高齢者の職場探訪 北から、南から 第161回 長野県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 コンテスト受賞後も取組みが進化 生涯現役で安心して働ける環境を実現 企業プロフィール 株式会社全日警サービス長野(長野県長野市) ▲設立 1993(平成5)年 ▲業種 警備業 ▲社員数 193人(うち正社員数86人) (60歳以上男女内訳) 男性(77人)、女性(8人) (年齢内訳) 60〜64歳 27人(14.0%) 65〜69歳 27人(14.0%) 70歳以上 31人(16.1%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳、基準該当者を75歳まで継続雇用。最高年齢者は警務職の82歳  長野県は海に面していない内陸県で、「日本の屋根」と呼ばれる飛騨(ひだ)山脈、木曽(きそ)山脈、赤石(あかいし)山脈は、北・中央・南アルプスの名でも親しまれ、多くの登山客に人気があります。県土が南北に長いため地域ごとに異なる気候、風土のもと、それぞれ多彩な特性を有しています。  県内産業の経済活動構成比をみると、上位から製造業、不動産業、卸売・小売業となっています。製造業は28%を占め、全国平均の20%よりも高い割合を示しており、長野県の産業をけん引しています。  JEED長野支部高齢・障害者業務課の島津(しまづ)麻衣子(まいこ)課長は、長野県内における高齢者雇用推進の取組みについて、次のように話します。  「最近の傾向としては、定年や継続雇用の年齢の引上げなどに関連して、高齢者の賃金・評価制度の仕組みづくりについての相談が増えてきているようです。プランナーによる企業への初回訪問時には、管轄のハローワークの雇用指導官に可能なかぎり同行していただいています。ハローワークとJEEDが連携し、企業の担当者に高齢者雇用についての理解を深めていただくきっかけづくりに取り組んでいます」  2011(平成23)年から同支部で活躍する小林(こばやし)和宏(かずひろ)プランナーは、社会保険労務士、中小企業診断士、ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、豊富な専門知識と経験を活かした企業支援を行っています。  小林プランナーが株式会社全日警サービス長野を初めて訪問したのは、2017年の高年齢者雇用開発コンテスト(現高年齢者活躍企業コンテスト)への応募がきっかけでした。その際、同社の「まごころ警備の実践」というキャッチフレーズに深い感銘を受けたといいます。  今回は小林プランナーの案内で、その後の同社の高齢者雇用および社員に対する福利厚生がどのように進化しているかを取材しました。 「心の安らぎ」を事業理念に掲げる警備会社  株式会社全日警サービス長野は、「ピース・オブ・マインド(心の安らぎ)」を事業目的に掲げる警備会社です。1993年の設立以来、長野オリンピックや国際空港の開港時の警備、東海道新幹線での柵内巡回安全管理など、数々の大規模プロジェクトの警備を手がけてきました。同社は単なる警備業務にとどまらず、イベントの企画・立案まで行う点が大きな特徴です。  同社の浅妻(あさつま)豊(ゆたか)代表取締役社長は、「セキュリティとは、危険や事故が起きないように安全を構築していく想像力を要する仕事です。お客さまに心の安らぎを提供するためには、まず自分たちが安らぎを持っていなければなりません」と語ります。  この考えのもと、年齢や経験年数に関係なく「全員が平等」という信念を貫き、社員の健康と幸福を優先した経営を実践しています。  2017年に整備された同社の高齢者雇用制度は、定年65歳、希望者全員70歳、基準該当者を75歳まで継続雇用となっています。さらに、75歳以降も健康状態と家族の理解があれば、年齢上限なく働き続けることも可能です。実際に現在、82歳の最高年齢社員が警務職として活躍しており、浅妻社長の方針が体現されています。  また、定年後の継続雇用においては、賃金の一律減額といった措置は取っておらず、役職もそのまま維持しているほか、63歳までであれば、準社員として入社した者であっても正社員登用試験を受けることができ、他社で定年を迎えた人が同社で再び正社員として活躍することも可能です。  