新春特別企画1 「令和7年度 高年齢者活躍企業フォーラム」基調講演 「シニアのキャリア意識の現状と課題」 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島(こじま)明子(あきこ)  2025(令和7)年10月3日に開催された「高年齢者活躍企業フォーラム」より、株式会社日本総合研究所創発戦略センタースペシャリストの小島明子氏による基調講演の模様をお届けします。「シニアのキャリア意識の現状と課題」をテーマに、これからのシニアのキャリア形成支援や活躍施策について具体的なお話をしていただきました。 意欲のある、就業し続けられる人たちが社会・経済を支える構造が求められている  本日は、前半でシニアのキャリア意識の現状を、後半でシニア活躍施策の現状についてお話ししたいと思います。  まず、2040年の日本の姿を国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」からみると、2020(令和2)年時点では40歳から59歳が現役世代のボリュームゾーンで、この世代の人口は約3500万人です。これが2040年になると、いわゆる「団だん塊かいジュニア」が後期高齢者、「氷河期世代」が前期高齢者となり、人口はさらに減少していくので、年齢を問わず就業意欲のある、就業し続けられる人たちが日本の社会・経済を支える構造が求められることになります。  次に、働くシニア層の現状として、総務省統計局「労働力調査」をもとに年齢階級別の就労者比率から45歳以上についてみてみると、1976(昭和51)年には全体の約4割を占めていましたが、2023年では約6割に増加しています。この割合は、今後さらに増していくことが考えられます。  高年齢者雇用安定法により、企業には、希望者全員65歳までの雇用が義務づけられています(高年齢者雇用確保措置)。70歳定年という言葉も耳にするようになりましたが、企業の高齢者雇用の現状をみると、70歳定年を導入した企業はまだまだ少ないのが現状です。  また、65歳までの高年齢者雇用確保措置の内容についてみてみると、継続雇用制度を導入している企業が大半です。60歳で定年を迎え、以降は継続雇用となると、仕事における裁量がなくなったり、仕事の難易度が低下したりするなど、要するに活躍の場が限定的になることなどが課題といわれています。いま60歳、65歳の方々は、気持ちも体も元気な方が多くいらっしゃるので、この課題はそうした現状と乖離していると思います。  次に、高齢の転職希望者と転職率についてみていきましょう。年齢を重ねても働き続けることを希望する人が増えると、いま勤めている会社で長く働ける状況があればそれもよいのですが、特に大企業においては「ずっと働く」というのはむずかしいのではないかと思います。そうなると、働く人は転職などで自分の活躍の場を探すことになります。そこで35歳以上のデータ※なのでミドル・シニアの状況ではありますが、企業規模別の転職の希望者数の2013(平成25)年から10年間の推移をみると、従業員数29人以下の企業に勤務している人たちには、転職希望者があまりいないというのが現状です。一方で、従業員数500人以上の企業に勤めている人たちは、転職に意欲的な方が増えてきています。  かつては、大企業に勤めると「定年までいたい」と考える人が多かったと思うのですが、雇用や外部の環境が変化していくなかで、自分でキャリアを構築していきたい、新たなキャリアを開拓していきたいという人が現状では増えていると感じています。  年齢層別の転職率の十数年の推移から65歳以上についてみると、転職率は大きく変化していない現状がみてとれます。ミドル世代も同様です。このデータからは、自分に合った会社や仕事を見つけたいと思ったとしても、ミドル・シニア層では実際に転職している人が少ないという状況が把握できます。背景として、企業側の受け入れ態勢が昔に比べれば多少変化しているものの、ミドル・シニアの転職はまだまだむずかしい状況にあることが想像できます。 多様な働き方と意欲が活かせる 仕事を提供することがとても重要  続いて、働くシニアのキャリア意識について、日本総合研究所(以下、「日本総研」)の調査をふまえてお話ししたいと思います。  