【表紙】 令和7年6月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第6号通巻547号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 2025 6 特集 介護離職防止に向けて リーダーズ トーク 65歳定年、60歳からは選択定年制を導入しモチベーション維持と生産性向上を実現 株式会社カクヤスグループ 取締役兼CHRO 篠崎淳一郎 【表紙2】 〜65歳超雇用推進助成金のご案内〜 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること A定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて160万円まで支給。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 ●支給対象経費(注2)の60%(中小企業事業主以外は45%) (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき30万円(中小企業事業主以外は23万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※)とは、55歳以上の高齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 令和7年4月1日から助成金の電子申請はじまりました 令和7年4月1日から、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に申請いただいている65歳超雇用推進助成金、障害者雇用納付金関係助成金、障害者職場実習等支援事業が、e-Gov電子申請を利用して申請できるようになりました(*一部未対応)。 電子申請って? 現在、紙によって行われている申請などの行政手続きを、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。 e-Govって? デジタル庁がインターネット上で運営する行政サービスの総合窓口です。状況・分野・所管行政機関の条件から手続きを探して、行政手続きの申請・届出を行うことができます。 電子申請のメリットは? ●24時間365日いつでも手続きができます。 ●インターネット経由でどこからでも申請できます。 ●手続きはマイページで管理され、処理状況や通知等を確認できます。 ●パソコン上だけで手続きが完了します。移動時間や待ち時間を気にする必要がありません。 初めて助成金を申請する場合など、助成金制度や要件に関して不明な点がある場合は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。なお、e-Govの利用方法については「e-Govを初めてお使いの方へ」(https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/beginner)をご確認ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.121 65歳定年、60歳からは選択定年制を導入しモチベーション維持と生産性向上を実現 株式会社カクヤスグループ取締役兼CHRO(最高人事責任者) 篠崎淳一郎さん しのざき・じゅんいちろう コンサルティング会社勤務などを経て、2001(平成13)年に株式会社カクヤス(現・株式会社カクヤスグループ)に入社。2018年に執行役員兼人事部長、2020年に取締役兼グループ人事部長、2023年より現職。  首都圏や大阪、九州を中心に、酒類小売りチェーンを展開する株式会社カクヤスグループ。「カクヤス」のロゴの入った配達車を目にしたことのある読者も多いのではないでしょうか。同社では、2023(令和5)年に人事制度を全面的に改定するとともに、65歳定年制を導入しました。今回は、同社取締役兼CHROの篠崎淳一郎さんに、人事制度改定のねらいとともに、同社における高齢者雇用の取組みについて、お話をうかがいました。 採用力の強化と人材の定着を目ざし成長実感のある人事制度に改定 ―最初に、貴社の事業内容と社員が従事する職種や業務について教えてください。 篠崎 当社は酒類をはじめとする食料品の販売および卸売事業を行っています。旗艦店である「なんでも酒やカクヤス」を拠点に、飲食店と一般のお客さまに対し販売を展開することで、商圏エリアの配達量を増やし、短時間でお届けできるよう効率的な配達サービスの実現を目ざしています。  社員の職種は店舗の販売職、物流系のトラックドライバー、飲食店のお客さま担当の営業職の三つに分かれています。社員数は、店舗の販売職が約560人、物流系が約600人、営業職が約200人、加えて商品開発やマーケティング、人事などの管理部門を含めて約2000人です。このほかに店舗などで3000人超のアルバイトが働いています。 ―貴社では、2023(令和5)年10月に人事制度の改定と同時に、定年年齢を60歳から65歳に延長しました。人事制度改定のねらいについて教えてください。 篠崎 当社は2019年12月に東京証券取引所スタンダードに上場し、翌2020年に中期の人材戦略方針を策定し、そのなかで今後の人事の課題を抽出しました。当時はコロナ禍を経て、社会全体が人口減少や価値観の変化が進み、転職市場が活発化している時期です。当社は一定の採用数を確保しているものの、職種によっては今後厳しくなり、よりいっそうの採用難や早期離職も予想されました。今後も成長を続けていくためには、採用力の強化と人材の定着、社員の能力開発が課題であることがはっきりし、その解決を図っていくために人事制度を改定しました。  改定のポイントは、@役割に応じた等級の設定・評価を行う、Aキャリアアップや成長実感のある制度、B管理職や専門職キャリアをより早い段階から描ける、C多様性の推進、この四つです。  以前も等級制度はありましたが、要件が現場の実態に合っていないのであらためて役割に基づいた要件を定義するとともに、2等級しかなかった非管理職層の等級を4段階に区分することで、成長実感を持てるような仕組みに変えました。販売や物流のように、職場が固定されていると、自分が成長しているのか見えにくい面もあります。そこで、新人の「J1(大卒)」と熟練の「J2」等級、主任・リーダー職の「L等級」、課長代理の「M0等級」を新たに設け、さらに実力次第でJ2からM0等級に“飛び級”での昇格も可能にし、キャリアアップや成長実感を持てる形にしました。M0等級を設けたのは、課長になるための訓練期間として課長層を厚くしたいという思いもあります。 ―管理職を目ざすだけではなく、専門職として活躍したい人のコースもあるそうですね。 篠崎 管理職層の「M1(課長)」、「M2(部長/次長)」、「M3(執行役員)」以外に、プロフェッショナル職として「P0(課長代理相当)」、課長職相当の「P1」と部長職相当の「P2」の三つを設けています。  管理職ではなく販売のプロ、営業のプロ、あるいは財務、マーケティングのプロを目ざしたいという人もいるでしょう。そこでP0等級を新たに設け、本人の希望をふまえて、上司の推薦などによってP0に昇格できる道をつくりました。ただ、いったん専門職コースに進んでも仕事をしていくうちに管理職になりたいと思う人もいると思うので、その場合はスイッチできるようにしています。  高齢社員のモチベーションの維持・向上に向け65歳を上限とする選択定年制を導入 ―定年延長の目的や背景について教えてください。 篠崎 目的は人事制度改定のポイントの一つである、多様性の推進と人材の確保です。当社の社員構成を見ると、現在は50代が約330人、40代が約500人と多く、いずれ60歳を迎えます。年齢に関係なく、また男性・女性に関係なく活躍してほしいという思いが、制度改定の背景にあります。定年延長後は60歳以降、評価、賃金、勤務形態、異動などの条件を含めて、正社員と変わらない処遇になります。従来の再雇用制度では、賞与もなく、給与も現役時代の20〜25%程度減っており、そこに対する不満が当初からありました。加えて当社の退職金制度は、2007(平成19)年に前払い型の確定拠出年金(DC)制度を導入しており、前払いで受け取る、あるいはDCへの拠出も可能な選択制なのですが、定年を迎えた際にまとまったお金がもらえず、生活に困るという声もありました。  一番の課題は、本人のモチベーションの低下と周囲の対応の混乱です。旧再雇用制度では、当初は評価制度の対象にしていなかったことから、現場から「どうマネジメントすればよいかわからない」という声があり、その後、再雇用社員も評価制度の対象としましたが、「同じ仕事をやっているのに給与が違う」という不満が生じたり、一方の再雇用社員を管理する管理職も、「かつての先輩に対し、現役社員と同様の仕事の指示を出してもよいのか」と、かなり悩んだりしていたようです。  こうした点をふまえて、60歳以降も正社員と同様の評価・処遇制度を適用することで、高齢社員のモチベーションを維持し、現役と同じように会社の貴重な戦力として活躍してほしいと考え、定年を延長しました。 ―65歳までの間に本人が定年年齢を選択できる選択定年制とした理由は何でしょうか。 篠崎 定年延長を検討する際、「65歳まで働く人は多いとしても、なかには途中で働き方を変えたい、ほかの好きな仕事をしたいという人もいる。そうなると雇用保険上の扱いは自己都合退職となり、不利益を受けるのではないか」という意見もあり、満60〜65歳の間で定年を選択できるようにしました。  なお、60〜64歳までに定年を選択した場合、再雇用で働くこともできます。すでに再雇用で働いている人にも正社員に戻るかどうか本人の意思を確認したところ、対象の全員が正社員に戻りました。  また、役職者については、原則として60歳で役職を降りますが、部門によって後進が育っていない場合は役職の延長も可能です。管理職を降りてドライバーになると、その等級の給与になり、基本的に下がります。ただし、専門能力を発揮して活躍したいと思えば、給与が同じプロフェッショナル等級のP1、P2に移行することも可能ですが、その場合はP等級の要件の認定を受ける必要があります。 ―65歳定年後の雇用はどうなっていますか。 篠崎 基本的に部門に必要とする仕事があり、本人が希望すれば、70歳までアルバイトとして雇用が継続されます。店舗の販売職などは時給制ですが、営業職や管理部門などは1年更新の契約社員として働いてもらっています。実際に人事部でも68歳の女性が働いていますし、65歳以降も働いている人が多くいます。  現在は、雇用の年齢上限は70歳としていますが、みなさんお元気ですし、いずれは年齢上限を廃止する方向で検討していきたいと考えています。 健康管理の徹底と柔軟で多様な勤務制度で社員がより長く安心して働ける環境を整備 ―働くシニア層が増えると、社員の健康管理も重要になります。また、介護などの家族の事情を抱えるシニアも増えてきます。 篠崎 健康状態に応じて、短時間勤務や残業・休日勤務の免除などの制度を利用することができますし、体力などに応じて、例えば配送ドライバーから運転サポート業務に転換することも可能です。  シニア社員に関して、特に注意する必要があるのが、ドライバーの運転能力の低下です。そこで、2024年度は、60歳以上のドライバーについては、NASVAの適性診断(独立行政法人自動車事故対策機構の適性診断測定システム)を実施しています。  また、家族の介護などの事情を抱える社員もいますが、当社はもともと個人の事情に即 し柔軟に対応する風土と制度があります。例えば販売職では、いったん時給制のアルバイトで働き、その後に社員に戻る人も少なくありません。スタッフ部門では、在宅ワークと組み合わせながら仕事をしている人もいます。柔軟に働ける風土、これが当社の特徴でもあります。 ―高齢者雇用における今後の展望についてお聞かせください。 篠崎 最終的には、年齢に関係なく活躍してもらうという観点から、雇用の年齢上限をなくすこと、そして評価制度などの精度を高めることで、適材適所の配置を進め、役職定年もなくしていく方向で検討していきたいと考えています。  働き方についても、現在正社員の所定労働時間は1日8時間ですが、育児・介護に関係なく、例えば6時間でも正社員として働けるなど、より働きやすい環境にしていくための議論を進めていきたいと考えています。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 June No.547 特集 6 介護離職防止に向けて 7 総論 働く人の介護離職防止に向けた現状と課題 一般社団法人介護離職防止対策促進機構代表理事 和氣美枝 11 解説1 育児・介護休業法と2025年改正のポイント 社会保険労務士事務所あおぞらコンサルティング 古城早紀子 15 解説2 仕事と介護の両立支援制度の策定・運用のポイント 社会保険労務士事務所あおぞらコンサルティング 特定社会保険労務士 池田直子 20 事例1 たねやグループ〈株式会社たねや・株式会社クラブハリエ・株式会社キャンディーファーム〉(滋賀県近江八幡市) 「しあわせ推進室」を設置し、育児や介護をしながら働く従業員に寄り添い、支える 24 事例2 株式会社ダッドウェイ(神奈川県横浜市) さまざまな目的で取得できる、同社独自の有給休暇制度を活用し介護疲れを癒して離職を防ぐ 28 事例3 株式会社伍魚福(兵庫県神戸市) ワーク・ライフ・バランスの充実を図り介護離職を防ぐ柔軟な勤務体系を用意 1 リーダーズトーク No.121 株式会社カクヤスグループ取締役兼CHRO 篠崎淳一郎さん 65歳定年、60歳からは選択定年制を導入しモチベーション維持と生産性向上を実現 32 偉人たちのセカンドキャリア 第7回 多方面で活躍した「郵便の父」 前島密 歴史作家 河合敦 34 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第105回 社会福祉法人誠友会特別養護老人ホーム栄白翠園介護職員 鹿島田直子さん(69歳) 36 加齢による身体機能の変化と安全・健康対策 【最終回】加齢と疾病 高尾美穂 40 知っておきたい労働法Q&A 《第84回》 団体交渉中の再雇用終了、偽装請負に基づく労働契約の成立 家永勲/木勝瑛 44 新連載 “学び直し”を科学する 【第1回】10代と50・60代の脳の違いとは? 加藤俊徳 46 いまさら聞けない人事用語辞典 第58回 「労働生産性・労働分配率」 吉岡利之 48 特別寄稿 事例にみる大企業の高齢社員(60歳前半層)の戦力化の現状と課題 〜業界における代表的な大企業10社に対するヒアリング調査結果より〜 玉川大学経営学部教授 大木栄一 52 TOPIC 同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査 (労働者Webアンケート調査)結果(2025年3月27日公表) 独立行政法人労働政策研究・研修機構 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支えるvol.352 一品一品ていねいに仕上げるこだわりの傘づくり 洋傘職人 奥田正子さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第96回]積み木カウントクイズ 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」、「高齢者の職場探訪北から、南から」は休載します 【P6】 特集 介護離職防止に向けて  国民の5人に1人が後期高齢者となり、さまざまな分野に影響を及ぼすとされる「2025年問題」をご存じでしょうか。社会保障費の増大や医療・介護人材の不足などのほか、要介護者の増加による介護離職を防ぐことも、2025年問題の一つとなっています。家族の介護をしながら働く社員は、働き盛りで経験豊富な40〜60代が多く、介護離職を防止することはもちろん、日ごろの介護疲れから仕事の生産性が低下することも懸念されることから、仕事と介護の両立支援の取組みの推進は欠かせません。  そこで今回は、介護離職を防止するために企業が取り組むべきポイントについて、企業事例を交えて解説します。 【P7-10】 総論 働く人の介護離職防止に向けた現状と課題 一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事 和氣(わき)美枝(みえ) @介護離職を考える  「介護離職」とは家族の介護を理由に、それまで勤めていた会社を退職し、家族の介護に専念することをいいます。総務省の令和4年就業構造基本調査による「介護・看護のために過去1年間に前職を離職した者の数」が10万人前後を推移しており、大きな社会課題となっています。  この「介護離職者10万人」という数字は、彼らがいまもなお働いていないわけではなく、あくまでも前職の離職理由を調査した結果、「介護・看護のために過去1年間に前職を離職した者」が10万人前後いる、ということです。介護離職は離職の一つの理由であり、離職を選択すること自体は個人の人生の選択の一つですから他人が否定すべきことではありません。ではいまなぜ「介護離職」が取りざたされているのでしょうか。  日本は人口減少の渦中にあります。当然、生産年齢人口も減っています。そこで、政府はなんらかの理由で、いま働いていない人に少しでも働いてもらう対策、ならびにいま働いている人に長く働いてもらう対策を次々にとっています。その結果、近年の労働力は微増しています。総務省統計局労働力調査(2025〈令和7〉年2月分)の結果概要によると、就業者数は6768万人で前年同月に比べ40万人増加しています。これは31カ月連続の増加です。  一方で「介護・看護のために過去1年間に前職を離職した者」が10万人前後を推移し続けているのはなぜでしょう。それは法律に基づく多様な対策に企業が取り組む過程において、介護離職の課題が、すべての有業者に関する「離職」、「キャリア」という視点から、要介護者を中心とした「介護」の課題解決に視点がすり替わってしまっていることが大きな原因だと考えます。 A仕事と介護の両立とは  働いている人にとって、家族や親族に介護が必要な人がいる生活・人生は、そのかかわり方は多種あるとはいえ「仕事と介護の両立」という生活をしていることになります。その生活は突然始まることが多く、仕事と介護の両立という生活を始めずに会社を辞める人もいれば(介護離職)、仕事と介護の両立という生活の過程において、なんらかの理由でいままで勤めていた会社を退職する方や(介護離職)、仕事と介護の両立という生活を、対象家族が亡くなるまで続ける方もいらっしゃいます。  このように、介護離職や仕事と介護の両立をしているのは、就業者です。介護離職防止や仕事と介護の両立支援の観点からいうと、対象は「雇用者」です。家族の介護にかかわりながら、いかに仕事を続けるのかが、仕事と介護の両立です。つまり、企業がすべきは、いかに仕事を続けられるかを支援することです。  また、雇用者は事業主との雇用契約を締結しています。したがって雇用者には労務提供義務があります。こういった側面からも、雇用者にとっての仕事と介護の両立とは、家族の介護に専念することではなく、労務提供義務を極力まっとうしながら、必要に応じて家族の介護にかかわることであることがわかると思います。 B介護離職防止対策と仕事と介護の両立支援の対象者の違いを理解する  介護離職が減らないもう一つの理由は、介護離職防止対策の対象者と、仕事と介護の両立支援の対象者、ならびにその対策の違いを理解していないこともあります。  まず対象者から考えてみましょう。  介護離職は離職問題なので、全有業者にかかわる課題です。総務省の令和4年就業構造基本調査でいえば約6700万人です。一方で仕事と介護の両立支援の対象者は、現在仕事と介護の両立をしている人約365万人です(図表)。  介護離職は介護に直面して、初めて起こる現象なので、対象者は365万人と思われがちですが、仕事と介護の両立という生活をせずに会社を辞める方もいらっしゃることから、その対象者は介護に直面している、していないは関係ないことがわかります。  実際に、厚生労働省委託調査「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業労働者調査報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によると、「手助・介護」を始めてから「手助・介護」のために仕事を辞めたときまでの期間で、1カ月未満に辞めた人が約12%いることがわかっています。つまり、介護が始まってすぐに辞めている人が全体の12%だということです。介護が始まってから仕事と介護の両立支援をするのでは、介護離職防止対策にはならないのです。 C介護離職をする理由  一般社団法人日本経済調査協議会の『「介護離職」防止のための社会システム構築への提言〜最終報告書〜企業への調査結果から』(2020年)では、介護離職に至ったケースを四つに分類しています。@両立困難型介護離職、A職場起因型介護離職、B孤立型介護離職、C心情型介護離職の四つです。  残念ながら、働く介護者に対するセーフティネットはありません。諸事情から離職したくなくても、離職せざるを得ない状況の方は少なからずいらっしゃいます。要介護者の状況や介護者の生活環境の変化にともない、介護者がいったん離職していた就業を再び始めることを希望するのであれば、そのとき仕事と介護の両立をしながらなのか、はたまた介護がない状況なのかにかかわらず、介護離職者の就労支援は力を入れるべき社会課題だと感じています。  一方で、「A職場起因型介護離職」は、介護の有無にかかわらず職場や職業に対して悩みを抱えている状況のもと、家族の介護が始まったタイミングで離職を選択したパターンです。  介護経験者の多くは、「介護」という事象をきっかけに否応なしに自分の人生に向き合ってきました。そのなかで「会社を辞められない」と強く認識した方もいれば、「違うキャリアを歩みたい」、「介護に専念したい」と認識した方もいます。介護離職は離職の一つの理由ですから、職業選択の自由を考えても、完全にゼロにすることはむずかしいです。しかしながら、家族の介護に直面したことをきっかけとした「介護離職」は企業努力によって減らせるのではないかと考えます。 D働く介護者の困難の根っこにあること  介護離職を悪としないでください。そして介護離職は企業の介護離職防止対策の失敗でもありません。離職を悪としたら職業選択の自由を奪うことになってしまいます。また、現実的にいえば、いまの日本の家族介護は、家族、福祉、企業、地域など「だれかがちょっと無理をして」成り立っています。むしろ、だれかがちょっと無理をしないと成り立たないのです。だから仕事と介護の両立という生活は綱渡りなのです。  仕事と介護の両立とは、家庭環境と職場環境と自分の心身の環境の最適化を図りながら生活をすることです。仕事と介護の両立の困難は、環境の最適化ができていないために起こります。  例えば、「介護サービスを拒否する親御さんに苦労している」、「障害のあるお子さんが大きくなるにつれ、身体的にしんどくなっている」、「施設に預けたいが条件に満たないから、在宅で介護するしかない」などの声が届きます。また「職場に理解がない」、「夜勤を免除してもらうのが心苦しい」、「フルタイムで働けないから昇格試験を見送りました」など、職場に関する声も届きます。  「介護は家族がやるしかない」、「介護は家族の問題」、「本人が嫌がっているのだから、自分が世話をするしかない」など、これらの声の根っこには何があるのでしょうか。それは“介護者の不安”だと思っています。  一見、「自分が直接または間接的にかかわること」、「要介護者の住まいはいままで住み続けているところ」への執着があるように思えます。これに対し、「家族はプロにまかせましょう」、「施設に預けることは親不孝ではありません」というマインドセットや、介護リテラシーなどといった方法で解決することも、場当たり的には必要です。しかしながら、仕事と介護の両立という綱渡りの生活をしている従業員の心の根っこにある「不安」の解消には至らないのです。  先にも伝えたように、家族の介護という事象は、それを通して自分のことを顧みるきっかけとなっていることが多いのです。自分には何ができるのか、どうしたらよいのか、と、働く介護者の多くは、要介護者の生活支援を通して自分の将来の姿が見えないことに不安を感じているのです。選択肢が見えないと同時に、取捨選択に自信がないともいえます。「これでよかったんだ」という想いは、きっと介護が終わってから思うことなのでしょう。 E改正育児・介護休業法の意図するところ  介護離職防止対策と仕事と介護の両立支援の対象者が異なることは理解いただいたかと思います。介護離職防止対策は介護に直面している、していないは関係ないのですが、これに対する理解促進をしている時間的猶予がなくなりました。  そこで、国は法律をもって企業へ介護離職防止対策に取り組むようにしました。それが2024年の育児・介護休業法改正です。介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備などの措置が事業主の義務となります。このたびの法改正の肝は、「介護に直面する前の早い段階(40歳など)での情報提供」です。そのうえで「制度を使いやすくする」、「申出をしやすくする」ために「雇用環境整備」も必須の対策となったのです。  この法改正の意図には、事業主には介護両立支援制度の理解促進、従業員には介護両立支援制度の認知促進があります。  まずは周知・意向確認、情報提供をする事業主が育児・介護休業法を理解する必要があります。育児・介護休業法は就業支援の法律なので、働き続けるための制度です。なぜ、いまさら事業主に対して、育児・介護休業法の理解促進をしているのか、それは間違った解釈によって介護離職を促進しているからです。  企業においては介護休業の日数を拡充している場合があります。どういったメッセージのもと、制度拡充しているのかを従業員に理解してもらっているでしょうか。もしかしたら、業種業態によっては就業継続するために介護休業の拡充が必要なのかもしれませんが、その必要性を検証したうえでの制度拡充なのでしょうか。