諸外国の高齢化と高齢者雇用 第2回 ドイツ連邦共和国、フランス共和国 独立行政法人労働政策研究・研修機構 人材開発部門 副統括研究員 藤本(ふじもと)真(まこと)  世界でもっとも高齢化が進行している国が日本であることは、読者のみなさんもご存じだと思いますが、高齢化は世界各国でも進行しており、その国の法制度に基づき、高齢者雇用や年金制度が整備されています。本連載では、全6回に分けて、各国における高齢者雇用事情を紹介します。第2回は「ドイツ連邦共和国」、「フランス共和国」です。 年金受給開始年齢とリンクする「定年」――ドイツ  ドイツ連邦共和国(以下、「ドイツ」)には、日本のように法律で定められた「法定定年年齢」は存在しません。しかし、多くの雇用契約や労働協約において、「標準年金受給開始年齢(Regelaltersgrenze)」への到達をもって雇用関係が自動的に終了する旨が規定されており、実質的な「定年」として機能しています。ドイツのように年金の受給開始年齢と定年とを紐づける体制は、ヨーロッパのほかの国々でも見られます。  ドイツの標準年金受給開始年齢は、2007(平成19)年に制定された「年金保険の財政基盤強化のための適応法」により、65歳から67歳へ引き上げられることとなりました。この受給開始年齢の引上げは2012年に開始され、2031年の完了を目ざして現在も進行中です。引上げは急激なものではなく、受給対象者の生年に基づいて厳密に計算されたスケジュール(図表)に沿って行われています。この政策の背景には、長寿化による年金受給期間の延伸から発生する恐れのある財政負担を、就労期間の延長によって相殺(そうさい)しようとするねらいがあります。標準年金受給開始年齢よりも早く受給を開始する場合は、月あたり0.3%の恒久的な年金減額が適用されます。  年金に関連する政策としては、2017年に高齢者の就労継続を促進するために「フレキシ年金法」が施行されました。この法律は年金受給開始後の高齢者の就業継続促進を目的としています。従来は年金以外の追加収入が一定以上ある場合に年金受給額の減額が行われていたのですが、この法律により減額が実施される収入の上限額が引き上げられ、2023(令和5)年には上限が撤廃されました。  一方で、2014年には当時の連立政権(キリスト教民主・社会同盟と社会民主党)によって、長期間労働市場に貢献した人々への「配慮」として、通称「63歳からの年金(Rente mit 63)」が導入されました。この年金制度を利用するためには45年間の公的年金保険料納付期間を満たす必要があり、要件を満たせば標準年金受給開始年齢に到達する前に、減額なしで年金を受給することができます。実際に63歳で受給できるのは1952(昭和27)年以前に生まれた人にかぎられており、標準年金受給開始年齢の引上げに連動して、この早期受給年齢も段階的に65歳へと引き上げられています。  ドイツにおける60〜64歳の就業率は2013年の50%から2023年には65%にまで伸び(Destatis 2024)、年金受給開始年齢の引上げが奏功したと見ることができます。ただ2024年には「63歳からの年金」の新規申請が約30万件に達し、前年から大幅に増加するなど、早期引退の傾向も未だ根強く、1950年代半ばから1960年代半ばに生まれた「ベビーブーマー世代」が労働市場から退出していくなかで、いかに労働力確保を実現していくかという課題に直面しています。また、60代後半の定年年齢を超えて働く層の多くはフルタイムではなく、非正規雇用や「ミニジョブ」と呼ばれる短時間労働に従事しているケースが多く、貧困リスクが高い状況にあります。ンス共和国(以下、「フランス」)にも、日本のような法定定年年齢は存在しません。加齢にともなう仕事からの引退においてフランスで基準となる年齢は、@「法定年金支給開始年齢(L'age legal)」である64歳、A「満額受給年齢(L'age du taux plein)」である67歳、B「雇用主による退職勧告可能年齢(Mise a la retraite d'office)」である70歳です。@は本人が希望すれば年金を受給して引退できる「最低」の年齢です。Aは保険料納付期間が不足していても、満額で年金を受給できる年齢となります。Bは雇用主が雇用者本人の同意なく一方的に退職させることができる年齢です。多くの労働者が年金受給資格を得た段階(64〜67歳)で自発的に引退を選択するため、70歳まで働くケースは稀です。  2023年、マクロン政権による大規模な年金制度改革が実施されました。この改革は、年金財政の均衡とともに、フランスに長年根づいてきた「早期引退文化」の見直しを目的としています。具体的には、法定年金受給開始年齢が、従来の62歳から、2023年9月以降、受給対象者の生年月日に応じて段階的に引き上げられ(2030年までに64歳へ引上げ)、年金を満額で受給するために必要な保険料拠出期間の延長が2027年までに実施されることとなりました(2035年から前倒し)。  また高齢者雇用を促進するための政策として、@従業員数300人超(当初は1000人超)の企業に対し、自社における高齢従業員の雇用状況や取組み(雇用維持、研修など)に関する「シニア雇用指数(Index seniors)」の公表義務づけ、A60歳以上の長期失業者を無期雇用(CDI)で雇用する企業に対し、助成金を支給する「CDIシニア(Contrat a duree indeterminee "senior")」制度の導入が実施されています。  フランスの60〜64歳層の就業率は2001年の10.8%から2023年には38.9%にまで、4倍近くに上昇しています。この推移には2023年の年金制度改革に先行する、法定年金受給開始年齢の引上げや満額年金の受給要件となる被保険者拠出期間の延長が反映されていると推測されます。ただ、フランスの60〜64歳層就業率はEU平均より約12ポイント低く、マクロン大統領が目標とする「2030年までに65%」とはまだかなりの開きがあります(JILPT 2024)。 【参考文献】 Destatis (Statistisches Bundesamt) 2024 Erwerbstatigkeit alterer Menschen JILPT(労働政策研究・研修機構)2024「高年齢者の労働力率が50年ぶりの高水準に」 図表 標準年金受給開始年齢の段階的引上げ:ドイツ 受給対象者の生年 支給開始年齢(年齢+月数) 1958年 66歳0カ月 1959年 66歳2カ月 1960年 66歳4カ月 1961年 66歳6カ月 1962年 66歳8カ月 1963年 66歳10カ月 1964年〜 67歳0カ月 出典:ドイツ年金保険(Deutsche Rentenversicherung)ホームページ