【表紙】 令和7年12月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第12号通巻553号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 2025 12 特集 高齢社員のワーク・エンゲージメントの高め方 リーダーズトーク ミドルシニアが主体的にキャリアを開拓 キャリアの再設計のために積極的支援を 法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔 【表紙裏】 申込不要・いつでも視聴可能! JEED CHANNELで公開中 −令和7年度− 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  10月に開催された「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」と、オンライン配信で開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  基調講演や先進企業の最新事例発表など、お手元の端末(パソコン、スマートフォン等)でいつでもご覧いただけます。 YouTubeにて (JEED CHANNEL) アーカイブ配信中 視聴方法 JEEDホームページより STEP.01 機構について STEP.02 広報活動 (SNS・メルマガ・啓発誌・各種資料等) STEP.03 JEED CHANNEL(YouTube動画) STEP.04 「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」の欄からご視聴ください ※事前申込不要(すぐにご覧いただけます) 以下の内容を配信中です 2025年10月3日(金)開催 高年齢者活躍企業フォーラム ●表彰式 ●事例発表 ●基調講演 ●トークセッション 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム ●基調講演等 ●事例発表 ●事例発表者とコーディネーターによるパネルディスカッション 10月16日(木)開催 これからのキャリア形成支援 自律的キャリアはなぜ難しい? ――ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか 10月24日(金)開催 シニア社員を活性化するための人材マネジメント 組織の活性化に貢献! ――シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 JEEDのYouTube 公式チャンネルはこちら JEED CHANNEL 検索 https://youtube.com/@jeedchannel2135 【P1-4】 Leaders Talk No.127 ミドルシニアが主体的にキャリアを開拓 キャリアの再設計のために積極的支援を 法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔さん たなか・けんのすけ 専門はキャリア論、組織論。日本学術振興会特別研究員などを経て、2008(平成20)年に法政大学キャリアデザイン学部に着任。2018年より現職。一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事をはじめ、企業の社外取締役・社外顧問なども務める。『これからのキャリア開拓』(中央経済社、2025年)などキャリアに関する著書多数。  企業に70歳までの就業確保措置の努力義務が課されているように、生涯現役時代を迎えたいま、就業期間は延伸傾向にあります。そのようななかで働く人に求められているのが、キャリアを自らの力で切り拓いていくための「キャリア自律」です。  今回は、ミドルシニアのキャリア形成に詳しい、法政大学教授の田中研之輔さんにご登場いただき、キャリア自律が求められる背景や、ミドルシニアにおけるキャリア形成のポイントについて、お話をうかがいました。 組織にキャリアを預ける時代から自ら考えキャリアを開拓する時代へ ―「キャリア自律」という言葉に代表されるように、働く人が自身のキャリアを自ら切り拓くことが求められてきています。なぜキャリア自律が必要なのでしょうか。 田中 まず働く期間が長くなってきたことがあげられます。健康寿命も延びていますし、いま50歳であれば、70歳まで働くとしても20年もあるわけです。一方で、私たちが思っている以上に、生成AIに代表されるようにテクノロジカルイノベーションがものすごいスピードで進んでいます。この変化に対応し生涯現役で働き続けるためには、一人ひとりがキャリアを自分で考えるキャリアオーナーシップを持ち、自分のビジネススキルを磨きながらキャリアを形成していくことがとても重要な時代になっています。  これまでは組織にキャリアを預け、評価されて昇進し、50代半ばで役職定年を迎える、というのが一般的なキャリアの歩みでした。ですが、いまは組織にキャリアを預ける時代ではなく、一人ひとりが自分で考えて新たなキャリアにチャレンジしなければいけない時代といえます。  ミドルシニア世代のキャリア形成においても大きな転換期を迎えているととらえています。政府もそのことに気づいて副業・兼業をすでに推奨していますし、大企業も副業・兼業の解禁だけではなく、何歳からでも新しい仕事にチャレンジできる社内公募制度の拡充にも力を入れています。 ―企業も“社員一人ひとりがキャリア自律しなければ企業も成長しない”と気づいたということでしょうか。 田中 企業が何に直面したかといえば、“優秀な人材を獲得しても長年仕事を任せていると停滞してくる”という事実です。この停滞を「キャリアプラトー」と呼んでいます。ポテンシャルの高い人たちが経験を積んでプロフェッショナルとして長年働いていれば、本来はできることが増えていかなければいけませんが、組織での役割が限定され、固定化されるようになり、キャリアプラトーに陥ってしまうのです。それを打破するためには、副業・兼業や公募制など新しい行動に自ら挑戦するキャリア自律の支援が不可欠になります。 ―実際に働くミドルシニアは、どのようなキャリア上の悩みを抱えているのでしょうか。 田中 例えば、50歳前後には非管理職の人も多いですが、「がんばっているのに組織のなかで評価されなくなる」、つまり客観的な評価を受けづらくなることがあげられます。あるいは、部長職に昇進している人のなかにも「その先が見えない」という悩みを抱えている人がいます。  また、「自分の能力が高まっているのかがわからない」と悩む人もいます。例えば100m走であれば、いまの15秒という記録を来週までに14.5秒に縮めるという目標を立て、そのための練習プログラムは簡単につくることができますが、ビジネスの世界ではむずかしいのです。50歳の人が「来週までに能力を上げよう」といったときに、何のどういう能力なのかをだれも規定してくれないので、キャリアプラトーに陥ってしまいます。  人間は本人が思っている以上に能力が高く、一度物事を解決すれば大概のことができてしまいます。例えば重要な商談を成功させると、そのスキームですべて回るので刺激がなくなります。自発的にトレーニングを積むことができる人は能力のレベルが上がっていきますが、そうではない40〜50代の中高年層のほとんどが停滞します。私も多くの人にインタビューし、さまざまなデータを分析しましたが、こうした傾向はどの業界にも共通しています。私はそれをだれもが直面する“キャリアの風邪”、あるいは“キャリアの沼”と呼んでいます。風邪ですから当然、処方箋がありますし、マインドセットやキャリアアップリスキリングによって処方し、キャリアの沼から抜け出せといい続けています。 「キャリア資本の蓄積」を軸に自分のあるべき姿を具体的にイメージ ―キャリアの沼から抜け出し、一人ひとりが自らのキャリアを切り拓いていくにはどのような取組みをすればよいのでしょうか。 田中 抜け出すには、まず50歳を超えたら副業でもよいので個人事業主として自分の屋号を持ってほしいですね。副業によってキャリアの幅を広げるのです。「不動産や自動車を所有し、長く使えばメンテナンスやリノベーションするのに、50代になっても昇進や評価を組織に預けたままで、どうして自分でキャリアのメンテナンスはしないんですか」というと、みなさんハッとします。  キャリアを開拓する際に大切なのは、働くことを通じて世の中に何を残したいのかを言語化することです。私たちは別に給料のためだけに働いているわけではありません。私がおすすめしているのは、「キャリア資本の蓄積」を軸にした自分の「あるべき姿」をできるだけ具体的にイメージ・言語化して、中期キャリア計画シートを作成することです。だれでも働く経験を通じて何らかのキャリア資本を蓄積しています。まずどんなキャリア資本を蓄積しているかを整理、つまりキャリアの棚卸しをします。そのうえで、5年後、10年後にどのように働きたいのかを、獲得したいキャリア資本に分解して言語化します。  キャリア資本には、@ビジネス資本、A社会関係資本、B経済資本の三つがあります。経済資本は金銭的資産や投資などです。ビジネス資本は学歴、職歴、資格やこれまでつちかったスキルとこれから自分がやっていきたいことです。例えば何かを伝える、まとめる、分析すること、商談の成功などです。社会関係資本は社内・社外、友人、地域などの人的ネットワークです。じつは成功している人のキャリアを分析すると、ビジネス資本と社会関係資本の二つを蓄積し続けている人ほど経済資本を手に入れている人が多いです。逆に「半年間でこの二つをどれだけ貯めていますか」と質問すると、停滞している人ほど貯まっていません。半年間同じ仕事しかしていない、ネットワークも社内にかぎられる人が多いのです。 ―ビジネス資本と社会関係資本を、つねにアップデートしていくことが重要ということですね。 田中 私自身も30歳までの初期キャリア形成期、45歳までの中期キャリア形成期にどんな資本を蓄積したのかを整理し、45歳から70歳までに自分が何をしたいのか、働くことを通じてどんなアウトプットを出していくのかという「後期キャリア形成期」の計画を立てアップデートしていますし、さらにその先の70歳から100歳までの「ポストキャリア形成期」のシート項目の作成も始めました。キャリア資本を貯める突破口としては兼業をおすすめします。資本を貯めていくという行動習慣を50歳から始めてほしいと思います。 社内・社外兼業の仕組みの整備が重要 人事担当者自身の個人事業主化に期待 ―ミドルシニアのキャリア資本の形成を支援していくために、企業にはどのような取組みが求められますか。 田中 大企業の経営陣からも同じ質問を受けますが、私は「兼業」と答えています。社外がむずかしいなら「社内兼業」もおすすめです。社内兼業ができる仕組みを整備し、さらに異動先を自ら選べる公募制も拡充すべきでしょう。  マインドセットも重要です。そのためにキャリア開発研修を実施し、そのなかでキャリア開発診断を受けることも有効です。私がつくった「キャリアAIドック」は60の設問があり、いまのキャリアの状態を点数化することができます。  そのうえで本人が自らのキャリアについて語る1on1による「キャリア対話」を重ねながら伴走し、キャリア開発のために社内兼業がよいのか、社外兼業がよいのかを考えたり、あるいは自身に足りない部分については自己学習をしたりします。eラーニングや対面型の学習講座によるトレーニングも効果的です。  こうした取組みを半年間行い、もう一回キャリア診断を受けると点数も上がり、キャリアの状態も好転します。企業としてはキャリアの再設計のために一連の流れをパッケージで用意し、それをくり返し回していくようにすると、確実にパフォーマンスも上がってきます。 ―キャリア形成支援にたずさわる経営者や人事担当者にアドバイスをお願いします。 田中 社員一人ひとりの可能性を最大化させるために、経営者や人事のみなさん自身がキャリア開発のプロデューサーになっていただきたいですし、プロデューサーに必要な知見を自ら学んでほしいと思います。例えばキャリアに関する最先端の理論を学ぶ、AIを使ってどのように個々人のキャリアに伴走するかも大切ですし、そこはつねにアップデートし続けることがとても重要です。そして人事担当者ご自身もぜひ「個人事業主化してください」といいたいですね。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 December No.553 特集 6 高齢社員のワーク・エンゲージメントの高め方 7 総論 高齢社員とワーク・エンゲージメント −人手不足時代の「戦略的人材」から「価値創出の主役」へ− 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授 竹内規彦 11 解説1 高齢社員のワーク・エンゲージメントを高める組織マネジメント 株式会社セカンドエール 代表取締役 橋伸典 15 解説2 高齢社員に求められるマインドセットとリスキリング 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役CEO社長 宮島忠文 19 解説3 ワーク・エンゲージメントを高めるための健康経営からのアプローチ 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志 23 コラム 日常的な「ありがとう」の重要性 一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事 大野萌子 1 リーダーズトーク No.127 法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔さん ミドルシニアが主体的にキャリアを開拓 キャリアの再設計のために積極的支援を 24 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 【第5回】 ある介護福祉施設の助成金活用事例@ 30 偉人たちのセカンドキャリア 第12回 自分の余命を楽しんで生きた“東洋のルソー” 中江兆民 歴史作家 河合 敦 32 高齢者の職場探訪 北から、南から 第160回 岐阜県 新世日本金属株式会社 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第110回 労働者協同組合事務局 ワーカーズ・コレクティブJam 渡部 惠さん(73歳) 38 ジョブ・クラフティング入門 【最終回】 シニア社員のジョブ・クラフティングの支援 岸田泰則 42 知っておきたい労働法Q&A 《第89回》 高齢者の体調不良と安全配慮義務、解雇後の再就職と就労の意思 家永 勲/木勝瑛 46 新連載 諸外国の高齢化と高齢者雇用 【第1回】 アメリカ合衆国 藤本 真 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第62回 「36協定」 吉岡利之 50 特別寄稿 中小企業(建設業)における高齢社員と若手社員の効果的なコミュニケーション 〜『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック』より 玉川大学経営学部 教授 大木栄一 54 BOOKS 56 ニュース ファイル 58 「令和8年度高年齢者活躍企業コンテスト」のご案内 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.358 アナログ制御の機械で精度の高い箔押を実現 箔押印刷工 渡辺 繁さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第102回]いちばん多いものはどれ? 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」は休載します 【P6】 特集 Work engagement 高齢社員のワーク・エンゲージメントの高め方  人生100年時代を迎え、職場における高齢者の就業期間は延伸傾向にあります。一方で、役職定年や定年後再雇用による職責や業務、役割の変化に直面し、仕事へのモチベーションが低下してしまう高齢社員も少なくありません。しかし、少子高齢化などによる人手不足に対応していくためにも、高齢社員にはモチベーション高く、会社の戦力として長く活躍してもらう必要があります。  そこで大切なのが「ワーク・エンゲージメント」です。ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対して熱意や活力が高い、充実した心理状態のこと。ワーク・エンゲージメントが高い職場では、仕事に活き活きと取り組むことができ、生産性の向上も期待されます。  今号の特集では、高齢社員のワーク・エンゲージメントを高めるためのポイントについて解説していきます。 【P7-10】 総論 高齢社員とワーク・エンゲージメント −人手不足時代の「戦略的人材」から「価値創出の主役」へ− 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授 竹内(たけうち)規彦(のりひこ) @いま高齢社員の活躍が重要な理由  わが国では、65歳以上の就業者が930万人(2024〈令和6〉年)に達し、就業者全体に占める65歳以上の就業者の割合も13.7%まで高まり、過去最高となっています(図表1)。つまり、働く人の約7人に1人は65歳以上という状況です。高齢層の就業率も上昇が続き、65〜69歳は53.6%、70〜74歳は35.1%、75歳以上は12.0%(2024年)と、いずれの年齢階層でも過去最高です★1。人手不足が慢性化するなかで、高齢社員は労働供給の「埋蔵資源」ではなく、すでに各現場の生産性と品質を支える「戦略的人材」の役割をになっています。  価値創出とは、単なる「生産性の底上げ」ではありません。現場の言葉に置き換えれば、@信頼性、A顧客価値、B知の継承と改良、C組織のしなやかさの四つです。  「信頼性」は、工程やサービス提供の流れが日々ぶれずに機能することをさします。例えば、欠陥率やヒヤリハットの記録、手戻り件数などは、現場で日常的に見ている数字です。  「顧客価値」は、顧客の手元に届く対応の質と一貫性です。問合せ対応時間、約束の遵守率、再購入の割合などが代表例です。  「知の継承と改良」は、ベテランが知っている要点を言語化し、次の担当者に渡し、少しずつ改善が積み重なることを意味します。標準手順の更新回数や、作業手順の変更が不具合減少につながった割合などで可視化できます。  「組織のしなやかさ」は、想定外の事態が起きたときの判断と回復の速さです。代替手順の整備や、回復までに要した時間の短縮などが参考になります。  これらは部門を問わず、製造・サービス・バックオフィスでも読み替え可能です。いずれも単一の指標では測りにくいものですが、組織の収益・評判・持続性を背後から支える重要な価値に相当します。 Aエンゲージメントによる「価値」の創出  昨今、「エンゲージメント」という言葉を日本の職場でもよく耳にするようになりました。学術的には、大きく二つの流れがあります。一つめは、健康心理学の流れを汲むもので、1990年代後半にバーンアウト(燃え尽き症候群)の反対の概念としてエンゲージメントという言葉が使われ始めました。その後、2000年代初頭に、当時、オランダのユトレヒト大学に所属していた組織心理学者のウィルマ―・B・シャウフェリが「活力・熱意・没頭の3側面からなる、前向きで充実した仕事への心理状態」として定義し、測定尺度も開発されました。これが「ワーク・エンゲージメント(Work engage-ment)」です。  一方で、経営学者も1990年代初めごろに、職場におけるエンゲージメントについて論じ始めています。アメリカのボストン大学に所属する組織行動(経営学)の研究者、ウィリアム・カーンは、個人の「役割」に注目する「ジョブ・エンゲージメント(Job engagement)」という概念を提唱します。これは、「個人が身体的・認知的・情動的エネルギーを役割遂行にどれだけ投入したか」をさす概念です。つまり、個人が組織で果たすべき役割に、@実際に手と体を動かし(身体的)、A頭の中を集中させ(認知的)、そしてB熱意を持って楽しく(情動的)遂行できている状態が、ジョブ・エンゲージメントの高い状態といえます。  本稿では、ワーク・エンゲージメントとジョブ・エンゲージメントの重なる部分を「エンゲージメント」(図表2)と定義します(以降、両者を区別する必要がある場合を除き、エンゲージメントと記します)。  二つの見方を合わせて考えると、ワーク・エンゲージメントは心身の健康の維持や注意の持続により効果的な働きをし、ジョブ・エンゲージメントは手順の正確さ、処理の速さと質、協働の円滑さにより効果的な働きをします。両者が同時に一定水準にあると、健康と職務パフォーマンスの両立が現実的になります。その結果として、信頼性(止まらない・事故が少ない・欠陥が少ない)、顧客価値(対応の速さと質、継続利用)、知の継承と改良(要点の言語化と更新)、組織のしなやかさ(異常時の判断と回復)にかかわる行動が増え、日常の運用として定着します。 Bエンゲージメントの効果―量的根拠をもとに  ここで、エンゲージメントが組織や個人にどのような効果をもたらすのかを確認します。米国の世論調査会社ギャラップの研究では、11万を超える事業・職場単位の分析を行い、エンゲージメントの高い職場は、そうでない職場に比べて、総合的なパフォーマンスが明らかに良好であることが示されています。顧客が離れにくい、利益や売上げが伸びやすい、欠勤や離職が少ない、安全や品質のトラブルも起きにくいという結果が一貫して見られます。  特に、エンゲージメントの高い職場(上位四分位)は、低い職場(下位四分位)に比べ、利益、顧客ロイヤルティ、生産性(売上げ)が、それぞれ+23%、+18%、+10%高いと報告されています★2。  これは「たまたま起きた差」というより、多くの現場で確認される傾向だと理解して差しつかえありません。すなわち、エンゲージメントの高い職場は、価値の土台が厚いといえます。  個人レベルでも、多くの研究がタスク・パフォーマンスと周辺行動(協力・支援など)に対する有意な関連を示しています。ジョブ・エンゲージメントの系譜からも、役割への自己投入がタスク成果や協力行動を通じて成果に結びつくことが示されています。ここで強調したいのは、エンゲージメントは個人の一時的な気分ではなく、仕事の進め方・役割の受けとめ方にかかわる「働きぶりの質」を表している点です。したがって、評価や配置に直結させるというより、業務とチーム運営の改善に活用するのが適切です。  また、従業員満足(近縁概念)と企業価値の関係を市場データで検証したある研究では、従業員満足度が高い企業の長期的な超過収益が確認されています。人への投資が持続的価値につながる経営が、経営学とファイナンスの双方から観測されています。ここでも、短期の数字の上下ではなく、数年単位の傾向としてとらえる姿勢が求められます。 Cなぜ「高齢社員×エンゲージメント」なのか  高齢社員は四つの価値に関して、いくつかの強みを持ちます。第一に、加齢とともに情動の自己調整が進み、意味のある活動や関係を選ぶ傾向が高まることが示されています。筆者の研究でも、年齢が高いほどエンゲージメントが高まる傾向が報告されています(図表3)。職務上の困難があっても、落ち着いて対処し、重要度の高い事柄に意識を集中できることが、信頼性の維持や顧客対応の安定に寄与します。  第二に、経験知の統合です。技術や規格が変わっても、「どこでミスが起きやすいか」、「お客さまが何に困るか」といった実践知は、信頼性と顧客価値の基盤になります。