いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第62回 「36(サブロク)協定」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「36協定」について取り上げます。労働基準法第36条に基づく行為であるためこの名称が使われています。 時間外・休日労働をさせるには必ず必要  36協定は、使用者が労働者に時間外・休日労働を命じるために締結する労使協定※1のことをいいます。多くの労働者には時間外・休日労働の経験があるかもしれませんが、これらは自由に行えるものではありません。労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間以内と法定労働時間が定められており※2、業務はこの範囲内で行うことが基本で、使用者がこれを超えた労働を命じると違法となります。しかし、業務の都合上、どうしても法定労働時間を超えて働いてもらう必要が生じることがあります。そのような場合に備えて、会社と労働者の代表があらかじめ労使協定を結び届け出することで、時間外・休日労働を可能とするのが36協定です。  労使で協定した内容は届出書(36協定届)〔図表〕に明記しなければなりません。その際に決める必要があるのは、時間外労働を行う業務の理由と種類〔A〕、1日・1カ月・1年あたりの時間外労働の上限〔B〕です。上限は法令では、月45時間・年360時間が限度時間で、これに基づき結んだ協定を一般条項といいます。しかし、臨時的な特別の事情があれば、年720時間、複数月平均80時間以内・月100時間未満(休日労働を含む)までは設定することができる(ただし、月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで)特別条項を締結することができます。なお、建設業・ドライバー・医師等については、2024(令和6)年4月以降に定められた特例の上限規制が適用されているため、別途確認が必要です※3。  36協定を結んでも運用上で留意すべき事項があります。時間外・休日労働は最小限にとどめるのが基本で、臨時的な事情がある場合でもできるかぎり限度時間に近づけるよう努めなければなりません。また、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負い、限度時間を超えて労働させる場合は、医師による面接指導や深夜業の回数制限等の労働者の健康・福祉を確保する措置を講ずる必要があります。これらの留意事項は厚生労働省の「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針※4」にわかりやすくまとめられています。 協定の対象者やプロセスにも配慮  協定の対象者やプロセスについても見ていきましょう。  協定の対象者となるのは、労働基準法第9条に定める労働者です。正社員・パート・定年後再雇用等の雇用形態に関係なく対象となります。一方、使用者に該当する取締役や労働基準法第41条に該当する管理監督者は労働時間の制約になじまないとされているため、対象外となります。これらの対象者のうち一人でも時間外・休日労働をする可能性がある場合には、会社単位ではなく事業場※5単位で36協定を締結し届出する必要があります。また、36協定届出書には対象となる労働者数を記載しなければならない〔図表のC〕ため対象をよく確認してください。  36協定の締結・更新は年に1回が望ましいとされています。自動更新も可能ですが、労使いずれからも異議の申出がなかった事実を証する書面を届け出る必要があります。締結・更新の際に注意しておきたいのは締結主体となる労働者代表についてです。これは事業場に、@労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、A @がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)が該当します。@の場合は、雇用形態関係なくすべての労働者に対して組合員数が50%を超過しているかを確認する必要があります。Aの場合は、代表者を選出する必要があります。選出は、雇用形態に関係なくすべての労働者が参加する民主的な方法(投票・挙手等)で選ばれた労働者でなければならず、管理監督者や会社が指名した者、社員親睦(しんぼく)会の幹事等を自動的に選任した場合は過半数代表者となりません。36協定を@またはAに該当しない相手と締結しても無効となりますし、36協定届にも過半数労働者の選出方法を記載する必要がある〔図表のD〕など注意が必要です。締結後は36協定届を所轄の労働基準監督署長に届け出して、その後は常時作業場の見やすい場所に掲示・備えつけをしたり、書面を労働者に交付する等で労働者に周知しなければなりません。  36協定を締結せずに時間外・休日労働をさせた場合や、協定した時間を超えて時間外・休日労働をさせた場合は、労働基準法違反で6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となることがあります。また、労働者の安全配慮は使用者の義務です。正しい内容や手順で36協定を締結するためにも、厚生労働省の労働基準関係リーフレット※6や主要様式ダウンロードコーナー※7などを確認することをおすすめします。 ***  次回は「労働基準監督署」について取り上げます。 ※1 使用者と労働者の代表が、労働条件などについて合意し、文書で取り交わす協定のこと ※2 「時間外労働」については、本連載第17回(2021年10月号)をご参照ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202110/html5.html#page=52 ※3 厚生労働省Webサイト「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」を参照。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html ※4 https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf ※5 一定の場所において、相互に関連する組織のもとで継続的に行われる作業の一体 ※6 「労働基準関係リーフレット」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html ※7 「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html 図表 36協定届の様式(一般条項) 〔出所〕主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)「様式第9号」(厚生労働省ウェブサイト) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fbunya%2Froudoukijun%2Froudoujouken01%2Fdl%2Fnew_youshiki09.docx&wdOrigin=BROWSELINK