Leaders Talk No.128 65歳定年、70歳までの再雇用を実現 「年齢で差を設けない」働き方を推進 カナデビア株式会社 ピープル&カルチャー本部 人的資本・ウェルビーイング推進部長 山口貴弘さん やまぐち・たかひろ 1994(平成6)年、日立造船株式会社入社。法務・知財部法規コンプライアンスグループ長、業務管理本部総務・人事部労働・福祉グループ長、企画管理本部法務部長を経て、2024(令和6)年より業務管理本部人事部長。2025年10月より現職。  環境プラント分野で高い技術力を誇り、国内外で高い実績を持つカナデビア株式会社。2024(令和6)年の社名変更(旧社名:日立造船株式会社)とときを同じくして、管理職制度の見直しのほか、65歳への定年延長、人事部門の再編など、人事領域においても、さまざまな改革に取り組んでいます。今回は、同社ピープル&カルチャー本部人的資本・ウェルビーイング推進部長の山口貴弘さんに、同社の取組みについてお話をうかがいました。 人事部を六つの部門に再編成し経営と連動した人材戦略を実践 ―貴社におかれましては、2025(令和7)年10月に人事部門を再編されたそうですね。さらに、管理職制度の見直しや、65歳までの定年延長など、人事制度改革にも精力的に取り組まれています。人事部門再編や人事制度改革の背景にある貴社の経営に対する考え方をお聞かせください。 山口 当社では、中期経営計画の重点施策として「人的資本の強化」を前面に掲げ取り組んでいます。企業において「人」がもっとも重要であるという認識は、当社の全社員が共有しています。そのうえで「人の成長を支援することが組織の成長につながる」という好循環が、会社の成長と企業価値の向上を促進するという考え方を掲げています。  そのための人材戦略の重点施策として、@人材の採用・確保、A適正配置・戦略的育成、B人材の定着、の三つを実現するための具体的な施策、さらにそれを支えるタレントマネジメントやエンゲージメント、ワーク・ライフ・バランスなどの人材戦略の基盤の整備にも、積極的に取り組んでいるところです。  一方で、世の中も急速に変化しています。急激で複雑な事業環境の変化に加えて、働き方に対する価値観の多様化、労働市場における人材獲得競争も激化しており、当社としてもスピード感を持って経営と連動した人材戦略を進めていく必要があります。  そこで2025年10月に人事部門を再編成しました。具体的には、ピープル&カルチャー本部(旧業務管理本部)の下に、人事戦略企画部、人的資本・ウェルビーイング推進部、人材採用部、人材開発部、人事BP(ビジネスパートナー)部、人事SS(シェアードサービス)部を設け、それぞれの領域で人事施策を推進していきます。私が部長を務める人的資本・ウェルビーイング推進部は旧人事労務の領域を担当しており、健康経営○R(★)をはじめとするウェルビーイング、働きがい向上などを含む人事制度の企画・運用を行っています。高齢者雇用についても当部の担当となります。 ―お話をうかがうと、再編というより人事部門を拡充する大胆な改革という印象ですね。人材戦略の一環である管理職制度の見直しについて教えていただけますか。 山口 2024年7月に、管理職を対象に、職能管理制度から役割等級制度に移行しました。以前の職能管理制度は、基本的に資格に基づいて処遇が決まり、どんな役職に就いていても資格が同じであれば給与も変わらないという仕組みでした。これを、になう役割の難易度や責任の大きさで等級が決まる役割基軸の処遇制度に見直しを行いました。  一方で、働き方の価値観が変わるなかで、専門性に特化したスペシャリストとしてキャリアを築きたい人もいれば、マネジメントをやりたい人もおり、キャリアの多様化に十分対応できていないという課題もありました。  そこで、管理職層を役割の種類に応じて「マネジメント職」、「エキスパート職」、「スペシャリスト職」の三つの職群に分け、それぞれ5段階の等級を設けました。エキスパート職はいわゆるプロジェクトマネジメントも含めてプロジェクトをリードしてミッションの達成をにない、スペシャリスト職は技術分野で高度な専門性をベースに一定の裁量権を持ってミッションの達成をになう役割と位置づけています。いずれの職群も本人のキャリアの希望と会社の考え方が一致すれば異動することもできます。  また、当社でもキャリア採用を増やしていますが、魅力ある報酬を提示できないという問題もあり、報酬水準を引き上げるなど報酬・評価制度も刷新しました。 年齢を理由にした処遇差を撤廃し高いパフォーマンスを発揮する人材を評価 ―そして2025年4月には、定年年齢を60歳から65歳に延長されました。そのねらいについて教えてください。 