高年齢者活躍企業コンテスト 新連載 受賞企業の軌跡 第1回 株式会社虎屋(とらや)本舗(ほんぽ)(広島県福山市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第1回は、2009(平成21)年度に特別賞を受賞した株式会社虎屋本舗を取材しました。 ダイバーシティ経営推進にともない75歳定年制を導入 1 江戸時代初期に菓子匠として創業世の中のためになる商いを継承する  広島県福山(ふくやま)市で創業400年の歴史をもつ和菓子店「株式会社虎屋本舗」(高田(たかた)海道(かいどう)代表取締役社長)は2009(平成21 )年、「平成21年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰特別賞を受賞した。同社では、2008年度より定年を60歳から70歳に引き上げるとともに、高齢社員の要望をふまえた柔軟で多様な働き方を導入した。また、近代的な設備を導入することで製造工程における作業負荷を軽減したことなど、制度を改正するだけではなく、働きやすい職場環境の実現に注力し、それらが高齢社員のモチベーション向上につながったことが高く評価されての受賞であった。  同社の創業は、江戸時代初期の1620(元和(げんな)6)年。当時は「高田屋(たかたや)」という屋号の菓子匠であり、福山城築城の際に献上した和菓子が初代福山藩主の水野(みずの)勝成(かつなり)公に称賛され、同藩の御用菓子司となった。その和菓子は銘菓「とんど饅頭(まんじゅう)」として現在も継承され、福山市民に親しまれている。  1750(寛延(かんえん)3)年には、虎模様のどら焼き(現在の商品名は「虎焼(とらやき)」)をつくるようになり、屋号を「虎屋」に変更した。昭和の時代からは洋菓子製造にも取り組むようになり、和洋菓子の製造・販売事業を展開。現在、福山市を中心に直営店舗は10店舗あり、そのほか百貨店およびオンラインショップにより業績を伸ばしている。  商訓である「和魂商才(わこんしょうさい)」(同社では、「和魂」とは日本人がつちかってきたすべての知識や道徳のこと、「商才」とは、世の中のために新しいことに果敢にチャレンジしていく創造的な精神、不屈の精神のことをいう)の精神を代々受け継ぎ、伝統の技を継承しながら、時代のニーズや環境の変化をとらえて、ユニークな商品の開発やダイバーシティ経営などにも取り組んでいる。高齢社員の力を活かし、就業意欲のある人が年齢を重ねても、活き活きと働ける職場づくりを進めてきた取組みもこの精神から生まれ、育まれてきたといえるだろう。  同社のこのような取組みは、高年齢者雇用開発コンテストでの受賞をはじめ、2014年に「平成25年度ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)、2018年に「第2回ジャパンSDGsアワード、SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」(外務省)を受賞するなど各方面からも注目されている。  2025(令和7)年現在、コンテスト受賞時の2009年当時より社員数が少し増えて、役員を含め82人、60歳以上(役員3人を含む)は31人となっている。受賞時の定年年齢の70歳は、受賞から9年後の2018年に75歳に引き上げた。さらに、運用により、定年以降も働くことが可能であり、現在の最高年齢者は78歳である。ただ、60歳以上の社員が占める割合は、コンテスト受賞時の約50%に比べ、現在は約40%に低下している。その背景には、同社の事業内容や取組みに共感して応募者が増えて、ここ数年、新規学卒者が毎年入社しているからだという。現在、もっとも若い社員は19歳。10代から70代までの幅広い年代の社員がいることが同社の強みの一つになっており、業績を伸ばし成長し続けている。  高年齢者雇用開発コンテスト受賞後の同社の軌跡から、高齢者雇用の深化と社業発展の様子をみてみよう。 2 地方都市において60代は働き盛り定年を75歳に引き上げる  2008年に定年を60歳から70歳へ引き上げた背景には、60歳を間近に控えた社員から「働けるうちは働きたい」という意欲的な声や、65歳までの継続雇用制度を導入していたものの、社員の希望に配慮したといえる内容ではなかったという状況があった。  そのような課題に対して、広島県雇用開発協会(当時)の高年齢者雇用アドバイザーに相談したところ、「定年年齢を引き上げるべき」との助言を受け、制度の改定に取り組むこととなった。また、同社ではダイバーシティ経営に取り組んでおり、高齢者の知恵と技術を同社の財産であると位置づけて、高齢者雇用制度の見直しに着手。定年年齢を引き上げて、意欲と技術のある高齢者の待遇を下げることなく雇用を継続することとした。  一方で、加齢にともなう健康や安全面に配慮し、可能なところは機械化によって作業負荷を軽減するなど作業環境を改善。また、体力の衰えなどを理由にフルタイム勤務を希望しない社員もいると考え、短日・短時間勤務など社員の要望に応える働き方の導入も検討し、実現した。  これらの改善により、例えば、60歳近い職人が「定年まであと10年あるので、自分の技術を若い世代に伝えよう」と前向きになり、職場全体に活気が出たり、若手がアイデアを出し、細部の技術などはベテランが力を発揮して、「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」など、「そっくりスイーツ」という新商品を開発して同社の人気商品が増えたりした。  このような成果をふまえて、2018年に、定年を75歳に引き上げた。同社の第17代当主として2021年より代表取締役社長を務める高田海道さんはその理由を「働いている人たちが70歳を超えても元気ですし、会社にとって必要な方々であり、まだ働いていてほしいという思いからです」と明かす。以前から高齢者の採用も行っていたが、さらに60歳以上の正社員を積極的に採用するようになり、販売や製造、出荷部門で2025年も4人を採用している。  