働く広場2025年5月号
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したうえで、コンプライアンス対応だけでなく、企業の持続的成長に貢献する雇用を設計することができます。そのため業務プロセスの見直しや業務範囲を拡大することにより、従来では障害のある人を雇用することがむずかしいとされていた部門や職種での雇用を広げているケースが増えています。・部門間連携の強化(人事×経営企画) 経営企画部門がかかわることで、組織全体の経営戦略と連携しながら進めることができ、人事部や担当部署の問題というだけでなく、「企業全体の経営課題」として認識されやすくなります。また、経営層に雇用障害者数や法定雇用率だけでなく、組織に貢献している障害のある社員の情報が届きやすくなります。・KPI設定と継続的な成果の検証 障害者雇用だけをみていると法定雇用率に関する「数値目標」の達成に終始しがちですが、関連するKPI(組織が目標を達成するために設定する重要な業績評価指数)を設定することで、継続的に成果を検証しやすくなります。例えば、障害者の採用数・定着率、障害者の職種・キャリアパスの多様化、生産性向上の貢献度、社内のダイバーシティ推進度合い、従業員意識調査などがあげられます。障害者雇用を経営の一環として進めるためのステップ 障害者雇用を企業の持続的な成長につなげるためには、「法的義務」としての対応に加えて、「経営資源」として戦略的に位置づけることが重要です。そのためには、経営層の理解を得ること、適切な業務設計を行うこと、そして社内全体で障害者雇用を受け入れる環境を整えることが不可欠となります。(1)経営層の理解を得る 経営層が障害者雇用を「法的義務」としてとらえるのではなく、「人的資本」として認識することで、組織全体での取組みが円滑に進みます。障害者雇用を戦略的に取り入れ、業務効率向上や組織力強化につながる企業の事例を共有することは有効的な方法です。(2)適切な業務設計 障害者雇用を推進するうえで重要なDEIとは?DEIとはDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとった略語です。この三つの単語にあるように、他者の多様性を認め、公平性をもって他者に接し、包容性をもって他者の個性や考え方などを受け入れるという理念です。この理念の推進によって、多様な個性をもつ人材の能力を最大限に発揮でき、それによって大きな成果が得られると認識されています。(編集部)のは、「組織に必要とされる業務」が何かを見きわめることです。場当たり的なものを考えるのではなく、中長期的な視点でニーズのあるもの、組織全体の業務効率が向上するものなどの視点で検討することが大切です。(3)社内コミュニケーションの工夫 組織全体の理解を深め、受け入れ体制を整えます。障害者雇用は「雇用」であり、組織にとって価値創造につながるものであることを社内に浸透させます。具体的には、経営層や管理職向けに意義を伝える機会や、現場で一緒に働く社員の理解を深める研修などを設けるとよいでしょう。また、障害のある人を含めた多様な人材を受け入れ、組織全体でだれもが働きやすい環境をつくることに対する意識を醸成していきます。 障害者雇用に人的資本経営の観点から取り組むことには、いままでと違った新たな気づきがあります。障害者雇用がうまく進んでいないのであれば、人的資本経営の視点から見直すことで解決の糸口が見つかるかもしれません。* * * * * 次回は、障害者雇用の合理的配慮と職場環境整備について解説します。図2 障害者雇用の戦略的進め方経営層の理解を促進雇用の戦略的利点を伝える適切な業務設計組織に必要な業務を設計するコミュニケーションの強化包摂を促進するための意識を高める……筆者作成働く広場 2025.511

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