7 中高齢者の就業継続意識を高めるには?(定年前の準備支援)

高齢に至っても活躍できる人材を育成するためには、早期から会社が求める人材像をあらかじめ明示するとともに、高齢期に至るまでの道筋となる「キャリアパスの明示」と「キャリアパスの中に多様な(複線型)キャリアパターンを位置づけること」、あわせて「それぞれのキャリアステージに応じた研修機会の提供を行うこと」が必要になります。
定年後、急にやる気や活気を失ってしまうベテラン従業員が時々見受けられます。モチベーションが低下してしまう理由は人によって様々ですが、まずは本人の想いや希望を聴く姿勢を持ち、その上で、どのような役割を期待しているのかを明確に伝えることが大切です。

中高齢者の就業意識を高めるイメージ画像
  1. 【主な対策】
  2.  対策1.キャリアパスを明確にする
  3.  対策2.キャリアプラン研修、ライフプラン研修を実施する
  4.  対策3.定年前に面談機会を設ける

各業界の取り組み

対策1.キャリアパスを明確にする

【提言】 定年後に関する情報を積極的に提供しましょう 《平成27年 機械土工工事業》

定年後の役割や働き方をイメージしやすいよう、定年後に関する情報を積極的に提供しておくことも重要です。将来の自分自身の役割や働き方が明確になることでモチベーションが高まれば、技術・技能の見直しや新しい知識の習得につながります。これらは、後進の育成や技術・技能の伝承にも役立つことでしょう。さらには定年後の賃金額等を把握することで、定年後に対する漠然とした不安が払拭され、安心して定年を迎えることができるようになります。

【事例】 キャリア管理の制度化 《平成23年 医療業》

当院では、中高年齢以降のキャリアパターンを多様化させ、「幹部候補」には長期勤続を前提として能力と経験を蓄積していってもらうための制度を整えています。中高年齢層(45歳以上)に入った医師を抽出し、支援研修を行うことで、医師には多様化管理のルート類型を示し、各人の働き方を考える機会とします。その後、高年齢層に入る段階でトップ(院長)面接を重ねながら、労使双方の合意のもと「幹部」「専門職」「嘱託」のいずれかのコース選択を促します。

キャリア管理の制度化

【事例】 複線型キャリアパスの整備 《平成26年 組込みシステム業》

キャリアパスは、マネジメント職と、専門的な技術職に大別されます。  技術者として一人前になり、一定の経験を積んだ後、プロジェクトリーダーとしてプロジェクトを任される存在になります。次にプロジェクトリーダーとして経験を積んだ後、プロジェクトを管理・マネジメントするプロジェクトマネージャーに昇進します。さらにプロジェクトマネージャーは会社として管理職としての適性や目標管理制度などに基づいた評価を踏まえて昇進していきます。  専門技術職の管理職に当たるスペシャリストは、エンジニアの中から会社が適正を判断して任命されます。

複線型キャリアパス

【事例】 「進路選択」で定年後の働き方を意識づけ 《平成28年 コンピュータソフトウェア業》

当社では、定年は60歳で、雇用延長で 65 歳まで働くことができます。65歳まで雇用を延長する制度を導入するにあたっては、従業員に自らの進路についてしっかりと考えてもらうことが必要と考え、どのような形で65歳まで働くかという 4 つの進路を提示し、選択してもらう「進路選択」の仕組みを導入しています。
4つの進路は、
①定年退職→嘱託社員として再雇用(現業務の継続)
②定年退職→嘱託社員として再雇用(現業務とは別業務)
③定年退職
④早期退職優遇制度にて退職(55~59歳)
で、53歳時に進路選択説明会を開催し、55歳で進路選択をしてもらいます。会社は、本人の希望と、所属する部門の意向を調整の上、最終結果判定を行い、この最終結果判定により、 60歳到達までに会社側も現場の体制を整備(後任者の育成等)、必要な教育研修の準備を開始します。56歳以降は、毎年、本人の希望を確認し、60歳の定年を迎えることになります。
55歳の進路選択は、あくまでも進路予定であるため、この 1年ごとの確認の際に、進路が変わる可能性もあります。管理職も高度専門職も特別な事情がある場合を除き、60歳到達時に原則解任し、嘱託社員として再雇用されます。2015年度には、進路④である早期退職制度を 1名が利用しています。