東京圏の1000人規模以上の事業所に勤める60〜64歳の正社員(男性)を対象に実施した調査結果から、就職活動時点と現在(アンケート回答時点)を比較すると、例えば、「自分の能力やスキルを活かすために働くことが重要だ」、「自己成長のために働くことが重要だ」という問いに対して、就職活動時点の若く意欲に満ちあふれていたときと、60歳を過ぎた現在で、肯定的に回答する人の割合がそれほど変わっていないのです。つまり、「自分の能力を活かしたい」、「自己成長したい」という意欲は、年齢を経ても強いことがわかります。  一方で、「やりたい仕事であれば、仕事以外の時間が削られても仕方がない」という問いに対しては、就職活動時点に比べると肯定的な人が少なくなっています。年齢を重ねると体力的に衰えが出てきますので、時間的にも制約のある働き方でないとむずかしいと思っているシニアが少なくないということです。この結果からわかるのは、時間に制約があっても、企業としては、強い意欲を活かせる仕事を提供することが重要なのだと思います。  続いて、働くシニアの職場環境への満足度についてたずねた調査結果をみると、役職の有無で満足度が大きく異なることが結果にあらわれています。仕事を通じて「好奇心がかきたてられ、喜びや充足感が得られた」、「自分の能力やスキルが活かせている」、「自分は成長していると感じている」という問いに対して、役職のあるシニアのほうがこれらの満足度が高いという結果になっています。  これに関連して、役職定年がシニアのモチベーションの低下に大きく影響しているという調査結果もあります。役職を降りた後の「会社に尽くそうとする意欲」の変化を示した調査データから、役職を降りた経験のある人の約6割が「会社に尽くそうとする意欲」が下がっているということが明らかになっています。また、もともと役職が高い人であるほどモチベーションの下がる幅が大きくなっているという結果も出ています。  一方で、例えば「経営層・上司の相談、助言+所属部署の後輩社員の教育」を担当している人はモチベーションがそれほど下がらないという結果も出ています。経営層・上司へのアドバイザーや、教育係など、いままでのスキルや経験を活かせるような仕事が、シニアにとってモチベーション向上につながることを表していると感じています。  以上が「シニアのキャリア意識の現状」です。ポイントを整理すると、一つめは、年齢を経ても自己成長や、自己のスキルを活かしたいという意欲は高いということ。二つめは、ミドル・シニアを中心に国内では多様な働き方と意欲が活かせる仕事の提供が求められているということ。三つめは、これから就業を継続する人を増やすためには、キャリア形成支援が必要になってくることです。一度退職してしまうと、復帰はなかなかむずかしくなるので、どうしたらキャリアを途絶えさせることなく継続させられるかという、キャリア形成支援の必要性が、今後より高まっていくだろうと考えています。 シニアの活躍支援を進めていることを従業員にきちんと伝えていく  ここからは、「シニアの活躍施策の現状」についてお話しします。企業によるシニアの活用戦略をみると、定年65歳以上の企業では、「60代前半社員」の活用を強く進めている現状がみられます。活用戦略別に「60代前半社員」の活用方針を示したデータからは、活用を強く進める企業ほど、第一線での活躍への期待、全体の底上げを志向する企業が多くなっています。  次に、企業の活用戦略と活用満足度についてみると、シニア社員を活用する意向が強い企業ほど、企業側の評価は高いということが示されています。専門能力、労働意欲、技能や技術の伝承、仕事の成果、管理能力・指導力のいずれの点においても、企業側の評価が高い状況がうかがえます。したがって、企業が積極的にシニアの活躍を推進する姿勢を示して取り組むことによって、企業側にとってもじつはメリットがあることがデータから読み取ることができます。  一方で、そうした企業の施策に対する従業員の理解について目を向けると、その目的やビジョンを理解できている従業員は少ないという状況がみられます。会社側がシニアの活躍に向けて取組みを進めているというメッセージを、従業員にきちんと伝えていくことが重要です。  