高齢社員の経験を若手育成に活かすメンター制度も、同社の特徴的な取組みの一つ。60歳以上の経験豊富な社員を、新卒の社員や新入社員のメンターとして配置し、仕事の技術指導だけでなく、人生経験やプライベートの悩みについても相談に乗るよう指導しています。  同社はこれらの取組みが高く評価され「平成29年度高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で当機構理事長表彰優秀賞を受賞しているほか、経済産業省「健康経営優良法人ブライト500」の認証を受けています。 受賞後も継続して福利厚生制度を充実  コンテスト受賞後も、社員の健康と経済的な安心を担保する体制に磨きをかけてきました。2019年には、70歳まで積立てが可能な「選択制退職金制度」を導入。会社が基本部分を負担し、社員が任意に自己負担で上乗せを行える仕組みです。上乗せ額は支給前に賃金から天引きされるため、所得税の控除を受けられるメリットがあります。  さらに2022(令和4)年には、全社員を対象に三大疾病(がん、脳疾患、心疾患)の保険に加入。万が一これらの疾病の診断を受けても金銭面の理由から治療を先延ばししないよう、数カ月分の給料と同等額が保障されます。定期健康診断で再検査・要検査となった場合には、検査の実施を義務づけており、受診しない場合は会社がアポイントを取って強制的に受診してもらうそうです。  「医師には、警備業の特性を理解してもらうため、独自の勤務確認書を提出し、現場で倒れるリスクがないかを確認してもらっています」(浅妻社長)  また、24時間相談サービス、禁煙外来の全額負担、インフルエンザ予防接種費用の全額負担、マッサージ費用の補助、婦人科健診の費用補助など、きめ細かな健康管理施策を実施。2019年には全社員が利用できる「福利厚生倶楽部(宿泊、レジャー、健康、育児介護、学習関係の割引)」を導入し、余暇や生活の支援を通じてストレス解消と定着率向上を図っています。  こうした取組みが評価され、2024年に長野県SDGs推進企業の認定を取得しましたが、浅妻社長は「資格を取るだけではダメで、各種取組みを実践していかなければ、なんの意味もありません」と強調。太陽光発電や蓄電池の設置により災害時に地域住民に電力を供給できる体制を整えるなど、実態のある活動を展開しています。  また、長野県の「職場いきいきアドバンスカンパニー」の認証制度では、ワークライフバランス、ダイバーシティ、ネクストジェネレーションの三つのコースすべてを取得し、さらに上位認証の「アドバンスプラス」を取得しています。  今回は、同社で長年にわたって活躍しているお二人の高齢社員にお話をうかがいました。 経験と誠意が光る高齢警務隊員の活躍  宮澤(みやざわ)春美(はるみ)さん(72歳)は、警備の仕事を続けて24年のベテラン警備員です。自営業を経て家庭環境の変化をきっかけに警備業の道へ進み、いまでは警備の仕事を「天職」と感じており、「ほかの仕事は考えられない」と話します。現在はおもに金融機関の駐車場警備を担当し、同社の女性警備員で構成される「チームマドンナ」の一員として、警察主催のイベントにも参加するなど、幅広く活躍しています。  「人から指摘されるのが苦手なので、いわれる前に改善したり、仕事を進めたりするよう心がけています」と話す宮澤さん。長野県を代表する観光名所で、年間数百万人もの参拝者が訪れる善光寺(ぜんこうじ)の現場を担当していた際は、観光客からの質問にすぐ答えられるよう、宿坊39軒すべての名前と場所を覚えたといいます。ときには現場でストレスを感じることもありますが、「会社に戻れば担当者が話を聞き、解決策を示してくれるので助かっています。現場で『またお願いします』といわれる瞬間が一番うれしいです」と笑顔を見せます。浅妻社長も「宮澤さんはまじめな性格と笑顔での誘導で、お客さまから高い評価をいただいています」と太鼓判を押します。  数年前に大腿骨の手術を受け、いまも痛みが残ることがあるため、浅妻社長は勤務時間を短縮したり、休憩がとれる現場に配属したりと配慮を続けています。宮澤さんは空調服や防寒肌着などをいち早く支給してくれる会社の姿勢に「本当にありがたいです」と感謝し、「体力の続くかぎり、勤務時間を調整しながら1日でも長く働き続けたいです」と意欲を示していました。  