【事例】 継続雇用時の賃金などの待遇に関する条件交渉 《平成28年 コンピュータソフトウェア業》

定年を迎えて、非正規の雇用形態で継続された場合、賃金が下がることは一般的です。継続雇用時の賃金が下がることに対して、従業員にどのように納得してもらうことができるかも工夫が必要です。
当社では、雇用継続時には、直前の報酬に対して最大7割(管理職をそのまま続ける場合のみ)~最低5割の報酬となります。報酬を決定するために、過去3年間の評価と今後やってもらう業務を点数化し、総合的に評価する仕組みを持っています。数値化するため、企業・従業員の両方の立場にとっても、わかりやすくなっています。あわせて、「進路選択」で早い時期から本人と上司に意識づけしていくことも大切であると考えています。

対策2.キャリアプラン研修、ライフプラン研修を実施する

【提言】 定年後を見据えたキャリアと生活に関する セミナー 《平成26年 百貨店業》

従業員にとっては、定年後は第2の人生とも いうべきステージです。会社ができる手助けとしては、従業員が生活設計を考えるための材料を提供することです。定年後のことは、60歳を目前にしてからではなく、もっと早い段階から考えてもらい、具体的な準備と心構えをしてもらうことが大切でしょう。そのために、年代に応じたキャリアと生活に関するテーマを選定し、セミナーを開催することが効果的です。

年代別セミナーの一例

【事例】 社外講師を活用した講義 《平成25年 地方新聞業》

50歳頃から、定年後の働き方や暮らし方を考えてもらうための研修や、社外のファイナンシャルプランナー等を招いて運用についての講義を実施しています。

【提言】 50歳前後からの定年後を見据えた能力開発・キャリア開発 《平成21年 造船業》

現状は、50 歳半ばの役職定年後に安全衛生部門に異動し、安全衛生分野での経験や知識が十分でないまま60 歳の定年を迎えることも多いようです。これでは定年以降も継続して安全衛生分野を担当することになっても、能力を十分に発揮できません。せっかくのベテラン人材が能力を発揮していきいきと活躍できるようにするためには、定年前の早い時期から安全衛生スタッフとしての資格取得等を含めた経験を積ませるキャリア形成が重要です。
まず、安全衛生キーパーソンの育成として、能力開発・キャリア開発とは別に、安全衛生スタッフの核となる人材を若いうちから育成するプログラムづくりを検討し、単に「現場の災害防止」という視点だけでなく、「企業のリスクマネジメント」という観点から捉える人材を育成していくことが肝要です。
次に、定年後を見据えた能力開発の仕組みづくりとして、現場の職長経験者などを、50 歳前から安全衛生スタッフ要員として確保し、安全衛生分野に係る社外研修への参加や必要となる様々な資格取得等を含めた能力開発プログラムを作ることが必要です。
また、協力会社や外部の関係機関との連携強化については、現状、協力会社の安全衛生スタッフが手薄なことが本委員会の実施した調査で明らかになっています。したがって、今後、人材の供給システムの再構築を考え、業界全体の安全レベルの向上に高齢者の経験と知識を活用するなど、高齢人材が自社内のみにとどまらず、社外においても活躍するなどの発展的なシナリオづくりも期待されます。

安全衛生分野の魅力の啓発

【事例】 50歳からセミナーや面談を開催 《平成28年 バルブ製造業》

50歳と57歳の年に集合研修及び個人面談を行います。50歳時には管理職を対象に、外部講師の講演と人事部主催の面談を実施し、65歳までの戦力としての意識付けや、年齢による役割意識の醸成などを図ります。今後は、一般職にも実施するか、また開催時期を45歳に引き下げるかを検討中です。57歳時には一般職と管理職の希望者を対象に、老後のマネープランやヘルス関係の講話及び個別面談を行います。