また、ミドル・シニアの活躍支援の施策として、ミドル・シニアを対象とした研修を始める企業が増えていますが、そうした研修プログラムの多くがキャリアに関する講義が中心となっていて、環境や役割の変化への対応について講義をしている企業は少ないのが現状です。そうした変化に対応できるミドル・シニア人材を育成するキャリア研修として、研修メニューを検討していく必要があるだろうと思います。  ただ、シニアになるほど学ばない人が増える、という現状もあります。従業員の自己啓発の実施状況を年代別にみた調査では、40歳以上は年代が上がるにしたがって自己啓発をした人の割合・時間ともに少なくなっています。リスキリングが重要といわれていますが、ミドル・シニアほど意識して取り組む必要があり、会社がサポートしていく必要があるのだろうと思います。  主体的なキャリア形成に向けて実施した取組みをみると、社内公募などの労働者の意向を重視した人員配置や、兼業・副業の推進、容認、社内兼業制度などについて、すでに取り組んでいる、あるいは取り組もうと考えている企業は2割程度ということで、この点も課題の一つかと思います。 シニアの活躍施策として、職場以外の多様な経験機会を提供することも重要  最後に、日本総研の研究成果を紹介したいと思います。当研究所においてミドル・シニア従業員に、地域の活動団体にインターンシップに行ってもらうという取組みを実施しました。53歳以上推奨として10人募集したところ15人が集まり、14人(男性9人・女性5人)が参加しました。  まず事前研修として、キャリア研修とインターン先を事前に理解するためのガイダンスを行いました。ここでキャリア研修を行ったのは、自分がどんなことの役に立てるのか、どのような地域課題に関心を持っているのかなど、問題意識を持って現地に行ってもらいたいと考えたからです。自己のスキルや経験の棚卸し、日ごろ感じている地域の課題などをグループワークで整理してもらいました。プロジェクト開始前のアンケートでは、自分のスキルが役立つか不安な人が半数以上を占めていましたが、このキャリア研修後に実施したアンケートでは、「スキルや経験の棚卸しを通じて新たな気づきを得た」という人が約9割にのぼりました。また、7割の人が「自分の関心に沿った社会課題を見いだせた」と回答しています。  インターンシップは2グループに分かれ、子育て支援や、定年後のシニアが地域で困っている高齢者を支援している団体など多様な団体のもとで実施しました。  インターンシップ後のアンケートでは、自社でつちかったスキルや経験が社会課題の解決に役立つと「非常に感じる」、「そう感じる」人の割合が、プロジェクト開始前の43%から71%まで上がりました。参加者から「仲間をつくりながら幸せな社会を目ざす働き方、高齢化が進んでいるがゆえに、人ではなく、しくみづくりが大切、仲間との話合いが最重要」、「住んでいる場所から近い場所で人の役に立つ仕事ができ、多少の収益と多くの感謝をいただけるやりがいのある仕事だと思った」などの声が聞かれました。  このプロジェクトの成果の一つは、シニアのセカンドキャリアに対する意識啓発です。「何かアクションをしなくてはいけないというスイッチになった」、「コンフォートゾーンではなく、多様な場に飛び込む勇気をもらえた」という感想のほか、地域の活動団体と直接かかわったことで「自分の本業で社会課題解決に注力したいという気持ちが高まった」という人もいました。  また、地域社会との横断的ネットワークの強化という視点から、「横のつながりがつくれたことで、新しい仕事を自発的に生み出す可能性につながっていると感じた」、「インターンシップだけでなく、参加者同士のその後の横のつながりが自己変容の後押しになっている」という声も上がっています。 シニアの活躍推進に向けた三つのポイント  本日は、「シニアのキャリア意識の現状と課題」についてお話ししましたが、今後の課題として大きく三つのポイントがあると考えています。  一つめは、シニアの意欲が活かせる職場環境づくりです。シニアの高い意欲を活かすためには、組織としてシニアの活躍を強く進めていくことが大切です。それは結果として、企業の価値を上げるというメリットもあると思います。  二つめは、環境や役割の変化に対応できるキャリア形成支援を充実させること。