はじめに これまで障害者雇用は障害者雇用促進法により義務となっている法定雇用率の達成をおもな目的として取り組んでいる企業が多くみられました。しかし、近年の労働市場や経営環境の変化などにともない、障害者雇用の意義は大きく変わりつつあります。人的資本経営やDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の視点が重要視されるなかで、障害者雇用をどのように「経営」に組み込むとよいのかをみていきます。障害者雇用を経営視点から見る意義 企業が持続的に成長するためには「多様な人材を活かし、組織全体を向上させること」が求められます。労働力人口の減少や市場の多様化が進む現在、従業員一人ひとりの能力を引き出すことは、競争力の維持・向上に直結するからです。このような流れのなかで、障害者を「組織の戦力」としてとらえる企業が増えています。 人的資本経営は、人材を「コスト」ではなく「資本」としてとらえ、長期的な成長のために投資する考え方です。人的資本経営を推進する企業では、従業員のスキル開発や働きやすい環境の整備に力を入れて従業員の力を最大限に引き出すことで、組織全体の競争力を高めることを重視しています。この観点から考えると、多様な人材を活用することは、企業の持続的成長に直結します。 多様な人材の活躍は、DEI推進の一環として進められることも多くなっています。しかし、このなかに女性や外国人、シニアなどが含まれることがあっても、依然として障害のある人は「特別な配慮が必要な存在」として扱われがちです。まずは、人材という大きな枠組みのなかに「障害者」を組み込むことが重要です。なぜ、人的資本経営的な取組みが重要なのか これまでの障害者雇用は人事部門や管理部門が担当することが多く、実務的なことが中心となりがちでした。一方、人的資本経営は経営の一環として経営企画部門が関与することにより、次のような広がりが期待できます。・障害者雇用を経営戦略に組み込む 経営方針や中長期の企業戦略を考慮執筆者松まつ井い優ゆう子こさん障害者雇用ドットコム代表東京情報大学非常勤講師図1 障害者雇用における人的資本経営の役割部門間協力KPIの設定と評価経営戦略の統合筆者作成クローズクローズアップアップ 2024(令和6)年度の障害者雇用状況をみると、民間企業における雇用障害者数は67万7461.5人、実雇用率は2.41%と、過去最高となりました。そして近年では、法定雇用率の達成にとどまらず、人的資本経営やDEIの観点から、障害者雇用のあり方を見直す必要性が高まっています。第2回は、そのような新たな視点をもち、障害者雇用を経営戦略に組み込んで企業が成長していく方法について、松井優子さんに執筆していただきました。障害者雇用率向上へのヒント障害者雇用率向上へのヒント人的資本経営と障害者雇用人的資本経営と障害者雇用~企業成長を加速させる新たな視点~~企業成長を加速させる新たな視点~第2回第2回働く広場 2025.510
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