経験知は単に伝えるだけでは定着しません。要点を言葉にし、手順に落とし込み、実務の場面で使ってみて、修正をくり返すことが大切です。この流れのなかで、役割の自覚があるほど、どの要点を伝承すべきか、どの順序で教えるべきかが整理されます。ここでもエンゲージメントがかかわります。  第三に、現実の緊張です。役員を除く65歳以上の雇用者では非正規割合が76.9%と高く、役割や処遇の連続性が揺らぎやすいという構図があります★1。人手が足りないから「活用する」のではなく、価値創出の主役にふさわしい役割像とその期待を言葉にして迎え入れられるかが問われます。役割が明確で、期待が伝わっているほど、エンゲージメントは保たれます。肩書きの変更や雇用区分の違いがあっても、求められている役割を具体的に共有することが、現場での活躍を後押しします。 D背景としての労働市場  足もとで有効求人倍率は2025年8月に1.20倍です。一進一退はあっても、人手のひっ迫は解消していません。だからこそ、「だれをどう配置するか」ではなく「どの価値をどう高めるか」へ発想を切り替える必要があります。高齢社員を価値創出の主役に据えることは、欠員補充ではなく、現場で必要とされる価値の設計の問題です。配置や採用のむずかしさが続くなかでは、すでにいる人材の働きぶりの質、すなわち「エンゲージメント」を高め、チームとしてのばらつきを減らすことが、もっとも確実な強化策になります。 Eまとめ―価値の言語化とエンゲージメントの運用  結論として、エンゲージメントは価値創出を増幅する装置として位置づけられるでしょう。ワーク・エンゲージメントは仕事経験の質を、ジョブ・エンゲージメントは役割遂行への自己投入を反映しています。両者を重ね合わせたエンゲージメントは、心身の健康と職務パフォーマンスの両立を可能にします。具体的には、信頼性・顧客価値・知の継承・しなやかさという四つの価値を強める役割を果たします。日本の現場は、高齢社員の就業拡大という既成事実のうえに立っています。であれば、「戦略的人材」から一歩進め、「価値を生む主役」として言語化し直すことが重要です。  現在は、エンゲージメントの測定技術も進んでおり、多くの企業で社員へのエンゲージメント・サーベイが定期的に実施されています。しかし、測るだけでは、何も変わりません。測定結果をもとに、社内で語り合うこと、仕事をつくり直すことから、価値創出が始まります。高齢社員の力は、エンゲージメントの測定と対話と再設計で成果に変わるといえるでしょう。図表4は、本稿で提起する高齢社員のエンゲージメントと価値創出に関するフレームワークです。この図表が示す通り、エンゲージメントを運用に落とし込める組織が、四つの価値を着実に高めるのです。 【参考文献】 ★1 総務省統計局(2025).「統計トピックス No.146統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―」総務省 Retrieved from https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics146.pdf?utm_source=chatgpt.com ★2  Harter, J. K., Schmidt, F. L., Agrawal, S., Plowman, S.K., Blue, A., Josh. P., & Asplund. J. (2020). The relat ionship between engagement at work and organiz ational outcomes: 2020 Q12R meta-analysis: 10th edition. Gallup Poll Consulting University Press. 図表1 65歳以上の就業者数の推移(左軸)と就業者総数に占める65歳以上の就業比率の推移(右軸) (年) 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 (万人) 682 732 770 806 860 890 903 909 912 914 930 (%) 10.7 11.4 11.9 12.3 12.9 13.2 13.5 13.5 13.6 13.5 13.7 出典:総務省統計局(2025)「統計トピックス No.146統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―」より筆者作成 https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics146.pdf 図表2 エンゲージメント概念の整理 職務パフォーマンス向上 経営的視点 ジョブ・エンゲージメント −身体的 −認知的 −情動的 役割遂行への自己投入 エンゲージメント 心理的視点 ワーク・エンゲージメント −活力 −熱意 −没頭 前向きな心理状態 ウェルビーイング増進 ※筆者作成 図表3 加齢にともなう仕事・学習関連の態度変化 回答スコア 4.0 4.5 5.0 〜29歳 30〜39歳 40〜54歳 55歳以上 仕事満足度 仕事へのエンゲージメント 自律的学習 注:筆者のデータによる(回答者は、日本企業(複数・多業種)に勤務する正規社員) n=1,089(〜29歳=368名、30〜39歳=368名、40〜54歳=197名、55歳以上=156名) ※筆者作成 図表4 高齢社員のエンゲージメントを通じた価値創出に関するフレームワーク 経験知/関係資本 高齢社員×エンゲージメント 測定→対話→再設計 4つの価値 信頼性 (安心・安全)) 顧客価値 (ロイヤルティ) 知の継承 (OJT・標準化) しなやかさ (回復力) 組織成果 −売上高 −営業利益 −欠勤・離職低下  など ※筆者作成 【P11-14】 解説1 高齢社員のワーク・エンゲージメントを高める組織マネジメント 株式会社セカンドエール 代表取締役 高橋(たかはし)伸典のぶのり) @はじめに  高年齢者雇用安定法の改正により、「70歳までの就業機会確保」が企業の努力義務として位置づけられました。かつては“定年”が「職業人生の終わり」と考えられていましたが、少子高齢化の進行や平均寿命の延びを背景に、いまや「定年後も働き続けること」はごく自然な選択肢となっています。  企業にとっても、高齢社員の存在は「戦力の延長」ではなく「組織の知恵の継承」を意味します。一方で、高齢社員本人にとっては、立場の変化や健康面の不安など、新たな環境への適応が求められます。「モチベーションが下がってしまう」、「周囲に気を遣って意見をいえない」といった声も多く聞かれます。  しかし、長年にわたりつちかってきた経験や人脈、状況判断力は、若手にはない貴重な資産です。これらを十分に活かすためには、組織全体で高齢社員のワーク・エンゲージメント(仕事への熱意・活力・没頭)を高める取組みが不可欠です。 A高齢社員のワーク・エンゲージメントとは  ワーク・エンゲージメントとは、オランダの心理学者ウィルマ―・B・シャウフェリ氏らが提唱した「仕事に前向きに取り組む心理的な状態」を示す概念で、図表1の通り、三つの要素から成り立っています。  この三つの要素が高い社員ほど、生産性・幸福感が高く、離職意向が低くなることがわかっています。  高齢社員の場合、キャリアの終盤をどう過ごすかという「人生の再設計期」に差しかかっており、仕事との向き合い方に変化が起こりやすい時期でもあります。これまでのように昇進や給与アップを動機づけにできない代わりに、「人の役に立ちたい」、「経験を次世代に伝えたい」、「得意なことを活かしたい」といった“内面的な意義”がモチベーションの中心になります。したがって、管理職は「年齢を重ねた社員の価値観の変化」を理解し、それに応じた支援を行うことが求められます。 B高齢社員の立場・考え方を理解する  管理職のなかには「再雇用だからそんなに期待しない」、「若い人の成長を優先すべき」と考える方もいます。しかし、そうした認識は、高齢社員の自己効力感を損ない、結果的に職場全体の士気を下げてしまうことがあります。まずは、高齢社員がどのような気持ちで日々を過ごしているかを理解することが、適切なマネジメントの第一歩です(図表2)。  このような思いに共感し、言葉や行動で「あなたを必要としている」というメッセージを伝えることが、エンゲージメントを高める土台となります。 C高齢社員に対して組織メンバーが心がけること @尊敬の念を持って接する  高齢社員は、組織の「歴史そのもの」を知る存在です。時代の変化をくぐり抜けてきた経験は、単なる知識以上の価値を持ちます。若手社員が困難に直面したとき、過去の知見や判断力が大きな助けとなることも少なくありません。だからこそ、年齢ではなく「組織の財産」として尊敬の気持ちを持って接することが大切です。 Aプロセスや努力を認めて褒める  成果だけを見て評価するのではなく、そこに至る過程をていねいに見ることが重要です。「根気よく後輩を支援してくれた」、「顧客との信頼関係を長年維持してくれている」など、日々の積み重ねを評価することで、本人の自己肯定感が高まります。 Bポジティブなフィードバックを意識する  注意や指摘ばかりでは、だれしも意欲を失います。特に高齢社員は「もう若くないから仕方がない」と自ら制限をかけてしまうことがあるため、上司からの前向きな声かけが不可欠です。「助かっています」、「その経験を若手に伝えてください」といった言葉が、なによりの励みになります。 C話を聴き、存在を認める  「自分の話を聴いてもらえる」、「自分の経験がだれかの役に立っている」と感じることが、働く意欲を高めます。日常のちょっとした相談や会話のなかに、その姿勢が表れるようにしましょう。聴く力のある組織は、年齢を問わず人が育つ組織でもあります。 D高齢社員のワーク・エンゲージメントを高めるポイント @強みを活かす仕事設計をする  ピーター・ドラッカー(Peter F. Drucker)は「人は自身の強みからのみ成果を上げることができる。弱みの上には成果を築けない。マネージャーの仕事は、人々の強みを有効にし、弱みを『関係ないもの』にすることである」と述べています。高齢社員も同様で、高齢社員の意欲を引き出す鍵は、「その人の強みを知り、適切な役割を与えること」です。そのために過去に経験したキャリアの棚卸しを行い、これまで「うまくいった仕事」や「得意だった場面」をふり返ってもらうことで、自身でも気づいていない強みが見えてきます。  例えば、「部門をまたぐプロジェクトのリーダーとして目標達成した」ということを思い出したとします。これだけだとその人の強みは見えにくいものです。もう一段階掘り下げる必要があります。それに至った理由を考えてみるのです。このケースでは、「価値観が違う人の意見を調整した」がその理由とすると、「高い傾聴力」、「異なることを調整するスキル」が強みになります(図表3)。  このように「うまくいったこと」、「人から高く評価されたこと」に対してどうしてそれができたかの理由を掘り下げることで、その人の強みが明らかになってきます。そして強みが明らかになると、次はその強みが活かせる仕事、役割を考えていきます。  例えば「人との調整が得意な人」は「社内外の連携、交渉担当」、また「根気強くていねいに教えられる人」は「若手育成や技術伝承担当」に向いているだろうと強みと役割・仕事のマッチングを探っていくのです(図表4)。その人の強みを知らないまま役割・仕事を考えると、ミスマッチにつながる場合もあるので、まず強みを洗い出してからマッチングを考えた方がベストマッチにつながります。 A公正な評価と納得感のある処遇  「年齢が上がるほど評価されにくい」という不満は、多くの職場で聞かれます。管理職が意識すべきは、「なにをもって貢献とみなすか」を明確にすることです。 ・成果だけでなく、後進への影響力やチーム貢献度も評価する ・一人ひとりの行動を“見える化”して、納得できる説明を行う ・給与面だけでなく、感謝・称賛・社内表彰など多面的に報いる  こうした取組みは、組織全体の信頼感を高める効果も期待できます。 B健康と生活の両立支援  体力・集中力の衰えや、介護などの家庭的課題が見られる年齢層だからこそ、柔軟な勤務形態を選択できることが大切です。週3日勤務や短時間勤務、在宅勤務、職務選択制など、健康を保ちながら働ける制度が求められます。また、定期的な健康相談やメンタルサポートを組み合わせることで、安心して働ける職場環境が整います。 E高齢社員と組織コミュニケーションのあり方  高齢社員と若手社員など、異世代がともに働くことは高齢社員のワーク・エンゲージメントを高めるだけでなく、ほかの社員のワーク・エンゲージメントも高めることができます。 @異世代チームの協働メリット  異世代チームで働くことは同世代チームより創造的アイデアが生まれやすいという報告があります(図表5)。この研究では高齢者と若者が三つのチーム(高齢者同士のチーム、若者同士のチーム、高齢者と若者のチーム)に分かれて創作課題に取り組みました。結果は高齢者と若者チームの異世代チームがもっとも創造的に課題を解決しました。若者の新奇なアイデアを高齢者が引き出し、ブラッシュアップしたことが寄与したというのです。高齢者と若者が互いの特性を活かすことで1プラス1が2以上になる可能性が示唆されました。  このことから各世代が持っている強みを互いに活かすことによりワーク・エンゲージメントが高まることがわかります。 Aリバース・メンタリングの効果  若手が上司やベテランに新しい知識や価値観を教える「リバース・メンタリング」の取組みも注目されています。若手がDXや新しいツールなどの使い方や知識をベテランに教えるのです。一方、ベテランは洞察力や人間関係づくりなどを伝えることで双方向学習が可能になります。こうした上下関係を超えた関係は、世代間の壁を取り除き、信頼関係を構築することから、組織としての取組みが望まれます。 Bコミュニケーションの場をつくる  高齢社員とのコミュニケーションは、会社としてなんらかのしかけづくりをすることでスムーズに行われる場合もあります。例えば、高齢社員が持っている知識・スキルを発表する勉強会やセミナーなどの場をつくることで、質問や提案を通じて話すきっかけが生まれます。また最近ではコミュニケーションアプリなどを活用し、事前にいろいろな世代を無作為に組み合わせて仕事以外の話題を話し合うようにしかける会社も増えてきました。ささいな会話からコミュニケーションが深まることもあるので、そのきっかけづくりが重要です。  こうしたコミュニケーションの工夫も高齢社員のワーク・エンゲージメントを高めることになります。 F経営者・管理職に求められる姿勢  AIの発展が加速するいま、企業の成長を左右するのは単に効率的なデータ処理や自動化ではなく、むしろ人がつくり出す創造的視点が必要になってくるといわれています。  そのようななか、高齢社員をいままでのように「支援の対象」として見るのではなく、「ともに組織をつくる仲間」としてとらえる視点が求められます。高齢者がいままでつちかってきた経験、知識、スキルを最大限活かせる職場環境をつくり、また全世代のコミュニケーションを活性化させる取組みが、企業競争力を高める要になるのです。 図表1 ワーク・エンゲージメントの3要素 要素 内容 活力(Vigor) 仕事に対して精力的で、困難にも立ち向かう力がある状態 熱意(Dedication) 仕事に誇りや意義を感じ、挑戦しようとする姿勢 没頭(Absorption) 仕事に集中し、時間を忘れるほどの没頭感がある状 出典:Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands,job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi‐sample study. Journal of Organizational Behavior, 25(3), 293-315 図表2 高齢社員の思い 高齢社員の思い 背景と説明 @経験を活かしたい 長年つちかった知識やノウハウが発揮できないと、「自分の存在価値がない」と感じやすい A周囲から大切にされたい かつて部下だった若手が上司になるケースもあり、人間関係の変化に戸惑う。命令系統は変わっても必要とされたい B正当に評価されたい 「定年後だから同じ評価はむずかしい」という扱いは、やる気を大きく削ぐ要因となる。行った仕事は正当に評価してほしい C自分のペースで働きたい 加齢による体力の衰えに応じた働き方を選択したい。会社一途の働き方でなく、生活全体の一部として考えたい D将来への不安 年齢や収入減への不安を抱えながらも、「働けるうちは社会の一員でいたい」と願う ※筆者作成 図表3 強みを見つけるプロセス ステップ1 うまくいった仕事は? 部門をまたぐプロジェクトのリーダーとして目標達成した ステップ2 うまくいった理由は? ・異なる価値観の人をまとめた ・傾聴した ・細かく計画して納期を守った ・細かいところに気を回した 出典:橋伸典『定年後自分らしく働く41の方法』三笠書房(2024年) 図表4 強みにあった役割・仕事例 強み 役割・仕事 @人との調整が得意 社内外の連携担当 A根気強くていねいに教えられる 若手育成や技術伝承担当 Bお客さま対応が得意 信頼構築・苦情処理のアドバイザー Cコミュニケーション力がある 顧客対応、セミナー講師 D長年の経験を通じて、時代や技術の変化を受け入れる度量を持つ DX推進のサポート役(現場との橋渡し)新制度・新ツール導入時のトライアルリーダー ※筆者作成 図表5 高齢者と若者との協働による創造性の考察 研究概要: 被験者を「若者同士」、「高齢者同士」、「若者×高齢者」のペアに分け、創作課題に取り組むことで創造的アイデアの創出を比較する 研究結果: ■異世代ペアの方が創造的な成果を出す傾向があった ■高齢者は経験的・現実的な視点を、若者は新奇な発想を提供した ■相互の尊重や傾聴が創造性を高める鍵になった ■世代差は対立ではなく刺激として機能した 出典:田渕 恵・三浦麻子(2019)「創造的課題における高齢者と若年者の世代間相互作用の特徴」『老年社会科学』41(3):322-330 【P15-18】 解説2 高齢社員に求められるマインドセットとリスキリング 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役CEO社長 宮島(みやじま)忠文(ただふみ) @はじめに  高齢社員のワーク・エンゲージメントを高め、能力を最大限に発揮してもらうためには、高齢社員がやりがいをもって活躍できる場をつくり出すことが必要となります。そのためには制度の整備が必要ですが、同時に高齢社員自身にもマインドセットや、能力を発揮してもらうためのリスキリングが必要となります。本稿では、この高齢社員に求められるマインドセットとリスキリングについて、私のミドル・シニアの活躍支援をしてきた経験よりご説明いたします。 Aワーク・エンゲージメントを高める要因  ここでは、キャリア支援の現場から見えてくる高齢社員のモチベート要因をあげていきます。  まず一つめのモチベーションが下がる要因は、他者承認が少なくなることです(図表1・2)。これはポストオフや報酬の低下という精神衛生要因の低下ではありますが、なによりもいままで企業に貢献してきた自負もあることから、企業から否定されているように受け取られていることがあります。  逆の視点で見ればモチベーション向上には他者承認が必要となります。再雇用契約に変わるのは制度的にはやむを得ないことではあります。しかしながら「頼りにしていますよ」というメッセージは制度面からも伝えることは可能です。  二つめの要因は、目標がなくなることです。いままでは昇進・昇給や新しい部署・事業といった将来の展開が期待されていたわけですが、この可能性がなくなることです。追う目標がなければ、どのように行動すべきかも見失ってしまいます。ゆえに新たな目標設定が必要となります。もちろん目標に対する評価などのフィードバックも必要です。  三つめの要因は、高齢社員は自身の知識や経験を活かす場を求めているが、この機会が減少することです。ゆえに対応策としては自身の知識や経験を活かしている実感を得られるようにすることが必要です。もっとも自身の知識・経験がどのようなものかを把握できていない、言語化できていない方が大部分であり、いまのままの職場で続けたいということになりがちです。前提として自身の知識・経験がこれからの変化のなかでも転用できることを理解していただくことが必要です。  四つめの要因は、組織や若手社員に貢献できているという実感(自己有用感)が湧かないことです。新たな貢献方法を明らかにすることで、ポストオフや再雇用により自分の役目は終わったと認識させないことが重要です。  五つめの要因は、健康やライフスタイルの変化です。どうしても健康面が気になる年齢となります。制度などでこの点に配慮されていると認識されることが必要です。 B高齢社員に求められるマインドセット  高齢社員に求められるマインドセットについては、私が実際に活躍しているシニア社員の方々に接してきた経験を整理したものとなります。拙著『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日本経済新聞出版、2025年)では、10点ほど列挙していますが、ここではそのなかでも「傾聴ができ、そしてネガティブワードは吐かないを基本とし、年齢相応の器の大きさを持つ」、「年齢を重ねるほど手を動かす」という点について触れたいと思います。 ■傾聴ができ、そしてネガティブワードは吐かないを基本とし、年齢相応の器の大きさを持つ  役職定年を迎えポストオフになったり、再雇用後に報酬が下がったりといったことから、モチベーションが下がるのは理解できないことではありません。しかしながらシニアとして、なによりもプロフェッショナルとして、その心情を表に出してしまうのは、あるべき態度とはいえません。  人の話を傾聴し、ネガティブワードを吐かないためには、一つめに「人の話を受け入れられる」こと、二つめに「きちんとしたやりとりが行える」ことがあげられます。後者には「人の話を受け入れられる」も含まれるのですが、特にシニアにおいては重要なのであえて分けています。これらの対応ができる人には周囲も声をかけやすくなります。その結果、情報量も増え、自身の知見を活用する機会も得ることができ、頼られる存在となっていきます。  一つめの「人の話を受け入れられる」ようになるためには、その言葉の通り、「まずは」相手の話を聞く、そして何を語りたいかを理解し共感する、といったことが必要です。年齢や性別、肩書きに関係なく、多様な考え方を採り入れることが重要です。特にシニアの場合、元の部下など年下や若手に対してオープンになることが必要です。そして話を聞くだけではなく、聞いた意見を自らの仕事に反映させていくことが、重要な相手に対する意思表示になります。  二つめの「きちんとしたやりとりが行える」ようになるためには、どうすればよいでしょうか。大前提は先に述べた「人の話を聞く」ことです。なぜなら、それによって当然、相手は質問をしやすくなる、話しかけやすくなるからです。特に、経験値の高いシニアは、周囲から頼られる存在にならねばなりません。質問がしにくい、相談がしにくいとなると、本来果たすべき役割の一つである若手の育成もままならなくなります。そのうえで、評論家になるのではなく、自分がどのように貢献するかという意識を持ち、問いかけにストレートに返答をすることが必要です。 ■年齢を重ねるほど手を動かす  この「年齢を重ねるほど仕事で手を動かす」という点ですが、手を動かさないということは二つの意味を持っています。  