同じ職場内においても、今後の環境や役割の変化に柔軟に対応できるよう、いままでの経験やスキルを活かしながら、新たな学びを得られる機会を提供することが重要と考えます。  三つめは、早いうちから職場以外の多様な経験機会を提供することの重要性です。これにより、セカンドキャリアの選択肢を考える機会になることはもちろん、新たな仲間ができたことで、「みんなで新しいプロジェクトをやってみよう」という気持ちが芽生えたり、視野が広がることで本業のなかでの気づきにもつながっていくのだろうと思います。社外の、いわゆる越境学習は、企業にとっても従業員にとっても意義のある取組みだと思います。 ★「令和7年度高年齢者活躍企業フォーラム」基調講演は、JEED のYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信をしており、こちらからご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=1H1rklbr8us ※ 総務省統計局「労働力調査」をもとに日本総合研究所が作成したデータ 写真のキャプション 株式会社日本総合研究所 創発戦略センタースペシャリストの小島明子氏 新春特別企画2 「令和7年度 高年齢者活躍企業フォーラム」 受賞企業を交えたトークセッション  「高年齢者活躍企業フォーラム」より、「令和7年度高年齢者活躍企業コンテスト」入賞企業3社と、基調講演を行った株式会社日本総合研究所の小島明子氏が登壇して行われたトークセッションの模様をお届けします。コーディネーターに東京学芸大学名誉教授の内田賢氏を迎え、年齢に縛られない働き方や若手従業員との良好な関係構築に向けて工夫していることなどについて、小島氏を交えて各社にお話をうかがいました。 コーディネーター 東京学芸大学 名誉教授 内田(うちだ)賢(まさる)氏 コーディネーター パネリスト 株式会社日本総合研究所 創発戦略センタースペシャリスト 小島(こじま)明子(あきこ)氏 グリンリーフ株式会社 取締役 開発・品質管理部長 原(はら)ミツ江(え)氏 総務部総務課主任 中島(なかじま)はるえ氏 株式会社クリーン開発(かいはつ) 代表取締役専務 蜍エ(やなぎばし)直紀(なおき)氏 株式会社マイネットシステム 代表取締役社長 小林(こばやし)利清(としきよ)氏 企業プロフィール 株式会社マイネットシステム (長野県松本(まつもと)市) ◎創業 2000(平成12)年 ◎業種 情報サービス業 ◎従業員数 82人 (2025〈令和7〉年4月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  2023(令和5)年に定年制を廃止し、社員が長期的なキャリア形成を描ける環境を整備した。年齢にかかわらず、貢献・能力に応じた報酬を設定。人事評価制度も刷新し、目標管理と面談を通じて昇給に反映し、公平性と納得性を高めている。 株式会社クリーン開発 (北海道千歳(ちとせ)市) ◎創業 1975(昭和50)年 ◎業種 その他の事業サービス業 (建物管理等各種保守管理) ◎従業員数 310人 (2025〈令和7〉年10月1日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年65歳。希望者全員を70歳まで嘱託社員として継続雇用。その後、希望者全員を75歳まで無期雇用のパートタイム従業員として再雇用。各雇用形態の上限年齢に達した従業員は、「元気事業部」に登録して1日単位で働くことを選択できる。 グリンリーフ株式会社 (群馬県利根郡(とねぐん)昭和(しょうわ)村) ◎創業 1962(昭和37)年 ◎業種 農業・食料品製造業 ◎従業員数 126人 (2025〈令和7〉年5月30日現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年70歳以降、希望者全員(年齢上限なく)自力で出勤できるかぎり継続雇用。本制度は就業規則作成委員会(各部署から非管理職の従業員を1名ずつ選出して構成)の提案により実現した。 ★ 3社の詳しい取組み内容は、本誌2025年10月号「特集」をご覧ください。JEEDホームページでもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202510/index.html#page=8 高齢者雇用を強力に推進するようになった背景 内田 まず最初に、高齢者雇用を強力に推進するようになった背景からお聞かせください。 小林 やらざるを得なかった、というところが本音です。65歳を過ぎてからも現役で活躍している人、知識を豊富に持った人がいます。そういう方々に活躍していただきたいと思い、推進を始めました。 蜍エ 当社のある北海道千ち歳とせ市は、空港と自衛隊の町として知られています。自衛隊の定年は、以前は53歳で、年金を受給するまで第二の人生として当社に来てくださる方が多くいました。そして自衛隊の定年が55歳になり、年金の受給開始年齢も上がったことに合わせて、当社の定年制を改定し、定年65歳、70歳まで継続雇用し、希望者全員75歳まで無期雇用のパートタイム従業員として再雇用する制度にあらためました。 中島 定年70歳以降、年齢上限なく勤務延長ができる当社の制度は、就業規則の見直しと改善を目的として設立された就業規則作成委員会からの提案により実現しました。委員会ではまず、「退職年齢に達する人たちが辞めてしまうと困る」という声があがり、「では、いつまで働ける制度にしたらよいだろうか」と話し合い、70歳定年制を設けていますが、自力で出社できるまでは年齢制限なく働けるという制度ができました。 小島 雇用環境が変化するなかで年金受給年齢の引上げもあり、もともとは環境の変化に対応をするという状況だったと思います。しかし、お話をうかがっていると、推進しているうちに自分の会社の価値を上げていくことにつながるといった実感などをともないながら取組みを進めてこられたのではないかと思いました。 年齢に縛られない働き方の再設計について 内田 次に、「年齢に縛られない働き方」とはどういうものなのか、お聞かせください。 原 当社では、四半期ごとに働き方の見直しを行い、働き方を選べる仕組みがあります。例えば、フルタイムで働いていた人が、家庭や子どもの事情などにより勤務時間を短くしたいという場合など、自身の現状に応じた働き方を柔軟に選択できる仕組みです。また、子育て期間終了後に再び正社員になることも可能です。 蜍エ 一人ひとりの働く環境には違いがあるということで、日々コミュニケーションを取りながら、柔軟に対応しています。高齢になっていまの作業がきついというのであれば、身体的に負担の少ない現場への異動を提案するなど、できるかぎり本人の希望に合うように、雇用の場を提供しています。  また、一線を退いたものの、「体はきつくなったけれど仕事を続けたい」という従業員のために、時間の調整がつくときに当社の業務を手伝っていただく「元気事業部」という登録制の部を創設しました。「夏場だけ働きたい」といった要望などに応えられるような仕事の受注に努め、作業計画を組みながら進めている段階です。 小林 当社では、74歳で営業職をサポートしている従業員がおり、フルタイムではないのですが、リモートワークで力を発揮しています。新しく入った社員の育成をリモートで行うケースなどもあり、さまざまな形で高齢社員が活躍しています。時短勤務制度もありますし、こうした柔軟な勤務制度により、できることが増えてきたと思います。 小島 3社の取組みには、選択できるという共通項があります。例えば、定年制を廃止したら、雇用形態や働く年齢を選べますし、リモートワークなら働く場所や時間が選べます。また、仕事内容も希望に応じて選択することも可能ですよね。経験やスキルのあるシニアの活躍をうながすには、選べる環境を提供していくことがポイントになると思います。 内田 自分の健康問題や家族の介護に直面したり、あるいは趣味の時間をつくりたいといったことから、パートタイム的な仕事に変わるなどいろいろな人々がいると思います。会社と本人とで両立できるところを探るうえで、選択肢があることが大切です。また、そういった制度のメリットは、シニアにかぎらず、子育て期間中の人たちなど多様な人たちが享受できるものになるよう工夫をすることも重要ですね。 若手従業員との良好な関係構築に向けて工夫していること 小島 若手従業員との良好な関係構築に向けて工夫されている点についてお聞かせください。 