いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第63回 「労働基準監督署」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「労働基準監督署」について取り上げます。特に経営者や人事部門の担当者には「労基署(ろうきしょ)」や「監督署」という略称で通じるくらい、行政機関のなかでも身近な存在であるともいえます。 労働基準監督署は第一線機関※1  労働基準監督署は、労働関係法令(労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法等)を遵守するように監督・指導する行政機関です。これらの行政機関には最上部組織として労働関係法令の制定・改廃や各種施策の企画・立案を行う厚生労働省労働基準局があり、その下部組織として都道府県労働局という各都道府県の実情をふまえた労働行政を行う機関、その下部組織として、労働条件の確保・改善の指導、安全衛生の指導、労災保険の給付などの業務を行っている第一線機関としての労働基準監督署があるという構造になっています。これらは上部組織が下部組織を指揮・監督する関係になっており、都道府県労働局が全国47カ所に設置されているのに対して、労働基準監督署は321カ所(本稿執筆現在)で、労働基準監督署ごとに定められた管轄地域※2にある事業場(工場・事務所等)の監督・指導を受け持っています。  各労働基準監督署の業務を概観するために、その内部組織をみていきましょう。署の規模等により構成が異なる場合はありますが、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付や相談対応、監督指導を行う「方面(監督課)」、労働安全衛生法などに基づき、働く人の安全と健康を確保するために、機械や設備の設置にかかる届出の審査や職場の安全、労働者の健康の確保に関する技術的な指導を行う「安全衛生課」、労働者災害補償保険法に基づき、働く人の業務上の事由、通勤による負傷などに対して被災者や遺族の請求により事業主から徴収した労災保険料をもとに保険給付を行う「労災課」、会計処理などを行う「業務課」に分かれています。 労働基準監督署には大きな権限がある  ここからは方面(監督課)のおもな業務である監督・指導について詳細をみていきます。というのも、法に定める労働条件や安全衛生等の基準を事業主が遵守し、労働条件の確保・向上と働く人の安全や健康の確保を図るために調査・指導し、改善を求める重要な役割を果たしているからです。これらの一連の行為を臨検(りんけん)監督といい、厚生労働省に属する専門職である労働基準監督官がにないます。法令違反があった場合に具体的な改善まで求める立場であるため、労働基準監督官には強い権限が付与されています。これには、会社への立ち入りを行い、帳簿書類の確認や従業員への事情聴取、重大で悪質な事案については司法警察職員※3として捜査を行うといった権限も含まれます。  次に臨検監督ですが、図表に記載のチャートが一般的な流れとなっています。労働基準監督署が毎月事業場を選定する「定期監督」と労働者からの申告に基づく「申告監督」のいずれかが起点となります。いずれの場合でも次のステップとしては労働基準監督官が事業場へ訪問し、立入調査を行います。この調査は証拠隠滅等を阻止し、事業場のありのままの現状を的確に把握するため予告なしに行うことが多くあります。その調査のなかで法令違反が認められない場合は臨検監督は終了しますが、違反が認められる場合はその状態を是正し報告することを求める是正勧告書や事業場の労働条件が定める基準や条件を満たしていない場合に改善を求める指導票、労働災害につながるおそれのある設備や機械の使用停止を求める使用停止命令書などの交付といった文書指導が行われます。これらの指導に対して、事業場が是正・改善を報告しそれらが確認された場合は臨検監督は終了しますが、確認されない場合は再度の立ち入り検査(再監督)が行われます。そのうえで、重大・悪質な事案と認定される場合は送検され、場合によっては裁判にかけられ罰金刑や拘禁刑となります。また、立入調査を拒んだり、妨げたりした場合も30万円以下の罰金が科されることがあるため注意が必要です。 違反件数、再検査や送検は減少していない  最後に数値に基づき、監督の状況や傾向について確認してみましょう。厚生労働省労働基準局が公表している「労働基準監督年報」※4を参照すると監督実施状況について、2023(令和5)年は監督対象全体で17万1679件、内訳では定期監督等81.1%、申告監督11.3%、再監督が7.6%となっています。この構成比は直近5年(2019年から2023年)でも傾向が変わりません。また、定期監督等実施状況13万9215件のうち違反事業場は9万6831件で69.6%と比率としては高い状態です。これも直近5年を確認すると違反事業場比率は7割前後で推移しています。  送検結果の状況については、2023年の送検799件に対して起訴率が34.1%で直近5年では3〜4割で推移しています。うち裁判の結果は罰金がほとんどですが、2019年、2020年ともに懲役刑が1件ずつ発生しています。  このようにみていくと、毎年15万件を超える事業場に対して臨検監督が実施されているにもかかわらず、違反件数や再監督、さらには送検件数などは、全体として減少傾向にあるとはいいがたいのが実情です。企業や事業場にいっそうの法令遵守意識の向上とルールの徹底が望まれているといえます。 ***  次回は、「インターンシップ」について取り上げます。 ※1 第一線機関……直接担当し、もっとも活動する位置にある機関 ※2 例えば東京都の場合は、管轄地域ごとに17労働基準監督署と1支署がある(本稿執筆時点) 3 司法警察職員……犯罪行為に対して捜査・逮捕・送検することができる職務の者。警察官は一般司法警察職員、労働基準監督官は労働関係法令に対する違反に権限が限定される特別司法警察職員に区分される ※4 労働基準監督年報……監督活動についての実績を毎年まとめて公表するもの 図表 臨検監督の一般的な流れ 主体的、計画的に、対象事業場を選定 労働者からの申告 労働災害の発生 事業場へ訪問 事業場への立入調査 事情聴取、帳簿の確認など 法違反が認められなかった場合 法違反などが認められた場合 文書指導 是正勧告・改善指導・使用停止命令など 事業場からの是正・改善報告 再度の立入調査の実施 是正・改善が確認された場合 重大・悪質な事案の場合 指導の終了 送検 (注1)上図は一般的な流れを示したものであり、事案により、異なる場合もあります。 (注2)事業場への監督指導は、原則として予告することなく実施しています。 出典:労働基準監督署の役割 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/131227-1.pdf