いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第57回 「産前産後休業・育児休業」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、産前産後休業・育児休業について取り上げます。育児休業については、2025(令和7)年4月から施行された点についても触れていきます。 目的は母性保護と両立支援  産前産後休業と育児休業は一連の流れでとらえた方がよいため、図表を参照しながら読み進めてください。 ◆産前産後休業  産前産後休業は、働く女性の妊娠・出産・育児を支援する母性保護を目的とした制度で、労働者保護の一環として労働基準法※1の第65条第1項および第2項で定められています。6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が請求した場合は就業させることができないとする産前休業と、出産日の翌日から8週間を経過しない女性を就業させることができない(ただし、6週間経過後は本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就業させることは可)産後休業で構成されます。なお、図表の最上段の欄に例があるように、労働基準法では、妊娠中の女性が請求した場合に軽易な業務に転換させること(第65条第3項)や、妊娠中および産後1年を経過しない女性(妊産婦)に対して、危険有害業務の就業制限(第64条の3)や、変形労働時間の適用や時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条第1項、第2項、第3項)など※2、産前産後休業以外にも、母性保護に関するほかの規定が定められているため、あわせて押さえておくとよいでしょう。 ◆育児休業  育児休業は、働く労働者の育児と仕事の両立支援※3を目的とした制度で、おもに育児・介護休業法※4に定められています。労働者が原則1カ月前までに事業者に申し入れることにより、原則子が1歳に達するまでの間で労働者が申し出た期間、ただし、子が1歳に達する時点で保育園に入所できないなどの場合は1歳6カ月まで、子が1歳6カ月に達する時点で保育園に入所できない場合は2歳まで延長した期間を休業することができます。産前産後休業と異なり労働者であれば男女ともに取得が可能で、2回まで分割して取得できます。  これに加えて、父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2カ月に達するまでの間に父母それぞれ1年間まで育児休業を取得できるパパ・ママ育休プラスや、父親が原則休業の2週間前までに申し出ることにより、育児休業とは別に原則として出生後8週間のうち4週間まで休業(2回に分割可)することができる産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)※5が設けられています。 さらなる育児休業の取得促進に向けて  仕事と育児の両立支援に欠かせない育児休業ですが、取得が十分でない点に課題があります。「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年7月31日公表 厚生労働省)の結果によると2023年度の育児休業取得率は、女性84.1%、男性30.1%という状況です。女性の場合は、取得率が一見高くみえますが、経年でみると2009(平成21)年以降90%を下回った状態で推移しています。男性の場合は、2012(平成24)年まで2.0%を下回っていたことから考慮すると飛躍的な伸びとなっていますが、育児休業でもっとも多い期間が女性は12〜18カ月未満(32.7%)に対して、男性は1カ月〜3カ月未満(28.0%)と育児を分担するうえで十分ではないと考えられます。  そのような状況から、よりいっそうの育児休業の取得の促進に向けて、育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法が2024年に改正され、2025年4月1日より段階的に施行されることになりました。育児休業に直接かかわるおもなポイントとして、次のものがあげられます。 ・従業員数300人超の企業に、育児休業等の取得状況を公表することを義務化(改正前は1000人超の企業) ・育児と仕事の両立に関する個別の意向聴取・配慮を事業主に義務化 ・従業員数100人超の企業に、一般事業主行動計画※6策定時に育児休業等の取得状況把握や数値目標の設定を義務化  このほか、育児休業期間中の収入面の見直しも進められています。育児休業期間中は、給与が無給になることに対し、雇用保険から休業開始時賃金の67%(休業開始から6カ月以降は50%)の育児休業給付金が支給されています。ただし、収入の減少は否めず、育児休業の取得を妨げる一因になっていました。そこで、2025年4月より出生後休業支援給付金を創設し、この出生直後の一定期間内に、両親ともに14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、育児休業開始前賃金の13%が上乗せされることになりました。これにより、育児休業給付金とあわせて手取り10割相当を受け取れる可能性が出てくるため、育児休業の取得促進が期待されています。 ***  次回は「労働生産性・労働分配率」について解説します。 ※1 「労働基準法」については、『エルダー』2024 年12 月号を参照 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202412/index.html#page=50 ※2 このほか、「生後満1年に達しない生児を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30 分の育児時間を請求することができる」(労働基準法第67 条)との規定あり ※3 「両立支援」については『、エルダー』2023年10月号を参照 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202310/#page=50 ※4 正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 ※5 育児休業中は就業が原則不可だが、産後パパ育休制度では、労使協定を締結した場合にかぎり、労働者が合意した範囲で休業中の就業が可能 ※6 企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むにあたって、計画期間・目標・目標達成のための対策およびその実施時期を定めるもの 図表 働きながらお母さんになるあなたへ 妊娠期 産前6週間 出産 産後8週間 1歳 2歳 3歳 小学校入学 3年生修了 母性保護などの制度 産前産後休業、育児休業関係 ・時間外労働(※1)、休日労働、深夜業の制限 ・妊婦検診を受けるための時間を確保したり、医師等の指導をもとに、ラッシュアワーを避けるために時差出勤を利用する等母性健康管理のために必要な措置 育児時間(1日2回、少なくとも各30分) 6週間 (双子以上14週間) 8週間 産前産後休業 パート・アルバイト等を含め、すべての女性が産前産後休業を取得できます。 産後パパ育休 育児休業 遅くとも、育児休業開始予定日の1カ月前まで、産後パパ育児開始予定日の2週間前(※)までに会社へ育児休業申出書などを提出します。(※会社により異なる場合があります。) 育児休業給付の給付割合は、休業開始後180日間は、67%(それ以降は50%)です。(※2) ・女性は産後休業終了後から、男性は出産予定日から取得できます。 ・パート・アルバイト等であっても、一定の要件を満たせば取得できます。 保育所等に入れないなどの事情があれば、最長2歳に達する日まで育児休業を延長することができます。 両親共に育児休業を取得する場合は、休業対象となる子の年齢が原則1歳までから原則1歳2か月までに延長されます。(※3)(パパ・ママ育休プラス) 産前産後休業、育児休業期間中は社会保険料負担が免除されます! 場合によって免除(※4) ※1 時間外労働:労働基準法で定められている1日8時間または1週間40時間を超える労働 ※2 令和7年4月に出生後休業支援給付が創設され、子の出生直後の一定期間内に、両親ともに14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、出生児育児休業給付金又は育児休業給付金に上乗せして休業開始前賃金の13%が支給されます ※3 ただし、育児休業が取得できる期間は1歳2カ月までの間の1年間です ※4 就業規則等で3歳までの育児休業制度が定められ、休業している場合です 出典:「働きながらお母さんになるあなたへ」厚生労働省(令和6年11月)