実際に口だけで手を動かさない、すなわち作業を分担「しない」という意味が一つめです。ミドル・シニア社員にかなり目につく点だと思います。二つめは、そもそも作業を分担「しようとしない」という態度です。チームメンバーが忙しいのに、自らその一翼をになおうとしないという態度です。  「作業を分担しない」という点については、とかく年齢が高くなってくると、管理職ではなくても、また役職に関係なく、実際の業務や雑務は部下や若手に任せてしまうことに原因があります。もちろんほかのメンバーを動かしながら経験を積ませることも重要なミッションですが、その一方で、現場仕事ができなくなっていくと同時に、現場の情報も入ってこなくなります。加齢とともに視力が弱まりますから、細かい作業はやりたくないという意識も強くなります。結果として基本的な関係者の調整や資料作成、事務作業全般、そのほかの雑務ができなくなってしまいます。一方で、パソコン作業や情報化は日々進化しているため、完全に時代に乗り遅れてしまうのです。  「作業を分担しようとしない」という点はどうでしょうか。多くのキャリア支援事例を通して見ていると、仕事の獲得行動”が弱い傾向にあることに原因があるように思います。ただし、これはミドル・シニアにかぎらず若手にもいえることです。要するに、主体性がなく「雇われ」意識が強い=「受け身」の人が多いということです。  転職支援の際の面談、あるいは入社後にも垣間見えるのですが、多くの人が高い「問題“解決”能力」を有しています。しかしながら「問題“発見”能力」は必ずしも高いとはいえません。  問題“発見”能力が弱ければ、自ら進んでこの仕事を分担しますという態度につながることもありません。相手の困りごとを発見することもできず、受け身的な仕事の仕方が続くことになります。  では、「手を動かす人は何ができるのか」ですが、チームとしてどのような作業が必要とされているのか、自身はどう貢献できるのかを理解し(問題発見)、他者からいわれる前に実際に作業を分担し、かつ、完成させてくれる人です。完成させるためには、つねに最新の知識をインプットし、使える状態になっている必要があります。 C高齢社員に必要なリスキリング  ここでは高齢社員が活躍するために求められるリスキリングについてご説明します。 ■基本的にはいままでの経験を強化する内容  高齢社員に求められるリスキリングは、基本的にはいままでの経験をさらにバージョンアップさせるためのものと考えます。  理由は、いままでの経験を活かすことによりモチベーションの向上が図れること。自身の過去を否定するのではなく、意味のあったものと再確認するためにも重要です。さらなる理由は、高齢社員のアドバンテージを活かすことになるからです。いままでの経験は実践に基づくものであり、実際に起きた複雑な現象から学んできたものです。実務の場面ではリスク予測などで力を発揮するものといえます。  もっとも社会の変化により陳腐化してしまっているものもあります、そこでリスキリングが必要となります。経験を活かすという意味ではリスキリングというよりはアップスキリングといったほうがよいかもしれません。 ■自身の進化を支えるインプット・アウトプット  ここでいう“リスキリング”は、座学、すなわち教科書的な勉強だけではありません。自身をバージョンアップするためのすべての学習(インプット・アウトプット)を意味しています。自らの体験や調査・研究も含む広いものです。例えば、新しい環境を体験する・新たな仕事に挑戦するということも含まれますし、仕事にかかわる情報収集、将来予測・分析も含まれます。特に仕事で得られた知見・経験は大きな学びになります。あるいは教科書的な勉強であっても、その内容はAIやDXのような最新知識だけでなく、それまでに得ていなかったさまざまなものも含みます。  ただし、ここでいう勉強は、キャリアにかかわるものでなければなりません。趣味にかかわる知識も大事であることは否定しませんが、自身のキャリアビジョン実現に直接関係ないものは、短期間のうちに自らのキャリア構築に寄与するとはいいがたいものがあります。すなわち、「自身の進化を支えるインプット・アウトプット」が、ここでいう学び=リスキリングとなります。 D活躍できるための要件とモチベーションを高めることを連動させるには  最後に、組織や管理職に求められるマネジメント方法です。先述のようなマインドを高齢社員に持ってくださいといってもなかなか腹落ちすることではありませんので、高齢社員にこれらのマインドセットを持ってもらうための機会を設けることが必要となります。  具体的には自身の貢献方法を考える機会となるキャリアマネジメント研修を「きっかけ」として、自身のキャリア観を「実現(選択)する場面」が必要です。そのうえで、例えばフリーエージェント制や目標管理時点でのミッションの設定など、自身のキャリア観と会社の期待する役割の整合を図る場を設けてゆくことが考えられます(図表3・4)。  以上となりますが、本稿が少しでもみなさまの企業での高齢社員のワーク・エンゲージメント向上と活躍につながれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。 図表1 会社の制度に対する満足度 弊社2024年調査より ミドルシニアの活躍や人材活用を目的とした会社の制度や施策に満足しているか 大いに満足している 1.9% 満足している 7.4% 普通 30.6% 満足していない 26.9% 全く満足していない 33.3% 資料提供:株式会社社会人材コミュニケーションズ 図表2 会社からの期待感 弊社2024年調査より あなたは会社から期待されていると感じるか 大いに感じている 38.7% 感じている 29.0% 普通 22.6% あまり感じていない 9.7% 全く感じていない 0.0% 「会社と仕事の満足度」とのクロス集計 会社からの期待を感じている 今の会社に満足している50% 今の仕事に満足している58% 会社からの期待を感じていない 今の会社に満足している10% 今の仕事に満足している30% 図表3 キャリアの裁量の有無 弊社2024年調査より 社内で自分の仕事を選択することができるか(異動についての自分の意見が通るなど) 社内に選択する制度があり、希望をすれば条件により自身の意志が採用される 22.6% 社内に選択する制度はあるが、実際には希望は通らないと思われる 29.0% 社内に選択する制度があるかわからない 9.7% 社内に選択する制度がない 38.7% ※選択する制度…FAやジョブマッチングへの応募など 資料提供:株式会社社会人材コミュニケーションズ 図表4 やりがいを感じる施策(希望) 弊社2024年調査より 会社のミドルシニア向けの制度や施策として、どういうものであればやりがいを感じるか どのような制度があったらよいか 全体の割合 キャリア自律を支援するための研修 17.6% 経験やスキルを活かした活躍の場の提供 14.7% 柔軟な働き方・処遇制度 14.7% FA・ジョブマッチング制度 11.8% 定年以降の処遇改善(現役社員と同等の待遇) 8.8% 副業支援 5.9% 教育の機会や支援 5.9% シニアに求める役割・スキル基準値の可視化 5.9% 複線型人事制度 2.9% 本気の人材活用制度 2.9% 早期退職支援制度 2.9% 特に期待していない 5.9% 資料提供:株式会社社会人材コミュニケーションズ 【P19-22】 解説3 ワーク・エンゲージメントを高めるための 健康経営○R(★)からのアプローチ 株式会社健康企業 代表・医師 亀田(かめだ)高志(たかし) @ワーク・エンゲージメントの高い高齢社員像  仕事柄、各地の企業、自治体、団体などを訪問する機会が多いですが、近年、高齢社員の割合が高い会社が目立つようになってきました。50歳以上が社員の過半数を占める職場も少なくありません。70歳までの就業機会の確保で人材不足をカバーしても、10年以内に60歳以上が過半数を占めることになります。  少子化の影響は今後も続くので、事業継続を目ざすには高齢社員の活用、活躍が絶対条件になります。読者のみなさんは具体的なイメージを思い浮かべることができるでしょうか。  今回の特集で取り上げられている「ワーク・エンゲージメント」を展開する会社・職場の目標は、始祖であるウィルマー・B・シャウフェリ先生の言葉を借りれば、“情熱を持って働く高齢社員を確保し、増やしていくこと”になります。  社員の立場から見ると、“何歳になってもできる仕事があることに喜びを感じ、職場では精力的に献身的に打ち込んでいること。自らの職務に没頭しており、あっという間に終業時間が来ると話しているベテラン社員になる”というイメージです。  しかし、還暦前後で役職を解かれ、定年から継続雇用で報酬が下がり、モチベーションを保つことができず退職を考える人。最近では「静かな退職」と呼ばれる最低限の職務をこなすだけの人。そうしたワーク・エンゲージメントとは程遠いシニア社員が多数派になっていないでしょうか。これでは会社の存続可能性を保ち、高めるべき「稼ぐ力」は期待できません。 A健康経営、健康投資とその効果  そうした状況を打破し、生涯現役の志を持って、職場に貢献してくれる高齢社員を生み出し、増やしていくために企業経営者、人事・労務担当者が取り得る施策が、経済産業省の推進してきた「健康経営」です。  同省によれば、健康経営、具体的な取組み、その効果は図表1のように定義され、説明されています。  経済産業省は、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人の「見える化」をねらった健康経営優良法人認定制度を進めてきました。日本健康会議が認定する顕彰制度であり、現在は日本経済新聞社が受託・運営しています。企業規模に応じて、大規模法人部門と中小規模法人部門に分けて、上位となった法人には各々「ホワイト500」と「ブライト500」、「ネクストブライト1000」の冠が付加されます。この認定を取得するために準備作業や申請に取り組んでおられる読者もおられることと思います。 B高齢社員の稼ぐ力を高める健康経営  一般には健康管理と経営という二つの言葉は一致しない印象があるかもしれませんが、高齢社員の健康を二つの側面から考えるとわかりやすいと思います。WHO(世界保健機関)は第二次世界大戦後に発効した憲章のなかで健康を定義しました。その英文には健康に関する五つの条件が示されています。 @深刻な病気がないこと A心身が弱っていないこと B身体的によい状態であること C精神的によい状態であること D社会的によい状態であること  このうち@とAに示される高齢社員が深刻な病気を持ち、不調で心身が弱っていることは病気による休暇と休職の増加、就労時間中の生産性の低下につながります。健康経営の考え方では、前者を「アブセンティーズム」、後者を「プレゼンティーズム」と呼称し、その低減を目ざすことになります。その損失の軽減策は厚生労働省の管掌(かんしょう)する労働安全衛生法令に定められたコンプライアンスにあたります。定期健康診断、ストレスチェックの実施、医師の面接指導の実施や判定結果に基づく就業上の措置を実施することとオーバーラップします。  他方、B、C、Dで表現される「よい状態」は原文の“well-being”という英語の邦訳です。これを総合的に表現できるのが、「ワーク・エンゲージメント」です。損失ではなく、プラスをもたらす健康、つまり仕事から活気を得て、“天職”という言葉の通りに仕事との絆を感じ、熱中・集中し、喜びを感じ、時間を忘れるほど没頭する高齢社員となります。これを経営的にとらえなおすと、高いパフォーマンスを発揮する高齢社員、「稼ぐ力」を発揮できる高齢社員を増やしていくことが健康経営の目標となるのです。 C健康経営の推進でワーク・エンゲージメントの向上をねらう  健康経営の旗を振るのは健康管理の担当者、健康管理を管掌する人事総務部門の責任者、担当者ではありません。そもそも担当役員以上、できれば経営者ご自身が関心を持ち、その展開にコミットすること、つまり説明責任と結果責任の両方を果たそうとすることが重要です。  会社をあげての方針表明が起点になりますが、先の優良法人の申請では、健康経営を実行する宣言、方針表明と社内外への発信が必須であり、ワーク・エンゲージメントの向上とともに高齢社員への健康施策を謳うことが可能です。  そうした際に参照できるのが、先般の国会で可決・成立した改正労働安全衛生法の第62条(中高年齢者等についての配慮)で、来春の施行に向けてさらなる展開の検討がなされている施策です。特にその一つである中央労働災害防止協会で開発された職場改善ツール、「エイジアクション100」の一番目のチェック項目「高年齢労働者のこれまでの知識と経験を活かして、戦力として活用している。」という文言が重要です。  そのポイントは高齢社員の安全衛生管理対策の方針表明の前に、“戦力としての活用”が謳われている点です。そのうえで、産業医などの医師、保健師などの専門家の関与を含む体制と仕組みを整備し、具体的な高齢社員に対する施策を選択し、実行していくことになります。公開されている『健康経営ガイドブック(2025年3月版)』を参照しながら、健康経営戦略マップを作成し、社内で共有し、ウェブサイトなどで社内外に公表することもできます。高齢社員のワーク・エンゲージメント向上に特化した形のフローを図表2に示しました。  こうした対応は加齢にともなう疲労感の増大、心身の病気や不調、給与額の減少といった高齢者として社会から扱われる状況で低下しがちな高齢社員のワーク・エンゲージメントの向上に効果が期待できます。人間は努力に応じた報酬を求める傾向があり、強く貢献を求められるのに報酬が乏しく、それが極端な場合には「燃え尽き」となる可能性があります。ストレスチェックでは測定しませんが、その理論は「努力−報酬不均衡モデル」として知られています。  高齢社員にとっての報酬は外発的な地位、肩書きと給与額といった面と、内発的な敬意と尊敬、感謝といった人間的なやり取りも重要です。会社をあげて「健康経営を推進する」と宣言し、特に高齢社員の戦力としての活用や後述する具体策を展開すると高齢社員にとっての強力な内発的な報酬となります。上記のフローで示した高齢社員のワーク・エンゲージメント、「稼ぐ力」を高めることが期待できます。 D加齢にともなう四つの健康課題に対する健康経営の具体策  高齢社員に対する健康管理は、1970年代に当初は旧労働省、その後は厚生労働省により推進されてきました。現在は65歳までの雇用確保措置が各事業主の義務とされるなか、加齢にともなって顕在化する、安全衛生・健康管理上の課題には、心身の機能低下、労災事故、私傷病の増加、個人的な悩みごとの四つがあります。  厚生労働省施策に合わせて、範囲を広げてきた健康経営の取組みは、その四つの課題の影響を軽減しつつ、ワーク・エンゲージメントの向上にも結びつけることができます※。 @加齢にともなう労災事故のリスクを低減する措置 (1)下肢筋力、バランス能力、敏捷性、視覚・聴覚といった身体機能の低下などにともなって転倒災害のリスクが増大します。その防止のために行う身体機能を補う設備・装置の導入や職場環境の改善を行うことも健康経営の一環と位置づけることができます。安全管理対策では、ヒヤリハット事例などを洗い出し、危険マップを作成し周知することも実施できます。 (2)高齢になるほど腰痛症に悩む社員が増えていく可性能があります。重量物などの運搬における作業姿勢の改善、休止、休憩時間の確保といった高齢社員の特性を考慮した「作業管理」を行うことは腰痛症の防止とその悪化を防ぐことに効果があると考えられます。 A加齢にともない感じやすい疲労を予防する措置 (1)加齢にともなって自覚的な疲労感は増大しやすく、回復に時間を要するようになります。短時間勤務、短日数勤務、残業や休日勤務の免除などを従業員自身が選択できる制度を設けることで疲労回復を助けることができる可能性があります。 (2)フレックスタイム、時差出勤、自宅から近い勤務地への配置転換、テレワークの導入を高齢社員の希望にしたがって行うことができるよう、制度設計して、周知することもできます。疲労が蓄積しやすく、体力低下傾向に対して、業務負担の軽減を図り、公共交通機関、自家用車による通勤負担への配慮、例えば時差出勤制度も実施できます。 B加齢にともなう体力低下や持病に応じた業務負担への配慮 (1)定年後の再雇用者(有期雇用)であっても、正社員の場合と同じように、治療と仕事の両立に役立つ病気休暇・休職制度を設けることで離職を防ぐとともに会社に対する信頼と安心をもたらすことができます。 C高齢社員の健康の保持・増進の知識とスキルを意味する「ヘルスリテラシー」の向上を目ざした健康教育や健康増進活動の実施 (1)高齢社員を対象とした、運動習慣、食生活見直し、禁煙、節酒と睡眠を取り上げたセミナーを産業医、保健師などの方々に依頼して、継続して実施していくことができます。病気の予防だけでなく、日々の体調が改善し、コンディションがよくなっていくことは、ワーク・エンゲージメントに好影響を与えます。上述の「疲労を予防する措置」や「体力低下や持病に応じた業務負担への配慮」を平行して行うことで、先述の内発的報酬を高め、そのことでより健康的な生活習慣を継続できる可能性が高まります。そうした状況からワーク・エンゲージメントを持続的に維持、改善するという好循環に結びつけることも可能です。 (2)加齢によって低下しがちな運動機能のチェック、例えば、中央労働災害防止協会による「転倒等リスク評価セルフチェック」を実施するなどの体力測定を通じて先述の転倒災害の防止を推進することができます。その際に定期健康診断後の結果通知からの保健指導と同じように、測定、チェックのやりっぱなしでなく、いかに改善に結びつけるのかを産業医、保健師などの方々の支援を仰ぎながら、労使で取り組んでいくことができます。 (3)骨の問題(骨粗鬆症(こつそしょうしょう))、関節軟骨などの問題(変形性関節症)、筋肉などの問題(サルコペニア)を背景とする痛み、関節の動きにくさ、柔軟性と筋力とバランス能力の低下、姿勢の変化から、移動がむずかしくなる問題を総称する「ロコモティブシンドローム(通称、ロコモ)」のチェックを行うことが可能です。例えば、40pの台に腰かけ、片足で立ち上がり、3秒維持するという「立ち上がりテスト」を実施することができます。ヘルスリテラシーの一つとしての運動習慣の習得と維持のための動機づけにもなり、退職後のフレイル(身体的、精神的、社会的虚弱)から介護へと続く流れの防止にも役立ちます。ただし、上述の体力測定とともに測定の際に高齢社員がけがをしないよう十分に注意する必要があります。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※第3回健康経営推進検討会 参考資料1-5 株式会社日本経済新聞社提出資料「健康経営優良法人2026(中小規模法人)認定申請書(素案)」(2025年7月18日) 図表1 健康経営の定義 ・「健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」 ・「健康投資とは、健康経営の考え方に基づいた具体的な取組」 ・「企業が経営理念に基づき、従業員等の健康保持・増進に取り組むことは、従業員等の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される」 出典:経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」(2022年6) 図表2 高齢社員のワーク・エンゲージメント向上をもたらすフロー 高齢社員の安全衛生・健康管理の具体策の実践 ・ヘルスリテラシーを高める健康教育の実施 高齢社員の健康アウトカム指標の改善 ・保健指導、医療機関への受診を通じた健康指標の改善 高齢社員の感じる“働きがい”、“年下の上司との信頼関係”、“給与額”も関係する 業務パフォーマンスの向上 ・測定されるワーク・エンゲージメントの改善 会社の価値向上 ・高齢社員の活躍による売上げ、利益の向上 ※筆者作成 【P23】 コラム 日常的な「ありがとう」の重要性 一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事 大野(おおの)萌子(もえこ)  「ありがとう」、たった五文字の言葉が、職場の空気を変える力を持っています。感謝の言葉は、単なる礼儀やマナーにとどまらず、職場における人間関係の潤滑油として、組織の健全なコミュニケーションを支える魔法のフレーズです。  職場では、業務の効率化や成果の追求が優先されるあまり、日々の小さな貢献や気配りがあたり前のように扱われがちです。「仕事なんだから当然」という思いから、些細な業務に対してあえて感謝を伝えないことも多いでしょう。しかし、そうした「あたり前」に対して感謝を伝えることは、相手の存在や努力を認める行為であり、承認欲求を満たす大切なコミュニケーションです。特にシニア社員にとっては、若手社員からの「ありがとう」が、自身の経験や知識が活かされているという実感につながり、自己肯定感を高めるきっかけとなります。自己肯定感が高まると、仕事への意欲や責任感が向上し、結果としてワーク・エンゲージメントの向上にもつながります。  ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対する熱意・没頭・活力をさす概念であり、社員が自らの役割に意味を見いだし、前向きに取り組む状態をさします。シニア社員が長年つちかってきた知識や経験を活かし、組織のなかで自信を持って活躍するためには、周囲からの承認や感謝が不可欠です。感謝の言葉は、単なる「気持ちの表現」ではなく、「存在の承認」でもあるのです。  また、「ありがとう」は一方通行ではありません。若手社員がシニア社員に感謝を伝えることで、世代間の壁が取り払われ、相互理解が深まります。シニア社員もまた、若手の成長や挑戦に対して感謝や賞賛を伝えることで、職場に温かな循環が生まれます。このような感謝の連鎖は、職場全体の心理的安全性を高め、チームの協働性や創造性を育む土壌となります。  実際、日常的に「ありがとう」が交わされる職場では、離職率が低く、社員満足度が高い傾向があるという調査結果もあります。感謝の言葉が飛び交う環境は、社員一人ひとりが「ここにいていい」と感じられる場となり、結果として組織の持続的な成長にもつながるのです。  そして、「ありがとう」を伝えることは、特別なスキルを必要としません。会議後の一言、資料作成を手伝ってくれた人への声かけ、ちょっとした気遣いへの感謝など、日常のなかに無数の機会が存在します。大切なのは、「感謝すべきこと」に気づく感性と、それを言葉にする勇気です。小さな「ありがとう」の積み重ねが、職場に「ここに居場所がある」という安心感を生み出します。  「ありがとう」は、コストゼロで始められるもっとも効果的な職場改善の一手です。  シニア社員のワーク・エンゲージメントを高める取組みは、制度や研修だけではなく、こうした日々のコミュニケーションの積み重ねから始まります。「ありがとう」が自然に交わされる職場こそが、世代を超えてだれもが力を発揮できる、真の「共創」の場となるのではないでしょうか。 