と合同で、安全衛生大会を開催している。作業の安全や労働災害の防止の取組みとともに、衛生に関する講座を実施する内容だ。昨年は、スポーツジムを運営する会社から講師に来てもらい、体力維持のためのエクササイズを行った。 C熱中症対策  近年の夏の酷暑に対応し、熱中症対策にも力を入れている。 ・軽量ライフジャケットの導入  河川維持管理工事などでの河川近傍作業では、落水の危険から身を守るためライフジャケットの着用が必要となる。暑さ対策として、従来のものより涼しく軽量でコンパクトなライフジャケットを導入した。 D「週休2日」の確保  北陸ブロックの国、県、代表市町村、特殊法人等で構成される「北陸ブロック発注者協議会」では2024年6月から、建設業の働き方改革を進めるため、発注者と受注者の双方が宣言し、週休2日の確保を目ざす取組みをスタートさせた。こうした状況もふまえ、作業現場では完全週休2日制を実現させている。  そのほか、さまざまなツールの導入により効率化を図るなどで、残業時間の削減、有給休暇の取得にも取り組んでいる。前期では「月平均残業時間4.7時間」、「年間有給休暇取得日数16.5日」を達成した。 (4)高齢社員の声  土木統括部長として現場トップの役割をになう畔上(あぜがみ)徹(とおる)さん(68歳)。公共工事などの減少で、勤めていた建設会社が自主廃業したことを受け、50歳のときに入社した。土木工事に長年たずさわり、豊富な経験を持ち、1級土木施工管理士の資格を有するベテランとして、公共工事の受注にも欠かせない存在だ。  畔上さんが現在担当しているのは、土木工事全体のマネジメント。工期の管理や職人の管理で、現場監督の役割をになっている。「デスクに座ってできる仕事と現場と半分ぐらいです」といい、現場での作業も少なくないそうだ。  一方で畔上さんは、そういった「体を動かす仕事」が元気の源になっているそうで、「現場を歩くのが運動の一つ。朝7時に家を出て、帰宅は17〜18時ごろです。機械と同じで、仕事に行って規則正しく体を動かし、家に帰って食事をしたりお酒を飲んだりして心と体の栄養を補給する。そのくり返しが健康維持につながります」と話す。  当面の目標は「70歳まで働くこと」。一方で、「動けるうちは、仕事に就かせてもらっているのが一番です」ともいい、働き続けることへの意欲も滲にじませていた。 (5)今後の課題  公共工事を受注し、作業が行われている間は、工事管理業務を行う現場監督も現場作業員も、基本的に工事現場に常駐しなければならない。そのため、現場作業にたずさわる社員の場合は、短日・短時間勤務など柔軟な働き方を導入するのはむずかしいのが実情で、制約があるなか、高齢社員でも働きやすい環境をいかにして整えていくのかが課題になる。熊谷社長は、「建設ディレクターの取組みなどを拡大し、有形無形の負担軽減を進めたい」との考えで、工夫を凝らした働き方改革を進めていく方向だ。  人手不足の深刻化が予想されるなか、さらなる高齢者の新規採用も視野に入れている。ただし、熊谷社長によると、高齢者の新規採用に関しては採用してもすぐに現場監督として働くことができないため、「少し動きづらい」面があるとのこと。こうした制約のもと、高齢者のなかから、いかにして人材を発掘するかも課題だという。  高齢社員が働きやすい環境を整えながら、その知識や技術、経験を活かし戦力として活用する同社の活躍に、今後も期待が集まる。 写真のキャプション 大河津建設株式会社(関連会社・氏田組と同一建物内) 熊谷祐治社長(左)と畔上徹さん(68歳・右) 【P20-23】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 従業員の幸せ実現を根幹とした定年延長と能力本位人事制度へ転換 東洋ナッツ食品 株式会社(兵庫県神戸市) 企業プロフィール 東洋ナッツ食品 株式会社 (兵庫県神戸市) 創業 1959(昭和34)年 業種 製造業(食品加工) 従業員数 227人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 47人 (内訳) 60〜64歳 25人(11.0%) 65〜69歳 13人(5.7%) 70歳以上 9人(4.0%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで継続雇用。70歳以降は運用により年齢上限なく勤務延長可能。最高年齢者は84歳 T 本事例のポイント  日本初のナッツ専業加工事業者として1959(昭和34)年に創業した、東洋ナッツ食品株式会社。「従業員の幸せ実現」を根幹とした企業方針のもと、2019(平成31)年に定年を60歳から65歳に引き上げ、継続雇用制度も70歳まで延長した。現在は運用により年齢上限なく雇用を継続しており、最高年齢者は84歳で後進育成のための製造技術顧問を担当している。  定年延長で懸念される組織の活力低下に対して、年功序列から能力本位の人事制度へ転換し、評価の透明性を高めることで全世代のモチベーション向上を実現。「幸せデザインサーベイ」により従業員の声を把握し、制度変更の効果を検証しながら継続的改善に取り組んでいる。 POINT @65歳への定年引上げと70歳までの継続雇用制度を導入。70歳以降も運用で雇用継続できる仕組みを整えている。 A年功序列から能力本位への人事制度転換により全世代のモチベーション向上を図り、組織全体の活性化を実現。人事考課表の完全開示とフィードバック制度で評価の透明性と納得性を確保したところ、高齢従業員のモチベーションが大きく上昇した。 B高齢従業員の経験を活かす新職場(監査役室・社長室など)を創設し専門的業務に配置。ガバナンス向上と高処遇維持を両立させた。 C「幸せデザインサーベイ」とワークショップにより従業員の声を制度に反映し、職場のコミュニケーションを向上させた。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1959年の創業で、日本で初めて世界の木の実の試作試売を開始。以降60年以上にわたり、日本初のナッツ専業加工事業者として輸入・加工販売を行い、業界をけん引してきた。ナッツの特徴に応じた異なる加工方法により、ナッツが持つ本来のおいしさを引き出して製品化している。  1978年に現本社工場が竣工し、1986年から毎年開催している「アーモンドフェスティバル」は地域に根ざした恒例行事として定着。2001年には「第1回World Cashew Congress India」を受賞、2013年に「The US-Japan Agricultural Trade-Hall of Fame(日米農産物貿易殿堂入り)」、2019年に「第40回食品産業優良企業等表彰・農林水産大臣賞」を受賞するなど、国内外で高い評価を獲得している。  品質管理体制も充実させ、2017年にFSSC22000認証を取得。創業当初からつちかった技術と品質へのこだわりが、同社の競争力の源泉となっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2025(令和7)年4月現在、従業員数227人のうち60歳以上が47人(20.7%)、65歳以上も22人(9.7%)在籍している。特に団塊ジュニア世代である50代従業員の人員構成がほかの世代より高く、役職者・技能者が集中している。現在の最高年齢者は84歳で、長年にわたって蓄積した技術と知識を活かして後進育成のための製造技術顧問として活躍している。  定年延長の契機となったのは、年金受給開始年齢の引上げにともなう、従業員からの不安の声だった。同時に、後継者育成の遅れや技能の属人化という課題も顕在化していた。食品製造業という特性上、味覚や食感の判断など、ベテラン従業員から若手従業員へ教えることが技術伝承の仕事として重要な位置を占めていたが、複合的な課題に対応するため、技能を有する高齢従業員に長く活躍してもらう必要性が高まった。  定年の延長にあたっては、社内から「若い世代のモチベーション低下」、「後継者問題の先送り」、「ライフプランへの影響」などの懸念が寄せられた。特に若手従業員からは「われわれの昇進が5年も遅れる」といった意見もあった。これに対して同社は、年功序列ではなく能力に基づいた人事制度への転換を決断。適格性・能力がなければ降職もある厳格な評価制度を導入し、メリハリのある制度運用を実施した。  また、通信教育や資格取得支援による自己啓発の促進、人事評価面接におけるキャリア希望のヒアリングとアドバイスなど、個々の従業員に向き合った対応を行った。さらに退職金については、以前の定年年齢である60歳での退職でも全額支給(自己都合退職にしない)とし、退職金受給後に契約社員として継続雇用も可能とする配慮を行った。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の引上げ  2019年に定年年齢を60歳から65歳へ引き上げるとともに、継続雇用制度の上限を70歳までとした。さらに70歳以降についても、半年ごとの面談を通じて本人の意思や気力・体力を確認し、健康であれば希望者のほぼ全員が継続雇用される運用を行っている。  また、65歳まではポストオフを行わず、高齢従業員に引き続き業務の中核をになう役割を期待している。豊富な経験と知識を次世代へ継承する後継者育成も重要な役割として位置づけている。一方、65歳以降の再雇用時には、契約社員をベースとした再雇用契約を締結し、本人の能力や適性に応じた役割や役職を付与することで、業務内容に見合った給与を支給している。  定年延長にともない導入した能力本位の抜擢人事は、若手従業員からも好意的に受けとめられている。実際に30代で課長職に就く従業員もおり、階層別教育の一環として年2回のオーダーメイド型OFF−JTを実施している。 A透明性のある人事評価  人事評価においては透明性と納得性を重視し、被評価者には人事考課表を完全に開示している。評価者は評価内容とその理由をていねいに説明し、従業員の強みや課題を共有することで、評価に基づいた適切な処遇を実施している。従業員自身が業務に対する考えや今後の目標を記載する欄も設けており、会社側はこれに対してフィードバックを行い、個々人の目標達成を支援している。この制度により従業員のモチベーション向上が促進され、企業全体の活力維持にも大きく寄与している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @生涯学習を推進  自己啓発奨励制度を設け生涯学習を推進している。約200講座の通信教育を対象に、修了条件を満たせば受講料を全額会社が負担する。英会話やパソコンスキルの講座をはじめ、難関国家資格である通関士取得に向けた講座を受講する高齢従業員もいるなど、学習意欲のある高齢従業員が積極的に活用している。  資格取得奨励制度では合格時に受験料を会社が負担し、会社が指定する32資格を取得すると、毎月1資格あたり500円の資格手当を支給するなど、スキル向上を促進している。 A技術継承  評価制度における目標管理シートにベテラン従業員の役割期待を記載し、後継者育成を重要な業務として位置づけたことで、育成へのモチベーションがアップしている。食品製造業という特性上、ベテラン従業員が長年つちかってきた「味、食感、味覚」といった製品の品質に直結する感覚や技術を若手従業員へ伝承することが、重要な「技術継承」の仕事としてとらえられている。 B基幹システムの入れ替え  基幹システムの入れ替えにより、従来の属人化された業務から脱却し、業務の標準化と効率化を図る計画を推進している。これまで使用していたオーダーメイド型のシステムから、レディメイド型のシステムへと移行することで、業務手順のマニュアル化が可能となり、異例対応時にベテラン従業員に依存していた属人化の課題も解消される見込みである。 C高齢従業員の経験・能力の活用  定年後の再雇用時には本人の能力や適性に応じて、監査役室、社長室、貿易実務担当、関連会社への出向・転籍など多様な職務を用意している。2020年には監査役室を設置し、配置した再雇用従業員2人(当時76歳・69歳)のうち一人を室長に任命、2024年には社長室を設置し67歳(当時)の再雇用従業員を社長室長に任命するなど、再雇用従業員でも役職者として登用される例もある。こうした配置により、高齢従業員の経験と能力を最大限活かす職場環境を整備しており、企業のガバナンス向上にも大きく寄与している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @休憩時間の延長  昼の休憩時間を45分から60分に延長(就業時間は変えず勤務時間を15分短縮)した。また、従来研修室だったスペースを休憩スペースに変更し、従来以上にゆったり休めるよう環境を改善した。体力が低下した高齢従業員からは「しっかり休めるようになった」と特に喜ばれている。 A機械化の推進  包装ラインでパッキングロボットを導入し原料投入や箱詰め工程を自動化した。今後も自動化ラインを増やしていく方針であり、機械による省力化によって高齢従業員に対する作業負担の軽減および労働災害の防止につながっている。 B健康管理  定期健康診断(年1回)に加え、人間ドック受診希望者には健保組合の補助に加えて会社補助を支給し、オプション以外の基本メニューを自己負担なしで受診可能としている。受診結果により産業医によるていねいなアフターケアを実施している。年齢を重ねるにつれて生活習慣病などの危険性が高まる高齢従業員にとって、有益な制度となっている。 (4)その他の取組み  年2回、社会保険労務士による年金相談をメインとした個別ライフプラン相談会を会社負担で開催している。事前予約制で年金受給予定額を社会保険労務士が調査のうえ、ライフプランの相談を受けている。老後の生活設計などに不安を抱える高齢従業員にとって、一人ひとりの面談で行われる専門家による個別相談は貴重な機会となっている。  また、定年引上げなどの人事制度変更・改善にあたり、「幸せデザインサーベイ」を実施し、制度変更の影響をモニタリングしている。その結果をもとに、実態把握・課題抽出を行い、それをふまえたワークショップを開催。従業員の率直な意見交換を促進している。  ワークショップで出た「社員の声」を受けて具体的な改善に取り組んでおり、「ほかの人がどんな仕事をしているのかわからない」という声に対して、社内報『Konominoko』を2024年6月に創刊するなど、職場コミュニケーションの向上に継続的に取り組んでいる。  また、創業メンバーである84歳の従業員による社内史(回想録)を作成し、全従業員に配付。創業からの歴史を従業員に知ってもらうことが、高齢従業員を含む先人へのリスペクトの醸成につながっている。愛社精神の高揚に寄与するとともに、若手従業員の人材育成にも役立っている。 (5)高齢従業員の声  Aさん(69歳)は監査業務に従事し、「監査を通して、これまでの経験が活きることもあれば、新しい学びを得る機会も多いです。自分が社内でつちかったノウハウや知見を活かして、少しでも会社の成長や発展に寄与していきたいです。ただ、うまく伝わらないことも少なくなく、そうした困難さが逆にやりがいにつながっています。健康で毎日仕事に従事できることも、やりがいであり、生きがいと感じて感謝しています」と語っている。 (6)今後の課題  現在、60歳超の高齢従業員については、人事担当役員による面接の実施を検討している。本人の要望や今後のライフプランを聴取し、会社からの役割期待を明確化することで、より活躍できる環境を整えていく方針である。  また、新たなシニア向け研修の実施も検討している。高齢者世代の働き方やライフプランを学ぶ機会として、シニア層特有の課題に対応した研修プログラムの構築を目ざしている。  2024年3月には「ユースエール認定企業」として認定を受けた実績をふまえ、処遇の継続的改善も進めている。2025年で最終年度となる中期計画では「従業員の幸せを実現する」ことを事業戦略として位置づけている。「従業員ひとりひとりの成長を支援する」、「処遇の継続的改善をする」、「そのために必要な収益を極大化する」を三位一体の取組みとして拡大し、高齢従業員をはじめ全従業員が幸せを実感できる会社の構築に引き続き尽力していく。 写真のキャプション 東洋ナッツ食品株式会社 機械化の取組みの一つ、パッキングロボット 監査業務に従事する高齢従業員Aさん(69歳) 【P24-27】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 現場の声を大切にした事業の多角化から高齢職員が安心して働ける環境を実現 特定非営利活動法人 こぐまくらぶ(兵庫県明石(あかし)市) 企業プロフィール 特定非営利活動法人 こぐまくらぶ (兵庫県明石市) 設立 2002(平成14)年 業種 障害福祉サービス・保育事業 職員数 247人(2025〈令和7〉年7月1日現在) 60歳以上 49人 (内訳) 60〜64歳 21人(8.5%) 65〜69歳 11人(4.5%) 70歳以上 17人(6.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと75歳まで継続雇用。75歳以降は運用により年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は73歳 T 本事例のポイント  特定非営利活動法人こぐまくらぶは、2002(平成14)年に設立。「なんせ明るく、なんせ笑顔で、そしてありのままを大切に」をスローガンに掲げ、障害福祉サービス事業と保育事業を主軸に展開している。  