地域・社会を支える高齢者の底力 The Strength of the Elderly 第4回 首都高トールサービス東東京株式会社(東京都)  少子高齢化や都心部への人口集中などにより、労働力人口の減少が社会課題となるなか、長い職業人生のなかでつちかってきた知識や技術、経験を活かし、多くの高齢者が地域・社会の支え手として活躍しています。そこで本連載では、事業を通じて地域や社会への貢献に取り組む企業や団体、そこで働く高齢者の方々をご紹介していきます。 高速料金を管理する公共性の高い業務 シニアの落ち着いた物腰が信頼につながる  総延長327.2km、1日あたりの通行台数は100万台を超える首都高速道路。首都高トールサービス東東京株式会社は、そのうち東東京地区内の56料金所を管轄し、料金収受とETCの監視業務をになっている。同社で料金所係員として働くスタッフは2025(令和7)年3月時点で563人。平均年齢は64歳で、60歳以上のスタッフは455人にのぼる。  同社が経営方針として掲げるのは「お客さまサービスの向上」、「安全管理の徹底」、「的確な料金収受」の三つ。通行料金にかかわる公共性の高い業務のため、「お客さまに理解していただき、信頼されるよう取り組むことが重要で、シニアの係員は落ち着いた和やかな人柄の方が多く、落ち着きのある対応が、お客さまの信頼につながっています」(総務部総務課)という。  実際に働いている係員は、中途採用者が100%。前職は公務員、サービス業、介護・福祉関係などさまざまだ。具体的な応募動機では、「社会貢献ができる」、「正社員登用制度がある」などのほか、「研修制度が整っている」、「福利厚生が充実している」、「プライベートな時間を確保できる」と、働きやすさをあげているケースが多い。  係員の仕事は、料金所ブース内での通行料金の収受とETCの監視が柱。ほぼ全員が未経験で入社するため、研修できめ細かく対応している。まずは7日間の事前研修で、現金などによる支払い対応、ETC機器などの操作の手順、トラブルへの対応、車種の判別方法などを実践的に学習。その後、各営業所に配属され、指導役の先輩係員とともに実地で勤務につき、不明な点を確認しながら業務を習得していく。  同社では研修以外でも、新入社員と役員の昼食会を開催するなど、会社に対するエンゲージメント(帰属意識、信頼度)を高めるための取組みを積極的に展開。また、社員同士で、趣味の同好会を立ち上げたり、食事会を開いたりして交流を深めており、それが業務上の助け合いにもつながっているそうだ。 接客業の経験も活かして月10日間の勤務 仕事もプライベートも充実  埼玉県東南端の八潮(やしお)市にある同社の八潮営業所は、首都高6号三郷(みさと)線全線および中央環状線の一部の六つの料金所を所管する。料金所のブースで働く料金収受係員は約70人。高山(たかやま)加洋子(かよこ)さんはその一人として、3日に1回の日夜勤務に就いている。  朝8時に出社すると、制服に着替え、朝礼で注意事項などの連絡を受けた後、料金所ブースに移動して、翌朝まで2人1組体制での収受業務にあたる。仮眠時間を含む休憩時間は計約8時間で、2人が交替で取る。翌朝は8時半ごろにブースから営業所に戻り、売上金を手渡して業務報告を行い、午前9時に退社となる。次の日は休み。またその次の日の朝8時から勤務するという「勤務」、「明け」、「休み」のサイクルで、1カ月あたりの勤務は10回ほどとなる。  高山さんは結婚をしてから、長く専業主婦だったが、子どもが高校生になったのをきっかけに、40代のころから仕事をするようになった。まずは、企業からスポットで配送を請け負う仕事に就き、「そのころはずっと運転をしており、首都高でもよく運転していました」と話す。配送の仕事を5年間ほど続け、子どもの受験をきっかけに退職。その後、大手クリーニング店のカウンタースタッフとして、約10年間接客業務にたずさわった。そして、娘の結婚が決まり同居することになったのをきっかけに、「毎日出勤するのは少しきついかなと考え、出勤日数が少ない仕事を探した」そうだ。そして、新聞の求人欄で見つけたのが、首都高トールサービス東東京株式会社の求人だった。3日に1回、月10回の働き方に魅力を感じたことに加え、「仕事でも利用していた首都高での仕事にとても興味がありました」という気持ちで応募し、2017(平成29)年7月から働き始めた。  「特殊な勤務シフトの仕事なので、最初は少したいへんでしたがすぐに慣れました。1日仕事をしたら、その後は47時間休みになるので、プライベートの予定が組みやすく、ありがたいなと思っています」と高山さん。現在、3歳のお孫さんがおり、サービス業で働く娘夫婦と休みの日をずらし、保育園の送り迎えのサポートも行っている。さらに休みの日には、会社の仲間とウォーキングや食事、カラオケなども楽しみ、充実した毎日のようだ。 「首都高の顔」として大切な存在 やりがいある仕事に「年齢への意識はない」  長く接客業も経験してきた高山さんの仕事への評価は高く、いまではベテランとして頼られる存在となっている。「現金収受はとにかく、間違いがないことが基本です。ブースでの接客は一瞬ですが、その一瞬で間違いなく対応することに気を遣っています」と高山さんは話す。釣り銭などを瞬時に間違いなくドライバーに渡すコツは、「料金収受機からお釣りが出てくる間にほんの数秒の時間があり、そこで確認すること」だそうだ。そのほか、指差し、声出しで確認することも重要だという。  「会社が求めていることを、懇切丁寧にやってもらっていて、本当にありがたい存在です」と、同営業所の田端(たばた)守男(もりお)所長は話す。実際にトラブルが発生したときなども、高山さんのやさしい対応に安心感を覚えるドライバーも多いようで、「お客さまから『ありがとう』といってもらえるのが、やりがいになっていますね」と高山さんは話す。  八潮営業所が管轄する首都高6号三郷線から中央環状線の一部は、特に交通量が多く、料金収受係員は365日24時間、ブース内で多くのお客さまからの視線を受けての業務となる。「首都圏の人、物流の大動脈である首都高速道路をご通行されるすべてのお客さまが安全、安心してご通行いただくため、料金収受係員は、首都高の『顔』として笑顔でお客さまを出迎え、ていねいで親切、かつ的確な業務を行っています」と、同社の東條(とうじょう)正樹(まさき)部長は強調した。  田端所長も、高山さんも、「高齢という意識はない。年齢は気にしない」と口をそろえる。「健康やけがに気をつけて、元気なうちに何かお役に立てるのなら、70歳を過ぎても働いていきたいですね」と、高山さんは笑顔で語った。 写真のキャプション 八潮営業所所長の田端守男さん(左)と料金収受係員の高山加洋子さん(右)