制度拡充の意図が不明瞭だと、それは「仕事のことはいいから、一時的にでも介護に勤しんでください」というメッセージとなりかねません。  介護休業は介護の体制を構築するための休業です。介護休暇は日常的な介護のニーズにスポット的に対応するための休暇です。そしてそのほかの介護両立支援制度は、日常的な介護のニーズに定期的に対応するため働き方を変える制度です。  次に従業員への制度の認知促進です。そのために早期情報提供の義務化がはじまります。では、40歳以下は知らなくてよいのか、といわれれば、まったくそうではありません。むしろ、本来であれば介護両立支援制度のみならず、法定休暇においては社会人としてあたり前に知っておくべきことなのです。まずは、その第一歩として早期情報提供を40歳と規定しただけと考えるべきでしょう。 F企業として介護離職防止対策ならびに仕事と介護の両立を支援する  これらのことから、企業が介護離職防止対策ならびに仕事と介護の両立支援のためにすべきことは何でしょう。 @介護両立支援制度を理解する Aキャリア支援に力を入れる B会話と対話の多い会社を目ざす  とにかく経営者や運営側が介護両立支援制度ならびに、介護離職の構造や仕事と介護の両立が何たるかをしっかり理解すべきです。特に、介護=高齢者のイメージがありますが、障害のあるお子さんの介護も含まれますので、その場合は、育児の制度と介護の制度の組合せで就労支援をしていきます。企業がすべきことは、育児や養育や介護の支援ではなく、就労支援です。  次に、介護離職防止にはキャリア支援に力を入れることです。毎年キャリアを考える機会があれば、自ずと結婚や出産、健康やお金、介護や職を離れた後をイメージします。そして、そのときどきに必要である法定福利厚生や法定休暇の知識の提供をしてください。キャリアを考えるなかで必要な知識の教育が仕事と介護の両立に役立ち、そういった取組みこそが、雇用環境整備につながっていくのではないでしょうか。  対話は離職を防止します。会話は働きやすい職場をつくります。そして、対話と会話の機会は従業員のコミュニケーションスキルを上げることにつながります。近年では「心理的安全性の担保」という言葉がありますが、まさに、心理的安全性の高い職場をつくるために必要な行為が会話や対話です。会話や対話から、仕事に集中できない理由や家族・親族のことで困難を抱えているなどの情報を引き出し、一緒に考える姿勢を示すこともできます。従業員が「これでよかったんだ」と思える選択肢と支援をお願いします。 図表 仕事と介護の両立支援対象者 15歳以上の人口 約110,195,000人 (15歳以上無業者43,135,000人) 15歳以上有業者 67,060,400人 介護離職の可能性のある人 仕事と介護の両立支援対象者 (働きながら介護している有業者) 3,646,400人 ※総務省「令和4年就業構造基本調査」より筆者作成 【P11-14】 解説1 育児・介護休業法と2025年改正のポイント 社会保険労務士事務所あおぞらコンサルティング 古城(こじょう)早紀子(さきこ) @はじめに  2025(令和7)年4月1日に、改正育児・介護休業法が施行されました。改正法では、介護離職の防止の観点から、仕事と介護の両立支援の強化が図られています。  本稿では、育児・介護休業法に規定されている介護休業、介護休暇、その他の仕事と介護の両立を支援する制度(以下、すべてあわせて「介護両立支援制度」)についてあらためて確認するとともに、今回の法改正の内容について解説します。 A介護休業  介護休業とは、要介護状態にある対象家族を介護するために一定期間取得できる休業です。  介護休業は、従業員が介護に専念するための制度ではなく、休業中に介護の体制を構築し、働きながら対応できるようにすることを目的としています。そのため、介護サービスの利用手続きや、介護施設の見学などのためにも取得することができます。  「対象家族」とは、従業員本人の配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母をさします(図表1)。従業員と同居しているかどうかは問いません。「配偶者」には事実婚関係を含みますが、「子」は法律上の親子関係がある実子と養子のみが対象となります。  「要介護状態」とは、けが、病気、身体や精神の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいいます。高齢者にかぎらず、障害児(者)や医療的ケア児(者)の介護・支援が必要な場合も含まれます。具体的には、介護保険制度において要介護2以上の認定を受けている場合、または厚生労働省が公表している判断基準(図表2参照)の条件を満たしていると会社が判断した場合に要介護状態にあたります。  なお、図表2の判断基準の項目は、従来はおもに高齢者介護を想定した記載になっていましたが、2025年1月より、障害児や医療的ケア児を介護する場合にも判断しやすいように記載が一部変更されています。  介護休業の取得可能日数は、対象家族一人につき通算93日までです。3回まで分割して取得することもできます。この条件に反しないかぎり、対象家族の介護が続いている間はいつでも介護休業を取得することができるため、会社は取得日数や分割回数を対象家族ごとにわかりやすく管理する必要があります。  介護休業の対象外となる従業員は、法律上対象外と定められている、@日々雇用の従業員、A介護休業開始予定日から93日を経過する日から6カ月以内に契約期間が満了することが明らかな有期雇用の従業員と、労使協定を締結した場合にのみ対象外とすることができる、B勤続1年未満の従業員、C介護休業の申出日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員、D1週間の所定労働日数が2日以下の従業員です。@は、後述の介護休暇、その他の介護両立支援制度においても対象外となります。  なお、雇用保険に加入している従業員が介護休業を取得した場合には、一定の条件を満たせば介護休業給付金が支給されます。 B介護休暇  介護休暇とは、要介護状態にある対象家族の介護や世話を行うために取得できる休暇です(「要介護状態」、「対象家族」の定義は、介護休業と同じ)。  介護休暇は、対象家族を直接介護するためだけでなく、対象家族の通院の付添いや、家事や買い物の世話などのためにも取得することができます。また、介護休暇は、日常的な介護のニーズにスポット的に対応することを目的としているため、一日単位だけでなく、時間単位でも取得できます(労使協定で、時間単位での取得が困難な業務に従事する従業員を時間単位取得の対象外とした場合を除く)。時間単位で取得する場合には、法律上は始業または終業の時刻と連続して取得することとされており、いわゆる「中抜け」の形で取得することは想定されていませんが、会社が「中抜け」を認めることは可能です。  介護休暇の取得可能日数は、1年度に5労働日(要介護状態にある対象家族が2人以上いる場合は10労働日)です。また、労使協定を締結した場合には、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員を介護休暇の対象外とすることができます。以前は、勤続6カ月未満の従業員も対象外とすることができましたが、2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法において撤廃されました。そのため、介護休暇は、入社してすぐから取得することができるようになりました。  介護休暇の取得申請があった場合、年次有給休暇と異なり、会社には時季変更権がありませんので、業務に支障をきたすなどの事情があったとしても、申請を拒むことはできません。また、介護休暇の取得理由には突発的なものもありうることから、直前の取得申請であっても認める必要があります。なお、介護休暇の取得申請にあたり、対象家族が要介護状態であることなどを証明する書類の提出を求めることは可能ですが、介護休暇の取得の妨げとならないよう、事後の提出を認めるなどの配慮が必要です。 Cその他の介護両立支援制度  育児・介護休業法は、介護休業、介護休暇以外にも、介護両立支援制度として、「所定外労働の免除」、「時間外労働の制限」、「深夜業の免除」、「所定労働時間の短縮等」という四つの制度を設けることを会社の義務としています。それぞれの制度の内容と、対象外となる従業員は図表3の通りです。  いずれの制度も、要介護状態の対象家族を介護する従業員が対象ですが(「要介護状態」、「対象家族」の定義は、介護休業と同じ)、勤続1年未満の従業員と、1週間の所定労働日数が2日以下の従業員はいずれの制度も対象外です(制度によって、労使協定の締結が必要な場合があります。図表3参照)。また、「深夜業の免除」においては、所定労働時間の全部が深夜にある従業員や、深夜に対象家族を介護できる同居の家族がいる従業員も対象外となります。  「所定外労働の免除」は、「所定労働時間の短縮等」とあわせて利用することができますが、「所定外労働の免除」と「時間外労働の制限」は一緒に利用することはできません。 D2025年4月1日施行の育児・介護休業法改正の概要  このように、育児・介護休業法にはさまざまな介護両立支援制度が定められていますが、従業員がこれらの制度を十分に活用できなければ、結局は介護離職に至ってしまうことも考えられます。そこで、2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法では、介護離職の防止の観点から、仕事と介護の両立支援の強化が図られています。改正点の概要は図表4(14ページ)の通りです。 @介護申出時の個別周知・意向確認  従業員が介護両立支援制度の利用を申し出やすくするため、会社は、対象家族が要介護状態となったことを申し出た従業員に対し、介護両立支援制度等について個別に知らせ、制度の利用の意向を確認しなければなりません。  周知する事項は、介護両立支援制度の内容、制度利用の申出先、雇用保険の介護休業給付金に関することの3点です。周知と意向確認の方法は、妊娠・出産等を申し出た従業員に対して育児休業等について周知・意向確認をする方法と同じく、面談、書面交付(従業員が希望する場合は、FAX、電子メール等も可)のいずれかです。 A介護に直面する前の早期の情報提供  従業員が突然介護に直面した際に初動に迷わないようにするため、また、介護に直面したときに会社に申し出やすくするために、会社は、従業員が40歳になるタイミングで、前述の介護申出時の個別周知事項と同じ内容を知らせなければなりません。40歳になると、介護保険料の徴収が始まることもあり、介護に関する制度についての関心が高まってくるため、このタイミングで介護両立支援制度等に関する情報提供を行っておくことが効果的だと考えられています。このときに、介護保険制度に関する情報もあわせて伝えておくとより効果的でしょう。  40歳になるタイミングとは、40歳に達する日の属する年度の初日から末日までの期間または40歳に達する日の翌日から1年間のいずれかの期間をいいます。会社によって、管理しやすい方の期間内に実施すればよいでしょう。なお、毎年度全従業員に対して情報提供を行うこととしても差しつかえありませんが、40歳になる従業員には必ず情報が伝わるようにしましょう。  この情報提供は、対象となる従業員から希望がなくても実施する必要があります。また、情報提供の方法は、基本的には介護申出時の個別周知・意向確認の方法と同様ですが、従業員が希望していなくてもFAX、電子メール等の方法をとることができる点が異なります。 B介護両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備  従業員が介護両立支援制度の利用を申し出やすくするため、会社は、図表4Bのa〜dのいずれかの措置を講じなければなりません。複数の措置を講じても差しつかえありません。  相談窓口を設置する場合には、形式的に設けるだけではなく、実質的な対応ができる担当者を置き、従業員に周知するようにしましょう。 C介護休暇の対象者の拡大 D在宅勤務等(努力義務)  介護休暇の対象者の拡大については、「B介護休暇」(12ページ)で述べた通りです。  また、対象家族が要介護状態にあり、介護休業をしていない従業員に対し、在宅勤務等(自宅や会社が認めた場所での勤務)を認めることが、会社の努力義務とされました。 図表1 対象家族の範囲 祖父母 祖父母 父 母 本人 兄弟姉妹 配偶者の父 配偶者の母 配偶者 子 孫 ・「配偶者」には事実婚関係を含む ・「子」は法律上の親子関係がある実子・養子のみ ※厚生労働省「介護休業制度」特設サイトをもとに筆者作成 図表2 要介護状態の判断基準 ※2025年1月に変更された箇所を抜粋(下線部分) 次の項目@〜Kのうち、Aの状態であるものが2つ以上またはBの状態であるものが1つ以上あり、かつ、その状態が継続すると認められること。 項目 状態 A B G外出すると戻れないことや、危険回避ができないことがある ときどきある ほとんど毎日ある I周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れなど日常生活に支障を来すほどの認知・行動上の課題がある ときどきある ほとんど毎日ある J医薬品又は医療機器の使用・管理 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要 ※厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」をもとに筆者作成 図表3 介護休業、介護休暇以外の介護両立支援制度 制度 内容 労使協定 対象外となる従業員 @所定外労働の免除 所定労働時間を超える労働を免除する 要 ・勤続1年未満 ・1週間の所定労働日数が2日以下 A時間外労働の制限 法定労働時間を超える労働を1カ月24時間、1年150時間以内に制限する 不要 ・勤続1年未満 ・1週間の所定労働日数が2日以下 B深夜業の免除 深夜(22時から翌日5時)の労働を免除する 不要 ・勤続1年未満 ・深夜において対象家族を介護できる(以下のいずれにも該当する)16歳以上の同居の家族がいる  ・深夜に就業していない  ・けが、病気等で介護ができない状態ではない  ・産前産後期間中ではない ・1週間の所定労働日数が2日以下 ・所定労働時間の全部が深夜にある C所定労働時間の短縮等 以下のa〜cのうち一つ以上の措置を講じる a.短時間勤務制度 b.フレックスタイム制度または始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ c.従業員が利用する介護サービスの費用の助成など 要 ・勤続1年未満 ・1週間の所定労働日数が2日以下 ※筆者作成 図表4 2025年4月1日施行の育児・介護休業法の改正点(介護関連のみ) 制度 新設または変更 改正内容 @介護申出時の個別周知・意向確認 新設 対象家族の介護が必要となったことを申し出た従業員に対し、介護両立支援制度等について個別に知らせ、制度利用の意向を確認する A介護に直面する前の早期の情報提供 新設 40歳到達時に、介護両立支援制度等についての情報提供を行う B介護両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備 新設 介護両立支援制度を利用しやすくするため、a〜dのいずれかの措置を講じる a.介護両立支援制度に関する研修の実施 b.介護両立支援制度に関する相談窓口の設置 c.自社における介護両立支援制度の利用事例の収集・提供 d.介護両立支援制度の利用促進に関する方針の周知 C介護休暇の対象者の拡大 変更 労使協定により勤続6カ月未満の従業員を対象外とする規定を撤廃 D在宅勤務等(努力義務) 新設 介護期に在宅勤務等を利用できるようにする ※筆者作成 【P15-19】 解説2 仕事と介護の両立支援制度の策定・運用のポイント 社会保険労務士事務所あおぞらコンサルティング 特定社会保険労務士 池田(いけだ)直子(なおこ) @はじめに  従前から仕事と介護の両立のためにさまざまな支援策に取り組んでいる企業はありますが、近年の企業を取り巻く環境の変化は仕事と介護の両立にも影響を与えています。従前では一部の企業にかぎられていたテレワークやフレックスタイム制などの働き方は、新型コロナウイルス感染症の蔓延により外出自粛や密集を避けるなどのために、多くの会社にとって身近となりました。  また、いままで以上に人材の確保の重要性が増してきました。新型コロナウイルス感染症が収束し経済活動が活発になったことで人手不足が顕著となり、人材獲得の競争が激化しています。最低賃金や初任給などをはじめとする賃金の引上げなども起こり、人材の流動化も顕著になっています。このようななかで求職者はワーク・ライフ・バランスの実現や働きやすい職場を求める傾向も強くなっており、いままで以上に介護する従業員の離職を防止し、介護する従業員にとっても働きやすい環境づくりをすることが求められています。  また、2025(令和7)年4月の育児・介護休業法の改正では、介護離職の防止のために制度利用の促進や情報提供などの運用面に重点が置かれています。その点からみても仕事と介護の両立は、制度を利用しやすくすること、事前の準備をすることが重要だということがわかります。 A両立支援制度の策定手順  仕事と介護の両立支援策の策定は図表1のように進めていきます。まず、両立支援制度を策定する目的を確認・検討します。両立支援の目的は介護離職防止や仕事と介護の円滑な両立というだけではなく、介護をする従業員の働きやすさや今後の介護に備えた仕事と介護の両立を目ざす場合もあります。また、仕事と介護の両立をするという目的はあっても、まずは現状の把握をしてから、実態や課題を明確にしたうえで目的・目標を決めてもよいでしょう。  両立支援制度の策定では自社の現状やニーズの把握をすることが重要です。すでに一度、現状把握をしても、状況は変わります。前回から一定の期間が経過している場合は実施した支援策の効果を含めて現状とニーズを把握しましょう。現状把握をしておきたい項目例は図表2の通りです。最近では、介護を隠すような雰囲気が少なくなってきましたが、個人差もあるので、アンケートをとる際はプライベートな情報に配慮します。  アンケートでは、最初に現在の介護の状況、介護の可能性について確認し、その状況にあわせて設問を変えて設定すると効果的です。また、介護の可能性はあっても具体的な介護のイメージがつかない人が多い場合もあるので、アンケートだけではなく、仕事と介護の両立についてのセミナーなどの情報提供を実施したうえでアンケートを実施してもよいでしょう。  仕事と介護の両立をするためには事前の準備がとても重要なので、いまは介護をしていない従業員に対して、今後の介護の可能性を具体的に、1〜2年以内、5年以内、10年以内、意識したことがない、など調査をしておくとよいでしょう。  次に把握した現状やニーズから両立支援の方向性を決めます。両立支援の方向性は、法律を超える制度を策定し制度の充実を図る方針、制度利用を促進する運用重視の方針、法律の支援制度にとらわれず予防から両立まで柔軟な制度を導入する方針など、把握した現状やニーズとほかの人事施策とのバランスを考えて決めていきます。  また、支援策にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、方針に沿って検討し決定します。その後、導入を決めた支援策の策定作業を行い、従業員へ周知し、実施していきます。実施した後はモニタリングなどにより支援策の効果を検証しつつ、また、変化する従業員構成や企業環境、介護に関連する法律にあわせて、支援策を見直していきます。 B支援策の種類  仕事と介護の両立支援には、直接的な支援として、勤務支援、環境整備、情報提供があり、間接的には仕事に関する支援のほか、介護に関する支援があります(図表3)。  支援策は、勤務に関する支援が中心となりますが、今回の法律の改正では情報提供や環境整備の支援が義務づけられました。具体的には、企業に対して、介護に直面した従業員へ個別に、介護休業をはじめとする仕事と介護を両立するための勤務支援制度を周知し、制度利用の意向確認を義務づけています。そして、介護保険の被保険者となる年齢である40歳の従業員を対象に早期情報提供ということで、介護に直面する前から介護に関する両立支援制度の周知などを義務づけました。このほか、仕事と介護の両立を円滑にするために相談窓口の設置や、両立に関する方針の周知などの職場環境の整備も義務づけられました。  このような法律の改正内容をみても、仕事と介護の両立を実現するためには運用面での情報提供も重要であり、介護に直面する人のほか、将来の仕事と介護の両立のために事前の準備も求められています。 C支援の選択とメリット・デメリット  18ページ図表4は、支援策のメリットとデメリットを企業と従業員の立場でまとめました。どんな支援策にもメリットだけではなくデメリットもありますので、両立支援の方針や会社の状況にあわせて検討していきます。 D勤務支援  勤務支援は、従業員にとっては選択肢が多いと柔軟な働き方ができる可能性が高くメリットが多いですが、企業からみると制度を運用するむずかしさや周囲の従業員の理解度・納得度、業務負担の解消などの問題があります。また、交代勤務などがある製造業などが、多様な勤務支援制度を導入するためには根本的な業務や組織の見直しが必要な場合も多く、そもそも多様な勤務支援を導入するのがむずかしい場合もあります。支援制度のなかでは休暇を有給にしたり、新たな人材の確保をする場合は人件費の増加にもつながります。  勤務支援のうち未消化分の年次有給休暇を積み立てる積立年次有給休暇は、私傷病など介護にかぎらず利用できるようにすれば、介護しない従業員との公平性が比較的保たれ、納得度も高くなります。  介護休業を法律で定められた期間より長くする場合は、法律で決められた休業期間を超えた期間分は雇用保険の介護休業給付金が支給されません。せっかく介護休業を長くしても思いのほか活用されない場合があります。なお、法律で定めた介護休業期間に会社が給与を全額支給すると、雇用保険から給付金が支給されませんので注意が必要です。  在宅勤務は、仕事と介護が両立しやすいと思われがちですが、実際は問題もあります。本来、在宅勤務は勤務する場所が会社ではなく自宅で仕事をすることをいいます。つまり、仕事中に介護をしてよいということではありません。また、仕事中に介護をすることで、業務がはかどらず深夜に仕事をするなど、本人が無理をして健康を害する場合もあります。在宅勤務はあくまで、通勤時間がないことをメリットととらえ、勤務時間に介護をするのではなく、勤務時間は、自宅でもしっかり働くことができる環境をつくるようにしましょう。  そのほか、介護する従業員の経済的な負担を軽減する支援策を検討する場合、導入時点では対象者が少なくても将来的には対象者が増えることも想定して検討してください。例えば、介護休業中の本人負担分の社会保険料を本人に代わり会社が負担する支援をしている会社があります。この支援は社会保険料の負担の仕組みをよく理解していない従業員にとっては、会社の負担が比較的大きいわりに国が負担していると勘違いをするなど効果を感じないケースも見受けられますので、慎重に検討していきましょう。また、会社が負担した社会保険料は給与として、税金の対象となりますので注意しましょう。 E情報提供  情報提供の支援を考えるときに、これから仕事と介護の両立を考える従業員と、すでに介護が始まった従業員では必要な情報が異なります。これから仕事と介護の両立を考える従業員には、図表5のような内容の情報提供をします。このように、まだ介護をしていない従業員にも情報提供をすることで、いざというときに仕事と介護の両立がスムーズになるので介護離職の防止となるだけではなく、「お互いさま意識」が醸成され、周囲の従業員の理解が得られやすい職場環境になります。 F相談窓口・担当者の設置  2017(平成29)年1月の育児・介護休業法の改正では、企業に対して介護休業やその他勤務措置の利用に関するハラスメントの相談窓口設置が義務づけられました。今回の育児・介護休業法の改正では、仕事と介護の両立のための環境整備が義務づけられ、その環境整備の措置の一つに相談窓口の設置があります。  相談窓口では、個人情報の取扱いに気をつけながら、両立支援のための情報提供のほか、職場の業務調整などのために人事部門や職場の管理職と連携をすることも必要です。また、相談内容は、仕事と介護を両立するための勤務制度のほか、介護保険の利用や介護サービス、介護の仕方など相談が多岐にわたる可能性もあります。対応には限界があることを理解し、対応する範囲を事前に決めておき、必要に応じて外部機関の利用も考えましょう。 G運用のポイント  仕事と介護の両立支援策では、介護自体が介護する従業員の家族構成や状況、介護される家族の状態や住んでいる場所などがさまざまで画一的に考えることはできません。求められる支援も多種多様になりますが、ニーズに合わせてたくさんの制度を導入するとその制度の管理がたいへんなだけでなく、制度を周知することもたいへんです。制度は周知が十分でないと利用されにくくなるだけではなく、職場の上司や同僚なども理解されず業務カバーがやりにくく、周囲の納得度も低くなり、職場の雰囲気にも影響します。  仕事と介護の両立で成果を出している企業をみると、共通しているのは、定期的かつ継続的に情報提供をし、相談窓口が充実していることです。仕事と介護の両立では、支援策の充実も大事ですが、仕事と介護が両立できる職場環境づくりが重要です。仕事と介護の両立が円滑な職場環境は、多様性を受け入れ、情報の共有や連携が円滑で、業務が可視化、多能工化され、ほかの人の業務支援がスムーズにできる職場づくりともいえます。 