【P24-28】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 第5回 ある介護福祉施設の助成金活用事例@ ★このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ★前回(2025年10月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202510/index.html#page=36 ※「65歳超雇用推進助成金」パンフレットは、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/book_pumphR6/#page=1 次号につづく 【P29】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 解説 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 第5回 ある介護福祉施設の助成金活用事例@  高齢者雇用を推進していくうえでは、就業規則の見直しおよび賃金制度や労働条件の見直し、安全・健康管理をはじめとした職場環境の改善等の検討は欠かせません。  特に就業規則の改正には、企業の実情に合わせた制度設計やコンプライアンスの観点から社会保険労務士などの専門的な支援が必要とされますが、そのための経費も発生します。決して小さくはないその負担を軽減できるのが、「65歳超雇用推進助成金」です。今回は、ある介護福祉施設の助成金活用事例を紹介します。 Check1  65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入などを行った事業主に対して、導入する措置や対象人数に応じて、160 万円まで支給されます。 ※詳しくは本誌2025年8月号、本連載の解説をご覧ください。 Check2 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上で定年年齢未満の有期雇用労働者を、無期雇用転換制度に基づき無期雇用労働者に転換させた事業主に対して、一定額を助成します。 ※詳しくは本誌2025年10月号、本連載の解説をご覧ください。 お問合せ JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課) ※各支部の問合せ先は65ページをご参照ください。 【P30-31】 偉人たちのセカンドキャリア 第12回 自分の余命を楽しんで生きた“東洋のルソー” 中江(なかえ)兆民(ちょうみん) 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) フランス留学から帰国し国政の舞台へ  中江兆民は、フランスの思想家ルソーの『社会契約論』を翻訳して『民約訳解』を出版し、自由民権思想を広めた人物です。すべての高校日本史の教科書に登場する重要人物で、当時から「東洋のルソー」と称えられていました。  土佐藩の足軽の家に生まれた兆民は、長崎でフランス語を学び、1868(明治元)年、欧米に岩倉使節団が派遣されることを知ると、政府の大久保(おおくぼ)利通(としみち)の馬丁と親しくなって邸内へ入り込み、いきなり大久保に留学を直訴しました。すると大久保は、この若者の無礼な頼みをかなえてやったのです。兆民25歳でした。兆民はパリで法律や哲学、歴史を学んで、1874年に帰国、当時としては極めて珍しい仏学塾を開きました。翌年、政府の元老院権少書記官に任ぜられましたが、1877年に退職して自由民権運動に邁進するようになります。1880年に『東洋自由新聞』を創刊、主筆として民権思想を世間に広め、やがて板垣(いたがき)退助(たいすけ)が創設した自由党に入って機関紙の自由新聞や東雲新聞の主筆として活躍しました。そして第1回の衆議院議員選挙が実施されると、大阪4区から出馬して当選したのです。  こうして代議士となった兆民でしたが、時の山県(やまがた)有朋(ありとも)内閣は自由党の代議士の一部を買収して政府の予算案を通過させます。これを知った兆民は「議会は血の通わぬ虫たちの陳列場だ」と激しく非難し、衆議院議長の中島(なかじま)信行(のぶゆき)(自由党副総理)に辞職願いを提出しました。そこには「小生事(私)、近日亜爾格児中毒病(アルコール依存症)相発シ、行歩艱難(歩行困難)、何分採決ノ数ニ列シ難ク、因テ辞職仕候」と国政を愚弄するような言葉が書き連ねてありました。 あちこちを走り回る波乱万丈の人生  さて、それからの兆民です。意外にも北海道の小樽に拠点を移して北門新報(新聞)を創刊しますが、翌年には東京に戻って再び総選挙に出馬したのです。ところが落選してしまいます。そこでまた小樽へ戻り、さらに札幌へ住居を移します。しかも新聞社を辞めて紙問屋をはじめ、山林伐採事業に手を出し、さらに諸鉄道の設立など投機的な商売をはじめました。けれど、どれも軌道に乗らずあちこち金策して回る状況に陥ってしまいました。啖呵を切って議員を辞職したまではよかったのですが、その後は転落していったのです。  ただ、そもそも若いころから兆民は常識人とはいいがたい性格で、死後すぐに『中江兆民奇行談』(岩崎(いわさき)徂堂(そどう)著)なる書籍が刊行されるほどでした。  見合いの席で酔っぱらって睾丸を引き延ばして酒を注いでみせたり、座敷の火鉢に向かって放尿したり、公道の天水桶に服を着たまま首まで浸かって警察官に咎められたりしています。このため一度目の結婚には失敗し、43歳のときに旅館「金虎館」の女主人である松沢ちのと再婚しました。  1898年、兆民は国民党を立ち上げますが、総選挙で一人の当選者も出すことができず、党は自然消滅しました。その後は、近衛(このえ)篤麿(あつまろ)の主宰する国民同盟会という国粋主義的な団体の遊説委員になるなど、それまでの主張とまったく異なる活動をはじめたのです。  1901年3月、兆民は練炭製造会社をつくろうと、大阪へ向かう準備をしていましたが、突然、喉が切れ大量の血を吐いてしまいます。前年から喉の調子はよくなかったのですが、病院では咽喉カタルだと診断されていました。出血はどうにか止まったので、兆民はそのまま大阪へ行きましたが、会った友人は憔悴した兆民を見て驚きました。大阪滞在中も喉の痛みは激しくなる一方で、呼吸も苦しくなってきました。そこでたまらず医師の診察を受けると、喉頭がんの可能性を指摘されたのです。 1年半の余命宣告 「楽む可き事」を重視して生きる  投薬治療を受けたものの、呼吸困難はひどくなるばかり。そこでついに兆民は、同年5月に気管の切開手術を受けました。これにより、声を失いました。兆民は担当医の堀内(ほりうち)謙吉(けんきち)に迫って自分の余命を聞き出します。当時、余命宣告はなかったので堀内はためらいますが、やがて兆民に「余命は1年半から2年である」と告げました。  すると兆民は、あと5〜6カ月の命だと思っていたので「1年とは余のためには寿命の豊年なり」と述べ、ただちに遺稿の執筆をはじめ、はやくも8月に脱稿しました。これが『一年有半』で、翌月、博文館から出版されるとベストセラーとなり、売上げは20万部に達しました。  著書のなかで兆民は、余命を尋ねた理由を次のように認めています。  「堀内(謙吉医師)を訪ひ、予め諱いむこと無く(余命を)明言(宣告)し呉れんことを請ひ、因て是より愈々(いよいよ)臨終に至る迄、猶幾日月有る可きを問ふ。即ち此間に為す可き事と又楽む可き事と有るが故に、一日たりとも多く利用せんと欲するが故に、斯く問ふて今後の心得を為さんと思へり」  このように兆民は寿命が尽きるのを冷静に受け入れ、「為す可き事」だけでなく、「楽む可き事」をその間に十分にしようと考えたのです。なんともポジティブな人です。  実際に兆民は『一年有半』の執筆に力を尽くすとともに、体調のよい日には芝居や寄席に出かけました。ただ、9月に東京へ戻った兆民は、喉の腫れと激痛のために寝るのもままならなくなり、枕の上に手を重ねて額を支え伏して休む状態になります。  そこで往診に来た東京帝国医科大学の岡田(おかだ)和一郎(わいちろう)医師に、兆民は再度死期を尋ねます。岡田医師が「来年の2〜3月ごろまでは大丈夫」と伝えると、兆民はこの苦しみがまだ半年も続くのかとがっかりした表情を見せたといいます。しかし医師が痛みは薬で抑えられるといったので、元気を取り戻した兆民は『続一年有半』を書きはじめました。このときのエネルギーはすさまじく、わずか10日間で原稿を書き上げました。10月15日、この本は再び博文館から出版され、好調な売れ行きを見せました。  が、それからまもなく兆民の衰弱は激しくなり、12月上旬になると意識は混濁していきました。そして12月13日、55歳の生涯を閉じたのです。死亡したとき、体重はわずか20キロしかなかったそうです。「1年半」と余命を宣告されてから8カ月後のことでした。  なお、兆民の遺体は生前の遺言によって、東京帝国大学医科大学病院で解剖に回されました。その結果、彼の病は喉頭がんではなく食道がんだったことが判明しました。  無神論者だった兆民の告別式は、青山会葬場において「無神無霊魂」(無宗教)で執行され、弔辞は盟友の板垣退助が読み上げ、遺骨は青山墓地に葬られました。 【P32-35】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第160回 岐阜県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 能力を発揮してやりがいを感じ長く安心して働ける終身雇用を追求する会社 企業プロフィール 新世日本金属(しんせいにほんきんぞく)株式会社(岐阜県岐阜市) 創業 1987(昭和62)年 業種 鉄を切断・加工する製造業 社員数 66人(すべて正社員) (60歳以上男女内訳) 男性(2人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 1人(1.5%) 65〜69歳 1人(1.5%) 70歳以上 1人(1.5%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用することを就業規則に明記。70歳以降も運用により継続雇用。現在の最高年齢者は70歳  岐阜県は日本のほぼ中央に位置し、県内は西濃地域・岐阜地域・中濃地域・飛騨地域・東濃地域と五つの地域に分けられ、それぞれ特色のある産業や文化が根づき、歴史と自然が調和しています。観光面では、世界遺産の白川郷や高山の古い町並みが有名で、北アルプスの雄大な山々や清流・長良(ながら)川など、四季折々の自然環境も豊かです。産業では、製造業が盛んで、自動車部品や航空機関連の技術力が高く、また、伝統工芸品の美濃焼や美濃和紙、関の刃物も全国的に知られています。  JEED岐阜支部高齢・障害者業務課の中野(なかの)亮(りょう)課長は、同支部の取組みについて、「労働局やハローワークと連携して、多くの企業のお役に立てるよう制度改善提案に努めています」と話します。県人口は、自然減少に加え、学業や職業を理由とする転出超過が続き、特に15〜34歳の転出超過が多いことなどから、県内では高齢者雇用の重要性が高まっています。  同支部で活動するプランナーの一人、市原(いちはら)良信(よしのぶ)さんは、地元金融機関での豊富な企業支援の経験を活かし、県の企業支援コーディネーターを長く務め、JEEDの活動には2019(平成31)年からたずさわり、企業にプラスとなる情報や制度などをていねいに提案して県内企業の経営者や人事担当者らの力になっています。  今回は、市原プランナーの案内で「新世日本金属株式会社」を訪れました。 70歳までの雇用を就業規則に明記  新世日本金属株式会社は、1987(昭和62)年4月に設立されました。以来、鉄を切断・加工するメーカーとして実績を重ねています。同社の強みは、顧客のさまざまな要望に応えることができる最先端の設備と高い技術力。建造物、橋梁(きょうりょう)、プラント、航空機、道路、工作機械、刃物など、多方面にわたる領域で暮らしや産業を支えています。  2021(令和3)年8月、定年を60歳から65歳に引き上げると同時に、希望者全員70歳までの継続雇用制度を整え、就業規則に明記。70歳以降は、話合いにより継続雇用が可能です。同社では1年ほどかけてこの制度改正に取り組み、市原プランナーはその最中に同社を訪問しました。  同社代表取締役社長の森(もり)託也(たくや)さんは、市原プランナーの訪問を受けて、「理想とする終身雇用実現のために、どのような継続雇用制度に改善したらよいか」といった制度づくりや、高齢社員の健康、体力面といった課題を相談したそうです。市原プランナーは、「高齢社員にかぎらず、すべての社員が安心して長く働ける職場を目ざし、以前からさまざまな取組みを行っていることに感銘を受けました」と訪問当初をふり返ります。そして、2回目の訪問の際に、高齢社員の戦力化および課題解決の提案として、65歳への定年引き上げ、66歳以降の継続雇用についても明確化することなどを提案。同社ではそれらの提案を参考にして検討を重ね、提案以上の現制度に改定しました。 大切なのは技術をつちかった社員の定着  社員66人のうち、60歳以上の高齢社員は3人(2025年10月現在)。若い人材を毎年採用できている同社で、なぜ70歳まで働けることを明文化した高齢者雇用制度を整えたのでしょうか。  「当社を選んで入社した社員が、どうしたら安心し、かつやりがいを持って長く働ける職場を実現できるか。このことを追求して、仕事と子育ての両立、ワークライフ・バランスの推進、健康経営などに取り組んできました。定年延長もそのなかの一つです」(森社長)  同社では、年齢を重ねても安心して、仕事に誇りと責任、やりがいを持って働ける職場環境を整えた「終身雇用」を目ざして、おもに次のことに取り組んでいます。 ■社員全員が正社員  社員一人ひとりが会社の一員としての認識を持ち、それぞれの持つ能力を発揮してできることを行い、支え合う。 ■すべての職種がジェンダーレス  本人の意向とものづくりへの意欲を重視した採用、製造現場への積極的な女性配置に取り組み、男女の隔てなく仕事ができる職場を実現しました。同時に、子育てをする社員が働きやすい環境づくりも推進し、産休・育休の取得はもちろん、復職しやすい環境となり、男性の育児休暇取得率も80%となっています。 ■活躍の場の創出  多様な人材が活躍する職場を目ざして、文・理系学科、あるいは経験の有無による職域、ハンディキャップの有無での制限はせず、積極的な採用活動に取り組んでいます。2025年10月現在、7人の障害者を雇用しており、障害の有無にかかわらず、全社員が互いを理解・尊重し、能力を発揮して働ける職場づくりに努めています。  「仕事ができるからその人を雇っているのであって、もちろん障害者を雇用することが目的ではありません。高齢者も、性別についても同じです。その人に長けていることがあるから、それを活かしたポジションについて働いてもらう。キャリアを積んだ社員が、意欲的に長く働ける環境を整えることが大切ですし、技術をつちかった社員が定着することが当社にとって、とても重要なのです」(森社長)  こうした取組みに社員が賛同し、同社は成長してきました。そして、黒字企業として安定した賃金の実現や、年齢を重ねても安心して働ける職場を目ざしていることが広まり、ここ数年、新規学卒者を毎年採用。入社後3年以内の職場定着率は100%を実現しています。「多様な人材の多様な技術や経験があるから多様な仕事ができる」という同社の強みが増したと森社長は強調します。 高齢者雇用の取組みのポイント  同社では、高齢者雇用に関連して、次のような取組みを展開しています。 ★定年以降の働き方は、健康やライフスタイルなどにより、フルタイム勤務のほか、短日・短時間勤務などを選択可能。 ★定年後も人事評価を行い、賞与に反映。 ★定年以降の退職金はないが、全社員に養老保険を契約しており、退職時に支給。 ★福利厚生の一つとして、資産形成や老後のお金の心配などについて、社員がファイナンシャルプランナーに無料で相談できるサービスがある。 ★健康、体力、収入面などについて、社長と社員とで話し合える環境づくりをしている。 ★2024年からフランチャイズで、生活支援「アシスタ」事業を開始。  アシスタは、介護保険では賄えない日常の不便を抱える高齢者と、それを解決する学生を同社がつなぐサービスです。  「庭の草取りや囲碁・将棋の相手がほしいといった依頼に学生に応えてもらう事業です。地域への恩返しになればと思い始めたのですが、当社の高齢社員にできることであれば、新たな活躍の機会になるかもしれないとも考えています」(森社長)  同社の取組みは、社員の定着率を高めることにつながっています。今回は、同社に勤めて25年の60歳の社員の方からお話をうかがいました。 「経験したからこそ力になれることがある。職場の役に立ちたい」  谷川とも子さん(仮名)(60歳)は、35歳で入社し、正社員としてフルタイムで働いています。コンピューターを使って設計や作図をするCADを担当。前職もアパレル企業でCADを使っていましたが、「業種が異なるとCADが違うため、入社時は未経験者とほぼ同じでした」とふり返ります。  現在の仕事内容は、注文書をもとに、切断する鉄製品の図面を作成したり、それを切断用の機械にプログラムすること。谷川さんは、「作成したプログラムに基づいて、切断、加工作業を経て出荷されるので、とにかくミスをしないことが重要です。納期に間に合うよう、最終工程まで頭に入れて迅速に作業することを心がけています。やりがいは、平面図から完成品をイメージし、プログラムすることで、それが製品の仕上げに役立ち、製品がいろいろなところで使われていることです」と笑顔で話します。  入社時は、小学生と中学生のお子さんの子育て真っ盛りの時期でしたが、働き続けられるように会社がサポートしてくれたそうです。お子さんたちが授業の一環で同社へ見学しに来たこともあり、「それが縁だったのか、二人とも設計の仕事をしています」と、お子さんが自分と同様の仕事を選んだことをうれしそうに話します。  定年は65歳になりましたが、旧制度の60歳で人生設計を考えていた社員もいることから、谷川さんが60歳になった際、森社長から今後の働き方の意向を聞かれたそうです。「そのとき、まだ自分が必要とされていることがわかり、うれしかったですし『まだまだしっかり働いていたいです』と即答しました」(谷川さん)  入社時は子育て、数年後にはご家族2人を介護していた時期もあったそうです。「最近は、私自身が病気をして休暇をいただいたのですが、無事に復帰することができました。ふり返るとたいへんな時期もありましたが、仕事を続けたいという気持ちがいつもありました。会社の制度や同僚の協力があって継続することができ、辞めずにこられてよかったと思っています。自分が経験したからこそわかることや、力になれることがあると思うので、これから会社に恩返しをしていきたいです。社員同士が助け合いながら、仕事を長く続けられる会社であることを、若い人たちに伝えていきたいし、その役に立ちたいと思っています」と話してくれました。 理想的な終身雇用を目ざして  市原プランナーは、「理想的な終身雇用を目ざして、生涯働いていたくなる職場づくりに注力されてきたことがよくわかりました。10年後、20年後を見すえて、社員のニーズを先にくみ取り、取組みを進めてきたことが、ベテラン社員の安心と若い人の採用につながっていると思います。すばらしいと思います」と同社の取組みを評価しました。  森社長は、「50代の社員が多いのですが、定年延長などの制度を整えたことにより50代や40代の社員の安心感を高めたと思います。年を重ねた経験豊富な社員が、今後も若手の育成をはじめ、いろいろな面で役に立ってくれると思います。どうしたら社員が長く働きたいと思う企業になれるか、つねに自問しながら、経営者としてはきちんと利益を出していくことに努め、社員に信頼される経営を続けていきたいです」と語りました。  社員が自社でつちかい磨いてきた技術をなによりも大切に考え、安心して長く働ける職場をつくることを追求している同社。今後の挑戦にも注目です。(取材・増山美智子) 市原良信 プランナー アドバイザー・プランナー歴:6年 [市原プランナーから] 「少子高齢化が進展するなか、高齢者の戦力化は中小企業の人材確保・育成にとってもっとも重要な人事戦略の一つと考えています。プランナーとして企業訪問する際は、高齢者雇用の延長の提案だけでなく、その企業が抱えている課題とセットで提案することを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆岐阜支部高齢・障害者業務課の中野課長は市原プランナーについて、「企業での人事部門の経験に加えて、経営全般についての知識も豊富であり、企業の課題を顕在化し、解決のための適切な助言をていねいに行っています。また、後輩プランナーに対して、自身の経験をふまえたノウハウを惜しみなく伝えていただいており、とても頼りになる存在です」と話します。 ◆岐阜支部高齢・障害者業務課は、県内の企業が集中する岐阜市内の岐阜駅から徒歩10分程度のオフィスビル内という利便性の高いところに立地しています。 ◆同県では、11人のプランナー、アドバイザーが広い県域をくまなくカバーし、精力的に活動しています。2024年度は329件の相談・助言、126件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●岐阜支部高齢・障害者業務課 住所:岐阜県岐阜市金町5-25 G-front U 7階 電話:058-265-5823 写真のキャプション 岐阜県岐阜市 新世日本金属株式会社の工場 森託也代表取締役社長 CADのソフトウェアを立ち上げて仕事を開始する谷川さん 【P36-37】 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第110回  渡部惠さん(73歳)は、40代で「働く人の協同組合」にかかわり、30年超の経験を積み重ねてきた。全員で出資して経営に責任を持ち、労働をになうという先進的な世界で、豊かに生きることの本質を模索し続けてきた渡部さんが、生涯現役で働く醍醐味(だいごみ)を語る。 労働者協同組合事務局 ワーカーズ・コレクティブJam(ジャム) 渡部(わたべ)惠(めぐみ)さん 縁あって出会った「生活クラブ」  私は千葉県市川(いちかわ)市の生まれです。地元で学生時代を過ごし、20歳のとき、総合商社に就職しました。当時の風潮として女性社員は親元から通っている人ばかりが採用される時代でした。  配属されたのは財務部資金課でした。仕事は楽しく、長く働きたかったのですが、結婚を機に退職しました。隔世の感がありますが、そのころは結婚したら退職する女性がほとんどで、結局私も入社後7年半で家庭に入り、神奈川県に引っ越しました。  その後しばらくは専業主婦が続き、二人の男の子に恵まれました。子育て中に食生活の大切さに気づき、「生活クラブ」の食品(消費材)に興味を持つようになって自然と加入しました。生活クラブには「班」と呼ばれるグループがあり、班の仲間との語らいも楽しみの一つでした。下の子が小学校に上がったころだったので、家から通えるところで働きたいと思っていたところ、班の仲間の一人から「生活クラブが人を募集しているから、一緒に話を聞きに行こう」と声をかけられました。幸いなことに採用されて、自宅から徒歩5分の生活クラブ海老名(えびな)配送センターが私の職場になりました。40歳で新たな人生がスタートしました。  女性が結婚を機に退職し、専業主婦になることが一般的な時代があった。しかし、実際には仕事を続けたかった女性もおり、渡部さんもその一人。「働きたかったのは家事が嫌いだったからかも」と渡部さんは笑った。 生活クラブの理念と実践に学ぶ日々  海老名配送センターの仕事は事務全般にわたりました。組合員向けの伝票やお知らせのセット、簡単なワープロ入力、申込書の整理などです。7年半の総合商社での経験は大いに役立ちました。人生で無駄な経験など何一つありません。ただ、生活クラブの理念などを深く理解していなかったので、毎日が勉強だったことも事実です。例えば、生活クラブには独自の言葉があり、代表的なものは「商品」のことを「消費材」と呼ぶことです。