原 世代間のコミュニケーションに積極的に取り組んでいます。新年会にはお子さんも含めて社員の家族にも参加してもらい、世代を超えて隔たりなく楽しんでいます。また、部門ごとの食事会が年4回あり、若い人も年配の人もご飯を食べながら和気あいあいと会話を楽しんでいます。毎月の勉強会のグループ活動も年齢、性別にかかわりなく参加することができるのですが、多世代が積極的にかかわることを意識しています。じつは、勉強会を年代別に実施したこともあり、それはそれで同年代で話も合うのでよいのですが、多様な年代構成にすると、若い人から学ぶこと、年配者から学ぶことがあり、現在はかかわり合うよう、いろいろなことに取り組んでいます。 蜍エ 当社は従業員が約310人で、現場が70カ所を超えるので、全員で集まる機会はなかなかないのですが、従業員や家族を招いてバーベキューなどを行ったり、従業員全員を招待した忘年会を行い、コミュニケーションの活性化を図っています。また、高齢社員同士で険悪な雰囲気になることなどがあると、若手社員が間に入って仲を取り持つといったこともあります。孫のような若い人が入ることで、高齢社員が柔和になってうまくいったり、若手と高齢社員のコミュニケーションがとれていったりすることがあるので、現状として、高齢社員と若手が一緒に仕事をする機会を増やすようにしています。 小林 当社でも、年に1度、全社員を集めて懇親会を開いていますが、若い社員にはお酒を飲まないという人も少なくありません。仕事に対しても、自信がないのか、あまりチャレンジングな姿勢が見られないこともあり、ベテランの人たちからすると、「それは甘いよ」という印象を抱いてしまうこともあります。仕事の準備があいまいなまま進めてしまうこともあるので、そういったときは年上の経験者がレビューをして指南をすることもあります。実際に業務上のやり取りのなかで、コミュニケーションが生まれている、という感じです。 内田 高齢者はいろいろな経験をしていて、どこまでいったらどうなるかがわかるからこそ、事前に気をつけることができる。それを伝えていく役割は、まさに経験ある人が適任であり、大事なことはコミュニケーションなのだと思います。 学び続けるシニアを支える仕組みと動機づけについて 内田 学び続けるシニアを支える仕組みと動機づけについてはいかがでしょうか。 小林 すべてのシニアではないのですが、やりたいことを自分で考えて、どう進めるかを計画して提案してもらっています。そのテーマについて「会社で実施する」と決めた場合は、その提案者自身が取組みの主体をになうという仕組みがあります。そしていろいろな人たちと話し合い、チームをつくって取組みを進めています。 蜍エ お客さまに喜んでいただけるサービスを提供するために、高齢社員にも若手社員にも研修を通じて学んでもらいます。特に、仕事が作業にならないよう、お客さま優先で行えるよう、接遇研修も大事にしています。また、安全研修、技術研修、コンプライアンスの研修も含めて一緒に受けてもらい、徹底しています。 原 「シニアを支える」というよりは、逆に「支えてもらっている」というのが、当社の実情ですね。シニアにはいろいろな困難や苦労を乗り越えてきた人が多いですから、本当に支えてもらっていまがあると思っています。また、仕事をしていて不便に思うところ、例えば、重い物を持つといったことは、だんだんたいへんになってくると思いますので、そういったことを改善する。当社には「チョコ案」という、各社員からちょっとした改善の提案をしてもらう制度があり、出てくる改善案を取り入れています。 小島 お話をうかがって、安全管理やコンプライアンスにかかわる教育体制の整備は、シニアを雇用するうえで基本となる取組みだと思いました。一方で、グリンリーフさんの「チョコ案」の制度や、マイネットさんの自分から提案するという、シニアの主体性や自律性を活かす取組みについても、シニアの活躍をうながすために重要だと考えます。 内田 教育、あるいは職場改善について、社員が提案できる制度があることと、会社がそこになんらかのアクションをとる仕組みがあることが大事なのだと感じます。