【事例】 早期に開催したライフプランニングセミナーが好評 《平成28年 バルブ製造業》

55~60歳までの従業員を、生命保険会社主催のライフプランニングセミナーに参加させています。実施時期を早める必要性を感じ、平成27年に初めて30歳主任クラスも対象にしたところ、好評でした。

対策3.定年前に面談機会を設ける

【提言】 「定年後も働き続けてほしい」旨をきちんと伝えましょう 《平成27年 機械土工工事業》

50歳代の従業員の多くが「定年後も継続して働きたい」と考えていますが、「定年後も雇用してもらえるのだろうか」と不安を抱えている従業員も少なからずいます。将来に対する不安を抱えた状態では、責任をもって業務を遂行することが難しくなるだけではなく、定年後も雇用したいという会社の意図を知らないまま他社へ転職してしまう可能性もあります。
能力や経験を最大限に活かしながら働いてもらうためには、従業員本人に対して「会社にとって貴重な存在であること」や「定年後も働き続けてほしいと考えていること」等を、前もって十分に伝えておく必要があります。

【提言】 50歳前後から定年後の働き方を考える機会を提供 《平成25年 自動車車体製造業》

50歳前後から、定年後について考えさせるために個人面談の機会を設けることが本人のためにも会社にとっても有益です。面談等を通して本人の自覚を促し、「会社にとって残って欲しい人物像」を提示し、60代における自身の働き方を考えてもらう必要があります。

【事例】 経営者と従業員、社会保険労務士を交えて労働条件を決定 《平成25年 味噌製造業》

60歳定年の1年くらい前に、経営者と従業員、また、社会保険労務士を交えて、定年後の生活設計に応じて、賃金や勤務日数、勤務時間などを会社と本人双方が納得する形で決めていくことになります。あらかじめ会社が契約している社会保険労務士に可能な限り本人に係るデータを開示し、在職老齢年金、高年齢雇用継続給付などの公的給付等の最大給付を前提とした労働条件のシミュレーションを行ってもらい、その結果を本人に提示しています。会社としては、再雇用後も定年前とほぼ同じ収入を確保できるように留意しており、会社都合で一方的に賃金等の労働条件を決めることはありません。

【提言】 定年前に十分な話し合いの場を設ける 《平成26年 鍛造業》

定年の1年前から定年後の処遇を含めた話し合いを、総務部の者が定年予定者に対して行っています。

面談スケジュールの例

【提言】 再雇用者だからこそ担ってほしい役割を伝える 《平成26年 ホテル業》

ホテル側が、再雇用者だからこそ担ってほしい役割や期待を本人に伝えることで、「自分はホテルにとって必要な人材である」という意識が芽生え、再雇用者のモチベーションを高めることができます。但し、役割や期待を伝える際は、一方的な押し付けにならないよう配慮し、本人の意見や考えも尊重します。

職場におけるさまざまな役割

【提言】 高齢期のワークライフを充実させるために 《平成26年 漬物製造業》

現在、再雇用で働いている高齢者の方々に、自身の経験を踏まえ、定年前にしっかりと準備しておくべきだと思うことを取材し、まとめたものです。定年後の働き方に向けた準備は、一朝一夕にできるものではありません。準備にはある程度時間が必要ですから、従業員が定年を迎える直前ではなく、早めに考える機会を作ることが大切です。

定年前から取り組んでおきたい5つの準備

次に、会社や職場から評価の高い高齢者の方々の働く姿勢や行動などを整理し、チェックリストとしてまとめたものです。高齢者の方々やこれから定年を迎える従業員の方々に対する教育用ツールとしてご活用いただけます。

職場で必要とされる高齢者になるためのチェックリスト

【事例】 定年2年前からの定年後の意向の聞き取り 《平成28年 ブライダル業》

当社では、定年の2年前(58歳時)に、人事部門が従業員本人の意向を聞き、その中では、最近の体調や家族のことなどの近況もヒアリングします。人事部門は、その結果を登録しておき、60歳以降の職務内容を検討します。