これは市場にあふれる「商品」の問題点を生活者の視点で見直し、利益を得ることを目的にしないで、組合員のために「消費されるもの」としてとらえるのです。毎日学ぶなかで、生活クラブがどんどん好きになりました。一緒に働く人たちも魅力的で、組合員を増やすという大切な任務に明るく取り組む姿に励まされました。私が働き始めた翌年に協同組合事務局「ワーカーズ・コレクティブJam」を立ち上げました。それまでの配送センターの仕事から一歩前に踏み出したのです。  生活協同組合である生活クラブは半世紀の歴史を誇る。1982(昭和57)年から「ワーカーズ・コレクティブ」という協同労働の模索が始まる。Jamの誕生から33年が経ち、はじめはかぎられた業務の委託だったが、総務関係や組織管理、共済事業など業務の幅が拡大した。 周囲の人たちに支えられ  私の仕事は、最初は組合員に配付するカタログやニュースのセットなどの基本業務だけでしたが、そのうち経理や物流関連、文書管理、施設備品管理などの総務業務を担当するようになりました。現在はコールセンターができたのでなくなりましたが、当初はコールセンターがなかったので苦情の電話対応も仕事でした。やりがいもあり、組合員から怒られながらも、そこで言葉の選び方などを身につけていきました。仕事というものはどんなことからでも学べるのだと思います。  気がつけば、生活クラブ一筋に30年が経ちました。続けてこられた秘訣をあげるなら、好奇心と周りの人の助けのおかげだと思います。Jamの業務の一つに本部事務局という部門があります。ここを担当しないかといわれたときはさすがに躊躇(ちゅうちょ)しました。Jamの基幹会議に関連する資料の手配や、議事録作成、税務などを一手に引き受けなければならず、ハードルが高いと思ったからです。それでも結局引き受けて、パソコンの操作の基本を家で夫に教わり、練習をくり返してなんとかみなさんのお役に立てるようになりました。海老名センターに所属しつつ、本部事務局に週2回通い、人手不足のほかのセンターにも応援に行きました。これらを通したいろいろな人との出会いが、私の財産になっています。  働く人の協同組合には、活動の実態に合った法人格がなかったため、社会化が進まなかった。その解決のために1990年代初頭より法律の制定運動が始まり、2020(令和2)年に「労働者協同組合法」が国会で成立。その2年後に法律が施行されたことは渡部さんたちの働き方の追い風となった。 生涯現役で働ける喜び  労働者協同組合はひとことでいえば「働く人の協同組合」です。働く人たちが自主的に力を集めて仕事をつくり出していくことは、社会にもプラスになるのではないでしょうか。労働者協同組合法が30年近くの歳月を経て制定されたことに励まされました。  Jamは生活クラブからの業務委託が中心ですが、自主管理と自主運営、自分たちの考えで行動していかなければなりません。それはなかなかたいへんですが、やりがいもあります。  生活クラブの消費材はテレビで宣伝されるわけでもなく、一般の人へのお知らせはチラシです。いまはインターネットもありますが、チラシ撒きの30年であったような気がします。組合員を増やすために戸別訪問をしたこともあります。若い方に安心できる消費材を知ってほしくて、おむつが干してある家を目ざして訪問したことは、懐かしい思い出です。  私たちの仲間はいろいろな世代がいます。労働者であり経営者でもありますから、ときには赤字を出すこともあります。会議の席で赤字の話になっても、同じ目的をもって同じ方向に歩んでいるので信頼感があります。お互いをリスペクトしていることが強みかもしれません。  現在の私の勤務形態は、週2日。本部のコールセンターに通っています。もともと所属しているセンターにも、月5日ほど顔を出しています。若いメンバーから相談されたときは、じっくり話を聞くようにしています。  おかげさまで風邪一つひいたことがない丈夫な身体をもらったので、両親には感謝しています。プールに週1回通い、スイミングやウォーキングを楽しんでいます。身体も自主管理が大切ですからヨガにも通っています。  趣味といえば、旅行や観劇、読書。6歳と3歳の孫に会うのも楽しみの一つです。とにかくこの年齢まで働かせてもらえることに感謝しつつ、自分の仕事に誇りをもって、生涯現役という道を歩いていきます。 【P38-41】 ジョブ・クラフティング JOB CRAFTING 入門 釧路公立大学 准教授 岸田(きしだ)泰則(やすのり)  働く人が、自ら仕事に対する認知や行動を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと変える手法「ジョブ・クラフティング」。役職定年や定年後再雇用により、それまでの業務や役割が変更となり、モチベーションの低下が懸念されるシニア世代のパフォーマンスの向上に向け、ジョブ・クラフティングは効果的といわれています。最終回となる今回は、ジョブ・クラフティングの支援について解説します。 最終回 シニア社員のジョブ・クラフティングの支援 @はじめに  日本社会は急速に高齢化が進み、企業では定年延長や再雇用制度により、高齢者雇用の取組みが進められています。一方で、「何を目標にすればよいのかわからない」、「以前のように力を発揮できない」と悩むシニアも少なくありません。  こうした状況で役立つのがジョブ・クラフティングです。自分の仕事のやり方を工夫したり、周りとのかかわりを変えたり、仕事の意味をとらえ直したりすることで、働きがいを再発見することができます。  しかし、ジョブ・クラフティングは本人の努力だけでは続けにくいものです。上司や組織からの支援があってこそ、日々の小さな工夫が長続きし、成果につながります。そこで、最終回となる本稿では、シニア社員のジョブ・クラフティングを支援するために重要な「マネジメント」と「研修」の二つの柱を解説します。 Aジョブ・クラフティングのマネジメント  ジョブ・クラフティングは、「やれ」と命じられてできるものではありません。むしろ、上司や組織が「安心して試せる環境」をつくることが大切です。ある地方銀行では、上司が「お客さま対応で工夫できることがあれば試してみてください」と伝えたことで、シニア社員が窓口業務に独自の工夫を加えました。具体的には、高齢の顧客に対してわかりやすい言葉で手続きを説明するカードを自作し、待ち時間に簡単に目を通せるようにしたのです。その結果、顧客からは「安心して相談できる」という声が増え、金融商品への信頼度も高まりました。シニア社員自身も「自分の工夫が顧客満足につながった」と感じ、新しい役割意識を得ることができました。支援の基本は環境づくりにあるのです。  森永(2023)はアソビ≠残したマネジメントの重要性を指摘しています。やりがいを感じるためには、ネジ穴のアソビのような余白をつくっておくことが大事なのです。アソビとは上司に逐一報告せずに進められる少しの自由度のことであり、アソビがあることでシニア社員は自分らしい工夫を試せます。逆に、すべてがマニュアル通りだと工夫が制限され、働きづらくなります★1。  例えば、小売業のシニア社員が「接客中にお客さまにひとこと声をかける」という工夫を自主的に始めました。決められたセリフではなく、天気や地域の話題を織り交ぜることで、常連客との会話が弾みました。これが売上げにもつながり、同僚も「真似したい」と取り入れるようになります。アソビがあるから工夫ができるのです。  前回※1でも解説しましたが、ジョブ・クラフティングにも副作用があります。例えば、「やりすぎ」、「こだわりすぎ」、「抱え込みすぎ」といった状態に陥ると、かえって職場全体に悪影響を及ぼすことがあります。  「やりすぎ」のケースでは、シニア社員が独自に接客方法を工夫しすぎて標準マニュアルを逸脱し、ほかの社員との対応に差が出てしまうなどの例があります。顧客に混乱を与える結果となり、本人の意図に反して職場全体に負担をかけてしまいます。  「こだわりすぎ」のケースでは、あるベテラン社員が自分なりのやり方に強く執着し、新しいシステムの導入を受け入れられず、組織の指示に従わないことがありました。その結果、チーム全体の生産性が下がり、職場に不協和音が生じました。  「抱え込みすぎ」のケースでは、後輩を思いやるあまり、自分一人で業務を引き受けすぎたシニア社員が過労状態になり、結局は体調を崩して長期休職につながってしまったことがありました。善意からの行動でも、過剰になると本人も職場も苦しくなります。  このような副作用を防ぐためには、上司が個人の工夫の意図は評価しつつ、職場全体とのバランスを見て調整する役割を果たすことが欠かせません。ジョブ・クラフティングは自律的な行動ですが、社員のジョブ・クラフティングが組織の許容できる範疇を超えたときには、上司がその業務を適正なレールに戻してあげることが必要です。その結果、本人の意欲を損なわずに組織にとって健全な方向へ導くことができるのです。  マネジメントにできる支援は次のようなものが考えられます。第1に行動を起こす支援です。まず試してみるように社員の背中を押すのです。第2に行動を方向づける支援です。成果や課題を上司が一緒に確認し、改善の方向を示してあげることができます。第3に心理的安全性の確保です。上司は、社員が失敗を恐れず工夫できる雰囲気をつくる必要があります。これには、年齢や立場にかかわらず多様な工夫を認めるインクルーシブ・リーダーシップというスタイルをとるといいでしょう。実務的にいえば、「まずやってみよう」といえる上司がいる職場ほど、シニア社員のジョブ・クラフティングは広がりやすいのです。 Bジョブ・クラフティング研修  シニア社員にとって、ジョブ・クラフティング研修は「新しい挑戦を始める場」であると同時に、「これまでの経験を整理して次に活かす場」でもあります。若手向けの研修がスキル習得や行動変容に重点を置くのに対し、シニア向けの研修では「自分の強みや価値観をどう活かすか」、「役割の縮小をどう受け入れ、意味づけを変えるか」といった視点が重視されます。  一般的な研修の流れは共通しています。まず導入では、ジョブ・クラフティングの考え方や事例を紹介します。「小さな工夫で仕事の意味が変わる」ことを理解することで、受講者は安心して学びに取り組めます。続いて自己診断の時間を取り、日々の業務や人とのかかわり方をふり返りながら、「ここは自分に合っている」、「ここにストレスがある」と棚卸しします。  そのうえで、各自がジョブ・クラフティング計画を作成します。シニア社員の場合、例えば「若手への指導を自分の役割として明確化する」、「体力的に厳しい作業は補助に回り、代わりに作業チェックをになう」、「患者への声かけにひとこと工夫を加える」といった小さな目標が設定されるとよいでしょう。計画はSMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限を意識する)※2の原則で具体化し、翌日からすぐに実行できるようにします。  ジョブ・クラフティング研修では、「まずは自分の手持ち業務から工夫していこう」というように、「背伸びしすぎない目標設定」が重要です。また、シニア社員にとっては、研修を通じて同じ立場の仲間と体験を共有できることが大きな励みとなります。「ほかの人も工夫している」と知るだけで、モチベーションが維持されやすくなります。そして、シニアのジョブ・クラフティング研修に必要なことは、「これまでつちかった経験を棚卸しして活かすこと」と「新しい自分なりの工夫を見つけること」の両方を後押しする仕組みです。研修の場はあくまできっかけにすぎませんが、その後の実践と上司や職場の支援があれば、シニア社員は自分の役割を再定義し、活き活きと働き続けることができます。 Cジョブ・クラフティング研修の事例紹介  筆者自身も、ある企業と共同でジョブ・クラフティング研修を企画、実施してきました。その研修の特徴は「上司を巻き込む仕組み」と「継続的なフォローアップ」を取り入れた点です。従来の研修は1日かぎりの集合型で終わることが多く、効果が数週間で薄れてしまう課題がありました。そこで、私たちは1回目の集合研修で各人にジョブ・クラフティング計画カード(図表)を作成してもらい、それを上司に説明する面談を必須としました。上司が計画の意図を理解し、承認やフィードバックを与えることで、現場での実践が進めやすくなります。研修効果を持続させるためには、上司を巻き込んだ研修デザインが必要となると考えたのです。その結果、シニア社員のジョブ・クラフティングの実践が職場に根づきやすくなります。あるシニア社員は「上司に『やってみればいいじゃないか』といわれただけで、自分の工夫に意味があると確信できた」と話しています★2。  さらに、1カ月後には半日のオンライン研修を実施し、そこでの実践をふり返りました。同時にオンラインサロンを立ち上げ、研修受講者と講師、キャリアコンサルタントが交流できる場を設けました。仲間同士の支え合いが「ほかの人もがんばっている」と実感できる後押しとなり、行動が継続されました。  研修受講者のジョブ・クラフティングの実践内容を見ると、シニア社員特有の「世代継承型ジョブ・クラフティング」が目立ちました。例えば、あるシニア社員は自らの担当業務を自主点検マニュアルにまとめ、暗黙知を形式知化しました。別のシニア社員は、顧客対応の場面で「雑談を増やす」という小さな工夫を取り入れ、周囲の反応を見ながらコミュニケーションのあり方を変えていきました。また、当初「職務の幅を広げたい」と大きな目標を掲げていたシニア社員も、研修を通じて「まずはいまの業務を楽しんで取り組むことから始めよう」と目標を調整しました。これは拡張的ジョブ・クラフティングと縮小的ジョブ・クラフティングをうまく組み合わせた実践であり、シニア社員が無理なく新しい役割を見つけていくプロセスそのものです。  このように、上司を巻き込み、仲間とつながる仕かけをつくることで、ジョブ・クラフティング研修は単なる学びの場にとどまらず、職場で持続する行動変容へとつながることが確認できます。 Dおわりに  ジョブ・クラフティングは大きな改革ではなく、日常の小さな工夫です。シニア社員がそれを続けるためには、上司の理解や同僚の協力が欠かせません。  例えば、ある再雇用社員が「自分の強みを活かして若手に資料作成を指導したい」と提案したとき、上司が「ぜひやってほしい」と承認しました。結果として若手はスキルを学び、シニアはやりがいを得るという好循環が生まれました。逆に、同じような提案に対して「そんなの必要ない」と突き放した上司もいました。その職場ではシニア社員が萎縮し、結局新しい工夫は生まれませんでした。上司の姿勢ひとつで結果が大きく変わるのです。  また、ある病院のシニア清掃員は、自分の仕事を「患者さんの療養を支える大事な役割」と考えるようになり、誇りを持って働いています。こうした事例は、ジョブ・クラフティングが日常の仕事に誇りと意味を与えることを示しています。  シニア社員が自分らしく働き続けるためには、ジョブ・クラフティングを「自分だけの工夫」に終わらせず、組織として支援することが欠かせません。マネジメントは伴走者として方向を示し、研修は小さな工夫を始めるきっかけと継続支援を提供します。「年を重ねたからこそできる工夫は何か?」、この問いかけに答えることが、シニア社員のキャリアを支え、組織の未来を強くしていくのです。 【参考文献】 ★1 森永雄太(2023)『ジョブ・クラフティングのマネジメント』千倉書房 ★2 岸田泰則・大野瑠衣(2025)「ジョブ・クラフティング研修の実践的課題の検討」日本労務学会第55回全国大会 ※1 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202511/index.html#page=50 ※2 具体的=Specific、測定可能=Measurable、達成可能=Achievable、関連性=Relevant、期限=Time-bound 図表 ジョブ・クラフティング計画カード ジョブ・クラフティング計画カード ・何をしますか? ・いつ? ・どこで? (上司からのコメント) 出典:岸田泰則・大野瑠衣(2025)「ジョブ・クラフティング研修の実践的課題の検討」日本労務学会第55回全国大会 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第89回 高齢者の体調不良と安全配慮義務、解雇後の再就職と就労の意思 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲/弁護士 木勝瑛 Q1 持病を抱えている高齢従業員への安全配慮義務はどう考えればよいのでしょうか  持病を抱えている高齢従業員が、業務遂行中に脳梗塞で病院に運ばれました。労働災害に該当する可能性があり、会社にも使用者の責任があると指摘されているのですが、本人が持病を有していたことは考慮されないのでしょうか。 A  労働災害と認定された場合には使用者責任を問われる可能性が高くなりますが、使用者の責任を判断される際に、持病を治療せずに放置していたことや症状について報告していなかったことなどが考慮されて、責任が軽減される可能性があります。 1 高齢者と持病  65歳以上の労働者の割合が高くなり続けるなか、高齢者に対する安全配慮義務として、どのような配慮が必要であるか問題になることがあります。  高齢者とそれ以外の労働者における相違点があるとすれば、年齢を重ねていることから、身体的な能力が低下していることが多く、そのことをふまえた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称「エイジフレンドリーガイドライン」)が策定されていることは、過去にもご紹介した通りです※。  エイジフレンドリーガイドラインにおいては、健康や体力の状況の把握もテーマに掲げられていますが、今回は、体力ではなく、健康の側面に注目したいと思います。高齢者は、体力の低下だけではなく、持病を有している確率も相対的に高くなります。例えば、生活習慣病と呼ばれるような症状(高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームなど)があらわれることも多くなり、体調の管理に課題が出てくることがあります。  エイジフレンドリーガイドラインにおいて、健康状況の把握の観点からは、健康診断を確実に実施することに加えて、高齢者が自らの健康状況を把握できるような取組みとして、以下のような取組みが望ましいとされています。 ・法定健診の対象外であっても希望する者に対して勤務時間変更や休暇取得など柔軟に対応することや健康診断を実施するよう努めること ・健康診断の結果について産業医や保健師等に相談できる環境を整備すること ・健康診断の結果を通知するにあたり産業保健スタッフからていねいに説明すること ・日常的なかかわりのなかで、高齢者の健康状況に気を配ること  このように使用者には、高齢者の健康状況について把握するよう努めることが求められています。 2 持病が悪化した影響が大きい疾病に対する使用者の責任  大阪高裁平成15年5月29日判決では、心房細動の素因、高脂血症および飲酒といった生活習慣があった労働者が、業務中に脳梗塞を発症したという事案につき、使用者の責任が問われました。  労働者の遺族は、中高年齢者であるのに、業務が過重にならずほかの労働者との負担割合が公平になるように配慮しなかったこと、多数回の夜間作業や昼夜連続作業に就かせたこと、著しい連続勤務に就かせたこと、溶接時間が急増したこと、作業中に鉄粉が目に刺さるけがを負った後にもその体調を把握し安静にさせるなどをしなかったことなどを指摘し、使用者としての安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求しました。  裁判所は、労働者の遺族の主張内容をふまえつつも、脳梗塞発症時の健康状態についても考慮しながら、次のような判断をしました。  「健康状態及び業務実態によれば、本件脳梗塞は、…(中略)…業務によって蓄積した疲労のみを原因とするものではなく、B(筆者注:労働者)の心房細動(の素因)、高脂血症及び飲酒といった身体的な素因や生活習慣もその原因となっており、とりわけ、Bの脳梗塞は心原性のものでありその発症に心房細動が大きく関与したものと考えられる。そして、…使用者として安全配慮義務を負っており、労働者であるBの健康状態を把握した上で、同人が業務遂行によって健康を害さないよう配慮すべき第一次的責任を負っているから、Bの身体的な素因等それ自体を過失相殺等の減額事由とすることは許されない。」  この判断は、労働者が身体的な素因(例えば、持病など)を有していたことをもって、使用者の責任が軽減されるわけではないことを示しています。したがって、高齢者であるからといって、使用者の安全配慮義務が軽減されるわけではなく、むしろ年齢を重ねるごとにリスクが顕在化しやすくなるとすれば、より繊細な安全配慮義務を負担することが求められているともいえます。  身体的な素因を単純に考慮することはできませんが、持病を治療することなく放置したり、使用者が健康状態を把握することに非協力的な態度をとっていた場合には、使用者の責任が軽減されることがあり、同裁判例でも次のように判断しています。  「しかしながら、健康の保持自体は、業務を離れた労働者個人の私的生活領域においても実現されるべきものであるから、使用者が負う前記の第一次的責任とは別個に、労働者自身も日々の生活において可能な限り健康保持に努めるべきであることは当然である。本件において、Bは、…心房細動等により治療を必要とするとの所見を医師から示されており、それ以前から、心房細動同様に胸内苦悶や不整脈といった心由来の疾病に罹患した経験を有していた…それにもかかわらず、Bは、本件脳梗塞が発症するまで心房細動等についての治療等を受けなかった」として、治療を受けていなかったことを指摘し、さらに、「使用者が上記義務を十分に履行するためには、その前提として、労働者が使用者に対して、発生した事故の内容や自己の症状に関する報告をし、使用者側でこれを十分に認識する必要がある」として、自己の症状等について適切な報告をすべきと指摘しました。  最終的な判断としては、労使間の非対等性を考慮してもなお、損害の公平な分担という法の趣旨に鑑みて、使用者の安全配慮義務違反により被った損害額から4割を控除して、損害全体の6割に対する責任のみを肯定しました。  身体的な素因があること自体で使用者の責任が軽減されるわけではありませんが、健康の保持や具体的な健康状況の報告は労働者にも責任があるとされている点には注意が必要でしょう。 Q2 問題行動から解雇をした元従業員がいるのですが、すでに他社に再就職しているにもかかわらず復職の訴えがありました  先日、ある従業員を解雇したところ、当社に、その従業員が依頼した弁護士から内容証明郵便が届きました。内容証明郵便では、解雇は無効であるため、解雇から現在までの給与相当額を支払ったうえで復職の処理をするよう要請されています。しかしながら、その従業員は、現在では新たな会社に、正社員として就職しているようであり、当社で働いていたときと同水準の給与を得ているようです。仮に解雇が無効と判断されたとしても当社に復職する気はないように思いますが、このような場合でも、従業員の主張が認められるのでしょうか。 A  解雇された労働者が、解雇後に再就職をして、同水準の賃金を得ていたとしても、労働者の主張がただちに否定されるものではありません。裁判例でも、生活の維持のため、解雇後ただちにほかの就労先で就労することは復職の意思と矛盾するとはいえないとして、労働者が再就職先で同水準以上の賃金を得ていた事案で、就労意思の喪失を否定しています。 1 解雇のハードルについて  会社と従業員は、労働契約という契約関係にあります。