図表1 両立支援制度策定の手順 目的の検討・決定 現状把握 ニーズの把握 介護施策等の方向性の決定 支援策の検討・決定 ニーズとのマッチング 支援策決定 支援策の策定作業 実施 PDCAで考える ・実際の介護経験者 ・全員…介護での不安 今後の介護の可能性 ・現状の職場満足度 「情報提供」 「環境整備」 「勤務支援」 図表2 介護に関する実態把握の項目例 従業員の状況把握 従業員の介護の可能性や状況 □従業員の属性 □親の年齢 □親と同居・別居 □現状の介護状況 □介護の将来の可能性(1年以内、3年以内、5年以内、その他) 自社の両立支援に関すること □現状の両立支援の認知度 □両立支援の利用予定 □両立支援を利用する上での不安 □両立支援への要望 介護に関すること □介護に関する基礎知識の有無 □介護全般に関する不安・要望 介護経験者に対しての確認 □現状の両立支援の利用経験 □現状の両立支援の使い勝手 □必要だと思う両立支援 自社の状況把握 □現状の両立支援の利用率 □介護離職の状況 ※筆者作成 図表3 支援の種類 直接支援 仕事に関する支援 勤務支援 ・介護休業 ・介護休暇 ・短時間勤務 ・在宅勤務 ・フレックスタイム勤務 ・短時間フレックス勤務 ・始業・終業時刻の繰り上げ下げ ・時間外・深夜勤務等の制限 など 環境整備 ・相談体制づくり ・休業中のバックアップ など 介護に関する支援 情報提供 ・情報提供(セミナー、イントラ、冊子) ・個別相談 など 間接支援 仕事に関する支援 その他の支援 ・職場の雰囲気づくり ・休業後の復職支援 ・再雇用制度 ・業務体制の見直し(業務分担、在宅環境の整備)など 介護に関する支援 その他の支援 ・生活保障(休業・休暇時の給与補填) ・費用補填(ヘルパー、住宅、見守り) ・ヘルパー派遣 ・介護用品の現物支給 など ※筆者作成 図表4-1 勤務支援の例 勤務措置 メリット デメリット 従業員 会社 従業員 会社 介護休業 ・急な介護の発生など緊急な対応ができる ・介護初期の介護体制づくり期間として有効 ・雇用保険の給付を利用し従業員の給与補てんが可能 ・休業期間内に介護が終わらない場合がほとんど ・休業中の給与補てんがない場合は経済的不安 ・事前に申請が必要、手続きが必要 ・休業中の労働力低下と休業期間によっては代替要員確保が必要 介護休暇 ・さまざまなケースに利用しやすい ・手続きが簡易 ・周囲への業務負担少 ・本格的な介護には日数が不足する可能性 ・業務上、休業より影響は少ないが労働力は低下 積立年次有給休暇 ・抵抗感が少なく、使いやすい ・手続きが簡易 ・「介護」と特別視されにくい ・周囲への業務負担少 ・介護以外の用途での利用率の低下の可能性 ・失効年休の管理が煩雑になる可能性 ・支給事由を増やすことで消化率があがりコスト増 短時間勤務 ・勤務時間が短縮されることで心身の負担が軽減 ・デイサービス等の利用がしやすい ・周囲への業務負担少 ・業務分担の見直しや予定が立てやすい ・勤務時間短縮にともない給与補てんがされない場合は経済的不安の可能性 ・業務上、休業より影響は少ないが労働力低下 フレックス勤務 ・従来通りの労働時間を確保するため経済的不安が少ない ・介護を中心とした勤務体制づくりが可能 ・労働力を確保しつつ、勤務可能 ・労働時間を減らすことなく介護をするため、本人の身体・精神的負担が大きくなる可能性大 ・職種や部門によって、フレックスタイム勤務制度の導入が困難 ・会議や打ち合わせの時間が制約される可能性 その他 勤務措置(★) ・労働時間の抑制や時間帯を制限することで介護しやすい ・周囲への業務負担少 ・通常の勤務をしているなかで周囲への理解が不安 ・柔軟な対応が必要な職務内容や繁忙期の対応、臨時の対応などの対応がむずかしい 在宅勤務 ・通勤時間がなく介護時間を確保しやすい ・介護中心の生活をしながら業務の遂行がしやすい ・労働力を確保しつつ、継続勤務が勤務可能 ・仕事と介護のメリハリがつけづらい ・労働時間も介護時間も減らすことなく両立する場合は本人の身体・精神的負荷大 ・勤怠管理、セキュリティ対応等の在宅勤務の導入コスト、管理負担が必要 ※筆者作成 (★)その他勤務措置には ・始業・終業繰り上げ下げ ・深夜業制限 ・時間外労働制限 などがある 図表4-2 その他の支援の例 メリット デメリット 従業員 会社 従業員 会社 費用補てん等 ・介護費用の負担が軽減され、従業員への効果大 ・周囲を気にせず利用しやすい ・費用補てんの対象となっている内容の利用がなければ効果なし ・効果の高い費用補てんの項目の廃止・見直しが困難 ・コスト負担 ・介護のない従業員との待遇格差が明確になりやすい 見舞金制度 ・介護費用の負担の緩和 ・介護以外の用途での利用も可能 ・介護のない従業員との待遇格差が明確になりやすい ・支給基準の判断が難しい 再雇用制度 ・退職後の再就職不安が軽減される ・雇用リスクの軽減とともに雇用確保の手段として有効 ・仕事と介護の両立ができない ・労働力の損失が大きい ・再雇用基準の判断がむずかしい ・再雇用後の処遇、復帰プログラムの検討が必要 職場復帰支援 ・職場復帰を円滑にしやすい ・利用の時間がつくれない ・復帰の計画等の予定が立てにくい ・利用率が低くなる可能性大 ※筆者作成 図表5 仕事と介護の両立のための情報提供の内容(例) 1.介護の現状と必要性 …日本社会の高齢化の現状等を通じ、介護が他人事でないことを認識してもらう 2.介護とは …介護がどうやって始まるか、何年くらい続くかなど介護のイメージを膨らませてもらう 3.知っておきたい介護基礎知識 …おもに介護保険の仕組みや給付の受け方や内容、お金に関することを知ってもらう 4.仕事と介護の両立 …介護離職せずに仕事との両立を図ることの重要性や両立に向けての準備について知ってもらう ※筆者作成 【P20-23】 事例1 たねやグループ〈株式会社たねや・株式会社クラブハリエ・株式会社キャンディーファーム〉(滋賀県近江八幡(おうみはちまん)市) 「しあわせ推進室」を設置し、育児や介護をしながら働く従業員に寄り添い、支える 明治時代に創業した和菓子の老舗  株式会社たねやは、和菓子の製造・販売を手 がける老舗企業。1872(明治5)年に「種家末廣(たねやすえひろ)」の屋号で近江八幡にて創業し、後に社名を「たねや」とあらためた。現在では東京、大阪など各地の百貨店に売場を構え、全国に知られる和菓子店となっている。  株式会社クラブハリエは、たねやの洋菓子部門として、1951(昭和26)年に洋菓子製造・販売を始め、後に社名を「株式会社クラブハリエ」とした。1998(平成10)年には農業生産部門「永源寺農園」を設立し、現在は「株式会社キャンディーファーム」として活動している。  たねやとクラブハリエ、キャンディーファームは「たねやグループ」として成長を続けており、2015年には同グループのフラッグシップ店として“自然に学ぶ”をコンセプトにした「ラコリーナ近江八幡」をオープン。約3万6000坪の自然豊かな敷地内にショップやカフェ、工房、田んぼなどが点在し、連日多くの人が訪れている。  たねやグループで大切にしていることの一つに、「すべてのいのちを大切に」という思いがある。  安心・安全なお菓子づくりと、お菓子にかかわる一人ひとりの心と体の健康を目ざすという思いから、自然や社会に配慮した素材を使ったお菓子づくりを行っている。また、労働安全衛生の徹底と健康経営○R(★)の推進、そして従業員の幸せを大事にする職場環境づくりを追求している。 育児休業後の復帰率100%女性管理職も多数  たねやグループの従業員数は1872人で、販売業務に就く従業員が多く、女性比率が77.0%(1442人)と高い(2025〈令和7〉年4月1日現在)。同グループの定年年齢は60歳で、希望者全員を65歳まで継続雇用。65歳以降は、本人と会社の希望により、1年ごとの契約で最長70歳まで雇用する。  現在は子育て世代の従業員が多く、65歳以上の従業員は11人と少ない。ただし、定年の60歳で退職する人はほとんどいないこと、中高年世代が増えてきていることなどから、今後、仕事と介護の両立支援の必要性が高まることが見込まれている。  これまでは、企業内保育園の開設や育児のための短時間勤務制度の導入など、育児をしながら働き続けられる支援に注力してきた。成果として、女性従業員の育児休業取得率は100%、育児休業後の復帰率も100%となっている。  また、女性管理職が多く、現在の管理職170人(管理職、執行役員、役員含む)のうち、83人(同)が女性である。  同社は2019年に、内閣府の「女性が輝く先進企業表彰」において、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)表彰を受賞している。 従業員の幸せを追求する「しあわせ推進室」  これまで以上に女性だけでなく、すべての従業員が健康で活き活きと働き続けられる職場づくりが大切になっていくとして、同グループでは、2021年4月に「しあわせ推進室」を設置した。  経営本部・しあわせ推進室の田原(たはら)佳代(かよ)室長は、その役割を次のように説明する。  「すべての従業員が幸せでいることが当社の究極の目標であり、その実現に向けて、従業員の幸せを追求する専門部署として、しあわせ推進室はスタートしました。  具体的には、パパ育休の取得促進を含む育児や、介護をしながら働き続けるためのサポートのほか、健康、働き方、ハラスメントなど、従業員のさまざまな困りごとの相談窓口となっています。どこに聞いたらよいのかわからないことも、『まずはしあわせ推進室に相談に来てください』と呼びかけています。相談内容に応じて人事や総務、保健師など必要な部署に橋渡しをして、必要に応じてしあわせ推進室も加わり、困っている従業員、悩んでいる従業員に寄り添って、一緒に解決策を探っていきます。  また、保健師と連携して、健康教室や医師を招いてのセミナー、従業員が子どもと一緒に参加できるワークショップなどの開催も担当しています」  早くから手厚い支援づくりに取り組んできた育児との両立支援では、出産予定日がわかりしだい、妊婦面談を行い、産休まで元気に働けるように支え、育休中は孤立感を持たないように週1回オンラインで育児のアドバイスや絵本の読み聞かせなどを行うリモート保育園を開催するなど、育休から安心して復帰できるように支援している。これらの取組みも、田原室長が担当している。  田原室長は、企業内保育園の保育士として入社し、経験を重ねて園長を務めたあと、現職に就いた。  「いまは、みなさんから話を聞き、課題を見きわめ、相談者に寄り添って、適切に対応し、解決に導いていくことを意識しています。仕事をするうえでたいへんなことがあるのなら、解決できるように一緒に考えることが私の役割と認識しています」 介護に関する相談窓口を設置 よりよい支援のために従業員の声を集める  仕事と介護の両立支援については、法定の介護休業・休暇制度に加え、しあわせ推進室で相談を受け、ニーズに応じて社内にある制度を組み合わせて利用してもらうなど、無理なく働き続けられるように対応を図っている。また、2025年4月からの改正育児・介護休業法の施行に対応し、仕事と介護の両立支援に関する相談窓口(保健師や総務部などの関係部署で連携)を整えているほか、介護に関する情報発信にも努めている。  介護休業などの取得者はこれまでは少数で、しあわせ推進室への相談も介護関連の内容はわずかではあったが、「『2025年問題』といわれるように、要介護者が増えていくということは、ビジネスケアラーが増えるということ。介護離職を防ぐには、これを会社の問題としてとらえ、ビジネスケアラーを支えていくことがかなり大切になってくると考えています」と田原室長。  しあわせ推進室ではいま、相談者だけではなく、ほかの従業員にも声をかけて、介護に関して会社に希望することなどを聞き、声を集めてよりよいサポートのかたちづくりを始めたところだという。  「家族がいて一緒に介護をしている人もいれば、一人で介護をしている人、一人で二人を介護している人、あるいは、育児と介護のダブルケアをしている人もいるかもしれません。介護は育児と違って先の見通しが立てにくく、そのときどきによって状況が変わりますし、事情もそれぞれで異なりますから、どのような支援がよいのか、制度をつくるのはとてもたいへんなことです。それでも、例えば介護をしていて疲れていることに気づかないまま体調を崩しているといった場合、働き方や、通勤中の事故が起きないように、どういうサポートができるのかなど、検討を進めています」  実際に介護をしている従業員に対していまできることとして、田原室長は、「何かあればいつでもしあわせ推進室に電話やメールで状況を聞かせてください」と声をかけ、連絡を受けたときは「ありがとう。またいつでも連絡してくださいね」と感謝の言葉を送ることを心がけているそうだ。 55歳を迎える従業員を対象としてセミナー「みらい学」を開始  介護はある日突然始まることもあり、ふだんから情報に触れておくことが望ましいとの観点から、しあわせ推進室では社内向けに毎月発信しているインフォメーションのなかで、介護の情報や豆知識を必ず掲載。「介護をすることになったら、まずどこに何が相談できるのか」、「介護施設にはどのような種類があるのか」といった情報を発信している。  「ふだんから少しでも情報に触れていれば、必要になったときに役立ちますし、しあわせ推進室で介護の話をしていたことだけでも思い出して、相談に来ていただければありがたいです」  また、「介護をしていることをオープンにしたくないという人もいると思います。そうした人たちにも届くような発信の仕方や、セミナーなどをこれから実施していきたいと、考え始めたところです」と田原室長は続ける。  2024年度からは「みらい学」という取組みをスタートした。55歳を迎える従業員を対象としたセミナーの一つで、対象者は全員参加することとしている。  両立支援に直結する内容ではないが、「60歳の定年を迎える前に、これまでのねぎらいとこれからも仕事を続けていただきたいという会社の思いを伝えるために始めました。初年度は55歳から60歳までの従業員を対象として、2回に分けて開催し、あわせて50人ほどが受講しました。産業医から健康に関する講話を、人事部から定年後の働き方と賃金の話を、また、ファイナンシャルプランナーを招いて55歳以降のお金のあれこれについて学び、自分や親の介護でどれくらいの費用がかかるのかといったお話もしていただきました」  丸一日のスケジュールで開催されたこのセミナーは、好評なうえ、同年代の従業員が久しぶりに再会する機会となり、健康談義に花が咲くなどして「同世代と話せる機会が持てたこともとてもよかった」という感想も聞かれたそうだ。  「『みらい学』というネーミングは、『行ってみたい』とか『行ってみてよかったから人にすすめたい』と思うネーミングと内容にしようという発想から生まれました。55歳は定年が近づいてくる年齢ですが、まだまだ働きたいと思っている人がほとんどだと思い、55歳から先の未来をあらためて考えてもらうセミナーにしたい、そんな思いを込めて名づけました」  このセミナーでは、具体的な介護の話は盛り込まなかったものの、困ったことがあれば、しあわせ推進室にいつでも相談できることと、必要なサポートを一緒に考えていくということを伝えている。 育児支援から得られたノウハウを活かし気持ちよく働ける職場環境づくり  両立支援を円滑にするには、制度のみならず、職場環境も重要となる。たねやグループの育児支援の取組みでは、短時間勤務制度や育休中のリモート保育園など、充実した制度があるが、例えば、短時間勤務制度は、9時から16時までの勤務となるように利用する従業員が多いという。ところが、百貨店の売場では夕方からお客さまが増えてくるので、人を増やしたい時間帯に人員が減ってしまう状況となり、ほかの従業員にかかる負担が重くなっている現場もあるそうだ。  しあわせ推進室では、子育てをしながら短時間勤務をしている80人ほどの従業員にリモート説明会を開催し、育児をしながら仕事をするためのいろいろな応援制度が会社にあるという説明をあらためてすると同時に、そのことに関して、現状としてほかの従業員の負担が増している現場があるということを、役員を交えて報告した。すると、保育園の送り迎えを家族で話し合い、「この日は遅番でも大丈夫です」といった柔軟な働き方を申し出る人も出てきたそうだ。  両立支援を円滑に行うには、「お互いさまの気持ちで働けるように協力しあう職場環境づくりが大事」と田原室長は強調し、育児支援の取組み経験を、今後、介護をしながら働く人への支援にも活かしていきたいと話した。  しあわせ推進室ではこのほか、睡眠をテーマにした健康教室を開いたり、肩こり解消の体操を習ったり、女性のヘルスケアについて学ぶといった、元気に働いている従業員がこれからも元気でいられるようにサポートする健康教室やセミナーを工場など各拠点で開催している。  しあわせ推進室はいまでは社内でも浸透してきており、「相談だけではなく、『こんなことがありました』、『こんな人がいますよ』と、働いている部署のよい話も聞こえてくるようになりました。よい話はどんどん発信して社内で共有します。取り上げられた部署にとってはモチベーションアップになるでしょうし、ほかの人たちにとっては、ほかの部署のことを知る機会になります」と笑顔で語る田原室長。  「なんでもいってね」、「いつでも話を聞かせてね」と全従業員に呼びかけ、聞いた話に対して責任を持って関係部署と連携し対応を図るしあわせ推進室は、今後、介護をしながら働く従業員にとっても、たねやグループにとっても大きな存在であることは間違いないだろう。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 「ラコリーナ近江八幡」 経営本部・しあわせ推進室の田原佳代室長 【P24-27】 事例2 株式会社ダッドウェイ(神奈川県横浜市) さまざまな目的で取得できる、同社独自の有給休暇制度を活用し介護疲れを癒して離職を防ぐ ベビー・キッズ用品の輸入・卸・販売会社  1992(平成4)年10月に設立された株式会社ダッドウェイは、ベビーならびにキッズ向けの子育て用品の企画・輸入・販売事業を展開。乳幼児用品として、抱っこひも、哺乳瓶、ベビーカー、おもちゃなどを網羅し、ファミリー層に利用されている。量販店、専門店、百貨店向けの卸売りを中心に、自社にて店舗運営を行っているほか、学童保育も手がけている。「ダッドウェイ」という社名は、父親の子育てがまだ一般的ではなかった創業当初、創立者が自身の経験もふまえて「お父さんの子育てをもっと楽しくしたい」を提唱したことに由来しているそうだ。  2025(令和7)年4月時点での社員数は209人(男性20.4%、女性79.6%)、年代比率は20代が18.1%、30代が31.7%、40代が27.1%、50代以上が23.1%。設立から30年余、当初から若手が中心で、子育て中の社員が活躍しているが、次第に年齢層が上がってきているという。 家族の介護が必要な社員を人事が手厚くサポート  働きやすい職場づくりに定評がある同社。社員の家族構成やライフステージに合わせて、一人ひとりのニーズに対応できるように休暇制度を整えてきた。産休・育休後の職場復帰率は96%で、休暇取得者のほぼ全員が復帰している。  同社には独自のユニークな人事制度として、不妊治療や養子縁組にかかわる費用を支給する「コウノトリ制度」をはじめ、幅広い用途で休暇を取得できる「ファミリーサポート特別休暇」、病気などで休職せざるを得ない社員に対して、社員がそれぞれ付与されている「ファミリーサポート特別休暇」を当該社員にプレゼントできる「休暇プレゼント制度」などがある。現在までに、3人の社員がプレゼントされた休暇も活用しながら入院・治療を行った実績があるそうだ。  同社では、「こどもとワクワクする毎日を」を理念に掲げ、ファミリー全体を支える事業を展開していることから、社員もその家族も大事に考えるという創業者の強い思いがこれらの施策の根底にある。人事部ジェネラルマネージャーの宮澤(みやざわ)敦子(あつこ)さんは、同社における家庭と仕事の両立の取組みについて、次のように話す。  「扱っている商材がベビー・キッズ向けであり、子育てをするお客さまに対して手厚いサポートをしてきたのと同じように、産休・育休を取得する社員、家族を介護する社員に対してもサポートを行っています。特に介護については、実際に介護に直面した際に制度の活用にいたらない従業員がいるのではないかと人事部としては考えています。介護は出産や本人の病気と異なり、届け出や申請がなく、事情を公表するかどうかは個人の判断によるところがあります。そこで、日ごろのコミュニケーションで気づきがあれば利用の案内をするようにしています。介護そのものの理由ではなくても、本人のリフレッシュが目的での取得もできることを伝えることで、安心して利用してくれるようになります」  また、仕事と介護の両立に直面しているが、それを公にしたくない社員もいることから、福利厚生のサービスとして、介護の相談ができ、情報提供を行う外部窓口を設置している。問合せ窓口には、会社を通さず個別に相談することができる。  「社内でも相談できる場をつくるなど、体制を整えていますが、部署のなかでのコミュニケーションを密にすることでお互いの置かれている状況を把握できたり、本人の体調の変化に気がつくようになります。介護でファミリーサポート特別休暇取得が増えてくると、まわりの従業員の理解や取得のきっかけも増えると考えています」 取得理由を拡大し利用者が増加したファミリーサポート特別休暇  では、社内の介護者はどんな制度を利用し、どんな働き方ができるのだろうか。宮澤ジェネラルマネージャーは次のように話す。  「多彩な働き方の拡大として、2021年に時差出勤、2022年からはフレックスタイム制を導入しました。これは、丸1日休む必要のない用事、例えばケアマネージャーとの打合せや、役所に行く、出勤前に施設に寄ることなどで活用できます。『1時間だけでも時間が必要』という場合に、全日休暇を取らなくてもよいのは大きいと思います」  休暇には「ファミリーサポート特別休暇」をあてることができる。この休暇制度は、育児や介護、看護など、家族のために休む目的のほか、冠婚葬祭、誕生日(本人含む)、災害・事故などによる被害の復旧、取得者本人の通院・治療、取得者本人のリフレッシュなど、さまざまな目的で取得することができる有給の特別休暇だ。家族の範囲は、2親等以内の親族のほか、同居人や同居するペットも含まれる。  「ファミリーサポート特別休暇は2011年から開始した取組みで、当初は2親等以内の家族の学校の送迎や各種行事、介護や災害発生時など、取得用途が限定されており、実質的に子ども関連の理由で使われることが多い休暇制度となっていました。しかし、家族にもさまざまな形があり、子どもがいない人、高齢の親がいる人なども含め、どの世代でも男女問わず使えるような休暇にしようと、対象者や取得理由の見直しを行ってきました。現在では同居するパートナーやペットまで対象を広げて、用途は広がってきています」  ファミリーサポート特別休暇は、それ以前に夏季休暇を従業員が各自で日程を選んで取得する特別休暇を、さらに自由な用途で使えるように見直したことで発足した。家族や子どもの有無にかかわらず、(正社員で週5日勤務の場合)最大年9日の有給休暇を時間単位で取得できる 仕組みとして整備している。  こうした制度の見直しにより、おもに子どもの用事で使われていた休暇制度が、より身近で利用しやすい休暇制度に変わっていった。現在は社員自身のリフレッシュにも使われるようになり、いまでは取得用途の第1位になっているそうだ。2位は子どもの看護、通院、学校行事、3位は体調不良(本人、親以外)、4位は親の介護、通院となっている。  最近では親の病院のつきそいでの取得理由が増加傾向にあり、全体的に社員の年齢が上がってきていること、いままでは年次有給休暇を利用して家族の介護をしていた社員が、ファミリーサポート特別休暇を活用しているのではないかと、同社では分析している。  なお、ファミリーサポート特別休暇の取得にあたっては、年次有給休暇を当年度に5日以上取得していることを条件としている。以前はこうした条件を設けていなかったが、ファミリーサポート特別休暇の有効期限は1年のみで毎年リセットされることから、2年が有効期限である年次有給休暇よりも、先に取得されやすい。そうなると、5日間の年次有給休暇取得義務を果たせなくなる可能性もあることから、ファミリーサポート特別休暇取得のための条件に、当年度での年次有給休暇5日以上の取得を加えた。 実際に仕事と介護の両立に取り組む社員の声  ファミリーサポート特別休暇では、最大で年間9日の休暇を取得できるが、毎日介護につきっきりとなると、日数が足りるとはいえないものの、通院を含め、ほかの家族と協力しながらの介護を想定し、法定の介護休暇や介護休業、さらに年次有給休暇もあわせて活用してもらうことを想定している。  現在、仕事と家族の介護の両立を続ける本社勤務のマネージャー職の社員がおり、介護のさまざまな用事に対して、1日、半日、1時間の休暇を柔軟に取得しながら、仕事との両立を図っているそうだ。通院の送迎とつきそいであれば半日休暇をとり、ケアマネージャーが訪問するときは予定の時間だけ休みを取得する。一方、通院先であったり、介護施設を探すための情報収集などにはかなり時間が必要となり、役所や関係各所を回らなくてはならないので、そういう場合は1日の休みを取得しているそうだ。  実際に仕事と介護の両立を体験した社員からは、ファミリーサポート特別休暇をはじめとする同社の制度について、次のような声が上がっている。 ・病院や施設とのやりとりなど、介護に直接的にかかわる目的ではなくても運用の自由度が高いので、休息や余暇にもあてられることで心身の健康を保てる。 ・10時出社OK。16時退社OKのフレックス制度がありがたい。 ・職場に各々の時間に出社、退社する社員がいるので気兼ねがない。 ・介護はどうしても休暇を取らないといけない用事が出てくる。年次有給休暇と合わせることで、休暇を使い切る心配をせず、プレッシャーなく乗り切ることができた。特別休暇は使い切った。 ・これまで育児などで特別休暇を利用する機会がなく、初めて介護で使った。とても便利な制度だと思った。 ・チームのメンバーには早い段階で休みが増えることを周知したので、出社のプレッシャーを過度に感じなくてもすんだ。  一方で、社内で両立支援制度を整えても、結果的に介護離職にいたってしまった社員もいるそうだ。ファミリーサポート特別休暇をはじめとする社内の各種制度や、法定の介護休業・介護休暇などについて説明をしたうえで、所属部署のメンバーも交え、介護をしながらどういった働き方ができるかを相談したが、両親ともに介護が必要であり症状が重く目が離せないこと、社員本人以外に介護にあたれる人がいなかったことなどから、最終的に本人が仕事との両立に限界を感じて離職にいたってしまったそうだ。  