同法人では、人材不足への対応のため、年齢にとらわれることなく個人の能力と意欲を最大限に発揮できる職場環境を構築。定年年齢の引上げや継続雇用制度の拡充、柔軟な勤務形態の導入、能力を重視した人事評価制度の確立などにより、高齢職員が長期にわたって安心して働き続けられる環境を実現している。 POINT @2022(令和4)年2月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げた。65歳以降も一定条件のもと75歳まで継続雇用することを就業規則に定めており、75歳以降は運用により年齢上限なく継続雇用する制度を導入している。 A年齢や勤続年数より知識・技術・能力を重視した賃金テーブルを作成している。評価時点での能力や仕事への意欲が評価され、それが賃金に反映される。年齢によって給与が下がることはない。 B資格取得支援、リスキリング研修、技能継承の仕組み、職員同士が認め合うCIMOS(シーモス)評価システムなど、多面的な取組みを実施。高齢職員の意欲向上と学びの風土が醸成された。 Cバリアフリー化や作業サポート機械の導入、健康経営優良法人認定を受けるなど包括的な健康管理体制を構築している。 D一般社団法人こぐまsecondヘルパー事業所を創設し、60歳以上の職員9人がマンツーマン支援のヘルパー業務で活躍。高齢職員の活躍の場を大幅に拡大した。 U 企業の沿革・事業内容  特定非営利活動法人こぐまくらぶは、2002年11月に設立された。理事長の松本(まつもと)将八(しょうはち)さんが2012年に就任して以降、地域ニーズや職員の声、保護者の声を吸い上げ、それらを参考に事業を多角化してきた。  現在、就労継続支援B型、生活介護、共同生活援助、計画相談支援、児童発達支援、放課後等デイサービスといった障害福祉サービス事業所を9カ所で運営している。  2017年度からは職員が働きやすい環境を整備するため、企業主導型保育園を3園開設した。職員は優先的に子どもを預けることができ、2025年度は約50人の園児が通園している。  同法人の特徴は、利用者や地域のニーズに合わせたきめ細かなサービスの提供である。喫茶店やお好み焼き店の運営、グループホームの設置など、障がいのある人たちの自立支援と社会参画を多方面から支援している。さらに、社会貢献活動として、子ども食堂なども積極的に行っている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  障害福祉サービス業界では人材不足が顕著で、既存職員の高齢化も進んでおり、同法人においては、60歳以上が全体の約20%に達している。松本理事長は、職員の高齢化が進むなかで、年齢を意識することなく職員が長く働き続けられる環境を模索していた。同時に、「高齢者」という言葉に違和感を感じており、年齢にとらわれず個人の能力と意欲を重視して活躍してほしいという思いを抱いていた。  そこで、高齢になっても長年の勤務でつちかった技術・技能を活かして働き続けられる職場の実現を目標に掲げ、そのために、それぞれの生活や身体能力に合わせた柔軟な雇用形態での継続雇用を行い、ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができる組織を目ざすことを基本方針とした。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制と継続雇用制度の大幅な拡充  60歳定年および65歳までの継続雇用制度を設けていたが、2022年2月に定年年齢を65歳に引き上げた。また、65歳以降も勤務を希望する職員に対して、健康状態などの一定基準を満たす場合、最長75歳まで嘱託社員として継続雇用する制度を就業規則で定めている。さらに75歳以降も本人の希望と健康状態を考慮のうえ、運用により年齢上限なく継続雇用することが可能となっており、高齢職員が長く安心して働き続けることができ、その能力を十分に発揮できる職場環境を実現した。 A柔軟な勤務形態の導入  職員を対象とした意識調査の結果をふまえ、2018年にノー残業デーを、2021年に短時間正職員制度を導入。その後、1日8時間、週40時間だった勤務時間を、週32時間に変更した。これにより、高齢職員だけでなく、子育てや介護などさまざまな事情を持つ職員がライフスタイルに合わせて多様な勤務形態で働けるようになった。上司と相談のうえ、勤務時間の増減にも柔軟に対応しており、ワーク・ライフ・バランスをとりやすい環境となっている B賃金制度・人事評価制度の改善  年齢や勤続年数よりも知識や技術・能力、人事評価を基準とした賃金テーブルを作成し、高齢職員でも能力を発揮すれば賃金が上がるキャリアパスを提示している。年1回の自己評価と上司評価によるフィードバックも行われ、職員のモチベーション向上につながっている。  また、2022年3月からはパートタイム職員に対しても年3回(3月・6月・12月)の賞与支給制度を導入した。65歳定年後も賞与を受け取ることができるようになり、対象のパート職員の意欲向上につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @教育訓練と資格取得支援の充実  2020年から資格支援制度を充実させている。年齢にかかわらず原則週3日以上の勤務者を対象としており、資格手当の支給のほか、実務者研修・初任者研修の半額負担、国家資格の合格祝い金(10万円)支給、通信制学校への学習応援手当などを行っている。特に移動支援従業者(ガイドヘルパー)資格は全額負担としており、70代の職員も受講している。職員の賃金やキャリアアップだけでなく、学びの風土が醸成され、高齢職員の学習意欲も非常に高い。 AリスキリングとOJT研修の強化  無資格・未経験者も積極的に採用し、障がい福祉分野の専門的研修、役職ごとの研修、安全運転研修、コミュニケーション研修など、年間計画に基づき研修に力を入れている。  2023年からは、全職員がスキルマップをもとに目標を立て、小グループで面談を行い、フィードバックを受ける仕組みを整備。65歳以上の高齢職員が社内研修の講師を務めるなど、知識や経験の継承も進んでいる。 Bモチベーション向上と職場風土改善  2019年には職員同士が互いを認め合い、ほめ合うことに重点を置いた人事評価システム「CIMOS」を導入した。「笑顔が素敵だった人」、「専門的な知識を持っている人」、「今輝いている人」などの項目で職員が互いに投票し、上位者が表彰される仕組みである。  このシステムでは、年齢や雇用形態、役職に関係なく、職員のよい点が見える化され、評価された職員の働きがいやモチベーション向上につながっている。60歳以上の職員も多くの票を獲得しており、職場の一体感醸成に役立っている。 C新職場の創設と経験の活用  高齢職員を含めた新たな活躍の場として、利用者の社会生活に必要な外出支援サービスを行う一般社団法人こぐまsecondヘルパー事業所を2023年1月に創設した。これにより、法人でつちかった経験を活かしたヘルパー業務に従事する機会が高齢職員に提供され、60歳以上の9人がヘルパーとして活躍している。  ヘルパー業務は1対1のマンツーマン支援が主であり、集団支援がむずかしい高齢職員にも働きやすい環境となっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  利用者だけでなく高齢職員の転倒防止のため、生活介護や就労継続支援B型事業所では、バリアフリー化や段差の解消、スロープの設置、ユニバーサルデザインの導入を進めている。これにより、職員が転倒するリスクが減少した。 A健康管理とメンタルヘルス対策の強化  毎月、虐待防止チェックやメンタルヘルスチェック(職業性ストレス簡易調査票)を実施しているほか、業務で車を運転する職員には運転チェックシートも毎月実施し、事故防止につなげている。  定期健康診断の実施、要再検査者へのフォロー、月に一度の嘱託医による健康相談、健康コラムの配付、インフルエンザ予防接種費用の負担など、きめ細やかな健康管理支援を行っている。これらの取組みにより、「健康経営優良法人2024」および「健康経営優良法人2025」に認定されている。 B福利厚生の充実  2024年4月から70歳以上の職員が主導する影絵発表会や、60歳以上の聴覚障がいのある職員による手話サークルなど、高齢職員の知識と経験を活かしたサークル活動を展開し、さまざまな年代の職員とのコミュニケーション促進につながっている。  また、福利厚生の一環として、希望者による積立て旅行制度を実施。正職員からパートタイム職員まで希望者は毎月積立てを行い、日帰り旅行を実施しており、職員間の親睦を深める貴重な機会となっている。 (4)その他の取組み @ドライバーの年齢制限撤廃  ドライバーについては、以前は75歳までの年齢制限を設けていたが、2023年からは75歳以上のドライバーを対象に、法人負担で自動車学校の高齢者講習(半年に1回)と健康診断の受診を義務づけており、合格すれば引き続きドライバーとして従事できる仕組みとした。不合格の場合でも送迎介助など別の仕事内容を案内し、業務転換を行いながら働き続けられるようにしている。現在、75歳以上のドライバーは4人おり、1人が業務転換して勤務している。  また、業務上で車を使用する職員向けに、保険会社に委託して安全運転講習を実施している。 A職場のIT化への配慮  2020年に新たな勤怠管理システムを導入した際には、高齢職員への操作方法のフォローを事務職員が行い、画面操作がむずかしい職員には以前の紙ベースでの方法も可能とするなどの配慮を行っている。 B中高年齢者の積極的採用と地域貢献  障がいのある子どもを育てた経験を活かして仕事に従事してもらうため、利用者の保護者を採用するなど、中高年齢者の採用に注力している。 (5)高齢職員の声  児童発達支援管理責任者兼ヘルパー事業所業務管理者の溶田(うねだ)洋子(ようこ)さん(68歳)は、「43歳で先代理事長が運営していた保育園に就職し、その後、理事長からの誘いで障がい福祉の分野へ移りました。以来、小さな作業所から始まり、グループホームの立ち上げ、児童発達支援、そして現在はヘルパー事業所の業務管理者として勤務しています。今後の目標は、後継者を育てて事業を託すことと、大好きなこの仕事をできるかぎり長く続けることです」と話す。  相談支援専門員の小椋(おぐら)幸子(ゆきこ)さん(75歳)は、「神戸市の社会福祉法人で60歳定年後も嘱託として5年間働き、68歳のときにこぐまくらぶに転職しました。自身のアイデアや『夢』が実現できる身軽さや、ニーズを感じて迅速に動く法人の姿勢に感動しています。やりがいは、障がいのある人に寄り添い、必要な情報を提供しつつ、地域で安心して暮らせるようお手伝いをすることです」と話す。 (6)今後の課題  同法人では、50代後半の経験豊富な職員が、近い将来60歳を迎えることから、今後は健康管理だけでなく、勤務時間外の生活面にも着目した支援が重要と考えている。そして、60歳以上の職員の健康管理を基礎としながら、各種活動を通じて趣味や運動機会を提供し、職員が仕事と私生活の両面で充実感を得られる環境の構築を目ざす方針。これにより、長期にわたって意欲的に働き続けられる職場づくりを推進していく。 写真のキャプション 特定非営利活動法人こぐまくらぶ 日帰り職員旅行の様子 相談支援専門員の小椋幸子さん(75歳・左)と児童発達支援管理責任者を務める溶田洋子さん(68歳・右) 【P28-31】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 生涯現役の実現に向けて全社員が切磋琢磨 だれもが生きがいを感じられる職場環境づくりを推進 株式会社 大鎧(たいがい)設計事務所(せっけいじむしょ)(岡山県玉野(たまの)市) 企業プロフィール 株式会社 大鎧設計事務所 (岡山県玉野市) 創業 1967(昭和42)年 業種 技術サービス業(船舶建造に関する基本設計等) 社員数 32人(2025〈令和7〉年6月1日現在) 60歳以上 6人 (内訳) 60〜64歳 1人(3.1%) 65〜69歳 4人(12.5%) 70歳以上 1人(3.1%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。70歳以降は運用により継続雇用、または業務委託契約。最高年齢者は71歳 T 本事例のポイント  株式会社大鎧設計事務所は1967(昭和42)年2月に船舶と機械の設計を専業とする会社として創業して以来、設計技術の研けん鑽さんを続け、業容を拡大してきた。1967年6月に有限会社となり、1971年6月に株式会社化した。船舶設計は大きく分けて、積荷の内容・量・航路等顧客の用途に合わせた基本設計をはじめ、船殻(せんこく)設計、艤装(ぎそう)設計、機関設計、電装(でんそう)設計の5部門があり、電装設計のみ外部へ業務委託している。船舶図面の作成は高度な技術が求められ、創業以来、専門技術者の養成に注力してきた。会社が蓄積してきた設計技術の確実な継承には経験豊富な高齢社員の存在は不可欠であり、だれもが長く働き続け、生涯現役を目ざせる職場環境の構築に全社一丸となって取り組んでいる。 POINT @船舶の設計という専門性の高い業種であることから、経験豊富な技術者を希望者全員、70歳までの継続雇用制度を導入。70歳を超えた場合「週休3日制」を原則とし、だれもが長く働き続けられる職場環境を整備した。 Aベテラン社員の作業手順をオンラインで共有し若手社員にノウハウを伝達、また作業の負荷を軽減するため三次元ソフトを導入した。最新ソフトの導入が高齢社員のモチベーションアップにつながっている。 B公的医療保険の対象外となる医療の自己負担費用を会社が100%補償している。また、介護と仕事、あるいはがんと仕事の両立支援の相談などを総合的にカバーする保険にも加入したことで社員の安心につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  1967年に、岡山県唯一(当時)の船舶と機械の設計を専業とする会社として設立。1969年に富山出張所を開設し、1971年に株式会社化した。外洋航行タンカー、貨物船などの大・中型船設計の実績は、国内20隻、国外17隻、合計37隻を誇っている。設計を手がけた最大の船舶は20万DWT(載貨重量トン数)のタンカーであり、大・中型船の部分設計と国内沿海・港湾内作業船等小型船の受注実績は1000隻を超えている。  業務によって、@基本設計、A船殻設計(船舶全体・各ブロック別構造、鋼材、強度等)、B艤装設計(内部配管や設備、居住施設等)、C機関設計(機関室内エンジン配置・配管等)、D電装設計(配線等)の五つの課とコンセプト開発チームにより構成される。コンセプト開発チームは、基本設計より手前の段階であるコンセプト設計(船主の要求するコンセプトを形にする)の業務に注力するために新設されたチームである。  会社の経営方針としては、「50年習得した技術でお客様の要求にお応えします」、「近年の規則変更にタイムリーに対応していきます」、「財産で有る人を大事に育成し更なる発展を目指します」、「更なる技術力の向上と公正で信頼される会社を目指します」の四つを掲げており、この方針の具現化を目ざし、社員全員で技術の向上に取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数32人のうち、60歳以上の社員は6人(19%)となっている。最高年齢者は71歳で船舶設計を担当している。社員構成は50代が約3割を占め、ボリュームゾーンで事業の中核をになってきた。しかし、社屋が岡山県の中心部から車で約1時間かかるという立地条件が採用難につながり、慢性的な人材不足に苦慮していた。  一方、船舶設計という専門技術の継承は、同社にとっての喫緊の課題であることから、ベテラン社員が長く働ける職場環境の整備に着手した。今年度中に70歳を超える2人目の社員が、継続雇用となる見込みである。また、5人の元社員との間で業務委託契約を結んでいるが、70歳を迎えた時点で、さらに雇用継続するか、業務委託の形で仕事を続けるか、本人の希望により選択できることになっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年後の継続雇用制度  2023(令和5)年に、従来の「希望者全員65歳まで継続雇用」から「希望者全員70歳まで継続雇用」に制度をあらためた。その後については、70歳の時点でさらに雇用継続するか、業務委託で仕事を続けるか、本人の希望により選択できる。高齢社員からは、「元気なうちはいつまでも働くことができるため、自身の健康維持や経済的安定、会社や周りに頼りにされているという実感が、自信ややりがいにつながった」と好評である。若手・中堅社員からも「長く働くことができるので、安心感が高まった」との声があった。 A賃金制度・人事評価制度の見直し  生産性の向上を図るため、高齢社員のモチベーションを上げたいと考えていた同社では、2019年に職能等級制度を取り入れ、人事評価制度と賃金制度を新規に導入した。  60歳以降70歳までは定年前と同様に人事評価を行い、定年前と同様の基本給、諸手当を支給し、人事評価結果に基づいて賞与に反映する仕組みとした。70歳到達後は、設計の職務は変わらないが役職を外れ、人事評価は引き続き行うが、70歳到達前とは異なる人事評価票による評価を行って賞与に反映していく制度にあらためた。  