だったという。 「初めて話す人の唇の動きを覚える必要があり、それに慣れるまで苦労しました。逆に自分から話すときは、相手の表情や反応を見ながら、『伝わっていないかも』と感じたら再確認するよう意識しています」 複数人が集まる会議などは、奥石さんの職場定着支援に入っていたJEEDの京都障害者職業センターの担当者や上司と相談し、メールやメモを提供してもらえることになった。いまはパソコンソフトの文字起こし機能を活用しているが、正しく反映されないことも多く、意見をいうタイミングを逃すことがある。奥石さんは「議題を事前確認し、ポイントを整理した資料を用意して開催者と共有し、会議の流れを把握しやすくしています」という。 生産本部生産センター生産2部部長の松まつ浦うら英ひで明あきさんは「話しかける分には特に問題なく、むずかしい話になると本人がパソコンのメモ機能などにすばやく打ち込んでくれます。会議などではUDトークを使いますが、事前にUDトーク向けオンラインレッスンで話し方のコツなども学びました」という。同じく生産2部副部長の伊い藤とう学まなぶさんは、「文字起こし機能などは完全ではないので、特に大勢の場で話したあとは、大事な部分について個別に再確認するなどの意思疎通を心がけています」とのことだ。 また奥石さんは、聴覚障がいのある同僚7人とグループチャットでつながっている。日々の困りごとや工夫について意見交換し、支援機器の導入時には具体的なニーズを伝えることもできている。 一方、社内では「聴覚障がいのある社員と上司向けセミナー」も開催。外部講師を招いて障がいの定義や多様性についてあらためて学び、ワークショップで相互理解を深めている。奥石さんは「セミナーを通して『呼びかけたつもりでも気づいていないことがある』、『口元の動きやジェスチャーが大事』といった点を上司が理解してくれ、その後お互いのストレスも減りました」という。 職場側のサポートと自身の積極的な姿勢によって「聴覚障がいがあっても工程管理の仕事ができることを証明できたことは、自分にとっても大きな自信になった」という奥石さん。「同じ障がいのある後輩が入社したら、自分の経験を活かした指導やサポートによって、彼らも安心して働ける環境をつくりたい」と伝えてくれた。 堀場製作所は、2017年から本格的な障がい者雇用に取り組むことになったという。きっかけは、会社の規模拡大に「障害者雇用率」が追いつかなくなり、未達成が続いたことだ。「京都府の副知事が障がい者雇用の激励のため来社したことで、上層部も思い切った取組みが必要だと認識したようでした」(福岡さん) 当初は特例子会社の設立も検討したが、当時の管理本部長が「将来的には特例子会社も考えられるが、現段階で社内の意識がまだしっかり醸成されていないため、ただ障害者雇用率の数字のためだけに特例子会社を設立するのは堀場製作所らしくない。インクルージョンを大事にすべていねいなマッチング奥石さんは、医用生産の工程管理を担当。身ぶり手ぶりをはじめ、パソコンのメモ機能などを活用し、コミュニケーションをとる生産本部生産センター生産2部部長の松浦英明さん2020年の全国アビリンピック愛知大会で「電子機器組立」種目の課題に取り組む奥石さん生産本部生産センター生産2部副部長の伊藤学さん働く広場 2025.57
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