「離職してしまうと経済的な面も心配ですし、人事としてはこういった方にこそ、より会社に残ってほしいと思い、話し合いを重ねました。勤務していたのが物流倉庫の事業所で、荷物が到着する時間や集荷の時間に合わせて仕事のタイムスケジュールが決まる関係上、時間単位での休暇取得やフレックスタイムなどの柔軟な勤務がむずかしかったという側面があったことも感じています」  さまざまなケースがある介護だけに、多くの休暇が必要な人をサポートする意味でも、前述の「休暇プレゼント制度」の活用にも期待が集まる。同制度はファミリーサポート特別休暇の一部をほかの社員にプレゼントするもので、休暇をプレゼントする側の社員は公募1件につき1日まで提供することができ、プレゼントされる側が受け取れる休暇日数の上限は公募1件につき最大2カ月分までとなっている。  「人事が会社の掲示板で、『こういった理由で希望者が出ています』と代理で募ります。プレゼントする人が上限の2カ月分にあたる60人に達したら締め切ります。毎回、公開から1〜2日で上限になってストップします。病気で療養している方が希望することが多く、みんな仲間ですので『しっかり回復につとめ、復帰を待っています』という気持ちからプレゼントしています」ほぼ、病気や入院で長期の休みが必要になった社員に利用されているが、介護者が増加するようであれば、介護における事例が出てくる可能性もあるだろう。 介護離職の防止に向けた今後の課題  「現在、仕事と介護の両立を行っている社員は、本社勤務でマネージャー職として仕事を采配できる立場にいるので、休みの調整がしやすく、比較的時間の融通が利く環境にあります。ですが、当社の社員の半数がシフト制の販売員です。シフト制において急な休暇の取得にどこまで対応ができるかは大きな課題です。  また、介護に対する情報を知りたくても、『どこに聞けばよいかもわからない』という声を聞きますので、介護者の社員が増えてきたら、社員同士で情報交換ができる場があればよいと思っています」  介護をすることで心身の疲労が溜まったり、「つらい」と感じたときに、会社に来て会話をしたり、仕事に夢中になっている数時間は介護を忘れられることも、仕事を続けるうえで大きい意味を持つ。介護のためだけでなく、介護の疲労を心身ともにリフレッシュできる環境づくりが、介護離職防止の重要なポイントになっている。 写真のキャプション DADWAY/Ergobaby二子玉川ライズ店(写真提供:株式会社ダッドウェイ) 人事部ジェネラルマネージャーの宮澤敦子さん 【P28-31】 事例3 株式会社伍魚福(ごぎょふく)(兵庫県神戸市) ワーク・ライフ・バランスの充実を図り介護離職を防ぐ柔軟な勤務体系を用意 味に注力して品ぞろえ拡充・販路拡大神戸発の老舗珍味メーカー  株式会社伍魚福は明治時代から食品加工業を営む老舗の珍味メーカー。1953(昭和28)年に兵庫県神戸市でするめ加工業として創業し、1955年に有限会社五魚福を設立、1970年に「株式会社伍魚福」に改組し、2025(令和7)年4月に法人設立70周年を迎えた。  美味しさにこだわり、さきいか、チーズ、生ハム、からすみなど、定番のおつまみからプレミアム感のあるチルド品まで約400種類を展開しており、年間50アイテム以上の新製品を発売。同社の商品群はおもてなしの気持ちと食べる楽しみが感じられる「エンターテイニングフード○R」(★)として、幅広い層のファンを獲得している。同社独自の味つけやデザインの商品を全国の協力工場のラインにて製造するファブレス※企業である。  同社の山中(やまなか)勧(かん)代表取締役社長は、「創業時から続くいか製品、魚介類の加工品を土台に、1960年代に酒販店に販路を求めたころより、全国の工場から原材料を仕入れてリパックする業務を行っており、それが現在のファブレスにつながっています。1989年からはチルド珍味開発に取り組み、お酒のディスカウントストアのブームなどもあり全国に販路が広がりました」とその経緯を語る。  現在は、スーパー、百貨店、酒販店、コンビニエンスストアなど、全国約4000店以上で同社の商品が取り扱われており、自社のオンラインショップや大手ネットショッピングモールでも販売が行われている。2013(平成25)年には直営店として「KOBE伍魚福阪神梅田店」をオープンし、2022年12月に「伍魚福オツマミドコロ神戸三宮」をオープンするなど、着実な成長を続けている。  関西地域限定の土産品の販売も行っており、看板商品である「いかなごのくぎ煮」は、神戸周辺の漁師町において親しまれてきた郷土料理を同社が商品化したもの。近年はいかなごの供給が減少して価格が高騰し、庶民の味が希少化しつつあるなか、地域の食文化を継承していくために、同社が事務局となり「いかなごのくぎ煮振興協会」を設立し、文化の継承活動を行っている。 伍魚福版「三方よし」の一角である従業員の人生を「おもしろく」する  同社の定年は60歳、希望者全員を65歳まで嘱託社員として再雇用する。65歳以降は時給制のパート社員に移行し、現在は70歳を上限としているが、延長も検討中だ。従業員79人のうち、正社員が42人(男性25人、女性17人)、嘱託社員が2人、パート社員が35人(男性8人、女性27人)。60歳以上の従業員は、60〜64歳11人、65〜69歳7人(2025年4月1日時点)となっている。  同社では、2007年にまとめた中期計画のスローガンに、「神戸で一番おもしろい会社になろう!」を掲げ、2009年に「伍魚福クレド」(行動指針)を策定した。「1 すばらしくおいしいものを造り、お客様に喜ばれる商いをする」、「2 仕事を通じてお互いに共感をもたれる商いをする」、「3 仕事を通じて人格の向上に喜びを感じるようにする」、「4 神戸で一番おもしろい会社になろう!」、「5 全員がヒット商品の開発者になろう!」の五つの行動指針を中心に、「伍魚福エンターテイニングスパイラル」(図表)を示し、その実現を目ざしている。  「エンターテイニングスパイラル」とは、従業員満足度と協力会社、財務の、いわば伍魚福版の「三方よし」。商品がおもしろく(よく)なればお客さまがおもしろくなり(喜び)、会社もおもしろくなる(成長する)、このサイクルをくり返し、改善を図ることで、組織全体の生産性や収益性を着実に向上させ、それにより待遇改善が可能になり、従業員・家族がおもしろく(幸せに)なるという、理念体系である。  このエンターテイニングスパイラルの一環として、従業員の人生を豊かにするために、同社ではワーク・ライフ・バランスの実現に取り組んでいる。  かつて、同社はワンマン経営であり、従業員は残業が多く、有給休暇も取りにくい環境だったという。この状況を改善するため、採用を強化し人員増を図るとともに残業を減らす取組みとしてICカードを用いた勤怠システムを導入し、残業時間を正確に把握。その削減に取り組んだ。そして、年次有給休暇の取得を促進するため、年次有給休暇のうち5日は1時間単位で取得できる制度を導入、短時間ですむ用事などにも利用できるようにしたほか、年に1回5〜7連休を取得する制度も導入。その結果、年次有給休暇取得率は、2014年度の39.99%から、2024年度では75.04%と大きく改善した。さらに、時差出勤制度を導入し、午前7時から10時の間は30分刻みで出勤時間を選べるようにするなど、社員がそれぞれの事情に合わせて柔軟に働ける仕組みを整えている。 従業員個別のニーズを把握し有給で利用可能な介護休暇制度を整備  同社では、2020年度から有給で利用できる介護休暇を導入。2022年度からは時間単位での取得も可能としている。介護が必要な1人に対して年間5日、最大で年間10日が付与される。そのほか、介護を目的として活用できる制度は、短時間勤務制度や在宅勤務制度がある。  仕事と介護の両立支援に関する制度の導入は、女性従業員の増加に起因している。  「酒販店で商品を販売していた時代、おもな購買層は男性でした。しかし、2000年ごろからスーパーで商品を展開するようになり、いまではスーパーやコンビニエンスストアでの販売が過半数を占めています。こうした変化にともない、商品デザインにあたっては女性を意識した方向性に転換するため、20年ほど前に女性のデザイナーを採用しました。そのデザイナーが活躍し、育児休暇や短時間勤務、介護休暇などが必要になったことから、各種制度を整備し、希望するだれもが利用できる環境を整えてきました。従来、物流や事務部門のパートタイマーとしては多くの女性が活躍していましたが、正社員として、栄養学を学んだ女子学生が求人に応募してくれるようになり、女性の正社員が増加しています。出産・育児で離職せず、育児休業から復帰する人も増えています」(山中社長)  介護休暇の取得者数は、2022年度17人、2023年度15人、2024年度13人。取得する年代や属性は幅広く、若い世代の利用もある。特に要介護者の施設入所にあたっては、さまざまな用事が発生するので、時間単位で取得できる介護休暇が活用されている。  経理・総務チーム副責任者課長の川口(かわぐち)雄太(ゆうた)さんは、「通院時のつきそいには、介護休暇を時間単位で取得し、遅く出社したり、早めに退社する社員もいます。フルタイムの社員は1日8時間勤務ですが、必要な時間だけ時間単位で取得すれば、何日にも分けて利用することができます。課題としては、介護は家庭の事情によるところがあるので、職場でオープンにして共有するわけにもいかず、介護休暇で休む際に、仕事のしわ寄せが周りに行き、状況がわからないだけに納得を得られない人が出てくる可能性があることです。そこは配慮が必要かと考えています」と語る。  同社では、これまで家族の介護が原因で社員が介護離職に至ったケースはない。これはワーク・ライフ・バランスを実現できる柔軟な勤務体系が、自ずと介護離職の防止対策になっているとみられる。 親の将来を含めて「人生設計」を作成介護をする将来と働き方を見すえる  また、介護を大きなスパンでとらえ、人生設計においてキャリアと介護の両立を考えるためのきっかけの提供に努めている。同社では、2011年から毎年、一人ひとりが人生設計(ライフプラン)を作成している。その目的は「より良い人生のために、より良い仕事をする」こと。そのために本人の気づきをうながし、人生の目標とその実現に向けて、仕事でチャレンジすることを明確化することにある。  ライフプランシートには、本人と家族の年齢を記し、本年、3年後、5年後、10年後、20年後、30年後の目標およびプランを考える。結婚、子どもの誕生、家の購入など、大きなライフイベントはもちろん、家族にまつわるできごととして親の世話や子どもの教育、あるいは仕事におけるできごとやボランティアなど社会にかかわるできごとに至るまで、自分と家族の将来を思い描いてプランを立てる。  「頭の中で漠然と考えてはいるものの、表にして目にするとあらためて気づくことも出てきます。年表を見れば、親が歳をとることもわかり、いずれ親に育児の手助けを求めることや、介護についても考えておくことができます。このシートを元に、年に1度は深く考えることが大切です。年に1度、経営計画の発表会の場で、従業員全員がライフプランのなかで、周りと共有できることを色紙に書き出して発表しています」(山中社長)  若いころは、思いおよばないものだが、こうした取組みが、数十年後、親の介護が必要になる将来について気づきを得る機会になっている。 ワーク・ライフ・バランスを実現する健康経営○R(★)の取組みと社内改善  同社では、ワーク・ライフ・バランス実現の取組みの一環として、2024年に健康経営優良法人の認定を受けている。  「健康経営優良法人に申請するにあたり、すべての項目においてあらためて何かをする必要もなく、ベースができていました。時差出勤、時間単位年次有給休暇はすでに実施しており、健康診断の面では女性特有のがん検診を毎年会社負担で行っています。禁煙の取組みでは、喫煙時間を休憩扱いにし、午前中は全面禁止にすることで、喫煙頻度が確実に減少しました。  また、毎朝出社後にラジオ体操を実施しています。ラジオ体操は朝のスイッチとして効果があり、従業員の健康に寄与しています。社内で行っているPDCAに則って、健康経営においても計画、実行、評価、改善を回し、2025年度は上位500社のブライト500認証を目ざします」(川口課長)  また、従業員のエンゲージメントおよび従業員満足度を高めるために、半年に1回のディープサーベイ※、毎月1回のショートサーベイや気力のチェック、ストレスチェックを行っている。調査結果は従業員の声として活用し社内改善に活かす。  さらに、社長に直接提案と報告を行う制度(提報)を20年以上運用しており、社内の環境改善や、従業員の働き方におけるニーズの吸い上げにつながっている。  また、商品アイデア提案制度があり、毎月1件の提案につき100円を支給する仕組みで、さらにグループ表彰や皆勤賞を導入し、アイデアをより多く得るよう参加を促進している。なお、商品開発の提案では優れたものは商品化されており、大ヒット商品がこの制度から生まれている。  最後に山中社長は、「伍魚福がよいスパイラルを自ら回すだけではなく、日本の食品業界のよいスパイラルの起点となることを目標にしています。SDGsに関連した取組みを展開するとともに、おもしろい会社を目ざし、社会に役立つ存在であり続けたいと思います。特に地域社会や協力企業との関係を通じて、日本中でよいスパイラルを生み出すきっかけになることが目標です」と先を見すえた取組みを語られた。  従業員の声を細やかにくみ上げる施策により、ニーズを迅速に制度化するなどの社内改善活動を行っている同社。介護の負担を負う従業員に柔軟な勤務ができる労働環境を用意し、自ずと介護離職を防いでいるようだ。商品を通じて顧客に喜びや楽しさを提供し、この先、介護にかかわる社会の変化が生じても、スパイラルアップの理念体系で対応していく。 ※ファブレス……「fabricationfacilityless]の略で、自社で生産設備を持たず外部に製造を委託すること ★「エンターテイニングフード○R」は、株式会社伍魚福の登録商標です。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※ディープサーベイ……従業員の心身の状態や組織の状況を把握するために行う調査 図表 伍魚福エンターテイニングスパイラル ※資料提供:株式会社伍魚福 写真のキャプション 山中勧代表取締役社長(右)、川口雄太経理・総務チーム副責任者課長(左) 伍魚福の「エンターテイニングフード」(写真提供:株式会社伍魚福) 【P32-33】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 第7回 多方面で活躍した「郵便の父」 前島(まえじま)密(ひそか) 明治政府の官僚として活躍した後46歳で教育機関へと転身  1871(明治4)年、明治政府は官営の郵便制度をスタートさせましたが、この制度をもうけたのが前島密です。密は越後国の豪農の家に生まれましたが、のちに幕臣の前島家に養子に入りました。優秀だったので開成所(かいせいじょ)(幕府の教育機関)教授に抜擢されますが、新政府軍に降伏した徳川家が静岡へ移封となると、静岡藩(駿河府中藩)の留守居役や遠州中泉(えんしゅうなかいずみ)奉行などを歴任。しかし1869年、請われて明治政府の民部・大蔵省の役人となり、鉄道の敷設や税法改革に尽力、そして郵便制度を立案・実現させたのです。  その後は内務省で出世し、1880年には内務大輔(次官)にのぼり、翌年、これまでの功績により、政府から勲三等旭日中綬章を賜わりました。ところが同年、密は役人を依願退職してしまいます。まだ46歳なので、隠居には早すぎる年齢です。じつは同年、参議の大隈(おおくま)重信(しげのぶ)が伊藤(いとう)博文(ひろぶみ)ら薩長閥によって政府から駆逐されました(明治14年の政変)。このおり大隈派だった密は、野に下って大隈と行動を共にしたのです。  翌年、大隈は国会開設に備えて立憲改進党を立ち上げますが、密も党の幹部となりました。ただ、政治活動より教育のほうに興味があったようで、大隈が創建した東京専門学校(現・早稲田大学)の評議員となり、校長の小野(おの)梓(あずさ)が急逝すると、密は大隈に頼んで校長職に就かせてもらっています。こうして密は、政府の高級官僚から教育職への意外な転身を遂げたのです。  ちなみに当時、東京専門学校の経営は苦しく、大隈個人が資金を提供して経営が成り立っていました。密は、学問の独立を果たすには自営すべきだと考え、大隈からの支援を断ち、授業料を大幅にアップしたのです。また、横浜の富豪のもとに出向き、渋る彼を説き伏せて大金を寄付させました。こうした苦労のすえ、経営は安定していったのです。 転職をくり返したセカンドキャリア  この時期、密は「国語独立論」を主張しています。「長いあいだ漢文を尊んできたが、日本人は漢字を廃してかな文字をつかうべきだ」と主張し、新政府にも漢字の廃止をたびたび提言したのです。1873年には『ひらがな しんぶんし』を発刊しています。この新聞は仮名文字だけで記されており、なんとも斬新な試みでした。  1887年、密は新設された私鉄・関西鉄道会社の社長に就任します。今度は実業家の道を歩み始めたのです。ところが翌年、社長の地位をあっさり降り、東京専門学校の校長職も辞めてしまいます。なんと密は、再び官界へ戻ったのです。  3年前、逓信(ていしん)省しょうが新設され、通信分野とともに郵便業務も同省の管轄となりました。初代逓信大臣は、密と同じ旧幕臣の榎本(えのもと)武揚(たけあき)でした。そこで榎本はかつての密の手腕に期待し、「政府に戻って逓信次官に就いてもらいたい」と要請したのです。当時、逓信省内では、新たな電話事業を官営にするか民営にするかでもめていました。  ともあれ、密は53歳で逓信省の次官として政府に復帰したのです。在任中は、郵便局と電信局を合併して郵便電信局や郵便電信学校をつくったり、電話事業を官業として成立させるなどの功績を残し、3年後の1891年に退職しています。榎本の後任・後藤(ごとう)象二郎(しょうじろう)と意見が合わず、我慢できなかったからだといいます。密の短気は有名でした。何か気に入らないことがあれば、だれにでもどこにでも雷を落とし、手当たり次第にモノをぶん投げました。  こんな話もあります。密の自宅に空き巣が入ったことがありました。すぐに盗難届を出したのですが、数日後、警察から「盗人を逮捕したので盗品の確認に来てほしい」との連絡が入ります。そこで密が書生を使わしたところ、いつまで経っても戻ってきません。夜に帰ってきた書生がいうには「盗難届にない品物がたくさんあるが、なぜ漏れたのか」と警察に厳しく質問されたので、「当時、狼狽していたので届け漏れがあった」と弁解、その旨を書類に記したら夜になってすべての品を下げ渡してくれることになったと密に報告しました。  すると、これを聞いた密の顔色がみるみる変わり、大声で書生を一喝したあと、「狼狽とは何事ぞ!俺は盗難ぐらいであわてたりせぬわ。誤解されるのは面白くない。すぐにこれから警察署へ戻り、狼狽の二文字を取り消してこい。そもそも盗難を予期して品物を取り調べておく人間がいるわけないだろう!届け漏れがあるのは当然だ。それを調査し、調べる機関がおまえたち警察なんだ。そういってこい」と厳命したのです。こんな性格だったので、人ともよくぶつかりました。 キャリア晩期は実業界や教育分野など多方面で活躍 さて、電話事業にかかわったことで密は電気学会(1888年創立)の副会長となりますが、このころから電気の魅力にとりつかれるようになりました。というより、電気を神の如くあがめるようになったのです。密が自伝に書いた一文(電気の美的形象)を紹介しましょう。  「嗚呼(ああ)偉(い)なる哉、電気の力、神なるかな其徳、(略)万里の遠信以て通すべし、或(あるい)は光明灼燿闇黒(こうみょうしゃくようあんこく)を照し、円転疾徐其機に応じて工作を利す其力偉にして実に大なり(略)其功之を何とか言はん、只(ただ)是れ神と称せんのみ」  このように密は、電気の効用をほめたたえて崇敬し、電気に神秘さを感じ、電気の姿を美しく偶像化したいと願うようになります。するとある日、夢のなかに白衣の観音様に似た慈悲の瞳と威厳を持った女性があらわれたのです。その女性は、右手を天に向け、左手を地に伏せ、眉間から光線を発射していたそうです。そこで密は、夢の記憶を友人の西田(にしだ)春耕(しゅんこう)にくわしく語り、じっさいに電気像を描かせました。しかし、それは満足できる姿ではなかったといいます。それにしてもここまで電気を崇拝するのは珍しいし、思い込みが激し過ぎる気もします。  いずれにせよ、役人から身を引いた密は、その後も東京馬車鉄道会社、北越鉄道会社、韓国京釜鉄道会社、日清生命保険株式会社、東海汽船会社などの社長・取締役や理事、監査役を務めるなど実業界で活躍するとともに、帝国教育会や盲学校、日本海員掖済会を積極的に支援・育成するなど勢力的な活動をみせました。  68歳の1902年に男爵を授けられて華族に列せられ、1904年には貴族院議員となりました。ただ、75歳になった1910年ごろから何をするのもおっくうになり、貴族院議員や会社の役員も次々辞してしまいました。その年、保養のために九州の周遊旅行をしています。その後は神奈川県三浦郡葦名(あしな)の地に山荘をかまえ、翌1911年からはこの地で作庭などを楽しみながら静かな暮らしを送り、1919(大正8)年に84歳で大往生を遂げたのです。 【P34-35】 第105回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  鹿島田直子さん(69歳)は、介護職の道一筋に33年間歩き続けてきた。施設の利用者に寄り添った介護サービスの実践に対し、昨年には、瑞宝双光章(ずいほうそうこうしょう)※を受章した。介護の現場でいつも笑顔を絶やさない鹿島田さんが、生涯現役で働くことの喜びを語る。 社会福祉法人誠友会特別養護老人ホーム栄白翠園 介護職員 鹿島田(かしまだ)直子(なおこ)さん つらい経験から学んだ福祉の心  私は茨城県の牛久(うしく)市に生まれ、高校卒業まで牛久で過ごしました。実家は農家で、家の中に囲炉裏があり、私は赤ん坊のころその囲炉裏に落ちてしまい、顔にやけどを負いました。父がバイクで病院に運んでくれたそうです。いまの医療なら跡が残らない治療も可能だったでしょうが、目元に大きなしみが残りました。  高校を卒業して就職しましたが、19歳で結婚、すぐに仕事を辞めました。結婚が人より早かったのは、やけどの跡が残る自分に「一緒に人生を歩もう」といってくれた人の存在が大きかったと思っています。  そうして左官業の夫との新婚生活がスタートしましたが、私の成人式の前日に、夫が運転する車に同乗して交通事故に遭いました。夫婦一緒にしばらく入院、幸い大事には至りませんでした。ただ、成人式に出席できなかったことはいまでも悔いが残ります。  23歳で長女が生まれ、3年後に長男、さらに3年後に次男が誕生して、子育てに専念する日々が続きました。育児の手が少し離れたころ知人が「老人ホームで働かないか」とすすめてくれました。まったく知らない世界なのに福祉の仕事に興味を覚えたのは、つらいできごとのなかでもだれかに助けてもらっていまの自分があることへの感謝が心のどこかにあったような気がします。  顔写真を撮ることに少しためらいながらも快く応じてくれた鹿島田さん。「過酷なできごとに遭遇してきたからこそ心のこもった介護ができるのでは」と問うと、「仕事が大好きなだけです」と笑顔で応じた。 気がつけば介護の世界に  最初に働いた老人ホームは人間関係で悩んで早々に退職しました。ただ、介護の仕事は自分に合っていると思い、求人情報で介護施設を探すなかで出会ったのが、千葉県佐倉(さくら)市にある特別養護老人ホーム「白翠園(はくすいえん)(現・佐倉白翠園)」でした。当時36歳でしたが、幸い正規職員として採用されました。  「白翠園」は1989(平成元)年に開所以来、地域とともに生きることを基本理念としており、その存在は知っていましたので、職員として採用されたときはうれしかったです。老人ホームで少し働いたことがある程度で、介護の世界は初心者も同然でしたが、仕事をするなかで学ばせてもらう日々でした。また、何度も試験に落ちながら介護福祉士の資格を取得でき、少しは成長できたかなと思っています。  「白翠園」を運営する社会福祉法人誠友会(せいゆうかい)は2001年に千葉県印旛郡(いんばぐん)栄町(さかえまち)に特別養護老人ホーム「栄白翠園(さかえはくすいえん)」を開所し、私は異動で新天地に移りました。利根川流域にある栄町は水田地帯が広がり、施設の近くではウグイスの鳴き声も聞こえてきます。自然豊かな町で大好きな仕事ができる毎日に感謝しています。早いもので介護の仕事に就いて33年が経ちました。  「白翠園」という名前は、雨上がりの田園風景をうたった中国の詩にちなんだとのこと。地域との共生を基本理念に掲げ、6年ほど前からは積極的に外国人技能実習生を受け入れ、施設の敷地内には実習生の住居も整備されている。 心に寄り添う介護を目ざして  介護の仕事というのは、食事や排せつ、入浴など生活のあらゆる場面で利用者さんとかかわりますから、つい、職員の感情が出てしまうことがあります。私も若いころは、ときどき口調が厳しくなったものでした。特に排せつなどでうまくいかなくて私たちがいらいらすると利用者さんも心を閉ざしてしまいがちです。やさしく話しかけると利用者さんも笑顔になることが、長年経験を積むなかでようやくわかるようになりました。年上の利用者さんには人生の先輩に対する尊敬を忘れないこと、逆に私よりも若い利用者さんには、人としての尊厳を大切にすることを肝に銘じてきました。  利用者さんは職員のことをしっかり見ています。休みが続くと、「病気でもしていたの」と心配してくれます。最近は、休みが続くときは対話ができる人たちには事前にきちんと伝えています。重い認知症の人にも、伝わらなくてもよいから同じように必ず声かけをしています。理解できないように見える人たちも、本当はちゃんとわかっているような気がしてなりません。ただ、忙しいときはついつい対応が雑になってしまい、反省の毎日です。  いまスリランカから4人の実習生が来ていますが、彼女たちのていねいな仕事ぶりに学ぶことが多いです。母国を離れて働いているからこそ、他人の気持ちが身に染みてわかるのかもしれません。 どんなときも前を向いて  現在の私は常勤パートで、週5日、自宅から車で15分かけて通っています。