人事評価の仕組みを整理し、ルールを開示したことにより、「役割が明確になり心身的な負担が軽減されたことで、いっそう長く仕事を続けられる」、「頑張って結果を出せば、給料が上がることがわかり納得できた」と社員からは好評である。 B多様な勤務形態の実現  2023年から、70歳を超える継続雇用については役職を外れるとともに、体力の低下や健康状態を考慮し、「週休3日」を原則とした。このことによって「家事、介護、通院など時間的余裕ができ、 心身ともに負担が軽減された」、「船舶設計についての最新技術や動向について、現役世代の社員と情報共有ができるのでより長く働き続けることができる」、「一人ひとりの生活に合わせた働き方や労働時間を自ら選択できるようになったことでワーク・ライフ・バランスの調和が図られるようになった」など社員の満足度は高い。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @最新の船舶設計技術の習得支援  若手社員には管理者の高齢社員がOJTで設計に関する関係法令・国際条約、船級協会基準改正および顧客情報等を指導し、三次元ソフト導入等最新設計情報・技術導入時には、部門別に外部研修等へ派遣している。研修終了後は取得した情報内容を会社内でそれぞれの部門別に情報共有化を図る打合せ会を開催し、技術資料の改定等を行っている。船舶に関する最新法令、国際条約、船級協会基準改正および顧客要請ならびに船舶設計に関する最新技術情報等の取得は船舶設計技術者にとって必要不可欠であり、高齢社員の自己研鑽(けんさん)への意欲向上につながっている。 Aボトムアップ型の職場風土の形成  各部門で日常的に行う業務ミーティングのなかでは、生産性向上や業務改善などについて真摯に話され、課題解決や提案推進の機会となっている。高齢社員は熟練技術者として各部門におけるアドバイス役を果たしており、豊富な経験とノウハウなどを活かすことができる職務や役割をになうことで、やりがいを持って働けるだけでなく、経験やノウハウの伝承、若手社員の育成、会社の業績向上に貢献している。 Bマニュアル化とOJTによる継承  ベテランの高齢社員をはじめ各部門の社員が中心となり、基本的な技術、最新の関係法令、国際条約、船級協会基準を各部門において、技術資料として取りまとめて標準化した。技術資料は社内サーバに保存し、だれでも閲覧できるようにしている。各部門の業務に必要な技術・技能のレベルを区分し、高い技術を持つ高齢社員は、若手のレベルに合わせたきめ細かいOJTを行っている。 C高齢社員の活躍の場を広げるコンピューター化  高齢化にともない、体力や技術的に、紙による設計図面作成が困難になった社員が急増したことから最新の三次元ソフトを導入し、高齢社員をはじめ全員が無理なく長く働き続けることができるよう、心身の負荷を軽減した設計業務を遂行できるようにした。あわせて、役割や責任のレベルを明確にするとともに、業務サポート体制を充実させた。若手社員も最新の設計手法を日々習得しており、業務の拡大や技術のレベルアップにつながっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @業務動線の整理  設計図のコンピューター化により、手作業による図面作成がなくなったことと、ファイルなどの置場を整理し各部の職場から設計図面台をなくし、各社員の机上にコンピューターを設置するなど作業動線やレイアウトを変更した。これにより、作業の効率化だけでなく、動線の可視化によって、フロアに余裕ができた。また、高齢社員が若手の変化に気づいて声をかけることが可能になり、コミュニケーションを深めている。 A健康管理  定期健康診断において、35歳以上74歳までの社員については、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病予防のための検診の費用を会社が負担する保険に加入している。所見のある数値がみられた社員については、再検査、精密検査、治療等受診をフォローアップし、残業時間や出張の制限、身体の負荷の少ない業務等への変更を行う。持病のある社員にとって継続的な経済的負担軽減になるとともに、会社としても、健康な状態を長く維持してもらえることは戦力の維持にもなるため、双方の利益となっている。 B病気の補償制度  2023年に病気についての補償保険に加入した。具体的には、公的医療保険の対象外となる自己負担費用を100%補償、例えば入院して個室を利用する場合の差額ベッド料金の補償、健康保険医療費を超える先進医療費の補償が実現した。医療相談窓口の設置等のサービスも含まれており社員からは「安心感が得られる」と評価されている。 (4)その他の取組み  地域の定年後の高齢者を積極的に活用するために、現在、62歳から83歳まで8人の社外の高齢者に業務を委託している。すべてオンラインによる設計図面作成が可能になったことで社外への業務委託が容易になり、地域の高齢者の人材活用が実現した。 (5)高齢社員の声  石田(いしだ)哲也(てつや)さん(71歳)は最高齢の社員で、1日8時間、週4日間の勤務を元気にこなしている。「肉体的な負担も少なく、パソコンがあれば設計の仕事はできるので、仕事が続けられます。70歳到達時に、継続雇用にするか、業務委託契約を結ぶかを選択することになりました。自分の性格上、あまり自由すぎても、だらしなくなってしまうかもしれないので、規則正しい生活を続けることができる継続雇用を選択しました。やりがいを持って楽しく働いています」と現在の仕事に満足している表情を見せた。 (6)今後の課題  インドネシアからの外国籍の社員は、知識もスキルも高く即戦力となっている。なかには、役職に就いた者もいる。海外の船舶に関するコンセプト設計の事業展開を視野に入れているので、外国籍の社員が母国に戻ったあとの事業継続を応援していきたいという。  また、地域の雇用に貢献するために、業務委託の制度化や、70歳以上の社員を対象とした本人の希望によるテレワークを推進していく。高齢社員が働きやすい職場づくりを進めながら、さらなる高みを目ざす同社の挑戦が続く。 写真のキャプション 株式会社大鎧設計事務所本社 週4日勤務で業務を行う石田哲也さん(71歳) 石田さんは、複数のモニターを駆使して設計を行っている 【P32-35】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 社員が希望する柔軟な働き方を制度化し高齢社員が中核となった次世代介護を実現 合同会社 和(なごみ)の会(かい)(山口県宇部(うべ)市) 企業プロフィール 合同会社 和の会 (山口県宇部市) 創業 2012(平成24)年 業種 社会保険・社会福祉・介護事業 社員数 37人(2025〈令和7〉年8月1日現在) 60歳以上 25人 (内訳) 60〜64歳 4人(10.8%) 65〜69歳 7人(18.9%) 70歳以上 14人(37.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。さらに一定条件のもと、年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は訪問介護を担当するヘルパー職の81歳 T 本事例のポイント  合同会社和の会は、社員の平均年齢63.6歳、最高年齢者が81歳と高齢化が顕著な介護事業者である。同社の施設は60歳から入居が可能なため、介護者側のほうが年長者であるケースが増えてきている。介護業界特有の人手不足に直面するも、高齢社員が有する豊富な経験と専門性に注目し、その能力を活かす働きやすい職場づくりに注力してきた。2024(令和6)年に定年を60歳から65歳に、継続雇用の年齢上限を70歳に引き上げるとともに、「高年齢者勤務時間の弾力化に関する規程」を導入するなど、柔軟な働き方を実現している。  小規模事業所ならではのきめ細かな対応により、高齢社員の多様な働き方を支援し、地域密着型で質の高い介護サービスを提供している。さらに、社員の平均年齢が60歳超にもかかわらずICT導入に踏み切り、業務効率化を進めつつ、高齢社員のスキルアップも支援している。 POINT @定年65歳、継続雇用70歳への引上げと弾力的な勤務制度の導入により、高齢社員が安心して長く働ける環境を整備した。 A小規模事業所の強みを活かした個別対応により、一人ひとりの体調や希望に応じた柔軟な働き方を可能にした。 BICT導入による業務効率化と高齢社員へのていねいな研修で、デジタル化時代に適応した生産性向上を図った。 C地域福祉サロンの運営を通じて、孤立しがちな独居高齢者の社会参加と地域貢献を促進。専門職の知見を有する高齢社員のサポートが大きな役割を果たしている。 U 企業の沿革・事業内容  合同会社和の会は、2012(平成24)年に山口県宇部市で創業した。創業者の久保田(くぼた)トミ子代表社員は、1987(昭和62)年の介護福祉法制定時から介護福祉士養成に従事し、長年にわたって大学で教鞭をとり地域福祉や福祉心理学の教育に力を注いできた。定年退職後は、教育現場でつちかった知識と経験を実践の場で活かしたいとの思いから、同社を設立した。  創業当初から居宅介護支援事業、地域密着型通所介護事業、訪問介護事業を展開し、2013年にはサービス付き高齢者向け住宅事業も開始した。事業の安定化を図るため、2013年から2024年にかけて山口県内外4カ所で太陽光発電による売電事業も手がけている。  特に研修事業に力を入れており、介護福祉士実務者研修や実務者研修教員講習会を実施し、介護人材の育成に貢献している。小規模ながら寺子屋式の研修により、受講生同士のネットワーク形成や職場の悩み相談の場としても機能している。  2023年からは「ご近所福祉サロン『愛の家なごみ』」を開設し、地域住民との交流促進や介護相談会、認知症サポーター養成講座を開催するなど、地域貢献活動も積極的に展開している。 V 高齢化の状況、  職場改善等の背景と進め方創業から13年を経て、社員の高齢化が顕著に進行している。社員数37人のうち60歳以上が25人(67.6%)で、70歳以上も14人と全体の37.8%に達している。最高年齢者は81歳で、平均年齢は63.6歳となっている。  介護業界は慢性的な人手不足に悩まされており、同社でもハローワークに求人を出しても紹介を受けることができず、雇用確保が困難な状況が続いていた。配置基準や資格要件が厳格に定められている介護事業所にとって、働く人がいなければ事業の存続ができないという重大な課題に直面していた。  このような背景から、現在勤務している高齢社員が経験や技能を活かし、生きがいを持って長く働き続けられる環境づくりに着目した。そこで、就業規則の見直しと改定を行い、柔軟で多様な働き方を可能にする制度整備に取り組むこととなった。  制度改正にあたっては、顧問社会保険労務士と密に連携し、全社員を対象とした研修を実施した。定年・継続雇用延長の変更点を含む就業規則の理解促進、働くことの責務や意義、会社の理念・方針などをていねいに説明し、社員の理解と納得感の醸成に努めた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の引上げと継続雇用制度の改定  2024年に定年を60歳から65歳に、継続雇用制度の年齢上限を65歳から70歳に引き上げた。全社員に労働条件通知書の変更と個別説明を実施し、希望があれば70歳まで働ける体制を整備した。  これまで制度はあっても賃金などの明確な基準が示されていなかったが、今回の見直しにより、経験や技能を活かして長く勤務できる制度や環境が明文化された。社員にとっては定年後も賃金等の処遇が下がることなく働けるため、生活基盤の安定が図られ、豊かで安心できる生活が実現できるようになった。 A賃金制度・人事評価制度の改善  従来は明確な基準がなく、定年後の賃金は昇給しなかったり、現役世代と異なる昇給率を適用されたりしていた。今後は定年前の賃金を維持し、役職、資格、特別処遇手当等についても、本人の意欲や能力に応じて継続支給することとした。  昇給や賞与は、会社の経営状況にもよるが、定年後も定年前の社員とほぼ同率で支給を行っている。人事評価制度については現在検討中であり、資格取得や職務内容に応じた手当を賃金体系に反映させている。 B多様な勤務形態による柔軟な働き方  「高年齢者勤務時間の弾力化に関する規程」を新設し、短時間勤務、短日数勤務、勤務間インターバルの確保、テレワーク、在宅勤務などの多様な働き方を選択できるようにした。高齢社員の心理的・身体的負担を軽減し、働きやすい職場環境の実現に向けて取り組んだ。  また、「定年後再雇用規程」を設け、65歳を超えて雇用した社員にも適用できるようにした。各人の心身の衰えや長時間勤務による疾病リスクなどに配慮し、本人の能力に合った働き方ができるよう配慮している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @資格取得支援  介護福祉士実務者研修や実務者研修教員講習会の研修事業を行っているため、法人内で資格取得の支援が可能である。外部研修で勤務調整や休暇を取得しなくてもよいという利点もある。受講者には受講料の一部補助や資格取得についての補助金申請手続きの支援も行っている。  高齢社員に対しても資格取得により資格手当を付与しているため意欲の向上につながり、専門職としての技術や意識の向上などのスキルアップに効果が期待できる。法人にとっても処遇改善加算の上位算定が可能となり、売上げ向上にも貢献している。 AICT活用によるリスキリング  生産性向上のため、介護ソフトとタブレットを導入し、法人内に「ICT活用推進担当者」を配置して社員への説明、導入研修、マニュアル作成を綿密に行った。外部講師による指導機会も設けている。  タブレットやパソコンに触ったこともなく最初は不安に感じていた高齢社員も、さまざまな方面からの学習機会を通じて意欲が向上し、現在では全員が上手にタブレットを使用できるようになった。状況説明のためにタブレットを使って撮影した画像を用いる方法は、現場から発生したという。このように業務改善や効率化を目標としたリスキリングにより、伝達の正確性や効率の向上につながっている。 B職場内研修の実施  介護事業に必要な法定研修をはじめとしたさまざまな研修を企画し、年間計画を立てて実施している。専門分野については経験豊富な高齢社員が講師を務めている。高齢社員が豊富な経験と高い専門性を発揮できる役割を持つことで、やりがいを持って働くことができ、知識や技術の伝承にも貢献している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @身体の負担軽減につながる取組み  転倒による労災事故が発生したため、高齢社員からヒアリングを実施した結果、腰痛や筋力低下、視力・聴力低下により健康不安を感じていることが判明した。そこで、ノーリフティングケアの導入に向けた取組みを開始した。  介護ロボット導入の検討、理学療法士による福祉用具(スライディングボードなど)活用指導の受講、入浴が困難になった利用者向けにボディハグシャワーを導入した。「抱える」、「持ち上げる」といった介護者に負担がかかる動作は腰痛発症の要因となるため、このように労災事故防止に向けた「ノーリフティングケア」に取り組んでいる。 AICT導入による業務効率化  介護ソフト、タブレットの導入およびWi−Fi環境の整備により、記録などの事務作業時間短縮と腰痛・疲労感の軽減を図った。音声入力機能により文字入力が苦手な高齢社員の負担も軽減できた。タブレットの使用により在宅勤務や直行直帰が可能となり、短時間勤務の実現にもつながった。 B健康管理・メンタルヘルス対策  高齢社員に「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を実施し、課題把握と改善策を講じた。健康経営セミナーに参加し、自社の現状を把握、具体的な目標を設定して、その達成のための対策と実行について学び、健康経営に関する取組みを強化した。また、社員の健康に対する意識調査と具体的施策の実施を行った。  健康診断受診率向上のための啓発を行い、未受診社員に対するヒアリングと受診促進を実施した結果、全員が受診するようになった。 C介護休暇の取得促進  要介護状態の家族の介護が必要となった高齢社員に対し、シフト調整により休暇を取得しやすい体制確保を行った。また、仕事と介護の両立が図られるよう適切な助言をしている。 (4)その他の取組み  地域貢献活動の一環として、高齢社員も参加し毎週2回「ご近所福祉サロン」を開催している。地域住民主体でパッチワークや書道などを行う回と、ゲストを招いて音楽やヨガ、認知症の勉強会の回をそれぞれ週1回ずつ実施している。  参加者はほとんどが高齢者で介護認定を受けている人や独居高齢者も多く、専門職としての知見を有する高齢社員が参加することで、関係機関への橋渡しやさまざまなアドバイスを行い、地域住民にたいへん喜ばれている。 (5)高齢社員の声  ケアマネジャーの山下(やました)義晴(よしはる)さん(76歳)は、市役所で生活保護ケースワーカーなどを37年間担当し、65歳で入社。なごみ居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員として、外部からの相談に乗っている。「多様なケースや人生にふれることがおもしろく、自分自身の学びや今後どう生きるかを考える糧になっています。介護保険の範囲にとらわれず、利用者の要望に柔軟に対応するよう心がけ、信頼関係を大切にしています。毎朝4時半に起きてウォーキングを行い、健康維持に努めています。