「福山市という人口46万人ほどの地方都市においてはボリュームゾーンの年齢が上がっていて、労働力のボリュームゾーンもスライドしています。昔に比べて元気で、会社に対するコミットメントが強い方が多く、私の感覚では、60代前半は働き盛りにみえるのです。だから、働いていただく。60代から十数年働けるという選択肢として、75歳定年にしたと考えています」と高田社長は指摘する。  並行して、安全に働ける職場づくりに注力し、配達業務をになう高齢社員の安全確保のための定期的な確認や、工場内の設備を現場の声を聞いて見直し、例えば、巻き込まれ災害や転倒災害防止などについて安全設備を随時新しいものにしていく、検品は人の手によらない金属探知機を導入するなど、安全の確保や作業負荷の軽減に努めている。 3 一人ひとりにデリケートな課題があるそれぞれにどう対応するかが大事  「各地方、各業種によって人手不足はどうしても生じるとは思いますが、当社では高齢者の働きやすい職場づくりを行うことで、人材が不足しない状況ができています。地方の中小企業ならではの最適化といったものができるということを、2009年のコンテスト受賞を通して思いました」と高田社長。  また、高田社長は制度や職場環境の改善だけでなく、社員とコミュニケーションをとることを大事にしていると強調する。必要に応じて個別に面談しており、「話すことは人によってまちまちですが、売上げ目標や生産性を上げようという話はしません。社員にも家族がいるなか、年末年始の繁忙期も働いてくれています。感謝の気持ちがまずありますから、面談でもその思いを伝えます」  ときには、自分はもっと働きたいけれど体がついていかない、頭が追いつかないといった悩みを打ち明ける社員もいるという。相談を受けた後、退職した社員がいたが、しばらくして繁忙期だけ仕事を手伝ってくれるようになった。「シンプルな仕事であればできるといってきてくれました。ありがたいです。一人ひとりに異なるデリケートな課題がありますから、そこにどう対応するのがよいのかということで、葛藤することもあります」  75歳定年制を導入してから、2025年で7年になる。「生産性をそれほど追い求めないのが当社のやり方で、2人で1人分の仕事を行うという働き方にも対応しています。1人あたりの生産性は高くはないかもしれませんが、売上げは微増ながら成長しています。そういう意味では、よいかたちでここまで来ているといえるでしょうか」と高田社長。  社員と話していると、社会とつながりができる、という言葉がよく聞かれるということで、「社会との接点として、この職場で何か世の中の役に立つことができれば、という気持ちで仕事をしている人が多く、逆に私が学ぶことが多いですね。60歳以上で採用した社員も含めて、それぞれが積み重ねてきたものを提供していただいていることに、リスペクトを持って接しています」と高田社長は高齢社員との関係性を語る。 4 63歳で正社員として入社 経験を活かしつつ新たな学びも得る  同社で働く高齢社員の一人に話を聞くことができた。福田(ふくだ)時也(ときや)さん(65歳)は63歳のときに入社して2年半。洋菓子職人として、おもにケーキなどの生地を焼く作業を担当している。  「以前はパン職人でしたが定年退職しました。雇用を継続する道もあったのですが、自宅近くで働ける職場をハローワークで探して、この会社の求人を知りました。歴史ある企業なので、知っていましたし、パンと和洋菓子は別物ですが、経験を活かせる部分もあるかもしれない、自分にない技術を学んでみたいという思いで正社員を希望して応募しました。年齢的に正社員として採用されるのはむずかしいと思っていましたが、正社員で採用していただけました。うれしかったですし、がんばっていこうという意欲がわき上がりました。週5日、朝7時から16時までのフルタイム勤務を続けています。洋菓子づくりは若い社員が多くいまは私が最高齢ですが、入社当時は75歳のベテランの方がいらして、その方が退職されるまでの約8カ月間、私にていねいに教えてくださり仕事を覚えることができました。いま、仕事が楽しいです。伝統のある会社ですし、責任と誇りを胸に、体力の続くかぎり働いていたいと思っています」と福田さんはすがすがしい表情で話してくれた。 5 芯をぶれさせず、幅広い年代の社員と一緒に地域文化のにない手になる  同社では十数年前から、福山市を中心に離島を含む瀬戸内海の地域に足を運び、子どもたちに和菓子づくりを通じて郷土の文化と日本の和菓子文化などを伝える活動を実践している。学校や地域の子ども会、最近は外国人との交流機会に呼ばれることもあり、年間1000人ほどに伝承しているそうだ。  「社内で技術を伝承するだけでなく、外に向かって技術を文化としてみせていくことも大切だと考えています。当社は福山市でもっとも古い菓子屋であり、文化を商いとしていますので、地域に根ざした事業とお菓子づくりのイベントを継続し、そのなかで新しい挑戦もして文化を創り出す会社でありたいと思っています。経済活動だけでなく、学校教育の現場など求められる役割が増えてきています。高齢社員が社会とつながる場と感じてくれることも一つの役割かもしれません。芯をぶれさせず、幅広い年代がそろう社員と一緒に、地域に愛される場として看板を掲げ続けていくことがこれからの目標です」と高田社長。地域に根づいて歩む一方で、挑戦を続ける会社に魅力を感じる人は多いだろう。今後の動向も追いかけたくなる同社である。  最後に、これから高齢者雇用を推進する会社へのメッセージをお願いすると、高田社長は次のように語った。  「60代は地方の企業にとって魅力的な世代ですから、定年年齢は早いうちに引き上げたほうがよいと私は考えています。そして、社員一人ひとりとコミュニケーションをとることが大事です。そのコミュニケーションはきっと、会社にとってよりよい影響を与えてくれると思います」 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 長い歴史を誇る名店の風格が漂う、虎屋本舗の本店(写真提供:株式会社虎屋本舗) 第17代当主を務める、高田海道代表取締役社長(写真提供:株式会社虎屋本舗) 63歳で入社した、洋菓子職人の福田時也さん