36歳で正規職員として採用され、60歳から65歳までは嘱託職員で、65歳から夜勤のないパートになりました。いまは早番と日勤遅番の勤務です。早番は朝6時30分からですが、早めに家を出るようにしています。介護の仕事は体力が必要なので規則正しい生活を心がけています。最近は男性職員が増えて入浴介助などの仕事が少し楽になりました。ただ、短期間で離職する人も多く、介護現場は慢性的な人材不足が続いています。若い人たちが意欲的に働けるような環境が整備されればよいなと、思います。  昨年、瑞宝双光章をいただいたとき、あらためて長い間介護現場で働き続けてこられたことに感謝しました。何よりも利用者さんとの出会いを大切にしながら、楽しく働くことを目ざしてきました。お誕生会の担当だったときは、毎月の誕生者ポスターに切り絵を添えていました。係ではないいまも、季節感のある切り絵を添えることを楽しんでいます。「白翠園」は、お誕生会をはじめ利用者さんと一緒に職員も楽しめるイベントが盛りだくさんで、利用者さんの笑顔に支えられています。  私は赤ちゃんのころに顔にやけどを負い、成人式の前日に自動車事故に遭いました。それだけを話すと何か不幸の連続の人生のようですが、3人の子どもに恵まれました。そして小学生の孫に加え、最近、息子に女の子が生まれました。小さな命の誕生が、生きるということの大切さを教えてくれました。  介護という仕事も、思えば命にたずさわる仕事です。命の大切さに気づかされるこの場所で、もう少しがんばってみようかと、明日もまた元気に職場へ向かいます。 ※瑞宝双光章……国家または公共に対し功労があり、公務等に長年にわたり従事し、成績をあげた方に授与される勲章 【P36-39】 加齢による身体機能の変化と安全・健康対策  高齢従業員が安心・安全に働ける職場環境を整備していくうえでは、加齢による身体機能の変化などによる労働災害の発生や健康上のリスクを無視することはできません。そこで本連載では、加齢により身体機能がどう変化し、どんなリスクが生じるのか、毎回テーマを定め、専門家に解説していただきます。最終回のテーマは「加齢と疾病」です。 株式会社はるうらら代表/日本医師会認定産業医/産婦人科専門医 高尾(たかお)美穂(みほ) 最終回 加齢と疾病 @はじめに  日本では、少子化高齢化が進むなかで、働く期間がどんどん長くなっています。70歳まで働くことが企業の努力義務になったり、健康で長生きを目ざす動きが広がったり。そんな時代だからこそ、歳を重ねることで少しずつ変わる心と体に、早め早めに準備をしておくことが大切です。  これからの私たちにとって特に気になるのは、加齢とともに増える病気のリスク。女性の場合特に、ホルモンの変化(エストロゲンやプロゲステロンの減少)によって、特定の病気を引き起こしやすくなります。骨粗しょう症、心血管疾患、乳がん、アルツハイマー病、2型糖尿病といった病気も、毎日の生活習慣を見直したり、医療の力をうまく取り入れたりすれば、リスクを大きく減らせることがわかっています。女性の健康課題に対する意識を持ち、早いうちから対策を始めましょう。  企業も、健康な状態を維持できるよう、相談窓口や情報提供を整えつつあります。でも、まずは自分の体は自分で知ること、自分の体は自分で守ることが大切です。加齢による病気や女性特有の健康の変化についてあらかじめ学んでおけば、未来の健康リスクが減り、ご自身が望む人生に近い人生を過ごせる可能性が高くなるでしょう。 A加齢において気をつけたい病気と対策  歳を重ねると、だれでも体の変化を感じるものです。男女共通でリスクが上がる病気と、すぐに始められる対策方法をご紹介します。無理なく、できることから始めてみましょう。 @心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中) →心臓と血管をいたわりたい  厚生労働省によると※1、65歳以上の心疾患による死亡率は全体の約3倍と高く、血管が硬くなったり(動脈硬化)、血圧が上がったり(高血圧)するのがおもな原因です。女性は閉経前、つまり50歳前後まではエストロゲンが血管を守ってくれているのでリスクがそこまで高くはありませんが、閉経後は気がつかないうちに守られなくなっており、さまざまなリスクが急上昇します。65歳以上の女性の心筋梗塞は男性を上回り、75歳以上では心血管疾患が死亡原因の半分以上を占めることも報告されています。 【生活においてできる対策】 ●食事  塩分は1日6g未満に。濃い味つけに慣れている方は、味つけの方法を見直してみてください。外食は塩分多めですから、スープは残すくせをつけましょう。魚や野菜、オリーブオイルたっぷりの地中海風の食事が血管や心臓にやさしいです。 ●運動  週に150分、ウォーキングなどの軽い運動をおすすめします。1日30分を5日でもOKです。エスカレーターではなく、階段を使うのもよいでしょう。 ●血圧チェック  130/80mmHg未満を目ざして、毎日同じタイミングで測って記録してみましょう。血圧が高めの方は、家に血圧計があると有用です。 ●医療でのサポート  血圧やコレステロールを下げる薬で、心臓への負担を軽くすることが可能です。心筋梗塞・脳卒中が起こらないように、あらかじめの取組みを意識しましょう。 A糖尿病 →体のバランスを整える  2022(令和4)年の調査※2では、65歳以上の5人に1人が糖尿病かその予備軍です。加齢によりインスリンの働きが弱くなることで、2型糖尿病のリスクが上がります。男性のほうが糖尿病を発症しやすい傾向はありますが、女性は閉経後に内臓脂肪が増えることで、リスクが上がります。65歳以上の女性の糖尿病有症率は約15〜20%。特に肥満女性の有症率は一般人口の2〜4倍に達する場合もあります※3。 【生活においてできる対策】 ●健康診断  HbA1cは6.5%未満が望ましいです。年に1回のチェックで、自分の体の状態を把握しましょう。 ●食事  糖質は1日130g程度に。ご飯は小盛り、野菜や豆をたっぷり。甘いものは「ご褒美」程度の頻度に抑え、野菜たっぷりの食事を意識しましょう。また、食物繊維を1日30g摂ると、糖尿病発症のリスクを減らすことができると報告されています。 ●体重  BMI(体重kg÷身長m÷身長m)を18.5〜25に。減量によって糖尿病発症のリスクを減らすことができます。 Bがん →早めの気づきが鍵  国立がん研究センターによると※4、60歳以上のがん罹患率は全体の7割。細胞の修復力が落ちることが原因とされています。女性は特に乳がんに気をつけてください。エストロゲンが分泌される期間(初潮から閉経までの期間)が長い女性や、家族に乳がん経験者がいる場合は、乳がん発症リスクが増加することが知られています。閉経後のホルモン補充療法(HRT)も、わずかではありますがリスクを高めるとされます。乳がんは日本人女性の9人に1人が経験する病気です。  がんは、見つけるのが早ければ命を落とさずにすみます。検診とセルフチェックで、ご自身の安心を手に入れましょう。 【生活においてできる対策】 ●禁煙  タバコは肺がんリスクを4〜5倍に。禁煙10年で発がんリスクを半分に減らすことができます。まずは「1日1本減らす」から始めましょう。タバコを吸わない方は、受動喫煙を避けることを意識しましょう。 ●お酒  禁酒がおすすめですが、まずはビールなら1日600ml、日本酒なら1合程度までに抑えましょう。  アルコール摂取量が多いと、発がんリスクが上がる一方で、アルコール摂取量を抑えることは乳がん発症リスクが下がることが知られています。 ●検診  早期発見のためのスクリーニングとして、年に一度、肺がん、大腸がん、胃がんの検診を受けましょう。乳がんについては2年ごとのマンモグラフィでの検診と、月1度のセルフチェックを習慣にしましょう。セルフチェックはお風呂や寝る前など、リラックスしているときがおすすめです。  しこりや皮膚の変化、痛みなど、いつもと違うことがあれば、乳腺外科を受診しましょう。 ●生活習慣  体重管理はとても重要です。BMIを25未満に維持すると、閉経後乳がんリスクが低下します。 C骨粗しょう症 →骨を強く、しなやかに  骨粗しょう症は、骨密度の低下と骨質の劣化により骨折リスクが高まる疾患です。骨密度は加齢によって毎年1〜2%減少し、日本骨粗鬆症学会によると※570歳代の女性で約3人に1人(約33%)、60歳代で約5人に1人(約20%)が骨粗しょう症に罹患しています。女性においては、閉経後のエストロゲン減少が骨吸収を加速させ、骨形成が追いつかなくなります。エストロゲンは破骨細胞の活性を抑制するため、その欠乏が骨量減少を促進します。  国際骨粗鬆症財団(IOF)によると※6、50歳以上の女性の3人に1人が骨折を経験します。転倒などによる骨折は生活の質を落とすだけでなく、特に大腿骨近位部骨折において、1年以内の死亡率は20〜24%と高いことも知られています。まずは骨密度の計測により、現状を把握することがとても大切です。骨はあなたの「体の柱」です。カルシウムと運動で、いつまでもしっかり立ったり歩いたりできる体を維持しましょう。 【生活においてできる対策】 ●カルシウム  1日650〜800mgを、牛乳など乳製品や小魚から摂取しましょう。 ●ビタミンD  カルシウムを骨に吸収させるビタミンDにおいて、日本人の平均摂取量は推奨量に達しないことが多い※7ため、日光浴やサプリメントを活用し、ビタミンDを1日15〜20μg摂取することが望ましいとされています。これらにより骨密度低下を抑制できるとされています。 ●運動  週2回程度の筋力トレーニングによって、骨密度低下を抑制することが可能であり、週に3回程度の重量負荷運動(ウォーキング、軽いウェイトトレーニングなど)は骨密度を1〜2%増加させます。運動習慣は骨に対して有効です。 ●医学的なサポート  整形外科ではビスホスホネート(アレンドロネートなど)の薬剤が選択肢としてあげられ、骨吸収を抑制し、大腿骨骨折リスクが約50%低減します。女性において、閉経後早期にホルモン補充療法(HRT)を開始することで骨密度を維持でき、適切な介入によって骨折リスクを3〜5割減らせます。 D認知症 →頭をすっきりと保つ  厚生労働省の推計※8では、65歳以上の約20%(約700万人)が認知症に罹患し、特に85歳以上では発症率が40%超とされています。また、女性は男性よりアルツハイマー病(AD)の発症率が高く、これはエストロゲン減少によって失う神経保護効果や、遺伝子の影響を強く受けると考えられています。アミロイドβやタウタンパク質の蓄積が脳の機能を障害します。 【生活においてできる対策】 ●睡眠  1日7〜8時間、しっかりと睡眠をとることで脳をリセットしましょう。 ●脳トレ  週3回以上の記憶力・計算課題、読書、パズルなど脳トレ的な要素を含む頭のエクササイズが、認知症予防に効果的とされています。 ●運動  週150分の運動で認知機能低下が抑制されるほか、血圧・糖尿病の管理によりAD発症リスクを低下できるため、AD予防としても生活習慣の見直しは大切です。 ●友人との時間  週1回のおしゃべりや趣味の集まりなど社会への参加で、認知症のリスクは3割減少します。社交的な活動がおすすめです。脳は「ちゃんと使おうと思えば使える」もの。友人との時間やちょっとした脳トレで、いつまでもすっきりとした頭を維持しましょう。 E身体機能の低下 →動ける体を大切に  身体機能面においての加齢による変化としては、骨密度の低下が知られていますが、筋肉量も毎年減少していきます。筋力と筋肉量の減少(サルコペニア)は意識的な運動習慣、特に筋力トレーニングで補える一方で、関節機能の変化により慢性的な痛みを経験する女性は少なくありません。変形性関節症の有病率は65歳以上で約半数と報告されており、膝の可動域が低下し、動作が制限され、痛みが生じることで活動量が減少し、肥満や筋肉量減少の原因となり、さらに身体機能の低下を引き起こす、といった負のスパイラルに陥りがちです。  仕事を長く続ける時代において、身体機能をある程度の状態に維持することは必須不可欠です。 【生活においてできる対策】 ●筋トレ  週2回の軽い筋トレで、筋力をキープしましょう。ペットボトルを持って腕を動かすだけでも筋トレになります。 ●関節ケア  毎日ストレッチして、柔軟な膝や股関節を維持しましょう。痛みが続くようであれば整形外科を受診しましょう。 ●動く習慣  意識的に階段を使ったり、1駅分歩いたり。少しの運動が体と心を元気にしてくれます。体は、意識的に動かすことでちゃんと応えてくれるもの。小さな一歩から、アクティブな毎日をお過ごしください。 B加齢は「自分を大切にするチャンス」  年齢を重ねることは、体の変化との出会いともいえます。でも、心血管疾患、糖尿病、がん、骨粗しょう症、認知症、身体機能の低下、どんな病気も、毎日の小さな習慣と早めのケアで、リスクを多少なりとも減らせるものです。運動、食事、睡眠といった生活習慣、定期的な健康診断やがん検診、そして友人との時間、ご自身の笑顔を大切に、これからの自分のためにできることを見つけてください。  これからは特に、自分が「健康の主役」です。今日からできることをまずは一つ、始めてみましょう。 ※1 内閣府「令和4年版高齢社会白書」および厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)」をもとに推計 ★ 本連載の第1回から最終回まで、当機構(JEED)ホームページでまとめてお読みいただけます  https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html ※2 厚生労働省「令和4年国民健康・栄養調査」 ※3 国際糖尿病連合(IDF)「糖尿病アトラス第10版」(2021年) ※4 国立がん研究センター「がん情報サービス『がん統計』」2020年データ(https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html) ※5 一般社団法人骨粗鬆症学会「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2015年版」 ※6 InternationalOsteoporosisFoundation「Facts&Statistics」(https://www.osteoporosis.foundation/facts-statistics) ※7 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)『日本人の食事摂取基準』策定検討会報告書」 ※8 厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」(2019年) 【P40-43】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第84回 団体交渉中の再雇用終了、偽装請負に基づく労働契約の成立 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲/弁護士 木勝瑛 Q1  団体交渉を継続しているなかで、再雇用を拒否することが可能なのか知りたい  定年後の労働条件について、当事者間では折合いがつかず、労働組合を交えた団体交渉に応じています。  会社として団体交渉には誠実に応じていこうと思っているのですが、当該社員が団体交渉の経過において会社の機密情報を必要以上に組合に共有したり、対外的にも事実と異なることを取引先にも伝えたりしており、定年後の再雇用を継続することがむずかしいと考えるようになりました。  団体交渉が継続しているような状況で再雇用を拒絶することは可能なのでしょうか。 A  原則として、再雇用を拒絶することは適切ではない対応となります。ただし、交渉に付随する行動を理由として、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が認められることもあります。 1 労働組合との団体交渉  労働組合法は、労働組合との団体交渉について、使用者に誠実交渉義務を課しており、これに違反する場合には、不当労働行為(同法第7条第2号)として、労働委員会への救済命令申立てにつながるほか、訴訟上で不法行為として損害賠償請求の原因になることもあります。  また、労働委員会への申立て等をしたことなどを理由として、解雇その他の不利益取扱いを行った場合も、同様に不当労働行為に該当します(同法第7条第4号)。  したがって、団体交渉の継続中については、使用者としては、団体交渉には誠実に応じなければならないうえ、不利益取扱いについても制限を受けている状態になります。  団体交渉の対象は、労働条件その他団体交渉に関する手続やルールなどは義務的団体交渉事項とされており、これを使用者が拒むことはできず、誠実交渉に応じる必要があります。  定年後の労働条件は、労働条件の一種であることから義務的団体交渉事項として対象になるところ、最近では、定年後の労働条件について、外部の労働組合に加入して団体交渉を求められるケースも出てきています。  もともと、社内に労働組合がない場合には、自社で団体交渉に対応することに慣れておらず、前述した団体交渉への誠実交渉義務なども知らないまま対応をしてしまうおそれもあります。まずは、労働組合からは、組合員の加入通知と団体交渉の申入書が届き、団体交渉の申入事項とあわせて団体交渉実施時期に関して、期限を区切って回答を求められることが一般的ですので、労働組合からの書面が届いたときには、自社で対応できるか否か、できない場合には専門家への相談などを検討することが重要です。 2 定年後の労働条件の交渉と再雇用拒絶  労働組合からの団体交渉事項として、ある労働者(もしくは定年を迎える労働者全般について)の定年後の労働条件が対象となることがあります。  使用者としては、同一労働同一賃金の観点もふまえつつ、なぜ定年後の労働者の労働条件が切り下げられるのかについて、説明を求められることが多いでしょう。  ここで、定年後に継続雇用される労働者の労働条件について、定年後に継続雇用された労働者であることのみをもって通常の労働者より待遇を下げることは不適切であることに注意が必要です。  業務の内容、責任の程度、配置の変更などさまざまな事情を考慮して通常の労働者との相違が不合理なものでなければ差が生じることは問題ありませんが均衡のとれたものとする必要があります。  ただ、これらに注意して定年後の労働条件を提示し誠実な交渉を尽くしていたとしても、労働組合(またはその組合員)が希望する内容では合意に至らず結論に齟齬があれば、労働組合による労働委員会への救済申立てに発展するケースもあります。 3 裁判例の紹介  団体交渉の経緯もふまえて、再雇用を拒絶するというケースについては、相当に慎重な判断を要すると思われますので、参考となる過去の裁判例を紹介したいと思います(東京地裁令和6年3月27日判決)。  事案としては、定年後再雇用対象となっていた労働者について、労働組合を通じた団体交渉を継続していたところ、不適切な行動が度重なっていたことから、契約を終了するために定年後再雇用を更新しない旨を通知したという事案です。  不適切な行動の内容が重要なところですが、会社が指示したシステム連携に必要なシステム構築の委託先と、当該システム連携で協力が必要な倉庫業者との打合せや具体的な業務遂行を遅々として進行させず、最終的には信用を喪失させて倉庫の保管契約を解除されるに至ったことや、日常的な対応として報告するように指示したことを無視して返答すらせず、改善も見られなかったという状況でした。特殊な背景事情としては、移管対象のシステムについて、労働者本人が構築に関与しており、仕組みや操作方法のマニュアルもない状態で、労働者本人の協力がシステム移管に必要だったという点もありました。  具体的には、システムの委託先と倉庫業者との打合せにおいて、当該労働者が@移管に関する必要性が社内で共有されておらず混乱していること、A当面の間は現行システムを利用したいこと、B会社とはこれまで労働条件に関して何度か裁判になったことや現在も裁判中であることなど会社の意向とは異なる内容を伝えた結果、システム会社の担当者から当該労働者がやりたくないといっているようにしか聞こえず非常に困っている、このままでは進められないと返答され、その後、労働組合の執行委員長からこれらの企業宛に労働委員会で審理されている事件の速記録を送付されるなどした結果、倉庫の保管契約なども含めて解除されるに至りました。  裁判所は、労働者および労働組合の行為を、システム移管の計画を頓挫させる目的で行われたもので、労働者がシステム会社および倉庫業者に伝えた内容も計画を頓挫させることをねらった行動と評価され、再雇用契約を更新しないことには客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性があるものと認め、契約の終了を認めました。  団体交渉においても、システム移管の計画自体の合理性や妥当性が交渉事項と関連させられていたものであり、更新拒絶するという判断には困難がともなうものであったことは想像に難くないところですが、たとえ団体交渉継続中といえども、労働時間中については、通常通りの労務提供が必要です。団体交渉中であったとしても、日常業務における労務提供に不備が著しい状況に至った場合には、再雇用契約を終了させるという判断も許容される場合があります。 Q2 業務委託先の従業員に対する指示は問題になるのか知りたい  当社は、長い間、他社にある業務を委託しているのですが、その会社の従業員に対する指示や労働時間に関する指示、服務規律に関する指示などは当社が行っています。何か問題はあるでしょうか。 A  いわゆる偽装請負として法令違反の問題が生じる可能性があります。偽装請負は、違反者には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金といった罰則があるほか、労働者との間の直接契約が認められる可能性があります。 1 偽装請負とは  他社に労働力を供給する、いわゆる労働者供給事業は、これを自由に許してしまうと労働者に対する不当な搾取につながりかねないため、法律で許された場合のみ許容されます(労働基準法第6条、職業安定法第44条)。また、労働者供給事業の一つである労働者派遣は、許可を受けた業者のみ行えるものとして、無許可業者がこれを行うことは禁じられています(労働者派遣法第5条第1項)。  そして、偽装請負とは、実質的にみれば労働者派遣(労働者供給)であるにもかかわらず、形式的には請負契約や業務委託契約を締結するなどの方法をとって、これらの法的規制を免れようとする行為をいいます。偽装請負を行った場合については、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が規定されており(職業安定法第44条、64条)、また、偽装請負の目的をもって偽装請負を行った場合には、労働者との直接雇用が認められる可能性があります(労働者派遣法第40条の6第1項5号)。 2 裁判例の紹介 (1) 事案の概要  偽装請負による直接雇用が認められた裁判例として、東リ事件(大阪高裁令和3年11月4日判決)があります。  本件では、床材の製造などを目的とする会社であるA社が、巾木(はばき)、床材の製造の請負業務などを目的とするB社との間で、巾木の製造および加工に関して、業務委託契約を締結し、B社に雇用された従業員らは、A社の工場において巾木工程などに従事していました。しかしながら、その後、A社とB社は、業務委託契約を労働者派遣契約に切り替え、契約期間満了をもって従業員らを整理解雇しました。  そこで、労働者らは、本件の業務委託契約が派遣法第40条の6第1項5号に該当するとして、A社からの直接雇用の申込みを承諾する旨の意思表示を行い、A社との労働契約上の地位の確認などを求め、訴訟を提起しました。@偽装請負の状態にあったか、A偽装請負の目的があったかが争点となりました。 (2) 偽装請負該当性  裁判例は、「請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することができない」としたうえで、「労働者派遣と請負との区別については、……『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示』が公表されて」おり、これを参照すべきとしました。  そして、本件では、B社は、業務の遂行方法に関する指示そのほかの管理を自ら行っていたとは認められないこと、B社が自己の従業員の労働時間管理をしていたとは認められないこと、B社がA社から製品の不具合に関して請負人としての法的責任の履行を求められたことがないこと、原材料や製造機械を自己の責任や負担で調達したものとは認められないことといった事情を認定し、偽装請負の状態にあったことを肯定しました。 (3) 偽装請負の目的  また、裁判例は、労働者派遣法第40条の6の規定の制度趣旨について、「違法派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定を図ることができるようにするため、違法派遣を受け入れた者に対する民事的な制裁として、当該者が違反行為を行った時点において、派遣労働者に対し労働契約の申込みをしたものとみなすことにより、労働者派遣法の規制の実効性を確保することである」とし、労働者派遣法第40条の6第1項5号について、「特に偽装請負等の目的という主観的要件を付加したもの」であり、「偽装請負等の状態が発生したというだけで、直ちに偽装請負等の目的があったことを推認することは相当ではない」が、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がないかぎり、……偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である」と判示しました。  これを前提に、本件では、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたとして、偽装請負の目的が肯定されています。  そして結論として、A社と従業員との直接雇用を認めました。 