能力が衰えて心配をかけるようになったらボランティアなど別の形で和の会に参加したいと思います」  ヘルパーの渡邉(わたなべ)直子(なおこ)さん(74歳)は、専業主婦を経て介護分野のボランティアとしてかかわり始め、同社の立上げと同時に入社。和の会で働きながらヘルパー資格を取得した。「出会いが多く、さまざまな人との関係構築が仕事のモチベーションになっています。利用者の要望に応えるため、制度外のことでも可能な範囲で手伝い、家族のように見守りを行っています。仕事そのものが健康維持や社会参加の意義と感じており、1日1万歩から1万5000歩歩いています。必要とされることが生きがいで、2、3年前は75歳を目途にと考えていましたが、介護需要は高く生涯現役を目ざしたいと思います」 (6)今後の課題  今後、社員の高齢化がさらに進むなか、実態に合わせた定年や継続雇用の引上げ検討を行っていく。高齢化にともなう意欲や身体レベルの低下も考えられることから、さらに柔軟な働き方ができるよう規程の見直しや処遇の改善に努めていく。和の会は地域密着型サービスのにない手として、住民ニーズに応じてサービスを提供し、同時に多様な人材を活かした高齢者雇用を推進していく。また、福祉サロンを拠点に高齢社員が中心となってボランティア育成や介護相談会を実施し、地域の高齢者の交流促進を通じて孤独感解消や介護予防を図り、地域福祉の向上に貢献していく。 写真のキャプション 合同会社和の会が運営するサービス付き高齢者向け住宅《なごみ館》・デイサービス《なごみ》 ケアマネジャーの山下義晴さん(76歳) ヘルパーの渡邉直子さん(74歳) 【P36-39】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢職員の技術を確実に継承し全職員のレベルアップを目ざす 社会福祉法人 光志(こうし)福祉会(ふくしかい)(香川県丸亀(まるがめ)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 光志福祉会 (香川県丸亀市) 創業 2005(平成17)年 業種 老人福祉・介護事業 職員数 307人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 95人 (内訳) 60〜64歳 37人(12.1%) 65〜69歳 34人(11.1%) 70歳以上 24人(7.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。70歳以降は運用により一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人光志福祉会の創業は、2004(平成16)年に設立され、2014年に同法人と経営統合した株式会社プランナーの設立にさかのぼる。社会福祉法人光志福祉会は2011年に設立。経営統合を経て現在に至り、介護事業を通じた地域貢献を目ざしてきた。  2022(令和4)年、「社会福祉法人光志福祉会SDGs宣言」を行い、介護および障害・福祉事業を拡張するとともに、近隣地域の小・中学生を対象とする交流場所の提供として「子ども広場・食堂・教室」の運営を開始。「地域の子どもたちの社会性を高めること」、「子どもたちと高齢者および高齢職員とのふれあいの場の提供」を地域課題として掲げ、社会福祉法人として地域貢献するという目的に基づき積極的に取り組んでいる。 POINT @正規職員、非正規職員ともに、定年は65歳としており、希望する職員には70歳までの再雇用制度を適用している。また、70歳以降も、必要に応じて年齢上限なく継続雇用している。 A65歳の定年後も、基本給が変わることがないように、職種ごとの賃金テーブルを整備している。また、定年後に非正規雇用に変わっても、賞与は支給され昇給もある。 B多様な勤務形態を実現するために、新たに介護助手制度を導入した。業務内容は、介護の補助的業務や食事の準備・提供、見守り、ハウスキーピングなどを弾力的に行ってもらっている。 C日ごろの業務に役立つように、高齢職員も参加可能な研修を各部署で毎月実施している。研修の内容は、福祉車両の使用方法や虐待の防止、介護器具類のメンテナンスなどを取り上げている。 D手書きによる記録、報告、伝達業務による作業負荷が多いことをふまえて、2017年度からICT化に着手している。ICTの操作方法も動画で撮影して共有しており、高齢職員も、ICT化による大幅な業務負担の軽減を感じている。 U 企業の沿革・事業内容  2004年に設立された株式会社プランナーは、2005年に介護付き有料老人ホーム「ネムの木」と同時に居宅介護支援事業所プランナーを開設した。2011年には社会福祉法人光志福祉会を設立、2014年に株式会社プランナーが光志福祉会と経営統合して以来、着実に業容を拡大して、現在は300人を超える職員を擁している。  香川県内の丸亀(まるがめ)、観音寺(かんおんじ)、高松地域に介護付き有料老人ホーム、デイサービス、居宅介護支援事業所、グループホーム、ショートステイサービス事業、就労継続支援B型事業所、企業主導型保育施設、共用型デイサービス、広域型特別養護老人ホームなどを幅広く展開、介護事業を通じて地域に貢献することを目ざしている。高齢職員がつちかってきた柔軟な対応力や経験の伝承を通じ、幸せを提供できる施設として全職員が一丸となって邁進している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  現在300人を超える陣容のなかで60歳以上の職員の割合は31%を占め、最高年齢者は80歳である。高齢職員は、児童デイサービス以外の事業所に配置されており、特に特別養護老人ホームで勤務する高齢職員の割合が高い。  2021年以降、人材不足に直面したのがきっかけで、高齢職員の活躍の場を設けることに力を入れた。高齢職員が働き続けられる職場環境の構築を目ざし、フレックスタイム制の導入、勤務時間や勤務日数の調整など、高齢職員ばかりではなく、すべての職員のニーズに対応する制度を次々に導入していった。  さらに、50歳を超えると健康状態に個人差が出てくることをふまえ、職員に対するヒアリングを随時行い、それに応じた就業規則の見直しを行うなどの対応をしていった結果、高齢職員が全職員の3割を占める状況になった。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制と継続雇用制度  正規職員、非正規職員ともに、定年は65歳。希望する職員には70歳までの再雇用制度を適用するとともに、70歳以降も業務上の必要性に応じて年齢上限なく継続雇用している。 A賃金制度・人事評価制度  継続雇用制度のもと、65歳の定年後も基本給は変わらないように職種ごとに賃金テーブルを整備した。定年後は非正規雇用に変わるが、賞与や昇給もある。非正規雇用は、基本的に1年ごとの契約更新となるものの、業務の制限(選択)が可能になるため、例えば「立ち仕事がつらくなった」場合には、その業務を減らすといった対応をして、職員がなるべく長く働いていける環境を整備した。  また、継続雇用の契約更新時には、所属長等が高齢職員との個人面談を実施して、賃金および雇用条件、業務内容や健康状態、家庭事情等について確認し、職員それぞれのワーク・ライフ・バランスに合わせた調整を行っている。さらに、事業所ごとに賃金規程、就業規則を整備し、必要に応じてすべての職員の閲覧ができるようにしている。  さらに、定年後の職員にも人事評価を行うことで、職員全体が公正な評価を受けることができ、人事評価に応じた賞与も支給している。 B多様な勤務形態の実現  新たに介護助手制度を導入した。介護助手の業務内容は、職員本人の希望を可能なかぎり汲み取り、介護の補助的業務や食事の準備・提供、見守り、ハウスキーピングなど弾力的な運用を行っている。これにより、高齢職員が長くやりがいを持って安心して働ける職場環境づくりを構築することができた。  さらに、高齢職員が70歳を超えても働きやすい環境を保持できるよう、介護補助職の採用とその活用による業務の分業化を実施。介護現場における直接業務と間接業務の線引きを行い、食事の準備・提供、食器洗浄、ハウスキーピング業務など身体的負担が少ない業務を選択することが可能となった。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @モチベーション向上に向けた取組み  全職員が閲覧可能な「サービス品質基準書」を各事業所に整備した。高齢職員を含めた全職員を対象に、すべての業務を統一したマニュアルを可視化したことで、介護等サービスの一定の品質を担保している。この基準書は、職員の携帯マニュアルとして位置づけられており、日常業務で不安な事案が発生した際には、すぐに確認できるようになっている。 A技術・技能・ノウハウの継承の取組み  今後、外国籍の労働者が介護現場を支える大きな戦力になると考え、留学生や外国人技能実習生、特定技能外国人の継続的な受入れと支援を2017年度から行っている。外国籍の職員は、現在、全体の2割弱を占めており、留学生には、日本語学校や介護福祉士の養成学校に通学してもらった後、介護福祉士試験を受験してもらい、合格者を介護福祉士として雇用している。実績としては、2017年に受け入れた留学生12人中、最終的に6人と雇用契約に至った。10代から20代の女性が多いため、経験豊富な高齢職員がこうした人材の育成に大きく寄与している。 B中高年齢者を対象とした教育訓練の取組み  高齢職員も参加可能な研修等を各部署で毎月実施している。研修内容は福祉車両の使用方法や虐待防止、車いす等の介護器具類のメンテナンス作業などの内容としており、日ごろの業務に役立つことから、職員の積極的な参加が見受けられる。 C高齢職員が働きやすい支援の仕組み  手書きによる記録、報告、伝達業務が多くを占め、作業負荷が大きかったことをふまえ、2017年度からICT化に着手した。介護記録ソフトや見守りセンサーの更新、各種介護ロボットの導入を段階的に行っている。導入時のデモンストレーション、作業手順、操作方法を動画で撮影して共有しており、機器などの操作は全職員に慣れてもらうまでていねいに説明している。高齢職員も、ICT化による大幅な業務負担の軽減を感じている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  高齢職員の増加にともない、腰痛予防対策として、介護用の特殊浴槽や床走行・移動式スタンディングリフト、膝当て手すり、吊り上げ式スリングシート等の作業に介護ロボットを導入した。使用頻度の高い機器類においては随時、使用方法が簡単なものに更新している。 A健康管理  インフルエンザ等の感染症の予防については、介護施設という観点から高齢職員の意識が高く、ほとんどの職員が予防接種を受けており、費用は全額法人負担としている。 B安全管理  ヒヤリハット報告の雛型用紙を、壁面や共有の机に配備して、情報収集し迅速に共有することで事故防止を図っている。いつ、どこで、どのようなヒヤリハット事例があったなどの詳細を分析し、状況に応じた対応策を具体化している。 C福利厚生  2018年に、子どもや孫の世話が必要な職員のために定員19人の企業主導型保育施設を開設した。職員枠を設けて安価な費用で利用ができる。保育園を併設した大型複合施設の利点を活かし、高齢職員と施設入居者や利用者が保育園児と帯同しての季節行事イベントへの参加、毎日のあいさつ運動、野菜づくりなどを行い「多世代でともにふれあう楽しさ」を共有している。 (4)その他の取組み  2024年11月に開催された「第11回かがわ介護王決定戦」に参加して、2年連続の香川県知事賞(総合成績部門)・(入浴介助部門)をダブル受賞している。参加者は全員が外国籍の職員で、大会の開催2カ月前から高齢職員を中心に指導してきたことが結実した。高齢職員の高い経験値と技術はOJTによって若手職員はもちろん、すべての職員に浸透し、高齢職員はあらゆる技能の伝承者として大きな役割を果たしている。  一方、2023年には就労継続支援B型事業所を開設、同法人のさまざまな福祉用具のメンテナンスを中心に行っている。この施設でも多くの高齢職員が指導員として障害者とともに働いている。利用者の送迎も高齢職員が行っており、人間力が成熟した高齢職員ならではのていねいな指導力が大きな成果をもたらし、利用者は増加傾向にある。 (5)高齢職員の声  Aさん(68歳・女性)は現在、通所施設で看護職員として週28時間の勤務をこなしている。以前Aさんは約13年間、正規看護職員として勤務していたが離職し、事業所への再訪問をきっかけに「もう一度ここで働きたい」という強い思いがめばえ復職に至っている。「復職当初は戸惑うことも多々ありましたが、自身もこのように年を重ねていくのだと考えると、毎日が学びの日々です。数年間のブランクがある自分を受け入れてくれた仲間や利用者に感謝しています」と明るく語った。 (6)今後の課題  専門職をはじめとする高齢職員の「優れた知識と高い経験値」はますます重要になってきている。今後はさらに法人全体で一丸となり「関わるすべての人に喜びや感動を提供する」を合言葉に、すべての人が活き活きと働き続けることができる職場づくりを目ざしていく。  将来的には高齢者の介護支援のみならず障害者支援にも重きを置き、障害の有無にかかわらず地域のなかでともに生きていくことがあたり前となるような「共存型社会」の実現を、地域に根づいた社会福祉法人の使命として取り組んでいく。 写真のキャプション 社会福祉法人光志福祉会が運営する介護付き有料老人ホーム「ネムの木」 介護用の特殊浴槽を使った職員研修 ICT化に対応した作業を行う高齢職員 「かがわ介護王決定戦」に参加し、優秀な成績をおさめた 【P40-43】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 人と人のつながりを大切にして高齢職員がいきいき活躍できる雇用環境を創出する 社会福祉法人 安岐(あき)の郷(さと)(大分県国東(くにさき)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 安岐の郷 (大分県国東市) 創業 1995(平成7)年 業種 社会保険・社会福祉・介護事業 職員数 280人(2025〈令和7〉年4月1日現在) 60歳以上 109人 (内訳) 60〜64歳 33人(11.8%) 65〜69歳 22人(7.9%) 70歳以上 54人(19.3%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。70歳以降は一定条件のもと、年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は87歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人安岐の郷は、1995(平成7)年に法人を設立し、1996年に特別養護老人ホーム鈴鳴荘(れいめいそう)を開設した。以降、地域密着型特別養護老人ホーム、ショートステイ、グループホーム、居宅介護支援事業、地域密着型デイサービス、健康づくり応援教室、生活困窮者に対する相談支援事業(おおいたくらしサポート事業)など、地域に根ざした事業を展開してきた。「高齢職員が役割を持ち、活躍できる場の創出(元気なうちはいつまでも働こう)」を理念に掲げ、高齢職員がつちかった知識や経験を活かせる雇用環境の構築を目ざしている。  また、高齢職員が地域活動を通じて社会に貢献できるように「地域の交流拠点としての役割強化」と「高齢職員(全職員)が働きやすい職場環境の整備」を推進している。 POINT @2024(令和6)年10月に就業規則を改定し、継続雇用の年齢上限を65歳から70歳に引き上げた。また、70歳を超えても、法人が必要と認めた場合は、年齢上限なく継続雇用する制度とした。 A定年後は、高齢職員の希望に応じて健康状態や勤務負担に配慮して夜勤回数を減らすなど、職員が少しでも長く働き続けられるように柔軟に対応している。 B約10年前から、現役を退いた70代の高齢者などに、1日2〜3時間程度の食事の配膳や清掃などの業務を担当してもらう、「アクティブシニア制度」を導入している。 C2007年に、高齢職員に孫が誕生した場合に、7日間の休暇が取得できる「育児応援特別休暇制度」(ばあちゃんの(じいちゃんも)出番制度)を導入した。制度の利用者は50人を超えており、安心して働ける職場づくりの構築につながっている。 D2010年に、新規採用した職員とベテラン職員がペアとなって3カ月間一緒に就労しながら指導するという「エルダー制度」を導入した。このOJTによる新人教育によって、職員間の知識と技術の共有が円滑に進んだ。 U 企業の沿革・事業内容  1995年に設立された職員数280人の社会福祉法人で、大分県国東市内に高齢者施設4カ所、サポートセンター1カ所、地域健康センター1カ所を運営している。1996年に特別養護老人ホームを開設、介護事業による地域貢献を目ざして、地域密着型特別養護老人ホーム、ショートステイ、グループホーム、居宅介護支援事業、地域密着型デイサービスなどを積極的に展開してきた。その取組みは高い評価を受けており、2002年に大分県精神障害者社会適応訓練事業による「職親(しょくしん)」を受託、2009年に「おおいた子育て応援団(しごと子育てサポート企業)」の認証を受け、2010年には「仕事と子育て両立支援モデル企業」に指定された。