現場の声を聞いて、すぐに取り上げて解決に導く、または解決の取組みを示すだけでも、会社に対する信頼感が違うでしょうし、それを見た若手、中堅の信頼感も高まっていくのではないかと思います。 高齢者の活躍に向けた会社としての姿勢や経営層のメッセージが、従業員(おもにシニア)に理解されるよう工夫していること 小島 シニアの活躍に向けて、会社としての姿勢や経営層のメッセージを、従業員、おもにシニアに理解してもらうために、どのような工夫をされていますか。 中島 給料日に社長からの手書きのメッセージを送る、誕生日に社長夫婦から靴下のプレゼントをする、勤続年数に応じて表彰をするといった取組みのなかで、長く働いている従業員に感謝の気持ちを伝えています。また、全員に対して毎年、方針説明会を開いて、わかりやすく会社の方針を説明し、みんなが同じ方向に向いていけるようにしています。 蜍エ 全員で集まる機会が少ないため、全員への周知というのが課題ではあったのですが、12月の繁忙期前に大きな会場を借りて集合し、会社の決意表明を含む全体の研修を行っています。また、1人で働いている社員が100人ほどいますので、月1回の巡回のほか、2カ月に1回、社内報を制作して会社の状況や安全に対する資料などを盛り込んで配付しています。 小林 月に1回、Webを使った全体会議で、起こったできごとや業績を共有しています。年1回は、会社の方針を説明しています。 小島 シニアの活躍を推進していくうえでは、共通理念として、会社の経営層がきちんとメッセージを伝えていくことが重要です。従業員の方も忙しいと、会社からのメッセージをなかなか受け取ってもらえないこともあるので、3社のみなさんの工夫は、多くの企業にとって参考になる内容だと思います。 今後の高齢者雇用推進の方向や現在検討中の計画 内田 今後の高齢者雇用の推進の方向と、それを具現化するために検討中の計画について、どのような取組みをされていますか。 小林 60歳を過ぎても、70歳を過ぎても現場で稼いでいくようにならなければ生き残っていけない、厳しい時代になったと思います。60歳過ぎの方の採用もしていますが、現場に行って働ける人を優先して採用しています。定年制をなくしたことで、この先どうなるのか、将来の課題については、次の世代にお任せしたいと思っています。 蜍エ 高齢者にかぎった取組みではないのですが、清掃ロボットの導入や、軽量の資機材を使うなどして、身体にかかる負担を減らす工夫をどんどん取り入れています。また、働きたいけれど通勤手段がないとか、高齢になり車の免許を返納したという方が多くなってきたため、通勤時のサポートで送迎をしています。一人ひとりが無理なく働けるように今後も改革に取り組みたいと思っています。 原 退職した従業員とつながりを続けて、繁忙期に手伝いをお願いしています。最近も82歳で退職した方に1週間だけ来てもらいました。あるいは1カ月、2カ月の短期で来てもらう場合もあります。そういったことも大事にしています。 小島 グリンリーフさんの「つながりを断絶させない」取組み、あるいは「アルムナイ」といういい方がよいのかもしれませんが、働いていた方々とつながりを継続させて、必要に応じて働いていただけるというのは、今後の新たな働き方の一つではないかと思います。  また、中途採用をしたシニアの方にどう活躍していただくかということも今後の課題です。特に大企業から中小企業へ転職されるケースも徐々に増えてくると思いますが、仕事の仕方やマインドの部分が大きく異なり、定着しない、マッチングがうまくいかないということも、今後の課題です。社会として、教育の支援、マッチングの支援の必要性を感じました。 これから高齢者雇用を進める企業へのアドバイス 内田 最後に、これから高齢者雇用を進める企業へのアドバイス、法人へのアドバイスをお願いします。 原 人生100年時代といわれ、また、人手不足という環境のなかで、雇用年齢が上がらないのは、どうなのかなというのが正直な思いです。いまは70歳でも若々しく、昔に比べると10年は若くなっていると感じますので、70歳の雇用は不思議ではないと思います。  会社として雇用年数を延ばしていく際は、短期間でも働けるなど、自分の状況に合わせて働ける仕組みをつくることによって、より多くの方が働けるようになると思います。