労働契約の基本的な内容は、従業員が会社に対して、労務提供義務を負い、他方で、会社が従業員に対して、賃金支払義務を負うというものです(民法第623条)。  一般に、当事者の一方が債務を履行しない場合、他方当事者は契約を解除することができます(民法第541条、第542条)。そのため、労働契約においても、会社は、従業員が労務提供義務を満足に履行しない場合には、当該従業員との間の労働契約を解除(解雇)することができるということになりそうです。しかしながら、労働契約法は、会社の従業員に対して行う解雇に一定の制限を課しています。  すなわち、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなければ、解雇権を濫用したものとして無効とするとしています(労働契約法第16条)。そのため、実務上は、単に、労働者の労務提供義務の履行が満足に行われていないというだけでは、解雇は有効とは認められない可能性が高いです。  労働契約およびそこから発生する賃金は、従業員にとって生活の礎であり、これを簡単に失ってしまうとすれば、当該従業員の生活は不安定なものとなってしまうため、解雇には、通常の契約解消に比して高いハードルを設定しているのです。 2 違法な解雇の帰結  それでは、会社が違法無効な解雇を行ってしまった場合には、どうなってしまうのでしょうか。解雇が無効となった場合の法的な帰結について整理したいと思います。 (1) 労働者たる地位の存続  解雇が無効である以上、会社と従業員との間の労働契約は、未だ解消されていないことになるため、従業員の有する会社の労働者たる地位は存続することになります。 (2) 賃金請求権の継続的発生  労働契約が存続する以上、従業員は会社に対して労務提供義務を負い、会社は従業員に対して賃金支払義務を負うこととなります。そして、賃金支払義務は、労務提供が行われたことにより、具体的に発生することとなります(ノーワーク・ノーペイの原則)。  そうすると、解雇された従業員は、解雇後は会社に対する労務提供を行っていないのだから、労務提供義務の履行がない以上、賃金支払義務(賃金請求権)も発生しないとも思えます。  しかしながら、これについては、労務提供義務の履行を行えないのは、会社の違法な解雇によるものであるため、反対債権である賃金支払請求権は存続すると考えられています(民法第536条2項)。つまり、従業員が働いていないとしても、それは会社のせいであるため、従業員が働いているかどうかにかかわらず、賃金支払義務は発生し続けるということです。  そのため、違法無効な解雇を行った会社は、解雇日以降も、従業員に対する賃金支払義務を負い続けるということになります。 3 就労の意思  労働者が解雇後に就労の意思を喪失した場合には、解雇の承認により労働契約が終了する、解雇の意思表示と相まって労働契約が終了する、解雇と並行してなされた使用者の合意解約の申し込みに対する労働者の承諾の意思表示がなされたことにより終了するなど、法的構成はいくつかあるものの、労働契約は終了し、労働者は労働契約上の地位を喪失すると考えられてます。  また、バックペイの発生根拠は、労働者の労務提供義務の履行が会社の帰責事由により不能となっていることにあるところ、労働者において就労の意思がない場合には、会社の帰責事由による労務提供義務の履行不能とは評価できず、バックペイの発生が否定される可能性があります。  ただし、解雇された労働者が生計を維持するために他社に再就職をするということは、通常なされるものであるため、単に解雇後に再就職をしているというだけでは、就労意思の喪失はただちには認められないと考えられています。 4 フィリップス・ジャパン事件(東京地裁令和6年9月26日判決)  就労意思の喪失が問題となった最近の事例として、フィリップス・ジャパン事件があります。  この事件は、能力不足を理由に解雇された労働者が、会社に対して、賃金などを請求した事件です。従業員は、解雇がなされた後に、他社に解雇前と同水準以上の労働条件で就職していたため、会社側としては、労働者の就労意思の喪失を主張しました。  この点につき、裁判所は、「一般に解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、解雇後直ちに他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他の就労先で就労を開始した事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと直ちに認めることはできない」とした高裁判決(新日本建設運輸事件、東京高裁令和2年1月30日)を引用し、労働者の就労意思の喪失を否定しています。 ※ 本連載第58回「エイジフレンドリーガイドラインの詳細」(2023年3月号)をご参照ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202303/index.html#page=48 【P46-47】 新連載 諸外国の高齢化と高齢者雇用 第1回 アメリカ合衆国 独立行政法人労働政策研究・研修機構 人材開発部門 副統括研究員 藤本(ふじもと)真(まこと)  世界でもっとも高齢化が進行している国が日本であることは、読者のみなさんもご存じだと思いますが、高齢化は世界各国でも進行しており、その国の法制度に基づき、高齢者雇用や年金制度が整備されています。本連載では、全6回に分けて、各国における高齢者雇用事情を紹介します。第1回は「アメリカ合衆国」です。 「年齢による雇用差別禁止法」により違法となる定年制  日本では一般的な定年制=一定の年齢に到達したことを理由に雇用契約が終了する制度を、年齢による差別として違法とし、禁止する国・地域があります。そうした国・地域としてもっとも著名なのが、「年齢による雇用差別禁止法」(Age Discrimination in Employment Act、以下、「ADEA」)を制定・施行しているアメリカ合衆国(以下、「アメリカ」)です。  ADEAは1967(昭和42)年に、公民権運動など社会におけるさまざまな差別を解消していこうとするトレンドのなかで制定されました。その目的は、年齢が能力に影響するという根拠のない思い込みによって高齢労働者が雇用において直面しうる不利益に対処することです。ADEAは、従業員が20人以上の雇用主(国や州を含む)を対象とし、40歳以上の労働者を、採用、賃金、解雇、昇進、労働条件など、雇用のあらゆる場面で年齢を理由に差別することを禁止しています。また同法は、職業紹介所が年齢を理由とする職業紹介の拒否その他の差別を行うことや、労働組合が年齢を理由として組合員資格の剥奪やその他の差別を行うことを禁じています。1967年の制定当初は、65歳までの労働者に対する差別が禁止対象となっていましたが、1986年に上限年齢についての規定がなくなりました。  ADEAで禁止されている年齢を理由とした雇用における差別的慣行には、求人広告で「新卒者」のような年齢を特定する表現を用いることや、解雇の決定において年齢を要因として用いることなどが該当します。また、高齢者に対する敵対的な職場環境の形成につながるような、頻繁もしくは深刻な年齢を理由としたハラスメントのほか、例えば職務に直接関連しない体力テストが高齢の応募者を排除する可能性があるといった場合など、一見年齢中立的ではあるものの実際は「差別的影響」を持つ雇用方針・慣行も禁じられています。  ADEAの執行は、おもに雇用機会均等委員会(EEOC)がになっています。年齢差別の被害を受けたと主張する労働者は、裁判所に訴訟を提起する前に、問題となる違法行為が生じた日から180日以内にEEOCに行政救済申立をしなければなりません。EEOCは申立を受理した後、調査、調停を進め、調停で解決しなかった場合に、申立をした労働者に対して訴訟提起権通知書を発行します。  なお、アメリカにおいても定年制が許容されるケースがあります。一定金額以上の退職金を受給できる上級管理職等に対し、65歳以上での定年を適用するケースや、州の警察官や消防士に対して、州法または地域法で55歳以上の定年年齢を規定するケースなどです。 シニア労働者の増加と課題  ADEAが制定・施行されたアメリカですが、65歳以上人口に占める雇用者の割合は1970〜1980年代を通じて低下し続けました。しかし1987年に約11%となって以降は上昇に転じ、2023(令和5)年には65歳以上人口の19%が雇用者として働いています(Pew Research Center, 2023)。またアメリカ労働統計局の集計によると、2024年の65歳以上雇用者は約1128万人(前年比40万人増)で、16歳以上の全雇用者(約1億6135万人)の約7%を占めています(図表)。労働統計局は今後も65歳以上の雇用者数は増加すると見ており、2032年には全雇用者の8.6%に達すると推測しています。  65歳以上のシニア雇用者が増加した理由の一つは、アメリカ全体の高齢化です。日本ほど急速ではありませんが、アメリカでも人口の高齢化が進んでいます。特に第2次大戦後の1946〜1964年に生まれた「ベビーブーム世代」が65歳以上となる2011(平成23)年以降、高齢化が加速しており、2010年に13%であった65歳以上人口の比率は、2030年には20%に到達すると予測されています。  人口面以外のシニア雇用者増加の要因としては、@現在の高齢者はかつての高齢者に比べて教育水準が高いこと、A現在の高齢者はかつての高齢者に比べて健康状態がよく、障害を負う可能性も低いこと、B主要な退職金制度が、確定給付型から401Kなどの確定拠出型に移行し、雇用者の早期退職がうながされなくなったこと、C1983年の社会保障制度改正により、満額受給開始年齢が65歳から67歳に引き上げられたこと、D肉体的に過酷ではない、より大きな自律性と柔軟な勤務スケジュールを許容する仕事が増えたこと、などをあげることができます★1。  シニア雇用者が増加するなかで、さまざまな課題も浮かび上がっています。アメリカ上院の労働力の高齢化に関する特別委員会は、2017年に発表した報告書のなかで、シニア雇用者が活き活きと働くことをむずかしくする諸課題として、以下の点を指摘しています★2。第一はADEAが施行されているにもかかわらず根強く残る年齢差別です。第二は、高齢者は新しい技術に不慣れであるという偏見などにより、企業側がシニア雇用者への投資に消極的であったり、シニア雇用者自身が新しいスキルを学ぶ機会を得られなかったりするという、不十分な教育訓練機会の問題です。第三は、より高齢になるにしたがって上昇するシニア雇用者が抱える健康リスクへの対応、第四は高齢の親族の介護をしながら働くシニア雇用者の「仕事と介護の両立問題」への対応です。第五に、引退に向けた経済的な備えが十分にできないために、希望するよりも高齢に至るまで労働条件を下げてでも働かざるを得ないシニア雇用者の存在が課題として指摘されています。 【参考文献】 ★1 Pew Research Center, 2023, Older Workers Are Growing in Number and Earning Higher Wages. ★2 United States Senate Special Committee on Aging,2017, America's Aging Workforce: Opportunities and Challenges. 図表 65歳以上のシニア雇用者の人数と全雇用者に占める割合(2020〜2024年) 2020年 981.8万人 2021年 1012.7万人 2022年 1057.4万人 2023年 1087.9万人 2024年 1127.6万人 出典:アメリカ労働統計局集計 【P48-49】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第62回 「36(サブロク)協定」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「36協定」について取り上げます。労働基準法第36条に基づく行為であるためこの名称が使われています。 時間外・休日労働をさせるには必ず必要  36協定は、使用者が労働者に時間外・休日労働を命じるために締結する労使協定※1のことをいいます。多くの労働者には時間外・休日労働の経験があるかもしれませんが、これらは自由に行えるものではありません。労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間以内と法定労働時間が定められており※2、業務はこの範囲内で行うことが基本で、使用者がこれを超えた労働を命じると違法となります。しかし、業務の都合上、どうしても法定労働時間を超えて働いてもらう必要が生じることがあります。そのような場合に備えて、会社と労働者の代表があらかじめ労使協定を結び届け出することで、時間外・休日労働を可能とするのが36協定です。  労使で協定した内容は届出書(36協定届)〔図表〕に明記しなければなりません。その際に決める必要があるのは、時間外労働を行う業務の理由と種類〔A〕、1日・1カ月・1年あたりの時間外労働の上限〔B〕です。上限は法令では、月45時間・年360時間が限度時間で、これに基づき結んだ協定を一般条項といいます。しかし、臨時的な特別の事情があれば、年720時間、複数月平均80時間以内・月100時間未満(休日労働を含む)までは設定することができる(ただし、月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで)特別条項を締結することができます。なお、建設業・ドライバー・医師等については、2024(令和6)年4月以降に定められた特例の上限規制が適用されているため、別途確認が必要です※3。  36協定を結んでも運用上で留意すべき事項があります。時間外・休日労働は最小限にとどめるのが基本で、臨時的な事情がある場合でもできるかぎり限度時間に近づけるよう努めなければなりません。また、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負い、限度時間を超えて労働させる場合は、医師による面接指導や深夜業の回数制限等の労働者の健康・福祉を確保する措置を講ずる必要があります。これらの留意事項は厚生労働省の「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針※4」にわかりやすくまとめられています。 協定の対象者やプロセスにも配慮  協定の対象者やプロセスについても見ていきましょう。  協定の対象者となるのは、労働基準法第9条に定める労働者です。正社員・パート・定年後再雇用等の雇用形態に関係なく対象となります。一方、使用者に該当する取締役や労働基準法第41条に該当する管理監督者は労働時間の制約になじまないとされているため、対象外となります。これらの対象者のうち一人でも時間外・休日労働をする可能性がある場合には、会社単位ではなく事業場※5単位で36協定を締結し届出する必要があります。また、36協定届出書には対象となる労働者数を記載しなければならない〔図表のC〕ため対象をよく確認してください。  36協定の締結・更新は年に1回が望ましいとされています。自動更新も可能ですが、労使いずれからも異議の申出がなかった事実を証する書面を届け出る必要があります。締結・更新の際に注意しておきたいのは締結主体となる労働者代表についてです。これは事業場に、@労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、A @がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)が該当します。@の場合は、雇用形態関係なくすべての労働者に対して組合員数が50%を超過しているかを確認する必要があります。Aの場合は、代表者を選出する必要があります。選出は、雇用形態に関係なくすべての労働者が参加する民主的な方法(投票・挙手等)で選ばれた労働者でなければならず、管理監督者や会社が指名した者、社員親睦(しんぼく)会の幹事等を自動的に選任した場合は過半数代表者となりません。36協定を@またはAに該当しない相手と締結しても無効となりますし、36協定届にも過半数労働者の選出方法を記載する必要がある〔図表のD〕など注意が必要です。締結後は36協定届を所轄の労働基準監督署長に届け出して、その後は常時作業場の見やすい場所に掲示・備えつけをしたり、書面を労働者に交付する等で労働者に周知しなければなりません。  36協定を締結せずに時間外・休日労働をさせた場合や、協定した時間を超えて時間外・休日労働をさせた場合は、労働基準法違反で6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となることがあります。また、労働者の安全配慮は使用者の義務です。正しい内容や手順で36協定を締結するためにも、厚生労働省の労働基準関係リーフレット※6や主要様式ダウンロードコーナー※7などを確認することをおすすめします。 ***  次回は「労働基準監督署」について取り上げます。 ※1 使用者と労働者の代表が、労働条件などについて合意し、文書で取り交わす協定のこと ※2 「時間外労働」については、本連載第17回(2021年10月号)をご参照ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202110/html5.html#page=52 ※3 厚生労働省Webサイト「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」を参照。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html ※4 https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf ※5 一定の場所において、相互に関連する組織のもとで継続的に行われる作業の一体 ※6 「労働基準関係リーフレット」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html ※7 「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html 図表 36協定届の様式(一般条項) 〔出所〕主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)「様式第9号」(厚生労働省ウェブサイト) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fbunya%2Froudoukijun%2Froudoujouken01%2Fdl%2Fnew_youshiki09.docx&wdOrigin=BROWSELINK 【P50-53】 特別寄稿 中小企業(建設業)における高齢社員と若手社員の効果的なコミュニケーション 〜『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック』より 玉川大学経営学部 教授 大木(おおき)栄一(えいいち) 1 はじめに−「ヒト」から見た建設業界が置かれている現状と課題  建設業の就業者数は、2021(令和3)年平均で485万人で、ピーク時の1997(平成9)年平均から約29%減少している。また、55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%などと高齢化が進行している。建設業就業者数の減少と高齢化にともない、にない手の確保と次世代への技術承継が大きな課題となっている。こうしたことから、建設業では、若年入職者の確保・育成が課題とされてきた。しかしながら、若者を採用しようにも若年人口は減少しており、若年労働者の確保はむずかしい状況にある。  人手が不足するなかで「働き方改革」への対応も必要となっている。2018年に成立したいわゆる「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)は、50年後も人口1億人を維持し、だれもが活躍可能な社会(「一億総活躍社会」)の実現を目ざして、日本における8本の労働法の改正を行うための法律の通称である。  働き方改革関連法のおもな内容のなかで、建設業で特に影響が大きく、対応が急務となっているのが「時間外労働の上限規制」の適用である。建設業での適用には5年間の猶予が設けられていたが、2024年4月度から適用開始となっている。時間外労働の上限規制は罰則規定つきであり、守らない場合は、労働基準法違反として、「6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科されることになる。また、罰金にとどまらず、違法行為を行ったとして公共工事の受注などにも影響してくる。「働き方改革」に取り組むことは、現在の働き手の環境を改善するだけでなく、次世代のにない手の確保につながる。しかしながら、直近では、時間外労働に制限がかかり、生産性の向上なしには人手不足感に拍車がかかることとなる。  このように、建設業界は、「若年層の採用難」、「人材の量的な不足」、「人材の高齢化」といった人材問題を抱えている。業界の持続的な発展のため、ICT化等により生産性を向上させつつ、働き方改革を進め、処遇改善を図ることでにない手を確保していくことが必要である。そのためにも、意欲ある高齢社員(60歳以降の社員)にできるだけ長く活躍してもらい、にない手を確保するとともに、若手社員の定着や中堅社員の負担軽減にいかにつなげていくかが大きな課題となっている。 2 高齢社員に期待されている役割とは  執筆者が参加した一般社団法人日本機械土工協会・機械土工工事業高齢者雇用推進委員会(2023)『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブックー高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構委託事業)※は、高齢社員と若手社員のコミュニケーションに着目し、高齢社員と若手社員とのコミュニケーションのコツや、お互いの得意・不得意を補完し合って協業している事例などを紹介するとともに、機械土工工事業における高齢者活用の推進方策を取りまとめている。  それによれば、高齢社員の多くに期待されていることは、長年つちかってきた「技術・技能」、「経験やノウハウ」が活かせる分野でできるだけ長く活躍してもらうことであるが、これに加え、一部の高齢社員は、多忙な中堅層の役割の一部を肩代わりしてもらう役割を果たしている。建設業界(機械土工業界)の企業のなかには、社員の年齢構成が歪(いびつ)になっていて、人数が相対的に少ない中堅層に負担が集中しているケースがみられる。中堅層の負担を軽減する方向で、若手社員の指導や育成をになってもらったり、職長や現場代理人等の仕事をサポートしたりする役割をになっている(図表1)。加えて、職長や現場代理人等の相談相手になってもらうことで、中堅層の負担を軽減しているケースもみられる(図表2)。 3 高齢社員と若手社員の効果的なコミュニケーションの取組み (1)怒ってはいけないのか  高齢社員と若手社員がともに働くうえでも、高齢社員が若手社員を指導・育成するうえでも、鍵になるのがコミュニケーションである。高齢社員のなかには、若手社員とのコミュニケーションが苦手という人もいる。他方、若手社員の側にも、高齢社員に苦手意識を持つ人がいる。高齢社員と若手社員のコミュニケーションをよくすることは、職場の雰囲気をよくし、ともに働きやすく、続けやすい職場をつくることにつながる。  