同法人の介護・子育てと仕事の両立支援事業は、2011年の「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(子育て・家族支援部門)」において内閣総理大臣表彰を受賞した。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員数280人のうち、60歳以上の高齢職員は109人(男性31人、女性78人)で、全体の約39%を占める。最高年齢者は87歳の男性で、施設内外の定期巡回、施錠開錠などの軽作業を担当している。60歳以上の高齢職員109人のうち、定年後の継続雇用者は20人である。  立地する地域社会は人口減少と高齢化が進み、なかでも若年労働力の減少が顕著で、地域を支えるにない手の確保が急務となっている。こうしたなか、現理事長は約10年前から同法人で活躍している高齢職員がこれまでつちかった知識や経験を活かせる雇用環境の整備・拡充に着手した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制と継続雇用制度の改定  2024年10月に就業規則を改定し、継続雇用の年齢上限を65歳から70歳に引き上げた。また、70歳を超え、法人が必要と認めた場合は、年齢にかかわりなく継続雇用する制度とした。法人としては「勤務が可能な間は働いてほしい」と考えており、業務内容や本人の体力に応じて高齢職員を適切に配置している。 A賃金制度、勤務形態の見直し  定年後に継続雇用に切り替わっても、賃金の水準は原則変わらないが、役職者は定年到達時に役職を離れるため役職手当が支給されなくなり、年収は下がる。また、賃金の支払いも、月給制から日給制に切り替わる。勤務形態も短日・短時間勤務を選択することができ、高齢職員の希望に応じて、勤務形態を決めている。職員の健康状態や勤務負担に配慮し、夜勤回数を減らすなど、少しでも長く働き続けられるように柔軟に対応することで、高齢職員の活躍を支援している。 B「アクティブシニア制度」の導入  現役を退いた70代の高齢者などを対象に、1日2〜3時間程度の食事の配膳や清掃などの業務の一部を担当してもらう制度。約10年前から実施している。導入の背景には、慢性的な介護職員の人手不足や退職した高齢者の社会参加意欲の高まりがあった。現在は、70代のアクティブシニア10人が在籍している。この制度により介護職員は本来の介護業務に集中できると同時に、アクティブシニアは利用者への対応も優れていることから利用者にも好評で、職場の雰囲気づくりにも一役買っている。 C「ばあちゃんの(じいちゃんも)出番休暇」  2007年に「娘の子ども」、「息子の子ども」に関係なく孫が誕生した場合に、7日間の休暇が取得できる育児応援特別休暇制度を導入した。制度導入のきっかけは、ある高齢職員から「娘が里帰り出産するので長期間休みたいが、迷惑をかけるので退職も考えている」という相談が寄せられたことにある。現理事長は「退職せずに、気兼ねなく孫の面倒をみてもらいたい」と考え、この制度を導入した。導入当初は対象者を正規職員、利用条件を娘の出産に限定していたが、その後、非正規職員を加え、娘の出産だけではなく息子の妻の出産まで拡大した。制度を利用した職員は50人を超えており、安心して働ける職場づくりの構築につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @「エルダー制度」の導入  2010年に導入した「エルダー制度」は、新規採用した職員とベテラン職員がペアとなって3カ月間一緒に業務を遂行しながら指導する、OJTによる新人教育のこと。この制度により未経験者でも基礎から応用までのスキルを体系的に習得でき、安心して業務に取り組めるようになるとともに、職員間の知識と技術の共有が円滑に進んでいる。 A無資格介護職員の採用  介護職員の確保が困難な状況にあるため、無資格の人材を積極的に採用し、その人材に資格取得支援を行っている。具体的には、資格取得のための時間的・経済的な支援として、法人が必要と認める資格を取得する場合、必要な学費の全額(または一部)を負担している。また、「介護職員実務者研修」で資格取得を目ざす職員には、スクーリングや実習を受講しやすいように勤務シフトに配慮をしている。資格取得を目ざし努力し成長する中高年職員の姿が若年・中堅層の職員にもよい刺激となっている。 Bデジタルツール・完全調理食の導入  高齢職員の活躍促進の一環として実施された取組みであり、施設全体の業務効率が向上している。例えば、タブレット、インカム等のデジタルツールの導入では、業務効率の向上はもとより、コミュニケーションの質を高め、職場全体の働きやすさを促進している。特に高齢職員にとって、業務の負担が軽減され、快適に働くことができる環境の整備につながった。温めたり、盛りつけをしたりするだけでよい「完全調理食」の導入は、精神的・体力的にも大きな負担がともなう調理作業の負担から解放され、高齢職員が長く活躍できるようになった。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理施策の拡充  定期的な健康診断に加えて、特定のがん検診の費用を法人負担で実施している。また、女性が多く働いていることや、近年、女性のがんの罹患者が増加していることをふまえ、マンモグラフィと子宮がん検診の費用を法人が負担している。 A地域健康センター「元気館(げんきかん)」の開放  住民参画型介護予防のための拠点施設である地域健康センター「元気館」には、複数の運動機器が整備され、常勤の理学療法士による利用者の体力評価、運動プログラムの実施などが行われている。毎週水曜日の業務終了後に職員に開放され、運動機器を自由に利用できる。高齢職員からは「体のリフレッシュに大いに役立っている」、「気持ちも前向きになれる」などの声が寄せられており、健康維持・向上だけでなく精神的なリフレッシュ効果や職員間のコミュニケーションを図る場となっている。 B安全衛生活動の見える化  高齢職員は、身体的な健康維持が仕事の継続に直結するため疾病予防策は必須であることから、施設の職員休憩室に感染症や熱中症予防のポスターを掲示し、注意喚起している。ポスターが日常的に目にふれることで、無意識のうちに健康リスクへの関心を高める効果につながっている。 C転倒災害の防止対策の推進  転倒災害は大きなけがにつながることから、転倒防止対策として職員同士、あるいは利用者との衝突を避けるために直角となっている廊下の3カ所にカーブミラーを設置した。また、利用者や職員の転倒による骨折の予防、職員の足腰の疲れの軽減のため、床に衝撃吸収フロアーを施した。さらに、階段の段差が判別できるよう各段の端に橙色(だいだいいろ)の二重線を引き、注意を喚起している。 (4)その他の取組み  大分県が実施する精神障害者社会適応訓練事業の一環として、障害者雇用を積極的に推進しており、豊富な人生経験と柔軟な対応力を持つ高齢職員を中心として「職親」としての役割をになっている。高齢職員は障害のある職員と職員の橋渡し役として、障害者が安心して働くことができる環境づくりに貢献している。  このほか、地域貢献の一環として同法人単独で「盆踊り大会」を主催、高齢職員が率先して参加して、準備・運営の役割をになった。参加した高齢職員の一人は、「地域のみなさんと一緒に何かをつくりあげることができるのは本当にうれしく、私たちの生きがいにもなっている」と話している。 (5)高齢職員の声  田辺(たなべ)由加里(ゆかり)さん(61歳)は20年以上勤務しており、最近60歳の定年を迎えて継続雇用に切り替わったが、後任を育成するために引き続き施設長としてフルタイム勤務をこなしている。「後任の育成が一段落ついたら、特定技能外国人の支援・サポート業務を担当したいと思っています」と話す。後藤(ごとう)平八(へいはち)さん(82歳)は環境整備(草刈り)を担当しており、現在勤続5年目。施設の環境整備全般を任され、やりがいを持って作業を行っている。「健康でいるかぎり、働き続けたいと思います」と、笑顔で抱負を語ってくれた。 (6)今後の課題  いま、時代は労働環境の整備、作業の自動化に向けて介護テクノロジー導入を進め、高齢職員の業務の負担を軽減することが求められている。そこで職務の効率化を図り、高齢職員がより長く、無理なく働き続けられる環境の整備を図っていきたいと考えている。また、地域との連携を強化し、地域社会に根ざした「高齢職員活躍のモデルケース」としての役割を自覚し、地域全体に貢献する存在となることを目ざしていくという。 写真のキャプション 社会福祉法人安岐の郷が運営する、特別養護老人ホーム「鈴鳴荘」 感染症予防のためのポスターを掲示 施設長を務める田辺由加里さん(61歳) 施設の環境整備を担当する後藤平八さん(82歳) 【P44-47】 令和7年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 柔軟で、よりよい制度や作業環境を整えてだれもが長く働ける職場づくりに取り組む 社会福祉法人 福寿会(ふくじゅかい)(鹿児島県肝属郡(きもつきぐん)東串良町(ひがしくしらちょう)) 企業プロフィール 社会福祉法人 福寿会 (鹿児島県肝属郡東串良町) 創立 1995(平成7)年 業種 福祉・介護事業(介護老人福祉施設などの運営) 職員数 131人(2025〈令和7〉年8月1日現在) 60歳以上 38人 (内訳) 60〜64歳 12人(9.2%) 65〜69歳 17人(13.0%) 70歳以上 9人(6.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は、本人の希望・適性・評価等により、年齢上限を定めることなく1年更新で継続雇用。最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人福寿会は、鹿児島県の大隅(おおすみ)半島の東串良町(ひがしくしらちょう)にある介護老人福祉施設「ルーピンの里」をはじめ、短期入所生活介護、通所介護、居宅介護支援、訪問介護、生きがいデイサービス、グループホーム、東串良町在宅介護支援センターの各事業を展開。実績を積み、地域の信頼を得て、2024(令和6)年に創立30周年を迎えた。この30年間、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らせる地域福祉の拠点として、利用者の意向を尊重するサービスを提案し、ニーズに応えることを目ざし、そのための人づくりと働きやすい職場環境づくりに注力してきた。  最近は、IT化に取り組みながら、提供するサービスに磨きをかけて、職員が活き活きと長く働き続けられる職場環境の整備に力を入れている。 POINT @2017(平成29)年4月、定年後の継続雇用について就業規則に明記した。継続雇用は1年更新とし、雇用の年齢上限は定めず、本人と働き方を相談し決定する。勤務日数・時間には柔軟に対応している。 A評価委員会による人事評価を行い、評価結果を賞与に反映している。また、全職員を対象とした優秀職員表彰制度を導入し、毎年、「優秀職員賞」と「新人賞」を授与。 B天井・床走行型リフト、見守り支援システム、安全運転装置つき車両など、介護職員の負担を軽減する機器を積極的に導入。 C多様で充実した福利厚生が、離職率の低下と職員の満足度の向上につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  社会福祉法人福寿会は1995年に創立し、特別養護老人ホーム(ショートステイ併設)と東串良町委託事業のデイサービスセンター、在宅介護支援センターの3事業を開始。地域の人々から「あってよかった」といわれるケアに努め、信頼され親しまれる法人を目ざし、事業を拡大してきた。現在では居宅支援事業所、認知症対応グループホーム、訪問介護事業所、生きがいデイサービスなどの事業を展開し、職員数は創立当初の30数人から131人に増えている。  「人は財(たから)である」という考えのもと、職員を「人財」として育て、大切にしていくことをモットーとしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員数131人のうち、60歳以上は38人で全体の約3割を占めている。一方で、将来この地域の介護を支えていく人財を育てるため新卒者の採用にも力を入れ、毎年、大学や高校の新卒者を採用している。また、働きながら介護の資格取得を支援する制度を整えており、異業種からの転職者も積極的に採用し、10代から70代まで幅広い世代の職員がそろっている。  高齢者雇用の取組みは、2016年に厨房業務の洗い場の仕事をシルバー人材センターに委託したことがきっかけとなった。シルバー人材センターの高齢者の誠実な働きぶりや豊かな人生経験を感じさせる姿勢が、若い職員にとってよい刺激を与える様子が見られたため、「高齢者に働いてもらうことがさまざまなプラスをもたらす」と考えた。以降、就業を希望する高齢者や長く働きたいという職員の希望に応えるため、年齢に関係なく働き続けられる職場づくりに取り組んでいる。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @継続雇用を就業規則に明文化  定年年齢を65歳と定めていたが、継続雇用の規定はなく、本人の意思を確認して運用によって雇用を延長してきた。そこで2017年4月に定年後の継続雇用を就業規則に定めた。継続雇用は1年更新とし、雇用の年齢上限は定めず、本人との面談によって働き方を相談して決定する。定年後の働き方は、@役職をそのまま継続、A役職のみ外れフルタイムで継続、B勤務日数・時間を短縮して継続のいずれかで、本人の希望で決めている。  定年後も働き続けられることが制度化されたことで、定年の65歳が定年後の業務内容や働き方を考え直す分岐点となった。定年後の賃金は、役割や業務内容によって見直している。また、就業規則の改定をきっかけに、65歳超の高齢者をフルタイムで採用するなど、働く意欲のある高齢者の採用が進んでいる。 A短時間勤務や配置替えなどに柔軟に対応  長く働き続けられる職場を目ざして、体力や健康状態、ライフスタイルに合わせて、できるだけ本人の希望に沿う勤務となるよう、短時間勤務や配置替えなどに柔軟に対応している。また、1時間単位の有給休暇の取得を可能とした。  こうした対応により、職員のワーク・ライフ・バランスが改善し退職者が減少したうえ、高齢職員の知識と豊富な経験を活かした業務を継続することができ、質の高い介護サービスが提供できるようになった。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @人事評価  評価委員会を設置して、毎年常勤の全職員を対象に、自己評価と上司評価による人事評価を実施。継続雇用者の場合、評価結果は3月の賞与に反映される。なお、評価結果は、面談を通じてフィードバックしている。  また、評価結果をふまえ、毎年3〜5人を優秀職員として表彰している。優秀職員賞と新人賞の二つの賞があり、両賞ともに年齢、勤務形態に関係なく受賞対象となっており、職員のモチベーションアップと職場全体の士気向上につながっている。 A技術・技能継承の役割  小規模な部署ではベテランの高齢職員が教育的立場を務めることが多く、比較的大きな部署では中堅職員がその役割をにない、高齢職員はアドバイザー的な役割をになっている。いずれの場合も、豊富な経験と知識を持つ高齢職員の存在により、組織全体のスキルや知識の底上げが図られている。 B能力開発のための取組み  介護の考え方や手法は時代とともに変化し進化しているため、技術の標準化、均質化を図る研修が必要となる。そこで、オンラインでの動画研修によるリスキリングを実施している。高齢職員は、新しい環境に適応するために必要な情報や介護支援の方法の習得などにも活用している。動画研修はくり返し視聴できるメリットもあり、サービスの質の向上に役立っている。 CIT化への対応  キーボード操作を苦手とする職員に配慮して、タブレットを利用した音声入力や、血圧計などの計測機器と連動した自動入力のシステムを導入。各部署に操作を支援する推進員を配置し、相談できる体制を整えた。これらにより、作業の効率化と負担軽減につながっている。操作に不安があった高齢職員には、推進員による支援を通じて操作技術の向上が図られている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @負担を軽減する機器などの積極的な導入  自動床洗浄装置、天井・床走行型リフト、車いすのまま入浴できるチェアインバスなど、介護職員の負担を軽減する機器を積極的に導入。  人を抱える動作は職員の身体に負担がかかるが、機器を用いることで身体的負担が大幅に減少した。利用者も自力での移動や起き上がりが少なくなり負担が減少し、利用者の安心感を高めている。高齢職員は、機器があることで、安心して仕事を続けられるようになった。 A安全運転装置つき車両の導入  新たに車両を導入する際は、衝突被害軽減ブレーキ、急発進防止装置や全方位カメラなどの安全装置が装備された車両を選定している。 B見守り支援システムの導入  鹿児島県の「介護ロボット導入支援事業」を活用して、利用者の睡眠状況をリアルタイムに把握できる見守り支援システムを導入した。モニターやタブレットで利用者の睡眠状態が把握でき、夜間の巡視の回数が導入前の約10回から約3回に減り職員の負担が大幅に軽減できた。 C食器洗い場の動線改修工事  洗浄機で洗う工程を横一線で上げ下げなく作業できるように改修工事を行った。