当社の場合もそうですし、そういう仕組みをつくっていくと、次の世代の人たちが、「働けるうちは働けるんだ」という考えを持つことができ、それによってさらに挑戦意欲が出てくるのかなと思います。そういったことを当社でも続けていきますし、同じような取組みをされる企業が増えていくことに期待したいですね。 蜍エ 高齢者の方は、人生の先輩として、いろいろな知識や経験、そしてプライドを持っています。失礼ないい方になるかもしれませんが、こだわりが強くなってくる方も多く、従業員同士で口論になったりすることもあるのですが、責任者を置いて、意見を尊重しながら、会社としての方向性をしっかりと決めて伝えていくこと。そうして、一人ひとりの得意なことを活かしてもらうような指示を出したり、作業チームをつくったりすることなどを通して、活き活きと働いていただけるのではないでしょうか。  また、健康面への配慮として、北海道でも夏場は暑い日が増えてきており、作業を中止する日もあるのですが、朝、「大丈夫かい」とたずねると、みなさんだいたい「大丈夫です」と答えるのです。責任者が顔色や体調の管理をしっかりと確認し、無理をさせないことが大切です。それでも体調を崩す人が出てきますから、日ごろの声かけも大切にしていただければと思います。 小林 当社は、IT業務を行っていることが功を奏してここまで来られたと思います。さまざまな業種のそれぞれの会社で、自社の特長をとらえて、よい方法をみつけることが必要なのかなと考えています。当社でもかなり考えて、やると決めてからは、みんなで向かっているだけです。是々非々を検討していただければと思います。 小島 本日は貴重な機会をいただき、いろいろと勉強になりました。3社のみなさまのお話を聞いて、多くの企業の方々がシニアの活躍を進めていきたいと思われたのではないでしょうか。シニアの活躍を推進するうえで、まず前提として必要なのは、トップのコミットメントだろうと私は考えています。そのコミュニケーションのとり方は、企業によって違いますし、独自の工夫が求められると思いますが、まずはシニアの活躍を進めていくことを、トップが従業員にきちんと伝えていくということが、推進のうえでは必須だろうと思います。  そのうえで、「選択できる」という仕組みについて、本日いろいろとうかがいました。さまざまなシニアが自分のスキルや経験を活かせるように、働く時間や場所、あるいは雇用形態について、選択できる環境を提供していくことが必要だと思います。そうして一歩ずつ進めていくと、いろいろな成果が出てきます。若手にとってロールモデルができて安心して働けるようになったとか、定着率が上がった、品質が改善したなど、企業にとってメリットがあることを実感することにもつながるのだと思います。  これからも課題は出てくると思いますが、多くの企業でよい成果が出た取組みに関する情報を共有し、日本全体として、シニアの活躍にすぐれた企業がより増えていくことを期待しています。 内田 みなさま、ありがとうございます。3社それぞれに、苦難の歴史もあったと思います。しかしながら、それぞれに本気になって、ポリシーを持って、だからこそシニアを活用するんだ、会社の成長のためにもシニアが必要だと本気で考えて実践し、その結果、若手、中堅の方々も含めて、会社はしっかり考えてくれているという信頼を得て、現在に至っているのだと思います。まだ課題があるなかで、解決しながら進めているという部分もあるかもしれませんが、本気で取り組んでいらっしゃるところを汲み取っていただいて、みなさまの会社での実践に役立てていただければと強く思います。ありがとうございました。 ★「令和7年度高年齢者活躍企業フォーラム」トークセッションは、JEEDのYouTube公式チャンネルでアーカイブ配信をしており、こちらからご覧いただけます。 https://www.youtube.com/watch?v=Ea8JJZDSQp0 写真のキャプション 東京学芸大学 名誉教授 内田 賢氏 株式会社日本総合研究所 創発戦略センタースペシャリスト 小島明子氏 グリンリーフ株式会社 取締役開発・品質管理部長 原ミツ江氏 グリンリーフ株式会社 総務部総務課主任 中島はるえ氏 株式会社クリーン開発 代表取締役専務 蜍エ直紀氏 株式会社マイネットシステム 代表取締役社長 小林利清氏