若手社員とうまくコミュニケーションがとれている高齢社員の特徴をみると、「絶対怒らない」、「優しい」といった特徴がみられるが、多くの者は「怒り方」を工夫している。安全にかかわること、危険を避けるためには、怒鳴ったり怒ったりせざるを得ない場も少なくない。必ずしも怒ることがだめなわけではなく、怒り方や怒った後の切り替えを工夫することが大切であることが明らかになっている。また、教え方に関しては、褒めて伸ばすほうがよいとの意見も多くみられる(図表3)。 (2)若手社員とうまくコミュニケーションがとれている高齢社員の特徴  若手社員とうまくコミュニケーションがとれている高齢社員の特徴は以下の六つに整理することができる。一つめは、声がけができる人である。来るものは拒まない、どんな人でも受け入れる、面倒見がよい、口数の多い人のほうが若手社員と打ち解けるのは早い、些細な気づかい、声がけができる(若手社員は自ら高齢社員へ話しかけることがむずかしいので重要である)、という特徴を持っている。  二つめは、褒めることができる人である。笑顔、褒める、この2点に尽きる。よくできたことはしっかりと「こういうところがよかった」と褒める。うまく褒めることは作業効率が上がることにつながる。  三つめは、上から目線でない、押しつけない人である。上から目線で指導しない。上から目線ではなく、アドバイス的な物言いをする。自分の考えを押しつけない。頭ごなしに批判しない。あたりが柔らかい。寄り添った会話ができる。相手を思いやり、見守り、困ったときに優しく助けることができる人である。  四つめは、相談しやすい、聞き上手な人である。相談しやすく、若手から高年齢の人までの相談役になっている人である。相手の特徴をつかんで、成長につながるアドバイスができている。相談しやすい雰囲気を持っている。話をよく聞いている。自分の経験を強く出さない冷静さがある。  五つめは、ブレない人である。自分の仕事に対して自信を持っている人である。指示や指導を行っても意見がブレないので、若手社員が不安や不信感を抱かず素直に聞くことにつながっている。  六つめは、上記の五つ以外での要素、若手社員に偉そうにいわれても気にしてない、ひねくれていない。「オレが若いころは…」と語らない、人の悪口、自慢話、昔話をしない、人である。 (3)高齢社員が若手社員とのコミュニケーションをよくする工夫  若手社員とうまくコミュニケーションがとれている高齢社員は、「シニアの側から声がけする」、「タイミングと距離感を図る」、「意見を否定しない」、「すべて聞き終わってから意見をいう」などを心がけている。例えば、高齢社員の側から「わからないことがあるか」と聞く。若手社員が返事をしなくても、とにかく話し続ける。コミュニケーションをとることも仕事のうちであると割り切っている。コミュニケーションでむずかしいのはタイミングと距離感である。聞く側のスキルが重要である。一方的な説教はダメだし、放っておいてもよいわけではない。いいたそうなしぐさを見つけたら話しかける。そうしたことで「この大人になら話してもよい」と思ってもらえることが必要である。若手社員の意見を否定せずにすべて聞き終わった後で、判断し、指示をしている。若手社員の意見を一方的に否定せず、ある程度同調しながら作業している。仕事をするうえで若手と目線を同じにし、上から目線を出さない、などの工夫を行っている。 (4)高齢社員とうまくコミュニケーションがとれている若手社員の特徴  他方、高齢社員とうまくコミュニケーションがとれている若手社員の特徴は以下の二つに整理することができる。一つめは、素直、謙虚、敬意を払える人である。素直な性格で、いわれたことをとりあえずやってみる。謙虚でまじめである。高齢社員は若手社員を育ててあげたいという気持ちが強いので、謙虚に教わる姿勢が大事である。相手に敬意を払っている。  二つめは、学ぶ意欲がある人である。作業内容や手順を覚え、指示される前に動くことができる。いわれる前に動ける。機械に乗るのが好きで意欲がある。自分が上達するために「なぜあそこでは、あのように動かすのですか」などと質問できる。技能、技術を学ぶ意欲がある人である。不明な点は理解できるまで聞き、遠慮なく何事も聞くことができるという特徴を持っている。 4 おわりに−高齢社員と若手社員の効果的なコミュニケーションに向けて  企業経営を取り巻く環境の変化にともない、労働者(従業員)を取り巻く環境は大きく変化しつつある。その結果、市場と企業が「労働者(従業員)に求めること」は確実に変化してきている。そのため、企業は「社員にどのようなことを期待しているのか」を明確にしたうえで、それを社員に知らせ、他方では「社員は何の能力やどの程度の意欲を持っているのか」を正確に把握することが必要である。これを社員の側からみると、企業が「社員に期待する役割」を知り、他方では「社員の持っている能力や意欲」を明確にしたうえで、それを会社に知らせることが必要になってくる。つまり、企業は高齢社員に若手社員とコミュニケーションを図ることが仕事の一環であることを明確にし、それをふまえて、高齢社員が若手社員とコミュニケーションを図るに際して、何が課題であるのかを把握する。把握した課題を解決するための取組みを行う、ということである。  こうした仕組みは、企業にとって高齢社員を戦力化し、若手社員との効果的なコミュニケーションを図るためには必要不可欠である。と同時に、高齢社員にとっても、長く働き続けていくためにも必要である。それは、企業が高齢社員に期待する役割が現役時代(59歳以下)と変わることと、高齢社員自身にとっても、多くの企業が採用している定年年齢である60歳時点を契機として、働く意識や意欲も変わるからである。 【参考資料】 一般社団法人日本機械土工協会・機械土工工事業高齢者雇用推進委員会(2023)『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブックー高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構委託事業) (https://www.jeed.go.jp/elderly/enterprise/guideline/q2k4vk00000510a0.html) ※このガイドブックは、日本機械土工協会の会員企業および会員企業の社員を対象にアンケート調査およびヒアリング調査を実施し、その結果をふまえて「機械土工工事業高齢者雇用推進委員会」で検討を行い、機械土工工事業における高齢者活用の推進方策を取りまとめたものである。アンケート調査は企業(人事担当責任者)および職長・現場代理人調査の二つが実施された。回答企業の従業規模は300人未満が92.1%を占めている 図表1〈事例〉職長や現場代理人等の仕事をサポートする例 ・定年は60歳、希望者は継続で65歳までとしているが、実際は技能者で72歳、技術者で65歳で働いている人がいる。働き方は現役時と変えていない。定年時に役職は外すが、現場代理人が不足しているので、再雇用者にお願いすることがある。その場合は、現場代理人手当を付けている。 ・社内講師として活躍している高齢者がいる。定年前は安全部長を務めた人で、インストラクター資格を取り、特別教育や職長教育など、職場を回っていろいろしてもらっている。うちだけでなく、下請けを集めて教育するなどしている。 ・現場管理者の先輩として、管理をしていく上でのポイントや注意すべき事等を具体的な事例を交えて現場管理者に指導してくれる。 ・現場代理人の経験者として、自らそれに関する仕事をしたり、若手に教育したりしている。 出典:一般社団法人日本機械土工協会・機械土工工事業高齢者雇用推進委員会(2023)『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブックー高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて』 図表2〈事例〉職長や現場代理人の相談相手になっている例 ・こまかな作業で、コツコツと作業を進めてくれる。私たちとは違った目線で物事を見ていて、私たちが気付かなかった所を助言してくれる。 ・掘削作業において、「自分ではこう思っているが、合っているか」、「他のやり方はあるか」等、いろいろ相談にのってもらっている。型枠工に付いても同様である。 ・経験が豊富なため、施工についての相談をしたり、安全設備等について提案してもらっている。 ・経験のない作業を行う際、高い技術、経験を生かしたアイデアを豊富に出してくれている。 ・進捗遅れの時などに、アドバイスをしてくれる。 ・管理技術の指導を行っている。 出典:一般社団法人日本機械土工協会・機械土工工事業高齢者雇用推進委員会(2023)『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブックー高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて』 図表3〈事例〉怒ってはだめなのか(若手従業員とうまくコミュニケーションがとれている高齢従業員の特徴より) ■怒ってはだめか ・絶対怒らない。物腰が優しい。孫のような接し方をしている。 ・若手従業員の話にも耳を傾けると共に、時には叱る事も辞さない(嫌われる事を恐れない)将来を見据えた接し方には感銘を受ける。 ■怒った後が大事 ・叱る時は叱るが、その後のフォローが上手い。 ・危険な時には厳しく指導するが、休憩時にはプライベートな話をするなどON/OFFができている。ほど良い緊張感のある現場をつくっている。 ・厳しい時は怖いところもあるが、常は明るくニコニコして、若手も声を掛け易い。 ■怒り方・教え方の工夫 ・叱り過ぎない。ダメ出しばかりでなく、仕事をやらせてみて、失敗した所で説明し理解をさせる。 ・失敗してもキレない。怒り方も優しい。自分の失敗談をし、「こうしたらよかった」などとアドバイスをくれる。仕事以外でも相談に乗ってくれ、話しやすい。 ・上から目線で指導しない。上から目線ではなく、アドバイス的な物言いをする。 ・間違いを指導する時、頭ごなしに怒っても聞く耳を持たない。たとえば、まずは、若手がした間違いを冗談まじりでデフォルメした失敗例を見せる。若手が萎縮するのではなく、笑みを浮かべながら何となく理解したところで、落ちついて、もう一度しっかり指導する。そうすることで、若手は確実に聞く耳を持ってくれる。 ・怒るわけでなく、冗談も言いながら、諭す、教えるといった表現が正しいようなコミュニケーションをとっている。 ■褒めて伸ばす ・良くできた事はしっかりと「こういう所が良かった」と褒める。 出典:一般社団法人日本機械土工協会・機械土工工事業高齢者雇用推進委員会(2023)『機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブックー高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて』 【P54-55】 BOOKS 80歳まで楽しく働き、幸福年収を稼ぐには?豊富なノウハウが詰まった実用書 人生後半の働き方戦略 幸福年収700万円を続けるために 都築(つづき)辰弥(たつや)著/日本経済新聞出版/1980円  2025(令和7)年4月からすべての企業に「65歳までの雇用確保措置」が義務化されたこともあり、65歳まで企業に勤める人が増えている。一方で、転職する人や独立・起業する人もいて、シニアの働き方も多様化している。  本書は、中高年層に特化したキャリアスクールを運営する企業の代表を務める著者が、「人生後半も、働きがいと収入を両立できる充実した職業人生」を目ざすビジネスパーソンに向けてまとめた一冊。80歳まで楽しく働いて充実した人生を過ごすための年収の目標を「700万円」と提案し、達成して継続するために、どのような働き方をいつ選択すべきなのか、そして、選んだ働き方で働きがいと収入を両立するための働き方の戦略と行動、計画について伝授する。それらのノウハウは、2022年に中高年層向けのキャリアスクールを開講して以降、5000人超を支援してつちかってきたもので、一部はウェブサイト「NIKKEIリスキリング」(日本経済新聞社)にも掲載している。  「働きがいと収入」、「複業」、「起業」、「経験を新しい価値に変換」などの言葉に興味や関心のある中高年層や、中高年齢者の雇用に取り組む経営層にとっても有用なヒントが得られそうだ。 「行動」を変えれば、人が変わり、会社も変わる。そのための「教え方」がわかる本 行動科学を使ってできる人が育つ! 新版 教える技術 石田(いしだ)淳(じゅん)著/かんき出版/1540円  多くの企業が人手不足に悩む昨今、かぎられた人数で生産性を向上させるための取組みとして、人材育成がますます重要視されている。  しかし、「思うように部下が育ってくれない」、「部下が育たないのは自分が悪いのか」と悩む上司は多い。著者はその原因が「教え手が『教え方』を知らない、習っていない」ことにあると綴り、「行動科学マネジメント」のノウハウを使った「教え方」を紹介する。  「行動科学マネジメント」とは、著者自身がマネジメントに苦労していた時代に出会った、人の行動を科学的に分析する「行動分析学」に基づくアメリカ生まれのマネジメント・メソッドを、日本に合うように著者がアレンジして提唱したもの。行動を変えれば、人が変わり、会社も変わっていく。そのための教え方として、部下の望ましい行動を引き出す方法やヒントを多様な角度から説いている。  本書は、2011(平成23)年に刊行された「教える技術」に加筆・修正を施した新版である。具体的な項目には、年上の部下への指導や、リモートワークでも信頼関係を築くためのポイント、ハラスメントの問題など、最近注目されている内容も含まれている。 上司から始める「働きがい改革」!職場の働きがいを高めるマネジメントとは 「働きがい改革」に本気の上司がチームを覚醒させる 上司も部下も幸せになるマネジメントの極意 前川(まえかわ)孝雄(たかお) 著/合同フォレスト/1760円  著者の前川孝雄氏は、現場から求められる上司や経営のあり方を長年探求し、人的資本経営やミドル世代のキャリア支援に詳しい。本誌の巻頭コーナー「リーダーズトーク」(2022年5月号)をはじめ、JEED主催のシンポジウムの講演録でも誌面にご登場いただいている。  本書は、いま働く人々の現場に求められているのは「働きがい」であり、そのための上司としてのマネジメントの極意を説く指南書である。  現在進められている「働き方改革」では、「残業を減らす努力や生産性向上、多様な社員の支援など次々と現場の課題解決を迫られる上司は疲弊し、その姿を見て若手は昇進意欲が低下するなど、多くの働く人々が幸せを感じられていない」、と前川氏。大切なのは、働く人々が自分の持ち味を活かせる仕事を任され、努力や工夫が認められて幸せになる「働きがい改革」であると訴え、多様な働きがいのある職場づくりや、ミドル・シニア社員の働きがいの高め方を解説。さらに、上司自身の働きがいが改革推進の原動力になるとして、「自分が動くプレイングマネジャー」から「人の心を動かすマネジャー」へ転身する方法を紹介している。上司にとって、多くの気づきと希望が感じられる一冊である。 多様な人々が働く現場で協働するためのスキルが、豊富な会話例から学べる チームの生産性を高めるアサーション 言いにくいことが伝えやすくなるコミュニケーション 丸山(まるやま)奈緒子(なおこ)著/日本生産性本部生産性労働情報センター/2200円  アサーションとは、「自分も相手も大切にしよう」というコミュニケーションスキルを意味している。本書によると、1950年代のアメリカで心理療法の一つとしてスタートし、現代では一般の人が学ぶべきコミュニケーションスキルとして受け入れられるようになった。特に、国籍や年齢、勤務形態などさまざまな背景や価値観を持つ人々で職場が構成されるようになってから、ビジネスの現場で協働するためのスキルとして求められるようになったそうだ。  アサーションが職場やチームのなかで広がることは、一人ひとりの働く快適さを高めたり、生産性を高めたりすることにつながるという。  本書は、アサーションやストレスマネジメントなど心理学をベースにしたビジネスパーソン向けの講座を開発して講師としても活躍する著者が、研修先で聞いたビジネスパーソンの悩みをふまえ、さまざまなビジネスシーンでのアサーションの会話例や、実際にアサーションを活用したときに生じる疑問への回答など、アサーションの基本から実践のポイントまでていねいにまとめている。ベテランから若手社員までともに働く職場のコミュニケーションづくりにも、大いに役立つヒントが詰まっている。 血液が変われば、体は変わる!健康寿命を延ばす血液の整え方を紹介 世界一の心臓血管外科医が教える善玉血液のつくり方 渡邊(わたなべ)剛(ごう)著・坂本(さかもと)昌也(まさや)監修/あさ出版/1540円  中高年以上になると、血管はだれでも劣化していて、血管が詰まったり破れたりして血液が流れなくなると、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞など命にかかわる病を発症するリスクが高まる。  しかし、これらは時間をかけて動脈硬化が進行した結果として発症するもので、防ごうと思えばリスクを下げられることが知られている。  本書は、血管をボロボロにするドロドロ血液が引き起こす高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病のリスクを明らかにし、正しい生活習慣によって「善玉血液」をつくり、血管に突然起きるトラブルを防ぎ、長生きできる血液の整え方をわかりやすく紹介。自分の血液の状態がわかるチェックシートも掲載している。  ボロボロになった血管は若返ることがないが、血液を変えることはできるとして、2010(平成22)年から毎年世界のベストドクターズに選出されている著者の渡邊氏が、読みやすい文章とイラストを用いて、血管の劣化を遅らせる「善玉血液」のつくり方を説明する。まずは食事の改善として、四つの白い粉(砂糖・小麦粉・塩・プロテイン)の摂りすぎに注意することや知っているようで知らなかった情報も含めて、健康寿命を延ばす多くの情報が得られる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P56-57】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和6年「労働災害発生状況」を公表  厚生労働省がまとめた2024(令和6)年の労働災害発生状況(確定値)によると、昨年1年間の労働災害による死亡者数(※)は746人となっており、前年(755人)と比べ9人(1.2%)減少し過去最少となった。死亡者数を業種別にみると、最も多いのは建設業の232人(全体の31.1%)、次いで、第三次産業194人(同26.0%)、製造業142人(同19.0%)の順となっている。  次に、死傷災害(死亡災害および休業4日以上の災害)をみると、死傷者数(※)は13万5718人となっており、前年(13万5371人)と比べ347人(0.3%)の増加となった。業種別にみると、最も多いのは第三次産業の7万916人(全体の52.3%)、次いで、製造業2万6676人(同19.7%)、陸上貨物運送業1万6292人(同12.0%)の順となっている。  また、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合は30.0%となっており、前年(29.3%)と比べ0.7ポイント増加した。60歳以上の男女別の労働災害発生率(死傷度数率)を30代と比較すると、男性は約2倍、女性は約5倍となっている。「墜落・転落」、「転倒による骨折等」では、特に60歳以上で、加齢に応じ、労働災害発生率(度数率)が著しく上昇する。 ※死亡者数、死傷者数はいずれも新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害を除いたもの https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html 厚生労働省 令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概要を公表  厚生労働省は、2024(令和6)年「労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」を公表した。  調査は、事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動とそこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態について、常用労働者10人以上の民営事業所約1万4000事業所とそこで働く労働者および受け入れた派遣労働者約1万8000人を対象に実施した。  事業所調査の「高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組状況」をみると、60歳以上の労働者が業務に従事している事業所のうち、エイジフレンドリーガイドライン(「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」)を知っている事業所の割合は21.6%(2023年調査23.1%)。うち、高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は18.1%(同19.3%)となっている。  このうち、高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組内容(複数回答)をみると、「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(高齢者一般に見られる持久性、筋力の低下等を考慮した高年齢労働者向けの作業内容の見直し)」が62.9%(同56.5%)と最も多く、次いで「個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(健康診断や体力チェックの結果に基づく運動指導や栄養指導、保健指導などの実施など)」が47.8%(同45.9%)となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r06-46-50b.html 総務省 「統計からみた我が国の高齢者」を公表  総務省統計局は、敬老の日(9月15日)にあわせて、「統計からみた我が国の高齢者」を公表した。  人口推計によると、2025(令和7)年9月15日現在の日本の65歳以上の高齢者(以下、「高齢者」)人口は3619万人と、前年(3624万人)に比べ5万人減少した。一方、総人口に占める割合は29.4%となり、前年(29.3%)に比べ0.1ポイント上昇し、過去最高となった。年齢階級別にみると、70歳以上人口は2901万人(総人口の23.5%)で、前年に比べ4万人増(0.1ポイント上昇)、75歳以上人口は2124万人(同17.2%)で、前年に比べ49万人増(0.4ポイント上昇)、80歳以上人口は1289万人(同10.5%)で、前年に比べ1万人増(0.1ポイント上昇)。  2024年の高齢者の就業者数は、2004(平成16)年以降、21年連続で前年に比べ増加して930万人となり、過去最多。15歳以上の就業者総数に占める高齢者の割合は13.7%で、前年に比べ0.2ポイント上昇し、過去最高となった。就業者のおよそ7人に1人が高齢者となっている。  高齢者の就業率は25.7%で、前年に比べ0.5ポイント上昇した。