特に高齢職員が担当することが多い仕事なので、身体の負担軽減や時間的な効率化を図ることができた。 D福利厚生の充実  法人が全職員の会費を負担して、外部福利厚生サービスを活用している。健康管理や健康相談、慶弔見舞金の支給、職員の資質向上のための研修、旅行など多様なサービスが受けられるため、職員から喜ばれ、雇用安定や、新規採用時の強みにもなっている。  また、施設利用者には管理栄養士が監修した栄養バランスのとれた献立を提供しており、同じメニューを職員に一食300円で提供し、弁当を持参する職員以外はほぼ全員が利用している。 (4)高齢職員の声  中山(なかやま)和則(かずのり)さん(68歳)は自衛隊を退職後に入職した。54歳からデイサービスセンターに勤務して送迎や介助、入浴介助などを担当している。「自衛官として家を離れていたときに両親を亡くしました。親にできなかったことをいまここでさせてもらっている、そんな気持ちで勤めています。働けるうちは働きたいです」と話す。中山さんは、万全な体調で利用者と接することができるよう健康維持に気をつけており、2019年に優秀職員賞を受賞した。  杉山(すぎやま)由里子(ゆりこ)さん(60歳)は、40歳のときに入職し勤続20年になる。介護福祉士として介護老人福祉施設「ルーピンの里」に勤務し、職場のリーダーを務めている。利用者に対しては、「心地よく過ごせるケア」に努め、職員に対しては「相談しあえる関係づくり」を大切にしている。「リフトやボードなどの機器を導入して、抱えない介護を実践していますので、おかげで腰痛が緩和され、リフトを利用して行う移乗は利用者さまにとって安心につながっています」と職場環境について話し、「定年後も身体が続くかぎり仕事を続けていきたいです」と思いを明かしてくれた。  味吉(みよし)明美(あけみ)さん(63歳)は、35歳のときに介護職は未経験で入職。「ルーピンの里」で働きながら介護福祉士の資格を取得して、現在も同施設で介護職のリーダーとして勤務している。杉山さんと味吉さんは、ほかの職員とともに日勤、早番、遅番、夜勤を交代でこなし、月4回夜勤を行う。日々の業務について、「利用者さまに笑顔が出るように気持ちを込めて行うことを心がけています」と味吉さん。「チームワークのよい職場です。あと1年半ほどで定年の年齢になりますが、身体が続くかぎり、いまと同じように働いていたいと思っています」と語ってくれた。 (5)今後の課題  同法人では、3人の障害者が介護職などに就いて長年仕事を続けている。福留(ふくどめ)利郎(としろう)理事長は、「高齢者や障害者に働きやすい職場を目ざすことは、だれにとっても働きやすい職場づくりの実現につながることを実感しています」として、今後も人財を大切にした職場環境の整備に力を入れていく方針だという。  さらに福留理事長は、「一生懸命働いている職員が不安を抱えることなく仕事ができるよう、事務局体制の充実も重要です。人事は当法人の心臓部です。定着率が高いのは、人事が職員をしっかり支えながら、現場と良好な関係を築いているからです。このことをこれからも重視していきます」と話す。だれもが長く働き続けられる職場環境の充実に努めていきたいと考えている。 写真のキャプション 社会福祉法人福寿会が運営する介護老人福祉施設「ルーピンの里」 デイサービスセンターの昼食後、利用者の立ち上がりを声をかけながら介助する中山和則さん(68歳) 床走行式リフトを使用して安全に利用者をベッドから車いすへ移乗させる杉山由里子さん(60歳) 介護老人福祉施設「ルーピンの里」でにこやかに入所者の食事を介助する味吉明美さん(63歳) 【P48-51】 ジョブ・クラフティング JOB CRAFTING 入門 釧路公立大学 准教授 岸田(きしだ)泰則(やすのり)  働く人が、自ら仕事に対する認知や行動を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと変える手法「ジョブ・クラフティング」。役職定年や定年後再雇用により、それまでの業務や役割が変更となり、モチベーションの低下が懸念されるシニア世代のパフォーマンスの向上に向け、ジョブ・クラフティングは効果的といわれています。本企画では、ジョブ・クラフティングの基礎知識について、釧路公立大学の岸田泰則准教授に解説していただきます。 第2回 シニア社員のジョブ・クラフティングの実践 @はじめに  「定年を過ぎても、まだ働き続けたい」、「再雇用で戻ってきたけれど、以前のような役割は任されない」、こうした声を耳にする機会が増えています。日本の企業は定年延長や定年後再雇用制度を整備し、シニア社員のキャリア時間軸を延長させています。しかし、役職を離れたり、体力が以前ほど続かなくなったりするなかで、「自分の存在意義をどう見つけるか」という悩みを抱えるシニア社員も少なくありません。  そのとき役立つのがジョブ・クラフティングです。ジョブ・クラフティングとは、自分の仕事のやり方や周りとのかかわり方、仕事に対する考え方を、自分なりに工夫して働きがいを再発見する方法です。ちょっとした工夫や発想の転換で、仕事の意味が大きく変わることがあります。 Aなぜシニア社員にジョブ・クラフティングが必要なのか  シニア社員にとって、ジョブ・クラフティングが必要になる理由は三つあります。  第1に、仕事そのものの変化です。役職定年や再雇用によって、これまでのリーダー的な役割から外れ、与えられる仕事が変化します。  第2に、自分自身の変化です。年齢を重ねることで体力や集中力が落ちてきたり、健康面の配慮が必要になったりします。  第3に、周囲の変化です。家族の介護、同僚世代の入れ替わりなど、自身を取り巻く環境そのものが変わっていきます。  このような変化に直面したとき、「以前と同じように働けない」と思うのではなく、「いまの自分に合った働き方をつくり直す」ことが求められます。これこそが、ジョブ・クラフティングの出番なのです。 B業務の工夫【業務クラフティング】  シニア社員は、長年つちかった経験を活かせる領域で力を発揮できます。例えば、ある製造業のベテラン社員は、体力的に重労働がむずかしくなった代わりに、現役世代が見落としがちな「安全点検のチェックリストづくり」に取り組みました。現場の知恵を活かした工夫は若手にも重宝され、「自分だから気づける仕事がある」としてやりがいを感じるようになりました。  また、体力が落ちてきたと感じたシニア社員が、自分の仕事量を調整し、重点的に得意分野を担当させてもらうよう上司に相談した例もあります。これは縮小的クラフティングと呼ばれ、無理をせず長く働き続ける工夫です。  次に、長年営業として活躍してきたシニア社員が、再雇用後は顧客訪問よりも資料作成や後輩の提案書添削に役割をシフトした事例もあります。シニア社員にとっては外回りの体力的な負担が減り、一方後輩社員はベテランのノウハウを吸収できるという、双方にメリットのある一挙両得のジョブ・クラフティングとなりました。  ITに苦手意識を持つシニア社員が、あえてオンライン研修に参加し、会議用のデジタルツールの操作方法を学びました。その結果、若手に頼らず自分で資料共有ができるようになり、「時代についていける」という自信が回復しました。本人は「もう年だから」とあきらめずに挑戦したことが、周囲にもよい刺激を与えました。  こうした姿勢を象徴するのが、世界最高齢のプログラマーとして注目を集めた若宮(わかみや)正子(まさこ)さんの事例です。若宮正子さんは60代からパソコンを独学で学び、80代でシニア向けスマートフォンアプリ「hinadan」を開発しました。ITを通じた社会参加の新しい形を体現し、高齢になってからでも学び直しや挑戦は可能であることを世に示しました。 C人との関係の工夫【関係性クラフティング】  人間関係の工夫も重要です。例えば、会議で若手の発言を尊重し、自分はサポート役に回るシニア社員の姿勢は、職場によい空気を生みます。一方で、自分の知識や経験を積極的に若手に伝えることも大切です。ある企業では「メンター制度」を通じてシニアが若手を育て、逆に若手からデジタル技術を学ぶ「リバース・メンタリング」も実施されています。こうした関係性の工夫によって、世代を超えた学び合いが生まれ、シニアの存在感も高まります。  別の職場では、シニア社員が毎朝「おはよう」、「昨日はどうだった?」と声をかけるようにしました。小さなきっかけでしたが、若手からは「気にかけてもらえて安心する」という声が出るようになり、チームの一体感が強まりました。シニア社員は大きなプロジェクトを任されなくても、日常の人間関係を調整する役割として存在感を発揮しています。  また、あるシニア社員が他部署の仲間との昼食会を企画し、部署横断的なつながりを広げた事例もあります。若手からは「横のつながりができて相談しやすくなった」と好評で、本人にとっても「人の輪をつなぐことが自分の仕事」と再定義するきっかけとなりました。 D仕事のとらえ方を変える【認知的クラフティング】  シニア期に入ると、仕事の意味づけを見直すことが必要となります。ある病院の清掃員は、自分の仕事を「単なる清掃」ではなく「医療行為を支える大切な役割」ととらえ直しました。その瞬間から仕事に誇りを持ち、笑顔で取り組めるようになったといいます。同じように、再雇用社員が「自分は会社に再び所属している」、「次世代へ知識を継承している」と考えることで、日々の業務に意味を見いだすことができます。逆に、仕事に比重を置きすぎず「仕事は生活の一部」と考えることも、心のゆとりを保つ工夫の一つです。  また、別の会社で清掃業務を担当する再雇用社員は、単なる掃除ではなく「職場を快適に保つことで働く人を支える仕事」と考えるようにしました。視点を変えることで、日常の業務に誇りを感じられるようになり、「単調な作業が自分の役割を表す大切な仕事」へと変わりました。  そして、メーカーに勤務し、ある製品の修理・点検業務をになっているシニア社員は、自らの仕事を「製品の外科医・内科医」と意味づけています。仕事を「単なる修理・点検」から、「製品を延命化する医療的役割」と意味づけを変えることで、誇りを持って仕事をすることにつながっています。ほかにも、別の会社のある工場で再雇用されたシニア社員は、「単純作業のくり返し」に見えていた検品業務を、「製品品質の最終防波堤」ととらえ直しました。「自分が確認を怠れば、お客さまの信頼を失う」と考えるようになり、作業の一つひとつに責任感が生まれました。  こうした認知の変化は、「仕事のなかに新しい価値を見いだす」ジョブ・クラフティングの核心です。自らの役割を再定義し、「いまの自分にしかできない貢献」を見つけることが、シニア期の働きがいを支える原動力となるのです。 ESOC理論とジョブ・クラフティング  シニア社員がジョブ・クラフティングを実践する際には、加齢にともなう変化への適応が欠かせません。その手がかりとなるのが、心理学者バルテスらが提唱したSOC理論(選択・最適化・補償理論)です(図表)。SOC理論は、人が年齢を重ねるなかでかぎられた資源を有効に使い、失われたものを補いながら適応していくプロセスを説明します。具体的には、目標を絞り込む「選択」、持てる資源を活かす「最適化」、そして失われた能力をほかの手段で補う「補償」の三つの方略です。この考え方は、シニア社員のジョブ・クラフティングにも直結します。  例えば、役職定年後にマネージメント業務を手放す代わりに、経験を活かして後進指導に注力することは「選択」と「最適化」の実践といえます。また、体力的にむずかしい作業を若手に任せ、自分は安全点検や知識の伝承をになうことは「補償」にあたります。  さらには、シニアのジョブ・クラフティングは、「拡張的」と「縮小的」の二つの側面が交錯するのが特徴です。筆者の研究調査でも、定年後の再雇用社員が拡張的クラフティング(新たな役割を引き受ける工夫)と縮小的クラフティング(仕事の比重を減らす工夫)を組み合わせながら、無理なく職場に適応していることが明らかになっています★1。  例えば、次世代への知識継承や新しい役割をになうことは拡張的クラフティングであり、仕事量を調整したり生活全体での仕事の比重を下げたりする工夫は縮小的クラフティングです。拡張と縮小をうまく組み合わせることで、シニア社員は喪失感や不安を抱えながらも、無理なく働き続けることができるのです。 Fシニア社員とジョブ・クラフティング  シニア社員がジョブ・クラフティングを実践すると、次のような効果が期待できます。  第1に、シニア社員本人への効果として、ジョブ・クラフティングの実践は働きがいの向上、心身の健康維持、仕事への前向きな姿勢といったものにつながります。  第2に、組織への効果として、知識や技術の伝承、若手の成長支援、チーム全体の活性化が期待できます。  第3に、社会への効果として、シニアのジョブ・クラフティングの流る布ふにより、高齢者雇用の持続可能性を高め、生涯現役社会の実現に資することになります。  このようにジョブ・クラフティングは、多くの場面で働きがいや健康の向上に寄与しますが、薬に副作用があるように、ジョブ・クラフティングにも副作用があります。例えば、自分なりの工夫が「やりすぎ」になると、周囲の業務との調和を乱してしまうことがあります。森永(2023)は「3つの『すぎ』にご用心」として、@やりすぎ、Aこだわりすぎ、B抱え込みすぎ、の3点を指摘しています★2。  実際、製造ラインで従業員が独自に工程を省略した結果、全体の生産効率を下げてしまった例や、サービス業で自分なりの接客を強調しすぎてマニュアルとの齟齬が生じた例も報告されています。また、個人の工夫が強くなりすぎると、「周囲の理解を得られない」、「勝手な行動だと思われる」といった摩擦を生む可能性もあります。  したがって、ジョブ・クラフティングは「自分のため」だけでなく、「職場全体のため」に行う視点が欠かせません。小さな工夫を積み重ねつつ、必要に応じて上司や同僚と共有し、調整することが大切です。副作用に気をつけながら実践することで、ジョブ・クラフティングはより健全で持続的な効果をもたらすのです。 Gおわりに  これからの時代、シニア社員のジョブ・クラフティングはますます重要になります。AIやICTの普及によって新しい学びが求められる一方、地域活動や副業を通じて社会とのつながりを広げる機会も増えていきます。  「年を取ったから役割が減る」のではなく、「年を重ねたからこそできる工夫がある」と考えることが大切です。組織にとっても、シニアの工夫を支援することは、人材不足を補い、職場全体を元気にする力となるでしょう。  本稿で紹介した事例に共通するのは、大きな変革ではなく、小さな工夫や心がけが仕事の意味ややりがいを大きく変えるという点です。シニア社員にとってジョブ・クラフティングは、加齢による制約を受け入れつつ、経験や人間性を活かして新しい役割を生み出す実践知なのです。  シニア社員のジョブ・クラフティングは、シニア世代が「自分らしく働き続ける」ための大切な方法です。小さな工夫や発想の転換が、働きがいや健康を守り、次世代への貢献につながります。そして企業にとっても、シニア社員のジョブ・クラフティングを支援することは、組織の知恵と力を最大限に引き出すための大切な取組みです。「いまの自分だからこそできる工夫は何か?」、この問いかけこそが、シニア社員のキャリアを考える第一歩となるのです。 【参考文献】 ★1 岸田泰則(2022).『シニアと職場をつなぐ―ジョブ・クラフティングの実践』学文社 ★2 森永雄太(2023).「第5章 ジョブ・クラフティングを続けるための周囲の支援:副作用に注目して」高尾義明・森永雄太『ジョブ・クラフティング―仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』白桃書房 図表 SOC理論とジョブ・クラフティング 仕事への適用(ジョブ・クラフティング) 選択 仕事量を減らす 最適化 目標達成に必要なスキルを維持することに時間を使う 補償 他者の助けを借りる 出典:高尾義明(2024).『50代からの幸せな働き方ー働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』ダイヤモンド社.p.146.図表6-4.を加筆修正 【P52-53】 “学び直し”を科学する  ミドル・シニア世代の“学び直し”を、最新の脳科学からひも解いた本連載。最終回は「日々のちょっとした工夫で脳が活性化する方法」について、1万人の脳を診断してきた脳内科医・医学博士の加藤俊徳先生にお話しいただきました。何歳になっても学びを続け、日々の生活で脳を活性化させることはとても重要で、認知症の予防などにもつながるということです。 最終回 ちょっとした工夫で脳が活性化する方法 株式会社脳の学校 代表/加藤プラチナクリニック 院長 加藤(かとう)俊徳(としのり) 脳の活性化のためには「自然の摂理に逆らわない」こと  日々の生活のなかで、脳を活性化させようとするとき、一番に意識すべきは生活のリズムでしょう。  生命の起源を考えると、宇宙が最初にできて、その後に生物が発生しているので、われわれ生物は宇宙の仕組みのなかにあるといえます。そのわれわれが一番感じる宇宙の仕組みというのが「昼と夜」。そして、その要因である太陽の動きです。  つまり太陽の動きが、私たちの血圧、覚醒の時間などの原点になっていて、それらをコントロールしているといえます。脳を元気に働かせたければ、自然の摂理に逆らってはいけないということは、とても大切です。日中はしっかりと体を動かし、夜はしっかり睡眠時間をとることが、学びの基礎体力をつくるためにもっとも大切なことになります。  