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精神障害のある労働者への声かけや褒めることの徹底、マニュアルの活用により、安心できる仕事につなげた取組

医療法人社団知己会 龍岡ケアセンター

メンタルヘルスケア・精神障害

改善前の状況

 高齢者施設において、精神障害のある社員(Aさん)の雇用は初めてであり、周囲の社員は、Aさんが安心して仕事できるような教え方や接し方、Aさんが不安を感じた時の対応などに戸惑いがあった。
 また、Aさん自身も作業手順を含む仕事に対する不安や要望などを誰に相談していいかわからずストレスが生じていた。

改善策

〇社内体制の整備等
・社員を対象とした障害者雇用に関する研修会の実施により、障害者雇用の意義や障害特性等の理解を深め、法人全体として障害者雇用に取り組んでいく必要性について共通認識を得た。
・Aさんが混乱しないように、指導担当者を固定し、マンツーマンで顔色を見ながら手本を見せて対応した。また、社内支援担当者は「障害者職業生活相談員」の資格を取得した。

〇Aさんの特徴を踏まえた基本的な配慮
・面談においては仕事以外の趣味などの話題を取り入れながら、Aさんがリラックスできるように配慮した。
・Aさんが孤立しないように、周囲の社員が積極的に声かけするようにした。また、よかった点を具体的に提示しながら1日3回以上は褒めるようにした。
・軽く頭をたたくことはAさんの不調のサインであった。不調の原因を社内で共有し、その日のメンタルの調子により作業手順の見直しや作業の範囲などの再編成、休憩場所の確保などの対応を行った。

〇仕事への取組の配慮
・Aさんの「できること」に注目して仕事内容を編成した。
・清掃作業においては、写真付きのマニュアルを整備し、朝礼時には指導員用業務日誌によりAさんを含む社員に対してその日の仕事内容を具体的に説明するようにした。また、廊下や食堂等の床にテープを貼り、行うべき清掃範囲が一目でわかるようにした。

清掃マニュアルの整備

指導員用業務日誌(清掃)

テープを貼って清掃範囲を示す

 Aさん以外の障害のある社員に対しても、以上の取組を参考に配慮を行っている。その他、個々の特性に応じて、ストレスチェックの際は質問項目が理解できるよう質問項目を一問ずつ説明するなどの対応や、本人の同意を得た上で個々の受診状況について産業医を交えて社内での共有を行っている。

改善後の効果

〇安心感の醸成と安定した仕事への取組による作業能率の向上
・本人が理解しやすいよう、大きな文字で写真付きのマニュアルの活用により、確実に業務をこなせるようになった。
・その日に行う仕事の範囲を具体的に本人に提示することで、本人は先の見通しをもって仕事に取り組むことができるようになった。また、Aさんの仕事ぶりに対して褒めることで覚えが早くなり、Aさんは担当フロアの作業範囲の清掃をスムーズに終えることができるようになった。
 このような配慮により、Aさんの安心感、精神面の安定につながった。本人は安心して仕事に取り組むことができるようになり、作業能率も向上した。

〇社員の意識向上(相乗効果)
・Aさんをはじめ障害のある社員に指導することで、社員が相手の状況に応じた指導方法を考えることができるようになったほか、皆で声かけをしながら仕事をすることができるようになった。また、社員同士が以前より優しく指導するようになり、職場全体の雰囲気がよくなった。

社員の声

Aさん(清掃担当)
Aさんの写真

「普段の仕事では、入居者の気分を考えて、臨機応変に対応したいと思っています。入居者や職員に対しては、立ち止まってあいさつするようにしており、入居者に『ありがとう』と言ってもらえるとありがたいと思っています。
 自分で軽く頭をたたいてしまうのは、不調時のサインであると自分でもわかっています。サインが現れたときは、周りの職員も声をかけてくれるのでとても安心しています。今では仕事内容は頭に入っていますが、マニュアルは自分にとって使いやすいものです。
 職場では、毎日血圧や体温を測り、体調管理を行っています。生活面では、夜眠れないときがありますが薄暗い中の方が睡眠をとりやすいことがわかり、このように対処しています。
 行う必要のなかった居室の中にある大きな物をよけてしまったなどの失敗経験はありますが、このようなことを繰り返さないように気を付けています。また、後で入職してくる人もいるので、自分でも頑張らないといけないと思っています。」

企業の声

「Aさんへの指導において、床にテープを貼り清掃範囲をわかりやすくしたことで、Aさんは自身の仕事に対する達成感を感じ、最近は自信をもって仕事に取り組んでいます。今後は、実習生等の指導も出来るように取り組んでもらいたいと思っています。
 また、Aさんは、現在は一人暮らしに移行し自立した生活を送っています。生活面の指導は障害者就業・生活支援センターに依頼していますが、今後もAさんが安心して働けるように、生活面の安定を見守っていきます。」

  事務局長 中山 雅靖さん          施設清掃係リーダー 長谷 正行さん