山口 従来の制度では、55歳で昇格がなくなり、58歳でベースアップ停止となるほか、55歳以降は退職金制度の積立もなくなります。さらに60歳定年後の再雇用制度では定年時よりも報酬水準を引き下げるなど、年齢を要因とする処遇差などがあり、モチベーションの低下が大きな課題となっていました。  また、高年齢雇用継続給付の支給率縮小や高年齢者雇用安定法による70歳までの就業機会確保の努力義務への対応という外部的な要因もありました。  こうした課題の解決に向けては再雇用の処遇の改善も一つの方法ではありますが、やはり定年延長により、65歳まで雇用するという安心感を与え、ベテラン社員としての能力を発揮してもらいたいと考えました。  それからもう一つの大きなコンセプトとして、年齢だけを理由にした処遇差を設けないことを前面に打ち出しました。55歳・58歳でストップしていた昇格・ベースアップを65歳まで継続し、退職金も65歳まで積み立てます。  一方、すでに退職金を受け取り、再雇用になっている人については、再雇用を継続することになりますが、処遇制度を大きく見直し、雇用継続給付金を活用せず、定年時の給与をベースに人事評価を反映する仕組みに変え、再雇用ではない一般社員と同じように、パフォーマンスを処遇に反映することで、モチベーションの維持・向上を図る形にしました。 ―65歳定年後の再雇用制度についても教えてください。 山口 従来の再雇用制度の期間は60歳から70歳でしたので、65歳定年後の再雇用期間は70歳までとなりますが、一定の要件を設けています。健康状態や人事評価による基準を設けてはいますが、標準的な評価であればクリアできますし、本人が希望すれば基本的には再雇用されます。  処遇については先ほど述べたように従来の再雇用制度では定年時よりも報酬水準が引き下がりますが、新しい処遇制度では、標準的な評価であれば65歳定年時と同じ給与になり、評価が高ければ定年時の給与を上回ることも可能です。ここでも「年齢だけによる処遇差は設けない」というコンセプトを貫いていますし、68歳や70歳でも能力を発揮してパフォーマンスを出していただければ処遇も向上する仕組みになっています。 一人ひとりの希望に寄り添ったキャリア支援と体力や家庭の事情に配慮した働き方を実現 ―管理職には役職定年を設けているのですか。山口 役職定年はありませんし、再雇用後も役割と職群は継続します。例えば部長職にあった人がなんらかの事情でそのポジションから外れた場合でも、代わりに68歳の人が部長に就く可能性もありますし、その場合の給与は前部長と一緒です。あくまでも年齢に関係なく、役割に応じて処遇します。  また、再雇用後の役割としてマネジメント職、エキスパート職、スペシャリスト職以外に新たに「アソシエイト職」という職群を設けました。これまでつちかった技能や経験、人脈などの資産を継承・活用する役割と位置づけています。組織長やスペシャリストとして最前線で活躍することもできますが、やはり年齢が高くなると体力的にむずかしいという人もいますし、そうした負担を考慮して設けた役割でもあります。もちろん再雇用でも職群間の異動もできるようにしています。 ―役職定年もなく、65歳以降の再雇用でも同じ役職で働けるという制度は画期的ですね。 山口 制度改定の効果はキャリア採用の面でも期待しています。年齢に関係なく50歳を超えた人材であっても応募することができますし、例えば55歳で入社しても60歳定年なら残りは5年しかありませんが、当社は65歳定年まで10年、その後も再雇用で働くことができ、処遇も下がらないことが、キャリア採用でのアピールポイントになっています。 ―70歳までいわば現役として意欲を持って働くためのキャリア開発支援などの取組みはいかがでしょうか。 山口 シニアにかぎらずキャリア面談など、自律的なキャリア形成支援のための施策構築に向けた検討も進めています。シニアの人もキャリアが終わったわけではありません。「今後どういう働き方をしたいのか」という本人の希望を前提に、会社の期待とマッチさせながら意欲を持って働いてもらうために、一人ひとりに寄り添った支援が重要だと考えています。  また、高齢になると体力や健康状態などそれぞれ違いますし、家族の介護の問題も発生します。当社では短日数勤務や短時間勤務など法定以上の独自の制度もありますし、再雇用の場合は契約時に働き方を決めることもできます。  今後についても病気と仕事の両立支援だけではなく、仕事をしながら介護にたずさわっている人に対する支援策も積極的に検討していきたいと考えています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。