5.障害特性と配慮事項 (9)高次脳機能障害

1.高次脳機能障害とは

  • 高次脳機能障害は、病気や事故などのために脳の一部が損傷されることにより生じる認知機能の障害です。高次脳機能障害の原因となる病気としては、脳卒中、脳炎、脳腫瘍などがあります。
  • 病気や事故からしばらくの間は、症状が少しずつ回復しますが、多くの場合、完治することは期待できません。後遺症を補いながら職業生活を始める(再開する)ためには、周囲の理解と配慮が必要です。
  • 高次脳機能障害者に対しては、精神障害者保健福祉手帳が交付されますが、合併する身体障害(上下肢の麻痺など)に対して身体障害者手帳が交付される場合があります。また、高次脳機能障害の原因となる病気や事故の発生が18歳未満であるときは、療育手帳が交付される場合があります。

2.障害特性

脳の損傷部位の違いにより、症状や重症度は一人ひとり異なります。症状としては、例えば以下のようなものがあり、一人において、複数の症状が重複する場合があります。

記憶障害
  • 日々のできごとや新しい情報、予定などを覚えることが難しくなります。毎日繰り返し行う作業の手順は少しずつ定着することが期待できますが、定着まである程度の長い目で見ていく必要があります。
注意障害
  • 物事の細部に注意を払うことや、集中力を長時間維持すること、複数の対象に同時に注意を向けることなどが苦手になります。その結果として、作業手順の抜けや見落としなどが生じやすくなります。注意力は、周囲の環境(騒音など)や本人の疲労の程度にも影響を受けます。
半側空間無視
  • 左右どちらかの空間(多くの場合は左)への注意力が弱くなる症状です。例えば、通路の左側にある物にぶつかる、左側に置いた持ち物を置き忘れる、書類の左端の欄を見落とすといったことがあります。見えないわけではなく、左側(または右側)に注意を向けたり維持したりすることが難しいのです。
失語症
  • 言語の障害です。会話と読み書きの両方、また、相手の言葉を理解することと、自分の意思を言語で表現することの両方に不自由が生じます。失語症の人が体験している世界は、母国語が通じない外国で暮らすことに似ているかも知れません。
遂行機能障害
  • (パターン化された作業はこなすことができても、) 複雑な職務を自分で計画を立てて行うことが難しかったり、臨機応変な判断が必要な状況で要領よく対応できなかったりします。
社会的行動障害
  • 例えば、些細なことで怒る、自己中心的(に見える)行動をするといった、本来のその人らしくない様子が見られる場合があります。障害の影響と、環境の影響(ストレスなど)の両方が関係する場合があります。

3.職業上の配慮

記憶障害
  • 「覚えなくても見ればわかる」作業環境を整えることが望まれます。例えば、スケジュール表や作業手順書を用意することや、連絡事項はメモにして渡すといった配慮が考えられます。作業環境や作業手順は、変更が少ない方がよいでしょう。
注意障害
  • 集中しやすい静かな作業環境とし、連絡や指示は一度に一つずつ伝えます。ミスが起きやすい作業については、見直し用のチェックリストを用意するとよいでしょう。また、作業の合間に小休憩を設けると、集中力の回復に有効な場合があります。
半側空間無視
  • 注意が向きやすい側(多くの場合は右)を活かします。例えば、連絡事項を書いたメモは本人から見て右側に置きます。衝突や転倒などの事故を防ぐため、職場内をよく整理するとよいでしょう。
失語症
  • 短い文でゆっくりと話しかけ、返事はゆっくりと待ちます。口頭だけのやりとりよりも、文字や絵、写真などを併せて使うと意思疎通がスムーズになります。作業手順を伝えるときは、実際にやって見せるとよいでしょう。
遂行機能障害
  • パターン化できる職務に関しては作業手順書を用意します。パターン化できない職務の場合は、作業に取りかかる前に、これからやることのリストや順序を紙に書きだして整理するよう本人に促し、その内容を一緒に確認するとよいでしょう。
社会的行動障害
  • 周囲の騒音に対してイライラしがちな場合は、作業場所を静かな場所に変更するといったように、原因が特定できる場合は環境調整で対応します。問題解決が難しい場合は、職業リハビリテーション機関などの専門機関に相談するとよいでしょう。

相互理解のために

病気や事故の前と変わりなく保たれている側面と障害のある側面が一人の中に混在するため、本人と周囲の双方にとって、全体像の把握が難しいことがあります。職務能力について、本人と周囲との間に認識のずれが生じる場合は少なくありません。負担の少ない仕事から始め、少しずつ職務の幅を広げてみることなどを通して、お互いの認識をすり合わせていくとよいでしょう。

4.資料

障害者雇用マニュアルコミック版No.6高次脳機能障害者と働くの表紙画像
就職困難性の高い障害者のための職場改善好事例集-精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者-(平成27年度)の表紙画像

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