宮沢(みやざわ)祐二(ゆうじ)さん(73歳)は、警備の仕事を始めてから20年。「動き回る仕事が性に合っています」と話し、おもにコンサートやマラソン大会など、イベント会場での雑踏警備を担当しています。「雑踏警備のむずかしさは、人に対して強制力がないため、車両の誘導と違って必ずしも指示にしたがってもらえない点にあります。『誠意を持って対応すること』、『お願いする気持ちで臨むこと』がなにより大切です。現場の近隣の方々と顔なじみになり、協力を得られる関係を築くことも、よい警備につながると思います」と語ります。  後輩には、警備中に感情的になりマニュアルを忘れ、言葉遣いが荒くなることのないよう指導しており、ここでも「お願いする姿勢」を重んじているそうです。仕事でやりがいを感じる瞬間は「長時間の勤務を終えた後、イベントが事故なく無事に終わった瞬間の安堵感を感じるとき」とのこと。  浅妻社長は、「宮沢さんは主任として現場をまとめ、立ち姿も動作も美しく、周囲の模範となる警備員です」と評価します。  宮沢さんは今後について、「身の安全を第一に、つねに落ち着いて対応できるよう心がけたいです。体を動かす仕事のおかげで病気もなく過ごせています。体力の続くかぎりフルタイムで働き、ゆくゆくは少しずつ勤務を減らしながら、この仕事を続けられたら最高です」と話してくれました。 高齢者も平等に輝ける職場を目ざして  浅妻社長は、高齢社員に対して特別な期待を寄せています。  「年を取ってくると体は動きにくくなりますが、その分、ちゃんと物事を考えるようになります。みなさんに建設的で経験に基づいた発想や意見を、経営層にどんどん出してもらいたいです。私自身も『80歳まで現役でいる』と宣言しており、高齢者が働き続けることを推奨する姿勢を維持していきます」と力強く語りました。  取材後、小林プランナーは「長野県の『アドバンスプラス』認証の取得はとても難易度が高いのです。浅妻社長は、『SDGsは資格を取るだけではなく、実践をともなわないと、なんの意味もない』という考え方を示されており、感銘を受けました。同社の高いレベルの取組みには勉強することばかりです」と舌を巻いていました。  株式会社全日警サービス長野は、「まごころ警備の実践」という理念のもと、コンテスト受賞後も進化を続け、社員一人ひとりの働きやすさと健康を守りながら、年齢に関係なく全員が平等に活躍できる職場づくりを実現し、警備業の新しい可能性を切り拓いていました。(取材・西村玲) 小林和宏 プランナー アドバイザー・プランナー歴:14年 [小林プランナーから] 「つねに訪問先企業に喜ばれるプラスワンの情報提供を心がけています。制度改善というよりも、明るく活気のある職場づくりのための提言を重視しています。明るく活気ある職場ができれば、自ずと制度改善は可能になると考えているからです。企業の実情をよく聞き、一つでも役立つアドバイスができるよう努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆長野支部高齢・障害者業務課の島津麻衣子課長は小林プランナーについて、「非常に目配り・気配りができる方で、同僚のプランナーのみなさんとも積極的に情報の共有と意見交換をしています。今年度の地域ワークショップでは、基調講演の講師を務め、企業の担当者の関心のあるテーマにおいて熱弁を振るってもらいました」と話します。 ◆長野支部高齢・障害者業務課は、JR 長野駅で乗り換え、しなの鉄道で一駅の北長野駅から徒歩10 分の住宅街にある、長野職業能力開発促進センター内にあります。 ◆同県では9人のプランナーが活動しており、2024年度の事業所訪問では477件の相談・助言を実施し、103件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●長野支部高齢・障害者業務課 住所:長野県長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 電話:026-258-6001 写真のキャプション 長野県長野市 株式会社全日警サービス長野 浅妻豊代表取締役社長(写真提供:株式会社全日警サービス長野) 金融機関の駐車場で警務中の宮澤春美さん(写真提供:株式会社全日警サービス長野) マラソン大会で警務にあたる宮沢祐二さん(写真提供:株式会社全日警サービス長野)