3 終わりに  本裁判例は、@偽装請負該当性の判断にあたって、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの)を参照していること、A偽装請負の目的の認定に際して、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていた場合には、特段の事情がないかぎり、偽装請負目的を推認するという考え方を採用したことが特徴的です。  他社に業務委託をする場合には、少なくとも、上記告示の基準を満たすものであることをチェックすることが重要でしょう。 【P44-45】 新連載 “学び直し”を科学する  「生涯現役社会」に向け、ミドル・シニア世代の“学び直し”が注目されています。しかし、その重要性は理解しつつも「勉強のやり方がわからない」、「モチベーションが続かない」という人は多く、ミドル・シニアを雇用する企業でも、いかにして学び直しを促進するか模索が続いています。そこで本連載では、1万人の脳を診断した脳内科医・医学博士として、脳を鍛える方法などに関する著書も多く執筆されている加藤俊徳先生に、脳の機能や加齢による変化、ミドル・シニアの学びのポイントなどについてお話しいただきます。 第1回 10代と50・60代の脳の違いとは? 株式会社脳の学校代表/加藤プラチナクリニック院長 加藤(かとう)俊徳(としのり) 脳は一生成長し続ける  「年齢とともに体力が低下するように、脳も衰える」と考えている方は多いと思いますが、それは違います。脳の成長は、いくつになっても右肩上がりです。私自身は約20年前に『老化に挑む』というタイトルのテレビ番組の監修にたずさわり、100歳以上の元気な高齢者の事例を見たときに確信しました。100歳になっても、新しいことを学ぶことはできるのです。100歳で学べるということは、それを支えている脳の仕組みがあるということです。  実際、「超頭頂野(ちょうとうちょうや)」と呼ばれる脳の部位は、人間だけに備わった、情報を分析して理解するときに働く高次脳機能を司り、40代で成長のピークを迎えます。実行力や判断力を司る「超前頭野(ちょうぜんとうや)」のピークは50代。脳が一生成長し続けることは、脳科学的にも明らかになっています。 脳の成人式は30歳  人の身長は20歳ぐらいまで伸びますが、身長が伸びると同時に頭も大きくなります。頭が大きくなるということは、脳みそが増え、重くなるということ。脳の重量は、女性だと16〜18歳、男性で20歳ぐらいまでにピークになります。つまり10代では毎日、脳が大きく重くなっているのです。脳の量が増えていく期間です。  20歳までは、脳の基本的な仕組みがつくられる時期で、20歳を超えたあとは、量は変わらず「質」をよくすることで脳が成長します。脳が構造上「大人になった」という状態になるのは30歳ぐらいです。つまり「脳の成人式は30歳」ということです。  では、脳の「質」とは何かというと、脳の中のネットワークです。神経細胞と神経細胞のネットワークで、私はこれを「脳の枝ぶり」と呼んでいます。脳のネットワークの質を高め、枝ぶりをよくする仕組みは、50・60代になっても、100歳になっても変わりません。 「脳の枝ぶり」がよくなり脳は成長する  脳の中で、高次脳機能を生み出す場所は「大脳(だいのう)」と呼ばれます。大脳は神経細胞でできた「皮質(ひしつ)」で覆われていて、内側には神経線維でできた「白質(はくしつ)」があり、この白質が皮質同士をつなぐ役割をになっています。  人が何かを見聞きして脳に情報を取り入れると、脳内の白質が伸びて太くなります。白質が変化すると、それにあわせて皮質の細胞も成長し、表面積が広がります。これが「脳の枝ぶりがよくなる」ということなのです。簡単にいえば、脳に情報を取り込めば取り込むほど、枝ぶりをよくすることができるということです。  逆に、年齢を重ね、加齢を理由に学ぶことを諦めたり、新しいことを始めることを億劫がったりしていると、脳内のネットワークが鈍化して、「脳のおじさん化」が起こってしまいます。 「学生脳」と「大人脳」の仕組みの違い  10代と50・60代の脳の一番の違いは、「無意味記憶」と「有意味記憶」です。無意味記憶は、意味がわからなくても、聞いたものをいったん脳内に入れて吸収するというもの。聴覚から記憶へとつながるルートが強くて使いやすくなっている、10代の「学生脳」では、無意味記憶が主体となります。  これが、年齢を重ねて経験値が上がり、蓄積された情報量が増えると、感情系や思考系の新たなルートが広がり、学生脳でのルートが徐々に使われなくなっていきます。そういう年齢を重ねた「大人脳」で優勢になるのが有意味記憶。50・60代では、耳から聞いたことを記憶するより先に、「それってどういう意味だろう?」という疑問がわき、意味を理解してから記憶するようになります。  「記憶から理解」するのが無意味記憶の仕組みで、「理解から記憶」するのが有意味記憶の仕組み。ここが50・60代と10代の脳との大きな違いです。聞いたそのままを記憶する、見たままを記憶できる10代と違って、50・60代が記憶するためには陰圧を加える必要があります。その脳の陰圧になるのが「好奇心」や「理由づけ」。あるいは「深い疑問」などです。生きるモチベーションを強くし、情報を脳の中に引き込む陰圧を強くする。それによって50・60代の脳は鍛えられます。 「大人脳」でリスキリング  記憶力の低下も物覚えの悪さも、加齢による脳の老化が原因ではありません。50・60代の学びではまず、「大人脳」の取り扱いについてしっかり理解するのがポイントでしょう。10代の「学生脳」と、いまの「大人脳」では仕組みが変わっていて、10代と同じ勉強法で学んでも、費やした時間に比例する効果は得られません。一方で、大人には大人なりの脳の使い方があり、それができれば学生時代よりも記憶力を高めることも可能でしょう。  学びにおいて50・60代の優位性はたくさんあります。50・60代で「自分には学歴がないから」、「私はたいした仕事をしてきていないから」などという人も多いですが、それはまったく違います。50・60代になるまでに、自分が何度目覚めて、何度食事をしてきたか、考えてみてください。だれもがその間に、多くを学んできているのです。  そうした、これまでの人生で学んできたことに対するリスキリングが大切だと考えます。これまで経験していない新しい分野でのリスキリングもありますが、多くの人が忘れている学び直しが、自分の人生のリスキリングです。自分が人生で得たものを、もう一度理解し直すということこそ、私は必要なリスキリングだと思います。  新しい分野でのリスキリングとともに、自分の人生のリスキリングができれば、50・60代は、さらに学んでいくことができるはずです。 (取材・文 沼野容子) 【P46-47】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー執行役員・ディレクター 吉岡利之 第58回 「労働生産性・労働分配率」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、労働生産性と労働分配率について取り上げます。両方とも人事の主要テーマである賃金水準や働き方に密接にかかわる指標(判断・評価の基準や目安)です。 労働生産性は労働者の成果を指標化したもの  まずは、労働生産性からみていきますが、労働生産性の定義の前にそもそも生産性とは何かについて確認していきましょう。  日本の生産性向上の推進活動を行っている公益財団法人日本生産性本部によると生産性の代表的な定義を「生産諸要素の有効利用の度合いである」とし、あるモノをつくる産出にあたり投入する生産諸要素がどれだけ効果的に使われているかを割合で示したものが生産性と説明しています。算式であらわすと「生産性=産出(output)÷投入(input)」となります。ここでポイントになる生産諸要素とは何かですが、モノをつくる際に必要となる機械設備、土地、建物、エネルギー、原材料、そして人が行う労働などになります。  労働生産性は、投入する生産諸要素を労働の視点からとらえたもので※1、労働者1人あたり、あるいは労働1時間あたりでどれだけ成果を生み出したかを示すものです。同じ労働量で多くのモノを生産したり、少ない労働量で同じ量のモノを生産すると労働生産性が向上した状態といえますが、これらを測るためには、おもに二つの方法があるとしています。 ・物的生産性…産出部分を生産するモノの大きさや重さ、あるいは個数などといった物量にしたもの ・付加価値生産性…産出部分を企業が新しく生み出した金額ベースの価値=付加価値額※2にしたもの 先ほどの算式にあてはめると、「労働生産性=産出(生産量/付加価値額)÷投入(労働者数×労働時間)」で労働者1時間あたりの生産性を測ることができます。  この労働生産性ですが、他国と比較して低いことがしばしば報道等で指摘されています。日本生産性本部が公表している『労働生産性の国際比較2024』という資料を参照すると、2023(令和5)年の日本の1時間あたり労働生産性(付加価値生産性)は56.8ドルでOECD※3加盟38カ国中29位という状況です。主要先進7カ国※4で順位を比較したグラフで経年を確認しても、1970(昭和45)年以降日本は最下位、また2018(平成30)年21位だったものが2022年には31位(2023年29位)と近年の落ち込みが大きいのが気になるところです。また、同資料に一人あたり労働生産性比較もありますが、OECD加盟38カ国中32位という状況で、日本の労働生産性は指摘の通り“低い”といえます。 労働分配率は人件費への還元度合いを指標化したもの  次に、労働分配率についてみていきましょう。労働分配率は、「付加価値額に占める人件費の割合」で、労働によって生み出された価値が従業員にどの程度還元されているかを示したものです。ここでの人件費には、従業員の基本的な賃金である給与・賞与のほか、退職金や法定福利費(社会保険料、労働保険料等)、福利厚生費(健康診断費用、慶弔見舞金、懇親会費など会社が独自に取り組む福利厚生の費用)、教育研修費、役員報酬など従業員を雇用するにあたりかかる費用のすべてが含まれます。  算式で示すと、「労働分配率=人件費÷付加価値額」で示すことができますが、労働分配率の見方については、労働生産性のように「高い状態=望ましい状態」には必ずしもならない点に注意が必要です。労働分配率が高い場合には、人件費の還元度合いが高い(望ましい)と付加価値額が小さい(望ましくない)の両方の状況が考えられるからです。同様に、労働分配率が低い場合には、付加価値額が大きい(望ましい)と人件費が抑制されている(望ましくない)の両方の状況が考えられます。これは、企業規模別に比較すると顕著で、統計上の賃金水準は小規模企業や中規模企業に比べて大規模企業が高い※5にもかかわらず、図表にあるように労働分配率は大規模企業がもっとも低い数値であることからもみられます。これは、大企業の付加価値額がもっとも高いことに起因しています。  しかし、『令和5年版労働経済の分析』(厚生労働省)に、「1996〜2000年では諸外国と比べても比較的高い水準であった我が国の労働分配率は、ここ20年間、一貫して低下傾向で推移し、2016〜2020年には、主要国で最も低くなっている」との記載がある通り、他国と比べて労働生産性が低く生み出される付加価値額が小さいにもかかわらず労働分配率も低いという実態があります。このことから、近年の賃上げ議論のなかで出てくる、企業の従業員に対する人件費の還元は十分ではないという指摘は十分妥当性があると考えられます。  一方、労働生産性が低いまま労働分配率を上昇させるだけでは企業経営の面からいつか限界が来ます。労働分配率を無理のない水準に保ちつつ、人件費の還元を増やすためには、日本が遅れているといわれている収益性の高い事業へのシフトやITを活用した業務プロセスの効率化、働き方改革による労働時間の短縮化などの労働生産性向上の取組みが不可欠になります。  次回は、「組織」について取り上げます。 ※1 このほかの生産性には、資本の視点からとらえた「資本生産性」や投入した生産諸要素すべてに対してどのくらい生産されたかの視点でとらえた「全要素生産性」がある ※2 付加価値とは、生産額(売上高)から原材料費や外注加工費、機械の修繕費、動力費など外部から購入した費用を除いたもの ※3 経済協力開発機構(OrganisationforEconomicCo-operationandDevelopment)。国際的な経済協力と発展を目的とした政府間組織のこと ※4 米国・フランス・ドイツ・イタリア・英国・カナダ・日本が対象 ※5 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」からも小規模企業・中規模企業に比べ、大規模企業の賃金が高いことが確認できる 図表 労働分配率の推移 大企業 57.6% 中規模企業 80.0% 小規模企業 86.5% 資料:財務省「法人企業統計調査年報」 (注)1.ここでいう大企業とは資本金10億円以上、中規模企業とは資本金1千万円以上1億円未満、小規模企業とは資本金1千万円未満。 2.ここでいう労働分配率とは付加価値額に占める人件費とする。 3.付加価値額=営業純益(営業利益−支払利息等)+人件費(役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課。 4.金融業、保険業は含まれていない。 出典:中小企業庁「2022年版中小企業白書」 【P48-51】 特別寄稿 事例にみる大企業の高齢社員(60歳前半層)の戦力化の現状と課題 〜業界における代表的な大企業10社に対するヒアリング調査結果より〜 玉川大学経営学部 教授 大木(おおき)栄一(えいいち) 1 企業の高齢社員(60歳前半層)の雇用状況  企業の60歳前半層(「高齢社員」)の雇用状況については、定年制の状況と高年齢者雇用確保措置の二つから整理すると以下のようになる。  前者については、2023(令和5)年の「高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)によれば、企業における定年制の状況について定年年齢別にみると、大企業、中小企業とも「60歳定年制」の企業の割合が65%以上を占めて最も大きく、特に大企業では77.2%の割合を占めている。また、60歳定年企業における定年到達者の動向をみると、87.4%の者が継続雇用されており、継続雇用を希望しない定年退職者は12.5%、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者は0.1%となっている。定年到達者の9割近くが同じ企業で継続雇用されていることがうかがえる。  さらに、2022年の「就労条件総合調査」(厚生労働省)でみると、定年制を定めている企業は94.4%であった。2007(平成19)年、2012年、2017年の同調査においても、9割以上の企業が定年を定めていた。定年制の定め方としては、定年制を一律に定めている企業が96.9%であった。定年制を職種別に定めている企業は2.1%、定年制をその他の方法で定めている企業は0.6%であった。2007年、2012年、2017年においても、9割以上の企業が定年制を一律で定めていた。また、一律定年制を定めている企業のうち(2022年の同調査を参照)、定年年齢を60歳としている企業は72.3%、65歳としている企業は21.1%、定年年齢を61〜64歳としている企業は2.6%、66歳以上としている企業は3.5%であった。経年推移をみると、定年年齢を60歳とする企業は減少傾向にあり、代わって定年年齢を65歳とする企業が増加傾向にある。  後者の高年齢者雇用確保措置は2013年に改正された高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)で導入された。その改正高齢法では、65歳までの雇用の確保を目的として、「定年制の廃止」、「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じるよう事業主に義務づけている。2023年の「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果によれば、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は報告した企業全体の99.9%となっている。高年齢者雇用確保措置の措置内容別の内訳についてみると、大企業(常時雇用する労働者が301人以上)では「継続雇用制度の導入」による実施が81.9%を占め、中小企業(同21〜300人)の68.2%を上回っている。一方、「定年の引上げ」(大企業17.4%、中小企業27.7%)や「定年制の廃止」(同0.7%、4.2%)」による実施については、中小企業のほうが大企業よりも実施率が高い状況にある。  さらに、70歳までの就業の確保を目的とした「高年齢者就業確保措置」(努力義務)の実施率についてみると、70歳までの就業確保措置を実施している企業は29.7%となっている。規模別にみると、中小企業のほうが大企業よりも実施割合が高い傾向にある。  上記のようなことから、65歳までの雇用確保について、現状では、定年年齢を60歳としたうえで、65歳までの継続雇用制度により実現する傾向が、特に大企業でみられることがわかる。継続雇用制度の場合は、雇用契約が有期雇用とされ、処遇などが60歳を契機に変更される可能性が高いと考えられる。いい換えれば、意欲がある高齢社員が、その能力を十分に発揮することができる仕組みの構築については取組みの途上にあるとも考えられる。 2 高齢社員の戦力化にかかる取組みの現状と課題  筆者が参加したわが国の各業界における代表的な大企業10社(「素材・資源A社」、「産業インフラ・サービスB社」、「運輸・公共C社」、「自動車・住宅(自動車)D社」、「自動車・住宅(住宅)E社」、「消費財・小売F社」、「生活必需品・ヘルスケアG社」、「金融サービスH社」、「エレクトロニクス・情報通信(エレクトロニクス)I社」、「エレクトロニクス・情報通信(情報通信)」J社)に対してヒアリング調査を行った三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2023)『生涯現役社会の実現に向けた調査研究事業報告書』(令和5年度厚生労働省委託)は、大企業における高齢社員の戦力化にかかる取組みの現状と課題を明らかにしている。  それによれば、第1に、65歳までの雇用確保については、調査対象企業10社すべてが実施済みであった。雇用確保の方法については、定年制を廃止した企業はなく、定年延長または継続雇用制度によるものとなっていた。また、定年制についてみると、60歳定年制が6社、60〜65歳の間での選択定年制が1社、65歳定年制が3社となっていた。65歳定年制となっている企業3社のうち、E社は2013年度という早い時期に定年を60歳から延長していた。A社は2021年度に、H社は2022年度に定年を延長しており、2021年4月施行の高齢法改正が延長のきっかけとなったほか、技能継承や人材確保の必要性が延長の背景にあった。  65歳を超えて働くことができる制度の導入については、一部の企業で実施されていたものの、今後の課題として位置づける企業が多かった。調査対象企業10社のうち、70歳までの就業確保を実施していた企業が5社、未実施の企業が5社であった。実施方法は継続雇用制度であり、70歳までの定年延長や定年廃止を行った企業、創業支援等措置を導入している企業はなかった。  第2に、60歳前後での働き方の変化(65歳までの働き方)についてみると、60歳前後で働き方が大きく変わらないとする企業が5社、働き方の選択が可能な企業が4社であった。また、定年延長や役職定年制の廃止により、60歳以前と働き方が大きく変わらなくなったとする企業が複数みられた。60歳以前と変わらない働き方とするか、短日・短時間勤務などでペースを落とした働き方とするかの選択が可能な制度としている企業も複数みられた。  第3に、高齢社員の処遇についてみると、調査対象10社のうち、高齢社員について、59歳までと処遇を切り替えている企業が7社、切り替えていない企業が3社であった。処遇が下がる場合は、定年前の5〜8割程度となっている。ただし、従前に比べると処遇を改善し、落ち幅を小さくしたり(自動車・住宅D社)、元管理監督者や専門性が高い者などについては個別契約とし、現役並みの処遇となりうるという企業もみられた(産業インフラ・サービスB社、生活必需品・ヘルスケアG社、エレクトロニクスI社)。定年後の処遇を下げない選択をした企業も一部みられたが、処遇は下げつつも従来より処遇の改善を図り、さらに、高齢社員も評価対象とし成果や働きぶりによって処遇に差がつく仕組みを入れることで、高齢社員のモチベーション向上や戦力化を図ろうとしていることがうかがわれた。  第4に、高齢期(60歳以降)の活躍に向けた取組み(キャリア形成支援・能力開発)についてみると、高齢期の活躍を見すえたキャリアづくりを考える機会については、中高年期以降から設けている企業が多いが、20代や30代など早期からの自律的なキャリアづくりを推進しているという企業もみられた。他方、能力開発については、調査対象企業10社においては、高齢社員も対象者に含めて能力開発を行っているという企業がある。ただし、特に高齢期に活躍するための能力開発を目的とした取組みを行っているという企業はみられなかった。「高齢社員は、定年以前に培った専門的ノウハウやスキル、および業界ネットワークを駆使して活躍(素材・資源A社)」という声もあり、高齢社員については、すでに身につけた知識や技術、人的ネットワークを用いて成果をあげることを企業は期待していることがうかがわれる。  第5に、高齢社員のニーズや意見の把握(社員とのコミュニケーション)に関しては、「社員の意見を把握する仕組み(労働組合等)」と「高齢社員に関する事項についての労使協議の有無」、の2点から整理すると、以下のようになる。  前者についてみると、調査対象企業10社のうち、労働組合ありは9社であった(組合なしは自動車・住宅E社)。労働組合あり9社のうち、ユニオン・ショップ制の組合があるという企業は5社(自動車・住宅D社、運輸・公共C社、産業インフラ・サービスB社、金融サービスH社、エレクトロニクスI社)、企業別労働組合は2社(素材・資源A社、消費財・小売F社)である。情報通信J社は任意加入の組合あり、生活必需品・ヘルスケアG社は一部工場に単体の組合ありとのことであった。なお、非正社員も組合員としている労働組合がある企業は3社(運輸・公共C社、素材・資源A社、消費財・小売F社)、元管理職や元役員が再加入できる労働組合がある企業は5社(運輸・公共C社、素材・資源A社、金融サービスH社、エレクトロニクスI社、情報通信J社)であった。  一方、労働組合がない企業(自動車・住宅E社)においては、「人事部員がヒアリング等を通じてニーズをくみ上げている」、「中期計画策定時(3年毎)に全社員(嘱託、契約社員も含む)に人事制度全般に関するアンケートを実施し、検討の材料にしている」とのことであった。  後者についてみると、労使の間で高齢社員に関する事項が取り上げられるかについては、「現時点で高齢者雇用が大きな論点として取り上げられてはいない(自動車・住宅D社、産業インフラ・サービスB社)」、「定年延長後は高齢者雇用が大きな論点として取り上げられてはいない」(素材・資源A社)」、「労働組合は定年延長について中長期で議論していきたいというスタンスを示している(運輸・公共C社)」との声が聞かれた。一方、過去の制度変更にあたっては、労使でていねいな話し合い・調整がなされていることがうかがわれた(自動車・住宅D社、運輸・公共C社、金融サービスH社)。制度設計や条件変更時は、再雇用者(非組合員)に対しても協議・ヒアリングを実施したという企業(金融サービスH社)もみられた。 3 求められる社員が60歳を超えて活躍し続けるための仕組みづくり  社員が60歳を超えて活躍し続けるためには以下の4点が重要になってくる。第1に、「これまでの定年=雇用の終了」という意味合いから「キャリアの節目としての定年制」へと定年制が変化していることを社員に理解してもらうことである。60歳を定年年齢とする企業においても、多くの者が60歳以降も継続して働いており、定年は退職の年齢ではなく、キャリアの節目となる年齢へと変化している。企業は定年前後で役割の見直しを求めることがあるが、現状では働く側にそのことがきちんと伝わっていない可能性がある。役割の見直しを求めるのであれば、企業はそのメッセージをしっかりと発信し、一方で働く側もそれを受けとめて自らの仕事やキャリアについて考える必要がある。  第2に、仕事と報酬の再設定である。65歳までの雇用確保についてはほぼすべての企業で実施がなされており、ヒアリング調査の対象とした大企業においても65歳までの雇用確保は行われているが、定年後の(あるいは高齢期の)仕事と報酬の再設定については多くの企業で取組みの途上にある。定年後の処遇を下げない選択をした企業も一部みられたが、処遇は下げつつも従来よりも処遇の改善を図る企業が多くみられた。企業においては、高齢社員の人数が増えるなか、高齢社員の「戦力化」を図っていくことが課題となっている。それを解決するためには、定年後ないしは高齢期に期待する仕事と役割を明確化し、その働きぶりを評価し、それに見合った納得感の得られる報酬を再セットすることが重要である。  第3に、高齢社員とのコミュニケーションである。企業は社員に対して、50代までは個別にキャリア研修をしたり、今後長く働くためにはどうしたらよいかについて、個人と企業の間でコミュニケーションをとるなどしている。しかし、ヒアリング結果からは、60歳以降についてはそうしたコミュニケーションの機会が、まだ整備されていないように見受けられる。65歳以降の活躍を考えるうえでも、高齢社員のニーズをくみ上げすり合わせるような企業と高齢社員とのコミュニケーションが重要である。企業では雇用期間が長期化するのに合わせて高齢社員の「戦力化」を求める流れがあるが、一方、社員の側では、高齢期になるとワーク・ライフ・バランスをより重視するなど仕事以外に重きを置くようになる者も増加する。高齢社員の多様なニーズに対して、労使間で個別に対応する柔軟性が重要である。その実現に向け、労働組合を通じた集団的なコミュニケーションと、個別ニーズを聞きとるような個別的なコミュニケーションの双方を通して、当事者のニーズを労使双方が納得する形で制度や取組みに反映させ、活躍と処遇がセットとなった仕組みをつくっていくことが、企業にとって今後ますます重要となる。  