年齢階級別にみると、65〜69歳は53.6%、70〜74歳は35.1%、75歳以上は12.0%で、いずれも過去最高。産業別に高齢者の就業者数を10年前と比較すると、「医療、福祉」(64万人増)は10年前の約2.3倍となった。次いで「サービス業」(32万人増)、「卸売業、小売業」(26万人増)、「建設業」(21万人増)の増加幅が大きい。 https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1460.html 中小企業庁 最低賃金引上げに対応する中小企業・小規模事業者への支援策を公表  中小企業庁は、過去最大となった最低賃金引上げに対応して、中小企業・小規模事業者を後押しするための新たな対応策も含めた支援策を公表した。  2025(令和7)年度の地域別最低賃金の改定額は、厚生労働省の取りまとめによると、全国加重平均額が1121円(2024年度1055円)で、前年度比66円の引上げとなり、過去にない高水準となった。47都道府県で、63円から82円の引上げとなる。引上げ額は、最も高い熊本県が82円、次いで、大分県81円、秋田県80円などとなっている。これにより、最低賃金額が最も高いのは東京都の1226円、逆に、最も低いのは高知県、宮崎県、沖縄県の1023円となる。  中小企業庁は、過去最大となった最低賃金引上げに対応するため、賃上げ原資確保に向けて、価格転嫁対策の強化を進めるとともに、最低賃金引上げの影響を受ける中小企業・小規模事業者に対する販路開拓等の支援として、持続化補助金等により支援を行っていくとともに、赤字企業でも繰越控除により利用できる中小企業向け賃上げ促進税制、生産性革命事業等による支援を進める。加えて、地域への波及効果の大きい、売上高100億円を目ざす成長意欲の高い中小企業への支援や、事業承継、再生支援等への相談体制の強化も行う。さらに、ものづくり補助金、IT導入補助金、省力化投資補助金(一般型)について、要件緩和や審査における優遇措置を新たに実施する。 https://www.meti.go.jp/press/2025/09/20250909001/20250909001.html 調査・研究 帝国データバンク 「人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)」結果を公表  株式会社帝国データバンクは、「人手不足に対する企業の動向調査」結果を公表した。  それによると、2025(令和7)年7月時点の正社員の人手不足を感じている企業の割合は50.8%で、7月としては3年連続で半数超となり、前年同月(51.0%)から0.2ポイント低下したものの引き続き高水準で推移している。  また、非正社員における人手不足割合は28.7%で、前年同月(28.8%)から0.1ポイント低下し、2年連続で3割を下回った。  正社員の人手不足割合を業種別にみると、「建設」が68.1%(前年同月69.5%)で最も高く、生成AIをはじめとするIT投資などの需要の多い「情報サービス」で67.6%(同71.9%)、「メンテナンス・警備・検査」66.7%(同65.9%)、「運輸・倉庫」63.9%(同63.4%)などが続いている。  非正社員では「人材派遣・紹介」が63.3%(同58.6%)で最も高くなっている。コロナ禍以前から人手不足が深刻となっていた「飲食店」、「旅館・ホテル」では、人手不足の割合が大きく低下している。その理由としては、非正社員の就業者数がコロナ禍(2020年)以前の水準まで回復したこと、DXなどの普及による生産性向上が背景として考えられるとしている。 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250819-laborshortage202507/ イベント ダイヤ高齢社会研究財団 高齢者の就労・経済面をテーマとしたシンポジウム オンライン視聴のお知らせ  公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団(ダイヤ財団)は2025(令和7)年11月に「100歳までのライフプラン2 ―自分らしい人生のための福・禄・寿―」と題するシンポジウムを開催した。  超少子・長寿社会における社会保障等の諸問題をふまえ、長期的なライフプランについて、就労・経済面を中心に議論が交わされた。 第1部 基調講演 伊藤(いとう)宏一(こういち)氏(千葉商科大学学長付教授、ダイヤ財団理事) 第2部 講演 須原(すはら)國男(くにお)氏(スハラFPコンサルタント代表) 第3部 パネルディスカッション  パネリスト:伊藤宏一氏、須原國男氏、垂水(たるみ)めぐみ氏(AGC株式会社人事部人財開発企画担当部長)、手島(てしま)宏晃(ひろあき)氏(明治安田生命保険相互会社人事部人事室長)コーディネーター:森(もり)義博(よしひろ)氏(ダイヤ財団シニアアドバイザー) ◆同シンポジウムは、オンラインによる視聴が可能。視聴期間は2025年12月8日13時〜2026年3月31日13時。無料(定員500人)。 ◆視聴の申込みは、ダイヤ財団ホームページ「2025年度ダイヤ財団主催シンポジウム」申込みフォームから。https://online.npc-tyo.co.jp/pages/5524/dia2025sympo ◆シンポジウムの概要 https://dia.or.jp/disperse/event/pdf/syposium_2025.pdf 【P58-59】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について、多数のご応募をお待ちしています。 T 募集内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度の見直し C人事評価制度の導入や見直し D多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @中高年齢者を対象とした教育訓練、リスキリングの取組、全世代で自律的にキャリア形成を進めていくための(キャリアの棚卸しなどの)キャリア教育の実施 A高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化(役割・仕事・責任の明確化) B高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 C高年齢者による技術・技能継承の仕組み(技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、若手社員や外国人技能実習生、障害者等とのペア就労や高年齢者によるメンター制度等、高年齢者の効果的な活用等) D高年齢者が働きやすい支援の仕組み(職場のIT化、DX を進めていく上での高年齢者への配慮、力仕事・危険業務からの業務転換) E新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境や作業の改善(高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、休憩室の設置、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出等) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化(健康管理体制の整備、定期健康診断やストレスチェックの実施と結果に基づく就業上の措置、体力づくり、加齢に伴い増加する病気の予防教育や健診・検診、女性の健康課題も含めた健康管理上の工夫・配慮、若い世代からの健康教育等) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(安全衛生を進めるための体制整備、危険防止の措置、安全衛生教育) C福利厚生の充実(レクリエーション活動、生涯生活設計に関する専門家への相談) 等 ※1 「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 (1)指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じてJEEDから追加書類の提出依頼を行うことがあります。 (2)応募様式は、JEED 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、JEEDのホームページ(※3)からも入手できます。 (3)応募書類等は返却いたしません。 (4)提出された応募書類の内容に係る著作権及び使用権は、厚生労働省及びJEEDに帰属することとします。 2.応募締切日 令和8年2月27日(金)当日消印有効 3.応募先 JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ郵送(当日消印有効)または連絡のうえ電子データにて提出してください。 ホームページはこちら ※2 応募先は本誌65ページをご参照ください ※3 URL:https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。  また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)高年齢者雇用安定法第8 条又は第9 条第1項の規定に違反していないこと。 (2)令和5年4月1日〜令和7年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (3)令和5年4月1日〜令和7年9月30日の間に「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (4)令和7年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、労働施策総合推進法、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法等の労働関係法令に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (5)令和7年の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (6)令和7年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 X 賞(※4) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※4 上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 Y 審査結果発表等 みなさまからのご応募をお待ちしています  令和8年9月中旬をめどに、厚生労働省およびJEEDにおいて各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省またはJEEDより直接通知します。  また、入賞企業の取組事例は、厚生労働省およびJEEDの啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、新聞(全国紙)の全面広告、本誌およびホームページなどに掲載します。 過去の入賞企業事例を公開中! ぜひご覧ください! 「高年齢者活躍企業事例サイト」 JEEDが収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」、「雇用事例集」などの、最新の企業事例情報を検索することができます。今後も、JEEDが提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 高年齢者活躍企業事例サイト 検索 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) JEEDでは厚生労働省と連携のうえ、企業における「年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことのできる」雇用事例を普及啓発し、高年齢者雇用を支援することで、生涯現役社会の実現に向けた取組みを推進していきます。 【P60】 次号予告 1月号 特集 年金入門 リーダーズトーク 山口貴弘さん(カナデビア株式会社 ピープル&カルチャー本部人的資本・ウェルビーイング推進部長) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 JEED メールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●本号の特集では、「高齢社員のワーク・エンゲージメントの高め方」をお届けしました。  ワーク・エンゲージメントとは、本特集総論で竹内先生が紹介しているように、「活力・熱意・没頭の3側面からなる、前向きで充実した仕事への心理状態」のことをさします。ワーク・エンゲージメントを高めるためには、やりがいを持って仕事に臨めるような各種環境整備や管理職によるマネジメント、あるいは心身が良好な状態であることなど、職場における総合的な取組みが必要となります。ぜひ、本企画を参考に、高齢社員はもちろん、すべての従業員のワーク・エンゲージメントを高める取組みを実践していただければ幸いです。 ●連載企画「ジョブ・クラフティング入門」は今回で最終回となります。仕事に対する認知を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと変える手法ではありますが、組織・管理職の立場から、認知を変えるための支援も可能です。ぜひみなさんの職場でも実践してみてください。 ●新連載「諸外国の高齢化と高齢者雇用」がスタートしました。高齢化の進展は日本だけではなく、世界各国共通の課題でもあります。世界では、どのように高齢者雇用が進められているのか。次回以降もお楽しみください! 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください 月刊エルダー12月号 No.553 ●発行日−令和7年12月1日(第47巻 第12号 通巻553号) ●発 行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 鈴井秀彦 編集人−企画部次長 綱川香代子 〒261‐8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170‐0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.358 アナログ制御の機械で精度の高い箔押(はくおし)を実現 箔押印刷工 渡辺(わたなべ)繁(しげる)さん(65歳) 「むずかしい仕事を手がけて、お客さまから『よかったよ、渡辺さん』と喜んでもらえると、職人冥利(みょうり)に尽きますね」 47年のキャリアを持つ「新宿ものづくりマイスター」  金箔(きんぱく)や銀箔(ぎんぱく)などのフィルムを、紙や布などの素材に熱と圧力で転写する「箔押」。本の表紙、ポスター、ハガキ、製品パッケージなどに、メタリックな光沢を施(ほどこ)す加工技術だ。例えば、上の写真は箔押で干支を表現した年賀状。左は金箔、右の2点は赤い顔料の箔が押されている。この仕事に47年間従事しているのが、有限会社繁光堂(はんこうどう)箔押印刷(東京都新宿区)の代表取締役社長、渡辺繁さん。その技術が認められ、2024(令和6)年度の「新宿ものづくりマイスター」に認定された。 豊富な経験をもとに最適な温度・圧力を見出す  同社は渡辺さんの祖父が1939(昭和14)年に創業。渡辺さんは高校卒業後、同業他社での修業経験を経て、三代目として家業に入った。  「祖父の時代は手動の機械を使っていました。私が小学生のころ、父が電気化された全自動機・半自動機を導入したこともあり、親の代で終わりにしてはもったいない、という気持ちが生まれました。仕事を始めてからは、とにかく“見よう見まね”で覚えましたね」  当時導入された機械が、現在も活躍している。近年は数量の少ない仕事が多いため、一度セッティングすれば自動で大量に処理できる全自動機よりも、1枚1枚手差しで加工する半自動機を使うことが多い。その理由は、細かな調整が効くためだ。  箔押は、加熱した版に圧力をかけて箔を素材に転写する。紙などの材質と使用する箔の組合せ、さらにはデザインによって、転写時の最適な温度や圧力が異なってくる。そのため、温度や圧力の微妙な調整が重要になる。それを可能にするのが、昔ながらのアナログ制御の半自動機であり、最適な温度・圧力を見つけるには、長年の経験がものをいう。  「特に最近は、箔押しする素材の予備が少ないことが多いため、試し押しの段階から、できるだけ失敗しないことが求められます」  また、顧客が求める品質のレベルも以前よりも高まっているため、検品しながら進めるうえでも半自動機が適しているという。  準備段階では、箔を紙などに均一に定着させるための「ムラ取り」が必要になる。経験とセンスが求められ、「箔押の肝(きも)」となる技術だという。  また半自動機では、箔押しする紙などを手差しで出し入れするため、その位置決めも重要になる。紙の場合は「見当」という道具を使い、紙を置く位置を正確に決める。同じ紙に異なる箔を押すケースもあり、その際はそれぞれの箔の位置がずれないように、位置決めにはかなりの精度が要求される。  渡辺さんはこれらの技術を駆使し、やわらかい布への箔押や、複数の箔を組み合わせるなど、これまで数々の難易度の高い箔押を成功させてきた。 家族の絆を大切に技術を継承していく  このように、箔押は経験が大きくものをいう仕事であり、渡辺さん自身も、まだまだ経験が足りないと考えている。  「新しい材料が出てきたり、経験したことのないものを依頼されたりすることもありますから、つねに勉強するようにしています。毎日のように挑戦できることが、この仕事の魅力かもしれません」  仕事をするうえで大切にしていることが二つある。一つは顧客の要望にできるかぎり応えること。そしてもう一つは家族の絆だ。会社は家族で経営しており、同社のもう一つの工場も弟の家族が運営している。じつは「繁光堂」という社名は、渡辺さんの父が、2人の息子の名前から名づけたもの。息子の匠(たくみ)さんが入社してからは、一緒に仕事をしながら技術の継承を進めている。  「家族あっての仕事なので、これからも家族の絆を大切にしながら、箔押の技術を次の世代へ引き継いでいきたいと思います」 有限会社繁光堂箔押印刷 TEL:03(3260)2941 (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション (版のデザイン制作:タイム・スペース・アート株式会社) 手差しで1枚ずつ加工する半自動箔押機。版を付けた熱板で、箔と紙などの素材に圧力をかけることによって、素材に箔を定着させる 幅80pまでの箔押ができる半自動箔押機。面積が広ければ広いほど、箔を均一に定着させるためのムラ取りの難易度が増し、調整に時間がかかる 四代目にあたる息子の匠さんの作業を見ながらアドバイスをする。匠さんは「父の豊富な経験に学ぶことは、まだまだ多い。生涯現役で続けてほしい」と期待を寄せる 箔押の準備@:箔押に不可欠な版は、製版会社に外注する。この版を箔押機の盤につけ、熱と圧力で箔を紙などの素材に転写する 箔押の準備A:@の版を使って、試しに箔押ししたもの。箔が転写されていない白い部分(=ムラ)をなくす必要がある 箔押の準備B:ムラ取りができたら、箔押をする紙を置く位置の見当をつける。(@、Aの図柄は渡辺さんの母校の小学校の校章) 箔押をした製品の一例。箔押は文具、パッケージ、ポスター、カタログなど、さまざまな製品に用いられている 箔押に用いる箔のロール。同じ色でも、裏に付着している接着剤によって複数の種類があり、転写する素材との相性で選ぶ 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回の問題は、メモを使わずにトライしてみましょう。トマトの数、カボチャの数、ナスの数………などを覚えながら比べます。そうやって数を覚えておくことで、脳のメモ帳(ワーキングメモリ)が余分に鍛えられます。仕事のミスを減らすためにはメモは必須ですが、「脳のメモ」を鍛えるためには、時には「メモなし」も必要です。 第102回 いちばん多いものはどれ? 目標 5分 1.野菜のイラストが不規則に並んでいます。一番多いものはどれでしょうか? (ここにあるもの:トマト、カボチャ、ナス、ブロッコリー、ピーマン、キャベツ) 2.中華料理のイラストが不規則に並んでいます。一番多いものはどれでしょうか? (ここにあるもの:焼き餃子(ぎょうざ)、点心(てんしん)、チャーハン、春巻き、麻婆(まーぼー)豆腐、北京ダック) イラスト系の脳トレのすすめ  今回のようなイラストを使った脳トレ問題は、脳の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」や「後頭葉(こうとうよう)」といった部分を活性化させる効果があります。前頭前野は、人が考えたり判断したり、感情をコントロールしたりするときに使われる場所です。会話やコミュニケーションなど、社会生活に欠かせない働きをになっています。一方、後頭葉は、見たものを理解したり、イメージを思い浮かべたりするときに使われる視覚の中枢(ちゅうすう)です。  また、絵や図形などを使った問題に取り組むと、空間の位置関係を判断する「頭頂連合野(とうちょうれんごうや)」も活発になります。つまり、ふだんからこうしたタイプの問題に慣れておくことが、日常生活にも役立つのです。  さらに、イラストを見ながら考えることで、記憶力や注意力、想像力といったさまざまな脳の働きを同時に刺激できます。特に、色や形、配置などを意識する問題は、複数の情報をまとめて処理する訓練にもなります。  脳の老化予防や思考の柔軟性を保つ効果も期待できますので、こうしたタイプの問題にどんどん挑戦しましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルN I RSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 1.トマト  (トマト8個、キャベツ・ブロッコリー各5個、ナス・ピーマン各4個、カボチャ2個) 2.チャーハン  (チャーハン6皿、点心5皿、焼き餃子・春巻き・北京ダック各4皿、麻婆豆腐3皿) 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年12月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしております。 取組内容  募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内 容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 応募締切日 令和8年2月27日(金) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください。 ※詳細は今号の58ページ、またはJEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html 2025 12 令和7年12月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第12号通巻553号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会