楽しく学ぶためには健康である必要があって、日中の時間の過ごし方や睡眠の質、食事の時間、そういったものがじつは学びのための脳の体力を支配しているのだということを、知っておいてください。 「眠気を取る」 「20分に1度は立ち上がる」  効果的な学びのためには、睡眠を見直し、脳が活性化しやすい基礎を整えることが重要です。しっかり睡眠がとれていないと、日中は眠気に悩まされることになるでしょう。この「眠気」という不快感があると、集中力をつかさどる思考系脳番地の働きが極端に低下して眠気の前後1時間は非効率な脳の使い方になります。そのため、眠気がなくなるだけで、脳のパフォーマンスが格段に上がり、脳全体がしっかり動くようになるのです。  年齢を重ねると、「入眠しにくい」、「中途覚醒してしまう」、「寝ても疲れがとれない」など、睡眠をめぐる悩みを抱える人が増加しますが、眠れなくなるのは加齢のせいではありません。私自身、以前は中途覚醒することもあったのですが、睡眠時無呼吸を治療したり、睡眠の時間設定を明確にしたり、睡眠前に電子機器に触らないようにするなどして、60歳を超えてから3年ほどかけ、平均睡眠時間を約6時間から8時間50分まで延ばしてきました。  さらに、朝は1時間程度のウォーキングを習慣にしています。日中に体をしっかり動かすことも、睡眠の質の向上、十分な睡眠時間の確保につながるのです。そもそも運動は、脳全体を活性化させる起爆剤になるものですから、日ごろから日中に歩くなどして活動量を増やすことは大事です。座りっぱなしの時間が長い人などは、20分に1度は立ち上がるなどの工夫をし、座っている時間を減らすことが必要です。 「好奇心」、「興味」を学びに活かす  生活リズムに加え、脳の活性化で大きな役割をになうのが「好奇心」です。日々の生活のなかで、自分の好奇心をくすぐるような、ちょっとしたネタ、あるいは人物などを見つけると、脳は非常に活性化します。  例えば、ちょっと興味があるなと思った人の名前、読みたいなと思った人の本などをインターネットで検索してみると、その人の話している動画などが出てきて、それを見ると親近感が湧くでしょう。こうした興味、好奇心を学びに活かすことで、物事を習得しやすくなります。感情系の脳番地、共感性を活かした学びということです。  逆に、自分が「嫌だ」と感じること、「できない」と思うことを見直すのも、脳の活性化につながります。自分が否定しているものに近づいて、本当にそこには嫌なものばかりが並んでいるのか見てみましょう。よく見たら嫌なものに見えていただけなのかもしれません。もともと嫌だと感じていたけれど、よく見たらよかったことに対しては、脳がすごく働きますし、やる気にもなります。 「いつものパターン」を外して見方を変える  ミドル・シニア世代の人にとって、自分が嫌だと思うことのなかに入ってみることは、とても大切です。自分が否定しているものに近づくということは、自分の常識を疑うことでもあります。「自分のいままでのやり方がいいと思うなよ」と自分自身に言い聞かせ、客観的に見ることで、いままでとは違うことを知ることができます。自分の記憶系の脳番地にこびりついた「いつものパターン」をちょっとだけ外し、見方を変えてみると、急にやる気が出てくることもあります。  「いつものパターン」を外して脳に刺激を送るためには、若い人たちから学ぶことも効果的です。できれば最低20歳ぐらい年の離れた人、ミドル・シニア世代であれば、30代の人でもいいので、そういう若い人たちと話すのは、すごくよいことです。  若い人たちの感覚、見ている世界は本当に違います。さまざまなメディア媒体があるなかで生まれ育った若者と、インターネットもない時代のわれわれ、ましてや戦中・戦後の人たちとでは、比較すらできないことが多いものです。そういうジェネレーションギャップをはっきりさせながら若者から学ぶことは、脳への刺激につながるのです。 認知機能は「脳貯金」できる、学び続けることで「人生100年」を楽しく  日々の過ごし方を工夫し、脳を活性化させることは、認知症予防の観点からも重要です。じつは認知機能というのは、「貯金」ができるのです。生涯学習は認知機能を高めます。学び続け、脳を活性化させ続けることで、認知機能が貯金されるということです。認知機能を多く「脳貯金」していて、もともとの認知機能が高い人は、仮に認知症になって機能が下がっても、もともとの機能が高いため、そうではない人と大きな差が出ます。  脳の成長はいくつになっても右肩上がり。「人生100年時代」を楽しく過ごすには、健康な体、丈夫な足腰や体力も必要ですが、学び続けて脳を活性化させ、「貯金」をコツコツと蓄積し続けることも大切です。 (取材・文 沼野容子) 【P54-57】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第159回 山梨県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 実態に即した定年・再雇用制度をプランナーと二人三脚で構築 企業プロフィール 社会福祉法人ひかりの家(山梨県西八代郡(にしやつしろぐん)市川三郷町(いちかわみさとちょう)) 設立 1977(昭和52)年 業種 児童発達支援センター(児童発達支援事業、保育所等訪問支援、放課後等デイサービス、障害児相談支援) 職員数 38人 (60歳以上男女内訳) 男性(5人)、女性(9人) (年齢内訳) 60〜64歳 0人(0.0%) 65〜69歳 9人(23.7%) 70歳以上 5人(13.2%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を65歳まで、基準該当者を70歳まで継続雇用。さらに法人が認める者は年齢上限なく継続雇用。最高年齢者はバス運転手の74歳  山梨県は本州の内陸に位置し、富士山や南アルプス、八ヶ岳などの雄大な山々に囲まれた自然豊かな県です。富士五湖や昇仙峡(しょうせんきょう)などの景勝地は四季折々の美しい景観を楽しむことができ、温泉地も多く観光資源に恵まれています。また、リニア中央新幹線の建設地としても注目を集めており、自然と産業、文化が調和する地域です。  JEED山梨支部高齢・障害者業務課の竹内(たけうち)一郎(いちろう)課長は山梨県の産業と支部の特徴について、次のように話します。  「豊かな水資源と気候を活かした産業が発展しており、ミネラルウォーターの生産量は全国の約4割を占め、ぶどうや桃などの農産物、ワインなどの県産品は『やまなしブランド』として親しまれています。地場産業であるジュエリー出荷額は国内トップクラスです。また、電子部品や半導体デバイス、半導体製造装置、ロボット産業など、機械電子産業の一大集積地域となっています。  当県においても少子高齢化により若年層の採用は厳しく、高齢労働者の戦力化がいっそう求められています。当支部には改正高年齢者雇用安定法への対応として継続雇用制度の対象者基準の定め方をはじめ、健康管理や賃金・処遇制度等の相談が多く寄せられており、各企業の実状に沿った施策や制度改善提案など適切な支援を心がけています」  2019(令和元)年度から同支部で活躍するプランナーの内田(うちだ)美幸(みゆき)さんは、特定社会保険労務士、第一種衛生管理者、運行管理者の資格を持ち、専門性を活かした多角的な視点で企業への相談・助言を行っています。  今回は内田プランナーの案内で、社会福祉法人ひかりの家を訪れました。 50年にわたり地域の児童福祉を支える  「ひかりの家学園」を運営する社会福祉法人ひかりの家は、1977(昭和52)年に日本キリスト教団市川教会を母体として設立されました。教会は100年以上続く古い教会であり、町の人々が集います。ひかりの家学園は、山梨県で初めて民間施設として障害児の保育・療育を行った画期的な存在でした。現在、同園は児童発達支援センターとして、児童発達支援事業、保育所等訪問支援事業、放課後等デイサービス、相談支援事業所ムーミンの運営など、地域のセンター的機能をになっています。母体が同じで隣接する市川幼稚園とは思いを一つにし、子どもたちの個性を大切に育んでいます。  渡邊(わたなべ)美南子(みなこ)園長は、事業への思いについて次のように話します。  「ひかりの家は『一人ひとりの子どもを神様から与えられたかけがえのない存在として、愛情を持って育てる』という理念を掲げています。50年前、障害のある子どもたちが地域で暮らし、教育を受けることがあたり前ではなかった時代に、地域の声を受けて発足しました。2012(平成24)年の改正児童福祉法施行により児童発達支援センターへ移行してから、私たちの役割はさらに広がりました。  ひかりの家では、職員が長年つちかってきた専門知識と実務経験を組織の重要な資産として位置づけ、特に相談支援の分野では、高齢職員の豊富な経験と専門性が若手職員の育成や保護者との連携、組織全体の質の向上に直結する価値ある人的資源として運営の基盤を支えています」 安心して力を発揮できる高齢者雇用制度  同法人では、定年60歳、希望者全員65歳・基準該当者70歳までの継続雇用制度を整えており、さらに法人が認める者については継続雇用の年齢上限を撤廃しています。この制度改定を支援したのが、内田プランナーです。  内田プランナーが最初にひかりの家を訪問したのは、2024年春、山梨県の働き方改革支援事業がきっかけでした。それ以来、数回にわたって訪問し、就業規則の大幅な見直しを支援するなかで、高齢者が実際に活躍している状況と既存の制度に乖離(かいり)があることに気づいたといいます。  「正規職員においては、いままでに定年を迎えた方が1人のみで、定年後再雇用の実績が少ない状況でしたが、短時間勤務者に目を向けると、70歳を超えた職員が元気に働き、戦力として活躍していました。同法人として能力と意欲がある高齢者に長く働いてほしいと考えてはいるものの、制度がそれに追いついていないという状況でした。そのため法人を訪問し、定年制度についても本格的な見直しを行うことになりました」(内田プランナー)  雇用力評価ツールを活用して課題を分析し、賃金制度見直しや評価制度の運用など具体的な助言を実施するなど、約1年間にわたる継続的な支援のなかで、「定年65歳。基準該当者70歳、法人が認める者は年齢上限なく継続雇用」という提案を行ったそうです。退職金制度なども含めて同法人の状況を総合的に検討し、渡邊園長と何度も話合いを重ねた結果、「定年60歳。希望者全員65歳・基準該当者70歳までの継続雇用、法人が認める者については年齢上限なく継続雇用」という現在の制度に落ち着きました。  「制度と実態の乖離を解消し、高齢職員が安心して働ける職場づくりを支援しました。もとより高齢者だけでなく、女性が多い職場で結婚・出産後も働き続けることのできる、全世代にやさしい制度設計でした。こうした柔軟な勤務制度や勤務時間の変更などの工夫や仕組みをさらに制度化し、ルールとして確立するよう助言しました」(内田プランナー)  渡邊園長は内田プランナーについて、「イエス、ノーをはっきりいってくれる専門家として、率直なアドバイスをいただけることに感謝しています。制度改定により、65歳以上の職員からは『まだ働けるのですね』という喜ぶ声が出ています。体力的にフルタイム勤務がむずかしい職種でも、2時間や3時間といった短時間勤務でも、パフォーマンスを発揮できる環境が提供できるようになりました。内田プランナーは法改正への対応や情報提供だけでなく、一緒に歩んでいただいている存在です」と深い信頼を寄せていました。  今回は、豊富な経験を活かして園の重要な役割をになう、お二人の高齢職員にお話をうかがいました。 ベテランの知恵と経験が光る児童福祉の現場  「相談支援事業所ムーミン」で相談支援専門員として働く佐野(さの)充保(みつやす)さん(73歳)は、県の福祉専門職を退職後、同園に入職しました。渡邊園長が佐野さんのいままでの経験とスキルを高く評価し、肝いりで迎え入れた人物です。「相談支援事業所の立上げの中心となってほしい」という園長の期待に応え、各種規程の作成や書類様式の作成など、一から事業をつくり上げることにたずさわりました。  「正直なところ、立上げ当初はプレッシャーもありました。しかし自分の思い通りに仕事を進められたことは大きなやりがいでした」と話す佐野さん。佐野さんの強みは、長年の経験からつちかわれた知識と、保護者から見て「おじいさん・おばあさん世代」という安心感です。「年齢を重ねているからこそ、深い悩みも打ち明けてもらいやすいです。視野を広く持って物事を考え、目先の支援だけでなく、将来的な悩みにも寄り添ったアドバイスをしています」と続けます。保護者が佐野さんの提案を実践し、子どもの変化を報告してくれることが一番の喜びだといいます。  現在はフルタイムで勤務していますが、自身のペースで仕事ができる自由度があり、体調管理にも気をつけているとのこと。今後の抱負としては、後輩に徐々に仕事を任せていきたいと語りました。  佐野さんの後継者に抜擢された政所(まんどころ)拓哉(たくや)さんは、佐野さんの豊富な知識量と面談時の話を引き出す技術について「保護者の緊張感を和らげ、心を開かせる技術は豊かな経験に裏打ちされたものです」と話し、感銘を受けていました。  保育所等訪問支援事業を担当する二宮(にのみや)洋子(ようこ)さん(68歳)は、特別支援学校の教員を35年間勤めた後、57歳で退職し、2年後に同園に入職しました。教員時代から渡邊園長と面識があり、その縁で声がかかったといいます。訪問支援事業には、保育園だけでなく学校への訪問も含まれるため、幼児期だけでなく学齢期の子どもたちの支援経験を持つ二宮さんが適任と判断されました。  「福祉事業所の立場として学校に入っていくことに最初は苦労しました。保護者と学校、そして支援員(自身)が共通理解を持って支援策を考えていかなくてはいけません。子どもの状況は一人ひとり異なり、学校の先生が替わるだけでも状態が変化することもあります。保護者と学校の意見が食い違う際には、それぞれの思いを聞きながら調整役をになっています」(二宮さん)  むずかしい事例に直面することも多いといいますが、子どもたちの行動を成長の表現としてとらえ、周囲と共有しながら、長期的な視点で支援を考えることを心がけているそうです。  自身の働き方については、「仕事を任せてもらっていて、学校との連絡調整や訪問計画を自身の都合と学校の都合を合わせながら立てることができるので、融通が利く働き方ができています」と語りました。 高齢職員が力を発揮できる居場所づくりに注力  渡邊園長は今後の展望について、次のように語ります。  「人材不足が深刻化するなかで、年齢にかかわらず、個々の意欲、能力、体力に応じて最大限に力を発揮できる居場所をつくり続けたいです。大先輩たちの活躍が園にとって不可欠ですから」とあらためて高齢職員への期待を語り、内田プランナーは「今後も同園に寄り添いながら、可能なかぎり支援していきたいです」と伝えていました。  ひかりの家は、プランナーとの継続的な連携により実態に即した制度設計を実現し、高齢職員の豊富な経験と専門性を組織運営の核として活用していました。一人ひとりの職員を大切にする理念が、世代を超えた活躍の場を生み出し続けています。 (取材・西村玲) 内田美幸プランナー アドバイザー・プランナー歴:6年 [内田プランナーから] 「訪問の目的をしっかり伝え、制度化に一歩でも近づけるよう70 歳までの就業機会の確保について、ていねいな説明を心がけています。訪問先の貴重な時間をいただいているので、実状をよく聞き、法改正の情報など一つでも役立つアドバイスができるよう努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆山梨支部高齢・障害者業務課の竹内一郎課長は内田プランナーについて、「最新の法改正や関連する情報の提供を行いつつ、各企業に即した人事労務管理や賃金体系の整備、評価制度の導入など具体的なアドバイスを行い、企業から厚い信頼を得ています。地域ワークショップでは講師を務めるなど、支部にとって欠かせないプランナーの一人です」と話します。 ◆山梨支部高齢・障害者業務課は、JR身延(みのぶ)線の甲斐住吉(かいすみよし)駅から徒歩約15分。南甲府警察署の真向かいに位置する山梨職業能力開発促進センター(ポリテクセンター山梨)内にあります。周辺には小・中学校や高等学校が点在。サッカーJ2リーグのヴァンフォーレ甲府の本拠地スタジアムもあります。 ◆同県ではプランナー5人が活動しており、2024年度の県内事業所訪問では189件の相談・援助を実施し、48件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●山梨支部 高齢・障害者業務課 住所:山梨県甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 電話:055-242-3723 写真のキャプション 山梨県西八代郡市川三郷町 社会福祉法人ひかりの家 渡邊美南子園長 保護者の相談に乗る佐野充保さん 学校と保護者へのメールを作成する二宮洋子さん 【P58-59】 第109回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  加藤譲二さん(70歳)は、22歳のときに大型自動車の運転免許を取得、それから半世紀近く大型トラックのハンドルを握り続けてきた。手入れの行き届いたトラックで安全運転第一を心に刻み、いまも現場の第一線で働く加藤さんが、ドライバーとして生涯現役を貫く心意気を語る。 