第4に、高齢期の活躍を見すえた自律的なキャリアづくり・能力開発である。企業が社員に期待するキャリアや役割を伝えるため、たとえば10年刻みなどでキャリア研修やキャリア面談を行っていくことが考えられる。それにより、企業と社員の双方にとって、スムーズなマッチングが図られることが期待できる。そうしたなかで、現状では、高齢期の活躍を見すえたキャリアづくりを考える機会については中高年期以降から設けている企業が多いが、今後はより多くの企業で、20代や30代など早期からの自律的なキャリアづくりに取り組ませることが考えられる。自律的なキャリアづくりの手段として、社員が自社のなかだけでなく社外での活躍の場を広げることについても、企業として支援していくことが考えられる。 【参考資料】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2023)『生涯現役社会の実現に向けた調査研究事業報告書』(令和5年度厚生労働省委託) (https://www.mhlw.go.jp/content/001252845.pdf) 【P52-55】 TOPIC 同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(労働者Webアンケート調査)結果(2025年3月27日公表) 独立行政法人労働政策研究・研修機構  正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇格差の解消に向け、2020(令和2)年4月に「パートタイム・有期雇用労働法」、「改正労働者派遣法」が施行されるとともに、同一労働同一賃金ガイドラインが策定されました。定年後再雇用となった嘱託社員など、高齢者雇用においてもこの同一労働同一賃金を遵守することが求められます。今回は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した、「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(労働者Webアンケート調査)結果」から、一部を抜粋して紹介します(編集部)。 <調査対象・調査方法>インターネット調査会社の登録モニターを対象に、2023年9月5日〜13日に調査を行い、国内在住かつ国内企業に勤務する、満15歳以上のパートタイム・有期雇用労働者(定年後の再雇用社員、派遣労働者を含む)計10,000人の有効回答を、性別・年齢層別に層化割付回収した。 2020年4月以降の待遇や労働条件の変化  全有効回答労働者(n=10000人)に2020年3月時点の就業状況について尋ねると、「現在の勤め先※1で、働いていた」割合は63.9%で、「現在の勤め先以外で、働いていた」が22.2%、「現在の勤め先で、働いていた(が1度退職し、再就職した)」が4.7%、「当時は働いていなかった」が9.2%となった。  その上で、全有効回答労働者のうち、「2020年3月以降」に定年を迎えた「定年後の再雇用社員」(=2020年3月当時はパート・有期雇用労働者でなかった者)と、2020年3月「当時は、働いていなかった」者を除く全員(n=8705人)に、約3年半前の2020年4月以降、自身に新たに支給・適用された待遇や労働条件※2の有無について尋ねると、何らか「あった」割合は30.8%で「特に変化はない」が69.2%となった。同様に、2020年3月以前から支給・適用されていたが、2020年4月以降に増額・改善された待遇や労働条件の有無についても尋ねると、「あった」割合は13.6%で「特に変化はない」が86.4%となった。なお、上記のいずれかが「あった」とする割合は、34.5%と算出された。  2020年4月以降、自身に新たに支給・適用された待遇や労働条件が「あった」場合(n=2677人)に具体的な内容をみると(複数回答)、「賞与・ボーナス※3」(36.8%)が最多で、次いで「通勤手当(交通費支給を含む)※4」(29.9%)、「定期的な昇給制度※5」(24.0%)、「時間外、深夜・休日労働に対する手当(割増率を含む)※6」(19.4%)、「特定の日に勤務したことに対する手当※7」(13.6%)、「その他(前の選択肢以外の、待遇・労働条件)」(8.9%)、「慶弔休暇」(8.3%)、「病気休職」(7.8%)、「退職金、退職手当」(6.1%)などがあがった。  同様に、2020年3月以前から支給・適用されていたが、2020年4月以降に増額・改善された待遇や労働条件が「あった」場合(n=1182人)の具体的な内容としては(複数回答)、「定期的な昇給制度」(22.2%)が最多で、これに「その他(前の選択肢以外の待遇・労働条件)」(19.2%)、「賞与・ボーナス」(15.1%)、「通勤手当(交通費支給を含む)」(10.2%)、「時間外、深夜・休日労働に対する手当(割増率を含む)」(9.9%)、「特定の日に勤務したことに対する手当」(9.5%)、「勤続年数に応じて支給される手当」(7.0%)、「前の選択肢以外の、福利厚生」(6.9%)などが続いた。  いずれも、いかなる待遇差が不合理なものであるか(ないか)等についての具体例を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」等で、同一の支給や相違に応じた支給等が規定された待遇要素が上位にあがっている。この点、(均衡・均等待遇の直接的(強行的)な法規制自体は旧パートタイム労働法の2007年改正で開始され、職務の内容や人材活用の仕組み等が同一でない場合の「不合理な労働条件の禁止」についても労働契約法の2012年改正で導入された経緯がある※8ものの)、不合理性の判断に当たっては個々の待遇毎に、当該待遇の性質・目的に照らし適切と認められるものを考慮して行われるべき旨が明確化されたことを受け※9、具体的な取組が進んでいるのではないかとみられる。  なお、こうした結果を、「フルタイム有期雇用労働者」「パートタイム有期雇用労働者」「パートタイム無期雇用労働者」「その他※10」別にみると、図表1の通りとなった。すなわち、2020年4月以降、自身に新たに支給・適用された待遇や労働条件が何らか「あった」割合は、「フルタイム有期雇用労働者」(33.8%)でやや高く、これに「パートタイム有期雇用労働者」(33.2%)、「パートタイム無期雇用労働者」(28.9%)が続く(すなわち、有期雇用要素>パートタイム要素)。  具体的にみると(複数回答)、例えば「賞与・ボーナス」などのようにいずれも1/3を超えて高い待遇要素がある中で「、通勤手当(交通費支給を含む)」や「時間外、深夜・休日労働に対する手当(割増率を含む)」「家族手当」「住宅手当」などのように、「フルタイム有期雇用労働者」ほど高い(言い換えれば右肩下がりで、有期雇用層で改善が図られた傾向の強い)ものがみられる一方、「定期的な昇給制度」や「特定の日に勤務したことに対する手当」等のように、むしろ「パートタイム無期雇用労働者」ほど高い(言い換えれば右肩上がりで、パートタイム層で改善が図られた傾向の強い)ものもあることが分かる※11。  同様に、2020年3月以前から支給・適用されていたが、4月以降に増額・改善された待遇や労働条件についても、何らか「あった」割合は「フルタイム有期雇用労働者」(15.3%)でやや高いが、「パートタイム有期雇用労働者」(14.3%)や「パートタイム無期雇用労働者」(12.7%)でも概ね同程度となった(図表2)。  具体的にみると(複数回答)、「定期的な昇給制度」や「賞与・ボーナス」などのように、図表1で最も低かった(高かった)分類が図表2では最も高い(低い)など、補完的なグラフ形状となっている待遇要素がみられる一方、「住宅手当」等のように図表1と図表2が概ね同様のグラフ形状となっている待遇要素があることが分かる。また、「特定の日に勤務したことに対する手当」や「その他(前の選択肢以外の、待遇・労働条件)」等のように、「フルタイム有期雇用労働者」や「パートタイム有期雇用労働者」で高く、有期雇用層で改善された傾向が強い待遇要素が見て取れる。 (中略) 定年後の再雇用前後の職務や働き方・収入の変化  「定年後の再雇用社員」(n=643人)を対象に、再雇用前後で、職務(業務の内容及び責任の程度)や働き方(人事異動・昇進の有無・範囲)がどのように変化したか尋ねると、「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わった」が29.1%、「職務の内容のみが、変わった」が6.5%、「人事異動・昇進の有無・範囲のみが、変わった」が27.8%で、「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない」が36.5%となった(図表3)。  総じて、何らか変わった割合が6割を超えた(計63.5%)ものの、約1/3は「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない」と回答した。  こうした中、定年後の再雇用前後で収入がどのように変化したか尋ねると、図表4の通りとなった。すなわち、(月収のうち)「所定内給与※12」について、全体では定年時を100%として、定年後は「60%未満に減少」の割合が半数を超え(53.7%)、これに「60%以上70%未満に減少」(18.7%)や「70%以上80%未満に減少」(12.3%)などが続き、総じて「減少」した割合計が約9割(90.7%)を占めた。「定年時と変わらない(同額)」は8.7%、「定年時より増加」は0.6%にとどまった。同様に、「税込み年収※13」については、定年後は「60%未満に減少」が6割を超え(62.2%)、これに「60%以上70%未満に減少」(13.4%)や「70%以上80%未満に減少」(9.0%)などが続き、「減少」した割合が計92.5%にのぼった。  こうした結果を定年後の再雇用前後で、職務や働き方がどのように変化したかと掛け合わせると、「所定内給与」や「税込み年収」が減少した割合及びその減少幅のいずれも、「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わった」場合ほど大きいのに対し、「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない」場合ほど小さく、その分、「定年時と変わらない(同額)」割合が増加する傾向が読み取れる。しかしながら、「職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない」場合のうち、更に、週の所定労働時間の長さについても「正社員と同じか長い」者(n=157人)が「定年後の再雇用社員」の約1/4(24.4%)みられ、その約8割は「所定内給与」や「税込み年収」が「減少」と回答している。  「定年後の再雇用社員」を巡っては、退職金や老齢厚生年金、企業年金・確定拠出年金等の受給を含めた総収入ベースの制度設計や、「高年齢雇用継続給付の支給要件※14」等もあり、特有の待遇取扱いが行われてきた経緯もあるが※15、定年後の再雇用であることのみを以て、直ちに待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない※16点、改めて、同一労働同一賃金ルールの周知徹底が求められる。 ※1 派遣労働者の場合は、「派遣元の会社(派遣会社)」について回答するよう注釈した ※2 いずれの待遇・労働条件も、自身を含めた全体の制度改定を含むと注釈した ※3 「同一労働同一賃金ガイドライン」で、雇用形態を問わず、同一の職務内容や貢献度に対しては同額を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合でも、その相違に応じた賞与を支給しなければならないなどと規定している ※4 通常労働者と同一の通勤手当等を支給しなければならないなどと規定している ※5 例えば、昇給であって労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常労働者と同様に勤続による能力が向上したパート・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合でも、その相違に応じた昇給を行わなければならないなどと規定している ※6 通常労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならないと規定している ※7 通常労働者と同一の勤務形態で業務に従事するパート・有期雇用労働者には、通常労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならないなどと規定している ※8 「2018年の働き方改革における正規・非正規格差是正政策は、政治的スローガンとして『同一労働同一賃金』と表現されていますが、これは様々な点でミスリーディングです。(中略)2018年改正前も改正後も、日本の正規・非正規格差是正規制のメインストリームは、労働が同一でない場合も、正規・非正規の格差(相違)が不合理であってはならないという均衡規制です」(荒木尚志発言(2021)「特集/正規・非正規の不合理な待遇格差とは」『Jurist』No.1555,pp.14-33) ※9 旧パートタイム労働法の2007年改正で、当該事業所の「通常労働者」と契約期間の定め、職務内容、職務内容と配置の変更の範囲が同一であるパートタイム労働者に対する差別的取扱いが禁止(初めて私法的効力をもつ規定が新設)された。また、労働契約法の2012年改正で、有期・無期雇用労働者間の不合理な労働条件の禁止規定が導入され、旧パートタイム労働法の2014年改正で同条文が採り入れられたが、「抽象度の高い条文規定であることから、同条の解釈が学説や裁判例によって大きく異なっていた」(阿部未央(2023)「多様化する雇用管理区分と処遇差に関する法規制」『日本労働研究雑誌』No.761,pp.57-67) ※10 契約期間の定めの有無か、正社員と比較した週所定労働時間の長さのいずれかが不明のケースや、派遣労働者で「フルタイム無期雇用労働者」のケース ※11 こうした分類による相違は、「フルタイム有期雇用労働者」に「定年後の再雇用者」(26.2%)や「派遣労働者」(17.1%)が多く、「パートタイム有期雇用労働者」や「パートタイム無期雇用労働者」には「パートタイム・アルバイト、契約社員・嘱託等の非正規雇用労働者」が多い(同順に87.7%、96.4%)といった特徴に基づくため、本文では一部掲載にとどめる ※12 「基本給+通勤手当、家族手当など毎月決まって支払われる諸手当を含み残業代は含まない」と注釈した ※13 「額面。賞与・ボーナス、社会保険料含む」と注釈した ※14 被保険者期間が5年以上の60歳以上65歳未満で、60歳以後の各月に支払われる賃金が75%未満の場合に、各月賃金の15%が支給される(60歳到達時点の賃金の61%未満で最大給付となる)が、令和7年4月1日以降は各月賃金の10%支給へ引き下げられる見通しとなっている ※15 なお、男性は令和7年度以降、女性は令和12年度以降、原則65歳以上でないと年金受給できなくなることもあり、「定年後の再雇用社員」になることを理由にした、(職務の内容や人事異動・昇進の有無・範囲など働き方の変化に基づかない)賃金の大幅減額に対する労働者了承は得られ難くなるとの見方もある ※16 同一労働同一賃金ガイドラインで、『定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、短時間・有期雇用労働法の適用を受けるものである。このため、通常の労働者と定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者との間の賃金の相違については、実際に両者の間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違がある場合は、その相違に応じた賃金の相違は許容される。さらに、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断されるものと考えられる。したがって、当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない』とされている 図表1 「フルタイム有期雇用労働者」「パートタイム有期雇用労働者」「パートタイム無期雇用労働者」「その他」別にみた2020年4月以降、自身に新たに支給・適用された待遇や労働条件 (%) n(人) あった 特に変化はない フルタイム有期雇用労働者 1,257 33.8 66.2 パートタイム有期雇用労働者 3,091 33.2 66.8 パートタイム無期雇用労働者 3,426 28.9 71.1 その他 931 25.6 74.4 有期契約・フルタイム労働者 有期契約・パートタイム労働者 無期契約・パートタイム労働者 その他 (複数回答) 定期的な昇給制度 19.8 23.8 27.9 16.0 賞与・ボーナス 36.7 38.4 35.8 34.0 家族手当 4.0 1.6 1.2 0.8 住宅手当 3.8 1.2 0.9 2.9 役職手当 3.5 1.8 1.6 1.7 精皆勤手当 2.6 1.6 2.6 3.4 時間外、深夜・休日労働に対する手当(割増率を含む) 24.2 20.4 16.9 17.2 通勤手当(交通費支給を含む) 38.8 28.4 26.3 35.7 食事手当 4.5 2.2 4.2 3.8 単身赴任手当 0.7 0.5 0.3 1.3 特定の地域で働く補償としての地域手当 1.2 2.4 1.1 2.1 退職金、退職手当 9.6 5.2 5.2 7.6 特定の日に勤務したことに対する手当 12.0 13.7 15.3 9.2 勤続年数に応じて支給される手当 3.8 6.0 7.4 3.4 給食施設や休憩室、更衣室の利用 7.3 5.5 6.4 3.8 前の選択肢以外の、福利厚生 6.1 4.5 4.2 3.4 慶弔休暇 12.0 8.0 7.1 7.1 病気休職 9.2 8.3 7.7 3.8 前の選択肢以外の、法定外の休暇、休職 3.3 4.0 2.1 0.4 教育訓練、能力開発(OJT) 4.9 3.2 2.2 1.3 教育訓練、能力開発(Off-JT) 1.4 0.8 1.4 0.8 その他(前の選択肢以外の、待遇・労働条件) 9.4 9.4 8.2 8.4 図表2 「フルタイム有期雇用労働者」「パートタイム有期雇用労働者」「パートタイム無期雇用労働者」「その他」別にみた2020年3月以前から支給・適用されていたが、4月以降に増額・改善された待遇や労働条件 (%) n(人) あった 特に変化はない フルタイム有期雇用労働者 1,257 15.3 84.7 パートタイム有期雇用労働者 3,091 14.3 85.7 パートタイム無期雇用労働者 3,426 12.7 87.3 その他 931 12.4 87.6 有期契約・フルタイム労働者 有期契約・パートタイム労働者 無期契約・パートタイム労働者 その他 定期的な昇給制度 26.0 20.0 23.0 20.9 賞与・ボーナス 15.1 13.8 15.9 17.4 家族手当 2.6 1.1 1.8 3.5 住宅手当 4.7 1.1 0.9 3.5 役職手当 3.1 1.8 2.1 2.6 精皆勤手当 1.0 0.9 2.5 時間外、深夜・休日労働に対する手当(割増率を含む) 10.9 8.8 11.3 7.0 通勤手当(交通費支給を含む) 9.9 10.9 9.4 10.4 食事手当 3.1 0.5 3.0 3.5 単身赴任手当 0.5 0.7 0.9 0.9 特定の地域で働く補償としての地域手当 3.6 2.5 1.8 3.5 退職金、退職手当 5.2 2.0 2.1 2.6 特定の日に勤務したことに対する手当 9.9 9.8 8.8 10.4 勤続年数に応じて支給される手当 6.3 9.1 6.2 3.5 給食施設や休憩室、更衣室の利用 3.1 2.5 4.8 6.1 前の選択肢以外の、福利厚生 7.8 7.3 6.5 5.2 慶弔休暇 4.2 5.4 5.1 2.6 病気休職 4.2 4.5 5.8 4.3 前の選択肢以外の、法定外の休暇、休職 4.7 6.3 3.7 4.3 教育訓練、能力開発(OJT) 1.0 1.8 2.1 2.6 教育訓練、能力開発(Off-JT) 1.0 1.1 0.7 0.9 その他(前の選択肢以外の、待遇・労働条件) 20.3 20.9 17.3 18.3 図表3 定年後の再雇用前後における自身の職務や働き方の変化 (%) n(人) 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わった 職務の内容のみが、変わった 人事異動・昇進の有無・範囲のみが、変わった 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない 何らか変わった計 定年後の再雇用社員計 643 29.1 6.5 27.8 36.5 63.5 週所定労働時間の長さ 20時間未満 56 26.8 7.1 32.1 33.9 66.1 20時間以上30時間未満 80 41.3 6.3 26.3 26.3 73.8 30時間以上 507 27.4 6.5 27.6 38.5 61.5 正社員と比較した長短 正社員より短い 202 35.1 8.4 23.3 33.2 66.8 正社員と同じか長い 420 26.7 5.5 30.5 37.4 62.6 わからない 21 19.0 9.5 19.0 52.4 47.6 勤め先の業種 建設業 45 24.4 4.4 22.2 48.9 51.1 製造業 160 23.8 7.5 29.4 39.4 60.6 情報通信業 61 29.5 3.3 37.7 29.5 70.5 運輸業 51 17.6 13.7 21.6 47.1 52.9 卸売業、小売業 69 36.2 7.2 24.6 31.9 68.1 金融業、保険業 40 45.0 2.5 35.0 17.5 82.5 不動産業、物品賃貸業 9 33.3 11.1 22.2 33.3 66.7 宿泊業、飲食サービス業 5 − − 60.0 40.0 60.0 生活関連サービス業、娯楽業 14 21.4 14.3 21.4 42.9 57.1 その他サービス業 78 32.1 2.6 29.5 35.9 64.1 教育、学習支援業 17 41.2 17.6 29.4 11.8 88.2 医療、福祉 50 20.0 6.0 28.0 46.0 54.0 その他 44 45.5 4.5 15.9 34.1 65.9 わからない − − − − − − サービス業計 97 28.9 4.1 29.9 37.1 62.9 勤め先の企業規模 300人以下 204 21.6 12.3 20.6 45.6 54.4 301人以上 396 32.6 4.0 32.8 30.6 69.4 わからない 43 32.6 2.3 16.3 48.8 51.2 図表4 定年後の再雇用前後の収入の変化 (月収のうち)所定内給与について (%) n(人) 60%未満に減少 60%以上70%未満に減少 70%以上80%未満に減少 80%以上90%未満に減少 90%以上100%未満に減少 定年時と変わらない(同額) 定年時より増加 減少計 計 643 53.7 18.7 12.3 4.0 2.0 8.7 0.6 90.7 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わった 187 71.7 15.0 7.5 2.7 0.5 2.7 − 97.3 職務の内容のみが、変わった 42 66.7 23.8 7.1 2.4 − − − 100.0 人事異動・昇進の有無・範囲のみが、変わった 179 53.1 20.1 14.5 4.5 2.2 5.6 − 94.4 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない 235 37.4 19.6 15.3 5.1 3.4 17.4 1.7 80.9 うち、週所定労働時間の長さも正社員と同じか長い 157 37.6 19.1 14.0 4.5 3.8 19.7 1.3 79.0 税込み年収について (%) n(人) 60%未満に減少 60%以上70%未満に減少 70%以上80%未満に減少 80%以上90%未満に減少 90%以上100%未満に減少 定年時と変わらない(同額) 定年時より増加 減少計 計 643 62.2 13.4 9.0 4.5 3.4 7.0 0.5 92.5 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わった 187 78.1 8.6 9.1 1.6 2.1 0.5 − 99.5 職務の内容のみが、変わった 42 76.2 11.9 7.1 4.8 − − − 100.0 人事異動・昇進の有無・範囲のみが、変わった 179 63.7 15.1 6.7 6.1 4.5 3.4 0.6 96.1 職務の内容も、人事異動・昇進の有無・範囲も、変わらない 235 46.0 16.2 11.1 5.5 4.3 16.2 0.9 83.0 うち、週所定労働時間の長さも正社員と同じか長い 157 43.3 18.5 8.3 6.4 4.5 18.5 0.6 80.9 【P56-57】 BOOKS 指示の出し方のスキルを上げて、生成AIを効果的に活用しよう! AIとコミュニケーションする技術 プロンプティング・スキルの基礎と実践 森重(もりしげ)真純(ますみ)著/インプレス/1980円  文章や画像、音声などを新たに生み出す「生成AI」。ChatGPTなどが登場した2022(令和4)年以降、脚光を浴び続けて、現在ではスマートフォンにも搭載される身近なツールとなっている。しかし、上手に活用するためには、ちょっとしたテクニックが必要になる。  本書は、生成AIを効果的に活用するための指示文「プロンプト」の技術に焦点をあて、そのスキルを身につけるための知識やノウハウをていねいに解説する。