菱木(ひしき)運送株式会社 トラックドライバー 加藤(かとう)譲二(じょうじ)さん 大好きな世界に飛び込めた喜び  私は千葉県八街(やちまた)市の生まれです。4人兄弟の2番目で、母は女手一つで4人の子どもを育ててくれました。早く母を楽にさせたいという気持ちから、中学校を卒業すると水道工事会社に就職しました。幼いときから自動車が大好きで、自分もいつかは大きな自動車を乗り回してみたいという漠然とした夢がありました。まずはオートバイの免許を取り、自動車の普通免許が取れる年齢になるのをひたすら待ちました。18歳になって念願の自動車の免許を取得、当時は普通免許で4t車まで運転することができましたので、4t車に乗れたときはとてもうれしかったことを憶えています。次に目ざしたのは大型トラックの免許です。大型トラックの免許取得には普通免許を取ってから3年以上経過しなければなりません。私は22歳で大型免許を取得しましたが、ここが長いトラックドライバー人生の始まりです。すぐに個人経営の運送店にお世話になり長距離もこなすようになりました。  人との出会いとは不思議なもので、荷卸しなどで何度か出会ったトラックの、手入れがあまりにも行き届いていたことに心が惹かれました。思い切ってたずねてみると、そのトラックのドライバーは菱木運送の先代社長でした。社長自らが大型トラックを乗りこなす姿にほれ込んで、菱木運送で働いていた知人に口を利いてもらい、めでたく菱木運送への入社を果たしました。  八街市は日本を代表する落花生(らっかせい)の生産地。その生産に適している火山灰地は粒子が細かく乾燥すると風で舞い上がる。砂ぼこりの中を走り抜けてきた加藤さんのトラックは美しく磨き抜かれていた。先代社長の教えが生きている。 好きこそものの上手なれ  25歳で菱木運送へ入社して、気がつけば45年が経ちました。入社したときは私が一番の若手で、先代社長からドライバーの心構えを教わりました。そして、先輩ドライバーたちの背中を追いかけながら夢中で腕を磨いたものです。時代は高度成長期に向かっていましたから物流業界も景気がよくとても忙しかったです。荷積みや荷卸しは機械化されていなかったので体はきつかったのですが、やりがいもありました。トラックドライバーは運転だけしていればよいわけではありません。安全運転のためにタイヤやオイルのチェックはもちろん、洗車するときも濡らしてはいけない部分に注意するなど、ハンドルを握っていないときにこなすべき作業は無数にあります。それをていねいに行うことが安全運転につながります。自分のトラックを大切に扱うことがドライバーの心得の第一条なのです。先代社長のトラックの美しさに惹かれたのが縁で入社させてもらったので、トラックの手入れには、いまでも心を込めています。  65歳までは、大型トレーラーも動かしていました。トレーラーで名古屋や大阪まで行って、行く先々で仲間ができて楽しかったです。大型特殊免許は入社してから会社で取らせてもらいました。感謝しかありません。  トラックの安全走行に心を配る加藤さん。トラックが出入りする際にご近所の樹木の枝にぶつかることがないように、木の枝の剪定をお願いしに行く加藤さんの姿を目撃した同僚もいる。加藤さんの存在そのものが若手を育てている。 アイデアマンの二代目の挑戦  大好きなトラックの仕事ですが、体力的にきついので、会社がドライバーの働き方改革に積極的に取り組まなければ、70歳まで働き続けてこられなかったかもしれません。  先代亡き後、二代目を継いだ現社長は無類の車好きで、無類のアイデアマンです。現社長が開発した「乗務員時計」というスマートフォンのアプリがあります。あとどれくらい運転ができるのか、休憩時間がどれくらいあるのかがリアルタイムでわかります。お客さまから追加の仕事の依頼があってもアプリで表示される時間を根拠に断ることができます。現社長によれば、労働基準監督署から法令順守の一部ができていないことを指摘されたことがアプリの開発のきっかけになったそうです。業務中に守るべき情報を運転手と運行管理者にリアルタイムで表示できるこのアプリは、18年前から改良を重ね特許も取得しました。現社長は幼いころからよく知っていて、私のトラックの助手席に乗せたこともあります。ドライバーに寄り添う風土を先代から見事に受け継いでくれています。 仕事を誇りに生涯現役を目ざしたい  私たちは、かつて「運ちゃん」などと呼ばれたものです。最近では「ドライバーさん」とていねいに呼んでくれるお客さまも増えて、時代は変わるものだと思います。  私の現在の勤務ですが、例えば午前4時から5時の間に会社を出発して、埼玉で時間指定の荷卸し。そこから群馬まで走って荷を積み、千葉で荷卸ししてから14時前後に退勤するといった具合です。昔のような待ち時間が解消されたのは、この業界の進歩なのでしょう。予定が無事こなせたときは達成感があり、これがモチベーションにつながっています。お客さまに喜んでいただいたときは、お役に立てたことがうれしくてたまりません。  いつも朝が早いので、夜9時には睡魔に襲われます。安全運転のためには質のよい睡眠が欠かせないと考え、睡眠時間には気を遣っています。お酒はほとんど飲みませんし、たばこも若いころ吸っていましたがきっぱりやめました。体調管理が長く働き続けるコツだと思います。当社には、現在33人の従業員がいますが、私が最高齢で勤続年数も一番長いので、ほかの従業員のお手本にならなければと気を引き締めています。  これといった趣味もないのですが、一つあげるとすればコンサートに出かけることです。サザンオールスターズのコンサートによく出かけていましたが、いまは矢沢(やざわ)永吉(えいきち)にぞっこんです。彼がソロとして独立する前の時代から、大きなバイクに乗ってコンサート会場に駆けつけたものです。彼はたしか、現在76歳、まさに生涯現役で励まされます。  オートバイの免許を取ったときから、いつも次の目標を決めて歩いてきたように思います。若い人たちには目標をしっかり持ってほしいと伝えたい。そして好きなことに夢中になってほしい。いまは、自分が働くことでだれかの役に立ちたいという気持ちが一番強いです。  最近は高齢者の運転が何かと話題になることが多いですが、自分の運転がおろそかになり出したと感じたら、そのときが引退するときだと思っています。しかし、ハンドルを握った瞬間、もう少しがんばろうと思えるのですから、人生とは愉快なものです。 【P60】 次号予告 12月号 特集 高齢社員のワーク・エンゲージメントの高め方 リーダーズトーク 田中研之輔さん(法政大学 キャリアデザイン学部 教授) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 JEED メールマガジン 好評配信中 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●当機構(JEED)では、10月3日(金)に「令和7年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催し、高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業の表彰式のほか、基調講演、受賞企業によるトークセッションなどを行いました。基調講演、トークセッションの模様は、本誌2026年1月号でご紹介する予定です。また、アーカイブ配信も行っていますので、興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。 ●今号の特集では、前号に引き続き、高年齢者活躍企業コンテストより、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞した企業10社の取組みをご紹介しました。多彩な取組みが満載ですので、ぜひ高齢者雇用の推進にお役立ていただければ幸いです。 ●6月号からお届けした連載企画「学び直し≠科学する」は今回で最終回です。人生100年時代を迎え、生涯現役で活躍していくためには、リスキリング・学び直しにより、知識や技術をアップデートしていくことが欠かせません。しかしその一方で、勉強から長い時間離れていたミドル・シニア世代にとって、新たなことを学ぶのは簡単ではありません。ぜひ本企画を参考に、脳の特性を活かしながら、モチベーション高く、何より楽しく学び直しに取り組んでいただければ幸いです。 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー11月号 No.552 ●発行日−令和7年11月1日(第47巻 第11号 通巻552号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 鈴井秀彦 編集人−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.357 お客さまの要望に応えて綿を選び布団を仕立てる 寝具仕立工 熱方(あつかた)勉(つとむ)さん(73歳) 「若いころは勢いだけでした。経験を重ね精神的に余裕ができたので、この仕事をもっと深めて、いろいろなことに挑戦したいと思います」 綿の仕入れ、製綿から仕立てまで幅広く活躍  「布団のできの良し悪しは、綿で決まります。よい綿布団は、体をしっかり支えてくれるので疲れません」と話すのは、株式会社和泉屋(いずみや)製綿所(せいめんじょ)(東京都狛江(こまえ)市)で工場長を務める熱方勉さん。  布団づくり一筋50年以上のベテラン職人で、2024(令和6)年に「東京マイスター」を受賞した。現在、週3日は工場で布団の中に入れる綿を綿花からつくる製綿をにない、後の2日は布団の仕立てに従事と忙しい日々を過ごしている。  同社の特徴は、自然素材を使い、顧客の体格や要望に合わせたオーダーメイドの布団づくりを行っていることだ。  「布団は、製綿して繊維の向きを整えたシート状の玉綿(たまわた)を重ねて仕立てます。敷き布団なら20枚前後です。玉綿1枚でもかなりの違いがあります。例えば、ふだんの寝方が仰向(あおむ)けか横向きかによって厚みを変えたり、腰の悪い人なら腰の部分に綿を2枚多く入れたりするなど、お客さまの声をふまえて仕立てます」  現在、同社では8種類ほどの綿を用意し、顧客の要望に合わせて使い分けている。  熱方さんのもとには、ほかの布団店の職人からも「おたくじゃなければダメだ」と綿の注文が入る。熱方さんがつくる綿の均一な厚さが、職人仲間にとっても仕立てやすいと好評なのだそうだ。 技能士会に入会し仕立てを学び直す  熱方さんがこの道に入ったのは18〜19歳のころ。当時交際していた女性(後に妻となる)の父にあたる同社の先代社長に気に入られて働き始めた。  「もともと父が兼任で職人の仕事もしていたので、職人になることに抵抗はありませんでした」  当初は先輩に学びながら仕立ての仕事を始めたが、入社半年後に先代社長が体調を崩し、製綿工場を担当することになった。受注が多かった時代なので、新しい機械を導入して工程を改良することで、生産効率を大幅に向上させ、先代社長の期待に応えた。  工場を担当するようになってからも、夜は仕立ての仕事を続けた。そして工場の稼働が減ってきた10年ほど前、東京都寝具技能士会に入会し、顧客の体調や寝姿勢に合わせた綿の入れ方を学び直した。  「例えば、逆流性食道炎の人には背中の部分を高くするといった、お客さまに合わせたさまざまな寝具の工夫の勉強を続けています」 後継者を無償で育成し仲間を増やす  布団業界でも職人の高齢化が進んでいる。熱方さんは後継者の育成に熱心で、技能士会からの依頼で希望者を受け入れ、仕立ての技術をボランティアで指導する。  「お金を取らないのは、彼らを仲間だと思っているからです。慕ってきてくれるだけでうれしいですし、教えることは自分の勉強にもなりますから。彼らにつねにいっているのは『このレベルで終わってはダメだよ』ということです。ある程度のレベルに達すると、そこで満足して成長が止まってしまいがちです。布団づくりは奥が深い。その先を目ざすことを大事にしてほしいと思っています」  また、小学校の家庭科の授業でも座布団づくりを教えている。  「綿に実際に触ってもらい、こんな世界があることを子どもたちに知ってもらうだけでも価値があると思っています」  仕事への探究心も衰えていな い。現在は衛生面で効果があるとされる柿渋(かきしぶ)染めの布団カバーづくりに挑戦している。  「年を重ねるほど、この仕事をもっと深く追究したいと思います」  大事にしているのは、綿や布団の仕上がりについてお客さまの声を聞くこと。特に、職人仲間に褒めてもらえるとうれしいと話す。  顧客の声に耳を傾け、1枚1枚ていねいに仕上げる姿勢は変わらない。50年以上をかけて磨き上げた技術と探究心で、今日も心地よい布団をつくり続けている。 寝具工房いづみや 株式会社和泉屋製綿所 TEL:03(3489)1711 https://wata-izumiya.com (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション ちぎってサイズを変えた玉綿を、幾重(いくえ)にも重ねて座布団の形に仕立てる。ちぎるサイズや厚さは、長年の経験でつちかわれた感覚で判断している 右ページの写真からあっという間に座布団の形に仕立てられた。座ったときにひざなどが乗る位置も意識してつくられている 「座布団に始まり座布団に終わる」といわれるほどむずかしいとされる座布団の製作。最もむずかしいのが、四つの角への綿入れ。しわが寄らないように綿を配分する 熱方さんがこだわるのが綿の品質。インドのアッサム地方の最高級品で、繊維が短く太いのが特徴 原料の綿花の繊維の方向を整えて製綿するカード機。熱方さんが入社する前から何十年も現役で活躍し続けている 製綿されてできあがった、薄いシート状の玉綿。この玉綿を複数枚重ねて布団を仕立てていく。熱方さんのつくる玉綿は厚さが均一で、職人仲間からも好評だ 柿渋で染めた生地を天日(てんぴ)で干す。ひび割れを防ぐため、薄い重ね塗りをくり返す。「自然相手に楽しみながらやっています」 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  漢字は表意文字であり、単なる発音記号ではなく「形」、「意味」、「音」が複雑に組み合わさっています。そのため、ひらがなやアルファベットよりも多面的な情報処理を必要とします。 ・視覚的処理:部首や形のパターンを認識する=右脳的要素が強い ・意味理解:語義や使い方を思い出す=左脳の言語野が関与 ・音韻(おんいん)処理:読み方(訓読み、音読み)を想起する  これらにより、記憶・注意力・ワーキングメモリの同時活性化がうながされます。 第101回 四字熟語リング 目標 5分 〈リスト〉の四字熟語を四角の中に時計回りにあてはめます。 四字熟語の最初の文字がどこから始まるかは、推理しながら解いてください。 【例】 投 合 帯 気 意 誠 温 候 誠 心 〈リスト〉 意気投合 温帯気候 誠心誠意 会 〈リスト〉 □一方通行 □液体燃料 □会者定離(えしゃじょうり) □学位論文 □三位一体(さんみいったい) □戦国大名 □通常国会 □日常会話 □薬師三尊(やくしさんぞん) 脳を鍛える漢字トレーニング  漢字を使った脳トレでおすすめしたいのが、まずは「手で書くこと」です。スマートフォンやパソコンより、手書きのほうが理解や思い出しに有利という研究もありますし、そもそも脳は手書きによってより活性化します。  次に、「声に出す」などの出力する行為を加えましょう。これはプロダクション効果と呼ばれ、声に出して読むほど思い出しやすくなる現象です。最近の実験でも、声出しが記憶の手がかりを強くすることが示されています。  三つめは「思い出す」ことです。読み返すだけではなく、自力で引き出すことが、長い目で見ると効果的です。これは「テスト効果」や「想起(そうき)練習」と呼ばれ、短い文章の学習でも、再読より想起のほうが成績がよくなるといわれています。  四つめは「間隔をあけて、何度も行う」ことです。勉強の世界では間隔効果がよく知られており、例えば、1日後、1週間後、1カ月後と間隔をあけて復習することで、その内容が身につき、脳に定着していきます。認知機能の向上につながりますので、おすすめします。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 名 戦 者 定 大 国 会 離 日 常 通 行 燃 料 話 会 方 一 体 液 学 位 三 尊 文 論 師 薬 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年11月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 令和8 年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしております。 取組内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 応募締切日 令和8年2月27日(金) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください。 ※詳細はホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html 2025 11 令和7年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第47巻第11号通巻552号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会