生成AIについての基礎知識から、具体的な例を交えながら、どのようにプロンプトを設計すればAIからより質の高い、より望ましい結果を引き出せるのかなどを説明。さらに、プロンプトエンジニアリングの基礎、生成AIをビジネスで安全に活用するためのナレッジなど、全115項目にわたって、図解を用いながら解説している。  AIが進化し続けることをふまえて、普遍的な「思考プロセス」や「応用ノウハウ」に重点を置いていることも本書の特徴で、長く使えるテクニックを身につけることができる。  生成AI人材を目ざす人をはじめ、ビジネスの現場で生成AIをより高い精度で使いこなしたい人などにおすすめの良書である。 モノの整理はもちろん、人生を整えることにも役立つ「整理術」 仕事の「整理ができる人」と「できない人」の習慣 大村(おおむら)信夫(のぶお)著/明日香出版社/1760円  机まわりが散らかっていて、必要な書類を探すのにいつも苦労している…。ある調査によると、ビジネスパーソンは平均して年間150時間を「モノを探すこと」に費やしているそうだ。  本書は、モノの整理をはじめ、仕事の生産性向上や人間関係の改善にも役立つ「整理術」を伝授する一冊。それは、ドラッカー理論やキャリア理論、行動経済学などをベースにした、「マネジメント理論」に基づく術だという。  著者は、モノを整理することで「心」や「思考」も整理され、人生に好循環が生まれるというオリジナルメソッドを提唱。キャリアコンサルタント資格も保有し、企業を中心に「片付け」「、仕事の生産性」、「キャリア」などのテーマで、研修やセミナーの講師としても活躍している。「整理」することは、仕事の生産性や、タイムマネジメント、感情、キャリアなど人生を整えることにつながるという。  本書の前半では、物理的な環境の整え方を、後半では「仕事の進め方」、「思考」、「感情」、「人間関係」などの整え方を説いている。  定年退職などの人生の節目に自分の棚卸しをしたいと考えている人にとっても、多くのヒントが得られそうな内容だ。 高齢者専門の精神科医が示す、人生後半を自分らしく生きるヒント 50歳からのチャンスを広げる「自分軸」 和田(わだ)秀樹(ひでき)著/日東書院本社/1540円  著者の和田秀樹氏は、高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場にたずさわっている。そのなかで実感した一つとして、高齢になるとこれまで信じてきた常識が通じなくなることが多くあるが、それに上手に適応することが高齢期の幸せにつながるという。また、「人生をしぶとく生きる術を身に付けている人のほうが老後に適応しやすいといえる」ということも綴っている。  本書は、人生の折り返し地点に立った50代に向けて、仕事、お金、他者、医療、テクノロジー、そして、過去の自分へのこだわりから自由になり、自分らしい人生を楽しむための知恵とヒントが詰まった生き方の指南書。  仕事については、健康であるならば、何歳になっても働き続けることがあたり前の世の中が到来したとして、「いつかは肩書を外さないといけないという覚悟を持って長い人生で何ができるかを考える。その準備が50代こそ必要」だという。自分らしく生きることについては、「昔はできたけど、いまはできない」というマイナス思考に陥らずに、「いまの自分に何ができるか」を考え、「いまを楽しむ姿勢が大切」と強調する。高齢期に向かう心を潤してくれるような一冊だ。 高齢者介護の歴史がわかる本。「昔の日本人も介護が大変だった」 武士の介護休暇 日本は老いと介護にどう向きあってきたか ア井(さきい)将之(まさゆき)著/河出書房新社/1078円  現代のように医療が発達していなかった昔は、長生きする人はほとんどいなかったに違いないと、多くの人が思っているだろう…。  ところが、本書によると、介護を必要とする人が江戸時代にもそれなりにいて、武士は「看病断(ことわり)」という名の介護休暇を取得して肉親の介護にあたっていた、などの意外な高齢者介護の歴史がいくつも解き明かされている。  本書は、史料をひも解きながら、江戸時代を中心に、日本における高齢者介護の歴史を読みやすい文章で紹介している。  第1章では、江戸時代の介護事情を、第2章では、江戸時代の老いに対する価値観を取り上げ、第3章から第5章にかけては、古代〜中世時代の老いと介護の実情に迫り、第6章では、古代〜中世期と比べつつあらためて江戸時代の介護事情をまとめている。そして、「昔の日本人も同じように介護が大変だった」と著者は綴る。  江戸幕府の定めでは、高齢者の隠居を病気隠居と老衰隠居の2種類に分け、老衰隠居は70歳とされていたそうだ。現代とあまり差のない、かなり高齢の設定に驚く。このような歴史を知ることで、現代の仕事と介護を両立させるための知恵や新たな工夫がみえてくるかもしれない。 長く働いていくために、現代に則したマナーへアップデート! 人には聞けない 60歳からのビジネスマナー 株式会社高齢社(監修)/宝島社/1650円  65歳を超えても働く人が増えているなか、働くことへの価値観や職場でのコミュニケーションの常識は30年、40年前とは大きく変わってきている。しかし、もし定年後に新しい職場で働くことになったとき、新入社員のときのようなマナー研修を受ける機会はほぼないだろう。  本書は、シニア世代が長く働くうえで大切になるのはマナーであるとして、現代の職場に適応するための身だしなみから敬語の基本、職場で避けるべきNGワード、メールやビジネスチャットの基本、働くときの心得まで、アップデートしたいマナーの基本を紹介している。  例えば、かつてのリーダーも新しい職場では新人であり、若い人たちの話を聞き、学ぼうとする姿勢が求められる。そのとき、「まだまだ成長できる自分」を楽しむといった意識が持てると、結果として長く働き続けることができる「自分」や「環境」をつくることができるという。  シニア派遣事業を手がける株式会社高齢社(本書監修)に登録して、実際に働いている5人のシニアへのアンケートも掲載し、定年後に働くことについての実感や、元気で働くために気をつけていることなどが回答されている。楽しく長く働きたい人にとって参考になる内容だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「男女間賃金差異分析ツール」を公開  厚生労働省は、おもに中小企業向けに男女間賃金差異の要因を分析できる簡易なツールとして「男女間賃金差異分析ツール」を作成し、公開している。  日本における男女間賃金格差は、先進諸国と比較すると依然として大きい状況にあり、さらなる縮小が求められている。そのため、2022(令和4)年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がなされ、従業員数301人以上の企業に対して「男女の賃金の差異」の公表が義務づけられた。  このほど公開された「男女間賃金差異分析ツール」は、自社の男女間賃金差異をはじめとする労務管理の基本データを入力することで、同業種・同従業員規模の企業平均のデータとの比較が可能で、自社の女性活躍に関する強みや課題を明らかにすることができる。  また、同ツールより踏み込んで男女間賃金差異の要因分析ができる「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン(パンフレット)」についても、男女間賃金差異の現状の更新および女性活躍に関する各種支援ツールの追加などにより刷新した。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53416.html  「男女間賃金差異分析ツール」、「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン(パンフレット)」ともに、左記特集ページからダウンロードできる。 ◆女性活躍推進法特集ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html 厚生労働省 令和7年6月1日施行の職場における熱中症対策の強化/リーフレットを作成  熱中症の重篤化による死亡災害を防止するため、事業者に「早期発見のための体制の整備」などを義務づけることをおもな内容とした「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱」について諮問を受けた労働政策審議会は、2025(令和7)年3月12日、厚生労働省案を妥当と認める答申をした。  今回の規則改正では、熱中症を生じさせるおそれのある作業を行う際に、熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた者が、その旨を報告するための体制の整備を事業場ごとにあらかじめ定め、関係者に対して周知することを事業者に義務づけるとしている。  また、熱中症が生ずるおそれのある作業を行う際には、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせることなど、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知することを事業者に義務化する。  改正省令の施行は、2025年6月1日。「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施」が見込まれる作業を対象として、事業主に対し、具体的な熱中症対策を講じることが義務づけられる。 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/newpage_00043.html ◆職場における熱中症対策の強化について(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf 厚生労働省 「令和6年賃金構造基本統計調査」結果を公表  厚生労働省は、「令和6年賃金構造基本統計調査」の結果を公表した。  調査は、2024(令和6)年6月分の所定内給与について調べたもので、今回まとめられたのは、常用労働者10人以上規模の5万682事業所について集計したもの。  調査結果によると、一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の男女計の賃金額は33万400円(前年比3.8%増)、男女別では、男性36万3100円(同3.5%増)、女性27万5300円(同4.8%増)となっている。男女間賃金格差(男=100)は、75.8(前年差1.0ポイント上昇)となっている。  男女別に賃金カーブをみると、男性では、年齢階級が高くなるにつれて賃金も高く、55〜59歳で44万4100円(20〜24歳の賃金を100とすると189・6)と賃金がピークとなり、その後下降している。女性では、45〜49歳の29万8000円(同129・2)がピークとなっているが、男性に比べて賃金の上昇が緩やかとなっている。  短時間労働者の1時間あたり賃金は、男女計1476円(前年比4.5%増)、男性1699円(同2.5%増)、女性1387円(同5.7%増)となっている。男女別に1時間あたり賃金を年齢階級別にみると、1時間あたり賃金が最も高い年齢階級は、男性では、50〜54歳で2434円、女性では、30〜34歳で1545円となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html 厚生労働省 「職業情報提供サイト(jobtag)」等をリニューアル  厚生労働省は、職業情報提供サイト「jobtag(じょぶたぐ)」および職場情報総合サイト「しょくばらぼ」をリニューアルした。  「jobtag」は、500を超える職業について、ジョブ、タスク、スキル等の観点から職業情報を「見える化」し、求職者の就職活動や企業の採用活動、人材育成を支援するWebサイト。企業の採用活動においては、求める人物像の明確化、人材育成では、従業員のスキルの棚卸しによる教育や訓練の検討、人材配置の検討などにも活用できる。年間のアクセス件数が2000万件を超えるが、仕事を探している人や、企業の採用・人事担当者、転職・就職を支援するキャリアコンサルタントなどより幅広い人々に活用してもらえるよう、サイト機能を紹介する使い方動画を拡充し、新たにキャリアコンサルタントなどの支援者に向けた動画を追加した。加えて、職業情報の掲載について、新たに10職業を追加。さらに、各職業の賃金に関する情報を追加した。  「しょくばらぼ」は、企業の職場情報を求職者や学生などに総合的・横断的に提供するWebサイト。このほど、掲載対象企業の拡大(法人番号を持つすべての企業が掲載可能)や、提供項目を追加するなどのリニューアルを行った。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_54345.html ◆職業情報提供サイト(jobtag) https://shigoto.mhlw.go.jp/User ◆職場情報総合サイト(しょくばらぼ) https://shokuba.mhlw.go.jp 中小企業基盤整備機構 補助金ポータルサイト「補助金活用ナビ」を公開  独立行政法人中小企業基盤整備機構は、補助金の効果的な活用をサポートするためのポータルサイト「補助金活用ナビ」を公開した。  補助金活用ナビは、中小企業・小規模事業者へ向けて、各種補助金の概要をはじめ、補助金のメリットや活用する際の注意点、補助金の基礎知識や補助金に関する用語集、活用事例などを幅広くまとめたポータルサイト。登録手続きなどは不要で、だれでも無料で利用できる。  補助金を活用することについて同サイトでは、「単なる資金調達だけでなく、企業の経営戦略を見直すきっかけにもなります。事業成長のための補助金制度を活用し、売上拡大・業務効率化・設備投資を実現しましょう。目的に応じた補助金を活用し、ビジネスの可能性を広げてください」として、「販路開拓を支援する補助金」、「業務効率化・DX推進を支援する補助金」など目的別に補助金を紹介。また、補助金活用事例では、地域伝統工芸の事業承継に補助金を活用した従業員4人の鍛冶工房や、補助金を活用して効率的な増産体制を実現した企業など多数の事例を掲載している。 https://www.smrj.go.jp/press/2024/f7mbjf0000007mmb-att/20250327_press02.pdf ◆補助金活用ナビ https://seisansei.smrj.go.jp  おもな支援メニューは、中小企業基盤整備機構が所管する補助金の制度紹介、補助金の手引き(補助金の基礎知識、補助金虎の巻、用語集)、経営戦略の基礎(生産性向上とは、相談先一覧)など。 調査・研究 JILPT 「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」結果を発表  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査、労働者調査)の結果を発表した。調査は、厚生労働省からの要請を受けて、2024(令和6)年10月〜11月に実施した。  企業調査の結果をみると、従業員に対して実施する人材育成・能力開発の教育投資が、「職場の生産性の向上」に「効果がある」、「ある程度効果がある」とする企業は84.8%で、8割超の企業が、教育投資が生産性向上に効果的と認識していた。  従業員の人材育成・能力開発における課題をたずねると(複数回答)、「指導する人材が不足している」(33.5%)の回答割合が最も高く、「人材を育成しても辞めてしまう」(32.1%)、「人材育成を行う時間がない」(30.8%)などが続いている。  労働者調査の結果をみると、仕事に関わる自己啓発(自発的に行う教育訓練)を行った従業員は14.9%で、300人以上の会社に勤務する人では約2割(19.4%)で、規模が大きい企業で働く人ほど自己啓発を実施している。一方、自己啓発を行わなかった理由(複数回答)は、「仕事が忙しくて時間が取れない」(32.8%)が最も高く、次いで「自己啓発を行っても会社で評価されない」(26.1%)「、費用を負担する余裕がない」(21.5%)などとなっている。 https://www.jil.go.jp/press/documents/20250313.pdf 【P60】 次号予告 7月号 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 岡田邦夫さん(特定非営利活動法人健康経営研究会理事長) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今号の特集は「介護離職防止」をテーマにお届けしました。介護が必要な家族がいるのは、40〜60代のミドル・シニア世代が中心となります。経験豊富でまさに働き盛りの世代なだけに、企業には介護離職の防止はもちろん、パフォーマンスを最大限に発揮できるような仕組みづくりが求められます。本企画がその参考になれば幸いです。 ●2024(令和6)年12月号から連載してきた「加齢による身体機能の変化と安全・健康対策」は今回で最終回です。加齢にともなう身体機能の低下は、個人差はあれど避けては通れない現象といえ、企業にはそれに対応し、高齢社員が安心・安全に働ける職場環境の整備に取り組むことが求められます。JEEDホームページに、同連載をまとめて掲載していますので、必要に応じぜひ読み返していただければ幸いです。 ●今号より、新連載「“学び直し”を科学する」がスタートしました。ミドル・シニア層にとっては、「いまさら勉強なんて」とモチベーションが上がらなかったり、「学生のとき以来数十年ぶりで勉強のやり方がわからない」という人もいたりするかもしれません。そんな方は、ぜひ本企画をお読みいただき、自分の脳構造の変化を理解したうえで学び直しに取り組んでみてください。 月刊エルダー6月号 No.547 ●発行日−−令和7年6月1日(第47巻第6号通巻547号) ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.352 一品一品ていねいに仕上げるこだわりの傘づくり 洋傘職人 奥田(おくだ)正子(まさこ)さん(77歳) 「学んだことを、ただそのとおりやるだけではなく、自分なりのやり方を加味して、よりよいものづくりを目ざしてほしいと思います」 会社を経営しながら自らも伝統工芸士として活躍  江戸時代後期に日本に伝わった洋傘は、明治に入り、東京の職人たちによって試行錯誤が重ねられ、独自の手法で生産されるようになった。それが「東京洋傘」だ。2018(平成30)年には東京都の伝統工芸品に指定されている。  いま、傘の生産地は中国が中心だが、自社で工房を立ち上げ、東京洋傘の伝統技術を受け継ぎ、職人の手による品質にこだわった傘づくりを行っているのが、東京・日本橋茅場町(かやばちょう)にある株式会社市原(いちはら)である。  「自社ブランドの紳士傘を中心に、企画から製造、販売まで一貫して手がけています」  そう話すのは、代表取締役の奥田正子さん。同社は奥田さんの父が1946(昭和21)年、紳士向けの服飾雑貨を製造・販売する会社として創業した。奥田さんは2005年に4代目社長に就任。経営をになうかたわら、東京洋傘の伝統工芸士として、傘づくりにたずさわっている。 美しいフォルムを実現するための技  洋傘の製作工程は、材料の選定から裁断、縫製、仕上げまで多岐にわたる。なかでも重要なのが、生地の特性を見きわめて裁断することだという。傘は骨が8本なら、8枚の三角形の生地(こま)を裁断し、縫いあわせて1枚の傘カバーに仕立てる。  「生地は種類や織り柄によって伸縮性が異なります。それを計算に入れて裁断しないと、傘を開いたときの美しいフォルムは実現できません。そのため、当社では生地の種類ごとに異なる木型をつくり、さらに柄をあわせるために1枚ずつ裁断するようにしています」  百貨店などで販売する同社の主力商品は、もう一人の伝統工芸士が担当し、奥田さんはおもにサンプルや注文品などの一点物を担当する。例えば61ページ写真の左は大島紬の反物から、右はちりめんの着物から仕立てたものだ。一点物の場合、つねにその生地にあわせた型が必要になる。奥田さんは、長年服飾業界にたずさわってきた経験をもとに、生地の伸び率をふまえて計算し、最適な寸法の型紙を起こす。そして、柄がきれいにあうように生地を裁断して縫製する。  東京洋傘の特徴の一つに「関東縫い」がある。三角形の生地同士を、傘の下側にあたる面積の広い方から縫っていく関西縫いに対して、上部にあたる細い方から縫っていく方法で、仕上がりが美しいとされる。しかし、上から縫っていくと、後から縫う広い面がずれやすい。ずれないように生地をうまく調製しながらミシンをかけるのも、経験のなせる技といえる。 技術の継承は「務め」と心得て後進の育成に尽力  奥田さんは小学生のころから洋服をつくるほど手先が器用で、大学で被服を学んだ後は、ニットデザイナーとして活躍。1985年、家業である市原に入社した。当初は経理を担当していたが、もともと洋裁好きだったこともあり、自然と傘づくりへの興味を深めていく。さまざまな傘職人から技術を学び、そこに自身の経験やセンスを加えて腕を磨いてきた。  そんな奥田さんが近年、力を注いできたのが洋傘職人の育成だ。東京洋傘の伝統工芸士は10人に満たない。その技術を絶やさないために、「傘職人養成講座」で同社の伝統工芸士2人が講師となり、これまで50人近い職人を育てた。一定の成果を上げたことから講座は終了したが、いまでも希望者がいれば教えるという。  「私自身も先生方から習ったように、技術の継承は自分の務めだと思っています。技術は基本を大事にしつつも、時代や環境の変化にあわせて工夫を重ねることが大切です。傘づくりも、ただ教わったとおりに続けるのではなく、世の中の変化にあわせて柔軟に進化させていく姿勢が求められます。特に、いまは使い捨ての時代ではありませんから、資源の大切さに配慮したものづくりができる職人が育ってほしいと願っています」 株式会社市原 TEL:03(3669)2061 https://ichihara-1946.com (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 経験が重要な工程の一つが生地の裁断だ。生地によって伸び率が異なるため、それを考慮した型をつくり、その型を使って生地を1枚ずつ裁断していく 市原がつくる洋傘には、甲州織の生地や天然木のハンドルなど、職人のこだわりが詰まっている(写真提供:株式会社市原) 生地裁断用のカッター。右は奥田さんが長年愛用してきた小刀。くり返し研いで刃が短くなっている 三角形に裁断した生地2枚を、チェーンステッチで縫いあわせる。その際、上の生地と下の生地で進み具合が異なるため、柄がずれやすい。そのため、二つの生地がずれないように生地を引っ張り調整しながら縫っていく 三角形の生地を8枚縫いあわせると、傘のカバーができあがる。中心部分の中棒を通す穴の周囲を補強するための「天かがり」は手で縫いあわせている 生地の裁断に用いる木型。生地によって伸縮の度合いが異なるため、市原では同じ骨を使う傘でも、生地の種類ごとに木型をつくって対応している 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は空間認知力を鍛えると同時に、見る角度を変える、見方を変える力を鍛える問題です。これらを鍛えることで空間認知にかかわる頭頂連合野のほか、想像力にかかわる前頭前野、頭頂側頭接合部が活性化するといわれます。「見方が一方的」、「がんこになった」といわれないよう、やわらか頭を目ざしましょう。 第96回 積み木カウントクイズ 目標5分 ブロックを積み重ねた図形が並んでいます。 それぞれの図形を構成しているブロックの数を答えましょう。積み重なって見えていない部分のブロックは隙間なく積まれているので、空洞はありません。 @ 個 A 個 B 個 C 個 空間認知力を鍛えましょう  脳の活動を調べると、慣れないことに挑戦したときや苦労しているときに、ワーキングメモリにかかわる脳の前頭前野という部分が強く活性化します。しかしながら、その頭の使い方に慣れてくると鎮静化していき、脳活性にはつながらなくなってしまいます。  毎日、習慣的になった活動をしているだけでは、脳は鍛えられないということです。そこで、今回のような、非日常的な刺激となる脳トレが有効なのです。ワーキングメモリは、脳トレを行った分だけ機能強化につながります。  また、今回の脳トレは、空間認知力も鍛えることができます。空間認知力とは、目の前にあるものの位置関係を把握する力です。自動車や自転車の運転をしたり、キーボードを打ったり、地図を見ながら目的地へ向かったりすることができるのは、この力のおかげです。  空間認知力が衰えてしまうと、的確な判断ができなくなったり、判断に時間がかかるようになったりするので、しっかりと鍛えましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @11個 A14個 B18個 C28個 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年6月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 『70歳雇用推進事例集2025』のご案内  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  本事例集では、70歳以上の定年引上げ、70歳以上の継続雇用制度の導入、定年制の廃止を実施した事例を掲載しています。  各事例では、高齢社員の戦力化や賃金制度、安全衛生などについて詳しく紹介しています。 インタビュー形式で掲載 制度改定の経緯や苦労話をインタビュー形式で紹介しています。 検索ガイドを掲載 企業規模や業種を超えた共通の課題に対応した事例を検索することができます。 『70歳雇用推進事例集2025』はJEEDホームページから無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 2025 6 令和7年6月1日発行(毎月1回1日発行) 第47巻第6号通巻547号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会